くださいっ!中に中に、Ol様の精液沢山出してぇっ!全部、穢してくださいっ!!

良くぞ言った

Olは彼女の頭を撫で、唇を吸うとその尻を抱えて最奥に一気に突き入れた。ウィキアの釣り目がちの瞳が大きく見開かれ、口内を蹂躙されながらも彼女は背筋を反らし、びくびくと震えて気をやった。

その光景を、Shalたちは文字通りよだれを垂らして見つめる。

Olがウィキアの奥にたっぷりと精を注ぎ込み彼女の身体を解放すると、ウィキアは目を見開いたままぐったりとベッドの上に倒れた。辛うじて意識はあるようだったが、全身から力が抜け身動ぎ一つ出来ないようだ。

あのOl様

そんな彼女を尻目に、もじもじと太ももをすり合わせながらパトリシアが声をかけた。

もしよろしければ私にも、その接吻しながらのご寵愛を頂けませんでしょうか

恥じらいながら彼女は上目遣いにOlを見つめた。

リシィもOlさまに、優しく可愛がって欲しいです

長い袖で口元を隠し、その向こうから伺うようにプリシラがそれに続く。ウィキアとの情事を見た彼女達の中で、恥じらいながらおねだりのブームがやってきたらしい。

Ol様、あたしも口もお尻もおまんこも、全部の穴をOl様のおちんぽでずぼずぼ犯して欲しいですぅ

よだれを垂らしながら、Shalは述べる。彼女にはそのブームはやってこなかったようだった。

いいだろう。まとめて相手してやる

Olは三人を抱き寄せ、口を寄せ合いまとめてその舌を舐め取った。淫語の響き渡る饗宴はまだまだこれからだ。

閑話最後の戦いに備えましょう-5

やーっと順番回ってきたーっ

嬉しそうにユニスはOlに抱きついた。英霊となり紙の様に白かった彼女の髪と肌は、Olが保存しておいた肉体を取り戻して元の赤と褐色に戻っている。

その私も一緒で良いのですか?

その後ろで少し気後れしたように尋ねるのは、同じく赤い髪と褐色の肌を持つナジャ。南の大国グランディエラではもっとも多く見られる組み合わせだ。

とは言え、炎のように鮮やかなユニスの髪に比べ、ナジャのそれはやや褐色にくすみを帯びた赤銅に近い色で、肌の色もナジャの方が幾らか濃い。

うんっ。二人でOlに、グランディエラ女の良さをたーっぷり味わってもらおっ

幾ら国に所属せず気ままな旅を続ける冒険者といっても、ナジャにとってはユニスは生まれ故郷の姫君だ。生真面目な彼女はユニスに遠慮していたようだったが、気安く笑みを浮かべるユニスに神妙な面持ちで頷き、Olに近づいた。

じゃあ、最初はあたしがだから、ナジャはさ

え、いいのですか?

何を企んでいる?

なにやらひそひそと相談しあう二人に、Olは怪訝な表情を浮かべた。

別に企んでるわけじゃないけど。ほらほら、Olは横になってー

ぐいっとOlの体を押し、ユニスは彼をベッドに押し倒した。

では、失礼いたします

その彼の上にナジャが腰を下ろし、彼の剛直をその胎内に収める。いわゆる騎乗位の体勢だ。

Olはこっちお願いね

そして、ナジャと向き合うようにして、ユニスがOlの顔の上に腰を下ろした。顔面騎乗位という奴だ。流石にこれは不遜なのでは、とナジャはOlの反応を冷や冷やしながら見守った。

ふんまあたまには良かろう

しかし案に相違して、Olはそう答えると指でユニスの秘所を割り開き、そこに舌を這わせた。褐色の肌の中に、綺麗なピンク色の秘肉が淫猥に蠢く。

あぁっ! んっ、あぁん、気持ちいいよ、Olぅ

ユニスはすぐに表情をとろけさせ、素直に喘ぎ声を上げた。

何をしておる。お前も腰を動かせ

は、はいっ!

下からずんと突き上げられ、慌ててナジャはその蜜壷でOlの肉棒をしごくように上下に腰を降り始めた。Olの太く固いそれを胎内から引き出す度に、カリ首が返しのようにナジャの膣内を擦り上げ、それを奥まで突き入れると目の前に火花が散るかのような快楽が彼女の全身を駆け回る。

一往復するたびに絶頂を迎え、飛びそうになる意識を何とか繋ぎとめながら、ナジャは抽送を繰り返した。

あぁ、Ol、そこいいよぉ! 気持ちいい、Olのべろがあぁぁっ、やぁ、入ってくるあぁんっ! だめぇ、そんなとこなめちゃぁぁぁっ!だめ、だめ、だめぇぇぇっ!

ユニスは膣口を舌で擦りあげられ、更に淫核をじっくりと舐めあげられてあっという間に気をやった。それでも更に貪欲にOlに尻を押し付け、舌での奉仕を享受する。

Olはそんな彼女達を愉快げに見ると、更に舌の動きを激しくし、同時に腰を下から突き上げる。

あっ、だ、めぇっ! びん、かん、にぃっ! な、てるか、らぁら、めい、ちゃぅ、よぉらめぇぇぇえ!

Ol様、Ol、様ぁ、おう、る、さまぁぁぁああ!

Olの激しい攻勢に二人は同時に達し、高く鳴いた。そのままぐったりと、お互いに抱き合うかのようにしてOlの上で荒く肩で息をする。

で何のよさを教えてくれるという話だったかな?

どさり、とベッドに身体を横たえてぐったりとする二人に、Olは意地悪く尋ねた。ユニスはううぅ、ずるいと唸るように言うばかりで、身体を上げることも出来ないようだった。

では私が代わりに、魔物の良さをお教えいたしますね

にっこりとミオが割り込み、指揮者のように指を振った。

まおーさま、まおーさま

ごほーしおしえてもらったよ、まおーさま

おなかへった、まおーさま

その背後でパタパタと翼をはためかせるのはハルピュイア達。

そしてどこから連れてきたのか、半人半蛇のラミアや半透明に透ける水霊(ウンディーネ)の乙女、蝶のような羽根を持つ小さな妖精に人狼の少女が列を成していた。

よくもまあ、集めたものだな

Ol様に喜んで欲しくて頑張っちゃいました

半ば呆れてOlが言うと、ミオは可愛らしくそう答えた。

さあ、ジェシー、ジェリー、ジェニー、教えた通りに。ジュアニッタ、決してOl様を傷つけないよう優しくね。ジュディス、溶かしちゃだめだからね。ジュリア、真心を込めて。ジャスティナ、牙立てちゃ駄目よ

ところどころ微妙に物騒な言葉を挟みつつ、ミオは魔物娘達に指示をしていく。

どうでもいいが、何でお前のネーミングは必ずJから始まるんだ

何を言っているのかわからない、という様子でミオは首をかしげた。

ラミアは上半身は美しい女の姿をしているが、その下半身は巨大な蛇になっている。ジュアニッタと呼ばれた彼女はゆっくりと優しくOlの身体に巻きつくと、その豊満な乳房を彼の背に押し当てた。

水霊とは清らかな水が神格化し、精霊としての人格を得たものだ。元が生き物でない事以外は亡霊に良く似ている。とりわけ水の精霊は美しい乙女の姿をとる事で知られており、ジュディスと呼ばれた彼女もその例に漏れず均整の取れた美しい身体に長い髪、大きな瞳の愛らしい顔立ちをしていた。彼女はくすくすと笑みを零しながらOlの周りをふわふわと浮かび、彼の身体中に接吻した。

人狼というと、満月の夜に狼に変身する狼男(ライカンスロープ)と、もともと人と狼の中間の姿をしている獣人の二つの意味を持つが、ジャスティナと呼ばれた彼女は後者のほうだった。手足の先に鋭い爪を持ち、頭の上には髪の毛からひょっこりと三角形の耳が生え、尻からはフサフサの尻尾が生えている他は多少毛深いだけで殆ど人間と変わらない。

彼女はそんな中でも特別愛らしく幼い顔立ちで、狼というより犬といった方が似合いそうな少女だった。彼女はラミアの尻尾の上に陣取ると、Olの首に抱きつきすんすんとその鼻面を擦りつけ、Olの顔をぺろぺろと舐めた。

ジュリアと呼ばれた妖精は、第四層に住んでいた住民の一人だ。Olの手のひら程の大きさだが、まるで人間をミニチュアにしたかのようにその胸や尻はしっかりと女を主張している。彼女は軽やかにOlの腰の上に舞い降りると、硬く怒張した彼の一物に抱きつき、全身でそれを喜ばせた。

最後に、ジェシー、ジェリー、ジェニーと名前をつけられたらしいハルピュイアの少女達がその顔を寄せ合い、Olの一物をぺろぺろと舐め奉仕する。ミオが仕込んだのだろう、その技量は以前とは比べ物にならないほど上がっていた。

ふむこれも、まあ悪くはないな

ラミアの長い舌で首筋をじっくりと舐められながら、人間相手とは全く違う快楽にOlは満足げに声を漏らした。

良かったです

Olのその声に、ほっとした様子でミオは表情を綻ばせた。そんな彼女をOlを手招きした。

何をしておる。お前自身は奉仕せぬのか?

勿論、させて頂きます!

ミオは嬉しそうにOlに駆け寄り、いそいそと服を脱ぎだす。

オーウールーっ! あたしも、まだ入れて貰ってないよぉ!

そんなOlの目の前に、唐突にユニスが姿を現した。思わず目を横にやると、赤い髪のユニスはまだぐったりと死んだようにというより、実際ベッドに横たわったまま死んでいる。目の前に現れたのは白い髪、英霊のユニスだ。

能力の応用で自由自在に身体を出入りできるらしい。身体を出れば肉体的な疲労は軽減され、重さも殆どなくなる。

あたしも今は魔物みたいなもんだし、いいでしょ?

自分で言うか、それを

流石に英霊と魔物とではかなり差がある上に、それを聞いてこちらにいじましく視線を向ける瞳が二対あったが、Olはあえてそれを無視した。この上更にリルとスピナまで集まったら収拾がつかない。

まあいい、確かにお前も途中だったからな。お前たち、ちょっと場所を空けろ

Olはひょいとハルピュイア達を持ち上げ、肩に乗せた。ついでにフェアリーを頭の上に乗せてやり、ミオを手招きする。

えっと、失礼しますね

ミオはOlに背を向け、ゆっくりと腰を下ろす。Olの体はラミアが巻き付いて居る為、対面座位は出来ない。いわゆる背面座位の体勢でミオはOlの物を自らの秘所に迎え入れた。

んっふ、あぁんあっ!?

Olに体重がかかりすぎないよう配慮しながら遠慮がちに腰を動かすミオの身体を、Olは後ろから抱きしめた。そのままぐいと引き寄せしっかりと体重をかけさせると、その意外に豊かな双丘に手を回してぐにぐにと弄ぶ。

妙な遠慮はせんでいい。お前も楽しめ

はいぃっ!

ミオはそれだけで達してしまったらしく、Olの腕をぎゅっと抱きしめ、目を閉じて身を震わせた。

ミオって結構おっぱいおっきいよねー

そんな彼女の胸を、ユニスはうらやましそうにつんつんと突く。

ふぁっ、ユニっさ、ん、だ、めぇぇ!

悪戯っぽく笑い、ユニスはミオの胸に吸い付いた。

だめぇぇぇぇぇぇえっ!!

途端に、ミオは背筋を反らし、高く声をあげて絶頂に至った。きゅうっと締まるその膣内に、Olはたっぷりと精を吐き出す。その熱い感覚にミオはますます打ち震え、忘我へと至る。

はぁん、Olさまぁ

首を後ろに回し、どこか申し訳なさそうな表情で潤んだ瞳を向けるミオの唇をOlはむさぼった。そのまま胸を弄ってやると彼女はみたび、びくびくと身体を震わせ、軽く気をやる。彼女はひどくイきやすい体質をしているらしい。

Olぅ、あたしもぉ

切なげに顔を寄せるユニスの頭を抱え、Olは彼女にも口付けた。情熱的に舌を絡ませてくる彼女に応えてやりながら、ミオを腰の上からどかし、脇に抱きかかえる。ミオを主人と慕っているのか、水霊や人狼の少女が甲斐甲斐しくその動きを手伝った。

あたしは、こっち向きね

ぐっと腰を折り曲げ、ユニスはOlの首に腕を回すと対面の体勢でOlの上に腰をおろした。本来ならOlの腰に回される脚は高く掲げられ、Olの両肩に乗せるようにした。軽く、身体の柔らかいユニスだからこそ出来る体位だ。

んっああぁぁっ、なに、これ、すごぃ、よぉ

小柄なユニスの締め付けはかなりキツいが、脚をあまり開かずきゅっと閉じたそこは、普段に倍する強さでOlの物を締め付けた。

ユニス。この体勢だと、入っているところが丸見えだな

ああぁぁぁぁ言わないでぇぇぇ!

ユニスは顔を真っ赤にし、両手で覆った。ユニスの脚は大きく上がり、二人がそれを見下ろす形になっているこの体位では、Olの剛直が彼女の秘所を出入りする様が丸見えだった。Olがそれを指摘すると、彼女のそこはますます締め付けを強くする。

Olさま

とろんとした表情で顔を寄せるミオを左腕で抱き、Olはユニスに突き入れながら彼女の唇をむさぼった。Olの胸元に折り曲げた腕をそっと置き、彼女は控えめに、献身的にOlの舌に応える。

ああぁ、ずるいぃ

ユニスが上半身を起こし、唇を突き出すが流石に頭は届かない。それでも彼女は諦めず、ぐぐぐ、と身体を折りたたんで顔を近づけた。

ユニス、あまり無理は

Olが言いかけたその時、ぐにゃりと空間が歪み、Olとユニスの顔が一気に近づいた。

んっんんんっ!

ユニスはOlの肩に腕を回し、彼の唇に吸い付く。膣口が歓喜にすぼまり、Olの物をぎゅうっと締め付け、Olは思わず彼女の中に射精した。

っん、んんぅぅん

ユニスは嬉しそうに声を上げ、唾液と精液を全て搾り取るかのようにOlの唇と一物を貪った。

はぁ

満足げに息を漏らし、彼女が上半身を倒すと歪んでいた空間も元に戻る。

ユニス、今、お前何をした?

へ?

自分では気付いていなかったらしく、ユニスは小首をかしげた。

英霊が一人一つ持つ能力。その進化が、史上もっとも無駄に行われた瞬間であった。

閑話最後の戦いに備えましょう-6

あんっ、あぁぁ、あぁ、はぁぁぁっ!

Ol様ぁ、ああっ、いいっ、気持ちいいよぉっ!

もっとぉ、もっと奥にああぁぁっ!

広い部屋に女達の嬌声が響き渡る。壁に手をつき、尻を突き出した女たちがずらりと並び、Olに端から順に犯されていく。白アールヴと森の民達だ。

彼女達は壁からぶら下がる鎖に両手を拘束され、逃げる事も座り込むこともできない。とはいっても、それはOlが強制したものではなく彼女達自身が望んだことだった。

じっくりとしたOlの洗脳と調教によって、彼女達はすっかりOlに所有され、奴隷として扱われる事に喜びを感じるようになっていた。まるで屠殺を待つ家畜のように、彼女達は尻を振りOlを誘いながら、彼の肉棒に貫かれるのを待ち焦がれる。

まだ犯されていないものは秘所からとろとろと愛液を垂れ流し、既に犯されたものは代わりに精液の入り混じった体液をその太ももに伝わせる。そのちょうど境目で、Olは自分勝手な動きでひたすらに女を犯し、欲望をその胎内にぶちまける。

堕ちきった雌奴隷たちは主人のそんな寵愛にも高く鳴き声を上げ、善がり、気をやった。一通りその胎内に精を注ぎきると、Olは再び端の方の女から陵辱を始める。果てのない淫欲の饗宴は、彼女達を三周するまで続けられた。

こちらも準備できました、お師匠様

何度も気をやり、ぐったりとしている女達の手枷を解いてやっていると、スピナがOlにそう声をかけた。そちらにはスライム状になったスピナに身体を拘束されたサキュバス達がずらりと並んでいた。

どのサキュバスも大きく脚を開かされ秘部をOlに見せ付ける、所謂まんぐり返しの体勢で固定されていた。その秘裂からはだらだらと愛液を垂れ流し、顔は赤く染まり瞳は潤みきっている。情欲を自由にコントロールできるはずの淫魔達が、本気で発情していた。

何故拘束できているというか、何をした?

後の処理を村の娘達に任せ、Olはスピナに問う。

表面だけ人の肌に戻せば、魔力を吸収することはありません。こちらの準備はお師匠様の魔力を注ぎ込んで胎内から身体の構成を作り変えるスライムを作成してみました

言われて良く見れば、スピナがサキュバスの身体に接している部分は半透明の粘液ではなく、白い彼女の肌の色をしていた。

そして、サキュバス達の膣内からどろりとスライム達が姿を現す。どうも、Olがかつてリルに対して行った事を、新しいサキュバス達に自動的に行うスライムを作り出したらしい。

リルには使ってやるなよ

使おうとしたら魔力制御で無力化されました

悔しそうにスピナは答えた。ラズの記憶を思い出した今、リルの魔術的能力はスピナの遥か上だ。Olはスピナに呆れつつも、これも彼女の好意の示し方の一つなのだろう、と納得した。多少過激な部分はあるが、子供の悪戯のようなものだ。

やめていやぁ

Olが近づくと、淫魔達は恐怖に顔を引きつらせ、いやいやと首を振った。しかし、全身を拘束されているので逃げることも適わず、強引に動こうとすればその部分から融かされ消える。

何を怖がる事がある? 貴様ら淫魔が生業とし、いつもしていることであろうに

Olは意地悪く笑みを浮かべると、淫魔の一人の膣口に剛直をあてがった。逆の例なら数あれど、淫魔を強姦する男などそうは居まい。

いやああ! あぁぁぁあぁぁぁぁぁっ!!

ずぶずぶとOlの肉槍が、サキュバスを貫いた。初めて味わう本物の快楽に、淫魔は絶叫を上げた。今まで何人もの男を犯し、交わり、堕落させてきた。しかしその時感じていた快楽が子供だましのうわべだけのものであった事を、彼女は心から思い知った。

あぁぁぁぁ、だ、めぇぇぇっ! あぁぁぁぁぁっ!!

圧倒的な快感に、内側から自分が作りかえられていく感覚。己が己でなくなるそれは、あまりにも甘美で抗いがたい毒であった。今まで自分が落としてきた男はこのような心持であったのかと、彼女は焼け付くような意識のどこか片隅で思った。

ああ、あぁぁ、ふぁぁぁぁ

よだれを垂らし、胡乱な表情で淫魔は胎内に出される魔力の塊を感じた。ずるりと拘束が解かれ、地面に崩れ落ちる彼女の目の前にOlの一物が突き出される。

はいご主人様

淫魔はうっとりとした表情で、それを喉の奥まで咥え込んだ。喉の奥を突かれる苦しささえ快楽へと転化し、子宮の奥がきゅうきゅうと疼く。今すぐにでも貫かれたいという思いを押し殺しながら、彼女はOlの物を懸命に舐めしゃぶった。

愛液と精液が入り混じった味が彼女の舌を潤し、甘露のように彼女はそれを舐め啜る。その堕ちきった彼女の姿を見て、他の淫魔達は顔に浮かべた恐怖を強くした。堕落させるはずの淫魔が逆に落とされるなど、冗談ではない。

お前達はどうにも非協力的だったからな。これを機会に、心を入れ替えてもらおう

非協力的ってそんなの、悪魔なら当たり前でひぐぅっ!

なに、気にすることはない。すぐにその考え方は変わるだろうからな

口答えをしようとしたサキュバスの膣内に突き入れ、Olはニヤリと笑みを見せた。

お疲れ様ー

流石に、疲れたな

幾ら無尽蔵の精力を持っているとは言え、精神的な疲れはある。サキュバス達を陵辱した後もOlは手を変え品を変え女達を犯し、その胎に精を注ぎ込み続けた。視界一杯にぐったりと横たわり、股間から白濁を溢れさせる愛妾達を見やり、Olは息をついた。

お師匠様、どうぞ

ああ、気が利くな

スピナから渡された杯を受け取り、オレンジ色の液体をOlは口に入れた。さわやかな酸味と程よい甘味がOlの喉を通り過ぎ、彼は思わずそれを一息に飲み下す。

ふむ美味いな。果物の絞り汁か何かか?

いいえ、媚薬です

あっさりというスピナに、Olは口の中のものを噴出した。

うわ、Ol、汚い

ユニスがそういいながら、零れ落ちた液体を拭く。効果はすぐに現れた。Olのものがいまだかつてない勢いで反り上がり、彼の腹にピッタリと張り付かんばかりに聳え立つ。

ちなみにこんなものも用意してみたよ。張り形の形代、名付けて張形代~!

ニコニコしながらリルはOlの物を精確に模した形代を二本取り出した。

ちなみにこれはOlの動きを完全にトレースする上に性感は張り形からOlに、精液はOlから張り形へと転送するという画期的な

説明せんでいい! 貴様ら、グルか

Olはリルから張り形を奪い取る。体は熱く火照り、完全にコントロール出来るはずの性欲が全くコントロールできなくなっていた。

身体を魔力で制御しているのはOlも一緒。という事は、まあ外部から操作するのは無理にしても、制御を乱すことくらいは出来るよね

お師匠様、お許しを。ただ私達は、お師匠様に純粋に楽しんで頂きたいだけなのです

リルとスピナ。彼女達はそれぞれ異なる分野の魔術の天才だ。その二つの才能が合わさった結果が、この特性の媚薬だった。

ええい、もういい! 早く脚を開け!

Olは余裕なく叫んだ。淫魔に魅入られた男のように、情欲を我慢できない。ましてや、憎からず思う美女三人が目の前に列を成しているなら尚更だ。

はぁいえへへ、どーぞはい、お師匠様

三者三様の声で答え、三人はベッドに横たわり、脚を開いてOlを誘った。まだ今回ちゃんと抱いてもらっていないスピナに配慮し、彼女が真ん中で右にユニス、左にリルという布陣だ。

Olは両手に張り形を構えると、三人に一気に突き入れた。

あぁぁぁぁぁっ!!

この上なく怒張したOlの物を受け入れ、三人は高く嬌声を上げた。発情し切った状態で、三人分の膣に突き入れる快楽を同時に味わい、Olは入れると同時に射精した。

普段であれば屈辱でしかないそれも、煮えきった今の意識の中では考えることは出来なかった。まるで若い頃の様に、彼はひたすら肉欲に飢え、女達を犯すことしか頭になくなっていた。

達しながらも彼の一物は些かも衰えず、三人の膣の中に白濁の液を盛大に吐き出しながらも激しく抽送を繰り返した。そうしながらも身体を前に倒し、スピナの口内を陵辱するかのように貪る。

するとユニスとリルは顔を寄せ、舌を伸ばしてOlの舌にそれを絡めた。四つの舌が絡まりあい、互いに唾液を交換し合う。そうしながらOlは両手を伸ばし、リルとユニスの乳房を鷲掴みにした。

手を離してもリルとユニスの股間にずっぷりと突き刺さった張り形はOlの動きに同調し、前後にずぶずぶと動く。形代だけあって、形だけでなくその硬さも弾力も正にOlの一物そのものだ。

唯一の違いは、Ol本体の体がないことだ。しかしそれは、どんな体勢でもそれを受け入れられるということでもある。リルは広げていた脚をきゅっと閉じると、思い切り膣に力を込めた。

通常のセックスでは得られない凄まじい締め付けが、Olの剛直を襲った。手で握り締めるような凄まじい圧力。しかもそれが、淫魔の技術を持って縦横無尽にOlの性器に襲い掛かるのだ。

とてもたまらず、Olは再度精を吐き出す。大量の精で満たされた三人の膣に、Olはじゅぼじゅぼと音を立てながら更に抽送を繰り返した。

その左手はリルの豊かな乳房を鷲掴みにし、右手はユニスのささやかな胸の頂点を指で摘み上げくりくりと弄り倒す。

あぁぁぁぁぁっ! イく、イっちゃぅっ!!

イイよぉ、Olぅ、イイ、それ、イイっ、Ol、Olぅぅ!

お師匠様、ああぁぁ、おし、しょ、さまぁぁぁぁぁ!!

Olが唇を解放すると、三人はそろって高く声を上げた。それと同時に、Olの欲求も再び高まっていく。

イっちゃうぅぅぅぅぅぅっ!!

絶頂に達し、叫ぶように声を上げる娘達の膣内にOlは三度目の精を放った。

はぁはぁあぁぁ

ようやく多少落ち着いてきた頭で、Olはスピナの体の上に倒れこんだ。ゆっくりと背に回されるスピナの腕を感じながら、どうしてくれよう、とOlは考えた。怒りはないが、やられっぱなしで引っ込むのは彼の流儀ではない。

ちなみに

だが、その考えは途中で中断された。リルが更に三本の張り形を取り出したからだ。

まだ予備があったりして

そしてそれを三人の娘達はぺろりと舐め上げ、口に咥え込んだ。

その快楽は、今までの比ではない。膣内に突き入れながら舌で愛撫されるという、ありえないはずの快感は一瞬にして彼の思考を再び忘我の彼方に押しやるほどの威力を持っていた。

ま、待て、それは

お師匠様を完全に出し抜けたのは初めてですね

嬉しそうに、スピナは微笑んだ。目の前でOlの物を下半身にくわえ込み、口に張り形を頬張っているスピナとはまた別のスピナだ。

本物はユニスにあげてくださいませ。私達は、全力でご奉仕致します

目の前のスピナもするりと彼の身体の下から抜け、そういった。その言葉に不吉なものを感じ、視線を上げたOlの目に入ったものは

各々二本、ないし三本の張り形を手にした、無数のリルとスピナであった。

Olは、今までの戦いで一番の絶望を感じた。

それからは何度出したか、等というカウントは無意味なものとなった。膣内に、口に、尻に、胸の谷間に入れられた張り形達は律儀にその快感をOlへと伝え、彼の一物から止め処なく精を搾り取ったからだ。

精液は複製ではなく転送している為に一度に感じられる量は少なかったが、無尽蔵の精力を持つOlの前ではそれもさほどの障害とはならなかった。

そうするうち、いつの間にかリルとスピナの分身達は他の娘達に取って代わり、その胎内に張り形が収められる。Olは欲望の赴くままに娘達の間を渡り歩き、手当たり次第に抱き、犯した。

彼が誰かの膣内に突き入れるたびにそこらじゅうから嬌声が響き渡り、娘達は互いに悶え乱交を楽しむ。黒アールヴも、白アールヴも。冒険者も、王族も。森の民も、村の娘も、魔物の娘も、サキュバス達も。

文字通り一体となるかのようなその狂乱に、彼女達は身分も出自も種族も忘れ、ひたすらに快楽を貪りつくした。その胎内が、精と魔力で一杯になるまで。

これで、全ての準備は整った

その大乱交の、翌日。

Olは配下のものを集めてそう言った。

この戦は、我々の負けだ

英霊が5人以上いれば負ける。Olのその言葉は、嘘ではなかった。これはユニスが寝返る事も考慮に入れた上での数であって、それより2人も多いのではどうにもならない。勝つ事は不可能だと、Olは結論付けた。

ただしそれは、無傷ではという意味だ

Olから既に概要を聞いているリルは、こくりと頷く。ここから先の戦いは、保身を考えていては勝つ事は出来ない。それはOlにとっても苦渋の決断だったはずだ。

いくぞ未来を、勝ち取るために

しかし、Olは躊躇わず、その手段を選んだ。

Olの合図と共に、ダンジョンコアの周囲に刻まれた魔法陣が書き換えられる。それは迷宮全体の魔力を吸い込み、集めるための模様だ。

それを、逆にする。

ダンジョンコアに集められていた魔力の流れは逆転し、ダンジョンコアから迷宮全体へと魔力が流れ出す。それと同時に、ダンジョンの周囲の土がはじかれ、ダンジョン全体が龍脈の流れから切り離された。

さあ我が魔窟よ!天にすむ高慢な者どもに、目に物を見せてやれ!

迷宮が揺れ、奇妙な重圧がその場に居た全員を包み込んだ。

それはOlの奥の手の中の、奥の手。

迷宮が、立ち上がったのだ。

第17.5話 ダンジョン解説

閑話終了時点でのダンジョン。

瘴気:100

悪名:100

貯蓄魔力:0(単位:万/日)

消費魔力:1000(単位:万/日)

天衝く岩巨人

ダンジョンをその内部に備えた超巨大ゴーレム。ある程度の判断能力を備えた通常のゴーレムとは違い、ダンジョンコアから流れる魔力を擬似的な血の流れとし、Olが乗り移って動かす。Olの動く城。

ダンジョンコアLV5

一階層ほどの大きさにまで成長したダンジョンコア。

およそ1億ほどの魔力を貯蓄できる。

スピナ(半人半スライム)

戦力:6最大貯蓄魔力:1.5

自らの作ったスライムと融合する事により、ほぼ不死となったスピナ。直接的な攻撃能力はないが、魔力を吸収するため魔術はほぼ無効。粘体化している時は物理的な攻撃も通用しない。弱点は塩水で、少量であっても強制的に人間形態に戻り、その状態では魔力吸収も物理攻撃無効も失われる。魔術師としては未熟なため、一体辺りの魔力貯蔵量はさほど多くないが、分裂する

事により効率は低いがほぼ無尽蔵に魔力を蓄えられる。

リル(転生体)

戦力:6消費魔力:0.1最大貯蓄魔力:20

元となった魂、ラズの知識を思い出したリル。かなり高度な魔術を使うことが出来、魔力を用いた武器や兵器の開発に対して天才的な手腕を発揮する。また、魔力の操作もOlには劣るものの得意とするところであり、胎内の魔力も圧縮して大量に保持することが可能。ただし、スピナと違いどれだけ分身を作っても保持できる魔力の総量は変わらない。

ユニス(英霊)

戦力:10最大貯蓄魔力:0

死して英霊となった元英雄。戦闘能力は変わらないが、どんな場所にも問答無用で転位する能力を得た。理力を貯蔵するようになったため、魔力は貯めることができなくなった。

ミオ(魔物使いLV30)

迷宮の外での武者修行により、その使役能力に更なる磨きをかけたミオ。魔獣以外の魔物とも意思を疎通させ、ある程度操ることが可能に。魔獣であれば30体ほどまでなら手足の如く操れる。

ELF48

エレン配下の黒アールヴ達の生き残り。最初の4人に比べると一歩劣るものの、いずれも弓と魔術の名手。アレット、ベティ、クロエ、デルフィナの4人と合わせて52名、頭文字がA~Zまでの名前が2人ずついるという設定だが、今度こそ全員ちゃんと作中で言及されることはない。ないったらない。

瘴気、悪名は共に最大級に高まり、ダンジョン内は殆ど魔界と同一に。契約や魔法陣で保護しなくても、そのまま悪魔が闊歩できるレベルになっている。魔王のその名は田舎の子供でも知り、伝説として後世に語り継がれるレベル。一方、龍脈の流れからは断ち切られ、魔力の貯蓄は0に。天衝く岩巨人の維持に毎日凄まじい量の魔力が消費されていき、5日ほどしか持たない状態になっている。

最終話地を這う者の意地を見せ付けましょう-1

ズン、という腹に響く轟音と共に、大地が揺れる。

その小さな地震は数刻前から一定周期で、徐々にその強さを増しながら続いていた。

マジかよ

報告は受けていたものの、改めて目にするそれに不死身は頭を抱えた。

文字通り天を衝くような大巨人が、こちらへと歩を進めているのだ。巨人はまだ遥か彼方にいるというのに、その姿をはっきりと確認する事が出来る。大きさは目算でおよそ1800ヤードつまり、1マイル(約1600m)にも達する。マイルなどと言う単位は普通、距離に使われるものであって物の大きさに使うものではない。

その正体は、巨大なあまりにも巨大な、ゴーレムのようなもの、という事であった。

その表面は厚い岩盤で覆われ、矢も槍もまるで通じない。それどころか、近付けばその歩みの衝撃で家が崩れ、立つ事さえままならない。訓練された軍馬達も恐れ戦きまるで役に立たなかった。

動きは酷く緩慢でゆっくりしたものに見えるが、大きさが大きさだ。実際にはその速度は早馬を軽く越え、フィグリアから馬車で一週間の距離を3日足らずで踏破したという。

その途中の街や関では、戦いどころか、一方的な虐殺というほどのものさえ起こらなかった。いかなる攻撃の手も全て無視され、門を踏み越え悠々と歩き去られたとのことだった。

相手は動く大地そのものだ。つまりは、敵と言うより天災と言った方がまだ近い。この世のどこに、地震と戦って勝てる勇者がいるだろうか?

よもやこのような奥の手を残していたとはな

ぎりり、と奥歯を食い縛り、メリザンドは巨人を睨んだ。無明の千里眼によって、跳ね駒が裏切った事、あの巨人の中にOlの魔窟が丸ごと入っていることは既にわかっている。

全く厄介な事をしてくれたものだ

メリザンドは鉛を睨みつけたが、彼は表情一つ変えずそれを受けた。英霊を召喚する際、メリザンドが知れるのはその能力の簡単な概要と、二つ名だけだ。

とはいっても勿論、鉛が魔術だけでなく法術も無効化できる事。跳ね駒が彼の妹であること。鉛の能力で自我を保っている事。それら全てにメリザンドは気付いていた。

しかしとるに足らぬ事と放置していた。むしろ自我を持っている方が、木偶よりよほど戦力としては頼りになる。英霊の使役すなわち天の力はそんなに甘いものではない。自我をもっていようが関係なく、本来ならば命令に逆らう事も裏切る事も出来ないはずなのだ。

それを覆せるものは唯一つ。誓い(ゲッシュ)だ。英雄の誓いとはこの世でもっとも神聖なものであり、こればかりは天の力を持っても覆すことは出来ない。しかし英霊が誓いを持つには、生前に誓い、死ぬまでこれを守らなければならない。

それはかなりの難行だ。矛盾するようではあるが、天の力を持ってしても曲げることの出来ない誓いを、しかし守りきれる英雄は殆ど居ない。多くの英雄達が、自ら立てた誓いを破った事により力を失い、死んでいく。

跳ね駒ユニスがOlの部下であったことは知っていた。しかし、彼女がOlに愛を誓い、それを死ぬまで手放さず守り続けた事を、メリザンドは知らなかったいや、想像すらしなかったのだ。

相手は邪悪なる魔王、奸智に長け何も信じず寄せ付けぬ孤独な魔術師だ。そのような者に、真実の愛を抱くような人間が、居るはずがない。居てはならないのだ。

考えても詮無い事だと思考を切り替え、メリザンドは遠くに迫る巨人に視線を移した。とにかく今は、あれを何とかせねばならない。

鉛、やはり駄目か

ああ。あれは魔術ではない

魔術で動かしているものであれば、どのように巨大なものでも鉛の能力で無効化できる。そう踏んでいたメリザンドの期待は、あっさりと覆された。無明が言うには、信じ難い事にあの巨人は生き物であるらしい。

血の代わりに魔力が通い、心臓の代わりに核がある。すなわち、あの巨人は魔王Olそのものなのだ。全ての術を無効化する鉛の能力も、生き物の命を奪うことは出来ない。それは魔術ではなく、当たり前の法則だからだ。

どうしますボス。あのデカブツを黙らせるのはちょいとばかり骨ですよ

総攻撃、しかないだろうな

苦々しくメリザンドは言った。敵は兵器であると同時に本拠地だ。天使や英霊の力を持ってしてもあの巨人を破壊するのは困難を極める。破壊しつくす前に、首都は更地にされるだろう。

となれば止めるにはOl本体を叩くしかないが、その本人が巨人の中にいるときている。つまり、攻めて来る巨人の中に侵入し、その心臓部を破壊する。これしか手がない。

召喚できる全天使を呼び出す。総力戦だ

おーおー、凄まじい数だねえ

雲霞の如く群れを成す天使達の姿を見やり、キースは呟いた。魔王の膝元、Olタウンの案内役を買った盗賊の男だ。

ダンジョンを丸ごと巨人に仕立て上げた今でもその街は健在であり、今はちょうど巨人の左肩に当たる部分に位置していた。巨人は大地を揺るがし、自身も相当揺れているはずなのだが、巨人の上にいる分には普段と変わらず行動することが出来た。

魔王がなにやら細工をしたらしくノームがその原理を詳しく説明してくれたが、とにかく動けるのならば問題ない、というのが殆どの冒険者の共通認識だ。

巨人の腕がぶんと振られ、天使達の群れを払う。遠目には緩慢に見えるその動作も、目の前では巨大な壁が高速で迫ってくるのに等しい。何体もの天使が押しつぶされ地面に落ちて行く。しかし、それだけでは全滅させる事は難しいだろう。

実際、何百体と言う天使達がその攻撃を掻い潜ってこちらに向かってくる様をキースは眺めていた。

そろそろ準備しましょう

おう

下から声をかけられ、キースは教会の鐘楼からひょいと身を翻した。

大通りには、何十人と言う冒険者達がひしめいていた。元々この町にいた数に比べれば随分と減ったが、一人ひとりがどいつもこいつも金の為に己の命を賭ける、最低で最高の荒くれ者たちだ。

皆さん

しんと静まり返った広場で壇上に立ち、ノームは大きな袋をもちあげた。無造作にそれを地面に置くと、口から覗き見えるのは黄金の輝きだ。

魔王様は仰いました。この戦いで生き残ったものには、金貨100枚を与えると

おおーー!

冒険者達が腕を振り上げ、声をあげた。金貨100枚。それは、数年は遊んで暮らせる大金だ。ノームはもう一つ、同じような大きさの袋を持ち上げ、地面に置いて、言った。

そして私が追加します。さらに、100枚ずつを

うおおおおおおお!!

場は、大いに沸きあがった。

ようし野郎ども、金は死人にゃ使えねえ、あのお上品な天使共をファックしてさっさと金を頂くとしようぜ!

おおおおおおおお!!

キースの声に、冒険者達はときの声を上げ、剣を掲げる。

我らが財布と、明日の安酒のために!

クソッタレなあのダンジョンのために!

愛すべき我らが魔王様のケツを蹴り上げる日のために!

バラバラに、冒険者達は叫んだ。

全ての天使達がOlタウンに向かったわけではない。むしろ大多数の天使達は他の入り口から、第一層や第二層へと侵入していた。

ふん。ゴミどもが、汚らわしい

醜い悲鳴を上げて逃げていくゴブリンやオーク達を背後から切り捨て、カマセルは吐き捨てた。彼は天使の中でも中位第二隊、力天使(デュナメイス)に属する天使で小隊長を務めていた。上位の天使たちは神魔大戦で殆ど滅んでしまった為、実質彼は上から二番目の実力を持つカテゴリに入っている。

さあ、さっさとこの不愉快な洞穴を抜け、邪悪なる魔王を打ち倒すぞ

はっ!

部下の能天使(エクスシアイ)達が返事をする。それに違和感を覚え、カマセルは後ろを振り向いた。

おい。減ってないか?

確か能天使は5人いたはずだ。それがいつの間にか4人に減っていた。

能天使達は互いに顔を見合わせた。カマセルはそれを見て舌打ちする。これだから、下位の者達は使えない。

はぐれたかまあ良い。汝ら、勝手な行動を取るでないぞ

釘を刺し、前に向き直る。どうせこの迷宮にすむのはケチで下賎な妖魔どもばかりだ。能天使といえどそうそうはやられたりしないだろう。

あの、カマセル様

なんだ。わざわざ手間を取らすな

それが、そのまた、減っているのです

不安げな表情で能天使の一人が言った。ほんの僅か目を放した隙に、能天使は残り3人になっていた。

勝手に動くなと言っておろうが!

カマセルは怒鳴りつけ、辺りを見回した。その視線の先で、ドアがパタンと閉まる。

あそこか。貴様らはここで待機せよ

カマセルは残る三人に待機を命じると、無造作にドアを開き声を張り上げた。

何をしている! さっさと隊列に戻れ!

しかし、彼の声はむなしく闇に響き渡るだけだった。ドアの向こうは何もない小さな部屋。能天使の姿どころか、他の道への通路さえ見当たらない。

ふん

鼻を鳴らしてドアを閉めようとし、カマセルは気付く。誰もいないのなら、何故ドアは閉まったのか?

オオオォォォオオォォオォォオオオ!!

彼が疑問を脳裏に浮かべると同時、巨大な髑髏が壁から飛び出してきた。

なっこれは!?

アアアアアアア

くぐもった唸り声をあげながら、次々に骸骨達が床や壁、天井をすり抜けて現れ、カマセルに襲い掛かる。

亡霊か! 舐めおって、このカマセルに貴様ら如きクズが

勇ましく言い放ち、剣を抜こうとする彼の腕には既に大量の亡霊がしがみついていた。腕が冷え、凍って固まったかのように動かなくなる。

待て、そんな、馬鹿なこの私が、亡霊ごときに、待て!

さらに大量の亡霊がカマセルに殺到し、その骨だけになったアギトを開く。

ぐしゃり、と何かが潰れる音と、ぐちゃぐちゃと天使の肉を食む咀嚼音だけが部屋の中に響いた。

天使といえど物量には勝てぬか

その様子を見つめ、亡霊は呟いた。

彼は、かつてゲオルグと呼ばれていた一人の男だった。Olに殺され、恨みを抱いて死んでいった彼は濃い瘴気を吸って亡霊となり、迷宮に囚われた。亡霊となった身体は、死んでも死に切れぬ。何度消されようが、解呪を唱えられようが、その度に迷宮は彼の魂を捕え、瘴気の肉体を与えて亡霊とした。

そんな彼を救ったのが、冒険者達だ。何度でも蘇り、生前は一流の剣の腕を持つ剣士だった彼を冒険者達は先生と呼び慕った。最初は揶揄を多分に含んだその名前は次第に尊敬の念を帯び、いつしか多くの冒険者達は本当に彼を師と仰ぐようになっていた。

多くの念は、それそのものが情念で出来ている亡霊に多大な影響を与える。尊敬の念はある種の信仰となり、やがて彼はある種の神と呼んでもいい存在にまで昇華していた。無論、神と言っても天に住む神とはあり方を完全に異にする、別種のものだが。

彼はダンジョンを愛し、ダンジョンを愛するものを愛した。かつて自らを殺した魔王の味方をするのは業腹ではある。しかし、それ以上に天使などと言う存在にこのダンジョンを荒らされるのは我慢がならなかった。

もはやここにいるのは妄執に囚われ恨みで凝り固まったゲオルグの霊ではない。冒険者達に愛され慕われる亡霊、先生なのだ。

さあ、行くぞ同士達よ! あの天使共を皆殺しにしてしまえ!

亡霊の軍団を率い、先生は雄叫びをあげた。

最終話地を這う者の意地を見せ付けましょう-2

カマセルの理力が消えた?

力天使アンドゲルは同輩の力が消えていくのを感じ、そう呟いた。魔王の迷宮は思った以上に危険なようだ。既に何人もの能天使たちが迷宮内で命を落とし、力天使さえ今散っていった。

とは言え、カマセルは少し傲慢で浅薄なところがあり、そこを突かれたのかも知れない。アンドゲルは慎重に縦穴を部下達と共に降下していった。

彼が見つけたその穴は、どうやら他の入り口よりも奥深くへと通じているようだった。時折空を飛ぶ魔獣たちが襲いかかってきたが、空中を自在に舞うことの出来る天使達にとっては大した敵ではない。容易く斬り捨てながら、彼らは地下第二層にたどり着く。

カマセルは愚かにも第一階層から降りていったが、アンドゲルはそこを丸々飛ばした。空を飛べぬ人間用の守衛も天使にとっては恐れるほどのものではない。このまま一気に最深部を目指し、魔王を討ち取ってやる。

そう意気込むアンドゲルの視界に、赤い光が見えた。

ジョー、ジョナサン、ジョアナ、ジョナス、ジャスティン、ジョセフ、ジョディ、ジョシュア、ジョアン、ジョタロ、ジョブ、ジューダス、ジュアニッタ、ジョスケ、ジュリアン、ジョセリン、ジュニアス、ジュリエット、ジョルノ、ジョーディ、ジョリーン、ジョエル、ジョニィ、ジョン、ジャイロ、ジョリオン、ジャスタス!

どこからか、若い娘の声が響いた。

全軍発射!

深い深い縦穴の底、横穴の中。そこにずらりと並び喉の奥に炎を湛えた、無数の魔獣。

それが、アンドゲルが下界で見た最後の光景だった。

どこにも明かりのない、果てしなく真っ暗な世界。それが、彼の知る全てだった。闇は均一ではなく、彼から離れるほどにその濃さを増す。いくらか進んだ先にある闇のわだかまりが、それ以上進めぬ世界の果てであると彼は認識していた。

世界は四角く正方形をしていて、動き回るのに問題はないがさほど広くは無い。そんな世界の中で、彼は闇の中でさえなお暗い漆黒の塊として存在していた。世界の中には、彼の手足として動かせる中位の闇が二つと、それにつながれた大きな闇。そして、自分。それだけだ。

時折、世界の外から侵入者が現れることもあった。侵入者は強さの差こそあれどれも光り輝き、彼にとって我慢のならない暖かさを撒き散らした。彼は手足となる闇を操り、その光をひき殺し、あるいは剣で斬り殺した。

侵入者の光によって、中型の闇は首のない馬、大型の闇はそれが引く馬車なのだと知れたがそれは彼にとって何の感慨ももたらさなかった。彼はただ、この小さな世界を守る為に戦うだけだ。彼はデュラハン。生前の名を、アランと言った。

そしてその日、彼の世界に今だかつてない量と質の光が入り込んできた。

不浄なるものよ、光の前に消え去るがいい!

そう声をあげ、天使達は襲い掛かってきたが、デュラハンがその言葉を理解する事はない。ただひたすらに、己の内なる衝動の命ずるままに戦うだけだ。

首のない馬がいななき、足を振り上げて走る。凄まじい速度で駆ける馬車は、一瞬にして能天使達を跳ね飛ばし、その車輪でずたずたに切り裂いた。

上だ、上を取れ!

デュラハンの部屋には馬車の高さの倍ほどの空間がある。天使達は羽ばたいて馬車の上を取り、槍や弓を構えた。

おぞましい亡者よ、塵に!?

弓を構えた力天使の目の前で、馬車の姿が掻き消えた。そして、その背後でギャリギャリと音が鳴り響く。振り返る彼の表情が、絶望と驚愕に歪む。

馬鹿な!

力天使は天井を走る馬車に弾き飛ばされ、虚空に消えた。デュラハンはその身、馬車から馬に至るまで全て実体のない怨霊だ。その走る道に上下の別などなく、壁だろうが天井だろうが自由に走り回ることが出来た。

コイツ!

馬車から距離を取り、弓を構える天使にデュラハンは手綱を放し、手をかざす。その掌からは稲妻が迸り、一瞬にして天使を黒焦げにした。

魔術まで使うぞ!

天使達は慌てふためき、逃げ惑った。近付けば馬車に引かれ、距離を取ればデュラハンの魔術。悪魔悪霊の類は得意とするはずの天使たちが、手も足も出なかった。

落ち着け! よく見れば動きは単純だ、距離を取りつつ包囲しろ!

そこに、天使の一人が声を張り上げた。彼は主天使(ドミニオンズ)中位第一隊、今回の戦いに派遣されている中ではもっとも位の高い天使の一人だ。

主天使の言葉に力天使、能天使達の動きは精彩を取り戻し、つかず離れずを保ちながらデュラハンを取り囲んだ。怨念で動くデュラハンの動きは速いが単純だ。一番近い敵を目指して馬車を走らせ、遠くに狙うものがあれば魔術でこれを落とす。

その動きはパターン化していて、速度に惑わされずよく観察さえすれば十分に対応が可能なものだった。もっとも、主天使がそれに気付くまでに、実に4人の力天使とそれに数倍する能天使達が犠牲になったが。

これでも喰らえ!

主天使が理力で編まれた鎖を飛ばす。それはデュラハンの馬車を絡めとり、車輪に巻きついた。それによって動きの鈍る馬車に、他の天使たちも次々に鎖を飛ばす。何本もの鎖に拘束され、首なし馬とその馬車はついに動きを止めた。

今だ! 者ども、かかれ!

動きを止めた馬車に、天使達が殺到する。何人かはデュラハンによって殺されるだろうが、それでもこの強敵を討ち取れればよい。そう判断した主天使による決死の突撃だ。

しかし、その決死の覚悟は報われることはなかった。ただの一撃として槍も剣もデュラハンには届かず、見えない壁に止められた。攻撃をした天使たちの胸には氷で出来た矢が突き刺さり、虚空に消える。同時に、澄んだ金属音と共に馬車を絡め取った鎖が断ち切られた。

いつの間にか三人の冒険者がデュラハンの馬車に乗り込み、彼を守ったのだ。

貴様ら我らが天使と知って邪魔をするか!?

その中に僧侶と思しき姿を認め、主天使は叫んだ。

あたしの信じるものは、Ol様のおちんぽだけです

その言葉に、白アールヴの僧侶Shalは、にっこりと笑ってそう答えた。いつもの事とは言え、仲間のウィキアとナジャもその返答に若干呆れる。

それに

しかし、彼女の笑みはゆっくりと消え、鋭い視線を主天使へと向ける。

お互いこんな風になってしまってもアランさんは今でも、大切な仲間ですから

その言葉に、ウィキアは目を見開いた。

Shal、あなたは

Shalはナジャのように記憶を改竄された訳でも、ウィキアの様にすべてを掌握されたわけでもない。ただ、価値観をかえられた、それだけだ。飽くまでもっとも大事なものはOlと、彼の与えてくれる快楽。

しかし、だからといって仲間達がどうでも良くなったわけではない。たとえ、その姿が変わり果てようと。

デュラハンは、生まれて初めて戸惑いと言う感情を味わった。彼の周りに現れた、三つの光。それはやはり暖かくまぶしい、彼が嫌悪するものだった。しかし、不思議とその暖かさは不愉快なものではなく何か、不可解な気持ちを、彼に与えた。

ならば、共に滅びるがいい!

主天使は叫び、僅かに生き残った天使達に号令をかける。確かにデュラハンは強敵だ。その上、新たに出てきた三人の娘もそれなりに使える。

しかし、それでもまだ数も質もこちらの方が優れている事を主天使は確信していた。先ほどのように不意を討つような攻撃でなければ勝てるはずだ。

主天使の指揮の元、天使達は一糸乱れぬ動きでデュラハン達に襲い掛かった。槍を持つ力天使達が中距離から相手の動きを牽制し、弓を持つ能天使達が次々と矢を射掛ける。

馬車の行動パターンは既に読みきった。先ほどの攻防から察するに、敵の核となるのはあの僧侶だ。彼女を殺し、防御を打ち崩せば後は順に殺していくだけで良い。そして、一人で天使達全員の攻撃を防ぎきるほどの力も、防げなくなる前にこちらを全滅させるほどの力も、彼女たちにはない。

主天使のその読みは概ね正しかった。

たった一点。馬車の行動パターンを読みきった、という点を除いて。

デュラハンは手綱を取り、縦横に馬車を操った。槍の穂先ギリギリを旋回し、その馬車の身体で矢を受け防ぐ。馬車では防ぎきれない流れ弾を、Shalが的確に魔術で防いだ。

お返しよ

矢を撃ち終えた天使達に、ウィキアは氷の矢を飛ばす。それを何とか中和、回避した能天使達の半身が、ずるりと斜めにずれ、落ちて消えた。

飛ばされた氷の矢の背後に、女剣士ナジャが潜んでいたのだ。彼女は空中で天使に蹴りを入れて跳躍すると、不意を突かれ動揺する天使数人の首を刎ねて地面へと落下した。

落ちる彼女の体を、絶妙のタイミングで馬車が駆け抜け拾う。その隙を突こうとした数人の天使達が、氷の壁に阻まれ槍を取られる。そして、その壁の表面を伝い、デュラハンの放った電撃が天使達を焼き焦がした。

このような事ありえぬ

実力でははるかに勝るはずの天使達が、成す術もなくやられていく。それ自体がありえない、信じがたい光景ではあったが、それ以上に不可解なのが、不死の狂戦士が生者と共に戦い、絶妙な連携を取っている事だった。

かくなる上はこの身滅びようと、滅してくれる!

主天使は錫を取り出し、叫んだ。この錫こそ主天使の力の本髄。神の威光を知らしめ権力を示す王威の錫だ。魔力に溢れ、瘴気の充満するこの迷宮の奥でこんなものを使えば、天使自身がただではすまない。しかしそれでも、主天使は道を切り開く為あえて自ら捨石となることを選んだ。

喰らえ!

錫の先に、膨大な熱量が発生する。中位第一隊、階級第四位の天使の渾身の一撃だ。その力は下級悪魔ローガンの操る炎にさえ倍する。

それを見て、Shalは顔色を変えた。あの攻撃は防ぎきれないどころではない。主天使が命を賭して放たれる一撃は彼女達を纏めて消滅させて余りあるほどの熱量を備えていた。

その時、デュラハンは三人を馬車から振り落とすと、手綱を手繰り馬を走らせた。強烈な閃光の束が彼を貫き、闇で出来た馬車を木っ端微塵に粉々にする。首なし馬が一瞬にして蒸発し、デュラハンの構えた剣ごと彼を真っ二つにした。

しかし、その背後に庇った娘達には、傷一つ与えない。胴から離れた首でそれを見届け、デュラハンは兜の中で口元を歪めた。闇の炎は彼の身体を焼き焦がし、純粋な意思だけを残して燃やし尽くした。残ったのは、圧倒的な絶望と憎しみ。

そして、祈りも希望も、肉欲も嫉妬も何もかも燃やし尽くしたその奥に、ほんの僅かしかし、確かに淡く輝く思いが一欠け、存在していた。

今度は、守れて、よかった。

ごめんな

死者である彼の言葉は、生者には届かない。

しかしそれでも彼はそういい残し、その後に漆黒の兜を残して消えた。

その胸に、ほのかな満足感を抱いて。

無念

主天使は力を使い果たし、どさりと地に落ち、消える。ひとまず敵を殲滅し、ウィキアは安堵の息をついた。

とりあえずは凌いだわね。しばらく待てばデュラハンは自然に蘇る。それまでは無理に防衛せず適度に守れ、との事よ

答えるナジャの声は、妙に震えていた。ウィキアが視線を向けると、彼女は不思議そうな表情でウィキアに問うた。

なあ、ウィキア何でなんだろうな。悲しくもなんともないのにさっきから、涙が止まらないんだ

そうね

ウィキアとShalは、そっと親友の身体を抱きしめ、祈った。

願わくば彼にほんの僅かでも、安らぎが訪れますように。

最終話地を這う者の意地を見せ付けましょう-3

デュラハンが消え去り、押し寄せる天使達の軍勢に三人の娘も撤退し、Olの迷宮はついに第三階層まで攻略された。

重く硬い扉を叩き壊し、第三階層となだれ込む天使達の目の前に、小さな少女が姿を現す。クドゥクの盗賊、Faroだ。

貴様も魔王の手先か

ろくに武器も持たず、たった一人で迷宮に佇む少女に天使は剣をつきつけた。しかし彼女は答えず、まるでからかうようにくすくすと笑みを浮かべるのみ。

貴様、我らを馬鹿に

タン、と音を立てて、Faroに掴みかかろうとした天使が地面に倒れ付した。彼の身体はまるでチーズの様に無数の穴が空き、光となって消える。

敵だ!

一瞬にして天使達は殺気立ち、武器を構えた。クドゥクの少女が敵だという事はハッキリした。が、どうやって天使を殺したのかは全くわからない。

魔術で不可視の矢を放ったのなら、傷は前面に出来るはずだ。しかし、穴だらけにされた天使は左側面に穴が空いていた。しかし、そちらには壁しかない。攻撃など不可能なはずだ。

貴様、よくも!

槍を構えた能天使がFaroに向かって突進する。

馬鹿、迂闊に

他の天使たちが止める間もなく、突き出した能天使の腕がころりと落ちた。

なああぁぁぁぁぁっ!?

天使といえど下界に顕現していれば、その身には神経も通っているし、痛みもある。能天使は肘の先から失われた腕を胸にかかえる様にして叫び声を上げた。次の瞬間、彼の首はスパンと切り落とされ、地面を転がる。

罠だ

その様子を見ていた主天使はようやく、攻撃の正体に気付いた。

この通路一帯に無数の罠が張り巡らされている。アイツはそれを自由に起動できるんだ

よく目を凝らせば、通路のそこかしこにスイッチと思しきものが見えた。最初の天使が死んだ場所も、集中すればうっすらと魔力による力線が見て取れる。それをうっかり越えると、壁から無数の弾丸が射出される仕組みだ。

防備を固めろ! 目を凝らせ! 奴を一刻も早く殺すのだ!

巨大な盾を構えた天使が先行し、壁から射出される弾丸を防ぐ。二番目の天使が切り刻まれた、天井から高速で降ってくる刃は剣を掲げ押し止める。その横を潜り抜け、剣を振るおうとする天使に対してFaroはとん、と壁を叩いた。

途端、上下左右四方向から無数の矢が飛び、天使はハリネズミの様になって死んだ。左側の矢は盾で防げたが、その他の方向は無理だったのだ。

固まれ! 互いに守りあいながら進むのだ!

軽快にダンジョンの通路を進むFaroの後を、天使達は一団となって進む。

Faroは僅かに出っ張った床のスイッチを踏むと、すぐに現れた目の前の落とし穴に身を投じた。逃げ切れぬと悟って自殺したか? と目を見張る天使達の耳に、何か巨大な物が動くような不吉な音が聞こえてきた。

逃げろ!

果たして、前方から物凄いスピードで転がってきたのは通路一杯に広がる巨大な鉄球だった。鉄球はFaroの入った小さな穴の上をそのまま転がりぬけると、天使達を跳ね飛ばしながら押しつぶした。

逃げ出した天使達の何人かは、先ほど避けた刃や弾丸、矢の罠に再度引っかかって命を落とす。鉄球は十数人の天使の命を奪って、ようやくその動きを止めた。

ふざけおって!

動きの止まった鉄球を粉々に砕き、主天使が激怒した。

その首、叩き落してくれる!

怒りに任せ、主天使は全身を理力で包み込み、Faroに向かって突っ込む。多少の被弾は覚悟の上だ。全身に巡らせた防御の術と速度で、多少のダメージは何とかなる。あっという間にFaroに肉薄し、目を血走らせて剣を振り上げる主天使に対して、Faroはかかとでこんこんとスイッチを押した。

瞬間、地面の一部がバネで弾かれ斜めに持ち上がり、主天使の身体を後ろに跳ね飛ばす。跳ね飛ばされた先で壁が柱の様に飛び出し、主天使の身体を押しつぶす。柱に潰され固定された彼の頭に、その中にたっぷりと濃硫酸の入った壷がすっぽりと被せられた。

!! !! !!!!!

声にならない声をあげ、壷を外そうと引っ張りながら主天使はヨロヨロと通路を歩く。その足が、床から少し上の位置に張られた縄を引っ掛けて、高速回転する丸のこが彼の首を切り飛ばした。

余りの凄惨さに言葉を失う天使達を置いて、Faroはさらに迷宮の奥深くへと向かう。

そこまでだ

その行く手を、天使達が阻んだ。

後ろを振り向くFaroの視界に、追いついてくる天使達の姿。彼女は前後を完全に挟まれていた。回り道し、挟み撃ちされたのだ。

慌てて横道に逃げ込む彼女を追いかけながら、天使達はニヤリと笑った。そちらの道は行き止まりで、罠もないことを既に確認していたからだ。

その道の奥、袋小路の大部屋で少女は観念したように天使たちに向き直った。万一にも逃げられぬよう出口を固め、天使達は剣に槍、弓を構え少女ににじり寄る。

オン

そこで、Faroは初めて口を開き、そう言った。その言葉自体には大して意味はない。

ただの、召喚呪文の一節完成間近で止めていた呪文の、最後の一節だ。彼女自身は殆ど魔力を持っていないが、魔力も瘴気もこのダンジョンの中にならどこにでも豊富にある。呼ぶだけなら彼女でも丸暗記した呪文で十分に可能だった。

な!!

目の前にある光景に言葉を失ったのは天使達だけではない。呼び出された悪魔達も同様であった。召喚を受けてどんな魔術師が呼んでいるのかと顔を出してみれば、彼らの行動を制限する魔法陣の類は一切なく、代わりに目の前には不倶戴天の敵天使たちだ。

否も応もなく、激しい戦いが始まった。悪魔には契約もせず、命令もされていない事をする義理は全くない。彼らを縛る魔術師がいないのならこれ幸いと逃げ出して、適当に人間を騙し殺し魂を奪い取ってしまえばいい。

しかし、目の前にいるのが天使ならば話は別だ。彼らは悪魔を見逃すような事はしないし、悪魔にも彼らを見て戦わないなどと言う選択肢はない。何せ数千年以上に渡る天敵同士なのだ。

怒号と怨嗟の声が響き、炎が渦巻き、刃が舞い、稲妻が轟き、矢が飛び交った。数十分続いたそれが完全に鳴り止んだのを確認して、Faroは隠し扉の影からそっと顔を出す。するとちょうど、相討ちの形で互いに胸を貫かれた主天使と下級悪魔が消えて行く所だった。

悪魔と天使は互いに正逆。互角の力を持つものたちだ。この部屋は入った天使達と同数、同等の悪魔を呼び出す。殆どコストをかけず、天使を殲滅するための罠だ。

Faroは身軽な動作で小さな隠し部屋から抜け出すと、次の得物を求めて迷宮の通路へと消えていった。

その頃、地上もはや上空と形容する方が相応しい、迷宮入り口の街Olタウンでは、天使と冒険者達が入り乱れ、乱戦の様相を呈していた。

明確な階級制度を持ち統率を持って戦いに当たる天使達に対し、元々冒険者達は統率など欠片もないならず者の集まりだ。乱戦はむしろ得意とする所である。勿論冒険者達も少なくない犠牲を出してはいたが、数で圧倒的に上回る天使達を相手にかなりの善戦を見せていた。

そんな中、特に気炎を上げているのは現役の冒険者達ではなく、店の主達Olタウンを作り上げた商人達だった。

おおおおおおおッ!!

獣のような咆哮と共に大斧を振るうのはオックスの酒場の主ことダルト・オックス。彼が斧を振るうたびに天使達は両断され、輝く光の粒子となって消えていく。

その大柄な身体に隠れるようにして呪文をつぶやくのは宿を営む老婆、マーサ・モーリス。

ヒッヒッヒッヒッお死去日おめでとう!

彼女が禍々しく呪文を口にし、その枯れ枝のような指をさすと天使達は黒い霧に蝕まれ、まるで藁の塊のようにバラバラに崩れ去った。

唇に囁きを

その隣で聖句を紡ぎながら槌矛を振るうのは教会の僧侶、マディ・カント。

胸には歌を

神に仕える身でありながら、その攻撃には微塵の容赦も躊躇いもない。

心には祈りを

なぜなら彼が信じるものは、たった一つ。金だからだ。

そして彼のものに救いを与えたまえ!

聖句の成立と共に、天使の一団が一瞬にして灰と化し、消滅した。

お前さん、そんな攻撃魔術なんか使えたのか! 大した威力だな

驚いて声を上げるオックスに、にっこり笑ってマディは答えた。

なぁに、ただの蘇生魔術ですよ

死んでもこいつには蘇生を任せないようにしよう。オックスは心の底から、そう誓った。

そこから少しはなれた場所で、ノームは杖を振るっていた。彼女の身の丈ほどの長さの杖を両手に二本持ち、彼女は縦横にそれを振るう。その先からは炎の弾が飛び出し、天使達に当たるや否や爆発を起こし、周りの天使達を巻き込んで燃やす。

それは彼女が扱う中でも最高級の呪具。魔術を扱えないものでも振るうだけで火炎弾を飛ばすことの出来る杖だった。一発金貨一枚に相当するそれを惜しげもなく振るい炎の華を咲かせながら、彼女はOlに送る請求書の金額を思い浮かべた。

雄たけびを上げ襲い掛かってくる天使に魔力の切れた杖を投げつけ、三本目、四本目を取り出して火炎弾を放つ。しかし、その炎の中を一際強く輝く天使が突き抜け、剣を振りかざした。

間に合わない。

一瞬死を覚悟して見開かれたノームの瞳に次の瞬間映ったのは、首が胴から離れ消えていく天使の姿だった。

腕は衰えていないようですね、無音のキース

光の粒子となって消えていく天使の背後にあった姿を認め、ノームはほっと安堵の息をついた。とりあえずは天使の一団は殲滅できたようだ。

その名で呼ぶのはやめてくれ

キースはばつの悪そうな表情でそういった。

後ろ暗い過去を持つものたちの中で、その名を聞いて震えぬものはいない。音もなく近づき、音もなく殺す。ついた二つ名が無音。以前の彼は、音に聞こえた暗殺者だった。人相も性格も何もかも違うが、ノームだけはそれに気付いている。

音に聞こえた無音、なんざ駄洒落にもならねえ。暗殺者が名を知られるなんざ未熟な証拠だ。それに、今の俺はただのキース。Olタウンの胡散臭い案内役さ

彼にもまた、知られたくない過去と、それを抜け出しただけの理由があったのだろう。ノームはそれを聞こうとはしない。彼女もまた、同じような事情を持っているからだ。

彼らだけでもない。この街の誰もが、そうだ。ならず者のろくでなし、最低最悪のごろつきが集まる街、Olタウン。そんな街を多分、彼らは愛しているのだ。

それより、とキースは彼方に視線を向けた。その視線を追うと、こちらを目指して翼をはためかせる新たな天使達の姿が見えた。そして、その背に乗る、天使達とは異なる白い影が。

ようやく本気になったみたいだな

キースは呟き、声を張り上げた。

野郎ども! いよいよ敵さんの本隊の登場だ!予定通り、全力でいくぞ!

おお!!

威勢よく返す冒険者達に、キースは叫んだ。

全員

逃げろぉぉぉぉぉぉ!

最終話地を這う者の意地を見せ付けましょう-4

暗い迷宮の中を、白一色の一団が歩いていく。

前衛に鉛と竜殺し、そして不死身。後衛には槍を持つ無明と弓を持つ魔弾が続く。英霊5人。無数の天使達を派遣して尚落とせぬ難攻不落の迷宮に、メリザンドはついに業を煮やし、切り札ともいえる彼らを繰り出した。

最短ルートで一気にいくぞ。無明、道案内頼んだぜ

不死身の言葉に、無明はこくりと頷いた。どれだけ迷宮が複雑に入り組んでいようと、罠が仕掛けられていようと、千里を見通す無明の前には無意味だ。彼は既にOlの迷宮の最奥、ダンジョンコアの存在まで完全に看破していた。

だが最短は、無理だ

続く無明の言葉に、不死身は首を傾げる。英霊が5人もいれば、避けるべき敵などいない。罠も魔物も踏み越えて進むつもりの不死身に、無明は無言で前方をさした。

ゴブリン?

英霊達に向かって突進してくる小鬼の群れに、鉛と竜殺しが無造作に剣を振るう。それだけで十数匹の小鬼たちは即座に絶命した。

これがどうしたってんだ?

この程度の相手、英霊達にとっては障害にもならない。不審そうに眉をひそめる不死身に、無明は短く答えた。

来る

彼がそう呟いた瞬間、無数のゴブリン達がどっと押し寄せた。

なんだこりゃ!?

思わず不死身は叫んだ。十匹や二十匹などという数じゃない。文字通り通路を埋め尽くすくらい大量の小鬼達が、折り重なるようにして怒涛の勢いで彼らに迫っていくのだ。

いや、待て、ちょっと待て!?

慌てて不死身は剣を振るうが、ゴブリンを殺しても天使や悪魔のようにその身体は消えるわけではない。その死体を踏み越え投げつけ蹴り飛ばし、ゴブリン達は血走った目で英霊達に津波のように迫りそして、通り過ぎた。

な?

あれは、不味いな

間抜けな表情で通り過ぎていく小鬼達を眺める不死身に、竜殺しが重々しい声で言った。

小鬼達の背後には、通路一杯を埋め尽くす、巨大な粘液状の生き物スライムだ。それが、逃げ遅れたゴブリンを飲み込みながら、かなりの速度で英霊達に迫ってきていた。

竜殺しが剣を振るい、魔弾が矢を放つ。スライムは真っ二つに切り裂かれ、無数の穴を穿たれるが、一瞬にしてその傷は修復された。

迷宮を壊すつもりでやれば消せるかも知れんが、どうする

重々しく、しかしどこかからかうような響きを含んだ言葉で竜殺しは尋ねた。

冗談じゃねぇ、そんな事したらこっちまで生き埋めだろうが!無明! さっさと逃げ道を案内しろ!

これだから自我のない英霊は扱いにくいんだ。不死身はそう内心で愚痴りながら、無明の後ろをひた走る。彼らは基本的に命令された事以外をしない。報告も端的で的を射ない事が多く、多少反抗的でも鉛や竜殺しの方がまだマシだ。

そんな事を思いながら通路を走る彼らの前に、突如として天井が落ちてきた。咄嗟に身をかわし圧死は免れたが、英霊達はどうやら壁で分断されたようだった。

おい、無明! 罠はちゃんと確認してたんじゃないのか!?

これは罠ではない。迷宮が

壁越しに聞こえた無明の声が、ずんという振動と共に完全に聞こえなくなる。

敵の胃袋の中ってわけか

不死身は舌打ちした。この迷宮自体が魔王Olなのだ。何の仕掛けがなくても、ある程度はその中身を操れるのだろう。

いいだろう。どっちにしろ一人の方がやりやすいってもんだ

不死身は呟き、一人迷宮の奥へと歩みを進めた。

分断された、か

目の前を遮る壁を睨み、竜殺しことウォルフは呟いた。

元より一人で戦うことをその旨とする英雄達だ。むしろ群れる事の方に違和感があったので特に異存はないが、道を見ることができる無明と離れた事だけは少し手痛い。指揮官がいなくなった以上、自我の無い英霊はまっすぐにOlの元へと向かうだろう。

先に辿り付かれ、殺されるのは少しばかり面白くない。

とは言え木偶人形に殺される玉でもなし、か

いずれにせよ、今の彼に出来る事は聖女の命に従い魔王の元を目指すことだけだ。襲い掛かってくる無数の魔物達を無造作に切り捨てながら、彼は悠々と迷宮の通路を突き進んだ。

最強にして最古の竜メトゥスを倒したウォルフは、いかなる竜よりも強い。これはもはやただの戦闘能力の差ではなく、この世の法則となった。竜殺したる彼は、いかなる竜も一撃で殺す事が出来、いかなる竜からも傷を受けることは無い。この法則は、距離にも数にも左右されず、竜の姿を見ることさえ出来ればどんな時にも適用される。

そして、地上最強の種である竜より強いということは、地上のいかなる存在よりも強いということでもある。流石に竜以外も問答無用で殺せると言うわけではないが、純粋な戦闘能力で彼はあらゆる敵を圧倒し、屠る事が出来た。

しかし、それにも唯一、例外と呼べる相手がいる。

目の前で土を纏い、形作られる姿を見上げ、ウォルフは愉快げに声を上げた。

お互い死してなお戦わされるか。さても難儀な事だな

ウォルフはメトゥスの死骸を見上げ、剣を抜きながら獰猛な笑みを浮かべた。

魔弾人であった頃の名をレックスという彼は、己が根底に根ざした命令に基づき、迷宮をひた走っていた。敵があればそれを射殺し、魔力の流れを逆に辿って最深部を目指す。

その動きは生前の英雄であった頃と比べてもなんら遜色なく、むしろ勝るほどのものではある。しかしその目に生気は宿らず、ただただ冷徹に彼は目的に向かってひた走る。

だから、迷宮の一室が突然木に覆われ、森のようになっていてもそれを全く気にかけようとはせず、彼は無造作にそこへ足を踏み入れた。生前の彼であれば、その森の美しさに目を奪われ、あるいは迷宮にそんな場所があることを不審に思っただろう。

途端、飛んでくるのは無数の矢。高い天井をぎっしりと覆うように飛来したそれを、魔弾は一瞬にして全て撃ち落した。同時に、敵の存在を感知して臨戦態勢へと入る。

ようやく会えたな、魔弾よ

どこからともなく声が響く。魔弾はその声の出所を慎重に探り、周囲を見回した。しかし、英霊といえども森に隠れたアールヴ達を見つけるのは容易な事ではない。

先日の雪辱今ここで、倍にして返させてもらうぞ

闇の中目を光らせ、エレンはそう宣言した。

よお、大将。アンタ自我あるんだっけ?

分断され、一人迷宮の道を進んでいた鉛ことザイトリードは、軽薄な調子でそう声をかけてくる男の姿に足を止めた。

その男の姿には、よく見覚えがある。ニヤニヤとした笑みは酷く似合っていなかったが、見間違えるはずもない。その男は、ザイトリード自身だった。

悪魔か

ザイトリードは剣を投げ捨て、両の拳を構える。

ご名答。なんだ、父ちゃんにでも聞いたか?

同じような動作で、ローガンは拳を構えた。赤と白。お互いに同じ顔をした、しかしけして相容れぬ二つが互いに向かい合う。

俺の身体、返してもらうぞ

幼女100人と交換だったら、検討してやってもいいぜ

へらへらと答えるローガンにザイトリードが吐き捨て、直後、二人は激突した。

無明は一人、迷宮の最短経路を突き進んでいた。時折迷宮の構造が変わるのが厄介ではあったが、どこでも無制限に変えられる訳でもないらしい。少なくとも、奥に行く道を全て塞いでしまう事は出来ないようだった。

他の英霊達は全員、何らかの敵と戦っている。敵はこちらを分断し、各個撃破するつもりのようだった。彼の行く手にもまた、敵が用意されている。敵はたった四人。四人とも女のようだ。

確かに多少は戦えるようではあるが、英雄とは比べるべくもない。一対四だろうがそれほど苦労せず勝てそうな相手だ。彼は槍を構え、敵の待ち構える部屋へと足を踏み入れた。

罠や援軍の存在も感じない。飛んでくる魔力の矢を槍で叩き落しながら、彼は一歩足を踏み出し、蹴りを放つ。その一撃で飛び掛ってきていた女剣士の剣が吹き飛び、彼女は地面を転がった。

流れるような動作で槍を振り回すと、後ろから忍び寄ってきていた盗賊を石付きで跳ね飛ばしながら、後衛で防御術を張ろうとしている僧侶へと槍を振り下ろす。

まずは防御役を潰し、次に盗賊、剣士を突き殺し、魔術師。無明の瞳は、闇の中から全てを見通す。それは単に遠隔視だけを可能にしているわけではない。それが例え光一つささぬ暗闇だろうと昼日中と同じように見通し、相手の筋肉の動きの一つ一つも精確に把握し動きを予測する。

だから、彼にはそれが見えなかった。

己の胸に突き刺さる剣の感触と、全身が焼け爛れる匂いに無明は一瞬混乱する。その攻撃は、彼が全く感知できない領域から放たれたからだ。

どんな暗闇であろうと見通す、という事は、言い換えれば彼は闇を見ることは出来ないという事でもある。

戦士三人、盗賊、僧侶、魔術師って、そりゃあオーソドックスなパーティだけどさ。6人中2人が亡霊って、どうなのさ

Faroは蠢く闇の塊デュラハンと先生を見ながら、そうボヤいた。

最終話地を這う者の意地を見せ付けましょう-5

暗く深い迷宮に、剣戟の音が鳴り響く。

無明は槍を振り回すと、ナジャの剣を弾き、同時にウィキアの放った氷の矢を叩き落した。同時に飛来するFaroの矢を軽々とかわし、Shalの張った防御膜をものともせずにナジャの肩口を貫いた。

しかしそこに、先生の剣が無明の腕をすり抜け、デュラハンの剣が足を捕える。

勝てる。ウィキアは背後にナジャを治療するShalを庇いながら、そう確信した。

Olが言うには、無明は後天的に英雄になった珍しい例であり、それゆえに素の身体能力はそれほど高くないらしい。何度もの攻撃を受けてなおその動きは些かも衰えず、防御魔術も気休めにならぬほどに鋭い攻撃。

どこがそれほど高くないなのか、と文句を言いたいところではあったが、他の英霊ならばそもそも初撃でShalは死んでいる。それどころか斬撃を飛ばし、ウィキア達4人をまとめて斬り殺すくらいの事はやってのけると聞いて、ウィキアはその無茶苦茶さに呆れた。

本来ならば、一流とは言え冒険者ごときが相手にしていい存在ではない。文字通り化け物を越えた化け物だ。

しかし、無明は初めて出会う見えぬ相手に相当戸惑っているようだった。先生はその手に持つ剣までが全て霊体だ。それゆえに物理的な傷は与えられないが、その剣で斬りつける度に無明の身体を構成する理力を削り取り、その力を萎えさせて行くのが見て取れる。

そしてアランデュラハンの魔術自体は見ることが出来るようだが、流石に光の速さで走る雷撃は避けきれない。ましてや、攻撃の際にカウンター気味に放たれるとなれば尚更だ。

Faroとウィキアが牽制を行いながら、ナジャは防御に徹し壁となり、Shalがすぐさまそれを回復する。そしてその攻撃の隙を突き、先生とデュラハンがダメージを与える。6人の動きは完全に噛み合い、ゆっくりと無明を追い詰めていく。

数度目の攻撃を受け、それまでよどみなく動いていた無明は槍を横に構え、ピタリと動きを止めた。これまでとは異なる動きに、ナジャ達は警戒し、動きを止める。しかし先生はそれを隙と捉えたのか、剣を振りかぶって突き進んだ。

先生、駄目だ!

嫌な予感に突き動かされ、ナジャは叫んだ。根拠は全くなかったが、今の無明に近付くのは危険だと、彼女の本能が訴えていた。

そして、こういう時の彼女の勘はよく当たる。

先生は正確にその胸を槍に貫かれ、消え去った。ガランという音と共に、スリットのない兜が地面を転がる。

無明は露わになったその双眸で、しっかりとデュラハンの姿を捉えていた。

そのまま鋭く振るわれる槍を、デュラハンは辛うじて剣で逸らす。それはある程度ダメージを与え、無明の動きが鈍っていたからこそ可能な事だった。

デュラハンの姿を認識し、前衛を一人失った冒険者達は一気に劣勢へと追い込まれた。狭い部屋の中にも関わらず縦横無尽に閃き、常に先手を打つ槍の攻撃に反撃はおろか防御するので手一杯だ。

鋭く急所を狙い伸びる槍を防ぎながら、ナジャは死の覚悟を固めた。逃げようとすれば、即座にその動きを察知され、殺されるだろう。

三人とも、逃げろ。私とアランで何とか食い止める

槍を己が身に受けがっちりと掴めば、数秒は稼げるはずだ。

待って

一歩前に踏み出す彼女を、ウィキアが止めた。

ウィキア。これ以上は無理だ。無駄に

いいえ。勝つわ

確固とした声色で答えるウィキアに、ナジャは瞠目する。こちらの策が破れ、もはや打つ手はない。そういった状況に一番弱いのが彼女だということをナジャはよく知っていた。見下していたわけではない。そういう時こそ判断を下すのが、自分の仕事であると思っていたのだ。

ウィキアは息を整え、無明を睨み付けた。激しく鼓動する動悸を抑え、手に張り詰めた緊張をほぐす。これよりも、遥かに深い絶望を彼女は味わったことがある。絶対に敵わぬと悟り、それを骨の髄まで思い知らされたことがある。

それに比べれば、この相手のなんと容易い事か。

ウィキアは意識して、不敵に笑みを浮かべて見せた。

敵は自我を持たない英霊だ。こだわりもなく、迷わず最善手を打って来る。そんな相手が追い詰められるまで兜を脱がなかったのだ。しかも、その兜にはご丁寧に視界を確保するためのスリットすらないと来ている。単純な防御面以外に、何か理由があるはずだ。

ナジャ。Shal。命を私に預けてくれる?

ナジャは力強く、Shalは軽やかに、迷わず頷く。

Faroは

はいはい。まあ、付き合ってあげる

溜め息をつき、Faroは弓矢を構えた。ウィキアの視線の先で、デュラハンが剣を構える。彼には言葉は通じない。しかし、意図を汲んでくれているという確信がウィキアにはあった。

チャンスは一度。読みを外せば全員命はないし、タイミングを外してもアウトだ。

隙を作る。あわせて

閃光の様に突き出される槍を、デュラハンはあえて受け、それをつかむ。ウィキアは呪文を紡ぎ、その意を察してShalが聖句を紡ぐ。Faroは矢を放ち、同時に弓を捨てて短剣を引き抜き、駆ける。

無明は槍を手放し、腕を掲げ槍を再生成する。それと同時に振り下ろされる斬撃を、ナジャが剣を横に構え防ぐ。そこで唇の動きからウィキアの意図をようやく察した無明が、槍を彼女に向けた。

しかし問題ない。Shalかウィキア、どちらかが生き残ればこの手はなる。呪文を続けながらも己に向かって突き進む槍を凝視し、ウィキアは覚悟を固める。その一撃を、虚空に浮かんだ白い腕がつかんだ。腕は瞬く間に増え、無明の動きを一瞬止める。先生の指揮下の亡霊だ。

その一瞬で、魔術は完成した。Shalと同時に魔力を解放しながら、ウィキアは叫んだ。

今よ!!

世界が、閃光に包まれる。眩い光の中、Faroが無明の脚を引き裂き切り倒し、デュラハンが防御に引き戻される槍を掴み、ナジャが兜を脱いだその首めがけて、両腕で剣を思いっきり振り切った。

勝った

閃光が収まり、チカチカと明滅する視界の中、ウィキアはその場に崩れ落ちた。首を刎ねられた無明の身体が光の粒子となり、消え去る。

兜を脱いだ無明は、見えすぎるのだ。どこまでも見通せるから、閃光は何倍もの量となって彼に襲い掛かる。今度は賭けに勝った事に安堵し、極度の緊張が解けたウィキアは意識を手放した。

雷鳴がとどろき、剣戟の音が飛び交う無明達の戦いとは裏腹に、魔弾とエレン達の戦いは殆ど音もなく行われていた。

アールヴ達は足音一つ、木の葉の擦れる音さえ立てず森を移動できる。常にその枝の上を飛び交いながら放たれる矢は正確無比にして感知不可能。並みの相手であればすぐさま全身に矢が突き刺さり、死ぬ運命しか残されてはいない。

しかし、残念な事に相手は並みどころか、超一流を自負する彼女たちさえ凌駕して余りあるほどの腕の持ち主であった。

不安定な足場であるにも拘らず魔弾は気にした風もなく縦横無尽に駆けた。流石にアールヴ達の居場所は捉え切れてはいないようだったが、襲い来る無数の矢を軽々とかわし、あるいは迎撃する。アールヴ達の矢はその身には一本足りとて届いていなかった。

手を取り合い、協力して戦いに挑む黒アールヴと白アールヴ、総勢100名。たった一騎で10万の兵に当たるとはまさしく化け物だ、とエレンは歯噛みした。

戦いの中でわかったのは、二つ。魔弾は射た矢が百に分かれることと、それら全てが恐ろしく正確に突き刺さることだ。

百発百中の自負を持つエレンではあるが、流石に相手が一発百中となれば分が悪い。その結果、アールヴ達は森に隠れながら牽制を繰り返し、相手はそれをかわしながらもアールヴを見つけきれないという膠着状態に陥っていた。

エレン、気をつけてください。相手の動きがおかしいです

セレスがエレンに囁き、注意を促した。言われてみれば確かに、魔弾の動きはおかしい。矢を避けるだけにしては、動きすぎている。

しまった、奴の狙いはこの森だ!

いつの間にか木々につけられている傷を見つけ、エレンは叫んだ。この傷は、的だ。

気付いた時には、もう遅い。

魔弾はその弓に十の矢を番え、千の矢を放つ。木々は見る間に倒れ、吹き飛ばされ、アールヴ達の姿は魔弾の前に露わとなった。

即座に魔弾は二の矢を番えると、彼女達に向けてひょうと放った。その矢は狙い違わずアールヴ達の左胸に突き刺さり、一人残らず地面に倒れ伏した。

動くもの一つなくなったその場を、魔弾はゆっくりと歩み去る。

その行く手を、突然木が立ち上って遮った。瞠目し、慌てて跳び退ろうとする彼の背中をぐいと大木が押し、その手足を絡めとりながら木々は見る間に成長していく。見る間に、彼の姿は木々の牢獄に完全に捕らえられた。

さて、白アールヴの姫君は健在か? 彼女は少々胸が小さいから心配だが

あなたと一寸も変わらぬでしょうっ!

言い争いながら、黒と白の美姫は立ち上がり、その胸から矢を引き抜いた。先端には僅かに血がついてはいるものの、心臓には達していない。その配下の者たちも続々と立ち上がり、胸に突き刺さった矢を投げ捨てる。服に空いたその傷口からは、光り輝く胸当てが覗き見えていた。

ドヴェルグどもの胸当て、なるほど薄く軽く硬い。あの小人達への評価も見直さねばならぬかも知れんな

白と黒。不倶戴天の敵とすら和解した彼女達は、ドヴェルグへの態度をも多少の軟化を見せた。エレンが手にする素晴らしい弓が、彼らの手によるものと知れれば尚更だ。

魔弾よ。貴殿の弓の腕、まさに天下一だ、認めてやろう。だが、貴様の弓は正確に過ぎる。外れた矢の事など気にも止めなかったのだろう?

アールヴ達の射た矢の半分以上は、生木をそのまま使ったものだった。森の中であれば、アールヴは全ての植物を操り、成長を促す事ができる。そして、正確な射撃ほど容易く防げるものもない。どこに撃ってくるかわかっているのだから。

出来れば貴殿とは、生あるうちに弓を競いたかったよ

そういい、エレンの射た矢は正確に魔弾の眉間を貫いた。

最終話地を這う者の意地を見せ付けましょう-6

おおおおおおっ!!

うおおおぉぉっ!!

音の同じ、しかし異なる雄叫びが響き渡り、拳と拳が激突する。その衝撃は空を伝わり、周囲の壁や天井をみしりと歪ませ、球形のひびを走らせた。

赤と白。相対する同じ顔の男は、人知を遥かに超える速度で動き、その豪腕を振るう。その度に周囲には風が渦巻き、破壊を撒き散らした。

互いの膂力、速さ、身のこなしはほぼ互角。一撃加えれば人を即座に粉々にできるほどの威力を縦横に振るいながら、ローガンとザイトリードは互いに致命傷を避け、果て無き戦いを繰り広げていた。

その動きに、ザイトリードは内心舌を巻く。その力は間違いなく己の身体によるものだ。しかし、それをこれほどまでに使いこなすとは、中の悪魔もおよそ見くびれる相手ではない。

悪魔よ。貴様、名をなんと言う

悪いが幼女以外に名乗る名前はねぇっ!

ローガンは先手を打ち、全身のばねを使って突進すると前蹴りを放った。単純なその攻撃も、ザイトリードの筋力を使えば矢よりも早く槍より重い一撃となる。ザイトリードは半身になってそれを背にするようにかわすと、そのまま左腕をしならせ裏拳をローガンに放った。

ハンマーの如く空を切り裂くそれを、ローガンは上半身を前に倒してかわし、そのままの勢いで廻し蹴りを放った。それを喰らい、膝を落とすザイトリード。しかし、彼はそのまま足を伸ばすとローガンの足を払った。

鋼の棒のような蹴りに足を払われ、地面に倒れこむローガンにザイトリードは全体重をかけた肘打ちを追い込む。それを両手で受け止めるローガン。しかし、彼の無防備になった腹をザイトリードはもう片方の腕で渾身の力を込めて殴りつけた。

ぐっ!

呻き声をあげながらも、ローガンはお返しとばかりに彼の側頭部に膝蹴りを放つ。たまらずザイトリードは地面を転がり、距離をとった。

なかなか、やるじゃ、ねぇか

息を整えながら、ローガンはぼやく。認めたくはないが、ザイトリードもまた同感だった。

だが!

ローガンはあえて、先ほどと同じように踏み込み、蹴りを放った。幾ら早く鋭い攻撃といえど、同じ手であれば簡単に対応できる。ザイトリードは僅かに身体をそらし、最低限の動きでそれをかわすとカウンターをローガンに叩き込もうとした。

その瞬間、彼の全身がいきなり燃え上がる。全身を焼く地獄の業火に、ザイトリードは慌ててその能力を用い、火をかき消した。その鼻面に思いっきりローガンの一撃が決まり、ザイトリードは吹き飛び、壁に叩きつけられる。

やっぱりその鉛の力使うのに一瞬、溜めがいるみてぇだな

ニヤニヤと笑みを浮かべ、ローガンはそう言った。

生前はあらゆる魔術を受け付けなかったそうだが英霊になり、それはあらゆる術を打ち消す能力に取って代わった。一見他者にも使えるようになって能力が強くなったように見えるけどよ。そいつは間違いってもんだ。英雄はその人生で魂を磨き、英霊になる

ぽんぽんと炎を生み出し、それをお手玉の様に弄びながら、ローガンはザイトリードを見下ろした。

お前さん、磨き方がちょいと足りなかったみてぇだな。正直、生前の方が強かったと思うぜ

それは、人の魂を何百年と見続けてきたローガンだからこそわかる事だった。

目の前の英霊は、最後の最後で己を裏切り、道を違えた。その後悔が彼の魂を曇らせ、弱くしているのだ。

悪魔よ。お前の、言う通りだ

ザイトリードは自嘲気味に笑みそして、ローガンを見据えた。

感謝しよう。貴様と出会えたことを。そして

ザイトリードは身体を起こした。思えば、彼の人生は周りを否定して生きてきたものだった。魔術を否定し、敵を否定し、あらゆる物を破壊して生きてきた。偉大すぎる父王の威光を嫌い、しかし逆らう事もできず反発しながらも妹を殺し、妻を殺した。

その結果がこの様だ。悪魔の言葉は彼の耳に痛く響き、痛快に彼の心を殴り飛ばした。

俺の目を、覚まさせてくれた事を

もう、否定はしない。思うとおり、自ら信じた道を進む。自らに与えられたもの、持つもの全てを肯定して。

目の前でザイトリードの姿が掻き消え、彼はローガンの首を掴んだ。そのまま己とそっくり同じだけの大きさを持つ彼を、まるで薄絹でも振り回すかのような軽さで持ち上げ、壁に叩きつける。

がっ!

そのまま壁に擦り付けるようにロ-ガンの身体を引き摺り、壁に丸い一文字の溝を掘り抜いて投げ飛ばした。

ローガンは炎の塊を牽制に飛ばしながら空中でバランスを保ち、距離を取る為に空に浮かび上がる。しかし、ザイトリードはそのすぐ目の前に現れると彼の手首を取って天井に叩きつけ、その反動を利用して一気に地面へと振り下ろした。

分厚い石畳が砕け散り、床を突き破ってローガンは一階下まで吹き飛ばされた。ザイトリードの肉体の頑強さはその攻撃にさえ耐えたが、流石に全身の骨がバラバラに砕け散る感覚があった。

おい、さっきから迷宮を破壊しすぎだ

うるせえ、相手に言え! なんなんだよ、ありゃあ!

Olから入る念話に、ローガンは怒鳴り返した。常軌を逸した速さと力。恐らく彼は、法則を無効化したのだろう、とローガンは考えた。空気抵抗や重力。そう言った法則さえ無視できるようになったのだ。余計な事を言わなければ良かったと後悔するが、それはもう遅い。

上階の天井から、一気に加速して止めを刺しに来るザイトリードの姿がローガンの瞳に映る。自分の戦いはここまでだ。後はOlが何とかするだろう。そう考えたローガンの頭に、再度念話が届いた。

ろーがん、かったらね

それは、彼が愛して止まない天使の囁き。

ちゅーしたげる

うおおおおお!

ローガンは思わずガッツポーズを取り、がたっと立ち上がる。勿論、彼が宿るザイトリードの肉体は動けないから、そこから抜け出したローガン本人の身体だ。

そして、それが偶然、ザイトリードの突進に噛み合った。速度をつけた必殺の一撃。それにカウンターの形で突如突き出た赤い腕に、ザイトリードは己の力を受けて吹き飛んだ。

あ、あれ?

勿論ローガンの腕も無事では済まずぐちゃぐちゃにひしゃげたが、半身を砕かれ転がるザイトリードに比べれば随分軽症だ。

とりあえずローガンは転がるザイトリードの英霊をその身体に押し込み、ぐるぐると縛りつけた。魂は半分砕かれ、肉体も全身骨はバラバラ。流石の英霊もこれならそう簡単には復活しないだろう。

まあいいか! おっしゃーマリーのちゅーだ!

あまりにもあまりな結末は深く考えない事にして、炎の悪魔は能天気に快哉を叫んだ。

むぅん!

気合を入れて放った斬撃は、巨木の様に太い竜の前足をスッパリと切り落とした。しかし、その傷はほんの一呼吸ほどピタリとくっ付き、消え去る。

これは厄介な相手だ。

振るわれる爪の一撃を交わしながら、英雄王ウォルフは一人ごちた。

竜の遺骸などと言うものは、それそのものが凄まじい密度を持った魔力の塊に等しい。角、爪、鱗、瞳、血、臓腑に至るまで、体中全てが濃密な魔力を持ち、神秘で出来ている。

ましてやそれが最古の竜メトゥスであり、魔力と瘴気に溢れたこの迷宮であれば放っておいてもその身は瘴気を取り込みアンデッドと化す。

しかし、そうであってもウォルフの敵とは呼べぬはずだった。何せこちらは英霊として生まれ変わった身。死ぬ直前のウォルフは天命を背負い、死すべき定めの代償として己の領分をはるかに越える力を振るい、メトゥスを倒した。

今のウォルフはその時に匹敵する程の力を持っている。若く強い全盛の頃の肉体と、老成し円熟を極めた精神。そして最古の竜を殺すほどの覇気。勿論、英霊である彼は瘴気渦巻くこの迷宮内ではその力を十二分には発揮できないし、相手にとってそれは正逆。不利は承知の上だ。

それでも尚、彼にはただ瘴気を吸い蘇っただけのメトゥスになら容易く勝つ自負と、能力があった。しかし。

メトゥスは素早く爪を振りかざし、ウォルフを切り裂かんと振り下ろす。側面に回りながらそれをかわし、一撃を加えようとするウォルフに、爪を振るった勢いでメトゥスは彼に尻尾をたたきつけた。

剣を一閃、尻尾を切り落としてそれを防ぐウォルフ。しかし、メトゥスは尻尾をピタリと止め、尾を再生させた。尾の断面から無数の触手の様なものが伸び、互いに絡まりあってウォルフを捕らえ、押しつぶそうとする。

高く跳躍しその隙間から抜け出すウォルフの目の前に、ぐるりととぐろを巻くようにして身体を丸めたメトゥスの顔があった。大きく開かれたその口の中から、猛毒の吐息が吐き出される。その毒性の強さに、壁が溶け、石畳がぐつぐつと煮えるかのように泡立った。

ウォルフは身体の表面を毒に冒されながらも何とかそれをかわす。

死から蘇ったメトゥスは、明らかに生前よりもその凶悪さを増していたのだ。硬い鱗を備えた肉の代わりに骨を覆う土は柔らかく容易く切断できるが、すぐに再生してしまう。

その吐く息の毒性ははるかに強力になり、石を溶かし英霊さえも冒す。

そして何より厄介なのが、その戦い方だ。幾ら再生能力があろうと、強力な武器を持とうと、その核となっているのはメトゥスの骨だ。骨さえ全て砕いてしまえばメトゥスはただの土くれに戻る。

しかし、両脚や牙、尻尾を縦横に操り、己の再生能力さえ武器として振舞うその戦い方に、ウォルフほどの英霊を持ってしても攻めあぐねていた。

その動きに、ウォルフはただの亡者ではなく、何らかの生き物の魂を感じていた。人間ではない。人間であれば、その動きは理に適い読みやすいものになる。これはメトゥスによく似た、本能のまま動く獣の動きだ。

にも拘らず、彼はそこに確かな知性の輝きをも見出した。突き出された右の爪が途中で止まり、死角から左の爪が襲い掛かる。隙を見せたかと思えば、そこに尾の先端が待ち受ける。わざと剣を受け、ついた傷で次の斬撃を受け止めすり抜ける。

フェイントや絡め手、奇襲。高い知性を持ったものしか為しえぬはずの動きと、本能に根ざした野生の獣の動き。相反する二つの気配を目の前の巨竜は帯びているのだ。

認めよう貴様こそが、我が生涯最大の敵であると!

ウォルフは剣を掲げ、宣言した。そしてメトゥスに背を向けると、目の前の壁を両断する。

相反する二つの気配。それは、若い頃のウォルフがよく親しんだものとよく似ていた。即ち、よく訓練された軍馬と、それを駆る騎士のものだ。息のあった人馬は時にその力を三倍、四倍と増す。

そして、メトゥスの細かな動きの癖、傾向から、ウォルフは操り手の場所を読んだ。果たして、ウォルフの切り捨てた壁の向こうにはメトゥスを操っていたものが潜み隠れ、指示を送っていた。

そのまま剣を突き、一息に首を刎ねようとするウォルフの剣が、一瞬にぶり、止まる。

その隙は致命的だった。彼の下半身をメトゥスの爪が跳ね飛ばし、残る上半身を踏みつける。地面に押し付けられながら、もう一度ウォルフは操り手を見た。

小麦色の髪を、ポニーテールにした少女。普段は違う髪形なのか、妙に似合わぬその髪形以外は、似ても似つかない少女だった。あれほどの操り手の正体が素朴な少女であった事にも驚いたが、ウォルフは己が目を疑った。

何故、一瞬この少女がユニスに見えたのか。

その疑問に答えるように、少女は言葉を紡いだ。

一瞬英霊に通じるのはほんの一瞬だけ、ですけど、娘さんに見えるような幻影をOl様がかけていたんです

ミオはメトゥスに脚を上げるように指示すると、ウォルフの身体を抱き起こした。

もし、一瞬でも王様が躊躇するようでしたら助けよ。躊躇せぬようであればそのまま踏み潰せ。Ol様は、そう仰っていました

躊躇していなくても倒せると言うつもりか。く、と喉を鳴らし、英雄王は唇を歪めた。半身をなくしてはどの道これ以上戦えない。

聖女の命令はOlを殺せであって目の前の娘を殺せではないのだから、最終的な目標が達成不可能になった今、彼女に敵対する意味もない。それよりも彼は、娘自身に興味を持った。

名は何と言う

ウォルフは、娘に尋ねた。すると、娘は破顔し、嬉しそうに答える。

ジョセフィーヌと言います。普段はファイアドレイクなんですけど、今日はこの子の中に入ってもらっててあ、どっちも女の子なんですよ

娘の名を尋ねたつもりの英雄王に、竜の名を答える少女に、ウォルフは今度こそ大笑いした。

ジョセフィーヌ、か。よい名前だ。なあ、お前も恐怖(メトゥス)などと呼ばれるより、よほど良いであろう

暗い迷宮の中、明るい英雄王の笑い声が響き渡った。

最終話地を這う者の意地を見せ付けましょう-7

とりゃあああああああ!

怪鳥の様な掛け声と共に、不死身は迷宮をひた走っていた。幾多の魔物や悪魔達が彼の行く手を阻んだが、彼は気にせず走り続けた。

無数の爪や牙、剣が不死身の身体を切り裂き、貫く。しかし、その傷は瞬く間に治癒し、まるで何事もなかったかのように不死身は一直線に最下層を目指す。

文字通り、不死であるが故の強引な突破方法だった。

彼の動きが止まったのは、第四階層に足を踏み入れたときだった。

第三階層から長い長い階段を下りたその先。小さな部屋で待ち受けていたのは、魔王Olだった。ここで初めて、不死身は剣を構えて見せた。彼の魔術だけは、油断がならない。

その身体が本体じゃない事くらいは知ってる。ダンジョンの核たる瓶の場所もな。通らせてもらうぜッ!

不死身は風の様な速さで、Olに迫った。その速度はユニスにも匹敵し、その鋭さはザイトリードにすら勝る。歴戦の英霊に相応しい力強さで、不死身は剣を振り上げた。

しかし、幾ら風の様に走ったとしても、彼は風ではない。その足は大地を踏みしめる必要があり、部屋丸ごとの床が抜ける中では走ることは出来なかった。

ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ

長く声を響かせて落ちて行く不死身を見送り、Olはインプ達に埋めておけと指示した。

長い長い落とし穴の先には無数の槍衾がそびえており、並の人間なら即死、不死身の身体でも全身を槍に貫かれて動けなくなるはずだが、念には念を入れておいて困る事はない。

他の四人の英霊も、それぞれ十分に足止めできていることを確認し、Olは迷宮の動作を止めた。このままラファニスの首都を踏み荒らし、大神殿を破壊し尽くす事は可能だ。しかし、そうすればメリザンドは逃げ、姿を晦ますだろう。

そうなると困るのはOlの方だ。彼女が生きている限り、英霊は何度でも呼び出せる。少なくとも死んですぐに再召喚とはいかないようだが、永遠に呼べぬわけではないだろう。龍脈からダンジョンコアが切り離された今、延長戦はOlには不利にしか働かない。

準備は良いか

Olの問いに、ユニス、スピナ、リルは頷いた。

乗り込むぞメリザンド大神殿に!

その神殿の、最奥部。

なぁやっぱ逃げません? ボス

聖女の間で、不死身はメリザンドにそう尋ねた。

ならぬ

しかし、その提案に返ってきたのは何度聞いても同じ答え。強い否定の意志だった。

あのような術、そう長くは持たん。保って後一日程度であろう。であれば逃げる理由などない。むしろ、ここで討たねば更なる脅威となって襲いくるだろうよ

や、まぁ、それはわかるんですけどね

不死身は後頭部をかき、ため息をついた。

邪悪は全て滅ぼさねばならん。それに、逃げる意味など無い事を、お前は良く知っているであろう


強い口調で言うメリザンドに、不死身は無言で前髪を掻き毟った。

その時、二人は同時に侵入者の気配を関知して入り口の方を向く。

ま、ちょっと出迎えてきますわ

頷くメリザンドを背に、不死身は部屋を出て、客人を迎えるべく剣を抜いた。聖女の間の前の大広間。ちょうどそこに、Ol達が足を踏み入れているところだった。

貴様何故ここにいる

Olは不死身に問う。Olが彼を落とし穴に落としてから、殆ど時は経っていないはずだ。

さてねそれよりも、一回言ってみたい言葉があったんだ

不死身は剣を構え、にやっと笑みを見せた。

ここを通りたくば、俺をたおぉぉ!?

突如目の前に現れ、剣を振るうユニスの一撃を不死身は辛うじて受け止めた。

てめぇ、口上の最中に攻撃っぱ!?

殆ど同時にリルの放った炎の弾丸に、不死身の頭が半分吹き飛ぶ。

いい度胸してるじゃねえか、どいつもこいつも!

下半分しかない頭で、不死身は器用に怒鳴った。怒鳴り終える頃にはその頭は完全に復元している。恐ろしいまでの回復速度だ。

英霊ナメんじゃねぇぞ、オラァッ!

不死身の振るう剣を、ユニスは後ろに転移してかわす。しかし、それを読んでいたかのように不死身は一歩踏み出し、上段から剣を振り下ろした。Olの防御魔術がその剣を一瞬受け止め、両断される。

その隙にユニスは身をよじって剣をかわし、開いた不死身の側面にリルが火球を放った。不死身はそれを片手で受け止めると、逆にリルに向かって投げ返す。驚きに硬直するリルの前にスピナが躍り出て、それを手のひらで受け止めた。

ありがと、Ol、助かった

不死身から距離を取りつつ、ユニスは言った。

魔術を投げ返すとか、無茶苦茶ね

リルは改めて相手の強さに舌を巻いた。身のこなしも魔力の強さも、伊達に英霊ではない。

でもこっちだってねちょっと滅茶苦茶なのよっ!

リルは胎内のOlの魔力を使い、無数に分裂して見せた。

投げ返せるものなら投げ返してみなさいっ!

氷、炎、稲妻、風の刃。ありとあらゆる攻撃魔術が、不死身に降り注ぐ。不死身は前に走りながら、あえてそれを全て受けた。

こんなもんで、俺を止められると思ったら大間違いだッ!

粉々に粉砕され、燃やされながらも不死身は瞬く間に再生し、一刀の元に無数のリルを切り裂く。返す刀でOlを狙う刃を、スピナが両手を広げ庇うように立った。

構わず、背後のOlごと切り裂こうと剣を振るう不死身の前で、スピナの身体がぐにゃりと歪む。

そのまま彼女は粘液状に変化すると、不死身の剣を伝い彼の身体を完全に絡め取った。

なっ!

身体からスピナを外そうともがくが、スピナの身体は彼の額以外を完全に覆いつくし離れない。その唯一露出した額に手をあて、Olはずっと唱えていた呪文を解放した。

途端、不死身の手足からは力が抜け、がくりと崩れ落ちる。強力な睡眠の魔術が英霊にも有効である事は、既にユニス相手に実験済みだった。

思わぬ邪魔が入ったが、後は聖女だ。スピナ、念のため拘束は続けておけ

こくりと頷き、スピナは不死身を拘束したままもう一体分身を作り出した。

Olは三人を従え、奥への扉を開く。

とうとうここまで来たか。魔王Ol

メリザンドは、厳かにそう言った。その姿を目にした瞬間、スピナは目を見開き、リルは息を飲み、Olは言葉を失った。

その姿が幼い童女である事は、ユニスから伝え聞いていた。

何者だ、貴様は?

震える声で、Olは尋ねた。震える理由が、ユニスにだけはわからない。

大聖女、メリザンドと言いたい所だが、お前の問いたい事はそうではないのだろうな

メリザンドは自嘲気味に笑い、そう答えた。

聖女だと? ふざけるなこれがこんな、おぞましい呪いを受けたものが、聖女だと?

それは、魔術師であれば誰もが見て取れるものであり、英霊であるユニスには見えぬもの。

彼女にかけられた、黒く渦巻く禍々しい呪いだった。

強力、などと言う次元の話ではない。この呪いに比べれば、Olが今までかけてきた呪いなど、どれもこれも児戯の様なものだ。

これほどの凄まじい呪いをかけることが出来る存在を、Olはたった一人しか知らない。いや、思い浮かべる事ができない。

魔道、王

Olが呟く言葉に、メリザンドは微笑んだ。それは数千年前天に挑み、神を滅ぼした無限の魔力を持つ悪魔たちの王。

魔道王が作り上げた、けして老いず、けして死なず、けして穢れぬ悪魔達への無限の贄それが、私だ

微笑むメリザンドは童女のようでありながら、同時に老婆の様に見えた。

数千年の時を、私はずっと一人で生きてきた。何度も殺され、死ねぬ苦しみを味わいながら、少しずつ知恵を、力を蓄え、悪魔を完全に滅ぼすその日を待っていたのだ。それを

メリザンドはOlを、この上なく禍々しい瞳で睨みつけた。

貴様ごときに! 今更! 邪魔される訳にはいかぬのだ!不死身!

はいよっと

飽くまで軽い調子で現れる不死身に、Ol達は目を見開いた。

これをやりすぎっとさ。どれが本当の自分なのか、わかんなくなるんだよな。だからあんまりやりたくないんだが

そういいながら、不死身は自分の腕を切り落とす。すぐさま腕は生え、切り落とされた腕からはそっくり同じ姿をしたもう一人の不死身が現れた。

二人が四人、四人が八人。切り落とした腕からも、零れ落ちた血からも、沸き立つように不死身が現れ、彼は瞬く間に無数に増えた。

俺は血の一滴、毛の一本からだろうが復活できる。そこで、問題です

不死身はピンと指を立て、軽薄に笑った。

Olの魔窟を走りながら、俺は何滴の血を零したでしょうか?

ダンジョンコアが攻撃される痛みが、Olの胸を襲った。

最終話地を這う者の意地を見せ付けましょう-8

すぐさまユニスは空間を跳躍し、メリザンドに一瞬にして迫った。そのまま電光石火の素早さで聖女の首を、いとも容易く刎ね飛ばす。

無駄だ。死ぬ事の出来ぬ体だと言っただろう。そこな不死身の様に、不気味に増殖することは出来ぬがな

首を拾い上げながら、メリザンドは言った。

不気味とはひでぇな、ったく

ぼやきながら、不死身はユニスを取り囲んでその両腕を掴み、身体を拘束する。

! 跳べない!?

ユニスは転位して逃げようとするが、法術は全く力を現さず、万力のような力で締め上げる不死身の腕も振りほどくことは出来ない。

魔術は魔術をもって封印できる。であれば、法術を法術で縛ることもそう難しい事ではない

淡々と、メリザンドは言った。

ユニスッ!

ユニスを救おうと飛び掛るリルとスピナを、増殖した不死身が抑えた。いつしかOlたちの周囲を、無数の不死身が取り囲み、剣を突きつけている。

身体を押さえつける不死身から逃れようと身をよじるが、リルの魔術も、スピナの粘体化も上手く働かない。

悪いな。さっきの戦いで、お前さん達の力は解析させてもらった。俺もちょいとは法術が使えるんでね。魔力による動きなら、一回喰らえば大体防げる。爺さん、アンタの魔術もだ

不死身はOlを拘束し、そう言った。ダンジョンコアを、魔窟の中の不死身達が総出で攻撃している。かなりの硬度を持ってはいるが、後はこれを破壊すれば勝ちだ。

それを、聖女が止めた。

なんだい、ボス。敵の味方をしようってのか

声に嫌な予感を滲ませながら、不死身は尋ねた。

これだけの被害を与えられて、ただで済ましたのでは気が済まぬ

メリザンドはすうと目を細め、冷酷な瞳でユニスを指差し、言った。

この娘を、犯せ

おいおい、ボス。やめてくれよ、あんたらしくもない

不死身は努めて軽薄な笑みを浮かべ、へらへらとそう言った。

二度は言わん。命令だ

その言葉に、不死身達は悲しげに眉を落とした。

わかりました、ボス

渋々そう答え、不死身はユニスの服に手をかけた。

悪いな、お嬢ちゃん俺もこんなこたしたくないんだけどよ

そして、一気に引き剥がす。ユニスは声をあげず、奥歯を食い縛りながら炎が噴出さんばかりの瞳で不死身を睨んだ。

その様子を、面白くもなさそうにメリザンドは眺める。少女が抵抗も出来ず複数の男に犯されるなど、胸糞の悪くなる光景だ。しかし、それでもなお彼女の胸の中の憎しみはそれを命じさせた。

自分には、いなかった。

己を愛してくれる人も、己が愛する人も、己を助けてくれる人も、己を認めてくれる人も。誰一人、いなかったのだ。なのに何故、何故魔王の貴様にはそれがいる。メリザンドは、胸中でそう慟哭する。

穢し、壊してやらねば、気がすまなかった。

不死身よ

拘束したユニスを取り囲み、今まさに陵辱を始めようとする不死身にOlは低い声で言った。

やはり、貴様は、詰めが甘い

なに?

拘束され、何も出来ないはずのOlに不死身達は動きを止めて視線を向ける。

リル。スピナを支えてやってくれ

! わかった

その短い言葉でリルはOlの意図を汲み取り、こくりと頷く。

ユニス。しくじるなよ

? Ol?

ユニスはその意をはかりかね、彼の顔を見つめる。

スピナ。或いは、リルかも知れん。しかしやはり、最初に気付くのはお前であろう。頼んだぞ、我が弟子よ

お師匠様?

それは、まるで。

スピナがその考えを意味にする前に、轟音と共に巨大な岩の塊が天井を突き破って落ちてきた。岩の中央には大きく穴が空き、そこから覗いているのは大量の不死身達と、ダンジョンコアだった。

かつては一層丸ごと埋め尽くしていたダンジョンコアは、今や一室ほどの大きさにまで縮まっている。しかし、これだけあれば十分だとOlは踏んだ。

巨人の指が、その身に残った最後の魔力を振り絞り、ダンジョンコアを押しつぶす。

スピナ、ユニスを守れ!

Olが叫んだ瞬間、ダンジョンコアは粉々に砕け散り、中に入っていた大量の魔力があふれ出してあっという間に液体から気体へと変じた。

膨大な魔力の圧力は爆風となり、不死身達を吹き飛ばす。魔力と理力は共に正逆。大量の魔力は、理力で出来た英霊の身体を打ち消し、消滅させていく。その爆風の中、スピナは拘束を解かれ、粘体に変ずるとユニスをくるむようにして爆風から守った。

その場の全ての法術が消え、力を取り戻したユニスは服を作り直すと、スピナとリルの手を取り転移してメリザンドから距離を取った。

お師匠様がお師匠様が!

取り乱すスピナの頬を、リルが張り飛ばす。

落ち着きなさい、ネリス・ビア・スピナ!

ラズの孫弟子といえど、直接の師弟関係ではない。リルのその言葉は呪的な拘束力を持たなかったが、それでもスピナの心を落ち着かせた。

Olは、あなたに言ったのよ。頼むって

雑事や分担ではない。

本来なら自分がすべき仕事を、Olが初めて、他人に託したのだ。あの、誰も信じなかったOlが。

Olは生きてる。私がこうしてまだここにいるんだから間違いない

リルの言葉は半分ハッタリだ。Olが死んだとき魔界に帰るという契約は、彼女がラズの記憶に目覚めたときに破棄されている。

しかし、彼女はOlの生存を微塵も疑っていなかった。あの、殺しても死なない喰えない爺が、この程度で死ぬ訳が無い。

私達がすべき事は、核を探し出す事よ。核はメリザンドじゃなかった。Olと同じで、何か核となるものがどこかにあるはずなの

でも、この神殿の中は全部探したよ

ユニスはやや気弱に言った。万が一にもメリザンドを取り逃がしてはならないと、神殿の中はくまなく探索した。そのどこにも、核らしきものはなかったのだ。

そう、なのよね

リルは眉をしかめ、考え込んだ。魔術での探査も行い、神殿内だけでなく地下や上空も調べた。しかし、見つからない。

唸りながら考えるリルをよそに、スピナはOlの最後の言葉を思い返していた。彼は、最初に気付くのはスピナだろう、と言った。魔術師としての知識は、リルの方がはるかに上だ。実戦経験ではユニスに敵うべくも無い。

スピナの長所は、ただスライムであり、魔術や魔力を無効化できるという事だけだ。それでも、Olは彼女を連れてきた。単純な情などに流されるOlではない。つれてきたからには、つれてきたなりの意味があるはずだ。

やっぱり、生きてたか

ユニスが苦々しく呟く。彼女の視線の先には、不死身達が大挙して走ってきていた。消し切れなかった分がいたのか、それとも無からでも再生できるのか。いずれにせよ、捕まれば先ほどのやり直しだ。

スピナ、リル、あたしが足止めするから後、お願いね

待ってください

駆け出そうとするユニスを、スピナは止めた。

Olは、聖女を指して自分に似ていると言っていた。そして、スピナに対しても。ならば、スピナと聖女もまた、似ているのかもしれない、とスピナは思った。

その考えはそのまま、自分なら核をどこに隠すだろう、という思考へと移った。最大限守りやすい場所に置くのが当然、とOlはいい、しかし神殿にはなかった。

かといって、大事な自分の魂の様なものを、辺鄙な所に置いておく気にもならないだろう。メリザンド自身はここにいるのだから、自分の目の届くところに置いておきたいと思うはずだ。

目の、届くところ。

空に満ちる、理力。

あたりまえの、力。

あの時リルは、なんと言いましたか?

あの時?

お師匠様が、理力について説明したとき

言いかけ、スピナは思い出した。パズルのピースが一気に揃い、繋がっていくかの感覚を覚えて、彼女は空を指差して叫んだ。

あれです核とは、太陽です!

顔を見合わせたのは一瞬の事。ユニスは二人を抱きかかえると、瞬時に転移した。

ユニス、さすがに太陽そのものって事は無いはず! もうちょっと手前よ!

わかった!

雲を抜け、上空を駆け、ユニスは見える範囲へ転移を繰り返しどんどん上昇していく。青かった空がどんどん白み、そして黒く染まった頃、それは見つかった。

星?

ユニスはそう呟いたつもりだったが、声は出なかった。音を伝える為の大気は、既に周りから失われていたのだ。

それは、巨大な、あまりにも巨大な球体だった。ガラスの様に透き通り、中にはやはり透明の液体がたっぷりと満たされ、こぽこぽと時折泡が立ち上っていた。

間違いない。これが、メリザンドの力の源、理力の核だ。太陽の影に隠れ、空を回り、その光を理力として蓄えていたのだ。

リルはスピナとユニス、そして自分の胎内に納まっている魔力を最大まで引き出し、練りこんだ。声が出せないから、呪文は使えない。ならば、魔力を直接ぶつけるしかない。

いけーーーーーーー!!!!

ぐっと突き出された右拳から、弾丸の様に魔力の塊が放たれる。リルは歯を食いしばりながら、魔力を放出し続けた。彼女の身体がどんどん縮み、幼くなっていく。身体を構成する魔力まで振り絞っているのだ。

変化が現れたのは、彼女の身体が手の平ほどの大きさにまで縮んだときだった。ぴしり、と僅かに入ったひびは瞬く間に広がり、核全体を覆いつくしていく。ユニスはリルとスピナの身体を掴んで、地上へと跳躍した。

次の瞬間、核は内部に溜めた理力の圧力に耐えかね、爆裂四散した。

いやはや、負けたね

太陽の影で破裂する核を感じながら、不死身は呟いた。過去に拘り、囚われたメリザンドと、未来の為に迷宮を捨て、己の命さえ捧げたOlの差か。それとも、味方を信じ、仲間を作ったOlと、孤独なメリザンドの差か。

いや、単に運の問題なのかもしれない、と不死身は思った。幸運の女神はいつだって身勝手で気まぐれだ。

不死身の身体は末端からゆっくりと消えていく。理力の供給がなくなれば、増えた身体は維持できないし再生も出来ない。後には本体が残るだけ

つまり、全ての不死身は消えるという事だ。

なあ、ボス。いや

不死身の姿は消え行きながら、最後に本来の姿を取り戻していく。

性別も、能力も、見た目も、性格もまるで正反対の。

私。最後まで、付き合えなくて、ごめんな

メリザンドは英雄ではないし、死んでもいない。その魂を元にして、理力で作った人工の英霊。それが不死身だった。

それとどうか、出来れば

その最後の言葉は、伝えられる事の無いまま、消えた。

呆然とへたり込む聖女の下へ、とん、とユニスは降り立った。彼女もまた理力の供給を断たれ、これ以上法術を使うことは出来ない。が、自分の肉体を持っているお陰で消えることはなかった。

星核を失った今。私はもはや、何も出来ぬただの子供だ

ぼんやりと、メリザンドは呟いた。

好きにするがいい首を刎ねようが、心臓を抉り出そうが死なぬこの身。さりとて痛みは感じる不便な身だ。さぞ、甚振り甲斐がある事だろうよ

メリザンドは自嘲の笑みを浮かべた。そのような扱いを受けたのは、何千年前のことだったか。

ならば貴様には、死んでもらおう

聖堂に響いたその声に、三人の娘は表情を輝かせ、聖女に背を向けて駆け、飛びついた。

ご主人様!Ol!お師匠様!

本体をフィグリアにおいていたからな。来るのが遅れた。だが、良くやったな

頭をそっと撫でられ、今まで見せた事のない笑顔を見せるスピナの隣で、リルは尋ねた。

Ol、今度はどんな手品を使ったワケ?

簡単な事だ。俺の命は、最も大事なものに封じてある

リルは首をかしげ、次の瞬間、胸をときめかせた。ダンジョンコアが一番大事なものじゃない、という事は、それ以外に最初からあるものと言えば、一ついや、一人しかいない。それに、この前の乱交の時、Olはリルの胎内にこれ以上ないほどの精を注ぎ込んだ。まさかあれが伏線だったとは!

ダンジョン自体だ

だと思ったよこのダンジョン馬鹿!

涙目でリルは怒鳴った。

っていうかそれ、わかっても全部破壊とか出来るわけ無いじゃない

呆れた様子でユニスはため息をついた。空の上の更にその上に核を浮かべるメリザンドも相当だが、Olはその更に上だ。

ですが、お師匠様。ダンジョンコアを破壊してしまってよかったのですか?

ニコニコと緩む頬を抑え、冷静さを取り繕おうと無駄な努力をしながらスピナは問う。

ああ、問題ない。その為に魔力はたっぷり女達の中に保存しておいたからな。ダンジョンの維持をしなければ100年は持つ。もう一度ダンジョンコアを作るのに、70年はかからんだろう

一度作ったものだし、今度はリルもいる。フィグリア王家の後ろ盾もある。10年もあれば同じ物を作れるというのがOlの試算だった。

さて、聖女メリザンド。力を失ったとは言え、お前はあまりに危険だ。このまま野放しにするわけにはいかん。よって、死んでもらう

死んでもらうだと?

メリザンドは嘲笑った。

どうやってこの身を殺すというのだ。魔道王の呪いは、いかなる魔力、理力を持ってしても消せぬ、解けぬ。解くには呪い自体が成立せぬよう、この世から悪魔全てを消さねばならぬ! 貴様にそれが出来るというのか、魔王Ol!!

言葉は徐々に熱を帯び、最後は泣き叫ぶようにメリザンドは声を張り上げた。

出来るわけ無いだろう

それに対するOlの反応は淡白なものだった。

消せぬものならば、消さねば良い。入って来い

Olの声に入ってきたのは、マリーとローガンだった。

うえ、なんだコイツ

メリザンドを見るなり、ローガンは山羊の様な顔をしかめ気持ち悪そうに言った。

ローガンの好きな、清純で美しい幼女じゃないの?

不思議そうにユニスは問う。悪魔への贄の為に用意された少女なのだ。ローガンから見れば、これ以上なく魅惑的な相手に見えると思っていた。

馬鹿いうんじゃねえよ、幼女ソムリエことローガン様ナメんな。天然と養殖の違いがわかんねぇとでも思ったのか

心底嫌そうに言う悪魔の言葉に、メリザンドはがっくりと膝をついた。悪魔を憎み、恐れた数千年。その果てにあったのは、その悪魔にも相手にされぬ呪われた身だったのだ。

ははははは、ははははははは!

もはや、笑いしか出てこない。ぼたぼたと涙を流しながら、メリザンドはただひたすらに笑った。

メリザンドよ。ここな娘は、俺の元に生贄として送られてきた少女だ

そんな彼女に、Olはぽんとマリーの頭に手をのせて言った。

そして、俺が健やかに育つよう呪いをかけた娘でもある。同じように老魔術師に呪いをかけられた、同じように贄の少女。年の頃も背の高さもちょうどお前と同じ、髪も金と白で近い

お師匠様、それは!

それは呪術を元にした魔術。似たもの同士を関連付け、人を蛙にするように、王子を白鳥にするように、人を人に変える、呪い。

解けぬなら、上から更に呪いをかけてしまえばよいのだ。お前の身体はこれから、マリーと共に成長し、マリーと共に齢を取る。聖女メリザンドよ、お前には死んでもらう。失われた時を生き、人間の様に歳を取り、人間の様に老いて、死ね

メリザンドの瞳から涙が溢れ、慟哭が彼女の胸を突く。

これから、よろしくね、めりー

そんな彼女の手を取って、マリーはにっこりと微笑んだ。

エピローグ

身に着けているのはボロボロの灰色のローブで、それも狭い地下道の埃と土にまみれ、その惨めな様相をいっそうみすぼらしくしている。腰につけたランタンもかなりの年代物で、辛うじて男とその周囲を照らしている。

あー、ご主人様、こんな所にいた!

その背を見つけ、リルは両手を腰にあて声を上げた。

もう、何してんの! こんなボロボロになって、もう!

リルが指を振ると、彼の格好はあっという間にみすぼらしいローブ姿から、それなりに整った服装へと変わった。

ここだけは、自分の手で掘り当てておきたくてな。リル。ここを覚えてはいないか?

壁の向こうに広がる部屋を指し、Olは尋ねた。

忘れるわけ、無いでしょ

リルは部屋に入ると、ゆっくりと空中で足を組んだ。

そうだな一生を、共に生きてくれ

真っ直ぐリルを見つめ、言うOlにリルは顔を真っ赤にした。

ちょ、Ol、そんな台詞じゃなかったでしょ!っていうか、何、もう、不意討ちやめてよ、えっと、もう、やだ、こんな場所で

返事は?

身体をくねらせ、しきりに髪を弄るリルにOlは手を差し出した。

はい。喜んで

リルは、そっとその手を取る。

何イチャイチャしてるんですか!

地獄の底から響くような声をあげ、地面からスピナが立ち上った。

あたしはとっくの昔に、永遠の愛を誓っちゃってるからねー

ぽん、とユニスが空中に現れ、Olの首に抱きつく。

そんな事より! 準備が出来ましたから、上に来てください!

ぷりぷりと怒りながら、スピナはOlの手を引っ張る。この数年で、まるで能面のようだった彼女の表情は随分豊かになった。

彼女の言う上とは、迷宮の上数年前まではOlタウンと呼ばれていた街の事だ。

よーぉ我らが魔王様! ようやくお出ましかい? お姫様達がお待ちかねだぜ

その入り口に立ってニヤニヤと笑みを浮かべるのは、相変わらず胡散臭い盗賊のキース。彼がもたれる門の上には、でかでかとこう書かれていた。

ようこそ!Olシティへ!

実際、街は都市と呼んでも差し支えのないくらいの規模に膨れ上がっていた。三年前、予想を大幅に上回る5年と言う年月でダンジョンコアを完成させ、ダンジョンの運営を再開すると冒険者達はどこからともなく集まり、あっという間にまた街を作り出した。

今や財宝も置いてないしOlに賞金をかけるような王もいないのだが、魔力をたっぷりと蓄えた魔物達の死骸が十分に財宝となるらしい。お互いを金と餌とにしながら、魔物と冒険者達は今日も仲良く殺しあっている。

今度お店にも遊びに来てくださいね、魔王様

にこやかに手を振るノーム。彼女はOlシティの商人ギルド長に就任し、街の経済の一切を取り仕切っている。もはや富など必要ない地位に位置しているはずなのだが、彼女は相変わらず週あたり金貨10枚でOlに買われ、定期的に抱かれていた。

それが商人としての矜持なのか、捻くれた愛情表現なのかは、彼女のギフト真実の瞳をもってしてもわからない。

オーウルー様ー!

街の中心の城へと向かう途中、空からかけられた声に目を向けると、巨大な竜がゆっくりと舞い降り、窮屈そうに広場に着陸した。

ウォルフ、街を壊すなよ

誰に口を聞いておる。そのようなヘマをするものか

竜は呵呵大笑した。鉄で出来た肌を持つこの竜は、メトゥスの死骸に英霊ウォルフが宿ったものだ。その背から、ひょいと飛び降りる小さな影にOlは手を上げた。

久しいな、Faro。いつ帰ったのだ?

たった今だよ! 今日は記念すべき日なんでしょ?

Faroは再び冒険者となり、世界中を文字通り飛び回っていた。旅の共に英霊王と言う、なんとも豪華な旅だ。ウォルフも王より気ままな旅生活の方が性に合っているらしく、随分と楽しそうだ。

その時、Olは殺気を感じて数歩後ろへ下がった。途端、地面がザイトリードの豪腕に砕かれ、そのこめかみが見事なユニスの跳び蹴りで吹き飛ばされる。

街を壊すなって何回も言ってるでしょ!

ぐっだが、俺はまだコイツをお前の伴侶と認めてはいないぞ!

ザイトリードはOlを指差し唸った。そんな彼に、ユニスは冷めた目で言った。

お兄様には関係ないでしょ。ウザいから口出ししないで

冷たい妹の言葉に、ザイトリードはガックリと両腕を突き、項垂れた。そんな彼をまあまあと彼の妻、ヒルダが慰める。幻影によってザイトリードに殺された後、Olは彼女を蘇生していた。

頭を下げ、許しを請う英霊に他の女と見間違うなんて酷い!と叫び平手打ちした彼女の啖呵は今でも語り草だ。殺されたこと自体は全く恨みに思っていないらしい。英雄の妻になるだけの事はある。

Ol様、ただいま戻りました

その背に大量の魔獣達を引きつれ、ミオはぺこりとOlに頭を下げた。

また増えたのか

ザイトリードは各地を荒らす怪物を退治しにいっているという事だったのだが、彼が魔物を倒したという話はここ数年全く聞かない。代わりに、Olの迷宮にすむ魔獣達は年々数を増すばかりだ。

はい! この子がローレルであの子がラヴィニア、こっちがリンゼイで

いや、いい、わかった

ミオのネーミングはいつの間にかKを経て、最近ではLから始まる名前ばかりになっていた。まさか、と思いつつ尋ねると、思ったとおり彼女は今まで育てた全ての動物に、Aから順に思いつかなくなるまで名前をつけているらしい。

全ての名を覚えているのか、と尋ねた魔王に、素朴な娘は勿論ですと笑顔を見せた。

Zまで網羅する日もそう遠くは無かろうな。ミオの方がよほど魔王に相応しい

大地を揺るがす轟音で笑うウォルフに、ユニスは耳を塞いでお父様煩い!と怒鳴る。Olは内心で半ばウォルフに同意しつつも、彼らに別れを告げて城へと向かう。

主殿! どうだ、見事な猪だろう!

その途中で、獲物を吊り下げ配下を連れたエレンとセレスに出会う。彼女達はOlシティに程近い森に集落を作り、今では完全に和解して暮らしている。今日は祝宴に使う料理の為に、森で摂れた獣達を持ってきてくれたらしい。

Ol様、それよりも私達のヘラジカの方がきっと美味しいと思います

にっこりと微笑むセレスに、エレンはむっと眉を吊り上げる。

目方であれば我々の用意した猪の方が上だ

頭数であれば私達の鹿の方が上です

二人は火花を散らし、にらみ合う。会う度いがみ合っているが、あれはあれで互いにじゃれあっているようなものらしい。まともに相手するのも馬鹿らしいので、Olは専門家に丸投げする事にした。

そんな事より、さっきミオが帰ってきていたぞ

おお、それは本当か!? 久しいな、これは腕によりをかけねば!いいか者ども、血の一滴、肉のひとかけたりとて無駄にするなよ。獣の魔王の怒りが炸裂するぞ

それはもう、身に染みてわかってます、はい

神妙な表情で、エレンの配下の一人が頷いた。

ミオは食べる為に獣を殺す事を禁忌しない。が、それを無駄にすると笑顔のまま烈火の如く怒った。森の住人であるアールヴよりも命に厳しい、と密かにエレンやセレスの配下達にOlより恐れられていることを、ミオは知らない。

では、祝宴の用意は頼んだぞ

はっはいっ

折り目正しく返事するアールヴ達を後にし、Olは城へと入る。

Ol様、お待ちしておりました

城の広間に入ると、煌びやかな衣装に身を包みオリヴィアとその娘達が出迎えた。今年オリヴィアは40を迎えるはずだが、その外見は未だ20台で通る若々しさだ。むしろ若返っている感すらある。

長女のパトリシアも今年で24。咲いたばかりの花びらは見事に咲き誇り、気品高く美しい大輪の薔薇を思わせる美女に成長していた。

対する次女プリシラはちょうど20。蕾は花開き、薔薇の様に美しいパトリシアとは対照的に、百合の様な可憐で愛らしいおっとりとした美女になった。

その後ろで、彼女らの妹と娘をあやしているのはローガンだ。4つの腕を器用に使い、幼い子供から新生児まで、総勢12名の子供達の面倒を見ている。

よう旦那! どんどん子供作ってくれよ!くぅー、素晴らしいなこの幼女ハーレムは!

手を出したりしたら、魔界に攻め込んで本体ごと滅ぼしてやるからな

あったりまえよ! いつも心に紳士の掟、YESロリータ、NOタッチ!!

滅べばいいのに

ぐっと親指を掲げてみせるローガンに、スピナがぼそりと呟いた。

Ol様、準備は万事整っております

近隣住民の避難はOKですっ

魔力回路の接続もトリプルチェック完了済み。問題ありません

広間の玉座に座るOlに、ナジャ、Shal、ウィキアがそれぞれ報告した。彼女達は冒険者を引退し、それぞれ冒険者、僧侶、魔術師のギルド長としてその腕を存分に振るっている。

Olさま。いよいよだね

あれから8年か長かったようで、短かったな

Olの前に、真っ白なドレスを着た目の醒める様な美少女が二人、姿を現した。まるで双子の様にそっくりに育った彼女達は、唯一髪の色だけを異にしている。マリーとメリー。彼女達は今年で14になる。と言っても、メリーの方は実年齢はプラス数千ではあるが。

ああ。では、始めるぞ

Olは手を掲げ、声を張り上げた。

スターコア起動。迷宮よ、浮上せよ!

大広間のガラス張りになった天井の、はるか上空。そこに位置するのは、メリーが星核と呼んでいた理力の器だ。

以前のダンジョンの最大の欠点は、巨人として動かすと龍脈から切り離され、魔力が補充できない事だった。その欠点を理力で補ったのが、今回の迷宮。新たなOlの魔窟だ。

地下に存在する迷宮と、宙を舞う浮島に掘られた迷宮の最深部は理力によって互いに結ばれ、同一の存在となっている。ちょうどマリーとメリーの様に、擬似的な双子の関係だ。

地下で得られる魔力をダンジョンコアで回収しつつ、それを理力で空へと転送し核となるOlシティへと送る。理力と魔力、天使と悪魔。二つの異なる力を同時に砕かねばOlの迷宮は攻略できず、世界のどこであろうと宙を舞うOlシティから侵攻が可能。

これが、8年間の研究の間に練った構想の集大成だった。迷宮自体を空に飛ばすという発想はスピナの、それと地下の迷宮を二重化するという発想はメリーのものだ。

では、また魔王の治世の始まりだな

メリーはそういい、Olにしな垂れかかった。

メリー? わたしが先だよ

む、す、すまない、マリー

にっこりと微笑んで元聖女を押しのけ、マリーはOlの腕に自分の腕を絡ませた。二人の精神的な力関係は、どうやらマリーの方が上らしかった。今日は迷宮を空に飛ばすと共に、彼女達二人の処女をOlに捧げる予定となっている。

魔王かまあ、8年前の戦いで、ノウハウは本をかけるくらい溜まったからな

迷宮が失われている間に、属国のいくつかは反旗を翻し、独立している。それを再び攻め滅ぼすのも悪くは無い。

魔王になる為の手引書でも書いてみますか?

くすりと微笑み、スピナが尋ねた。

まず70年研究して、穴を掘るところから始まる本って手引書じゃなくて物語でも大体の人が挫折すると思うよ

それを受け、ユニスも笑う。

そこはそれ、やっぱり私と会うあたりからでいいんじゃない?タイトルは、そうだな魔王の始め方とかでさ

先ほどの事を思い返し、幸せそうにリルはいった。

それも、悪くは無いかも知れんな。しかし、どうせ描くのならば、過去よりも未来が良かろう

Olは天を振り仰ぎ、そこに描かれた地図を見た。8年間でほぼ完成した、大陸の地図。しかしそれは、ユニス達が空の果てから見た世界全てと比べるとほんの小さな範囲でしかないという。

海の向こうにはまだ見ぬ大陸と、幾つもの国がある。

次は一つ、神でも目指してみるとしよう

Olは妻達を抱きしめ、ニヤリと笑ってそう言った。

おまけ 最終ダンジョン解説

エピローグ終了時点でのダンジョン。

階層数:5+5+1階層

瘴気:±100

悪名:120

貯蓄魔力:200(単位:万/日)

消費魔力:100(単位:万/日)

地のダンジョン

以前のOlのダンジョンを地下に埋設し、龍脈と繋ぎなおしたもの。全5階層。周囲から流入する妖魔や魔獣、悪魔達が守護しており、中は瘴気にまみれ、人間や天使、英霊など正に属するものはその力を減退させられる。深い階層ほど敵や罠はその凶悪度を増し、最下層から天のダンジョンの最下層へと転移する事が出来る。

天のダンジョン

地のダンジョンの写し身。構造自体は同じなのだが、罠や敵の配置、テレポーターの転位先などががらりとかわっており、地のダンジョンと同じと思って進むと酷い目にあう。主に天使が守護しており、中は神気にまみれ、悪魔や妖魔、魔獣など魔に属するものはその力を減退させられる。浅い階層ほど敵や罠はその凶悪度を増す。

魔王城

天のダンジョンの上にあるOlの城。居住スペースではあるものの、その大半は迷宮の様に複雑なつくりになっており、実質一階層分のダンジョンである。天地と魔王城を合わせて、Olの迷宮は全11階層といえる。全体が強固な結界に覆われ、外壁自体も分厚く出入り口もないため、空中から直接進入するのはまず不可能。居住スペースなので罠はないが、チートクラスの魔王の側近が大量に住んでいる為突破はかなり無理ゲー。

Olシティ

かつてのOlタウンが、地のダンジョンと共に発展した姿。大量の冒険者と、それを相手に商売をする商人達(その大半が元冒険者)からなる、どの国にも所属しない自治領。その性質上、犯罪者やその予備軍が大量に集まっているが、住民の大半がある程度の戦闘能力を持っている為に街中の治安はそれほど悪くない。世界でもっとも命の値段が安い街。

スターコア

メリザンドが星核と呼んでいた、魔力の代わりに理力を蓄えるダンジョンコア。理力は光と共に太陽から降り注いでおり、魔力に比べて貯蓄効率は悪い。それをダンジョンコアの魔力で補佐する事によりまかない、互いに互いを修復しあう為に、片方を攻撃するだけでは破壊することは出来ない。

ミオ(魔物使いLV99)

獣の魔王の異名で呼ばれることになった、世界最強の魔物使い。ありとあらゆる魔に属するものと意思を通わせ操作することができ、魔獣は同調する事で視線を合わすことすらなくその動きを操り、体内の機能を操作する事で本来以上の力を発揮させたり、傷を回復させる事もできる。彼女が操る魔獣は戦力がおよそ+3される。

ウォルフinメトゥス

恐怖の名で知られる世界最強の竜に、世界最強の英霊が乗り移ったチート中のチート。その身体は土くれのかわりにドヴェルグが作った鉄の肌で覆われており、いかなる武器も魔術も寄せ付けない。更にその身体をミオが補佐する事により、体内の毒素を圧縮して弾にして吐き出したり、翼を刃にして切り裂いたり出来てなんかもうこの人達だけでダンジョンの防衛設備なんかいらないんじゃないかな。

ザイトリード

戦力:14

あらゆる術を無効化し、更に自己に働く物理法則すら無視できるという最強クラスの英霊。のはずなのだが、彼を超えるチート的存在が身近にいるので目立たなくてかわいそう。

光と闇が両方そなわり最強に見える究極ダンジョン。天使側がいっても悪魔側がいってもマイナス補正を喰らう酷い仕様。攻略するには不倶戴天の敵同士が手を取り合うしかないが、そこまでしても大抵の侵入者は地力で負けるほどの戦力を誇る。天のダンジョンは天空を自在に移動可能なので、自ら攻め込む事も可能。空中からの大型兵器や天使の投下による攻撃に耐えられる国は今のところ存在しない。悪名は上限を突破し、一部では生ける神として崇拝、信仰する人間も出てきた。

閑話 永遠の乙女を愛しましょう

宙を舞う魔王の迷宮。その中央に位置する城の、更に最奥。

そこに、魔王の寝室はあった。

いくら王の寝室とは言えその広さは大広間といって良いほど巨大さを誇っており、間違いなく城の中でもっとも大きい部屋だった。その中央には10人が横になっても余りあるほどの巨大なベッドが設えられており、普段は王を慕う女達がその上で毎夜嬌声を上げていた。

しかし今は、そのベッドの端に腰掛ける魔王と、二人の幼い少女だけが、その広い部屋の中に存在していた。マリーとメリー。二人の少女が、その純潔を魔王に捧げる日がようやく来たのだ。

Olさま、まずはご奉仕するね

マリーはそういい、ベッドに腰掛けるOlの帯を解き、慣れた手つきで下穿きをずらすと、彼の剛直を取り出した。

んんむ、ちゅん、ちゅぅ

精の詰まった袋を優しく舐めあげ、竿を食むようにして上り、先端を舌を尖らせてなぞる。

随分、腕を上げたものだな

齢14にして熟練の娼婦のようなその舌使いに、Olは思わず呻き声を上げた。

リル直伝だもん。ほら、メリーもしっかりOlさまにご奉仕して

う、うむ

にっこりと笑顔を見せるマリーとは裏腹に、緊張した面持ちでメリーはOlのものに舌を這わせた。マリーが6歳の時から彼女も共にOlに奉仕しているが、彼女の技巧は一向に上手くならない。それは、魔道王の呪いのせいだ。

彼女の身体はけして老いず、死なず、穢れない。上書きした呪いによってその身体はマリーの身体と同期して成長していくが、魔道王の呪いが効力を失ったわけではないのだ。彼女の性技は一向に上達を見せず、恥ずかしさに慣れる事もない。

すまぬな、Olよ

申し訳なさそうにそういいながら、メリーは一生懸命Olの物に舌を這わせ、舐めしゃぶった。技術はなくとも、常に初々しく頬を染めながら懸命に奉仕するその姿は、数年前のマリーを思い起こさせる。

それはそれで乙なものだとOlは思っていたのだが、マリーは違う意見を持っているようだった。

メリーは、Olさまへのけーいが足りないとおもうんだよね

真面目な表情で、マリーはそう言った。

お前が言うか。Olは一瞬そう思った。小さい頃から彼女はOlに甘え放題で、敬意を抱かれているとは思ってもいなかった。

だからね

こそこそと耳打ちするマリーに、メリーは顔を真っ赤にして首をぶんぶんと横に振った。

む、無理だ、そんな事言えぬ。は、恥ずかしさで死んでしまう!

不死身だからだいじょーぶ! はい、がんばって!

ぽんと背中を押すマリー。メリーは顔を耳まで真っ赤にして、Olを上目遣いで見た。

ご、ごしゅじんさまどうか、わたしのくちを犯してくださいませ

そういって、彼女は口を大きく開けて舌を突き出し、目をそっと閉じた。

口内を性器に見立て、犯せということらしい。

いいのか? 容赦はせんぞ

確認するOlに、彼女は目を閉じたままこくりと頷いた。Olはいきり立つ剛直を彼女の口の中に入れると、メリーの頭を両手で抑えて奥まで突き入れた。これならメリー本人の技巧など関係なく、Olは彼女の口を存分に楽しむことが出来る。

んっ、ぐ、んむ、んんんっ

苦しげに眉を寄せながらOlの物を受け入れる彼女を嬉しそうに見て、マリーはOlに抱きつきその唇を奪った。

メリーの口内を蹂躙するOlの肉槍と、絡み合うマリーとOlの舌。二つの異なる水音が、ちゅぷちゅぷと部屋の中にしばし響き渡る。

ん出す、ぞ!

背筋をぞくぞくと駆け抜ける快感に、Olは口をマリーから離すと、メリーの喉奥に剛直を突き入れ、大量の精を放った。喉を突かれる感覚にえずき涙を浮かべながらも、メリーは健気に放たれるそれを嚥下した。

はぁはぁごしゅじん、さまきもち、よかったですか?

ああ。良かったぞ

頷くOlに、メリーはぱぁっと花開くように表情を綻ばせた。技術を磨くことも出来ず、身体付きもマリーからの借り物である彼女がOlを絶頂に導けたのは、これが初めてだったのだ。

ん、きれいになったよー

精液とメリーの唾液に塗れたOlの肉棒を、マリーは丁寧に舐め取り、清めた。

あ、すまぬ、マリー

本来ならば二人でするはずだった作業を思い出し、メリーはようやく我に返る。

大丈夫。じゃあいくよ、あれ

鏡に写したようにそっくりな二人の少女は、Olの前に並んで立つとスカートを捲り上げた。その中には下着はなく、まだほとんど茂みも生え揃わないシンプルな秘部が二つ、Olの目に露わになる。

どうぞ、わたしたちの処女をもらってください、ごしゅじんさま

二人は声を合わせ、恥ずかしげにそう言った。

誰の差し金だ、それは

Olは思わず跳ね上がる鼓動を押し隠しながら訪ねた。

えっと、Shalとプリシラとリルと

いやいい、わかった

大体予想通りの名前が挙がり、Olは制止した。情操教育に悪い女達が揃いすぎているせいで、処女なのにこの出来上がりっぷりだ。己の娘達の教育は気をつけなければ、とOlは心の中のメモに書きとめた。

では、服を脱いでベッドに横になれ

はーいわ、わかった

元気に返事をし、二人はいそいそと服を脱いでその生まれたままの姿を晒した。8年前は膨らみも括れもなかったその身体は、いまやすっかり女に目覚めていた。まだ膨らみは慎ましやかではあるものの、そこかしこが丸みを帯び、ふっくらとしている。それでいて腰はきゅっと括れ、思春期の少女特有のアンバランスな色気を醸し出していた。

マリーが仰向けにベッドに横たわると、メリーはその上に覆いかぶさるようにして横になった。いわゆる貝合わせのような体勢だ。

では、入れるぞ

うん

流石に緊張した面持ちで、マリーは頷いた。Olに奉仕しながら自分で弄っていたのか、既に十分に潤いを湛えたそこに、Olはなるべく痛みを与えないように配慮しながらゆっくりと突き入れた。

んあっ!

く、ぅ!

マリーとメリーは同時に、痛みに顔をしかめて声を上げた。マリーの身体はメリーにとっての肉体と同義だ。マリーに与えられた肉体の変化は、そのままメリーにも伝わる。

大丈夫か?

うん

マリーは鼻声で、頷いた。その目尻から一筋、涙が流れる。

痛いか? 魔術で軽減するか、それとも一旦

少し焦りを見せるOlに、マリーは首を横に振る。

ちがうの。うれしくてやっと、Olさまに、抱いてもらえたから

マリーにとってOlは絶対的な保護者だった。ありとあらゆる脅威から守り、包んでくれる彼に女としての恋慕を抱いたのは、いつの頃からだっただろうか。わけもわからず彼が喜んでくれるというだけで行っていた性奉仕は、いつしか彼女の喜びとなっていた。

泣きながら笑う彼女の胸に、ぽたりと別の涙がこぼれた。メリーもまた、涙を流していた。しかしそれは、マリーの肉体に引きずられたのだけが原因ではない。

私も嬉しい。これが、破瓜の痛み女としての、喜びなのだな

彼女は呪いによって、穢す事は出来ない。これは比喩表現ではなく、単純に挿入すら出来ないのだ。数千年前は口内性交などという概念自体がなかった為に口は問題ないようだったが、彼女の膣には性器を入れることは出来ない。

永遠に女としての喜びなど知ることもなく生きていく、それが彼女に科せられた運命だった。それが今、擬似的にとは言え破られたのだ。

もっと教えてくれ、ご主人様私に、女の喜びを

ああ。たっぷりと教え込んでやる

Olはメリーの背に口付けを落としながら、マリーへ抽送を再開した。

あぁっ、ごしゅ、じんさまぁだいすき、ずっとだいす、きぃ

あぁぁ、ごしゅじんさま、もっともっと、あいして、あぁぁぁ!

二人の少女の声は折り重なり、響きあう。同じ顔を持つ少女達は、快楽に溶ける相手の顔をまるで鏡のように見つめあった。興奮に真っ赤に染まり、口の端からよだれを垂らして善がる己と同じ顔に、二人の興奮は更に高まっていく。

いくぞっ、マリー、メリー!

ふああぁぁぁぁぁぁぁっ!!

あぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!

胎内に注ぎ込まれる熱い感覚に、二人は声を上げ、気をやった。

なにしてんの、こんなところで

なんでもねぇよ、ほっとけ

月夜を背に城の屋根に座り込むローガンに、リルは笑いかけた。

マリーの事、気になるの?

まぁ、な

存外あっさりと、ローガンは認めた。

そりゃ、あそこまで育っちまったら守備範囲外だ。けどまぁ、情は移るわな

虚空に浮かべた炎を四本の腕で器用にお手玉しながら、ローガンは呟いた。

あ、でも勘違いすんじゃねぇぞ!お前みたいな半端もんとは違うんだからな。飽くまでまぁ、可愛く育ててたヒヨコが鶏になっちまったみてぇなもんだ

あまり人間に入れ込みすぎるのは、悪魔にとってあまり名誉なことではない。

はぁ人間ってのはどうしてああ、生き急ぐんだろうな

そして、お互いに幸福なことでも、ない。

覚えとけよ、小娘。魔術を極め形代に身を移そうが、その生は悪魔に比べりゃ長くねえ。対して、悪魔なんてのは基本的に何千年だろうが生きる。生きちまう。旦那とも、いつかは別れる運命だ

数千年を生きるローガンの言葉には、重みがあった。

ま。その時はOlも悪魔にしちゃうだけだけどね

リルの言葉に、ローガンは舌打ちする。

お前みたいな例がそうそうあってたまるか。奇跡みたいなもんだ。それにしたって、お前はラズって人間とは違う。旦那の魂を元に悪魔を作ったって、そりゃあ旦那じゃねえ。別の何かだ

そっか。やだねー、悪魔って。まあ、ご主人様が死んだら、一緒に私も滅んでもいい、かもね

ま。そうは言っても、数百年は結構長いぜ?たった数十年しか生きてない小娘が今から落ち込むこたねぇよ

くしゃりとリルの頭を撫で、ローガンは立ち上がる。

それに長く生きてりゃ、そんだけいい事だってあらぁな。あー! 今から楽しみだなぁマリーとメリーの娘!

そして、いきなり相好を崩して鼻の下を伸ばしに伸ばした。

さぞかし可愛いんだろうなぁしかも身体を同期させてるから、絶対に二人生まれるんだぜ、ひゃっほー!ロリハーレム万歳! ローレム万歳! ローレムン万歳! ローガン万歳!

あはは、コイツマジ滅びればいいのに

しかし、マリーとメリーの子はOlの子でもある。彼は沢山、沢山子孫を残すだろう。悪魔であるリルは子供を残すことは出来ない。しかし、Olの子供達を見守って生きていくのも、悪くはないのかもしれない。

そう気付かせてくれたお礼に、しばらくの間は滅ぼすのを勘弁してあげよう。

リルはそっと、そう思った。

番外編1ある邪悪なる領主の一生

フィグリア王国ゴールドマン領の領主、ゼニスキー・ゴールドマン伯爵は醜悪な男であった。身体はでっぷりと肥え太り、たるんだ三重顎の上には冗談の様に巨大な顔が乗っていた。ブツブツとした大きな鼻の上には不釣合いなほど小さな目が乗り、殆ど頭髪のない頭をいつも帽子で隠している。

彼は前王フィグリア8世の時代からの領主であったが、かの魔王の部下といわれれば誰もがなるほどと頷き、実はトロールとオーガの合いの子であるなどと言う噂が流れるほどの風貌をしていた。

その性格は暴虐かつ残忍で、領民から何人もの娘を拉致するかのように召し上げては慰み者にし、民には重税を科して己は贅沢の限りを尽くしていた。

そんな彼がかわったのは、フィグリア王国が魔の国と名を変え、魔王に統治されるようになってからだ。

汚職は見逃す。が、上手い事やれ

それが、魔王の方針だった。

まず、ゼニスキーは税を今までの倍にした。既に重税に喘いでいた領民達は一斉に直訴しにきたが、ゼニスキーは彼らを手厚く持て成し、増税は魔王の意向である事、復興に必要である為一時的であることを説明した。

そして、それからも度々彼らを屋敷へと招くと、豪勢な料理を振る舞い、自らは質素な食事で晩餐を共にした。更に、冬が近づくと屋敷にあった美術品を売り払って金に替え、特に貧しい領民に配り冬を無事越えられるよう配慮する。

終いには、ゼニスキーは自身の邸宅を一般解放し、誰でも泊まれるようにした。そして自分はその隣に小さな屋敷を建て、住み始めたのだ。勿論一般的な家に比べれば十分大きい屋敷だが、今まで住んでいた豪邸や他の領主の邸宅に比べれば驚くほど小さく、質素なものだ。

そうした行動に、領民達は徐々にゼニスキーを慕う様になっていった。悪いのは魔王であり、領主ではない。いや、領主様がかわったのは魔王の統治になってからだ。悪かったのは前王なのでは? そんな評判が立ち始めたのだ。

しかし、勿論ゼニスキーは改心してなどいなかった。Olの助言に従ってうまくやっただけだ。

新しく作った屋敷の地下には、以前の邸宅に数倍する大豪邸が作られていた。掘ったのはOl配下のインプどもなので、領民には全く知られていない。ゼニスキーはそこで悠々自適の暮らしをしていた。

増やした税のうち、半分は領民に施しと言う形で返し、半分は自分の懐に納める。勿論王が定めた増税などと言うのは嘘だ。そうとも知らず、愚かな領民達は自分達の懐から出て行った金を返されて喜んでいた。

増税で貧しくなり、身売りした者たちは優先的にゼニスキーが保護した。温かい言葉をかけ、手ずから料理を作って振舞ってやると、男も女も面白いように感激し、ゼニスキーに忠誠を誓った。

泣き喚く女を無理やり手篭めにするのも悪くないが、心の底からゼニスキーに心酔し、奉仕する女の姿は彼に至福の味わいを感じさせた。何せ、この体格、この面相だ。女から好意を寄せられたことなど、生まれてから一度もなかった。

そうするうちに反乱の芽は見る間に縮小し、ゼニスキーの仕事は一気に減った。大した災害もない領地で、彼の仕事はもっぱら内乱を治めることだったのだ。

空いた時間で、彼は手慰みに料理を勉強してみた。人の心を支えるものは誇りと食事。そのどちらか、または両方を与えてやれば衆愚は簡単に転がる。そう教えてくれたのも、魔王陛下だった。

元々凝り性で美食家だったゼニスキーは見る間に料理の腕を上達させ、いつしか自分の食事さえ自分で作るようになった。油と砂糖に任せた豪勢な食事は、バランスよく素材の味を生かした素朴だが味わい深い料理へとかわった。

そうするにつけ、徐々に彼自身にも変化が訪れた。人一人入っているのではないか、と噂されるほどでっぷりと超え太っていた体格が少しずつほっそりとし、顎からはたるみが消え、鼻や頬を覆っていたブツブツの出来物はすっきりとした肌に成り代わった。

勿論、それでも醜男であることには変わりなかったが、以前の様に忌み嫌われることはなくなった。奴隷から拾い上げ、育て上げた娘の一人が彼に愛を告白すると、ゼニスキーは身分の差も気にすることなく彼女を妻に召し上げ、女遊びをぱったりやめた。

そして領地から奴隷制度を廃すると、自ら孤児院を建設。自身もその孤児院の院長として、孤児たちに教育を施し、一人前の大人になるよう尽力した。

ゼニスキーは何も変わっていない。自分では、そう思っている。以前と変わらぬ、強欲な下衆のままだ。自分を院長と慕う子供たちの視線の、なんと心地良いことだろう。己の子を抱く妻の、なんと愛しいことだろう。

自分は下衆だ。この幸せは誰にも渡さぬ。例え相手が魔王であろうと、どんな汚い手を使ってでも己の幸せを守り抜いて見せよう。

そう意気込むゼニスキーに、魔王陛下は一言こういった。

それで良い。汝は汝が思うまま、邪悪であれ

ゼニスキーは、感涙にむせび泣いた。ああ、奴隷達はこんな気持ちだったのか、と心から理解し、そして魔王陛下に改めて忠誠を誓った。

かくして、ゼニスキー・ゴールドマン伯爵は邪悪なる領主を名乗り、その長い生涯を終えるまで領民に愛され続けた。

大勢の子と孫、そして領民達の涙に見送られながらも、彼は安らかな笑みを湛えたまま、旅立った。

その行く先が天国であるか地獄であるか。それは魔王でさえ知らない。

番外編2迷探偵マリーの華麗なる事件簿

わたし、探偵になる!

唐突にそんな事を言い出す、自分と同じ顔をした少女にメリザンド今はメリーと呼ばれているは、目を丸くした。

ええといきなりどうした、マリー?

Olが彼女に、成長し死ぬ事のできる身体を与えてから2年が経った。新しいダンジョンコアはまだ出来ていないため、スピナがその代わりの役を果たし、今は彼女が作ったダンジョンでの仮暮らし生活だ。

これみたいに!

そう言って彼女が突き出したのは、最近流行っていると言う娯楽本の写しだった。メリーも薦められて読んだ事があるが、行く先行く先で殺人事件が起こるという呪いを受けた魔術師が、子供の姿を模した形代に入って催眠呪文をかけ、冴えない中年を操って事件を解決するという荒唐無稽な物語だった。

メリーからしてみると推理もトリックも甚だしく破綻しているのだが、子供達の間では人気らしい。挿絵が大量に挟まれていて、この手の小説としては読みやすいのも人気の秘訣だとか。

ともあれ、マリーはメリーにとっては恩人の様なものだ。

死と成長とをメリーに与えてくれただけではない。天真爛漫な彼女の言動は、孤独と虚無感に包まれたメリーの心と人生を癒し、満たしてくれた。

彼女が傷つけば同じ場所が傷つき、彼女が病に苦しめばメリーもまた苦しむ。同様に、彼女の喜びはメリーの喜びだ。数千歳年下の双子の姉の望みをかなえてやろう。メリーは、そう誓った。

と言うわけで死んでくれ

おいふざけんな産廃ババア

居丈高に言うメリーに、ローガンは苛立たしげにそう言った。マリーと同じ外見をしてはいるが、メリーに対しては彼の態度は非常に悪い。曰く、見た目が美味そうでも、1000年経っても腐らないパスタを食いたいと思うか?という事らしい。

マリーがそれを望んでいるのだ

よし今日中に死ぬ。どういう死亡原因がいい?

しかし、マリーの名を持ち出すと彼はあっさりと態度を軟化させた。あの幼い少女の為に行動するという点のみにおいて、この不倶戴天の二人の意見は合致を見せる。

全身の皮膚をそぎ落とし、穴と言う穴に焼けた鉄の棒を差し込むというのはどうでしょう?

天井から滴り落ちるかのようにスピナが姿を現し、そう提案した。

なにそれこわい

本気でやりかねない相手に、ローガンは震えた。

Olの弟子か。盗み聞きは感心せんな

メリーはむっと表情を曇らせる。

そう言われましても、この迷宮は殆ど私の体内の様なものですから。それに、役者は多い方がいいのではないですか?

ふむ言われてみればそれもそうか

考えてみれば死体役だけでなく、犯人役もいる。

犯人の候補も何人かはいた方がいいだろう。

はいはい! あたし助手の役ね!

ぽん、と姿を現し、ユニスが手を上げた。

面白そうね。私も暇だし付き合っちゃうよー

闇の中からじわりと染み出すように、リルが姿を現す。

駄目だ、助手は私の役だからな。容疑者が3人まあ、良いところであろう

適当に言い当てても1/3だ。探偵役がマリーなのだから、その程度でちょうど良いだろう。

じゃあ、やっぱり指の先から一寸ずつ鎚で潰していくとか

バラバラ死体もいいよね! ほら、バラバラにした死体をバッグに入れて運んで、アリバイを作るって言うトリックが

いやそれ、俺本気で死ぬからね?

和気藹々とローガンの殺人手段を相談しあう娘達を眺めながら、メリーは筋書きを組み立てた。それは彼女が今まで立ててきたものに比べると凄まじく単純で稚拙なものだったが、数千年生きた中ではかりごとをこれほど楽しんだのは初めてのことだった。

ローガンー、メリーが呼んでるよー。ローガンーローガン?

マリーがメリーに頼まれ、ローガンを呼びに行ったときのこと。彼女は扉を叩くが、ローガンは返事をせず出てもこない。

ローガン、ローガンー!

どんどんと扉を叩くが反応がなく、ノブを回しても鍵がかけてあるのか扉は開かない。

どうしたのですか? マリー

途方にくれるマリーに、そうスピナが声をかけた。

あっ、ソフィ! ローガンが出てこないの

それはおかしいですね。扉を開けてみましょう

スピナは指先を粘体化させ、鍵穴に差し込むとかちゃりと鍵を外す。扉を開けると、ローガンはうつ伏せになって地面に倒れ伏していた。その胸にはぽっかりと穴が空き、指先は血で地面におっぱいと書いてあった。

そのダイイングメッセージを見てスピナは予定に無いことをするんじゃありませんこの駄悪魔が!と思ったが、マリーの目の前で消すわけにも行かず平静を保つ。

ローガン? こんなところで寝てると風邪引くよ?

マリーはローガンの身体をゆさゆさと揺らす。

マリーローガンは死んでいます

マリーはスピナを見上げ、驚きに目を見開いた。その大きな瞳に、じわりと涙が浮かぶ。

ローガン! ローガン! しんじゃだめええぇぇぇっ!!やだ、やだよぉ、そんなのやだあぁぁぁぁぁ!!

そして、大声で泣き始めた。その反応に、流石のスピナもぎょっとする。

ど、どうしたの!?

慌ててユニスとリル、メリーも部屋に駆け込んでくる。

ろーがん、が、ろーがんがぁあぁ!

まさかこんなに本気で泣くとは思っても見なかったメリー達は、お互い焦った表情で顔を見合わせた。

(ど、どーすんのよこれ!)

(マリー、結構ローガンの事好きだったんですね)

(あっ、このロリコン何幸せそうな顔してんの!)

(とにかくマリーを泣き止ませねば!)

4人は視線だけでやり取りを交わすと、マリーを泣き止ませに入る。

マ、マリー、大丈夫! 大丈夫だから! ローガン悪魔だからこのくらいじゃ死なない!

ほんとう?

リルはうんうん、と頷く。同じ悪魔である彼女の保証に安心したのか、マリーはしゃくりあげながらも何とか泣き止んだ。

それよりもマリー、これは殺人いや、えーと、死んではいないからとにかく、事件だ。名探偵マリーの出番だぞ!

続くメリーの言葉に、マリーは表情を輝かせた。

じけん!? たんていの出番!?

内心胸を撫で下ろしながらも、メリーは頷く。

この事件を解決できるのは、マリーしかおらん。さあ、謎を解いてくれ!

マリーはぐしぐしと服の袖で涙を拭うと、真剣な表情で頷く。

ローガン仇はきっと取るからね

いや死んでないって言ったでしょ。リルは喉まででかかった言葉を何とか飲み込む。

そして、マリーはすっと手を上げると、堂々と宣言した。

なぞはすべてとけた!

もう!?

早いよマリー!

犯人はそふぃだっ!

ビシッ、とマリーはスピナに向けて指をさした。

念の為、理由を尋ねてもいいですか?

腕を組み、引きつった笑みを浮かべてスピナは問う。マリーは自信満々に答えた。

いちばん、やりそうだから!

100%あてずっぽうじゃないですか!?

スピナは思わず叫んだ。

一体何の騒ぎだ

それを聞きつけたのか、眠そうな表情でやってきたのは魔王にして彼女達の主Olだった。ここ数日、彼は新しいダンジョンコアの設計が大詰めに入っているとかで、ろくに睡眠もとらずに研究に没頭している。

大詰めだけにその仕事を手伝う事もできず、かといって他に特にする事もなかったのが今回の話が盛り上がった原因でもある。要するに皆、暇を持て余していたのだ。

Olさま、ローガンがね、しんじゃったの

(あ、ヤバい、Olに話通してない)

そんな忙しい彼にままごとに付き合ってくれとも言えず、今回の話はリル達だけの間でしかしていない。Olは地面に横たわるローガンを見て、眉をひそめた。

あ、あのね、ご主人様、ちょっと話があるんだけど

状況を報告しろ。これはどういうことだ

Olは固い声色で尋ねた。その表情は眠そうではあるが、真剣そのものだ。

鍵が、かかってて! 部屋にはいったら、ローガンしんでたの

一生懸命、マリーは説明した。一通りの説明を受け、Olはなるほどと頷く。

外部のものがこの迷宮に足を踏み入れれば、即座に警報が鳴る。つまり、内部の犯行というわけだ。加えて、この部屋が密室であったことから考えて

Olはその場に集まった者たちを指すように手を広げて腕を伸ばすと、重々しく言った。

犯人は、この中にいる

(それはノってるの!? それとも本気で言ってるのー!?)

Olの真剣そのものの表情に、リル達は主の心中をはかりかねて戸惑った。

うんだから、わたしがこのなぞをとくの!

やはり真剣な表情で真っ直ぐOlを見つめるマリーに、彼はふむと唸る。

確かに、この中で容疑者から外れるのはお前だけだな。マリーにローガンは殺せまい。いいだろう犯人探しはお前に任せる

ま、待ってよOl! あたし達の誰かがローガンを殺したって、本気で言ってるの?

ユニスの問いに、リルとスピナは胸中で彼女に拍手を送った。本気で言ってるのか、単に遊びだと察して乗ってくれてるのか。後者であれば、彼はこの言葉に何らかの合図を送ってくれるはずだ。

いつも言っているだろう

Olは生真面目この上ない調子で答えた。

人は、必ず裏切る

(本気だったぁぁぁぁぁぁぁ!!)

(そうだ、こいつこういう奴だった!)

リル達は頭を抱えた。

とにかく、犯人を見つけだそう。まずは現場を調べなければな、マリー

そんな彼女達の苦悩はさておき、メリーはマリーを優先した。

うん!

元気よく頷き、マリーは改めて現場を確認した。

ローガンの死因は胸の傷。剣で一突きにされていた。もちろん彼は死んでいないが、死んでしまえば悪魔は闇の塊になって消えてしまうから仕方がない。

ばったりとうつ伏せに倒れ、おっぱいとダイイングメッセージを残している。

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