克子姉チェックを頼むよ
ええちょっと待って
克子姉も急いで、手を洗い白衣と帽子とマスクを付けて消毒もする
はいどれどれ
克子姉が、パッドの中のパンを再度確認する
これはまあ、いいかこれぐらいなら実際に焼いてみて、良くなかったら売り場には出さないことにしましょう
ホント、できの悪いパンが減ったわね良い傾向よ
でも、まだ100パーセントじゃないよ
馬鹿ね100パーセント完璧なんて、できないわよあなた、まだ、始めたばかりなんだから
製作段階で不良品が出るのは、できる限り避けるべきだ
売れない物を、作ってはいけない
製作コストがかさむことになるのだから
そんなことより、もっと覚えないといけないことがあるわよ
パンは季節によって、焼き上がりが左右されるからね温度と湿度の変化に気を付けて
オレだってパン作りの教本は、何冊も見ている
判っていないわよ季節による焼き上がりの違いを知るためには最低でも、1年は必要でしょ実際に体験して、自分の眼と舌で確認しないとね
1年
だから、この1年は体験して知るための1年だと思いなさい余計なことは考えなくて良いから
克子姉は、娼婦時代でも毎日、パンを焼き続けてきた
あなたが、最初にパンを焼いたのが、ゴールデンウィークの連休明けでそれからお屋敷で3ヶ月この学校の施設で、本格的にパンを焼くようになってからほぼ一月よねだから、今のあなたはまだ夏場のパンのことしか知らないわ
オレには4ヶ月弱の経験しか無い
普通のビジネスの世界なんかでもね仕事の雰囲気が判るまでが、1ヶ月仕事の流れが判るまでが、3ヶ月仕事の内容が判るのに、半年仕事の段取りが組めるようになるのに、1年後は、3年、5年、7年かなとにかくね、経験を積んでいくと、次の壁が見えてくるそうよ
壁
そう越えなきゃ行けない壁よね一つの壁を越えたら次の壁があるのよしかも、この壁は一つ一つ、順番に乗り越えていくしかないのよズルはできないわ
そりゃ、才能のある人はあっという間に、幾つもの壁を乗り越えていってしまうでしょうけれど凡人が、10年掛けないと判らないことを3年で理解しちゃう子はいるわそういう天才がでも、パンの世界はどんな天才でも、最初の1年は凡人と一緒よ
春、夏、秋、冬季節の移り変わりでの変化は、実際に体験してみないと判らない
天才は、1年目の体験を2年目から生かすことができるわ凡人は、季節で違いが出ることは判っても、どう対処していくかをマスターしていくのに3年も5年も掛かるのでしょうけれど
オレは凡人だいや、凡人以下の人間だと思う
だから人よりも時間が掛かるだろう
判ったよオレの場合は、高校を卒業するまでの間に、何とかそういうことをマスターできるように、真剣に頑張らなきゃいけないんだね
ええ失敗しても許されるのは、学生のうちだけだからね
今のオレはパン技能士コースの学生だ
失敗しても学生だからということで、大目に見て貰える
というか失敗したら、その日1日パンが売れないだけで済む
ああ、だからミナホ姉さんは業者さんのパンも学食で売らせているんだ
オレがもし失敗しても生徒たちが、昼食に困らないように
一生懸命頑張っているだけで認められるのは、学生までよプロは、常に良い結果を出さないと生きていけないわお金を払って下さるお客様の眼は、常に厳しいんだから
克子姉はプロの娼婦だった
プロとして生きることの厳しさはよく判っている
判った今は、余計なことを考えないでとにかく、克子姉の言う通りにパンを作ることだけに集中するよ
馬鹿ね色んなことは考えて良いのよむしろどうしてそうするのかを常に考えてなさいそれから失敗しても良いから、色々試してみてそういうことに、多くの時間が割けるのも学生時代だけなんだから
どんどん失敗しなさい失敗して良いのよでも、何故失敗したのかは、学びなさいそして、同じ失敗は繰り返さないそれが、あなたのするべき勉強よ
そのまま、克子姉と黙々と作業を続けた
お互いの作業分担は、もう良く判っている
克子姉が、時々、オレにアドバイスをしてくれた
大事なことだと思ったら、その場でメモする
メモする度に、手洗いと消毒をしないといけないから大変だけど
克子姉からは、忘れないうちにメモしておくことが大切だと言われている
忙しく作業している最中に、ハッと思い立って話したことだから克子姉自身も、時間が経つと何を言ったか覚えていないことも多いらしい
O.K.、ちょっとブレイクしましょうか
最後のパッドのパンをオーブンに入れ終わると克子姉は、そう言った
今日は、土曜日なのね数が少ないから、いつもより楽ね
うん15分ぐらい、いつもよりも早くブレイク・タイムに入った
コーヒーにするそれとも紅茶
今日は、コーヒーの気分かな
オレは、部屋の隅に座っている雪乃を見る
克子姉いい
白い帽子とマスクの間で克子姉の眼が、微笑んでいた
おい、雪乃コーヒーと紅茶、どっちがいい
コーヒー
雪乃は、携帯に眼を落としたままオレに答えた
克子姉が、コーヒー入れてくれた
あ、オレが持っていくよ
雪乃が今座っている辺りが普段のオレたちのお茶ゾーンなのだ
トレイにコーヒーカップを3つ乗せて、雪乃の方へ持って行く
ほいよ雪乃
あんがと
そこへ克子姉が
これ、あたしが作ったんだけど良かったら食べて
お茶請けに、スコーンを出してくれた
雪乃は手に取らない
食えよ美味いんだぜ
オレが率先して、一つ摘まむ
ムシャムシャ食べて毒の入っていないことを示す
じゃあ、貰うわ
雪乃もスコーンに、手を伸ばした
これは雪乃の性格が悪いんじゃない
5月の連休にあまりにも、オレや克子姉に騙されまくったから、すっかり警戒するようになってしまっているのだろう
あ、そうだ
パンの方が、一段落したからオレは、話さないといけないことがあったのを思い出す
克子姉あのさ
あ、あたしは判っているわよあなたたちの教室での会話聞いていたから
雪乃にも話しておいた方がいいよね
それは、あなたの好きになさい
雪乃あのさ
雪乃は、一口食べてみたら、スコーンが気に入ったらしい
美味そうに、大きな口を開いて食っていた
さっき、うちのクラスのやつに聞いたんだけれど遠藤が、戻って来ているらしい
ケンジが
雪乃の動きが止まる
うん、何か詳しいことはよく判らないんだけれどオレのことを、すっごく憎んでいて、ブッ殺すって言ってたらしい
ふーんいいんじゃないあんたみたいな男ケンジにブチ殺された方が、正解だと思うわよ
相変わらず口が悪いな
そんであたしのこととか、何か言っていたの
あ、それは聞かなかったな聞いておけば良かった
何よ役立たずね
ゴメンでも、一応雪乃も気を付けておいた方が良いんじゃないかと思って
何であたしは別にケンジに恨まれるようなことは、何もしていないわよっ
遠藤をフッたというのは恨みには入らないのだろうか
でも、まあ遠藤は、色んな意味で底抜けだろだから、もしものこともあるだろ
そうね確かに、色々と抜けてたオトコだったわね
雪乃はコーヒーを啜る
誰がケンジに会ったの
うちのクラスの酒井ってやつが、ゲーセンで会ったんだって
ああ、あの子ねいつも気持ちの悪い眼鏡を掛けている、気持ち悪い顔の
いや、確かに眼鏡だけどそんなに気持ち悪いか
気持ち悪いわよっニキビだらけでさ
眼鏡は関係ねぇじゃないか
それでケンジどんな感じになってたって
何か全体的にチャラくなってたらしい髪型とかエグザイルの真似をして
エグザイルの誰の真似よ
うんとカメダカメダっぽくなってたらしい
エグザイルに、カメダなんて人居た
いや、オレはよく判らない酒井の話だから
また、知らないうちに人数が増えたのかしら
それから、遠藤のやつオタクになっていたらしい
何かナポレオンのオタクになってたらしいやたらと、オレはナポレオンになるとか叫んでたってさ
ナポレオン
何か知らないけれどあいつの頭の中で、ナポレオンがブームになっているらしいんだよナポレオンのように、どんぞこから這い上がって天下を取るとか言ってたってさ
はん相変わらず、口ばっかりよね、あのオトコ
野球部だった時は、あたしにオレは、バリー・ボンズかアレックス・ロドリゲスみたいな選手になるって宣言してたから
ああ大物の名前を出すのは、前からの癖か
ホント馬鹿みたいよねよりによってその2人の選手の名前を出すなんて
2人とも薬物疑惑で訴えられた選手なのよバリー・ボンズは、色々あってメジャーリーグから追放アレックス・ロドリゲスは、これから追放されそうになっているわ
そう言って克子姉が、クククと笑う
ケンジもクスリでもやってんじゃないのあの馬鹿
まあ薬物疑惑って言っても、メジャーの野球選手2人はステロイドやヒト成長ホルモンの摂取が問題なんであっていわゆる覚醒剤みたいなドラッグとは違うわよ
どっちにしても頭の中、お花畑だからなぁ、ケンジ
いや、そんな男と恋人だったんだぞお前雪乃
まあ、急にブッ刺されないように気を付けるわよ香月セキュリティ・サービスの人にも伝えといて
そう、オレに言った
それでさ克子姉
オレのこれは勘だから、正しいかどうかは判らないんだけれどさ
もしかして、この遠藤の件岩倉さんが絡んでいるんじゃないかな
克子姉は、ニコッと微笑んで
どうして、そう思うの
いや、それは何か、遠藤のヤツ自分にはたくさん子分が居て、チームを作っているって言ってたらしくて
チーム
そう確か、変な名前のえー、ナポレオンじゃなくてそうだニャポレオン党ってチーム名だってさ
でも無理でしょケンジそういうことをするお金は、もう無いでしょ
ああ、雪乃も遠藤の家が倒産したことは知っているんだ
あいつお金をバラまくことでしか、取り巻きを作れなかったんだから
その金の出所がもう無い
でも、あいつ自分のチームには100人のメンバーと、それ以上のサポーターがいるって豪語していたらしいんだ
ケンジの妄想じゃないの
ならいいんだけど
もしかしてだけど、克子姉岩倉さんがまた、裏で暗躍しているとかじゃないよね
大いに可能性はあるわね調べてみるわ
夏休みに、遠洋漁船の中でたっぷりマワされまくって来たからちょっとは落ち着いたと思ってたけれど
ああ、日本語が喋れない黒人さんしか乗っていない船に乗せられたんだ本当に
確かにそろそろ、あの子が、イタズラをしだす時期よね
ほら娼館の再開に時間が掛かってしまっているでしょ
5月の連休が終わった段階でミナホ姉さんは、岩倉さんや娼婦を続けたいと思っているお姉さんたちに、娼館の再開を告げた
岩倉さんや娼婦に未練があるお姉さんたちはみんな、そんなに売れていない人ばかりだったから
その人たちとは別に顧客を呼び戻すだけの魅力のある人を、新規の娼婦として見つける必要があった
一応香月のジッちゃんが、何人か没落した名家の子女を紹介してくれるという約束になっていたけれど
少し時間が掛かっている
やっと昨日最初の2人が、ミナホ姉さんと面接したというような状態だ
岩倉さんとしてはいつまで待たせるんだという気持ちになっているだろう
ま、あたしたちここしばらく、ずっと他のことでも忙しかったしね
学校内の教職員の入れ替えや
オレのこのパン工房の建築
克子姉は家事をやりながら、オレにパン作りを教えてくれたし
夏休みも、海外旅行とか色々あったもんな
そんなんで娼館の再開が、遅れている
岩倉さんが、待ちきれなくなって何か始めたということは、充分考えられるわ
あの人は前にもオレを殺そうと、殺し屋を雇っているし
もう、戻ってらっしゃってるわあたし、お嬢様のご帰宅を待って入れ違いで、ここに来たから
お屋敷にはマナとアニエスと真緒ちゃんが残っている
なるべく、大人が1人残っているべきだ
岩倉さんは、お嬢様の玩具だからあたしたちが勝手に手を出すことはできないのよ
はあ何だってミナホ姉さんは、あんな面倒な人を
正直、オレには岩倉さんに魅力を感じない
どうして、ミナホ姉さんは彼女を自分の玩具にしているのだろう
あなたのその疑問は、もうすぐ解けると思うわ
岩倉さんみたいな子の相手をすることがお嬢様には意味があるのよ必要なのよ
あなたにもそろそろ判るわ
そんな時が来るのだろうか本当に
さてそろそろ作業を再開しましょうか
オレと克子姉は、再び、マスクを付ける
手を洗って、消毒する過程ももう一度
焼き上がったパンを仕上げてって
オレはパンの袋詰めを始める
あなたはこの4ヶ月本当に、家族のことと、パンのことだけに没頭してくれたわ一生懸命に
不意に,克子姉はそんなことを言い出す
だから、さっきあなたのクラスの子たちは、あなたとメグミちゃんに優しかったのよ
あいつらが
結局、人は毎日、その人がどんな風に生活しているのかを見て判断するのよあなたが、パン作りをマスターしようと一生懸命頑張っていたことは、あなたのクラスの子が一番よく判っているわだから、みんなあんなに優しいのよ
いや、オレ別に、そんな
普通の高校1年生はあなたみたいに、腹を括って、将来のことを考えたりはしないのよあなたパン屋になるために、必死になってくれているじゃない
オレにはたくさんの女がいる
オレ自身も含めて今はみんな、ミナホ姉さんに食べさせてもらっている
オレは早く大人になりたいんだ早く、自分の手でお金を稼ぎたいから
オレの大切な女たちのために
オレは才能なんて何も無い人間だろだから、克子姉がパン屋っていう道を示してくれたことに、感謝しているんだ
やるべきこと向かうべき方向は決まった
後は必死に走るだけだ
そう言ってくれるのは、とても嬉しいけれど
克子姉は曇った顔をしている
あなた今日の天気を覚えている
この工房には窓が無い
外の景色は、見えない
確か晴れていたと思うけれど
今日は、雲一つない快晴よ真っ青に澄み渡ってとっても空が綺麗だったわ
たまには、ふと立ち止まって周りの景色を見ないとダメよそうしないとあなたの周りにある、綺麗なモノ、美しいモノを見落としてしまうわ
あなたのこの4ヶ月の頑張りは、素晴らしかったと思っているわあなたは、あたしの誇りよあたしたち家族のでも、そろそろ一度落ち着いて、立ち止まってみる時期なんじゃないかしら
あなたのクラスの子たちはあなたの努力を直に見てきているから、あなたとメグミちゃんのことを認めてくれているでも、校内の他の人たちは
オレのクラスの連中ほどオレとメグのことをよく知らないから
知らないからこそ噂だけで判断する人もいるわ勝手に、悪く思っている人たちもあなたのパンだって、普段、お弁当を持って来ている人は食べる機会が無いんだし
オレは学校の人たちに、どう思われているんだろう
今朝の騒ぎの時に厳しいことを言ってた人もいたでしょ
ああ高校1年で、女の子と婚約して同居しているなんて気持ち悪い
ゼッタイに、オレのパンは買わないという人もいた
良い機会だったわよね普通は思っていても、なかなか本人の前では口に出さないようなことだから
ただ、一生懸命やっていればみんな、認めてくれると思っていた
オレの思いは理解されると、思い込んでいた
ねちょっと立ち止まって、周りを見渡して見るべき時期でしょ
克子姉はオレにそう言った
これまでの4ヶ月間は、あなたにとっては内側に集中するべき時間だったパンと家族のことよこの時間が、必要だったことは確かよそして、あなたは一生懸命頑張ってくれたそれも、あたしは判っているでも
そろそろ次のステップに移りましょうあなたは、多分最初の壁を乗り越えたのよでも、またすぐ次の壁が立ち塞がっているわ2つめの壁は、きっと最初の壁とは違う方法でしか、乗り越えられない
今、同時に幾つかのことが進行しているわあなたは、その全てを対応しないといけないわ精一杯、悩みなさい何度、失敗してもいいから時間が掛かってもいいわ大失敗して、あなたもメグミちゃんも、この学校から転校しないといけなくなるかもしれないそれでもいいわだから、精一杯悩んで、苦しんで、試みて、そして
乗り越えなさいあたしたちは、何があっても、あなたを見守っているわよ
久しぶりに先の展開を考えていないで書いています
まあ、時々こういうことをしないと、予定調和になってしまうので
何でナポレオンなんだ遠藤
618.FOOL FOR A LOVE .
とりあえず、全ての準備が終わる
今日は、いつもよりも早いな
まあ、土曜日で平日よりも数が少ないからな
全部オーケイねじゃあ、あたしは帰るわ
克子姉は、オレの仕事のチェックを終えると白衣を脱ごうとする
4時間目の授業が終わった後の、パンの販売はいつも、オレやメグたちに任せている
後片付けと、売り上げの集計帳簿付けまで、オレがやって
メグの練習が終わる頃に、迎えの車が来るからパン工房の鍵を閉めて帰る
大体、そういう毎日だ
昨日の売り上げは、これねじゃあ、お釣り用のお金だけ残すわよ
克子姉が前日の売上金を回収していくのも、この時間だ
お屋敷に戻る途中に、銀行へ寄って入金してくれる
お釣り用の小銭も、その時に換金して用意しておいてくれる
その他、原材料の発注や、パンを入れる袋などの準備それらの支払いなど、昼間の時間の内に克子姉がやっておいてくれる仕事は多い
じゃ、後、よろしくねあなた
克子姉は、オレにそう言うと雪乃を見て
雪乃さんは、どうするの良かったら、送って行ってあげましょうか
4時間目の授業が終わればパンの売り子をしに、メグがここに来る
雪乃は顔を合わせたくないだろうと、克子姉は思ったらしい
遠慮しておくわ香月セキュリティ・サービスの人が、あたしを迎えに来ることになっているからいつも通り
雪乃は苦笑する
ま監視されているんだものねあたしは別にいまさら、自殺とかするつもりは無いんだけど
雪乃は自分に付いている香月セキュリティ・サービスの人間を警護役でなく監視人だと感じている
学校に居る時ぐらいよ、開放された気分になるのはもっとも、ここはここで、あんたたちに監視されているんでしょうけれど
4時間目の終わるチャイムが鳴ったら、恵美が来る前にどっかへ行くわよだから、あたしのことは放っといて
そうそれならそれでいいけれど
克子姉は、そっけなくそう言う
いや、雪乃お前、今日は香月セキュリティ・サービスの人が来るまで、ここに居ろ
何でよ嫌よあたし
雪乃は、反発する
さっき言ったろ遠藤が何か企んでいるかもしれないって
ケンジ平気でしょどうせ、あのオトコ1人じゃ何もできないんだから
でも1人じゃなかったら
オレは、その可能性を考える
あんなやつに、今更、手を貸してくれる人なんていないわよもう、何の後ろ盾も持っていないんだからケンジは
遠藤の市会議員の叔父さんは失脚した親父は、会社を倒産させて夜逃げしている最中だ
権力の後ろ盾も、親の資金も遠藤には無い
後ろ盾はなくなっても遠藤を利用しようとしているヤツはいるかもしれないだろ
さっきあんたが話していた岩倉さん
あの人もあんたたちの手先だったのよね
雪乃は岩倉さんにも騙されている
避妊薬だと偽って、マーブル・チョコを飲まされたりしてたし
手先って言うかミナホ姉さんのあんまり忠実で無いペットだよ
岩倉さんが遠藤の裏に居るってのは、オレの勘でしかないまだ、可能性の一つだけどね他の要素もあるかもしれないとにかく誰かが、遠藤のオレに対する憎しみを利用して、黒い森に攻撃を仕掛けて来ているんじゃないかと思う
そんなのあたしには関係無いって言ってるでしょ
雪乃は、苦々しい顔でオレに言う
ああ、関係無いかもしれないけれどでも、トバッチリを食らうのは嫌だろ
何であたしが
お前のお腹の赤ちゃんはオレの子だお前の身体に何かあったらオレが悲しむ
雪乃は、ちょっと考えて
そうね、そういうことが起きるのは嫌ね
だろだから、香月セキュリティ・サービスの迎えが来るまでは、オレたちと一緒に居ろよ
もし、敵が何かのアクションを起こしてくるとすれば校内に、たくさん生徒たちの残っている時を狙って来ると思うんだ
多くの観衆の見ている前でオレたちを貶めるとか
たくさんのヤジウマを人質にできるし
オレたちの行動も制限される
明日は、日曜日だろだから、最短で敵が動くとしたら、今日の放課後だ
こちらの防衛体制が整う前に、仕掛けて来る気がする
それなら授業中を狙う方が、いいんじゃないの全校生徒が、みんな揃っているじゃない
土曜日なんだから4時間目が終われば、部活の無い生徒は速攻で帰宅する
それはそうなんだけど敵が岩倉さんなら、放課後まで待つよ
だって、ほら岩倉さん、生徒会長だから
生徒会長自ら、全校生徒の授業を妨害するようなことはやらないよ
そうかしらあたしの時は、授業中に仕掛けて来たじゃない
雪乃の時は全部、ミナホ姉さんの指令だったからでも、ミナホ姉さんに内緒で、岩倉さんが自分1人の考えで授業を潰したら後でミナホ姉さんに怒られる度合いが厳しくなると思うんだ
でも、バレたらどうせ怒られるんでしょ弓槻に
まあ、そうだけど岩倉さんは、ミナホ姉さんに構って欲しいだけの人だから完全に見捨てられるようなことはしないよミナホ姉さんに怒られたくて叱って欲しくてアクションするんだろうから最後の一線を越えるようなことはしない
とオレは思う
そもそも、岩倉さんに生徒会長をやらせているのもミナホ姉さんだしだから、全校生徒に迷惑を掛けるようなことだけは、しないと思う
ターゲットがオレもしくは、オレたち家族だけなのなら
岩倉さんは、放課後を待つ
ていうかミナホ姉さんが進めている、オレのパンのプロジェクトが終わるまでは攻撃を控えると思うよつまり、パンの販売終了と同時に何か仕掛けて来る
その可能性が強いと思う
だったらさあたしはむしろ、あんたたちと離れていた方が良いんじゃない
ニヤッと雪乃が微笑む
攻撃されるのが判っている人と一緒に居るなんて、ゴメンだわ
自分1人で、自分の身が守れる自信があるのならそうすれば
こっちには、イーディがいるぜ作戦参謀の寧姉さんもいるその上、今日はもうしばらくニキータも居てくれるし
防御態勢は、充分だ
はんっあんたも口が巧くなってきたわね弓槻の影響かしら
判ったわよあんたが、そこまで言うんなら嫌だけど、ここに居てあげるわよ
雪乃は、どすんと椅子に座り直した
あたしは本当に嫌なんだけれどねっ
取りあえず雪乃が、手の届く距離に居てくれるのは助かる
下手に離れて敵に拉致監禁とかされたら、大事だ
白坂家に対して、白坂創介を誘拐して、人質として有効利用したのが、オレたちなのだからその手法の怖さは、よく判っている
ホント雪乃さんの言う通りね逞しくなったわ、あなた
うんこの件はあなたに任せるわじゃあ、そろそろあたしは行くわね
そう言って、バッグを持って立ち上がる
ちょっと待ちなさいよそれは無いんじゃないの
雪乃が、克子姉に言った
あんたもさ残りなさいよ
学校のことは、全て、この人に任せているわあたしはサポートはするけれど、手は出さないそういう風に決めているの
ふーん、そういう言い訳をするのねバッカみたいね、あんた
雪乃と克子姉が睨み合う
まあ、雪乃さんは部外者だから判らないでしょうけど
ええ、判らないし、判る気も無いけれどもうちょっと、こいつに対してフェアにした方が良いと思うわよ
あんたが性格の汚い女だってことは、5月の時からよーく判っているけどさちょっと小狡すぎるよねこの男が馬鹿だからって、少しばかり良い気になりすぎてない
何が言いたいのよ
克子姉が雪乃を睨む
あたしはさっき、あんたたちがパンを作りながら話していることを聞いてたわよあんたズルイ論理のすり替えを散々やってたじゃない
いや、そんなことは無いよ雪乃
オレが、2人の間に入るが
あんた、本当に馬鹿よねあんなんでコロッと騙されちゃうんだから
あたしは騙しているつもりなんかないわよ
じゃあ何まさかこの男が、矛盾に気付くのを待っているっての
クククと、雪乃は笑う
もし、そうだとしたらあんた、この男に期待しすぎよっていうか、あたしが思ってた以上に冷たい女ねあんたこの男は、底抜けの馬鹿なのよもし、あんたに思うところがあるのならちゃんと判りやすい言葉にして言ってあげないと、判らないわよコオロギ並みの脳みそしか入って無いんだから
雪乃は何に気付いたんだ
オレの気付いていないことがある
放っておいてよあたしとこの人との問題よ
克子姉は、静かに答えた
そうはいかないわよこの男の存在は、あたしにとっても生命線なんだから
弓槻が、あたしを生かしておいてくれるのはこの男のためでしょあたし、判っているわ
昨夜の放送が終わって、あたし、初めて弓槻に感謝したわ昨日の放送で、妊娠が確定したことを公表したでしょあたしあれって、弓槻からの指令だったのよ
雪乃に公表を命じた
また、いつものあたしを痛めつけるための命令かと思ったけれどやってみたら違ったわあたしがレイプされてできた子を妊娠していて、しかももう堕ろせない時期になっちゃってて、産むしかないってことテレビで公表したら、世間のあたしに対する眼が変わったのよ確実に
あたしはスキャンダルだらけの性犯罪者の無神経な娘じゃなくあたし自身が性犯罪の被害者であることを、ようやく世間に認知してもらったわスタジオのスタッフさんたちの態度も、全然違うのよみんな、あたしに優しくなった
ハンッと、雪乃は鼻を鳴らす
テレビで晒し者になるなんて、酷い罰だと思ってきたけれど弓槻は、これであたしに生き残る道を示してくれたのねあたし腹を括って、頑張るわ今の態勢が弓槻や香月セキュリティ・サービスに守られている状況が、ずっと続くとは思えないものね
ずっと続かない
香月家はあのお爺ちゃんが亡くなったら、ガラッと体制が変わるでしょうしあんたたちだって、ずっと今みたいにノウノウと世間を騙して生きていけるかどうか判らないじゃない
確かにジッちゃんは、高齢だ
香月家がずっと、オレたちを守ってくれるとは限らない
みすずが成人する前に香月家の中枢を支配する前に、ジッちゃんが倒れれば
今は友好的な香月グループの新トップの司馬さんもみすずたちに反旗を翻すかもしれない
いや、香月家内でクーデターが起きて、司馬さんが失脚する可能性もある
これで、もし変な人間が、香月グループを掌握したら
みすずや瑠璃子や美子さんに、政略結婚を強いるかもしれないし
香月セキュリティ・サービスが、オレたちの敵に廻る可能性もある
谷沢チーフや、翔姉ちゃん、レイちゃんも突然、解雇されるかもしれないし
あたしはあたしに与えられたチャンスが、来年あたしが出産するまでだってことは判っているわそれまでにテレビタレントとして、あたしが世間に認知されるように精一杯頑張るしかないって
今のあたしにはホント、こういう虚業ぐらいしか、生きていく道は無いものね
雪乃のことは、広く世間に知られすぎている
父親の犯罪も雪乃自身が体験した、性的な虐待のことも
ホント、昨日の放送が終わってやっと判ったのよ弓槻はあたしのことが憎くて、あたしをテレビに出したんじゃないってことがあの女は、あの女なりにどうしたら、あたしが死なずに生きていけるか、考えてくれたのねそれで、こうなったんだってことが
雪乃は俯く
当たり前じゃないかミナホ姉さんは雪乃の担任だったんだから雪乃の進路のことが心配だったんだよ
まあ感謝はしているわちょっとわねあたしのこと考えてくれたんだし
であんたは、判っているわけ
弓槻があんたのために、何を考えているのかを
いや、だってミナホ姉さんは、オレのためにこのパン工房だって作ってくれたしパン技能士コースとか
あんた、ここでパンを作り始めて生徒に売り出して、そろそろ1ヶ月でしょもうそろそろ気付いた方が良いと思うわよ
何をだ
ほーら、この通りよホントに馬鹿なのよ、この男さっきのあんたがしたみたいな思わせぶりな会話じゃ通じないのよはっきり言わないと判らないのよ
雪乃が、克子姉を見る
この人は、とても良くやってくれているわ一生懸命に
そんなことは判っているわよでも、それだけじゃダメでしょったく
雪乃が、苦々しい顔でそう言う
ごめん、雪乃オレ、本当に判らないんだ頼む教えてくれないか
雪乃はハァと大きく溜息を吐いて
教えるわよいいわね
克子姉に言う
ちょっと待ってそれは、もう少し時間を掛けて
そんなんじゃ伝わらないっての本物の馬鹿なんだから、こいつは
ギロッと、雪乃がオレを見る
あんた、とりあえず、この一ヶ月足らずずーっと、この女の言う通りにパンを作って、売っているわよね
えああそうだけど
それで良いと思っているわけ
良いに決まっているだろ
雪乃の不機嫌な瞳がオレを見る
だって、克子姉はオレなんかよりも、ずっとパン作りに詳しいしずっと、パンを作ってきた経験があるんだし
あったり前でしょ世の中、あんたみたいなバカばっかじゃないんだから低脳な自分を基準にするんじゃないわよっ
雪乃は何が言いたいんだ
この女があの屋敷の中で、何年、パンを焼いてきたか知らないけれどねまあ、味は認めるわよあたしも、この女の焼いたパンは食べたことがあるし
雪乃が大きく溜息を吐く
でも、そのこととパンを売って商売をするってことは、全然別のことでしょ
この女今までに、パンの商売をしてきた経験は無いんでしょっていうか、商売そのものの経験だって無いんでしょ
そうよあたしは娼婦だったけれど、ビジネス的なことは全て、お嬢様にしていただいてきたわ
克子姉は、呟く
そうか、身体を売っても誰に幾らで売るかの契約は、全てミナホ姉さんに任せてきた
昨夜、番組が終わった後にフランシーとカラオケに行ったんだけどねあの人はオカマ・タレントとして、それなりに活躍しているでしょこんなことを言っていたわ面白い芸と売れる芸は、同じ様でいて、でも完全にイコールではないどんなに面白いことが言えたとしても売れるにはどうしたら良いのかが判らない芸人は、生き残れないって
パンも同じでしょ美味しいパンと売れるパンは、そのままイコールじゃないんじゃないの
同じじゃない
美味しいパンが何種類も作れてもこの女には、その中のどれが売れるパンなのか、実際に売ってみた経験は無いのよ
克子姉が口を開いた
ええ、その通りよ
ごめんなさいね、あなたあたし、ずっと偉そうに先生ぶってたけれど
違うわよこの男が、あんたに甘えてあんたはパンのことなら何でも知っているパンの大先生だと思い込んで、奉っちゃったからこんなことになったんでしょ
そうだ、オレだ
オレが何でも、克子姉が言うとおりにすれば間違いないと思い込んでいたから
今は、克子姉から技術を学ぶ勉強期間だと思って、甘えていたから
ごめん、克子姉そうだよね雪乃の言うとおり
克子姉だってパンをお客様に売るのは、初めてだったんだよね
それに気付かないなんて
克子姉だってずっと不安だったんだよね
それなのにオレが、克子姉に依存しまくってたから克子姉は、オレが不安にならないようにずっと平然としていてくれてたんだよね
ごめんなさい、あなた
克子姉がオレに謝る
ううん悪いのは、オレの方だよ克子姉の気持ちを全然判ってなかった
オレはどうしょもない馬鹿野郎だ
さっき、この女があんたに言ってた始めてから1ヶ月がどうの、3ヶ月がどうのって話この女は、自分自身に言い聞かせてたんだと思うわよ
あたしもテレビに出るようになって、そう思うもの1ヶ月で判ったのは、雰囲気だけ3ヶ月たって、ようやく流れが判ったでも、まだ全然判っていないスナッチやフランシーみたいな経験のある人たちが居てくれないと1人では生き残れないもの
雪乃も闘っていたんだ
テレビの世界でたった1人で
克子姉も初めてのパンの商売を、闘っていた
何が売れるのかどんなパンを作ればいいのか
オレは全然、闘っていない
克子姉の傘の下に隠れて
ただ言われた通りのパンを言われた通りに作ることにしか、やってきていない
克子姉の切実な思いに気付いていなかった
このパン工房とパン技能士コース
オレが卒業するまでにパン屋の商売を覚えるカリキュラムは
オレだけのためのものでない
ミナホ姉さんは、克子姉にもこの学校内のパン屋で、まずは商売について学びなさいと言っているんだ
克子姉これからは、オレももっと経営のことについて考えるよ
オレに何ができる
どんなパンが売れるかもオレも一緒に考えるから
はん、バッカじゃないのあんたの頭で考えたって良いアイデアなんか出て来るはずがないじゃない
でも考える
考えるだけムダよそういう意見は、お客に聞きなさいよ
何のため、あんたまだクラスに席があるわけ
オレのクラス
パン職人になるって決めたんなら、学校を辞めてパンのことだけやっててもいいわけでしょなのに、何て弓槻は今まで通り、あんたに授業を受けさせてるのよ
高校生に売るパンなら高校生にリサーチしなさいよクラスメイトなら、話しにくいような意見まで、平気で教えてくれるでしょ
さっきうちのクラスの田中に言われた
うちのクラスの人間だけパンを50円値引きできないかって
田中は今のオレのパンは、50円分値段が高いって思っているんだ
クラスメイトだからこそ、忌憚の無い意見を言ってくれる
でも、あなたのパンは美味しいわよあたしがちゃんと、毎日、味も確認しているし
そうじゃないよ、克子姉美味しくて、その値段に適っているかどうかが問題なんじゃないんだ
学食のオレたち以外のパン業者さんのパンに比べて、高校生が昼食に買うパンとしては、少し高いって感じているんだと思うよだからだ
お客の求めているものを知らないといけない
ただ、味を追求するのでなく
同じ市場に出ている同業者の製品についても、理解していないといけない
それが商売をするということ
克子姉今日から、メグたちと一緒に売り子に入ってくれ
でもあたしは、この学校の生徒じゃないし
克子姉は高校1年生で、この学校に来られなくなったトラウマがある
だから今まで、オレの指導だけして
生徒たちの前で、パンを売る時間には帰宅していたんだ
オレやメグや寧に店を任せて
オレは、そんなことすら気付いていなかったのか
そんなの、どうでもいいよ
これは克子姉の店なんだよ克子姉が自分で、お客の空気を感じないとダメだよ
違うわここはあなたのお店よあたしはあなたを手伝っているだけで
オレは克子姉の手を握る
オレたちの店だっ
だから一緒にやろう一緒に勉強しよう一緒に試みて、一緒に失敗しよう
一緒に一つ一つ壁を乗り越えようよ
オレたちは独りぼっちじゃない
ほーんと、あんたたち馬鹿みたいねまったく
雪乃は呆れた声で呟いた
たまには若い人たちの空気に触れようと、渋谷へ行ったのですが
若い人は、そんなにいなかった
熱気は減っているように感じました
若い人たちは、どこへ行ってしまったのだろう
あの雪乃がこうなるとは
でも、この4ヶ月吉田くんには家族がいましたが、雪乃は一人きりで頑張ってきたわけで
色んなことが、見える様になっています
克子にも、生まれて初めて店をやることに戸惑いがありました
それを吉田くんに見せられないコンプレックス
大人になっても、大人なりのコンプレックスというものが芽生えます
619.Beautiful Girls
て、いうことなんだけれどね
克子姉が寧に話す
4時間目が終わる10分前に寧とアーニャが、パン工房へ戻って来た
2時間目と3時間目は、アーニャも寧のクラスの授業を体験入学してみたらしい
でも、4時間目は体育の授業だったので
アーニャは、参加しなかったのだそうだ
まあ、運動能力は普通の高校生とは,比較にならないほど優れているわけだし
他の生徒たちと一緒に運動するのは、避けるべきだろう
それで、4時間目は寧が校内を一通り案内してあげたのだそうだ
っていうか寧も体育をサボりたかったんだな
それで早めに、オレたちのところに来てくれた
寧は、オレのパンの売り子をしてくれているから
だから、あたし取り急ぎ、今、売っているパンを50円コストダウンする方法を考えてみようと思うのよ
それで早速、克子姉が寧にこれからのパン作りのことについて相談をしている
もちろん、今のパンの味は落とさないし、量も減らさないわよ何とか工夫して、50円値下げする方法を見つけるから
幾ら美味しいパンでも競合している業者さんのパンの価格や、高校生の懐事情に合わないのなら受け入れられるはずがない
オレたちは、オレたちの眼の前にあるゲンジツに則して生きていくしかないんだ
うーんそれはどうかなぁ、克子お姉ちゃんあたしはそういうのは、やっちゃいけないことだとと思うよっ
寧はそう答えた
値段のことはともかくあたしたちのパンが美味しいっていうことは、何となく校内の人たちに知られてきていると思うんだ今ここで、安易に値下げしちゃうとさあたしたちのパンそのもののイメージが悪くなるんじゃないかなっ
イメージ
いや、でもさ、ヤッちゃん
意見を言おうとするオレの言葉を寧は遮る
まあ、もうちょっと、あたしの話を聞いてよっまだ、あたしの話の途中だよっ
あゴメン
あたしもさもう少し、お得な値段の品を出すっていうことについては、賛成だよっでもさ、今すでに販売しているパンの価格を下げるのは、得策じゃないって思うんだよ
でも、今話した通りコストダウンしても、味が悪くなったり、量を減らしたりは絶対にしないわよ
寧の言葉に、克子姉は強くそう言うが
いやいや克子お姉ちゃんなら、そういうことはできると思うけどさでも、その努力ってあんまり意味が無いと思うんだよっ
意味が無い
だってパンの値段が、いきなり50円も安くなったら、みんな色々考えちゃうよ味や大きさをちゃんと確認しないで今までのパンより、少し味が落ちたとか前よりも、全体的に小さくなっているとか、勝手な印象だけで文句を言う人もでてくるだろうしそういう人の声は大きいから、変な評判が拡がることになっちゃったりするよっ
ああそういうこともあるかもしれない
逆に、ちゃんと自分の舌や眼で確認して以前と、味や大きさに変化がないって判ってくれる人もいるだろうけれどそういう人からしてみたら、だったら、何で前は50円も高かったんだ最初っから、この値段で売れたはずなのにって、あたしたちのパン作りの姿勢に疑念を持っちゃったりするんじゃないっ
パンみたいな安いモノでは50円の差は大きい
例えば、150円のパンが、100円になれば買う側の人間は、色んなことを想像してしまう
50円安くするために、克子姉が色々努力しても悪い結果にしかならないってことか
まあ、そうだよね
でもだからって、今のままじゃ
味は良いけれど、少しお高いパンというイメージが固定してしまうのも良く無いと思う
だからさ今、売っているパンは、このまま今の値段にしておいてそれ以外に、50円安いパンの新しいラインナップを作って一緒に発売するべきなんだよっ克子お姉ちゃんも、今作ってるパンをコストダウンする方法を考えるより、頭っから50円安い値段のパンを作る方が作業効率が良いでしょ
克子姉が頷く
でも、現行の種類のパンのシリーズと、新しく作る50円安い新シリーズのパンそんなにたくさんの種類のパンを一遍には作れないよ
オレと克子姉2人だけでは毎日、焼けるパンの量は決まっている
そんなのさ生産調整すればいいんだよっ
生産調整
今のパンの種類をこのまま全種類、残して行くんじゃなくってさよく売れている種類だけ残してそれで、やめちゃうパンの代わりに、少しずつ50円安いシリーズのパンを少しずつ加えていけば良いんじゃないっ
今でも、あんまり人気のないパンは生産を止めてどんどん新しいパンに切り替えていっているもんな
それで克子姉から、次々に新しいパンの作り方を教えてもらっているのだし
一気に50円引きにするのでなく少しずつ、売っているパンの種類を変えていって
時間を掛けて、手頃な価格のパンだけにすればいいのか
しかし克子姉は
いいえそうはしないわ売り出すパンの種類を増やしましょう今、売っているパンに加えて、50円安いパンを少なくとも5種類は発売するわ
種類を増やす
もちろん、全体の生産数も増やすわよそうね、来週から、今までの2倍の数のパンを作りましょう
克子姉は決意する
どっちにしろ、大分、あなたも作業が身に付いてきたからここいらで、製産量を増やすべきだと思うの
でも、克子姉今は、生産数が少ないから、どうにか毎日完売しているけど
そうね、2倍の数にしたら売れ残りが出るかもしれないわね
そう言って克子姉は、オレに微笑む
でも、そういう経験もしないとプロのパン屋さんにはなれないでしょパン屋さんとして生きていくためには、今よりももっと手早く、たくさんのパンを作れるようにならないといけないんだから
今のオレの作業は遅すぎるし、作れるパンの種類も数も少なすぎる
パンなんて、1コが安いものなんだからたくさん作って、たくさん売らないとね
オレがパンを作り始めて4ヶ月
学生食堂で売り始めて1ヶ月弱
そろそろ次のステップへ進むべきなんだ
今のままの状態でモタモタしていることは許されない
この学校の生徒の数を考えたら今の3倍に生産量を増やしたって、充分売り切れるはずなのよあたしたちの頑張り次第で
克子姉は、あらかじめそう分析していたらしい
あのさっ今日からは、克子お姉ちゃんも昼の時間にここに居るんだよね
ええ、そうよあたしも売り子をするわそれで実際にお客様の反応を肌で感じるわどういうパンが求められていているのかを知りたいのよ
克子姉は、答える
だったらさ昼休みの真ん中ぐらいに、もう一発、焼きたてのパンを出せないかなっ
ほら、家からお弁当を持って来ている子でもお弁当を食べ終わった後に、ちょっと甘い物が欲しいなって、菓子パンみたいなものを買うことがあるんだよねっ部活の後で食べるおやつを買いに来たりとか
だから、その辺の時間にドンッと菓子パン系が焼きたてで出て来ると、みんな食い付くと思うんだけど
昼休みまでに焼いたパンを売り場に出した後に
オレが、その菓子パン系を焼けばいいのだから作業的には無理じゃない
いきなり、2倍の量のパンを売り出したらお客さんも迷うし、今の売り場に全部の数を並べるのも無理でしょだから、昼休みの頭にまず第一弾を売り出してそれがどんどん売れて、売り場に余裕ができた頃に第2弾のパンが焼き上がればいいんだよっ
寧の案は現実的だ
第2弾の菓子パン系が後から売り出されることは大きく張り紙でもして、告知しておけばいいんだしっ
それなら売り場の混雑も、緩和できるねおやつ用のパンが欲しい人は、ゆっくり来ればいいんだし
今は昼休み開始の時間が一番混む
そして、めぼしいパンは、あっという間に買われてしまうから昼休みの中頃には、ほとんど残っていない
でも第2弾のパンも焼き上がるというのなら
寧の言うとおり、新規のお客さんが買いに来てくれるだろう
凄いねヤッちゃん
オレは感心している
いや、ヤッちゃんは本当に色んなことに気付くから
寧は、ニコッと微笑み
それはだってあたしは、ここの高校、3年目だもん学年は2年生だけど3年も通っていたら、色んなことが判るよっ
あ、それからさヨッちゃんは、クラスの子とかから、パンのことについて意見や感想を聞くのはいいけれどそのお礼にヨッちゃんが、パンをタダであげるとか、値段を割引するとかそういうことは、一切しちゃダメだからね
定価で買ってくれる子との意見でないと使い物にはならないよ
そうねあなたに意見を言ったら安くパンが買えるなんてことになったら、忌憚の無い意見は話してくれなくなるでしょうね
声の大きい人の意見てさ、偏ってたり、歪んでいたりすることが多いから特にモニター制度みたいなものは作らないで、ヨッちゃんがこの人の意見なら、信用できるって思える子を何人かピックアップして、その人たちの意見だけ聞けばいいんだよ
でも、意見だけ聞くっていうのも何か悪いよ
そういうのは、また別の機会に別の形で返せばいいんだよまたメグちゃんとの家に呼んで、パーティするとかさ
ああ、あくまでも親しいクラスメイトとして
オレ個人として恩に報いる場を別に設ければ良いのか
その辺はメグちゃんともよく相談してみなよっヨッちゃんよりも、メグちゃんの方が意見を話してくれるお友達は多いと思うし
オレは田中とか、クラスの男の意見は聞けるけれど
女子の方は、メグの友達ばかりだもんな
あら、寧ちゃんももちろん、お友達に感想を聞いてくれるでしょ
えっだってあたし、クラスに友達いないよ
だったら、友達を作りなさい今のままだとこの人とメグちゃんのクラスの1年生の意見しか聞けないわ
うーっメグちゃんなら、陸上部の上級生の意見だって聞けるじゃんか
それでも体育会系の子の感想しか聞けないわよ文化部や、クラブ活動していない子の意見は、寧ちゃんが集めてきなさいね
それは、克子お姉ちゃん
寧ちゃんもいつまでも、学校の中の同世代の女の子を観察しているだけじゃダメよもうちょっと親密に触れ合った方がいいわ
寧ちゃん自身のためではなくこの人のためだって思いなさい
克子姉の言葉に寧は、オレを見る
判ったよーんはーいあたしはあたしで頑張るよ
あたしもパン部の女の子たちと、もっと親しくなるわ
克子姉は、パン部の指導もしてくれているけれど
そうか、やっぱり現役の女子高生たちに対して、コンプレックスがあったんだな
にこやかな様子だったけれどパン部の女の子たちに対して、壁を作っていたんだ
色んな子から感想は聞きたいものね
パンを通じてみんなが、壁を乗り越えるキッカケを得ている
やがて4時間目の終了のチャイムが鳴る
よし行こうか
オレは店開きの準備をする
まあ、このパン工房と繋がっている学生食堂の一角に焼きたてのパンの入ったパッドを並べるだけだけど
外へ通じるドアでなく学食側のドアを開く
売り場用の大きなテーブルは、ずっとそこに固定したままになっていた
おいっしょっ
オレはパンの詰まったパッドを抱えドアを抜けて、机の上に運ぶ
克子姉と寧も、それぞれパッドを抱えている
わたくしも手伝うわ
アーニャが、そう言ってパッド運びを助けてくれた
彼女はずっと、オレたちがパン談義している様子を楽しそうに眺めていた
それから、雪乃はああ、壁際で携帯をイジッたままだ
手伝ってくれる気は、全く無いらしい
ヨッちゃんニキニキ売り子も、やってみたいんだってさっ
ここは克子姉がいるからアーニャとは呼ばないんだな
いいかしらヨシダ
アーニャはミス・コーデリアの配下であり、普通の生活はしていない
まだ17歳なのに学校にも通っていないし
寧の話を聞いてたら、わたくしも体験してみたくなったのよ
楽しそうに、オレに言う
これが終わったら帰るから
ああ、アーニャは午後には帰るって言ってたな
ミナホ姉さんとは、顔を合わせたくないって
それに、今日はみすずや美智も来る予定だからレイちゃんたちと鉢合わせするかもしれないし
オレは、アーニャにそう告げた
ええ頼まれたわ
嬉しそうにアーニャは微笑む
はい、売り子の方は、このエプロンを付けて下さぁい
寧が笑って克子姉とアーニャにエプロンを手渡す
平日なら、4時間目が終わったら生徒たちが、この学食に殺到してくるが
今日は土曜日だから、授業が終わっても、ホームルームがある
多少、時間的な余裕が有った
ヨシくん来たわっ
メグとイーディが、走って来た
2人とも、ホームルームはパスしてきたらしい
まあ、メグがオレのパン屋を手伝っていることは、新しい担任も知っているから特に問題は無い
どうしても、オレたちに伝えないといけないことがあれば連絡してくれるだろうし
このパン工房には、職員室と通じる内線電話もあるから、それで話せばいいのだ
プリント類が配布された場合は、うちのクラスの女子陸上部の子が、部活の時にメグに手渡してくれるし
何で、雪乃がいるのっ
工房に入った途端メグは雪乃の姿を見て、大きな声を挙げる
好きでいるわけじゃないわよ
雪乃は、携帯を見たままそう呟いた
どういうことなのヨシくん
メグは、オレに振り向くが
ああ、あたしが呼んだのよ
克子姉が、メグにそう言ってくれた
克子お姉さんが
ええ、ちょっと彼女には、ここに居て欲しいのよ校内をうろついていられると困る理由があるの
遠藤が、何か企んでいるらしいんだ
オレは、メグの耳にそう囁いた
遠藤くんが
ああ、あいつまだうちの高校の生徒のまんまだし何か、変なテンションで変なことを喋ってたらしくてさ
遠藤くんなら、いつだって変なテンションで、変なことばかり喋ってたじゃない
メグ随分、キツイことを言うんだな
でももし、学校の中に現れたら、危ないでしょ
雪乃を見て納得する、メグ
遠藤はオレをブッ殺すって言っていたらしいけれど
そうだよな、あいつの性格なら元・彼女に危害を加えることは、充分考えられるよな
実際に雪乃に襲いかかったこともあったんだし
おおーっ何だこりゃっ
学食の方で歓声が上がる
おいおいおーい今日は、美人さん大会かよっ
同じエプロンを付けた克子姉と寧とアーニャが笑顔で並んでいる
そこに慌てて、メグが加わる
イーディは、売り子はしないが万引きや、お金を誤魔化すやつがいないように、テーブルの前で腕を組んで見張ってくれている
美味しいわよ買ってって
克子姉が、男子生徒たちに声を掛けた
え、あのお姉さん、食堂の人
見知らぬ美女の登場に、男子生徒たちが騒ぎ出す
あたしはパン技能士コースの指導をしているのっみなさん、よろしくねっ
大きな声で、克子姉は言った
えー、お名前は
男子生徒の声に
高梨克子よ
おおおおーっ
学生食堂に集まって来る生徒たちがみな、オレたちの方を見ている
ここで売ってるパンは、みんな、このお姉さんが指導して作っているんだよっていうか、指導だけじゃなくって、実際に作っているしまだ、うちのヨッちゃんは1人でパンを作れないからっ
寧が、みんなに説明した
何だ、そうだったんだぁ
あの1年坊主が1人で作っているっていうからオレ、今まで一度もここのパンは買わなかったんだぜ
ああ、あいつが作ったパンじゃ美味そうじゃねえもんな
でも何だ、本当はこのお姉さんが作ってたんだ
ああ、だから、ここのパン食ったやつの評判は良かったんだな
1年生のオレがパン技能士コースの勉強の一環で作っているパンなら
それだけで、敬遠する生徒も多かったんだ
克子姉みたいな綺麗な大人のお姉さんが作っていると知れば買ってくれる人も増える
お、オレちょっと買ってみるわ
オレも、オレも
売り場にはまず、男子生徒たちが群がって来る
女の子たちも、どうぞっあっ、そうそうあたし、パン部の指導もしているのね美味しいパンを作ってみたい子は、遊びに来て体験入部もできるからっ
克子姉は、持ち前の明るい笑顔で女生徒たちに話し掛ける
自分で焼いたパンを食べるのは、楽しいわよ
女の子たちは
ホントに体験入部でもいいんですか
もちろん来週は火曜と木曜の放課後にパンを焼くわ良かったら、いらっしゃい
行ってみようか
待っているわよ
積極的に、生徒たちに接する覚悟を克子姉はしたんだな
うわ、このパン本当に美味しい
でしょあたしがずっと勧めてたのに、あんたったら
だって今までは、何か、高校生だけでセコセコ作って売ってるみたいだったから
そう言う女生徒もいる
今日は何かバーンと華やかで、ゴージャスなんだもんっ
うん美女と美少女が、揃っているもんな
ニ、ニキータさんオレらと写メ取ってもらえますか
パン買って
いやあのオレ、ニキータさんのファンなんですよ
パンを買いなさい
あ、こいつもニキータさんのファンです
だからパンを買いなさい
つーか、あのうちの学校には、体験入学だけなんすか
ちょっと、わたくしの話を聞いているの
ニキータが男子生徒たちに告げる
人はパンのみに生きるものではないわでもパンが無ければ、パンを買えばいいじゃないの
はい買わせていただきます
ニキータさん、オレにも売って下さい
に、ニキータさんニキッ、ニキッホホー
最後は、訳の判らない絶叫となる
な、奈島さんオレは奈島さんのファンですからねっ
そうですよ白人なんか、奈島さんの美しさには適わないですよ
日本人は黒髪が一番すっ
寧の元にもいつもよりも気軽にファンが集まって来る
売り場の雰囲気が明るいからだろう
そうあたし、ニキニキとはすっかり仲良くなったんだよっ
ええ、寧とわたくしは親友よねっ
おおーっこの2ショットもなかなか
そんな中メグは
はい、合計で420円になります
630円のお買い上げです
お釣りが230円ですありがとうございました
黙々とレジ業務を行っている
これはこれで役割分担ということなんだろうか
Heyそこ、横入りはダメネちゃんと並ばナイト
そのパンは、こっちの女の子が先に触ってたネアナタは諦めるべきネ
イーディも売り場のガーディアンと化している
何といつもよりも、圧倒的に早く
開店してから、ほんの15分で
全てのパンが売れてしまった
えー、もう無いの
ゴメンねぇ来週から、もっと数を増やすからっ
寧が笑顔でそう言う
このお姉さん克子さんも、これからずっと売り場に立ってくれるってさっ
克子姉が、生徒たちに手を振る
わたくしは今日だけよ
ちょっと残念そうにアーニャは言った
でしたら、そのお写真、よろしいでしょうか
写真部か新聞部か判らないが
ついに、大型の一眼レフのカメラを持って来た生徒が居る
慌てて、部室へ行ってきたらしい
だったらさあたしたち、全員を撮ってよ
今日の記念にさみんなで写真を撮ろうっ
売り切れたパン
空のパッドだけが並ぶテーブルに美女と美少女が並ぶ
ヨッちゃんもおいでよっ
オレはいいよ
あのできれば皆さんだけで
カメラの男が、そう言う
そうじゃそうしてっ
克子姉とメグ寧を挟むようにして、イーディとアーニャ
ニコッと微笑む5人をカメラが撮していく
写真できたら、必ずちょうだいねあっ、そうだ大きく引き延ばしてくんないかなっここに張っておきたいからっ
ニキニキも、うちのパン屋さんの一員だってことみんなに判るようにさっ
アーニャが感激している
パン編が終了で、次話からは少し騒がしくなります
本編で、方向性を示しただけの物事が一つ一つ、具体性を持って動き出します
今日はまた、父の病院の付き添い
まあ、検査ばかりなので私は延々と待っているだけでした
もう病院というものには、すっかり慣れました
620.say Mark2
結局、オレは現状に甘えていたのだと思う
学食の端を借りて、オレが作ったパンを売ってパン屋になるための勉強をする
そういう、ミナホ姉さんの敷いてくれたレールに乗っかっていただけで何もかも、オレにとっては初めてなんだからと、低レベルなことばかりしていた
本気でパンを売り込むのなら、もっと校内の生徒たちにリサーチするべきだったし
パンの種類も生産量も、もっとどんどん増やすべきだったんだ
オレは、この計画が持ち上がった当初はこのパンの売り上げで、マナやアニエスの生活費を稼ぐつもりだったのに
実際に、校内でのパン販売を始めたらパン作りにも、商売にも萎縮してしまって
いつの間にか、赤字にならなければいいかぐらいまで目標が落ちていた
いや、もちろん商売というものが、こんなに難しいとは、やってみるまで判らなかったし時間を掛けて、着実に仕事を学んでいこうという気持ちもあった
でもそれでは足らないし、届かないんだ
熱意も、頑張りも
本気でパン屋になろうと思うのならこんなんじゃダメだ
やっぱり、今日の感じだと2倍どころか、3倍の数のパンを焼いても、完売できるって確信したわ
パンを売り切って、売り場の片付けを始めているオレに
あたしも判って無かったわ今まで、実際に自分で生徒たちにパンを売ってなかったから潜在的な需要を、きちんと把握しきれてなかったあたしのミスよ
そんなことないよオレが甘ったれてたんだ初心者だから、こんなレベルで許されるだろうって
いいえ、製産と販売の計画を立てていたのはあたしよあたしの判断が甘かったの悪いのは、あたしよ
いや、オレだよ
あたしよ
互いに謝り合うオレと克子姉の間に、寧が割り込む
はいはい、ストップどっちが悪いとか、そんなのどうでもいいんだよっ色々と判ったことがあったんだから、それでいいじゃんかっほらほら、前向きに行こうよっ
寧は、オレたちに優しく微笑む
ホントに、これからはずっと克子お姉ちゃんも売り子をやってくれるんだよねっ
ええ、可能な限り店頭に立つわ
それなら大丈夫だよっ心配ないってば今日ぐらいのペースで、確実に売れていくって
そうだオレのパン新設されたばかりのパン技能士コースの高1男子が作ったパンでは、全然美味そうでは無い
値段だって、普通のパンと同じだし
でも、大人で美人でいかにも美味しいものを作りそうな克子姉が、オレを指導していて、オレと一緒にこのパンを作っているとなれば、話は別だ
克子姉の存在がパンの品質に信用を与える
でも、ヨシくんと克子お姉さんだけで来週から、2倍の量のパンが作れるの
焼くことについては問題無いさっき、ヤッちゃんが提案してくれたみたいに昼休みになっても、オレが焼き続けるから
克子姉も売り子に入ってくれるのならオレは、店頭に出ないで工房に籠もれる
それで、昼休みの中頃に第2弾の焼きたてのパンを並べられるようにすればいいのだから
でも、焼く前のパンを作るのは大変でしょ今だって、ヨシくんと克子お姉さんが早起きして作っているんだから
それはスピードアップして、たくさん作れるように努力するよ
あたしも手伝おうか
メグは部の朝練があるだろ
竹芝キャプテンにお話しして、朝練は休ませてもらうわよ
そういうのはダメだってメグはパン技能士コースの生徒じゃないんだから売るのを手伝ってもらっておいて何だけどパンを作ったり、焼いたりすることは、さすがに手伝ってもらうわけにはいかないよ
パンという食品作りに関わることはオレと克子姉だけで行うのが筋だ
それなら、あたしもパン技能士コースに移るわよ
ダメだよメグは、普通の高校生活を送るっていう約束だろ
だったらさっ、あたしがパンのコースに入ろうかっ
寧がニッと笑う
あたしならどうせ、もう1年落第しているし、別に普通科じゃなくっても構わないからさっそっちのコースなら、2時間目が終わったら、パン作りでいいんでしょヨッちゃんと一緒に居る時間も増えるし、良いことずくめだよっ
そんなのダメですぅ
何でよっ別に、メグちゃんの眼が届かないからって、イチャイチャしたりはしないよったまにしか
いや、ヤッちゃんはコース変更できないだろだって、これから学校を休むことも多くなるんだし
寧はマルゴさんの格闘技の大会に、マネージャーとして付いていくことになっている海外の大会も多いっていうし
と言っても、長期滞在はしないらしい
大会のある週の半ばに日本を発って大会そのものは週末の開催翌週の月曜か火曜に帰国するという感じになるのだろう
時々居なくなる人をパン作りの戦力にするわけにはいかないよ
あっそうか
イーディも、オレたちの警護役という任務がある
パン作りを手伝わせたら警戒の方が疎かになってしまうと思う
それはまた後でどうするか考えましょう
新しいパンのラインナップも決めないといけないしそれによって、作業時間も変わるから機械を使って、作業効率を上げる方法もあるし今日中にプランを出すわ
克子姉が、全体のプランを決めないと何とも言えないことだもんな
カツコ、この子たちがパン部について詳しく教えて欲しいって言っているわよ
学食の生徒たちと写真撮影+握手会をしていたアーニャが、こっちに向かって叫ぶ
あ、はい今行くわ
克子姉が、ニッコリ微笑んでアーニャの方へ行く
パン部の話が聞きたいというのは1年生の女の子3人組だった
そう言えば、パン部の女の子たちに助けてもらうっていう手もあるな
今は昼休みに売るパンは、オレと克子姉だけで作成していて
パン部の子たちは、時々、放課後に克子姉によるパン作りの講習会をやっているだけだ
例えば体育部の朝練みたいに、パン部の子に仕込みを手伝ってもらうとか
どうせ、本当にパン屋を開店させる時はそうやって何人も、バイトの人を雇わないといけなかんだし
オレは、一瞬そんなことを考える
この案は、ダメだな
オレのパンは、こうやって生徒に売っているんだ
パン部の子に手伝ってもらうのならバイト料を払うべきだ
だけど、それが可能になるほどはまだパンが売れていないもんな
ちゃんと賃金を支払わないと責任持ってパンを作ってはもらえないだろうし
それに、パン部の部員になってくれた子もオレ同様、パン作りに関しては、まだ初心者だ
朝の忙しい時間に、何人ものパン部の子を指導しながらじゃ克子姉の作業が捗らない
今の2倍のパンなんて、作れないだろうと思う
うふふヨッちゃん、色々考えてるみたいだねっ
良いことだよいっぱい考えて、いっぱい悩みなよっそんで考えがまとまったら、相談してねっあたしは、いつでもオッケイだよんっ
うんありがとう寧
オレは、もう1人じゃない
何でも相談できる家族が何人もいるんだ
奈島センパイも、一緒に写真撮って下さい
女生徒の集団が、寧に声を掛ける
センパイとか言うなっ同じクラスじゃんかっ
だってセンパイなんだもんっ
ああ、寧のクラスメイトなんだ
奈島さん、最近はすっかり明るくなったよね
前は綺麗だったけれどちょっと怖い感じだったから
ねえ、ニキータさんを囲んでみんなで写真を撮りたいのよ
アーニャは、今日の2時間目、3時間目を寧のクラスで授業体験したから
寧のクラスの子が、記念撮影をしたがっているんだ
しょうがないなぁじゃ、ちょっと行ってくるよヨッちゃん
寧が、パン売り場の机の外へ出る
あ、そっちか明るいから、そっちで撮ろう
ニキータさんもお願いしまーす
ええ、いいわよ
ニキータも喜んで撮影に応じている
今回は、外国人タレントという触れ込みで、きちんと来日しているのだからいいんだよな、写真とか撮っても
まあ、レイちゃんとの闘いはとっくにテレビ放送しているくらいだし、顔写真が流出しても特に問題は無いのだろう
ヨシくんあたしたちだけで、片付けちゃいましょうよ
メグが、パンの入っていたパッドを重ねていく
これを工房内に入れて一つ一つ、洗浄しないといけない
その他作業に使った道具も,全て洗って、仕舞わないと
明日の日曜日は、ここでパンは作らないのだから
あ、オレが持つよ
メグが重ねたパッドを、オレは持ち上げる
それくらい、あたしにも持てるのにあたし、力持ちなのよ
あ、ドア開けるわね
学生食堂から、オレのパン工房に通じるドアをメグが開く
ムスっとなるメグ
工房の中に居る雪乃と、眼が合ったらしい
何で雪乃がここにいるのよ、まったく
まだ納得していないらしく、小声で呟く
そのメグの呟きが聞こえているはずなのに
雪乃は、平然と携帯電話を眺めている
雪乃、変わったな
前の雪乃なら売り言葉に買い言葉で誰かに挑発されたら、大声で喚き散らしていた
それが今はメグの圧力を、スルーしている
本当に、テレビの仕事を続けてきたことで雪乃の性質が変わってきたんだな
Darling、何か気持ち悪いヨ
イーディが、オレのところに寄って来る
悪い気が近付いて来ているネ
悪い気
おい、何だあの車
変な車がこっちへ来るぞ
学食の入り口の方がざわめいている
何で、あんな車が校内に入って来てんだよ
何なの、あれ
オレの直感が囁く
メグ、ドアを閉めて雪乃を見ていてくれ
多分遠藤だ
遠藤くん
岩倉さんも絡んでると思う何かしら、オレたちに対して攻撃を仕掛けて来るはずだ
今日は、克子姉とアーニャ効果でいつもよりずっと早く、パンが売り切れた
これが、昨日までのペースだったなら今の時間ぐらいが、オレのパンの客が一番多くなる頃合いだ
つまり、メグや寧がパンの販売で、身動きが取れない時間帯
そこを狙って来たんだろう
あたしも、メグミちゃんと工房の中に居るわ
克子姉が、慌てて戻って来る
メグと雪乃を2人きりにするより克子姉が一緒の方が良い
頼むよ雪乃は遠藤の前に現れない方がいいからさ
遠藤が逆上して雪乃に何をしでかすか判らない
ええ、あたしに任せて
克子姉がメグの背中を押して工房の中へ
ドアも閉める
イーディが、オレに寄って来る
気持ち悪さの原因はあの車ネ
イーディが、学生食堂の外を指差す
窓の外裏門の方から、ブアアアッと砂塵を巻き上げ走って来るその車は
選挙とかに使う街宣車
小型のバスの屋根の部分が人が立って演説できるように改造されている
普通なら政党名とか、候補者の名前が大きく書かれているスペースには
赤地に金の文字で大きくニャポレオン党と書かれていた
マジかよ、遠藤
ていうかあいつも高1だから、免許持って無いよな
だから、自分で運転しているわけではない
恐ろしいことだが本当にニャポレオン党には党員がいるらしい
キキキーッブオオンッ
その派手派手しいというか、禍々しい街宣車は
学生食堂の真っ正面に停車した
何だ、何だ
何なのよこれ
興味を持った生徒たちが街宣車の周りに集まって来る
まずいな、こりゃ
下手をしたらあの生徒たちに危険が及ぶ
オレは傍らのイーディを見る
イーディを前に出して生徒たちとあの車との間の距離を少しは拡げられないだろうか
ダメよあの気持ち悪い気が感じられる限りは、アタシはDarlingの側から離れないネ
イーディは、そう答える
アーニャは、ネイをガードしているね
なるほど寧の前に、スッと立っている
だったら学食の外に出よう
遠藤の標的は、オレなのだ
こちらから、遠藤の見えるところへ出て行けば他の生徒を巻き込まないで済む
行かない方がいいヨこのまま、他の子たちの中に隠れていた方がいいネ
イーディは、そう言うが
そうはいかないよ
オレは腹を括って調理用の白衣と帽子を、パン売り場の机の上に置く
そのまま学生食堂の外へと向かった
しょうがないネ
イーディも、付いて来る
あ寧たちも、オレの動きに呼応して、学食の外へ
生徒たちが群がっている辺りから離れて謎の街宣車と対峙する
ギャワワワワワワァァァンッ
ズキュゥゥゥゥゥンッ
突然、街宣車から荒々しいエレキギターの咆哮が聞こえてくる
うるせぇぞッ
この変な音、止めてよっ
街宣車の周囲の生徒たちは、男も女も耳を塞ぐ
ジャピャャャャァァァァン
車の屋根に
あいつの姿が現れる
何だ、ありゃ
誰よあの人
ああ遠藤だ
しかし、今日の遠藤は学校に登校して来たというのに、制服姿ではない
今日の遠藤はジーパンに、ジージャン
ジージャンは、袖が切り裂いてあって肩が丸出し
そう素肌に直接、ジージャンを纏っている
額には変な柄のバンダナを、捻り鉢巻きみたいに結んでいる
そして、酒井の話にもあった変なサングラス
その上、遠藤は何故か、青い色のエレキギターを捧げ持っていた
普通にギターを抱えているのではない
どうしてだかバッキンガム宮殿とかの衛兵が、ライフル銃とかを抱えるみたいなポーズで、エレキギターを小脇に抱えている
そのまま、石像のようにビシッと、ポーズをキメている
あれって、ハマショーのコスプレか
群衆の中の1人の生徒が、そう言った
ハマショーって、死んじゃった元政治家よね
お前、ハマショーも知らないのかよ
訳の判らない口論が始まる
不意に、遠藤が動き出す
街宣車の上のマイクに向かって
遠藤が
せーのっ♪
歌う
でも、そぉーんなんじゃ、ダァーメ♪
遠藤は、ギターを持っているが演奏はしていない
何故か伴奏の音楽が、車のスピーカーから楽しげに流れている
もっとぉ、もっとぉ♪イエイッ
車の上で遠藤が間奏に合わせて踊る
エレキギターを振り回して
あ、また歌い出す
今、気付いたぞ
遠藤のこの歌録音の口パクだ
でも、歌っている声は、確実に遠藤本人
ということはわざわざ、自分の歌を録音してきて
今、大音量で街宣車から流しているのか
どういうパフォーマンスなんだこれ
♪ヤマトナデシコォ死ぬ気でやれ、死ぬ気で♪うりゃぁぁッ
しかし何の歌なんだ、これ
うっうー♪プワプワランプワプワロン♪
遠藤の毒気の籠もったパフォーマンスに、すっかりみんな唖然としている
アーッ、ドッコイ
そして気色の悪い遠藤の歌と踊りが終わる
遠藤は、大きく深呼吸をするとエレキギターを、横のギタースタンドに置いて
両手でマイクを握り呆気に取られている生徒たちを見下ろす
オレは、帰って来たぜみんな、待たせたな
そこで、遠藤は格好良くヒューッと口笛を吹こうとするが音が出ない
マイクに、遠藤の息が当たってブススと変な音が鳴る
お前もしかして、遠藤か
生徒たちの中から、声が挙がった
ああ、あれはうちのクラスの男だな
遠藤フフフッやめてくれかつて遠藤ケンジと呼ばれた男は、もう死んだんだ
ナルシズムたっぷりの口調で遠藤は言う
今のオレは遠藤ケンジであって、遠藤ケンジじゃないそう、言わばっ遠藤ケンジMark2だっ
マーク2
しかも、ただのMark2じゃねぇぞMark2SRだ遠藤ケンジMark2(SR以降)だからなっ
遠藤は、狂った様に喚いている
あ、あいつだよ、あいつ
ほら、ゴールデンウィーク中の登校日に
レイプ事件を起こした
って白坂雪乃の
そうだよ、あいつだ
野球部だったやつか
1年の遠藤って名前のやつだっけ
次々と生徒たちが、遠藤のことを思い出す
だから、言ってんだろっオレは、遠藤ケンジじゃねぇ遠藤ケンジMark2SRだっの
訳が判らないぞ遠藤
つーかよっオレは、ハメられたんだっ
いやお前がハメてたじゃんか
ああ、全校生徒が観ていたんだからなっ
白坂雪乃ちゃんをハメハメしてたよなっ
ハメハメはぁ
男子生徒たちが、調子に乗って囃し立てる
だーかーらー、オレはハメられたんだよっオレはぁ何も悪くなーい♪オレはぁ潔白だぁっ♪
なぜ、そこで歌い出す
ミュージカルなのかおい
悪いのーは別にいるぅぅ♪そうだっそれが真実なんだっ
街宣車の上から遠藤が、オレを見つける
ひっひっひぃぃそんなところに居やがったのかぁぁ吉田ぁぁっ
悪いやーつは、そいつぅぅ♪そうなのだ♪そうなのだ♪そいつの名は、吉田ぁぁッッ
遠藤は、高らかにそう歌った
地震警報の誤報が出た時、私は駅に居ました
突然、ホームの上に次々と携帯から警報音が鳴って
マジでビビリました
関西の方は、もっと怖かったでしょうね
でも、私の隣に居たサラリーマンは
奈良に地震警報奈良ならいいや
うん東京の人間が冷たいというのは本当かもしれない
621.わたしはお金で動く
学食前にお集まりの皆さぁ~んっ眼を醒まして下さぁい
街宣車のスピーカーが、遠藤の大声でワンワンと共鳴している
本当に悪いのはあいつなんですよぉぉぉッ
街宣車の屋根の上からマイクを片手に遠藤が、学食の建物の脇にいるオレを指差す
マジで、マズいぞ
学生食堂の前には、たくさんの生徒たちが集まって来ている
その全ての視線がオレに集中する
あーん
ってあいつって、こいつか
てこいつ誰よ
あの子パン屋の子でしょ
うん、婚約している子
ああ、あいつか
オレは遠藤のいない間に、すっかり校内の有名人になっている
そうですあいつでーすあいつがオレをハメた張本人超弩級の爆裂超常スマッシュな超犯罪者なんですっチョォォォッッ
遠藤はオレの何を知っているんだ
オレの推測が当たっているとして遠藤の後ろに、岩倉さんが居たとしても
岩倉さんだって黒い森の全てを遠藤に話すはずは無い
あの人はミナホ姉さんの下で、娼婦を続けたがっているんだから
あいつはね、吉田はホントに、マジで、メッチャクチャ悪いやつなんですよっこのオレが言うんだから、これはもう間違いはありませんっああ、間違いない
これオレがなんて言われても
そんな謎の街宣車に乗って、突然、校内に現れ
しかも、ジージャンにサングラスにバンダナという謎スタイルのくせに
今の遠藤怪しさ爆発なんだぞ
こんなに怪しい人間なんてオレは、他に1人ぐらいしか思い浮かばない
あんなやつ、死刑にすべきなんだよっそうだ、死刑だ死刑っつーか、自分で死ねっ今すぐ死ねこの場で死ねっ死んじまえよっ吉田ぁぁっ
小学生か
何言ってんだ、お前お前が、白坂雪乃をレイプしてたのは、全校生徒が観ているんだぞっ
上級生らしい男子が、車の上の遠藤に叫ぶ
そうだぞこのパン屋は、一生懸命やってんだぞ
そうよあたし、毎日パンを買っているわよ
お前みたいなわけの判らない野郎をハメるとか、ハメないとかよ
そういうことをするような人間には見えねえぞ
うん、こいつパンと婚約者のことしか考えてねえもんな
今、ここに居る生徒たちは学食で、オレのパンを買ったことのある人の割合が多い
だって、今は土曜日の授業が終わったばかりの昼の時間で
みんな、食事をしに、学生食堂に集まってきていたのだから
しかも、さっきまでアーニャと克子姉も売り子に加わってくれて、大盛況のうちに最短記録でパンが売り切れたばかりだ
ああーっ、ちょっと待ってそうやって、オレに言葉の洪水を浴びせかけるんじゃねぇ
遠藤は苛立っている
だいたい何だ吉田がパン屋何言ってんだ、お前らわけ判んねぇぞ、こらっ
ずっと学校に来ていない遠藤が知っているはずがない
こいつは、真っ直ぐにこの学生食堂前に来た
やっぱり遠藤の後ろに誰かが居る
だからよっこの9月から、こいつは学食でパンを売ってんだよっ
そうよ美味しいんだからねっ
すっかり遠藤と周りの生徒たちは、敵対する関係になってきている
それがどうしたっ何で、オレがそんなことで怒鳴られないといけねぇんだよっうっせぇな、コラァ
敵意の籠もった言葉を投げ付けられたことに、遠藤は怒る
まあ、街宣車の上から拡声マイクで喚いている方が遥かにうるさいと思うが
だいたいよぉ人はパンのみに生きるものではなきにけりだぞっ昔のひとが、そう言ってただろなからましかばと覚えしかッッッ
何かゴッチャになっているぞ
過去の助動詞けりいわんやときたらおや、ましかばはましだ
お前こそ、わけ判んねぇぞ
上級生の男子が、車上の遠藤を見上げて叫ぶ
はっきり言ってお前がどういう目的で、何を主張しようとしているのか、オレには全然判らねえよ
パン屋に対する営業妨害か
つーか、馬鹿かお前は馬鹿なのか
馬鹿なの死ぬの
ヤジウマの高校生たちの遠藤を見る視線は一段と厳しくなる
おい、お前、何やってんだよ遠藤いい加減にしろよっ
群衆の中から野球部のユニフォームを着た上級生が現れ、遠藤を見上げて大声を出す
あああっ、センパイセンパイなら、判ってくれますよねっオレが間違ってないってこと
知った顔を見て、遠藤がニッと微笑む
アホか、お前は校内であんな大騒ぎを起こしたまんま、全然、学校に顔を出さねえでよっみんな心配してたんだぞ
オレのことを部のみんなが
感激する遠藤
ああ、だから早いところ、退部届けを持って来い
お前みたいなやつが、野球部員のままだとよっいつ問題を起こすのか、みんなハラハラして、心配になっちまうんだよっ
そうか、遠藤親と夜逃げしたまま、ずっと学校に来てなかったから
野球部にも、まだ在籍したまんまになっているのか
ななな、何でオレが退部しないといけないんスか
お前が何かしでかしてトバッチリで、対外試合禁止とか、公式戦出場辞退とかそういうのは嫌なんだよっオレたちは
野球部の男の言葉は、冷たい
今年は、地区予選の2回戦で終了だっけ野球部
ま、出場できただけ良かったな
他の生徒たちが、野球部の男を冷やかす
うっせぇなとにかく退部してくんねぇと、オレたちの心が安まらねぇんだよっまだ、これから秋の新人戦とかあんだからなっ
センパイの言葉に遠藤は
あっ秋の大会なら、オレ、出ますよっ試合
ちっきしょうまったくよぅ記念すべき1年生の夏の大会に出られなかったなんてよぉこれも、みんなお前のせいだからなっ吉田ぁぁっ
遠藤は、再びオレを睨む
この恨みも百倍返しだからなっ
そんな遠藤に野球部の上級生は
いやだからな、遠藤
はい何すか
だからよぉぉ野球部には、もうお前の居場所なんて無ぇんだよっ
ユニフォーム姿の上級生は、吐き捨てるように言った
えっ、えっ、えーっ
何言ってるンスかオレ、先輩方には、いっぱいいっぱい飯とかオゴッたじゃねぇですか焼き肉とか、お好み焼きとかそれに、うちの親父だって、野球部にボールだの何だの寄付したり、差し入れに松阪牛とか
野球部員は、ハァと溜息を吐いて
お前の家倒産したんだろ市会議員の叔父さんは逮捕でお前の親父は、夜逃げしてんじゃねぇのか
それはそれこれはこれでしょうオレのことは1年の夏から3年の引退の時まで、ずーっと1軍のレギュラーとして試合に出してくれるってそう、約束してくれてたはずですよそのためにウチの親父が、監督に大金を支払ったんだからセンパイたちだって、みんな知ってることじゃないですか
街宣車の上から、マイクを使って
遠藤、お前、自分が何を言っているのか判っているのか
おい、野球部いまの話、本当か
ちょっと、聞き捨てならねえな
運動部の生徒を中心に、騒ぎが起きる
し、知らねえよオレは
野球部員は、慌てて否定する
マジだったら、シャレになんねぇぞ
そうだぞ野球部が、運動部全体の予算の何割使ってると思ってんだ
ああ冗談じゃねぇぞ
新聞沙汰とかになったら、オレたちも肩身が狭くなるんだからな
外に試合に行ったときに、笑われるんだぞ他の部の人間まで
追求の矛先が、一気に野球部の男に向かう
こ、こんなの全部、嘘っぱちだよあそこの遠藤が勝手に言ってることじゃねぇかあんなやつの言うことお前ら、信じるのか
観衆たちの視線が、再び遠藤に向かう
あっ、あっ、あーっそういうを言っちゃうんだっセンパイあんたには侠気ってもんがねぇのかよっ
うるせぇっ金や物で、レギュラーを獲ろうとしてたやつが、侠気とか言うんじゃねぇよ
ちっきしょうっ
遠藤は、激高する
そんなこと言うんなら野球部は、今までオレの親父から寄付してもらったものを返せよっ新品で返せよっ松阪牛も買って返せ霜降りだったんだからなっ
何て心の小さい
ああ、もういいよっそっちがそういう態度ならこっちにも考えがあるぜっ
遠藤が、喚く
つーかよお前ら、本当にオレを舐めてんだろ親父が夜逃げして、叔父さんが逮捕されたからってよこのオレのことまで舐めてんのかよふざけんじゃねぇぞオレは、なあお前らに舐められるような人間じゃねぇんだっ
ハンお前らそんなんで、本気でオレに刃向かうつもりなんだなそうなんだな
ケケケと、遠藤は笑う
オレが、どれだけの力を蓄えてこの学校に戻って来たのか、判らないのかよあーっ今のオレはなぁもう昨日までのオレじゃないんだぜ
すっかり、周囲の生徒たちは遠藤を冷たい眼で見ている
何たって遠藤ケンジMark2SRだからな
というか呆れている
まあ、言っていることの内容が不明だしパフォーマンスが、ショボ過ぎる
はいっここで、お前らに質問だお前らの中でよ、昨夜、雪乃のテレビを観たやつっているかいたら、手を挙げろよッ
雪乃のテレビ
オレは観たよ手を挙げるつもりはねえけどな
あたしも観たわ
雪乃のテレビ番組は視聴率が良い
この場に居る生徒の大半も昨夜の番組を観ているようだ
それでよ昨日の放送の中で、雪乃が言ってたろ今の雪乃はもの凄ぇ闇の力に支配されているってよその闇の力はテレビ局なんかにも影響力があって、警察や国さえも動かせるって
ニヤッと微笑む遠藤
お前らその闇の力の正体が知りたくないか
まさか遠藤
この場で、黒い森やジッちゃんのことを暴露するつもりか
遠藤の口を塞ぐ方法を考える
今すぐ、イーディに仕留めさせるか
イーディは、手裏剣を持っているはずだ
それで、遠藤を
突然誰かが、オレの腕を掴んだ
大丈夫だよ心配しないでね
寧は、オレの耳にそう囁く
イーディも今は、動かないで
デモアソコから気持ち悪い気を感じるのネ
ええ、わたくしもゾクッとするわ
寧に付いて来たアーニャも、そう言う
おい、もったいぶるなよっ
そうだ闇の力が何なんだよっ
群衆の中から声が挙がる
まあまあまあまあまあまあ耳の穴カッぽじって、よーく聞きやがれよ、テメエら
遠藤はニィィィィと笑う
闇の力の正体はなぁ
空気が張り詰める
オレだッ
オレが闇の力の正体だぁぁ
グッワッハッハと笑う、遠藤
驚いたかぁぁテメエらぁッッ
うん驚いた
ちょっと待て何で、そうなるんだ
説明しろよ
生徒たちから、不満の声が挙がる
何だそんなことも判らねえのか、お前らは
自信満々に遠藤は言う
昨日テレビで雪乃が言ってたろ雪乃は闇の力に孕まされたってよつまり、雪乃の腹の中の子供の父親が闇の力の正体すなわち、闇の帝王だ
それは、つまりオレだ
雪乃を犯して妊娠させたのはオレなんだから
そうさつまり、オレのことなんだ多分
ん遠藤
何だ多分て
どうも、その辺の記憶が曖昧なんだけどよどうやら、オレは雪乃とヤッたらしいみんなそう言うオレにそう言うつーか、そうなんだよな
ああ遠藤自身は、何が起きていたのか全然把握していないんだ
あの時クスリで頭が変になってたし
オレにスタンガンを食らわされて、失神したから
雪乃を襲いかかった途中で、オレが入れ替わったことは理解していない
そうだよお前は、白坂雪乃をレイプしてた
全校生徒が証人だよっ
すぐに生徒たちの中から、声が返ってくる
そうだろそうなんだろってことはよ歴史的に見ても、このオレが雪乃の腹の子の父親なんだろびこーす、オレが闇の帝王っていうことになるんじゃないのか
疑問系でそう言われてもな
色んな人にそう言われて自分でも雪乃をレイプした気になっているんだな
本当は童貞のままなのに
いや、待て確か闇の力は、白坂雪乃のお腹に書かれたタトゥと
そうだ確か
嘉と甲だ
そうそう、その漢字2文字と関係があるって聞いたぞ
番組を見ていた男子生徒たちが、疑問を呈す
ああ、そのことか
オレも、よく判らなかったんだけどよオレに詳しく教えてくれた人がいてよ
教えてくれた
嘉ってのは中国の河北省の嘉魚っていう街のことだオレの父方の曾祖父さんが、戦前にそこに行ったことがあったらしい
そして甲の方はオレの母方の曾祖父さんが、日本海軍の軍艦の甲板長をやっていたということに起因する
すなわちぃぃオレと父方の曾祖父さんと母方の曾祖父さんを示す文字が、一つずつあってこの二つの文字を結びつけるものは、ただ一つ曾祖父さんと曾祖父さんの曾孫すなわち、このオレってことだ
何て強引な
もう、突っ込む気にもなれない
あのよ、オレはよ生まれてからずっと、オレが望んだことは全て叶ってきたんだよ欲しいモノは何でも手に入ったし食いたいモノは何でも食えたこれって、つまり一つの才能っていうか、能力だよな超能力オレには生まれつき、そういう力が備わっていたのさ
遠藤は、自信たっぷりにそう言う
いや、それはただ単純に遠藤にすごく甘い金持ちの親父が居て、その兄弟が市会議員でイバッてたただそれだけのことなんだと思う
遠藤の望みだって金と市会議員レベルの権力でどうにかなる程度のものばっかりだったんだろうし
それがよそこに居る吉田のせいで、オレの超能力が狂っちまってたんだ力が上手く発揮できなくなってたんだそれで、オレはどん底の地獄を見て来たぜ
遠藤が、オレを指差す
ああ、オレの頭の中にはっきりと輝いているお前の名前吉田っていう二つの文字がな白地に眼の痛くなるような蛍光緑の文字でよその記憶が、オレに告げているんだオレの力を奪ったのは、吉田お前だって
遠藤は、オレにスタンガンで失神させられる寸前に
雪乃の下腹部に書かれた吉田のタトゥの文字を見ている
それが今は、吉田から嘉甲に改竄されているんだけれど
とにかく、吉田という文字の記憶だけが不快なモノとして、遠藤の記憶に刻みつけられているらしい
そしてオレの超能力は、ようやく戻って来たんだいや、今までよりも何十倍も何百倍もパワー・アップしてるんだもう、この世の中にオレの望み通りにならないものなんか無ぇんだぞ見ろ、雪乃をオレがあいつをあいつは、散々、オレを小馬鹿にしやがったんだからメチャクチャな目に遭って、苦しめばいいのにって願っただからだ雪乃は、今、あんな状態でテレビに出て、恥を晒しているあれはみんなオレがそう望んだから起きたことなんだ
遠藤お前は
吉田ぁぁお前も、雪乃と同じぐらい酷い目に遭ってもらうぜいや、雪乃以上だっメッチャクチャのワヤクチャのグッチャグチャになっちまえっ
音頭の狂気の眼がオレを捉える
つーことなんでよ先生、頼むぜ
と遠藤の立っている街宣車のドアが、ガチャリと開く
中から出て来たのは
そのスーツ姿の男は
いや、スーツと言っても全身に昇り龍の刺繍がほどこされている
ネクタイは鯉の滝登りの図柄
インナーは、黒いYシャツ
手には黒革の手袋
ニッとオレを見て、微笑む
イーディが、気持ち悪い気を感じるはずだな
人呼んでダダドムゥおじ様
何で、あんたが遠藤なんかに従っている
わたしはお金で動く
ダダドムゥおじ様はそう言って、笑う
それゆえーに恨んじゃぁ、嫌なのよんっ
フンッ、フンッと準備運動を行う、ダダドムゥおじ様
その何気ない動作がすでに気持ち悪い
吉田くんだね君には何の恨みも無いけれどわたしもプロだからねぇお命、頂戴つかまつるっ
不意に、ダダドムゥおじ様がオレに向かって、突進してくるッ
やらせないよっ
すぐに反応して動き出したのはアーニャだった
真っ直ぐ行ったらダメだよ、ニキニキッ
寧が、そう叫ぶが
にょほほほほほほっ
早速、ダダドムゥおじ様は異次元の動きを見せる
何よっこいつ
気の裏側を付いてくるダダドムゥおじ様の動きに、アーニャは対応できない
ロサンゼルスでの対決で、イーディはこのダダドムゥおじ様の動きを再現したこともあったけれど
さすが本家だパワーとスピードが、全然違う
ほんにょ、ほんにょ、ほなにゃぁぁっ
ビュイ、ビュイ、ビュイッ
ダダドムゥおじ様の繰り出してくる、手刀をアーニャは、ギリギリで躱す
あららん、足下がお留守ですよぉぉぉんっ
ヒュバッ
キャアッ
足払いされて転がされるアーニャ
オレは、イーディを見る
イーディは、オレをガードするようにオレの前に立っていた
今はダメねアタシが助けに出ればあのオトコは、隙を付いてDarlingを殺しに来るネ
イーディには、ダダドムゥおじ様の考えが判っている
アイツ左手に手裏剣を隠し持っているネ
アーニャとイーディの2人が、オレから離れさえすればオレのことは、遠くからでも手裏剣で仕留められる
でも、このままじゃニキータが
アーニャ1人ではダダドムゥおじ様の相手は無理だ
ああいうイレギュラーな技の持ち主とは闘った経験は、ほとんど無いだろう
イーディ心月は使えないか
イーディは、美智との稽古ですっかり心月をマスターしている
ここではダメネ他の生徒がいるヨ
ああ周りには、ヤジウマの生徒たちがたくさんいる
今、心月を使ったら、この人たち全員がショックを受けることになる
ダダドムゥおじ様に対してだけ、集中して心月を打ち込めないか
ロサンゼルスではイーディは、アーニャ1人にだけ集中して心月を打ち込んでみせた
美智と改良している一点集中型の心月だ
あの人には無理ね動きが変すぎるヨ打ち込むにしても、アタシの方が集中できないネ
にゅほほほほっなぽぽぽうんたら、がったぁぁ
本当に、ここから見ていても不規則で気持ちの悪い動きをしている
今は何とか反射神経だけで、攻撃を避けているが
このままでは、すぐに捕まる
アーニャが危ない
せめてあの左手の手裏剣が無ければネ
イーディが、そう呟く
ダダ先生、そんな女はどうでもいいからよっとっとと、吉田のやつをブチ殺してくれよっ
街宣車の上から、遠藤が叫んでいる
にょほほほほっ君、なかなか筋がいいねぇ
ダダドムゥおじ様が、アーニャを追い詰める
だがわたしの敵では無い100年早いねむひひひひっ
おじ様の動きが加速する
ビュッ、ビュッ、ビュッ
外から放たれた、手裏剣がダダドムゥおじ様の足下に突き刺さる
ぬぬぬぬ誰ですぅ
生徒たちの間を抜けて
1人の小柄な少女がゆっくりと歩いて、やって来る
うちの学校とは違う上品で可愛い制服
そのスカートの裾を翻して
工藤美智推参
美智はいつもの無表情な顔で、そう呟いた
武闘少女そろい踏みで、次話へ
暑すぎるせいか、体調があいかわらずです
また感想欄の返信を溜めていますが、少しずつ時間を見つけて返信致しますので、もう少しお待ち下さい
ガンダムからゼータガンダムまで、6年ですが
その6年で、すっかり最初のガンダムのデザインは古くなっていました
これはメカでなく、作品世界全体のイメージを示すインテリアや小道具、衣装、建物の内部などのデザインです
そもそも旧作のアムロたちの連邦軍の制服のベルトは、ガッチャマンのベルトでしたし
シャアは、謎の重力サーベルみたいなものを下げていました
戦艦のブリッジには、舵輪があったりしたわけです(当時流行っていた、松本零士アニメの影響)
あくまでも、最初のガンダムは70年代の終わりの作品であり70年代のアニメのデザインを踏襲していたわけです
それらは全て、80年代中頃のゼータガンダムでは古臭く、許されないものになっていました
なのでゼータでは、作品世界のデザインを全てやり直さないといけなかったわけです
ゼータのデザインは、20年後の映画化で変更せずに使用できたというのは、驚きです
いや、80年代には液晶モニターも、携帯電話も、無かった時代なのですし、コンピューターだって今よりも大きくて、デザイン的にも洗練されていませんでした
だからゼータのデザインが本来は、21世紀の時代に合うはずがないのです
それなのにそのまんま映画化して、通じてしまった
というか例えば、アニメで使われる宇宙船内のデザインなんて
ゼータか、その前のエルガイム、ボトムズ、バイファム辺りで完成されてそのまま20年以上、使われているわけです
そういう世界感にまつわるもののに関しては革新的な新デザインは表れていないようですね
むしろ、ガンダムシードの船が揺れたら、椅子からずり落ちてケガしそうな戦艦ブリッジとか
後ろを振り向いたら、ラクスのパンツが丸見えになる椅子の配置の戦艦ブリッジとか
ガンダム00もインテリアは、面白く無かったし
ガンダムエイジの戦艦内とか酷いデザインでした
どんどん、面白いデザインは少なくなってますね
イデオンの頃の、宇宙船のブリッジの後ろが森とか面白かったのに
622.遠い夢
もしかして君は工藤ちゃんの娘かなぁぁ
ダダドムゥおじ様が、美智をジロジロと見る
末の娘の美智です
美智は、無表情のまま
おほほほほほおうっやっぱりねぇこいつは、おじさんもビックリだ
嬉しそうに笑うダダドムゥおじ様
いやいやいーやこいつは参った工藤ちゃんが、私に会わせてくれない理由が、よーく判ったよ
そう言えば、確か
美智、気を付けろそいつはロリコンだぞ
思わずオレは叫ぶ
おおおおおーっ
何故か観衆から歓声が上がる
なあに、あの人、ロリコンなの気持ち悪ーい
うわっ、あたしたちのことも変な眼で見ているのかしら
きしょい、きしょいよーっ
女生徒たちが、嫌悪感を示す
ええーい、うるさいこの育ちすぎどもがぁぁっっ
ダダドムゥおじ様が吠える
くくくっ、何ていうことでありましょうっせっかく高校に来たというのに理想の女子高生に出会えるかと、ルンルンランランお洒落してきたというのに貴様たちは、ことごとく育ちすぎだぁぁっそのプニプニの胸は何だぁそのパッツンツンの尻は何だぁ、この馬鹿チンがぁぁっ
特に、そこのお前っそうだ、お前だこの白人女白豚フブーッて鳴いてみやがれってんだ、ブー、フー、ウー
ダダドムゥおじ様は、アーニャを見て吐き捨てるように言う
お前みたいな、発達しすぎのクソ・ボディが相手では、わたしのファイティング・スピリットが、ただただ萎縮するだけでしたよあー、つまらんゴムボールはっきり言って、本気で闘う気が失せたわいな闘志が萎むばかりでござったわ、ニンニン
な、何わたくしが相手では、不満だって言うの
アーニャが、怒りを燃やす
アチョーッ黙らっしゃい、この白豚オンナスットコドッコイ悔しかったら、少しはそのフーセン・オッパイを萎ます努力をしてらっしゃいってんだわッワンダラー、テンダラー昔から言うでしょっ乳のでかいオンナに、ロクな人間はいなーい、乳のでかいオンナから殺せ首を切れbyシャルル・ボードレール
シャルル・ボードレールが、そんなことを言うわけがないっ
ダダドムゥおじ様は、そんなアーニャの抗議を無視してヘラヘラ笑いながら、美智を見る
そこへいくとこの美智ちゃんはるるるるるんるんるんっ10年前に会った時よりは、すっかりずっと身体が大きくなったけれどもとい、だけど、それでも、そんなに大きくなってなーい理想的なミニミニ・ボディなのよねぇぇぇあはんはんはん
中3の美智は小柄な体格だ
まあ、ダダドムゥおじ様と昔会ったことがあるのは小学生以下
特に胸は、ペッタンペターンううーん素晴らしい君は、私の天使だよ
美智の口元が、ピクッと震える
今、何かおっしゃいましたか
ああ、君の可愛らしいおっぱいを見ていると私は、情報参謀サウンドウェーブを思い出すはふーんっ
情報参謀
サウンドウェーブって、何だ
いや、あれだよトランスフォーマーの一番最初のシリーズに居た
男子生徒たちが、こそこそと話している
それって胸がつるぺたなのか
つるぺたって言うより地面に対して垂直だ胸は真四角の超ロボット生命体だから
垂直
というか、その四角い胸の中にカセットロン兵士を収納しているからむしろ、胸の部分がえぐれているとさえ言える
美智の背中に、何やら青白い炎が見える
あなたは、わたくしの胸をつるぺたと言いましたねさらにえぐれていると表現なさったのですか
まあまあまあ褒め言葉だよつるぺたちゃんこの世には、君の胸より素晴らしいものは無いビバ、つるぺたオオオッ、VIVA
わたくしはつるぺたではございません
スッと、身構える
おいおいおーい、止そうよ私は、君のような素晴らしいつるぺたちゃんとは闘いたくない
問答無用
美智が動く
にょほほほほほーんっ良い動きだねしかしっ
ダダドムゥおじ様は、シュババババっと美智の動きに対応する
まだまだまーだ、私の敵ではなぁぁいっ
フゥワンッと、異次元の軌道を描く
ほーら、お胸にタッチいきますよーん
ダダドムゥおじ様が謎の動きで、美智に近付く
それを待っていましたぁっ
美智はシュバッと加速する
ほへっ、なぬぬぬぬっ
美智に、自分の間合いに入り込まれ慌てて、軌道を変えるダダドムゥおじ様
もう、遅い
シュワンッ
美智がスカートの下から赤いムチを引き抜く
およよよっ
美智のレッド・ビュートの先端がダダドムゥおじ様の左手を叩いた
イチチチチチチッ
手の中に隠していた手裏剣を思わず落としてしまう、ダダドムゥおじ様
な、何で私の動きに付いて来られる
ムチを受けた左手を抑えて、ダダドムゥおじ様が唸る
知らないノカ美智は天才なのネ
イーディが、ニッと笑った
対戦相手の気を感じて心の裏を付くあなたの技と、相手の気を巧みに反らす工藤流はとても近しい関係にあります
普通の武人ならば、あなたの変則すぎる動きを捉えることはできないでしょうがわたくしならば、予想することは可能ですそしてリーチと速さの不足分は、このムチで補います
シュビュンッ
美智のムチが、鋭く地面を叩く
モアアッと、砂塵が舞った
なるほど、なかなかやりますねしかし、君に予想ができるのなら、私にも君がどう動くかは想像できる次こそは君のお胸にタッチしますよクッフッフッフぶしゅるるるるっ
ダダドムゥおじ様は、返って闘志を燃やしている
イーディ、手伝って
美智は振り返らずに言った
ニキータDarlingの警護を頼むネ
ニコッとアーニャに微笑んで、前へ進む
ちょっと待ってわたくしも闘うわよ
アーニャは、そう答えるが
ニキニキは、こっちを守ってよまだ、あいつら他にも手下がいるかもしんないからっ
もう判ったわよ
寧の言葉に取りあえず、オレたちの前に移動する
アタシたちに任せてネ大丈夫ヨ、アタシと美智は親友なのネ
アナタも、きっと美智と親友になるネだから、今は、アタシたちを信じてネ
ダダドムゥおじ様の前に美智とイーディ、2人の少女が並ぶ
おいおいおーい私を相手に2人がかりなのかーい
マサカ卑怯とか言わないネアナタ、PROFESSIONALだものネ
イーディの言葉に
いやいや、私はもちろん嬉しいんだよ女の子とそれも2人同時に遊んでくれるっていうんだろなかなか楽しいねえ
ゆっくりと間を詰めていく
ところで君たち知っているのかなあきちんと連携の取れていない2人組は、鍛え上げられた1人の人間には適わないという話ハインラインの宇宙の戦士の89ページ辺りにそんなことが書いてあるはずだ
美智は、無表情のままイーディはいつもの笑顔で動かない
それからそうそう私には、まだ君たちの知らない技があるいや、名前ぐらいは聞いたことがあるかもしれないねその必殺技の名はウルトラ・ハリケーンと言う若い頃はよく、この技で野生のゼットンを倒したものさ
ダダドムゥおじ様の動きが止まる
君たち聞いてるのか私の話
聞いてないヨ
イーディがそう答えた瞬間ブオンッと、ダダドムゥおじ様の姿が消えるッ
とてつもない速さで、オレたちの予想外の方向に加速したからまるで消えたように見えたのだろう
ハァァァァッ
美智の気合いの入った裂帛とともに赤いムチが宙を切る
うへっ
ダダドムゥおじ様の足を薙ぎ払った
おおっとこいつはいかんっ
体勢を整えようとするダダドムゥおじ様の胸にイーディのキックがめり込むッ
トゥアアアアッ
むぎぃぃぃっ
後ろへ飛んで、少しでもキックの威力を減らそうとするダダドムゥおじ様
しかし、そこには美智のムチの第2撃がっ
あごきゅっ
さらに、イーディの連続蹴りがダダドムゥおじ様を襲う
トイヤッ、トイヤッ、トイヤーァッ
完璧な連続技だ
美智の予想がイーディに伝わっている
これは心月による精神リンクだ
この4ヶ月間の鍛錬で2人はここまで通じ合えるようになっている
ミッちゃん、イーディそこまでだよっ
2人の動きが、ピタッと止まる
ダダドムゥおじ様は、砂まみれのズタボロの状態で立ち上がった
あ、鼻からツツーッと鼻血を垂らしている
まあ、今日のところはこれっくらいにしておこうかなーっと
よくある捨て台詞を吐くと正門の方へ駆けて行く
♪ぼーくは、泣イチッチ♪
訳の判らない歌を歌いながら軽やかに走って行く
で君はどーすんのさっ
寧は、街宣車の上の遠藤に叫ぶ
遠藤は、ダダドムゥおじ様の敗退にすっかり青くなっている
君ももう帰ったらどうお笑いの時間も、そろそろ飽きてきたしさっ
寧の声に、ヤジウマの生徒たちは
そうだ、帰れ帰れ
つーか、退部届け忘れるなよ
かーえーれかーえーれ
ついに遠藤に対して、帰れコールが起こる
ちっくしょう、ふざけやがってオレは闇の力そのものだぞっオレが闇の帝王なんだからなっ
遠藤は、マイクを片手にまた喚き始める
学食の前の人だかりの中から声がした
オレは、その声を知っている
これは雪乃
あんたは違うのよ、ケンジ
雪乃はメグと克子姉と共に、前へと進む
な何が違うんだよ
あんたは、闇の力なんかとは関係無いのよ闇の力はあんたの叔父さんの汚職を暴いたり、あんたのお父さんの会社を倒産させたわ
ああああーん
マイク片手に、遠藤の顔が歪む
ちょっと考えれば判るでしょあんたが闇の力なら市会議員の叔父さんだって、お父さんの会社だってこんな酷いことにはなってないはずでしよ
それはこれから、何とかなるんだよオレの暗黒アトミック・オカルト・パワーでみんなみんな、オレの思い通りになるんだよっ
ならないわよなりっこないでしょホントに馬鹿よね、あんたってオトコは
いや、だってよちくしょうでもよだって今回だってよこんな風に、オレに協力してくれてよ車出してくれたり、あんな愉快なオッサンを連れてきてくれたり、ギター貸してくれたり
あんた誰かに騙されているのよ良いように利用されているのよそんなことも判らないの
違う、違う、違うこれは、オレの力だ統率100、 武勇100、知略100、 政治100の パーフェクト人間のオレだからここから巻き返すんだっオレは、ニャポレオンになるんだっ
遠藤は叫ぶ
ホント馬鹿ね
呆れて雪乃は、そう呟いた
待てよだって、お前のお腹の中の子供の父親はオレなんだろう
雪乃は、ギッと遠藤を見上げて
そんなわけないでしょっ、この馬鹿ッ
だって状況証拠から言ったってよ
あたしがあんた以外のオトコに散々レイプされている映像は、ネット上に幾らでも転がってるでしょお腹の子の父親はそっちよあんたじゃないわ
えっええーっ
遠藤の悲鳴が、街宣車のスピーカーをビリビリ振動させる
何でそんなことが判るんだよっ
判るわよっとにかく、あんたじゃないからねっ
みんなや遠藤の前で、オレの罪を告発しない
オレの方を見ようともしない
オレの罪を隠してくれている
克子姉とメグに囲まれて、無理矢理に言わされているという感じは無かった
雪乃は、自分の意志で話している
悪いんだけれど今のあたしは、無事に赤ちゃんを産むことにしか興味が無いのあんたみたいな人と話すことは何もないわだって、あんたあたしの人生には、何の関係も無い人なんだもの 今となってはね
それはつまりオレとは関係していると言ってくれているのか
だからお前は
いや、単純に子供のことを第一に考えたのか
じゃあ、オレはどうなるんだよっ
知らないわよっあんたの人生でしょあんたが、自分でどうにかしなさいよっ
オレは、遠藤を見上げて言った
遠藤、そこから下りて来いよオレのことを殴りに来たんだろ
遠藤がオレを見る
吉田ぁぁっ
いいから、とっとと下りて来い
オレは、手招きする
ただしお前に殴られてやる気は無いオレを、殴れるものなら殴ってみろよ
ちっくしょうそこで待ってろよ
遠藤がマイクを投げ捨て街宣車から、下りてくる
イーディや美智、アーニャが集まって来るが
大丈夫だオレだって工藤流6級だろ
ドンガラ、ガッシャンと荒々しい物音を立てながら、遠藤が車から飛び出して来る
走りながら、オレに殴り掛かって来るが
オレは遠藤の拳を、するっと躱す
そのまま、何発も何発も
遠藤は殴り掛かるがオレは全て躱す
ちきしょうちきしょうちきしょう
この4ヶ月マルゴさんや、美智、イーディに指導を受けているんだ
遠藤の攻撃を躱すことぐらいは、簡単にできる
オレは遠藤に殴られるべきかもしれない
雪乃の眼の前で
一発でも殴られればオレの中に贖罪の気持ちが湧くだろう
雪乃にごめん、悪かったと謝ることができるかもしれない
しかし、オレは
こいつに殴られるわけにはいかない
罪を償うことはできない
罪を認めることすら
オレは犯罪組織黒い森の一員であり
これからも、罪を重ねていかないといけないのだ
家族のためオレ自身のために
雪乃がお腹の子のために、オレの罪を告発したい思いを噛み殺しているのなら
オレは全身全霊を掛けて、オレの罪を呑み込む
だから謝罪も、贖罪もしない
遠藤が地面にへたり込む
もう、いいのか
ふざけんじゃねぇぇ
遠藤が起き上がり、またオレに殴り掛かる
オレは、その拳をススッと躱した
遠藤はそのまま、地面に転がる
遠藤がオレを見ている
吉田お前よぉっ
何でオレに反撃して来ないんだ
悪いな攻撃を避ける方法しか習ってないんだ自分からはどうやって攻撃すればいいのか、全然判らないよ
けっ、格好つけやがってよ
遠藤は、のっそりと立ち上がった
もういいやもう、どうでもいいつーかよ最初っから、お前のことなんかどうでも良かったんだ
遠藤は、地面に眼を落としてそう言う
とにかくオレはニャポレオンになるんだニャポレオンみたいな栄光を掴むんだよこんなところもういいやオレはニャポレオンになるんだから
ナポレオンになるのなら栄光を掴むのかもしれないが、最後は破滅だ
歴史が、そう示している
しかし、遠藤が目指しているのはニャポレオンだ
ニャポレオンの運命は、誰もまだ知らない
そうか頑張れよ、ニャポレオン
オレの言葉に遠藤が顔を上げる
うるせぇな、お前なんか言われたくねぇよ
それから雪乃を見る
あばよ雪乃お前とも、もう金輪際さよならだぜ
ええ、清々するわさよならケンジ
雪乃は冷たい眼で、そう答えた
ちっくしょうっこんな学校大っ嫌いだ
遠藤は叫んだ
みんなみんな大嫌いだぜっ
何でよおっ何でもオレの思い通りにならねぇんだよっ
ならないよなるわけないじゃんか
寧が、笑顔で言った
はんっああ、そうかよっ
遠藤は、怒りの眼でイーディを見て街宣車の中へ入って行った
ぶるるるるんっ
街宣車のエンジンが轟きそして走り出す
校門の方へ向かって
小さくなっていく
あああいつは
遠藤はもう、この学校へ来ることは無いな
オレや雪乃に会いに来ることは二度と無い
それが判った
だけど別に、永遠の別れでもない
また、どこかでばったり出くわすこともあるだろう
何だったんだ、結局
ホント、訳が判らねえよ
ずっと様子を見ていたヤジウマの生徒たちはみんな、呆然としている
彼らには判らないだろう
オレたちはケリを付けたんだ
オレも、遠藤も、雪乃も
雪乃は再び克子姉に連れられて、学生食堂の中に入っていく
真顔で
ていうかよ何で、あいつ、パン屋に絡んでたんだ
お前、あいつと何か因縁があったわけ
上級生たちが、オレを取り囲み尋ねてくる
いや、何も無いですよ
オレは笑ってそう答えた
まあ、遠藤みたいな馬鹿の考えることは、よく判らねえもんなあ
男子生徒の1人が、そう言う
ちょっとちょっとわたくしも混ぜなさいよ
振り向くと美智とイーディが、楽しそうに模擬戦闘を始めていた
そこにアーニャが割り込んでいく
だいたいさ、あなた何なの後からやって来て好きなようにやってくれたわね
アーニャは口調は怒っているが、顔は笑っていた
わたくしは、わたくしの仕事を果たしただけです
澄ませた顔で、美智は答える
ミチだヨアタシの一番大好きな友達で、姉妹だヨ
改めて、イーディがアーニャに美智を紹介する
何だ姉妹って
またヤジウマたちがどよめく
ああ、あの子はイーディの妹弟子なんだよっ武道のさっ
寧が、笑顔でフォローした
ああ、だから姉妹か
つーか、うちの高校の子じゃないよな
あの制服って確か
あ、ヤバい
うん、ミッちゃん、まだ中学生だからっ
慌てて、寧が言う
あー、中学生なんだ
今日はイーディと待ち合わせか何かなんじゃないのかなぁ
あれ、オレ前に、あの子が野球部のグラウンドの外野の外で暴れているのを見たことがあるぞ
ああの戦闘を目撃していたやつが居たか
うん、近所に住んでいるからよくこの辺を歩いているよ野球部のグラウンドのところで見たって学校の敷地外のことでしょ
そろそろ寧でも誤魔化しきれないな
おーい、いつまで遊んでいるんだそろそろ片付けて帰るぞ
オレは、イーディたちに声を掛けた
ちょっと待ってヨシダわたくし、まだ、ミチと組み合ってないわ
アーニャが不満そうに言う
次の機会でもいいだろ別に、これっきりじゃないんだから
ヨシダ
また、いつでも遊びに来ればいいさ
そうそうニキニキは、そろそろスタジオへ行かないとケツカッチンな時間でしょまた、おいでよっ
寧も、笑顔でそう言う
アーニャは、外国人タレントという設定になっているからゲーノーカイ用語を使ってみたらしい
まあそうなんだけれどね
アーニャは、美智を見る
わたくしは、いつでも構いませんイーディの親しいお友達なら、わたくしにとっても大切な友人です今度、時間のあるときにお手合わせ願います
礼儀正しく、美智はそう言った
こちらこそ、お願いするわ
アーニャはまた同世代の友達を手に入れた
はいはーい、解散だよーんっみんな部活へ行ってぇニキニキのショーは、もうおしまいなんだからっ
寧が、ヤジウマたちにそう告げる
あ、ヤベ、もうこんな時間かよ
うわっ、部活始まっちまう
生徒たちが散り散りに消えて行く
さて、そしたら、あたしたちもとにかく1回パン工房へ戻ろうよっ
そうだ今日の片付けがまだ終わっていないんだよな
でも大丈夫かな
オレは、ちょっとまだ不安だった
え、ヨッちゃん何のこと
いやだってまだ、こんなことを仕組んだのが誰なのか判っていないじゃないか
遠藤を街宣車に乗せて乗せて連れて来たのは誰だ
ダダドムゥおじ様は金で雇われたと言っていた
オレの想像通り岩倉さんなのか
岩倉会長に、ダダドムゥおじ様とコンタクトできるルートがあるのだろうか
えっ、ヨッちゃん、まだ判らないの
ヤッちゃん判るの
みんなもう判っているよ
君って面白いねうふふふふ
不意に、オレの前に現れたのはテニスウェアを着た、星﨑先輩だった
あたしにはよく判らないけれどさっきのとっても面白かったわよ
この人にはオレたちのやっていたことが、何かのショーにしか見えないんだな
あー、ちょうど良かった星﨑さぁーん
寧が星﨑さんに笑顔で話し掛ける
いつの間にか、コミケの季節になっているらしい
でも、暑いしもうコミケに行くような年でもないし
ワンフェスはあっさり諦めたのに、コミケは行くかどうか悩むのは
私の自宅がお台場まで40分ぐらいで行けるからです
昼ぐらいに行って、企業ブースだけ見て帰ってもいいんだよな
そんなことを考えていたら今日の夕方4時頃
父と兄がちょっとお台場まで行って来ると言い出して
まさかコミケいや、もう終わる時間だし
今夜は、お台場の花火大会だからちょっと見てくる
ああ、そういうことか行ってらっしゃい
うん帰りは9時頃だと思うから
何て言って出掛けて行ったのに3時間もしないうちに帰って来た
どうしたのまだ外、明るいよ花火大会なんて、始まってさえいないでしょ
そしたら父は
暑すぎるもう無理だと思って、帰って来た
東京も酷暑です
623.かもめ
何を話すつもりなんだろう
オレは、星﨑さんに話し掛ける寧に注目するが
ヨシダ着替えるから、奥の部屋を借りるわよ
アーニャが、大声でオレに言う
そうだった、アーニャの私服はオレのパン工房の仮眠室に置いたまんまだった
ああ、どうぞ
オレがそう言うと、アーニャはまだ残っているヤジウマたちに向かって
ねえ、さっきのオジサンどうだったわたくしたちの次の対戦に出演していただこうかと思っているんだけど
さっきのオジサンてダダドムゥおじ様のことか
キショかった
つーか、キモいオッサン過ぎるよ
すぐに生徒たちから感想が出る
キショいキモいどういう意味
アーニャは日本語は完璧だけどこういう若者言葉の略語は判らないか
キショいは気色悪い、キモいは気持ち悪いの短縮形ネ
何と、イーディが答える
そうあんまり評価は高くないっていうことね
アーニャは、それを否定的な意見として受け取る
だが、それが良い
1人の男子が、そう言った
そうだな悪役としては面白いんじゃないの
そうねちょっと動きがコミカルだったし
服装のセンスが今一歩だったから、スタイリストを代えればイケるんじゃね
うんニキータさんと麗華お姉様が美形だからああいうオジサンがいるのも悪くは無いと思うわ
みんな手厳しいことを言う
ありがとうじゃあ、あの人は採用するってことで、プロデューサーに話しておくわ
アーニャは、笑顔でそう言った
これで、さっきの戦闘はプロモーション活動の一環か何かだったということになる
それから、この子もそのうちデビューするから、楽しみにしていてね
そう言ってアーニャは、美智を指差した
美智が反論しようとするが
わたくしと同じ陣営で闘って欲しいけれどあなたは確か、麗華さんの方なのよね
ニヤッと、アーニャは笑う
ニキータさん次の放送って、いつなんですか
女の子が、アーニャに尋ねたアーニャのファンなのかもしれない
次は秋のテレビの改編期に、雪乃さんの番組のスペシャルがあって、そこで闘うわ今度は、うちのボスも出るわよオールスターキャストで、激突するから
うちのボスとは恭子さんのことだ
その後はサッカーのハーフタイム・ショーはこの間やったから、今度はベースボールの日本シリーズに乱入するって企画を進めているわわたくしが包帯グルグル巻きの覆面投手としてマウンドに立つっていう
まあ、まだ企画段階だから実現するかどうか判らないけれどね
アーニャは、微笑む
そうよまだ企画の段階の話なんだから人に話してはダメよ
翔姉ちゃんが居た
ニキータさん、迎えに来たわ正面玄関にうちの会社の車を廻してあるから、早く乗って
にこやかに言う
美人だし、スポーティなビジネススーツ姿の翔姉ちゃんは芸能界の人に見える
何を驚いているのよわたくしが突然現れたのが、そんなに不思議
いや、翔姉ちゃんだって一流の警護人だ
気配を消して行動する能力はある
いえ、ちょっと驚いただけまさか、あなたがわざわざ来て下さるとは思わなかったわ
アーニャは、苦笑してそう言う
ええ、こちらも色々立て込んでいてね次のスケジュールが詰まっているのよあなたの会社とは、ちゃんと話してあるから安心してわたくしたちが責任を持って、次のスケジュールに間に合うように送り届けてあげるから
翔姉ちゃんは、平然とそう言った
アーニャは、オレの顔を見る
問題無いよ翔姉ちゃんを信じて
ニッとオレに微笑む、アーニャ
ちょっと待っててすぐに着替えて来るわ
そう言って、工房の中に進む作業部屋を抜けて、奥の部屋へ
ふーん、ここがあなたのお城なわけね一度、見に来たかったのよ
翔姉ちゃんが、学食に付随しているオレのパン工房の中を覗く
ああ、克子さん、恵美ちゃんこんにちわっ
雪乃さんもお久しぶり
雪乃は返事しないまた不機嫌そうに携帯をイジッている
メグも不満顔のままだ自分のテリトリーである学校に次々と他の女が乱入してくるのが嫌なんだろう
あら、2人ともご機嫌斜めなのね
こうやって遠くから見ると本当は姉妹なんだってことがよく判る
雪乃とメグは、よく似ている
気にしないで下さいねちょっとナーバスになっているんです
代わりに、克子姉がニコッと笑って会釈する
ちょっと寄っただけよすぐにニキータさんを連れていなくなるから気にしないで
翔姉ちゃんは、2人にそう告げた
誰なんだよあの人
よく知らない上級生が、オレに尋ねる
あの人も、すっげぇ美人だよな
ホント綺麗な人よね
ユキノやニキータたちの放送のスポンサーをしている会社の偉い人なのネ
オレの代わりに、イーディが答えた
確かに、翔姉ちゃんは今では香月セキュリティ・サービスの現場部門のトップだ
ええ、こちらの学校とも提携することになったの
翔姉ちゃんが、生徒たちに言う
この子のパンのコースもそうだけど、こちらの学校では、来年以降、もっとたくさんの職業訓練コースを増やす予定でしょわたくしたちの会社は、その企画運営に参画することになっているわ
あのちなみに、どちらの会社ですか
女子生徒が尋ねた
香月グループよ
ニコッと微笑む翔姉ちゃん
香月グループなら、多岐にわたる事業を展開しているからこの話には説得力がある
ていうことは、職業コースの子は将来的に香月グループに入社できるんですか
ええ優秀な成績を修めた生徒は、優先して入社していただくことになると思うわ
えー、オレ、今から職業コースに移ろうかなぁ
何言ってるのあんた3年生じゃないの
そうだよ今年は、こいつのパン屋コースしか無いんだぜ
そうね今年度は試験的な導入だから正式に色々なコースが動き出すのは来年度からになると思うわ
3年生の君は、残念だったわね
あのちょっと
オレは、翔姉ちゃんを呼ぶ
オレは、他のやつらに聞こえないように小声で尋ねた
何かあったの
アーニャは香月セキュリティ・サービスとは敵対している設定になっている
だから、こういう他の人の眼のある場で、翔姉ちゃんとアーニャが接触するのはマズいはずだ
アーニャは公安警察が逮捕したがっている、キョーコ・メッサーの配下なのだから
本来ならそろそろ、この学校に恭子さん側の人間多分、バービーさん辺りが、アーニャを迎えに来る予定になっていた
それを覆してわざわざ、翔姉ちゃんが来てくれたということは
これからよこれからあるの
翔姉ちゃんは、ハァと溜息を吐く
だからニキータさんが、確実にここから退出したことを示さないといけないのよ
誰に示すのか
公安警察だろうおそらく
まあ、安心してニキータさんは、わたくしたちがちゃんと送り届けるわ
翔姉ちゃんクラスの人が出張ることで、公安警察の介入を防ぐのか
ていうかバービーさんたちが迎えに来られない事情ができた
今、このエリアは警護レベルがマックスだから
このエリアつまり、うちの高校とお屋敷
警護レベル・マックスということはジッちゃんが来ているのか
ジッちゃんも、ミナホ姉さんと京都に行ってたわけだし
一緒に東京に戻ってそのままお屋敷に来た
オレは一応聞いてみた
麗華はみすず様の警護に付いているわ
はいですからわたくしだけ、4時間目の始まる前に早退して、こちらに参りました
美智だけ自分の学校を早退して、オレたちの高校に来た
わたくしが車で連れてきたのよだから、さっきの闘いは見ていたわ
翔姉ちゃんの車で
ここに来たのはみすずの指示か
みすずも翔姉ちゃんも今日の午前中の段階で、ここにダダドムゥおじ様が現れることを知っていたということになる
遠藤が現れるだけなら美智を送り込む必要は無い
詳しいことは後ほどご報告致します
そうだなここでは人の眼がある
アーニャが戻って来た
寧の貸した制服から元の純白のジャンプスーツと、革のロングブーツに戻っている
うん、この格好だと華やかな少女戦士のイメージが強い
現実世界とは違うテレビの国の人間に見える
ネイ、ありがとうこれ、返すわ
アーニャが、綺麗に折り畳んだ制服を渡そうとする
星﨑さんとずっと喋り込んでいた寧は、アーニャに
あげるよっ今度、来た時にまた必要でしょっ
優しいお顔で、アーニャにそう言う
またいつでも、体験入学しにおいでよっ
ネイ
そうネ遊びに来るといいネ
イーディも、そう言う
みんなも、そう思うよねっニキニキにまた来て欲しいよねっ
ネイの言葉に、学生食堂の生徒たちは
うん、また来て下さいよ
今度はうちの部にも体験入部して下さいよ
お前んとこ、水泳部だろ
あ、将棋部もお待ちしていますっチェスもありますから
うち、釣り研究会ですけれど良かったら
鉄道研究会です
卓球部ですけれど遊びに来て下さい
柔道部女子ですけれどお話してみたかったです次の機会には
あたし歴史研究会の歴女なんですけれど
それぞれに、アーニャに声を掛ける
ええそうね
アーニャは、嬉しそうだった
じゃあ、次の機会には
ああ、これでは足らないなもう一押しだ
来月には、また日本へ来るんだよな
レイちゃんとの再対決特番は10月の予定だ
ちょうどその頃、学園祭だからまた来いよ
具体的な日時を決めてしまった方が良い
ガクエンサイ
high schoolのFestivalネ
イーディが、説明した
そうだよ、学園祭に来て下さい
待ってますニキータさん
そうね楽しみにしていますからっ
男子生徒も女子も口々に、アーニャを誘う
アーニャは
翔姉ちゃんに振り向いた
何も問題は無いわよ
微笑む、翔姉ちゃん
じゃまた来るわあなたたちのFestivalへ
恥ずかしそうにアーニャは、そう言った
ヤッちゃん最後に、アーニャに何て言ってたの
オレは作業場の片付けをしながら、寧に尋ねる
アーニャと翔姉ちゃんを見送って
今は、オレの身内だけでパン工房の中に居る
学生食堂へ通じるドアは閉めたし、鍵も掛けた
一般の生徒に、オレたちの話を聞かれる心配は無い
あ、翔お姉さんと出て行く時に、あたしが英語で喋ってたこと
そうだよ何か言ってたでしょ
あなたは、チャイカじゃないよって言ったんだよ
チャイカ
ほらアーニャが、あの時にヤー・チャイカってロシア語で呟いたのを覚えている
あの時って
ああ、アーニャがオレとセックスしてイク時に
何か、オレには判らない言葉を呟いていたよな
ヤー・チャイカわたしはカモメ
オレの横で、洗い物を手伝ってくれている美智が呟く
知っているのか、美智
えー、あんた何で知らないのよ
後ろでふんぞり返っている雪乃が、オレたちの話に割り込んでくる
有名でしょわたしはカモメ
昔のロシアのまだソビエト連邦っていう国名だった頃の宇宙飛行士の言葉ですよね確か、世界で初めて宇宙へ行った女性の
不機嫌そうに、メグが言う
雪乃がオレと会話しないように、さらに間に割り込んできた
そうそう、テレコシワさんね世界初の女性宇宙飛行士チャイカっていうのは、テレコシワさんの個人識別用のコールサインでロシア語でカモメっていう意味だから地上との交信で、こちらチャイカって返事したのがわたしはカモメって翻訳されたんだよっ
まあ宇宙船に乗って、地球の周りを廻りながらわたしはカモメって言うのは、何か自由に空を飛び回っているみたいで開放感のあるセリフとして受け入れられたんだよね日本では
でもわたしはカモメというセリフは、他にも意味があります
ロシアの劇作家、アントン・チェーホフのかもめもちろん原題はチャイカという作品にもわたしはカモメというセリフがあります
美智は武芸だけでなく、頭もメチャクチャ良い
それにみすずのお付きで、劇場にもよく行くからこういうことにも詳しいのだろう
男に人生をメチャクチャにされた若い女優のセリフですわたしはカモメ男は以前、猟銃でカモメを撃ちましたそして、その獲物を剥製にしてくれと頼んでいたのにすっかり忘れてしまっている自分が剥製にしてくれと頼んだことどころか、そのカモメを撃ち殺したことさえ忘れている女優は、自分も男の手によって撃ち殺されたカモメだと思っているんです男の方は、女優を愛したことどころか、捨てたことさえ忘れているだからわたしはカモメ
まあ、そのチェーホフの芝居のセリフとテレコシワさんの交信はたまたま偶然に似通っただけっていうのが定説になっているけれど、あたしは違うと思っているんだ
美智の説明を受けて、寧が話す
テレコシワという宇宙飛行士の乗った宇宙船ボストーク6号っていうのはね、ソビエト連邦のボストーク計画の予備機なんだよつまりオマケ
オマケ
うん当時のソビエト連邦は、アメリカと宇宙開発で競争してたからさ最初に人間を宇宙に打ち上げたのは、ソビエトそれはもちろん、男の人ねだから、ついでに世界初の女性宇宙飛行士も、アメリカより先に打ち上げちゃえって思ったんだよただ記録を作るためだけにそのために宇宙船に乗せられたのがテレコシワさん
記録のためだけ
だってテレコシワさんの後、宇宙に女性が行くのは20年近く経ってからだよテレコシワさんの打ち上げが1963年で、次の女性飛行士はアメリカのサリー・ライドさんで1983年もう、スペースシャトルの時代だよ男女同権がうるさく言われるようになってきたから、女性も宇宙に行けるようになったんだ男のようにね
つまり、テレコシワさんは全然、自由じゃないんだ狭いカプセルに押し込められて、宇宙に打ち上げられて自分ではどうすることもできず、あらかじめ決められたコースを飛んで、また地球に戻ってきただけだからテレコシワさんというチャイカも、全然、自由じゃない男たちの思惑に、引きずり回されただけなんだよ
わたしはカモメ
アーニャが、オレとのセックスの絶頂でそう呟いた
多分、ロシア時代のアーニャの近くに居た女性の口癖だったんじゃないかな多分その人も男の人に人生を狂わされた体験があって何かにつけて、わたしはカモメって呟いていたんだと思う
わたしは、カモメ
そしてアーニャもお父さんのこととかあったしさ自分も、男に人生を狂わされるんじゃないかって、気分が強いんだと思う
だからミス・コーデリアの下で、同性愛に耽っていた
でも、アーニャは真性のレズビアンでは無かった
オレとのセックスを楽しんでいたのだから
ほら、アーニャ最初に会った頃は、人生を投げてるっていうか、捨て鉢になっている感じが強かったでしょ
確かに、以前のアーニャはやさぐれている感じがした
わざとミス・コーデリア以外の人間には、横柄な態度をして人から嫌われるように、振る舞っていた
でも、そうじゃないからアーニャは、全然、自由になれるから誰かの獲物男にいいようにされるカモメじゃないからそれが判って欲しくてあたしは、ああ言ったんだよあなたはカモメじゃないよって
あの子は本当は心の優しい、良い子だもんね
アタシはトモダチだものネ今度は、ミチも立ち合ってあげてネそして、ミチも親友になってネ
イーディは、笑ってそう言った
オレからも頼むよアーニャは、オレにとっても大切な友達だから
お友達なのですかご主人様
美智は、ジッとオレを見る
あの方ともなさったのですよね
ああ、したよ
ムスッとするのはメグと雪乃だ
わたくしは、ご主人様の奴隷ですからご主人様が他の女性を愛されることに嫉妬は致しませんむしろ応援致しますですが
ニキータさんを、ご主人様の女にはなさらないのですか
あの方は性格もよろしいですし技もありますダダドムゥ氏が現れた時には、率先して前に出て下さいました
美智はちゃんと見ている
家族に迎えるのに申し分のない方だと思いますが
いや、アーニャはオレたちの家族にはならないあの子には、あの子の家族がある
ミス・コーデリアたちがすでに居る
1人で孤独の中でもがいていてずっと家族を求めていたオレたちとは違うよミス・コーデリアは、ちゃんとあの子の面倒を見ているから
オレたちと接触されたことさえミス・コーデリアが仕組んだことだ
だから、オレはアーニャの友達になったんだ
アタシも友達ネ
あたしも友達だよっ
イーディと寧が微笑む
ミス・コーデリアはアーニャには友達が必要だと思ったんだだから、オレたちに引き合わせた
そしてミナホ姉さんもオレたちには、アーニャのような友達が必要だと感じた
そうでないとオレたちは家族だけで見つめ合って、内側に崩落してしまう
うんアーニャは、大切な友達だ
ちょっと待ちなさいよあんた友達とセックスするの
友達とセックスするなんておかしいわよ
雪乃の横で、メグも腕組みしてオレを見ている
普段は仲が悪いのに今は同調し合っているんだな
何でおかしいんだよ
おかしいに決まっているでしょ恋人でもないのにセックスするなんて
雪乃はこういうところは常識的なんだな
友達だってセックスするよオレお前ともセックスするじゃないか
オレはさらっと言った
あ、メグも絶句している
オレたち友達だけどセックスしてるだろ
雪乃は、眼をパチクリさせて
あたしとあんたが友達
ああ、友達だお前がどう思おうと、オレはそう思っているよ
あ、あんたねえ
それにセックスもしたいと思っている
部屋の中がしんと静まる
あたし、昨日のテレビで言ったでしょ
ああ、観てたよ
そうよあたしは、あんたとはもう絶対にセックスしないんだからねっ
どうしてって
いや、そんなこと言わずにまたしよう雪乃
あたしはそれだけれは嫌だって言ってるでしょ
ツンと横を向く
あのさ、雪乃渚も妊娠したんだよ
オレは告げた
妊娠
うん渚も、無事にオレの子を孕んだその内に、ここに居る克子姉も妊娠すると思うだから、お前出産のことは心配しなくていいからな渚と一緒に、全部、病院から何から手配してもらうから
雪乃は困惑していた
へえそうなの
じゃああの女も、しばらくはあんたとセックスできないのね
雪乃は妊娠中に、子宮に精液が入るのが良くないことを知っている
多分池田女医から聞いたんだろう
精液には、子宮を収縮させる成分があってそれが胎児には良くないらしい
いやするよ
えだって
安定期になったらしてもいいんだよ子宮に精液が入らないようにすればいいんだ
雪乃は眼をパチクリさせている
だからさ渚の中に挿入して、渚がイクまでセックスするんだよオレは、渚の中で射精するのは堪えるそんで、射精したくなったら
渚から引き抜いてあたしの胎内に射精してもらうわ
うんこれから練習するからうまくできるように妊娠中だからって、セックスが楽しめないんじゃ、渚が可哀想じゃないか
できるんだよ妊娠中でもセックス
オレは雪乃が、ゴクリと唾を呑み込むのを見た
雪乃は、どうする
お前はもう安定期なんだろ
お前の中にオレのペニスを押し込んで雪乃がイクまで動くことだってできるんだぜ
真剣な眼で雪乃はオレを見ている
そして射精は、メグの中に
え、ヨシくん
オレ雪乃とメグと一緒に抱きたいんだよ
コミケ行ってみました
さすがに並ぶ気力は無かったので
12時頃に家を出て1時前に会場到着
何だこの異常な人数恐ろしいほど人が居ました
そして暑い暑すぎる
会場内、人が多すぎてクーラーとか全然効いていませんでした
昔のコミケを思い出しました
1983年とか84年の晴海の夏のコミケを
会場の熱気と湿度があの頃のようでした
企業ゾーンとか見て廻ったのですが凄いね、みなさんの購買力は
ところでコスプレの規制って、いつ緩和されたのですか
昔は長い柄物の小道具とか、モデルガンとか持ち込み禁止だったのに
あと、露出の高いコスプレも
15年前は凄くうるさかったはずなのに
きわどいビキニとかの衣装で普通に歩いている
しかも、何人も下乳丸出しとかで
いつの間に全部アリになったんだ
いや、私は規制前の87年くらいの頃の
中高生が、マジで全裸に両面テープで布張っただけみたいなエロ過ぎるコスプレで歩いていた時代を知ってますが
毛とか乳首とか、はみ出しまくってた頃の
帰宅するとまだ午後3時
うーん、お台場は本当に近いなあ
624.ペイ・バック
あたしは、嫌よ
雪乃は、即答した
あたしも、嫌だわ
でも、オレはしたいんだよ2人と
オレは、改めて言う
ヨシくんはあたしよりも雪乃の方が好きなの
そんな話はしていないよ
オレは、キッパリと言う
2人とも好きだこれからも、ずっとセックスしたい
そんなのズルいわよ
メグは、俯く
そうこの人が望むのなら、あたしは何でもさせてあげたいけれど
コンピューターに売上額を打ち込みながら、克子姉は言った
アタシも、2人とも好きヨメグミもユキノも2人とも良い子ネ
気の色で人を判断するイーディからすると、メグも雪乃も同じ様な存在なんだろう
武闘派の彼女にとっては、家族に物理的に危害を加えようとする悪意を感じない相手は、全て善良な存在だから
あたしはさっ
口を開いた寧に、克子姉が
寧ちゃんはちょっと黙っててここは、寧ちゃんが入り込むとかえって混乱する局面だから
そんな寧を無視して
わたくしもご主人様がお望みなら、どんなことでも受け入れます
美智が、静かに言った
オレは、克子姉たちに礼を言う
オレは欲深なんだよだから、一度手に入れたものは絶対に手放したくない
そう言ってメグと雪乃を見る
あたしはあんたのものになった覚えは無いんだけれど
雪乃が、ギロッとオレを見る
ああ、雪乃はオレの女じゃないもちろん、家族でもないでもオレの大切な友達だからさ
雪乃はダメよ雪乃だけは嫌
メグうつむいたまま呟く
ね、この中で他に雪乃のことが嫌いな人はいる
オレの問いに克子姉たちは、首を振る
まあ、色々あったけれど今は好きよどっかっていうと
克子姉は、相変わらず経理の手を止めずに言う
前は自分の主張ばかりして、ギャーギャー泣き喚くだけの子だったけれど今は、周りのことも見えるようになったしそれに、雪乃さんて元々カラッとした性格だものね嫌いじゃないわよ、あなたみたいな子
あ、そあたしは、あんたみたいな女嫌いよ
そういう正直なところも気に入っているわ
克子姉は、ククッと笑う
克子お姉さんは雪乃を家族に入れたいんですか
メグが驚嘆している
ああ、雪乃がオレたちの家族になるわけないだろ
オレは、笑顔でメグに言う
オレさニキータのアーニャのことがあるまで、オレはもう家族のことだけを見て生きていこうって思っていたんだセックスも家族とだけしかしちゃいけないんだって
そうよヨシくんにはそうして欲しかったわ
メグは悲しそうに言った
でも今は、あたしも判っているわアーニャさんは、良い人だったし家族のことばかり見ていたら、ヨシくんが押し潰されちゃうってことも判ったああいう人となら、良いと思うわでも
わざと雪乃を見ないまま
雪乃はダメよ
そうかなオレ家族だけしか見ちゃ行けないって、思い込んでた時だからもう、雪乃とのセックスは無いんだって覚悟してた雪乃は、絶対にオレの家族にはならない家族にしちゃいけない人なんだからだけど
雪乃は真顔で、オレを見ている
アーニャのことでああ、友達とのセックスもアリなんだって気付いたらさ最初に思ったのは、雪乃のことだった雪乃とまた、セックスできるかもしれないって
あたしはお腹のこの子さえ産んだら、あんたたちとは永遠にサヨナラできると思っているわよ
オレは鋭く言った
な、何でよだって
さっき雪乃自身が言ってたろ今の香月家による保護も、ジッちゃんが倒れたりしたらどうなるか判らないって
そうよだから、あたしは今頑張って、テレビの世界にツテを作って
そういう努力だけで、何とかなると思っているのか
もし香月家の代替わりが上手くいかなくてオレたちに敵対的な人間が、香月家のトップになったら、雪乃だってトバッチリを食うことになるだろ雪乃が今、芸能界に個人的なパイプを作ろうと上からの圧力が掛かれば、そんなの簡単に潰されるさ判っているだろ雪乃が今、テレビに出られること自体、そういう闇の力が働いていた結果なんだから
だったら、何だって言うのよ
ブスッとして、雪乃はオレに言う
ミナホ姉さんはすでにジッちゃんの庇護がなくなった後の準備を開始しているというか、当のジッちゃん自身が、率先して行動しているよこれは、みすずや瑠璃子や美子さんたちの将来に関わる問題だから
オレは、まだ詳細を聞いていないけれど
ジッちゃんが、ミナホ姉さんだけでなく、みすずたちまで京都に連れて行ったのは何か意味があるはずだ
香月家よりもさらに格式の高い名家の娘を黒い森の娼婦に受け入れる
それはジッちゃんにとっては、未来のための布石なんだと思う
美智の話や朝の電話によるとみすずが相当、ショックを受けているようだし
何が言いたいわけ
雪乃に、オレは答える
オレたちはオレたちで何が起きようと、生き残っていくってことさ絶対に潰されないどんな困難も、家族を守ってみせるさ
雪乃は赤ちゃんを産んだ後も、オレたちの友人としてオレたち家族の側に居た方が良いんじゃないかな
家族じゃないけれど大切な友人だ簡単に見捨てたりはしないよ雪乃がオレたちの側から離れない限りは
視線を逸らすことなくまっすぐに、雪乃を見る
条件は何よ
雪乃は一瞬、間をおいてから、そう言った
これからも、オレとセックスすることオレ以外の男とセックスしたら、お前を見捨てる
ずいぶん勝手なのね
知らなかったのか
知ってたわよそうね、そういうやつだったわねあんたは
睨み合ったままのオレたち
あんたがあたしとしたくなったら、相手をしろってことよね
お前がしたくなった時だって相手をするよ
だけど雪乃はオレの家族じゃない悪いけれどオレは、雪乃と家族なら、家族の方を優先するセックスも、他のことも家族の生死に関わるようなことなら、雪乃を見捨てることもあるそのことは判っていて欲しい
まあそうでしょうね
でも例え、あたしを見捨てるようなことが起きたとしてもお腹のこの子のことは、守ってくれるわよね
当然だろその子は家族として受け入れる幸せにする約束するよ
オレの子だ死んでも守る
ホントあんたは結局、あたしに選択肢の無いことばかり強要するのね
受け入れるわ受け入れるしかないじゃないあたしの子の未来を考えたらあんたたちから逃げ出せないことは判っていたわよ
済まない
バカ謝らないでよそういう関係じゃないでしょあたしたちは
オレと雪乃は今更、関係を改めることなんかできない
ましてや、過去を抹消することなんて
それとさっきのセックスの件だけど
ほらあたしとセックスして、射精だけは他の子にするってやつよ
ああ、その話か
もちろん、恵美とは嫌よその考えは、変わらないわでも
舞夏とならしてもいいわよ、あたし
マナと
ね、あんた舞夏とは、毎日セックスしているの
雪乃が寂しげな眼で尋ねる
ああ、しているよ旅行とかで、離れていない限りはマナとアニエスとは、一日一回は、必ずセックスしている
ほら白坂創介の隠し子、お前のもう1人の妹だよ
あああの子ね
雪乃は白坂創介が私刑に処せられた夜を思い出したらしい
マナもアニエスも心がとても不安定だから、毎日セックスしないとダメなんだ
肌と肌肉体の直接的な繋がりによって、安心を得ている
セックスで、オレとの絆を確かめないと不安で不安で堪らなくなるのだろう
あの2人だけは優先的にセックスしている他の女たちも、そのことを許してくれているよみんな、判ってくれているから
そう妹が迷惑をかけているみたいね
迷惑じゃないよ2人ともオレの女だ一生、愛していくって決めているんだからみんなだって大切な妹だって思っているから、あいつらに優しいんだよ
あたしね舞夏とは、仲直りしたいのよ
身体をすくめて呟くように言った
あたしは良い姉ではなかったから
雪乃マナはなマナはもう、マナなんだあいつは、心の中で白坂舞夏という過去の自分を抹殺したがっているていうか、白坂舞夏を否定しないと生きていけないんだと思う
マナという別の人間になることで精神のバランスを保っている
だからお前と、姉妹として仲直りするっていうのは、難しいと思うぞ
そうね何となくは、判るわあたしだって、白坂雪乃を辞めたいもの辞められるものならね
雪乃をそんな苦況に追い込んだのはオレだ
オレが雪乃を犯しその映像が、ネットに流出している
雪乃の父親の犯罪を公表したのもオレたちだ
白坂創介を無残に謀殺したのも
だから、白坂雪乃と白坂舞夏っていう姉妹の関係には、もう戻れないぞ今、それを強要したらマナの心が壊れるからな
じゃあ、どうすればいいのよ
例えば白坂雪乃と、オレの妹でセックス奴隷の吉田マナとで新しい関係を作れないか姉妹じゃなく友人として
でも、あたしたちは血の繋がった姉妹なのよ
心はかけ離れちまっているんだから、しょうがないだろ
雪乃はしばにく考え込んでから、オレに言った
もうダメなの
それは、オレには判らないよでも今は無理だ
ハァと大きく溜息を吐く雪乃
じゃ、しょうがないわねそれでもいいわあたしね、どんな形でもいいから、もう一度あの子と仲良くなりたいのいいえ姉妹の時だって、仲良くなかったわよねあたしたち
自嘲気味に雪乃は笑う
あたしが悪い姉だったから本当にあの子には何もしてあげてないわホント、あたしって馬鹿で、我が儘で、救いようの無い女だったから
後悔しているんだ雪乃
だから、今度こそはあの子と仲良くなりたいのよ
じゃあ、仲良くなれよ頑張ってみろよでも、まだ2人とも生きているんだ何とかしろ新しい関係で、仲良くなればいいじゃないか
そうねそうなのよね
オレに向かって、深く深く頭を下げた
だからお願いお願いするわあたしに舞夏と一緒に、あんたとセックスさせてお願いしますセックスさせて下さい
そういう形でしか、今のあたしたちが関係する方法は無いでしょ
マナの心は複雑に壊れてしまっている
オレとのセックスで、心の平穏を保っているのなら
雪乃との関係再構築もセックスを通すしかない
あの横柄で傲慢だった雪乃がオレに頭を下げている
あんたがあたしと恵美と一緒にセックスさせようとしたのも、それが目的でしょセックスを通してあたしたちを仲良くさせたかったんでしょ
今の雪乃には客観的に物事を見る眼が備わっている
ああそういうことだ
メグは驚いている
オレは雪乃とメグには、仲良くして欲しいんだよ
どうしてどうしてなの
だって、お前らお前らだって、姉妹じゃないか
違うわあたしたちはだって、雪乃は雪乃は、あたしのことをずっと見下していたのよあたしのこと姉妹だなんて、思ってくれなかったんだから
感情を爆発させるメグ
あたしのことをいつもいつも苦しめて嫌いよ、大っ嫌い
でも、メグはずっと雪乃と仲良くしたかったんだろ
オレは穏やかに言った
な、何を言っているのよヨシくんそんなことそんなこと、あるわけないじゃないっ
メグは否定する
メグオレは知っているんだいや、覚えている
あれは、5月のいや、連休前だから、まだ4月だったと思う
記憶を呼び起こす
場所は、ここの隣そうだ、学生食堂の中だメグ覚えていないか
メグと雪乃が話をしていたオレは、校長室の下の監視室で、ミナホ姉さんに監視カメラの映像で見せてもらってた
メグはまだ思い出せないでいる
あっあたし、思い出したっ
寧が声を挙げる
あたしも覚えているわ
克子姉が呟いた
ああ、あの日監視室の中には、寧も克子姉もいた
雪乃に対するオレたちのアクションは、もう始まっていただから、雪乃は精神的に落ち込んでいてそんな雪乃を見て、メグが学食で声を駆けたんだ
ああでも、あたしはそれを迷惑に思って恵美に酷いことを言ったわ
メグも思いだしたようだった
それなのにあんたは、あたしに言ってくれたわよねあたしと仲良くなりたいって
あの日のメグは恩讐を越えて、雪乃と仲良くなろうと試みていた
その時のメグは本気で雪乃と仲良くなりたかったんだろ
違うわよあたしは雪乃と対等になりたかっただけよただ、それだけ
そして雪乃を見る
同じお父さんの娘なのに雪乃は、大切に育てられて、幸せででも、あたしの方は、父親に娼婦にされる寸前で嫌だったの納得できなかったのだからあたし、雪乃と対等になるために雪乃のことを呼び捨てにしたのよ仲良くなりたいって言ったのだって、対等の立場を勝ち取るためよそれだけだったのよ
メグの言葉を、雪乃はジッと聞いている
じゃあ今はどうなんだメグは、雪乃と仲良くなりたくはないのか
そんなの無理に決まっているわよ
どうして無理なんだ
だって、あたしたち全然判り合えない存在だものあたしと雪乃は違うのよ
オレも前は、そう思っていた
雪乃と視線が合う
いや、今だって完全に解り合うことはできないってことは、判っているオレたちは違う人間だし違う環境で育って来て、考え方も違うもう、どうしょもないくらい違う
そうよあたしは、あんたたちと違うわ
吐き捨てるように、雪乃は言った
でも判り合えることもあるほんのわずかでも心の通じ合えることは
ほんのちょっとでも、心の通じ合えることがあったなら信頼して、一緒に生きていけるはずだよオレはそう思う
無理よそんなのだってあたしと雪乃、通じ合えることなんて一つも無いもの
そんなのは、やってみてから言えよ
でも、ヨシくん世の中には、どうしたって心の通じない人がいるのよ白坂創介さんがそうだったでしょそれから、シザーリオ・ヴァイオラとか
雪乃は違うだろうそういう連中とは
同じよ
あの人たちと同じよあたしにはいつも、酷かったもの雪乃
恵美あたしのこと、そんな風に思っていたのね
このままでは、また平行線だ
はい、帳簿の打ち込み終わり
克子姉が、パソコンを打つ手を止めて振り返る
あなた、これからは帳簿付けは全部あたしがやるわ
このパン工房の仕事は、全部、あなたのための修行の場だと思っていたからあなたに任せていたけれどでも、ここは、あたしにとっても勉強の場なのよねそれなら、お店の経営は、あたしの仕事なんだから経理関係は全部あたしがやるわ
ニッコリと笑ってそう言う
ホント自分はもう、高校の生徒には戻れないって思い込んでたからあなたに押し付けていたのよごめんなさいさっき、あなたはこのパン工房をあたしたちのパン屋って言ってくれたでしょだからフッ切れたのこれからは、積極的になるわ学校の生徒さんたちの前にも姿を見せちゃったしね
いや、それはいいけれど
あの、今はメグと雪乃の対立が
結局人って勝手な思い込みで、自分を縛ってしまうのねあたしはあなたのパンの先生でだから、可能な限り、あなたに任せて自分は前に出てはいけないって、思い込んでたそんなことは、誰も決めていないのにねホント、馬鹿みたいあなたと一緒に、一つ一つ学んでいけばいいんだって気付いたらすっごく気持ちが楽になっちゃった
メグミちゃんも早く、思い込みから抜け出せればいいわね
克子姉はニコッとメグに微笑む
この人に愛想を尽かされる前に
そんな我が儘なままだと嫌われちゃうわよっもう遅いかもねっ
笑顔で話す克子姉にメグはギョッとする
だって今のメグミちゃん、ちょっと前の雪乃ちゃんそっくりなんですもの我が儘で、自分のことばかりで、平気で人のことを傷付けるようなことばっかり言って
大きく口をパクパクさせるメグ
しょうがないかっ姉妹だもんねっ性格が似ているのは、当たり前よねっ
克子姉の明るい声に雪乃は
あたしと恵美が似ている
そ、そんなはずないですだって、あたし
思わず顔を見合わす2人
そっくりです
美智がムスっとして答えた
うーんと、何て言うかさ
ヨシくんち、違うよねあたしたち
似ているはずないわよあたしと恵美は
アーニャの件があった時にオレは、今までのメグへの対し方が間違っていたことに気付いたんだ
よ、ヨシくん何を言うのよ
オレは今までメグに対しては、なるべく優しくっていうか、抑え付けないように、なるべく穏やかに対応していたでも、それが逆にメグの心の不安を煽ることになって、余計にメグが甘えん坊にしてしまっていたって気づいたんだ
オレの優しさは甘やかしにしかなっていなかった
メグの場合は力強く、ピシッと抑え込んでいかないとダメなんだなメグの好きなようにさせるんじゃなくって、男のオレの方が主導権を握って、方向性を示していかないと
そうね、あなたの分析は正しいと思うわ
メグミちゃんは黙ってオレに付いてこい付いて来なけりゃ、別れるぞって男の子がハッキリしてないと、ダメなタイプだと思うわ
誰かが手綱を握っていないと自分の心の中から噴き出す感情のせいで、訳の判んない方向へ突っ走ってしまう
つまり雪乃さんと同じタイプよ
克子姉の言葉に雪乃は
あたしはそんな女じゃないわよ
同じだよオレ、今、雪乃とはそういう対し方をするようにしているもの
そういうって、何よ
ちょっと高圧的にオレの方が主導権を握って、具体的な方向性を示すそういう対し方をすると、お前との交渉はいつも上手くいく
ミナホ姉さんが、いつもそうしているだろ
雪乃もまた自分を制御してくれる人が必要なタイプの女なのだ
そうだなメグと雪乃の対処法って、同じなんだな
オレの呟きに2人の少女は、呆然となっていた
現実世界でも、真面目な子で自分のやりたいように自由にやってご覧と優しく言うと他の子とケンカしたり、全然上手く機能しないで
オレの言うとおりにやれって高圧的に命令すると、何でも上手く出来る人っていますね
特に女の子でそういう子に会ったことがあります
人のタイプによって違いますよねなかなか難しいです
625.ステップ・バイ・ステップ
似てるってあたしと恵美が
そんなわけないわよね
そ、そうよだって、あたしたち
ぜ、全然違うものね
雪乃とメグが、お互いの顔を見て言う
いや似ているよ、2人とも
そんなはずないわよっだって、あたしは
激しく反論しようとするが
メグミはずっとユキノを恐れているネDarlingを獲られるんじゃないかってネ
イーディが、分析する
それは、だって雪乃は家族じゃないんだもん
そういうことと違うノネ、メグミアナタを観ているのは、とても興味深かったヨどうして、そんなにユキノにばかり執着するノネ
だって、雪乃だけには絶対負けたくないんだもんヨシくんを獲られたくないんだもんっ
雪乃だけは嫌なのっ
あたしだってあんただけは大っ嫌いよ
メグの言葉に、雪乃が吠える
あんたがそいつとイチャイチャ、ベタベタしている姿なんて、見てらんないわよっ頭に来て、あたし授業をサボッたこともあるんだからね
雪乃がオレとメグを見て
とにかくあんたは目障りなのよっ
アタシは目障りじゃナイノカ
イーディが、雪乃に尋ねる
あたしだって、教室でDarlingとベタベタしているネ
あんたはあんたは、どうでもいいのよっもう、そういう性格の子だって諦めているし
メグミだって、こういう性格ネ何で、諦めないノカ
同族嫌悪なのかもね
克子姉がハァと溜息を吐く
違う、違うわよ同族なわけがないでしょ
そうよあたしと雪乃は、違うもの
ごめん、ちょっとこの話題今は保留でいいかな
それより確かめておかないといけないことが、たくさん有るから
昨日から立て続けに起きていること
この事件の連続は異常だ
アーニャの訪問から始まって
いや、違う最初は、ミナホ姉さんたちの京都行きだ
その不在をついてアーニャは来た
アーニャを巡る家族内での会話
雪乃のテレビでの妊娠の公表と渚の妊娠報告
今朝のメグとアーニャの競走対決
そして、遠藤とニャポレオン党街宣車の襲来
ダダドムゥおじ様
満を持しての、美智の登場
この全てが繋がっているとしたら
オレは、美智に振り向く
お前にとってダダドムゥおじ様というのは、どういう相手だ
いや闘いやすい相手かそれとも、苦手な相手か
あのような変則すぎる方を得意としている武人は、まずいないと思いますが
ダダドムゥおじ様の異次元攻撃は気色悪すぎる
しかし、わたくしにとっては決して、やりにくい相手ではございませんあの方の技や、特質などは、ほぼ捉えておりますし
美智はお台場のホテルの戦いや、グリーン山スタジオでのダダドムゥおじ様の戦闘を観ている
相手の気を反らすという工藤流の技と、相手の気の盲点を突くあの方の技は近いものがあります少なくともわたくしは、あの方の変則的な動きに惑わされることはございません
そのことは、オレも気付いていた
何よりあの方は、わたくしたちのような若い娘には、絶対にケガをさせるようなことはございませんから
ダダドムゥおじ様はロリコンだ
それも、真性の
YES、ロリータNOタッチだっけ
真っ正面から対戦したって、美智やイーディを傷付けるような攻撃はしない
わたくしとイーディが連携すれば、必ず撃退できることは判っておりましたこちらはあの方の技を知っていますがあの方は、わたくしたちの力を知らないのですから
いや、でも美智のお父さんとは面識があるんだから工藤流古武術のことは知ってただろ
父の工藤流は修行途中で止まっておりますからわたくしのように、奥義を極めてはおりません
工藤父はできちゃった結婚で、修行途中で家を飛び出したから
工藤流古武術だって、完全にマスターしていないんだっけ
一方美智は、子供の頃からお祖父さんの家に預けられて15歳にして、工藤流の継承者にまで昇り詰めた天才武闘家だ
でも、アイツ飛び道具でDarlingを攻撃してくる可能性があったカラネダカラ、Darlingのガードは外さなかったヨ
いつものイーディなら、真っ先に飛び出して行くのにオレから離れないから、驚いたよ
そうだ、美智が来る前は
アーニャが突進して、ダダドムゥおじ様と交戦して
イーディは、オレの警護から離れなかった
お前美智が来ること、判っていたのか
オレの問いに、イーディは
マサカそんなの判らないネ
しばらくは、アーニャに闘ってもらってあの子は、ああいう人と闘うのも良い経験になるネあの男の体力を削ってもらったらアタシと交代してもらうつもりだったネ
オレのガードをアーニャに任せて自分が出る
ってことはイーディは1人でも、ダダドムゥおじ様に勝つ自信があったのか
別に勝たなくていいのネこの場合は相手に撤退させればいいネアタシ体力には自信があるヨあのオトコが逃げ出すまで、闘い続ければいいだけのことネ
あの方も、体力は無尽蔵ではありませんから
なるほどあれだけ変態的な動きで、ハイスピードで闘い続ければいずれ身体的に苦しくなる
アタシが先にくたびれちゃったらまた、アーニャと交代すればいいだけのことネ
だからイーディは、2人同時の攻撃はしなかったんだ
お前ホント、冷静だな
当たり前ヨあの人はまだ、アタシたちが慌てるような相手じゃないネ
ミチが言ってる通りあの人、本気でなかったしネホント女の子とは、お遊び気分でしか闘わない人みたいネ
イーディもダダドムゥおじ様が、自分たちに危害を加える気が無いことは、感じていた
まあああいう人が、他にも3人ぐらいいたらチョット、悩むケドネ