受けてくれるの、くれないの?

Olの言葉をあえて無視して、ウィキアは詰め寄った。

青銀の瞳が、矢のようにOlを射抜く。

Olはしばし思考を巡らせた後、ゆっくりと頷いた。

詳細なルールを教えろ。その勝負、受けて立ってやる

結論から言えば、勝負はウィキアの惨敗だった。

新しく作ったばかりでろくに研究もしていないルールには、定石も何もない。互いに手探りで勝機を探しつつ、取った駒はどこにでも置けるため縦横無尽に戦場を駆ける。

敵兵を捕らえ洗脳し、迷宮の魔術で転移しての奇襲をイメージしたそのルールにいち早く順応したのは、Olの方だった。

そうでなくとも、普通のチェスとは打てる手の数が段違いだ。手段が増えれば増えるほど、Olはその力を増していく。深く先を読むウィキアに対し、Olは広く視野を持っているのだとわかった。

これで私の三戦三敗ね

そうだな。そのようだが

あっさりとした様子で両手を上げるウィキアに対し、Olは腑に落ちない様子で頷いた。

なあに?

そんなOlに、ウィキアはニッコリと笑ってやった。

いや

何がウィキアの狙いなのかわからないのだろう。

かと言って、相手に直接聞くような愚かなことをする男でもない。

試すような真似をするからよ、とウィキアは内心で呟く。

いずれOlもこれがただの嫌がらせに過ぎないことに気づくだろうが、それまで精々苦しめばいい。

眉間に皺を寄せて思い悩むOlにべっと舌を出し、ウィキアは笑みを押し殺しながら部屋を出ていった。

8.アールヴの巫女と魔王の弟子

最近、Ol様があんまりオマ○コしてくれないんです

その物言いのせいではないだろうか。

ナジャは喉元まで出かけたその言葉を、何とか飲み込んだ。

あたし、Ol様に捨てられてしまうんでしょうか

単にお忙しいのだろう。小国とは言え、国を一つ従えたばかりだ

代わりにShalを慰めるように言ったそれは、嘘ではない。

実際、フィグリア王国を支配することに成功したOlはここ最近と言うもの、多忙を極めていた。そもそも迷宮に帰らない日も多い。

そう、なのでしょうか

美しいエメラルドグリーンの髪から突きだしている細長い耳が、しゅんと垂れる。こうしている様は何とも儚げで繊細な美少女なのだが。

我々は留守を任されているのだ。これほど重要な任を与える相手を捨てることはなさらないだろう

それはそうなんですけどぉ

そう言う事じゃなくて、と言いたげなShalの気持ちも分からないではない。ナジャもShalも、Olの部下であると同時に愛妾の一人でもあるのだ。

戦士としてだけではなく一人の女としても必要として欲しいという思いは、ナジャにもあった。

フィグリア王妃は、とても豊満な方だとお聞きしました

ぺたぺたと己の胸元を撫でさすりながら、Shal。

やっぱりOl様もおっぱい大きい方が良いんでしょうか

その視線はナジャの胸元をじっと刺し貫いていた。

そんな事はないんじゃ、ないか?

思わず己の豊満な胸を腕で押さえつけながら、ナジャは身をよじる。

剣を振るときには邪魔としか思えないその膨らみ。しかしOlにそこをなぶられたり、乳房を使っての奉仕をしているときなどは、誇らしさを感じるのも嘘ではなかった。

ほら、ユニス様も大きい方ではないだろう

疑わしげな視線を向けてくるShalに、ナジャは慌ててそう言い繕う。少年のような雰囲気を持つ彼女は、Shalほどでは無いにしろ身体の凹凸に乏しい。

そもそもリル様がいる時点で、体格を競っても仕方ないんじゃないか?

女淫魔であるリルの身体は、男を悦ばせるためだけにあるようなものだ。同性の目から見てさえそのプロポーションはため息が出るほどに完璧で、それでいて肉感的な艶めかしさに溢れている。人の身で張り合おうなどという方が無謀だった。

それに比べれば妖精特有の美貌を持っている分、ナジャよりもShalの方が恵まれている。

リルさん

不意にShalはつぶやくと、立ち上がって拳を握りしめた。

リルさんは確か今日、ダンジョンにいましたよね?

ああ、そのはずだが

戸惑いつつも、ナジャは頷く。

Ol様に愛される秘訣を聞きに行ってきます!

あ、おい!

ナジャが止める間もなく、Shalは部屋を飛び出していった。

石造りの廊下を駆けて、目指すはリルの部屋。

失礼します!

え?な、何?

Shalがノックもなしに扉を開くと、人ならざりし絶世の美女はちょうどベッドに寝転がって本を読んでいるところだった。辺りには紙屑や脱ぎ散らかした衣類が散乱していて、とても美女の部屋とは思えない。

明らかに、Olの目がないせいでだらけきり、油断しきった女の姿がそこにはあった。

失礼しました

Shalは無表情で、パタンと扉を閉める。

え、何!?なんなのよー!?

部屋の中から、困惑したリルの声が木霊した。

それでなぜ、私の元に?

二種類の薬剤をくるくると混ぜあわせながら、表情もなく平坦な声でスピナは尋ねた。

社交的なリルやユニスと違って、スピナは殆どShal達と会話したことがない。

こうして頼ってくるのは意外だった。

リルさんはあんまり頼りになりそうにないですし、ユニスさんはOl様の護衛で出てていませんし

つまりは消去法か、とスピナは納得する。

それに、一番愛されているのはスピナさんじゃないかと思って

薬剤を混ぜていたスピナの手が、ピタリと止まった。

何故そう思うのですか

能面のような表情を変えぬまま、スピナは問う。

だって、リルさんはOl様が呼び出した悪魔ですし、ユニスさんは英雄です。どちらも、この迷宮になくてはならない方です。ですが、そのスピナさんは、失礼ですが

戦力としては不要故に、お師匠様から愛されているのかも知れない、と

カラカラと音を立てながら、スピナは更に幾つか薬剤を足して混ぜるのを再開する。

液薬がどんどん鮮やかなピンク色に染まっていくが大丈夫なのだろうか、とShalは少し心配になった。

仮にそうだとして、お師匠様から愛される方法を私が教えるとでも?

それもそうか、とShalは納得した。

Shal自身は、Olを独占しようなどと思ったことはない。

他の妻や愛妾達もそうだろう。

だがスピナだけは別な気がした。彼女の愛は傍目から見てもかなり重い。

Olの愛を自分だけのものにしたいと考えても不思議ではなかった。

そうですよね。すみませんでした

当たり前です。そんなそんな恥ずかしいこと、他人に言えるわけがないでしょう

真っ赤に染まった薬を混ぜながら、眉一つ動かさずにスピナはそう言った。

驚きに目を見開くShalに、逆にスピナの方が驚く。

恥ずかしいってライバルに塩を送るのが嫌だからじゃなくてですか?

ライバル?

スピナは不思議そうに首を傾げた。

他の人にOl様を取られたくない、って

どういう意味ですか

初めて、スピナが声色に感情らしきものを滲ませる。

不本意でならない、と言いたげな声だった。

取られるも何も、お師匠様は誰のものでもありません。所有されているのは、私の方。この髪一本から血の一滴に至るまで、私は全てお師匠様のものです

きっぱりと言い放つスピナの言葉に、Shalは目から鱗が落ちる思いだった。

スピナさん、ありがとうございます!

ぎゅっと己の手を握るShalを、スピナは奇妙な生き物を見るような目で見やる。

あたし、寵愛を受けたいばかりに一番大事なことを忘れてましたOl様に喜んでもらうのが第一と言うことを

それは、良かったですね?

Shalの反応に困惑しつつ、スピナは適当に頷いて調子を合わせる。

ですからっ

きらきらと瞳を輝かせながら、Shalはそんなスピナを見つめた。

一緒に考えましょうっ。どんなお誘い方をしたら、Ol様に喜んでもらえるか

いえ、結構です

心底嬉しそうに言うShalを、スピナはすっぱりと切り捨てる。

やっぱり基本的には淫語を織り交ぜた方がいいと思うんですよね!

あ、駄目だ、こいつも人の話を聞かないタイプだ。

金色の髪の幼女を思い浮かべながら、スピナは本能的にそう悟った。

完全に引いているスピナを全く気にすることなく、Shalは話を続けていく。

あたし達はプロポーションで不利ですから、全裸で迫るよりはチラリズム的な要素で勝負した方がいいと思うんですが

どうでも良いです

なるほど、どちらかに拘らず、どちらも使っていくべきなんですね!

誰か助けて。

スピナは生まれて初めて、そう願った。

7.紅髪翠眼の剣士達

はあぁっ!

裂帛の気合いと共に、ナジャは剣を上段に構えながら一直線にローガンへと駆けた。

防御のことは一切考えていない捨て身の突進を、ローガンは腕を振って迎撃する。丸太のような太い腕がナジャの身体を吹き飛ばす寸前、バチリと音が鳴って見えない壁に弾かれた。Shalが張った魔法障壁だ。

振り下ろされるナジャの一撃を、ローガンは身体を開いて辛うじてかわす。そこに、ウィキアの放った氷弾が迫った。ナジャの攻撃をかわして体勢を崩したローガンに、それを避けるすべはない。

彼が、人間であったなら、の話だが。

おっとっと、あぶねえあぶねえ

体勢を崩しても無駄ってわけね

そのままふわりと宙を舞って氷弾をかわすローガンに、ウィキアは舌打ちした。床を蹴ることなく自由自在に空を駆ける悪魔に、体勢など関係ない。だが直前までそれを感じさせない動きに、まんまと騙された形だ。

ウィキア、剣を!

ええっ!

ローガンが離れて出来た間合いを詰めながら、ナジャは剣を掲げる。ウィキアの杖から迸った光が剣に絡みついて、ナジャはそのまま刃を振るった。

うおっ!

大振りの一撃をかわそうとするローガンの背が、何かに当って止まる。Shalが張った障壁だと気づく頃には、どうしようもないほどナジャの剣が迫っていた。

舌打ちしつつ、ローガンは腕を一本犠牲にして剣を止める。

くっ

掌から肘までを切り裂いた刃はそこでピタリと止まり、ビクともしなくなる。ナジャはすぐさま剣を捨てて距離を取ろうとするが、それでも一瞬遅かった。

逃さねえよ

ローガンの太い腕がナジャの頭を掴み、軽々と持ち上げる。同時に、彼女の全身は真っ赤な炎に包まれた。

ナジャ!

ウィキアの悲鳴が木霊する。

その声に答えるように、ナジャはぐっと両手でローガンの腕を掴むと、彼の顎を思い切り蹴りあげた。

ぐえっ!

仰け反るローガンの手から逃れて剣を引き抜き、ナジャは両手でそれを掲げて跳躍する。

風よ!

力を!

ウィキアの放った風がナジャの身体を空高く飛ばし、Shalの魔術がナジャの腕に力を与える。

おおおおっ!

そして一刀のもとに、ローガンの首を刎ね飛ばした。

何とか勝ったか

地に降り立ち、荒い呼吸を整えながらナジャは地面を転がるローガンの首に振り向く。

いやいやいや

ローガンの身体がよたよたと首に近づいたかと思うと、ひょいと拾いあげて肩の上に乗せた。

どう考えても炎で包んだ時点で死亡判定だろが

ゴキゴキと首を鳴らしつつ腕を振れば、剣で裂かれた手がぴたりとくっついて元に戻る。

あの程度、Shalの防御魔術がかかっていれば耐えられる

実際の戦闘なら、火で息も止める。防御魔術なんざ関係ねえよ

ナジャとローガンが言い合っていると、パチパチと拍手の音が響いた。

お疲れ様、いい勝負だったね

声に目を向けると、いつの間にかユニスが訓練室の入り口に立っていた。

ユニス様。帰ってらしたんですか

うん、ついさっきね。ちょっと身体動かそうかと思って

ユニスがこの訓練室に顔をだすのは非常に珍しい。

でもナジャ達が使ってるんなら、また後にするよ

いえ、お待ちください

その好機を逃すまいと、ナジャは呼び止めた。

私達とお手合わせ願えませんか?

えーとうん、いいよ

ユニスは一瞬悩んだ後、こくりと頷く。

ありがとうございます。ウィキア、Shal、構わないか?

ええ。英雄と戦える機会なんてそうそうないもの

勿論、構いませんよ!

左右の二人に問えば、当然のように快諾が返ってきた。

では、お願いします

ええーと

部屋の中央で剣を構えてみせると、ユニスは少し困惑したように頬をかく。

三人で?

私一人の方がよろしいでしょうか?

いや、その、ね

ナジャの問いにユニスは困り果てたように眉を寄せて、視線を逸らす。

ローガンも入れて四人でも、大丈夫、かな

控えめに、しかしはっきりとした声で言うユニスに、ナジャ達は色めき立った。

英雄たるユニスに一対一で敵うとは思わないが、それでも皆その腕に依って生きてきた猛者である。しかも互いの強さは今の模擬戦で確かめ合ったばかりだ。流石に四人がかりで問題無いと言われるのは屈辱だった。

そこまで言われちゃあ引き下がれねえな。いいだろう、手を貸してやろうじゃねえか

ローガンもその気持ちは同様だったのだろう。ゴキゴキと拳を鳴らしながら、フォーメーションを組むナジャ達の後ろに立つ。

行くぞ!

先手を打ったのは、ナジャ達だった。地を這うように間合いを詰めて切り上げるナジャの頭上を飛びながら、ローガンはユニスを挟み込むかのように四本の腕を大きく広げる。上下左右、全方向からの一斉攻撃だ。

避けようのないはずのその攻撃が身体に触れる寸前、ユニスの身体は掻き消えた。ナジャの斬撃とローガンの爪が、虚空を切り裂く。彼女達がユニスの身体を目で追って振り向くよりも早く、ユニスは二人の間をすり抜けてウィキアに肉薄していた。

転移の魔術でも、特殊能力でもない。純粋な身のこなしの早さだけで、ユニスはナジャ達を出し抜いたのだ。

だが、ウィキアはそれを完全に読んでいた。前衛が二人、後衛が二人。この中で最も厄介なのは攻撃魔術を操るウィキアだ。早々に自分を潰しに来る事を予測し、彼女はそれに備えていた。

雷撃(ライトニング)!

ウィキアの手の平で雷球が浮かび、バチバチと音を立てながら矢のようにユニスへと伸びる。ユニスの体術は異常だが、文字通り雷速で動く稲妻の矢を避けられる程ではない。

そして生き物である以上、雷撃を受ければその動きは止まる。どれだけ魔術に抵抗があろうが、頑丈だろうが、その身体を動かしているのは微弱な電気の信号だ。雷撃はそれを麻痺させる。

そんな考えは、雷撃を無造作に片手で弾くユニスの前に霧散した。まるでゴミでも丸めるかのように稲妻を受け止め投げ捨てる姿に、ウィキアの思考は一瞬停止した。

とはいえ、そこで思考を続けていても結果は同じことだっただろう。ユニスは鞘の付いたままの剣でウィキアの後頭部を軽く殴りつけ、一撃で意識を奪う。

気絶して倒れるウィキアの身体をそっと抱きとめ、地面に寝かせたところで、ユニスの身体に魔力の縄がぐるりと巻き付いた。

対人緊縛(ホールド・パーソン)!

Shalの指から伸びた光の縄は、ユニスの腕ごと身体をぐるりと縛り付けている。無論英雄を縛り付けられるのはほんの一瞬だろうが、ナジャとローガンにはその一瞬で十分だ。

身体を縛られたユニスは剣で防ぐことも出来ず、足までぐるぐる巻になっているので走ることさえ出来ない。ユニスは足先に力を込めると、縛られたままナジャの方にぴょんと飛んだ。

ダメージを軽減するため、ローガンの攻撃は避けたか。そう思いつつも、ナジャはぐっと両腕に力を込めて剣を振りぬいた。

な!

ユニスは身体を捩り、ナジャに近づきながらも紙一重で剣を躱す。

いや、紙一重どころの話ではない。

魔力の縄はしっかりとユニスの身体を縛り、その間には紙一枚入らなかっただろうから。

なるほど、これ便利だね

ナジャの剣でShalの束縛を切り解いたユニスは、片手を掲げる。その指先から魔力の縄が五本飛び出し、ナジャの全身をぐるぐると縛った。どれだけ力を込めても縄はびくともせず、ユニスの真似を出来る気も全くしない。

ローガンには手加減要らないよね

動きを封じられたナジャを尻目に、ユニスは鞘から剣を抜いてにっこりと微笑む。

いや、ちょ、待っ

後退るローガンに、ユニスは遠慮なく斬りかかった。

まさか、あそこまで差があるとはな

訓練室の床に寝転びながら、ナジャはポツリとぼやく。

ローガンはShalの援護を受けながら戦ったが、結局ユニスに一撃も浴びせる事ができずに負けた。善戦と言っていいだろう。十合以上は打ちあったのだから。

ほんの一呼吸程度で負けたナジャ達に比べれば、かなりマシだ。

そうね。あそこまで無茶苦茶だとは思わなかったわ

あれは勝てる気がしないですねー

ウィキアとShalもナジャに同意する。

しかしその口調はナジャとは少し異なっていた。

悔しくないのか?

あそこまで圧倒的だと、悔しいって気は逆に起きないですね敵じゃなくてよかったなって思います

武力で真正面から勝てる相手では無いって事がはっきりしたから、勝とうとするなら策を練るわ

ナジャも頭では、二人の言うことはもっともだと思った。

只人の身で英雄に勝とうという方が無茶なのかもしれない。

だが、物心付く前から剣を振ってきた身として、自分よりも何歳も若い小さな少女に手も足も出ないというのは、受け入れがたいことだった。

魔術を合わせた戦いで負けるのは仕方ない。

だがせめて、剣だけでも勝ちたい。

そんな想いを抱えながら、ナジャはShalとウィキアが自室に帰った後、一人こっそりと訓練室へと戻った。

大きく息を吸い、ゆっくりと吐いて呼吸を整える。剣を両手で構え、小指から順に力を込めて握っていく。力は入れすぎても、抜きすぎてもいけない。そのまま剣を振り上げ、一気に下ろす。

フッ、と鋭い風切音が鳴った。

一切無駄のない一撃を放てた時だけになる音だ。今のナジャでは、こうして気を落ち着け、正しい構えを取らなければ出せない音。無論、実戦の中で出せるのは百に一度、あるかないか。

だがこの音を常に出せるようになれば、ユニスにも勝てるかもしれない。その先に剣の頂があるのだと信じて、ナジャは無心で剣を振り続ける。

炎弾(フレイムバレット)

不意に聞こえた声と膨れ上がる魔力に、ナジャは反射的に振り向く。そのまま考える暇もなく剣を振り下ろすと、彼女に向かって飛んできた火炎球は真っ二つに切り裂かれてナジャの背後に着弾した。

おお、すごーい

目を大きく見開いてパチパチと拍手しているのは、ユニスだった。

彼女に攻撃された事に驚くべきか、自分の剣が魔術を切れた事に驚くべきか、ナジャは混乱して剣を構えたままの姿勢で呆然とユニスを見つめる。

ごめん。その音の剣なら、魔術切れるんじゃないかなって思って、つい

ユニスは悪戯っぽく笑って、自分の後頭部に手をやった。

びっくりしました

うん、だよね、ごめんね

流石に申し訳なさそうに、ユニスは頭を下げる。

ナジャさんってさ、うちの人だよね?

ええ。グランディエラの生まれです

赤い髪に緑の瞳、褐色の肌。ユニスとナジャに共通するその特徴は、典型的なグランディエラ人のものだ。つまりナジャにとってユニスは仕える主人の情婦であり、同時に故国の姫でもある。二重に敬意を抱くべき相手といえる。

お願い、あたしに剣を教えて!

はあ?

そんな相手に、思わず不遜極まりない声が出た。

あ、申し訳ありません、ですが御存知の通り、私にはユニス様に教えられるような事は何もございません

ううん、そんなことないよ。ナジャさんの方が剣は上手いでしょ

真剣な表情で、ユニスは首を振る。それは、事実だった。

使っている剣技自体は同じ流派だから、技は比べやすい。

百回戦えばユニスが百回勝つ。

だが、技術という点に限って言えば、ナジャはユニスの遥か高みにあった。

ですが私の剣など、ユニス様には不要でしょう

獅子は何故強いか。

そこに理由などない。獅子は獅子であるがゆえに強いのだ。

英雄もそれと同じだ。ナジャの何倍も早く動き、強い力を持つユニスに剣の技など必要ない。鉄の塊を思うままに振るえば、それが必殺の一撃だ。

あたしも、そう思ってたんだけどね

飾らず遜らず、ユニスはまっすぐに言葉を紡ぐ。

今回、駄目だったんだ。エレン達が来てくれなきゃ、Olを守りきれなかった。あたしはもっともっと強くならなきゃいけない

悔しそうに、少女は拳を握りしめた。

ああ、なんだ、と、ナジャは心中で呟く。

だから、お願い。あたしに剣を教えて、ナジャさん!

上を目指す気持ちは、英雄も只人も全く変わらないのだ。

分かりました。ですが一つ、条件があります

うん、なんでも言って

真摯な表情で頷く少女は、恐らくあっという間に技術でもナジャを抜いていってしまうだろう。だが、それはそれで悪くないとも思えた。自分が師から教わった技を、英雄が受け継ぐ。剣士としてこれ程の誉れは他にない。

ナジャさん、というのは座りが悪いので、ただナジャと呼んで下さい

わかった、よろしくね、ナジャ!

晴れやかな気持ちで、ナジャはユニスの差し出した手を握り返した。

6.夢魔とエルフと獣の王

では、今日はよろしくおねがいしますね、リルさん、ベティさん

はいはーい、お任せあれー

ペコリと頭を下げるミオに、エレンの部下の一人、ベティはぐっと拳を掲げて見せた。

ミオは真面目ねえ

リルがこうして彼女に付き合って迷宮の浅い層まで遠征するのは、そう珍しいことではない。月に一度か二度は行っていることだった。メンバーはミオとリル、ミオが世話をしているヘルハウンド二頭と、エレンか彼女の部下から一人、というのがいつものパターンだ。

いえ、私の為にご面倒をかけるんですから

わたしの仕事でもあるんだから気にしないでいい、って言ってるのに

そんなやりとりももはや恒例の事だった。

さ、それじゃあ行きましょー!

弓を掲げるベティに倣い、ミオとリルはおーと拳を掲げた。

Olの迷宮は、現在四つの階層にわかれている。そのうち下半分はOlが完全に支配しているが、上半分は野生のモンスター達が棲むに任せている。

彼女達が目指すのは、第二階層だ。Olの支配下にない魔物達が多数存在している上、冒険者達も入り込んでくる場所である。ミオ一人では危険という事で、リルとエレン達が護衛を務めているのだ。

リルはそれほど強いわけではないが、ヘルハウンドを含めて過半数が悪魔であれば野生の魔物はまず襲ってこない。悪魔は餌にならず、そのくせ危険な存在だ。自分の生存を何よりも優先する野生の生き物は、本能的に近寄ってこない。

そうでないのは冒険者だが、第二階層をうろつく程度の冒険者なら大抵ヘルハウンドが二頭もいれば何とかなる。たまに強敵がいないわけではないが、そんな相手でもエレンかその部下が一人いれば何の問題もなく撃退出来た。偶然出会ってしまった冒険者達は不運としか言いようがないが、逃げるなら追撃はしない事にしている。

げぇっ、獣の魔王(ビーストロード)だ!

逃げろ!

今日もばったりと出会ってしまった冒険者達が、ミオの顔を見るなり血相を変えて逃げ出していく。何組もの冒険者を返り討ちにするうちにすっかり顔が売れてしまったらしい。

付いたあだ名がビーストロード。不確定名は金髪の三つ編みである。

ちょっと、傷つきますよね

えー、いいじゃないですかー。格好いいですよ、ビーストロード。ボクもエレン様やミオさんみたいな二つ名で呼ばれたいなあ

額をダンジョンの壁に押し当てながら肩を落とすミオに対して、ベティは脳天気に笑った。

もうそろそろ目的地よ、気をつけてね

和やかなムードに、リルは釘を刺す。

彼女がついてきているのは魔物よけだけではなく、道案内のためでもある。

定期的に迷宮内を巡回する彼女は誰よりも迷宮の構造に熟知しているのだ。

どの辺りにどんな魔物がいるか、といった細かい情報であれば迷宮の主であるOlよりも細かく把握している。

いた、あれよ

そこは、地上から直接縦穴で繋がっている場所だった。縦穴は急ではあるが斜面になっていて、第二階層まで陽の光が差し込んでいる。この斜面から魔獣達は迷宮に入ってくるのだ。

そしてそこに生えそろっている草を喰んでいる魔獣が、今回の目的だった。

うわぁ思ったよりおっきいですね

ベティが思わず声を漏らす。

その魔獣は、動物に例えるなら牛に似ていた。

蹄の生えた四本の太い足、太い首に支えられた巨大な頭からは、鋭い角が二本生えている。だがその大きさは牡牛の更に数倍はあり、重さであるなら数十倍はあると思われた。何故なら、その皮膚は全て分厚い鋼鉄で出来ているからだ。

ゴルゴンって言うんだってさ、あれ。ミオ、いけそう?

頑張ってみます

ミオはきりりと眉を引き締め、頷く。

ゆっくりと近づいていく彼女の背丈は、ゴルゴンの膝よりも低い。

こんにちは。ちょっと話があるんだけど

ミオが声をかけると、ゴルゴンはのっそりとその首を回して彼女を見つめた。間近で見上げると、まるで山のような威圧感だ。

え、嘘、何で

驚きに目を見開き、呆然と立ち竦むミオの身体をベティが抱える。

彼女に向かって、ゴルゴンは轟音を立てながら突き進んだ。

話が通じないタイプみたいですね~

ギリギリで突進をかわしながら、ベティはミオを下ろして弓を構える。

待ってください!

ミオの制止よりも早く、神速で射られた矢がゴルゴンにむかって飛びそして、弾かれた。

うわっ、硬ぁ!

流石のベティも、これには驚く。

Olから与えられた強弓で放つ弓を弾く生き物がいるとは思わなかった。

どうする、逃げる?

パタパタと翼を羽ばたかせながら、リルが上空から声をかける。

いいえ説得してみます

ミオはベティの背から離れて前に一歩踏み出し、ヘルハウンド達も下げさせる。

そして、威嚇するように前足で地面を掻くゴルゴンにゆっくりと近づいた。

大丈夫

ゴルゴンの鼻から漏れる灰色の吐息がかかるほどの距離まで、ミオは歩を進める。

伸ばした手の指先から吐息と同じ灰色に染まり、ピシピシと音を立てて石化していった。

ミオさんっ

流石に助けようと駆け寄るベティの動きが、ミオの言葉でぴたりと止まる。

大声でも怒声でもない、ミオの静かなその声に、何故か抗えない。

怯えないで。私達は、あなたを傷つけたりなんかしない

半分以上石になった口をなんとか動かして、ミオはじっとゴルゴンの目を見つめた。

友達になりたいだけなの

ゴルゴンもまた、赤く光る瞳で彼女の目を見つめ返す。

いつの間にかその口から漏れる灰色の吐息は消え、ゴルゴンはゆっくりとミオに近づく。そして不意に、紫色の長い舌を伸ばしてミオの顔をべろりと舐めた。

ありがとう

石化した顔をべろべろと舐められ、ミオは笑い声を漏らす。

えーと、もう、大丈夫なんですか?

和やかでありながら異様なその光景に、恐る恐るベティが問うた。

あ、はい、大丈夫です。この子は怖がってただけみたいなので

怖がってた、って

黒アールヴの弓を正面から受けてもびくともせず、近寄るものを皆石に変え、岩をも砕く突進をする生き物が、一体何を怖がる必要があるのか。

リルは呆れつつも、ミオのそばに降り立った。

で、いつまで石になってんの

それなんですけどー

ミオは石化していない側の顔だけで器用に困った表情を浮かべる。

この子、石にするのは出来るんですけど、元に戻すのは出来ないみたいで

困りました、と呟くミオに、リルは大きくため息をついた。

ミオってなんていうか、大物だと思うわベティ、治してあげて

えっ、ボク、石化解除なんて使えないですよ。リルさんは

悪魔が回復魔術なんて使えるわけ無いでしょ

思わず無言で、リルとベティは見つめ合う。

えっ、私、もしかしてずっとこのままなんですか?どうしよう、皆の世話もあるのに

いや、自分の心配をしなさいよ

心底弱り果てたミオの言葉に、リルとベティは思わず笑いあった。

なお、ミオの石化を治療してもらった後、リル達は三人揃ってこってりとOlに絞られることになるが、それはまた別の話だ。

5.白と黒の妖精姫

主殿、主殿ぉっ!

あぁぁぁあっ、Ol様、もっと、もっとぉっ

二つの声色が、Olの寝室に響いていた。

すらりとした長身を四つん這いにし、後ろから突かれて褐色の乳房を揺らすエレン。

小柄な身体を更に縮こまらせて、ささやかな胸を隠すように腕を畳み、大きく脚を開いてOlを受け入れるShal。

Shalとエレン。肌の色も体格も正反対の二人が、その肢体を絡ませ合いながら、Olの寵愛を受けていた。

あ、あ、あ、だめ、イく、イっちゃう、イっちゃうぅ!

いい、いいのぉっ!あたしも、あたしもイっちゃうぅっ!

互いに向かい合って重なりあう二人のアールヴへと交互に突き入れて、その柔肉を比べるように堪能する。豊満で肉感的なエレンの身体は包み込まれるかのような快楽があり、小柄なShalの膣内はきゅっと強く締め付ける刺激があった。

イくぞ!

二人を何度目かの絶頂に至らせたところでOlもまた達し、二人の性器で挟み込むかのように肉槍を差し込んで、そのすべすべとした腹を汚す。

荒く息をしながら緩慢な動作でエレンはShalの横に寝転んでスペースを空け、Olはその間に身体を横たえた。

あぁOl様の精液ぃ

ほんの少し休んで呼吸を整え、Shalは熱に浮かされるように身体をもたげると、Olの股間にしゃぶりついた。

む、独り占めはいかんぞ

それに張り合うようにエレンも顔を寄せ、二人で左右から今だ硬く屹立するそれを丁寧に舐め清めていく。

お前達は、互いに思うところはないのか?

二人の髪をなんとなく撫でながら、ふとOlは尋ねた。

思うところ?

エレンは首を傾げ、その隙を突くかのようにShalが陰茎の先を口に含む。

まあ、はしたない奴だとは思っているな

怒りを抑えるような声で言いつつ、エルはShalを睨みつけた。

白アールヴと黒アールヴは不倶戴天の敵だと聞いていたが

ああ、そのことか

毎晩誰を寝所に呼ぶかは、リルに一任してある。

その方がOlが決めるよりも角が立たないからだ。

Olの愛妾達の体調や性格を鑑み、頻度や組み合わせに不満が出ないようにスケジュールを組む。今まで一度も失敗したことがなかっただけに、寝室にエレンとShalが揃って現れた時にはOlも少し驚いた。

とは言え実際行為に及んでみれば二人とも特に仲違いするような事もなく、正直拍子抜けした気分だ。

白だ黒だと言っても、実際は様々だ。主殿は、氏族というものをご存知か?

アールヴは血縁で繋がった集団で生活する。それを氏族と呼ぶのだったな

アールヴは人間よりも閉鎖的で、一つの村の人間は全員血の繋がりがあり、外部から入ってくることや出て行くことが少ない。Olの認識は、そういったものだった。

然り。我らは黒アールヴの中でももっとも旧く、もっとも由緒正しい黒の氏族だ。我々が敵対しているのは白の氏族だけ。無論、他の白アールヴと仲が良いわけでもないが、同じ主に仕えるもの同士で諍うほどではない

Shalは白の氏族ではないのか

Olの問いに、Shalも流石に喉奥まで咥えこんでいた肉棒を離して顔を上げる。

はい。あたしは新緑の氏族です

確かここ百年ほどの間にできた氏族だったか

Shalはこくりと頷いて、肩まで伸ばしたボブカットをかきあげた。

新緑の氏族の特徴は、この緑の髪と、耳の形です。エレンさんとは違いますよね?

先の尖った耳は、妖精族全体の特徴だ。

だが、同じ尖った耳でもエレンとShalでは形が違った。

まるでナイフの刃のように細長いShalの耳に比べ、エレンの耳は木の葉のように広く短い。

なるほど。血縁ごとに氏族ごとに特徴が似通ってくるわけか。考えてみれば道理だが、逆に言えば特徴で氏族を見分けられるわけだな

Olが納得して頷くと、Shalは表情を暗くした。

新緑の氏族は、殆ど貧乳なんです

殆ど膨らみのない胸元をぺたぺたと触りつつ、Shalは悲しそうにそう呟く。

だが、Shal殿はまだ年若いだろう。成長すれば自然と大きくなるのではないか?

黒の氏族の人は皆巨乳だからそんなことが言えるんですよ!

普段温厚なShalに憎しみの篭った視線を向けられ、エレンは思わずたじろいだ。

い、いや、そうでもないだろう

確かに、四人いるエレンの部下の中には大きいというほどではない者もいる。

そんなことありますよ!

だが殆ど断崖絶壁に近いShalと比べれば十分豊かだ。

落ち着け。別に大きければ良いというわけでもない

でも、大きかったら色んな事が出来るじゃないですか

流石に見咎めてOlがフォローするも、Shalは不満げに己の胸を撫でる。

大きかったら、挟むもよし、押し付けるもよし、揉みしだいてもらうもよし、吸ってもらうもよし、振り回して頬を叩くもよしですよ!

最後のは要らん

熱く訴えるShalに、Olは渋面を作った。

今まで調教して変えたShalの性格に呆れることはしばしばあったが、これはなんとなく元々のような気もする。

主殿。主殿が若返っている魔術の逆で、Shal殿を成長させることは出来ないのか?

エレンの提案に、Olは少し悩む。

可能か不可能かで言えば、可能だ。だがそれには膨大な魔力を必要とする。人間ならばまだしも、アールヴは長命だ。それほどの時間を操るとなると、迷宮の魔力が枯渇してしまうかも知れん

Olの言葉に、Shalの耳がしゅんと垂れ下がる。

それに成長しても胸は大きくならないかもしれない、という言葉を、Olは飲み込んだ。

だが単に姿を変えるだけであればそれほどの魔力は要らん。望むなら

お願いします!

皆まで言うよりも早くShalは飛びつくようにしてOlの手を握った。

わかったわかった。動くなよ

Olが呪を唱えながらShalを指さすと、彼女の身体は光に包まれた。

そのまま、光がぐっと伸びてShalの体格は変わっていく。

わぁっ

光が消えた後、そこにはShalの面影を残した美女が立っていた。

手足がスラリと伸び、エレンと同じくらいの身長。

肩で切りそろえていたボブカットは腰まで伸びるストレートヘアとなり、何よりその胸元はエレンに勝るとも劣らぬほどの質量を備えている。

すごいです!重いです!肩が凝りそう!

なあ、主殿

きゃっきゃとはしゃぐShalを尻目に、エレンはOlに囁いた。

あれの逆も出来るか?

逆?小さくするということか?

ああ、それと

エレンはOlの耳元で何事か尋ねる。

Olは頷いて呪文を唱えると、エレンに魔術をかけた。

おお

先ほどまでのShal程の背丈に、凹凸の少ない体付き。

幼い童女のような姿に、エレンは喜色を浮かべて声を上げた。

なるほど、確かに私にもこんな時代があったな。妙な気分だ

しかし身体をくねらせ、笑みを浮かべながらOlに擦り寄るその姿は子供とは思えない艶かしさに満ちていた。

さあ、主殿

エレンはOlの胸板に手を当てて、首を伸ばし口付ける。

Olは彼女の小さな身体を抱きかかえ、そのままベッドの上に押し倒した。

あれーっ!?

自分の身体に夢中になっていたShalは、そこでようやく二人の様子に気がついた。

待ってろ、今から大事なところだ

しかしOlは彼女を一顧だにせず、エレンを抱きしめるようにして彼女の中心に押し入る。

っく流石に、なかなか

エレンは苦痛に顔を歪ませながら、声を漏らした。

大丈夫か?痛み止めの魔術でもかけるか

何を仰るか。そんな事をしては、折角主殿に処女に戻してもらった意味がないではないか

エレンはOlに頼み、男を知らない頃にまで身体を若返らせてもらっていた。勿論時間を戻したわけではないし、Olは彼女の幼いころを知っているわけでもないから、それは仮初のものだ。

だが、硬く閉じてキツくOlの逸物を締め付けるその感触は間違いなく穢れを知らぬ乙女のそれだった。

遠慮せず、我が身を楽しんでくれ

頷きつつも、Olはエレンをいたわるようにゆっくりと抽送を開始する。

私が初めて交わったのは、百と何十年前だったか

小さな身体を揺すられながら、ぽつりとエレンはそんな話をしだした。

アールヴにとっても随分前の事だ。相手のことも好いてはいたが、今にして思えば子供のごっこ遊びのようなものだったな

そうか

そっけなく答えるOlに、エレンはくすりと笑みを漏らす。

本当に愛している男に初めてを捧げるというのは、こんなに満たされるものだとは思わなかった

そしてOlの背をギュッと抱きしめ、全身でしがみつくように脚を回した。

この身体に、主殿を刻みつけてくれ。例え仮初めのものでも

ああ。しっかりと受け止めろ

その最奥までに突き入れて、Olは精を放つ。

あぁっ!

己の胎内を埋め尽くす勢いで吐き出されるそれに、エレンは高く、鳴いた。

これで、少しは満足か

はい。我儘を言って申し訳ありませぬ

情交の余韻を漂わせつつ、しかし硬い口調でエレンは答える。

別に気にせんがな。過去がどうあれ、今のお前が俺に従うのならそれでいい

主様

感極まったようにエレンは瞳を閉じ、そのおとがいを上に向けた。

Olはその顔に唇を近づけ

思い切り、顔をおっぱいで叩かれた。

何をする

折角!折角、おっぱい大きくなったのにOl様が全然こっちを見てくれないから!

ぶるんぶるんと巨大な乳房を揺らしつつ、Shalは涙目で抗議した。

(そうか、あの胸は俺が作ったものだから、あの胸ならば俺を攻撃できるのか)

その様子を見ながら、Olはそんな事を冷静に考える。

あたしも!あたしもちゃんと責任とってくださいぃ~!

ShalはぎゅっとOlの頭を抱きしめ、胸の谷間に押し付けた。

しっとりとした肌は吸い付いてくるかのようで、柔らかく気持ちいい。が、それは同時に、完全に息を塞ぐという事でもあった。しっとり吸い付く肌は息の逃げ場をなくし、柔らかな胸肉はぴったりと口の形にフィットして呼吸を塞ぐ。

その上、Ol自身が作り上げたものには魔術による防護が効かない。

その胸は、正しく、魔王を殺しうる凶器であった。

その後、Olが窒息する寸前にエレンが気付いて助け出し、Shalの胸は魔王殺し(デモンスレイヤー)と呼ばれる事をなんとか免れたのだった。

4.幼女とお姉ちゃん

コンコンと響くノックの音に、リルはベッドの上から跳ね起きた。

彼女の部屋をノックする人間は少ない。ユニスは大抵ノックした直後に扉を開くかノック自体を忘れるし、スピナはそもそも部屋を訪ねて来ない。

ちゃんと扉をノックするのはOlくらいだ。

リルは姿見を見ながら手早く髪を撫で付け、跳ねた部分を真っ直ぐに伸ばす。

そして一度、二度咳払いして、扉を開けた。

はい、なあにって

そこにいたのは、彼女が思い描いていた琥珀色の髪の魔術師ではなく。

マリー、どうしたの?

金髪の幼い少女だった。

ローガン、いなくてひまなの。リル、あそんで

ああOlの護衛役だもんね

支配したばかりのフィグリア王国を平定するため、ここしばらく迷宮を離れている。敵対するものにとってはこれ以上ない好機であるため、ユニスとローガンの二人が護衛についていた。

スピナはいるでしょ?

ソフィはだめ。つかえない

使えないって

きゅっと唇をへの字に結ぶマリーに、リルは思わず笑いを漏らす。

わかったわかった、リルおねーちゃんが遊んであげるわ

ありがとう、リル!

リルおねーちゃんね

ボールあそびしよ、リル

聞きなさいよ

どこまでもマイペースなマリーを追って、リルは通路に出た。途端、布を縫って作ったボールがぽんと飛んできて、廊下を転がっていく。

とって、とって

はいはい。まったく、もうちょっと落ち着きなさいよね

ぼやきつつボールを追って拾い上げ、リルはマリーに向けて放り投げてやる。マリーはそれを両手を広げて鼻先で受け止めながら、きゃっきゃと笑った。

いくよー、えい!

マリー、ボール投げるの下手ねえ

しかしマリーの投げ返したボールはてんで外れた方向に飛んでいって、リルは文句を言いつつボールを拾いに行く。

投げたボールをマリーは取り落とし、拾ってもう一度投げる。

あはは、えい!

もう、だからちゃんと投げなさいって!

あらぬ方向に飛んでいったボールを拾ってリルは投げ返し。

また見当違いの方にボールは飛んで行く。

あ、これ無限に続くやつだ

十回ほど繰り返したところで、リルは自分が木の棒を取ってこさせられる犬と似たような状態になっていることに気づいた。

ねえ、マリー別の、遊び、しない?

宙に浮いているとはいえ、流石に何度も往復させられれば疲れる。リルはぜえはあと荒く呼吸しながら、そう提案した。

そうだ、良い物作ってあげる

リルはふと思いついて、壁を指で撫でる。

ここだったら十分厚みがあるはずだし、大丈夫よね

呟きながらなぞる指先は、淡く輝いて円を描く。

こんなもんかな、えいっ

リルが魔力を込めて掌を押し当てると、迷宮の壁がぐにゃりと歪み、まるで吐き出されるように土の塊が廊下に飛び出した。

Olだったらこのくらい、指を鳴らすだけで全部やっちゃうんだろうけどね

ぼやきつつ、リルは土の塊を整えながら、同時にその表面に魔法陣を彫り上げる。

なあに、それ?

マリーの遊び相手を作ってるの

土塊をこねるリルを、マリーは興味深そうにじっと見つめる。

一緒にやってみる?

尋ねると、一も二もなくマリーは頷いた。

よし、これで完成!

できたー!

マリーとリルは揃って両腕をあげて、完成を喜ぶ。

うん、なかなかの出来じゃない

改めて出来上がった像を眺めて、リルはうんうんと頷く。

魔術で補助しつつ作ったこともあって、土塊にしてはかなり精巧な像が出来上がっていた。

モチーフには多少の難点があるけど

太い四本の腕に、引き締まった身体、山羊のように湾曲した二本の角。

ローガンだー!

それはどこからどう見ても、ロリコンの赤き悪魔の姿だった。

リルは最初、大雑把に人型の像を作るだけのつもりだった。しかし、マリーが勝手に腕を増やし、角を付け、尻尾を生やしだしたので、開き直ってリルもローガンの土像作りを始めたのだ。

ちゃんと動くだろうかと密かに心配しつつ、リルは土人形に魔力を通す。途端、土人形の双眸が赤く光り輝き、跪く姿勢だった土人形がすっくと立ち上がった。

成功ね。ゴーレム、マリーを抱えてあげて

リルが命じると、土人形はマリーを四本の腕でそっと持ち上げ、己の頭の上に乗せる。

たかーい!

マリーはゴーレムの角を掴んで笑い声を上げる。

オォー

ゴーレムは声を上げながら、ゆっくりと廊下を歩いた。

あれ?声を上げる機能なんてつけたっけ

ゴーレムに発声機能をつけるには、ある程度口の中に空洞を作らなければならない。見た目はローガンそっくりだとはいえ、口はパクパクと開け閉め出来るくらいで内蔵まで作った覚えはないのだが。

っていうか、どこ行くのよ!?

そもそも歩けなどと命令してないことにようやく気付き、リルはゴーレムを慌てて追った。

止まりなさい、止まりなさいって!

ぎこちなかったゴーレムの動きはどんどん滑らかになり、どすどすと音を立てながら走って行く。

すごーい、はやーい

風に髪をなびかせながら、マリーは大喜びだ。だがそれを追いかけるリルはそれどころではなかった。

ジョォォォオオオオオ!

土で出来ている癖に、もはやその走る早さはリルの飛行速度を超えていた。巨体に相応しい長い手足を振りながら、迷宮の廊下をひた走っていく。

ヨウジョォォォォオオオオオ!

こんにちはー!

とっくの昔にリルを振りきった事に気づきもせず、もはや吠えながら走るゴーレムに乗ってマリーはすれ違う迷宮の住人達に手を振る。

丁度部屋を出てくるスピナに、マリーは思わず声をあげた。

ゴーレムはあっという間に彼女の横を過ぎ去り、通り過ぎて行く。

スピナはその上に乗るマリーを一瞥しただけで表情一つ変えず見過ごし、マリーが振り向くとこちらを見てさえいなかった。

ソフィ

マリーはその背を見ながら、ぐっと口元を引き結ぶ。

そうする間にもゴーレムはどんどん進んで、やがてざあざあと鳴り響く音にマリーは前に向き直った。

かわだ

ぽつりと、マリーは呟く。

洗濯や用水に使っている地下水脈が、音を立てて流れていた。ゴーレムは一切気にせず、ざぶざぶと川の中に入っていく。

わあ

魔術で出来ているとはいえ、所詮は土塊である。ゴーレムはどんどん崩れ落ちていく。

だめ。だめだよ、もどって

角をぐいぐいと引っ張りながらマリーが言っても、ゴーレムはいうことを聞くことなく川の中を進む。

だめ、だめだってば、こわれちゃう

ぼろりと腕が一本落ち、角が片方欠け、身体が水にさらわれて細くなっていく。片足が膝からぼきりと折れて、マリーの脚の先が川に浸かった。

だめだよ、せっかくつくったのに!

流石に慌てて、マリーは叫ぶ。

ローガン!いたずらしないで!

その途端、ゴーレムの動きはピタリと止まった。

いつから、気付いてたんだ?

ゴーレムの口から、先程までとは打って変わって流暢な声が漏れる。

めがひかったとき

俺が入った瞬間じゃねえか!?

同じ悪魔であるリルですら、目の前で憑依しても気づかない程自然に取り憑いたつもりだったのに、とローガンのプライドが、ほんの少しだけ傷ついた。

あしつめたいよ。もどって

おう。だけど、もうちょい待つと面白いもんが見れるぜ

おもしろいもん?

小首を傾げるマリーに、ローガンは笑みを押し隠す。

マリー!

水音の中、聞き慣れた声にマリーは振り向いた。

動かないで!いいですか、じっと、しているんですよ!

スピナがそのローブの裾をまくり上げ、川の中へと足を踏み入れている。

じっとしてなさいっ!

今まで聞いたことのない声量で叫び、スピナは呪文を唱えながら片手で複雑な印を組む。するとほんの一瞬、水の流れが緩やかになった。

ソフィ!

崩れ落ちていくゴーレムの上から、スピナはマリーを抱え上げる。そして急いで岸まで上がった。

おう、おつかれさん

なんとかマリーの身体を陸地に上げて、ずぶ濡れになった衣服を絞ることさえ出来ずに呼吸を整えるスピナに、ローガンはのんびりと声をかけながら炎の塊を幾つか出した。

え?

じゅっと音を立て、一瞬にしてスピナの服や髪が乾く。

彼女は呆然として、ローガンを見上げた。

マリーと水浴びして遊んでたんだが、驚かせちまったみたいだな

しゃあしゃあと言ってのけるローガンに、スピナの顔は一瞬にして真っ赤に染まった。

ソフィーーーーーーーーーー!

満面の笑みを浮かべながら、マリーはスピナに抱きつく。

スピナの目が大きく見開かれ、そして刃のように鋭くなってローガンへと向かう。

しかしその頃には、老獪な悪魔は一瞬の隙をついて既に消えてしまっていた。

ぶわりとスピナの髪が逆立ち、蛇のように波打つ。

わーい、ソフィだ、ソフィだ

しかしそんなスピナを見てマリーは怖がるどころか、喜んで彼女にぐりぐりと頭を押し付けた。

何でそんなに嬉しそうなんですか

小鳥くらいなら殺せそうな殺気を漂わせながら、スピナは怨嗟の声を上げる。

だって、やさしいよりそんなかんじのほうが、そふぃっぽいもん

しかし返ってきた答えに、スピナの毒気は抜けて髪がすっと落ち着いた。

もう少し、接し方を考えた方がいいのだろうか

ニコニコと嬉しそうに笑うマリーに、スピナは一人、頭を抱えた。

3.恋せし乙女と察しの悪き悪魔

んっふ、んんっ

部屋の中に、艶めいた声が微かに響く。

お師匠様ぁっ

スピナは愛しい相手を呼びながら、快楽に身を震わせた。

そ、こっ!

指先が彼女の敏感な部分をゆっくりと擦り上げ、スピナは堪えるように背を丸める。

お師匠様のが入ってくる

硬いものがぐっと秘裂を割り開いて中心を突き進む感覚に、吐息が漏れる。

ああっ、駄目です、そんな、あぁ

ぴちゃぴちゃと鳴り響く音にスピナは頬を紅潮させて、髪を振り乱した。

あっ、あっ、あっ、ああっ!

抽送の速度は徐々に上がっていき、それにともなってスピナの声色も高さを増していく。

おししょう、さま、ああっ、おししょうさまぁあぁ!

それとともに胸が揉みしだかれて、硬く張り詰めた蕾がコリコリと刺激される。

ああ、あああぁ、ふあぁぁぁあぁっ!

スピナの脚がピンと伸び、彼女はベッドのシーツをぎゅっと握りしめながら、身体をびくびくと震わせて絶頂に達した。

ついと銀の糸を引きながら膣内から指が引きぬかれ、スピナの呼吸音だけが部屋の中に響く。

数分、呼吸を整えた後、スピナは重い息を吐いた。

ベッドの端から布を引き寄せ、自らの体液で濡れた指と股座を拭う。

先ほどまでの興奮はすっかり消え失せ、代わりに罪悪感と自己嫌悪が襲ってきていた。

こんな端ない女だと知ったら、お師匠様はどう思うだろう

鬱々とそんな事を思いながら、スピナは身支度を整え、部屋の扉へと向かう。

扉には万が一にも声が外に漏れないよう、防音の結界が張ってあった。

扉に貼られた呪符を剥がし、扉を開く。

わっ

なっ

その瞬間、扉の向こうにいたリルと目があった。

な、なんでそんな所にいるんですかっ!

いや、結界が張られてたから気になって

目を白黒させながら、リルは答える。

考えてみれば当然の話だった。結界は空間に作用する魔力の塊そのものだ。

悪魔であるリルからしてみれば、その存在を全力で喧伝しているようなもの。

スピナは羞恥に顔を赤く染めた。

中で何を、していたか、見たのですか

いや、何の結界かもわからなかったし、見てはないけど

それをリルは、怒りによるものなのではないか、と捉えた。

あなた変なことしてたんじゃないでしょうね

変なこと!?

じろりと睨むリルに、スピナは跳び跳ねんばかりに驚く。

その反応にリルはますます疑いを強くした。

かつて彼女が放置した媚薬スライムにユニスが襲われたことは記憶に新しい。

Olを害するとは思わないが、何か妙な企み事をしている可能性は十分にある、とリルは考えた。

ちょっと部屋を見せてもらっていい?

ええ

頷きかけ、スピナは部屋の中に汚れを拭った布を放置したままだった事に気がついた。

普通なら多少濡れた布があるくらい、汗でも拭いたのだろうと特に気にも止めないだろうが、相手は淫魔である。そんなものでも、スピナが何をしていたか気づくかもしれない。

絶対にダメです!

スピナは勢い良く扉を閉めて、背後にかばった。

なんで隠すのよ

にじりよるリルに、スピナはふるふると首を振る。元々寡黙で口数の少ない彼女は、混乱と焦燥の極地で上手い言い訳など考えつくはずもない。

あ、わかった

不意に、リルが疑いの眼差しを向けるのをやめて、ニヤニヤと笑みを浮かべた。

スピナ

まさか。

さては

扉越しでも、

Olがいないからって

気づいたというのか。

部屋がぐちゃぐちゃなんでしょー

お師匠様には黙っててください!

ピンとリルが人差し指を立てるのと、スピナが頭を下げるのはほぼ同時だった。

いや、別にそんな事報告したりしないけどさ。そんな慌てるくらい、部屋汚いの?

そそうなんです。とても他人に見せられるような状態ではなくて

スピナは潔癖性と言っていいレベルの綺麗好きだ。ほんの少しでも部屋が汚れているような状況は許せないし、机の上のビーカーの位置がずれているだけでも気になるほど。リルの言葉を肯定するのは屈辱だったが、背に腹は代えられない。

ふーん

だが、その決断は、

そういえばわたしスピナの部屋って見たこと無いな。どんな感じなの?

完全に、逆効果だった。

ですから、他人に見せられるような状態ではないと

いいじゃない、見せてよ。大丈夫、わたしの部屋だって相当なものだし、引いたりしないって

いえ、ダメです

わたしとスピナの仲じゃないの

そんな押し問答を何度か繰り返して、スピナはとうとう観念した。

あまり頑なに拒否しすぎても、また妙なことを疑われる可能性がある。

わかりました、ですが、最低限だけ片付けさせて下さい

そんなに気にしないでいいのにまあいいわ

ヒラヒラと手を振るリルから視線を逸らさず、スピナは後ろ手に扉を開けて、そして素早く体を部屋の中に差し入れると急いで扉を閉めた。

さっさと、あの布を処分しなければいけない。

そこまで考えて、スピナははたと気づいた。処分と言っても、どうやって?

服の中に隠しただけでは、匂いを嗅ぎ当てそうだ。

かと言って燃やしてしまっては、煙や煤でバレバレだ。

部屋の何処か隅に隠そうにも、シンプルで無駄のない部屋にしているせいで隠せそうな場所がどこにもない。

衣装棚の中なら隠せるかもしれないが、流石に汚れたものを服の中に混ぜるのは抵抗が大きかった。

ねえ、まだー?

どんどん、と扉がノックされる。慌ててスピナはピンク色のスライムが詰まったガラス容器の蓋を開け、布を放り込んだ。

終わった?

ピャッ!?

それとほぼ同時に、リルが扉を開けてずかずかと入ってくる。

か、勝手に入らないで下さい!

なによー、全然綺麗じゃないの

きょろきょろと部屋を見回すリルからスライムを背中で隠しながらも、スピナはジュルジュルという独特の咀嚼音が消えるのを感じた。以前作った布のみを食べるスライムが、処分してくれたのだ。

リルとは違います。私はこの程度でも恥ずかしいんです

ほっと胸を撫で下ろしつつ、安心してスピナは言う。

ふぅん?

何となく部屋を見回して、リルは不意にあることに気付いた。丁寧に整頓され、実験器具の一つに至るまで整理された部屋の中で、ベッドのシーツだけが皺になって乱れている。

それを認識した途端、彼女の鼻が部屋の中にわずかに残った香りを嗅ぎつけた。どこか甘い、ツンとした匂い。リルにとってはある意味嗅ぎ慣れたその匂いに、彼女はスピナが今まで何をしていたのか完璧に把握した。

大体、リルは普段からだらしなさすぎるのです。仮にもお師匠様の使い魔であるなら、もっとしっかりとですね

うん、うん、わかった、わかったから

いいえ、いつもあなたはそうやって適当に返事をして

思わず笑ってしまいそうになるリルを捕まえて、スピナは説教を始める。完璧に痕跡を消せたと思い込んだ彼女はすっかり安心し、するとにわかにリルに腹が立ってきたのだ。

一方で、リルは必死にスピナが隠していた事がおかしくもあり、可愛らしくもあり、まともに顔を直視できない。

真面目に聞いてるんですか!

はいはい、聞いてる聞いてる

それから小一時間ほど、リルは笑いを堪えながら怒られ続けるのだった。

2.魔王と魔婚約者

いやしかし、魔王陛下の王妃様がこれほど愛らしい方だとは思いませんでした

あら、夫の前で妻を口説くなんて、悪いお方ですこと

と、とんでもない。事実を述べたまでの事でして

クスクスと笑う少女に、商人は慌てて言い繕う。

真っ白なドレスに身を包み、まだどこかあどけなさの残る顔立ちは妖精のように麗しい。だがその気品はとても王位を簒奪したものの妃とは思えなかった。

では、税に関しては先ほどの率で良いな

そこに絶妙な間を持って告げる魔王もまた、その称号に相応しいだけの威厳を備えている。どう見ても二十代前半の若者。商人の半分程度しか生きていないというのに、その落ち着きようといい、目の鋭さといい、遥か目上としか思えない威圧感だった。

は、はっ

今のやりとり一つとってもそうだ。本当ならば、もっとこちらに都合のいい値で交渉を終わらせたかった。御しやすそうな王妃から崩していこうと声をかけてみれば見事に切り返されてこのざまだ。

では、本日は大変良い勉強をさせて頂きました

本心からそう告げて、丁重に城を辞する。武力で王位を奪った野蛮人など、舌先三寸でどうにでもなるだろう。絞れるだけ絞りとってしまえば良い城を訪れた時に抱いていたそんな思いは、今や完全に霧散していた。

提示された税率も、こちらが納得できるギリギリの額だ。政治に関しては前王よりもよほど聡いのではないか。少なくともこの国を潰して甘い汁を吸うだけ吸ってやろう、というような意図は全く感じられなかった。

もしかしたらこの腐敗しきった国は、魔王によってまともになるのかもしれない。

いや、それは楽観しすぎだ。

一瞬頭を過ぎったそんな思いを商人は振り払う。商売において最も重要な事は常に最悪の自体を想定して動くことだ。そんな呑気な予想は何の役にも立たない。

だが、いくら振り払っても、その考えは商人の頭の片隅にこびりついたまま、離れないのだった。

ふぅなんとか上手くいったな

椅子に深々と身を預け、Olは息を吐いて力を抜く。一日の最後の最後に、厄介な仕事だった。

相手はこの国一番の豪商であり、組合(ギルド)の纏め役だ。こちらの一言一言に深く突っ込んできて、内心では納得しているはずなのにそれでは足らないとゴネる。かと思えば、こちらの許容できない範囲と見るや驚くほどの速度で引いていくのだ。最後はユニスと魔王の虚名に助けられた形だが、なかなか神経のすり減る仕事であった。

お疲れ様、Olっ

白いドレスをひらりとなびかせ、ユニスが労う。

ああ、お前もご苦労だった

しかし、とOlは彼女に目をやった。

ユニスがいつも着ている衣服といえば、防具を含んだ冒険者装束か、動きやすそうな長ズボン(ブレー)に上着(チュニック)、男向けのワンピース(ブリオー)のような色気のないものばかりで、スカート姿を見ること自体初めてだ。

馬子にも衣装というか。存外似合うものだな

だがその姿は、意外なほどにしっくりきていた。

お褒めに預かりまして、恭悦ですわ

恭しくスカートの端を摘んで頭を下げるその様は貴族の娘そのものである。

流石は姫君だな。今回は助かった

Olの方こそ、食事のマナー完璧だったじゃない

普段は見ることのないユニスの一面に感心して言うと、彼女は口調を戻してどこか拗ねるようにそう答えた。

何か失敗したか?事前に教わった通りに振る舞ったと思うが

流石のOlも、貴族の作法にまでは詳しくない。そこで付け焼き刃とはいえユニスに最低限の作法を習ったのだが。

皮肉なのかと捉えていえば、ユニスは首を横にふる。

あたしがあのマナー覚えるのにどれだけかかったと思ってるの。それを、あんな事前にちょっと習っただけで覚えちゃうなんて

そう言われてもな。別に俺も全部を覚えたわけではないぞ。怪しい時はお前の真似をしただけだ

そこまで含めて完璧だったって言ってるの!これだから地頭のいい人はーっ!どうせあたしはアホの子ですよっ!

ユニスは叫んで頬を膨らませると、ぽすんとOlの膝に乗った。

また妙なことを

こうして座ってくるからには本気でへそを曲げているわけではないだろうが、それでもある程度慰めの言葉をかけなければ更に機嫌を損ねるのは目に見えている。

さて、どう声をかけようかとOlが悩んでいると。

この国は、どうなるのかな

ぽつりと真剣な声色で、ユニスは問うた。

どういう意味だ?

膝に座って下をむくユニスの表情は、Olからは見えない。

Olは刃向かってきた人だけを殺して、従順になった人を残したでしょう?それで、この国は本当に保つのかって

ああ、そのことか。それなら心配はいらん。広大な国土は金の卵を生む鶏のようなものだ。絞めて卵を取り出すような愚は犯さん

くるりと振り向いて、ユニスはじっとOlを見つめる。

お前も俺のやり方は知っているだろう。今までそんな事をしてきたか?

それは知っているけどでも

ユニスは国の運営というものをよく知っている。

村や街なら一人才覚のある人間がいれば、やっていけるかもしれない。

しかし国となると、それではどうにもならない。何人もの有能な人材が必要だ。

残した連中は確かに皆無能、どいつもこいつも保身しか考えぬ腐った連中だ。だが、奴らが腐敗していられたのも真面目にこの国を支えていた者達がいたからこそ。国が沈めば己も沈む。今、奴らは必死だぞ

くくく、とOlは底意地の悪い笑みを漏らす。しかしユニスはまだ浮かない顔だった。確かにそれで心を入れ替える人間はいるかもしれないが、それでは十分とはとても思えない。

まともな連中を処刑したのが誰か覚えていないのか?

彼女の想いを察して、Olはそう尋ねた。

きょとん、としてユニスは数度瞬く。

誰ってローガン?

そう。魂の専門家だ

あっ、とユニスは声を上げた。

魂を全く損傷させることなく殺せば、肉体が灰となっていようが蘇生に失敗することはまずない。普通に殺したのでは肉体に釣られて魂も傷つくが、苦痛を感じる暇もなく一瞬で燃やし尽くしたなら

魂に傷を付けずに、保管してある?

いや

Olはニヤリと笑って、首を横に振った。

既に姿も形も変えて国の中枢に入り込んでおる。己の命も省みず国に尽くせるなどという希有な人材を、みすみす殺すわけがないだろう

文字通り魂を掌握した後なら、逆らいようもない。

そうして潜伏させた者達に仕事を徐々に引き継がせ、腐敗した中でもやる気を出した人間はそのまま使い、芽が出なかったものは改めて処分すればよい。

よかったあ

そう説明するとふにゃりと表情を崩し、ユニスはほっと胸を撫で下ろした。

幼くともやはり治世者として育てられたのだろう。

意外と心配性だな

だって、ここがOlの国になるんでしょう?

自分のことを棚においてOlが言うと、ユニスは不思議そうに答えた。

まあ、そうだが

じゃあ、あたしの国でもあるじゃない。あたしはOlのお嫁さんなんだから

当たり前のように、少女は朗らかな笑みを浮かべる。

一切の陰りのない輝くような笑顔に、Olは思わず視線を逸らした。

別に、まだ正式に結婚したわけでもないだろう。妻ということにしておけばお前を側においても警戒されることはない。ハッタリが効くから建前上、そうしただけだ

まだ。ってことは、そのうちしてくれるんでしょう?

顔を背けるOlを追いかけるように、ユニスは顔を覗き込む。

一度そういうことにしておいて、後で変えたら外交的にも問題があるしね

否定せず鼻を鳴らすOlに、ユニスはにんまりと頬を緩めた。

好きだよー、Olー

愛してるよー

わかったわかった

鬱陶しげに手を振るOlの前にユニスは回りこむ。

照れないでよーぅ

別に照れてなどおらん

こっち向いてってんんっ

ユニスの言葉が途中で止まり、くぐもった声が響いた。

ん、ふえ、ここで?

先ほどまでとは打って変わって、ユニスは恥ずかしげに目を伏せ、問う。

人払いの結界は張った。問題ない

Olが指を振ると、部屋の中を照らす燭台の火がふっと消えた。

窓から落ちる月の光が二人を照らす。

やがて伸びる影が二つ、重なった。

1.留守番小悪魔

あーもう、ぜんっぜんわかんなーい!

ベッドの上でごろりと寝返りを打ち、リルは読んでいた本を放り投げる。それは、Olが手ずから書いた魔術書であった。

はぁー

かなり丁寧に書かれていることはわかるが、難解な内容はなかなか頭に入ってこない。そもそも、人間の使う魔術は悪魔にとっては縁遠いものなのだ。

リルの魅了然り、ローガンの炎然り、悪魔には元々世界をねじ曲げる力があり、生まれたときから備わっている。むしろ魔術の方が、韻を踏んだ呪文や意味を持つ図形などでそれを模倣しているに過ぎない。

淫魔は位の低い悪魔の中では賢いと言っても、人間と比べればそう変わらない。Olの補佐のためにと努力してはいるが、それもそろそろ限界ではあった。

こうしてる間にOlとユニスがいちゃついてる気もするし~

留守を任されるのは良いが、損している気がした。

はぁ気分転換に見回りでもするかな

ベッドから起き上がり、リルは部屋を出る。Olの代わりに迷宮を治めるため、最近は見回りの頻度も減っている。ずっと部屋に籠もりっぱなしなのは性に合わなかった。

自室を出てすぐ、目の前にあるのがOlの寝室だ。戦力を増強する度に改装は深くなり、その度に部屋も引っ越していたが、この関係性はずっと変わっていない。

Olはーやっぱりいないか

ドアノブを捻れば、ガチャリと音を立ててすぐに止まる。ノックを何度かしても、返事はなかった。

リルはため息を一つつき、観念して見回りへと向かう。

あっ、リルだ、遊んで遊んでー

真っ先に出会ったのはマリーだった。彼女はリルの顔を見かけるなり、満面の笑みを浮かべて駆け寄り、抱きつく。

ごめんね、わたし今から仕事なの

ええー

不服そうに頬を膨らませるマリーを抱き上げ、肩に乗せる。

こうやって運んで上げるから、メイドたちに遊んでもらいなさい

元気に返事をし、マリーはぎゅっとリルの角を掴む。

リルはふわりと宙に身を躍らせると、南へと向かった。中央の広場を挟んで反対側に、侍女として連れてこられた娘達の住む区画がある。

あ、ちょうど良かった。えーっと、ルーアだっけ

そこに見知った顔を見つけて、リルは呼び止める。何人もいる侍女たち全員の名前は覚えていなかったが、一ヶ月ほど前に来た彼女とはよく話していた。

はい、リル様。いかがいたしました?

迷宮に連れてこられたばかりの頃は娘達は、リルの角や翼を生やした異形の姿を恐れる事が多い。しかしルーアというこの娘は最初から全く物怖じしなかったことを覚えている。

マリーと遊んであげてくれない?

畏まりました。スピナ様をお誘いしてもよろしいですか?

それどころか、侍女たちから恐れられているスピナさえ怖がらない唯一の侍女だ。

別に良いけどスピナのこと、怖くないの?

わたしでもたまに恐ろしく思うことあるんだけど、と思いながら問えば、ルーアは不思議そうに首を傾げた。

とても可愛らしい方だと思っていますが

その言葉を聞いて、リルは先日のスピナの部屋での事を思い出して吹き出す。

そうね、よくわかってるじゃない!

ぐっと親指を立てるリルに、ルーアは再び疑問符を浮かべた。

じゃあマリーのことよろしくね!

お任せください

リル、これ、あげる!

マリーが握り拳を突きだしたので、手の平を差し出す。すると、小さな石を手渡された。

ひかってきれいだから

ありがと、マリー

淡く発光するそれは魔力を大量に含んだ石、魔石だった。龍脈の真っ直中にあるこの迷宮の中ではそう珍しいものでもないが、魔力を糧にするリルにとってはおやつのようなものだ。

リルは二人と別れると、彼女達の部屋がある第四階層を離れて第三階層へと向かう。

おう、悪魔の姉ちゃん。久しぶりだな

最近忙しくってなかなか来れなくてねー

亜人達の街になっている第三階層に着くやいなや、リルはドヴェルグ達に声をかけられる。

今日は魔術師さんは一緒じゃないのか?

それがちょっと聞いてよ、Olったらわたしをほったらかしにして仕事ばっかりでさあ、まあ、遊んでるわけじゃないんだから仕方ないんだけど

そいつはいけねえなあ

リルお姉ちゃん、可哀想

ドヴェルグ相手にOlの愚痴を零していると、いつの間にやら小人だの巨人だの妖精だのが集まってきて、リルが可哀想だの、いや仕事なんだから仕方ないだのと好きなことを言い始める。

ま、帰ってきた時にはちゃーんと可愛がってくれるからいいんだけどねー

なんだよ、惚気かよ

そんな事で忠誠心を下げられても困るので、愚痴の最後は惚気けて終わるのがいつもの事だ。

まあ、旦那がいなくて寂しいんだろうけど、頑張りなよ

そういう事を何度も繰り返しているうちに、すっかりリルはOlの妻だという認識を持たれていた。リルとしてもそれは不快ではないので訂正していないせいもあるのだが。

久しぶりだからか、大盤振る舞いね

酒に木の実、採れたての果物や干し肉。何かとお裾分けされるのはいつもの事だが、今日は殊更に多い。

貰ってもわたし、食べられないんだけどなあ

そうぼやきつつも、背嚢に入れて背負うとずしりとした重さが伝わってきた。

持って帰ればユニスやOlが代わりに処分してくれる。その感想を伝えると、更に喜んで押し付けてくるという繰り返しだった。

でもまあ、関係が良好なのはいいことだよね

こうして亜人達と話して回るのは、反乱の芽がないか、亜人同士で不和がないか調べるためでもある。そういう意味では成果は上々といえる、とリルは前向きに捉えて、重い荷物を背負った。

さて、次は第二階層かぁ

リルは気合を入れ直し、表情をきりりと張り詰めさせる。第三階層まで冒険者が侵入してくることはまずないが、第二階層からはそうではない。ミオ達と向かう時と違って、リル一人では気をつけておかないと殺されてしまうこともあるのだ。

第二階層と第三階層の間には亡霊騎士(デュラハン)がいてリルといえども通れないので、専用の転移魔法陣を使って行き来する。登録されたものだけが行き来できる仕組みだ。

第二階層にいるのは、魔獣や高位の妖魔達そして、それを倒すことが出来る実力を持った冒険者達である。第一階層に比べて冒険者の数は格段に少ないが、危険度は比べ物にならなかった。

おっとこっちはまずいかな

とはいっても、瘴気にまみれロクに灯りもない迷宮の中では、冒険者達とリルとでは感知能力には雲泥の差がある。片や灯りをつけながら金属鎧をガチャガチャ鳴らして集団で歩き、片や暗闇の中を音もなく飛んでいるのだ。冒険者の方が先にリルに気付く可能性はほとんどなく、先に気づけば戦闘を避けるのはたやすい。

って、ヤバ!挟まれた!?

こんな事でも、なければ。

一本道の通路で、前後から二組の冒険者が近づいてきている。どちらもまだリルには気づいていないが、このまま進めば否が応でもかち合ってしまう。

ううー、仕方ない。取られませんように!

リルはなるべく見つからないように荷物のぎっしり入った背嚢を通路の隅に置くと、両手を広げて身体を反らす。するとその身が指先からボロボロと崩れたかと思えば、コウモリの群れになって羽ばたいた。

こうしてコウモリになるとただでさえ乏しい戦闘能力がほぼゼロになるが、それ故に冒険者達に発見されても戦闘になることはない。リルはそのまま天井にぶら下がって、冒険者達がやってくるのを待った。

おっと

しばらくすると、丁度リルの真下で冒険者達が遭遇しあう。二つのパーティは剣を抜いたまま、互いに警戒しているようだった。

こちらに、敵対する意図はない

やがて片方のパーティのリーダーらしき金髪の男が、そう言った。

こっちとしてもこんな深層で争いたくはないな

もう片方の黒髪の男がそう言って、ふっと緊張が緩む。

その瞬間、黒髪パーティの魔術師が火炎球を放った。反射的に金髪パーティの僧侶が障壁を張って防ぐが、金髪側の盗賊が耐え切れずに倒れる。

迷宮内で油断する方が悪いのさ!

途端に戦闘が始まった。剣戟の音が鳴り響き、炎や矢が飛び交う。

(やめて!やめて!瓶が割れちゃう!)

そんな争いの真っ只中で、リルは荷物の中の酒瓶が割れないか戦々恐々としていた。

自分では飲めないとはいえ、折角ドヴェルグ達が作ってくれた上物の酒だ。その他も全て、Olとリルが作ってきたこの迷宮の住人たちが作り、譲ってくれた品々。それはリルにとってかけがえの無い宝物だった。

金髪の剣士が黒髪の剣士を切り上げ、その身体が荷物に向かって吹っ飛ぶ。

ダメーッ!

リルは思わず実体化して、荷物を抱きかかえるようにして庇った。

二つのパーティの生き残り達は、攻撃の手を止めて突如現れた女悪魔に視線を向ける。

こいつがこいつが操ってたんだ!

不意を打ったものの、実力で押されリーダーを討たれた黒髪側のパーティが、リルを指さして言う。

そういうことか!

金髪の剣士はリルに剣を向け、斬りかかった。

嘘でしょっ!

荷物を抱えながら、リルは身を竦ませる。

だが、ぎゅっと目を閉じながら覚悟した身を切られる感覚は、いつまで経ってもやって来なかった。

やはり、リル殿か

代わりに聞こえてきたのは、覚えのある軽やかな声色。

こんなところで何をやっておられるのだ?

エレン率いる黒アールヴの一団が、弓を持ってリルを見下ろしていた。

なるほど。それは丁度良かった

リルから事情を聞いて、エレンは呵呵と笑う。

今我々も、迷宮の外で獲物を狩ってきたところなのだ

振り返り見れば、四人の手下達はそれぞれに鹿や猪といった獲物を担いでいる。腕の細さは自分と大差ないのに、どこからあんな力が出るのだろうか、とリルは訝しむ。

主殿が戻ってくる日のために、これで祝宴の準備でもしようではないか

それ、いいわね!

エレンの提案に、リルは表情を輝かせた。

意外と、Olは食通なのだ。仕事で疲れて帰ってきた夫を料理で持て成すのも妻の仕事。そんな風に考えたら、思わず笑みが溢れだした。

あのー、すみません、水を差すようで悪いんですけど

そんな中、エレンの手下の一人、ベティがこっそりと手を挙げる。

誰が料理するんですか?

エレンとリルの表情が、同時に固まった。

それはその、リル殿?

黒の氏族の長たるエレンは、自分で料理などしたことがない。

いや、無理無理無理、わたしは無理!

人間の食事も出来ないリルに、料理など出来るわけもなく。

ルーアに頼もうか

結局、料理が得意な侍女に頼る他、ないのだった。

0.魔王を取り巻く娘達

お帰りなさい、ご主人様ーっ!

転移の術で迷宮に戻ったOlが最初に目にしたものは、文字通り飛びついてくるリルの姿だった。彼女はぎゅっとOlに抱きつくと、そのまま胸に顔を埋めるようにしてしがみつく。

Olはその脳天に、容赦なく拳骨を打ち込んだ。

いったぁーい!なにすんの!?

それはこっちの台詞だ。転移するなり素性も確かめず結界を解く奴があるか。俺が敵を連れてきていたり、偽物だったりしたらどうする

Olを偽物と見間違えたりなんかしないもん

涙目で頭に両手を当てながら、はっきりと言い放つリルに、Olは言葉を失う。

あたしも帰ってきてるんだけど?

何とは無しに見つめ合う二人の邪魔をするように、ユニスはごほんと咳払いをした。

ユニスー!お帰りー!

ただいまー!リルー!

途端、抱き着いてくるリルをユニスはぎゅっと抱き返す。

何だこの茶番は

混ざる?

誰が混ざるかっ

片腕を離してスペースを空けるリルとユニスに、Olは吐き捨てるように叫んだ。

照れる事ないのにねーなどとぼやきあう二人を尻目に、スピナが慇懃に頭を下げる。

留守中、代わりはなかったか?

はい。何の問題もありませんでした

実直に報告するスピナに、Olは満足気に頷く。

見ろ、お前達と違ってスピナは真面目にやっておるだろうが

Olがユニス達の方に視線を向けるのと同時に、スピナは両腕を広げる。

ん?どうかしたか?

いえ!何でもないです!

素早く両腕を戻すスピナを、リルとユニスはニヤニヤしながら見つめた。

あら、帰ってきたの

Ol様!お帰りなさい!

お帰りなさいませ、Ol様

会議室へ赴いたOl達を出迎えたのは、冒険者三人娘の面々だった。

ああ。お前達は例の兵棋演習をしているのか

以前ウィキアが考えだした改良型のチェス盤を挟んでウィキアとナジャが向かい合い、それを横からShalが眺めている。

なるほど、駒落ち戦で、ナジャの方がやや優勢と言ったところだな

盤の上に乗った駒と横に避けられている駒をちらりと一瞥し、Olは粗方の状況を掴んだ。

流石はOl様。ご明察です

一瞥しただけでそこまでわかるのも気持ち悪いわね

素直に賞賛するナジャに対し、ウィキアが毒づく。

悪いが、少し部屋を借りるぞ

申し訳ありません、今すぐ片付けます

いや、構わん。すぐに済む

椅子に座る主人を見て立ち上がるナジャを、Olは手で制する。

では現状の報告を

そしてリルにそう促しかけたところで、その視線は下に向けられた。

何をしておる

怒りとも呆れともつかない何かを堪える声色で、Olは自分のズボンを下げようとしているShalに問うた。

はいっ、座っている間、Ol様のおちんぽをお慰めしようとしています!

つまみ出せ

ハキハキと答えるShalを、ナジャがズルズルと引きずっていった。

壁についた手の平が、微かにその震えを感じ取る。

確かにその存在のこと自体は、聞き及んでいた。

あ、Ol様、こんにちは!お帰りなさい、です

ドスドスという音とともに近づいてくるたびに、Olの首は上を向いていく。

どうなさいましたー?

いや

殆ど真上を向く形でゴルゴンに乗ったミオを見上げ、流石にOlは言葉を失った。

暴れだしたりは、しないんだろうな?

流石にこの魔獣に居住区の内部から暴れられては相当な被害が出そうだ。

はい。ジョーはとっても大人しい良い子ですから

ジョー

思わずOlが反芻すると、自分の名を呼ばれたのかと思ったゴルゴンがゴフっと鳴いて、灰色の煙が鼻から吹き出す。

わぷっ

ゴルゴンをしげしげと見つめていたユニスが慌てて後退るが、その前髪がパキパキと音を立てて石化した。

何をやっている

Olが呪文を唱えながらぐしゃぐしゃと撫でると、灰に染まったユニスの髪に色が戻る。

えへへ、ごめーん

油断しすぎだ、馬鹿者

Olが苦笑を浮かべていると、隣ですとんと軽い音がした。

そちらに視線を向けると、丁度ゴルゴンの口を両手で押さえ、その息で前髪だけを石化させようとしているミオとばっちり目があった。

え、えと

何か言いたげにもじもじしながら心持ち頭を下げて差し出すミオ。

Olは目を閉じ、嘆息したあと、無言で彼女の頭を撫でてやった。

え、へへ

恥ずかしげに、しかし嬉しそうにはにかむミオの隣で、リルが頭をすっと差し出す。

よし、行くぞ

うん。そろそろご飯の時間かな

既に侍女に手配は済んでおります

あ、私この子を畜舎に帰してきますので、先に行っててください

目を閉じたまま頭を垂れるリルを捨て置き、Ol達はすたすたと食堂へ向かう。

あれー?おかしいなあれー?

ふわふわと浮きながら角を見せつけるように頭を向けるリルを、食堂までOlは無視したまま歩き続けた。

そんな、頭くらい、撫でて、くれたって

わかったから、そんなことくらいで悪魔が本気で泣くな

食堂についたところでとうとう根負けし、ボロボロと涙を流すリルの頭を乱雑に撫でてやると、彼女はあっという間にピタリと涙を止めて笑顔を浮かべた。

やったー!

清々しいほどの嘘泣きだな

ガシガシと撫でる指に力を込めながら、Olは呻くように言った。

あれあれ?ご主人様?ちょっとそれ痛い痛い痛いイタタタ!

忠実な使い魔は労ってやらんとな

肉体強化の魔力を込めてぐりぐりとリルの頭を締め付けていると、軽やかな笑い声が響いた。

おっと失敬。相変わらずだな、主殿達は

口元を手で隠しつつも笑んだ瞳で、エレンはOl達を見やる。

留守中、面倒をかけただろう

そんなことはない。リル殿は立派に主殿の代役を務めていたぞ

お前がそういうのなら、許してやるか

エレンの言葉を立てるように、Olはリルから指を放してやった。

せっかくOlのためにご馳走たくさん用意したのに~

リルは今度は割りと本気の涙目で、こめかみを抑えながらぼやく。

ご馳走?お前が作ったのか?

えっと、そういうわけじゃないんだけど

思わず問うた言葉に、リルは更に肩を落とす。

我らとリル殿で、食材を集めてきたのだ

そうか。よく手配してくれたな

エレンのフォローにOlが乗ると、リルは小さく頷く。

あたし、料理覚えようかな

落ち込んだ空気の中、出し抜けにユニスはそんな事を言い出した。

だってOl、あたしを奥さんにしてくれるって約束したでしょ?

ぎゅっとユニスはOlの腕を抱きしめる。

ちょっと、それどういうこと!?

途端、落ち込んでいたことも忘れて、リルはOlに伸し掛かるように身を乗り出す。

同時に、スピナが無言でがたりと立ち上がった。

よいしょ、よいしょ

そんな中マイペースに、マリーが飲み物を盆に乗せて運んでくる。

ふふ

そんなやりとりを見て、頬杖を突きつつエレンはニヤニヤと笑みを浮かべた。

ねー、Olー

ちょっと、離れなさいよ!これはわたしのなんだから

誰がお前のものだ

仮にも一国を統べる魔王と使い魔、英雄などという立場でありながら戯れ合う三人も。

そんな彼らを射殺しそうな瞳で見つめる魔女も。

のむ?

そんなオーラを放つスピナの隣で、呑気にマグカップを差し出してくる幼子も。

貰おうか

どれもこれも見てて全く、退屈しないな。

マリーからマグカップを受け取りながら、エレンは笑みをこぼした。

没プロローグ

2巻のプロローグ、没バージョンです。

没になった理由は

・説明部分が冗長すぎて退屈

・あまりちゃんとキャラの紹介ができていない

・キャスの魂がどうなったかとかどうでも良い

辺りです。

その地に、生命と呼べるものはなかった。

一滴の水も含まぬひび割れた大地には草一本生えず、ただただどこまでも続いている。荒野以外にあるものといえば、捻くれた奇妙な岩山か広大な砂漠くらいで、海はおろか河も湖もない。それどころか、空は常に分厚く重い曇天に包まれて、陽の光が差し込むことすらなかった。

どんな生物も棲めず、生まれることもない、文字通りの不毛の地。

それが、俗に地獄だとか魔界だとか言われる世界だった。

およそ変化というものとは無縁であると思われるその空に、ぴしりと音を立てて亀裂が入る。その亀裂から、一人の女がずるりと抜け出してきた。

真っ白な肌と、対照的に黒い髪。まるで芸術品のように美しい姿をしながらも、同時に男の劣情を誘う肉感的な肢体。そして、人ならざるものであることを示す蝙蝠のような羽と鞭のようにしなる長く細い尾、羊のような角を持っている。

彼女は名を、リルシャーナ。リルと呼ばれている淫魔(サキュバス)であった。

空に開いた穴から出て、リルはぐっと羽を伸ばしながら息をつく。久方ぶりの帰省であった。悪魔はしばしば人間の魔術師に召喚されて人間界へと赴くが、その期間は大抵、さほど長くない。今回のように一年以上に及ぶ事は極まれな事だ。

リルは空を飛んで、自分の家へと向かう。家と言っても、さほど位の高くない淫魔である彼女のそれは小さな掘っ立て小屋のようなものだ。

えいっ!

それに手を当てて魔力を注ぎ込むと、小屋は見る間に膨れ上がり、石造りの屋敷へと姿を変えた。乾いた土と石しかないこの世界で、人間界から持ち帰る魔力というものは唯一にして万能の資材だ。

主人であるOlからはリル程度の位の悪魔にしては破格の額をもらっている。小屋をちょっとした豪邸に変えてもなお有り余る程の量だったが、ひとりきりで住む家をこれ以上大きくする気にはなれなかった。

うーん

あまりにもOlの迷宮に似た作りになってしまった自室を見て、リルは唸るような声をあげる。概念の世界である魔界では魔力で物を作るのに緻密な計算など要らないが、その分、心の奥底にあるものが色濃く反映される。

どうやら、自分は迷宮での暮らしを思ったよりもずっと気に入っているらしい。リルはそれを改めて認識して、誰も見ていないのに少し気恥ずかしい気分になった。

さっさと用事を済ませて戻りますか

誰にともなくそう呟いて、リルは懐から手のひら大の石を取り出し、宙にかざす。鈍く灰色に輝くそれは、人間の魂だ。不毛の大地である魔界には生命はなく、なにものも生まれない。

ならば、悪魔はどうやって増えるのか。その答えが、これだった。

小屋にやったのと同じ要領で魔力をそそぎ込むと、魂はみる間にその輝きを失い、石炭のように黒く濁った。

ここまで安定すれば、もう他の悪魔に喰われてしまう心配もない。とくとくと微かに鼓動するそれを、リルは部屋の窓から地平に向かって思いっきり放り投げた。しばらくすれば、周囲の瘴気を吸って立派な悪魔に成長するだろう。

それを見届け、リルはさっさと翼を広げて宙に飛び出す。空にあいた隙間を目指して飛びながら、彼女は一度だけ、自分の住まいを振り返った。

普通に暮らしていては百年や二百年の稼ぎではとても作れないだろう大きく堅固な屋敷は、かつて彼女が心から望んでいたものだ。

だが今は、それは酷くくすんで見えた。

ただいま、っと

あ、おかえり!

リルが床に描かれた魔法陣から這い出すと、ユニスが出迎えてくれた。ユニスはリルの肩程までしか背丈のない、小柄な少女だ。南部の人間特有の浅黒い肌は彼女の活発さを表しているかのようで、コロコロと表情の変わる愛らしい顔立ちとすらりとした肢体には、淫魔であるリルとはまた別の健康的な魅力があった。

大丈夫だった?

魔界への穴を開けっ放しにしておくのは非常に危険だが、閉じてしまうとリルがこちらへ帰って来れなくなってしまう。そこで、リル以外の悪魔が勝手に出入りしないようにユニスに見張りを頼んでいたのだ。

うん。大して強いのは出てこなかったし、全部追い返しちゃった

リルの問いに、ユニスは剣を肩に担いで朗らかに言った。なりは小さくても、英雄として生まれたユニスの力量はこの迷宮でも随一だ。それ程大きな穴をあけてはいないとはいえ、無限に湧いて出てくる悪魔の相手をして全く疲れた様子すらない。

おう、悪かったな

野太い声と同時に、渦巻く炎が立ち上った。

炎はそのままぐるりと捩じれて、人の様な形をとる。といっても、そこに現れたのは人間とはかけ離れた姿の悪魔だ。毛皮に覆われた下半身と四本の腕を持つ上半身。そして山羊の様な角を持つ悪魔、ローガンであった。

まあ、あなたが通れる穴をそうホイホイと開けるわけにもいかないからね

リルが魔界へ赴いたのは、彼が手に入れた魂を捨ててくるためだった。

ローガンはリルよりも遥かに上位の悪魔だ。そんな大きな穴を長時間開けては、流石にユニスでも対処しきれない。

でもいいの?せっかくの魂なのに

位の高い悪魔は人間や位の低い悪魔など自分の餌だとしか思っていない傲慢な性格のものも多い。それ程上位の悪魔にしては、ローガンは比較的接しやすい性格をしていた。

俺は女の魂は、幼女のものしか口にしないと決めてるんだ

筋金入りのロリコンであることを除けば。

じゃあわたし、ご主人様に報告してくるね

うん、今なら自室にいると思う

ローガンが救いようのない変態であることはいつものことなので、リルはさらりと無視して、Olの部屋へと向かう。

ただいまー!

戻ったか

勢いよく扉をひらくと、琥珀色の髪の男が鋭い視線をリルへと向けた。彼がリルの主人であり、この迷宮を支配する魔王アイン・ソフ・Olであった。

見かけは二十代の若い男に見えるが、魔力で若返っているだけでその実態は八十歳を超える老魔術師だ。自ら魔王を名乗るだけあって邪悪で冷酷な男だが、リルにとっては少し口喧しいご主人様といったところであった。

今も、ノック位しろと怒られるものだと思っていたので肩透かしを食らったくらいだ。

どうしたの?

珍しく言いよどむOlに、リルは首を傾げた。

悪魔という存在は、約束を破れない。そういう風にできている。

しかしそれは人間界だとか物質界だとか呼ばれる、こちらの世界での話だ。一度魔界に戻れば、約束を律儀に守る必要はない。一度魔界へいって戻ってこい、などという約束に従う必要はないのだ。

にも関わらず、リルは戻ってきた。

もちろん、魔力の払いがいいからというのはあるのだろうが、やはりそれは奇妙なことのように思えた。

彼女のそういう悪魔らしからぬ振る舞いは今回に限ったことではない。ユニスは、リルはOlの事が好きだから等と言っていたが、淫魔が人に惚れるなどという事があるとはとても思えなかった。

Olが判断に悩んでいると、リルが開け放ったままの扉がコンコン、と律儀に二度ノックされた。

お師匠様。準備が出来ました

姿を現したのは、Olの弟子であるスピナだった。病的なまでに白い肌に真っ黒な髪と瞳。表情のない顔立ちはまるで人形のように美しい。

あ、スピナが代わりにやっててくれたの?ありがと

いえ

そういえば、とOlは気づく。

お前は最近あまり文句を言わなくなったな

ん?あー。言われてみれば、そうかもね

リルが使い魔になった直後は、何かと文句を言っていた気がする。

もう慣れちゃった

笑いながらいう使い魔に、変な奴だ、とOlは内心で呟いた。

没エロシーン

没シーン二つ目。

書き下ろしエロシーン閑話愛人たちに褒美を与えましょうに入れるつもりで書いたけど没にしたシーンです。理由は

・長すぎる

これのみ。ヒロインの数が多すぎました。19Pは心が折れる。没にした部分だけで13ページ分くらいあります。

では、お清めいたしますね、お師匠様

ノームとの情交の後、真っ先にそう言い張ってOlの脚の間に陣取ったのは、スピナだった。有無を言わさぬ迫力で他の女を寄せ付けず、水中にあるOlの逸物を握りしめると、彼女は迷わず湯の中に顔を潜らせた。長い黒髪がまるで花弁のように水面に広がり、湯とは違う生温かい感覚がOlの股間を根元まですっぽりと包み込む。

じゃあわたしはこっちー

リルがそう言ってOlの腕を取り、そのたわわにみのった果実の間に挟み込む。淫魔の豊かな双丘は腕をすっぽりと挟み込んでしまうほどの大きさで、谷間に塗られた石鹸の泡がぬるぬると滑ってOlの肌を楽しませた。

オーウルっ

楽しげな声とともに顔を横向かせられたと思うや否や、ユニスの顔が迫ってあっという間にOlの視界を埋め尽くす。二度、三度と高く音を立てながら唇が重ねられ、首に腕が回されて、口内に舌が入り込んできた。

あんっ、もう、えっち

ユニスの腰に腕を回して尻を触ると、彼女は唇を離して気恥ずかしげにそんな事を言った。殆ど毎日のように床を共にし、こんな状況で何を言っているのだとは思うが、Olは再び彼女の唇を奪って黙らせた。

ぷはっ!

と、その時、流石に呼吸が限界に来たのかスピナが顔をあげる。いつもなら病的なまでに白い肌が真っ赤に紅潮し、濡れた髪が頬に貼りついて何とも言えない色気を醸し出していた。

無理はするな。一旦

水中呼吸《ウォーター・ブリージング》

立ち上がろうとするOlを制するように青銀色の光が渦巻いて、スピナの顔を取り巻いた。

これは?

水の中でも息が出来るようにする魔術よ。このくらい、弟子なら教えておいてあげなさいよ

ウィキアは口をへの字に曲げて鼻を鳴らす。苦言を呈したというよりは、単に照れ隠しだろう。

ありがとうございます。では、お礼に

スピナはやおらウィキアの頬を両手で挟むと、いきなり口づけた。

-----!?

ウィキアはジタバタと手足を暴れさせてもがくが、口を封じられた彼女は非常に脆弱だ。

な、何を、飲ませたのよっ!?

何やら口移しで飲まされたらしく、咳き込みながら尋ねるウィキアに

媚薬です

スピナは腕でごしごしと唇を拭いながら、しれっとそう答えた。

さあ、共にお師匠様にご奉仕しましょう

いや、私はガボッ!?

有無を言わさずスピナはウィキアの頭を水中に押し込んで、自身も湯の中に没する。

ではわたくしは、我が君の身体をお清めして差し上げますわね

あまりの出来事にしんと静まり返った中、オリヴィアは何事もなかったかのようにそういうと、石鹸で泡だらけになった身体でOlの胸元に抱き付いた。

ふむ、では私も助太刀しようか。後は戦士殿、ご助力願えるか?

了解した。Ol様の為であれば、身命をかけて奉仕させて頂こう

楽しげに笑みを浮かべながらエレンがオリヴィアに続き、周囲を見回してナジャを手招いた。その意図は明白だ。集まった女たちの中でも特に豊かな胸を持った三人が前から後ろからOlを挟み込み、その乳房を使って彼の身体を洗い清める。

なにそれ面白そう。じゃあ、わたしも、えいっ

そこに、リルまでが加わった。四人は念入りにOlの身体を洗ったあと、仕上げとばかりに石鹸を落として彼の頭を取り囲む。

淫魔(リル)の、人ならざる透き通るような白い肌。

元王妃(オリヴィア)の、たっぷりの財を使って磨き上げられた柔肌。

南部の人間(ナジャ)特有の、健康的に日に焼けた浅黒い肌。

そして黒アールヴ(エレン)の、深い褐色の肌。

美しいグラデーションのかかった四対八つの巨大な果実がOlを取り囲み、強請る様にその先端を尖らせた。

これがこれが、格差かっ!!

その隣で、Shalはがっくりと項垂れていた。

彼女の胸は限りなく平坦であった。

Olさまは、ちっちゃいおっぱい嫌いなんですかぁ?

その傍らで、プリシラも悲しげに眉を寄せる。

彼女の胸もまた、平坦であった。

えっ、嘘、そうなの?

ユニスは慌てて、己の身体を見下ろした。

だいじょうぶだよ!

そんな彼女たちに、マリーが仁王立ちで宣言する。

おうるさまは、おっきいのもちいさいのも、だいすき!

おおっ

Shalは思わず、歓声をあげた。自信満々に言い放つ幼い少女が、まるでかつて信じ仕えていた神のようにさえ見える。気付けば彼女は、マリーに向かって五体投地していた。

それを見て、床における何らかの作法なのかと、プリシラが見様見真似でそれに倣う。

ユニスはもちろん、意気揚々とそれに続いた。

結果として、仁王立ちする幼女に五体投地する貧乳三人という絵が出来上がってしまったが、幸か不幸かOlは周りを巨乳に囲まれて目にすることはなかった。

あたしはあるんだか無いんだか微妙なとこだしなあ

そういうノリは嫌いではなかったが、Faroは己の身体を撫でてうめく。身体そのものが小さいクドゥクである彼女は、胸囲という意味では大差なかったが、凹凸という意味ではしっかりとある。

あれっ、あんたは

先ほどはどうも

同類はいないかとあたりを見回していると、Ol達から少し離れたところに見知った顔を見つけた。小麦色の髪の彼女は、第三階層で出会った素朴な少女だった。Olの正体を知った今であれば、彼女ミオが、あんなに焦っていた理由もわかる。

意外と凄いね

Faroが見上げながらいうと、ミオは小首を傾げる。服の上からでは分からなかったが、ミオはその素朴な外見に似合わずなかなか立派なものを持っていた。

あんた達はOlのとこいかないの?

ミオの隣にはパトリシアが、やはり所在なさげに立っている。

あの中には少し入り難くて

まあ、わからなくはないけど

Faroが参加していないのはリルに言われた通り先ほどまでOlを独占していたからだが、ただ気後れしているだけというのは少し哀れに思えた。

おいで

Faroは二人の手を引いて、Olの元へと近づく。

そして彼を取り囲む巨乳たちの隙間から両腕を引っ張りだすと、それぞれミオとパトリシアに渡した。

Olは突如、引きずり出された手の平に感じられる感触に戸惑う。腕を引いたのは手の大きさからFaroだと分かった。だが押し付けられている乳房であろう感触は、彼女のものにしては些か大きい。見て確認しようにも、今彼の視界はリルとエレンの胸に押しつぶされていて敵わない。

まあこれも良い余興か。Olはそう考えて、押し付けられているそれを掴んだ。ゆっくりと揉みしだきながら、輪郭を確認するように掌を滑らせていく。

右手に感じられる感触より、左手の方がやや大きい。どちらも若く瑞々しい肌触りだったが、右の方がすべすべとした滑らかさがあった。

指先で引き寄せるようにして、胸元から腹、腰のくびれ、尻へと這わせる。くすぐったいのか何度か身体をよじるが、こちらの意図を理解したのか二人共声は微塵も漏らさなかった。

左はミオで、右がパトリシアか

正解!

リルの歓声とともに視界がひらけて、Olは二人を傍らに抱き寄せた。

なかなか面白い余興だったが、やはりどうせ触るのならば見えた方が良いな

肩から回した腕で、ミオとパトリシアの胸を鷲掴みにする。二人の柔らかな肉が指に弄ばれてぐにぐにと形を変える様を、Olは存分に楽しんだ。

ちょっと!

その時、ウィキアがようやく水面下から顔を上げて、Olの一物を握りしめる。なんだかんだいいながら、彼女はスピナとともにずっと水中で口淫を続けていた。顔が真っ赤なのは、呼吸だけで熱い湯の対処を忘れていたからだろう。

いい加減これ、頂戴よ

と思ったが、どうやら媚薬のせいでもあるらしい。彼女にしてはいつになく素直にOlを求めた。

スピナ、構わんか?

Olが尋ねると、スピナは短く答えて再び水中に没した。もしかしたら、意外と気に入っているのかもしれない。

んっ

抱きつくのももどかしげにウィキアがOlの腰に跨って、自ら剛直を受け入れる。スピナの舌が結合しているそこを這うのが感触で分かった。

温かい湯の中で一際熱いウィキアの膣内の感触を楽しみながら、ミオとパトリシアの胸を思うがままに弄ぶ。左右二人の舌を交互に吸いつつスピナの舌が根本から丹念に舐めるのを感じるのは、得も言われぬ快感があった。

はぁ、あぁ

しばらくすると、ウィキアがぐったりとしてOlの胸板に寄りかかった。水中で腰をふるのは存外体力を使うものだ。専業魔術師というのは体力がないものと相場が決まっているが、その中でも彼女は特にスタミナに乏しかった。

では、交代です

その身体をひょいと持ち上げると、スピナは後ろへ向かって放り投げる。ウィキアは抵抗する間もなく宙を舞い、盛大に水柱を上げた。

失礼。肉体強化の魔術はお師匠様から既に習っていましたので

さっきのを根に持っていたのか

顔色一つ変えず言い放つスピナに嘆息し、Olは額に手を当てた。

では、お師匠様ご寵愛を、頂けますでしょうか

スピナはそう言ってOlに背を向けると、浴槽の淵に手を当てて尻を突き出した。

さりげない仕草だが、Olだけがそれが彼女らしからぬものだと気付く。

そんな格好をして、はしたないとは思わないのか?

そういえば口移しで媚薬を飲ませたということは、彼女もそれを口に含んだということだ。

死ぬほど恥ずかしいです

まるで説得力がない!

尻を突き出したまま能面のごとき無表情で言うスピナに、Faroは思わずツッコミを入れた。

だがOl、そしてリルとユニスだけは、それが彼女の偽らざる本心であると気付く。

さてどうするかな

Olは立ち上がって反り立つ剛直を、彼女の中心に軽く押し当てる。

今日は後がつかえているわけでもあるし

わざとらしくそんな事を呟きながら、スリットを撫ぜるようにゆっくりと動かした。

Olの方からどうしろとはけして言わず、スピナの反応を待つ。

スピナはきゅっと口を引き結び、蛇が蛙を睨み殺すかのような視線を前に向けた。彼女の動向を見守っていたFaroとノームは、慌てて視線を逸らす。すると、スピナの瞳からぽろぽろと涙が零れ出した。

お願いです、お師匠様お慈悲を

泣きだしたのは、恥ずかしさのあまりだろう。好奇心の塊のような盗賊と豪胆な商人でさえ顔を背ける様な迫力を出しておきながら、Olにねだる姿はこれ以上なく儚げで弱弱しい。演技だというならまだ理解できるが、そんな事をするほどの器用さはスピナには無かった。

相変わらず良く分からんやつだ

Olは苦笑を漏らしながらも、彼女の腰を両手でつかむと一息に奥まで突き入れた。

あぁっ!

髪を振り乱しながらスピナは首を反らし、高く鳴く。入れられただけで、絶頂に達したのだ。

手伝ってやれ

Olの言葉に、小さな手がぴょんと挙がった。

いったい、何をひぁんっ!

マリーがまるで赤子のようにスピナの胸に吸い付いて、魔女は高く声を上げる。

ものども、かかれーっ

更にマリーの号令に従って、貧乳達が一斉に群がった。

ここぞとばかりにShalとプリシラはOlの左右に侍り、身を擦り付ける。そんな中ユニスはあえてマリーと挟みこむようにしてスピナの横についた。病的なまでに白いスピナの肌と、ユニスの健康的に焼けた浅黒い肌のコントラストが目に映える。

や、やめてくださいっ!

ユニスが首筋から頬に唇を伝わせていくと、スピナはふいと顔を背けた。

お師匠様以外の人と口づけはできません

私、人扱いすらされてなかったんだ

髪からぽたぽたと雫を滴らせながら、ウィキアは呟く。

じゃ、あたしのことは少なくとも人だとは思ってくれてるんだ

にやっと笑みを浮かべて、ユニスは指を忍ばせた。

ひあっ!

スピナは悲鳴のように鳴いて背筋を反らす。

Olの剛直が突き立ったその根本、ぷっくりと膨れあがった陰核をユニスが指でそっと撫で上げていた。

ほう。覚えてたか

そりゃあ、強烈だったしね

その動きは、ユニスが初めてこの迷宮に足を踏み入れた時に味わったものだった。リルにされたことを思い出しながら、ユニスはスピナを優しく愛撫する。敏感なそこは、強すぎる刺激はかえって辛い。飽くまで優しく、やわやわと撫でるくらいで調度良い。

締まったぞ。ユニスの指で感じているのか

そのようなことは決してふぁぅっ!

意地悪く言うOlに、ユニスは悪戯っぽい表情を浮かべた。

スピナ、可愛い

やめっ、あっ、ふあぁっ!

ユニスが指の動きを止めずに乳首をついばめば面白いくらい敏感にスピナは反応して、Olが彼女を嬲る気持ちが少しわかったような気がした。

浅く、深くと抽送を繰り返すOlの動きに合わせて、ユニスはスピナの身体を撫で、摘み、吸い、揉みしだく。彼女の薄い肉を挟んで、膣内を犯すOlの男根の感触を指先に感じていると、まるで自分までも一緒に犯されているかのような錯覚を感じた。

いやぁっ

普段の鉄面皮も崩れ落ち、スピナはとうとう両手で顔を覆い隠す。しかしそうすると、身体を支えていた腕が畳まれて、自然と尻を高く突き出すような形になってしまう。

いやらしいな

その尻を両手で掴むと、Olは彼女の奥に腰を叩きつけるようにして突き入れた。

あっ、ああっ!

何度も軽い絶頂を繰り返しながら、スピナの声色はどんどん余裕をなくしていく。下限の月のように反らされたほっそりとした白い背が、Olの視界に横たわる。それを見るうちにある衝動がOlの内に湧き上がって、彼は片手を高々と振り上げた。

そら。イけ

振り下ろされた手の平は、スピナの白い尻を叩いて高く音を立てる。

尻を叩かれてイッたな

あああああああああ

気をやりながら潮を断続的に吹くスピナにそう言ってやると、スピナは更に達して強くOlの肉槍を締めあげた。

ね、Ol

そんな彼女を見て、ユニスはこそりと耳打ちする。

そうなのか?

多分ね

ふむと唸り、Olはスピナに声をかけた。

尻を叩かれて気をやるとは、我が弟子ながら度し難い。そんなお前に罰を与える

スピナはビクリと震えて、恐怖に身を硬直させた。

こちらを向け

繋がったまま、ユニスに手を貸りて身体を回す。その感覚でもう一度絶頂に達して、スピナは己の身体の浅ましさに絶望した。

手をどけろ

どけられるわけがない。文字通り、見せる顔などなかった。だが、師の命令は絶対だ。スピナは両手をゆっくりとどかす。切れ長の瞳には、宝石のように涙の粒。常ならば氷のような表情は、真っ赤に染まって弱々しくOlを見つめていた。

では、刑を執行する

スピナはぎゅっと目を閉じたが、すぐに開いた。目を閉じて良いなどとは言われていない。一体いかなる罰を受けるのかと戦々恐々としていると、Olの顔が近づいてきた。

何が起こったのか、すぐにはわからなかった。Olの手はスピナの後頭部を支えるようにして、もう片方の手は彼女のあごに当てられている。そして、少し傾いた顔は密着していた。

接吻、されている。

それに気付いた瞬間、スピナは今までで一番高く絶頂に達した。彼女の膣口がOlの一物を千切れんばかりに締め付けて、それに応えるように奥に熱い体液が注ぎ込まれる。

一体それから、どれほどの時間が経っただろうか。ほんの一瞬とも永遠ともつかない時間の後、ぐっと胸を押されるような感覚に、スピナはようやく我に返った。

流石に、呼吸が続かん

苦しそうにOlは言った。気づけばスピナは彼の背に両手両足を回して全力でしがみつき、唇を重ね、全身を密着させていた。

お前は本当にわからんやつだ

苦笑しながらOlはスピナの目尻に唇を寄せて、その涙を舐めとったので、スピナは危うく卒倒するところだった。

あまいたくらみ

しんと静まり返った暗がりの中、ぎしりと木の軋む音が響いた。

するりと影が闇の中を滑り、そのたおやかな指をベッドの上で眠る男へと伸ばす。

おとがいを撫でるようにしてついと指先を走らせ、服の襟元へと忍び込ませる。

そのまま夜着を割り開き、胸元へと手のひらを当てた瞬間。

パッと光が瞬いて、同時に複数のものが動いた。

待って、わたし、わたしよ!

両手を上げながら悲鳴のように叫んだのは、リル彼女が組み敷くようにしている男、魔王Olの使い魔であった。

その首には文字通り飛んできた空間を渡る力を持つ英雄ユニスの剣が突きつけられ、どろりと天井から滴る半スライムのスピナによって手足が拘束され、床と壁から飛び出した槍が全身を突き刺す寸前でピタリと止まっていた。

偽物ではないようだな

なんだ、リルかぁ何してんの、こんな夜中に

Olが手をすっと上げると槍の罠が壁に引込み、それを合図としてユニスとスピナも剣を収め身を引いた。

大方、新たな刺激を求めてお師匠様の隙を突き、夜這いをかけるつもりだったのでしょう

冷静に図星を突いてくるスピナに、リルはうっと呻く。

昨日、そんな肌の露出の多い服を着ているくせに、色気が足りないとお師匠様に言われたのを気にしたのですね。愚かなことです

うるさいなあもう!いいでしょ!

更に辛辣に言葉を重ねられ、リルは両腕を振り上げる。

ご苦労だった。下がれ

Olがそういうと、ユニスとスピナはおとなしく姿を消した。どのみち、今日の夜伽はリルの予定だったからだ。まさか夜も更けようという頃に密かに襲ってくるとは思わなかったが。

警報のたぐいは全部解除したと思ったのになあ

まだまだ甘いな

眉根を寄せるリルを、Olは鼻で笑う。とは言え、無事だったのは睡眠時のOlの意識に連動したもの唯一つ。彼が目を覚ますまで接近を許したという意味では誇れることではない。Olは内心、警備の強化を誓った。

ところで、その服を見せに来たのか?

気まずげに目を伏せる淫魔は、Olの言葉に目を輝かせた。

気づいた!?

気付かんわけ無いだろう

言葉面だけ見れば愛する妻への労りに聞こえるその言葉も、実際には呆れが多分に含まれていた。

普段彼女は、殆ど下着同然としか思えない、申し訳程度にしか身体を隠さない服を着ている。だが今は、その上半身を見慣れない服が覆っているのだ。それに気付かない者がいるなら、その目は節穴と言う他ない。

魔界で最近流行ってる服なんだけどねー。可愛くない?

よくわからんが、お前が着方を間違っていることだけはわかる

おそらくは、夜着や室内着の類なのだろう。ゆったりとした長い袖の服は、しかし豊満なリルの双丘に押し上げられて胸の部分だけが裂けんばかりに張り詰めていた。そして上半身はほとんど余すところなくその服に覆われているのに、下半身はいつもの通りの下着姿だ。その服に関する知識のないOlでも、本来上下一揃いであろうことは予想できた。

セクシーじゃない?

どちらかと言うと、野暮ったい

Olの率直な意見に、しかしリルは不敵な笑みを浮かべる。

これでも?

そういいながら、彼女は襟首に突けられた金具をゆっくりと引っ張った。ジジジ、と独特の音を立てながら、服の襟元が開いていく。ボタンでもホックでもない、初めて見る留め具にOlは目を見張る。

しかし一瞬後には、その目は別のものに奪われていた。

大きく開いた襟から覗く、真っ白な谷間にだ。

どう?

ぺろりと舌を出し、リルはベッドに片手を突いて、殊更に胸を強調するように持ち上げながらOlの眼前に突きつけた。この小悪魔の思う壺とはわかっていても、Olはその魅惑から逃れることが出来ない。

己の利のために媚びているならともかく、夫を悦ばせようという一心での行為と知っていれば尚更だ。

まあ、悪くはない

Olは憮然とした風を装いながら、妻を抱き寄せ、その企みを存分に味わった。

序話新たな冒険を始めましょう

白い砂を踏みしめて、男は思わず感嘆の声を上げた。

砂浜の向こうには広大な平原が広がり、彼方には森が、そして美しい山脈が聳え立っている。

見たこともない草木や花々が生い茂り、聞いたこともない鳥の鳴き声が響き、風の匂いさえ違うもののように感じられる。

どちらかと言えば安定を好む彼をして胸を高鳴らせる、未知の塊がそこにあった。

オ~、ウ~、ル~

そんな彼に、未知とは真反対の聞き慣れた声がかけられる。恨めしげな声に視線を向ければ、見慣れた姿の使い魔がよろよろとした様子で船から降りてくるところだった。

どうした、船酔いでもしたか?

悪魔が船酔いなんかするわけないでしょっ!そうじゃなくて、わたしの作った魔動船に何したの!

淫魔はびしりと船を指す。魔力で動くその船は彼女が設計した力作であり、言い換えれば彼女自身の子にも等しい。

ああ。航海は長くて暇だったからな。住みやすいように作り変えてみた。船の機能自体には問題ないから気にするな

船室をダンジョンにされて気にしないわけないでしょ、このダンジョン馬鹿ーーーーーっ!

リルの叫び声が、新しい大陸に響き渡った。

新大陸?

ことの起こりは、一年ほど前のことだった。

そうだ。まあ便宜上の名前で、土地としてどちらが新しいかはわからんがな。ともかく、我々の住んでいるこの大陸から遥か東海を隔てたところに、巨大な陸地があるという事がわかった

ばさりと広げられた地図を覗き込む顔は五つ。

リル、ユニス、スピナ、メリザンド、そしてOl。

魔王の国を動かしている、国の核とも呼べる顔ぶれだ。

あっ、あたしが前、空の上から見たやつだ

王妃となったユニスは、生まれたばかりの子を抱いてあやしながら声をあげる。

結構遠いのね

指で新大陸までの距離を計りながら呟くのは、忠実なる使い魔のリル。

いよいよ別の大陸にも打って出る、という事ですね

魔王の第一の弟子、スピナは意気込んだ様子で表情を引き締める。

大陸全土を支配し、安定もしているのだ。わざわざ危険を冒す必要はあるのか?

元聖女であり片腕であるメリザンドは、Olの意図をわかっていてあえて尋ねた。

攻めこむというわけではない。むしろその逆だ

逆ですか?

目を瞬かせるスピナに、Olはうむと頷く。

我々は新大陸の情報を全く持っていない。ここに陸地があるということしか知らんのだ。いつかは必ず、彼の地に住まう者たちがこちらに侵攻してくるだろう。そうなる前に情報を集めておかなければならん

防衛のために偵察ってことだね

ユニスが嬉しそうに声を上げる。

となれば迷宮ごと、というわけには行かないか

無論だ。距離の問題もある

Olの作り上げた迷宮は大地の下に横たわる地の迷宮と、空をたゆたう天の迷宮とに分かれている。天の迷宮は自由に移動できる大拠点だ。他国に攻め入るならこれほど優れた兵器はない。

が、その巨大さと空をとぶことから、とかく目立つという欠点があった。新大陸で目撃されては秘密裏に情報を集めるのは不可能だろうし、こちらの大陸を完全に不在にするわけにもいかない。

少数の人員を、船で送り込む。リル、少人数でも操れる船は作れるか?

勿論。任せといて

リルの専門は魔兵器の制作だ。砲や火矢のみならず、乗り物もその範疇だった。

でも、誰が行くの?

ユニスは素朴な疑問を呈する。未知の新大陸へと渡り、情報を集めてくる。重要かつ困難な任務だ。出来そうな人材は極めて限られていた。最も向いていそうなのはユニスだったが、生憎と彼女は子育てに忙しい。愛情深い王妃は、己の息子の世話を侍女に任せきりにする気など毛頭なかった。

そうだな。高い判断力を有し、あまり目立つことのない容姿で、できるだけ汎用性の高い能力を持ち、ある程度戦闘も可能で、万一死んでも失う危険性のないものが望ましい

そんな人いたっけ?

リルは配下の顔を思い浮かべながら、指折り数える。

エレン、セレスたちアールヴは生存能力も戦闘能力も高いが、判断力に少し難がある。

その点ナジャ、Shal、ウィキアの元冒険者組はその経歴だけあって頼りになるが、死んでしまう可能性が無いとは言えない。

悪魔のローガンはもし死んでも魔界に帰るだけだが、その外見はあまりに目立つ。

獣使いのミオは非常に強いがその能力はあまりに獣に特化していて、人間相手の情報収集は難しそうだ。

Olの挙げた条件をすべて満たすものは、人材豊富な魔王軍といえどもなかなかいないように思える。

ああ、一人だけいる

Olは親指でぐっと己の胸を指し、言った。

俺だ

第1話じゃじゃ馬娘を躾けましょう-1

この辺りでいいか

そう言ってOlが足を止めたのは平原の境、鬱蒼と茂る森の入り口だった。

ん、焚き木集めてくる?それとも、食べられそうな木の実か動物でも取ってこようか?

別にここで野営をするわけじゃない

張り切るリルに、Olは呆れて声をあげる。

ここに、ダンジョンを作るんだ

ええーまたダンジョン?一から?

露骨に嫌そうな顔をするな

端正な顔をしかめてみせる使い魔に、Olは懐から小瓶を取り出した。

今回はこれを使う

なにこれ。小型のダンジョンコア?

本拠地にあるダンジョンコアは、今やリルすらどれほどの大きさになっているかわからない。しかしOlが取り出したそれは、手の平にすっぽりと収まる程度の大きさだった。

基本的な機能は同じだ。魔力を貯蔵し、自由に取り出せる。だがこれにはそれに加えて、一つ能力を与えてある。ダンジョンシード、とでも呼ぶか

ダンジョン、シード?

オウム返しに繰り返すリルに頷き、Olはダンジョンシードを地面の上に落とした。途端、地面がぐねぐねと蠢き、ダンジョンシードは大地の中に潜り込んでいく。

わ、わ、なにこれ!

俺の使う迷宮魔術。それを用いて半自動的にダンジョンを作り出す、一種のゴーレムのようなものだ

ダンジョンシードは大きく穴を穿ち、どんどん地中深くへと洞窟を掘り進める。その壁面が輝いたかと思えば、掘り抜かれたままの土壁は箒で掃かれるようにしてレンガ壁に作り変えられた。

事前に仕込んだ魔力を使って迷宮を広げつつ、そこから魔力を収集して更にダンジョンを大きく広げていく。まあ龍脈に突き当りでもしない限りは収集量より消費量の方が多いだろうからじきに止まるだろうが、仮の住処としては十分だろう

凄い凄い、これがあるならもう自分でダンジョンの設計とかしなくていいのね!

いや、そうでもない

興奮を露わにする使い魔に、主は冷酷に首を振った。

自動的に作られるということは、そこには一定の法則性があるということだ。計算に依ってのみ成り立つダンジョンには、人間の悪意が足らん。侵入者を騙し、陥れ、その心を挫く悪意がな

はいはい、あなたの底意地が悪いのはよーーーーく知ってるから。そんなことより、さっさと入ってみましょうよ

いまいち理解を得られていない気がしたが、Olはリルの言葉に従って迷宮の中に足を踏み入れる。

ほら、結構素敵じゃないの

まるで新居にはしゃぐ新妻のような調子で、リルは地下回廊の中を軽やかに舞った。

まて様子がおかしい。ダンジョンシードが上を目指している

基本的に、地中の魔力というのは深いほど濃い。それ故、ダンジョンシードは放っておいても深く深くへと根を張っていく。ところが、Olが進む通路は途中から傾斜角度を変えて、上方へと続いていた。

えっ、何か

言った?と続くはずだったリルの言葉は、物理的に遮られた。

突如通路を埋め尽くした、植物の根によって。

ちょっと、なにこれ!ダンジョンシードの根っこ!?

いやこれは、本物の植物の根だな。だが無関係というわけでもない

ダンジョンシードは周囲のものを利用して、ダンジョンを作り出す。通常は地面即ち土そのものだが、場所によっては砂や岩、金属の鉱脈など、様々な物質が織り交ざることを想定して作られている。勿論そこに、木々も含まれていた。

この樹はどうやら、魔力を蓄える性質を持っているようだ。それで、ダンジョンシードは地下ではなく地上へ向かっていったのだな

冷静に言ってる場合かーっ!ああもう、Ol、ちょっと下がってて!

根の壁越しのリルの言葉に従って下がると、ややあって爆発音が鳴り響き、隙間から煙とリルが盛大に咳き込む声が聞こえてきた。

何この樹、めちゃくちゃ硬いじゃないの!石火矢を使っても傷一つつかないってどういうこと!?

迷宮の壁だからな。そう簡単に壊されるわけなかろう

威張るなー!

叫ぶリルを無視して、Olは壁面に触れる。木の根の壁は一瞬ぐにゃりと歪んでリルの煤だらけになった顔が見えたが、すぐに蠢いてピタリと閉じた。

駄目だな。森の魔力を吸って、ダンジョンシードが迷宮を維持し続けている

どういうこと?

端的に言えば、森にダンジョンを乗っ取られた状態だな

なんでそんな楽しそうなのよ

壁の向こうから、疲れを滲ませた声が聞こえてくる。

ぐったりと地面にへたり込むリルの姿が思い浮かぶようだ。

楽しそう、だと?

Olが思わず己の頬に触れれば、口元は笑みの形に歪んでいた。

今、笑ってるでしょ

それを見透かすかのように、リルの指摘が飛んで来る。

何故わかる?

見なくてもわかるわよ。わたしがよーく知ってる表情だもの、それ

疲れ果てていたはずのリルの声も、いつの間にやら笑みを含んだものになっていた。

そうよ。最近その顔してなかったから、すっかり忘れてたわ

広大な大陸を治め、国々を統治し、政務に勤しむ毎日。

それは間違いなく、かつてOlが渇望し、そして手に入れた平穏な日常だ。

いいんじゃない。何だかんだ言ってわたしもその顔嫌いじゃないからさっさとこの迷宮、なんとかして頂戴

では手始めに、親に逆らうこの迷宮を躾に行こうか

この不測の事態に、邪悪なる老魔術師はニヤリと笑ってそう言った。

第1話じゃじゃ馬娘を躾けましょう-2

ふむやはり、駄目か

リルと別れて、Olは一人迷宮の中を歩いていた。

数カ所、扉を作って壁を超えられないか試してみたものの、材質が石だろうと土だろうと木の根だろうとすぐさま修復されてしまう。

思った以上に魔力を溜め込んでいるようだな

それは文字通り、この迷宮がまだ生きていることを示していた。

ダンジョンシードにあらかじめ溜めておいた魔力はそれほど多くはない。

普通の土地であればとっくに魔力を枯渇させているはずだが、どうやらいきなり当たりを引き当ててしまったらしかった。

このじゃじゃ馬め

壁と天井を突き破り、木の根が槍のように飛び出してくる。それはOlの身体を貫く寸前で、石の壁に阻まれて半ばからへし折れた。

妨害が来るという事は、こちらの道で正しいということだな

Ol自身が作った迷宮であれば、そのような道理は通用しない。だがこれはダンジョンシードが自動で作り上げた迷宮だ。基本的には最小の魔力で最大の防衛効果を発揮するように生成される。無駄な道にまでは罠は張られない。

複雑に入り組んだ迷宮の中を、Olは地図も描かず目印さえつけず歩いて行く。

冒険者でさえ、熟練の者であれば歩測と方向感覚だけで詳細な地図を書くことが出来るのだ。

ダンジョンマスターたるOlが迷宮で迷う道理など無く、彼はほぼ最短距離でダンジョンシードへと向かっていた。

森の入口で創りだした迷宮は、森全体を飲み込むように中心部の方へと向かって広がっている。恐らくは森の中心自体がダンジョンの中心にもなっているだろう、とOlは当たりをつける。

その足が、ピタリと止まった。

やはり、ついてきているな

口の中で小さくそう呟く。

彼は迷宮に入ってからすぐに、何者かの気配を背後に感じていた。

リルではない。彼女ならばコソコソしたりせずに、直接話しかけてくるだろう。

出来たばかりのこのダンジョンに、先に入ったものがいるとも考えづらい。

ということは、Olがダンジョンシードでダンジョンを作るより前から付けてきたものがいるということだ。

Olに気付かれずに後をつけるということは、それなりの手練と見ていいだろう。

だが、迷宮の中でOlからその存在を隠しおおせるのはほぼ不可能だ。

動かずじっとしているならまだしも、動いているならその足音や振動は必ず伝わる。

Olは曲がり角を曲がると、懐から小さな石の箱を取り出した。

その表面に指先を這わせると、石の箱は組木細工のようにパタパタと展開し、あっという間に大きく広がる。それはまるで翼のようにはためくと、一瞬にしてOlを移動させた。

通路を進む何者かの振動が、途端に早くなって通路を曲がる。

そして、そこでピタリと止まった。

Olが進んだはずの通路は、曲がってすぐ行き止まりになっていたからだ。

戸惑うように振動はその場で一度、二度足踏みする。

そして一歩元の通路へ戻ろうとした瞬間、Olは魔力を込めた指先をそれに這わせた。

展開して行き止まりの壁に擬態していた石の箱が、まるで蛇のあぎとのように追跡者を狙う。

敵もさるもの、剣閃が走って蛇の顎は防がれるが、そちらはダミーだ。

石畳と天井に擬態した部分から同時に壁がそそり立って、追跡者を閉じ込める。

無事相手を捕獲して、Olは深く息をついた。

本来なら更なる反撃に備えて石箱を縮小、壁を厚くするところなのだが、その必要はなさそうだと彼は思う。

聞きたいことは色々あるが

壁に挟み込まれるようにして身体を拘束され、閉じ込められているのはまだ女の子と呼んでいい年齢の少女だった。だがそれだけで油断するほど、Olは生易しい人間ではない。

ただ単純に。

お前は何をやってるんだ、マリー

壁の中から上半身だけを突き出すような間抜けな体勢で照れ笑いを浮かべる少女は、顔見知りの相手だった。

ではお前は、船の中にずっと隠れていたというのか

うんっ

拘束された状態のまま頷くマリーに、Olは頭痛を堪えるような仕草で額に手の平を当てた。

一体なんだってそんな事を

だって付いて行きたいって言っても、Olさま駄目っていうでしょ?

当然だ

だからだよぉ

マリーは不満気にぷっくりと頬を膨らませた。

わたし、もう子供じゃないもん

子供そのものの仕草で言い放つ彼女に、Olは思わずため息をつく。

全く説得力がなかった。

とは言え確かに、未だにあどけなさは多分に残っているものの、もはや彼女は出会ったばかりの頃の幼い子供ではない。むしろ純粋な戦闘能力という点で見れば今やOlやリルより強いと言ってもいい程だ。

わたしももっと、Olさまに信用してほしい

にも関わらず、Olが何故彼女を重用しないかといえば。

別に、お前のことを信じていないわけではない。ただ

たいせつに、だいじにおもってくれてるんでしょ?

マリーはその理由を、ズバリと言い当ててみせた。

端的に言ってしまえばそういうことである。

幼い頃から見知っている身となれば、過保護にもなる。

十分強いとは言っても、Olは常に万が一を考えてしまう性分なのだ。

とは言え彼女を連れて行かない理由はそれだけというわけでもない。

俺の言いつけをしっかり守り、勝手に視界から離れないと誓うか?

マリーはちゃんとOlさまの言いつけ守ります!

ピシリと手を上げて、マリーは宣言した。

むしろ問題なのはその自由闊達な気性の方だった。

とにかく、何をやらかすのか魔王をして全く予想がつかないのだ。

破った時は無理矢理にでも帰すからな

はーい!ちゃんと守ります!

返事だけは調子よく返すマリーに、Olは深くため息をついた。

置いてきても隙を突いてくるなら、手の届く範囲に置いておいた方がまだマシかも知れない。

ねーねーOlさまーOlさまー

そんな事を思っていると、マリーがしきりにOlの名を呼ぶ。

ところでこれはいつ解いてくれるの?

彼女は未だ、Olの作り出した壁に挟み込まれたままだった。

Olが石箱を操作すると、壁は彼女を挟み込んだままくるりと回る。

ちょうど腰のくびれの辺りを固定されて、壁面からマリーの尻だけが飛び出している形だ。

あ、あれあれー?

じゃじゃ馬娘に躾をしてからだ

Olは傲然と、そう言い放った。

第1話じゃじゃ馬娘を躾けましょう-3

お、おうるさまぁこれ、なんか、恥ずかしいよぉ

Olの眼前で、白い尻だけがふるふると震える。

壁から尻だけが突き出ているさまはなんとも滑稽だったが、同時に奇妙な淫猥さがあった。

当たり前だろう。何の苦もなければ罰にはならん。ただ犯すだけではお前は喜ぶだろうが

そうだけどぉひぁんっ!

下穿きを脱がし、スカートを捲り上げて顕になった尻をOlは無遠慮に掴む。

中々肉付きが良くなってきたな

ふ、太ったわけじゃないよ!

誰もそんなこと言っておらんだろう

初めて彼女を抱いたのは一年ほど前の話だ。その一年の間に、彼女の身体は主の寵愛を存分に受けて随分成長した。

若い尻肉は張りと弾力に満ち満ちて、それでいて指に力を込めればどこまでも淫らに歪む柔らかさがある。まだまだ幼いと思っていたが、丸く膨らんだ臀部は既に成熟した女らしさを多分に持っていた。

立派に育ったものだ、と思ってな

ううう、はずかしいようOlさま、あんまりみないでぇ

マリーはもじもじと太腿を擦り合わせる。本人としては羞恥ゆえの反応なのだろうが、Olから見れば誘っているようにしか見えない。

んっあ、ぅん

ぴっちりと揃えて閉じた太腿を手のひらを差し入れてこじ開け、ゆっくりと撫で上げていけば甘い吐息が漏れ聞こえてくる。

ひぁあんっ!お、おうるさまぁ

尻肉を両手で割り広げるようにしてその中心に舌を伸ばすと、マリーは困惑と媚が入り混じったような声を上げた。

それに構わず蜜を滴らせるスリットを丁寧になぞり、舌先を差し入れ、ぷっくりと張り詰めた秘核を転がしていく。

いやぁ、こんな、状態じゃなくて、ふつうふつうに、あぁんっ

全ての悪意を寄せ付けない迷宮の中で、マリーは大切に育てられた。基本的にはOlに対して聞き分けの良い娘ではあるが、しかしやはり我儘なところが無いとはいえない。

おねがい、おうるさまぁわたし、ふつうにおうるさまとえっちしたいこんなの、へんたいみたいだよぉ

マリーはくねくねと腰をよじりながら、甘い声で懇願した。そうやって甘えればなんだかんだと、Olは彼女の言うことを聞いてくれると知っているのだ。

誰が変態だ、失礼な。普通にとはどういうことだ?

Olはゆっくりと彼女の秘部に指を出し入れしながら、意地悪く問う。マリーの媚肉は咥え込みながら、ひくひくと物欲しそうに蠢いた。

まえからぁっ、まえから、ぎゅってして、してほしいのぉっ!おくちでも、おっぱいでも何でも好きにしていいからぁっ!おうるさまの、おかおみながらえっちしたいのぉ!

マリーは余裕をなくした悲痛な声で請い願う。

そうか。わかった

Olが頷いて指を抜くと、ほっとしたマリーの身体から力が抜ける。

だが駄目だ

んぁぁぁぁぁぁぁんっ!

そこに、Olは思い切り剛直を突き入れた。

なっ、ああぁっ、なんでぇっ?

これは罰だといっただろう

壁から突き出た尻を両手で抱えるようにして、Olは手加減抜きで彼女の膣内を陵辱する。

相手のことを一切考えない、己の快楽の為だけの自分本位な動き方だ。

いやぁっ、おうるさまぁっ!

壁に動きを封じられ、顔も見えない相手に好き勝手に犯される。

それはまるで、種付けされる家畜のような扱いだった。

やぁこんなの、やなのにぃ

涙混じりの声とは裏腹に、彼女の腰はOlの抽送に合わせて淫らに動き、膣口はOlの肉槍をきつく咥えこみながら浅ましく涎を垂らす。

普通であれば屈辱しか感じない状況にも関わらず、一年間Olに丹念に可愛がられたマリーの身体は勝手に反応し、快楽を貪っていた。

ふぅっ、あっ!ああぁっあぁぁんっ!

ぐっと奥歯を噛みしめても、ずんと奥を突かれると脳髄が蕩けるような快楽が背中を走り、喉からは甘く媚びた声が出ている。それを意識してしまうと、もう駄目だった。

あぁっ、だめ、だめぇっ!そこ、あぁん、とんとん、してぇ!もっと、あぁっ、いいのぉっ、はぁぁ、ああぁぁっ!

馴染みきったOlの男根はただ出し入れを繰り返すだけでマリーの弱い部分を擦り上げ、嫌でも己の身体が彼専用のものであると思い知らされる。

あぁっ、イク、イっちゃう、おうるさま、わたし、イっ

まるで螺旋階段を昇るかのように彼女はどこまでも昂ぶっていき、それが頂点へと達しようとした、その一瞬前。

Olの動きは突然止まり、マリーは己の腹の中に感じ慣れた感覚を覚えた。どくどくと脈打ちながら、じわじわと何かが広がっていく感触。

膣内に精が放たれた感触だった。

え、おうるさま、わたし、まだイってないよ?

Olとの性交で、こんなことは初めてだった。

彼は必ず、先にマリーを絶頂に至らせてから自らも達する。

少なくとも同時に、多い時なら十回も二十回もイカされてからようやく射精して貰えることすらある。

おうるさまぁ

絶頂寸前まで高められた身体は燃えるように熱く、マリーはOlに腰を押し付けるように背を反らす。しかしOlはマリーの尻を掴んで彼女の身体を押し留めた。

そうまでされれば流石のマリーも、Olが単に嫌がらせや戯れでそうしているわけではないと気づく。

ごめんなさぁい!ちゃんと、ちゃんと言うこと聞くから、許してぇ!

さっき、お前、誓わなかっただろう

勝手に視界から離れないと誓うか。

Olがそう尋ねた時、マリーは言いつけを守ると宣言した。

一見何気ないやり取りのように見えるが、彼らはどちらも魔術師である。

そこにはただの口約束以上の意味があった。

誓うか?勝手なことはせず、俺を欺くような事もしないと

迷宮の中であればともかく、これから進むのは危険のある場所だ。

そこへ連れて行く以上、しっかりと手綱を握っている必要があった。

はいっ、ちかう、ちかいますぅ!誓うから、おうるさまぁ!

良かろう

Olの言葉とともに、マリーを縛り付けていた壁が積み木のようにばらりと崩れる。

そしてそのまま広がると、彼らを包み込むようにして小さな部屋を作り上げた。

え、なんで、周り?

当然だろう?

Olはマリーの望み通り、顔が見えるように膝の上に乗せるようにして彼女の身体を抱き寄せる。

声が漏れては困るからな

え、それってどう、あぁぁぁあっ!?

身体の中心を貫かれ、小さな部屋の中にマリーの悲鳴のような声が反響した。

そら、まず一回目だ

あぁぁぁぁあああぁぁぁぁっ!

まだ火のついたままの奥を容赦なく抉られて、マリーは簡単に気をやった。

どんどんいくぞ

お、おうるさま、ちょっとまっふぁっ、あぁああああ!

余韻に浸るどころか絶頂のさなかに子宮口をこじ開けるかのように突き入れられる肉塊に、マリーは全身に力を込めてOlにギュッと縋り付く。

だめっ、それ、だめぇっ!

駄目も何も、お前が願ったことだろう?

マリーの小さな身体はそのままひょいと持ち上げられて、空中で揺するようにして犯される。その度に、彼女は身体を震わせてOlのモノを強く締め付けた。

だめぇっ!こわれ、ちゃ、うぅっ!

安心しろ

Olはマリーの耳元で、優しく囁く。

何度壊れても、しっかり可愛がってやる

言葉とともに注ぎ込まれる精液の感覚に、マリーは二度目の絶頂を迎えた。

第1話じゃじゃ馬娘を躾けましょう-4

んちゅ、んんん、む

小さな口が赤黒くそそり勃つものをぱっくりと咥え込み、短い舌が淫猥な水音を立てながら脈打つ肉茎を甜め上げていく。

ふわふわとした金糸のような髪をかきあげて、跪きながら奉仕する様はまるで神に祈っているかのように神聖な雰囲気を纏っている。しかし、両手で硬く張り詰めた男根を擦りながら熱心に吸い付く表情はどんな娼婦よりも淫らだった。

く出すぞ!

Olの言葉にマリーは答えず、ただ手と口の動きの速度を上げる。素早くピストン運動を繰り返しながら、指や舌先はOlの弱いところを的確に擦り上げていた。

呻くような声とともに、マリーの口内に白濁の液が放出される。彼女はぷっくりと頬を膨らませてそれを受け止めながらも、手の動きは緩めず射精を促す。二度、三度と間断的に迸るそれを、彼女は全て口内に蓄えた。

射精を終えてからもマリーは更に竿をしごきたて、尿道に残った汁までも一滴残らず吸いだす。そして形の良いおとがいを上に向けて口を開き、そこに溜まった白濁の液を主に示す。それをごくりと嚥下すると、綺麗になった口内を改めて見せた。

お掃除終わりました、Olさま

最後に丁寧に竿を舐め清めて、仕上げとばかりに先端に口付ける。

うむ

どうしましたか?

眉根を寄せながら頷くOlに、マリーは首を傾げた。

いや、先程までわがまま放題だったくせに、急に随分従順になるな、お前は

もう、どうしろって言うんですかあ

ぷうとマリーは先ほどよりも大きく頬をふくらます。もっともな意見ではあったが、あまりの急激な態度の変化にはかえって裏が有るのではないかと疑ってしまう。

これでも、ちゃんと反省したんですよぅ

マリーはOlの一物を丁寧に服の中にしまい込み、パタパタと服から埃を払う。

Olさまがわたしのこと心配してそう言ってくれてることくらいは、わかってますから

そしてぎゅっと腕を抱くと、にこにこしながらそう言った。

まあ、わかっているなら良い

彼女が子供の頃から見知っているせいか、どうにもやりづらい。そう思いつつも、Olは周りを覆う小部屋の床に触れる。すると小部屋はパタパタと折りたたまれて、元の小さな石の箱に戻った。

そういえばこれ、何ですか?

遠征用に設えた武器だ

マリーはOlの手のひらに収まった石の箱をしげしげと眺める。見た目は、ただの石の塊にしか見えない。縦横高さの長さが同じ立方体で、黒に近い灰色をしている。大きさはOlの手のひらの上に乗ってしまう程度だが、厚みがあるため手の中に隠せそうにはなかった。

見た目は、全然武器に見えないですね

だろうな。これはまあ、言ってしまえば小型のダンジョンだ。便宜上、ダンジョン・キューブと呼んでおる

そのままだね

うるさい。名前などどうでもいいだろう

咳払いを一つして、Olはキューブの表面を指でなぞる。するとパタパタとキューブが展開して、通路の上に石の橋がかかった。

そこは落とし穴だ。この上を歩け

おー、べんり!

橋の上を渡り終えると、キューブは再び元の石の箱へと戻る。

地味だけどとってもお役立ちな、Olさまらしい武器ですね!

地味は余計だ

自覚があるのか、Olは渋面を作りながらもキューブを懐に仕舞い込んだ。

でもでも、色々使い方工夫できそう!わたしにも使えますか?

迷宮魔術を覚えればな

おぼえます!

マリーはぐっと、拳を握りしめる。

ならば少し、教えてやろう

作られたばかりのこの迷宮に魔物の類は存在せず、自動発生した程度の罠をOlが見逃すこともない。まだまだ道のりは長いと見て、暇つぶしにOlは講義を始めることにした。

まず、魔術の行使の仕方に三種類あることは知っているな?

はいっ。詠唱系と、紋章系と、形象系!

ピンと手を挙げていうマリーに、うむとOlは頷く。

迷宮魔術はその中で紋章系に分類される

Olは指先に魔力の光を宿し、空中に複雑な紋章を描いていく。

綺麗に描くの難しいし、描くのに時間もかかるから凄く面倒臭い奴ですよね。あれ?でもさっきOlさま、殆ど一瞬で発動させてましたよね?

そう。そこが、迷宮魔術の特徴だ

我が意を得たりとばかりに満足気に頷くと、Olは先ほど作った光の紋章を指し示す。

これに魔力を注ぐとどんな魔術が発動する?

ええっとあれ?三文字に増える?

Olが紋章を指で突くと、光は複雑さを増した三種類の紋章に増える。

ではこれを新たな紋章として発動させるとどうだ

え、ええっとここがこうで、こうなって、こうだからあ、また増えて八個になる!?

その通りだ。三重紋を暗算で読み解くとは、なかなかやるじゃないか

紋章は組み合わされば組み合わさるほど、その効果は加速度的に複雑化していく。三重紋を読み解くのは、単一の紋章を読み解くそれの八倍は難しい。

で、この八重紋を発動させるとどうなると思う?

そんなの、わかるわけううん。ええと、多分だけど、十五個に増える?

正解だ。よくわかったな

八重紋ともなればマリーに読みきれるわけがなく、それがただの当て推量であることは明らかだ。しかしそれでも直感だけで当ててくるのが、マリーの恐ろしいところだった。

で、それを発動させるとようやく目的の魔術の効果が発揮される。これが、迷宮魔術だ

まるで迷宮のように入り組み、圧縮された紋章系魔術。

それこそが、Olの作り上げた迷宮魔術という術式の真髄だった。

十五に増えた紋章を突けば、光は見る間に広がっていって、迷宮の通路を舐め上げていく。

その跡には、キラキラと輝く光の塊が所々に残っていた。

わぁ綺麗

触るなよ。それが罠のある場所だ

案の定うかうかと触りに行くマリーの首根っこを、Olは猫のように引っ掴む。

あの、ものすごく、沢山あるんですけど

侵入者は全ての罠に引っかかるわけではない。むしろ気付くこともなく素通りする事が殆どだ。故に、仕掛けてある罠全てを可視化すればこうなる

その数はマリーが思っていた以上で、どの方向に視線を向けても光が瞬いている。

今まで何気なく進んでいた道にもいくつもあって、彼女は自分がどれだけ運良く歩いてきたのかを思い知った。

床や壁にあるのはともかく、あの天井のとかは引っかかる人いるんですか?

床や壁だけに仕掛けてあるなら、天井を歩けば安全だろう。そう思う手合への罠だ。勿論、空中を飛んでも引っかかるようにしてあるから、気をつけろよ

マリーはぎゅっとOlの腕にしがみつきながら、ふとあることに気付く。

この罠っていうか、迷宮自体も、さっきみたいな紋章の展開で作られているんですよね?

勿論他の術式も組み合わせてはあるが、基本的にはそうだな

その場で多重展開する紋章を作り上げたOlの技は、もはや神業と言う他無い。

それでも、十五重紋くらいなら綿密に準備と計算をして用意すればマリーでも再現できそうな気はする。

しかしこれほどの迷宮を自動的に作り出す魔術というのがどのくらい複雑なのかということになると、彼女には想像もつかない世界の話だった。

最終的に、何重くらいの紋章になるんですか?

途中で別々の紋章に派生して別々の魔術になるから、見た目ほど複雑ではないぞ。合計するなら、この規模なら数億と言ったところだろう

おっ

さらりと言ってのけるOlに、マリーは言葉を失う。

Olさま、やっぱり変態

失礼なことを言うな

渋面を作りながらも、元の調子に戻ってきたマリーに、Olはどこか安堵を覚えた。

第1話じゃじゃ馬娘を躾けましょう-5

それじゃあ、いきまーすっ

腰の剣を二本抜いて構えるマリーに、Olは頷く。

せいっ!

彼女が剣を同時に突き出すと、衝撃波が渦を巻いて迷宮の天井を貫き、ぽっかりと穴を穿つ。

よし。今だ、登れ!そう長くは保たんぞ

同時にOlがキューブを操り、円筒形の小さな塔と梯子を作り出して、修復されゆく天井を抑えながら地上への道を作り上げた。

あっ

どうした!?地上部分に何か問題でもあったのか?

梯子を登る途中、マリーは不意に動きを止めて、背後のOlを見下ろす。

さっきOlさまがマリーの中に出した精液、垂れて来ちゃった

いいからさっさと登れ、愚か者!

ぽっと頬を染めて恥ずかしげに呟くマリーに、Olは思わず怒鳴った。

こっちはあんまり、ダンジョンって感じはしないんですね~

いや、よく見ろ。ただの森に見えて、構造そのものは普通のダンジョンと変わらん。そうは見えないかもしれないが、これは壁だ

鬱蒼と生い茂る森の中。

きょろきょろと辺りを見回すマリーに、Olは複雑に絡み合った樹の枝を指差した。

でもただの木の枝なら打ち払っちゃえば通れそうな気がしますけどあっ

剣を振るってその枝を切り裂こうとすると、細く脆く見えた枝の中程までを切り裂いて剣は止まる。

さっさと抜け!

Olの怒声に慌ててマリーが剣を引き抜く。枝はあっという間にざわざわと伸びて、マリーのつけた小さな傷はすぐに消えてしまった。急いで引き抜いていなければ、剣は枝に絡め取られて抜けなくなってしまっていただろう。

魔力が通った枝だ。見た目通りの強度なわけがないだろうが。壁の破壊はもっとも恐れるべきことだから、当然対策もしてある

はぁいごめんなさい

しょんぼりと項垂れるマリーの頭を、Olはぽんと撫でる。

あれ?でも、天井っていうか地面は簡単に壊せましたよね?

既に修復されて消えた穴を見つめて、Olの手のひらを頭に乗せたままマリーは首を傾げた。

そうだな。あれは一種の隠し通路だ。どこでも壊れるわけではなく、ここだけが簡単に壊れるように出来ている。それを見極めるのもダンジョンマスターの資質だ

わたしもずっとダンジョンに暮らしてたのになあ

当たり前だ。お前と俺とでは年季が違う。大体、お前はそもそもダンジョンマスターではなかろう

そんなことよりもだ、とOlはマリーの背中を押す。

おそらくこのダンジョンはここからが本番だ。地下は作ったばかりで大した罠すらなかったが、森の中にはもともと自生していた魔物もいるはずだ。油断するなよ

はーいっ!

全く、返事だけは良いんだが。とOlは内心嘆息する。

マリーの能力自体は、非常に高い。

何か突出した才能があるわけではなかったのだが、とにかく何を教えても物覚えがいいのだ。それが面白くて、迷宮に住む者達は彼女に様々な事を教えた。

英雄が鍛えた剣技、魔王が手ほどきをした魔術、聖女が教えた法術に、淫魔が仕込んだ床の技。

他にも亞人や妖魔、精霊に悪霊、冒険者達まで、迷宮に住まうもの殆どから教えを受けていて、Olですら何がどこまで出来るのか正確に把握していないのだ。

少なくとも純粋な戦闘能力という意味ではもはやOlよりも上だろう。

だが、迷宮の中で大切に育てられたが故に、実戦経験というものが全く足りていなかった。

そら

中でも特に問題なのが、

言った傍からお前は一回死んだぞ、マリー

ダンジョンへの脅威感の無さだった。

えっ、わっ、なにこれ、魔物!?

マリーは木の幹にぎょろりと生えた目玉に驚き、次にその枝が槍のように伸びて腹に突き刺さっているのに驚く。

やはり海を超えると見たことも聞いたこともない魔物がいるものだな

感心したように呟くOlにも木の枝が二本、左右から素早く伸びる。だがそれは彼の身体に触れる直前に、半ばから断たれて地面に転がった。

マリーが両手に二本の剣を持ち、同時に切り捨てたのだ。

こっちはそんなに硬くないね

彼女を警戒するように、木の枝がざわりと蠢く。更に四本の枝が触手のようにしなり、同時にマリーを狙って突き出された。

マリーは二本の剣を楯のように構え、攻撃を受け止める。彼女の動きが止まった瞬間を狙って、地面から根が突き出した。

わあっ。そっちからも来るの!?

予期せぬ攻撃に、マリーは目を丸くする。

その瞳を貫く勢いで飛び出した根は、直前で動きをピタリと止めた。

あーびっくりした。ちゃんと目が弱点で良かったー

木の化物の目玉には、剣が二本突き刺っていた。マリーの扱う四刀の三本目、四本目だ。

絶命した化物の後を追うようにして、木の枝もバラバラと崩れ落ちる。

奇しくも相手の攻撃を受け止めて追加攻撃を行うという狙いはどちらも同じ。ほんの僅かな差で、マリーの方が早かった形だ。

ありがとです、Olさま

マリーの腹に巻き付いた石の帯がするりと解けてキューブに戻る。Olが初撃を防がなかったら、彼の言葉通りマリーは何もわからないまま死んでいただろう。

まさか木が動き出すだなんてOlさまは知っていたんですか?

いいや。俺も気づいたのは動き出す直前だ

未だにバクバクと鼓動する胸を抑えながら尋ねれば、老魔術師は首を横に振る。

ダンジョンではあらゆるものを警戒せねばならん。お前は異常に気付くのも遅すぎなら、気付いてからの対応も遅すぎる

ううー

いつに無く厳しいOlの意見に、マリーは眉根を寄せた。

わかりました。もっと、気をつけます

しかしすぐに立ち直り、彼女はきりりと表情を引き締める。

これからは、もう絶対に油断しないんだから!

そう言い放つ彼女の背後で、樹という樹がぎょろりと目を開けた。

第1話じゃじゃ馬娘を躾けましょう-6

これは、まずいな

流石のOlも目を見開いて、キューブを取り出しながらマリーを抱き上げる。

ふぇっ、な、こんな所でですか?

馬鹿な勘違いしてないでしっかり捕まってろ!

キューブから伸びた石畳を踏みしめると、Olの身体は高速で道の上を滑るように移動していく。一瞬後、無数の枝槍がマリーの髪を数本引きちぎりながら地面に突き刺さった。

やあん、髪が!

命の心配をしろ。来るぞ!

道の上を滑っていくOl達を迎え撃つように、前方で木々が枝を広げる。

油断しないって言ったばっかりなのに、もぉー!

マリーは叫びながら腰に下げた二対四本の剣を引き抜いた。両腕で剣を二本操り、魔術でもう二本を操る異形の剣術。だがそれは驚くほどの破綻の無さで、的確に彼らを襲う木の枝を切り落とした。

剣を扱う流派はそれこそ星の数ほどあるが、二本の剣を用いて振るうものとなると数えるほど。ましてや四刀流などどこにも存在しない。人間には腕は二本しか無いのだから当然だ。

だが独自に磨いたにしては、マリーの剣技は余りにも洗練されていた。長きに渡って無駄を削ぎ落とし、有効な動きだけを磨き抜いた技だ。

実戦で見るのは初めてだったが、真っ向からの戦闘に限っていえば十分使い物になりそうだ、とOlは値踏みした。

よし、マリー。このまま突っ切るぞ

え!?でも!

マリーは困惑の表情を浮かべる。

Olが示したのは特に木々が密集する行き止まりの方向だった。

道の左右からの攻撃であればいくらでも凌ぐ自信があったが、三方を囲まれた状態となると少々厳しい。ましてや行き止まりで、背後に回りこまれたら流石に対処しきれない。

案ずるな。全ての剣を前に向け、全力で壁を切り開け

全力って、全力で?

Olが頷いてやると、マリーは目を閉じ、すっと開く。彼女のサファイアブルーの瞳が、右だけ赤く輝いた。

四本の剣が束ねられ、まるで一枚の刃のように連なって振り抜かれる。先ほど僅かな傷を与えることしか出来なかった木の壁は、まるで紙のように容易く切り開かれた。

Olはマリーを木々の攻撃からキューブで守りながら、彼女の開いた穴に飛び込む。転がりながら壁の向こうの空間に滑り込むと、Olの予想通り木々の攻撃は止まった。

よし、よくやった。流石に効果覿面だな

Olはマリーを抱き起こし、しげしげと彼女の開けた穴を眺めた。ぽっかりと空いたそれは、再生すら出来ずに開いたままになっている。

世界で唯一の、彼女の特異性聖女メリザンドと呪術的な双子であるが故に使える、法術を乗せたマリーの一撃によるものだからだ。

法術には、魔術を打ち消す作用がある。魔術による解呪(カウンター)と違って、魔力さえ使っていればどんなものでも問答無用だ。勿論それは迷宮の壁とて例外ではなく、法術を使えば彼女が言った通りそれはただの木の枝でしかない。

襲って来ないですね。行き止まりに侵入するときも攻撃は少なかったし

油断なく剣を構えながら、マリーは不思議そうに声を上げる。

あいつらの根は地面にしっかりと繋がっている。移動はできん。純粋に防衛用の罠のようなものだな。それに、壁になっている木と動き出す木は別物だ。壁に囲まれた部分はかえって安全というわけだ

当たり前のように解説するOlに、マリーは己の至らなさを痛感した。どれだけ油断しないよう意気込んでも、Olの視野はあまりにも広くて付いていくことさえ出来ない。これではただの、足手まといだ。

ではこのあとはお前の出番だ。期待しているぞ

だから、Olに肩を叩かれそう言われて、マリーは心底驚いた。

わ、わたし?

この先に、おそらくこの迷宮の核がある

Olは目の前の、わだかまった茨の壁を指差す。

これほどの魔力を保有する森だ。相当な力を持った主がいるのは想像に難くない。本来ならばじっくりと準備を整えるところだが、お前なら問題無いだろう

純粋な真っ向勝負ならば、マリーは既に相当な域にある。度胸も十分だ。ならば、他を自分が補えばこの規模の主になら十分な戦力だ。Olは、そう判断した。

頑張ります!

マリーは俄然張り切って、茨の壁を切り開く。それが正規の侵入ルートだったのだろう。法術を使わなくとも、壁は容易く破壊できた。

半球状に形作られた茨の部屋の中央に、それはいた。

その姿に、マリーは声を漏らしてぱちぱちと瞬きする。

四方八方から伸びた数本の蔓草が、中央にダンジョンシードを固定している。そしてその中で、小さな生き物が丸くなっていた。

これが主?

その、ようだな

Olも困惑を隠し切れない様子で頷いた。

そこにいたのは、どう見ても。

赤ちゃんじゃない

生まれたばかりの赤子であった。

第1話じゃじゃ馬娘を躾けましょう-7

これも罠ってことですか?

剣を構えるマリーとは裏腹に、Olは大胆に赤子へと近寄っていく。

手の平に収まる程度の大きさだったダンジョンシードは、赤子がすっぽり収まってなお余裕がある程度にまで膨れ上がっていた。

それはつまり、内部に高密度の魔力を閉じ込めている証拠だ。ダンジョンコアを元に設計したダンジョンシードは、内包する魔力に応じてその大きさを肥大化させる能力を持っている。

だが、その内部には液状になった魔力は見られない。つまりこの赤子自体が、高濃度の魔力だということだ。そしてその正体がなんであれ魔力である以上、ダンジョンシードの中からはOlの許可がなければ出てくることは出来ない。

他に敵らしき姿も見えず、Olはダンジョンシードに触れる。その途端、赤子がぱちりと目を開けてOlの姿を見た。

髪と同じ色の、緑色の瞳がじっとOlを見つめる。感情の読めない、野生の動物のような瞳だった。赤子は攻撃してくるでも、話しかけてくるわけでもなく、ただひたすらにOlを見る。

すると徐々にその表情は歪み始め、ひくひくと息を吸ったかと思えば、突然泣き始めた。

何だ?一体こいつは何なんだ?

ただ泣いているだけだ。その泣き声に何らかの魔力が含まれていたり、音波が攻撃になったりするわけでもない。Olが困惑していると、マリーが剣を鞘に収めてダンジョンシードを覗き込んだ。

Olさま、この子、外に出せますか?

恐らくは出せるだろうが

じゃあ、出してあげて下さい

有無を言わさぬ彼女の口調に、Olはダンジョンシードを掌握する。一瞬にして迷宮はOlの管理下に置かれ、彼は魔力を取り出す時の要領で赤子をダンジョンシードの中から引き出した。

途端、赤子は火がついたように更に泣き出した。その両目からは大粒の涙がぽろぽろと溢れだし、大きく口を開け、両手足をジタバタさせて泣きわめく。まるで、己の存在を精一杯世界に認めさせようとしているかのようだった。

大丈夫よ。大丈夫。いい子、いい子

マリーはOlの手から赤子を受け取ると、手慣れた様子で抱きながらゆらゆらとその身体を揺らす。

Olさま、多分この子、ただの赤ちゃんだよ。女の子だね。産着か何か着せてあげないと風邪引いちゃう

むとりあえず、これを使え

産着の手持ちなどあるわけもなく、Olは外套を脱いでマリーに手渡した。マリーは手早く赤子をそれで巻いて抱き直す。

いやに手馴れているな

アリスたちやアークのお世話、結構してたもの

マリーにとって、Olがフィグリア王家の女達に生ませた子やユニスとの間の子は可愛い妹分、弟分である。幼い頃から何かと面倒を見ていたから、赤子の扱いは慣れた物だ。

でも何でこんなところに赤ちゃんがいるんだろ

マリーの問いに答えるすべは、Olでさえも持っていなかった。

はい、持ってきたよー。産着と、おしめと、ベビーベッドと、その他諸々

すまんな

小さなベッドを担ぎ上げ、転移してきたユニスをOlは労った。

転移したら船の中じゃないしマリーはいるし赤ちゃんはいるしで、びっくりしたよー

それをびっくりした、程度で済ませるんだから、ユニスは度量が大きいわよね

けらけらと笑うユニスに、リルは憮然としながらぼやく。

ようやく迷宮から抜け出せたと思えば、Olと共にマリーが赤ん坊を抱いていたのだ。リルの驚愕ぶりは並大抵のものではなく、一から十までOlを問いつめなければ気がすまなかった。

ユニスがスピナを伴ってOlの下に飛んできたのは、ちょうどリルが不承不承ながらも納得した時のことだ。距離も結界も無視して転移する能力を持つ彼女は、一日一回、Olの元とダンジョンを往復して必要な物品などを届けている。

ローブに包まれた赤子を見た途端、ユニスは殆ど事情を聞くまでもなく、ダンジョンに取って返して赤ん坊に必要なものを取り揃えて帰ってきたのだった。

やはり、純粋な人間ではありませんね。かと言って精霊と言うには存在がしっかりしすぎています。人造生命に近い気はしますが

赤ん坊の顔を覗き込んで難しい表情をしているのはスピナだ。

こと人造生命に関する分野においては、彼女はもうOlを凌駕している。

だがそんな彼女でも、赤子がどういう存在なのか断定することは出来ないでいた。

何者かが俺より先に迷宮の中心部に入り込んで、魔力を使ってダンジョンシードの中に人造生命を作っていった、と?

そうなりますね

頷きつつも、スピナの表情はそんなことは有り得ないと言っている。

Olとしても同感だった。

しかし、ダンジョンシードを通じてダンジョンから魔力を集めているのは確かなようです。恐らく、ここを離れては生きてはいけないでしょう

厄介な事になったものだな

Olは頭痛を堪えるように額を押さえる。

と、周りの視線が自分に向いていることに気がついた。

安心しろ。どこの誰の子かは知らんが、邪魔だから殺せなどとは言わん

Olがそう言うと、女たちは一様にほっと笑顔を浮かべた。

自分の子でもないのに情の深い連中だ、とは思うが、その意に沿ってしまう辺り自分もだいぶ感化されている。

じゃあ、名前つけてあげなきゃね

マリーは赤子を抱き上げて、あやしながらその顔を見つめる。

新緑色の瞳はあっちこっちにどんどん興味を移して揺らぎ、見ていて飽きるということが全くない。

ならば、マリーがつけるといい

わたしがつけていいんですか?

きょとんとするマリーに、Olは頷く。

その子を最初に見つけたのは、お師匠様とマリーですから

随分マリーに懐いてるみたいだしね

Olはあんまりネーミングセンス良くないしねえ

煩い。余計なお世話だ

スピナたちも口々にそう答えるのを見て、マリーはもう一度赤ん坊を見つめた。

ねえ、ソフィ

だから、師姉と呼べと言っているでしょう

相も変わらず魔術師になる前の名で呼ぶマリーに、スピナはいつも通りに呆れ声をあげる。

じゃあ、姉さん

しかしまっすぐ視線を向けてそう呼ぶマリーに、スピナは瞠目した。

そんな風に呼ばれたのは、初めてだった。

その名前を、この子にあげてもいい?

私の名は、スピナ。Ol様の一番弟子、ネリス・ビア・スピナです。捨てた名をどうしようと、構いません

スピナが素気無く答えると、マリーはぱあっと笑顔の花を咲かせる。

あなたの名前は、ソフィアよ

マリーは赤子をソフィアを空に掲げるように抱き上げて。

わたしの知ってる中で一番強くて、気高くて、綺麗な人の名前なんだからね

かつて呪いに満ちた名を、祝福をもって贈った。

閑話愛妻たちの歓待を受けましょう-前

寝かしつけたよー

お疲れ様ー。あの子、寝付き良いんだね

急ごしらえの寝室にひっそりとやってきたマリーを、ユニスが労う。

あれ、Olさま待っててくれたんですか?

流石にお前の子守唄を聞きながらそういう気分にはなれん

服を着たままベッドの上にいる四人に首をかしげるマリーに、Olは渋面を作った。

防音対策できないんですか?

出来ないわけではないが、コストがかかりすぎる。それに何かあった場合、全く声が聞こえないでは問題があろう

寝付いたソフィアはスピナとリルの分身が見てくれてはいるが、何せ素性も何もわからない赤ん坊だ。Olにとっては当然の備えというつもりだが、それを赤子への心配と受け取ったマリーは破顔して彼に擦り寄るようにベッドの上に乗った。

じゃあ、あの子が起きちゃうから、声あんまり出さないようにしないとですね

シンプルな作りのベッドがぎしりと軋む。別にマリーまで相手にする必要はないのだがという言葉を、思わず飲み込んでしまうような色香があった。

そうだな。ともかくも新大陸に辿り着き、拠点を作り上げた記念だ。今日は四人纏めて相手をしてやる

夫の言葉に、妻たちは密やかに嬌声をあげた。

本来なら、相手をする必要があるのはOlに魔力を渡すスピナだけだ。

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