屋根の上に積もった雪を掻き分けながら広間を通り抜け、明り取り用の窓から再び城の中に入り込む。するとソフィアを待ち受けていたのは、強烈な冷気だった。先程兵士たちから放たれた冷気に数倍する極低温が、彼女を襲う。

それでも普段ならば十重二十重に彼女を包み込むキューブの前には無意味だっただろうが、今の見えざる迷宮(ラビュリントス)は掻き分けた雪が大量に付着していた。

それは冷気によって待機中の水分をも巻き込んで硬く凍りつき、ダンジョンキューブの全体をすっぽりと覆い尽くしてしまう。

今のソフィアにはダンジョンを操ることだけだ。ダンジョンキューブを覆う氷を引き剥がす事も、熱して溶かすこともできなかった。

完全に動きを止められた彼女にトドメを刺しに来たのだろう。氷で出来た巨人が、のっそりと姿を現した。

アロースリット!

その太い腕がソフィアを覆うダンジョンキューブごと掴もうとしたその時、ダンジョンキューブに空いた小さな穴から無数の矢が飛び出して巨人に突き刺さる。

ええーい!

一瞬体勢を崩した巨人に向かって放たれたのは、今度は矢などという太さではなかった。破城槌の如き太さの槍のような、巨大な氷柱だ。

ソフィアにはダンジョンを操ることしか出来ない。

だが、Olから手渡されたダンジョンキューブを己のものとして扱っているように、何を己のダンジョンとするかには多少の幅がある。

ザナが支配するこの城自体を支配することは不可能だが、それがソフィアに対して放たれたものであるなら。

言い換えるなら、相(・)手(・)か(・)ら(・)手(・)渡(・)さ(・)れ(・)た(・)も(・)の(・)であれば己のダンジョンの資材に加える事も可能だった。

ダンジョンキューブを凍てつかせた氷を排除するのではなく、内に取り込むように外側にもう一重、壁を作り出せばそれもまたダンジョンの一部だ。そうなってしまえば槍のように加工して打ち出すことは難しいことではなかった。

巨大な氷柱は巨人を壁に貼り付けにして、ソフィアはその隙に先へと急いだ。何も倒してしまう必要などない。マリー達が待つ客室にさえ辿り着けばそれで勝ちだ。

Olが一番信用している片腕のリル。誰よりも強く頼りになるユニス。最も底知れないスピナ。そして、ソフィアがこの世で誰よりも大好きな母、マリー。

その四人と一緒なら、負ける気なんて全くしない。

ついにソフィアはマリーたちの待つ客室へと辿り着いて、達成感と喜びに満ちた声とともに扉を押し開いた。

残念だったわね

しかしソフィアを出迎えたのは、暖かなマリーの両腕ではなく、硬く冷たい声と。

これで、おしまいよ

凍りついた四人の母たちの姿だった。

第14話臆病者を焚き付けましょう-4

どう、して

呆然と目を見開き、ソフィアは身体をよろめかせる。

何故、ザナがここにいるのか。そして、何故マリーたちが為す術もなく凍りつかされているのか。どちらも、彼女の理解の範疇外にあった。

この城はあたしの城なのよ。先回りするなんて容易いことだし客室ですっかり油断してたこの子達を凍りつかせるのだって

瞬きするほどの間に、ザナの手のひらから氷が迸ってソフィアの周りをぐるりと囲み、その両手足をがっちりと拘束する。それは音さえ置き去りにする、刹那の氷結だった。

どうして

ソフィアはもう一度、同じ言葉を口にする。

どうして、わたしを逃したの

だがそれは別の問いに対する疑問だった。こんなことが出来るのならば、わざわざこんな回りくどいことをしなくともソフィアを捕らえることなど簡単だったはずなのだ。

良い質問ね

ザナはにっこりと微笑んで言った。周りを安心させるような、人好きのする気さくな笑みだ。

あなたを、絶望させるためよ

だがその声色は、ぞっとするほどに低く昏い。

ここに来るまで、あなたはその小さな身体で随分頑張ったでしょう?これで助かる、Olを助けられる。そう思って、ここに辿り着いたんでしょう?

ザナはゆっくりとソフィアに歩み寄ると、彼女の柔らかな頬を優しげに撫でる。

でも、全ては無駄だった。あたしには、最善手を打つ能力がある。本気になったら、誰にも止めることなんて出来ないの

なんでこんなことするの

ソフィアはザナを見上げ、睨みつけた。

単純なことよ。Olを、この子達を返して欲しいでしょう?だったらあなた、あたしのものになりなさい

その言葉の意味は、ソフィアにもわかった。ソフィアを欲するというのは、つまりその国を欲するということだ。サハラとヤマト。ザナは二国を丸々その手中に収めようとしているのだ。

安心しなさい。悪いようにはしないわ。わざわざ金の卵を産むガチョウをしめるような愚かな真似はね。ただすこうしばかり、その豊かさをあたしたちの国にも分けてもらうだけ。そうしたら、あなたは元通り、パパやママと楽しく暮らせるの。ね?悩む必要なんてないでしょう?

諭すような穏やかな声で言うザナの言葉は、あるいは真実なのかもしれない。少なくとも、ソフィアには他に選択肢がない。ダンジョンキューブごと氷で固められてしまった現状では、逃げることも戦うことも出来ない。

いやだ!

けれどソフィアは、ザナの指に噛みつかんばかりの勢いではっきりとそう答えた。

仮にも国を預かる王としてその自覚が芽生え始めたばかりの少女は、断固としてその問いに頷くことはできなかった。

その瞬間、ザナの瞳がすっと細められる。

そう

そしてその指がソフィアの額に突きつけられて。

だったらここで永遠に凍りついて

おおおやめ、ください

その指先から氷が吹き出すその寸前。どこか舌足らずな蚊の鳴くような声が、しかしザナをはっきりと止めた。

何故、止めるの?

ザナは後ろを振り返り、気だるげにそう問う。そこに立っていたのは彼女の妹イェルダーヴだった。

オOl様、は、わ、わたしの恩人、ですその恩をあ、仇で返すような、ことは

イェルダーヴはザナの視線を受けただけでその褐色の顔を明らかに引きつらせ、しかし震えながらも言葉を綴る。

お姉様、もオ、Ol様には、た助けられ、た、はずです

恩ねえ

ザナは吐き捨てるように言い、半眼でイェルダーヴを見つめた。

ウセルマートの事なら、単に利害が一致したから協力しただけよ。恩も何もないわ。強いて言うなら、あんたのあの忌々しい首輪を取ってくれた事くらいかしらね。それにしたって、あたしの純潔を奪ったので相殺でしょ。貸し借りなしの対等。であれば、油断する方が悪い

言い訳するようにぽつりと呟き、ザナはソフィアに向き直る。

さあ、選びなさい、小魔王。僅かな不利益を取って家族を救うか、下らない意地を取って永遠に氷の中に沈むか

脅しではない。ソフィアは直感的に、それを悟った。ここで否と言うなら、ザナは本気でソフィアを凍らせるつもりだ。あまりの恐ろしさに、ソフィアの目尻に涙が浮かぶ。

氷の中に閉じ込められ、永遠の時間を過ごす。そんなのは絶対に嫌だ。誰とも喋ることも、触れ合うことも出来ず、ただただ無為に時間だけが流れていく。

そんな思いは、二度としたくない。

そう思ったからソフィアは、答えた。

ぜったい、やだ!

恐ろしいのは、それを覚悟しているからだ。逃げないと決めたからだ。逃げていいのなら、避けられるのなら、恐ろしく思う必要なんてどこにもない。ソフィアの答えは、初めから決まっていた。

そう

面白くもなさそうにザナは答え、彼女はソフィアの頭に手を翳す。そしてその手から冷気が迸り、ソフィアの全身が氷に埋め尽くされ

何のつもり?

その氷がどろりと溶けたのは、ソフィアの意識が闇に沈むよりも先、氷に覆われたほんの一瞬後のことだった。

お、お姉様が、そ、その、つもりなら

ソフィアさえもが気の毒になるほど震えながら、イェルダーヴはソフィアを背後に庇いながら手のひらに小さな炎の塊を浮かべる。

わわたしは、こちらにつきます!

別に、いいけど

ザナは呆れたように息を吐き、軽く空を払うように手を動かす。

そんな小さな炎であたしとどうやって戦うつもり?

その僅かな動作だけで、イェルダーヴが作り出していた炎は凍りつき、掻き消えてしまった。

た太陽神イガルク様、わたしにどうか力を!

イェルダーヴが叫び祈りを捧げると、彼女の周囲に無数の炎が生まれる。その凄まじい熱量はそれこそ太陽が目の前に生まれたかのようで、触れてさえいないのにソフィアを拘束する氷が溶けて緩む。

遅いわ

だが。手を動かしすらせず、ザナのその言葉がソフィアの耳に届くよりも先に、極寒の世界が炎を消し去り氷を再び凍てつかせる。

速度も、精度も、威力も、まるで話にならない。ねえ、イヴ。あたしはあんたが攫われてから、氷術を必死になって学んだの。毎日毎日、自分の放った冷気で手が擦り切れるくらいに何度もね。その間あんたは訓練どころか、自由意思さえ許されなかった。それはとても可哀想だと思うけれど

息をするような自然さで、ザナの冷気はイェルダーヴの全身を凍てつかせる。イェルダーヴは必死になって炎を放つが、そのことごとくが効果を発揮するよりも先に打ち消されてしまった。

ね。あんたはあたしに、どうやったって敵わないの。わかったら大人しくしていて

幼い子供を諭すように、ザナは言う。

わわた、わたしはお姉様に、敵いません

ぐったりと項垂れ、イェルダーヴはそれを認めた。

でも、この子は違います

炎が吹き出し、ソフィアを拘束していた氷が一瞬にして蒸発する。

ザナは手を振ってその炎をかき消したが、次から次へと吹き出してくる炎の勢いの方が強い。

お姉ちゃんのその術、すごーく早い。けど、凍らせ続けるのは無理なんでしょ

渦巻く炎を全身に纏うようにしながら、ソフィアは言った。

あんたまさか!

先程イェルダーヴが出した無数の炎は、ザナを攻撃するためのものでは無かった。姉には敵わない。そんなことはイェルダーヴ自身が誰よりも知っている。

こんな小さな子に頼るなんて、情けない限りですが

だから彼女はその力を、ソフィアに捧げたのだ。

ダンジョンの中に取り込んだ太陽神の炎は資材となって、ソフィアはそれを自在に操れる。空の彼方で延々と燃え続ける太陽の火は焚き付けも必要とせず、いくらでも分割して増やすことができた。

この子なら、お姉様にも勝てます!

第14話臆病者を焚き付けましょう-5

苦悶の声をあげて後ろに飛び退りながら、ザナは矢継ぎ早に氷を繰り出す。刹那に生成される氷の槍は達人の突きにすら倍する速度で、ありとあらゆる方向からソフィアを狙い撃った。

ただただ疾く、多く。単純ではあるが、それゆえにかわすことも防ぐことも出来ない飽和攻撃。

しかしそれは、一切幼い魔王を傷つけることが出来なかった。

ソフィアの周囲をまるで血管のように取り囲む無数の赤い線は、見えざる迷宮(ラビュリントス)の通路に張り巡らされた太陽神の炎だ。幾重にも張られた必滅の炎が、どの方向から攻撃しようとザナの氷を瞬時に溶かし無力化してしまう。

不可視の石壁によって守られたその炎はイェルダーヴが放ったそれと違ってかき消すこともできず、ただただ暴力的な熱のみを外に向かって放つ。表面に現れた炎は消せても、迷宮の奥底に守られた火種までをも鎮火させることは不可能だった。

キューブの迷宮全体を間断なく冷やし続け、炎を保てないほどに温度を下げてしまえるのならあるいは打つ手があったかもしれない。しかしソフィアが見抜いた通り、ザナの氷術は神速の発動と構築を可能にする代償に、持続力に著しく欠けていた。

その点、ソフィアはその正反対だ。生み出す炎は迷宮の奥の種火を分割させて、長く複雑な不可視の迷宮の中を通さなければ外に放出することが出来ない。それはザナからすればあくびが出るほど遅いが、代わりに途切れるということがない。両者の能力の相性は、極めて悪いと言えた。

圧倒的な優位に立ちながらも、ソフィアは完全に攻めあぐねていた。その理由はごくごく単純なもの。

邪悪なる魔王の娘として育てられながら、素朴な感性を持ち合わせる幼い少女には、人を害し殺す覚悟をどうしても持てなかったのだ。

イェルダーヴから譲り受けた炎は全てを燃やし滅する必滅の炎。砂の王、ウセルマートが使っていたのと同種のそれは、人に触れれば魂すら残さずに焼き尽くしてしまう。手加減などできようはずもない。

故にソフィアが狙ったのは、ザナのスタミナ切れだった。あれ程の氷術を、無制限にそういつまでも放てるはずがない。それに対して、ソフィアにとってダンジョンを動かすことは呼吸に等しい。殺してしまわないように炎を出しながら、それを防ぐための氷術を誘発していればいつかは力尽きるはずだ。

そこまでよ

そんな少女の稚拙な目論見は、ザナにあっさりと看破された。

陳腐なセリフで申し訳ないけどね。こいつらの命が惜しかったら、その炎を手放しなさい

凍りついたマリーに氷の刃を突きつけて、ザナはそう言い放つ。言葉通りの、陳腐な人質。しかしソフィアに対する効果は絶大なものだった。

その手段を取られることを考えてもいなかったのか、少女はぴたりと手を止めて呆然とザナの顔と氷漬けになった母を交互に見やる。

さあ、選びなさい。こいつらを見捨ててあたしを殺すか、あたしに従って国を譲り渡すか

手のひらから生み出した氷の剣をリルの首筋にトントンと当てながら、ザナはソフィアに選択を迫る。

返ってきたのは、どこか状況にそぐわない、いささか間の抜けた声色だった。

状況をわかってないみたいね。いいわ、わからせてあげる

不愉快げに眉間にしわを寄せて、ザナは氷剣を振るった。大して力が込められているように見えないその一撃は、音も出ないほどの滑らかさでリルの首を断ち切る。氷漬けになった淫魔の首が、ごろりと地面に転がった。

ソフィアは大きく目を見開き。

あはあははははは!

だしぬけに、笑い始めた。

な、何がおかしいの!?

予想だにしない反応を怪訝に思いつつも、ザナは剣をマリーに向ける。

次はこいつを殺すわよ!いいの!?

うん、いいよー

半ば叫ぶようなザナの言葉とは裏腹に、ソフィアはあっさりとそう答えると炎を放った。弾丸のように飛んだ四つの炎の塊は、マリーのみならずユニスやスピナにまで襲いかかる。その身を凍らせた氷だけを溶かすなどという、器用な事ができるような精密さは微塵もない。四人はまるごと炎に包まれた。

な、何してんの!?気でも触れたの!?

悲鳴を上げながら、ザナは慌てて冷気を放出して火を消しにかかる。それは先程まで見せていた余裕をかなぐり捨てた、あまりにも必死な姿だった。

わたしは正気だよ

そんなザナの様子を見て、ソフィアはにんまりと笑みを浮かべる。そしてその手のひらの上に炎を取り出すと、何とか消火を終えたザナに向かって、言った。

ちんぷなせりふで申し訳ないけど、ママたちの命が惜しかったら、降参して?ザナさん

ははあ!?あんた、何いってんの!?

一連の様子を見ていたイェルダーヴにとっては、わけがわからない光景だった。ついさっきまで、ザナは卑劣にも人質を取って幼子を脅していた。そのはずだ。

なのにほんの一瞬で、その立場が逆転している。幼子が卑劣にも自分の母親を人質に取って、ザナを脅しているのだ。全く意味がわからない。

だってザナさん、ママたちを殺されたら困るんでしょ?

にこやかに、ソフィアは尋ねる。

そ、そりゃ、人質をいきなり全員殺されたら困るわよ!けどあたしが殺せないとでも思ってるっていうんなら、もう一人

リルママは悪魔だから、首を刎ねたくらいじゃ滅びない。死んでも魔界に戻るだけで、また呼び出せばいいだけだもんね

氷の剣を振りかざして言うザナの言葉を遮って、ソフィアはそう言った。

スピナママはスライムだから、心臓を潰したって死なない。ユニスママは英霊だから、肉体を壊したって召喚できる

その刃の行く手を遮るかのように、幼き魔王は冷静に言葉を紡ぐ。

ママはマリーママは正真正銘人間だから普通に死んじゃうだろうけど、その切れ味の良さそうな鋭い氷で綺麗に首を刎ねるんなら、パパは簡単に蘇生できるしまず失敗しないかな

あたしの脅しがハッタリだと、そういいたいわけ?

唸るようなザナの言葉に、ソフィアは素直にこくりと頷いた。

後悔、するんじゃないわよ!

ザナの両手に、まるでウニのように無数の氷棘が生まれた。それでぐちゃぐちゃにすり潰されれば、確かに蘇生は難しいかもしれない。

だがそれをザナが振り下ろすよりも早く、マリーの身体は燃えていた。

ぎゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!

ザナの口から、その美貌に似合わぬ品のない悲鳴が飛び出す。

何してんの!?何してんの!?

燃やしただけだよ

ザナは慌てて冷気を放ち炎を消し止めたが、既にマリーの身体の半分ほどは燃え尽きてしまっていた。

あんたの使ってる火はただの炎じゃないのよ!?全てを滅ぼす原初の炎、核熱の火!そんなもので燃やせば魂ごと灰になって、蘇生も輪廻もかなわない!子供が冗談で使っていいものじゃないの!

半狂乱になりながら、ザナは叫ぶ。その目尻にはじんわりと涙が浮かびさえしていた。

うん、わかってるよ

取り乱す氷の女王とは対照的に、ソフィアは落ち着き払った態度で彼女へと歩み寄る。

ザナさん、そもそもわたしに勝つ気なんてないんでしょ

その周囲からは炎の防護も消えて、無防備に近づくソフィアはいつでも殺せる状態だ。しかしザナは氷を放とうとはせず、ただ恐れるように後退った。

まあ、その辺にしておけ

出し抜けに響いた声に、ソフィアは後ろを振り向いて喜色を浮かべる。

なあ、あんた、なんで!?

そこに立っていたOlの姿に、ザナは目を見開いて叫んだ。

あれ?パパとザナさん、グルじゃなかったの?

ザナに本気で戦う意志がなかった以上、Olが無事なのは不思議ではない。しかしそれに対して驚くのは不思議で、ソフィアは問うた。

ああ。そもそもマリーを燃やした時の反応を見ていればわかるだろう?

あ、そっか

ああの、どういう、ことなのでしょうか?

一人完全に事態の推移から取り残されて、イェルダーヴはおずおずと尋ねた。

何、簡単なことだ。今回の件は、全て狂言、茶番に過ぎん。全ては

Olはイェルダーヴを一瞥し、ついでうなだれるザナへと視線を向ける。

俺への反乱を企てて失敗し、失脚。王位を含めて全てをイェルダーヴに譲り渡す。そんなところだろう?

第14話臆病者を焚き付けましょう-6

なん、で

絞り出すように、ザナは声を上げた。

なんであんたが、自由になってるの

そりゃ、こうなることを予測してたからよ

ひっ!?

突然床に転がるリルの首が喋りだして、ザナは悲鳴をあげながら尻もちをつく。

下らん悪戯はよせ

言葉の割にはさほど咎める色のない声でOlは言い、その首を拾い上げて背後へ放る。彼の影からしなやかな腕がにゅっと突き出したかと思えば、己の首を受け止めながらリルが姿を現した。

まさか偽物!?

せいかーい。結構良い出来だったでしょ?

氷漬けにされていたのは、リルが魔力で作り出した分身だ。サキュバスである彼女は見た目だけならどんな姿にも変身できる。ユニスやスピナ、マリーといった見慣れた面々であれば、その細かな癖までをも模倣することなど朝飯前だった。

一応ヒントは出しといたんだけどね。ソフィアは気づいたんでしょ?

気づいた時思わず笑っちゃったよ。リルのだけ、あからさますぎるんだもん

マリーのつけている腕輪の意匠がいつもと違う。

椅子に座るスピナの指に、いつもつけている指輪がない。

本を読んでいるユニスの利き手が本来と逆になっている。

一つ一つなら気分で変えることもあるかと思う程度のことだが、揃えばそれは明確なサインであった。極めつけは、リルの角がいつもと反対の方向に伸びていたことだ。最初に気づいたのはスピナの指輪で、マリー、ユニスと違和感を見つけ、リルの違いを見つけようとしたところで、ソフィアはそれに気づいた。

なぜ自分もザナもそんな大きな違いに気が付かなかったのか。そう思うと緊迫した場面であったにも関わらず笑いを堪えられなかった。

で、でも!あたしの氷は、ただの氷じゃない!月の女神の加護を受けた氷なのよ!?Olは間違いなく、何の手加減もなしに凍らせた!ただの炎じゃ絶対に溶けないはず!

つまりただの炎じゃなきゃいいんでしょ?

片目だけを赤く光らせて、真紅に染まった髪をかきあげマリーが言う。

戻りませ、炎髪の姫ヨハネ・アーク

魔界の炎さえも燃やし尽くす英霊の炎。軽々とザナの氷だけを消し溶かしてみせたその力を天門に還すと、マリーの瞳と髪の色が元に戻った。

そもそもなんで、こんなものを準備する時間なんて与えなかったはず!

ザナがOlに敵対の意志を見せてから、完全に凍りつかせるまではほんの数秒だった。リルと念話出来ることだって知っていたから、打ち合わせは結界を張った部屋で行い、それは機能していたはずだ。

何も知らず客室に残っていたリルたちが、ザナに対処できるはずがない。ましてやこれほどの精度の分け身を作るのは、いくらサキュバスだって一瞬というわけにはいかないはずだ。

事前にこうなるってわかってたの?

いいや。流石にここまで大胆な事をしでかすとは思わなかった

ソフィアの問いに、Olは首を横に振る。

じゃあなんで

予想はしていませんでした。しかしそれは、備えをしない理由にはなりません

困惑するソフィアに、スピナが言う。

お師匠様は私たちを置いて行かれた。ならば私たちはお師匠様に何かあった時の備えをするのは、当然のことです

当たり前のように言ってのける彼女に、ザナは絶句した。

じゃあ、何?

震える声で、ザナは尋ねる。

あんたたち、あたしがOlに何かするなんて思ってもいないのに、わざわざこんな偽物を作り上げて寒い外で待ってたってこと?

城の中にいれば、その存在にザナが気づかぬ訳がない。だとするなら、そういうことなのだ。

そうだよ。まあ、前にも似たような事は何回かあったしね

Ol自身の最大の欠点は、本人に戦闘能力が乏しいことだ。ダンジョンキューブを得てある程度は自分で戦えるようになったものの、ユニスのような強者に比べてしまえばどうしても何段かは劣る。

常に護衛につければいいが、今回のように友好を示す場ではつけたくともつけられないこともある。それに、いつでもOlの元へと転移する能力を持ったユニスならば、かえって離れている方が都合がいい場合も多い。

何もなくとも有事の備えをしておくのはもはや習慣と化していた。

お姉様なぜ、このようなことを?

イェルダーヴの問いに、しかしザナは答えない。

本気でOlに対し反旗を翻したのならば、まだわかる。利益にしろ動機にしろ、そうするだけの理由は揃っていた。

しかし、そうしなかったのは明らかだった。本気でOlたちを滅ぼすつもりであれば人質に対して必要以上に危害を加えることを恐れる意味はないし、そもそもザナは月の女神マリナの権能、最善手の力を使っていない。使っていれば、ソフィアを相手に遅れを取ることなどなかったはずだ。

さてなおそらくはソフィアに討たれるつもりだったのだろうが、お前の目論見通りにはいかなかったことは確かだ

正確には、最善手の力を使わなかったのではなく、使えなかったのだろう、とOlは思う。最善とはザナにとっての最善ではなく、女神マリナの思う最善だ。つまり、ザナがやろうとしていたことは、彼女の保護者が賛同しない内容であったということでもある。

それでも。あんたはあたしをただで済ませたりはしないでしょう?お優しい魔王さま。一応言っておくけど、本気じゃなかったからって放免するつもりなら、またあたしは同じようなことをやるわよ。それも、今度はもっと徹底的に

ザナはOlを見上げ、暗い声でそういった。安い挑発ではあるが、かと言って応じないわけにもいかない。そういう意味ではザナもまた、目的を達してはいるということか。

無論だ。狂言だろうとなんだろうと、俺は俺に楯突くものに容赦はせん。ひとまずお前には

まったく、とOlは内心でため息をつく。

奴隷にでも堕ちてもらおうか

面倒な奴だ、と思いながら、Olはそう告げた。

第14話臆病者を焚き付けましょう-7

殺風景な部屋だ

Olは端的に、そう感想を述べた。氷の城の最奥、尖塔の頂上、女王の部屋。そこは女の部屋とは思えぬほど、簡素な一室であった。装飾も何もないシンプルなベッドが置いてある他には、殆ど調度品と呼べるものもない。

せいぜいが衣類をしまうための木箱だけで、それにしたって色気も素っ気もない、ただの木箱であった。実用性を重んじ過度な装飾を嫌うOlでさえ、自室はもう少し彩りというものがある。

まあ良い。とりあえず、脱げ

Olがそう命じると、ザナは無言で服を脱ぎ捨てた。眩いほどの白い肌が露わになり、一糸まとわぬ美しい肢体がOlの眼前に晒される。だが生ける芸術品のような調和の取れたその美しさを、首につけられた太い首輪が台無しにしている。

やはり趣味が悪い、とOlは心中で独りごちた。

Olがベッドに腰掛けて己自身を取り出すと、ザナは命ぜられるままに彼の前に跪き、肉塊を口の中に含んだ。柔らかく垂れ下がっていたそれは、ザナの口内でみるみるうちに硬く大きく膨れ上がっていく。

ザナの喉から、小さく音が漏れた。それは声というよりは、圧迫された喉が出したただの反射に近いものだったが

ん、んん、んんんんっ!っお、大きくしすぎでしょ、馬鹿じゃないの!?

なおも体積を増していく肉の塊にとうとう耐えきれず、ザナは口を離して叫んだ。

奴隷が口答えするな。さっさと続けろ

奴隷だっていうならなんで魂を封じないのよ!

ザナの首につけられているのは、ウセルマートの使っていた服従の首輪だ。だがそれからは既に、魂を封じ無条件に言うことをきかせる機能は削り取られていた。

下らん。俺は人形遊びになど興味はない。興味があるのは、意思を持った生身の女だけだ

答えながらOlはザナの頭を掴んで、その顔にいきり勃つ男根を押し付ける。

反抗する女を屈服させモノにしてこそ、意味があるのだ

随分高尚な趣味ですこと

吐き捨てるように言って、ザナは再び口を開いてOlのペニスを頬張った。

下手くそだな、お前

悪かったわね、こんなことするのは初めてなのよ!

そのあまりの要領の悪さに思わず呟くと、ザナは再び唇を離して怒鳴る。そう言えば何度か交わりはしたが、口でさせるのは初めてだったか、とOlは思い直した。

ならばやり方を教えてやる。まずは闇雲に咥えるのではなく、手でしっかりと握れ。唇だけでイカせようなどとは十年早い。手で扱きながら、舌と口は補助的に使うのだ

ザナは不満げな表情をしながらも、存外素直に従ってOlの逸物を両手で握りしめる。ひんやりとした柔らかな手のひらが熱い肉塊に添えられるのは、それだけで気持ちが良い。

舌を出し、根元の方から先端までを舐めあげてみろ。手の動きは止めるなよ

言われた通り、ザナはゆるゆるとOlの肉槍を手で扱き立てながら、舌を伸ばして根本から先端まで這わせていく。

うむ次は、雁首。その、段になっている辺りをぐるりと舐めろ

ザナの舌が肉塊のくびれをなぞり、その動きに従って彼女の紫水晶のような美しい髪がさらりと揺れる。Olは半ば無意識にそれを撫でながら、更に指示を飛ばした。

いいぞ次は先端を咥えながら、同じようにしてみろ。ああ悪くない

はむ、と亀頭を口に含んで、ザナの舌が口内でレロレロと雁首を刺激する。慣れていないだけで、物覚えは悪くないらしい。ザナはあっという間にコツを掴んで、にんまりと笑みを浮かべた。

ここが、いいんだ?

むっ

裏筋をちゅうと吸うザナに、Olは思わず声を漏らす。

音、立てるのもいいの?んっこう?

ザナはわざとじゅぽじゅぽと下品な音を立てながら、逸物を口から出し入れする。見るからに品よく整った彼女が、大きく口をあけてグロテスクな肉塊を舐めしゃぶるその様は、言いようのないギャップがあった。

口で、先を吸いながら手で、強く扱け

僅かに余裕を無くしたOlの言葉に、ザナは言われた通りに手に力を込める。

んっ、ん、んっ、ふ、ん、んんっ

小さく息を漏らしながら扱き立てるザナの手つきに、Olの腰からぞくぞくと射精感がこみ上げてくる。

Olはそれに逆らうことなく、両手でザナの頭を掴みながら宣言した。

んぶっ!

手を、止めるな!

口内に流し込まれる白濁の液に止まりかけたザナの手が、Olの命令によって再び動き出す。二度、三度と断続的に精を注ぎ込まれながら、ザナはそれを更に搾り取るように手で扱いた。

ぐっ、うくは、ぁ

Olが精液を吐き出しきって荒く息を吐いたあともザナは止まることなく彼の肉槍を扱き続け、尿道の中の子種を吸い出すようにちゅうちゅうと吸う。

それも最後の一滴まで吸い出したあと、彼女は肉棒に吸い付いたまま、終わった?とでも聞きたげにOlを上目遣いで見つめた。

ああ。もう離していいぞ

Olがそう告げると、ザナは唇で肉槍を撫ぜるように慎重に口を外しながら、口内に溜まった精液をごくりと飲み干す。

まっずい

そして盛大に顔をしかめながら、舌を出して悪態をついた。

なにこれ、凄くまずい。生臭くてしょっぱくて喉に絡むし。水、水

そして慌てたように水差しから水を取ると、口を濯いで吐き出したあと、新しい水をニ、三杯流し込んだ。

別に飲み込まずとも、吐き出しても良いんだが

は?そういうことは先に言いなさいよ!飲んじゃったじゃないの!

Olが言うと、ザナは眉を吊り上げて怒鳴った。

まあ俺としてはその方が嬉しいがな。そら、次はお前の番だ。ベッドに座って、脚を開け

何か言いたげなザナの表情を無視して、Olは顎をしゃくってベッドを示す。

これ、なんか間抜けっぽいんだけど

気にするな。誰が見ているわけでもない

文句を言いながらも言われた通り脚を開くザナの秘所に、Olは指を這わせた。

濡れてないな

何もしてないんだから、濡れるわきゃないでしょ

すぐに、俺のものをしゃぶっているだけで濡れるようになる

なるわけないで、しょっ。変態じゃない、そんなの

ゆっくりとほぐすように愛撫するOlの指先に身体を反応させながらも、ザナは吐き捨てる。

なるさ。お前はもう俺の奴隷なんだ。そうなるまでじっくり俺のモノを味わわせ、馴染ませてやる

変態

精一杯怒ったような声色は、しかし消え入りそうに小さい。

この程度で変態と呼ばれては、これからどうなることか見ものだな

Olは意地の悪い声で言うと、ザナの秘部へと口をつけた。

えっ、ちょっ待って!だ、駄目ぇっ、そんな、とこ、汚い、ってばぁ!

待たぬ

頭を押さえつける腕の力など、男にしてみればないも同然だ。ザナの抵抗を無視してOlは舌先を彼女の膣口の中に侵入させ、平でスリットを下から上へとなぞり、陰核を唇で軽く吸う。

駄、目だっ、てぇっ

その度にザナは身体を震わせ敏感に反応するが、拒否を示す腕の力はまるで抜ける様子がなかった。

何が駄目なのだ。お前も俺のものを舐めただろうに

だってあたしはもうあんたの、奴隷、なんでしょ

潤みを帯び始めた声色で、ザナは答える。

しろと言われたらなんでも、するわよ。でも、こんなのはされるのは、奴隷の立場なんかじゃ、ない

やはり、そこか。Olは内心で呟きながら、更にザナの意識を蕩かしにかかった。愛液が分泌されぬめりを帯びた膣内に、指がするりと入り込む。知り合って大して間もなく、肌を重ねたのもただの二度きり。

しかし、肉体よりも深く魂で繋がり合っていた女の身体を、Olはザナ本人よりもよく知り尽くしていた。

中に入れた指をくにりと曲げて膣壁を押さえれば、ザナの口から本人も聞いたことのないような高い声が漏れ出る。

そっこぉ!あぁっ!駄目ぇっ!

Olの指がもたらす快楽は、まるで痒くて痒くてたまらぬ場所を掻いてもらうかのよう。どれだけ抑えようとしても喘ぎ声が喉を突いて出る。ザナは大きく開いた両脚の間を責められて、顔を真っ赤に紅潮させながら両手で口を塞いだ。

責めて、甚振って欲しいのか?

ちゅぷちゅぷといやらしい音を立ててねばつく体液をこね回すようにザナの膣内を愛撫しながら、Olは低く囁く。

ぐっううっ!

己の手で口を押さえ呻くザナ。しかしそのほんの僅かな反応の違いを、魔王は違わず察し受け止める。

お前は咎められ、罰せられることを望んでいるのだろう

Olは彼女の秘所から唇を離すと、その腹に、臍に、胸元に口づけを落としながら、ゆっくりと彼女を腕の中に抱き寄せる。

話してみろ。この部屋には俺しかいないし、音が漏れるような作りでも無かろう

堪えきれぬ程の快楽を与える手つきから、優しく身体を昂ぶらせるだけのものへ。愛撫の質を変えながら、Olはそう命じた。

あんたを信用しろって、言うの?

疑うような、惑うようなザナの視線。

まさか

それを受けながら、Olは肩を竦めた。

俺は奴隷に命令しているだけだ。しろと言われれば何でもすると言っただろう?

悪びれる様子もなくそう言ってのける彼に、ザナの肩から力が抜けた。

あんたって、本当にろくでもない男ね

仮にも魔王だからな

悪態にもどこ吹く風で答える彼に、ザナはため息を一つつく。

あたしは本当なら、この国に要らない存在だったのよ

そして、ぽつりぽつりと語り始めた。

どこまでいっても白い雪に覆われた、小さく貧しい氷の国。この国に唯一恵みを齎すのが、太陽の力をその身に宿す姫巫女。その才能を持つがゆえに、あたしたちの一族は王として敬われていた

それは、Olの知るそれとはまた違った政治形態だった。政でも知でも力でもなく、個人の能を持って国を治める。小国だからこそ出来ることではあろうが、そんな国もあるのかとOlは感心した。

けどあたしには、その才能がまったくなかった。どれだけ学び努力しても、太陽神イガルクはあたしに対してその力を貸すことはなかった。あたしには王となる資格なんて、そもそもないの

それはよくあることなのか?

Olの問いに、ザナは首を横に振る。

いいえ調べたけれど、歴史上他にはいなかったわ。かといって、父が不義をなしたわけでもない。あたしのこの目と髪は、お母様に瓜二つだったから

神の力とやらは、女にしか宿らんのか?

ええ。巫女と言ったでしょう?巫女になれるのは女だけ。だからこの国の王は、代々女王よ

ザナの話を聞いて、Olはふむと己の顎を撫でる。しかし何かを言うことなく、続きを促した。

そしてあたしと違ってイヴには妹には、きちんと陽の巫女の才があった。この国の救いとなるその力をあたしは

唇を噛み締めて。

失わせて、しまった

ザナは血を吐くような思いで、そう吐露した。

あたしがあいつウセルマートをこの国に招いたせいで、ヒムロから太陽は失われた上に偽王が支配することになったのよ。その資格を持たない、偽物の王が。あたしは簒奪者なの

Olの手は、既に止まっていた。ザナは彼の腕に抱かれながら視線をシーツに落とし、消え入りそうな声で続ける。

だからあたしがイヴに王位を譲るのは、当然のことなの。あの子こそが、正当な女王なんだから

違うな

だがその言葉を、Olはスパリと切り捨てた。

それが本当であるなら、わざわざ芝居を打つ必要もない。単に王位を譲り渡せば良いだけだ。だがお前にはそうせず、わざわざあんな手段を取る理由があった

ザナが身を固くして、Olを振り向く。やめてと小さく声がその唇から漏れたが、構わずOlは続けた。

お前は、妹が妬ましいのだろう。己が欲する全てを持つ妹が。妬ましくて羨ましくてそう思う自分を許せぬから、滅ぼそうとした。愚かなことだ

あんたに、あたしの何がわかるっていうの!

ザナの瞳が怒りに燃え、Olを刺し貫く。しかし魔王は動じた様子もなく、答えた。

わかるさ。欲するものを手にできず、愛するものを裏切り、同時に裏切られ。自棄になって愚かなことをするのにもまあ、覚えはある

どこか苦々しげなOlの言葉に、ザナは突然、それを思い出した。それは二度目にOlと寝た時。起きてすぐに忘れてしまっていたが、彼女の奥底にしまい込まれていた記憶。

あの時はまだ、魂で繋がり合っていたからだろう。ウセルマートに裏切られ、その復讐に生きたザナの過去をOlが夢で見ていたように、ザナもまた、彼の半生を覗いていた。

最愛の師に裏切られると同時に裏切り、自暴自棄になり、そして力を求めてダンジョンを作り上げるまでの一生。それは彼にとってはもう半世紀以上も前の古い記憶だったが、その傷は風化することなくザナの胸に転写されていた。

無意識に、その記憶を封じてしまうほどに。

だが一つだけ、俺とお前には重大な差異がある

Olが指をパチンと鳴らすと、部屋の扉が開く。

お前にはまだ、取り返しがつく、ということだ

褐色の肌と、ザナによく似た顔立ちを持つ少女。

イェルダーヴの姿が、そこにあった。

第14話臆病者を焚き付けましょう-8

イヴ!?なんで、あんたが!

Olが事前に確認していた通り、この部屋の防音性は完璧だ。例え扉に耳をピタリと当てても、中の声など聞こえないように出来ている。

太陽神イガルクのもたらす全知の権能を持ってすれば盗聴も出来るだろうが、ザナとてそれの対となる月の女神マリナの力を持っている。防ぐことこそ出来ずとも、覗き見られればそれを察知する事くらいは出来るはずだった。

Olが、とぼけた口調でしゃあしゃあと言ってのける。

その首輪には、魂を封じる機能を削除したかわりに、別の機能を持たせてある

慌ててザナはイェルダーヴの首元へと視線を向ける。そこにもまた、同じ首輪が嵌まっていた。

怒りよりも先に、絶望と恐怖がザナの心を支配する。

全て、知られてしまった。過去を見るのはウセルマートの使う太陽神アトムの権能。心のうちと過去とは、イェルダーヴは見ることが出来ない。

イェルダーヴがウセルマートに捕らえられたのが、ザナのせいであること。

そしてザナがイェルダーヴの事を妬み羨んでいること。

ひた隠しにしてきたその両方を、知られてしまったのだ。

おやめ下さい!

反射的に喉元へと伸ばされたザナの手を、イェルダーヴが飛びつくようにして押さえ付けた。

ななんで

ザナは驚きに、一瞬動きを止める。刹那のうちに放たれる彼女の術は、動きを見てから飛びついて間に合うようなものではない。イェルダーヴは今、ザナより先に動き出していた。

伝わって、くるのです

イェルダーヴは己の首輪にそっと触れ、慣れない舌を懸命に動かしながら言う。

お姉さまの、心の声が

まさかこれが?

遅まきながら、ザナは気づいた。首輪は単に彼女の声をイェルダーヴへ伝えるものではない。その頭のうちで考えたことまでをも伝えてしまっている。ちょうど、Olとその魂を繋げた時のように。

装着したものの魂を抜き取り閉じ込める。悪趣味な魔導具だが、その有用性は認めてやらんでもない。こうして一部のみを取り出せば、その考えを読み取ることも出来る

魂そのものを繋いでしまえば、互いの思考を隠すことは不可能だ。しかし一部だけを取り出しそれを読み取るならば、これは容易い。元々外部へ声として出すように設計した首輪の追加機能を、別の首輪の装着者やOl自身へ念話として伝えるようにすればいいだけだからだ。

魂を生きたまま取り出したり、それを肉体以外の場所に安定させるというのは存外難易度が高い。Olのような優れた術者が自分に対して行うのであればともかく、首輪をつけるだけで有無を言わさず成し遂げるというのは中々の技術だ。それだけは認めてやってもいい、とOlは思った。

片方だけというのも不公平な話だ。お前も妹の想いを聞いてやるがいい

言って、Olは魔力を乗せた指先でイェルダーヴの首輪をついとなでる。今まで制限されていた機能が開放されて、彼女の心の内がザナの頭の中に一気に流れ込んできた。

そこにはザナを責めたり恨んだりする気持ちは一切なく。ただ彼女を心配し、慮る気持ちだけが、幾万の言葉よりも雄弁にザナの心へと入り込んできた。

どうしてあんたは

ずっと、見ておりましたもの

ザナの頬を伝う雫を指先で拭いながら、イェルダーヴは目を伏せる。

わたしには、ただただ見ていることしか出来ませんでした。お姉様の爪が剥がれ、その血が凍りついて指を覆い尽くすまで氷術の訓練をするさまも。国中を駆け回り、民の生活を支え守るさまも。わたしを助けるために、その清き身さえ捧げるさまも

違う、と、ザナは首をゆるゆると振った。

違う違うのそんな、立派なものじゃない。あたしはただ、復讐のため。下らない、自分の自尊心を、守るためだけに

言葉に出さずともザナの心のうちはイェルダーヴへと伝わって、妹の心はまるで鏡のようにそれを映して氷の女王へと戻り伝わる。

いいえ、お姉様。おわかりに、なられるでしょう?

イェルダーヴはザナの手を握って、彼女の目を見つめ。

確かにあなたの心には、暗い翳りがあったのかも知れません。けれど民を、わたしを思う心もまた、嘘ではない。それは、確かにここに、あるのです

ザナの眼もまた、イェルダーヴの潤む瞳を捉えた。

お前は理想が高すぎるのだ

その頭をぽんと撫で、呆れ混じりのしかし、優しげな声色でOlは告げる。

常に間違わず、私心を持たず、最善で最良の王などいるものか。いたとすればそれは人間ではない。もっとおぞましいなにかだ

ででも、あたし、は

見せてやれ

逡巡するように視線を彷徨わせるザナを見て、Olはイェルダーヴに顎をしゃくる。

太陽神イガルクよ我に、彼方の果てを知らせ給え

小さく呟き、祈るイェルダーヴの脳裏に遥か彼方の光景がうつる。それは心の像を通して、ザナの視界に広がった。

今日も女王陛下の恵みに感謝を

あんた、そんな悪戯ばっかりしてたら、ザナ様みたいな立派なレディになれないよ!

我らが女王陛下に乾杯!

それは。小さな国のあちらこちらで人々の口に上る、ザナへの感謝や畏敬の念だった。

誰に強制されたわけでもなければ、誰に聞かせるものでもない。自然と言葉にするほどに、それはヒムロの国民に根付いてる。

小さな小さな、吹けば飛ぶような国。だからこそ、皆、知っております。お姉様がこの国を守るために、どれほどの犠牲を払ってきたのか。どれほどの力を尽くしてきたのか。どれほどの愛を、注いできたのか

そっとイェルダーヴはザナの身体を抱きしめて。

この国の王に相応しいのは、お姉様、あなたです。わたしだけではなく、皆が口を揃えて、そう言うでしょう

嗚咽が、部屋の中に静かに響いた。

四半刻近くも泣き続け、ザナがようやく落ち着いてきたところでOlはおもむろに声を上げた。

ザナよ。お前の主として命ずる。これからも王として、ヒムロを治めよ

ザナは小さく、しかしはっきりと頷く。Olは満足気に頷き返し立ち上がると、ふと周りを見回した。

それと次に来るときまでには、この部屋をもう少し何とかしておけ。こんな殺風景な部屋では、雰囲気も何もあったものではない

Olもそれほど雰囲気など気にする方ではないが、それにしたって程がある。ザナの部屋に比べれば監獄の方がまだ人間味があるだろう。

いい置き立ち去ろうとする彼の腕を、イェルダーヴがぐいと引っ張った。

何だ?

あのお、お約束、を

怪訝そうに振り返れば、先程まで姉を説得していた様子とは打って変わって、イェルダーヴはオドオドとした様子で蚊の鳴くような声を上げる。

約束?

わ、わたわたしを、抱いて頂ける、と

ああそれのことか

Olはちらりとザナを一瞥し、首を振る。

また今度にしろ。今は流石にそんな気になれん

踵を返そうとするOlの身体は、次の瞬間にはベッドの上へと押し倒されていた。

何をする

腕を引いてそうしたのは、イェルダーヴではない。ザナだ。正確には、ザナも、と言うべきだろうか。非力な女の力といえど、姉妹二人に同時に引かれればOlとて倒れもする。

人の体を散々弄ってその気にさせといて、そのまま放置するっていうのも酷いんじゃない?

放置、と言ってもだな。あれからどれだけ経ったと思っている

まともに話したところでこの用心深い女が本音を吐露などするはずもなく、かと言って酒に酔わせればまともな言葉も出てこない。故に快楽に酔わせたまでの話でしかない。そもそも肉体的な昂ぶりなど泣いている間にとうに過ぎ去っているはずだ。

何よ。こんな美人二人が相手してあげるって言ってるのに、まさか役に立たないなんてことは無いわよね、マスター?

なんだその呼称は。などと思っている間に、ザナはOlの上に伸し掛かる。イェルダーヴが入ってきたときにかけてやった外套がはだけて、彼女の真っ白な肌が露わになった。

それともわ、わたし達に、魅力、足らないですか?

それどころかイェルダーヴまでもが服を脱ぎ落とし、その豊満な褐色の肌を晒しながら不安げに問いかける。

待て。お前を抱けば太陽神とやらの力は失われるという話だっただろう。それがこの国に必要だとか言ってなかったか?

さっきイヴにこの国の姿を見せて貰って、わかったのよ

二人を押し留めながら問うOlに、ザナは答える。

国を治めるのに、そんなものはなくても、なんとでも、なります

それはまあ、そうだろうが

姉の言葉を引き継いで答えるイェルダーヴに、Olは頷いた。王の才覚というのならばともかく、先天的に備えた原理不明の力に頼って国を治めるというのは、Olとしても不合理なものに思えていたのは確かなことだ。

とはいえ使えるものは使えたほうがいいのではないか、とも思ったが。

それにね

ザナは生真面目な表情で眉根を寄せて、小さく首を傾げる。

正直無くせるなら無くした方が有り難いのよ。あれば頼ってしまうし、そうなればイヴがサハラの国で使われてた時と同じことだしそれに。やっぱり妬んじゃうからね、あたし

それは放った本人にすら意外なほどに、軽い口調だった。

今までひた隠しにしてきた己の醜さ、愚かさを知ってなお、態度を変えぬ魔王であったから。

さ、これで納得した?マスター

Olが反論の手を失ったところで、ザナは彼にしなだれかかる。反論などせずとも、形ばかりのものとはいえ今のザナは奴隷なのだからただそう命じてしまえばいいものなのに、Olはそうしない。

後悔は、するなよ

どこか呆れたように深く息を吐きながら、そう言うだけだ。

まあそんな魔王だからこそ、こうなったんだろう。

ザナはそう思いながら、彼にその身を委ねた。

第14話臆病者を焚き付けましょう-9

ぴちゃぴちゃと、微かな水音が部屋の中に響く。

まるで子猫がミルクを舐めるようなそれは、ザナとイェルダーヴ、二人の姉妹がOlの男根を挟み込むようにして舌で奉仕する音だった。

純白と褐色、似ても似つかぬ色の肌を持ちながら、その顔立ちそのものはまるで鑑写しのようにそっくりだ。

いかが、ですか?

ああ悪くない

不安げに問うイェルダーヴに、Olは二人の髪を撫でながら答える。正直に言ってしまえば、拙い口淫だ。二人で顔を寄せ合いながらの口淫奉仕は、どうしても舌と唇との動きがメインとなってしまい、難易度が高い。

自ら男に触れるのが初めてのイェルダーヴはもとより、先程コツを掴んだザナにしても二人での行為となると勝手が違って上手く出来てはいない。

だが、正反対でありながらそっくりな姿を持つ二人の美姫が姉妹揃って傅きグロテスクな器官に舌を這わせるその様は、技巧を補ってあまりある興奮をOlに与えていた。

正直に言ってよ。あんまり、良くないんでしょ

だがザナは目聡くOlの反応を感じ取って、拗ねたように唇を尖らせる。

そんな事はないが

うそ。さっきの方が気持ちよさそうだったもの

舌を伸ばして根本から舐めあげ、雁首を舌先でなぞり、裏筋をちゅうと吸う。Olから教わった技巧は、手で強く竿を扱き立てながらだからこそ意味のあるもので、舌先だけでどれだけ頑張ってもOlは先程のようには反応しない。

二人で奉仕するなら手指は邪魔になり、かと言ってイェルダーヴを排除するという選択肢も今のザナにはなく。

どうしたらいいか、さっきみたいに教えて?どんなことでもしてあげるから。ね、マスター

わたし、にも教えて下さい、えっとご主人、様

素直にそう頼めば、妹までもがそれに追随した。

何だその、ご主人様というのは

だ駄目、ですか?

思わず問えば、イェルダーヴは震えながら涙目でOlを見上げる。

好きにしろ

侮辱するようなものでないなら、呼び名などどうでもいい。Olがそう思って答えると、イェルダーヴはまるでかけがえのない宝物でも貰ったかのように、ぱあっと表情を輝かせた。いつも恐れ不安げな表情をしている彼女のそんな顔を見るのは初めてで、そんな顔も出来るのではないか、とOlは思う。

で?どうしたらいいの?マスター

すると焦れたように、ザナがぎゅっとOlのものを握りしめて再び問うた。

Olは少し考えて、視線を下に向ける。

胸を使ってみろ

あ゛ぁ゛!?

言った途端、ザナは柳眉を逆立て手に力を込めた。

待て。どうせなのだから、その辺りのコンプレックスも解消しておけ

女の力で握りしめたところでどうこうなるものでもないのだが、その手のひらにうっすらと冷気が漂ってきているとなれば話は別だ。己の分身が氷の棘に刺し貫かれる前に、Olは口早にそう言った。

そんなこと言ったって

ギリ、と噛み締めたザナの唇から血が滴る。太陽神の力などよりこっちの方をよほど妬んでいないか?と言う素直な感想を、Olは何とか飲み込んだ。

とはいえザナのその気持ちもわからないではない。よく似た顔立ちに同じ色の髪、同じ色の瞳。肌の色は単に育った環境の違いでしかないだろう。背丈と纏う雰囲気こそ異なるものの、双子とさえ間違いかねないはずの彼女たちを分かつ絶対的な差。

それが、胸の大きさだ。

両の手のひらに収まりきらぬほどにたわわに実った豊満なイェルダーヴのそれに対し、ザナの胸元はほんの僅かに膨らみがあるかどうか。悲しいほどに平坦であった。

そら、挟んでみろ

Olは有無を言わさぬ口調で、二人の背中をぐいと押す。反り立つ肉の塊が、白と黒の柔らかな肉に左右から押しつぶされた。

うぅ

その圧倒的な戦力差に、ザナは顔を思いっきりしかめる。ザナの胸にあたってぐにゃりと歪む膨大な質量は、彼女を落ち込ませるのに十分な破壊力を持っていた。

あのご主人様、どうしたら、いいでしょうか?

その深い谷間にOlの逸物を収めながら、イェルダーヴ。Olの太く長い肉槍はその乳房ですら覆い尽くすことは出来ず端がはみ出してはいるものの、それでも大部分を包み込んでいる。それに比べてザナの胸元ときたら、まるで壁のようにその切っ先を押し当てられているだけだ。

手で押さえて擦り上げてみろ

言われるがままに、イェルダーヴは己の乳房を両手で支えながら上下に揺らし始めた。柔らかな肉に挟まれしごかれる男根は、女のザナですら気持ちよさそうだと感じるものだった。ザナは挟むどころか、手で支えるほどの大きさもない己が乳房を呪った。

ザナ。もう少し、身体を上に上げてみろ

だから急にそう声をかけられて、彼女は目を瞬かせる。

こ、こう?

ああ。そうだ、そのくらいでちょうどいい

イェルダーヴと胸の高さを合わせるために屈めていた腰を浮かせると、Olは満足げに頷く。そしてぐんと突き上げられた肉槍の先端が、抉るようにザナの乳首を貫いた。

びりりと走る突然の快楽に、思わずザナは高く声をあげる。

うむ。やはりお前の胸は、具合がいいな

何、を、馬鹿なことんぅっ!

二度、三度と、Olのペニスの先端がザナの胸に擦り付けられる。

馬鹿なものか。わかるだろうが

ピンと硬く尖ったザナの乳首に、大きくエラの張った雁首の段差を擦り上げるように肉棒が押し付けられる。火傷しそうなほどに熱く火照ったその肉塊の先端からは先走りの汁が滴ってザナの胸元を汚し、ぬるぬるとした跡を残していく。それは明らかにザナに対して興奮しているのだと、伝わってくる熱をもって彼女は理解した。

舌だ、とザナは気づいた。

竿を包み扱き上げるイェルダーヴの乳房が口奉仕の際の手と同じ役割を果たしているとするなら、ザナのそれは舌と同じ役目を持っている。

薄いが柔らかな膨らみは舌の腹のようなもの。そこで男根を根本から撫で擦るようにして、その憤りを受け止める。胸の先端の蕾は舌先のように硬く尖っていて、雁首や裏筋、鈴口といった性感帯を刺激する。

なるほど、確かにこれは大きな胸では出来ない繊細な奉仕だ。

ザナはすぐにそう心得て、胸を反らして剛直に押し付ける。

く、うっ

イェルダーヴのたっぷりとした乳房とザナの胸とに挟まれて、Olは小さく快楽の声を漏らす。彼の奴隷となった女はその声を敏感に聞き取って、微かな笑みを浮かべた。

漏れ出た先走りの汁が肉茎を伝って二人の女の胸元を濡らし、にちゃにちゃと淫猥な音を立てながら柔らかな肉の間を、硬く猛る剛直が暴力的に犯していく。思わず腰を揺らして突き出せば、彼女らは抗議の声をあげるどころかその動きに合わせて胸を押し付け、その肉体を差し出した。

イくぞっ!

Olが宣言すると、ザナは咄嗟に首を伸ばし、彼の肉槍の先端をぱくりと口に咥え込む。快楽の奔流は白濁の迸りとなって、勢いよくザナの口内へと注ぎ込まれる。

ん、むやっぱり、まずい

だから別に飲まんで良いと言っただろう

それをごくりごくりと飲み下し、顔を顰めるザナにOlは呆れて眉根を寄せる。

飲んだ方が嬉しいとも言ったじゃない

ぽつりと呟くようなザナの小さな声を聞き損ね、Olは問い返した。

ご主人、様

だが彼女が答えるよりも早く、今までずっと黙っていたイェルダーヴが声を上げた。

ご主人様、わたしにもお情けを、頂けませんか?

そう急くな。物事には順番というものがある。まずは姉の方からだ

瞳を潤ませ懇願するイェルダーヴにそう告げると、Olはザナの身体をベッドの上へと組み敷いて、彼女の膣口に硬く反り立ったままのペニスを押し当てる。

えっとマスター?イヴの方からしてもいいのよ?

いや、まずはお前からでなくてはならん

姉としての矜持か、それとも経験を持つがゆえの余裕か。そう提案するザナにOlは首を横に振り、既に潤みを帯びた彼女の中へと侵入する。

んっふ、あぁっ

あっ!んあぁっ!

嬌声は、二つ同時に鳴り響いた。

どうだ。良いだろう?

は、いっ

イェルダーヴの肩を抱き寄せながら問えば、彼女は快楽に身体を震わせてコクコクと頷く。今なお首輪によって魂を繋がれた二人は、その感覚が共有されているのだ。ザナを犯せば、その快感はイェルダーヴにも伝わる。

ん、うぅっ!

あぁんっ!

押し殺した呻くようなザナの声と、高く響くイェルダーヴの声。姉妹の鳴き声が、部屋の中に反響する。

Olはザナの膣内に腰を埋めながら、イェルダーヴの唇を奪い、その乳房をそっと撫でる。

途端、ザナが悲鳴のような声をあげた。二人が共有しているのは触覚や視覚のような五感ではなく、その心に感じた事柄、快楽そのものだ。イェルダーヴから流れ込んでくる多幸感と快感には、堪えが効かなかった。

マスターっ!そこ、だめぇっ!ぐりぐりしちゃ、やぁんっ!

そして一旦決壊してしまえば、もう我慢など効かない。己の弱い部分を的確に抉ってくる硬い肉槍に喘ぐザナの声色は、自分でも驚くほどに甘く。

ごしゅじん、さまぁっ!あ、あ、あ、あ、あぁっ!

三度目にして既に開発されきった雌の快楽を処女の身で流し込まれたイェルダーヴは、あっさりと気をやってしまった。

ちょ、だ、だめぇっ、こんな、のぉっ、凄すぎるよぉっ!

そしてそのイェルダーヴの絶頂に、ザナもまた一気に高みまで引っ張り上げられる。きゅうと収縮し逸物を強く締め付けてくる彼女の膣内に、Olは容赦なく射精した。白濁の液をその子宮の奥へと注ぎ込みながら、上半身ではイェルダーヴの胸を鷲掴みにしながら深く舌を絡めあっている。

だがそれを怒るような余裕は、今のザナには存在しなかった。射精しながらもOlは腰を彼女に打ち付けるようにして更なる快楽を刻みつけてきていたし、イェルダーヴから伝わってくる満たされた愛慕の念は、あるいは自分が口付けられて感じるそれよりも強烈なものだったからだ。

ごしゅじん、さ、まぁ

そしてそれはイェルダーヴの方も同様だった。今まで想像もしたことのないような凄まじい快楽が彼女を襲い、その脚の間からとめどなく分泌された愛液が滴り落ちて、小さな池を作り出すほど。

ああ。交代だ

Olは一旦ザナの膣内から男根を引き抜くと、イェルダーヴを押し倒して彼女の中に突き入れる。濡れに濡れたそこは、愛撫どころか遠慮すら不要だった。純潔を示す膜を破った感触だけが僅かにあっただけで、するりと奥まで男を飲み込む。

直後、ザナが熱に浮かされたような表情でOlの首に腕を回し、唇に吸い付いてきた。唇をこじ開けるようにして舌が入り込んできて、それに応じれば顔の角度を変えながら、より深くより密接に交わろうと口づけを何度もかわす。

彼女の身体がその称号の通りに氷で出来ていたなら、溶けてしまうのではないかと思うほどの熱烈なキスだった。

ふあぁっ!

激しく唾液を交換しながら手を彼女の後ろに回し、秘所へと指を滑り込ませる。するとくぐもった声と高い声、二つの嬌声が響いた。

んっ、あっ、あっ、あっ、あぁっ、あああっ、ああああっ!

太い指でざらりとした膣壁を撫でてやれば、ザナは口づけも忘れて身体をビクビクと震わせ、Olにしがみつく。

ふあぁぁんっ!あ、ああっ、ああんっ!あ、あ、あ、あ、あ、あ!

それにもまして嬌声をあげるのは、イェルダーヴだ。己の中心を貫く男根が齎す快楽に加え、姉の魂が伝えてくる、膣壁を指でかかれる快楽。本来ならば並び立つはずのない二種類の快楽は、つい先程まで男を知らなかった娘を容易に果てへと連れ去っていった。

そこっ、だ、めぇっ!気持ち、良すぎる、よぉっ!

そしてそれは再びザナへと伝わり、否が応でもその興奮を絶頂へと至らしめる。

イくぞっ!

きゅっと収縮する膣の動きに合わせて、Olはそう宣言し。

だめ、だめ、だめ、だめっ、イっ!ちゃ、うっ!

ああ、あああ、ああああ、あああああああああああああっ!

三人は同時に絶頂に達して、Olはイェルダーヴの膣内深くに、白濁の液を注ぎ込んだ。

お姉様、ずるいです

Olの右腕に頭を預けながら、イェルダーヴはそういった。

ずるいって、何が?

その反対側で、Olの左腕を枕にしながらザナは問い返す。

わたしはご主人様の精を一度しか注いで頂いてませんが、お姉様は二回も注いで頂いてます。不公平だと思います

二度って、一度は口で飲んだだけじゃないの

二人の手はOlの股間へと伸び、ゆるゆると扱かれていた。愛撫と言うよりは、半ば無意識的なものなのだろう。Olも二人の胸を揉みしだいているので、その辺りは文句は言えないが。

ですから、わたしも口で受け止めたいと思います

出来るの?あれ結構難しいけど

人を挟んで喧嘩するんじゃない。Olはそう怒鳴りたいのを、ぐっと我慢した。

互いに遠慮しあって言葉もかわせない今までに比べれば、よほどマシだと思ったからだ。

第15話不滅の勇者を斃しましょう-1

ヤマトの国、ソフィアの迷宮、その中核となるサクヤの火山。

無事とは言い難いかも知れないがヒムロとの同盟を取り付けて戻ったOlを、火山の主、サクヤはふんわりと微笑んで出迎えた。

そちらの方は、故郷にお戻りになったのでは?

だがすぐに、その表情は凍りつく。Olの腕に縋り付くように、イェルダーヴが付き従っていたからだ。

うむそのはずだったのだがな

わたしはご主人様の奴隷ですから、ご主人様の元にいるのが当然です

自由な身体が馴染んできたのか、それとも姉と和解して自信を得たからか。きっぱりとした口調で、イェルダーヴはそう主張した。

ずっとこの調子なのよ、この子

うんざりと、リルが肩を竦めて見せる。

ご主人様呼びはわたしだけのものだったのに!

どこに対抗意識を燃やしているんだお前は

大体、リルがOlのことをそう呼ぶのは機嫌がいい時か皮肉っぽく言うだけで、普段は呼び捨てである。敬意も何もあったものではない。

しかし仮にも王妹殿下なのでしょう?国にいなくて良いのですか?

まあ良いと言えば良い。一応、こいつは人質代わりなのだそうだ

同盟を保証し、盤石にするための人質。政治に明るいわけでもなく、純潔を失ったことにより太陽神の加護もなくした。だがしかし、高貴な血筋ではある。人質としての役割は確かに誰よりも適任だ。

Olにもソフィアにもザナにも、互いを裏切る気もなければ理由もないという事を除けば、だが。

最初はザナ自身が人質になる、などといい出したのだが、流石にそれはOlにも彼女の部下たちにも止められた。

旦那様。お召し物をお預かりしますわ。お手を広げてくださいまし

子供ではないのだから、脱ぎ着くらいは自分でできるが

いえいえ、させてくださいまし

サクヤはOlの背後に回ると、彼の着込んだコートを如才なく脱がし、畳んでいく。

寒い雪国から、ソフィアの通路を使って一気に火山の中へとやってきたのだ。人の居住する区域は適温に保っているとは言え、毛皮のコートを着込んだままではあまりに暑い。

ご主人様、わたしも着替えて参りますね

ああ。部屋は前のものをそのまま使え

ありがとうございます

イェルダーヴの姿を見送って、サクヤはくいとOlの袖を引く。

旦那様。サクヤは土産話が聞きとうございます。何せ燃えたぎる火山住まいなものですから、雪と氷の国に足を踏み入れる機会があるはずもなく。興味がございますわ

まあ構わんが

ソフィアの活躍を見守った上でザナとイェルダーヴの相手までして、多少疲れた。軽食でも取りつつ土産話をするのも悪くはあるまい、とOlは安易に頷いた。

結論から言って、サクヤの言葉は大嘘であった。

土産話などそこそこに、火山の女神は暑くなってきましたねなどと臆面もなく言い放ってその厚い衣を脱ぎ捨てて、そのたっぷりとした胸元を見せつけるかのように襟元を仰ぐ。

真正直に見聞きしてきたものの話をしていたOlも、流石にそこまでされれば彼女の意図に気づく。そう言えばここ一月、二月は服従の首輪の解析作業をしていたり、ソフィアのサハラ運営に付き合ったり、ヒムロを訪問したりしていて、サクヤの相手をしてやれていなかった。

サクヤは強引な展開を殊更に好む。Olは突然立ち上がって有無を言わさずサクヤをベッドの上に組み敷くと、半ば無理矢理に抱いてやった。

コンコン、と律儀に扉がノックされたのは、ちょうど一戦を終えてサクヤがOlの物を舐め清めているときのことだった。

誰だ?

イェルダーヴ、です。旦那様にお伝えしたいことがありまして、参りました

Olとサクヤは顔を見合わせる。イェルダーヴの声から判断するに、色事のために訪れた、というわけでもなさそうだ。

サクヤは一旦喉の奥までOlの肉槍を飲み込むと、唇で撫でるようにしながら吸い上げて、最後に先端に口づけを一つ落とす。

続きは、今宵に

そしてそういい置くと脱ぎ捨てた衣を拾い上げ、彼女の姿は炎の塊となって掻き消えた。

入れ

その甘い残り香すらも掻き消えたことを確認し、Olは衣服を正してそう声をかける。

扉を開けたイェルダーヴの姿は帰郷した時のドレスではなく、ウセルマートに着せられたというあの扇情的な装いに戻っていた。

その服、気に入っているのか?

そういうわけでは、ありませんが

恥ずかしげに腕で身体を隠すイェルダーヴの姿は、かえっていやらしい。

名前もそうだ。お前の本当の名はイヴというのだろう。何故まだイェルダーヴと名乗る?

それについては、単に物心ついた頃からそう呼ばれていたので、本名の方は慣れないだけです

ザナの話によれば、イェルダーヴが拐われたのは彼女が六つのときだったという。マリーがOlのダンジョンにやってきたのと殆ど変わらない年齢だ。そんな頃からそう呼ばれていたのなら、無理もないかと納得する。

だが、その服は何故だ?

それ、は

イェルダーヴは恥ずかしげに、Olをちらりと見つめた。

お嫌い、ですか?

なるほど

そう言われ、Olは無遠慮にイェルダーヴの肢体へと視線を走らせた。羞恥に煽られイェルダーヴはぎゅっと身を固めるが、抱かれたその腕に歪められた大きな乳房はかえってその存在感を強調される。

ただ胸元に垂らされただけの布からは胸の下半分が丸見えで、その先端が硬く尖っていることまでがはっきりと形に現れてしまっている。下半身を覆う布は股の部分を僅かに隠すだけで、下着よりも面積が小さい。その上、紐が脚に食い込んで、そのむっちりとした肉感を殊更に強調していた。

面積としてはリルもそう大差はないのだが、彼女はその服装を恥じらうということがない為、あまりいやらしく見えない。淫魔として致命的な部分だ。だがイェルダーヴは明らかに恥辱を滲ませつつ、その衣装を着ている。

Olは思う。この服をデザインしたものは、よほどの馬鹿に違いない。違いないが、

いや。悪くない

完璧な仕事ではある。そう納得し、Olは頷いた。

で、そんな話をしに来たわけではあるまい

ほっと安堵の息を吐くイェルダーヴに問うと、彼女はどこかおっとりとした顔立ちを彼女なりに引き締めた。

はい。ご主人様は、ホスセリという名前の、狼の力を宿した方を探してらっしゃいますね?

居場所を知っているのか!?

突如立ち上がって勢い込むOlに、イェルダーヴは驚きつつもこくこくと頷いた。

はい。力を失う前に、視ておきましたので

となると、数日前の情報か

そんな事なら、純潔を奪う前に聞いておけば良かった。ちらりとそんな考えがOlの脳裏をよぎる。そして、彼は深く息を吸い、吐いた。

よく、教えてくれた。助かる

Olは彼女の力を利用しないと誓っていたし、そのつもりもなかった。それでも頼りたくなってしまうほどに、全知の力というのは強力だ。一度でも頼ってしまえば、それを手放すことなどできなくなってしまう。イェルダーヴがわざわざこうして事後に話しに来たのも、それを理解してるからだろう。

それで、奴はどこにいた?

ヤエガキと呼ばれる、サハラとヤマトの間の大山脈。あれを下り、こちらへと向かっているところでした

イェルダーヴの告げた場所に、Olは妙な表情で首を捻る。そんなに近くにいるとは思ってなかったのだ。

サハラからそこまで辿り着くには、あの大砂漠を超えた上で険しいヤエガキを登らなければならない。Olたちはソフィアの作り出した地下通路を辿ればいいだけだが、その助けもなしにたった一人で踏破するにはあまりに厳しい環境だ。

それに、時期も気になる。ウセルマートを討ち、ホスセリの行方が知れなくなってからもう数ヶ月が経っている。過酷な道のりと言えど、距離自体はそう何月もかかるようなものではない。

というより、そんなに時間をかければ先に食料が尽きる。砂漠も山脈も、間には店どころか食べることの出来る獣も木の実も殆ど無い不毛の地なのだから。

ならばホスセリは数ヶ月をどこか別の場所で過ごしたあと、今頃になってヤマトへ戻ってきたということになる。何故、と考えて、Olは一つの予想に行き当たった。

ホスセリがOlを裏切りウセルマートについたのは、恐らくその山犬の呪いを解いて人間に戻るためだ。イェルダーヴの全知の力によってその方法を知り、それを成し遂げて今帰ってきた。そう考えれば、辻褄は合う。

裏切ってまで手に入れた全知の力が今こうやってOlの元にいるというのは皮肉でしかないが。

そういえば今更だが、お前のその全知はイガルクとかいう太陽神によるものと言っていたな。砂の王はアトムだとか呼んでいたが、それは単に言語の違いなのか?

いいえイガルクとアトムはそれぞれ別の神。しかし、どちらも同じ太陽神です

矛盾するイェルダーヴの答えに、Olは首を傾げる。

何だそれは。山だの海だのならまだわかるが、太陽などというものは一つきりだろう。どうして幾つもいる?

わたしの奉ずる神イガルクは、中天に座す純白の太陽の神。ゆえにこの世の全てを見渡すことが出来ます。それに対しウセルマートが扱う神アトムは、赤き夕日の神。終わりを司るかの神は、過去を見通す力を持っています

なるほど二つ揃えてようやくの全知か

はい、とイェルダーヴは頷いた。

結局の所太陽が一つきりしかないのだから奇妙であることには変わりない気はするが、とりあえずOlは納得する。

過去と現在。加えて未来も見れるのならば真の全知だろうが、と思ったところで、Olはそれが出来るものがいることを思い出した。

あなた様!あなた様、帰ってきておられるか!?

噂をすれば、というわけでもないだろうが、扉が激しく叩かれる。

何事だ、テナ

扉を叩いていたのは天狐を操る巫女。未来を見、予知をなす女。Olが若返らせた老婆、テナであった。

先見があった。今すぐ逃げるんじゃ、あなた様!

テナはOlに縋り付くようにしてそう訴える。彼女がOlをあなた様などと呼ぶのは、二人きりの睦言の時のみ。せいぜいが、孫娘であるユツの前でだけだ。それをイェルダーヴがいる前で呼んでしまうというのは、よほど動転しているのだろう。

何事だ?今度は何を見た

といっても、彼女の予知は割と外れる。それを見た結果行動を起こせば未来は簡単に変化し、どのように変化するかまでは正確に見通すことが出来ないという欠点があるからだ。それを知っているOlは、落ち着き払って尋ねた。

死じゃ!あなた様が、死んでしまう!

何故これほどまでに怯えているのか。訝しむOlに、テナはほとんど叫ぶように言った。

どうあっても逃れられぬ、避けられぬ!業火に焼かれ、魂までも消えてしまう!ただ一つ、この地を捨て、逃げぬ限りは!

それほどまでの相手か。言ってみろ、俺は何に殺される?

予知で見た未来は変えられる。それは、他ならぬテナが誰よりも知っているはずだ。にもかかわらず断言するテナに、流石にOlも居住まいを正して問いかける。

あの、娘じゃ

テナは震える声で、言った。

ホスセリ。奴が、あなた様を殺す

第15話不滅の勇者を斃しましょう-2

ホスセリが、だと?

確かに、彼女はOlを裏切りはした。しかしそれは彼女の呪いを解くためのやむない判断であって、Ol自身に叛意を持っていたわけではない。むしろその逆だ。

Olに愛されたいがため、その醜い山犬の姿を消そうと考えたはずだ。ローガンからも、ホスセリがマリーを陰から守っていたらしき情報を聞いている。ウセルマートが死んだ今、彼女がOlを害する理由は一つもない。

だがしかし、イェルダーヴによればホスセリは今こちらに向かっているとも言う。それは奇妙な符合であった。

俺はいつ、どこで、どのように死ぬ?

不可解な点はまだ幾つかある。それは、そもそもホスセリがどうやってOlを殺すのか、という話だ。彼女は強い。強いが、それは飽くまで人としての強さだ。あの巨大な狼の姿にしたって、ミオの操る魔獣より強いかどうか。ユニスやスピナ、ホデリといった脅威をくぐり抜けてOlを殺せるとはとても思わなかった。

わからぬ、のじゃ

テナは力なく、ふるふると首を振る。

儂の予見は知っての通り、いくらでも変えられる。そして、変えた結果を知ることは出来ぬ

うむ、とOlは頷く。それは今まで散々見知ってきたことだ。

これは正確には、どう変わるかわからぬということなのじゃ。どう変わったか、なら、わかる

どういうことだ?その二つはどう違う?

例えば今、儂は半刻後に一つ数字を口にすると決めたとしよう。そしてそれを予見で見て、儂が言っていた数字を一つ増やして言う。初めに予見した時に儂が一といっておれば、半刻後に儂は二と言う

Olはハッとして目を見開く。テナが言わんとしていることがわかったのだ。

再び予見を使えば、二と言っている儂の姿が見えるじゃろう。その半刻後、儂は三という。予見を使って三と言っている儂を見れば、四じゃ。わかるな?

つまり、予見を使った時点で未来がずれ、その予見が役立たずになると言うことだな。変えた結果を知ることが出来ないとはそういうことか

Olの直截な言葉に、テナはぐっと呻いた。

や、役立たずとは限らんじゃろ。儂が何度予見を使おうと絶対に起こることはあるし、例えばあなた様の迷路を抜けるようなこととて出来る

今度はOlが呻く番だった。確かにそのような予知であるなら、迷宮の道を歩む全ての未来を見通すことが出来る。ダンジョンを通り抜ける可能性が僅かでもあれば、それを潜り抜けられるということだ。

わかったぞ。つまり、こういうことだな?

テナが何をいいたいのか理解し、Olは言った。

予見を行う度に、違う時、違う場所、違う方法で、俺は殺される

そういう、ことじゃ

項垂れ、テナは力なく頷いた。

じゃが唯一の例外がある。あなた様がこの地を離れ、元いた大陸に戻れば、その身が滅ぶことはない。こればかりは何があろうと絶対じゃ

なるほど、とOlは頷く。

じゃから手遅れにならぬうちに、早く

まあ、そう焦るな。死ぬと言っても今日明日というわけではないのだろう?

Olの問いに、テナはゆるゆると首を横に振った。

わからぬ。あなた様の言う通り、儂の予見はした時点で無効になる。その次の予見では、明日死ぬかも知れぬ。それを確認して大丈夫でも、その次の予見で今日死ぬかも知れぬ。どれほど見ようと、儂は結局何が起こるのか正確に知ることは出来ぬのじゃ

背を丸め床を見つめるテナ。Olはしばし黙考した後、唐突に扉を開け放って叫んだ。

なーに、パパ?

壁の一部がパカリと開き、そこからソフィアが顔を覗かせる。彼女は今日もピラミッドでアトラクションの商売をしているはずだったが、ダンジョンの中ならどこでも彼女の領域だ。遠く離れたここヤマトの地でもそれは変わりなかった。

ホスセリを覚えているな?ダンジョンの中にいないかどうか確認してくれ

うん、わかった!

Olを討つなら、どうしたってダンジョンの中に入る必要がある。であるならば、ソフィアなら絶対に見つけられるはずだ。

いた

目を閉じ集中していたソフィアが、パチリと目を開く。それと同時に壁面に丸く別の光景が映った。鬱蒼と生い茂った木々の立ち並ぶそこは、森のダンジョンの中だろう。

ホスセリか?

そこを歩いているのは、Olの知るホスセリとはずいぶん印象の違う姿であった。

オレンジだった髪は銀に染まり、身を包んでいた赤装束は見慣れぬ異国の武具にとって変わり、扱っていた短刀や投げナイフのかわりに長剣を振るっている。

忍びの者を自称し、その身軽さと身体の柔らかさを生かして隠れ潜み奇襲を好んでいた彼女が、真っ向から剣を振るって小鬼たちを殺していた。

無論小鬼如き、奇襲などかけずとも彼女の腕なら殺すのは簡単だろうが、それにしても様子がおかしい。そもそも、なぜ小鬼を殺しているのかわからない。

確かに妙だな。ソフィア、サクヤとホデリに繋いでくれ

はあい

ソフィアが腕を振り上げると、彼女が顔を出した窓の左右にスパンと二つ扉が開く。そしてOlの眼の前に現れたのは、床に座り背筋をピンと伸ばしてコメと呼ばれる穀物を頬張っているホデリと、着替えている途中だったのか脚に通した下着以外は一糸まとわぬ姿のサクヤで。

中身くらいはしっかり確認してから開けろ。

響き渡る火山の女神の悲鳴に耳を塞ぎながら、Olはそう思うのだった。

間違いなく、あれは我が愚妹、ホスセリです

サクヤが落ち着き着替えるのを待っている間、ホデリはソフィアの浮かべた光景を見つめてそう断言した。

装束には見覚えがありませぬがあの銀の髪。あれはそもそも、地の色です

ふむそう言えば、巨大な狼に変身した時も毛並みは銀だったな

ピラミッドで見た姿を思い出して言えば、ホデリは深く頷いた。

あれが毛を染めていたのは、赤装束と同じく火山の色に溶け込むため。そして、呪いの象徴たるあの銀色を厭うたが故でしょう

魔物を殺しているのは何故か分かるか?

ホスセリは小鬼だけでなく、出会う生き物全てを斬り殺しながら進んでいる。

わかりませぬ。ですが、あれは恐らく正気ではござりませぬな。そういう意味ではあれはホスセリではないのでしょう

弱すぎます

ホデリは短く、切って捨てる。

どこも至らぬ愚妹なれど、流石にあれほど愚鈍ではありませぬ。積んだ修練をどこぞに置き忘れてきたのでもなければ、あれの中身は別物なのでございましょう

悪しざまにいいつつも、そこには確かに妹に対する信頼があるように思えた。

あの衣装。見たことがございますわ

いつの間に着替えを済ませたのか。サクヤはその豪奢な着物の気配をまるで感じさせぬ軽やかさで、Olの背後から映像を覗き込みそういった。

サハラを超えて更に東。風の路(みち)を作り出す高原の国。風路(フウロ)と呼ばれていた今はもうなき国の民が着ていた服によく似ております

流石は年の功だな

女の齢を口にするものではございませんわ、旦那様

思わずOlが口にすると、サクヤはぷうと頬を膨らませて彼の脇腹をつねった。あのメリザンドよりも長生きだと言うのに、まだそんな事を気にするものなのだな、とOlは思う。

いずれにせよあの愚妹を捕らえて参ります

殺すの殺されるのという話はなしだぞ

片刃の剣を手に立ち上がるホデリに、Olは念を押した。

御意。ソフィア様、道を開いていただけますか?

はーい。ホスセリからちょっとだけ離れたところに開けるね

ソフィアがそう言った瞬間、ホデリの足元が口を開く。次の瞬間、ホデリは落下していた。現れた先は森のダンジョン、ホスセリの真上だ。

開いた道を通って逆に侵入されぬようにとの配慮だろうが、これはと、落下しながらホデリは思う。

これは、好都合だ。

空中で姿勢を制御しながら刀を抜き放ち、そのまま落下の勢いを乗せて全体重を持ってホスセリへと一撃を加える。それは片腕での一撃でありながら、見事にホスセリの左腕を肘から切り落とした。

殺すなと言っておるだろうが!

Olの怒鳴り声が、どこからともなく聞こえてくる。

ご安心めされよ、殿

ホデリは追撃を加え、反射的に振るわれるホスセリの右腕を切り落としながらそれに応えた。

腕を失くした程度で、人は死にませぬ

死ぬわ!

そういうホデリ自身が隻腕なのだ。説得力は十分にあるつもりだったのだが、Olの同意は得られないようであった。

しかし、これは

両腕を失っても構わず放たれる蹴り。ホデリはそれを軽くかわすと、刀を横薙ぎに振るって両脚を同時に切り捨てる。支えを失ったホスセリの身体が、苦悶の声もあげずにどうと地面に倒れ伏した。

いくらなんでも、弱すぎますな

ホデリの声にあるのは困惑だ。反応が悪すぎる。ホスセリがOlを確実に殺すという話だったが、この体たらくではとてもできそうにない。さては油断したところを爆発でもするか、あるいは呪い殺してくるか。そう考えてホデリは油断なく残心の構えをとっていたが、ホスセリはピクリとも動かない。

テナ。どうだ?

いいや未来はいまだ、変わっておらぬ

狐の耳を垂らしながら、テナはふるふると首を横に振った。

ひとまず、治療をするぞ。そのままでは本当に死ぬ。ソフィア、俺とホスセリを森の中心へと運べ

森の中心とは、かつてOlがソフィアを見つけた場所。拠点としての機能が残る一種の聖域だった。今はそこにはソフィアの手を借りなければ辿り着けず、人も魔物も寄り付かない安全地帯となっている。

Olはホスセリの身体を寝台へと運ぶと、念のために手足はそのまま、魔術で傷口だけを塞いだ。

これは凍らせておけ

ホスセリの手足を渡すと、ソフィアはそれを冷凍室にぽいと投げ込んだ。ザナの居城、氷の城も通路を繋げ己のダンジョンの一部にしてしまったので、氷は使い放題だ。

こうして冷凍保存さえしておけば、Olならば後でくっつけることも出来る。

よくわからんな

痛みのあまりか血を失いすぎたか、気絶したホスセリの状態をOlは魔術で確認していく。

と、申しますと?

全く異常がないように思えるのだ

隣で抜き身の刀をぶら下げたまま警戒するホデリに、Olは眉をしかめた。

そう。魔術で調べた結果、ホスセリからは何の異常も見つからなかった。例えそれがOlにとって未知の術であったとしても、精神や肉体を操作するようなものがかけられていれば気づく自信があった。

開かない扉を熟練の盗賊が調べたとして、見たことのない材料や方式でかけられていようと、扉に鍵がかかっていればそれとわかるようなものだ。何かが押さえ付けていて開かないのか、もともと開かない扉なのか、その区別くらいはつく。そのはずだった。

ともかくも、目を覚ますまで待つか。対話をすれば多少は何かはわかるだろう

例え言葉を話せる状況でなくとも、例の首輪がある。その心中を読み取ることは出来るはずだ。その結果何も情報が得られなかったとしても、それはそれで意味がある。

Olが軽く手を振ると、部屋を覆う蔓がホスセリの身体を幾重にも覆った。手足を失った状態で縛っておけば、流石に逃げ出すことも出来ないだろう。流石に念を入れすぎかも知れないが。

テナの予知に踊らされて酷なことをしているのかも知れない。Olは芋虫のような姿で縛られるホスセリの姿を見て、ほんの少し胸を痛めた。

その次の日の朝。もぬけの殻になっている寝台を、目にするまでは。

第15話不滅の勇者を斃しましょう-3

馬鹿な!

確かにホスセリを捕らえたはずの寝台を確認し、Olは声をあげた。

彼女を縛り付けた蔦は、完全にそのままだ。千切られたり、外されたりした形跡はない。ユニスのように自在に転移でも出来なければ、こんな風に逃げることは出来ないはずだ。

ソフィア!ダンジョンの中にホスセリはいるか?それと、昨日落とした手足はどうなっている?

どこにも、いないみたいでも手足は残ったままだよ

何だと?

では、手足を失くしたあの芋虫のような姿のままで、どこかへと逃げたのか。

一体どうやって、とか、何のために、という思考を、Olは一旦捨てた。問題はどこへだ。

流石にあの状態で遠くまでいけるとは思えない。というか、いけるのなら直接Olの元へと飛んでいるだろう。しかしダンジョンの中にいないとソフィアが断言するのなら、それは確実なことだ。

ならば。

マリー!ガイウスを呼べるか?

うん。ガイウスさんいい人だからたぶん大丈夫ー

Olはマリーを呼ぶと、そう命じた。

来たりませ。聖なる槍の持ち手、真実を見通すもの、無明ガイウス!

マリーの青い右目が赤く輝き、金色の髪が枯れ草色に染まる。それはかつて聖者を槍で突き、その血を目に浴びて英雄となった兵士の男。盲目であると同時に千里を見渡す英霊、無明のガイウス。

その力はイェルダーヴの全知には遠く及ばないが、しかしヤマトの国を丸ごと見通すことくらいは出来た。

いたよ、Olさま。森の入口に立ってる

思ったよりも近くに待て。立ってる、だと?

思わず聞き逃しそうになる違和感に、Olは気づき目を見開く。

手足が、ついているのか?

うん。しっかりついてる傷跡も残ってないよ

ガイウスの千里眼は、この距離であればその筋肉の躍動一つ、心臓の鼓動の数までをも見通すことが出来る。その力を操るマリーがいうなら、それは治療や再生などと言った生易しいものではない。Olが技術の粋を尽くして神経を接いだとしても、数日は使い物にならないであろう傷は残る。それすらないというのだ。

入ってきたよ!

悲鳴のようなソフィアの声。同時に、その光景が彼女の力によってOlの眼前に映し出される。

森の道を走るホスセリの姿は確かに万全なもので、肉体どころかその纏った衣服にすら傷はなかった。

どういうことだ?

本人に聞くが早いでしょう。何、昨日の予定と変わりませぬ

困惑するOlの横で、ホデリが刃を抜き放つ。

同じ手では読まれましょう。ソフィア様、別の方角に落としてくだされ

今度は真横に開かれる道を、ホデリは歩いて渡る。

ホデリ

その背中に、Olは声をかけた。

心得ております。殺しはしませぬ

いや。気をつけろ。嫌な予感がする

Olにしては、漠然とした具体性を欠いた忠告。

御意

ホデリは一瞬不思議そうに瞬きするが、すぐに表情を引き締め頷いた。

殺さないという宣言に対し、気をつけろとの言葉。

それをホデリはこう解釈した。

油断なく徹底的に破壊せよ、と。

言われてみれば四肢を削いだ程度で油断してしまったのはホデリの非だ。身体があり、歯があり、目がある。どういった理屈で蛙のように手足を生やしたかは知らないが、そうして治す手段があるというならかえって好都合だ。

森の影から現れたホスセリに、ホデリは刀を構えた。相も変わらぬ、愚鈍な動き。かつての妹の俊敏さの欠片もなく、隠れ潜んで不意をつくような老獪さも感じられない。

ホデリは一歩踏み出すと、迷わずその目を狙って突いた。突きすぎればそのまま脳を破壊し殺してしまうだろうが、半寸ばかり突き入れたところで引けばよいだけのこと。ホデリにとっては呼吸をするのと同じくらいに容易い作業だ。

かわすことも出来ず、ホスセリはあっさりと眼球を貫かれる。だがその時、何やら妙な感覚がした。

思ったよりも、浅い。突きを僅かに変化させて切っ先で両目を同時に切り落とすつもりだったが、片目しか抉れなかった。眼窩から血を流しながら、ホスセリは傷に構う様子もなく長剣をホデリに振りかぶる。

技巧も何もない、単純な振り下ろしをホデリは重心の移動だけで脚も動かさずにかわす。同時、ホスセリの腕を狙ったカウンターの切り上げで、違和感は決定的なものとなった。

何っ!?

狼狽の声を上げ、ホデリは飛び退る。人間の肉ではなく、とんでもなく硬い鋼を打ったような感触が、ホデリの手のひらに残っている。

いや、彼の刀は鋼の柱ですら両断できる。しかしホデリの一撃はホスセリの腕を覆う篭手を切り落としただけで、その肌には毛ほどの傷もつけてはいなかった。

どういう、ことだ!?

狼狽えつつも、二撃、三撃と閃光のようにホデリの刀が振るわれる。しかしそれは防具を切り裂き衣服を両断しながらも、ホスセリに傷をつけることは一切なかった。

唯一効いたのは、最初に狙った左目のみ。それとて今思えば、尋常な瞳に比べ異様に硬く、片方を切り裂くに留まった。

もう片目を狙った突きは、直前でホスセリの手のひらに阻まれた。防具に覆われてすらいない柔らかな手のひらが、しかしホデリの渾身の突きを受け止め掠り傷すらつかない。

殿御免!

ホデリはぐいと刀を押して、反射的にその切っ先を掴もうとするホスセリの呼吸を外して引いた。そしてその指先が虚空を掴んだ瞬間を狙って、もう一度神速の突きを放つ。

それは狙い違うことなくホスセリの唇の間をすり抜けて、喉の奥を突き貫く。肌の表面と違って、流石に口の中までは刃を弾くほどの硬さは持ち合わせていなかった。

ホスセリの項から銀の刃が突き出して、ごぼりと血が吹き出す。ホデリがずるりと刀を引き抜くと、ホスセリは倒れ、地面に転がった。即死だ。

申し訳ありませぬ、殿。某の未熟な腕では、殺さずに止めることが出来ませなんだ

いやそれは仕方あるまいが待て!

ソフィアの映し出した光景越しに、Olは目を見開いた。地面に倒れたホスセリの死骸が、すうと消えていってしまったからだ。血の跡や千切れ落ちた衣服の端切れなどは残っているが、死骸はどこにもない。

ど、どこにもいないよ!

というか、少なくともヤマトにはいないみたい

Olの言葉にソフィアがそう答え、ガイウスをその身に降ろしたままのマリーがぐるりと周囲を見回して言う。

ホスセリは、確かに絶命していたはずだ。

ホデリ程の使い手が、はっきりと殺したと言ったのだ。見誤るはずがない。

Olの目から見ても、ホスセリは間違いなく死んでいた。

消えたということは、あるいはリルの分身のような偽物なのかも知れない。その考えを、Olはすぐに振り払う。ホスセリの喉を突いて吹き出した血液は、紛れもなく本物だった。

それが分身であれば、血など出るはずもない。材料が何であれ、Olの形代のように元の材料に戻って破壊されてしまうはずだ。血と肉とを本物の人間と同様に備えているなら、今度は逆に消えてしまう道理がない。

ならば消滅ではなく、転移。

だが、かと言って、死んだ後に転移の術を使うことなど出来るわけがなかった。

ソフィア、マリー、他に不審な影はあるか!?

ううん、何もいない。誰か他の人が転移させたわけじゃないと、思う

やや自信なさげに、ソフィアが眉を寄せる。

無明の力でも怪しいものは見つからないよ。無明の力の範囲外から転移させたなら、わからないけど

そんなことが出来るはずあるまい。無明の能力が見渡せるのは、六百マイル(約千キロメートル)程。いかなる弓矢も届かぬ超長距離だ。そんな遠くから力を届かせるものなど、いるわけも

そこである可能性に気づき、Olの言葉は途切れた。

テナ。お前の予知は、どうなっている?

ある意味で全てが変わり、ある意味で全てが同じじゃ

Olの問いに、難しい表情でテナは答える。

ホスセリは日の出とともに三度いいや。何度でも蘇り、お主はいずれ殺される。何があろうとじゃ

一度ではなく、何度も予知を繰り返しているのだろう。彼女の表情は暗く、声色は絶望に満ちている。最初も二度目も、ホデリはホスセリを易易と下してみせた。あの調子であれば百回でも千回でも殺してみせるだろう。

だが、一回目に比べ二回目のホスセリは強くなっていた。少なくともホデリが生け捕りに出来なかった。もし死ぬ度に生き返り、その度に強くなっていくとするなら、テナの予知が揺るがぬのも道理であった。

業火に焼かれ、魂までも消えてしまうだったか

不意にそんな事を口にするOlに、ふとテナは顔を上げる。

お前が最初に言ったことだ。その時俺は、どうあっても逃げられないという言葉の方を気にしてしまったが。あれは、どういう意味だ?

ホスセリは、魔術の類を扱えない。ザナやイェルダーヴが使う神術とでも呼ぶべきものや、テナやその孫のユツが操る妖術も。何者かに操られているらしい今も、剣を振るうばかりで炎など出していない。ならば、その死因はどういうものなのか。

わからぬ。言われてみれば、そうじゃそれは、儂が最初に見た先見じゃった。けして消せぬ熱と炎に苦しみもがくあなた様の姿に動転してしもうたがそれ以降、あなた様は炎では死んでおらぬ。刺されたり、首を刎ねられたり、蹴りで粉砕されたり、拳で押しつぶされたりしておる

ずいぶんバラエティに富んだ殺され方だな

Olは顔をしかめ、軽口を叩いた。可能性の話であるとは言え、自分が殺される様を語られてあまりいい気分にはなれない。

おおよそは、わかった

何故なのか。どうやっているのか。どうしたらいいのか。それは全くわからない。

だが

ホスセリが何に操られているのか。そして俺は何故死ぬのかは

Olは天を見上げ、目を細める。ある意味では、マリーの考えが当たっていた。

無明の力さえ遠く及ばぬ範囲外からの干渉いや。見えては、いる。無明ではなく、Olの肉眼でさえ。

敵は不滅。何をしようと滅びず、死を恐れることもなく、何度でも蘇りそしてその度に強くなる。不滅の勇者といったところか

昇る太陽を睨んで、Olはつぶやいた。

第15話不滅の勇者を斃しましょう-4

わたしがどこにいるか、ですか?

ザナの顔、ザナの声、ザナの身体で。

しかし、口調を異にする彼女は、不思議そうに首を傾げた。

それは、おわかりになって聞いてらっしゃるのでしょう?

目を細め微笑む彼女のその妖艶さは、ザナにはないものだ。

ではやはりそうなのだな

火山の神サクヤは火の山の中に。ダンジョンの神であるソフィアはダンジョンの中に。あの自由極まりない海の女神タツキでさえ、平時は海の中にいて陸には食事のときにしか上がろうとはしない。

ならば、ザナの口を借りるだけで姿は見せぬ月の女神マリナが本来どこにいるのかは、考えるまでもない。

ええ。わたしがいるのは、月の上です

月の女神マリナはそう、答えた。

ということは、太陽神は太陽の上か流石にそれはどうにもならんな

太陽というものが見た目ほど近くにあるわけではないということを、Olは知っていた。かつてメリザンドが空の彼方に浮かべていたスターコアは数千マイルの高さにあったというが、それでさえ太陽までには程遠い。ユニスの転移の力を持ってしてさえ届かぬ距離だ。

では加護を打ち消す方法はあるか?

打ち消すですか

Olの問いに、マリナは少し困ったような表情をする。

例えばあなたが誰かに力を貸そうと決めたとして。どうやったらそれを諦めさせることが出来ますか?

逆に問い返されて、Olはむっと呻く。確かに、Olがそうと決めたのならばそれを覆すのは不可能だ。

イェルダーヴは純潔を失うことによって太陽神の加護を失ったが、それはただ単に好みの問題だろう。神が処女にしか力を貸せないというわけではない。そもそもホスセリは生娘ではないし、ザナもそうだ。

では、お前ならばどうする?

逃げますね

間髪を入れず返ってきた答えに、Olは溜め息をついた。彼女の権能は最善手。そしてこの場合の最善手ははっきりと分かってしまっている。少なくともOlはこの大陸を去ってしまえば無事なのだ。ただ、残されたソフィアたちがどうなるかわからない。

それ以外では?

わかりません。わたしの力は最善の糸を手繰り寄せる力。日の光を映してその影を象る力です。それによって何が起こるかを知ることは出来ませんし知ることが出来ないからこそそれは最善となる

なるほど、な

テナの能力の説明を聞いた後であれば、その理屈はするりと飲み込めた。結果がどうなるかを知ってしまえば、そもそもそこから未来が変わってしまうのだ。だから過程を知ることなく、ただ結果だけをもたらす。女神マリナの力は、つまりはそういうものなのだ。

まあ良い。参考にはなった。礼を言う

折角来たのにもう行くのですか?

椅子から立ち上がり、踵を返すOlをマリナは呼び止めた。

昇りゆく太陽神の加護を得て不滅だと言うのならば、復活は日の出と同時でしょう。でしたらもう少しゆっくりしていってはどうですか?

いや。悪いが、すべきことも考えるべきことも山積していてな。お前の相手はまた今度だそれと

にこりと微笑む彼女の頭を撫で、Olは言う。

マリナなら多分、来たのにではなく、いらっしゃったのにと言うぞ、ザナ

途端、ザナの白い肌が朱に染まった。

出てきたぞ、Ol

払暁を待ち、地平の果てから黄金色の光が差し込み始めた頃、メリザンドはそう告げた。六千年の時を生きた聖女である彼女は、マリーよりも遥かに巧みに英霊の力を扱える。自身に千里を見渡す力を借りるだけのマリーに対して、メリザンドはその光景を映し出して他者と共有することが出来た。

サクヤの火山を中心として広がる森のダンジョンの東側、ヤエガキ山脈の麓の辺りに積まれた石の祭壇の上で、ホスセリが身体を起こす。やはりその身にはホデリがつけたはずの傷は一つもなく、衣服や防具すら元に戻っていた。

さて奴は今、肌も体内も、瞳さえ刃を受け付けぬ身体となっているはずだが

某に、お任せくだされ

どう対処するべきか。悩むOlに、ホデリが真っ先に声を上げた。

出来るのか?

は。お任せ頂けるのであれば

Olの知る限りホデリは最高峰の剣士でありそして、それ以外の何者でもない。ただただ卓越した剣技を持つだけの、普通の男だ。それに対して相手は刃を受け付けない体になった相手。手の打ちようはないように思える。

一度止めればいいというわけではないぞ

御意に。恐らくはあと三度は、足止め出来るかと

跪くホデリに、Olは目を見開いた。ホスセリは恐らく、撃退され日が昇るごとに強くなる。そして一度撃退する時に使った手段は通じなくなるのだ。そんな彼女を三度も止められるとはにわかには信じられないが、かと言って嘘や冗談でこんな事を言う男でもない。

わかった。その三度で、必ず何とかする方法を見つけてやる

そう請け負うOlにホデリは深々と礼をして、ふと思い出したかのように言った。

一つだけ、殿にお願いしたき儀がございます

さてすまんが何度か相手をしてもらうぞ

その両手で片刃の剣を握り、ホデリは三度ホスセリと相対する。彼がOlに頼んだのは、かつてオロチとの戦いで失った左腕をもう一度再生して欲しい、というものだった。

元の腕が残っているならともかく、完全に失われてしまった四肢を元通りに復活させることはOlにも不可能だ。骨や肉、皮はともかくとして、神経までをも元通りに戻すのは魔術で出来る領域を超えてしまっている。

ゆえにホデリの左肩から生えたそれは、精微を極め剣の頂きに指をかけつつある右腕とは違い、ただの不格好な肉の塊である。一度Olに再生してもらった時も、こんなものであればない方がマシだと切り落としてしまった程なのだから。しかし今、ホデリはそれにすら頼ることを決めた。

目にも留まらぬ程の速度で、ホスセリの剣が突き出される。一度目、二度目とは段違いの疾さであった。明らかに、強くなっている。

身を開こうとするホデリの動きは間に合わず、彼の胸の辺りに剣が突き刺さる。鉄の塊が貫いたのは心臓その、一寸の更に半分ほど隣。肺腑に穴が空き派手に血が吹き出すが、しかし致命傷ではない。

ホスセリは反射的に剣を引こうとするが、遅い。ホデリは呼吸をしないままに、刀を走らせた。音もなくホスセリの両手両脚が断たれ、彼女は地に崩れ落ちる。ふ、と息を吐こうとすると、代わりにごぼりと血の塊がホデリの口から溢れ出た。

お前は真面目な顔をして無茶苦茶をするな

呆れと驚嘆を半々に浮かべながら、Olが姿を現す。

彼がホデリの傷口に手をかざすと、血は止まり傷口はあっという間にふさがった。

何。こうして治して頂けるのはわかっているのだから、死にさえしなければ安いものです

肺の中に溜まった血反吐を吐き出し、口を拭いながら軽く言ってのけるホデリ。スピナも己の負傷を顧みないところがあるが、彼女は単純に苦痛を苦痛と感じていないだけにすぎない。痛みも苦しみも人並みに感じた上でそれを厭わないホデリは、あるいはそれ以上に狂っているのかも知れない、とOlは思った。

そもそも、なんで切れるのだ。こいつは剣への耐性を得たのではないのか?

Olは反撃に気をつけつつも、失血死せぬようホスセリの両手足の傷口を治療する。うめき声もあげずピクリとも動かないが、ホスセリはまだ生きていた。恐らく死んでしまえば、また昨日のように消えてしまうのだろう。

ええ。その肌は恐らくいかなる刃も通らぬようになっているのでしょう

ホデリは頷き、刀を振って鞘に収める。癖を超えてもはや呼吸の如き血振るいの動作だが、その刃に血は一滴たりともついてはいなかった。

ですから、肌や肉ではなくその間隙を切りもうした

間隙?

訝しげに繰り返すOlに、ホデリは頷く。

人の肉体に限らず、ものには全て間隙があります。ものを成り立たせている最小の単位の、間が

ものを成り立たせている最小単位。それは魔術師たちの間で、原子などと呼ばれている想像上の存在だ。Olも恐らく実在するのだろうとは思っているが、その実在を確かめる方法は想像もつかない。

そこに刃を通せば、肌自体がどれだけ硬く頑丈になっていても関係ござらぬ

彼の言っていることが真実であれば、なるほど確かにそうだろう、とは思う。だがそれは

それはつまり、お前には切れぬものなどない、ということか?

いやいや、まさか。某はまだまだ道半ばもいいところ、未熟者であります故

照れくさそうに頭をかきながら、ホデリは視線を上に向ける。

まだ空は斬れませぬ

やはりヤマトの民はどこかおかしい。

Olはつくづく、そう思った。

第15話不滅の勇者を斃しましょう-5

やはり駄目か

うむ無理なようだ

Olの問いに赤く染まった髪を煩わしげにかきあげて、メリザンドは頷く。

やはりとは何だ

その口から、低い男の声が飛び出した。

お前の能力ではメリザンドの呪いも解けぬのだろう。ホスセリの呪いは下手をすればそれよりも強力なものだぞ

ぐっ

Olの言葉に、メリザンドに憑依した英霊、ザイトリードは呻いて口を噤んだ。

あらゆる魔術を無効にするザイトリードの鉛の能力。それでホスセリにかかった支配を解くことは出来ないかと試してみたが、案の定その試みは無駄に終わった。

ただどんな傷も治り変化しないメリザンドの不死の呪いよりも、日が昇る度に更なる力を持って復活するホスセリにかかった呪いの方が、効果としては強力に思える。故にOlは殆ど期待していなかった。

もっともメリザンドのものは数千年経ってなおその効力を些かも減じていないという時点で規格外なのだが。

だが魔王。言っておくが全くの無駄というわけではないぞ

手応えは、あった

虚空にかざした手をぐっと握りしめ、不敵な笑みを見せるザイトリード。しかしその外見は憑依したメリザンドひいてはマリーの姿の生き写しであるため、全く似合っていなかった。

メリザンドにかけられたような、押しても引いてもどうにもならぬ呪いではない。俺の力が及ばなかっただけで、原理的には消すことが出来る呪いだ

なるほど、つまり

Olは深々と頷いた。

これで解呪への耐性も得てしまったわけだな

うっ!?

そこまで思考が及んでいなかったのだろう。ザイトリードは呻き、愕然とした。

まあ良い。お前に解けぬのなら、どのみち誰にも解けぬ

Olがザイトリードに言ったのは、軽口のようなものだ。そもそも死に繋がらない干渉に対しても強化されるのかどうかはわからない。

しかし厄介な事だな

寝台に横たえられ、暴れることすらなく虚空を見つめるホスセリを見つめ、Olは嘆息する。解呪を含め、彼女自身に対するあらゆる試みは無駄に終わった。

対話は勿論不可能だったし、読心術の類も全く効果がない。Olはまるでリビングデッドを相手にしているような気持ちになったが、ホスセリの心臓は確かに動いていたし、その肉体は生きていた。

ザナとイェルダーヴに使った首輪も試してみようかと思ったが、テナがそれをつけた後の未来が見えないなどといい出したため断念した。一体何が起こるかわかったものではないが、ロクな事にならないであろうことは確かだ。

お師匠様。割り出しが終わりました

さてどうしたものかとOlが思案していると、羊皮紙の束を手にスピナが現れた。

幾つあった?

全部で九十八個。それも、大陸中にです

ふむ。数はおおよそ合うな。やはり一日に一つと言ったところか

Olが床石をせり上がらせて即席のテーブルを作ると、スピナはその上に羊皮紙を広げる。それは、地図であった。ヤマトから東方のヤエガキ山脈を隔て、氷の国ヒムロや砂の国サハラ、そしてその更に東に広がる高原までをも描いた広大な地図。

その到るところに、印がつけられている。その数、九十八。

それはホスセリが姿を消してから今に至るまでの日数でもあった。

その印は何だ?

二人の会話の意味がわからず問うメリザンドに、Olは答えた。

ホスセリが復活する場所だ。これを今から、全て破壊する

よいしょー!

轟音を立て、リルの掲げた石火矢が火を放つ。大砲形態から放たれる魔力の弾丸は、丘の上に突き立った剣を粉々に破壊した。

流石に剣までには、不滅の力は宿ってはいないようだな

ホスセリの死体は死ぬと同時に消え、そして森のダンジョンにほど近い祭壇の上で復活した。わざわざあんな場所で蘇ったというのはただの偶然ではなく、復活できる場所は決まっているということだろう、とOlは予測した。

そしてそれは、たった一つではないはずだ。

復活の場所を記録(セーブ)しておく場所だから、記録地点(セーブポイント)とでも呼ぼうか。

それは大陸の各地に、あらゆる手段で作られていた。

スピナ、次はどこ?

ここから東、およそ三十マイルです

リルの問いにスピナが手のひらの上で蠢く桃色のスライムを見つめ、答える。

セーブポイントの位置を割り出したのは、このスライムの能力だった。

はいはーい。じゃあソフィア、お願いね

リルが声を掛けると地面が隆起し、Olたちを取り囲んで小さな部屋を形作る。ついでその部屋が崩れた時には、外の光景は全く別の場所へと変わっていた。もはや大陸の大半を覆うように広がるソフィアのダンジョンを経由すれば、数十マイルに渡る移動も一瞬であった。

さて、今度はどれかしら

あれですね。あの古木です

スピナの指差す先には、一際古い木が雄々しく聳えていた。その幹には縄のようなものが巻かれており、緑色の鳥の羽根のようなものが飾られている。

大きいわね。ちょっと強めにいくから、耳閉じておいてね!

リルはそう宣言し、今日十数度目となる砲を放つ。閃光とともに轟音が響き渡り、大地を揺るがして、次の瞬間には古木はバラバラに弾けとんでいた。

ちょっと、休憩、していい?

石火矢を降ろし、荒く息を吐きながらリルはそう提案した。本来悪魔に呼吸は必要ないが、魔力を消費しすぎるとそうなる。大気に僅かに混じる魔力を呼吸によって取り入れようとする反応だ。

ああ。今魔力をくれてやる

ん、ありがとー

両腕を伸ばすリルを抱き寄せ口づけると、彼女はOlの身体から容赦なく魔力を吸った。ミシャと契約して境界を僅かながら操れるようになった今、Olはどこでもほぼ無尽蔵に魔力を取り出すことが出来る。

かつてはOlがリルの事を魔力タンク代わりに使っていたが、逆の立場になっているのは何とも奇妙なことだった。

んっちゅぷんむっふ、はぁ

魔力を吸い取った後もたっぷりと舌を絡ませ口づけを堪能して、満足げにリルはOlから離れて転がっている岩の上に腰掛ける。受け取ったOlの魔力が馴染むまでは休憩の時間だ。

そういえばスピナ、どうやってあなた何してんの?

言いかけた言葉を切って、リルが呆れた視線を向ける。Olが釣られてスピナを見ると、彼女は先程のリルを真似るように両腕を伸ばしていた。

来い

ハッとして腕を引っ込めるスピナに言うと、彼女は恥ずかしげに、しかし嬉しそうにOlの胸元に収まる。傍から見れば何時も通りの鉄面皮なのだろうが、長年付き合ってきたOlとリルにはそれが彼女なりの満面の笑みであると知れていた。

えーと、それで、どうやってこのセーブポイント?とかいうの見つけてんの?

たっぷり十数分Olとの接吻を楽しんで、ツヤツヤと肌を艶めかせるスピナに、リルは改めてそう尋ねた。

呪術と組み合わせたスライムを作り出しました

言って、スピナは先程みせた桃色のスライムを取り出す。

元々関連していたものは、その繋がりを断たれても関係するそれが、呪術の考え方です。私はそれを利用しました。ホスセリがセーブポイントに戻るというのなら、彼女が残していった手足も戻ろうとする。けれどその能力が肉片にはない。であるならば、それを与えてやればいい

つまり、それって

リルはスピナの手のひらにのったスライムを見つめた。

鮮やかな桃色のスライムは、見ようによっては可愛らしく見えなくもない。

はい。ホスセリの手足を煮溶かしたスライムです

綺麗なピンク色だと思ったら、肉の色なの!?

正確には血と脂の混じった色ですね

だが屍肉が原材料と聞いては、とてもそう思うことは出来なかった。

しかしよくもこの短期間で、そんな都合のいい代物を作り出せたものだな

方式自体は既にお師匠様のあっ

Olの問いに、スピナはいいかけて慌てて口をつぐむ。

俺の、何を使った?

すみません、その、御髪をいえ、そのどこにいらっしゃってもお側にいたいと

だがそこまで言ってしまえば全部口にしたも同然だ。Olが問い詰めると、しどろもどろになりつつもスピナは白状した。

まあ良い。でかした

ため息を付き、Olはスピナの頭を乱暴に撫でる。

あとでたっぷりと仕置をしてやる

第15話不滅の勇者を斃しましょう-6

風よりも早く、ホスセリが駆けた。

遥か彼方、地平の果てにあった小さな点は瞬く間に眼の前までやってきて、勢いをそのままに長剣を突き出す。

やはり思ったとおりですな

ホデリがそれを見つめながら言った。

もはやその攻防は、Olには目で追うことすら出来ない。

気づいたときにはホデリの胸には剣が突き刺さり、ホスセリの身体は地面に転がっていた。

ホデリは剣の刺さった胸から激しく血を流しつつも、腰を深く落とし右腕を突き出した姿勢をゆっくりと元に戻す。その間にホスセリの身体は徐々に薄れ、以前のように消えていった。

ホデリはその腰に挿した片刃の剣を抜いてさえいないし、ホスセリの身体にも傷らしきものは見られなかった。にもかかわらず、ホデリは何らかの方法でホスセリを絶命させたらしい。

奴は際限なく強くなるのでしょう。ですがそれは、単純なものでしかない

Olの治療を受けつつも、ホデリは言った。

刃を食らわば硬くなる。それさえ斬れば今度は早く。何の工夫も技もない。ただ防ぐだけであれば、十度でも百度でも防げそうです

明らかに致命傷いや、致命のほんの一歩手前の傷を受けつつも、ホデリは自信満々にそう言ってのける。

貴様、わざと攻撃を受けているな?

Olの問いに、彼はあっさりとうなずいて見せた。

二つ、気づいたことがあります。一つは技巧には変化がないということ。奴が強くなるのは速さと強さといった単純な強さのみ。そしてもう一つは、変化するのは必要な分だけ最低限、という事です

最低限?

然様。どのような理由かは存じませぬが、愚妹は某が見せた強さ、それをほんの僅かに上回る程度に強くなっておりまする

それで、わざわざそんな傷を負っているのか

Olの言葉に、ホデリはもう一度うなずいた。余裕を持って攻撃をかわせば、次はその動きではかわせない速度の一撃がやってくる。ゆえにホデリは、ギリギリで死なぬ程度に攻撃を受けて凌いでいたのだ。次の一戦のために。

まあそれもあと一回が限度でしょうが

防御はともかく、攻撃は致死か行動を不能にする一撃を加えなければならない。しかもその度に強くなっていくのだ。流石のホデリと言えども、そう何十種類もホスセリを殺す方法を持ってはいない。

ちなみにさっきのはどうやったのだ?

明らかにホデリは剣を抜いていなかった。剣ではなく拳だから問題ない、などという単純な話ではないだろう。今のホスセリは外部からの攻撃であれば何であれ無効化するようになっているはずだ。

あれは通しと呼ばれる技術で、本来は甲冑を着込んだ相手に無手で打撃を与えるものです。それで胸を打ち、心の臓を直接破壊し申した

よくもまあ魔術も神術も使わずそこまで鍛え込んだものだ

Olは呆れたものか感心したものか悩んだ。体術をその域にまで高めるのには、並々ならぬ努力が必要だったであろう。術に頼らず一心に磨いてきたからこその技量ではあるだろうが、しかし術を併用すればもっと容易く成し遂げられた気もする。

ただ一点。今この時に限って言えば、それは何よりも頼もしいことだった。

ホデリが約束した三度までホスセリを止めるという約束のうち、二度は既に果たされた。残り一度でOlはホスセリをどうにかしなければならない。

Ol達が辿り着いたのは、ホスセリの築いた九十八のセーブポイントを破壊し尽くしたその先。サハラの更に東、高原の果て。フウロと呼ばれる小さな国がかつてあった場所だ。

風路(フウロ)の名の通り、幾筋にも吹き通る風がOlたちの髪を撫で付けていく。しかしそこにはもはや住むものもなく、風化した家の残骸だけが無残に晒されていた。

テナの予知と、スピナのスライム。そのどちらもが、この先を指し示している。

流石の俺も、想像もしなかった

そしてそこにあったものに、Olは瞠目した。

よもやこの世に、壁のないダンジョン、などというものがあろうとはな

視線の先に広がるのは、複雑に張り巡らされた石造りの通路だ。

玄室どころか壁も天井もなく、通路から足を踏み外せば谷底へ落下する空中回廊。

しかし他ならぬOlが認める以上、それもまた、紛れもなくダンジョンであった。

ゆくぞ

号令をかけるOlに続くのは僅かに三名。ホデリ、ユニス、ソフィアだけだ。

ダンジョンって言ってもこれ、跳んで渡っちゃ駄目なのかな?

通路を眺めて、ユニスは素朴な疑問を呈する。通路は一人ずつしか渡れぬほど細く、通路と通路の間は跳び越えるには幾分距離がある。しかしユニスの脚力とバランス能力であれば、跳んで超えられないことはなさそうにも思える。

まあ、無理だろうな

しかしOlは首を振って小石を拾い上げると、それを放り投げた。すると突然谷間から猛烈な風が吹き荒れて、その小石を谷底へと弾き飛ばしてしまう。

その程度の対策はしていよう

なるほど、風が壁代わりなんだね。まさに風のダンジョン、かあ

ユニスは表情を引き締め、頷く。

しかし、道は見えているのです。正しい道を進むのは容易なのでは?

ダンジョンで最も怖いのは、罠でも敵でもなく、迷うことだ。その点、全貌をほぼ見渡すことの出来るこのダンジョンでは迷いようというものがない。ホデリは無造作に歩を進めていく。

いいや。そうであればこの俺がダンジョンなどと呼ぶものか

その襟首をOlが掴むと同時、ホデリの足が空を踏んだ。途端巻き起こる凄まじい風にその身体が引き込まれる寸前で、Olは彼の身体をぐいと引きずり倒す。

今のは

ただの幻影だ。お前は腕は立つが、こちらはさっぱりだな

通路が続いているように見えるが、それはただの虚像にすぎない。虚と実が入り乱れ、一歩誤ればすぐさま牙をむく。それがこのダンジョンであった。

そしてそれは取りも直さず、今もこのダンジョンが生きていることを示している。

どうやら当たりだな

Olは頭上を見上げてつぶやいた。

ダンジョンが生きているということは、そこに住まうものもまた健在だということである。巨大な鳥が何羽も舞い降りてきたかと思えば、その口から炎が吐き出された。

うわっ、こんな地形で空から火を吹いてくるとかずるい!

ユニスが叫びながら剣を引き抜き振るう。

これって矢とか放ったら風で飛ばされるんでしょ?逃げ場もないし、戦いようがないじゃない

巨鳥たちが羽ばたいているのは遥か上空。どんなに長い槍も届かぬ距離だ。

あたし以外は

チン、と音を立ててユニスが剣を鞘に収めると、鳥たちはその翼を引き裂かれて谷底に落ちていった。空間を跳躍するユニスの権能。それを斬撃に適用する自由自在の剣戟は、風にも距離にも関係なく敵を切り裂く。

でも、この調子じゃあ、だいぶ時間がかかりそうだね。力もつかな

ユニスは前方を見据え、呟く。確かに壁のないダンジョンはどこまでも見渡せるが、だからといってその全貌を知れるわけではなかった。

空中回廊は遥か彼方まで続いていて、その先はようとして知れない。複雑な通路を辿っていくならば、その長さは見た目の何倍にもなるだろう。ユニスの斬撃を飛ばす技は転移に比べて消耗は遥かに少ないが、それでも限界があった。

無論、バカ正直に進むつもりはない。ソフィア、セレスに交代だ

うん。セレスさん、出番だよー

ソフィアが部屋を作り出し、ユニスを囲む。それが消え去ると、まるで手品のようにユニスの代わりに白アールヴの姫、セレスが現れた。

どうすればいいかはわかっているな?

ええ。心得ておりますわ

セレスは頷き、弓に矢を番えた。その矢の末端、筈の部分には蔓が結わえ付けられ、セレスの足元へと長く伸びて束になっている。

彼女が矢を放つと、蔓を伸ばしながら飛んでいくそれを撃ち落とさんと猛烈な風が吹き荒れた。

だが矢は先程Olが投げた石のように叩き落とされることはなく、まるで風の中を舞い踊るかのようにくるくると飛んで、本来の飛距離を遥かに超える彼方の通路へと突き刺さった。

すごーい!なんで!?

ソフィアは目を丸くしてパチパチと手を鳴らす。

色も形もない、目に見えぬ風の動き。それをこの世で最も知るものはなにか、ご存知ですか?

そんなの、木の葉に決まってるよ

ソフィアの言葉に、セレスはにっこりと微笑む。

ご名答です。私たちアールヴとりわけ、白の氏族は木々の申し子。風を読むのは容易いことです

無論、ダンジョンの機構がそう簡単に侵入者に利する訳がない。どれほど完璧に読み切ったところで、矢の飛距離が伸びるような風向きに風が吹く訳がない。

だが、その流れをほんの僅かでも変えられるのなら、話は別だ。

白アールヴは優れた射手であると同時に、秀でた魔術師でもある。矢の受ける風を操ることなど造作もなかった。

次を

セレスが手を伸ばし、ソフィアが次の矢を渡す。森のダンジョンを掌握している彼女は、無限に等しい矢と蔓を用意することが出来た。それを何度も繰り返すと、幾重にも重なり合った蔓は太く頑丈な生ける橋となる。

これが石造りであれば、どれだけ堅牢に作ろうと吹き付ける風にすぐに砕かれてしまうだろう。だがしかし無数に隙間の空いた蔓の橋は、どれほど風が吹き付けようとそれを細かく砕いてすり抜けさせ、しなやかに揺れて破壊的な衝撃を逃れた。

さあ、進むぞ

Ol、セレス、ソフィア、ホデリの順に並んで橋を渡っていく。

その半ばまで来たところで、ギチギチと音が鳴り響いた。

見れば奇妙な怪物が谷底の上から這い出して、セレスの作った橋を齧り切ろうとしているところだった。それは大雑把に言えば、アリに似ている。しかし大きさは人間と同じくらいもあって、節くれだった手足は虫にしてはあまりに獣じみている。

すぐさまセレスが矢を放ったが、怪物の硬い甲殻に弾かれて傷一つつかない。

ソフィア、次はユツだ!

すかさず叫ぶOlに答え、セレスと入れ替わりにユツが姿を現した。ソフィアのダンジョンの中に控える彼女たちは、ソフィアの耳目を通じて状況を完全に把握している。

既に妖狸の霊をその身に宿していたユツは、尾を引き抜くとそれを振り下ろした。

妖狸の太い尻尾はたちまち巨大な柱に姿を変えると、吹きすさぶ風など物ともせずにその質量のまま倒れてアリに似た怪物を押しつぶす。

役目を終えた柱は途端に木の葉の塊に変じたかと思うと、強風に散っていった。

目まぐるしく人を入れ替えながら、Olたちは風のダンジョンをどんどん進んでいく。

無数の肉食羽虫をサクヤの炎が燃やし尽くし。

巨大な三つ目の鬼をリルの石火矢が貫き。

俊敏に襲いかかってくる六脚の魔獣をエレンの強弓が打ち倒し。

幾つもの首を持つ竜をスピナの粘糸が切り裂き。

ガス状の不定形の魔物をタツキの水が押し流す。

出てくる怪物はどれも初めて見る相手であり、また狭い足場でまともに相手にするなら苦戦は免れ得ぬ強敵であった。

しかしそこは、千の怪物と万の魔物を知るOlである。

己の知識にある魔獣や妖魔との相違点や類似点からひと目でその弱点と倒し方とを見抜き、ソフィアに指示を下す。

ソフィアも阿吽の呼吸でこれに答えてすぐさま人を入れ替え、敵を迎え撃った。

時にはOl達が渡る通路のすぐ横の谷底から突然現れ奇襲をかける怪物もいたが、そういったものは片端からホデリが切り伏せていく。仮に相性が悪く殺せないまでも、Olとソフィアが準備を済ませる時間を稼ぐくらいは容易いことだった。

一行の受けた傷は、無限の魔力と稀代の腕を持つOlがすぐさま魔術で治療する。

そうなればいくら広大とはいえ、所詮はたった一階層しかないダンジョンだ。

Olたちは僅か半日ほどで、最奥へと辿り着いた。

これ、だね

確信を秘めたソフィアの言葉を、Olも首肯する。

そこにあったのは、大きな祭壇であった。

空中に走る通路の果てにあるそれは、客観的にはただの石の塊であるにも関わらず、目にしただけでそれとわかる神々しさがあった。

一際高くなったその祭壇から周囲を見回せば、底さえ見通せぬ深い谷底があるばかり。その更に先を見渡せば、雄大に連なる山々には目線の高さで雲がかかっていた。ここは文字通り、空の上なのだ。

Olたちはそこに陣を敷き、野営を行う。結界を張って襲撃にも備えていたが、

神聖な祭壇だからか、それともここまで辿り着けば無意味と知ったか、怪物たちは一度も襲いかかっては来なかった。

日が昇るね

やがて白み始めた空に、ソフィアが呟く。

山々の隙間から現れでた太陽はちょうど祭壇を覆うように光を放ち、Olたちの視界を白く染め上げる。

そして次の瞬間には、そこにホスセリの姿があった。

これが最後の戦いというわけか

ゆるりと刀を構え、ホデリは己が妹と相対した。

参る

パン、と音がした。ホスセリが音を超えた速度で迫る音だ。それがOlの耳鼻を打ったそのときにはもう、ホデリの剣はホスセリの剣を叩き落としていた。

今まで紙一重で心臓を抉ってきたその攻撃を、もはや受けてやる必要はないということだろう。しかしいかにしてそんな事を成し遂げたのかは、Olには知る由もない。

剣を落としてなお振り抜かれる腕を、ホデリもまた片刃の剣を投げ捨てて両手を添わせる。くるん、とホスセリの身体が回って、地面に叩きつけられた。

だが刃をも通さず、内臓への打撃をも克服した彼女にダメージはない。構わず起き上がろうとするホスセリの動きが、しかし突如としてピタリと止まった。

殿。止め申した

暴れるホスセリを押さえつつ、ホデリ。

それはどうなっているんだ?

Olの目には、さほどの力も入れずに奇妙な形でホスセリを押さえているようにしか見えない。にもかかわらず、ホスセリは完全に動きを封じられていた。

関節を極めております。音より早く動けようと、骨と腱を無視して人は動けませぬ

なるほど、人間の体の構造を利用しているのか本当にお前は奇妙な技ばかり使うな

ホデリの簡潔な説明に、しかしOlは理解した。こうして押さえ込むために、ホデリは失っていた左腕の再生を願い出たのだろう。

して、いかがなさいましょう?

そのまま押さえておけ

Olはそう命じると、呪文を唱えながらホスセリの身体に手をかざす。すると、何とか逃れようともがいていた彼女は突然ピタリと動きを止めた。

単純な麻痺の術だ

効くだろうとは思っていた。何故ならホデリは今まで物理的なアプローチしかしてこなかったからだ。魔術への耐性は一切ないはずだった。

しかし、それは一時しのぎにしかならぬのでは?

そうだな。無論、これで終わりではない

当然のことながら、一晩経てばそれへの耐性も得てしまうだろう。

だからこそ、全力を注ぎ込むためにここまで温存してきた。

ここから先は、俺の仕事だ

第15話不滅の勇者を斃しましょう-7

さてこんなものか

ソフィアたちを一旦ダンジョンへと帰し、Olは一人残って丹念に準備を施していた。キューブを展開して祭壇の周囲に敷き詰め、その出来栄えを何度か確認して満足気に息を吐く。

さあ、いくぞ

そしてホスセリに向かって解呪の魔術を放った。といっても、ザイトリードにすら解けなかった太陽神の呪いが解けるわけがない。それはOlがかけた、麻痺の術を解くものだった。

途端、弾かれたようにホスセリがOlに向かって走り出し、剣を振るう。だがその刃がOlの胸を貫こうとしたその瞬間、ホスセリはあらぬ方向に移動して剣を振っていた。

ホデリの奴が技も工夫もないとは言っていたが、これは予想以上だな

何度も何度もOlに向かって突進しては、虚空を切り裂くホスセリの姿にOlは呟く。彼が事前に準備したのは、転移の罠の迷宮だ。

傍目にはなにもないように見えるが、その空間は複雑に絡まりあっており、見た目通りにOlの方に近づいたのでは永遠に辿り着くことが出来ない。音より早く動けようと、鉄をも砕く力があろうと同じことだ。

ホスセリはその日、ただただ愚直にOlに近付こうという試みを繰り返し続けた。

再び日が落ち、そして昇る。ここが最後の祭壇だからか、ホスセリは今までのように消えることなく、光に包まれた。この祭壇をも破壊してしまえば、あるいはホスセリは二度と蘇ることはなくなり、脅威は排除できるのかも知れない。だがOlには、そうするつもりはなかった。

面白い真似、するね

ホスセリが、ぽつりと呟く。ガラス玉のように何の感情も映していなかったその瞳には、僅かではあるが知性の光が宿っていた。

Olが作った次元の迷宮は、力づくでは決して脱出できないパズルのようなものだ。空間自体が捻じ曲げ接続されているのだから、魔術への耐性を上げたところで無意味。

それを突破する為の選択肢は三つ程度しかない。

ユニスのように自由自在に転移する力を身につけるか。

ザイトリードのように魔術自体を破壊する力を身につけるか。

あるいは、ほんの僅かな思考能力を手に入れるかだ。

強化は必要な分だけ、最低限であるとホデリは言っていた。であれば、太陽神がどれを選ぶかは自明である。

知っているかもしれんが名乗っておこう。俺はOl。貴様が使っているその肉体の主人だ

問答を、する気はないよ

言いつつも、ホスセリは迷いなく次元の迷宮の正解ルートを辿っていく。思考能力だけではなく、何らかの探知能力も備えたらしい。

だが、それは無意味なことだった。

眠れ

Olの魔術が眠りの雲を呼び出して、ホスセリの頭を包み込む。麻痺の魔術よりやや強めにかけたそれはすぐに効果を発揮して、ホスセリはあっさりと昏倒した。

Olは次元の迷宮を解除すると、眠るホスセリの身体を祭壇の上に横たえ、更に幾つか魔術を仕込んでいく。抵抗感からして、彼女は麻痺だけではなく魔術全体への耐性を得ているようだった。しかし威力を制御してやれば、もう二、三回は魔術をかけられるだろう。魔術の精微な威力調整は、Olの最も得意とするところだ。

さあ。俺が指を鳴らすと、お前は目が覚める。しかし、大きく動いたり、深く物を考えたりすることは出来ない。まどろみの中だ

パチン、とOlの指が鳴る。ホスセリの瞳がゆっくりと開かれる。しかしそこには先ほど見せた理知の輝きはなく、代わりにとろんとした夢うつつの眼差しがあった。

お前の名を、教えてみろ

クク、ル

辿々しく言葉を返すホスセリに、Olは満足げに頷く。

彼女にかけたのはごくごく低級な催眠の術。しかしそれは覿面に効果を表していた。

女のような名前だな

私は女

女神なのか?お前は太陽神なのだろう?

一側面だから、女

ホスセリはいや、その身に宿った女神ククルは辿々しく、答える。それは催眠にかかった人間特有の反応でもあり、同時にホスセリ自身の反応を思い起こさせた。

それは好都合だ

少なくとも、イェルダーヴが奉じていた太陽神イガルクは男神だと聞いていた。だから無意識にホスセリを操る神もそうなのだと思いこんでいたが、そうでもないらしい。奇妙な事だとは思いつつも、Olはあまり気にしない事にした。

覚えているか?お前はお前のこの肉体は、俺のものだと

祭壇に横たわったままのククルの胸を、Olは鷲掴みにする。

お前のその肉体は俺のものだ。言ってみろ

私の肉体はあなたの、もの

そう。お前は、俺のものだ

囁くように繰り返しながら、Olはとん、とんとククルの肌を撫ぜていく。

んっぅ

その唇から、微かに声が漏れる。

昨日彼女が麻痺している間に、Olはその身体をじっくりと開発していた。

知性があろうとなかろうと、肉体の反応が消えてなくなったわけではない。

お前が俺のものであるという証拠を、刻みつけてやろう

Olはククルの服を脱がしながら、その下腹部に指を添わせる。魔力の籠もった指先はまるで筆のようにククルの白い肌に跡を残し、複雑な紋様がその下腹部子宮のある位置の表面に描かれた。

これは性感を増幅する魔術紋淫紋だ。お前が俺に隷属すればするほどその効果を増し、快楽を引き上げていく

隷属

お前はただ心のままに、俺に身を委ねれば良い

ただの事実を復唱させて、その解釈を拡大することで認識を少しずつ歪め、強制はせずに己の望む方向へと誘導していく。それはOlの得意とする催眠、洗脳の常套手段であった。

いかに太陽神と言えど、その権能に果てなく無限ということはないだろう。故に、Olは己が最も得意とする手段で勝負に出た。

Olの技と術とに太陽神の能力が抗しきらねば、Olの勝ちだ。

さあいくぞ

彼は覚悟を決めて、祭壇の上に横たえたホスセリの上に自身を埋めた。

日が沈み、再び昇り、そしてまた沈む。

ホスセリが新たな耐性を得てOlの術を逃れる度にOlは術の威力をあげて、彼女を拘束し更に念入りに洗脳を刷り込んでいく。

催眠、洗脳自体はククルの自由を奪い拘束するものだ。当然それへの耐性は得て、彼女の意識は次第にはっきりしていく。だがしかしそれと反比例するかのように肉体はOlの与える快楽に蕩け、熟れていっていた。

昼夜を問わず繰り返される快楽と淫蕩に塗れた戦いは丸二日間続き、それは三日目のことであった。

あぁっ!く、ぅんっは、あぁぁっ!

祭壇で四つん這いになり、後ろから突き入れられて、ククルは気持ちよさげに鳴き声をあげた。下腹部に描かれた淫紋が強く輝いて、それが彼女にビリビリと響くような快楽を伝えていく。

快楽は、危害ではない。故に彼女はそれへの耐性を得るわけでもなく、素直にそれを楽しんでいた。

そこぉっいい、のぉっOl、そこ、もっと、ゴリゴリ、してぇっ!

随分素直になってきたな

犬のような姿勢で尻を振ってねだるククルに、根本までずっぷりと埋め込みながらOlはその乳房を弄ぶ。

ん、だって、こんなの、初めてだしあっそれ、おっぱい、もっと、してぇっ

明確に敵対する間柄でありながら、二人は睦み合い、気軽に言葉を交わし合う。

それにもう、今日で最後、でしょ?

そうだな

それはククルがOlの限界を知っているが故の余裕であった。

太陽の女神ククルの権能がOlの術を上回る範囲を見事に読み取って、それをほんの僅かに超える術で次の日を制する。精微を極めた魔術師の、ある種の到達点。Olであるからこそ出来た芸当だ。

彼は度々ホデリの技に半ば呆れ半ば感心していたが、剣と魔術の差があるだけで、Olの芸当も相当に人間離れしている。

だがその繰り返しにも、いよいよ限界が訪れていた。三日目の朝、Olがかけた術は全力でのものだったのだ。これ以上、ククルを押し止めることは出来ない。

ククルもそれをわかっているがゆえに、最後の逢瀬を存分に楽しんでいた。

お前は、何が目的なんだ?

んっふ、あ、ぁそうだねおっぱい、もっと、気持ちよくしてくれたら、教えてあげる

Olはククルを抱き上げると向きを変えて己の膝に乗せ、対面座位の格好でその胸の先端を口に含む。

ん、や、ぁ触っ、あっそれいいっ!すご、いっ!あぁっ!

焦らすようにじわじわと舌先が乳輪をなぞり、同時にOlの無骨な指が柔肉を優しく揉みしだく。堪えきれず懇願しようとしたその瞬間にピンと硬く尖った乳首が軽く甘噛されて、ククルは思わず高く鳴いた。

それで、目的は?

あっ、や、やめないでかつての栄光を、取り戻したい。それだけだよ

唇を離し、焦れる程度の強さでクリクリと乳首を摘み上げるOlに抗議しながら、ククルは答える。

栄光、か

Olは思わず振り向いて、風のダンジョンを一望した。

それは未だ機能した生きた迷宮ではあったが、しかし万全には程遠い。きちんと管理され、運用されていた頃であればOlとてここまで簡単に奥まで辿り着けはしなかっただろう。

そしてその周囲の滅びた街。そこもまた、かつては人々で賑わい栄えていたはずだ。

この子は、私の国の民その王族の、末裔。だから、力を借りたの

王族だと?

思わず問い返すOlに、ククルは頷く。

獣の神に呪いをかけられ流浪の身になって失われちゃったけどね。その獣の神ももう滅んで、どこにもいない

遠い昔を懐かしむように目を伏せ、ククルは独白するように言った。

この国を復興したいというのなら、手伝ってやる。それでは駄目なのか?

ごめんね。Olの事は嫌いじゃないけどそれは、無理

無理なのは復興なのか、それとも手を結ぶことなのか。

どちらかはわからないが、Olの差し出した手は、しかしはっきりと拒絶された。

ね。そんなことより楽しもう?最後、なんだし

Olは頷き、ククルの両乳首をねじりあげるようにしながらずんと腰を突き上げた。

ククルはぎゅっとOlにしがみついて、快楽を受け入れる。淫紋が一際激しく輝いて、彼女は声を震わせながら絶頂した。

うんっ!頂戴。中に膣内に、頂戴。私を、Olのものにして

隷属の言葉と意思に反応して、淫紋が更に輝きを増す。先程否定したばかりの懇願に、しかしOlは素直に従った。

ああ俺のものになれ!お前は、俺の女だ、ククル!

うんっ、うんっ、Olのものになる!

出すぞ孕めっ!俺の子を、孕めっ!

ああっ、ああああっ!来る、来てるっ!Olの、あかちゃんできちゃうぅっ!私の、この子の、おなかがっ!喜んで、迎え入れちゃってるっ!

どくり、どくりとOlは白濁の液を容赦なくククルの胎内へと注ぎ込んだ。すると紫の光を放っていた淫紋が、琥珀色に染まっていく。

それは、堕ちきった証。身も心もOlに隷属した証拠であった。

何の備えも仕込みもしていない精は我先にとククルの子宮を蹂躙し、犯し、穢していく。その奥で待っていた卵につぷりと子種が侵入するのを確信して、ククルはぶるりと身体を震わせた。

孕んじゃっ、たぁ

うっとりと顔を綻ばせ、琥珀色の紋様を輝かせて。ククルの開いた股の間から、たっぷりと仕込まれた精液がこぽりと溢れ出す。

そのまま順調に行けば、十月十日の後に彼女は元気な赤子を生むことだろう。

そんな日はけして来ない事を、Olもククルも理解していた。

それ故の戯れ。ごっこ遊びの一種のような戯言に過ぎない。

ククルの身も心も、確かに間違いなく堕ちた。

だが、太陽とは何度落ちようとも、必ず昇るものなのだ。

ククルの身体を純白の光が取り巻き、その身についた精液が燃やし清められていく。その光に抵抗するかのように、彼女の下腹部に描かれた紋様が輝いた。

全てが白で包まれる中、淫紋だけが黒く浮き出る。それは一際大きく輝くと、白を陵辱するかのようにククルの全身を黒く染めあげていく。

その、次の瞬間。

バチン、と大きく音を立てて淫紋がはじけ飛んだ。

それは最期の輝きでしかなかった。

Olが三日の時をかけ、幾重にも幾重にもかけた呪いはしかし、及ばなかった。

少し焦った

ぽつりと呟き、ククルは調子を確かめるように腕を回す。それだけで、彼方の山を覆っていた雲が吹き飛んだ。

その光景に、Olは目を見張った。膂力を増やすような行為はしていない。彼女の筋力はホデリが押さえつけるのを克服できる程度のはずで、雲を吹き飛ばせるような規格外の力など持っているはずがなかった。

ああ簡単な話だよ

Olの表情を見て、その考えを察したのだろう。ククルは答えた。

Olがこの身体に思考能力をつけてくれたから。もうこちら側から干渉して、好きな能力を成長させられる

彼女は伊達や酔狂だけで三日間、Olに付き合ったわけではなかった。その時間を用いて、ククルは己の能力を更に成長させていた。

空の雲をも割る膂力。音を遥かに超える速度。あらゆる呪いを受け付けぬ肉体。

地上最強の存在が生まれた存在であった。

なるほどそこまで強くなれば、もはや技巧など不要だろう。技も研鑽もなくとも、竜すら容易く縊り殺せる。

なかなか楽しかったよ、Ol

笑みさえ浮かべて、ククルは言った。それは純粋な本音であった。

そうだな悪くはなかった

Olもまた、それに答える。

だがまだお前は最強ではない

返ってきた答えに、ククルはキョトンとしてOlを見返した。

私より強い存在がいるってこと?

ああ、そうだ。一人だけ、俺の配下にお前を超えるものがいる

ふぅんまあいいよ。その強さも超えるまでだし。出してみて

では行くぞ

Olが手をついた途端、ククルの周囲を壁が取り囲む。

そしてOlごと、小さな部屋に閉じ込めた。

?あなたが私より強いってこと?

ククルは警戒する素振りすら見せない。それはそうだろう。彼女を害せるものなどいるわけがない。仮に害せたとしても、日が昇ればそれは全くの徒労に終わる。

あ。もしかして、太陽から隠せばいいと思ってる?

いいや。いくら大地の下に隠そうと、太陽が無くなるわけではないだろう

壁、床、天井。その表面に魔法陣が浮かび上がった。Olが大仰な仕草で印を組み、呪文を唱える。陣を、呪文を、手印を、動作を。その全てを使ったそれは、間違いなくOlの出来る範囲でもっとも強力な術の行使。

ククルの身体が琥珀色の光に包まれ、染み渡っていく。

その段になってようやく、彼女はOlの意図を察した。

それは、駄目っ!

音を超える速度で腕が伸ばされて、吹き荒れる風がOlの髪を揺らす。

だが、その腕が彼をバラバラにする寸前で、もう片方の腕がそれを止めていた。

わかったか?これが、お前より強い、俺の最強の配下だ

なる、ほど

ククルの顔が奇妙に歪んだ。笑みのような、怒りのようなそしてそのどちらでもないかのような、複雑な表情。

さあ。俺の女から出て行け、太陽神

Olがかけたのはククルを害する術ではない。

強化する術だ。

太陽神の権能によって高められた対術能力は、Olの強化を受けて更に倍化いや、累乗化する。世界最高峰の魔術師の洗脳をすら容易く跳ね除けるそれを更に高めた能力は、太陽神自身の支配能力をも超えた。

ただいま。お館様

ふらりと身体をよろめかせ、ホスセリはOlを見上げる。

ああよく帰ってきた、ホスセリ

その身体を、Olはそっと抱きとめた。

第16話愚かしい決断を選び取りましょう-1

旦那様。湯加減はいかがですか?

ああいい、湯だ

ホスセリを取り戻した、その二日後。

たっぷりと休息をとったOlは、七日間の疲れを癒やすために火山の中の温泉に身を埋めていた。

火山から溶け込んだ様々な成分が含まれるその湯は、Olのダンジョンの風呂に比べてさえ心地よさが段違いだ。

この湯には毎日入りに来ても良いかも知れんな

Olの言葉に、サクヤはくすりと笑みを浮かべる。

寂しくなりますわね

そして、そっとしなだれかかった。

ヤエガキのオロチを倒し、サハラを下し、ヒムロと同盟を結び、ホスセリを取り戻し。

Olがこの地で成すべきことは、全てを成し遂げた。

もはやOlがこの地に留まる理由はなく、彼は数日の間にも本拠地へ戻る事を宣言したのだ。

何。ミシャの能力で繋がっているのだ。今までとそう大差はない

そんな事はない、とサクヤは思う。

ソフィアがダンジョン自体であるように、Olが今まで寝起きしていた火の山はサクヤ自身だ。人が自分の体内を知れぬのと同じで、ソフィアのようにその内部を把握できるわけではない。けれど、Olの存在自体は常に感じていた。

それが無くなるのは、酷く寂しいことだ。

けれどもそれを口にすればOlを困らせてしまうであろうこともまた、わかっていた。

お背中、お流し致しますね

故にサクヤは、呟くようにそうとだけ言った。

Olも彼女の気持ちをわかっていながら、ただ頷く。

湯から上がり椅子に腰掛けるOlの背中を包み込むように、サクヤはぎゅっと抱きしめた。

あら

前に回した彼女の手に熱く硬いものが触れて、サクヤは唇を綻ばせた。

妾の粗末な身体で、こんなに興奮して頂けたのですか?

これのどこが粗末というのだ

Olは後ろを振り返ると、無造作にサクヤの乳房を掴む。手のひらにはとても収まらない、Olの囲う美姫たちの中でも屈指の巨乳だ。

あん

サクヤは嫌がる様子もなく微かに甘い声を上げ、男にそのたおやかな身を差し出す。その折れそうなほどにほっそりとした腰に腕を回して抱き寄せると、サクヤはOlに顔を向けて、そっとまぶたを閉じた。

二人の唇が重なり、軽く触れ合うそれは次第に深く強く、やがて水音を立てながら舌が絡まり合う。

お待ちくださいませ

たまらず組み敷こうとするOlの腕を、サクヤはそっと押し留めた。

旦那様。サクヤは、旦那様をお慕いしております

唐突にそんな事を言い出す彼女に、Olは怪訝な表情を浮かべる。

ですから旦那様に最も喜んで頂けるにはどうしたらいいか、そう考えました

サクヤの言葉に応ずるように浴場の扉が開き、見知った顔が姿を現した。

ユツ、テナ、タツキ、ホスセリにミシャ。イェルダーヴとザナまでもが、一糸纏わぬ姿で立ち並んでいた。いや、それだけではない。

リルにユニス、スピナにマリーといった、Olのダンジョンの中核を担う面々までもが揃っている。

旦那様のお好きなものは、美湯に美食、そして美女でございましょう?

唖然とするOlににっこりと微笑み、サクヤ。

最近忙しくって、こういう派手な乱交パーティーも出来てなかったしね

リルがふわりと浮いてOlに擦り寄り、色っぽく囁く。

ご主人様。せいいっぱい、ご奉仕させて頂きます

イェルダーヴがOlの手を取り、そっと己の胸に押し付けて。

ボクも頑張りますね、Ol様!

妖狸の耳をピコピコと動かしながら、ユツが逆側の腕を抱きしめた。

まずはご主人様のだーいすきな、おっぱい洗いからしてあげるね

ぐっとその双丘を強調するように持ち上げながら、リルがそんな事を言う。

別に、大好きという程のものでもないが

じゃあ嫌いなの?

リルに聞き返され、Olは押し黙る。勿論、けして嫌いではないからだ。

しかし一糸纏わぬ艶やかな姿で、視線を持って射殺さんばかりに睨みつけてくるザナが気になって仕方なかった。

ほーら。これからご奉仕しようとしてるのに他の子を見てるんじゃないの。わたしを見てよ

Olにだけ聞こえるような声で囁きながら、リルはOlの顔を己の谷間に埋めるように抱きしめる。

出会ってから十数年、そこに触れなかったことなど数えるほどなのではないかと思うほどに馴染んだ彼女の乳房は、しかし飽きるどころかこうして触れるだけで達してしまいそうなほどに気持ちいい。

男を魅了するためだけについている淫魔のそれは信じられないほど柔らかく、たっぷりとした質感を持ってOlの顔を包み込んだ。

かと思えば、伸ばした両腕と背中に別々の柔肉が押し付けられる。サクヤ、ユツ、イェルダーヴ。それぞれ違った形と大きさ、感触の乳房が石鹸の泡を纏って、Olの身体を洗い清めていた。

ぎゅっと手のひらに押し付けられ、Olの手の甲ごと揉みしだくように動かされているのは、イェルダーヴの張りのある乳房だ。コリコリと屹立した乳首がOlの指の間に擦り付けられ、それを摘む度に甘く声が漏れる。

その反対で、ユツはOlの腕を胸で挟んで生真面目に洗っていた。彼女の胸はふわふわとして柔らかく、それで擦られると何とも言えぬ心地よさ。まるで天上の雲を洗い布代わりにしているかのようだった。

そして背中を、サクヤが洗っている。豊満なバストは左右別々の動きをしながら背中に押し付けられて、それと同時にサクヤの手がOlの身体を撫で擦るように洗う。それは丁寧で心のこもった手付きだったが、そのしなやかな指がOlの胸元や脇腹を這う度に、痺れるような快感が走った。

ん。出そう?

すると交わってもいないのにリルがOlの状態を悟って、その尻尾がするりとOlの男根に巻き付く。そしてそのまま彼女は腰を下ろすと、何の抵抗もなく怒張を飲み込んだ。

いいよ、ご主人様。わたしの中にびゅーびゅー精子排泄しちゃって。他の女の子のおっぱいで興奮したご主人様の精液、わたしのおまんこで受け止めてあげる。あなたの使い魔の精液お便所、好きなだけ使って?

淫魔の技で締め付けられながらそんな事を言われては堪えようもない。言われた通りOlはリルの膣内に容赦なく精を放った。膣奥の子宮口がOlの先端に熱く口づけて、まるでそこに舌でもついているかのような綿密さで膣壁がペニスを撫でる。

そんな淫靡極まる動きを、リルはOlの顔を見つめながら、まるで初恋を抱いた少女のような表情でしてのけるのだからたまらない。

次は私がお清めさせて頂きます、お師匠様

リルの中での射精が終わるとざばりと湯で泡が流されて、入れ替わるようにスピナがOlの前に跪き、恭しい仕草でペニスを口に頬張る。

たつきもおうる、ぺろぺろするー!

そこに飛びつくようにタツキが続いて、彼女はOlの胸元に舌を這わせ始めた。

あなた様口を吸うても、良いじゃろうか

先程積極的に迫ってきた孫娘とは対照的に、おずおずと申し出てくるテナ。Olが顔を向けて頷くと、彼女は両手をOlの頬に当ててそっと唇を重ねた。

三人の女の舌が、Olの別々の場所をそれぞれ這い回る。

何より大事なものだとでも言わんばかりに丁寧に丁寧に肉竿を舐め清めるスピナ。

ちゅっちゅと音を立てながらそこら中に口づけ、しゃぶるように唇で甘く食むタツキ。

うっとりと頬を染めながらOlと舌を絡めあい、唾液を交換するテナ。

共通しているのは三人が三人共、まるで至高の料理でも口にしているかのようにOlを味わっていることだった。

そこに味わいを足してやろうと、Olは自由な両手を伸ばした。前傾姿勢になってぶら下がるタツキの乳房を揉みしだきながら、テナのふわりとした狐の尻尾が生えた尻を撫でさする。

ゃんだめぇおうる、そこ、触られると、たつきなんか、へにゃってなっちゃうんだよぉ

ん、ちゅああ、あなた様儂の貧相な身体で良ければ、いくらでもおさわり下され

正反対の言葉を返しつつも、しかしその意味するところは同じだ。Olが二人の柔肌を存分に楽しんでいると、対抗するかのようにスピナが剛直を咥えこんだ。

常人よりも太く長いOlのそれを根本まで飲み込んでも彼女はえずくことなく、喉の奥できゅっきゅと締め付ける。その献身的な動きに、Olはスピナの頭を両手で掴んで腰をぐっと押し付けた。

乱暴な動作だったが、しかしスピナは目を細め嬉しそうに受け入れる。その歯は柔らかな粘体に変化して、どれだけ激しくイラマチオを行ってもOlのペニスを傷つける心配はない。

んっ、んっ、んぶっ、んぅっ、ん、んんんっ!

自分勝手な動きで口内と喉とを犯され、白濁の液を流し込まれる。

普通なら苦痛と屈辱しか感じないような行為だが、スピナに限ってはそうではなかった。顔にしか触れていないにも関わらず、彼女は絶頂に達して身を震わせる。

はいとっても素敵でした

スピナの口内からペニスを引き抜き一応尋ねると、彼女はぽうっとした表情で頬をおさえそう答えた。

じゃあ次はあたしたちだねっ!

更に入れ替わり、ユニスがぎゅっとOlに抱きつく。

また今度、っていう約束まさか果たさずに帰るつもりだったんじゃないでしょうね?

ザナが少し拗ねたように、Olの胸を指先で突く。

さあ、我が主よ。存分にまぐわおうぞ!

塞の神、ミシャは性愛の神だけあってやる気満々と言った様子で詰め寄った。

じゃあお好きな相手をどうぞ、って感じでどうかな

言って、三人の美女は揃って四つん這いになって尻を向ける。

薄い褐色のユニスに抜けるような白い肌のザナ、淡黄白色のミシャと、色とりどりの花がOlの眼前に並んだ。

Olはまずユニスの腰を掴むと、遠慮なく彼女の中に突き入れた。

あぁっは、ぁOl、だぁ

何だそれは

安心しきったように呟くユニスに、Olは苦笑する。

なんかOlので、おなかの中、いっぱいになると凄く満たされるっていうか、安心、するん、だよね

ユニスの言葉に、Olは思わず押し黙る。似たような感覚は彼も持っていたからだ。特に子を生んでから、ユニスとの性交は快楽よりも先に充足感が来る。

けど今日は味見比べ、してくれる?

わざと扇情的に言うユニスに頷いて、Olは次にザナの腰を掴む。

いいよそのまま、挿れちゃって

いいのか?

秘所に触れれば確かに十分濡れてはいるが、ザナはまだ経験も少ない。それに気位の高い彼女がそんな扱いをされる事を望むとは思わず、Olは聞き返した。

んだってあたしはマスターの奴隷なんだもんでしょ?

どこか恥ずかしげに、しかしはっきりとザナはそう口にする。

たまらず、Olは彼女の中に侵入した。

まだ慣れきらない彼女の中は濡れているといってもキツく締め付けてきて、その初々しさを多分に残す膣肉の味わいは、馴染んだそれとはまた違った良さがある。

待ちかねたぞ

ザナの中を十分に楽しんだ後、Olはミシャの中へと突き入れる。彼女には、前戯どころか余計な愛撫すら不要だ。

ああこれだ。相変わらず汝の魔羅は素晴らしい

ミシャは喜びに震え、感嘆の息を吐く。

その膣内はザナとは真逆。キツさなどは微塵もなくするりと男根を飲み込みながら、絶妙な加減で締め付けてくる。一切の加減も遠慮もいらず、好きなだけ貪れる肉壷だ。

Olは三人の体を引き寄せ纏めて抱きしめると、ユニスに言われた通り欲望の赴くままに犯し楽しむ。ユニスのぴったりと収まる膣内も、ザナの初々しい性器も、ミシャの蕩けるような中も、それぞれ違って素晴らしい味わいだった。

うん、きてぇっ!

宣言するOlに、ユニスがきゅうと彼の男根を締め付ける。Olは己の剛直のかわりに、ザナとミシャの秘裂へと指を差し入れた。

あっ、あっ、あぁっ、んっ、ふあぁぁんっ!いいよぉ、Olぅっ!

く、ぅ、んっ、ふ、ぅっうっ、くぅんっ!

ゆ、指で、なんてっ、そんな、ああ、子作りで、ない、のにぃっ!

三者三様の鳴き声をあげながら、美女たちは身を寄せ合って絶頂に身を震わせる。Olは達する寸前にユニスの中から肉槍を引き抜くと、迸る白濁の液を彼女の尻から背中へと降り注がせた。

あぁOlの暖かい

くたりと脱力して突っ伏しながらも、ユニスは幸せそうにそう呟いた。

御館、様

最後の二人。

マリーに背を押されるようにして、ホスセリがおずおずと踏み出してくる。

何か言いたげな彼女の言葉を、Olはじっと待った。

謝罪や悔恨は既に何度も聞いていた。今ホスセリが言いたいのは、別のことなのだろう。

私呪い、解けた

獣の神とやらの力は、太陽神より弱かったのだろう。

ククルの呪いが解けたのだから、獣の神の呪いもまた解けた。

すまなかったな

自然と謝罪を口にするOlに、ホスセリは驚いたように少し目を見開いた。表情に乏しい彼女にとっては大きな変化だ。

俺はあの時、お前に答えてやれなかった

獣の姿を抱けるか。そう問われ、Olはイエスと答えられなかった。いや、今もなおそうだ。半人半獣程度ならばまだしも、完全に獣にしか見えない女を抱けるかと言われると、流石のOlとて厳しい。

だからそれは、俺の責だ

そんな、こと

ない、とは言い切れずに、ホスセリは視線を下に向けた。彼女が己の呪いを厭い、彼を裏切ってまで情報を求め、太陽神に乗っ取られる羽目にまでなったのは、ひとえにOlを慕うがゆえのことだ。

だがその一方で、勝手な判断で主人に迷惑をかけたのも事実である。ホスセリの価値観では、到底許されるようなことではない。

よかったね!Olさま怒ってないって

思い悩むホスセリに、マリーは明るく声をかけた。そう単純な話ではないことは、彼女とて理解はしている。だからこそ、マリーはあえて何も考えずにそう告げた。

ついでだ。お前の望むように抱いてやる。どうして欲しい?

それに便乗してOlが尋ねる。ホスセリは少し考えて、Olを見上げた。

御館様の子を、産みたい

Olが頷くと、ホスセリはころんと床に転がる。

私を孕ませて、御館様

そして曲げた脚を開きながら、己の秘所を指で押し広げてそうせがんだ。

ククルに操られていた間の記憶はあるのだろうか。ふとOlはそんな事を思ったが、口には出さずホスセリに覆い被さるようにしてその腰を抱く。

んっは、あ

久々に味わうホスセリの中は、不思議なことに数日前まで交わっていたククルのそれとはまた違った感触であった。

Olさま、わたしの事も可愛がってね

ズブズブとホスセリの中へと腰を埋め終わると、マリーがOlの首に腕を回して頬を擦り寄せる。Olは彼女の背中からぐるりと腕を回して胸を鷲掴みにすると、その唇をこじ開けるようにして舌を侵入させた。

御館様私、の、もっ

コツコツと奥を突かれて声を弾ませながら、ホスセリはOlの空いた方の手を己の乳房へと導く。

あっ、あっ、あっ、あっ、んっ、あぁんっ

んっ、んむ、んんっ、ぅんっ、ちゅ、ぅんっ

腰を埋めて膣壁を擦り上げる度にあがるホスセリの高い声と、舌を絡め口の中を侵されながら甘く漏れるマリーの濡れた声。己を慕う二人の娘の嬌声が、Olの耳を蕩かせる。

唇を離して宣言すると、答えるかわりにホスセリの膣口が子種をねだるようにぎゅっとOlを締め付けた。同時にすらりとした脚がOlの腰に回され固定されて、膣内射精を促す。

元々外に出す気もなく、Olは遠慮なくホスセリの中に注ぎ込んだ。既に十人の女と交わり三度も精を吐き出していながら、しかしOlの精力は尽きる気配もない。濃厚で粘ついたドロドロの精液が何度も吐き出されて、ホスセリの膣内に収まりきらずごぽりと溢れ出る。

すっごいドロドロこんなの出されちゃったら、絶対赤ちゃんできちゃうね?

マリーはそれを指先ですくい取って舐めあげ、くすくすと笑った。幼い頃から知る、まだまだ未熟だとばかり思っていた少女の妖艶な表情に、Olは思わず喉を鳴らした。

お前も、注いでほしいか?

うん。Olさまのドロドロのせーえき、たっぷりナカダシして、種付けして、孕ませて欲しい

Olの言葉に、無邪気さと艶めかしさをないまぜにしてマリーは答える。

でもね

ならばとマリーを抱こうとすると、彼女はOlの逸物を握りしめて押し留めた。

今日は先に、抱いてあげて欲しい子がいるの

誰か忘れていたか、とOlは思わず辺りを見回す。Olは出来る限り愛妾たちを蔑ろにしないよう気をつけているが、流石に十数人もいると忘れてしまう可能性もゼロではない。

あるいは、風のダンジョンを攻略するに当たって手を借りたセレスやエレン、メリザンドといった面々も、Olのダンジョンに戻っているはずではあったが姿を見せても不思議はない。

この子だよ

だが、マリーの指し示したのはその誰でもなく。

そこには見覚えのない、しかし美しい女が立っていた。

パパ、お願い

彼女はOlの知らぬ姿、知らぬ声で、しかし覚えのある呼び名でOlを呼ぶ。

わたしの事も抱いて、欲しい

まさかお前ソフィア、か?

愕然とするOlに。美しい女の姿をしたソフィアは、こくりと頷いた。

第16話愚かしい決断を選び取りましょう-2

パパ。わたし、大きくなったでしょう?

一糸纏わぬ裸身を広げてみせるソフィアに、Olは頷く。

ああそうだな

そこにいるのはもう赤子ではない。子供でもない。そして、少女と呼べる年齢すら脱しつつあった。

すらりと伸びた背丈はマリーよりも僅かに高く、Olより拳ひとつ分低い程度だろうか。顔立ちからは幼さがずいぶんと抜けて、かわりに艶やかな魅力がその微笑みを彩っている。

しなやかな肢体はほっそりとしていながら、胸元の二つの膨らみはリルにも迫るのではないかと言うほどの大きさを備えていた。脚の間には、髪の色と同じ緑色の茂みが薄く覆っていて、そこが男を受け入れる準備を終えていることを否が応でも感じさせる。

それは、すっかり成長しきった女だった。それも、普段から無数の美女に囲まれ傅かれて暮らしているOlでさえ息を呑んで見惚れてしまう程の美しさ。

そしてそれほどの美女が、懇願しているのだ。

抱いてくれ、と。

不意に、ソフィアは嬉しそうに声を上げて破顔した。その視線はOlの顔より幾らか下に向けられている。その視線を追うと、そこはOlの意思とは無関係に硬く怒張したものがあった。

初めてだから、下手だと思うけど、ごめんね

ソフィアはそう断ってOlの前に跪くと、その長い髪をかきあげながら躊躇なく男の物を口に含む。今までずっと覗き見て来たのだろう。その動きは拙いものだが、戸惑いはなかった。

ま、待て

それに比べ戸惑いと困惑に満ちたOlの声は弱々しく、ソフィアを止めることはかなわない。彼女は構わず、口をすぼめて強く肉棒を吸い上げながら、懸命に奉仕を始めた。

うっ!

その感触に、Olは思わず呻き声をあげる。快感故にではない。ソフィアの気持ちが伝わってきたからだ。

Olは今まで、何百何千という女を相手にしてきた。故に口淫奉仕一つとっても、その技巧に関わらず相手がどういうつもりでしているのかもすぐに感じ取れる。

好奇心から他の女を真似て、その持つ意味もわからずに舐める動き。

男を籠絡し支配するために、快楽を与えようと口を使う動き。

脅され、あるいは大切なものを守るためにやむなく屈辱を受け入れる動き。

純粋な肉欲から、己が楽しむために男の肉を咥え込む動き。

支配され、屈服させられることを喜びとして、己の主に奉仕する動き。

しかしソフィアの動きは、そのどれでもない。

ただただOlの快楽を促し、気持ちよくなって貰おうと一心に努力するような、そんな奉仕の仕方だった。

んこれ、気になる?

思わずじっと見つめていると、ソフィアは唇を離して己の胸を両手で持ち上げてみせた。確かに彼女が頭を上下させる度に揺れるたわわに実った果実は、嫌でも目に入ってくる。

んしょこう、かな

返答につまるOlを肯定とみなしたのか、ソフィアはその豊満な柔肉で挟み込んだ。

パパのおっきすぎるよ。まだ入り切らないえいっ

そしてそこからはみ出る先端に照れたような笑いを浮かべながら、代わりとばかりに口に含んだ。

く、ぅっ

今度こそ、Olは快楽に声を漏らす。とろとろと肉竿を伝うソフィアの唾液を潤滑油代わりに、柔らかな白い乳房が男根を擦り上げる。そうされながら先端をちゅうちゅうと吸われ舌を這わせられる快感は、えも言えぬものがあった。

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