オグナサルプラミ、ム、サツセオイチクゥク!?

案の定、男は顔を真っ赤にして怒鳴る。彼にとってひどく侮辱的な意味だったのだろう。でなければ、人はそれを罵倒として使わない。

セズ

Olはゆっくりとした口調で答えた。これは恐らくはいだ。フローロが返事をした時に使っていた。そのままでは丁寧な受け答えである可能性が高いから、Olは殊更相手を馬鹿にしたような表情で、無礼に聞こえるように言う。

ヌンニグヴェッラム!ニヴソギツロミム!ジョヴァルクッサツセイヴェイ!

怒鳴り文句をつける男の前で、Olは手を掲げ、何かを握るように指先をすぼめるジェスチャーをしてみせた。それと連動させて、男を拘束するダンジョンキューブに圧力をかける。

ぎしり、と両手両足、そして首を締め付けられる感覚に、男は焦りを見せた。

エウルフリロフ!ネルプスラムネヴ!

男は何かを命ずるように怒鳴る。

ウツラフ!ノルヌイティクセク、フローロ!

だがOlが反応せず更に締め付けていくのを悟ると、フローロに向かって怒鳴った。頼るタイミングが随分遅い。ということは妻や娘ではあるまい、とOlは当たりをつける。信頼関係が──それが一方的なものであれ──あるのであれば、人はもっと早く頼る。

Ol!ウツラフ!

フローロがOlの腕に抱きつくようにして止めようとする。だが、ダンジョンキューブは別にOlの腕で動かしているわけではない。Olに止める気がない以上、無駄な行動であった。

ウツラフニグセク

男の語気が急激に弱まり、頼むような響きを帯びる。言葉が違ってもこの手の人間の言うことは同じなのだな、と思いながら、Olは眉を上げて問い返した。

ニグセク?

言葉の意味はわからない。だが、それはまだ懇願ではないことだけはわかる。まだ男は命令している。

サテピ、ミ、セクロヴノブ

男は一瞬屈辱に表情を歪めた後、力なくそう懇願した。Olは満足げに頷き、微かに笑みを漏らす。男の体が僅かに弛緩し、彼が安堵したのがわかった。

フローロ。怪我はないか?

そしてOlはフローロに向き直り、彼女に殊更優しくそう問いかけた。

ウム?ニギ、ネルプロフ、スヴォピ、ヴ、ク?

男が不思議そうな声を上げる。だがOlはそれを無視した。無視しながら、締め付けを更に強くする。

イドネタウ、ロヴノブ!ニギテメヅロヴノブ!サテプノドラピム!サテプノドラピム!

男が叫ぶのは怒りの文句か、それとも命乞いの懇願か。声から想像できるのは後者のような気がしたが、Olは徹底して無視したし、事実として興味もなかった。

Olニミ、プレフ、ロヴノブ?

フローロが控えめに、Olに何か告げる。まあ、男を助けてやれという内容だろう。

セズ!ニミプレフ!

喚く男にOlはもう一度視線を向けて。

うるさい

平坦な声で、ただそう告げた。何の感情も興味も交えない、怒気や苛立ちさえこもっていない、家畜に対して告げるような声色。

Olが自分を救う気などないのだと察した男の顔が、青く染まっていく。そしてそのまま、彼はがくりと項垂れ、動かなくなった。気脈を本格的に封じ、気絶させたのだ。

ニグ、シギトロミ、ヴ、ク?

地面に下ろした男に恐る恐る近づき、フローロは問う。殺したのかといったところだろう。

いいや。殺してはおらん

男にどれだけの後ろ盾があるのか、敵対することの危険度がどれほどなのか、Olにはわからない。だから男を止めるなら方法は一つしかなかった。

恐怖で、徹底的に心を折ることだ。

Olは男の頭に触れ、先程までの記憶を封じた上で気付けをしてやる。激しく咳き込みながら男が起き上がる前に、Olは隣の部屋へと戻った。

オイクシラヴィヴノイク?オグナサル!

頭を振りながら、男はフローロに怒鳴りつけようとして固まる。

アルプ、ニグ、ネト

そして何かを恐れるように辺りをキョロキョロと見回し、フローロに何かを言い残して去っていった。

記憶は消しても、感情は消えはしない。むしろなぜ自分が恐怖を感じるのかわからない分、かえってそれは大きく不気味なものとなって襲いかかる。彼はもうフローロを怒鳴りつけ鞭打つことは出来ないはずだ。その行動が、Olが与えた恐怖と強く結びついているがゆえに。

Olサツセ、イ、ヴイク?

悪いが

大きく目を見開いて尋ねてくるフローロに、Olは肩をすくめて答えた。

お前が何と言ってるのかは、全くわからん

第1話新たなダンジョンで目覚めましょう-3

Olは突然めまいを感じ、壁にもたれかかる。その症状に、Olは心当たりがあった。

魔力失調だ。自分のダンジョンから切り離された上に、体内の魔力までもがほとんど抜けてしまっている。わずかとはいえ魔術を使うことによって、体調が悪化したのだろう。

とはいえ、そもそもOlがそんな状態になるのは奇妙なことだった。補給無しで丸一晩マリナと睦み合っていたのだから多少の消耗は不思議ではないが、体調を崩すほどに失っているというのはおかしい。

イドネタ、ウロヴノブ

フローロはOlにそう言いおいて、部屋を出ていく。Olが不調が収まるのをじっと待っていると、ややあってフローロはコップに入った水とパンを持って戻ってきた。

イグナムロヴノブ

そして、それをOlにそっと手渡す。食べろ、ということだろう。Olの不調を空腹であると思ったのか、それとも気休めか。いずれにせよ、食事にはわずかながら魔力が含まれている。Olはありがたくそれを食べようとして、手を止めた。

乾燥しきって、まるで石のように固いパン。明らかに不衛生で、不純物が浮き据えた匂いの漂う水。Olの価値観からすると残飯より酷いその内容に、彼は思わず顔をしかめた。

一旦皿を床に置き、Olはなにかなかったかと懐を探る。幸い、非常食として携帯していたチーズと干し肉が入った袋が見つかった。

Olはそれを小さく削ってコップに注ぎ入れ、熱を呼び覚まして温める。熱だけを呼び出す魔術は制御が難しいが、炎を出す魔術に比べて消費が少なくてすむし、木製のコップも燃やさずにすむ。

そうして作り直したスープに千切ったパンを浸して食べると、ほんの多少ではあるがマシな味になった。出来れば人参と玉葱に胡椒も欲しいところだが、この状況では贅沢な要求だろう。

と、Olが半分ほどを食べたとき、不意にきゅるるるる、と奇妙な音がした。不審に思って聞こえてきた方を見ると、フローロは己の腹を押さえ顔を赤く染めていた。

──ああ

Olは己の考えが及んでいなかったことを恥じる。つまりこの少女は、自分の食べるべき分を分け与えてくれたのだ。

すまなかったな。残りはお前が食べろ

Olは皿とパンをぐいとフローロに押し付ける。フローロは戸惑ったように首を振っていたが、Olが座ったまま壁にもたれかかって聞く耳を持たぬと言わんばかりに腕を組むと、ゆっくりとOlを真似るようにパンをスープに付けて食べ始めた。

アツスグノブ

ぽつり、と呟く彼女の表情が、花のように綻ぶ。そしてそのまま夢中になって食べ始めるフローロを眺めながら、Olは思索にふけった。

一体なぜ自分はこんなところにいるのか。ここは一体どこなのか。なぜ自分の身体から魔力が失われているのか。

フローロに尋ねられれば手っ取り早いのだが、生憎と言葉が通じない。かつて異大陸でユツやザナにやったような手段で言葉を通わせることは不可能ではないが、それには相手と交わる必要がある。

流石に命の恩人を無理矢理犯すような真似は、魔王と恐れられるOlといえどはばかられた。

名を呼ばれOlが我に返ると、フローロは空になった皿を前に両手を合わせ、Olをじっと見つめていた。

ンジョルバパク、ンジャノブ、サヴァヒ、ヴ

気にするな。元はと言えばお前が救った命、お前がよこした食料だ

相変わらず何と言っているかはわからないが、適当に返事をするOl。

イドネタ、ウロヴノブ

彼女は先程聞いたのと同じ言葉を残して、再び部屋を出ていった。恐らく、ここで待てというような意味なのだろう。そうやって少しずつ言葉を覚えていくしか無いわけだ、とOlは嘆息した。

とりあえずオグナサルプラマが罵倒の言葉であることと、ロヴノブがお願いします(プリーズ)に当たる表現であることなど、ある程度の事はわかってきたが、この分ではまともに意思疎通できるようになるにはどれほどかかることか。

フローロは先程よりも長い時間が経った後、戻ってきた。その手には何やら青い石英の結晶のようなものが握られている。

何だ、これは?

イグナム、ロヴノブ

またロヴノブだ。フローロはそう言いながらOlに結晶を手渡し、口を開けて入れるようなジェスチャーをしてみせた。

まさかこれを食え、というのか?

Olが尋ねると、フローロは彼の口を指して同じ言葉を繰り返す。どうやらそのまさからしい。

とはいえ、Olを害するつもりがあるなら寝ている間にそうしているだろう。危害を与えるわけでなくても不利益に転ずる様々な可能性はあったが、考えても仕方がない。意を決して、Olはそれを口に入れた。

硬質な結晶は、しかし口に含むとまるで氷のようにさらりと溶ける。味はしなかった。

私の言葉が、わかりますか、Ol?

しかし次の瞬間彼の耳鼻を打った言葉に、Olはフローロの首を掴んだ。

貴様俺に何をした!

言葉、を覚えて、もらい、ました

首を絞められながら苦しげに、フローロはそう口にする。

耳に聞こえてくる言葉はンジョツロヴ、ァル、シンレリ、ムだ。なのにその意味がOlにははっきりと理解できた。

身(・)体(・)が(・)、(・)作(・)り(・)変(・)え(・)ら(・)れ(・)て(・)い(・)る(・)。

一切の違和感はなかった。痛みもなく、衝撃もなく、体内の魔力も全く正常に流れ続けている。それが、かえって一層不気味であった。

答えろ。お前は

いいかけ、Olはふとあることに気づいた。

お前、この目は、どうした

フローロの左目。黒曜石のような黒い瞳の片方が、焦点を捉えていない。

Olの手から開放され、フローロは文句を言うでもなく、そっと顔を背けた。つい先程までは、こうではなかったはずだ。

Olはフローロの頭に触れ、魔力で彼女の瞳を走査する。あらゆる魔術の中でも、医療魔術は彼の最も得意とするところだ。

何だ、これは

そしてその彼をして、彼女の目は見たことのない状態であった。

フローロの左目は、完全に視力を失っている。にもかかわらず、眼球も神経にも一切の傷がついていない。まるで極めて精巧な模型を入れているかのようであった。

ありえんいや

Ol自身は実際に目にしたことはなかったが、このようなことになる方法は一つだけ知っていた。

悪魔との、取引だ。彼らは血や魔力、魂を好むが、場合によっては能力や肉体の一部を要求することがある。ちょうど、視力を対価にした人間は、この様になるらしいと聞いたことはあった。

お前売ったのか、視力を

一体何のためにか。それは、少し考えればわかることだった。水同然のスープをありがたがって飲むような娘が、人の言葉を覚えられるような石をどうやって手に入れてきたのか。

目は二つありますから

Olがそう悟ったことを、フローロもまた悟ったのだろう。彼女は観念したような笑みを浮かべると、そう答えた。

けれど、あなたに伝える方法は、これしかありませんでした。Ol、料理を作ることが出来るということを、他人に見せてはいけません

そもそもあんなものは、料理と呼べるほどの大仰なものではない。思ってもみない言葉に、Olは目を瞬かせる。

奪われてしまいます

お前のその目と同じようにか

Olが言うと、フローロは瞳を伏せた。

そんな事を伝えるために、お前は目を売ったのか?

仮に料理の技術を奪われたとして、Olはさほど困らない。そこまでの腕前は持っていないし、なくなったとしてもまた磨けばいいだけの話だ。

そんな事、ではありません

だがフローロはきっぱりとそういった。

Ol。あなたは私を助けてくれました。その恩に報いなければなりません。そのスキルがあれば、この底辺から抜け出すこともできるでしょう

底辺?

オウム返しに問うOlに、フローロは頷き、答える。

ここは壁界(ヘキカイ)の底辺、最下層。奪われたものの行き着く場所です

第1話新たなダンジョンで目覚めましょう-4

壁界?

未知の言語を理解できているというのは、極めて不思議な事だった。魂を繋いで意思を疎通するやり方とは随分違う。

壁界という言葉はOlの知る言葉の中には同じニュアンスのない言葉だ。だが同時に、壁という言葉と世界という言葉に近い意味合いを感じる。その二つの言葉自体が、親しいものではないというのにだ。

そもそもここは何なのだ。どこの

ダンジョンだと言いかけ、Olは言いよどんだ。ダンジョン、という言葉に相当する語彙が植え付けられた言語知識の中に存在していない。

それどころか、地下や迷宮という言葉すら。

お前は外のことを知っているか?

代わりに、Olはそう問うた。

どこの外ですか?

突然変わった話題に、フローロは不思議そうにしながらも尋ねる。

最上層より更に上。このような、壁のない場所のことだ

コン、と拳で壁を叩き、Ol。

ここが地下であることは間違いのないことだ。音の反響具合、温度や湿度、空気の動きなどが全てそれを示している。Olがダンジョンの見立てを間違う可能性は、太陽が西から登ってくるよりも低い。

壁のない場所?

だがフローロはOlの言葉にひどくショックを受けたようだった。

そんな場所があるはずありません。壁がなかったら、人はどこに暮せばいいのですか。それに、壁がなければどこまでも行けてしまうではありませんか

これに、Olは頷く。

そうだ、その通りだ。外とは、どこまでも行ける場所のことを言うのだ

そんな場所があるなんて、信じられません

フローロは首を振って、そう答えた。だがそれは、Olとて同じ気持ちであった。

つまりはこういうことだ。今Olは巨大なダンジョンの中にいて、そこに暮らすフローロは、ダンジョンの外の存在を知らないし、想像もできない。

言葉には空だとか太陽、地上といった語彙もなく、壁と世界がイコールでくくられてしまう程に、ダンジョンはあって当たり前のものなのだ。

そんな世界が、ありうるだろうか?

いや、ない。Olは即座にそう判断した。ダンジョンは閉じて独立した空間として維持することが出来ない。

人は獣を食べる。獣は更に小さな獣を食べ、小動物は草を食む。その植物が育つには、水と陽の光が必要なのだ。中には光がなくとも育つ苔のようなものもあるが、そういった種は成長が遅く、更に獣の死骸のような栄養が溶け込んだ土か水を必要とする。

とにかく、外部からの補充最低でも陽の光がなければ、ダンジョンの中身というのは目減りしていく一方なのだ。故にOlのダンジョンでは入り口を複数設け、外部からの侵入を常に許している。

だが少なくとも、フローロがそれを知らずに暮らしていける程には、出口というのは遠いのだろう。それならOlの魔力が失われていることにも説明がつく。

大気中に漂う魔力が極めて希薄なのだ。Olの迷宮のように龍脈の只中にあるようなダンジョンは例外としても。普通は空気中にも多少の魔力が含まれている。だが極端に魔力が枯渇した空間に放り出された結果、Olの体内の魔力は周囲に放出され、消耗してしまったのだろう。

まあ信じられぬなら、信じずとも良い。どの道俺もそこにさしたる興味はない

誰も空を知らぬ世界で、空を目指す物語。

Olでなければ、そんなものが始まったのかもしれない。しかしここにいるのは掛け値なしのダンジョン馬鹿であった。

それに、仮に外に出たとしても、彼が抱える問題が解決するわけではない。

──元の世界に戻れぬという問題は。

Olがこのダンジョンに迷い込み、一体どれほどが経っただろうか。気絶している間の正確な時間はわからないが、体調の具合からしても二刻(約四時間)は経っていると考えるべきだろう。元の世界ではとうに月は沈み、日が昇っているはずだ。

それほどの間Olとの連絡が途絶え、どこに行ったのかもわからないとなれば、ユニスは間違いなく転移で迎えに来るはずだ。来ないということは、来ることが出来ないと考えるべきだろう。

最善は転移自体を試みていないという事で、試したが転移は出来なかったというのがその次に良い。最悪なのは、転移自体は出来たがここに辿り着くことは出来ず、ユニスが時空の狭間にでも閉じ込められるという事態だ。

考えたくもないことだが、無いとは言えない。ユニスの性格からすれば転移を試みようとするのは半々といったところだろう。リルは止め、スピナは促すだろうか。いずれにせよOlにできることは、彼女の無事を祈りつつ帰還の方法を探ることだ。

Olあなたは、その壁の外というところから来たのですか?

ああ。まあ、そんなところだ

正確には月の上からなのだが、空すら知らない相手に月のことを説明しても仕方がない。

それでスキルのことを知らないのですね

先程も言っていたな。スキルとは何だ?

言葉のニュアンスは、先程食べさせられた石の効果なのかなんとなくはわかる。意味としては技術だとか技能というような言葉に近いが、それだけではないようであった。

実際に見せた方が早いでしょう。ついてきて下さい

そう告げて、フローロは部屋を出た。Olが彼女の後を追ってしばらく通路を進むと、フローロはやがて広間のような場所で足を止める。

?ここが目的地か?

それは奇妙な場所であった。三十フィート(約九メートル)四方程の広さがあるというのに調度品の類は一つもなく、人が使っている形跡もない。もしOlがこのような部屋をダンジョンにわざわざ作るとするなら、守衛を置くか大掛かりな罠を仕掛けるかのどちらかだろう。

警戒するOlの視界に、信じられないことが起こった。突如、なにもない空間にポンと音を立てて小さな獣が現れたのだ。

小さいといってもOlの膝の高さほどはある、ネズミともうさぎともつかない奇妙な獣であった。それは額に鋭い一本の角を持ち、一直線にフローロに向かって突進する。

フローロが服の裾から手のひら程度の鉄片を取り出すと、それは次の瞬間には7フィート(約二メートル)程の鉄棍に変化する。彼女はそれを両手で構えると、獣を思い切り打ち付けた。

ギャンと声を上げて獣は壁に叩きつけられ、絶命する。そして、青い石とパン、毛皮を残して消えた。

これがスキルです

毛皮でパンを包み袋状に結びながら、青い石をフローロは差し出す。

角兎の落とすスキルは突進ですね。あまり使い勝手の良いスキルではありませんが

待て。今、何が起きた?

驚愕に最大限まで目を見開きながら、Olは問うた。

先程の獣はどこから出てきた。そしてどこへ行った。その毛皮とパンは一体何だ!?

どこから、と言われましてもただポップして、殺したので素材をドロップしただけですが

戸惑うように答えるフローロに、Olは頭を抱えた。スキルなどというものよりも遥かに不可解なことが目の前で起こっていたが、フローロはそれに疑問や違和感を抱いていない。

つまり獣は、何もない所から現れて殺すと、その素材を落として、消える。それが、当たり前だというのだな?お前が特別になにかをしたわけではなく

はいモンスターですから。Olのいた場所では違うのですか?

モンスター?

Olの知る言葉で言えば、魔物に近い言葉。猛獣ではなく魔物だ。つまりそれが尋常ならざる生き物であるという認識はあるようで、Olは少しだけホッとした。

虚空から現れ、死んでも死体を残さず、素材とスキルを落として消える生き物。それが、モンスターです

それはOlにとって信じがたい話であった。だが、それが本当であるならば彼女の言う外のない世界にも説明がつく。虚空から資源が生まれるのならば、ダンジョンが閉じた世界であろうと何の問題もない。

ないわけが、ない。そもそもなぜパンを落とすのだ。パンとは小麦を挽いて粉にし、酵母などを加えて発酵させ、焼く事で出来上がるものだ。断じて、生き物を殺した時に発生するような代物ではない。

Olが目眩と頭痛をこらえている間にも度々不定期にフローロが角兎と呼んだ獣が現れ、彼女はそれを淡々と殺して素材を拾う。青い結晶や素材は必ず同じように落とすわけではなく、落としたり落とさなかったりするようだった。どちらかと言えば、落とさない場合の方が多い。

Olのように、素材から何かを作るスキルというのは極めて貴重なものです。モンスターからは手に入れることができませんから

ならばどうやって手に入れるのだ?

反射的に投げかけたOlの問いに、フローロは当たり前のように答えた。

人から、奪うのです

第2話奪われたものを取り戻しましょう-1

Ol。やっぱりやめましょう。危険すぎます

ええい、お前の判断など知ったことか。いいからその手を離せ

縋り付くようにして服の袖を引っ張るフローロを、Olは引きずるようにしてダンジョンの廊下を歩く。そうするうちに気づいたのは、少なくともこの辺りには扉というものが存在しないということだった。

フローロが言う通り、何かを作るという技術を持っている者は極めて少ないのだろう。木材を手に入れることはできても、それで扉を作ることが出来るものがいないのだ。

扉の代わりにボロ布のようなものがかけてあることもあるが、大半の出入り口はむき出しだ。であるが故に、部屋と通路、内と外というものが極めて曖昧であった。

Olのダンジョンであれば、誰か個人の部屋の内側と、そうではない共有の通路というのは扉によって厳密に隔てられている。しかしそれがないこのダンジョンでは、通る道を誰かが所有しているのか、誰も所有していないのかが非常に分かりづらい。

フローロにその辺りを尋ねると、最下層においてはそもそも何かを所有するという概念自体が希薄であるらしい。そこにある場所や道具は誰もが勝手に使うし、それを咎めるようなものもいない。

そんな場所において、はっきりと所有していると見なされるものが二つある。

一つは、スキル。

そしてもう一つは

奴隷は、まともに相手などして貰えません。大事なものを奪われるだけです

──奴隷。すなわち、人であった。

俺は奴隷ではない

いいえ。この最下層に降りてきた時点で、あなたは奴隷なのです、Ol。誰にも所有されていない奴隷は、何をされても文句は言えません

フローロは悲しげに目を伏せ、申し訳無さそうにOlに告げる。

あなたが元いた場所で高い地位にあったことは、着ているものを見ればわかります。けれどもうあなたは、奴隷なのです

それは彼を心配しているだけと言うには、あまりに親身な口調であった。まるで我が事のような。

おそらくは、そうなのだろう。

奴隷にしてはフローロの顔立ちは整いすぎているし、所作や口調も洗練されている。彼女自身がかつては高貴な立場にあり、そして何らかの理由でその身を奴隷に落とした。

Olに世話を焼いてくれるのも、似たような境遇と見た彼への同情故か。

例えそうだったとしてもだ

Olは奇妙な苛立ちを感じながら、フローロに言い放った。

俺は心根まで奴隷になるつもりはない。従って生きるか、従わずして死ぬかは己で決める

フローロはその言葉に驚いたように手を離すと、彼の顔をじっと見つめた。

感動的な言葉ですわね

突然、物陰からシュルシュルと聞こえてきた音に、Olとフローロは同時に目を向ける。

いかがなさいまして、フローロ?何か買い忘れですの?

それは大きな蛇が地面を這いずる音だった。

そちらの方は初めて見る顔のようですけれど

しかし現れたのは、女の姿。濃い紫の髪を長く伸ばし、豊満な胸元を惜しげもなく晒した美しい女性であった。ただし、それは上半身に限った話のこと。腰から下は鱗に覆われた蛇そのもの。

Olの知る亜人種ラミアによく似た姿の女であった。

お前がこいつの目を買い取ったという商人か?

ええ。ナギアと申します。どうぞお見知りおきを

ナギアと名乗った半人半蛇の女は、優雅に一礼して見せた。

Olだ。悪いがそいつを買い戻したい

あらあら。まあまあまあ。ではもしかして、あなたが言語スキルをお使いになった方ですか?

芝居がかった口調でナギア。

そうだ。何か不都合でもあるか?

いえいえ、不都合などございませんわ。けれどもわたくし、返品は受け付けておりませんの。改めて、別の物と交換という話であれば喜んで応じさせて頂きますわ

では、私の言語スキルと交換してください!

にこやかに答えるナギアに、フローロが割って入る。

申し訳ありませんが、フローロ。それでは足りませんわ

全く申し訳ないとは思ってなさそうな表情のナギアに、フローロは絶句した。さもあろう、とOlは思う。

何故ですか!?さっきはそれで交換してもらったではありませんか!

フローロ。それが商いというものなのです。同じ価値のものを交換しても得にはなりません。あなたの瞳と交換ともなればその十倍は価値あるものを頂けませんと

やはり、フローロは相当買い叩かれたらしい。奴隷をまともに相手してくれる者などいない。奇しくも彼女が先程言った通りの事が、フローロの身に起こっていた。

どいていろ、フローロ。そいつの言うことはもっともだ

とはいえ、商取引において利益を出そうとする姿勢そのものは商人として当然のことである。

わたくし、物分りの良い殿方は好きでしてよ。では、Ol。あなたは何を対価として差し出して頂けるのでしょうか

ナギアがすっと目を細め、Olを見つめる。

その瞬間パチリと音がして、ナギアは痛みを堪えるように目を閉じた。

っ!?今のは!?

何やら悪さをしようとしたようだな?

顔を押さえるナギアに、Olはニヤリと笑みを見せる。彼女は何らかの術をOlにかけようとした。しかし、Olが張った魔術防護がそれを防いだのだ。

素晴らしいですわ!わたくしのスキルを防ぐスキルなんて、聞いたこともありません!

ナギアは興奮した様子でそうまくしたてる。

いかがでしょう。そのスキルを頂けるのならば、フローロの瞳をお返しいたしますが

いけません、Ol!ナギアの言うことに耳を貸さないでください!

ぐいぐいと袖を引っ張るフローロを無視して、Olは少し考える素振りを見せた。

構わんが俺のこれはスキルとやらではない。術だ。それでもいいか?

術ですか?よくわかりませんが承知いたしましたわ

不思議そうに首を傾げつつも、ナギアは頷いた。生まれ持った視力を奪えるのだ。別に特別な能力でなくても、手に入れることができるのだろう。

では交換だ。念を押すが、この術だけを奪い、フローロの目を返すという事でよいのだな

ええ、もちろん。商いで嘘はつきませんわ

にっこりと微笑むナギアに、嘘だな、とOlは直感した。

駄目です、Ol!

では受け取れ

止めようとするフローロをぐいと押しのけ、Olは告げる。

では、失礼致しますね

ナギアがするりとOlの胸に向かって手を伸ばすと、その指先が彼の身体の中にずぶずぶと埋まっていく。痛みはないが、頭の中を探られているような奇妙な不快感があった。

これは凄いですわね

ややあって、ナギアはその中から小さな宝石を取り出した。フローロがOlに食べさせたものより小さいが力強く光り輝いていて、尖ったところの全く無いつるりとした真球の形をしていた。

これほど見事に磨き込まれたスキル、初めて見ましたわ

その輝きをうっとりと眺め、ほう、と溜息をつくナギア。

なるほど抜き取られるとこうなるのか

一方でOlは、奇妙な感覚を味わっていた。

己の中から、魔術防護に関する知識や記憶がすっぽりと抜け落ちている。確かに知っていたはずの事が、どうしても出てこない。それでいて、そこに無くしたものが存在していた事自体は認識しできている。

忘れたこと自体も思い出せない記憶操作の術とは全く違う、不思議な状況だった。

名前:ナギア

種族:尾族

性別:女

年齢:16歳

主人:サルナーク

所持スキル:締め付け剣技LV2突進言語隠形LV1スキル結晶化鑑定

Olがその感覚を検証していると、不意に彼の視界にそんな文字が現れた。

妙な術だな。これが鑑定とかいうスキルか。しかしお前、思ったよりも若いのだな

驚愕するナギアに、目の前の文字を眺めつつOl。てっきり二十代の半ばくらいはいっていると思っていた。そう思わせるだけの色香と豊満さである。もっともOlの知る暦と同じ早さで歳を取るとは限らないか、と思い直す。

何をしたんですの!?このスキルはしっかり奪ったはずですのに!

スキルではなく術だと言っておるだろうが。そして、俺が持っている術はそれだけではない

ナギアが手に入れた魔術防護は、直接的に干渉してくる術に対する手段としてはもっとも基本的、かつ低級のものだ。意識せずとも常時展開していられるが、その代わりに防ぐことのできる術には限りがあり、どのような術をかけられたかもわからない。

Olは意識すればそれより高度な対抗魔術をいくつも使うことができる。例えば高度な術をも無効化するものや、相手に無効化したことを気づかせずに術の性質を解析するもの、そして今使った術の内容を相手にそのまま跳ね返すものなどだ。

ぜひともそのスキルもお売り頂きたいところですわねあら?

言いつつ、ナギアはOlから受け取った結晶を口に含む。そして、怪訝そうに眉を寄せた。

何、なんですの、これは?

言っただろう。それはスキルではなく、術だと

スキルという言葉が技術と異なるのは、それは独立しているということだ。前提となる他のスキルというものが存在せず、単独で扱える。

だが、Olが培ってきた術はそうではない。あらゆる術が別の術と相互に関連し、積み重なり、体系だって成り立っている。だからこそ、術一つだけを取り出しても何の役にも立たないし、逆に一つだけを抜かれても他の知識からそれを補完できる。

Olは既に抜き取られた魔術防護を己の中で再発明していたし、逆にナギアにはそれを扱うことが出来ない。前提となる魔力の収束も、それを全身に巡らす方法も、無詠唱で魔術を扱うやり方も、何もかもわからないからだ。

言うなれば、一つたりとて聞いた覚えのない材料、調理法の載ったレシピだけを渡された状態に近い。一方でOlは、作り方を忘れても何を作りたいかは覚えているのだから、一からレシピを考案することが出来る。

つまりこれは最初から、彼にとっては一切の損のない取引であった。

さて、約束通りフローロの瞳を渡して貰おうか

承服、しかねますわ

手を差し出すOlに、ナギアは不満げに顔をそらす。

このようなもの、不良品じゃありませんの!取引に応じるわけには参りませんわね

俺は、最初からスキルではなく術だと言っただろう。それとも約定を違えるというのか?

Olの言葉に、ナギアはクスリと笑って答える。

あら。そんな約束、しましたかしら?

すらり、と彼女の腰から剣が引き抜かれる。やはり最初からまともに取引する気などなかったのだ、とフローロは歯噛みした。もっと強くOlを引き止めていれば、と悔やんでももう遅い。

だがOlは悔しそうな素振りなど一切見せずに、静かにそう答え。

では、魔術師相手に約定を違えた報いを受けよ

呟くように、そう告げた。

あっあああああ!?

途端にナギアは剣を取り落し、地面に転がる。

痛い!痛い痛い痛い痛い!何をッ!しました、の!?

異な事を言う。したのはお前の方であろう?

悶え苦しむナギアを見下ろし、Ol。

その表情を見て、フローロは戦慄した。

人をいたぶり、苦しめ、傷つけることを楽しむ者は多い。彼らはそうするとき決まって笑みを浮かべる。陰惨で下劣な、汚らわしい笑みを。

だがOlは、全くの無表情だった。彼はナギアの苦しみを全く楽しんではおらず、それどころか興味すら持っていない。

魂を締め付ける痛みだ。肉の痛みと違って慣れることも狂うことも出来ぬ

ただ必要だからしただけ。

それは加害を楽しむ事よりも、よほど恐ろしいことに思えた。

許してっください、ませっ!お願いっ!お願い、しますっ!

耐えきれない苦痛に涙を流しながら、ナギアはそう懇願する。

痛みから解放されたいなら簡単なことだ。お前が約束を守ればいい

持ってないん、ですぅっ!フローロの瞳は主人にサルナークに、渡してしまい、ましたのっ!

ではやはり、ナギアは最初から約束を守るつもりなどなかったのだ、とフローロは思う。しかしOlはそれをわかった上で彼女と約束した。そちらの方が衝撃的で、ナギアを責める気にはなれなかった。

そうか。ならば仕方がないな

Ol!もう、許してあげてくれませんか?

見るに見かねて、フローロはOlにそう頼んだ。

許すも許さぬもない。約束とは契約であり、契約とは呪い。魔術師との契約を破るというのはこういうものなのだ。俺が今、こいつを苦しめる何かをしているわけではない

つまりOl自身でさえも、ナギアの苦痛を止めることは出来ない。言外にそう告げる彼の言葉に、ナギアの顔がみるみるうちに青ざめていった。

それはそれは、あまりにも哀れではありませんか。これほど苦しむ程の咎を、彼女はなしたというのですか?

俺を心配し止めていたくせに、おかしなことを言うやつだ。しかしまあ、呪いを解く方法はないではない

一筋の光明に、ナギアはOlの足に縋り付いた。

お願いっ!しま、す!何でも、しますからぁ!この痛み、を?

そしてそう懇願して──

唐突に、己の身体から痛みが引いていることを悟る。

ああら?

言ったな

Olはニヤリと笑って、ナギアを見下ろし、告げた。

何(・)で(・)も(・)す(・)る(・)と。今度はその約束、違えるなよ

ナギアは自分が口走った言葉がどれほど致命的であるかを悟るのに、それから更に数秒の時間を要したのだった。

第2話奪われたものを取り戻しましょう-2

サルナークは鋼の盾と呼び称される、この最下層の支配者です

己の主について知りうることを話せ。

そう命じられたナギアは、そう切り出した。

鋼の盾だと?

わたくしが見た限りでは、物理攻撃無効というスキルのことですわ。ありとあらゆる攻撃は彼には一切通じませんの

彼女は鑑定がOlに弾かれたことに驚いていた。つまり通常は鑑定を阻害するようなスキルなど存在しないし、そもそも相手を鑑定したことにも気づかれない。

故に当然のこととして、ナギアはサルナークの能力を鑑定していた。その上で、彼にはけして敵わないことを悟り、奴隷としての立場に甘んじていたのだ。

ふむそれで?

それで?ええとそれに、凄腕の剣の使い手でもありますわ。彼の剣技のレベルは5ですの

確かナギアは2だったか、とOlは思い出す。恐らく数字が大きいほど強いということなのだろうとは思うが、基準はよくわからなかった。

例えば純粋な剣の技術を比べたとき、ユニス、ナジャ、ホデリの三人の中でもっとも下手なのはユニスである、と聞いたことがある。だが、実際に戦えば勝つのはユニスだ。技術以前に、素の身体能力に大きな差があるからである。

つまり強さというのは、単一の数字だけで比べられるようなものではない、というのがOlの感覚であった。だがナギアにとってはそうではないらしい。

うむ。それで?

さっきからそれでってなんですの!?Ol様は何が知りたいんですの?

何って

Olはちらりと視線を下に向け、己の腰にしがみつくようにしながらずりずりと引きずられているフローロを見やった。

こいつがこんなに俺を引き止める理由だ

それはOl様を心配しているのでしょう。サルナークは冷酷で容赦のない男ですわ。無事で済むとは思えません

まあそれは、ナギアのような女を使役している時点で何となくわかる。

Ol、駄目です!サルナークの鋼の盾にはどんな攻撃も通じません。勝てるわけがないのです!

それについてはわたくしも同感ですわ。Ol様が底しれぬ力の持ち主だということは理解しましたけれど、サルナークの前では全てが無意味なのですから

口を揃えて言う二人に、Olはううむと唸った。

他に特筆するような能力はないのか?

物理攻撃無効。鋼の盾。

詳しい効果は検証してみてみなければわからないのだろうが、Olがその言葉から感じた印象は酷く不完全というものであった。

物理攻撃とわざわざ明言するということは、非物理的な攻撃は効くのだろう。

鋼は確かに硬く強靭な金属であるが、絶対に破壊できないわけではない。

そもそも盾という防具そのものが、攻撃に対して能動的に扱わなければいけないという性質を持っている。

それは、Olの思う無敵からはかけ離れていた。

少なくとも不死身だとか不滅だとか全知全能だとか、Olが今まで相手にしてきた存在と比べると随分隙が多いように思える。

無敵の盾と剣技。それだけで十分以上に恐ろしいと思いますけれど

困惑したように、ナギア。彼女には事前に、虚偽や隠し事をしないように命じてある。ということは本当にそれ以上の能力はないのだろう。

まあ、それならそれでいい

それが本当であるにせよないにせよ、Olにとって油断をする理由にはなりえない。

商談に移るとするか

ただ決めた事を、粛々と実行するだけだ。

商談だと?

革張りの椅子に深く座り、胡散臭げに視線を向けるサルナークは美しい男であった。

艶のある黒い髪とすらりと通った鼻筋は女と見まごうばかりだったが、しっかりと筋肉のついた上背のある体躯と鋭い瞳からは、むしろ精悍さを強く印象付けられる。

彼の周囲にはフローロのように角の生えたもの、翼を持つもの、深い毛に覆われたものなど、人ならざる種族の奴隷が数多く侍っていたが、サルナーク自身は角も翼も鱗も尾も生えていない、純粋な人間のようであった。

ああ。鋼の盾サルナークに相応しい代物を持ってきた

彼の住む一際大きな部屋に単身乗り込んだOlは、そう言って懐から手のひらほどの大きさの石の塊を取り出した。

なんだ、それは?

青白く光る線が走った、濃い灰色の立方体。何の役に立つのかもわからぬそれに、サルナークは露骨に興味を失いながら問う。

そうだな石壁の鎧、とでも呼ぼうか

それはダンジョンキューブであった。ダンジョンという語彙を持たない言葉で、Olは名称を捻り出す。

石壁だと!?

名を告げた途端、サルナークは椅子から立ち上がり、身を乗り出した。

ああ。俺を攻撃してみろ

その急激な反応に多少戸惑いつつも、Olはダンジョンキューブを手のひらに乗せてそう告げる。次の瞬間、Olの喉元に石壁が現れて火花が散った。

上、下、左、右、斜め、正面。立て続けに火花が散り、Olの目では見ることすら出来ない斬撃を、ダンジョンキューブの見えざる迷宮(ラビュリントス)が防いでいく。

これでも防ぐか!

興奮した様子でサルナーク。そう言いながらも、彼の剣速はますます上がっていった。防ぐ瞬間、Olの持つキューブからは石壁が伸びる。どれほどの速度であれば防御が間に合わなくなるのか試しているのだろう。

だがそれは無駄な試みであった。石壁は防いだ瞬間に実体化しているように見(・)せ(・)て(・)い(・)る(・)だけで、実際は防ぐ前からそこに存在しているからだ。

だがそれにしても、早い。無数の斬撃は石壁の実体化が消える前に放たれ、Olはほとんど全身を石壁で覆われているような状態になっていた。

このオレの斬撃を凌ぎ切るとは!これはどうやら本物のようだな!

サルナークは興奮した様子で言いながら、チン、と音を立てて、剣を鞘に収める。

この鎧が防げるのは斬撃だけではない。炎や毒といった、物理的でない脅威からも身を守る事ができる

ふむ?そうか

だが続くOlの説明には、サルナークはさしたる反応を見せなかった。彼の能力が本当に物理攻撃のみを無効化するというのなら、十分価値のある情報だろうと思ったが、とOlは内心首をひねる。

これと、お前がナギアから受け取ったというフローロの瞳を交換してもらいたい

ああ、構わん──と、言いたいところだが、その前に一つ聞きたいことがある

サルナークは鋭い視線をOlに向け、問うた。

それはオレにも使えるものなのか?

Olは思わず目を見開きそうになるのを堪える。

使える。まあ、多少の訓練は必要かもしれないが

ここで嘘をつくわけにはいかない。ナギアのように呪いをかけるのであれば、取引そのものは公正である必要があるからだ。

多少の訓練──か。貴様の見立てだと、オレはそれに何年くらいかかる?

サルナークは更に深く切り込んでくる。

個人の素質にもよる。お前の能力は知らないから、正確なことは言えないが

世界でも屈指の魔力操作能力を持ち、その生涯の大半を迷宮作りに捧げてきたOl。ダンジョンキューブはそんな彼だからこそ操れる魔道具だ。つまりそれを十全に使うためには彼と同じ領域まで鍛え上げる必要があり

七十年はかかるだろうな

彼が今までの人生で費やしてきた以上の時間はかかるであろうことは確かだった。

ハ!七十年だと!これはまたとんでもない物を売りつけようとしたものだな?

サルナークはOlの言葉に怒るどころか、愉快そうに笑ってみせた。

質問が致命的すぎる、とOlは思う。全くの未知の道具を見せられ、それを自ら操るものであると看破し、具体的な期限までをも確認してくる。それは、Olの想定の範囲を大きく超えていた。

そもそもダンジョンキューブを見て、自分で操作するものであると見抜けるはずがないのだ。Olがサルナークの斬撃を防いだ部分は自動的なもので、操作など一切していないのだから。

だがそれに気づいた理由はどうあれ、こうまでされては流石に取引は成り立たないだろう。別の手を考えなければならない。

いいだろう。商談成立だ、瞳を持ってこい

だからそう言ってのけるサルナークに、Olは驚愕した。

奴隷の一人が運んできた箱から、サルナークは石を取り出す。

それはフローロの瞳にそっくりな、漆黒の石であった。球体だったOlの魔術防護とも、石英の原石のようだった言語スキルとも違う。美しくカットされた、宝石のような石だ。

そら。これが瞳だ

サルナークはOlからダンジョンキューブを受け取って、瞳を無造作に投げ渡す。それを受け止めたOlの右腕が、ずるりと落ちた。

何のつもりだ

肘から先が切り落とされ、地面に転がる右腕に、Olは低い声で問う。

商談は無事終わったろ?

血に赤く濡れる剣を閃かせ、笑みを見せながらサルナークは答えた。

こっからは、強奪の時間さ

第2話奪われたものを取り戻しましょう-3

約束は違えてないだろ?なあ?オレはちゃんと約束通り、貴様に瞳を渡した

転がるOlの右腕を蹴り飛ばし、サルナークは地面に落ちたフローロの瞳を拾い上げる。

ただ不幸なことに、その後貴様は強盗に遭う。ただそれだけの話だ。ナギア!

サルナークが声を張り上げると、部屋の外で待機していたナギアが戸惑いながら入ってきた。

サルナーク様これは、一体

貴様がこの男と通じているのはわかっている。おっと、余計な事を命じるなよ

腕を押さえるOlに剣を突きつけ、サルナークはナギアに顎をしゃくった。

こいつから、この石壁の鎧とかいうのを操るスキルをいや、面倒だ。こいつの持っているスキルを全部奪え。悪くない商談だろう?貴様の全てと、生命を交換だ

そうか。目か

Olが呟くように言った瞬間、彼の左脚が切り裂かれた。

余計な事を言うなって言っただろう?だがまあ、教えてやる。その通りだ。オレはこいつで、貴様とナギアのやり取りを全て見聞きしていたのさ

フローロの瞳をチラつかせながら、サルナークは笑う。

愚かな魔族め。その本当の価値もわからないままに、貴様はオレにこれを差し出したな

サルナークが嘲笑っているのはOlではなく、ナギアだ。彼女の鑑定では、スキルの名前はわかってもその効果まではわからなかった。ただの瞳でないことはわかっても、具体的にどれほどの効果があるかまではわからなかったのだろう。

これこそは支配者の瞳。全ての魔族を支配し従える、魔王の瞳だ!

魔王、だと?

Olは驚愕に目を見開く。その右足に、剣の切っ先が突き刺さった。

ぐぅっ!

おっと、あんまりやり過ぎるとそろそろ死ぬか?殺して奪ってもいいんだが、聞きたいことは色々あるからな舌は残しておいてやる。ナギア。さっさと奪え

剣を引き抜き、つまらなさそうにサルナーク。

待ちなさい!

そこへ、突然フローロが現れて割って入った。

おっと魔王陛下御自らお出ましか。ご機嫌麗しゅう、元、魔王陛下

サルナークは元に殊更アクセントをつけて、慇懃無礼に礼をしてみせる。

へ陛下!?

ナギアはそれを知らなかったのか、驚きに目を見開いた。

Ol。私の配下になると誓いなさい!そうすれば助かります!

おっと、そうはさせるか!貴様ら、そいつを黙らせろ!

サルナークの命令に、彼に従う奴隷たちは皆戸惑いの表情を見せる。

やれ!

だが重ねてサルナークが命じると、奴隷たちは一斉にフローロに向かって襲いかかった。

Ol!お願いです!私の配下になる、と!

奴隷たちによって取り押さえられ、床に押し付けられながらもフローロは叫ぶ。

黙れ!

サルナークは彼女に向かって剣を振り上げ──

断る

Olの言葉に、ピタリとその動きを止めた。

何だと?

断る、と言った。俺とナギアの会話を全て聞いていたというのなら、お前も知っていよう。俺は誰にも従わぬ。生きる道は己で決める

サルナークのみならず、奴隷たちも、ナギアも、フローロもぽかんとしてOlを見つめた。

配下になると言ったとして、Olに何が起こるのかはフローロ以外にはわからない。しかし彼女がOlを助けようとしたのは明白であった。その救いの手を、Olは自ら跳ね除けたのだ。

──ハ

最初に我に返ったのは、サルナークだった。

ハハハハハ!いい啖呵だ。貴様の方がよほど王に向いているんじゃないか?

髪をかきあげ可笑しそうに笑い。

ではその選択通りナギア。そいつのスキルを全て奪え

己の奴隷に、そう命じた。

ナギアは言われるがままにOlの胸元に手を差し入れそして、引き出す。

そこに現れた巨大な光の結晶に、サルナークは目を見開き、感嘆の声を漏らした。これほどの量、これほどの輝きを持つスキルは、彼も初めて目にするものだった。

今日は最良の日だ。魔王の瞳と、魔王本人、そして未知のスキルが手に入った。これでオレは壁族に返り咲くことが出来る!こんな最下層とはおさらばいや、これさえあれば、最上層民王族になることだって夢じゃない!

哄笑を上げながらOlのスキルへと手をのばすサルナーク。しかしその手は、虚空を掴んだ。

スキルの結晶を高く持ち上げ剣を構えるナギアに、サルナークは鋭い視線を向ける。

ち、違うんです、サルナーク様!これは身体が、勝手にっ!

ナギアの剣が横薙ぎに振るわれ、サルナークの首を打つ。彼は避けもせずにそれを受けた。

Ol。これはお前か

Olはナギアに言葉を発してはいないし、事前に命令していた様子もない。ということは、彼は言葉を発さずともナギアを操ることが出来るのだ。

だが無駄だ。オレの鋼の盾は崩せん

何度も振るわれる白刃を気にした様子もなく、サルナークはナギアに間合いを詰めていく。一体どういう原理なのか、肌どころか着ている衣服すら傷ついていないようだった。

ぐい、とサルナークがナギアの上で無造作に掴んだその時。ナギアは大蛇のようなその下半身を、サルナークにぐるりと巻きつけた。

たとえ一切の傷がつかないとしても、拘束されることはどうか。

無駄だと言っているだろう

だがサルナークは事も無げにナギアの下半身を押し広げ、こじ開けた。ただ攻撃が効かないだけではない。物理現象に干渉する効果をも持っているらしい。

停止、か

ぼそりと呟くOlに、サルナークは眉を上げた。

触れたものを停止させるそれはつまり、力を失わせるということだ

だから剣で切りつけても傷がつかないし、大蛇の尾で締め上げても簡単にこじ開けることが出来る。ということは恐らく炎や毒も同様だ。それらは小さな目で見れば、結局の所物理的な現象に過ぎない。

彼の鋼の盾はその名に反して、ほとんどあらゆる攻撃を無力化する。だからこそ、Olのダンジョンキューブが炎を防げると聞いても、さしたる興味を示さなかったのだ。

オレのスキルの正体に勘付いたやつは貴様が初めてだ。まあ

サルナークはナギアの剣を弾き飛ばし、蹴り倒す。

気づいたところで無意味だがな

そして、その手から転がったOlのスキルに向かって手を伸ばした。

フローロの目の前に転がった、そのスキルへと。

離しなさい、無礼者っ!

フローロの怒声に、奴隷たちの力が緩む。その隙をついてフローロは拘束から腕を引き抜き、スキル結晶を掴む。そして、一息にそれを飲み込んだ。

な貴様!

反射的にサルナークは剣を振るう。だがそれは、堅牢な石の壁に阻まれた。

その光景にOlは愉快げに声を漏らす。

これ、は

そして彼以外のものは、やってのけたフローロを含め絶句した。サルナークの剣を防いだ石壁は、ダンジョンキューブのものではない。

このダンジョン自体の床から、飛び出したものだったからだ。

え、えいっ!

呆然とする奴隷たちを、その壁が更にせり出し弾き飛ばす。

馬鹿な新しい壁を作り出すスキルだと!?

狼狽えるサルナークをよそにフローロは立ち上がると、ゆっくりと埃を叩きながらOlに視線を向けた。

俺の術、しばし貸してやる。好きに使ってみろ

ありがとうございます。では、お借りします、Ol

フローロはぺこりと頭を下げ、改めてサルナークに向き直ると、彼をきっと睨みつけて言った。

私の瞳返してもらいます、サルナーク!

第2話奪われたものを取り戻しましょう-4

それで優勢にでもなったつもりか?

動揺を押し殺しながら、サルナークは剣を構える。

忘れたかも知れないが、全く同じスキルを持ったOlはあのざまだ。貴様がそれを手に入れたところで、オレに勝てるとでも?

不意をついたとはいえ、サルナークはOlを一方的に倒してみせたのだ。フローロが同じスキルを手にしたとしても、付け焼き刃の彼女はOlより弱いことこそあれど、強くなるはずがない。

サルナークの考えは道理であり、正しいものだ。

──ただしそれは、フローロの受け取ったものがスキルであればの話だった。

ぐっ!?

フローロに斬りかかろうとしたサルナークは、突然地面からそびえ立った柱に額をぶつけ、苦悶の声とともに数歩たたらを踏む。

馬鹿なオレの身体に傷をつけただと!?

そして、自分が痛みを感じていることに驚愕した。

貴様、何をした!?

フローロは答えず、サルナークをじっと睨みつける。

答えろッ!

サルナークは叫び、斬撃を見舞う。だが今度は壁から生えた横向きの柱がその一撃を防ぎ、同時にサルナークの腕をしたたかに打ち付けた。

ぐ、うっ!

やはり、鋼の盾の力が無効化されている。スキルを失ったわけではない。そんな隙はなかったはずだし、己の内側に意識を向ければそれは確かに存在している事がわかった。

だが事実として、フローロの攻撃は彼にダメージを与えているのだ。

これがOlの未知のスキルの力なのか。あるいはフローロの持つ魔王としての能力かも知れない。

舐めるなァッ!

槍のように襲いくる柱をかわし、サルナークは距離を取ろうとするフローロへと突き進む。柱はどこから出てくるかわからないのが厄介だが、かわせないほどの速度ではない。

ぐっこれしきっ!

そして柱から受けるダメージも、そこまで高いものではなかった。慣れぬ痛みに初めの頃こそ動きを止めてしまっていたが、覚悟さえしていていれば致命的なものではない。

喰らえッ!

そしてついにサルナークはフローロの眼前まで辿り着くと、その首を刎ねるべく刃を振るった。盾を作るように柱が伸びるが、サルナークの剣速には間に合わない。それは違わずフローロの首筋を捉え──

そして、空を切った。

何ッ!?

先程から微動だにしないフローロが、その一撃をかわしたわけではない。しかしサルナークの手元が狂って外したというわけでもない。ならば何故、剣はフローロの頭の上を通り過ぎているのか。

床か!

一瞬の後、サルナークはそれに気づいた。彼の踏みしめる床そのものが、せり上がってきている。柱を生み出すだけでなく、広範囲の床面さえも生み出せるとは。

小癪なッ!

反射的に飛び降りようとするサルナークを邪魔するように、せり上がる床面から更に柱が立ち上る。その間にもどんどん天井は、サルナークを押しつぶさんと迫っていた。

焦るサルナークは一箇所、邪魔をする柱が少ない場所を見出し、そこに飛び込もうとして

突然、その動きを止めた。

ずん、と低い音が響き渡り、せり上がる床が止まる。それは天井と床の間にサルナークが完全に挟まれ、押しつぶされたことを意味していた。その結果にフローロは目を見開く。

逃げ道を用意しておいたにも関わらずサルナークが圧死したからではない。

ハ、ハ、ハ、ハ、ハ!そういう、ことか!

彼が無事であるということを、フローロはわかっていたからだ。

つまらないトリックだ。まさかオレの鋼の盾に、そんな弱点があったとはな!

柱が鋼の盾を持つ彼に痛みを与えたのは、Olの未知のスキルの効果でも、魔王の能力でもなんでもない。

鋼の盾は自分自身の力からは、身を守れない。そんな、能力の制約のためだ。自分で自分を攻撃するなど、サルナークは今まで試したことは一度もなかった。

だが考えてみれば当然のことだ。あらゆる力を無効化しては、歩くことすらできなくなってしまう。自分の脚で床を蹴り、自分の体を押す力はきちんと受ける必要があるのだ。

そう考えてみれば、サルナークが痛みを感じたのは単純で馬鹿馬鹿しい理由。ただ飛び出した柱に、自分からぶつかっただけだ。

それにさえ気づけば、潰されそうになっても慌てる必要などどこにもなかった。彼を潰すことなど出来ない。結局彼の身体に天井が触れた時点で、その動きは止めざるを得ないのだ。

さて悪あがきもここまでだ

結局フローロにサルナークを害する手段がないということさえわかれば、慌てる必要もない。ゆっくりと追い詰め、殺せばいいだけの話だ。

まさか、降りてこないとは思いませんでした

ぽつり、と呟くようにフローロ。

ハ!あんなこれ見よがしな隙に引っかかるわけがないだろう

天井が迫りくる中、一箇所だけ空いていた場所。おそらくはそこに刃のようなものでも仕込んであったのだろう。サルナークが自ら飛び降り突っ込めば、その刃は彼を傷つけうる。

だがわざと隙を見せ行動を誘発するなどというのは戦の常道だ。今まで数々の戦いを生き抜いてきたサルナークは、直感的にそれを見抜いた。

はい。まあ。確かにあれは罠ではあるんですが

困惑したようなフローロの声。同時に、サルナークは妙だなと思った。

床(・)と(・)天(・)井(・)が(・)、(・)元(・)に(・)戻(・)ら(・)な(・)い(・)の(・)だ(・)。

自分から捕まってくれるとは思わなくって

なに?

あらゆるスキルには効果時間がある。

大半は剣術や鑑定のように一瞬か数秒で消えてしまうものだが、ものによっては数分、数時間持つものもあると聞く。だがいずれにせよ、それの効果はやがて失われるものだ。そしてたいてい、その時間は効力の強さや規模に反比例する。

ましてや母なる壁に似たものを作り出すようなスキルが、そう長く持つはずもない。数秒もすれば元に戻るのだろうと構えていたサルナークだが、床も柱も全く消える気配がなかった。

サルナーク。私が使った魔術は信じがたいことですが、柱や床板を生み出すスキルではありません。母なる壁を変形させ、動かすスキルです

フローロの言葉をサルナークが理解するのに、優に数秒を必要とした。

母なる壁はこの地に住まう者にとって、疑問を差し挟む余地などない、絶対的なものだ。いかなる方法を使っても破壊はおろか傷をつけることすら出来ない。ましてやそれを操るスキルなど、考えたこともなかった。

おかしいとは思わなかったのですか?床板を生み出しても、あなたを持ち上げることは出来ません

サルナークの鋼の盾は外部からのあらゆる力を無効化する。ならば当然持ち上げることなど出来るはずがない。だが実際に、サルナークはこうして天井近くまで持ち上げられている。

逆です。あなたが立っている場所以外の部屋全体を、全て低くしたのです

ば馬鹿な!そんな事、出来るはずがない!

それは二重、三重の意味を持った叫びであった。

何人もの奴隷を従え、他者のものを奪い、蹂躙してきたサルナークはお世辞にも善人とは言えないであろう。しかしそんな彼であっても、母なる壁を傷つける事は躊躇われる。実際に試みたところで傷一つつけられないとしてもだ。

その感覚は善悪を超越したもの。彼らにとって母なる壁は世界そのものであり、生まれたときから死ぬときまで一切変わらずに存在する絶対的なものだ。

それを操作できる者がいるなどと考えたくなかったし、出来るとしても実際にやるなど信じられなかったし、実際にやるとしてもこれほどの規模、これほどの量の壁を操作するなど、気がしれなかった。

──だが。彼女が言うことがもし、真実であるというのなら。

これは全て母なる壁だと言うのか!?

サルナークをぐるりと囲んでいる無数の柱と、彼の身長ギリギリの天井。フローロの言葉は、それが時間が経っても消えないばかりか、破壊すら出来ないことを現していた。

え?それ、言わなきゃいけないんですか?わ、わかりました

フローロはどこか戸惑った様子で一人呟き、サルナークを見据える。

その通りです。あなたは、最初から

ごごん、と音を立てて柱の隙間が別の柱で埋まり。

私の胃袋の中、です

フローロのその言葉を最後に、全ての音が遮断された。完全に密閉されたということだ。

母なる壁はそのものが光を放っているために何も見えなくなるということはないが、それ故に脱出する方法が全く無いということがありありと分かってしまう。

毛の逆立つような嫌悪感、抵抗感を押し殺して、サルナークは剣を振るう。だがそれは壁に一筋の傷をつけることも出来ず、逆に刃が欠けた。

おい待て。馬鹿なそんな事があるか?

出ることが、出来ない。その事実はじわじわとサルナークの心に染み込み始めた。それを悟ったかのように、壁が更に彼に向かって迫ってくる。

待てやめろ!よせ!

その先に待つ運命を正確に悟り、サルナークは青ざめた。

彼の鋼の盾は無敵だ。どんな攻撃も通じない。だからどんなに天井や壁が迫ってこようと、彼が押しつぶされる心配はない。

だが同時に、その迫る壁を押し止める方法もない。

壁を押さえれば、その部分の動きは確かに止まる。だが壁はまるで柔らかい粘土のように形を変えて、サルナークが押さえていない部分だけが迫ってくる。

待て待て待て待て!嘘だろう!?まさか、そんな、ことが!

迫る壁はけしてサルナークを潰すことはない。

ただ彼の存在する場所以外を、全て埋め尽くすだけだ。

身体をどう動かそうとその形にぴったり合わせて埋まっていく壁は、まるで精巧なサルナークの形をした型を取るかのよう。とうとう彼は指一本動かせないほどに周囲を埋め尽くされてしまった。

鋼の盾は今この場においては、何の役にも立たなかった。あらゆる攻撃が効かなくても、腹は減る。いや、その前に乾き死ぬかあるいは、息が詰まって死ぬ方が早いかも知れない。

出せ!ここから出せ!

いくら叫んでも声は狭い空洞の中で反響するばかりで、それどころか口の中に侵入してきそうな壁を防ぐためにサルナークはぐっと口を引き結んだ。

壁の中にいる。

ただそれだけで。己が破滅してしまったのだということを、サルナークはようやく悟った。

第2話奪われたものを取り戻しましょう-5

フローロは壁に閉じ込められたサルナークが完全に動かなくなったのを確認して、深く息を吐いた。Olの術には壁を操るだけでなく、その中を覗き見るものまである。

その知識はあまりに膨大で広範なものだったが、フローロは迷うことなくその力を振るうことが出来た。なぜかといえば

(とりあえずこれで決着という所か)

フローロの頭の中に、声ではなく直接意味が響く。それは言語を介さない思考そのもの。彼女の内側に取り付いた、Olの思考であった。

(本当に、何者なのですか、あなたは)

(それはこちらの台詞なのだがな)

結晶化したスキルというものは、それを扱うこと自体は自然と出来るものだ。しかし複数の異なるスキルを組み合わせて自在に操るとなれば、それには訓練と慣れが必要だ。

フローロがOlのスキルを

(魔術だ)

魔術を操ってサルナークを追い詰めることが出来たのは、この声の支援があってのことであった。

ああの陛下

残されたサルナークの奴隷たちのうち、一人がおずおずとフローロに問いかけた。

あたしたちは、これからどうしたら?

その問いに、フローロは返答に詰まる。今の彼女は魔王ではない。最下層の奴隷に過ぎないのだ。奴隷たちを導けるような立場にはなかった。

(お前はそれでいいのか?)

迷う彼女の心の中を見透かして、Olは問いかける。その意思は厳しく問い質すようでもありながら、不思議と楽しげに尋ねているようにも思えた。

(私、は)

いい訳がない。もちろん、それでいいはずなど、あるわけがなかった。ましてやフローロを見つめる魔族たちの前で──

奴隷にまで身をやつした臣民たちの前で、それでいいなどと言えるはずがない。

フローロに注目する奴隷たちの表情は様々だ。だがそこには明るいものは何一つなかった。不安、困惑、怒り、憤り。彼女たちの境遇と、自分の立場を考えれば当然のことだ。

皆さん。今まで、苦労をかけました

だがその表情はかつて幸福に彩られ、笑みに満ち溢れていたはずだ。

私は先代魔王、ストーノの娘。フローロ・サナオ・エウニーセ・オーレリアです

そう思うと自然と、フローロの唇は言葉を紡いでいた。

サルナークはこの柱に封印しました。程なくして死ぬでしょう。そうなれば、あなた達は奴隷の身分から解放されます

奴隷たちがざわめく。それは歓迎ではなく、不信のざわめきだ。

私もまた、奴隷です。この身には何も残されてはいない。私一人では何も出来ません

その気持ちは、フローロには痛いほどわかった。彼女自身がそうだったからだ。

なるべく何にも期待しないように。何にも心を動かさないように。そうして生きてきました

彼女と同じ場所に落とされ、それでもなお我を通そうとする男の姿を見て、フローロは思ったのだ。

でも、それはもう、嫌です。魔族と言うだけで虐げられる暮らしは。奴隷となってあらゆる自由を奪われ、惨めに扱われる暮らしは。何にも期待せず、生きたまま死体となってただ人生を送る一生は、もう嫌です

彼らはフローロのことを信じてはくれないだろう。

私を信じてとは言えません

失敗し、奪われ、破滅したかつての王のことなど。

でも、もう一度だけあなた達自身の力を、信じてほしい

──自分のことすら、信じられないのだから。

わたくし達の力

ぽつりと呟いたのは、ナギアだ。

魔族は魔族と呼ばれている私達には、力があったはずです

それに答えるように、フローロは声を張り上げた。

ナギアさん達尾族は、人よりもよく見える瞳と強靭な下半身があります。羽族には空を舞う翼と軽やかな身体が。牙族にはあらゆるものを切り裂く鋭い爪と牙が。それは奴隷として使役されるためのものではないはずです!

奴隷たちの表情が、僅かに変わる。フローロに集まっていた視線は、互いを見やった。

私は信じたい。自分のことをもう一度信じて──自分の道は、自分で選びたい

それはあるいは、破滅への道なのかも知れない。少なくとも彼らは一度、その道を選んで失敗している。

すぐに決めろとは言いません。一日、ゆっくりと考えて決めて下さい

呆然とする奴隷たちを置いて、フローロは踵を返し、その場を立ち去った。

良かったのか?

部屋を出ると、いつの間に外に出たのかOlがそこに待ち構えていた。

今のお前がそう命じれば、奴らはお前に従ったと思うが

奴隷となったものは、己で物事を決めるという事に不慣れだ。だからこそ、彼らはフローロに今後のことを尋ねた。しかし彼女のやったことは、それを突っぱねるようなものであった。

ええ。今の私には彼らを導く資格も、力もありませんから

そう答えるフローロの表情は、しかしさっぱりとしている。

(力ならここにあるだろう)

フローロの頭の中に潜んだOlの意思がそう尋ねる。確かにOlのこのスキルが

魔術があれば、魔族を解放することも出来るかも知れない。サルナークが最上層を夢見たのも無謀とは言えないだろう。

いいえ。これはお返しします。ナギア

ひ、ひゃいっ!?

突然名前を呼ばれ、ナギアは思わず角の陰から返事をしてしまった。彼女の蛇のような下半身は、自分で立てようと思わなければ全く音を立てずに床を移動することが出来る。足音一つなくついてくる尾族の尾行に気づくことが出来るものは少ない。

私に入れたス魔術を、Olに戻して下さい

よよろしいのですか?

訝しげに問うナギアに、フローロは頷く。確かに彼女の目から見れば、これほどの術をOlに返すというのは勿体ないことのように思えるのだろう。だがうっかり頭の中でスキルと呼ぶ度に訂正され続けるのは正直フローロとしても面倒だった。

(面倒とは何だ、面倒とは)

(それに、その気になればあなたは私を乗っ取ってしまえるのでしょう?)

不満げな意思に尋ねると、ニヤリと笑うような雰囲気が伝わってきた。もしあのときスキルの

魔術の結晶を、フローロではなくサルナークが奪っていたら、そのまま彼の身体を乗っ取ってしまっていたのだろう。

形代を操作する魔術。自身の肉体を操りながら他者の肉体をも操作する程その術に長けたOlの目から見てみれば、わざわざ彼の術を自分の内に入れることなど自殺行為に等しい。

ナギアの手によってフローロの中からOlのスキルが引き抜かれ、元の持ち主へと戻される。

あ、あれっ!?Ol様、腕と足は!?

その際に、サルナークに斬り落とされたはずの手足が元に戻っているのに気づいて、ナギアは驚きに目を見開いた。

随分綺麗に切ってくれたからな。元に戻す程度、造作もない

そう嘯くOlの手足には、傷跡どころか血の跡一つ残っていない。フローロは今更その程度では驚く気にもなれなかった。

さて。それでお前はどうするのだ?

魔族を奴隷の身分から解放します

きっぱりと答えるフローロにOlは一つ頷く。

なるほど、大した心意気だ。だがお前一人にそれが出来るか?

いいえ

フローロは首を振り、じっとOlを見つめた。

彼の言いたいことはわかっている。

現状を変えたいと願うのであれば、Olの力を借りるしかない。

彼はその力を持っている。文字通り、この世界を変革する力。どこから来たのかもわからない、非常識な能力だ。サルナークが最上層を夢見たのも無謀とは言えないだろう。

だがと、フローロは考える。

Olと関わった時間はまだほんの僅かだが、それでもわかっていることがある。

彼はけして、善人ではないということだ。

少なくともフローロが彼を助けたことに恩義を感じてはいるようだし、それを仇で返すつもりもないようではある。しかし決して無条件に信頼できるような相手ではなく、ほんの少しでも隙を見せれば食い殺されるような恐ろしさを感じた。

対価もなく協力してくれと言ったところで無駄だろう。

私には、あなたの力が必要です。ですが、どれほどの対価を用意すればあなたの力を借りるに足るのか、私には想像すらつきません

Olは僅かに眉をひそめる。それはどういう感情なのかわからなかったが、無視してフローロは続けた。

ですから私のこの身全てを捧げます。それであなたの力を私に貸しなさい

そのような取引をせずとも、俺はお前の全てを手に入れることができるぞ

フローロは頷いた。

わかっています。ですが、あなたはそうしません

やるつもりなら、先程そうしていたはずだ。そう返しても、Olはいつでも出来るからあえてしなかっただけだと答えるだろうし、事実その通りだろう。

あなたは、誇り高い方だからです

だがその返しは想定していなかったのか、Olは僅かに目を見開いた。

あなたは強く、そして誇り高い。仰るとおり、私を手に入れようと思うならそう出来るでしょう。だからこそ、私を騙したり誤魔化したりする必要などない。私が差し出せるものを全て差し出し、それでも足りないと言うのならば、話はそれまでです。あなたのしたいようにすればいいでしょう

選択肢などそもそもないのだ。フローロにはもう何も残されてはいない。全てを奪いつくされ、魔王などという称号も名ばかりだ。

だから、彼女が使えるものはたった一つ。誠意だけであった。

お前な仮にも王を目指すというのなら、もう少し駆け引きというものを学ばぬか

しかしそんなフローロに対してOlが浮かべたのは、酷く呆れた表情だった。

まずはそこから教えてやらねばならぬようだな。全く骨が折れる事だ

そ、そんなに言わなくても良いでしょう。それで、どうなのですか!協力してくれるのですか、してくれないのですか!?

フローロが問うと、Olはますます呆れを強くする。

愚か者が

溜息とともに罵倒するOl。

あ、あの

ナギアがそこにおずおずと割って入った。

教えてやるってことは協力してくれるってことなのではありませんの?

フローロの瞳が、みるみるうちに大きく見開かれ。

察しの悪い奴だ。これでは先が思いやられる

ありがとうございます、Ol!

頭痛を堪えるように額に手を当てるOlに、フローロは頭を深々と下げた。

まずはこの最下層を抜け出したいと思います。どうか、よろしくお願いします

違うな

低く呟くようなOlの言葉に、フローロは首を傾げる。

ダンジョンの最下層とは卑しいものの住む場所ではない

ダンジョンの最上層と言ったところで、その上には地上があり、空があり、月が、太陽が、星々がある。

ダンジョンの支配者。もっとも偉大なるものが住む場所だ

だが、最下層はそうではない。それは人の至る場所の最終到達点。最も深き深奥の地。

故に我々が最上層を目指すのではなく──

これは、二人の魔王が天を目指す物語ではない。

他の者共に、ここを目指させるのだ

最深部を、取り戻す物語である。

第3話魔王の才覚を確かめましょう-1

ふむ意外と悪くはないな

品のいい調度品の並んだ部屋を見渡し、Ol。そこはサルナークが使っていたという部屋であった。流石は最下層の支配者を名乗るだけあって、皮が一枚敷かれただけのフローロの部屋とは段違いであった。

あの、Ol?

本人は壁の中だ。別に俺が使っても構わんだろう?

それは、誰も文句を言わないとは思いますけど

フローロは戸惑った様子で入り口を見つめながら、問うた。

どうして入り口を閉めるんですか?

Olのダンジョンキューブが壁を作り、唯一の入り口を塞いでしまっていたからだ。

何。余計な邪魔が入ってもつまらんのでな

そう言ってOlは羽織ったローブを脱ぎ捨てると、フローロを射すくめるように視線を向けた。

全てを差し出すといったお前の覚悟のほど。疑っているわけではないが、どれほどのものかを確かめさせてもらう

はい!

フローロはきりと表情を引き締め、頷く。

今からお前を、抱く

しかしOlがそう言うと、彼女は不思議そうに首を傾げた。

それで覚悟のほどがわかるんですか?

まあ、ある程度はな。お前が慣れておらんのはわかっている

奴隷と言っても、フローロの主人は彼女を性奴としては扱っていないようだった。経験があったとしてもせいぜい一度か二度のことだろう、とOlは踏む。

よくわかりませんがどうぞ

フローロは腑に落ちない表情をしたまま、そう言って立ったまま両腕を広げた。

何のつもりだ?

あ、すみません。覚悟を問うなら、自分から行動すべきでしたね

フローロはそう言うと、Olに近づき、彼を真正面からぎゅっと抱きしめる。

どうでしょうか。覚悟のほどは伝わりますか

そして抱きついたまま、真剣な表情でOlを見上げた。

そうでは、ない

Olは彼女の身体をひょいと持ち上げると、半ば放り投げるようにしてベッドの上に横たえさせる。

これからお前を犯すと言っているのだ

そしてその瞳の奥底を覗き込むようにして、言った。

おか、す?

一方で、フローロはキョトンとした表情でオウム返しに問い返す。

すみません、犯すとは、どのような事を指しているのでしょうか

経験が少ないどころの話ではない。

全く何も知らないのだ。

Olはそれを悟って、頭を抱えた。

今から

そうは言っても、知らないからと言って今更引っ込みはつかない。それにいずれにせよ、これはやっておかなければならないことでもあった。

お前の誇りを、汚すような行為をする。それを受け入れろということだ

Olがそう言うと、流石にフローロは難しい表情を浮かべた。

それは言葉通りに捉えていいのでしょうか

実はどうしても譲れないような誇りを持っているかどうかのテストというような事はありませんか?

だがそのピントは、どこまでもズレていた。

そもそも犯すと言われて何をされるかすらわからんのに、譲れるかどうかもあるか

あ、そうですね

いまいち理解していない様子で、フローロは頷く。

まあ良い。そのような引掛けはない。ただお前は、今から俺がもたらす苦痛に耐えればよいだけだ

我慢比べですね

真剣な面持ちのフローロに、別にOlの方は何かを我慢するわけではないのだが、などと言う気も失せた。

え?わ、うぷっ

Olは返事を聞かずに、強引に彼女の着ている服を剥ぎ取る。

そして、その光景に思わず息を呑んだ。

垢染みた粗末な服からは想像もできないほどに美しく、シミ一つない滑らかな肌。腰は触れば折れてしまいそうに細くくびれていながら、むっちりとした尻と太股は男の劣情を煽ってやまない肉感に満ちている。

そしてその胸は、一体どこに隠していたのかと問い質したくなる程に豊満だった。リルに勝るとも劣らない大きさの双丘は溜め息が出そうなほどに美しい形をしていて、仰向けに寝ているというのに崩れずにツンと形を保っている。

先端はほとんど肌の色と変わらぬ淡い桃色をしていて、Olをして摘んでしまうのが勿体なく感じる程の汚れのない美しさであった。

どうしましたか、Ol?

思わずその肢体を舐めるように眺めるOlに、フローロは身体を隠す様子もなく問うた。

Olは先程剥ぎ取った粗末な服に目を向けた。服と言ってもろくな縫製もしていない、薄っぺらなボロ布である。とてもこの大きさを隠す余地などなさそうに見えるのだが、と思いつつ、Olはそこに手を伸ばす。

幻覚や作り物ではない。ぐにぐにと揉みしだくOlの指に従ってその形を変える柔らかさと、手のひら全体をぐっと押し返してくる弾力。Olのよく知る乳房の感触そのものだった。それもただの乳房ではない。極上のさわり心地と大きさを持ったバストだった。

?Ol?

無心で胸を揉みしだくOlを、フローロは不思議そうに眺める。本当に全く知識がないらしく、羞恥も不快感も感じていないようだった。

ふむ脚を開け

?はい

そう命じれば、彼女は躊躇いなく秘所をOlの前にさらけ出した。Olは己の指先を唾液で濡らし、秘裂を軽くなぞる。

んっ

すると、フローロは流石に小さく声を漏らす。と言っても快楽というよりは、普段触れられない場所に触れられたくすぐったさに近いものだろう。とはいえ、それは快楽に極めて近い感覚だ。

性感というのは舌の味覚や指先の器用さ、あるいは筋力と同じだ。繰り返し繰り返し練習を積むことで発達していく。何も知らないまっさらなフローロの身体を女にするには、本来であれば何日もかけて開発していく事が必要だ。

無垢な身体をじっくりと自分好みの色に染めていくのも一興ではあったが、覚悟を量るためという名目もある。それに何よりOl自身に、そこまでの猶予が残されてはいなかった。

んっ!

故にOlは、魔術を使った。闇の中を見通すように、巨人の如き力を備えるように、性感も当然魔術によって倍増させることが出来る。

Ol、今のはあっ!

ついと魔力を帯びたOlの指先がフローロの膣口を撫で、彼女は敏感に反応して声を上げる。

何、ですか?っ、ああっ!

戸惑いながらも問う彼女に答えず、Olはフローロの乳首を摘み上げた。指先でこね回してやると、そこはすぐに硬くそそり立つ。小さく可憐な蕾が健気に張り詰める様子は主人にそっくりだ。

オウ、ルふぁあっ!

耐えろと言ったはずだぞ

Olがそう告げると、フローロはハッと目を見開いて、口を引き結んだ。

声はいくら出しても良いからな

言いつつ、Olの指先がつぷりとフローロの膣内に侵入する。

あっ、んっ!

フローロは言われた通り、素直に声を上げた。とろりとした透明な液体が彼女の中から分泌され、Olの指を汚す。十分に感じている証拠だ。

んっ、ふ、あっんんっ、ふあぁっ!

ゆっくりと指を差し込み、中の壁を撫でながら引き抜き、もう一度侵入する。Olが指を動かす度にフローロは身体を震わせて、高く嬌声を上げた。

んっ、あふぅっんんっ

その声は次第に色を帯び、フローロは肩で荒く息を吐きながら、潤んだ瞳でOlを見つめた。その行為の意味はわかっておらずとも、この行為に先があることを本能的に察しているのだ。そして、無意識に彼女はそれをOlにねだっている。

ぬぷりと、Olの指が一際深くフローロの膣を穿つ。その指先が、柔らかなひだに触れた。膣口をぐるりと覆うように包むそれは、彼女の純潔の証だ。

んっあ、んっは、ぁっんっ

その柔らかな膜を傷つけぬよう、優しくOlの指が撫でる。そんな刺激も今のフローロにとっては十分すぎるほど強いもので、彼女は内ももをピクピクと震わせながら喘ぎ声を上げた。

んっ、あっんんっ!は、んんんっ!

処女膜をなぞりながら、ぎゅうと乳房を鷲掴みにし、その先端を親指と人差指で押しつぶす。フローロはたまらず高く鳴きながら内ももに力を込め、背筋を反らした。

絶頂に達したのだ。

あっ、んんっ、あぁんっ、ぅんっ、あっ、や、ぁっ!

だが彼女が達しても、なおもOlの指はフローロの膣内を蹂躙することをやめなかった。文字通りの処女地を嬲る指先を、フローロの膣口が無意識に締め付ける。

ああああっ!?んっ、くぅっ!ああああ、あああああっ!?

フローロは指先が白くなるほどキツくシーツを握りしめながら、何度も何度も絶頂に達し叫ぶように声を上げた。

溢れ出る愛液はOlの手首までを濡らし、ベッドの上に小さな泉を作っている。

自分が今何をされているのか、どうなってしまっているのかすらわからぬまま、穢れを未だ知らぬ少女は丁寧に丁寧に快楽を教え込まれ、身体をほぐされていく。

ふぅっふぅっは、ぁあ

大きく股を広げたまま肩で荒く息を吐き、汗と涙と唾液にまみれた少女の顔の前に、Olは下履きから取り出した己自身を突き出した。

あ♡

フローロがそれを目にするのは初めてのことだった。だがその機能を知らずとも、それをどのように使うのかははっきりと分かった。

彼女の身体は、既に分からされてしまっていた。

意識せずとも股の奥が疼き、それを欲して愛液が分泌される。

ください♡

フローロは気付けば、そう口にしてしまっていた。

両脚を大きく広げ、自分の指先で花弁を押し開きながら、その奥を指差して。

ここに♡Olのそれ、入れて下さい♡

快楽に蕩けきった表情で、甘くそうねだった。

第3話魔王の才覚を確かめましょう-2

そう声をかけ、Olは返事を待たずにフローロの膣内へと侵入を果たす。

しとどに濡れたそこは、あっさりと太い剛直を飲み込んだ。

純潔の膜を破る際に僅かにフローロは顔をしかめたものの、その反応はごく僅かなものだった。手間暇かけてこれ以上ないほど柔らかくほぐしたところに、女の体を熟知したOlが細心の注意を持って挿入したのだ。わざわざ痛みを止めるような魔術を使わずとも十分といえる。

ふあぁぁっ♡

その証拠にゆっくりと奥へ押し込めば、それに押し出されるようにしてフローロの口から甘い声が漏れた。

んっ♡は、んんっ♡あっ♡

性交の意味すら知らないというのにいや、あるいは知らないがゆえか。素直に快楽を貪るフローロの声はひどく艶かしかった。

Olぅ♡ここ、さっきみたいに、触って下さい♡

それどころかOlの腕を取って己の胸に導きつつ、ぎこちないながらも自ら腰を動かしすらしていた。

あっ♡いぃんっ♡それぇっ♡もっと、あぁんっ♡

遠慮なくそのたわわに実った乳房を揉みしだいてやれば、フローロは悶えるように喘ぐ。その表情はすっかり快楽に蕩け、控えめながらもしっかりとした芯を持つ元魔王の面影は殆ど見られなくなっていた。

それぇっ♡Ol、そこっ♡ごしごしされるの、好きですっ♡もっと、して、下さいっ♡

ぎゅうと膣口で強くOlのものを締め付けながら、フローロはもどかしげに腰を揺らしそうねだる。

ここをどう呼ぶのかも知らぬのか?

あんっ♡知って、ますけどぉ♡口に出すのは、恥ずかしい言葉、ですよぉ♡

一応恥ずかしいという概念自体はあるらしい。

構わん。して欲しいのであれば、どこをどうされたいのかはっきりと言ってみろ

おまんこの、奥ぅっ♡Olのおちんちんで、ごしごしして下さいっ♡

しかしOlがそう命じると、フローロは躊躇いもなくそう口にした。

恥ずかしいのではなかったのか?

だってぇ♡して欲しいんです♡Ol、ちゃんと言いました♡わたしちゃんと言いましたからぁっ♡わたしのおまんこ♡ちゃんとごしごししてください♡

呆れ半分でOlはフローロの腰を掴み、ぐっと突き入れる。

あぁんっ♡やぁ、Olぅ♡おっぱいもぉっ♡ちゃんとおっぱいもいじってくれなきゃやですぅ♡

注文の多いやつだ

Olはぼやくように答えつつも、腰に力を込めながら両手でフローロの胸を掴んだ。両手に余ってなおあふれる大きさの胸肉は強く握れば崩れてしまうのではないかと思うほどの柔らかさで、それでいて手のひらにしっとりと吸い付くような触り心地だ。

Olの剛直を咥え込んでいる秘所も下半身全体がびっしょりと濡れてしまうほどに愛液を漏らしておきながら、Olの物をちぎらんばかりに締め付けて、ぬるぬるとした肉の感触が先端をくすぐるよう。

とてもついさっきまで処女だったとは思えぬような、極上の肉体だった。それこそ、Olとて気を入れねば勢い余って達してしまいそうなほどの。

待ておかしい

どうしましたか、Ol?

動きを鈍らせるOlに不思議そうに首を傾げつつ、フローロは自ら腰を揺すってOlの男根をしゃぶるように抽送する。

先程までぎこちなかったはずのその動きはいつの間にか随分こなれ、フローロはピストン運動を繰り返しながらも腰をくねらせ更に奥へとOlの肉槍を咥えこんでいた。

お前!どうして、そんなくっ!

やぁん♡駄目ですよ、Olぅ♡もっと、気持ちよくして下さい♡

引こうとするOlの腰をぎゅっと脚で挟み込み、フローロは彼の腕を取ってむにゅっと自らの胸に強く押し付け、更に上から指を重ねて揉みしだかせた。

もっとぉ♡Olのおちんちんで、わたしのおまんこ♡いじめてください♡

懇願する少女の額に角は生えているが、しかし彼女はサキュバスではない。それどころか悪魔でもない。悪魔であればその身体は魔力だけで構成されているはずだが、フローロの肉体はれっきとした肉でできている。尾や翼、鱗や毛皮を持った者たちと同じように、角が生えているだけの生き物なのだろう。

だがその淫らさと身体の抱き心地の良さ、そして性技の物覚えの良さは淫魔さながらであった。

いいだろう。そこまで言うなら全力で相手してやる

とはいえ、Olは本物のサキュバスを妻としほとんど毎晩抱いてきたのだ。臆する理由もなく、Olは繋がったままフローロの身体をくるりと回転させてうつ伏せにさせると、彼女に覆いかぶさるようにして組み敷いた。

えっ?オウふぁぁぁぁぁあんっ♡

急に体位を変えられ戸惑うように振り向きかけるフローロだったが、ずんと奥まで突き込んでやるとすぐに声を蕩けさせた。

あっ♡はぁんっ♡いいっ♡きもちいいですっ♡Olぅっ♡

もはや魔術による増幅も切ってしまっているというのに、Olの太く長い肉槍をずっぷりと咥えこんで痛がるどころか悦びに喘ぐフローロ。もはや天賦の才という他ないだろう。こんな娘が今まで男のことを一切知らずに生きてきたのは奇跡的なことであった。

あっ♡あっ♡あっ♡あっ♡はぁんっ♡

Olが腰を打ち付ける度に、濡れた肉のぶつかり合う音とフローロの嬌声が部屋の中に響く。更に快楽を求めるべく彼女は尻を高々と上げ、その動きに合わせてぶるんぶるんと揺れるたわわな双丘をOlは鷲掴みにした。

柔らかな乳肉を指の形にぐにゃりと歪ませながら、指先で容赦なく乳首を摘み上げる。

はぁぁんっ♡それぇっ♡それ、いいですぅっ♡

快感にきゅうと締め付けてくる膣口を無理矢理こじ開け、両乳房をほしいままに弄びながら、ぐりぐりと抉るように腰を押し付ける。

ああっ♡それっ♡そこっ♡だめっ、あっ、あっ、あーっ♡

普通の処女であれば痛いだけであろう子宮口への刺激もフローロはしっかりと感じ抜いて、背筋を反らして絶頂に達した。

あぁっ♡だめっ♡まだっ♡わたし♡あっ♡あぁっ♡♡♡

だがOlは休むことを許さず、更に何度も何度も彼女の最奥を強く突く。その度にフローロの視界は白く瞬き、途方も無い快感に彼女は舌を突き出しながら身体を震わせた。

絶頂でキツく締め付けてくるフローロにたまらず、Olはそう宣言する。そして思い切り抱きしめながら、彼女の中に精を放った。

あぁぁぁっ♡ああああぁぁぁぁぁぁっ♡♡♡

膣奥で白濁の奔流を受け止めて、フローロは高く鳴きながら一際大きく絶頂に身を震わせた。大量の子種が、その意味すら知らぬ無垢な少女の胎内を犯していく。

んぅっ♡は、ぁ♡

最後まで出し切った一物を引き抜くと、フローロは気持ちよさそうに身体を弛緩させながら、ベッドの上に突っ伏した。

Ol♡とってもきもちよかったです♡また今度、今のをして欲しいです♡

自分が何をされたのかも理解せぬままとびきりの笑顔で言う彼女の秘裂から、ほんの僅かに血の混じった精液がどろりと零れ落ちる。

ああ。何度でもしてやるとも

Olは答え、何とは無しに顔を近づけフローロに口づけた。

途端、フローロは劇的な反応を見せた。すなわち、口を両手でおさえ、瞳を最大限まで見開いて、Olの顔を見つめたのだ。

き?

その反応に首を傾げるOlに。

キスなんかしたら赤ちゃんできちゃうじゃないですかっ!?

フローロは顔を真っ赤に染めてそう叫んだ。

ああまあそうだな

子供が出来るような事をしたのは確かであったので、Olは曖昧に頷く。

オOlは、私と赤ちゃんを作りたいのですか?あっ

正確に言えば子作りそのものではなく、その為の行為なのだが、とどう説明したものか思案している内に、フローロはなにかに気づいたように声を上げた。

そ、そういうことなのですね覚悟というのは。確かに私は全てを差し出すと言ったのですから、当然それも考慮しておくべきでした

何だ?何を言っている?

その呟きに何やら不穏なものを感じたOlは問い質すが、答える前にフローロはベッドの上で全裸のまま姿勢を正すと、改まった様子で深々と頭を下げた。

不束者ですが、よろしくお願いいたします

違う!そうではない!

案の定、身を固める覚悟を決めたらしいフローロにOlは叫んだ。

結婚するつもりでないのなら、何故子を作るような事をしたのか。

性交の意味さえ知らずキスで赤子が出来ると思っている無垢な少女に、老獪な魔王はその後数時間にも渡って説明する羽目になったのであった。

第4話次なる刺客を迎え撃ちましょう-1

虚空に、小さな半透明の箱が一つ浮かぶ。

Olが軽く指で触れるとそこから線が伸び、似たような箱に繋がれる。その箱からは更に複数の線が伸び、その先に箱が繋がれ、線と箱とは瞬く間に増え広がって、まるで蜘蛛の巣のように縦横に張り巡らされていく。

ふむ思ったよりもだいぶ大きいな

みるみるうちに作られていくそれは、このダンジョンの地図であった。

元とはいえ魔王のフローロでさえ地上を知らないほどのダンジョン。一体どれほどの大きさなのかと魔術による走査を試みたOlの眼前に広がったのは、展開中であるにも関わらず既にOlのダンジョンに勝るとも劣らぬ程の規模を見せ始めていた。

む結界か。小癪な

その表示が、途中で壁にぶつかったように止まる。それは本物の壁ではなく、魔術的な壁であった。Olが今いる場所から七階ほど上の地点で、魔術走査が食い止められている。

ち無理か

Olはそれを力づくで突破しようと試みたが、途中でふらりと目眩を感じて魔術の行使を中断した。

やはり魔力が足らんな

忌々しげに呟いて、彼は傍らですやすやと眠るフローロに目を向ける。

この迷宮は訪れただけで魔力が抜け、失調を起こすほどに魔力に乏しい。そんな中で、Olが気絶している間に目をさますことが出来るほどに回復したのは、フローロのおかげだ。

どういうわけか、彼女はその身に膨大な魔力を蓄えているのだ。歩くダンジョンコアのようなものというと流石に言いすぎだが、並の魔術師など及びもつかないほどの魔力を秘めているのは確かなこと。下手をすればラーメスにさえ匹敵するかも知れない程の量だ。恐らく彼女が魔王だという話と無関係ではないのだろう。

だからこそ、彼女はOlよりも上手くOlの魔術を扱うことが出来た。殆ど魔力が切れかけているOlと違い、彼女の魔力量であれば相当大規模な魔術であろうと自由自在に行使できる。

そんなフローロが自然と放出する魔力を吸収したがゆえに、Olは身体を動かし魔術を行使できるまでに回復した。二重の意味で彼女は生命の恩人だと言える。

Olがフローロを抱いたのも単にその覚悟を試したり、美しい身体を堪能したかったというだけの話ではない。魔力を奪うのであれば交わるのが一番効率がいいからだ。

しかし、フローロの持つ魔力は濃い紫をしていて、Olの琥珀色の魔力とは随分と性質が異なる。奪ったところですぐに使えるわけではなく、自分の体の中でゆっくりと消化する必要があった。

いずれにせよ、ダンジョンコアも龍脈も存在しないこのダンジョンの中ではそう派手な魔術を使うことは出来ない。魔術を使わずとも魔力は消費されていってしまうので、定期的にフローロと交わる必要があるだろう。もっとも、昨日の様子を見るに彼女にとっては望むところだろうが。

起きろ、フローロ

んぅふあぁおはようございます、Ol

目を擦りながら挨拶するフローロは、昨日の乱れっぷりが嘘のようにあどけない。

まずは顔を洗え。今後のことを相談するぞ

不可解なやつだと思いながらも、Olは水の入った桶を突き出すのだった。

王を目指すにあたって、まずやるべきことが二つある

二つですか?

不思議そうに首をかしげるフローロに、Olは頷き答える。

一つはお前の立場だ。よもや王となるべき者が奴隷の立場でいるわけにもいくまい

あっそう、ですね

言われて思い出したのか、フローロ。

解放されるにはどうすれば良いのだ?主人を殺せば良いか?

確かに主人が死ねば自動的にその奴隷は解放されます。或いは主人が奴隷の解放を宣言するかただし、奴隷は自分の主人を害することは出来ません

では話は早いな。俺がお前の主人を殺せばいい

Olがいうと、フローロは表情を曇らせた。

殺さずに何とかする方法はないでしょうか

何だ。奴に義理でもあるのか?

Olの問いに、フローロはふるふると首を横に振る。

いいえ。むしろ散々罵倒され虐げられた恨みがあります

ならば何を躊躇する。まさか今更、人を殺すのが嫌などとは言わぬだろうな

そうではありません。恨みを持つからこそ、殺したくないのです

フローロの答えに、Olはニヤリと笑みを浮かべた。

きっと私は、その死に喜びを感じてしまう。それが怖いのです

それで良い

ぽん、と頭に置かれるOlの手を、フローロはきょとんと見上げる。そんなくだらない理由で、と言われるかと思っていたのだ。

恨みや憎しみは瞳を曇らせる。そんなものは目的を達成するのには不要だ。必要であれば殺し、必要でないなら生かしておけば良い。俺の見た限り、お前の主人は小物だ。わざわざ殺す必要などあるまい

憎しみに囚われるのは不毛だ。

恨みなど忘れて生きろ。

フローロは今まで幾度となくそう言われてきた。

だがOlのいうそれは、全く別の意味を持っているように思えた。

Olはこのような境遇になったことを恨まないのですか?

恨むが?

試しに尋ねてみれば、何を馬鹿なことをと言わんばかりに答えられた。

どうして俺がこのような場所に飛ばされたのかはわからんが、もし何者かが悪意を持って行ったのであれば必ず然るべき報いを受けさせてやる。そんなのは当然の事だ

淡々と、Olは述べる。

だがそれは、恨みを晴らすために行うのではない

その声色は恨みつらみを込めたものではなく、炎が赤いという事実を説明するかのようなもので。

俺は俺に楯突くものを許さぬ。敵を全て後悔させてやらねばならぬ。だがそれは、俺の気持ちなどという矮小なものの為ではない。俺の敵となるのがどれほど割に合わないかをわからせてやる為だ

フローロは、彼が自分の主人を痛めつけている時のことを思い出した。一切の色を持たない、無関心なあの瞳。Olはきっと、人を殺すときも全く同じ目でやってのけるのだろう、と思った。

あの時はそれを恐ろしいと思った。

だが今は、なぜかそれをひどく頼もしく思えるのだった。

ところで、もう一つのすることとはなんですか?

忘れたのか?

意外そうに目を見開いて、Olは言った。

サルナークの奴隷達の処遇だ

完全に忘れていたフローロは、声を上げた。

Ol様、フローロ様

Ol達がサルナークを閉じ込めた部屋に向かうと、ナギア他奴隷達が数人集まっているところだった。

いえですが、わたくし達は未だ奴隷から解放されていないようなのです

見上げたしぶとさだな。どれ

壁の中はみっちりと埋め尽くされていて、サルナークは指一本動かせないレベルにまで固められてしまっているはずだった。普通ならば一刻も持たず窒息死するはずだが、とOlは魔術で中を伺う。

壁の中で、サルナークはぐったりとしていた。ピクリとも動く様子がなく、とても生きているようには見えない。少しつついて様子でも見るか、とOlが壁を動かそうとした瞬間、サルナークは突然かっと目を見開いた。

ほんの僅かな魔術の気配を感じ取ったのか。サルナークの反応にOlは驚くが、だからといって彼に何が出来るわけでもない。

にる

だが、掠れた声で発せられた彼の言葉に、Olは笑みを浮かべて頷いた。

パチン、とOlが指を鳴らすや否や、サルナークを閉じ込めていた巨大な石の柱はバラバラに解けるようにして消え去り、汗にまみれ消耗したサルナークがどさりと地面に転がった。

ぐぅ!

サルナークは萎えきった肉体をなんとか動かし、剣を掴んで立ち上がる。

オウル!

そしてOlの眼前まで幽鬼のようにふらつきながら歩みを進めたところで、ガクリと膝をついた。

Olは震える腕で突き出された剣を手に取り、それでサルナークの肩を叩いた。

俺に仕えるという契約、確かに承った

Olがそう言った途端、サルナークは意識を失い地面に倒れ伏す。

ふむ命に別状はないな。寝かせておいてやれ

Olがそう命じると、自然と奴隷たちの数人がサルナークを運んで連れて行く。

Ol、今のはどういう事ですか?

奴は俺に仕える代わりに生命を助けろといい、俺は承知した。それだけのことだ

サルナークの言葉は命乞いと言うにはあまりにも尊大であったが、Olはかえってそれを気に入った。命を盾に取られてなお挫けぬ誇り。一晩指一本動かせぬ牢獄に閉じ込められ、なお微塵も生存を諦めないその胆力。それはスキルなどというものでは得られぬ素質だ。ここで殺すには惜しい男だとOlは思った。

つまりサルナークをOlの奴隷にしたということですか?

そのような制度は知ったことか。ただ配下にしただけだ

フローロの問いに、吐き捨てるようにOl。

それより、紙とペンはないか?

ございますが何にお使いになられるのですか?

カバンから紙とペンを取り出すナギアに、Olはニヤリと笑い、答えた。

契約書だ

第4話次なる刺客を迎え撃ちましょう-2

うん。ばっちり良く見えます!ありがとうございます、Ol!

元に戻しただけのことだ。感謝される謂われはない

輝きを取り戻した目をパチパチと瞬かせ喜ぶフローロに、Olはそっけなく言葉を返す。

こ、これを全部読めというのか?

別に読まなくとも俺は構わんがな

その一方で、目の前に置かれた分厚い紙の束を凝視し脂汗を垂らすサルナークにOlは涼しい顔で答えた。

フン。オレは貴様に仕えると誓ったのだ。このような取り決めなどしなくとも、好きに命じればよいだろうが

サルナークは腕を組み、契約書から顔を背けると吐き捨てるように言う。

ええとサルナークが魔術によって女性に変化したときの取り決め

今日中に全部読む

だがフローロがそのうちの一枚を取り上げて内容を呟くと、サルナークはすぐさまそれをひったくるようにして奪い、そう言った。

うむ。それがいいだろう。ところで出来れば早急に行って欲しい頼みが一つあるのだが

何だ。女体化以外なら聞いてやる

盛大に顔をしかめ、しかし真剣な眼差しを契約書に走らせながら、サルナーク。

フローロを奴隷の身分から解放したい。お前なら出来るな?

だがOlがそう問うと、彼は一転して野獣のように獰猛な笑みを浮かべて答えた。

サルナーク様、この度はお呼び立て頂き、誠に

つまらん挨拶はいい。そんなことよりだ

フローロの主人コートーというその男をサルナークはギロリと睨みつける。

単刀直入に言おう。お前が飼っているあの魔族の女。あれを寄越せ

そ、そう申されましても

サルナークの命令に、コートーは慌てて答える。

どうかご容赦をあれはワタシにとって唯一の奴隷です。己の奴隷を所有する権利だけは、サルナーク様といえど侵害できぬはずです

この最下層に法らしい法はない。だがしかし、奴隷とスキルだけはたとえ相手が奴隷であったとしても一方的に奪ってはならないと決まっていた。サルナークはむしろその法を守らせる側の人間だ。

無論、ただでとは言わん。相応の対価は用意する

サルナークの合図にナギアが両腕に抱えた袋を数個、どさりと床に下ろす。その口からはたっぷりとした食料や雑貨、宝石などが覗いていた。最下層の奴隷一人を譲り受けるには十分すぎる量だ。

同意致しかねますな

だがいやらしい笑みを浮かべて首を振るコートーに、サルナークは眉をひそめた。

申し上げました通りあれはワタシの唯一の奴隷。対価を頂いたところでおいそれとお譲りするわけには参りません

何だと!?

歯を剥き出し柳眉を釣り上げるサルナーク。コートーはひっと声を上げて身体を竦ませたが、言葉を取り消しはしなかった。

おかしい、とサルナークは思う。コートーはフローロが魔王の娘であることなど知らないはずだ。そもそも最下層の人間たちは、魔王の顔さえ知らない。サルナークですら、彼らが支配者の名を関するスキルを持っているということくらいしか知らなかった。

だがコートーのこの態度は、フローロが価値ある存在であるということを明らかに知っているものだ。

別に奴隷を解放する方法は一つだけじゃないんだぜ

サルナークの手が、腰の剣の柄に添えられる。

サ、サルナーク様こそワタシはもう、あなた様の支配下にはないんですよ

そうしてなお下卑た笑みを崩さないコートーに、サルナークは目を剥いた。最下層にいる者たちはその大半が、サルナークの下に存在する。すなわち彼の奴隷であるか、そのまた奴隷であるかといった調子だ。

ワタシは今、ユウェロイ様の奴隷です。おいそれと害すればサルナーク様とて、無事ではすみませんよ

ユウェロイだと!?馬鹿な、何故お前如きが!?

どうやら想定外のことが起こったらしい。隣室で見守っていたOlが立ち上がろうとすると、サルナークは腕を上げてそれを制した。黙って見ていろということらしい。

ユウェロイとは誰だ?

中層に住む有力な壁族の一人です。普通、上の方の階層の者は、最下層の人間になんて関わらないものですが

代わりに傍らのフローロに尋ねると、彼女もまたどこか困惑した様子でそう答えた。

そういうことなのでね。アレは引き取らせて頂きますよ。そこにいるのはわかってる。さっさと来ねえか!

コートーが怒鳴ると、フローロはびくりと身体を震わせた。主人だからといってその命令に何らかの強制力があるわけではない。しかし今まで何度も鞭打たれてきた記憶が、彼女を自然と従わせる。

だが彼女はその途中で、ピタリと足を止めた。

Olの瞳が、彼女を射抜くように見据えていたからだ。

彼は腕を組んだまま壁にもたれかかり、何を言うでもなくフローロを見つめている。だがその言わんとする所ははっきりと彼女に伝わってきていた。

フローロはキリリと表情を引き締め、ピンと背筋を伸ばし部屋を出る。その背を、Olは笑みを浮かべて見送った。

お呼びですか

待たせるんじゃねえ!この!汚れた血が

コートーの怒声は、フローロの姿を認めてあっという間にその勢いを失った。Olが仕込んだ恐怖の記憶がいまだ有効であったというのもある。

しかし理由の大半は、彼を見るフローロの姿が彼の知るものとまるで違ったからだ。

コートーの知るフローロは常に下を向き、陰気で覇気がなく、いつも何かに怯え背を丸めている少女だった。

それが今は毅然としてコートーを見つめ、それでいて気負った部分がまるでない。同一人物とはとても思えない、凛とした佇まいであった。

コートー

それまでコートー様と呼んでいた相手を、フローロは自然に呼び捨てる。

私はあなたにもう仕えることは出来ません。お引取り下さい

その堂々とした立ち居振る舞いに、コートーは自分が呼び捨てられたことにすら気づかなかった。

何を馬鹿なことを!誰がお前を拾い上げ、今まで面倒見てやったと思っている!

はい。それには感謝しています

全てを失い、最下層に追いやられたフローロが、辛く貧しい生活とはいえ今まで生きてこれたのはコートーが主となっていたからだ。少なくとも彼はフローロを手慰みに殺すようなことはなかったし、振るう鞭は痛みを与えるだけで取り返しのつかないような傷もつけられてはいない。

冷酷な主人についてしまったばかりに命を失っていった魔族はフローロが知るだけでも何人もいる。コートーの事を恨んでいるというのも、感謝しているというのも、偽らざる本音であった。

ですが私はこれ以上奴隷という立場に甘んじているわけにはいかなくなりました。──魔王として命じます。私を解放しなさい

毅然と言い放つフローロの言葉はともすれば居丈高に感じるものであったが、傍で聞いているサルナークの耳には不思議とそうは感じられなかった。むしろ、滅茶苦茶なことを言っているにも関わらず正当な要求にすら聞こえる。

王?お前がお前が王だって?この汚れた血が!

だがコートーは唸るように言って、フローロを睨め上げた。

何を勘違いしてやがる!魔族が壁界を支配していたのは、もうずっと前のことだ!お前はただの奴隷で、最底辺の存在だ!何が魔王だ、この汚れた血が!

その指先から奴隷を打つための鞭を取り出そうとして、コートーは手を止める。

フローロの背後から、サルナークが射すくめていたからだ。

その鞭を振るうなら好きにしろ

サルナークはいっそ平静な声色で、そう告げた。

ただしその瞬間に、お前の首は飛ぶ

ワワタシは、ユウェロイ様の

上等だ

サルナークは刃を抜き放ち、獰猛な笑みを見せて答える。

こっちはそもそも最上層を獲るつもりなんだ。中層の壁族如きにビクビクしてられるかよ

それは、サルナークが本気でフローロにつくと決めたという証拠でもあった。

さあ、とっとと決めな。このお嬢を解放するか、首だけになるか

ひっわ、わかった、わかりました!フローロをワタシの奴隷から、解放する!

サルナークが刃を閃かせ、コートーの頬に一筋の傷をつける。それだけで彼は音を上げて、悲鳴のような声色でそう叫んだ。

それと同時に、フローロの首についていた輪状の印が、まるでガラスのように割れて消え去る。

たただで済むと思うなよ!

コートーはそう言い捨てると、一目散に部屋を飛び出していった。

ありがとうございます、サルナーク

ハ!別に礼を言われる筋合いはねえ。いいか、この際はっきり言っておく

サルナークは剣を鞘に収めながら、ギロリとフローロを睨みつける。

オレは魔族が嫌いだ。魔族の下で働くなんざ反吐が出る。お前を王と認めるつもりなんざこれっぽっちもねえ

その瞳にあるのは明確な嫌悪。

だが、お前とOlの野郎に付くのは美味そうだ。オレはどんな手段を使おうと必ず壁族に返り咲く。その為には何だって利用してやる。だから今は、お前に手を貸してやる。それだけだ

はい!私も、そのつもりです

触れれば切れてしまうような鋭い視線を向けるサルナークは、そうしてもニコニコと笑顔を浮かべるばかりのフローロに毒気を抜かれ脱力した。

ほう。何だって利用するか

その時、出し抜けにOlの声がした。それは彼がことの成り行きを見守っていたはずの隣室からではなく、コートーが逃げていった通路の方から。

ならばこいつをそのまま逃がすのは、少々甘すぎるのではないか?

そこには。

気絶したコートーをまるで野うさぎでも捉えるかのように首を掴んで持ち上げ、邪悪な笑みを浮かべる魔術師の姿があったのだった。

第4話次なる刺客を迎え撃ちましょう-3

Ol、何してるんでしょう

聞くな。知るか。知りたくもねえ

隣の部屋から断続的に聞こえてくる男の悲鳴に耳を塞ぎつつ、サルナークはうんざりとした口調で答えた。

こいつには少し聞きたいことがあるといってOlがコートーの首を掴んだまま隣室に籠もり、一時間。最初は盛大に上がっていたコートーの悲鳴は次第に弱々しい悲痛なものになり、そして啜り泣きすら混じり始めた。

やっぱり、私──

悪いことは言わねえ。やめとけ

彼が何故フローロに協力してくれるのかはわからないが、Olが何をするにせよ、それはフローロの目的を叶えるためのもののはずだ。であるならば、それをきちんと己の目で見る必要がある。

フローロのそういった主張は、邪魔だの一言で切り捨てられた。

ですが

つーかあいつはそもそも何なんだ?どこであんなの拾ってきた?

サルナークは今まで自分のことを、それなりに悪党だと思っていた。無論、上には上がいることくらいはわかっていたが、Olの悪辣さは上とか下とか、そういうレベルの話ではないように思えた。

あいつは何ていうかそう。手慣れてるんだ

自分で口にして、彼は思った以上にそれがしっくり来ることに気がついた。サルナークとて悪逆を成すとき、それが悪であることを意識して行う。今更そこに躊躇いなどしないが、それが悪いことであることは認識している。

しかしOlにはそういった気負いが全く見られないのだ。非道な行いを、呼吸をするかのように行ってみせる。それはナギアを罠に嵌めた時も、サルナークを追い詰めた時もそうであった。

わかりません。ですが、一つだけはっきりしていることはあります

だがフローロは微塵も疑う事なく、きっぱりと答える。

彼は信頼できる人です

人は必ず裏切る

その台詞にかぶせるように、呪詛のような言葉が降り注いだ。

信頼するのは構わんが、お前はもう少し警戒心というものを持て

Olは痙攣するコートーをぞんざいに放り投げ、フローロとサルナークの間の席に座るとテーブルの上に置かれた水をぐいと飲み干す。

人は必ず裏切るかいい言葉じゃないか。誰の言葉だ?

とんでもなく苦いものを食べたような表情をするサルナークを無視して、Olは続けた。

あのコートーという男も大したことは知らないようだったが、一つわかったことがある。あいつ自身はユウェロイの奴隷だと言っていたが、正確にはあいつはユウェロイから三階層ほど下で、直接の主人はラディコという名だ。知っているか?

いえ初めて聞く名前ですね

フローロは首を横に振る。様子を見るにサルナークも同様であるらしい。

わたくしが知っておりますわ、Ol様

親しげな声色と共に音もなく現れたのは、蛇の下半身を持つ美女。ナギアであった。

蛇め

その姿を見て、サルナークは露骨に舌打ちする。

Ol、この蛇に限って言えばまさしくお前の格言の通りだ。こいつは必ず裏切る

あらサルナーク様。酷いですわ。今まで誠心誠意お仕えしてきましたのに支配者の瞳だってお渡ししたではありませんか

目元を押さえ、泣き真似をするナギア。しかしその瞳からは一滴たりとて雫は流れていない。

お前は使い方がわからず俺に寄越しただけだろうが。あれは奴隷を持たないものには全く無意味な代物だからな

フローロの左目。支配者の瞳の力は、その名の通り己が支配するものの視界を盗み見る能力だ。実際には視界だけでなく、聴覚や触覚、更には嗅覚や味覚など、自分の奴隷が感じたこと全てを己のものにすることが出来る。

だが奴隷を持たないナギアやフローロにとっては無用の長物であった。

それで、その情報の対価は何だ?

いやですわ、Ol様

ナギアはその長い蛇の身体を絡めるようにするりとOlにすり寄ると、彼の胸板にぎゅっと己の豊満な胸元を押し付けながら囁いた。

何でもするという約束を結んだのですから、わたくしはあなた様の忠実なしもべ。対価など必要ないに決まっているではありませんか

なるほど性悪だ、とOlは内心で呟く。たちの悪いことに、彼女の今の言葉は殆ど嘘ではなかった。かと言って、心からの本音というわけでもないだろう。

確かに彼女は何でもするといった。だが契約というものは得てして、何をするかよりも何をしないかの方が重要なものだ。今のままではOlに嘘をつくのも裏切るのもそれこそ何(・)で(・)も(・)す(・)る(・)事が出来る。

かといって、サルナークに対して行ったように大量の契約で縛るという事もできない。今のナギアにOlと契約を結ぶ理由がないからだ。命を盾に取るような状況だったとはいえ、契約はサルナーク自身が望んだこと。自分から望んで結んだ約束でなければ、契約の呪いは途端にその効力を失う。

まあ良い。聞いてやる

ラディコは下層に住む牙族で、鉄の腕のスキルを持つ事で知られております。勇猛果敢にして豪放磊落。巨大な鉄槌を軽々と振り回し、翼獅子さえ一撃のもとに屠るとか

つらつらと歌うように語るナギア。Olが知りたかったのは戦闘能力よりもむしろ人となりや何を重んじるかだったが、内心で当てにならんなと呟くだけに留めた。

魔族か

ナギアの説明に対し、吐き捨てるようにサルナーク。

そもそも魔族とは何だ?

そういえばしっかりとした説明を受けていないことを思い出し、Olは問うた。

魔族というのは私やナギアの様に、魔の特徴を持つ者のことです。持っている部位によって、尾族や牙族、翼族などと呼ばれます

己の額から生えた角に触れながら、フローロは説明する。

ふむするとフローロは角族と言った所か?

いや。ややこしいが、角だけを持ったものはただ魔族と呼ばれる。魔族って言葉は広義には魔族全体を指し、狭義には角だけを持った種族を表すというかOl、貴様そんなことも知らずにお嬢の味方をしているのか?

呆れたように問うサルナークに、うむとOlは頷く。

ってことはまさか、魔王についても知らないのか

ああ。だが大体の察しはつくぞ。能力に優れる魔族が統治していたが、人間たちが反乱を起こし王を殺す。娘は秘密裏に逃され、奴隷の姿に身をやつして再起を伺っていたというところだろう

おおよそ、その通りです

Olの推測を、フローロは首肯する。ありふれたと言うほどに実際にはよくある話ではないが、叙事詩(サーガ)にならばありがちな話だ。一つ気になるところはあったが、Olはそれを無視して話を進めた。

このタイミングで行動を起こすということは、そのユウェロイというものはフローロの事情を知っており、更に監視していたということになるだろうな

正体のわからぬ不審な男が近づいたからか。あるいは、その男を伴って最下層の主を下したからか。直接的な理由はわからないが、一つだけはっきりしていることがある。

となれば必然、このまま黙って見ているということはなかろう

ユウェロイは、フローロの道を阻むつもりだということだ。

ハ。どうでもいいさ。邪魔をするならぶった切るまでだ

サルナークは椅子に背を預け、長い足を組んだ。Olの渡した契約書には、鋼の盾を奪わないと書かれていた。故に彼のスキルは未だ健在である。鉄槌だろうが長槍だろうが負ける気はしない。

うむ。サルナーク、お前にはやってもらいたいことがある

いいぜ、大将。どいつでも真っ二つにしてやる

カチリと剣の鯉口を鳴らすサルナーク。

いや、剣は使わん。代わりにこれを使え

そんな彼に、Olは用意しておいたものを渡した。

なんだ、こりゃ

それは棒状ではあったが剣ではなく。

長い柄を持ってはいたが槍でもなく。

大きな頭を持っているが斧でもない。

見てわからんか?

いやわかるから、言ってるんだが

サルナークは袋状になった先端を見つめ、うんざりした口調で言う。

俺に虫でも捕らせようってのか

それはいわゆる、たも網だった。

第4話次なる刺客を迎え撃ちましょう-4

このダンジョンには足りないものが一つある

一つですか?

反射的に返したフローロの問いに、しかしOlは押し黙った。

いや一つどころじゃないな。二つ、三つ、四つうむ。むしろ足りているものを数えた方が早い

そんなに駄目なんですか!?

指折り数えだし、それすら途中で放棄するOlにフローロは思わず叫んだ。ダンジョンというのが壁界全体を指す言葉であることは教えてもらっている。つまりは世界全体への駄目出しである。

駄目というと語弊がある。ダンジョンに何を望むかは人それぞれだ。飽くまで俺の理想とするダンジョンに足りぬものがあるというだけのこと

はあ

独白のように語るOlに、ピンと来なかったらしくフローロは小首を傾げる。

あ、もしかしてそれが、サルナークに捕まえさせてるのと関係するんですか?

うむ。アレもそのうちの一つではある少し魔力を貰うぞ

Olは出し抜けにフローロを抱き寄せると、彼女に口づけ魔力を奪った。何せ大気中にも食事中にも殆ど魔力が存在しないのだ。魔術を使わなくとも体の中の魔力は目減りする一方であった。

その一方で、Olが奪ったフローロの魔力はしっかり回復している。何らかのスキルを持っているのか、それとも別の仕組みがあるのか、未だにOlにさえわかっていなかった。

わかっているのは、こうして定期的に魔力を補充する必要があるということだけだ。

んOl♡

唇に伝う銀の糸を、フローロの舌がぺろりと舐め取る。先程までの控えめで生真面目な様子とは打って変わって、とろりと蕩けた艶めかしい表情でフローロはOlを見つめた。

するんですか?

問いの形を取りながら、明らかに期待した様子でフローロはOlの手を取り、己の胸に押し当てる。その柔らかく悩ましい感触に、Olがその気になりかけたときのことだった。

何盛ってんだ、貴様らは

膨らんだ布の袋とたも網を抱え、ぐったりとしたサルナークが地獄のような声色で割って入ってきたのは。

ご苦労。早かったな

うるせえ乳揉みながら労うんじゃねえ!

眉一つ動かさずに答えるOlに、サルナークは怒鳴りながら網を地面に叩きつけた。

そら。これでどうだ

うむ。申し分ない量だ

サルナークから袋を受け取り、その中身にOlはニヤリと笑みを浮かべる。

フローロ。悪いが伽はまた後だ。これをナギアに渡してきてくれ

フローロは再び人が変わったかのように快活に答えると、布袋を抱えて部屋を出ていく。

アンタまさか魔族を抱く気か?女が欲しいなら融通してやってもいいんだぜ

部屋に残されたサルナークは、不意にOlにそんな事を尋ねた。

ふむ魔族嫌いだから言っているというわけではなさそうだな。人間と魔族が性交渉するのは一般的ではないのか?

聞き返しながら、性交そのものは普通に存在する事にOlは少し安堵した。フローロの思い込みではなく、この世界の生き物が接吻によって繁殖する可能性もゼロではないと考えていたからだ。

あったり前だろ。あのお嬢はまあ、だいぶ人間に近い見た目だからそこまで抵抗はないかも知れんがそれでも人間じゃねえんだぞ?ましてや蛇だの猫だの鳥だの相手に欲情できるかよ

ふむそんなものか

嫌悪感を滲ませ眉をしかめるサルナーク。彼からすれば、獣を相手にするのと似たようなものなのだろう。あれほど麗しい見目を持つフローロが、奴隷の立場でありながら穢れを知らぬ身であったこともそれが理由なのかも知れない。

そんなものかってなぁじゃあお前、あのナギアに突っ込めるってのかよ?化け物の癖に色目使ってきやがって気色悪ぃと思ったろ?

いや、別に抱けるが

ラミアは人と蛇の身体の境目、人間ならば股間の部分に膣口があったが、尾族はどうなのだろうか。などと考えつつも、Olはあっさりとそう答えた。

じょ、冗談だろ!?

確かに性格には少々難があるがな。見目は十分良かろう

Olにとっては見た目よりもむしろ性格の方が難点であった。何でもするという契約を結んだのだから、その気になれば伽を命じることも出来る。Olがそうしないのは、隙あらば寝首をかこうとする魂胆が丸見えの性根が大きかった。

腰から上だけならな!?だけどあの下半身を見ただろ!

何を言っている?

呆れすら滲ませた声色で、Olは言った。

下半身も美しいだろう、あれは

人からは分かりづらいが、蛇の身体とて美醜はある。あらゆる魔に通じ、魔王と呼ばれるOlにとってはもはや人の肉体を見分けるのと変わりない。

太すぎず、されども細すぎもせず、すらりと伸びた尾にキラキラと輝く鱗。上半身同様、美女いや、美蛇と呼んで差し支えのない身体であった。

貴様、本気いや、正気か?

まるきり狂人を見る表情で、サルナークはOlを凝視する。

どうやら人間が魔族を性的な対象に見るというのは随分おかしなことらしいが、それならそれで好都合だ、とOlは思う。別に処女に拘るわけでもないが、他の男の手がついてないならそれに越したことはない。

さてな。正気ではないかも知れぬが、それがどうかしたか?

参った。降参だ。アンタにゃ勝てねえよ、大将

真顔で返すOlに、サルナークは両手を上げて肩をすくめる。

そしてその背後、通路の物陰で、ナギアは危うく布袋を取り落しそうになっていた。

(ほ、ほ、ほ本気ですの────!?)

その白い肌が、頬どころか耳の先まで真っ赤に染まっていく。

(え!?じょ、冗談ですわよね!?わたくしのこの下半身が、美しいだなんて)

実のところ、美醜の感覚は人間も魔族もそう差はない。見慣れており、何より自分自身の身体であるということで蛇の尾に対する嫌悪感こそないものの、人から疎まれ嫌われる事は仕方のないものと思う程度には、ナギアも己の身体を疎んじていた。

腰から上の美しさに関しては自信があるものの、この蛇の下半身のせいで誘惑が上手くいった試しもない。

(そんなわたくしをOl様は、抱きたいだなんて──!)

抱きたいとは言っていないが、ナギアの中では既にそういう事になっていた。

(し、しかもわたくしの魅力にメロメロで正気ではないなんて──!)

そういう意味ではまったくなかったが、ナギアの中では既にそういう事になっていた。

どうしたんですか、ナギア?

頬を押さえ硬直するナギアに、フローロは不思議そうに尋ねる。

その声に、ナギアはハッと我に返った。

一瞬のぼせ上がってしまったが、そんな都合のいい事が起こるはずがない。誰が好きこのんで蛇女を抱きたいと思うものか。

そもそも人間とは自分と異なるものを嫌うものだ。魔族と性交したいと思うわけがない。

フローロ様。Ol様とそのこ、子作りをしたというのは、冗談ですわよね?

?いえ?たくさんしましたよ

曇りなき瞳で答えるフローロ。

(完全にわたくしも狙われてる────っ!)

その言葉に、再びナギアの表情は真っ赤に染まるのだった。

その耳元で、突然低い声。

そこで何をしている

オ、オオオオ、Ol様っ!?

まるでナギアを追い詰めるように壁に手を付き、Olの瞳がじっと彼女を見つめていた。

(そ、そんな熱い視線でわたくしを!)

(こそこそと何を画策しているやら)

それは実際には殆ど睨みつけるに近いものであったが、ナギアにとっては熱意を持った視線に思えていた。

準備はできたのか?

ナギアから布袋を受け取り、その首尾を確かめOlは満足げに頷く。

あ、あのOl様

なんだ

そんな彼を見上げ、ナギアは問うた。

先程、サルナーク様との会話が聞こえてしまったのですがわたくしをお抱きになりたいとか?

(わたくし何を言ってますの──!?)

蛇の体に嫌悪を持ちつつも、それでも豊かな双丘に目を向ける男の視線というのは滑稽でおかしいものだ。ナギアはどうせ自分など誰も相手になどしないということをわかった上で、色香を振りまく癖がすっかり身についてしまっていた。

だが思い返してみれば、Olの視線は殆どナギアの胸元には向かっていなかった。

今はまだそのつもりはない

フローロと違って、ナギアは魔力を殆ど持っていない。故に彼女を抱くとなればそれは快楽のためだけだ。彼女に魅力を感じているというのは嘘ではないが、流石のOlも元の世界に何人もの妻を残してきたこの状況で享楽に耽る気にはなれなかった。それが毒杯であるならなおさらだ。

(た)

しかしそれはナギアにとっては、

(大切にされてる──!)

その様に映った。今はまだ、ということはその気がないというわけではない。けれどすぐには手を出さない。それはナギアの事を慮り、配慮してくれているとしか思えなかった。

ではその日を楽しみにお待ちしておりますわね

ぎゅっと胸を押し付けるようにOlを上目遣いで見つめながら、にこやかに微笑むナギア。

(自ら身体を差し出そうとするか)

Olほどの魔術師であれば、相手が処女であるかどうかは身体に触れればわかる。服越しとはいえ、たっぷりと開かれた胸元を押し付けられればナギアが未経験であることは明らかであった。

(やはり何か企んでいると見てよかろうな)

そんな相手が積極的に身体を許そうというのだ。Olでなくとも何かあると考えざるを得ない。自分のダンジョンでもなく、魔力も乏しいこの現状で誘いに乗るのは愚策だろう。

(早くその日が来ないかしら♡)

(そう簡単にこの俺を出し抜けると思うなよ)

そうして、二人は決定的にすれ違ったまま、表面上は和やかに笑みを交わし合うのであった。

第4話次なる刺客を迎え撃ちましょう-5

んちゅ、ふん、は。ぁちゅ、ふぁ

Olの脚の間に跪きながら、フローロはうっとりと反り立つ剛直に舌を這わせる。

んっ♡ふふ、ぴくんってなりました。気持ちいいですか、Ol?

Olが声を抑えるようにそう答えると、フローロは嬉しそうに笑んで、肉茎に頬を擦り寄せるような仕草で根本から先端を舐め上げた。

正直に言えば、悪くないどころの話ではなかった。つい先日まで処女であった、今日初めて口淫を覚えたばかりの少女に、Olは相当追い詰められている。

辿々しかったのは始めてすぐのほんの僅かな間だけで、Olが二、三アドバイスしただけで彼女はまたたく間に奉仕の技術を上達させた。今ナギアが彼女の胸に腕を突っ込めば、フェラチオLV3辺りが取れるのではないか。思わずそんな馬鹿なことを考えてしまう程であった。

んふ♡Ol、触って下さい♡

Olがちらりと視線を向けたのを目ざとく察したのか、フローロは彼の手をぐいと引っ張ると己の胸に押し当てる。

ずっしりとした重量感と、それに不釣り合いなほどの柔らかさがOlの手のひらを襲った。これほど柔らかいものが、なぜこの重さで形を保っていられるのか不思議なほどだ。

手のひらの中でほんの僅かに力を込めるだけでふにふにと形を変える柔肉の、その先端だけが硬く張り詰めて存在を訴えるかのようにぐりぐりと押し付けられる。

あっ♡あぁんっ♡

ついと指先で摘めば、打てば響く鐘のようにフローロは嬌声を上げた。

もぉ♡お返しですっ♡

そう言って、フローロは教えてもいないというのにOlの男根をぱっくりと口の中に咥え込んだ。

うっく!

そのあまりの快楽に、Olは思わず呻き声を上げる。太く大きい怒張を口の中にすっぽりと収めながらも、輪にした指先で根本を扱きたてる。そうして先端に追いやるようにした快楽を、舌で転がし、唇で締め付け、ちゅぷちゅぷと音を立てながら吸い上げる。

んっ♡んっ♡んっ♡んぷっ、ちゅぷっ♡

それは百戦錬磨の魔王をして、魂が抜けそうなほどの快楽だった。腰にビリビリと痺れるような快楽がわだかまり、放出されるのを必死に堪える。

じゅぷっ♡ちゅっ、ちゅぅっ♡ちゅっじゅぷっじゅるるっ♡

しかしフローロはそれを察したかのように手と唇の動きを早め、強く先端を吸い上げた。

ぐ、う!出す、ぞ!

堪えきれず、Olはぎゅっとフローロの右胸と彼女の頭を鷲掴みにする。

んっんっんっんっ♡んーっ♡

だが彼女は嫌がるどころか目だけで微笑んで、口淫奉仕にラストスパートをかけた。

その喉奥めがけ、Olは快楽を解き放つ。それと同時に、ほとんど無意識にOlは彼女の頭を押さえて離れるのを防いだ。初体験を済ませたばかりの少女相手に、普段ならば絶対にしない動作だ。

しかしフローロは逃げる素振りも見せず、ぷっくりと頬を膨らませて口内に放たれた夥しい量の精液を受け止めた。

ん♡あは♡

それをそのままこくんと飲み下し、口の端から漏れ出た白濁も指で拭って丁寧に舐め取ると、更に精を求めるかのように肉槍の先端に口をつけてちゅうちゅうと残滓を吸い取る。

おいしいです♡

そしてそのまま、再びOlの男根を舐めしゃぶり始めた。

しゃがんだフローロの股の間は、愛液がとろりと滴り落ちて床に小さな湖を作る程に濡れている。口での奉仕だけでこれ以上ないほど発情しているのだ。にも関わらず、彼女は挿入をねだることもなく、心底嬉しそうにOlの肉槍をねぶっている。

まるで男の性器が何よりも好きだと言わんばかり。淫魔もかくやという淫らさであった。

フローロ

Olの方が耐えきれず、挿れてやるから尻を向けろと言いかけた、その時の事。部屋の片隅に設えられた木の板がカラコロと音を立てた。

Ol、これは

ああ侵入者だな

間の悪いことだ、と歯噛みするが仕方がない。

いました。下層に入ってきています!

未だに怒張しているOlのそこから手を離し、左目だけを見開いてフローロが言った。あいも変わらぬ凄まじい切り替えの早さだ。Olとて、気を静めて反り立ったそれをしまい込むのにはもう数秒の時を要した。

通路を進んであっ、かかりました、Olの作った罠に引っかかりました!

このダンジョンに足りないもの。いくらでも挙げられるが、Olが最初に足りないと感じたのは、罠の存在であった。

罠のないダンジョンなど、ただの地下街でしかない。地下迷宮(ダンジョン)の名が示す通り、迷わせ侵入を拒むことこそがダンジョンの本質だ。だがサルナークですら、己の住処に対する防衛機構を用意していなかった。物を作るスキルが希少だという事情もあるのだろう。

敵は何人いる?どんな連中で、どの罠にかかった

本来であれば魔術を用いて監視するところだが、今の乏しい魔力は出来る限り節約したい。故に、Olはフローロの支配者の瞳を利用していた。

サルナークに従っていた奴隷達の大半は、結局フローロに従う事に決めたらしい。何よりサルナーク自身がOlに従っているというのも大きいのだろう。実際は異なるが、フローロ→Ol→サルナークという支配構造である。

相手の狙いが何なのかはわからないが、いちいち無関係な最下層の住民と関わるとも考えづらい。そのためOlは、奴隷達をフローロの目として最下層の様々な場所に配置していた。

それが、その一人です。一人で、落とし穴に落ちました

一人だと?

相手はどのような手段を用いてかはわからないが、フローロの動向を掴んでいる。ならば、サルナークがその配下になったことも知っているだろう。

コートーの主人は鉄の腕の異名を持つラディコという男であるという。鋼の盾を持ちあらゆる攻撃を無効化するサルナークとは相性が悪いはずだ。ならば部下を用い集団で襲ってくるだろうという事を想定しての罠であった。

罠というのは侵入を完全に阻むものでも、一撃必殺を狙うものでもない。侵入者の勢いと戦力を削ぐためのものだ。

罠があれば人はそれを警戒する。疑心暗鬼は足を鈍らせ、精神を摩耗させる。小さな傷も積み重なれば大きな物となり、体力を奪っていく。

だが敵がたった一人であるならばあまり意味がない。直接打倒した方が手っ取り早いしコストもかからないからだ。

まあ、罠にかかったならいい。捕らえに行くぞ

落とし穴と言っても致死性のものではない。行動力を奪うためのものだ。一人であれば這い上がることも不可能だろう。

いえ穴の中から飛び出てきました

何せここは最下層だ。下の層に突き出る心配がないから、壁や床を操ることの出来るOlにとっては、深くする分にはいくらでも深い穴を掘ることが出来る。かなり深くした上に、すり鉢状の逆に下に行くほど広くなる穴を掘ったから壁面を伝って登ることも不可能なはず。

す、すごい勢いで走ってきまあっまた罠にかかった。吊るされてます

吊るされたということは引っかかったのはくくり罠(ワイヤートラップ)だろう。見づらく迷彩された紐に脚を引っ掛けると、輪にした紐が脚を締め付けそのまま中空に吊り下げるという罠だ。

森の中に張るならともかく、紐を隠すもののないダンジョン内では比較的発見が容易で避けやすい罠なのだが

あっ、紐を引きちぎって降りてすぐ落ちました!?

それを跨いで避けると、直後の落とし穴に落ちるように設置してあった。いわゆる二段構えの罠なのだが、ご丁寧にその両方に引っかかるとは、よほど注意力のない相手らしい。

あっでもまた出てきました!だいぶ頭に来てるみたいです!すごい速度で走ってあっ、捕捉範囲から抜けちゃいました

まあそうなるだろうな、とOlは額を押さえる。一つ目の落とし穴と深さにそう差はないのだから、抜け出すだろう。普通ならば冷静さを失った相手というのは罠にはめるのに最適なのだが、ラディコはそれを強引に突破するパワーを持っているらしい。

詳しい事情を探るため、罠の大半を非殺傷性にしておいたのが仇になった。部屋の外からドカバキと破砕音が聞こえてくる。ラディコはだいぶ近づいてきたようだ。

あっ、サルナークが戦闘に入りました。えっ嘘!?鋼の盾に物理攻撃は効かないはずじゃあ

フローロが驚きに目を見開くが、Olは驚かなかった。敵が一人であるという時点で半ば予想していたことだ。サルナークの能力を知った上で突撃してきたなら、それをどうにかする手段を持っているのは当たり前のことだ。

フローロ、来い

Olはフローロの肩をぐいと抱き寄せる。その次の瞬間、Olが設置しておいた扉が弾け飛んで、先程までフローロがいた空間を切り裂き、壁に当たって粉々に砕けた。

折角木材をかき集め苦労して作ったものをと内心で呟きつつ、Olは侵入者を見据える。それは、Olが想像していた姿とは随分違った。

勇猛果敢にして豪放磊落。巨大な鉄槌を軽々と振り回す下層に住む牙族。

なるほど。男とも巨漢とも言っていないな。とOlは納得した。

巨大な鉄槌を手にし、身体のあちこちに矢が刺さったり焼け焦げていたり粘液がこびりついたりといった罠の痕跡を残した牙族の戦士は、しかし少女と言っていい外見であったからだ。

手にした鉄槌とは不釣り合いに小柄な少女だった。ふわふわとした毛並みの大きな尻尾と、オレンジがかった髪の上にぴょこんと突き出た耳。満身創痍かつその鉄槌からサルナークの血が滴ってさえいなければ、愛らしいという言葉がぴったり似合ったであろう少女であった。

妙な仕掛けを作ったのは、キミ!?

ラディコは鉄槌をびしりとフローロに突きつけ、怒鳴る。

えいえ

戸惑うフローロを離して、Olは己を指差した。

よーし!そこを動かないでよお!

言うやいなや、ラディコは鉄槌を振り上げOlに向かって突進した。フローロが補足してからここに辿り着くまでの時間でおおよそ把握はしていたが、ラディコの足はそこまで早くない。ユニスに比べればあくびが出てしまう程度の速度だ。

だが破壊力で言うなら雲泥の差だろう。あの鉄槌がかすっただけでもOlはぐちゃぐちゃにすり潰されてしまうに違いない。

行け

故にOlは言われた通りその場を動くことなく、布袋の口を開いてそう命じた。途端、袋の中から無数の蜂が飛び出してくる。サルナークに集めさせた蠍蜂と呼ばれるモンスターだ。

それは角兎のスキル突進を使って、矢よりも早い速度でラディコの全身に突き刺さった。

痛あ!?なにこれ、なにこれえ!?

すっ転んだラディコの手から飛び出した鉄槌を、Olは軽く首を曲げてかわす。それは背後の壁に激突すると、粉々になった扉の横に転がった。

身体動かなよお

ラディコは地面に突っ伏したまま、弱々しい声を上げる。

蠍蜂のスキル麻痺針だ。こんなにすぐ使う羽目になるとは思わなかったがな

警戒音を立てながら宙を舞う蠍蜂たちに、Olは魔術で命じて袋に詰め直す。

角兎の突進を、フローロは使い勝手の良くないスキルであると評していた。敵に向かって高速で突き進むだけなのだから、さもあろう。しかし角兎は同時にパンも落とすため、スキルの結晶は相当余っているのではないか、とOlは考えた。

ナギアに聞けばまさにその通りで、その大量に余ったスキルを上手く使えそうなモンスター蠍蜂に覚えさせたのである。捕獲してきたのはサルナークだ。鋼の盾を持つ彼であれば、麻痺針を食らう心配もなく好きなだけ捉えることができる。

そうして突進を覚えた蠍蜂を魔術で操れば、再利用可能な上に回避が難しく命中した相手を麻痺させる飛び道具の完成だ。知能の低い昆虫型のモンスターを操ることなど、Olにとっては赤子の手を捻るよりも容易い。

モンスターにスキルを覚えさせるなんて、考えもしませんでした

モンスターから取ったスキルをモンスターに覚えさせる事の何がそう珍しいのかわからん

サルナークやナギアと全く同じ反応をするフローロに、Olは首をひねった。人間は高い学習能力を持っているのだから、わざわざスキルなどというものを使わずとも訓練すればいいだけの話だ。

だが知能の低いモンスターに複雑な動作を仕込めるのであれば、これは大きな強みである。もしここにスピナがいれば、どれほど手のつけられないスライムを作ったことか。

そんなことを考えつつも、Olは麻痺して動けないラディコの小さな体をひょいと担ぎ上げる。

何をする気なのよう

ラディコの問いに、Olはふむと考えた。思った以上に彼女の身体能力は高かった。縛り付けたところで動きを拘束するのは難しいだろう。麻痺毒もどれほど持つものかわからない。

さらに言えば、ラディコが敗北したことも早々に知られるだろう。増援が来るよりも早く、彼女に口を割らせるもっとも効率的な手段は何か。Olはいくつか候補を思い浮かべるが、その中で最も有用なのは、といえば

気持ちのいいことをするんですか?

何故か目を輝かせて尋ねるフローロ。

まあ、そうなるか

そうなるのだった。

第4話次なる刺客を迎え撃ちましょう-6

魔力というのは実に様々な性質を持っている。中でも最も単純な利用法がこれだ

ピンと伸ばしたOlの人差し指の先端に、琥珀色の光が灯る。

魔力というのは空気のように形のないものだが、圧縮すると形と硬さを持つ。そうした上で形状を整えてやればこの通り。量を増やしてやれば剣にも盾にもなる

その指先で布をついと撫でると、切れ落ちた布がぱさりと床に落ちた。

これが、魔術

いや、正確には違う。これはただの魔力操作であって魔術ではない

どう違うのですか?

新しい弟子の素朴な疑問に、師は少し考えた。それは理屈というよりは慣習的、感覚的な分類であったからだ。

ナギアのスキルに剣術というものがあっただろう。剣を使わねば剣術ではなく、剣をただの棒のように振るってもそれは剣術ではない。そこに術理を効かせ、刃筋を立て敵の急所を狙ってこその剣術だ。それに近い

ええとなんとなく、わかる気がします

剣術スキルを持たないフローロにはあまりピンとこない説明だったが、しかしOlの言いたいことはなんとなく察して頷く。

例えばこのままでは集中を解けば魔力もまた形を失う。それでは実戦では使いにくい。そこで呪文によってそれを補い、集中を解いても形が保てるようにしてやればそれは魔術だ

つまり、自分の意志から離れるということですね

聡明な弟子の視点に、Olは満足げに頷く。

その通りだ。故に魔術は常に暴走の危険を持つ。ゆめゆめ油断するなよ

わかりました!

折角膨大な魔力を持っているのだ。フローロにもその扱い方を覚えておいてもらうに越したことはない。だが、スキル結晶の力を利用するつもりのないOlは、フローロを弟子として魔術を一から教え込んでいた。

さて。では時間もないことだし、早速施術へと移る

Olはそう告げると、部屋の中に存在する三番目の存在へと目を向けた。

両手両足を壁に固定され、服を切り裂かれて全裸になったラディコである。

サルナークが言うには、このダンジョンの壁は誰にも破壊できないのだという。確かに強力な術が籠もっているのは感じるが、Olにとってはただの壁だ。誰にも破壊できないというのであれば、それは最高の拘束具であった。

そういえば、これも魔術なんですよね?

そうだ。だが見た目よりもかなり高度な事をしている。お前にはまだまだ無理だ

見た目よりも何も、絶対なる母なる壁を動かすことより高度な事があるとは思えないのですが

ぼやくフローロを無視して、Olは彼女の手を取った。

今回お前にやってもらうのは、簡単な身体操作だ。簡単と言っても奥は深いが、方向を持たず動いてない物を対象に単純な強弱だけであれば、お前にも出来るだろう

身体強化は簡単だが、難しい。例えば腕の力を何も考えずに上げてしまえば、強化された筋肉は己の骨をすぐさまへし折るだろう。方向を間違えれば敵を殴るつもりが己を傷つける。戦いながら強化するなら動く身体に合わせて魔術も動かさなければならない。

だが固定された相手の感覚を強化するだけであれば、初心者でもそう難しくはなかった。

こうだ

Olは握ったフローロの手を通して、彼女の魔力を操りラディコに感覚強化の術をかける。

あっ。これ、この前Olが私に使っていたものですね

ほう。よくわかったな

自分に使われた魔術を使う感覚から特定するというのは、たとえるなら石に彫られた鏡文字を指で触っただけで文章を言い当てるようなものだ。単純なものとはいえ、フローロの記憶力と勘の良さにOlは感心した。

んん

目を閉じ気を失ったまま、ラディコは小さく声を上げる。

強さとしてはこの程度でだいたいそうだな。平時の二、三十倍と言ったところか。感度は魔力量に対し比例するのではなく、二次関数的に上がっていくから気をつけろよ

真剣な面持ちで頷くフローロに術を任せ、Olは改めてラディコに向き直る。

目を覚ませ

Olがそう告げると、ラディコはぼんやりと目を開いた。その焦点はあっておらず、呆けた表情で彼女は顔を上げる。

ここはどこお?

心配することはない。ここは安全な場所だ

夢を見ているような顔つきで呟くラディコに、Olは優しげな声で囁いた。実際、今の彼女は夢を見ているようなものだ。

単純な刺激の繰り返しと魔術の併用によって、ラディコの思考は今深い催眠状態にあった。起きてはいるが、意識がない状態。

そういえば初めてユニスと出会ったときも、この様な手を使ったのだったか。Olは不意に随分昔のことを思い出し、軽く首を振って意識を目の前に集中させた。

お前と少し話がしたいのだ

ボクとお話しい?

間延びした口調で問うラディコに、Olはそうだと頷く。

でもお知らない人と、話しちゃいけないって、フォリオ様が

俺の名はOl。アイン・ソフ・Olだ。お前は?

ボクはラディコ。鉄じゃなかった、銀の腕のラディコ

銀?とOlは内心首をかしげるが、ひとまずおいて続けた。

これで知らない間柄ではないな

んじゃあ、大丈夫だね

するとラディコはあっさりと納得する。催眠状態にあるとはいえ、やはり物事をあまり深く考える方ではないらしい。

誰に言われてここに来たんだ?

それは言っちゃいけないって

その返答に、Olは眉をわずかに寄せた。捕らえられた時の対策が既にしてある。しかも命令系統をわざわざ隠すということは、中層のユウェロイやその下の人間とも別の者から命令されている可能性がある。

言ってはいけないと言ったのは誰だ?

しかし特定の情報だけを隠すのなら、言い含めるのでは不完全だ。何も話すなと命じられていない限り、それを隠せと命じたのは誰かと無限に聞き続けていけば必ず綻びが生じる。

フォリオ様

フォリオ様というのはお前の主人か?

ラディコはこくんと頷いた。

なるほど。俺はお前をここに送ってくれたものに礼をしたい。フォリオに贈り物をすればいいか?

Olはやや持って回った言い方で尋ねた。それを肯定すれば、ラディコをここに送った者がフォリオであることは明白になる。しかし催眠状態ではその様な論理的な思考はできないものだ。

彼女が禁じられているのは彼女をここに送ったものの名を口に出すことだから、この様な問い方をすれば回避することが出来るのだ。

ううん、違うフォリオ様じゃないから

案の定、ラディコは首を横に振った。

ではユウェロイか?

ううん

やはり、別の命令系統がある。この用意周到さを鑑みるに、コートーの時点で偽情報を与えられたと考えるべきだろう。流石に全くの無関係ではないだろうが、ユウェロイまで辿っても何の事情も知らない可能性すらある。

ラディコ。今から俺はお前のことを気持ちよくしてやる

Olはフローロに目配せすると、ラディコにそう囁いた。

気持ちいいというのは、お前にとって良いことだ。そうだろう?

気持ちいいのは良いこと

当たり前で、単純な論理。

だからその良いことをしてくれる相手を、お前は少しずつ好きになる

良いことを好きになる

催眠状態のラディコの頭に染み込ませるように、Olは繰り返し暗示を仕込んでいく。

そうだ。このように

Olがラディコの胸元を撫でると、彼女はぴくりと反応した。その小柄な身体に相応しい、なだらかな膨らみ。幼さを多分に感じさせる体つきだが、成熟自体はしているのだろう。フローロの魔術の補佐があることを差し引いても、感度はそう悪くない。

好きな相手に触れられるのは嬉しいことだ。お前が俺のことを好きになればなるほど、気持ちよくなっていく

んんっふぁ

ツンと尖った先端をそっと指の腹で押しつぶすように撫でる。込み入った事情を聞き出すには、催眠を一度解く必要がある。しかし催眠が解ければ正直に答えるはずもない。故に、今のうちにしっかりと仕込んでおく必要があった。

胸よりもこちらの方が好みか?

あっんっ!そこはあ!

ついとOlが指先でラディコの秘部に触れると、一際大きな反応があった。粘膜に傷をつけぬように細心の注意を払いながら、Olは指をつぷりと侵入させていく。既にしっとりと濡れそぼった秘所は、さしたる抵抗もなくOlの指を咥えこんだ。

あっんんっ!く、ぅんっ!

あどけなさを残すラディコの唇から甘い声が漏れ出る。経験はないようだったが、自分で弄ったことくらいはあるのだろう。胸よりも段違いに良い反応だった。

俺の指を感じるだろう?集中しろ。太い指がお前の膣内に第二関節まで入って膣壁を、ゆっくりとなぞる。指の腹で軽く押しながらこうして少し曲げると、強い快感が走る。ここには女の快楽を呼び起こす釦(ボタン)があるからだ

あっ、んっ!ふ、あぁっ!

ラディコの秘所、そのごく浅い場所をOlの指が撫でるたびに、そこからは愛液が溢れ出してOlの手を汚す。

気持ちいいだろう?口に出してみろ。そうすると、もっと気持ちよくなる

きもちいい、よお!気持ちいいよお!

ラディコが叫ぶやいなや、Olの指を膣口がきゅうと締めつける。

気持ちよくなればなるほど、お前は俺を好きになる。俺を好きになればなるほど、お前は気持ちよくなる。そうして、お前はどんどん高みに登っていく

あぁっきもちーよお!もっともっとお!

Olの暗示を素直に聞いて、ラディコはどんどんと上り詰めていく。腰をガクガクと震わせ愛液を洪水のように滴らせながら、ラディコは更なる愛撫をねだる。

そうだ。今は何もかも忘れて気持ちよくなれ。快楽で頭が真っ白になったその時、お前は一度全てを忘れる。しかし本当に忘れるわけではない。問われればすぐに思い出せる

最後の暗示を塗り込めて、Olは指の速度を僅かに上げた。

さあ、快楽はどんどん強くなる。意識がふわりと宙に飛んで一気に解き放たれるイメージだ

あぁっ!ふああぁっ!飛んじゃうっ!飛んじゃうよおっ!

膝をガクガクと揺らし、舌を突き出して、ラディコはぎゅっと全身に力を込める。

イけっ!イくと言うんだ!そうすれば、お前は一番気持ちよくなれる!

イくっ!イくっ!イっちゃうよおっ!あああぁっ!あああああっ!

一際強く、ラディコの膣口がOlの指を締め付けて。

イっくぅぅぅっ!

その瞬間、ごきり、と不吉な音が鳴り響いた。

右手に走る激痛に、Olは瞠目する。

彼の指は、完全に潰されていた。

──鉄の腕ラディコの膣圧によって。

第4話次なる刺客を迎え撃ちましょう-7

だ大丈夫ですか、Ol!?

大事ない心配するな

脂汗を流し、苦悶の表情を滲ませながらもOlはそう答える。

潰されたのは指先であるのだから、命に関わるような怪我であるはずがない。しかしそれは、サルナークに右腕を切り落とされた時よりもよほどたちの悪い傷であった。

そもそもが圧挫傷潰された傷というのは、裂傷や刺傷に比べて治すのが難しい。組織が広範囲に渡って損壊しているからだ。

だがそれ以上に、もし入れているのが指ではなく、己自身ペニスであったら。そう思うと、流石のOlといえど汗が止まらなかった。それは男としての本能的な恐怖である。

(これのどこが鉄の腕だ!)

サルナークの鋼の盾もフローロの支配者の瞳も、名前とは全く乖離した性能を持つ詐欺じみたスキルであった。鉄の腕も腕だけではなく脚や指先の力が増している事くらいまでは想像していたが、膣を締め付ける力さえもが増幅されているなどと、一体誰が考えようか。その調子で全身の力が強化されているなら、日常生活を送ることすら難しいではないか。

等とOlが心の内で文句をつけていると、ラディコが太ももを擦り合わせながら甘えた声で彼の名を呼んだ。

もっと、気持ちよくしてえ切ないのお

い、いや。しばし待て

骨が粉々にすり潰された指先を治療しつつ、Ol。

気持ちよくしてくれないのお?

するとラディコは一段低い声色で、じっとりと彼を睨んだ。

気持ちよくすればするほど好きになる。それは裏を返して言えば、気持ちよくしてくれないのならば嫌っていくという事になりはしないか。Olはその可能性に思い至り、すぐに左手で彼女の胸を撫で擦った。

無論、してやるとも

やあんおっぱいじゃなくて、さっきみたいにぃおまんこ、触ってえ

身体をくねらせ、ラディコが不満げにねだる。女から求められて恐怖を感じたのは、Olにとって生まれてはじめての出来事であった。

Olは高速で思考を巡らせる。防御魔術を施して愛撫すればいや、ラディコの鉄の腕はサルナークの鋼の盾すら貫通する力を持っているのだ。純粋な防御力ではOlの魔術は敵わない。

では自分の痛覚を切り、肉体が潰れるのは覚悟して愛撫するか。いや、痛覚を切ってしまえば指先の繊細な感覚は失われる。ラディコを満足させることはできないだろう。

どうする。どうする

フローロ

その時、天啓が降りたかのように閃いて、Olは己の新しい弟子に声をかけた。

俺のものを咥えろ

いいんですかっ!?

唐突な要求に、しかし弟子は理由を問うことすらなく瞳を輝かせた。

ああ。ラディコ、今からお前を気持ちよくしてやる。さっきよりも、もっとだ

言いながら、Olは彼女の秘部に触れる。しかしそれは膣内ではなく表面。膣口の上に位置する陰核にであった。

いやあ中がいいのおんぅっ!

文句を言いかけたラディコだったが、Olの指先から伝わってくる快楽にびくりと体を震わせる。それと時を同じくして、フローロがOlの一物をぱくりと咥えていた。

伝達の魔術。Olが感じる快楽を、ラディコの身体にも伝えているのだ。その上で、Olもラディコの身体を愛撫している。いわば二人がかりによる愛撫であったが、単純に二人で行うのとはわけが違った。

なぜなら、Olの肉体は未発達なラディコの身体よりも遥かに開発されているからだ。ラディコの感度を倍増するよりも、Olの感じる快楽を伝えた方が手っ取り早く強い快感を与えることができる。

しかしそれには一つ弊害もあった。

──Ol自身も、本気で感じなければならないということである。

んっじゅぷっちゅ、ちゅるるちゅぷ、ちゅっ

はあんっあぁっくぅんきもち、いいよお

くっうぐ、ぅっふ、うぅぐぅっ

狭い部屋に、三人の男女の吐息が木霊し混じり合う。フローロに口で奉仕させながらラディコの身体を愛撫するのには、奇妙な倒錯感があった。

くっうっ!

その状況に興奮にしきった肉体は全身が性感帯のようで、性器を舐るフローロの髪の毛がOlの脚を掠めるだけで気をやりそうなほどの快楽が駆け抜けていく。その上、彼女の柔らかな舌と唇が、これ以上ないほど反り立った肉槍を丁寧に丁寧になぞっていくのだ。

ぷりんとした肉厚の唇が、ちゅうと亀頭の根本、大きく張ったエラの部分に口づけるかのように押し当てられる。そしてその唇を割って濡れた舌が控えめに姿を見せると、カリ首の段になった部分を愛おしげにぐるりと舐め清めていく。

それが終わると一旦口を離し、あーんと声に出すかのような仕草で口を開け、ぱくりと亀頭全体を咥え込む。同時に舌の平の部分で裏筋の部分を舐め上げながら、奥までつぷりと飲み込んで、竿をしゃぶるようにして引く。

それを二度、三度と繰り返したあと、肉槍を片手で立てて、もう片方の手でやわやわと袋に触れながら、おとがいを上に向けるようにして根本から先端までを、下品に伸ばした舌全体を使って舐めあげていった。

フローロ胸も、使え

胸おっぱいですか?ええとこう、ですか?

堪らずOlがそう命じると、フローロは少し考えたあと、その豊かな乳房でOlの剛直を挟み込む。

これでいいんですね。んっ♡

途端にぴくりと跳ねて硬度を増す男根に彼女は満足げに淫蕩な笑みを漏らし、当たり前のように胸の肉で竿を扱き立てながら先端をぱくりと咥えてみせた。

そんな淫靡極まりない光景を視界の端に捉えながらも、Olはラディコの肉体を嬲っていた。

膣内に指を入れることこそできないが、陰核を攻めつつもその下のスリットの入り口を撫でるようにして往復させれば、滴り落ちた愛液がたぱたぱと音を立てて地面に滴り落ちる。

んっ、きゅぅんっ♡あぁっ♡きもちーよお♡

手のひらにすっぽりと収まってしまう柔らかな乳房を揉みしだくと、小さな蕾が触ってくれと言わんばかりに屹立し、それを舌で転がしながら唇で甘く食めば、その度にラディコは素直に喘ぎ声を漏らす。

その瑞々しい肌を味わえば、それそのものが快楽となってラディコに伝わり、彼女は更に善がって身体を震わせた。

んちゅぅっ♡ちゅっ♡ちゅぅっ♡じゅぷっ♡

くぅんっ♡あっ♡ひやぁんっ♡はあぁんっ♡

豊満な肉体を使って奉仕する女と、あどけない肉体を思う様蹂躙させる女。奉仕されながら別の女に奉仕するそれは、Olでさえ今まで経験したことのないものであった。

痺れるような快感に煮えたぎる快楽が、目の前の少女を蹂躙したいと唸りを上げる。貪るように吸い付くような肌を味わっても、そこにぱっくりと開きよだれを垂らす美味そうな雌穴に突き入れるわけにはいかない。

だが、幾重にも折り重なった快感によってすっかりほぐされたその穴から垣間見えるピンク色の肉はこの上なく淫靡にヒクヒクと蠢いて、まるでOlを誘っているかのようであった。

きもち、いいよぉ♡ねぇ、中あ♡中にい♡入れてほしいのお♡

ふるふると腰を振ってねだるラディコの言うことを聞くわけにはいかないし、かといって単純に達するわけにもいかない。Olは最大限快楽を感じながら、しかしそれに流されることなく冷静にラディコの身体を愛撫し気持ちよくしないといけないのだ。

ねぇ♡Olぅ♡それも♡気持ちっ♡いいけどぉ♡もっと、気持ちよく♡なりたいよお♡

両手両足を拘束されながら、出来る限りにラディコは尻を振ってOlに誘惑する。

ああ、してやるともっ

とろとろに熟れた蜜壺に挿入すれば、どれほど気持ちいいことだろうか。そんな思いを抱きつつも、Olはラディコの両乳首をきゅっと摘み、びっしょりと濡れた秘所を舌でなぞる。

ひぁんっ♡もっとぉ♡もっと奥♡ナカに、挿れて欲しいよお♡

舌先で触れた空間は、特別閉じているというわけではない。つまりは実際に凄まじい力で膣を締め付けているわけではなく、膣で何かを締め付けるとそこにかかる圧力が倍加するのだろう。

それに気づいたOlは、一つの方法に思い至った。力を倍加するならば、同じことをしてやることが出来る。

Olは己の快楽をラディコの身体に移したまま、自分自身の感度を最大限まで引き上げた。

ぐ、おっ!

ひあぁあっ♡

神経が焼ききれてしまうのではないか、と思うほどの快楽がOlを襲う。あまりの気持ちよさに、逆に達することができないということもあることを彼は初めて知った。矢を放たれる寸前の弓が弦をキリキリと引き絞るように、その瞬間に向けて間延びした時間の中Olの中の快感が急速に膨れ上がっていく。

フローロの濡れた舌の感触、唇が男根を締め付けるほのかな圧力、肉茎をぴっちりと包む胸の柔らかさ、すべすべとした肌の触り心地。その一つ一つが恐ろしいほどの克明さでOlの脳に伝わって、津波のように押し寄せる。

そして溢れかえったそれは、痺れるような強烈な快楽となって体中を駆け抜け、爆発するかのように白濁の迸りとなってフローロの口内に注ぎ込まれた。

んっ♡んくっ♡

それを喉の奥で受け止めながら、フローロは教えられたばかりの術を行使する。Olの魔術によって倍加させられた快感はそのままラディコの身体に伝えられ、それがそのままフローロの魔術によって更に増幅された。

ひあっ♡♡♡~~~~♡♡♡♡♡

プシッ、と音を立ててラディコの脚の間から潮が吹き出し、床を穿つ。母なる壁で出来たものでなければ深い穴が作られていただろう。Olの手を掠めていれば指の一本も飛んだかも知れないが、気にすることはなかった。

Olはフローロの頭を押さえてその喉奥に出せども出せども尽きぬ白濁の液を送り込むことに精一杯で、ラディコは体中を駆け巡る快楽に声を出すことも出来ずただただ連続で絶頂し続けていたからだ。

ただ一人、フローロだけが嬉しそうに目を細め、Olの精液を喉を鳴らして飲み下していた。

第4話次なる刺客を迎え撃ちましょう-8

目覚めよ

パチン、とOlが指を鳴らした瞬間、ラディコの瞳に光が戻る。切り落とした衣服は修復したが、念の為に手足は拘束したままだ。

あれっ?ボク

パチパチと目を瞬かせ、ラディコは周囲を見回す。そして、Olの顔を目にした瞬間、ポンと音を立てそうな程に顔を真赤に染め上げた。

わ。わ。わ。何!?どうなってるのお!?

そして己の頬を押さえようとして初めて拘束された両手足に気づき、ラディコは慌てふためく。

慌てるな。害を加えるつもりはない

ぐっと顔を近づけ、Olは言った。

もっとも、そちらがこちらに危害を加えなければ、の話だが

くっ、加えない加えない!絶対加えないよお!だ、だからこれ解いて、顔を近づけないでえ!

思った以上にあっさりとそう言ってのけるラディコにOlは拍子抜けした。フローロの動向を把握されている以上、Olの契約を用いた呪いについても既に知られていると考えるべきだ。

しかしそれにしてはあまりにもあっさりとラディコは危害を加えないなどという約束を結んだ。まさかとは思うが、呪いを無効化するようなスキルが存在するのか。

あっ。しまった、約束しちゃ駄目なんだった

などと思っていると、ラディコはあっさりと口を滑らせた。

い、今の約束しなかったことにしちゃ駄目かなあ?

別に構わんが、その場合お前の身体はそのままだぞ

あっ、そっかあ!えっ、どうしよ、困るな困るな、どーしよ

慌てふためき眉根を寄せて困るラディコに、Olは額を押さえた。もしこれが演技であるならその演技力は人智の及ぶ範囲ではない。

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