Warau Yakan

魔王の始め方

人間不信の魔術師Olが使い魔リルと共に、広大なダンジョンを作り魔王を目指す物語。地中を掘り、罠を仕掛け、魔物を配置し、村を襲い、徐々にその勢力を広げていくダークファンタジー。ハーレム、陵辱、暴力的・残虐的なシーン、催眠等の表現を含みます。

登場人物

作中に登場する主な人物を紹介しています。

若干のネタバレを含みますので、あれ? これ誰だっけ?と

思った時などに読み返す用です。最初に読む必要はありません。

このページのイラストは全て新堂アラタ先生、小宮利公先生、tocoda先生から頂いたものです。

無断転載等はご遠慮ください。

※年齢等は登場時点での数字です。身長等はイメージであり、実際とは異なる可能性があります。

Ol

魔王。83歳。琥珀色の髪に茶色の瞳の老魔術師。魔術で若返っている為、見た目は20前後に見える。中肉中背、整ってはいるが美形と言うわけではない顔立ち。特に際立った特徴はないのだが、眼光だけは鋭くやけに威圧感がある。

用心深く慎重な性格をしており、他人を信用しようとはしない。が、手駒はそれなりに大切に扱うので優しいと誤解される事も多い。徹底した合理主義者で、無駄を嫌う。様々な魔術に精通しており、特に魔力自体の取り扱いは世界でも五指に入る腕前。反面、戦闘経験はそれほどなく、戦闘能力はさほど高くはない。

魔力の色は琥珀色。身長は169くらい。

リル

女悪魔。年齢不詳。透けるように白い肌と闇の様に黒い髪、満月の様な金の瞳を持つ。胸は綺麗な三角錐型で、圧倒的な質量を持ちつつもツンと上を向いている。腰は折れそうなほど細く、尻から太股は細すぎず太すぎずの境界上で絶妙なバランスを保っている。髪はそのまま伸ばしているが、猫っ毛で油断するとすぐはねる。

気まぐれで適当なフリをしているが、本質的には律儀で面倒見が良く、何かと貧乏くじを引きやすい。悪魔にしては気さくな性格をしている。魅了、生命吸収、変身などの特殊能力と簡単な魔術、爪を剣の様に伸ばしての白兵戦などバランスよく色々出来はするが、地力そのものは大した事がないため戦闘力はあまり高くない。

魔力の色は黄褐色。胸は推定Gカップ。身長は167くらい。

ユニス

英雄。16歳。ポニーテールにした赤い髪に、緑の瞳の少女。身長は低く膨らみにも乏しい為、一見少年の様にも見える。少し太めの眉に、意志の強さを感じさせる幼くも凛々しい顔付き。手足は細くしなやかで、野生の獣を思い起こさせる。表情豊かでよく笑い、よく怒る。肌は黄色人種系で少しだけ浅黒い。

単純一途、思い込んだら一直線の英雄少女。思い込みが強く、正義感も非常に強い。底抜けに明るく常に楽観的で、多少向こう見ずながらも物事を完遂する強靭な精神力とそれを実現する身体能力を併せ持つ。一流の剣の腕と魔術の技を持ち、向かう所に敵は殆どいない。

魔力の色は赤。胸は推定Bカップ。身長は152くらい。

スピナ

魔女。21歳。絹糸の様に細く滑らかな漆黒の髪に、同じく真っ黒な瞳。髪は腰くらいまで伸ばしている。これ以上ないほどストレート。表情に乏しく、人形の様な整った顔立ち。体型は均整が取れていて、手足はやはり人形の様に細い。肌も病的に白い為、一見幽霊の様に見える。

寡黙で冷酷。目的の為には手段を一切選ばず、自分自身に被害を被る事であろうと全く躊躇せず行うほどの凄まじい胆力を誇る。魔法生物の創造、特にスライムの開発に並外れたセンスと発想を持つ天才。魔術自体はそれほど扱えないが、スライムの開発に限れば師であるOlを既に越えかねないほどの腕前を持つ。

魔力の色は黒。胸は推定Cカップ。身長は163くらい。

マリー

幼女。5歳。肩を少し過ぎる程度に伸ばしたふわふわくるくるの金髪に、サファイアの様な青い瞳。まつげパッチリで頬はバラの様に赤い。スピナとは別の意味で、人形の様な愛らしい童女。いつも眠そうにしている。

子供特有の無邪気さも相まって、Olの迷宮一の傍若無人さを発揮するある意味最強マスコット。Olやスピナ、悪魔のローガン相手にも一切物怖じせず、自由気ままに暮らしている。戦闘力は皆無。

魔力はなし、胸はAAA。身長は100ちょい。

エレン

黒アールヴ。年齢不詳。褐色の肌に黒髪、深い緑の瞳。凛々しい系の美女で、いつも自信に満ち溢れた表情を浮かべている。程よく筋肉のついた健康的な肢体に、胸と尻がどんと突き出している。髪は普段は下ろしているが、戦闘時は邪魔にならないように後ろや側頭部で一つに縛って纏める。

豪胆で快活、竹を割ったような姐御肌。長としての自尊心は高いが、己が認めた相手には気さくに接する度量も併せ持つ。常軌を逸した速射と命中精度を誇る弓の腕を持ち、森の中であればかなり高度な魔術も使用でき、部下4人との連携もかなりの物。

魔力は深緑。胸は推定Dカップ。身長は172くらい。

ミオ

獣使い。16歳。小麦色の髪に青い瞳。素朴なつくりの顔の少女。美人、と言うほどではないが、ちょっと可愛いね、と言ってもらえるくらいには可愛い。隠れ巨乳。髪は結構長く、ゆるく編んだ三つ編みが腰くらいまである。

引っ込み思案で大人しい性格だが、家畜の事になると人が変わったように厳しくなる。動物全般を愛しており、いずれ食肉になる動物にでも惜しみなく愛情を注ぐ懐の深さと、それを食べる事も受け入れる強さを併せ持つ。本人に戦闘能力はないが、世話をしている魔獣達を統率し、操る力は騎士の一軍にも勝る。

魔力はなし。胸は推定C~D。身長は160くらい。

ローガン

下級悪魔。年齢不詳。赤銅色の肌に筋骨隆々な肉体、四本の腕に山羊の様な頭を持つ。ロリコン。

悪魔らしいシビアな視点は持っているものの、基本的にはノリで生きている。炎を自在に操り、低空であれば空中も自由に飛ぶことが出来る。膂力も見た目に相応しく人間の数倍を誇り、下級悪魔と言う名とは裏腹に相当強い。

ナジャ

剣士。23歳。赤銅色の髪に緑の瞳、褐色の肌。肌の濃さはエレン>ナジャ>ユニス。全身に筋肉のついた逞しい、まさに戦士と言う身体をしているが、出るところはしっかりと出ている。美女と言うよりハンサム。元は髪を長く伸ばしていたが、切ってからはショートヘア。

実直で生真面目、良くも悪くも不器用な性格。判断力、決断力に優れ、勘が良い。普段の言動や見かけは男勝りだが、その実内面は誰よりもナイーブで女らしいことに憧れを持っている。体格も性格も女性らしいウィキアに密かに嫉妬にも似た憧れを持っている。剣士としては一流だが、剣を振るう事しか出来ないので空を飛ぶ相手や対魔術に極端に弱いのが欠点。

魔力はなし。胸は推定Eカップ。身長は171くらい。

Shal

白アールヴの僧侶。年齢不詳。エメラルドグリーンの髪にサファイアブルーの瞳。ショートボブの髪から長い耳がぴょこんとはみ出している。肌は絹の様に白いく滑らか。人間で言うと12、3歳にしか見えないが、一応成人している。大きくぱっちりとした瞳に、いかにも人の良さそうなあどけない顔立ち。いつもニコニコと笑みを浮かべている。

温和で人当たりがよく、誰にでも親切にしてしまうお人よし。しかし根は頑固で、一度こうと決めた事は絶対に曲げず、それが原因で失敗することもしばしば。種族的な特徴もあるが、豊満なナジャの肉体を羨ましく思っている。支援特化系の僧侶で、回復・防御・支援の腕は一流。ただし殆ど攻撃能力を持っておらず、一人では何も出来ないのが欠点。

魔力の色は白。胸は推定Aカップ。身長は148くらい。

ウィキア

魔術師。17歳。青銀の髪を肩でキッチリそろえて前髪パッツン。瞳は灰に近い青。やや釣り目でキツそうな印象の美少女。手足はすらりと細く長いが、出るべきところはそれなりに出ている。

性格は冷静沈着、寡黙でクールを、装ってはいるが、その実内面は人一倍感情の起伏が激しく、情に厚い。少し自己犠牲的なところがある。自分を素直に表現できるShalのことを羨んでいる。魔術の腕は一流なのだが、性格的に若干判断力に欠けるところがあり、特に焦ると途端に弱くなるのが欠点。

魔力の色は青銀。胸は推定Cカップ。身長は157くらい。

アラン

魔法剣士。21歳。スラリとした長身痩躯、長い手足を持つ金髪碧眼の美男子。剣士にしては細身で華奢に見えるが鍛え上げられた筋肉は極限まで引き絞られ、無駄を削った結果。

剣も魔術も罠の解除も出来るオールラウンダー。ただしどの技術も専門家には一歩も二歩も及ばない。その能力は多芸というよりは優柔不断さの表れであり、一つの物事に絞り切れない詰めの甘さでもある。

身長は175くらい。

キャス

軍師。28歳。きっちりと揃えた白銀の髪に、青い瞳。男性的な印象を抱かせるが、同時にどこか色香も漂わせる女性。

性格は論理的で冷酷。天性のサディストで相手を甚振り過ぎるところがある。自分が女であることに強いコンプレックスを抱きつつも、必要であればそれを武器として使うことに躊躇はしない。

魔力はなし。胸は推定Cカップ。身長は164くらい。

Faro

盗賊。34歳(人間換算で20前後)。ハーフリングなどとも呼ばれる小人族、クドゥクの少女。ふわふわした金に近い茶色の髪に緑の瞳。身長自体は子供の様に低く頭身も小さいが、体付きその物は成熟した女性の様に丸く凹凸を持つ。

どちらかと言うと保守的で平穏を好むクドゥクの中では人一倍好奇心が強く、気紛れで飽きっぽい。瞬間的な集中力は非常に高く、観察力や手先の器用さは一流の盗賊と言っていいが、多少思考力や推理能力に難がある。戦闘は盗賊にしてはそこそここなせるものの、遊撃や牽制を得意とする。

魔力はなし、胸は推定AAカップ(ただし比率的にはC相当)。身長は88くらい。

ノーム

商人。23歳。赤毛に金の瞳。髪は肩を少し過ぎるくらいの長さで、その日の気分によって髪型を変える。側頭部で一つにまとめる、いわゆるサイドポニーやツインテールのような幼さを強調する髪形にする事が多い。見た目は10代前半にしか見えないが、その胸は外見に似合わぬ凶悪な大きさを誇る。

何よりも利と理に重きを置く合理主義者だが守銭奴と言うわけではなく、長期的な得の為には一時的に損をする事も厭わない。あらゆる物を鑑定し、その本質を見抜く真実の瞳という能力を持っており、人や道具の能力を一目で見抜く。魔術も武器も扱えないが、呪具の扱いには習熟しており魔法の杖を使ってある程度戦闘は可能。

魔力はなし、胸は推定Fカップ。身長は147くらい。

ザイトリード

鉛の英雄。24歳。ユニスの兄。厳つく険しい顔立ちに、筋骨隆々、並外れた体躯を誇る偉丈夫。赤い髪に緑の瞳の色だけがユニスとそっくり。いつも眉間に皺が寄っている。

実直で生真面目だが、真面目が過ぎて頑迷といわれるレベルなのが玉に瑕。生まれ付き魔術の才能が皆無であり、代わりにその身体能力は歴代の英雄の中でも1,2を争うほどの高さを誇る。余りの膂力の強さに本気で振るえば壊れぬ武器はなく、結局その拳が最強の武器となる。魔術を否定した結果鉛の呪いがかかっており、魔術を使えない代わりにあらゆる魔術を無効化する。

ウォルフ

英雄王。55歳。ユニスの父にして王。白髪交じりの赤い髪に逞しい体躯、獅子のたてがみの如く胸元を覆う豊かな髭に、歴戦の勇士特有の鋭い眼光。威厳を持った王の中の王。

その心根は豪胆かつ快活、慈悲深く勇敢を旨とするが、王としての責務から厳しく慎重な態度をとることが多い。本来は魔術も剣も使用する事も出来る万能型の英雄だが、息子が生まれてからは剣のみに絞り魔術を使わなくなった。が、それでも並みの英雄とは比べ物にならないほど強い。純粋な身体能力、戦闘能力ではザイトリードに一歩劣るものの、豊かな経験と折れぬ心で総合的には作中最強の男。

セレス

白アールヴの姫。年齢不詳。黄金をそのまま糸にしたかのような金髪に、蒼玉を嵌めこんだかのように煌く碧眼。手足はすらりと長くたおやかで気品に溢れ、スレンダーな白アールヴにしては破格の、人間に比べてもかなりの巨乳。美形揃いの白アールヴの中でも美女の中の美女。

高潔で理知的、慎み深く我慢強い、誇り高き白アールヴ達の長。黒アールヴの長エレンが剛であるならば彼女は柔。機智に富み柔軟な発想と物腰で、しかしけして折れずしなやかにスマートに物事を運ぶ事を好む。エレン同様優れた弓と魔術の使い手で、弓の腕ではほんの僅かエレンに劣るものの、魔術の腕では逆に彼女を凌駕する。

魔力は新緑の色。胸は推定Dカップ。身長は168くらい。

メリザンド

大聖女。年齢不詳。足首まである白い髪に、赤い瞳。見た目は5,6歳にしか見えないが、表情も口調も大人びており子供にはない威厳と威圧感を持っている。

用心深く慎重、狡猾。他人を信用しようとはせず、不死身を除いて他の部下の前に姿を現す事も無い。徹底した合理主義者で、無駄を嫌う。世界で殆ど唯一の法術の使い手であり、無数の天使と最大7人の英霊を使役する。肉体的に成長できないため、身体能力は5歳児相当で戦闘能力は低い。

魔力はなく、純白の理力。胸はAAA。身長は100ちょい。

不死身

英霊。年齢不詳。20歳前後の軽薄な青年。見た目通りに言動は軽く、思慮も浅い。

極めて楽天的で不真面目、物事を深く考えない性格だが英霊としての能力そのものは一流。その二つ名の通りどんなダメージを負っても瞬時に再生する能力を持っているが、不死身であるがゆえに自分の防御というものを全く考慮しないため、付け入る隙は無数にある。

身長は169くらい。

魔弾

英霊。年齢不詳。一発射れば矢は百の弾に分かれ、どんな小さな的だろうと確実に命中させる能力を持つ。

無明

英霊。年齢不詳。あらゆる幻を看破し、どのような障壁も透視する千里眼の能力を持つ。

跳ね駒

英霊。年齢不詳。距離も結界も何もかも無視し、どのような場所にでも自由自在に転移する能力を持つ。

炎髪

英霊。年齢不詳。本来燃えないものや、魂といった形のないものまで、どのようなものでも燃やし尽くす能力を持つ。

英霊。年齢不詳。どのような魔術も打ち消し、無効化する能力を持つ。

竜殺し

英霊。年齢不詳。距離や数に関係なく、どのような竜であれ一撃で殺す能力を持つ。

ラズ

Olの師。故人。享年22歳。琥珀色の髪に茶の瞳、伸ばすと腰くらいまでの髪をひっつめにしている。見た目はクールビューティ。

その実はかなりズボラで適当。興味の無いことにはとことん無頓着だが、興味のあることには究極まで拘る学者肌。部屋が汚いのには耐えられないが、掃除をするのは大嫌いと言う困った性格。

魔力の色は黄褐色。胸は推定Cカップ。身長は163くらい。

身長比較

書籍版

コミカライズ版

プロローグ

暗く深い、日の光など射しようもない地の底で、男はつるはしを振るっていた。

それは狭く暗い地下道に相応しい、みすぼらしい男だった。

齢は相当な高齢らしく、顔はしわに覆われていない箇所はなく、背は曲がりに曲がっている。身に着けているのもボロボロの灰色のローブで、それも狭い地下道の埃と土にまみれ、その惨めな様相をいっそうみすぼらしくしている。腰につけたランタンもかなりの年代物で、辛うじて男とその周囲を照らしている。

全身は汗にまみれ、つるはしを振るう腕にはもはや力は無い。

息も絶え絶えで、いつ絶命してもおかしくないほど男は疲弊しきっていた。

見た目も中身も疲れきり、磨耗しきったその男の中で、目だけがぎらぎらと強い光を放っていた。

男は何かに取り憑かれたかのように、必死につるはしを振るう。振るう。振るう。

そして、ついに。

不意にごとりと音がして、土壁の一部が崩れた。

男は目を見開き、その向こうを見る。

ふハハッ、アハハハハハ!

そして、今までにも勝る熱心さで腕を振るい始めた。

土壁は見る見るその亀裂を増していき、やがて人が通れるほどの大きさになる。

男はつるはしを放り投げると、哄笑と共にその中に踊りこんだ。

ハハハハハ! やった、ついにやったぞ! この、味わいさえ感じるほどの芳醇な魔力の香り!ついに見つけ出したのだ!

男は自身の胸元を探ると、首にかけていた首飾りを強引に引きちぎった。乞食よりもみすぼらしい男が身に着けていた唯一の装飾品であるそれには、小指の先ほどの大きさのガラスで出来た瓶がつながれていた。

その瓶を男は地下道の先にあった空洞の中心に掲げる。すると辺りの空気が渦巻き、ゆっくりと瓶に集中していく。それと同時に、瓶の中には琥珀色の液体が湧き出てきた。

視認さえ出来る高濃度の魔力の結晶!素晴らしい、これだけあれば!

男は瓶を地面に置くと、低い声で呪文を唱え始める。半刻(1時間)ほどもそうしていただろうか。

長い長い呪文は徐々に熱を帯び、弱弱しく呟くように紡がれていたそれはいつの間にか朗々と、力強い声によって唱えられる。

最後には半ば叫ぶようにして呪文は終わりを告げ、それと同時に男の身体は強い光に包まれた。

力が、溢れてくるこれが若い肉体と言う物か!

光が消えた後には、若く逞しい青年が立っていた。

腰が曲がり、皺に覆われた老人の面影は微塵もない。真っ直ぐ剣の様に伸びた長身に端正な顔立ち。四肢は力に溢れ、肌は絹の様に滑らか。ただ一つ、ぎらぎらと光る双眸だけが元の老人と共通していた。

おっと、もう一杯になるか

瓶になみなみと湧き出てきた液体は、早くも瓶の9割ほどを満たしていた。

男が若返ったときに僅かにその量を減じさせたものの、溜まる速度の方が圧倒的に早い。

男は呪文を紡ぎながら腕を振るう。その指先から琥珀色の魔力が溢れ、瓶を貫く。

瓶は見る間に大きく膨れ上がり、ひと一人が入れるほどの大きさになった。

これで当分は持つだろう。さて

男は短く呪文を呟き魔法の光を灯し、次いで少し長めの呪文を唱えた。男の指先が放った光を浴びて、天然の空洞だった洞窟は見る間に煉瓦で造られた殺風景な地下の一室へと姿を変える。

そして指の先に歯を突きたて、石畳の床に血で魔法陣を書き始める。

書きあがった魔法陣を軽く撫でてその出来を確かめると、男は更に呪文を唱え始めた。

若返ったときよりも更に長く、複雑な呪文だ。

男の額には珠のような汗が噴出し、苦痛に顔が歪んだ。

空気が震え、部屋の外に置いてあったままのランタンの炎がふっと掻き消えた。

それまで静寂を保っていた空間に、弓の弦を絞るような音がギリギリと鳴る。

炎の消えた空間を支配していた闇が、まるで意思を持つかのように蠢き、ゆっくりと形をとり始める。

その影は明かり一つ無い暗闇の中でなお暗く、はっきりとした輪郭をとり

そして、鈴の音の様な声をあげた。

わたしを呼んだのは、あなた?

男の前に現れたのは、申し訳程度の衣服に身を包んだ妖艶な美女だった。

黒々とした髪は長く艶やかで、白い肌を包むように伸びている。

ほっそりとした手足はすらりと伸び、しかし出る所はしっかりとその存在を主張していた。

そうだ

女の問いに、男は頷く。

そうじゃあ、呼んでくれた御礼にとびきりの夢を見せてあげる。この魔法陣を消してもらえる? このままじゃ、その素敵な唇にキスする事もできないわ

すがるような弱弱しさで、女は甘い声を出した。それを男は冷笑する。

それはできないな。その魔法陣を消してしまえば、お前は自由に行動することができる。お前はすぐさま俺の魂を奪って魔界に戻るだろう。魔法陣を消すのは、契約を結んでからだ

男がそういった瞬間、女の表情が一変する。

哀れみを誘う弱弱しい少女のものから、ふてぶてしく経験豊富な娼婦のそれへと。

つまんないの、ちょっとした冗談じゃない。これだけの魔力を用意できる魔術師がそんな初歩的な失敗をするわけがないんだから

女悪魔は空中に椅子でもあるかのように虚空に腰掛け、足を組む。

意識するとしないとに関わらず、その動作は扇情的で艶かしい。

で? 私は何をすればいいわけ? 愚かな男達から精を吸い上げる?それとも、あなたの敵に無限の悪夢を見せてやる?あなた自身に最高の夜を見せてあげるのもいいけど

うむ。お前にはダンジョンを作ってもらいたい

はあ!?

男の言葉に、思わず女悪魔は見えない椅子から転げ落ちた。

淫魔の癖に色気のない転び方をするな。そんな下着みたいな格好で脚を広げられても、かえって興ざめするというかだな

そんな事はどうでもいいっ!今、なんかダンジョンを作れって聞こえた気がしたんだけど?

ああ、そう言った

男は頷き、両腕を一杯に広げ地下室をぐるりと見渡す。

いまだかつて誰も見た事の無いような、深く、広く、凶悪な迷宮を。無数の罠と、怪物どもと、財宝が待ち受ける大迷宮を。地下の世界を統べるかのような、途方も無いダンジョンを作って欲しい

女悪魔は思わず頭を抑えた。病気などとは無縁の身だ。

直接的な打撃以外で頭痛を覚えることなど初めてのことだった。

あのね百歩譲って、そのダンジョンの守衛として召喚されるならまだわかる。そういう条件で呼ばれた事もなくは無いしね。でも、ダンジョンを作れってどういう事よ!?そんな事はゴブリンかゴーレムにでも任せなさいよ!

無論、穴を掘る作業はそういったものどもに任せる。だがそれ以外の膨大な作業を手伝う者がいるのだ。ダンジョンの通路は、部屋はどのように配する?罠と怪物どもは? 守衛となる魔物も生き物なら、餌がいる。その調達は如何にする? 我が迷宮が大きくなれば、それを脅かそうとする不届き者も出るだろう。そのような輩への対処は?考えるべきこと、すべき事は無数にある。それを、貴様に手伝ってもらいたい

それは分かったけど、何で私なわけ?

ようやく体勢を直し問い掛ける女悪魔に、男は指を三本突き出してみせる。

理由は三つだ。まず第一に、俺は人間を信じておらん。人は必ず裏切る。妖魔や亜人の類もそれは同じだ。お前達悪魔は隙あらば人を陥れようとするが、契約を破る事は絶対に出来ない。だから、人間ではなく、悪魔を選んだ。第二に、通常悪魔は高位になればなるほど高い力と知恵を持つが、その分だけ契約や維持に大量の魔力が必要となる。お前達淫魔は人間の欲望に密接に関わり、精を吸い取る事を生業としている変り種だ。さほど強くはない代わりに、必要な魔力に対して賢く、人間の感情の機微にも聡い。だから、淫魔を選んだ。第三に

男はそこで言葉を切り、女悪魔の身体を眺めてニヤリと笑みを見せた。

どうせ傍に置くなら、見てくれだけでも美しく若い女が良い。だからお前を選んだ

女悪魔は、一瞬ぽかんとして男を見た後、くすりと笑った。

なるほどね。いいわ、その仕事、手伝ってあげる

では、この契約に名を持って同意してくれ

男は懐から紙を取り出し、女悪魔に見せる。相も変らぬ暗闇の中だが、闇の眷属たる悪魔にそんな事は関係あるはずも無い。

契約内容を用意してあるの? 準備がいいのねって細かっ!? 一体何条あるのよコレ!?

魔法陣越しに提示された羊皮紙には、細かい字でびっしりと条文が書かれていた。

言っただろう、お前達悪魔は隙あらば人間を陥れようとする、と。それを防ぐ為の条文だ。極端にお前の不利になるような不平等な条文は無いから安心しろと言っても信用はできんだろうからな。好きなだけ読むがいい

そんなことしなくったって裏切ったりしないって、もうあーもう字が細かすぎるのよ

ぶつぶつと文句を言いながら目を細めつつ、条文に目を走らせる。

ん、とりあえずはいいわこれ、目に見えないくらい細かい文字とか、特殊なインクで普通には見えない文字とかで書いた条文が隠されたりしてないでしょうね。あったら契約自体無効だからね

疑いの眼差しを向ける女悪魔に、男は心外そうに眉をひそめる。

そちらの不利になるような文は無いと言っているだろうが。疑い深い奴だな

お前が言うなっ!まあいいわ。じゃあ、契約するよ

ああ。汝、サキュバスよ。この契約に従い、名を持って我が力となるか?

名前は、魔術師や悪魔といった魔に関わる者たちにとって重大な意味を持つ。

ある程度以上の力を持つものであれば、相手の名前を知るだけで呪いをかけ、その魂を支配することさえ出来る。

悪魔との契約はそれを利用したものであり、名前を持って結んだ契約はお互いにいかなる事があっても破る事は出来ない。

我が名、リルシャーナにかけて誓う。契約に従い、あなたに力を貸しましょう

ならば、我が名アイン・ソフ・Olにおいて、この契約を守る事を誓おう

宣誓の言葉に応じ、契約書が光り輝く。そして、炎に包まれると一瞬にして燃え尽きた。

契約内容は二人の魂に刻み込まれ、追記も改変もけして出来ない存在となったのだ。

では、これからよろしく頼むぞ。俺の事はOlと呼べ

はいはい。私はリルでいいわよろしくね、Ol

変なのと関わっちゃった気もするけど。

その言葉を、リルは辛うじて飲み込んだ。

魔法陣を越えて、互いの手が握られる。

こうして、二人の迷宮作りの日々が始まった。

第1話まずは魔力を溜めましょう

それでさっきから気になってたんだけど

狭い魔法陣を抜け出し、手足と翼をぐっと伸ばしながらリルは背後を振り返る。

コレ、何?

その視線の先に佇んでいるのは、巨大なガラスの瓶。

リルを呼ぶ前にOlが設置したものだ。

それはそうだな。ダンジョンコアとでも呼ぼうか。これからのダンジョン作りにおいて核となるものだ

説明しながら、Olは短く呪を唱えて掌に小さな炎を灯し、部屋の四隅に浮かべて明かりにする。

魔力とは何かわかるか?

問うOlに、リルは頬を膨らませて答える。

馬鹿にしないでよね、これでも私は悪魔よ? 魔力は全ての魔に関わるものの根源。魔法も、魔物もそして勿論、私達悪魔もそれを源にしてる。創造主が作り上げたこの世界を僅かでも捻じ曲げ、汚し、作り変えるもの。それが魔であり、魔力であり、悪魔ってわけよ

リルの言葉に納得した様子で、Olは頷く。

ではこれは知っているか? 魔力と言うのは、土や大気、水、生き物ありとあらゆるものの中に内在しているが、その大部分は地中に存在する。地中の魔力は一つところに留まっている訳ではなく、道や河の様に流れている。この魔力の道を龍脈という

で、それとこれと何の関係があるわけ?

説明を理解できたのか出来てないのか良くわからない表情で、ペタペタとダンジョンコアを触りながらリルは問う。

今いるここは、その龍脈の真っ只中だ。そして、このダンジョンコアはその龍脈の魔力を吸い上げることが出来る

炎の明かりに照らされ琥珀色に輝きながら揺れる液体を、リルは目を丸くして見つめた。

え、もしかしてこの水魔力、とか?

嘘でしょお!?

頷くOlに、リルは素っ頓狂な声をあげる。

液体状になるくらいの濃度の魔力なんて、並みの魔術師じゃ振り絞っても一滴、二滴がいい所じゃない!こんな量、人間の魔術師が扱える量を遥かに越えてるわよそれに、こんなに近くにあるのに全然魔力の匂いがしないってどういう事?ちょっとしたマジックアイテムだって匂いですぐわかるのに、こんな量の魔力が傍にあって匂いがしないなんてあるわけないじゃない

匂いでわかるのか? 悪魔というのも便利だな。簡単な話だ。この瓶は完全に内部に魔力を閉じ込められるようになっている。全く外に魔力が出なければ、匂いもするわけはない。これだけの魔力を人の身に宿そうものなら瞬時に正気を失うだろうが、瓶に入れて必要な分だけ使うのならば何の問題もない

リルは思わず、Olの顔とダンジョンコアを交互に見比べる。

完全に魔力を遮断って凄い技術ね。そんな事が本当に可能なの?

ああ。我が70年に及ぶ研究の集大成だ。ようやく、ここまで漕ぎ着けた

感慨深そうに言うOlに、リルは感心したものか呆れたものかしばし悩み、やがて後者を選んだ。

70年て、あんた本当は何歳よまあいいわ。大体納得した。こんな濃度の魔力を無尽蔵に得られるなら、それこそ世界を統べる事も可能かもしれない。この瓶を守らなきゃいけないから、ダンジョンを作るのも。で、ダンジョン作りってまずは何から始めるの?

そうだなまずは後ろを向け。そして、手をそこの壁についてくれ

? こう?

リルは言われるままにOlに背を向け、壁に両手をつく。

ねえ、この体勢ってまるであっ!?

言いかけ、リルは己を貫いた感覚に高く声をあげた。

後ろから、Olがリルの服をずらし、そのままリルの秘部を貫いてきたのだ。

なんだ? まさか生娘だったなどとはいわんだろうな

な訳ないでしょ! もうっ、するんならするってちゃんと言ってよね

言葉こそ批難がましいが、声は既に甘くとろけている。

何もせずに突っ込んだのに、随分濡れているな

そりゃ、んっ淫魔、だからねっあ、そこ、いぃっ

リルのそこは、何時間も愛撫したかのようにぐっしょりと濡れそぼっていた。

快楽を感じているからでは、ない。それが淫魔だからだ。

いつでも性交を行い、どんな男でも満足させるように身体自体が出来ている。

でも、意外ねんっ、私を、呼びつけては、ぁいきなり、ダンジョン作れなんていうからこういう事、興味ないのかと思った

それは誤解だ。確かに、今交わっているのはダンジョン作りの一環ではあるが、それはそれとして俺はセックスに興味がない訳ではない。いや、むしろ大いに興味があるぞ。折角迷宮を作り、力を手に入れても富も女も求めないでは何の意味もないだろう?

なにそれふふ、は、ぁエッチしたいからんっダンジョン、作るって訳?

喘ぎ声をあげながらクスクスと笑うという技を見せながら、リルはくるりと身体を回転させた。脚を大きく広げ、正常位のような格好になる。身体を支えるものがないのに空中でこのような格好が出来るのは悪魔ならではだ。

でもいいわそういう事ならんふたっぷりとサービスしてあげる

申し訳程度に肌を覆っていた服を脱ぎ捨て、その豊満な双丘をOlの顔に押し付ける。

それと同時に、奥までOlの一物を咥え込んだ膣内を蠢かせる。

く、ぅ淫魔と交わるのは初めてだが流石に凄いな。魂まで搾り取られそうだ

んふふありがと。あなたのも大きくて硬くてとっても素敵んっ、契約さえなければ、このままカラカラになるまで、搾り取っちゃうところなんだけどね

空中で腰を上下させながら、文字通り搾り取るようにリルは膣を蠢かせる。

男の精を搾り取ることをその生業とするサキュバスにとって、そこは身体の中で最も自由に動かせる器官と言っていい。若返らせた肉体の影響もあいまって、Olの限界はすぐそこまで近づいていた。

随分と、余裕だな

そりゃ、サキュバスですからぁんもっと、泣き叫んで嫌がる方がお好みだった?

淫魔にとって性交は食事に等しい。勿論それは彼女にとっても快楽ではあるのだが、人間のそれと違い、完全に制御できるものだ。その快楽に流されて我を失ったり、気をやってしまうような事はありえない。

そんな白々しい演技は要らんくっ、行くぞ!

うん、来て! 中に、あなたの中に出してっ!?え、ちょっと、嘘! 何これあっ、あああぁぁぁぁああああっ!!

リルの中でOlは精を放つ。それに一瞬遅れ、リルは声をあげながら身体を震わせた。

今までの作り物めいた嬌声ではない。

な、何、今の?

悪魔の実体は、常にこちらの世界とは隔絶された魔界にあるらしいな

いまだ繋がったまま、おもむろにOlはリルの胸をもみしだく。

え、あ、ちょ、何、なんなのこれえ

初めての感覚に戸惑いながらリルは身を捩じらせるが、Olの片腕は彼女の腰をしっかりと抱いて離さない。

意識や自我はこちらの世界にきてはいるが、身体は魔力で作られた仮初のもの。だから、必要以上の苦痛は感じないし、仮に粉々に破壊されても元の魔界に戻るだけ、と。実に便利な事だが、魔力で作られているという事は、魔力で干渉し、作り変えることも出来るという事だ

え、あ、あ、あ、駄目、待って、ん、あ、あ、あ、ああっ!

射精した後もOlの物は硬度を失わず、ゆっくりと抽送を再開する。

と言うわけで、お前も人並みに快楽を感じ、乱れ、気をやれるようにしてみた。ああ、害になるようなことはしていないから安心してくれ。ただ、こうして

Olはずん、と腰を突き出す。

あああああああああぁぁぁっ!

一緒に楽しめるようにしただけだ

ま、待ってぇ、ちょっと、待っんうっ!

息も絶え絶え、といった様子で停止を求めるリルの口を、Olは自らの口で塞いだ。

その動作の間にも、片手で胸を揉みしだき、もう片方の腕で腰を抱き寄せ、剛直を激しく出し入れしている。

人間の女ならあまりの激しさに快楽よりも苦痛を味わうところだろうが、そこは淫魔の身体である。全ての動作が余すことなく快楽へと結びつき、更に貪欲に快楽を求めていた。

さっきまでより断然いいぞああ、最高だ出すぞっ!

駄目、もう、ああっ、もっと、いや、あ、あ、あああああっ!

自らの中に入り込んでくる精液の感覚に、リルは身体を仰け反らせびくびくと震える。

もはや彼女にとって、Olの精液は強力な媚薬に等しい。身体に触れるだけで強烈な快感が身を貫き、胎内に出されればそれが絶え間なく襲い掛かってくるのだ。その上、Olは出しても出しても全く萎えることなく、更に抽送を繰り返すのだ。

ま、待って、おか、しおかし、く、なっちゃ

犯して欲しい? 是非もない、契約した記念だ。今晩は一晩中可愛がってやろう

ちが、あ、んっ! ちがぁ、う、あぁんっ!

そうして、一日目の夜は更けていった。

第1.5話ダンジョン解説

第1話終了時点でのダンジョン。

階層数:1階層

瘴気:0

悪名:0

貯蓄魔力:5(単位:万/日)

消費魔力:0.1(単位:万/日)

新しい施設:

ダンジョンコアLV2

人間大にまで巨大化させたダンジョンコア。

魔力を100万程度まで貯蔵することが出来る。

ちなみにプロローグでOlが首から下げていた状態がLV1である。

新しい戦力:

リル(サキュバス)

戦力:2消費魔力:0.1最大貯蓄魔力:10

女性型の淫魔。幻惑、変身、魅了、精気吸収等の特殊能力を持ち、簡単なものであれば魔術も使用できる。頭はいいがあまり強くはない。

Ol

戦力:3最大貯蓄魔力:0.3

老いた魔術師。魔術によって20歳前後くらいまで若返っている。かなり高度な魔術を操り、特に魔力制御は世界でも有数の腕を持つが、戦闘に関しては素人同然であるため戦力LVはさほど高くない。

現状のダンジョン

施設はダンジョンコアのある部屋のみ。ダンジョンというより、洞穴と言った方が近い。

防衛設備は一切なく、ダンジョンを見つけさえすれば簡単に踏破出来るだろう。

ただし、現時点でその位置を知るものはOl以外にいない。

第2話近隣の村を襲撃しましょう-1

ううう、死ぬかと思った

体中精液にまみれ地面に突っ伏しながら、リルはOlに恨みがましい視線を向けた。

馬鹿を言うな、情交で死ぬ淫魔などと言うものがいる訳がないだろう

それに対し、Olは何十回と精を放ったにも関わらず疲れた様子もない。

あなた、化け物? 一体何回出したのよ

良かっただろう?

ニヤリと笑みを浮かべるOlに、ぷいとリルは目を背ける。初めて味わう快感に腰砕けになり、力も入らないリルをOlは一晩中犯し続けた。膣は勿論、口や尻の穴にも幾度となく精を注ぎ込み、リルが動く体力もなくなってからは体中に精を放ち汚した。

行為自体に不満は全くない。そもそも契約自体に好きな時にリルを抱く事は入っていたし、そうでなくとも性愛を生業とする淫魔である。むしろ、今まで感じたこともない快楽を味わえた事は彼女にとって非常に大きな感動であり、喜びであった。

しかし、魔力で無理やり感じさせられた上に、人間にいいように身体を弄ばれたというのはリルの淫魔としての自尊心を傷つけた事は確かであり、素直に良かったと認める気にはなれない。

まあそう拗ねるな。何も無為にお前を弄んで楽しんだという訳ではない。これも大きな目で見ればダンジョン作りの一環だ

なんでこんなのがダンジョン作りの一環になるのよ

ようやく体力が少しは回復し、リルは上半身を起こす。

ダンジョンコアは龍脈から魔力を汲み取る。溜まっている量も汲み取る速度もまだ大した量ではないが、体力を回復させる程度の術であれば無制限に使える程度ではある。魔力で体力を補いながらならば、半永久的にお前とまぐわっていることも可能だ

Olは自身の異常な体力の種明かしをした。肉体の状態を数刻前に戻し、体力を回復する。衰えれば、再び数刻前に戻す。そうすることで、無限の精力を得ていたのだ。大量の魔力を消費する術ではあるが、若返ることに比べれば造作もない。

が、それもこの迷宮内、ダンジョンコアのすぐ傍でだけの事だ。およそ30フィート以内。その距離にいなければ俺はコアから魔力をとり出す事は出来ん。そこで、だ

Olはリルの頭にぽんと手を置き、短く呪文を唱える。すると、魔力がリルの体内からOlへと吸い込まれ、次に瞬く間にリルの身体に活力が戻り、ついでに身体に付着した精液が吹き飛んだ。

このようにお前の身体に俺の魔力を精と共に仕込んだ。お前は悪魔だから、並みの魔術師の数倍は魔力を溜めておけるな。移動できる小型のダンジョンコアのようなものだ

ピクリ、とリルのこめかみが引きつるように動くのに、しかしOlは気付かない。

今後、ずっとダンジョンに篭っているわけにもいかん。が、俺の魔力だけではどうしようもないからな。しかし流石悪魔だな、許容量一杯まで魔力を溜めるのに一晩かかった。まあこれだけ溜めれば当分は大丈夫だろうが

ふざけるなあっ!!

Olの言葉を遮り、リルは叫ぶと拳を振り上げた。

あーもうこの馬鹿殴りたい!契約で危害加えられないから殴れないけど、すっごい殴りたい!

な、何故怒る!?

Olとしては必然性を説く事でフォローしたつもりだったのだが、その説明は火に油を注ぐものでしかなかった。ちょっと拗ねた、程度だったリルの感情は完全に怒りに燃えている。

男を誘惑し、情を交わすことが種としての存在意義と言ってもいい淫魔に対し、一方的に身体を蹂躙した挙句、ただ魔力タンクとして必要だったから、などと言い放ったのだ。リルにしてみれば存在自体を全否定されたに等しい。

煩い、このイ○ポやろー! あんたなんかゴブリンでも犯してなさいよ!このダンジョン馬鹿、若作り爺!

リルはひたすらに罵詈雑言をわめき散らした。契約で悪態は制限されていなかったからだ。

人間に対してこんなに怒りを抱くのも、悪魔として生まれて初めてのことだった。

第2話近隣の村を襲撃しましょう-2

と言うわけで、これからあの村を襲撃する。いい加減機嫌を直さないか?

Olにとっては数ヶ月ぶり、リルにとっては前回人間に召喚されたときから数えて数十年ぶりの、地上。遠くに見える小さな村を指差し、Olは相変わらずへそを曲げたままのリルにそういった。

別に機嫌悪くなんてない

明らかに機嫌の悪い声色で答えるリルに、Olは内心ため息をつく。

流石にOlも自分の行為ではなく発言が悪かったのだろうとは気付いていたが、だからといって機嫌を直すような気の利いた言葉は思い浮かばなかったし、盛りのついた若い男じゃあるまいし、小娘の機嫌を取るのも馬鹿馬鹿しいのであまり気にしないことにした。

見た目も言動も若い娘とは言え悪魔は悪魔だ。機嫌で仕事の質を左右されるようなことはあるまい。

では、改めて確認をしよう。俺はある程度魔術を修めてはいるが、その研究の大半はダンジョンコアに費やされたものだ。魔力の取り扱いについては世界でも有数である自負はあるが、戦闘経験は殆どないし荒事には向いていない。ただの村人に負けるようなことはなかろうが、ある程度の腕を持った剣士でも出てくれば少々辛い。つまり、お前だけが戦力という事だ。頼んだぞ

いいわ、皆殺しにしてやる!

凶悪な目つきをしながら唸るようにリルは答える。八つ当たりされる村人達に若干の同情をしつつ、Olは彼女を伴い、村への入り口へと向かう。

村の入り口には魔除け代わりの怪物の石像と、村娘らしき女がいた。

よし、じゃあまず一人目ってけふっ!

Olは早速襲い掛かろうとするリルの首根っこを掴み制止する。

なにすんのよ!と抗議するリルを無視し、村娘に伝える。

そこな娘よ。ここに長を連れて来い。邪悪なる魔術師、Olが貢物を要求しに来たとな。逆らえば死のみが待っていると知れ

はあ?

いきなりの尊大な物言いに、娘は怪訝な表情を浮かべる。

まるきり気の触れた人間を見るような目だ。

Olは短く呪文を唱えると、炎の球を掌に浮かべ、村を囲む柵に向けてはなった。

炸裂音が響き、粗末な木製の柵が粉々に飛び散る。そのまま別の柵に燃え移り、もうもうと黒い煙を吐き出した。

二度は言わぬ。村全てを灰塵に帰したくなければ急げ

Olが低い声で言うと、女は飛び上がるようにして村の奥に駆けて行く。

めんどくさいなー。問答無用で皆殺しにしちゃえばいいんじゃないの?

リルが不服そうに物騒なことを言う。

殺さない方が使えるからな。とは言え、逆らうなら容赦はせん。そしてこの村は、逆らうだろうな

何でそんな事わかるの?

まあ見ていろ

ニヤリと笑うOlに、リルはなにやら嫌な予感を覚える。

暫くして、村長と思しき壮年の男が杖をついてやってきた。

年齢は40過ぎ半ば。茶色い髪のガッシリとした体格の男だ。

お待たせしました、Ol様。何でも、貢物をご所望との話ですが

ああそうだ。こちらの要求を呑めばよし、呑まぬならばこの村には灰になってもらう事になる

それはそれは恐ろしい勿論、おさめさせて頂きます

村長は頭を深々と下げ、祈りを捧げるように杖を両手で掲げた。

鉄の剣で良ければなッ!

その杖が半ばから二つに分かたれ、中から現れた白刃が煌めいた。仕込み杖だ。

杖を引きぬくと同時に流れるように間合いを詰め、村長はOlの首を狙う。

完全に虚をついた、必殺の一撃。しかし、それをOlは難なくかわした。

チッ、かわしたか

リル、俺を守れ

契約に基づいた命により、リルはOlを庇うように前に出る。それとほぼ同時に、村長の背後にも民家の影からわらわらと武器を持った男達が出てくる。

ちょっと! どういう事よ!?

端からこちらに従う気などなかった、と言うことだ。とは言え、芝居が下手だな。お前の様な50にもならん男が杖をついて歩いては、折角の暗器がバレバレだろうが

前半はリルに、後半は村長に向けOlが言う。

ご忠言痛み入る。次からは気をつけるさアンタを殺した後でな!

村長が剣を振るい、リルに襲い掛かる。リルは爪を剣の様に長く伸ばし、それを辛うじて受け止めた。

Ol、こいつ強い! あたしじゃ敵わない、逃げよう!

駄目だ

何とか剣を爪でいなしながら、リルはOlにだけ聞こえる声で囁くが、返ってきたのは拒否の言葉だった。

今は何とか凌いでいるが、村長の背後から走ってくる男達が加勢に加わればリルでは防ぎきれない。そもそもサキュバスは戦闘向きの悪魔ではないのだ。

それでも中位程度の格はあるからちょっと剣をたしなんだ程度の敵なら相手できるが、この村長は明らかに手だれといっていい腕だ。

キィン、と澄んだ音が鳴り響き、リルの爪が半ばから両断される。

じゃあな、悪魔の嬢ちゃん。恨むなら馬鹿な主人を恨みな。すぐに同じところに向かわせてやるからよ

村長が剣を振りかぶる。

今だ、殺せ

そして、灰色の腕がその胸から生えた。

え?

リルが呆けたように声を出す。その場にいた誰もが状況を把握できず、呆然と動きを止めた。

生えたのではない。村の入り口に合った守護像が動き出し、村長の胸をその腕で貫いたのだ。

村長は声をあげる暇もなく絶命し、地に倒れる。

後は戦闘の訓練も積んでない有象無象だ。任せたぞ、リル、ガーゴイル

呆然とする人々を置いてOlはその場を立ち去る。

その後は、一方的な虐殺が始まった。

ねえ、いつの間にガーゴイルなんか置いたの?

数十分後。動く者のいなくなった村いや、村の跡地で、リルはOlに尋ねた。

石像を魔力で動かしたのかと思ったら、あれ本物のガーゴイルなのね。びっくりしたわ

ガーゴイルとは、ある意味で最も有名な悪魔の一種だ。翼を持った見るからに悪魔然とした醜悪な外見を持つ悪魔だが、最も特徴的なのは動いてないと石像と区別がつかない、と言うところにある。

その為、ガーゴイルを模した石像が多数作られ、盗賊への脅しや魔除けの像として扱われている。もし本物だったらどうしようと思うだけで、ある程度の抑止効果があるのだ。だがまさか、村長も自らの村を守っているはずの像に殺されるとは思っても見なかっただろう。

あれを置いたのは大体30年前だな

は?

思ってもみなかった答えに、リルは思わずあんぐりと口を開く。

この近辺に龍脈があることは50年も前には気付いていたから、足掛かりにする為に行商のフリをして売りつけた。なんと精巧なガーゴイル像なんだ!と喜んで買っていったよ。当然だ、本物なのだからな。そして、そのガーゴイルを通じて今の村長の実力や気風は知っていた。あいつは元冒険者で、昔はそこそこ名の知れた剣士だったそうだ。素直に従う訳がないから、殲滅し易いように集まってもらった訳だ

なるほどね本当、あんた嫌になるくらい周到で狡猾ね

誉め言葉と受け取っておこう

笑みを返しながら、Olは魔術の準備を終える。それは巨大な魔法陣だった。

村の中央に描かれた円形の陣の上に、村人達の死体が累々と積み上げられている。

さて、始めるか。この数は少々億劫だ。魔力を貰うぞ

言うや否や、強引にリルを抱き寄せ唇を奪う。リルは少し嫌そうにするが、抵抗はしない。

一応いっておくが、魔力を取り返すなら手を握るだけでもいいからな

あーそーですかー

どうでも良さそうに言葉を返すが、視線をこちらに寄越さないという事はまんざらでもなかったのだろう。

ようやく多少は機嫌が直ったか。面倒な事だと内心思うが、Olにとって意外な事に、それは思ったほど不快な事でもなかった。

Olは口付けが最も効率よく魔力を取り返せる、という説明はしないことにして、魔法陣に向き直り、居住まいを正すと、長い呪文の詠唱を始めたのだった。

第3話定期収入を手に入れましょう

さて、これで一応の戦力が整ったな

目の前に立つ老若男女を見、Olは頷く。年齢も性別もバラバラなその集団は、やはりバラバラに剣だの棒切れだの農具だの、武器になりそうなものを手にしている。

共通しているのは唯一つ、皆死体であることだけだ。

彼らはいわゆる動く死体(リビングデッド)であり、Olの魔力で仮初の命を吹き込まれた生ける屍である。

あなた、本当に他人を信用してないのね

周りを見渡し、リルは呟く。ガーゴイルは契約によってOlに完全服従を強いられている。命令されたことだけを忠実にこなし、命令されていない事はけして出来ない。中級以下の悪魔と契約する時には良くある種類の契約だ。

死体達はそもそも自我さえ存在しない。Olの魔力によって動いているだけの操り人形だ。

唯一自由意志を持っており、ある程度自分の意思で動けるリルも、やたらに細かい契約によって出来る事は限られている。

その徹底した対応に、過去に何かあったのだろうとリルは当たりをつけたが、それに対して詮索はしない。

Olの事を慮ったのではない。契約に過去を詮索しないという条項があったからだ。

では、次の村に行くか

リルの呟きが聞こえなかったのか、それとも聞こえたが無視しているのか。

Olは呟きに答えることなくそういった。

次? まだ村を襲うの?

この村にあった食料や金品はそれぞれもてるだけ死者達に持たせてある。それほど豊かな村ではないとは言え、冬が近いせいか膨大な量だ。リルは食事はできるものの必要ではないし、Ol一人なら十分すぎる量がある。

いいや、むしろここからが本番だ

ニヤリと笑みを見せるOlに、リルは額に手を当てる。まだ丸一日程度の付き合いだが、この笑みを見せる時のOlは大体ロクでもない事を考えている時だとわかってきたからだ。

ピシャアアアアッ!!

空間自体が破裂するかのような独特の轟音と共に、稲妻が地面を焦がす。

天気は雲一つない晴天。雷どころか雨さえ降りようのない状態で落ちた稲妻は、Olの魔術によるものである。

魔力を食う割には攻撃範囲も狭く、威力もそれほど高い訳ではない。生物を殺すには十分であるが、石や岩といった無生物には殆ど効果がないのだ。そんな使い勝手の悪い魔術であるが、相手をただ脅すのにはかなり有効な術だった。

突然の雷鳴に驚き、村人達が何事かと家から出てくる。そこで目の当たりにしたのは、真っ黒なローブに身を包んだ怪しい男と、申し訳程度の衣装に身を包んだ女、そして、血だらけの軍勢だった。

良く聞け。我が名は邪悪なる魔術師、Ol

さっきも思ったんだけど、邪悪なる魔術師って自分で自称するのはどうなの?

うるさい。こういうのはわかりやすい方がいいんだ

小声で突っ込みを入れるリルに、やはり小声で言い返す。

今日は貴様らに取引を持ちかけに来た

とりあえずOlは、すぐ目の前にいる一番年かさの男に向けて話を進める。

と、取引ですか?

先ほどの村に比べ、こちらの村はかなり及び腰だ。前の村の村長の様な手だれがいない事もあるが、Olの背後に控えるアンデッド達の存在も大きい。

そうだ。我に月に一度食料を、そして年に一度美しく清らかな乙女を捧げよ。さすれば、我が祝福を汝らに与えよう。作物は凶作に見舞われる事なく、狼も小鬼も盗賊も汝らを脅かす事はなくなるだろう

リルが意外そうな顔をするが、それは無視する。

そのもし、取引に応じなかったら?

恐る恐る尋ねる村人に、Olは軽く手をあげる。その合図と共に、背後の死者達が数歩前に出た。

この者たちは、取引に応じなかった愚か者どもだ

ゲオルグさん!

中でも村長だったものの顔を見て、村人たちの何人かが声をあげる。

あのオッサン有名人だったんだね

あの程度の規模の村にしては破格の腕だ。さもあろう

Olはリルの呟きに答えてやる。

我に敵対するならば、待つのは死などと言う生ぬるいものではない。果て無き永遠の苦役だ。しかし、取引に応じるならば汝らは百年の豊穣を得よう。差し出す食料よりも豊かな実りを。差し出す娘よりも多くの身の安全を約束しよう。さて、汝らが長は賢き者か? それとも愚かなる者か?

村人達は顔を見合わせたが、答えは大体決まっているのだろう。

さほど揉めた様子もなく、彼らはOlに恭順を誓った。

良いだろう。ならば村の中央に祭壇を作り、毎月一の日に供物を捧げよ。供物は牛を一頭、豚を二頭、鶏を五頭。作物はその月に取れた種類全てを、五分ずつ捧げよ。娘も同様に、竜の月の一の日に祭壇に待たせよ。良いか、娘は美しく、男をまだ知らぬ清らかな乙女でなくてはならん

ほんっと細かいなあ

ぼそりとリルが呟くが、これはまた無視。

その後、監視と護衛の為にガーゴイルを村の中央に置き、田畑に豊潤の呪いをかけ、祭壇の作り方について簡単に指示を残すと、Olは死者達とリルを連れて村を後にした。

ふうここに戻ると落ち着くな

その後数日をかけて近隣の村をいくつか回り、同様の契約を結んだ後Ol達はダンジョンへと戻ってきていた。

結局最初の村以外は抵抗するものもなく、全部で6つの村と契約した。多少遠い村もあるが、ダンジョンコアの魔力を用いて転移の術を使えば問題ない。村人たちに作らせた祭壇は転移の術の目印でもあった。

滅ぼした村から持ち込んだ家具で殺風景だった一室も随分落ち着いた空間となり、Olはソファにゆったりと身を沈めた。

でも、ちょっと意外だったな。てっきり全部滅ぼして奪いつくすのかと思ってたから。逆に魔力を分け与えて、生活を保障してあげるなんてね

実際そうしたところで良心の呵責を覚える訳ではないが、ある程度村人たちの事も気遣ってやるのはリルにとっても好ましい事だった。悪魔といえども、別に破壊と殺戮の化身と言う訳ではない。

そんな事をすれば幾つ村があっても足らんからな。人間が家畜の世話をしてやるのと同じだ。奴らが飢えて死に、生活も出来なくなれば、こちらにも実入りがなくなる

ああ、なるほどね

家畜と同じ、という説明はリルにとってはしっくり来た。悪魔から見た人間はちょうどそんな感じの存在だからだ。自分にとって益になる存在だから無闇に殺すのは気が進まないし、無抵抗のものを殺すのには若干の抵抗を覚えるが、自分に牙を剥くものであれば殺す事に何のためらいもない。

Ol、あなた本当に悪魔以上に悪魔みたいね

誉め言葉と受け取っておこう

多少憮然とした表情でOlはソファから腰を上げ、ベッドへと移動する。

まだまだやらねばならん事は山積しているが、とりあえずは一仕事終わったな。今日はそろそろ休むとしよう。来い

当分は必要ないんじゃなかったの? それにどうせ、すぐ若い娘が来るんでしょ

そういいつつも、命令は聞かない訳にはいかないのでリルはベッドに近づく。

やれやれ、まだ臍を曲げているのかと、Olは内心嘆息するが、表情には出さない。

最初の娘が来るのは2週間後だな。まあ、抱く為だけに処女を要求した訳でもないが

ベッドに横たわったまま腕を強引に引っ張り、Olはリルを腕の中に収めた。

契約した村は6つ、それぞれ娘を捧げる月をずらしたので、2ヶ月に一度は新しい娘が届く事になっている。

お前に溜まっている魔力はまだ十分だがな、こちらにも溜まったものはある。それに情交の為にだけ存在するお前達夢魔より抱き心地のいい人間など、いる訳がないだろう

慣れないリップサービスを口にすると、リルがニヤニヤしながらOlの顔を見ていた。

リップサービスと言っても事実ではあるが、言わなくていい事を一々言わされているというのはOlにとっては若干の屈辱でもある。

それに、魔力で出来ているお前の身体は、魔力を注げば僅かずつだが容量も増える。そもそも容量自体が人間とは段違いなのだ。これからも頻繁に相手をしてもらうから、覚悟しておけ

はぁい、ご・主・人・様

耳元でくすぐる様に囁くリルを押し倒しながら、Olはもう一度心中で嘆息した。

全く、面倒な悪魔をパートナーに選んでしまったものだ。

リルも、似たような感想をOlに対して抱いている事には気付かないまま。

第4話迎撃準備を整えましょう

はぁ気持ちよかった

まるでひだまりの中でまどろむ猫の様に弛緩しきった表情で、リルはごろんとベッドに横になった。股間の穴からはごぽりと白濁した液が零れ落ち、前回よりも更に全身精液にまみれているが、前回と違って身体が動かない程疲労はしていないようだった。

随分と余裕そうだな。魔力が効かなかったか?

そういうわけじゃないよ。何回もイカされたし

言いつつも、リルは体勢を変えると綺麗にするねーと呟き、Olのものを口にくわえる。

ただ、下手に抵抗せず受け入れたら大分楽だったかなそれに、前と違ってベッドの上だったから体勢とか気にしなくて良かったし

舌を伸ばしてOlの一物を舐めあげながらも、リルの言葉は明瞭にOlの耳へと伝わる。サキュバスにとって舌や口は発音器官ではなく、口淫の為に存在するものなのだそうだ。

あは、おっきくなってきたえっと、それにOlが精と一緒に魔力を私の中に入れてるでしょ?生気は許可がなきゃ吸っちゃ駄目って契約にあるから吸ってないけど、魔力はちょっとだけ吸っちゃったんだ。それで大分体力楽かも

なんだと?

横たわったままリルの奉仕に身を任せていたOlだが、その言葉に思わず上半身を起こす。

ちょ、ちょっとだけだよ!? 契約にないからってその辺はちゃんとわきまえて

慌ててリルは弁明する。そうしつつもOlの股間から口を離さないのはさすが淫魔といったところか。

普通、他人の魔力と言うのは悪魔でもそう簡単には吸えん。魔力、魔力と一括りに言ってはいるが、大気や地面に散らばるマナと、生物の持つオドでは性質がまるで違う。ダンジョンコアで集めているのも、お前の中に放っているのも俺専用のオドだ。俺以外がそれを扱うには、一度マナまで戻してから、自分専用のオドにせねばならんはずだが

あー、なるほどね。なんか私とOlの魔力って性質近いみたいで、そのまま吸えたよ。こういうの、相性いいって言うのかな?

事も無げに言いながら、リルは仕上げとばかりに喉の奥までOlの一物を飲み込み、舌を絡ませる。

俺の魔力は琥珀色だぞ? 普通、悪魔の魔力は黒とか紫とかだろうがく、出すぞ!

ん、美味しいOlって性格は悪いけど、精はすごく美味しいよね

こくこくと喉を鳴らして精液を飲み下し、更にストローの様に吸い上げながらリルは満足そうな声をあげる。

余計なお世話だ。まあ魔力を共用出来るなら、それはそれで使えるな。お前に注ぎ込んだ魔力のうち、1割程度なら自分の物にしていい

Olは汗や精液、愛液に塗れたベッドから身を起こすと、軽く濡れた布で身体を拭い、服を着込む。

そのうち湯殿なんかも用意せんとな。が、今は先にやらねばならん事がいくつかある

Olはリルを呼んだ時と同様に血で魔法陣をいくつか描く。と言ってもリルを呼んだそれとは違い、かなりシンプルなものだ。

一応ダンジョンが出来て、家具も揃って、定期的に食料とかも手に入って他に何かやる事あるの?

とりあえずベッドのシーツを剥ぎ取り、予備の物に交換しながらリルが尋ねる。

馬鹿を言うな、やる事はまだまだ無数にある。これだけでいいなら、わざわざお前を呼んだりはしない。いでよ、インプどもよ!

Olが一喝すると、魔法陣から小さな悪魔が数匹湧くように現れた。人間の赤ん坊くらいの大きさしかないその悪魔は、しかし赤ん坊の持つ可愛らしさとは無縁の生き物だった。全身はつるりとして毛は全くなく、背中にはコウモリを思わせる翼が生えている。耳は禍々しくとがり、顔は醜悪で邪な笑みを浮かべていた。

最も位の低い悪魔の一種だが、それでも悪魔は悪魔。簡単な魔術くらいなら使用し、人並みの知能も備えているので魔術師に使い魔としてよく使用される。

まず、このダンジョンを大きく拡張せねばならん。インプどもよ、この地図の通りにダンジョンを掘るのだ

Olはあらかじめ用意しておいた地図をインプたちに渡して指示する。インプたちはすぐさま作業に取り掛かった。

ダンジョンの拡張には二つの意味がある。侵入者対策と、収集する魔力量の増大だ

汚れたシーツのやり場に困っているリルからシーツを奪い、代わりに地図の写しを押し付け、Olは説明する。

今、このダンジョンは地上への穴からこのコアのある部屋までほぼ直通の道が通じている。ここを掘り当てる為に、俺が真っ直ぐ掘ったからな。これでは侵入者がいた場合、すぐにこの部屋を攻められる事になるが、これは非常にまずい。ダンジョンコアが壊されればすべては終わりだ。そう簡単に辿りつけぬ様に、ダンジョンは複雑な迷宮にしてやる必要がある

そもそもこの部屋にはいれないように、壁で囲っちゃえばいいんじゃない?

素朴な疑問を口にするリルに、Olが首を横に振る。

それが出来んのが二つ目の理由だ。このダンジョンは龍脈の真っ只中に存在しているが、そこにコアを置けば勝手に魔力が溜まるという訳ではない。ダンジョンの通路に魔術的な彫刻を施し、周辺の魔力を通路を通してコアへと流し込むようになっている。ちょうど、植物が根を伸ばし、地中の養分を取り込む事に似ている。ダンジョンを広げれば広げるほど、大量の魔力がコアへと流れるというわけだ。コアを隔離すればそれも適わん

あー、なるほどね。ダンジョン自体が立体的な魔法陣みたいになってるんだ

飲み込みが早いな。みたいなではない。実際、これは魔法陣なのだ

図や模様には意味があり、意味には力がある。

魔法陣とは、模様の意味を利用する魔術の一種だ。例えば、円には内と外の区別という意味があり、円だけで進入を拒む最小の魔法陣となる。

Olが作ろうとしているのは、それを途方もなく発展させたものだった。壁に魔法陣を掘りこみ、さらにその壁自体も全体を見渡せば魔法陣となる。

更に、通常の魔法陣とは違い平面的なものではなく、地下のダンジョンで作る事で立体的な魔法陣を構築するのだ。

へー器用な事考えるのね

何を他人事の様に言っている?

地図を見て感心するリルに、Olは呆れてため息をつく。

お前を呼んだのは性欲の捌け口の為だけではないぞ。この設計も、お前にやってもらうのだ

はあ!? 無理無理無理無理、絶対無理! これってあれでしょ?魔力を澱まない様にちゃんとコアに届けつつ、侵入者には予測できないような迷宮にしなきゃいけないんでしょ!?

ついでに、迷宮全体に防衛効果を持たせたり、魔物どもが暮らし易い様、部屋の数や大きさにも気を配る必要があるな

更に難易度上がってるじゃないの!? 絶対無理だってば!

心配せずとも、一朝一夕にやれとも一人で全てこなせとも言わん。俺の元で学び、小さい単位から徐々に仕事を学んでもらう

地図を改めて見返し、リルは眉根を寄せる。悪魔は人間と違って理論に従って魔術を使っている訳ではない。しかし、基礎的な魔法陣の意味くらいは読み取れる。

Olが設計したそれの緻密さは、彼女の目から見ても途方もないものだった。

まさか魔術の勉強をさせられるとはねそりゃまあ契約だからやるけどさ、あんまり期待はしないでよね?

これを見て困難さを理解できているなら、問題ないだろう。知とは何を知っているかより、何を知らぬかを理解している事の方が肝要なのだ。お前ならいずれ出来るだろう

真っ直ぐ見つめて言うOlに、思わずリルは視線をそらす。

まあ、やるだけはやってあげるわよ、使い魔だし

Olは頷き、ニヤリと笑みを浮かべるとぽんとリルの両肩に手を置く。

では、まず簡単な練習から始めようか

この笑みはと、リルが気付いた頃には、もう遅かった。

うう、臭い

リルは壮大に顔をしかめながら、ごりごりと小刀を動かす。

ぐにゃりとした嫌な感触と、べとべととした血や脂が手を汚し、全身酷い有様になっている。

彼女は動くしかばねとなった元村人達から、肉を剥ぎ取る作業の真っ最中だ。

あまり骨を傷つけるなよ。肉はしっかりと取り除け、つけばつくだけ邪魔になるからな

こんなの燃やしちゃえばいいんじゃないの!?

駄目だ。燃やせば骨も脆くなって使い物にならん。良質なスケルトンを作りたければ、やはり手で肉を取り除くしかない

リルに課した勉強のその一は、スケルトンの作成だった。

リビングデッドは死体さえあれば簡単に作れるが、動きは鈍くあまり強くない。

幾らダンジョンを複雑な迷宮にしても、そこを守るのがこれでは何の意味もない。

肉を全て取り除き、骨に呪文をかけた動く骨であるスケルトンもそれほど強い訳ではないのだが、それでもリビングデッドよりはかなり動きが早い。

死体の筋肉は機能しない為、ついていてもただの重りにしかならないのだ。勿論、防具の役割はするのでリビングデッドに比べれば耐久性に若干の難はあるのだが、そもそもリビングデッド自体たいして耐久力があるわけではない。

人間並みの速度で動けるスケルトンの方が防衛に向いているのは明白だった。

肉を取り除いたら、骨に魔法陣を彫り、動くようにしろ。関節部分に魔力を流す様に掘るのだ。擬似知覚をつけるのを忘れるなよ、めくらのスケルトンを作っても仕方ないからな

死体の肉を綺麗に剥ぎ取って骨だけにし、魔法陣を彫り、次の死体に取り掛かる

死体は小さな村だったとは言え数百体はいる。

では、俺は別の仕事に取り掛かるからな。サボらず作業を続けておけよ

ちょっ、待っちょっとくらい手伝いなさいよこの馬鹿主人ーーーーーっ!

暗い洞窟に、リルの叫び声が響いた。

第4.5話ダンジョン解説

第4話終了時点でのダンジョン。

階層数:1階層

瘴気:1

悪名:1

貯蓄魔力:7(単位:万/日)

消費魔力:2(単位:万/日)

寝室LV1

村から強奪してきた家具で一応寝室としての体裁を整えた部屋。

セックスしても身体が痛くならない。

キッチンLV1

村から強奪してきた食器や調理器具で一応台所としての体裁を整えた部屋。

料理は主にOlが作る。

水洗トイレ

邪悪なる魔術師といえども食事をすれば出すものは出す。地下水脈を発見したので、それを利用して水洗トイレを作った。流れる、というか流れっぱなし。落ちると生命が危うい。

ガーゴイル

戦力:5消費魔力:0.1

石像のような姿をした悪魔。悪魔としては下級から中級程度に分類されるが並みの魔物よりはよほど強い。頑強な肉体と自由に宙を飛びまわる羽、鋭い爪で戦う。魔術は使えない。

動く死体(リビングデッド)

戦力:2

村人の死体に魔術をかけ、動かしているもの。10体程度単位でこの戦力。雑魚といっていい。

インプ

戦力:1消費魔力:0.01

悪魔の中でも下級中の下級。契約とか深く考えずに魔力で幾らでも従えられるのだけが強み。ごく簡単な魔術を使えるが、ぼんやり歩いている人間を転ばせる、とか馬を驚かせる、程度の悪戯レベルでしかないので、戦力には数えられない。

ダンジョンコア周辺にいくつか部屋が出来たが、まだ防衛設備は殆どない。リビングデッドは一部が入り口付近で見張りをしているものの、大半はリルが突貫作業でスケルトンに改造中である。

第5話愚かな侵入者を捕えましょう

オ~ウ~ル~

地獄の底から響くような声をあげ、よろよろとリルが姿を現す。

その身体は全身血塗れで、凄まじい異臭を放っていた。

どうした。仕事は終わったのか?

終わったわよっ! ああもう体中どろどろで気持ち悪いったら!

振り向きもせず問うOlに怒鳴り返すリル。すると、Olは意外そうにリルに視線を向けた。

もう終わったのか。思ったより早かったな

Olがリルにスケルトン作りを命じてから、既に三日が経っていた。

数百体はある死体の肉を削ぎ、骨に魔法陣を彫ってスケルトン化する作業だ。

途中で作ったスケルトンに手伝わせる事に気付いたとしても、一週間はかかるだろうとOlは見ていた。

なんかゴブリンが沢山迷い込んできたから、魅了して手伝わせたの。それよりこれ何とかしてよ

リルは血と脂でどろどろになった身体を示していった。

ゴブリンと言うのは、身長4,50cmほどの小さな鬼の一種だ。見かけは醜悪で力も弱いが、大勢で群れるし手先は器用なのでそういった手伝いには確かに最適だろう。

そちらも思ったより早いな。いいだろう、こっちについてこい

いつもみたいに魔力で吹き飛ばしてくれればいいんだけどって、何これ!?

ぶちぶち言いつつもOlの後をついていくリルは、眼前に広がった光景に目を見開いた。

10m四方ほどの大きな部屋の中央には大きな穴が掘られ、そこにはなみなみと水が満たされていたのだ。

地下水脈を見つけてな。ここに引いてみた。少し待ってろゴーレム! 岩を水の中に入れろ!

Olが命じると、部屋の片隅に鎮座していた石の像がゆっくりと立ち上がる。

ガーゴイルに似ているが、存在としてはむしろリビングデッドの方が近い。Olの魔力によって仮初の命を与えられた岩の人形、ゴーレムである。

ゴーレムは部屋の隅で盛大に焚かれていた炎の中に手を差し込むと、赤く焼けた大きな岩を取り出した。人間であれば重篤な火傷は免れ得ないところだが、岩で出来たゴーレムには何の影響もない。

そして、そのまま赤く焼けた岩を人工の泉の中に放り込む。じゅわっ! と音がして湯気を立てながら、岩は泉の底に沈んでいく。2,3放りこむと、泉の水はちょうど良い温度になった。

赤く焼けた岩はそうそう冷たくなる事はない。が、泉の水は少しずつ水源から流れて来る水と徐々に入れ替えられるので熱くなりすぎる事もない。ここ数日でOlが調整し作った自慢の湯殿だった。

お風呂作ってくれたんだ

胸の前で手を組み、リルは感激に目を輝かせた。Olは別にお前の為じゃないという言葉を飲み込む。実際、リルが仕事を終えるのはもっと後になるだろうと思っていたのだから、リルのためであろうハズが無いが、一々いう事でもない。

まあな。ゴーレム、新しい岩を焼いておけ。さて、では入るとするか。先に桶で身体を洗い流せよ

あれ? Olも入るの?

桶を受け取りながら、リルは尋ねる。

ああ。悪魔とは言え、三日も飲まず食わずで疲れただろう?

Olの意味する所を理解し、リルもにっこりと笑う。

じゃあお湯とお食事、頂きまーす

数分後、大きな部屋に嬌声が響き渡った。

はー気持ちいー

ゆったりと湯につかりながら、満足そうにリルは呟く。

彼女は汚れを湯で洗い流した後、Olからたっぷりと精を注がれ、今はのんびりと湯の温度を楽しんでいた。

そういえばゴブリンが来たと言っていたな。仕事を手伝わせた後はどうした?

湯に入ってリラックスしているのか、こちらもいつもよりほぐれた表情でOlが尋ねる。

そういえば、会った頃からどこかギラギラとした、張り詰めた表情だったな、とリルは思う。焦っているというわけではないだろうが、Olは意識していかめしい表情を作っていた気がする。

湯につかり、リラックスしているOlはどこにでもいる若者の様に見えた。

と言っても、中身は70を遥かに越える老人なのだが。

リル?

あ、うん、えっと、魅了が解けたらなんか入り口の方に巣みたいの作ってたからそのままにしといたよ

訝しげに名を呼ぶOlに、リルは慌てて答える。

そうか、ならばそれでいい今後も、このダンジョンが持つ瘴気や魔力に誘われて、妖魔や魔獣の類が迷い込んでくる事はあるだろうが、基本的に放置して構わん。コストのかからぬ外敵への供えになる

結構あることなの?

リルの問いにOlは頷く。

元々ゴブリンは、洞窟の様な暗い場所を好んで巣を作る。ゴブリン以外にも、妖魔には闇を好む者が多い。血が流れれば瘴気も溜まる。屋外と違って風や雨で散らんからな。瘴気が溜まれば、魔に属する者にとっては居心地のいい場所になる。そうすれば魔獣の類もよってくるし、高位の悪魔も呼び出せるようになる

あー言われてみれば、ちょっと身体が軽くなってるかも

死体を大量に切り刻んだからな。もっと瘴気が濃くなれば、怨霊の類も発生するし、死者が勝手に動き出す事すらある。これだけのダンジョンを用意してやれば、労せずともある程度の守衛は手に入るのだ

なるほどねえ

内心、リルは苦笑する。先ほどまで弛緩していたOlの表情はすっかり元に戻り、口元には僅かながら笑みが浮かんでいる。ダンジョンの仕組みを語る時の彼の表情はいつもこうだ。

更に

Olが言葉を続けようとしたその時。

聞き覚えのない、ジリリリリリ!というけたたましい音が鳴り響いた。

何これ!?

侵入者だな

Olの表情が、更に引き締められた。

侵入者ってどういう事!?

急いで身支度を整え、ダンジョンコアへと向かいながらリルはOlに問う。

恐らく、冒険者だろう。契約をした村のどれかから依頼され、俺を殺しに来たのだろうな。それが警報の罠に引っかかったんだ

迷宮の入り口には、Olの魔力で罠が張られていた。

スケルトンの配置は?

この前渡された地図に、骨のマークがあったからそこに平等に割り振っておいたけど

よし、上出来だ

ぽんぽん、とOlはリルの頭を軽く叩く。初めて受けるストレートな誉め言葉に、リルは思わず頬を赤くした。

今この迷宮にいる守衛は、ゴブリンとスケルトンの他には、ヘルハウンド4匹、ゴーレム2体、インプ382匹だ。インプは戦いの数に数えられんが、初級から中級の冒険者なら十分撃退できるはずだ

リルの様子は気にもせず、Olはダンジョンコアに辿りつくと魔力を取り出す。そして、コアに流れ込む魔力を通じて、ダンジョン全体に感覚を広げていく。そうする事で、Olはダンジョン全体の様子を手に取るように見る事が出来た。

中級の冒険者ってどのくらい?

この前の村長が、中級の中でも上位くらいだ

Olの言葉に、リルは少し青ざめる。中級一人で防戦一方、奇襲で何とか倒したのだ。中級が数人いたり、上級の相手だったらどうにもならない。

いた! スケルトンと戦闘中かしかし、これはなんだと!?

Olが珍しく焦りの色を滲ませる。彼の見ている光景が見えないリルは余計に不安に駆られた。

ど、どうしたの?

スケルトン10体が一撃だ。しかも、相手はたった一人。コイツは上級だな

ダンジョンコアから手を離し、Olは壁に立てかけてあった杖を手に取り、浴室のゴーレムを呼び寄せる。

恐らくヘルハウンドも相手にならんだろう。ここで相手をする事になる。相手は魔法剣士だ。ゴーレムとお前で抑えている間に、俺が魔術を叩き込む

わかった

神妙に、リルは頷く。リルは一刀の元に屠られるだろうが、どうせこっちの身体は仮初のものだ。死んでも魔界に戻るだけだから問題ない。

もし勝てたらさ、また呼んでよね。まだまだやる事は山積してるんでしょ?

勿論だ。来るぞ!

Olの声に応えるように、通路から一人の女が姿を現す。赤い髪をポニーテールにした、16,7の少女だ。とてもそんな凄腕には見えなかったが、纏う迫力は間違いなく彼女が相当の実力者であると語っていた。

君が、邪悪なる魔術師Ol?

ゴーレムとリルの奥に控えるOlに剣を向け、少女が問う。Olは答えず、呪文の詠唱を始めた。

沈黙は肯定、っと。いくよ!

小さく呟いた刹那、少女は凄まじい速度で駆けた。迎撃しようとリルが爪を長く伸ばし、ゴーレムが腕を振り上げる。が、少女の動きに対して、それはあまりに遅すぎた。少女は疾風の様にゴーレムとリルの間をすり抜け、一瞬にしてOlの前に迫る。

しまっ!

振り向いたリルがみたのは、少女の剣によって刎ねられ、宙を舞うOlの首だった。

首の切れ目から鮮血がほとばしり、首が地面に落ち、ごろごろと転がる。

一瞬遅れ、身体の方も地面へと倒れこんだ。

それと同時に、Olの魔力を失ったゴーレムが腕を振り上げた体勢のまま地面に倒れる。

君は人間じゃ、ないよね。羽生えてるし。ご主人サマの敵討ちとか考えるタイプ?

少女がリルに向き直り、油断なく剣を構える。リルは両手をあげて降伏の意を伝えた。

まさか。私は契約で縛られてるだけだからね。主人が死ねば、契約も無効。とっとと魔界に戻るわよ

そうなんだ? じゃあ聞くけど、今あたしが殺した人がOlで合ってるんだよね?

少女は剣の血を払うと、鞘に収めた。とは言え、不用意にリルの近くに寄ったりはしない。

リルが彼女に襲い掛かれば、すぐさま剣を抜き放ち両断できるのは明らかだった。

うん、あってるあってる。すんごい性格悪くて、人使いって言うか悪魔使いも荒いし、実年齢70以上の癖に滅茶苦茶エロいし、ダンジョンの事ばっか考えてるダンジョン馬鹿

あはは、悪魔さんも結構苦労してたんだ

朗らかに少女が笑う。

でもね、そんなに嫌な奴でもないんだよ、うちのご主人様は

リルの言葉に、少女は僅かな違和感を感じる。その原因を探ろうとする間もなく、リルは爪を伸ばして少女を切り裂こうと腕を振るう。

わっ! 敵討ちなんてしないって言ったのに、嘘吐き!

少女はそれを難なくかわすと、剣を鞘から抜き放った。

嘘なんてついてないよ。敵討ちなんてしないって

その言葉に、はっと気付いた時にはもう遅かった。少女に杖を向けたOlが、一言呟く。

眠れ

薄れいく意識の中で、少女は違和感の正体に気付く。

主人の事を評する言葉が、どれ一つとして過去形ではなかったのだ。

よく気付いたな

崩れ落ちる少女を抱きとめつつ、Olはリルの頭をぽんと叩いた。

子供じゃないんだけどと言いつつ、リルは答える。

言ったでしょ。主人が死んだらとっとと魔界に帰るって。帰ってないんだから、死んでないに決まってるじゃないの

魔界に帰るのはリルの意思ではない。契約の内容だ。Olはここまで計算して契約内容を考えたのかと、改めてリルは彼の慎重さを思い知った。

所でどうなってんの、それ

既にぴったりとくっ付き、血の跡すらないOlの首を指差す。

若返ったり、体力を戻したり出来るくらいだから傷を治せるのはわかるのだが、流石に死んだのを生き返せるとは思えない。しかも、それが他人ではなく自分自身であれば尚更だ。

大して珍しい術でもないんだがな。命を別の場所においているから、この身体はどれだけ壊されても死なん。代わりに、身体には傷一つなくても、命の方が壊されたら死ぬが

ああなるほどね

何に命を保管しているかは言うまでもない。

Olが最も大事にしているものつまり、ダンジョンコアだ。

それで、その子はどうするの?

リルはOlが抱きかかえる少女を示した。死んだ訳ではなく、ただ眠らせただけらしい。少女は規則正しくすーすーと寝息を立てていた。

そうだなどうやらコイツは、英雄の星の元に生まれているようだ

英雄の星?

鸚鵡返しに問うリルに、Olは頷いてみせる。

ごく稀にいるんだ。何らかの宿命の元に生まれる人間が。そういった人間は大抵、幼い頃から他の人間とは段違いの能力を持ち、成人すればその道で一流以上の達人となる。が、その人生そのものも平坦なものではなく、必ず大きな不運や幸運を呼び寄せる事となる

へーもしかして、Olも魔王の星の元に生まれてたり?

そんなわけないだろう。そうであれば、この齢になる前にダンジョンを完成させるか、野垂れ死んでる

Olは自身を、才も非才もない、ただ努力した年月の分だけの能力を持つと評した。唯一の僥倖は、寿命までにダンジョンコアを完成させ、龍脈を見つけ出した事だ。

で、結局その子は?

再びリルが問うと、Olが表情を曇らせる。

英雄の星に生まれた者だ。殺そうとしてもそう簡単には死なん。かといって、洗脳魅了の術の類も効き目は薄い。ここぞと言う場面で解けるだろうな

ぐっすりと寝ているのだから殺してしまえばいいとリルは思ったが、仮にも英雄となるべく生まれた者。殺そうとすれば何らかの奇跡が起こって命を拾うらしい。死ぬのは晩年、力が衰えたとき。それも、惨たらしい死に方をする。それが英雄に生まれついた者の常なのだそうだ。

じゃあどうすんの? ずっと寝かせておく訳にもいかないでしょ?

仕方ない、成功率があまり高くないからやりたくはないが、他に方法もない

苦渋の表情で、Olは決断した。

調教するか

第6話哀れな虜囚を調教しましょう-1

ユニスが目を覚ますと、そこは暗い石造りの部屋の中だった。

ぼんやりとした頭で必死に状況の把握に努める。身体を動かそうとすると、右腕につながれた鎖がじゃらりと音を立てた。

右腕だけではない。両手両足は鎖によって壁につなぎとめられ、大の字の状態から殆ど動かせない。更に身体自体もベッドに鋼の輪の様なもので拘束されていた。

身に着けていたはずの武器や防具は全て外されており、少なくとも視界の範囲には見当たらない。

僅かな灯りを灯すランプと、ユニス自身を拘束するベッド、そして鎖。それだけがこの部屋を構成する要素だった。

入り口には扉すらなく、どこかへと続く通路が闇の中に沈んでいた。

目を覚ましたか

その通路から、一組の男女が姿を現した。

琥珀色の髪に灰色のローブを着た、中肉中背の20歳前後の男。そして、コウモリの翼を生やし、漆黒の髪を持つ、みている方が恥ずかしくなるような服(と言うか、下着?)を纏った美女。

それをみて、ぼんやりとしていたユニスの意識ははっきりと覚醒した。

邪悪なる魔術師Olと、その使い魔この二人に、自分は負けたのだ。どうやら殺される事はなかったようだが、果たしてそれは幸運だったのか。かなり怪しいところだ、とユニスは思った。

一応名乗っておこう。我が名はOl。聞き及んでいるようだが邪悪なる魔術師だ。こちらは我が助手にして女悪魔のリル。お前の名は?

ユニスは必死に思考をめぐらせる。絶体絶命のこの状況を、どうやったら乗り越えられる? 武器はない、動く事もできない、生殺与奪権は完全に握られている。

ユニス。冒険者だよ

フルネームは教えず、愛称だけを名乗る。力のある魔術師は相手の名前を知るだけで支配する事もできると、以前知り合いの魔術師に聞いた覚えがあったからだ。

なるほど。ではユニス、一つ教えてもらいたい事があるのだが、お前にここに来るよう頼んだのはどの村の誰だ?

別に誰に頼まれた訳でもないよ。邪悪な魔術師の噂を聞いて、成敗しようとやってきただけだから

自分でも厳しい言い訳だとわかっていながら、ユニスはそう言った。何の罪もない、純真な村人達に迷惑をかけるわけには行かない。それに、半分は嘘ではないのだ。魔術師の話を聞いて、自分が倒してくる、と戸惑う村人達を半ば振り切るようにして出てきたのだから。

ほうでは、その噂をお前に教えてくれたのは?

ぐ、とユニスは言葉に詰まる。言い方を間違えた事に気がついた。

か?

風の噂で

リルが心底呆れたような表情をする。ユニスは言った事を自分で後悔した。

風の噂かそれならば仕方ないな

ところが、Olはそんな苦し紛れの言葉に納得するかのような態度を見せた。

そ、そうそう! あたし頭悪いから、どこで聞いたかなんてすっかり忘れちゃってさ!

ば、馬鹿!

ユニスの言葉に、何故かリルが慌てて言う。

それも、Olに対してではなく、ユニスに対してだ。

覚えてないなら仕方ない。全ての村を焼き払うしかないな

何気ない様子で続けたOlの言葉に、ユニスは表情を凍りつかせた。

害意も無い村を焼き払う事は残念だが、仕方ない。他に替えが無いでもなし

やめて!

Olの言葉を遮り、ユニスは叫ぶ。

村の人は何も悪くない! あたしが、あたしが勝手にやった事なの!だから、お願い、村の人達だけは

ガチャガチャと鎖を鳴らし、ユニスは懇願する。

この状態では、頭を下げる事も、すがりつく事もできない。

では、悪いのは全てお前である、と言うのか?

そうだよ! 村の人は何も悪くない、止めるのを振り切ってあたしが勝手に!

では、咎を受け入れ、全ての罰をその身に受ける事を誓うか?

誓う。誓うから、村の人達には、絶対に手を出さないで

人聞きの悪い事を言うな

Olは噛んで含めるように、言葉を綴る。

村人を殺されたくなくば、いう事を聞け等と、お前を脅しているのではない。罪の在り処を問うているのだ。邪悪と自称するこの身なれど、罪無き者を無為に殺すような真似はせん。以前滅ぼした村とて、我に楯突き刃を抜いた故の事。罪がお前にのみあると言うのなら、他の者を罰する道理など無い

わかった。罪は、あたしにだけある。だから、罰もあたしにだけ与えて

ユニスはOlを真っ直ぐ見つめ、そういった。これから自分がどのような目にあうかは、おおよそ予想がついている。しかしそれでも、村人達に迷惑をかけることだけは避けたかった。正義感の強い、英雄となる運命を持った少女の最後の意地だ。

わかった。ならば、お前に罰を与えよう

Olは懐から短剣を取り出し、その刃を動けないユニスの胸に当てた。

鋭い痛みを覚悟し、ぐっと目を瞑るユニスの予想とは裏腹に、短剣はユニスに傷一つつけず滑らかに胸元から腰にかけて走った。それに沿って、彼女の着ていた服がスッパリと両断される。

それは、ユニスが予想していた展開の中でもっとも可能性が高く、もっとも起こって欲しくないものだった。

しかし、肌を露にしたユニスに近づいてきたのは、案に相違しOlではなくリルだった。

彼女は女のユニスでも惑わされるような妖艶な笑みを浮かべながら、透けるように白い指先をユニスの胸元に滑らせる。

ふぁっ

声をあげた後、ユニスは自分から甘い声があがった事に驚愕した。

ふふ、可愛い。敏感なのね

ん、ぅ

つぅ、とリルは指先をユニスの胸から臍の方に滑らせる。今度は声を出さないようにと構えていたにも関わらず、なんともいえないぞくぞくとした感覚が背筋を駆け抜け、ユニスは声を漏らす。

リルが触れた場所がじんわりと熱を帯び、ユニスの身体の奥の方が疼く。今まで感じた事のない快楽に、ユニスは完全に翻弄されていた。同性相手とは言え淫魔の手管は凄まじく、軽く触れていくだけでユニスはどんどん高まっていく。

そろそろここも弄ってあげましょうか

不意に、リルがユニスの股間に指を這わせる。

ふふ、もうぐしょぐしょね

クスクスと笑いながら、リルはわざと音を立ててユニスの陰部をまさぐった。くちゅくちゅと音を立てられ、ユニスの顔は羞恥に赤く染まる。

ここはどうかしら?

ひあっ!!

リルの指がユニスの最も敏感な部分淫核をかすめ、ユニスは思わず高く声をあげた。

いい反応ね。処女だけど、オナニーはちゃんとしてたんだ?

そ、そんな事ふぁっ!

言い返そうとした瞬間にリルが陰核をすりあげ、またもユニスは声をあげる。

そんな事、何? そんな事大好き?

そうよね、ここをこんなに尖らせてよがってるんだもの

ふ、ぁぁぁっ! そ、んにゃぁあっ! い、やめっ、駄目ぇっ!

脇腹をくすぐり、乳首に舌を這わせ、かと思えば股間を指でさすりあげる。リルは完全にユニスの反応を掌握し、虚を突いてはその身体を翻弄していた。

さて、そろそろいいわよ

そんな言葉と共に、ぐいと両脚が押し開かれる感覚にユニスは我に返った。ここしばらくの記憶が無い。どうやらいつの間にか意識を失っていたようだった。

覚えている限りで、リルはユニスを一刻(2時間)は嬲っていただろうか。その人ならざる愛撫にユニスは何度も声を上げ、許しを乞い、よがり狂った。

汗と愛液でベッドのシーツはぐちゃぐちゃに濡れ、尻の下は失禁でもしたのかと言うくらいぬるい水が溜まっていた。恐ろしいのは、そこまでしてなおユニスを絶頂には至らせないリルの指の技だ。

恐らくその気になればほんの一撫でで気をやらせる事も可能なほど昂ぶらせておきながら、けしてオーガズムには至らせず、一刻もの間ユニスを嬲り続けたのだ。

そういえば、脚は鎖で繋がれて曲げる事もできないのに、何で広げられているんだろうと、ぼんやりと考えていたユニスの意識を、股を裂く様な鋭い痛みが覚醒させた。

う、あぁぁっ!?

痛みに視線を向けると、いつの間にかOlが両脚の間に身体を割り込ませ、そのいきり立った物をユニスの秘部に突き入れていた。

内臓を素手で掴まれている様な、重く鋭い痛みがじんわりとユニスに襲い掛かる。それと同時に、純潔を失ったどうしようもない喪失感が彼女を襲った。

冒険者として魔物や盗賊達を相手にし、普通の娘の様な恋愛が出来ると思っていた訳ではない。しかし、それでも彼女は人並みに初体験と言うものに夢を抱いていたし、大切にもしていた。それが今、見も知らぬ男によって踏み躙られたのだ。知らず、ユニスの頬を涙が伝った。

そんな彼女の頭に、Olは優しく手を置く。すると、じんわりとした暖かさがその手から伝わり、痛みがすうっと引いていく。

大丈夫だ。痛みはきえただろう?

ユニスはこくりと頷いた。

耳元で囁かれた優しげな声は、ユニスの胸にあいた喪失感にスコンと収まった。頭では、今目の前にいる男こそが自身の純潔を奪い、汚したのだと理解している。

しかし、ユニスの心は失ったそれを目の前にいる男が癒し、埋めてくれると感じていた。感じてしまっていた。

動くぞ

ゆっくりと、Olが抽送を始める。その動きはユニスを気遣うように優しいものだった。破瓜の痛みはOlがユニスの頭を撫でる度に和らぎ、代わりにOlのペニスがユニスの奥を突くたびに、身体と心を甘い疼きが満たしていった。

ぐ、う!

ユニスは歯を食いしばり、それに必死に耐えた。これは、罰だ。罪を犯したものへの当然の罰。だから、ユニスは耐えなければならない。

しかし、それは唐突に中止された。Olは動きを止め、じっとユニスの顔を見つめている。ユニスも、困惑した表情で彼を見つめ返した。

どうかしたか?

Olは尋ねるが。そう問いたいのはユニスの方だった。何故、動きを止めてしまうのかそう言おうとして、ユニスは口をつぐんだ。そんな事を思うなんて、どうかしている。

思う事があるならば、素直に述べてみろ

しかし、Olはそれを見透かしたようにささやいた。

思った事を言うのは罪ではない。自然に、あるがままに振舞う事が何故罪となる?何も耐える必要などなく、そのまま受け入れれば良いのだ。それが正しい事だろう?

嬲られ、焦らされ、熱に浮かされたように理性と忘我の狭間で揺れるユニスの中に、その言葉は染み込むように響いた。

として

どうした?

我知らずユニスの口から出た呟きに、Olが彼女の耳元で囁くように問う。

もっともっとして!

とうとう、ユニスは叫ぶように求めた。

こうか?

うんっ! それぇっ! それが気持ちいいのぉっ!

奥まで突き入れると、ユニスは嬌声をあげてそれを迎える。拘束され殆ど動かない身体を懸命に揺らし、少しでも快楽を貪ろうとする。

いいぞ。ユニス、最高だ

んんっ、はぁっ、いぃ、いいよぅ

既にユニスの表情は快楽に溶け、目には理性の光はない。ただ貪欲に快楽を求め、全身でOlを受け入れていた。

Olはユニスの奥に突き入れながら、彼女の拘束を一部解く。

ユニスはすぐさま腕をOlの首に回すと、ぎゅっと抱きつきながら激しく腰を動かした。

ああっ、すごい、すごいよぉ! いいっ、もっと、もっとしてぇ!

Olはユニスにキスをしながら、円を描くように腰を動かす。同時に、愛液でぐちゃぐちゃに濡れている淫核を指でなぞり、摘みあげた。

ああああっ! それ、それいいっ、いいのぉっ! いっイ、ちゃっうぅっ!

途端、ユニスの声色が一段高くなる。

そうだ、イけっ! 思いっきりっ!

あああああああっ!!

ユニスは身体を仰け反らせ、身体を震わせる。一瞬遅れ、Olはその奥に白濁を吐き出した。

英雄よ、明星の如く輝け

Olがキーワードを囁くと、快楽に溶けていたユニスの表情が途端に失われ、瞳は焦点を失った。

よし、後催眠も上手く効いているな

瞳を覗いたり、身体を触ったりしてOlは催眠の効き方を確かめる。

さっきもそれやってたけど、何なの? 洗脳系の魔術?

Olがユニスを抱き始めてからは暇そうに部屋の隅で推移を見守ってたリルが尋ねる。

いや、これはただの催眠術だ。おきているが、意識は無い状態。それを催眠状態と呼ぶ。さっきお前が愛撫した後にかけた時は魔術と単調な刺激でこの状態にしたが、後催眠を刷り込んだ今ならキーワード一つでこの状態に出来る

起きてるのに意識が夢を見てる状態ってこと?

いや、むしろ逆だな。夢を見ているときは、寝ているが意識はある。催眠状態になると意識がないから、判断力や思考力は殆どゼロになる。この状態で教え込んだ事はかなり素直に聞いてしまうし、暗示をかけて無意識に行動を制御したりも出来る。初めてのセックスで、しかも無理やり犯されているのにあんなに乱れたのも、さっきかけた暗示のおかげだな

Olの説明に、リルは興味深げにユニスの顔を覗きこむ。目は開いているし、おきてはいるようなのだが、目の前にいてもリルを見ている様子は全く無い。

じゃあ、これでずっとOlに仕えろーって言えば、奴隷になるの?

リルの問いに、Olは首を横に振って否定する。

いや、催眠術はそんなに万能じゃない。と言うより、出来る事は殆ど無い。本人が嫌がる事はさせられないし、無理にそんな暗示をかければすぐに催眠術は解ける。まあ、だからこそ英雄の星に生まれたこいつにもかけられるわけだが。強制の呪いなんてかけようとすれば一発で弾き返される。英雄の道を阻む者は必ず排除される運命だからな

これは道を阻んでる事にはならないの?

ユニスを拘束していた鎖や拘束具を示し、リル。

勿論なる。だから、この方法で拘束すればそのうち何らかの方法で抜け出すだろうな

魔術で小さな炎を出し、ユニスの前で点滅させながらOlは答える。単純な光の明滅を繰り返す事で、解けかけていた催眠状態を更に深くしていく。

さぁユニス、お勉強の時間だ。優しくしてくれる人はどんな人だ?

優しくしてくれる人はいい人です

抑揚の無い声でユニスが答える。

傷を癒してくれる人どんな人だ?

傷を癒してくれる人は優しい人です

しっかり覚えているようだな。偉いぞ

ここまでは、抱く前にユニスにかけた暗示の再確認だ。

さっきも思ったんだけど、それって当たり前の事じゃないの?

リルの問いに、Olは頷く。

そうだ。当たり前だから、当たり前に受け取る。当たり前でない事を受け入れさせるのは難しい。だが、受け入れてしまった事は比較的無条件に刷り込まれる。たとえ相手が自分を強姦している憎い男であろうとも、少しでも優しくされればいい人だと無意識に思ってしまうんだ

この暗示をかけていたから、ユニスはあそこまで善がったのだ。

じゃあ毎回その暗示をかけておけば、後はちょっと優しくしておけばその子はOlに懐くの?

再び、Olは首を横に振る。

そう簡単じゃない。さっき上手くいったのは、お前の愛撫で冷静な判断力を失ってたからだ。落ち着いて、時間が経てば自分がおかしかった事に気付く。俺への好感は残るだろうが、論理的な思考で俺を敵と思う事は変わらない。まあ、多少手心を加えてくれる事はあるかも知れんが

その前に、手を打たないとな。

そう呟き、Olは更にユニスに暗示を加えていった。

第6話哀れな虜囚を調教しましょう-2

ユニスが再び目を覚ますと、そこはやはり暗い石造りの部屋で、彼女はベッドの上に寝かされていた。

汗やその他体液でべとべとに汚れたはずのシーツはさらさらした真新しいものに取り替えられており、一瞬あれは夢だったのだろうか、とユニスは考えた。

しかし、秘部を穿たれて大声で善がった記憶と、僅かに残る身体の火照りが夢などではなかったと訴えており、彼女は悔恨と羞恥に頭を抱え

自分の頭を抱えられる事に、気付いた。

相変わらず武器や防具の類は見当たらないし、魔術も封じられているようではあったが、身体を拘束するものは何も無い。部屋には扉もついておらず、そのまま通路に通じているところも元のままだ。

今なら、逃げられる?

そんなユニスの考えを読んだかのように、通路の奥からOlが姿を現した。

思わずユニスは身構え、ベッドから離れる。

そう警戒するな。もう危害は加えん

Olが指をパチンと鳴らすと、部屋の中央の床がぐにゃりと歪み、意思を持っているかのように動くと簡素なテーブルと椅子の形をとってまた石に戻った。

丸一日寝ていたんだ。腹も減っただろう

そういってOlは手に持っていた皿をテーブルの上に乗せた。

毒でも入ってるの?

起きている時にわざわざそんな事をするんなら、寝てる間に殺してるだろう

訝しげに見るユニスを尻目に、Olはさっさと席について皿を手に取る。Ol自身も食事を取るつもりらしく、料理の盛られた皿は二つあった。

それもそっか

納得して、ユニスはOlの向かいに座る。皿に盛られていたのは小麦粉を練って細長くしたものを茹で、ひき肉のソースをかけたものだった。

これってパスタ? 珍しいね

知ってるのか

こくりとユニスは頷く。この辺りの地方では、小麦粉はパンにして食べる事が多く、あまり麺類には加工しない。文化が根付いていないという事もあるが、この辺りで作られている小麦があまり麺類には向いていないというのもある。普通に作ると、どうしても口当たりがボソボソとしてしまうのだ。

ん、でも美味しい。これってディングラードの方の料理でしょ?このソースははじめて見るけどよく合うね。小麦を取り寄せたの?

いや、小麦はこの辺りのものだ。つなぎに一工夫を凝らして食感を良くしてある。ソースも一応俺のオリジナルだな

ふーんって、ええっ!?

急に叫ぶな。驚くだろう

全く驚いた様子の無い表情で抗議するOlに、ユニスは身を乗り出す。

え、これ、君が作ったの!?

そうだが、悪いか

憮然とした表情でOlがぼやく。

え、だって、邪悪な魔術師が料理とか

邪悪だろうが魔術師だろうが腹は空く。リルは悪魔だから人間の食べ物など食わんし、食わない物を作れる訳もない。人手不足で他に作るものもいないから、俺が作るしかないだろう。それに、料理は魔術実験に似ている。中々上手いものだろう?

心外そうに眉をひそめ、自作の料理を口に運びながら言うOl。

うん、美味しい

パスタをフォークに絡めて口へと運び、ユニスは素直に認める。少なくとも旅の間食べていた携帯食や、野生の動物を狩って火で炙っただけのものよりも数倍美味しかった。

さて

食事を終え、立ち上がるOlにユニスは再び身構える。そんな彼女に、Olは呆れたようにため息をついた。

そう身構えるな。もう危害は加えないといっただろう。昨日のアレは俺の命を狙った罰だ。もうこれ以上罰を与える気はない

あそ、そうなんだ

ユニスは自分の心に戸惑う。Olの言葉に感じたのは、大きな安堵。

しかし、その奥にほんの少しだけ、残念に思う気持ちがあった。

困惑するユニスに、Olが言葉を付け足す。

ただし、俺になお刃向おうというなら話は別だが

鋭い目で見据えるOlに、ユニスは答えを返せず押し黙った。

俺の邪魔をしないと言うなら、このままこの迷宮を出て行っていい。武具も返すし、封呪も解いてやる。だが飽くまで敵対するというなら、容赦はせんぞ

どうして?

ユニスは瞳に困惑の光を浮かべ、Olを見つめた。

君は邪悪なる魔術師とか言ってるけど、そんなに悪い人じゃない気がするそりゃ、あたしも酷い事されたけど、先に首刎ねちゃったのはこっちだし、罰を受けるのは仕方ないでも、どうして何の罪も無い村の人たちを一方的に脅して搾取したりするの?

ユニスの訴えにOlは考え込むように口元に手をやり、ふむと唸った。

どうやら、少し誤解があるようだな

誤解?

ユニスの心はOlを信じる方に傾きかけてきていた。

口元にやった手の向こうで、口が笑みの形に曲がるのに気付かぬまま。

Ol様! 申し訳ありません、供物の準備はまだ整っておりませんで明日の夜までには必ず用意いたしますので!

良い、気にするな。元々供物は1の日という約束だ。約束の通りに用意してくれれば良い

村に着くなり、走りよって平伏する村人にOlは鷹揚に答えた。その隣には、ユニスを伴っている。武具はまだ返していないが、拘束具の類もつけていない。

では、本日はどのような

うむ。田畑の様子を見に来た。それと少し気になる事があってな

田畑?

意外な言葉にユニスは目をパチパチと瞬かせる。

そうですか! ではどうぞこちらへ、粗末な村の畑ではごぜぇますが、Ol様のお力でみるみる育ち、もう冬も近いってのに今年一番の豊作でさぁ!

村人に案内された先には、様々な作物が豊かな実りを見せていた。どれも一般に流通しているものより遥かに巨大で瑞々しい。

一週間でここまでになるとは驚きでさぁ。これで余裕を持って冬を越せます。入り口においていただいたガーゴイルのおかげか、ゴブリンどもや野犬も全然手を出してこねぇし、Ol様にはほんに感謝しとります

うむ。それは何よりだ。冬の間はカブを植えよ。カブは冬でも良く育つし、滋養もあり、家畜の餌にもなる。冬でも安定して餌を作れるから、冬に入る前に絞めてハムや腸詰にする必要もない

わかりました! 早速村の者達にも広めます

うむ。それと、さっきから気になっていたが、顔色が優れぬな。体調が悪いのか?

ええ最近ちょっと風邪を引いたみたいでして。何、2,3日もすれば治りまさぁ

ぐっと腕に力を込めてみせる村人に、Olは掌から琥珀色の魔力を光らせながら触れる。

いや。これは性質の悪い流行り病だな。最近、大規模な死相がこの辺りを覆っていたが、やはりそういう事か

Olはローブの中からごそごそと瓶を取り出すと、村人に手渡す。

とりあえずはこれを渡しておこう。体力を底上げする薬だ。体調を崩したものが出たら、この中の液体を一匙、水に混ぜて飲め。病気が治るわけではないが、命を落とすのは免れるだろう。近いうちに病気の治療薬も調合して持ってきてやる

村人は目を見開くと、ぷるぷると震える手で瓶を受け取り、その場で土下座せんばかりに平伏した。

あありがとうごぜぇます! Ol様はこの村の恩人です!

そう畏まらんで良い。お前達が俺に報いる限り、俺もお前達を守ってやる

Olの言葉に更に頭を低くする村人に別れを告げ、Olはユニスと共にダンジョンへと帰還した。

ごめん、あたしOlの事誤解してた!

ダンジョンに戻るなり、ユニスはOlに頭を下げた。

力で無理やり村人達を脅して、不正に搾取してるんだと思ってたでも、村人のOlを見る目はまるで善政を敷く領主でも見るみたいだった。ううん。どんな領主も税をとるけど、あんな小さな村を魔物から守ったり、作物を増やす助けなんてしない。やっぱり、Olは邪悪なんかじゃなかった

そこまで買いかぶられるとこちらも少々辛いのだがな。無意味に殺したりはしないが、楯突くものは容赦なく殺すのだから邪悪である事にはかわりない

これは半分以上は本音だ。しかし、ユニスは首を横に振った。

それは悪いことをしたら罰を与えるのが当たり前だし。それに、Olはあたしの事は殺さなかったでしょう?

悪いことをしたら罰を与えるのが当たり前と言うのは、催眠で刷り込んだものだ。元々正義感が強いユニスはそれを殆ど抵抗なく飲み込んだ。

それなんだがな本当に罪があったのはお前なのか?

それはそう、だよ。昨日そう言ったでしょう?

だが、お前は俺が村と取引している事を知らなかった。お前に俺を殺させて生贄を渡すことなく、田畑への祝福や魔物からの守護だけを受け取ろうとしたのではないのか?

それはその、多分、あたしが慌てて飛び出したから説明する暇がなかったんじゃ

ユニスは村人を庇おうとするが、昨日感じたほどの強い決意はないようだった。

では、確かめにいくか

ここからが本番だ。Olは、内心そう呟いた。

それから、三日ほどたった後。Olは剣を携えたユニスを連れ、彼女がOl討伐を頼まれたという村を訪れていた。

初めはOlに村の場所を教える事を拒んだユニスだったが、彼女の同意なく村を害しはしないと約束し、もし約束を破ればそれは悪であり、好きにしていい、と言って剣を渡すと、渋々納得した。

さて。俺はここで待とう。その目と耳で確認してくるがいい

村の外れで、Olはユニスの背中を押す。

ユニスは不安を抑えながら、村長の家へと向かう。村人達が自分を騙したなどとは思いたくない。しかし、Olの事も信じたい。何か、不幸な行き違いがあったのではないか

そう信じ、村に足を踏み入れた彼女に向けられたのは無数の殺気だった。

こいつどの面下げて戻ってきやがったんだ!

え?

自分が何をしたのかわかってるのか!?

村人の罵声に、他の村人達も集まってくる。

お前がOl様を殺したせいで田畑は枯れ、妖魔どもが家畜を殺していった!

流行り病が溢れ、子供たちが死んでいった!

お前のせいで! お前が正義の味方気取りで余計な事をしたせいで!

村中の人々がユニスの前に集まり、口々に罵声を浴びせる。

どういう事?

ユニスが想像していたのは、村人がOlの事を誤解しているか最悪でも、Olが言った通り、ユニスを利用した、という事だった。予想外の状況に彼女は戸惑い、思わず数歩後ずさる。

逃げる気か!? ふざけるな!

村人の一人が、足元にあった石を拾い、ユニスに向かって投げる。それは当たらなかったが、触発されたのか村人達は次々にユニスに向かって石を投げ始めた。

畑を返せ! 俺の牛を返せ!

あたしの子供を返して!

Ol様を返せ! この殺戮者め!

Olは死んでない、さっきまで一緒に

ユニスは必死に弁明しようとするが、怒りに燃える村人達には通じない。

これでも喰らえっ!

最初に石を投げ始めた男が、こぶし大の岩をユニスに向かって投げつける。避ける事は容易かったが、そうすれば更に村人達の怒りに油を注ぐことになる。そう思い、ユニスが痛みを覚悟して目を瞑る。

何をしている

しかし、痛みの代わりに降り注いだのは、Olの声だった。

Ol様! 生きてらしたのですか!?

ユニスを庇うように立つOlの姿に村人達は投石をやめる。

Olどうして?

ユニスは一体どういう状況なのか理解できず、Olに尋ねた。

お前に聞くまでもなく、この村がお前をけしかけた事はわかっていた。入り口のガーゴイルは村を守る為に置いたものだが、同時に村を監視する為のものでもある。しかし、この村人達はそんな事さえお前には伝えなかった

ユニスが呆然と見上げると、Olの腕から一筋、血が流れた。ユニスを庇って腕に投石を受けたのだ。

罪は全てお前が被った故、村人達に危害は一切加えていない。だが、贄の代償として畑に与えていた魔力は止め、ガーゴイルの制御もなくし、他の村には配った流行り病の薬もこの村には与えなかった。それを、村人達はお前が俺を殺した故の事だと思ったらしいがな

オOl様! 我々には、あなた様に危害を加える気は一切ございません!

全ては、そこの女の独断です!

Ol様、どうかお慈悲を! 我々は止めたにも関わらず、その女が勝手に!

口々に叫ぶ村人たち。ユニスを良い様に利用し、都合が悪くなれば掌を返し、あまつさえ罪を擦り付けて売り渡す。

ユニス。これが、お前が必死に、純潔を賭してまで庇った者達だ

あははあはははははははは!

おかしくて仕方がなかった。こみ上げてくる笑いを躊躇なく解放し、ユニスは剣を抜き放つ。

ごめんね、ありがとう、Olあたしが、間違ってた。あの罪には、罰を与えなきゃいけない!

ユニスは村人に向かい、つむじ風の様に走る。彼女がその気になれば、投石も敵の数も何の問題にもならない。訓練もろくに積んでいない村人達など、瞬く間に切り殺せる。

が。

彼女の振るう白刃が村人の身体を捕える前に、村人達は一人残らず立ち上った炎に包まれ、声をあげることさえ出来ず一瞬にして絶命した。

いきなり鼻先で立ち上った炎に気勢をそがれ、ユニスはOlに振り向く。

相手に罪があるからといって、それで殺してしまうのは邪悪な者のすることだ。ユニス、お前はそのまま真っ直ぐでいろ。お前を害する者は俺が全て排除してやる。だから、お前は正義のままでいろ

Olぅ

ユニスがぽろぽろと涙をこぼし、Olに駆け寄って抱きつく。

俺は、俺だけはけしてお前を害さない。だから、お前も俺を害さないと誓えるか?

Olの言葉に、ユニスは泣きじゃくりながらこくこくと頷く。

では、我が名、アイン・ソフ・Olにおいて、けしてお前を害さぬと誓おう

ユニスフィニア・メレディス・ル・エラ・グランディエラの名において、

けしてOlを害さず、愛し続けることを誓うよ!

なんだって?

Olの間抜けな声が響いたのは、二人を琥珀色の光が取り巻き始めた後の事だった。

お疲れ様。これでとりあえず一段落?

ダンジョンの奥。今度は罰ではなく、誓いの証として抱いて欲しい。

そんな事を言い出し、三度ほどOlの精を受け止めたユニスがすっかり妻の様な態度で眠りこけた所で、リルはOlに声をかけた。

ああ、まあ、一応はなこれでユニスの英雄の星は堕ちたる英雄に変化した。悪徳をなし、魔を好む闇の英雄だ。そうそう俺に歯向かう事はないだろう

強大な力を持つ英雄の星に危害を加えないという制約を結ばせ、更にその力を手にしたものの、Olの表情は冴えない。

厄介ごとは一気に増えたがな

ユニスが愛まで誓う事は完全に計算外だった。信用を得る為にある程度Olに依存させたのは狙い通りだったが、まさかそこまで深く依存するとは思わなかったのだ。だが、それだけならまだいい。

まさかこのなりで王族だったとはな

ユニスが名乗った名前は、グランディエラ国の直系を示す名だった。こんな所を冒険者として一人でフラフラしているからには王位継承権は殆どない末席なのだろうが、それでも火種の元になるのは明らかだ。ユニス一人に突破されるような迷宮だ。王国軍に攻め入られても防げるほどのダンジョンにはまだまだ程遠い。

外に放り出して縁を切ってしまいたいところだが、そういう訳にもいかない。ユニス本人が嫌がるだろうし、嫌がる事を無理やり強制するのは危害のうちに入るからだ。

まあ、それは後で考えるとして今回、私結構頑張ったと思うんですけど?

ニコニコ笑いながらリルが言う。しかし、目は笑っていない。

今回リルがOlに同行しなかったのは、裏で走り回っていたからだ。サキュバスには魔術とは違う、生まれ持った能力がいくつかある。

例えば、最初にユニスを連れて行った村。そこの村人がOlに対して異常に友好的だったのは、リルが男が持つ理想の女性像に変身する能力を応用してOlの姿で何度も村に赴き、村人達と友好的な関係を築いていたため。

ユニスにOl退治を依頼した村の村人達がユニスに石を投げたのは、リルが魅了能力で村人達を操り、けしかけたからだ。英雄の星を魅了し操るような事は出来ないが、ただの村人であれば村一つ丸ごと操る程度造作もない。

そして、本人の同意さえあれば強制の呪いであってもかけることが出来る。望まれる呪いとは、すなわち祝福の事だからだ。ちょうど、結婚を誓う男女がお互いを誓い合うのに似ている。

だからご褒美欲しいなー、ご主人様

わかったわかった。こい

ユニスに召喚した魔獣やゴーレムを壊され、更にユニスの洗脳の為に大量の魔力を消費した。強制の呪いも、出来る限り強力な物をかけたからその消費量たるや凄まじいものだ。

大分目減りしたダンジョンコアの魔力を横目で見ながら、Olはリルを抱き寄せる。体力回復の魔力も残っていないから、後は自前の体力で何とかするしかない。

最低4回はしてくれないと駄目だからね

何を張り合ってるんだ

予期しない厄介ごとが更に増えた予感をひしひしと感じながら、Olはため息をついた。

第6.5話ダンジョン解説

第6話終了時点でのダンジョン。

階層数:2階層

瘴気:2

貯蓄魔力:15(単位:万/日)

消費魔力:3(単位:万/日)

非支配層

第一階層に出来た層。Olが直接支配せず、野生の獣や妖魔が自然に住み着くに任せている階層。作成する部屋の形によってさまざまな魔物がやってくる。現在はゴブリンが住み着いている。

迷宮LV1

いくつもの行き止まりや分かれ道による迷路。ちゃんと地図を書きさえすれば迷うことはまずないだろう。

湯殿

地下水脈の水を引く事で貯めた池。焼けた岩を放り込む事で湯を沸かす。底冷えする迷宮の中で安らぎのひと時を送ることが出来る。

ゴブリン

戦力:1

雑魚の代名詞。小さな身体と醜い容貌を持つ妖魔の一種。戦力としては全く期待できないが、手先は器用で狡猾な為、ダンジョン中に勝手に簡単な罠を仕掛ける。また、繁殖力が凄まじく、男女の番が1組いれば1月後には数が10倍になっている。他の妖魔の餌としても重要。

スケルトン

戦力:3

リビングデッドから丁寧に肉を取り除き、骨に魔方陣を掘り込む事で作り上げた逸品。丁寧な仕事により戦力が2.5から3くらいには上がっている。が、ユニスに纏めて破壊された。

ヘルハウンド

戦力:5消費魔力:0.2

地獄の猟犬。姿形も行動も犬そのものだが、一応悪魔に分類される。忠実で俊敏。鋭い牙や爪、そして口から吹く炎はかなりの攻撃力を誇る。反面、防御力は普通の犬とそう大差ないためにやられる時は簡単にやられる。勿論ユニスにはあっさり殺された。

クレイゴーレム

土に魔力をかけた生ける人形。動きは遅く、素材が土であるため脆いために殆ど戦力にはならない。が、身体が大きく怪力を持っている為、単純な力仕事や壁としては有用。ユニスには破壊すらされず無視された。

ユニス(英雄)

戦力:10最大貯蓄魔力:5

英雄の星の下に生まれた少女。堕ちたる英雄となってもその戦闘能力は健在。回復、攻撃、防御の魔術をバランスよく使いこなし、剣の腕も一流以上。一撃の重さよりスピード重視の戦闘スタイルだが、十分重い一撃を凄まじい速度で放ってくる。

クレイゴーレムに運ばせ、ダンジョンコアは第二階層に移動した。主な防衛設備はゴブリンの罠とヘルハウンド、簡単な迷宮。ユニスには凄まじくあっさり突破されたが、英雄補正で迷宮も最短距離で突破してきたため、設備の悪さというよりは相手が悪かった。

第7話穢れ無き乙女を生け贄に受け取りましょう-1

日の光が一切差さぬ迷宮の奥で、時間を知ることは容易ではない。入り口付近ならまだしも、奥ともなると地上の暖まった空気すら流れ込んでくる事はなく、時間どころか季節すら感じる事はできない。

日時計など使えるわけも無いし、時間を伝える教会の鐘の音もない。機械式時計と言うのも考案されたらしいが、それも塔の上に取り付ける巨大なもので、狭いダンジョンの中に設置できるようなものではない。

そういうわけでダンジョン内での時間を知らせるのは、リルの重要な仕事の一つとなっていた。闇に包まれた魔界で暮らしていた彼女にとっては、今の時間を知る事は呼吸をするのと同じくらい容易い。

ごっしゅじんっさまー! 朝ですよー!

リルは機嫌よくOlの布団を剥ぐ。その途端、にこやかだった表情は怒りに引きつった。

何でアンタがここにいるのっ!?

布団の下にはOlに肢体を絡ませるユニスの姿があったからだ。しかも、一糸纏わぬ姿である。

んんおはよーリル

おはよーじゃない! アンタの部屋はちゃんと用意したでしょ?何でOlのベッドに潜り込んでんの!?

寝ぼけ眼を擦りながら身体を伸ばすユニスにリルは怒鳴る。

ユニスはぼんやりした表情で小首を傾げ、ぽんと手を打った。

あー、ダンジョンって底冷えするからついフラフラと暖かそうなベッドに

ならなんで全裸になってるのよッ!!

怒髪天を衝く、といった形相で叫ぶリルに、眉をしかめながらOlが身体を起こす。

やかましい。朝から騒ぐんじゃない

納得いかないーっ

Olに用意した着替えを渡しながら、リルは歯噛みした。

私は朝から着替えの準備に部屋の掃除、洗濯、ダンジョンの見回り、魔物の管理とか、色々忙しくやってるのよ!? なのに一日中働きもせずぐーたらしてるユニスの方がOlと沢山セックスしてるのはどういう事!?

お前とはそういう契約だから仕方ないだろう。ユニスに任せようにも、あまり役に立たんしな

Olの歯に衣着せぬ物言いが、ユニスの心に突き刺さる。元は王族であり、冒険者として根無し草の生活を続けていた彼女は基本的な家事は殆ど出来なかった。

(それに、ユニスにあまりダンジョン構造を知られても困る。寝返る可能性もあるのだからな)

(英雄の星の宿命はOlと契約する事で堕ちた英雄に変わったから、強制の呪いはまず解けないんじゃなかったの?)

(まず、であって100%ではない。また何かのきっかけで英雄に戻る可能性も僅かだが残っている。それがある限り、俺はユニスを完全に信頼する気はない)

契約を通した念話で、Olとリルはやり取りを交わす。遠回しに自分は信頼されているのか、と解釈しリルは笑顔になった。

うう、Ol、やっぱりあたしもリルの仕事手伝うよ

そんな思惑を露知らず、提案するユニスにOlは首を横に振る。

いや、お前はいざと言う時の剣として役に立ってくれれば良い。それに、リルの仕事も今日からは少しは軽くなるはずだ

ん? 手伝いのゴーレムでも作ってくれるの?

首を傾げるリルに、Olはため息をつく。

忘れたのか?今日は初めて、生贄の娘が届く日だ

第7話穢れ無き乙女を生け贄に受け取りましょう-2

では始めるぞ

現在Olが作っているダンジョンの奥の奥、最深部といえる場所に、その部屋はあった。

便宜上召喚の間と呼んでいるその部屋は10m四方ほどの大きさで、扉は一つだけ。地面には複雑な魔法陣が地面に直接彫り込まれていた。

Olのダンジョンの大部分には、転移魔術防止の結界が張られている。直接転移魔術でOlの寝室やダンジョンコアを襲撃される事への対策で、この結界の範囲内に転移を試みても元いた場所に跳ね返されてしまう。これは原理的なものなので、術を試すのがどのような存在であれ、覆す事は出来ない。

しかし、この結界はOl自身にも適用される為、外出や帰還が非常に面倒なものになる。それを回避する為に作られた、ダンジョン内唯一の穴がこの召喚の間だった。

この部屋にだけは外部から転移する事ができるのだ。当然、この部屋の座標は秘中の秘であり、読心の魔術や記憶を盗まれたりしても外部に情報が漏れないよう、リルやユニスには勿論、Ol自身にも念入りに呪いがかけられている。

剣を鞘から抜いてはいないものの緊張した面持ちのユニスと、同じく真剣な表情で魔法陣を見つめるリルを左右にはべらせ、Olはゆっくりと呪文を唱える。

部屋の中の空気がゆっくりと渦巻き、魔法陣が淡い光を放ちだす。Olの唱える呪文がうねり、機織りの様に振るわれる指先から描かれるルーンが輝く軌跡となって魔法陣を取り巻く。

渦巻く空気はやがて突風の様に吹きすさび、どんどんと力強さを増して竜巻の様にごうごうと音を立てる。

出でよ!

Olの叫び声と共に竜巻は一層激しさを増し、ルーンが強烈な発光と共にOl達の目を焼く。

は?

Olは思わず間抜けな声を上げる。

竜巻が過ぎ去り光が収まった後、魔法陣の上に現れていたのは、5羽の鶏と2頭の豚、1頭の牛と

その上で眠りこける、幼い少女だった。

子供?

ユニスが怪訝そうに呟く。

年齢は5,6歳だろうか。細い金色の髪をこめかみの上で二つ結びにして、貧しい村で調達できる中では最大限上等な服を着て来たようだ。綿で出来た質素なものではあるが、フリルのついた可愛らしいドレスに身を包んでいた。

そんな少女が、牛の背に抱きつくようにして眠っている。牛の方も時折尻尾をパタパタと振るだけで、少女の存在に頓着する様子はなかった。

娘よ、起きよ

Olが声をかけてみるが、少女は全くおきる気配もない。

叩き起こしたい所だが、こちらから足を踏み入れれば途端に魔法陣はその効力をなくす。逆に、こちらから踏み入らなければ、魔法陣の中から外に出る事は不可能だ。

村人達が生贄に戦力を仕込んで送る可能性も当然Olは予測し、対策している。その対策を自ら台無しにする訳には行かない。Olは油断なく、もう一度娘に声をかける事にした。

起きよ。お前は何者だ?

二度目の声も、少女には届いた気配は無い。器用にも牛の背の上で寝返りを打ち、Olから顔を背けさえした。

爆睡だね

リルが呆れたような、感心したような良くわからない表情で呟く。夢を操る夢魔でもある彼女には、少女が完全に熟睡している事が見て取れた。

起きよ!

苛立ち半分のOlの声が、まるで雷鳴の様に部屋の中に轟いた。魔術まで併用した怒声に、さすがに少女も身体をびくりと震わせて牛の背から転げ落ちる。

ふ、ぅぇ?

落下ダメージはさほどなかったのか、少女はすぐにひょこりと顔を上げると、戸惑ったように辺りを見回した。

娘よ。お前は何者だ?

地獄の底から響くような低い声でOlが尋ねると、少女はびくりと身体を震わせ、同じように震える声で自己紹介を始めた。

え、あ、ぅご、ごきげんうわるしゅう、おうるさま、わ、わたし、は、マリーベルともうし、ます。え、と、い、いご、どうぞおそばにええと、おそばに

丸暗記させられたのが見え見えの文句を、マリーベルと名乗った少女はたどたどしく綴る。

魔力は殆ど持ってないよ。少なくとも、大人が魔術で化けたりしてるワケじゃない。見たままの子供

武器とか使えるわけでもなさそう。フツーの子供じゃないかな

リルとユニスが、それぞれマリーベルの能力を分析する。Olの所見も彼女達と同様のものだった。

若くて清らかな娘を寄越せ、とは言ったがな

幾らなんでも若すぎる。Olはため息をつくと、軽く手で払って魔法陣を打ち破る。

村に行く。ユニス、共をしろ。リルはその娘の相手をしていてくれ

また留守番、しかも子守~?

Olはあたしが守るからねー

不満を漏らすリルと、嬉しそうにOlの腕に抱きつくユニス。どうしてこう、忠実な部下が手に入らないのだろう、と悩みながら、Olは転移の術の準備を始めた。

第7話穢れ無き乙女を生け贄に受け取りましょう-3

Olはユニスを伴い、マリーベルの村へと転移した。転移先は村の中央の祭壇ではなく、村から少し離れた場所だ。今回の件について、Olは三通りの予測を立てていた。そのうち二つは、こうしてOlが村を訪れる事を見越したものだ。

一つ目。抗議に来たOlに奇襲を仕掛け、倒す為の罠。

二つ目。抗議に来たOlが留守の間にダンジョンを攻める為の罠。

前者は転移先を村から離れた場所にする事で奇襲を避け、ユニスを伴うことで戦力的にも問題ない。後者はダンジョンにリルを残しているから、侵入者があればすぐにわかるはずだ。

問題は、三つ目だった場合。そして困った事に、その三つ目である可能性がもっとも高い。

村を訪れるとすぐさま平伏した村人達を見て、Olは自分の嫌な予感が当たった事を悟った。

つまり、マリーベル以外に清らかな若い女はいない、と、そういう事だな?

はい、その通りでございます。今、この村には若い娘が殆どおりませんで僅かにいた若い娘も、Ol様がいらっしゃる前に嫁いだもので、男を知らぬ中ではマリーが一番の年嵩なんでございます

さすがに生贄がOlの望んでいるものでなかった事は理解しているのだろう。村長は身を最大限小さくして、地面に額をつけんばかりに頭を下げた。

三つ目の予測。それは、村人が最大限誠実に取引を行った結果がこれである、と言うものだった。それは非常に困る。Olは今、切実に人手を必要としているのだ。

本来なら二ヶ月前に一人生贄が手に入る予定だったのだが、その村はユニスを手に入れる際に丸ごと灰にしてしまった。

骨も残さず燃やした為、リビングデッドやスケルトンさえ手に入らなかったのだ。

その言葉に嘘はないな?

猛禽の様に鋭い目で、Olは村長を射抜く。重圧に耐えかね、村長は震えながら答えた。

そ、その、一人、おるにはおるのですがとてもOl様に捧げられるような器量の娘ではなく

良い。その娘を連れて来い

もとより、Olは村娘の外見には殆ど期待していなかった。所詮田舎の村にそれほど美しい娘がいるとも思えない。処女を要求したのも、性処理ではなく魔術的な価値を重視しての話だ。

しかし

二度は言わんぞ

躊躇する村長に睨みを聞かせると、村長は逃げるように屋敷を飛び出していく。何故そんなに躊躇うのか、という疑問は、連れられて来た娘を見て氷解した。

長い黒髪に白い肌、均整の取れた体付きに、整った容貌。

そして、それら全てを台無しにする醜い傷跡が、顔の左半分を覆った娘だった。

Olの隣で、ユニスが僅かに息を呑む気配を感じる。

なるほど、醜いな

Olは率直にそういった。

幼い頃に重度の火傷を負ったのだろう。半分だけ焼け爛れた肌は、もう半分の美しさと対比されそのおぞましさをいや増していた。長い袖の服から顔を出している指先を見るに、顔だけでなく左半身の殆どが傷を負っているのだろう。この娘を抱こうなどと考える男は皆無であったに違いない。

ええ、ですから、Ol様のお目に入れるも見苦しく、候補から外した次第でして

Olの言葉に少し安心したらしく、村長は僅かに緊張のほぐれた表情で言った。

娘。名は何と言う

ソフィアと申します

それに対し、娘は全く臆した様子もなくそう答えた。Olに醜いと蔑まれた時も、眉一つ動かさなかった。その瞳は氷の様に冷たく、表情と同様に何の感情も読み取れない。

面白い

Olはニヤリと笑みを浮かべた。

姿かたちは若返っているとは言え、Olは熟練の魔術師である。その視線を真っ向から受けて、表情一つ変えない者など滅多にいない。

村長よ。俺はこの娘が気に入った。貰っていくぞ

は、はぁ、それは構いませんがその、マリーは

驚きつつも頷き、村長は探るような視線をOlに送る。

悪いが、マリーベルというあの娘を帰す訳にはいかん

Olの迷宮のほんの一端とは言え知った者を外に出す気はなかった。

が、契約は一年につき一人娘を差し出せ、と言う内容だ。無闇にその約定を破る訳にはいかん。10年。今から10年の間、娘を差し出すのを取りやめてよい

あありがとうございます!

マリーベルの、と言うよりは来年以降の事を心配していたのだろう。

Olがそういうと、村長は露骨に安堵の表情を見せた。

Olとしても、来年から赤子の様な娘を差し出されても困る。

良いだろう。では10年後の娘と、月々の作物を忘れぬようにせよ

そう言い残し、Olはユニスとソフィアを抱きかかえるようにして転移の呪文を唱える。

邪悪な魔術師が姿を消した後、村長は息をついて長椅子に深々と腰掛けた。

凄まじい圧力を放つ魔術師と、村中で忌み嫌われていた娘が村を去った事に、心の底から安堵しながら。

第7話穢れ無き乙女を生け贄に受け取りましょう-4

召喚の間に戻ると、マリーベルとリルの姿はなかった。マリーベルと一緒にやってきたはずの家畜も姿を消している。リルがちゃんと家畜小屋の方に連れて行ったのだろう。

こっちだ

召喚の間唯一の扉を見ていたソフィアに声をかけ、Olは部屋の隅の壁へと手招きする。Olが壁に触れると、その腕は何の抵抗もなく壁の中にもぐりこんだ。壁に見えるのはただの幻影で、外への通路はここにある。当然、扉の方は罠で、開いて出ようとすると底に槍衾を仕込んだ落とし穴が待ち受けるようになっている。

万が一、転移先を発見された時の予防策だ。

ソフィアはそんな仕掛けを不思議そうな目で見る事もなく、黙ってOlの後をついてくる。その仕草はまるで何の感情もない人形のようだった。

ね、Ol、あの子なんだかちょっと変じゃない?

Olの隣を歩きながら、ユニスが小声で尋ねる。

何がだ?

対して、Olは声を抑える気もない。

わかんないけどあの傷がどうこうとかじゃなくて

ユニスは違和感の正体に気付いていないのか、言葉を濁す。

Olは、リルであればどう評するだろうかと少し気になったが、構わず自室にソフィアを連れて行くと、後ろを振り返りおもむろに命じた。

脱げ

端的に命じると、言葉もなくソフィアは着ていた衣服を脱ぐ。その動きはよどみなく、恐怖も羞恥心も見て取れなかった。

Olの鋭い視線の先でソフィアは衣服を全て脱ぎ捨て、下着も取り去って一糸纏わぬ姿になった。

ユニスが憐憫に眉を寄せ、目を伏せる。ソフィアの傷はそれほど惨たらしいものだった。

火傷は額から顔の左半分を多い、首から左腕、左乳房から腰までを満遍なく覆っていた。

こんな傷を受けてよく死ななかったものだ、とOlは感心しさえした。

そのような裸身を晒しているにも関わらず、ソフィアは全く表情を変えず、身体を隠す素振りも見せなかった。微動だにせず立っている姿を見ると、趣味の悪い人形を見ているかのような錯覚を覚えた。

しかし、それが彼女の本質でない事をOlは見抜いていた。

美しいな

Olが呟くと、僅かにソフィアの頬が震える。

確かに、ソフィアは右半身に限ればこの上ないほど美しかった。長く艶やかな黒い髪に、黒曜石の様な切れ長の瞳。肌の白さは陶磁器の様に艶やかで、手足はほっそりと長く、しかし出るべきところはその存在感をしっかりと主張している。精巧な人形を思わせる美しさだ。

そして、まるでその美しさは全て醜い左半身の為にあるかのようだった。髪は生えることなく頭皮は月の表面の様にボコボコとした肌を露出させ、瞼は焼け落ち窪んだ眼窩がぎょろりと目を覗かせる。頬は薄い皮膚の裏に筋肉の線を覗かせ、唇は裏返り血を吸ったヒルの様にぶよぶよとしていた。

肌は赤黒く焼け滑らかな場所はどこにもなく、老いさらばえた牛の膝の様に筋張っていた。左胸の先端にあるべきものはなく、僅かに名残らしき色素の沈着が見て取れるだけで、まるで煮えたぎるマグマを固めたようなボコボコとした傷痕を晒していた。

面積としては、傷痕の方がそうでない箇所の方よりよほど狭い。しかし、この傷こそが彼女の本質であると、美しさは醜さを際立たせる為だけにあるのだと主張しているかのようであった。

その傷はどのようについたものだ?

ユニスが不安げにOlを見る。何故そのような事を聞くのか、と抗議する意思がその瞳に映っていた。

幼い頃、焼けた油を被りました

それに対して、ソフィアの瞳は揺らぎもしない。

それは何故だ?

盗賊に襲われぬ為に、自分で被りました

ユニスが驚きに目を見開いた。

お前と同年代の娘が殆どいないのは、その盗賊のせいか

はい。少しでも見目の良い娘は盗賊に捕まり、犯され、殺されました。村に残ったのは醜い娘と、それよりも醜い私だけです

Olは薄く笑みを浮かべる。ソフィアは相変わらず表情を変えなかったが、その奥にある感情は言葉の端々に溢れ出て来ていた。

あの村はお前の犠牲で、もう盗賊に襲われる事はない。村を狙う不届き者は、ガーゴイルが皆殺しにするであろう

はい

無感情に、ソフィアはこくりと頷いた。心底どうでも良い、といった風情だ。実際どうでも良いことなのだろう。

マリーベルという娘は知っているな? お前の前に生贄としてきた、4,5歳の金髪の娘だ

それは恐らく真名でしょう。村では単にマリーと呼ばれています

ソフィアが初めて、僅かに言い澱む。ユニスは単に、ソフィアがマリーの真名を知らなかったからだと考えたが、Olは別の感想を抱いた。

あれはまだ幼いが、生贄に選ばれるだけあって美しいな。肌は絹のようで、髪は太陽の光を刈り取ってきたかのようだ。もう10年もすれば、誰もが手に入れたいと思うような美女に育つだろう

はい

誰もがあの娘を愛しく思うだろう。雨は避け、日の光は柔らかに降り注ぎ、大地は暖かく抱きとめる。病も獣もあの娘を傷つける事は敵わず、もっとも飢えた盗賊さえあの娘を慈しみ育てるだろう

Olほどの魔術師が唱えるそれは、もはや予言だ。そしてそれは同時に、呪いでもある。

マリーベルはこれから、Olの庇護の下すくすくと育つ事だろう。

羨ましいか?

唐突にOlはソフィアの目を覗き込んだ。その問いに、初めてソフィアは言葉に詰まる。

お前は呪われた子、忌み嫌われた子だ。誰もがお前を避け、遠ざける。飢えた盗賊でさえ、だ。お前の踏んだ大地からは稲は芽吹かず、土は冷え霜に覆われて固まり、風は止み太陽は雲に覆われる。世界がお前を憎んでいるからだ。醜いお前を、闇に棲む恐ろしい獣を、恐れているからだ

ソフィアはOlの瞳をじっと見つめ返す。しかし、その目には先ほどまでとは違い、しっかり感情の色を宿していた。

村の人間はお前を恐れただろう。それはお前の姿が醜いからではない。身を守る為に焼けた油を被る娘が恐ろしかったからだ。身体の半分を焼かれながらも生き延びるお前が恐ろしかったからだ。人の姿をしながら、人ではないお前が恐ろしかったからだ

ソフィアは初めて、表情を歪めた。人形の様に端整で、悪夢の様に醜い顔が、ぐにゃりと歪む。

憎いんだろう?

それは怒りでも、悲しみでも、憤りでもなく

ええ、憎い。何もかもが

深い、深い笑みだった。

第7話穢れ無き乙女を生け贄に受け取りましょう-5

ユニスには今目の前にいる女性が、ただの村娘である事が信じられなかった。

腕にも脚にも、ろくに筋肉はついていない。立ち居振る舞いも、実戦はおろか訓練すら受けていないただの一般人のそれだ。魔力は感じない。ユニスはリルほど魔力に敏感な訳ではないが、それでも相手が魔術師であるかどうかぐらいの判断は出来る。

つまり、ユニスの知識も経験も、目の前の女性が全く戦闘手段を持っていないと結論付けていた。その気になれば一刀の元に斬り捨てられるだろう。戦いが起こりすらしない、ユニスにとっては動かぬ杭を斬り捨てるも同じだ。

にもかかわらず、ユニスの心はソフィアに恐怖を抱いていた。外見ではない。何か果てしのない、説明できない感覚が、彼女が危険であると全力で警鐘を鳴らしていた。

Olに会う前の自分であれば、剣を抜き放ち斬りかかっていたかも知れない。しかし、その場合地面に横たわる死体は一つではないだろう。倒せない事はないだろうが、自分もただではすまない。英雄を持ってしてそんな予感を抱かせる力が、ソフィアの笑顔にはあった。

ユニス、部屋に戻っていろ

ユニスは心配そうにOlを見る。しかし、その目は問題ないと語っていた。ユニスは素直に頷き、部屋を出て行く。彼女は、ソフィアに感じる圧力と同じ種類のものを感じた事がある。

その持ち主が、他ならぬOlだったからだ。

美しいな

ユニスが部屋を出て行った後、もう一度Olはその言葉を口にした。

Ol様にあらせられては、ご慧眼、感服いたします

その言葉を皮肉だと取ったのだろう。ソフィアも慇懃に皮肉で返す。

俺が美しいといったのはソフィア、お前のその心根だ。全てを憎む真っ黒な憎悪だ。人を憎み、世界を憎み、自分自身をも呪っている。それは魔術師として稀有な才能だ。お前には、俺より優れた魔術師になる素質がある。ただの村娘にしておくのは惜しい

Olはソフィアの顎を掴み、上を向かせた。そして、唇が触れ合いそうなほどの距離で目を見つめながら、低い声で呪文を唱えるかのように囁く。

選ぶがいい。そのまま醜い者として老いさらばえ、朽ち果てるか。邪悪の限りを尽くし、屍の上に立ち、呪われ、血塗られた道を歩くか

Olの魂まで見透かすような視線に、ソフィアは身体を震わせた。

それは、歓喜だった。

誰もが目を背け、表面すら見ようとしなかったソフィアの事を、Olはずっと奥まで見通していた。

火傷の傷より何倍も醜い呪いと憎しみを覗き込み、それを美しいと評したのだ。

ああ

ソフィアは悦びの声を上げた。自らの幸福を噛み締める声ではない。女が自らを男に捧げるときの声だった。

Ol様私が進みたい道は、あなた様の道です。屍の上を歩くなら、私がそれを殺しましょう。呪われ血塗れているならば、私がそれをすすりましょう。我が名、ソフィリシアに誓って

良かろう。ならば、お前は今から俺の弟子だ。これからお前はソフィリシアの名を捨て、スピナと名乗れ。ネリス・ビア・スピナ。それが今日からお前の名だ。そして、師からの最初の教えを聞け

ソフィア改めスピナはOlの足元に跪き、邪悪な洗礼を受けた。

人としてのソフィアは死に、これから邪悪なる魔術師スピナの生が始まるのだ。

自分以外、この世の誰も信用するな。間違っても真名など教えるな。全てのものは利用する為にだけある

Olにとってもそうなのだろうか、とスピナは考えた。

肝に銘じておきます

考えるまでもない。Olにとってスピナは利用する為の駒だ。そして、誰よりも優秀な駒になる事を、スピナは望んでいるのだ。スピナは跪きながら、深く頭を下げ、Olの足に口付け忠誠を誓った。

リル、いるかって何をやっているんだ

粗末な木製の扉を開け、目に入ってきた光景にOlは呆れた声を出した。

何って、Olが世話してろって言ったんじゃない

リルの傍らでは、マリーが蕩けた表情で棒状の物に小さな舌を這わせていた。黒檀を彫って作られたと思しきそれは、なにやら妙に見覚えのある形をしていた。

ほら、まだ小さいから下の方使うと裂けちゃうでしょ? だから口だけでも使える様に教育しておこうと思って。これよく出来てるでしょ? Olの形の張り形

淫魔らしいといえば淫魔らしい発想だが、年端も行かない童女に何を教えているんだ、とOlは傷む頭を軽く抑える。

そんな事より、家事が出来るように仕込んでくれ。こいつにもだ

Olは背後の女に、リルに挨拶するよう示した。軽く頷き、スピナはリルの前に進み出て頭を下げる。

本日よりOl様の弟子となりました、スピナと申します。よろしくお願いします

リルは目を丸くしてスピナを見る。その容姿が醜かったからでは、ない。

あまりに、美しかったからだ。

え、何、どっから連れてきたのこんな子

スピナの傷痕はOlの魔術により消され、彼女が本来持っていた美しさが完璧に取り戻されていた。相変わらず表情はないが、それがかえってその人形めいた神秘的な美しさを際立たせている。

どこでもいいだろう。とにかく、当分はリルについて雑事を覚えろ。ダンジョンの見回り、清掃、魔物や罠の管理、死体処理、食料の管理、シーツの取替えに料理もだ

やっとそういった仕事から解放されるのね! やった!スピナって言ったっけ、しっかり仕事覚えなさいよー

喜ぶリルに、スピナは表情を微塵も変えず答えた。

私が従うのはお師匠様だけです。使い魔ごときに命令される謂れはありませんので勘違いなさらないで下さい

ぴしり、とリルの笑顔が凍りつく。そして、スピナを指差しOlに抗議の声を上げた。

Ol! この子凄い性格悪い!

そうだ、だから弟子にした

ああっこっちも性格悪いんだった!

まるでOlが二人に増えたかのような錯覚を覚え、リルは頭を抱えるのだった。

第7.5話ダンジョン解説

第7話終了時点でのダンジョン。

悪名:2

貯蓄魔力:16(単位:万/日)

消費魔力:3.5(単位:万/日)

召喚の間

最深部に出来た部屋。Olの迷宮の中で、唯一直接転移が可能となっている。ここに転移してきたものは魔法陣の中に捕らえられ、迷宮内に元々いたものの許可がなければ魔法陣から出ることが出来ない。

転移魔術防止結界

Olの迷宮全体にはられている結界。この結界内には原理的に転移魔術で転移することは出来ない。大きな街や王都にも張られているメジャーな結界で、暗殺者や盗賊の侵入を防ぐ為に用いられる。

リルの寝室

リル専用の部屋。何処から持ってきたのか、花やぬいぐるみなんかが飾ってあって意外とファンシー。

ユニスの寝室

ユニス専用の部屋。最低限の家具と武具が飾ってあるだけの殺風景な部屋。部屋の主は基本的にOlの部屋に入り浸っている。

汎用寝室

生け贄として送られてくる予定の娘達のための部屋。折角だから、と10部屋くらい作ったのだが、ユニスのごたごたのせいで娘の到着が2ヶ月ほど遅れ、長く日の目を見ていなかった。

マリー(子供)

戦力:0

5歳児。戦力を期待するも愚か、足手纏いにしかなりようがないが、元々持っていた気質に加えOlがかけた健やかに育つ呪いのせいで大人になるまでは凄まじく運がいい。

スピナ(魔術師見習い)

Olの弟子にはなったものの、まだ見習いであるため魔術らしい魔術は使うことが出来ない。しかし、恐ろしく豪胆で自らの死の危険性があるような事でも必要なら全く躊躇なく実行することが出来る。ある意味もっとも敵に回してはいけない人物。

ジャイアントスパイダー

洞窟や森の奥深くなど、薄く瘴気の漂う場所に巣を張る巨大な蜘蛛。Olの迷宮の一角に巣を張っている。基本的には巣にさえ近づかなければ無害だが、糸は非常に細く見つけにくい。しばしばゴブリンが巣にかかって餌になっている。

オーク

2mほどの体躯を持つ妖魔の一種。ゴブリンに比べればかなり期待できる戦闘能力を持ってはいるものの、数頼みの雑魚には違いない。争いごとや血生臭いことが好きでしょっちゅうゴブリンを血祭りにあげている。

非支配層に魔物が増えたものの、Olの配下としては余り戦力は増えていない。また、Olの技術ではそろそろダンジョンの拡張に限界がきており、迷宮の一部が崩落しては修復を繰り返している。

第8話邪悪なる下僕どもを揃えましょう-1

そうマリーがそっちで

では私は

あ、私空飛べるから

じゃあ、あたしは

なにやらひそひそと交わされる言葉に、目を開いたOlの視界に映ったのは白く伸びる足だった。

それを辿って根元の方を見れば、彼の股間に群がるように寄り添う四つの顔があった。

何をしている

あ、ご主人様おはよー

おはようございます、お師匠様

おっはよーOlー!

おはよ、ございます、おうるさま

低く唸るように問うと、4種類の挨拶が返ってきた。

4人とも一糸纏わぬ裸身で、それぞれいきり立つOlの一物に舌を這わせていた。

Olの両足の間にマリーが小さな頭を突っ込み、裏筋の辺りを懸命に舐めあげる。

左手にはユニスが陣取り、舌を長く伸ばして玉を撫でる様に愛撫する。

右手にはスピナが首をかしげ、横笛でも吹くかのように竿を軽く食んでいる。

そしてOlの身体と互い違いになるようにリルが翼を広げ、空中からOlの鈴口に舌を這わせていた。

目の前で浮いているので、むっちりとした太ももからそれに挟まれた秘裂、たっぷりとしたボリュームのある乳房まで全部丸見えだ。

あはっ、おっきくなった。やっぱり意識があると反応が違うね。どう、ご主人様? 愛妾4人によるお目覚めフェラは

男なら誰もが羨むであろう体勢ではあるが、複数人による口淫という物はその見た目ほど良いものではない。口淫、というその字句とは裏腹に、実際に快楽を与えるのは手の動きが主なものであり、数人がかりの口淫では手による愛撫はほぼ不可能になるからだ。

が、それは尋常な女によるものの話だ。淫靡を知り尽くし、性技を極めた淫魔の取り仕切るこの宴では少々わけが違った。

ふりふりと形のいい尻と共に振られる尻尾によって4人の身体の動きはまるで一つの生き物のように統制され、Olの肉棒をその4つの唇でしごき、舐め上げ、吸い、むさぼっていた。

くああ、そのまま続けろ

Olは腕を伸ばし、ユニスとスピナの胸を鷲掴みにする。二人はOlが胸を揉み易いように身動ぎして体勢を変えると、リルの指揮の元、一気に攻勢にかかった。

四つの舌がまるで手の指のように協力して動き、Olの肉棒を挟んでしごき上げる。

悪魔のような、というより正に悪魔の技巧によってOlはあっという間に絶頂に導かれた。

抵抗する事無く欲望を解き放ち、四人の娘の顔を白い欲望が汚していく。

で、どうしてこんな事になったんだ

えーとぉ、それぞれがOlを起こそうとしてて

誰がご主人様を起こすかとか、ちゃんと決まってなかったでしょ?

全員が自分が、と主張した結果、リルが全員で起こそう、と提案しまして

みんなで、おこし、ました!

いつの間にそんなに仲が良くなったのか、Olの言葉に少女達は口々に答えた。

はあ、とOlはため息をつき、言った。

では、今日はそれぞれの仕事を割り振るとするか

とりあえず、現在の急務は戦力の確保だ

全員に顔を洗わせ、スピナの作った朝食を胃の中に収めた後、Olは全員を集めてそういった。

過去、魔術協会で講師をしていた時期を思い返しながら、Olは黒板に白墨で文字を書いていく。

最低限の人手と、生活基盤が成り立ったからな。次は、領土を広げる為の戦力を確保せねばならん

以前ユニスがスケルトンやゴブリンの大半を殲滅してしまった上に、魔力も大量に使ってしまったので、現在のOlの迷宮には戦力と呼べるような存在が殆どいなかった。

防衛はユニスがいれば殆ど問題はないだろうが、攻め入るとなると話は別だった。

戦力確保の手段は大きく分けて次の四種類だ。自然発生。契約雇用。魔術創造。悪魔召喚。細かく説明していくぞ

既にこっくりこっくり船を漕ぎ始めているマリーを無視して、Olは続けた。

というか、何でマリーまで集まってるんだ。

まず、自然発生だ。以前リルには軽く説明したが、悪鬼妖魔の類はダンジョンを用意しておくだけで勝手に集まってくる。入り口すぐの所に巣を作ってるゴブリンなんかが良い例だな。こいつらは基本的に、敵ではないが味方でもない。不用意に巣に近づけば襲い掛かってくる。我々の居住区には魔除けの結界が張ってあるからそうそう入ってくることはないが、誤って踏み入れないように気をつけろ。特に、マリーがふらふらしないように見張っていろよ、スピナ

名前を呼ばれ、びくりとマリーが目を覚まし、辺りをきょときょとと見回す。

この自然発生する魔物を管理するのはリルの役目だ。魔物は基本的に悪魔を攻撃しない。その身が肉じゃなく魔力の塊で、餌にはならん事を本能的に知ってるからな。新しい魔物が巣を作りにきたら報告しろ

はーい

やる気があるのかないのか、リルは手を挙げて返事をする。

自然発生の要因となるのは、瘴気と深度、そして部屋の形だ。瘴気が濃ければ濃いほど、深度が深ければ深いほど強力な妖魔が惹きつけられる。部屋の形は好み次第だから、いろんな形の部屋を作っておけ。狭い部屋を好む妖魔もいれば、広い部屋を好むもの、天井の高い部屋を好むもの、水辺を好むもの、さまざまだ

瘴気と深度とは何ですか?

Olの説明が一段落したところでスピナが手を上げ、質問する。

弟子の出来のよさに感心しながら、Olは説明した。

瘴気とは、有体に言えば空気に含まれる魔の濃度の事だ。生き物が死んだり、悪魔が滞在したりしているとこれが濃くなる。瘴気があまりにも濃いと勝手に悪霊が生まれたりするがこれも自然発生の範疇に入るな。深度はそのまま、ダンジョンの深さの事だ。浅い層は瘴気の濃さに限界がある。深ければ深いほど、瘴気は濃くなっていく。今このダンジョンは全3階層まだまだ深くする予定だ

なるほど、と頷くスピナの横で、ユニスが難しい顔をする。どうにか、Olの説明を咀嚼している所らしい。彼女が何とか折り合いをつけた様子なのをみて、Olは次の説明に入った。

二つ目、契約雇用は比較的わかりやすいだろう

というか、わかってもらわないと困る。

自然発生で迷宮に巣を作る妖魔や、迷宮を訪れる者の中には条件次第ではこちらに協力しても良いと考えるものもいる。まあ、ある程度以上の知能を持つものでないと無理だろうが。そういったもの達を、金銭や食料などを対価に味方につける事ができる。大抵の物は金があれば用意できるから、実質金銭だな。これが契約雇用だ

おー、わかりやすい

今度は理解できたようで、ユニスが声を上げた。

まあ、ある意味でユニス自身がこれに近いわけだが。対価は裏切らない事だ。

これは基本的には俺が担当するが、ユニスにも協力をしてもらう。契約を結ぶにも、こちらにある程度の戦力がなければ足元を見られるからな。交渉自体は俺が行うが、傍にいて睨みを利かせてくれればいい

了解!

ユニスは元気よく答えた。今まで何もすることがなかったので嬉しいのだろう。

妖魔の種類によっては、互いに諍いを起こす事もあるだろう。そういった場合の鎮圧もユニスの仕事だ。いわば治安維持だな。リル、そういった騒ぎを見かけたら、俺とユニスに知らせるようにしてくれ

ん、わかった

そういうのは得意だから、任せといて!

頷く二人に満足し、Olは更に説明を続ける。

魔術創造はスピナ、お前の仕事だ。これは、魔術でゴーレムやスケルトンといった擬似生命を作るものだ。はっきり言って、魔法生物は戦闘においては大した役には立たん。さほど強くないし、判断力もないに等しい。が、創造主には絶対忠実だし疲れも知らんから、単純な作業や雑事の手助けにはピッタリだ。餌も要らんから契約雇用の様にコストもかからん

こくり、とスピナは頷く。説明を聞く態度を見るに、彼女はかなり聡明そうだ。

魔法生物の作成に限れば、一ヶ月もあればそれなりのものを作り出し、一年か二年程度で一端の魔術師には育つだろう、とOlは睨んだ。

最後の悪魔召喚は、まあ現物がそこにいるから大体わかるだろう。全面的に俺が請け負うから理解する必要もさほどないが、一応説明しておく

Olはリルを見ながら言葉をつづる。

悪魔召喚は、まあ聞いて字の如く、悪魔を異界から召喚し、使役する方法だ。酷く手間がかかるし、呼び出すのにも維持するのにも大量の魔力を食う。他の三種に比べ圧倒的にコストがかかる。が、その能力は折り紙つきだ。リルは淫魔だから戦闘力は大したことはないが、普通の悪魔はそこらの妖魔とは比べ物にならんほどの強さを持っている。切り札というか、奥の手に当たるわけだ

なるほどー

まあ、本当の切り札は今頷いているお前なんだがな、と、Olはユニスを見て胸中でつぶやく。彼女が、仮にも中級悪魔に属するヘルハウンドを一刀の元に切り捨てたのは記憶に新しい。

まとめるぞ。自然発生はコストはかからないが、戦力は安定しない。担当はリル。契約雇用は戦力は期待できるが、金が必要。担当はユニス。魔術創造はわずかな魔力で作れるが、戦闘の役にはあまり立たない。担当はスピナ。悪魔召喚は膨大な魔力を必要とするが、戦力は随一。担当は俺だ

はーい。そんじゃ、また迷宮の見回りいってくるかなー

ん、何とかわかった!

かしこまりました、お師匠様。具体的な魔術の手ほどきをお願いいたします

三者三様に答える部下達に頷くと、Olの服の袖がくいくいと引っ張られた。

そちらをみると、マリーが何やら期待に目を輝かせ、Olを見上げていた。

わたしの、たんとう、は?

五歳児に何を期待しろというんだ。そんな言葉を飲み込み、Olは声を絞り出すように答えた。

飯の時間になったら俺を呼びに来い

あい!

とてもいい笑顔で、マリーは返事をした。

第8話邪悪なる下僕どもを揃えましょう-2

ご主人様、第一階層にコボルトが巣をはったよ

おお、ついにか!

リルの報告に、Olは思わず表情をほころばせた。

珍しい彼の喜びの表情に、リルは首を傾げる。

コボルトってそんなに強い妖魔でもないんじゃなかったっけ?ゴブリンよりちょい強いくらいでしょ

ああ、その通りだ。が、奴らは元々鉱山に住む土の妖精の出身でな。鉄を腐らせるから嫌われて闇に落ちはしたが、石の細工や坑道掘りは抜群に上手い。今までは俺の素人に毛が生えた程度の技術と、インプどもの魔力で何とかダンジョンを拡げてきたが、これで一気に拡張できるぞ

そういえば、この所ダンジョンの規模は殆ど変わっておらず、インプも崩れた場所を補修するくらいで殆ど見かけなくなっていた、とリルは思い出した。

いいか、絶対に逃すな。貯蓄している食料から、1割なら分け与えてよい。懐かせ、味方に引き入れろ。魅了の術を使っても構わん。オークとは天敵だから巣を離しておき、絶対に鉢合わせしないように配慮しろ。戦いになったら勝つのはオークだからな。いざとなったらオークどもを皆殺しにしてでもコボルトを守れ。いいな

熱心に説明するOlに気圧され、たじろぎながらもリルはこくこくと頷いた。

後、Olに面会したいって言うアールヴの一団が来てるんだけど、どうする?一応ユニスも呼ぶ?

アールヴだと?

ふむ、とOlは少し考え、首を横に振った。

いや、ユニスはいい。俺とお前で対応しよう

アールヴと言うのは、森に住む妖精の一種だ。地方によってはエルフなどと呼ばれる事もある。

男女共に総じて美形で、弓や魔術の扱いに長け、長命で老いを知らない。

迷宮の第二階層にある応接室でOlの前に現れたのは、褐色の肌を持つ美女たち5人だった。

皆一様に黒い髪を持ち、アーモンド形の深緑の瞳をしていた。

褐色の肌を持つ彼女たちは、アールヴの中でも黒アールヴ、もしくはデックアールヴといわれる氏族だ。白い肌のリョースアールヴに比べ、闇に近く好戦的なことで知られる。

面会の機会を与えて頂き、ありがとうございます。私は黒の氏族の長、エレンと申します

先頭に立った女がそう切り出した。

Olだ。用件を聞こう

Olは椅子に深々と腰掛けたまま、努めて横柄な態度で答えた。

単刀直入に申しませば、我らを保護していただきたいのです。あの憎き白アールヴどもに、我ら黒の氏族は殆どが殺され、残ったものも散り散りになりました。ここに逃れてこれたのは、私を含めましてこの僅か5名のみ。他の仲間はどうなったのかすらわかりません

白アールヴは人間と手を組んだか

Olがそういうと、エレンはぎくりと身を震わせた。

さすがは、偉大なる迷宮の王、Ol殿。そこまで見抜いておられましたか

好戦的な黒アールヴに比べ、白アールヴは本質的に平穏と停滞を好む種族だ。

戦いになれば、白アールヴが敵う訳はない。

となれば、黒アールヴ側が戦争を仕掛け、人間と手を組んだ白アールヴがそれを返り討ちにしたという辺りが実際のところなのだろう。

白アールヴも人間に対し友好的と言うほどではないが、はっきりと敵対している黒アールヴに比べればその関係は良好だ。人間側も、黒アールヴの事は悪魔の使いと信じている。

人間に殺され、人間の俺に頼るか

Olが危惧しているのは、エレン達が人間に恨みを持ち、その範囲にOl自身も含んでいる事だ。

Ol殿は人を超えたお方。庇護を下さるならば、間違っても刃向かおうなどとは思いませぬ

じっと二人は見つめあい、腹の内を探り合う。

良かろう。対価は何だ? まさか、刃向かわぬ事、などと言うわけではなかろうな

とりあえず嘘はなさそうだ、と判断し、Olはそう問うた。

勿論です。僅か5つの手勢なれど、ここにいるものは全て一騎当千の精鋭。憎き白アールヴを平らげるその日まで、その身全てをOl殿に捧げましょう

黒アールヴの精鋭となれば、5人といえどこれは中々の戦力だ。運が良ければ仲間を見つけて手勢を増やす事もできるだろう。期限付きだが、気の長いアールヴの事だ、最低でも100年単位の話だろう。

いいだろう、念のために服従の呪いはかけさせてもらうが、構わぬな?

勿論です

それと、少し契約内容を変えさせてもらおう。白アールヴは殺さず、なるべく生け捕りにせよ。男は殺しても構わんが、女は必ずだ

生け捕りですか

この提案には、エレンは難色を示した。生け捕りとなれば殺すよりも難しい。

その分、自分たちの損害が増えるだろう。何より、Olに白アールヴを保護する意図があるのではないか、とエレンは疑った。

ただ殺すより、陵辱され汚される白アールヴを見たくはないか?気が狂うまで犯され、辱められ、死ぬ事もできずに責め苦を味わう白アールヴを見たいとは思わないか?

飛び切り邪悪な笑みを見せるOlに、エレンは少し安堵して笑い返した。

無論、その分の対価は払う。汝らに呪の篭った弓と矢を与え、戦力となる妖魔や悪魔も貸し与えよう。汝らが一騎当千の兵とは言え、僅かに5000。白アールヴとそれに組する人間どもを相手取るには少々心もとなかろう

御意にございます。その条件で、我らはOl殿に従いましょう

エレン以下、5人全員が跪く。満足げに頷き、Olは傍らのリルに視線を向けた。

リル、部屋を用意してやれ。どこかいい空き部屋はあったか?

えーっと、第二階層の南東がいいかな? ドヴェ

そこは駄目だ

リルの言葉を遮り、Olは言った。

第三階層の北東にしろ

えでも、第三階層だと外に出にくいし、居住区にも近いし、あんまり

いい部屋残ってないよ

困惑の表情を浮かべ、リルはOlの耳に口を近づけ、小声で囁く。

その声が聞こえたのか、ピクリとエレンは眉をひそめた。その目は如実に語っている。Ol殿は我らを冷遇する気かと。

居住区で構わん。汝らにあてがう予定の部屋の傍には地下水脈が流れていてな。最近では地熱を利用して、常時沸く湯殿を用意してある

ほう、湯殿!

エレンは驚き、表情をほころばせた。

アールヴの美姫となれば、他の妖魔と同じ扱いは出来ぬ。ただでさえ冷たく暗い石造りの箱の中、その美しさが損なわれるような事があってはならん。食事も我々が食べているものと同等のものを用意させていただこう

確かに、我らは土に転がり泥にまみれ喜ぶドヴェルグどもとは違います。格別の配慮、痛み入ります

エレンは、深々と頭を下げた。

Olって、美人に甘いよね

頬を膨らませ、リルがぼやく。最近はご主人様で定着しつつあった呼び方が、Olに戻っていた。

おろかもの。あれはお前のせいだぞ。アールヴの前でドヴェルグの名前など出すんじゃない

リルはドヴェルグの隣の部屋が空いている、と言おうとしていた。エレンは鋭くそれを察知し、眉を吊り上げたのだ。

白も黒も、アールヴはドヴェルグとは伝統的に仲が悪い。その隣の部屋を用意する等と言い出せば、最悪両方ともこのダンジョンから出て行くと言いかねんぞ。そのくらい奴らは仲が悪いんだ。覚えておけ

うご、ごめん

Olはため息をつき、リルの腰を抱き寄せた。

えーとここでするの?

困惑しながらも、リルはOlがしやすいように姿勢を整える。

お前達淫魔が一番集中できるのは、セックスの時だろう

Olはズボンを下ろすと、リルの殆ど下着に近い服をずらして一気に突き入れた。

魔物達の敵対関係は、お前がもっとも頭に叩き込んでおくべき事柄だ。全部覚えるまで攻め続けるからな

えっ、ちょ、待って、そういう、事、するならっ、この快楽、切って、よぉ!

駄目だ。まずは最重要事項。コボルトの天敵は何か覚えているか?

いきなり激しく抽送を繰り返しながら、Olは耳元でリルに問う。

オーク、ぅぅ! あっ、駄目、それ、やぁあ!

ごりごりと中を擦りあげてやると、リルは背筋を反らして高い声で鳴いた。人間の娘相手にいきなりこんな事をすれば痛みしか与えないが、淫魔のリルにとっては快楽でしかない。

では、ジャイアントスパイダーと一緒にしてはいけないのは?

んっ、え、っと、ぉあっ、や、あぁん! あ、そう、フ、フライ!ジャイ、アント、フライッ!

正解だ

人間さえも頭から食べてしまうほど巨大な蜘蛛、ジャイアントスパイダーは特にジャイアントフライがお気に入りだ。見かければ巣にかかってなくても襲い、食べてしまう。

では、ヴァンパイアと一緒にしてはいけないのは?

ええっ!? な、あぁん、わか、んっ、ない、よっ、ぉ!あい、つ、天敵とかんんっ、いた、っけ?

正解は聖職者だ。弱点だろ

中を抉るように、奥まで突き上げる。

ああぁぁぁあっ! な、何っ、それ、ずるああああっ! 駄目、駄目ぇ!おか、しくなちゃうぅ

それは困る。まだまだ覚えるべき事は幾つもあるぞ。ファイアドレイクと一緒にしちゃ駄目なのは何だ?

ドレりゅ、ああっ、竜に、ああんっ、だ、めぇぇ天敵、なんか、あぁっ!

いる、ワケ

正解は大量のフロストジャイアントだ。寒くてドレイクが冬眠してしまうからな

もおぉっ、絶対それ、タダのイジメでしょっ、このドS変態ジジイーーーーっ!

その日、Olの迷宮の第二階層の一角に、悲鳴と嬌声、そして罵倒の声が長い事響き渡っていた。

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