まいっか。どうせOlくんの事叩いたりしたくないし約束するよお!
オ、Olくん!?
あれ?ボク、なんでOlくんの名前知ってるんだろ
催眠状態の時の記憶は無意識下に押し込められ、思い出すことは出来ない。しかし名前のような表層的な知識はまろびでる事がある。Olが驚いたのはラディコがOlの名前を覚えているということではなく、あまりにもフランクなその呼び方であった。
気にするな。では、解放するぞ
ん?うん、お願い
パチリとOlが指を鳴らすと、ラディコの両手足を拘束していた壁が溶けるように消えてなくなる。
次の瞬間、ラディコは弾かれたようにOlに向かって突撃していた。
Olくぅん♡これでやっとぎゅうってできるよお♡
待て!止まれ!俺を潰す気か!?
Olを囲む見えざる迷宮(ラビュリントス)が具現化するのも構わず、ラディコはぎゅうぎゅうとOlを抱きしめようとする。サルナークの剣にも傷一つ付かなかった見えざる迷宮がミシミシと悲鳴を上げ、Olは慌てて叫んだ。
あっ、ご、ごめんね。ボク、ちょっとだけ力強いんだった
ラディコはそんな弁解をしながら慌てて離れた。ラディコ自身に、危害を加えるという意識がないのだ。故にその致死の抱擁は、先程交わした約束には反していなかった。よもやこれを狙って遣わしたわけではないだろうな、とOlは勘ぐる。
さて、ラディコよ。お前に聞きたいことがある。答えてくれると嬉しい
うん、何でも聞いて!
そのやけに好意的な反応に、Olは戸惑った。確かに気持ちよくすればするほど好きになると暗示をかけたが、そもそもの前提として敵同士なのだ。それはもっと無意識下で働く作用であるはずだった。
何か理由があるのか──あるいは、それほどまでにラディコが単純な性格をしているのか。可能性としては半々といったところか、とOlは内心独りごちる。
ラディコ。お前は何のためにここへとやってきたのだ?
核心を突くOlの言葉に、ラディコは表情を真剣に引き締める。
あのね
そして、決意を持った眼差しで答えた。
ボクの事Olくんなら、ラディ、って呼んでもいいよ
何を決意しているのだお前は。
喉元まで出かけた怒声を、Olはかろうじて飲み込む。
わかった。ラディ、教えてくれるか?
うん。ボクが受けた命令はそっちの子を殺せ、っていうのだよ
改めて問い直せば、ラディコはあっさりとフローロを指差して答えた。
なぜだ?
わかんない。フルクト様に言われただけだからあっ
ぽろりと名を漏らし、ラディコは慌てて己の口を押さえる。
フルクト!?
その名を聞いて、フローロは驚愕に目を見開いていた。
知っているのか
フルクトはかつて私の世話をしてくれていた侍女です。まさか、彼女がどうして?
フローロの動揺ぶりを見るに、相当信頼していた相手であるらしい。
きっと何かの間違いだと
首を振りながら言いかけて、フローロはOlの顔を見上げた。フローロには、フルクトがそのような指令をしたなどとはとても思えなかった。だが──
人は、必ず裏切る。
そう言っていた彼は、フローロがそう訴えたとしてもそれを信じることはないだろう。そう思ったのだ。
まあ、その可能性はあるな
しかし案に相違して、Olはあっさりとそう言ってのけた。
え?私の言うことを、信じてくれるんですか?
信じるも信じぬもあるか
目を瞬かせるフローロに、Olは呆れた様子で言った。
そもそも情報が少なすぎる。こんな状況で判断できるものか。偽情報の可能性も十分ある
オ、Olくん、ボク、嘘言ってないよ!
Olの腕に縋りかけ、それをぐっと我慢しながら、ラディコ。
それはわかっている。だが、お前自身が騙されている場合もあるだろう
しかしOlの言葉に彼女はあっさりと納得した。つまりは、彼女自身もフルクトの事をさほど信用していないということだ。
そもそもこの状況でフローロを殺す理由がわからん。殺したいならば今まで幾らでもその機会はあったはずだろう
それは確かにその通りだ、とフローロも納得する。Olと出会う前、フローロがただの奴隷であった頃なら何の苦もなく殺すことが出来たはずだ。
そう、ですよね!フルクトが私のことを殺そうとするはずなんて
まあ否定する材料もないがな。単に目障りになったから殺そうと思い立ったのかもしれん
ぱっと表情を輝かせるフローロに、Olはにべもなく言った。
もー!どっちなんですか!?
知るか。わからぬからこそ、どちらにも否。あらゆる可能性に備えるのだ
もしかしてからかわれているんだろうか、とフローロは思ったが、Olの表情は真剣そのものだ。
あらゆる、可能性
言っただろう。──人は、必ず裏切る
今まで幾度となく言ってきたその言葉を、Olはもう一度口にした。
その中でもっとも警戒しなければならぬのは、自分自身だ。こうあって欲しい。こうあるべきだ。そんな思いは瞳をすぐに曇らせる
その本当の意味に、フローロは瞠目する。
フルクトが自分を裏切ったなどとはとても信じられない。
そう思う反面で、もし本当に裏切っていたら。そう考えてしまう自分もいる。
あらゆる事に備えよ。その上で、あらゆる事を疑い続けろ
だがOlは、そのどちらも許すと言っているのだ。そのどちらも必要なことで、しかもそれだけでは足りない。
それこそが無事に生き抜く為にもっとも有効な選択だ
はい、Ol!
師の薫陶に、弟子は元気よく頷く。その瞳には、もはや迷いは残っていない。
いや。最大限迷おうという覚悟が残っていた。どれほど複雑な迷路であろうと、その全ての道を辿ることを、迷うとは呼ばないのだ。
Olくん、かっこいいっ♡
ええい、だから抱きつくなっ!
決意を胸に秘めるフローロをよそに、感極まったラディコの抱擁を、Olは死ぬ気でかわすのだった。
第5話騙し合いに勝利しましょう-1
大事ないか、サルナーク
ああおかげさんでな
頭に包帯を巻き、寝転がりながらサルナークは唸るように答える。
ラディコに催眠術を掛ける前、殴り倒された彼に応急処置をしてはいたが、なにせ打撃痕というのは質が悪い。魔力が乏しい現状では全快させる事も出来ず、残りは自然回復に任せていた。
しかしお前には物理的な攻撃は効かないのではなかったのか?
ああ、それなんだがあいつは多分銀の腕かそれ以上だ
苦々しい口調で、サルナークは答える。そういえばラディコもそんな事を言っていたとOlは思い出した。
銀の腕?
鉄の腕の上位互換二段階上のスキルだ。オレの鋼の盾は銀以上の名を持つスキルを無効化することは出来ない
サルナークの答えに、Olは呆気にとられた。鉄の上が鋼なのはまだわかるがなぜその上が銀になるんだだとか、それでよく生きていたものだだとか、色々と尋ねたい事が脳をよぎったが、
お前、その程度のスキルで調子に乗ってたのか
うるせえよ畜生!そもそも盾系のスキルを無効化出来るスキルなんてほとんどねえんだよ!しかも銀ランクとなると上層にだってそうそういるもんか!
真っ先に浮かんだ疑問を呈すると、サルナークは顔を真赤にして怒鳴った。
ああ、わかってる、油断してたのは事実だ。鉄の腕なら効かねえって慢心してた。まさか、銀の腕なんてスキルを持ってるとはな
お前の盾を、その銀ランクとやらにすることは出来ぬのか?
Olの問いに、サルナークは力なく首を横にふる。
無理だ。スキルのランクやレベルってのは結晶化した時点で決まっていて、変えることは出来ねえ。ランクが違うスキルは全く別のスキルだ。だから鉄の腕の異名で知られてる奴がそれ以上のスキルを持っているなんざ、思いもしなかった
銀の腕のスキルを得ても、鉄の腕のスキルと効果が足し合わされるわけではないんです。つまり銀の腕を手に入れれば鉄の腕は丸々無駄になります。ですから、普通は同じ系統のスキルを同じ人物が持つことはありません
サルナークの言葉をフローロが補足する。
そもそも単純に虚偽である可能性は考えなかったのか?
Olの指摘に、サルナークとフローロは揃って表情を強張らせた。
ナギア。あいつか!
でも、ナギアが嘘をついたのならOlにはそれはわかるのでは?
ギリリと歯噛みするサルナークとは対照的に、フローロは冷静にそう尋ねる。
ああ。だがナギアもそれをわかっておる。潜り抜ける方法を見つけたのかも知れんし、そもそも奴自身が騙されている可能性もある。いずれにせよもともと一つ、疑問に思っていた事がある
Olはサルナークとフローロの顔を見回すように視線を巡らせると、一段低い声で言った。
敵が俺達の動向を、どうやって把握しているかだ
サルナークとフローロは、ともに表情を引き締める。
もしフローロの支配者の瞳のようなスキルを用いて我々の様子を盗み見ていると言うなら、それは魔術でわかる。そして、そのようなスキルが使われている様子はない
実際にフローロが支配者の瞳を使い奴隷達の感覚を共有したところ、Olは感覚を共有されている奴隷達を検知することが出来た。
無論のこと、奴隷達だけでなく、壁や床、天井、なにもない空間に対しても同様の検査を施している。
では、どうやって?
スキルなど使う必要もない、世界を問わぬシンプルな方法がある
いつの間にそんな事を、と思いつつも首を傾げるフローロ。
内通者がいる
そんな彼女に、Olは重々しく告げた。
監視の目は、フローロが俺と会う前からついていたものだろう。コートーは俺の存在をそもそも知らぬ。サルナークがフローロの事を知ったのはつい先日のことだ。それ以外に、お前の事を知っていたものはいるか?
ナギア
フローロはぽつりと呟いた。商人である彼女とはOlと出会う前から、モンスターを狩って手に入れた素材やスキルを度々やり取りしていた。
サルナークの奴隷達は解放されたあと、その殆どが支配者の瞳の影響下に置くためにフローロに仕えることになった。しかし僅かではあるが、解放されて奴隷であることをやめたものもいる。
ナギアもその一人であった。本人は既に自分はOlの物であるからと言っていた。フローロもそれに疑問を抱くことはなかったが、それが己の行動を把握されないための言い訳だとしたら。
そこにいるのは誰だ!
不意に、サルナークがOlの背後に向かって叫ぶ。フローロがすぐに部屋の外を確認したが、そこには誰もいなかった。
辺りを見回すフローロをよそに、ひょいとOlが何かを地面から拾い上げる。
Ol、それは?
それは、紫色に輝く小さな鱗であった。
そう。ラディコまでが敗北しましたか
はい。あのOlという人間予想以上に危険な男であるようです
部屋の中には、二人の女。片方は白銀の髪を長く伸ばし、後頭部に向かって角を生やした従者の姿の魔族。もう片方は短く金の髪を刈り、壁族然とした男装に身を包んだ人間。
しかし奇妙なことに、跪き報告しているのは壁族の人間であり、それを立って聞いているのは従者の姿の魔族であった。
銀の腕は渡したのですよね?
は。私がしかと。──かくなる上は、私が出るほかないかと
お待ちなさい、ユウェロイ。あなたはそう軽々と動いていい立場ではないでしょう
しかしブラン様!
ユウェロイの口を、ブランは優しく塞いだ。
私が参ります
で、ですが
真っ赤に染まったユウェロイの口調には、先程までの硬質さは失われている。
あなたをこそ、万が一にも失うわけにはいかないのです。それに
つい、とユウェロイの顎を撫で、ブランは目を細める。
私に万が一があると思いますか?
首を振るユウェロイに、ブランはくすりと笑った。
いい子ね
ユウェロイの頭をふわりと撫でて、ブランはスカートを翻し部屋の奥へと向かう。
閨にいらっしゃい。今日は可愛がってあげましょう
そして背中越しに、そう声を投げかけた。
ブ、ブラン様!そのようなことは
あら。お嫌かしら?
慌てるユウェロイに、ブラン。
嫌ではありません
赤い顔を更に赤く染め、ブランはユウェロイの後を追う。
ああ、そういえば
ユウェロイをベッドに引き入れながら、思い出したようにブランは口にした。
あの尾族ナギアと言いましたか。彼女はどうしました?
間者であるのがバレたようです。用済みになりましたので
ユウェロイは口調を事務的なものに戻し、答える。
処分しました
第5話騙し合いに勝利しましょう-2
自ら討って出る。そう宣言するブランに、招き手のフォリオは間の抜けた声を上げて、コリコリとこめかみの辺りをかいた。
まあ、ユウェロイサマがそう仰るんなら、アタシとしちゃ否はありませんけども
フォリオはユウェロイの奴隷であり、ラディコの主人である。癖の強いふわふわとした緑色の髪に、ふわふわとした羽根を持つ翼族の女だ。
どうやって勝つおつもりで?
フォリオはブランとはほとんど直接の面識がなかった。知っているのは、魔族にも関わらず己の主人に命令できる立場にいるという事と、めっぽう強いらしいという事──
どうやって、とは?
あと、考えなしという事か。と、首を傾げるブランに、フォリオは心の中の人物評に追記した。
いえね、ブランサマが大変お強いのはアタシも知ってるんですけど、うちのラディコもアレはアレで結構腕の立つコなんですよ。それが簡単にやられちまったんで、ちょっと次は入念にかからないといけないんじゃないかなと思いまして
Ol。正体不明のあの男の欠点は、直接的な戦闘能力の乏しさであるとフォリオは評していた。真っ向勝負であればサルナークにすら勝てないのなら、下手に策を弄するよりもラディコをぶつけた方が手っ取り早い。そう判断し、フォリオは己の奴隷に命じた。単純な強さと速さは、あらゆる策を破壊しうる。
だがそれは、拙速に過ぎた。Olは思ってもみない方法でラディコを無力化し、その上奇妙なスキルで籠絡して情報を引き出したという。フォリオに関する情報も全て知られていると考えるべきだった。
ふむなるほど。少々考えすぎという気もしますが、貴女はユウェロイがもっとも信頼する比類なき知恵者であると聞いております。貴女がそう仰るのであれば、一考の価値はあるのでしょうね
ち、知恵者!?イヤイヤイヤイヤ、何いってんですか、アタシは単なる中間管理職ですよ!
上司が聞く耳を持っていてくれていたことにフォリオはひとまず安堵するが、その分のしかかってきた責任にブンブンと激しく手を振った。というかユウェロイがもっとも信頼するとは、一体何の冗談なのか。
と、ともかく!あのOlという男は、何ていうかこう、色々ヤバいです。今わかってるだけでも、母なる壁を動かすスキル、鑑定を防ぐスキル、人の心を操るスキル、見えない壁を張って攻撃を防ぐスキル、モンスターを自在に使役するスキルなどを持ってます
指折り数えながらフォリオは思う。
これ、無理なんじゃない?素直に逃げた方がいいんじゃない?と。
見えない壁を張るですか?そんな報告は受けていませんが
ああ、はい。んーと報告にあったのは壁を生み出して防御するスキルですよね。でもそう考えるとなんというかいまいち実際に起こってる現象と合わなくて
しかしそうするわけにもいかない。いつもの通りだ。フォリオは深々とため息を吐きながら、頭を巡らせた。
ユウェロイサマ、壁が張られるより早く攻撃すればいいって思ってませんでした?
いえ
軽く首を傾げ、ユウェロイは簡潔に答える。
壁ごと破壊してしまえばいいと思っていました
のっ
の?
脳筋。喉元まででかかった言葉を、フォリオはかろうじて飲み込んだ。
あの、壁は、母なる壁と同じとは言わないまでも、かなり近い性質を持ってそうなんですよね。しかもそれが、常時展開されている。多分インパクトの瞬間に壁が浮き出るのはそれを隠すためのブラフでしょう
つまりは見た目を誤魔化すようなスキルも持っている、と。フォリオは心のノートに追記して、更に逃げたくなった。
あら。ということは、壊しやすいという事ですね
なるほど。そういう考え方もありますね
脳筋ではあるが、馬鹿ではない。ようやく明るい要素を一つ見つけて、フォリオはほっと息を吐いた。
とにかく出来る限りの対策を考えてみます。ところで、ブランサマ
パサリと背中の羽根を広げ、フォリオは問う。
あのお噂ってホントなんですかね
と申されますと?
本来であれば他人の持つスキルを詮索することは極めて失礼な事だ。だがそれは、どうしても聞いておく必要がある質問だった。
ブランサマが、スキルを成長させるスキルをお持ちという噂です
──たとえ、この場で処分される可能性があるとしても。
それでね、フォリオ様はね、すっごく頭が良くてね
その下りはもう十回は聞いた
とめどなく流れ行く益体もないラディコの話を、Olはひたすらに聞いていた。フォリオが講じたあらゆる妨害を取り除き、ラディコの口を割って出てきたのは、極めて主観的かつ曖昧で、それでいて膨大な量の情報であった。
この数時間でOlはフォリオの好きな食べ物から好む服装、口癖に細かな癖まで正確に把握できるようになっていたが、彼女が持つスキルや能力に関してはさっぱりであった。
唯一出てくるのが、フォリオ様はすごく頭がいいである。ラディコにとっては主人というより保護者に近い存在であるらしい。それ故、フォリオがどれほどの能力を持っているのか、具体的なところが全く見えてこない。
それでね、ボクがハンマーを失くしちゃって困ってるときは、フォリオ様に聞いたらすぐに見つけてくれるの!
ラディコが語るのはたとえばこういった情報である。なんであんな巨大なものを失くすことが出来るんだ、とOlは思う。もしここまでを見越してラディコをよこしたのであれば、確かにフォリオは有能なのだろう。
全く何の役にも立たない情報をわざわざ秘匿することで、Olに数時間とはいえ無駄な時間を使わせたのだから。
ブランとユウェロイの情報に至っては、名前以上のものはほとんど出てこなかった。せいぜいがすごく綺麗な人かっこいい人くらいのものだろうか。無いよりはマシとすら言えない程度の情報量だ。
できればブランを直接強襲したいところだったが、仕方あるまい。ナギアの監視が解かれたこの機を逃すわけにはいかぬ。まずはフォリオを攻めるぞ
それなんですけど、Ol
これ以上ラディコからは情報を引き出せないと諦め、方針を打ち出すOl。そこに、フローロが口を挟んだ。
本当にナギアが、私達の情報を流したんでしょうか?
それ以外にあるか?
サルナークが苛立たしげに吐き捨てる。実際ナギアは姿をくらまし、フローロの張った監視網を抜けて下層に逃げていく姿も見られている。情報を流していたのでなければ逃げる必要など無いはずだ。
相手の対応から消去法で考えても、ナギア以外にいそうもないというのも理解している。しかし理解してなお、フローロの心には何か違和感が残っていた。
フローロ。俺は教えたはずだぞ
こうあって欲しいだとかこうあるべきだという思いは、瞳を曇らせる。Olの言葉を思い出し、フローロは頷く。
だがそれでもいや。むしろその言葉を思い出せば思い出すほど、フローロの胸には形容しがたい感情が広がっていった。なにか、重大なことを見落としているような気がしてならない。
ラディコ。俺はフォリオに挨拶したい。お前と引き合わせてくれた礼をせねばな。案内してくれるか?
うん!いいよお
だがそれが何であるのか考えている暇はなかった。ただでさえ手にしている情報量に差がある以上、こちらから攻め込まなければどんどん不利になっていくばかりだというOlの言う理屈もわかる。
フローロは胸のうちに不安を抱えながらも、頭上を見上げた。
その分厚い天井のその向こう。
壁界下層。奴隷ではない者たちが住む場所を。
第5話騙し合いに勝利しましょう-3
最下層とフローロたちが呼ぶ空間に、階段はない。平べったく横に広がる文字通りの最下層であり、最下階。それが彼らの住む世界の全てだった。
裏を返せば、上へと続く階段はもはや最下層ではない。
止まれ
最下層の人間が足を踏み入れる事は許されない、下層の領域であった。
これより先はお前達の足を踏み入れていい場所では
あれ?ボクも駄目?
槍を構え居丈高に命じる衛兵に対し、Olの背中からひょこりと顔を出して、ラディコ。
ラ、ラディコ様!そのこいつらは
うん。フォリオ様に頼まれて、連れて行くんだよお
失礼いたしましたっ!
ニコニコしながらラディコが答えると、衛兵たちはすぐさま槍を引いて道を開けた。
下層の人間の間にも階級があるのか
そりゃそうだ
直立不動でOlたちを見送る衛兵をみやりながら、サルナーク。
あいつらは下層の中でも下の下。中層の有力壁族に連なるラディコとは本来直接会話するのも咎められるような連中だ
職務上の誰何であること、それ以上にラディコ自身がそういった事を気にしない性格である為に見過ごされているが、相手によっては先程のやり取りも無礼として首を打たれても文句は言えない。その程度の立場の人間だ。
そして、そんな者たちですら、最下層の支配者であるサルナークよりも上である。最下層に住むものはそのことごとくが奴隷であり、この壁界に住む者たちの中の最底辺であるのだ。
まさかこんな方法で最下層を出ることになるとはな
忌々しげに呟きながら、サルナークは階段を踏みしめる。
こっちだよお、Olくん!
その内心に渦巻く思いに全く気づくことなく、ラディコは軽やかに下層の廊下を駆けていく。
どうしましたか、Ol?
その後を追いながらぽつりと呟くOlに、フローロは首を傾げた。
床石の年齢が、まるで違う
床石の年齢?
そして返ってきた全く意味のわからない言葉に、彼女はOlの視線を追って床を見つめた。
同じに見えますが
いや、違う。百年か二百年か。その程度はこの床の方が古い
そう言われてもフローロには最下層で見飽きるほどに見てきた床と何が違うのか全くわからない。だがOlは確信を持っているようであった。
つまりは、最下層の方が後に作られたということだ
そもそも床や天井は母なる壁と同じ素材でできている。つまりはけして朽ちず壊れず傷つかない。経年による劣化もないはずであって、Olの言う通り百年の差があったとしても見た目に違いが出る道理はないはずだ。
そうなんですね
だがフローロは特に興味がなかったため、Olの言うことを否定も肯定もせずに相槌を打った。
この世のあらゆるものは固有の魔力波動を持っており、極微量ではあるが周囲にそれを放っている。しかしこれは魔力の流れから切り離されると徐々に減じていく。生命であれば死んだとき、岩であれば大地から切り出されたときだ。と言っても魔力そのものを消費しているわけではないので波動の減少はごくごく僅かなもの。およそ五千と五百年で半減するという極めて微かなものだ。だが最下層の床石はどこもほぼ一定の魔力波動であったにも関わらずこの階層の波動は明らかに目減りしている。それだけならもともとの石の性質が異なるだけかも知れないが──
なるほどですねー
こういう時のOlの言葉は極力聞き流すべきであるということを、フローロは段々と理解してきていた。
あれえ?
不意に、前を歩くラディコの足が止まった。一体どうしたのかと見やれば、通路は積み重なったベッドだの机だのの残骸で塞がれてしまっていた。
誰がこんなふうにしたんだろお。どけるねえ
待て、ラディ
自慢の鉄腕をぶんぶんと回すラディコを、Olは慌てて止める。
お前の力で吹き飛ばしては大きな音が鳴って迷惑だろう。かといって一つ一つどかしていたのでは時間がかかる。別の道はないのか?
うん、じゃあ、こっち
素直に腕を引っ込めるラディコに、フローロはほっと胸を撫で下ろした。折角ここまで敵に察知されずに侵入できているのだ。これほどの瓦礫を一気に破壊したら台無しになってしまうところだった。
あれ?でもOlなら壁の方を動かして通れたのでは?
いちいちそんな事に貴重な魔力を使っていられるか。言っただろう、あれは見た目よりだいぶ高度な操作を必要とするのだ
Olの答えに、フローロはそういうものかと納得する。とはいえ正直彼の言う魔力の量というのは、フローロにとっていまいちピンとこない概念ではあった。
それがなければ魔術を使えないというのだが、魔術を覚えたてのフローロは魔力がなくなるという感覚がない。それどころか、自分にどの程度の魔力があるのか、どれだけ使えばなくなるのかすらわからないのだ。
あっ!
再び、突然前を行くラディコが足を止める。しかし先ほどとは打って変わって、明るい声色であった。
フォリオ様!
その行く先に、緑の髪の翼族の姿があったからだ。
きゅっ。どうしたのお、Olくん?
反射的に駆け寄ろうとするラディコの首根っこを、Olが押さえる。
悪いんだけどさ
パサリと翼を軽く開き、フォリオが言う。
その子、返してもらえないかな
奇妙なことだ、とOlは思った。このダンジョンの天井はそこまで高くない。せいぜいが十フィート(約三メートル)程だ。あのように翼を持った種族が活動するにはいささか狭すぎる。空を飛んでも手が届いてしまう高さでは、空を飛ぶ優位性が殆どない。
それはできんと言ったら?
Olはラディコをぎゅっと後ろから抱きしめるようにして、問う。
まあそん時は、仕方ないよね
フォリオの手のひらに炎が浮かび上がった。
アタシとしちゃ、上から言われた仕事をこなすだけだよ
それは瞬く間に巨大な火炎となって、Olに向かって投げ放たれる。Olが抱えたラディコもろとも、燃やし尽くすつもりだ。
チッ!
Olは空いた右腕でダンジョンキューブを取り出すと、見えざる迷宮(ラビュリントス)を操作し盾のように壁を作り上げる。壁に接触した炎は轟音を立てて爆発し、辺りに火花を撒き散らした。
正確に理解してきている。
Olはダンジョンキューブならば炎や毒も防げるとサルナークに豪語したが、それは半分、本当ではない。確かに防ぐことはできるものの、高温の炎というのはダンジョンキューブの弱点の一つであった。
火炎そのものは防げても、それが放つ熱までは防げないからだ。どんなに堅牢な壁で周囲を囲んだところで、膨大な熱の前ではそれはOlを焼き上げるカマドでしかない。
ラディコに使った蠍蜂も、これほど広く高熱を放つ炎の前では無意味だ。放った途端、全て焼き殺されるだろう。
随分と遠い位置で防いだね
次の炎を手のひらに浮かべつつ、フォリオは笑う。
やっぱりその壁、手動操作もできるんだ
フォリオ様!やめてよお!
ラディコが短い両腕を精一杯に広げ、Olをかばう。その姿を、フォリオは無関心な冷たい目で見やった。
すっかり誑し込まれちゃってまあ。悪いけどね、そんな部下はアタシにはいらないんだ
そして両手に作り上げた炎を、矢継ぎ早に投げ放つ。
ぬ、うっ!
その熱量は最大限遠く離した壁を隔ててさえ伝わってきて、それが更に加速していく。
ラディコ
Olはわずかに身を屈め、ラディコの側頭部についた犬のような耳にぽそりと呟く。
思わず彼女はOlを振り返り、見上げる。
その背中を、Olは思い切り蹴り飛ばした。
それと同時に見えざる迷宮(ラビュリントス)で作り上げた壁を開き、ラディコが通り抜けたところで再び閉じる。必然、ラディコは無防備な姿で無数の炎に晒された。
そして次の瞬間。
言った通りだったろう?
ラディコに当たる寸前で、全ての炎はかき消えていた。
Olくんがフォリオ様を信じろって言った通り、ちゃんと消してくれたね、フォリオ様!
すなわち、ラディコを巻き込んで攻撃しようとしていたのは全てブラフ。人質が効かないとOlに主張するための攻撃だ。
にゃろう
フォリオはぎりりと奥歯を噛み締める。実際には、炎を消すのはいくらか間に合わなかった。より正確に言うのであれば、炎はラディコに当たる前、フォリオが消すよりも更に前に、見えない壁にあたって破裂したものがあった。
見えざる迷宮(ラビュリントス)で作った盾の更にその先に、ラディコを包む小部屋のような見えない壁があったのだ。つまりはOlにも、ラディコを犠牲にするつもりなど更々なかったということだ。
やってくれるじゃないか
ここでラディコを盾にし、見殺しにするような相手であれば、ずっとやりやすかった。フォリオは再び心の中でOlの人物評を書き換える。
思ったよりも数段厄介な相手だ、と。
第5話騙し合いに勝利しましょう-4
この戦いの鍵となるのはラディコだ。
それはフォリオとOlの共通認識だろう、とフォリオは考えた。
Olがラディコの心に干渉したスキルの詳細は不明だが、少なくとも完全にラディコが敵に回るような性質のものではないようだ。現在もラディコはフォリオに対する忠誠心をしっかりと持ち続けている。
故にOlが積極的にフォリオを攻撃しようとすれば邪魔するだろうし、ラディコを盾にするような真似を行えばフォリオ側につく可能性もある。
ラディコの銀の腕は厄介なスキルだ。あらゆる防御を貫いて一撃で決める可能性すらある。傍らに従えているからこそ、それは致命の爆弾になりうる。
ラディコ。下がっていろ
だからこそ、Olはラディコを戦線から遠ざける。それはフォリオの読み通りの行動であった。
安心しろ。お前の主人を殺すつもりはない
まるで父親のような笑みを浮かべ、ラディコの頭を撫でるOl。
無力化し、少し説得すればお前と同じ様に仲良くなれる
満面の笑みを浮かべて後ろに下がるラディコ。一体何をされることやら、とフォリオは内心苦笑いを浮かべた。
Olがラディコに使ったスキルの詳細は知らされていない。少なくとも戦闘中に使えるようなものではないとのことだが、それ以上は教えてもらえなかったのだ。
Ol、壁を開けろ!
そう叫びながら、サルナークが飛び出してきた。彼の鋼の盾であれば、フォリオの大炎も防げると判断してのことだろう。それは正しい。
サルナークが抜けるなら、壁に穴が開く。フォリオはその隙を狙って炎を放ったが、当たり前のようにサルナークの背後に展開されていたもう一枚の壁に阻まれた。思った以上に複雑な形に展開できるようだ。見えない壁を出せるというだけでも厄介だと言うのに、なんて卑怯なスキルなんだとフォリオは歯噛みする。
それに比べて──と、フォリオはサルナークに視線を移し、彼に炎を数発放った。
しゃらくせえっ!
鋼の盾は強力なスキルだ。下位互換の鉄の盾に比べて炎の熱さえも防ぐ。
道具袋
ぬおっ!?
だが全く厄介ではない。サルナークはフォリオが展開したスキルによって、突如発生した穴の中に落ちた。
壁や床に穴をあけるスキルは存在しない。少なくともOlが持っているというそのスキルの他には、フォリオは聞いたことも見たこともなかった。
けれど、空間に穴をあけるスキルならありふれている。道具袋もその一つだ。人が一人すっぽり入ってしまう程度の空間を任意の場所に作り出す。本来であれば荷物を運ぶためのスキルだが、中身はバリケードに使って今はサルナークに入ってもらった。
生き物を入れると閉じられないという欠点はあるものの、鋼の盾を一時的に無力化するには十分だ。
盾に属するスキルは強い。だがしかしだからこそ、それへの対処も様々に研究されている。傷つけられずとも封殺する方法は幾らでもあった。そんなものを無敵と過信し上層を目指していたというのだから、可愛らしいものだ。
と考えていたところで、フォリオの視界は激しく揺れた。
棍によって殴り飛ばされ地面を転がるフォリオの姿を見て、Olは小さく呟いた。
ぐ、うなん、で
上手く脳震盪を起こすことに成功したのだろう。フォリオは立つのも覚束ない様子でフローロを見上げる。彼女を殴り飛ばしたのは、フローロだ。長身のサルナークの姿と、彼にはなった炎がいい目隠しになってくれた。
フォリオの放つ炎は凄まじい温度を持っていた。壁で防いでも十発も喰らえば蒸し焼きになってしまうし、直接喰らえば二、三発で人体など炭と化す。その余波だけでも重篤な火傷は免れないだろう。
つまり、たかがその程度の温度だ。
火山の女神サクヤが操るマグマや、太陽の神の力を借りたラーメスの神火とは比べ物にならないほど弱い。並より少し上の魔術師が用いる程度の温度に過ぎない。故に、Olの使う通常の耐火魔術で十分に凌ぐことが出来た。
追撃を加えようとフローロが棍を振り上げた瞬間、フォリオは水の塊を放った。ダメージで朦朧としているせいか、とても殺傷能力はありそうにない速度の気の抜けた水の塊。それは避けるまでもなく、あらぬ方向に飛んでいった。
違う、フローロ!後ろだ!
Olの警告にハッと気づき、フローロは後ろを振り返る。
サルナーク!
水の塊はサルナークが落ちた道具袋の中を埋めていた。ごぼり、と泡が水面に立ち上る。
鋼の盾は本人にかかる力の殆どを無効化する。水の浮力さえもだ。つまり穴の中で水で埋められると、浮き上がることが出来ずにそのまま窒息死する他ない。
捕まって下さい!
よせ、フローロ!
Olの制止を無視して、フローロは棍を道具袋の中に差し入れる。だが、それに捕まったサルナークを引き上げようとして、愕然とした。
──鋼の盾は本人にかかる力の殆どを無効化する。だから、引き上げることさえ出来ないのだ。サルナークが自分の力だけでよじ登らなければならない。水中で浮力の助けも得られず、しかし濡れた服の重みだけはしっかりとかかる。
爪をかける場所さえないツルツルとした棍を、フローロの支えだけでよじ登るのは困難な事であった。そしてそんな隙を、フォリオが見逃すはずもない。
避けろ、フローロっ!
フォリオの放った炎がフローロに直撃し、炸裂する。熱そのものは魔術で防ぐことが出来ても、爆発の衝撃までは無理だった。
さて
痛む頬を押さえつつ、フォリオはゆっくりと立ち上がる。
次はどう来る?
Olが言うやいなや、フォリオの足元の床が、彼女を囲むように迫り上がった。戦闘が始まってからOlが殆ど動かなかったのは、この部屋を掌握する時間をかせぐためだ。
フォリオが待ち受けていた部屋が広かったために少々時間がかかったが、既にこの部屋の床も壁も天井も、全てOlのものだった。
そう来ると
フォリオの両手に、小さな炎が宿る。
思ってたよ
そしてその背中の翼を大きく広げると、次の瞬間、彼女は天井近くまで移動していた。
むっ!
この狭いダンジョンの中で翼など何の役に立つのか。そのOlの疑問は、見事に解消された。フォリオはその両手から小さく爆炎を放つ。その爆風をいっぱいに受け、加速するための翼だ。
迫りくる壁を蹴り、天井をかすめ、床ギリギリまで降下して、そこから急上昇。羽ばたく鳥のように滑らかな飛行ではない。稲妻のように空間を縦横無尽に切り裂く、鋭い加速であった。
Olの迷宮魔術はダンジョンの壁を操る性質上、どうしたって空中に留まるものを捉えるのは難しい。それが凄まじい早さで動くのならばなおさらだ。
Olは手を床から離すと、真っ直ぐに走り始めた。その先にあるのは、サルナークが入っている道具袋だ。Olは道具袋の中の壁も操ることが出来るのだろうか
フォリオは一瞬そう考えかけて、すぐに思い直した。どちらにせよOlには自在に操れる見えない壁があるのだ。あれを階段にする事くらいはわけのない事だろう。サルナークを解放されては厄介なことになる。
もともとそれを狙っていたのだろう。Olが進む道とフォリオがいる場所は、床から突き出した壁に隔てられていた。だがそれは地上から二メートルほどの高さの話だ。
フォリオは高く舞い上がると、壁を超えてOlの前に立ちはだかった。
危ない危ない。そうはいかないよ!
フォリオの両手に巨大な炎が生まれ、Olに向かって放たれる。見えざる迷宮(ラビュリントス)の壁がそれを阻むが、漏れ伝わる熱気にOlは足を止めた。
フォリオは構わず炎を畳み掛ける。炎を完全に防ぐスキルがあるのなら、見えない壁で防御する必要などない。であれば、炎は依然として有効なのだ。
お前のその炎
鳴り響く爆発音の中、Olの声がいやにはっきりと響く。あるいはこれもなにかのスキルなのか。そんな訳のわからないスキルがありうるのか?と、警戒すべきかどうかフォリオは悩む。
攻撃のための強力な炎と、移動のための低威力の炎。同時に出すことは出来ないな?
そうではなかった。もっと警戒すべきことが他にあった。フォリオは即座に大炎の発動をやめ、小炎を使って飛び退こうとする。だが既に、背後は壁によって塞がれていた。
悪いが俺は、見えない壁の操作と床の操作を同時にすることが出来る
はいはい、わざわざ床に手をついて見せてたのはブラフってことね
床から手を離した今であれば床や壁の操作は出来ない。そう思って攻めを急いだフォリオの負けだ。
今お前がいる部屋はかなり小さい。下手に炎を使うなよ。自滅するぞ
おお、ほんとだ。小さい
勝敗は決した。フォリオは肩の力を抜いて、目に見えない壁をぺたぺたと無遠慮に触った。広さはせいぜい二メートル四方といったところだろうか。確かにこの中で大炎を使おうものならフォリオ自身がこんがりと焼けてしまうだろう。
だが、これだけあれば十分だ。
余計な抵抗をしないで貰えるとありがたいのだが
はいはい、しませんよー
降参するように、フォリオは両手をあげる。
アタシは
彼女がそう言った途端、その懐から凄まじい速度で何かが飛び出した。それはバチバチと雷光を身にまといながら、Olの張った目に見えない壁を殴りつける。聞いているだけで恐ろしいほどの破砕音が鳴り響き、砕けた石の塊が空中から無数に現れた。
フォリオの懐に隠し持っていた道具袋から飛び出し、それを殴りつけたブランは、パチパチと瞬きする。
一撃で壊れないなんて、意外と丈夫ですね
そして当然のように二撃目を加え、Olのダンジョン・キューブを今度こそ粉々に破壊した。
第5話騙し合いに勝利しましょう-5
随分物々しいな
じゃらりと音を響かせる鎖を見つめ、Olはそう呟く。
何をやらかすのか全然わかんないからね、アンタ
鎖によって壁にくくりつけられたOlを見つめ、フォリオは言った。
そう警戒せずとも、出来ることなどない。お前との戦いで魔力は殆ど使い切ってしまったからな
ごろりと硬い床に転がって、Ol。情けないことだ、と彼は内心で呟いた。自らのダンジョンの中でなくとも、本来の彼であればあの程度の魔術行使で魔力を切らしたりはしない。
しかしこの極端に魔力の乏しいダンジョンの中においては、常に爪に火を灯すような気持ちで魔術を使わなければならなかった。
フローロは無事なのか?
さあ。ブランサマが連れてっちゃったんで、アタシは知らないよ
魔力を失いダンジョンキューブも破壊され、その上フローロがいなくなれば、Olはもはや生きていくこともままならない。手に入る食料の中には殆ど魔力が含まれていないのだから、幾ら食べても意味がない。フローロに魔力を分けてもらえなければ、飢えて死んでいくのみだ。
Olがそうして横になっていると、ラディコが姿を現した。
お前は無事だったか
あったりまえでしょ、アタシの部下なんだから
Olによって洗脳処理を受けたのだから、何らかの処分が下される可能性もあると考えていた。
フォリオ様、Olくん、どうなっちゃうのかな
まあ、スキルを抜き出すだけ抜き出して、処刑じゃないかな
処刑
へにょん、とラディコの耳が下を向く。よくもまあ懐いたものだ、とOlは他人事のように思った。
やめにならない?
それを決めるのはアタシじゃないからなぁ
フォリオもラディコには甘いらしく、彼女は困ったように癖っ毛をかいた。
アンタ、何が目的なの?
目的。目的か
フォリオに問われ、Olは遠くを見やる。フローロの手伝いをしてはいるが、それはOl自身の目的ではない。
元いた場所に帰ること、だな
まだ数日しか経っていないというのに、何よりも懐かしい我が家。愛しい妻と子、仲間たちのいる己の場所。その光景を思い出しながら、Olは言った。
アンタ、別の世界から来たんだっけ
フォリオの瞳に同情の色が浮かぶ。遠い異郷で自分とは関係のない種族間の争いに巻き込まれ、故郷を懐かしく思う気持ちはフォリオにも理解できた。
まあ、出来れば殺されないように進言してあげてもいいけど
アタシの言うことがどこまで聞いてもらえるかわからないけどさ。とフォリオ。
だがOlはその申し出に、首を横に振った。
そ。まあ、言っといてなんだけど大した役に立てるとは思えないしね
肩を竦めてみせるフォリオに、Olは再度首を振る。
少々気が咎めるのでな
何が?
首を傾げるフォリオの背後で、ナギアが短剣を振りかぶった。
ご無事ですか、Ol様?
ああ。まあ、なんとかな
するりと床を這う蛇の尾は、微かな音も立てず振動もさせない。すぐ背後に迫っている事を、フォリオは全く気づかなかった。
フォリオ様!?
案ずるな。麻痺しているだけだ
床に転がるフォリオにあわてて駆け寄るラディコに、Ol。
蠍蜂から抜き取ったスキル麻痺針をナギアには持たせてある。勿論、このような事態を想定してのことだ。
ななんで
かろうじて動く舌先を動かして、フォリオは絞り出すように声を上げた。ナギアは死んだはずだ。どちらに付くか信用ならない尾族の女。もはや利用価値もなく、知らなくてもいいことを知りすぎたために処分したとユウェロイからは聞いていた。
ふふふ。それは勿論敬愛する我が主人、Ol様のおかげですわ
Olにぴっとりと肌を寄せ、ナギアは妖艶に微笑んでみせた。
まさかOl様がわたくしを信用して下さるとは思いもしませんでしたけれど
裏切りの蛇。売女。二枚舌の嘘つき。ナギアはそう言われ続けてきたし、自分でもそう思っていた。実際、Ol達の情報をサルナークに流し、その情報を更にユウェロイにも流していた。
信じていたとも
故にOlは、彼女を信じた。
お前は必ずユウェロイ達をも裏切ってくれるとな
そうする者が、この世のどこにもいなかったからだ。
Olは、そもそも何も信じてはいない。故にその疑念は疑いではなくただの確信であった。ナギアがOlを裏切るというのなら、それを前提に入れて行動すればいい。
具体的に何をしたかと言えば、Olはその魔力の大部分を割いて密かにナギアを監視した。そして彼女の行動原理を、望んでいるものと望んでいないものとを見出したのだ。
ナギアはユウェロイやサルナークのみならず、ありとあらゆる勢力と内通し、同時に全てを裏切っていた。利によって動いていたわけではない。己の利益を望むなら、そこには一定の誠実さが必要になる。Olのダンジョンの商人、ノームがそうであったように。
ならば何故ナギアは全てを裏切り続けるのか。
それは、全てがどうでもいいからだ。真実も正義も誠意も愛も、何もかもがどうでもいい。重んじる理由がなく、守る必要がなかった。誰もが彼女を信じなかったから、彼女も何をも信じなかった。
だからOlは、彼女の唯一になった。誰もが──ナギア自身さえもが信じない彼女の事をまず信じ、己の魔術の一部を預けた。姿を偽装し、隠す幻術の一種。それを使えば死を偽装することも出来るし、音を立てずどこにでも忍び込む究極の暗殺者にもなれる。
つまり、Olをいつでも殺すことが出来るということだ。
ナギアはその信頼を違わず受け取った。そして、また騙したのだ。Ol以外の全員を。
ラディコ。この鎖を解いてくれるか
うんでも、フォリオ様に酷いこと、しないよね?
勿論だとも
Olがにこやかに頷くと、ラディコはえいと鎖を引っ張る。すると太い鎖はまるで紙で出来ているかのように簡単に千切れた。
お前にしたのと同じ様に、少しばかり仲良くなるだけだ
手首を回しながらそう告げるOlに、フォリオは声にならない悲鳴を上げた。
第6話獣娘たちを躾けましょう-1
と、その前に少しばかり魔力が足らん。ナギア、悪いが
ええ。幾らでもお吸いになって下さい、Ol様
胸の前で手を組み、目をつぶって顔をあげるナギア。Olはその顎に手を当てて、遠慮なく唇を吸った。微かに震える唇の中から、透明なひんやりとした魔力が伝わってくる。質はさほど高くないが、その分自分の魔力に変換するのはあまり苦労なさそうだ。
なにそれ!ボクも、ボクもやってえ!
するとラディコがぴょんぴょんと飛び跳ねてそう主張しだした。ラディコに対しては情報を引き出すため、最低限の接触にしたのだがと、Olはちらりとフォリオを一瞥する。
するとフォリオは射殺しそうな表情でこちらを睨んでいた。毒を食らわば皿までか、と覚悟を決めて、Olはラディコを抱き寄せた。
小さな唇に己の口を当てると、思った以上に濃厚な魔力が口内に溢れ出した。たっぷりと具材を煮溶かした芳醇なスープのような魔力だ。見たところラディコは肉体派だから魔力にはさほど期待できないだろうと思っていたOlは、思った以上に濃厚なその味に驚いた。
んちゅぷ
思わずもっと求めるように舌先を差し入れると、ラディコは一瞬驚いたように身体をびくりと震わせたが、すぐに従順に幼い舌を伸ばし返した。短い舌がぎこちない動きでOlの口内に入ってきて、右往左往するようにパタパタと動く。
んっふ、ぅ
Olがそれを落ち着かせるように軽く唇で食みながら、愛撫するように舌先で撫で擦る。するとラディコは鼻から小さく吐息を漏らしながら、それを一生懸命真似るように舌を動かした。
ふぁあ
唇を離すと、彼女はぼんやりとした表情で舌をなおも伸ばしながら息をつく。
これ、すごいね、Olくん
ズルいですわ!
ぽおっとした口調で呟くように言うラディコに、ナギアが不満の声を上げた。
Ol様、わたくしも断固同じ物を要求いたします!
Olはぐいとナギアの腕をとって強引に引き寄せると、その頭を抱えるようにして口づける。
あっ♡そんな、乱暴な♡
口では文句を言いながらも、ナギアはそれを素直に受け入れた。にゅるりと侵入してくるOlの舌を、ナギアはおっかなびっくりといった感じで迎え入れる。そろり、そろりと舌を伸ばすと、Olの舌先が半ば強制的にナギアの舌を絡め取った。
尾人の舌は蛇と同じ様に、先が割れた長いものだ。自分で要求しておきながら嫌がられたらどうしよう、などと思っていたナギアであったが、Olは全く頓着することなく、むしろ積極的に舌を絡めてきた。
んっ!ぅんっ♡
ナギアはそっとOlの背中に腕を回す。だがどうしても抱きしめることが出来ず、その指先は虚空をさまよった。するとOlの手のひらが優しい手付きでナギアの髪を撫で、そのまま背中まで降りてぽんと彼女の背を叩く。
その衝撃に押されるようにして、ナギアはぎゅっとOlに抱きついた。
んっ♡は、ん♡ん♡ちゅぅ♡
むナギウ、ムナギア!
ぐいぐいと身体を押し付け、その蛇の下半身ごと伸し掛かるように迫ってくるナギアに、Olは流石に叫んで静止した。
あす、すみません!その、すごく気持ちよくて
夢中になってOlの舌を吸っていたナギアはようやく我に返り、慌ててOlから飛び退いた。
俺は逃げたりせん。そうがっつくな
苦笑するOlに、ナギアは耳まで真っ赤に染めた。
とりあえず最低限の魔力は腹に収めた。後はフォリオを籠絡せねば、と視線を向けようとするOlの服の裾を、ナギアがくいと引く。
彼女は何やら物言いたげな表情で、Olをじっと見つめた。
わたくしが
内心首を捻りながらOlがナギアの瞳を見つめ返すと、彼女は少しうつむき、ぽつりと呟く。
わたくしの方が先に
そこまで言われてOlはようやく気づいた。
だが、お前は
わたくしの事は、お嫌いですか?
逡巡するOlにナギアは涙を浮かべ、そう訴える。Olは髪をかいて、言いづらそうに答えた。
お前は、生娘だろう
ならば然るべき場所、然るべき時に相手をしてやるべきではないか。Olとしてはそう思っていた。
しょ、処女なわけないじゃないですか!?今までこの身体で落としてきた殿方は数しれずですわよ!?
そんな女が口づけ一つで顔を真赤に染めるものか
ぎゅっと豊満な胸元を持ち上げるように腕を組み主張するナギアに、Olは呆れ声で答える。
だがまあそんな顔をしてねだるなら望みを叶えてやる。後悔はするなよ
言って、Olはナギアの身体を抱き寄せると、その蛇の下半身を覆う腰布をくいと外した。
初めて男の目に晒されるその部分に、ナギアはふるりと身体を震わせる。
ここでいいのか?
んっは、い♡
へその少し下、人の身体と蛇の身体の境目にある窄まりに、Olの指がするりと伸びる。陰唇こそないものの、指をつぷりと侵入させてみればそこの作りは人のそれとさほど違いはないようであった。
興奮に分泌された愛液も、指をキツく締め付ける膣壁の感触も意外なことに、入り口に張った純潔の証さえも、だ。
本当に、構わぬのだな
はいOl様こそ、わたくしのような蛇をお抱きになって、後悔なさいませんこと?
愚かなことを
この期に及んで強がるナギアに、Olはゆっくりと挿入した。
お前のように美しい女を抱けて、後悔などあるものか
あぁっ♡
彼の言葉を裏付ける、熱く硬い滾りがナギアの中を押し開いていく。今までどんな男も入ろうとはしなかった、文字通りの処女地。メリメリと膜を突き破られる感触さえも愛おしくて、ナギアはぎゅっと尾に力を込めてそれを受け入れた。
あまり強くは締めつけるなよ
Olの声に、ナギアははっと我に返る。いつの間にか蛇の尾がOlの身体にぐるぐると巻き付いていた。
も、申し訳ございま!
構わん
慌てて締め付けを解こうとするナギアの尾を、Olは掴んで押し留めた。
その様に情熱的に精を求められるのは嫌いではない
せっ!
ナギアとしては全くそんなつもりはなかったのだが、そう言われてしまえばそうとしか思えない体勢であった。ナギアの尾はこれ以上ないほどぴっちりとOlの身体に絡みつき、人間の女と違って僅かに腰を引くことすら許さないほど膣口を密着させている。
その状態で膣内はきゅうきゅうと蠕動するようにOlの逸物を扱き立てているのだ。まるで男の精を絞り出す為だけに存在する装置のようであった。
わ、わたくし、こんなはしたない!
いいさ。代わりに俺はこちらを堪能させてもらおう
Olはそう言って尾に包まれていない上半身を動かし、殆ど谷間を隠していない紐のようなナギアの上衣をずらしてその先端を露出させる。
ぁんっ♡そこには、興味ないのかと思っておりました
異なことを。この果実に惹かれぬ男などそうはおるまい
下半身を蛇の身体に包まれ、怒張をしとどに濡れた膣内にぬっぷりと格納された状態で、この豊満な一対の乳房を自由にできるというのはOlにとっても新鮮な感覚であった。
たとえるなら、捕食されながら捕食するような感覚。被虐と加虐を同時に味わうような、不思議だが心地よい快楽だ。
だってぇ♡Ol様、ぁん♡全然っ♡わたくしの、お胸はぁん♡視線を、向けないでは♡ありませんの♡
目の前にたゆんと揺れる乳房があれば、好いた女でなくとも下半身が醜い蛇であろうとも、つい目で追ってしまうのが男の性というものだ。
それに囚われないOlの視線は好ましいものであると同時に──自分でも度し難いことであるとは思っているが──Olへの好意を自覚してからは、ナギアは己の胸に魅力を感じてはくれないのかと不満を覚えてもいた。
だから今はこうして存分に目をやっているだろう
その極上の果実を揉みしだきながら、Olは先端の蕾を啄む。己の柔らかな双丘に顔を埋める男を見下ろして、満たされたナギアの膣口がきゅうきゅうとOlの剛直を締め付けた。
はっうぅんっ♡
もしこの身が余すことなく蛇であり、好いた相手を丸呑みにしてしまったらこのような気持ちになるのだろうか。そんな事を思うナギアの脳天から、ビリビリと快楽が走る。
それはOlが顔を埋める胸元で増幅され、腹へと降りて子宮をわななかせ、そこから膣口までを響き渡るように何度も往復してから、尾の先へと通っていく。
達したか
はぁっ♡はぁっ♡今のが絶頂、ですの?
肩で荒く息を吐き、恍惚に瞳を潤ませながら、これ以上なくだらしのない表情でナギアは呟く。
軽いものだろうが、な
はぁあんっ♡
きゅうとOlが乳首を摘み上げると、同じ衝撃がもう一度ナギアの身体中を駆け抜けていった。
それぇっ♡だめっ♡や、あん♡
絶頂する度にナギアの膣内全体がうごめいて、Olの男根をしゃぶり尽くすように締め付ける。それと同時に下半身がすりすりと細かく動いて、Olの下半身に擦りついてきた。
極めの細かい小さな鱗はすべすべとしていて触れるだけでも心地よく、微かに肌に引っかかる感触は無数の指先で撫でられているよう。危惧していたような強い締め付けは微塵もなく、全身を愛撫されるような気持ちよさであった。
はいっ♡お情けを♡Ol様の、お情けを下さいましっ♡
ぎゅうとOlの後頭部を抱きしめ、たわわに実った乳房を彼の顔に押し付けるナギア。その下半身は寸分の隙もなくOlの身体に巻き付き、根本まで飲み込んだ肉槍を膣壁がきゅうきゅうと吸い付いてくる。
全身で男を受け入れるその熱愛ぶりに、Olは堪らず彼女の中に白濁を吐き出した。
はあぁ♡ぁん♡
男の欲望を子宮で受け止めて、ナギアは一際大きな絶頂に全身を震わせる。ずっとこうしていたい、と彼女は思った。人がつま先立ちするように、尾の先を使って動けばOlと抱き合ったまま移動することだって出来る。永遠に繋がったまま暮らしていきたい
ナギア。離してくれるか?
ナギア
そんな願いは、Olの困ったような声色に打ち砕かれた。もし怒りとともに高圧的に命じられるのであれば、無理矢理にでも干からびるまでこうして抱きしめ続けるというのに。
ずるいお方
悪いがそう時間もないのでな。一段落すれば、お前の気が済むまで抱いてやる
するりと尾を解くと、Olはそう言ってナギアに口づけた。
約束、ですわよ?
ああ。約束がどういう意味を持つかはお前が一番良く知っておろう
最後にちろりと舌先を交わして、ナギアはOlから身体を離す。
Olくうん!
途端、ラディコの小柄な身体がぼすんと突っ込んできた。
ボクもおボクも同じことしてほしいよお
内股にふわふわとした尻尾を挟み込むようにして、太ももを擦りつけながらラディコはOlの腰にしがみつく。
なんとなく、そうなる気はしていた。とは言え悪いことばかりではない。フォリオの方を見れば、その表情は明らかにOlとナギアの痴態に当てられ発情している。
わかった。では
Olは未だ麻痺が解けず地面に転がるフォリオのすぐ目の前を指差して、言った。
服を脱いで、そこに横になれ
第6話獣娘たちを躾けましょう-2
こうお?
床に転がるフォリオの隣に並ぶようにして、ラディコは床に四つん這いの格好で尻を突き出す。
ラディやめて
フォリオはラディコにそう呼びかける、その声は随分弱々しいものだった。ナギアの使った麻痺針の影響ばかりではないだろう、とOlは踏む。
大丈夫だよお、フォリオ様
ラディコはにっこりと微笑んで、明るい声でそれに答える。
とーっても気持ちいいんだよお
それはフォリオの目にはどう映っただろうか。
ラディ。悪いがお前の銀の腕をナギアに預けることは出来るか?また潰されては敵わん
いいけどオフにも出来るよお?
そう思いつつもOlが頼むと、ラディコは不思議そうに目を瞬かせた。
そうなのか?なにかの拍子にうっかりオンにしてしまうということはないか?
うん、大丈夫だよお
自信満々に頷くラディコに、Olはかえって若干の不安を抱いた。
Ol様。切り替え式のスキルは、例えば絶頂の際にうっかり発動してしまうような類のものではございませんわ。というか、既にラディコ様はスキルをオフにしているのでは?
そこにナギアが助け舟を出す。
うん。つけてたらちゅーってしただけでも、Olくんの頭蓋を破壊しちゃうもんねえ
あっさりと恐ろしいことを口にするラディコ。とは言え考えてみれば、そのような怪力を常に発動していては日常生活もままならないだろう、とはOlも思ったことではあった。何より疑っていてはこれより先に進むことも出来ない。
よし。では、入れるぞ
うん。きてえ♡
パタパタと尻尾を振って、ラディコはつんと尻を高く持ち上げる。その入り口はすっかりトロトロに蕩けていて、男を誘っていた。
ふさふさとした大きな尾は垂らすと腰全体を隠してしまうほどで、ピンと持ち上げられているそれをOlは何の気無しに軽く撫でる。
ひあんっ♡
すると、ラディコは身体を震わせて艶めかしい声を上げた。
Olっ♡くぅんっ♡そこおっ♡やあぅ♡
Olの手の中で、尻尾がパタパタと控えめに揺れる。
触られるのは嫌か?
いやじゃないけどお♡おなかのおく、きゅんきゅんして♡はやく、ほしいよお♡
ぐいと突き出された臀部の間から、透明な蜜がポタポタと落ちて床に跡を残す。ろくに愛撫もしてないというのに、未経験とは思えない濡れようであった。
Olは尻尾を撫でてやりながら、ゆっくりとその中に侵入する。
んんっ♡
ナギアよりはだいぶ人に近い外見から予想していたことではあったが、やはり牙族であるラディコにも処女膜は存在した。とは言え、普段から激しい運動をするためか純潔を示すそのひだは殆ど破れてしまっている。態度や身体に触れた感覚から生娘である事には間違いないが、Olの剛直を受け入れても痛みは殆どなさそうだった。
きゅぅんっ♡んっ♡はぅんっ♡
ゆっくりと埋め込まれていく肉槍に、ラディコは嬌声を上げながらパタパタと尾を振る。反応がわかりやすいのは結構なことだが、流石に目の前でブンブンと振られるのは少し邪魔だ。体勢を誤っただろうか、と思いつつもOlはその尾を軽く押さえる。
んああぁぁっ♡
途端、ぶわりと尻尾の毛並みが逆立ち、ピンと伸びる。同時にラディコの膣口がOlのペニスをぎゅうっと強く締め付けて、彼女は全身をこわばらせた。気をやったのだ。
ここを触られるのは、そんなに良いのか?
ひにゃぁあっ♡
Olがもう一度尾を優しく撫でると、ラディコは再びビクビクと身体を震わせる。
そっそこお♡ずんずんっ♡されながらぁ♡しっぽ、さわられるの、お♡きもち、よすぎるよお♡
どうやら尻尾が随分と感じるらしい。
ふむこうか?
ひぐぅぅんっ♡
ゆっくりと尾を撫でてやりながら奥を突いてやると、ぷしゅっと音を立てて吹き出した潮が床を濡らした。それでなくとも溢れ出す愛液が、まるで失禁のように彼女のほっそりとした脚を伝い漏れている。
ひあぁっ♡きゃうぅんっ♡だめぇっ♡Olくうんっ♡それっ♡きもちっ♡よすぎ、てえ♡だ、めえっ♡
やめたほうが良いのか?
ピンと立った尻尾を撫でるたびにきゅうと膣口が閉まってOlのものを締め付け、それをこじ開けるように奥を突けば甘い声がまろびでる。その反応はまるで上等な楽器のようで、Olの嗜虐心を殊更に煽った。
だめえっ、だめえ♡やめない、でえ♡はううっ♡ひあんっ♡
そら、これはどうだ?
きゅうぅんっ♡
Olがぐいとラディコの尾を引っ張ると、彼女はほとんど犬のような鳴き声を上げた。それは悲鳴ではなく、発情しきった雌犬の鳴き声だ。
ひうんっ♡あっ♡はぁっ♡くぅんっ♡あああぁっ♡
もはや人の言葉を発することすらかなわず、上半身を床に突っ伏すようにしながら、しかしそれでも尻だけは高々とOlに捧げてラディコは嬌声をあげ続ける。
その尻尾を引っ張って腰を引き寄せ奥を貫くたびに愛液が吹き出し、濡れた肉同士が打ち付け合う音がパチュパチュと淫靡に響き渡る。
くっラディ、イくぞ!
ひきゅうっ♡きゅうんっ♡くうん♡きゅうぅーんっ♡
本物の犬のように舌を突き出しながら何度も何度も絶頂に達するラディコに、Olは堪らずそう宣言する。だが、彼女の耳にはもはやOlの声など全く聞こえていないようだった。
──声。
と、不意にOlの脳裏にある考えが浮かぶ。人とは違う部分に性感帯が集中していると言うなら、と。
彼は特に深い考えもなく、ラディコの耳を掴んだ。
きゅっ──♡♡♡♡♡♡
その瞬間。ラディコは呼吸することさえ忘れて背筋を反らし、絶頂した。ぎゅうと、彼女の膣壁がOlの男根を締め付ける。スキルは切っているはずなのにそれは手のひらで思い切り握りしめるほどの強さで、Olは腰を引くことすらできず彼女の中に射精した。
圧倒的に男が優位な後背位であるにも関わらず、膣内射精以外は許さぬと言わんばかりの締め付け。その小さな雌穴に白濁の全てを注ぎ込んで、ようやくラディコは全身の力を弛緩させ、床にぐったりと倒れ込んだ。
Olの肉槍がずるりと抜け落ち、栓を失った秘裂からどろりと白い液体が漏れ出る。
すごかった、よお
尾と耳すらも力なく、ぐったりと横たわりながら、ラディコはそう呟いた。
二人の処女を抱き終えて、Olは残る一人へと視線を向ける。
ふぅっ♡ふぅっ♡
フォリオは自由の利かない身体で床に転がりながら、顔を真赤にして荒く息をしていた。
二度の初体験の気分はどうだった?
Olは魔術でナギアとラディコの感覚を、フォリオに送り込んでいた。麻痺した身体では自分で快楽を処理することもできず、ただただ送られてくる快感に身を焼く他なかったはずだ。
こ
こ?
なにか言いたげに声を漏らすフォリオに、Olはその先を促す。
こーさんっ!降参しますっ!参りましたってばあ!もう、無理だからあ!
フォリオは自棄になったように、そう叫んだ。思っていたよりもずっと早い陥落に、Olは一瞬何かの罠かと疑う。
だが麻痺を解くような手段を持っているならとっくに試しているだろうし、降参した程度でOlが油断するような人間ではないのもフォリオであれば先刻承知だろう。
となれば、詰んだ状況からなら早めに白旗を上げた方が賢明であるかも知れない。フォリオとて、無為に純潔を散らしたくはないだろう。
正直この美しい翼族の女も抱いてみたいと思わなかったと言えば嘘になるが、かといって必要もないのに行為を強要するのはOlの主義に反する。見上げた機の見極め方だ。
Olは感心半分、落胆半分でそう考え。
だからアタシにも、はやく、して下さいよぉ
そんなOlの予想を、フォリオは涙目で打ち砕いたのだった。
第6話獣娘たちを躾けましょう-3
いいのか!?いいのかって何ですか!?ここまでしといて、まさかアタシは抱けないってんですか!?
思わず問えば、フォリオはひどい剣幕でOlに噛み付いた。まだ身体は動かないようだが、口の方は随分と回復してきたらしい。
いやそういうわけではないが
こんなにドロドロのグチョグチョにしておいておあずけなんて、酷すぎですよ!
フォリオの口調はどう考えても本心からのものだった。Olは念の為に二、三呪いの契約を取り付けて、彼女の身体をひょいと抱き上げた。
背中に生えた翼以外は人とさほど変わりないように見えるが、それは見た目だけの話なのだろう。中背程度の背丈を持っているというのに、フォリオの身体はラディコより軽かった。
あの、この麻痺って
悪いが解毒する魔力を節約したいのでな
蠍蜂のスキル麻痺針は、Olにとっては未知の毒だ。そもそも毒ですらないのかも知れない。複数の回復魔術を重ねがけすれば効果を消すことはできるものの、それはひどく効率が悪いものであった。どのみち時間が経てば自然と消えるのだ。
んあっ!
フォリオの身体を膝に乗せるようにして、彼女のスカートを捲りあげ秘所へと指を伸ばす。本人の言う通りそこは既にびっしょりと濡れそぼっていて、下着は殆どその役目をなさなくなっていた。
早く挿れてくださいよお
そう焦るな。物事には順序というものがある
Olはスカートの中でフォリオの下着をずらし、ゆっくりと指を差し入れていく。いくら濡れていると言ってもろくにほぐしもしていない膣口だ。ラディコと違って既に膜が破れているということもなさそうだし、しっかりと慣らさねば痛いだけだ。
うううっはやくはやくぅ!
だが、身体が麻痺して動かせないせいもあるのだろう。フォリオはもどかしげに何度もOlを急かす。
待てと言うに
やぁんっ♡お腹の奥が切ないんですよぉ!
つぷりと指を挿れ、軽くひっかくように膣壁を擦り上げると、フォリオの羽がパタパタとはためいた。麻痺が徐々に解け始めているらしい。
急に入れても痛いだけだぞ
実際フォリオの中は酷く狭く、Olの人差し指だけでもかなりキツい。とてもOlの太いものを受け入れられそうにはなかった。
で、もぉ!
不満げにバサバサと動かされる翼を、Olは空いた片腕を用い、フォリオを抱きしめるような形で押し止める。
ひあっ♡
その瞬間、フォリオの膣口がこれまで以上にOlの指を締め付けた。
もしや
だ、だめえ♡それっ♡だめになるっ♡なでなで、しない、でえっ♡ひあああぁんっ♡
フォリオの背中に腕を回したまま、翼を撫でる。その度にフォリオはガクガクと身体を震わせ、膣壁を収縮させた。どうやらラディコの尻尾と同様に、そこに性感帯が集中しているらしい。
だめえっ♡やっ♡だめって♡いってぅ、のにぃぃぃっ♡
Olはここぞとばかりに羽を撫でつつ、膣内を指先でほぐしていく。フォリオはびくんびくんと身体を震わせ、何度も声を出すことも出来ずに絶頂に達しては、また喘ぎ声をあげながら絶頂まで高められるのを繰り返す。
ふむこのくらいか
あひゅぅ♡しゅごしゅぎましゅ♡
Olが納得してそう呟く頃には、フォリオは身も心もぐにゃぐにゃに蕩けてしまっていた。
フォリオの身体をもう一度持ち上げて、Olは彼女の痴態に興奮しギンギンに反り立った肉槍の先端を、その秘部へと押し当てる。
本番はここからだぞ
ひぎいぃっ♡
そして、一気に根本まで押し込んだ。
あひいぃっ♡ふぐっ♡ひああぁんっ♡ひっ♡ひぐぅぅんっ♡
殆ど悲鳴のような嬌声をあげるフォリオ。だが、苦痛よりも快楽を強く感じているのはその蕩けた表情を見れば明白であった。
麻痺した彼女が唯一自由に動かせるのが顔から上だ。
ひっ♡いぃんっ♡あっ♡ふっ♡あぁっ♡
残りの部分は指一本動かすことが出来ず、その軽い身体はまるで玩具のように持ち上げられ、肉槍の上に落とすようにして膣奥を穿たれる。
ただ快楽を貪るためだけの肉塊のようなその扱いに。
ひぐぅっ♡は、ひあぁんっ♡んっ♡いぃっ♡いいよぉっ♡
──しかし、フォリオは悦んでしまっていた。
もっとぉ♡もっと♡あっ♡ずんずんってぇ♡アタシっ♡こんな♡扱いされてぇっ♡気持ちよくっ♡なっちゃってるっ♡
Olがその太ももを抱えるようにして持ち上げ腰の上に下ろすたびに、ぱちゅん、ぱちゅんと愛液でしとどに濡れた秘裂が音を立てる。フォリオはそれを拒否することも隠すこともできず、ただただ男の好きなように犯されるしかないというのに、彼女が感じていることを示すその音はどんどん大きくなっていった。
こうされるのが良いのか?
意地の悪い声で問いながら、Olはフォリオの胸を掴む。彼の手のひらからほんの僅かに溢れる程度の乳房は美しい半球状をしていて、揉みしだくと柔らかな弾力がしっかりと指を押し返してくる。
その先端の乳首は慎ましやかな大きさで、しかし今は興奮にツンと尖ってその存在を最大限主張しているかのようであった。
ああぁっ♡だめぇっ♡おっぱいだめぇ♡さきっぽ♡そんな、吸っちゃだめえ♡
リクエストの通りにOlはフォリオの乳首を唇でついばみ、ぐりぐりと腰を押し付けながら彼女の背中に腕を伸ばし、翼を撫で擦る。
や、あっ♡はねっ♡なでなでしちゃ♡だめえっ♡感じ、すぎちゃうんだってばあっ♡あぁんっ♡そんなっ♡されたらっ♡堕ちちゃうっ♡堕ちちゃうよぉっ♡
平静なときのどこか飄々とした彼女の振る舞いとはかけ離れた、媚びる雌そのものの甘い声色。フォリオのその声は、Olの興奮をいや増していく。
あぁっ♡アタシの、中でぇっ♡おっきく、ふくれてるっ♡精液、出そうとしてるっ♡孕ませようとしてる♡
そしてその変化を、フォリオは敏感に感じ取った。
ああだが俺がそうしようとしても、お前は止められないな?
だめぇっ♡中でっ♡膣内で、射精しちゃ、だめえ♡赤ちゃん、できちゃうぅ♡
まるで駄目とは思えない甘い声でそう繰り返すフォリオの腰をぐっと掴み、Olは低い声で告げる。
して欲しくないのであればそう言ってみろ。俺に、やめろ、と
だめえ♡駄目なのっ♡中に、中には絶対出しちゃ駄目だからね♡さっきまで処女だったのに♡こんな♡イカされまくった状態で♡中出しされたら、覚えちゃう♡身体が、あなたの精液覚えて♡堕とされちゃうからぁっ♡
彼女の必死の回答を、Olは完全に理解する。
いくら駄目だと言っても無駄だ。お前の身体は指一本動かぬのだからな
ああっ♡だめなのにい♡精液の味っ♡覚え込まされちゃう♡麻痺して動かない身体に♡無理やり♡♡♡中出しされて♡♡♡教えられちゃうっ♡♡♡♡♡
やめろ、と────彼女はただの一言も、言わなかった。
イくぞっ!堕ちろっ!
イくっ♡イくっ♡イくっ♡堕ちるっ♡堕ちちゃうっ♡あっ──────あああぁあぁぁぁっ♡♡♡♡♡
どくどくと流し込まれる大量の白濁の感覚に。
フォリオは、ぎゅっと両手両足でOlにしがみつくようにしながら、深い絶頂に達したのだった。
三人の処女をまとめて奪った上に、麻痺させて動けない女を無理やり犯して中出しまでするなんて、ほーんと悪いチンポですね、この子は
突き出された男根を軽く指で弾いて、フォリオは舌を伸ばしぺろりと舐め上げた。
とっても素敵な体験でしたわOl様、約束の方、くれぐれもお忘れなきようお願いしますわね
その隣でナギアが長い舌をチロチロと伸ばし。
ボクも!ボクもまたしたい!Olくんとの交尾、すごーく好きだなあ
その向かい側で、ラディコが対称的に短い舌を一生懸命滑らせる。
フォリオとの事後、ナギアがお掃除致しますわと言ってOlの竿に口淫奉仕を始め。それを見てラディコがボクもやる!と加わり。そして今フォリオが加わっての、この状況であった。
それは構わんが
純潔を失ったばかりの乙女三人の舌奉仕はお世辞にも上手いとは言い難いものであったが、三者三様の異なる魅力を持った少女たちが顔を並べてグロテスクな器官に舌を這わせる光景に興奮しないわけもなく。
フォリオに思う様注ぎ込んで萎えかけていた性器は、再び雄々しく反り立って少女たちの愛撫を一身に受け入れていた。
なぜお前たちはそうも協力的なのだ?
フォリオには別に何か暗示をかけたわけでも魔術で魅了したわけでもなく、多少の小細工は弄したとは言えやったことはただの強姦に等しい。
ラディコとて、単純な性格ゆえに催眠術がよく効いたのだと思ってはいたが、それにしたって懐き過ぎであるという気はする。
それを言い出せばナギアもそうだ。無論人となりは十分に理解した上での対応で、そう誘導した自覚はあるが、ただ信頼させただけにしては随分と愛情深い交わりに思えた。
んーまあ、そもそもアタシも好きでユウェロイサマ?に仕えてたわけでもないんですよね
それは、わかるが
この世界の奴隷制度は、大した拘束力もないくせに制度そのものが逆らえない空気を形作っている。奴隷たちが主人に従うのは、言ってしまえば逃げても今よりマシな主人に当たるとは限らないからという話でしかない。
魔族は何らかの手段を用いて奴隷から開放されても、結局他の人間の奴隷になるしか道はない。その諦念が主人に従わせているに過ぎず、忠誠心など生まれようもない。
そこへ行くとOlサンOlサマ?は、人質にとったラディコも丁重に扱ってるみたいだったし、アタシたちみたいな魔族でも抱いてくれるしあと、セックスめちゃくちゃ気持ちよかったし
指折り数えるフォリオの言葉は、後半になるにつれてか細い声へと変化する。
まあ、ともかく!ユウェロイよりはまだマシかなって思ったの!です!そんだけ
照れ隠しのようにそう言って、フォリオはぱくりとOlの亀頭を咥えこんだ。
魔族を抱く人間は、そんなに少ないのか?
ええ。人間から見れば奇異な姿でしょうしね。それに魔族は皆誰かしらの奴隷です。他人の所有物である奴隷を他者が損ねるのは罪ですから、奴隷同士で交わることも基本的にはありません
舌先でチロチロと肉茎を舐めながら、器用にナギアが答える。
それでお前たちはそれほどの美しさで、揃って処女だったのか
得心した、とばかりにOlが呟くと、三人は揃って押し黙った。
Olくんってへんたいなの?
首を傾げるOlに、ラディコが率直な問いを投げつける。
何がだ
だって
ねえ
眉をしかめるOlに、女達三人は頷きあう。
比較的人間に近い純魔族や牙族ならまだしも
尾族や翼族も美しいと真顔で仰るなんて
それに、ボクみたいなつるぺたしてるのによくじょーするのも、へんたいなんでしょ?
口々に放たれる意見にOlは一瞬瞑目する。
変態じゃない
しかし彼はすぐに最適な返答を思いつき、答えた。
俺の元いた世界では普通の事だったんだ
第7話己の力を示しましょう-1
オレにやらせてくれないか、大将
サルナークはOlの顔を見るなり、開口一番そう言った。
ブランは、本当にフローロにしか興味がなかったらしい。Olは一応フォリオに命じて鎖で縛らせてはいたが、サルナークの処遇については何の指示もなかったという。
フォリオは仕方なく、サルナークも鎖で縛って道具袋の中に放り込んでおいたらしい。後々で何故殺したと言われても困るし(ユウェロイは平気でそのくらいは言う、とのこと)、無駄に殺すのも寝覚めが悪いからだ。
策はあるのか
ない
問えば、サルナークは清々しいほどにきっぱりと言い放つ。
フォリオ。ブランのスキルは、サルナークで打倒できるものなのか?
多分、無理でしょうね
フォリオは腕を組み、首を傾げて言った。
あのヒト、脳筋ではありますけどバカではないですからねえサルナークサンについて何も言わなかったってことは、多分全く脅威を感じてないってコトだと思うんですよ
彼女の言葉に、サルナークはぎりと歯噛みする。だがおそらくそれは事実だろうというのも、また飲み込んだ。
頼む、大将
サルナークは、今まで一度も下げたことのなかった頭を、Olに下げた。
三度も負けて、ようやくわかった。オレのスキルはそこまで強いわけじゃねえ
いや、そんなこともないんですけどね、とフォリオは内心で呟く。
だがオレの頭じゃあ、どうやったら勝てるのか
そこまで言いかけて、サルナークはいや、違うなと首を振り、言い直す。
オレがどうやって負けるのか、想像がつかねえ
ブランが見せたのは、ダンジョン・キューブさえ二撃で破壊するほどの威力を持つ攻撃だ。だがそれは、ラディコの持つ銀腕とは別のスキルであるという。
純粋に破壊力が高いだけのスキルであれば、鋼の盾には通用しない。負ける理由は存在しないそう考えて、サルナークはようやく気づいたのだ。
今まで敗北してきた戦い、三度ともそうやって負けてきたことに。
オレはオレは未だにこの鋼の盾を無敵だと思ってる。だが実際はこのザマだ。あんたが次の戦いも勝てないって思うんならきっとそうなんだろう。だから頼む。教えてくれ。オレはどうしたらいい?
Olは顎に手をやり、少し考えるように目を伏せる。
無敵とは言わんが、お前のスキルが強力なものであることは間違いない。問題は、運用だ
それは先程フォリオが思い浮かべたのと同じ内容だった。
運用?
ああ。お前はそのスキルを、単に攻撃を防ぐものだと思っているだろう
違うのか?
サルナークの問いに、Olは頷く。あらゆる攻撃を防ぐスキル。そんな認識でいるから、彼は道具袋の中で溺れる羽目になるのだ。
本質としては自身にかかるエネルギー全てを無効化する能力だ。ならばそれは防御のためだけでなく、攻撃にも転用できよう
よくわからんが、だがそれでこそ頼むかいがあるってもんだ。何でも言ってくれ。どんなことでもやる
神妙な表情で言うサルナークにOlは一つ頷き、傍らに立つフォリオに視線を向けた。
そういうことであれば、俺より適任のものがいる
え、あたしですか?
フォリオはキョトンとして自分を指差した。
俺はこの世界に来てまだ日が浅い。スキルとやらがどのようなものなのか、どれだけのことができるかを正確には知っておらぬ。だが、お前はそうではないだろう?
道具袋を落とし穴代わりにし、鋼の盾に対し水責めを行い、爆風を受けて加速する。どれもが正当な使い方ではなく、スキルというものを熟知していなければ出てこない発想だった。
たとえば、鋼の盾を無力化する方法をもういくつか思いつくはずだ
はあ、まあ
Olの問いに曖昧に頷くフォリオ。
オオレに魔族の教えを請えというのか!?
先程、お前はどんなことでもやると言っただろう
掴みかからん勢いで叫ぶサルナークに、Olは素気なく答える。
あの、Olサン、アタシは別に
萎縮したように翼を小さくたたむフォリオに、Olは首を横に振った。
サルナーク。お前が負け続けているのは、その無駄なプライドのせいもある。本当に上に行きたいのであれば、まずそれを捨てろ
サルナークは呻くように歯を食いしばり、憎悪の籠もった瞳でフォリオを見据える。
たの、む
お願いします(ロヴノブ)だ。サルナーク
ギリリと歯ぎしりの音が鳴り、サルナークの口の端から血が滴り落ちる。
お願いします(ロヴノブ)
そして、サルナークは頭を下げた。
ちょ、ちょっと、Olサマほんとにこいつにアタシが教えなきゃいけないんですか!?めちゃくちゃイヤなんですけど!?
悪いが相手してやってくれ。俺も同席はする。安心しろ
小声で囁くフォリオの頭を、Olは安心させるようにぽんぽんと軽く叩く。
それならまあいいですケド
唇を尖らせ視線を反らしながら、落ち着かないように翼をパタパタと動かすフォリオ。
これで勝てなかったら覚えてろよ
ひいっ!
頭を下げたまま地獄の底から響くような声で呟くサルナークに、フォリオは悲鳴を上げてOlに抱きつくのだった。
やめてくださいっ!ブラン、こんな事!
怖がる必要などないのですよ、陛下。大丈夫、気持ちよくして差し上げますから、私に身体を委ねて下さい
中層、ブランの寝室。そこでフローロは強引に、ベッドの上に寝かせられていた。ブランの手にはさほど力が籠もっているようにも思えないのに、暴れようとするフローロの身体をしっかりと押さえ、その動きを封じる。
やっこんな格好、恥ずかしい!
とてもお似合いですよ、陛下
恥辱に顔を歪めるフローロにブランはにこやかに笑って、金属でできた棒をするりと彼女の中に差し入れた。
抵抗すると、痛い思いをいたしますよ
たおやかな、しかし有無を言わせぬ口調で告げるブランに、フローロは身を固くする。
いい子ですね
そんな彼女の髪を撫でながら、ブランはそこに差し入れた棒をゆっくりと引き抜いた。
っ!んっ!
身を震わせながら、必死に声を押し殺そうとするフローロ。そんな彼女をブランは愛おしげに見つめつつ、何度も何度も金属の棒で彼女の中を蹂躙する。
ん、ふっ!あっ!
小さく狭い彼女の穴の中。そこから全てを出し切って、ブランはにこやかに言った。
はい、こちらは終わりです。反対側も掃除して差し上げますから、こちらを向いて下さい
だから耳掻きくらい自分でできますっ!
フローロはブランの膝からがばりと起き上がって、そう叫んだ。
あらまあ、陛下ったら。小さい頃はあんなにしてしてとおねだりしてきたではありませんか
昔の話でしょっもう!ブランはいっつも私の話を聞いてくれませんね!?
強引に身体をひっくり返され、ブランの柔らかな膝の上に頭を固定されて、フローロは叫んだ。
聞いておりますとも。全てはこのねえやにお任せ下さい。それとも昔のように、姫様と呼んだ方がよろしいですか?
やっぱり全然聞いてない
ブランの物腰はいつもにこやかで穏やかで、しかし自分の意見をけして曲げない。仕方なく身を委ねるフローロの耳の穴を、ブランは金属製の耳掻きで丁寧に掃除していく。
こうして彼女の世話をするのも十年ぶり先王陛下が人間たちの反乱によって倒れ、フローロを最下層へと逃した時以来であった。
今までずっとお待たせしてすみませんでした。これからはこのねえやがずっとここでお世話して差し上げますからね
その言葉に、フローロは先程までとは別の意味で身体を硬直させる。
外は危険です。あの時は姫様を逃がす事で精一杯でしたが、今ならばここでお守りしてあげられます
ブランの言葉に反応するように、入口の扉が音を立てて閉まる。フローロがそちらに目を向けると、分厚い鋼鉄の扉に、更に無数の鍵がかかっていく。
ずうっと、ここで暮らしましょうね、姫様
フローロの頬を撫で、ブランはこれ以上ないほど優しげな声で、そう囁いた。
第7話己の力を示しましょう-2
フローロサンを助けに行くには、まず中層に入らなきゃいけないんですよ
ガリガリと紙に地図を描きつつ、フォリオは説明する。
で、アタシやラディは基本的にユウェロイサマに呼ばれた時以外、中層には入ることを許可されてません。中層への通路はこことこことここの三箇所で、ユウェロイサマの部屋に一番近いのがここですね
そこに三つ階段の絵を描き、そのうちの一つに丸をつける。
絵、ヘッタクソだな
それは今別にいいでしょ!?
その場の誰もが思ったことをぼそりと呟くサルナークに、フォリオは怒鳴った。
上手に絵を描くスキルさえあれば
そこまで落ち込むことはなかろう。こんなものはわかればそれで良い
頭を抱えて俯くフォリオに、流石にOlは慰めの言葉をかける。
そんな事より、それでは中層に行くには守衛を倒さねばならんということか?
Olの魔術走査で調べた結果でも、上層に向かう方法はその階段しかなかった。
いえ、強行突破はオススメしません。中層に住んでるのはユウェロイサマ達だけじゃないですからね。そんな事したら壁族全体を敵に回す羽目になっちゃいますよ
それに中層ともなると守衛のヒト達も結構強いですし、とフォリオは付け足す。
では、魔術で姿を隠していくか?
それも、悪くはないんですけど確実性がちょっと低いんですよね
守衛たちがどんなスキルを持っているかわからない。ナギアの鑑定はある程度低級なスキルしか把握することが出来ないらしく、相手の手の内を全て見分けるというわけには行かないらしい。
運良く守衛のヒト達がOlサマのマジュツ?ってのを見抜くスキルを持ってなきゃいいですけど、スキルにも姿を隠せるようなものはあるんで、高確率で看破される気がするんですよね
Olの魔術とスキルでの隠形はそもそも原理が違う。守衛のスキルで見抜かれるかどうかは半々といったところだったが、賭けるには少し分が悪い可能性だ。
なので、向こうから来てもらおうと思います
ユウェロイは苛立っていた。
大股でずんずんと廊下を歩く彼女の姿を、中層の住人たちが遠巻きに見つめている。そんな事さえ腹立たしく、ユウェロイは殊更に足音を響かせ進む。
ブランはフローロにずっとつきっきりで、部屋から出てさえ来なくなった。
無論、その確保にユウェロイは一切貢献していないのだから褒美を期待するのもおかしいのだが、それにしたって労いの一言もあっても良いのではないか。そこまでの段取りを整えたのも、安全を確保しているのもユウェロイなのだから。
くそっ
誰の目も見えなくなったところで彼女は毒づき、母なる壁を殴りつける。誰にも見せることなど出来ない、みっともない姿だという自覚はあった。
要するに、自分は嫉妬しているのだ。ブランの寵愛を受けるフローロに。それは彼女の基準では酷く醜いことであったし、名誉ある壁族の抱くような感情ではない。
だが、心の内はどうしようもなかった。
そこに追い打ちをかけるようにやってきたのがフォリオからの連絡だ。例の別世界から来たという男Olについて、緊急に知らせたいことがあるという。要件ならスキルによる通信で伝えろと言っても実際に目にしてほしいの一点張りだ。
おかげで、ユウェロイはわざわざ下層に足を運ばなければならなかった。
フォリオ!私を呼びつけるとは、お前も偉くなったものだな!
皮肉を口にしつつ、ユウェロイは下層特有の粗末な扉を押し開ける。
途端、飛来した炎の塊が彼女を飲み込んで大爆発を起こした。
──なるほど
爆炎にまかれながら、ユウェロイは全てを理解し笑みを浮かべる。
それは紛れもなく歓喜の笑みであった。
お前も敵に回ったか、フォリオ!
鬱憤を晴らす相手と名目が出来た。フォリオを叩きのめし、そして彼女を操るOlとやらを倒して報告すれば、ブラン様も認めてくれるに違いない。
そんな絵図を描きながら、熱をものともせずにユウェロイは炎から飛び出す。その全身は、鈍く銀に光る甲冑で覆われていた。
喰らいやがれッ!
爆炎の外で待ち受けていたのは、剣を振りかぶったサルナークであった。
ふん
軽く構えたユウェロイの右腕が、硬質な音を立てて刃を弾く。同時に、ユウェロイは左腕をサルナークの腹に叩き込んだ。
む?ああ、そうか。お前が鋼の盾か
肉を穿つ感覚でも、かと言って弾かれるような感覚でもない。奇妙な手応えとともに止まる腕に、ユウェロイは以前受けた報告を思い出す。
ちぃっ!なんだ!?貴様も盾持ちか!?
おそらくは剣技スキル持ちなのだろう。下がって間合いを取りながらも鋭い斬撃が飛んでくる。
そんな希少(レア)なスキルなど持っているものか
それをユウェロイは鉄の篭手でいなす。わざわざ装甲の厚い部分で受けているのだ。盾スキルのような問答無用の防御能力など持っているわけもない。
だがまあ
喉元を狙って突き出された剣。右腕で突き出されたそれに沿うようにして、ユウェロイは彼の腕に己の左腕を当てた。
お前如きにそんな大層なスキルなど必要ないがな
なっ!?
サルナークは己の腕に現れた甲冑に驚愕の声を上げた。
全身装甲。ユウェロイが使っているのは、単に己の身体に鉄の甲冑を纏うだけの単純なスキルである。それはどんな攻撃も防げるような都合のいいものではないし、物を生み出すスキルの例に漏れず集中を解けば数秒で消えてしまう。
だが本物の甲冑に比べ利点もあった。その一つが、他人の身体にも生み出せるというものである。そしてそれは、適正な部位である必要などない。
サルナークの右肘につけてやったのは、左腕の前腕鎧(ヴァンブレイス)だ。左右逆向きの鎧をつけられ、彼の腕はもう曲げることは出来ない。つまりは剣を振るう腕としては死んだようなものだ。
くそっ!
慌ててそれを外しにかかる彼の左手をぽんと叩く。途端、その手にかぶさる形で手甲(ガントレット)が嵌った。身体に埋め込んだり、逆に鎧の一部を貫通するような付け方をすることは出来ないが、大きさにはある程度自由が利く。
ちょ待
待つわけがないだろう
もたつくサルナークの全身を甲冑で拘束し、ユウェロイは周りを見回した。少なくとも炎を飛ばしてきたフォリオはそう遠くない場所にいるはずだ。
だがしかし、フォリオの姿はどこにも見つからなかった。ユウェロイが踏み込んだ部屋は狭く、大して隠れられそうな場所もない。潜めそうなのは寝台の下やクローゼットの奥くらいだが、そんな場所から炎を放てば自分もただでは済まないはずだ。
眉をひそめるユウェロイの耳に、ジリジリという奇妙な音が聞こえた。
見れば、サルナークを覆う甲冑が赤熱していた。
距離を取りながら、ユウェロイは瞬時に悟る。炎を放ってきたのはフォリオではない。サルナークだったのだ。
次の瞬間、サルナークを覆う甲冑が弾け飛んで、四方八方に飛来した。
きっ消えろっ!
反射的にユウェロイはそれを消した。高速で飛来する鉄の塊はとても避けられる数ではなかったし、喰らえば甲冑の上からでもダメージは免れ得ない。それ自体は間違った判断ではないはずだ。だが──
ふうったく、オレって奴はすぐこれだ。だがまあ何とかこれで
白いモヤのようなものを身に纏いながら、サルナークはユウェロイを見据え、言った。
仕切り直しといかせてもらうぜ
第7話己の力を示しましょう-3
水蒸気か
うえっ、もうバレてんのかよ
呟くユウェロイに、サルナークは盛大に顔をしかめた。彼の周囲に漂う白いモヤ。それは、大量の水を炎で蒸発させた水蒸気。その残りの湯気であった。
甲冑の中で、水塊の水を大炎で蒸発させ、甲冑を吹き飛ばしたわけか
水は、熱して蒸気となるとその体積を急激に膨らませる。甲冑はその圧力に耐えきれず、弾けとんだということだろう。常人がそんな真似をすれば全身に重篤な火傷を負い、自らの身体も水蒸気の圧力で潰されてしまうところだが、サルナークは鋼の盾のスキルを持っている。そんな自爆に等しい行為であっても問題なく行えるというわけであった。
思っていたよりも賢いじゃないか、鋼の盾。大炎はフォリオから奪ったのか?
ハ。誰が言うかよ
サルナークは鼻で笑うと、両の手のひらを合わせて大量の湯気を作り始めた。これは少しばかりまずいな、とユウェロイは思う。
スキルで作り出す炎というのは、実は見た目ほど強いものではない。スキルで作ったものは基本的に放っておけばすぐに消えてしまう。炎はその最たるもので、スキルで作り出した炎はたいてい一秒も経たずに消えてしまう。
鉄の甲冑で防げるのはそれがゆえだ。連発でもされれば別だが、一発、二発程度の熱量であれば表面を少し熱するくらいで終わる。見た目が派手な割に、殺傷能力はそこまで高くない。
だが、高温の湯気はマズい。水は一般的に炎よりもよほど長持ちするし、甲冑の隙間から入り込んで熱を伝えてくる。そして何より近づいて拘束することが出来ないというのが厄介だ。
本来であれば最下層の人間などに出したくはなかったが、とユウェロイは内心で呟きながら、サルナークに向かって駆け出す。
反射的に入り口を塞ごうとするサルナークに向け、ユウェロイは左手を腰だめに構えた。その手は目に見えない棒でも持つかのように半端に握られている。そしてそれをぐいと突き出す動きに連動して、彼女の手の中に巨大な槍が現れた。
槍と言っても小さな穂先を持つ長槍(スピア)ではなく、大きな円錐形の先端を持つ突撃槍(ランス)だ。三メートル程の長さを持つそれは蒸気を切り裂いて、サルナークの喉元に突き刺さった。
む。凌いだか、勘のいい奴め
だがそこでピタリと止まる槍に、ユウェロイはつまらなさそうに言い捨てる。盾持ちに物理攻撃が効かないことなど先刻承知の上だ。しかし、攻撃が全くの無駄というわけではない。
鋭い穂先はサルナークが少しでも動けば、彼自身の力によって喉元に突き刺さる。だからこそユウェロイは彼に向かって駆け出すことで行動を誘発しようとしたのだが、サルナークは寸前で動きを止めた。
ではこれはどうだ
空いた右腕で、更に槍を生み出しみぞおちに突きつける。サルナークはたじろぐように数歩後ろへ下がった。
そら、進めば刺さるぞ!
ユウェロイは両手を離して、更に二本の槍を生み出す。手放された槍は地面に落ちず空中に留まったまま、サルナークの行動を防ぐ壁となる。
ちぃっ!
サルナークは苦し紛れに炎を放った。ユウェロイは更に槍を構えてそれを受ける。炎がユウェロイの甲冑に通用しないとわかっている以上、それはただの目くらましに過ぎない。
その隙に逃げるか、それとも距離を詰めてくるか。恐らく逃げるだろう、とユウェロイは読んだ。逃げてOlやフォリオの居場所まで誘導し、総力で叩く。それが現状で最も有効な戦略だ。近づいてくるなら刺し殺すまでのこと。
ユウェロイの槍はその大きさをある程度自由に変化させることができる。三メートルの槍を見て接近戦ならば与し易いと思ったのなら、その侮りの代償は血で払う事になる。
迎え撃つユウェロイの槍の先が、がしりと掴まれた。爆炎を割って、槍の先を握ったサルナークがぬうと姿を現す。
刃がついていないとは言え、それは軽く触れるだけでも肉を裂き骨を貫くスキル製の武器だ。当然そんな物を握り込めばただではすまず、サルナークの手から溢れた血液が槍を伝って流れ落ちる。
舐めるなっ!
ユウェロイはすぐさま槍から手を離し、両手から短い槍を生成する。それも一つや二つではない。一度に十の槍が彼女の目の前に浮かび、矢の様にサルナークに向かって放たれた。ユウェロイが生み出した槍の正体は、実際には己で振るう必要さえない投槍のスキルだ。
だがそれは、まるで見えない壁でもあるかのようにサルナークに当たるよりも前にピタリと止まった。
まさか、別の防御スキルを持っていたのか。困惑しつつも距離を取る為後ろに跳ぼうとし、ユウェロイの身体はがくんとつんのめった。まるで甲冑をなにかに固定されているかのように、動くことが出来ない。
捕まえたァ!
その隙に、動きを止めた投槍の雨を潜り抜けてきたサルナークがユウェロイの腕をがしりと掴んだ。振りほどこうにも、鋼の盾のスキルを持つサルナークはあらゆる力を無効化する。つまりは、一度掴まれたら絶対に逃げ出すことが出来ない。
血だ、とユウェロイは気づいた。彼の肉体は外部からのあらゆる力を受け付けない。しかしその肉体とはどこまでを指すのか?
厳密に言えば、その力は生まれ持った肉体の多少外部まで守っている。服にさえ傷がつかないのはその為だ。おそらくはスキル使用者の認識が影響しているのだろう、というのが通説だ。
サルナークはどうにかして、その認識を己の血にまで広げたのだ。血液が付着した物体は、そこから動かせなくなる。血液を引き剥がす程度の力でさえ、鋼の盾は阻むからだ。サルナークは槍でわざと自分を傷つけ、血液をユウェロイの槍や甲冑に向けて飛ばしたのだろう。
血液も、元はといえば己の肉体だ。流れ出たとしてもそこにスキルの力を適用するのは不可能ではないように思える。だがその発想に至った事自体が、驚くべきことだった。少なくともユウェロイは今までそんな方法を考えもしなかった。
く!
甲冑を解除して離れなければ。そう判断したユウェロイが甲冑を消す寸前、爆炎が迸った。
させねェよ!
ユウェロイの腕を握っているのとは逆の手から、立て続けに炎が放たれる。逃れる為に甲冑を解除すれば、すぐに炎にまかれてしまう。かといって、これほどの至近距離で炎を打たれ続ければ流石に甲冑も保たない。
ならば。
これでどうだっ!
ユウェロイは前後左右、サルナークの全身を包み込むようにして無数の槍を作り出す。
ほんの僅かでも身体を動かせば槍が突き刺さる!この状況で、攻撃を続けられるか!?
炎を放つのに動作は必要ない。だが、だからといって人は全く身じろぎもせずにいられるものではない。ましてや全身に刃を突きつけられた状態であればなおさらだ。
残念だったな
にい、とサルナークの笑みが歪むのを、ユウェロイは確かに目にした。
指一本動かせない状況ってのはもうとっくに経験済みなんだよ!
ジッ、と水の焼ける音。しまったと思ったときにはもう遅かった。
サルナークを中心として水蒸気が弾け、彼を囲んだ槍が四方八方に弾け飛ぶ。それは蒸気の圧力と共にユウェロイを強かに打ち付け、吹き飛ばした。
ふうっくそギリッギリ何とかなったって感じだな
ユウェロイを包む甲冑が消え去るのを確認し、ズキズキと痛む手のひらに傷に顔をしかめながらサルナークは壁にもたれかかる。甲冑が消えたということは気絶したということだ。
だが、やってやったぜ大将
ユウェロイは自分よりも格上だったという自覚がある。Olが授けてくれた血を使うという策とフォリオから借りたスキルを使ったとは言え、勝つことが出来た。
Olの見立てでは勝てるかどうかは五分。勝てずとも足止めが出来ればいい。そう言って任された役割を、最上の形で果たしたことになる。
オレがここまでやってやったんだから、そっちもしくじるんじゃねえぞ
サルナークはそう呟き、天井を見上げた。
フローロが歓声を上げる。目の前に立つ男に、ブランは目を見開いた。
どうやって、ここへ?
ブランは静かに、Olに問うた。一体いつ、どうやってか。この男は突然、密閉されている筈の部屋の中に現れていた。
俺の能力は知っているんだろう?
そうか、とブランは息を呑む。Olは母なる壁を操作できる。その能力は、壁だけではなく天井や床の形すら自由自在だ。ブランはそれを、部屋の形を変えるだけのものとイメージしていた。だがもし、穴をあけることもできるとするなら
守衛など、何の役にも立たない。下の階層から穴を開け、はしごでも何でもかけていや、あるいは壁を階段に変化させて、密室にでも侵入することができる。
愕然とするブランに、Olは告げた。
フローロを返してもらおう
第7話己の力を示しましょう-4
名前:ブラン=シュ
種族:鱗族
年齢:23歳
主人:フローロ
所持スキル:拳技LV8雷身反転従者LV10
視界に映る情報に、Olはなるほどと頷いた。ナギアから借り受けてきたこの鑑定というスキル。予想以上に役に立たないものだ。
所持しているスキルは表示されているが、それがどのようなものなのか、何の意味を持っているのかまでは全くわからない。
拳技LV8はおそらく徒手空拳を用いた技の事だろう。武器を用いず戦う技を、サルナークの剣技以上の強さで持っているということだ。しかし、それでは剣技より強いかと言われるとわからない。
そもそも人の身のままでは弱いからこそわざわざ武器を使うのだ。武器を持たなくとも同じだけ強いのであれば、この世に剣が生まれる必要性がない。
雷身はおそらく一瞬だけ垣間見た、ブランがまとっていた稲妻だろう。その拳の破壊力を増す効果を持ったスキルであるはずだ。でなければ、流石にダンジョンキューブを素手で破壊するなどという芸当が出来るはずがない。
そして残りの二つ。反転と従者LV10に至ってはどんなスキルなのか全くわからない。つまりは今までOlが目にした以上の情報は殆ど得られていないという事だった。
Ol、気をつけて下さい!
ブランの後ろから、フローロが警告の言葉を発する。
ブランは、
その言葉が終わるより早く、迸る稲妻を伴った神速の踏み込みがOlを襲った。
シャン、と金属の擦れる音が鳴り、ブランの足元に火花が飛び散る。
あら。武技は使わないタイプだとお聞きしていましたが
己の鼻先、紙一枚程度の距離に突きつけられた剣を見つめて、ブランは言った。Olがその分厚いローブの内側に隠し、抜き放った剣だ。
あの速さから止まれるのか、とOlは内心舌を巻く。魔術師相手に真っ先に距離を詰めるのは定石中の定石だ。それはこの世界でも変わらない。だからこそ、サルナークの剣技スキルを借り受けてまで、不意を打って剣を抜いた。雷光の速さで動けるならば、小回りは効かないだろうと予測しての事だ。
だがブランは、地面の敷物に焦げ跡を残しつつも止まってみせた。高レベルの拳技が為せる技か、それとも雷光スキルが稲妻の如き速さで自由自在の足取りをなしうるものなのか。後者であれば厄介どころの話ではない。
まあな
答えつつ、Olはローブの裾から袋の口を取り出す。途端、無数の蠍蜂が突進のスキルでブランに向かって飛来した。
パン、と音が一度だけ鳴る。いや、鳴ったようにOlには聞こえた。だが、実際には一度ではないはずだ。そうでなくては、二十六匹の蠍蜂が全て殴り潰されている説明がつかない。拳が音より早く動いたがゆえに、一度しか聞こえなかったと判断すべきだろう。
その蜂の群れに隠れるようにして、Olは短刀を投げはなっていた。ブランはそれをも拳で殴り壊そうとして、ピタリと腕を止める。そして素早くそこに身をひねり、それをかわした。
手のひらにすっぽりと収まってしまう程度の小さな短刀が、ブランの背後のテーブルに突き刺さり、それを粉々に破砕する。
鉄の腕ですか
勘のいい奴め
Olはブランを剣で牽制しながら舌打ちする。今のが当たっていれば勝負は決まっていたはずだが、その一方で高い可能性で避けられるだろうとも考えていた。
ブランの本当の強さ。それは、スキルを用いた戦闘に極めて慣れているということだ。相手が不審な動きをすればそれを高い精度で見抜き、どのようなスキルを使っているかをほとんど無意識的に推察する。サルナークにもっとも足りなかった物を、高いレベルで持ち合わせているということだ。
故に、Olは早い段階で鉄の腕を見せた。防御的なスキルを持ち合わせないブランにとって鉄の腕は脅威的なスキルであるはずだ。一撃でも喰らえばそれだけで戦闘不能な傷を負う可能性が高い。ブランはそれを警戒し、積極的な攻撃ができなくなる。
──そう読んでいたOlに、ブランは躊躇わずに踏み込んだ。慌ててそれに合わせ剣を振るうが、ブランは体勢を低く屈めてそれをかわしつつ、Olの胸元に拳を叩き込む。
ドン、と衝撃音が二つ。Olの身体はボールのように跳ね跳んで、背後の壁に激突した。
油断も隙もありませんね
痛みに顔をしかめつつ、ブランはロングスカートの裾をはたく。そこから伸びた長い尾が、Olの放った小石を受け止めへし折れていた。
それはラディコが生やしているような、毛の生えた獣のような尾ではない。蛇のような否。それを示すもっとふさわしい生き物の名を、Olは知っていた。
竜、か
あら、ご存知ではなかったのですか
ブランは髪をかきあげ、側頭部に生えた長い角を指でなぞる。
そうです、Ol!鱗族は魔族の中でももっとも強靭な力を持つ一族竜の因子を持った魔族です!気をつけて下さい!
言うのが遅すぎるわ
ごほ、と血を吐き出しながら、Olは立ち上がる。
手応えが妙でしたね。何か防御スキルでも?
悪いがこれは自前の魔術だ
正確に言えばそれは魔術ではなく魔道具。この世界に着たときから着ている、ローブのおかげだ。見た目はただの布にしか見えないが、外部からの攻撃に対しては鋼の鎧よりも高い防御性能を誇る。これを着ていなければ今の一撃で即死だっただろう。Olはそれを織り上げた、第一の使い魔に感謝を捧げた。
同時に、やはりスキルなどというものは信用できんな、とOlは内心で呟く。先程の一撃、恐らくユニスであれば剣の腕前が今のOlと同等だったとしても避けていたはずだ。
剣技スキルで得られるのは剣の振るい方のみ。相手がどのような攻撃を仕掛けてくるかの読みや反射神経、身体能力までは得られない。
だがそれでも、尾は潰した。先程の急制動は恐らく尾を使ったものだ。その証拠に、敷物に残った焦げ跡は一本のみだった。つまりは両の足だけでは、あの速度で動きつつ急停止は出来ない。
そは映したる陰影、虹梁の檻、穿ち、彷徨い、主たる王、一つ巡りて時を切る。二つふたかた石を踏み、三つみまごうばかりなり
唐突に呪文を唱えだすOlに、ブランは動きを止めた。スキルに呪文を使うようなものはない。だからこそ、ブランにOlの行動は予測できない。だが、歴戦の戦士であろうブランのスキル予測はもはや無意識の域にまで高まっている。予測できないからと言って、簡単に打ち切れるものではない。結果として、ブランは三呼吸分の時間をOlに許した。
ブランの腕に雷光が集まる。それを集めるのに更に一呼吸。その刹那、Olは叫んだ。
ラディコ、今だ!
その視線を追い、ブランは後ろを振り返る。ラディコがもともと持っていた鉄の腕と、ブランが与えた銀の腕。Olが持っているのがどちらであろうと、即死性のスキルがもう一つ存在している。
Olが壁を操り入り口を作って入ってきたのなら、壁、床、天井、全ての方向からの奇襲がありうる。ブランは常にそれを警戒して戦っていた。だから、その時も完璧に反応した。
Olの視線の先だけでなく、研ぎ澄ました感覚が全方位からの攻撃に備える。勿論、Ol自身の攻撃に対してもだ。
だが、ブランは根本的な部分を読み違えていた。ダンジョンの壁を操作する魔術というのはその見た目に対して非常に高度なものである。
地中には様々な圧力がかかっている。天井を支えるために必要な壁の厚みというものがある。石には剛性があり、変化させても崩壊しない速度がある。そう言った諸々を完全に解析、計算しつつ縦横無尽に壁を操作する迷宮魔術は、Olだからこそ生み出せた彼の研究の真髄そのもの。つまりは──
Olにはもう、そのような魔力など残されてはいなかった。
ありとあらゆる攻撃を想定していたブランの横を、Olがよろよろと通り過ぎていく。そしてフローロを抱きかかえ、軽く手をふった。
ではな
神速の突き。それがOlの胸を貫く寸前に、彼の姿はかき消えた。
転移魔術によって。
第7話己の力を示しましょう-5
転移した先は、四方二メートル程度の小さな小さな部屋だった。
大丈夫ですか、Ol!?
縋り付くようにしてフローロが尋ねてくるが、正直に言って全く大丈夫ではない。魔力は殆ど空になりかけていて眩暈がするし、強化魔術をかけて無理に動かした身体は全身が引きつりそうに傷んでいる。ブランに打たれた胸は骨の一、二本は折れていそうだ。
だが、Olはそれをおくびにも出さずに頷いた。少なくとも身体は動くのだから支障はない。
お前こそ、無事で何よりだ
最悪既に殺されている可能性すら考えていたが、フローロは思ったよりもずっと元気そうであった。むしろ髪を整えられ、服を立派なものに変えられて、ブランに連れて行かれる前よりもよほど健康に見える。
ありがとうございます、オウ──んっ
礼を述べるフローロの唇を、多少強引に奪う。
えへへOl
それだけで、あっという間にフローロのスイッチが入った。
全力でやれ
全力でですか?
フローロの身体を抱き寄せ睦言のように囁くOlに、フローロは戸惑うように問い返す。
ああ。できる限りだ
わかりました。んっあっあぁっ!
頷いた途端に胸を鷲掴みにされ、フローロはそれだけで絶頂に達して高く鳴く。
OlOlの、お口でしたいです
駄目だ。今は我慢しろ
ひぅっ!
舌を突き出し懇願するフローロの股間に指を這わせれば、それだけで彼女はたやすく絶頂に達した。
我慢、なん、てぇ
気をやるのは我慢する必要はないぞ
はぁぁんっ
フローロをぐいと壁に押し付けるようにして腰を掴み、下着を少しずらしていきなりずぶりと挿入する。
Ol、いつもとっ、違いますっ
するとフローロはどこか怯えたようにそう言った。
違う?
いつもより、なんだかっ乱暴で強引で
それはそうだろう、と思う。理由があってこうしているのだ。多少性急になっている自覚はあったが致し方ないことだった。
それがなんだか
だが本当に理由はそれだけだろうか、とOlは考え直した。言われてみれば、いつもより興奮している気がする。それは恐らく、戦闘の直後だからだろう。直接命を削り合い、傷を負い、確かにOlの雄は興奮していた。
まるで煮えたぎった油のような、破壊的な衝動にも似た性的欲求。
怖いか
いいえ。そんなOlも、なんだか素敵だなって♡
そこに、フローロが火を投げ入れた。
ひあぁぁあんっ♡
ずん、と叩きつけるような抽送に、フローロは高く嬌声を上げる。
あぁっ♡オウ、ルぅっ♡だめ、ですう♡
服の裾から入り込んでくる男の腕にフローロは身を捩る。しかしOlにとっては、それはかえって侵入を促しているようにしか思えなかった。
ひあぁんっ♡
両の手で後ろからたわわな果実を鷲掴みにすると、もにゅりと歪む柔らかな手触りの中、ピンと固く尖った感触が手のひらに当たる。それを押しつぶすように揉み上げながらパンパンとリズミカルに腰を打ち付ければ、たちまちフローロの身体は力を失ってその場に崩れ落ちそうになった。
はあんっ♡こんな、格好、恥ずかしあぁっ♡
ふにゃふにゃになったフローロの太ももの下に腕を通し、抱えあげるようにしながら下から突き上げる。それはまるで幼子の排泄を手伝うかのような姿勢だったが、その秘裂にずっぷりと突き刺さった男根と、それを伝うたっぷりとした愛液は体勢とは裏腹にこの上なく淫靡な光景だった。
あんっ♡や、ぁんっ♡は、あぁぁんっ♡
一突きごとに絶頂を繰り返すフローロの身体にはもはや一片たりとも力は入らず、ただなされるがままに持ち上げられ、犯される。太ももと乳房に這わされた男の指が柔らかな肉に沈み込んで、生々しく歪ませた。
オウ、ルぅ♡ちゅー♡したい、ですぅ♡Olと、ちゅぅ♡あかちゃん♡つくりたいからぁ♡
まるで玩具のように穴を使われながらも、フローロはそうしきりにねだる。受精の仕組みはそうではないと教えたはずだが、快楽で頭から抜け落ちているらしい。
Olはフローロと繋がったまま、彼女の身体をぐるりと反転させる。
あっ、んっ、むっ♡ちゅっ♡んんっ♡オウ、ルぅ♡きもち♡いぃっ♡ふぁっ、んっ♡んっ、んんっ♡
顔を近づけるとフローロは吸い付くように唇を重ね、濃密に舌を絡ませる。Olはそれに答えながらフローロの太ももを抱えあげ、コツコツと彼女の子宮口をノックするように突き上げた。
だ、めぇっ、オウ、ルッ♡わた、も、だめぇっ♡へんに、なっちゃ、ますぅっ♡ひああぁんっ♡
ああ。なれ
フローロの背を壁に押し付けるようにしながら、そのたっぷりとした乳房を両手でつかみ、突き上げる。
あぁっ♡すごいっ♡Olぅっ♡素敵ですっ♡それ、すきぃっ♡
荒々しく突き入れながら、指の跡が残るほどの力で乳房を掴む。反り返った雄にずっぷりと貫かれた秘裂からボタボタと愛液が滴って、床を汚す。ピンと固く張り詰めた乳首をコリっと歯で甘く噛む。
んあぁぁっ♡
痛みに近いだろうそんな刺激にさえ、フローロは気をやって背を大きく反らした。まるでOlに胸を差し出すようなその体勢に、彼は容赦なく乳房を攻め立てる。
あぁっ♡おっぱいっ♡きもち、いいっ♡で、すぅっ♡
先端を指で強く摘み捻り上げるようにしてやると、フローロは悦びの声をあげながらきゅうっと膣口を締め付けた。
出すぞ!
はいっ♡きてくださいっ♡
普段大人しく、生真面目で清楚な娘が見せる淫らな痴態。豊満な胸を力任せに引っ張られ、なお悦ぶその様にOlもまた限界に達し、ぐりっと腰を押し付ける。
ひぅっ♡あ、あ、あ、きてるっ♡Olの、熱いせーえきっ♡おなかのなか、たくさんはいってきてますぅぅっ♡
どくどくと迸り、強い勢いで子宮を叩く白濁の奔流に、フローロは足をピンと伸ばして深く絶頂する。Olはそんな彼女に容赦せず、精液を流し込みながらも更に腰を叩きつけるようにして責め立てる。
はっ♡ぅうっ♡ずっとっ♡イって♡るのにぃぃっ♡そんなっ♡あぁっ♡オウっ、ルぅっ♡
それ以上の動きを止めるかのようにフローロはOlに両手両足で抱きつきながら、もう一度唇をOlのそこに重ね合わせる。だがそれは、かえって己の奥底にOlの男根を迎え入れたに過ぎなかった。
~~~~~~~~~っ♡♡♡♡♡
唇を塞がれ、肌を密着させ、奥の奥に精液を吐き出されて、脳が焼ききれんばかりの快楽がフローロを襲う。チカチカと視界が明滅し、身体中がガクガクと痙攣する。腟内が、視界が、意識が、白く白く塗りつぶされていく。
そしてその全てが純白に染まったかと思えば、彼女はぷつりと意識を失った。
あれOl
気がついたか
目を覚ますと、フローロはOlの背中に背負われていた。
私
あれだけ気をやっておいて、よくこれほどはやく目覚めるものだ。お前が気絶してからまだ数分と経っておらんぞ
言いつつもOlはしゃがみ込んで何やら作業をしているらしく、彼の手元からはカチャカチャと金属が擦れ合う音が聞こえてきていた。
何をしているんですか?
魔力が尽きてしまったものでな。本職ではないが、手慰みに覚えた事があるのだ
Olが手にしているのは二本の金属棒だ。同じものをつい最近、フローロも目にしたことがある。それは、耳掻きだった。
耳掻きで何を?
他に手頃な道具がなかったのでな。だが存外使い勝手は悪くない。この程度であればうむ。開いたぞ
カチリと音がして、Olの目の前の壁が動く。否、それは扉であった。Olが耳掻きを差し込んでいたのは、その扉の錠前だ。対となる鍵を使わなければ開かないはずのもの。それを一体どうやったのか、Olは耳掻きで開けてみせたのだった。
あの、Ol。私、自分で歩けますから
開く扉を前に、フローロはOlの背から降りた。フラつく様子もなく自分の足でしっかりと立つフローロに、Olは感心する。
本当にお前はなんというか、タフだな。確かに全力で術をかけていたであろうに
え?あ、はい。そうですね。すごく気持ちよかったです♡
気絶する前の事を思い出したのか、フローロのスイッチが入りかける。Olはぎゅっと胸元を押さえる彼女の頭をぽんと軽く叩き、正気に戻した。
お前の魔力の出力量からすれば、常時の百倍から二百倍と言ったところか。そんな感度で犯され続ければ
Olは扉を完全に開き、その先を指し示す。
ああなるのが自然であろうにな
そこには、イき果てて床に横たわるブランの姿があった。
第7話己の力を示しましょう-6
ブランがどうして?
スキルというのは常時影響するものと、オンオフを切り替えられるものがあるそうだな
ひょいと、Olはブランの身体を抱き起こす。それを可能にする鉄の腕もそういったスキルの一つだ。
スキルのオンオフとは、うっかり切り替えられるようなものではないとナギアが言っていた。実際に使ってみれば確かにその通り。オンにするにもオフにするにもある程度の集中が必要だ
そしてブランをベッドに寝かせると、Olは彼女の手足に枷をつけて拘束した。Olが縛られていたものと同様のものだ。
はいでも、それがどうしましたか?
内通者はナギアではない。お前だ、フローロ
くるりと振り向くOlの言葉に、フローロは目を見開く。
そそうだったんですか!?
そして、驚愕とともにそう叫んだ。
ああ。と言っても勿論、お前が自覚的に情報を流していたわけではない。その支配者の瞳の効果だ
でも、Olが調べた中には瞳の効果を受けてるものはいないってそれに、あれ?私自身が、私の視界を見てたってことですか?ん?
混乱してきたらしく、フローロは頭を抱えるようにして首をひねる。
瞳の効果を受けていたのはブランの方だ。こいつの主人はお前に設定されている
それは鑑定で目にした中で、唯一と言っていい有益な情報であった。
そしてその効力を逆転させるスキルも持っている。恐らくは反転という名のスキルがそれだろう。故に、お前には支配者の瞳の効力はかかっていないが、ブランはお前の視界を盗み見ることが出来たというわけだ
それもまた鑑定で目にした情報ではあったが、その存在そのものはもともと予測していたものだ。ナギアから得た情報にしては、あまりにも対処が的確だったからだ。他に情報源がいるとするなら、フローロでしかありえない。
じゃあ、ブランが倒れてるのって
お前が感じた快感を、こいつも感じたからだ
支配者の瞳はその名前とは裏腹に、視界以外のあらゆる感覚をも共有するスキルだ。フローロを連れて転移したOlの行き先を探るため、ブランは当然そのスキルを用いてフローロの認識を共有した。
その瞬間を突いて、Olはフローロに感度を上昇させる魔術を使わせ、絶頂させたのだ。かなり強引に責めたのもスキルをオフにするような猶予は与えない為。何故かやけにタフなフローロは普通に喘いでいたが、普通の女であれば最初の絶頂で気絶していてもおかしくない。それほどの責めであった。
さて、とは言えこのまま寝こけていられても困るからな。起きよ
Olがブランの頭に手を当て告げると、パチリと弾けるような音が鳴る。次の瞬間ブランは跳ね起きて、拳を構えようとし枷に足を取られてすっ転んだ。
勝負はついた。大人しく認めろ
いいえ!いいえ、認めませんあのような手段で!
キッと鋭い視線でOlを睨みつけるブラン。だが勢いよく転んだものだから枷が絡まり、芋虫のように地面に這いつくばった姿勢のままでは威厳も何もあったものではなかった。
何の話ですか?
一人彼らの会話についていけず、フローロは首を傾げる。
何のことはない
Olは嘆息し、ブランをみやった。
そもそもこいつはお前を殺すつもりなど更々なかったのだ。俺はただ試されただけ。お前を王にする能力を本当に持っているかどうかをな
別にそこまでは求めておりません
その説明に、不服そうにブラン。
私が試したのは、ただこの中層での私の立場を盤石にするまでの間、フローロ様をお守りするに相応しい存在であるかどうかだけです
過程はどうあれ俺はこうしてお前を下して立っている。それで十分その証明になるのではないか?
なるわけがないでしょう!?
ブランがこれほど声を荒らげる場面を、フローロは初めて目にした。
姫様にあのような不埒な真似をした相手を、どうして認められるとお思いですか!
至極もっともな意見であった。
待って下さい、ブラン。それについてOlを責める必要はありません
いいえ!失礼ながら姫様はご自身が失ったものを理解しておられないのです
苛立たしげに竜の尾を振り、ブランは言う。
支配者の瞳さえ抜け落ちていなければ、そのようなことはさせなかったのに!
悔しげに歯を食いしばるブラン。そう言えば初めてフローロを抱いたときには支配者の瞳はサルナークに奪われた状態だったか、とOlは思い出す。
フローロが最下層などというどう考えても治安の悪い場所に送られていたのも、いざとなればそれを用いて守ることができると思ってのことだったのだろう。まさか彼女がそれを自ら手放すなどということがあるとは思いもせずに。
いいえ、ブラン
しかしフローロは毅然とした態度でブランに告げる。
私はちゃんと理解しています。そしてその上で言っているのです
ブランは不思議そうな表情で、フローロを見上げた。
Olは私の夫です。ですから、私に対して何をしても不遜には当たりません
そのあまりの衝撃にブランは目を見開き、絶句する。
待て夫とは何だ!?
そしてその衝撃は、Olも味わっていた。全く覚えのない話だったからだ。
異世界からきたOlが知らないのも無理はありません
慈しむような笑みを見せ、フローロは答える。
共に子を育み、互いに支え合う男女を、この世界では夫婦と呼ぶのです
知っておるわ!!
思わずそう怒鳴りたくなる衝動を、Olはかろうじて押さえた。最初にフローロを抱いた時。キスで赤子ができると思っていた彼女に、生殖とは何か、どうすれば子ができるのかを教えて。
結局、そもそものOlはフローロとの子を欲しがっているという勘違いを正し忘れていたことを、たった今思い出したからだ。
子作りそのものの正しい方法を教えても、その行為そのものはしていたのだからその勘違いが正されるはずもない。実際にはOlほどの魔術師ともなれば誤って命中させてしまうことなどまずないのだが、そんなことまでフローロが知る由もなかった。
そうだったの、ですか?
呆然と尋ねるブランに、フローロはOlの腕を抱いて見せる。
私は私の全てをOlに差し出し、Olはそれを受け取って、私を支え魔王へと導く事を誓い、そして私の子を望みました。私達の関係が夫婦でなくして、何だというのでしょうか?
確かにそうだが!と、Olは内心で呻く。だがその大半は、ただ必要性によって迫られたものだ。
その男が、フローロ様を愛していると?
ブランも経験したのでしょう?愛していなければ、あのような情熱的なキスができるでしょうか
そんな馬鹿な理屈で説得されないでくれ。半ば祈るような思いでOlはブランに念を送る。
それは確かに
だがブランはぽっと頬を染め、視線を反らした。その記憶があるということは、どうやら思ったよりもだいぶ快楽に耐えていたらしい。
──ですが、フローロ様。フローロ様はどうなのですか?
私ですか?
ブランの問いに、フローロはまるで思ってもみない問いをされたかのようにきょとんとした。
はい。フローロ様が意に沿わぬ相手を夫にするというなら、このブラン、けしてそれは看過できません。たとえ大願を果たすためであったとしても
ブラン
真剣な眼差しを向けるブランに、フローロは感じ入ったように見つめる。
そしてくすりと笑い、答えた。
勿論、私もOlのことを愛しています
ぎゅっとOlの腕を抱きしめ、屈託のない笑顔でそう言い切る。
私が何者であるかを知る前からどことも知らぬ地で、Olは己の身を顧みることなく私を助けてくれました。彼のことを私は誰よりも信じ、愛しています
そのあまりにもひたむきな告白に、Olは腹を決めた。
まあ、そういうことだ。ブラン、お前はいかにする
ぐっと抱かれた腕ごとフローロを抱き寄せて、Olはブランにそう尋ねる。
枷を解いて頂けますでしょうか
静かにそう頼むブランの枷を解いてやると、彼女は二人の前に改めて跪き、頭を垂れる。
正直まだ、私はあなたを認めるわけには参りません
ブラン!
この期に及んでそう言うブランに食ってかかろうとするフローロを、Olは押し止める。
あなたが真に姫様を任せるに足る方かどうかお傍で見定めさせて頂きます。それでよろしいでしょうか
ああ、そうしてくれ
それが最大限の譲歩であったのだろう。ブランに、Olは鷹揚に頷いた。
ブラン様!?
Ol、フローロの後ろを歩くブランの姿に、ユウェロイは目を見開いた。それが指し示すところは唯一つだ。
そして縛られたユウェロイを見て、Olは感心したような声を漏らす。
勝てたか
短い、しかし誇らしげな声でサルナークは答えた。Olとしては彼がユウェロイに勝つ可能性は高くて三割程度であると考えていた。勝てずとも、Olがブランを相手取っている間の時間稼ぎさえ出来ればいい。守りに徹したなら、サルナークの能力は時間稼ぎにはもってこいのものだからだ。
だが無論、勝って困ることは一つもない。Olは己の中でサルナークの評価を少しだけ上昇させた。
Ol様、ご無事ですか!?
ローブが焼け焦げ擦り切れた姿を目にして、ナギアが慌ててOlに駆け寄る。
大事ない。魔力を補充してしばらく休めば治る
そのローブには自己修復機能が仕込んであるし、Ol自身の肉体も同様だ。
ってことは、しっぽり補充しなきゃですね、Olサマ
交尾!?また交尾するのお!?
フォリオとラディコがOlの両腕を取って、嬉しげにそんな事を言う。
フォリオ!この裏切り者が!
いやあ、やっぱり勝てませんでしたよ。ごめんなさいね、ユウェロイサマ
烈火の如く怒り狂うユウェロイに対し、フォリオは軽い口調でそう答えた。
貴様ぁ!良くも私にそんな口を!
ブラン、説得しておいてくれ
怒鳴り散らすユウェロイを、ブランはずるずると引きずっていく。
あースッとした
その様子を見て、ケラケラと笑いながらフォリオ。主人に対する不満がよほど溜まっていたらしい。
ナギア。鑑定と鉄の腕、剣技を返す。取り出してくれるか
鉄の腕はそのままでいいんじゃないですか?ラディは銀の腕持ってますし
Olの胸の中からスキルの結晶を取り出すナギアの横から、フォリオがそう尋ねた。
いや、不要だ。やはり俺にはこのスキルとやらは馴染まん。それに
抜き出された結晶を、Olはじっと見つめる。スキルごとに結晶は色も形も違う。スキルに詳しいものなら、結晶を見るだけでどんなスキルなのか予測することもできるのだという。
下位のスキルを持っていることが全くの無駄とは限らん
首を傾げるフォリオに、確証はないがなとOlは答える。
まあOlサマがそう仰るならはい、ラディ
わーい
フォリオが差し出した鉄の腕を、ラディコが飛びつくようにパクリと咥えた。
スキルを育てるスキルなんてのが本当にあったらよかったんですけどね
フォリオは深くため息をついた。結局、ブランがそれを持っているという噂は根も葉もないものであった。銀の腕にしてもラディコの鉄の腕を強化したわけではなく、ただ別口で持っていただけだ。
もし見つけたら教えて下さいね、Olサマ
覚えておこう
何故、と問うことをOlはあえてせずに頷いた。そんなスキルがあれば確かに便利だろう。だが恐らくフォリオがそれを欲しているのはそのような単純な理由ではない。それを察したからだ。
ではブラン様が部屋を用意してくださったそうですので、お支度をしてまいりますわね。フォリオ様、ラディコ様、サルナーク様、お手伝いをお願いしてもよろしいでしょうか?
あぁ?なんでオレがンな事を
まあまあ。男手があったほうが助かるしさ
ボクも頑張ってお手伝いするよお!
何か気を利かせたのか、ナギア達はそう言って部屋を出ていく。残されたフローロはOlの隣にぽすんと座って、えへへと笑った。
怪我の調子はどうですか、Ol?
魔力そのものは十分に補充してある。後はこれを消化すれば簡単に治る程度の傷だ
そう答えながらも、思い出させるなとOlは顔をしかめた。何しろ魔力が足りないものだから、痛みを止めるような術すら使うのが惜しい。これほど節約して暮らすのは一体何十年ぶりだろうか、とOlは考えた。
助けに来てくれて、嬉しかったです
お前だって俺がサルナークに捕まった時、助けに来ただろう
あれは、Olは自力で抜け出せる状態だったじゃないですか
こてん、と首をOlの肩にもたれさせ、フローロは問う。
ねえ、Ol。一つ、聞いてもいいでしょうか
Olは答えなかったが、それをフローロは肯定と取った。
なんでOlは、私を助けてくれるんですか?
夫たるもの、妻を助けるのは当然だろう?
そんなのは私が勝手に言ってるだけじゃないですか
自覚が合ったのか、とOlは驚いた。
それにOlが私を助けてくれると決めたのは、私が自分を差し出すよりも前。あの時、そんな条件を出すより先に、Olは私に手を貸してくれることを決めていましたよね?
どうやらフローロの見方を変えねばならないようだ、とOlは独りごちる。彼女は思っていた以上に聡いようだ。
お前、それがわかっていながら全てを差し出したのか
そうするだけの価値があると思ったからです
一歩間違えば愚かと呼ばれるほどの、度胸と決断力。存外こいつは良い王になるかもしれぬ、とOlは思う。
聞かせて下さい。何故、Olは私を助けてくれたんですか?
構わんが何故今更そんな事を聞く?
それは純粋な疑問であった。Olに隠された目的があるとして、それがフローロにとって邪魔になることであれば今聞いたところで教えるはずもなく、そうでないならば初めに聞けばいいだけのことだ。
特に理由はないですね
とぼけているのか、それとも素で言っているのか。判断のつかない表情で、フローロ。
ただ、好きな人のことは知りたいじゃないですか。私、Olのことを何も知らないなって思って
だが続く言葉に、Olは渋面を作った。
こ、告白したのにその顔はなんですか!
狙ってやっているのなら恐ろしいし、狙っていないならばそれはそれで厄介だ。
お前が目指しているのが、魔王だからだ
Olの言葉に、フローロは首を傾げる。
一目惚れだったとか、健気な私のことが可哀想になったとか、元の世界の恋人に似てたからとかじゃなくてですか?
そんなわけがあるか
ではなぜ?
一体どこからそんな発想が出てくるのだ、と思いつつも、Olは続ける。
俺も元の世界では、魔王と呼ばれていた。だからだ
そんな理由で?
フローロは目を瞬かせた。同じ魔王繋がり。確かにフローロが最初にOlを助けたのも、自分と似たような境遇だと思ったからだ。しかしフローロと違って、Olがそんな甘い理由で手を貸すとはとても思えなかった。
いえ、待って下さい
だが、フローロはにわかに気づく。
Olも、魔(・)王(・)と呼ばれていたんですか?
ああ、その通りだ
頷く彼に、フローロは目を見開いた。
魔族を一切差別せず、フローロでもナギアでも抱く彼。魔を統べる王に相応しい存在であるだろう。人間でありながら、魔族の自分よりもよほど向いているのではないか。フローロはそう思った。
なんで?
正しく問いを発するフローロに、Olは首を横に振る。
ただの偶然かも知れぬ。だがあまりに不自然だ。故に、元の世界に戻るのならば、そこに鍵があると、俺は思う。それがお前に手を貸す理由だ
魔王。
全く異なる言語体系を持つ世界からやってきたOlの言葉の中で。
その称号を指す語だけが、この世界の言葉と全く同じ響きを有していた。
第三期二章に続く
第8話セックスしないと出られない部屋を作りましょう-1
闇があった。
四角く切り取られた闇だ。
一筋の光さえも差し込まない地下の部屋。空気さえもがねっとりと粘りつくような、濃密な闇。明かりもなく何も見えないというのに、その闇を割って赤毛の少女が部屋に入ってくるのがわかった。
少女が浮かべているのは、部屋の闇に勝るとも劣らない暗い表情だった。普段の快活さは見る影もなく、いつも朗らかな笑みに彩られていた表情は疲労と倦怠に沈んでいる。
帰ったの、ユニス
少女に向かって、闇の中から声が投げかけられた。酷く耳に馴染んだその声の主の名を、しかし思い出すことが出来ない。
うんやっぱり駄目だった
ユニスはどんな時も明るく健やかな英雄の少女は、ヘドロのように濁った声で答え、その手に持った物を力なく取り落とす。それは、無数の黒い糸のようなものがへばりついた、球状の物質だった。
ところどころが赤黒く染まったそれは、地面をごろごろと転がっていく。
闇の中の声が、誰に投げかけるというわけでもなく響く。
どうして、こんな事になったのかしらね
悲嘆に満ち満ちた声だった。この声の持ち主もまた、本来ならばこんな声色を出すような人物ではない。そう思うのに、その根拠を思い出すことができない。
ユニスが取り落とした球体が、やがて緩やかにその動きを止める。
ばらりと黒い糸状のものが広がり、その奥にあったものがあらわとなる。
大きく深緑の目を見開いた、褐色の肌を持つ女の頭。
──それは黒の女帝、エレンの首だった。
Olは跳ね起き、周囲を見回した。見慣れない部屋に、見慣れない寝台。
一瞬混乱した後、肌に触れる柔らかく暖かい感触に思い出す。一糸まとわぬ姿でOlにくっつきながらすやすやと寝息を立てているのは、フローロ。ここは長年住み慣れたOlの魔窟ではなく、どことも知れぬ異世界のダンジョンの中だった。
昨夜はフローロと肌を重ねた後、互いに裸のまま眠りについた事を思い出した。
Olはどくどくと跳ねる胸をおさえ、呼吸を整える。
異常に現実感のある夢だった。ユニスと話していたのは間違いなくリルだ。こうして目を覚ましてしまえばなぜ右腕たる彼女の名前を思い出せなかったのか不思議でならないが、夢とはそういうものだろう。
そしてユニスが持っていた首変わり果てた姿になってはいたが、あれは黒アールヴたちの長、エレンだ。
エレン。Olのいないダンジョンで、彼女が反旗を翻すというのはなくもないだろう。彼女の忠誠は飽くまでOl自身に向けられたものであって、彼がいなくなればあるいはそういうこともあるかも知れない。
だがそれは、少なくとも何年何十年と経ってからの話だ。アールヴ達は気が長い。Olがこの世界に来てからの数日で反乱を起こすほど他の者達との仲が険悪だったとは思えないし、思いたくはなかった。
それに何より、ミオがいる。あの心優しい獣使いの少女は争いを好まないし、エレンたちとの仲も良好だ。ミオが止めればエレンは聞くだろうし、仮に聞く耳を持たなかったとしても力づくで止められる戦力がミオにはある。なにせ獣の魔王だ。
あるいは、この世界と元の世界とでは時間の流れが違うのかも知れない。そういう異界の話は聞かないでもない。だが時間の流れすら異なるほどに隔絶した世界であるなら、元の世界の情報がこのような形でOlに伝わってくるというのも考えにくいことだ。
結局のところ、ただの夢という可能性が一番高いだろう、とOlは結論づけた。
Ol?
一人思案していると、傍らのフローロが寝ぼけ眼をこすりながらOlを見上げる。
なんだか凄く、悲しそうな顔をしていました
フローロはそう言って、そっとOlの頬に手を触れる。
気のせいだろう
気遣わしげなその手のひらが妙に疎ましく感じられて、Olはその手を素気なく跳ね除ける。
むーじゃ、こっちしますね
フローロは軽く頬を膨らませると、上半身を折りたたむようにしてOlの股座に顔を近づけ、まだ柔らかいままのそれをちゅぷりと口に咥えた。
余計なことを
性器を包む暖かく柔らかい感触に、Olは呻くように声を上げる。フローロの舌先がまるで別の生き物のようにうねうねと動き、Olの弱い部分を撫であげながら、絶妙な力で吸い上げていく。
ほんの少し前までは処女だったというのに、淫魔もかくやとばかりの舌技は腰が蕩けんばかりの気持ちよさだった。
んふ
あっという間に硬く反り返る男根にフローロは目だけで笑い、ちゅぽんと音を立てて口から外す。
大きくなりましたね
すっかり怒張しきった一物をやわやわとしごき立てながら、フローロは愛おしげに頬を擦り寄せる。そんな彼女からOlは視線を外すが、止めようとはしなかった。こんな中途半端な状態で止められても困る。しかし、快楽で不安を押し殺そうとするのだけは避けた。
どんな状況であれ現実から目を反らすのは悪手だ。あんな夢を見るほど自分は不安を感じているのだとしたら、なおさらそれを認め正視した上で、最善の手を打たねばならない。そう考えるのが、Olという男だった。
わたしが動きますからね
そう言ってフローロはOlを組み敷き、そそり立つ肉槍の上に腰を下ろす。前戯もしていないというのにフローロのそこは容易くOlのものを飲み込み、一番奥までずっぷりと受け入れる。
あっはぁっ
途端に、彼女の表情が快楽に蕩けた。
どうですか、Ol?わたしのは、ぁん中気持ち、いいですかっ?
元々名器と呼んで差し支えなかったフローロの膣内は、回数をこなすたびに柔らかくこなれ、その魔性めいた具合の良さを更に増加させつつあった。Olの男根に誂えたかのようにぴったりと張り付いて蠢くその中は、油断すればすぐにでも果ててしまいそうだ。
ぁん駄目ですよっ。今日はわたしが、動きますからあっ
快楽を堪えようとOlが腰に力を込めると、それを制するようにフローロが腰をくねらせた。その動きにつられてたぷたぷと動く乳房を、Olは手で掴む。
ゃ、あん駄目って言ってるじゃないですかぁ
動いてはいないだろう
こんな魅力的な果実を目の前で揺らされて、手を出さないのは無理というものだ。
あんっ、もぅOlは甘えん坊さんですね
フローロはOlの腕をぐっと引いて上半身を引き寄せると、彼の頭をぎゅっと抱きしめる。文句を言いたかったが、顔が豊かな乳肉に圧迫されて声を出せなかった。
んっはぁ、んっ気持ち、いいですっもっと、おっぱい吸って下さいっ
代わりにピンと硬く張り詰めた先端を舌先で愛撫すれば、フローロは甘い声をあげながら腰を揺らし始めた。
あ、ん、は、あぁっ!気持ちいいっあっOlぅっ!
フローロの膣口が精をねだるようにきゅうきゅうとキツく締め付けながら、高ぶった男根を甘く擦り上げる。
あっOlのっ大きくなってる出したいん、ですねっ?
魅力的な雌の肉体を貪らんと雄が硬く張り詰めたのを悟って、フローロは嬉しそうに笑みをこぼした。
出して下さいっ!わたしの、中にっ!たくさんっ!
フローロの腟内が震え、男の精を絞り出さんとするかのようにうねる。
イくっいっしょ、いっしょにぃあぁっいぃっくぅぅっ!
Olの頭をぎゅっと掻き抱き、豊かな双丘にぎゅっと押し付けながら、フローロは快楽を貪るように両腕に力を込めた。
ああぁぁぁぁぁっ!
とうとう快楽が決壊し、絶頂を味わうフローロの膣内に、Olの精が吐き出される。腹の中に子種を注ぎ込まれる感覚に、フローロは更に深く気をやった。
んっふ、あぁは、あぁえへへ。たくさん出ましたね
繋がりあったまましばらく呼吸を整えたあと、フローロは腰を上げる。途端、秘所からはたっぷりと注がれた白濁がどろりと零れ落ち、彼女はまるで童女のように屈託なく笑った。
相変わらず、行為の最中とそれ以外との落差が激しいやつだ、とOlは内心嘆息する。
よかった。ちょっとは顔色良くなりましたね
そんなOlの顔を見つめて、フローロは呟いた。別に快楽で気分を紛らわしたわけではない。しかし不思議と、こうしてフローロと肌を重ねていると落ち着くのは事実だった。
じゃあ
一瞬前まで子を心配する母のような顔をしていたフローロの瞳が、途端に妖しい光を帯びる。
次はどんな体勢でしましょうか?
Olの一物に手を伸ばしながら、甘く囁くようにそう問いかけ。
何回する気だ!
先程から情事の終わりを部屋の外で待っていたユウェロイが怒鳴り込んできたのだった。
第8話セックスしないと出られない部屋を作りましょう-2
何のようですか、ブラン
ユウェロイに呼び出され、フローロは多少不機嫌そうにブランに問うた。
まるで玉座だな、とOlは思う。
座面に柔らかそうな赤い布があしらわれた品のいい椅子に座るのは、こめかみの当たりから大きな角を一対生やした女だった。
その長いスカートの中には太い尻尾が、そしてOlは目にしたことはないが、背にはコウモリのような翼があるのだという。
侍女の着るような衣服に身を包み、フローロに対しては慇懃に接する。しかし彼女ブランこそが、この場を支配する主であることは明らかだった。
呼んだのは姫様ではなくOlです
わたしとOlは夫婦なのですから、一蓮托生です
Olの腕をぎゅっと抱きしめるフローロに、ブランは深くため息をつく。
今後の話をします
しかしそれ以上追求することもなく、そう話を切り出した。
王座の奪還を狙うのであれば、まず最上層に辿り着かなければ話になりません。しかし、上層以上に正攻法で近づくのは不可能です
結界か
以前Olがこのダンジョンの全貌を魔術で明らかにしようとしたとき、ある一定以上の階層は覗き見ることができなかった。おそらく透視だけではなく、出入り自体を拒む強力な結界が張ってあるのだろう。
ご存知のようですね。あの結界を通るには王の許可が必要です
ブランはどこか不満そうに拳を握り、小さく呟く。
私が全力で殴っても破壊はできませんでした
そもそも結界というのは物理的になにか壁が存在するわけではない。故に物理的な手段で破壊することもまたできないのだが
傷はついたのでもう少し威力を上げればどうにかなりそうではあったのですが
ブランにはそんな常識も通じないらしかった。この脳筋め、とOlは毒づく。元の言語にはなかった語彙だが、言語スキルで得た言葉の中でここまで端的にブランを表現できる言葉も無いだろう。
どちらにせよ、結界を破壊できたとしても王に届くまでには上層、最上層を抜けなければなりません。そこに住まう壁族全員を敵に回し王を討つのはあまり現実的ではありません
当たり前だと言うべきか、流石にそこを力づくで通す気はなかったかと感心するべきか、Olは少し悩んだ。
まずは壁族として力を蓄えユウェロイの地位を上げる必要があります。まずは上層に可能であれば、最上層に
地位を上げるにはどうしたらいい?
壁族というのは、Olの世界の貴族に近い概念らしい。貴族にも格爵位というものはあったが、それはそう簡単に上げ下げできるものではなかった。基本的には戦争で武勲を立てるか、領土を奪うかしなければならないものだが、この狭いダンジョン内で戦争などあるものなのだろうか、とOlは考える。
いくつか方法はありますが、最も手っ取り早いのはより上位の壁族に貢献し、その力を示すことです。より多くの、そしてより価値のある品やスキルを上納し、今いる壁族よりも有用だと思わせるそうすれば、より高い階層に取り立てられるでしょう
ブランは簡単に言うが、それがそう簡単な話であるはずがなかった。
この世界でなにか品を手に入れるには、基本的にモンスターを倒すしかない。しかしモンスターの強さも落とすものの質も、上層ほど高くなっていくのだ。中層で上層に住む壁族よりも高い貢献度を示すのは、相当骨の折れる話だろう。
Ol、あなたにはまず下層に現れた翼獅子の特異個体を退治してもらいます
特異個体?
極稀に現れるモンスターです。詳しくはユウェロイから説明を聞いて下さい
聞き慣れない単語にオウム返しに問うが、ブランにはそれ以上の説明をする気はないようだった。
では行きましょうか
姫様。お待ち下さい
当然のようにOlの腕を取って歩き出すフローロを、ブランが呼び止める。
この仕事はOl一人で解決しなければなりません
なぜですか!?
姫様には別の仕事がございます。それにこれは試練でもあるのです
案の定食って掛かるフローロに、ブランは冷静にそう告げる。
確かにその男に、姫様の供をする事は認めました。しかし、どれだけ役に立つのかはこれから見定めなければなりません。ましてや姫様の夫となろうと言うのならば、それだけの価値があると証だてる必要があります
むー別に、ブランに認めてもらう必要なんてありませんが
不満そうに唇を尖らせ、フローロ。
良いだろう。フローロ、お前は待っていろ
うーわかりました
Olがそういうと、フローロは不承不承ながらうなずいた。
一応これをお返ししておきます
ブランがダンジョンキューブの残骸を渡す。堅牢だった石の塊は大きく砕け、全体にヒビが入ってしまっている。
よくもまあ、派手に壊してくれたものだ
使えますか?
無理だな
これほど破損してしまっていては、自重に耐えることすらできない。展開すればバラバラに砕け散ってしまうだろう。修理するには大量の魔力と石材が必要となる。ダンジョンコアと龍脈の魔力がない以上、修復は不可能だ。
別の武器を手に入れる必要がある。Olはそう思案を巡らせるのだった。
いいか。私に話しかけるな。無駄口を叩くな。お前に許されているのは任務を遂行することだけだ。ブラン様の命令でなければ今すぐにでも突き殺しているところだ
開口一番、ユウェロイは鋭い目つきでOlを見据えながらそう言った。
お前とブランの関係は何なんだ?なぜ人間の壁族が魔族に従っている?
構わずOlがそう尋ねると、頬を槍がかすめる。
無駄口を叩くなと言っただろう
スキルで作り出した槍をしまいながら、ユウェロイは吐き捨てる。
だが特別に教えてやる。ブラン様は私にとっての恩人なのだ
しかし案の定、彼女はブランの話なら幾らでもしたいようだった。
私達の関係はそもそも人間の反乱の前、まだこの壁界を魔族が支配していた頃に遡る全ての魔族が奴隷である今と違って、人間も大半はただの民だった
先程までの不機嫌そうな態度とは裏腹に、ペラペラと語り始める。
だが私は運悪く親を失い、幼くして孤児となった。他に身寄りもなくもはや奴隷となる他なかった私を、ブラン様は下女として取り立て救ってくださったのだ
反乱後、魔族が奴隷となって後はその逆をしているというわけか
その通りだ。ブラン様の偉大さがわかったのなら、お前も忠実に従うが良い
まるで我がことのように誇らしげに語るユウェロイ。確かにそれは納得できる話ではあったが、この入れ込みようはただそれだけの理由でもないだろう、とOlは踏む。
酷い有様だな
ユウェロイと共に下層へと赴きしばらく進むと、Ol達は大量の死体が散らばっているのを見つけた。血溜まりの中、バラバラになった手足や胴体、首が八人分転がっている。
怖気づいたか?
その光景に眉をひそめるOlに、面白くもなさそうにユウェロイ。
これしきで怯まれては困る。お前は今からコレを作り出したものと戦うんだぞ
死体はこのままでいいのか?
嘲るような、失望したような声でいい、先に進もうとするユウェロイにOlはそう声を上げる。
このままとはどういう意味だ?
死体を燃やしたりしないのか
Olのダンジョンでは、居住区で出た死体は火葬にしていた。魔物たちが徘徊する上層ならそのままにしておけばスライムなり何なりが分解してしまうが、居住区ではそうもいかない。かと言って土葬にしてはいずれその部分を掘り進めないといけなくなったときに墓を暴かなければならなくなるからだ。
そのような必要はない。そうしておけば死したものはやがて母なる壁へと還るのだ
母なる壁。どうもそれがこの世界の宗教観であるらしい。文字通りの壁のことだけでなく、床や天井つまりはこのダンジョンを形作るもの全てに対し使う言葉だ。
普通に考えれば死体を放置していても腐るだけで石の床に吸収されることはないはずだが、何かしらの仕掛けがあるのだろう。
この先だな
被害者がいるということは、目的の特異個体とやらはそばにいるはずだ。Olが周囲を魔術で確認すると、すぐにそれらしきものが見つかった。
なに? わかるのか?
驚いたように目を見開くユウェロイに首肯しながら、Olは隠形の術をかける。そして進んでいくと、翼獅子はすぐに見つかった。
体長およそ十フィートこの世界の単位に直せば三メートル程度の獣だった。首の周りに長い毛が生えており、縞模様の入った身体を支える太い六本の足に、頭からは捻じくれた角。名前の通り背にはコウモリのような翼が生えていた。言うほど獅子には似ていないが、そこは翻訳の都合もあるのだろう。
いた! 何をボサっとしている!
動くな
その姿を見るやいなや全身を甲冑で覆い戦闘態勢に入るユウェロイを、Olは手で制する。
奴からは今、俺達の姿は見えていないし、声も聞こえていない
何?お前のスキルか?
そのようなものだと思え。だが大きく動けばこの隠形は解ける
ふうむ妙なスキルもあったものだな。だが動かねば戦えんだろう
どのみち同じことではないのか、とユウェロイは腕を組む。
戦わない。今回は情報収集に来ただけだ
何を馬鹿なことを敵を目の前にしていながら、尻尾を巻いて逃げるというのか!?
叫ぶな。大きく動けば術が解けると言っただろう
Olにしてみれば、能力も強さもわからない敵を相手に無策で挑むことの方がありえないことだった。ましてやあの翼獅子はどう見てもかなりの強敵だ。
貴様がそうしている間に、また民が死ぬのだぞ
民の事を案じていたのか?
だが、ユウェロイの口から意外な言葉が飛び出した。
他に何の理由がある?
正直、逃亡など誇りが許さないとかもっと馬鹿馬鹿しい理由であると思っていた。どうやらこの女のことを少々見くびっていたらしい、とOlは内心ユウェロイの評価を上げる。
だが無鉄砲に戦うわけにはいかんだろう。まずは相手の能力の見極めをだな
お前にやる気が無いのなら私が戦う!
しかし話もろくに聞かずに突撃する彼女に、上がった評価はすぐさま下降するのであった。
第8話セックスしないと出られない部屋を作りましょう-3
おおおっ!
ユウェロイは雄叫びを上げながら突進し、その手にはスキルによって大振りな突撃槍が生まれる。この時点でOlがかけた隠形の術は解け、彼女の存在に気づいた翼獅子は呼応するように大きく翼を広げた。
はあっ!
投げ放たれた槍は、しかし翼獅子の厚い毛皮に阻まれかすり傷さえつけることなく弾かれる。そしてお返しとばかりに、その口から猛烈な炎が吹き出してきた。
だがユウェロイは避けるどころか、むしろ加速して炎の中に突っ込む。
この程度か!
そして翼獅子の身体に触れると、その手足に甲冑を生成して拘束してみせた。
この程度か、じゃない。お前、俺が耐火の術を使わねば今焼け死んでいたぞ
フン。私の鎧があの程度の炎に負けるものか
なんとかギリギリ術を間に合わせたOlに、ユウェロイは平然とそう答える。鎧そのものは負けずとも中身は蒸し焼きだろうが、と思うが、この世界の無茶苦茶なスキルとやらならあるいは熱も防ぐのかも知れない。
と、その時。ユウェロイの背後でミシリと不吉な音が鳴った。
翼獅子が自身を拘束する甲冑をへし折りながら、その太い前足を振るう。Olは咄嗟に間に割って入り、ダンジョンキューブを展開する。元々壊れかけていたキューブはそれで完全に砕けてしまったが、かろうじて一撃を防ぐ役にはたった。
まさかこの私に背中を見せろというのか!?
ユウェロイの腕を強引に引き、逃げ出すOl。流石に分が悪いと感じたのか、ユウェロイは舌打ちを一つして後に続いた。
翼獅子に絡みつかせるように展開されたダンジョンキューブがバキバキと破壊される音が背後から響く。少なくともブランの馬鹿力に匹敵する膂力を持っているということだ。これで仮に魔力があったとしても修復は完全に不可能になったな、とOlは内心でひとりごちた。
おい、行き止まりだぞ!
Olが逃げた先は、突き当りになっていた。背後からは翼獅子がすぐそこまで迫っていて、その口を大きく開ける。喉の奥からチカリと光が瞬いて、炎が吐き出されるその寸前、Olは壁を操作して翼獅子との間を遮断した。
ごう、と炎が吹き荒れ、壁に吹きかけられる音がする。しかし音はともかく、やはりダンジョンの壁は翼獅子でも破壊することはできないらしい。しばらく壁を引っかく音がしていたが、それもいずれ止んだ。
それで、これからどうするのだ
一つ、悪い報告がある
苛立った口調のユウェロイに、Olは平静な口調で告げる。
魔力が尽きた
何だ、それは
俺のスキルの源のようなものだ。それがなくては俺はスキルを使うことはできない
どういう理屈なのかわからないが、この世界の人間が使うスキルとかいう力には、元手が必要ないらしい。そんな訳はないと思うのだが、どんなに連発しても何かを消耗している様子はない。
ハッ。元々期待などしていなかったが、想像以上の無能だな。ブラン様には、やはりお前は何の役にも立たなかったと報告するとしよう
どうやってだ?
未だ状況を理解していないユウェロイに、Olは問う。
どうやってとは、何の話だ
魔力がないということは、この壁をどけることもできない、ということだぞ
Olは己が動かした母なる壁を拳で軽く叩く。
何? その魔力とやらは、いつになったら回復するんだ
しない
魔力は、体力のように自然と回復するものではない
勿論、Olが元いた世界であれば話は別だ。あの世界には魔力が満ちていて、呼吸しているだけでも自然とゆっくり回復していく。だがこの世界は違う。魔力はほとんどどこにも存在しておらず、Olの生命活動によって減りこそすれ、自然と増えることはない。
それはまさか、ここから出ることもかなわんということか!?
お前がこの壁を破壊できないのならば、そうだ
母なる壁だぞ!? できるわけがないだろう! 鉄腕でも無理だ!
Olが張った壁はごく薄い。だがそれでも、物理的な破壊は翼獅子にすら不可能だった。試すまでもなく、ユウェロイの槍でも無理なのだろう。
なぜ穴を開けておかなかった!?この無能め!
無茶を言うな。見ただろう。あいつは炎を吹くのだぞ。穴など開けたらそこから炎を吹き込まれて蒸し焼きだ。それともお前が真っ向から戦って殺されていた方がマシだったか?
Olの問いにユウェロイはぐっと呻く。彼女とて、あの場に留まっていれば自分が負けていただろうことくらいは理解はしていた。
何かその魔力というのを回復する方法はないのか!?
まあ、ないわけではないな
ユウェロイはOlに詰め寄り、その胸ぐらをつかむ。
隠し立てするな。さっさと吐け
酷く気が進まない方法なのだが
言え
釣り上げるようにしてOlの身体を持ち上げ、ユウェロイは槍を突きつけて凄んだ。
お前とまぐわえばいい
あまりに想定外の返答に、ユウェロイは理解が追いつかず呆けたような声を上げる。
魔力というのは誰でも多少は持っているものだ。無論、お前の身体の中にも存在している。俺の見立てではお前の持っている魔力の半分ほども使えば、この壁に脱出できる程度の穴を開けられるはずだ
だがOlが詳しく説明するうちに、ユウェロイはようやく自分が何を言われているかを呑み込むことができた。
貴様、ふざけているのか!? そんな事、できるわけがないだろう!
だから言っただろう。酷く気が進まない方法だと
吊り下げられ槍を喉元に突きつけられながらも、Olは腹立たしいほど冷静にそう告げる。
他に方法はないのか!
あっさりと断言するOlを放り出すように手を離し、ユウェロイは奥歯を噛み締め周囲を確認する。
我々が帰らなければ、ブラン様が救出をよこしてくれるはずだ
誰かが助けに来たとして、この壁をどうにかできるものはいるのか?
いるわけがなかった。母なる壁は本来、どんな力を持っても不変であり不滅であるからこその母なる壁なのだ。それを自在に操作するスキルなど、目の前のふざけた男以外に見たことも聞いたこともない。
だが、お前はもっと自在に母なる壁を操っていたはずだ。なぜ一回壁を動かしただけで魔力が切れる?
補給を邪魔されたからだ。俺はフローロと交わることで魔力を手に入れている。だが今日に限ってそれを中断されたのでな
淡々と告げるOlに、ユウェロイは朝のことを思い出す。Olとフローロの情事を中断したのは他でもない、ユウェロイ自身だ。
ではフローロ殿下がここに救援に来たならば
仮にそうなったとしてもどうしようもない。壁を隔てて魔力を受け渡しするような都合のいい方法はないからな。そもそもそんな事ができるのならば、お前の魔力を離れた場所から受け渡しすればいいだけの話だ
ユウェロイはよろめくように数歩たたらを踏んだ。自分が追い詰められている事が、じわじわと理解できてきた。
つまりこういうことか?
彼女は呻くように、尋ねる。
お前とセックスしないと私達はこの部屋を出られず死ぬ
そういうことだ
思い違いであってくれ。そんなユウェロイの願いをよそに、Olははっきりと首肯した。
第8話セックスしないと出られない部屋を作りましょう-4
何だ妙に息苦しい
沈鬱な空気を、久方ぶりにユウェロイの声が震わせる。
固定空気だな
コテなんだと?
この密閉された小部屋を出るには、Olと交わる他ない。それを理解してからも彼女は決意することができず、Olもまた促したりする事もなく、無駄に時間が過ぎ去っていた。
空気とは通常目に見えず宙に漂っているものだが、中には木材や人の身の中に固定されているものもある。これが固定空気だ。火を燃やしたり、息を吐くとこの固定空気が放出され、通常の大気と混ざる。問題は、固定空気は生物にとって毒だということだ。広い場所であれば多少混ざっても問題にはならんが、これほど狭い部屋で密閉されていては溜まっていく一方だ
この固定空気は、実はOlのダンジョンにおいても問題となった物質だ。Olのダンジョンには外への出入り口が開いているとはいえ、最奥部まで風が吹き抜けていくわけでもない。そこに大量の生き物が住んでいれば、どうしても固定空気は溜まっていくのだ。
だからこそ、その果てに何が起こるかもOlは正確に知っていた。
喜べ。餓死するより、渇いて死ぬより先に、息が詰まって死ねるぞ
Olがそう告げると、ユウェロイの顔がさっと青ざめた。
貴様が、死ねば
少しは長生きできるだろうな。一日で死ぬ所が二日生きられるというわけだ。そうしたいならそうしろ
皮肉っぽく言うOlに、ユウェロイは突きつけた槍を力なく取り落とす。
なんとかしろ!
そう言われてもな。出来ないものは出来ん
それを何とかするのが貴様の仕事だろうが!
知ったことか。そもそも出来ることがあるのにせずにいるのはどちらだ?
唸る獣のようにがなり立てるユウェロイに対し、Olは淡々と返すのみ。
貴様、まさか最初からこれを狙って
そんなわけなかろうが。だいたい、止める俺を振り切って戦いを挑み、勝手に死にかけたのはお前の方だろう
全てはお前の策略だ、とばかりにユウェロイは噛みつくが、Olの放った正論にうっと呻いた。
さて、こうしている間にも民は死んでいくのだろうな。御大層な事を言ったときには少しは感心したものだったが、所詮は口だけであったか
ダメ押しとばかりにそう嘲るOl。安い挑発であるとはわかっていても、ユウェロイに避けるような余裕はあらゆる意味で残されていなかった。
わかった貴様の好きにしろ
とうとう覚悟を決め、ユウェロイは床に身を投げ出す。
背に腹は代えられん。貴様のその薄汚い、下衆な、魔力回復法とやらを行っていいと言っている!感謝しろ
察しの悪いやつだと言わんばかりの表情で、ユウェロイは吐き捨てる。
お前はまだわかっておらんようだな
だがそんな彼女を見て、Olは深々とため息をついた。
何をだ
言っただろう。酷く気が進まない方法だと
そんな事はわかっている!
いいや、お前は全くわかっておらん
首をゆっくりと横に振り。
俺は、お前など抱きたくないと言っているのだ
Olは、決定的な言葉を口にした。
予想もしていなかった言葉に、ユウェロイは目を大きく見開く。
貴様、な何という侮辱を!
だが一瞬後には言われた言葉を理解して、烈火の如く怒り始めた。
侮辱だと? 侮辱しているのはお前だろう。俺はお前の部下でもなければ手下でもない。それどころか命を助けてやったのだ。なぜお前の側にだけ選ぶ権利があるなどと思う
ぐ
しかし返ってきたOlの言葉に、二の句が継げず押し黙る。
だ、だが私の協力がなくば、お前とて死ぬのだぞ!
実はもう一つだけ方法がある。しかしその方法は可能な限り取りたくない
その言葉を聞いた瞬間ユウェロイは跳ね起き、Olを壁に押し付けて槍を突きつけた。他に方法があるとなれば話は全く変わる。覚悟を決めて身体を差し出そうとまでしたのに、今更他の方法を隠していたなどとなれば、もはやOlの言う事など何一つ信用できない。