それで。どうしてお前がこの世界で、結界に囚われていたのだ?
それは勿論、Ol様。あなたにお会いする為です
訝しげに眉をひそめるOlに、Shalは一から説明しますねと前置きした。
私がこの世界に来たのは──ザナ様。引いては、月の女神マリナ様のお導きです
氷の女王ザナ。月の女神マリナの加護を受ける彼女は、最善手を選ぶという特殊能力を持っていた。まだこの世界に来て数週間のはずなのだが、随分遠い過去の事のように思える。いや、時留結界の中で数か月過ごしたから、主観では実際それなりに遠い過去だが。
この世界でOl様にお会いするには、長い時を待つしかないそれが、マリナ様のお告げでした。ですから私は時止めの結界の中でお待ちし続けていたのです。あなたに見つけられ、結界が解かれるその時を
つまり、ShalはOlがこの世界に来るよりも遥か過去に飛ばされてきたという事らしい。元の世界とこの世界とで、時間が同期しているわけではないのだ。それは言い換えれば、こちらで帰還を焦っても仕方ないという話でもあった。
先ほどの娘フォリオがお前の解放を待ち望んでいたのは何故だ?一族代々の悲願だったらしいが
Olの問いに、Shalは首を傾げる。
おそらく、彼女の祖先に慕って貰っていたからだとは思いますが私がOl様に解放して頂くのを待つという話が、長い間に歪んでしまったのかもしれませんね
マリナの加護の欠点は、本人にもなぜその手段を取るのかわからないというものであった。最善手であることは間違いないが、それを選んだ結果何が起こるのか、どうしてそれを選ぶのかは誰にもわからない。故に、今の状況はShalにとってもOlに会えた事以外は望んだ結果ではないのだろう。
お前は本当に俺の知るShalか?
泡雫球が最後に取った姿。あれはおそらく、スライムに似たその姿からスピナを連想したOlの記憶を読み取ったものだろう、と彼は結論付けていた。残念ながら封じた部屋にもう一度いった頃には消えてしまっていたが。
仮にあのスライムもどきがスピナが作ったものであるなら、それがOlを攻撃することはけしてない。Olは弟子に対し、その確信を持っていた。なぜなら一度裏切った時に、魂の根幹にがっつりと攻撃禁止の令を彫り込んでやったからだ。
それと同様に、目の前の女がOlの記憶を読み取り成りすましている何かである可能性がないわけでもない。
そうですね。Ol様の知る頃の私とは随分違ってしまったかも知れません。私もこの世界でそれなりに苦労をしましたからあの頃みたいにOl様のおちんぽで、Shalのおまんこズボズボして欲しいですぅぅっとか言えばわかってもらえますか?
そういって、Shalは耳まで真っ赤に染まった顔を両手で隠した。
ごめんなさいもう流石にちょっと、素面だと恥ずかしいです
その反応に、Olはかえって警戒を解いた。記憶を読んでなりすますなら、Olの記憶そのままの姿になった方がよほど確実だ。このように記憶から数十年経った姿など取る必要がない。
元の世界に戻る方法はわかるか?
すみません
Shalは首を横に振る。彼女の目的がOlに会うことだけであれば、それは仕方のないことだった。その目的は既に果たされ、その先に続く糸を手繰ることはできない。
他の者はどうした?
その時、Olの脳裏にはかつて見た夢が浮かんだ。ユニスが、エレンの首を転がす夢だ。
長い時が必要だからお前が選ばれたというのであれば、エレンやセレスなどでも良かったのではないか?
そうですね。でも、あの方々には氏族を率いる役割がありますから。それとも、Ol様は私ではお嫌でしたか?
そういう意味ではない
くすりとからかうように微笑むShalに、Olは咳払いをして答える。
Shal様、少々よろしいですか?容体を見てもらいたい患者が来てまして
あ、はあい。ではOl様、またゆっくりお話しさせてくださいね
ナギアに呼ばれ、Shalは席を立つ。夜の方もまた可愛がってくださいね?と、Olの耳元でこそりと囁き、彼女はパタパタと出て行った。
彼女がShalだというのは、おそらく本当の事だ。マリナに導かれこの世界を訪れ、どれだけの間かわからないが長い時をこちらで過ごしたというのも嘘ではないだろう。話も筋が通っていて破綻はない。
だが一つだけ、彼女は明確に嘘をついた。
────Shalはおそらく、元の世界に戻る方法を知っている。