あとは強いて言えば、その魔力を貯蔵しておくリルだろうか。
無尽蔵に魔力を使える龍脈の中とは違い、遠く離れたこの地ではOlの使える魔力は極めて限られている。そんな状態でまさか情事のために魔力を注ぎ込むわけにもいかず、自然、精力は己の肉体頼みだ。
いくら魔王と言っても肉体的な能力には限界があり、魔術の補佐なしでは無限の精力を誇ると言う訳にはいかない。
えっと、Olさま、大丈夫なんですか?
ましてや彼は日中にマリーに数度放出しているのだ。
唯一それを知る彼女は心配そうに尋ねる。
四人相手となると確かに少し骨が折れるな
Olは両腕一杯に愛妻を抱き寄せながら、
せいぜい、三回ずつが限界かもしれん
耳元で囁くようにそう嘯いた。
夫を奮い立たせるのも、妻の仕事よね
リルが妖艶に笑みを浮かべ、己の豊かな膨らみを強調するように持ち上げながら、Olの股間をついと指先で撫で上げる。何気ない動作に見えて、そこは淫魔の技である。その一撫でで、Olのそこはあっという間に硬く反り立った。
そういえば、マリーとスピナがダンジョンに来たばっかりの時も、この四人でOlを起こしたっけ
よく覚えているな、お前は
ユニスに感心半分、呆れ半分で言いながら、その時の光景を再現するようにOlは寝台の上に横たわる。すると左右からユニスとスピナが、脚の間にマリーが潜り込み、リルがOlの上に覆いかぶさるようにして宙に浮いて、舌を寄せあいそそり立つOlの男根を舐めしゃぶり始めた。
しかしその威力は、以前とは全く異なるものだった。
何せ彼の弱い所を知り尽くした若妻たちの舌技だ。ユニスとスピナの舌がぎゅっと竿を挟み込んで扱き立てたかと思えば、絶妙なタイミングでリルが先端を口に咥え込み、同時にマリーは精の詰まった袋をやわやわと揉み撫でながら付け根からじっくりと舐め上げていく。
二人の頭がぶつかりそうになったところでリルは男根の先端を唇で撫でながら露出させる。そして四本の舌が雁首をなぞり、ちろちろと舌の腹で傘を弾くように素早く交互に舐められた。
ぐ、うっ
彼女たちの見事な連携に呻き声を上げつつも、Olは何とか射精の衝動を堪え切る。
ご主人様ったら無理に我慢しなくってもいいのに。じゃあ、こうしちゃうんだから
それだけで脳髄が蕩けてしまいそうなリルの忍び笑いと共に、柔らかな感触で剛直が包まれた。リルの背中で遮られ直接見ることは出来ないが、何をされているかははっきりと分かる。四対八つの乳房で、Olのものは文字通り四方八方から押し潰されるように挟まれているのだ。以前は試みることも出来なかった技だった。
リルの膨らみは大きさは言うに及ばず、その柔らかさといい張りといい、極上というべきものだ。ただただ男を悦ばせる為だけにあるその器官はOlのペニスにしっとりと張り付いて、触れるだけで達しそうなほど。
人外の肉体という点では、スピナも負けていない。何せその身体は半人半スライムである。乳房はどこまでもぐにぐにと形を変え、男の形に歪んでその身を捧げる。そのひやりとした肉は、熱く滾る肉棒の熱を更に煽るかのようだった。
だがその二人をして、純粋な柔らかさという点ではユニスに一歩譲る。授乳を終えたばかりの彼女の乳房は張り詰めていた乳を失ってほぐれ、その柔らかさと言ったら崩れない水そのもののようだ。
そんな柔らかな三対の乳房に囲まれて、発展途上のマリーの胸はまだ薄く青く固い。しかし柔肉に押さえつけられ、その硬く尖った先端やなだらかな胸元に敏感な裏筋を擦り付ける感触は筆舌に尽くしがたいものがあった。
そこに更に、女達の舌技が加わる。ふりふりと誘うように目の前で振られる尻尾に釣られるように、Olはリルの尻肉を鷲掴みにした。
あぁん
打てば響く鐘のように、リルは甘く媚びた声を上げる。
男を咎めながら、しかし同時にそれを許す女の声だ。
とうとう堪え切れず、Olのペニスから噴水のように白濁の液が吹き上がった。
あん、勿体無い
えへへ。たくさんでたね、Ol
今お清めいたします、お師匠様
あっ、ずるい、ソフィじゃない、姉さん、わたしもー
娘達は嬌声をあげながらそれを浴び、啜り、舐めとっていく。そんな情景に、Olの一物は萎えるどころかますます硬く反り返った。
閑話愛妻たちの歓待を受けましょう-後
じゃあまず、わたしからね
リルはOlの手をとって彼の上半身を引き起こすと、彼の腰に跨るようにしてふわりと浮いた。所謂対面座位の格好に近いが、そそり立つ剛直は彼女の入り口に軽く押し当てられるだけで、中に入れる気配はない。
何を
している、と問おうとして、未知の感覚がOlを襲った。
するりと彼の男根に巻き付いているのは、リルの尻尾だ。
まるで蛇のように伸びたそれは、しかし指のようにしなやかで、それでいて骨や筋とは全く異なる柔らかさを持っていた。
どう?気持ちいい?
リルはOlの両手を引いてそのたっぷりとした双丘に押し当て、上から己の手のひらを重ねる。そうしながら、尻尾はOlのモノを締め上げた。
む、ぅ
その快楽に、魔王は思わず呻き声を上げる。
柔らかな尾に包まれた肉塊は絶妙な力加減でずりずりと擦り上げられ、まるで乳房で出来た指で握られているかのようだ。先端には潤いを帯びた膣口がまるでキスをするかのように押し当てられて、そこから溢れる蜜を浴びた尾は更に快楽をいや増していく。
だというのに、その中を求めて腰を突き出せば、その分だけリルは腰を浮かせてふわりと逃げるのだ。腰を掴んで無理矢理にでも挿入してやりたいが、淫魔の柔らかな乳房に捉えられた両手は軽く上から押さえられているだけで、魔王の精神力を持ってしても吸い付いたように離れない。
沢山ビュービュー精子出していいからね。全部受け止めてあげるから
嬉しげに笑うリルの表情は精を絞りとる淫魔ではなく、愛しい男に微笑む少女のそれだ。だが、だからと言ってされるがままというのは魔王の矜持が許さなかった。
ぐっと手の平に力を込め、左右の先端を一つに纏めて口に含む。
あぁっ、両方っ!
リルの鳴き声は脳髄が蕩けそうなほど甘く、Olの限界はまた一段と近づく。だが彼は臆することなく、果敢に攻めた。
硬く屹立した乳首をコリコリと軽く食み、指先は柔肉を精微に捏ね回す。
互いに、互いの弱いところは知り尽くしていた。
んぅっあ、そこっ、だめぇっ!
余裕を無くしたリルの声色に、Olは彼女の中に一気に突き入れる。
虚を突かれ、リルは中心を貫かれる感覚に高く鳴いた。そのままベッドの上に押し倒されて、男の欲望を叩きつけられるように犯される。硬く太い肉槍が荒々しく彼女の秘部に突きこまれる度に呼吸が止まるほどの快感が背筋を走り、指が彼女の胸を歪ませる度に下腹が甘く疼いた。
知らずリルの形の良い脚がOlの腰に回されて、精をねだるように腰が押し付けられる。全身で抱きついてくる妻の頭に手を回すと、Olは彼女に唇を重ねた。
~~~~っ!
途端、リルの膣口がねじ切らんばかりに剛直を締め上げる。Olはその媚肉を無理矢理にこじ開けて、彼女の奥へと精を放った。どくり、どくりと肉塊が脈打つ度にリルは身体を震わせて、己の膣内を満たしていく熱い迸りを受け止める。
唇から銀の糸を伝わせながら、リルは恍惚の息を漏らした。
もう。してあげるつもりだったのに
最後にもう一度軽く口付けて、リルはOlの胸元をつんと指で突いた。
じゃあ次はあたしね
ユニスはそう言って、ベッドの上に四つん這いになってOlに尻を向ける。
来て、Ol
珍しいな
彼女の体勢に疑問を抱きつつも、Olはユニスの腰を撫でる。リルとの情事に興奮したのか、そこは前戯の必要もないほど濡れていた。
ユニスは基本的に正常位や対面座位といった互いの顔が見える体勢を好む。このように後ろからをねだるのは非常に珍しい。だがOlはこの体位でユニスを犯すのが嫌いではなかった。
彼女のよく鍛えられた太股のしなやかな筋肉は、触れてみれば男のそれとはまるで違って驚くほどに柔らかい。それでいて、脂肪にはないハリのある弾力に満ち満ちていて、いつまでも撫でさすっていたくなるような魅力を備えていた。
その脚を支える腰つきは、慎ましやかな胸元と違ってどっしりと大きい。それでいて、垂れるようなだらしなさとは全くの無縁の、若い瑞々しさにあふれた尻だった。
それをほしいままにしながら、Olは彼女を後ろから貫く。たっぷりと潤いを帯びたそこはするりと奥まで肉槍を咥え込み、ユニスはんっと小さく声を上げた。
んっぅ、ふ、ぅぅんっ
わざと乱暴に突けば小柄な彼女の身体は前に後ろに揺さぶられ、ポニーテールにしたふわふわの赤毛が目の前でポンポンと跳ねる。その度に、堪えきれず漏らしたユニスの嬌声がOlの耳朶に触れた。
む?
その時、Olは違和感を覚えて声を上げた。ユニスの膣の中で、何か別のものがOlの男根に触れている感触がある。だがそれはどこか見知った感覚で、不愉快な類のものではなかった。何か柔らかなものが先端の筋をなぞりあげ、膣口とは別の環状の圧力が雁首を弾くように締め付ける。
これは舌か!
ほうらよ。ひもひいい?
自由自在に転移する英霊としての権能その応用。
彼女は口内と膣内の空間を共有させて、上下の口で同時にOlのものを咥え込んでいた。
器用なことをするものだと思いつつも、もたらされるその快楽にOlは唸らざるを得ない。
膣口できゅっと根本を締め付けつつも、唇が亀頭を撫で上げて、舌で先端をなぞりながら全体をちゅうと吸い上げる。それはどんな名器でも生み出せない快感だ。
そして何よりOlを興奮させたのは、その情景。英雄が前後から男に犯され嬲られるさまだった。他の男に触れさせるつもりは毛頭ないが、どちらも自分であるならそれは征服欲を満たす要素でしか無い。
んぶっ、ん、んうっ
くぐもった嬌声を漏らしながらも、ユニスはわざとジュポジュポと音を立てながらOlのペニスを舐めしゃぶる。しとどに濡れた秘裂と口元、男を咥え込んだ二つの口から淫猥な音を鳴らす少女の姿に、Olの劣情は弥が上にも昂ぶっていく。
んんんっ
射精と同時、ユニスは頬を窄める程の強さで肉槍に吸い付いた。まるで子宮と取り合うかのように、Olの精を吸い上げ嚥下していく。間断的に吐き出される白濁を飲み干して、更に唇と膣口とで扱き立てながら肉茎の中に残った精液を最後の一滴まで絞り出す。
お師匠様、次は私たちに
ください!
息つく暇もなく誘ってきたのは、スピナとマリーだ。
互いに抱き合うように折り重なり、脚を広げて秘部を晒していた。
絡み合う黒と金の髪は、例えるならば月と太陽。それぞれの美しさを高め合うかのようだ。
ではいくぞ
まずは上側、マリーに覆いかぶさるようにしているスピナの方へとOlは己自身を押し当てた。出会って以来、十年以上に渡って殆ど毎夜のように可愛がってきた身体だ。Olの形に作り変えられたその穴は、殆ど力を込めなくともするりと彼を受け入れた。奥まで突き入れればピタリと嵌まるような感覚とともに収まる。
だが、それを引き抜こうとすれば一転して猛烈な反抗があらわれた。逃すまいとするかのような強烈な締め付け。
それを振り切って、すぐ下のマリーに突き入れる。まだ幼さを多分に残す彼女の中は、やはりまだ青くキツい。だがそれをこじ開けるように突き込んでしまえば、柔らかな膣壁の感触がOlをふわりと包み込んだ。
何もかもが対照的で、それでいてそれぞれに美しい姉妹を同時に味わう。男としてこれ以上に滾る状況もそうはないだろう。競い合うように鳴きあう二人の喘ぎを楽しみながら、Olは己のものが二本欲しいとさえ思った。
と、その思いに応えるかのように、スピナの腰が軟体化して形をなくす。そしてマリーの腰をすっぽりと覆うようにして半透明の下半身が重なった。
軟体と肉体の狭間にあるのか、スピナの尻を触れば柔らかくどこまでも形を歪めるが、スライム特有のべたついた感触はしない。乳房のように柔らかな尻肉を揉みしだきながら挿入すると、ユニスの時とはまた違った未知の快楽がOlを襲った。
スピナの膣壁がOlの竿をすっぽりと包み込み、先端だけをマリーの膣口が強く締め付ける。引き抜けば縋るようにスピナの媚肉が纏わり付いてきて、押し込めばどこまでも肉を歪ませながら受け入れていく。互いの性器の長さが倍になったかのようだった。
スピナの肉を押しのけながら、マリーの膣口をこじ開けて子宮口をトントンと叩く。腰を引けばつるりとマリーの膣口が先端を撫でながら、スピナの柔らかな蜜壺がどこまでもOlの怒張を包み込む。どれだけ大きく腰を動かしても、気持ちの良い肉に包まれ擦り上げられる。この上ない快楽だ、とOlは思った。
しかしその考えが間違いであったことを彼はすぐに悟る。
リルの尾がそそり勃った茎の根本にきゅっと巻き付き、先端にユニスの舌の感触を覚えたからだ。
英雄の少女は口を大きく開けて、はしたなくよだれを垂らしながら虚空で姿の見えない男根を舐めしゃぶっている。普段快活な少女が見せる淫靡な雌の姿に、Olの肉槍は更に硬度を増す。
淫魔の美女はその種族とはかけ離れた、恋い慕う乙女のような表情で夫を見つめていた。だがそうしながらも、その尾はまるで別の生き物のように、Olの動きに合わせて竿を扱き立てる。
Olは堪らず二人を抱き寄せて、乳房と尻とを鷲掴みにし、誘うように半開きにされたリルの唇にむしゃぶりついた。打てば響く鐘のように、舌が絡みついてくる。リルとユニスの指がついと胸元を撫でてくるのを感じながら、Olは熱く滾った肉棒をスピナとマリーの秘裂に何度も打ち込んだ。
そうしながら同時にユニスの口内を喉奥まで犯し、リルの口の中も舌先で蹂躙する。四人の妻を同時にいっぺんに犯すような興奮に、流石の魔王も我を忘れ猛り狂った。突き込みながら一度、二度放ってもその怒張は萎える気配も見せず、リルを、ユニスを組み敷いて再び犯す。
最後は四人の妻全員の口奉仕を受け、己のものだと主張するかのように四人の髪と顔とに白濁をぶちまけて、魔王はようやく眠りについた。
第2話海中ダンジョンを作りましょう-1
湯殿を作らねばならんな
そうね。急務ね
マリーちゃんも、それに賛成です!
本拠地に戻るユニスとスピナを見送って、朝日の中宣言するOlに、リルとマリーは一も二もなく賛成した。
情事を経て、汗やその他互いの体液で汚れきった身体は不愉快と言う他ない。
一応湯に浸した布で全身拭いたものの、まるごと肩まで湯に浸かるあの幸福には代えがたいものがあった。
早速、二代目の湯殿を作りましょう!まずは地下水脈を掘り起こして、後地熱のある場所に引き回せばいいんだよね!
そう簡単にはいかんのだ
俄然やる気を見せ始めるリルに、Olは首を横に振る。
前のダンジョンとは状況が違う。最も問題なのは、魔力を殆ど使えんということだ
すやすやと眠るソフィアの傍らに鎮座するダンジョンシード。
その中身は殆ど空っぽと言ってよかった。
幸運にもこの森には魔力を貯める性質があったようで、予想よりはかなり広大な面積をダンジョン化できている。だがその性質上、ダンジョンは地上の森と地下一階だけだ。地下水脈に繋げるには深さが足らんし、掘るには魔力が足らん
あー。龍脈の中じゃないとそんなに大変なのね
前のダンジョンでは迷宮の拡張はインプやコボルトに任せるだけで良かったが、こちらではそもそもそういった手下を維持するだけの魔力すらないのだ。
ユニスに連れて帰ってもらえればいいのにね
無い物ねだりをしても仕方がなかろう。現状で十分役に立っている
ユニスの転移は万能なように見えて、欠点が二つあった。
一つは、彼女が抱えられる程度のものしか一緒に転移できないことだ。
人ならば二、三人程度が限界で、あまり大きく重いものは運べない。
最低限生活する分の魔力はスピナに溜めてユニスに運んでもらっているが、スピナは魔力を溜め込めば溜め込むほど分身が増えてしまうため一気に運べない。
何度も転移を繰り返せばいいのだが、理力というものは魔力と違って貯めるのに非常に時間が掛かる。必要なだけの魔力を運ぼうとするとあっという間に蓄えが尽きてしまう恐れがあった。
もう一つは、長距離の転移には危険性を伴うということだ。
彼女の能力は結界や距離に左右されないが、逆に言うとあまりにもどこにでも飛べすぎる。うっかり地中や海底に飛んでしまえば、そのまま潰れて死んでしまう可能性もあった。
帰り道はダンジョンの中にユニスが飛んで来る専用の部屋を作っているからいいが、問題はこちらへ来るときである。どんな状況かわからない場所に飛ぶのはあまりにも危険過ぎる。
だが、絶対安全に飛べる場所が一つだけあった。それはOlの前だ。
そもそもユニスの能力は、敵に囚われたOlを助けに空間を無理矢理繋いでみせた経験によるものである。故に、Olの元にだけは彼がどこにいようと確実に飛ぶことが出来た。
それが同時に、Olが本拠地のダンジョンに帰れない理由でもある。Olが帰ってしまうと、また船で一から新大陸へ向かうはめになってしまうのだ。
じゃあ、どうするの?
簡単な話だ
リルの問いに、Olは懐から小瓶を取り出す。
質で勝てぬのなら数を作れば良い
まだあったの、それ
Olが取り出したのは、ダンジョンシードだった。
計画はこうだ。海辺にダンジョンを作り、水路をこちらの森の迷宮まで引き込む。いわば、ダンジョンを人工的な地下水脈として使うわけだ
ダンジョンの中に水が溢れちゃったりはしないんですか?
それは多分、大丈夫かな
マリーの素朴な質問に、リルが答える。
地下のダンジョンの床で考えても、海面より高い位置にあるからこっちに流れこむことはないわ。勿論、満ち干きや波を考慮する必要はあるけど
でもどうせ引くなら、湖か川の方がいいんじゃ?
ダンジョンの中には勿論海はない。だが、マリーは何度かOlに海へと連れて行って貰ったことがあり、海というものを見知っていた。
無限に続くのではないかと思えるほどに広い海原や打ち寄せる波で遊ぶのは楽しかったが、その後ひどい目にあったことを覚えている。
水はすごい塩辛くて飲めないし、お風呂みたいに浴びると髪がバサバサになるし
何言ってるの、それがいいんじゃないの
海で遊んだあとはしっかり真水で洗えとメリザンドに滾々と諭されたのを思い出してマリーが渋面を作っていると、リルがずいと身を乗り出した。
どうせ毒の混入とかをこの心配性が心配して浄化は必須だもの。そのための魔道具は今まで何回も作ったし、何なら前のダンジョンに予備もあるはずよ
それは既にユニスに持ってくるよう言ってある。今晩には届くはずだ
さっすがOl!
リルはOlに抱きつくと、音を立ててその頬にキスをした。
えっと、何でリルはそんなにテンション高いの?
何って、塩よ、塩。海水から真水を取り出せば、塩が取れるのよ!
それの何が良いのかわからなかったが、リルの勢いに押されてマリーはこくこくと頷いた。
それに、海とつなぐなら魚も取れるんじゃないかな?海魚よ、Ol!どれも前のダンジョンじゃ、外から貰ってくるだけのものだったのに、ダンジョンの中で取れるなんてとっても素敵じゃない?
確かにそうだな。ダンジョンの中だけで調達できるならばそれに越したことはない
全てが内部で完結し、完全な自給自足を成り立たせる。それがOlの理想とするダンジョンである。
この森にも探したら、食べられる木の実やキノコなんかもあるかもしれないわ。腕が鳴るわね
そこで初めて、マリーはリルが料理に情熱を燃やしているのだと気がついた。
料理するのそんなに楽しいの?
うん、楽しいわよ
自分は食べられないのに?という言葉を、マリーは何とか飲み込む。
Olが美味しそうに食べてくれるからね
しかし顔には出ていたようで、堂々とした惚気で返された。
ね、だから、落ち着いたらキッチン作りましょうよ。前のダンジョンだと、ちょっとわたしの部屋から遠すぎると思ってたのよね。使うのは侍女がメインだから仕方ないんだけど。こっちにはそこまで人連れてこないし、龍脈の中に無いならそこまで構造にも制約がないでしょう?
くるくると部屋を回りながら構想を立てる淫魔の姿は、まるで引っ越しをしてきた新妻のようだ。
リルって、なんかOlさまにすごーく似てきたよね
え、どこが?全然違うじゃないの
ぼやくように呟くマリーに、リルは輝かんばかりの笑顔でそう答えた。
第2話海中ダンジョンを作りましょう-2
まずはあの魔動船から資材を回収するぞ
波打ち際に停泊している船を指差すOlに、マリーは元気よく手を振り上げた。
必要な物資の殆どは毎日ユニスに運んできてもらっていたから、積み荷という程のものはない。とは言えいくらかの食料や水は万一に備えて余分に積んである。傷んでしまう前に回収しよう、ということで、Olはマリーを伴い海岸へとやってきていた。
ちなみにリルは森のダンジョンに残り、ソフィアの面倒を見つつキッチン周りの整備を進めている。
うわっ、なにこれ!べちゃべちゃだ
甲板に登ったマリーは、その惨状に目をむいた。
一面、海水で汚れていたのだ。
わたしたちがいない間に、高い波でも来たのかな
いやそういうわけではないようだ
船室の入り口を検分し、Olは硬い口調で答える。
その扉は、明らかに波ではなく何者かによって力づくで外されたものだった。
どうやらこの周辺には、何かが棲んでいるらしい。どのような生き物かまではわからぬが、少なくとも
Olは扉の横の壁に手を当てて魔力を込める。すると壁がひとりでに動き、部屋がせり出してきた。Olだけが使える、彼の部屋へのショートカットだ。
ろくな罠もないとはいえ、俺の迷宮を踏破する程度の知能は持ち合わせているらしい
Olの部屋は滅茶苦茶に荒らされ、食料や飲料を保存していた樽がバラバラになって散乱していた。Olによって改造された船内は小さいとはいえ迷宮そのもので、最深部である彼の部屋にはおいそれと辿り着けるものではない。
そういえばマリーちゃんも気付いたら船の中がダンジョンになってて、出るの凄く苦労しました
急いでOlさまに追いついたらひどい目に合うし、とマリーはぼやく。
敵かどうかはわからんが、注意せねばな
はい。一旦、リルのところに帰りますか?
いや、予定通り行う
Olのキューブが細い紐のように解け、海中に再び組み上がっていく。積み重なった石はまるで井戸のような中空の柱となって、海の一部を切り取った。
この底にダンジョンシードを埋め込めば、森の迷宮を繋ぐ水路が出来るはずだ
前回みたいに暴走したりしませんか?
二度同じ失敗はせん。何があろうと森まで道を作るよう調節してある
素直なマリーの質問に、Olは顔をしかめる。
はーい、じゃあこれ持っててください
そんな彼の反応を気にした風もなく、マリーは剣帯ごと四本の剣を外すとOlに預けた。
構わんが一体何をする気
言い終える前に、ぱさりと彼の顔をワンピースドレスが覆い隠す。仄かな怒りを堪えながらそれを剥ぎ取れば、マリーは片足を後ろに折って最後の下履きを引き抜いているところだった。
お前には恥じらいというものがないのか
健康的な白い肌が日の光をいっぱいに浴びて、キラキラと輝く。青い空の下に晒される裸体はどこか非現実的で、不思議な魅力があった。だがジロジロと見ることは何となく憚られて、Olはあえて視線を外す。
だってOlさまにはもう見られてないところも触られてないところもないじゃない。昨日だってお尻をあんなに
わかったわかった。いいからさっさと行ってこい
Olからダンジョンシードを受け取ると、マリーは元気よく返事をして柱の中に飛び込む。金の髪がふわりと広がり、白い肢体は魚のようにあっという間に水底の暗がりに消えていった。
ややあって、柱の中の水位が下がり始める。ダンジョンシードが作り出した空洞に海水が流入しているのだ。柱の内部から水がなくなったことを確認してOlが降りていくと、マリーは柱の底で壁に寄りかかりながら、ぐったりと座り込んでいた。
どうした、大丈夫か?
み、みずが、ぐるぐるまわって
ただ目を回しただけか
呆れ半分、安堵半分で言いつつ、Olは彼女に手を貸して立ち上がらせる。すると、全身から水を滴らせる彼女の肢体がいやでも目に映った。
水を吸って濃い色になった金の髪が、重たげに肌に張り付いて彼女の胸元を申し訳程度に覆い隠す。ぽたぽたと滴り落ちる雫は頭上から降り注ぐ光を浴びて、まるで彼女の肌を飾る宝石のように眩く輝いていた。
いやん。Olさまったら、えっち
それほど長い時間見つめていたつもりはなかったが、少女は男の視線に敏感に気付いて嬉しそうに笑いながら、胸元を隠すような仕草をした。その動きによってかえって髪の毛がずれ、腕の隙間から胸の先端が見えてしまっていたが、或いはそれも計算のうちなのかもしれない。
下らんことを言ってないでさっさと服を着ろ
ぺちんとOlが額を叩いて剣を押し付けると、マリーの肌についた水分が弾け飛ぶ。濡れた髪までが一瞬にしてふわふわになっていて、改めてこれはどういう魔術なんだろうと考えながら、マリーは丁寧に折りたたまれた服に袖を通した。
さて、では森のダンジョンに戻るぞ
はーい。これ、どうやって上がるんですか?
マリーは空を見上げながら問う。塔のように聳え立つキューブの天辺はかなりの高さになっていて、道具もなしにはとても登れそうにはない。しかしOlはロープのような道具を持ってきてはいなかったし、マリーは飛行の魔術をまだ修めてはいなかった。
登る必要はない。少し縮むから、中央に寄れ
Olの言葉にしたがってマリーが中央にたつと、彼は床に手をついてキューブを操作する。石の柱はパタパタと上から折りたたまれて、彼らを囲む小さな部屋となった。
途端、がくんと部屋自体が大きく揺れて、マリーは空中に放り出されそうになる。
すぐ安定する。掴まっていろ
彼女を抱きとめたOlの背に腕を回しぎゅっとしがみつくと、彼の言うとおり部屋の揺れはやがて止まった。だが完全になくなったわけではなく、立っているのに問題がない程度には細かな揺れが続いている。
今、わたしたち、どうなっているんですか?
見せてやろう
Olが部屋の壁に触れると、上下左右、全ての壁が透けてその向こうの様子が露わになった。
これって、水流!?
したりとばかりにOlは頷く。石柱で蓋をされていた新しいダンジョンに、海水が流れ込んでいる。その流れに部屋ごと乗って移動しているのだ。
凄まじい勢いで流れていく部屋の後方で、通路は無数に枝分かれしていく。最短ルートが作り上げられた後、侵入者を迷わせるための通路が出来上がっているのだ。
前を見れば、通路が右に曲がり左に折れては延びて行く。そこへと海水が白く波をたてながら流れ込み、キューブで作られた部屋はその波に乗って通路を走っていく。
角を曲がる度に部屋の中でマリーの身体は右に振られ左に揺られたが、最初のように吹き飛ばされるほどではなく、不思議な浮遊感を楽しめる程度の動きだった。
すごいすごい、Olさま、これ楽しい!
そうか。これが出来るのは最初の開通時だけだからな。存分に楽しんでおけ
はい!
そうやって笑う顔は、子供そのものなのだが。
Olはマリーの笑顔を眺めながら、しみじみと思った。
あー楽しかった!
終点。
キューブは森のダンジョンの中心、ダンジョンシードのある部屋の真下まで辿り着くと、停止してパタパタと展開し、螺旋階段になって上へと延びていく。
Ol、帰ってきた?ちょっとなんて言うのか。そう、異常事態よ
リルから念話が飛んできたのは、ちょうどその階段を登っている時だった。
どうした?
緊急ってわけじゃないんだけどううん、緊急なのかしら。とにかく、急いでダンジョンシードの部屋に来てくれる?
どのみちそちらへ向かっていた所だ。要領を得ない彼女の報告に訝しみながら、Olはとにかくダンジョンシードへと向かう。
あっ、どこいくの、ちょっと待ちなさい!
Olが部屋へと足を踏み入れると、リルの制止の声を振り切って何者かが飛び出してきた。咄嗟にOlは背後のマリーを庇うように動きながら、キューブを盾として展開する。
まま!
ごん。と、鈍い音が響き。
ソフィアはOlが盾として作り出したキューブの柱に激突したソフィアは、数秒後、火がついたように泣き始めた。
第2話海中ダンジョンを作りましょう-3
ここ、たい、ここ、たいのぉ
そうだね、痛かったねー、痛かったねー、よーしよーし
マリーはわんわんと泣き喚くソフィアを抱いて、頭を撫で続ける。ようやく泣くのが収まってきたと思えば、ソフィアはじっとOlを睨みながら自分の鼻を示して痛い痛いと訴えた。
Olさま
悪かった
マリーに促され、微妙に納得できない思いを抱えつつOlは赤子に頭を下げる。するとソフィアは先程までの泣き顔などなかったかのように満面の笑顔を浮かべた。
ぱぱ!えー、りっ
ただいま
困惑しつつもOlはソフィアを抱き上げる。
さっき、マリーの事ママって呼んだわよね
リルが尋ねれば、ソフィアはマリーを見つめて得意気にそう宣言する。
で、こっちが
ぱぱ!
指をさされて不満気に表情を歪めるOl。
じゃあ、わたしは?
リルはワクワクしながら自分を指さして、
りる!
なんでよ!?
ソフィアの言葉に叫んだ。
で、どういうことなんだ
わたしの方が聞きたいわよ
Olが尋ねれば、忠実なる使い魔はなんでわたしだけ呼び捨てとぼやきながら困ったように唇を尖らせる。
さっきまではただの赤ちゃんだったのに、急に立って喋り始めたの
ではやはり、単に成長速度が早いというわけではないのだな
朝Olが見たソフィアは、生まれたばかりで立つことも喋ることも出来ない赤子だった。だが今や彼女は自分の足で歩き、片言ながらも言葉を口にしている。
うん。急に、一歳くらいからニ、三歳まで成長したのよ
考えられる可能性としては、海のダンジョンの影響か
魔力が流入したから、ってこと?
海に植えたダンジョンシードは予備のコアとして働いているが、魔力の大部分はこちらへと流れている。とは言っても龍脈の中というわけではないから、さほど多いわけではないだろうが、ゼロというわけでもない
じゃあ、魔力が増えればソフィアはどんどん成長するってことですか?
わからん。そもそも魔力を注ぎ込めば成長する存在など、聞いたこともない
魔力を持てばそれだけ強大になる存在ならOlも知っている。精霊や悪魔の類だ。だが知能も魔力の量に合わせて発達するというのは見るのも聞くのも初めてだった。
お前は一体、何なんだ?
脇を抱えるようにして目を合わせても、ソフィアは遊んでもらえると思ったのか笑うばかりだ。この年頃の子供にはまだ、そういった抽象的な言葉を理解する能力はない。
もうちょっと成長させたらわかるのかな
とはいえ、あまり無目的にダンジョンを作るわけにもいかないが
まあまあ、とりあえずお昼にしましょうよ。こっちの部屋を食堂にしてみたの
悩むOlの背を押して、リルはことさらに明るく声をあげた。
そういえばこの子って、ご飯食べられるのかな?
ちらりとソフィアに目を向けて、リルは疑問を呈する。
少なくとも出会ってからは一切何も口にしていないが、空腹を訴えたりもしていない。
魔力が流れ込んでいるから、飢えて死ぬことはないだろうがまあ試してみるか
この年令なら、もう大人とさほど変わらないものでも食べられるはずだ。
リルの焼いたパンの香ばしい匂いが漂う食堂に移動し、マリーはソフィアを膝に乗せて席に座る。
その時のことだ。
いた!
突然、ソフィアが声を上げた。
どうしたの?どこか痛いの?
いた、いた!
マリーが顔を覗き込んでもソフィアは同じ言葉を繰り返し、Olの顔を見つめてその腕を叩く。
Olはあることに気付き、急いでダンジョンシードへと取って返した。
指先に込めた魔力がダンジョンシードからダンジョン全体へと伝わり、反響していく。
侵入者だ
思った通りの存在が、そこにあった。
え!?まだ何もしてないのに!
かつてユニスが侵入してきた時のことを思い出したのだろう。
リルの叫び声はもっともなことだった。
単に迷い込んだというわけではなさそうだな。水路をまっすぐこちらに突き進んでいる
この新大陸においてダンジョンの存在を知るものはごくごく限られている。
それって船を壊してた奴?
その可能性は高いだろうな
マリーの問いに、Olは頷いた。考えられる可能性はそれしかない。
ちょっと待って、船を壊した!?わたしの魔動船を!?
その話は後だ
騒ぐリルを無視してOlが手を振ると、ドーム状になっていた茨がわさわさと寄り集まって板になり、そこに幻影が浮かび上がる。何者かが、まるで空を飛ぶ鳥のような凄まじい速度で水路を泳いでいるのが見えた。
水中で視界が悪く、あまりに動きが早いせいで正体がわからないが、それは壁から射出される矢をいとも容易く弾き、天井から降りてくる槍をへし折り、虎の子の電撃罠さえ物ともせずに突き進んでくる。
しかも、ダンジョンの構造を完璧に把握しているとしか思えないほど最短で迷宮の出口を目指していた。
ここではまずい。下で迎え撃つぞ。リル、ソフィアを頼んだ
待って。わたしも行くわ
リルの身体がするりと二つに別れ、片方はソフィアを抱きかかえ、片方は石火矢を掲げ持つ。
これならいいでしょ?
上出来だ
Olがニヤリと笑い、杖状に伸ばしたキューブで地面をコンと叩く。すると地面が円状に輝き、次の瞬間消失した。
きゃうっ!
悲鳴をあげてマリーが地面に落ち、リルがふわりと降り立って、最後にOlがキューブで出来た階段から降りてくる。それと連動するように部屋は大きく広がり、海のダンジョンへの通路を中心とした大広間へと姿を変えた。
天井の穴は閉じ、出口と呼べるのはOlの背後の通路だけだ。
来るぞ
直通口から間欠泉のように水が吹き出し、地面に広がる。同時に飛び出してきたのは、魚のような下半身を持った女だった。
人魚(マーフォーク)?いや。何だ、こいつは?
見た目は人魚に似ているが、頭からはまるで鹿のような角が生えている。
Olの知る人魚は泳ぎの邪魔になる衣服の類は殆ど身につけないが、その女は薄衣のような奇妙な衣に身を包んでいた。
そして何より、纏う雰囲気や持っている魔力の量がただの人魚とは明らかに桁違いだ。
タガーダ、ユウェーロ!
女は声を張り上げて、何事か叫ぶ。
それは百の言語を操るOlでさえ聞いたことのないもので、その場でその意味を理解できたものは誰一人いなかった。
敵対的なものなのか、それとも友好的なものなのか、それすらわからない。
ただひとつ確かなのは、それがただの鳴き声や意味を持たない唸り声などではなく、明確に何らかの意図が込められた言葉であるということだった。
貴様は、何者だ。我がダンジョンになにゆえ立ち入った
油断なく構えるマリーとリルを背後に、Olは女に問う。
タガーダ、ユウェーロ
半人半魚の女は先ほどと同じ言葉を繰り返すが、それで理解できるものでもない。
失せよ。お前は俺の棲み家へ踏み入っている
Olのキューブがパキパキと音を立てながら形を変えて、まるで二本の鎌のように鋭く尖って刃を見せる。言葉が通じなくとも明確な敵意の表示だ。
フェレナニーヴォ!
すると女は鋭く声を上げた。その声に反応して、彼女の周りに飛び散った海水がまるで矢のようにOlに向かって飛ぶ。
自動的に展開したキューブが盾となって水の矢を弾き飛ばし、
魔王に楯突いたこと、後悔させてやる
Olは傲然とそう言い放った。
第2話海中ダンジョンを作りましょう-4
食らいなさいっ!
リルの構えた連弩が、文字通り矢継ぎ早に矢を吐き出す。魔力を動力源とするその弓は、一呼吸の間に十本もの矢を打ち出す。
しかし人魚の足元がざばりと波立ち、うねる波に乗って彼女はその矢を難なく躱してみせた。
えーいっ!
その隙を突くように、マリーが斬りかかる。リルの矢を避けて崩れた体勢では、それは避けることが出来ない。
はずだった。普通の相手であれば。
わわわ!
崩れた体勢のまま人魚の足元の波は急に方向を変えてマリーの剣をするりと躱すと、お返しとばかりに水弾が飛んできた。それをOlの伸ばしたキューブが楯になって防ぐ。
防御のことは考えなくていい。攻め続けろ
マリーは二刀を構え、人魚に向かって突進する。牽制に放たれる水弾はキューブが防ぎ、マリーは跳躍すると、楯になったキューブを足場にしてもう一度跳躍した。
くるくると独楽のように回転しながら放たれる斬撃を、人魚はかろうじて躱す。しかしその躱した先に、別の刃が待ち受けていた。マリーの腰に下がった鞘からいつの間にか引きぬかれ、宙を舞う三本目と四本目だ。
人魚はその刃を咄嗟に腕で防ぐ。防具らしい防具もつけているようには見えないのに、火花が散って剣は弾かれた。
リルっ!
任せて!
換装を終えた石火矢を構え、リルは引き金を引く。いくら波に乗って縦横無尽の動きをすると言っても、マリーの剣に囲まれて動きが止まった瞬間だ。いわば刃の結界に捉えられた人魚を、高密度の魔力弾が撃ち抜いた。
嘘でしょっ!?
しかし人魚はそれさえ凌ぐ。突如海のダンジョンから吹き出した水の壁に、リルの射撃はその威力の大部分を削がれて弾かれた。
リル、飛べ!
水の壁はその勢いのまま、四方八方に飛び散っていく。Olはリルに叫びつつ、キューブを伸ばしてマリーを抱きとめた。
ちょっと、これって
天井に張り付くように飛びながら、リルは下を見下ろして呻くように言う。
今の攻撃で床には薄く水が張り、足首程度の高さまで満たされている。
それはこちらの動ける範囲が狭くなり、相手の武器が増えるということを表していた。
しかも相手が攻撃すればする程、水の量は増えていくのだ。
ふうむ
Olは唸り、顎を一撫でする。彼の操るキューブと、敵の操る水は実に性質がよく似ている。どちらも自由自在に形を変えて、攻撃にも防御にも使える。
違いは、Olのキューブが手の平に収まってしまう程度の大きさであるのに対し、相手の水は無制限に引き出せるということだ。
マリー。何とかあいつの動きを止めろ。一瞬でいい
何とか、って、わぁっ!
マリーはOlの腕から放り出されて、水の張った床に着地する。途端、まるで鎌首をもたげる水蛇のように、無数の水縄が彼女に襲いかかった。
わっ、わっ、わっ
次々と迫り来る槍のような刺突を避け剣で払うが、水で出来た槍は剣で切っても意にも介さず伸びてくる。
こんなの、どうしろって!
四本の剣を全て動員してなお無数の槍を避けることで手一杯で、敵どころかこちらの動きが止まっている。しかしそうするうちに、マリーはあることに気がついた。
あれっあ、そうか!
彼女はぽんと両手の剣を宙に投げ放ち、空中に浮いていた二本を手に取る。
熱・湿!
その刃を合わせるとぶわりと風がたなびいて、水の槍の中に一瞬、道が出来た。
マリーはその道を一息に駆け、人魚の元へと肉薄する。相手の視線は、彼女が右手に持つ剣へと注がれていることにようやく気がついた。
熱性剣!
剣の刃が赤く輝き、水が蒸発してじゅうと音を立てる。その刃が人魚に届くより早く、マリーの体を吹き飛ばさんと彼女の足元から大量の水が吹き出した。
マリーの操る四本の剣はOlが手ずから付呪を施したもので、それぞれ異なる性質を持っている。万物は地、水、火、風の四大元素から成るというのが現在の魔術の主流の考え方だが、彼女の剣が司るのはそれではない。その四大元素自体を更に細かく分割した、熱・冷・湿・乾の四大性質である。
そのうち熱を司るカリダティオを放り投げて、マリーは両手で空中の剣を掴んだ。
冷性剣!
最初から人魚に刃を当てるつもりはなく、狙いはその足元の波だ。海水はあっという間に凍りつき、人魚の体を縫い止めた。水は操ることが出来ても、氷までは動かせない。冷性剣が切り捨てた槍だけが再生しないのを見て、マリーはそれに気づいていた。
よくやった。リル!
はいはい。こっちは戦闘に向かない淫魔だっていうのに
リルの構えた石火矢がガチャガチャと音を立てながら展開する。原理としては、Olのキューブと同じだ。Olのように自由自在とは行かないが、あらかじめ設計しておいた形に変形させるくらいはリルの能力でも出来る。
連射性を重視した連弩形態。
射程距離を重視した石火矢形態。
そして
威力を重視した、大砲形態だ。
いっけええええ!
轟音とともに、大砲が火を噴く。魔力で形作られた弾丸は氷の壁をいとも容易く打ち砕きながら、その背後の壁にまでぽっかりと穴を開けた。
うそっ!?
しかし、人魚は無傷で、立っていた。
寸前で避けられたか
どうやって氷から抜けだしたかは分からないが、彼女は砲弾を避けていた。
リル、マリー、来い!
Olはキューブで小さな部屋を作りながら、二人を抱き寄せる。
リルの開けた壁の穴から勢い良く水が吹き出し、小部屋を押し流した。
ごめん、Ol、わたし
震えるリルに、
よくやった
水中で生きるものに一番効く罠とは何かわかるか?
ええと
氷は一瞬動きを止めることさえ出来なかった。
電撃の罠は既に効かない事は確認済みだ。
炎には弱いのかもしれないが、水中では効果は薄いだろう。
み、水攻め?
そんなわけないだろう、愚か者
マリーが取り敢えず現状起こっている事をそのまま述べてみると、Olは呆れて悪態をついた。
そんなやり取りをしている間にも、人魚は水中を凄まじい速度で追いかけてくる。
覚えておけ。水生生物は
凄まじい振動とともに、小部屋が揺れた。小部屋が流れていた通路は奥に行くに従って徐々に細くなっていて、そこに嵌り込んで止まってしまった形だ。
無論、通常の通路の幅がそんな風に変わることなど無い。
Olがわざわざダンジョンを操作し、作り変えたのだ。
止まってしまった小部屋の目前まで、人魚が迫る。
その時ガコン、と音がして。
落とし穴に弱い
人魚は大量の水ごと、開いた穴へと落ちていった。
第2話海中ダンジョンを作りましょう-5
これ、本当に大丈夫なの?
恐らくはな
キューブで作った小部屋の中に囚われた人魚を、リルは疑わしげに見つめた。
互いに視線が通るように半透明化した小部屋の中には一部の隙もなく水が詰められ、その中央に人魚は揺蕩っている。
こいつが操れるのは恐らく水自体というよりは、波だ。水を圧縮したり、凝固させるというようなことは出来ん
もしそういった事ができていたならOlたちはもっと苦戦を強いられていただろうし、そもそも落とし穴で捕らえることも出来なかっただろう。
だからこうして完全に水で埋めた空間に密閉されると、手も足も出んのだ
その弱点は、Olのキューブも同じだ。キューブをまるごとぴったり箱に収められたら、それを打ち破るほどの力は出せない。
それにしても、何なんだろねこの子
恐らくは土着の種族なのだろうが
人魚は閉じ込められていることを気にした風もなく、小部屋の中でくるくると回っている。
とりあえず、ご飯にしよっか
くぅと鳴くマリーの腹の虫を聞いて、リルはそう切り出した。
そうだなだが、これから目を離すのは少し心配だ。悪いがこっちに持ってきてくれるか?
はいはーい
あ、手伝うよ
パタパタと食堂の方に駆けていくマリーとリルを見送りながら、Olは床に手をかざした。床石がぐにゃりと歪み、即席のテーブルと椅子が出来上がる。
あ、テーブル用意してくれたの?ありがとう
分身とマリーの手を借りてリルが運び込んできたのは、見慣れた料理だった。
こっちの食材も色々試してみたいけど、よく考えたらわたし味見できないから一人で新作に挑戦するのは無謀だったわ。ってわけで、今日はうちから持ち込んだいつもの物でごめんね
今度わたしおてつだいするね!
構わんが、未知の毒や病には気をつけろよ
そんなほのぼのとした会話をしつつ、三人は席につく。
いただきまー
スプーンを手にして口を開いたところで、マリーは強烈な視線を感じてふと横に目を向ける。
うわっ!?
人魚が、小部屋の壁にべったりと張り付いていた。
爛々と目を輝かせ、口を大きく開いてマリーの手元のスープを凝視している。
水中だから目には見えないが、よだれをだらだらと流しているであろうことは明白だった。
ほしいの?
スープを掲げてマリーが問うと、言葉もわからないだろうに人魚は首をブンブンと縦に振る。
まさか食料を奪うためだけに我々に喧嘩を売ったのか?
Olは荒らされていた船内の様子を思い出した。
食料は奪われていたが、Olの魔術書や魔道具は手付かずだった。
それらの価値を把握できなかったものだと思ったがそもそも単に、食料以外に興味がなかっただけか。
どうしよう、Olさま
マリーは困った様子で眉根を寄せる。このままでは非常に食べづらい。
食料をくれてやる代わりに、我々に危害を与えることを禁ずる。同意するか?
ジェスチャーを交えてOlがゆっくりと伝えると、人魚はぶんぶんと首を振った。
どうしたものか、とOlは逡巡した。
契約の呪いというのは、例え虚偽であっても相手が形だけ同意していれば成立する。
だがそれは相手が契約を理解していればの話だ。
相手がこちらの言っていることをある程度でも理解しているのなら頷いている時点で呪いはかかるが、食べ物欲しさに闇雲に頷いているだけだと呪いはかけられない。
あれっ、また女の子増えてる。どうしたの、この子?
悩んでいるOlのもとに、救世主がやってきた。
ユニスか。ちょうどいい
仮に人魚がこちらの意図を理解しておらず呪いがかからなかったとしても、彼女がいれば恐れるほどの相手ではない。
うん、いいよ
事情を説明すると、ユニスはあっさりと快諾した。
だってご飯は沢山で食べた方が美味しいでしょ
あまりに迷いのない承諾に逆に心配になって問うたリルに、ユニスは的外れな返答をした。
そうじゃなくてユニスは、あいつがどのくらい強いか見てないじゃない
ユニスの強さは十分知っているが、人魚も三人がかりで何とか倒したのだ。いくら英霊の彼女でもそうやすやすと引き受けて良いのか、とリルは思う。
マリーが避けられる程度の攻撃と、マリーの攻撃を避ける程度の防御でしょ?だったら、あたしなら誰かが攻撃される前に殺せるよ
しかしユニスはあっけらかんと言ってのけた。
彼女の口調の邪気の無さに、リルはかえって恐ろしくなる。
あなたが敵じゃなくて良かったいや、二、三回敵に回ったっけ
えー、敵だったのは最初会った時だけでしょ
しみじみと呟くリルに、ユニスはケラケラと笑った。
出ろ
Olの声とともにキューブの壁が展開し、ざばりと水が辺りに広がる。人魚がその波に乗ってぴょんと跳ねたかと思うと、その魚の尾が足に変わった。鱗はそのままきらめく衣になって、スカートのようにふわりと彼女の脚を包み込む。
幻術ではないな。氷から抜け出した種はこれか
人間に変身する術を持つ種族は珍しいがいないわけではない。
だが、身体の一部だけを変化させるものを見るのはOlも初めてだった。
俺は、Olだ
おうる
己を指していえば、女はオウム返しに呟く。
お前は?
たつき
やはり馬鹿ではない。言葉が通じずとも、こちらの意図を正確に読み取っている、とOlは感じた。
ではタツキよ。お前に糧をくれてやる。代わりにお前は我々を害するな。良いか?
料理の乗った皿をタツキに向けて問えば、彼女はこくりと頷く。
それで、契約は成った。
そら、食え
テーブルに皿をおいてやれば、タツキは喜び勇んで食べ始めた。
ビルスキィ!
言葉は分からないが、何と言っているのかはその輝く表情を見れば一目瞭然だ。
ニコニコと笑顔を浮かべながら、タツキはあっという間にリルの用意した料理を平らげてしまった。
どれ
食べ終わって満足気に息を吐くタツキの胸を、Olは無造作に鷲掴みにする。
結構あるな
悲鳴は、二度響き渡った。
一度目はタツキが腕を振り上げる前、そして二度目はその腕をOlの頬に振り下ろした後だ。
どうやら呪いは正常に働いているようだ
じんじんとする頬を押さえつつ、Olは頷く。
彼に危害を加えれば、タツキには激痛が走る。我々の範囲や何を持って危害とするかは不明だが、とりあえずこの程度制限できていれば問題はないはずだ、とOlは判断した。
そら、さっさと帰れ
腕を振るOlを憎々しげに睨みつけ、タツキは下半身を魚に戻すと水路に飛び込んだ。
帰しちゃって良かったの?
新しくOlの分の食事を用意しながら、リルは聞いた。
ああ。問題ない。これでもうここに来ることは無いだろう
こちらの強さは示し、呪いをかけて危害も加えられなくした。
その上で、嫌な思いをさせたのだ。まともな神経をしていれば近寄ろうとするはずがない。
犬とて痛ければ覚える。これでまた来るのであれば、よほどの大物かさもなくば、底抜けの馬鹿だ
そして奴はそのどちらでもあるまい、とOlは心のなかで呟いた。
なお、タツキは翌日も普通に食事を貰いに来た。
第3話原住民と平和的に友誼を結びましょう-1
言語を習得せねばならん
Olは端的にそう言った。
いい加減、わからんことが多すぎる。そうでなくともこちらの言語を学ばなければならない
魔術で何とかならないの?
Olは何気に言語学の大家だ。アールヴ語、ドヴェルグ語、ゴブリン語やハルピュイア語など様々な言葉を解するから使わないが、言語翻訳の魔術は存在する。
あれは、魔術を作った者がそもそも言語を理解していなければならないのだ。完全に未知の言語には使えん
へー、そういう仕組みだったんだ
感心しつつ、リルはふとあることを思いついた。
あの子に教えてもらえばいいんじゃないの?
アレは役に立たん
アレというのは、Olの隣で幸せそうにパンを頬張っている人魚のことである。
おい、タツキ
Olに名前を呼ばれると、タツキは耳の当たりにあるヒレをピコピコと動かした。
しかし一瞥を向けることもなく、彼女は一心不乱に食事を続ける。
スープの汁の一滴までも貪って一息つくと、彼女はちらりとOlを見た後、
ディーーーーヴィ
何事か一言残して水路に飛び込んだ。
何を言っているかはわからんが、とにかく悪態をついたことだけは雰囲気でわかるな
そうね
うんざりと呟くOlに、リルは深く頷いた。
まあそういうわけで、言語を学ぶために現地人を探して連れてくる
どうやって?
俺は魔王だぞ
Olはローブを翻す。
攫ってくるに決まっておろう
邪悪な魔術師はそう言って、ニヤリと笑みを浮かべた。
ユツは一人、森の道を歩いていた。
小さな頃から遊び慣れた道だが、今日ばかりは酷く恐ろしく感じられる。
ともすれば止まってしまいそうな足を、一歩一歩、踏みしめるように歩く。
しかしその足は、不意に止まってしまった。
確かここの道は二つにわかれていたはずだ、と彼女は思う。
しかし木々の間に伸びている道は左にだけ続いていた。
奇妙な予感が彼女の胸を重くするが、それでも引き返すわけにはいかない。
彼女は仕方なく、左の道を辿っていった。
進んでいくうちに、彼女は違和感に気がつく。
いつもなら聞こえるはずの虫の音や鳥の鳴き声が、全く聞こえないのだ。
一旦意識してしまえば、しんと静まり返った森は酷く不気味だった。
今まで極度の緊張で気が付かなかったが、風にざわめく木の葉の音すらしない。
足は止まり、ゆっくりと後ずさり、そしてとうとう耐え切れなくなって、彼女は踵を返して駆け出す。
そんななんで!?
しかしそれはすぐに止まってしまった。
今まで歩いてきたはずの道が、なくなっていたからだ。
後ろを振り返れば、ユツを誘うように大きな赤い花が咲いている。彼女はそれを不気味に感じ、茂みをかき分けて道なき道を進んだ。
嘘!
そして、愕然とする。茂みを掻き分け抜けだしたその先には、大きな赤い花が咲き誇っていた。
同じ種類の花がたまたま咲いていたわけではない。
記憶力には自信があった。戻ったはずなのに、同じ場所に出たのだ。
座り込みそうになる己を叱咤し、覚悟を決めてユツは道を進む。
そうする内に、段々と辺りには霧が立ち込めてきた。
進めば進むほど霧は濃くなり、しばらくすると自分の足元さえ見えないほどになる。
とうとう立ち止まってしまうユツの耳に、声が聞こえてきた。
何と言っているかはわからない。しかし、自分を呼んでいるような気がする。
その声に誘われるように、彼女はゆっくりと歩いて行く。
どれほど歩いたかもわからなくなった頃、視界は唐突に開けた。
まるで部屋のように複雑に編み込まれた茨の屋根の中にいたのは、一人の男だった。
見たこともない、濃い金の髪。背は天を衝くように高く、肌は不自然な程に白い。
鼻も高ければ手も足も長く、金色の瞳が、ユツを見下ろしていた。
これはまた小さな娘が釣れたものだ、とOlは思った。
Olの部屋に迷い込んできたのは、ともすれば少年と見間違えてしまいそうな少女だった。
年の頃はマリーと同じか、少し下くらいか。
短く切った銀の髪に黒い瞳。顔立ちも平坦なら、体つきも殆ど凹凸はなく未発達だ。
本来ならば人の侵入を阻む迷宮だが、今回Olが仕掛けたのはその真逆。
迷宮の奥に侵入者を誘い込み、迷い込ませる罠の数々だ。
初めて作った仕掛けが早々に上手くいったのは重畳だが、それで捕らえたのがこんな年端もいかない少女とは。
まあ、選り好みをしても仕方あるまい
そう自分に言い聞かせ、Olは少女を捕らえようと腕を伸ばす。
少女ユツは、逃れるどころかOlの胸の中に飛び込んだ。
第3話原住民と平和的に友誼を結びましょう-2
懐に飛び込んできた少女に、Olは瞠目する。
どこを刺されたか?
いや、接触性の呪いか?
触手でも生えて捕縛されるか?
一瞬のうちに無数の疑問とその対処法が思い浮かぶが、少女はただ、Olの腕の中で震えているだけだった。
何が目的かは知らんがこちらはこちらの目的を果たさせてもらうだけだ
Olは彼女をひょいと抱き上げて、ベッドの上まで運ぶ。
お前には悪いが
Olが宣言している間に、ユツは服を脱ぎ去っていた。
まあ、そういうことだ
釈然としないものを感じつつ、Olは彼女を組み敷いた。
同時に魔術で走査するが、武器なし、毒なし、魔力なし。
暗殺でも色仕掛けでもない。そもそもこの異郷の地でそんなことをされる覚えもない。
全くもって不可解ではあったが、例えOlの想像を超える罠であっても隣の部屋にはリルもマリーもいる。問題はない。
Olはそう判断し、ユツの首に噛みつくように口付けを落とす。
そしてまたひとつ、わからんと内心で呟いた。
落ち着け
Olは通じないとわかりつつ、諭すようにゆっくりと言ってユツの頭を撫でる。
少女は、震えていた。
魔王さえも騙す稀代の役者でもない限り、彼女はまだ男を知らぬ生娘であり、男を誑し込むような訓練も受けていない。
しかし、初対面の言葉も通じぬ男にその身体を許そうとしている。
不可解だが、状況を整理するとそういうことだった。
お前がそれでは、こちらとしても困るのだ
Olの呟きに、ユツは不思議そうな視線を向けた。
頭を撫でている手の平を、ゆっくりと頬に滑らせる。そして彼女を落ち着かせるように、ぎゅっと抱きしめた。
その肩は軽く力を込めれば折れてしまいそうなほど薄く華奢で、Olの腕の中にすっぽりと収まってしまう。小柄な身体の温度は小動物のように高く、重ねた肌から伝わる胸の鼓動は張り裂けんほどで、なおさら彼女の小さな印象を強くしていた。
落ち着いたか?
その鼓動がようやく収まってきた所で尋ねると、言葉はわからなくとも意味は察したのか、少女はこくりと頷く。しかしその身体は次の瞬間、ビクリと跳ね上がった。
Olの指が、その脚の間を割り広げたからだ。
恐らくは誰にも触れられたことのないであろう少女の秘奥を、Olはゆっくりと撫で上げる。硬く閉じた蕾は指を入れる隙間さえなく、今だ僅かな潤いすら帯びてはいなかった。
大丈夫だ
するすると、Olのもう片方の手がユツの喉を撫で、胸元へと向かう。触れるか触れないか、産毛だけを撫ぜるような指先。男らしいゴツゴツとした指からは想像も出来ないほどの繊細な動きで、彼女の肌の上を滑っていった。
んっ
その指先が彼女の胸の頂きに辿り着いた時、ユツは初めて小さく声を漏らした。それは快感というよりは羞恥と緊張によるものだったが、声を出すのと出さないのには大きな差がある。
声を堪える必要はない
耳元に口付けながら囁くと、ユツはふるりと身体を震わせた。指先で触れた場所が、徐々に熱を帯びていく。
ふ、うっ
指と指の間をやんわりとなぞり、首筋に唇を這わせ、滑らかな腹を撫で、脇腹を伝い、太腿を擦り、膝に触れて、ふくらはぎから足の指先までをそっと辿る。
じっくりと時間をかけ全身くまなく指と唇で愛撫して、その唇を奪った時にはユツの体中から力は抜けていた。
んぅ
ふんわりとした気持ちのまま、ユツは唇を割って入ってきた舌を受け入れる。柔らかな濡れた肉は優しく気遣うように彼女の口内を犯し、甘く口づけを繰り返す。夢見るような心地でそれに応えていると、突然、熱い感覚が彼女を貫いた。
気付けば彼女のほっそりとした両脚は大きく割り開かれて、その中心にOlの赤黒い男根がずっぷりと突き刺さっていた。
蕩けるほどに全身を愛撫され、恥ずかしいほどに濡れそぼっているからか、破瓜の痛みは殆ど無かった。それ以上に、身体の奥から熱がこみ上げてくる。
まるで焼けた杭を打ち込まれるような感覚を、ユツは背を丸めて耐える。痛みも苦痛もなく、Olが彼女の奥を突く度に未知の熱さだけがユツを襲った。
ふ、あぅっ!
わけも分からず堪らえようとユツの腕は縋るものを探し、それはOlの広い背中を見つけてぎゅっと力を入れる。両手両足でしがみつく彼女の肢体は、しかしかえって男に対して開かれて。
あああああッ!
奥の奥までを貫かれる感覚に、彼女は鳴いた。
ひっ、あ、あっ!
男を知らず、自らを慰めたこともない純朴な少女には、その熱が何なのか理解できなかった。
ただただ未知の何かへの恐怖が勝り、男に縋りしがみつけば、その色を塗り替えるようにより強い熱が突き刺さる。それをわかっていてなお、しかし彼女は縋ることをやめられなかった。
腕に力を込めれば、口内は貪るような舌に蹂躙される。
脚に力を込めれば、胎の奥まで貫かれる。
怖いのに、恐ろしいのに、しかし彼女はそれをやめることが出来ない。
恐れ、離れ、縋り、求める。
揺られ揺られ繰り返すうちに、彼女の中から何かがこみ上げてきた。逃れるように男の背中に爪を立て、腰を浮かせたそこに熱い肉槍が突きこまれる。
知らずきゅうと締め付けて、少女はその熱を逃がすかのように喘いだ。
その逃げ道を塞ぐように。
男の唇が、彼女の口に重なる。
っ!
腹の底から込み上げるその熱は行き場をなくし、少女の小さな身体を蹂躙した。手が震え、脚がわななき、首が反り上がる。その奔流は恐れを綺麗に押し流し、彼女は熱に快楽の炎にその身を任せた。
んっぅぅっ、うぅーっ!
絶頂に達したばかりの少女の膣壁を、Olの剛直は容赦なく抉る。男を知らぬユツのそこは見る間に老獪な魔術師の手によって開発されて、水を吸う綿のように女の悦びを吸収していく。
もはや少女は怖れではなく、欲求によってOlの身体に取り縋っていた。腰に回した脚をきつく締め付けて、熱い怒張をねだり咥え込む。何も知らぬ無垢な少女は何度も何度も絶頂に導かれ、忘我の堺でただ快楽を貪る。
Olの言葉を、少女は理解しない。言葉が通じたとして、何も知らぬ無垢な彼女には伝わらなかっただろう。
しかし己の膣内で膨らむ男の剛直に、本能的に少女はそれを完全に理解する。
己を犯し、穢し、種を付けようとする雄の欲求。
それを、彼女は全身全霊で、受け止めた。
あっ、あっ、あっ、ああっ!
どくどくと流し込まれる白濁に己の中が満たされていく事を感じながら、ユツは意識を手放した。
上手くいったか?
うん。成功よ。しっかりくっついてる
ベッドの上に横たわるユツを見て、リルは深く頷いた。
二人の声に目が覚めたのか、ユツはぼんやりとした様子でまぶたを開ける。
俺の言葉がわかるか?
はい。わかります
問うOlに、ユツはこくりと頷いた。
その言葉は依然として理解できないものだったが、その意味は互いに明瞭に伝わってきていた。
俺の魂とお前の魂の一部分を繋げた。ゆえに、互いの考えていることはわかる
悪魔は魂の扱いの専門家だ。とりわけ、淫魔であるリルはもともと性交を通じて魂を奪うことを生業とする種族である。絶頂の忘我を利用して二人の魂に糸を張る程度は容易いことだった。
魂でつながれば、言葉の差など大きな問題ではない。
相手が言わんとする事そのものが、意味として伝わってくるからだ。
お前には悪いが、しばらく協力してもらうぞ
一方的なOlの要請に、意外にもユツは躊躇なく頷いた。
それが偽りでないことは魂を通して伝わってくる。
そういえば、最初からやけに協力的だった、とOlは思い出した。
魔術師でもない小娘一人、彼の手にかかれば籠絡するのはさほど難しいことでもないが、それにしても協力的にすぎる。
まだ何も説明していないが、構わんのか?
はい、勿論
ユツは笑顔で頷いて。
妻として当然の勤めです、勇者様
そんなことを言い放った。
まて。何だ、その、勇者だの妻だのというのは
ボクは、あなたに嫁ぐためにここにやって来ました。勇者様が思ったよりも優しい方で、良かったです
魂の糸を手繰ってみればユツの言葉に虚飾はなく、彼女は心の底からそう信じている。
順を追って説明しろ
大巫女さまが、先見(さきみ)で見たのです。ボクが、勇者様の妻となることを
先見。それは予言ではなく、予知を表す言葉だった。
Olが使う予言は、魔力を用いて自分の望む未来への道を敷くことだ。本来あり得た運命を捻じ曲げ、そのような未来を作り出す。故に、力のない魔術師のものや、あまりに荒唐無稽な予言は外れることもある。
しかし予知はそれとは全く別のものだった。知り得るはずのない未来を知る。それは魔術でも法術でも不可能なことだ。
その、勇者とか言うのは、何だ
言葉としての意味合いはそのままだ。勇気あるもの。英雄に近いかもしれないが、英雄のように天からの定めを受けたものという感覚はない。純粋に、傑物ということだろうが。
言葉の意味はわかっても、どういうつもりでいっているか、その思考までは読めない。
無論、魂同士をつなげる糸を太くすればそういったことも可能なのだが、その効果は双方向だ。つまり思考を読めるようにするなら、Olの思考も読まれてしまうということである。当然ながら、それは避けた。
はい。勇者とは
頷き、にこやかに説明するユツの言葉に、
魔王を討つものの事です
Olは思い切り、顔をしかめたのだった。
第3話原住民と平和的に友誼を結びましょう-3
あははははははは!
笑い事じゃない
腹を抱えて笑うリルに、Olは渋面を作る。
先見とやらの詳細を聞くためユツの村へと行く道すがら。
Olから説明を受けたリルは、憚ることなく笑っていた。
だって、Olが勇者様で、魔王を倒すって
リル笑いすぎでしょ
宙をフワフワ浮きながら笑いすぎて出た涙を拭う美女を、マリーは呆れ顔でたしなめる。
そんな二人を、ユツは不思議そうに見上げた。
そういえば、こいつを連れて行くのは問題ないのか?
Olはリルに視線を向けてユツに尋ねる。悪魔という存在が彼女たちにどのくらい認知されているのかは分からないが、少なくとも歓迎される存在ではないはずだ。
はい。先見にある通りですから
ユツの答えに、Olは内心舌を打つ。
接触すらしていないというのに情報が漏れるというのは、何とも気味の悪い話だった。
程なくして、Olたちは村にたどり着いた。森のほど近くにある、小さな村だ。
道はろくな舗装もなく、踏み固められただけで馬車の轍すら見て取れない。
木々を組み、藁のようなもので葺かれた家屋はあまり高い文明を持っていそうにはなかった。
大通りを歩くOlたちを、村人たちが物珍しげに眺めている。
その視線には好奇や不審はあっても、恐怖や嫌悪というほどのものはない。
随分平和的に暮らしてきた種族のようだ、とOlは思った。
彼らに共通するのはユツと同じ黄色がかった肌の色と低い背、そして鼻の低い平面的な顔だ。髪の色が銀なのはユツだけで、殆どの村人は黒髪黒目だった。
お前が特別小さいというわけではないのだな
勇者様たちが、大きすぎるんです
Olの背は高くも低くもなく、中肉中背と言って良い。ユツの背は小柄なユニスよりも更に小さく、Olより頭ひとつ分は低かった。
村人たちも人間の半分しかないクドゥクやドヴェルグに比べれば大きいが、男でも平均してOlより頭半分くらいは背が低いようだ。顔立ちも相まって、年齢よりも大分若く見える。ユツもマリーより歳上なのだと聞いて、Olは驚いた。
ここです
村の奥、一際大きな家へと案内されて、Olは踏み入ろうとする。
あっ、あっ、あの、靴は脱いで下さい
それをユツは慌てて押し留めた。
何故って家の中が汚れちゃいますし
武器を持って入るなというならわかるが、靴を脱げというのは不思議な文化だ。
Olはそう思いつつも、言われた通りに靴を脱いで家の中に上がる。
よく来たね。悪魔の王、Ol
出迎えたのは、顔中を皺に覆われた老婆だった。
腰が曲がっているせいか、背の低いユツの種族の中でも更に小さく見える。
そういう貴様は、何者だ。何故俺の名を知っている
Olは不快感を隠さずに問うた。
儂はテナという。ユツの祖母じゃ。お主の事は何度も先見の力で見た。何でも知っておるよ
睨みつける魔王の圧力を気にすることもなく、老婆はゆっくりとそう答える。
ほう。何でもと来たか
Olは柱にもたれ掛かりながら、老婆を見下ろす。
やめとくれ
途端、テナは表情も変えずに言った。
儂はこの通りの婆じゃ。わかってもそれは避けられんし、お主の蘇生の術とやらにも耐えられん。死んでしまうわい
実態が何であれ、厄介な能力だな
え?え?どういうこと?
舌打ちするOlに、マリーは状況を把握できずに二人の顔を見比べる。
Olが家を操って攻撃しようとしたけど、やるより先に見透かされたって事ね
リルの言葉に、Olは頷く。
大陸を支配した迷宮の王である彼にとって、何の呪的防御も施されていないこの小さな家を己の迷宮として掌握することなど、呼吸にも等しい。それはもはや呪文も動作も必要とせず、ただ入るだけで行える程の域にまで高められていた。
それを見抜ける魔術師など、世界に五人といないだろう。ましてやどんな事をしようとしているかまで察するなど、それこそ未来予知でも可能でなければ出来ることではない。
とは言えそれだけで、未来予知が出来ると決まったわけではないがな
そんなに先見を信じられぬかね
皺に紛れて殆ど見えない目を片方開けて、テナはOlの顔を見る。
信じられんというより、ありえん
無から有を生み出し、不可能を可能にするのが魔術と言われるが、魔術では絶対に出来ないとされている事象がいくつかある。そのうちの一つが、未来の出来事を知ることだ。
お前は俺の名を呼んだだろう。それこそが予知など存在しない証拠だ
予知によって俺の名を知ったというなら、お前は俺が名乗る場面を予知によって見たということだろう。だがお前は俺が名乗るより早く名を当てた
それはつまり、未来予知で見た光景と現状がズレている、という事だ。
儂がお主の名を当てるところまでが運命として決められており、予知する事がそもそも織り込み済みだったとしたならどうかね
予知によって名を知り、名を知ったことで予知した未来を実現する。
魔術的には全くもって有りえない話だったが、Olに延々と議論をするようなつもりはなかった。
証明するのは簡単なことだ
Olはテナの首を掴み、ぐいと引き寄せる。
俺がお前を殺すかどうか、その先見とやらで当ててみせろ。殺すといえば殺さん。殺さぬと言えば殺す。どうだ
老婆の首は酷く細く、Olの腕力でも力を込めれば簡単に折れてしまいそうだった。
殺さぬという予知を見て、殺すと言えばどうじゃ?
魔王に命を握られながらも、テナは泰然とした態度でそう尋ねる。
無駄だ
Olは低い声で宣言した。
俺に嘘は通じない
悪魔というのは、嘘偽りに極めて敏感だ。
Olを通じてテナの言葉は翻訳されている。
嘘をつけば、リルがそれに気づかないわけがない。
お主は儂を殺さぬよ
躊躇うことなく、Olは腕に力を込める。
殺せば後悔することになるからな
老婆は慌てることもなくそういった。
その首の骨をへし折る寸前、Olは動きをピタリと止める。
儂を殺せば、一年と待たず
老婆の指が、マリーを指し、
その娘は死ぬ
彼女はそう、宣言した。
第3話原住民と平和的に友誼を結びましょう-4
戯れ言を
Olは吐き捨てるように言ったが、その指先に力は篭もらなかった。
老婆の言葉を信じたわけではない。だが真実である可能性があるなら、殺してしまう訳にはいかない。そう判断するのがOlという男であった。
戯れ言かどうかは、お主が一番わかってるのではないかの?
老婆の言葉に対し、リルから否定の声はない。
少なくとも嘘はついていないということだ。
対価は何だ。お前は何を望む
Olは舌打ちしながら老婆の首から手を離す。
落ち着きな、お若いの。別にその娘を救う方法と引き換えに何かをしろなどと言うつもりはないわい
テナは己の喉を撫で擦りながらそう言った。
儂にとってもお主にとっても、奴は敵なのじゃからの
奴?
怪訝な表情で尋ねるOlに、テナはうむと頷く。
全てを平らげ全てを滅ぼす魔王。それが奴じゃ
名はないのか?
ある。あるが、口にすることは出来ぬ。名を呼べばそれだけで奴はそれを聞きつけて、その力を増す
名を呼ぶだけでだと?
それはOlにとって、あまりにも理解し難い概念だった。
そんな魔術など、聞いたこともない。
自分に同じことが出来るのであれば、侍女にでも毎日名前を呼ばせ続けるところだ。
まあ良い。そんな存在が実在するとして、俺はその奴とやらとわざわざ敵対する気など無い
Olが新大陸を訪れたのは、飽くまで侵略ではなく脅威の調査だ。全てを滅ぼすなどという馬鹿げた存在に付き合う義理など無い。
そうはならんじゃろうな
どういう意味だ
そのままの意味じゃよ。お主は必ず、奴と戦う運命にある。なぜなら、儂の先見がそう告げておるからじゃ
Olは老婆を睨みつけ、やがてゆっくりと腰を下ろした。その動作に連動して、床が盛り上がって椅子を形作り、Olの体を支える。
良かろう。詳しく説明してみろ
足を組んで肘掛けに頬杖をつき、Olはそう促した。
儂らが奴と呼び慣わすかの魔王は、年に一度生け贄を欲する。清く美しい娘をじゃ
テナの言葉に、Olは渋面を作った。かつて自分自身が同じことをしていたからだ。
生け贄を渡さねば魔王はこの一帯全てを滅ぼすじゃろう
愚かなことだ
それは率直な感想だった。そんなことをしていれば所領がどれほどあっても足りないし、女一人のために村を一つ滅ぼすなど非効率の極みだ。同じ生け贄を欲する魔王でも、奴とやらとOlのやり方は決定的に相容れない。
そしてこの村に若い娘はもはやユツしかおらぬ
まさかその為に、お前は孫娘を差し出したのか!?
Olは立ち上がってテナの胸ぐらを掴んだ。
ユツはもはや清らかな娘ではない。Olが穢したからだ。
娘を得られないくらいで滅びを与える暴虐な魔王が、それを許すことなど無いだろう。
つまり、Olの手によってこの村は危機に瀕しているのだ。
滅びを粛々と受け入れるよりはよほどマシであろう、悪魔の王よ
顔色一つかえず、テナは言った。
待ってください、勇者様!それはボクが望んだことでもあるんです!
思わず握りしめられるOlの拳を、ユツの両手が包む。
ボクはずっと、勇者様の話をお祖母様から聞いてました。そして奴の贄となるくらいなら、勇者様の妻になる方がいいと思ったんです
彼女はOlの腕を胸に抱くようにしながら、彼の瞳をじっと見据えた。
そしてそれは、間違いじゃなかった
勝手なことを言うな
ユツの手を振り払い、Olは椅子に座り直す。
それで、マリーが死ぬというのはどういうことだ
お主は奴と戦う運命にあると言ったじゃろう。その戦いで、その娘は死ぬ。それもまた運命として定められておるのじゃ
Olはその段になってようやく、自分が何故こうまで苛ついているのかに気がついた。
定められているだと?
未来が決められているということは、彼が今まで歩んできた道もまた定まっていたという事だ。自ら選び、勝ち取ってきたものが、ただ単に決められていたものだなどという言葉は、到底受け入れられるものではなかった。
一体誰がそれを定めたというのだ。天か?もしそうであるなら、俺はそんなもの疾うの昔に捻じ曲げたぞ
腹立たしげに言うOlに、しかしテナは首を振る。
運命を決めるのは常に人自身。儂であり、お主であり、その娘自身じゃよ、お若いの。そして、じゃからこそ、それは変えることが出来る。そうでなければわざわざお主にこうして助けなど乞わぬじゃろう
内心で、Olは舌打ちをした。
思考そのものを先回りされている。
それは彼女が敵でないにしてもいや、敵でないからこそ、まずい事態だ。
つまりお前の言う運命とは知っていてもなお避けられない筋道。そういうわけか
然り
Olが奴と遅かれ早かれ敵対するのは、理解できる。その性質を対立させる魔王同士が共存できるわけもなく、出会えば確かにそれは敵となるだろう。互いに勢力を広げていくつもりなら避けられない。
マリーを我らの本拠地に連れ帰ればどうなる?それでも奴とやらはこの娘を殺すのか
いいや。そうはならぬ
テナの言葉にOlは胸を撫で下ろすと同時に、それがただの脅しであったことに気付いてほぞを噛む。
儂の力では逃げ出すことは出来ても、奴を倒すことは出来ぬ。お主は単独でも奴を倒しうるかも知れぬが、災いを避けることは出来ぬ。それ故、互いに協力し奴を討ち果たそう。そういうことじゃ
なるほど
それはどちらの損にもならない申し出だった。
テナの先見の強力さはOl自身が十分味わっている。
何よりその能力は、無駄な争いを出来る限り避け、この大陸の内情を探りたいというOlの目的とこれ以上無いほど合致する。
お前の能力が本物ならば、俺がどう答えるかもわかっているのだろう?
何故じゃ
だからこそ、Olはこの話を受ける気はなかった。
そう問うということは、俺は理由を答えることはないと決まっているわけだ。お前の言う、運命とやらでな
それだけ言って、Olは立ち上がる。同時に床から生えた椅子はぐにゃりと歪み、もとの平らな床へと戻った。
勇者様!
離せ
縋るように伸ばされるユツの腕を、Olは振り払う。
勇者などと呼ぶな。俺はそのような都合の良い代物ではない
そう言い残し、Olはリルとマリーを伴ってその場を立ち去った。
ふぅ
その背を見届けて、テナは深く深く息をつく。
気を抜いた途端、堪えていた冷や汗が一気にぶわりと全身から吹き出した。
まったく、老骨には堪えるわ
何をされても何を言われても平然とした態度を取る。
それが、あの魔王と対等に渡り合うための最低条件だった。
断られてしまいましたが、良かったのですかお祖母様
ああ。とりあえずはこれが最善手じゃ。案ぜずとも
どのように話を持っていこうと、この時点でOlが手を組んでくれる未来はない。
既に楔は打たれておる
だがそれは、彼女の思い描く未来への道を断つものではなかった。
Olさま。どうして協力しなかったんですか?
帰る道すがら、マリーはOlに問うた。
理由は色々あるが簡単に言えば、信用ならないからだ
でも、嘘はついてなかったんですよね?
そうね。そこは間違いない。あのお婆ちゃんは一回も嘘をついてないわ
マリーの言葉を、リルが胸を張って請け負う。
なんかリルがそう言うと逆に心配になってきた
何でよ!?
そんな彼女に、マリーは疑わしげな視線を向ける。
だってリルって結構うっかりしてるし
あのねえ
リルがそう言うのなら、間違いはない
この小娘どうしてくれよう、と腰に手を当てるリルにOlが助け舟を出す。
そうなんですか?
意外そうに、マリーは目を丸くした。
Olは何かとリルに対して、詰めが甘いとか仕事が雑だとか言っているイメージがあったからだ。
こいつは俺の右腕だぞ
端的なOlの言葉に、マリーははっと息を呑む。
大陸を統べる魔王の片腕。よくよく考えてみれば、それはつまり大陸全土で二番目の地位にいるということに他ならない。ましてやOlは徹底した実力主義だ。妻だから、仲が良いからという理由で重用しているわけではない。
リルって凄い人だったの?
ま、少なくともわたし相手に嘘を突き通す人間なんてのが想像できないのは確かなことね
素直な尊敬の目を向ければかえって面映ゆい様子で、リルはそう答えた。
でも、っていうことは、あのお婆ちゃんはほんとに未来を見れるってこと?
信じがたいが、そういうことだろうな
忌々しげにOlは頷く。
読心術や予言を組み合わせて似たようなことを出来なくもないが、それならリルはそれを嘘と見抜く。半端な悪魔なら見逃してしまうだろう些細な言い換えや根拠のない思い込みも、今の彼女ならば鋭敏に察知するのだ。
だからこそ、Olは協力を断った。
もし予知などというものが本当に可能だとすれば、そんな相手と行動をともにするのは非常に危険が伴う。将来彼女を信用し、信頼することになったとしても重要な情報は渡せない。未来で渡すのと現在渡すのは、予知できるものにとって等価だからだ。
いずれにせよ、これきり無視するというわけではない
無視するには、テナのもたらした話はあまりに重要で無視できないものだった。
情報の面で完全に上をいかれている以上、その対策を練る時間が必要だ。
どことなくぼんやりとしていた様子のマリーは、はっとあることに気付いた。
あれ?じゃあわたし死んじゃうの?
お前は本拠地のダンジョンに戻れ。そうすれば死なないとテナとやらも言っていただろう
えっ、そうだっけ?
自分の生き死にに関係することだろうに、とOlはマリーの呑気ぶりに嘆息する。
少なくとも、こちらにいる我々を無視していきなり海を超えて攻めてくることはあるまい。攻めて来ても本拠地にはユニスもメリザンドもいる。お前に累が及ぶことはあるまい
渋々と、マリーは頷く。
リルはOlの右腕だ。英雄であるユニスは言うまでもなく、スピナだってOlの一番弟子。メリザンドもOlの迷宮に欠かせない相談役だ。
彼の傍にいる女性たちは誰もが優れた能力を持ち、迷宮の運営に貢献している。
そんな中で、マリーだけが、何者でもなかった。
優れたものの集団に紛れて同じ立場のような気になっていたが、そうではないのだ。それをようやく、彼女は自覚した。
Olはダンジョンの扉を開き、マリーを促す。
おかえりなさい、まま!
途端、ソフィアが駆け寄り彼女に抱きついてきた。
留守中ソフィアを見ていてくれたスピナが、ぐったりとした様子でOl達を出迎える。
いつも隙なく鉄面皮を保っている彼女の珍しい様子に、Olは思わず問う。
いえ、大したことではただ、マリーにママに会いたい、と少し暴れまして
彼女の乱れた髪を見れば、少しどころでなかったことは明白だ。
Olさま
足にしがみつくソフィアを抱き上げながら、マリーは後ろを振り向いた。
わたし、やっぱり帰れない。この子を置いていけないもの
幼子の目尻に溜まった涙を拭いてやる少女の表情には先ほどまでの幼さはなく、我が子を守る母親の決意に満ちている。Olはかつて、その表情を見たことがあった。産んだばかりの我が子を抱くユニスの浮かべていたそれと、同じ表情だ。
なるほどそういうことか
Olは渋面で呟く。
そうはならぬ
あの言葉は、ダンジョンに帰ればマリーは死なないという意味ではなかった。
マリー自身が、ダンジョンに戻ることを選択しないという意味だったのだ。
第3話原住民と平和的に友誼を結びましょう-5
うむ?
妙な寝苦しさにテナは目を覚ます。
なんじゃ?
いつの間にか彼女は、全く見覚えのない部屋で横たわっていた。
壁は見慣れた木材ではなく赤茶けたレンガで出来ていて、テナの眠る部屋から通路が一本、見通せぬほど先まで真っ直ぐに続いていた。
流石にそのまま寝直すことも出来ず、老婆は身を起こす。
おかしい
通路を恐る恐る歩きながら、彼女は口の中で呟いた。
未来が、見えないのだ。能力を封じられたのか、あるいは己の命運が尽きたのか。
しかし昼間に見た時には自分の未来は変わらず見えたし、こんな場所に放り込まれるような未来は見なかった。
ということは、他に考えられる可能性は
夢か?
まあ、そのようなものだ。お前にとってはな
呟けば、声が返ってきた。聞き覚えのある声だった。
Ol?
長い長い通路の行き止まりには、最初にテナが寝ていたのと似たような部屋があった。
そこに待ち受けていたのは声の主。魔王Olだ。
どういうことじゃ?
テナが問うと同時、唐突に未来が見えた。
大きな鏡を見せられ、そこに映る像に驚くテナの姿だ。
そしてその未来像自体に、テナは驚愕した。
慌てて己の手を見れば、そこにあったのはいつもの枯れ木のような腕ではない。
若々しい張りに満ちた、滑らかな手の平だった。
予知能力というのは便利なものだな。まあ、一応見ておけ
呆れ半分に言いつつOlは鏡を差し出す。そこには予知で見た通りのものが映っていた。
ピンと伸びた背にシワ一つない肌、腰まで伸びる艷やかな銀の髪に、黒曜石のような瞳。
ユツによく似た、美しい少女の姿だ。
お前の能力は、未来を見通すものだ。過去を見通すものではない
Olは言った。
あの通路は時を逆向ける道だ。進むことは即ち過去へと戻るということ。だから、進む先に何があるのか見えなかっただろう?
何が目的じゃ
まさに、それが知りたいのだ
Olはテナをぐいと抱き寄せる。
お前が何を企んでいるのかを、な
儂が望んでいることは既に話したはずだ。奴を
ああ、いい。話す必要はない
若きテナの言葉を遮り、Olは首を横に振った。
お前の体に直接聞くからな
こんなババアを抱く気か?
テナの言葉に、Olはくっと笑い声を漏らす。
何がおかしい
いや、お前は毎回同じことを言うな。安心しろ。実年齢で言えば、ちょうど互いにこのくらいの歳の差だ、小娘よ
言いつつ、Olはテナをベッドの上に押し倒した。
魔術師の細腕なのにその力はまるで万力のようで、テナは抗うことも出来ずに男に組み敷かれる。
さあ、得意の予知で当ててみせろ。俺は今からお前に何をする?
言われるまでもなく、テナは未来を見ていた。
Olがその剛直を彼女に突き入れ、荒々しく犯す姿を。
ふん、下らん。好きに犯すがいい
肉体が若返ったとはいえ、その精神はとうに枯れた老婆である。
今更陵辱を受けて泣き喚くような可愛らしさなどとっくに朽ち果てている。
なるほど、ではそれはやめておこう
そんな心境で吐き捨てれば、唐突に未来の姿が変化した。
さあ次だ。俺はお前に何をする
次に映ったのは無理やりペニスを口の中にいれられて、白濁を飲まされる未来だ。
口淫などという文化を持たないテナにとってそれは酷くおぞましく屈辱的な光景で、思わず彼女は盛大に顔をしかめる。
貴様なんという
見たな?では次だ
その瞬間、未来像は再び変化した。
テナが見た未来視の結果を受けて、Olは未来を変化させる。
Olはけして、伝えられた行為をしようとはしないからだ。
テナが言葉で伝えずとも彼女の表情の変化を巧みに読んで、Olはそれを察知する。
若い肉体は些細な感情の変化にも敏感に反応して、老婆の時のように無表情を貫くことは出来なかった。
未来の姿はまるで万華鏡のように、くるくると無限に流転していく。
その中でテナは何千回も何万回も犯され、穢され、辱められた。
はぁっ、はぁっ
予知の途中で予知が変わることなど初めてで、そのあまりの情報量にテナは目がくらむ思いだ。
息は荒く、汗がしとどに流れ、もはや何が現で何が夢なのかもわからない。
ああぁっ!
そこにOlの指が突き刺さり、彼女は高く声を上げた。
テナの中心を、無骨な指が深く抉っている。いや、それは未来の像だ。実際の指は、テナの薄い乳房を鷲掴みにしている。いや、いや、違う。尻に、うなじに、太股に、指先に、唇に。
そら、次はどうする
もはやどれが未来で、どれが現在であるかすらわからない。何千本もの指が、テナの身体を這いまわっていた。それらは全て的確に彼女の快楽を引き出し、昂ぶらせていく。
指だけではない。掌が、唇が、舌が、テナの全身をくまなく愛撫する。
それは彼女が長い人生で味わったことのある中で最高の快楽を容易く超えて、更に何千倍もしたかのような体験だった。
や、やめやめ、て
何千回も絶頂を味わわされて、テナは息も絶え絶えに懇願する。
何を言う。俺は何もしてはおらんぞ
Olの言葉とともに、幻視は全て消えた。彼の言う通り、Olはまだ何もしてはいない。全ては可能性の世界の中の、未来の体験だった。
まだ
その可能性は一瞬にして、一つに収束する。
ぐうぅっ!
それと同時に、Olの肉槍はテナの秘部を貫いていた。
両脚の間に感じるのは、破瓜の痛みだ。
孫娘がいる以上、彼女は確かに妊娠出産を経ているが、時を戻された肉体は処女のそれだった。
くあぁぁあんっ!
それ以上に強い快楽が、鈍い痛みを一瞬にして押し流す。
幻視の体験で昂ぶりきった肉体は、貪欲に男のものを咥え込んでその快楽を味わっていた。
次はどうして欲しい?
耳元でぼそりと囁かれる。テナはぐっと唇を引き結んだが、魔王の前には無駄だった。
なるほど、奥深く、ゆっくりと、だな
先ほどまでと、全く逆のことが起こった。
幻視で見た動きを、Olの実体がなぞって繰り返していく。
しかも予知で感じた些細な不満を拾い上げて修正し、よりテナが感じる部分を抉っていくのだ。
なんっなん、れこんな、あぁっ!
Olから逃れようと身を捩れば、突き出す格好になった尻を後ろから鷲掴みにされ突き入れられる。そんな未来に抗わずOlに尻を向けて、テナは気付いた。
あああぁぁぁぁっ!
もはや、自分がこの男に犯されることに悦んでいると。
無限に続くかのような陵辱は、やがて終わった。
テナの身体は汗と愛液と白濁とにまみれ、叫び続けた喉はひりひりと痛み、何度も絶頂に導かれた身体は鉛のように重い。
さて、目覚めの時間だ
答える気力すらなく、テナは気だるげに視線をOlに向けた。
お前はこの夜のことを全て忘れ、老婆に戻る。お前自身は初めてだと思うておるだろうが、こうしてお前を嬲ったのはもう何度になるか
言われた瞬間、彼女は全てを思い出した。
思い出したか?ここが、逆向きの終着点だ。空に投げた石が再び落ちるように、お前は元の老婆に戻る
Olの言葉とともに手がしわがれ、足が萎え、腰が曲がっていく。
そしてそれと連動するかのように、記憶がぽろぽろと欠けていき
テナは、意識を失った。
お祖母様、起きて下さい
むもう少し、寝かせてくれんか
孫娘の声に、テナは目を瞑る。
ここ数日、妙に身体がだるくて朝起きにくい。
どれだけ寝ても疲れが取れないばかりか、余計に疲れているような気さえした。
そろそろ迎えが近いのかもしれない。
その前に、あの悪魔の王に奴を討ってもらわなければ。
欲を言えば共倒れになってもらうのが一番だが、最悪でも奴を倒して貰わなければこの村ばかりか周辺一帯に何も残らない。
それだけは避けねばと思いつつ、四苦八苦して身体を起こす。
ぐっ
起き上がると、脚がずきりと傷んでテナは呻く。
軋むような節々の痛みとは別の、鋭い痛みだった。
不審に思って脚を撫ぜると、覚えのない傷がそこについている。
爪を立ててつけたような傷だ。
寝ている間に、寝ぼけて付けてしまったのだろうか。
そう思って撫ぜるうちに、ふとテナはあることを思いついた。
未来を、明日の朝を見る。すると今付いている傷は消え、別の傷がそこに残っていた。
明後日を、その次を、更に見るたびに傷はその場所を変えていく。
テナは急いでそれを紙に書き留めた。
これは
それはただの傷では無く。
Olヲコロセ
そう書かれた、文字だった。
第3話原住民と平和的に友誼を結びましょう-6
んむ?
寝苦しさを覚え、今日もテナは夜中に目を覚ます。
寝床を抜けて、未来が見えないことに不審を抱きつつもレンガ壁の通路を通り、Olの待ち受ける部屋へと辿り着く。
そして鏡を見せられて、己の若返りに気付く。
毎夜繰り返されてきたやり取りだ。
む!
だが、そこから先は違った。
ぼたぼたと垂れる血に、Olは顔をしかめる。
夜着を翻し、短刀を構えたテナは、Olの肘から手の平までを切り裂いてついた血を刃から振り払った。
なるほど。こういうわけじゃったか
テナが傷の形で未来の自分から送られた情報は、短く簡素な物だった。
しかし寝る前についていなかった傷が起きた後に付いていることから、その間に何かが起こっていることは明白だ。
彼女はそれを武器を準備しておけという忠告であると受け取り、夜着に短刀を隠して床についた。そして、その選択はどうやら正しかったようだ。
そんな小刀で俺に勝つつもりか?
ふん。儂を若返らせたのは失策じゃったな
テナは己の親指に短刀の先を押し当てる。
ぷつりと浮かぶ血の珠を瞼の上に赤く塗って、彼女は叫んだ。
来い!
銀の髪の毛がざわりと蠢き、側頭部からは獣のような毛に覆われた三角形の耳が生え、夜着の裾からはふさふさとした尾が伸びる。
ほう。ライカンスロープともまた違うか
感心したように、Olは呟いた。
彼の知る獣人(ライカンスロープ)とは違い、耳や尻尾が生えても元々の身体自体には変化がなく、瞳に宿る知性の光も失われてはいないようだった。
タツキといい、どうやらこの大陸には身体の一部だけを変化させるものが随分多いようだ。
テナの四本の尻尾の先端に炎が灯り、ふわりと浮いてOlに向かい飛来した。
矢よりも早い速度で宙を走るそれは、しかし全てキューブに防がれる。
ダンジョンの中で俺に勝てると思うなよ
それはどうじゃろうな
言葉とともに、Olの眼前からテナの姿が掻き消えた。
幻術か
だが消えたのはどうやら姿だけだ。
ほんの微かな足音と、ダンジョンの中の空気の動きからOlはテナがまだそこにいることを察知する。それを追って視線を向けると、キューブがぐるりと動いて彼の背後で火花を散らした。
チッ
テナは舌打ちする。空中を飛んで不意をついたつもりだったが、どうやらOlの防御は本人の意思とは無関係に攻撃を防ぐらしい。見えていようがいまいがお構い無しだ。
そっちだったか
Olが呪文を唱えると、幻術が解除されてテナの姿が露わになる。
同時に床石がいくつも隆起して、彼女を捕らえようと触手のように伸びた。
複雑な動きで動くそれを、テナはするりと容易くかわす。
次々と襲いかかる触手は紙一重で避けられて、互いに巻き付き合い、塊になった。
身体能力が強化されているだけでなく、彼女は予知が出来るのだ。
相手が動くよりも先に避ける事ができた。
ならばこれでどうだ
Olがその行動を実行に移すよりも早く、テナはそれを見る。
檻のように床が迫り上がって、テナを閉じ込めるつもりだ。
素早くすり抜けようにも範囲が広すぎて間に合わない。
ならば!
彼女の身体が細く長く伸び、まるで蛇のようになって檻の隙間をすり抜けた。
器用な芸当をする
もっと器用な真似も得意じゃぞ
言葉とともに再び炎が投げつけられた。自動で展開するキューブの防護。
だがテナの炎は今度はそれをすり抜けて、Olに着弾した。
くっ!
慌ててOlは魔術を起動し、己のローブに燃え移った炎をかき消す。魔術の込められた特性のローブは、その柔らかな感触とは裏腹に下手な鎧などよりよほど硬く火も寄せ付けないが、それでも何発も撃たれればOlの身体の方が持たないだろう熱量を持っていた。
なるほど、迷宮か
テナは少女の顔でにやりと笑う。Olの防御の仕組みを早くも見抜いたのだ。
キューブは攻撃に対して自動的に展開し防御しているように見えるが、実はそうではない。
攻撃を察知し、防ぐ。それは非常に高度な魔術が必要だった。
近づいてくるものに対し、何が攻撃で、何が攻撃でないかを判断しなければならないし、その速度にも対応できなければならない。そういった部分に気を使えば使うほど防御能力には関係ない部分で大量の魔力を消費するし、それを超える速度の攻撃には対応できない。
Olの防御はもっと単純なものだった。目に見えないだけで、常に彼の周囲には防御壁が展開しているのだ。それを悟らせないために、攻撃を防いだ部分だけが実体化してまるで壁が伸びたように錯覚させる。これがキューブの本当の姿。Olを常に囲む、小型の迷宮(ラビュリントス)だ。
全てを囲んでしまうと窒息してしまうし、外部に対して魔術を使うこともできなくなってしまう。かと言って攻撃の時だけ防御を解くなど言語道断だ。
それを解決するのが、見えない迷宮だった。例えどんなに曲がりくねっていようと、Olならばその道を通じて外部に魔術をかけられる。
だが、Ol以外のものが見えない迷宮を潜り抜けるなどというのはほぼ不可能だ。目に見えず、曲がりくねった道を正確に通すことなど、エレンのような弓の名手ですら出来ることではない。
そら、ゆくぞ!
テナには、それが出来た。
生み出す矢が形をもたない炎の塊であるということ。
そして何より、未来を予知して正解のルートを辿るまで無限に施行を繰り返せるという性質が、絶対の防御を打ち崩したのだ。
させるか!
Olは壁に手をついて、迷宮自体を操った。キューブの壁で防げないなら、ダンジョンの壁で防ぐまでだ。
しかしそれこそ、テナの狙いだった。
チャンスは一度。しかし失敗することは絶対に無い。
なぜなら、失敗するならそれも予知で見ることが出来るからだ。
そしてテナには、成功するビジョンだけが見えていた。
曲がれっ!
くい、と指を横に向けるテナの仕草に呼応して、炎はOlの繰り出した壁ではなく、その根本に突き刺さって爆発した。堅牢なダンジョンの壁に、ほんの僅か、小さな穴があく。しかしテナにとってはそれで十分だ。小さな鳥に変化して飛び、更に虫に変じて穴から外に出る。
Olの迷宮魔術は石を生み出すわけではない。動かすだけだ。
だから床を操作すれば床が、壁を操作すれば壁がその分薄くなる。
その隙を突けば、テナの炎で破壊することは十分可能だった。
ユツ!
お祖母様!
迷宮を抜け出した先に、テナは孫娘の姿を認めて彼女の名前を呼んだ。
同時にテナは未来を幻視する。Olの放った石の槍が、ユツの胸を貫くのを。
振り向きながら、彼女は尾をぶんと振る。
四振りの刀に変じた尾は細く長く伸ばされた石槍を切り落とす。
石槍は宙を舞って地面に落ちた。
ユツの頭から、ぴょこりと丸い獣の耳が飛び出す。
テナ同様、妖魅を降ろせる彼女と二人でなら勝つことも可能なはずだ。
戦闘に限って言えば、ユツはテナよりも強い。
力を貸すんじゃ!
ゆっくりと壁を開き、出てくるOlを睨みつけながらテナは叫ぶ。
その両脇に、ユツの腕がするりと滑り込んできた。
な何をする!?
ユツの両腕はテナの腕をがっしりと締め付けている。
いわゆる、羽交い絞めの状態だ。
儂じゃ、お前の祖母、テナじゃ!
はい。わかってます、お祖母様
若返っているからわからないのかと思って言えば、ユツはいつも通りの笑顔で答えた。
どういうことじゃ
言葉の後半は、力なく呟かれる。
問い詰めるまでもなく、テナは予知によって全てを悟ったからだ。
お祖母様がボクを守ったらこうしろと、Ol様に言われていたんです
その予知で見た通りの言葉を、ユツは語る。
騒ぎを聞きつけてか村人たちが姿を現したが、彼女たちに助けを求めるつもりにもならなかった。
助けにならない予知が見えたからではない。
若い娘などユツしかいなかったはずの村なのに、姿を見せた女たちは皆一様に、少女のような若々しさだったから。
村自体が既にOlの手に落ちていた事を、ようやく悟ったからだった。
閑話巫女祖母孫を調教しましょう-前
わぁっ、凄いです!
ドボドボと流れ落ちる水の音と、もうもうと立ち上る白い湯気。
見たこともないほど広く大きい風呂場に、ユツは両手を胸の前で組んで感激の声を上げた。
本国にある湯殿に比べれば、これでも随分小さいがな
十人は一度に入れそうなのにですか!?
海水に魔力が含まれていることは嬉しい誤算だった。
無論龍脈のそれに比べればごくごく微々たる量ではあるが、しかし絶えず打ち寄せる海の水はどれだけ汲めども尽きぬ魔力源である。少なくとも海水を濾過して真水を作り、日に一度湯を張るくらいの贅沢は許される程度の暮らしは保証されていた。
それはいいんじゃが
ユツによく似た、しかし苦々しい声が響く。
何故儂まで一緒に風呂に入らねばならんのじゃ。それも、こんな姿で
若く美しい少女の顔を、テナは思い切り不満げに歪めてみせた。
お前には腹を割って色々と話してもらわねばならんからな
散々話したじゃろう
湯に浸かりながら、テナは唸るように呟いた。
湯の温度は憎らしい程に彼女好みの熱めで、一体どれだけの情報を吐かされたのか彼女自身想像もつかないほどだった。
Olが警戒した割に、テナが秘めていたのは企みというほどのものでもなかった。
彼が遠からず奴と敵対することになっていたのは本当のこと。
しかしそれは、テナたちの村が滅ぼされた後のことだ。
テナはその時期を少し早め、自分たちを守ろうとしたに過ぎない。
いいや。まだあの妙な変身のことは聞いておらぬ
変身?ああ。巫術の事か
テナが銀の髪をかきあげると、その隙間から獣の耳、そして尻から同じ色の尾が四本にょきりと生えた。
口寄せ、召鬼などともいう。精霊を己の身に降ろし、その力を得る術じゃ
精霊を?
精霊の力を借りる術はOlの扱う魔術にもある。自力で炎を起こすよりも、精霊を魔力で操って炎を起こすほうが少ない魔力で大きな力を出すことが出来るからだ。
だが、精霊を瓶や宝石に封じておくようなことはあっても、自分の身体にとり込んだりはしない。
ええっと、精霊というよりは、妖魔の方が近いかもしれません。こちらの言葉では、妖魅というんですけど
Olと魂で結合しているユツが、そう訂正した。
儂が降ろすのは天狐と呼ばれる狐の精じゃ。千年を生き、四本の尾を持つ狐は人の扱える精霊の中では最上級と言われておる
ほう。千年か
どこか誇らしげに薄い胸を張るテナに、メリザンドよりは年下だな、とOlは内心呟く。
ついでに言えばローガンよりもだ。
ボクはお祖母様ほど高位の精霊は扱えないんですが、このくらいなら降ろすことが出来ます
ユツが自分の眉に何かを塗る仕草をすると、彼女の身体に変化が起きた。
頭から獣のような耳が生え、腰からは尻尾が伸びる。
三角形のテナの耳に対してユツのそれは丸く、すらりとした流線型のテナの尾と違ってユツの尾は太く丸く、一本だけだ。
しかしもうひとつだけ、大きな違いがあった。
それは平らなままのテナのそれとは対象的な、豊かな胸の膨らみだ。
そんなところまで変化するものなのか
はい。変身能力と肉体の強化だけでいえば、お祖母様の天狐よりも上です
ユツがえへんと胸を張れば、それに従って二つの果実がぷるんと揺れた。
実体を持っているのだな
頭に触れれば、そこに生えた耳は幻影ではなく、ふわふわとした感触がかえってくる。
はい。こちらもちゃんと中身があります
ユツはそう言いながら、Olの手を自分の胸元に押し当てた。
どういう原理だ?
揉みしだけばその感触は間違いなく人の肉の柔らかさだ。詰め物や紛い物にはけしてない弾力とずっしりとした重みがあった。大きな胸から小さな胸まで何百と触ってきたOlでさえ、真贋の判別がつかない。
狸は大食を司る面があるので、どうしても太ってしまうんだそうです
太るという割に、ユツの身体つきはほっそりとして小さく華奢なままだ。
強く握れば折れてしまいそうなその身体に不釣り合いに膨らんだ大きな胸元は、その清廉でいとけない顔立ちとの対比でかえって淫靡な雰囲気を醸し出していた。
天狐の能力は変化、幻術、狐火、そして未来予知じゃ
一方でテナの方は顔立ちこそユツに似ているものの、その顔つきにあどけなさはなく、老成した知性の光の灯った鋭い眼差しがあった。酸いも甘いも噛み分けたであろうその人生とは裏腹に肉体は細く未発達で、どこか浮世離れした美しさを備えている。
まさかあんな弱点があるとは、儂も知らなんだがの
予知によって行動を変化させた場合、その結果未来がどう変化するかは実際に変化させるまでは予知できない。
Olが度重なる実験によって突き止めた、テナ自身さえ知らない予知の欠点であった。
なるほど。一つの術で複数の能力を同時に得られるわけか
頷きつつ、何となくOlはテナの尾を撫でる。
実体ではないせいか、そこは湯に浸かっても萎れることなくふさふさとした感触を保っていた。
ひぅん
妙な声を出すな
お、お主が妙な所を撫でるからじゃろうが!
眉根を寄せるOlに、テナは四本の毛を逆立てながら叫んだ。
神経も通っているのか
Olが感心したように言うと、テナは口をつぐむ。
霊的に接続されている部分ですから、むしろ敏感なんです
しかしユツがあっさりとそうバラした。
ええい、余計なことを言いおって
お祖母様は予知できるのですから、ボクに言われるのはわかっていたことでしょう?
い、今は見ておらんのじゃ!
小首を傾げるユツに、テナは叫ぶ。
ほう。何故だ?
そ、それは
ニヤリと口の端を笑みに歪めるOlに、テナは後退りしながら口ごもった。
こうなるからか?
や、やめいと言っておるだろう!
Olは逃げるように身を捩るテナの腰に腕を回し、その尻尾を撫で擦る。
Ol様、ボクも撫でて下さいませんか?
ユツは飽くまで控えめな態度で、しかしその豊満な胸をOlの腕に押し付けながら彼を見上げた。
いいだろう。祖母孫纏めて相手してやる
言いつつ、Olは湯船の中立ち上がる。
なななんじゃ、それは!?
その屹立した彼の怒張を見て、テナは目を大きく見開き叫んだ。
何と言われても別に男の性器を見たことが無いわけでもあるまい
そんな凶悪なモノ、見たことあるわけがあるかッ!
孫までいる女が今更何を言っているのだ、と眉を顰めるOlに、テナは声を震わせる。
へそに張り付いてしまうのではないかと思うほど硬く反り立った赤黒い肉の茎は、腕くらいあるのではないかと錯覚してしまうほどに太く長い。表面には太い血管が走り、どくどくと脈打っているのがわかった。
先端にはまるで槍の穂先のようなぷっくりとした頭がついていて、湯を浴びて濡れたそれは艷やかな光を反射していた。
大きさも形もテナの知る男根とはまるで違うもので、彼女は思わずそれをマジマジと見つめてしまう。
するとユツは自然な様子でOlのペニスに手を伸ばすと、舌を伸ばしてその先端を甜め上げ始めた。
ユツ!な、何をしておるんじゃ!?
これからボク達を可愛がってくれる大事な場所を、お清めしてるんです
そう言って太い肉塊を口に含む孫娘の姿に、テナは驚愕する。
そ、そんなところを気でも狂っておるのか!?そこは、排泄する場所なんじゃぞ!?
でもこうすると、Ol様は凄く喜んでくれるんですよ。ほら、お祖母様も
ユツはテナの手をぐいと引く。
ヒッ
すぐ目の前に迫るグロテスクな肉の塊に、テナは身を震わせた。そんな彼女に構うことなく、孫娘はそれを下から甜め上げていく。
今まで一度も見たことのない、いやらしく浅ましい雌の表情だった。
とろんと瞳を蕩けさせ、幸福で仕方ないとでも言わんばかりにユツは男に奉仕する。
テナが普段知る、健気で素直な愛らしい孫の姿とはかけ離れた光景は、まるで現実感がなかった。
ユツ、お主、何故そんなに手馴れているんじゃ
Ol様のものになれと言ったのはお祖母様ではないですか。お祖母様の知らない間に、ボクも沢山、可愛がって頂いたんですよ
ユツは己の双丘を両手で持ち上げると、それでOlの男根を挟み込んでみせた。
魂の端で繋がった彼女は、声に出さずともOlの大まかな感情くらいは感じ取れる。
それに伴って教え込まれた奉仕の仕方を、ユツはまたたく間に習得してしまった。
幼く素朴な顔立ちの娘が男のものを乳房で擦り上げ舌を伸ばして先端をチロチロと舐め上げるさまは、娼婦が裸足で逃げ出しそうな淫猥さだ。
お前もやってみろ
左手でユツのたっぷりとした乳肉を、右手でテナの小さな尻を鷲掴みにしながら、Olがぐいと腰を突き出し、テナの鼻先にそれを近づける。
一瞬覚悟したすえた臭気のようなものは感じられず、テナは思わずくんと鼻を鳴らす。
失礼な奴め。臭うような状態で放置するものか。そうでなくとも今洗ったばかりだろうに
ボクはOl様の汗の匂い好きですけど
憮然とするOlの横で、ユツはぽっと頬を染めた。
そら、もたもたするな
尻を軽く叩かれて、テナはキャンと鳴きながらそそり立つものに恐る恐る口をつける。
嫌悪感は、思ったよりもなかった。
尿の味や匂いといったものは微塵もなく、ただぬるくなった湯の感覚だけが舌先に感じられる。
ではお祖母様は、先の方をお願いしますね
ユツはそう言って四つん這いになると、Olの脚の付け根から肉の袋を食むように愛撫を始めた。大きな胸が重力に従ってぶらんと吊り下がり、尻から生えた太い尾がゆらゆらと振られる様は、テナでさえどきりとしてしまうくらいに扇情的だ。
ユツはごくりと唾を飲み込み、Olの肉槍を両手で掴む。それは鉄で出来ているのではないかと思うほど硬く、火が灯っているのではないかと思うほど熱かった。脈打つそれの先端を、テナは意を決して口に咥える。
その裏の筋のところを甜めてみろ
そんな言葉とともに、Olはふわりとテナの耳を撫でた。
んんっ
ピクピクと狐耳を動かしながら、テナは言われた通りに舌の先で裏筋をなぞる。すると肉塊はピクリと震え、口の中に今まで感じられなかった味が滲んだ。
それが先走りの汁であるということくらいは、テナにもわかる。
そんなものを口の中に入れるのは初めてだったが意外にも、それはさほど悪いものではなかった。
ほんの僅かに感じる塩気のような味と、ヌルヌルとした感触。美味いなどとは流石に思わないが、不愉快なほどのものでもない。
それよりも、ピクピクと反応する男の方にテナは興味をもった。
己をやり込め尊大に命令するOlが、舐める度に脈打ち小さく跳ねる。
面白く思って握る掌に力を込めれば、小さく漏れる声にテナはますます興味を高めた。
気持ち、良いのか?
口を離して尋ねてみればOlは素直に肯首し、もっと舐めろと言いたげに腰を捩る。
可愛いところもあるではないか。
テナは内心そう呟いて、未来を覗き見た。
どのように舐めればもっとも良い反応が返ってくるのか、無数の可能性の中から拾い上げ実行すると、Olの反応は劇的だった。
お前、急に上手くくっ
呻きながら腰を引くOlを追うようにしてテナは彼の怒張を舐り、若く柔らかな掌で扱きあげる。
ユツ、胸を出せ
そして孫娘にそう指示すると、彼女の豊かな乳房と、己の貧相な胸元で肉槍を挟み込んだ。
こんな幼く薄い胸に興奮しておるのか?
テナはOlの表情を覗き見て、嘲るように言った。
平たいとはいえ女の胸だ。僅かについた肉は柔らかく滑らかで、ペニスの先に擦り付けられれば思わず腰を浮かせてしまうほどの気持ちよさ。
ほれ、これでどうじゃ。ユツ、お主もやってみい
更にテナは舌を伸ばして、先端をユツとともに舐めしゃぶる。
ぐ、うぅっ!
一際苦しげにOlが呻く。
テナが内心で快哉を叫んだ次の瞬間。
ぎゃー!?
白濁の液が彼女の顔めがけて勢い良く吹き出して、テナは悲鳴をあげた。
閑話巫女祖母孫を調教しましょう-後
ぎゃぁっ!なんじゃ!?なんじゃこれは!?
Olがもっとも気持ちよくなる道を探し予知を繰り返していたテナには、その更に先の未来が見えていなかった。断続的に吹き出す精が彼女の顔と髪を容赦なく穢し、白く染め上げていく。
何一体、何を
湯で洗い流そうとしても、ネバネバとしたそれは温度で固まって更に絡みつく。
そうするうちに、彼女の小さな身体はひょいと持ち上げられた。
我慢できん。挿れるぞ
縁石に座ったOlに後ろから抱えられた形のテナは、そのまままるで人形のようにその膝の上に乗せられる。
天を指すようにそそり立った一物の真上にだ。
いっ!
一気に奥まで貫かれ、全身を走る電流にテナは硬直した。
な、ん
パクパクと、何とかテナは口を動かそうとする。
身体の芯から指の先までを支配するかのようなそれは、痛みではなく。
痺れるような、快楽だった。
何で、こん、な
お前は覚えていないだろうがな
片腕でユツを抱き寄せながら、Olは言った。
俺がお前を抱くのはこれが初めてではないというのはもう言ったか?若返らせた肉体の、全く同じ時間に何度も仕込んだのだ。お前という存在自体に、俺という男の存在が刻み込まれている
そんなOlの言葉を聞いているような余裕は、テナにはない。
彼女の脳裏には、今までOlから与えられた快楽が雪崩のように流れ込んできていたからだ。
てくれ
とっくの昔に、お前の身体は俺の身体に合った造りになっているのだ。もはや処女に戻ろうと大した痛みもないだろう。もう他の男で満足することもん、む
Olの台詞を遮るように、ユツが彼の唇を口で塞ぐ。
て、くれ
テナは孫娘が男と口付ける姿を見つめながら、堪えきれず言った。
動いて、おくれ!儂を、突いて、犯しておくれ!
言葉に出してしまえば一層耐えきれず、腹の奥の疼きは更に男を求める。しかしどれだけ懇願しても、Olは動く気配がなかった。
Ol様。ボクのことを可愛がって貰えませんか?
それどころか、ユツがそんなことを囁く。
ボク、Ol様のお種を、おなかいっぱい注いで欲しいです
Olはほうと声を上げ、ユツの乳房を鷲掴みにする。
あん。勿論、そのおっぱいも好きにしてくださっていいんですよ
ユツはぱたぱたと尾を振りながら、甘い声でそう答えた。
あなた様っ!
とうとう、テナはOlの胸元にすがりついて声を上げる。
お願いじゃ。儂をっ!儂を抱いておくれ、あなた様!
その両眼からはポロポロと涙が流れ、恥も外聞もなく、テナはOlにそう乞うていた。
くい、と指でテナのおとがいが持ち上げられる。
彼女はすっと目を閉じて、接吻を受け入れた。
唇を割り、歯を押し開いて侵入してくる舌先に、狐の尾が四本ともピンと伸びて広がる。
あの、あなた様?
思う存分口の中を蹂躙し、銀の糸を伝わせながら唇を離せば、テナはおずおずと声をあげた。
何だ
儂の口は、先程まであなた様のものを咥えてたんじゃが口吸いなどして、良かったのかの?
余計な事は言わんでいい
無論Olとて全く気にしないわけではないが、自分で咥えさせたものを厭うなどと度量の狭いことを言うつもりもない。
重なって横になれ
Olがいうと、石畳の地面にころりと転がったテナの尻尾の一房がぶわりと広がって布団になる。ユツは彼女を抱くようにして、その上に重なってOlに尻を向けた。
便利だな、お前の変化の術とやらは
尻尾が転じた布団にはやはり、湯船の水が滲むような様子もない。
あなた様
Ol様
Olがしげしげと触れて観察していると、テナの残り三本の尾とユツの狸の尾が、Olをねだるように彼女たちの秘部を指していた。
本当に便利だな
感心半分、呆れ半分で呟きつつも、Olはまずユツの方に突き入れる。
ふあぁ
彼女のそこは柔らかく、軽く力を込めただけで容易にずぶずぶと飲み込み、Olを奥まで受け入れる。まるで互いの身体が液状になって蕩け、混ざりあうような暖かさだ。
きゅぁんっ!
一方で、テナの膣内は全く別の感触だった。硬くキツく、ぐいぐいと締め上げる。腰を動かす度にざわざわとした膣壁が無数に男根を擦り上げてきて、得も言われぬ快楽があった。
顔はそっくりな血の繋がった祖母孫だというのにこんなにも違うものなのかと、Olは繰り返し二人の間を行きつ戻りつしてその味の違いを楽しむ。
あなた様ぁ
そうしていると、不意にテナの尾がOlの腰に絡みつき、逃がすまいと締め付けた。
あぁん、お祖母様、ずるいですぅじゃあ、こうして
ユツの尾が細くしなやかに伸びてOlの根本をきゅっと掴む。
そしてポンと音を立てて白い煙に変じたかと思えば、煙が晴れた後、Olの腰には二本の男根が生えていた。
こんなことも出来るのか
えへへ。お祖母様の天狐には出来ません。変化に長じた妖狸だから出来る芸当ですよ
尻尾のなくなった白い尻をふりふりと振りながら、ユツは自慢げに言った。
こんな事が出来るからといって何の役に立つのか、とOlは思ったが、少なくとも今の状況にはこの上なく有用だ。
ふあぁぁんっ!
くうぅぅんっ!
一度テナの中から引き抜き二人の膣口に同時に挿入すると、ユツとテナは声を揃えて鳴いた。
くっ!これは、幻術か!
幻術は天狐の得意技ゆえ、な
片方はユツの作った偽物であるのに、挿入した感覚はしっかり二本分、Olに伝わってくる。それが幻術によって作られた擬似的な感覚である事を老魔術師はすぐさま見抜いたが、それは解除する必要のない幻だ。
これは凄まじい、な!
二倍で襲いかかってくる快楽の奔流に、流石のOlも苦しげな声を上げる。
あなた、さまぁ!
せつなげな声とともにテナの残り三本の尻尾が立ち上ったかと思えば、彼女の上半身の姿に転じてOlに抱きつき、口付けた。
流石にこれには堪えきれず、Olはそう宣言すると速度をあげて腰を二人の尻に打ち付ける。すると、二人は同時にきゅっと膣口を締め付けて、Olのものをキツく咥え込んだ。
二人のほっそりとした腰を纏めて両腕で抱え、Olは一際奥へと肉槍をねじ込み、その膣内に荒々しく欲望を迸らせる。
はぁぁぁ
ふあぁぁ
二人の女は男のものとなったその証拠を受け入れる快楽に、互いを抱きしめあいながら身を震わせる。
ふう
しばし余韻を楽しみ、呼吸を整えた後、Olは男根をテナの膣内から引き抜く。ユツの作った偽物はいつの間にか尻尾に戻っていたが、彼女の膣口からはしっかりと種を受け止めた跡が流れ出していた。どうした方法でか、Olの精を分けて流したらしい。
お祖母様
Olが身を起こすとユツが駆け寄り、テナを呼んだ。
彼女は今度は躊躇うことなく、ユツに倣う。
愛液と精液、そして僅かな血液で汚れた男根を甜め清める二人の少女の獣耳を撫でながら、Olは満足げに息を吐いた。
第4話新たな魔王を始めましょう-1
あれは、無理だ
なんだと?
苦々しげに絞り出されたウォルフの言葉に、Olは反射的に問い返す。
あれは俺には殺せん
竜ではないということか?
相手が竜であれば必ず殺すことが出来る。それが竜殺し英霊ウォルフの権能だ。その能力の適用範囲は広く、竜の姿をしていれば下等な眷属や精霊の一種といったものまで滅ぼすことが出来る。
いいや、あれは竜だ。それは間違いない
そして彼らが今相対しているのは、まさしくその竜であるはずだった。
他ならぬウォルフ自身が、そのことを請け負う。
では、何故
単純な話よ
英雄王の表情が歪み、その額に脂汗が滲む。
あれは、メトゥスよりも俺よりも、強い。ただそれだけの話だ
それは、怖れの表情だった。勇猛にして果敢、最古の竜さえ躊躇わずに相手取っては殺してみせ、地上最強と謳われた男が、怯えているのだ。
逃げろ。時間くらいは稼いでやる
言って彼は背中の剣を引きぬいた。白に染め上げられた装束の中、唯一銀に光るそれは彼が生前から愛用していた宝剣、フラントだ。
竜の体がそれに応じるようにして動く。無数の鱗に覆われた胴体は音もなく流れるように移動して、巨大な鎌首がもたげられた。
早く行け!長くは持たんぞ!
叫びながら、英雄王は剣を振り上げながら跳ぶ。
岩をも容易く両断する一撃が、竜の脳天に向けて振り下ろされ
そして次の瞬間には、宝剣は根本から折れて弾け飛んでいた。
お父様!
逃げろ、ユニス!
バグンと音を立てて、太い腕が地面に転がった。
数多の巨人を討ち滅ぼし、幾多の竜を切り捨ててきた、何よりも逞しい英雄王の腕。
残ったのはそれだけだった。
それ以外は、全て竜の口内に収まり、魂さえも磨り潰されて消える。
嘘、何で
ユニス、しっかりしろ!転移だ!
ウォルフが文字通り命を賭けて稼いだ時間を無駄にするわけにはいかない。
Olは呆然と虚空を見つめるユニスの肩を揺さぶった。
しかし彼女は、力なくふるふると首を横にふる。
転移、できな
その首が、ぶちぶちと音を立てて千切れた。
ぷしゅっと音を立てて血が吹き出し、Olの顔を赤く染めていく。
ぐるりと彼を取り囲むのは、闇の中炎のように爛々と光る赤い瞳。
シュウシュウと言う呼吸の音が、四方八方から聞こえてくる。
大きなアギトが恐ろしくゆっくりと開き
そして、Olの身体をバラバラに引き裂いた。
とまあ、そんなところじゃな
嘘でしょ
テナに、リルは愕然として呟いた。
どうしようOl、Olが死んじゃう!
落ち着け、愚か者
縋り付くように袖を掴んでくるリルの頭を、Olは軽く小突く。
とは言え流石の彼も今の予言には平静ではいられなかった。
英霊王ウォルフは、Olの陣営で間違いなく最強の一人だ。
そんな彼が為す術もなく殺されるような相手など、信じたくもない。
だがリルがこれ程までに動揺すること自体が、テナの言葉が嘘ではないことを物語っていた。
それに勝つ道筋はあるのか?
うむ。一年ほど後であれば、お主は犠牲を出しつつも奴を倒しうる
犠牲というのが、マリーのことか
苦々しい表情のOlに、テナはうむと頷く。
じゃがもはや猶予は一年もない。このまま戦えば結果は先ほど言うた通りというわけじゃ
お前のせいだろうが
Olは怒りに任せ、テナの頬をぐいぐいと引っ張った。
柔らかな頬はどこまでもよく伸びる。
猶予が少ないのは、テナがユツを生け贄にしなかったからだ。
そのせいでOlが奴と戦う時期が早まり、結果としてこのままでは戦力が足りずに負けることになる。Olとしては正直いい迷惑だ。
ではとりあえず贄を用意し、時間を稼ぐ。別に生け贄はユツでなければならんというわけでもあるまい
清らかな娘というだけであれば、Olならば何人でも用意できる。
それならば未来はほぼ元の形に戻るな
ひりひりと痛む頬をおさえつつ、居心地が悪そうな表情でテナは言った。結局マリーは犠牲になる上に、別の娘も一人生け贄として捧げられるのだ。己の孫娘のためとはいえ、良心が咎めないわけではなかった。
俺がお前に言付けるだろう。何と言う?
Olの言葉にテナは怪訝そうに首を傾げて、瞑目して集中する。未来のどこで言付けられるかもわからないと、それを探すのはなかなかに困難なことだった。
恐らく、奴とやらと戦う直前だ
それに気づいたOlが伝えれば、テナはすぐにその場面を見つけ出した。
ソフィアを育てろ。過去のお主にそう伝えろと、お主は言うな
テナはニヤリと不敵に笑い。
いや、全くわからん
そう答えた。
ふざけているのか?
待て待て待て!お主のせいなんじゃぞ!
ぐっと首を掴む魔王に、テナは慌てて叫ぶ。
お主が何も教えてくれんから!そう伝えればわかるはずじゃと
Olが手を離すと、地面に尻餅をついたテナがキャンと鳴いた。
まあいい。生け贄は取りやめだ
なんじゃと?これはどういうことじゃ?戦う時期が早まっておるのに、結果が一年後と同じになっておるぞ
テナは瞠目し、呟いた。こいつの能力は思った以上に便利で厄介だ、とOlは思う。
未来のOlが必要以上の情報を伝えようとしなかったのも、その厄介さ故だろう。
Olは元々、無為な犠牲を出すつもりなど更々無かった。
そう仮定した場合の予知によって、十分に時間をかけた時の答えだけを手に入れたのだ。
故に、その答えに至るまでの時間を短縮できた。
後はなんとか、マリーを犠牲にする未来を避ければ良い。
ところで儂はいつまでこの姿なのじゃ
思い悩むOlに、テナは不満気にそう聞いた。
村人たちは元の姿に戻ったが、テナだけは若返った姿のままなのだ。
予知が出来るんだから、わかるだろう?
儂が予知で見える範囲、全部この姿のままなんじゃが
憮然とした表情で、テナは言う。
元の年齢に戻してぽっくり逝かれても困るからな。当分はその姿のままでいてもらう。お前としても、老いた不便な身体より若く美しい肉体の方が良いだろうが
美な、何が良いものか!
真顔でさらりと言ってのけるOlに、テナは頬を真っ赤に染めて叫んだ。
何を今更嫌がることがある。昨晩はあんなに素直になっていたではないか
ち、違う!あれは、気の迷いじゃ!何かの間違いじゃ!
ぶんぶんと首を振り、テナは必死に否定する。
間違いだというなら見てみろ
だが、彼女の目にはとっくの昔に。
お前はこの後どうなる?
再び物凄く素直にされる自分の姿が映っていた。
第4話新たな魔王を始めましょう-2
ごはん(タガーダ)、ください(ユウェーロ)!
毎回そう言ってたのか、お前は
ダンジョンの中に当たり前のように響く声の内容に、Olは思わず額を抑えた。
彼の記憶が確かならば、最初にタツキがダンジョンに侵入してきた時の第一声も全く同じだったはずだ。
あれ?おうる、喋ってる
言葉を覚えたからな。お前が毎回俺のことを馬鹿と言い捨てていったのもわかってるぞ
ふーん、そうなんだ。ところで今日のご飯なに?
ブレないなお前は
タツキは魚の尾を脚に変えると、勝手知ったる我が家のように食堂に向かう。
既にそちらの方からはリルの焼くパンの香ばしい匂いが漂ってきていて、タツキはごくりと喉を鳴らした。
美味しそうに食べてくれるから作りがいはあるけどね
見たことも聞いたこともないものばっかり出るけど、美味しいよ!
Olがテナの攻略に勤しんでいる間にも、タツキは毎日のように迷宮を訪れては食事をせびっていたらしい。すっかり一人分多く作ることに慣れたリルが皿を並べながらいえば、タツキは瞳を輝かせた。
よくもまあそんなものを平気で食べるな、お前は
?だって美味しいよ?
毒を混ぜられているかもしれないという発想がないらしく、タツキはOlの言葉に首を傾げる。
海にはこんな魚いないもん
お前は海の中に住んでいるのか?
うん。そうらよ
猪肉のソテーをつまみ上げ、上を向いて口の中に放り込みながらタツキは答える。
お前は一体何なんだ
何って言われても。たつきはたつきだよ
種族の名前はないのか?
シュゾク
指についた脂を行儀悪く舐めながら、タツキはううんと頭をひねる。
そういえば陸の人間は、たつきのことを魔王って呼ぶよ
そして、まるで昨日の食事のメニューを思い出したかのような気軽さで、そんなことを言い出した。
魔王!?
いや待て
反射的に剣に手をかけるマリーを、Olは制止する。
魔王と呼ばれているのは、お前一人か?
んーん。なんか結構たくさんいるらしいよ
魔王という言葉は、現地語でのオーミという言葉を翻訳したものだ。
正確には全く同じ意味の言葉は、Olたちの言語にはない。
怪物や魔物の配下と治める領地を持つが、人の王とは異なる存在。
それに最も近いのがOlであったがゆえに魔王という訳語を当てただけだ。
Olたちの大陸においては魔王はOlただ一人だったが、こちらでもそうとは限らない。
何より、この幸せそうに鴨のモモ肉に舌鼓を打っている少女が全てを滅ぼす魔王とはとても思えなかった。全てを平らげるという意味ではあっているかもしれないが。
お前の知ってる魔王について教えろ
塩漬け魚のオムレツ(トルティーノ)を頬張り、ヒヨコ豆のスープを飲み干し、白パンに蜂蜜をかけた菓子を食べきったタイミングで、満足気に腹をさするタツキにOlは問うた。
んー東の海のダーオーンとか、北の海のナパートとか?すごーく遠いし、会ったこともないからよく知らないけど
近くには他にいないのか?
この辺の海はぜーんぶたつきのだよ
両腕を広げ、タツキは自信満々にそう言った。
陸は?
陸(オカ)の上のことなんて、たつきが知るわけないじゃん
結局役立たずじゃないの
当たり前のように答えるタツキに、期待していたわけでもないけれどと呟きつつもリルは肩を落とす。
では
Olはしばし考えた後に、質問を変えた。
河の周りならどうだ?
水を全く必要としない生き物はいない。魔王といえど生き物であるなら、Olがダンジョンに地下水脈を引き入れたように、何らかの形で水は引いているはずだ。
そして河というものはたいてい、海に繋がっているものだ。
それなら、知ってるよ
その推測はあたっていたのか、タツキはにやりと笑みを浮かべた。
強くって、大きくって、悪くって、なーんでも食べちゃうのを
気づいてはいたが、聞かれなければ答える気はなかった。そんな感じの笑みだ。
詳しく聞かせろ
テナの言っていた事と合致する情報に、Olはずいと身を乗り出す。
んーとぉ
タツキは人差し指をピンと立て、枝葉で出来た天井を指差した。
すると水が彼女の腕にまるで巻き付く蛇のように螺旋を描きながら渦巻いて、天井に大きな穴をあける。
ああっ屋根が!?
アレ
叫ぶリルを尻目に悪びれた様子もなく、タツキは遥か彼方に聳える山脈を指し示した。
あの山を拠点としている、という事か
キョテンというのは、ちょっと違うかなあ
首をひねるタツキに、Olは怪訝な表情を浮かべる。
あそこにいるってこと
まさかあの山自体、などとは言わんだろうな?
違うよ
首を振るタツキの説明は、どうにも要領を得ないものだった。
まあいい。それで十分だ
元々タツキから大した情報を得られるとは、Olも思っていなかった。
敵となりうる相手の大体の場所と、どのような存在であるか。それがうっすらとでもわかったなら期待していた以上の成果だ。
あ、それとー
両足を魚の尾に戻し、すっかり彼女専用通路となった海のダンジョンに飛び込む寸前、タツキは不意に振り返る。
それも、魔王だよ
タツキが尻尾の先で指し示したのは、ソフィアだった。
第4話新たな魔王を始めましょう-3
あれが魔王で、奴と戦う決め手か
Olはキャッキャと声を上げて遊ぶソフィアを眺めながら、頭を悩ませていた。
リルの身体によじ登りながら、その角をぐいぐいと引っ張っている幼子の姿からはどちらも全く想像できない。
しかしお前、淫魔のくせに子供の扱いが手慣れ過ぎじゃないか
そりゃあ、マリーにアリスにラシーにアナにいい加減、慣れもするわよ
ぶらんと首にソフィアをぶら下げながら、リルが指折り数えるのは迷宮育ちの子供たち。その大半は、フィグリア王家の女達に生ませたOlの子だ。
勿論子供の面倒を見るのはリルの仕事ではないのだが、夢魔でもある彼女の手にかかればどんなに泣き喚く子供でもすぐさま安らかに眠ってしまうので、何かと重宝されていた。
元々淫魔にしては異常に情け深い彼女のこと、そうするうちに寝かしつけ以外でもなんだかんだ面倒を見るようになってしまったのは、自然な成り行きといえた。
そんなお前から見て、ソフィアは使い物になると思うか?
うーん、そうね
戯れに聞いてみれば、意外にもリルは真剣な眼差しでソフィアを抱き上げ、じっと見つめる。
今一ヶ月くらいで、三歳半くらいの見た目でしょう?このペースなら五ヶ月で十七歳。十分Olの相手出来ると思うし、この顔立ちならきっと美人に育つわよ
お前は何の話をしてるんだ
かと思えばその至った結論に、Olはがっくりと肩を落とし、
まて。三歳半だと?
使い魔の言葉を聞き咎めて、顔を上げた。
赤ん坊の成長なんて個人差大きいから大体の目安だけど
お前、前はニ、三歳と言ってなかったか?
それは一ヶ月前、タツキがダンジョンを襲撃する直前のことだ。
そういえばそうだっけ。いつの間にか大きくなったのね
いつの間にかで済ませていい話か、愚か者!
Olとて、この一ヶ月一切ソフィアの面倒を見なかったというわけではない。しかしその成長には今の今まで全く気づいていなかった。勿論、覚束ない足取りで歩く程度だったのが駆けては跳ねるようになったり、言葉が以前より達者になったのは把握していたが、それは赤子の自然な成長と捉えていたのだ。
だがよくよく考えて見れば、一月で一年から半年分程も成長するというのは明らかにおかしい。単に元々成長速度が極めて早いだけというのならばともかく、短期間に異常成長する存在なのだ。緩やかだが急速なその成長にも、何か理由があるのではないか。Olはそう考えた。
そうは言っても魔力が増えたわけじゃないし、これが自然な成長なんじゃないの?
リルはソフィアがベッド代わりにしている大きなダンジョンシードの横に設置された、小さなダンジョンシードを示す。それは海のダンジョンを作り出した方のシードで、今は海水から吸い上げる魔力を溜め置くタンクになっていた。
と言っても貯蓄はほんの僅かだ。龍脈と水脈では取れる魔力の量は比べ物にならない。その僅かな収入から、日々の生活に必要な魔術を捻出しているのだ。Olが村人やテナを若返らせたり、大きな湯殿を作ったりした上でなお多少なりとも残っているのは、リルの涙ぐましい節約と配分の努力があっての事だった。
魔力の問題ではないとしたら、どうだ
どういうこと?
聞き返すリルの腕の中で、ソフィアはじたばたと暴れだす。
リルが苦笑しながら幼子を地面に下ろすと、彼女は壁に向かって一直線に駈け出した。
それと同時に扉のように壁が開き、ソフィアはその向こうにいた金髪の少女に飛びつく。
はい、ただいま。ソフィア見ててくれてありがとうね、リル
それを抱きとめながら、マリーはリルに軽く頭を下げた。
あんなにわたしに懐いてたのに、やっぱりマリーの方が良いのね、ソフィアは
ツンと可愛らしく唇を尖らせて、リルは不平を漏らすフリをする。
そうした次の瞬間には赤子を抱きかかえる少女を見て頬を緩ませているのだから、文字通り口先だけだ。
今こいつは、入ってくるより先にマリーの存在に気がついた
Olがぽんとソフィアの頭に手を乗せると、ソフィアは嬉しそうにその手をとって、もう片方の手をマリーに伸ばした。マリーがその手を握れば、ソフィアは両親の手を両手に握ってにっこりと微笑む。
ダンジョンの中にいればわかるみたいね。マリーが部屋を離れても、ダンジョンの中にいるなら騒がないし
俺よりも早く気づいた、と言っているのだぞ
ソフィアの愛らしさに相好を崩すリルに、Olは重ねてそう言った。そこまでいえば流石にリルも気づき、はっと目を見開く。
そういえば、タツキが来た時も真っ先に気づいたんだっけ
Olとて、ダンジョンの全容を完全に把握しているわけではない。その気になればダンジョンの隅に転がる石ころの数まで数えられるだろうが、それを常に認識することは人間の能力を超えるのだ。
ダンジョンの中を見渡すにはそれなりの集中が必要だし、他の作業をしながら出来るようなことでもない。それをソフィアは、リルによじ登って角に手を伸ばしながら、誰に教えられるでもなく自然とやってのけたのだ。
ソフィア
ふとOlはあることを思いたち、ソフィアに視線を向けて地面に手をつく。
これが、出来るか?
Olが手の平を持ち上げると、パチパチと魔力の光を溢れさせながらその手を追うかのように床が変形し、塔のように盛り上がる。
うん!そふぃ、できるよ!
ソフィアがマリーに抱かれたまま頷くと、Olの周りの床が突然隆起した。
慌てて飛び退こうとすれば、Olの背に石の壁がぶつかる。
壁は見る間にOlを覆い尽くすと、真下の床がせり上がって彼の身体は持ち上げられる。
左右からは木々が生い茂り、ざぶんと音を立てて海水が流れOlの足元の溝を通って行く。
これは
そして少し離れたところに出来上がった、小さな玩具のような塊を見てOlは全てを理解した。
未来において彼が伝えようとしたのは、このことだ。
精度はまだまだだが、よく出来ている
Olは高台のようになった中心部から降りると、膝をついて部屋の端に出来た小さな塊を眺める。
なあに、これ
リルもふわりと浮いてそれを見つめたが、地面から不格好な指先のようなものが幾つか疎らに生えているようにしか見えない。
わからぬか?これはここ一月のソフィアの成長の証だ
だがOlには、それが何を示しているかはっきりとわかった。作りは稚拙だが、位置関係や数は完全に合っている。
イナダといったか。テナたちの住む、あの村の似姿だ
あ!
Olにそこまで言われてようやく、リルは気付く。
ソフィアが作り上げたのは極めて稚拙な出来ではあったけれども、ダンジョン全体の模型だったのだ。
そしてソフィアは、あの村自体もダンジョンだと認識している。半年分の成長は、恐らくそのためだ
テナの裏をかくために、Olはこの一月、ゆっくりとイナダの村を己の手中に収めていた。床下に通路を作り、家同士を繋ぎ、外部から中を伺えぬよう木造の家を秘密裏にレンガの壁で覆った。テナが眠っている間に送り込まれたのも、そうして作った地下通路だ。
それは見方を変えれば、村をまるごとダンジョンとして取り込んだとも言える。
でも魔力は増えてないのに、ダンジョンが広がるだけで成長するなんてことあるの?
魔術的にはありえない話だった。魔術は大概の不可能を可能に変えることが出来るが、それには何にしろ元手魔力が必要不可欠だ。
ありえんな。ありえんがこちらの常識でありえんことなら、新大陸に来てから何度も遭遇した。今更だ
そもそもソフィアの存在自体、理解し難いものなのだ。
成長がダンジョンと同期し、俺よりもこのダンジョンを把握し、自由自在に操る。そんな存在がいるとするなら、それはただ一つ
Olはソフィアを抱き上げて、ぐるりと辺りを見回す。
お前はここだ。このダンジョン自身だ。俺が作り上げ、マリーが名付けた。だから父と、母と呼ぶんだろう
ソフィアは単に遊んでもらっているとしか思っていないらしく、きゃっきゃと笑い声をあげた。
未来のOlが伝えたソフィアを育てろとは、つまりダンジョンを育てろと言うことだ。彼女が意思を持つ迷宮そのものだとすれば、なるほどそれはOlにとって最高の武器と言える。
ならば育ててやろう。お前を、最高の魔王に!
我が子を天に掲げるようにして、Olはそう宣言した。
第4話新たな魔王を始めましょう-4
本当にこの道を行くのか?
硫黄の匂いが充満し、噴煙たなびく溶岩洞を目の前にして、テナは思い切り顔をしかめた。
この山を勧めたのはお前だろう
それは、そうなんじゃが
そこはタツキが奴がいると指し示したのとは別の、高い高い山に出来た洞窟だった。
テナ曰く、古来から強い力を持つ霊山であるらしい。
そうでなくとも、火山というのは龍脈の魔力が地表に噴き出している場所であるということが多い。魔力を入手するという観点から見ても、次のダンジョン作成地として最適な場所であるとOlは見当をつけた。
この中は極めて危険じゃぞ
では何故今まで火山をダンジョン化しなかったかといえば、それが理由だ。
地下水脈を掘り当てて溺れてしまうのはダンジョン作りの際もっとも気をつけなければならないことだが、溶岩洞でのそれは煮えたぎる岩だ。ダンジョンシードで自動的にダンジョンを作ることすら出来ない。
その上高熱と猛毒の火山ガスが充満しているのだから、ダンジョンを作っても人間の住める場所ではなかった。
だからこそ、万全を期したのだ
メンバーはユニス、マリー、ユツ、スピナ、Ol、テナ、そしてソフィアの七人だ。
リルにはダンジョンシードを守る役目を与えたため留守番である。
任せといて!
ぐっと力こぶを作ってみせるユニスを、テナは胡散臭げに見つめた。
身の丈でいえば自分と殆ど変わらない小さな赤毛の少女。
身長はそれよりは高いが、細く無口な黒髪の女。
そして死が約束された金髪の少女と、緑の髪の赤ん坊。
とてもではないが、過酷な火山の中を通り抜けるに相応しい一行とは思えなかった。
事実、このまま進めばこの中の何人かは死ぬ予知が見えている。
その事自体はOlには既に伝えてあるのだが。
お前の能力があれば危険は避けられるはずだ
問題は、危険を避けた後どのような運命になるのかは、実際に避けてみるまでわからないということだ。一つ、二つの危機であれば予知によって避けられても、手詰まりになる可能性があった。
覚悟を決めろ。行くぞ
Olの両手が琥珀色に輝き、光は地面を伝って壁や天井へと広がっていく。
光が舐め上げた部分は瞬く間に石造りの通路へと変貌した。
吹き散らせ、ソフィア
Olの指示にソフィアはピンと手を掲げる。
途端、出来上がったばかりの通路に暴風が吹き荒れて、有毒ガスが一掃された。
すごーい!今の、ソフィアがやったの?
そふぃ、やったよ!
何ですか、その顔は
パチパチと手を叩くユニスにソフィアはえへんと胸を張る。
何やら複雑そうな表情のスピナを、マリーはニヤニヤと笑みを浮かべて見つめた。
ダンジョンを構成するのは、何も通路や部屋だけではない。その内部にあるものも当然、ダンジョンの一部だ。空気を動かすのは、ソフィアにとっては息を吐くのに等しい
この溶岩道に至るまでの道は、Olが地下道を掘ってきている。つまり溶岩洞はソフィアのダンジョンと繋がっており、そこを舗装すれば自然とソフィアの一部であると認識されるようであった。
では進むぞ。危険があれば逐一伝えろ
仕方ないのう
テナは大きく息を吐き、ちょんと指先を短刀でついて瞼に朱を塗る。狐の耳と尻尾を出すことで、彼女の予知の速度と精度は飛躍的に高まった。老いた肉体では長時間天狐をおろしておく事が出来ないので、これに関してはOlに感謝しないでもない、とテナは内心呟く。
今から少し進んだところで、天井から溶岩が降り注いでくる。お主がそれを被って死ぬ
そうか。三歩先になったらまた教えろ
死の予言にOlは表情一つ変えることなく、スタスタと歩いて行く。
その歩みに従って、洞窟はじわじわとその姿をダンジョンに変えていった。
出るぞ!
テナの警告からきっちり三歩Olが歩いたところで、何の前触れもなく天井を突き破って赤熱したマグマが降り注いだ。
だがそれはただの一滴もOlにかかることなく、左右に別れて流れ落ちていく。Olのキューブ、見えない迷宮(ラビュリントス)が道となって防いだからだ。
ソフィア、口を開けろ
あーん
ソフィアが大きく口を開けると、同時に床がぱくりと開いてマグマをごくりごくりと飲み込んでいった。その間にOlは破れた天井を補修してマグマをせき止める。
ふむやはり、不自然だな
まるで何事もなかったかのように平穏を取り戻したダンジョンに、Olは顎を撫でる。
待て!急いで逃げるんじゃ!
その時、突然テナはそう騒ぎ始めた。
状況は正確に伝えろ。何が起こる?
溶岩じゃ!それも、大量の!儂ら全員焼け死んでしまう!
正確にと言っただろう。どちらからだ
逃げようとするテナの襟首を掴み、Olは冷静に問う。
奥の、通路全部じゃよ!
テナが叫んだ瞬間、濁流のようにマグマが押し寄せてきた。
水とはわけが違う。触れなくとも重度の火傷を負ってしまうような、煮溶けた岩なのだ。
水よりも遥かに重く、それでいて速度は水のそれと殆ど遜色ない。
薄い石壁で防げるようなものではなかった。
ソフィア、水だ
Olの指示にソフィアはさっと両腕を前に付き出した。すると床に穴が二つ空き、そこから凄まじい勢いで水が吹き出す。
海水、ですね
そこに交じる僅かな潮の匂いを感じ取って、スピナが顔をしかめた。半スライムの彼女には剣も魔術も通じはしないが、唯一の弱点が塩水だ。塩水を浴びると彼女はスライムとしての身体を保っていられず、魔術の吸収もできなくなってしまう。勿論、海水もその範疇に入った。
スライムではないが、よく冷えた海水はマグマに対しても効果絶大であった。
溶岩とぶつかってじゅうじゅうと音をたてる海水は瞬く間にその温度を奪い、凝固させていく。例えそれが破られても、漏れだしたマグマがそのまま壁の補修材になり変わるのだ。
それを続けるうちに、固まった溶岩と押し寄せるマグマの間に、固まるほど冷たくもなく、かと言って固まった溶岩を溶かすほど熱くもない層ができる。そうなってしまえば、水を止めても大丈夫だった。
タツキちゃんの来る海のダンジョンから、水を引っ張ってきたんですね
ああ。理屈としてはダンジョン内の空気を動かしたのと同じだ
感心したように声を上げるマリーに、Olはそう説明した。
あれ?地下迷宮なんだから石や土を動かせるのは当然として、風と水を操れるってことは
ふとユニスはあることに気付き、目の前にできた溶岩の壁を見やった。
そう。この火山を手中に収めれば四属性が揃う
Olが火山にやってきたもう一つの狙いはそれだ。
あれ、もしかしてソフィアって、わたしより役に立つ?
俺の娘(ダンジョン)なのだ、当然だろう
わたしがダンジョンに来た時よりも小さいのに、と愕然とするマリー。
落ち込む彼女の頭を、ソフィアはよしよしと撫でた。
そんなことよりもだ。テナ、直前まで今の溶岩は予知できていなかったな?
そういえばそうじゃな
問われて初めて、テナは気付いて頷く。
お主が最初に、天井を塞いだ影響かのう?
その程度であれほどの変化が起こるものか
首を捻るテナに、Olは呆れて息を吐く。
折角予知能力があっても、本人がこの様子では宝の持ち腐れだった。
お前の予知は確定した未来だけが見える。そして予知によって未来が変わった場合は、実際に変わるまでその未来を見ることが出来ない
じゃから、お主が天井を塞ぎ、死ななかったことで未来が変わった。そういうことじゃろう?
テナの言葉は一言一句間違っていない。
だが、もっとも重要な情報だけが抜け落ちていた。
そうだ。だがそれは、天井を塞いだことで溶岩の圧が変わったとか、流れる方向が変わったとか、そういった理由ではない
どういうことじゃ?
もっと単純な話だ
Olはそれを、そもそも溶岩洞に足を踏み入れる前から薄々察していた。
殺しそこねたから、追撃を放った。ただそれだけだ
なんじゃと?それじゃあ、まるで
予知無しで進めば死ぬ、とテナは言った。
幾ら危険な場所とはいえ、Olとソフィアという二人のダンジョンマスターを擁し、英雄ユニスが護衛を務めるパーティが、ただの探索行でそうそう簡単に死ぬわけがない。
この洞窟が、儂らを殺そうとしているようではないか
全く、その通りだ
ならばこれはただの探索行などではない。
正確には、この洞窟を統べる別のダンジョンマスターが、な
既に敵の胃袋の中にいるということだった。
第4話新たな魔王を始めましょう-5
そら、新手が来たぞ
ええ、またあー?
二本の剣を杖にしながら、マリーはぜえはあと肩で息をする。
もう、ユニスも手伝ってよお!
だーめ。これは訓練みたいなものなんだから
剣を構えて泣き言をいうマリーに、ユニスはぴしゃりとそう答えた。
眼前に迫るのは、人型の獣たちだ。その数、三体。
全体的な身体の造りは、人間によく似ている。だが全身を深い毛に覆われ、鋭い牙を生やし、長い鉤爪を振りかざすそれはどう見ても人ではなかった。ぎょろりとこちらを睨みつける一つ目の上に、鋭い角が何本か生えている。テナとユツはそれを鬼と呼んだ。
やぁっ!
飛びかかってくる鬼の爪を剣で逸らしながら、マリーは魔術の腕で鬼の腹に斬撃を叩き込む。
あーもう、硬ーいっ!
だがごわごわとした分厚い毛はその衝撃を容易く吸収し、傷一つつかない。
最初に戦った鬼はこれで両断できたのに、とマリーは歯噛みした。
疲労しているというだけでなく、奥に行くほど明らかに敵が強くなっている。
あの、ボクもお手伝いしていいでしょうか?
三匹の一つ目鬼に防戦一方になっているマリーを見かねてか、ユツがおずおずとそういい出した。
問いかけられたOlはそのままユニスに視線を送り、彼女はユツの身体を上から下まで眺める。
んー。まあいいかな
どんなものだ?
見たところ、マリー一割引って感じ
ユニスの答えに、Olはほうと驚きの声をあげた。
それなら思っていたよりもずっと強い。
いきます!
掛け声とともにユツの頭に耳が生え、胸が膨らみ、尻尾が伸びた。
えっ、嘘、何あれ!
これには流石のユニスも目を剥く。
ユツはそのまま尻尾を引っ張り抜いたかと思えば、白い煙とともにポンと音を立ててそれは巨大な木槌に変じた。
えっと、マリーさん、助太刀します!
ユツは己の身の丈ほどもある柄をぐるんと回し、マリーに襲いかからんとしていた鬼に向かって振り下ろした。その瞬間、木槌の頭は更に巨大化して鬼の巨体をぷちりと潰す。マリーは突然目の前を埋め尽くした壁のような木槌に、目を白黒させた。
よいしょっと
ユツが木槌を引っ張れば、その頭は再び元の大きさに戻って彼女の手の中に収まる。
マリー、次は避けられるから気をつけてね
ユツが再び木槌を繰り出す前に、ユニスがそう忠告した。
もう一体っ!
仲間を一人失って浮足立つ鬼たちに向かって、ユツは木槌を振りかぶる。
だがユニスの忠告通り、鬼はそれを容易くかわした。威力は大きいし速度も早いが、動きが単調すぎるのだ。
えっと、えっと
マリーはユツの攻撃を大きく飛び退ってかわした鬼の背後に回りこんではいたものの、どうしたものかとまごついていた。彼女の膂力では鬼の毛皮を貫けないからだ。
あ、そっか!
しかしふといいアイディアを思いつき、彼女は手に持つ剣を入れ替える。
冷・乾!
そして体勢を崩した鬼に振り下ろしながら、その力を開放した。その性質の重ね合わせが示すものは土の元素だ。と言っても、風や炎のように土くれが生まれるわけではない。剣には既に土に属するもの鋼が使われているからだ。ただその土としての性質を強化する。すなわち、硬さと重さを。
振り下ろされる速度はそのままに、重さだけを増やされた剣は容易く鬼の毛皮を切り裂き、骨ごと両断した。
わお
マリーは口をオーの字にあけて、己のしでかした結果に目を見張った。
その隙を突いて繰り出された鬼の鉤爪を、塔のように隆起した壁が防ぐ。
ソフィア、ありがとうっ!
礼を言いつつ、マリーは残る二本の剣を空中で打ち合わせた。
熱と湿との性質を合わせて生まれるのは土の真逆、すなわち風だ。
と言ってもそれは精々僅かに体勢を崩す程度の威力しか無い。
ついでにこれもお願い!
だがそこにソフィアの協力があれば話は別だった。
マリーの敷いた道をなぞるように、ソフィアはそこに突風を吹かせる。
鬼の巨体がぶわりと浮いて、空中に投げ出された。
ユッちゃん!
あ、はい!
マリーの声にユツははっとして、木槌を構える。そしてぐるりとその場で一回転し、加速しながら巨大化する木槌で落下してくる鬼を思い切り弾き飛ばす。哀れな鬼の巨体はそのまま壁に叩きつけられ、全身の骨を粉々に砕かれて絶命した。
マリーは剣を振って血を払い鞘に納めると、自信あり気に笑みを浮かべながら、ユニスの表情を伺う。
まあ及第点ってところかな
しかしその評価に、マリーは不平の声を上げた。
マリーは動きは良いんだけど、やっぱり判断が遅すぎるよね。ユツは逆に戦い方そのものが拙すぎる。能力は凄く便利そうだから、もっと戦い方を工夫すると良いよ
え、あ、はい
ユツは突如話を向けられて、慌てながらも頷く。
厳しい評価を下しつつも、ユニスは内心己の弟子の成長を喜んでいた。
マリーに足りていなかったのは実戦経験だ。今まで殆ど身内相手の訓練しかこなしてこなかったことを考えれば、この成果は上々と言っていい。それに何より素晴らしいのは、同年代で実力も同じくらい友人ができたことだ。
互いに互いの長所を吸収しあって、どんどん強くなっていくことだろう。
ソフィアは
ふとユニスはワクワクしながら目を輝かせている幼児に気づき、少し考えて、
満点!完璧!よく出来ました!
そふぃ、できたよ!
手放しで大げさに褒めながら頭を撫でた。ソフィアも得意満面の表情で胸を張る。
なんか納得行かない
我が子相手に嫉妬するマリーは、まだまだ未熟であった。
分かれ道か
二つに分かれた道を前に、Olは歩みを止めた。
ここまで細かな分岐はあったもののどれも人が通れるほどの大きさではなく、はっきりとした分かれ道はここが初めてだった。
どちらが正解の道だ?
駄目じゃ。どちらに進んでも道はない。行き止まりじゃ
Olの問にテナはしばし瞑目し、未来を読んでそう答えた。
ここに来るまでに、正解の道を見逃したのではないか?
それはありえん
テナの言葉に、Olは断言する。
隠し通路や分岐の類があれば、俺がそれに気づかないわけがない
だがそのお主が、どちらの通路も行き止まりだと言っておるんじゃぞ
もう一度、それぞれについて予知をしてみろ
Olは少し考えて、テナにそう命じた。
それぞれの数値は幾つだ?
三十二、十五、マイナス五と、三十、十五、プラス一一体何の話じゃ?
テナは予知の先でOlに告げられた数字をそのまま告げる。
座標だ。ほぼ同一座標で高度だけが違うとなれば、その間に最深部があると見て間違いなかろうな。俺が行って道を見つけられなかったということは恐らく、両方の道に進む必要があるということだ
そう言って、Olは一行をぐるりと見回した。
仕方あるまい。二手に分かれるぞ
第4話新たな魔王を始めましょう-6
Olさまと一緒がよかったなぁー
ぼやかない、ぼやかない
マリーと並んで歩きながらも、ユニスは明るい声で彼女を励ました。
まま、いいこいいこ
マリーに抱かれたソフィアが母の頭を撫でて、その背後をむっつりとした表情でテナが歩んでいる。左の道へとやってきたのは、この四人だった。
この火山のダンジョンを手中に収めるという目的がある以上、二手に分かれるなら二人のダンジョンマスターは別行動しなければならない。そしてソフィアはマリーと一緒にいたがるために、マリーとOlは同じ組になることはない、という理屈だった。
そちら側に予知能力を持つテナと英霊であるユニスを配したのは二人を守るためでもあったが、同時に連絡を取るためでもあった。
ユニスがテナを連れてOlの元へ飛んだことにしてその未来を見れば、実際はOlの元へと移動することなく彼の指示を仰ぐことが出来る。実際に飛んでしまうと、ユニスの能力では元の場所に戻れなくなってしまうのだ。
しかし、とテナはユニスを見た。
彼女が当初思っていたよりもずっと強いことは、この後の予知でわかる。
しかしその先の未来が、何故か全く見通せない。こんなことは初めてだった。
最近、ユニスあんまり優しくないしなー
そりゃ、あたしマリーの師匠なんだからね。もうちょっと敬いたまえよー
笑いつつ、ユニスはマリーの頭をぐりぐりと乱雑に撫でた。
わかってるけど、もう少し手心を加えてくれたっていいじゃない
十分優しくしてるつもりなんだけどなあ
どこかあどけなさを残したままの眉根を寄せながら、ユニスはすらりと剣を引き抜く。
死にそうになったらちゃんと助けてあげるしさ
彼女が無造作にそれを振ると、どこからともなく飛んできた矢が押し下げられて地面に突き刺さった。
見事
通路の奥から低い声が聞こえてきて、二度ほどパチパチと瞬きをしたあと、マリーは自分が今攻撃されたことに気がつく。
矢を剣で弾く事が出来る剣士など、百人に一人いるかどうか。切り落とせるものは万人に一人だろう。だが、矢を空中で押し下げて逸らすなど、初めてこの目にした
現れたのは弓を手に、腰に剣を差した男だった。
その腕はまるで丸太のように太く、胴回りも樽のように分厚い。
背丈はユニスとそう差はないが、目方で言えば倍はあるだろう。
この先に進むことまかりならぬ
男はそういいながら弓と矢筒を投げ捨てると、腰の剣を引き抜く。
マリー、下がってて。あたしが相手する
片刃の剣を構える男の姿を見て、ユニスは硬い声で言いながら剣を構えた。
我が名はホデリ。いざ、手合わせ願おう
ユニスだよ。よろしくね
ホデリは両手で持った片刃の刀を顔の横に構え、ユニスは両刃の剣を片手で持って背中に担ぐような姿勢を取る。互いの構えはゆるりと緩慢に完成し、やがて同時にピタリと静止する。
かと思った次の瞬間、雷光のような鋭さでユニスは踏み込んだ。
同時に剣は最短のコースを走ってホデリの額を打ち割るように振り下ろされる。
ホデリはその動きに合わせて、擦り上げるように刀をつきだした。
甲高く金属音が鳴り響き、火花を散らしながらホデリの刀身を滑ってユニスの剣は軌道をずらされる。そしてそのままその動きはユニスの首を狙う突きとなって放たれた。
ユニスは首を傾けてその突きを避けつつ、手首を柔軟に返して剣の柄頭でホデリの頬を打つ。ホデリはその一撃を受けながら、ユニスを蹴り飛ばした。
キミ、強いね!
地面に転がる勢いを利用して飛び起きながら、ユニスは喜びに溢れた声を上げた。
ホデリは英雄ではない。彼からは兄や父のような、英雄特有の力強さのようなものを一切感じなかった。腕力も、速度も、全然大したことはない。
だが、強い。
純粋に反応が早く、そして正確なのだ。それは生まれ持った才能でも天から与えられた能力でもなく、ただただ鍛錬によって磨きぬかれた技術であった。
剣の道だけであれば、ホデリはユニスの遙か先にいる。
つまり、ユニスはもっともっと強くなれるということなのだ。
だから、彼女は屈託なく笑った。
死合の最中にそのような顔で笑うか
そしてそんなユニスを見て、ホデリは内心汗をかいていた。
純粋な剣技であれば勝っているという自負はある。
だが、戦いに勝利できる気はまるでしなかった。
もう少し戦っていたいところなんだけど
その考えを裏付けるように、ユニスはぺこりと頭を下げる。
ちょっと卑怯な手を使わせてもらうよ
突きの構えを見せるユニスに、ホデリは疑問を覚えた。
彼女の持つ剣はホデリの刀よりも幾分短い。仮に先ほどの倍の速度で踏み込まれても対応する自信はあったし、それはユニス自身もわかっているはずだ。
だがホデリは一切の油断なく、彼女の動きを待つ。
彼らが剣だけでなく、面妖な術を放つのは主から聞いていた。
炎を出そうが水を出そうが切り抜けられる自信はあったし、事実彼には何の落ち度もなく。
次の瞬間、ホデリの全身は弾け飛んでいた。
なっあ?
ごめんね
気付けば眼前にユニスの姿はなく、後ろから謝罪の声が聞こえてくる。
何が起きたかは分からないが、何をされたのかはわかった。
反応すら出来ないほどの速度で背後に駆け抜けながら、数千回切りつけられたのだ。
傷は指先ひとつ動かせないほど全身くまなく無数につけられておりそして、それでいて死に至るような傷はどれ一つとしてない。ユニスほどの腕さえあれば首の脈一つ断ちきるだけでホデリを殺すのは容易なはずで、つまり彼は生かされたのだと知った。
なぜ殺さん