211.放課後バトル✕フィールド

ノーマちゃあーん敵はどこん家の子か判るぅ

工藤父は、ふざけた態度でノーマさんに尋ねた

どう見ても、ノリンコ・コネクションですね

ノーマさんが、パソコンのモニターを見ながら答えた

車三台でこっちに向かってますどの車も、戦闘要員でギューギュー詰めにしてこんなの、誰だってアブナイ連中だって、すぐに判りますよ車の中に青竜刀持ってる人がいますもんっ

青竜刀

なるほどいよいよ日本人の暴力団組織からは協力して貰えなくなったからやつら、不法滞在の不良外国人系の裏組織を雇ったんだな

はい、ボスあの方々は、お金次第で何でもやりますからね

つまり日本人でない、カンフー・マスターみたいのが大挙して襲ってくるってこと

知んないあいつら、最近でも、新宿の繁華街での外国人組織同士の抗争事件で、青竜刀で殺し合いとかしてんだぜ残虐性って面では、日本人よりも遥かにヤバイ連中さ

そんなやつらがここへ向かっている

近くの主要な大通りにアルバイトのやつらに監視カメラを持たせて配置してあるわけだわでおかしな奴らが来たら、すぐに通報してくれるって仕組みなんだな

工藤父は、そういうけれど

そのアルバイトだって、普通の人では無いんだろう

香月セキュリティ・サービスの警護課は、工藤父とトニーさんノーマさんの三人しかいないことになっているけれど

工藤父は、実際には裏で多くのスタッフを動かしている

ノーマ、第一級警戒態勢発令

はい、ボス第一級警戒態勢発令します

ノーマさんがパソコンに何やら打ち込む

作戦コードネームは、何としますか

工藤父は、答えた

作戦名は幻影ハリケーンだ

ミッチィが、うんと頷く

オレは、どうしたらいい

少年あの不良外国人集団、雇ったのはどっちだと思う

今、オレたちが敵対しているのは

シザーリオ・ヴァイオラと、白坂本家

ヴァイオラの方でしょう

どうして、そう思う

白坂本家はここまでマスコミの注目を集める状態になって、不良外国人の組織なんて雇わないと思います

そりゃお金を払ったら、何でもする連中なんだろうけれど

微妙なコントロールは効かないだろうから、暴走されたら止めようがない

そんな連中と白坂家の関係がマスコミにバレたらまた世間から責められるだけだし

白坂家には、今、真っ正面からオレたちを攻撃するメリットは無いと思います

やるならこっそり、忍び込んでミナホ姉さんを暗殺するぐらいしか手が無い

車三台で殴り込みとかやるわけがない

ならやつらが、シザーリオ・ヴァイオラの雇った連中だとしたら襲撃の目的は何だ

陽動ですか正面から、アブナイ連中に攻撃させている間に他の場所から別働隊が侵入するとか

工藤父は、ククッと笑った

いいねぇその可能性は、大いにあるよ

だから第一級警戒態勢なんだ

学校の周囲に配置された工藤父の部下が、全員で警戒に当たる

いえそうではないと思います

ミッチィが口を開いた

シザーリオ・ヴァイオラには別働隊に戦力を廻す余力がありません

現在確認されているアメリカから来たシザーリオの配下は、5人ですそのうち、マネージャーのロレンザッチョ・バンディーニには戦闘能力がありません一人は、先日、わたくしが倒しました残りは3名うち2名は、ロミオ・モンタギューとジュリアーノ・ジェンカと目されています

そして、最後の一人がシザーリオ・ヴァイオラ本人

確証は無いけれど

シザーリオ・ヴァイオラは日本語が堪能ですが後の二人は英語しか話せませんこの日本では、その二人が指揮をとることのできる様な人材は確保できないと思います

確かに英語でコミュニケーションが取れて、一緒に敵地に潜入してくれるような人間を見つけるのは大変かもしれない

ヴァイオラ自身が出張ってくるって可能性はどうなんだ日本語ペラペラなんだから、自分で一軍を率いて突入してくるかもしれないぞ

工藤父が娘に問う

シザーリオ・ヴァイオラは、慎重な人間ですこの段階で自ら、突入してくることは無いと思います

いやヴァイオラが司令塔になれば、ロミオもジュリアーノも使えるだろ日本のやつらには日本語で、ロミオたちには英語で指示すればいいんだからここで、一気に総攻撃で片を付けてくるっていう可能性はあるだろう

まさかの全員突撃か

それも、ありえません

ミッチィは即座に否定した

この地で、わたくしたちを倒してもヴァイオラには、何のメリットもありませんから

シザーリオ・ヴァイオラは、寧さんを取り戻すために来日したんだろ

なら、その目的さえ果たせばどんな強硬手段を執っても構わないじゃないか

ふふっ

工藤父は笑った

そうだよな香月のジィさんが、でかいニンジンをぶら下げちまったもんな

オレは尋ねる

今回の日本遠征はヴァイオラの個人的な私怨から始まっているあのヴァイオラが、アメリカから少人数の部下しか連れて来られなかったのが、何よりの証拠だ経費はみんなシザーリオ・ヴァイオラ個人の負担なんだよ今の日本は、円高だからな滞在費が相当掛かるもんな

そうか寧さんを取り戻したり

ミナホ姉さんやマルゴさんを殺したって

ヴァイオラたちには、全く金にならない

そこへ香月さんが、ゲームを仕掛けた自分の命を賭けたゲームだ

今夜のホテルでの対決

こりゃ効くぜ香月さんを出し抜いたとなれば、日本での良い宣伝になるそれどころかすでに香月さんの敵対者から、暗殺を請け負っているかもしれない

寧さんには金銭的な価値は無いけれど

香月閣下にはある

ヴァイオラ本人がどう主張しようともマネージャーのロレンザッチョ・バンディーニが、儲け話を見逃さないさ他の二人もな

なるほどヴァイオラ本人以外は、寧さんには特に興味が無いんだ

ヴァイオラに雇われて一緒に来日したけれどどうせなら、お金になって、名を高めることのできる方がいい

では何で、今から不良外国人の集団が襲ってくるんですか

決戦が夜なら今、わざわざそんなやつらを雇って突っ込ませる必要は無い

威力偵察わたくしたちの戦力を知るために、捨て駒として突入させようということですか

それもあるだろうが重要なのは、もう一つの方だろうな

夜の決戦までに、少しでもオレらの戦力を削いでおきたいんだよ

不良外国人たちは囮でやつらは隙を付いて、オレたちを襲って来る

敵のターゲットは工藤父や、ミッチィそれから、できればマルゴさん

つまりオレたちの側の戦闘要員だ

だからこっちは全力でそれを阻止する

工藤父は、言った

不良外国人の集団と闘っている間にやつらは、オレたちを狙って来るだろう多分、狙撃だな今、この付近で狙撃可能なポイントは、全て監視させているそして可能ならば狙撃者を始末する

カウンター攻撃ですね

そうだロミオ・モンタギューでも、ジュリアーノ・ジェンカでも、どちらでもいいここで始末しておけば夜の闘いが楽になる

もっともこれは、一つの想定でしか無い

工藤父は、さらっと言った

シザーリオ・ヴァイオラは、オレたちが考えている以上にバカかもしれないこの段階で全勢力でバンザイ・アタックを仕掛けてくるような男だったら目も当てられないそれに

もしヴァイオラが、アメリカから連れて来た部下が他にもいたらどうする

そうかその可能性もある

オレらは、ヴァイオラの部下の来日を5人確認しているけれど

もし、他の便ですでに来日しているメンバーが居たら

この想定は、根本から覆されることになる

だから別働隊が攻撃してくるっていう可能性も、やっぱり考慮しておかなきゃならねぇんだよ

1パーセントでも可能性が残っているのなら、対応策は考えておかないと

ゲームじゃねぇんだミスったら、誰かが死ぬ自分が死ぬのは諦めが付くが自分の判断の甘さで、誰かが命を落とすってのは気分が悪いだろ少年

工藤父が、オレに言った

ロミオ・モンタギュークラスの熟練犯罪者が、もう5人も居たらこっちは対応し切れないぞ香月さんが、昨日の今日でホテル決戦を決めたのも、やつらにこれ以上の増員をさせないためだしな

決戦までの期日を延ばせばヴァイオラは、確実に香月さんを殺せるだけの戦力をアメリカから日本に呼ぶだろう

そうなる前に今夜という日付で設定したんだ

さすがに、アメリカは遠いからな

でも、お父様ロサンゼルスでしたら、十二時間でこちらに辿り着けます

ミッチィが言った

香月閣下がホテル決戦を明言したのは昨夜の深夜だ

今日の夜までは十二時間以上ある

ロサンゼルスから、増援部隊を呼ぶことは物理的には不可能では無い

バカ言え、時差ってもんがあるだろこっちへ送る部隊を編成するんだって、あっちが夜中じゃ何もできねぇよ犯罪者ってのは、軍隊じゃないんだ希望の人数を言えば、すぐにパッケージされて送られて来るってわけにはいかないさその上能力があって使えるやつほど、プライドも高いからな今すぐ荷物をまとめて日本へ行けっ命令したって、そういう奴らがその日のうちに飛行機に飛び乗るわけが無い

うん早くても一晩寝て、翌朝の出発だな

というのもあくまでも、こっちの勝手な想定だ

工藤父は、あっさりと前言を翻す

もしかしたら、すでにヴァイオラの手下が200人くらい成田に向かって飛び立っているかもしれないそういう可能性も、一応は考えておかないといけない

決めつけてはダメってことか

どんなことでも全部、考えておくんだそうじゃないと強気の時は自分たちに有利な想定しかしねぇし、弱気の時にはついつい不利な想定ばかり考え込んじまう人間てのは、そういう生き物だからな

工藤父は、ニヤッと笑った

だからとりあえず、あの不良外国人たちはオレとミッチィくんで対処するいいな

敵は、銃器を持っていることを想定して闘え工藤流レベル3のGだ

オレはどうしたらいいでしょうか

工藤父が、オレを見た

このタイタンボーイは、完全防弾仕様だこの中で待っていろ

トニーとノーマは、先に食事にしてくれオレの分ちゃんと残しておくんだぞ

トニーさんが、そう言ってオレたちの持って来た昼食を拡げる

さ、ノーマさん食べよう

あら、お素麺ちゃんと氷で冷やしてあるのねっ

ボス氷が溶けないうちに、帰って来て下さいよ

と道の向こうから、明らかに怪しい車が三台、こっちに向かって爆走してくる

行くぞ、ミッチィくん

二人がタイタンボーイの外へ飛び出していく

ちょっちょっと待てよ

トニーくん、ポチッとな

アラホラサッサー

トニーさんが、何かのスイッチを入れた

ズババババーンッ

暴走してくる車の前の地面が、轟音と共に吹っ飛ぶ

三台の車が、急停止した

先手必勝ナリィィィッ

工藤父が手にした鉄パイプで、戦闘の車のフロントガラスを砕く

中に乗っていた不良外人たちが、何やらわけの判らない言語で喚きながら下りてくる

青竜刀を持った男が、威嚇しようと刀を振り上げた瞬間工藤父の鉄パイプの餌食になる

ふはははっ必殺・砂塵風車ぁぁッッ

工藤父は、鉄パイプをブンブン振り回しながら、敵をブッ飛ばしていく

うちのボスは特別な武器は使わないんですよ

素麺を食べながらトニーさんが言った

工藤探偵事務所の看板も背負ってますしいつも派手な格好しているでしょ毎日の様に、警察に職務質問されるわけです車の中の物も、チェックされたりね

だから、あんな風にどこにでもある物で闘うことにしているみたいですよ

ノーマさんも、ちゅるちゅると素麺を食べながらそう言った

もっともあれも外見が普通の鉄パイプみたいなだけで、材質の強度も軽さも戦闘用に厳選したもんなんですよね

一見ふざけているようで、根が真面目なのが工藤父という人間らしい

でも、鉄パイプの穴を工夫して振り回すとビュンビュン音が鳴るようにしてあるんでしょ

そうそう、いい感じで音が鳴るように色々工夫したらしいよ

変なことには人一倍こだわるのよね

あの鉄パイプも名前があるんだよな

確かダグラス・キューとかって呼んでたと思う

工藤父が、連続技で二人の敵をブッ飛ばす

秘技、ダブルヘッド・スネーク

二人の部下は、素麺をすすりながらボスを見つめて

ああいう名前は、どこから思い付くんだろうねぇ

一方、娘のミッチィの方は

レッド・ビュート

ミッチィは、マルゴさんから貰った赤いムチを使う

すっかり、慣れたらしい

敵の接近を許さず叩きのめしていく

しっかし工藤流ってのは

うん、いつ見てもデパートの屋上のヒーロー・ショーっぽいよね

トニーさんノーマさん

あなたたちが、それを言うんだ

あれなら遠目に見ると遊んでるようにしか見えないからね

そういう意味では、あんなんで正解なんだろうけれど

でもちょっとバカっぽくない

まあねボスの上のお嬢さんが工藤流を受け入れられないのはよく判るよ

下のお嬢さんは楽しそうだけど

美智さんはお父さん子だからね

ミッチィの赤いムチが踊る様に敵を蹴散らしていく

ハイハイハイハイッイヤアハッ

技が決まった後に、スッとポーズを決めるあたりが実に工藤流らしい

ホント見た目は可愛らしいのにね

戦闘民族だよな

ていうか戦闘脳

どう格好良く闘うかしか、考えてないもんな

その半分でも、お洒落のこととか考えればいいのに

うんとても残念な感じがする

ところでトニーさんとノーマさんは、闘わないんですか

オレは思い切って聞いてみた

そりゃ、あたしたちは

そういう契約はしていないから

契約

頭脳労働専門なんですボクたちは

得意じゃないんですね闘うのは

ボクは格闘術の基本的なことしか習得してないんですけれど、ノーマさんの方は

いやノーマさんは、昔、地元でケンカ鬼の嫁と呼ばれた方ですから

もう昔のことよ

だから、本当にどうしょもなくヤバそうな時は、ノーマさんも出撃することになると思いますけれどそういうのは、本当に状況がサイアクな時だと思って下さい

あたしは戦闘はやりませんそういう契約なんだからっ

ノーマさんは、ぷりぷり怒りながら素麺をすすっている

あ、危ない

後方に居る不良外人がピストルを取り出した

はい、ポチッと

トニーさんが、何かのスイッチを押す

シュババババッとタイタンボーイの車体から火花が噴き上がる

ただの花火目眩ましだよ

トニーさんは平然とそう言うがピストルを持った敵は、一瞬気を削がれる

ミラー・ナイフ

工藤父が、落ちていた石を拾って思いっきり、その男の頭に投げ付ける

どこがミラーでどこがナイフなのか全く判らないが石は男の頭にヒットして、後ろに倒れる

秘技、駝鳥の湖

そのまま工藤父は、鉄パイプを振り回しながら敵の中へ躍り込むッ

ガブラッチョガブラッチョガブガブゥゥッッ

訳の判らない奇声を上げながら敵を粉砕しつつ、地面に落ちていたピストルを確保する

何でぇ中国製のコピー品かと思ったら、マジモンのP228じゃねぇか

スッと、工藤父がピストルを構える

シグサウエルP228こりゃあ、当たるぜ

そのまま平然と撃つ、工藤父

ダキュウンッ

バリリンッ

後方の敵の車の窓が割れる

もっともオレの腕じゃあ、弾がどこに飛ぶか判らねぇがな

二発目を撃つ

ドュキュゥゥン

弾が地面にビシュッとめり込むッ

不良外国人たちは怯む

さあまだ続けるかい

工藤父は、じりじりと敵との距離を詰めていく

右手にピストル、左手に鉄パイプ唇から真っ赤な嘘、背中に人生だぜぇい

お父様何ですの、それ

ミッチィも、シュパッシュッパッとムチを叩き付けて鳴らしながら敵に寄っていく

若い子は知らなくていいのっ

工藤父が、再びピストルを構えると

不良外人の一人が、廻りの連中に指示をする

どうやら撤退の指令らしい

ふん

気絶した仲間を車に乗せる外国人集団

元からギュウギュウ詰めだった車内をさらにギュウギュウ詰めにして

車をバックさせて逃げて行く

車の中から、口々に何かを喚いている

どうせ捨て言葉で、罵詈雑言を言っているのだろう

うるせぇんだよ

ダキュゥゥンッ

さらに一発工藤父が、威嚇射撃をすると

不良外人たちは、黙り込んでしまう

オレたちから30メートルぐらい距離を取ると

そのまま車をターンさせて逃げて行った

さぁってと

工藤父が、さあっと周囲を見廻す

美智、隠れろ

その瞬間工藤父とミッチィが、草むらの中に飛び込むッ

さっきまで工藤父が居た場所に銃弾が撃ち込まれたッ

狙撃されているっ

42の3です

トニーさんが、無線機で誰かにそう告げた

はい、片付けたわよ

次の瞬間無線機から、そんな女の人の声がした

各監視ポスト確認をお願いします

トニーさんの指示に

1番から12番異常なし

12番から26番何もなし

26番から38番異常なし

38番から50番42で一人確保他は異常ないわ

50番から60番全て見落とし無し

少なくとも、5人の人間がこの周囲を監視している

トニーさんが、ガラッと車のスライド・ドアを開ける

ボス狙撃者一名確保他に伏兵はいないようです

了解だトニー

工藤父とミッチィが起き上がる

さっき飛び込んだ草むらから、かなり離れた場所から顔を出した

こういう訓練もしているんだ

あの不良外国人どもを撤退させた時に狙われることは判っていたからな狙撃者ってのは、心の隙を突いてくるもんだから

はい、戦闘中は狙いを付けられないように常に移動し続けておりましたし

そうかそれで

工藤父も、ミッチィも決して立ち止まらずに、攻撃し続けていたんだ

あっちも狙撃する瞬間には、全て集中するからな隙が出来る

ライフルの引き金を引こうとする瞬間を狙って工藤父の配下の人が、狙撃者を倒したのか

トニー、誰が確保したんだ

ネコ先輩です

あいつかよ

今、こっちに向かってます

ネコんとこの警戒は

それは、水谷さんが代わりに入るそうです

ならいいが

道の先からど派手な軽自動車が走って来た

紫とピンクのラメ・カラーに塗られた軽自動車

中に乗っているのは

小さな子供が、ハンドルを持っているけれど

軽自動車は、オレたちの前に到着した

お待たぁ狙撃犯を一人、捕まえてきたよーんっ

車から降りて来たのはどう見ても、中学生にしか見えない少女だった

というか下手すりゃ小学生

今、流行りの女子小学生向けブランドの派手なシャツに短パンを履いている

どっちも黒地にピンクのラメが光っている

この人本当に、工藤さんの部下なんですか

と、オレがトニーさんに尋ねると

はい、ネコ先輩こと金子佳菜子さん38歳です

さんじゅうはっさい

バシッっと、オレの横にスニーカーが飛んでくるッ

そこっ歳を言わないっ

ネコ先輩が、履いていたスニーカーを投げ付けてきたらしい

そんなことはどうだっていいから確保した狙撃手の顔を見せろ

工藤父が、ネコ先輩に言う

ロミオ・モンタギューかジュリアーノ・ジェンカか

シザーリオ・ヴァイオラがアメリカから連れてきた殺し屋のどちらかだったら今夜の闘いは楽になる

ネコ先輩が車の後部座席に転がした、敵を工藤父に見せる

こりゃロレンザッチョ・バンディーニじゃないか

シザーリオ・ヴァイオラのマネージャーの

ロレンザッチョ・バンディーニは、戦闘には参加しないんじゃなかったのか

工藤父の言葉にノーマさんは

あははは、思いっきりガセ情報だったみたいですねそれっ

ということで、戦闘終了です

昔少年ジャンプのキャラクターが闘うファミコン・ジャンプというゲームがありましたが

少年マガジンで同じ様なのを作ったら、どうなるんでしょうね

やっぱりガクラン8年組とかと闘うんでしょうか

おがみマツゴローとノン・ストップ恭平は、どっちが強いんでしょうか

ミスター味っこと中華一番の料理対決とかあるんでしょうか

バッド・エンドは、マーズが反陽子爆弾を破裂させて全滅エンドでしょうか

ううむ

212.オハイオ州6位の男

そう言えば今、思い出したんですけれど

ノーマさんが、ハッとする

確か、ロレンザッチョ・バンディーニのファイルに、1990年度全米ライフル選手権オハイオ州大会6位という記述があったような

オハイオ州大会の6位

それって、どの位の腕前なんだ

それLAPDのファイルか

工藤父が、ノーマさんに尋ねる

いいえ、ロサンゼルス市警じゃありませんFBIの方の調査資料です

工藤父は、チッと舌打ちして

何で、そんな大事なことをチェックしとかなかったんだ

だって1990年のことですしオハイオ州で6位ですよ

工藤父が、鉄パイプを地面に叩き付ける

お前、オハイオ州ナメてんのかっ

いえオハイオ州はナメてませんけど20年以上前のことですし

20年経ったら、もっと上手くなってるかもしんねぇだろ今じゃ、オハイオ州で3位の腕前かもしれねえ

オハイオ州は、そんなに関係ない気がするけれど

ちょっとしたことでも、リストアップして報告しろってオレはお前に言ったよななあ、トニーくん、オレはノーマくんにそう、お願いしたよねぇ

ヒートアップする工藤父にネコ先輩が

まあまあ、工藤ちゃぁんいいじゃんか今回は、問題無く敵を確保できたんだし

うるせぇ、ロリババァ

工藤父の言葉にネコさんは、キレる

ロリババァ言うなぁっ

だったら黙ってろ今は、とっても重要な話をしているんだッ

工藤父がノーマさんをギッと見る

ノーマくんは香月セキュリティ・サービスの正社員で、オレんとこの警護課に出向しているいずれは、オレの下からいなくなることになる

ノーマさんは、真面目な顔で工藤父の言葉を聞いている

ノーマくんが自分の責任で、仕事を担当する役職についた後ならどうでも、自分の好きにやってくれて構わねぇだが今は、オレの下に居るんだオレのやり方に従って貰う

工藤父の言葉は、厳しかった

オレのやり方は下調べに時間を掛けすぎるとか、ありとあらゆる事態を想定し過ぎて無駄が多いとか言われている別に、今に始まったことじゃねぇオレはノーマくんが、幼稚園に通っている頃から、この稼業をやっているんだからな

シンとした空気に辺りは静かになる

別に、同業者にバカにされても構わないクライアントから、無駄を省けと言われても絶対に止める気は無いオレの取り分がどれだけ減っても調査には時間と金を掛けるそれが、オレの方針だどんな小さな見落としもしないオレを笑ったやつで下らないミスで命を落とした連中を何人も知っているからな

いいや判ってねぇたった一つの見落としが、決定的なミスを産むことだってあるオレらの仕事では、ミスはすぐに誰かの死に直結するんだオレやノーマくんの命じゃねぇ大切な仲間の命だ他人の命を預かるってことが、どんなことなのかもう一度、よく考えてみるんだな

ノーマさんは

半泣きで、頭を下げる

オレに頭を下げてどうすんだよっ別働隊の警戒をしていたネコたちに謝れっ

ノーマさんが、ネコさんに頭を下げる

ネコ先輩済みませんでしたいいかげんな調査報告を上げて、本当に申し訳ありませんっ

うんまあ、これからは気を付けて

ネコさんは、優しくそう答えた

他の警戒中のやつらにも、謝るんだ

ノーマさんが、無線機に向かおうとすると

そうじゃねぇちゃんと、一人一人のところを廻って謝って来い

缶コーヒーぐらい、自腹で買って手渡すんだぞ判ってるな

はいっ行ってきますっ

ノーマさんは、トコトコと駆け出して行く

学校の周囲で警戒活動している人たちに直接、謝罪しに行くのか

スパルタ教育だねぇ

ネコさんが、ハァと溜息を吐いてそう言った

ノーマとトニーは、情報解析のスペシャリストに育成するように香月のジィさんに頼まれている

それで二人は、戦闘はしないんだ

今が一番悪い時期だ仕事と現場に慣れてきて、勘が働く様になってきているついつい、調査の基本を無視するこれぐらいは無視しても平気だろうと思い込む落とし穴にハマる時期だ

確かにね

ネコさんは、小さくなっていくノーマさんの背中を見て、そう呟いた

オレもネコも仲間が何人も死んでから、色んなコトに気付いたろ生き残るために必要なことをオレは、トニーにもノーマにも、誰かが死ぬ前に気付いて欲しいんだよできれば自分からね

相変わらず、あんたは面倒見がいいねぇ

悪いかい

いいや、悪くないさあんたのそういう所は、気に入っているよ

ネコさんは、ニッと笑った

飯食ってけよ差し入れで素麺を貰ったんだ

あんたたちの分しか無いんだろ

ノーマの分を食っちまってくれあいつが帰って来た時には、素麺はなくなっている方がいい

それも教育かい

ネコさんが、自分の軽自動車を指差す

あの中のロレンザッチョ・バンディーニはどうする

ほっとく

マジで

気絶させて、拘束してあるんだろ

ああ2時間は目覚めないよ

なら、そのままだシザーリオ・ヴァイオラが、捕まったロレンザッチョ・バンディーニの奪回に動くかどうか知りたい

ネコさんは、笑った

トニー、無線で連絡第一級警戒態勢は、そのまま維持だ外の連中には、それだけ伝えれば判る

トニーさんが、運転席の無線に向かう

工藤父が、車の中のオレを見て

少年少し、話をしよう

ミッチィくんも車に乗ってくれ

ネコさんが、工藤父に囁く

黒い森のルーキーさんだ

マジチンポ奴隷にもカード役にも見えないけれど

初めまして吉田ですオレはただの高校生です

ホント、オレは役立たずだ

自分でも、そう思う

ああ、こんちわあたしのことはネコって呼んで

声は優しいがネコさんの眼は、オレを警戒している

まあ犯罪組織としても、売春がメインの黒い森に、オレが在籍しているのは場違いなんだろう

そんなオレの横にミッチィが、寄って来る

怯まないで平然としていなさい、吉田

吉田は今、黒い森を代表してここに居るんですから

オレはダメだな

そういう顔をするなと言っているんです

何だいミッチィちゃんに叱られている男の子なんて初めて見たよ

ネコさんが笑った

というかミッチィくんが、こんなに親しそうに男と喋っているなんてパパは、ちょっとショックだなぁ

そんな父の言葉に

し、親しくなんかありませんわっ

ミッチィは、全否定をした

ま、いいけど女の子は、いずれいなくなるもんだしな

全員が車内に入ったところで工藤父は、車のスライド・ドアを閉めた

このタイタンボーイは、完全防弾仕様だって言っていた

とりあえずこの中から、安全だ

トニーくんは、もう食ったんだな

では、トニーくんは周囲の監視だ

耳だけは、こっちに傾けておくんだぞ

ノーマくんも聞こえているな

はい、ボス

スピーカーから、声がした

携帯電話をハンズフリーの状態にして、歩きながら車内の会話が聞けるようにしているんだろう

ネコは、素麺を食っててくれオレは、こいつらの相手をするから

工藤父が、ネコさんに素麺を勧める

あら、美味しそういただきまーすっ

ネコさんは、ちゅるちゅると食事を始める

さてとまず、少年何でオレが、ノーマくんをあんなに叱ったか理由が判るか

工藤父が、オレをジロリと見る

それは今までの情報では、ロレンザッチョ・バンディーニは、マネージャーで戦闘能力は無いっていうことだったから警戒態勢に居る人たちは、バンディーニが来ることは想定していなかったでしょうから警戒に対する心構えが違ったと思います

それだけか

バンディーニに、ライフル射撃の経験があると判っていたら狙撃についての対策をもっと充実させる必要があったわけで

とりあえずはそれだけだな

でも、大きなことだ警戒対象者がどんな人間かってのは大切だしライフルの方は、もっと重要だな

ていうかさライフルによる狙撃ってのは、ちゃんと習わないと身につかねいもんなんだよ

素麺をすすりながら、ネコさんが言った

今回の敵はロサンゼルスの殺し屋集団だろほとんどが、ロサンゼルスの貧困地区の少年ギャング上がりだそりゃみんな、銃を撃つことには慣れちゃているがそりゃ、ピストルで人を撃ったり、近距離で銃撃戦をするっていう経験が豊富なだけでライフルで射撃なんてのは基本的にはできないのが普通なんだよ

今時は、猟師のセガレで子供の頃からライフルを撃ってましたなんてやつはまずいないからね軍隊でそういう部隊に居たか、今回のケースみたいにライフル競技の経験がある人間で無いとスナイパーになんてなれないんだよ

狙撃用は、ライフルも弾も高いしな普通の犯罪者は、なかなか足を踏み入れないんだよ

ネコさんの解説に、工藤父が付け足す

だから前もって敵対勢力のファイルを調べて、軍歴のある人間がいなければ普通は、狙撃の可能性は消去する今回、それを無視しなかったのは、工藤ちゃんだからだよこの人は、可能性が1パーセントでもあったら、無駄だと判っていても対応するオトコだからね

それでネコさんたち警戒部隊は、狙撃可能ポイントをあらかじめ特定していた

だから、ライフルを持って現れたロレンザッチョ・バンディーニにすぐ気付いたし、捕らえることもできたわけだ

でもやっぱり、あたしたちも人間だからねえ狙撃の可能性が少ないと思い込んでいれば、チェックの手を抜くこともある正直、みんな別働隊による襲撃の方を予想して行動していたよ

ああネコの担当地域じゃなかったら、バンディーニは捕まえられなかったかもしれないつーか、オレとミッチィくんは狙撃されて死んでた可能性もある

だからシザーリオ・ヴァイオラの手下に、競技ライフル経験者が居るって情報を見落としたのはデカイんだよ

いや、工藤父ですら、狙撃者の現れる可能性は少ないと思っていたんだ

もしスナイパーが現れたとしても、そっちは別働隊の行動を成功させるための陽動で、射撃の腕は大したことがないって踏んでたんだろ

ネコさんが、工藤父にニヤッと笑う

そうさだから、オレは確実に狙撃者を捕獲するために、射撃の瞬間を狙って捕まえろって指示していたんだ

それで銃弾が一発だけ、飛んで来た

工藤父もミッチィも、上手く避けたけれど

でもオハイオ州で6位の腕前なら、銃撃する前に捕らえさせたよそんなやつにスコープで覗かれるのは、危なくていけねぇや

だからさぁ香月セキュリティ・サービスのあのお嬢さんが、一番謝らないといけないのは工藤ちゃんとミッチィちゃんなんだなのに、あたしたち外回りの人間に謝りに行かせることを優先するなんて工藤ちゃんは、大人だねぇ

そういうことじゃねぇよきちんとネコたちに謝罪しないと、今後ノーマくんは仲間内でナメられるだろ困るんだよそういう部下が居るってことが噂になると、今後のオレの活動に支障が出るオレは、てめぇのことしか考えていねぇからな

何言ってんだい工藤ちゃんは甘いよあたしの部下だったら、即刻、クビにしているところだよ

そうもいかねぇんだよ香月のジィさんからの大切な預かり物だからな

工藤父は、ハァと溜息を吐いた

ところであたしにだけ素麺をご馳走してくれた理由は何

ネコさんが、ジロッと工藤父を見る

ネコお前、あの車気に入っているか

工藤父はロレンザッチョ・バンディーニを捕縛したままのネコさんの軽自動車を見て、そう言った

気に入っているけれどどうせ、仕事用のカムフラージュに使っている車だよ工藤ちゃんが必要ならやるよ

弁償はするよ

えどういうことなんだ

工藤ちゃんは、やっぱり凄いねあたしは、そこまで考えなかったのこのこと、あの外人を連れてきちまった

ネコさんは、口惜しそうにそう言った

トニー警戒している連中から、他にシザーリオ・ヴァイオラの部下らしいやつを見掛けたっていう情報は入っているか

いいえ、何もありません

工藤父が、ネコさんを見る

シザーリオ・ヴァイオラの右腕でマネージャーっていうことになっている男が敵に捕まったんだもしこれが、やつらの想定外のことなら、何らかのアクションが無いとおかしいだろ

そうだ普通なら、必死で取り返しに来るはず

マネージャーなら、ヴァイオラに関する様々な情報を知っているだろうし

トニー、タイタンボーイを移動させろ学園側に、30メートルほどだネコの車から離れるんだゆっくりだぞ

トニーさんが、車のエンジンを掛ける

この車は、対爆仕様にはしてあるが少しでも安全な方がいい

ロレンザッチョ・バンディーニに、爆弾が取り付けてあるということですか

確証は無ぇがオレなら、そうするなロレンザッチョ・バンディーニが捕まれば、普通なら、情報を聞き出すための尋問するだろその瞬間に、爆発させれば

尋問者たちは、全員爆死だ

しかしシザーリオ・ヴァイオラが、そこまでするかい自分の右腕だろ

ネコさんの言葉に工藤父は

ロレンザッチョ・バンディーニは、戦闘には参加しないっていう情報はガセだったてことはロレンザッチョ・バンディーニは、シザーリオ・ヴァイオラの右腕でマネージャーっていう情報も嘘なんじゃねぇか

罠なのか

ロレンザッチョ・バンディーニは、わざと敵に捕まるように、こちらに送り込まれた

昨日捕まえたヴァイオラの部下は尋問させたが、有益な情報は何も知らなかったヴァイオラは、そういう対策をきっちりとやっているなら自分のマネージャーにライフルを持たせて、一人だけ行かせるわけが無いだろ

バンディーニが、本当にマネージャーとして重要な人間なら

そんな危険なことをさせるわけがない

でも、ヴァイオラの殺人組織の中で、広く顔が知られているのはバンディーニだけだろ仕事の依頼は、バンディーニを通さないとできないんだから

ネコさんは、そう言うけれど

ただの顔繋ぎ役なら、誰でもできる別にバンディーニじゃなくっても、適当なやつと交代させれば良い結局バンディーニは、それだけの存在でしかなくて仕事についての判断は、全てヴァイオラ本人がやっているんじゃないのかな

となると

お父様それでしたら、ロレンザッチョ・バンディーニと一緒にセントレア空港から来日した5人組というのは

わざと顔の知られているバンディーニと一緒に来させたんだこちらの眼を惹き付けるためのフェイクだ

そもそも全員、ビートルズのメンバーの名をもじった偽名を使っていた

つまり最初から、フェイク(偽物)であることを示していた

シザーリオ・ヴァイオラは、あの5人とは別に来日しているな手下を何人連れてきているかも判らねぇ

振り出しに戻っちまったってことかい

残念そうにネコさんは言った

おそろく、バンディーニは自分が人間爆弾にされていることも気付いていないだろうな

そうだろうねえシザーリオ・ヴァイオラが、オハイオ州6位の男の狙撃に期待するはずが無いし

やっぱり、ダメなんじゃんオハイオ州6位

ボス皆さん、居ませーん

スピーカーから、ノーマさんの声がした

謝りに来たんですけれど皆さん、どこにもいらっしゃらないんです

その声に工藤父は

当たり前だ第一級警戒態勢の状態で、仲間同士で直接のコンタクトなんてできるかっ

誰が警戒担当者なのか敵に知られてしまう

叫ぶノーマさんに、工藤父は

いいから、戻って来い慌てず、ゆっくりだぞそれからネコの車には近付くないいなっ

と、ノーマさんが返事した瞬間

ボス信号出ました

トニーさんが、こちらに叫ぶ

誰からだ

ガンさんです

思った通りだノーマを尾行しているやつを見つけたんだな

やはり、ノーマさんはヴァイオラの部下に尾行されていた

ノーマを行かせて正解だったなさっきの状態だと、敵がいつ人間爆弾を爆発させるか判らなかったからなノーマを行かせることで、敵の集中を二分したんだ

そうねノーマちゃんを追っ掛けて、うちのメンバーの人数と顔を把握するまでは、敵さんも爆発は控えるもんね

ネコさんが、そう呟く

ガンには、ブルーのサインを出しとけ尾行はしても、手出しはするなそれから、ラスカルをフォローに廻せまさかとは思うが、ガンにも尾行が付いているかもしれん

尾行者を尾行する人間を特定してさらに尾行されているかもしれないから、確認の人間を派遣する

敵の総人数が判らなくなったんだ全ての可能性を想定しろ

トニーさんは、ノートパソコンに向かった

今は楽になったよね電子メールでやり取りできるから

でも、具体的なことは書けないけどなメモリーから消しても、簡単に再生できるから

暗号しか送れないのは、しょうがないよ詳しい指令書を出したって、読解力の無くてトンデモナイことをしでかすやつだっているしさ

まあ、そうだなさてと

ここまでこっちの手の内を明かしたのは少年の意見が聞きたかったからだ

オレの意見

いやでも、オレは普通の高校生だし頭悪いし

少年の眼から見て、思ったことを言ってくれりゃあいい分析と判断は、こっちでやる

実はな朝飯を届けて貰った時に、ミッチィくんから黒い森とシザーリオ・ヴァイオラのいきさつについては報告して貰った寧っていう女の子の話だ

夜中の寧さんの話を聞いていた

それを朝工藤父に話したんだ

おそらくミナホ姉さんは、ミッチィが工藤父に報告すること理解した上で、ミッチィに朝食を届けさせたんだ

ならば今回、マルゴさんがオレをここに送ったのも

工藤父に、ある程度の情報が渡るのは仕方ないと思っているんだろう

むしろ、オレの様な素人の方が適任だと思っているのかもしれない

オレには、裏社会の人間としての専門的な知識は無いのだから

オレに何を聞きたいんですか

なあに簡単なことだシザーリオ・ヴァイオラって人間をどう思う

どうって

えっと何か、得体が知れないですイメージが合わないっていうか

イメージが合わない

はい寧さんの話を聞く限りだと、シザーリオ・ヴァイオラって粗野で粗暴なだけのホモのオッサンなんですよねですけど工藤さんの話を聞いていると、何かとっても几帳面で頭が良さそうに見えて

うんイメージが合わない

お前もそう思うかオレもなんだよ

工藤父は、呟いた

ヴァイオラの人物像が、今ひとつ掴めねぇんだまるで、ヴァイオラは二人居るみたいな気がする

ヴァイオラが二人

さっきまでは粗暴がヴァイオラの実態なら、細かい計画立案なんかはマネージャーのロレンザッチョ・バンディーニがやっているんだろうと思っていたしかも、バンディーニには、ヴァイオラを制御できるぐらいの才覚があるんだろうってな

ヴァイオラは、バンディーニを使い捨てにしたつまり、奴らの組織内では大した力は持ってなかったってことだとなると、全ての計画は、立案も実行も含めてヴァイオラが自分でやっているってことになる

でも何か、寧さんの話に出てくるヴァイオラって、エキセントリックで衝動的で全然知的な人物に思えないんですよね

だろでも、ヴァイオラのような組織はトップの人間が、それなりの才覚がないと成立しない

エキセントリックで衝動的なだけじゃあ誰も付いてこないよなあ

あんたたちさあ一回、頭の中を空っぽにして考えてみなよ

ネコさんがオレたちに言った

シザーリオ・ヴァイオラってのは本名じゃ無いんだよね

ああそうらしい本名は、

ファビアーノ・カトゥイタリア系、アメリカ人でしたよね

寧さんは確か、そう言っていた

そういうのも全部忘れてシザーリオ・ヴァイオラって名前だけ、考えてみな

ネコさん

シザーリオ・ヴァイオラって女の名前だよ

こういうのはトニーくんが詳しかったよね

ネコさんが、トニーさんに話を振る

はいシェイクスピアの作品の登場人物ですよね

トニーさんが、ニコニコしてオレたちに言った

シェイクスピアの喜劇の十二夜の中で、主人公の少女ヴァイオラが男装して、男の振りをして名乗ったのがシザーリオでした

つまりさシザーリオとヴァイオラは、一人の女の子の名前なんだよ女の子としての名前がヴァイオラで、男としての名前がシザーリオ

ヴァイオラの死んだ妹が名乗っていた偽名もやっぱりシェイクスピアですロザリンド・オーランドーロザリンドはお気に召すままの主人公でやっぱり、男装して男に化けるキャラクターですオーランドーは、その恋人の名前です

オーランドーは、シェイクスピアだけじゃないよヴァージニア・ウルフの作品にもある確か、300年生き続ける両性具有者だよ

ネコさんはそう言った

ヴァイオライコールシザーリオも、ロザリンドもオーランドーも男女両方の性を持つ、トランス・ジェンダーの象徴だよ

何だって、そんなコードネームを付けたんでしょうかね

トニーさんが、不思議そうに言った

いずれにせよファビアーノ・カトゥなんてオッサンの犯罪者が、自分から名乗る名前じゃないってことさ

工藤父が呟く

誰だかは判らないけれど、シザーリオ・ヴァイオラというコードネームを考えた人間がさらに高い位置に居るんだろうね

ネコさんは、そう言った

そうなんだろうなファビアーノ・カトゥは、ただの実行部隊のリーダーで組織全体をまとめている頭の良いボスは別にいるって思うべきだ

組織のボスはシザーリオ・ヴァイオラとは別にいる

ようやく、ヴァイオラ側の話に入れました

今までのは、寧さんの視点から見た一部の話でしかありません

213.父娘鷹

現在までに判っているシザーリオ・ヴァイオラの特徴をトニーくん、簡単にまとめてくれるかな

ネコさんがトニーさんに尋ねた

えっとまず、本名が

トニーさんは、ヴァイオラのプロフィールを暗唱しようとするが

違う違うそれは、ヴァイオラの情報あたしが聞いているのは、特徴だよ

ネコさんが、ニタァと微笑む

特徴ですか

そうヴァイオラって、どういう犯罪者

えっと人から仕事を受けて、脅しや暴力事件、殺人などを行う犯罪組織のボスで現場に出る時にはいつも必ず変装していて、本当の顔は誰も知らない

そうヴァイオラの素顔は、組織の幹部クラスの人間しか知らないと言われているどうして、そんな面倒なことをするんだろうね

それはヴァイオラに変装癖があって性的にも倒錯していますし変身願望がとても強い人間だから

トニーさんの返答に、ネコさんは

本当にそう思っているの

工藤父が、助け船を出す

あんまりイジメてやるなよ大学で犯罪心理学を専攻して、FBI方式のプロファイルなんてものをカジったやつほど頭が固くなるんだよ

ネコさんがオレを見る

あんた、どう思う

いつでも別の人間に挿げ替えられるようにでしょう顔が判らないのなら、別人になっても誰も気付かれないから

正解

ネコさんが、真顔になる

どうして、そう思ったの

だってやつらは、ロレンザッチョ・バンディーニを捨て駒にしたでしょそれって、バンディーニは、組織の重要人物でヴァイオラのマネージャーだっていう話が全部フェイクだったってことですよねそれなら、シザーリオ・ヴァイオラ自身もフェイクの可能性があるつてことじゃないですか

ネコさんが、頷く

ああ本物のシザーリオ・ヴァイオラ本名、ファビアーノ・カトゥは、とっくに死んでいてあたしたちが相手をしているのは、何代目かのシザーリオ・ヴァイオラなのかもしれないね

謎のボスによってすでに何人も、ヴァイオラは交代させられているのかもしれない

でもそれなら誰がどうやって、組織の中でこの人がシザーリオ・ヴァイオラだってことを保証していたんですか

トニーさんが、そんな疑問を投げ掛ける

それは寧さんの話だと、昔は、妹のロザリンドとロレンザッチョ・バンディーニだけは変装したヴァイオラの正体が判ったっていう話ですけれど

組織のメンバーとの待ち合わせ場所にヴァイオラは変装して現れる

他のメンバーには、誰がヴァイオラなのか判らないほど精巧な変装だ

それをロザリンドとバンディーニが指し示し、保証することでヴァイオラは、組織のリーダーとして機能していた

ロザリンドは、ケイさんと撃ち合いになって死んだ

ロレンザッチョ・バンディーニは、人間爆弾になって向こうの軽自動車の中に居る

変装したヴァイオラがどいつなのか見極められるやつが、他にも居るってことだろ知っていても、バンディーニたちが指摘するまで判らないフリをしていたのさあくまでも、表に出るのはロザリンドとバンディーニに任せて、組織の内側に隠れていたやつがいるってことだ

他の手下たちの中に紛れて影からヴァイオラに指示を出していた人間がいる

ロレンザッチョ・バンディーニが、組織の重要人物で無いってことは判ったんだバンディーニの他に、ヴァイオラへの指示出し役がいるとすればそういうことになるだろおそらく、ヴァイオラの部下の中に組織の大ボスと直接、繋がっているやつがいるんだろうな

いやそいつこそが、大ボス本人なのかもしれないよ

ネコさんが言った

そうですよね部下のフリをして、いつも側に居て実際は、組織のトップでヴァイオラに指示しているのかもしれませんっ

トニーさんが、興奮して話すが

可能性はあるが少し、突飛過ぎるんじゃないか本物のボスってのは、自分で手を汚す様な仕事はしないもんだぜ

工藤父は、ネコさんのボスが部下に化けている説に反対するが

もっとも今の段階じゃ、何とも判断のしようがねぇ今は、全ての可能性に対応しておくべきなんだろうな

工藤父はハァ、と大きく溜息を吐いた

であたしの車とロレンザッチョ・バンディーニはどうする

ネコさんが、工藤父の判断を仰ぐ

あのまんまだ

あのまま放っておくのかい

とにかく2時間は、あのまま放置して本当に敵が、バンディーニを奪回しに来ないのかどうか確認する誰も来ないようなら、この道を完全封鎖して、そのまま夜まで放置だ

ロレンザッチョ・バンディーニに、本当に爆弾が付けられているとしたら、厄介だ香月セキュリティ・サービスの爆弾撤去班は、こういうケースは慣れていないし総合警備部の山岡は脳筋だうかつにバンディーニを連行しようとしてボカンとなるぞ

そうですよね香月セキュリティ・サービスのビルが吹っ飛んだら、困りますものねえ

トニーさんが、そう言う

バンディーニの監視は、シゲのグループにやらせろあいつらはどうせ、今夜の戦闘には連れて行かない予定だったんだから

了解、工藤ちゃん

ネコさんが、答える

丸一日ぐらい、あのまま拘束しておいたって、バンディーニは死にはしないだろう今は捨て駒の尋問なんてやっている余裕は無いし逆に偽情報を掴まされたら、メンドくせぇことになる

まあ大人だから車の中に閉じ込めておいても平気だろうし

今日は晴れているけれど、そんなに暑くはないし

どうせ、明日になりゃあ全部解決しているんだいや、解決させないといけねぇ

明日

さてとここまで、オレの手の内を晒したわけだが

工藤父は、ミッチィを見た

どう思う、ミッチィくん

お父様が、普段からどれだけ深く物事を考え準備していらっしゃるのか、改めて理解致しました大変、良い勉強をさせていただいていると思っています

そういうことを言っているんじゃねぇ

工藤父は冷たく答えた

ミッチィくんは、こういう世界に入りたいか

わたくしは、できればお父様の跡を継いで、工藤流を

こんなのは、工藤流とは関係ねぇ今のオレのやっていることは、ただの裏稼業だそれも危険なだけで、実入りは少ない割の合わない職業だ

ネコさんがスッと、工藤父を見る

あたし外そうか

いや、居てくれネコにも、この場に居て欲しいんだ

工藤父は、ネコさんにそう言う

オレみたいな裏稼業じゃなくて悦子や真一や遙花みたいに、香月セキュリティ・サービスの正社員になるって手もあるんだぜあっちは、正式なボディガードだ給料も休みも保証されている無茶な仕事には拒否権もある社会的な地位もあるだが

工藤父は、ジッと脇に置いた自分の鉄パイプを見つめた

オレの方には何も無い公の世界に出ることは決して許されないしそれなのに、常に死と隣り合わせだ

お父様はそれを後悔なさっていますか

工藤父は、ククッと笑う

バカ言えオレは好きでこっちの道に来たんだ何百回生まれ変わったとしても、オレは裏の世界へ行くよこれが、オレの天職なんだ

それでしたらわたくしも

ミッチィの言葉を工藤父は、堰き止めた

簡単に親子の情に流されるなはっきり言っておくオレは、オレの生き方にこれっぽちの後悔もねえしかし自分の娘にオレと同じ道を辿って欲しいとは、思わねぇよ

何よりお前には、もう決めた道があるんだろう

はいわたくしは、生涯をみすず様のために捧げたいと考えています

なら、その道を行けオレとは、ここまでだ

ですがわたくしにはまだ、お父様に教えていただかなければならないことがたくさんあります

ミッチィは、必死で父親に食い下がる

そんなもんは、ねぇ

工藤父は一言で突き放した

ここから先は、修羅の道ださっき言ったろ明日までに全て解決するってあれ、どういう意味だと思う

オレたちも山岡や悦子たち、香月セキュリティ・サービスの本社の連中も香月のジィさんからシザーリオ・ヴァイオラの駆除を命じられているだがあいつらとオレたちとでは、駆除って言葉の意味が違うんだよ

意味が違う

本社のやつらは香月のジィさんや、お偉方を守って、シザーリオ・ヴァイオラをアメリカに追い返せばそれでいい撃退するってのが、あいつらの駆除だしかし、オレたちの駆除は

ネコさんが暗い眼をした

シザーリオ・ヴァイオラとその仲間たちを、全員殺す来日したメンバーは、全員だそれも、今夜中に明日の朝には、一人も生かしてはおかないそれが、オレたち裏の人間が、香月さんから受けた駆除指令だ

本気の殺し合いをするつもりなんだ

美智オレは、お前に人を殺して欲しくはない

工藤父は穏やかな顔で、そう言った

ミッチィはうつむく

みすずお嬢さんの警護役として生きていくのならオレが、今までに教えた工藤流だけで充分だ工藤流古武術の本質は、戦場で鍛え上げられた戦闘武術だお前に教えたことの先にあるのは、確実に人を殺すための技だけだオレは、それをお前に教えたくはない

だから、工藤父はいつも、ふざけた風の技しか見せなかったんだ

いいえわたくしは、すでに知っております工藤流の奥義も極意も

ミッチィは、スッと顔を上げて父の眼を見た

お父様が隠しておられた秘伝の書を拝見しましたまだ、実戦で使うことはできませんが鍛錬は続けています

工藤父が言葉を詰まらせる

申し訳ございませんお父様のお心も知らずに、つい盗み見てしまいましたご無礼をお許し下さい

ミッチィが、スッと父親に頭を下げる

いやいいんだ知ることと、それを使うことは別だ学んだ技をどう生かしていくかはお前が決めることだからな

工藤父は、そう言って娘を許した

しかしオレを追って、裏稼業をすることは断じて許さないお前は、みすずお嬢様に付いていけそれがお前の工藤流古武術だ

お前にこれまで、オレの裏稼業を見せてきたのはお前がみすずお嬢様の警護役になったら、今のオレやネコみたいな裏の人間を使う立場になるからだ

正規のガード役として裏稼業の人間を取り仕切らなければならない

そのためには、裏稼業の人間の生活、考え方、行動様式なんかをよく知っておいた方がいいそれで、今日までお前をオレの側に置いていた

工藤父が、ミッチィの赤いムチを見る

それ見せてみろ

ミッチィがレッドビュートを父に手渡す

いいムチだな誰に貰った

黒い森のマルゴ様です

工藤父は、ビッとムチを引っ張って強度を確かめる

わたくしには、ハンマーよりもこの様な武器の方が向いているとアドバイスしていただきました

妥当な判断だこれは、人を守る武器だ敵を寄せ付けないための武器だ色も派手で良い警護役には、相応しい武器だと思うよ

工藤父は、ムチをミッチィに返す

オレたち、裏稼業の人間は外から見て、武器だと判る武器は持たない敵に警戒されないためと潜入工作のためだ途中でボディ・チェックを受けたらアウトだからなだがガードの人間は、これくらい判りやすい武器を持っていた方がいいお前のムチの凄さを誰もが知るくらいに広めろみすずお嬢様の警護役の赤いムチは、とんでもなく恐ろしいっていうイメージを世間に広めるんだそれがお前とお嬢さんにとっての最初の防御壁になる

ミッチィの強さが世間に伝われば半端なやつらは、みすずを襲って来ない

だがムチ以外に、別の技も身に付けておけ隠し技だ敵が、お前はムチで攻撃してくると思った時に使う、一撃必殺の技だそういう隠し技があれば、いざという時に役立つ

判りましたお父様

ミッチィくんに、オレがアドバイスできるのはこれが最後だな

工藤父は、ニッと微笑んだ

ということだからネコミッチィくんは、オレの娘だが裏稼業には引き込まない悪いが、ネコたちもそういう対応をしてくれこっそりオレの知らないところで、スカウトとかしたら、ただじゃおかねぇぞ

判ってるよ工藤ちゃん

ネコさんは言った

あたしにも息子がいるあたしだって自分がこんな稼業をするハメになったことは、今更とやかく言うつもりは無いけれど息子には、この仕事はやって欲しくない他のやつらには、あたしから言っておくよ誰にも、美智ちゃんを裏稼業に引き入んだりはさせないから絶対にね

済まんが、頼む

工藤父はネコさんに頭を下げた

最後に工藤父は、オレを見て

娘をよろしく頼む

黒い森を代表してお嬢さんをお預かりします

工藤父に、一礼した

とっても良いお父さんだね

工藤父の車からの帰り道

オレは、ミッチィに言った

お父様は、私の誇りです

ミッチィは寂しそうに、そう言った

わたくしこれから、どうすれば良いのでしょうか

オレは空を見上げた

五月の空は雲一つ無い快晴だった

大丈夫だよミッチィには、オレもみすずもいるから

一人じゃないいいや、一人にはさせないよ

オレはミッチィの手を取る

ミッチィは黙って、オレの手を握った

本当にマルゴさんのおっしゃる通りですね

小さな手が、ギュッとオレを手を掴む

吉田には女の心を癒やす力があります

美智と呼んで下さい

美智は真剣な顔で、そう言った

わたくしの美智という名は、お父様が付けて下さいました美智は、未知であり、道に通じるのだそうです

うんいい名前だね

はい、お父様の付けて下さった名前ですから

そうして美智は、ニコッと笑う

オレの手をギュッと握りしめる

その強さが美智の心を示している

このレズっ気の強い、武士娘は精神的には、とても幼い

多分、年下のマナよりも

戦闘能力は大人以上だが、心の成長はまだまだだ

ずっと工藤父の側に居たせいもあるのだろう

父と別れた今美智は、緊張している

不安な気持ちが、現れている

誰かが美智の心のケアをしないといけない

それはオレの仕事だ

さあ、戻ろう学校から脱出して、国立劇場へ行き着けば、みすずに会えるよ

はい吉田

ミッチィは、美智になったけれど

吉田は、そのまんまらしい

急ぎますよ吉田

ああ美智

手を握ったまま、オレたちは走り出す

監視室に戻るとそこは女の園だった

みんな、ドレスアップしてみすずの発表会に行く準備をしていた

ヨシくんどうかな

メグが二人で選んだグリーンのドレスに身を包んでいる

うん、とっても綺麗だよ

メグが、ドレスの下から伸びた長い足をオレに見せる

ヨシくんの言ってた通り、このドレスはあたしの足が強調されてとっても良いって克子姉さんが褒めてくれたわ

メグは、とっても嬉しそうだった

髪の毛も、克子姉さんにしてもらったのアクセサリーも借りちゃった

ドレスアップしたメグは上品で清楚な雰囲気に溢れていた

華やかだけれど安っぽくは無い

克子姉のセンスは、さすがだ

お兄ちゃん、あたしどうかなあ

マナが現れる

マナの方は逆に間違ったセクシー路線だった

黄色いドレスで背中とお腹も出して、肌を大胆に露出させている

髪の毛もアップしてそのトンボみたいな大きなサングラスは何だ

何か、ちびっ子が高級クラブのホステスさんのコスプレをしている様な

寧さんにやって貰ったんだけどね

ロリ・ビッチがテーマなんだって

しかし、14歳の健康的な肉体が表面的な下品さを打ち消している

元々の育ちが良いからだろうか

エグいイヤらしさは、全く無い

これはこれでとっても可愛い

このセクシーと可愛らしいの微妙なバランスがとっても、寧さんらしい

ああ、可愛いよマナ

オレが褒めると、マナはオレの胸に飛び込んで来た

そういう時は、ギュッと抱き締めてくれないとダメなのっ

うん、そうだな

甘えるマナをオレは、抱き締めてやる

清楚なメグと、セクシー路線のマナが並ぶと不思議と良い感じにバランスが取れていた

それぞれが、相手の魅力を引き立てている

ちゃんと美人姉妹に見えた

それぐらい派手でセクシーな方が、マナちゃんには正解なんだよ

寧さんが、奥の部屋から現れる

それに、その姿だったら白坂家の人間だって、マナちゃんのことは判らないと思うよっ

確かに今、世間で騒がれている白坂創介の娘が、こんな派手でセクシーな衣装で公の場に出てくるとはみんな思わないだろう

うん学校のお友達に出会っても気付かれないと思う

マナ自身が、そう言った

マナちゃんは、これからどんどん派手目なものを着た方がいいよ華やかな格好が映えるんだからさ

そういう、寧さんは黒のパンツスーツだった

やっぱりシザーリオ・ヴァイオラに対して男装することにこだわっているわしい

ただし、さっきと違って今は胸を締める様な服ではない

寧さんの豊かな胸や、くびれたウェスト柔らかそうなお尻が強調されている

素地がすでにグラマー美少女の寧さんには黒いシンプルなスーツが、よく似合っていた

オレは、そう言って寧さんを抱き締める

温かくて柔らかい肉体を、全身で感じた

うふふっありがとうヨッちゃんっ

寧さんが、オレの頭を撫でてくれた

ちょうど良かったわこっちへ来て

と克子姉が、奥からオレを呼ぶ

克子姉はワインレッドのスーツにタイトスカート

大企業の美人秘書風に仕上げていた

眼にも伊達眼鏡を掛けている

あたしは、ほらお客様とお会いしてしまうかもしれないから

みすずの発表会には上流階級の人たちがたくさん来る

その中には黒い森の娼館の客もいる

だから、もしお会いしてしまっても問題の無い姿でいないとね

うんあっちは、奥さんや子供を連れている可能性が大きい

挨拶を交わさないといけないような場面になっても、秘書っぽい格好なら誤魔化せるだろう

いいから、こっちへ来てあなたも着替えないといけないでしょ

克子姉が、オレのサイズに直してくれた紺スーツがあるんだっけ

待って、ヨシくんあたしも行くわ

ヨシくんの着替えは、あたしの仕事だもの

えーっ、マナは

マナちゃんは、あたしとこっちの部屋で待ってようねっ

寧さんがマナに言う

マナちゃん、ちょっとだけお化粧してあげるから

えっ、寧さん本当

マナが喜ぶ

寧さん、あんまり派手にしないで下さいよ

大丈夫よさっきも言ったでしょマナちゃんは、少し派手目な方が可愛いんだって

とにかくマナは寧さんに任せて

メグと奥の部屋に行く

そこは、ドレッシング・ルームだった

直したスーツは、新しいYシャツと一緒にそこに置いてあるから

はい、ヨシくん脱ぎ脱ぎしましょうね

メグが嬉しそうに、オレの制服を脱がそうとする

うふっ

笑うメグ

男の人の上着を脱がせるってとってもゾクゾクするわあたし、ヨシくんの奥さんなんだって、実感が湧いてくるの

でしょだから彼の着替えは、みんなで交代でしましょうね恵美ちゃんだけには、任せないからねっ

はぁい、克子姉さんっ

オレの背中側に立って、上着を脱がせながらメグはそう言った

ネクタイを締めるのは、今日はあたしがやるわ男の人のネクタイを締めてあげるやり方、恵美ちゃんは知らないでしょ

はい、教えて下さい練習してできる様にしますから

メグが、克子姉に微笑む

ヨシくんは、覚えなくていいからねこれからは、ヨシくんのネクタイはあたしたちが締めるんだからっ

ところで、克子姉オレの髪型なんだけど

どんな風にしたいの

ちょっとワイルドな感じにしてくれないかな

ワイルド

みすずがそういう方が、好きらしいんだ

マナを最初にレイプした日にみすずが、そう言っていた

今日はこれから、みすずの晴れ姿を観に行くんだ

なるべく、みすずの気に入ってくれる様な格好で行きたい

判ったわ良い感じにまとめてあげる

克子、ちょっといいかしら

ドアを開けて、ミナホ姉さんが部屋に入って来た

ミナホ姉さんはいつもと同じ黒い服だ

長袖で、首まで隠しているロングのワンピース

いや普段学校で着ている服とは、生地が違う

キラキラしているから、シルクなのか

まあシルエット的には、何も変わらないんだけど

はいどうしました、お嬢様

克子姉が、尋ねると

この子、こんな感じでいいかしら

ミナホ姉さんの後ろから現れたのは

克子姉は、吹きだして笑った

うん何だこりゃ

雪乃は朝の登校時と同じ、地味地味モードの顔をしていた

髪の毛は、真ん中分けの三つ編み

顔には、太いフレームの黒縁眼鏡

そこまでは、朝と同じだったけれど

着ているものが

お嬢様テーマはミツバチとかですか

眼に痛い黄色と黒の縞々のワンピース

また縞が太い囚人服のイメージもある

どういうセンスなんだ、これ

いいえテーマは、道路工事現場よ

ど道路工事現場

ミナホ姉さんのセンスは恐ろしい

確かにこの色使いは、道路工事のバリケードだ

周囲の歩行者に、常に警告を発するように黄色と黒でまとめてみたの

雪乃は、真っ青な顔で放心状態になっていた

この格好で、セレブたちの集まる劇場に雪乃は連れて行かれる

次回は、みすずの登場まで行けると思います

雪乃はこんな感じで、晒し者として連行して行きます

まあ、校内に残していくわけにもいきませんので

国立劇場は現実の建物のイメージて行くか、フィクションとして別の建物を登場させることにするかは、今日中に考えます

初台の新国立劇場という手も無いな

214.ゲートを越えて

ドレッシング・ルームから戻ると寧さんが、美智のおめかしをしていた

と言っても、別にドレスアップしているわけではない

美智はいつもの超お嬢様学園の制服姿だ

みすずの発表会の様な場では、この制服は相当なステイタスがあるはずだ

安物のドレスなんかよりも、よっぽど格調があるし

こんな感じでどうかな

美智のおめかしは長い黒髪を、赤いリボンでまとめて

それとほんのりと、薄くお化粧している

ナチュラル・メイクってやつだろう

寧さんが、美智の眉を整えて唇も、リップクリームを塗っているな

元から日本人形の様な端正な顔立ちの美智は、そんなちょっとしたことでも美少女度がグンと増していた

これって寧さんがメイク・アップしようって言い出したの

と、オレが寧さんに尋ねると

うんうん、違うよミッちゃんから

美智が自分から寧さんに頼んだんだ

手鏡の中に映る自分の姿を見て、美智が寧さんにお礼を言った

工藤さんとっても綺麗

マナが、感嘆する

そうでなくては困ります

わたくしは、みすず様のガードですそして、わたくしの目指すべきガードの役割とは、自らの存在を目立せて敵をわたくしに集中させることだと考えました

美智は、すでに父から離れ自分なりの道を模索し始めている

でもご主人様であるみすずさんより、工藤さんが目立つのは良くないんじゃないですか

メグが、オレの代わりに美智に疑問を投げ掛けてくれた

それは問題有りませんみすず様は、わたくしの三十倍はお綺麗な方でいらっしゃいますから

三十倍ときたか

わたくしは、みすず様のお美しさの輝きの中に埋没してしまわぬ様精一杯、目立つように頑張るだけです

うんまあ

みすずも美智も綺麗でいてくれるのなら、それでいいか

はい、吉田くん恵美マナさん

ミナホ姉さんが、オレたちに封筒を手渡してくれる

何、これ

何か、固いカードとかも入っているけれど

お金よ10万円ずつ入っているわそれと、公共交通機関のカードも1万円ずつチャージしてあるわ

ミナホ姉さんが、真剣な眼でオレたちを見る

今日、これからの状況次第だけれどもし最悪、他の人たちと離れ離れになってしまった場合は、迷わずにそのお金を使いなさい10万円持っていれば、たいていのことは何とかなるわ電車やバスに乗らなくてはいけなくなった時は、必ずカードを使って切符を買ったりしてはダメよ料金から行き先を予想されることもあるから尾行されていると思ったら、いつでも途中下車できるようにしておくの

本当に、ミナホ姉さんは、いつもオレたちのことを考えてくれている

不測の事態の時の集合場所は、珠代のホテルよあそこへ行きなさいもしもの時は匿ってくれるように、あの子に話してあるわ

一昨日泊まった、珠代さんのラブホテルか

オレとメグとマナが、一緒に一晩を過ごした

珠代のホテルの地図は、ここにあるわこの間は車で行ったから、あなたたちは正確な位置は判らないかもしれないと思ったから

ミナホ姉さんが、プリントアウトした地図をテーブルの上に置く

三人とも今、この場で暗記して珠代のホテルの位置と、住所と電話番号をこの紙は、持って行ってはダメよあなたたちが暗記したら、シュレッダーに掛けて処分するから

ミナホ姉さんはオレたちが留守にした後に、この監視室に敵が潜入する可能性すら想定している

だから、絶対に知られたくない情報は処分していくつもりなんだろう

オレたちは、頭を寄せ合って必死に暗記する

ミナホ姉さんは、後ろに控えている雪乃に振り向き

雪乃さんには、何もあげないから財布も身分証明書も持たせないわ無一文のまま、決死の覚悟であたしたちに付いて来なさいね

もし、あたしたちから逃げたら今まで撮った雪乃さんの恥ずかしい映像は、全てインターネット上に流出することになりますからね昨日は、白坂創介のエロ動画が流出して今日は、娘の卑猥な画像となったらマスコミもネットの人たちも、また大騒ぎになるでしょうね

雪乃は酷く沈んだ顔をしている

もう、文句を言う気力も残っていないのだろう

ミナホ姉さんは、そんな雪乃を嘲笑いながらオレに腕時計を差し出す

これ吉田くんが付けていて雪乃さんの腕にも同じ物が付けてあるから10分に一回、お互いの腕時計から微弱な電波を発信して、相手の位置を確認するわもし、20分以上、電波が届かない場合は大きな音でアラームが鳴るから

雪乃が、オレたちから逃げ出したらすぐに判る

もし雪乃さんの姿が見えなくなって、時計のアラームが鳴ったら吉田くんは、すぐにあたしに報告しなさいその段階で、自動的に雪乃さんは逃亡したと見なして、全てのファイルをネットとマスコミに流すわ

ミナホ姉さんが、クククと笑った

つまりオレと雪乃は、ずっとお互いの電波の届く距離にいなくてはならない

まあ、微弱な電波って言っても、同じ建物の中に居るぐらいなら電波は届くわよでも、片方が地下とかだとダメかもね吉田くん腕時計の赤いのボタンを押してみて

オレは、リューズの脇のボタンを押す

ピピッ10メートル以内に、感知しました

オレと雪乃の腕時計が、ほぼ同時にそんなメッセージを発する

もし、相手の居場所が判らなくなったら、そのボタンを押しなさいだいたいの距離は教えてくれるから

こうなると雪乃は、絶対に、オレの腕時計に電波が届く距離に居なくてはならなくなる

黄色と黒の工事現場カラーのドレスを着た雪乃が、絶望の眼でオレを見ていた

さて、そろそろ行こうかみんな、トイレとか平気

マルゴさんが、やって来る

マルゴさんは、黒いスーツ姿にサングラスを掛けていた

遠目には、男の警護係しか見えない

いやわざと、そうしているんだ

これから行く国立劇場では日本舞踊紺碧流の家元の教室の発表会が行われる

発表会で踊るのはみすずを始め、みんな日本有数の名家の子女たちばかりだ

子供たちの発表を見ようと、政財界の名だたる大物たちが会場に訪れる

当然各家からの護衛が集結する

ならば、マルゴさんは護衛の中に溶け込んでしまおうという考えなんだろう

いや、マルゴさんだけでない

オレたちの中で、黒い服を着ているのはミナホ姉さんとマルゴさんと寧さんの3人だけ

ミナホ姉さんも寧さんも一人だけでは、黒が目立つけれど、3人並べば一つのチームに見える

マルゴさんがボディ・ガードで、寧さんは子供のお守り役、ミナホ姉さんはマネージメント担当の事務方

3人とも、どこかの名家に雇われていてもおかしくない風格があった

これに、ワインレッドのスーツ姿の美人秘書風の克子姉が加わるとますます超一流の名家に雇用されている一流の使用人たちという感じがする

問題なのはこの一流の人たちと一緒に会場に行く、オレたち年少組が、全然名家の子供っぽくないことだろう

雪乃が地味顔+工事現場ドレスではなく、精一杯お洒落したとしてもミナホ姉さん+克子姉+マルゴさん+寧さんのチームにかしずかれるのに相応しいエレガントさは出せないだろう

オレはただの貧乏高校生だし

メグは美人だけど野に咲く可憐な花だ

今日のマナは可愛いロリビッチだし

美智は美少女だけど、お嬢様のオーラは出していないむしろ、殺気が出ている

この4人に囲まれて絵になるのはみすずぐらいだろうな

みすずには、お姫様らしい風格があるから

では、出発しましょう

これが、最後の勝負になるわ今日の夜で、全てが決まるだから、全員で討って出るのごめんなさいね今のあたしたちには、攻撃と防御に人を分ける余裕は無いから

まずはみすずの発表会へ

それから香月氏の指定したホテルで、白坂家との最終決着

オレにとっては、香月閣下との対決もある

そしてそのホテルで、シザーリオ・ヴァイオラを迎え撃つ

だから、みんな揃って元気な姿でこの部屋に帰ってきましょうね

ミナホ姉さんの言葉に、雪乃以外の全員が頷く

背水の陣を敷いてオレたちは出発する

ここに再び戻って来る時には、オレたちの敵は完全に消滅していなければならない

シザーリオ・ヴァイオラも白坂家も

あたしたちが退出したら、この部屋にはロックを掛けるよミナホの生体認証が無い限り、二度と開かないからねミナホ絶対に生き残るんだよ生体認証は、生きているミナホじゃないと作動しないからね

マルゴさんが、そうミナホ姉さんに言った

判っているわあなたたたちを残したままでは、死ねないものね

弓槻御名穂はオレたち全員の姉であり、母でもある

地下通路を通って教職員用の駐車場の隠しガレージへ

一号車が、あたしの青いマセラッティで、2号車がミナホの黒いベンツ3号車は克子さんの運転する白いバンだ

学校から脱出の指示は、全てマルゴさんがする

今日の白いバンには、丸子舞台衣装という文字がマグネットで貼られている

白いバンを持って行くのは、不測の事態の時のために、いつもより多めに装備を用意しているからだろう

常に1号車と3号車で、2号車を囲んで走るから信号は必ず、3台まとめて走り抜けるいいね

マルゴさんが、克子姉にそう言う

ええ、了解したわ

こっちは、ミナホと寧を敵に獲られたら負けだからねだから、寧は2号車工藤さんは、直近のガードだから当然同じく2号車メグちゃんとマナちゃんもね

ベンツは運転席に、ミナホ姉さん助手席に、美智後部座席に、寧さん、メグとマナこれで定員だ

吉田くんは、あたしと一緒に1号車雪乃さんは、克子さんと3号車だ

オレと別れることになって、早速、雪乃の顔が曇る

さあ、乗りなさい

克子姉が、冷たい眼で雪乃に指示した

雪乃は、暗い顔でバンに乗り込む

すぐに克子姉が、雪乃の手に手錠をはめた

バンの中の鋼管のバーに繋ぐ

あたし、運転中にゴチャゴチャ言われるのは嫌いだから静かにしていてねこれ、何だか知っているわよね

克子姉は、雪乃にスタンガンを見せた

わ、判っていますから

この数日で何度か電撃も体験している雪乃は、すぐに大人しくなった

さあ、吉田くんはこっちだよ

マルゴさんが、雪乃を見ていたオレに優しく声を掛けてくれた

じゃあ、お兄ちゃん、また後でねっ

マナが、窓から顔を出して、明るくオレにそう言った

ヨシくん、気を付けてね

大丈夫だよ別々の車でも、三台一緒に行動するんだから

オレはメグに、そう言ってやった

美智みんなのことを頼むよ

オレは、マセラッティの助手席に座る

ごめんね、吉田くん

シートベルトをしながら、マルゴさんが言った

後ろのベンツとバンは、防弾装備になっているんだけどこの車は、車体を重くして機動性を殺すわけにはいかないから銃撃されたら、防ぎようがないんだよ

そうか後ろの2台は、頑丈なんだ

仕方ありませんよその時は、その時です

吉田くんは、周囲の監視を頼むよ特に、信号待ちなんかの時に歩行者の振りをして近付いて来るかもしれないから、注意して

まあ、工藤さんのお父さんたちもガードに加わってくれると思うけどね

マルゴさんは、革の手袋をはめる

さて

マセラッティのエンジンが、軽やかに始動した

すぐに、後方の2台もエンジンを掛ける

マルゴさんの無線操作で隠しガレージのシャッターが開く

五月の陽光が、オレたちに降り注ぐ

OKLet’s go

三台の車が外へ

学校の裏門の外で工藤父がオレたちを出迎えてくれた

トニーさんの運転するタイタンボーイとノーマさんの運転する、黄色いプリウス

そして、工藤父はベスパに乗っている

オレたちが学校の敷地から出ると何も言わずにノーマさんのプリウスが、1号車のマセラッティの前を走り始めた

ノーマさんが先導するんだな

国立劇場へ向かうルートは、工藤父に一任しているからオレたちは、ノーマさんのプリウスの後をひたすら追い掛けることになる

ノーマさんは決してスピードを早めることなく、早め早めにウインカーを出して、オレたちに曲がる方向を示してくれた

工藤父のベスパは、2号車のベンツの脇にぴったりと付いていてくれた

これなら、信号待ちで不審者が近付いてきてもすぐに対処できる

タイタンボーイは、3号車のバンの後ろを追っている後ろから突然攻撃してくる車があっても、タイタンボーイとバンの2台の防弾車輌があれば、どうにかなるだろう

オレたちは、車5台+ベスパ1台で固まって、都心に向かって走っていく

もちろん、今見えているのは直接のガード車輌であってオレたちの車列に付かず離れずしながら、ネコさんら工藤父の配下の人たちの車も追って来てくれているのだろう

敵が路上で襲撃してくる可能性ってどれくらいあるんです

この場合は、可能性なんて考えたって意味がないさ襲撃が有るか無いかは、敵次第だからね

マルゴさんは、笑ってそう言った

ただ、今は少しでも早く国立劇場に着くことだけを祈っているよ国立劇場に近付けば近付くほど敵は襲撃が難しくなるからね

国立劇場ってどこにあるのか、吉田くん知っている

皇居のお堀端だよ隣が最高裁判所だ日本の中枢国会議事堂や霞ヶ関の官庁街にも近い

ああそれだけに、警備が厳重なんだ

それにさっき聞いた情報だと、今日の紺碧流の発表会には来日中のアメリカの商務省の事務次官も来るそうだよ

大使

次官のお嬢さんが、アメリカで日本舞踊を習っているそうなんだその先生が紺碧流の家元のお弟子さんなんだそうだよだから、ご家族で表敬訪問にいらっしゃるというのが建前で

建前

実際は、香月さんや日本の政財界の重鎮とこっそり歓談したいんだよ今日、集まる人たちなら、日米経済サミットが開ける顔ぶれだからね

国立劇場の廻りは、警察から公安関係者、さらにはアメリカのシークレット・サービスや米軍まで居るはずだよ

それに名家の護衛役が加わる

シザーリオ・ヴァイオラのことは

当然、香月セキュリティ・サービスから公安に通報が行っているよヴァイオラは、アメリカの犯罪者だからねついで、あたしがヴァイオラは、アメリカの事務次官を暗殺する可能性があるという偽情報も流しておいたから

来日中のアメリカ政府の高官が殺されたら日本の面目は丸潰れだアメリカから警護に付いて来ている連中もねみんな、必死でヴァイオラを阻止してくれると思うよ

マルゴさんの口元は笑っているけれど

眼は、真剣なままだった

だから正直、国立劇場まで行ってしまえば、そんなに心配はしていないよ決戦は、やっぱり夜のホテルになるだろうね

香月家の所有する都心の一流ホテル

あそこでは、香月セキュリティ・サービスしか守り手はいないから

マルゴさんの言うとおり

都心に近付くにつれ、警察のパトカーをよく見掛ける

あちこちで、検問もしているらしい

オレたちの車列も、警察に止められた

工藤父が若い警官とちょっとモメたけれど、どうにか、通り抜けて

何とか、5台の車+ベスパは国立劇場の前へ到着する

劇場の入り口ゲートにも当然、検問が行われている

まずは、ノーマさんが検問の係と会話していた

どうにか、ここまでは無事に来れたね

マルゴさんが、ホッと溜息を吐く

やはり、相当緊張していたんだ

あたしは、まだまだ修行が足りないね

そんなことを言う

恭子さんなら、こんな時にはジョークの一つも言って場を和ませるんだろうけれど今のあたしには何も思い付かないよ

マルゴさんは普段から、冗談なんて言わないじゃないですか

恭子さんて今、オーストラリアで白坂創介を監禁しているんですよね

恭子・ドスノメッキーさんは、マルゴさんの師匠で黒い森の護衛役だ

今はミナホ姉さんの命を受けて、白坂創介の身柄を拘束している

いや、多分、もう日本に向かって来ていると思うよただ、恭子さんの動きは本当に読めないから

あたしには想像もできなかった様な、行動を平然とするからあの人に比べたら、あたしは駆け出しの小娘だよ本当に、そう思う今回も、きっとトンデモない方法で帰って来ると思うよ

オーストラリアの警察に釈放されたとはいえ白坂創介は、現在も行方不明だ

まともに飛行機に乗って、帰国するとは到底思えないし

どうやって、戻って来るつもりなんだろう

さ、あたしたちの番だ

ノーマさんのプリウスが検問を終えて、国立劇場の駐車場へ入って行く

続いて、オレたちの車が、検問ゲートへ

検問係は、香月セキュリティ・サービスの制服を着ていた

会場警備は、香月セキュリティ・サービスが中心になってやっているらしい

お前たちも、警護課の人間か

ノーマさんの車の次だから30歳過ぎの検問係は、そう思ったらしい

ひどくぞんざいな、ナメた口調でオレたちにそう言った

黒い森

マルゴさんは、静かにそう答えた

検問係は、意味が判らないっていう顔をする

警備本部に、そう連絡してみるんだね黒い森が来たって

黒い森って何だよ

こんな係員が黒い森のことなんて、知っているはずがないか

いいから、確認して御覧よあたしたちは、香月さんの客だよ

マルゴさんがサングラスを外し、冷たい眼で係の男を見た

お前たちが招待者リストには、載っていないぞ

係の男は、なおも強く出た

だから、警備本部に聞いて見ろって言っているんだよ何で、あたしたちが香月セキュリティ・サービスの警護課の連中と一緒に居ると思う

お前らも、警護課の下請けなんじゃないのか

バカじゃないの、あんたあたしたちは、香月閣下が、わざわざあんたの会社の警護課に送迎させるような特別な客なんだけど

いやまさか、そんな

いいからさっさと黒森御名穂って名前で、警備本部に問い合わせてみなよ

い、今、確認する

検問係が、トランシーバーで本部と交信する

いいんですか黒い森を名乗っちゃって

いいんだよこういう場面では、権威の力を見せつけた方がいい

マルゴさんが、ククッと笑った

昔、そう教わったんだよ恭子さんに

ああ変な感じたね自分の師匠から教わったことを、人に話すのは何か、くすぐったい感じがするよ

すぐに係の男が、血相を変えて戻って来た

し、失礼致しましたっお通り下さい

すっかり態度が一変している

香月閣下かみすずか判らないけれど警備本部には、オレたちが来ることはちゃんと伝えてくれていたらしい

あたしたちはいいよあたしたちは、あんたと同じセレブなご主人様の警護役だからね

マルゴさんは、サングラスを掛け直して笑いながらそう言った

だけどうちのご主人様に対して、そんな態度を取ったらあんたの首なんて、簡単に飛ぶからね

検問係は、真っ青になる

あのどの方が黒森御名穂様なんでございますか

3台目の白いバンに乗っている、黄色と黒のドレスを着たお嬢さんだよ

それは雪乃

え、2台目のベンツじゃないんですか

マルゴさんは、クククと笑って

うちのご主人様は、ちょっと変わり者なんだよ

そう言うとマセラッティを国立劇場の駐車場に入れた

すぐに車を停めて、後続を待つ

2号車のベンツは、すぐに通して貰えた

ドレス姿のメグ・マナに、黒いパンツスーツの寧さんが乗っているし美智の制服も効いている

でも、運転しているのが黒森御名穂だとは気付いていないだろうな

3台目のバンの番になると検問係は、車内の雪乃にペコペコしていた

雪乃は地味化された顔に工事現場カラーのドレスで、バンの中の鋼管パイプに手錠で繋がれているんだけど

マルゴさんのちょっと変わり者発言で、全部スルーされているようだ

克子姉が、いつもの愛想の良さでニコニコと応対しているし

とりあえず、黒い森の3台は、無事にゲートを通過する

続いてタイタンボーイも

まあ、トニーさんは香月セキュリティ・サービスの正社員だし

オレのどこが怪しいってんだよっ

そりゃあ、黒のスーツに赤いカラーシャツで

ベスパに乗って、やってくる中年男性は怪しいでしょう

いいんだ、そいつは

劇場の方からやって来た男性が検問係に声を掛けた

いいんですか、部長

そうだその男は

香月セキュリティ・サービス総合警備部の山岡部長だ

美智の母親と、不倫関係にある

覚えておけそいつが、警護課の名物課長、工藤優作だよ

小馬鹿にした口調で山岡部長はそう言った

検問係が大きく頷く

何だよ、そのああってのはよっ

工藤父は、すっかりおかんむりだ

山岡部長は、コンコンとベンツの運転席の窓を叩いた

ミナホ姉さんが、パワーウインドゥを開く

何か

車を置いたら、ちょっと話をするお時間がいただきたいのですが

ええ判っています

山岡部長は、香月セキュリティ・サービスの警備部門のトップだ

ミナホ姉さんも、対シザーリオ・ヴァイオラに関して打ち合わせしないといけないことがあるのだろう

警備本部は、どちらに

1階のロビーの奥に設置しています

では後ほど、お伺い致しますわ

ミナホ姉さんは、窓を閉める

さとにかく、車を置きに行こう

マルゴさんが、マセラッティを駐車場に向けると他の車もオレたちに続いた

最近、国立劇場に行って無いので、嘘ホント半々でいきます

国立劇場が、スケジュールの空いている日に、日舞の大きな流派の発表会などに会場を貸しているのは本当です

私は観に行ったことがあります

検問のこと

昔、岡山県のサーキットでF1が開催された時に(日本グランプリの他にパシフィック・グランプリというのが2年だけありました)、警備員のアルバイトに行きました

そこでは、やっぱりゲート前で検問していまして

国際イベントなので、みんな各種のクレデンシャル(ID)カードを首から提げていて、それの区分けによって入れる場所が決まっています

で検問していると

オレは、F1レーサーだ、中に入れろ

と、何も持たないで現れたオッサンが入り口で捕まってました

チケットも無いのに、ついやって来た家出少年も居ましたし

ゲートには、色々とドラマがある様です

ちなみに、それはアイルトン・セナが亡くなる直前のグランプリで

当日の朝、私がたまたま正面ゲートの警備を担当していたら、

小さなルノーの大衆車に(その時は、ウイリアムズ・ルノーに所属していたため)、友達を二人乗せて

セナは、自分で運転して走って来ました

ゲート前のコーナーを曲がる時、レースの時みたいに頭をククッと傾けて

この人は、本当に運転が好きなんだなあと思いました

ちなみに、シューマッハは毎日ヘリコプターでサーキット入りしていたはずです

215.劇場の中

今更なんですけれどいいんですか

国立劇場の立体駐車場に停止したマセラッティの中でオレは、マルゴさんに尋ねた

何のこと

マルゴさんが、車のエンジンを切りながら尋ねる

いや、あのまだ、4時前ですよね

ミナホ姉さんから貰った腕時計を見る

みすずの出る紺碧流の家元の教室の発表会は、夜の開催のはずだ

開場前の劇場って、関係者以外は入れないんじゃ

こんなに早くに来ちゃってマズくないですか

マルゴさんは、ニコッと微笑んで

まあ、その辺は気にしないでみすずさんも、もう来ているはずだしね

みすずも、もう会場に来ている

香月セキュリティ・サービスのタイムテーブルだと、出演者は午後1時に全員集合1時30分から順番に舞台稽古ロビーとかでも、それぞれお稽古しているはずだよ

発表会は、夜なのに

午後1時集合って、ちょっと早くないか

今日、発表会に出るお弟子さんは、全部で50人を超えるからね

えそんなに出るんですか

そりゃあ、一番下は6歳からだからね小さい子たちは、何人か合同で踊ることになっているらしいし

そうか家元の教室って言っても、小学生のお弟子さんとかも居るんだよな

規模は大きくても、日舞教室であることに変わりは無いんだし

ただみんな、政財界の大物の子供たちっていうだけで

だから本番前の舞台稽古に、時間が掛かるんだよ

舞台稽古

本番通りに、舞台の上で踊るんだけど音響とか照明の都合もあるよねだから、何度か繰り返すことになるし小さい子は、こんな大きな舞台で踊るのは初めてだろうから、会場に慣れる必要もある教室のお弟子さんは、プロの舞踊家じゃないんだから余裕を持ってスケジュールを組むと、それだけ時間が掛かるんだろう50人以上もいるんだし

本番の発表会は長くても3時間くらいだろう

なのに、舞台稽古はその倍以上の時間が、掛かるんだ

でもちろん、お弟子さんたちはみんな良家の子女なんだから、一人では劇場に来ていないよね

みんな、それぞれの保護者や護衛も一緒に来ている

だからあたしたちが紛れ込んでも、誰も変だとは思わないよ

ミナホ姉さん、克子姉、マルゴさん、寧さんは、どこかの家から派遣された人たちに見えるだろうし

メグ・マナ・美智はお弟子さんのお友達に見えるだろう

問題はオレと雪乃か

オレ何に見えます

正直に、尋ねてみた

オレは、護衛とかにはとても見えないだろうし

かといって、名家の人たちのお友達っていう柄でもない

吉田くんはみすずさんの何なの

オレは、みすずの男だ

胸を張って堂々と会場の中を歩くんだねそうでないと、みすずさんに失礼だよ

廻りの人たちがどう思うかなんて、関係無い

オレとみすずの間には、絆がある

それだけでいい

まあ、君が思っている以上に、いいとこの坊ちゃんぽい感じには仕上がっているから安心して

マルゴさんがオレの姿を見てそう言った

その背広仕立てもいいし、克子さんの直しも完璧だよ靴も用意して貰ったんでしょ

この背広はミナホ姉さんのお祖父さんの物を、克子姉がオレのサイズに直してくれた

革靴は、Yシャツなんかと一緒に、いつの間にか用意してくれていた

克子姉には、感謝している

まあ会場には、すでにそこそこ人が来ているし出演者のお供の他に、香月セキュリティ・サービスの人たちがウジャウジャ居るからねそんなに気にしなくても平気さ香月セキュリティ・サービスの検問を通っ会場にて入って来たってだけで、身分が保証されているってことだからね

えあんな検問で

でも、ゲートの前には3人しかいませんでしたよ

そりゃあ、あんまりたくさんの人が居たら今日、ここに重要人物が集まることがバレちゃうじゃない見た目も良くないしね偉い人って、そういうことを気にするから実際には、何かトラブルが起きた時に対処する人たちが、ゲートの近くに何班にも別れて待機しているんだと思うよ

じゃあ、簡単な検問に見えたのは

あくまでも見せ掛けだけだよ検問係の態度が悪かったのも、怪しい相手にはわざとああしろと指導されているんだよああやって、こっちの出方を見るわけ

怪しい相手って

工藤父なら判るけれど

オレたち、そんなに怪しいかな

本来ならこんな時間に来場する人間は、全部シャットアウトなんだよ今日みたいな会だとマスコミとか、ジャーナリストとかあるいは、スパイとか名家の人に近付きたいだけの山師とかそういう人が何とか会場に忍び込もうと、次から次にゲートにやって来るからね警備の人たちも大変なんだよ

そうか出演者とお供の人たちは、午後1時の集合時間に合わせて来ているはずだし

こんな中途半端な時間に来場する人間は、怪しまれてもしょうがないんだ

それに香月セキュリティ・サービスの山岡部長がすぐに現れたでしょ監視カメラで観ていたんだろうね

実際には、あれで二重三重のチェックを同時にしているんだよ

だからこの会場にヴァイオラの関係者は紛れ込まないから安心してね

マルゴさんは、オレに微笑みかけてくれる

でも劇場って、たくさんの人が働いていますよね掃除や売店の人とか、レストランの関係者に成りすませば

オレの心配を、マルゴさんは笑う

吉田くんここ、国立劇場だよそういうことに対するセキュリティは万全だよ

今日は、紺碧流が借り切っているからね売店もレストランもお休みそれから、今日は、劇場のスタッフも掃除の人も、照明や音響の人たちまで全部香月セキュリティ・サービスの人間を配置してあるよ

上流家庭の人たちってさ、劇場へ行くのが割と好きなんだよ客席から観るのも、子供を舞台に出すこともねだから香月セキュリティ・サービスには、劇場の仕事のできるスタッフを抱えた部門があるんだよ

みんな香月セキュリティ・サービスの人間なんだ

本物のプロのお芝居とか、オペラやミュージカルなら、専門のスタッフじゃないと音響・照明はこなせないだろうけれど日本舞踊の発表会ぐらいなら、香月セキュリティ・サービスの人たちでもできるよ

そういうことだから、この劇場内に居る限りはヴァイオラのことは心配しなくていいからね

そういうことなら

シザーリオ・ヴァイオラの襲撃については、一先ず頭の隅に置いて

別の問題に集中しよう

みすずのこと

みすずの祖父の香月閣下は

さすがに、まだ来場してはいないだろう

それと

今日は、みすずの婚約者も来るんだよな

オレとマルゴさんが、いつまでも車から降りてこないのでマナが心配そうな顔で、マセラッティの窓をコンコンとノックした

ああ、今、降りるよ

オレは笑顔を作って、助手席のドアを開ける

ミナホ姉さんや寧さん、メグも美智もすでに車外に居た

克子姉と雪乃も

慌てて、マセラッティから降りる

寧さんとマルゴさん、同じ靴を履いていますね

二人とも、そっくりな黒い革靴を履いている

かかとの低い

ああ、あたしたちは動きやすい様にね機能性を重視しているんだよ

そう、何かあった時に走り回れるようにねっ

二人は、顔を見合わせてニコッと微笑んだ

これ特注なんだよちゃんと、あたしたちの足の形に合わせて作って貰ったんだから

最新のスポーツ用シューズの技術を採り入れてあるんだよ見た目は、普通の革靴だけどね

工藤さんの靴も、そうだよね

マルゴさんが、美智に言う

はいお判りになられましたか

美智は、静かにそう答えた

あたしは、職業柄、人に会うと最初に靴を見るから

吉田くんも、これからは人の靴に注目してみなさいすぐに判るわ

とりあえず美智の靴を、改めて見てみる

これ靴底が

普通の革靴みたいに平らじゃない

はいわたくしの靴は、戦闘用ですから革でなく、ラバー製のソールになっていますしかも、わたくしの戦闘は都市部に限定されていますから軍用のソールでは無く、特殊な靴底パターンをオーダーメイドしています

あたしたちのも、そうだよっ

寧さんが、靴底を見せてくれる

見た目は、きちんとした革靴なのに靴底は、ジョギング・シューズの様になっていた

アスファルトやコンクリートの床面ならいいけれど滑りやすいリノリウムや、ワックスを塗った木の床なんかの上でもグリップしてくれないと困るからね靴底のゴム自体、特別製のを使っているよその分、減りも早いんだけれどね

今、工藤さんが履いている靴底は、あたしが前に使っていたのと同じ種類の材質だと思うなこっちのゴム底も試してみたら何なら、あたしが使っている職人さんを紹介してあげるよ

護衛の専門家は靴のことに、こんなに考えているんだ

さあ、そろそろ行きましょう

ミナホ姉さんが、みんなに声を掛ける

オレたちは駐車場棟から、劇場へと向かった

劇場の入り口にも、香月セキュリティ・サービスの警備員が立ち番していたけれど何も言わずに、オレたちを通してくれた

もうオレたちの来場情報は、警備員全体に知らされているらしい

旦那様ぁっ

広い劇場ロビーで、みすずが出迎えてくれた

みすずは、稽古用の浴衣姿だ

お待ちしていましたぁっ

みすずは、スッとオレに寄って来る

弓槻様も皆様も、本日はありがとうございます

みんなに頭を下げるみすず

少し、早く着きすぎてしまったわごめんなさいね

ミナホ姉さんは、そう言うが

皆様は、わたくしの家族ですからどうぞ、お気になさらないで下さい

つまりオレたちは、みすずのお供として正式に登録された

これで開場前の劇場に居ることは、全く問題なくなる

ロビーを見渡すとあちこちで、浴衣姿の少女が自主練習していた

それぞれの子の周囲にはお付きの人や、護衛が居る

みすずは、家から誰か来ているの

お祖父様や両親は、開場時間に合わせていらっしゃいますが

いや、そうじゃなくって護衛の人とか

みすずは、ククッと笑う

あたしにとっては、香月セキュリティ・サービスの方全員が身内ですから

確かに、香月セキュリティ・サービスは今日の発表会の護衛を担当しているけれど

そもそもは、香月家の人間の護衛が最優先なわけで

山岡警備部長まで来ているのなら、他の人は必要無いんだ

それに美智が戻って来てくれましたし

美智が、みすずの前にスッと立つ

みすず様の護衛に戻ります

頼みます美智

みすず専用の護衛が、任務に復帰する

じゃあ、あたしたちは山岡部長さんとお喋りしてくるわ

香月セキュリティ・サービスとの情報交換

しかし山岡部長は、こちらの知りたいような情報は持っていないと考えているんだろう

ミナホ姉さんは、お喋りと言っているのだから

克子とマルゴは一緒に来て

寧は吉田くんたちと一緒に居なさい

寧さんが、おどけてミナホ姉さんに敬礼する

遠目には、ミナホ姉さんがみすずのお付きの人で寧さんは、その部下に見えるだろう

判っていると思うけれど窓には近付かないで望遠レンズで、見ているやつがいるかもしれないから

マルゴさんが、心配そうにそう言った

大丈夫だよっちゃんと判ってるから

じゃあ吉田くん、頼むね

ミナホ姉さんら年長組3人はそのまま、警備本部へと向かって行った

みすずさぁーん

ロビーの入り口から、台車で荷物を運んで来た少女がみすずを呼ぶ

どうしました、加奈子さん

お手すきだったら、お手伝いしていただけませんお稽古場から今日、お客様にお配りするパンフレットが届いたんですけど、二つに折らないといけないんです

そういうのも、お弟子さんの仕事なんだな

舞台稽古の合間に、そういう準備もするんだ

あの、みすずさん

メグが、みすずに声を掛ける

そのお手伝いあたしたちにも、させて下さいませんか

マナもニコッと笑う

だって、あたしたちみすずさんの身内じゃないですか

みすずとメグが、眼を合わせてそして、笑い合う

では、お願いします

あ、あたしもやるからねっ

寧さんも、そう言ってくれた

雪乃さんも、お手伝いするんだからねっ

マナが、姉に意地悪くそう言った

雪乃は、ずっと黙り込んだままだ

さあ、参りましょう

美智が、スッと雪乃の背後に立って強制的に前方へ進ませる

オレたちは、全員で台車の少女の方へ向かった

初めまして、わたくし洞口加奈子と申します

とても大人っぽくて上品な少女が、オレたちに頭を下げた

この人も多分良家のお嬢さんなんだろう

みなさんみすずさんのお身内の方ですか

ニッコリ笑って、はっきりとそう答えた

こんにちわ、吉田マナです

マナが、大きな声で挨拶する

よ、吉田恵美です初めまして

マナに対抗してメグも、吉田を名乗った

あたし、吉田寧よろしくねっ

いや、いいのか

シザーリオ・ヴァイオラの件があるんだから無闇に、本名を名乗るべきではない

みなさん、ご姉妹なんですの

加奈子さんが、驚いてそう尋ねる

そうでーすっ

寧さんが、楽しそうに嘘を吐くが

あ、この人だけは違いまぁーす

マナが実の姉を指差す

ここで白坂の名前が出るとマズイんだろうな

さすがに昨日からの騒ぎだから、白坂家の人間がやって来ることは無いだろうけれど

こんなセレブばかりの場所じゃ白坂を名乗ったら、誰だってあの白坂家の血縁だと思うだろうし

と、オレが躊躇していると

この人は、黃縞黒子さん

美智がそう言った

って美智

見た目のまんまじゃねぇか

き、黄縞です

雪乃が、加奈子さんに挨拶する

じゃあ、しょうがない

雪乃はここでは、黄縞黒子だ

黄縞さんはちょっと変わっているけれど、気にしないでねっ海外での生活が長かっただけだからっ

寧さんがワルノリする

帰国子女なんですの

加奈子さんに質問に、寧さんは

そうそう去年まで、10年間、バル・ベルデ共和国で暮らしていたんだよねっ

それどこにあるんですか

それからこの人は、黒森公之助さん

美智が、オレを指してそう言った

な、何で

しかしここで否定するのは変だし

美智って、冗談とか言いそうに見えない子だから

ええい、仕方ない

黒森です

加奈子さんのお父さんは、俳優さんの洞口文弥さんなのよ

みすずが、そう紹介してくれた

そうなんですかうちの父がファンなんです

メグが、大きな声を出す

うちの父とは山峰の養父のことだろう

加奈子さんは、こういう反応には慣れているらしい

へぇ、そうなんだあたしもよく観るよ、洞口さんの映画

寧さんまで、そう言うんだから有名な俳優さんなんだろう

オレは、よく知らないけれど

テレビも映画も、ほとんど観てないからな

加奈子さんは、今、幾つなの

寧さんが、年齢を尋ねる

15歳です中学3年生ですわ

えっそんなに若いの

とっても大人っぽいから、みすずと同い年かと思った

あたしは18歳でも、まだ高2なの理由は聞かないでね

寧さんが笑って、そう言った

あたしとこの子と彼は、高校一年生です

メグがオレと雪乃を指して、そう言った

あたし、中2ですっ15歳ってことは、工藤さんと同い年ですね

みすずは、高校2年生だから

18歳から14歳まで、一通り揃ったことになる

じゃあ、パンフレットの作業みんなでやりましょうか

一番年長のみすずが、そう言った

全部で、何部あるの

3500部です

うわ結構あるな

この人数でやれば、すぐに終わるわよ

どこでやります

メグが尋ねると、加奈子さんは

あっちの机を使っていいって、斉藤さんに言われました

見ると受付用らしい机が、幾つか並んでいる

じゃあ、あっちでやりましょう

あ、台車はオレが押します

オレは、加奈子さんに代わって、パンフレットの載った台車を押す

すみません黒森さん

加奈子さんが、そう言った

そうだ、オレは今は黒森さんなんだ

あたしたち、机を並べているね

マナとメグが小走りで、机へ向かう

ほらっ、黒子もこっちへ来て

相変わらず、マナは姉には厳しい

机に、パンフレットの入った包みを並べて

真ん中から二つに折ればいいのよね

はい、それだけで結構です

今日は、折り込みのチラシとかあるの

ええあたしが聞いているのは吉永さんの主演舞台と江美子ちゃんの出た映画のチラシが入るそうです他にも、持っていらっしゃる方がいるかもしれませんけれど

それも一緒にやる

あ、吉永さんと江美子ちゃんのは、それぞれマネージャーの方が後で持ってみられて、ご自分で折り込みなさるそうです5時頃にならないと届きません

さすが紺碧流の家元の教室

芸能関係の仕事をしているお弟子さんたちもいるんだ

加奈子さんもうすぐ、あなたの舞台稽古よ

別の浴衣姿の女の子が舞台の方からやって来る

え、愛美ちゃんあたしの番は、まだのはずだけど

真弓ちゃんと敏子ちゃんの踊りが、予定よりも時間が掛かっちゃって晶さんの道成寺を後回しにすることになったのだから、繰り上がりであたしと加奈子さんの明かり合わせを先にするってお祖母様が

明かり合わせってことはちゃんと衣装を着ないといけないじゃない

そうよ色の加減をチェックしたいそうなのメイクはいいから本番通りに衣装だけは着てないと

二人の会話に、みすずは

加奈子さん、早く行ってこっちは、あたしたちだけでやっておくから

済みませんみすずさん

気にしないで全部、折ったらこのまま、この机の上に置いておけばいいのかしら

はい、後は斉藤さんがやって下さいはずです

じゃあ、すみません

加奈子さんが、呼びに来た少女の方へ向かう

お願いします、みすずさん他の方々も、よろしくお願いします

もう一人の少女がオレたちに深々と頭を下げた

そのまま、浴衣の少女たちは楽屋に向かって急ぐ

着物だと、走れないから大変だよねっ

寧さんが、裾を気にしながら小走りで歩く二人を見て、そう言った

今、いらっしゃった方は、愛美さん家元様のお孫さんよ

包みからパンフレットの束を取り出しながらみすずが言った

これをどうすればいいんです

メグが、みすずに尋ねる

こっち側が表紙になりますからここで二つ折りにして下さい

オレたちは、それぞれパンフレットの束を拡げて折り始める

雪乃だけは眼の前に置かれたパンフレットを、呆然と眺めていた

ほら、黒子さん手が止まっててるのはダメだからねっ

マナにそう言われてようやく、雪乃も作業を始める

ところで美智何で、オレは黒森公之助なんだ

パンフレットを折りながら、オレは尋ねた

あの状況で、黒子さん以外全員が吉田なのは変です

確かに雪乃以外は、同じ家の人ってのは妙だ

4人姉弟ってのもな

それに今着ている背広の内側に、そう刺繍されています

オレは、背広の内側を見る

確かに内側のポケットの上に、金糸で黒森公之助と刺繍がされていた

この背広は、元々はミナホ姉さんのお祖父さんの物だから

よく気付いたな美智

オレは、美智の観察力に驚く

あらあらこんなところで、何をしているのかしら

不意にそんな声が聞こえてきた

売春婦たちとその家族なんてこの場所に来るのには、相応しく無いと思いますけれど

悪意のこもった、その声の主は

もう遅刻、ギリです

216.姉との勝負

オレたちに悪意のある言葉をぶつけてきた、その少女は

ピンク色の活動的なパンツスーツに身を包んでいた

みすず様どういうおつもりで、そんな方々をお連れになられたのかは知りませんが

みすずに対して、冷たい言葉を投げ掛ける

香月家の方は、それなりに相応しい身分の方々とお付き合いべきだと思いますわ

オレはその少女を、前に見たことがあった

姉上、みすず様に対して失礼な発言はお控え下さい

美智が、口を開く

そうこの悪意に溢れた少女は、美智の姉

工藤遙花

高校生空手日本一で、香月閣下のもう一人の孫である香月瑠璃子さんのボディ・ガードだ

あら、わたくしにそんな口を効くなんて、あなたも随分偉くなったものね美智

工藤遙花は、妹にも侮蔑の視線を投げ付ける

美智は、グッと怯えた様子でうつむいた

姉のことが、苦手なんだ

わたくしは、みすず様とお話ししているのよあなたは黙ってなさい

そして再び、侮蔑の視線がみすずに向かう

わたくしはただ、みすず様をお諫めしたいだけですわ

美智よりも、遥かに高い身長

美少女空手家として、テレビニュースでも紹介された美貌

オレたちやみすずに対する態度を見る限り

工藤遙花は、相当な自信家なんだろうと感じられた

みすずよりも一つ年上の高校3年生だし

わたくしはただ、みすず様にご自分のお立場をよく理解していただきたいだけですのみすず様が、売春組織の人間たちと仲良くなさっているなんてことが世間に知られれば、大変なスキャンダルになりますそうなればみすず様だけでなく、瑠璃子様のご評判にまで傷を付けることになりますから

工藤遙花が、みすずを責める

みすず様には、すでに婚約者がいらっしゃるのですし下賤な人間たちとのお付き合いは、お止めいただきたいですわね

あくまでも、高圧的に

臣下として言葉を選びながらも、あからさまに見下した態度で

工藤遙花は、話し続けた

寧さんが、噴き出す

へぇ、あたしたちって下賤なんだ

工藤遙花に負けない嘲笑を、寧さんは返す

売春組織の人間が下賤でないとでも言うのですか

少なくとも、あんたみたいな女よりはねっ

二人の視線が、交錯する

姉上は黒い森という組織の方々のことを、少しも判っておられません

美智が、うつむいたまま小声で姉にそう言う

そんなの判るわけがないでしょう身を売って生活するなんて、最低の女のすることじゃない

工藤遙花の言葉にメグが、怒る

みんな好きでそうなったんじゃないわっ勝手なことを言わないでッ

娼館の中で生まれたメグには、彼女の言葉は許せない物だったらしい

あら、ごめんなさいでも、別にいいのよわたくしは、あなたたちみたいな下劣な方々のことなんて何の興味も無いからあなたたちのことなんて、知りたくもないし見たくもないわ

工藤遙花の顔は、まだ嘲笑に歪んでいる

そんならあっちへ行ってよこっち来ないで

マナが大声で叫ぶ

わたくしだって、できるものならそうしたいわよでも、そうはいかないの判る

工藤遙花が軽く、肩を回す

このまま、あなたたちがこの会場に居ると瑠璃子様の視界に入ってしまうでしょうわたくしね瑠璃子様には、汚い物はなるべく見ていただきたくないのだから

空気が鎮まる

無理矢理にでも、排除させていただくわ黒い森の人間は、全て

この空手少女は

オレたちを、この会場から叩き出すつもりなのか

正直わたくしは、香月家の瑠璃子様のことしか考えていないわみすず様には、申し訳無いんだけれど

工藤遙花は、ニッと笑う

でも瑠璃子様は、次代の香月家の当主となるお方ですからみすず様にも、瑠璃子様を第一に行動していただく必要があると思うのよ

ふーん瑠璃子って子は、ミィちゃんがあたしたちと関係していることが、ご不満なの

寧さんが工藤遙花に探りを入れる

そういうことでは無いわよこれは、わたくしの独断ですわたくし、瑠璃子様には何の憂いも無く過ごしていただきたいの瑠璃子様は、とてもお優しい方ですからみすず様の不良行為をお知りになったら、とってもお心を痛めることになられると思うの

不良行為

オレと黒い森と付き合っていることが

ですから瑠璃子様がお知りになる前に、わたくしがみすず様の眼を醒まして差し上げようと思って出向いて参りました

工藤遙花は、ニッと微笑んだ

10分以内に黒い森の人間は、この会場から全員退去なさいそして、二度とみすず様の前には姿を現さないように誓っていただくわ

工藤遙花の眼がオレたちに向けられる

特にあなたにはね

オレとみすずの関係を知っているんだな

あなたの男性器悪いんだけれど、この場で潰させて貰うわ二度と、性的な機能が働かないようにね

オレのチンコを潰すっていうのか

そうすればハレンチなみすず様でも、あなたのことを諦めて下さるでしょう

触ると気持ち悪いから、靴底で踏みつぶすわわたくし力尽くで蹂躙するって言葉、大好きなのよ

胸の前で、パンと拳と手の平を合わせる

オレはサッと前に出る

相手が暴力を使うと宣言しているんだ

他の女たちを危険に晒すわけにはいかない

あら女の影に隠れるかと思ったら、そこそこの勇気はあるみたいねただの格好付けかもしれないけれどそれとも、あたしの空手の力も判らないような、お馬鹿さんなのかしら

侮辱されるのはいい

とにかくみんなを守らないと

これ以上の無礼は、姉上といえども許しません

美智がスッと立ち上がる

あら、あなた本気なの驚いたわね

工藤遙花は、妹を笑った

判っているの、美智あなた、今まで一度もあたしに勝ったことがないのよ弱い癖に、無理をするとケガをするわよ

姉と妹の年齢差は3つ

高3と中3身体能力の違いは大きいだろう

その上お互いの手の内は知り尽くしているだろうし

本気でやったら、美智が勝つよ

美智が、ハッとしてオレを見る

馬鹿なことを言わないでよその子は、空手の練習から逃げ出したような半端な人間よわたくしが工藤遙花が負けるわけがないでしょう

工藤遙花は父親の工藤流古武術を認めていない

その真の実力も知らない

空手ではなく、工藤流を選んだ妹を練習の辛さから逃げ出しただけだと思っているらしい

それともあの下らない武術モドキで、わたくしに勝てると思っているわけ

自信満々に、そう言う工藤遙花に

そうかなあ、あたしもミッちゃんの勝ちだと思うけれど

あたしも、美智さんが勝つと思いますっ

生真面目なメグが、美智のためにそう言ってくれた

美智今まで一度もお姉さんに勝ったことが無いってどうせ、空手か何かの試合でのことだろ

美智が、オレを見る

当たり前じゃないあたしは、空手家よ

工藤遙花が、凄むが

なあんだじゃあ、やっぱり美智さんが勝つじゃん

マナが、カハッと笑う

そうだよねぇミッちゃんの敵じゃないよねこんな空手女

寧さんも、薄ら笑いを浮かべている

でもわたくしは

美智自身は姉に対して、どうしようもなく苦手意識があるらしい

激しく緊張している様子が見えた

大丈夫だよ美智の工藤流なら

オレは、ハッキリと美智に言う

そうよ、美智さんはとっても強いんだからっ

メグも美智にエールを送る

うんミッちゃんなら、やれるよ

ほらっ、黒子ちゃんも何か言いなさいっ

マナに頭をはたかれた、雪乃は

が、がんばって

何じゃ、そりゃあ

判りましたみなさま

美智が覚悟を決める

姉上勝負致しましょう

工藤遙花は、ニヤッと笑った

本気なのね

みすずが緊迫した空気を完全に無視して

いきなりオレに、甘えてくる

身体全体でオレに、もたれてくる

オレの手を取って指先に、そっとキスをする

あのね、旦那様浴衣って、色々なところに穴が開いているんですよ

そして、オレの手を

浴衣の脇から、内側に招き入れる

みすずのおっぱい、触って下さい

浴衣の中下着の上から、みすずの乳房を触る

うふふ日舞用の下着なんです布地が、つるつるしているでしょう着物が滑ってもつれないようになっているんです

滑らかな布地の上に指を這わす

みすずの柔らかな乳房の上で、オレの指先がスケートする

うふふ旦那様に触られるの、気持ちいいっ

みすずが、熱い息を漏らす

あんっそこが、乳首です

布地の下に、コリコリとした感触

みすずの乳首が、急速に勃起していく

あはっ気持ちいいっ

みすずの痴態に、すっかりみんな息を呑まれてしまっていたが

ななななな、何をなさっているのですみすず様ハ、ハレンチなっ

工藤遙花が、大きな声で喚き出す

あら、遙花さん人と人が愛し合う行為を、ハレンチなんて言ってはいけないわよ

みすずは、艶やかな眼で笑う

みんないいのこのままだと、みすずが旦那様を独り占めしちゃいますよ

そのみすずの笑顔に

ヤダヤダ、ヨッちゃんはあたしのだもーんっ

寧さんが、前からオレに飛び込んで来るッ

豊かな胸を、オレに押しつけてきた

あああマナもッ

マナが、オレの足に抱きついて来る

可愛いおっぱいを擦り付けて

よ、ヨシくんあたしも

メグがオレの左手を握りしめる

オレの手に何度もキスする

黒子ちゃんはいいの

寧さんの言葉に雪乃は

えっとあ、あの

じゃあ、黒子ちゃんは抜きってことで

マナが、ニヒヒと笑う

雪乃スカートを捲って、パンツを見せろ

自分から入って来られないのなら、せめて参加する余地ぐらいは作ってやらないと

雪乃が自分でスカートを捲り上げて、オレにパンツを見せる

パンティまで、縞々かよ

黄色と黒の

お前は、雷様の娘か

ハハハ、ハレンチよっハレンチ何をやっているのよ、あんたたち

工藤遙花がキレる

その様子さえみすずは、無視する

美智こっちへ来なさい

姉と交戦寸前の状態だった美智がハッとする

いいからこっちへいらっしゃい

美智は、まだ姉を気にしている

その人は何もできないわ無視して、こっちへいらっしゃい

美智がオレたちの方へやって来る

旦那様美智の頭を撫でてあげて下さい

みすずが、笑顔でオレに言う

オレの右手は、みすずのおっぱいを揉んでいる

左手は、メグが握りしめているし

そのお優しい手をあたしの胸から、美智の頭に

みすずは、優しくそう言った

オレはみすずの浴衣から右手を抜き、美智の頭へ

輝く15歳の少女の黒髪をゆっくりと、撫でる

美智あたしが愚弄されているのに、よく耐えてくれました

みすずが、美智を褒める

そして仲間のために、よく立ち上がってくれました

みすずはオレたちを仲間と呼んだ

苦手な姉に対して、立ち向かう勇気を見せてくれましたありがとう今日の美智は、あたしの誇りです

オレに撫でられている美智がうっすらと涙を浮かべる

あなたはもう、あたしの仲間です妹ですよ

もったいないお言葉です

15歳の武士娘の眼からポロポロと、涙が零れた

工藤遙花

みすずが美智を見たまま、工藤遙花に声を掛ける

事態の進展に戸惑っている工藤遙花が、慌てて返事をする

許しませんからね

あなたのことは、許さないと言ったのです

みすずの声には、圧倒的な強い意志が感じられた

わ、わたくしをどうする、おつもりですか

工藤遙花は、平静を装うが

その声は、震えていた

あなたはあたしを愚弄しましたあたしの仲間を愚弄しましたあたしの世界で一番大切な旦那様に危害を加えると宣言しました絶対に許しませんからね

みすずの顔は、笑っていた

しかしその眼は、怒りに燃えていた

ゆ、許さないからどうすると、おっしゃるんですかわたくしの無礼を、香月閣下にご報告なさるおつもりですか

あなたの様な小者お祖父様のお力をお借りしなくとも、あたし一人で処分できます

冷たい眼で工藤遙花を見る

そうだ、この眼は

ミナホ姉さんの眼だ

そんなことがみすず様は、まだただの高校生でいらっしゃいますし

あなただって、ただの高校生でしょ、遙花さん高校生が、高校生を許さずに罰するただ、それだけのことですよ

みすずの口調は、完全にミナホ姉さんと同じになっていた

わたくしは高校生である前に、一人の空手家です瑠璃子様のボディーガードです

みすずは、そんな工藤遙花の言葉をハッと鼻で笑う

あなたなんて、何の価値も無い人間よあたしにとっては

みすずの言葉が、工藤遙花に深く突き刺さる

み、みすず様あ、あなたは

以前のままのあたしならあなたの脅しに屈したかもしれないわいいえあなたの企てにまんまと乗せられたかもしれないでも、残念だったわねあたし、変わったのこの数日間で、自分でもびっくりするほど強くなったの

みすずが、工藤遙花に微笑む

そこに隠れている人、出て来なさい

みすずが、ロビーの衝立の向こうに声を掛けた

もう判っているのだから早くなさい

みすずの鋭い言葉に衝立から、4人の少女が現れる

みんな工藤遙花と同じ、パンツスーツを着ていた

伏兵がいたのか

オレが、そう呟くと

違うよ、ヨッちゃんそこの女は、ミッちゃんをあたしたちから引き離したかったんだよだから、わざとミッちゃんを挑発してこの場から連れて行こうとしていたんだ

美智を、連れて行く

判ったわ美智さんが席を外した隙に、他の人たちが力尽くであたしたちを追い出すつもりだったのね

なるほどやっぱり、美智の戦闘力が怖いから

ううんそうじゃないんだなあ

あたしたち追い出すのは、別に自分たちでやらなくてもいいんだよ

あたしたちとケンカになった振りとかしてさ適当に騒いで、香月セキュリティ・サービスの警備員を呼ぶつもりだったんだよそしたら今日は、財界の重鎮やアメリカの次官が来るわけでしょ

今、この場でメッチャクチャに騒いだらどんなことになると思う

オレたちと伏兵の4人はおそらく、全員退場させられる

この会場には、居られなくなる

とにかく、この場で何か騒ぎを起こそうと企てたんだよそうしたら、あたしたちを追い出す名目ができるでしょ

でも何で、わざわざ美智を

そりゃあ自分の妹が退場処分になるのは、みっともないって思ったんでしょうよ

自分の世間体のためかよっ

でもみすずはいいのオレたちと一緒に居たら、みすずも退場処分になっちゃうだろ

美智を、連れ出す前に

みすずを、連れ出すべきなんじゃあ

判った、お兄ちゃん

マナが、叫んだ

この人みすずさんに恥をかかせるつもりだったんだよ

みすずに恥を

そうねあたしたちのことなんて、二の次だったのね

メグも、そう言い出す

誰かオレに説明してくれよ

だぁかぁらぁ

この女の目的は、最初っからみすずさんの退場処分だったわけ

なにぃ

退場処分になったらみすずさん、今日の発表会に出られなくなるでしょパンフレットに名前は載っているし香月さんや知り合いの人もみんな観に来るのに、みすずさんが不祥事で出場できなくなったら、どうなる

みすずにとって不名誉なことになる

そしてこの女のご主人様の瑠璃子さんだけが香月家からの唯一の出演者ということになる

みすずは呆然としている、工藤遙花を睨んだ

あたしと瑠璃子さんの後継者争いにも、影響が出ると思ったんですよね工藤遙花さん

だからみすずは

オレたちが、美智に姉との対決を覚悟させたところで

わざと気を削ぐような方向に持って行ったんだ

なぁるほどねぇ

側から不意に声がした

ハッとして、振り向くと

マルゴさんが居る

マルゴさん、いつの間に

気配を消すのは、あたしの仕事の基本だからね

みすずさん、この子を処分する前にさ

マルゴさんが、提案をする

美智さんとの勝負は、やっぱりさせてあげるべきなんだと思うよ

美智は、姉へのコンプレックスから抜け出るため

正々堂々と勝負して、姉に勝つべきだ

こういうのはどうかな工藤遙花さんだっけこの子が勝ったら、処分は無しにするみすずさんに対しての無礼な行為も全て忘れてあげる

美智が勝ったら、どうしますか

メグが口を開いた

売春して貰いましょう

その人お屋敷の女の人たちを侮辱したんですからあたし、絶対に許さないわ

美智が勝ったら工藤遙花は、売春婦になる

一度だけで構いませんから売春婦の辛さを体験して貰いたいの

どうかな、みすずさん

マルゴさんが尋ねた

それで良いと思いますどうかしら、遙花さん

工藤遙花は

勝てばいいんでしょわたくしが勝つわよ美智に、姉のあたしが負けるはずがないじゃない

毎日更新で書いていると日々の健康状態や精神状態が、あからさまに出てしまいます

なかなか、難しいですね

この2週間は、私にとってかなり厳しい時期でした

やっと抜けられた気がします

最後は自分の作ったキャラクターたちに救われました

とても、良い子たちで心から感謝しています

217.イン・ザ・ボックス

美智も、いいですね

みすずが、美智を見る

美智は、姉との勝負に乗り気では無いらしい

美智お父さんに言われたこと、覚えているか

オレは美智に言った

美智は、もう自分の工藤流を作っていかなければいけないんだぞ

例え、相手が自分のお姉さんだとしても美智は闘うべきだ

オレの言葉に、マナが

そうだよっお姉ちゃんとか、血の繋がりとか関係ないよっボッコボコにしちゃえばいいんだよっ

マナすぐ横に雪乃が居る状態で、それを言うか

こいつのコンプレックスも、複雑だからなあ

ミナホ姉さんが、今朝から徹底して雪乃に酷い格好をさせている理由が判ってきた

マナもメグも雪乃に対するコンプレックスが強く根付いているから

マナとメグはドレス・アップ、雪乃はドレス・ダウンさせることで、劣等感を刺激しないようにしているんだな

せめて雪乃は、自分よりも美人という先入観が崩れれば、二人のコンプレックスは大幅に改善されるだろうし

工藤遙花さんあたしのことは、知っている

マルゴさんが不意に、工藤遙花に声を掛ける

マルゴ・スタークウェザーさん黒い森の警護役の方ですよね

工藤遙花は、一応、オレたちについては調べているようだ

あたしは君よりも一つしか年上で無いけれどもう3年以上、この仕事やっている同じ業界の先輩として忠告しておくけどさ君、才能が無いから、ボディーガードは辞めた方がいいよ

工藤遙花の表情が、厳しくなる

ただの売春組織の警護役が、香月セキュリティ・サービスの人間であるわたくしを侮辱するつもりですか

マルゴさんは、ククッと笑って

ごめんねあたしは心の冷たい人間だからさ、才能の無い人間には、はっきりそう言うことにしているんだよ香月セキュリティ・サービスに迷惑を掛けないうちに、足を洗った方がいいよこの世界は、君みたいな鈍い子が生きていける世界じゃないから

わたくしは、空手のインターハイ優勝選手ですっそのわたくしの何処に才能が無いとおっしゃるんですか

だから、ずっとアスリートをやっていた方がいいと思うよ君には人を守ることはできないよだって、君は守られる方の側の人間だからね

マルゴさんの眼は、冷たかった

無礼なッッ

工藤遙花が、マルゴさんに殴りかかろうとするが

その瞬間、寧さんが机の上にあったボールペンを工藤遙花に投げつける

はいよっ

工藤遙花が、そのペンを避けると

マルゴさんの拳が、工藤遙花の顔面すれすれに出現する

寸止め

後一歩、踏み込んでいたら

工藤遙花の顔は、粉砕されていただろう

相変わらず、マルゴさんと寧さんの連携は凄い

まだやるかい

ひ、卑怯ですわ

そう言う、工藤遙花に

君不意に敵に襲われたら、相手にそう言うのかい

工藤遙花は、空手選手であって

裏の仕事には、向いていない

い、今のはちょっと気が緩んでいただけですっ実戦では、こんな失態は致しません

本当に、ダメだこの人

あたしは今、実戦をやっているんだけれど

マルゴさんの言葉に工藤遙花は、ゾクッと震える

君と美智さんなら、ただの姉妹ケンカなのかもしれないけれど香月セキュリティ・サービスに籍のある人間が、黒い森の人間に殴りかかったら、それはもう実戦だよね

マルゴさんが、穏やかに話す

黒い森は、香月さんには大変お世話になっているけれど香月さんの部下ではないんだよあたしたちは独立した組織だあたしは最初に聞いたよねあたしのことを知っているかって

そうだマルゴさんが

あたしが黒い森の警護役っていう看板を背負っているって知っていた上で君は、ケンカを売ってきたわけだ

それはあなたが、わたくしを侮辱したからですっ

それを言うのなら

工藤遙花は、さっきから散々、オレたちやみすずのことを侮辱している

でも、殴りかかってきたのは、君の方だろあれ知らないのこういう時は、先に手を出した方が負けなんだよね

そ、そんなのは言い掛かりです

そうかなあこれだけ目撃者がいたら、どうしようも誤魔化し様が無いんじゃない

マルゴさんが工藤遙花の手下の一人の少女を指差す

ねえ、そこの君はどう思う今のは、どっちが悪い

マルゴさんは、余裕たっぷりに尋ねた

少女は、チラッと工藤遙花を見るが

君自身の忌憚の無い意見を聞いているんだけれとね

マルゴさんの言葉は穏やかだが殺気は隠していない

少女は

遙花様今回のことは、全て私たちの負けですわ

な何を言うのよ

手下の答えに、工藤遙花は驚く

そもそも先に侮辱的なことを言って、相手を挑発しトラブルを引き起こそうとしたのは私たちですし

それがバレた上に、そちらの方に同じ様に挑発されて殴りかかってしまう遙花様は、ちょっとどうかと思います

それにその方は、わざわざ寸止めにして下さいましたし

道義的にも、その方のおしゃっていることの方が正当だと思います

4人の手下全員にたしなめられる工藤遙花

と皆さんは、言っているけれど

何重にもマルゴさんは、工藤遙花の上を行っている

根本的な、経験値が違いすぎる

美智あなたがお姉さんに引導を渡すべきだわ

みすずが、ここまでの様子を見て言った

このままボディガードを続けたら、遙花さんは死ぬわ瑠璃子さんも、きっと酷いことになると思うの

美智が、ジッとみすずを見る

だから、あなたが遙花さんを倒しなさい

ポケットから、白い手袋を取り出すと姉に叩き付けた

な、何をするのよ美智

驚く、姉

姉上いえ、こうなったからには、血縁は関係ありません我が主、香月みすず様の命により、工藤遙花あなた様に決闘を申し込みます

馬鹿なこと言わないで、姉妹で決闘だなんて

姉妹だからこそこれ以上、工藤家の恥を晒さぬ様、あなたを処罰致します

その言葉に工藤遙花は

美智あなた、本気であたしに勝てると思っているの

あなた程度の人間に勝てないようでしたら、みすず様の警護役は務まりません

絶対に1対1の勝負でしょうねそちらの方が、加勢するなんてことは無いですわね

疑り深そうな眼で工藤遙花は、マルゴさんを見る

決闘なんでしょなら、手は出さないよだいたい、君ぐらい彼女一人で倒せるし

マルゴさんは、軽くそう答えた

わたくしが弱いとおっしゃるのですか

ギッと強い視線で睨む工藤遙花

そうだよ君は、自分がどれくらい弱いか気付かないくらい弱い

うん弱い上に、ちょっと頭が悪いよね空手の練習ばっかりやっていたからそうなんだろうけれど

マルゴさんの言葉に、寧さんが付け加える

奈落とか、今日は使わないんだよね

はい、今日は日舞の発表会ですからセリや回り舞台は使いませんし

奈落って何

ああ、旦那様舞台の真下の地下の部屋のことです

みすずが、教えてくれた

じゃあ、そこにしようかこの劇場の中で、他に決闘できる場所なんて無いよね

はい場内は、どこも警備の方がいらっしゃいますから

だからって今、劇場の外に出て行くのは嫌だしね

わざわざ、シザーリオ・ヴァイオラの標的になりに出るようなものだ

じゃあ、決闘は舞台地下の奈落ってことで発表会の始まる前にカタを付けておこう

はい見届け人は、あたしが務めますよろしいですね、遙花さん

みすずが、工藤遙花に言った

判りました、鍵はわたくしが開けていただきます

工藤遙花が、そう言った

じゃあ、準備ができたら声を掛けてねっそれから君が負けたら、売春して貰うペナルティはそのまんまだからねっ

寧さんの言葉に、工藤遙花は

構いませんどうせ、わたくしが勝つのですからその代わり、わたくしが勝つたならば、美智を返していただきます

美智を返す

美智は、もう一度わたくしが空手で鍛え直します姉に逆らうような妹は、徹底的に制裁しなければなりませんわっこれもみんな、あの愚かな父と工藤流などという下らない武術をやっているからです美智は、堕落してしまいました

姉の言葉に美智は

あなたは、何も判っていらっしゃらないお見せ致しますわたくしの成長を

もう美智に、迷いは無い

ふんっギッタギタにしてあげるから覚えてなさいねっ

工藤遙花は、どこまでも妹をナメ切っている

こんなところに居たのですか

ロビーの向こうから、二人の少女が現れる

一人が主人で、もう一人がお付きの少女であることはすぐに判った

美子と楽屋で練習をしていたらいつの間にか姿が見えなくなってしまうのですもの困りますね

工藤遙花にニコッと微笑む長い黒髪の美少女

マナと同じくらいの背丈で顔は、みすずによく似ている

やっぱり、飛びっ切りの美少女だがみすずよりも、おっとりとした感じがする

何か優雅という言葉がとても似合いそうな

この娘もオレは前に見ている

瑠璃子さんちょっと、遙花さんをお借りしていました

みすずが従妹香月瑠璃子に、声を掛ける

確か、15歳中学3年生だっけ

あら何か御用をなさっていたのですか

瑠璃子さんは、机の上に並べられたパンフレットの山を見てそう言った

はい加奈子さんに、パンフレットを二つに折るように頼まれました

今までの険悪な空気を打ち消してみすずは、にこやかに瑠璃子さんにそう告げた

まあ、そうでしたかでは、わたくしたちもお手伝い致しましょう美子

はい瑠璃子様

お付きの美子さんは高校生ぐらいに見えた

ご主人の瑠璃子さんに似て、とっても穏やかそうな人に見える

遙花さんたちは、警備本部にお戻りにならないといけないのよね

みすずが、平然とそう言った

舞台の奈落への通路を適当な理由を作って、開けさせないといけない

まあそうなの、遙花さん

瑠璃子さんが、自分の警護役を見る

では、早く行ってらっしゃいわたくしと美子は、ここでみすずさんのお手伝いをしておりますから

主人を残して行くことに工藤遙花は逡巡している

ここは、あたしが守っているから何の問題も無いと思うよ

マルゴさんが、ニコッと微笑む

だから、さっさと行って、すぐに戻ってくればいいんじゃないのかな

瑠璃子様わたくしは、すぐに戻って来ますから美子さん、頼みますねみすず様も卑怯なことはなさらないで下さいねみんな、行くわよ

工藤遙花は、ぷりぷりしながら立ち去る

4人の手下の少女たちも従って行く

何ですの卑怯なことって

瑠璃子さんの言葉にみすずは

さあ遙花さんは、いつもあたしの前ではぷりぷりなさっていますから

うん、ホント、言いたい放題、やりたい放題だよねっあの子

寧さんが、工藤遙花の後ろ姿を見て、そう言う

ごめんなさい、みすずさん

瑠璃子さんがみすずに頭を下げる

そんなことなさらないで瑠璃子さんが、頭を下げるようなことでは無いわ

でも遙花さんが、何か失礼なことをなさったのでしょうあの人は、人一倍、わたくしに忠節を誓って下さっているけれど方向が間違っていますし、あの人の行動はいつも過剰ですから

この子工藤遙花の本質に気付いているんだ

わたくしとみすずさんは決して対立する様な立場に居るわけではないのに遙花さんの頭の中では、ライバルだということになっているみたいなんです

やっぱり工藤遙花の独断専行だったんだ

わたくしが、もっとしっかりしていれば事前にあの人の行動を止めることもできるのでしょうけれどごめんなさいみすずさんに、またご迷惑をお掛けしたのでしょう

瑠璃子さんは、心からみすずを心配している様に見えた

悪い子では無いのだと思う

それこそ、気にしないで従姉妹でしょあたしたちそれに、あたしのことはみんなが助けてくれましたから

みすずが、オレたちを瑠璃子さんに紹介する

そちらから、マルゴさん寧さん恵美さんマナさん

一人一人、瑠璃子さんに一礼する

瑠璃子さんも、一人一人に頭を下げてくれた

雪乃のところで、みすずの言葉が止まる

黃縞黒子さんです

みすずの代わりに、美智が答えた

そうそう、黒子さん

まあ、黄色に黒だなんて、とても素敵なお名前ですね

雪乃は何とも言えない、やるせなさそうな顔をしていたが

それでも、瑠璃子さんに一礼する

瑠璃子さんは、香月閣下の長男の一人娘

名家のお嬢様中のお嬢様であるということは、知っているのだろう

つーか、瑠璃子さんてこうやって近くで話を聞いてみると

超箱入り娘なんだな、きっと

おっとり、ふんわかしていて

全然、邪心が無い

無邪気な笑顔で、雪乃に微笑んでいる

そして

みすずの眼が、オレを見る

黒森公之助です

オレは、そう自己紹介した

瑠璃子さんだけなら、本名を名乗ってもいいけれど

お付きの美子さんが居る

この場では、黒森を名乗っていた方が良いと思った

みすずが、女の子たちの苗字を言わなかったことも気になるし

みなさま、みすずさんのお友達なんですね

瑠璃子さんが、そう言った

身内です

みすずは、一言、そう答える

お身内

はい身内です

みすずは、それ以上は語らずに、パンフレットを拡げる

では作業を致しましょうか

テーブルに並んで座ってみんなで、パンフレットを折る作業を開始する

この人数でやれば、すぐに終わりますわね

美子さんが、おっとりと言った

ちょっと、マルちゃん曲がってるよちゃんと角を合わせて折って

あ、ごめんごめん

こういうのが苦手なところだけは、アメリカ人なんだからっ

寧さんとマルゴさんが、じゃれ合っている

ちょっとちょっと黒子さん、もっとしっかりやって

ホント、ブッ器用なんだからっ

また、マナが実姉を叱責している

物凄いスピードで、作業を続けているしかも、正確で丁寧だ

あ何ヨシくん

なんか、凄い手際がいいんだけれど

ほらっ、あたし昔っから、学級委員長になることが多かったら、こういうの慣れているのそれに集中すると、没頭しちゃうタイプだから

そう言えば、さっきから無言で誰とも会話せずに、黙々とパンフレットを折り続けている

何かこんな単純作業だと、それぞれの人の性格が出て来るんだな

みすずも、メグと同じで作業が早い

でも、作業しながら瑠璃子さんたちに話し掛ける余裕がある

この辺が、性格の違いなんだろう

瑠璃子さんはものすごく丁寧だけれど、ものすごく遅い

他の人が5枚仕上げる時間で1枚、どうにか完成するというスピードだ

ほらほら、瑠璃子様こことここの角を合わせると、スムーズにできますよ

そういう美子さんもものすごく遅いはてしなく丁寧だけど

作業を続けながら、瑠璃子さんが口を開いた

撫子先生が、この数日のみすずさんのご上達を大変褒めていらっしゃいましたわ

あたし上達なんてしていませんよ

みすずが、そう言うが

いいえわたくしが見ていても、みすず様は格段に上達なさっていますわ

美子さんが、そう言う

そうですともそれで、撫子先生がおっしゃっていたのですけれど

みすずさんは恋をなさっているのではないかと

瑠璃子さんの言葉にみすずは、頬を赤らめる

それはたまたま、今日、あたしが踊る踊りが、恋の踊りということで

撫子先生のお話ですと先週までは、みすずさんの踊りは恋に恋する、幼い少女にしか見えなかったのだそうですそれが今では恋に苦しむ、大人の女をしっかりと表現できていると

恋に苦しむ

みすず苦しんでいるのか

それで、わたくし

瑠璃子さんが、チラッとオレを見た

この間、みすずさんがお稽古場に入られる時に、黒森さんと手を繋いでいらっしゃるのを拝見していましたから

紺碧流の稽古場ビルの2階の窓から

瑠璃子さんと工藤遙花がオレとみすずを見下ろしていた

ええ瑠璃子さん

みすずは従妹に隠し事をする気は無いようだった

あたしはこの方を愛しています

ギュッと、オレの手を握りしめる

黙々と作業していたメグの手が止まった

雪乃があんという顔で、こっちを見る

マルゴさんと寧さんは、にっこりと微笑んでいた

マナがスッとメグの肩に触れる

この方の子供を産みたいと思っています

まあやっぱり、そうなんですね

瑠璃子さんは、眼を輝かせてオレたちを見ている

しかしみすず様ご婚約者の方は、どうなさるんですか

美子さんがみすずに尋ねる

そうですわねみすずさんにも、わたくしと同じでお祖父様のお決めになった婚約者がいらっしゃるのでしたね

瑠璃子さんの顔が、暗くなる

お祖父様には、今日、会の後にお話し致しますそれでこの方とのお付き合いをお許しいただきます

みすずは、はっきりとそう言った

まあ、何て素晴らしいわたくしも、応援致しますわみすずさん

15歳の従姉妹は、すっかり感激していた

ところでみすず様のご婚約者は、どなただったんです

美子さんがそんなことを尋ねる

それは今は、言えません

みすずは、そう答えてそれから、オレたちの方を見た

作業を続けながらみなさん、あたしの話を聞いて下さい

あたしと瑠璃子さんは香月重孝の孫です他には、孫はいません現在の香月家は、お祖父様が全てを掌握していますから香月家の跡継ぎは、あたしか瑠璃子さんということになりますですからあたしたちと、結婚して香月の財産を狙っている人間はたくさんいます

みすずか瑠璃子さんと結婚すれば莫大な富と権力を継承することができる

もちろん、香月家の傍系には男子も居ますし香月家と親しい名家の方々政治家や外国の方までご親族をあたしたちに婿入りさせたいとのお申し入れが、数多くあったそうですあたしと瑠璃子さんの産まれたその時から

赤ん坊の段階ですでにそんな話があったんだ

そのままでは、いずれ争いがおきますあたしや瑠璃子さんの安全も脅かされますですからお祖父様は、ご自分で香月の一族の中からあたしたちの婚約者をお決めになりました

婚約者を決めてしまえば変な諍いはなくなる

しかし一族の中の誰が、婚約者なのかは公表なさいませんでした

あたしたちがまだ若いうちに公表すれば婚約者は一族の中から強い妬みを受けます殺そうとする人が現れるかもしれませんですから、婚約者が決まっていることは発表されましたがそれが誰なのかは、知らされなかったのです

みすずさんは、知っているのですか

メグが聞いた

はい16歳の誕生日に、その方とお会いしました

つまり婚約者の男の方も、自分がそういう立場になっていることを知っているんだね

みすずは小さな声で、そう言った

わたくしはまだ15歳ですから自分の婚約者のことは知らされておりません

今日、来るんだよね婚約者の人

だったらちゃんと話して、婚約破棄して貰おう

瑠璃子さんが眼をキラキラさせて、感動している

すごいですわ素晴らしいですわわたくし、応援しますっみすずさん

瑠璃子さんは、能登声で

これだけおっとりとした、超箱入り娘なので工藤姉の暴走が止められないということです

15歳ですし、そういう感じでいきます

セックスの存在すら知らないぐらいの、箱入り娘です

ちなみに、お付きの美子さんも

218.セックスって何ですか

しかし御前様は、お許し下さいますでしょうか

瑠璃子さんのお付きの美子さんが、そう言った

香月家の家臣の家柄なんだろうか、香月閣下を御前様と呼ぶ

御前様は、一度、ご自分でお決めになられたことは、簡単には覆されないお方ですみすず様はまだお若いのですから、しばらく様子を見られて、時間を掛けてゆっくり説得なされて、ご理解いただく方がよろしいのではございませんか

美子さんの言うことは、もっともだけど

それでは今、定められている婚約者の方に失礼ですわ

みすずは、そう言った

確かに、みすずは将来的に結婚する気は無いのにそれを知らされないで、ずっと自分は婚約者だと思っている男が可哀想だ

それにあたし自身も、この方の他に、自分に婚約者が居るという現実には、もうガマンできません

みすずが、オレをみる

あたしはこの方と生きていきたいんです

寧さんとマルゴさんは、微笑ましく見てくれている

メグとマナは少し、複雑な顔をしていた

雪乃は、ぽかーんと口を開けている

オレは今、どんな顔をしているのだろう

もしかしたらあたしは、このことでお祖父様に勘当されるかもしれません今日限りで、あたしは香月の家から追放されるかもしれませんそれでも、構わないんです例え、この身一つになったとしても、この方があたしを受け入れて下さることは判っていますから

みすずはそこまで覚悟しているんだ

香月家から勘当されたら家には居られなくなる学校へも行けなくなる日舞だって、もう無理だろう

みすずは、何もかも失うことになる

それでもオレと一緒に居たいと言ってくれた

わたくし感動しております

瑠璃子さんがそう言った

何て素晴らしいんでしょうねえ、美子

しかし、美子さんは

本当に、それでよろしいんですかみすず様

みすずが、香月の家を追放になるかもしれないという事態にショックを受けていた

黒森様も、いいのですかみすず様が、香月の家から離れられても

ああこの人は

オレが、みすずを香月家の人間だと知って、口説いたんだと思ってるんだ

オレは初めて、みすずと会った時は、みすずがどんな家の生まれなのか全然知りませんでした

正直に話そう

今でも香月家のことは、よく判っていませんそれでいいと思ってますオレは、みすずのことが好きになったんです香月の家が好きなわけでは、ありませんから

旦那様今日の髪型、素敵ですよ

ああ、これみすずは、こういう方が好きだと思って、克子姉にやってもらったんだ

そうだと思いました

オレに身体を寄せるみすず

大好きです旦那様

みすずは、マルゴさんや寧さん、メグ、マナの方へ振り向く

みなさんにもお願い致しますもし、香月家を追放されたらみすずが、旦那様のお側で暮らすことを、みなさんはお許し下さいますか

一人一人の眼を見てみすずは尋ねていく

あたしは、全然構わないよっ家族が増えるのは楽しいものっ

寧さんは、率先してそう言ってくれた

あたしはあたし自身がそういう立場ですからみすずさんがいらっしゃるのなら、喜んでお迎え致します

それを言うなら、マナだってそうだよマナだって、お兄ちゃんに居場所を作ってもらっているんだもん全然、オッケーだよ

ミナホの意見は判らないけれどあたし個人としては、歓迎するよあたしは、家柄なんかより、よっぽどみすずさんの性格や才能が気に入っているから彼の側に居るってことは、当然あたしたちの仕事を手伝ってくれるってことだよね

はい、もちろんですっ

みすずは、笑顔で答えた

あのみすず様

恥ずかしそうに美智が口を開く

どの様な事態になったと致しましてもわたくしは、生涯、みすず様の護衛ですどこまでも、お供します

もし、みすずが香月閣下に勘当されたら

みすずも、美智も黒い森のメンバーになる

すば抜けて頭が良くて社交性もある、みすずと

特殊な戦闘能力を持つ美智

二人が正式なメンバーになってくれたら、とても助かる

香月閣下は、そんなことを簡単に許すような、甘い相手では無い

みすずをどこかに監禁して、オレと引き離すかもしれない

いや、いっそオレを殺すかも

香月閣下にとっては、オレみたいな男の命は紙くず同然だろう

黒い森が香月閣下と敵対するような事態を招いてしまっていいのだろうか

そちらの方には、お尋ねしないのですか

瑠璃子さんが、雪乃を指す

確か黄色で黒子さんでしたわね

美子さんの言葉に、雪乃は

黄縞黒子ですっ

いや、お前は白坂雪乃だ

つーか、何でそんなに堂々と偽名を名乗っている

意外に気に入っているのか

そうね黒子さんにもお尋ねしておこうかしら

みすずが、雪乃を見る

あっあたしは

困惑する、雪乃

あたしは別に関係ないわよ好きにすればいいじゃないあんたたちの好きにどうせ、あたしが何て言ったって、思った通りにするんでしょ

はいでは、好きにさせていただきますわ

みすずが、雪乃に微笑んで答えた

瑠璃子さんが、そんなみすずを見て

判りました、みすずさん香月の家の未来は、どうぞわたくしにお任せ下さい

彼女の顔は晴れ晴れとしていた

わたくしとっても嬉しいですわ香月の家のために、何もかも遠慮なさっていたみすずさんが、ご自分の幸せを第一になさろうと決心して下さったことがこれで、もうわたくし、思い残すことはありません

思い残すって

わたくしがお祖父様のお望み通りに生きます人生を香月の家に捧げますわたくしは、みすずさんがお幸せに暮らされる姿を拝見できればそれで満足です

おい待てよ

瑠璃子さんはそれでいいの

思わず、オレは尋ねてしまった

はいわたくしは、香月の家のために生まれた娘ですから

瑠璃子さんは何の迷いも無い笑顔で、そう答えた

元々、わたくしは香月重孝の長男、香月重秋の長女です嫡流の血を受けた以上、わたくしが次代の香月家を引き継ぐことは生まれた時より覚悟しております

そうだ彼女は、長男の娘

みすずは次男の娘

現在の香月家の当主、香月重孝閣下には他に、孫はいない

瑠璃子さんとみすずで、後継者争いということになっているけれど

血統から言えば、嫡流の瑠璃子さんが継ぐのが正統なんだ

みすずさんは、とてもお綺麗ですし、才能も豊富でいらっしゃるから一族の者の中には、わたくしとみすずさんのどちらが後継者になるか判らないなどと、言う者が居ることは知っていますわたくしと、みすずさんに後継者争いをさせて香月家を二分させようと企む者もいることも知っております実際わざと、わたくしとみすずさんを仲違いさせようと、わたくしの耳に良からぬことを吹き込もうとする者もおります

瑠璃子さんが、悲しそうな眼をする

わたくしは、もちろん風聞のたぐいは一切、信用しておりませんわたくしは、子供の時分からみすずさんのことを良く存じ上げておりますし従姉妹として敬愛しています

あたしもあなたのことが好きよ、瑠璃子さん

ありがとうございますしかし勝手なことを言う方々が増えるばかりです酷い噂が拡がっていきますと、わたくしの側に居る者の中でも勘違いをする者が出て参ります本当に、わたくしとみすずさんが争っていると思い込む者まで現れて

ああ、あの人か

先程遙花さんが、みすずさんに何かご迷惑をお掛けしたのも、そういう理由だと思いますわたくしには、判っております遙花さんにとっては、わたくしに対する忠節のおつもりなのでしょうが大変、申し訳ございませんでした

瑠璃子さんは、また頭を下げる

頭をお上げ下さい遙花さんのことは、気になさらないであの方のことについては、こちらでもきちんと対処致しましたから

対処ですか

瑠璃子さんが、みすずを見る

あたし遙花さんは、前々からボディーガードの仕事には向いていらっしゃらないと思っていましたあの方は、最初はあたしの警護役に推薦されたのですけれどあたしがそれを断って、美智を選びました

はいそれで遙花さんは、わたくしの護衛役ということになりました

工藤遙花は、高校3年生

本当なら、高校2年生であるみすずの警護に就くべきなんだ

そうすれば、学校の中でも警護できるし

なのにみすずは、工藤遙花を拒絶した

だから、中3の美智が年上のみすずを警護するということになって

それだって、本来なら中3同士なんだから、美智が瑠璃子さんを警護する方が正しい姿なんだろう

そのことで、遙花さんはあたしを恨んでいらっしゃいます何かと、あたしや美智に辛く当たられるのは、それが原因です瑠璃子さんには、関係ありません

みすずは、スッと瑠璃子さんに頭を下げる

とんでもございません年長者とはいえ、遙花さんはわたくしの下にいらっしゃるのです遙花さんのなさったご無礼は、わたくしが幾重にもお詫び致します

いえいえ、わたくしが悪いのですわたくしが、同い年でありながら遙花さんをお諫めできなかったことがみすず様も瑠璃子様も悪くはございません全ての責は、この美子にございます

美子さんまで加わって三人で頭を下げる大会になってしまった

でも、もう大丈夫ですわあたし遙花さんには、ボディーガードの仕事をお辞めいただこうと思っているんです

遙花さんは空手の選手に専念なさった方が良いと思いますあの方は競技者であって、警護役の様な仕事が勤まる感性の持ち主ではありません

スバッと、一言で切り捨てる

それはわたくしも、そう思います遙花さんは、空手に専念なさった方が

美子さんが言った

実際現在でも、空手のお稽古と試合の方に時間を取られて、瑠璃子様の警護がおろそかになっておられますし

はい、学校内ではわたくし美智さんに警護していただいています

え、美智が瑠璃子さんを

いつもありがとうございます

瑠璃子さんが、美智に頭を下げる

それは同級生でございますから同級生を親しく警護するのは、当然のことです特に、みすず様より瑠璃子様を警護せよという様なご指示をいただいたわけではございませんっ

まったく、この武士娘は嘘を吐くのが下手くそだな

そうかみすずが、空手が忙しくて仕事にならない工藤遙花の代わりに

校内に居る間はずっと美智に、瑠璃子さんの警護をさせていたんだ

香月の家の人間があの学校の中でどれだけ息苦しい思いをするのかは、あたしが一番良く知っていますから

みすずが2歳年下の従妹に言う

はい誰からも妬みそしりを受けないよう常に鷹揚な態度でいなければなりませんしどんな方とも親し過ぎる関係になってはなりません

香月家の後継者と親しくなればその人間は、他の人から妬まれる

だから、瑠璃子さんは周囲の人間は全員平等に扱わないといけない

親しい友人は、できない

今のわたくしが本当に心を許せるのは、美子だけです

瑠璃子さんは、お付きの美子さんにニコッと微笑む

工藤遙花は警護役なのに、全然信頼されていないんだ

以前のあたしもそうでした

みすずが言う

しかし、あたしにはお付きはいませんでしたからあたしの父は、そういう香月の古いしきたりを嫌いますし

そうか瑠璃子さんの父親は、長男だから香月家の企業グループの中に居るんだろうけれど

みすずのお父さんは確か、文部科学省の高級官僚だ

旧華族の血を受け継ぐ、香月家の伝統を嫌ったんだろう

だから、みすずにお付きを付けることを断った

お察ししますわたくしは、3歳の時より美子と共に暮らしております美子がいてくれなければ、孤独に打ちのめされていたと思いますみすずさんは、さぞお辛い思いをされたことでしょう

父の意志とは関係無くみすずは、香月閣下の孫として、香月家の人間として世間と闘わなくてはならなかった

妬みやそしり押しつけがましい優しさに、たった一人で立ち向かって

孤独だったんだろうと思う

あたしは平気です一番辛い時に、お祖父様に助けていただきましたから

みすずは、そう言ってオレの手の平に、指で渚という文字を書く

だから、香月閣下はみすずを渚に托したのか

渚なら、みすずの孤独を癒やしてくれると信じて

それで、今ではこんなにたくさん、心を許せる方々ができましたわ

みすずが、オレたちを見る

渚から、オレ

そしてメグ、寧さん、マルゴさん、マナ

みんな、みすずの身内だ

雪乃だけが、ブスッとしているけれど

だからみなさんが、みすずさんのお身内なのですね

羨ましいですわ

瑠璃子さんは、そう言った

瑠璃子さんも、あたしたちの身内になりましょうよっ

マナ、急にそんなことを言うのは失礼よ

メグが、マナをたしなめる

マナが、ペコリと頭を下げる

もう瑠璃子さんも身内ですよ

はっきりと、そう言った

瑠璃子さんはみすずの従姉妹ですなら、オレにとっては身内ですそうだろみすず

そして、瑠璃子さんを見て

あたしの旦那様は、信用のできる方ですお優しい方です絶対にあたしのことを裏切ることはありませんですから瑠璃子さんのことも、決して裏切りません

瑠璃子さんが、オレを見る

みすずの人を見る眼を、信用して下さい

それは信用しておりますけれど

瑠璃子さんは、戸惑っている

あたしずっと、瑠璃子さんを自分の妹だと思ってきました

従姉妹ですけれど今、香月の家の重さを背負っている娘は、あたしと瑠璃子さんだけですあなたの苦しみも辛さも、同じ立場にいるあたしが一番判っています

みすずお姉さんと呼んで下さい

みすずお姉様

どんな感じです

瑠璃子さんの顔が、和らいでいく

不思議です今まで以上に、みすずさんが親しく感じられます

みすずお姉さんでしょ

はいお姉様

それなら、あたしの旦那様は瑠璃子さんのお兄様になりますよろしいですわね、旦那様

うんこれからは、幾らでもオレに頼って下さい、瑠璃子さん

オレの言葉に瑠璃子さんは、顔を赤くして

は、はいお兄様

みすずが、美子さんを見て

美子さんこういうことになりましたこれ以上、あたしと瑠璃子さんが仲違いしているという噂を広めないためにも、この方が良いと思うのだけれど

みすずは瑠璃子さんの長年のお付きである美子さんを気遣って、声を掛ける

はいそうですねわたくしは、よろしいかと思います

美子さんは、そう言いながらも少し考え込んでいる

言葉に歯切れが無い

これがみすずの策略で瑠璃子さんを籠絡しているのではないかと疑っているらしい

さっきお話しした通りあたしは、この方と添い遂げます香月の家に対する野心はありません今まで通り瑠璃子さんを香月家の未来の当主として、盛り立てていくつもりです

みすずは自分には香月家の当主になる野心は無いと、明言した

あなたが瑠璃子さんを3歳の時から、見守って来て下さったことは感謝していますどうか、ずっと瑠璃子さんの側に居て下さいしかしあたしも、瑠璃子さんが産まれた時から、親しい気持ちで見守って参りましたあたしは、瑠璃子さんの年上の従姉妹です年の近い親族は、瑠璃子さんしか居ないのですからずっと、妹同然に思ってきましたあなたと同じです

美子さんは

ご無礼をお許し下さい

心の中で、一瞬でもみすずを疑ったことを謝罪した

お姉様よみすずさんが、わたくしのお姉様になって下さったの素晴らしいわ美子も、そう思うでしょ

瑠璃子さんは、幸せそうに微笑んでいる

美子さんも、主人に微笑んだ

話を元に戻します遙花さんをこのまま瑠璃子さんの護衛にしておくのは、危険ですあの方は、とても考えの浅い人ですから

みすずが、そう言うと

確かにここのところ、増長なさっている様な気がします

打ち解けた美子さんは、いきなり遙花さんに対しての苦情を述べる

インターハイで優勝なさって自信を持たれたからでしょうかマスコミに美人空手少女と取り上げられてからは、勝手なことばかりなさっています今日も、瑠璃子様の警護部隊を作ったとおっしゃって、空手部のお仲間を4人もお連れになってなのに、全然瑠璃子様の廻りにはいらっしゃらないのです

あの4人の手下はそういうことか

今日の紺碧流の発表会は、セレブな方々がたくさん来場致しますものね

みすずが、溜息を吐く

はいその方々の前で、良い格好をなさろうとお揃いのスーツ姿でいらっしゃって

あのピンクのパンツ・スーツは、そういうことだったのか

本当に小者というか考えが幼い

みすずが、瑠璃子さんに言う

このまま増長が続けば、いずれ瑠璃子さんの顔に泥を塗るような失態をすることは目に見えています遙花さんには、空手に専念するということで瑠璃子さんの警護からは退いていただきましょう

しかし、あの意固地な方が簡単に、お辞め下さいますでしょうかあの方は、瑠璃子様の警護役であることを誇りに思っていらっしゃいますし

美子さんが、心配そうに言う

誇りというかステイタスだと思っているんだろう

にも関わらず主人を守るという本業は、おろそかになっている

大丈夫ですあたし先程、遙花さんがあたしたちに働いた無礼に対して美智と決闘する様に申しつけました

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