441.バスタイム・レクチャー

ヨッちゃんは、真緒ちゃんとアニエスを洗ってっみすずは、克子お姉ちゃん恵美は、渚さん瑠璃子は、マルゴお姉ちゃんを洗ってマナはレイちゃんをで、美智とイーディは、あたしを洗う

寧が指示を出す

よっし

オレは、裸の2人を並べて、両手にセッケンの付いたタオルを持って同時に洗ってやる

真緒ちゃんが、キャッ、キャッと笑っているのでアニエスも大人しくしている

そんでさ、洗ってもらった人は、後でお返しに洗ってあげるのっいいわねっ

うん良いアイデアだ

寧の組み合わせも、絶妙だ

年長組と年少組

みんなそんなに親しくない関係の組ばかりだ

仲良くなるのに、この洗いっこは有効だと思う

美智にセッケンを手渡されたイーディが何か不平を言う

が寧が、ドスの利いた英語を言って黙らせる

はあヴァイオラに捕まっていた時の体験が、こんなところで生きるとは

寧は、溜息を吐く

どういうこと、姉さん

オレの質問にマルゴさんが答える

寧はさロサンゼルスの犯罪組織の中に居たから、ものスゴくガラの悪い英語が喋れるんだよ

まあ、あそこはさ人殺しと変質者とキチガイしかいなかったからさっ

シザーリオ・ヴァイオラが死んだ今ようやく過去の話も、笑ってできるようになったんだ

イーディが育ったのは、ニューオリンズの暗殺教団だけれど歴史と伝統のある、由緒正しき教団だからね彼女の言葉使いは、英語的にはとっても綺麗だよ

伝えておきます

美智が通訳する

イーディは、うんうん、判っているじゃないかという顔をして、マルゴさんを見る

もちろん、彼女の言葉はニューオリンズ訛りが強いけれどね

訛りですか

マルゴさんの言葉に、メグが反応する

ニューオリンズってのは、新しいオルレアンという意味だからね元々は、フランスの植民地だったんだよだから、フランス系の人が多いし言葉にも、フランス語の影響があるんだ

マルゴさんが、解説してくれる

そこへいくと美智ちゃんやみすずちゃんたちの英語は、もの凄く綺麗なクイーンズ・イングリッシュだよね

何ですか、それ

イギリスの上流階級の使う英語なんだよっ美智たちのは

寧が、笑って答える

うちの学校では発音まで、厳しく指導していただいていますから

まあ日本一の超お嬢様校だからな

ただ、あたしや瑠璃子はお祖父様のお供で、外国の方とお話する機会も多いですから個人教授で、アメリカ式の発音も習っています

日本人が、あんまりも正確で礼儀正しすぎる英語を喋るのは気持ち悪いと思われる方もいらっしゃいますから

瑠璃子が、マルゴさんの背中を洗いながら答えた

アメリカの方とかは、堅苦しいのを嫌がりますし

そうよねだから、お客様によっては、わざと、たどたどしく喋ったりすることもありますね、瑠璃子

はいもちろん、品の悪い言葉使いは一切致しませんがへりくだった言葉使いで、礼儀正しくということを心掛けています

なかなか大変なんだ

美智は、真っ直ぐな性格だし今まで、特に外国の方とお喋りする必要は無かったから学校で習うクイーンズ・イングリッシュのままなんだと思いますわ

みすずが、セッケンの泡に塗れた手を濯ぎながら言う

マナちゃんの英語はアメリカ式だねそれも西海岸だと思う

マルゴさんが、マナを見る

うーん、よく判らないですけれど学校の先生が、そっちの方の人なのかもしれない

えっ、マナもしかして、お前の学校って英語の先生は、外国の人なの

そんなの当たり前じゃんか

いやオレの学校は、日本人の先生しかいないぞなあ、メグ

うん日本人の先生に、英語を習っているわ

メグが答えてくれる

変なの外国語なんだから、外国の人に習わないとダメじゃん

あたしたちの学校では英語の先生は、全員、オックス・ブリッジ出身のイギリスの方だけですわ

オックス・ブリッジ

オックスフォード大か、ケンブリッジ大学の卒業生ということです

あ、もちろん全員女性の先生ですよ

みすずの超お嬢様校は若い男性教師は、絶対に採用しないんだっけ

男の教師は結婚していて、子供もいて、詳細な身辺調査にパスした人だけ

レイちゃん、香月セキュリティ・サービスの英語の研修ってどんな感じなのっ

寧が麗華に尋ねる

あ、はいアメリカ寄りの英語だと思います多分

麗華は相変わらず、元気が無い

よーし、はい、交代っ

寧の一声で洗う側と洗われる側が、交代となる

うんと2人同時だから、背中ばっかり洗っていて、前まで洗いきれなかった

うんっアニエスちゃんいっしょにパパをあらうよっ

真緒ちゃんは、元気いっぱいだ

アニエスは困惑している

真緒とアニエスちゃんのパパなんだからっふたりであらうのっ

真緒ちゃんは、ニカッと微笑む

真緒がこっち側をあらうからアニエスちゃんは、そっちをおねがいっ

真緒ちゃんがオレの前を、アニエスが背中を洗ってくれることになる

それなら、アニエスの抵抗感も弱まる

はいっいきまーすっ

うんしょと風呂の椅子にしゃがんだオレに手を伸ばして、真緒ちゃんは首の辺りから洗ってくれる

力は無いからこすこすとセッケンの泡を塗りたくっている感じだ

アニエスも諦めたのか、オレの背中を擦ってくれた

うんしょうんしょ

真緒ちゃんの小さな手がオレの首から胸、そして腹へ

あ、そこは洗わなくていいから

さすがに、幼女に股間は洗わせられない

え、どうしてパパ

真緒ちゃんは、キョトンとした顔をする

パパのここはちょっと特別なんだよ

あっ、お口でペロペロするんだっけ

もしかして昨夜、起きていた

真緒ちゃんペロペロするのは、もう少しお姉さんになってからだよっ

寧が、助け船を出してくれる

お姉さんてあと、どれくらい

うーんとっ

寧は、ちらりとアニエスを見る

12歳12歳になったらヨッちゃんのそれをペロペロしてあげてっ

12歳かぁ

真緒ちゃんは、大きな声で言う

オレは渚を見る

うんと12歳になった時に、真緒の発育がそれなりに良かったらあるいは

かなり困惑した顔でそう言う

いいじゃん、渚さんフェラだけなら、12歳からさせてもさっ

寧が、ニヤニヤして言う

でも、この子その先もしたがると思うのよ

母は、娘が心配らしい

じゃあ、まあホントに発育次第ってことだねっ

はついくって、なーに

寧の言葉に、真緒ちゃんが反応する

真緒ちゃんがそうだな、今のアニエスくらいに身体が成長していたら、してもいいよってことだよっ

寧はアニエスに、オレとのセックスが既定路線に乗っていることを示唆している

アニエスは、黙々とオレの背中を擦り続ける

うんとアニエスちゃんぐらい大きくなったら、来年でもいい

真緒ちゃんは、さらに食い下がる

そうだねえまあ、アニエスちゃんと同じくらいに大きくなれたらねっ

だから、いっぱいご飯を食べてお昼寝もちゃんとするんだよっそうしないと、大きくなれないからねっ

ニンジンも食べるように言って

渚が、寧に小声で囁く

ニンジンとか好き嫌いなく、ぱくぱく食べないとねっ

真緒ニンジンきらーい

じゃあ、大きくなれないよっ

うーっ

真緒ちゃんが、オレを見る

オレは早く真緒ちゃんに大きくなって欲しいな

オレの言葉に、真緒ちゃんは

なら食べるニンジンも

納得してくれた

洗いっこが終わって再び浴槽へ

アニエスと真緒ちゃんを、再び年少組に託して

オレは年長組と

麗華も、こっちに居る

代わりに寧が、年少組に参加している

あたしダメねえ

渚が、嘆息する

これから12歳の女の子の処女を奪うのに自分の娘が、12歳で処女を失うのは可哀想だって思っている

渚は白坂創介に恨みを持つ女たちの1人だ

だから、ミナホ姉さんの復讐にも、協力してきた

白坂創介の眼の前で、アニエスを犯すことは復讐の中にすでに含まれている

いや、オレ別に、真緒ちゃんが12歳になったらしたいとか思ってないんだけれど

真緒ちゃんは、オレの娘になるんだし好きな人ができたら、普通にその相手とすればいいし

結婚だって他の男とするだろう

オレでは無く

いいえ、あの子もあなたとすると思うわ少なくても、初めてはあなたに捧げることになると思うの

そんなことないよ今は、パパ、パパって懐いてくれているけれど物心が付いたら、オレのことなんて嫌いになるかもしれない

真緒ちゃんはオレが、たくさんの女と寝ていることを不潔に思うかもしれない

いや、普通の女の子なら間違いなく、嫌悪感を感じるだろう

渚先のことなんか、判らないんだから今、考えても意味の無いことは考えないそうでしょあなたもよ

克子姉が、渚とオレを見て言う

克子姉が、渚に言う

さっきのは、寧が悪かったと思うよ後で、注意しておくから

寧は、彼を中心としたこの家族の形が気に入っているから真緒ちゃんも、彼の妻の一員になるって、勝手に決めちゃっているんだねでも、それは寧の願望であって本当にどうなるのかは、これからの真緒ちゃんや、渚さん、彼が決めることだから

寧はたくさんの妹ができたことが嬉しくて仕方がない

とっても良く面倒を見てくれているが

少し暴走気味でもある

要注意だな

しかし君の現状を観察するように、ミナホに指示されたけれど予想以上に、安定してきているね

ああ、白坂創介への復讐の前に君の精神状態をチェックしておくように言われたんだ

ミナホ姉さんはオレのことを心配している

今の君は、ちゃんとあたしたち全体の未来のことを考えている前みたいに、自分が死んでも構わないとは思っていないようだね

今は、死ねませんよ

ああ、君がいないと安定しないことが、たくさん有り過ぎる恵美ちゃんやマナちゃんは、落ち着いてきたけれど君がちゃんと見ていてあげないと、道を踏み外すことは判っているよね

マルゴさんが、ジッとオレを見る

判っています2人とも、今はオレが側にいてやらないと

2人の名前を先に出したのは今夜の復讐に参加してもらうからだよ

白坂創介の眼の前で娘たちを犯す

当然、メグとマナも

恵美ちゃんは、最初から白坂創介を恨んでいる側だから、感情の方向性は一直線だけれどそれだけに、ヒートアップし過ぎてしまうかもしれない

母を娼婦にされ、見殺しにされ養家ごと、ずっとイジメに遭い自分自身も、娼婦に堕とされる寸前だった

メグの憎しみは、深いだろう

マナちゃんは、もっと複雑だ今は必死になって、白坂舞夏としての過去を封印というより、自分とは別の人間だと思い込もうとしているけれどね実際に、父親と会ったら、どんな感情が湧き上がってくるか判らないよ

それは肉親の情かもしれない

あるいは父に対しての激しい憎しみが立ち上るかもしれない

マナのこれまでの人生を破壊したのは白坂創介の悪行のせいなのだから

今夜のことが終わったとしてもずっと続くんだよ君は、ずっとあの子たちの心の状態を感じて、正しい調整をし続けないといけない判っているよね

マルゴさんの言葉が、心に染みる

判っていますメグもマナもずっと、オレが見ていきます

いや、2人だけじゃない

他の子たちもオレには、責任がありますから今は、みすずが一番安定しているように見えますけれどあいつだって、いつ心のバランスを崩すか判りませんし美智や瑠璃子は、今でも精神状態が安定していませんよね寧だってお姉さんぶっているけれど、心のもろさは相当だし

年少組は問題児ばかりだ

うん、君は君であの子たちのことを頼むよ困ったことがあったら、すぐに相談していいね

はいマルゴさん

ところでエイリアン2って映画観たことある

最初のエイリアンじゃなくって、エイリアン2だよエイリアン3と4のことは忘れて特に3の存在はこの世から抹殺するべきだよ

えっとマルゴさん

エイリアン2で主人公のリブリーは、小さな少女を守っているこの子がいるから、自分は絶対に死ねないと思っている

マルゴさんは、真っ直ぐにオレの眼を見る

そして、彼女に守られている少女は縫いぐるみの人形を抱えている少女は、その人形を守らないといけないと思っているだから、必死になって生きようとする

君はあの子たちを守ろうとすることで、生き急がなくなった安定してきたそのことは、克子さんや渚さんにも言える

マルゴさんが、2人を見る

2人とも君のことが可愛くて守りたいと思っているから、前よりもずっと精神が安定してきている自覚もあるよね

その通りです

克子姉と渚が答える

寧の暴走もだから、今はなるべく見守ってあげたいって思っているんだアメリカから帰国したばかりの頃には、誰にも心を開こうとしなかったあの子が自分から、こんなに他の子たちにアプローチしているなんてあたしには、奇跡に思えるよ

確かに最近の寧は、年下の子たちの面倒を本当によく見ている

君の他の子へのスタンスが良い形で影響していると思う

だから、マナちゃんも自分よりも後から家族に入って来た子には優しくしているよね知らず知らずのうちに君の真似をしているんだ

だから、美智ちゃんがイーディの面倒を見ているし瑠璃子さんが、美子さんの心配をしている

マルゴさんはずっと別室から、オレたちの様子を観察していたんだ

それは良い傾向だと思うよ誰かのことを心配して、面倒を見てあげることで、自分自身の心も安定していくからね

だから、あたしたちはそれぞれの子の自主性に任せて、なるべく干渉しないようにサポートしていきたいと思うんだ克子さん、渚さん、いいね

克子姉と渚が頷く

君もそういう気持ちで、あの子たちと接して特に、瑠璃子さんと美智ちゃんとマナちゃんだね、今一番、心がアクティブになっているのは

特に、瑠璃子さんは、自分がここに居るということを受け入れられたからだから、やっと他のことに眼が移っている

オレに将来のことを尋ねたり、美子さんのこと考え出したりしているのは

家族の一員として生きていくことに、自信が付いたからだろう

美智ちゃんは、みすずさんも見ているからまあ大丈夫だと思うけれどマナちゃんは、さっき言った通り今夜次第で、また変化が起きるかもしれないから要注意だよ

本当にこの人はオレたち全体を見通している

ということを理解してくれた上でなんだけれど

マルゴさんは苦笑する

ミナホのこと頼むね

ミナホが、一番不安定なんだよ今恭子さんが、あたしたちから隔離しないといけないって考えたぐらいにね

昨夜からミナホ姉さんは、この屋敷を留守にしている

今は、恭子さんたちと学校の監視室にいる

しょうがないよねミナホが、ずっと待ち望んでいた復讐が、やっと完遂するんだから

白坂創介に家族から引き離され、娼婦に堕とされてから16年か

妹の奈生実さんを殺され赤ちゃんの産めない身体にされて

娼館の運営者として、ミナホ姉さんはずっと爪を研いできた

白坂創介の喉笛を切り裂くために

ミナホのことはあたしたちで、フォローするなるべく、声を掛け合っていこういいね

はい、マルゴちゃん

判りました、マルゴ様

渚と克子姉は即答する

それで、君の役割だけれど上手く立ち回ろうとしなくて良いからね失敗してもいいからミナホを心配させるんだよ

オレが心配させるんですか

ああ君のことを心配している間は、ミナホの心は暴走しないよ

ああ、やっと話の意味が見えてきた

相手に心配を掛けるのも愛情の一つだっていう時があるんだよ

でも心配掛けるって、オレ、どうしたらいいんでしょう

わざわざ心配される方法なんて、オレには思い付かない

大丈夫さそのために雪乃さんを捕獲したんだろ

ミナホがこの屋敷に居ない時に、あの子を捕獲できて良かったよ

ミナホだったら君と接触させずに、復讐の時間まで、もう雪乃さんを監禁したまんまにしておくさその方が、イレギュラーが起こる可能性がなくなる何て言っても雪乃さんは、何をしでかすか判らない子だからね

それはその通りだけれど

イレギュラーを起こすんだよ雪乃さん爆弾だねそれに翻弄されている間はミナホは、心が破裂せずに済む今みたいに、全ての準備が終わって、夜になるのを待っているだけだとミナホの心が、ふつふつと沸騰して煮詰まっていくだけだからね

ミナホ姉さんが、夜になるのを待ってくれているのはオレがアニエスの心を開かせるのを待ってくれているからですか

そうじゃないミナホは別に、アニエスを白坂創介の前で無理矢理強姦したって構わないと思っている復讐の完遂の方が、今のミナホにとっては上だから

ではなぜ

白坂創介の精神はもう、張り詰めきっていると言っていた

今日の夜が限界だろうと

まあ、ちょっとした理由があるんだ今は言えないけれど

とにかくあたしたちは、あたしたちでミナホに勘付かれないように、作戦を行わないといけない

えっとここの浴室の会話は

ああ、マイクは真緒ちゃんがいる場所の音声だけを拾うようにしているミナホは、あたしたちより安定していない、あっちの子供たちの方を心配しているからあたしたちの会話は聞いていないよそれに、この浴室であたしが君への聞き取り調査をすることは知っているから

オレの精神状態のチェックをマルゴさんに指示したのはミナホ姉さんだ

ここでオレがマルゴさんと話しているのは変ではない

ましてやマルゴさんが、オレたちにミナホ姉さんの裏を付くことについて相談しているとは考えていないだろう

じゃあ、具体的なことはまた後でそろそろまた、真緒ちゃんに絡むメンバーを変えた方がいいから

マルゴさんは、ザバッと浴槽から立ち上がる

そして暗い顔の麗華を見下ろし

ところでさ麗華お姉さん

麗華は見上げる

あなたは、誰を心配するの

ニコッと、麗華に微笑む

あなたに欠けているのは、そういうところだと思うよ

また感想欄の返信が滞っているのでなるべく今夜やります

全て目を通して、必ず返信致しますので

お金も気力もないのでワンフェスは行きませんでした

さて、ようやく次の展開が見えてきたのですが

雪乃が何をしでかすのかもちろん、まだ考えついていません

442.恋はマジョリカ

だから、あなたは警護人としても、中途半端なんだと思うよ

そう言ってマルゴさんは、立ち去る

渚も、マルゴさんに続いて、真緒ちゃんたちの方へ行く

麗華は、どんよりとうな垂れる

麗華お姉さん

克子姉が、麗華に優しく話し掛ける

麗華お姉さんは自分が本心では守られたいって思っていたことに、もう気付いていますよね

それがオレたちの呼んでいるレイちゃん

寧が始めた麗華お姉さんの心が捻れてしまった時期まで、幼児退行させるというアイデアは良かったと思うけれどもうそろそろ、限界でしょ

麗華は、無言で克子姉を見る

守られたいっていうだけでなく、守りたいっていう気持ちが起こればそれで、随分救われることになると思いますわ麗華お姉さんの場合は

どうして、みんなこんなに一生懸命なんですわたくしのことだけでなく、小さな子たちから、黒森様や美子様、ミス・イーディのことまで考えていらっしゃる

オレやマルゴさんたちの会話を、麗華はずっと聞いていた

これが家族をするということなんだと思います今ではマナちゃんや美智さん、それに瑠璃子さんまでが、自分が守られることではなく家族を守ることの方に意識をシフトしています真緒ちゃんですらアニエスに気を遣っていますよ

克子姉は、少女たちの方を見る

この浴室の中で、自分のことだけで手一杯になっているのは、ミス・イーディと麗華お姉さんだけですわ

うん2人だけ、自分の身の置き場に戸惑っている

その通りだと思います

麗華は、湯の中に口まで浸かりぶくぶくと泡を吹く

それから、バシャバシャと顔を洗った

自分が不甲斐ないのだろう

お嬢様は麗華お姉さんのことを、そんなに高くは評価していません特に現在のお姉さんは

克子姉は小さな声で言った

そうでしょうね仕方のないことだと思います

麗華は消沈しきって、そう答えた

ですからここに隙があります

麗華お姉さんは、香月セキュリティ・サービスのトップ・エリートですしお姉さんの真っ直ぐな性格や香月家に対する忠節については、ホテルの中の闘いで見てきています

ああ、麗華は真っ直ぐ過ぎて、判りやすい性格の武人だ

お嬢様は麗華お姉さんは、絶対にあたしたちを裏切らないと思い込んでいるはずです

平然と克子姉は、言い切る

わたくしに何をさせようというのですか

麗華は真顔で尋ねる

彼と雪乃さんを人質にしてこの屋敷から脱走していただきます

お嬢様は、夕方まで白坂創介の元から離れられませんあなたたちを追い掛けるのは、マルゴ様とあたしになるでしょうね

克子姉はククッと笑った

お嬢様が、このまま何の波乱も無く復讐を完遂するのは良くありませんもう1つぐらい山場を作りましょう

よく判らないけれどミナホ姉さんの復讐心が、このまま煮詰まるのはよく無いということは判っている

うんやるよ麗華お姉さん

マルゴさんや克子姉を信じよう2人が、ミナホ姉さんやオレたち家族のことを考えて作った計画なんだから

オレは乗らないといけない

麗華お姉さんも家族なんだから頼むよ

オレはジッと、麗華の眼を見る

これは麗華お姉さんでないと、できないことなんだから

これからするのは、嘘の脱走行為あくまでも狂言だ

そして、そのことをミナホ姉さんには、気付かれてはいけない

これが、マルゴさんや克子姉が脱走の首謀者になったらミナホ姉さんは狂言だと見抜いてしまう

2人ともミナホ姉さんとは、長い付き合いなんだから

しかし麗華なら

ミナホ姉さんは本気の裏切り行為なのか、狂言なのか、見極められないだろう

何よりホテル事件以降、麗華はずっと自分自身の在り方について悩んでいる

昨夜のレイちゃん化現象も、ミナホ姉さんはずっと監視してきているわけだし

悩み苦しんだ結果、ストレスが爆発して突飛な行動に出たという可能性を考えるだろう

それと、あなた人質は、あなたと雪乃さんだけでなく、もうちょっと多くてもいいわよ

克子姉は、オレにそう言う

せっかくの機会でしょ

風呂から上がる

年少組は、バスタオルでの拭き合い大会になっている

もちろん、オレのことも拭いてくれたが、それ以上に真緒ちゃん、瑠璃子、マナのトライアングルが、アニエスを囲んで良い感じになっている

イーディは相変わらず美智に擦り寄っているが、寧によって身体を拭かれていた

旦那様下着をお願いします

まあ、こうなると思っていた

オレは、みすずから順番に、メグ、美智、瑠璃子、アニエス、真緒ちゃんと下着を付けてやる

みんな一緒だから、アニエスももう嫌がらない

ほらほら、あたしっあたしっ

いや、寧はグラマラスだからブラを付けるのも大変だ

すっごい

ブラジャーのカップに仕舞われる巨乳には、重量感が感じられる

真緒ちゃんが、改めて歓声を上げた

んふふいいでしょっ

寧は、微笑むが

肩こらないの

真緒ちゃんの一撃はシビアだ

ズッこける、寧

ママ、いつもおっぱいが重くて肩がこるって言ってるよ

ありゃりゃ、渚にまで飛び火した

あたしはさっ、渚さんと違って、まだ若くてピチピチしているから、肩なんて凝りませんっ

あららあたしだって、まだまだピチピチしているわよっ

下着姿の妖艶美女が2人お肌の張りを競い合う

じゃあ、ピチピチしていないのは克姉だけってことにしておきましょうっ

何よそれっ、こらっ

克子姉が、寧を叱る

でもさあ、レイちゃん、お肌綺麗だよねえ白くてツヤツヤあたしたちの中で、一番お姉さんなのにさっ

寧が、麗華の肌に触れる

麗華は返事せず黙々と服を着ていく

あれっ、レイちゃんまた男装スーツなの

麗華の着替えは克子姉が、事前に用意していたのだろうけれど、いつもの男装スーツだった

当たり前でしょ麗華お姉さんには、今日も渚のお店の警護に行ってもらうんだから

克子姉が、代わりに答える

そうねお願いしますあ、今日は、真緒は連れて帰るわ

えー、何で真緒ちゃんは、あたしたちが面倒見ているから

マナが、不服そうに言う

しょうがないでしょ今日は、ほらっ

寧がマナに目配せする

夕方には白坂創介への復讐がある

その準備をするお屋敷の中に、真緒ちゃんを残しておくわけにはいかない

あっ、そうかじゃあ、あたしも今日はお花屋さんの方に付いて行こうかなあそうだ、アニエスちゃんも行こうよ

マナは、そう言うが

ダメよお店みたいに人がたくさん来る場所は、アニエスには、まだ無理よ渚のお店の人たちにも、迷惑になっちゃうでしょ

克子姉に諭されて、マナはヘヘッと笑う

あたしは今日も部活だから

メグは、制服を着ている

今日もまた、女子陸上部の練習が朝から夕方まである

みすずたちは、この後どうするんだい

オレは、みすずに尋ねる

一度、お祖父様のところへ戻りますお顔を見たいですし

うん、ちょっと心配だもんな

夕方には、戻りますあたしもその場には居たいですから

復讐の場にみすずも

みすず様の警護に付きます

まあ当然だな

2人は、昨夜着ていた自分たちの制服を着ていく

はい、あなたの着替えよ

克子姉が、カゴを手渡してくれた

中にはオレの学生服が入っていた

えー、お兄ちゃんも何で制服なの

マナが、反応する

みんな夕方まで帰って来ないんならさ、マナとルリお姉ちゃんとエッチしようよそうだ、アニエスちゃんも入れてさっ

それだと他の人たちに悪いだろそれに、夕方から大変なことになるんだから少しは休ませてくれよ

そうだねごめんなさい

マナ、全裸土下座っ

いやいやいや全裸はいいからまた下着を穿かせてやらないといけなくなるんだろ

オレは、慌てて止める

じゃあ、このまま

14歳の少女が、下着姿のまま土下座する

お兄ちゃん申し訳ございませんでしたっ

うーん、すっかり土下座にも慣れてきたな

足んないねっ罰として、みすずと全裸でデュエットしてもらうからっ

寧が、ニマーッと微笑む

な、何であたしなんですかっ

みすずが、驚く

別に深い理由は無いんだけれどマナとみすずのデュエットが見たくなったからっえっと、曲はね夢はマジョリカ・セニョリータね2人で、みっちり練習しといてっ

夢はマジョリカ・セニョリータ

そんな歌、知らないです

みすずが抗議する

知らないなら、ネットで調べる発表会は、明日にするからっいいねっ

まったくみすずにとっては、とんだトバッチリだ

ごめんなさい、みすずお姉ちゃん

仕方無いですわ時間を見て、練習しましょう

みすずは、ニッコリとマナに微笑む

2人だけじゃ、可哀想よねんじゃ、恵美と美智もコンビでデュエットねやっぱり、夢はマジョリカ・セニョリータで

あたしたちもですか

メグが、美智と眼を合わせる

そうそう、チキチキ夢はマジョリカ・セニョリータ大会にするからっもちろん、あたしも瑠璃子と組んで参戦するからさっそれならいいでしょっ

あら夢はマジョリカ・セニョリータなら、あたしもやるわ瑠璃子さんとはあたしが組むから、寧はイーディちゃんと組みなさい

まさかの克子姉が名乗りを上げる

えっ、イーディと

慌てる寧

だって、日本語の歌じゃんかっ

あらっ、例のバージョンで英語版もあるはずよっ

な、何なんだ夢はマジョリカ・セニョリータって

うーんそうきたかっていうことは、もしかして克姉も

当然、あたしもそっちのバージョンで行くわっコスプレもするわよっお屋敷の衣装部屋の中にあるはずだからっ

あじゃぱっ

呆れる寧

瑠璃子さんには土星の衣装が似合うと思うんだけれどなあっ

あはい判りました

瑠璃子は怯えながらも仕方のないことと納得したみたいだ

真緒はレイちゃんと

真緒ちゃんが、心配そうに言う

ううん真緒と麗華お姉さんは審査員をお願いするわ

渚が答える

えー、つまんなーい

そうですよどうせなら、みんなで歌いましょうマルゴお姉様もいかがですか

みすずが、マルゴさんに話を振る

いや、あたしはホラ日本語の歌は、よく知らないから

あでも、勇気プリプリまっぷりまなら歌えるよ

何ですのそれ

瑠璃子が、絶句しながら尋ねる

いや、あたしも何の歌なのか知らないんだけれど寧が教えてくれたんだよ何か、日本の歌は歌えるかって聞かれたら、勇気プリプリまっぷりまなら歌えますって答えれば、大抵の場はどうにかしのげるって違うの

オレの横で寧が、カカカと笑っている

あれ、日本ではとても有名な歌だって聞いたけれど

知らないです

判らないです

わたくしも存じません

聞いたことないよ

寡聞にして

みすず、メグ、瑠璃子、マナ、美智が首を振る

知ってます

わたくし知っています

みんなが麗華に振り向く

わたくしの女子校の中学の時のクラスメイトに、聞かされたことがありますので

て、ことは実在するのか

勇気プリプリまっぷりま

それじゃあさ、マルゴさんとレイちゃんはそれを歌ってよ真緒ちゃんは、オレと渚と3人で何か歌おう

ヨッちゃんナイス

寧は、すっかりご機嫌だ

うん、いいよじゃあ、麗華お姉さん、あたしとデュエットね

麗華は、うつむいたまま答えた

今日、これからのことを想像しているのだろう

真緒ちゃん、何が歌いたい何でも好きな歌を一緒に歌ってあげるよ

オレは、真緒ちゃんに尋ねる

うーんとね

まあ幼女の好きな歌だから幼稚園で習った童謡が、日曜日の朝のアニメの歌とかだろう

パーフェクト絶叫ヴァージョンがいい

ああ、あれね

渚知っているのか

な、何の歌の何のバージョンなんだ

うんあれなら、3人いれば完璧にうたえるからっ

ま、真緒ちゃん

真緒、あの歌好きねえ

ママだって、好きじゃん

じゃあ、久しぶりに歌いましょうか

ママとパパと真緒と、3人でねっ

真緒ちゃんは、ニコッと微笑む

まあ、真緒ちゃんが満足ならそれでいいか

あれっ、先生は

真緒ちゃんが不意に言う

先生は、だれと歌うの

大丈夫だよっ先生には、恭子さんと何か歌ってもらうからっ

寧が、笑って真緒ちゃんに言う

そうね天城越えか津軽海峡冬景色か

え、克子先生は、雪国とか舟歌とかが持ち歌じゃなかったっけ

どっちにしても、演歌なのか

恭子さんて、演歌とか歌えるんですか

あブラジルの日系人コミュニティに居たから、全然知らないってことは無い思うけれど

マルゴさんが、言う

前に、あたしの前で日本語の歌を歌っていたけどなあ

何かさ9割る3は割り切れるのに、10割る3だと1余るのは、どうにも割り切れないとか、そういう歌詞だったと思うけれど

教育放送の歌でしょうか

判んないなあ昔、ブラジルで放送していた日本の何かの番組の歌だって言ってたけれど

まあ、いいよノリの良い人だから、何か歌ってって言えばやってくれるだろう

そう言えば、ミス・コーデリアたちは

あの人たちも多分、芸達者だと思うよっ

うんまあ、こちらかに頼まなくても何かやってくれるだろうね

心配は、いらないか

瑠璃子は、昨日来ていたマイクロビキニに、渚の店のツナギ

マナは、克子姉が持って来たミニスカ浴衣を着た

浴衣なら、身体のサイズに合わせて着られるから

克子姉は、微笑む

アニエスは、青いワンピースを着た

一応、地下室にはアニエスの服はたくさん用意されているらしい

白坂創介も、アニエスには可愛い服を着せたかったんだろう

瑠璃子と同じ、ツナギを着ている

動きやすいのが、気に入ったらしい

あれって、もしかして瑠璃子と同じ

ええ、あの子も服の替えが無いから下着の上に、直接、ツナギよ

うーん、下着のラインが丸わかりだ

まあ、しょうがない

はーい、じゃあ、みんな朝ご飯に行きましょう

克子姉を先頭に食堂へ向かう

アニエスは怯えて、辺りをキョロキョロ見ている

地下室から出たのが、初めてで何もかもが、目新しいらしい

窓の外の光景を、恐る恐る見ている

まあ、マナ・瑠璃子・真緒ちゃんのトライアングルに守られているから大丈夫なんだろうけれど

食堂に着く

さ、適当に座って寧とメグちゃんは、手伝ってくれる

克子お姉様、わたくしもお手伝いしますわ

みすずと瑠璃子が、立ち上がる

あ、いいからいいからアニエスがびっくりしちゃうから今朝は、うちの食堂に慣れている人たちだけでいいわ

克子姉は、アニエスに朝食がどういう風に供されるのかを見せたいようだ

冷蔵庫から、ミルクやバターを取り出すところから見せている

大丈夫だよもうすぐご飯だからねっ

マナが、アニエスの手を繋いでくれている

オレは食堂のテーブルに座っている子たちを見る

どうしたんですかお兄様

瑠璃子が、オレに声を掛けるが

いや、何でもないみんなを見ているだけだよ

今日これから麗華によって、オレと雪乃は誘拐される

それにメンバーを付け加えるとしたら、誰だ

まずは確認

この作戦の本当の首謀者

マルゴさんと克子姉は、もちろんオレと一緒には行けない

えっとパンは、トーストでいいよねっ2枚とか食べる人いるっ

寧が、みんなに尋ねる

今度の作戦は、珍しく寧に知らされていない

マルゴさんが、寧に教えないというのは何か思うところがあるんだろう

はい、紅茶を廻します美智、そっちをお願い

みすずと美智はジッちゃんに会いに戻るから、無理だ

ヨシくん、目玉焼きと炒り卵、どっちがいい

目玉焼きで頼むよ

メグも、部活がある

ママ、ミルク欲しい

はいはい寧ちゃん、取ってくれる

あいよーっ

渚と真緒ちゃんも、お店に行くからありえない

消去法で、無理だと判っているのは以上だな

はーい、サラダだよっ

寧お姉ちゃん、ドレッシングは

えっと、このまま、まとめてドバッと掛けちゃうそれとも、個別に取り皿に取って好きなのを掛けるっ

まとめて、ドバッでいいんじゃない和風ドレッシング苦手な人

イーディが、むしろ和風ドレッシングとは何だと聞いております

醤油風味だって答えといてっ

むしろ逆に

誰を連れて行きたい

アニエスが、オレにトーストの乗った皿を手渡してくれる

これパパからどうぞって言ってますの

向こうで、寧がオレにウインクする

ああ、ありがとう、アニエス

アニエスは、恥ずかしそうにうつむいた

やっぱり、せっかくお屋敷から出るのなら

アニエスに、外の世界を見せてやりたいな

しかしオレ一人では、アニエスが不安がるだろうなあ

お兄ちゃん、はい、タマゴ

だが、雪乃と一緒にマナは連れて行かれない

お兄様目玉焼きには、何をお掛けになられますか

瑠璃子が必要だ

よし、やっと方向性が見えました

アニエス、麗華、イーディのストーリーのためには、もう一つぐらいイベントが無いと苦しいということですね

もちろん、雪乃も

割り算の歌は、たんさー5のEDです

興味のある方は、検索してみて下さい

443.麗華立つ

ご飯が済んだら、みすずちゃんと美智ちゃんはあたしが車で送るよ

朝食のテーブルでマルゴさんが言う

えっと香月さんの自宅でいいのかな

はい、今日は休日ですから、お祖父様はお家にいらっしゃると思います

じゃあ恵美ちゃんは、あたしが学校まで送るわ

と、克子姉が言う

まだ、家の周りもゴタゴタしているしね車で送って行くわ

済みませんお願いします

寧克子さんと一緒に学校へ行って、ミナホの様子を見てきてきれないかな

えっ、あたしっ

マルゴさんの提案に、寧が驚く

ああ、あたしは香月家まで行かないといけないし、克子さんにはすぐに屋敷に戻ってきてもらうしかないだろ麗華お姉さんも、渚さんとお店の方へ行ってもらうことになるんだし

あ、そっかじゃあ、ヨッちゃんも行く

彼には、ここに居てももらわないとアニエスたちの相手をしてもらうよ

アニエスの相手なら、マナや瑠璃子がいるじゃんか

寧が、反発する

というか今日の昼間ぐらい、少し休ませてあげましょうよここ数日、彼はずっとオーバーワークなんだから

渚が、間に入ってくれる

あっ、そうかじゃあ、ヨッちゃんは、ゆっくり休んでてっマナも瑠璃子も、ヨッちゃんにセックスを強要しちゃダメだよっ

はぁい、寧お姉ちゃん

お姉さんぶりたい寧にマナも瑠璃子も、対応してくれる

ああ、麗華お姉さん良い機会だから、この屋敷からの車の出し方を教えておくよ渚さんのやり方を見て、正面ゲートの開け方とかは、もう大体判っていると思うけれど

マルゴさんが、さりげなく麗華に言う

今日、これから起こる脱走計画に、必要な案件なんだろう

麗華は答えない

まだ、迷っているんだろう

そうね麗華お姉さんが来て下さって、本当に大助かりだわすっかり、大人の数が足りなくなっていたから

克子姉が意味深な言い方をする

あたしだって、大人だよっ車だって、運転できるもんっ

寧が、そう言うが

寧の運転は、まだ心配だよ向こうで取った国際免許だろ日本の道は、なかなか混雑しているし

そんなことないよヨッちゃん、あたしちゃんと運転できていたよねっ

この中で、寧の運転する車に乗ったことがあるのはオレだけだ

えっと、まあ

何よっ、それっ

プンスカと怒り出す寧

うちの高校は保護者との申し合わせでは、3年の3学期になるまでは、生徒は自動車の免許を取っちゃいけないことになっているんだから寧様も、自重してね

オレの学校の理事長という肩書きを持っている克子姉が言った

平気だってばあたしは、不良娘っていう設定になっているんだからっ

そういうのは、髪の毛が金髪から黒に戻った時に終了しましたっ

克子姉が、ピシャリと言う

これから先は、彼や恵美ちゃんの評判にも関わるんだからうかつなことをしちゃダメよそれとも、学校内では彼や恵美ちゃんとは接触しないようにする

マルゴさんの言葉に、寧は

ぐぬぬ自重する模範的な高校生になるよ

外での不良行為は、慎む方向にしてくれるらしい

お願いが、あるんですけれど

あたし竹柴キャプテンにだけは、きちんとお話ししたいんですあのあたしのことだけでも

ああ、昨日竹柴キャプテンは、オレとメグが抱えていることについて話して欲しいと言っていた

もちろん黒い森全体のことについては話しませんあたしと白坂創介という人の関係についてあたしのママのこととかあたし自身のことについてだけです

メグが白坂創介の隠し子であり、レイプによって産まれた娘だということ

そして、メグの母親が白坂創介に見殺しになって死んだこと

その後のメグは、白坂家の遠縁の家に預けられずっと、一族の人たちからイジメを受けてきたこと

うんとそれってどうなのかなっ

寧が、マルゴさんを見る

あたしは別に構わないと思うけれどミナホの許可は、とっておいた方がいいね

マルゴさんと克子姉は、そう言う

でも先生のことだから、この会話だって聞いているんじゃないっ

盗聴器があるのが前提なのがこの屋敷での生活だ

もっとも、この盗聴・監視システムがなければ

白坂創介の支配が強かった時に、お屋敷の女たちはもっと酷い陵辱を受けていたかもしれない

白坂創介や彼の友人のヘンタイ客たちが、女性に深刻なケガを負わせる前にマルゴさんなり、恭子さんが制止することができるように

学校やお屋敷内の徹底した監視システムはミナホ姉さんが、運営に加わってから設置したのだと思う

ミナホ姉さんの監視癖もそういう状況の中で身に付いてしまったことなんだろう

聞いていたとしても恵美ちゃんから、直にミナホに話した方が良いそれで、何は話して良いのか、何はいけないのか、気を付けるポイントはどこかミナホからアドバイスしてもらって

マルゴさんは、優しくそう言う

マルゴさんはミナホ姉さんのことをよく理解している

もちろん監視システムについても熟知している

だから、さっきの風呂場での密談はミナホ姉さんにはバレていないだろう

マルゴさんは、緻密な人だ

味方を騙す時だって、決してぬかりは無い

はいそうしますあたしも、御名穂さんにはちゃんと話したいですし

メグは、すっきりとした笑顔でマルゴさんに答えた

それで寧お姉さん竹柴キャプテンにお話する時に、一緒に行ってもらえませんか

何で、あたしヨッちゃんの方がよくない

寧は、オレを見る

ヨシくんが一緒だと他の部員の人たちが、注目します昨夜のこともありますから寧お姉さんが証人になって下さる方が良いと思うんです

昨夜のことがあった上でいたずらに女子陸上部員たちを刺激するべきではない

それに寧は、昨夜女子陸上部とオレたちのトラブルの時に、竹柴キャプテンの前に姿を現している

そっかなら、あたしが行った方がいいか竹柴さんとは、元は同学年だし了解っ大切な妹のためなら、喜んで一肌脱ぎましょうっ

寧は、ニッコリ笑ってそう答えた

じゃあ、恵美ちゃんたちは少し早めに出て地下通路経由でミナホに会って、部活の練習前に話しておいた方がいいでしょで、寧はそのまま、恵美ちゃんと一緒に竹柴さんに会いに行けばいい

うん、そうだねっそうするよ、マルゴお姉ちゃんっ

メグの部活の開始時間にはメグも寧も、グラウンドの方へ行っている

克子姉も、二人を送って学校のミナホ姉さんに会っている

マルゴさんは、みすずを香月家に送っている美智も一緒

屋敷内にいる年長組は渚のみ

麗華が、脱出作戦を行うタイミングはその時を狙うしかない

麗華は、うつむいたまま紅茶を飲んでいる

どうしたの、レイちゃん全然食べてないじゃない

いえ気にしないで下さい

麗華は、小さな声で呟いた

麗華の異変はこのままで良い

後で、脱走事件が起きた後ミナホ姉さんが、本気なのか狂言なのか迷うポイントになるからだ

いや、今だってミナホ姉さんは、この麗華の様子を見てトラブルの懸念を感じているだろう

ただオレや雪乃を連れての、屋敷からの脱走なんていう大事になるとは思っていないはずだ

麗華にはそんなことしでかす動機が無いからだ

オレたちと一緒に居ることがプレッシャーになっているのなら独りで出て行くはずだ

オレや雪乃を人質にしたって、足手まといなだけだしそもそも、麗華が人質を取らなくてはいけないような理由が無い

ミナホ姉さんに対して、何か要求があるはずもないし

何より、香月セキュリティ・サービスのトップ・エリートに選任されているような人間が、取る行動では無い

だからミナホ姉さんの心の隙を突くことができる

うんじゃあ、恵美ちゃんと寧はすぐに準備して

みすずさんたちもそろそろ行こうか

マルゴさんも行動を開始する

じゃあ、麗華お姉さんちょっと車庫まで来て車のこと、教えるから

そのまま麗華を、車庫へと連れ出す

では、旦那様行って参ります夕方には戻りますから

お屋敷の玄関でみすずが、オレに言う

食堂にいたメンバーは、そのまま全員、玄関に下りて来ていた

アニエスもマナと瑠璃子に、手を引かれて

イーディも、オレたちに付いて来ている

うんジッちゃんのこと、頼むよ

オレが、そう言うと瑠璃子が何かを言いたそうにしている

美子さんの様子も見てきますから心配しないで

みすずが、瑠璃子の心を察してそう言った

はい、お願い致しますみすずお姉様

瑠璃子は、頭を下げる

美智みすずのことを頼んだぞ

美智は、オレに一礼するとイーディに英語で何か言う

じゃ旦那様

美智も

美智にも、キスを

気を付けてな

二人は、玄関のドアを開ける

玄関前には、すでにマルゴさんのマセラッティと、克子姉のベンツが停まっている

麗華は、渚の赤い車を運転してきた

みすずと美智は、マセラッティの後部座席に乗り込む

マルゴさん、頼みます

君もこっちの屋敷のこと、よろしく頼むよ

マルゴさんは、運転席でニヤリとオレに微笑む

一遍に3台が屋敷から出ると、外の監視の人たちが混乱するから、3台目の麗華お姉さんの車は、少し時間をずらして出発していいね

赤い車の中の麗華は聞こえているはずなのに、答えない

麗華の代わりに玄関口の渚が笑って答える

ブォォォォォッ

そして、青いマセラッティは走り出す

はい、はい、次っあたしねっ

制服に着替えた寧が、オレに抱きついて来る

ブチュッと、オレの唇に濃厚なキスをした

くふふっ今は、ここまで続きは、また後でねっ、ヨッちゃん

寧は笑って克子姉のベンツに乗り込む

メグが、オレのキスを待っている

もう一回

メグは意外と欲張りだ

うふふ、ありがと

頬を赤らめる、メグ

今日は迎えに行った方がいい

ううん今日は、ヨシくん大変だろうから、いいわあたしも練習が終わったら、すぐに帰るから

メグは夕方になったら、父親の眼の前でオレとセックスすることに納得している

いや、メグもまた白坂創介に対する復讐者の一人だ

ほーらっ、ベタベタしていないで早く来るぅ

寧が、メグを急かす

はーいじゃあ、ヨシくん行ってきます

気を付けて竹柴さんによろしくな

メグも、車に乗った

じゃ、こっちは頼むわよあたしは、お嬢様の様子を見てから帰るから1時間ぐらいしたら戻るわ

克子姉が、オレたちにウインクする

あなたこそ、頼むわねっ

そして克子姉の車も、屋敷から走り出す

えっとあたしたちの車は、どれぐらい時間差を付ければいいのかしら

マルゴさんの車の方は香月家は、ここから距離があるから問題無い

克子姉の車の方は学校まで行って、地下通路を通ってミナホ姉さんに会うのに10分それから、メグがミナホ姉さんと話して、寧と一緒に部活に向かうのにもう、10分

メグにも、寧にもオレが、雪乃と誘拐されることは知らないでいて欲しいしな

よく判らないけれど20分ぐらいじゃないかな

オレは、渚に答えた

あのさ渚は、店には何時に着けばいいの

ちょっと心配になる

麗華は、渚と真緒ちゃんを送ってはいけない

多分、今日の渚たちの護衛は学校に居る恭子さんに頼むことになるだろう

ミナホ姉さんの精神状態のチェックは、克子姉が側にいてくれれば平気だろうし

今日は、開店準備はミユキにお願いしてきたから開店時間までに着けばいいわ

ミユキさんは、渚の店の店員さんだ

それなら学校から、恭子さんに来てもらってから出発しても間に合うな

オレさアニエスをちょっと、庭で遊ばせたいんだけど

あら、良い考えね

オレは、瑠璃子とマナに挟まれたアニエスを見る

アニエス、一緒に行ってみようよ

アニエスは、怖がっている

大丈夫よアニエスちゃん

わたくしたちが、一緒ですからね

二人が、アニエスに微笑む

アニエスちゃん、なんで、こわがっているの

真緒ちゃんが不思議そうに言う

アニエスはね、お外に出るのが初めてなんだよ

オレはしゃがんで真緒ちゃんと視線を合わせて、言った

そうなのアニエスちゃん

真緒ちゃんが、アニエスを見る

だから、真緒ちゃんからも、アニエスに言ってあげてみんな一緒だから、怖くないって

アニエスちゃん、こわくないよっだって、パパがいっしょだもんっえへへっ

真緒ちゃんの言葉に、アニエスの緊張が緩む

アニエス、ほらっ

オレは、アニエスをお姫様抱っこする

あ、いいなあマナもそれやって欲しい

オレは、マナを見て

うん、この小柄な肉体なら大丈夫だろう

うん、後でやってやるよ

本当じゃあ、次のエッチは、お姫様抱っこしてベットまで運んでねっお兄ちゃんっ

つくづく思うが

このオレのセックス奴隷は何かと注文が多い

まあ、いいか可愛いし

ああ、約束するよ

えへへ、やった

オレは外へ出る前に、屋敷の廊下を振り返る

雪乃が監禁されている応接室はすぐそこだ

玄関からは、そんなに離れていない

オレは、アニエスと一緒に玄関の外へ

真緒ちゃん、渚、マナ、瑠璃子イーディまでが付いてくる

今日は、良い天気ね温かくて良かったわ

青い空五月の太陽が輝いている

お兄ちゃん、こっちの芝生のところがポッカポカで気持ちいいよっ

マナが、オレたちを誘う

アニエスは、心配そうに周囲を見廻しながらオレにしがみついている

ほら、なにもこわいことなんてないって

真緒ちゃんが、アニエスに微笑む

そうですよ、アニエスさん今日はお天気、とっても気持ちいいです

ああ、ここの芝生がずっと続いて中庭の方にまで生えているんだ

どうしたんですマナさん

瑠璃子の問いに、マナは

あ、あたしね、はじめての時は、中庭の芝生でお兄ちゃんにレイプされたのっそうだったんだよねっ、お兄ちゃんっ

マナは、とんでもない笑顔でそう言う

初めてがお外

うんまたしようねっ

いやあの、マナ

お外だとさすっごいドキドキするしホントに、お兄ちゃんにメチャクチャにされちゃっている感じなのっあ、ルリお姉ちゃんも、そういうの好きなんじゃないっ

うん想像してみてっお兄ちゃんと、お外でセックスするって

でも泥だらけらなっちゃいますよ

それがいいんじゃんっ

マナは、ニヒヒと微笑む

泥だらけにならないでする方法もあるのよ立ったまま片足を上げたり、後ろからしたりとか

まあ、確かに緑の中で、新鮮な空気を吸いながらするのって、気持ちいいわよ開放感があるし

瑠璃子が、オレの顔を見る

それでしたらわたくしも、してみたいですお兄様

ママ、なんのはなしをしているの

真緒ちゃんが尋ねる

ええっとそうねえ

もしかして、おとなのはなし

真緒ちゃんが、不機嫌そうに母親を見上げる

真緒おとなのはなし、きらーい

あ、ごめんね、真緒ちゃんもう、真緒ちゃんの判らない話はしないからっ

マナが、真緒ちゃんの頭を撫でながら詫びる

うんほら、そっちの芝生に座ろうアニエスちゃんも、こっちに座ろうよ

マナが、オレの腕の中のアニエスに、そう言うが

あ、ちょっと待って、マナちゃん車の中にレジャーシートがあるからそれを敷いてから座って

パタパタと渚は、自分の車へ向かう

麗華は、ずっと運転席の中に閉じ籠もっていた

渚が、トランクからシートを取り出しながら麗華と何かを話している

はーい、お待たせ

子供向けのイヌの絵の付いた可愛いレジャーシートだった

ありがとう、渚さんアニエスちゃん、こっち来て

マナがアニエスを誘う

大丈夫だよ怖くない

オレは、アニエスをシートのマナの隣に、下ろしてやる

あ、あなたそこじゃなくて、こっちの影になっているところの方がいいわ

どうしてお日様がポカポカしてて、気持ちいいじゃん

マナが、疑問を持つが

あんまり直射日光を浴びるのは、よくないと思うのよだから

ああ、アニエスはずっと地下室の中で暮らしてきて

日光は、天窓から差し込む光しか浴びてきていない

こうやって外の光で見るとマナや瑠璃子と比べたって、青白い肌をしている

白人とのハーフということを間引いても白過ぎる

ちょっと、待ってあたしの帽子があったと思うから紫外線が眼に悪いのよ真緒も帽子を被りましょうね

再び、渚は車の方へ

あれ、麗華が車から降りている

手に、コンピューターのパッドを持って立ったまま、液晶画面を読んでいる

はい、これちょっと大きいと思うけれど

渚は、アニエスにつば広の帽子を被らせた

こういう、おしゃれな感じの麦わら帽子は、何て言うのが正式名称なんだろう

真緒ちゃんもお揃いの麦わら帽だ

うん、これでいいわね

渚は、いつもこれを被っているの

ええ陽射しが強い時は紫外線は、お肌の敵だからっ

じゃあ、しばらくみんなでアニエスと遊んでいて

うん、あ、真緒アニエスちゃんに、四つ葉のクローバーをとってきてあげるっ

真緒ちゃんが、すっくと立ち上がる

あ、待って、マナも行くっ

どうぞアニエスさんは、わたくしが一緒にいますから

レジャーシートの上に、アニエスと瑠璃子

マナと真緒ちゃんは、クローバー探しと別れる

あれイーディは

あそこにいるわあなた

渚の指差す方向を見ると

イーディは、庭の樹に向かって何やら格闘のポーズを取っている

瑠璃子庭の樹を折ったりしないように言ってくれ

瑠璃子がすらすらと英語で話す

イーディーも、何か答える

大丈夫ですわイーディさんは、樹と対話しているだけだそうですから

樹と対話する

そのまま樹に向かってスッと手をかざす、イーディ

樹の気を感じていらっしゃるんだと思いますそういうトレーニングでは

まあ、トレーニングならいいか

ならイーディは、心配要らないな

渚、ここに居てくれる

ええ、判っているわ

渚は、オレに微笑む

渚もマルゴさんと克子姉の企てに加わっている

麗華は玄関前のポーチに腰掛けて、液晶画面を読んでいた

オレは、麗華に近付く

渚さんに言われました

麗華は、画面を見たまま言った

アニエスちゃんですら、お屋敷の外に出たというのにあなたは、いつまで自分の殻に閉じ籠もっているんだって

この計画ハチャメチャですね

麗華が見ているのはやっぱり、マルゴさんから渡されたこれからの誘拐計画なんだろう

でも、面白そう黒森の家に合っています

麗華が画面から顔を上げる

真剣な顔で、オレを見上げた

本当に、わたくしはみなさんの家族になっても良いと思いますか

何を今さらもうとっくに家族だよ

後は、レイちゃんの心次第だよレイちゃんはどうなの

うん決めるのは、麗華自身だ

判らないです判らないですけれど

みなさんが、わたくしのことを心から心配して下さっていてわたくしに、ここに居ても良いと許可して下さっていることがとても、嬉しいんです

でも、それだけじゃダメなんですわたくしはアニエスちゃんでは無いから

わたくしは、もう大人です居ることを許していただくのではなくみなさんに、必要とされたい

そして手の中のパッドをギュッと握りしめる

わたくしは必要とされているのですね

ああそうだよだから、マルゴさんはレイちゃんにその計画を託したんだ

麗華の眼が、オレを見る

オレも、麗華を見つめ返す

視線を外してはいけない

麗華の心に応えるためには

それならば自分の任務を果たします

男装の麗人がスッと立ち上がる

よし、麗華が開き直ったぞ

トラブル取りあえず、一段落

といっても

こちらの不手際で、ご迷惑をおかけしましたが会社の上の方に無事に話が通りましたので、ご希望に添えると思います

いえ、あの私は、御社の内部のことは知りませんしご希望に添えるも何も、そちらが今まできちんと処理して下さらなかっただけなので

とにかく、上の許可は取りましたから

はあ、それで何時、本当の書類はいただけるのでしょうか

判りません上次第なんで進展がありましたら、また連絡致します

はあ春は遠いなあ

444.麗華はっちゃける

これ、持っていて下さい

麗華が、オレにコンピューターのパッドを手渡す

ふんぬっ

そして、撲殺ステッキを玄関前のアスファルトの小道に、ズサッと突き刺す

藤宮麗華吶喊致します

とっかん

トゥアアアアアアッッ

麗華は、キッと身構えると自己を奮い立たせる掛け声と共に、一気にガレージの方へ向かって、シュバババッと走っていく

うん実に、綺麗なランニング・フォームだ

レイちゃん、どうしたの

マナが驚いて、オレの方へやって来る

いやオレにも、よく判らん

このパッドの中のマルゴさんの指令書を見れば、これから麗華が何をするのか判るんだろうけれど

オレは、見ない方がいいよな

オレ演技は下手だし

ミナホ姉さんが監視カメラで観ていたとしたら誤魔化しきれない

とにかく、いつでも移動できるようにしておこう

とりあえず、アニエスのいるレジャーシートの方へ行く

彼女、ようやく動き出したわね

小声で、渚がオレに言う

お屋敷のことは、あたしに任せてくれて良いからね

うんこれから、オレたちは麗華に誘拐される

渚には、克子姉や恭子さんがお屋敷に戻って来るまでは、ここに居てもらわないといけない

ミナホ姉さんへの報告も

外に出たら、アニエスに靴を買ってあげて

渚が、アニエスの足を撫でる

ずっと、地下室に監禁されていたアニエスは自分の服はあっても、靴を持っていない

白坂創介は、自分の着せ替え人形として、アニエスに可愛い格好をさせていたんだろう

だが、部屋の中のアニエスは靴を履かせてはもらえなかった

だから、地下室から上がって来た後の食堂では、オレたちはアニエスにスリッパを履かせていた

玄関口から、庭このレジャーシートまでは、オレがお姫様抱っこして連れて来た

今のアニエスは、裸足のままだ

アニエスが自分の足で立つためには、靴が要るよな

アニエス自身は、不思議そうにオレを見上げている

ほら、アニエス抱っこしてやるから、こっちへ来い

アニエスは、オレに抱きつく

抱っこは気に入っているらしい

よし、これでいつでもアニエスを連れて行ける

瑠璃子が、すっとオレの横に寄って来る

これから何が起こるのですか

残念だが、オレもよく知らないんだ

オレは、麗華から手渡されたパッドを渚に手渡した

ファイルは、消しておくわね麗華お姉さんのことだから、もう全部暗記しているでしょうし

渚が、パッドを起動させて操作する

麗華は、香月セキュリティ・サービスのトップ・エリートとしての教育を受けている

まあ、大丈夫だろう

バブンッバババババッ

と、麗華は車庫から、マルゴさんの白いバンを運転してやって来る

え、何で渚お姉ちゃんの車、もう出してあるじゃんか

うん表の予定では、麗華はこれから渚と真緒ちゃんを連れて、お花屋さんの店舗へ行くことになっている

移動用の渚の赤い車は、もう用意してあるのだから車庫から、新たな車を出してくる必要はない

しかしこれからの作戦に渚の車を使ってしまうと、渚が困るだろう

あれ、マルゴちゃんの専用車でしょ

渚が、オレにこっそりと囁く

しかも、作戦用の車だからあのバンだけは、御名穂さんの監視システムから外れることができるのよ

あたしたちの他の車は、今、どの辺を走っているかとか情報が、常に御名穂さんのところに伝わるようになっているのでも、ほらあの白いバンは、擬装用に使うでしょ

ああ丸子印刷とか丸子芸能とか

今は、何の会社の名前も貼られていない

ただの真っ白な業務用バンになっている

もし、何かの拍子に敵の手にあの車が渡った場合に備えて、リンク・システムの機械を簡単に取り外すことができるのよ

ああ、少しでも危なそうな場合は機器を丸ごと取り外して、マルゴさんが持って出るのか

ということは麗華は、すでにガレージでリンク・システムを外してきている

あのまま外に出たら御名穂さんには、あの車の行き先は判らなくなるでしょうね

だからこの白いバンか

ダスンっ

玄関前に、白いバンを停めると麗華は、運転席から飛び出して来る

御免ッ

さっき突き刺したステッキをガザッと引き抜いて

そのまま、麗華は屋敷の中へ走り込んでいく

な、なんなのおっ

きええいっ

ドガァッバキバキッッ

屋内から、破壊音が聞こえてくる

麗華が破壊しているのは雪乃が監禁されている応接室のドアだろう

な、何よっあんた、何なのおっ

雪乃の絶叫が廊下を通して、玄関から響いてくる

ここを脱出するっ

麗華の声

だ、脱出って何のことよっ

問答無用っ

ドカッバキッ

ドッガバッシャガルルルッ

麗華、おい

とんでもない破壊音が、しばらく続く

あの応接室部屋の中、もうメチャクチャだろうな

はぁっ、はぁっ、はぁっ

玄関口から幽鬼のごとき様相の麗華が現れる

麗華は、酷く興奮している

息が苦しそうだ

左の肩に気絶しているらしい雪乃を担いでいた

右手にはもちろん、撲殺ステッキを握りしめている

な、何をやっているのよっ、レイちゃん

その人は、あたしたちの敵なんだよっ閉じ込めておかないといけない人なんだからっ

雪乃のことに対しては、激しい反発を引き起こす

うっ、うっ、うっうるさいっ

麗華は、バンの後ろのドアを跳ね上げて気絶してる雪乃を放り込む

どうするつもりなのよっねえ、レイちゃんてばっ

おっ、おっ、おっ

口を大きくパクパクさせて麗華は、何とか言葉を吐く

おっ、教えないっ

マナは、呆気に取られる

おっ、教えてあげないっ教えてあげないんだもんっ

れ、レイちゃん

そして麗華は撲殺ステッキで、ビュッとオレを差す

また、言葉に詰まっている

おにぃーちゃまっ

オレはお兄ちゃまのままなのか

のっ、のっ、のっ

乗れぇぇぇぇぇぇぇぇっ

バンに乗れって、ことか

のっ、乗らないと全員、ここで征伐するぅっ

麗華は、ブンッと撲殺ステッキを振り回す

せっ、征伐するったらしっ、しちゃうんだからぁっ

パ、パパぁぁ

麗華の異常な様子にアニエスが怖がって、オレに抱きついて来る

大丈夫だよ大丈夫だから

オレは、アニエスをしっかりと抱き締める

オレ、今こんな状態だからアニエスも一緒だけれど、いいか

オレの言葉に、麗華は

きょっ、きょっ、きょっ

きょ

許可っ

あ、そういうことか

レイちゃん、おもしろいっばっち、ぐー

興奮しきって、訳の判らない状態になっている麗華を見て真緒ちゃんが、パタパタと走って来る

真緒、ダメよこっちいらっしゃい

渚が、娘を呼び止める

いいから後で、絵本買ってあげるから

真緒ちゃんは走る進路を変えて、渚の元に

渚は、パッと真緒ちゃんに飛びつきギュッと抱き締める

おっ、おっ、おっ、お兄ちゃま

一拍おいて、麗華がオレに言う

くっ、車にはっ、早くのっ、乗ってれっ、レイちゃんに、トゥギャザーするのぉっ

瑠璃子オレだけじゃ、アニエスの面倒が見きれないから付いて来てくれ

瑠璃子は、真顔で即答した

レイちゃん許可だよな

きょ、きょ、きょ許可っ

落ち着け、麗華

一遍、深呼吸しろ

えっ、それならあたしも一緒に行くよっ

レイちゃん、何か変だもん危ないよお兄ちゃん

確かに今の麗華の様子は、何も知らないマナの眼から見れば発狂したとしか思えないだろう

それは、オレが何とかするから

オレは、マナに告げる

とにかく、マナは今起きたことをミナホ姉さんたちに報告してくれそれから、渚と真緒ちゃんを頼む

今はマナにしか頼めないんだよ

マナは、チュッとオレの唇にキスをして

判ったでも、すぐに帰って来てね

ああ、夕方までには絶対に帰るから

オレは、マナに約束した

えっ、パパどこかいくの

真緒ちゃんが、オレを見上げる

うんちょっと出掛けてくるよ

えー、真緒もいくぅ

渚に抱き締められたまま、真緒ちゃんは叫ぶ

ダメよ、真緒はママと一緒に居るのよ

ママもパパについてこうよ

真緒ちゃんは、食い下がる

もうママ、お店に行かないといけないこと判っているでしょママが働かないと、真緒もママもご飯が食べられなくなっちゃうのよ

うー

真緒ちゃんお土産買ってくるから

パパ、ほんとっ

ああ、約束するだから、渚と待っててくれ

じゃあママと待ってる

よし、真緒ちゃんはオッケーだ

はっ、はっ、はっ早く、乗るっいっ、いっ、いっ急いでっ

麗華が急かす

あ、ああ瑠璃子、頼む

オレはアニエスを抱えたまま瑠璃子とバンの後部座席へ向かう

マナ、大丈夫だから頼むぞそれから、メグには知らせるなメグの部活が終わるまでには、解決させるから

こんなことで練習から早退させたりしたくない

とにかく、ミナホ姉さんや克子姉やマルゴさんに連絡して相談するんだ連絡の方法は、渚が知っているから

判った気を付けてね

そしてマナは、キッと麗華を睨む

レイちゃんお兄ちゃんや、ルリお姉ちゃんや、アニエスちゃんに酷いことしたら、マナが許さないからねっ

酷いことがしたかったら雪乃さんにすればいいじゃないっその人なら、メチャクチャにしちゃったって良いんだからっ

それはどうだろう

やっぱり、マナを連れて行かないという選択は間違っていないと思う

とにかく、雪乃に対する敵愾心が強すぎる

かっ、かしこまって候っ

麗華の返答もハチャメチャだ

オレたちが、後部座席に座ると

LALALALALA

おかしなメロディで鼻歌を歌いながら

イーディが、やって来る

イーディのこと忘れていた

ハフーン

緊迫している状況を見て、イーディが立ち止まる

ここで、下手にマナがイーディをけしかけたら

麗華との本気バトルになる

イーディは、ニッコリ笑って英語で何か言う

それに瑠璃子が、英語で答えた

ふんふんと頷いてイーディは、何かまた答えた

そのままオレたちのバンに向かって来る

瑠璃子何て言ったんだ

イーディさんどこかへ出掛けるのかって、お尋ねになったので

わたくし海までって、答えました

何で海なんだ

あのつい

そしたら、イーディさん日本の海は、まだ見たことが無いから、自分も行くとおっしゃいまして

そのまま、うんしょとバンの助手席に座る、イーディ

いや、マナ何も言うな

こうなったらイーディも乗っていった方が、良いと思う

マナは狂った麗華の牽制には、イーディの存在が効くと感じたらしい

そして、英語で何か言う

マナさんイーディさんに、お兄様とあたしたちを守る様にお願いして下さっています

イーディは、うんうんと頷いて、マナと真緒ちゃんに手を振っている

レイちゃん、みんな乗ったぞ

オレが、麗華に告げると

えっあっはっうううううっ

あたふたと挙動不審な反応をする

しっかりしろっ、麗華っ

はっ、はいそれでは、出発致しまぁすっ

バンの運転席に飛び乗って来る

マナ、渚、真緒ちゃん

オレは、車の窓から3人に声を掛ける

大丈夫よ後は任せて

この狂言誘拐作戦の概略を知っている渚はオレに、そう言ってくれた

お兄ちゃん気を付けてね

心配そうなマナに、オレは笑顔で応える

パパ、おみやげおねがいねっ

真緒ちゃんは、ニコニコ笑っていた

瑠璃子は、小さくなって隠れていろ

玄関の外には香月セキュリティ・サービスの監視者たちがいる

みんな当然瑠璃子の顔は知っている

香月家の娘である瑠璃子が乗っている車なら当然、追尾してくるだろう

これでいいですか

頭を下げてシートの影に隠れた瑠璃子にオレは、毛布を掛けてやる

レイちゃん正面のゲートの開け方は、判っているよね

オレが尋ねると、麗華は

はっ、はいさっ、先ほど、まっ、マルゴさんから教わりましたから

まだドモるのが直っていない

麗華は、極度の興奮状態の中にいる

落ち着いて香月セキュリティ・サービスの人たちには、麗華の顔をはっきり見せるんだ麗華が運転していると判れば、向こうは安心するから

はっ、はい

白いバンは鉄の大門の前へ

麗華が、教わった通りに機器を操作する

鉄扉が、ススッと大きく開く

屋敷の前で監視しているはずの香月セキュリティ・サービスと、公安警察の車がいつもより少ない

それぞれ、普通のセダン車が1台しか停まっていない

みすずの乗ったマルゴさんの車と、学校へ向かった克子姉の車を追尾していったから

今、ここには、これだけしか残っていないんだ

レイちゃん、敬礼しろ

麗華が香月セキュリティ・サービスの車に向かって、敬礼する

向こうの車の中の人も敬礼して帰す

警察の人は、その様子を見ている

つまり、この車は香月セキュリティ・サービスの関係車だと思っているはずだ

どっ、どっ、どっどっちに行きましょうっ

右に行けば学校だ

麗華がお屋敷から脱走を企てたとして

ミナホ姉さんたちの居る学校に近付くルートを採るはずが無い

左へ行け

はっ、はいはいはーいっ

麗華は、バンを左折させそして、アクセルを踏む

ぶおおおおっ

アニエスちゃん大丈夫よ何も怖くないからね

瑠璃子が毛布から這い出しオレの腕の中のアニエスに言う

瑠璃子お前

瑠璃子の落ち着いた笑顔にオレは戸惑う

お前変だとは、思わないのか

麗華の突然の異常行動

監禁していた雪乃を連れ出しオレに車に乗れという

にもかかわらず

車が発進した途端に、オレが麗華に指示を出している

何か、理由があるのでございましょう

それならば瑠璃子は、何も申しませんお兄様に従うだけですわ

それにイーディさんの様子で、だいたい把握致しました

本当に、藤宮さんがわたくしたちに対して反乱を起こされたのならもっと、心が猛々しくなっているはずです気を感じる力のあるイーディさんが、あんなにニコニコしているはずがありません

あ狂言だっていうことを、あっさりと見破られた

真緒ちゃんも藤宮さんのことを怖がっていませんでしたし

めっ、面目ございませんっ

ステアリングを握る麗華が頭を下げる

黒森様も、すぐに気付かれると思いますわ

瑠璃子はこれが、ミナホ姉さんに対するパフォーマンスだということまで気付いている

いや、それはいいんだ本気で、レイちゃんが裏切ったと思ったらミナホ姉さん、何をするか判らないから

ミナホ姉さんが持っている裏社会のツテを全て使ってこの車を探し出そうとするだろう

それこそありとあらゆる手段を使ってくるに違いない

それよりもどこまでが狂言で、どこまでが本気か判らない状態にしたいんだミナホ姉さんにはしばらく、悩んでいて欲しいから

全てが狂言である可能性があるのならミナホ姉さんは、裏社会の連中にまで声を掛けるのは避けるだろう

それに、こっちに雪乃がいる限りはミナホ姉さんは、落ち着けないよ

白坂創介の眼の前で全ての娘を犯す

それが、ミナホ姉さんの計画した復讐のクライマックスだ

特に、雪乃は白坂創介に最も溺愛されている娘だ

その雪乃がいないんじゃ復讐が始められない

しかし、どうしてこのようなことを

うんと実は、オレもよく知らないんだこれは全部、マルゴさんの計画でミナホ姉さんの頭の中を、今日の夕方まで、オレたちの追跡でいっぱいいっぱいにさせるというのが作戦内容だ

夕方までですか

うん夕方には戻る

白坂創介への復讐のスケジュールは変わらない

判りませんわ予定通りでいいのなら、どうしてこんな手の掛かることをするのかしら

ミナホ姉さんは、オレに今日の夕方までに処分しないと、相手の精神がパンクしてしまうって言っていた廃人になった人間に復讐したって、心は晴れないからその前に、復讐しないと意味が無いって

オレは腕の中のアニエスの頭を撫でている

アニエスの前では、あまり白坂創介という名前を出さない方がいいだろう

アニエスは、ジッとオレの顔を見上げている

うんそのリミットが今日の夕方夕方までは待ってくれると言っていた

オレがアニエスの心を開かせるのを

一つ判った

うんアニエス大丈夫だよ寒いかい

ううんパパと一緒だから温かいですの

ミナホ姉さんは本当は、アニエスを白坂創介の前で、酷い形で犯したいんだ

アニエスが、泣き喚くような悲惨なレイプを

それは今のアニエスと同じ年齢の時に、自分自身が白坂創介にされたことだから

しかしオレがマナをレイプした時に、苦しみ

そういう陵辱をしたくないということを知っているから

ミナホ姉さんは、オレのためにアニエスが心を開いてくれるための時間を作ってくれた待ってくれている

姉さん自身の心を抑えて

だから、姉さんは昨夜から、学校に籠もっているんだ

オレが、アニエスを優しく接していく様子を見たくないから

だから、お屋敷から出た

むしろ、白坂創介の近くへ行って今日これからの復讐に向けて、憎しみの炎を燃え上がらせることにした

そんなミナホ姉さんが心配だから昨夜から、恭子さんは付き添っているし

マルゴさんも、こんな狂言計画を企てた

いや、まだこのマルゴさんの計画の全貌はオレには、判っていないけれど

そっか、ミナホ姉さんの監視がいつも通りならこんな作戦は、できっこないもんな

ミナホ姉さんの心が復讐の方に傾き

あんまり見たくないという理由で、オレたちとアニエスとの交流への監視が鈍っているからこそ

マルゴさんはオレたちに、作戦を実行させた

いずれにせよレイちゃんを首謀者にしたのは大正解だと思うよミナホ姉さんは、今のレイちゃんの行動の指針が全く理解できないだろうから

わたくし自身も、理解できていません

それでいいんだよだから、これは素晴らしい策になっている

なぜ、麗華がこんなことをしたのか麗華自身でも理解できない理由を、ミナホ姉さんは必死になって考えるだろう

それが、ミナホ姉さんが復讐だけに、心を集中させないためのクサビとなる

うんこれは、やっぱりレイちゃんじゃなかったら、成立しない作戦だよさすが、マルゴさん、良い人選だ

オレは素直に素晴らしいと思う

わたくし、役に立っていますか

麗華がバックミラー越しに尋ねる

ああ、役に立っているよっレイちゃん

それなら、良かったです

でも、それでしたらお兄ちゃまの人選も素晴らしいですわ

え、麗華

人質として白坂雪乃さんとお兄ちゃま自身の他に黒森様が今、一番関心を示しておられるアニエスちゃんに、香月家の瑠璃子様、さらにミス・イーディをお連れになるなんてこんな組み合わせ黒森様は相当混乱なさるはずですっ

も、もう一度整理して考えよう

まずアニエス

アニエスが、お屋敷からいなくなるということはミナホ姉さんは、絶対に想定していない

今まで一度も外に出たことが無いんだから

次に、瑠璃子香月家の娘の瑠璃子を連れて出たということは、ミナホ姉さんはうかつな手が取れないぞ

下手なことをして、瑠璃子に怪我でもさせたらジッちゃんの怒りを買う

そしてイーディ

普通は絶対に連れて行かないよなあ

何しでかすか判らない、爆弾みたいな子なんだから

はい、わたくしも感心しておりますお兄様は、本当に勇気のあるお方ですのね

瑠璃子が、ニコニコとオレに言う

うん確かに、このメンバーはかなりヤバイぞ

これに加えて精神状態がエキセントリックになっている麗華まで居る

そして後ろで気絶しているあいつ

麗華アニエス瑠璃子イーディ

この顔触れをオレは、本当に抑えられるのか

お兄様どうしたんです

まさか、ゾッとして気が遠くなったとは言えない

とっ、ところでお兄ちゃま

運転席から麗華が言った

この車とりあえず、どこへ行きます

マルゴさんから何か指示は

オレは、指示書を読んでいない

いえ、特になにもお兄ちゃまに従うようにと

とりあえず海だ

海ですか

ああ、海に行くと思ってウキウキしている子が1人いるから

ニタニタ笑っているイーディを見てオレは言った

これで海へ行かなかったら何をされるか判らない

じゃあただの港じゃなくて、砂浜とかの方がいいですね

麗華がステアリングを廻す

父の認知症の判定をしてもらうため、病院へ

脳のMRI検査もされる

介護保険もらうための診断も、ようやくこれから

色々大変ですね

本人は今使っている、電卓が間違っているので、新しいのが欲しいと言うので、買って来ました

多分、キーを押している人間の方が間違っているのだと思いますが

とりあえずは、なるべくキーの大きいやつを

でも、こうやって少しずつボケていって

世の中が夢に溶けていくのなら

死は怖くないんだろうなと、最近考えています

死ぬ瞬間は、夢の中で何もかも判らなくなっているんだから

人生は儚いですねえ

445. KOYANAGI

オレたちを乗せたバンは、晴れた5月の街を駆け抜けていく

アニエスは、オレにしがみついて恐る恐る、窓の外の景色を見ていた

何もかもが、彼女にとっては初めての光景だ

一方、イーディも浮き浮きモードで、窓の外を見ている

イヌだったら、尻尾を立ててフリフリしているような上機嫌さだ

日本に来ても、全然街の様子を見ていなかったからこうして街を眺めるのが、面白くてしょうがないそうです

瑠璃子が、イーディの言葉を通訳してくれる

ミス・コーデリアは、イーディを連れて日本観光とかはしていないみたいだ

まあホテルの闘いが終わるまでは、ミス・コーデリアもピリピリしていただろうし

そんな余裕は無いか

大体、この金髪で褐色で青い眼の戦闘少女は、いつも監視していないと何をするか判らないし

イーディさん、自動販売機に興味があるみたいです

なるほどコーラやビールの自動販売機を見ている

えアメリカにだって、飲み物の自動販売機ぐらいあるだろ

オレが驚くと

屋外には、まずないです街角のあちこちに、やたらと自動販売機が置いてあるのなんて、世界中でも日本ぐらいです

運転席から、麗華が言った

はい、屋外に自動販売機みたいな機械があったら、壊されて中の商品とお金を盗まれてしまいますよ

それにお酒の販売はアメリカでは、厳しいですからあんな風に屋外の自動販売機でお酒を売るなんてことは有り得ません

はいアメリカでは、外でお酒のボトルを裸で持っているだけで逮捕されます必ず、外からは判らないように最低でも、紙袋に入れていないといけないんです

麗華は語る

前に海辺の公園で、男女のカップルがワインの小瓶を取り出して、その場で飲んでいるのを見たことがありますが、そういうのはアメリカではアウトですね

詳しいんだね、レイちゃん

オレは、バックミラーの中の眼に微笑む

いえあの香月セキュリティ・サービスの研修で習ったんですわたくしたちは、様々なVIPの警護役として海外に派遣されることもありますので国ごとの法律や文化の違い、注意事項については研修でみっちりと習うんです

車を運転する様になって、麗華は少し安定してきている

そうですね国ごとの習俗の違いでトラブルになるのは、避けなければなりませんしね

瑠璃子が、言った

香月家の令嬢である瑠璃子を車に乗せたことで

麗華の感性は、警護人の方に傾いているのだろう

いつもの男装で、自らが車のステアリングを握っていることで

普段の業務に近い状況になっているから

瑠璃子を選択して良かった

これが、マナだとあいつはレイちゃんの方を強く刺激するだろうから

運転という大人の行為と、幼児退行が麗華の中でバッティングして心のバランスがさらにワヤクチャになったと思う

連休中ですけれど思ったよりも、道は混んでいませんね

海はやっぱり混んでいるかな

そんなことは無いと思いますよ水族館とか、観光施設の近くならともかく砂浜の方は、人気は少ないと思います

オレの問いに、冷静に答えてくれる

とりあえずは順調だな

んんんんんっ

バンの一番後ろから変な声が漏れる

目覚めたか

なんじゃこりゃあっ

雪乃はバンの天井を見上げて、叫んだ

アニエスが、怖がってオレに抱きつく

うるさい、雪乃、静かにしろよっ

何なのよっこれっ

だから、黙れ

どこなのよ、ここ

あたしをどこに連れて行くつもりなのよっ

ザバッと飛び起き、物凄い形相でオレを睨む雪乃

海ですわ

瑠璃子が、返事した

うっ、うみぃぃ

雪乃は大きく眼を見開く

なんで、海なのよっ

イーディさんが、海が見たいそうですから

さらっと、瑠璃子は言った

そして、イーディがジロリと雪乃に振り向く

低い声で何か言った

ええっとお前、うるさいあんまり騒ぐと、首の骨をへし折るぞと言っていますわ

瑠璃子の通訳に、雪乃はギョッとする

こいつもホテルでの戦闘で、イーディの力は知っている

とにかく海へ行くから雪乃も付いてきてくれというか、今さら車から降ろせないし

この車から降りてもお前、行くところが無いだろう

雪乃はもう、自宅には帰れない

市川老人の家に戻れば、精神病院へ搬送されてしまう

あ、あるわよ行くところぐらいっ

雪乃は、虚勢を張る

ただあたし、もうお金が無いのよお祖母様のお財布から拝借したお金は、もうほとんど残っていないし

拝借って盗んだんだろ1万円札1枚

あんたさ、あたしにお金貸しなさいよっ

当たり前のように、雪乃は言った

貸したら、どうするんだよ

とりあえずご飯食べる昨夜から、ろくなものを食べてないんだから

ああ、水とうまい棒だけだっけ

しかし、ホント今現在のことしか考えない性格なんだな

じゃあ、3000円だけやるよ

たった

3000円なんて、大金だろ瑠璃子が買えるくらいだ

何言ってんのあんた

呆れ顔で、雪乃はオレを見る

お兄様のおっしゃる通りわたくし、3000円です

オレは、瑠璃子をジッちゃんから3000円で買った

いいや、とにかく3000円やるよお前はいらないけれど

オレは財布を取り出して、1000円札を3枚抜き出す

今日は、ホテルへ行く前にミナホ姉さんから預かったお金を全て持って来た

この後、何が起こるか判らないし

オレは、雪乃に札を投げ付ける

雪乃は、その1000円札3枚を慌てて掻き集め

じゃあ、その辺で停めてよ何か食べたいから

まったく、どこまでも我が儘な性格だなあ

それでいて、現状認識は全くできていない

常に、自分の瞬間的な欲望にだけ従っている

そんなことしてお前、いいわけ

白坂雪乃は、今じゃ有名人なんだぜ日本全国、知らない人がいないくらい

雪乃が、ハッと息を呑む

ゴールデンウィークったって、昼間のワイドショーはずっとやっているし昨日なんて、雪乃の大特集だったんじゃないのか

雪乃は市川さんに引き渡される場を、テレビ中継され自ら犯されただのあんたも、あたしを犯す気かなど迷言を残した

その後、ミナホ姉さんによって、今までの雪乃のレイプ・セックス映像がネットに流出したので

雪乃のことは、もはや国民の関心事となっている

全部、あんたたちのせいよあんたたち、許さないんだからっ

また、そこで思考がループするのか

いや、許さないのはいいけれどお前、今のまんまじゃ、表を歩くのは無理なんじゃないか

お屋敷には、夜なのにサングラスとマスクで来たけれど

外で飯を食うのなら、マスクは外さざるを得ないだろうし

うううーっ

いや、唸っても雪乃

あの一応、マルゴさんが変装セットを用意して下さっていますけれど

え、そんなのあるの

はい、そちらの座席の後ろに紙袋が3つ置いてあるはずですその中のどれか、好きな衣装を着るようにと

マルゴさんの指示書には、そんなことまで書かれていたのか

はんっこれのこと

雪乃は、早速紙袋を発見する

3つの紙袋には、それぞれ大きくトムとジェリーとコーンと書かれていた

雪乃は、両方の袋の中を覗き込み

ハアと大きく溜息を吐く

トムにするわ

着替えるから、こっち見ないでっ覗かないでっ

瑠璃子が自分が着ているツナギの前をジッジーっと開く

黒のマイクロビキニに包まれた、可愛いおっぱいが現れる

雪乃さんはお嫌なようですからしばらく、わたくしの素肌をご覧下さい

その隣でイーディが、自分の胸と比べている

彼女も瑠璃子と同じツナギのジッパーを下ろして胸元を開く

白いスポーツブラが、褐色の肌に映えている

イーディが、瑠璃子にニターッと微笑む

そして、何か言う

イーディ、何だって

瑠璃子とは、良い勝負をしているだそうです

さらに褐色のアメリカ少女が小声で付け足す

これだけは、美智に勝っているだそうです

美智に聞かれたら、半殺しにされるぞイーディ

誰かさ鏡持っていない

後ろから、雪乃が言う

着替え終わったのか

あんまあ、とりあえずね

雪乃に振り向くと

何よ、その顔

しょうがないでしょこっちの袋の方は、まだ人間の服だったけれど向こうは、違ったんだから

雪乃は紺色の警備員の制服を着ていた

しかし、どういうわけかその制服は、袖もズボンも7分丈しかないだから、腕と膝下が剥き出しになっている

そして何故か、アフロヘアのカツラを被っていた

それも鳥の巣のような、でっかいアフロ

それに昨夜から掛けているサングラスを付ける

サイズのおかしい警備員の制服+巨大アフロ+サングラス

どう見てもコント中の芸人さんだ

まあ、いいでしょこれなら、誰もあたしが白坂雪乃とは思わないでしょうし

雪乃はルームミラーに映る自分の姿を見て、そう言った

確かにそれは、そうなんだが

こいつのポジティブ・シンキング能力は、時々、羨ましくなる

ちなみに他の袋には何が入っていたんだ

うんとねジェリーがネズミの縫いぐるみの衣装バッカじゃないのお笑い番組じゃないんだから、こんな格好できるわけないでしょ

いや今の格好もたいがいだぞ雪乃

コーンの方はトウモロコシの缶詰が、4つ入ってるだけなんだけれどこれってどういう冗談

そんなのオレが知りたいよ

マルゴさんトムとコーンという以上のネタを思い付かなかったんですね

ところでこれ、靴が入っていないんですけど

不満そうに、雪乃が言う

ああそうだアニエスの靴も買わないといけないな

オレは腕の中のアニエスを見る

そういえばさっきから気になっていたんだけれど、誰その子外人

ああ、雪乃はアニエスとは初対面か

オレの娘だよ

アニエスはジッとオレを見つめている

馬鹿なこと言わないでよっあんた、まだ、高1じゃないっ

娘にしたんだオレの

アニエスに、オレは微笑む

うんアニエス

小さな手が、オレの腕をギュッと握りしめる

とにかく海に着く前に、靴を買おう

どこかショッピングセンターとかに入りますか

いや、人混みのあるところは止そう

アニエスにはまだ無理だと思う

普通の靴屋でいいよ見つけたら停めてくれ

麗華が見つけたのは靴屋と言うより、工事の人や職人さん用の作業着屋さんだった

連休中ということで全然、客はいない

国道沿いですと、人が少ないとなると、こんな店しか見つかりません

麗華が頭を下げる

しょうがないよとにかく行ってみよう

こんなお店だって、アニエスが履けるサイズのサンダルくらいはあるだろう

今は別にお洒落な靴を買いたいわけじゃない

麗華が、作業着屋の駐車場に車を停める

よっし、行こう

オレたちは、ぞろぞろと車を降りる

雪乃、お前、逃げないのか

雪乃は、大きく伸びをしながら言った

さっき、あんたが言った通りよあたし、行くところが無いんだから

だからたってオレのとこに居たって

取りあえずよ取りあえずっ

雪乃は、オレに言う

しょうがないじゃないこの先、どうなっちゃうのか、あたしには判らないんだから

ハァと溜息を吐く

市川のお祖父様のところにはグラビア雑誌でヌードを公開しないかとか、AV女優にならないかとか、ストリップ劇場に出演しないかとかそういう電話がいっぱい掛かって来たみたいよ

でも、お前まだ16じゃないか

あんたたちが流したあたしの動画だけを見て18歳以上だろうって、勘違いした連中も居たってことよ

ちゃんと雪乃の情報を調べないでエロ動画だけに食い付いたやつらもいるのか

市川のお祖父様は、広告業界だから芸能事務所からも連絡があったわ今回のことをドラマ化したいから、本人役で出演しないかって

本気かよ

レイプシーンは、特に忠実に再現するってさあ、テレビのドラマじゃないわよVシネマだって、もう企画書が通ったって言ってたわ馬鹿にしてる

雪乃は、フンと鼻を鳴らす

それ以外にもとにかく記者会見を開いて、カメラの前で誰に何をされたのか克明にハッキリと答えろそれが国民の関心事なんだからっ言ってくるテレビ局とかそれが守次叔父様のテレビ局のワイドショーだったりするんだから、笑っちゃうわよね

色々、あったんだ

白坂家のテレビ局は白坂守次氏が失脚した以上、むしろ白坂家を叩く方に廻るだろう

今までが、一社だけで白坂創介を擁護していたんだ

白坂家支配からの脱却をイメージ付けるためにも激しく叩かざるを得ない

問題の元凶、白坂創介は行方不明のままだから

居場所の判っている雪乃一人に、焦点が集まっていたのか

後ねお笑い芸人さんの大手のプロダクションからバラエティ番組に出て、ひたすらエッチな話ばっかりするエロ女子高生としてデビューしないかってオファーがあったわ何でだか、よく判らないけれどあたしには、お笑いの才能があるって

それはオレもそう思うよ

みんな、馬鹿にしてるわっ

いや今の格好で言われても

何の説得力も無いぞ雪乃

そういう電話がガンガン掛かって来てそれで、市川のお祖父様はおかしくなってしまったのよ

市川老人は雪乃を精神病院に押し込めようとした

それでしか家名を守れないと思い込むまで追い詰められていた

まあ、いいわとにかく今はあたしは、ここに居るんだから

そう言って雪乃は市川邸のW.Cと書かれたトイレ用のスリッパをパタパタと鳴らして店へと向かう

オレたちも行こうか

変わったお店ですねゴムの匂いがします

ああ、工事とかで働く人とか、大工さん用の洋服屋だからほら、あっちの壁とか工具がいっぱい置いてあるだろ

瑠璃子かは、面白そうに店内を見ている

まあ、瑠璃子は入らないよな、こういうお店は

香月家の令嬢が用のある店では無い

わたくしそもそも、お店で洋服や靴を買ったことがありません

だいたい、カタログを見てデパートの外商部の方に持って来ていただいていましたから

外商部というのが何なのかはよく判らないが

とにかく、普通の人とは違うルールで買い物していたんだな

ああ、お兄様こちらに来て下さい

瑠璃子が、オレを呼ぶ

幸いにしてその店には、少しだけ子供物のサンダルが売っていた

完全な作業着オンリーの店じゃないんだな

といっても、安っぽいビニール製のサンダルと、アニメの絵の付いたビーチサンダルが4種類ぐらいだけれど

もしかしたら、作業着を買ったお父さんが子供にお土産として買うように置いてあるのかもしれない

ダメだよ、ちょっと子供用過ぎるって言うかアニエスには小さいよ

オレが、お姫様抱っこで抱きかかえているとはいえアニエスは、もう12歳だ

このサンダルでは、小さすぎる

そうしたらあちらの大人用の靴か、サンダルですね

瑠璃子の言う方に、オレは眼を向ける

ああ、安全靴みたいなワーキング・シューズでなく普通の運動靴みたいなのも置いているんだ

どれも普通のスニーカーよりは、デザインが今一歩だけれど

オレの通っていた中学の指定運動靴とか、こういうのだったな

アニエスさんは、靴よりもサンダルを選んだ方が無難だと思います

これまでずっと靴を履いてきていないわけですしハーフだから、日本人とは足の形が違うと思います最初の靴は、きちんとしたシューフィッターの人に診ていただくべきだと思います

それに、最初の靴ですものね

欧米では子供が最初に履いた靴は、大切に取っておくんですよ

そうかアニエスは、そういうイベントを何もしてもらっていないもんな

じゃあ、サンダルだ

だけど作業所用のサンダルってのは、どれも地味だなあ

アニエスどれが良い

オレは、腕の中のアニエスに尋ねた

アニエスが、決めるんだアニエスのサンダルなんだから

これからは、どんなことでもアニエスが自分で選ぶんだよ

そうじゃないですわお兄様

そういう言い方でなくてもっとアニエスさんに判りやすくして差し上げないと

瑠璃子は、サンダルの並んでいる棚から女物だけを選び出す

さらに、デザイン的によくないものも元に戻す

候補として残ったのは4種類のサンダルだった

アニエスさん、この中でどのサンダルが一番好き

どのサンダルなら履いてみたい

そのピンクのですの

判ったわこれね

選べと言ったら強制になってしまう

だから瑠璃子はどれが好きどれなら履いてみたいという形で、アニエスに尋ねた

オレはまだまだだな

それじゃあそれを買おうか

アニエスを抱えているオレの代わりに瑠璃子が、ピンクのサンダルを拾い上げる

うん作業所用だけれど、アニエスが履いたら可愛いかもしれない

お店の黄色いカゴに和風のデザインの入った手ぬぐいとか、鯉の滝登りのプリントされたロング・Tシャツとかをいっぱい入れて

イーディが、やって来た

眼をキラキラさせて

うんと欲しいのか

イーディは、うんうんと頷く

しまったアメリカ人少女の心の琴線に触れる商品が、この店にはいっぱいあったらしい

さすがに、これ全部を買ったら1万円は超えるだろう

今の所持金で払えない額ではないけれど

オレが躊躇していると

MICHIMANAKATUKOMEGUMI

手ぬぐいを一つ一つ示してイーディは、ここに居ない女たちの名前を言う

お前、お土産にしたいのか

オレの言葉を、瑠璃子が翻訳する

それなら、しょうがないなあ

じゃあ、手ぬぐいだけなTシャツはダメここのは全部男物だから

イーディはハァと溜息を吐くが、納得してくれる

それと恭子さんや、ミス・コーデリアたちの分も選んでくれ

イーディは、ゲッという顔をする

というかあの人たちの分を忘れたら、お前、シバかれるぞ

イーディは、ブルルルッと身体を振るわせる

慌てて、追加を取りに行く

ミナホ姉さんたちの分は、オレたちで選ぼう

アニエスとレイちゃんも選んでくれ

ていうかオレたちの分も買おう

お土産というより、みんなでお揃いにした方が良い

オレたちも手ぬぐいのコーナーへ行く

ああ、こんなのもいいなあ

また、イーディがパタパタと走って来る

軽く興奮して

イーディさん、ニンジャ・シューズを発見したので、買って欲しいって言ってますわ

ニンジャ・シューズ

雪駄、ですね

ああ、確かにニンジャの履き物に見えるんだろうな

地下足袋だったらどうしようかと思いました

麗華が、安堵している

まあ、雪駄ならいいか

判った、買ってやるよ

イーディは、喜んでいる

お兄様わたくしも、よろしいですか

わたくしもイーディさんと同じ履き物が履きたいです

ああイーディと友好を深めるためには、それもいいな

じゃあ、オレのも買うよレイちゃんのも買おう

そんなに高い品じゃないし

アニエスのサンダルだけでなく、ここでみんなの買い物をする

その方が、何倍も良い

あのさっ、1万8千円ちょうだい

突然雪乃がやってくる

このお店で、あたしが履けそうなのは、この靴だけだから

お前な

さっき、3000円やったろそれで買える靴にしろよ

オレは、思いっきり突っぱねる

そんなんじゃ、まともな靴は買えないじゃないっ

そういうことはまともな格好の時に言って欲しい

アフロと言えば

昔宇宙の騎士テッカマンというアニメがありまして

(テッカマン・ブレードは、そのリメイク作品です)

その中に出て来る登場人物の一人は

頭が思いっきりアフロヘアで

見た目は、眼の青い黒人さんなのですが

何故か、名前は

アンドロー梅田さんでした

何故に梅田

しかも、このアンドロー梅田さんの正体は、宇宙人です

446.海が好きっ

すっごい、ですの

アニエスが言った

うん、今、オレたちの眼の前には、広大な海が拡がっている

人気の無い砂浜の脇に、車を停めてオレたちは、波打ち際へと歩いて行った

アニエスは、さっき買ったピンクのサンダルを履いて自分の足で歩いている

もちろん、オレと瑠璃子が手を繋いでいるが

初めて見る海に感激しているらしい

WAO

イーディが、興奮してシュタタタッと砂浜を駆けていく

やっぱり、海に興奮しているらしい

その足下は雪駄だ

オレと瑠璃子も、同じ雪駄を履いている

学生服に雪駄ってのは、ちょっと変だけれど

イーディと瑠璃子は、ツナギ姿だから雪駄も似合っている

ツナギの裾を足首まで捲り上げて

麗華だけは、いつもの革靴のままだ

これは、まあ警護人として、靴の方が自在に闘いやすいからだろう

はあ、潮風ってあたし嫌いよ

そして少し遅れて、雪乃が付いてくる

結局、雪乃は一番安い390円のサンダルを買った

袖も裾も7分丈の警備員の制服に、巨大アフロのカツラ、サングラスにサンダル

どう見ても、コント世界の住人だ

しかし、このふざけた格好でも雪乃は堂々としているから何か、これはこれで、こういうものなんだという錯覚を人々に与えている

さっきの作業着屋の店のオッチャンも雪乃に対して、何も言わずにサンダルを売ってくれた

あ領収書は、いりますかって聞いていたな

ってことは、やっぱり、お笑い芸人か何かだと思われたんだな

この警備員の制服は意外と身体のラインがよく判る

雪乃の身体にぴっちりとフィットしているから丸いお尻の形を、はっきり浮き上がらせている

瑠璃子が、オレを引っ張る

瑠璃子は、ツナギの胸元を大きく開いたままだ

横から覗くと、黒のマイクロビキニまで丸見えになっている

さああちらへ

オレとアニエスを引っ張る瑠璃子

砂浜に麗華が、バンに積んであったレジャーシートを拡げてくれた

オレと、アニエスと、瑠璃子は並んでちょこんと座る

今日は、風が凪いでいて良かったですね浜風が強いと、砂が飛んで来て大変ですから

そう言いながら麗華は、オレたちの後ろに立つ

イーディだけがギャハハッと笑って、飛び跳ねている

雪駄を脱ぎ捨てて、裸足になって波打ち際の濡れたところに、ペタペタと足跡を作っていく

アニエスも、波の方まで行ってみるかい

ここで、いいですのパパと一緒にいるですの

と、オレにしがみつく

初めて見る海に圧倒されているんだな

ねえ、いつまでここにいるのよっつまんないわよ、こんなところ

後ろから、雪乃がオレに言う

コンクリートのブロックにどっかりと腰を下ろして

途中の自販機で買った、ペットボトルのサイダーをゴクゴク飲んでいる

それも、オレがやった3000円で買ったんだよな

サンダルは一番安いのにしたくせに飲み物は、平気で買う

こいつの金銭感覚はオレには、よく判らない

お兄様わたくし、海は久しぶりですわ

雪乃との会話を断ち切らせようと瑠璃子が、オレに言う

葉山の別荘へ行ったのも、一昨年の夏が最後でしたから

ああ、香月家の別荘があるのか

もっとも、わたくしは日本の海には入ったことが無いんです葉山では、こうやって景色を見るだけでしたわ浜辺まで入ったのも、初めてです

みすずが言ってたな外国の南の島に、プライベートビーチを持っているって

はいわたくしたちが、水着になって海に浸かるのは、その島だけですわそこは入り江になっていて、絶対に外から覗けないようになっていますから

うん日本の大混雑の海水浴場なんかで、香月家の令嬢が泳ぐことはできない

お兄様は海はお好きですか

いや、実は初めてなんだこうやって、浜辺に来たのももちろん、海で泳いだことなんか無いよ

アニエスも、オレの顔を見る

いや、もちろん電車とかバスとかの窓から、海を見たことぐらいは今までだってあるよでも、こんな風に浜にまで下りて来て、のんびり海を見るのは初めてなんだ

オレは、アニエスの頬を撫でる

オレも、アニエスと一緒だよ

アニエスは、キョトンとしている

パパも

学校で臨海学校とか、無かったんですか

後ろから、麗華が尋ねる

ああ、麗華もオレのことについては、よく知らないんだっけ

行かなかったていうか、行かせてもらえなかった

そういう家だったんだよ

お家が、貧しかったのですか

麗華が、心配そうに尋ねる

いや、普通多分親父は普通にサラリーマンだったし、母親も店とか経営しているし

では、ご両親がお忙しかったのですね

今度は、瑠璃子が尋ねる

そうじゃなくって二人とも、オレに興味が無かったんだ特に母親の方がだから、オレのために金を使うのが惜しかったんだと思うよ

オレ、子供の頃から家族でどこかへ遊びに行ったことなんて、一度も無いんだだから、海水浴なんて来たことが無いんだよ市民プールになら、一人で行ったことがあるけれど

オレは水平線を見る

広い

そして、その水平線から次々と押し寄せてくる、波

波音の響き

潮の香り

海鳥が飛んでいる

今日は快晴で青い空に青い海

ああ、遠くにヨットが浮かんでいる

視界全体に広大な光景が広がっている

ああ、海ってこういうところだったんだなテレビとかで見たことはあったけれど、やっぱり実際に来てみると違うね凄いよ

オレは、正直な感想を言った

はい凄いですの

アニエスが、オレに寄り添ってそう言う

これ、どこまで続いていますの

んアニエス

ずーっと向こうよ遠い外国まで繋がっているのよ

瑠璃子が、優しく微笑んでアニエスに言う

外国

ああイーディが生まれ育ったアメリカとかは、この海の向こうだ

そのイーディは、一人で波と追いかけっこしている

びちゃびちゃと、波を蹴散らせて

楽しそうだな

あたしだってこの辺の海なんて、入らないわよ

背後から、雪乃が言った

あたしはいつも夏と冬は、ハワイだからパパがハワイにコンドミニアムを持っているのよだから、いつもそこで過ごしていたわ日本の海なんて、汚くて入れないわよ

そしてハッと息を吐く

あのコンドミニアムへももう、行かれないわねあそこは、あたしのお気に入りだったのにさっチクショッ

憎々しげに雪乃は言う

絶対にまた、あたしはハワイへ行くわあのコンドミニアムだって、取り戻してやるんだからっあたしあんたたちに奪われてものは、全部取り戻すそう決めたのよ決めたんだからクッ

オレには何とも答えようが無い

例え、雪乃がサングラスの下で泣いていたとしても

うん海を見ていると、吸い込まれそうな気分になってくるよな何かちょっと、もの悲しい気分になってくる

波音がオレの心も洗ってくれる

でも、寂しくはありませんわお兄様が一緒に居て下さいますから

オレの手を、ギュッと握りしめる

お兄様がどちらかへ飛んでいってしまわないように瑠璃子が、しっかりとお兄様の手を握っておいて差し上げますアニエスさんも、お兄様を捕まえておいて下さいね

アニエスも、オレに抱きつく

どうしたんだ瑠璃子

瑠璃子は濡れた眼で、オレを見ていた

わたくし勘違いをしておりました

お兄様が、いつもどっしりとわたくしのことを、ギュッと抱き締めて下さるのでわたくしは、お兄様が心が頑強なお方なんだと思い込んでおりました

お兄様もわたくしと同じなのですねいいえ、わたくし以上の制限をお受けになって生きてこられたのですね

いやいや、それは違うよオレの場合はただ単に、親に無視されてきたってだけで香月家の家名を背負って、いつも色んな人たちの視線の中で生きてきた瑠璃子やみすずの方が大変だったろオレなんか、大したことないよ

いいえわたくしたちは注目はされましたが、決して無視はされませんでしたわいつも、最上のおもてなしをしていただいておりました何よりも香月様は、わたくしたちを愛して下さっていました

こうやって離れてみて、よく判るんですお祖父様は、本当にわたくしたちのことを愛しく思って下さっていたことに

瑠璃子はオレの奴隷となって以来、初めてジッちゃんのことをお祖父様と呼んだ

お兄様にはずっと愛して下さる家族がいらっしゃらなかったのですか

昔はいたよバァちゃんがでも、もう死んじゃったから

でも、いいんだ今はオレには、みんながいるから

今度は、オレの方から瑠璃子とアニエスを抱き締める

オレのことを愛してくれる人よりもオレが、愛していい人がいっぱいいることが嬉しいんだオレ愛されるよりも、愛していたいよみんなが好きだ大切なんだ

眼の前の海が

オレの心の中の思いを浮上させる

愛されるよりも、愛したい素敵なお言葉ですね瑠璃子をお兄様みたいになりたいです

あなたが好きです愛していますお兄様

瑠璃子が、オレにキスをする

お兄様の全てが愛おしいです

潤んだ瞳がオレを見ている

あなたが本当は、一生懸命に背伸びをしてだけど、わたくしたちには心配させないように、優しく微笑んでいて下さることが判ったから瑠璃子も、もうお兄様に愛させるだけでは嫌ですわたくしも、愛したい

そして、瑠璃子はアニエスを見つめる

アニエスさんわたくしは、あなたのことも好きですわたくしの妹として大切にしてあげたい心から、そう思っています

ああ言葉にしないと、形にならない事ってあるんですねわたくし、誓いますアニエスさんのことは、お兄様と一緒に一生守って差し上げますわたくしあなたのお姉様になりたいのよ

そうですわわたくしの妹になって下さいお願いしますアニエスさん

アニエスは、オレを見る

アニエスは瑠璃子が嫌いか

アニエスは、ぷるぷると首を振る

好きか

うんと大きく首を振る

だったら好きって言ってあげるんだ言葉にしないと、相手には届かないし言葉にすることで、相手が喜んでくれるそういうことって、あるんだよ

あのアニエスは、好きですの

瑠璃子を見て言う

愛しているって、言ってあげるんだよ

オレの言葉に

愛してますの瑠璃子お姉ちゃまのこと

瑠璃子が、ニッコリとアニエスを見る

わたくしもよアニエスさん

それから、アニエスは

パパのことも好きですの愛してるの

イーディちゃんのことも好きですの愛してますの

海辺を子犬のように走り回っているイーディにアニエスは叫ぶ

へと、こっちを見るイーディ

それからレイちゃんのことも好きっ愛してますの

アニエスの突然の発言に麗華は、驚く

アニエスは、利口な子だから今までずっと、オレたちの会話や行動を見てきて、自分なりにちゃんと考えて来ているんだよその上でレイちゃんのことも、良い人だって判ってくれているんだよ

あたしも、そう思いますわ藤宮さん

瑠璃子が、麗華に微笑む

オレも、レイちゃんのこと大好きだよ愛してる

わたくしも、藤宮さんのこと大好きです愛してます

レイちゃんは、オレたちのことどう思っている

麗華は、オレを見る瑠璃子を見るアニエスを見る

みんな好きです愛しているのに、決まっているじゃないですか

グッと感情を抑えて麗華は言う

麗華それって

ちょっと待ちなさいよっ

そこへアフロ頭の謎の警備員が割り込んで来る

あんたたちは、それで良いのかもしれないけれどさ

何だ雪乃

あんたさあたしのこと好き愛しているその辺のところさ、ハッキリしなさいよっ

なななな、何だ

いい加減、あんたがその辺をハッキリさせないとさっあたし、これから先、何をどうしたらいいのか、全然判らないじゃないっ

いや、オレは

お前が、何を言い出しているのが全然判らないぞ

見ろ、アニエスがすっかり怯えている

あの白坂雪乃さん

瑠璃子が雪乃に言った

ギッと睨み返す雪乃

そう言うあなたはどうなのですか

あなたはお兄様のことを、どう思っているんですか

雪乃はジトッとオレを見て

嫌いよっ大嫌いっ

あうん

嫌いに決まっているでしょこんな男っ

では、お兄様だってあなたのことは、好きではないと思いませんか

瑠璃子の言葉に雪乃は

はぁーん何でよっ

この男は、あたしのことが大好きよ好きで好きでどうしようもないからあたしのことを犯したんでしょっ今だって、隙があればあたしのことをレイプしようと企んでいるんだからっそうよねっそうだって言いなさいってのっ

このアフロ頭の警備員は何を言っているんでしょう

もちろん、あんたの好きにはさせないわよっそれはもう、絶対にそうなんだけれどあたしのことが好きだったら、何とかしてあたしのことを助けなさいよっホント、気が利かないって言うかバカよねこのバカっあたしに、こんなことはで言わせてさっ

何だ、何だ、何だ

あたしは、あんたが大っ嫌いだけれどあんたが、あたしのことを大好きだって言うからあたしを助ける役目を、あんたにお願いしてるってことよっここまで言えば、あんたのお馬鹿な脳みそでも判るでしょっこのバカっ

ああどうしたらいいんだろうこいつ

あのうそこに車を停めているの、あんたたちかい

砂浜の上から1人の老人が降りて来る

麗華が、サッと大人の顔に戻って対応する

困るんだよねえあそこは私有地だからさ

すみません、すぐに移動させます

いやいやそういうことじゃなくってさ

老人はごく普通に、オレたちに近付いて来る

HAAAAAAAAARYEEEE

イーディが、全力疾走をして老人に突っ込むッ

KICK

老人の喉元に跳び蹴りを食らわせたッ

おい、イーディ

驚くオレたちにイーディが、何か叫ぶ

囲まれているって、言っています

瑠璃子が、通訳する

ハッとして、麗華が撲殺ステッキを構える

と周囲から、わらわらと

10人ほどの男たちが現れる

あなたは、瑠璃子様とアニエスさんを

麗華の言葉にオレは、2人を抱き締める

迂闊だった

シザーリオ・ヴァイオラが死んだことで、気が緩んでいた

オレはブン殴り棒を持って来ていない

AIYAAAA

敵の一角にイーディが飛び込むッ

おい、気ぃ付けんかいっこの外人娘変な技を使う

へいっ、アニキっ

と、答えた瞬間その男の頭に、イーディの回し蹴りが決まるっ

振り返りざまにさらに2人を仕留める

なんじゃこいつメチャクチャ強いぞ

男たちはイーディから、距離を取る

はいそこまでや

さらにその後ろから1人の男が現れた

坊主頭にサングラスにチョビ髭の巨漢

その男は手に、マシンガンを持っていた

わしは切れたら、何するか判らんでぇあんたら全員、蜂の巣にしてしまうぞ

銃口をオレたちに向けながらゆっくりと歩いて来る

どちらの組の方ですか

麗華がステッキを構えたまま、尋ねる

そんなん答えるわけないやろなあ

クックックと男たちは、笑う

質問するのは、わしらの方やで、姉ちゃん

そして巨漢は瑠璃子を見る

香月瑠璃子さんやな

間違いないでさ、アニキ写真で見たのと同じ娘です

確かにそうみたいやな久々に、当たりを引いたで

マシンガンの巨漢は、ニタァと微笑む

お嬢ちゃんが来てくれるとオッチャンたち、とーっても助かるんよ

その身体を、オレはギュッと抱き締める

アニエスも、必死でオレにしがみついていた

ほらぁぁ、とっととこっちへ来んかぁいっ

巨漢が恫喝の言葉を叫んだ瞬間イーディが、行動を開始する

RYAAAA

近くの3人の男を次々と倒す

な、何や、ワレェェ

巨漢がイーディに銃口を向けようとした瞬間

とぅりゃゃぁぁッッッ

撲殺剣士が吶喊するッ

き、きさんっ

巨漢が、慌てて麗華にマシンガンを向ける前に

撲殺ステッキが、マシンガンを跳ね上げるッッ

ていやっ

落ちたマシンガンを、撲殺ステッキが狙い打つッ

バギィッ

マシンガンは、真ん中から真っ二つに砕けた

この野郎っっ

男は、腰から拳銃を引き抜こうとするが

一閃

麗華は、巨漢の身体を薙ぎ払った

ゴッ

骨の砕ける鈍い音がする

や、やべぇぇ逃げろっっ

その間に、イーディがもう2人ほど倒していた

残った男たちは、バラバラと逃亡する

残念でした観念なさい

メガホンで拡声された女の声

見ると砂浜の向こうから

黒いスーツの一団が、現れる

ああ、オレはこいつらを知っている

香月セキュリティ・サービス

全員確保して藤宮さんがブッ倒した男は、うちの指定病院へ搬送して多分、肩胛骨が破砕骨折しているはずよ

メガホンを持った関さんが最後に現れる

男たちは部下たちに任せてオレたちの方へ

みんな平気怪我はないわね

関さんは、ニコッと微笑んだ

藤宮さんあなた大丈夫ちょっと、ポカが多すぎるわよ

関さんは同僚に言う

あいつらマシンガンを持ってたって、ただの脅しなんだから瑠璃子様を絶対に傷付けるわけにはいかないんだから、セーフティをロックしたまんまだったでしょ

だから、ミス・イーディはすぐに攻撃を再開したんじゃないあなたが、先に制止しないとダメでしょあいつ、慌ててセーフティを解除しようとしたじゃない流れ弾が、他の人に当たったら大変なことになるところだったわよ

麗華は、頭を下げる

まあしょうがないわあんたもよコラ

関さんは、コツンとイーディの頭を打つ

イーディは、ケラケラと笑っている

あいつらが、あなたたちと接触したのを確認したら、すぐにあたしたちが動き出す手はずになっていたのよなのに、この子がいきなり跳び蹴りを食らわせるから

ああイーディが、最初に手を出したんだっけ

それで、あたしたちが出て行くタイミングがズレちゃったのよもおっ

香月セキュリティ・サービスは最初から、オレたちもあの連中も補足していた

あらあたしに何も質問しないの

関さんが、ニコッと笑ってオレに言う

マルゴさんでしょ

関さんとマルゴさんの間には、情報をやり取りするホットラインがある

オレたちがお屋敷を抜け出すことは事前に、マルゴさんから知らされていたのに違いない

そういうことね

マルゴさんはみすずたちの送迎へ行って、自分がオレたちの警護には回れないので

関さんに、その役を頼んだのだろう

渚さんからも連絡をもらったわよメンバーに、瑠璃子様が入っていたからあなたたちだけなら、あたしがプライベートで警護したんだけれど瑠璃子様がいらっしゃる以上は、香月セキュリティ・サービスの正規の仕事として出動させてもらったわ

オレは捕まっている男たちを見る

あいつらは瑠璃子目当てだったんですか

まあねだから、この人数で来たのは、結果的に正解だったのよ

何なんです、こいつらどういう連中なんです

シザーリオ・ヴァイオラの関係は、もう全部潰したはずだ

白坂家の方だって全て解決しているはずなのに

詳しいことは、ここでは話せないわ向こうの岬のホテルに部屋を取っておいたわそっちへ移動しましょうそろそろ、お昼だしね

あ、そうだ関さん

オレは、腕の中のアニエスを示す

この子、アニエスですアニエスこの人は関さんだよ

こんにちわアニエスさん

アニエスに、優しく微笑んでくれた

父の痴呆の状況を病院で調べてもらったのですが

医師頭に浮かぶ、野菜の名前を3つ言って下さい

父菊

医師菊ですか

父食べれる菊があるんです

医師はあ、後2つは

父判りません

医師野菜ですよ

父菊以外は、判りません

医師では、次に言う三つの言葉を記憶して下さい

父はい

医師ポスト、ネコ、くるま

医師では、今言った順で復唱してみて下さい

父ポスト、忘れました、くるま

医師真ん中のは、覚えていませんか

父はい、判りません

医師動物ですよ

父ネコ以外の動物だと思うんですが

医師いや、そのネコですよ

父いや、ネコじゃなかったですよ

医師ネコです

447.湘南ホテル オーシャン・ビュー

浜辺での騒ぎの後香月セキュリティ・サービスの4台の車にガードされて、オレたちの白いバンは、岬のホテルへ到着した

もちろん、そのうちの1台は、関さんのご自慢のアメ車だ

岬のホテルは一般的な観光ホテルではなく、セレブがお忍びで泊まりに来るような、隠れ家的な一流ホテルのようだ

内装も豪華だけれどホテルというよりも、超高級マンションの様な雰囲気がする

駐車場も、外車ばかり停まっていた来客用の駐車場を見渡したって商業用のバンなんてのは、オレたちの車しか無い

オレたちはホテルの受付を通らずに、顔パスでそのまま奥のエレベーターに乗せられた

何もかもすでに、香月セキュリティ・サービスによって全部セッティングされているようだ

そのまま関さんの案内で、最上階の部屋へ

どう一応、スイートルームなのよ景色は最高でしょう

なるほど、部屋から見える海の眺望は素晴らしかった

後は、あたしだけでいいわ直接警護は1班だけ2班は控え3班は周辺の再チェックいいわね

関さんが、颯爽と部下に命じる

すでに、香月セキュリティ・サービスの次期現場責任者として動き出しているらしい

全体的に落ちついているし貫禄も出て来た

さあ、みなさん早く中へ入って

オレたちが部屋の中に入ると関さんは、ドアを閉める

このスイートルームの中に居るのは関さんと、オレ、瑠璃子、アニエス、イーディ、麗華、雪乃の7人だけだ

この部屋はね、ベランダがとっても広いの屋外でパーティが、できるようになっているのよ夏には、ここから岬の向こうの花火大会が見えるんだってパーティしながら、花火を見るお客さんが毎年居るんだって

うんこの部屋はホテルの最上階で、なおかつ、この一室しか客室がないらしい

バスケットボールができそうな位の広さの空間が、そのままこの部屋専用のベランダとなっている

早速、イーディがガラス戸を開けて、外へ出る

うんやっぱり潮風の匂いがする

そのままイーディはうんしょ、うんしょと、体操を始めていたというか、彼女はちょっとでも時間が空けば、身体を動かしている

さすが暗殺教団の技を身に付けた武闘派娘

まあ、その辺座ってお昼ご飯は、ルームサービスでいいあ、これは香月セキュリティ・サービスの方で支払いをするから、何でも好きなものを頼んで良いわよ

ソファにちょこんと座った、オレと瑠璃子とアニエスに関さんが、メニューを手渡してくれた

え、ホント何食べてもいいのっ

ソファの後ろから、アフロカツラを被ったままの雪乃がヌッとメニューを覗き込む

あ、あたしね肉が良いな肉っ

雪乃は昨夜から、うまい棒しか食べていない

ごめんなさい白坂雪乃さんの分は、うちの経費で落ちないから何か食べたいのなら、自腹で払ってもらうけれどいい

ちょっとそれ、どういうこと

関さんの言葉に、雪乃はキレる

だって、あなた関係無い人じゃない

ニッと微笑む関さん

関係無くないでしょっあんただって、あたしのこと知ってるじゃないっ

雪乃と関さんは一緒に、ジッちゃんのお台場のからくりホテルの中をダンジョン・クエストした間柄だ

もっともパーティを組んだっていう感じじゃないな

雪乃は、そんなに役に立たなかったしほとんどオレにしがみついて、ワーキャー叫んでいただけだったし

関さんにとって、雪乃は仲間という意識は低いと思う

ええ、よく知っているわ白坂雪乃さん白坂守次氏の係累の方は、香月セキュリティ・サービスの敵対者だってこと、判ってるわよね

白坂家の今となってはもう前当主である白坂守次氏は、雪乃の大叔父だ

白坂本家は、守次氏を失脚させ、雪乃の父親である白坂創介を追放することで、香月家に詫びを入れた

わたくしたちは、あなたと仲良くすることはできないわましてや会社の経費で、ご馳走するなんて

関さんの笑顔に、雪乃は

わ、判ったわよっ自分のお金で払うわよっ

いや、雪乃お前の持ち金は、市川さんの家が盗んできた金の残金とオレがやった3000円だけだろ

それだってサンダルとサイダーを買っちゃってるし

な、何よこれっどうして、どの食べ物もこんなに高いのよっサンドイッチが2000円とか、ボリ過ぎでしょうっ

メニューを見ながら、雪乃は喚く

いや、それはしょうがないだろ高級ホテルのルーム・サービスなんだし

あたしこのソーセージとポテトの盛り合わせねっ

それでも食べるのかよっ

いや、どう見ても酒のおつまみだぞ、それ

しかも、そんなんでも1590円もするし

もうこの際食べられれば、何でもいいわよっ

雪乃の刹那主義は凄すぎると思う

あ、そであなたたちは何にする

関さんが、オレたちに尋ねる

その前に教えていただけませんか

さっき、わたくしたちを襲って来た方々はどういう人たちなんですかそれに、香月セキュリティ・サービスは、どういう理由でわたくしたちと接触しているのでしょう

瑠璃子様の警護を、わたくしたちがするのは当然ですわ

しかし今のわたくしは、香月家の娘ではありませんわたくしは黒森様の女です

閣下や瑠璃子様のお心の中のことまでは、わたくしどもは関知致しません瑠璃子様は、瑠璃子様ですどちらへ嫁がれようが例え、どなたかのセックス奴隷になられようが、生涯わたくしたちがお守り致しますそのための、香月セキュリティ・サービスですから

関さんは全て判っていることを、瑠璃子に示す

香月セキュリティ・サービスは、そもそも瑠璃子様をお守りするために、閣下がお作りになられた組織です様々な名家の方々に対する要人警護のビジネスだって、あくまでも、瑠璃子様警護のついでにやっていたことですあるいは、カムフラージュとして

ジッちゃんは初恋の女性の面影のある瑠璃子を溺愛していた

同じ孫娘であるみすずよりも、瑠璃子の方をより深く

だから、みすずは両親と同居しているが瑠璃子の方は、両親から引き離し、自ら養育していた

美子さんと二人だけに隔離し一切、他の男とは接触させないように

瑠璃子の父、重秋氏に対する不信もあってジッちゃん自身の個人的な警護員を、大組織に拡充したのが香月セキュリティ・サービスの基礎だ

他家の警護ビジネスが先にあったのではない

もちろん、ジッちゃん自身や、みすずや、香月グループの重役たちを重秋氏や他の敵対者たちから守ることも重要な任務だったが

ジッちゃんの中では瑠璃子の警護が最重要だったことはいなめないだろう

というか困るんですあんまり、閣下と瑠璃子様のご関係が疎遠になられるのは

関さんは、フッと微笑む

閣下やっぱり、ちょっとお元気が無いですわ瑠璃子様を手放されたことで、気落ちなさっているんだと思います

いえ、別にわたくしは瑠璃子様が、この人の元へ行かれたことを批判しているわけではありませんわたくしも、これで良かったと信じていますあのままではいずれ、もっと大きな問題になったことは確実でしたし

ジッちゃんは瑠璃子に対して、邪恋を抱いていた

もし、ジッちゃんがもっと若かったら孫娘を押し倒していたかもしれない

今のジッちゃんは、もう老齢でセックスをするには、心臓が持たないと言っていた

それでもあのまま放っていたら、ジッちゃんは自分の命を捨てる覚悟で、瑠璃子を襲ってしまっていたかもしれない

そんな危惧を他ならぬ、ジッちゃん自身が、強く感じていた

だから、ジッちゃんは

瑠璃子をオレに、売り飛ばした

自分の邪恋を断ち切るために

しかし、ジッちゃんの瑠璃子への未練は

ジッちゃんの望むシチュエーションで、オレが瑠璃子の処女を奪う様子を鑑賞することで

オレの行為を通して心の中で、瑠璃子を抱こうとした

オレを自分のチンコの延長だと、思い込もうとした

そんなことではいつまでたっても、ジッちゃんは瑠璃子から解放されないから

オレたちは、改めてジッちゃんの前で、セックスした

ジッちゃんの意志と関係無くオレたちは、オレたち自身の決意からセックスしていることを示すために

ジッちゃんに心の底から、瑠璃子を諦めさせるために

それには成功したけれど

瑠璃子を失ったジッちゃんの消沈は計り知れない

関さんのおっしゃりたいことは、判りますですが、わたくしはもうお兄様の所有物ですそしてわたくしは、そのことに満足しています香月家に戻る気は、ございません

きっぱりと瑠璃子は、言った

違うよ瑠璃子関さんは、そういうことを言っているわけでは無いんだよ

オレの言葉に瑠璃子が振り向く

関さん、言っていたじゃないかジッちゃんや、瑠璃子の心の中のことには関知しないって

関さんがニコッとオレに微笑む

ジッちゃんが、瑠璃子をオレに売り払ったことも瑠璃子が、一生オレの女になる覚悟をしてくれたこともオレたちだけが知っていて、オレたちだけがそう決めて、やっていることだオレたち家族の外の人間は知らない

瑠璃子は、ジッとオレの眼を見ている

もちろん、オレたちはオレたちの意志を通すさオレたちの人生なんだから、誰にも文句は言わせない

だけど、関さんはオレたちの心は、それで構わないから外の人たちに対しては、別のアピールをしなくちゃいけないって言っているんだよ

別のアピールですか

うんだって、香月家はたくさんの会社を持っていてたくさんの人たちが、香月の名前の下で働いているんだろ

その人たちが安心して働けるように香月家の内部は、何の問題も無いみんな、仲良く幸せに暮らしているというアピールが必要なんじゃないか

ですが

瑠璃子はお祖父様に嫌われてしまいました

お祖父様の前ではしたない姿を晒したのですから

ジッちゃんの前でセックスしたことでジッちゃんに嫌われたと思っている

瑠璃子はジッちゃんの自分に対する邪恋を、よく理解していない

そもそも、恋愛ごとについては、全く知識が無かった瑠璃子だ

もし、ジッちゃんが瑠璃子に処女を捧げろと命じたら瑠璃子は、当たり前に応じていただろう

瑠璃子にとってはジッちゃんに命じられたことが、全てなのだから

もちろん、瑠璃子にはジッちゃんに対する恋愛感情は無い

あくまでも、尊敬すべき祖父として親族として、ジッちゃんを愛している

だから、瑠璃子がジッちゃんに身体を許すとしたら祖父に対する、親愛の情からでしかなかっただろう

だがジッちゃんの方は

瑠璃子を、女として愛したいという欲望を抱きながら同時に、自分の愛しい孫娘であるという思いも持っていた

ギリギリのところで孫娘に欲情するというインモラルなことに、ブレーキを掛けた

それは自分の身体が、もうセックスができないということからの諦めもあったろう

とにかく、ジッちゃんの方には瑠璃子に恋することへの後ろめたさがあった

その後ろめたさの存在を瑠璃子は、気付いていない

単純に香月家の呪縛から、瑠璃子を解き放つためにジッちゃんは、自分をオレに渡したのだとしか思っていないし

ジッちゃんの前でのセックスも瑠璃子自身が、ジッちゃんへの思いを断ち切り、オレに心を捧げるための儀式だと思っている

だからジッちゃんに嫌われたという言葉が出て来る

ジッちゃんは瑠璃子のことを嫌ってなんていないよ

瑠璃子はジッちゃんの可愛い孫娘なんだから

オレは、関さんの方を向く

つまりジッちゃんと瑠璃子を、対外的にだけでも、仲の良い祖父と孫娘の関係に戻せって言う話なんですね

そういうことよ重秋様のご葬儀の席で閣下が瑠璃子様を遠ざけられ、美子様をお孫様とお認めになられたことで、香月グループの中で動揺が起きています

どういうことでございますか

美子さんの名前が出たことで、瑠璃子の眼の色が変わる

一つはグループ内で、瑠璃子様が閣下の後継者になられると思っておられた方が多かったということですその方たちは、みんな腰砕けになってしまわれていますわグループ内での地位や面目を失われて困った状態になられています

ああ、瑠璃子推しだった連中は旗頭がいなくなってしまって途方に暮れているのか

それはわたくしのせいではございません

うんあくまでもそいつらが、勝手に瑠璃子を推していたんだし

みすずを推すグループと、対立したりして

それで瑠璃子とみすずが、あんまり仲良くできなかった要因となっていた

しかし、急激すぎる変化はよくありませんそれに瑠璃子様を擁立していた方たちは、閣下によって粛正されるのではないかという憶測まで、一人歩きし始めていますわ

ジッちゃんが、そんなことをするわけがないのに

自意識過剰な人間はそんなバカなことを考えるのか

そして美子様の認知の方も

何が起きているのですか

非公式にですが美子様への縁談のお話が、この数日だげで30件以上もあったそうですわ

瑠璃子が、ジッちゃんに遠ざけられたとなれば美子さんと結婚して、香月家を乗っ取ろう考える輩が出て来る

皆様瑠璃子様のお付きとして、常に控え目な態度でいらした美子様をよくご存じですから夫となれば、美子様はどんなことでも従うだろうと思っていらっしゃるんです

そうですかしかし美子様と結婚なさったからといって、必ず香月家の当主になれるとは限りません分家の皆様の眼もございますし

瑠璃子の言葉に、関さんは

美子様に求婚なさっている人たちはそんなことまでは、考えておりませんわ

閣下は美子様も、ご自分のお孫様とお認めになれたんですつまり美子様と結婚すれば、少なくとも香月家の財産の何割かは手に入ります

ジッちゃんの長男は次男に謀殺され

次男はミス・コーデリアの抹殺された

みすずの父親である三男は、国家官僚でジッちゃんの遺産は相続しないと言っている

今のままだと香月家の財産は、みすず、瑠璃子、美子さんの3人で相続する可能性が高い

法定相続分だけでもゲットしたら丸儲けだと思っている輩が、30人もいる

何という、破廉恥な考えなのでしょう

吐き捨てる様に瑠璃子は言った

しかし、今の香月家ならつけ込む隙があると考えている人々は多いのです重秋様の急死と、慌ただしい葬儀司馬様へのグループ経営の移譲香月家に何か大きな問題が起きたことは皆様、気付いておられるわけですから

色んな事がバタバタと起こり過ぎているから

マスコミ関係は抑えられても財界の人たちには、バレている

先ほど皆様を襲ったグループも、そういう流れから発生しています

簡単に申し上げると香月セキュリティ・サービスが舐められているんです香月セキュリティ・サービスは香月グループのホテルをテロ実行犯の襲撃から守ることがでぎずに、重秋様のお命を奪われたのですから

そうか外から見れば

お台場のホテルは全館がメチャクチャな状態にされてしまっているし

香月家の人間である重秋氏の急死はホテルを襲った、テロ犯に殺害されたのだろうということになる

つまり、香月セキュリティ・サービスは全然、ダメだったと

それに山岡部長が統括していた、香月セキュリティ・サービスの表部門警備部が、ホテルの闘いで全く機能していなかったことも知れ渡っています

うん本当に、何もしてなかったもんなあ

実際すでに、幾つかの顧客から、香月セキュリティ・サービスの警護契約を打ち切るという話も出ていますまあ、先ほどお話しした通り要人警護は、あくまでもサイドビジネスですから、部門を縮小してもわたくしたちはそんなに困りませんが

重秋氏という、獅子身中の虫も居なくなったから香月セキュリティ・サービスは元通りの香月家のためだけの警備部隊に戻ったっていい

しかし、わたくしたちの警護能力が舐められるのは問題です

関さんは、嘆息する

例えばさっきの襲撃犯は、北九州の組織が様子見で送り込んだものですわたくしたちの能力がどれくらい低下しているのかを調べるためにあんなやつらを送り込んで来たんです

つまり今日のは、先鋒隊でまだ、これから本隊が来る

皆様と接触する前に、彼ら全員を処分することもできたのですがマルゴさんや恭子さんとも相談して、わざと引きつけましたもちろん、谷沢チーフの許可もいただいております

何故ですわたくしはともかくお兄様や、アニエスさんを危険に遭わせるなんて

瑠璃子は、怒りを露わにする

その理由は一つは、閣下に危機感を感じていただくためですもうすでに、瑠璃子様たちが襲われたことは、ご報告致しました

ジッちゃんはもう知っている

閣下は、大変、ご心配なご様子でした

もう一つの理由は

瑠璃子は祖父の話題を飛ばして、関さんに尋ねる

もう一つの理由はここで敵を引きつけ、一気に本隊を抹殺するためです

一罰百戒です北九州の組織を丸ごと潰して香月セキュリティ・サービスの本当の実力を世間に示します

北九州の組織というのもそこそこに名が知られていて、ブッ潰したら世間が納得してくれそうな組織を、わざわざ選んだんだろう

裏から手を廻してこちらへ呼び寄せるんだ

香月セキュリティ・サービスの実力をアピールするためだけに

お話は、判りましたわたくしたちについての現況についても

瑠璃子が、関さんを見上げる

その上で関さんは、わたくしに何を求めるのですか

明日大きな財界のパーティがありますその席で閣下と瑠璃子様、みすず様、美子様皆様の仲睦まじい姿をお見せいただきたいと思います

改めて香月家、ジッちゃんと孫娘たちの関係が修復した様子を世間に見せる

それで、グループ内の動揺は治まります

なるほどそうかもしれませんね

冷たく瑠璃子は言った

同時刻にわたくしたちは、東京に上陸した北九州グループを撃滅します

関さんは、真顔で瑠璃子を見返す

ゴールデンウィークの最後に、大きな花火を打ち上げます

お話しは、承りましたしかし、全ては香月様がお決めになられることですからわたくしが今、お答えすることは何もございません

瑠璃子のジッちゃんに対する呼称がお祖父様から、また香月様に戻っている

なかなか根の深い問題になってきたな

ええ、わたくしも瑠璃子様にお願いしてはおりませんから

関さんも強く出る

あなたは、どう思います

ええあなたは瑠璃子様のご主人様なんでしょ

そうだ、オレは瑠璃子の主人だ

オレが命じれば瑠璃子は、嫌嫌ながらでも、パーティの席でジッちゃんと仲の良いフリをしてくれるだろう

少し、時間を下さいこれは、家族で話し合うべきことだと思うから

瑠璃子1人のことだけじゃないだろみすずにも、話さないといけないしミナホ姉さんたちの意見も聞きたいから

香月家との関係は黒い森にとっては、とても大きい

下手なことをして、ジッちゃんに憎まれるようなことになっては困る

お願いしますというより、わたくしたちは、あなたに頼むしかいないのよ

瑠璃子様と、みすず様さらに閣下に一緒に、パーティに出て仲良くして下さることをお願いできる人が

ま、まさかジッちゃんは

ええ、まだ話していないわ今の予定では、明日のパーティはご欠席なさることになっているのよ

そりゃあそうだな

息子が死んで瑠璃子を失った傷心中のジッちゃんだ

財界のパーティなんか、行きたいはずがない

だからあなたに何とかしてもらうしかないのお願い

そういうことかよ

現実はなかなかハードだ

ということで皆様に対する、わたくしからのお話は以上です

関さんはそう言って、頭を下げた

さてと藤宮さん、次はあなたよ

麗華に声を掛ける

な、何ですか

表へ出なさい

外のベランダを、関さんが指差す

あっイーディがまだ体操しているな

ええコテンパンにブチのめして、あげるわっ

ニィッと関さんが、麗華を笑う

藤宮さん覚悟なさいねっ

この作品のカレンダーは、去年のゴールデンウィークのものとなっています

これは最初の予定だと、5月までに完結するはずだったんです

何で、こんなに長期連載になってしまったのか

そして去年の連休は、5月6日まででした

今の話が、5月5日で今夜中に、復讐は終わりますから

1日余る、どうしようかと悩んでいました

パーティと戦闘で、何とか最後の花火が上げられそうです

正直、復讐で終わると後味が悪そうだったので

この方が良いと思います

変にいじらないで、最後はお祭りで

448.お姉様が見てる

あのどういうことですか関さん

麗華は突然の関さんの決闘宣言に、驚く

大丈夫よあなたの前に、もう3人ほどブッ飛ばしてきたから

関さんは、ニヤリと微笑む

3人もブチのめしてきた

藤宮さんわたくしが谷沢チーフから、次の香月セキュリティ・サービスの現場責任者に指名されたことは、もう知っているわね

恐る恐る麗華は答える

それは、関さんが谷沢チーフに次ぐ、香月セキュリティ・サービスのナンバー2に就任するということだ

いや、谷沢チーフが現場から離れるという意志を示している以上今後の香月セキュリティ・サービスの警護人たちは、全て関さんの指示に従うことになる

表部門の警備部の方は、別に良いのよあそこは、基礎から根本的に作り直さないといけないからまあ、あそこの部署の人たちは、みんなサラーリマン的な感性しかもっていないしね

ベランダの外に続く、ガラス戸をはさっき、イーディが開けたままになっている

爽やかな潮風が、また部屋の中に吹き込んでくる

だけど裏部門、トップ・エリートの皆さんは藤宮さんと同じくらい、変わった人が多いものね

オレはホテルの闘いの終盤に現れた、トップ・エリートたちを思い出す

みんな、強そうで恐ろしい雰囲気を持っていた

まあ、それでもうちの会社に居る人たちは、ギリギリ社会性があるわねそうじゃなかったら、みんなフリーのまんまでしょうから

うんバンバルビー3のお姉様たちとか、ダダドムゥおじ様とか

あのレベルまで行っちゃうと、組織の一員になるのは無理だろう

それでも居るのようちの社員でも若い女、それもわたくしみたいなオンナに指図されるのは、真っ平だっていう人が

もしかして、関さんは

谷沢チーフは、そういう連中は、全部、自分が黙らせるって言って下さったんだけどわたくし、嫌なの責任者になる以上は、自分の力で何とかしないとね

どなたと、闘われたのですか

麗華が、尋ねる

武藤さんと、兆野さんと、橋本さんよ

トップ・エリートの三銃士じゃないですか

そうね1人ずつ、ブチのめしてきたわっ

フフッと、関さんは笑う

一応、言っておくと大徳さん、張本さんのモンスター2人は、わたくしのトップ就任を了承して下さったわまあ、あの人たちは閣下の専任警護人でいることに満足しているからそれ以上の出世欲とか、セキュリティ・サービス全体の支配とかには興味が無いものそれにわたくしは、あの人たちの元同僚でしょ谷沢チーフ、さすがよね最初から、わたくしの能力を認めさせるために、あの人たちと組ませたのね

気心が知れているから大徳さんたちは、関さんの出世を喜んでくれた

もっともあの人たちは、ホモだから谷沢チーフの様な人じゃ無い限り、男の上司の下には付かないわ女のわたくしの方が、良いみたいよ話も合うのよ美容用品とか、健康グッズとか、ブランドのセールのことで

あの熊だか鬼だかっていう体型の人たちが美容か

ということで今は、トップ・エリートでわたくしの下に付くのは嫌だって言う人たちを1人1人ブチのめしているのよわたくしの現場責任者就任の挨拶代わりにね

関さんは、大きく肩を回し膝を屈伸させる

戦闘前の準備体操か

しょうがないわよねなかなか、大変なんだけれど仕方無いわわたくしの能力に疑問を持っている人たちを、そのまま谷沢チーフの顔だけで配下にしてもそういう不満を抱えた人たちを残して置くと、大切な時に寝首をかかれることになるから結局、警護人の世界なんて、究極の実力主義だからねきっちりと格の違いを見せ付けておくのも、上に立つ人間の義務だわね

関さんちょっと、待って下さい

余裕のある表情で関さんは、麗華を見据える

わたくしは別に関さんが、社のトップに立たれることについて反対ではありませんわたくしは、すでに充分関さんの実力は、知っていますし

麗華と関さんはオレたちと一緒に、ホテルで闘っている

死地での関さんの働きぶりは、よく知っている

あら、そうかしらわたくしたち、まだ正面からぶつかって闘ってみたことは無いわよね

そんな必要は、無いではありませんかわたくしたちに、闘う理由など無いはずです

あなたになくてもわたくしにはあるのよ藤宮さんっ

関さんの言葉に室内はシンと静まり返る

今までは、同僚だったから大目に見ていたけれど今度は、上司と部下ですからねはっきり言うけれど谷沢チーフのあなたへの指導は、間違っていたと思うのよわたくしは、わたくしの考えであなたに教育的な指導をしないといけないと思っているの

わたくしと闘いなさい命令よ藤宮麗華

そして、関さんはオレたちの方に微笑む

ああ、あなたたちは黙って見ていてこれは、社内の問題だから

しかし、関さんなぜ、なんです理由をお聞かせ下さい

この状況で、関さんと藤宮さんが闘えば藤宮さんは、上司になられる関さんに遠慮するかもしれません一方的な攻撃になる可能性もありますわ

それが、何か問題ですか

関さんは、クスッと微笑む

まあ、一応本気で闘いなさいという指示は出しておきます

いいから瑠璃子

瑠璃子を、制する

お兄様、しかし

お前まだ、香月家の娘のつもりだな香月セキュリティ・サービスの人は、自分の臣下だと思っているだろ

だから関さんの行動に反発する

関さんに任せろ信じよう

関さんが、何の考えも無しにこんな闘いを求めるはずが無い

ありがとう信じてくれて

関さんが、オレに言う

嬉しいわお腹の底がゾクゾクしちゃう

そして彼女は再び、麗華を見る

ルールは二つだけ武器の使用は、禁止にしますあなたはステッキ無しよ

わたくしは、剣士です

その言葉にクッと麗華は、関さんを見上げる

撲殺ステッキは麗華の警護人としてのアイデンティティだ

あら得意な武器を使っていいことにしたら、わたくしは拳銃を使わなくてはならなくなるでしょそんなことも判らないの

こんなところで撲殺ステッキ対ピストルの闘いなんてやられたら

近くに居る、オレたちにまで危険が及ぶ

だいたいあなたは、警護人なのよいつでもステッキが使える状況にあるとは思わないでっそういうところが、谷沢チーフがあなたに甘かったのよっ素手での武闘訓練だって、一応は受けているんでしょそれともステッキが無かったら、あたしにはボロ負けするってことかしら

挑発的に関さんは、微笑む

まあ、何にしたってズタボロになるまで、ブチのめしてあげるけどねっ

ステッキが無くともわたくしの膂力は変わりませんが

あらわたくしのスピードだって、なかなか定評があるのよ

スピードだけで決定力に欠けるという評もありましたが

ふうんそれじゃあ、あなた、わたくしに勝てるの

ご命令とあれば

関さんは麗華を見て、フッと笑う

ようやく、警護人らしい不貞不貞しい顔付きが戻って来たわね

そしてベランダの外へ向かう

よろしいでは、戦闘よ本気で掛かって来なさいわたくしも全身全霊を掛けて、あなたを叩き潰してあげるからっ

麗華が立ち上がる

オレに撲殺ステッキを差し出す

預かっていてくれということだろう

オレはステッキを受け取る

ズシリと重い

麗華はいつも、こんな重いものを振り回しているのか

アニエスが怖がって、オレにしがみつく

大丈夫だからレイちゃんに、頑張ってって言ってあげるんだよ

レイちゃん、がんばってですの

アニエスの言葉が麗華の心に浸みていく

うんがんばる

藤宮さん精一杯、闘って下さい

瑠璃子も麗華を応援する

早く終わらしてきてよっあたし、お腹ペコペコなんだからっあたしのソーセージとポテトの盛り合わせはどうなったのよ

後ろから、雪乃が言った

そもそもまだ注文してないだろ、雪乃

とにかく悔いが無いように全部、吐き出してくるんだ

オレは、長身の麗華を見上げる

吐き出す

うん吐き出して来いレイちゃん

30人以上のパーティが開けそうなベランダに関さんと麗華が立つ

関さんがイーディに、英語で何か言った

これから2人で試合をするから、邪魔するなとかそういう話だろう

イーディは、うんと頷いてベランダの隅へ行く

空は初夏の青空

背景には広大な海

吹き込む潮風の中で2人は対峙する

関さんは香月セキュリティ・サービスの警護人らしい、黒いパンツスーツ

手には辛子色の革の手袋

麗華はいつもの英国紳士の男装

手は黒い革手袋

それじゃあ始めましょうか

関さんが構える

一方、麗華はステッキ無しで、何となく手持ちぶさたな感じになっている

ゆっくりと、関さんが間合いを詰める

藤宮さんわたくし、思うんだけどね

人間だって動物でしょ動物っていうのは、動く物と書くわだからね悩み事のある時は、身体を動かした方が良いと思うのわたくしはね

関さんに、何が判るというのです

先に仕掛けたのは、麗華の方だった

床を砕きそうなドンという強い踏み込みッ

麗華の手が、関さんの首へ

関さんは、その麗華の手を下から跳ね上げッ麗華の懐に飛び込むッ

ガッシィッ

関さんの肘が、麗華の腹に

麗華は、すぐに関さんの身体を捕まえようとするが

その時には、もう関さんの身体は麗華から離れている

遅い、遅い、遅いわよっ藤宮さん

もっとも関さんの突き込みも、麗華には大したダメージを与えていないようだ

麗華は、フットワーク軽く逃げ回る関さんを追う

ダメ動きが直線的よっ

麗華の拳も蹴りも関さんには当たらない

なあに、あなたステッキがなくなったら、剣道の足捌きまで忘れてしまったの

関さんの言葉に、麗華は一旦立ち止まって体勢を整える

そうよ摺り足で、相手の呼吸を感じながら間合いを詰めるそれが、藤宮さんの闘い方だったじゃない

うん剣道の足捌きに変えた途端、麗華の動きは安定する

スピードも、この方がいい

もっともそれでも、わたくしには勝てないけれどね

関さんの言葉に、麗華はさらに加速する

拳を剣に見立てて剣道のフットワークで、関さんを追い詰める

トゥアーッ

麗華が、関さんに拳を突き出した瞬間

関さんは、その拳をかいくぐり麗華の踏み込んだ足を払う

麗華はつんのめって転んだ

あらあら、何やっているの藤宮さん

関さんは、挑発的に微笑む

んぐっ

麗華は、すぐに立ち上がって関さんに襲いかかる

スピードの差は、歴然だった

関さんは、麗華の攻撃を躱し続けるどころか攻撃の勢いを利用して、何度も麗華を転ばせる

麗華ばかりが、何度もベランダの埃っぽい床に倒される

剣術でない、ただの体術なら関さんの方が、麗華よりも遥かに上手だ

ねえ、バカの一つ覚えみたいに引っ繰り返ってないで少しは頭も使ったらどう

麗華は飛び起きてまた、関さんに挑みかかる

本当の麗華は、こういう負けず嫌いな性格だったっけ

大徳さんだったらあなたみたいな人は、カウンター攻撃で仕留めるんだろうけれどねあたしの体格じゃ、カウンターを仕掛けたら、こっちの身体が潰されちゃうかもしれないでしょだからこうするのよっ

麗華が殴り掛かった瞬間関さんは、ススッと身体を捻る

麗華は、そのままつんのめって身体ごと、コンクリの壁に激突する

これなら、あたしの身体は痛まないものねっ

基本的に、関さんの方から麗華に攻撃は仕掛けていない

全部、麗華が関さんを攻撃して関さんは、その麗華の力を利用して、転ばせたり、激突させたりするだけだ

たまに一撃を加えることもあるけれど関さんの攻撃は、麗華には効いていない

関さんの打撃力が弱いのかあるいは

わざと麗華の急所を外して打ち込んでいるのか

イーディが、2人の闘いをふんふんふんと感心しているところをみると

試合らしく、関さんが急所を外しているというのが正解なんだろう

これが本当の殺し合いなら

この褐色の武闘娘は、もっと興奮しているはずだ

はあ、はぁ、はぁ、はぁ

ふぅ、ふぅ、ふぅ、はぁ

そんな闘いが10分近く続いた

2人とも、額から汗を流し疲労の色が見えてきている

しかし見た目の様子は、麗華の方が酷い

何度も倒されているから自慢の英国スーツは、すっかり埃まみれだし

髪の毛もグシャグシャになっている

一方、関さんは

暑いのか、ブラウスの胸元のボタンを1つ外した

黒いレースのブラジャーが見える

なあに、もうフラフラなのこんなの美容体操にもならないわよっ

片手で汗を拭いながら関さんは言った

関さんこそお疲れのご様子ですが

冗談あたしは、このまま後、2時間だって平気よ誰かさんと違って、一度も床とキスしていないからね

そうは言うが麗華の攻撃を素早く躱し続けている関さんの方が、運動量は多い

お覚悟ッ

また麗華が、ダッシュする

甘いっ、甘いっ

闘牛士の様に身を躱してまた、麗華をつんのめらせる、関さん

麗華は、床に膝を付く

はぁ、はあ、はぁ、はぁ

肩で息をしたまま麗華は

もう、いいです関さん

わたくしの負けでいいです負けでいいですから

床に眼を落としたまま麗華は、言った

こんな闘い、何の意味も無いじゃないですか

と、関さんは

ツカツカと麗華の前に歩いて麗華の胸元を掴み上げる

パァンッ

麗華を一発、平手打ちにした

闘いに意味があるとか無いとか、そんなことはどーでもいいのよっ

関さんが、麗華に怒鳴る

どんな闘いでも始まってしまったのなら、最後まで闘いなさいっどんな手を使ってでも、勝ちを掴みなさいっあんたっ、警護人でしょっ

関さん本気で怒っている

ギュッと麗華のスーツを握りしめて

麗華は呆然と、関さんを見つめていた

どんな強敵が相手だろうとどんな理不尽な状況に、追い込まれようとも死ぬ気で闘い続けるのよ絶対に、負けを認めないで最後まで諦めるなッ藤宮麗華ァァッ

わたくしたちが諦めたらわたくしたちの後ろに居る人たちは、どうなるのよっ何がなんでも、負けるもんか、負けるもんか、負けるもんかでしょっ

関さんわたくしは

あなたはねそういう意識が欠けすぎているのよ警護人とは絶対に負けてはいけないっていう執着心が抜け落ちているのっだから、谷沢チーフはあなたには一度も大事な警護を担当させて来なかったのよ

麗華はトップ・エリートの警護人となっても、担当する要人が決まっていなかった

あっちを見て

関さんが、部屋の中のオレたちを指差す

あなたの家族よそうよねっ

麗華がオレたちを見る

もし、彼があなたの眼の前で賊に襲われて、殺されてしまったらあなたは悲しい

せ、関さん

いいから、答えなさい

それは悲しいです

瑠璃子様が、もしも凶弾に倒れたら

か、悲しいです

そうでは、アニエスちゃんが殺されてしまったら

ハッとする麗華

それは嫌絶対に嫌ですっ

オレの腕の中の小さな金髪の少女を見て、麗華は叫ぶ

ああアニエスちゃんのことを考えて、ようやくリアルなイメージが掴めたみたいね

別に、藤宮さんに悪気があるわけじゃないのよこの人にとってはあなたや瑠璃子様は、自分が何かしなくても、すでに守られているイメージなのよ

関さんが、こちらを向いて言った

オレにはマルゴさんたちが

瑠璃子の後ろには、香月セキュリティ・サービスの姿が見えている

だけどアニエスちゃんについては、危険を感じているのね

麗華は、ここ数日のお屋敷の異常に気付いている

ミナホ姉さんはアニエスを、あくまでも復讐のターゲットとして捉えようとしている

だから昨日から、わざとお屋敷を留守にしている

オレたちが、アニエスと心を通じ合わせていく姿を見ているのが耐えられないんだ

今夜はアニエスを、無慈悲に犯すのだから

藤宮さんあなたが守らなければ、悲惨なことになってしまう命があるのよそういう命に対して、あなたは闘いを放棄することが許されるの

もっとも彼や瑠璃子様に対してだって、自分が警護しなくても多分平気だろうっていう感覚を持っているのが、すでに大問題なんだけれどね

関さんは、溜息を吐く

ほら、立ちなさい藤宮さん

関さんは、麗華を立ち上がらせる

ビンタ合戦しましょう

ビンタ

問答無用いくわよっ

麗華をビンタする関さん

はい、次あなたよあたしにビンタしなさいっ

やりなさいってのっ

ウワァァッ

麗華の平手が、関さんの頬を打つ

やるじゃないのっ

関さんが、麗華をビンタするっ

ほらっ、あんたの番よッッ

もう許してもう許して下さいっ

泣きながらへたり込む

結局ね谷沢チーフが、いけなかったのよ剣道の高校女王のあなたをスカウトしてきて剣道の専門家として、あなたに敬意を払ってしまったから

だから、藤宮さんは警護人としての師匠を持たないまま、そのままプロの警護人になってしまった

泣いている麗華の頭を関さんは、撫でていく

警護人としての心構えも、覚悟も誰にも教えられないで剣の実力だけを、認めてしまったそんなの大間違いよ

人は、ちゃんと大人にブチのめされて負かされて屈辱と敗北感を感じながら、一つ一つ仕事を覚えていくしかないんだから

関さんの言葉が麗華に染み込んでいく

あなたは弱いわ撲殺ステッキと、それを振り回せる膂力と、剣道の技があったとしても藤宮さんは弱いあなたは、今まで本当に心の底から人を守りたいと思ったことが無かったから

自分の身を盾にしてでも誰かを守りたいという気持ちよ仕事だから、職業だからっていうことだけでは割り切れない熱意がなければ警護人なんて、やってられないわ

そうね藤宮さんは、お祖父様を亡くされてからはずっと1人だったものね自分1人きりで自分の命なんてどうなっても構わないとしか思っていなくて、自暴自棄で警護人をやっていたんでしょでもね、そんな考えじゃあ誰も守れないのよ自分自身だって

でどう今のあなたには、家族がいるのよあなたの家族は誰

アニエスちゃん、真緒ちゃん、マナちゃんそれと、みんな

ああ、麗華の心の中では

幼い子供たちの方に親しみを感じているんだ

オレや瑠璃子の優先順位は低い

そうねみんながいなければ、家族は守れないわよねほら、見てご覧なさいアニエスちゃんは、しっかりと彼にしがみついているわ彼も、アニエスちゃんをしっかりと抱き締めているアニエスちゃんには彼のことが必要なのよ

関さんは、そう言ってオレたちの存在意義を補強してくれる

アニエスちゃんあんな風に、藤宮さんのことを抱き締めてくれるかしら守って欲しいって、近付いて来てくれるかしら

いいえわたくしには、近付いて来てくれないと思います

そうあなた、それでいいのこのままでいいの

あなたはアニエスちゃんに、自分に頼って欲しいと願っているんじゃないの

はっきりしなさいよっ藤宮麗華っ

関さんがまた、麗華を平手打ちするっ

頼って欲しい頼って欲しいですっ

アニエスちゃんを守りたいのねっ

守りたいですっ

なら大人になりなさい強くなりなさいあの子のためには、絶対に負けないって誓いなさい

関さんは麗華の頭を優しく抱き締め

あたしもねあなたと同じで女子校の出身だから藤宮さんのことはよく判るのよ

あなたは周りの子たちに王子様になることを求められて根が真面目で、責任感の強いあなたは、一生懸命、その子たちに応えてしまったそれで姿形だけの王子様になっていた

ついには、男装の麗人撲殺剣士、藤宮麗華となる

でも、あなたという王子様には誰も臣下がいなかった見た目だけの王子様心の中は、ずっと空虚だっただからこんなことになったのよ

その上谷沢チーフが、王子様のまんまのあなたをスカウトしてきて、そのまま警護人にしてしまったから

麗華の孤独は晴れないままだった

これからは、もう平気よあなたには家族がいるいいわあなたは、アニエスちゃんや小さな子たちの心配をしていなさいその子たちだけを守ることに集中していればいいわその代わり死んでも守りきるのよ

あなたの心配はあたしたちがするわだから、あなたはあたしたちの前では、安心して心を拡げなさい

関さんは麗華の保護者になろうしていくれている

言ったでしょあなたは女子校の王子様だったんでしょうけれど安心して、あたしはずっとお姉様であることを求められてきたから

お姉様

お姉様歴なら、長いのよあたし

麗華をそっと抱き締める

あたしがあなたのお姉様になるわ

富野監督の作品にザブングルというロボットアニメがありまして

それのやぶれかぶれのラグという回のラストが凄いんです

裏切り者の女の子を、主人公が鉄拳でボコボコに殴って許すという

現在では、考えられないというかマンガでもアニメでも、ああいう表現を観たことがありません

富野監督は、イデオンでも女性2人が、延々とビンタを張り合うというラストシーンがありましたけれど

西洋人のメンタリティですね

己の意地を張り続けて、ビンタし合ってもお互いに引かずに叩き続ける

周りも止めないというのは

ヨーロッパで演出経験のある演出家に、そういうエピソードを聞いたことがあります

449.糸をほどく

関さんがうなだれた麗華を抱きかかえて、部屋の中に戻って来る

イーディも、心配そうに付いてきた

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