力を振り絞って、ホデリは問うた。
敵に情けをかけられて生き残るなど、武人としての恥だ。
んー。ちょっとズルしちゃったからさ
ユニスが行ったのは彼女の英霊としての権能、転移の応用だった。
己の放つ斬撃だけを無数に転移させ、浴びせかけたのだ。重さも形もない斬撃そのものであれば、何千と転移を繰り返しても消費する理力の量は大したものではない。
本来ならば速すぎて剣を振ってもろくに当てられないような速度で駆け抜けながら、その勢いの斬撃だけを飛ばして相手に当てる。それは剣技でも何でもない、法術と生まれ持った脚力による蹂躙であった。
巫山戯るな!
だがホデリにとってそんなことは関係なかった。
そもそも勝負というのは互いの全能をもって臨むものだ。ホデリが剣でのみ相手をしたのは、単に彼がそれしか能がなかったからに過ぎない。そんな理由で生かされたのであれば、それこそ侮辱でしか無い。
が。
今は急いでるから無理だけど、またキミと戦いたいから。だから悪いけど、生きててね
悪びれた様子もなく手を合わせるユニス。
くは、ははははは!
その自分勝手な物言いに、ホデリはかえって清々しい物を感じて笑った。
敗者にはそもそも自分の最期を選ぶような権利は無いか
ならば、勝者に従うまでだ。
一つ教えてやろう。お前たちの仲間を、ホスセリという俺の妹が襲っているはずだ
ホデリの言葉に、マリーは目を大きく見開いた。
ユニス!助けに行かないと!
ホデリがマリーでは絶対に敵わないほどの実力を持っているのは、戦いを端から見ているだけでわかった。ホスセリという刺客がもし同じくらいの強さを持っているなら、Olたちに勝ち目はない。
その人って、キミより強いの?
真正面から戦えば負けはない
ユニスの問に、ホデリはそう断言した。
だが実際に戦えば、負けるのは某であろう
ふうん。なら大丈夫でしょ
軽い口調でいうユニスに、ホデリは怪訝な表情を浮かべた。
襲う相手を選ぶ際に、大体の実力は測っている。
少なくともホスセリを相手にして間違いなく勝てると言えるほどの者はもう一方のグループにはいないはずだった。
本当に大丈夫なの?
大丈夫だよ。だってあっちにはスピナがいるでしょ
マリーが心配そうに尋ねれば、返ってきたのは意外な言葉だった。
姉さんが?え、姉さんって、強いの?
あれ?マリー、知らないの?
スピナがいれば大丈夫という言葉が全くピンと来ず、首を傾げるマリーにユニスは言った。
スピナはもうだいぶ前から、もうあたしより強いよ
第4話新たな魔王を始めましょう-7
Ol、ユツ、スピナの三人はマリーたちと別れ、マグマの中に続く右の道を進んでいた。
道の幅は十分あるから誤って落ちてしまうことは早々ないだろうが、立ち上る熱気にユツは汗を拭う。
分かれ道まではユニスとマリーが歩きながらお喋りしていた為、それに参加する事がなくとも和気藹々とした雰囲気があった。しかし今や、一行の会話はゼロである。それが、重苦しい雰囲気に拍車をかけているようで、ユツはやや気まずい思いで黙々と歩みを進める。
ユニスの強さは、ユツにも薄々と感じ取れていた。戦うところを直接目にせずとも、その立ち居振る舞いだけでわかるほどの強者ということだ。
ユツは歩きながら、横を歩くスピナにちらりと視線を向けた。
だが、こっちの女性はよくわからない。というよりも、完全に戦いの素人に見える。
魔術という武術とは関係のない戦い方があるというのは聞いていたが、Olにしたって戦うもの特有の覇気のようなものをいくらか帯びている。スピナには、それがまるで無かった。
Ol自身も戦いが得意なようには思えない。つまり、こちらのグループで戦えるのはユツだけなのだ。
自分がOlを守らねば、とユツは奮起した。
その瞬間。
トン、と軽い音を立てて、スピナの胸に小刀が突き刺さった。
無表情のまま、スピナは自分の胸に突き立つそれを見下ろす。手の平に収まってしまいそうな小さな刃物は、正確に彼女の心臓を貫いていた。
緩慢な動作でそれを引き抜こうとした瞬間、スピナの全身に無数の刃が突き刺さって彼女は地面に倒れる。
Ol様、後ろに!
ユツは叫びながら、尾を薙刀に変じさせて構えた。明確に攻撃されているにも関わらず、敵の姿はどこにも見えない。
敵の場所はわかるか?
いいえ
Olの言葉に、ユツは首を振る。
だが彼はユツに尋ねたわけではなかった。
敵はそちらではありません。もう後ろに移動しています
背中から聞こえてきた怜悧な声色に、ユツは振り返って目を剥いた。
全身に刃が突き刺さったまま、スピナが立ち上がっていたからだ。
まるで埃を落とすかのような仕草で、スピナは身体に刺さった刃物をはたき落とす。
ばらばらと小刀が落ちた後には、血の一滴、傷跡さえ残っていなかった。
あちらに
スピナは振り返り、後ろを指差そうとする。その首がごろりと落ちた。
まるで魔法のように現れたのは、短刀を構え、真っ赤な服に全身を包んだ女だった。
その派手な服はしかし、マグマの流れる溶岩洞の色にぴったり同化して、酷く輪郭を捉えにくい。
捕まえました
地面に転がったスピナの首が声を上げ、女ホスセリは驚愕に目を見開いた。
彼女の脚を、首を失ったスピナの腕が掴んでいる。
殺すなよ。情報を吐かせる
かしこまりました
魔王師弟がそんな会話をしている間にホスセリは短刀を閃かせ、スピナの腕を切り裂いて飛び退った。
私はあまり戦いが得意ではないのです。素直に投降してくれませんか?
残った片腕で自分の頭を拾いつつ、スピナはホスセリに呼びかける。
知ったことか、と内心毒づきながらも、ホスセリはどうしたものかと考えた。
心臓を突いても首を刎ねても死なない生き物なんて初めてだ。
だが、死なないだけの人間など怖くはない。
不死の武人であれば驚異的だが、目の前の女に武術の素養はまるで感じられなかった。
ホスセリは標的を変えて、ユツに対し小刀を投げる。
その指先から刀が離れる前に、右腕自体が彼女の身体から離れた。
な、あ?
状況を理解できず、ホスセリは目を見開く。
自分の腕が、二の腕の半ばから切断されてぼとりと地面に落ちていた。
断面から吹き出す血を左手で慌てて抑えるが、そんなことで血を止められるわけもない。
あら、勿体無い
まるで飲み物をこぼしてしまった子供を見たかのように言うスピナに、ホスセリは顔を上げた。
そこにあったのは、シュウシュウと煙を上げるマグマを掌に掬いとりながらも、眉一つ動かさない美女の姿だ。
傷口を塞ぎますね
そんなことをいいながら、スピナはその手のマグマをホスセリの傷口に塗りつける。
!!
途端、言葉に言い表せないほどの痛みがホスセリを襲った。
体中に火がついたようにすさまじい熱が全身をめぐり、腕には数億本の針を刺してハンマーで何度も叩きつけるような痛みが間断なく襲い掛かってくる。あまりの激痛に胃の奥から吐き気が込み上げ、悲鳴とともに喉から出そうになるのを、ホスセリは奥歯を噛み締め辛うじて堪えた。
どうですか?降参しますか?
ふざけるな!
心の中に無数の呪詛を吐きながら、ホスセリは何とかこの魔女から離れたいという一心で地面を蹴る。
その右脚が、根本からぽろりと落ちた。
あああああああああああああ!
駄目ですよ、逃げては
耐え切れず叫び声をあげるホスセリに抑揚のない声で言いながら、スピナは更にマグマを掬い取る。
やめやめて
首を振るホスセリの要求は受け入れられることはなかった。
脚の血管は太いから、しっかり塞がねば死んでしまいます
言いながらマグマを差し出すスピナの手の平は高熱に焼けただれ、炭化しつつあった。自身もダメージを受けているのだ。にも関わらず、平然としている。
狂っている、とホスセリは思った。
まるでパンにバターでも塗るように、スピナはホスセリの脚の断面にマグマを塗りたくる。
いっそ殺してくれ。そんな思いさえ、激痛の前に一瞬にして消え去った。
もはや叫び声は人ではなく獣の唸り声のようで、硬い地面にたてた爪が根本から剥がれるが、それさえ気にならないほどの苦しみが彼女の身体を灼く。
あまりの苦痛の前に、気を失うことさえ出来ない。常人であればとうの昔に正気を失っているだろう。だが弛まぬ鍛錬によって磨かれた彼女の精神は、狂うことすら許さなかった。
さあ、しゃんとしてください。降参、しますか?
スピナがホスセリの顔を覗き込む。
その身体を、ホスセリは渾身の力を込めて片腕片足で押した。
軽い魔女の身体はぽんと宙を舞って、煮えたぎるマグマの中に没する。
残り二人を、殺さなければ。
痛みを押し殺し、己に待ち受ける不具者としての運命を無視して、ホスセリは片方の足だけで立ち上がった。
凄まじい精神力だな
Olは思わず、感嘆の声をあげた。ここまで傷めつけられてなおも動ける人間など、Olの配下の中にもそうはいない。
だがまだ終わっていないぞ
そうはいない、ということは、逆に言えば何人かはいるということでもある。
そのうちの一人が、マグマの中から這い上がってきた。
申し訳ありません、お師匠様
全身を火に巻かれながらも、スピナは平静な声で言った。
彼女は別に痛覚がないわけでも、高熱が通用しないわけでもない。
魔術によらない熱は、半スライムのスピナを殺す数少ない方法だ。
ただ彼女は、この程度では死なないから気にしていないだけに過ぎない。
ご心配をお掛けしました
微塵も心配していなかった、という本音は言わずにおいた。
そんなことを言えば彼女は嘆き悲しみ、泣き叫ぶだろう。
マグマに突き落とされるよりも、夫に関心を持たれない方が遥かに辛い。
スピナはそういう女なのだ。
さて思ったより元気があるようなので、もう一本いっておきますね
スピナの指先に炎がともって、彼女は僅かに眉をあげた。
その動作を見てホスセリはようやく、己の手足を切り取った仕掛けに気付く。
スピナの指先から、糸が伸びていた。不意打ちや闇討ちを得手とするホスセリでさえ、よく目を凝らさねば気づかないほどの細い細い糸だ。それほど細いのに、肉を切り骨を断つほど鋭く強靭な糸。何で出来ているのか検討もつかなかった。
だが、それに気がついて何になるというのか。糸は既にホスセリの周囲を完全に取り囲んでいて、動く隙間など完全に無くなっていた。蜘蛛に捕らえられた獲物が、そのことにようやく気づいたようなものだ。
あ、あの、戦闘、苦手って言ってましたよね?
左腕をもがれたホスセリの絶叫を聞きながら、ユツは思わず尋ねた。
ええ。苦手です
傷口に丁寧にマグマを塗り込めながら、スピナは答える。
戦うというのはユニスがしているようなことだ。
互いの技術を尽くし、命をかけて武を競う。
そんな崇高な事は、スピナは一度もしたことがない。
一方的な殺戮は得意ですが
初めて薄く笑みを見せる魔女に、ユツは震え上がった。
第4話新たな魔王を始めましょう-8
これは、見事だねえ
ホデリを下し、歩きついた終着点。
溶岩が滝のように流れ落ちる雄大な光景に、ユニスは感心して声を上げた。
確かに、この先に道はなさそうだね
キョロキョロと辺りを見回しつつ、マリー。
怪しいのは滝の裏だが、そんな単純な隠し通路にOlが気づかないとは思えない。
ソフィ、わかる?
マリーが腕の中の娘に尋ねると、ソフィアは両手を伸ばして空中を撫でるような仕草をした。それに伴って露出した岩肌がレンガで覆われていく。洞窟がソフィアの手中に収まった証拠だ。
なんにも、ないとおもう
だが、ソフィアは困ったように首を振った。Olでも道を見つけられないのだから、予想通りといえば予想通りだ。
しばし待て
テナは瞑目し、未来を探った。
ユニスが彼女を抱きかかえ、転移する。
そこまでは明瞭に見えるのに、その後の未来は掠れたように判然としない。
彼女の運命がそこで途絶える、というわけでもなさそうだった。断片的に情報は入っては来るのだが、それはまるで椀に入った水に映る月影のようで、絶えず揺らぎ酷く見づらいものだった。
その滝を塞き止めてみろ、とのことじゃ
それでもなんとかOlの言葉を捉えて言えば、ソフィアは元気よく頷く。途端に辺りの壁が捩れ、滝の流れ出る口に殺到した。レンガがまるで粘度のように丸められ、滝の中に詰め込まれていく。
できたよ!
ま、良いじゃろう
不細工な出来だったが、少なくとも滝は止まっている。テナの先見で見ても十分な時間持つことはわかった。
何にも起きないね?
いや。もうすぐじゃ
滝を止めても変化のない様子に首を捻るマリーに、テナは首を振った。
途端、滝が流れ落ちていた先、溶岩の河がその量をみるみる減らしていく。
数分もしないうちに河は枯れ果て、その跡には一本の道が残った。
左右両方の滝を塞がねばこの道は現れんということらしい
なるほどね。それじゃあソフィアにも見つけられないわけだ。流石に溶岩の中を歩くなんて無理だもんね
感心したように頷くユニスの背を、テナはじっと見つめる。彼女の未来はいつも通り、明瞭に見えるようになっていた。どうやら彼女が転移の力を使おうとすると、その先を見ることが困難になるらしい。
どういうことなのか、問うべきだろうか。
あっ、Olさま!
テナが思い悩んでいると、マリーが明るい声をあげて走りだした。
通路の先に、Olの姿を認めたのだ。
首尾よく行ったようだな
しかし彼に抱きつこうとする寸前、マリーの足がピタリと止まった。
それ誰?
そして、Olの横に張り付くようにぴっとりと寄り添う赤い服の女を指差す。
ホスセリというらしい。襲ってきたが、返り討ちにした
ああ、ホデリの妹ちゃん
ユニスがぽんと手を叩く。
なんで一緒にいるんですか?
スピナにやられて、命を助けてやったらこうなった
ホスセリの身体は五体満足で、傷跡すら残っていなかった。
ともかくも死んでさえいなければ、肉体を治すことは容易い。
そういう意味では、スピナの止血の成果とも言える。
それに比べると心の治療は少しばかり難しいが、それもOlにとっては手慣れた作業だ。その過程でこれほど懐かれるのは若干の想定外だったが、別に害があるわけでもない。
強いて言えば、マリーが憮然とした表情でこちらを見ていることくらいだ。
姉さん、やり過ぎたんでしょ
私はただ、私に出来ることをやったまでです
多分それ、一般的にはやり過ぎを超えた奴だと思うよ
マリーがじろりと睨めば、スピナは澄まし顔でそう答え、ユニスが呆れ半分に笑う。
スピナさん怖いスピナさん怖いスピナさん怖いスピナさん怖い
一体何があったんじゃ?
虚ろな表情で延々呟き続ける孫娘の姿にテナは漠然とした恐怖を抱くが、過去を視ることの出来ない彼女には何が起こったのか知る由もない。
さて、ホスセリ。この先には何がある?
二つの通路の合流点。そこにある巨大な扉の前で、Olは尋ねた。
主がいる。ただ、詳しいことはお館様の命とはいえ言えない
言葉少なにホスセリは答える。
彼女はOlに服従したが、元々の主を裏切る気もないらしい。
良い。邪魔はするなよ
だがOlはそれを咎めはしなかった。
簡単に主を裏切るような者よりも、そんな人間の方が信用はできる。
扉をくぐり抜けると、そこは巨大な広間のようになっていた。
迫り上がった祭壇の上、豪奢な造りの椅子に女が座っている。
薄紅色の髪を長く伸ばし、同じ色の衣装に身を包んだ女だ。
よくぞここまで辿り着きました。妾の名はサクヤ。この試練の山を治める主です
女はOlたちを見下ろしながら、丁寧な口調でそういった。
勇者よ。お名前を伺ってもよろしいですか?
Olだ
また勇者か。Olは辟易としつつ、短く答える。
勇者Olよ。あなたは妾の課した試練に打ち勝ち、その力を示しました。その褒美として、何でも一つ願いを叶えましょう
願いだと?
まあ。知らずに来られたのですか?
怪訝な表情を浮かべるOlに、サクヤはぽかんと開いた口を扇で隠した。
この山は試練の山と言って、ここまで辿り着いた勇気ある者の願いを一つ叶えることになっているのです。使い切れぬほどの財宝も、不死の妙薬や珍しい品々も思いのままですよ
何でも、と言ったな
Olの言葉に、サクヤは頷く。
妾の力の及ぶ範囲ですが
勿論それで構わんお前自身を含めた、この山の全てを俺に寄越せ
その要求に、サクヤは目を大きく見開いた。
強欲は身を滅ぼしますわよ
自分から口にしたことも守れん奴に言われてもな
もしこれが悪魔との交渉であれば、何でもなどと言った時点で詰みだ。ありとあらゆる方法で付け込まれる言い方を避けなければならない。
お話になりませんわ。不心得者よ、立ち去りなさい。願いは特別に、その生命を奪わぬこととしてさし上げましょう
その傲慢な物言いに、Olは軽く苛立ちを覚えた。
断ると言ったら?
力尽くでも、お帰り願うまでです
サクヤが扇を振るえば、花が咲くかのように無数の紅い炎が現れた。
第4話新たな魔王を始めましょう-9
妾の炎がそのようなか弱い石造りの壁で防げると思わないでくださいましね
サクヤの言葉に、Olはキューブによる不可視の迷宮が既に見抜かれていることを悟る。その言に相違はなく、彼女の炎の温度はテナの狐火とは熱量の桁が違った。仮にキューブの壁が耐えたとしても、それはOlをこんがりと焼き上げるオーブンになるだけの話だろう。
それほどの炎が、一つならばまだしも無数に飛んできたのだ。
御館様!
下がっていろ
咄嗟に庇おうとするホスセリを、キューブの通路がぽんと弾いてユニスに押し付ける。
それと同時に、巨大な赤い蛇がOlを包み込んだ。
御館様!
大丈夫だよー
Olに駆け寄ろうとするホスセリを万力のような力で押さえつつ、ユニスは呑気な声で言う。
ほら見て。壁が全部レンガになってるでしょ
ユニスの指先を辿って壁を見れば、確かに岩を削りだして作られていたはずの広間の壁は、いつの間にか赤茶けたレンガ造りに変わっている。
ってことはここはもう
俺の胃袋の中だ
とぐろを巻く蛇の中から、Olの声が聞こえた。
その声に応えるように赤い大蛇は鎌首をもたげると、サクヤの放った炎をばくりと飲み込んでしまう。
言い忘れていたが
蛇の正体は、弧を描いて吹き出されたマグマの奔流だ。
うちの娘は、お前の九割方を既に自分のものにしている
Olが抱きかかえるソフィアの姿は、八歳ほどまで成長していた。
子供の魔王、ですって!?
ソフィアを見て、サクヤは驚愕する。
Olにはサクヤがそこまで驚く理由がわからないが、問い詰めるのは後に回すことにした。捉えた後ゆっくり尋ねれば良いからだ。
喰らえ
Olの命に従い、マグマの大蛇はそのあぎとを大きく開いてサクヤを襲う。
妾を見くびりすぎではありませんこと?
だがサクヤが扇を一閃すると、大蛇は口から上下に真っ二つに裂けて飛び散る。その飛沫を身に受けつつも、サクヤは火傷どころか汗一つかいていなかった。流石は火山の主だけあって、熱には殆ど完全に近い耐性があるのだろう。
ではこれならばどうだ?
だが間髪を入れず吹き出す海水の対策までは講じていなかったらしい。あっという間に冷え固まった溶岩の部屋に、サクヤはいとも容易く閉じ込められる。ダメ押しとばかりにOlは地面の岩を隆起させ、更にその部屋を固く封じ込めた。
ぱぱ!やったよ!
ああ、よくやったいや
だがすぐに、Olは表情を引き締める。
サクヤを封じ込めた部屋が赤く輝いたかと思えば、次の瞬間どろりと溶け出した。
言いましたでしょう?それは少し見くびりすぎと
中から現れたサクヤはじろりとOlを見下ろした。
貴方は勘違いしているようですがこの山が妾に力を与えているのではありません
どろりと溶けた岩を、サクヤはまるで衣のように纏う。
妾がこの山に力を与えているのです
次の瞬間、それは溶岩の矢となってOlたちに飛来した。
マリーが冷性剣を振るい、液状になった岩を凍りつかせる。同時にユニスの斬撃がそれを粉々に砕いて、スピナの糸が破片を蜘蛛の糸のように絡め取った。
ナイス、マリー!
なんか凄い凍った
ユニスのハイタッチに半ば無意識に応えながらも、マリーは己の成した結果に目を見張った。とにかくソフィアを守ろうと飛び出し無我夢中で振るった剣は、全ての溶岩を一瞬で岩に戻したのだ。
冷性剣は魔力をただ冷気だけに変換する剣だ
Olはサクヤから目を離さずそう言った。
冷やすだけなら水や氷に変換するよりも遥かに効率がいい
マリーに四属性の剣ではなく、四性質の剣を作ってやったのはその為だ。分かりづらく扱いにくいが、その分手札の数は倍に増える。
Olさま、この剣をあの人に刺したらどうなるかな
冷性剣をじっと見つめていたマリーは、ふとそういった。
やってみろ
少し考えた後、Olはマリーの背中をぽんと叩く。
サポートは任せて!
仕方ありませんね
ユニスが剣を構え、スピナがさらりと髪をかきあげる。
あの、ボクも手伝います!
このままじゃと失敗するぞ。方策を考えい
そこにユツが声を上げ、テナが眉根を寄せつつそう言った。
では、これならばどうだ
わかっておるとは思うが、未来を変えた場合どうなるかは実際にやってみるまでわからんぞ
構わん。そもそもお前の能力自体、それほど信用しているわけではないからな
まだ信じておらんのか!?疑い深いにも程があるじゃろ!?
あっさりとそう言ってのけるOlに、テナは思わず叫ぶ。
相談はまとまりまして?
ああ。待たせたな
各自に算段を伝え、サクヤの問いにOlは答えた。
構いませんのよ
サクヤは扇を広げ、天に掲げる。
妾もただ待っていたわけではありませんから
その動きに連動するように、Olたちの周囲全てを朱が覆い尽くした。
赤く焼けた岩と、華のような高熱の炎、そしてマグマの奔流。マリーの冷性剣でも冷やしきれない熱量と、凌ぎ切れない物量だ。
これを見ても、退く気はないようですわね
然様ならば
サクヤは哀れみを込めた瞳でOlを見つめ、扇を振るった。
お休みなさい
紅が渦を巻きながら、怒涛のようにOl達に向かって流れ込んだ。
Olが壁を聳え立たせ、ソフィアがそれに水の膜を張る。
稼げた時間はほんの一瞬だった。
瞬く間に水は蒸発し、岩の壁もろとも焼き落とされる。
だがその一瞬で、ユニスは炎の隙間を駆け抜けていた。
行って!
彼女が抱えていた二人の少女が、同時に左右に走り出す。
それはどちらもマリーの姿をしていた。
小賢しい事を!
別々の軌道を描いて己に迫るマリーに、サクヤはどちらを攻撃したものか一瞬逡巡する。
だが彼女はすぐに、片方が剣を持っていないことに気付いた。
ならば狙うのは剣を持っている方だ。
扇を一振りすると、炎が矢となって剣を構えたマリーを射抜く。
そして、ポンと音を立てて煙となって消えた。
かかったっ!
のは、そちらですわ
サクヤは残ったマリーに、扇を持っていない方の手を向けていた。
炎を司るのは彼女自身の権能だ。扇を使う意味はさほどない。
マリーに向けて放たれた炎が彼女の身体を包み込む。
残念、そっちも外れですっ
だがその身体が突然木の葉の塊になったと思えば、バラバラになって燃え消えた。
などこに?
辺りを見回すサクヤの視界の端で、炎が彼女の意思とは関係なく蠢いた。渦巻く炎から手が生え、脚が伸び、頭が付き出したかと思えば、それは見る間に人の姿を取りながらサクヤに肉薄する。
えぇーい!
裂帛の気合とともに放たれたマリーの一撃を、サクヤは辛うじて扇で受け止めた。特に補強もされていない、木と紙とで作られたその扇を、しかしマリーの剣は切り落とすことが出来ない。
一手、足りませんでしたね
薄く笑みを浮かべるサクヤの視界に、炎が溢れ出た。マリーを守るように壁が立ちはだかったが、そんなものが何の役にも立たないことは先刻承知だ。
炎がマリーに向かって殺到し、壁ごと彼女を焼き尽くす。
はずだった。
何故、溶けないのです!?
壁は炎を受け止め、溶け崩れることもなく立ちはだかっていた。
そんなことはありえない。サクヤの炎に耐えるものなど、何もないはずなのだ。
状況が全くわかんねえんだけどよ
サクヤが困惑していると、マリーの背中から低い声が響いた。
まるで金属を擦り合わせるような、不愉快な声だ。
後ろには生まれたての幼女。目の前には想像を絶するほどのミレニアムババア。どっちに味方すりゃいいかなんて言うまでもねえな!
ローガン!
壁の表面に描かれた魔法陣から現れた四本腕の悪魔に、マリーは歓声をあげた。
ミ、ミレニアムババア!?
サクヤの眉間に皺が寄る。それが彼女のことを指していることは明らかだった。
てめえ、千歳、二千歳どころの騒ぎじゃねえだろ?このローガン様より年上のババアなんざ、初めて会ったぜ
ローガンがぐっと四方に腕を突き出すと、マリーを囲む炎はゆっくりとその数を減じていく。
妾の炎が!?
ドえれえ温度の炎だが、残念だったな。魔界の炎ってのは何だって燃やしちまうんだぜ。あっつい分、炎なんて特によく燃える
とは言え、ローガンでもサクヤの炎を燃やすほどの力を出せるのはほんの僅かな間だけだ。
そら、さっさと決めちまえマリー
悪魔の視線を受けて、マリーは白く輝く冷性剣をサクヤに思い切り突き刺した。
この程度、で!
サクヤは全身からしゅうしゅうと白い蒸気を吹き出しながら、その身に炎を纏う。マリーの魔力では、彼女の力を相殺するには足りないのだ。
姉さん!
マリーが悲鳴のように呼ぶと、彼女の服の中からスピナがぬるりと姿を現し、人の形を取る。
いいですか。これは魔力譲渡の為であって、数に数えるものでは
わかってるから、わたしだって別に好きでやるわけじゃないんだよ。早く!
ジリジリとサクヤの身体から漏れる炎は、徐々に勢いを増してマリーたちを飲み込もうとしている。ローガンが押さえているが、それも段々と押し返されていた。
ですが、やはりお師匠様以外の
ああもう!
マリーの腰から二本の剣がすらりと抜けて、スピナの首を柄で押し下げる。そうして顔を引き寄せて、マリーはスピナの唇に自身の唇を重ねた。
思ったより、凄く柔らかい。
マリーはそんなことを思いつつ、スピナの口から流れ込んでくる魔力を冷性剣にそのまま流し込む。圧縮された大量の魔力が一気に冷気に変換されて、剣は刀身の根本までサクヤの身体に埋まりこんだ。
これしきで魔王を殺せると、思わないで下さいまし!
血を吐きながら、サクヤは扇を振るう。
しかしその先端からすべてを燃やし尽くす炎は出ることなく、代わりに小さな炎と冷気が生まれて互いに打ち消しあった。
そんなこれは
上手くいったようだな
愕然としながら己の両手を見つめるサクヤを、Olが見下ろした。
サクヤやソフィアが操っている力は魔術ではない。
だが、魔力と全く無関係なわけでもなかった。
魔力そのものを放出して操っているのなら、四性剣でその魔力を他の形に変換してやれば無効化出来る。特にサクヤにとって冷性剣は致命的だ。能力を使おうとすれば、半分が炎になり、半分が冷気になる。
片方が炎の形で出るのに対し、もう片方は純粋な冷気になってしまえば、炎には光というロスがある分、必ず冷気の方が僅かに勝つ。もはや彼女はほぼ無能力になったも同然だ。
剣を抜こうと掴んでも、根本まで突き刺さって凍り固まった剣は彼女の力では抜くことも出来ない。
さて
そんな彼女の顔を覗き込み、Olは問うた。
勇者の褒美とやらを貰おうか?今度は、契約書付きで
閑話蜘蛛の巣掃除を致しましょう-前
うむ
広々とした湯殿に身を沈め、Olは深々と頷いた。
その面積は以前の倍以上。本国のダンジョンにある湯殿にも負けないくらいの広さだ。湯も入るときにだけ沸かすなどというケチ臭いことをいうことなく、常に溢れ出てきている。それだけでなく火山熱で暖められたその湯には多量の魔力が含まれていて、浴びるだけでちょっとした傷くらいなら治ってしまう程の効果を持っていた。
んふ、んぅん、は、ぁ
新大陸のダンジョンの良い所は、迷いの森のおかげで地上部分もダンジョン化している所だ。例え空を飛んでこようと木々は侵入者を惑わし、簡単に中枢へと侵入することは出来ない。それ故、Olは地上にも露天風呂を作り上げ、星々を見上げながら湯に浸かっていた。
上半身を冷やすひんやりとした空気が、湯で火照った身体に心地よい。だが欲を言えば、もう少し湯温は高い方がOlの好みであった。
おい、少し湯の温度を上げろ
納得いきませんわ!
サクヤが叫び声を上げた。
何故妾が、風呂焚き女の真似事などしなければならないのですか!?
適任だからだ
もちろんOlやソフィアでもダンジョンの構造を変化させることによって湯温を変えることは出来る。だが、もともと火山の主であったサクヤに敵うものではなかった。
お前が一番風呂を上手く焚ける
全く嬉しくありませんわ!それにっ!
サクヤは顔を真っ赤に紅潮させながら、Olの腰に跨る女を指差した。
貴女は何を為さっているのですか、ホスセリっ!
御館様に、ご奉仕
対面座位の姿勢でOlの膝に乗り、彼の首に腕を回しつつ、ホスセリは腰を上下させてOlの一物を膣壁で擦り上げる。ちゃぷちゃぷと水音を立てながら、彼女は言葉通り一心に奉仕していた。
どちらかというと自分から攻める方が好きなOlではあるが、まったりと湯に浸かりつつ奉仕されるのも悪くない。手を伸ばせば阿吽の呼吸でホスセリは身を捩り、Olの手の平を己の胸へと導いた。
手の平にちょうど収まるサイズのそれをやわやわと弄びながら、もう片方の手で彼女の顎を持ち上げる。不思議そうにOlを見つめるホスセリの唇を奪えば、彼女は嬉しそうに目を細めてそれを受け入れた。
御館様接吻は
嫌か?
問えば、ホスセリは首を振りつつOlの胸板に頭を擦り付ける。
嫌じゃない。けど、照れる
表情からは読み取れないが、頬は赤く染まっていた。
出すぞ
うん。頂戴
Olの腰に回した両脚をぎゅっと締め付けて、ホスセリは迸りを膣奥で受け止める。放出する度に彼女の身体は小刻みに震え、達しているのがわかった。
綺麗に、する
余韻に浸る間もなくホスセリはそう言って身体をどかすと、躊躇いなく湯の中に潜ってOlのものを口で清め始めた。そこまでせずとも、とは思ったものの、Olはその心地よさに思わず止めるのをやめた。
ホスセリの巧みな舌技はリルに迫るものだった。思わずすぐにこみ上げてくる射精感を堪えながら、Olは視線を彷徨わせる。
すると、顔を手で覆いながら、指の隙間からこちらを凝視しているサクヤの姿が目に入った。彼女は湯の中のホスセリを見つめていて、Olの視線には気づいていない。
次はお前が相手するか?
えっ、なっな、そん、ばっ
声をかければ彼女は青ざめ、次に真っ赤に頬を染めた。
馬鹿な事を言わないでくださいましっ!何故妾が、そんな破廉恥なことを!
まさかお前、経験がないのか?
そ、そんなわけないでしょう!?
サクヤはぶんぶんと首を激しく振って否定するが、その動揺ぶりがかえってOlの言葉を肯定している。
姫様、一万四千歳。彼氏いない歴一万四千年の処女
一万三千九百二年ですッ!
湯の中から顔を上げたホスセリがいうと、サクヤは即座にそう怒鳴り返した。
流石にその年齢になれば百年足らずは誤佐なんじゃないかとOlは思ったが、それなりに長く生きてきた自覚のある己の年齢と同じくらいの時間を誤差と言うのも憚られる。
まあ良い。サクヤ、来い
ああ、そんな
Olがそう命じると、サクヤの足は勝手に彼へと歩を進めた。
半ば無理矢理結んだ契約により、もはや彼女はOlのものとなっていて、命令には逆らえないのだ。
おやめ下さい、嫌がる妾に無理矢理乱暴するおつもりなのでしょう?春画のように!
まあ、そうだが
喜色満面の笑みを浮かべるサクヤに、Olは気乗りしない様子で頷いた。
ごめん。姫様処女拗らせてて
お黙りなさい!
元部下を一喝し、サクヤは服を脱ぎ捨てる。
その裸身に、Olは思わず声を漏らした。
ほっそりとした華奢な体つきは爪の先までも優美に艶めいていて、白いふくらはぎから太股は肉でありながら侵し難い芸術品のようなラインを描いていた。
脚の付け根の茂みはごく淡く慎ましやかで、使われたことがないという秘処を健気に包もうとしている。
滑らかな腹から腰は細く括れながらも男好きのする肉感を僅かに残し、いかにも抱き心地が良さそうだ。
そして何より、圧倒的な存在感を放つのが胸元だった。全体的に慎ましく華奢な印象を与える彼女の体つきの中で、そこだけが慎むことなく大きく張り出していた。その双丘はリルにも匹敵するほどの大きさだ。それでいて、全体のバランスを崩すことなく調和をギリギリで保っている。
小さな顔に付いているのは小さな鼻に小さな唇、そして零れ落ちそうな大きな瞳。しかしユツと違って、それが感じさせるのは幼さではなく品の良さ。頭から足首まで伸びる艷やかな薄紅色の髪の毛は、まるで彼女という大きな花の花弁のようだ。
こちらの大陸の人間たち同様平面的な印象だったが、それがかえって彼女の神秘的な美しさを増幅しているかのようだった。
人とは時の流れ方が違うのだろうが、それでも一万年以上を生きているとは思えない美しさだ。
これが殿方のおちんぽですのね
だが当の彼女は、Olの男根を間近で見つめてそんなことを呟いていた。
あら、少し小さくなりましたわよ?
誰のせいだと思っている
あの、触ってみてもよろしいでしょうか!?
勝手にしろ
Olが吐き捨てると、サクヤは食い入るようにペニスを見つめながら、指先でそっと触れた。
凄く硬いのですね
ごくりと生唾を飲み込んで、サクヤは男の根本から先端へと指を滑らせていく。
ここはつるりとしていて、まるで、鉄のよう
亀頭をくるくると撫でて感触を確かめながら、サクヤは鼻息も荒く凝視した後、不意にOlを見上げた。
あっ、あの、甜めてみてもよろしいでしょうか!
歯は立てるなよ
心得ておりますわ!
うんざりとした口調のOlに、サクヤは意気揚々と男根を掴む。
こうでよろしいかしら?
そして恐る恐るといった仕草で、ぺろりとOlのものを甜めた。
どうれすか?気持ちいいですか?
サクヤは必死に舌を伸ばし、男根に奉仕を繰り返す。
だが子供が飴を舐めるような単調なその舐め方は、全く快楽に繋がるものではなかった。
姫様。まるで駄目
どうしたものかと眉を寄せるOlを見かねて、ホスセリが助け舟を出す。
駄目ですかどの辺りが?
全部
そんなに!?
見てて
ホスセリはサクヤと場所を替わってOlの脚の間に跪くと、彼の男根を恭しく手に取った
根本からゆっくりと舌先でなぞり、竿を唇で甘く食んで、指を輪にして扱き立てながら雁首をなぞって、裏筋に口付けを何度か落とし、亀頭をぱくりと頬張る。そして喉の奥まで飲み込むと、頬をすぼめて吸い上げながら顔を激しく前後させた。
くっ出すぞ!
サクヤに散々焦らされたこともあり、Olは耐えることも放棄してホスセリの口内に射精する。彼女は頬をぷっくりと膨らませてそれをすべて受け止め、口を大きく開けて舌の上に溜まった精液をOlに示すと、ごくりと飲み込んだ。
そして再度Olの一物を口に含んで、掌で扱き立てつつ尿道に残った最後の一滴までをちゅうと吸い尽くす。
最後にちゅっと音を立ててOlのペニスに口付けて、ホスセリはサクヤを振り向いた。
こう
いやいきなり上級者すぎるだろう
やってみます!
流石に喉奥まで飲み込むのは、淫魔でもなければかなりの訓練を必要とする。だが意気込むサクヤを見て、Olはとりあえずやらせてみることにした。
考えてみれば、彼女は明らかに人間ではないのだ。
その身体の構造も人と同じとは限らない。
案外上手く行く可能性も
うぇっ、ごふぇっ、ぐ、ごへぇっ!
なかった。
美女が出してはいけない声をあげながら、サクヤは思い切りえずいていた。
何をやってるんだ、お前は
閑話蜘蛛の巣掃除を致しましょう-後
姫様。折角無駄に巨乳なんだから、その乳を使おう
こ、こうですか?
サクヤはその豊かな膨らみを両手で持ち上げて、Olの剛直を挟み込む。
そう。私も手伝う
ホスセリも双丘を反対側から押し付けて、サクヤのそれに密着させた。
涎、垂らして
ホスセリはそう言うと、舌を伸ばして二人の谷間から顔を覗かせるOlの先端に唾液を垂らす。サクヤもそれに倣って、慌てて舌を出した。いかにも淑女然とした彼女が下品に舌を伸ばす姿は、中々そそるものがある。
動かして
二人の垂らした唾液を潤滑油にして、柔らかな肉がOlの剛直を擦り上げる。そうしながらホスセリは胸の中に収まりきらないOlの亀頭に舌を這わせ、サクヤもそれを真似た。
ふにふにと歪む媚肉の柔らかさと、硬く尖ったその先端のアクセント、そして鈴口や雁首を這い回る舌の感触に、流石のOlも小さく呻き声をあげる。空いた手でホスセリがゆっくりとOlの脚を撫で、精の詰まった袋をやわやわと揉みしだく。
堪らず放った白濁の液が二人の胸の間から間欠泉のように吹き出して、その白い顔と薄紅色の髪を汚していった。
ふあっ!
自分の顔についた精液を拭い、サクヤは指に糸を引くべたべたとした体液を目を丸くして見つめる。
ああこれが、憧れの顔射ですのね!一度でいいから、されてみたかったのです
処女相手に少し悪いことをしたかという罪悪感は、一瞬にして消え去った。
ついでだ。膣内射精も体験させてやる
Olがそう言ってサクヤを組み敷くと、彼女は流石に身体を固くした。
それは、その、ええっと
何だ?これだけ濡らしておきながら、準備が出来ていないなどと言うつもりはなかろうな
サクヤの太股は、温泉の湯とは明らかに違う液体で滴るほどに濡れていた。
さ、最初は、妾の部屋か月の見える海辺であっ、それか、あなたの部屋でも
この迷宮すべてが俺の部屋だ。これで良かろう
Olが腕を振ると、木々がざわめいて木の葉を動かし、切れ間から月明かりが覗いた。
あっ、それと、先に口付けをして頂けませんか
面倒な、と思いつつも、Olはサクヤの後頭部を抱き寄せてその唇を吸う。舌先で唇を割り、歯を押し開いて差し入れれば、サクヤは驚いたように目を見開きながらもそれを受け入れた。
おずおずと彼女の舌が伸ばされて、Olの舌に絡みつく。その動きから徐々に遠慮がなくなって、サクヤはOlの背を抱きながら顔を傾け、彼の口内深くに舌を伸ばし返す。男の手が無遠慮に胸に伸び、無造作に鷲掴みにされてサクヤはピンと背筋を逸らした。
満足か
軽く達して放心状態のサクヤに、Olは問う。彼女は頷きかけて、首を軽く振った。
あ、あの
まだ何かあるのか
妾を好きだと、まだ申して頂いておりません
何を言っているのだ、この女は。とOlは思う。
そもそも無理矢理乱暴されると言っていたのはサクヤ自身だったはずだ。
お前はもうすべて俺のものだ
面倒になって、Olは強い口調で断言する。
サクヤは目を見開いて。
なんて、男らしくて強引な愛の告白なんでしょう
うっとりとした表情で、己の頬を押さえた。
別に愛を囁いたつもりはないのだが、と思いつつも、余計に面倒になりそうなのでOlは口に出すことなく肉槍の先端をサクヤの入り口に押し当てる。
気合十分、といった様子でぐっと拳を握りしめるサクヤに、Olは一気に奥まで突き入れた。
途端、サクヤは顔を顰め。
たく、ありませんわね?
不思議そうに、首を傾げた。
それはそうだろう。処女とはいえここまで濡れている女に、余計な痛みを与えるほど下手ではない
お優しいんですのね
己の名誉の為に言えば、サクヤは何を勘違いしたのかぽっと頬を赤らめて微笑む。
Olはなんと答えるべきか悩んだ挙句、無言で彼女の奥を突いた。
んっ、あぁん
性格は色々と残念なものの、サクヤの身体は極上のものだった。抽送を繰り返す度にOlの肉槍を暖かな膣壁が柔らかく包み込み、無数のひだが撫で上げていく。これほどの名器が一万年以上のあいだ誰にも使われずに持ち腐れていたと思うと、勿体無いような幸運なような、奇妙な思いだった。
あの、気持ちいいですか?妾の、サクヤのそこは、あなたを気持ちよく出来ておりますか?
サクヤの身体を抱えるようにして突いていると、彼女は不安げな表情でそう問うた。
ああ。お前はどうだ?
普段Olはそういうことを女に問わないが、思わず問い返す。
あ、あの、ものすごく、気持ち、いいのですがっ
サクヤは申し訳なさそうに眉根を寄せて、Olに懇願した。
物足りないですもっと、滅茶苦茶に、してくださいましっ
良いだろう
処女に物足りないと言われたのは初めてだった。
自尊心を刺激されたOlはサクヤに湯殿の縁に手を突かせると、後ろから容赦なく貫いた。
くぅんっ!
まるで犬の鳴き声のように喘ぎながら、サクヤは背筋を逸らす。だがOlは手を緩めることなく、彼女の膣口を抉った。
あぁっ、いぃんっす、ごいぃっ、もっ、とぉっ!
パチャパチャと濡れた肉のぶつかり合う音が湯殿に鳴り響くほどに腰を打ち付け、爪の跡が付くほど強く乳房を鷲掴みにしても、サクヤの喉から発せられるのは喜びの声だけ。
あ、あ、あ、あ、あっ、くる、きちゃうッ!
その膣がきゅうとOlのものを強く締め付けて、サクヤは高く鳴く。
どこに出して欲しい?
中にっ!膣内に、出してくださいませっ!
Olが問えば、サクヤは躊躇わずにそう叫んだ。
あっでも無理やり口の中に注ぎ込まれるのもそれはそれで
さっさといけ!
Olはサクヤの呟きを無視した。
口内に出しても、どうせ盛大に咳き込んで吐き出すのが目に見えている。
あ、あ、あ、あああっ!
サクヤが絶頂への階段を上り、ふるふると身体を震わせる。
あぁ~~~っ!
そして喉を反らし、達するのに合わせてOlもその奥へと欲望を解き放つ。そうしながら更に二度、三度と突き込めば、サクヤはより深く達してOlを締め付けた。
やがて張り詰めた糸が切れるように、サクヤは脱力してくたりと浴槽にもたれかかる。緩慢な動作で振り向き両手を伸ばす彼女に近づけば、サクヤの両手はたちまち蜘蛛のようにOlの頭を捉えて引き寄せ、彼の唇を甘く奪った。
穏やかな、しかし深く長い口付けの後、サクヤはほうと息を吐いて余韻にひたる。
とても、素敵でしたわ
それは何よりだ
夢見るような表情で呟く彼女に、Olはそう答えた。
Olとしても悪くはなかったが、サクヤの相手は調子が狂うというかとにかく疲れる。
あの
これではどちらが奉仕したのかわからないと息をつくOlに、サクヤは声をかけた。
今度はこちらを試してみたいのですが
とろりと白濁の液が垂れ落ちる秘部の下。
不浄の穴を指で開きながら言うサクヤになんと答えるべきか、Olは頭を悩ませた。
第5話死の運命を覆しましょう-1
いやぁ、ソフィアは可愛いなぁ~。見た目はロリで実年齢はもっとロリって最高じゃね?ロリババアならぬロリロリだぜ。なんて素晴らしい響きなんだ!
やめてください、おぞけが走ります
数ヵ月ぶりだけど相変わらず鬱陶しいわね
日数単位でソフィアの年齢当ててくるんだから、徹底してるよねえ
やにさがってソフィアを見つめる赤い悪魔に、スピナ、リル、ユニスが辛辣な言葉を投げつける。特にスピナはかつての自分の名前を呼ばれているせいか、本気で嫌がっているようであった。
当のソフィアはといえば、初めて見るローガンの姿が恐ろしいのかマリーの背に隠れるようにしてピッタリと張り付いている。
Olの方に似たのか、そもそも子と言っても血の繋がりが無いから関係ないのか。
自由奔放で怖いもの知らずだったマリーに比べると、ソフィアは随分臆病で慎重な性格をしているようだった。
ローガン
マリーが低い声で名前を呼ぶと、ローガンはビシリと姿勢を正して敬礼する。
冗談めかした動作ではあるが、マリーには逆らえない上下関係のようなものが確かに存在していた。
わたしに何かあったら、ソフィをよろしくね
だが彼女の口から出てきたのは、叱責ではなかった。
つまんねえこと言うんじゃねえよ
ローガンは姿勢を崩しながら舌打ちする。
何もなくたって、この世のすべてのロリの世話はこのローガン様が喜んでさせてもらうぜ!
四つの腕全ての親指を立てながらおどけたように言うローガンに、マリーは笑顔で頷いた。
あ、でも手を出したらもぐからね
何を!?
笑顔のまま、何か棒状の物質を千切り取る仕草を見せるマリーに、ローガンは身を縮こませた。
あれだな
それは巨大な山々が連なる山脈の麓、大きな河の間に出来た中洲にあった。
白い石を積んで作られた、長方形の箱のようなもの。
うむ。間違いない
Olの言葉に、テナが首肯する。
あれこそが奴に贄を捧げる祭壇じゃ
ついに、贄を捧げる日がやってきたのだ。
そこへと赴いたのは、三人。
Ol、テナ、そして
ソフィア
ソフィアは怯えたような表情で頷くと、ゆっくりと歩を進め祭壇に手をかける。
ん、しょ
まだ小さな身体の彼女が何とかそこによじ登るのを、Olは眉根を寄せて見守った。
これでいいのかな、ぱぱ
祭壇の上にこてんと寝転がる彼女に、Olは苦々しく頷く。
若く清らかな乙女という条件に符合するのが彼女しかいなかったのだから、仕方ない。
とは言え我が子を生け贄にするというのはやはり心が傷んだ。
テナが鋭い声で警告を発する。
それに応えるかのように、やにわに暗雲が立ち込めたかと思えば、雨が降り注ぎ雷鳴が轟いた。
豪雨によってOl達を囲むように流れる河は瞬く間にその水位を増して、大きく波打つ。
そして、奴はその姿を現した。
奴ええ。存じております
サクヤはOlの問いに、緊張感を漂わせながら頷いた。
お前と同じ魔王だと聞いているが
同じそうですね。魔王、という意味ではそうかもしれません。しかし奴は妾たちとは全く別の存在です
彼女の表情にあったのは強い嫌悪。
そして、恐怖だ。
部下も領土も持たず、ただ全てを喰らい全てを滅ぼす暴虐の存在。それが奴
サクヤの言葉を思い返しながら、Olはそれを見上げた。
河の中から現れたのは、巨大な岩のような、鱗。
そしてその次に現れたのも、同じだけの大きさの鱗だった。
その次も、その次の次も、その次の次の次も。
うんざりするくらいに続いた鱗の後。
その鱗に数倍する大きさの赤い瞳が、Olを睨みつけた。
一つ、二つ。三つ。四つ分厚い雲に覆われ何も見えぬような闇の中、真っ赤な目だけが爛々と光る。
その数十六。八対の赤が、Olを遙か高みから見下ろす。
鬼灯のような赤い瞳、巌のような鱗、山のような大きさの蛇と聞いてはいたが
流石のOlも、声が震えるのを止められなかった。
同時に、なるほどウォルフを持ってしても勝てぬわけだ、と思う。
山のようなという言葉がまさか比喩ではなく、ただの事実だとは。
もたげた首の高さは一マイル(約一・六キロメートル)は優にある。
尾までの長さは想像もつかなかった。
かつて天をやり込めた時に使った、ダンジョンの大巨人すら子供に見える巨大さだ。
これが奴
サクヤはそれを、ヤマタノオロチと呼んだ。
八つの首と八つの尾を持つ、蛇の姿をした途方もなく巨大な竜だ。
名を呼べば、それはオロチに力を与えるという。
だからテナはこれをただ八つと呼んだ。
オロチの八つの頭のうち一つが、大きくそのアギトを開きゆっくりとソフィアに近づく。生け贄として捧げられた娘を喰らうつもりなのだろう。
ソフィア!
Olは娘の名を呼んだ。
ソフィアもまた、オロチと同じ魔王だ。
その名を呼べばOlの力は彼女へと流れ込む。
さて、復習の時間だ
Olは娘に尋ねる。
彼女はあの時傍にいたわけではないが、ダンジョン自身であるソフィアにとって、その身体がどこにあるのかはあまり関係のないことだ。
水生生物に効く罠は、何だ?
おとしあな!
ソフィアの声とともに。
見渡す限り一面の地面が、全て空いた。
第5話死の運命を覆しましょう-2
我ら魔王には、必ずそれぞれ支配しているものがあります
寝物語に、サクヤはそう語った。
妾であれば、火山そのもの。かの山に宿る火と熱がそれです
その割には温いな
加減しておりますもの
Olが重ねた肌を撫で、柔らかな肉を掴んで言えば、サクヤはくすりと笑んだ。
けれどもその性質からはけして逃れられません。一度火が付けばそう簡単には止まりませんから責任を取ってくださいましね?
サクヤはOlの掌に己の手を重ね、くすぐるように耳元で囁く。
魔王には必ず支配するものがある、と言ったな
サクヤは火山の火と熱。タツキは海の波。ソフィアはダンジョン自体だろう。
彼女たちの支配するものは、その領土と一致する。
であれば、奴が支配するものはなんだ?
だが奴は、領土も部下も持たない魔王であるという。
簡単なことですわ、旦那様
サクヤはOlの胸板に手をつくと、彼の上に馬乗りになった。
何をも持たないものであっても必ず持っている、たった一つのもの
一糸纏わぬ美しい裸身が、月明かりに照らされてOlの眼前に晒される。
己が身自体。かのものを形作るそれは
勿体付けずに早く言え
下から突き上げると、サクヤはあんと甘く鳴く。
もう性急なんですから
唇を尖らせぼやきつつも、彼女は言った。
かのものを形作るのは水。全てを押し流す、暴虐の河ですわ
まずは第一段階成功、といったところか
キューブで水流に乗って逃げながら、Olは同じ速度でこちらを追ってくる大蛇の首を睨みつける。小さな城ほどもあったその頭は、今はダンジョンの通路にすっぽりと収まる程度に縮んでいた。
オロチが河の化身であるならば、その性質から逃れることは出来ない。
落とし穴から繋がる八つの水路は見事にオロチの首を分断し、小さく細くすることに成功していた。
とは言え。
ぱぱ、痛い!痛いよぉ!
ソフィアが手を押さえ、涙を流しながら訴える。
その指先はボロボロに切り刻まれ、血で真っ赤に染まっていた。
奴はただの河ではない。
八つの山と谷とに跨って溢れかえり、迸り、全てを滅ぼし飲み込む濁流だ。
その勢いは堅牢なダンジョンの岩壁さえも削り取り、押し崩してしまう。
それはソフィアを傷つけることと同義であった。
すまん。堪えてくれ
魔王であり、ダンジョンそのものでもあるソフィアには痛みを止めるような魔術も効かない。傷を治してやっても、すぐさまオロチによって破壊されてしまう。
両の手の指のうち八本から血を流して泣き喚くソフィアを、Olはただ抱きしめてやることしか出来なかった。八分の一に分け、更に通路で制限してなお、オロチは簡単に勝てる相手ではない。
彼女の指の傷が第一関節にまで至った時、キューブは突然それまで乗っていた海流の中を脱して小さな部屋の中に辿り着いた。オロチはすぐさまOl達に追いついて、キューブごと一呑みにせんとその巨大な口を開く。
今だ!
その瞬間、小部屋の天井が開いたかと思えば大量の液体が降り注いだ。無色透明のその液体はしかし、水ではない。それを示すかのように、液体を浴びたオロチの青黒いその身体は、見る間に赤く染まっていった。
なんじゃ?毒か?
そうであるとも言えるし、そうでないとも言える
首を傾げるテナに、Olはそう答える。
オロチはOl達を襲うのをやめ、大きく口を開いたまま喉を鳴らした。それとともに、小部屋の中に満ちた液体はその嵩をどんどん減らしていく。オロチが飲んでいるのだ。
どうだ、旨いか?
Olは答えが返ってこないことを知りつつ、そう尋ねた。
我が魔窟に住むドヴェルグども特製の、火酒の味は
鍛冶の腕と偏屈さで知られる鉄小人たちは、同時に大食と無類の酒好きでも知られている。凝り性の彼らが作り出した究極のアルコールが、ドヴェルグの火酒だ。
儂も酒は飲むが凄まじい酒精の強さじゃな
当然だ。お前たちの酒とは作り方から違う
キューブを隔ててさえ香るアルコールの匂いに、テナは鼻を押さえる。
普通の酒は、穀物や果物を醗酵させることで水に酒精を足すことによって作られる。
水に酒精を足すという事は、水の分だけどうしても酒精は薄まる。
それを、あのちんちくりんの火と鉄の申し子たちと来たら、全く逆の方法で解決した。
即ち、酒から酒精だけを引いたのだ。
熱して気体となった純粋な酒を集め冷まして酒にして、それを更に熱する。それを何度も何度も繰り返して作られた火酒は、もはや笑ってしまうほどの強さだった。
そして、竜というのは酒に弱いものと決まっている。
それは新大陸においても同じことだった。
何せ竜であることそのものはウォルフが請け負ったのだ。間違っているわけがない。
火酒を飲み干したオロチはふらつきながらも、Olたちに狙いを定めて牙を剥く。
ソフィア、捕らえろ
だがその首を、溶けた岩が包み込んだ。
溶岩の奔流は水で防ぐことが出来る。であるならばその逆もまた同じことだ。
水をその本性とするオロチはどんな小さな穴でもすり抜け打ち崩すだろうが、溶けた岩の中を抜けることは出来ない。Olはオロチを完全に封じ込めることに成功した。
Ol!来るぞ!
だが、それで終わる相手でもなかった。
テナが鋭く警告を発すると、苦しげに大きく口を開くオロチの喉の奥から紫色の液体が噴射される。あらゆるものを溶かし腐らせる毒液だ。
ソフィア、草だ!
ソフィアが手を振り上げると無数の草が地面から生えてきて、瞬く間に生い茂る緑の壁となって毒液を防いだ。毒液に触れた壁や床はただれ溶けていっているというのに、その草だけは毒液を浴びてもピンピンしている。
なんじゃ、あの草は?
鳥の餌だ
餌じゃと?
Olの答えに、テナは思わず問い返す。
そんなものであの大毒蛇の毒が防げるとはとても思えなかった。
俺の大陸には、コカトリスという魔獣がいる。蛇の尾が生えた巨大な鶏のような獣で、その嘴で触れたものは何でも石にしてしまう。その鶏に突かれても唯一石にならず、それ故に餌となるのがあのヘンルーダという薬草だ
石になるどころの話じゃなかろう。岩を溶かしてるんじゃぞ、あの毒は
もっともなテナの言葉に、Olは頷く。
コカトリスというのはもともと雑種でな。親はバジリスクという小さな竜の一種だ
あまり強そうには見えんな
Olが呪文で作り出した幻影に、テナはそう素直な感想を漏らした。
掌に乗ってしまうほどの大きさしかないそれは、竜というよりただのトカゲのようにしか見えない。
だがその毒は凄まじい。その吐息に触れるだけであらゆる生き物は息絶え、鳥は落ち、水は腐り、岩は割れ、土は砂と化し、バジリスクが一匹いるだけでそこは不毛の砂漠になる。騎士が槍で突き殺してもその毒は槍を伝って騎士の乗る馬まで殺すという。まさに毒蛇の王だ
お主の大陸には滅茶苦茶な生き物がおるのじゃな
毒だけで言えばヤマタノオロチさえも軽々と超える存在が生息していることに、テナはおののく。
あの草はな。そんなバジリスクを飼うために作り出した特別製だ。コカトリスは無論のこと、バジリスクの毒にも耐えて餌となり檻ともなるようにできている
なるほどのか、飼うじゃと!?
さらりと告げられた言葉に、テナは叫んだ。
儂の耳がおかしくなったのか?
いや、安心しろ。俺も最初にその話を聞いた時、気が触れたかと思った
何のためにいや、確かにそれほどの魔獣を配下に持てば、強力な戦力に
可愛いからだそうだ
おかしいじゃろ!?
うちの牧童は少しばかり変わっていてな
少しばかりで済ませる範囲を大幅に逸脱しているだろう、とテナは思ったが、いつに無く遠い目をするOlに口をつぐむ。
ちなみにバジリスクは戦場に出せば敵も味方も被害が甚大すぎる上に、輸送する手段もないので戦力としては全く期待できなかった。
Olとテナが話すうちに、オロチは毒液を吐ききってしまったようだった。
Olは外套を広げ、そこに描かれた魔法陣を起動した。
その表面から細くしなやかな指が付き出して、ゆっくりと掌、肘、二の腕と続いていく。
一対の羊のような角に、すっと通った鼻筋。金の双眸を持つ黒髪の美女。
とどめだ、リル
まっかせて!
Olの美しくも忠実な使い魔が、その姿を現した。
オロチの硬い鱗は、ウォルフの剣でも貫けず弾き返してしまう。
酔わせて動きを止めても、倒すためにはこれを何とかせねばならなかった。
行くわよ!
リルの構える石火矢から脚のようなものが二本生え、地面に突き刺さって固定される。
それは、彼女が作り上げた武器を更に改造したものだった。
射程距離と命中精度を重視した石火矢形態に、威力を重視した大砲形態の弾を乗せる。
大きく大雑把な大砲の威力を小さく一点に集中した、純粋な破壊力だけに特化した魔兵器だ。
欠点は山のようにあった。
まず反動が大きすぎて、携行武器であるのに手に持って撃つことが出来ない。
固定し、地面に伏せて撃つ必要があった。
魔力の集中に時間がかかるせいで、連射どころか一発撃つにも時間がかかる。
襲いかかってくる相手に当てるというのはほぼ絶望的だ。
そもそもここまでの威力がなければ殺せない生き物なんてものが殆ど存在せず、大半の相手にとって威力が過剰だ。
轟音とともに、リルの石火矢が火を吹いた。
圧縮された魔力の塊は高速で回転しながら正確にオロチの眉間に突き刺さり、分厚く硬い鱗を突き破ると、そこで止まることなく大蛇の肉を抉りながら進んだ。ダンジョンの水路に沿ってまっすぐ伸びていたオロチの肉体を半マイルも引き裂いたところで、ようやく魔力の弾はその力を失って止まる。
それを追うように衝撃がオロチの身体を走り、生じた熱が飲み干した火酒に引火した。火酒の名は伊達ではなく、火をつければよく燃える。酒というより殆ど燃料のようなものなのだ。結果として、オロチは体内から爆発した。
凄まじい威力だな
轟音とともに降り注いでくるオロチの鱗や肉片をキューブで防ぎながら、Olは思わず呟く。
ちょっと、はわたしのこと、見直し、た?
いいや
これほどの一撃を放つのは、リルにとっても負担が大きい。
ぜえはあと肩で息をしつつも冗談めかして言う彼女に、Olは首を振った。
お前が有能な事は元々知っている
あら、そうお?
珍しいお褒めの言葉に、リルは思わず頬を緩ませる。
あとは単純に、これを七度繰り返せば良い
もう!頑張ればいいんでしょ!
石火矢を振り上げ、リルは怒鳴った。
第5話死の運命を覆しましょう-3
単純に繰り返せば良いとOlは言ったものの、そう話は簡単なことではなかった。
酒を飲ませ、溶岩で封じるところまでは他の通路の首も並行して行ってはいたが、オロチの進行はそれでは止まらなかった。他の首は毒液で冷え固まった溶岩を溶かし、強引に迷宮の中を進んでいたのだ。
ぃぃよいしょおっ!
掛け声とともに、ユニスの振るった剣がオロチの牙を断ち割る。
今だよ!
避けてねユニスっ!
オロチが一瞬怯んだその隙を突いて、射線上のユニスを無視しリルの石火矢が火を吹いた。
それはオロチの喉奥を穿つと、盛大に爆発させる。
ふーどんどん大変になるね
寸前、転移して難を逃れたユニスはリルの隣に座り込んでヘンルーダを噛み締めた。凄まじく苦く舌がピリピリとするが、全身を犯す毒を中和するためには必要なことだった。
気のせいかな。どんどん強くなってない?
気のせいではない
ユニスの傷を魔術で治しつつ、Olが答える。
奴は八つの尾と首を持つ蛇であり、河だ。つまり尾から首へと力が流れる。首を潰せば潰すほど、残りの首へと尾の分の力が流れ増えていく。勿論潰した首の分、全体の力は弱っているが
じゃあ次はもっと強いわけかあ。これで五本目だっけ?
ユニスはずきりと身体を走る痛みに顔をしかめた。三本目から、溶岩を上手く操れなくなったソフィアに代わって彼女がオロチの足止めを務めている。戦いが終わる度にOlが傷を癒やしてはいるものの、消耗は否めなかった。
七本目、ですわ
通路の奥から現れて、疲れ果てた声色で訂正したのはサクヤだ。
二本はこちらで仕留めました。旦那様、この者達の治療をお願いできませんか?
その背後には片腕を失ったホデリと、脚を引きずるホスセリの姿があった。
ああ。千切れた腕はあるか?
いえ喰われ申した
ホデリは首を横に振る。
そうか。まあ安心しろ、この程度なら時間はかかるが再生は出来る
見ればホスセリの足も、足首から下が毒で溶かされていて殆ど用をなしていない状態だった。
それでもOlほどの魔術師であれば治療も可能だったが、流石に戦えるまでになるには数日はかかる。
面目ない
ごめん、御館様
いいや。十分な働きだ
しゅんと項垂れるホスセリの頭を、Olは軽く撫でてやる。
すみません、旦那様。妾も次は足手まといとなってしまうかと。霊力が尽きてしまいました
仕方あるまい。よくやってくれた
申し訳なさそうに頭を下げるサクヤに、Olは内心ほぞを噛みつつ彼女の労をねぎらう。
火の化身である彼女にとって、水の化身であるオロチは天敵のようなものだ。むしろよく二本も討ったと言うべきだろう。だが単独でOlたち全員に匹敵するほどの力を持つ彼女が脱落したのは痛手であった。
Ol、ソフィアが!
リルの叫び声にOlが振り向くと、ソフィアは左腕を抱きかかえるようにしてぼろぼろと涙を流していた。
見せてみろ
Olは手早く袖を捲りあげる。そして、その白い肌についた傷に絶句した。
ソフィアの左小指から伸びた傷は彼女の肩を超え、心臓へと向かっている。それはつまり、オロチの首が中核たるダンジョンシードへと到達しつつあるということだ。
急ぎましょう
残り一本、頑張るよ!
立ち上がるリルとユニスに、Olは頷く。
お前たちはここに残れ。後は俺達で片をつける
サクヤたちにそう指示しながら、Olは床に転移陣を描いた。
Ol。未来は、まだ変わってはおらんぞ
ああ。わかっている
テナの言葉に、Olは頷く。
ダンジョンシードのある部屋で、Olはマリーとともにオロチと対峙し、そしてマリーは死ぬ。それがテナの見た未来の姿だ。それを回避できないか手を尽くしたが、どうしてもそれだけは変わらなかった。
後は、Olが仕込んだ仕掛けが未来を変えることに賭けるしかない。
飛ぶぞ!
Olはユニス、リル、ソフィアの三人を魔法陣に入れて、魔術を発動させた。
転移陣が光を放ち、Olたちの身体は瞬く間にダンジョンシードの元へと転移する。
途端彼の腕に飛び込んできたものに、Olは目を見開いた。
お師匠様申し訳、ありません
それはバラバラに千切れた、スピナの身体だった。
腹には大きな穴が空き、左腕と右足はまるごと無くなっている。
なんだ、あれは
スピナを跳ね飛ばしたのは、青黒い人型の生き物だった。
人型と言っても作りは全体的に大雑把で、目鼻や指のようなものはなく、まるで粘土を固めた人形のようだ。
その背中からは、やはり青黒い触手のようなものが伸びている。
Olさま、あいつ普通じゃないよ!攻撃が全然通じないの!
四本の剣を構えながら、マリーが叫んだ。
途端、青黒い生き物の触手が全て半ばから切れ落ちる。
だがそれはほんの一瞬のことで、すぐに元の通りに生え伸びた。
ホントだ。まるで水を切ったみたい
斬撃を飛ばしたユニスはそうぼやくと、相手に向かって大地を蹴る。
あれが最後の首ってこと?
だろうな。ということは八本伸びるあれは触手ではなく、尾か
リルの言葉に、Olは頷いた。
七本の首を落とされて小さくなったのか、それとも狭いダンジョンの中で戦いやすい姿をとったのかは分からないが、少なくとも今まで倒してきた首より遥かに厄介であることは明白だった。
多分私の石火矢なら吹き飛ばせるとは思うけどああ動かれちゃ当てるのは難しいわね
縦横無尽に尾を振るいながら、ユニスと戦うオロチの動きは巨大な蛇の姿をとっていた時とは比べ物にならないほど早かった。
ユニスは転移で勝手に避けるだろうから気にしないでいいだろうけど、動きを止めないと。ユニス、出来る?
ちょーっと難しいかなーっ!
オロチの尾を躱し、切り裂きながらユニスは声を張り上げた。
既に並の生き物なら十回は死ぬだけの攻撃を加えてはいるが、全く効いている気がしない。
ユニスの方も相手の攻撃に当たる気はしなかったが、戦いが続けばどちらが負けるかは明らかだ。
まるでスピナと戦ってる気分だよっ!
ユニスの言葉にはっとして、Olはスピナに目を向けた。
半スライムである彼女には重要な臓器というものがなく、これだけボロボロになろうと命に危険性はない。だがその傷が治らないのは奇妙なことだった。
スピナ。何故お前の傷は治らん?
わかりません
力なく首を振る彼女の傷口は半透明の粘液に変じていて、スライム化を解かれたわけではない。にも関わらず、傷が治らないのはおかしい。
その時、Olの脳裏にある情報が蘇ってきた。
それは既に回避したはずの未来であり、それ故に彼の頭から抜け落ちていたもの。
しまった、ユニス!
Olが目を向けた時、ユニスはある手段を試そうとしていた。
再生が追いつかないほどのダメージを、一瞬でオロチに与えるのだ。
小柄さ故に一撃の破壊力よりも身のこなしを信条とする彼女にそこまでの威力を出せる方法は限られている。ホデリを倒した、斬撃を転移させ無数に繰り出す技だ。
だがそれを放つには、助走と一瞬の時間が必要だった。
八本の尾が彼女を同時に攻撃した瞬間を狙って転移で避け、距離と時間の両方を稼ぐ。
何度目かにやってきたチャンスに、ユニスは尾をギリギリまで引き付けた。
そいつは、術を食う!
Olの警告は、しかし遅すぎた。
え
転移は発動せず、八本の尾はユニスの身体を貫く。
Olは思わず走っていた。
彼の脳裏をよぎったのは、十年前の光景。
一瞬の躊躇によって彼女を失った時のことだった。
駄目
ユニスは叫ぼうとしたが、代わりに彼女の喉から血の塊が溢れる。
Olに勝算がなかったわけではない。オロチの尾は強力だが、他の首の牙ほどではない。キューブの防護壁で十分防御可能だろうという予測はあったし、それが間に合う距離でもあった。
だが結果として、彼は判断を間違えた。
オロチの狙いは瀕死に陥ったユニスでも、それを助けに来たOlでもなく。
ダンジョンの中枢、ソフィアの心臓部たる、ダンジョンシードだったからだ。
させないっ!
そしてその前に立ちはだかるのはたった一人。
ソフィアの傍をけして離れず構えていた、マリーだった。
まるで花のように広がり進む八本の尾のうち半分を、四振りの剣が防ぐ。
ローガンっ!
任せとけ!
そして残りの半分を、彼女の影から現れいでた赤い悪魔の拳が受け止めた。
互いの力が拮抗したのは、ほんの一瞬のことだ。
オロチの泥人形のような造形の頭が中央からばくりと二つに裂けて牙と顎を形作ると、首が伸びてマリーを丸呑みにせんと大きく開く。
それを
鈴の鳴るような声が、響いた。
マリーでも、ローガンでも、リルでもスピナでもユニスでも、ソフィアでもOlでもない。
その場にいないものの声が。
待って、ました!
マリーの髪を縛っていた髪飾りがぶわりと広がると、ポンという軽い音とともに人の形に転じる。
髪飾りに変じていたユツはそのまま己の尾を引き抜くと、巨大な櫛に変化させる。
そして、一気にオロチに向けて振り下ろした。
半円状の櫛の歯はオロチを貫いて地面にまで突き刺さり、まるで牢獄の檻のように繋ぎ止める。
本来水の性質を持つオロチにそれは束縛にも攻撃にもならなかったが、マリーを攻撃する為にある程度実体化しているその瞬間だけは別だった。
液状化し、櫛の歯をすり抜けようとするのに要したのはほんの数拍。
だが、リルが石火矢で狙いを付けて撃ち抜くのには、十分な時間だった。
やったの?
尾を残して消し飛んだオロチのいた場所を見つめ、誰よりリルが信じられずに訝しげに問う。マリーとローガンが受け止めていた尾はどろりと溶けると、液体となって流れ落ちていった。
そのようだな
Olは魔術でダンジョンの中を探査し、オロチの反応が残っていないことを確認する。
待っていろ、今すぐ治療する
ギリギリでかわしたのだろう。幸いユニスの傷は致命傷を外れていて、命に関わることはなさそうだった。
Ol、あたしより先にソフィアを治してあげて
馬鹿を言うな。傷の程度がまるで違うだろうが
そうは言っても、体中に大きな穴が八つも空いている大怪我だ。左腕を負傷しているだけのソフィアとは優先順位は比べ物にならず、Olはユニスの身体に治癒を施す。
ぱぱ
そんな彼にゆっくりとソフィアは歩み寄り。
ソフィっ!
マリーは咄嗟に、彼女を突き飛ばした。
巨大な蛇の牙がその上半身をばくりと齧り、千切れた下半身と突き飛ばされたソフィアが地面に転がる。
ありゃ。外れちゃった
呑気な声に、その場にいた者たちは皆言葉を失ってその女を見た。
青い髪に、鹿のような角、魚のようなヒレ。
そして魚のような下半身は、今は大きな顎を備えた大蛇と化している。
まあいっか。ねえ、もっとごはんください、おうる!
タツキは邪気のない口調で、そう言った。
第5話死の運命を覆しましょう-4
おい嘘だろ
ローガンは、地面に転がる少女の半身を見つめて呆然と呟いた。
彼は数千年に渡って人間の魂を見続けてきた大悪魔だ。
ましてやマリーの魂を、見間違えようはずもない。
それは幻術でも、偽物でもなく、紛れもない本物だ。
マリーの魂は粉々に砕かれて、半分に齧り取られていた。
こうなってはもう蘇生の魔術も効かない。
き、サ、マァァァァァァァアアア!!
ローガンの身体から、爆発的に炎が吹き上がった。
その赤銅色の肉体がねじれ膨らんで、彼は巨大な炎の嵐そのものへと転じる。
吹き付ける熱波の中で炎の断片が鋭く光り、鉤爪を備えた巨大な腕となって四方からタツキを切り裂かんと襲いかかる。
サクヤの操るそれにも匹敵するかのような凄まじい熱量となってタツキを襲った。
うげえ。焦げ臭くってまっずい
だがタツキは尾の蛇でそれをばくばくと飲み下しながら、そんな不平を漏らすほどの余裕を見せる。
やっぱりそっちの方が美味しそうだな
タツキの尾が、ソフィアを向く。
途端、炎は収まりローガンは実体を取り戻すと、ソフィアを背中に庇った。
オロチの力を取り込んだのか
オロチが死に、どろりと溶けて流れた尾。
あれは消えたのではなく、タツキが飲み下したのだとOlは悟った。
ダンジョンの中に全くオロチの力が感じられないのはおかしいことだと、気づくべきだった。
河の水は海に流れ込むものでしょ?
当然のように、タツキはそう答える。
オロチはお前自身だったということか?
違うんじゃない?たつき、難しいことはわかんない
Olの問いに、タツキは首を傾げた。
わかるのは、これのおかげで毎年陸のおいしーものが食べられるってことと
ずるり、と音を立てて蛇の尾が鎌首をもたげる。
それが凄くおいしそーってこと
タツキはソフィアをじっと見つめながら、ぺろりと舌なめずりをした。
旦那。何か打つ手はねえのか
珍しく焦りを滲ませた声色で、ローガンはOlに囁く。
ない
だから、Olは正直にそう答えた。
タツキは全てを喰らってしまう。Olに出来ることはもう何もなかった。
不意に、タツキの動きが止まる。
何、こ、れ
そして己の腹を両手で押さえると、その場に蹲った。
痛い、痛い痛い痛い!何、なんなの!?
タツキは地面をのたうちまわり、もがき苦しむ。
魔王とは何か、わかるか?
それを眺めながら、Olはローガンにそう問うた。
あぁ?そりゃ、あんたのことじゃねえのか
突然妙なことを尋ねるOlを訝しみながらも、ローガンは答える。
いいや。俺はこちらの言葉では勇者ということになるらしい。魔王ではない
いいからさっさと言えよ
その落ち着き払った様子から、タツキが苦しんでいるのはOlの仕業であるとローガンは何となく察する。だがマリーが死んでしまっているのにこれほど落ち着いている彼に苛立って、ローガンは荒い口調で言った。
誤訳だ。俺はずっと言葉を間違えていた。こいつらの言う魔王というのは我々の言葉で言えば恐らく、神という言葉が一番近い
はぁ?神が何匹もいるってのか?
神。
それは悪魔の天敵にして、絶対の支配者。
かつて滅びた天上世界の主だ。
それと今、目の前でもがき苦しむタツキや、ローガンが背後に庇うソフィアは全く結びつかなかった。
そこが勘違いのもとだ。俺も神とは唯一無二のものと思っていた。だが、種族としての神は少なくともこの大陸には無数に存在するのだ
だったら何だってんだ?
あの。ボクが、教えたんです
苛立ちを隠さず、唸るように炎を吹き出すローガンに、ユツは堪えきれず声を上げた。
だから一体何の話だ!
ですから
うもう、だめ
タツキの下半身から生える蛇が大きく頬を膨らませたかと思えば、突然何か大きなものを吐き出す。
巫術、口寄せ、召鬼の術。妖魅えっと、その神というもののもうちょっと弱いの?を、自分の身に降ろして力を得る術をです
死ぬかと思ったー!
タツキから吐き出されたマリーは、全身についた消化液のようなものを拭いながら叫んだ。
マリー?なんで、生きてんだ!?
彼女の魂が粉々に砕かれていたのは、ローガンははっきりと確認した。だがいつの間にか地面に転がる彼女の下半身は霞のように消えていて、その魂も傷一つなく輝いている。ローガンが十年間ずっと見守ってきた、太陽のように金色に輝く美しい魂だ。
だが、あそこまで破壊された魂が修復することなどありえない。
いや
一つだけ、ローガンはそれがあり得た事例を知っていた。
あのロリババアか!
魔道王に造られた魔への供物。
けして死なず滅ぶことのない数千歳の幼き娘、マリーの年上の妹、メリザンドだ。
ご名答だ、この変態が
マリーが、マリーの顔と声でメリザンドの言葉を綴る。
その青い瞳が、右目だけ赤く輝いていた。
魔王、妖魅、神。
その共通点を見出してしたOlは、それを応用出来るだろうと考えた。
何せマリーはメリザンドと元々二心同体の間柄だし、メリザンドにも己の魂を材料に不死身という英霊を作り出した経験がある。そして何より、あらゆる物事に万遍なく適正を持つマリーの才能は、巫術という未知の技術に対しても効果を発揮した。
メリザンドの力をマリーに憑依させ、彼女の不死の力をマリーにも与えるのはそう難しいことではなかった。
死の運命を変えられぬなら、殺してしまえば良い
後はオロチの力と、魔道王の呪いの強さの勝負。
だが数千年の時を経て今なお微塵も綻びを見せない強力な呪いを相手にしては、全てを喰らうオロチといえど消化しきることは出来なかったようだ。
そしてそんなものを飲み込めば、タツキもただでは済まなかった。
苦しげに地面に手を突き、堪えきれず彼女は八匹の小さな蛇を吐き出した。
すかさずそれをユツが木槌で叩き潰すと、タツキの下半身は元の魚のような尾へと戻る。
これで、完全にオロチの力は消え去った。
初めて食あたりした気分はどうだ?
Olはぐったりと地面に横たわるタツキの下半身を踏みつけて問うた。
さいあく
全てを吐き出し痛みは落ち着いたようだが、力も吐ききってしまったのだろう。タツキはいつに無く弱々しい声で答えた。
美味しいもの食べたかっただけなのに
食ってみろ
Olが彼女の口元に指を差し出すと、、タツキは半ば反射的に噛みつく。
ぎゃっ!
途端鋭い痛みを感じて、彼女は悲鳴を上げた。
よし、呪いも効果を取り戻したな
かつてOlがタツキにかけた、攻撃を禁ずる呪いだ。
タツキの認識が曖昧だったせいもあって押し流されていたが、これで危害を与えることも出来ないだろう。
とはいえこのまま殺してしまった方が心配もないのだが、と考えながらOlは彼を見つめる瞳に視線を向けた。
リルの金色の双眸が、何かいいたげに彼を見つめている。
お前、そんなに食べるのが好きか?
嘆息し、Olが尋ねるとタツキは即座に頷く。
そうか
悪気はないのだろう。ただ単純に、食欲を何より優先しているだけなのだ。
であれば餌付けしても無駄だし、呪いをかけてもそれを超える力を手に入れる可能性がある。
ならば、取りうる方法は一つだけだ。
では、それ以外の喜びを教えてやろう
そう宣言するOlに、タツキは不思議そうな表情を浮かべた。
第5話死の運命を覆しましょう-5
ねー、おうる。美味しいもの、食べさせてくれるんだよね?
ああ。そうだ
じゃあ、何ではだかになるの?
Olの寝室でベッドに横たわり、言われた通りに着ていた衣を全て脱ぎ捨てた後。
一糸纏わぬ姿を恥ずかしげもなく晒しながら、タツキはこてんと首を傾げた。
何故だと思う?
Olの問いに、タツキはんーと眉根を寄せる。
もしかして、おうるを食べさせてくれる?
まあ、当たらずとも遠からずといったところか
ぱっと顔を輝かせるタツキとは対照的に、Olは微妙な表情を浮かべた。
まずはこれを咥えてみろ
おー。おいしそう!
屹立した男根を鼻先に突き付けて言えばそんな反応がかえってきて、Olはますます表情を曇らせる。美味しそうと言われたことは何度もあるが、食的な意味で言われたのは初めてだった。腸詰めか何かと勘違いしているのではないか。
歯は立てるなよ
うん。いただきます!
Olの忠告に頷いた後、タツキは躊躇いなくOlの剛直にかじりついた。
ぎゃんっ!
途端、その身に内包した呪いが彼女に牙を剥いて、タツキは悲鳴をあげる。
いたい
だから歯を立てるなと言っただろうが
事前にかけた呪いによって、タツキがOlに与えたダメージは全て彼女を襲うようになっている。そうしていなければ一体どうなっていただろうかと思うと、Olの背筋に寒気が走った。
うー。どうやったらいいの?
歯は立てずに、ただ口に含んで舌で甜めしゃぶれ
んーこうお?
言われた通り、今度は恐る恐るといった様子でタツキはペニスを口に咥えた。
子供が飴をしゃぶるような拙い動きは快楽を生み出すものではなかったが、何も知らぬ無垢な少女が懸命にグロテスクな器官を舐める様は肉とは別の愉しみがある。
んなんかだんだん、味がしてきた
そうするうちに漏れ出てきた先走りの汁をちゅうと吸い、タツキはぺろりと唇を甜めて肉塊をじっと見つめた。
ここかなー
タツキは舌を長く伸ばし、先端を探るようにちろちろと舐めていく。その舌先がOlの裏筋を捉えると、肉茎はぴくりと反応して僅かに震える。
あ、やっぱりここだ
タツキは嬉しそうに声を上げて、反応のあった部分を重点的に甜め始めた。そうしながら、鈴口から滴るつゆをちゅうちゅうと吸い上げられて、Olは思わず声を漏らす。
ああ。中々上手いぞ
Olがそう言うと、タツキは瞳を笑みに細めてより熱心にペニスを甜めしゃぶり始める。彼女が膝立ちになって根本の辺りを手で掴むと、今まで腕で隠れていた豊かな胸元が露わになり、Olを誘うようにぷるんと揺れた。
あっ!そこ、触っちゃ駄目!
思わずそこへと手を伸ばすと、タツキは口を離して声を上げる。
なんかそこ変な感じがするからやだ
以前も胸に触れて怒らせたことがあったが、特に何か根拠があるというわけでもないらしい。
諦めろ
Olはあっさりとそう切って捨て、構わず彼女の胸を両手で鷲掴みにした。
手の平に少し余るくらいの大きさの乳房は張りに満ちていて、指を埋めるとぐっと押し返してくる強さがある。中心の蕾は殆ど肌と同じ色で、まだ小さく柔らかかった。
むー
胸を揉みしだきながら腰を突き出せば、タツキは渋々とそれを口に含む。だが胸を触られているのが気になるのか、その動きは先程までより散漫だ。
ん、むぅ
Olが柔らかな肉を捏ね回していると、タツキがむず痒いのを我慢するかのような声を上げる。同時に、手の平に硬い感触があった。これが変な感じということなのだろう。タツキの乳首が僅かに屹立している。
?
何のことかもわからないのだろう。
Olの一方的な宣言に、タツキは目で疑問符を浮かべる。
しかし構わず、Olは彼女の喉奥に射精した。
無論拙い彼女の奉仕で達せられるわけもないが、Olがその気になれば己の身体を操作する程度は造作もないことだ。
んっぶっ!
溢れ出る白濁から逃れようと首を引くタツキの頭を押さえつけ、Olは断続的に口内に精を放つ。タツキは一瞬苦しそうに眉根を寄せたが、すぐにそれをごくりと飲み下した。
なんか出た
ごくごくと喉を鳴らして飲み干した後、自らの口内から引き抜かれた剛直をしげしげと見つめ、タツキは呟く。
精液だ
セーエキ
Olの言葉を反芻し、タツキは先端から滴る残り汁を指先で掬い取り、ぺろりと舐める。
結構美味しかった。おうる、もっかいだして
ああ。勿論構わん。ただし
笑顔を浮かべるタツキの両脚を掴み、Olは彼女をベッドの上にころりと転がす。
次はこちらにだ
タツキの両脚の間の中心は、普段は魚の尾になっているせいか毛もなくつるりとしていた。性格はともかく体つきは成熟した女のそれであるのに、そこだけまるで未成熟な子供のようだ。
自分で脚を押さえていろ
わけもわからず、タツキは言われるがままに自分の太股を抱える格好で脚を広げた。スリットの隙間から奥のピンク色の肉までが丸見えになるが、気にした様子もない。
Olはそこにペニスの先端を押し当てて宣言すると、タツキの腰を掴んで一気に奥まで突き込んだ。
いったぁぁぁぁあい!
ぶちりと肉を突き破るような感覚とともに、肉槍が根本までタツキの膣内に収まる。
タツキは堪らず悲鳴をあげたが、Olは容赦するつもりなどなかった。
いたいいたいいたい、おうる、いたいよ!
ぼろぼろと涙を流しながらタツキはOlを拒み腕で押すが、海水が周りにない状況でオロチの力も失った彼女はただの女と同じ程度の腕力しか持たない。
これは罰だ
Olはタツキの両腕を掴んでベッドシーツに押し付け、抽送を繰り返しながら言った。
ばつ?
お前は俺の仲間を食っただろう。だから痛いのだ
秘処からは赤い血がにじみ、Olは加減することなく奥を突いている。恐らくヤスリをかけられているかのような痛みだろう。痛みを伴わなければ、躾は出来ない。Olは犬猫を飼ったことはないが、人のそれには多少の心得があった。
お前が心から反省し、もう仲間を喰わぬと誓うのなら、これは痛みではなくどんな食事よりも美味い悦びとなるだろう
Olがそう言うと、タツキの瞳が戸惑いに揺れる。
ナカマって、何?
そして投げかけられた言葉に、Olは虚を突かれた。
お前にはいないのか?お前を助けたり、守ったり、手伝ったりするものは。海はお前の王国と言っていただろう。同じ姿をしたものは、同族はいないのか?
いないよ
タツキは首を横に振る。
海にいるのは、魚や、貝や、クラゲみんな、たつきのごはんだけだもん
その言葉には、例えば寂しさだとか、孤独感だとか、そう言った響きは全く含まれていなかった。当然だろう、とOlは思う。
虎が寂しさに泣くか。竜が孤独を憂うか。
人間が集まりたがるのは人であるが故の性質であって、全ての生き物に共通するものではない。
ねえ、ナカマって何?
ダンジョンの中に棲むものだ
タツキの抽象的な問いに、Olは即答した。
ダンジョンが何かはわかるな?
うん。この土の中の穴でしょ
ぐるりと辺りを見回すタツキに、Olは頷く。
この中で暮らしているものは、みな仲間で外から無理に入ろうとしてくるものが、敵だ
たつきは?
タツキはダンジョンの外に棲んでいる。しかし、その侵入は妨害されていなかった。海中の回廊には彼女専用の通路が引かれていて、波を自由に操れる彼女だけは簡単に入ってこられるようになっている。
お前はちょうどその中間だ。仲間ではないが、敵でもない。仲間になりたいか?
よく、わかんないけど
彼女は人の姿をしていても、人間ではない。
りるが、ごはんくれたでしょ
孤独を憂い、寂しさに身を切られる生き物ではない。
たつきがおいしいっていうと、りるはにこーってするの
だが、とOlは思う。
それは他者との交流を完全に否定することを意味するわけではない。
なんかそれみると、たつきも嬉しいから、りるは食べたくない
もし交流に価値を見出さないとするならば何故、彼女は言葉を喋るのか。
生け贄となった娘達から喰らい奪ったのか、海から陸を眺め耳をそばだてて学んだのかは、分からない。
いずれにせよ言葉というものは会話のためにあるものだ。
違う心の形をしていても、言葉が通じれば分かり合うことが出来る。
彼女が名を口にした淫魔とOlが、かつてそうしたように。
ならばお前はリルと仲間になれるということだ。他のものとそうなることも、難しいことではあるまい
ほんと?まだよくわかんないけど、たつき、おうるのナカマになれるの?
じっとOlを見つめるタツキの瞳は、よくよく見れば人とはまるで違う。
感情の読めない、理解し難い光を帯びていた。
だが、Olは頷く。
人と人同士であれば完全に理解し合えるなどというのが、そもそも幻なのだ。
疑い深い魔王は何も信じない。それ故に、人であろうがなかろうが全ては同じことだった。
もう痛みはないだろう?
あっ、ほんとだ
互いに繋がる部分を見れば、既に血も乾きタツキの傷も癒えていた。
会話の最中に密かに魔術で治療をしただけだが、タツキにそれはわからない。
Olは今度はゆっくりと、抽送を再開した。
浅く、深く、早く、遅く。
タツキの反応を見ながら、その快楽を少しずつ引き出していく。
なんかヘンだよ、おうる
ただひたすらにそれを受け入れながら、タツキは潤んだ瞳で熱のこもった息を吐いた。
問い返しつつ、Olは彼女の豊かな丘に手を伸ばす。今度は、拒否の言葉はなかった。
わかんない
代わりにその先端の蕾は、硬く膨れ上がってきている。
ひゃぅんっ!
それを軽く唇で食めば、タツキは可愛らしい声を上げた。
なに、これわかんない、よぅっ!
未知の感覚に怯え、タツキはOlにしがみつく。
Olはそんな彼女の頭を撫でて、安心させるように口付ける。
タツキは反射的に入り込んできた舌に噛み付きそうになったが、軽く歯を立てたところで伝わってきたぴりりとした痛みに慌てて止める。Olは更に舌を伸ばして、彼女の舌の根本から先端、その裏から歯茎をなぞる。
んぅっ!
顔を傾けて唇を何度も重ね合わせながら奥をつくと、タツキは一際高く鳴いた。
なに、これ、あっ、そこ、とんとんされると、あぁっ!なんか、へんな、こえでるぅっ!
根本まで突き入れた奥、腹側の部分がどうやら弱いらしい。
Olが腰を密着させる度にそこをペニスの先端で擦り上げられ、タツキは嬌声をあげながら叫んだ。
どうだ、美味いか?
ちが、あっ、おいしいのと、ぜんぜん、ちがうぅっ
問えば、タツキは首を横に振る。
じゃあやめるか?
だめぇ!やめ、ないでぇっ、もっとしてぇっ!
だが動きを止めて尋ねると、タツキは泣きそうな表情でそう懇願した。
うん、そこ、もっとごしごしして、あぁっ!おくが、いいのっ!
抽送を再開すると、タツキはぎゅっとOlの腰に脚を巻きつけ、恥丘を擦り付けるように腰を動かす。
おっぱいもぉっ、おうる、おっぱいもっと触ってぇっ!
そしてOlの両腕を掴むと、己の胸に押し付けた。
うんっ、それ、それ、いい、すごくいいっ!もっと、もっと強くぅっ!
乳房を揉みしだきながら先端に軽く爪を立ててやると、タツキの膣口から愛液が溢れて激しく振られる腰がぴちゃぴちゃと音を立てる。あんなにキツく締め付けていた彼女の膣口は大量の愛液によって嘘のように滑り、腰を打ち付ける度に彼女は善がった。
く、ち、おう、る、おくちっ!
余裕をなくした声色で、震えるタツキの手がOlの頭に伸びる。
それに応えて口付けてやると、彼女はOlの頭をぎゅっと抱きしめ、その口内に差し入れた舌をピンと伸ばしたまま身体を震わせた。
初めての絶頂を味わうタツキに合わせて、Olは彼女の奥を突き、子種をその子宮へと流し込む。奥の入り口をこじ開けられ、白濁を流し込まれて、タツキの膣口は痛いほどにOlを締め付けた。
いまのなに?
絶頂を超え、しばし放心してその余韻を味わった後、タツキはOlにそう尋ねた。
お前はイッたんだ
イッた
Olの言葉を反芻し、しばらくした後、タツキは得心したように笑みを浮かべる。
そっか。たつき、おうるにたべられちゃったんだね
何も知らぬ童女のような、それでいて男を知った女の顔に、Olは一瞬どきりとする。
気に入ったか?
うんでも、ちょっとつかれた
タツキはそう言って、繋がったまま目を閉じる。
そしてOlの腕の中で、安らかな寝息を立て始めた。
第一章終幕
もう四半刻ほども瞑想を続けるテナに、Olはとうとう耐え切れずそう問うた。
急かすでない。遠い未来を覗くのは、儂にとってもそう簡単な事ではないのじゃ
パチリと片目を開けて、テナはそう答える。
で、結果はどうなのだ
その娘の死の運命は、少なくとも当面は完全に取り除かれておる
よかったあー
テナの予言に、マリーはほっと胸を撫で下ろした。
メリザンドを憑依させれば死なないとは言っても、マリーの霊力ではそう長くは保たない。それに何より、死ぬのは文字通り死ぬほど痛いのだ。正直二度とやりたいとは思わなかった。
だがその朗報を前に、Olとテナは浮かない表情のままだった。
どうしたんですか?Olさま
俺が調べろといったのは、マリーの命運だけではなかろう
むしろそちらは瑣末事と言ってしまってもいい。
言いにくそうに、テナは口を開いた。
儂が見た限りでは、Ol。お主の破滅は免れ得ん。必ずしも死ぬわけではないが、死ぬ方がまだマシという未来もある
ええっ!?
やはりか
やたらと時間がかかったのは、彼女が出来る範囲で未来を変えた結果を色々と探ったからだろう。何事もなく平穏無事な時間が続いているのなら、見たままを告げればいいだけなのだから。
原因というより、狙われるのはソフィアか?
この大陸で魔王と呼ばれている存在が神と同種であるとわかった今、サクヤがソフィアを見て驚いた理由も聞かなくともわかる。
神というのは、生まれながらにして完成しているものなのだ。
変化することはあったとしても、自然と成長することはない。
山や河がそうであるように。
子供の神。成長する神。
それがどれだけ危険で恐ろしいものであるか言い換えれば、どれだけ魅力的な存在であるかは、タツキの態度を見てもわかる。
彼女は本能的に強い力を喰らおうと望んだだけだが、もっと大きな野心のために手中に収めようとするものもいるだろう。それを、望みを叶え野心を失ったOlが今手にしているというのは奇妙な皮肉だった。
ヤマタノオロチは山脈に跨る河じゃった。それが何を意味するのかわかるか?
国境だろう
テナは頷く。
国と国との境というのは、たいてい曖昧なものだ。大地に線が引かれているわけではない。だが河と山脈というのは、まさにその大地に引かれた線であった。
あれがおるから、外つ国の神々はこの国に手を出さなかった。ヤマタノオロチは理性も無く、領土もない災神じゃ。労して倒してもこの地に大して旨味があるわけでもない。が
壁が消え、実が成った。ということかだが外の神とやらは、何故ソフィアのことを知る?
お主の前におるのはなんじゃ
Olの問いに、テナは呆れた様子で己の狐耳を指差した。
儂の力でさえ、ここまでのことを知れるのじゃぞ。より知に優れた神が外には必ずおるじゃろう
厄介な事だ
深くため息をつきつつも、Olは意識を切り替える。
よく考えてみれば、言うほど悪い事態ではない。少なくとも、そんな連中の存在を知らないまま、本拠地を攻められる方が遥かに厄介だ。
まあ、俺が滅ぶと言ってもお前の予言はよく外れるからな
所詮、たった千年しか生きておらぬ天狐じゃからの
テナは僻みっぽい口調で答える。ローガンやメリザンドの年齢を伝えた結果だ。
不安げにOlを見上げるソフィアを、彼は抱き上げる。
何があってもお前は俺が守ってやる。俺の子なのだからな
わかっているのかいないのか、ソフィアは言葉少なにこくりと頷いた。
たつきも、守るよ!
ばしゃりと水中から飛び出して、タツキが叫んだ。
ナカマだもんね
海中に作ってやった彼女の部屋がよほど気に入ったのか、タツキは事あるごとにそう主張する。
致し方ありませんわね。この地を荒らされるわけには参りません。妾も助力いたしましょう
それに対抗するように、サクヤは薄紅色の髪をかきあげる。
夫を支えるのも、妻の勤めですしね
そしてぽっと頬を染めてそう呟いた。
正妻、わたし。新入り、引っ込んでろ
何故か片言で、リルがサクヤに文句をつける。
あの、ボクは愛人で大丈夫です
互いに豊かな乳房を押し付け張り合う二人を尻目に、こそりとユツがOlに耳打ちした。
お師匠様の正室は三人、側室は十人。愛人だと二百五十二人目ですね
冷静にユツの名前をリストの末尾に書き加えつつ、スピナは私は正室ですがとさり気なく主張する。
この分だともっと増えそうだねえ
ちゃっかりとOlの隣を専有しつつ、正妻の最後の一人、ユニスは呑気に言った。
ただの偵察のはずだったのだがな
言いつつ、Olはソフィアの髪を撫でた。
ぱぱ?
新大陸の事情はわかったから、後は本拠地に戻って戦力を整えよう。
そんな言葉は不思議そうに見あげてくる娘の目を見た途端、雲散霧消する。
そして同時に老いたる魔王は再び、世界に挑むことを決めた。
登場人物その2
第二期一幕に登場した人物(の一部)です。ネタバレ要素を含みますので未読の方はご注意ください。
このページのイラストは全て新堂アラタ先生、tocoda先生から頂いたものです。
迷宮の少女。16歳。幼い頃、生贄としてOlのもとに送られた子供が成長した姿。まだ若干の幼さを残してはいるものの、金に輝くウェーブした髪とサファイアのような青い瞳は宝石箱のように美しく、女性としての魅力を兼ね備えつつある。
成長しやや大人しくなりはしたもののその自由闊達さは健在で、猫のように気まぐれ。若干面倒臭がりな部分があり何かとサボりがちではあるが、迷宮の住民たちに鍛え上げられたその実力は確かなもので、剣術から魔術、法術、家事全般に育児まで大体何でも率なくこなす。
ソフィア
迷宮の幼女。0歳。森のダンジョンの中で見つかった謎の赤子。その正体はダンジョンを拡張するに伴って成長する、ダンジョンの化身である。中心となっている森を反映してか、木の葉のような緑の髪と瞳を持つ。
名付け親であるマリーを母と慕うが、彼女に似ず臆病で慎重な性格。人見知りをするきらいがある。ダンジョンは彼女自身であり、内部構造や中にあるものをある程度自由に操ることができる。逆に、ダンジョンが破壊されると傷を負ってしまう。
タツキ
龍姫。海の魔王。年齢不詳。比較的若い世代の神。青い髪と碧の瞳を持ち、鹿のような角、ヒレのような耳、魚のような下半身を持つ。その本性は魚ではなく龍であり、下半身は人間の足に変化させることもできる。
人とは異なる価値観を持ち、その性質は人間よりも獣に近い。己の欲求に素直であり、何よりも食欲を優先する。水の波を操る力を持ってはいるが、水を圧縮したり凍らせたりすることは出来ない。
ユツ
湯津。巫女の少女。18歳。白い髪に黒い瞳。小柄で彫の浅い顔立ちのため見た目上はもっと幼く見えるが、それは民族的な特徴であり、特別童顔というわけではない。ややたれ目気味。
大人しく素朴だが、意外と思い切りはよくやるときはやる性格。妖魅と呼ばれる存在を自分の身に降ろすことができ、100年生きた妖狸を使役することを得手としている。狸を降ろすと変幻自在の変化の術を使える他、身体能力が強化され、巨乳になる。
テナ
手名。大巫女の老婆。80歳。白髪に灰の瞳。Olの魔術によって若返った後は、若いころの銀の髪と、ユツに酷似した顔立ちを取り戻す。やや釣り目。
泰然としたふうを装ってはいるが経験に裏打ちされた虚勢であり、本質的には神経質な苦労性。1000年生きた妖狐を使役することができ、未来予知、狐火、変化、幻術など様々な術を使いこなす。巨乳にはならない。
我らひとしく特典ヒロイン-1
既刊の店舗特典SSに登場したゲストヒロインたちの、その後のお話。
時系列は本編第二期開始前、第一期エピローグ後しばらく後になります。
本日から侍女としてここで働かせて頂くことになりました、ベルと申します。どうぞよろしくお願いします
居並ぶ侍女たちを前にして、少女は折り目正しく自己紹介をしながら深々と頭を下げた。
年の頃は十四、五。栗色の髪を腰まで伸ばした、愛らしい少女だ。
多分にあどけなさを残すその顔には、緊張の色が濃く浮き出ていた。
新しい環境に不安を抱いているからでは、ない。
私が侍女長のルーアルです。よろしくお願いしますね、ベルさん
副侍女長、ラサラだ。なかなか見込みがある奴が入ってきたようだな
ヨハネと申します。困ったことがあれば何でも言ってくださいね
めりあ、です。よろしくです
目の前に並ぶ侍女たちが皆、どう考えてもただの侍女には見えなかったからだ。
まだ幼いとはいえ、ベルはこれまでそれなりの研鑽を積んできたつもりだった。
勿論本職の戦士や魔術師には敵わないにしても、一般人が相手であれば大人であっても遅れを取ることはないであろう自負があった。
だが、だからこそ彼女は彼我の実力差をはっきりと感じ取っていた。
何十人もいる侍女たちの大半に、ベルでは手も足も出ない。
と自己紹介しても一度には覚えられないでしょうから、順番についていって、仕事を覚えていってくださいね
にこやかにいう侍女長の言葉に、ベルはただ頷くことしかできなかった。
お洗濯は、この地下迷宮の中でもっとも大事なお仕事の一つです
どこか気品を感じさせるゆったりとした口調でそう言ったのは、ヨハネと名乗った侍女だった。
赤い髪に緑の瞳の、小柄な女性だ。美人というよりは愛らしく可愛らしい顔立ちをしているものの、その落ち着いた所作と優美な仕草が彼女を幼く感じさせない。
洗い物がたっぷりと入った洗濯籠を抱えているというのに、まるで姫君のような雰囲気があった。
だがその中身は、はっきり言って化け物である。
敵わないと感じた侍女たちの中でも、ヨハネの実力は更に抜きんでていた。
重い洗濯籠を片腕で軽々と抱え、それでいて体の軸は微塵も揺らがない。
多分、綱の上に片足で立つ素手のヨハネに十全の状態のベルが槍で突きかかっても負けるだろう、とベルは予感した。それも、一瞬で。
洗濯はここで行います
ヨハネに案内されて辿り着いたのは、広々としたテラスだった。
頭上には青い空が広がり、爽やかな風が頬を撫で、燦々と太陽の光が降り注いでいる。
あまりにもダンジョンという言葉からかけ離れた光景に目を剥くベルに、ヨハネはくすくすと笑った。
驚いたでしょう?私たちの住んでいる場所は、空の上にあるんですよ
そういえば、とベルは思い出した。
雲の上に浮かぶ巨大な城が現れたのは、最近の事だ。
あれこそは魔王様の城に違いないと噂されていたが、本当だったとは。
さあ、洗いましょうか。ここを引くと水が出てきますので
ヨハネが壁から突き出したレバーを引くと、その隣にある竜の首を模した彫像から水が溢れ出す。
それをタライに溜めて、洗濯物を洗うという仕組みらしい。
水を吹く竜なんて、ちょっと不思議な感じですね
ごしごしと服を洗いながら、ベルはふとそんなことを言った。
竜といえば火を吹くものだ。
そんなことはありませんよ。昔は水を吹くもの、稲妻を迸らせるもの、毒を吐くもの色んな竜がいたんです。今残っているのはもう、火を吹くものばかりというだけで
ベルは目を瞬かせる。魔物についても随分調べたつもりだったが、そんな話は初耳だった。
ええ、本当ですよ。何頭か倒したこともありますから
何者なんですかヨハネさんは
聞くまいと思っていたことを、ベルはついつい聞いてしまった。
ドラゴンスレイヤーの侍女なんて、流石に気にならないわけがない。
ずっと昔、ちょっと英雄を嗜んでまして
嗜むものなんですか、英雄って
コロコロと笑うヨハネに半ば呆れつつもベルは納得した。
英雄であれば彼女の異常なまでの隙のなさも説明がつく。
魔王陛下に元英雄の部下がいるという話は聞いていた。
まさか侍女となってごしごしと楽しそうに洗濯物を洗っているとは思わなかったが。
英雄から侍女になるなんて、大変じゃないですか?
ベルには想像もつかないが、英雄というからにはさぞ煌びやかな暮らしをしていたのだろう。
それがこんな地味な下働きをしているというのは辛いのではないか。
そう思って尋ねると、
竜を殺してもね。人は、褒めてはくれないのですよ
ヨハネはそんな言葉を返した。
喜んではくれても、よくやった、助かる、などとは言ってくれないの。だって相手は、竜より恐ろしい女なのですもの
遠くを見るような目つきで、ヨハネは語る。
それに比べたらね。お洗濯は素晴らしい仕事ですよ。皆私の洗った服を気持ちよさそうに着て、褒めてくれるんですもの
にこりと笑って、彼女は洗い終えた服を籠に積んだ。
本当はこれを一枚一枚干していかないといけないんだけど、今日は特別に、少しだけずるをしちゃいましょう
ずるですか?
小首をかしげるベルにヨハネはパチリと片目を閉じて見せると、後頭部で髪を束ねたリボンを外す。ふわりと広がる髪の毛は瞬く間に真っ赤な炎となって、洗濯物を包み込んだ。
洗濯物が!
燃えてしまう、と手を伸ばすベルを、ヨハネは落ち着いて押し留めた。
私の炎は燃やしたいものだけを滅ぼす情念の炎。これを使えば、ほら
あっという間に炎は消え去り、あとに残ったのはさっぱりと乾いた服だ。
余計な水分も汚れも燃え消えてさっぱり!普段はちゃんと干してますけどね
燃やしたいものだけ燃やす炎なんて、武器として使えばすさまじく強力だろうに、とベルは思う。
火を吹かない竜も、おかしいものじゃない確かに、その通りですね
だが不思議とヨハネには、その炎で竜を殺すよりも、洗濯物を乾かしている方が似合っているように思えた。
我らひとしく特典ヒロイン-2
掃除こそ、このダンジョンの中で最も重要な仕事だ。なぜだかわかるか、新入り!
モップをまるで槍のように掲げて高圧的に問うてきたのは、副侍女長のラサラだ。
金の髪を後頭部で丸めた長身の美女で、その鋭い目つきときびきびとした所作は侍女服よりも鎧兜に身を包む方が似合いそうだった。
えっとわかりません
うむ、正直でよろしい!
しばらく考えても思いつかないのでベルがそう答えると、ラサラはカラカラと笑った。
正解はな、この私が受け持ちだからだ!
えっ。そんなバカげた理由なんですか?
あまりにも予想外の返答に、ベルは思わずそう問うてしまった。
お前、いくら何でも正直すぎるだろ!?
す、すみません、つい
流石に聞き咎めるラサラに、ベルは小さくなって謝る。
まあいい。今のは半分冗談のようなものだ。本当の理由は、これだ
言ってラサラはモップを走らせる。
見事な突きだ、とベルは感嘆した。
出始めと引き戻しの動作がとにかく早い。それでいて、派手な音は一つもしない。
長年に渡った修練の末にだけ手に入る、本物の戦士の突きだった。
この境地に至ってしまえば得物が刃のついた槍だろうとモップだろうと大差はない。
人の形をしている以上、その命を間違いなく奪うだろう。
どうだ。わかったか
はい!ラサラさんの至った武の極み、感服いたしました!
あふれる感激を正直に表に出すと、ラサラははあ?と眉をひそめた。
何を言ってるんだお前は。ここの汚れが消えただろう、と言ってるんだ私は
示され、よくよく見てみれば、確かに彼女が磨いた場所は輝かんばかりに綺麗になっている。
ただの地下迷宮とダンジョンを分けるもの。それこそが、掃除だ。ダンジョンの中は地下ゆえ汚れやすいが、よく掃除され手入れされたそこは王の城をも上回る気品を手に入れるのだ
でも、いまこのダンジョンって空の上にあるって聞きましたけど
ベルの指摘にラサラの動きはぴたりと止まり。
ええい、うるさい!割と最近なんだよ空なんて飛びだしたのは!
あっさりと切れてそう叫んだ。
無駄口を叩いてないで働くぞ!ついてこい、新入り!
ラサラはそう宣言すると、ぶんとモップを振り回す。
それは何とも見事な演武であった。
突き、打ち、払い、薙ぎ、振り下ろしながらも、的確に汚れを磨き落としていく。
(凄いなんて)
ベルはその動きに、ある種の感動を抱いていた。
(なんて無駄な動き)
それを攻撃とみるのなら、一切の無駄がない動きである。
だがそれを掃除として見るのなら、ほとんどの動きが無駄であった。
長年の修練と研鑽をもってして作られた、洗練された無駄のない無駄な動きだ。
はぁっ、はぁっ、はぁっや、やるじゃないかまさか初日からこの私についてくるとはな
荒く息を吐きながら褒め称えるラサラに、ベルは気のない返事を返した。
ベルの方はごくごく真っ当に磨いていたのだから当然だ。
むしろあれだけ無駄に動いていてベルと同じくらいの速さで進んだラサラの方が凄いのかもしれないが、称賛する気にもなれず、ベルは何やらもやもやとした思いを抱える。
私はかつて、ラーヴァナという国の竜騎士団の副団長をしていた
突然、ラサラは聞いてもいないのにそんなことを話し出した。
聞いたことがあります
ラーヴァナの竜騎士団といえば、今でも有名だ。
飛竜を駆り空を駆ける大空の王者。
ただし、魔王軍の獣の魔王を除く。
飛竜どころか真竜を馬にし、獣に属するものであれば例外なく掌握する獣の魔王に一瞬で敗北した竜騎士団の話は魔王軍に関する叙事詩でもよく語られる話である。
騎士団を壊滅させられ、虜囚の屈辱を受け、このように侍女などという身に落とされた私が何を考えているか、わかるか?
ラサラの鋭い視線が、ベルを射抜く。
もしお前の目的も同じであれば、手を組んでもいい
そうですね。では、お力を貸してくださいますか?
ベルがそういうと、ラサラの瞳は更に鋭く引き絞られ。
私もお掃除は大好きですから
ん?掃除?
気付いた時には、モップの先端が鼻先に突き付けられていた。
全く動作が見えなかった。ベルの背中に、冷たいものが伝う。
後一瞬遅れていたら彼女の頭は木っ端みじんに砕け散っていただろう。
それはあれか?ダンジョンに住むものはゴミだから始末する的な意味か?
違いますよ。純粋な意味で、お掃除です。ラサラさんと同じで
ベルの言葉にラサラは呻いた。
本当に魔王様に恨みがあったら、あんなに楽しそうにお掃除なんかしませんよ
百歩譲って掃除そのものが好きだとか、疑いを持たれないように演技しているとかであったとしても、掃除に対して語った熱意は本物だった。
ただの地下迷宮とダンジョンとを分かつ作業。それはつまりそこに住む人間への配慮だ。
そんなことに熱意を持っている人間が、叛意を持っているわけがない。
まてそれではまるで、私が魔王様を大好きみたいではないか!
はい、ですから申しあげたとおりです
くすくすと笑いながら、ベルは答える。
私もラサラさんと同じで魔王様が大好きですからきっと、力をお貸しくださいね
我らひとしく特典ヒロイン-3
んっとね。おふろのよういはー、すっごくだいじなおしごとなの
あどけない口調でそう説明してくれたのは、メリアという名前の侍女だった。
まるで幼児のような舌足らずな口調とは裏腹に、その外見はとても侍女とは思えない程の美しさだった。
基本的に侍女たちは見目の麗しさを前提として集められているからその平均は非常に高いのだが、その中でもメリアの美しさは一頭地を抜いている。
足首まで伸びた純白の髪はまるで絹糸のように滑らかで、紫色の瞳は宝石のよう。すらりとした肢体には豊かな果実を抱いていて、体型までもが神が作り上げたかのように完璧。乏しい表情も相まって、まるで人形のような美しさだった。
なぜですか?
おうるさまが、おふろだいすきだから
だが、そんな美の化身から紡がれる言葉はどこまでもたどたどしい。
外見と中身とが、あまりにちぐはぐであった。
そして何よりも異常なのが、その魔力だ。
例え魔術師でなくとも人間というのは多かれ少なかれ体に魔力を宿しているものだが、メリアの肉体には微塵も魔力を感じられない。
ヨハネやラサラのように強いというわけではないむしろ子猫にも負けそうなくらいだったが、その得体のしれなさも群を抜いていた。
まずー、ふくがぬれちゃうから、ふくをぬぎまーす
そういうや否や、やおら服を脱ぎ捨てるメリアにベルはぎょっとして目を見開く。
でー、おゆをぬいて、おそうじしまーす
メリアが浴室内のレバーを引くと、巨大な浴槽になみなみと湛えられた湯が轟音を立てて渦を巻いた。
よいしょ
メリアは浴槽のへりに座り込むと、減っていく湯をじっと見つめる。
あの服を脱ぐのは、お湯がなくなってからでもよかったのでは?
おおー
思わずベルが尋ねると、メリアは感心したように声を上げた。
あっ、でもぬれちゃうし
そりゃあ浴槽のへりに座れば濡れるだろうが。
とりあえずベルは腕をまくり、靴を脱いで、スカートを短く腰に挟み込んだ。
流石にいきなり肌を晒すのは恥ずかしい。
幸いメリアもそれを咎めることはなかったので、湯が抜けた後ベルはその格好で掃除を始めることにした。
湯を抜いた浴槽の床は存外滑りやすく、ベルは危うく転びかけて何とか持ちこたえる。
これ、滑らない為に何かコツはあるので
先達に求めようと振り向くと、メリアは思い切り滑って身体を投げ打っているところだった。
痛くないんですか?
へーき!
鼻を真っ赤に染め上げながら、メリアはすっくと立ちあがる。
そして果敢にブラシで床をこすり始めるが、またすぐにつるりと滑って転がった。
なるほど、これは裸にならなければいけないわけだ、とベルは納得する。
しかしそれにしても、と床を磨きながら、ベルは横目でメリアを伺う。
同性でもため息が出てしまいそうなほど美しい裸身だ。
メリアが床を磨くたびに、その豊かな双丘がぶるんぶるんと惜しげもなく揺らされる。
まるで羞恥心というものをどこかに置き忘れてきてしまったかのように手で隠すようなそぶりも一切なく、その上何度も滑って転げまわるので、大事な部分までがばっちりと見えてしまっていた。
落ち着いて。滑りやすいので、しっかり足を踏みしめて、ゆっくりと歩いてください
その白い肌にいくつも痣が出来てしまうのが何とも耐えられず、ベルは思わずそう声をかける。
うー。こお?
こうです
ぱたぱたと走るからこけてしまうのだ。足の裏を地面につけたまま、擦るように動けばそうそうは転ばない。ベルがやってみせると、メリアはまるで鳥の雛のように後をついてきた。
ほんとだ。ありがとう、べる
侍女としては自分の方が先輩だというのにメリアはまったく気にした風もなく、にっこりと笑う。
おわったー
浴室の掃除を終えて、メリアは嬉しそうに身体を伸ばす。
あとはー、おゆをためたら、おしまい
メリアが始めに引いたレバーを元に戻すと、壁に彫られた獅子の意匠からどぼどぼと音を立て湯が溢れ出す。
やることは単純だが、浴槽が巨大なだけになかなかの重労働だった。
身体を見せてください。多少ですが、回復魔術の心得がありますので
摺り足を教えた後でも、メリアはやはり何度かは転んでいた。
服を着ずに石でできた浴槽に転んでいたのだ。痣どころか擦り傷の一つや二つ、出来ていてもおかしくはない。
あら?
ところが、メリアの体にはどこにも傷などできていなかった。
間違いなく痣が出来ているのを確認した膝や、赤く腫れていた鼻の頭まで何ともない。
あのね、めりあはせーじょのかけらなんだって
聖女の欠片?
メリアの拙い説明に、ベルははっと思い出す。
確か九年ほど前、魔王軍が宗教国家ラファニスに攻め込み、攫った聖女の名前がメリアだったはずだ。その後ラファニスは魔王軍の侵攻によって属国となったが、まさかこんなところで侍女をしていたとは。
いっかいしんで、めりざんどさまのちからでもういっかいつくってもらったから、だから、けがはすぐなおっちゃうの
メリアの説明はよくわからないものであったが、彼女のような子が侍女をやっている理由はなんとなく察した。
と、その時だ。
湯は出来たか
突然浴室の外から投げかけられた低い声に、ベルは飛び上がらんばかりに驚いた。
うん、できたよ、おうるさま!
ご苦労
忘れもしない、この声。メリアの言葉を聞くまでもなく、それがベルの目的であり、このダンジョンの主であるOlのものだとわかった。
Olはベルがいるのを気にした風もなく浴室に入ってきて、浴槽の隣に設えられた段差に腰掛ける。
おせなかながしまーす
すると自然な動作で、メリアは彼に湯をかけ、石鹸を泡立て始めた。
そしてその泡を自分の身体に塗りたくり、Olに抱き着いて彼の身を清め始める。
なるほど、これは最重要の仕事だ。
ベルは顔を真っ赤に紅潮させながら、先輩の仕事を観察することに努めた。
我らひとしく特典ヒロイン-4
では、お料理を教えますね
侍女長ルーアル直々の申し出に、ベルはやや緊張した面持ちで返事を返した。
銀の髪を腰まで伸ばした、たおやかな印象の女性だ。
その瞳はいつも微笑みに細く弧を描いていて、常に穏やかな口調で話す彼女が声を荒げたり、不機嫌そうにしているところをベルは見たことがない。
にもかかわらず、ベルはルーアルの事が侍女の中で一番怖かった。
お料理は、重要な仕事ではないんですか?
ふと、気になったことをベルは問う。
今までの方々は、皆さん自分のお仕事を一番大事だと仰っていたのですが
ベルの言葉に、ルーアルはくすくすと笑った。
そうですね。嘘ではありませんよ。どのお仕事もとても大事で皆さん、自分の仕事に誇りをもって働いているのです
優しげな口調でそう言いながらも、ルーアルの手はまるで別の生き物のように動いて調理の準備をしている。
勿論、お料理もとても大事です。特に魔王様は舌が肥えてらっしゃいますから
そんなことを言っている間に、あっという間に下拵えを終えてしまった。
ベルも料理には自信があったが、手際の良さではとても敵いそうもない。
だが、ベルが彼女を恐れる理由はもちろん、そんなところにはなかった。
す、すごい
ベルさんも十年も勤めていれば、このくらいできるようになりますよ
十年、ですか
十年。その言葉を、ベルは複雑な表情で呟く。
そうそう
その表情を視界の端でとらえながら、ルーアルは言った。
ごめんなさいね、ラサラさんが妙なことを言って
唐突な話題の転換に、ベルの心臓はどきりと跳ねた。
いえ、気にしていません。私も、自分自身怪しいと思いますし
そうですね。魔術が使えて戦闘技術も持ってる侍女が入ってくるなんて、暗殺者でもない限りそうあることじゃないし
ベルはこくりと頷いた。その辺りを見抜かれてしまっているのは先刻承知だ。
でも私は、誓ってOl様に害意は
勿論、わかってますよ
ルーアルは笑みを絶やすことなく頷く。
流石に人を殺したことのない暗殺者が送られてくるなんてないでしょうしね
何で、わかるんですか
ベルの戦闘技術は、純粋にたゆまぬ訓練によって磨かれたものだ。
魔物を相手にしたことはあっても、人を切ったことはない。
私が元暗殺者だから、でしょうか
さらりと言ってのけるルーアルに、ベルは驚くよりも先に得心した。
純粋な強さという点で言えば、ルーアルはヨハネどころかラサラにさえ及ばないだろう。
だが、圧倒的に怖い。
彼女は気づけば、いつの間にか間合いにいるのだ。
近寄られたことにも気づけないし、気付いた後もそのにこやかな笑顔を警戒できない。
だからこそ、誰よりも怖い存在だった。
Ol様を暗殺するために送り込まれたんですが、あっさり失敗してしまいましてね。それ以来、毒殺の為の料理の腕を見込まれてここで働いて、いつの間にやら侍女長ですよ
鍋をかき混ぜながらあはは、と笑うルーアルに、ベルはどう反応していいか悩んだ。
暗殺者を侍女長に任命するOlが凄いのか、そのまま納まるルーアルが凄いのか。
だからね。大丈夫ですよ、きっと。どんな事情があってここに来たのかわかりませんが、ベルさんもきっと誇りをもってここで働けるようになります
それで結局、お前はどういう理由で潜り込んできたんだ
行儀悪く紅茶をすすりながら、ラサラがそう切り出した。
Olさんへの目通りは済んだのでしょう?
焼き菓子を品よく口にしながらも、ヨハネの瞳は好奇心に輝いている。
べる、うれしそうだったもんね
もぐもぐと頬張りながら、メリアは頷く。
私も聞きたいですね
その頬についた食べカスを拭いてやりながら、ルーアルまでもがそう言いだしたので、
あの、笑わないでくださいね
ベルはとうとう観念して、語り始めた。
十年前、まだ魔王となる前のOlが近隣の村を支配下に収めた時、ほとんど一目惚れに近い形で惹かれたこと。
それから十年、魔王の侍女となるべく己を鍛え学び、様々な技術を身に着けてきたこと。
年頃になった時にはとっくに村からの生贄の取り立ては終わっており、マリーとスピナの村の十年後に娘を寄越せという約束を利用してやってきたこと。
全てを話し終わったときの反応は、様々だった。
初恋の為にそんな幼い頃から十年も素敵、ですわね
ヨハネはいたく感動した様子でほうと息をつき。
独学で?師となる方は、これといっていなかったのですか?
ルーアルはよくわからないところに食いつき。
おかし、おいしい
メリアはよくわからなかったらしくにこにこと菓子を食べ。
いや、普通に侍女として入ったらよかったんじゃないか。生贄として取り立てなくなっただけで、募集はしてるぞ?
ラサラが至極最もな突っ込みをした。
その生贄として来たのであれば、ご寵愛を頂けるのではないかと思いまして
ベルの言葉に一同はああ~と声をあげた。
実はその考えは間違っているのですけれど、結果としては最善手ですね
どういうことですか?
ヨハネの矛盾した言葉に、ベルは首を傾げる。
魔王陛下はああ見えて、女とみれば誰でも犯す性欲魔人ではないからな。相手を選んだ上で誰でも犯すタイプの性欲魔人だ
ええっと
不遜なラサラの言葉を咎めるべきか、内容を質すべきか、ベルは悩んだ。
生贄は魔術的な観点から処女が要求されるんですけど、だからこそ魔王様はなかなか処女には手を出さないんですよ。価値が損なわれてしまいますからね
なるほど、納得しました
だがそれには例外がある、という事だろう。
それが、暗殺者や内通者の疑いがある場合だ。
肌を重ねているときが彼らにとって最大のチャンスであることは疑うべくもない。
だからこそ、Olはそれを敢えて誘い、証拠を握って始末するのだ。
私は幸運だったのですね。下手をすれば暗殺者として始末されていてもおかしくはなかった
ベルがいうと、ルーアルたちは互いに顔を見合わせた。
元暗殺者で始末された人なんていましたっけ?
私が知る限りでは一人もいませんね
そんなにいるんですか、元暗殺者
思わず問えば、
三割くらいは元暗殺者じゃないか?
思った以上に多いですね!?
予想だにしない答えに、ベルは叫んだ。
つまり、それだけの人数がOl様に
あ、抱かれてる侍女の数はもっと多いですよ。私が把握してるだけでも六、七割くらいは
殆どじゃないですか!?処女にはなかなか手を出さないって話は何だったんですか?
言っただろう。相手を選んだ上で誰でも犯すタイプの性欲魔人だと
なぜか誇らしげに、ラサラはそう言った。
その、こちらからお願いすれば拒まれることは殆どありませんので
やや恥ずかしげに、ヨハネ。
孕んで玉の輿などという考えは捨てた方が良いですけれどね。その辺りの対策はしっかりされているので
そういう侍女も過去にはいたのだろう。さりげなくルーアルが釘を刺す。
おうるさまとのえっち、すごくきもちいいよ
屈託なくいうメリアの言葉に、その場の全員が押し黙った。
多分、あの途方もない快楽を思い出してしまったのだろう自分と同じように。
ベルはそう考える。
でもそんなに人数がいると、お相手して頂くのは難しそうですね
まあそれはな。そもそも我々は侍女であって、妻でも側室でもない
ガリガリと音を立てて、ラサラは焼き菓子を齧る。
奥方だけでも何十人もいらっしゃいますものね
少し寂し気に、ヨハネは呟く。
まあ、方法はありますけどね
メリアの肩を叩いて、ルーアルはにっこりと笑った。
我らひとしく特典ヒロイン-5
一体何事だ
いつものように出来立ての湯に入りに来たOlは、思わずそう口にした。
メリアとともにベルがいた時は気にも止めなかったが、流石に五人も侍女が並んでいれば何事かと思う。ましてや、浴室の中だというのに揃いの侍女服に身を包んでいれば尚更だ。
ベルさんの最後の研修をしようと思いまして。私たちにとって、一番大事なお仕事つまり
黒いワンピースにフリルの付いた白いエプロンを組み合わせて作られたその侍女服は、リルがデザインしたものだ。
王の迷宮の中で気品を損ねぬ程度に可愛らしくありながら、しかしけして仕事の邪魔にならないよう極めて機能的にできている。
無論、その機能は洗濯や掃除、料理といった家事にのみ適用されるものではない。
なにせリルは淫魔なのだ。
五人の侍女たちはブラウスのボタンを外すと、一斉に開いてみせた。
すると白く美しい五対十個の乳房がOlの眼前にまろびでる。
魔王さまへの、ご奉仕です
良かろう
それはなかなかに扇情的な光景だった。
ブラウスの縁に締め付けられ、はちきれんばかりのメリアの乳房。
ラサラの胸はその長身に相応しい大きさで張り出している。
その一方で、ヨハネはユニスそっくりな小柄ながら破格の大きさだ。
ルーアルの双丘は手にちょうど収まる程度の大きさで実に形がいい。
ツンと上を向くベルの膨らみかけの果実は、思わずむしゃぶりつきたくなる美しさだった。
どうぞ、お好きになさってください。私達のこの身はすべて、魔王様のものですから
大きいものから小さいものまで並べられてそんなことを言われては、Olならずとも堪えられるものではない。
あんっ
思わずその魅惑の果実に手を伸ばせば、甘い声がOlの脳髄に響いた。
右手でルーアルとラサラの、左手でメリアとヨハネの乳房を鷲掴みにしながら、ベルの薄い胸を唇でついばむ。大きさも柔らかさも肌の張りも、まるで違う。Olがその感触を大いに楽しんでいると、侍女たちの指先がそっと彼の怒張に触れた。
柔らかな働き者の手のひらが、代わる代わる男の肉塊を撫で擦る。まめに手入れを行っているのだろう。白魚のような、とは言えないまでも、水仕事をしている割に彼女たちの指は滑らかだった。
魔王様。お胸もいいですが、こちらもいかがでしょうか?
ルーアルが長いスカートをたくし上げ、隠されていた場所を晒す。
白いタイツに包まれたすらりとした脚は、むっちりとした太腿との境を否応なく際立たせていて、それを更にタイツを留めるガーターベルトが彩っていた。
そしてその中心、男が最も追い求める場所は、白く薄い一枚の布によって覆われている。
ああ。来い
Olはルーアルの腰を抱き寄せると、躊躇なくその柔らかな尻を鷲掴みにした。
スカートを捲り上げ、下着の布越しに柔らかな肉をほしいままにするというのは、普段とはまた違ったどこか背徳的な快楽がある。
私は尻より胸がいいな。思う存分揉みしだくがいいぞ、魔王様よ
尊大な口調で言いながらラサラはOlの腕の中に収まると、彼の手を己の乳房に導いた。
その物言いも、手のひらに当たるピンと尖った硬い感触の前には全く気にならない。
では私達は、こちらを
めりあ、ぺろぺろするね
ヨハネとメリアはOlの胸元にしなだれかかると、丁寧に舌を這わせ始める。
なんとも言い難い快楽とともに、彼女たちが身動ぎするたびに胸元に押し当てられた大きな果実がその形を歪ませて、Olを楽しませた。
では、失礼します
残る一人、ベルはOlの前にひざまずくと、硬く張りつめた肉槍をその小さな口の中に根本まですっぽりと咥え込む。
無理はするなよ
なにせベルはまだ若く、体も小さい。
思わず言えば、ベルは懸命にOlのものを舐めしゃぶりながらも目だけで笑んだ。
ちゅうと吸い上げながら喉奥を使って先端を締め上げ、そうしながらも手は絶妙な力加減で竿を扱きたて、袋をやわやわと愛撫する。
まるで熟練の娼婦のようなその技術を、張り型での練習だけで身につけたというのだから恐れ入る。
私のお口もどうぞ、ご賞味くださいな
そう言って首に腕が回されたかと思えば、ルーアルの顔が迫り、彼女の舌先が口内を割って入り込んできた。
ぽってりとした唇が逃げ場を封じるようにOlの唇をぴったり塞ぎ、柔らかな舌の肉が唾液を交換しながら絡みあう。
ルーアルらしい、丁寧で柔らかな口づけだった。
生まれた時から暗殺者となるべく育てられ、ありとあらゆる毒薬の扱いに長じた彼女は、同時に優れた料理人でもあった。
ただ言われるがままに人を殺すだけの装置であった彼女の人生を、Olは丸々買い受けた。対価は彼女を送り込んだ主人の命だ。もっとも今は、国ごと存在しないが
にこやかに微笑みながら何も感じず人を殺す空虚な女に、Olは人に尽くしもてなすことの喜びを教え込んだ。
今のルーアルは、作った料理を美味しそうに食べてもらう事を至上とする魔王の侍女長だ。
そんな彼女は今、主の首を優しく抱擁してその舌を愛することに一心になっている。
んぅっ
その中に、甘い鳴き声が一つ混じった。
もう魔王様、いたずらなんですから
Olの指が下着を分け入り、彼女の中へと侵入していたからだ。
ちゅぷちゅぷと鳴り響く水音が一つ増え、Olの顎と指先から露が滴り落ちる。
ん、ふ、ぅ
声色から余裕をなくしつつも、舌の動きに衰えがないのは侍女長の矜持か。
んんっ!
だがそれも流石に、絶頂に至りながらでは無理だった。
きゅっとOlの指を締め付けながら、ルーアルは気をやってOlの身体にしなだれかかり、もう一度口づけを求める。
次は私だ、魔王様
Olがそれに応えてやると、その後の一瞬の隙をついてルーアルから奪い取るように、ラサラがOlの顔を己に向けた。
しかし与えられたのは、その強引な態度とは裏腹のついばむような口づけだ。
何度も唇の先端だけを軽く合わせるだけのそれは、控えめというよりは誘いであった。
少数の手勢で大軍を釣りだすようなものだ。
その手にはかかるものかと、Olはぎゅっと彼女の乳房に力を込めながら爪を立てる。
んんっ!
だがラサラの鼻腔から漏れるのは、悲鳴ではなく嬌声。
痛みを堪えながらも悦ぶ声だった。
竜騎士団の副団長であった彼女の能力を、適切に表現することは難しい。
普段の傲慢で軽はずみな態度が韜晦であることは疑うべくもないが、さりとて切れ者かというと、肝心のところで抜けている。
あるいはそこまで含めて演技なのだろうかと疑ったこともあるが、そういうわけでもないらしい。
捕らえて侍女にしたばかりの頃は度々謀反を起こそうとしていたが、そのどれもが本気で成功させようと言う気がないものであった。賛同する潜在的な反抗者を炙り出し、反乱を防ぐための呪いにあった穴を埋めてくれたのでむしろ助かったくらいのものだ。
その度に与える責め苦を喜んでいる節があったので普段からそのように接するようにした所、途端に大人しくなった。
相変わらずお前は変態だな。栄えあるラーヴァナ竜騎士団の副団長が堕ちたものだ
あぁんっ!私は、Ol様のおちんぽなんかに屈したりしてないんだからぁんっ!あっ、もっと爪は力込めて、跡が残るくらい強くして下さい
一息に矛盾を内包した言葉を吐きながら、ラサラはぎゅっとOlにしがみつく。
ならば望み通りにしてやろう、とOlは指に力を込めながら、もう片方の胸に噛み付いてやった。
甘噛みなどという生易しいものではない。ぷっくりと膨らんだ乳首に思い切り歯を突き立て、指先で跡どころか血が滲むほどに乳房を掴む。
んっ、いっ!
流石にこれほどすれば痛みに声をあげるか、と思えば。
いいっ!
ラサラは身体を震わせて、絶頂に至った。
素敵でした、陛下
う、うむ
胸についた傷を見つめながらうっとりとした表情を浮かべるラサラには、流石のOlもただ頷く他ない。
おうるさま、めりあも
わたくしにもご寵愛頂けますか?
入れ替わるように縋り付いてきたのは、メリアとヨハネだ。
頷いて許すと、二人の少女は顔を寄せ合いOlの唇に口付けた。
思えば奇妙な取り合わせだ、とOlは思う。
どちらも若い女のように見えるが、その中身はまるで違った。
メリアはメリザンドによって作られた、人工の魂を持つ元聖女だ。
Olの質問から逃れるために死に、蘇生された彼女からは以前の知識や記憶というものが完全に失われ、まるで赤子のようになっていた。
最近ではようやく普通に会話が通じる程度には成長してきたが、既に成熟しきった肉体での成長というのには問題があったのだろう。過ごした年月以上にメリアは幼い。
その上不死のメリザンドを元にした肉体は老いを知らず、十年たった今も出会った時の十代の姿のままだった。
ヨハネはその真逆だ。
ひょんなことから下界で暮らすことになった彼女は、炎髪と呼ばれる英霊である。
彼女ほどの英霊を顕現させ続けるのには本来かなりの理力を消耗してしまうのだが、幸いヨハネはユニスの遠い祖先と血の繋がりがあった。
その為ユニスの血を元にして作った人工生命(ホムンクルス)に高い適性を持ち、それに宿ることで理力の消耗をほぼゼロにすることが出来る。
故に彼女は中身は数百年以上前の英雄だが、その肉体は生まれて一年にも満たないものだった。
つまりどちらも、中身と外見と肉体の実年齢が大きく乖離しているのだ。
だがこと睦事に限って言えば、それは悪いことではなかった。
前傾姿勢になった彼女たちの胸元から重力に従って垂れ下がる大きな果実を、Olは遠慮なく纏めて両手に鷲掴みにする。
おうるさま、めりあのおっぱい、もっともみもみして
メリアは気持ちよさげに目を細めながら、直截にそうねだった。
中身は幼くとも、その肉体は成熟した女のそれだ。
メリアはその幼さ故に、感じた欲求を素直に伝えてくる。
Ol様わたくしの胸、気持ちいいですか?
一方で、ヨハネは恥ずかしげにしながらなんとかそう尋ねるのがせいぜいだ。
人工生命の寿命はそう長くは持たない。いくら工夫を凝らしても一月が限度だ。
それゆえにか、数百年純潔を保ち続けた乙女は何度行為を重ねても慣れるという事がなかった。
どこまでも柔らかくもっちりとしたメリアの胸と、ヨハネの瑞々しく弾力に富んだ乳房。
それぞれ感触の異なる、しかしそれぞれ素晴らしい柔肉を揉みしだきながら、二人の唇を交互に味わう。
やがて二人はどちらからとも無く舌を伸ばし、Olはそれに応えて唾液を絡ませあった。
そうしながら硬く尖った胸の先端を指でゆっくり擦り上げ、二人の性感を高めていく。
メリアは貪欲な故に、ヨハネは身体がそう造られているが故に、常人よりも遥かに敏感だ。
そうされるだけでたちまち果てて、くたりとOlにしなだれかかった。
残る一人、ベルに声をかけると、彼女は戸惑うようにOlを見つめた。
どうした。来ぬのか
その、私は
逡巡とともに、ベルはOlの怒張に目を向ける。
直前までそれを咥えていた口で口づけることに抵抗があるのだろう。
下らんことを気にするな
Olは強引にベルの腕を引くと、彼女を抱き寄せてその唇を奪った。
驚きに身を固くする彼女の唇を割り開いて、口内を舌で陵辱していく。
ベルは初めは為されるがままに身を任せていたが、やがておずおずと自ら舌を伸ばして応え、顔を傾けて唇を密着させて、Olの首に腕を回して熱烈に口付けを交わした。
変わり者の多い魔王の侍女たちの中でも、ベルはとびきりの変わり種だ。
何せ、魔王の妻となる為だけにこの迷宮にやってきたのだから。
命を狙ってやってきた暗殺者は数知れないが、そんな目的でやってきたのはベルただ一人だ。
それも地位や権力が目当てではなく、Olに一目惚れしてとなれば後にも先にも他にはいないだろう。
今まで幾多の女を籠絡してきたOlだが、される側に回るのはこれが初めてだ。
と言っても。
んっ、ふ、うぅっ!
ベルはぎゅっとOlにしがみつきながら、ふるふると身体を震わせる。
口付けだけで、達してしまったのだ。
彼女はあまりにOlを愛するがゆえ、触れられただけ、名を呼ばれただけでも軽く気をやってしまうという。
元々の経験が違いすぎる上にこれでは、籠絡するどころの話ではなかった。
では、一通りイカせて頂いたところで、魔王様
ルーアルは言って下着を脱ぐと、浴槽の縁に手をつきOlに向かって腰を突き出す。
どうぞ、好きなものをお使い下さい
他の侍女たちもそれに倣って、長いスカートをまくり上げた。
タイツと黒いスカート、そしてガーターベルトに囲まれた白い尻のコントラストが目に眩しい。
ひくひくと蠢きながら物ほしげに涎を垂らすピンク色の秘肉が五つ並んだその様は、この上ないほど扇情的な光景だった。
誘われるがままに、Olはルーアルの腰を掴んで一気に突き入れる。
この中で一番の古株の彼女の膣内は、ぴっとりと包み込まれるような心地よさだ。
根本までを埋め込んでもやすやすと呑み込み、柔らかく受け入れる。
すっかりOlの形を覚え込んだルーアルのそこは、奥まで突けばちょうど肉槍の穂先が引っかかるようになって、先端をきゅうきゅうと締め付ける。
腰が蕩けて液体になってしまうような、そんな心地だった。
逃れがたい誘惑を振り切りながら腰を引き抜くと、Olは次にヨハネの尻を掴んだ。
高く声をあげる彼女のそこは、露がぽたぽたと滴り落ちるほどに濡れていた。
一月ごとに身体を作り直す彼女の膣口は、まだ慣れず狭くキツい。
だが大量の愛液が潤滑油となって、するりと奥まで飲み込んでしまう。
ぬるぬるとした蜜壺を何度も突き上げるのは、得も言われぬ快楽だった。
名残惜しさを感じつつもヨハネの中から引き抜き、次はラサラに突き入れる。
ああああっ!
長身で鍛えられた肉体を持つ彼女には、一切の容赦なく責めることが出来る。
ぎゅっと閉じた秘裂を肉の槍でこじ開けるように貫けば、それを逃すまいと圧力がかかる。
そこを力任せに抜いて、すぐさま突き入れれば元竜騎士は高く鳴いた。
パンパンと音を鳴らしながら、激しく腰を打ち付け強引に犯す。
それは同意の元だとわかっていても、男の征服欲を大いに満たした。
最後に強く一突きして彼女から離れ、Olはメリアの腰を引き寄せる。
ふぁんっ
彼女の膣口は挿入した途端、嬉しくてたまらないとでも言いたげに全力でOlを締め付けた。
心地よさげに尻を振るその様はまるで犬のようで、鳴き声は発情した猫のよう。
Olの動きに合わせて懸命に腰を動かしながら、メリアはただただ純粋に快楽をむさぼる。
浅く突けばもっととねだり、深く突けば高く甘く鳴く。
離すまいと追いかけてくる尻を軽く叩き、Olは最後の一人、ベルへと近づいた。
あ、あ、あぁっ!
彼女の膣内はとにかく小さくキツい。
その上、半分ほども挿入したところですぐにベルは達してOlのモノを強く締め付けた。
身体に傷をつけぬよう、なるべく刺激を与えぬようにゆっくりと腰を埋めていけば根元まで咥え込んだところでまた気をやり、それを半ばまで引き抜けば更に絶頂に達する。
その度に精を搾り取るかのように膣壁を蠢かせる彼女の身体は、まるでOl専用の肉壺のようだ。
全く違った味の女たちを、Olは代わる代わる犯し味わっていく。
その快楽にとうとう耐え切れず、Olはベルの中に欲望を吐き出した。
あぁぁぁあぁあぁぁぁぁっ!
己の奥底を白濁で満たされるその感覚に、ベルは身体を反らしながら叫び声を上げる。
あ、なかだしされてる。いいなー、べる
羨ましげに指を咥えるメリアに、Olは微塵も萎えた様子を見せぬ男根を突き入れた。
全員、溢れるまで注ぎ込んでやる
主のその宣言に、侍女たちは一斉に嬌声をあげた。
一通りの情事を終えた後。
で、これはどういう事だ
頭をメリアのたっぷりとした胸に預けながら、Olは問うた。
聞きましたよ。ベルさんは侍女ではなく、妻を志望されているそうではないですか
メリアと挟み込むように、ヨハネはOlに抱き着いて泡立てたその身体を擦り付ける。
今更一人二人側室を増やしたってどうという事はないだろう?
その胸の谷間でOlの左腕を洗いながら、ラサラ。
十年も想い続けたのですもの。ご考慮いただけませんでしょうか
言いつつ、ルーアルはOlの右手をそのむっちりとした太ももの間に挟み込む。
潤む瞳で、ベルはOlを見つめた。
ならん。考えるとしても十年後と定めただろうが。王自ら約定を翻すことが出来るか
それは、出身を偽ってOlの迷宮にやって来たことへの罰だった。
マリーが生贄の娘として来た時、彼女があまりに幼すぎたため、Olは十年生贄は納めないで良いと伝えた。ベルはOlに逢うためだけに、その村の者になりすまして来たのだ。
特典を付けるといってもですか?
特典?
ルーアルの言葉に、Olは怪訝な表情を浮かべる。
うむ、ついでに私たちを嫁にする権利をやろう
それはお前たちが得をするだけだろうが
胸を張るラサラに、呆れ声でOlは言った。
並の者であれば美しい女を五人娶れるとなれば嬉しいかもしれないが、既に彼には両手に余るほどの妻がいるのだ。
私たちの全てをと言ってもですか?
しかし、続くヨハネの言葉にOlは瞠目した。
経緯はどうあれ、彼女たちは侍女として雇い入れているだけだ。
Olの部下でも奴隷でもない。望まぬことをしろとは言えなかった。
ただの侍女ならそれでも良いが、今目の前にいるのは皆特殊な能力を持ったものばかり。
殊更に、英霊であるヨハネが全てを捧げるというのは実に魅力的な申し出だった。
いやだがそれでも、駄目だ
とは言え、側室だとしても妻となればOl一人で軽々に決められる事ではない。
妻同士での確執になっても困る。ましてやこのような状態で決めれば、それこそ色仕掛けに引っかかったのだと取られかねない。
えー、いいじゃない
あたしからもお願い、Ol
お願いします、お師匠様
だがそれに異を唱えたのは、配慮したはずの当人たちの聞き慣れた声だった。
お前たちなぜここに?
並んで懇願するのは正妻であるリル、ユニス、スピナの三人だ。
なぜここにいるのか、そしてなぜベルを助けるのか。
Olは幻影や変身の魔術を疑ったが、解呪の呪文は無駄に終わった。
ルーアに頼まれたのよ。まあ、わたしもこの子達なら大丈夫だと思うし
いっつも美味しい御飯作ってくれるもんね!
ルーアルは料理の師ですから、致し方ありません
しかしだな
なおも逡巡するOlに、ルーアルはにこりと微笑んで、言った。
足らないようでしたら、もう何人かお呼び致しますか?
その言葉に、Olは既に彼女の根回しが完全に済んでいることを悟る。
流石は侍女長、驚くべき手際の良さだ。
わかったわかった。好きにしろ
その辺りの不満が出ないよう調整するのはリルの仕事だ。
表向きの正妃はユニスという事になっている。
人嫌いのスピナまでもが推すというのなら、仕方ない。
で、お前たちのその格好は何なんだ?
大きく溜め息をつき、Olは先程から気になっていたことを問うた。
リルたち三人は、何故か侍女服に身を包んでいたのだ。
何ってそりゃあね?
ぷちりと胸元のボタンを外し、リル。
空いた服の隙間から、彼女の深い深い谷間が覗き見える。
あたしたちも、その特典?
恥ずかしそうにスカートをたくし上げ、ユニス。
むっちりとした健康的な太腿が露わになる。
どうぞご一緒に、可愛がってくださいませ
するりとスカートの中から下履きを脱いでみせ、スピナ。
見えないからこそ、その奥にあるものを思い浮かべずにはいられない。
もちろん、私たちも
ぎゅうとルーアルがOlの腕を抱きしめて。
ご寵愛くださいませ旦那様
耳元で甘く囁くベルのその言葉に、抗うすべなどあろうはずがなく。
彼女たちのもたらす特典を、Olは心行くまで味わった。
ルーアル:一巻 とらのあな様 特典SS
ラサラ:二巻 とらのあな様 特典SS
ヨハネ:四巻 文教堂様 特典SS
メリア:四巻 ゲーマーズ様 特典SS
ベル:四巻 とらのあな様 特典SS
リル:一巻 特別電子書籍三巻 アニメイト様 特典SS
ユニス:二巻 特別電子書籍 三巻 とらのあな様 特典SS
スピナ:三巻 特別電子書籍 三巻 文教堂様 特典SS
Ol:ぜんぶ。
第6話旧きものを斃しましょう-1
早急に戦力を整える必要がある
そこは火山の神、サクヤがもともと住んでいた試練の山の奥深く。
新たに岩肌を掘り抜いて作られた会議室に迷宮の主だった面々を集め、魔王Olはそう切り出した。
これが現在の状況だ
Olの言葉に応えるように、壁の表面がぐにゃりと歪んで図像を浮かばせる。
それは、地図だった。
大きく左側に突き出した細長い半島と、その根元を押さえるように布陣する二つの国。
そして、その間を区切るかのように横たわる巨大な山脈。
Ol達が倒したヤマタノオロチが棲んでいた連峰だ。
ここが我々が今いる国だ。ヤマトという
連なる山脈がまるで壁のように国の境を区切っていますでしょう?ですから、山門(ヤマト)と呼び称します
半島を示してOlが言えば、サクヤがそれを補足する。
オロチがいなくなったとて、この門を超えるのは容易ではない。が、不可能でもない
うむ。春が来れば、サハラの軍はこちらに攻め込んで来るじゃろう
Olの言葉に、予知の能力を持つ巫女であるテナが頷く。
ダンジョンの中で季節の移ろいを感じることは難しいが、外界では冬が訪れていた。
冬の山を越えるのは殆ど自殺行為に等しいが、春ともなればその限りではない。
雪解けとともにやってくる兵士たちの姿を、テナの予見ははっきりと捉えていた。
サハラって?
隣国二国の南側。灼熱の大地に覆われた国と聞き及んでおりますわ。砂の原が延々と広がる不毛の地。ゆえに、砂原(サハラ)の国です
リルの素朴な問いに、サクヤが答える。
ちなみに北側は逆に極寒の地。雪と氷に覆われた国。氷室(ヒムロ)の国と呼ばれています
それはまた、極端ねえ
南は灼熱、北は極寒。いずれにせよ住みやすそうとは言い難い。
ヤマトは、サハラやヒムロとは比べ物にならぬ小国だ。攻められれば簡単に滅ぼされてしまうだろう
山脈はヤマトを守る壁であるが、同時に閉じ込める檻でもある。
狭く小さな半島内だけでの繁栄を許されたヤマトと違って、サハラやヒムロは広大な土地を支配できているのだから、その国力には大きな差があった。
ましてや僅かなこのダンジョンの手勢だけでは話にもならぬ。故に、我々は戦力を整えなければならぬのだ。それも、僅か一季節の間に
それは、難しいのでは
サクヤは山を司る神であり、人の世には疎い。
だがそれでも、Olが無茶を言っているのはわかった。
ああ。故に、お前たちに尋ねたいことがある。空間を司る神に心当たりはないか?
空間を司る神ですか
考え込むかのように反芻するサクヤに、Olはうむと頷いた。
我々の本拠地は別の大陸にある、という話はしただろう。戦力の大半はそこにあるのだが
Olの治める国はほぼ大陸一つをまるごとに広がっている。大きさだけで言えばサハラ、ヒムロ両国を合わせたよりも更に巨大だ。
俺がこの大陸に来たときには船で一ヶ月かかった。多少短縮は出来るだろうが、それでも二週間。一度に百人程度が限界だろうな
往復で一月。三ヶ月で三百人を運んでもねえ。今から船を作ったって、作るだけで一季節過ぎちゃうし
大海を百人の兵を乗せて渡れるような船を、一季節で作れるという方が恐ろしいのですが
何気ない口調で呟くリルに、サクヤは改めて戦慄した。
根本的な国力、技術力が違いすぎるのだ。
船なら、たつきが運ぼうか?
お前が?どうやってだ?
ふと、これまで暇そうに話を聞いていたタツキがぴっと手を挙げた。
こう、ざばーん!って
海の神である彼女には、波を操る力がある。
タツキの掌の上で用意された茶が渦巻き、大きく波立って湯呑みを運び
それは勢い余って湯呑みを跳ね飛ばし、壁に叩き付けて粉々に粉砕した。
うん、転覆するわね
だめかぁ
断言するリルに、タツキはしゅんと項垂れる。
仲間になると宣言して以来、彼女は食事にしか興味がなかった以前とは打って変わって協力的になっていた。といってもその努力はたいてい見当違いの方向に向かっていて、いまいち空回りしているが。
いつもいらっしゃるあの赤い髪のユニスさん、でしたかしら?あの方の力ならば、簡単に人を運べるのでは?
ああ。そこが話の要点だ
サクヤの問いに、Olは頷く。
お前たちには馴染みのないことだろうが、我々は魔力と理力という異なる二つの力を使い、それぞれ魔術と法術という術を使う。どちらも遠く離れた場所に一瞬で転移することは出来るが、それぞれ別の制約がかかってくるのだ
制約と、申しますと
簡単に言えば、魔術には人数の制限はほぼないと言っていいが、大陸を隔てるほどの距離を飛ぶことは出来ぬ。法術では逆に、距離は全く関係ないが運べる量はせいぜい二、三人だ
魔術では魔法陣を使うことによって、内部のものを一気に転移させることが出来る。
手間はかかるものの、陣を大きくするだけで数は幾らでも送ることが出来るが、消費する魔力の量は距離が伸びるほどに加速度的に増加する。
それに対してユニスの法術は距離も結界も無視するが、移動させられるのは彼女が抱えられるだけのものが限度だった。
あちらを立てればこちらが立たず、というわけですのね
そこで、お前たちの使う術に期待しているのだ。霊力とやらは、魔力と理力が混ざり合ったものであるようだ。ならば双方の欠点を埋める方法があるやもしれん
と、申されましても
サクヤは困惑の表情を浮かべた。
道を司る道祖神の類であればいくらでもおりましょうが、あれはあくまで道を守護するもの。遠く離れた場所を繋げるなど聞いたこともございませんし。一日に千里を駆ける神もおりますけれど、万里を運ぶとなると
やはりそう都合よくはいかないか。Olがそう思っていると、ふとサクヤはあることに思い当たったように顔を上げる。
一柱おりましたわ。Olの望むことが出来るかどうかはわかりませんが
厄介な相手なのか?
何やら浮かない表情のサクヤに、Olは問う。
厄介そう、ですわね。関わりたくない、という意味ではまさにその通りかもしれません
なるほど。これはまた
サクヤの言葉に未来を読んで、テナもまた顔を顰める。
もしかしてあいつ?たつき、あいつきらーい
それどころかタツキまでがそんなことをいい出した。
一体どんな神なのだ
Olの問いに、サクヤは重々しく口を開く。
彼の者の名は、サイノカミこのヤマトで最も古い神の一柱です
第6話旧きものを斃しましょう-2
なるほどな
関わりたくない。なぜサクヤがそう評したのか。
行くと決め、どのような結果が起こるかを問えばなぜテナが言葉を濁したのか。
それと対面した瞬間、Olはすべてを理解した。
ある意味、リルの同類?
やめて。冗談でも
からかうようなマリーの言葉に、リルが心底うんざりしたような口調で答える。
おおきいですね
あんぐりと口を開け、ユツがそれを見上げていった。
動物に例えるならば、それは蛇であろう。
暗く深い洞窟をみっしりと埋めるように入り込んだ白い大蛇。だがその頭に目はなく、身体にも鱗はなかった。それどころか口もなければ牙もなく、あるのは縦に伸びる亀裂のみ。
動物以外で例えるならば、簡単だ。
要するにそれは、巨大な男根であった。
<我を起こすは何者ぞ>
喋ったぁぁぁ!?
ゆっくりとその頭をもたげ、低い声を響かせる男根にリルは叫んだ。
サイノカミよ。我が名は魔王Ol。貴様の力を借りにいや、違うな。奪いに来た
<ほう>
Olの傲岸不遜な物言いに、サイノカミは愉快そうな声をあげる。
<そは我が順(まつろ)わぬものと知っての言の葉か>
<よかろう!>
白い大蛇が洞窟から這い出して、高く高くそそり勃つ。
<我(われ)が力と汝(なれ)が力。どちらがより硬く太いものか、比べてくれよう>
いちいち言い方が卑猥なのよ!
ヤマタノオロチをも貫いたリルの石火矢が轟音とともに火を吹いて、サイノカミに向かって放たれる。
しかし柱のようにそびえる大蛇は、ぶるんと揺れてこともなげにそれをかわした。
マリーちゃん登って!
ユツが己の尻に生えた狸の尻尾を引き抜くと、それは朱塗りの階段に転じてカタカタと音を立てながら天へ伸びていく。
ありがと、ユッちゃん!
マリーはそれに乗ってサイノカミの頭上を越えると、跳躍しながら四振りの剣を引き抜いた。
ええーいっ!
<ぬるい>
だが重力加速度を加えたその一撃は、サイノカミの頭にいとも容易く弾かれる。
まさか刃すら立たないとは思わなかったマリーは、そのままなすすべもなく落下した。
しかしその体は地面に激突することなく、緩やかな弧を描いて減速しながらOlの腕の中に納まる。
えへへ、ありがと、Olさま
世話を焼かせるな
Olがキューブを展開し、不可視の迷宮でスロープを作り上げていたのだ。
<おかえしだ>
サイノカミの身体にびきびきと血管が浮き立ち、赤黒く怒張する。
そしてその身を大きく後ろにしならせると、思い切り叩き付けた。
まずい!
Olは咄嗟にキューブに仕込んだ転移陣を起動し、その一撃を避ける。
僅か十数歩ほどの距離しか跳べないものだが、危機を回避するには十分な距離だ。
つやめくサイノカミの頭がしたたかに地面を打ち付けた瞬間、大地が破裂した。
土と石とがそこら中に飛び散って、風とともに刃のように打ち付けてくる。
その余波くらいであればキューブによる壁が守ってくれたが、直撃を受けていたら即死だっただろう。
ふざけたなりしてとんでもない強さね
咄嗟に空中に逃げたリルは、地上に舞い降りながら石火矢を構えなおす。
マリーちゃんの剣でも刃が立たないなんて
傷一つないサイノカミの頭を見ながら、ユツは困ったように眉根を寄せる。
あの頭、すっごいブヨブヨしてた。硬いっていうよりは弾力が凄いの
マリーの言葉に、思わず女性陣の視線がOlに集まった。
その感触に関しては非常に覚えがあったからだ。
ええい、剣など弾けるか!
己の下半身に集中する不躾な視線に、Olは思わず怒鳴った。
だがそうなると、奴に有効な打撃を与えられるのはリルの石火矢しかあるまいな
何とかして動きを止めないと当てられないわ。あいつあんな図体で動きも素早いのよ
無数に弾丸をばら撒く連弩であれば当てられるだろうが、そちらでは今度は威力が足りない。
あの皮を貫くのはやはり、貫通力に優れた石火矢しかないだろう、とリルは考える。
でもあの動きを止めるって、どうやって?
マリーの素朴な問いに、Olもリルも押し黙る。
あれほどの巨体を止める手段を、二人とも持っていなかった。
そんな中、不意にユツが声をあげる。
ボク、動きを止められないか試してみます
何か策があるのか?
策、というほどのものでもないですけど
自信なさげに言いながら、しかしユツはこくりと頷く。
わかった。時間を稼いでやる、やってみろ
詳しく作戦会議をしているほどの暇はない。
Olはユツに任せることを決めて、一歩前に出た。
<もう終わりか?>
己自身が起こした衝撃によってもうもうと立ち込める砂煙の中から頭を覗かせ、サイノカミはそう問うた。
これからだ。攪乱するぞ、マリー
うんっ!
マリーは両手に剣をもって打ち鳴らす。途端、その刀身が炎を帯びた。
刃は通らなくても、これならどう!?
<ぬうっ!>
流石に高熱は嫌なのか、サイノカミが僅かに怯んだ様子を見せる。
ミラーハウス
Olの手にしたキューブがパタパタと展開すると、何条もの路となって放射状に広がっていく。
そのうちの一つがマリーの足元へと延びると、彼女の姿はまるで鏡写しのように他の路の先にも現れた。
<小賢しいわ!>
幾ら姿を増やして見せたところで、もともとどこに居たのかは見えているのだ。
幻影を出すと同時に本体を消していたとしても、瞬時にそう遠くに行けるわけもない。
サイノカミはそう考え、頭を横薙ぎに払ってマリー達の姿を纏めて叩く。
しかし手ごたえはまるでなく、不審に思ってサイノカミが動きを止めると、途端に炎を帯びた剣が何本も突き刺さった。
<ぐぅっ!?>
それらはどれも幻ではなく、実体のある痛みだ。
Olがキューブで作り出したミラーハウスは、その名に反して幻影ではなく転移を用いた迷宮魔術だ。幾本もの路の先に増えた姿は高速で転移を繰り返すことで映し出された像であり、映し出された者はそのすべてに存在し、同時にどこにも存在しない状態となる。
守勢に転じれば無事な路に逃げて攻撃を避け、攻勢に転じれば全ての路から同時に攻撃する。
ユニスの転移を使った戦法を、魔術で再現した代物だった。
<おのれ、小癪な!>
だがそれでも、サイノカミに苦痛を与えこそすれ、打ち倒すには程遠い。
襲い掛かる熱に業を煮やしたサイノカミは、再び全身を怒張させて叩き付けようと体を反らす。
今です!
途端、ユツの体が何倍にも膨れ上がり、その豊満な双丘でサイノカミの体をぎゅっと挟み込んだ。
<ぬうっ!?これは!>
己の巨体に見合う大きさの女体を目にするのも初めてであれば、乳房で挟み込むなどという技を見るのも初めてで、サイノカミの身体は思わず硬直した。
今です、リルさん!ボクごと撃ってください!
え、いいの?
いいんです。あれはただの幻術ですから
耳元から聞こえた声にリルが顔を向ければ、本物のユツはすぐそばに立っている。
よし。食らいなさい!
リルの放った弾丸が巨大なユツの体を貫くと、その身は木の葉の塊となって霧散した。
そしてそのまま、その奥にそそり勃つサイノカミに向かって突き進む。
<このようなもので我の身を貫けると思うなッ!>
だがしかし、サイノカミは一際大きく怒張すると、ぶんと頭を振って弾丸を弾き返す。
うそでしょ
空の彼方へ飛んでいく弾丸に、リルは呆然とした。
<今のは、なかなか痛かったわ>
鎌首をもたげるようにして、サイノカミは大きく凹んだ頭をOl達に向ける。
<そら、お返しだ>
その縦に裂けた亀裂から、白色の炎が噴き出した。
なにこれ!?
どう見ても尋常な炎ではない。それはまるで油でも撒いたかのように地面に落ちても消えることはなく、それどころかどろどろと流れるようにして周囲に広がっていく。
<我の浄炎を消せると思うな。その炎に触れたが最後>