焼き尽くすまで消えないってわけね

<いいや。確実に子を孕む>

ほんと最低ね!?

ある意味、焼け死ぬより酷い話であった。

<ちなみに言うておくが>

サイノカミの顔がOlの方を向き。

<男とて逃れられると思うな>

見境なさすぎでしょ!?

Olが妊娠したらどうなるのだろうか。

リルはちらりとそんなことを思わなくもなかったが、流石に試してみる気にまではならない。

仕方ない、ここは一端退くぞ

こちらの最大の攻撃が通じないのでは勝ちようがない。

待って

そう判断するOlを、マリーが止めた。

わたし、倒せるかもしれない

白い炎はゆっくりと、Ol達を囲みつつある。

逡巡している時間はなかった。

やってみろ

ありがと、Ol様。開け、天門!

マリーが空に手を掲げると、彼女の右目が赤く輝き指先に四角い紋様が現れた。

曲線を基本とする魔術円に対し、直線で構成されたそれは法術陣と呼ばれる図形だ。

来たりませ。猛きもの、折れたる剣の守護者、比類なき英霊よ

マリーの金色の髪が赤く染まり、膨れ上がる。

髪飾りがぷつりと千切れて、炎のような髪が広がる様はまるで獅子の鬣のよう。

マリーは三振りの剣を鞘に納め、一刀だけを掲げ持った。

<何をする気かわからぬが、この身を切り裂けるものなどありはせぬ。例えそれがヒヒイロカネの剣であろうとな>

明らかに雰囲気の変わったマリーに、しかしサイノカミは傲然と言い放つ。

己の硬さと持久力には、絶対の自信があった。

一切の力みも工夫もなく、マリーの剣は静かに振られ。

そして次の瞬間には、白い炎もサイノカミもすべて両断されていた。

<ば、か、なぁぁぁぁぁ!>

半ばから二つに分かたれて、サイノカミはどうと地面に倒れ伏す。

戻りませ、竜殺しウォルフディール

言って剣を鞘に収めた途端、マリーの目と髪は元に戻り、彼女はその場にくずおれる。

やっぱり、ウォルフおじさんを降ろすのは一瞬でもしんどいね

慌てて抱き留めるOlに、マリーはへにゃりと笑んで言った。

お前、どうして

ユニスのお父さんだし、急に頼んでも力を貸してくれるかなって思って

マリーの答えは、Olの問いが求めたものではなかった。

彼女が巫術を学んでいるのは知っているし、メリザンドを通じて不死身の力を宿したのだから、同じ方法でウォルフの力を使えても不思議ではない。

何故、あれが竜だと思った?

え、だって、蛇みたいだったし、火も噴いてたじゃないですか

改めて問えば、マリーは当たり前のように答える。

だが、Olはそこに思い至らなかった。

何千という魔を従え、何万という獣を知るOlでさえだ。

ただの偶然かそれとも。

自分を凝視するOlに、マリーは不思議そうに笑みを浮かべた。

第6話旧きものを斃しましょう-3

それにしても、殺しちゃってよかったの?

半ばから両断されたサイノカミの死骸を横目に、リルはOlに尋ねた。

オロチもそうであったし、蛇の類は頭を潰してもなお動くこともある。

警戒していたがサイノカミは全く動く気配を見せず、どうやら完全に死んだようだった。

ああ。空間を司るといっても、こいつ自身が転移の力を持っているわけではない。むしろそれを阻害しているもの。故に塞(サイ)の神だ

ふうん。じゃあ、Olが奪いにきたって言うのは

この洞窟のことだ

Olはサイノカミが塞いでいた洞窟を指さす。

どのような形で空間に類する力を持っているかはわからん。だが

その力を手に入れる方法だけはわかる。ってことね

うむと頷き、Olは洞窟の壁にキューブを連結させる。

剥き出しの石壁は見る間にレンガ造りへと変わり、光が灯って中を見渡せるようになった。

門だ

するとマリーが前方を指さして、声を上げる。

魔術光によって照らし出されたのは、洞窟に似つかわしくない巨大な両開きの扉だった。

ダンジョンを探索する際、扉というのは最も警戒すべきものの一つだ。

取っ手や扉自体、扉の向こう側の部屋、意表をついて扉の手前の床など幾らでも罠を仕掛けることが出来る。

破壊しろ、リル

とはいえダンジョンそのものを掌握するダンジョンマスターたるOlにとっては関係のない事だ。

扉の向こう側までを自分の領域に収めてしまい、そこに罠を設置できるような隙間がない事は把握しているし、門自体に罠があっても破壊してしまえば問題ない。

Olさまが開けた方がいいんじゃないかな

だがそれに、マリーが異を唱えた。

なんとなくだけど

なんとなくとはなんだ。理由を話せ

わかんない

問うても、マリーはふるふると首を横に振るばかり。

リルやユツの顔を見ても、二人とも不思議そうにしているばかりでマリーの意図を測りかねているようだった。

まあ良い。下がっていろ

破壊すれば無闇に音を出すことになるし、万一の時はこの扉を盾にして逃げることもできる。

壊さずに通るのも別段おかしな選択肢というわけではない。

Olが両腕を門にかざすとキューブがパタパタと展開してふくらみ、彼の背後に人型を成して立つ。それはOlの動きに沿って門に手をかけると、ぐっと押して開いた。

罠はないようだな

大きさゆえか多少の開きにくさは感じたものの、鍵も閂もない扉はあっさりと開く。

その向こうには罠もなければ番兵もおらず、それどころか部屋すらなくただただ通路が進んでいるのみだ。

いくぞ。番人は倒したとはいえ、何が出てくるかわからん。警戒は怠るな

わかりました

マリーが気合いを込めて頷き、生真面目な表情でユツが返事をする。

だが二人の思いとは裏腹に、探索は酷く退屈なものだった。

洞窟の中には敵や罠どころか分かれ道一つなく、ただただ真っすぐに通路が続くのみ。

緩やかな下り道を、Ol達は黙々と進んでいく。

ねえ、これって

リルが何かを言いかけたその時。

部屋だ

マリーが声を上げ、通路の先に部屋があるのが見えた。

何もないですね

部屋の中を覗き見て、ユツが呟く。

彼女の言う通り大きな部屋はがらんとしていて、ただ通路が二つ、左右に続いているだけだった。

妙な構造だな。罠もなく、守衛を集めるでもなく、ただ部屋だけがあるとは

これならただの三差路で良いのではないか、とOlは思わずにいられない。

ただの天然の洞窟でないことは明らかなのだ。

もしそうであれば、もっと細かく幾つも横穴が伸びているものだ。

天然のものでないならばそこに何らかの意図が込められているはずなのだが、それがどうにも読めない。

まあ良い。さてどちらに進むか

試練の山でも似たような場所があったが、あの時と違って今回の戦力は乏しい。

二手に分けるような愚策は避けるべきだ。

進む必要はないと思う

Olが悩んでいると、リルがそんなことを言い出した。

どういうことだ?

何かあるとしたら多分この部屋だから。進んでも、どっちも同じだよきっと

なぜそんなことがわかる

だって、ここが子宮だもの

リルに言われ、遅まきながらOlは悟る。

守っていたサイノカミが男性器の形をしていたのなら、この洞窟は女性器。

今まで通ってきた通路は膣で、この先は卵管。

とすれば最初の門は処女膜か。道理でOlに開かせたわけだ。

しかしなぜ、それがマリーに分かったのか、とOlは疑問に思った。

己の身にも宿しているものとはいえ、子宮とは要するに内臓だ。外から見えるものではない。

Olには多少の医学の心得があるし、リルはサキュバスなのだから知っていても不思議はない。

だが、マリーにはそのような知識はないはずだった。

そもそもここに来るまでリルですら気付かなかったことに、マリーは入り口で気付いていたという事になる。

その通りだ

パチパチ、と乾いた音とともに、Olは女の姿に気が付いた。

気が付いた、としかいう他なかった。

隠れる場所など何もない部屋の奥に、その女は立っていた。

だが突然現れたわけではない。ずっとその場にいるのに気づかなかったのだ。

貴様は何者だ

何者だ、とはつれぬことを言う

真っ白な女だった。だがそれはメリザンドや英霊たちの白さとは違う。

肉としての美しさを伴った白だ。

肩で切り揃えた艶やかな黒髪に切れ長の瞳。

キモノと呼ばれるヤマト装束に覆われた身体は露出どころか体型すら覆い隠しているというのに、それでもなお匂い立つような色香があった。

我を殺し、あまつさえ女にせしは汝であろうに

なんだと?

くく、と喉で笑う美女の言葉に符合する相手は、一人しか思い浮かばない。

だがそのあまりにも変わり果てた姿に、Olは自分自身の考えを疑う。

我は塞ノ神。この洞の守護にして主人よ

だがサイノカミはその考えを裏付けるようにそう言った。

殺しても死なぬ、というのか

いいや。確かに汝らは我の半身を殺した。だが生とは元来対なるものであり、かの姿は我の一つの側面でしかない

つまりマリーがおちんちん切っちゃったから、女の子になっちゃったってこと?

正しくはないがまあ、斯様な解釈でも良い

リルの言葉に若干呆れたような口調で、サイノカミは答える。

肝要なのは汝が欲する力を、我が揮えるという事よ

その白い肌、金の髪、高い鼻に青い瞳。およそこの地の者ではあるまい。察するに、己の国へと帰りたい、といったところであろう

まあそんなところだ。ただし、帰るだけでなく再びこの地に戻ってくる必要がある

Olの言葉に、サイノカミは深々と頷いて見せた。

我ならばそは能うだろう。汝の望む数だけな

対価はなんだ

Olは直截に聞いた。

半身とは言え殺された者が、わざわざ何の見返りもなく協力を申し出に現れるわけがないからだ。

対価?妙なことを言う。言うたであろう。我は祀られぬ神、順(まつろ)わぬものと。糧を得るために人の身の願いを叶えることなどありはせぬ

ならばやはり戦うつもりか、と身構えるOl達に

だが我が汝のモノとなるのなら、話は別だ

サイノカミは薄く笑んでそう答えた。

俺のものだと?どういう意味だ

そのままの意味よ。古来より、男が女を己がものとする方法など、一つしかあるまい?

そう囁くサイノカミの吐息は、どこまでも艶めかしい。

お前を女に数えていいのか?

しかしOlの脳裏に浮かぶのは、先ほど殺した雄々しくそそり立つ男根の姿だ。

笑止。我ほど女としてある女も他におるまいよ

確かに、目の前にいるサイノカミの姿に男性らしさは微塵も見受けられない。

なのに白蛇の姿と重ねてしまうのは、その持つ雰囲気が全く同一のものだからだろう。

生きとし生けるものは皆、男としての性質と女としての性質を持っておる。性別とは、ただそのどちらが表にあらわれているかに過ぎぬ

ほう。では俺にも、女の部分があるとでもいうのか?

うむ。全ての生き物は、父と母とから生まれる故にな

サイノカミの言葉に、Olはむっと唸る。確かに筋は通っている。

しかして我の雄は、汝らが殺した。残りし我は純粋な雌。この世で最も全き女というわけだ

Olが足を鳴らすと、彼の傍らの床が盛り上がり、石の寝台が出来上がる。

表面をさらりと撫でれば、それは忽ち天蓋付きの柔らかなベッドになった。

まって、Ol

寝台へと向かおうとするOlを、リルが引き止める。

多分、あれ

わかっている。お前の同類という事だろう

男が女を己のものとする方法は、確かに交わり屈服させることだろう。

だが女が男を手に入れる方法もまた、交わりによって己の身体に溺れさせることなのだ。

つまりはこれから始まるのは、鋭い剣を柔らかな肉に持ち替えた戦いに他ならない。

案ずるな。お前の相手で慣れている

でも!

リルとの交わりは、彼に危害を加えないよう契約で縛られた上でのものだ。

サキュバスが本気で害意を持ち、搾り殺そうとすればいかにOlとて耐えられるかどうか。

無論Olとてそれは承知しているが、しかし退くわけにはいかなかった。

何、構わぬ

Olはリルの制止を振り切り、既にベッドの上で待ち構えていたサイノカミの元へと赴く。

これからたっぷりと楽しませてくれるのだろう?

しなを作る様に寝台の上に横たわり、サイノカミは着物の帯をするりと解く。

胸元の合わせ目が崩れ、その隙間からちらりと覗く真っ白な肌に、Olをして息を呑んだ。

似たような存在でも、肌を露わにして色香を振りまくリルとは全く逆の発想。

隙なく全身を覆い、体の線さえ隠した着物からちらりと覗き見える女の肢体は、男の欲望を大いに刺激するものだった。

Olはサイノカミを組み敷くと、柔らかにたわんだ合わせ目からすっと掌を差し入れる。

むっ

その乳房の手触りに、Olは思わずうめいた。

この世のものとは思えぬほど柔らかく、手に吸い付くような肌。

大きさこそ掌にすっぽりと収まってしまう程度だが、それゆえにいつまでも手の中で弄んでいたくなるような、そんな柔らかさだった。

いきなり入れても構わぬのだぞ

そういうわけにいくか

耳元で囁くサイノカミに、Olはそう答える。

半分は相手の出方を探るためだが、しかしもう半分はOl自身の矜持だった。

んっ良いぞ。あぁ

襟を更に開いて胸元に口づけ、柔らかな肉を指先で弄びながら先端を撫でさすれば小さな蕾は硬く膨れていく。

ほう、と甘く吐息を漏らすサイノカミの肌は上気して薄く桃色に色づいて、着物の裾を割り開き脚の間に指を這わせれば、滴る蜜がくちゅりと音を立てた。

リルに一瞬目を向ければ、彼女はこくりと頷いて見せる。

淫魔の見立てでもサイノカミは間違いなく、感じている。演技や擬態ではない。

ああ汝の太く硬いもので、我を貫いてくれ

乱れた着物はあえて脱がさぬまま、Olはサイノカミの中心に己自身を押し当てる。

むっ?

だが、そこはたっぷりと潤いを帯びているというのに、何故かそれ以上侵入することが出来なかった。入り口が狭いのか、先端がわずかに差し掛かったのみで強い抵抗感がある。

汝の魔羅は我には大きいと見える。何、構わぬから一気に突き入れるがいい

妙な違和感を抱きつつも、Olはサイノカミの腰を掴んで力を込める。

抵抗があったのは入り口だけで、そこを超えてしまえばサイノカミのそこは一気にOlの肉槍を根元までするりと咥え込んだ。

同時に走る衝撃に、Olは目を見開く。

サイノカミの膣内は驚くほどに暖かく、そのひやりとした肌の温度と相まって火傷してしまうのではないかと思うほど。

膣壁はきゅうきゅうと強くOlのものに絡みつき、ざわざわと蠢くようなその表面の感触はまるで百人の女に舌で奉仕されているかのよう。

ただ挿入しただけだというのに、腰が砕けてしまうのではないかと思うほどの心地よさだった。

リルとのまぐわいで鍛えていなかったら、それだけで放出していただろう。

ほう。我に入れて精を吐かぬとは

心の底から感嘆した、といった表情で、サイノカミ。

貴様

彼女をねめつけ、Olは絞り出すように声を出す。

これは、どういうことだ

その視線の先、彼らの性器が結合している部分。

そこには、朱が滲んでいた。

どうもこうも見ての通り。我が生娘ではおかしいか?

サイノカミは当然のようにそう答えた。

とてもそうは見えんからな

その態度と言い、滲み出る色香と言い、とても処女の態度とは思えない。

Olはおろか、リルですらそれを見抜けてはいなかった。

然もあろう。我は境界の神であると同時に、性愛と豊穣の神でもある。いわば生まれついての淫婦だ。だが、淫婦にとて初めてというものはある

彼女の言葉を裏付けるかのように、サイノカミの膣内は痛みに怯む様子もなく、Olの肉塊を締め付ける。

サイノカミとしての我は長く在るが、雄としての我を殺しこの洞へと入って来たのは汝が初めてよ。故に雌としての我もまた、男を知るのはこれが初めてだ

サイノカミはOlの首に腕を回すと、耳元をくすぐる様に囁いた。

さあ。我を二つの意味で女にした愛しい汝よ。夜はまだ始まったばかり。しっかりと楽しませておくれ

第6話旧きものを斃しましょう-4

薄暗い洞窟の中、肉のぶつかり合う音と水音が響き渡り、雄と雌の交わりあう濃密な淫臭が立ち込めていた。

あぁ、そうだそこを、もっと抉ってくれ、あぁっ

もはや着物はかろうじて袖が腕に纏わりついているのみで、衣服としての用をなしていない。

ほっそりとした喉からツンと上を向いた胸元、滑らかな腹の下までを露わにして鳴くサイノカミの肌には珠のような汗がいくつも浮かび、紅潮した頬と快楽に蕩け潤む瞳がOlを見つめる。

出すぞッ!

ああ、来て、奥に、汝の精を注ぎ込んでくれっ!

Olの肉塊が彼女の中で膨れ上がれば、打てば響く鐘のように絶妙なタイミングで締め付けてくる。生まれながらの淫婦と称するだけあって、先ほどまで処女だったとは思えないほどの乱れ振りだった。

ぎゅうと締まる媚肉をこじ開けるようにして無理やり奥まで腰を押し込むと、下がってきた子宮が子種をねだる様に先端に口づける。全身で男を求めるかのようなその動きに、Olは溜まらず精を解き放った。

あっう、あぁんんっ、あ、良い、ぞ、ぉっ!

どくり、どくりと断続的にOlが白濁を吐き出す度に、サイノカミは気をやって身体を震わせる。その度に彼女の膣内は精液を絞り出すようにうねり締め付けて、その快楽によってOlは更に射精する。

まるで振り子のように快感を行きつ戻りつ交歓しながら、二人は長い長い絶頂の末に力を失い、重なりあって崩れ落ちた。

これで、満足したか?

ああ汝の逸物は素晴らしいな。これだけ出してなお、まだ我の中で脈打っておる

ぐったりとして横たわるサイノカミに問えば、彼女は嬉しそうに笑って膣口に力を込めながら、ゆるゆると腰を動かし始める。

まずい、とOlの頭の中に警鐘が鳴り響いていた。

演技でも擬態でもなく、サイノカミは間違いなく感じ、何度も気をやっている。

だがその精力と体力はまるで無尽蔵のようで、どれだけ絶頂に至らせ、精を注ぎ込んでも、更にもっととねだってくる。

そしてOlもまた、それに応えることをやめられなかった。

魔術的なあるいは、何らかの未知の術のようなものをかけられているわけではない。

純粋に、サイノカミの肉体が気持ちよすぎるのだ。

一突きする度に飢えにも似た欲求はいや増すばかりで、どれだけ交わっても飽きるということがない。その柔らかな身体を組み伏せ、犯し、征服するのはまるで麻薬のような快楽だった。

これが並の男だったなら、二、三度も射精に至れば精根尽き果て、倒れ伏してしまっていたことだろう。だが不幸なことに、ここまでの通路を己のダンジョンへと作り変えてきたOlには試練の山から伸びる魔力の道がある。

地中の魔力をたっぷりと内包した赤い溶岩はほとんど龍脈のようなもので、Olに無尽蔵の体力と精力を与える。だがそれが、今に限っては仇となっていた。互いに無限の体力を持つ者同士の交わりは、そのまま無限に続いてしまう可能性があるのだ。

ちょっと、もう十回はしたでしょ?いつまでやってるつもり!?

それを察し、流石にリルが割って入った。

サイノカミの助力を得られないのは問題だが、Olが完全に囚われるよりはマシだ。

何、永遠になどというつもりはない。我が満足するまでのことだ

あとどのくらいで満足するのよ

リルが腰に手を当て居丈高に尋ねると、サイノカミはうむと頷いて応える。

一年だ。普通は毎夜相手にしてもらうところだが、この男であればこのまま丸一年ずっと、目合(まぐわ)い続けていられそうだな

馬鹿じゃないの!?

その答えに、リルは怒鳴る。

わたしが干からびて死んじゃうじゃないの!

ふむでは、汝も混ざるか?

えっ、いいの?

いいわけあるか、愚か者!

声を弾ませ懐柔されかかるリルに、Olは思わず叫び返した。

胡乱なリルの言葉は計算でも何でもなく素での反応だろうが、それがかえってOlの精神を呪縛めいたサイノカミの魅力から多少なりとも逃す。

一年だなどと、そんな話は聞いておらぬ。付き合いきれるか

ほう。我の身体をもう味わいたくないと申すか?

すっと目を細め、悲しげに問いながらサイノカミは自然な動作でOlに改めて己のその裸身を晒す。途端、Olの心に彼女を押し倒し、めちゃくちゃに犯してしまいたいという欲求が強く湧き上がった。

俺にはやらねばならぬことがある。一年も悠長にしている暇はない

それを押し殺して答えると、サイノカミは驚いたように目を見開く。

我が情愛を跳ね除けるとは。なんという意力の強さよ

お生憎様でした。淫魔の類には慣れてるのよ

ぎゅっとOlの頭を抱きしめながら、リルは舌を出してみせる。

後頭部を包む柔らかな肉の感触に、Olは逆効果だと内心で叫んだ。

淫魔異国にはそのようなものもいるのか。だがしかし、言うたであろう。我はこの世で最も全き女。即ち我との交合を諦めるということは、全ての女との交わりを諦めるに等しい。情多き男ほど逃れられるものではない

エッチな男ほどやめられないって事か

Olさますごくえっちだもんね

確かに

リルの言葉にマリーが同意し、ユツまでもが深く頷く。

怒鳴ってやりたいところだったが、Olにもそれほどの余裕はなかった。

よくよく考えてみれば、これは極めて深刻な事態だった。

魅了の術や何らかの能力によってOlの心が囚われているのならば、それを解除もできるだろう。だがしかし、その根源がOl自身の心にあるとなると話は別だ。

リルを、マリーを、全ての情を交わした女たちを心の底から手放すつもりがなければ、サイノカミからは離れることが出来ないということなのだから。それはOlにとっては到底、許容できることではなかった。

それはリル達の助力によって無理やり引き離されるのでも同じだ。

妻たちを外部の力によって失うなどというのは、Olにとってそれこそ最も忌避すべき出来事だ。それはただ象徴的な出来事に終わらず、Olの魂を傷つけ、損なうであろうという予感があった。

ヤマタノオロチが魂さえ噛み千切ったように、この地の神というのは恐らくそういう力を持っているのだ。相手に敵意がないとしても、油断すべきではなかった。Olは今更の段になって、それを思い知った。

わかった。お前の気が済むまで相手してやる

唯一の救いと言えるものはただ一つ、サイノカミ自身が言うようにそれが永遠に続くものではないということだ。彼女が満足さえすれば、それで終わる。

ああ。好きなだけ我を犯すが良い。その獣欲を存分にぶつけておくれ

サイノカミは嬉しげに目を細める。害意や敵意は本当にないのだろう。

だからこそ、Olは彼女が障害となりうることを見抜けなかったのだ。

後ろから犯してやるから、尻をこちらに向けろ

ほう。まるで獣の交尾のようだがそれはそれで悪くない

サイノカミはするりと着物の袖から腕を抜くと、一糸まとわぬ姿となって小ぶりな尻をOlに向ける。Olはそれを両手で鷲掴みにすると、一気に突き入れた。

なっ?

その瞬間、サイノカミは大きく目を見開くと、戸惑いの声を漏らした。

ま、まてそこは、違うぞ?

Olが剛直を突き入れたのは性器ではなくその上の窄まり。

不浄の穴だったからだ。

何が違うものか

ひぐぅっ!

Olが抽送を繰り返すと、サイノカミは大きく声を上げる。それは先程までの善がり声とは、全く別種のものだった。

そら、こんなにひくひくと蠢いて喜んでいるではないか

一連の交わりで高ぶりきったサイノカミの身体は、精液と愛液に塗れたOlの肉槍を易々と飲み込み、否応なく快楽の階段を登らされていく。

だがそこからは、先程までどれだけ乱れても失われていなかった余裕のようなものは失われていた。

ちっ、違うぅっ!こんな、こんな場所で、我はっ!あぁっ!

サイノカミの顔と表情は戸惑いで満ち、混乱のまま彼女は喘がされ、鳴き声をあげさせられる。

安心しろ。お前は先程生まれたばかりといったな。ならば何かを食しているはずもなく、腸(はらわた)の中とて綺麗なものだ

そういうっ、問題では、う、あぁっ!

逃げ出そうとするサイノカミの両腕を引いて、Olは彼女の直腸を犯す。

全き女というだけあって、その腕力は神といえどただの女のそれだった。

男であるOlに敵うわけもなく、逃れる事もできずにされるがままに陵辱される。

ああああっ!だめ、だめえっ!

いい声で鳴くようになったじゃないか

尻穴の感触は、膣内とは全く違った。

Olの動きに合わせて如才なく締め付け搾り取ってくる前の穴と違い、後ろの穴はサイノカミ自身さえ感知できない動きで震え、窄まり、素直な反応を見せてくれる。

だめだ、こんなもの、交わりではひぅんっ!

首を振って嫌がるサイノカミの膣口に指を入れて犯してやれば、彼女のそこは喜びに震えながらよだれを垂らして咥え込む。

あああああああっ!

そうしながら尻穴を抉ってやれば、絶叫のように声を上げ、潮を吹き出しながら、サイノカミは絶頂に体を震わせた。

例え神であろうとも、その持つ力は無限ではない。

これはサクヤとの付き合いでわかっていたことだった。

彼女ほどの力を持つものであっても運動をすれば人間同様に疲れるし、食べたり眠ったりといった行為が必要だ。

ならばサイノカミの無尽蔵の体力はどこから来ているのか。

それは彼女の司るものに関係しているのではないかと、Olは推測した。

境界、性愛、豊穣。

サイノカミが司る三つのものは、一見結びつかないように見えてあるもので結ばれている。

それは妊娠と出産だ。

出産とは死と生の境であり、性愛の結果であり、そして豊穣そのものだ。

ならば性行為であっても、子を成すことの出来ない種類のものであれば回復は不可能なのではないか。

Olのその読みは当たっていたらしい。

尻を犯し続けているうちにサイノカミの声は段々と力なく、その動きは緩慢なものとなり。

もう、無理だ勘弁してくれ

更に三度ほど精を吐き出す頃には、サイノカミは寝台の上に突っ伏して、息も絶え絶えにそう降参を告げたのだった。

第6話旧きものを斃しましょう-5

変態変態だ

ぐしぐしと泣きべそをかきながら、サイノカミはしきりにそう呟く。

尻の穴に胸の間、口の中に髪、挙句の果てに脇だの膝だの汝らの文化はどうなっておるのだ

どうやら彼女の知識にあるのは、子作りのための真っ当な性交だけであったらしい。

性器以外の場所を使って精をかけられる度に大いに狼狽し、未知の感覚に困惑していた。

情けないわねえ。わたしなら、耳や鼻の孔だって大丈夫なのに

それは俺の方から願い下げだ

呆れた口調でリルが言うが、流石にそれはOlの許容できる範疇からも逸脱していた。

さて、ではお前の力を貸して貰おうか

無理だ

ふるふると首を振るサイノカミに、Olは顔を顰めた。

口約束とは言え、サイノカミははっきりと力を貸すと言った。

Olほどの魔術師を相手に結んだ約定は、神といえどおいそれと破れないはずだ。

貸したくとも力が足らぬ。言うたであろう。我は順(まつろ)わぬものであり、祀られぬ神なのだ。異国と道を繋ぐような大それた事は出来ぬ

話が違うだろう。お前は出来ると言い、それは嘘ではなかったはずだ

嘘であれば、リルはそれを見抜く。そういった部分に、人と神とで違いはない。

無論だ。祀られれば、その程度の力はある

祀るとはどういうことだ?

言葉の意味自体はわかる。敬い、信仰するということだ。

だがその具体的手段まではわからない。

言ったであろう。一年まぐわう事だ

しかしそれも、サイノカミの簡潔な説明に氷解した。

なるほど性愛の神への敬意を表するのに、それ以上の方法はないだろう。

だがそれは困った話だな

単なる性愛ならともかく、子を成すというニュアンスを多分に含んだ性愛だ。

Olのような男でなくば毎夜相手にすると言っていたが、逆に言えばどれだけ濃密に交わろうと一年という期間は短縮できないという事でもある。子供が出来るかどうかは、性交の密度とは関係ないからだ。

ということならば、複数の男を当てがっても無意味だろう。リルのような淫魔であれば相手が多ければ多いほど掠め取れる生気も増えるだろうが、女が同時に孕める子の数は相手の男が増えたとて変わるものではない。

つまり何をどうしても、一年の歳月が必要ということだった。

他の方法はないのか?

本来ならばそれでも望外の条件なのだろうが、一季節後には敵が攻めてくるというこの状況では役に立たない。

お前は境界と性愛、豊穣の神なのだろう。それは出産という軸で共通する一方、それぞれが別の側面でもある。性交以外に力を得る方法はないのか

なくは、ない

Olの問いに、サイノカミは難しい表情で答える。

いや正確には、あったと言うべきであろうな

そう呟くサイノカミの表情は、酷く沈鬱なものだった。

そもそも我がこれほどまでに力を失ったのは、長い間誰にも顧みられることがなかったからだ。それこそ、我自身名を忘れてしまうほどにな

サイノカミと言うのは、名ではないのか

Olが問うと、サイノカミは頷きを返す。

其は汝らで言うなれば、役職のようなものよ。我を指す号ではあるが、我自身の名ではない

サクヤにでも知らないか聞いてみる?

リルが言うと、サイノカミはほうと片眉を上げた。

汝らはコノハナサクヤ姫と知己であったか。だが、あの者も我の名など知ってはおるまい。まだ年若き故にな

一万二千歳で若いって、どういうスケールよ

そういうサイノカミ自身は、一体どれほど生きている神なのか。

ここまで行くと驚きよりも呆れの方が強かった。

な、なに?

突然Olから名を呼ばれ、話の流れに参加もできずただ聞いていたマリーは驚きに目を瞬かせる。

こいつに名をつけるなら、なんとする

更に投げかけられた言葉に、彼女は困惑した。

我に名をつける、だと?

その困惑は、マリー以外の面々も同様だ。

サイノカミは怪訝そうに眉を顰め、Olの言葉を反芻する。

この世の誰も知らず本人も覚えていないのなら、そのような名は無いのと同じであろう。名のないものを呼ぶ時どうするかなど、決まっておる。名付けるのだ

神の名とはそのような単純なものではない。存在の本質を示し、根幹となるものだ。犬猫ではあるまいし、疎略に決めて意味などあるものか

よほど受け入れがたい話なのだろう。

サイノカミは不機嫌そうな声で唸るように吐き捨てる。

わかっておる。俺とて考えもなしに言っているわけではない。それで、どうだ?

うーーーーん

再びマリーに視線を戻せば、彼女は頭を抱えて考え込んだ末に、ぽつりと名前を口にした。

ミーシャ

思いっきりフィグリア風の名前じゃないの!

こちらではあまり聞かない名前ですね

即座にリルがツッコミを入れ、ユツもまた困ったように笑いながら控えめに同意する。

それ、だ

だがサイノカミは大きく目を見開き、呆然としながら掠れる声でつぶやいた。

いや違う。それではない。我の名はそれではない。だが、今の我を言い表すにはむしろ元の名よりも相応しいなぜだ?

ぶつぶつと、うわ言のようにサイノカミは自問する。

女の子の名前だからじゃない?あのおちん蛇の姿だったら、似合わないでしょ、そんな名前

そうか!

素朴にマリーは指摘し、正しいと同時に間違っているその答えにサイノカミは正当へと思い至る。

半身を失った故に、名も半分に分かたれるは道理。ミーシャ御石神(ミシャグジ)!それが我の名だ!

サイノカミがそう叫んだ瞬間、彼女の身体からぶわりと何かが溢れ出た。

目には見えず、音もなく、熱もなければ匂いもないが、しかし風にも似た何らかの圧力が存在しているのをその場にいた全員が感じる。

サイノカミのつま先から髪の一本一本に至るまでが力に満ち満ちて、全身が光り輝いているようにさえ感じられた。

その姿に、Olは今更テナがヤマタノオロチの事をヤツと呼び続けた理由を悟る。

名というのは、神にここまでの力を与えるものなのか。

小さき娘よ、感謝する。我に名を与えてくれたことを

サイノカミはゆっくりとした動作でマリーの前に跪き、マリーはこくこくと頷く。

ミシャグジで、良いのか?

いいや。我の事はミーシャと、このなりでそれは流石に座りが悪いか。そうさな、ミシャと呼べ。それこそが我に相応しき名だ。元の名よりもな

Olの問いに、サイノカミミシャは、そう答える。

確かに純ヤマト風の出で立ちで名乗るならば、長音は抜いた方が多少なりともそれらしいだろう。

だがそれは同時に、マリーの答えた名が真実正解を射抜いていたわけではない、という事でもあった。

ねえマリーちゃん、何でわかったの?

何もわかってないよ適当になんとなく、言ってみただけなんだけど

ユツの問いに、マリーは困惑して首を横に振る。

彼女が見せたのは相手の真の名前を言い当てる能力などではない。

もしそんな力があるとすればそれは凄まじい脅威だ。魔術師にとって、真名を知ることは相手の心臓を握ることに等しい。マリー程度の未熟な術者でも恐るべき力となるだろう。

だが、そうではない。近い名前を言えても間違えているようでは何の意味もないからだ。

ならば一体、先ほどからマリーが見せている力の片鱗は何なのか。

白蛇が竜であることを見抜き、洞窟の入り口の扉の意味を察し、サイノカミの名を半ば当てる。

名付けの才能、か

考えられるのはそれだけであった。本質を見抜き、感覚として捉える。

ならばそれに名をつける事も容易いだろう。

その才能って役に立つの?

わからん

リルの問いに、Olは首を振る。

例えば未知の化け物に遭遇したとして、それに相応しい名を与えることは出来よう。だが、弱点だの能力だのを知れるわけではなかろう

サイノカミに対して有効だったのは、たまたま竜という名を持つ種族が既知のものであり、さらに偶然マリーがそれへの対抗手段を持っていたからだ。

全く役に立たないわけではないにせよ、そのような例は稀と思っていいだろう。

だが、果たして本当にそうだろうか。

ただの珍しい才能、とるに足らぬギフトの萌芽。それでは済まないものを感じながら、Olは不思議そうに首を捻るマリーの顔を見つめた。

第7話王の帰還を祝いましょう-1

Ol、準備が出来たよ!

ああ、ごくろう

空間を超越し、文字通り飛んできたユニスを抱き留めながら、Olは彼女を労う。

ようやくか。待ちくたびれたぞ

そういうな。お前の力は強力すぎるのだ

欠伸を噛み殺しながら言うミシャに、Olは憮然として答えた。

彼女の力はOlが想定していたよりも遥かに便利なもので

あまりに便利過ぎた。

境界の神であるミシャは、あらゆる境界を繋げることが出来るのだという。

扉と扉を、門と門を、そしてダンジョンとダンジョンを。

しかも繋ぐ自体には力を使うものの、維持するのには殆ど力を消耗しないらしい。

だから大きな門でも作って本拠地とこの地を繋げば、戦力を丸ごと持ってくることが出来る。

それは非常に危険なことだった。なぜなら、行き来は双方向だからだ。

こちらの戦力が簡単に持ち出せるという事は即ち、本拠地に簡単に攻め込めるという事でもある。

かといって、ダンジョンから遠く離れたところに繋いでは利便性にかける。

それを解決するために、Olは特別な部屋を作り上げていた。

ミーシャの洞窟以外とはどこともつながらない、大きな大きな部屋だ。

そこからOlのダンジョンへは、通常の転移を使って行き来する。

間には分厚い岩盤が横たわっているものの、距離自体は短いため通常の魔術の転移で事足りる。

これならば、座標が分からなければ侵入できない。

テナのような能力もあるから安心はできないが、ある程度の備えにはなるだろう。

最悪の場合はその部屋を土で埋めてしまえば、物理的に侵入を防ぐこともできる。

では、開くぞ

ミシャはすっくと立ちあがり、彼女の住む洞窟の奥に設えた巨大な門扉へと腕を伸ばした。

一体どのように力を揮うのか、と見守る一同の前で、彼女は軽く扉をとんと指先で突く。

すると両開きの扉はきいと音を立てて開き

何もない空間だったはずのその向こうには、まったく別の部屋が広がっていた。

Olはその光景に、目を見開く。

空間を繋ぐ門といえば、Olがかつてフィグリアの軍師に捕らえられた時にユニスが作り上げたような、光り輝く渦のようなものを想像していたのだ。

だがミシャが成したそれは、違和感など微塵もない。

ごくごく自然に、扉の向こうに本来ありえない光景が広がっていた。

Ol様っ!

真っ先に飛び込んできたのは、意外にもミオだった。

矢も楯もたまらず駆けだした、といった彼女の柔らかな身体を、Olは反射的に抱き留める。

待ちかねたぞ!

お会いしとうございましたわ!

それに重なるようにエレンとセレスが飛びついてきて、Olは押されつつも三人の身体を支えた。

えいっ。おかえりなさい、Ol様

その腕を取ってShalが己の胸に押し付けるようにして抱きかかえ、

ほら、いってきなさいよ

う、うんOl様、失礼いたします!

ウィキアに押されたナジャがもう片方の腕に縋りつく様にぎゅっと抱き着き、

もう、寂しかったよー!

抜群の跳躍力でFaroが頭にしがみついてきたところで、Olはとうとう耐え切れずに地面に転がった。

起き上がろうともがくが、女たちの体で身動きが取れない。

彼女たちの心情を思えば怒鳴りつけることもできなかった。

さあ、そろそろどけ

頃合いを見てパンパンとメリザンドが手を打ち鳴らすと、ようやく女たちはOlの上から身体をどかす。

ほら

ウィキアが手を差し出す手を取って、Olは身を起こした。

全く、総出で迎えることもあるまい

扉の向こうに居たのは、妻たちだけではない。侍女やアールヴ達、フィグリア王家の王妃と姫に娘たち。それにドヴェルグや半人半馬、ラミアや人狼といった面々までもがOlの帰還を出迎えていた。

頬が緩んでおりますよ、陛下

にこやかに告げるノームに、Olは思わず己の頬を押さえる。

おかえりなさいませ、お師匠様

遠征中にも何度か会ってたためか、幾分落ち着いた所作でスピナが深く腰を折る。

ただいまわたしーっ!

おかえりわたしーっ!

Olが連れていたリルと、迷宮に残っていたリルの分け身が空中でパンと手を合わせた。

と言っても彼女のそれは同一の意識が二つの身体を同時に操っているだけなので、要するにただの一人芝居だ。

帰って来たね、Ol

いつの間にかユニスが横に立ってニコニコと笑いながらそう言って。

Olは深く頷きながら、久々の我が家の空気を胸いっぱいに吸い込んだ。

我が留守の間、大儀であった

久方ぶりの玉座に腰を下ろし、Olはそう労いの言葉をかけた。

無論のこと、己のいぬ間にダンジョンを乗っ取られぬよう対策は十重二十重に巡らせて出かけたのだが、結論から言えばその労力はすべてが全くの無駄であった。

無論、仕事の上でいくつかの失敗や破綻はあったし、そうした時に指示を仰ぎにユニスがOlの元を訪れたのは一度や二度ではない。

だが危惧し備えたような裏切りは、ただの一つも見つからなかった。

Olはそれを不可解に思う事もなくしかし当然と思う事もなく。

ただ安堵したように、深く息を漏らした。

元来のOlであれば、そもそも対策を施したとしてもこれだけの期間、ダンジョンを他人に任せて留守にするなどという事はなかっただろう。

残されたものもそれをわかっているからこそ、それに応えた。

お前たちの忠義、献身には報いねばならぬ

謁見の間は広いとはいえ、何千何万といる魔王の配下が丸ごと入れる程ではない。

全体への演説や褒章は後に回すとして、Olはまず近しい者たちを集めてそう述べた。

故に、褒美を取らす

近しいものとは、その殆どが彼の妻だ。

新大陸についてきていたリルとマリー、魔力の補給の為に毎日顔を合わせていたユニスとスピナはともかく、他の者たちは殆ど丸一年放っておいたことになる。

つまり褒美とは、実質的にその補償であった。

褒美とはいかなるものでしょうか、主殿

跪いた姿勢から顔を上げ、問うたのは黒アールヴの長エレンであった。

彼女もまた忠義厚き腹心と言っていい相手だが、同時に黒の氏族を率いる族長としての立場も持っている。部下たちの為にも、生半なものでは承知しない、とその目が言っていた。

Olはうむと頷いて、

お前が決めろ

短く、そう答えた。

は?

エレンは思わずぽかんと口を開き、Olの言葉の意味を考える。

望むものを与える、と言っておる

お言葉ですが、Ol様

そこに声を上げたのは白アールヴの長、セレスだ。

私たちが私が頂きたいのは、金品でも宝物でもありません

それも、わかっている

質素倹約を旨とする魔王の気風もあってそれほど華美な生活をしているわけではないが、それでも王族は王族である。彼女たちが今更金銭で贖えるようなものを欲しがるとは、Olも思っていなかった。

一日だ

指を立てて厳かに宣言するOlに、エレンとセレスは揃って首を傾げる。

各々一日を限度として、この俺を自由にする権利を与える。無論承諾できる範囲での話だが、よほど無茶な頼みでなければ出来得る限りの望みを叶えよう

しかし続く言葉に、一同がどよめいた。

それってつまりOl様を一日独り占めできるってことですか?

うむ。そのように捉えて差し支えない

Shalの問いにOlは頷くが、それはそう簡単な話ではない。

ただでさえ広大な土地を治める魔王は忙しく、朝から夜までほとんど働き詰めであることは皆が知っている。ましてや遠征から帰って来たばかり、メリザンドが代理である程度処理していたとはいえ彼の裁可を待つ書類はなお山のようにうず高く積まれていて、その恐ろしさは執務室に入ったリルが顔を蒼白にして出てくるほどなのだ。

その魔王の一日とは、彼自身と同じ大きさの黄金よりも価値を持つ時間。

しかし同時に、その場に居並ぶ者たちが皆、何より望んでいるものであった。

立場や序列の別なく、思いついたものから逐次応じるものとする。皆、存分に考えておけ

Olの言葉に妻たちは、はっと我に返ったように互いに顔を見合わせ、浮足立ち、銘々に思い悩みながらその場を立つ。

また随分と張り込んだものだな

一人残った宰相、メリザンドはOlをからかうようにそういう。

何を言っておる

そんな彼女に、Olは呆れたように答えた。

褒美を与える相手には無論、お前も入るのだぞ。他人事のような顔をしおって

メリザンドの表情から、みるみる余裕が抜け落ちて。

お前が何を頼んで来るか、楽しみにしておるからな

言い置き、執務室へと向かうOlの背中を、メリザンドは呆然と見つめた。

第7話王の帰還を祝いましょう-2

千載一遇のチャンスだ、とメリザンドは思った。

一日、なんでもいう事を聞く。

Olのそのあまりにも無防備な宣言は、メリザンドのかつての野望を蘇らせるのに十分な威力を持っていた。

今の暮らしに、不満があるわけではない。

もし失敗すれば、メリザンドは全てを失うだろう。

愚かな望みとわかってはいた。

いたがしかし、彼女はそれを捨てることが、ついに出来なかったのだ。

事はあの狡猾で用心深い魔王に気取られぬよう、慎重に進めなければならない。

かといって遅くなりすぎても駄目だ。

さりげなく、しかし的確に必要な情報をメリザンドは集め

そして、決行の日はやってきた。

新大陸の話を聞きたいだと?

うむ。無論、書面での報告には目を通しておる。だがやはり文章では漏れもあるだろうし、何より臨場感というものがないだろう?土産話だとでも思って、語ってはくれんか

それは、構わんが

メリザンドの願いに、Olは困惑したように怪訝な表情を浮かべる。

いいのか?わざわざそんなことに報奨を使って。無論丸一日となると難しかろうが、多少話す程度の時間は作ろうと思えば

いや、そこまで肩ひじを張らなくていい。こうして顔を合わせるのも久々なのだ、気軽に語ってくれ

やはり多少怪しまれはするか、とメリザンドは内心で呟く。

とはいえ、油断しようとするまいと、あらゆる対処を講じてくるのがOlという人間だという事はよくわかっている。

であるからこそ逆に、多少怪しまれる程度は何の障害にもならない。

お前がそういうのなら、まあいいが。しかし語るといっても何から話すべきか

報告書に、娘が出来たと書いてあっただろう。確かソフィアとかいう

あああれもまた、不可解な存在なのだがな

茶を口にして喉を湿らせ、Olは頷く。

理由はよくわからんが、俺を親と認識しているらしい

聞いたぞ。なんでも、パパと呼ばれているそうではないか

メリザンドが笑いを含んだ口調で言えば、Olは渋面を作った。

からかうな。そのような柄でないことは承知しておる

なに、からかってなどいるものか。存外似合うのではないか?パパ

からかうなと言うに

憮然とするOlに、メリザンドは忍び笑いを漏らす。

だがそれも、演技でしかない。本当の狙いを隠すための演技だ。

娘と言えば、フィグリア王家の姫君たちには何か保障でもするのか?

それはOlが乗っ取り、支配する国々の中核ともなっているフィグリア元王妃とその姫そして、彼女たちに産ませた娘たちの話だった。

彼女たちはダンジョンの運営に関わることもなく、それゆえ捨て置いても問題となる可能性は低い。だがソフィアと違って、紛れもなくOlの血を引く子供たちだ。

心情的にも道義的にも、捨て置くわけにはいかなかった。

うむ。流石に一人ひとりに、というわけにもいかぬが、幾らか時間はとる予定だ

なるほど。なかなか良い父親ぶりだな

更にからかうように言葉を投げかければ、何故かOlは怒るでもなく沈黙した。

いやそうとばかりも言えん

不審に思ってメリザンドが問うと、Olは難しい表情で首を振る。

俺には親がおらん。故に親子というものがどのように接するものなのか、よくわからんのだ。少なくとも、良き父親というわけではなかろう

そんなことはないだろう、とメリザンドは思う。

先日Olが帰還した時も、彼の娘たちは嬉しそうに出迎え、慕っていたように見えた。

では

だがメリザンドの口から漏れ出たのは、そういった慰めではなく。

練習してみるか?

そんな言葉だった。

どうしてこんなことになったのか。

メリザンドはひたすらに内心で自問自答していた。

彼女の体はOlの腕の中にすっぽりと収まり、膝の上にあった。

そしてOlの無骨な手のひらは、メリザンドの頭を不器用に撫でている。

どうしてこうなった。

何度も繰り返した問いを、メリザンドは更にもう一度内心で呟く。

おい

ぼそりと呟かれたOlの声が耳元で聞こえて、メリザンドはびくりと身体を震わせた。

これでどうなんだ

試しに私を娘だと思って、膝にでも乗せて撫でる練習をしてみてはどうか。

冗談めかして言ったその言葉に、しかしこの妙なところで生真面目な魔王は試してみる価値はあるかなどとのたまい、実行に移したのだ。

う、うむまあ、悪くないのではないか?

なんだそのいい加減な答えは。しっかりと評価しろ

そういわれても、とメリザンドは思う。

このすっぽりと腕に覆われ、がっしりとした身体に背中を預ける安心感と暖かさ。

どのように力を入れればいいのかわからず、ぎこちなく髪を撫ぜる掌の感触。

僅かに漂う独特の香りと、耳元から聞こえる微かな息遣い。

どれをとっても最高だ。

(などと、言えるわけがない!)

どこでどう間違えたのか。メリザンドの練ってきた計画はここに至り、完全に瓦解したとしか言いようがなかった。

Olをからかうていを装い、娘のように甘えるという計画は。

埒が明かんな。おいメリザンド

僅かな苛立ちを含んだ声と共に、Olの手が止まる。

メリザンドは残念なような、ほっとしたような気持ちになった。

いちいちお前の要領を得ん評価を聞いていても話が進まぬ。実際に、俺の娘のように演じて見せろ。俺もお前を娘と思って接する

な、なんだと!?

しかしそれも続くOlの言葉を聞くまでの事。

想定を遥かに上回る魔王の提案に、数千年を生きた元聖女は慌てふためいた。

親に向かってそんな口のきき方があるか。父と呼んでみろ、メリー

冗談で言っているのだろうか、とOlの顔を思わず見るが、彼の表情は真剣そのもの。

ごくりと喉を鳴らし、メリザンドは絞り出すように声をあげる。

ててさま

それは彼女が長い人生の中で、初めて発した単語だった。

メリザンドもまた、親を知らないからだ。

うむ。では父にしてほしい事はあるか?メリーよ

満足げに頷いて、Olは問う。

これは練習のための演技。これは練習のための演技。これは練習のための演技。

メリザンドは心の中で三度そう呟いて、意を決して言った。

高い高いを、して欲しい

怪訝そうなOlの言葉に、メリザンドは己の発言を後悔した。

考えてみれば、今の姿はマリーのものを借りたもの。

十を遥かに過ぎて、もはや子ではあっても子供とは言えない年齢だ。重さもそれなりにあろう。

それをまるで、幼児のような頼みをしてしまった。

お前は甘えたがりだな

悔やんでいれば優しげな声と共に、Olの手が両脇に差し入れられる。

かと思った瞬間、メリザンドの身体は軽々と持ち上げられていた。

そら、これで良いか

うっ、うん

Olはそのまま立ち上がって、高くメリザンドの身体を持ち上げる。

ててさま、重くない?

侮るでないわ。お前一人の体重ごとき、綿のようなものだ。そら

そのまま、身体を回してメリザンドを振り回すように揺らして見せた。

わ、わ、ててさま、あぶない!

俺が抱えているのだ。危ないことなどあるものかおおっと

Olの腕が外れ、メリザンドは宙を舞いながら息を呑む。

だがそれはほんの刹那の事だった。

メリザンドの身体は目に見えぬ何かに受け止められたかと思うと、するりと坂を滑ってOlの腕の中に納まる。サイノカミとの戦いの際マリーを受け止めたのと同様の、見えざる迷宮(ラビュリントス)で作り上げたスロープだった。

驚いたか?

もう、びっくりした。ててさまのいじわる!

悪戯っぽくいうOlに、メリザンドは腕を振り上げる。

と、その拳が妙に小さい事に気が付いた。

あれ?

よくよく見てみれば身体はどこもかしこも縮んでいて、ふわりと緩くウェーブしていた髪はまっすぐ伸びてメリザンドの肩にかかっていた。

マリーの身体を写し取ったものではない。メリザンド本来の姿だ。

親子の真似事をするのなら、その姿の方がやりやすかろう

メリザンドはこくりと頷いて、Olの胸板にこつんと額を当て、目を閉じた。

わかっていたのだな

そして口調を元に戻し、低い声で問う。

髪とOlの胸とで隠した顔は、羞恥に真っ赤に染まっていた。

どうした方法を使ったのかわからないが、メリザンドの姿をマリーと同期させる呪いはそれなりに強力なものだ。少なくともこの場で簡単に解けるようなものではない。

となれば、事前に用意していたに違いなかった。

さて、何のことやらな

Olは空惚けながら、艶やかなメリザンドの髪を撫でる。

もっと

顔を伏せたままぽつりと呟く小さな妻の要望に応え、Olは穏やかな時をしばし過ごした。

第7話王の帰還を祝いましょう-3

ところで、この格好は一体どうやったのだ?

ひとしきり頭を撫でられ半刻(一時間)ほど。

ようやく満足したのか、ふとメリザンドは己の身体を示してそう尋ねた。

Olのことだから成長の呪いが無に帰したなどというヘマはしていないだろうが、それでもかつてあれほど忌み嫌っていた不変の肉体。多少の不安はあった。

新大陸とこの地を結ぶのに、ミシャサイノカミという神の力を借りたという話は既にしたな

Olの言葉に頷きつつも、それと何の関係があるのか、とメリザンドは首を傾げる。

その神と交わったせいで、俺にも多少そいつの力が使えるらしい。といっても大したことは出来ぬが

交わって力を得る?異国の神というのはそのようなものなのか?

なまじ神という存在をよく知っているだけに、メリザンドは思わず驚き問うた。

そもそも神と交わるという概念自体驚きではあったが、よくよく考えてみればその対となる悪魔とはしょっちゅう交わっているのだから、さほど不思議はないのかもしれない。

いや、サイノカミが例外だ。奴は情交を司る神でもあるからな。それで、俺が巫女男の場合は神主というのだったか。そのようなものになっているという事らしい

ああ。マリーが習得した技術か。しかし空間を繋ぐ力で、どうやって私を元の姿に戻したんだ?

メリザンドの素朴な疑問に、Olはうむと頷いた。

サイノカミの力は単に物を遠くに移動させるというものではない。境界を司る力だ。お前とマリーの肉体は魔術によって同期している。いうなれば、境界をあえて無くしているという状態だ。そこをこの力で隔ててやれば

Olがメリザンドの頬に軽く触れると、一瞬にして彼女の身体は大きく膨れ上がってマリーそっくりの姿になり、更に再び本来のメリザンドに戻る。

この通りだ。呪いの影響を隔てただけで呪いそのものが消えたわけではないから、どちらの姿になるも自由自在というわけだ

呪いを、隔てる

己の小さな手をじっと見つめるメリザンド。

悪いがこの力で、魔道王のかけたお前の呪いを無効化してやることは出来ぬ

その意図に気づいて、Olは言いづらそうにそう言った。

その呪いはお前の身体の奥底にあまりに深く根付いている。境界自体が存在せねば、サイノカミの力は効果を成すことが

違う。逆だ

Olの言葉を遮って、メリザンドは声をあげる。

遮るのではない。その逆。繋げる方だ

震えるその声は徐々に熱を帯びて、

呪いそのものは消せないだろう。だがその一部を無効にすることはできるのではないか!?

最後には半ば叫ぶように、メリザンドはOlの肩を掴んだ。

一部そういう事か

メリザンドにかけられた魔道王の呪いは、ただ老いず死なないというだけではない。

穢れを防ぐため、男と交わることが出来ないという効果もまた、備えていた。

いかなる力をもってしても、その秘所には侵入することが出来ないのだ。

出来るやもしれん

Olの見立てでは、その呪いは入り口を膜の様に塞いでいるだけで、その内までを満たしているわけではない。であれば、サイノカミの力なら侵入できる。打ち消すことは出来なくとも、内と外とを繋いでしまうその力の前にはどれほど堅牢な扉も無力だからだ。

試してみるか?

Olが問えば、メリザンドはしばしの逡巡ののち、こくりと頷いた。

待ってくれ

ならば元の姿では差しさわりがあるだろう、とOlが彼女の頬に触れようとすると、メリザンドはそれを止めた。

そのできれば、この姿のままお願いできない、だろうか

本来の姿でか?

Olは思わず、メリザンドの姿をまじまじと見つめた。

幼い頃に成長を止められてしまったその肉体は、あまりにも小さい。とてもOlのものを受け入れられるようには見えなかった。

いや、すまん、忘れてくれ。このような姿では、勃つものも勃たぬな

見くびってくれるなよ

メリザンドに挑発するようなつもりはなかったが、Olはそれを聞き咎める。

どのような姿をしていようとも、お前はお前だ。そこは問題ではない

ならば

メリザンドは小さな手でぎゅっとOlの手を握り、彼の顔を見上げていった。

おねがい

わかった

Olは目を閉じ熟考したのちに、渋々と頷いた。

では、いくぞ

う、うん

互いに一糸纏わぬ姿となり、ベッドに横たわるメリザンドはその目を大きく見開きOlのものをじっと凝視していた。

散々見慣れたものであろうが

そうだけどその、わたしでちゃんと大きくしてくれたんだなって

一応言っておくが、相手がお前だからだぞ。あの変態(ロリコン)と一緒にしてくれるな

その視線に気づいて言えば誤解を招きかねない言葉がかえってきて、Olは渋面で釘をさす。

うんわかってる

こくこくと頷くメリザンドの身体は、本当に小さい。

呪いなどなくとも、とてもOlのものが入りそうにはなかった。

本当に、良いのだな

うん。して、ほしい

くどいと思いつつも再度確認すれば、メリザンドははっきりとそう答えた。

うむ呪いをごまかすのは、まずは成功しておるようだな

Olはゆっくりとメリザンドの秘所に指を埋めていき、境界を開く力が正常に機能していることを確かめる。本来であれば、爪の先さえ入れることはできないはずだ。

うんわかる。わたしの中に、Olの指が入ってきているのが

それだけで、メリザンドは感動に打ち震えた。

数千年もの間誰も入ることを許されなかったそこに、今ようやく侵入が果たされたのだ。

やはりキツいな

しかし裏腹に、Olの表情は険しい。

入れたのは小指であったが、それでさえメリザンドの中は先端が辛うじて入る程度で、それ以上先には進めそうもない。本来ならば時間をかけて慣らしていくところだが、メリザンドの不変の肉体に対してはそれすら不可能なのだ。

大丈夫。無理やり、入れてしまっていいから

ならば痛みだけでも魔術で消すか

そういって空中に紋様を描こうとするOlの指先を、メリザンドは握る。

お前、何を

最初だけ。どうせこの身体には、一切の痕跡が残らない。だったらせめて痛みという形ででも、記憶に刻み込んで欲しい

ぎゅっと指を握りしめる彼女に、Olは深くため息をついた。

わかった。お前の我儘など、そう滅多にあるものではないからな

くしゃりとメリザンドの髪を撫で、Olは彼女の中心に己のものをあてがう。

悪いが優しくしてはとても入らん。一息に行くから覚悟しろよ

メリザンドはこくりと頷いて。

きて

両手を伸ばし、そういった。

Olは小さな彼女の身体を抱きしめて、勢いをつけ一気に突き入れる。

狭く小さい肉の穴を無理やりこじ開け最奥まで辿り着いても、Olのペニスは半ばまでしか埋まらない。引きちぎれんばかりの強い締め付けは痛みを伴うほどだったが、メリザンドはその比ではないだろう。

う、あ

大丈夫か?

大丈夫なわけがないと知りつつ、ぼろぼろと涙を流すメリザンドの頬を撫でる。

ちがう

だがメリザンドは、ふるふると首を振ってOlにしがみついた。

うれしい、のやっと、ほんとうのいみで、おうるとひとつになれて

普段とは似ても似つかない、どこか舌足らずな幼い口調。

だがそれこそが本来のメリザンドの数千年を孤独に過ごし、強く狡猾であらねばなかった幼い娘の、素の声色なのだろうとOlは察した。

メリーは存外、泣き虫だな

目元の涙を指で拭ってやると、メリザンドはその指をぱくりと口に咥え、ちゅうと吸いつく。

かと思えば舌を伸ばして根元から舐め上げ、唾液を絡めて唇で愛撫する様は、その幼い容貌から発せられているとは思えないほどの色香があった。

痛みを、消すぞ

メリザンドの答えを待たず、Olは彼女のすべすべとした腹に指先で紋様を描く。

そしてふと、あることを思いついて更に紋様を一つ追加した。

っ!?これ、は?

途端、メリザンドの身体が跳ねる。

痛みを快楽に変換するようにした。これならばお前も少しは楽しめよう

まっ

待てぬ

言ってOlはメリザンドの腰を掴むと、その身体を持ち上げるように引き抜き、そしてもう一度突き入れた。

ぁぁっ!

途端に、悲鳴のような嬌声が上がる。

いや、事実それは悲鳴であったかもしれない。

だがそうだとしても、もはやOlは堪えることが出来なかった。

あぁっ、おうる、おうるぅっ!

艶を帯びた声でしきりに彼の名前を呼びながら、メリザンドはOlにしがみつく。

平らな胸も、短い手足も、括れの乏しい腰つきも、薄い尻も、彼女の身体は何もかもが未発達でなのに、Olを見つめるその瞳は、声色は、どこまでも女であった。

そのギャップに、Olの辛抱は限界を超えていた。

いいっ、いいの、もっとして、おくまでいれて、おかしてぇっ!

突き入れる度にメリザンドの下腹はOlの形にぽこりと膨れ、根元まで埋め込まれた男根は子宮の奥までこじ開け入り込んでいるのだろう。人形のように軽い身体を揺さぶられながら、身体を壊すほどのまぐわいを快楽として受け取りあえぐメリザンドの姿はこの上なく淫靡で、Olの雄はますます猛って彼女を激しく犯す。

狭くキツい膣は大量に分泌される愛液によってぬめりを帯びて、極上の締め付けを味わえる快楽の穴となって、一突きするごとに背筋を稲妻が駆け抜けるかのような快楽だ。

出す、ぞ!

うんっ!きて、きて、きてきてきて!!

Olの宣言に、メリザンドはぎゅっと体中で彼の下腹にしがみつくようにして。

おくにちょうだい、ててさまぁっ!

メリザンドの叫ぶような懇願と同時に、Olは彼女の中に欲望を解き放った。

大量の白濁がメリザンドの子宮の中に直接吐き出され、犯し、満たしていく。

それだけでは止まらず、Olは吐き出す精をメリザンドの胎内に押し込むかのように二度、三度と腰を埋めては、更に彼女の膣内に子種を注ぎ込んだ。

お前今のは

まるで無限に続くかのような長い長い射精の後、荒く息を吐きながらOlが問うと、メリザンドは耳まで真っ赤に染めながら両手で顔を隠していた。

ちがうちがうの、その、べつに、そういうことじゃなくてたんにまざったっていうか、その、ええと

顔を隠したまま、メリザンドは弁解なのか何なのかよくわからないことをもごもごと口にする。

父親に甘えたいという気持ちと、恋人に愛されたいという気持ち。

メリザンドの中でそれはとても近しいもので、どちらも望むべくもないと諦めていたものそして、Olが与えてくれたものだった。

まあそう呼びたいなら好きにしろ

Olもまたそれを察し、メリザンドの髪を優しく撫でてやれば、彼女は無言でこくりと頷く。

他のものへの示しがあるから普段からは困るがな

うむ。無論、その辺りは十分に留意しよう

咳ばらいを一つ、普段通りの口調でそう言って。

だからもっとして?ててさま

未だ繋がる秘部を締め付けながらの甘いおねだりは、Olの理性を再び失わせるには十分な破壊力を持っていた。

第7話王の帰還を祝いましょう-4

こちらへどうぞ、Ol様

セレスに手を引かれ、導かれたのは天のダンジョン外殻部の上にある森の奥だった。

白アールヴたちが住処としているそこは森の暗さ、恐ろしさといった負の側面とはまるで無縁の場所だ。

まばらに生えた木々の葉からは太陽の光が零れ、梢の隙間を爽やかな風が吹き抜けていく。

枝には鳥が歌い、小さな獣たちが行きかい、小川のせせらぎに小魚が鱗を煌めかせる。

何とものどかで平和的なその光景は、訪れる者を思わず安堵させるものであり

そして、鋭い棘を隠す薔薇の美しい花のようなものだった。

どれだけ見通しが良く明るくても、木々に隠れたアールヴの存在を見破ることなど人間にはまず不可能。ダンジョンがOlの領域であるなら、森の中は彼女たちの領域であるといえる。

今更セレスがOlを裏切り害するとも思えないが、それは油断する理由にはなりえなかった。

さて、ここまでついてきたのだ。そろそろお前の望みを教えろ

せっかちなお方。私は今日という日を、ずっとずっとお待ちしておりましたのに

そういわれては、Olとしても黙る他ない。

ご心配なく、もうすぐ着きますからほら、ここを抜ければ

柔らかなセレスの掌がOlの手を優しく引いて、森の中を進んでいく。森妖精の姫君が歩くと木々はその身をどかし、草花さえひれ伏して、藪の中を進んでもOlの身体には木の葉一つ触れることがなかった。

こちらです

唐突に視界が開け、そこに広がる光景にOlは思わず感嘆の息を漏らした。

森のただなかに広がる、一面の花畑。

色とりどりの花々がまるで競い合うかのように咲き誇り、それでいて全体の調和を乱すことなく大地を彩るその様は、花になどまるで興味のないOlでさえ感じ入るほどの美しさだ。

いかがですか?Ol様

自信ありげに問うセレスに、Olは改めてその光景を見回して。

お前は残酷な女だな

薄く笑みを浮かべ、意地の悪い口調でそう言った。

えっなぜですか?

思いもよらぬ反応に戸惑い、セレスは問い返す。

花というものは愛でられてこそ。美しいと褒めそやされてこそのものであろう

ええ

それはただ人からの一方的な評価ではない。

虫を惹きつけ子孫を残す為に、花というのは美しく咲いている。

確かにこの花畑は美しいだがそれも、より美しいものに紹介されては立つ瀬があるまい

まあ

花々よりも美しいと遠回しに褒められたのだとすぐに気づき、セレスは己の頬に手を添えた。

異国の地で、女の口説き方を学んでらしたのですか、Ol様?

見たままの事実を語ったまでの事だ

Olらしい、皮肉めいた不器用な誉め言葉だ。

生まれながらに美しくある白アールヴ。その中でもひときわ光り輝く存在であったセレスは、Olの言葉など及びもつかぬ程の流麗な言葉で常に褒め称えられてきた。

だが、これほどまでに胸を高鳴らせる言葉は、他になかった。

ではその言葉が世辞でないと、得心させていただけますか?

セレスがすっと腕を伸ばすと、Olはその手を取って抱き寄せ、腰に腕を回しながら彼女の形の良い顎を指で持ち上げる。

それに応じて上を向きそっと瞼を伏せると、Olは彼女の可憐な唇に口づけた。

初めはそっと、慈しむ様に優しく。顔を傾げ、角度を変えて二度三度。接吻は徐々に深く熱を帯び、五度目に重なった時、二人はどちらからともなく舌を伸ばして絡めあう。

柔らかな唇と舌の感触を楽しみながら、Olは僅かに身体を開いてセレスの胸元へと手を伸ばした。

そのたっぷりとした乳房に触れてもセレスは微かに吐息を漏らすだけで、嫌がりはしなかった。腰が折れんばかりに彼女を抱き寄せながら、Olは服の隙間から手を差し込んで、直接その柔肉を味わう。

その吸い付くような肌の感触はシルクよりも滑らかで、触っていると指先から蕩けそうなほどに柔らかい。夢中になって貪っていると、すらりとした嫋(たお)やかなセレスの指先が、Olの硬く張り詰めたものをそっと撫でた。

それに応えるように舌を深く差し込みながら、指先で硬く尖った蕾を摘み上げ、掌全体で捏ね上げるように柔らかな乳を揉みしだく。するとセレスはOlの肉槍を服の上から形を確かめるように手を滑らせて、その根元の袋を指先で擦り、再び先端へと掌で愛撫していく。

堪え切れぬ、とばかりに唇を離せば、セレスは濡れた瞳でOlの名を呼び、懇願した。どうやら堪えがきかなかったのは、彼女の方だったらしい。

Olがセレスの腰から腕を離すと、彼女は蝶のようにぱっと離れ、羽のようにドレスをはためかせた。

どうぞ、お情けを

白アールヴの美姫は花畑の中に四つん這いになって、スカートを捲り上げる。すらりとした脚から細く美しい太もも、芸術品のような白く丸い尻に、誘うようにひくひくと蠢く中心の花びらまでがOlの眼前に露わとなった。

ああ。いくぞ

否も応もなく、Olは己自身を取り出すと濡れた秘穴に突き入れる。

途端、セレスの嬌声が空に吸い込まれるようにしてあがった。

森の中に出来た花畑の上には、木々の葉に遮られることなく青い空が広がっている。

そこから差し込む太陽の光に照らされたセレスの姿は光り輝くかのようで、昏いところなど何一つなく、しかしどこまでも淫靡であった。

Ol様のぉっ、これぇっ!ずっと、ずっとお待ちしてたんですぅっ!

突かれるたびに愛液を滴らせ、セレスは嬉しそうに鳴く。

これ、とはなんだ?

獣のようにセレスの身体にのしかかり、その双丘を両手で鷲掴みにしながら、Olは意地の悪い声で尋ねた。

Ol様の、おおちんぽ、ですああっ!こうやって、奥を、ごりごりってずっと、あぁっ、それ、もっと、してぇっ!

どうされたいのか言ってみろ

彼女の長い耳を甘く噛んで、Olは命ずる。

Ol様の、ぉっ!硬くて、太くて、逞しい、あぁっ!お、おちんぽ!で、ぇっセレスの、はしたない、おまんこをぉっ!いっぱい、いっぱい、虐めてくださいませぇっ!

叫ぶように宣言しながら、セレスは絶頂に至る。きゅうと締め付けてくる彼女の膣内に、Olは精を吐き出しながらも更に突き入れた。

あああっ、だめぇっ!そんな、あぁっ!らめ、れすぅぅっ!

地面に押し付けるように組み敷かれ、収縮する膣口を無理やりこじ開けられ、奥に子種を注ぎ込まれて、セレスはろれつの回らない舌で叫んだ。犬のような屈辱的な体勢で、男に全てを征服される感覚。しかしそれはどこまでも甘美なものだった。

白アールヴの愛とは、愛するものに全てを捧げるものだからだ。

あぁOl様。とっても素敵でした

そしてセレスにとって、己の全てとは彼女の身体のみを意味しない。

次は、どうぞこの子たちでお楽しみください

彼女の言葉、別の白アールヴ達が四人、現れた。

長であるセレスにとっての全てとは、この森自体。そしてそこに住まうアールヴ達もその範疇だ。

無論部下に無理強いはしないが、彼女たちが望むのであればそれはセレスにとって嫉妬ではなく、よりOlに尽くせるという喜びであった。

初物をご用意いたしましたから

セレスの言葉に、白アールヴたちは恥ずかしそうにスカートをたくし上げる。

男を知らぬ秘所は、しかしOl達の交合を見て期待したのか、しとどに濡れそぼっていた。

悪いが、断る。今日という日はセレスに捧げると決めておるのでな

Olがぱちりと指を鳴らせば、黒い影が狼のような素早さで白アールヴたちに立ちはだかる。

護衛として連れてきた黒アールヴだ。アールヴの支配する森の中、アールヴでないものなど足手まといでしかない。それゆえの人選だった。

もっともこのような目的に使う事になるとは思わなかったが。

Ol様ありがとうございます。そのお気持ち、セレスはとても嬉しく思います

セレスはOlの腕を抱いてしなだれかかり。

ですが、私は貴方様にこそ喜んで欲しいのです。それに

彼女の合図に、黒アールヴ達はくるりとOlへと振り向く。

それは彼女たちもまた、同じ気持ちなのですよ

すまんな、主殿。今回ばかりは裏切らせてもらう

黒アールヴの長、エレンは朗らかにそう言った。

まったく、愚か者め

呆れたように言いながら、Olは片腕にセレスを、もう片腕にエレンを抱き寄せる。

真の名を知る彼女たちに無理やりいう事を聞かせることは容易かったが、それが望みだというのなら是非もない。叶えられる限りの望みを叶えてやるという約束だからだ。

一輪を愛でるのもいいですが、やはり花は色とりどりあってこそでしょう?

私は一応止めたのだがな?こいつは妙なところで強情で困る

止めたと言いつつ、族長自ら参加していては説得力がありませんよ

ええい、こんな状況で喧嘩をするな

二人の乳房をそれぞれ両手に抱えながら、Olは唇でセレスの口を塞ぎ、ついでエレンを黙らせた。

喧嘩などしておりませんわ、Ol様

だからもっとしてくれ、主殿

すると二人はとろりと瞳を愛欲に蕩けさせてOlを見つめる。

私たちも

どうぞご寵愛ください

黒白合わせて十人のアールヴたちがOlの周りを取り囲み、そのうちの一人、白アールヴがOlに向かって腰を突き出す。

つぷりと先端を潜り込ませれば、確かにそこには未踏の証があった。

良いのか?

Olの問いに白アールヴは頷き。

私たちの愛、どうぞお受け取り下さいませ

言ってセレスがOlに口づける。

その後ろ、木々の間に、隠形すら覚束なくなったアールヴ達の姿が見えた。

一体何人隠れ潜んでいることか、アールヴならぬOlには窺い知ることもできない。

今日は長い一日になりそうだ。

まずは一人目の純潔を破る感触を味わいながら、Olはそうひとりごちた。

第7話王の帰還を祝いましょう-5

では、Ol様の寝室にお邪魔してもよろしいですか?

構わんが意外だな

留守を守った報いとして、報奨を与える。

一人につき一日、Olが了承できる範囲で願いを何でも叶えよう。

そんな宣言に対しミオが返した答えに、Olは思わずそう答えていた。

牧場で一日働かされるか、それとも珍しい魔獣でもせがまれるか。

彼女の事だから、いずれにせよ家畜が絡むものだと思っていたのだ。

まあ良い。そういう事ならばたっぷりと可愛がってやろう

考えてみれば、ミオを純粋に一対一で相手したことは一度としてないことにOlは気が付いた。

初めての時すら黒アールヴたちが一緒だったし、その後も彼女一人で閨に来るという事はなく、Olの方から牧場へと足を運ぶことがあっても必ずミオは護衛の女や魔物の娘たちを誘って抱かれたがった。

だがそれは単に複数での交わりを好んでいるというよりも、彼女の素朴な気遣いがもたらした配慮であろうことは想像に難くない。

そんな彼女が初めてただ一人で愛されたいというのなら、Olとてそれに応えるのは吝かではない程度には、ミオの事を気に入っていた。

さて、ではどのようにされたい?今日は褒美だ。いかようにもお前の求めに応じて見せよう

己の寝室に連れ合って辿り着き、ローブの留め金を外しながらOlは問う。

高貴な姫君のような扱いを望むか?それとも愛する無二の妻のように接してやろうか。何なら、下僕のように振る舞えなどと命じても構わんのだぞ

流石にミオがそのようにいう事はあるまいが、と思いつつも、Olは半ば本気で言ってやる。

では、こちらにいらして、頭をここに

ミオはベッドの中ほどに座り込むと、ぽんぽんと己の膝を叩いた。

こうか?

怪訝そうな表情を浮かべつつ、Olは言われるがままにベッドに横たわり、ミオの膝に頭をのせる。そんな彼を、ミオはニコニコしながら見下ろした。

してこれからなんとする

うーんそうですね

考えていなかったのか、ミオは少しだけ困ったように視線を宙に彷徨わせる。

その視線が、ふとOlの顔の上で止まった。

あっ、じゃあ、Ol様の髪を梳いてもいいですか?

構わんが

ありがとうございますっ

弾んだ声で、ミオは服のポケットから櫛を取り出す。

そしてOlの髪にさすと、丁寧にくしけずり始めた。

その櫛はいつも持っておるのか?

よもやこの為だけに褒美を使ったわけではあるまいな、と思いつつ、Olは問う。

はいあっ、大丈夫ですよ!動物たち用のじゃなくって、ちゃんと、人のですから。っていうか、私のなんですけど

慌てたように言って、ミオはえへへと気恥ずかしそうに笑った。

あの子たちのお世話をしてると、すぐぼさぼさになっちゃうんで、前にエレンさんから貰ったんです。なんでも、えーと、なんだっけ何とかって木から、削りだしたんだとか

箱木か

ソウボク?

うむ。箱を作るのに適しておる故、そう呼ばれておる。極めて成長の遅い木でなその分、木目が綿密で硬く、細い櫛の歯とてそう簡単に欠けることはない。櫛の素材には最良と言われておるが、その成長の遅さと有用性から貴重である為、実際に櫛にされたものはさほど見ぬな

説明しつつ、俺は一体何を説明しておるのだ、とOlは内心で呟く。

そんなに貴重なものだったんですね。それじゃあ今度エレンさんに、またしっかりお礼を言っておかないと

だが頭の後ろにミオの太ももの暖かさと柔らかさを感じつつ髪を梳かれていると、寝室に入った時に抱いていた劣情は泡のように消え失せて、Olはただされるがままに彼女に身を任せた。

礼と言えばいつぞやのヘンルーダの用意は、ご苦労だったな

いえいえ。お礼を言われるほどのことではありませんよー

軽い口調でミオは言うが、毒を防ぐ効果を持つその薬草はそれ自体が一種の毒だ。

普通のヘンルーダであれば触った手がかぶれる程度で済むが、バジリスクの毒にさえ耐えるように改良したものは近寄るだけで体を害する。それを育て増やす作業が大変でないわけがなかった。

お前には何かと苦労をかける、な

思えばミオはスピナの次に来た生贄の娘。迷宮の中でも最古参に当たる人間だ。

Olのダンジョンにやって来た時からずっと家畜たちの世話を一手に引き受け、陰ひなたに支えてきたその功績は計り知れない。

良いんですよ。私は

ミオの柔らかな声を遠くに聞きながら、Olの瞼は重く閉じていく。

あらル様寝ました?

藁の匂いがほのかにして、唇に柔らかなものが押し当てられる感触。

それを最後に、Olの意識は眠りに落ちた。

ん、む

お目覚めですか?Ol様

Olが目を覚ますと、目の前には何か大きく丸いものが横たわっていた。

ぼんやりとした思考の中、Olはなんとなくそれに手を伸ばす。

触ってみるとそれは何とも心地よい柔らかな感触で、思わずもっと触っていたくなる。

あの、Ol様、無言で揉まれるとちょっと恥ずかしいんですが

ミオか

控えめに嗜める声に、ようやくOlの意識は覚醒した。

ミオに膝枕をされながら、眠ってしまっていたのだ。

Olが寝ぼけながら触っていたのは、彼女の乳房だった。

服を着ていると目立たないが、ミオの胸は存外に大きい。こうして膝枕をしてもらうと、胸で隠れて彼女の顔が見えない程度にはあった。

俺はどれだけ眠っていた?

ぐっすりとお休みになってましたよ

にこやかにいうミオの言葉にもしやと身体を起こし、壁に掛けられた時計を見れば、既に夜と言っていい時間帯だった。Olは半日近くも眠っていたのだ。

すまぬ俺としたことが。大丈夫か、足は痛くないか?お前への褒美を与えると言っておきながら、この体たらくとは

これほどの失敗を犯すのはOlとしては久々で、彼は慌ててミオに謝る。

いえ、私の望みはこれでしたから

だが、にこにこと笑みを浮かべるミオに、Olは怪訝そうに眉根を寄せた。

ただでさえ遠い異国の地からお帰りになったばかりなのに、休む間もなくご政務にも励まれて、私たちにも気を使って頂いて。幾ら魔力で体力を回復できるといっても、倒れてしまいますよ。だから私のお願いは、Ol様がせめて一日でもゆっくり休んでくれることです

ミオ、お前

あまりに健気なその言葉に、Olは思わず目を見開く。

Olの眠りは元々浅い。どのような状況だろうと異変があればすぐさま対応できるよう、そうした習慣が身体に叩き込まれているのだ。

だが、迷宮最強の女の膝枕だからだろうか。

起きる時間も忘れるほどに、Olはぐっすりと眠ってしまっていた。

おかげで身体の調子はすこぶる良い。

それに、Ol様の珍しい寝顔も見られましたし、役得でした

嬉しそうに手を合わせるミオに、Olは気まずげに己の頬に触れた。

妻や愛人たちと殆ど毎夜床を共にするOlではあったが、その寝顔を見たことがある女というのは存外少ない。女たちが意識を手放すまで抱き、誰よりも早く起きるのが常だからだ。

しかし、褒美は一日、日が昇ってから落ちるまでという約定だ。お前の分はこれで終わりだが、良いのだな

はい。構いません

Olの言葉に、ミオは迷いなく頷いた。

ではミオ。お前の主人として命ずる。お前の胸を触っていたら催した。夜伽の相手をせよ

その命にミオはぽっと頬を染め、

はい喜んで

恥ずかしげに、こくりと頷いた。

第7話王の帰還を祝いましょう-6

私のお胸が気になるのでしたら、Ol様。こういうのはいかがでしょうか?

ミオはそう言って着ていた服の胸元を留める紐を解くと、その豊かな果実を曝け出す。

純朴な顔立ちに比して意外なほどの質量を持つそれは、服の縁に圧迫されてその深い谷間を殊更に強調していた。

失礼します。よいしょ

ミオはややぎこちない手つきでベッドの端に座るOlの逸物を取り出すと、その谷間でぎゅっと挟み込んだ。

流石Ol様、おっきいですね

しかしそそりたつ赤黒い肉槍はミオの胸の中に納まりきらず、その先端が端から飛び出す。

あんまり上手じゃないと思いますけど、頑張りますね

ミオはそう言って、あむと先端を口の中に含みながら、両手で己の胸を揺らしOlの肉茎を擦り始めた。

彼女自身が言う通り、拙い技であった。

人外の技巧を持つリルや練習に余念のないスピナは言うに及ばず、さほど口での奉仕が得意とは言えないユニスや、まだ年若いマリーにすら技術的には劣るだろう。

それは、彼女がいつも他の女たちの影に隠れていたからだ。

口での奉仕は言い換えれば、Olのものを独り占めするようなものだ。

よくよく思い返してみれば、ミオにしてもらったことは殆どなかった。

ろうでひょうか

ああ。悪くない

にもかかわらず、それは世辞ではなく本心からの言葉だ。

ミオは目だけで笑むと、より一層熱心にOlのものを舐めしゃぶる。

その懸命さは、生半な技術よりもOlの男を満足させるものだった。

髪を撫でてやれば嬉しげに目元で微笑み、胸元に手を伸ばせば触りやすいよう体勢を整えて、Olの掌に己の手を重ねて押し当てる。

どんなことをしても受け入れてくれるのではないかという安心感があった。

ミオ、尻をこちらに向けてみろ

えっとこうですか?

Olがベッドの上に背を倒して言うと、ミオはいったん口を離し、彼の横に四つん這いになる。

いや、俺を跨いで良い

では、失礼してなんだかこれ、ちょっと恥ずかしひゃんっ

言われるがままにミオはOlを跨ぎ、高く声をあげた。突然その尻をOlが両手で鷲掴みにしたからだ。

ごめんなさい、おしり、大きいですよね私

だがそうしてもミオは怒るどころか、そういって恥ずかしげに謝った。

いや、これはこれで悪くない

Olは言いながらするするとミオの太ももに手を滑らせると、ゆっくりとスカートを捲りあげる。

そのつもりがなかったにしては、ずいぶんと気合が入っているな

その下に現れた白い布はミオの雰囲気には似つかわしくない、細かな刺繍の入った美しいものだった。その独特の光沢とすべすべとした手触りは間違いなく絹のものだ。幾ら魔王の側室の一人とはいえ、普段から履く類のものではないだろう。

私だって、好きな人のお部屋に行くときは、少しくらいめかし込みますよぅ

悪い。意地の悪い事を言ったな

拗ねたように唇を尖らせるミオに謝り、Olは下履きの端に指をかける。

折角用意したものを脱がすのは忍びないが

いえそうしてもらうために、履いてきたものなので

恥ずかしげに擦りあわされる太ももから柔らかな布をするりと抜けば、Olの眼前にミオの秘裂が露わになった。

えと、つづき、しますね

恥ずかしくなったのか、ミオは首を伸ばすとOlの腰に顔を埋めるようにして、そそりたつペニスに舌を這わせた。

Olもそれに倣うかのように、ミオの中心へと舌を伸ばす。

んっは、ぁっ

とろりと滴る蜜を舐めとり、既に硬く尖った秘核を撫でるようにしながら舌を差し入れれば、漏れ出るミオの甘い吐息がOlの肉槍を撫でる。そうしながら、Olはミオの健康的な太ももに手のひらを滑らせて、たっぷりとした尻肉の柔らかさを楽しむ。

Ol様、触り方がやらしいです

いやらしい事をしているのだ。当然だろう

そうですけどぉんっあ、ぁぁ

Olの指がミオの肉体を弄ぶたびに、彼女の身体は素直にそれに反応してぴくぴくと震えた。

集中、出来ません、しそれにっ!

それに?

こっちに、欲しくなっちゃうじゃないですかぁ

ミオは片手でOlの肉槍をごしごしと扱きたてながら、もう片方の手で己の花弁を開いて見せる。溢れ出す蜜がつうと彼女の太ももを伝って、Olの頬へと落ちた。

良かろう。望み通りくれてやる

えっと今日は、私が上になってみてもいいですか?

ミオにしては直截的な懇願にOlが彼女を組み敷こうとすると、ミオはそんな提案をした。

珍しいな。別に構わんが

どちらかと言えば自分から攻める方が好きなOlだが、相手が望むのなら拘るほどのものでもない。

ありがとうございます。折角休んで頂いているのに疲れさせてしまっては申し訳ないですから

そういいつつ、ミオはOlの腰に跨る様に体勢を変える。

いきます、ね

そしてOlの胸板に手をつきながら先端を己の中心にあてがうと、ゆっくりと体重をかけながら腰を下ろした。

んっ、ふ、ぁん

Olの反り返った逸物はまるで鉄のように硬く、膣内に収めるだけでまるで胎(はら)の肉を抉り取られるかのよう。しかしそれは痺れるほどの快楽で、きゅっと唇を閉じてもついついミオの口から甘い声が漏れ出てしまう。

入り、ました

暴力的な大きさの肉塊を何とか根元まで咥え込んで、ミオは安心したようににこりと笑った。

動きますね

おずおずと、ミオは慣れない動作で腰を動かし始める。はじめはゆっくりと、互いの形を確認するかのように腰を浮かせてはまた飲み込みを繰り返していたが、徐々に動きは大きく滑らかなものとなり、次第に声が漏れ出で始めた。

んっ、ふっんんっ、あ、ん、あぁんっ

己の上で腰を振るミオを寝転がって見上げながら、なるほどこれはこれで悪くない、とOlは心中で呟く。

己の気持ち良い場所を擦りあげるようにミオが腰を前後に揺するたびに、緩く編まれた三つ編みが仔馬の尾の様に跳ねる。そしてそれに連動するかのように豊かな乳房が眼前で揺れるさまは、なかなかに眼福な光景であった。

たゆんたゆんと震えるその果実を、Olは思わず両手で鷲掴みにする。

ミオは何も言うことなくただOlに恥ずかしげな笑みを投げかけると、僅かに胸を反らしながらも一心に腰を動かした。

きゅうと締め付ける膣口で肉槍を扱きたてるように腰を引いては、根元まで咥え込んで互いの恥骨を擦り合わせるかのようにぐりぐりと股を押し付け、また腰を引く。

真っ赤に紅潮したミオの頬を汗が伝い、顎からOlの胸元にぽたりと落ちた。

彼女の動きに合わせて、Olはその双丘に指を突き立てるようにして、存分に柔らかさを楽しみながらミオの懸命な表情を眺める。ふと視線が交わされるたびにミオははにかんだような笑みを見せ、身体は敏感に反応して震えた。目が合うたびに、軽く達しているのだ。

Olは上半身を起こすと、腰に跨るミオの背に腕を回しながら柔らかな乳房の硬く尖った先端を優しく食んだ。うっすらと汗ばんだ肌はほのかに塩の味がして、Olはミオの胸をちゅうと吸う。

そんなに吸っても、お乳は出ませんよ

くすりと笑い、ミオは冗談めかしてそんなことを言った。

出るようにしてやろうか?

Olがそう尋ねると、ミオはえっと声をあげる。

これだけの女を囲っておきながら、ユニスとフィグリア王家以外に子がいないのは偶然ではない。

Ol程の魔術師であれば、産ませるも産ませぬもそう難しい事ではないのだ。

俺の子を産みたいか?

ミオは答えず、ただ腰の動きを止める。だが本人の意思を無視するかのように、ミオの膣口はOlのペニスを強く強く締め付けた。

ここは欲していると見えるな

いけません、Ol様

ゆっくりとOlがミオを突き上げると、今まで何をしても嫌がるそぶりすら見せなかったミオが初めて否定の言葉を口にした。

王にとって、多すぎる世継ぎというものは騒乱の下になる。それは魔王とて同じことだ。

だから正妃であるユニスとの間に男児を作り、そもそもの盟約であったフィグリア王家との間とは世継ぎとはなりえない娘だけを産ませ続けている。

そこにミオが子を成せば、国家の問題となることくらいは政治には疎い彼女でも分かった。

嫌だと申すか?

Olはわざと意地悪くミオにそう尋ねるが、彼女は答えない。

んぅっだ、駄目、です

急かすように腰を突けば、ミオは首を振ってそう答えた。

嫌だというなら離れればよい。別にそうしても咎めはせんぞ

Olの腕は既にミオの背中から離れ、二人が触れ合っているのは繋がりあった性器のみ。

ミオがその気になれば、簡単にOlの上からどいてしまえる状況だった。

だがミオはOlから離れることなく、ただ無抵抗に突かれ続ける。

Ol様、お願いですからそのような、戯れは

戯れではない。お前なら孕ませても良いと思っている

Olがそういうと、ミオの膣口がきゅっと彼の男根を締め付けた。

私の力は多分、子には継がれませんよ?

獣の魔王の力が欲しいのではない

魂の奥底までも見通すようなOlの瞳が、ミオの瞳を覗き込む。

あの時と同じだ、とミオは思った。

俺はミオ。お前という女が欲しいのだ

ミオの魂が、Olの手に落ちたあの時と。

駄目、です

ミオは言うが、Olの硬く張り詰めた肉槍が彼女の中心を貫く。

そんなの、駄目、駄目です

ふるふると首を振るミオの柔らかな秘所を、男の暴力的な肉が犯し、汚す。

駄目、なのにぃ

しかしそれは全て、ミオ自身が行っていることだった。

微塵も動かぬOlに跨り、その肩に縋りついて、激しく腰を振るのをどうしてもやめられない。

その膣口はあさましくよだれを垂らして肉槍を濡らしながら、精をねだってOlのものを締め付ける。

膣の奥では子宮が下がり口づけの様に男根の先端にむしゃぶりついて、ミオは身体全身で種付けをねだっていた。

Olの短い宣言に、ミオは力を振り絞る。

それは驚異的な意思力だった。肉体も精神もOlと交わる快楽に溺れ切っているのに、それでも彼女はそれに抵抗したのだ。Olに迷惑をかける事だけは避けたいという思いが彼女の足を動かして、腰を浮かせる。

その瞬間、Olはミオに口づけた。途端に彼女の全身からは力が抜けて、蕩けるように体が崩れ落ち、奥の奥までOlの肉槍を受け入れる。

歓喜しながら震える子宮の入り口に先端を押し当てて、Olは容赦なくミオの胎内に子種を注ぎ込んだ。己の奥底に叩き付けられるかのような熱い脈動に、ミオは今まさに自分が子を孕ませられていると確信する。

愛する男に征服される喜びに胸があふれ、もはや何も考えられなくなってミオはただただOlの与えるものを受け入れた。膣内に注ぎ込まれる精液も、唇から交換される唾液も今の彼女にとっては至上の甘露で。

幸福感に包まれながら、ミオは意識を手放した。

気付けばミオはOlの膝に頭を乗せられ、髪を撫でられているところだった。

Ol、様

彼の名を呼んで、ミオは一糸纏わぬ姿のままの己の下腹部を撫でる。

もおー!だめって、だめっていいましたのにー!

そこに確かな存在の力を感じて、ミオは思わず叫んだ。

わかるのか?呪は用いておらんから、出来ているとも限らんが

ばっちり出来ちゃってます、孕んじゃってます!もう、Ol様のばかぁ

流石に怒って、ミオはOlの胸をぽかぽかと拳で叩いた。

といっても、子猫がじゃれる程度の力だ。

俺は嬉しいぞ

そんな彼女を抱きすくめ言えば、ミオはすぐにおとなしくなった。

はい私も、とても、とても、嬉しいです

Olの胸に頭を預け、ミオは幸せそうにつぶやく。

でも、この後のことを考えるとすごく頭が痛いんですー

子が生まれても、お前たちは政治には巻き込まぬ

頭を抱えるミオの肩を抱き、Olは言った。

能天気とも思えるその言葉にミオは無責任な、と思いかけたが。

どんな手を尽くしてもな

続く言葉に、相手が誰であったのかを思い出す。

やると言ったらOlは必ずそれをやり遂げるだろう。

故に安心して、元気な子を産め

はいっ

ぎゅっとOlの腕を抱きしめて、ミオは明るい笑顔で頷いた。

第8話初めての親子喧嘩をしましょう-1

おかえりなさいませ、旦那様

うむ今帰った

三週間を本拠地で過ごし、新大陸のダンジョンへと戻ったOlは、床に正座して深々と頭を下げるサクヤに少しばかり気まずい面持ちでそう答えた。

言い換えれば、三週間の間放っておいたという事でもある。

Olとて遊んでいたわけではないが、他の女と過ごしてきたところにこうまで丁寧に対応されればかえって気が引ける思いがした。

気にしないでお館様。姫、天然だから

うむ姫は多少、そういった機微に疎いところがあります故

フォローするホデリ、ホスセリ兄妹の言葉に、サクヤは不思議そうに首を傾げた。

あっ、Olさまだー。おかえりなさーい

今帰った。留守中ご苦労だったな

そこにOlの気配を察知したのか、マリーが姿を見せた。

彼女も何度か本拠地に帰ってはいたものの、基本的にはソフィアの世話とダンジョンの管理とで新大陸の方で過ごしていた。

どうしたの、 ソフィ。パパが帰ってきたよー?

マリーは振り向き、扉の後ろに視線をやった。どうやらそこにソフィアがいるらしい。

なに?恥ずかしいの?ほら、おいで

マリーが手を引いてOlの前に引き出すと、ソフィアは不機嫌そうな表情でOlを見つめた。

パパなんて

Olがかけようとした声を遮り、彼の四方を岩壁が囲む。

それと同時に、彼の足元に魔法陣が浮かんだ。まずい、と思ったときにはもう遅い。

岩壁を排除しそこから抜け出す一手のうちに、魔法陣はその力を発揮する。

だいきらい!

ソフィアの言葉とともに、Olは自分の身体が落下していくような感覚を覚えた。

その奇妙な浮遊感は、転移によるものだ。

気付けばOlは森の入り口に飛ばされていた。

ソフィアの奴め

油断していたとは言え、見事な手際にOlは怒ったものか感心したものか、少し悩む。

Ol、大丈夫?

マリーからの連絡を受けたのだろう。すぐさまユニスが跳んできた。

ああ。転移先が石の中やマグマの中だったら厄介だったが

流石にソフィアもそこまではしないでしょう

だといいがな

何故ソフィアがこのような暴挙に出たのか。

心当たりがないではないが、正確なところはわからない。

大嫌いとまで言われたのだ。何が起こるかわからん

んー。確かにちょっとご機嫌ななめみたいだね

生真面目な表情で真剣に言うOlに、ユニスは苦笑した。

Olは森のダンジョンを構成する木々に触れ、魔術による干渉を試みる。

しかし案の定、木々の壁は一瞬形を変えようと蠢くだけで、すぐに元に戻ってしまった。

完全に乗っ取られたな

Olにしては珍しいね

このような状況を予想していなかったわけではない。

だが手の打ちようがなかった。ソフィアはダンジョンそのものなのだ。

その干渉力はどうしたってOlより強い。

まあ躾ける良い機会だ。行くぞ。伴をせよ

はっ

Olの言葉に呼応しホデリとホスセリの兄妹が姿を現して、ユニスは目を丸くした。

どこから出てきたの?

俺が転送される瞬間、開いた岩の間から飛び込んできたのだ

殿を守れというのが、姫様の命でありますれば

跪き、硬い口調でホデリは答える。

彼らは別に隠れていたわけではない。ただ己を殺し、ないものとしてOlの傍に従っていただけだとユニスは気づいた。

ユニスでさえ、彼らが言葉を発するまでその存在に気づかないほどに。

さて、それでは

Olは深い森を見据え、言った。

我が娘のダンジョン。真っ向から攻略してくれよう

なんか嬉しいな

森の道を行きながら、不意にユニスはそんなことを言い出した。

Olが昔、ウィキアやFaro達と一緒にOlの迷宮を探索したことあったじゃない?

あったな、そんなことも

それはもう随分昔の話だ。迷宮の出来を冒険者の視点から評価するため、そして冒険者自体の練度を見るため、Olは旅の魔術師のふりをして迷宮に潜ったのだった。

あれ、あたしもついていきたかったんだけど

お前が来たら評価にならんだろうが

だから、嬉しい

朗らかに笑うこの小柄な少女にかかっては、あの頃のダンジョンでは侵入を防げたとは思えない。

今回は本気の探索だ。全力を出していくぞ

うんっ。本気ってことはー

ユニスは剣を抜き、閃かせる。

Olが気付いた時には剣は既に鞘に収まり、枝葉で作られた壁がばらばらと崩れ落ちていた。

こういう風に進んでもいいってことだよね?

まあ、そうだが

マリーと二人で探索した時と比べて、壁の耐久性が下がったわけではない。むしろソフィアが支配することによって上がっている。

恐ろしい事に、ユニスは理力を使っていなかった。

純粋に力と速さと技で迷宮の壁を切り裂いたのだ。

本気といえばお前は本当に腕を治さなくていいのか?

ユニスの作った近道を歩きながら、Olはホデリに問うた。

オロチに喰われた彼の左腕は二の腕の半ばから断たれたまま、袖だけが揺れている。

構いませぬ。腕を失ったのは某の未熟故

一度はOlも治療を施したのだが、ホデリはその腕をすぐに切り落としてしまった。

再生した腕を以前と同じように振るう事は出来ない。

そんな腕ならば、ない方がマシなどと言ってのけたのだ。

まあ、このダンジョンの防衛力はさほどでもない。問題はなかろう

そうなの?

ああ。まず、今回の目的は侵攻ではなく偵察だったからな。そもそも侵入者を想定しておらんのだ

以前のように周囲の村々を焼き滅ぼしたり、街を攻め落としたりしていればすぐに敵はやってくるだろう。だが今回、Olにそのようなつもりはなかった。故に防衛力は最小限のものでしかない。

その割には侵入してきた愚か者も多かったが、とOlは思う。

タツキとヤマタノオロチ実質どちらもタツキのようなものだった。

それに、これだ

木の壁を撫でて、Olは渋面を作る。

このようなスカスカの壁では、瘴気を溜めることもできん

空から抜けて行っちゃうもんね

何本もの木が連なって出来たその壁は人間の通過を阻むには十分だが、風は自由にその間を通り抜けていってしまう。

ゆえに妖魔や魔獣といったものを呼び寄せることもできず、大した戦力は集まらんというわけだ

それは、どうでしょうな

Olの言葉に異を唱えたのは、ホデリだった。

お館様はとても聡明で物知りだけどこちらには詳しくない。古来から、森には妖が棲むもの

ホスセリが兄の言葉を補足するように、ぽつりとそう呟く。

それはもしかして

Olの言葉と共に、

こいつらのことを言っておるのか?

無数の石つぶてが、彼らに降り注いだ。

石つぶてとはいっても、握りこぶし大のそれが頭に当たれば容易く人を殺しうる。

ある意味で矢よりも驚異的な存在である。

Olのキューブが自動的に防壁を展開し、全てを弾く。

ユニスは雨のように降り注ぐそれを、僅かな動きで軽くかわす。

チン、と音がしたかと思えばホデリに向かった石はすべて両断されて地面に転がり。

ホスセリは無数の石を掌で受け止めては、片端から投げ捨てる。

彼らにとっては何の障害ともならなかった。

然様。小鬼めにございまする

いつの間に抜き放ったか、ホデリは片刃の剣を向けて前方を睨んだ。

小鬼だと?

そこにいたのは、身長一フィート(三十センチ)程度の、醜い顔をした人型の生物だった。

ゴブリンではないか

でも色が違うよ

それはOl達のよく知る妖魔に似ていたが、緑色をしているゴブリンに対し、小鬼たちは赤い肌をしていた。着ている服もなんとなくヤマト風ではある。

彼奴らは一匹一匹は大して強くはござらんが、多数で群れ、知恵が回り、罠を張ることもありますのでご注意を

ゴブリンではないか!

大方何かの拍子で流れ着いたものが、独自に繁殖したのだろう。肌の違いは食べ物の差か、はたまた気候の違いかなどと思考を巡らせかけて、Olは考えるのをやめた。

まあ良い。この手合いであれば扱いは心得ておる

ずいと一歩踏み出して、Olは小鬼たちに歩を進めた。

途端、小鬼たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ出そうとしそして、自分たちの背後に壁があることに気づいた。

なぜ退路を塞がれているのかわからないままに彼らは慌てふためき、近づいてくるOlに怯え戸惑う。

だがOlの足が落ち葉の絨毯を踏みしめた時、その表情は邪悪な笑みに歪められた。

その下に、彼らの掘った落とし穴があったからだ。

落とし穴に落としてしまえば、体格差など意味を持たない。

後は上から石を投げつけ、死ぬまで槍で突くのだ。

小鬼たちよりはるかに大きな体躯を持つ人間たちが落とし穴にはまって苦しみ、よじ登ろうとしては槍で突かれてまた落ちていく様は何度見ても滑稽で愉快な光景だ。

しかし、そんな小鬼たちの目論見は失敗に終わった。

Olは落ち葉の上を、何事もないかのように歩んでいったからだ。

逃げぬのか?

呆然とする彼らの目の前で、Olは地の底から響くような低い声で尋ねた。

逃げるといっても背後は塞がれている。

小鬼どもは慌てふためき、Olの足元を横切って逃げ出そうとする。

その身体が、落ち葉の中に沈み込んだ。

落下した体の上にばさばさと無数の落ち葉が降り注ぎ、小鬼たちは混乱に暴れもがく。

なぜ自分たちだけが落とし穴に落ちているのか、彼らにはまったく理解できなかった。

小鬼たちは我先にと互いの身体を踏み台にして穴を這い上がろうとするが、互いに蹴落としあい、醜く罵りあい、小突きあいながらではそれもままならない。

それでも何とか要領よく最上段に上り詰めたものが落とし穴のふちに手をかけようとすると、その指先は何もない空中でつるりと滑った。まるで、そこに見えない壁があるかのように。

何度も何度もそれを繰り返し、ようやく上からは出られないと悟った小鬼たちは、ならば地中を逃げようと穴の底で横穴を掘ろうとしだす。

しかし脆いはずの土壁は、幾ら鉈を叩き付け、槍を突き込み、爪を突き立てても、傷一つつくことはなかった。

彼らには理解できるはずもない。

井戸のような形に変化したOlの見えざる迷宮(ラビュリントス)が落とし穴を丸ごと囲い、哀れな小鬼たちをすっぽりと覆いつくしてしまっていることなど。

小さく愚かな者どもよ

それを見下ろしながら、Olは語りかけた。

服従を誓え、などとは言わぬ。汝らの身には過ぎる故。我に従え、とも言わぬ。汝らの頭には過ぎる故

彼が開いた掌をかざすと、怒った小鬼たちが手に手に持った石や武器を投げる。

しかしそれは穴を塞ぐ不可視の天井に阻まれて跳ね返り、小鬼たちの頭に降り注いだ。

故にただ、我を畏れよ

Olが伸ばした指を曲げ、何かを掴むかのように手をゆっくりと閉じていく。

すると轟音と共に、小鬼たちのいる穴底の壁が動いた。

言葉が通じずとも、顔を覚えられずとも、名を知らずとも良い。その血の続く限り、汝らが末の末まで我を、畏れよ

小鬼たちは徐々に狭くなる穴底にゆっくりと潰されながら、しかし何もできずただただ恐怖に怯え震える。

そら。出口だ

Olの手元からカタカタと音を立て、キューブで出来た階段が小鬼たちのいる穴底まで伸びていく。

ぎゅうぎゅうに詰まった小鬼たちは、しかし一匹としてその階段を登ろうとはしなかった。

その先に、彼らにとって何よりも恐ろしい存在がいるからだ。

よし。行け

Olはその反応に満足すると、背を向けそう命じる。

すると小鬼たちは一目散に階段を登って逃げ出し、瞬く間にその姿を消したのだった。

第8話初めての親子喧嘩をしましょう-2

見事な調伏でしたな

何が見事なものか。たかがゴブリンごときに

ホデリの世辞に、Olは吐き捨てるように答える。

いやいや。小鬼風情と侮ったものではござらぬ。なるほど彼奴等は矮小にして怯懦。ですが狡猾で、何より残忍です。恩も恥も知らぬ奴らを侮り、何人の兵が煮え湯を飲まされたか

ホデリは小鬼たちが、背を向けたOlに攻撃するだろうと思っていた。

しかしそうはならなかったのだ。

ただ単に脅しただけではない。呪をかけたのだ

恐怖をその魂に刻みつける呪いは小鬼たち自身のみならず、その血を受け継ぐ子や孫たちにも伝わっていく。

ゴブリンの繁殖能力は非常に高い。

小鬼も同様であるとするなら、呪いは一年もする頃には全員に行き渡るだろう。

ゴブリン大事だもんね

まあ、俺のダンジョンにおいてはそうだな

弱く小さく、しかし数だけは多いゴブリンたちは、ダンジョンにおいて貴重な食料源だ。様々な魔獣や大型妖魔の餌となりながら、しかしどれだけ食べてもいなくなるということがまずない。

しかしそれもゴブリンより弱い生き物が殆どおらぬせいだ。案外この森程度であれば、奴らが王者のごとく振る舞っている可能性も

Olの言葉は、曲がり角を曲がったところでその先にあった光景に途切れた。

つややかに光る鉄のような黒い身体は、まるで竜の鱗のように分厚く。

毒々しいオレンジ色の足は数えきれない程にはえ。

長い長い触角がゆらゆらと蠢き。

バリボリとゴブリンを租借しながら、巨大な四つの目でOl達をじっと見つめている。

それは巨大なあまりにも巨大な、ムカデだった。

平たい身体をしているのに、頭だけでOlの背よりも高い。

ましてや全長はいかばかりのものか。

散れ!

Olが叫ぶと同時、大ムカデは凄まじい速度で突っ込んできた。

その大あごでの一撃をかわしながら、眉間の部分にユニスが一撃を叩きこむ。

うわっ、硬い!

だが黒々とした表皮はほんの僅かに凹んだのみで、ユニスの剣は硬質な音を立てて弾かれた。

目標を捉え損ねた大ムカデの大あごがバキバキと音を立てながら木々を噛み砕き、しゅうしゅうと煙を立てて腐れ落ちていく。ただ挟まれるにしても、毒を受けるにしても、ただ事で済みそうにはなかった。

厄介な相手だな。できれば殺したくはないが

ミオ連れてくる?

いや。あれは無理だろう

魔獣の類であれば瞬く間に手懐けてしまうミオの異能だが、彼女が虫の類を世話しているのは見たことがなかった。Olのダンジョンにもジャイアント・スパイダーやジャイアントフライといった虫型の魔獣は多数いる。恐らくは無理なのだろう。

それにユニスの転移は一日にせいぜい四、五回程度しか使えない。既に一度使っている今、手札を使い切ってしまう事は避けたかった。

我々にお任せ下さらぬか

何とかする

どうしたものかと悩んでいると、ホデリとホスセリが声を上げた。

出来るのか?

相手はユニスでさえ刃が立たないような相手だ。

無論負けることはないだろうが、生け捕りにするとなれば難しいだろう。

わかった。任せる

しかし自身有りげに頷くホスセリに、Olは対処を任せることにした。

そうする間に、大ムカデはギチギチと顎を鳴らしながらその身体を地面に潜り込ませる。

こいつ、地下を!

堅牢なはずのダンジョンの壁や床も、これほどの大きさの魔獣となればお構いなしだ。

とは言え流石にこの速度で地中を掘り進めるわけでもない。

おそらく真下を通る迷宮の中を進んでいるのだろう。

ならば、Olには出来ることがある。

ホデリよ。奴が出てくるならそこだ

地下の通路と地上の通路の交点。あれ程の巨体をぐるりと巡らせて出てこれそうな場所は限られていた。

承知仕る

Olがキューブで作り上げた目印に向かいながら、ホデリは片刃の剣を鞘に納めた。

数拍後。

何の予兆もなく突如として地下から大ムカデが顔を出し、ホデリに向かってそのあぎとを大きく開き

次の瞬間、大ムカデの前足が左右二本、切り落とされていた。

すごい

ユニスが目を大きく見開き、感嘆の声を漏らす。

大ムカデの硬さは外殻でも脚でもそう差はない。

襲い掛かってくる大ムカデの速度を利用しながら、関節部を切り落としたのだ。

言うは易しだが、地中から高速で足を動かしながら襲い掛かってくる大ムカデに対してそれを行うのは至難の業だ。少なくともユニスには出来ない。

Olにはホデリが切り付ける瞬間どころか、剣を抜いたところさえ捉えられなかった。

だが、足を二本切り落としても、大ムカデにはまだ九十八の足がある。

どうするつもりかと見守るOlは、ふとホスセリの姿が見えないことに気が付いた。

Olあそこ!

ユニスの指をたどってみれば、ホスセリは大ムカデの足にとりついていた。

そのまま何でもないような動作でするすると上ると、大ムカデの背を走っていく。

激しく身体を揺らしながら暴れまわる大ムカデの背の上を、だ。

そして彼女は頭の後ろ、第一節と第二節の間にしゃがみ込むと、腰の後ろにつけた剣を抜いた。

ホデリの使うものと同様に片刃だが、反りはなく幾分短い。

何か液体が塗られているのか、濡れた刀身がぬらりと輝いた。

体重をかけ、ホスセリは関節部分に剣を差し込む。

だがあの巨体にあの長さの剣では致命傷にはなるまい。

Olがそう思っていると大ムカデの動きは見る間に鈍っていき、やがて動かなくなった。

お館様。やった

ホスセリはOlに駆け寄ると、そう報告した。

表情にも声にも変化はないが、パタパタと自慢げに振られる犬の尾が見えるかのようだった。

何をした?

毒を盛った

Olの問いに短く、ホスセリは答える。

毒だと?あれほどの大きさの生き物に効く毒を持っているのか?

致死毒にせよ麻痺毒にせよ、効果を及ぼすにはその生き物の体重に見合った量が必要になる。あの大ムカデに効くような毒となると、竜すら殺せるのではないか。

Olがそう思って尋ねれば、ふるふるとホスセリは首を振った。

持ってないし、殺してもいない

現に大ムカデは毒の効果で動きを止めている。

ホスセリが盛ったのは、麻痺毒にござる

要領を得ないホスセリの説明を見かねて、その兄がそう説明を重ねた。

麻痺毒?だがそれならば余計におかしいではないか

基本的に、致死毒よりも麻痺毒の方が必要量は多くなる傾向にある。

身体の中枢、脳や心臓と言った重要部位を破壊すれば良い致死毒に対し、麻痺毒は全身に回る必要があるからだ。

すべてに効かせる必要はない。見て

不審がるOlに、ホスセリは大ムカデの身体を指さした。

ムカデはあれだけの足を持って、絡ませずに歩く

百足(ムカデ)というが、その足は実際には百よりは少ない。

しかしそれでも無数にあるその足をもつれさせることなく進めるというのは不思議なことだった。

でもそれは、ムカデの頭がいいわけじゃない。ただ単に、一つ前の足と同じ動きを順に伝えているだけ。だから

ホスセリは剣の切っ先で、切り落とされた一本目の足と二本目の足の間をトンと突く。

一本目を切り、ここにある経路だけを麻痺させてしまえば、もうムカデは動けない

なるほどな。大した知識だ

一対二本の足だけを己の意思で動かし、後の足は一つ前の足と同じ幅だけ動かす。

確かにその方法であれば、何本足があろうと絡まることはない。

忍びは毒に精通する。ムカデの毒もよく使うから

魔王すら知らない知識を容易く披露するホスセリに、Olは感心して頷く。

ホデリの剣も凄かったよねえ。スパーって

斬れる場所に刃を通しただけのこと。果実の皮を剥くのとそう違いはござらん

言葉少なにホデリは言うが、それが謙遜であることくらいはOlにもわかった。

Olはくるりと大ムカデに向き直る。

死んでしまったかのように見えるそれは、よく見れば触覚だけがひらひらと動き回っていた。

折角生け捕りにしてくれたのだ。これを使うとするか

第8話初めての親子喧嘩をしましょう-3

わあ、すごいすごーい!

一面に広がる空の青と木々の緑。そしてその上を滑るように走る感覚に、ユニスは歓声を上げた。

あ、あまり乗り出すと危ないのではござらぬか

顔を引きつらせ、足を震わせながらホデリ。

兄さん、情けない

そんな兄の姿に、ホスセリは溜め息をついた。

そう心配するな。振り落とすようなヘマはせん

言いながら、Olは魔力を寄り合わせて作った手綱を振るう。

彼がまるで馬のように操り、一行が乗っているもの。

それは先程倒した大ムカデだった。

虫には魅了の術の類は殆どきかないが、魔力を流し込んで強引に支配してしまうのはむしろ容易い。

百の足を自在に動かせと言われればいかなOlとて難しいが、前足二本だけを操れというならば造作もない事だった。そうすれば後は勝手にムカデの身体がその動きを後ろに伝え歩いてくれる。大ムカデの身体は滑らかに木々の上を這って、殆ど揺れさえ起こさずに森の上をするすると進んでいった。

前半身は高く掲げられ、Olたちの乗っている頭付近は森の遥か上、空の只中。

確かに落ちればただではすまないだろうが、平たいムカデの背の上は意外と良い乗り心地で、目には見えないがキューブで部屋状に周囲を囲っているから万が一にも落ちる心配はない。

何よりそうして進むと、地上を歩いていては見えなかった森のダンジョンの様子をよく見渡すことが出来た。

思いの外、棲んでいるものなのだな

そうして森を眺めていると、大ムカデの進行から逃げていく魔物たちの姿がよく見える。

小鬼のような人型をしているもの、狼や蛇のような獣の姿のもの、意思を持つように動く炎や土の塊にしか見えないものや、木の肌に浮かぶ目玉が開いては閉じてを繰り返して移動するものなど、Olにも一体どのような存在なのか窺い知ることすら出来ないようなものまでが何匹も見られた。

俺がマリーと探索した時は、樹人(トレント)の出来損ないみたいなものしか出てこなかったものだが

殿の威を察して逃げていたというのもありましょうが恐らく大部分は最近、棲みついたのでしょうな。神の住まう森となれば、あのような怪生たちには居心地がいいものです

そんなものか

腑に落ちない様子で、Olは相槌をうつ。

彼の感覚で言えば、神と魔とはけして相容れない存在だ。

それが共存しているというのは不思議な話だが、理力と魔力を矛盾させず内包する彼らの力はその辺りに理由があるのかもしれない、と思った。

しかし、やはりここにはいないようだな

Olが呟き見下ろすのは、かつて彼がソフィアを見つけた場所。

森のダンジョンの中心、ダンジョンシードが設置されている場所だった。

火山の方かな?

であろうな

神というのは基本的に自分の支配する領域から離れたがらないものらしい。

だがソフィアは森の神ではなく、ダンジョンの神だ。

ダンジョンの中であれば、どこにでも自由に移動できた。

Olを拒絶するなら最も奥。試練の山の最上階だろう。

でもなんでソフィアは、Olを飛ばしちゃったんだろうね

さてな。長く相手をしてやらなかったから拗ねたか、或いは母であるマリーを差し置き、他の女たちと睦まじくしていたことに腹を立てているのか

いずれにせよ、本人に会って問い質さないことにはわからないとOlは考えた。

大ムカデはあっという間に森のダンジョンを踏み越えて、火山のダンジョンの麓にまで辿り着く。

よし、ここまでで良い。ご苦労だったな

Olは大ムカデの頭をぽんと叩くと、森の中心近くまで戻る信号を送った。

ここから先はあの図体では移動が難しいし、ムカデは熱に弱い。

それにあの強さならば、森のダンジョンにとって良い守護になるだろう。

お館様は、すごいね

大ムカデを見送るOlの横顔に、ホスセリはぽつりとそう言った。

怖くないの?

問えば更に質問が返ってきて、Olは首を傾げる。

あのムカデのことか?お前たちが無力化し、術で制御したのだろうが。何を恐れる必要がある?

Olの答えに、ホデリとホスセリは互いに顔を見合わせた。

殿。そうではなく、斯様な異形を馬の代わりに乗りこなすことに抵抗はないのか、とホスセリは聞いておるのです

女子供ではあるまいし、虫如き怖がる必要がなかろうが

いまいち要領を得ないホデリの言葉に、Olは呆れる。

まさか震えていたのは落下の危険性にではなく、虫が怖いなどと言うつもりだろうか?

姿形に頓着されぬと申されるか

抱く女の見目ならともかく、魔物の姿形に何の意味がある?

ならば

兄さん。待って

ホスセリの制止を無視して、ざわざわとホデリの姿が変化していく。

猛禽を思わせるような細く鋭い瞳はまるで穴のように白目のない真っ黒な真円となり、唇が頬まで裂けたかと思えば鋭い牙が生え揃う。鼻が盛り上がり、顔全体が円錐のような形に突き出して、腕を細かい鱗がびっしりと埋め尽くした。

我らが人間ではないとしても、同じことを言いなさるか

お前、その姿は一体

しゃがれたような、耳障りな声色で尋ねるホデリに、Olは思わず呟く。

恐ろしかろう。醜かろう。これでも見目など関係ないと申されるか

いや、見た目はどうでもいいが。一体何の動物だ、これは?

牙はあるが狼でも獅子でもない。鱗はあるが、竜でも蛇でもない。

全く見覚えのない生物の顔立ちを、Olは眉根を寄せながら無遠慮に触った。

こ、これは鰐にござる

ワニ?馬鹿を言うな。ワニといえばあの、水辺に棲む竜の出来損ないみたいな大蜥蜴であろうが。このような姿はしておらんぞ

鱗は硬質な手触りの割に弾力性があり、撫でる方向によって手触りが全く違う。鼻先から首元に向かって撫でれば滑らかなのに、逆だとざらざらとした感触があった。

あ、ほんとだ、おもしろーい

そのことを口にすればユニスまでが面白がって触りだし、ホデリは困惑しながらもただされるがままに撫でられる。

わかったぞ。お前は、サメだ!

ああ、そう呼ぶ場合もあるのでしたか

ようやく正体に思い当たり、Olはうむと満足げに頷く。

確かに水生生物の獣人とは珍しい。この俺ですら初めて見た。なるほど斯様に珍奇な生き物であるなら見目を気にするも無理はないやも知れぬな

ち、珍奇?

一人納得するOlに、ホデリは頭を抱えた。

彼の想定していたものとOlの反応は、あまりに違っていた。

御館様、私は?

気づけばホデリを止めた妹まで、その本性を露わにしていた。

手足は深い毛に覆われ、髪の間からはピンと尖った三角形の耳が突き出し、尻からはふさふさとした尾が伸びている。

見るもおぞましい、野獣の姿。山犬の顔を持った娘など、誰が好こうか。

抱いた女がこのような見目と知ったら、流石に嫌悪するのではないか

お前は珍しくも何ともないな。狼の獣人などそれこそ我が迷宮には何百といるぞ

そんなホデリの予想は、さして興味もなさそうなOlの平坦な声にまたしても裏切られた。

と言うかなんだ。お前たちは兄妹と言っていたが、血の繋がりはないのか?別の種族だったとは

我々は元々こうだったのではございませぬ。神の呪いにて異形になり果てた身

そう、呪いだ。気まぐれな神の怒りに触れ、人ならざるものへと変えられた。

聞くもの全てが恐れ嫌う、穢らわしい話を、ホデリは苦々しく語る。

なんだ、では呪いを受けただけで人間なのではないか

Olはあっさりとした様子でそう言った。

人、と我々を、人と認めて下さるのか

震える声で、ホデリは問う。

当たり前だろう

神に仕える存在だから、Olはてっきり彼らのことを天使や悪魔のような存在だと思っていたのだ。

そう言った者たちは厳密には生物ですらない。

新しい命を育むことも、食事を取ることもないからだ。

それに比べれば多少獣が混じっていようが、妖精由来だろうが、Olにとっては人の範疇だった。

お館様、私、変じゃない?

お前はむしろついている方が自然なくらいだな

じっと見つめてくるホスセリに言うと、表情は変わらぬまま尾だけがぶんぶんと振られた。

実にわかりやすい。

じゃあまた抱いてくれる?

大丈夫だよー。Ol、手足が鳥になってる子とか、下半身が蛇の子とか、全身が水みたいになってる子でも顔が可愛ければ全然いけるから

Olが答える前に、ユニスがそう言ってね?と顔を覗き込む。

確かにハルピュイアもラミアもウンディーネも抱いたことはあるので、Olは何も言えなかった。

流石は、姫の認められたお方だ

深く感じ入ったように呟くホデリに、どういう意味だとOlは内心叫ぶ。

俺は魔王だぞ。魔を統べるものが、種族だの見た目だのでどうこういうものか。人と違うのであれば、その違いを持って役立てればそれでよい

御意に

弁明するようにそう言うとホデリは跪き、腰の剣を鞘ごと引き抜いてOlの前に掲げた。

ホスセリもその横に並んで、それに倣う。

それはOlの知らない仕草だったが、武に生きるものが武器を捧げることの意味くらいは検討がついた。

Olは彼らの剣を受け取ると、鞘から引き抜いてその刀身を見つめる。

緩く弧を描く刃には独特の文様が浮かび、一点の曇りもなく輝いている。

大ムカデを切り裂くほどの実用性を秘めていながら、それはまるで芸術品のような美しさだった。

良き剣だ

Olは言ってその剣で彼らの肩を軽く叩き、鞘に収めて返す。

能(よ)く仕えよ

兄妹は揃って剣を受け取り、深くその頭を垂れた。

第8話初めての親子喧嘩をしましょう-4

さて、探索としてはここからが本番だ。気を抜くなよ

ダンジョンに作り変えられた火山は、以前のような岩壁がむき出しになった溶岩洞とはまるで違う雰囲気になっていた。

でこぼことした地面には石畳が綺麗に敷かれ、溶岩の流れる河は丁寧に埋められて、規則正しく道の続く通路となっている。

前より歩きやすいように思えまするが

ホデリの言葉に、Olはキューブを掲げた。直方体の石の塊はパタパタと展開して長い杖となると、十一フィートほど先の床をこんと突く。途端天井が開いて、Olの鼻先から十フィート先までを滝のように流れる溶岩で埋め尽くした。

失言でござった

理解を得られたようで何よりだ

Olたちが赴いた際もこのような罠はあったが、それはサクヤがOlたちの動きを見ながら自身の力で都度溶岩を動かしていただけだ。

それに対していま発動したものは、純粋にOlが仕掛けた機械的な罠に過ぎない。

油断すればすぐに侵入者の命を奪うだろう。

これに加えてソフィアの妨害が加わる可能性がある。各自くれぐれも油断せぬように

Olの言葉を遮るように、みしりと不吉な音がなった。

走れ

地面を割って吹き出したのは、溶岩ではなく大量の海水だ。

こんな事ができるのは一人しかいない。であれば、この場に留まるのは下策だった。

Ol、失礼するねっ

とは言えこの中で一番足が遅いのは、魔術師であるOlだ。彼の身体をユニスがひょいと抱え上げ、横抱きにして走る。小柄な身体のどこにそんな力があるのか、それでもユニスは誰よりも早く駆けた。

殿!これしきの波、某が本性を表せば!

待て、ホデリ!

言うが早いか、ホデリの身体はみるみるうちに巨大な鮫へと変化する。そしてOlが止める間もなく、濁流の中にその身を投じた。

お乗り下さい、殿!

止まるな、ホスセリ!

押し寄せる海水の中でその身を踊らせながら叫ぶホデリに、ホスセリが一瞬足を止めかける。だがOlの叱咤に彼女はコクリと頷くと、ユニスの後を追って走った。

殿、ご安心めされよ!この姿は仮にも神を運びし神獣のもの、背に乗られれば息も

その時ガコンと音がして、ホデリの行く先、その床に穴が空いた。

ぬおおおおおおお!

ホデリは懸命に滝のように落ち行く水の流れに逆らい、登ろうと泳ぐ。しかしその尾を、同じく魚に似た尾を持つ娘がぐいと引いた。

タツキだ、とOlがその顔を認識した時には既に、ホデリの身体は大量の海水とともに穴の中に消え去っていた。

Ol、どっち!?

なおも押し寄せる海水から逃げながら、ユニスは前方の別れ道を指していった。

右だ!

Olの言葉に迷わずユニスは右の道へと向かう。

が、一歩踏み出したところでその足ががくりと沈み込んだ。

こちらにも落とし穴だ。

しまっっ!

いつものユニスであれば、その状態からでも開いていく落とし穴の蓋を蹴って跳躍し、回避できただろう。だが彼女は今、Olをその両手に抱えていた。流石にその状態では跳ぶことも出来ず、彼女はそのまま落下する。二人の後を追って、ホスセリは躊躇なく落とし穴へと飛び込んだ。

良い判断だ、と内心で呟きながら、Olはキューブを伸ばしてホスセリの身体を引き寄せる。

これで良い。これが、最短経路だ

両手にユニスとホスセリとを抱き寄せながら、Olは周囲を見えざる迷宮(ラビュリントス)で覆った。この落とし穴は殺傷を目的としたものではなく、侵入者の捕獲の為のものだ。

捕獲された獲物はどうなるかといえば当然迷宮の奥へと連れ去られるのであり、その為の通路もまた落とし穴の奥に用意されている。故に、この道を行くのがもっとも手っ取り早かった。

Olたちはそのまま、液体がなみなみと湛えられたプールの中へと飛び込む。それは侵入者を殺さないように落下の衝撃を和らげるための緩衝材であり、同時に捕らえるための仕掛けでもあった。

なんだ、これは!?

だがその中身は、Olの記憶にあるものと別物にすげ替えられていた。彼が用意したのは強力な粘着力を持つ一種の接着剤だ。故に、見えざる迷宮を展開して周囲を囲っておけば捕らわれることなく回避できるはずだった。

だがそこにあったのは、Olが想定していたよりも遥かに粘性の低い液体だった。Ol達を覆う見えざる迷宮は、その名の通り入り組んだ迷宮の形をした防御壁だ。粘度の高い接着剤であれば防げただろうが、殆ど水と変わりのないその液体は迷宮の中へと縦横に流れ込んで、Ol達を飲み込んだ。

なんだ、これは

とはいえ粘性が低い分、逃れることも簡単だ。

Olたちは先へと続く通路に這い上がると、身体に絡みつく粘液に顔を顰めた。

毒じゃない

ああ。毒などというものは、空気に触れさせておけばすぐに変質する。このような使い方は出来ぬから、それは安心していいが

己についた液体をぺろりと甜めて言うホスセリに、Olはそう解説しながら内心で首を傾げる。

毒性もなく、特に魔力を帯びているわけでもないその液体は、本当に少しべとつくくらいの液体でしかなかった。これでは動きを封じるどころか、ほんの僅かに戦闘力を削ぐことも出来ないだろう。何の意味もないように思えた。

ホデリは大丈夫かな

あれだけの海水と共に落ちたのだ。溺死の心配がないならかえって安全であろう

タツキに食われてなければいいが、と思いつつそれは口に出さずにOlは言った。

最近は仲間意識が芽生えているようだから大丈夫だとは思うが、次の瞬間に何をしているか最も想像がつかないのがタツキという女だ。

ソフィアに手を貸しているのか、単にふざけて遊んでいるかすらわからなかった。

うん。兄さんはしぶとい。心配しなくていい

あ、うん。命の心配はしてないんだけど

と、ユニスはやや言いにくそうに。

一人だけ罠に引っかかっちゃって落ち込んでないかなって

ああ、とホスセリは頷いた。確かに、改めてOlに仕えると誓った直後の事だ。気にしているかもしれない。

あたしもお兄様がいるからなんとなくわかるんだけど、男の人って強くても結構精神的に脆かったりするよね

確かにそういうところはある

兄を持つ妹たちの会話を聞きながら、唯一の男であるOlは居心地悪そうに渋面を作った。

そら。無駄口を叩いている場合ではないぞ。客だ

通路の奥から殺到してくる魔物たちを示せば、ユニスの表情はあっという間に妹から一流の戦士のそれへと変貌した。この一瞬の切り替えがユニスの頼もしいところであり、恐ろしいところでもある。なおホスセリの方は常に無表情で、こちらはこちらで底知れない。

襲い掛かってきたのは、人の顔に虎の身体、蛇の尾を持つ奇妙な魔獣だった。

それが何十匹と群れを作り、こちらへと向かってきている。

マンティコアという魔獣だ。尾に強力な毒があるから気をつけろ

あれは鵺。尾の蛇の毒は強いから気をつけて

それを見据え、Olとホスセリは同時に言って互いに顔を見合わせた。

まあどっちだろうと、斬っちゃえば同じだよね

ユニスは軽い口調でそう言って、雷光のように群れの中に切り込むと剣を一閃させる。その一撃は魔獣の太い首を、三頭まとめて切り落とした。

わぷっ!

かと思えば、その死体は木の葉の塊となってユニスに降り注ぐ。

これは、ユツの術か!

ああもう、鬱陶しいごめんOl、一匹そっち行った!

そしてその光景に、Olはようやく先程張られた罠の狙いを悟った。

粘性の低い接着剤は動きを封じるためのものではない。

木の葉を張り付かせるためのものだったのだ。

ユニスはその全身に木の葉を纏わり付かせながらも、剣を振るう。一度振るう度に魔獣が一匹木の葉に変わり、それが更に彼女の身体にへばりつく。へばりついた木の葉は動きを鈍らせ、視界を塞ぎ、不愉快な感触に平常心を奪う。

地味だが、効果的な罠だった。

全てが木の葉ではないはずだ!本体が一匹どこかにいる。そいつを倒せ!

そんなこと、言われても、わぷっどれがどれやらだよー!

ユニスは顔に木の葉を受けながら叫ぶ。ただの幻術であれば見破るのは容易いが、木の葉で出来ているせいか、それとも魔術ではないからか、ユツの幻術はとかく見破りづらい。Olでさえ、一瞬で看破するわけにはいかなかった。

今俺が、炙り出す

だが、対処法がないわけではない。Olは印を組み呪文を口にすると、手の平を重ね合わせるようにして胸の前に構える。その間にちろりと炎が生まれたかと思えば、それはあっという間に膨れ上がり、奔流となって魔獣たちを包み込んだ。

マンティコアにしろ鵺にしろ、それしきの炎で死ぬほどヤワではない。が、姿形は魔物に化けても、その本質は木の葉だ。火をつければ覿面に効いた。

ホスセリが天井からぶら下がり、残った最後の一匹の首筋に剣を差し込む。

それが本物で間違いなかったようで、魔獣はどうと地面に倒れ伏した。

ホスセリの姿が見えないと思えばいつの間にあんなところに、とOlは半ば呆れつつも感心する。

さっすがOl。攻撃魔術使うところなんて久々に見たけど、相変わらずの精度だね

Olの炎は通路全体を埋め尽くしていたが、ホスセリやユニスには火傷どころか火ぶくれ一つなかった。威力はさほどでもないが、その狙いの精密さだけで言えばOlは間違いなく当代屈指の魔術師だ。

流石にそれだけ燃やすのは無理だがな

ユニスの頬についた木の葉を一枚とってやって、Olは嘆息する。

一人最前線で戦っていただけあって、彼女は全身ほとんど木の葉まみれだった。

これほど張り付いていては、流石にちょっとやそっとでは取れそうもない。

うん。さっさと攻略して、お風呂でも一緒に入ろう

その時はお供する

終わったらな。気を緩めるなよ

さり気なく身を寄せてくるホスセリの頭をぽんと叩いて、Olは嘆息する。

油断していたわけではないが、致命的な効果を持たない罠に対しては警戒心も薄れる。

粘液を乾かしてから進まなかったのはOlの失態というよりも、ソフィアの手柄だろう。

己にはない罠の発想に、我が子の成長を喜びつつも悔しく思う気持ちがあるのも、また否定できなかった。

更に通路を進んでいると、にわかにユニスが嬉しそうな声を上げる。

彼女の視線の先にあったのは。

Ol、温泉だよ!

ホカホカと湯気をたちのぼらせる、湯溜まりの池だった。

第8話初めての親子喧嘩をしましょう-5

ねえOl、入ってもいいかな

良いわけなかろうが

うきうきとしたユニスの声とは対照的に、Olは低い声で答えた。

居住区ならまだしもダンジョンのこんな只中に、そうそう都合よく温泉があるわけがない。

あまりにもあからさまな罠だった。

適温。毒もない

だからといってこんな見え透いた罠に嵌まれるか

跪いて湯に手を差し込むホスセリに、Olは辟易としながら言い返す。

でもあたしこんなんだし

木の葉まみれの身体で両手を広げながら、ユニスは言った。

木の葉こそ被ってはいないが、Olも粘液自体はたっぷり浴びている。

乾いてきたそれは何やらチクチクと痒みを帯びてきて、不愉快なことこの上ない。

Olとて元々、ダンジョンを作れば真っ先に湯殿を設計するほどの入浴好きである。入りたくないわけがなかった。

Olは念のため周囲を丹念に調べ上げ、固定された罠がないことを確認する。

しかしそれはあまり意味のないことだった。

ソフィアはその気になれば、迷宮のどこにでも即座に罠を作り上げることができるからだ。

油断はするなよ

Olは溜め息をつき、キューブを椅子の形に変えて座り込んだ。

流石に自分も入ろうとまでは言えない。

喜び勇んで、ユニスは服を脱ぎ捨て湯に飛び込む。

ホスセリも丁寧に服を畳むと、それに続いた。

はー、気持ちいいー

御館様も入ったら?

うんうん。Olもおいでよー

流石にそこまで油断できるか

湯の中で手足を伸ばして息を吐く二人に、Olは渋面を作りながら答える。

二人の美女がその健康的な裸身を晒しながら手招きする光景は正直ひどく魅惑的だったが、流石に身内とは言え敵対しているダンジョンの中で寛ぐわけにもいかない。

こんなに良い湯なのにねえ

湯船の縁にもたれかかり伸びをするようにユニスが身体を逸らすと、水面下に隠れていた彼女の膨らみが露わになる。褐色の肌の先端を彩る蕾は子を産み母となった今も美しい薄桃色で、思わずむしゃぶりつきたくなるような瑞々しさだ。

正に。この湯を味わわないなんて、御館様は人生の八割を損している

リラックスしたのか先程まで隠していた山犬の耳と尾を晒しながら、ホスセリは猫のように四つん這いになって身体を伸ばす。背筋はしなやかな弓のように優美な曲線を描き、水面に浮かび上がった白い尻から伸びた尾は誘うようにゆっくりと振られる。

わざとやっているだろう、お前たち

露骨なアピールに溜め息をつきつつも、Olは彼女たちの媚態から視線を逸らしはしなかった。

にしても、気持ちよすぎて眠くなってくるね

おい、流石に油断しすぎだろう

ふああ、と欠伸を漏らすユニスにOlは釘を刺す。

私も眠く、なって

しかしホスセリまでもが船を漕ぎ出して、Olは何かがおかしいと気付いた。

何故、自分たちは風呂になど入っている?

Olが疑問に思った瞬間、ガコンと音がして湯船の底が開く。

そう同じ手を何度も喰らうか!

Olはそれを予測していた。見えざる迷宮(ラビュリントス)は既に温泉全体を器のように覆っていて、底が開いても湯の一滴も漏れ出ない。

が。無数の小さな転移陣が床に浮かぶのを見て、Olの顔色が変わった。

狙いはそちらか!

手の平ほどの大きさのそれは、人間大のものを転送する程の力は持っていない。

それが転移させているのは、ユニスとホスセリが脱いだ衣服だった。

キューブはすっかり寝こけてしまっているユニスたちを支えるのに使ってしまっていてこれ以上伸ばすことが出来ない。仕方なく、Olはともかく近くにあったものに手を伸ばした。

ごめん、まさか眠っちゃうなんて

良い。油断は俺にもあった

流石に申し訳なさそうな二人に、Olはしかめ面でそう答えた。

油断と言っても、普段の彼らがあそこまで気を抜くなどということはありえない。

あれはおそらく、法術によるものだ

あ、マリーか!

魔術や物理的な罠であればOlが、毒や薬であればホスセリが見破れるが、法術ばかりは見つけるのが困難だ。

法術というのは無から有を生み出す魔術と違って、元々の性質を強めることが得意だという。Olたちの心に刻み込まれた、風呂は安全で寛げる場所であるという意識を強めるような法術がかかっていたのだろう。

ユツがソフィアに協力しているのだから、マリーが協力していることもまた予想すべきだったのだ。それを事前に気付けなかったこと自体が油断と言える。

まあでも大丈夫だよ!剣はOlが拾ってくれたし。攻撃は避けるから

ユニスは腰の剣をぽんと叩いて言う。だがその身には鎧どころか服すら着ておらず、剣帯の他には腰と胸を隠す下着だけが覆っていた。褐色の肌と白い下着のコントラストは、全裸よりも情欲を誘う。

忍びは己の肉体を凶器とする訓練も積んでいる。何も着ていない方が強いくらい

だがそれはまだマシな方で、ホスセリに至っては何も身につけていない、生まれたままの姿だ。流石に見かねたOlがローブを貸そうかと提案したが、動くのに邪魔になると断られてしまった。

二人ともそんな格好をしながら全く恥ずかしがるような様子もなく、前衛の務めとばかりにOlの前を歩く。

下着に包まれたユニスの大きめの尻と、きゅっと引き締まったホスセリの尻が目の前で揺れる。

流石に前が突っ張って歩けない、などという愚を犯すほどに若くはないが、中々にその光景は目の毒だった。

あっ、また敵だ。行くよ!

服なんて要らないということを証明してみせる

次に襲い掛かってきたのは、かつてOlが試練の山に足を踏み入れたときに襲い掛かってきたのと同じ、一つ目の鬼であった。マリーとユツでは苦戦していた相手だが、ユニスとホスセリの前には敵ではない。

押し寄せるように迫りくる鬼どもを片端から斬り捨てていく。

宣言した通りユニスは相手に影をも踏ませず、ホスセリの蹴りや手刀は剣にも比類する鋭さで鬼の首を刎ねていく。

だがその度に乳房が揺れ、美しい脚が躍動する。ホスセリなど、大きく脚を上げて蹴りを放つものだから秘部までもが丸見えになっていたが、全く頓着した様子もなかった。

やっと片付いたー。大して強くなかったけど、数だけは多かったね

これは姫様が呪で作った式鬼。幾らでも生み出せる

優に百体は倒しただろうか。二人は呼吸一つ乱すことなく一つ目鬼たちを撃退したが、温泉で温まった身体で運動したからか、しっとりとした汗を滲ませていた。それがまた何とも言えず扇情的で、Olはしかめ面にますます力を込めた。

Ol、大丈夫?怪我でもした?

そんなOlを、ユニスが間近から見上げる。小柄だが均整の取れた体つきは鍛えられているにも関わらず女性的な丸みを失っておらず、薄い胸の膨らみもこうして下着姿で見ればしっかりと谷間を形作っていて、目の前から上目遣いで見られると凄まじい破壊力があった。

いや、何の問題もない。何もな

緩みそうになる口元をぐっと引き結んで言えば、ユニスは不思議そうに首を傾げ、ホスセリは勘付いて言う。

口だけで良ければ、抜いてあげようか

要らんわ、愚か者っ!

Olの怒鳴り声が、迷宮に響き渡った。

にしても、お風呂に入って運動して、ちょっとお腹空いちゃったねえ

ユニスがそんなことを言った矢先のことだった。

通路の先、小さな部屋にホカホカと湯気を立てる料理が用意されていたのは。

いや、食べないよ!?流石にね!?

疑わしげなOlの視線に、ユニスはぶんぶんと首を振る。

毒はないみたい

いや、食べないってば

念のため毒の有無を確認するホスセリに、ユニスは言いつつふと何故こんな罠があるのか考えた。

いくらなんでもこんなのに引っかかる馬鹿がいないことくらいは、ユニスにだってわかる。

だがソフィアの罠は先程から、見た目はともかく中身は見事なものだった。

何せOlさえ引っかかる程なのだ。

そこまで考え、ユニスは気づいた。気付いてしまった。

自分がこんな罠に引っかかる馬鹿だということに。

ごめんOl、あたしこれ食べる

正気か!?

こくりと頷きながら、ユニスは椅子に座って手を合わせると、食事前の祈りを捧げる。

口を付けてみれば案の定、料理は既に少し冷め始めていた。

一体何故

ユニスが魔術や法術で操られているわけではないことは、既に確認済みだ。

彼女は彼女自身の意思で、食事をとっている。

だってぇ

泣きそうな声で、ユニスは答えた。

これリルの作ったご飯なんだもん~

食事を取ることの出来ないリルが料理を習得するのにどれほど苦労してきたのか、その味見役を引き受けていたユニスが一番よく知っている。

親友が丹精込めて作った料理を食べずに冷めて台無しにしてしまうことなど、ユニスにはどうしてもできなかった。

しかもその味付けがまた、Olではなくユニス好みのものになっていて。

あの悪魔めぇ~、美味しいよう~

呪詛を吐きつつ、ユニスはもぐもぐと料理を噛みしめる。

ご馳走様でしたっ!

全ての料理を食べきって、パンと手を合わせたところで、彼女の身体は座っている椅子ごと落とし穴の下に落下した。

ユニスーーーーーーーー!

念のためキューブで床を覆い、転移にも対応できるように魔術の準備をしていたのに、それらは全く役を果たさなかった。見えざる迷宮さえ透過して落とし穴に落とすような真似が可能なのは一人だけ。ミシャまでもが協力していると見て間違いなかった。

となれば、ユニスが転移で復帰してくるのも期待できない。ミシャの境界を操る権能は、繋ぐだけでなく遮る側にもその効果を発揮するからだ。

認めねば、なるまい

ホデリが容易く脱落し、装備を剥ぎ取られ、ユニスまでもが罠にかかった。

油断がなかったとは言えないが、この結果はそれだけではない。

ソフィアの作り上げた罠が、純粋にOlの上を行っているのだ。

だがまだ、ダンジョンマスターとして負けてやるわけにはいかぬ

Olはもはや形振り構わず、この迷宮を攻略することを決めた。

第8話初めての親子喧嘩をしましょう-6

あれ?

どーしたのー、ソフィア

暇そうにテーブルに突っ伏しながら、リルは怪訝な声をあげるソフィアに尋ねる。

罠や魔物に苦戦するOlたちとは対照的に、こちらには極めてのんびりとした空気が流れていた。

パパがいなくなっちゃった

ソフィアが言うと同時、虚空にいくつもの映像が浮かんだ。

それこそがソフィアが見ている景色。ダンジョンの中の様子だった。

通路や部屋など様々な場所の景色が映っているが、そのどれにもOlの姿は見られない。

映像は次々に切り替わっていくが、ダンジョンのどこにもOlはいないようだった。

一旦ダンジョンの外に出て態勢を仕切り直しにということでしょうか?

あー、わたしわかっちゃった。多分こういうことでしょ

うむ。そういうことじゃ

首を傾げるサクヤに、付き合いの長いリルはOlのとった手段を予想してテナに視線を向ける。

Olの行動とリルの答えとを両方予見して、テナは頷いた。

あやつの行動は我にも読めぬからな。此度は一体何をするやら

ボクにも全然わからないです

おうるもごはんたべにかえったのかなー?

ミシャが楽しげに腕を組みながら言い、ユツは生真面目に考え込んで眉根を寄せ、タツキは本日三回目の昼食をもぐもぐと頬張りながら首を傾げる。

殿はこちらにお出でなさるのか?某は一体なんと言って詫びれば

大丈夫大丈夫、Olはあのくらいで怒ってないから

どっちかって言うとユニスの方が酷いよね

頭を抱えるホデリに気楽な調子でユニスがいい、マリーはそれを見て苦笑した。

だってリルのご飯だもん!食べなきゃ!

うんうん、嬉しいけど、あなた馬鹿でしょ

リルは呆れながらも、ぐっと拳を握って力説する親友の頭を撫でる。

リルのごはん、おいしいもんね

その後ろで、タツキがこくこくと頷いていた。

わかんないよー、ママ、いじわるしないで教えてよう

だーめ。わたしたちは中立。力は貸してあげるけど、どうするのかを考えるのはソフィアの役って言ったでしょ?

困ったように眉を寄せるソフィアに、マリーはそう言い聞かせる。

それにどっちにしろ、そろそろ到着するんじゃないかな

マリーがそう言った瞬間のことだった。

突然天井が爆発したかと思えば、瓦礫がソフィアの頭上に降り注ぐ。

その瞬間、反応したのは三人だった。

ユニスの斬撃が虚空を飛んで、巨大な岩を粉々に打ち砕く。

次いでサクヤが扇を振るうと、空間が爆ぜてまだ形を残す石の塊を崩す。

最後にタツキが食事をもぐもぐと食みながら尻尾をちょいと動かせば、海水が竜巻のように巻き起こり、落下する砂礫をさらって洗い流した。

ソフィアの身体には、砂粒一つかからない。

捕まえたぞ、この悪戯娘め

驚きに目を見開いて反射的に天井を見上げるソフィアを、Olは床に空いた穴から飛び出し、抱きすくめた。

反撃はせぬか

油断せず構えを解くことなく、Olは一同を見渡す。

しないよー。ここまで辿り着いた時点でOlの勝ちだし

リルの言葉にひとまず頷き、Olはソフィアを床に降ろした。

やはりユニス、サクヤ、タツキの戦闘能力は頭抜けている。ユニスはともかくサクヤとタツキに迎撃されては溜まらないので先にソフィアを狙って攻撃したが、どうやらそれは杞憂のようだった。

で。一体どういうつもりか、説明してもらおうか

パパ、どこから出てきたの?

Olの質問に、ソフィアは問いで返す。

無論、俺のダンジョンからだ

嘆息しつつ、Olは種明かしをした。

この火山のダンジョンは元々溶岩洞だけあって、ダンジョン化されている部分以外にも多くの空洞がある。それを魔術で探知して転移し、俺自身のダンジョンをお前の中に新たに作って掘り進んできたのだ

何せ溶岩洞の中を流れるマグマは魔力の塊。形を持った龍脈そのもののようなものだ。ダンジョンコアがなくとも魔術は使い放題で、もう一つ小さなダンジョンを作ることは造作もなかった。

いつかのスピナと同じ手ね

リルの言葉に、まさか弟子の真似をする羽目になるとは、とOlは頷く。

ソフィア。お前の弱点はダンジョンしか知らぬこと。その外に注意を向けなかったことだ。だが侵入者は常に

Olの説教は、ソフィアの表情の前に途切れた。

顔をくしゃりと歪め、今にも泣きそうな目で彼女はOlを見つめる。

パパは

そういえば、ソフィアはへそを曲げていたのだった。

そんなところに説教などするものではなかったか。

パパはわたしより、自分のダンジョンの方が良いんだ!

そんな考えは、ソフィアの叫びの前に消し飛んだ。

などういうことだ?

パパはソフィより、おっきくて、べんりで、つよくて、きょうあくな、あのこの方が好きなんだもん!ソフィなんていらないんでしょ!

捲し立てるように言うソフィアの価値観に、Olは目を剥く。

構ってやれていなくて拗ねている。他の女に嫉妬している。

Olの予想は二つとも当たっていたが、同時に二つとも見当外れだった。

まさか嫉妬の対象が他のダンジョンだとは、思いもよらなかったのだ。

馬鹿なことを、言うな

そういいながらも、Olは助けを求めるように視線を彷徨わせる。

だがリルもユニスもマリーも、気まずげに視線をそらした。

彼にとってダンジョンというものが何よりも大事だと知っているからだ。

それは別に、妻たちを軽んじているわけではない。むしろその逆とも言える。

Olにとってダンジョンとは身内を守る壁であり盾であり家だ。

失われれば仲間を守ることが出来ず、それゆえにその価値は仲間の総和にも等しい。

が、そんな理屈はソフィアに対しては通用しなかった。

なぜなら彼女自身がダンジョンであるからだ。

Olのダンジョンは、ソフィアを決して守れない。

パパはソフィより、自分のダンジョンの方が大事なんだもん

お前の方が大事だ、と嘘をつくのは簡単だった。

老獪な魔術師にかかれば幼い子供一人騙す事など容易い事だ。

そうかも、知れんな

だがOlにはどうしても、そうできなかった。

彼は片膝をつきソフィアと視線の高さを合わせると、涙を浮かべた瞳を見つめる。

だがそれは、お前のことを大事だと思っていないという事ではない。俺にとってはどちらも等しく娘。お前にとっては姉のようなものだ。どちらの方が好きだなどとは言えぬし、要る要らぬで語れる話でもない

お姉ちゃん?

幾らか落ち着いた様子のソフィアに、Olは頷く。

そうだ。それにあちらには一年も会っていなかったのだぞ。再会を喜んでやらねば、そっちの方が可哀想だろう。わかるな?

諭すように言えば、ソフィアはこくんと頷いた。

うむ。ソフィアは良い子だ

頭を撫でてやればようやく笑顔が見えて、Olはほっと胸をなでおろす。

パパ、ソフィアの中、よかった?楽しかった?

ああ。上出来と言ってよかろう

何せ真っ当に攻略することは諦め、奇手を使わざるを得なかったのだ。

ダンジョン探索者としてのOlは敗北したと言っていい。

やったあ!もっともーっと頑張って大きくなって、お姉ちゃんやママたちみたいにソフィの中で楽しんで貰うんだ!

姉はわかるがマリーはダンジョンではなかろう

でもいつもパパ、ママや他の女の人の中に入って楽しんでるでしょ?

ソフィアはダンジョンそのものだ。

無論、その中での行動は全て彼女に筒抜けになっているわけで。

今度から、俺の寝室の中は覗かぬようにしろ

え、なんで?

首を傾げるソフィアを説得するのには、へそを曲げた時よりも大変な労力を要したのだった。

閑話先達の知恵を借りましょう

杯に注いだ琥珀色の液体を、ぐっと喉に流し込む。

灼けるようなのど越しに思わず顔を顰めるが、Olは一息にそれを飲み干した。

珍しいこともあるものだ

野太い声が突然、背中から降り注ぐ。

一瞬前までそこには何の気配もなかったはずだが、彼ならOlに悟られずに近づくことなど訳はないのだろう。

貴様が酒を飲むなど。しかもそれに

身の丈六フィート半(約二メートル)、豊かな髭を蓄えた偉丈夫。

俺を誘うなどとはな

英雄王、ウォルフ。今は英霊となり白く染まったかつての王は、Olの横にどっかりと腰を下ろした。

まあな

Olは不愛想に答え、スピナの分体が二人の杯に無言で麦酒を注ぐ。

おお、すまんな。では何に乾杯する?

別に祝い事があるわけではない。そんなことをするような仲でもなかろう

つれぬなあ、義理の息子よ

笑って酒を飲み干すウォルフに渋面を作りながら、Olもそれに倣って麦酒を口にする。

酒はあまり好きな方ではないが、飲んででもいなければやっていられなかった。

英霊は、酒を飲めるのだな

おう。必要ではないが、飯も食えるぞ。飲み食いすれば多少なりと身体を賄う事は出来る

ウォルフほどの大英霊ともなれば、その召喚に必要な理力は莫大なものとなる。それを軽減するために、現界しているウォルフはよく飲みよく食べた。

いつぞやはマリーに手を貸してくれたな。礼を言う

ああ。あの程度、別になんでもない。若い娘の身体に宿るというのもなかなか愉快な体験よ

言って下卑た笑みを見せるウォルフの様子には、かつて王として相対した時の威圧感はまるでなかった。恐らくはこれが、ウォルフディールという男の素の姿なのだろう。似ていないと思っていたが、その雰囲気はどこかユニスに通ずるものがあった。

だがそんな話をしに来たわけではあるまい?

見透かすように言うウォルフに、Olは杯を飲み干す。

機械的な動きでスピナはその杯に麦酒を注いだ。

こいつは命令に従う知性のみを残し、自らの意思で行動したり記憶したりすることのない特別製だ。まあ、気の利いたゴーレムのようなものと思えば良い

スピナを指してOlが言うと、ウォルフの目が僅かに鋭く細められた。

つまりこの場に話を聞いているものは、Olとウォルフしかいないという事になる。

これは余程の話であろう、とウォルフは表情に出さぬまま覚悟だけを決めた。

には、どうすればいい?

Olの言葉を捉え損ね、ウォルフは聞き返す。

娘を幸福にしてやるには、どうすればいいのか、と聞いておる

一瞬の沈黙。

その後、まるで爆発するかのような笑い声が、小さな酒場の中に響いた。

笑うな。恥を忍んで聞いておるのだ

いや、すまぬ。だがどんな大事かと思えばそうか、魔王も人の親か

俺の娘はどうやら人ではなさそうだがな

吐き捨てるように、Olは言った。

関係あるまい。娘は娘、悩むは同じことであろう

未だ笑いの余韻を残しつつも、ウォルフは表情を真面目なものに取り繕う。

思えば俺もユニスにはずいぶん手を焼かされたものよ

それだ

酒を煽るウォルフに、Olは頷く。

ウォルフよ。お前は親としての先達だ。そしてユニスのような娘を立派に育て上げた父でもある。恥を忍んでお尋ねする。どうしたら、父親は娘を幸福にしてやれるのだ?

なるほど。娘を幸せにする方法か

ウォルフはゆっくりと腕を組み、しばし瞑目した。

その極意とは!

眉間に力を込めるウォルフに、Olはごくりと喉を鳴らす。

そんなもの、ありはせぬ!

ふざけているのか!?

そして出てきた回答に、思わず叫んだ。

ふざけてなどおらん。大体、親が子にしてやれることなどごく僅かよ。俺がしてやれたのは、アレの母が言い残したように、自由に育てさせてやっただけ。幸せにしてやるなどとは烏滸がましいにも程がある。赤子の頃ならいざ知らず、既に歩く力を持った子に親が出来る事など、せいぜいが進む道を邪魔せぬようどいてやる程度のものよ

だがウォルフは生真面目な表情で、Olを見下ろす。

だが俺は、全てはお前が敷いた道だったのではないかと思うときがある。ユニスを英雄として殺し、英霊として俺の下へとつかわせた。ユニスが幸福になるにはあの道しかなかったし、それを指示できる人間はお前しか

随分買いかぶってくれたものだ。ふん。晩年こそ賢王だ英雄王だと持て囃されたが、俺の根など所詮は喧嘩馬鹿よ。そんな先まで見通す事など出来るものか。偶然だ、偶然

英雄は長く生きるほど、その最期にも濃く影を落とす。ウォルフは若い頃に出会った何人もの英雄の末路から、それをよく知っていた。故に、ユニスを苦しめぬようザイトリードに命じて殺させた。

この男ならばあるいは天を相手に一矢報いるかもしれぬとは思いはしたが、まさかその後一家で英霊として呼び出されようなどとは、誰が想像するものか。

だが

もしそれが偶然でないというのならば、魔王Ol

なおも言い募るOlの瞳をしっかと捉え、ウォルフは言った。

それはお前がやったのだ。お前が、ユニスを幸福にしたのだ

考えてもいなかったのか、Olは目を大きく見開く。

俺は頼むと言い、お前は引き受けた。そして今アレは子を成し、幸せそうだ。ならば誰の功であるかなど、考えるまでもあるまいよ

そこまで言ってウォルフは酒を飲み干して、息をつく。

感謝せねばならぬのは、俺の方だ

そして、深く頭を下げた。

非公式の場とはいえ、稀代の戦士にして王の頭だ。軽いものではない。

Olは頷き、不器用にその謝意を受け取る。

気まずげに彼が酒に口をつけたところで、ウォルフは顔をあげると意地の悪い笑みを浮かべた。

故に娘が幸せになるかどうかは、親ではなく連れ合いに依るという事だな

途端、Olは口に含んだ酒を吹き出しそうになる。

つ、連れ合いだと!?

そうだ。お前の娘もいずれは知らぬ男をつれてくるのだろうな。認めれば娘はとられ、認めねば娘に嫌われる。何とも素敵な話ではないか

馬鹿を言うな、ソフィアはまだこんなに小さいのだぞ。そんな話は早すぎるわ

ふっ。愚かなり魔王。子の成長は早いぞ。特に娘ともなればあっという間よ。光陰矢の如しというが、女の成熟ときたら雷光よりも早い。ついさっきまで赤子と思っていた娘が、気付けば化粧の真似事など始めるのだぞ

ぐ、とOlは言葉に詰まる。確かにソフィアはつい最近まで赤ん坊だと思っていた。

ソフィアに限って言えばそもそも物理的に実際成長が人間よりも遥かに早いのだが、酔った頭ではそこまで思い至らない。

そんな馬鹿な話があってたまるものか!この死にぞこないめ、地獄に落ちてしまえ!

Olよ。恩人よ、俺から宝を奪っていった憎き男よ!ならば俺はその地獄とやらからお前の宝が同じように奪われていくのを、楽しみに見物させてもらうぞ。高笑いしながらな!

ははははは、と高笑いするウォルフの杯に、スピナはとくとくと機械的に酒を注ぐ。

酔った二人は気づいていない。目の前の女の姿をしたスライムに、飲み終えるという機能がついていないことを。

無限に注がれる酒を飲み干し続け。

翌日Olは、二日酔いに苦しむことになるのだった。

第9話氷の女王を持て成しましょう-1

服を脱げ

エレン、セレス、ミオの三人は、呼び出されるなりOlから発せられた言葉に、思わず顔を見合わせた。

彼の寝室に来いと言われたのは昼食を終えた後のこと、真昼間と言って良い時間帯。

確かにOlは好色な王ではあるが、性根は生真面目だ。

日中にわざわざ呼びつけて、というのは珍しいことだった。

とは言え否やがあるでもなく、三人は言われた通りに服を脱ぎ始める。

待て、下は良い。上だけ脱いでおけ

セレスがまずスカートの中の下履きをするりと抜くとOlはそんなことを言い出して、三人は再び顔を見合わせる。今日の主人は随分とマニアックな趣向をお試しになるらしい。

言っておくが、別に今からお前たちを抱くわけではない

そんな妻たちの視線に気付いたのか、Olはやや憮然としながら何やら軟膏のようなものを取り出した。

今からお前たちに、鍵を付与する

琥珀色をしたそれは指先につければとろりと伸びて、軟膏と言うよりは絵具に近い。

その呪をかける処置をするだけだ。妙な事は

言いかけて、Olは眼前の光景に目を奪われる。三人の妻が言われた通りにすっかりと準備を整えて、その胸をさらけ出していたからだ。

張りに満ち満ちてツンと尖ったエレンの乳房や、たっぷりとして蕩けるほどに柔らかそうなセレスの胸は言うに及ばず、普段の服装からは想像もつかないほど立派なミオの双丘も、その控えめな佇まいと相まってかえって強烈な存在感があった。

それらが三対六つ並んだ様子は、正に絶景という他ない。

考えるでない

思わずむしゃぶりつきたく気持ちを押し込めてOlは言った。

彼がその光景に見とれていたのは僅かに一瞬だったが、妻たちは敏感にそれを察して忍び笑いを漏らす。

これは全てOl様のもの。お好きなときにお好きなようにされて構いませんのに

やかましい

Olは絵具をたっぷりと掬い取ると、セレスの胸元に叩きつけるようにして塗りたくった。

途端、ぴりりと走る感覚に、セレスは声を漏らした。

魔力を通しながら塗るからな。少し痛むかも知れん。堪えられぬようなら言え

い、いいえ痛くはありません

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