あの子たち、あたしのことは仲間だと思ってくれているのよ

 アーニャが微笑む  つまり、アーニャのことをキョーコさんの配下の少女暗殺者の先輩だと思っているんだな

イーディが授業に出ている時っていうことはあの子たちを、オレの学校に連れて行けってことですか

 オレはキョーコさんにそう尋ねる

言ったろドリィとアナに平和な日本を見せたくて連れて来たってそれに、ここに残していくよりはあんたの眼の届く所へ連れてった方がいいんじゃないのかい

 オレたちが学校に行ってしまったらまだ中学への編入が済んでいないマナたちと幼児の真緒ちゃんたちしか、このお屋敷に残らなくなる  ドリィ&アナをここに残していくのは心配だ  それならオレの高校に連れて行く方が良いか  あそこには、色々と隠された施設もあるから居場所には困らないし

判りましたじゃあオレの学校へ連れて行きます

 オレは、キョーコさんに約束した

はむっ、はむっ、はむっ

はむむっ、はむっ

 月子による暗示付けが終わったドリィとアナが  ようやく食堂に現れて食事をしている

とりあえずこの家の人間たちは、身内で絶対に傷付けてはいけないと心に刻みましたわ

 月子が、オレに報告する

それと公様への絶対服従も、心に書き込みました

 それなら、何とか制御できるか

学校へお連れになられるのでしたらわたくしもおりますし

 月子が、オレの心を呼んで言う  月子も、今日からオレの高校の生徒になる巫女の力の持ち主が、一緒に学校へ行ってくれるのは非常に助かる

はむむっ、はむっ、はむむっ

 ドリル槍姉妹は、本当に美味そうに食べるなあ  東南アジアの組織は、食事が悪かったのかもしれない  姉のドリィが、イーディに何か言う

お前たちは、いつもこんな美味いモノを食っているのって言っているネ

 イーディが、翻訳してくれた

そうだこれからは毎日、美味いモノを食わせてやるから、覚悟しとけって伝えてくれ

 イーディが2人に言うと  ドリィもアナも、とっても驚いている

公先に行くわね

 超お嬢様校の制服に着替えたまり子たちがやって来る・

ではパパ行って参りますの

 アニエスもルナたちと制服に着替えてやって来た

うんみんな可愛い似合うぞ

 オレは、クラッシックなセーラー服姿のアニエスたちを見てそう言う

気を付けて行って来いよ

 アニエスは、ニカッと微笑んでオレの唇に、そっとキスをする  その様子を、ドリィとアナが食事しながら不思議そうに見ていた

ルナ可憐、コヨミちゃんもみんな頼むぞ

 アニエスと同じ12歳の子たちをオレは見る

任せて下さい、兄さん

皆さんは、わたくしがご案内致します

わたしも頑張ります

 3人は、そう答えてくれた  オレは、それぞれ順番にキスしていく  コヨミちゃんだけは頬にルナと可憐は唇に

あ、いいわねあなたたち

 まり子が、そう言うから

まり子も、しようぜ

うふふ、そう言ってくれるのを待ってたのよ

 オレはまり子ともキスをする  女の子の唇は、みんな違う  唇の弾力も、湿り気も、体温も肌触りも、1人1人異なる

わたくしも、この子たちのフォローをするわ

 アニエスたちのことを面倒見てくれると約束する

ヨミさんのことは、わたしに任せて下さい

 エリカもセーラー服に着替えてやって来た  ヨミも一緒だ  2人とも14歳の同い年だ

校内で不自由が無いように、わたしがお世話致しますわ

 中等部のスターと呼ばれるくらい、先輩にも後輩にも人気のあるエリカが付いててくれるのならヨミのことも心配はいらないな  オレは、エリカともキスをする

ヨミも慣れない場所だろうけれど、頑張れよ

大丈夫ですわヨミにお任せですっ

 ヨミともキスした  ヨミは、自慢のロリ巨乳をオレの胸に押し付けてくる

ハイジもみんなのことを頼む

 オレは、13歳のハイジに言う

美智は香月家の警護役として、広く校内の女の子たちに知られているから小回りの利くハイジの力が必要なんだ

 美智の能力は、スバ抜けているけれど  何かトラブルが起きる度に、香月家の家臣が前に出ると周りの子たちにプレッシャーを掛けすぎることになると思う  これからは遊撃隊としてのハイジの存在が、とても大きい意味を持つはずだ

はいご指示に従います

 オレは、ハイジともキスをした

では、あなた行って参りますわ

 桜子が強くオレを抱き締め自分からキスしてくる

大好きです、あなた

 他の子たちの前で、オレのことをあなたと呼んだ

あら、たった一晩で一皮剥けたわね

 克子姉が、そんな桜子を見て微笑む

当たり前よ桜子は、香月家、歌晏家と並び立つ3大名家・狩野家の令嬢ですもの

 従姉妹のまり子が、自分のことのように桜子を誇った

わたくしもう逃げませんわあなたの女ですから

 そうだ今の桜子は、自信に満ちている  みすずや桃子姉ちゃんに対して、少し引き気味だった気弱な少女はもういない  香月家、歌晏家の令嬢たちと対等に渡り合うだけの芯の強さを感じる  オレに処女を捧げオレの女になったことで  ここまで女の子は変わるんだ

シエも、ご挨拶なさい

 桜子が、後ろに控えている少女に言う

は、はい行って参ります

 一方、桜子の子供の頃からの警護役不知火シエさんは  主の変貌に、すっかり戸惑っているようだった  朝の合同稽古にも、姿を見せていなかったみたいだし  あ、そうか今の不知火さんは警護役でなく裁縫係として、ここに居るから  すっかり自信を失って、意気消沈しているんだな  何とかしてあげたいけれど今は時間が無い  今日、帰宅してからだな

お兄様、行って参りますわ

 瑠璃子と美子さんも超お嬢様校の制服に着替えて、やって来た  この2人は主従関係に戻っている  オレは瑠璃子の唇にキスする

美子さんは、オレの頬にキスしてくれた

ご主人様大切な家族たちは全て、わたくしがお守り致します

 超お嬢様校の中での警護の要として美智がオレに約束する

ああ期待しているぞ、美智

 オレは、美智ともキスをする  そして最後にみすずがやって来た

オレはちゃんとみすずを見ているからな

 名家中の名家であり政財界に大きな影響力を持つ香月家の令嬢  強い力を持つ者はそれだけで周囲の人間から警戒される  それは仕方ないことなんだ  だからこそ、受け入れてもらうための努力を続けないといけない

オレも頑張るから

 ジッちゃんから、香月セキュリティ・サービスという力を譲られたオレも  恐れられ、警戒されることになる  みすずと同じだ  ただ、オレの場合は  さっき、キョーコさんにアドバイスしてもらった  暴力を手にしているオレはもう、恐れられ、警戒されることからは逃げられない

それならば

ジッちゃんが何で、あんなに孤高の人になっているのかやっと判ったよ

 ジッちゃんは周囲の人間には、絶対に隙を見せないわざと恐れられるように立ち振る舞う  強大な力を持ってしまった人間は、ああいう風になるしかないんだ  ジッちゃんが迂闊に動いたらジッちゃんの手にしている力が勝手に発動して周囲の人間たちに影響を及ぼすからだ  例えば、ジッちゃんがちょっと親しく話し掛けただけで香月家の当主に認められた男として、異常に評価が高まったりやっかまれて足を引っ張られることになる人が現れる人の人生を簡単に狂わせてしまう  だから、ジッちゃんは孤高になるしかない  皮肉屋で、いつも周りの人にプレッシャーを与える怖い人間として高い位置に独りぼっちで居なければならない

オレもいずれはジッちゃんみたいにならないといけないんだな

 香月セキュリティ・サービスのオーナーでいるためには  精神的な甘さのまったくない無慈悲で、冷酷な、怖ろしい男だと思われるようにならなくてはいけない  孤高の存在にならないと

でも、旦那様にはみすずたちが居りますわ

 みすずは笑顔でオレに言った

そうだなオレには、みんなが居る

 みすずが、キュッとオレを抱き締めてくれた  オレはみすずにキスをする

例のゲーム会社の人に会ったのですが

とにかく、こちらの言うべきことは全て言いました

向こうから、詫びも入れていただきました

とにかく、5時間ほどケンケンガクガクと話をさせていただきました

とりあえずは保留ですね

昨日、一番怖ろしかった会話

私今年に入ってから、父の認知症が進行してて大変なんですよ

ゲームの人それは大変ですね

私私を見てお前誰だっけとか忘れられちゃったりもしているんですよね

ゲームの人判ります、判りますボクの実家の犬も老犬になってからボクのことを忘れちゃったのか、ボクの手を噛んだことがあったんですよ

ゲームの人あの時は、ショックだったなぁ

自分に悪気はなくとも相手がどう感じるかを理解できないというか

配慮できない人というのは、本当に怖いですね

1282.ネガティブ潰し / 白ランと虎マスク

・アーニャ/コードネームニキータ・ゴルバチョフミス・コーデリアの配下

じゃあ、行って来るから

 みすずたちを送り出して今度はオレたちの登校時間となる   マナたちが新しい中学に通うのが水曜日からで助かった  昨夜のパーティから、とにかく人の出入りが多過ぎるし

行ってらっしゃい、お兄ちゃん

家の方は、私らがおるから

うちらに任せて下さい

 マナと双子のエリとリエが見送ってくれた

キヌカ、ここの護りを頼むぞ

 お屋敷の警護は、キヌカに任せる

あたしとコーデリアも、もう少ししたら出掛けるからお昼はいらないよ

 キョーコさんが、マナに言った  オレにそう声を掛けたのは月子と一緒に今日からオレの高校に通うことになったミタマだったが  女子用の制服の月子とは異なり、ミタマはなぜか純白の白い学帽に、真っ白の詰め襟の学生服を着ていた  しかも、裾の短い短ラン学生服手には白手袋  ついでに言うと、学生鞄ではなくなぜか日本刀を握りしめている  雪乃のテレビ番組に出演している時は、極小ビキニに日本刀姿だから  ミタマは、こういうキャラで押し通した方が良いのかもしれない

ミタマちゃん、格好いいよっ

 うん、元から凛々しい顔付きの美少女だからこういう男装が似合う  というか、ぴったりと体型に合わせて作られている白ラン学生服だからミタマの身体のラインがはっきり判って、むしろセクシーだ  実は割りとおっぱいが豊かなことまで良く判る

あんまり目立ったことはしないでよっあんたが何かやらかすと、あたしが笑われることになるんだからっ

 雪乃が、険しい表情でミタマに言う  オレの高校の連中も、雪乃のテレビ番組を観ているだろうから  突然、ミタマが編入して来たら雪乃が絡んでいると思うだろうな

ご心配いりません我が主様と姉妹たちを守るためなら、この安城ミタマいかなる敵も容赦は致しませぬ

 ミタマも、鞍馬家の警護役として子供の頃から超お嬢様校に通ってきたから  男女共学の学校に通うのは、今日が初めてなのか  何か色々と心配だ

わたくしが側に居りますから

 月子がそっとオレに近付いて言う  月子とミタマは同い年の高校3年生今日から同じなでしこ科の生徒となる  月子が巫女の力で、ミタマの暴走を抑えてくれれば安心だけれど  でも、確か月子も京都時代は、女子校だったはずだ

大丈夫ですわわたくしには力がございますからわたくしとミタマさんだけでなく、他の皆様もお守り致します

 月子はニコッと微笑んで言う  そうだ今日からは、月子とミタマだけでなく  ミナホ姉さんが、新しい娼館で研修させている新人娼婦候補生たちもなでしこ科の生徒として編入して来る  今朝、ミナホ姉さんの姿が見えないのは娼婦候補生を連れて来るために駅前ホテルの方へ行ったからだろう

他の生徒たちとの関係はわたくしが調整致しますから

 娼婦候補生たちが、他の生徒たちと不用意に親しくなるのはマズい  だから、月子が巫女の力で、生徒たちの認識に介入してなでしこ科の生徒たちの存在をスルーさせる

ええっと岩倉幸代って人に気を付けてくれ

生徒会長なんだけれど絶対になでしこ科の生徒に接触して来るはずだから

 黒い森の娼婦で底抜けのド変態な人だからなぁ  先輩娼婦として娼婦候補生たちに、勝手な指導をしに来ると思う  この前も新しい娼館に入り込もうとしたし

まあ、あの時は、工藤父の配下の大型バイクのオッサンに

バイクに跨がってセックスしたまま本州最北端まで連れて行かれたんだっけ

 いずれにせよ、手を出して来るのは明らかだ

黒森御名穂様からも、そう命じられております岩倉幸代様とその手下の皆様はなでしこ科には、絶対に近づけさせません

うん、頼むな何かあったら、すぐにオレやイーディを呼んでくれ

 月子は、物腰は穏やかだけれど芯が強くて、思い切った行動がでくる子だから、心配はしていない

さ、行くぞ

 マナたちに見送られて  オレは玄関から外に出る  玄関前には、すでに克子姉が商用バンを回してくれていた  荷室には、さっきオレが今日売るパンの入ったパッドを何層にも重ねて積み込んである  いつもなら、オレたちも荷室に乗って学校へ向かうんだけれど  しかし、今日は

どうしようかヨッちゃん

 今日一緒に高校に登校するのは  オレ、寧、雪乃、克子姉、愛、イーディのいつものメンバーに  昨夜のパーティに来て、そのまま泊まっていた可奈センパイ  今日から、学校に通う月子とミタマ  さらに、なぜかキョーコさんが日本の生活を見せてやれというから連れて行かないといけないドリル槍姉妹のドリィとアナ  2人のお目付役のアーニャ

イーディ、グレースさんまで連れて行くのか

 オレは、長身の元プロレスラーグレース・マリンカさんを見て言う

ヒマそうだから連れて行くネジュンも、色々と考えたいみたいダカラ

 イーディは、ケロリと言う  確かグレースさんは、女子格闘技の大会に出場するために所属していたプロレス会社の社長たちを病院送りにして、無理矢理脱走してきたはずだから  帰る場所が無いんだよな

あのHIGH SCHOOLは、うちの庭みたいなモノネジュンを連れて行ったって、問題は無いネ

 まあ、確かにうちの高校は、黒森家の支配下にある  隠し施設も山ほどあるから、グレースさんが来ても他の生徒たちに見つかることは無いと思う

済まないわたしはもう少し、あの子たちを見ていたい

 グレースさん本名、尾上ジュンさんは、ドリィ&アナを指して、そう言う

わたしは自分が苛酷な環境に耐えて、強くなったと思っていたしかし、あの子たちはわたしが経験して来た以上に厳しい世界を生きてきた

 孤児として生まれ少女暗殺者として育てられ、すでに何人もの人間を殺してきた少女たち

プロレスには勝ち負けしかないが、あの子たちの場合は常に生きるか死ぬかの瀬戸際に立たされていたのだから

ジュン、それは違うネ

死が余りにも身近過ぎる状況で暮らしていると生きる死ぬの感覚も麻痺するノネ全ての物のゲンジツ感が希薄になるノヨ

 イーディもまた、暗殺者としての教育を受けてきた娘だ

アタシもDarlingと会うまでは、ちょっとオカシかったモノネ感覚がフワフワしていたヨあの頃のアタシは、何の躊躇もなく簡単に人が殺せたと思うネ幸いそういう経験をする前に、Darlingに拾ってもらえたネ

 うん、最初に会った頃のイーディは緊張感があった  今と同じようにヘラヘラ笑っていたけれど抜き身のナイフのような、殺気を漂わせていた  今だって、イーディは切れ味の鋭い刃物のままだと思うけれど  でも今のイーディは、刀身を鞘に納めている  いつでも、鞘から危険な刃を引き抜くことはできるが普段は、近付いたり触れたりしても問題は無い  このドリル槍姉妹も、そういう娘になって欲しいと思う

取りあえずあたしは身重だから、車に乗るわよっ

 場の空気を無視して、雪乃がバンの荷室に乗り込んでいく  ええと車の運転は、当然、克子姉だから

オレは歩いて行くよちょっと心配だから

 ドリィとアナはドリル槍を肩に担いだままだから、バンには乗せられない  となれば、歩いて学校に連れて行くしかない

そうね頼むわはい、これ学校の普段閉まっている門の鍵図書館裏の判る

判るよほとんど人が通らないところだろ

 オレたちの高校は、黒い森の非常時の退避場所だから緊急時の出入り口とかは全て覚えている

ここから人に見られずに高校の敷地に入るんならあそこが最短だと思うの43-bの施設を使ってくれていいわ鍵はこれよ

 ああその施設に、取りあえずゲストたちを連れて行けばいいのか

43-bなら、あたしが判るよっ

 ということは、寧も徒歩通学組だ  オレは克子姉から、2つの鍵を預かる

そしたらパンの荷下ろしがあるから、愛はバンに乗ってくれ

 パン工房での作業があるから、愛は克子姉と先に行かせる

それならノブあたしも愛と行くわ

 可奈センパイもパン工房の仕事をよく手伝ってもらっているからその方が良いな

警護役として、ミタマも乗ってくれ

 イーディはオレたちの方に居てくれないと困るから、そういう選択になる  ドリィとアナが、どんな反応をするか判らないしまあ、一応、お目付役としてのアーニャが居るけれど  相手は2人だからアーニャだけじゃ、制御しきれない可能性がある  アーニャがドリィを抑えている間にアナが逃げ出して、一般生徒にケガをさせたりしたら大変なことになる  だから、言葉が通じて気の技も使えるイーディが必要だ  ええっと、後は

わたくしは、公様と参りますわ

 ああ、保険として巫女も徒歩組の方がいいな

よし、じゃあ徒歩組は裏から出るぞ克子姉また後で

ええ荷下ろしの方は、あたしたちでやっておくからあなたは、ゆっくりでいいわよ

 克子姉は、そう言ってからバンの運転席に乗り込む

オレたちの住むお屋敷は木立が鬱そうと茂った小高い丘の上に建っている

 克子姉の運転するバンは、いつものように玄関前から巨大な鉄の正門の方へ下りて行く  オレたちは木々を抜ける道を下って、裏門へと向かう  オレはいつもの学生服寧とイーディと月子は、高校の女子の制服  アーニャは、白いブーツに、白い革のズボン上半身は、白いタンクトップだの上に白い革の上着を着ている全身白ずくめだ  ドリル姉妹はドリィが鮮やかな青いワンピースアナがオレンジに近い黄色のワンピースどちらも、2人の浅黒い肌に映えるそして柄が赤く塗られたドリル槍だ  そして、グレース・マリンカさんはブーツにベルボトムのGパン、上は朱色と白の縦ストライプのTシャツを着ている  オレ以外は美少女と美女の集団だから、目立つよな  ここのところ、お屋敷への出入りはほとんどが正門を使っているから、裏門の方には公安警察の監視員は多くないと思うけれど  でも、誰かしらは居るだろう

キョーコさんが帰って来てることって、公安の人たちは知ってるのかな

 キョーコさんは、ジッちゃんとの契約でここのところしばらくは、関西で活動していた  その後、東南アジアでバカンスしていって言ってたっけ  再び来日して、オレたちの屋敷に帰って来たことを公安警察は気付いているのか  キョーコさんが居ると居ないとでは屋敷を監視している人間の数が、10倍くらい違うからな

まだ気付いてないと思うわよわたくしたちは、裏の家の方から地下通路を抜けて来たから

 アーニャが答える  ああオレとメグの住んでいることになっている家か  地下通路でお屋敷と繋がっているのはあそこと、黒い森の番頭さんの森下さんの家と、マルゴさんが住んでいることになっている家だけだ

昨日、ウチでパーティがあったことは公安の人たちも知っているネ何人かは泊まっていったコトモ

 うん、昨夜のパーティには女子格闘家の皆さんや、芸能人のスナッチたちが来てくれた

ダカラ、ジュンやこの子たちがお屋敷から出て来ても変には思わないはずネお屋敷に入った車に、何人乗っていたか警察が把握できないように、マルゴは送迎車に、窓にスモークを貼った車を使ってたカラ

 公安警察は、誰がパーティに来るかは判らなかったはずだから  お屋敷に入る時に、車に何人乗っていたかをチェックできなければ人数は把握できていないはずだ  ドリル姉妹も、昨夜のパーティに来た子だと思い込んでくれるだろうこの姉妹は、見た目からして外国人だしイーディの友達っぽいし  プロレスラーのグレースさんは、イーディやマルゴさんの格闘技仲間だということは判っている

アーニャはまずいよな

 アーニャが、キョーコさんとミス・コーデリアの部下だということは広く知られている  だって、そういう設定でレイちゃんとのスペシャル番組で対戦しているし  顔が割れている

それならキョーコ様から、マスクをいただいたわ

 アーニャは上着のポケットから覆面プロレスラー用のマスクを取り出す

これを被っていれば、そちらのレスラーさんの同僚に見えるはずだって

 そう言ってアーニャは、歩きながらマスクを被った

うん、カッコ良いよアーニャちゃん

 キョーコさんは、本当に虎のプロレス・マスクが好きだよな  半年前は、オレたちみんなで、この虎のマスクを被らされたし  というわけで、アーニャは女タイガーになった

ま、この集団で外に出たら警察の人は、虎マスクの外人女子レスラーが本当に来日しているのかとか、槍を持った東南アジアの女の子たちは、何者なのかとか、慌てて検索するんだろうけれどあたしたちが学校に着くまでには調べ切れないって

大丈夫だよっ外へはすんなり出られるし、公安の人たちも軽くスルーしてくれるって

 そうだといいんだけれど  とにかく、オレたちは丘を下りきり  裏門の前に立つ  裏門のロックが自動的に解除された  お屋敷からマナが監視カメラで観ていてくれて鍵を開けてくれたんだろう  オレはギーッと門を開ける  外に出る  誰か居るか  オレが確認する前に、他の子たちもゾロゾロと外に出て来てしまった

ちょっと、君たち

 いきなり黒服の公安警察官に声を掛けられた

な、何なんだね君たちは

 ああやっぱり、この集団は異様すぎるか  学生と女子レスラーとドリル槍姉妹だもんな

何でもごさいませんわ

 月子が前に出て力を放出する

ただ、学校へ行くだけです何の問題もございませんそうでございますわね

わたくしたちに付いて来ないで下さいませそれと本部への報告は、わたくしたちが立ち去ってから5分後になさって下さい

 黒服はそう答える

さ、参りましょう皆様

 月子が、オレたちを促す  黒服から、離れると

この時間、こちらを監視していたのは、あの方だけのようですわこの道を行けば、他の監視者に見つからないはずです

 短時間で、黒服警官の心を読んだらしい

やっぱり、キョーコさんが来ていることは気付いていないんだな

はいそれとみすずさんたちが登校したことで、監視の皆さんの緊張が緩んでいたみたいです

 ああ名家のお嬢様たちが、壮大な車列を作って登校して行ったから  それも、香月セキュリティ・サービスの翔姉ちゃんが自ら指揮して連れて行った  そっちの方に、公安の人たちが注目するのは当たり前か

オレたちの優先度は低いもんな

 普通の高校生のオレたちの登校は、いつも通りだし  克子姉はいつも通り、バンで正門から出て行ったから  オレや寧やイーディもいつも通り荷室の中に居るんだと思っていたんだろう  裏口から出て来るというのは予想外だったんだな

今のうちに、さっさと高校へ向かおう

 月子が指示した通りさっきの黒服警官は、5分間はオレたちが裏口から出て来たことを監視本部には報告しない  その間に、できる限り高校の隠し門へ近付かないと

はーい、行こうっ

 寧が、オレたちの先頭に立つ  そのままゾロゾロとオレたちは朝の道を歩く

ハァウ

カァウ

 ドリル姉妹には日本の景色が珍しいらしい  特に自動販売機に興味があるらしい  来日したばかりの頃のイーディも、そうだったよな

ヒャウ

パウウ

 イーディとアーニャが、彼女たちの言葉で色々と説明してあげていた

こうやって見ると普通の女の子たちなんだけれどな

でも初めての環境似、とっても怯えていますわ、あの子たち

 月子が、オレに囁く  ドリィもアナも抱えた槍のドリルを回転させるスイッチに指を置いている  何か起きたら、瞬時に槍で攻撃できるように

あの子らは、まだオレたちのことを全然信用していないんだな

昨日は、5時間も対話をした後でかなり頭が重かったのですが

1日経って、大分、頭の中が整理できました

ゲーム化の話をとりあえず保留にしてきたのは

相手の方が、この作品を気に入って下さっていてゲーム化したいという気持ちは確実にあるということを確認できたからです

 色々と、私との間にトラブルがありましたが  先方に悪気は無かったということは、理解できました  しかしこの悪気は無いというのはクセモノで  昨日書いた、認知症の父の話をしたら、判ります、うちの犬もと  父の話に対して、犬の話をするようなデリカシーの無さも  ご本人には、全く悪気が無いのです  というか、会話していて10分に一度はこちらがカチンと来るような発言や態度をなさるので  それでも全く悪気は無いのです  天然なんですね素で暴言を吐いているんですけれど  ご自分では、全く気付いていない  むしろ、自分の言動を一々、曲解する私が、神経質で変わった人間だと思われているようでした  ただ、ゆっくり時間を掛けて話をしてみると悪い人ではないんです  悪気があって、皮肉や暴言を吐いているわけでなく  単純に相手がどう感じるかということが判らない  シンパシー(共感)能力が欠如していて、なおかつお仕事が雑だというだけで  決して悪い人間では無い  本当に、この作品をゲーム化したいという熱意は持っている  最終的に、5時間も話続けて下さったのですから  そのことは確認できましたので先方の謝罪は受け入れました  こういう人に会ったのは初めてだったのでとても、興味深かったです  しかも、そう言う方なので  オブラートに包まずに、ズバズバと本音をおっしゃるので

この作品は、アダルトゲーム化以外には発展性は無いとまで断言して下さいました

 つまりゲーム化以外の書籍化などの可能性はゼロだということです  おそらくご本人がこれを読んだらいや、そこまで断言した覚えはないとおっしゃるのでしょうが  断言しているんですよね  本人の悪気の無さと、無意識的にズバズバと話している内容のギャップがスゴイのです  後で思い出すと、ダブルスタンダードなお話が幾つもありましたから  ご本人の中ではこれは仕方ないと諦めてしまっていることをこちらにはなぜ、諦めざるを得ないのかを語らずに話すので  さっきのケースと話が違うじゃんということになるのですが  ご本人の中では、整合性が取れているので変だと感じる私の方がおかしいと思われるという  何か、凄い疲れて帰宅しました  本当に悪い人じゃないんですけれどね  現在のコンテンツビジネスの状況などについて、私がお尋ねしたことに関しては、全て熱く語って下さいましたし  コンテンツビジネス業界の最前線にいらっしゃる方のお話を伺えたことは、とても勉強になりましたありがとうございます  とりあえずそこまでおっしゃるのならということで、こちらかには、かなり現実的なゲーム化の案を提示させていただきました  こちらの最低限、守っていただきたいラインは明示しました  交渉はまだ続くようです  また進展があれば、ご報告致します

1283.ネガティブ潰し / 過去の扉

 そのまま全員で学校の敷地の裏側まで歩くことになった

しかしびっくりするくらい人に会わないな

 と言っても、当たり前で今はお屋敷から学校へ避難する時に使うルートを歩いている  一般道には、ほとんど出ない  基本的に、フェンスで仕切られた私道の内側を歩いている  普通に学校へ歩いて行くよりは、遠回りになるが仕方がない  アーニャやドリル姉妹を一般市民になるべく目撃されたくない

午前中さえ何とかできれば公安警察の方は、こっちには来ないと思うよっ

だってキョーコさんがミス・コーデリアとお出掛けするって言ってたでしょお昼はいらないって言ってたよねっ

て、ことはさキョーコさんたちが、どこかで目撃されるわけだよね公安の人たち、キョーコさんが東京に帰っているって気付いたら

ああ、オレたちなんて無視して、空いている人間は全部キョーコさんたちの追跡に行かせるか

そういうことだよお屋敷には、キョーコさんが帰ってくるかもしれないから最低限の監視係は残ると思うけれどあたしたちの学校には来ないよっ

 キョーコさんのことだからわざと公安警察の眼を惹き付けてくれるんだろうな

キョーコ様は、わたくしやこの子たちにバカンスを下さったのよ羽を伸ばしてお休みできるようにってね

 虎マスク姿のアーニャが、ドリィ&アナ姉妹を見ながら笑顔で言う

この子たち故郷を出てから、キョーコ様とコーデリア様のプレッシャーにずっと怯えていたから

 人を殺すことにためらいのないこの姉妹が、キョーコさんたちに従っているのは  恐怖のせいだ  少女暗殺者たちを子供の頃からずっと支配していた、東南アジアの組織をキョーコさんたちが皆殺しにして壊滅させてしまったから

組織から解放されて、自由になったみたいな感覚はこの子たちには判らないんだろうな

当たり前でしょこの子たちは、自由がどんなものか知らないんだから前の組織が壊滅したから、今度はキョーコ様が自分たちの主になったぐらいにしか考えていないと思うわ

 アーニャが言う  ドリィとアナは、キョトンとした顔で不思議そうにオレたちを見ている

だから、キョーコさんはこの子たちをヨッちゃんに預けることにしたんだよっ

キョーコさんだと血と暴力の匂いが濃すぎるから、この子たちが怯えるだけになっちゃうんだよ解放できないんだよこの子たちの方が従属の首輪を放さないから

 圧倒的な力はただ存在するだけで、人を怯えさせる  みすずにとっての香月家  オレにとっての香月セキュリティ・サービス  そして、キョーコさんにとっては強すぎる肉体そのものが

そうだよっだから、怖くないヨッちゃんがこの子たちには最適なんだよっ

まあ確かにオレは、人を怖がらせるような力は何も無いもんなぁ

えー、でも、それって凄いことなんだよっ普通、女の子って男の子に怖さを感じるものだからさっヨッちゃんはそういう根本的な怖さが無いんだよねっだから、みんなヨッちゃんのことを受け入れてくれるんだよっ

 怖くないから受け入れてくれる  寧の言うとおりかもしれないな

ノンノンノン、それは違うネDarlingハホントはかなり怖い人ネ

物腰は柔らかいし、一見、危険性は感じられないヨダカラ、みんな安心してDarlingに近寄って来るけれどDarlingの本質は、トテモ怖いヨ

その2面性がDarlingのホントの魅力なのネソレハ肌を重ねないとセックスしないと判らないノネダカラ、モトコはまだ上辺のDarlingしか理解していないノヨ

 武闘派お嬢様の栗宮素子さんか

イーディオレはただの高校生だぞ

しかも、普通の高校生よりも頭のできが悪い

オレが危険な男とは、とても思えない

ソンナコトないネ

イーディは、そう言うと今、一緒に居るメンバーを見る

オレ、寧、月子、アーニャ、ドリル姉妹、それからグレース・マリンカさん

この際だからジュンには、聞かれてしまっても良いと思うのネ

 ん何を

むしろジュンは知ってた方がイイカラ

アタシたちのDarlingは人を殺したことがあるノネ

 グレースさんが驚く  月子は心の中を覗くことができるから驚かない  アーニャはミス・コーデリアから聞いて知っている  オレが、シザーリオ・ヴァイオラを射殺した時ミス・コーデリアも、その場に居たのだから  ドリィ&アナは日本語はカタコトとか知らないから、無表情でオレたちの様子を見ている

ヨッちゃんはさっ、あたしの両親と弟の仇を討ってくれたんだよっ

あれはあたしの家族を殺して、たくさんの人たちを傷付けていた悪人をヨッちゃんは倒してくれたんだよっヨッちゃんは、全然悪くないんだからっ

 いつも笑顔の寧が怖い表情で、そう言う  ドリル槍姉妹は、寧のあまりの変わりように不思議そうに寧を見ていた

オレがシザーリオ・ヴァイオラを殺したのはオレが撃たなきゃ、あいつが撃つと思ったからで寧の家族の仇を取るとかそういう英雄的な行為をしたわけじゃないよ

だけど、オレはそのことを全く後悔していない

 人を殺してもオレは、前に進むしかないんだ  家族のために、オレ自身のために

また同じようなことが起きたら次もためらわずに引き金を引くよオレはオレたちの敵を排除する迷いは無い

 鬱々と悩んでいるようなことを許されない

オレにはイーディやキョーコさんのような、相手を圧倒するような強い力は持っていないだから、相手を傷付けないように制圧することなんてできないし話し合いで解決できない人間がいるってことも、良く判っている警察とか、誰かの助けを待つんじゃなくってオレ自身が全力で立ち向かわないと、手遅れになってしまうことがあるっていうことも

オレはヤバイって思ったら、何でもするよ人だって殺すやってしまったことは、眼の前の危険を排除した後に考えればいいんだから

 それは犯罪組織黒い森のメンバーとしてのオレの誓いだ  オレは馬鹿なんだから  悩んだり、考えたりしていたら誰かがヤられてしまうかもしれない  だから迷う前に、危険な匂いを発するモノを撃滅する  攻撃することを恐れはしない

ホラ怖い人ネ覚悟している人だから

 イーディは、そう言うと

Darlingこの話をこの子たち話してもイイカ

 ドリル槍姉妹に

今のこの姉妹は月子の力で最低限の歯止めがしてあるだけネ人間の心は、あんまりイジくると壊れやすくなるネキョーコが思っているほど、簡単ではないノヨ

 とりあえず家族に攻撃しないことと、オレの言うことを聞くようにしてあるんだっけ  それ以上の改変はさっきの短い時間では無理だろう

この子たちは、普通の子たちではありませんから制御しにくいんですわ

人間としてのモラルが欠落していますし、わたくしたちとは違う常識で、今まで生きて来ていますから物事の優先順位がおかしいんですこの子たちの中では、人を殺すことは生業であって罪では無いんです人の物を盗むことは罪だと判っているのに

 ありとあらゆることの基準が違う

命が安易に奪われる少女暗殺者の世界で生きてきた子たちだもんな

人としての感情を麻痺させなければ、人殺しなんてできない

ダカラまずは、アタシたちの方が、この子たちの常識に合わせるネ

Darlingが使命のために、人を殺したことを知ればこの子たちのDarlingを見る眼が変わるハズヨ

使命のためにって

Darlingハ、個人的な快楽や自分の利益のために、シザーリオ・ヴァイオラを殺したわけではないネあの男を殺さなければならないという使命があったヨ

ソレハ、この子たちの暗殺と同じネこの子たちだって生きていくために、組織の命じるままに人を殺すしかなかったのね個人の欲求で、やってたわけじゃないのネ

そうねイーディの考えは正しいと思うわ

 アーニャもそう言う

わたくしもこの子たちには、正直に伝えるべきだと思いますわ

 寧が、心配そうにオレを見た

うん判ったイーディの思った通りにやってみろよ

アリガトネ

 イーディとアーニャがドリィとアナに、オレがシザーリオ・ヴァイオラを殺した顛末を話していく  いや、オレには彼女たちの言葉は判らないから  多分、そうなんだろうと思うだけなんだけれど

ハーウッ

モイッ

 ドリィとアナは、話を聞いて眼を丸くした  そして改めてオレを見る  ああ確かに、オレを見る眼が変わった  オレが彼女たちと同じ、人殺し経験者だということが判ったからなのか  それで、オレのことを仲間だと感じるようになったのか  むしろ、グレース・マリンカさんはオレから少し、距離を取るようになった  どんな理由があろうと人殺しというだけで避ける人もいる

アウアウッ

パーウ

 オレの話をキッカケにしてそのまま、ドリル槍姉妹はイーディとアーニャと仲良く会話するようになった  ああ、少しは心を開いてくれたみたいだ  2人ともドリル槍の起動スイッチから、指を離している  警戒レベルが、マックスから1段階下がったようだ  寧がオレに寄って来てオレの右手を握る

お姉ちゃんが、ついてるからねっ

 月子も、オレの左手を握ってくれた  オレたちは、そのまま普段は閉鎖されている学校の門へと到着した  オレたちの学校の図書館裏は、崖のように切り立っている  その崖下の誰もいない木々の中に  オレたちの目的の門はあった

えこの門て

 一目見てすぐに判った  すっかり汚れているけれど頑丈そうな鉄の扉には

黒森寮寮生専用通用門 昭和41年製作

 と、刻まれていた  ああ、なるほどお屋敷からこの門まで、人に会わないように作られている理由が判った  このルートは  今、オレたちが住んでいるお屋敷が黒森楼という娼館だった時代に  地方から売られて来た高校生の娼婦たちが毎日、学校に通った道なんだ

大昔のお姉さんたちがここから学校の中に入ってたんだねっ

 黒森家の娼館から通う女生徒たちは一般生徒と同じ門からは、登下校できなかったんだな  ミナホ姉さんのお祖父さんが、若い娼婦たちを学校に通わせたのは  娼館を女子学生寮としてカムフラージュするためだったって言っていたけれど  引退後のことを考えて、せめて高卒の学歴を持てるようにしてあげたかったからかもしれない  あるいは、現役高校生という肩書きがある方が、娼婦の価値が高くなるからかもしれない  今となっては、真実はもう判らないだろうけれど  オレは克子姉から預かった鍵を使って、扉を開く  ギィィィィィ  重い扉を押し開けると中は、ジメジメしていて暗かった

あ、明かりのスイッチがあるよっ

 寧が、電灯を点ける  ああこれ、いつの電球だろう  ずっと点灯させていなかったはずなのに、よく灯ったな  白坂創介が黒森楼を乗っ取って15年以上が経つ  白坂創介は、誘拐して来て娼婦に堕とした少女たちはお屋敷の中に閉じ込めていた  学校に通わせるようなことは、一切しなかった  むしろ、克子姉や渚のようにオレたちの高校に入学して来た女の子を、拉致監禁して娼婦にして、家には帰さなかった  だから、この高校生娼婦の通用門も15年は誰も使っていないはずだ  ミナホ姉さんや克子姉が、時々、門のチェックやメンテナンスはしていたんだろうけれど

ヨッちゃんこっちに階段があるよっここから上に上れるみたいっ

 寧が奥の通路を見つけた  階段を灯す、蛍光灯も何とか点いた  オレはまず、外から入って来た門を閉めて‥鍵を掛ける  うん、重い鉄の扉は、施錠したら‥全く動かなくなった  オレたちは、階段を上に‥

階段上の扉は‥指紋認証式の新しい扉に変えられていた

オレの指紋を読み取らせると‥

暗証番号を押して下さい

 と機械のアナウンスの声がする  イーディが‥暗記してきた今日の暗証番号を扉のテン・キーに打ち込んでいく  こういうところで使う暗証番号は、毎日変わる  しかし、8桁の番号を毎日暗記できているのは‥警護役の子たちだけだ  オレの頭では、とてもじゃないが覚えきれない

‥はい、OKネ

 ピピッ‥  電子音が鳴り、扉のロックが解除される‥

ヨイッショ

 イーディが鉄扉を開けると  そこは、どこかの建物の地下室のようだった  位置的に‥図書館だろう  何も家具を置いていない殺風景な部屋だった

部屋の中にホコリが溜まっているから‥さっさと外へ出よう

 寧が、そう言うが‥  ああ、狭い階段を昇るのに‥ドリル槍が引っ掛かって、手間取っていたらしい  ドリィとアナが来るまで‥待つ

この部屋も電子式の鍵か

 ドアを開けて、外を覗くと  思った通り、高校の図書館の地下1階の端っこだった

私の住んでいる町が変なことになってしまっていて‥

元からある町内会に不正があったとかで‥

なぜか、1丁目と2丁目だけで、別の町内会を作る動きがあって‥

ところが、それが認められなくて‥

しかも別派運動も全然上手く行ってなく

元からの町内会は、そのまま存続しているのに

1丁目と2丁目の4分の3だけの自治会ができて

2丁目の残りの4分の1だけ‥2丁目町内会を名乗り

3丁目と4丁目は、また別に自治会を結成して

わけが判らないことになっている

しかも、元の町内会と、新しい自治会がどっちも会費を取りに来たりして

近所の酒屋さんなんかは、仕方ないから両方に会費を払っているらしい

なんだかなぁ

1284.ネガティブ潰し / コク

 とりあえず、図書館の地下まで来た  外の廊下には、人通りは無いけれど  図書館の1階へ上がれば、始業前でも生徒は来ているよな

えーと、確か

 オレは、克子姉から預かった秘密施設の鍵を取り出す  鍵に書かれていた数字は43-b

どうしたのヨッちゃんああ、43-bね

 寧がオレの持って居る鍵を覗き込む  43-bのことを知っているのは、寧だけだ

43-bなら、このまま外の廊下を進んだ奥だよっ

この辺まで敵が攻めてきた時に、図書館の中に逃げ込んで敵をやり過ごすための部屋が43-bだから

ていうか、本当は43-bで周囲の様子をチェックしておいて、危険が迫ったら今、通ってきた階段から、学校の敷地の外へ脱出するように設計されてたんだろうね

 だから、図書館の地下の同じ廊下に緊急退避室と脱出経路があるのか

じゃあ、その43-bへ行こう

 1時限目の授業が始まるまでは、アーニャやドリル槍姉妹は隠しておいた方がいい  キョーコさんが、街中で公安警察を惹き付けるアクションを起こすのだってもう少し時間が経ってからのはずだ

よっしそんじゃあ、こっちに来てっ

 寧を先頭にゾロゾロと廊下に出る  出口と繋がる階段があった部屋のドアを閉めるとオートロックでガチャリと鍵が掛かった

急いで、誰も来ないとは思うけれどっ

 もし一般生徒に見つかったら、言い訳をするのも面倒だ  アーニャはまだ虎のプロレス・マスクを被っているし、ドリィとアナはドリル槍を抱えている  グレース・マリンカさんだってプロレス好きの生徒に見つかったら、大騒ぎになるだろうし

はい、ここっ

 地下の廊下を奥に進み2度ほど曲がって、倉庫っぽい造りの3つ並んだドアの1つに着く

他の2つのドアはダミーだよ中に部屋があるのは、このドアだけっ

 オレは、鍵穴に鍵を差し込んだ  ここは、暗証番号の電子ロックとかは無いんだな  そりゃそうか敵の襲撃を受けている時に、緊急退避するための部屋なんだから急いで中へ入りたいもんな  多分、緊急時にはさっき廊下の曲がった角ごとに、何らかの防衛システムが働くんだろう

落とし穴とか、隔壁が下りるとかそういうタイプの

ガチャリ

重い音を立てて、ロックが解除される

オレはドアを押したうわ、このドアも分厚い

本当に敵から身を守るための造りになっているんだ

壁のスイッチで部屋の電灯を点ける

ああ、壁にはモニターがある操作パネルも

この部屋からでも、校内の監視システムが使えるんだな

それじゃあ、アーニャたちはここで待っててくれるか

ホームルームだけ出て、戻って来るからそしたら、オレのパン工房に移動しよう

30分ぐらいで戻って来るよ

 いつもは2時限目までは授業に出ているけれど  この子たちを放っておくわけにはいかないもんな  何か理由を付けて、教室から出よう

とにかく、一度教室に顔を出さないと学校に来てないと思われるし、メグも心配するだろうから

 メグは女子陸上部の朝練で先にお屋敷を出たから  ドリル槍姉妹のことは知らない

月子も今日が初登校なんだから、他の人たちに合流しないとマズいだろ

 なでしこ科という特別クラス自体が、今日からスタートなんだからミタマや娼婦候補生たちの方へ行かないと  月子は、ドリィとアナのことが心配らしい

大丈夫よわたくしも、この子たちも何時間でも同じ場所でジッと待つことができるように訓練されているわ

 アーニャが、そう言った  暗殺みたいな任務だとターゲットに仕掛ける絶好のタイミングを延々と待ち続けることもあるか

そしたらヨッちゃんあたし、ここに残るよっ

え、ヤッちゃん授業は

いい今日はパスするっ

 さっき栗宮素子さんには学校をサボるなって言ってたのに

いいんだよっあたしはどうせ、卒業できないんだし

 寧は学籍が無い  シザーリオ・ヴァイオラの追跡から逃れるため、寧の個人情報を公的な記録に残すことができなかったから  それに寧はずっとアメリカで行方不明ということになっていて、日本には偽造したパスポートで戻って来ていたし  この高校に正式に入学していないのだから卒業もできない

今はちゃんと戸籍を取り戻したんだから学校だって

 夏休みにオレとアメリカへ行って行方不明だった奈島寧子は帰国した  そして、黒森家の養女になって今は戸籍上は黒森寧子になっている  黒森寧子として、編入し直せば寧は、この学校の本当の生徒になれる

もういいよあたしは、もうすぐマルゴお姉ちゃんとアメリカへ行くしま、日本に居る時はヨッちゃんが在学している間は、この制服を着て校内をうろうろしているつもりだけれど

 寧は悲しそうに微笑む

あたしは失ってた高校生活を取り戻すより、先に進みたいんだよね早く大人になりたいんだよっだから

 きちんと学籍を手に入れて卒業証書を手にすることは、諦めたのか  寧は、そのまま監視システムの操作パネルを動かし

さあってとヨッちゃんが帰って来るまでに、あたしこの監視システムを使って、ここの高校のことをみんなに説明しておくよっ

 慣れた手つきで、システムを起ち上げる  すぐに壁のモニターに、高校の地図と各所に仕掛けられた監視カメラの映像が映った

ワウッ

ホーオ

 ドリル槍姉妹は、興味たっぷりでモニターを観ている

ほら、これがここの敷地の中ねっ

 寧がパチパチとカメラの映像を切り替えていく  正門前校庭職員室前の廊下  うんもう、ほとんどの生徒が登校している時間だ  男子生徒の姿も女子生徒の姿も、次々に映っていく

どういうこと、これ

 グレース・マリンカさんは驚いている

秘密の出入り口も変だったけれどこんな隠し部屋に、どうしてこんなモノがある

 ああ、グレースさんから見たらこれは、メチャクチャ異様な光景なんだろうな

コレモアタシたちが普通じゃないっていう証拠ナノネ

 イーディは、笑顔でグレースさんに言う

それもヨッちゃんが戻って来るまでに説明するよっあたしたちが何者で、どうしてこの学校には、こんな監視システムが付いているかってことをね

 寧が、さらにカメラを切り替える

ムミッ

ホアッ

こんなところまでカメラがあるの

 女子更衣室と、女子シャワー室と女子トイレの映像か

まあまあ、そんな顔しないでよっグレースさんたら

 寧は苦笑してカメラをまた切り替える  ここって、オレの教室の前の廊下だよな

何でか知らないけれど妙に人が集まっている

 何かあったのか  寧が、人だかりに近いカメラの映像に切り替えさらにクローズアップする  真ん中に居るのはメグじゃないか

音声も出すねっ

 寧が、システムを操作した

そんなこと言われても、困ります

 メグの声が、スピーカーから響いた  誰と話しているんだ

とにかく今、話した通りだからここに居る人間、全員が証人だ判ってるよね

 そうメグに話すのはニヤケ顔の男子生徒だった  ああ、人だかりのほとんどはオレのクラスの人間じゃない  みんな上級生だ  上級生が、何でわざわざ1年生の教室に来ているんだ

ヤッちゃんあれ、誰だか知ってる

 上級生のことは寧の方が詳しい

寧は、1年留年しているからこの高校には2年半居る

今の3年生も2年生も、知っているはずだ

3年生のマサカリ・クサオって人だよっ顔は知ってるけれど、どんな人かは知らないな

 寧が、そう言うとモニター画面の中のニヤケ男は

別にすぐに返事を聞かせて欲しいわけじゃないんだ君も、色々とジックリ考えたいだろ

 メグに向かってカッコを付けてニヤッと微笑む

でもできれば良い返事を聞かせて欲しいなオレだって、ほら、勇気を出したんだからそれなりのご褒美は欲しいよねああ、別に強制しているわけじゃないよこれは、オレの正直な気持ちだからうん

そんなことを言われても、あたし

 メグは困惑しているようだった  ニヤケ顔の3年生は、ポケットから携帯を出して時間を見ると

ああ、もうこんな時間かゴメンね、押し掛けてきちゃってありがとう、オレの話を真剣に聞いてくれてそれだけでも嬉しいよオレ

 どんな真剣な話をしたんだ  全然、話の内容が判らないぞ

じゃ、山峰さんまた後で

 3年生のマサカリは、メグにそう言うとその場から立ち去る  そのまま、メグを取り囲んでいた上級生の生徒たちもバラバラと立ち去って行った

山峰さん

 メグと親しいクラスの女の子たちがメグに寄って来る  メグは、とっても困った顔をしていた

何だアイツ、何の話をしていたんだ

 オレには何が何だか、良く判らない

調べてみるよっ監視カメラの映像と盗聴音声は七日間は保存されているから

 寧がそう言ってシステムの記録を呼び出そうとするが

ソレアタシたちが帰って来るまでに、やっといてねネイ

Darlingはそろそろ行かないとダメヨ

 パン工房の方の様子も、観に行かないといけないし

ソレニ、Darlingは早くメグミと会った方がイイネ

 イーディは、モニター画面を指差す

メグミトテモ困ってるみたいダカラ

 監視カメラの記録を調べるより、メグに直接聞いた方が早いかもしれない

アタシもDarlingに付いていくヨネイ、ここ頼むネ

 アーニャとドリィ&アナとグレース・マリンカさんを  寧だけ任せてしまっていいのか

アタシはDarlingの警護《ガード》に付くネアタシの力が必要になるカモシレナイのネ

 イーディの力暴力が必要になる

判ったヤッちゃん、アーニャ、ここを頼む

任せてこの子たちの面倒は、わたくしが見ているわ

わたくしもキョーコ様、コーデリア様を通じて、あなたたちの遠縁の家族のつもりよ

そんなこと言わなくても、アーニャはオレたちの家族だよ

うふふありがとう後で、たっぷりご奉仕してあげるわね

 ご奉仕っていうより、アーニャとのセックスは絞り取られるっていう感じだけれど

ジュンもここで待っててネついでに、腹を括ってくれると助かるヨ

 イーディは、グレース・マリンカさんにそう言った  オレとイーディと月子で図書館の1階に上がる  そこから外へ  女子生徒も男子生徒も、オレたちに注目するのは  見慣れない女生徒月子の美しさのせいだろう  パン屋のオレと、謎の留学生のイーディはそこそこ顔が知られているけれど  月子は、今日が初登校だから

ああ、とにかく一度パン工房に行ってそれからメグの居る教室に行くぞ

 オレは、そう指示する

ソレなら、コッチが近道ネツキコ、付いて来て

 オレたちは図書館を出て、緑の小道を学生食堂の方へ抜けて行く

イーディさんは、時々、とっても残酷になりますわね

 ふと月子が言った

ソウカ

はい先ほどの公様のこととあの尾上ジュンという方のことどちらも、とっても残酷ですわ

 オレのことと言うのはオレがシザーリオ・ヴァイオラを殺したことを公表したことだろう  グレース・マリンカさんのことは良く判らない  月子は、イーディの心の中を覗いているから  オレたちには判らない、イーディの思惑が全て読めてしまっているんだろうけれど

アタシはアタシなりに精一杯やっているダケネツキコと一緒なのネ

 早足で歩きながら、イーディはそう答える

月子、イーディにも考えがあるんだろうからさ

ですが、公様

オレはイーディを信じているイーディは、必要の無いことはしない子だよ

 ドリル槍姉妹のことも、グレース・マリンカさんのこともイーディには、何かしらの狙いがあるはずだ  月子は口をつぐむ  学生食堂脇のオレのパン工房  搬入口の前に、克子姉が商用バンを駐めてオレたちを待っていた

荷下ろしは

もう終わったわミタマちゃんと可奈ちゃんが働いてくれたから

 ああ、良かった

あ、ノブ来たわね

この馬鹿、遅いじゃない何やってたのよ

 パン工房の中から可奈センパイ、ミタマ、愛、雪乃が出て来る

あなたの方は、どうだった

とりあえずは、オレたちの方も問題無しお客様たちは例の部屋で待っててもらっているヤッちゃんが付いててくれるってオレ、ホームルームだけ出たら、すぐに戻るよ

そうパン工房の方も、何も問題無いわああ、そうだ今日は材料、少し多めに持ってきているわよ

さすが克子姉助かるよ

オレの考えていることなんて、お見通しか

じゃあ、月子ちゃんとミタマちゃんは、あたしがお嬢様の所に連れて行くわ

ミナホ姉さんもう着いているの

ええ今は他の子たちと校長室にいらっしゃるわ

 新設のなでしこ科の生徒娼婦候補生たちを連れて来たんだ

じゃあ、あたしたちもそろそろ校舎へ向かいましょうよ

 可奈センパイが、オレたちに言った  ああパン工房の準備が問題無しなら  早いところ、メグに会わないといけない

おお、吉田やっぱり、ここに居たか

 やって来たのはオレのクラスメイトの田中だった

吉田のことだから、昼のパンの準備をしているはずだと思って来てみたら大正解だったな

わざわざ、オレに会いに来てくれたってのは何かあったのか

 オレは、田中に尋ねる

それが今うちのクラスは大騒ぎなんだぞ

 それはやっぱりさっきのことが原因なのか

吉田、驚くなよ

お前の山峰ちゃんがなみんなの見ている前で

3年のマサカリって野郎にコクられてた

 コク

好きです、オレと付き合って下さいとか告白されてたんだよっ

 な、何ぃぃぃぃぃ  め、メグが  メグはオレと婚約してて、一緒に住んでいるってことも校内では有名なのに

もうホント大騒ぎになっているんだよっ

10年くらい前に、小雨が降る路上で大泣きしながら、サクラ大戦の帝国歌劇団の歌を歌いながら自転車で疾走していく若い娘さんを見ましたが

昨日は、巨人軍の帽子を被った50歳ぐらいのオッサンが真っ昼間なのにライオン丸の歌を歌いながら駅前商店街の中を駆けていくのを見ました

 何なんだろう、この町

1285.ネガティブ潰し / オレの女に手を出すな

 ほか

恵美がどうしたのです

 オレと田中の話を聞いて純白の学帽&短ラン学生服を着たミタマが尋ねて来る

恵美には普段、世話になっておりますので

 ああ、ミタマたちもお屋敷で暮らすようになって数週間が経つ  ミタマとキヌカは戦闘力には特化しているけれど家事ができないからな  掃除や洗濯は、いつもメグやマナに助けられている

あれっこの人、安城ミタマか

 田中が、ミタマに気付いて驚く

うるさいわねっあたしが連れて来たのよっ

 パン工房の中から、雪乃が現れて田中に言う  ミタマは雪乃のテレビに出演しているから変な話ではない

それより恵美がどうしたのよっ

 そして雪乃とメグが遠縁の親戚だということも、オレのクラスメイトはみんな知っている

だ、だからさ3年生のマサカリってやつがさ、ほんの10分くらい前に山峰ちゃんを校舎前で捕まえてさオレと付き合って下さいって告白したんだよっ

 田中は、改めてそう言う

何よ、それっ恵美は、この馬鹿と婚約してるのよっ

そんなことは学校中、全員知ってるよそれなのにたくさんの生徒が見ている前で、山峰ちゃんにそいつがコクッたから大騒ぎになっているんじやないかっ

 ブゥゥゥゥゥゥン  オレの学生服のポケットの中で、携帯電話がバイブで唸る  電話を取りだして、画面を見ると

ヤッちゃんからだ

 寧は図書館の地下の部屋に、アーニャたちと居る  自分の携帯を、あの部屋のシステムに繋げてオレに電話を掛けてきたんだろう

あ、ヨッちゃん監視システムの記録を調べたら、すぐに判ったよっ

罰ゲームなんだよっ罰ゲーム

あのマサカリって男がさ、仲間と一緒にさ仲間内の賭けに負けた人が、メグちゃんに告白するっいう罰ゲームをやっているんだよっ

そういうことをさメグちゃんに告白する前に、仲間と話している会話が見つかったんだよっ

田中そのマサカリってやつのこと、詳しく知っているか

確か、3年の連中でバンドを組んでるばすだえーとMGファイブってバンド名だったと思う顔は良いから、女にはモテてるていうか、取っ替えひっ替えしているっていう噂だあんまり良い話は聞かない

 さすが、良く知っている

ああ、MGファイブね去年の学園祭では、ファクター4MENてバンドと女の子の人気を二分していたわよ確かライブハウスでもライブをしているって聞いたわ

 2年生の可奈センパイは、去年の学園祭のことを知っていた

男のファンはいないの

だって演奏の下手なビジュアル系よ

 可奈センパイは苦笑する

自分たちで作曲ができないからよく知られているプロのバンドの曲に勝手に自分たちで作詞して歌ってるって聞いたわ

それも外国のバンドの英語の曲に、日本語の歌詞を乗せるとかじゃないんだって日本のアーティストの作った日本語の歌なのに、歌詞を勝手に変えて演奏しているそうよ

それってジャスなんとかに怒られるんじゃないんですか

 田中が、可奈センパイに言う

そうなのよモリ・シンイチもビックリの著作権違反バンドだって

わざわざ歌詞を変えるってお笑いバンドなの

 つまり替え歌を演奏しているんだよな

そういうことじやないのよ、ノブそれが、全部、マジな歌詞なんだって元の曲がどんなのだとしても、全て君に会いたいとか君を信じてるとか明日に向かってとかいわゆるアリガチな歌詞を足して、極甘ラブソングに改変してるらしいのよね

ワケが判らないな

とっころがそういうのにコロッと来ちまう女の子が、多いんだって元の歌詞よりセンスがあるとか、センスの無いことを言っているファンの子を見たことがあるわ

 とにかくふざけた野郎だってことだな  そういう連中がメグを笑いものにするために、公衆の面前で告白した

ヤッちゃんそれで、そのマサカリってヤツは今、どこにいる

 オレは、電話の向こうの寧に尋ねる

3年1組の自分たちの教室に居るよ仲間たちと、メグちゃんが困った顔していたことを笑い合っている

ヨッちゃん、あたしそっちに行こうか久しぶりに不良少女モードで怒鳴りつけてやるよっこんなヤツラ

 寧がこんなに怒っているということはマサカリたちは、相当酷い口調でメグを笑っているんだな

いやヤッちゃんは、そこに居てくれ

 アーニャやグレースさん何より、ドリル槍姉妹を放っておくことはできない  あの人殺しが日常の姉妹が、校内を勝手に歩き回ったら何が起きるが判らない  あの子たちは、自分のドリル槍を絶対に離さないだろうし

オレが何とかするからヤッちやんは、また何か状況に変化が起きたら、すぐにオレに知らせてくれ

 寧が全校内の様子を監視できるシステムにアクセスしていることは、オレたちにとって有利なはずだ

判ったあたしはここで、監視システムを見ているねっ

 オレは、電話を切る

朝から大変ね恵美ちゃん、大丈夫かしら

 克子姉も心配そうに、そう言う

でも、月子ちゃんとミタマちゃんは編入の手続きがあるから連れてっちゃうわよ

ああ、そうだね判った

あたしも一度自分の教室に行くわ

それで色々と聞き込みをしてみるわ

 ああ、マサカリがメグにコクッたことがどんな風に噂になって広まっているか判らないもんな

ノブ、慌てちゃダメよノブたちのイメージダウンになるようなことになったら、パンも売れなくなっちゃうわよ

 そうだ、可奈センパイの言うとおりだ  今、オレのパンを買ってくれるのはこの学校の在校生だけなんだから  校内で悪い噂が広まれば、売り上げに影響するかもしれない

大丈夫ヨ、Darlingにはアタシが付いているネ

 イーディが、笑って可奈センパイにそう言う

あ、イーディネットニュース観たよ優勝したんだろ、おめでとうございます、チャンプ

 田中がそう言う

あ、アリガトネ

 イーディも、クラスメイトに突然祝福されて戸惑っている

いや、ビックリしたよ普段は、女子の総合の大会の結果なんてスポーツニュースで取り上げられないのに、今回のは結構、大きな記事になってたからイーディが相手の選手を倒すところとかも、ネットに動画がアップされてたし

 それはマルゴさんと寧が、マスコミに大きく取り上げて貰えるようにスポンサーを通じて、働き掛けたからだ  今回の大会への出場は日本国内での知名度を上げるためで  アメリカへの遠征のためには、さらにスポンサーを集めないといけないから  あれてことは  イーディが、女子格闘技の大会でクラス優勝したことは全校生徒に知れ渡っているよな  となると、下手にイーディを3年のマサカリたちの所へ連れて行くと色々と、マズイことになるかもしれない  オレがイーディを従えて、3年生に抗議しに行くのは  脅しのために格闘技大会のクラス優勝チャンピオンを連れて来たみたいに見られるかもしれない  それって一般生徒たちから、反感を買うことになるかもしれないぞ

あんた、何やっているのよ今は考え込んでないで、さっさと恵美に会いに行くべきでしょ

 突然、雪乃がオレに言う

今、恵美がどんな気持ちで、あんたを待っているか判らないのっ

 半年前は、あんなにメグを嫌っていたのに

そうだなとにかく、メグに会いに行こう

 オレは雪乃とイーディと愛と田中と、自分の教室に向かう  校舎に入ったところでまた、寧から電話が掛かって来る

ヨッちゃん、大変

あのマサカリって男のファンがメグちゃんのところに押し掛けて来ているよっ

マサカリに告白されたメグちやんのことを生意気だとか許せないとか言ってる

雪乃先に行くぞイーディ、雪乃と愛についててやってくれ

 妊娠中の雪乃を1人にしておくことはできない  愛も、急ぐのは苦手だし  オレは田中も置き去りにして1人で、校舎の階段を駈け上る  生徒たちをかわしながら、廊下を全力疾走して自分の教室へ走る

いいからっ、今すぐ、クサピーの所へ行ってせつかくのお話ですが、私にはもったいないことですので辞退致しますって土下座してきなさいよっ

そうよ、クサピーとあたしたちに謝りなさいよっ

あんたみたいな子に、クサピーに声を掛けられるなんて許せないわよっ

 寧の言うとおりオレたちの教室に、10人くらいの上級生の女子生徒が押し掛けていた  マサカリ・クサオはファンの子たちに、クサピーって呼ばれているのか

そんなことを言われてもあたしは

 ああメグは困の果てている

そうですよ、センパイたち山峰ちゃんは、何も悪く無いです

恵美ちゃんは、ただ告白されただけじゃないですか

 メグの親しい友達たちが、間に入って庇ってくれている

ふざけないでよっだいたい、あたし前から、この子のこと気に入らなかったのよ

あたしもよ何なのよ1年生のくせに婚約してるとかさ

それで男の子と同棲してるんでしょっいやらしいっ

そんな下品な女には、クサピーに近付いて欲しくないのよっ

 ちくしょうメグのことを個人攻撃しやがって  オレは廊下から大声で叫ぶ  メグに詰め寄っていた上級生たちが、一斉にオレに振り向いた  メグも、オレの名を呼ぶ  オレは、そのまま教室に駆け込むと  メグを抱き締めキスする

ああっヨシくん、ヨシくん、ヨシくんっ

 メグも、自分の鼻をオレに擦り付けて何度もキスする  オレたちの半年間を詰め込んだ思いっきり、濃厚なキスを周囲のやつらに見せつけてやった  高校生カップルの淡いキスではない  たっぷりと一緒の生活を積み重ねたオレとメグの夫婦のキスだ  クラスメイトも、マサカリのファンの上級生たちもみんな呆然となって、オレたちのキスを見ていた

もう大丈夫だぞオレはここに居る

 メグの眼が、涙で潤んでいる

メグに文句があるんなら、オレに言って下さいオレはメグの夫ですからっ

 そう上級生たちに宣言する  マサカリ・ファンの1人が、何か言おうとしたから

だからっ文句があるならオレに言えってんだよっ

 オレは眼で圧する

その子だけじゃないよ山峰に文句があるなら、あたしが聞くよ

山峰は、うちの部員だからねぇあたしの身内に、下らない言い掛かりを付けるんなら、このあたしが承知しないよ

 女子陸上部部長の竹芝キャプテン

だいたいさあんたたち、マサカリの何なわけマサカリが、うちの山峰に何を言ったのか、詳しいことは知らないけれどあんたたちが、山峰に文句を言いに来るのは筋違いなんじゃないのかい

 3年生で一番硬派な竹芝キャプテンの言葉は厳しい

も、もういいわよいっ、行きましょ

う、うんクサピーに近付かないでくれれば、それでいいのよ

そうそうあたしたちは、それが言いたかっただけなんだから

 10人ぐらいの上級生たちは、そそくさと立ち去ろうとする

ちょっと待ちなよあんたたち、謝罪の言葉が聞こえないよ

 竹芝キャプテンが、彼女たちに言う

あ、あたしたち別に謝ることなんか

そ、そうよあたしたちに何を謝れって言うのよ

朝っぱらから、下らないことで騒いで申し訳ありませんでしたじゃないのかい

 マサカリのファンの子たちをギロッと睨む

その子がクサピーに色目を使ったから、こんなことになったんでしょ

 10人の上級生は、結束して竹芝キャプテンに対抗しようとするが

違うだろうちの山峰にコクッたのは、マサカリの方なんだから色目を使ったりは、マサカリじゃないか

や、クサピーはそんな人じゃありませんっ

きっと、その子が何かしたのよ

絶対に色仕掛けよパンツでも見せたんじゃないのっ

そうに決まっているわそうじゃなければクサピーが、こんな子に告白するはずがないものっ

おいおい、テメェらうちの山峰は、日々、陸上道に切磋琢磨しているサムライだよテメェらみたいな、尻軽じゃないんだっ

 竹芝さんは怒りを露わにする

な、何言ってるのよ高校1年のくせに、男と暮らしてて婚約までしている女の方が、よっぽど尻軽じゃないっ

マサカリのファンの1人が、そう言った瞬間

はぁぁ何、言ってんのよあんた、バッカじゃないのていうか、マジで脳ミソ、沸いているんじゃないの

 ようやく雪乃がやって来る  愛とイーディと田中も一緒だ

恵美が尻軽なわけないでしょ尻軽な女だったらわざわざ婚約なんかしないわよっテキトーにゴマカして、お気楽に遊び回っているわよっそれにさ、一緒に暮らして生活するってのは、ロマンチックなことばかりじゃないのよっ恵美は、この馬鹿の食事の世話からパンツの洗濯とかまでしているのよっあんたたち、そういうことできるわけ高校1年で覚悟して人生を決めた子を、あんたたちは馬鹿にできるような生き方をしているわけっ

し、白坂雪乃

 上級生の女たちは、雪乃の姿を見てビビッている

そうよ、白坂雪乃よくっだらないあんたたちのこと、テレビで話してあげてもいいのよあなたたちの名前と学校名も、一緒に電波に乗せて公表していいのよあたしの番組は毎回、生放送だしあたしが何を喋ろうと、全部、日本全国に放送されちゃうからねっ放送法もBPOも無関係なのは、テレビの世界じゃあたし1人なんですからねっ

 雪乃が、謎の力に護られていることは雪乃の番組を観れば、誰にでも判る

何がクサピーよ自分の恋人でも無い男が、他の女に手を伸ばしたからってギャーギャー喚くのはみっともないわよっばーか、ばーか、ばーか

あのあたし、マサカリ先輩のこと、何とも思ってませんしむしろ、ああいう男の人は、大っ嫌いですから

 自分の口からそう言う

あたしは今、ヨシくんと真剣にお付き合いしています他の男の人に惹かれることなんて絶対にありませんからっ今のあたしは、こうやってヨシくんを抱き締めるのに精一杯なんですっ

だってさ山峰のことは見ての通りだよこの子は、自分の亭主にベッタリなんだからマサカリなんかに色目を使うわけが無いんだよ

 竹芝キャプテンが、改めてそう言う

もういいや、あんたたちさっさと行きな二度と山峰に絡むな変な噂も流すんじゃないよいいね

返事はっ

 マサカリのファンの上級生は、渋々だけど約束してくれた

メグちょっと、マサカリって人に会って来るよ

 メグの眼を見てそう言う

このままじゃおさまりが付かないから

 できるだけ早く手を打たないとおかしな噂を流されるかもしれない

今すぐ、直接オレが抗議してくるから

あたしも行くわ

いや、メグはここに居てくれこれは男同士のことだから

みんなが見ている場所で、オレの女に手を出して来たんだからオレが片を付けないといけないんだよ

 メグの男として

マサカリ・クサオって勢いでつけた名前なのですが

そうか、ゴリポンくんのキャラに居たのか

ゴリポンくんなんて忘れてました

1286.ネガティブ潰し / MG

・白坂雪乃/16歳主人公にレイプされて現在、妊娠中登山ロープ並みに神経が太いあんた、このバカ

・竹柴百合香/18歳女子陸上部キャプテン陸上を武道だと考えている

こんなこと、とっととカタをつけてしまおうオレが行ってくるから

 放っておけば、3年のマサカリってヤツはどんどんメグに告白したことを周りのやつらに言い広めるだろう  中間同士では笑い話にして自分たちのバンドのファンの女の子たちをけしかけて、今みたいにまた嫌がらせに来させる  今、逃げてった上級生たちだって、自分たちの教室に戻ったらオレたちのことを好き勝手に話すはずだ  そうして、メグやオレたちの悪い噂が広がる  これは急いで処理しないといけないことなんだ

向こうはまさか、始業前にオレが抗議しに来るとは思ってないはずだ一気に話を付けてくるから

でもよ、吉田向こうは3年生だぞ3年の教室に押し掛けてくなんての怖くないのか

うん3年生の教室、怖いよね

大丈夫、吉田くん

 メグの女友達たちが、心配そうにオレを見る  オレたちはまだ1年生で運動部の子は、普段から上級生にシゴかれているから、余計にそう思うんだろう

あたしが付いてってやるよあたしもマサカリには文句を言ってやりたいからさ

 竹芝キャプテンが、そう言ってくれたが

いえ、それじゃあ話が大きくなりますヤツラの思うツボです

 オレは、即座に判断する

向こうは愉快犯なんですからこの話がデカくなった方が嬉しいんですよ竹芝先輩は女子陸上部を背負っているんですから女子陸上部対ヤツラのバンドみたいな構図にされて、自分たちが竹芝さんに不当な圧力を掛けられたみたいな話にすり替えますよ

 大きな騒ぎになれば、それでいいんだ  状況を面白がっているだけの下らない男なんだ  オレは、さっき監視カメラの映像で見たマサカリ・クサオのニヤケ顔を思い出す  わざわざ婚約者が居ることを全校生徒が知っているメグにみんなが見ている場所で告白した時に  ヤツはいや、ヤツの周りに居た仲間たちも下品な笑みを浮かべていた  あれは、人を馬鹿にした眼だ

とにかく面白おかしい話にして、自分たちが楽しむことしか考えていないんですよ

仲間内の罰ゲームで、メグに告白するっていうのも、下らない遊びですけどヤツラにとっては、その遊びの火が拡がって、大きく炎上するのも遊びの延長なんですよ

ソウヨ愉快犯をマトモに相手しちゃダメネ

 イーディが、携帯電話を取り出して言う

Darling、アタシも行くけど隠れているネアタシが乱入するのも向こうにとっては、面白いイベントになっちゃうからネ

ああ、そうしてくれ女子格闘技の大会でクラス優勝したイーディが前に出ると暴力的に脅されたとか、言い出すだろうから

OK、アタシの方で1つ仕込んでおくネDarling、悪いけれど1人でフォーワードを頑張ってネ

おう任しておけ

愛と雪乃はメグに付いててくれメグ、またさっきみたいな上級生が来たら、お前の毒舌で追い返せ

あんたに言われなくても、そうするわよっ

 雪乃は、胸を張ってオレに答える

恵美さん愛と、ここで待ってようね

 愛にそう言われて、メグはオレを見る

オレを信じろオレはメグの亭主だぞっ

 オレはクラスのみんなの前で、断言した

あんた何か、強くなったね

 竹芝先輩がオレを見て、言う

強くもなります一家の主ですからっじゃ、行ってくるイーディ

先に行っててネ電話が済んだら、追い掛けるヨ

 イーディは、どこに電話しているんだ  図書館の地下で監視している寧にマサカリたちに見つからないように、隠れるポイントを尋ねているのかな

始業時間が近いよ行くんなら、早くしな

 竹芝先輩が、オレに言う

はい行きますっ

Darling、3年1組ヨッ

 イーディが、廊下を走り出したオレの背中に叫んだ  3年生の教室は、1階上の奥だ  オレは、階段を駆け上がる  3年1組の教室の入り口にダンっと到着するッ

マサカリ・クサオって人、居るかっ

 3年生のフロア全体に響くような大きな声でオレは叫んだ  始業前で、ペチャクチャ喋っていた3年生たちが一斉にオレに振り向く

何だ、オメー

1年が何の用だ

マサカリなら居ねーよ

あいつ、今日、休みなんじゃねーの

そうそう、マサカリなら居ないから帰れよ

 最後に口を開いたのがマサカリ本人だ  監視カメラで観たのと、同じニヤケ顔をしている  そして、他の3年生たちがオレの乱入に驚いているのに  すぐに反応した、他の4人はマサカリの仲間だ

いねーって言ってるだろ帰れよ、1年

帰れ帰れ

か・え・れか・え・れ

 ほらこの5人しか騒いでいない

うるせぇな静かにしろよ

 オレは工藤流古武術の気を少し発して、5人を威圧する

おい、そこのあんたそう、あんただよあんたが、マサカリ・クサオだろそんで他の4人は同じバンドの仲間かああHGファイブだったっけ

MGファイブだっこの野郎

 マサカリの仲間の1人が、憤る

よせよ、ギンでオレがマサカリだったら、何だってんだよ

 マサカリはオレを睨む

ていうかお前、誰だよ

そうだ、そうだおい、1年、ちゃんと名乗れよ

先輩には、礼儀正しくするってママに教わってこなかったのかよ

 オレは1年生で1人  自分たちは上級生で5人  しかも、ここは3年生の教室だ  圧倒的に、自分たちが有利だと思ってMGファイブのヤツラは強気な態度に出ている

誰ってこの子パン屋くんでしょ

 オレたちの対立を見ていた、3年生の女子が言う

あ、そうだ学食でパン作っている子よね

あああの1年生の子同士で婚約しちゃったっていう

そうよ間違いないわ

 今では、オレはパン工房内の作業を専門にやっているけれど  学食でパンを売り始めた頃は、オレも店頭に立って売り子をしていたから  オレの顔を知っている3年生も多い

あーあーあー、そうかあの学食で、クソまずいパンを売ってるやつか

 マサカリは、わざと大声で言う

ホント、まずいパンだよなぁ買ったことねえけど

 他のMGファイブの男が言った

そりゃ、買う気が起こらねえだろあれだけ、見た目からしてまずそうだとよ

ホントホント、あんなパン買うヤツの気がしれねーよなこんな1年のコゾーが作ってるんだぜ

あんなので金を取って売ってるなんて犯罪だよな犯罪ただだって食いたくねーもんあんなパン

 こいつらはわざとオレを挑発している  もちろん、オレの顔だって知ってたはずだ  とことん、オレとメグを笑いものにするつもりなんだ

でもよ、オレたちだって学食は利用しているわけだしよ

そうそう、もしかしたら微粒子レベルの可能性としては、オレたちだってオメーのパンを買う日が来るかもしれねーんだよな

つまりオレたちは、オメーの客ってことだまだ買ったことはねーけれど

その内買うかもしれねーんだからさ

 MGファイブの4人はニタニタ笑いながら、そう言う  さらに、マサカリは

そういうことだオレたちだって、客になるかもしれねーんだからオメーにとっては、客も同然なんだよなていうか、商売としては、常に新規の客を開拓していかねーといけねーわけだろ

 ニヤケ顔で、オレを嘲笑う

オメー、パン屋の分際でお客様に対して、エラソー過ぎるんじゃねーの

そうだ、そうだ商売人なら、もっと腰を低くしろよ

ていうか、土下座しろよ額を床に擦り付けて、パン買って下さーいってオレたちにお願いしろよ

そんなことしてもあんなマズそうなパンは買わねーけどなっ

 ホント、言いたい放題だな

ひどーい、パン屋くんのパン、美味しいじゃないっ

 3年のメガネの女子が、そう言ってくれたが

黙ってろよ舌バカマズいもんばっかり食ってるから、味が判らなくなってんだろ子供舌味オンチ

 マサカリは、メガネの女子を罵る

そうだよっマズいもんはマズいんだよっ

オレたちの黄金の舌を信じなさーい

そのフレーズ面白いな、次のライブで使おうぜ

あ、いいねぇ新曲の歌詞に使おうぜ

 新曲って、プロのバンドの曲に勝手に違う歌詞を付けて演奏しているだけだろ

オレがここに来た理由は1つですマサカリ・クサオさん

 オレはギッと強く、睨む

オレの女に手を出すな

 マサカリは

あんオメーの女ああ、そうかなるほど、判った、判った、アイ・シーオメー、もしかして山峰恵美の婚約者ってやつか

 知ってるくせにわざと、もったいぶる

ああ、そうだよマサカリ多分、そうだきっと、そうだ

何だ恵美の婚約者って、こんなダセー小僧なのかよっ

こりゃ、恵美がマサカリと浮気したがるのも、判るよなぁ

 勝手に違うストーリーに差し替えている

えっ、そうなの

パン屋くんの婚約者がマサカリくんと

 ほら早速、デマが広がる

嘘よあたし見てたわマサカリくんの方が、パン屋くんの彼女に付き合ってくれって言ってたんじゃないさっき、校舎の前で

 ああ、MGファイブに罵られたメガネの先輩が証言してくれた

ちっ、テメーは面白いところだったのによ

 マサカリは、舌打ちするが

何が面白いところよ困っている1年生の女の子を、あんたたちが5人で取り囲んで気持ちの悪い笑顔で、マサカリくんが告白してたんじゃない

えー、そうなんだ

あ、あたしも見てた

 他にも、証言者が現れる

ちくしょッオレはよー、ただ単に恵美を助けてやりたいだけなんだよっ

 マサカリは言う

だって、ほら可哀相だろ高1で婚約なんてよ夢も希望もねーじやないか新しい出会いも、恋の可能性もなくなっちまうんだぜ

そうそう、恵美とーっても顔が曇ってたよな

この世の終わりって顔をしてたぜ

やっぱ、失敗したって思ったんだろこんな、つまらねぇ小僧と婚約したのがさ

やっちまったーって、後悔してるよなアレはそういう表情だった

 またしても勝手なストーリーを作る

そうだよだから、オレは広い心で博愛精神とボランティア根性で恵美に愛を囁いてやったんだよ

マサカリみたいなイケメンに付き合ってくれって言われるなんて女としては、サイコーの幸せだもんな

マサカリに甘い言葉で囁かれて恵美、軽くイッちゃってたよな

欲求不満だったんじゃねーのかなり、溜まってる顔してたもんな

そうそう、結局マサカリにコクられてまんざらでもないって顔をしてたもんなぁ

そりゃそうだよこんな小僧が、恵美を満足させられるわけがないだろオレは自信があるけどな

 マサカリ・クサオはオレを見て、ふふんと鼻で笑う

そういうことだからよオメーの方こそ、オレの恵美から手を引けよ

そうだ、そうだ今のままじゃ、恵美が可哀相だ

オメーなんかより、マサカリの方がずーっといいっての

オメーは1人でまずいパンを作ってろよ

ホントワケがわからねーんだよ、オメーは1年生のくせに、婚約とかパンの特別コースとかが急にできてよオメーらだけが、学食でパンを作って売り出してよいい気になってんじゃねーぞコラァ

 ああやっと判った  こいつらはオレが目障りなんだ  確かに、パン技能コースが夏休み明けに突然できて  オレと愛しか、パンのコースの生徒は居ないのに  オレたちのためだけに、立派なパン工房が学食の脇に建てられたし

酷いこと言わないでよパン屋くん、頑張ってるじゃないのっ

 メガネの3年女子が、そう言ってくれた

何が頑張ってるだよっ他のやつが授業を受けてる間に、パンを作ってただ学食で売ってるだけじゃないかっ

そうだよしかも、いつの間にかお前らにチヤホヤされるようになってよ

高校1年生の作ったパンが美味いわけねーだろっバカ舌っ

 こいつらが、メグをターゲットにしたのは  オレが目障りだからなんだ  つまり、全ての起点はオレ  大きな力を持つ者はそれだけで警戒される  オレを中心にパンコースができたり、パン工房が建てられたり  オレたちのパンが、少しずつ学校の生徒たちに受け入れられていっているということ  その全てがこいつらにとっては気持ち悪くて、納得できないことなんだ  だから、オレを何としても貶めたいと思っている  そのために、メグを利用した

高1で婚約とかさらに、将来の仕事はパン屋だって、もう決めちまってているとかさ、ワケ判んねーよすっげぇ、気持ち悪い

だから、心優しいマサカリはよー気持ち悪ぃオメーから、恵美を救い出そうとしているんだよ泣けるじゃねぇか

婚約なんてのはいつだって破棄できるんだからよ自由恋愛だろ、自由恋愛婚約者のいる女は、新しい恋愛をしちゃいけないなんて誰が決めた

そんな法律はねーんだよっマサカリが恵美を口説くのは、マサカリの自由だし恵美にだって口説かれる自由があるんだよっ

 しかし、こいつら人の女を気軽に呼び捨てにしやがって  いや、それだってオレを口惜しがらせるためなんだろうけれど  オレが怒ったり、口惜しがったりする表情を眺めて楽しもうっていうことなんだろうな  ホントに5人とも、ゲスとしか言いようが無い

ま、そういうことだからよこれからも、恵美のことは口説きに行くからオメーから救い出してやんねーといけねぇからな

マサカリ、早速、昼休みに学食行こうぜそんで、パン屋の店先から恵美を引っ張り出そうぜ

オレたちは恵美のためを思ってやるんだからよまさか、営業妨害なんて言い出さねぇよな

オメーのパン屋なんてよ結局、お店屋さんごっこなんだからよ別に、やめちまったって構わねえんだよ

そうだ、そうだ恵美のためによ、あのパン屋はオレたちが潰してやろうぜ

そういや、こいつの作ってるパンて何か有害物質が入ってるんじゃなかったっけ

そうそう、毒が入ってんだよなそのことも、オレたちが店先で学校のやつらにアナウンスしてやるからよっ

 こいつらブン殴るぐらいじゃ、ダメだろうな  どこまでもオレとメグに粘着して嫌がらせをするつもりなんだろうから

とりあえずあんたたち、もう来なくていいや

来なくていいってオメーのパン屋にかよっ

何だテメーパン屋の分際で、客を選ぶつもりかよ

おーい、聞いたかぁこのパン屋は、客を選り好みするぞー

商売人の風上にもおけねーな

やっぱ、潰そうぜあのパン屋今の発言も周りに広めるべきだ

ホント、オメーパン屋としても才能ネーけれど、人間としても最低だよな

 こいつらは、オレの心を削ろうと煽ってくる  だが、オレの心はそんなことで折れたりはしない

オレのパン屋じゃないよあんたたちは、二度と学校に来なくていいからそして、オレとメグの前に二度と現れるな

何だ、このパン屋オレたちを脅しているつもりらしいぞ

学校に訴えようぜ、こんなアブナイのにパンとか売らせるなってさ

警察の方がいいんじゃね脅迫されたって訴えてやろうぜ

そうだよなホントに、いい気になりやがってよ

テメーが世界の中心とか思ってんだろこのコゾー

きっちり、オレたちが教育してやんねーとダメかもしれねーよな

 マサカリ・クサオとMGファイブたちはオレを取り囲もうとする

ちょっとあんたたち、止めなさいよ

 さっきのメガネの3年女子が、慌てて叫ぶが

うるせぇ、黙ってろバカ舌

こいつが生意気なのが悪いんだよっ

1年生を躾けるのは3年の義務なんだよっ

 オレとの距離を縮めてくる  オレ1人じゃ5人とは闘えない  イーディは、もうオレの近くに隠れているはずだけど  この場を暴力で解決してもオレたちの評判に傷が付く  オレが逡巡していると

パラッパラッパー

 突然全校放送で、教室のスピーカーからファンファーレが鳴った  え、始業のベルでなくファンファーレ  そして、教室のテレビ画面が突然、点灯する  画面の中に現れたのは

あれ安城ミタマじゃねーか

 そう白い学帽に、白い短ラン学生服スタイルのミタマだった

MGファイブの残り4人の名前を決めないと

1287.ネガティブ潰し / MONSTER

・安城ミタマ/18歳主人公の性奴隷元・ありすの警護役主様

諸君この度、この学校に通うことになった安城ミタマだ

 テレビモニターの中のミタマが、全校生徒に宣言する

え、安城ミタマが転校して来たのか

安城ミタマって、高3だって聞いてるけど

高3の秋なんて微妙な時期に

ていうか何でうちの学校に

だって、ここには白坂雪乃も居るじゃないか

 3年1組の教室は、ミタマの話題で騒然となる

編入と同時にわたくしは、この学校の武装風紀委員会・ゲシュタルト1室長および懲罰執行員を任されることになった

え、誰に

ていうか、武装風紀委員会って何

懲罰執行員って

 もうワケが判らん  しかし、ミタマの白学帽に白の短ラン姿が武装風紀委員会のイメージに合っているから  最初っから、ミタマにそういう役職をさせるつもりで、この衣装を選んだんだろう  御名穂姉さんか克子姉あるいは寧あたりのアイデアか  モニター画面の中のミタマは

早速、わたくしのところへ最初のタレコミが来ている

 と1枚のハガキを取り出し、書かれている文面を読む

こんにちは、ミタマさんはい、こんにちはボクは、この学校の2年生で、匿名希望でお願いしますうむ、了解したところで、ミタマさんボク、今朝、学校の中でトンデモないものを見てしまったんです

 ミタマは、ハガキと対話していく

それは、3年生の男子生徒たち南校舎の裏側で罰ゲームと称して、多くの生徒たちの前で付き合って下さいと女の子に告白するっていう、嫌がらせの計画を話し合っていたんですするというのを打ち合わせしていたんです本当は、その女の子に恋愛感情を持っていないのにこれって酷い話ですよねそして、本当にその3年生たちの1人が、周りに登校して来た生徒たちがたくさんいることを確認して、1人の女の子に愛してますオレと付き合って下さいって大きな声で言ったんですその女の子は、特定の恋人がいることを全校生徒が知っているのにわざと、そんな嫌がらせをしたんですよっこれって天誅の対象になりませんか

 ミタマはハガキが顔を上げてカメラを見る

このタレコミをまとめるとすなわち、こういうことになる本校の3年1組に在籍しているマサカリ・クサオが、1年生のとある女子生徒に恥をかかせるために卑劣な嫌がらせを行ったマサカリ・クサオとこの嫌がらせ計画を共謀した3年生、マエダ・ギンジ、スガイ・キンタロウ、オオワダ・バクスケ、オオムラ・コンタの4人もまた同罪だ

な、何だ何でオレたちが

 オレの眼の前で驚く、マサカリ・クサオ  今、ミタマが名前を読み上げた残りの4人もここに居るMGファイブのメンバーなのだろう

それでは、ここで今回、タレコミのハガキを送ってくれたが生徒が、添付してきた携帯で録音した証拠音声をお聞き下さい

 画面の中のミタマが、そう言うと

ホントよ、***の***って、最近、調子乗ってると思わねえか

ああ、乗ってる乗ってる***、ヤバイよね

 再生された音声の***部分は、ピーッという音で消されている

だいたいよー、高校生で***してるとか、***とかバッカじゃねぇの

ああいう***なヤツラが、一生懸命、頑張ってるとか持ち上げられる風潮は良くねぇよな

ホント、目障りだよなあいつら

高1で**すんのもバカだけど、パン屋になりてぇとかクッダラネーよな

夢がネーよな、夢がよ

そうだよな男なら、でっかくアーティストになって、武道館でライブとかよ

そうそうそうアイドルとか食いまくって、局アナと結婚とかな

夢が小せぇんだよな、何だよパン屋って

ああいうセセコマシイやつらが、大きな顔をしているのは良く無い良くない

やっぱよオレたちが、ゲンジツの厳しさを教えてやんねーといけねーんじゃねえの

そうそう教育してやんねーといけないよなっ

やっちゃうやっちゃう

 この音声をミタマに送ったのは寧だろう  寧が、図書館の地下から校内の監視システムを使って  こいつらが話している会話を掘り起こしてくれたんだ

そしたらよー、男の方には興味がねーからよ狙うんなら、女の方だな

何だよだって、その1年の女って、男の方と**してるんだろそんなの、もうとっくに***の****で***してるにきまってんじゃねーか

中古のガバガバ***とか、オレはゴメンだぜ

バーカ、別にマジで付き合ったりはしねーんだよ要はさ公衆の面前で、そいつらに恥をかかせてやればいいんだよ

おっ、どういうアイデアだ

例えばよオレたちの中の誰かが、たくさんギャラリーの居る場所でよ、女の方にオレと付き合えってコクるんだよ

それで、どうなんだよ

そしたらよすでに**してて決まった男が居る女だろそんな女に、イケメンのオレたちがコクッたら学校中の話題になるだろ

つーか、オレたちのファンが騒ぐよな

思いっきり、騒がしておけばいいんだよ仕込みは、それだけでいいんだよ騒ぎが大きくなったところでよ

どうすんだ

オレたちにコクられた女が、こっそり会いに来たとかあっさり、オレたちになびいて、簡単に股を開いたとか噂を流すんだよ

デマかデマなのか

いいんだよ、そんな噂、確かめようがねーんだからさ女の方が否定したって、オレたちの方が適当に言葉を濁してその女が尻軽だったってのを裏付けしちまえばいいんだから

ああ、みんな面白そうなネタに飛び付くもんな

高校1年生で**した女が実は、トンデモねぇおサセだったとかよ

セックス依存症だから、**なんかしたんだって話にしようぜ

そうそうそう、どうにでも話は作れるんだからよ

だったらよ女の方から誘って来て、ホテルまで行ったら女の***が臭すぎて、チンコが萎んだって話にしねーか

そん時、女から聞いた話で実は、女は普段から身体を売ってるとかってことにしねーか

いいねえ、冴えてるねぇとにかくよ、話題になっている人間のネガティブなネタは、以外とみんな信じちまうもんだからよ

ああ、あいつは意外に良いやつってのは、なかなか信じてもらえねーけれど実はアイツ、トンデモねークズだったって話は、みんなあっさり信じるよな

そんであいつらが**を解消したりよ、学校を辞めなきゃいけなくなったら、面白れーよなっ

そこまで追い込みを掛けちゃう

掛けちゃう、掛けちゃう

んでこの中の誰が、そのカワイソーな女にコクりに行く

オレは嫌だよ面倒くせーし

オレも嫌だよ言い出しっぺなんだから、マサカリ行けよ

マサカリ・ゴーマジン・ゴーだよっ

オレだって、嫌だよそんな罰ゲーム

ああ、だったらよここは民主主義で決めようぜ

マサカリが良いと思うヤツ

ういーっす

4対1で、マサカリで決定だ

マジだよ

この間、アイスおごってやったろ

あんなん、150円じゃねーか

いいから罰ゲームは、マサカリが担当だ

しゃーないな

ええっと確か、あの女の方は**部だろ

ああ、校舎前で見張ってたら朝練が終わって、こっちに来るよな

1年の下駄箱の方で待ってたら、**部の3年とかは来ないぜ

ああ**部は**が怖ぇぇからな

おっしそんじゃあ、行こうぜ

かぁーっ、言い出したオレが罰ゲームかよっ

楽しませてくれよマサカリぃ

 これが、真相か  こいつら、本当に自分たちの娯楽のためだけにメグやオレを陥れるつもりだったんだ  高校生で婚約してて、パン屋になるための勉強をしているオレたちが目障りだからというだけの理由で

証拠音声は以上だ

 ミタマが厳しい表情で言う

武装風紀委員会による特別学園秘密法廷が、判決を申し渡す主文、3年1組マサカリ・クサオは、腹を切って死ぬべきであるマエダ・ギンジ、スガイ・キンタロウ、オオワダ・バクスケ、オオムラ・コンタも、腹を切って死ぬべきだまた彼らは、ただ死んで終わるものではない懲罰執行員・安城ミタマによって、地獄の業火に投げ込まれるべき人間だからだ

 モニターの中のミタマが、スクッと立ち上がる  その手には、普段、雪乃のテレビに出ている時と同じ鞘に納められている日本刀が握られていた

貴様ら首を洗って、このミタマの到着を待っていろよ

 あ、ミタマが居るのは校長室の脇にある、放送用の小いさな部屋だ  半年前に、オレが雪乃のレイプを全校中継した  この3年生教室とは少し距離が離れているけれど  ミタマが、ガチャリと部屋のドアを開く

これより、天誅を執行するッッハアアアアッ

 ミタマの気合いの怒声が校長室の方から、響いた

おいあっちの方から聞こえたぞ

安城ミタマ、ここへ来るつもりなのかよ

 3年1組の生徒たちは、ザワザワと騒いで廊下に出る

おい、マサカリど、どうする

どうするってよ

オレ、刀でブッた斬られるのは嫌だぞ

そんなこと、マジでするわけねーだろ

でもよマトモじゃねぇぞ、あの女

ああ、眼がイッちまってるもんな

 もう、眼の前にいるオレのことなんかは、完全に無視して  マサカリたちは、ビビった表情でそんなことを話し合っていた  周りの生徒たちが、ミタマがやって来る方向に集中している中  制服姿の月子が校長室とは反対側の廊下から、するっと3年1組の教室に入って来る

おはようございますマサカリ・クサオさん、マエダ・ギンジさん、スガイ・キンタロウさん、オオワダ・バクスケさん、オオムラ・コンタさんですわね

 オレたちを陥れようとしたMGファイブのメンバーに、月子はニコッと微笑む

では、現時刻を持ちまして皆さんは、こちらの高校を自主退学して下さいそして、今後は一生涯、この高校には立ち寄らないで下さいまた、吉田良信さん、山峰恵美さんの前には一生、姿を見せないと誓っていただきますわ

 笑顔のまま月子は言う  巫女の力がマサカリたちの心を書き換える  月子はそう言うと、オレにニコッと微笑んでまたスーッと教室から出て行った  他の生徒たちは、月子が居たことに気付いていない  巫女の力で、自分の存在を認識させないようにしたんだ  ほとんどの生徒たちが、ミタマの方に気を取られているからこそこんなこともできる

ええい、道を開けろ、道を開けろ御用である御用である

 校長室からここへ来る途中でたくさんの生徒たちが、ミタマを追い掛けて付いて来たらしい  テレビで観ている武闘派美少女が、眼の前に現れたのだから当然か  また男装の純白のガクラン姿のミタマが、凛々しくてカッコ良いし  男子だけでなく、女子生徒まで始業時間寸前だというのに、ミタマを見ようと廊下に出て来ていた  そして、そのまま付いて来る  3年1組の教室に到着した時には、もの凄い人数になっていた  ああ、その中には小型のデジカメを持った可奈センパイも居る  これも寧が頼んだんだな  可奈センパイのカメラで撮られている映像が、全ての教室に生中継されているんだろう  全校生徒が、ミタマを観ている

武装風紀委員会所属、懲罰執行員・安城ミタマであるっ貴様らのような輩は、本校の生徒に相応しくないっ全員、なで切りにして、刀のさびにしてくれるっそこに直れっ

 ミタマは、スワッと刀を抜いた  煌めく真剣の白刃

うそっ、本物なの

マジで処刑するつもりなのかよ

 周りの生徒たちが、ミタマの行動に驚愕していた

いざ成敗っ

 ミタマが、グワッと真剣を振りかぶって構えた瞬間

いや、あのお、オレたち、たった今、この高校を辞めることに決めたからっ

 マサカリが、慌ててミタマに言う

そ、そうだオレたち、自主退学する

もう、二度とこの学校には、来ないから

約束する

お、オレも

 マサカリたちの言葉に、ミタマはスーッと剣先を下ろし

わたくしは、この学校に任じられた武装風紀委員の懲罰執行員だ貴様らが、もはやこの学校の生徒でないと言うのなら手出しはできぬ

 そのまま刀を鞘に戻す

早々に、この場から立ち去れ二度と、貴様らの顔を見せるな

 ミタマは、刀の柄に手を掛けたまま言う

まだ謝罪の言葉を聞いておらぬぞ

 ギロッと、マサカリたちを睨むミタマ  その眼には、殺気が込められている

貴様らによって不快な思いをした女生徒に対する謝罪は無いのかァッ

は、はぃぃぃも、申し訳ありませんでしたっ

す、好きでもないのに付き合ってくれとか言っちゃって、済みませんでしたっ

嫌がらせして、済みません

申し訳ございませんでしたぁぁ

 メグに対しても謝らせた  その様子も、全校に中継されている

ならば良しっこれにて一件落着ッッ

 時代劇のようにミタマは、宣言した

ミタマたちを使うっていうのは、アタシのアイデアなのネ

 自分の教室に戻る途中

アタシがミナホに話したノネそしたらミナホが、みんながミタマに注目している隙に、ツキコを送り込む作戦にバージョンアップしたノネ証拠音声は、ネイが見つけてくれたソウネ

 みんなが同時に動いてくれたんだな  そう言えばさっき、イーディ、電話してたし  オレが何も指示しなくても、みんなが事態の解決に協力して当たってくれている

Darling1人で何でも背負い込むのはダメネアタシたちをもっと活用してネ

あたしたちの力を使うことを卑怯だと思って欲しくないネ降り掛かってくる火の粉は、全て、全力で払うべきナノヨそうでないと、家族みんなを守れないヨ

アイツラを自主退学させて、ここから追放したのは、やり過ぎだと思うカアタシは思わないヨあんな連中とは、関わっていきたくは無いカラあんなヤツラとは、会話するだけでも時間の無駄になるのネ

 オレは改めて、考えてみる  確かに、オレ1人で3年生の教室に抗議に行ったのは無謀だった  月子に頼んで、こっそりとマサカリたちの心を操作して自主退学に追い込む方が良かったのかもしれない

Darlingはもっと、自分を大切にすることを考えないといけないヨあんなヤツラに煩わされて、不快になるのは精神に悪いネ一々、真っ正面から相手してちゃダメヨアタシたちに命じて、さっさと処分させるべきナノネ

 あんな連中は話をしたって、何も解決しない  さっさと見切ってしまうべきなんだろう

でも、頭に来るヤツは巫女の力で強制的に追放するなんてことをしてたらオレ、独裁者みたいになっちゃうじゃないか

 どんなことでも、できてしまう力だから

でもオレみたいな男がさ、イーディや月子たちの強すぎる力を借りてそういう、オレのモノじゃない力を好き勝手に使うのは何かいけないことみたいに感じるんだよ

 イーディの戦闘能力もスゴイけれど  人の心を操作する巫女の力なんてのは、どうにも反則過ぎる

Darlingそのオレみたいな男っていうの、もうヤメにしないといけないと思うヨ

アタシの武力も、ツキコの力もみんなDarlingのモノねアタシたちは、もうDarlingの一部なのヨダカラ、コレはDarlingが考えてるみたいにホントは弱い男が強すぎる力を借りてるんじゃないノヨDarling自身が、とっくの昔に強すぎるくらい、強い男になっているのネ

 オレが強い

オレはオレの周りに存在している力に溺れることが怖いんだよ

 香月家の財力  香月セキュリティ・サービスの諜報能力と攻撃力  警護役の小たちの個人の戦闘力  ミナホ姉さんや寧、イーディ、美智たちの頭脳  どれもこれも、ズバ抜けている

それは判るヨデモ、恐れているだけではダメなのヨ

積極的に自分の持っている力を使っていかないと力の使い方をマスターできないネ

それに力は使うためにあるノネ使ってもらえないのは悲しいヨ

もう一度言うヨあたしたちの全ての力は、みんなDarlingのモノなのネ

 本当に、みんなの力がオレのモノなら  オレは化け物だ  オレは自分がすでに強すぎる力を持つ怖ろしい怪物になってしまっていることを自覚しなくちゃいけない

バンダイから1/12の仮面ライダーブラックRXの車が発売されるらしい

ってそんなデカイもの買えないって

玩具がどんどん高額になっていくけれど

ただ金があるだけでなく、置いていく場所もある人間でないと買えなくなっているように思う

1288.ネガティブ潰し / そうだったのか

■主な登場人物

もちろん、何か問題が起きた時に何にも考えずに力を行使するのはダメネ思考停止は良くないヨ

 廊下を歩きながら、イーディが、笑顔でオレに言う  始業直前だから生徒たちは、ほとんどいない  オレたちも、早歩きで自分たちの教室に向かっている

でも、考えすぎるのも良くないネ今のDarlingは、どんどん処理していかないといけないことが増えていくんダカラ早めに決断しなくちゃいけないし、力の行使を怖がっている場合じゃないノネ

 じっくり状況を見極めてから、判断していたら時間が足りない  オレの家族は、どんどん増えていっている  次から次へと判断していかないといけないし他の子にやってもらえることは、任せていくしかない

Darlingが時間を掛けて検討するのは、NEXTがあるコトだけにするベキネ

 NEXTがあること

続きがあるコトDarlingやアタシたち家族にとって、良い結果をもたらしてくれるかもしれないコト発展性があるかもしれないコトネそういうコトに関しては、時間を掛けて考えるのは大切ネデモ

さっきの男タチみたいなのは先が無いネ今すぐに関係性を断ち切ってしまうべき案件ネそんな連中に対してまで、Darlingが時間を使うべきでは無いネ

 うんマサカリ・クサオと仲間たちは  あのまま放っておけば、メグに関してのデマを面白半分で広めていただろう  さっき、オレがあいつらを殴ったりすればそのことをネタにして、悪い噂を撒き散らかしたはずだ  あいつらの行動は純粋な悪意から発している  オレやメグが、ただ目障りだから嫌がらせして、仲間内で楽しもうとしか考えていなかったんだから  あの場でオレがどう対応したとしてもあいつらが、考えを改めたとは思えない  ミタマが派手に乱入する隙に、月子が巫女の力であいつらを自主退学させてしまったのは正解なんだ  あんな下劣なやつらは、切り捨てていくしかない

イーディの言うことは、良く判るよでも

最終的には、こうするしかなかったんだろうけれどそれでもオレは、身体を張って、あの3年生たちのところに行かなきゃいけなかったんだよ

そうじゃないとメグが可哀相だ

 オレはこの学校では、メグの婚約者だ

メグに嫌がらせするヤツらには、オレが立ち向かっていかなきゃそういう姿を、ちゃんと学校の人たちに見せていかなければメグが恥ずかしい思いをするだろ

Darlingは、男の子なのネ

ああ、色々と心配掛けるけど頼むよ

 ようやく、オレたちの教室が見えてきた  愛と一緒にいたメグが、オレの姿を見て走って抱きついてくる

うんもう大丈夫だから

 オレは、優しくメグの背中を撫でる

何か良く判らねえけれど凄かったなあオレたちも、ここで放送を観ていたぞ

 田中が、オレに言う  ミタマの謎の乱入は全校中継だったから、この教室のテレビモニターにも映っていたんだろう

でも、アレでとにかく、山峰ちゃんは被害者だっていうことが、良―く判ったし結果的には、良かったんじゃないのか

 ミタマが証拠音声を放送してくれたしミタマの迫力に負けて、マサカリたちは自主退学することになったみたいに観えているはずだから  メグがマサカリに色目を使ったなんていうデマを信じる生徒はいないだろう

ホント、酷い人たちだったわよねっ

あんな人たち、学校からいなくなるのは当然よ

 メグの友達たちが、そう言ってくれた

だけどあいつらのバンドのファンの子たちはどう思っているんだろ

 さっき、この教室に押し掛けて来たMGファイブファンの上級生たちは

さすがに、さっきの放送を観たらゲンメツするんじゃねえのか

ていうか、あんまり気にするなよああいう声の大きな連中は一見、大勢力みたいに見えるけれど実際は、全校生徒の極一部なんだからさ

そうよ、生徒の大部分は吉田くんと愛ちゃんの作ってるパンを美味しいって思ってるわよ

吉田くんと恵美が、ラブラブなこともみんな知ってるし

山峰さん、気にしなくていいからねっ

 クラスメイトの子たちは、オレたちに好意的だ

実際の話MGファイブなんかよりも、パン屋の克子さんの方が人気があるよな

あたしも好き

いつも明るくて、カラッとした性格の美人だから男子にも女子にも人気があるんだよな

グラマーだしな

 克子姉が聞いたら、喜ぶだろうな  オレの腕の中にメグが居る愛はそこに居るイーディは、オレの後ろに居る  教室の中に、雪乃がいないぞ

あ、雪乃さんは先生に呼ばれて、どこかに行ったよ

 オレの表情を見て愛が言う

ああ白坂なら、校長室へ行ったぞ

何があったんだか知らないけれど担任も一緒に行ったから、ホームルームには遅れて来るんじゃないかな

 ミナホ姉さんが、オレたちの偽教師を辞めてからコロコロとオレたちのクラスの担任が変わっているんだよな  今4人目か  しかし、雪乃校長室に行ったってことは  キンコン、キンコン  ようやく始業のベルが鳴る

えっとみんな、取りあえず席に着こうぜメグもな

 とにかく、オレたちは自分の席に向かう  教室のテレビモニターが点き放送委員の女子生徒の顔が映る

本日は月曜日ですのでテレビ集会を放送致します

 オレたちのクラスは、担任教師が不在のまま  月曜日恒例の全校集会の放送が始まった

えー、つまり、これはどういうことかと言いますとこれからの日本は、少子高齢化がどんどん進むわけですから、学校の数も減っていってしまうわけですこういう時代に、学校が生き残っていくためにはそれぞれの学校が、独自の魅力有る特色を作って、宣伝していかないといけないんですねぇそれで、受験生や受験生の親たちにああ、この学校は、こんな独自の取り組みをしているのかそれなら、ぜひとも通ってみたい、あるいは通わせたいと思ってもらえるように努力していかないといけないんです

 半年前まではオレたちの高校の校長は、ゲロッパというアダナの色黒のオッサンだったけれど  ゲロッパは、白坂創介がこの高校に送り込んでいた手先だったから  白坂創介の無惨な死とともに、学校を辞めた  校内に残っていた白坂派の教師たちも一緒に  ミナホ姉さんや、黒い森の元・娼婦のお姉さんたちがあれだけ陰惨な形で、白坂創介を惨殺したから  このまま学校に居座ったら、次は自分が処分されると感じたんだろう  というわけで、今、テレビモニターの中で話しているのは新しく着任した校長だ  顔がテレビの有名なニュース解説者に似ているって言われていて

校長本人も、それを知っているらしく学校のサイトにそうだったのか校長先生の話を連載していたり

 他の教員や生徒たちから何か聞かれるとそれは良い質問ですねなんてフレーズを多用している  しかし、生徒たちにはニュース解説者よりも、むしろ腹話術の子供の人形の方が良く似ているんじゃないかと言われていて  現在はチャッキーというアダナで呼ばれている

それで、わたしたちの高校も本日から、なでしこ科という新しい特別コースのクラスを設立することになったんですね

 チャッキー校長の後ろに  娼婦候補生の美里、住友桃香、白旗せつな、朝比奈希美それに、徳大寺園子さんと黒沢直子さんが並んでいる  それからミタマと月子  さらに雪乃まで

で、なでしこ科って何のコースなんだよ

 放送を眺めているクラスの男子が言った

吉田たちのパン技能士コースは、目的が良く判るけれどさっきからチャッキーの話を聞いててもなでしこ科の概要がよく判らないよな

バーカ、画面を観りゃ判るじゃねーか白坂に安城ミタマだぞっ

いわゆる芸能コースってやつなんだろうな

よく見ると1人を除いて、みーんなもの凄ぇ美人だしな

 ああ関西ヤクザから逃げて来た德大寺さんと黒沢さんのうち

德大寺さんは美人だけれど黒沢直子さんの方は、普通の容貌をしている

 でも、他の娼婦候補生たちはミナホ姉さんが、たっぷり時間を掛けて選抜した子たちばかりだし  ミタマや月子も美少女だ  雪乃だって、黙っていれば綺麗だしな

うん、顔面偏差値が非常に高いところをみると芸能コースで間違いないだろう1人ぐらいビミョーな子が混じっているのも、アイドルグループじゃ良くあることだしな

 そんなことを言う男子生徒も居た  しかし、雪乃までなでしこ科に編入してしまうとは  オレも雪乃本人も、全然知らされてなかったぞ  でも、今のクラスの中で浮いている雪乃の状態を考えれば  なでしこ科に籍を移すのは良いことなのかもしれない

こういうことになりましたから、皆さん、どうかなでしこ科の生徒さんたちと仲良くして下さいね校長先生からのお願いです

 そんな話をしているうちに、担任の教師がやって来た  ちなみに今の担任は、背が高くて目鼻がくっきりとした30過ぎの九州男児で  アメリカの俳優のデビット・ハッセルホフによく似ているらしい  しかし、オレたちの多くは、デビッド・ハッセルホフという俳優を知らないので  クラスの中ではハッスルと呼ばれている  ただし、この教師はあまり教育活動に対して熱心ではないのでハッスルという感じはしない

よーし、出席を取るぞ

 テレビ集会の放送が終わると、ハッスルがそう言ってオレたちの出席を確認した  そして、1つ2つ連絡事項を話しただけでホームルームは終了  1限目の教師が来る前にオレは愛と教室を抜け出すことにした

何だ吉田、サボりかよ

 目ざといヤツが、オレに声を掛ける  普段は、2限目まではみんなと授業を受けて3限目から、パン工房で昼のパンの準備をするんだけれど  今日はお客さんたちを待たせている  アーニャに、ドリィ&アナのドリル槍姉妹にグレース・マリンカさん  いつまでも、寧だけに任せておくわけにはいかないし

パン工房の機械の調子が悪いんだよ

 オレは適当な嘘を吐く

今から調整しないと昼休みまでにパンが焼ききれないんだ

何だ、じゃあしょうがねぇな

当たり前でしょ愛ちゃんも一緒なんだからサボるんなら、吉田くん1人だけで行くわよ

 クラスの女生徒がそう言う  みんな、オレとメグの仲を信じているから  オレと愛が2人きりでサボりに行くなんてことは考えない

メグ、先生に聞かれたらパン技能士コースの方に行きましたって答えておいてくれ

 メグは、もうすっかりいつもの表情に戻っていた

Darling、アタシも行こうカ

ダメだイーディは、パン技能士コースじゃないんだから

 クラスの連中の手前イーディは連れて行かれない

デモ、あの壊れた機械のマニュアルは英語だったヨDarling、英語のマニュアル読めるノカ

 イーディは、オレの嘘に合わせてくれた

そうだなじゃあ、悪いけれどイーディも来てくれるか機械が直ったら、すぐにここへ戻って来るってことでもいいか

それでイイネ

 イーディは笑顔で、席を立つ  さすが授業中だと廊下も階段も、生徒はいない  オレとイーディと愛は、先生に見つからないように1階へ下りると  そのまま学食脇のオレのパン工房へ行く

オレとイーディでお客さんたちを連れて来るから愛は、ここでパンを作る準備をしてくれ

 オレは、パン工房前で愛に言う

パンを作るパンを焼くじゃなくって

 愛は、キョトンとした顔でオレを見る  今日の昼用のパンは焼く前の段階まで、すでにお屋敷で仕上げて来ている

そうだ昼のパンとは別に今から、ここでゼロからパンを作る

あのドリル槍の姉妹に小麦粉からパンができるところまでを、全部、見せたいんだ

 あの人殺ししか習ってきていないドリィとアナに  食べ物が美味しく出来上がって行く所を見せたい

必要な材料は、ここにあるよな

うんあるよ

出しておいてくれお客さんをここに連れて来たら、すぐに作り始めるから

 予定外のパンを作るんだから、急がないと昼休みに間に合わなくなる

判った吉田くんの言う通りにしておくから

 愛は素直にそう言ってくれた

頼むぞ愛

 オレは、愛を抱き締めて頬にキスする

キスは口の方が好き

口にキスしたら愛、濡れちゃうだろ

 愛はとっても濡れやすい体質だ

うんしたくなっちゃうと思う

だから、今はほっぺたで我慢してくれ

 オレはもう一度、愛の頬にキスをした

うん行こうネDarling

 オレとイーディは図書館の地下へと向かった

某ニュース解説の人ですが

自分の番組では、あんなに場を取り仕切っている人なのに

たまにワイドショーのコメンテイターで出る時は、とても大人しくて

どうしたなんだろうと思っていたのですが

あのワイドショーの司会者の人が某公共放送局の先輩なんですね

1289.ネガティブ潰し / ドンパッチ

ハゥゥゥゥッ

カゥゥゥゥッ

 イーディと図書館の地下の隠し部屋に戻ると  キョーコさんが東南アジアから連れて来た少女暗殺者姉妹ドリィとアナは妙に興奮していた  オレが尋ねると、寧は

ここから、ヨッちゃんやミタマちゃんたちの様子をモニターしてたからさっ

 ああ、監視システムを使ってオレやミタマが、3年生のマサカリたちとやり合っている様子を観ていたんだな

この子たち、日本語はよく判っていないけれど見た目のENTERTAINMENT性だけで、面白がっているのよ

 アーニャが、そう言う

まあねミタマちゃん、時代劇みたいだったもんね

 寧の言うとおり、純白の学帽に短ラン学生服のミタマは映画の登場人物のように颯爽としていた

レイちゃんとミタマちゃんで、男装の麗人コンビを組んだら女の子たちに大人気になると思うよっ

ミタマは、レイカよりもGLAMOROUSなのネ今でも、男の子のファンは多いヨ

 うん、雪乃のテレビ番組には、毎週、極小ビキニに日本刀を持って出演してるもんな  本人は、水着姿にまったく恥ずかしさを感じていないから凛とした雰囲気と合わさって、それがまたセクシーだったりする  男装は、女性ファンを開拓するためには良いかもしれない

何にしてもさこの子たちは、娯楽が無い世界で生きてたでしょだから、さっきのミタマちゃんみたいな様式美が面白くてたまらないんだと思う

この姉妹たちを含めた少女暗殺者全員を支配していたガマ・ウテナっていう女ボスは、この子たちを自分の道具としか考えていなかったから規律大好きで、私語も許さなかったらしいわだから、この子たち姉妹同士でも、ほとんど話さないでしょ

 アーニャが言う通り見聞きしたモノに対して反応はするけれど  それについて姉妹で話し合うみたいなことはしない

殺人術に関すること以外、何も教わっていないのよガマ・ウテナは、極端な男嫌いででも、同性愛者でもないっていう変わり者だったから、性的な知識もほとんど持って無いわ修道女みたいな純潔性を、自分の少女暗殺者たちに強制していたのよねだから娯楽的なことは一切無しの生活をさせられてきたのよ

アタシの育った暗殺教団でも、そこまで厳しくはなかったネ

 アーニャの言葉に、イーディが言う

それは土地柄とか民族性の違いでしょあなたが居たのは、ニューオリンズだし

東南アジアだって、南国だから開放的なんじゃナイノカ

開放的な風土だからこそ、それに反発したんじゃないのガマ・ウテナは、ヨーロッパから来た少し頭のおかしい宣教師に育てられたのよそっちの影響が強いと思うわ

ああ、カルト的な宗教の考え方も入っているノネ

 どうして、そういう経歴の人が孤児を少女暗殺者に仕立てて、人殺しを請け負う組織を作ったのかは、オレには理解できない

そろそろ移動しよう授業時間になったから、今なら校内を歩いても目立たないよ

 アーニャもレイちゃんとの特別番組で、テレビに出ているしこの学校に来たのは2回目だ  生徒たちに見つかったら、大騒ぎになる  誰かが、アーニャがここに居るっていう情報を携帯でネットに流したらアーニャがキョーコさんたちの部下だということは公安警察には知られているんだから  公安警察の監視が、この高校にやって来てしまう  もう数時間すれば、キョーコさんたちがお屋敷を出発して都心で何か目立つことをして、公安の眼を惹き付けてくれるから  それまでは、アーニャの存在を隠しておきたい  というか、アーニャは見た目は普通のロシア系アメリカ人の美少女だけど  一緒に居るドリィとアナはドリル槍を持っているからなぁ  こんなの、警察にそれは何だと尋問されたら困る  そんな事態になったら、ドリル槍姉妹の少女暗殺者として暴れ出す可能性もあるし  この子たちは敵を殺戮することにまったく躊躇がないんだから警官だって、自分たちの前に立ちはだかる存在として認識したら、平気で殺しに掛かるだろうし

そうね地下室に籠もっているのも飽きたわそれに、ここじゃ飲み物も無いし

オレのパン工房へ行こうあそこなら、コーヒーでも紅茶でも飲めるし学食と繋がっているから、ジュースとかも買えるよ

 ドリル姉妹が、何を好むかは判らないけれど

ああ、あそこね

 アーニャとは、パン工房の休憩室でセックスしたこともある

よっし、じゃあ行こう

 寧が元気よく、そう言った  図書館の1階へ上がって人気の無い裏口から、外に出る  うん、今日は良い天気だな  秋の陽光と風が気持ちいい

こっちなのネ

 オレたちは、パン工房に向かって緑の小道を歩いて行く  元レスラーのグレース・マリンカさんの後ろを歩く、ドリィ&アナは  ああ、やっぱりそれぞれ自分のドリル槍をギュッと握って、警戒しながら歩いている  敵が現れたら、いつでも迎撃できるように  それとオレたちのことは、まだ信用していない  月子が短時間でこの姉妹に施したのはオレたちを攻撃しないという最低限の縛りだけだ  無理矢理に、オレたちに逆らわないように改変したらこの子たちの精神が壊れてしまう  天童乙女を剣道マリアに改変した時は天童乙女の記憶だけを書き換えただけで、性格の方はイジッていない  だから、剣道マリアは壊れずに済んでいる本質的には、昔と同じだからだ  でも、このドリル槍姉妹の場合は  少女暗殺者として人殺しを強制させられていた過去の記憶を全て消し去っても  人を殺すことに躊躇いが無いという性格はそのまま残ってしまう  それでは、普通の生活はできない  だから、人を殺さないという選択もある生活を教えていくしかない  世の中は、もっと楽しいものだということを

着いたネ

 うん、誰にも会わずに校舎の窓からも見えないルートで、何とかパン工場の裏口に着いた  克子姉の商用バンが、そのまま横付けされている  オレは鍵を取り出しドアに差し込む  愛が一人きりだから、ドアの鍵を開けっ放しなんかにはできない  オレたちは、常に最悪の事態を想定して行動している

ただいまネ

愛ちゃん、お邪魔するよーっ

 イーディと寧が、先に入る  それから、アーニャがドリル姉妹に中に入るように言った  姉妹はドリル槍をドアに潜らせて中に入る  アーニャとオレも中に入って鍵を掛ける  パン工房はパン技能士コースのために作られた施設だから、15人くらいは研修できるような広さはある  実際、今でもここで、女子生徒たちにパン作りの講習会をしたりしているし  この前も、テニス部の女子たちに学園祭でやる喫茶店用のパンの作り方をマナが教えた  ドリル槍姉妹は、今入って来たドアに一番近い椅子に座る  もちろん、槍を握ったまま  何かあった時には、槍の先端のドリルを使ってドアをブチ抜いて、外に逃げるという発想なんだろう  常に自分が生死の間に居ると思っている  行動に余裕が無い  ああ、愛がパン作りの材料を出しておいてくれた

ありがとう、愛

 オレは手洗いをして、作業に入る準備をする

オレ、ちょっと作業をするからみんなはお茶でも飲んでてよ

 ドリィとアナに見せるために、ゼロからパン作りをするんだけれど  姉妹には、そう感じさせたくない  オレはあくまでも、いつもやっていることをしているだけだと思わせないといけない  食べ物ができていく様子をドリル槍姉妹の方から、関心を持ってくれないと意味がないんだ

Darlingとアイは、お昼の準備に忙しいノネアタシがコーヒーを入れるヨ

あ、待ってせっかくだからさ、もうちょっと面白いものを飲もうよっ

 寧は、そう言うとさっきとは反対側の学生食堂に繋がっている方のドアに向かう

ちょっと待ってて、今、買って来るからっ

 寧は、そう言ってドアの鍵を開け学食へ行った  その間にオレは作業用のエプロンや、髪の毛落下防止用の帽子を被る

うーんと吉田くん

ああ、生地を寝かせている時間が取れないからパイみたいなのしか作れないよな

 普通のパンなら、イースト菌で発酵させる時間が必要だけれど

そういう時間があると、ドリル姉妹の集中が途切れると思う

 この姉妹の関心を惹き続けるためには、ささっと作れるパンじゃないとダメだ  愛が、克子姉から習ったパンの作り方を自分でまとめたレシピ・ノートを持って来る  愛は何でもゆっくりだけれど、こういうことはキチッとやる子だ

これかこれ

じゃあ、こっちを作ろう

 オレは、見た目が派手な方を選んだ  愛が、コクッとうなずく  2時間目が終わった後のいつもの時間からはオレは、今日の昼休み用のパンを焼かないといけない  だから、このドリル槍姉妹に見せるためのパン作りは作業に支障が出ないように、てきぱきとやらなくちゃ

はーい、お待たせっ

 寧が学食の自販機から何やら買って来た

イーディ大きめのグラスがあったでしょっ出してっ

 イーディがグラスを戸棚から取り出す

オレと愛は、今はいいからな

 オレたちは作業に入らないといけない

うん、判ったあたしたちだけねっ

 寧とイーディ、アーニャとドリル槍姉妹にグレースさん6つのグラスが並ぶ

何なの

 アーニャが寧に尋ねる

ああ、アーニャさんも一緒に飲んでねみんなで一緒に飲まないとこの子たち、口を付けないと思うから

 寧は、買って来た500ミリのペットボトルを開けると  鮮やかな緑色の飲み物を並べた人数分のグラスに、均等に少しずつトクトクと注いでいく

これはメロン味のソーダ水ですっ

 寧は、1本目のボトルが空になると、2本目のペットボトルを開けグラスに足していく2本目が終わったら、3本目  特定のボトルの飲料だけを決まったグラスに注ぐと、ドリル槍姉妹が警戒するからか  全てのグラスに、複数のボトルの飲み物が注がれている様子をドリィとアナに見せている

これにバニラのアイスクリームを浮かべますっ

 ああ、アイスの自販機もあったんだな  寧はスプーンで、カップ入りのアイスを丸く掬い取るとメロンソーダの上に浮かべた

はーい、クリーム・ソーダの完成ですっ

 寧がそう言うと、イーディがそれぞれのグラスにストローを指していく

はーい、好きなのを取ってっ

 寧の言葉をアーニャが、ドリィたちに通訳する  命令口調で言ったんだろう  姉妹は恐る恐る、グラスを選んだ

じゃあ、アタシはこれネ

アーニャさんは

わたくしは、これにするわ

 それぞれが自分のグラスを手に取る

アイスクリームを浮かべるなんて、変わっているわねメロンの炭酸飲料なの

 アーニャが、寧に尋ねる

うん、日本だとクリーム・ソーダは、こういうのが主流なんだよねメロン・フロートとも言うけれど

さあさ、飲んでみるネ

 イーディと寧とアーニャが、先にクリームソーダに手を付ける  ドリル槍姉妹は、他の子たちの様子をジッと見つめている

あら、面白い味ね

そうでしょっそうでしょっ

この子たちにも勧めてみるネ

 イーディが、ドリィたちに何か言う  多分、美味しいから、飲んでごらんというようなことだろう  姉のドリィがアーニャや寧が美味しそうに飲んでいる様子を見てから  自分のグラスを飲む  それから妹のアナに、何か言った  飲んでも大丈夫そうだという話だろう  アナも飲む  ああ、驚いている

浮いているアイスはねスプーンで掬って食べてもいいんだよっ

 寧がそう言って、実際にプラスチック製のスプーンで掬って食べる

はい、スプーンネ

 イーディが、ドリィたちにスプーンを配る  妹のアナが、寧の真似をして浮いているアイスを食べようとするが  片手で槍を握りしめているから、食べにくそうだった

それ、後ろに置いたら大丈夫だよ誰も盗ったりしないからっ

 寧の言葉をイーディが翻訳する  ドリル槍姉妹は、顔を見合わせてちょっとだけ躊躇したが  言われた通りに、槍を後ろの壁に立てかけて両手でクリームソーダに向かって行った

やっぱり、一緒に何かを飲み食いすると違うね

 寧が優しい笑顔で言う

みんなで同じモノを飲んでいるからいいのネ1人でも違うモノを飲んでたらこうは

ならないヨ

そうねこういう機会でも無ければわたくしは、こういうモノは飲まないわね

 アーニャがそう言う

あ、そうだこんなのもあるんだけど、食べてみてっ

 寧が、ポケットから何かの小袋を取り出し開けて、アーニャに勧める

なあに、これ

 アーニャが、勧められたものを少し取り口に入れると  ドリル槍姉妹がビクッとなって、槍を握ろうとするが

大丈夫よ、驚いただけ何なのこれ

 寧は、小袋から中身を少し取り出し自分の口に入れる

えー、知らないの弾けるキャンディだよっ

 寧が舌を出すと、パチパチと何かが弾けている

こないだ、輸入菓子店で見つけたから買ったんだよ昔は、日本でも広く売ってたらしいんだけれどっ

アタシもちょうだいネ

 イーディも、弾けるキャンディを口に入れた

何コレ、面白いネ

 口の中で弾けるキャンディに、イーディは笑ってそう言う

ね、ね面白いでしょっあなたたちも、どうぞっ

 寧が、またカケラを自分の口に放り込むと小袋をドリル姉妹に勧める  ドリィの方が小袋に指を入れて、少しだけ口に含む  口の中で弾ける感触に、眼を丸くするドリィ  でも、命の危険があるものではないということは理解したらしい  妹にも勧める  妹のアナも、口の中の弾けるキャンディに驚嘆している  クリームソーダと弾けるキャンディ  一緒に何かを食べることで、少しずつでも心を開いてくれるはずだ

さてとそれじゃあ

そろそろ、オレと愛のパン作りを見学してもらうよ

 オレは、作業台の上に小麦粉を広げる  ドリィとアナは、今度は何が始まるのだろうと食い入る様に見ている  パン工房の中に焼きたてのパンの香ばしい匂いが広がる

ほら、できた

 オレは窯からパンを取りだした  今作った発酵させないパンだけでなく、他にも昼休みに販売するために用意してあったパンを幾つか焼いた  足りなくなった分は、今作ったパンを差し替えることにする

はい、コーヒーを入ったネ

温かいうちに食べてくれ

 オレは焼きたてのパンを、銀のパッドに乗せて寧に渡す  今度もまずアーニャが食べる様子を見せて、ドリル槍姉妹に毒が入っていないことを示す  イーディが、姉妹とグレースさんにパンとコーヒーを勧めた  キョーコさんからお目付役を任じられているアーニャだと命令になってしまうが  イーディだと、そうはならない  今度も、まず姉が一口食べて見る  すぐに妹に何か言う

美味しいって言ってるネ

焼きたてのパンなんて、初めて食べたんでしょうからね

 アーニャも優しい笑顔で、姉妹を見ている

ムムムムッ

 妹のアナも、パンを食べて感激しているようだ

慌てて食べなくてもいいよ、たくさんあるんだからっ

 妹が姉に何か話している  姉も妹に

こんなに美味しいパンを食べたのは初めてって言っているネ

 イーディが、妹の言葉を翻訳してくれた

パンがこんな風に作られるものだとは知らなかったって言っているわ

 アーニャが、姉の言葉を  よし、ここまでは良い感じに来ているな

ここからは昼休みに向けての準備だ

うん、吉田くん

 ドリル槍姉妹に次の段階を見せなくちゃいけない

ソウ言えばカツコがここに来ないネ

克子姉はなでしこ科の子たちの方に付いているんじゃないかな

 なでしこ科の半数以上は新人娼婦候補生たちだし

こっちはオレたちだけで何とかしろってことなんだと思うよ

 常に試され続けるのが黒い森の流儀だ  この試練も何とか乗り越えないといけない  オレはパン屋としての本業に入る

ドンパッチって、もう売ってないんだ

似たような菓子を作っている会社は、まだあるらしいですけれど

今売っている国産品は、ドンパッチほど弾けないらしいです

調べてみて、ちょっとショックでした

1290.ネガティブ潰し / パンの修羅場

・白坂雪乃/16歳主人公にレイプされて現在、妊娠中登山ロープ並みに神経が太い・安城ミタマ/18歳主人公の性奴隷元・ありすの警護役主様あんた、このバカ

高梨克子/21歳黒い森の元・娼婦お屋敷の家事を司る爆乳美女

わたしには、良く判らないな

 今まで、ずっと黙ってオレたちの行動を見ていたグレース・マリンカさんが言う

こんなことをして、何か意味があるのかこの子たちが何か変化すると思うのか

 そう言ってドリル槍姉妹を見る  オレたちがしたこと  クリーム・ソーダ(メロン・フロート)を飲ませる  弾けるキャンディを食べさせる  オレと愛がパンを作る様子を見せる  焼きたてのパンを食べさせる

思うヨだから、やっているノネ

 イーディが、笑顔で答える

ソウネジュンも、この子たちと同じなのネより強くなって闘うことしか考えないで生きてきたカラ判らないのかもしれないネ

グレースさんはヨッちゃんの焼きたてのパンを食べてみて、どうだった何か感じたことはあるっ

わ、わたしは食べ物は何でも構わないからいやできるだけ早く筋肉とエネルギーに変わるものしか、食べたくないと思っている

 グレースさんは、真顔で答える

今よりも強くなるためには美味いものを食べたいなんていう欲求は、捨てないといけないだから

ダメヨ、全然、ダメネジュンそんな考えじゃ、今よりも強くなるのは無理ネ全然無理無理、カタツ無理ヨ

 イーディは強く言う

食事を楽しめない人間は、強くなれないネ

そうねキョーコ様も、いつもそうおっしゃっているわ食べ物をどうでもいいと思ったら最期だって

そうだよねっ、キョーコさんてすっごい美食家だもんね

 寧も、そう付け足す

しかし、わたしはキョーコ・メッサーではないし欲望を抑え込むことで、溜め込んだエネルギーを強くなることに集中させたいのだ

 グレースさんは、断固として言う

その考え方が、そもそも間違っているネ

わたくしも、そう思うわ

 イーディとアーニャが、即座に反論する

美味しいモノを食べたいという欲望を抑えたぐらいで、人は強くなったりはしないヨ

そうよ、むしろ弱くなるわ強くなりたいのなら、全ての欲望を解放するべきよ貪欲にならなきゃ

うーんグレースさんの考え方は日本的なストイックさなんだと思うけれどさイーディやアーニャさんみたいな外国の人には通じないよキョーコさんも、日系だけど育ったのはブラジルだから向こうの感性だし

でも、世界の主流はイーディたちみたいな貪欲さだと思うよ別に、グレースさんの考え方を否定するわけじゃないけれど世界の人と闘っていこうと思うのなら、日本的なストイックさじゃすぐに限界になると思うな

欲望を抑え込んで溜めたエネルギーなんて、大したことないノネ欲望に果てはないカラどんどん欲望を解放した方が、より強いエネルギーが生まれるヨ

そうねもっと美味しいモノが食べたいとかもっと良い暮らしがしたいとかだって突き詰めればもっと幸せになりたいってことになるんだもの

幸福の追求は、アタシたちアメリカ人にとっては何者にも奪うことのできない人間の権利なのネ

 寧、イーディ、アーニャときてまたイーディが話す

その幸福の追求をもっと強くなりたいダケに狭めちゃダメなのヨもっとデッカイ欲望を持ちなさいネそうじゃないと、大成できないヨ大して強くもなれないネ

 グレースさんと話している内容をアーニャが、ドリル槍姉妹に話している  ドリィもアナも、意味が判らないようでポカーンとしているけれどとにかくアーニャの言葉を聞いている

今から、アタシたちのDarlingがジュンの知らない強さを見せてくれるノネホントの大きな欲望から迸り出ている本物の強さヨ

 いや、イーディそんなこと言われても  オレは、愛といつも通り、昼のパンを用意するだけだ

愛、始めよういつもより3分遅くなっちゃったから

 時計を見てオレは言う  3分ぐらいなら、余裕で取り返せる

うん吉田くん

 オレと愛は作業を開始する

一つめ、一番のオーブンに入れるわ

 愛が、ゆっくりなのは何をどうするべきなのか、人よりもジックリ考える性格だからだ  だから、日々のパン作りのように次に何をするかが明確になっていて、考える必要の無いことはテキパキとこなしていく  正確だし、間違えないし、手際が良い  こうやってパン工房で作業している時の愛を見たらクラスの連中は、みんなビックリするだろうと思う  アーニャとドリル槍姉妹とグレースさんはオレが出したパンと、寧とイーディが注ぐコーヒーを味わいながら、オレと愛の作業を見つめている

ごめんなさい、遅くなったわ

 克子姉が、学食側のドアから入って来る  ミタマと月子、雪乃も一緒だった

あれ他のなでしこ科の子たちは

 娼婦候補生の子たちはどうしているんだ

後の子たちは、お嬢様が見ているわあの子たちは、まだ一般生徒たちと接触させるわけにはいかないから

 克子姉は、真顔で言う

あの子たちを学校に通わせるのはあくまでもガス抜きなのよあの場所に閉じ籠もったままだと精神に良くないからでも、いきなり普通の生徒たちと一緒にしたら、自分の身の上と周りの子たちの身の上を比較して絶望してしまうわだから、同じ校内に居ても、しばらくは一般生徒とは隔離しなくちゃいけないのよ

 自分は親の事業の失敗のせいで売春婦にならなきゃいけないのに  何の問題もなく、普通に高校生活を楽しんでいる生徒たちと交流したらやっぱり、落ち込むよな

だから、なでしこ科はお昼の休憩も一般生徒とズラすことにしたのよ普通の子たちが、5時間目になってからご飯ね今は、あの子たちには全教科の学力テストをやってもらっているわ

わたくしたちは先日、すでにテストしていただいておりますから

 ミタマが、月子を見て言う  ああ、ミタマや月子は別の日に、お屋敷の中で学力テストを終わらせているんだな

だから、こっちに連れて来たのよまあなでしこ科の子たちのことは、心配しなくて良いわ月子ちゃんに、逐一、あの子たちの心の状態をチェックしてもらっているし大丈夫よ後で、あなたに会わせるわ

 克子姉は、そう言って作業エプロンと帽子を付ける

ああ1つめのセットはできているのねうんと、今日はお天気が良いから、このパンとこのパンは先に出しましょうこれとこれを後出しにするわ

 克子姉がオレと愛に指示する  こういう判断は克子姉にしかできない

湿度がいつもより低いから、オーブンの温度を調整するわよ

 克子姉が、オーブンに取り付く  作業するのが3人になれば一気に楽になる  それでも、オレたちはコンビネーション良く昼休みに向かって、パンを焼いていく  ドリィとアナがオレたちの働く様子を真剣な眼で見つめている  グレース・マリンカさんも、姉妹につられてオレたちの作業を見ていた

ミタマは、アタシと一緒に昼休みになったら、パンを買いに来る生徒の監視をするノネ

朝の3年生とのゴタゴタの影響が、まだ残っているハズヨそれを吹き飛ばすために、ミタマが店頭に立って、お客を集めるノネ

了解した

 ミタマも、自分がテレビに出演していることで注目されていることは判っている

わが主様と家族のためなら安城ミタマ、客寄せパンダにもなってみせるっ

それなら、わたくしもお店に出るわ

 アーニャが笑う

この前、ここに来た時もお手伝いしたものねあれは楽しかったし

 アーニャは、携帯の画面を見ていた

東京銀座で、キョーコ・メッサーを見たっていう書き込みが、増えているわ

 キョーコさんも、レイちゃんの敵役として何度か特別番組に出ているから顔は張られている  これで公安警察の連中は、銀座に急ぐだろう  アーニャが、この高校に出没してもこちらには人手が廻せないはずだ

あたしは何もしないわよっあたしは、ここにコーヒーを飲みに来ただけだから

 雪乃はうん、何もするな  妊娠中だし、パン工房の奥に座っててくれればいいや

公様わたくしは何を致しましょう

いや、月子もパン工房の中に居てくれ

 今でさえ何で、オレのパン工房には美人ばかり集まっているんだと、一部の男子に批判されている  メグに愛に、寧に克子姉に、可奈センパイにイーディだもんな  この上、今日はミタマとアーニャまで参戦してくれることになった  さらに、月子まで店頭に出たら何を言われるか判らない

それに、月子にはあの子たちのチェックをしてて欲しいんだ

 オレは、ドリィとアナを見る  イーディとアーニャが店頭に出てしまったら、ドリル槍姉妹を物理的に抑えられる人がいなくなる  そうなったら、月子の巫女の力に頼るしかない  月子は、オレの心を読んでそう答えた

吉田くーん、時間

 ああ昼休みが迫って来る  オレは自分の作業に集中した

まあ、みんなここに居るのね

 いつも通り昼休みの10分前に、メグが教室から来てくれた

よーし、メグちゃん店開きだよっ

 寧と克子姉が焼き上がったパンを学食側のドアから、店頭に出していく  メグも、寧たちに加わる  店頭では、売り子が数人並んで販売するからそれぞれの場所に、おつりの準備や、紙袋なんかの用意もしないといけない

そろそろ、あたしたちも行くネ

 イーディが、ミタマとアーニャに声を掛ける  オレは店頭の様子を映したカメラ映像をモニターに出す  外の様子を見ながら、オレは第2弾のパンの支度を始める

吉田くん愛も行くね

 愛もパンの製作者として、売れ具合を確認するために店頭に立つ  ていうか、1年生で一番の美少女と言われている愛を目当てにして来る客も居るから店先に立たざるを得ない  愛が作ったパンだけを並べた愛ちゃんコーナーもあるし

はーい、2限目終了2分前っ

 寧がカウント・ダウンを開始する  昼休みに突入して、25分ぐらいまではパン売り場の前は大混雑になるから  克子姉、メグ、寧、愛と売り子は4人体制でスタートする  すぐに、可奈センパイも手伝いに来てくれるはずだ  可奈センパイは、一般生徒だから昼休みになってからでないと、教室を抜け出せないから

はーい、30秒前各自スタンバイ

 女の子たちは、お客を待ち受けるが  オレは1人、パン工房の中で昼休みの途中で、追加で出す第2弾のパンの準備をアタフタと続けている

はい、10秒前7、6、5、4、3、2、1来るよっ

 キンコンッキンコンッ  昼休み開始のベルが鳴る  20秒以内に生徒たちが大波となって押し寄せて来る

これとこれとこれとこれ下さい

オレ、これね

そっちのチョコレートパンも

 腹を空かせた男子生徒たちが、まずは押し寄せて来た

うわっ、ホントに安城ミタマだ

テレビで観るより綺麗ね

あの写真撮っても良いですか

あたしも一緒に写真撮って欲しいです

 ミタマの周りには、あっという間に人が集まる  男子と女子、ほぼ同数ぐらいだな  男装の凛々しさと、グラマーな身体男女、それぞれに受けるポイントがあるのが、ミタマの魅力だ

構わんが諸君、パンを買うのだここのパンは、実に美味いぞ

そうよ、わたくしもいただいたけれどとっても美味しいわよ

 アーニャが、みんなに言う

うわっ、ニキータ・ゴルバチョフだっ

また来てくれたんですねっ、ニキータさん

 アーニャの来校は2回目だから、生徒たちはあっさりと受け入れてくれた

ハーイ、皆さん、元気だったパンを買ってあげてねっ

 アーニャも一生懸命、宣伝してくれる

ハイハイ、横入りはダメヨちゃんと並ぶネ

 イーディが、客の列を正す

イーディさん、優勝おめでとうございます

格闘技ニュース、見ましたよっ

写真撮ってもいいですか

 ああ、イーディが格闘技大会でクラス優勝したことも広まっているんだ

イイケド、お店の邪魔になったら困るネ

あ、気を付けて撮りますから

写真撮ったら、パンを買うのネ美味しいヨ力が出るのネ

 ミタマ、アーニャ、イーディそれぞれの撮影会が始まってしまった

すごいことになっているわね

 可奈センパイがやって来る

いつもより、お客さんが多いんじゃない

 可奈センパイも、売り子に加わる  克子姉が、パン工房の中に顔を出して

第2弾いつもよりも早めに出すわ焼けたのから出してこのままだと売り切れになっちゃうから

 オレは作業を前倒しにする  マサカリ・クサオの件で、売り上げが落ちるかもしれないと思っていたけれど杞憂だった  むしろ、ミタマとアーニャとイーディの人気でどんどん、オレたちのパン屋に生徒が集まって来ている  その結果、普段はオレたちのパンを買っていない生徒たちまでミタマたちに勧められて、今日は買ってくれているようだ

ヨッちゃん、どう

 寧が、パン工房に戻って来る

1番のオーブンが先に焼けるからできあがり次第、出すよ

判ったっメグちゃん、もう1つパッド置くスペースはあるっ

はい、何とかしますっ

 店先も、工房の中も修羅場だ  汗だくで働いているオレたちをドリル槍のドリィとアナ、それからグレース・マリンカさんは、驚いた表情で見ていた

おっし、第2弾パッド1つ目、持ってって

 オレはオーブンの中から焼きたてのパンを取り出し、パッドに並べていく

ノブ、貰うわ

 可奈センパイが、オレからパッドを受け取って店頭に運んで行く

ヨッちゃん、パッド1つ、空になったからっ

 寧が空のパッドを持って来る

待って、2番のオープンはまだだから

 修羅場は続く

ごめんなさーい、今日はもう売り切れよ

 克子姉が大きな声で言った  いつもより早く昼休み開始から40分後には、全てのパンが売れてしまった

うーん、昨日の前話にグレースさんを出すのを忘れてました

慌てて、書き足しました

1291.ネガティブ潰し / 人生

それじゃあ、またねっ

 パンが完売したので、店頭から工房内に引き上げて来た克子姉たちと一緒にアーニャも戻って来る

ああ、ニキータさん

 アーニャは、ニキータ・ゴルバチョフのコードネームでテレビに出ているからファンの子から、そんな声が上がる

お腹空いちゃったのよそっちの2人はまだ残るからじゃあねーっ

 アーニャが工房の中へ入って来る  パン工房の店頭には、イーディとミタマが残って一般生徒たちとの会話や写真撮影に応じていた

わたくしは、この学校の生徒になったのだから今日、慌てて写真を撮る必要は無いのに

 ミタマは、そう言うが

転校初日の記念だから、いいのネ

ミタマさんは、うちの学校の制服は着ないんですか

 1年生らしい女の子が、ミタマに尋ねる

うむ、なぜかこれを着ろと命じられている

 ミタマは、自分の着ている純白の学ランを指して答える

でも、とっても素敵です

あ、ミタマさんわたしとも写真を撮っていただけますか

構わん

 ミタマは、鞘に入った日本刀を片手に笑顔で返答した

イーディさん、試合ネットにアップしてあったの、観ましたっ

 イーディのところには、男子生徒たちが集まっていた

今週の金曜日の深夜に録画を地上波で放送するネそっちも観てネ

 イーディは、笑顔で答える

次の試合とか、もう決まっているんですか

次は年末ネアメリカで試合する予定ヨ

 パンは売り切れたけれど、店の前の人だかりはしばらく消えそうに無い

売り切れたのはいいけれど、微妙な時間よね今から追加のパンを焼いたって、お昼休みが終わるまでにはできないし

 克子姉が時計を見上げて言う

もういいですよあたしたち、充分働きましたからはぁぁ、疲れたぁお腹空いちゃったわ

 いつもなら、売り子は交代で食事してもらっているんだけれど  今日は、ミタマとアーニャとイーディがもの凄い勢いで客を惹き付けたから  交代している余裕は無かった  その代わり、早く売り切れたからみんな揃って、昼食タイムが取れる  もっとも急いで食べないといけないのは、5時限目の授業がある可奈センパイとメグだけだ  オレと愛はパン技能士コースだから、5時間目はパン工房の片付けと清掃で授業に出られないのが、認められるようになった  寧と雪乃は、授業に出たり出なかったり好きにしているし  ミタマと月子はなでしこ科だから一般生徒の昼休みが終わってからが、休憩時間となる  克子姉は、生徒でないし

お昼は、そっちの冷蔵庫の中にあるわ

 克子姉が、予備の冷蔵庫を指差す

朝、パンと一緒に車に乗せてきたから出してちょうだい

 ああ、オレは今日は搬入に立ち合って無いから、知らなかったけれど  昨夜は、可奈センパイたちもお屋敷に泊まったんだから弁当とかの準備ができているはずがない

今流行りの冷たくても美味しいスープ・スパゲティとポテトサラダだから、そのまま食べて

お皿出そっスプーンやフォークとかはああ、お屋敷から持ってきてあるんだねっ

これ克子さんが作ったんですか

違うわよマナちゃんたちよマナちゃんとありすちゃんと、双子ちゃんたちが、早起きして作ってたわ

 マナとありすとリエとエリか

自分たちはまだ学校が始まらないからって

 アニエスたちは、今日から超お嬢様校に通っているが  マナたちが新しい中学に通い始めるのは、水曜日からだ

あなたたちの分も、ちゃんとあるわよ

 克子姉が、アーニャやドリル姉妹、グレースさんに言う

あたし、お茶入れます日本茶でいいかしら

 メグが、外国人のアーニャに尋ねた

わたくしは平気よこの子たちもアジアの子だから大丈夫だと思うわ

 アーニャは、そう答えるが一応、ドリル槍姉妹に尋ねる

うん、平気だってていうか食べ物には無頓着なのよねこの子たち

 狂った女ボスの組織で少女暗殺者としての教育しか受けていないからか

あたしが、よそうわ月子ちゃん、みんなにお皿を回してくれる

ミタマとイーディの分は多めに取っておいてよ

判っているわよあの2人は、ホントに良く食べる子たちだものね

そっちの姉妹が、どれぐらい食べるか判らないから大目に作ってあるわアーニャさんは、前にも来ているから知っているし、グレースさんは、昨夜と今朝、一緒にご飯を食べたから大体の分量は把握しているけれど

も、申し訳ない

 グレース・マリンカさんは、自分が大食いであることを自覚しているらしい

さあ、さっさと食べるわよあたしもお腹ペコペコなんだからっ

 何もしていない雪乃が平然とそう言う  オレは学食に通じる方のドアを開け

イーディ、ご飯だぞ

あ、判った、今、行くネミタマも行くヨ

うむそれでは諸君、わたくしたちも食事を摂らねばならぬので、これで失礼する

 ミタマが、集まっている生徒たちに言う

ミタマさーん

 ミタマには、男女ともすっかり固定ファンが付いたらしい

また会おう、諸君

 男装のミタマは、颯爽とパン工房内に入ってくる  イーディも、中に入るとカチャリとドアの鍵を閉めた  これで、パン工房内は密室となる  完全防音だから、ここの声は一切、外には漏れない

ミタマさん、そこへ座ってイーディは、こっちにどうぞ

 メグが2人の席を用意した

さあ食べようぜ

 オレたちの昼食が始まる

ンッグ、ンッグンンッ

モグモグハムッ

 ドリィとアナのドリル槍姉妹は、スープスパゲッティが気に入ったらしい  わっせわっせと掻き込んでいく  オレたちも、どんどん食事を進めていく

ホント日本に来る度に思うんだけれど、あなたたちのところを食事が美味しいわね

 アーニャが、笑顔でそう言った

マナちゃんと瑠璃子ちゃんは、もう免許皆伝してあげたいぐらい上達しているんだけれど双子ちゃんも、お料理に関しては良いセンスをしているのよ

あの子たちは、料理人を目指したらいいのよっ双子のシェフとかって、面白いでしょ

 雪乃が、そんなことを言う

ああ、いいかもねまり子や、まり子のお姉様に出資してもらって、フレンチ・レストランとか開業したらいいわよ

 可奈センパイは、まり子とすっかり意気投合しているから香月家でなく、トリイ電子の創業家の令嬢であるまり子や、歌晏桃子姉ちゃんの名前を出す

あたしは、まり子と何のビジネスをやろうかしらまだ、コレっていうのが見つからないのよね

 そんなことを言うまり子に、グレースさんは

あなたたちは、本当に金持ちなんだなあの屋敷といい、学校の中にこんな私的な施設を持っていたり

あら、最初からお金があったわけじゃないわよお金持ちの家に生まれた子は、あたしたちの中でも一部だけよ

そうそう、恵美の実家なんてホントに貧乏だったものね

今は、昔とは違うわお義父さんもお義母さんも今は、白坂家から離れて、香月グループの会社で働いているのよ

 雪乃が、そう言って口を閉ざしたのは自分の実家のことを思い出したからだろう  白坂家は当主が、変わってからずっと迷走状態だし  テレビ局は、香月グループに獲られて本業の新聞社は低迷している  雪乃の母方の祖父は、白坂創介の事件のせいで引退するしかなくなり東京にも居られなくて、今は地方で暮らしているらしい  雪乃の母親も、料理評論家としての活動ができなくなり今は、不倫していた男の家に転がり込んでいると聞いた  香月家やミナホ姉さんに雪乃やマナの様子を問い合わせることも無い  雪乃の祖父や母親にとっては雪乃とマナは、白坂創介とともに死んだという認識になっている

あたしたちの家族には、本当に色々な事情を抱えている子たちが集まっているわ

 克子姉が、グレースさんに言う

でも、あたし自身は自分の身体で稼いでもので、今の生活を得ていると思っているわかつて、あたしは悪い男たちに色々なものを奪われたわそれを今、取り戻して失ったものに見合った報酬を得ているのよ

よく判らないな

 グレースさんには、克子姉が娼婦に堕とされていたという過去は想像できないだろう

わたしにはあなたたちが、この学校の一角を借りてパン屋ごっこをやっているようにしか見えない

 オレはスーッと立ち上がって  克子姉が店頭から持って来た売り上げの入った手提げ金庫を持って来る

これを見てくれこれのどこがごっこなんだ

 オレは、金庫を開いて中を見せる  パンは完売した金庫の中には、千円札とコインがたんまりと入っている

そんなの大した金額じゃないだろう

 グレースさんは、そう言う

ああ、パンなんて安いし客はみんな学生だからね見ての通り、1万円札なんて1枚も無い昼休みだけの営業だし、そんなに儲かっているとは言えないよな

だからごっこだと言っているんだ

 グレースさんは、強い目でオレを睨む

でも、この金はオレたちが、身体を張って得た金だ自分たちで稼いだ金だ

 オレも、負けずにグレースさんを睨み返す

アーニャ、イーディ通訳してくれオレの話をドリィとアナに

 オレはモグモグ食事を続ける、ドリル槍姉妹を見る

まず、2人ともオレたちが、たくさんのパンをここで焼いていたのは、見ていたよな

 オレの言葉をアーニャが翻訳する  ドリィとアナは、ウンウンとうなずいた

それであんなにいっぱいあったパンが、全部、売れていった様子も観ていたよな

 このパン工房には、外の店の様子を映しているモニターがある  克子姉たちが、パンを売っていく姿をドリル槍姉妹は、興味深そうに眺めていた

あのパンが全部売れてこれだけのお金になった判るよな

 オレは、手提げ金庫の中を姉妹に見せる  ドリィとアナはフンフンとうなずく

モノを作って他所の人間に売ってお金を得てその金で、家族を養って生活するそういう生き方もある

 オレの言葉を、イーディが訳す

お前たちはこれまで、誰かに命令されて人を殺す代わりに、衣食住を与えられるという暮らしをしてきただが、そんな生活は先が見えないと思わないか暗殺に失敗したら、自分の方が抹殺される成功したってお前たちの飼い主が、お前たちをいつ見捨てるか判らない

 アーニャがオレの言葉を訳すとドリル姉妹は、真剣な眼でオレを見る

お前たちが、そんな生活をせざるを得なかったのは今のお前たちには、人を殺す技術しかないからだしかし、人を殺す技術を金に換えるのは、なかなか難しいそういう仕事ができる人間を求めるのは危険で悪い人間ばかりだからだお前たちが命を張って、仕事をやり遂げたとしても彼らは、お前たちの労働に見合った代償を支払ってはくれないそうだったんだろお前たちは、お前たちが置かれている状況に不満と怒りを感じていたはずだ

 だからこの姉妹たちを支配していた組織に、キョーコさんが襲撃を掛けた時  ドリル槍姉妹は、組織の女ボスを殺した

だが、見ろ人を殺す技術でなく、パンを作る技術があれば、毎日、これだけの収入があるこれだけの金が、手に入るんだぞ

 オレは金庫の中の札を取り上げ、ぴらぴらと振って見せる  ドリル槍姉妹は、日本に来たばかりだ  日本の札の価値は、まだよく判らないはずだ  こうやって示せば、手提げ金庫の中にある金はかなりの高額だと感じるだろう

毎日、パンを作って売って金を得るただの小麦粉が、オレたちの労働で何倍もの価値になって、売れるんだそこには支配はない命を奪われる危険も無い怖いことは何も無いし、危ない橋を渡る必要も無い

 ドリル姉妹は、ジッとオレを見ている

そしてお前たちが見ていた通りパンなんてオレでも作れる難しいものじゃないお前たちだって、簡単にできる

お前たちは、今まで通り人を殺す技術だけを頼りに、少女暗殺者を続けることもできるしかしお前たちは殺すだけで、殺し屋を探している客を見つけることも、そいつらから報酬を得ることも、自分たちではできないだろだから、悪いヤツラに搾取される今のままでは、お前たちには、ギリギリ生き続けるだけのモノしか与えられないし未来は見えない

 根気強く、姉妹に語る

でも、パンを作る技術があれば美味いパンを欲しがっているヤツを見つけるのは、簡単だお前たちだって簡単にパンを売って金が得られる毎日、こんなに金が入るいやもっとパンを作って、売れればさらに得られる金は増える毎日、確実に金が手に入ることが判っていれば他の人間に搾取されないのなら堅実な未来が見えるそうだろ

 イーディが、オレの言葉を姉妹に伝えると  姉のドリィが、オレに何か言う

ワタシたちに槍を捨てて、パンを作れというのかって言っているネ

違うそうじゃないお前たちの槍は、お前たち自身を守るためには必要なものだ槍を捨てる必要は無いただ槍の技術だけで生きていくのは、大変だって言っているんだ

 オレは姉妹の眼を見て、はっきりと言う

人に支配されて生きていくのが嫌なら別の技術も身に付けなけりゃいけないパンじゃなくたっていいんだお前たちが、誰にも支配されないで、自分たちの能力だけで金を稼ぐことができるのならそういう技術があれば、お前たちの人生は変わるオレは、それを理解して欲しいんだ

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