ザナ。服を脱がすぞ
二人の衣服は雪にまみれてびっしょりと濡れている。このままでは凍え死ぬのは明白だ。Olは革袋から白い外套を取り出してザナをおおうと、彼女の衣服を脱がしにかかる。
Ol、あたし皆を、凍らせたわ
服を脱がされながらも心ここにあらずと言った様子で、ザナはぽつりとそういった。
ザナを囲んでいたあの氷像。それがヒムロの国民であることは、Olも予想していた。太陽神によって操られ、ザナを襲い、そして返り討ちにあったのだろう。
あたしは襲ってきた彼らが、皆だってわかってたわかっていながら、あたしは、彼らを凍らせたのよ!
Olはザナを操作して腕を上げさせ、袖をするりと抜いて濡れた服を革袋に押し込む。
何の躊躇いもなかった。あたしは彼らさえも、見捨てたの
Olの相槌が耳に入っているのかいないのか、ザナは両手で顔を覆う。
手をどけろ、邪魔だ
その手をぐいと押し下げると、Olは下着をザナから剥ぎ取った。
この下着、いくら何でもパッドが分厚すぎないか?
しかし無遠慮に投げかけられたその言葉に、氷の女王の我慢は限界を突破した。
あんたさっきから何なの!?人が悲しんでるんだからちょっとは慰めるとかしなさいよ!何勝手にブラ取ってんのよ!
お前がそんなタマか。悲劇のヒロインぶるのはやめろ。襲われたら反撃するに決まっておるだろうが
Olの指摘に、ザナはぐっと口を引き結ぶ。
むしろ、操られ主君を襲うあやつらの方が悪い。そう考える奴だ、お前は
そうよ。そう思うわよ。あたしは結局、何一つ大事に出来ない。何一つ愛せない。だって
ザナは痛みを堪えるような表情で、言った。
結局あたしの事を本当に愛している人なんて、誰もいないんだもの
民はお前を王と慕っていたのではないのか?
Olは問う。先だって、そう納得した筈だ。
国民にとって、あたしは結局死んだ母様の代わりに過ぎない。マリナ様にとってだって別に、あたしじゃなきゃいけなかったわけじゃない。ただ同情して、力をお貸ししてくれただけ。本当に彼女に必要だったのは、あんたみたいな奴だった
訥々と、ザナは語る。
あんただってあたしはもう必要ないんでしょ?あんた自身にマリナ様の加護が手に入ったんだもの。氷術だって、使った方が効率的だから使ってるけど必須のものじゃない。この一行にはあたしは、必要ない
なるほど、とOlは頷いて、答えた。
確かにその通りだな
否定しなさいよ!
途端に、ザナはOlの顔を見上げ肩を掴んで叫んだ。
面倒くさい女だなお前は
否定して欲しいならばわざわざそんな事を口にしなければいいだろうに、と思いつつも、Olは生真面目に答える。
だがお前の自己分析は正しい。正しいものを否定するわけにはいかん
ああ、そう
すっとザナの目が据わる。
だったらさっさと見捨てればいいじゃないの
それは断る
吐き捨てるような彼女の言葉に、Olはきっぱりと答えた。
なんでよ
お前のような佳い女を手放したくないからだ
Olが言うと、ザナはピクリと身体を震わせる。そして顔を背けると、憎々しげに言った。
今更そんなお世辞!
口元が緩んでいるぞ、とは指摘しないでおく。
世辞なものか。度胸も行動力もあり、有能で、頭もいい
ちょっとばかり情緒不安定なところは玉に瑕だが。
面倒だが佳い女だ、お前は。だから手元に置いておきたい
それはOlの偽らざる本音であった。
それはあたしのこと、好きって事なの
ああ。好きだ。知らなかったのか?
別段隠していたつもりもなかったのだが、とOlは答える。
どうしよう
困り果てた表情で、ザナはいった。
あたしもあんたのこと、好きかも
知らなかったのか?
Olは意地悪く言い返す。
妹に嫉妬して不機嫌になっていたくせに
あれは!そう、かも
思い返せば、ただそれだけのことだった。
お前は、お前自身が思っておるよりずっと強い人間だ。今更誰かに必要にされるだのされないだの、そんな下らぬことで悩んだりするものか
彼女が語ったことは、ある側面では真実なのであろう。けれどザナはそれを深刻に気に病むほど繊細な女ではない。
なぜなら、ザナははなからそんなものを期待してないからだ。彼女は己以外の何も信じてはいない。信じる必要性がない。彼女が他人を信じるのではなく、他人に己を信じさせる、生まれついての王者だからだ。
ある意味ではOlに似通い、ある意味では真逆。それがザナという女だと、Olは分析していた。
お前はただ単に、甘えるのが絶望的に下手なだけだ
あまりにも直截に言われ、ザナの顔が音を立てそうなほどの勢いで首元から赤く染まっていく。
じゃあ
とん、とザナはOlの胸板に額を預け。
甘え、させてよ
小さく、そう呟いた。
第20話一歩踏み入れば即死するダンジョンに挑みましょう-5
そう言えば、この白い布って何?やけに温かいけど
日差しの中でまどろむ猫のようなしぐさでOlの胸に身体を預けながら、ふとザナは二人を包んだ外套をつまみ上げる。それに身を包んでいると外の寒さはまるで気にならず、互いの体温で温めあうとかえって暑いくらいであった。
マリナに献上した火蜥蜴がいただろう
他の女の名前出すの禁止
ザナは言って、Olの局部をきゅっと握りしめる。
お前な俺相手に無茶を言うな。だいたいお前の奉ずる神であろうが
別にハーレムやめろなんて言わないわよ。でも他の子と一緒にセックスしてるときならともかく、あたしと二人っきりの時はあたしだけ見てくれなきゃヤ
やわやわと精の詰まった袋を指先で弄びながら、ザナはOlの胸元に口づけた。
ともかく。あの火蜥蜴の脱皮した抜け殻をなめして布にしたものだ
ふうん。火蜥蜴の皮衣ってわけ
さして興味もなさそうに相槌を打ちながらザナは肉茎をついと撫で、その上に腰を下ろそうとする。
おい、ザナ
なあに?まだ出来るわよね?んっ
すっかり硬度を取り戻したそれを膣内に咥え込み、気持ちよさそうに声を漏らしたところで。
それは構わんが、迎えが来ているぞ
バキリと音を立てて、彼らを囲んだ氷の壁が割れる。
お楽しみのところ悪いんですけど、さっさと服着て出てきてもらえます?
なんとか助けに来てみれば悠長に睦み合う二人に、流石のマリーもちょっぴり怒っていた。
もー、結構大変だったんですよー。二人の代わりをわたしがするの
吹雪の中、マリーはラーメスの霊力を変換して氷の壁を張り、紋様を彫ってイェルダーヴに維持を任せる。Olとザナ、二人分の仕事を一人でこなし、なんとか進んできたのだという。
進む速度は比較にもならないとは言え、それをこなせるということにザナは驚愕した。
なんで出来るの?
え、だってOlさまがやってるところずっと見てたもん
当たり前のようにマリーは答えるが、見ていたからと言って真似できるような術でもない。そもそもマリーは自身の仕事を含めて三人分の作業を同時にこなさなければならないのだ。それは三本の腕で全く別々の作業を行うようなもので、つまり人間に出来ることとは思えなかった。
そういった小器用さだけは図抜けておるのだ、こいつは
えへへー。でも本職には全然かなわないんで、ザナさん、どうぞ
Olにぐりぐりと頭を撫でられれば即座に機嫌を直し、マリーはザナを促す。
じゃあ、マスター。いくわよ
ザナが腕を振るうと吹き荒れていた雪の一粒一粒がピタリと空中に制止し、かと思えば道を作るようにぶわりと端に退き、そのまま氷の壁の一部となった。
すっごーい!
ザナの速射性とOlの操作精度。それが合わさって初めてなしうる芸当に、マリーは素直に歓声を上げた。
さあ、遅れた分、どんどん取り戻していくわよ!
ザナはそう宣言し、宣言通りに凄まじい勢いで歩を進め始めた。といっても、不機嫌だったときの強引なものとはまるで違う。Olの操作を受け入れ、かといって全て任せるわけではなく呼吸を合わせて自身の意志で氷術を振るう。
それはただOlの負担を軽減するだけではなく、彼女の術の行使速度自体を倍加した。矢継ぎ早に繰り出される氷の術はもはやどこに術と術の切れ目があるのかわからぬほどに間断なく、吹雪を、敵を、罠を、立ちふさがるありとあらゆるものを凍りつかせ無効化していく。
まるで無人の野を行くが如き歩みであった。
ねえ、さっきから襲ってきてるのって国の人だよね?凍らせちゃっていいの?
いいのいいの。神の力の宿った霊氷よ。別に死ぬわけじゃないし、後で溶かせばいいでしょ。だいたい、全知全能の神ごときに操られて、自分の仕える女王に刃を向ける方が悪いのよ
なんかラーちゃんみたいなこと言い出したな、と思いつつ、マリーは賢明にも口を噤む。そしてそのラーメスは、と見れば、彼女は軽口を叩くでもなく黙々と歩いていた。
何だ、マリーちゃん。余の美しさに見惚れでもしたか
視線に気づき、ラーメス。
げんきー?
何なのだ、その質問はこの完璧なる余に不調な時など存在せぬ
そんな返答は、いつも通りという程付き合いが長いわけでもないが、実に彼女らしいものなのだが。マリーにはラーメスが何かを思い悩んでいるように思えた。
やはり、か
その原因の一端を知ることになったのは、翌日の夕方。
氷のダンジョンを抜けて、次に現れた石造りの迷宮を目にしたときであった。
あたしの城を抜けたと思ったら、今度はこいつの墓とはね。節操のないこと
巨大な石を積んで作られた迷宮をみやり、ザナはつまらなさそうに吐き捨てる。
墓?
どこか不穏な単語を、マリーは聞き咎めた。
そうよ。これは城でも住居でもない。サハラの王族が死後
ザナ
ザナの言葉を遮り、ラーメスは彼女を睨みつける。
何よ。この大陸に住んでる人間なら誰でも知ってることでしょ
言い返して、ザナは鼻を鳴らす。
いくぞ。ホスセリ、ザナ、イェルダーヴ、俺、ラーメス、マリーの順だ
睨み合う二人を引き剥がすように割って入り、Olはそう命じた。
石で出来たピラミッドの通路は狭く、横に並んで進むことは出来ない。Olたちは一列に並んで石の迷宮へと侵入した。
基本的な構造は変わっていないな。ここは地下の回廊の入口か。となれば、目指すべきは王の間だろうな
壁を成す白い石に触れながら、ラーメスは呟く。
王の間って?
マリーちゃんが余の手を逃れる時に、天井をぶち抜いていった部屋のことだ
ああ、あそこか、とマリーは得心する。といっても無我夢中で逃げ回っていた末に辿り着いただけなので、道案内できるわけではない。
良い。余が案内する。指示通りに進め。まずは三つ目の十字路を右だ
居城という関係上、比較的素直な構造をしていたザナの城とは違い、ラーメスのピラミッドは複雑な迷宮だ。いくつもの階段を挟んで立体的に入り組んだそれは、複雑さだけで言えばOlのダンジョンにすら勝るものだった。
その先、屍兵が出るぞ
壁が突然開き、包帯でぐるぐる巻にされた屍がくぐもったうめき声を上げつつ襲いかかってくる。ザナは咄嗟に氷術でそれを迎え撃つが、乾ききったピラミッドの中では彼女の術はほとんど効果を発揮しない。
ホスセリの放った手裏剣を喉元に受けつつも屍兵は奇妙に湾曲した刀を振りかぶると、ホスセリに向かって思い切り叩きつけた。
いくら身軽さを信条とする忍びの者と言えど、この狭い通路の中で接近されてかわすことは出来ない。仕方無しに刀で受けるが、人とは思えぬ凄まじい膂力で押し込まれ、がくりと膝をつく。
雑兵と言えど油断するな。屍兵は一体で十の兵士に匹敵する
冷静に指摘しつつも、ラーメスはくるりと後ろを振り返った。
そら、そちらからも来るぞ
えっ、ちょっ、わわっ
突然背後から壁を割って現れた屍兵の一撃を、マリーは二刀を引き抜いて防ぐ。
えっ、あれ?抜けないっ
しかし残る二刀を魔術で抜こうとして、ぴくりともしない剣に彼女は慌てた。
この中では余以外は術を使えぬ。太陽神が支配しているからではなく、そのように出来ている
ドンと音が鳴ったかと思えば、マリーに次撃を繰り出さんとする屍兵の胸にポッカリと巨大な穴が空いた。ラーメスの炎が、燃え盛る間すら与えずに吹き飛ばしたのだ。
そういう事は先にいいなさいよっ!
ザナが力を振り絞ってホスセリを援護しながら叫ぶ。実際には使えないと言うよりは大幅に出力を減じられるといったところのようだが、屍兵を止められない事には変わりなかった。
ならば術を使わぬものを呼び出すのみだ
言ってOlが担いだ革袋から、片刃の剣が突き出す。それはイェルダーヴの頭上を通り、ザナの耳の横を穿ち、ホスセリの腕の隙間を貫いて、屍兵の首を叩き落とした。
絶句する三人をよそに、何事もなかったかのように剣はするりと革袋の中へと戻る。
兄さん、相変わらず変態的な剣の冴え
動かなくなった屍兵を蹴り倒しながら、ホスセリは褒めているのか貶しているのかわからない評価を下した。
第20話一歩踏み入れば即死するダンジョンに挑みましょう-6
しかし、こうして見るとなかなかに厄介なダンジョンだな
なんでちょっと楽しそうなのよ
笑みさえ浮かべながら言うOlに、ザナは呆れて突っ込む。
魔術の類がほとんど使えなくなってしまう上に、通路が狭いために一度に一人しか戦うことが出来ない。その上死を恐れず突っ込んでくる屍兵たちは、首を落とすか心臓を破壊するかしなければ動きを止めない。
急所を突いて最低限の労力で生き物を殺す術を得意とするホスセリとは、非常に相性が悪かった。魔術と法術に剣術を組み合わせて戦うマリーも同様だ。
四性剣の能力自体はそこに内包されているためか使うことが出来るが、肝心の四刀流を扱えないとなると彼女の戦闘力は半減以下であった。
魔術師であるOlとイェルダーヴに至ってはほとんど何も出来ることがない。ザナもほんの僅かに敵の動きを鈍らせるのが精一杯で、あとはOlのダンジョンの維持に注力していた。
頼みの綱はラーメスの炎術と、Olの呼び出すホデリの剣だ。いっそのこと本人をまるごと呼んだ方がいいのではないかとも思うが、彼の長い刀は狭いピラミッドの中で振るうには不向きで、剣撃だけを呼び出す方が効率がいいのだという。
だからといって毎回毎回頭の上とか横とかを、古びて硬化した包帯でぐるぐる巻きになった人の首を一発で刎ねるような刃が通っていくのは勘弁して欲しい、とザナは思う。
だが通路の支配権を確保する関係上、ホスセリ、ザナ、イェルダーヴ、Olというこの隊列は崩せないのだという。確かにほとんど効果を表さない氷術で氷の壁を張るのには、前から二番目というのはギリギリの距離ではあるのだが。
大丈夫。兄さんが間違って斬るのは、御館様が誰も抱かない日を過ごすよりありえないこと
ホスセリが言った直後、ひやりとした刃の温度を感じられるほどの距離、首の真横を刃が通り過ぎていく。もしかしてOlと二人でしっぽり過ごしたことを根に持ってるんじゃないでしょうね、とザナは思った。
髪の隙間を貫いておきながらどういう原理か毛の一本すら切断せずに刃が通っていくのだから、言っている事に嘘はないのだろうが、怖いものは怖い。
この先は、二手に分かれる必要がある
何時間、ピラミッドの中を歩いただろうか。巨大な門が中央を塞ぐ十字路でそう告げるラーメスに、Olは愉快そうに声を上げた。
どういう仕組みだ?
この門は、左右の通路の奥にある仕掛けを同時に動かさねばならん
あれ?わたしが逃げた時に、そんな仕掛けあったっけ
この通路自体には見覚えはあるものの、流石に何ヶ月も前の記憶だ。マリーは首を傾げて問う。
そもそも王たる余を阻むわけがなかろう。あの時は既に開いておった。お前が逃げ出したのはこの更に奥でのことだ。しかし今は侵入者として、仕掛けを起動せねばならんだろうな
なるほどでは
Olは一同をぐるりと見回して、人選を行う。
ザナ、イェルダーヴ、ホスセリ。お前達は左の道を行け。こっちの三人で右の仕掛けを動かす。タイミングは呪印を通じて指示する。新たに術を使うことは出来んが、既に仕掛けた術自体は効果を失わぬようだからな
わ、わかりました
素直に頷いたのはイェルダーヴだけであった。ザナとホスセリは口にこそしないが不満そうにOlに視線を向ける。
氷を操りダンジョンを形作れるのはザナ、お前とマリーだけだ。それを維持できるのは俺とイェルダーヴのみ。戦闘になった時前衛を担えるのはホスセリとマリーだけのみ。俺は道を知るラーメスと共にいなければならない。この条件で他の分け方はあるか?
はいはい、ないわよ、わかってる。いくわよ
ザナは嘆息しつつもそう言って、ホスセリの腕をとって左の通路へと足を踏み入れる。
御館様。──お気をつけて
ホスセリが振り返りOlにそう告げて、彼女達は通路の奥へと姿を消した。
さて、我らも行くか。といってもこの先には屍兵の配置はない。安心せよ
ラーメスはそう言うと、すたすたと右の通路を進んでいく。Olとマリーは一瞬視線を交わした後、その後を追った。
兵の配置がないというのならば、この仕掛けの意味は何だ?
道すがら、Olはそんな事をラーメスに問うた。
意味だと?
そうだ。侵入者の戦力を分断し、叩くというのならばわかる。実に効果的な罠だ。だが兵の配置がないならば意味があるまい
ラーメスは少し考え、答える。
そも侵入者はそのような仕組みのことを知らぬ。純粋に、侵入を許さぬための仕掛けであろう
正確な所を知らんのか
Olの問いに、ラーメスはああと頷いた。
ピラミッドを作ったのは余ではない。太古の祖先より受け継いだものだ。構造、仕掛けは全て知っているが、その意図までは関知するところではない
そうだとしても推測はできるだろう
推測だと?
ラーメスはOlを振りかえって、不愉快そうに顔を歪めた。
そうだ。あらゆるダンジョンにはそれを設計したものの意志が込められている。敵を害する悪意にせよ、味方を守る善意にせよな
フン。尊き祖先の考えを推し量るなど、不遜の極み。下賤な魔王が考えそうなことよ
それはダンジョンを作るにせよ進むにせよ重要なことだ、とOlは思う。しかしラーメスはその考えを吐き捨てた。
ラーちゃん的には、ご先祖様の方が偉い感じなんだ
余は万物の王。地上の支配者と言ったであろう
マリーの素朴な問いに、ラーメスは答える。
この世の果ては治めてはおらぬ
意外と謙虚なんだなあ、とマリーは思う。Olはこの世の果ても普通に手にしたいと思ってそうだ。いや、実際しようとしているのかも知れない。なにせ天の神を相手に戦っているのだから。
──そこに家族を害するものがあるなら、Olは容赦しない。
そら、ついたぞ。あの壁だ
しばらく進んだ後に、ラーメスは行き止まりの壁画を指差す。
四つのボタンがあるだろう。そのうち、太陽の紋章を押せ
彼女の言う通り、壁画の意匠に隠れて押し込めるボタンが四つ並んでいた。瞳、太陽、甲虫、そして月を図案化したものらしい。
ザナ達の方も太陽でいいのか?
うむ。同時に押すのだぞ
Olは呪印を通しザナを操って彼女の口でそれを伝え、太陽のボタンを押す。
──途端、背後の壁がせり出して、反射的にOlはマリーを突き飛ばした。
Olさま!
おっと。動くでないぞ、マリーちゃん。消し炭になりたくなければな
閉じ込められたOlを救わんと剣を引き抜くマリーに、ラーメスは炎の塊を浮かべて警告する。
ラーちゃんどうして?
どうして?どうしてだと?本気で言っておるのか?ここまで虚仮にされて、余が黙って従っているとでも思っていたのか!?
ラーメスは怒鳴り、獰猛な猛獣が牙を見せつけるときのように顔を歪めた。
さあ、魔王よ。助けて欲しくば誓え。余に全てを譲り渡し、服従するとな!
出来ぬ、と言ったらどうする
壁の向こうから、Olは答える。
知れたこと。この場で焼き尽くしてくれる
ラーメスは炎を掲げ、憎々しげに言った。
さてマリーちゃんよ。余にかけたような呪いをOlにかけろ。全てを譲るというその誓いを強制する呪いだ
え、でもここ魔術使えないし
しらばっくれるな。呪いとは術ではない。もっと根源的なものであろう。誓いさえあれば十分なはずだ
変なところで鋭いなあ、とマリーは内心舌打ちする。
わかった。俺が手にしたもの全て、お前に譲り渡すと誓う
神器もだ。よいな?
あの革袋から境界の神の加護を消されてはたまらないと、ラーメスは念を入れる。Olを支配し、あの空間を隔てて好きなものを取り出せる革袋さえあれば、ラーメスは文字通り万物の支配者になれる。そう思った。
うむ。ついでに、余のことはいと気高きラーメス様、とでも呼んでもらおうか
わかりました。いと気高きラーメス様
ついに頭を垂れるOlに、ラーメスは哄笑する。
呪いはしかとかけたか
かけたよ
ふてくされたような表情で、マリー。
良かろう。ただし余を謀れば即座に燃やしてやるからな
手の上の炎をちらつかせながら、ラーメスは壁を覆う氷を一部分だけ溶かすと、そこに隠されたスイッチを押した。轟音を立て、Olを閉じ込めていた壁が開いていく。
望みの神器だ。受け取れ、いと気高きラーメス様
壁が開いた途端にそう言って、Olは手の中のものを放り投げた。
な、何だ!?
反射的にそれを両手で受け取めるラーメス。投げ放たれたのは、小さな白い碗であった。
なんだ、これはっ!?
その背中をマリーが蹴りつけ、ほぼ同時にOlが壁のボタンを再度押して素早く離れる。
何をする、貴様ら!?
望みの通りにしてやったではないか、愚かでいと気高きラーメス様
閉まった壁の向こう通路から、Olは皮肉っぽい口調で言った。
神の子が食事に使っていた器。略して神器だ。俺の手にしていた全てをお前に譲り渡したぞ
革袋は足元に落としていた。誓った時、手に持っていたのはメリザンドの使い古した茶碗だけだ。
余に服従すると誓ったであろうが!
その部分は誓ってなどいないな
しゃあしゃあと答えてのけるOlに、ラーメスは愕然とした。
Olさまと素人が契約で争うのは無謀だよ、ラーちゃん
そんな彼女に、呆れ半分、同情半分でマリーは声をかけた。
悪魔は常に契約の穴を探し、隙を突き、曲解して人間を陥れる。
そして、そんな悪魔たちをも陥れるのが、魔王Olなのだ。
第20話一歩踏み入れば即死するダンジョンに挑みましょう-7
さて。では行くか
な!?待て!
それ以上声をかける様子もなく立ち去ろうとするOlを、ラーメスは慌てて呼び止めた。
余をどうする気だ!
別に
Olはこともなげに答える。
どうするつもりもない
そこには悪意も皮肉っぽい響きも、何も込められていなかった。文字通り、Olはラーメスに何の興味も抱いていない事がありありと伝わってくる声色。
そのままであれば、ラーメスは閉じ込められたまま乾き死ぬ運命だと言うのにだ。
余がいなければこの一行は成り立たぬのではなかったのか!
そうだな。ここまでの協力、礼を言おう
見えぬと知りながらOlは頭を下げ、衣擦れの音でラーメスはそれを察する。しかしその音は彼女をさらなる絶望に落とす以外の役割を果たさなかった。
いと気高きラーメス様の膨大な霊力のおかげで、ここまで随分消耗を抑えられた。おかげで万全の状態で太陽神に挑むことが出来る
彼は本気でラーメスに感謝しているとわかったからだ。その上で、ラーメスを助けようという選択肢を微塵も考えていない。
待て!余が余が正しいボタンを押さねば、先へと進む扉は開かぬぞ!
そんな馬鹿げた機構があるものか。それは侵入者を閉じ込めるための罠であろうが。侵入者に頼らねば自室にも戻れぬ王がいるか
苦し紛れの嘘も、Olはあっさりと見抜く。
だ、だがどの道先へと進む仕掛けは
マリー、壁を開けたスイッチはどの辺りだ?ああ。ここか、ならばこちらが扉を開けるボタンだな
最後の頼みの綱である情報も簡単に見つけられ、Olたちの足音は遠ざかっていく。
待て待ってくれ!
ラーメスは声を張り上げながら、必死に考える。何か交渉できる材料を。
能力は不要と言われた。知識も、Olたちに役に立てるものはない。国も地位も富も、もはや彼女の手の中にはない。
砂の王としてではなく。万物の支配者としてではなく。
ただのラーメスとして、差し出せるものがあるか。
そう考えた時。彼女には、何もなかった。神の加護をも失った今、ピラミッドの堅牢な石さえ消し飛ばせる核熱の炎も出すことは出来ない。本当に、ここで乾いて死んでいくしかないのだ。
闇の中、彼女はがくりと膝をつく。そしてふと、手にしていた碗が目に映った。ほのかな光を放つそれが、暗闇の中で見える唯一のもの。そして同時に、今のラーメスに残された唯一のものでもあった。
縋るように、ラーメスはそれを見つめる。簡素な碗は状況を打破するのに何の役にも立ってくれなかったが、しかし闇に抗するように光り続ける。それは少なくとも、ラーメスを無明の闇から救ってはくれた。
もしこれが完全なる暗闇に閉じ込められていたら、ラーメスは正気ではいられなかっただろう。
助けて
その暖かな光に導かれるようにして、ラーメスの口から言葉が漏れる。
助けてくれ頼む余が、悪かったお願いだ
もはや壁の向こうにOlはいないだろう。そう知っていてなお、祈るように、ラーメスは助けを乞う。
助けてくれ何でもするから
その言葉に偽りはないか?
ぬわぁっ!?
呟きにすぐそばから答えが返ってきて、ラーメスは悲鳴を上げながら飛び上がった。
Olの声は壁の向こうどころか、真横から聞こえたのだ。
オ、Ol!?何故ここにいる!?
壁は一瞬たりとて開いていない。入ってきたならすぐに分かるはずだった。
本当にお前は愚かなやつだな
いっそのこと優しげな声で、Olは言った。
俺は境界の神の加護を得ているのだぞ。扉にせよ壁にせよ、遮るものが役に立つわけなかろうが
ラーメスは絶句する。では、最初の最初から、ラーメスはOlの手のひらの上だったのだ。
だ、だが何故だ?何故わざわざ戻ってきた?
だとするのなら、これはラーメスを葬るための策だったのだろう。Olにとってもはやラーメスに利用価値はなく、排除する絶好の機会だったはずだ。
俺には確かに戻る理由などない。だが、こいつがな
やっほー、ラーちゃん
Olの後ろから聞こえてきたのは、マリーの声だった。
マリーちゃん?何故
だがマリーにとっても理由などないのは同じはず。
だって、友達でしょ?
そんなラーメスの思考を、マリーはあっさりと打ち砕いた。
友達?
言葉の意味はわかる。しかし彼女が何を言っているのかはわからなかった。
わからぬ。余を助けて何の利がある?
今までのラーメスであれば、それを当然と受け取ったかも知れない。万物の支配者たる自分に民草が尽くすのは当然であると。しかし今はもう、気づいてしまった。ラーメスには何も残されていないのだ。
ないよ、そんなの
な!何かはあるのであろう!?
自身が同じことを考えていたというのに、あっさり答えるマリーに、ラーメスは慌てた。
ないよ。だって戦力としてはOlさまの言う通り必要ないし、美人だけど女のわたしにとってはどうでもいいし、性格は悪いし、ザナさんと険悪だし
いっそ殺せ!
マリーは指を折りながら並べ立て、ラーメスは思わず叫ぶ。
だけど、友達になったげるって言ったでしょ?
そんな彼女に笑いかけ、マリーは言った。
魔術師は約束を破らないんだよ
マリー、ちゃん
ほとんど何も見えない闇の中だが、その朗らかな笑みは、ラーメスにも伝わった。
で
そんなところに割って入る、意地の悪い声が一つ。
何でもする、というのは本当か?
Olさま~
せっかくわたし良い事言ったところなのに、とマリーはぼやく。
それはお前の事情だろう。俺がこいつを助けてやる理由も、お前の求めを聞いてやる理由もない
うう、それはそうなんですけど~
Olはなんだかんだマリーに甘いから、割と聞いてくれると思っていた。とは流石に思っても口には出せないマリーである。
で、どうなんだ?
だ、だが流石に、何でもというのはだな
先程そう呟いたときには、心からの本音であった。だがこうして改めて問われてしまうと、迷いが生まれる。
そうか、では達者でな、いと気高きラーメス様
待て待て待て!こんな場所で達者も糞もあるか!
あっさりと壁をすり抜け出ていこうとするOlを、ラーメスは必死に止めた。
だ、だが余は万物の支配者、王の中の王!おいそれとそのような条件を飲むわけには
それなんだがな
Olは真面目な声色で、言った。
お前には向いていない。やめた方が良いぞ
何だと!?
瞬間。立場も状況も忘れて、ラーメスは激高した。
この余が!王に向いていないと、そう申すのか!?
炎が立ち上り、Olを燃やさんとしてそして、瞬く間に立ち消える。
忘れたのか?お前には俺たちを攻撃できない呪いが練り込んである。本気で攻撃するつもりなら、すぐに消えてしまう呪いがな
つまり、さっきのが全然本気じゃなかったのは、わたしもわかってたんだよ
マリーを燃やすことなど、ラーメスには出来なかったのだ。物理的にも心情的にも。
余は余は
炎の消えた己の手のひらを見つめ、ラーメスは呆然として呟いた。
余を友などと呼んだ人間は初めてだったのだ
お前は生まれながらにして王。万物の支配者だと、そういったな
ラーメスは力なく頷く。
だが、サハラは広大とて全てを支配していたわけではない。何故お前はそれを自称していた?
それはそれ、は
紛れもなく真実であるからだ。そう答えようとして、ラーメスは言葉を詰まらせる。
それが真実であるという根拠は何だ?
ラーメスが言えなかったことを言い当てて、Olは問うた。
お前は誰に、それを吹き込まれた?
この世で最も高貴なるもの。
万物の支配者。
王の中の王。
そうあれ、と、育てられた。
父上と母上に
自分がそうでない可能性など、露ほども思いつかなかった。
王たるものが、己の意志以外で王であらんとして、なんとする!
Olの叱責に、ラーメスはびくりと身体を震わせる。
ああ、ああああああああああ
その脳裏に去来するのは、光一つ差さぬ闇。小さな子供ですら屈まねば入れぬような、狭く暗い石櫃の中。
お許しをお許しください父上
彼女はOlに縋り付いて、そう懇願した。
俺はお前の父ではない
ぽんとラーメスの頭を撫でて、Olは優しい声で囁く。
なあラーメス。お前はもう、王であろうとしなくて良いのだ。ありのままの、ただのラーメスで良い
だが王でない余にはなにもない。何者でもないということには、耐えられぬ
己の身体を掻き抱くラーメスの肩に、Olはそっと腕を回した。
ならば、俺のものになれば良い。マリーと同じ、この魔王の物に
マリーと同じ
ぽつりと呟くその呼び名。呪いに強制された敬称が抜けたのは、呪いの解除条件を満たしたから。彼女が心から、マリーのことを友達であると認めたからだ。
どうやったら、Olの物になれる?
簡単なことだ
迷子になった子供のように己を見上げるラーメスに、Olは答えてやる。
愛してやる。お前はただ、それを受け入れるだけでいい
それは。
心の奥底でずっとラーメスが願い続け、しかしどれほどの力を手にしても、けして手に入らなかったものだった。
歓喜の声をあげるラーメスの姿に。
女の子を落とす時のOlさまって相変わらずエゲつないなあ、とマリーは思った。
第20話一歩踏み入れば即死するダンジョンに挑みましょう-8
んむ、ふんっあっ
ちゅぷり、と濡れた音を立てて、ラーメスの唇からOlの舌が離れる。
男と口づける事に対する不快感や抵抗感は、自分でも驚くほどにまったくなかった。それどころか胸はドキドキと高鳴り、顔が熱く火照って、酩酊にも似た高揚感がある。
あっんっ
Olの手がするりとラーメスの服の中に滑り込み、その豊かな乳房に触れる。
へ、変ではないか?
露出した双丘に、不安そうにラーメスは問うた。
変であろうはずがあるか。俺が作った美だぞ
ん、うそ、それも、そうか
あれほど好んでいた豊かな乳房が己につき、Olの手のひらに弄ばれるその感覚に、ラーメスは奇妙な快感を抱いた。いや、あるいは
もっ、と
あるいは自分は、女達の胸を蹂躙しながらも、揉まれる乳房の方にこそ感情移入していたのかも知れない。
もっと乱暴にして、欲しい
ラーメスはそんな事を思った。
あっ、あぁっ!
ぎゅっと潰れるほどの力で鷲掴みにされて、ラーメスは思わず高く声を上げる。しかしそれは、苦痛ではなく快楽の声だった。
すっかり女の子になっちゃったね、ラーちゃん
マリーが呆れ半分の声で言って、ラーメスの横に並ぶ。
一緒に可愛がってもらお?
別にお前まで抱くとは言っておらんがまあいい
Olはラーメスの乳房をぐにぐにと揉みしだきながら、もう片方の腕でマリーを抱き寄せると、彼女の唇を強引に奪う。
オ、Ol余もぉ
ピチャピチャと音を立てて絡み合う舌と舌に、ラーメスは堪えきれずにそう懇願した。
じゃあわたしも、どーぞ
代わりとばかりにマリーが上着をずり下げてぷるんと形の良い胸を露出すると、Olの手を取ってぐいと押し当てる。
んっんんっは、あぁん
右手でマリーの、左手でラーメスの柔らかな果実の感触を堪能しつつ、二人の美女の濡れた唇を交互に味わう。
そうするうちに興奮したのか、マリーの手がOlのいきりたったものをするりと撫でる。
お前はどうにも、辛抱というものが足らんな
Olは呆れたように言って立ち上がり服を脱ぎ捨てると、二人の眼前に反り立った肉槍を突き出した。
まずは奉仕してみろ
やや不満げに返事をするマリーの横で、ラーメスは目を大きく見開き、Olの剛直を凝視する。
ここれが、Olの?
女の性器であれば飽きるほど見てきたラーメスであったが、自分以外の男の性器など見る機会は一度もなかった。しかしそれは明らかに男の頃の己よりも太く長く、同じ性器とは思えぬほどの威容であった。
じゃあラーちゃん、せっかく立派なもの持ってるんだから、これで挟もっか
そういって、マリーはラーメスの双丘を両手で持ち上げてみせる。
む、胸でか!?
そうそう。ほら、こーやっておっぱいサンドっ
マリーはラーメスに抱きつくようにして胸を寄せ合い、Olの怒張をぎゅっと四つの乳房で挟み込む。
で、このはみだした部分を~べろでペロペロしちゃうの
そして収まりきらなかった亀頭を、舌を伸ばしてぺろりと舐めあげてみせた。
な、なるほど
ラーメスはごくりと唾を飲み込んで、恐る恐るそれに倣い、Olのペニスに舌を伸ばす。
んこう、か?
そうそう、上手上手
言いながら、マリーはOlの先端にちゅ、ちゅ、とキスを落とす。すぐさまラーメスはそれを真似て、二人の少女は左右からペニスに口づけた。
ふむなるほどな
ぴくんと反応する男根にラーメスは笑みを浮かべると、ぐっと首を伸ばして舌を突き出し、裏筋の辺りをついと舐めあげる。
ここが良いのであろう?それにこうだ
元男だけあって、男が気持ちよくなる勘所はよくわかっている。ペニスの弱い部分を舐めしゃぶりながらゆさゆさと両手で胸を揺らし、肉茎を擦り上げるラーメスにOlは思わず呻いた。
むっ、負けないよ
マリーも対抗心を燃やし、胸で扱き立てながら肉槍に吸い付く。
二人分の唾液がOlの肉棒をぬらぬらと伝い、可憐な唇がちゅぶちゅぶと下品な音を立ててグロテスクな器官に懸命に奉仕する。白と黒の柔らかな乳肉は互いに押し合い、一部の隙もなく茎を挟み込んで、そのすべすべした肌で男をこの上なく楽しませた。
Olは二人の頭を掴むようにしながら、その欲望を吐き出す。乳房の間から間欠泉のように吹き出す白濁の液を、マリーとラーメスは舌を突き出しながら顔で受け止めた。
お味はどう?
生臭くて、エグくて、苦くて、喉に絡みつく
ぺろりと自らの顔についた精液を舐め取りながら尋ねるマリーに、ラーメスは盛大に顔を顰めながらそう答えた。
だが不思議と、嫌ではない
だよねっ
男の精液など嫌悪感しか感じないはずなのに、とラーメスは心中で呟く。己の性が完全に変わってしまった事を、彼女はようやく自覚し始めた。
けど、これからが本番だよ
そう言って、マリーはラーメスの身体を後ろから抱きかかえるようにして持ち上げる。
Olさまにちゃんと、女の子にしてもらお?
し、しかし
この期に及んで、ラーメスは怖気づいた。だが逃げようにも身体はしっかりとマリーに押さえられていて、足すら地面につけることができない。
大丈夫だよ
彼女の耳元で、マリーは囁くように言った。
わたしが一緒に、こうしてぎゅってしててあげるから
ああ。頼む
その言葉にラーメスは覚悟を決め、Olに顔を向けて、彼を見上げた。
来て
まるで抱っこをせがむ赤子のように両腕を伸ばすラーメスに頷き、Olはマリーごと彼女を抱擁する。そして、何も受け入れたことのない無垢の秘裂に、己の先端を押し当てた。
一言そう告げて、男が、ずぶりとラーメスの膣内に侵入する。
破瓜の痛みに身を震わせるラーメスを、マリーの腕がぎゅっと強く抱きしめた。
少しだけ、辛抱しろ
Olは言って、ゆっくりと腰を奥深くまで埋めていく。
全部、入ったぞ
は、あぁはぁはぁ
まるで永劫にも思える、しかし実際には僅かな時の後、Olがそう言って動きを止めてようやくラーメスは息をついた。呼吸すら出来ぬほどの、恐ろしい苦痛。
よくやったな
しかし、Olに労われ頭を撫でられるだけで、そんな苦痛も打ち消されるほどの多幸感がラーメスに押し寄せてきた。
良かったね、ラーちゃん
良かった──の、だろうか?本当に?そんな疑問が、頭の片隅をふとよぎる。
だがそんな微かな疑問は、Olが抽送を始めた途端に弾けて消えた。
うっあぁぁっ!
ぐいと、身体の中を蹂躙される感覚。それは紛れもなく、苦痛以外の何者でもなく。
あぁっ!ひあぁっ!
なのに。なんで。
あぁぁぁっ!ひぐっ!あぁぁぁっ!
己の声は、こんなに甘く蕩けているのか。
あっ、あっ、あっ、あぁっ!
ずんと奥を突かれる度に、身体がバラバラになりそうな衝撃が全身を走っていく。マリーに身体を抱えられ、幼児が放尿するときのような格好で男に脚を開かされ、男の欲望のままに支配され蹂躙されて。
いぃっ!いぃ、よぉっ!
──ラーメスの身体は、悦んでいた。
ひぐぅっ!ひ、ぐぅぅっ!
男であったウセルマートは童貞でこそあったものの、女の味はよく知っていた。その口で、手で、胸で奉仕させたことは数え切れぬほど。
だが。今感じている快楽は、まったくの別物であった。
痛いのに、苦しいのに、それそのものが快感なのだ。
もっともっとぉっ!
もっと痛めつけて欲しい。もっと刻み込んで欲しい。
自分の奥を貫く男に自らしがみつき、ラーメスは懇願した。
そうねだらずともちゃんと、くれてやる!
Olはラーメスの両胸を鷲掴みにしながら、その唇を自らの口と舌とで塞ぎ、最奥にぐりぐりと突き入れる。
このまま、一番奥で、びゅびゅ~って射精してもらおうね
ラーメスを抱えながら、マリーは一切の悪意なく、無邪気にそう囁いた。
子宮の奥で好きな人の精液を受け止めて、赤ちゃんのお部屋に種付けしてもらって。女の子に生まれてよかったって、一番思う瞬間なんだよ
ラーメスの頭の中でチカチカと、警告の光が瞬く。それはあるいは、ウセルマートとしての、最後の抵抗だったのかも知れない。
けれど。
どくどくと流し込まれる大量の白濁に、それはすぐさま消え去った。
あぁぁああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁあぁぁ!
彼女に残されたのは、己の内側が洗い流されていくような激しい快感と──
射精を終えたばかりの男根が眼前に突き出され、ラーメスはうっとりとしながらそれを舐め清める。
ちゅう、とその尿道に残った精液を吸い上げながら、彼女は己の股間を弄る。注がれたばかりの精液がくちゅりと音を立てて指先に絡みつき。
もっと注いで沢山、欲しい
男の精を受け止める。その為に己は生まれたのだという、確信だけだった。
第21話全知全能の神を斃しましょう-1
こんな時、どんな顔したらいいのかしらね
数刻後。門の前で合流したザナは、Olにぴっとりと張り付くようにその腕を抱きしめて歩くラーメスに、全てを察して天を仰いだ。
こんな時とは?
自分の妹を攫っていった憎らしくも惹かれていた男が、性転換して今好きな男にべったり張り付いてメス顔晒してる時
ホスセリの問いに、ザナは虚無を表情に貼り付けて答える。
笑うしかないんじゃないかな
あはは、と明るく笑うマリーは、ザナの鋭い目つきに睨まれてOlの背にさっと隠れた。
余の今までの行為、頭を下げたとて許されることではなかろう。誹りは甘んじて受ける。──すまなかった
しかし頭を下げるラーメスに、ザナのその目は丸く見開かれた。
そんな彼女に、イェルダーヴが一歩歩み出る。
ラーメス、さん
イェルダーヴいや、イヴか。そなたには特に、申し訳ない事をした
今までのラーメスは人を、人としてみていなかった。そうしなければ己の価値がないと思っていたのだ。
今なら、あなたとお友達に、なれる気がします
かすかに微笑んで、イェルダーヴ。
それにイェルダーヴというサハラ風の名前は、そんなに、嫌いではありませんから
本来の名を無視し勝手な名前で呼ぶその行為は、人を支配し所有する為の示威行為だったのかも知れない。
ま、良かったんじゃないの
細く長く息を吐き、ザナはぽんとラーメスの頭を叩く。男だった頃は見上げていた彼女の頭は、今は見下ろす位置にあった。
よくない
しかし、それに異を唱えるものがいた。ホスセリである。
そう言えば、因縁を持つのはイェルダーヴとザナだけではない。ホスセリもまた、唆され利用された挙げ句、太陽神に身体を乗っ取られると散々な目にあっていたのだ。
いかな咎でも受けよう
神妙な表情で向き合うラーメスの横をすり抜けて、ホスセリはOlにしなだれかかる。
御館様。私だけまだ抱いて貰ってない。私も抱いて欲しい
それは構わんが。いいのか、あれは
固まるラーメスを指して問うOlに、ホスセリは首を傾げる。
?別に興味ない
ふふふふふ、ふふふふふふ
スパリと言い放つホスセリに、ラーメスは不気味な笑みを漏らす。
貴様ら人が下手に出ていればいい気になりおって!良いか、Olは余の物だ!魔王の正妻、妻の中の妻たるこの余を差し置いて精液を貰えると思うな!
はあ!?あんたお情けで一回抱いてもらったくらいで何嫁面してんの!?
ラーメスがOlの右腕を抱きしめれば、対抗するようにザナは左腕を抱きしめて怒鳴り返す。
ほら人はそう簡単に変わらない
呟くホスセリはいつも通りの無表情だが、その声色にはどこか呆れが滲んでいた。
そうでしょうか
けれどイェルダーヴは楽しそうに笑んで、怒鳴り合う元氷の女王と元砂の王を見やって、言った。
随分、変わったと思いますよ
マリーの振るう剣撃が豪快な音を立てて、ピラミッドの天井を吹き飛ばす。
ううむ余のピラミッドが三度に渡り破壊されるのを見るのは、流石に複雑な気分だな
いいからさっさと登りなさいよ、後がつかえてんだから!
ぼやきながらマリーが降ろした縄梯子を登るラーメスのむっちりとした尻を、ザナは平手でぺしぺしと叩いた。
ピラミッドを抜け出した先、遥か彼方に聳える山に、ホスセリは目を見開いた。
姫様の山だ!
見間違えようもない、均整の取れた美しい火山。ヤマト一の名峰と讃えられた不尽の山が、遠くに見えた。
今度は走り出してくれるなよ
そう警告しながらも、Olは縄梯子を登って山を見据える。そここそが、目的地。太陽神が待ち受けているであろう、最後のダンジョンだ。
それは、いいんだけどさ
ザナはその手前。火山まで続く空中回廊を指差す。
あそこ、どうやって渡るの?壁ないわよ
それはフウロの国にあった風のダンジョンだ。谷を吹き抜ける風が壁となり、通路のみが連なる空中の迷宮。
宙に氷の壁を作れば風で消し飛ばされてしまうだろうし、かといって通路の上に壁を立てるにはあまりに狭すぎる。今までのようにOlの領域を確保しながら進むのは不可能に思えた。
Olは風のダンジョンに手のひらをかざすと、端的に言った。
全部氷で埋めれば良い
いや流石の余も、それは難しいぞ
なにせ風のダンジョンは縦にも横にも大地の果てまで続いているのだ。いくらラーメスが天稟を持つと言っても、それを埋めるだけの霊力など人にあがなえる量ではない。
何。人に無理なら、人でないものの力を使えば良いのだ
言ってOlは、ザラザラとした質感の白い玉を取り出した。
なんだっけ、それ
どこか見覚えのあるその玉を、マリーは矯めつ眇めつ眺める。
それは、マリナ様に贈った!
そう。龍の首の玉。火竜デフィキトの骨だ
言った瞬間、Olの手にした白玉から凄まじい量の魔力が溢れ出す。
竜というのは全身これ魔力の塊だ。肉、骨、腱、鱗に脂、血の一滴までもが、並の魔術師であれば消し飛ぶほどの魔力に満ち満ちておる
骨の一片でそこまでの力があるのか!?
瞠目するラーメスに、Olはしかし首を振る。
流石に一片、この程度の大きさでダンジョンを覆い尽くすほどの魔力はない。だが
溢れ出す魔力をマリーの剣で霊力に変換し、Olはそれをラーメスに注ぎ込む。そして生み出される巨大な火炎球を、再度変換して氷を形作った。
塞の神の権能を持って、この骨と残りの死骸との境界を取り払った。神代より生き続ける竜、まるまる一頭分の魔力を全て使えば──!
それはまるで、最高位の魔術師が使う隕石落下(メテオスウォーム)の魔術のような光景だった。違うのは、呼び出されたのが天上に漂う星ではなく、巨大な雪塊だというところだ。
一つ一つが小さな家ほどもある雪の塊が、次々とダンジョンに降り注いでは砕け、谷の合間を埋めていく。
Olの手にした竜骨がその役目を果たし、ぱきりと乾いた音を立てて真っ二つに割れる頃には、彼らの目の前には広大な雪原が広がるばかりであった。
さて。進むとするか
呆然とするマリーたちを尻目に、Olは何事もなかったかのようにそういった。
なんか、可哀想な気がするなぁ
雪に埋もれた怪物たちをみやり、マリーはぽつりと呟く。風のダンジョンで待ち構えていたのは、羽を持ち空から襲いかかるつもりの魔物ばかりであった。
そんな連中があの吹き荒れる氷雪の中無事でいられるわけもなく、大半が崖の下に撃ち落とされて、わずかに残った残骸が雪の重みに耐えきれなかった屍を晒していた。
飛行能力を持った魔物は空を飛ぶために軽量なものが多い。あの量の雪を食らってはひとたまりもあるまい
あの量の雪を食らったら飛行能力とか関係なくひとたまりもないでしょ
薀蓄を語るOlに、ザナが呆れた様子で突っ込む。
いずれにせよこれで、火山以外の全てのダンジョンを我が領域としたわけだ
間近に迫る不尽の山を前に、Olは改めて語る。
これで太陽神は逃げるわけにはいかぬ。手筈は良いな?
んうん
マリーは頷きながらも、不安げな表情を見せた。
ヤタラズを倒した後。Olは太陽神を追い詰めるための作戦を一行に語った。その方法に文句があるわけではないのだが
どこか、違和感があった。Olの立てた作戦は、あまりに不確定な情報の上に立脚していて、それは彼らしくないとマリーは感じていた。
今のだってそうだ。本当に、これでダンジョンは全てだっただろうか?
やはり来たか。魔王Ol
出し抜けに、その声は響いた。
まさかこんな入口で出迎えてくれるとはな
男のものとも女のものともつかぬ、透明な声色。
しかしそれを発するのは、誰よりも美しく、そして何よりも愛おしい娘の姿をした女神。
ソフィアとサクヤを返してもらうぞ、太陽神よ
全てを支配するまったき神に、Olは宣戦布告した。
第21話全知全能の神を斃しましょう-2
言ったはずだ。それは不可能であると
厳かに告げる太陽神を、Olは嘲笑う。
仮にも全知全能を標榜する神が不可能だと?
その挑発に、太陽神の形の良い眉はほんの僅か、しかし明らかに不愉快げに動く。
一番目だ
出し抜けに放たれた意味のわからない語句に、今度はOlが眉をひそめる番だった。
全知全能たる私が、あなたを滅ぼさなかった理由。それはテナが述べていた可能性の一番目。ただ単にあなたという存在に、滅ぼすまでの価値がなかったからに過ぎない
それは、Olが太陽神を倒すと決めた時、テナと交わした会話だった。
は。それで、俺達がお前のダンジョンの殆どを支配するまで待ってくれたと?随分お優しいことだ
内心の動揺を押し隠すようにOlは言う。
そこまでしてなお、あなた達は私の脅威とはなりえない。支配した、といっても──
太陽神の右の手のひらから砂嵐が、左の手のひらからは氷雪が溢れ出し、Olたちを襲った。
あなた達がなしたのは、私の足元に小さな氷を貼り付けただけの事。私の力は
砂嵐をザナの氷術が凍りつかせ、氷雪をラーメスの炎が焼き尽くす。
しかし。
この通り、微塵も減じてはいない
吹き荒れ続ける砂嵐にザナの氷は追いつかず、ラーメスの炎は力負けして、二人は共に吹き飛ばされて風のダンジョンを覆う雪の中に叩き込まれた。
ちっ!ユニス、スピナ!
Olが革袋を開けば風のように中から赤毛の英雄と稀代の魔女が飛び出す。それとほとんど同時にスピナの放った粘糸が太陽神を縛り付け、ユニスが斬撃を放った。
魔法生物生成の天才によって作られたその糸状のスライムは、蜘蛛糸の十数倍もの強度を持ちつつ、巨人ですら引き剥がせないほどの粘着力を持つ。一度縛り付けられれば古竜ですらおいそれと抜け出せないものだ。
そして空間を自由に転移する英雄が編み出した斬撃は、刃を境にした片側をほんの僅かに転移させ、空間そのものを斬り裂くという技だ。光と同じ速度で閃くこれを避けることは極めて困難で、どれほど硬い鎧も意味を持たない。
それを。
太陽神はこともなげに引きちぎり、片手で払い除けてみせた。
わっ。全知全能とか言うだけのことはあるね
お師匠様、ここはお任せを
呑気な声を出しつつもユニスはいつになく鋭い視線を向け、スピナは溜め込んだ魔力を用いて無数の分身を生み出しながらOlに向かって叫ぶ。
無理はするなよ!
Olはそう返しながら、雪の中からザナとラーメスを引きずり出した。
雪の女王が雪まみれなんて、洒落にもならないわ!
流石は太陽神、あれ程の力があるとはこの余が目をつけただけのことはあるわ
口に入った砂を吐き捨てながらザナがいい、ラーメスは愉快そうに笑う。
言っておる場合か。行くぞ!
Olの操作によって吹き荒れるザナの氷が太陽神を取り囲む部屋を作り出し、更に通路の先にOlのダンジョンを形成していく。
行かせは
それはこっちの台詞だよっ!
無論そんなものは時間稼ぎにすらなりはしないが、目くらましにはなる。瞬時に消しとかされる氷の壁に紛れて、ユニスの斬撃が飛んだ。
やっぱり、手で撃ち落とすよね
その尽くを打ち払う太陽神に対し、ユニスはにっこりと笑った。
手を使わないと防げないんだ。全知全能なのに
それは、獲物を捕らえる時の肉食獣のような笑みだ。
それは認めよう。だがこのようなもの、百来ようと千来ようと?
言葉の途中で太陽神は急に力を失い、がくりと片膝を突く。目を向ければそこには、小さなスライムが二匹、蠢いていた。真っ黒なスライムと、純白のスライムだ。
結局、霊力というものを吸い取るスライムは作ることが出来ませんでした
残念そうに、スピナは言う。
ですので魔力喰いと理力喰い。二種のスライムを放たせて頂きました
左右に大きく広げた彼女の両手がどろりと溶けるようにして崩れ、黒と白とに染まる。
じゃ、頑張ろうね、スピナ
力をお借りします。ユニス
二人は互いにそう言い合うと、太陽神に向かって駆け出した。
大丈夫かな、姉さんたち
心配ないとまでは言えぬが。我が妻で最強の二人だ
心配そうにぼやくマリーに、Olは走りながら前方を示す。
それよりも、己の心配をした方が良かろう
そちらからはOlたちを迎え撃つべく、次々に怪物たちが姿を現していた。
敵は任せたぞ
承知致しました
がんばりまーすっ!
それに対するは、ホデリ、ホスセリの兄妹に巫女の少女、ユツだ。
津波のように押し寄せる小鬼たちの額に正確にホスセリの放った手裏剣が突き立ち、その死骸を踏み越えて襲い来る巨大な蜘蛛の身体をホデリが一瞬にしてバラバラに切り捨てる。
むユツ殿!
その背後で大きく口を開け、紅蓮に染まる鵺の喉奥を見て、ホデリが叫んだ。
はあい。風よっ!
ユツが妖狸の尻尾を変化させた大団扇を振るうと、凄まじい風が巻き起こって鵺の吹いた炎は逆流し、鵺自身を焼き焦がす。
忝(かたじけ)ない。助かり申した
その一瞬、ホデリはその風に乗るようにして間合いを詰めると、猿頭の怪物の身体を一刀のもとに両断した。
やるじゃない!
ほとんど一瞬にして全滅した怪物たちにザナが快哉を叫ぶ。それと同時に巨大な広間を氷が覆い尽くし、新たな部屋を作り出した。
イヴ、大丈夫?
はいお姉様。まだいけます!
あちこちに煮えたぎるマグマが流れる火山の中、氷を維持するのは流石のイェルダーヴにもかなりの負担となっている。そうでなくとも、彼女は今まで辿ってきた全てのダンジョンの維持を担っているのだ。だがイェルダーヴは荒く息を吐きつつも気丈に答えた。
Ol、厄介な新手が来たぞ
舌打ちし、ラーメスが暗がりに向けて炎を飛ばす。神の力を帯びずとも、彼女の膨大な霊力によって甚大な破壊力を秘めた火炎球は、しかし長い尾の一振りで弾き散らされる。
何だ?大蛇か?
いえ、違います、あれは!
ずるりと伸びた細長い身体に呟くOlに、ユツが悲鳴じみた声で答える。
確かにそれは蛇によく似ていた。だがその頭はワニのように長くゴツゴツとしていて、頭には鹿のような角が二本、生えている。そして四本の指を持つ小さな手足は、しかし大地を踏みしめることなく、まるで空中を泳ぐかのように宙をたゆたっていた。
龍です!まさかあんなものまで支配しているなんて
その言葉は、正確にOlに伝わった。
竜。いわゆるドラゴンとは別種のしかし、同等の脅威を持つ存在。
殿、お下がりを。あれは、某が刺し違えてでも仕留めまする
ざわり、とホデリの肉体が隆起し、その瞳が漆黒の真円を描く。忌まわしい呪いによる獣の姿も、龍の生み出す風雨を防ぎ牙と爪とを弾く鎧になるならありがたい。異形に変ずるホデリを強敵と認めたか、龍の髭がパリパリと乾いた音を立てて雷気を帯びた。
兄さん!
ホスセリ。お前は殿を御守りせよ
ぽんと妹の頭を撫でて、鮫頭の男は笑みを浮かべる。
良い子を産むのだぞ
そしてそう告げると、死地へと赴いた。
龍とはただの獣ではない。神の一種とも言われる、最強の存在。そんな相手に只人の身でどこまで迫れるか。ホデリはぶるりと身体を震わせた。
武者震いは武士の誉れだ。たとえ勝てたとしても死は免れぬであろう、必死の戦。
その戦場に、彼は足を踏み入れ──
ごめん、ホデリさん
そのときにはもう、全ては終わっていた。
マリーは龍の死骸を背に、髪が赤く染まった頭を下げる。
竜っていうからイケるかなって
結論から言うと、イケた。マリーがその身に降ろした竜殺しウォルフディールの竜種必殺の権能はてきめんに効き、龍は何をもする前にその躯を地面に横たえることになった。
ぷしゅうう、と風船が萎むような音を立て、ホデリの身体が元の人へと戻る。
皆様ご無事で何よりでござる
その姿はどこか、年老いたようにも見えた。
あったぞ。あれだ
火山のダンジョンの奥。要と呼べる場所に辿り着いて、Olはそこに鎮座する巨大な岩を指し示した。そここそ火山のダンジョンの心臓部。サクヤの住んでいた部屋だ。
といっても、それを破壊すればサクヤの身に何かがあるというわけではない。ましてや太陽神を倒すのに役立つというわけではなかった。
いくぞ。結界を張る
だがわざわざそこまでやってきた理由は無論ある。
そうはさせない
故に。全知全能の神もまた、それを阻まんと手を打っていた。
岩の陰から現れたのは、薄紅色の美しい髪をたたえ、まるで花びらのように幾重にも広がる着物に身を包んだ見目麗しき女神。
姫、様!
行くなよ、ホスセリ
無論、それがサクヤ本人であろうはずもなく。
悪趣味な真似をしてくれる太陽神めが
Olは憎々しげな目で、サクヤの姿をしたそれを睨みつけた。
第21話全知全能の神を斃しましょう-3
悪趣味
太陽神は、Olの言葉を反芻して言った。
別にこれはあなた達の戦意を削ぐために外見を変えているわけではない
その声色からは平坦で何の感情も読み取れなかったが、心外だと訴えているようにも思えた。
ただ、余った肉体を活用しているだけだ
落ち着け
凄まじい殺気を迸らせるホスセリとホデリを、Olは押さえる。
俺が結界を張るまでの間、奴を押さえられるか?
この命に代えましても
必ず
相も変わらず物騒なことを言うホデリを、Olは咎めなかった。
ユツ。ザナ。ラーメス。マリー。イェルダーヴ。お前達も援護しろ
死を覚悟して全員でかかったとしても、勝てるかどうかわからない相手だからだ。
まずザナの放った氷の槍が、四方八方からサクヤへと突き刺さる。それを追う様にしてラーメスの放った火球を、マリーの冷性剣が猛烈な吹雪へと変換して凍りつかせる。間髪入れずに、ユツが尾を変化させた巨大なハンマーを凍りついたサクヤに向けて振り下ろした。
無数にばら撒かれたホスセリの手裏剣がそこへ突き刺さって、破壊の嵐の中、躊躇うことなく踏み込んだホデリの刃が喉元に向かって振るわれ──
鉄の壁さえ斬り裂くその一撃を、サクヤは紙でできた扇の先端で、軽く防いだ。
目を見開くホデリの眼前で、桜の花びらが舞い散る。
否。それはひとひらずつが膨大な熱量を込めた炎の欠片だ。
ぬっ!
下がって!
堪らず飛び退るホデリを援護するために、ザナが放った氷術が炎花を狙って迸る。
だが消えたのは、指先ほどの大きさの花びらではなく、ザナの放った氷の塊の方だった。
斯様なもの、余が平らげてくれる!
ラーメスの全身を炎熱の鎧が覆い、彼女はそれを引き裂くようにして脱ぎ捨てると、まるで旗のように振るう。ラーメスが作り出せる中でもっとも温度の高い炎鎧を、不器用な彼女が攻撃に使うために編み出した技。
馬鹿な!?
だがそれは、サクヤの炎花に触れるやいなや弾けとんだ。身体から離した為に多少の減衰はあるにせよ、ラーメスの炎さえも通じぬほどの熱量を、花びらの一枚一枚が秘めているのだ。
ひらり、ひらりとサクヤが扇を振るう度に花びらは舞い散って、広間の中を満たしていく。その美しい花弁に炎も氷も、風も刃も防がれてしまう。
Ol、
ザナは打つ手が無いんだけど!?と叫ぼうとする。
セレスを呼んで!
だが実際に口から飛び出したのは、彼女自身が知らぬ名前であった。
お呼びに預かります
Olの手にした革袋から、金の髪を持つ美しい白アールヴが現れる。その美貌はザナさえ息を飲むほどだったが、けれどこの状況で彼女一人が加わったところでどうにかなるとは思えなかった。
ところで呼ばれたは良いのですが、どうしたらいいのでしょうか?
あれ何とかしてよ!
それどころか状況さえ理解していないのか、可愛らしく小首を傾げるセレスに、ザナはサクヤを指差して怒鳴った。
何とかすればよろしいのですね
キリと弓を引き絞るセレスに、ザナの胸中を絶望がよぎった。あの凄まじい炎の花弁を前に、矢など通用するわけがない。鉄でできていたってサクヤに辿り着く前に溶けて消えてしまうだろうに、セレスが構えているのは木製の矢で、鏃すらついていないのだ。
ひょう、と矢が放たれる。
それは無数に舞い散る炎花の隙間をするりと抜けて、サクヤの手元に突き刺さる。火山の女神が扇を取り落した瞬間、炎花は溶けるように立ち消えた。
何とか、いたしましたよ
魔法のようなその絶技に、ザナは己の目を疑った。視界を埋め尽くすかのように舞い散る無数の炎花の隙間。そう、それは、確かにある。サクヤの姿が見えていた以上、理屈の上では、あるのだ。
だがそれを射抜くなどとは誰も予想せず、セレス以外の全員が絶句した。
そしてそれは、全知全能の神でさえもまた、同様であった。意識の隙間はほんの一瞬。けれどその一瞬に、動いたものがいた。
ホデリとホスセリの兄妹だ。
彼らとて、セレスの技に目を奪われたのは同様であった。だが幼い頃から鍛え抜かれたその肉体がそして何より、母であり、姉であり、仕えるべき主君であるサクヤへの想いが、二人を考えるまでもなく突き動かしていた。
御免!
二刀と一刀。三振の刀が、交錯して。
見事、です
サクヤは微笑みながらそう囁いて、倒れ伏した。
ホデリとホスセリは残心も忘れ、サクヤに駆け寄る。あの声、あの表情。
疑うまでもない、彼らの主君のものだった。
その背後に立ち、Olがぽんと二人の肩を叩く。
この程度の傷であれば幾らでも蘇生できる。仮にも神だ、人より柔などということはなかろう。奴などこれより酷い状態から三度も蘇生してきたぞ
ラーメスを顎で示すOlに、ホスセリはほっと息を吐く。
殿。では
ああ。よくやった。結界は無事に張れた。一先ずは俺達の勝ちだ
Olは複雑な魔法陣が描かれた巨岩を指し示す。
いくら全知全能と言えど、神は神だ。その力は信仰によって支えられている。単純に、太陽を信仰するものが数多くいるからこその強さである。
Olの張った結界は、その信仰心の伝播を阻害するものであった。結界の作り方は氷の女神マリナに尋ねれば良いだけだ。太陽神の力を損ねるのに最適な術をと。
あとは弱った太陽神から、ソフィアとサクヤの力を引き抜くために交渉するなり制圧するなりすれば良い。皆、ご苦労──
Olのその言葉を、遮るように。
魔法陣を彫られた巨岩は、真っ二つに割れて崩れ砕け散った。
そう、その作戦は紛れもなく最善だった
男のものとも女のものともつかぬ、透明な声色が響き渡る。
問題があるとすれば
信仰を阻害されて力を失うまで、多少の時間がかかることだ
たったの、百年ばかりだが
全く同じ声が、別の口から発せられていた。
即ち、ソフィアの姿をした太陽神と──
虚ろな瞳でこちらを見下ろす、ユニスとスピナからだ。
さて
ユニスの放った斬撃がOlの手にした革袋を引き裂き、粉々に破壊する。
そろそろ幕引きにしようか、魔王Ol
第21話全知全能の神を斃しましょう-4
全知全能という言葉に、いささか過大な表現があるという事は認めよう
狙いすました矢はあっさりと退けられて、炎も氷もまるで効いた様子はなく。
この二人は強敵だった。仕留めるのに随分時間がかかったし、境界の神に遮られていささか不自由な思いをしているのも確かなことだ
ホデリの刀は折られ、ホスセリの手裏剣も底をつき。
けれどあなたにこれ以上の策がないことくらいはわかる。魔王Ol
膝を屈するOlに、淡々と、太陽神は言い放った。
愚かなことだ。氷の女王の言っていた通り、自らの分をわきまえて籠もっていれば平穏に暮らせただろうに
随分と
Olは吐き捨てるように、言葉を返す。
饒舌になったものだな、太陽神よ
ああ。先程取り込んだ、ユニスのせいかも知れないな。まあ、おかげで
太陽神が指先をついと動かす。その動作とともに、セレスの首がストンと落ちて、彼女は死んだ。
こんな芸当もできるようになった
その光景をどこか遠くに見ながら、マリーは呆然としていた。
彼女は今まで一度として、Olのことを疑ったことがなかった。それは彼の言うことを嘘だと思ったことがない、というだけではない。彼が絶対的な庇護者であり、己を守ってくれると言うことを、疑ったことがなかったのだ。
だから今回も、ソフィアが太陽神などという得体のしれない存在になったとしても、さしたる心配をしていなかった。Olであれば何とかしてくれるのだろうという、絶対的な信頼があったからだ。
ここで初めて、彼女はそれを失いつつあった。
Olにも出来ないことがあることを、思い知らされたのだ。
マスター!逃げ
警告を発しようとしたザナが、マグマに巻き込まれて消える。
くっ、ここまでか!
ラーメスが迫りくる壁に潰され、血の花を咲かせる。
か、は!
太陽神がパチリと指を鳴らしただけで、ホデリとホスセリがばたりと倒れる。ザナの死によって氷の壁を作ることができなくなり、太陽神の領域に踏み込んだからだ。
──駄目だ、とマリーは膝をつく。
どうしようもない無力感。足元がガラガラと崩れていくような恐怖と絶望。
それは彼女が、生まれて初めて感じる感情だった。
なんだ?
次は自分か、それともOlの番か。そう思うマリーの耳に、訝しげな声が届く。
視線をあげる彼女の目に映ったのは。
視界全てを埋め尽くす、膨大な数の小さな炎だった。
てください
か細く、震え、緊張に裏返った声。
立って逃げて、ください!
けれどそれは絶望し何も出来ずにただ蹲るマリーに、はっきりとそう命じた。
イェルダーヴさん?
青ざめた表情で震え、涙を浮かべながら、それでもイェルダーヴはしっかりとマリーを見つめる。
逃げるってでも
マリーはOlに視線を向ける。追い詰められた彼の表情は、とてもなにかの策が残されているようには見えない。太陽神の言う通り、万策尽きたのだ。
わ、わたしは自信がありません。じ、自分のことが、信じられ、ません
なおも小さな炎の欠片を生み出しながら、イェルダーヴは独白のように言葉を綴る。
けれど。ご主人様のことだけは信じてる。信じたいと、思います
それはサクヤの生み出した炎花のように美しくも精巧でもなかったが、力強く燃え盛ってマリーたちを囲み守る。
姉さんと、ラーメスさんも同じです。誰も信じない孤高の人が。誰も信じられない孤独な人が。ご主人様のことだけは、信じてここまで、やってきた
イェルダーヴはぽんとマリーの胸を押す。同時に炎が、彼女を包み込んだ。
ラーメスさんにはとても及ばない、弱い弱い炎ですけど。だから、わたしにも、できることがありました
それは、本物の炎にすら劣る炎。柔らかな日差しのような、じんわりと暖かくなる炎だった。
小賢しい!
弱く小さい、しかし膨大な量の炎の壁を突破できずに業を煮やした太陽神が叫ぶ。同時にマグマの奔流が壁を突き破って迸りイェルダーヴは、マリーを突き飛ばして、それに巻き込まれた。
イェルダーヴさん!
跡には、骨一つ残らず。それを嘆き悲しむより先に、マリーは立ち上がり、踵を返してOlへと走った。
Olさま!逃げるよ!
逃げるといっても、どうするつもりだ
周囲は未だイェルダーヴの放った炎が覆い尽くし、部屋から出る唯一の通路は太陽神が立ちはだかっている。逃げ道などどこにもないように思えた。
こうだよ!
マリーは印を組んで、魔術を行使する。
お前!何──
Olが抗議の声をあげるより先に。
二人の姿は、その場から掻き消えた。
──という術を使うのだ!
うまくいったからいいじゃない
マリーが使ったのは、何のことはない。ただの転移の術である。だがそれは本来、極めて高度な計算が必要になる。ほんの僅かに座標を間違うだけで、石の中や空中に転移してしまう可能性があるからだ。
咄嗟に使ったいい加減な術で、少なくとも落ちても怪我をしない程度の高さの空気中に転移できたのは僥倖というほかなかった。
わたし、昔から運だけはいいし
誇ることか、愚か者
マリーを叱りながらも、Olの語気は弱い。
それに命を繋いだとて、どうにもならぬかも知れぬ
太陽神の言ったことは真実だ。もはや打つ手は何もない。
でも、わたし達はまだ生きてる
Olの手をとって、マリーはそれをぎゅっと胸に掻き抱く。
わたしの知ってるOlさまなら、絶対諦めたりしない
Olは目を見開いて、彼女の顔を見つめた。
あの、無邪気だった幼子が、いつの間にこんな表情をするようになったのか。
知った風な事を言ってくれる、愚か者が
そんな事を思い魔王は、微かな笑みを浮かべた。
良かろう。あがくぞ
言って彼は、周りを見回す。そこはちょうど火山の入り口の手前、風のダンジョンの中であった。谷間が雪で埋め尽くされているせいか、ザナが作った氷の壁もまだ消えてはいない。
転移陣を張っていたならまだしも、お前の大雑把な運任せの転移だ。このダンジョンの中にいる間は、俺達の居場所は補足される事はなかろう。それに、お前のその炎
Olはマリーの身体を包み込む、イェルダーヴの炎を指し示す。それはイェルダーヴが死んでしまった後もなお、消えることなく燃え盛っていた。
それは一種の境界として使える。つまりその炎を、俺のダンジョンと規定する。さすればお前の居場所は太陽神に気取られぬ
ふむふむ、それで!?
調子の出てきたOlに、マリーは身を乗り出して頷く。
それだけだ。それが何の役に立つことか
しかしそこで両手をあげるOlに、がくりと項垂れた。
ううー。援軍とか呼べないのかな。あの革袋、もう一個作る事は?
無理だ。ダンジョンと繋ぐには、ダンジョンまで一度戻らねばならん。ここから転移するのは不可能だ
ユニスの転移やミシャの空間を繋ぐ技と違って、転移の魔術はその移動距離によって消費する魔力が決まる。大陸間を転移するのは、ダンジョン中の魔力を使っても不可能だ。
いや。一つだけ方法があったか
ふと、Olはあることを思い出す。ほとんど使ったこともなかったので、すっかり忘れていた一種の魔術。使ったところで何一つ状況は好転しないであろう事はわかっていた。けれど、Olは呪文を口にする。
契約に基づき、アイン・ソフ・Olの名において命ずる
それは転移でも召喚でもなく、召還の魔術。
我が前にいでよ、リルシャーナ!
己の使い魔を手元に呼び戻す術であった。
ずるり、とOlの影が伸び、そこからしなやかな指が生える。
よいしょっとー!
かと思えば、豊かな胸をぶるんと揺らしながら、リルが威勢のいい掛け声とともに飛び出してきた。
はいはーい!Olの右腕にして第一の使い魔、リルちゃんのお出ましよ!
状況をわかっているのかいないのか、場違いな明るさを見せる彼女をOlとマリーは呆然と見やる。
なるほど、確かにひっどい顔してるわね
リルはOlの顔を見て何やら納得したようにうんうんと頷くと、ふわりと彼の頬を両手でおさえ、そのまま口づけた。
いきなり何を!
彼は、全てを思い出した。
太陽神は、おそらく対面した相手の心を読む
そりゃあ全知全能っていうくらいだから、そのくらいはするでしょうね
それはOlが旅立つ前。ラーメスを蘇生させた直後の頃の記憶だ。
問題はそれを防ぐ方法がないということだ。どのような策を練っていこうが、魔術による読心術と違って対抗手段がない
あっ、そっかううーん。読まれても構わない策を練るとか?
リルの言葉に、Olは首を横に振る。
格下が相手ならばそれも可能だろうがな。生憎とそんな都合のいい策はない。なにせ相手は全知であると同時に全能でもあるのだ
じゃあどうしたら
故に。奴に勝つための策を、お前に預ける
頭を抱えるリルの肩を、Olはぽんと叩いた。
わたしに?
ぱちぱちと瞬きして、リル。
そうだ。記憶を封印し、それを封印した記憶ごとお前に渡す。頃合いを見てお前を呼び、記憶を復活させて策を成す。そうすれば奴が心を読めようと問題ない
でもさ。記憶を失ったOlが、もしわたしを呼ばなかったら、どうするの?
Olは珍しく、無責任な言葉を吐いて肩をすくめた。
正直なところ、自信はない。お前はどう思う?どうしようもないほど追い詰められた後、俺はお前を呼ぶと思うか?
少し考え、リルは答える。
呼ぶわ。Olは必ず、わたしを呼ぶ。たとえわたしが何の役にもたたないってわかっていても打てる手がそれだけなら、あなたはわたしを呼ぶわ。絶対に
──そうして。
Olは全ての記憶を彼女に預け、代わりに偽の策を練り上げて太陽神に挑んだのだった。
どう?思い出した?
唇を離し、くすぐるような声色で、リルは問う。
やはり、お前に任せて正解だったな
Olはそれに対して、そう答えた。
え、記憶の引き渡し?
リルが口付けることによって、Olの呪いは解け、封印していた記憶が蘇る。けれど別にそれは誰でも良かったはずだ。
違う。最初に言っただろう
Olは首を横にふって、言った。
俺を信じる仕事は、お前に任せると
──ん。信じてるよ
リルは微笑み、そう返す。
そんな彼女にニヤリと笑みを浮かべ、Olは宣言した。
さあ。反撃を開始するぞ
第21話全知全能の神を斃しましょう-5
これで、最後
くしゃり、と太陽神は手のひらに浮かんだ絵図を握りつぶす。それによって、Olが支配した領域は全て消え失せた。
ふむ?
太陽神の端正な表情が、怪訝そうに歪められる。Olの作った氷のダンジョンを全て消した今、この大陸に太陽神の目の届かぬ場所はないはずだ。にもかかわらず、Olの姿はどこにもなかったからだ。
海に隠れたか、それとも境界の神に頼って逃げ帰ったか
いずれにせよ、もはや抵抗の余地などどこにもないはず。太陽神はOlの行方を些事と切り捨て、意識をダンジョンの外へと向けた。
この大陸に未だ根強くはびこる、有象無象の神々ども。それを全て喰らいつくし
今度こそ、万物を支配するために。
わ。真っ暗ね
その領域に入るなり、リルは声を上げた。何気ない台詞のようだが、ただ事ではない。
なにせ夜に潜み闇を見通す悪魔の言葉なのだ。つまりそれは、尋常の闇ではなかった。
何用じゃ
その闇の中から響いたのは、酷くしわがれた声であった。
まるで数万年歳を取り続けた老婆のような、枯れ果て乾いた声色。
それがどこから聞こえるともなく、辺りに反響していた。
我が名は魔王Ol。汝に願いの義ありて参った
Olは、隣にいるはずのリルさえ見えぬ無明の闇の中、膝をついて声を張り上げる。
火山の神、イワナガヒメよ。汝が妹、サクヤヒメを助けるため、手を貸してはくれないか
──サクヤ、じゃと?
闇の中に響く声の纏う雰囲気が、変わった。
汝がいかにして妾を知り、サクヤとの関係を知ったかは問わぬ。興味もない。じゃが
感情を感じさせぬ枯れ果てたそれから──憎しみに満ちた、燃え盛るようなそれへと。
妾が奴のために何かするなどとは、考え違いも甚だしい!良いか。確かにサクヤは我が妹。だがこの身に奴への情愛など欠片もないわ!あるのはただ憎しみのみ!ましてや助けるじゃと?ハ、全くお笑い草も
娶る
だが、凄まじい勢いで並べ立てられた呪いの言葉は、Olの一言によって水をかけられた小火のように立ち消えた。
いま、なんてゆった?
代わりに返ってきたのはどこか舌足らずな、鈴を転がすような声。
お前を娶ると言ったのだ。この魔王Olがサクヤの夫でもある、この俺がだ
ははははははは!騙されぬ、騙されぬぞ!誰がこのイワナガを嫁に取るものか。サクヤとの関係を知っているのなら、妾についても知っておるのだろう。見目麗しく華やかなサクヤとは似ても似つかぬ醜い姿。いかなる男も妾の前では萎え衰える!
老婆の声に戻って哄笑するイワナガに、Olはローブの隠しから袋を取り出し答える。
結納品ならば用意した。これだ
それは!
彼が取り出したのは、マリナに献上した五品の一つ。ノームが蓬莱の玉の枝としてドヴェルグたちに作らせた、黄金で出来た枝であった。
黄金の枝に翠玉の葉、真珠の実鉱石で出来た木、じゃと!?ま、まるで妾に誂えたかのような
その通りだ。樹木を司るサクヤヒメはなるほど確かに美しい。だが、岩を司るイワナガヒメもそれにけして劣るものではないそれを証明する、世にも珍しい蓬莱の玉の枝だ
真摯な表情で、Olは息を吐くように偽りを口にする。
さあ。その姿を見せてくれ、イワナガ
じゃが見せたら、きっとげんめつする
老婆の声と、鈴のような声。それが入り混じった声色で、イワナガは答える。
するものか。俺を、信じよ
Olの言葉に、ゆっくりと闇は薄れていき、辺りの景色が目に映る。そこはサクヤの火山の遙か地下に作られた、小さな石室。
そして、イワナガヒメはOlのすぐ目の前に立っていた。
確かにその姿は、サクヤとは正反対だ。
ゆるくウェーブした長い薄紅のサクヤの髪に対し、肩口で揃えられた黒い髪は岩のように真っ直ぐで、目元を覆い隠している。豊かなサクヤの胸元に対して、イワナガの胸は何の起伏もなくまっ平らだ。そして何より
一万四千年近く生きているというサクヤの姉であるにも関わらず、その姿は五、六歳の幼女にしか見えなかった。
思った通りだ
Olは跪いて視線の高さを合わせると、イワナガの目元を覆い隠す髪を掬い上げながら微笑む。
サクヤに負けず劣らず美しいではないか
確かにイワナガに欲情するような男はそういないであろう。あまりにも幼すぎるからだ。しかしその造形そのものはけして醜くも不細工でもなく、むしろ美しかった。
子供らしい愛らしさとはまた違う十数年もすれば美人になるだろうと感じさせるような、そんな美しさだ。
だけどわ、わらわせいちょうは、しないの
サクヤが花のような繁栄を象徴する神であれば、イワナガは岩のような永続性を象徴する神である。故にその幼い容貌はけして変わることなく
生まれたときから、サクヤに求婚するものは引きも取らず、イワナガに求婚するものは全くいなかった。故にイワナガはサクヤを妬み嫉み、憧れながらもけして認められないのだった。
もっともサクヤはサクヤで、そのせいで理想を高く持ちすぎて結局Olと会うまで男と縁がなかったりしたのだが。
案ずるな。見ての通り
Olはリルを抱き寄せながら、言った。しかしその使い魔の姿は常とはまるで違う。メロンのようにたわわに実った双丘は引っ込み、むっちりとした芸術品のような太ももは細く短く、男を誘惑してやまない尻は小さくなっていて。
ちょうど、目の前のイワナガと同じ年頃に見えるまでに縮んでいた。
俺はロリコンだ
血を吐くような思いでそう宣言するOlの脳裏で、四本腕の悪魔が快哉を上げたような気がした。
くしゅんっ
一人火山のダンジョンの外を駆けながら、マリーはくしゃみをした。全身暖かなイェルダーヴの炎を纏ってはいるが、火山から雪原に移動してまた火山、という温度変化でやられたのかもしれないな、などと思う。
ええと、この辺りのはずなんだけど
Olから指示されたものを探しながら、マリーは山の麓をキョロキョロと見回すがそれらしいものはまるで見つからない。
げっ
それどころか、木陰から姿を表した小鬼とバッチリ目があってしまった。
見つけた
しかもその小鬼から、例の男とも女ともつかぬ太陽神の声が聞こえたものだから、マリーは思わず表情を引きつらせる。
結界か。小賢しい
その小鬼が自分を指差し呟くのを聞いて、マリーは反射的に自分が今即死させられそうになったことを悟った。イェルダーヴの炎がなかったら成すすべなく死んでいたに違いない。となれば。
ひゃぁっ!
マリーが横っ飛びに飛ぶと同時に、彼女が先程まで立っていた地面が真っ二つに裂けた。即死させられなければ、次はユニスのすべてを切り裂く斬撃だ。あまりの殺意の高さに戦慄しつつ、マリーは当て所なく逃げる。
逃さない
言葉とともに出てきたのは、ユニスの姿をした太陽神だった。英霊も神と本質的には同質の存在だ。つまりはユニスも取り込まれてしまったということなのだろう。
あれ?ってことは
マリーが思わず別の事に思考を飛ばした時。彼女は地面にあいていた穴に躓いて、そのまま穴の中に転がり落ちた。
チ。まあ良い。好都合だ
太陽神がパチリと指を鳴らすと、火山の側面からマグマが溢れ出し、マリーの落ちた穴へと流れ込んでいく。
太陽神が全知の力で確認した限り、その穴の先はなにもないただの地下道だ。
こうしてマグマを流し込んでやればもはや逃げ場もなく、先程の転移のような幸運もそう何度も続くまい。なにせ火山のダンジョンはその殆どを岩で占めている。確率で言うなら生き埋めになってしまう可能性の方が何倍も高いのだ。
そこまで考えて、太陽神はふと違和を感じた。
なにもない地下道?
なぜ、そんなものがこの火山の麓に存在しているのか。無論、山の中には自然にできた火山洞は無数にあるが、ここは火山の外だ。しかも地下道はよくよく見てみれば、レンガを積んで作られた明らかに人工的なものだ。
いやだからといって何になるというのか。逃げ場がないことには変わりがない。ついでに念のため、転移を防ぐ結界を張ってやれば、マグマによって焼け殺される運命は覆しようもない。
案の定マリーは行き止まりの部屋でマグマに追い詰められて
そして、その時、爆発が起きた。
マリーのいた部屋の天井が吹き飛び、それと同時にマリー自身も空高く飛んでいく。何が起こった──そう考えるのと同時に、太陽神の全知の権能がその理屈を感じ取る。
マグマによって圧縮された空気の圧力で比較的薄かった天井が吹き飛び、マリーごと吹き飛ばされたのだ。
そして少女はそのまま空中をくるくると回りながら、すとんと足から着地した。
太陽神の、目の前に。
けれどその姿はつい先程とは全く異なっていた。
アルティメットマリーちゃん
少女はいや。もはや少女とは呼べぬ姿の彼女は。
ぜんせいきのすがた、さんじょう!
五歳児の姿で、堂々とそう宣言した。
第21話全知全能の神を斃しましょう-6
あはははははははは!
幼子の無邪気な笑い声がこだまする。それはまるで、大人と遊んでもらって楽しくて仕方ないと言わんばかりの笑い声だった。
だが、そんな彼女の傍らでは、盛大な破壊音が鳴り響く。壁が真っ二つに割れ、マグマが吹き出し、氷の槍が突き立ち、砂嵐が巻き起こる。
全知全能の神が振るう、ありとあらゆる破壊の渦に狙われながら。
しかし、マリーは傷一つついてなかった。
馬鹿な馬鹿な馬鹿な!何故だ、何故当たらん!?
太陽神は全知である。マリーがどのように動き、何をしようとしているかまで、完璧に把握している。にもかかわらず。
マリーが突然つんのめって転げ、たまたまその瞬間を狙った全てを斬り裂く次元の斬撃が彼女の頭上を切り裂いていく。
その足元を狙ったマグマの隆起が、くしゃみをして立ち止まったマリーの鼻先をかすめて虚しく通り過ぎる。
ならば全てを飲み込んでくれると放った砂嵐に乗って、マリーの軽い身体はふわりと浮いて飛んでいき、おもしろかった!もっかい!などとおかわりを要求される始末だった。
それらはどれもマリーが狙ってかわしたわけではない。
たまたま、運良く、偶然、当たらなかっただけに過ぎない。
だがそれが十度も二十度も続けば、何かがおかしいのはわかった。
わかったが何故そうなるのか、全知の能力を持ってしてもわからないのだ。
ならばこれでどうだ!
太陽神はマリーの進む先、通路全体を崩落させる。ダンジョンは太陽神にとって肉体そのものに近しい。小さな傷ならばともかく、大規模な崩落となると流石に痛みが走る。しかしその傷を負ってでも今のマリーを止めなければならないと、全知の力が警鐘を鳴らしていた。
あははははは!
マリーは楽しそうに笑いながら、臆することなく崩落する通路に突っ込んだ。
ははははははは!
その笑い声に重なって、別の笑い声が響く。
漲る全能感が、マリーを支配していた。小さな頃、Olのダンジョンのもとに来たばかりの頃いつも感じていた、その感覚。長じてからはそれがただの錯覚であり、自分はただ庇護されていたに過ぎないと気づいた。
けれど
いっくよー、ローガンっ!
おうよぉっ!
マリーの影から飛び出した四つ腕の悪魔が、崩落する天井をいともたやすく吹き飛ばし、空いた隙間を幼女は猫のようにするりとすり抜ける。
──今のマリーは、無敵だ。
いわれたとおり、いわにあなをあけた。あれでいいの?ええとおっと?
うむ。助かった、イワナガよ
Olが礼を言うと、イワナガは嬉しそうに彼にぴっとりと寄り添った。
ううん、つまが、おっとにつくすのはとうぜんのことだから。あと、チルって呼んでほしい
チル?
木花散姫(このはなちるひめ)。それがわらわのほんとうのなまえだから
咲く姫に散る姫。なるほど、正反対か、とOlは納得する。
ほかにしてほしいことはある?おっと
いや。この二つで十分だ
Olがチルに協力を頼んだのは二つ。
一つは、太陽神の目も届かぬこのチルの石室に匿ってもらうこと。
そしてもう一つは、彼女が保護する領域の一部に穴を空けてもらうことであった。
それで結局何したの?夫
対抗せんでいい
チルの反対側からすっと身体を擦り寄せてくるリルの頭をぽんと叩きながら、Olは説明する。
この大陸に来たばかりの頃、テナの奴を若返らせた仕掛けを覚えているか?
ああ何だっけ。甦りの坂だっけ
それはテナたちの村の地下に作った地下通路。進めば進むほど、通るものの時間を過去へと戻していく坂だ。
チルが守護して隠していた村の結界を一部だけ解き、マリーをそこへ誘導した。効果はご覧のとおりだ
岩壁に映るマリーの活躍を示して、Ol。
けど小さくなったら普通、むしろ弱くなるんじゃないの?
Olやテナのように老齢から若返ったのならまだわかる。だが訓練を積み、心身ともに成長したマリーが五歳児の姿に戻って強くなるというのは不思議な気がした。
あいつは昔っから運がやたらいいだろう
運の良さでどうこうなる話?あれ
おかしそうに笑みを漏らすOlにリルは首を傾げる。
ああ。魔術の本質というのは因と果の逆転だ。火口と火打ち石があるから火がつくのではなく、火を付けたからそこにあるものが燃えるように奴には、健やかに育つ呪いがかかっている。故に大人になるまではけして害されず傷つかぬ
でも、その呪いって全知全能を覆す程なの?
どんな呪い、魔術にも、明確な限界というものはある。いくら因果を逆転させるとは言え、それはOlの能力以上の力を発揮させる事はないはずだった。
無論、そんな力はない。むしろそれはただの触媒に過ぎぬ
Olにそんな力があるのなら、自分自身に無敵になる魔術でもかければいいだけの話だ。効果という意味では殆どない。そもそも、一度大人にまで成長したマリーからは既にその呪いは失われているはずだ。
真に奴を無敵足らしめているのは法術。そして、相性だ
相性?
法術によるものというのはわかる。つまりあれはマリーの法術なのだ。
無から有を生み出し不可能を可能にする魔術とは真逆に、法術というのは可能をより強化し偶然を必然へと至らしめる術だ。そしてその源は、かつて魔導王と戦い滅んだ天なる神。太陽神と同じ力を使っているのだから、対抗できるのはわかる。
法術とは信じれば信じるほど強くなるものだから、今のマリーは自分を、ローガンを、そしてOlをこれ以上ないほど信じ切っているのだろう。それは、理解できる。
けれど全知全能に相性なんてあるものだろうか、とリルは首を傾げた。
マリナの啓示とテナの予知。共通する欠点は何だと思う?
どうなるかわかんないことでしょ
それはOlが何度も口にしていたことであった。未来を読むはずのテナの先見ですら、その先見自体によって未来は変化し、けして確定した出来事を知ることは出来ない。
そうだ。知るという事は、未来を歪める
故にマリナの啓示はその結果を知らせることなく、最善手のみを提示する。
あ。待って。わたしわかっちゃったかも
不意に思いついて、リルは声を上げた。
太陽神が、全知だからでしょ
その通り。あいつの全能とは、文字通りの全能ではない
もしそうであるなら、どうしようもなかった。タツキが海を支配していようと構わず干渉し、塞の神が境界を区切ろうとOlを見もせずに殺す。そのような存在であるなら、勝ち目などない。
だが、そうではなかった。
だからこそ、太陽神は最初に遭遇した時に、Olとテナの会話を言い当ててみせた。本当に自分が全知であると思わせるために。実際にはそれは、Olの記憶を読んだだけの事だ。
全てを知り、それに対処するが故の全能だ。原因のない事には対応できない
そして。全てを運に任せた今のマリーの行動は、太陽神にはどうしようもない事だった。
無知全能。今のマリーは、それだ
いくら考えを読み、行動を推測し、原因を突き止めようと全ては無意味。絶対的な幸運のもとに、あらゆる妨害は失敗する。
──そして。そのマリーに指示を送るOlは、全ての盤面をチルの石室から見渡し把握しながらも、石ころ一つ動かすことは出来ない。
即ち、全知無能。
無知全能と全知無能。片方だけでは意味を持たぬそれも、二人合わせれば全知全能を超えることが出来る。
奴の敗因は、ただ一つでしかないことだ
第21話全知全能の神を斃しましょう-7
おうマリーちゃん。そこを右だ
岩を反響しながら伝わってくる念話を、ローガンはマリーに伝える。一体どこからOlが自分たちの様子を知り、どうやって伝えているのか。それはローガンにもわからないことだったが、わかる必要もないことだ。
重要なことは、ただ一つ。
幼女サイコーッ!
心のうちから湧き上がるような、その衝動だった。
さいこー!
マリーはそれを無邪気に真似て拳を振り上げる。その動作で、彼女は反応しようもないタイミングで壁から飛び出した岩の槍をぴょんと飛び越えた。
これである。成長後のマリーだったら、若返っただけなのにそれでいいの?などとこまっしゃくれたことを口にしていただろう。だが今のマリーは違う。身も心も、若返っているからだ。
最近の自分は随分らしくない事が多かった、とローガンは思う。いくら幼い頃から面倒を見ていたとはいえ、自分の興味の対象外まで成長した少女の面倒を何くれとなく見たり、それで窮地に陥ったり、シリアス展開をしてみたり。
らしくない。実にらしくない。
イエス、ロリータッ!
ローガンは衝動にいざなわれるまま、拳を振り上げ。
ノータッチ!
四方八方から迫りくる岩、炎、氷、砂嵐を全て防いだ。
全知全能と言えど!ロリにお触りは厳禁だぜ、太陽神さんよぉっ!
全身に力が満ち満ちている。何故かなど、考えるまでもない。
最高のロリと共に駆けているからだ。
しかも新たなロリの気配もするしな一万年ものの極上のロリの気配と完璧なロリの匂いだ
べろり、と舌なめずりをするローガン。
ねえ、ろーがん
はいっ!何でしょう!?
そこで突然マリーに話しかけられ、反射的にローガンは居住まいを正す。
こーげき、こなくなったね
だがその無垢な唇から紡がれたのは、呆れでも叱責でもなく、ただの素朴な疑問だった。
ああっ、やっぱこの頃のマリーちゃんマジ天使じゃなくって、言われてみりゃあそうだな。諦めたか?
先程の飽和攻撃をローガンがノリだけで防いだからだろうか。間断なく仕掛けられていた太陽神の攻撃が、ぴたりと止んでいた。
全知全能に、諦めなどない
かと思えばすっと行く手に太陽神の姿が現れ、そう告げる。
こんにちはー
マリーはぺこりと頭を下げて挨拶した。その下げた頭のすぐ上の空間を、ユニスの斬撃が切り裂いていく。
無駄だってのがわっかんねえのかなあ。折角のユニスの無駄遣いだぜ全くよ
呆れながら、ローガンはユニスに向けて炎を二つ三つ放り投げる。
ユニス本来の剣技がまるで使えてねえじゃねえか。単に何でも斬る斬撃を放つだけだったら怖くも何ともないぜ、全知全能さんよ
あらゆるものを燃やすはずのローガンの炎はあっさりと切り伏せられ、消滅する。だがそれだけだ。ユニス本人であれば、それと同時にローガンをバラバラにするくらいはしてのける。
そらよ
だから牽制の炎を無数に放つだけで簡単に動きを止められる。しかもユニスを操っている間は本体は動かせないらしく、他の攻撃の手も止むからいっそ普通に攻撃されるよりも楽なくらいだ。
確かに私の能力ではあなた達を殺すことは出来ないようだ
そしてとうとう、太陽神はそれを認めた。
だが同時に、あなた達の能力で私を殺すことも出来ない。それとも試してみるか?その幸運とやらで、私を倒せるか
誘うように腕を伸ばす太陽神に、ローガンはチッと舌打ちする。マリーの幸運は、偶然を必然に引き上げるもの。万に一度を万に万度にするものだ。
ローガンとマリーでは、太陽神に万回挑んで一度も勝てない。法術とはゼロを一に出来るような性質のものではないのだ。
ま。知ったこっちゃねえな。行くぜ、マリーちゃん
ローガンはマリーの背を押し、先を急ぐ。どこを目指しているのか、何をしたらいいのか。そういった詳しいことはローガンも知らされてはいない。
Olの旦那が何とかしてくれんだろ
だがローガンは楽観的にそう考え、さほど気にしてはいなかった。
そして
太陽神が、笑みを浮かべる。
その結界も、永遠に持つものではない
マリーを覆う炎が揺らぐのを見て、ローガンは己の失策を悟った。太陽神の目的は攻撃ではない。会話による、時間稼ぎだ。
くそっ、待て、待ちやがれ!
ローガンは消える炎に叫びながら、マリーを抱き上げ通路を急ぐ。
遅い
その炎がふっと立ち消え──そして、太陽神の指がパチンと鳴らされた。
わー!
そしてその、一瞬後。
はやいはやーい!
そこにはローガンの角を掴んで楽しそうにはしゃぐマリーの姿があった。
太陽神とローガンは、図らずも同時に間抜けな声をあげる。
馬鹿な!これだけは幸運でどうにかなるわけが!
パチン、パチンと何度も太陽神は指を鳴らす。それは己の領域にあるものを支配するという神の権能そのもの。結界がなくなった今、一万回試せば一万回マリーは死ぬはずの攻撃だ。運良く避けるとか、無効化されるとか、そういった事がありうる種類のものではない。
だが現実に、マリーは一向に死ぬ様子もなく、楽しげにローガンに揺られるのみ。
どうなってんだ?
何故マリーが死なないのかは、ローガンにすらわからなかった。
そういえばあれどうなってんの?
あれとは何だ
Olの膝にごろんと頭を乗せて尋ねるリルに、Olはわかっていながら問い返す。
マリナに渡そうとして、結局いらないって言われたやつ。氷のダンジョンで火蜥蜴の皮使って、石のダンジョンでメリザンドの器。風のダンジョンで竜の骨使ってえーと。ほら、あれもまあ、アレしたでしょ
不思議そうな顔をするチルに、リルは慌てて言葉を濁す。
で、最後に一個なんか残ってるはずじゃない。なんだっけ、えーと
スピナの作った、燕だな
迂闊な奴め、とリルの頭をぐりぐり圧迫しながら、Olは答えた。
あ、そうそう。それだ。アレは流石に使いどころないんじゃないの?
燕と貝の特徴を併せ持った気色の悪い生き物の姿を思い出し、リルは顔をしかめる。
何を言う。今まさに役に立っているだろう
Olは岩肌に映るマリーの姿を示していった。
え?何に?
呪殺避けだ
回避も防御も不可能な、絶対必殺の攻撃。それを防ぐのは簡単だ。
対象を、ずらしてしまえばいい。
流石に太陽神本人には効かないだろうが、他の存在に死を押し付けるのはそう難しい魔術ではない。そしてマリーの服の裏地に無数に張り付く燕貝が死んでいる事に、太陽神が気づくことはない。
なにせ死んでいるのは指先ほどの小さな貝だ。それを見逃す事は十分に有り得る。十分に有り得るということは、今のマリーに対しては絶対に見逃すということになる。
太陽神の絶対の権能は、どのような存在であろうと必ず殺す。故にそれがちっぽけな魔法生物であろうと、人一人であろうと、手応えは一切かわらない
かわらないから、己が何を殺しているかにすら気づけない。その全知で知ろうとすれば簡単に知れるだろうに。
全能ゆえに、己の能力に絶対の自信を持っているがゆえに、見逃すのだ
第21話全知全能の神を斃しましょう-8
何故だ。どうしてこうなった。自分は何をしているのか。
太陽神はマリーを追いながら、そう自問していた。
魔王Olなど取るに足らない存在だったはずだ。
ましてや子供の姿に戻ったマリーなど、脅威になるはずもない。
──いや。今なお、脅威ではないのだ。いくら殺すことが出来なかろうが、相手の攻撃も太陽神には通じない。ならば脅威などであるはずがない。別に殺さずとも、捨て置いても構わないはずの存在だ。
しかし同時に太陽神は心のどこかで、マリーを警戒していた。
取るに足らない子供一人と思いながらも、彼女が己に破滅をもたらす存在であるという直感が、どうしても拭い去れない。
否否否否!断じて否!私は全知全能の神、まったき太陽神!あのような小娘を恐れる道理などない!
己に言い聞かせるように叫び、太陽神はマリーを追いかけながらダンジョンの壁を操作する。幸運によって攻撃をかわすというならば。即死が効かないというならば。
逃れようのない死を持って、圧殺するのみだ。
マリーが逃げていった先は、大きな部屋が一つあるのみの行き詰まり。出口も封鎖して、その中を今度こそマグマで満たしてしまえばいい。ダンジョンの中は太陽神が支配する領域だ。先程のように壁や天井に穴を空けて逃げるということも出来ない。
ようやく捕らえたぞ
逃げ場のない部屋の中央で、戸惑うように周りをきょろきょろと見回すマリーに、太陽神は溜飲を下げた。
全くてこずらせてくれた。その健闘を、大いに評価する
太陽神はマリーの目の前に姿を表し、パチパチと手を叩きながらそう告げた。
四方からはマグマが迫り、どのような幸運があろうともはや逃げようもない。太陽神自身はマグマの熱など何でもない。苦労させられた礼に、そのもがき苦しむ様を存分に見物してやろうと思った。
一つ、聞きたいのだが
そんな時、出し抜けに男の声がした。
Ol!一体、どこから
振り返る太陽神の視界に、魔王の姿が映る。先程まで全知の力を使ってもどこにも見つけられず、死んだか逃げたかしていたと思っていた男の姿が。
太陽神というのは、風呂に入るのか?
その男は突然、奇妙な問いかけをした。
色々あがいたが、もう勝負はついた。そのくらい答えてくれてもよかろう
いいだろう
どうやって隠れていたかはわからないが、かえって好都合だ。こうして目の前に姿を現した以上、Olの命はもはや太陽神の手のひらの上。確かに彼の言う通り、今度こそ勝負はついたということだろう。
全知全能たる私に、そのような必要はない。そもそも只人のように汚れることなどないからだ
答える太陽神に、なるほどな、とOlは頷いた。
道理で気づかぬわけだ
あった!
Olが言うのと、マリーが声を上げるのは同時であった。
気づかぬ?何に
言いかけ、太陽神はOlの記憶を読んで全てを悟る。
ここは、風呂だ。お前が初めて現出した場所。そして──
やめろ!
太陽神は振り返り、マリーを止めんと腕を伸ばす。
俺が、ダンジョンキューブを落としていった場所だ
でておいでソフィア
拾ったダンジョンキューブを掲げ、マリーはその名を呼ぶ。
名は、神に力を与える。マリーがソフィアと名付けたのは、ダンジョンの神だ。全て太陽神に取り込まれても、その力の名残は全てのダンジョンに残っている。
だから太陽神は全てのダンジョンを一繋ぎにし、支配した。独立したダンジョンがあれば、それを奪い返されかねないからだ。
けれどその全知の目からすら、それは見逃されていた。
四方半フィート(約十五センチ)の、極小のダンジョン。そもそもそれをダンジョンと認識するものは、世界でもごく少数だからだ。
太陽神にそっくりなしかし、手のひらに乗るほどに小さな神の姿が、渦を巻いて現れる。それこそはかつてソフィアがダンジョンキューブの使用権をOlから貸し与えられた時の名残。僅かに残った、ソフィアという神の残照であった。
馬鹿な!何故!
太陽神は叫ぶ。有り得ないことが有り得べからざることが起きていた。
何故生きている!?
Olの背後から現れたのは、確かに殺したはずのザナ、ラーメス、ホスセリ、イェルダーヴ、スピナの姿。
全知の太陽神をも騙し通すとは、私の作った生き人形もなかなか悪い出来ではなかったようですね
宿ってるあたし達自身が気づかないくらいだもの。そりゃ気づかないでしょ
珍しく自慢気に言うスピナに、ザナは疲れさえ滲ませて言った。それぞれの髪を一房切り取り作られた肉の人形。いつの間にか彼女達はそれに乗り移らされていたらしい。
マグマに飲まれた時は流石に死んだと思ったし実際死んだのだが、気づけば石造りの部屋の中にいた時には、地獄というのは随分Olのダンジョンに似ていると思ったものだった。
慌てて逃げ出そうとする太陽神は、ダンジョンの中であれば自由に移動できるはずの己が身が全く動かないのに気づく。
言っただろう。もう勝負はついたと
マリーからダンジョンキューブを受け取りながら、Olは言う。
お前はもう─
──わたしのいぶくろのなかだよ!
Olの台詞を奪って、ソフィアがそう言い放った。
ダンジョンキューブの見えざる迷宮(ラビュリントス)が太陽神を覆い尽くし、己の領域としている。そこはもはや太陽神のダンジョンの中ではなく、ソフィアのダンジョンの中だ。そして神は己の領域の中でその最大限の力を発揮できる。
ソフィアを取り戻すことは不可能だと、そういったな
かえしてもらうよ!
太陽神の姿がぶれて、いくつもの影が飛び出す。
大丈夫か。ふたりとも
Olは両腕を広げ、ユニスとサクヤを抱きとめた。
必ず助けてくださると、信じておりました。旦那様
ちゃんとあたしも抱きとめてくれる辺り、Olっていい男だよね。好き
二人は己を受け止めた夫を、嬉しそうにぎゅっと抱き返す。
それは私のものだ!
太陽神が、力を取り戻して十歳程度の大きさにまで戻ったソフィアに手を伸ばす。力関係はまだ太陽神の方が強いのだろう。ソフィアの身体が引っ張られ、その輪郭がブレていく。
マリー、今だ!奴に名をつけろ!
えっえっ
突然Olに命じられ、マリーはきょろきょろと辺りを見回した。
えーと、じゃあラー!
彼女がそういった瞬間、太陽神の動きが止まり、その姿が光に包まれる。
今完全にラーメスの方見て言ったでしょ。そんな適当な名前でいいの?
わかんない!
呆れ半分のザナに、マリーは屈託なく笑った。
いいや、それで良いんだ。そうだろう?ラーメス
余の名、ラーメスとは、ラーの創造せしもの、という意味だ
Olの問いに、ラーメスはどこか苦しげな表情で答える。
そうする間にも光り輝く太陽神の姿は歪み、ソフィアとは全く別の姿へと変貌を遂げていく。美しい女神の姿から包帯を巻かれた骸の姿へと。
即ちラーとは余の親。亡き父上の事を指す
ラアアメスゥゥゥ!
性別を感じさせる超然とした声色はもはや面影もなく、地獄の底から響き渡るような声で太陽神ラーは、ラーメスの名を呼ぶ。
そのようなああああ、浅ましい、姿でえええ、恥を、晒すかああああ
浅ましいのはどちらだ
びくりと身を震わせるラーメスを庇うようにたち、Olは言い放った。
死してなお子に取り付き、神の力を掠め取り、自ら太陽神を名乗る偽神めが
違う!我こそは全きもの!万物の支配者!全知全能の──
必死に否定するラーに、Olは告げる。
お前はただの、死霊だ
それはただの言葉ではない。ソフィアの力の乗った宣言。
ラーの化けの皮を剥ぎ、その力の全てを奪う宣告だった。
助けよおおおお!ラーメスうううう!私を父を!
マリーの付けた名によってそのあり方を規定され、Olの宣告によって残った力も失っていくラーは、己の子に腕を伸ばして助けを乞う。
父上
そんな彼を、ラーメスは複雑な表情で見つめた。
私を助ければ、お前も!王の中の王に!万物の支配者となれるのだぞ!
もがき苦しみながら、ラーはそう訴えかける。
Ol。すまぬ
ラーメスは数歩進むと、その手に炎を浮かべながらOlたちに向き直った。白い炎は万物を滅ぼす神の炎。彼女が太陽神の力を取り戻した証だ。
ラーメス
声をかけようとするOlを制し、ザナが一歩前に進み出る。
あんたね
彼女は長く深くため息をついて、言った。
タメとかいらないから、とっととやっちゃいなさいっ!
その言葉と同時にくるりと振り向き、ラーメスが炎を叩き込む。
何故だ!何故だああああ!
怨嗟の声とともに燃えていく死霊に。
助けるわけあるか、クソ親父っ!
ラーメスは、そう言い放った。
第21話全知全能の神を斃しましょう-9
終わった、のよね?
燃え尽き、影さえも残らず消えたラーの姿に、ザナは呟くように尋ねた。
ふむ。試してみるか
Olは言ってザナに向きなおると、問いを放つ。
マリナ。俺の質問に最善手で答えよ。ラーは消滅したか?
はい。完全にこの世から消滅しました
ザナの口を借りて、月の女神マリナが──正確には、その権能が答える。
ななにそれ!?
答え終わるなり、ザナ本人が声を上げた。
何だ?お前、記憶を返してもらっていないのか?リルの奴め、またいい加減な仕事をしおって
ぼやくOlの胸ぐらを掴み、ザナは問いただす。
ラーの奴に心を読まれるから記憶を消したのだ。今のように、マリナの権能で聞いたラーの情報を、全てな
元々、マリナの最善手の力は、ザナもマリナも知らないはずの異国の言葉を完全に齟齬なく話すことが出来る程の力を持つ。
その結果がどうなるかマリナすら知らないが故に、マリナが知らぬことでさえ説明することが出来るのだ。
俺がまず聞いたのはこうだ。俺が今敵対している、まったき一つの太陽神と称するものの正体は何だ?とな。すぐにウセルマートの父、セテプエンラーの亡霊が太陽神の力を奪ったものと答えが返ってきた
そんなの、アリなの!?
あまりにも身も蓋もない神の力の使い方に、ザナは思わず叫んでしまった。ではOlには最初からわかっていたのだ。何もかもが。
アリに決まってるだろう。最善手を打つ能力だぞ。最善の使い方をするに決まっておろうが
ラーとの戦い自体にそれを用いるつもりは、Olにはさらさらなかった。結果がどうなるか、自分が何をするのかすら予想できない能力など、信用できるわけがない。だがしかし、その能力で得た情報は間違いのないものだった。
ラーの手を逃れて隠れ潜んでいる神、チルの存在。マリーの法術の可能性。それぞれのダンジョンで必要となるもの。ありとあらゆる質問を三日三晩しつくして──そして、その記憶を全て捨て、Olは戦いに挑んだのだ。
アリかナシかで言うと、本当はナシなのですけれどね
ザナの口を借り、マリナが少し困ったように言う。この方法を成り立たせるには、何に対して最善であるかをOlが規定できなければならない。だがマリナの啓示は本来そのような軽々しい使い方をするものではない。
飽くまで、マリナの考える最善に導くためのものなのだ。
お兄様には、今回だけ特別です
太陽神イガルクも関わっている話ですから、とマリナ。流石に神が人に無制限に力を貸してしまっては、世界の秩序も乱れてしまう。
余からも礼を言おう、魔王Ol
出し抜けに、ラーメスがいつも以上に尊大な口調でそう言い放った。
貴様。アトムか
その正体を言い当てるOlに、ラーメスの身体を借りたアトムは鷹揚に頷く。
此度の件、余としても遺憾であった。よもや同じ太陽の神の親和性を利用し、無理矢理に力を奪われるとはな
戯言を言うな
厳かに告げるアトムに、Olは身体の芯から凍りつきそうな声でいった。
太陽神ともあろうものが、たかが死霊ごときに四柱も纏めて良いようにされるわけがなかろう
ホスセリに乗り移っていたククルはかつての栄光を取り戻したい、とそう言っていた。それはおそらく、フウロの国の復興でも再生でもない。ただ一柱の太陽神としての栄華の事だ。
そしてその望みは、おそらくソフィアを除く三柱に共通する思いだったのだろう。
わはははは!バレてしまってはしょうがない
Olに図星を突かれたアトムは、罪悪感を微塵も感じさせぬ屈託のない表情で笑った。
何、そう構えるな。こうして負けた以上、我らにこれ以上どうこうする力はない
反射的に警戒するOlに、どこか愉快そうにアトムは言う。
次の機会を待つさ。千年後か、二千年後かま、お前さんのような男がおらぬ時代をな
そう言い放ちラーメスの顔から、アトムの表情が消える。そして彼女は、すぐさま己の頭を抱えた。
ラーメス。お前、信仰を変えたほうが良いのではないか
検討する
唸るように、ラーメスはそう答えた。太陽神はけして悪神の類というわけではないのだ。ただ野心に溢れすぎ、人の都合を大して重要視していないだけで。
そして何より。
パパ
その野心に巻き込まれる形になった娘の声に、Olは振り返った。
ごめんなさい迷惑、かけちゃって、ごめんなさい
謝ることはない
ぼろぼろと涙をこぼす娘の頭を、Olは優しく撫でてやる。
でもわたしが、わがまま言ったからこんな、ことに
それの何が悪い
断固とした口調で、Olは言った。
子は親にわがままを言うものだろう?
その柔らかな緑の髪を指で梳いてやりながら、続ける。
ましてやお前は俺の娘であり妻でもあるのだからな
パパ!
ソフィアはぱっと表情を輝かせると、Olに一も二もなく飛びついた。
好き。すき!だいすき!
その豊かな双丘を押し付けるように、ぎゅうぎゅうと抱きしめるソフィア。しかしふと何かに気づいたように、彼女は視線を下に向けた。
でもわたし、ちゃんと奥さんのお務め、できるのかな
その脳裏に浮かぶのは、太陽神に取り込まれる直前のこと。ソフィアを抱こうとするOlのものが、どうしても萎えてしまう光景だった。
それについては既に原因も対策も考えてある湯を張ってくれるか?
うんというか、ダンジョン、全部戻すね
ソフィアが言った途端に轟音とともに大地が揺れ、しばらくして収まる。それとともに壁から湯が湧き出してきて、浴槽を満たし始めた。元々の火山があった場所から湧き出していた温泉に、水路が繋がったのだ。
リル、皆に連絡を
Olが掲げた革袋にするりとリルが入り込む。
あれ、それ壊されてなかった?
俺が予備を用意しておらぬわけ無いだろう
首を傾げるザナに、Olは当たり前のように答えた。そう言いつつも、彼自身記憶を取り戻すまではローブの隠しポケットに予備が入っていることに全く気づかなかったのだが。
あの、皆って?
ソフィアにはまだ紹介しておらぬものもいたな
一体何が始まるのかと戸惑うソフィアにOlがそう答えた時、浴室の扉が開いた。そこから現れたのは、何人もの美女たちだ。
紹介しよう。エレン、セレス、ミオ、ナジャ、Shal、ウィキア、Faro、オリヴィア、パトリシア、プリシラ、ノーム、メリザンドユツにテナ、タツキ、サクヤ、ホスセリ、ミシャとザナ、イェルダーヴは知っているな。それに、ラーメスあとは
わらわも、くわえて
現れた女性たちの名を呼ぶOlが岩壁に目を向けると、その中からするりと小さな姿が現れた。
お姉様!?
ミレニアムロリキターーーーーー!!
チルの姿に目を見開くサクヤの驚きをかき消すような勢いで、マリーの影からローガンが飛び出す。
一万年以上生きてるらしいけど、ロリなの?
わかってねえな
素朴な疑問を口にするリルに、ローガンはちっちっと指を振って答えた。
例えば犬猫が五歳と言ったらそりゃもう立派な大人だろ。その逆で、成長速度が極めて遅いだけで、成長しないわけじゃねえ。一万年経っても、立派なロリつまりミレニアムロリだ
何がつまりなのかはわからなかったが、それはチルにとっては聞き逃がせない情報だった。
まことか?わらわ、せいちょうできるのか?
おうよ。まああと十万年くらいしたら、俺のストライクゾーンから離れるんじゃねえか
恐らくは、本当だろうな
ローガンの言葉を、Olは保証した。事この手の話に限っては、ローガンの言うことは恐ろしく正確だ。そう言えばこいつ、全知全能の神すら気づかなかったチルの存在を感知してなかったか?と思い出す。
お待ち下さい!妾は!?妾は十万年後どうなるのです!?
知るか、ババアの成長になんか興味ねえよ!
妾の方が妹なのに!?
チルとは打って変わって雑極まりない対応に、サクヤは愕然とする。
連れて行け
パチン、とOlが指を鳴らすと、ローガンの四本の腕をエレンの四人の部下がそれぞれ担ぎ上げて引きずっていく。
あっ畜生Ol何しやがる!もっとロリと話させろ!アイルビーバーック!あっでも俺の下の右腕担いでる子は結構発育悪くていい感うおぉっ!矢を刺すな、矢を!あれっこれなんかヤバい毒が入って──
やかましい悪魔が物理的に沈黙して静かになったところで、Olは気を取り直してソフィアに向き直る。
ゴホン。これにリル、ユニス、スピナそしてお前の母、マリーの四人を加えて、皆、俺の妻お前の、仲間だ
思ってたより大分多いという言葉を飲み込んで、ソフィアは頷く。
あの時お前を抱いてやれなかった理由は単純だ。お前に魅力がないわけでも、俺の覚悟が出来ていなかったわけでもない。ただ俺の精力が足りなかっただけだ
精力が、足りない?
Olの発言に、妻たちがざわめいた。七日七晩不眠不休で女を犯し続け、百人を超える相手を一度に満足させてもなお衰えぬOlの精力に、足りないなどと言うことがあるとは思えなかったからだ。
ソフィア。お前は地に隠れる太陽の神であり、同時にダンジョンの神でもある。つまりその権能は常に内側に作用する
己のダンジョンの中であれば自在に操ることが出来るが、それも言ってしまえば内側の定義を拡張しているに過ぎない。
故にお前の体内は神気で満ちあらゆる術を無効化する
理屈としてはピラミッドの中で術を使えないのに近いのだろう。違いは、既に発動している術や呪いをも一時的に解除してしまうということだ。
つまり。お前に挿入しようとする時、俺の一物は九十三歳のそれになる
ソフィアは息を呑んだ。今のOlの姿は、魔術によって若返ったものだ。魔力での回復なしでもOlの精力は絶倫と呼んで良いものだが、それとて若い肉体があってのこと。本来の肉体は、今すぐ死んでもおかしくないほどの高齢なのだ。
じゃあじゃあ、わたしは、やっぱり
対策はあると言っただろう
目を潤ませるソフィアに、Olはきっぱりと言い放つ。
でも、どうやって?
仮にもソフィアは全能の神なのだ。意識せず働いている権能を打ち消すことなど出来ないのではないか。
そう心配するソフィアに、Olは言った。
百手前の爺であっても女を抱けるほどに、興奮すれば良い
第21話全知全能の神を斃しましょう-10
そ、そんな事して死なない!?
若返りが解けると言っても局部だけの話だ。心肺機能や脳に衰えがなければ問題ない
Olはそう言ってソフィアを全能の神を、押し倒した。
んっむ、ふちゅるるん、ふ、ぅんちゅぅんむふはぁ
そのまま唇を奪われ、たっぷりと舌で舐られ絡め取られて、Olの唇が離れる頃にはもはや抵抗の気力もなく、ソフィアはとろとろに蕩けた表情で満足気に息をつく。
なんかもうこれだけでも、満足かも
何を言う。これで終わりなわけがあるか
ぐったりとするソフィアにそう言い放つと、Olは彼女の服を脱がしにかかる。それと同時に、周囲を取り囲んだ他の妻たちも衣服を脱ぎ始めた。
わ、凄い
白磁のような白から黄色みを帯びたベージュ、褐色から黒まで、様々な色の肌がOlの周りをぐるりと取り囲む。共通するのは、どれも美しい裸身だということだ。
失礼します。Olさまのおちんぽ様に、ご挨拶させて頂きますぅ
艶めかしい妻達の姿にムクムクと頭をもたげたOlのペニスに、真っ先に近づいてきたのは白アールヴの僧侶、Shalであった。
では、私もご一緒させていただこう
こういうのも久しぶりね
そこに元冒険者仲間であった女剣士のナジャ、魔術師のウィキアが加わって、三人は顔を寄せ合い膨れ上がった亀頭にちゅ、ちゅと音を立てて口づける。
お背中、お流ししますね
そういってざばりと背に湯がかけられたと思えば、ミオがその純朴な顔つきに似合わぬ豊かな乳房を泡立てて、Olの背中に優しくこすりつけてくる。
我々も協力しよう
今回の活躍のご褒美はまた今度、ですね
それに倣ってエレンとセレスも胸をスポンジ代わりに泡立てて、三対六つの柔らかな肉がOlの広い背中を隅々まで洗っていく。
ではあたし達は前側を失礼しましょうか
はーい、っと。こういう時身体小さいのは便利だよね
ノームとFaroが、跪いて口淫奉仕するShalたちの隙間を縫うようにしてその小さな体を割り込ませ、Olの胸元へと舌を這わせる。
旦那様。お手を拝借いたしますね
サクヤがたおやかにOlの右手を取ると、それを豊満な己の胸の谷間に埋めていく。
姫様。私も手伝う
うううこ、このような孕めもせぬ破廉恥な真似は恥ずかしいのだが
そして挟みきれなかった前腕を、前後からホスセリとミシャが乳房で挟み込んだ。
これは負けておれん!いくぞイェルダーヴ。余とおっぱい合わせだ
お、おっぱえと、胸を、こうすればよろしいのでしょうか
その様子を見てラーメスは己の果実を突き出すように胸を張ると、イェルダーヴと押し付けあってOlの左腕を挟む。
そしていっそ優しい声で、ラーメスは氷の女王に語りかけた。
お前にはこの戦いはついてこれまい。そこで指を咥えてみておけ
やかましいわ!
ザナは叫んで、しかしその勢いとは裏腹にOlの手のひらを優しく両手で掴む。
別に胸なんてなくったってねOlを喜ばせる方法なんか幾らでもあるのよ
そしてその指を口に含み、一本一本丁寧に舐め清め始めた。
その通りです、異国の貴き方
ザナの言葉に答えたのは、元フィグリア王妃、オリヴィアである。リルやサクヤ、ラーメスにすら勝る巨乳の持ち主がそれを言うのはともすれば嫌味に聞こえただろうが、ザナはそう受け取らなかった。
オリヴィアが、二人の娘、パトリシアとプリシラと共にOlの左足に舌を這わせて献身的に奉仕し始めたからである。
たつきもおうるの足食べる!
ほ、本当に食べちゃ駄目ですよ?タツキさん
ではこちらは、このような趣向ではどうじゃろうか
タツキが嬉しそうにOlの右足の指を咥え込み、ユツとテナが脛の辺りに乗るようにして、そのすべすべした尻を押し付ける。狸とキツネのふさふさとした尻尾が撫でるように揺れて、Olの性感を刺激した。
じゃ、わたし達はOlの目を楽しませてあげるとしましょうか
リルがその豊かな双丘を両手で持ち上げ、淫靡に舌をちろちろと伸ばしながら自ら揉みしだき、ぐにぐにと柔らかな肉が形を変えるさまを見せつける。
どうぞ私のすべてを、御覧ください、お師匠様
スピナは大きく脚を開いた姿勢で、己の秘所を指先で割り広げ、そのピンク色の粘膜の奥までをもOlの前に晒してみせる。
うう、ちょっとこういうのは、流石に恥ずかしいね
ユニスはいつになく照れた様子で言いながらも、四つん這いになってOlに尻を向け、ふりふりと腰を振って誘惑した。
うふふそれじゃあ、そろそろこの逞しいおちんぽ、頂いちゃいますね
よだれを垂らしそうなほどに発情し、Shalは反り立つ男根を凝視しながら嬉しそうに言うと、それを己の膣内に収める。
あぁっOl様のおちんぽ、気持ちいいですぅっ!Shalのおまんこにずっぽり入って、イっちゃイっちゃいますぅっ!
早いわよ
ぎゅうっと締め付けるShalの膣口でOlのペニスを扱き立てるかのように、ウィキアがShalの身体を引き抜く。
次は私の番ね。んっ
そして愕然とした表情のShalをよそに、Olの腰に跨ると怒張を咥えこんだ。
いや、元々そういう話だっただろう。何を驚いてるんだ
ナジャがそう言って、数度抽送を繰り返したウィキアと代わってOlの剛直を迎え入れる。そうして、Olの身体を取り囲んでいた美女たちは入れ代わり立ち代わりOlと交わっていった。
それは自らが気持ちよくなるための性交ではなく、Olを高ぶらせるための愛撫。手や口、胸を用いてするのと同じような、膣口での奉仕であった。
頑張ってね、ご主人様
リルがそう言いながらきゅっと肉槍を締め上げて口づけ。
お師匠様どうか、ご武運を
スピナが祝福を授けるように接吻し。
Olならきっと大丈夫だよ。ね
ユニスがOlの首に腕を回して、濃厚に舌を絡める。
さ、仕上げだよ、Ol
そうしてリルが示す先には、若返ったままの姿のマリー、それに合わせて本来の姿に戻ったメリザンド、そして不安げな表情のチルの三人が一糸まとわぬ姿で横たわっていた。その実年齢は平均六千を超えるとはいえ、恐ろしく背徳的な光景だ。
いくぞ
うん、きてててさま
他の誰にも聞こえぬような小さな声で、メリザンドが甘えた声を上げる。その小さく狭い膣口に、Olの肉塊が突き入れられた。
メリザンドが、痛みに表情を歪める。魔導王のかけた不犯の呪いはミシャの境界をくぐり抜ける権能で無効化出来るが、その不死の呪いまではそうもいかない。行為を終える度にメリザンドの純潔の印は甦り、何度肌を重ねようと身体は慣れることなく痛みを帯びる。
大丈夫、だ
けれどその心、想いまでは呪いとても縛ることが出来ない。そうして互いの暖かさを知る度にメリザンドの心はOlに惹かれ、その思慕は身体から硬さを減らし、幸福で満たしていく。
今のわたしにはこの痛みさえも愛おしい
その言葉に誇張はなく、メリザンドは目尻に涙を浮かべながらもOlを受け入れていた。
チル。本当に良いのか?
メリザンドから引き抜いて、Olは岩の女神にもう一度、問う。それは二つの意味を持っていた。会ったばかりの男に操を捧げて良いのか。そして、このような形で初めてを迎えてもいいのか、というものである。
わらわでほんとうに、こうふんしてくれるのだな
小さな手が、Olの猛った肉に触れる。それは火傷しそうなほどに熱く、岩のように硬く張り詰め、目の前の女の中に入りたいと声高に主張しているかのようであった。
してほしい。わらわをおんなとしてみているのだと、じっかんさせてほしい。ほかのおんなたちとサクヤとおなじようにだけるのだと、おしえてほしい
つい、と切っ先をあてがうチルのそこは、リルの手によって如才なくこれ以上ないほどに柔らかくほぐされていた。とは言えあまりにも小さなその入口を、Olはぐっと腰に力を込めて押し入っていく。
く、ぅぅ!
苦悶の声とともに、チルはその小さな全身でOlにぎゅっとしがみつく。
もう少しの我慢だ
まるで岩で出来た扉を押し開くかのように、Olは彼女の膣奥までを貫いた。
はぁ、ぁ
チルの目元から、涙が溢れる。それは苦痛ではなく、悦びの涙だった。
いちまんねんいじょうわらわは、だれにもかえりみられることがなかったきらわれ、うとまれ、とおざけられてひとりこどくに、いわのへやにいた
チルはOlの頬に両手で触れると、微笑んで言った。
そんなわらわをおっとは、ほんとうにあいしてくれるのだな
即座に答え落とされる口づけを受け入れながら、チルは幸福に打ち震えた。
正直に言えば、自分は利用されただけだと思っていた。Olはただチルの力が必要だから娶るなどと口にしたのだと。
チルはそれでも良かった。他者から必要とされること、それだけで十分に嬉しかった。けれどもOlがくれたものは、彼女の予想を遥かに超えていたもので
しあわせでおかしくなりそうだ。いまは、これでじゅうぶんまんぞく。つぎのおうせを、たのしみにしてる
チルは心の底から、そう伝えた。
おうるさま
そして、自分をすっぽりと覆うように抱擁する男の顔をじっと見つめ、マリーは潤ませる。
わたし、わたしね。ほんとうはずっと、このころからOlさまに、ぎゅってしてほしかったの
自分が大人にまで成長した記憶は、彼女の心のなかにある。けれど今のマリーにとってそれはどこか遠いおとぎ話のように実感のないもので、十年分の積み重なった想いだけが、彼女の幼い心の中に息づいていた。
おうるさまをこまらせないように。かなしませないように、いわなかったの。でもいまは、いってもいいんだよね?
頷くOlに、マリーはぎゅっと抱きついた。
あのね、おうるさま。マリー、おうるさまのこと、だい、だい、だいすきだよ。すっごくすっごく、すきなの
幼い、けれどもそれ故にこれ以上ないほど真っ直ぐな好意の形を、マリーははっきりと口にする。
だからマリーのこと、およめさんにしてほしい
Olの声色は、口調とは裏腹にこれ以上ないほど優しく。
とっくにお前は、俺の妻だ
やったぁ
ふにゃん、と笑うマリーの表情に、Olは思わずドキリとする。一瞬、幼女趣味(ロリコン)も悪くないかもしれぬ、などと思いかけてしまった。
一瞬よぎりかけた悪魔の顔を振り払うように、Olは自身をマリーの蜜壺へと押し当てる。できるだけ痛みを与えぬようにと慎重に押し込もうとすると、意外にもマリーの小さなそこはあっさりとOlの太く硬いものを飲み込んだ。
一瞬の困惑のあと、法術がまだ効いているのかと理解する。全能の神の攻撃を尽くかわす程の奇跡があれば、この程度のことは何でもないだろう。
そうではない。法術などはおまけに過ぎない、とOlはすぐに考え直す。マリー自身が、心の底からOlと結ばれたいと思っている。だから、その身体がOlを受け入れているのだ。
Olはマリーの小さな体をぎゅっと抱きすくめ、抽送を始める。たっぷりと蜜をたたえたマリーの膣内はするりと奥まで男を飲み込んで、それでいて千切らんばかりのキツさで締め付けてくる。
んっあ、んっ
マリーの唇から、幼くも艶めかしい吐息が漏れる。その無垢な体と心で、ちゃんと感じているのだ。
Olは背を曲げ、マリーの可憐な唇を奪う。するとすぐさま、Olの差し入れた舌に小さな舌が応えた。拙い動きで、しかしそれでも一生懸命にちゅうちゅうと吸い付き、舌を絡め返してくる。
マリーの短い手足がぎゅっとOlにしがみついて、射精をねだるように腟内がきゅうきゅうと収縮する。Olの我慢が限界に至る寸前、マリーの身体はぷるぷると小さく震えた。気をやったのだ。
ふぁんっ
己の内から男根が引き抜かれる感覚に、マリーはもう一度絶頂に達して甘く鳴く。今すぐこの娘を穢し犯してやりたい、という衝動を必死に堪えて、Olは残る一人に視線を向けた。
パ、パぁ
眼前の幼女とは真逆に、成熟しきった肢体を持つ娘。ソフィアが、度重なる性交を目の当たりにし、発情しきった身体でもどかしそうにOlを呼んだ。
二十三人の妻の膣で扱き立てられ、三人の処女を立て続けに奪った男根ははちきれんばかりに屹立し、行き場を求める精液が袋の中でグツグツと煮立っているかのようだった。
きてぇ
両腕を伸ばし求めるソフィア。もはや言葉は不要であった。Olは一も二もなく彼女の身体に伸し掛かると、その極上の肢体を貪るように味わう。しっとりと手に吸い付くような肌。もっちりとした、この上ない程大きく柔らかな乳房。瑞々しく甘い、とれたての果実のような唇。
その全てを堪能しながら、Olは鉄のように硬く反り立った怒張を、一気にソフィアの膣内へとうずめた。
彼女の中へと入り込んだ先から、魔術が解ける感覚がわかる。しかしそれは微塵も硬度を失うことなく、ソフィアの純潔の証を突き破って、そのまま白濁の液を彼女の膣奥へと撒き散らした。
同時にソフィアも絶頂して、ぎゅうっとOlの身体にしがみつく。一滴たりとも取りこぼさぬと言わんばかりに彼女のすらりとした脚がOlの腰に巻き付いて、蠕動する膣内がOlの男根を締め付けながら扱きたて、さらなる射精を誘う。
二人とも微動だにせぬままたっぷり数十秒、絶頂の快感とその余韻とを味わって
は、ぁ
やがてソフィアの体中からこわばりが抜けて、彼女はくたりと脱力した。破瓜の痛みすら気にならぬほどの多幸感と快感が、彼女の意識をふわふわと漂わせる。
これで終わりではないぞ
だが、まどろみにも似たその感覚は、突き入れられる熱い肉の塊によってすぐに覚醒させられた。
えっな、なんで!?
たっぷりと精を放ったはずのOlの剛直は、むしろ更に熱く硬く膨れ上がっていた。
お前の中を、征服した
それは、Olが太陽神との戦いでやったことと全く同じことだ。吐き出し、塗り込めた精液でソフィアの膣内を己の領域と規定し、その境界を奪い取った。故にOlの男根は元の若々しさを取り戻してそして、散々昂ぶらされた獣欲は、一度の射精で萎えるようなものではなかった。
ひあぁうっ!
いきなり全く容赦のない本気の突きを入れられて、ソフィアは高く鳴く。しかしそれは苦痛ではなく、快楽の声。
なんでぇっ!あぁっ!
膣内の一番感じる部分を、ピンポイントで貫かれたからだった。
お前は俺のダンジョンだ
たっぷりとした胸を鷲掴みにして、その先端を指先で捏ね回しながらOl。
だからその身体のことは、隅々まで全て誰よりもよく知っているとも
はぁぁんっ!
きゅうと摘み上げれば、奔る快感にソフィアは悲鳴のような喘ぎ声を上げた。
あんっ、あぁんっ!だめぇ、そこ、あっ、やぁんっ!
Olの言葉に偽りはなく、触れられる場所、突かれる場所、全てがソフィアの急所を的確に抉って、彼女はただただ翻弄され快楽に身を捩りながら鳴き声をあげることしか出来なかった。
あっあっ、また出てる、また出てるよぉっ!
何度も何度も気をやって、何度も何度も膣内に射精されながら、二人は獣のように交わり続ける。
オウ、ルぅ
くいと肩を引かれる感触にOlが顔を上げると、目の前には切なげに眉を寄せるユニスの顔があった。
ごめんでも、もう、我慢できないよぉ
くちゅくちゅと秘所に自らの指を這わせながら、彼女はそう訴えた。
今回はソフィアと交わる協力をするためのものだと、了解してはいた。いたが、あまりにも濃厚なOlとソフィアの交わりに当てられて、もう限界であった。
そして、それは何もユニス一人に限った話ではなかった。
周りを取り囲んで一心に視線を向ける妻たちの顔を見て、Olはソフィアを見た。
ソフィアはこくりと頷いて、この上ないほど幸せそうな表情で、言った。
みんなで、たくさんえっちしよ
瞬間、Olの姿が数人に分かれた。
これは!?
わたし達は四人が一人になってたんだから逆も、出来るかなって
驚愕するOlに、ソフィアは答える。いくつもの形代を操っている時の操り人形を操っているような感覚とは違い、すべてのOlが意識を持ち、その感覚を共有していた。
そしてそれと同時にソフィアを含む二十七人の妻達もまた、その感覚を共有する。それはソフィアとOlの二つのダンジョンの、睦み合いであった。
ソフィアの奥を突きながら、サクヤを抱き寄せ胸を鷲掴みにし、ユニスの舌を貪りながら尻を掴んで弄ぶ。
リルの胸を両手で揉みしだきながら、ミオの献身的な口づけを受け入れ、馬乗りになったザナに種付けする。
スピナの喉奥に精を流し込みながら、メリザンドとマリーの膣内に指先を突き入れ膣壁を擦り上げる。
ナジャとエレンの褐色の胸を鷲掴みにしつつ、寄せ合ったもう片方の乳首を纏めて口に含んで吸い上げ、オリヴィアのたっぷりした乳房の間にペニスを挟んで犯す。
床に突っ伏すようにして尻を高く掲げ、秘所を指で開いて晒すユツ、イェルダーヴ、Shalの膣内へと交互に突き入れる。
左右から抱きつき口づけをねだるセレスとパトリシアに応えながら、ラーメスの頭を両手で抱え、その口を激しく犯す。
塔のように重なって尻を向けるウィキア、ホスセリ、ノームの六つの穴を、順番に指と口とペニスとで満たしていく。
プリシラ、Faro、テナが顔を揃えてOlのペニスに舌を這わせ、チルとミシャの膣内を指で擦り上げながら、タツキが両手で掬い上げるようにして掲げる乳房を唇で食んでいく。
舌、唇、胸、膣、尻、ありとあらゆる部分で感じる快楽が互いに何重にも重なって、Olは間断なく妻達の身体に吐精する。相手を変え、組み合わせを変え、行為を変えて、何度も何度も。
──太陽がのぼり、そしてもう一度沈むまで。その宴は、続いた。
拝啓。パパ、ママのみんな、おげんきですか?わたしは元気です。
相変わらずトスカンおじいちゃんは厳しいけれど、ダンジョンの運営もだいぶ軌道に乗って、やっと何とか一段落といった感じです。
ザナさんやラーメスさん、サクヤお姉ちゃん達とも仲良くやってます。ザナさんとラーメスさんは相変わらず喧嘩ばっかりしてますけど、あれはあれで仲がいいんだと思います。思うことにしました。
ところで最近タツキお姉ちゃんを見ないんですが、どこに行ったか心当たりはありませんか?タツキお姉ちゃんの事だから心配ないとは思うんですが、心配です。
そう言えばラーメスさんは、結局太陽神の棄教を決心したみたいです。代わりにこれからはわたしを信仰すると言われてちょっと困ってます。
これから寒くなる季節ですが、お体にはくれぐれもお気をつけて。また手紙を出しますね。
──親愛なる、ソフィアより。
Olは愛娘からの手紙をゆっくりと読み上げると、長く息を吐きながら椅子に身体を預けた。
あのあと。Olは新大陸に別れを告げ、己のダンジョンでの生活に戻った。ミシャとの契約は、一年しか持たない。自由自在に境界を操る術をなくし、Olは遠い地の娘と会う方法を失った。
なにせ船で行こうとすれば片道一ヶ月かかる距離である。多忙な王であるOlが娘と会うためだけにそうそう留守にする事もできず、ソフィアの方は己の領域であるダンジョンを離れられない。
航路自体は確立できたから交流はあるものの、こうして送られてくる手紙だけがよすがであった。新大陸での一年あまりの冒険と戦いが、まるで夢物語のように感じられてしまう。
もう一度深く息を吐き、Olは返事をしたためようと羽ペンにインクをつける。
ジリリリリリリ、と侵入者を示す警報が鳴り響いたのは、その時のことだった。
何事だ!
この警報の音は、Olが初めてダンジョンを作ったときから変わらぬもの。即ち、ダンジョンの最奥、Olの住む居住区まで侵入を許した時の音だった。
そこまで侵入するような相手は滅多にいない。ことに、こうしてダンジョンを天と地に分けてからは初めてのことであった。
侵入者はどのような奴で、何人だ!?
それが、何ていうか
Olに問われたリルは、何やら妙な表情で言葉を濁す。どういう事だ、と問い返す暇もなく、いきなりOlの部屋に大量の水が流れ込んできた。しかもただの水ではない。舌先に感じるピリピリとした塩気に、Olはそれが海水であると知る。
おうるー!
そして思考がその存在に至るより早く、飛びついてきたタツキにOlは押し倒された。
タタツキ!?
あいにきたよー!
ぎゅむぎゅむとOlの顔を己の胸に押し付けるように抱きついてくる海の女神に、流石のOlも目を白黒させた。
ここまで泳いで、来たのか!?
船の距離で一ヶ月。難攻不落の罠と魔物に満ちたダンジョン。それを海水とともに、渡ってきたというのか。
そうだよ!
よもやと思いつつも問うたその言葉に、ざばりと周囲の海水を纏うようにしながら、タツキはこくりと頷いた。
明らかに海からは遠く離れているが、海水さえ周りにあれば問題ないというのか。
言うのだろうな
相変わらずのむちゃくちゃぶりに、Olは声を上げて笑った。
リル。タツキの部屋を用意させろ。この調子でダンジョン中を塩だらけにされては敵わん
とりあえずお前はこの中にでも入っていろ
Olはそう言って、ダンジョンキューブを展開し即席の浴槽を作り上げる。
あ、なつかしい、これ!
タツキは海水ごとちゃぷんとその中に入り込んで、踊るようにくるくると泳ぎ回る。そういえば最初にタツキと出会った時も、こうしてダンジョンキューブの中に捕獲したのだった。
しかし自由な奴だ。他の神は己の領域を離れられぬと言うのに
いやと、Olは思う。それは自分も同じことだ。
だって、海はぜーんぶつながってるんだよ
腕を広げ無邪気に言うタツキに頷きかけて、Olは目を見開く。
そうか。はははは!そうか、その手があったか!
すぐさま彼は執務机に座って、計算を始めた。
こちら側とあちら側、どちらが早い?いや、言うまでもない、双方からだ。となれば綿密な計算が必要になる地図をしかし海の上でどうやって
ぶつぶつと呟きながら羊皮紙に複雑な計算を書き連ねるOlは、ふと己をじっと見るタツキに視線を向けた。
タツキ。お前は、海の神だよな
うん。そうだよ
であれば海の形を、正確に描けるか?
こんな感じ?
くるくるとタツキが空中に指を走らせると、海水が意思を持っているかのように鎌首をもたげ、宙に絵を描く。それは二つの大陸や島々を空白にした、克明な海図であった。
素晴らしい!
Olは思わず立ち上がって、濡れるのも構わずタツキをぎゅっと抱き寄せる。
やんっ、おうる、たつきの事たべちゃうの?
悪いがそれは後回しだ。これから忙しくなる。悪いがお前にも協力してもらうぞ
Olの言葉に、タツキは不満げに唇を突き出す。
無論ただでとは言わん。美味い飯を存分に食わせてやる
やるぅ!
だが続く言葉に、一も二もなく同意した。
ではゆくぞ、マリー
うん。Olさま
Olとマリーは二人で一振りのつるはしを握ると、それを壁に振り下ろした。その一撃で、鈍い音を立てて壁に小さな穴が空く。かと思えば次の瞬間、壁は溶けるように消えて、掘り抜かれた岩壁は石造りのレンガに包まれた。
パパ、ママぁっ!
そしてほとんど間を置かずに、ソフィアがOlとマリーの腕の中に飛び込んできた。
久しいな、ソフィアよ
元気だった?
Olとマリーは愛娘の柔らかな身体を抱き返す。
着工から、僅かに数ヶ月。
二つの大陸を結ぶ長大な海底トンネルが、開通した瞬間であった。そしてそれは同時に、二つのダンジョンが一続きとなった瞬間でもある。
驚異的な工期の短さはソフィアのダンジョンの神としての権能もさることながら、タツキのもたらした海底の詳細な地図とOlの計算、魔王軍の誇る工作部隊、事故や失敗を防ぐテナの予知にマリナの最善手の権能など、ありとあらゆる手段を尽くしての結果であった。
じゃあ、連れて行くね!
ソフィアがそういった次の瞬間には、Ol達はもう見覚えのある部屋へと移動していた。火山のダンジョンに作った、Olの寝室だ。
己の領域の中でなら全能の力を揮えるソフィアの権能を持ってすれば、ダンジョン内ならどこへでも一瞬で移動できる。つまり、船で一ヶ月かかる距離を、これからは一瞬で超えられるということだ。
三つ指をついて、サクヤがOlを出迎える。
ずっとお待ちしておりました
泣くでない
頬を濡らすサクヤを、Olは言葉少なに抱き寄せる。
いいえ。これは嬉し涙です
その胸に顔を埋めるようにしながら、サクヤはそう囁いた。
えっと、盛り上がってるところ水をさすようで悪いんだけどさ
抱き合う二人の横から、気まずそうにザナが声をかける。
同じことをうちにも何とか出来ないかって
そう言って、彼女が指差したのは居城である氷の城ではなく、真上。
──マリナ様が
遥か彼方、月の上であった。
Olは妻達を抱き寄せて。
次は月にも届くダンジョンを、作ってみせようではないか
笑いながら、そう宣言した。
んっふぁああっ
純白の城の中に、艶めかしい声が響く。
もうお兄様ったら
咎めるようでいて、どこまでも男を許す甘い声。
そんなに胸に吸い付いても、まだミルクは出ませんよ?
そして同時にどこまでも甘え、媚びる女の声であった。
ほう。まだということは、神というのは人の子を孕むものなのか?
その白い居城の主──月の女神マリナを膝に乗せ、寝台に座るのは琥珀色の髪を持つ中背の男。魔王Olであった。
対面座位の形でマリナを貫きながら、右手で彼女の左胸を弄びつつ、ピンと尖った右胸の先端を唇でついばみ、舌先で転がす。
ぁん稀にですけど、そういったこともあるみたいです。神といってもんっ生き物であることに、代わりはありませんからや、ぁん、そんな、甘噛みしちゃあっ
最近のマリナの口調は神としての威厳に溢れた厳かなものではなく、まるで本当の兄に甘えているかのような、砕けた気安いものへと変化していた。
なるほど。では、しっかりと種を仕込んでやろう
もうっそんなこと言って、容赦なく中出しするのはいつものことじゃないですかああんっ!
口を封じるように一際強く突かれ、マリナは高く声を上げる。
嫌だったか?
別に、嫌というわけではありませんけどもう
マリナは唇を尖らせ、Olの顔を恨めしげに見やる。
本当に孕んだら、こうして睦み合うこともできなくなっちゃうじゃないですか
その可愛らしい物言いに、Olは思わず笑みを漏らした。
あっ、わ、笑わないでください!これでも、お兄様との逢瀬を、わたしはそれはもう楽しみにしてるんですからね?
わかっているとも
Olはマリナの背に腕を回し、その全身を抱えるようにして抽送を始める。
あっそんな、深いっ!
だが、だからこそ、子でもいればお前の心も慰められるのではないかと思ってな
月の上にはなにもない。真っ白な砂漠だけが続く、不毛の大地だ。マリナはその上からザナたち氷の民を見守ることによってのみ己を慰めてきたが、そんな生活が寂しくないはずもない。
わたしとお兄様の、子
呟き、マリナはその光景を想像する。その幸せな未来図に、彼女の膣口はきゅうとOlを締め付けた。
お前の身体は乗り気のようだな
お兄様ぁっ!あっ、あぁっ!
身体の奥底から湧き上がってくる快楽と喜びを堪えるように、マリナは両手両足をOlの背に回してしがみつく。しびれそうなほどに子宮が疼き、自分がOlの子種をどうしようもないほど欲していることを、マリナは自覚してしまった。
はいっ!孕ませて、妊娠させてくださいっ!お兄様との子、産みたいですっ!
なら、産ませてやる。俺たちの子がこの白い大地に満ち、ここに楽園を作り上げるまで何度もだ!
~~~~~~っ!
ずん、と奥を貫く一撃とともにそう宣言され、マリナは盛大に気をやった。だと言うのに、Olはお構いなしにマリナの身体を揺らし、膣奥を蹂躙する。
あぁぁっ!お兄様ぁっ!だめぇっ!わた、し、イッ、て、あぁんっ!
パンパンと濡れた肉のぶつかり合う音を響かせ、マリナの白い尻を持ち上げながら、赤黒い暴力的な肉塊を何度も彼女の華奢な股の間に出し入れする。その度にじゅぷじゅぷと音を立てて吹き出す愛液は白くにごり、泡立っていた。
やぁっ、だめぇっ!あ、あ、あ、あぁっ!も、もうっ!ゆる、許し、あぁんっ!お兄、様ぁっ!こんなの、おかしく、なっちゃうぅっ!
間断なく絶頂させられ、悲鳴のようにマリナは懇願する。
どうして欲しいか言ってみろ
中に、膣内に出してくださいっ!お兄様のぉっ!子種ぇっ!精液、ください、あぁっ!犯して、中に出して、孕ませて!おなかっ!わたしの、おなか、おっきくしてっ!赤ちゃん、作ってくださいっ!
マリナの両脚がOlの腰をぎゅっと締め付け、秘部がぐりぐりと押し付けられる。言葉だけでなく全身を持ってOlに種付けをねだるマリナに、Olの限界も訪れた。
ではイくぞ!しっかり孕めよ!
はいっ!ちゃんと、妊娠しますっ!お兄様の、赤ちゃんっ!ちゃんと、孕むからぁっ!
腹の中でOlの男根が一際大きく膨れ上がるのを感じ、マリナはぶるりと身体を震わせる。一瞬の後、その先端から白濁の液が吹き出して、膣内を犯していくさますらはっきり見えるかのような質感。
それを感じながら、マリナは自分がほとんど無意識に膣口をキツく締め付け、Olのペニスを絞り上げるかのように腰を上下させていることに気がついた。
マリナ。それは
程なくしてOlもそれに気づく。その動きは、マリナの権能によって齎されたものであった。すなわち、最善手。目的に辿り着くために最も優れた手段を講じる力。
つまり今マリナは──神としての力を使ってまで、全身全霊で孕もうとしている。
膣口で浅ましくちゅうちゅうと精液を啜りながら、マリナは顔から火が出そうなほどに赤面した。
では、またな
はい。いってらっしゃいませ、お兄様
マリナの居城から少し離れた場所。月面に穿たれた巨大な井戸の前で、マリナとOlはそう言葉を交わした。
こうしてOlがマリナに会いにこれるのは一月に一度。満月の晩だけだ。それ以外では塞の神の力を持ってしても、大地から遠く離れたこの地に辿り着くことはできない。
ここで引き止め、夜を明かしてしまえばと、マリナはいつも思わずにはいられない。たった数刻Olの足を止めれば、少なくとも次の満月までは共にいることが出来る。
しかし、それは許されることではなかった。ただでさえ広大な国を治め、無数の寵姫を有する魔王であるOlが、忙しい合間を縫って丸一晩、マリナのために時間を割いてくれているのだ。それ以上を望めば、Ol自身はともかくとして、彼の愛妻たちが黙っていないだろう。
この度の結果は、その時にはわかるでしょうか
下腹を擦りながら、マリナは微笑む。そして言ってしまってから、まるで試すような真似をしてしまったな、と反省した。
何。できていなければ、できるまで試すだけの話だ
だが事も無げにそう答えるOlに、マリナは思わず彼の首に抱きついて口づける。
マリナ。あまり誘惑するな。名残惜しくなる
ごめんなさい
あながち社交辞令でもなさそうなOlの言葉に、マリナは渋々身体を引いて彼から離れた。
それではまた、一月後
ええ。また月の満ちるときに
小さく手を振るマリナに目配せをして、Olは井戸へと降りる。
──それが。
魔王Olがこの世界でかわした、最後の言葉となった。
第1話新たなダンジョンで目覚めましょう-1
いない。いない。いないいいないいない!
タンスを開け開き、ベッドの下を覗き込み、ゴミ箱をひっくり返し。
一体どこに行っちゃったのよ!?
薄っすらと涙さえ浮かべつつ、半狂乱で彼女──魔王Olの第一の配下であり、最も信を置かれた右腕であり、最愛の妻の一人でもある淫魔リルは、叫んだ。
そんなところにいるはずがないでしょう
いつになく苛立ちを滲ませた口調で言いながら、各地に使わせた分体達の視界を探るのはOlの一番弟子にして半人半スライムの魔女、スピナ。
ねえ、ソフィア。本当にダンジョンの中にはいないんだよね?
うん三回も全体走査をかけたけど、どこにも見当たらないよ
不安げに眉を寄せて問うのはダンジョンで育った少女、マリー。そしてダンジョンを司る神、ソフィアがそれに答える。
月からは帰ってきてるんだよね?
ただ一人、いつもとそう変わりない落ち着いた態度で問うのは、英雄のユニス。
そのはず例の地上に繋がった井戸に降りたところまでは見送ったって。マリナ様もパニックに陥ってるから、隠しているとかは無いと思う
難しい表情をしながらも、マリナを信仰する氷の女王、ザナはそう答えた。
ねえ!マリナの最善手の力とかいうので、探せないの!?
マリナの能力は、強力であるがゆえにそう気軽に目的を設定できるものではない、とは聞いていた。だがマリナ自身が狼狽えるような状況であれば、話は別なのではないか。
やってるわよ!やってるけどないの!あいつに、繋がる糸が!
一縷の望みを託してリルが問えば、ザナは堪えきれずに怒鳴り声をあげた。マリナの能力は目的を達成するための最善の手を導き出すものであって、何でも出来る万能の能力ではない。
その目的を達成する方法が一切ない場合、何もできない。
嘘、でしょ
その意味を悟って、リルはぺたんと地面にへたり込んだ。
あたし──
ぽつりと、ユニスは決意を秘めた声色で、呟くように宣言する。
あたしの能力なら
やめなさい
だがそれを、スピナが止めた。
なんで?あたしの能力なら、Olがどこにいようとそこに行ける!
ユニスの英霊としての名は跳ね駒。その権能は自由自在の転移である。ことに、その能力の根本をなすOlがいる場所へは、ユニス自身が場所を把握していなくとも転移することが出来るという、規格外の性能を持つ。
それで安全に戻ってこられるのであれば、ザナの啓示にそう出ているでしょう
だがしかし、欠点もあった。転移する前に、転移先の状況を知ることが出来ないのだ。
お師匠様は、何らかの原因で未曾有の事態に巻き込まれています。おそらくこの世界にはいない。魔界か、もっと別の場所か。いずれにせよ、月の女神の力の及ばぬ地に。であるならば、ユニス。あなたの能力も通じない可能性が高い
英霊の能力とは、すなわち神の力の残照のようなものだ。神自体の格の差を差し引いても、神そのものであるマリナの力と、既に滅んだ神の力を更に英霊の数だけ分割したものとでどちらが強いかは明白だ。
だったら、なおさら!
アークを親なし子にするつもりですか?
スピナの一言に、ユニスはたちどころに勢いを失った。
アークユニスとOlの間の子、アルクレインはもうすぐ三歳になる。だいぶ言葉も達者になったが、もしユニスが帰ってこれなかった場合、その理由を説明しても理解できないだろう。
Olにとっては唯一の男児でもある。リルやスピナ、他のダンジョンの面々とて彼を無碍には扱わないだろうが、Olとユニスの庇護がなくなれば、つまらない諍いに巻き込まれないとも言えない。
それでも、と言いかけて、ユニスは握りしめたスピナの拳から血が垂れ落ちているのに気がつき、はっと息を呑んだ。
愛情の絶対量ならユニスとて負ける気はしないが、Olへの忠愛という点においてはスピナに勝るものはいないというのは、誰しも認めるところである。もし犠牲になるのが自分であるなら、スピナは一片の躊躇いもなくそれを実行するだろう。
だが、そのスピナが、ユニスを止めたのだ。それはもちろんユニスへの友情やアークへの愛もあるのだろうが、最も大きな理由はOlを想うがゆえ。Ol自身が、ユニスが危険を犯すことを決して許さないだろうという確信を、誰よりも強く持っているがゆえであった。
大きく息を吐き、全身から力を抜いてユニスは呟く。
大丈夫よ
その肩をぽんと叩き、リル。
Olは絶対生きてる。あいつがそう簡単に死ぬもんですか。それに、Olが死ねばわたしは自動的に魔界に送還される契約だしね
マリナの権能すら届かぬ先で、その契約がどれほど有効なものか。何の保証にもならないとは知りつつも殊更明るい声を出すリルに、ユニスは頷いた。
ぐ、う
ずるずると音を立てながら、壁面に預けたOlの身体が地面へとずり落ちていく。
身体が熱い。視界が霞む。息が苦しい。とても立っていられない。
(一体、何が起きた?)
マリナと別れ、地上の井戸に出るはずであった。そろそろ階段でも作ったほうがいいかもしれない、などと思いながら、しかし実際に辿り着いたのは、見た覚えもないダンジョンの中であった。その上、謎の不調が体中を覆っている。その症状に覚えがあるような気もしたが、激痛と悪寒によって思考もうまくまとまらない。
突然、壁が彼に迫り、ひんやりとした石造りの床が頬にぶつかった。一瞬の後、Olは壁が迫ってきたのではなく、自分が倒れ伏したのだと気づく。だが気づいてもどうにもならなかった。四肢に力は入らず、視界はますます霞んでいく。
目近に見える床石に、Olはふと、雑な仕事だ、などと呑気な事を思った。Olのダンジョンはもっと細かく、しっかりとした石組みをする。
その粗雑な床石を歩く、軽い足音が伝わった気がした。もはや目は見えず、耳とて聞こえない。Olが感じたのは床石のかすかな振動だ。
──
Olはそれでも顔を上げ、何事か口に出す。
しかし何と言ったのかは自分ですらわからぬまま、彼の意識は闇に沈んだ。
第1話新たなダンジョンで目覚めましょう-2
ここは?
次に目を覚ましたとき、Olは覚えのないダンジョンの一室で寝かされていた。壁も床も天井も、ついでに言えばすえたような酷い匂いも、Olの管理するダンジョンとは全く違うもの。
横たわる彼の背には何かの皮のようなものが敷かれていて、石床の硬さと冷たさをほんの僅かでも和らげようという意思が感じられた。もっとも、その努力はほとんど無意味なものだったが。
シギケヴ、ィヴ、ク?
聞き慣れない言葉と声に目を向けると、部屋の入口扉代わりであろう、粗末な布をめくりあげ、黒い髪の少女が入ってきた。
真っ直ぐな黒髪を肩口まで伸ばした、若い少女だ。年の頃は十六、七といったところだろうか。黒曜石のような黒い瞳が、じっとOlを見つめている。だがOlの視線はその瞳の上方彼女の額に向かった。
そこからは小さな角が一本、生えていたからだ。
お前が、助けてくれたのか?
気絶する前に聞こえた足音。それはちょうど彼女くらいの体重のものだった気がする。おそらくこの粗末な敷き布団に寝かせてくれたのも彼女なのだろう。体調は万全ではないものの、倒れる前に比べれば随分マシにはなっていた。
サリデ、ィヴ、ノイク、サイクセ、ニム、サルアデビ、ム
少女は困ったような表情で、そう答える。聞いたこともない奇妙な言語。音節の区切りがOlの知るどの言語ともまるで違う。遠く海を隔てた土地のヤマト語ですら、もう少し理解可能だった。
Ol
Olは己の胸に手を当て、そう、名前を告げる。
オウル
戸惑う少女にもう一度言うと、彼女はその意を察したのか音を真似して呟いた。
手のひらを差し向けるようにして、問う。
フローロ
少女フローロは、わずかに逡巡した後そう答えた。ひとまず、これで互いの名前はわかったと思っていいだろう。
オグナサルプラマルサツセエイク!
その時、部屋の外から苛立った男の声が聞こえてきた。
セズ!
フローロは弾かれるように返事をし部屋を飛び出す。
Ol。エイテ、ィク、アロクナ、ウツセル
その寸前、ちらりとOlを一瞥して何事か言いおいた。おそらくはここにいろとかそんな意味だろう。
ヌノ、ルツスジャム
オグナサルプラムシラフィヴノイク!ジュツノジルラペルプ!
隣の部屋から聞こえてくる男の声は酷い剣幕で、それに対するフローロの声は控えめでありながらはっきりしていた。これは、仕えるものの声だ、とOlは思った。
フローロが怒鳴っている男の妻なのか、娘なのか、使用人なのかはわからない。しかしいずれにしてもフローロは服従を強いられる立場である事は確かなようだ。
Olは壁に張り付くようにして、隣の部屋を覗き込む。そして、娘という線は消えたな、と思った。
怒鳴っているのは、フローロとは似ても似つかない、太った中年男であった。髪の色も目の色もフローロとは違うし、何よりその額には角が生えていない。
ニギズサヴォペニヴ!オグナサルプラム!
男はフローロを何事か叱責し、腕を振り上げる。かと思えばその手に青く輝く鞭のようなものが出現し、男はそれをフローロに向かって振るった。
やめろ
それがフローロの身体を打つ寸前、Olは男の腕を掴み止める。
オルウイテ、ィクサツセオイク!?
男は驚いたように目を見開き、フローロを睨む。
その表情を見ながら、Olはさて、どうしたものかと思い悩んだ。
思わず割って入ってしまったが、状況はわからないことだらけだ。
フローロには鞭で打たれるに足る理由があったのかもしれないし、なかったのかもしれない。この男はフローロにとってどんな相手なのかもわからなければ、この男にどれほどの後ろ盾があるかも。
あまりそうは見えないが、もしこの男が大人物であった場合、下手に敵対すればOlの身を滅ぼすことになる可能性もある。
──ならば。
オヴァルクスイティク、ノカルブナイヴギレ!
何事か喚く男の言葉が、突然途切れる。彼の肥満した身体が、Olの手を離れ空中に浮かび上がったからだ。
サ、サラフィヴノイク!?オイテ、ィクサツセオイク!?
男は慌てた様子でジタバタと暴れるが、無論そんなことで地面に降りられるはずもない。
見えざる迷宮(ラビュリントス)。Olが作り上げた魔術武装であり、極小のダンジョンでもある魔導具、ダンジョンキューブ。その不可視の外装が、男を包み込んで持ち上げていた。
ダンジョンキューブは直接相手を攻撃するような、早く重い動きができるようにはなっていない。しかし大蛇のようにゆっくりと相手を取り巻き、締め付ける事くらいは出来た。そしてその力は、人間の膂力で外せるようなものではない。
オOl、サラフィヴノイク?
フローロが恐る恐る問いかけてくるが、Olはそれを無視し、男を睨みつけて言った。
オグナサルプラム
その言葉にどのような意味があるのかは知らない。だが、罵倒の意味を持っているはずであった。それは先程から男が何度もフローロに投げかけていた言葉だったからだ。