マルゴさんが、工藤父に申し出る

シザーリオ・ヴァイオラとは、因縁がありますできるなら、この手で倒したい

そうね、わたくしたちも参りましょうか戦力は少しでも、多い方がいいはずです

関さんも、マルゴさんに加勢してくれる

おいおい、冗談言っちゃいけねぇぜ外人の姉ちゃんや、関くん、藤宮くんの腕なら喜んで借りたいがそこのお嬢ちゃんたちや、この兄ちゃんも付いてくるんだろ

工藤父は、オレや寧さん、雪乃を見る

この方たちでしたら、わたくしが護ります

戦場を舐めるんじゃねぇ相手は、本物の殺し屋集団だぞ闘う力の無い人間を連れて行けるわけがねぇだろ

工藤父は、関さん、マルゴさんに

いずれにせよやつらの撃退は、オレたちが受けた仕事だ香月セキュリティ・サービスではない、フリーの警護人たちにもメンツがあるあんたらの手を借りたら、オレの看板に傷が付いちまうよ申し訳無いが、今回は遠慮してくれ

マルゴさんはフリーの人間では無い

黒い森という犯罪組織の看板を背負っている

関さんと麗華は、香月セキュリティ・サービスの所属だ

この土壇場で、彼女たちの手を借りるのは工藤父が集めてきたフリーの警護人たちの名誉を汚すというのは、よく判る

フリーのやつらだけではダメだったという評価が下る可能性があるからだ

こちらこそ、済みません勝手なことを言って

マルゴさんが、工藤父に謝罪する

いいってことよオレは知らねぇがあんたたちも、色々とあるんだろ自分たちの手で決着を付けたいって気持ちも判るしかし今の状況がオレたちに有利に見えている様でも、実際に現地へ行ってみたら些細なことで逆転しちまうのかもしれねぇのが、実戦の怖さだ悪りィが、今は部外者は連れて行かれねぇ判ってくれ

シザーリオ・ヴァイオラの本隊が壊滅する様子は、この部屋から観ていてくれそれが一番無難だろう

うんここなら、工藤父たちとヴァイオラの戦闘も観ることができるはずだ

もっとも最悪の事態が起きて、オレたちの方がやられちまった場合は

工藤父が、ニヤッと微笑む

その時は、谷沢のオッサンから正式にトップ・エリートの出動指令が出るだろうそうなったら、関くん、藤宮くん頼むぜ

まずは、工藤父とフリーの警護人が決戦に向かう

わざわざフリーの人間を呼んだ以上、最後のシメまでは任せるしかない

この期に及んで、香月セキュリティ・サービスの人間が出動したらフリーの人間のメンツを潰す

そんなことをしたらこれから先、フリーの警護人は香月セキュリティ・サービスからの仕事依頼を拒絶するようになるだろう

実力のあるフリーの人間を企業が雇うということは、なかなか大変なようだ

そして運悪く、本当にフリーの警護人たちだけでは手に負えない様な事態に陥った場合だけ

香月セキュリティ・サービスのトップ・エリートが、救援に向かう

オレたち黒い森が、決戦地に向かうことは絶対に無い

香月セキュリティ・サービスという表の世界の企業が、黒い森という裏社会の組織に貸しを作るわけにはいかないからだ

ほんじゃあ、行ってくらぁ

父上ご武運を

美智が、父に言う

お前もなパパの格好いいところを、ここから観ていてくれ

そして工藤父は、部屋を飛び出して行く

行くぜ行くぜ行くぜェェッドドンガドーンッ勇気プリプリまっぷりま

謎の奇声を発しながら

本当に、あんたの父ちゃんは愉快な男だねえ

ネコさんが、美智に言う

父は、わたくしの誇りです

できれば、寧の眼の前でヴァイオラを叩き潰したかったんだけどね

マルゴさんが、残念そうに寧さんに言う

寧のトラウマを取り除くには、それが一番だと思うから

寧さんはシザーリオ・ヴァイオラによって、両親を殺され

弟のケイさんも、寧さんの眼の前で死んでしまった

数年にわたる監禁生活も含めて

ヴァイオラは、根源的な恐怖として寧さんの心の中に、巣を作っている

でも、仕方無いここから観ているだけにしよう

マルゴさんが、寧さんに手を差し出す

寧さんは、その手をそっと握る

そうだよ闘いの現場なんて、あたしたちみたいな稼業の人間だけで充分さあんたたちまで、無理して危険に飛び込むことは無いんだから

ネコさんは、そう言ってくれた

さてと谷沢さんに連絡しないと

ネコさんは、館内通話の受話器を取る

もしもし、トニーくん谷沢さん戻って来た

オレたちは、ジッと聞き耳を立てる

本部で別れて以来オレたちは、谷沢チーフと話していない

谷沢チーフの本心を知るためにネコさんとの会話が聞きたい

谷沢チーフが、ミス・コーデリアと繋がっていることは判っている

えっまだ戻って来てないの

谷沢チーフは、本部から姿を消したままか

うんとねぇ、そうよそっちでもモニターで監視していると思うけれど、決戦隊を組織するから10階のD-7に集結させているから、あそこの防火壁を一瞬だけ開けて欲しいのよええ、うちの大将もそっちへ行ったわ

ネコさんが話している間マルゴさんは、各階の監視のカメラの映像をジッと見ている

関さんは、コンピューターのモニター画面を

どの階のどこに、どれだけの部隊が展開しているのか、確認しているらしい

何よ、谷沢さんの許可が無いと無理だったら、早く谷沢さんを見つけてきてよこっちも急いでいるんだからノーマちゃんだって、そこにいるんでしょ

関さんが、何かにハッと気付く

ええ、あたしも気付いたところです

2人が、顔を見合わせる

ピピピピピピピ

部屋の中に、警告音のアラームが響く

いや、この部屋だけではない

ホテル全館に警告音が鳴り響く

ジジジジジ

見ると部屋の外の廊下の天井から、防火壁のシャッターが降りて来るッ

1つだけじゃない

廊下の向こうも、反対の角も

このフロアに敷設されている防火壁が、一斉に下りて来ている

美智が叫ぶとシスター・イーディが子犬の様に走り寄って来る

ネコさんに気付かれないように、部屋の入り口のドアの裏にササッと隠れる

完全に気配を消している

さすが、暗殺者だ

ジジジジジ、ガッチン

防火壁が、完全に下りた

オレたち、この場所に閉じ込められたのか

この階だけじゃないみたいだね

マルゴさんが、監視モニターをチェックする

各階の監視カメラがそれぞれのフロアの異常を映し出す

どの階でも、次々と防火シャッターが降りている

今までは特定の防火壁だけを閉じて、館内を迷路化していた

それが今は、全ての防火壁が、無差別に閉じていく

ジジジジジ、ガッチン

ジジジジジ、ガッシャン

ちょっとトニーくん、何をやっているのよっえっ本部では、何も操作していない

谷沢チーフが、どこかから遠隔操作している

ブルルルルルッ

別の館内電話が鳴る

はい、どうしました

トニーさんと電話しているネコさんの代わりに、麗華が受話器を取る

どうなってんだ、こりゃ防火壁の間に閉じ込められちまったぞ

工藤父の怒声は、オレたちにまで聞こえるほど響いていた

やられたね

館内にいる全ての人間敵の部隊も、フリーの警護人の各チームも、全部個別に閉じ込められてるこれじゃあ、完全に身動きが取れないね

マルゴさんが、監視カメラを次々と切り替えていくが

どの画面も、壁と壁の間に閉じ込められて困惑している人たちばかりだ

黒い戦闘服のヴァイオラの各部隊も

色取り取りの派手なコスチュームのフリー警護人たちも

いえ1部隊だけ、閉じ込められずに行動していますね

関さんがコンピュータのディスプレイを見て、そう言う

どっちの部隊です

黒か派手派手か

シザーリオ・ヴァイオラの本隊それも、上へ向かって侵攻している部隊です

マルゴさんが、サッとカメラを切り替える

黒い戦闘服の一団が、廊下を歩いている

この部隊の進行方向だけは、防火壁が閉じられていない

ってことは工藤さんの予想は、間違っていたってことだね

マルゴさんが唸る

ヴァイオラ本人や、ロレンザッチョ・バンディーニら幹部が居るのは下へ向かう部隊ではなく、上に向かう部隊の方だったってことですか

そういうことさこれかなり、まずいね本当にヤバイよ

この状況で、ロレンザッチョ・バンディーニが撤退ではなくさらに侵攻を命じたってことはさあらかじめ、何らかの密約があったってことだよね

ロシア人の各部隊が、次々に殲滅され

アメリカから連れて来た自分の子飼いの戦闘員も、残り少ない

工藤父は、上に向かう部隊が囮でヴァイオラたちは、撤退を念頭に下に向かう隊の中に居ると持っていた

下に向かっていた部隊は、どうなりました

マルゴさんは、パチパチと切り替えスイッチを弾く

カメラの映像が、モニターに映る

うん、やっぱり閉じ込められているね

これで確定だ

上に向かって移動している部隊は、ヴァイオラの本隊だ

谷沢チーフの裏切りも決定的になった

とにかくっ谷沢さんを捕まえて、状況確認してっこのままじゃ、どうにもならないよっ

ネコさんが、トニーさんに怒鳴る

えっ、あんたたちも本部に閉じ込められているのドアが外からロックされている

本部という名前に騙された

きっとホテルのどこかに、さらに館内のシステムを自由に操作できる部屋があるんだ

谷沢チーフは、そこに居る

驚いているみたいだなお前たち

天井のスピーカーから、谷沢チーフの声がする

ああ、この部屋の様子も真の制御室から、観えるんだ

そりゃあ驚きますよどういうおつもりなんです谷沢さん

マルゴさんが、大きな声で言った

黒い森の諸君君たちは、これから19階へ向かい給え

19階

そこで、シザーリオ・ヴァイオラが君たちと対面することになるだろう

最初からそういう計画だったのか

関くん、藤宮くん皆さんを連行して来るんだ

上司の命令に、関さんは

チーフである私の指示に従えないというのかね

今の谷沢チーフが、香月セキュリティ・サービスの正当な業務として、わたくしに命令なさっておられるのか、判断できません

関さんは、はっきりと言った

また、今のご命令の内容は未成年を含む一般人を危険な場所に連れて行くということですわ真っ当な会社組織の業務命令とは思えません

黒森の家の人間が、一般人とは言えないだろう裏世界の住人だ

いいえ、ここに居るのは普通の子供たちですわたくしは、そのことを知っています

そもそも、わたくしは閣下の直衛です谷沢チーフの部下ではございません

では、私の部下に命じよう藤宮くん、彼らを連れて来なさい

わ、わたくしは谷沢チーフの部下ですが、閣下より直々に彼らを護るように命じられております

凛とした態度で、麗華はそう返答した

そうかでは、黒森家の諸君には、自ら出向いて貰うことにしよう

19階には黒森御名穂も居るぞ

ジッちゃんと一緒に姿を消したミナホ姉さんが何故

ミナホは、あなたに捕まっているってこと無事なんだろうね

マルゴさんの表情が強ばる

彼女の安否は、自分たちの眼で確かめるといい

谷沢チーフは、どうしてもオレたちを19階に招待したいらしい

行くしかないみたいですね

うん、行こうマルちゃん

寧さんも、腹を括る

仕方無いですね

関さんが、自分のピストルを確認する

麗華も、ギュッと撲殺ステッキを握りしめる

美智は、スカートの下のムチに手を当てる

覚悟して貰えたようだねでは、その場所から19階へ向かうルートを開こう

ウィィィィィィインッ

今閉ざされたばかりの防火壁の片側だけが、開かれていく

床から1メートル半ぐらいの高さまで

頭を下げれば、潜り抜けられる高さで防火壁は、固定された

ちっくしょふざけてるわよっあたしも行くわあなたたちだけじゃ危ないわ

ネコさんは、そう言ってくれるが

ネコさんは、ここに残って下さい閉じ込められているフリーの人たちに連絡しないといけないでしょそれに、もし防火壁が開いたら、ネコさんが指示しないといけないですよね

監視カメラ網と館内通話の回線は、この部屋にしか無い

ネコさんには、この部屋に居て貰うしかない

そうだねお呼びが掛かった以上ここから先は、あたしたちでやりますネコさんは、フリーの皆さんのサポートをね

雪乃、お前もここに残れ

金曜です

ああ、もう時間が無い

働いて来ます

328.邂逅 (オーパ)

雪乃が、絶句する

そうだね戦闘要員以外は、行くべきじゃないだろうね

ネコさんが、言った

あたしはあんたらが、売春組織だってことは知っているからお嬢ちゃんが、そんな格好をしていることも、今までずっと無視してあげていたけれど

雪乃は、全裸にオレのYシャツ1枚だけを着ている

どう考えても、何かあったとしか思えない格好だ

お嬢ちゃんが黒森家とどういう関係で、ここに来る前に何をさせられていたのかは興味が無いし、理由は聞かないよただここから下へ行くのに、そんな格好をしていたらどんな目に遭うか想像してご覧

敵はまだ、10人以上残っている

そうだ、雪乃だから、お前はここに残っていろ

オレがそう言うと、ネコさんは

あんたもだよ、少年

あんたも、何で上半身裸で裸足なのか判らないけれどさその鍛えられていない肉体を晒して、戦場に行くなんて馬鹿げている敵には、ホモもいるって判っているのかい

男のシザーリオ・ヴァイオラはホモ野郎なんだっけ

大丈夫だよっヴァイオラは、可愛らしい男の子にしか興味が無いからヨッちゃんのことは、タイプじゃないと思う

寧さんは、そう言ってくれるけれど

そう言っているお嬢さんあんただって、ここに残った方がいい戦闘要員じゃないだろ、あんた

ネコさんの追求は、厳しい

黒森家のマルゴちゃんだっけここから先があんたたちの仕事だって言うのなら子供たちは外して、プロだけで行きなさい美智ちゃんだって、腕があるって言ったってまだ中学生だよ罠だと判っている場所へ連れて行くべきじゃない

雪乃、オレ、寧さん美智

あたしはこう見えても、一児の母だからね大人の事情に子供を巻き込むのは許せないんだいやマルゴちゃんだって、あたしの眼から見れば、まだ子供だけれどあんたは、もうプロの警護役なんだろ

はいあたしはプロです

マルゴさんは、答えた

だったら護るべき対象である若年者の非戦闘要員を、戦地に連れて行ってはいけないよ子供たちは、あたしが預かってあげる絶対に、谷沢さんには渡さないからあたしの命に懸けて、護ってあげるから

あたしは行かなきゃいけないんですっ

シザーリオ・ヴァイオラの目的はあたしなんですから

マルゴさんが、すぐに寧さんの言葉にフォローする

いや、寧だけじゃないよ3年前にロサンゼルスで、シザーリオ・ヴァイオラの邪魔をした人間ヴァイオラの妹、ロザリンド・オーランドーの死亡に関わった人間は全員ターゲットにされているだろうさ

でもあたしが、その中心だっていうことに変わりないでしょ

寧さんは小さく息を吐く

あたしが行かなきゃヴァイオラもミス・コーデリアも、納得してくれないよきっと

寧さんが行くならオレも行きます

足手まといになったら、見殺しにしてくれていいですからオレ、寧さんの盾になります

ご主人様がいらっしゃのなら、わたくしもお供します

美智も即答してくれる

もし、ご主人様に何かあればわたくしも、同じ時間、同じ場所で死にます自死するくらいでは、みすず様にはお許しいただけないでしょうがそれでも、ここで闘わないという選択肢を選ぶことはできません

そして、ネコさんを見て

ご心配していただいたのは、大変嬉しいのですがわたくしたちは、チームですチームとして、敵と相対致します

美智は、マルゴさん、関さん、麗華に頭を下げる

マルゴお姉様、関様、麗華お姉様どうぞ、よろしくお願い致します

関さんは、フッと微笑み

そうねわたくしたちは、もうチームなのよねわたくしも、吹っ切るわ

何を吹っ切る

相手が誰であろうと舐められたままでは、プロの警護人の仕事はできないものね

はいわたくしも、プロとしての意地がありますこのままで済ませるわけには参りません

麗華も、言った

谷沢チーフ女を小馬鹿にしたこと、後悔させてやるわ

2人とも香月セキュリティ・サービスをクビになっても、谷沢チーフと敵対すると決めてくれた

判ったもう、何も言わないよ

ネコさんが、オレたちに言う

悔いの無いように精一杯やんなこれで、もし生き残ったらフリーの警護人の仕事なら、あたしが幾らでも世話してあげるからね

関さんが代表して、ネコさんに答えた

じゃあ、雪乃だけネコさん、お願いします

待ってちょっと、待ちなさいよっ

あたしもあんたたちと行くわ

ゆ雪乃

あたしだってチームの一員でしょあたしの眼が必要だって、あんた言ったじゃない

確かに地下から、このメンバーで上がって来る時にはそう言ったけれど

雪乃さん残念だけれど今はもう、そういう段階じゃ無いから

これから行く場所はもう、敵しかいないんだよ誰が怪しいかとか、そういうことを判別する眼は、もう必要無いんだ

でも、あたしは付いて行きたいのよっここに居るよりは、あんたたちと一緒の方が良いって思うのっ絶対に付いて行くわ死んでも付いて行くからね

そんなにヨッちゃんと離れるのが心配

寧さんが、雪乃に尋ねる

そ、そういうことじゃないわよっあんたたちと一緒の方が、安全だって思うだけよ

雪乃は否定する

この先はあたしたちは、自分たちのことで手一杯だからね雪乃さんを護るところまでは、できないと思うよ

何でもいいわよっとにかく、あたしも連れて行きなさいってのっ

論理的な思考でなく、その瞬間の感情がスパークするのが白坂雪乃という人間だ

ネコさんやっぱり、この子も連れて行きます

雪乃の様子を見て、マルゴさんは言った

どういうことなの

この子彼に対しての依存が強いんですこのまま、ここに残して行く方がパニック症状を引き起こすと思います今、彼と離す方が危険です

あたしこんな男に依存なんかしていないわよっ

さらに大きな声で、雪乃は喚く

そうは言うけれど雪乃さん今、この場に居る人間で雪乃さんが信頼している人間は、彼だけでしょ

マルゴさんの言葉に雪乃は、オレを見る

いやこの場に限ったことじゃないな雪乃さんの一族は、雪乃さんを見捨てた殺害要請さえ出している学校にはもう、居場所は無い全校生徒の前で、あんな放送をしてしまったんだからねその上実の妹にすら、邪険に扱われている今、雪乃さんのことを、まともに相手してくれるのは、世界中探しても彼しかいないってこと判っている

あたしにはまだ、パパがいるもの

雪乃にとっては白坂創介という男は、絶対的な存在らしい

ふうん君のパパが一度でも君を助けてくれたっていうより、白坂創介こそが全ての元凶だっていうこともう、君の頭でも把握できているよね

マルゴさんは、雪乃の心を抉る

もういいよ雪乃さん、頭で判っていないだけで心では彼のことを必要としているからだから、ここで彼と別れることに、とても大きな恐怖感を感じているんだよね

こ、心で必要となんかしていないわっ身体よ身体っあたしの身体が、この男は良いって感じているのよただ、それだけよっ

雪乃はマルゴさんの言う、オレへの依存心を必死で否定する

とにかく付いて来たいのなら、どうぞただし、足手まといにならないように、彼の側から離れないでね

美智ちゃん彼と雪乃さんと寧3人の直援警護、頼むよ

お任せ下さい、マルゴお姉様これまで通りのチーム体勢でございますから

ああ、今まで通りのチームで行こう

ネコさん、後をお願いします

部屋から出て、廊下に出たところで関さんが、ネコさんにそう挨拶した

気にしないでごめんね、何もサポートしてあげられなくて

いいえお気遣い感謝しています

オレたちは再び隊列を組んで、出発する

最初の角を曲がったところでオレは、マルゴさんに尋ねた

お気遣いって、何のことです

ああ、それはね

マルゴさんは隠しマイクに聞こえないように、オレに近付いてそっと耳に囁く

ネコさんシスター・イーディの存在に気付いていたんだ

ダメだよ後ろは、振り向かないで大丈夫、彼女はちゃんと付いて来ているから

ああオレが不用意に後ろを見たら、監視カメラで観ている人間に疑念を抱かれる

いや、シスター・イーディは完全に気配を消していたから最初はネコさんも気付いていなかったんだよでも、防火壁が緊急閉鎖した時に、美智ちゃんが彼女を呼んだでしょあれでバレたでもネコさんは、最後まで気が付かないフリをしてくれたんだ今だって、部屋の外まで見送りに出ては来なかったでしょ

確かに部屋の中に居たまま、外に出ようとはしなかった

こういう状況となった以上シスター・イーディの存在は、あたしたちの大事な切り札だからね

ミス・コーデリアも、谷沢チーフも

シスター・イーディがこの短時間で、オレたちの仲間になったことは知らない

しかし、あの子ずっと1人で大丈夫ですかね

ネコさんとも長話してしまったし

一人きりでしかも、オレたちは彼女の判らない日本語で話しているし

集中力が切れたりはしていないだろうか

問題無いと思うよ彼女は暗殺者としての教育を受けているからターゲットを尾行したまま、何時間も相手の隙を狙い続ける訓練とかしてきているだろうし

シスター・イーディみたいな、1人で行動するタイプの暗殺者は、チャンスが来るまではひたすらターゲットに集中したまま待ち続けないといけないのか

シスター・イーディと別れて、まだ1時間も経っていないだろあの子からしたら、まだ全然集中が切れるような時間じゃないよ

マルゴさんは、ニコッと笑う

そんな人と一緒に歩かないでこっちに来なさいよっ

雪乃が、オレを呼ぶ

ほら行ってあげて

マルゴさんが、オレの背中をポンと押す

オレは、雪乃の方に寄る

雪乃は、オレにぴっちりと身体を寄せてきた

どうしたんだよ怖いのか、雪乃震えているぞ

こ、怖いんじゃないわよっさ、寒いだけよっシャツ1枚だから、肌寒いのっ

そう言って、オレに密着する雪乃

シャツの下の胸がオレに当たる

あっ、いいなああたしも寒いのっヨッちゃあーんっ

寧さんも、オレにしがみついてくる

オレは両脇に2人の少女を抱える

寧さんも震えていた

この2人は自分の本当の気持ちを晒すのが苦手だ

ホテル内の温度調整は、保たれている

上半身裸のオレだって、特に寒さは感じない

ほらほら、寒くない寒くないですよ

オレは一生懸命、2人の背中を擦る

今のオレにできることは、これぐらいしか無い

うわぁ、温かいヨッちゃん、ありがとうっ

寧さんは、オレのほっぺたにキスをする

雪乃は、それを見て不機嫌にフンッと鼻を鳴らした

シザーリオ・ヴァイオラの幹部1人ぐらいは倒さないと、あなたのメンツが立たないわよ

二番目を歩く関さんが、先頭を行く麗華に言った

それは倒しますでも、もし谷沢チーフと敵対することになったら、関さんはどうしますか

麗華は暗い顔をしていた

高校剣道界のホープだった麗華を、香月セキュリティ・サービスにスカウトしたのは谷沢チーフだ

谷沢チーフに裏切られたことには色々と複雑な思いがあるのだろう

わたくしは、警護人です護るべき対象に降り掛かる火の粉は全て払うわそういうシンプルな考えで行くことにしたから

関さんは強いですね

わたくしは、香月セキュリティ・サービスの社員である前に、1人の警護人だからただ、それだけよ藤宮さんの方こそもっと簡単に割り切れるでしょ

わたくしが

関さんが、麗華に微笑む

あなたはもう、この子たちの家族なんでしょお姉さんが、妹や弟たちを護るのは当たり前のことじゃない

藤宮さんは警護人よりも、お姉さんの方が似合っていると思うわ

わたくしにはプロの警護人としての才能は無いと思われますか

そんなことは言っていないわあなたの打撃力と突進力は抜群よチームの先鋒としては、最高だと思う有能な指揮官の下ならねあなた、状況の分析と作戦立案は苦手でしょ

すみませんわたくし、頭が悪いですから

自分を卑下するのは止めなさい人にはただ向き、不向きがあるっていうことだけよまあ、自分の戦闘能力だけに慢心していた頃の藤宮さんよりは良いけれど

色々とご迷惑をお掛けしました

いいのよわたくしも、あなたに無闇に突っかかっていたからお互い様よごめんなさいねあたしも謝るわ

そんな全部、わたくしが悪いんです

そんなことないわあたしも悪かったから

これがあのトンデモなく仲が悪かった2人だろうか

人は変わるどんどん変わる

人と人の関係も

話を戻すけれど一流の警護人と、みんなのお姉さんは両立できるわよあたしが言いたかったのは今までの、男装して一匹狼っぽく孤高の警護人を演じていた藤宮さんは、あんまり良くなかったってことよ今みたいな可愛いお姉さんのキャラクターで警護人をやった方があなたに合っていると思うけれどな

そうでしょうかわたくしには、まだ良く判りません

麗華は恥ずかしそうに答えた

でも今、関さんがおっしゃった姉として弟妹を護るという気持ちは、大事に致しますそうですねこの闘い、負けられないんですものね

そうよ勝つわよ絶対に

今のこの人は、香月セキュリティ・サービスのトップ・エリート警護人じゃない

心の底からオレたちの仲間になってくれている

わたくしは頭が弱いですから関さんとマルゴ妹《イモウト》の指示に全て従いますこの身を一本の剣に変えてどんな危険な場所にも突撃しますから

麗華もそう言ってくれた

やがて19階に降りる階段に到着する

足下に気を付けてね

マルゴさんが、身体の震えている寧さんと雪乃を気遣って、後ろから声を掛けてくれた

大丈夫よっヨッちゃんにしがみついているからっ

寧さんとオレと雪乃押しくらまんじゅう状態で、階段を下りて行く

高層ホテルだけあって各フロアの間の階段は長い

それでも19階に到着する

それより下に向かう階段は、防火壁で閉ざされていた

開けます

19階へ続く鉄の扉を先頭の麗華が開く

19階の様子は他のフロアとは、全く異なっていた

何これわたくしが覚えてきたフロア・マップと違う

関さんも、絶句する

19階には何も無かった

コンクリートの分厚い柱と壁があるだけで

天井も配管剥き出し

数百メートル先の反対側の壁まで見通せる

4面の壁は、全て灰色のコンクリートで窓も無い

高級ホテルの中と言うよりまるで、地下の駐車場みたいだ

壁際の照明灯のある場所以外は薄暗い

よう遅かったな、お前たち

ビカッと、強い光がフロアを照らす

オレたちから、20メートルぐら離れた辺りに大きな丸い白テーブルがある

そこに座っている2人

谷沢チーフとミス・コーデリア

谷沢チーフは、三つ揃いの黒いスーツ

ミス・コーデリアは、真っ白なパンツスーツに着替えていた

黒と白の男女

2人ともオレたちの敵だ

ミナホは、どこだい

マルゴさんが階段の鉄のドアの所から、谷沢チーフに叫んだ

スッとドアの下に落ちていた段ボールの切れ端を差し込んで

ドアを開いたままにしようとしている

そこで何をやっているんだ

決まっているだろうこういうロケーションの場所なら、あらかじめ逃げ場は確保しておかないとね

無駄なこったお前らが階段へ飛び込んだら、上の階へ到着する前に階段内の隔壁を下ろすだけだこの端末から、そういうこともできるんだぜ

谷沢チーフは、白テーブルの上の端末機を指して、そう言った

そうでも、あたしは生き延びる可能性のあるものは、どんなものでも見逃すなって教わってきているんだよ恭子さんにね

マルゴさんが、このドアを開けたままにする本当の理由は

シスター・イーディのためだ

もし、遠隔操作でドアをロックされたらシスター・イーディは、このフロアに飛び込んでこれない

うん、これでいい

マルゴさんは、ドアが固定できたことを確認すると

もう一度聞くよミナホは、どこにいるんだい

オレたちの隊列は、すでに臨戦態勢だ

麗華は、撲殺ステッキを構えて谷沢チーフたちに飛び掛かる準備をしている

関さんも、ピストルを抜いてサポートの準備をしている

美智はオレたちの前に、スッと立つ

赤いムチを持った手は、背中に隠して

麗華お姉さんまだ、ターゲットを絞らないでミス・コーデリアの部下がどこに隠れているか判らないから

マルゴさんの指示に麗華は谷沢チーフへの突撃ではなく、どの方向にも踏み出せる様に体勢を変える

よく躾けたもんだな藤宮くんにチームプレイを教え込むとは

谷沢チーフが、感嘆する

寧たちは、周囲を監視して気配を殺しているはずだから眼で探すしかないよ

そうだミス・コーデリアたちには、美智が気を察知することなく強襲されている

ここは眼で見て、白い女のヴァイオラたちを見つけ出すしかない

雪乃探してくれっ

ら、らじあっ

雪乃が、言葉を噛んだ本当は多分、ラジャーと言いたかったんだと思う

慌てなくていいから何か変だ、気持ちが悪いと思った場所を見つけたら教えて

あらそんなに簡単に見つかるかしらあたしの可愛い子猫ちゃんたちは、隠れん坊が大好きなのよ

白いテーブルに座ったまま、ミス・コーデリアが怪しく微笑む

麗華お姉さんは、探さなくて良いから寧たちに任せてっ

ミス・コーデリアの言葉に、麗華も思わず敵の探索に眼を走らせてしまったのだろう

麗華お姉さんはあたしの指示で、いつでも最大加速で動けるように集中していて他のことは考えないでっ

は、はいっ

麗華は、邪念を断ち切る

ミスター・ヤザワ、隠れん坊で思い出したんだけれど

ミス・コーデリアは、隣の席の谷沢チーフに言う

クロモリ・ミナホは、どうしたのあたしも早く彼女に会いたいわね

今、オレの部下が連れに行っているまもなく来るさ

あたしたちの契約には彼女の身柄も含まれていること、忘れてはいないわよね

判っている黒森御名穂、マルゴ・スタークウェザー、奈島寧の引き渡しが、君たちの条件だったな

そうよどうでもいい子たちがオマケで付いて来ているけれどクロモリ・ミナホの身柄の引き渡しが無いままなら、あたしの側の契約条項は履行しませんからね

そう言うなすぐに到着するオレを信じろ

谷沢チーフは、ミナホ姉さん、マルゴさん、寧さんの引き渡しをミス・コーデリアに約束している

それよりあんたの方こそ、ちょっと遅いんじゃねぇのか

もう来るわよ

オレたちの居る壁の右

15メートルほど離れた壁面にあるドアが、突然開いた

ギィィィ

ドアに向かって、ミス・コーデリアが叫ぶ

ドアの向こうから、ゾロゾロと黒い戦闘服の男たちが入って来る

1、2、3、4

オレは、眼で数えていく

11、1213.

13人の黒戦闘服の男たち

シザーリオ・ヴァイオラの本隊だ

麗華お姉さん、関さん

マルゴさんが、突然現れた敵に合わせてチームの体勢を変える

寧たちは、あたしが指示したら階段の中に飛び込んでそうしたら、弾は防げるから

この柱と壁しか無いフロアでは銃に対して防御するための遮蔽物が無い

ヴァイオラの本隊も混乱している

おかしなフロアに出てしまったと、周りを見回している

いいのよ、ここであたしが呼んだんだからシザーリオ・ヴァイオラ

ミス・コーデリアは、笑った

どういうことなんだ、こりゃあっ

黒戦闘服の1人が、日本語で叫んだ

この濁声のオッサンがシザーリオ・ヴァイオラ

寧さんの仇

悪いんだが、君たちには武装解除して貰おうか

谷沢チーフが、そう言いながら端末のスイッチを押す

ビカッビカビカ

薄暗かったフロアが目映いばかりの光線で満たされる

ガッチャッ

フロアの壁のあちこちのドアから

次々と黒スーツ姿の男たちが入って来る

全員手に大きなマシンガンを抱えていた

その人数おおよそ、百人

あれは香月セキュリティ・サービスの情報部員です

山岡部長が仕切っていた制服組の警備部が、香月セキュリティ・サービスの表の顔なら情報部は裏を担当しています

関さんの言葉に、オレは

その情報部って、トップはやっぱり

はい谷沢チーフです

100人の黒スーツの一団が、オレたちとヴァイオラの部隊にマシンガンを向ける

別のドアから、また黒スーツが20人ほど現れる

何だ、こいつら

巨漢もいれば、小柄な人も、女性もいるけれど

全然、情報部のやつらとは気が違う

物々しい雰囲気を背負っている

こんなことって

麗華が、絶句する

もしかして関さんたちの同僚の皆さんかな

はい全員、トップ・エリートです

そんな他家の警護に付いているはずの人まで、全員来ているなんて

谷沢チーフ配下の最強警護人集団

それが、フル・メンバー全て揃っている

100人のマシンガン隊に20人のトップ・エリート

横には、シザーリオ・ヴァイオラの本隊の13人

さらに、隠れている白い女のヴァイオラたち

正面にはミス・コーデリアと谷沢チーフ

オレたちに、逃げ場は無い

本当かどうかは知らないのですが昔、あるマンガ家の先生が、ジャンプの週間連載マンガで富士の裾野で1対1万人のケンカという場面を描いて

いよいよ闘いが始まるというところで、翌週に続くとして

そのまま逃亡したそうです

どうやって1万人に1人が勝つか、思い付かなかったそうで

というか、荒野に1万人が主人公を取り囲んでいる場面が最後のページだったのですが

そこに完と書いたらしいです

もうこの場面で終わり、続きは読者が想像して下さいと

その完を、勝手に編集者がホワイトで消したという

今、そんな気分です

さて、ここからどうしましょうか

24時間以内に思い付いて書かなくてはなりません

329.ロレンザッチョ・バンディーニ

全員、今持っている武器を捨てるように言ってくれよ

谷沢チーフがミス・コーデリアに言う

ミス・コーデリアは、ジロッと谷沢チーフを見て

あら、一方的な武装解除に応じるような人たちではないわよ

香月セキュリティ・サービス情報部員の100丁を越えるマシンガン

その100の銃口を向けられてなお、シザーリオ・ヴァイオラたち13人の黒戦闘員たちは、戦闘態勢を崩さない

全員、手にギュッとピストルを握りしめている

武装解除しようってんじゃねぇどうせ、こいつら、何かしら武器を隠し持っているんだろそれまで出せとは言わねぇよとりあえず今、手に持っている武器だけ捨てさせろ

このまんまじゃ、落ち着いて話しもできねぇや

ククッと微笑んでミス・コーデリアは、英語で黒服たちに告げる

しかし黒戦闘服の13人は、動こうとしない

何だよこいつら、あんたの命令は聞かねぇらしいぜ

今度は、谷沢チーフがミス・コーデリアを笑う

そうみたいねまあ、この子たちはロレンザッチョ・バンディーニの子飼いだからねボスの命令が無い限りは、動かないと思うわ

シザーリオ・ヴァイオラでなく

ボスは、ロレンザッチョ・バンディーニ

やっぱり、そうなのかじゃあ、しょうがねぇな

谷沢チーフは、13人の敵に向かって言う

どいつがロレンザッチョ・バンディーニなんだちょっと手を挙げてくれ話がしたいから

え何で日本語で、話し掛けているの

この部隊で日本語が判るのは、シザーリオ・ヴァイオラだけじゃなかったのか

あんたが日本語が喋れるってことは、判っているんだよちゃんと調べたからなあんたが30年前に住んでいた沖縄の米軍宿舎まで特定したんだぜオレの情報部は、とても優秀だからな

ちょっと、待て

子供の頃、親がアメリカ軍人で沖縄で暮らしていたことがあるのはシザーリオ・ヴァイオラじゃないのか

ロレンザッチョ・バンディーニもなのか

とても面白い報告書だったぜ

ニヤニヤ笑いながら、谷沢チーフは話す

今から30年前二人のアメリカ人の少年が、沖縄の基地の中の学校で知り合う一人は、海兵隊の士官の息子もう一人は、基地内の洗濯屋で働くヒッピー崩れの流れ者のアメリカ人の子供だった世界放浪しているうちに、沖縄に流れ着いてアメリカ人ということで、基地に寄生して生きていたロクデナシとその息子

シザーリオ・ヴァイオラも、ロレンザッチョ・バンディーニも

二人とも、少年時代を沖縄で過ごしていて面識があった

それから15年が経って大人になった二人は、ロサンゼルスの裏町で再会する子供の頃とは、完全に逆転した立場で

谷沢チーフは、話し続けるが

13人の黒服たちは、銃を持ったままジッとして動かない

かつてのロクデナシの息子は、今やロサンゼルスの裏社会の一員それも、顔役の一人に成り上がろうとしていたしかし

谷沢チーフの口元が歪む

一方、かつての士官の息子はハリウッド・スターになる夢に破れ、みみっちぃに犯罪に手を染めて日々をしのぐ、チンケな小悪党と成っていた

隠されていた物語《ストーリー》が見えてくる

ロレンザッチョ・バンディーニ面白い名前だよなロレンザッチョアルフレッド・ミュッセの戯曲にもなっているよなメディチ家のハムレットと呼ばれたロレンツィーノ・デ・メディチの愛称だフィレンツェの専制君主アレッサンドロ・デ・メディチの親友にして、その暗殺者いかにも、ヒッピー崩れの親父が息子に付けそうな名前じゃねぇか

軍人の息子だったのはヴァイオラの方で

バンディーニの方が、ヒッピー崩れの流れ者の息子なのか

暗黒街でのし上がるためには、進んで自分の手を汚さなきゃならないしかし、ある程度までのし上がった後は、汚い仕事は信用できる部下に任せるしかなくなる何歳になっても、現場に通い続けるやつは人殺しとしては名を高めるだろうがそんな人間は、裏社会の大物にはなれない

特に大きな仕事を依頼してくるセレブとの関係に響く

ロサンゼルスのセレブ連中は、人殺しや危ない仕事を喜んで請け負う人間を日常的に求めているが

ただの人殺しとは、決してお友達になってはくれねぇからな

さっきまで誰かを殴り殺していたかもしれない手赤い血の臭う手と握手したがる金持ちはいねぇってことだ

自分自身が殺し屋である限りは、セレブからは見下される

腕が良ければセレブの皆様からの仕事は途切れないだろうが

良い様に使われているうちは、小者でしかない

谷沢チーフは、楽しそうに話し続ける

しかしロレンザッチョ・バンディーニは、人殺しの現場が大好きな男だったしかも、他人を信用しない性格だ自分の部下も心の底からは信じていない仕事の進展は、常に自ら現場に立って確認したいと考える男だ

さて、どうする

現場は楽しいがこのままじゃ、小物のまま終わってしまう

セレブたちの気まぐれで、いつでも切り捨てられる可能性があるし

いつまでも見下されたままじゃいけねぇ対等の存在、いやそれ以上にならなきゃいけねぇ

では、どうするか

若き日のロレンザッチョ・バンディーニは、裏社会に自分の地位を確立させるために、1つのシステムを考え出した

それがシザーリオ・ヴァイオラだ

シザーリオ・ヴァイオラという架空の犯罪者を産み出し、自らの犯罪は全てヴァイオラの仕事ということにしたんだろあんたは

そしてシザーリオ・ヴァイオラの名前を使って、ありとあらゆる犯罪に手を染めロサンゼルスの裏社会に名を売った売りまくった

そして自らは、シザーリオ・ヴァイオラのマネージャーということにしたんだよな

シザーリオ・ヴァイオラに犯罪を依頼する時は、どうぞ私に連絡して下さいってことだ

なるほどマネージャーなら、犯罪者本人では無い

セレブの印象も、それほど悪くは無い

しかも、犯罪の依頼を受けるためセレブと直接、面談する立場だ

何度か仕事を受けていけば、親しくもなる

裏社会への繋ぎ役として、信頼を集めていくことになる

そうして、ロレンザッチョ・バンディーニは実在しないシザーリオ・ヴァイオラのマネージャーとして、ロサンゼルスに確固たる地位を築いた

そういうことなんだよな

黒服の男の1人が鋭く叫ぶ

そいつは違うぜっ

この声は通信機で聞いた

オレが、シザーリオ・ヴァイオラだっシザーリオ・ヴァイオラは、ここに居るぜっ

男は、ドンと自分の胸を叩く

ああ、そうだなお前は、何人も居るシザーリオ・ヴァイオラの1人だからな

ミス・コーデリアがはっきりと、そう言った

ロレンザッチョ・バンディーニは、子飼いの手下を何人も抱えているわけでは無かったからな仕事によってフリーの人間を雇わないといけないしかし、フリーの人間を呼んだ現場では、ロレンザッチョ・バンディーニの他に、ちゃんとシザーリオ・ヴァイオラが存在していないといけないそうでないとシザーリオ・ヴァイオラという人物が、本当は実在していないということがバレるからな

ミス・コーデリアの言葉に、男のヴァイオラは

違うオレがヴァイオラなんだっシザーリオ・ヴァイオラロサンゼルスの暗黒街の伝説っ最悪最凶の犯罪者組織のボスオレが、シザーリオ・ヴァイオラなんだっ

ヴァイオラは叫ぶ

ミス・コーデリアは笑う

それ、英語でもう一回言ってご覧よみんな失笑するだろうさここに残った最後の人間はみんな、あんたの正体を知っているバンディーニの古参の部下だからね

ロシア人のチンピラ連中を始め

ダダドムゥおじ様の倒した、10名

バンバルビー3の倒した、7名の戦闘員たちを除いて

残った13人はロレンザッチョ・バンディーニの周りを固める、コアなメンバーだ

つまりバンディーニの昔からの配下

シザーリオ・ヴァイオラシステムの全ての裏を知っている人間だけになってしまっている

ロレンザッチョ・バンディーニが、シザーリオ・ヴァイオラシステムを思い付いた時に、たまたまあんたと再会したそれで、バンディーニはあんたを使うことにしたんだあんたとなら他の部下には判らない言葉日本語で話すことができるしねそれで、あんたは最初のシザーリオ・ヴァイオラ役者になったんだ

ミス・コーデリアが言う

や、役者じゃねぇオレがヴァイオラなんだ

なおも、男のヴァイオラは反発するが

役立たずが、何言ってるんだいあんたは弱い人間の脅迫や、無抵抗な人間の殺害はできたけれどね大きな仕事、武装勢力の幹部なんかを殺すような時には、全然使い物にならなかったじゃないかだからロレンザッチョ・バンディー二は、あんたを安い仕事専用のヴァイオラにして、大仕事用のヴァイオラは別に用意しないといけなかったんだ

確かにこの男のヴァイオラの言動は、安っぽ過ぎる

シザーリオ・ヴァイオラの伝説には、そぐわない

とっととあんたをクビにして、別のヴァイオラだけにしようかっていう話もあったらしいじゃないかところがあんたの妹、初代のロザリンド・オーランドーがなかなか使える人材だったらしいね彼女の取りなしがあってそれで、あんたのクビは繋がったんだよね

クククと、ミス・コーデリアは嘲笑った

逆にシザーリオ・ヴァイオラは複数いる方が良いっていう話になったのさなんてったって、本当は架空の存在だからねえシザーリオ・ヴァイオラの実像が世間に知られるのは困るある人間が見たヴァイオラは、あんたの様な下品で粗野でお喋りな馬鹿男別の人間が目撃したヴァイオラは狡猾で無口な男そうやって、ばらばらなイメージを広めた方が、シザーリオ・ヴァイオラの伝説を豊かになる

それでヴァイオラは、何人も居たのか

男のヴァイオラは、ケッと唾を吐き

こっちは、やってられねぇぜ現場には、いつも変装して来いって言うししかも、絶対にオレの素顔が判らねぇようなメイクをして来いって言うんだぞ毎回毎回、違う変装だ

ヴァイオラは仕事ごとに、映画のキャラクターの変装をしていた

集合場所に現れたヴァイオラに、ロレンザッチョ・バンディーニが声を掛けることでヴァイオラは、犯罪組織のボス・シザーリオ・ヴァイオラと認知される

逆を言えば、バンディーニが認めない限り、男のヴァイオラはヴァイオラになれない

そして、現場での指示は、オレが出している芝居だけして実際は、バンディーニかジュリアーノが指揮を執るオレには、現場で下っ端のやつらと直接話すことすら許されなかったんだぞ

男のヴァイオラが叫ぶ

仕事の無い時はほとんど屋敷の中に閉じ込められてオレは24時間監視されていたようなもんじゃねぇか

男のヴァイオラが閉じ込められていた

いやこの性格なら

自由に外に出したら、何を口走るか判らない

だからか

そのあんたの長年の不満がシザーリオ・ヴァイオラシステムに綻びを作ったわけだな

ロレンザッチョ・バンディーニは、あんたのガス抜きのためにあんたの稚児遊びを許した子供の頃、日本で過ごしたあんたは日本人の美少年を犯すのが好きだったあんたは、日本企業の駐在員を中心に獲物を探したもちろん、監視は付いたままだったが

妹は、いつもオレを監視していたあいつは、バンディーニの忠実なイヌだったからな

それが死んだロザリンド・オーランドーの役割

そして、あんたは奈島景人《ナジマ・ケイト》、奈島寧子《ナジマ・ヤスコ》の姉弟を手に入れた

寧さんがブルッと震える

ああ最高だったぜ、ケイはヤスコを護るためならって、オレのためにどんなことでもやってくれた顔も綺麗だったし、肌触りが良かった味も最高さ何から何まで、オレが仕込んでやったんだからな

震える寧さんの身体をオレは、ギュッと抱き締める

しかしあんたが、あんまりにも奈島景人にのめり込んでいく様子に、ロザリンド・オーランドーは不安を覚えたあんた美少年に入れあげて、ついに仕事をすっぽかしたんだってな

谷沢チーフの問いに、男のヴァイオラは

別に構わねぇじゃないかどうせ、オレがいなくたって、バンディーニが自分で指示してやれる仕事だったオレなんて、必要無かったんだよそんなのにわざわざ出向くくらいなら、景のやつをイジメていたかったんだよッ

あんたは、そう思ったんだろうな重要な仕事じゃない上に、フリーの雇い人もいないシザーリオ・ヴァイオラ役が不在でも、問題の無い現場だと

谷沢チーフの言葉を、ミス・コーデリアが引き継ぐ

だが、あんたのそういう態度にロレンザッチョ・バンディーニは怒ったその様子を見た、ロザリンド・オーランドーは不安を覚えたんだろうねこのまま、あんたがナジマ・ケイトにハマったままなら、ロレンザッチョ・バンディーニに処分されるかもしれないってそうなったら、あんただけでなく妹の自分の立場も危ういって

ミス・コーデリアが、ニヤッと微笑む

そうさだから、あいつはオレに内緒でケイとヤスコを売り払おうとした

その時の買い手が白坂創介

そして、ミナホ姉さんと恭子さん、マルゴさんがケイさんと寧さんを助けた

そこからが最悪だったねその時、シザーリオ・ヴァイオラは、メキシコのティファナでの仕事を展開している最中だったあんたはロザリンドが、あんたの大事なペットを売り飛ばそうとしていることに気付くと、バンディーニの監視の眼を潜り抜けて、単身、ティファナからロサンゼルスに戻った

ロレンザッチョ・バンディーニは、小者のあんたがまさかそんなことをしでかすとは思っていなかったから、相当慌てたことだろう

普段、オレの監視役だったロザリンドが、その場に居なかったからな抜け出すチャンスがあったんだよ

バンディーニは、あんたがそこまで、ケイトっていう男の子に執着しているとは気付かなかったのさだから、致命的なミスを犯した

そして男のヴァイオラは、ロサンゼルスに戻り

街中で、恭子さんたちと闘う

どうしても、バンディーニ自身は、ティファナの現場かに離れられなかったメキシコでの仕事を果たさなければ、信用問題になるからねその間にあんたは、とんぼ返りしたロサンゼルスでシザーリオ・ヴァイオラの名前を使って、小悪党どもを山ほど掻き集めて大騒ぎをやった裏社会の人間が、みんな見ている前での馬鹿騒ぎさロザリンドが裏から止めようと画策したけれど逆に、彼女はクロモリの連中に殺されてしまった

ロザリンドを殺したのは、ケイさんだ

ケイさんも撃ち返されて、2人とも死んだ

あげくに奈島寧子には、逃亡されるロレンザッチョ・バンディーニが、何とかティファナから戻って来た時には、何もかももう手遅れさ長年積み上げてきたシザーリオ・ヴァイオラの伝説は、木っ端微塵に吹っ飛んでいた特に、ロザリンドの死亡は大きかったねあれから3年いまだにシザーリオ・ヴァイオラの評判は戻らない今では、2流以下の仕事依頼しか来ないんだってね

ミス・コーデリアは、アハハハと大きく笑う

そんなことに、なっていたのか

そうさ、だからわざわざ日本まで来たんじゃねぇか日本まで来て、借りを返すヤスコも、ヤスコを助けた連中もオレたちが殺すシザーリオ・ヴァイオラは、絶対に復讐を遂げるっていう姿を見せれば裏社会の信頼も回復するあんたたちだって、それを確認するために日本まで来たんだろう

ヴァイオラは、ミス・コーデリアに叫ぶ

確認するためって

ミス・コーデリアは、ヴァイオラの組織の人間じゃないのか

そうさあたしは、評議会から監査のために派遣されてきている

評議会

この3年間の減収で評議会の中には、シザーリオ・ヴァイオラに対する投資は取りやめようという意見も多いんだろうだから、オレたちは何としてもここで一発逆転しようとだななのに、お前はオレたちの邪魔ばかりしやがってオレたちに協力するって言うのが、評議会からの指令じゃねぇのかよっどうして、お前らは

そう言うヴァイオラの言葉を、ミス・コーデリアは堰き止める

全然違うわよ、バーカ

そして、パチンと指を鳴らした

するとガチャッと壁のドアが開き

白い女のヴァイオラとロザリンドが現れる

2人ともミス・コーデリアと同じ、白いスーツを着ている

紹介するわ新しいシザーリオ・ヴァイオラとロザリンド・オーランドーよ

白い丸テーブルに座ったミス・コーデリアの背後に2人の白髪の美女が立つ

男のヴァイオラにニコッと微笑む

ど、どういうことだよっ

評議会の決定を伝えるわ現状のシザーリオ・ヴァイオラシステムは、全て廃止するわだけど評議会は、あなたたちの作り出した架空の犯罪者を産み出して伝説を作るというアイデアは、いただくことにしたのよ

まさかオレたちを皆殺しにするつもりか

大丈夫よあんたは死んでも、シザーリオ・ヴァイオラは死なないから架空の存在なんですからねその名前と伝説だけ、貰ってあげるわよこの子たちは、あんたたちよりも優秀よ一応、世間には2代目シザーリオ・ヴァイオラっていう形で宣伝するけれど初代よりも人気者になると思うわ

シザーリオ・ヴァイオラのリニューアルをする気なのか

そういうことだからあんたたちは、この極東の地で安心して死になさいふはははは

白い2人の新しいヴァイオラたちも

ちくしょう、ハメやがったなぁぁちくしょうっちくしょうっちくしょうっ

喚く男のヴァイオラ

うるせぇナお前ハ、もう黙ってろヨ

黒い戦闘服の一団の中から低い男の声がした

このアメリカ人の集団の中で、日本語を話すもう一人の人物は

あら、やっとお喋りしてくれる気になったのロレンザッチョ・バンディーニ

オレが聞いてきた評議会の話トハ、全然違うじゃねェカミス

バンディーニの日本語は少し訛りがある

評議会との約束ハこいつを日本で処分するっていうことだけだゼ評議会は、シザーリオ・ヴァイオラシステムの運営者としてのオレの才能は、評価してくれているってハズだったンダ

こいつを処分するって

男のヴァイオラは、いずれにせよ殺される予定だったのか

ミスター・ロレンザッチョ・バンディーニあなた、今、お幾つでしたっけ

43歳だ

メジャーリーグなら、そろそろ引退を考える年齢よね

なンだと

あなたには、この15年大変稼がせていただいたと、評議会のサミュエル・スチーブンソンが言っていたわでも、次の15年はあなたには無いのよ裏社会の中でシザーリオ・ヴァイオラシステムを運営して行くには、あなたは年を取りすぎているからね

そんなことハねぇ

3年前の失態はそこの男の暴走というより、きちんと管理ができなかったあなたに責任があると評議会は判断したのよ

オレもここで殺すって言うノカ

ミス・コーデリアは評議会という組織の命で、これまでのシザーリオ・ヴァイオラシステムに関わる人間を全員処分するために派遣されてきたのか

あなたは死んでも、ロレンザッチョ・バンディーニは死なないわ本物のロレンザッチョ・バンディーニは、今、ミスター・ヤザワの部下が保護しているもの

そうか学校に現れたロレンザッチョ・バンディーニの偽者は

工藤父によって、拘束されたままだ

ここで本物のロレンザッチョ・バンディーニを殺しても

拘束しているロレンザッチョ・バンディーニが居れば死亡は確認されない

何で、お前らがオレの偽者を用意したのか考えておくべきだったゼ

ロレンザッチョ・バンディーニは苦笑する

さあどうしましょうかねミスター・ヤザワとの契約もあるし別に、すぐには処分しないわ

ミス・コーデリアが、ロレンザッチョ・バンディーニに告げる

クロモリ・ミナホは、遅いわねここに来るのを愚図っているようなら、ちょっとアトラクションでも見せてあげようかしら

彼女はオレたちの方を見る

あなたたちの残存部隊には、クロモリ家と殺し合いでもして貰おうかしらきっと、面白いショーになると思うんだけれど

オレたちと闘わせる

死ぬか生きるか楽しそうでしょマルゴ・スタークウエザー

冷たい眼でマルゴさんに微笑む

演劇の裏方の仕事をしていた頃、アングラ演劇の有名な演出家の先生とお話ししたことがあるのですが

実は、これまた有名なロボットアニメの監督の娘さんが、当時、某劇団の演出部にいらして、その先生と面識があったそうです

この間会った時によう、一度、お父さんに会わせろって言ったんだけれど、断られたんだよ

え先生、ガ**ムとか、ご覧になられたんですか

そんなの、観るわけねぇじゃないかたださ、会って話をしたら、何か仕事が繋がるかもしれねぇと思ってさ

いや、相手の仕事をちゃんと観てもいないのに

話が進むわけないじゃないですか

アングラ世代って、今の60歳前後でまあ、学生紛争世代の方たちなんですけれど

自分たちは、闘争しながら少年マガジンのあしたのジョーを読み続けていた世代なのに

どうして、それ以降のマンガとかアニメに一切興味が無いのか

もっというと、小馬鹿にしているのか不思議でした

あれだけエヴァンゲリオンが流行っても、これだけブームなんだから、一応観ておこうと言ったのは、80年代演劇ブーム以降の先生たちでしたから

映画は好きで、何でも観ているのに他の自分たちより若い世代の文化にどうして興味が無いのか、ずっと不思議でした

最近判ったのですがSFとロボットがダメみたいですね

いや、あしたのジョーだって、チョムチョムとかハリマオの一回転パンチとかあるので実際には、リアルな作品では無いんですマンガ的な要素は、ちゃんとあるんです

それは受けとめられて

でもロボとかは、最初から拒絶しているという

アングラ世代の人たちが、連載を読みながら矢吹ジョーに寄り添って行ったように

私たちも、アムロやシンジくんに寄り添ったんですけれどね

その寄り添うという感覚は、同じもののはずなのに

330.戦闘開始(コンバット・オープン)

どうして、谷沢チーフもミス・コーデリアも、日本語で喋っているのかしら

関さんが、小声で言う

アメリカ人の部下たちには、この話を聞かせたくないからなんじゃないですか

そうだろうかそれにしちゃ、ちょっと詳しく話しすぎていると思うんだけれどね

あたしたちに判るように、わざわざ説明してくれているのさ

オレたちに

谷沢チーフの目的は、まだよく判らないなしかし、ミス・コーデリアの方は想像できるよ

マルゴさんの言葉に、ミス・コーデリアはフフフと笑う

彼女あたしたちを皆殺しにするつもりなんだよ

そうよあなたたちには、これから死んで貰うわ何も知らないまま殺されるのは、可哀想でしょうだから、なるべくあなたたちが死ななくてはいけない事情を教えておいてあげようと思ってねうふふ優しいでしょ、あたしついでに質問があったら、どうぞ今なら何でも答えてあげるわよ

ミス・コーデリアの笑みに、オレたちは震撼する

じゃあ、お言葉に甘えてあたしたちを殺すっていうのは、あなたの所属している評議会の計画の内に入っているのそれとも、あなたの一存

マルゴさんは、尋ねた

あたしの一存というか、私怨ね個人的な感情によるものよ評議会とは一切関係ないわ

ミス・コーデリアの私怨

あんたたちみたいな売春組織にキョーコみたいな、才能の有る人間が関わっているのは、裏社会全体の損失よだから、潰すのあんたたちを皆殺しにしてキョーコには、もっと有意義に人生を生きて貰うわ

そう言った後、ミス・コーデリアはニヤッと微笑む

いえ、この際だからキョーコも殺してあげるべきなのかもね売春婦のお守りなんて下らないことをやっていることが知られないうちに、きっちり殺してあげれば彼女の尊厳は失われないもの

ミス・コーデリアは昔、恭子・ドスノメッキーさんのパートナーだったらしい

恭子さんの才能は、誰よりもよく知っている

黒い森の警護役をやっていることが許せないんだ

だから、あたしはこの機会にあなたたちを抹殺することにしたのロレンザッチョ・バンディーニたちを始末するついでだけれど、あたしにはあんたたちを殺すことの方が重要よ思いっきり、嬲って痛めつけて殺してあげるそのために、あたしはミスター・ヤザワと手を組んで

スッと谷沢チーフが、ミス・コーデリアの前に手を差し出す

黙れという意だろう

興奮しすぎているぜ喋りすぎだ

そうみたいね日本語で喋っていると、キョーコと暮らしていた頃を思い出して、ついつい気分が高揚してしまうのよ

マルゴさんが、谷沢チーフに声を掛ける

谷沢さんはあたしたちの質問に答えてくれるつもりはないんですか

谷沢チーフは、ニッと微笑み

オレはな死んでいくやつは、全部知らない方が幸せだっていう考え方なんだよ

谷沢チーフもオレたちを抹殺するつもりなのか

1つだけ教えて下さい

言ってみな答えるかどうかは判らんが

谷沢チーフの眼をオレはジッと見つめて口を開く

ミス・コーデリアの抹殺対象は黒い森の関係者全員ですか

そうだオレが聞いている限りでは、彼女はお前らを全員殺すつもりだ

それって、つまりミナホ姉さん、マルゴさん、寧さん、オレってことですよね

高梨克子もだ

谷沢チーフは、答える

オレはわざと克子姉の名前を省いたが

克子姉が黒い森の中核メンバーだってことは、バレている

克子姉は、ただの娼婦ですミス・コーデリアは、売春組織に搾取されている可哀想な女性まで、一緒に殺すつもりは無いですよね

ミス・コーデリアの考え方なら、きっと

彼女は、陥れられた女には同情的になってくれると思う

そうねタカナシ・カツコとカタガイ・ナギサは除外するわ

よしミス・コーデリアの言質を取った

香月家の二人のお嬢さんと、そのお友達たちも巻き添えにしないと約束して下さいあの女の子たちは、オレたちの犯罪に巻き込まれただけで黒い森とは関係無いんですから

オレは賭けに出る

それは、オレからもお願いするぜ香月のお嬢さんたちがいなくなったら、今後のオレの仕事に支障が出る

谷沢チーフが、ミス・コーデリアにそう言ってくれた

そうですよ大体、あの女の子たちは、恭子さんと会ったことも話したことも無いんですから

オレだって恭子・ドスノメッキーという人に会ったことは無い

しかし、ここはブラフで押し通す

そうね判ったわ殺すのは、クロモリ・ミナホ、マルゴ・スタークウェザー、ナジマ・ヤスコ、それにあなた4人だけにしてあげるわ実際、クロモリ・ミナホさえ殺せば、黒い森《ブラック・フォレスト》という組織は壊滅でしょうしねだけど

クスクスと、彼女は笑う

あなた一体誰なのあたしの依頼した事前調査では、全然、報告に上がって来ていないんだけれどミスター・ヤザワから貰ったレポートにも載っていないし

オレが黒い森に参加してから、まだ一週間も経っていない

オレも全然知らなかったのさ黒い森の秘密メンバーなんだろう

谷沢チーフは、すっとぼける

うんよしよし

オレの調査が間に合っていないのなら

メグやマナたちのことだって、正確には判っていないはずだ

みすずの友達で、押し通せる

そうねさっきのセックス・ショーの感じじゃあ、どう見たって娼婦の教育係か相当訓練を積んだプロの男娼よね普段は、お金持ちのオバサンのお相手でもしているんでしょうけれど

ああ、精一杯、あの場でセックス・ショーをやっておいて良かった

ミス・コーデリアは、オレが黒い森という売春組織の正式メンバーだっていうことについては疑問を持っていないようだ

まあそんなようなモノですよ

これでとりあえず地下に居る子たちに危害が加わることは無い

克子姉、渚、みすず、メグ、マナ、瑠璃子、美子さんは大丈夫だ

ジッちゃんは、朝まで籠城し続けることができれば、絶対に助かると言っていたけれど

谷沢チーフが敵となった今、保障は無い

あの地下室だって、まだ他に脱出路があるのかもしれないし

こいつもオレがコマした娼婦見習いですまだ客を取らせていませんオレが無理矢理レイプしてセックス浸けにしました

オレは、雪乃のことをそう説明する

こいつも、オレたちの被害者です仲間じゃありません勘弁してやって下さい

ミス・コーデリアが、雪乃に尋ねる

雪乃は白坂本家から、抹殺要請が出ている

それを小遣い稼ぎに、ミス・コーデリアは受けているはずだ

本名を答えるなよ

この場は黄縞黒子で誤魔化せ

白坂雪乃よ

バ、バカ雪乃っ

あたしは白坂雪乃白坂創介の娘よっ

ミス・コーデリアが、ニタァと笑う

あなたを殺すと、5万ドルになるのよちょっと安すぎるけれど、仕方無いわねあなたの値段は、お父さんよりも安く設定されているから

ゾゾッと震える、雪乃

雪乃、お前、後ろに下がっていろ

オレは、雪乃の前に出る

あら仲間じゃないんでしょ、その子どうして護ろうとするの

ミス・コーデリアが、皮肉を込めてオレに言う

死なせたくないだけですこいつだって

オレの後ろで、雪乃がオレの腕をギュッと掴む

大丈夫よあなたもその子もちゃんと一緒に殺してあげるから

本当に、嬲り殺しにする気なんだな

さあて、それじゃあ手始めにロレンザッチョ・バンディーニの手下と殺し合いでもして貰いましょうか

スッと、ミス・コーデリアは黒服の男たちの方を見る

そして、英語で何か話し出した

評議会は、ロレンザッチョ・バンディーニとシザーリオ・ヴァイオラの抹殺を決めたってことを話しているよ

寧さんが、小声で教えてくれる

だから、本来なら部下であるあんたたちも、この場で皆殺しにする予定だったけれど、使える人材はミス・コーデリアが再雇用して生かしておくって

腕に自信のある者は、手を挙げろって言っているよあたしたちと闘わせて、実力を見るって殺し合いして生き残ったなら、助けてやるってさ

黒い戦闘服の中の数人が、サッと手を挙げた

13人のうちの5人か

思ったより少ないね今更、ロレンザッチョ・バンディーニに忠義を感じているわけは無いだろうし挙手しない人たちは、ミス・コーデリアの言葉を全然信じていないんだね

ミス・コーデリアに再雇用の意志なんか無いって、判っているのさあたしたちと闘って勝っても、やっぱり殺されると思っているんだだから隙を見て、この場から逃げ出す方に賭けているんだと思うよ

むしろ、オレたちと黒服の戦闘にミス・コーデリアが集中している時こそが、チャンスだと判断したんだな

なあに、たった5人なのまあいいか、そっちの人数と同じだものね結構、良い勝負になるんじゃない

オレたちの人数と同じ

マルゴさん、寧さん、オレ、雪乃それから

そこのニンジャ・ガールは、この子たちと一緒に闘うんでしょ

ミス・コーデリアは、美智を見る

当然ですわたくしは、ご主人様の下僕ですから

そうか美智が戦闘要員だということは、前の襲撃で知っているんだ

わたくしも闘います

あら、あなたはミスター・ヤザワの部下だって聞いていたけれど

ふんっこいつは一本気過ぎるんだよっもう少し、柔軟な思考になれば、気楽に生きられるってのにな、藤宮くん

そう言う谷沢チーフを、麗華は睨む

気安く話し掛けないで下さいあなたはもう、あたしたちの敵です

あたしたちそう、あなたはもうクロモリの一員なのね

ミス・コーデリアが微笑む

わたくしも、この子たちを護りますわ

わたくし、警護人としての誇りを失いたくはありませんので子供を見殺しにすることなど、できませんわっ

子供じゃないわよそいつらは、薄汚い売春組織のウジ虫たちなんだからっ

ミス・コーデリアは、黒い森の心底嫌っている

いいえこの子たちは、わたくしが命を懸けて護るべき存在です抱き締めて、慈しんであげたい子供たちですから

はんっウジ虫たちと一緒に居るうちに、情が移ったってのかい

ミス・コーデリアは、関さんを嘲笑う

あなたに、どう思われても構いませんわたくしは、一人の警護人としてこの子たちを守り抜くだけです

そうじゃあ、あたしも考えを変えないとね

ミス・コーデリアが再び英語で何かを言う

大きな声で、ヒステリックに黒い戦闘服の男たちに命令している

何て言っているんです

ロレンザッチョ・バンディーニとシザーリオ・ヴァイオラ以外の男は、全員、あたしたちと闘えってそうしないと、今すぐ殺すって言っているよ

つまり敵は11人

こちらは7人

しかし、オレと寧さんと雪乃は戦力にはならない

むしろ、足手まといだ

あんたたちは、プロの処刑人たちなんでしょあんな女子供ぐらい、簡単に瞬殺できるわよねそんなこともできないような役立たずなら、今すぐここで銃殺するわ死体は、すぐそこの海に投げ込んであげる本国には、遺品1つだって持つ手帰らないわ極東の海に沈みなさいそれでも、いいの

言いたい放題だなミス・コーデリア

やつらには、拳銃は使わせるな

谷沢チーフが、ミス・コーデリアに言った

あら何故かしら

流れ弾が飛んで来るのが怖いさすがに、ロレンザッチョ・バンディーニの本隊となれば、みんなそこそこのキャリアのある処刑人だろこいつらと闘うフリをして、オレたちを狙ってくるかもしれん

そんなの、軽く避ければいいだけじゃない

ミス・コーデリアは、クフフと笑う

もし突然、自分を狙って来たとしても対処できる自信があるんだろう

あんたやあんたの子猫ちゃんたちはまだ若いから、俊敏に行動する自信があるんだろうがオレはいい年だぜ鉛の弾を撃ち込まれて、ササッと避けられる自信はもうねぇなあそれに、トバッチリがオレの部下たちに及ぶのも困るこいつらには、これからもオレの下で働いて貰わないといけないんだから

そうか、戦闘開始と同時に

ヴァイオラの部下たちは、全力でこの場から逃げだそうとするかもしれない

追い込まれた彼らが、出口を求めて無闇矢鱈に発砲してきたらマシンガンを構えて、オレたちを威嚇している情報部の人に当たるかもしれない

意外と小心者なのね

小心だからこそ、今まで生き延びてきたのさ

判ったわあなたのその正直さに免じて、言う通りにしてあげるわ

ミス・コーデリアが、白い女のヴァイオラとロザリンドに指示を出す

二人の女は、ニタニタ笑いながら

黒い戦闘服の男たちの方へ歩いて行きボディ・チェックをする

まあ、嬲り殺しにするのなら格闘戦の方が見応えがあるものね銃撃じゃ、すぐに片付いちゃうでしょうしバンって撃たれて即死じゃつまらないもの

白くて長い指が男たちの隠していた銃器を探し出し、弾倉を抜いて放り捨てる

一人の男が、白いロザリンドに触れられるのを拒絶する

ロザリンドは、もの凄い速さで男の額に頭突きする

ガッ

卒倒する男

ロザリンドは、ニヤニヤ笑っている

ミス・コーデリアが英語で何か言う

手間を掛けさせるなって反抗する人間は、容赦しない闘える人間の数が減ったら、困るのはお前たちだろうって言っているよ

とにかくこれで、敵は10人になってくれた

こっちの銃器は、わたくしのこれだけよこの子に預けておくわこの子は戦闘訓練は何も受けていないんだからそれぐらいのハンデは、構わないでしょう

関さんはそう言って自分のピストルをオレに手渡す

そうねそれなら、特別に許可してあげるわ

ミス・コーデリアは、そう答える

撃つ時は、敵を引きつけてからね今のあなたでは、3メートル離れた相手にも弾が当たらないわナイフで刺す距離で、撃ちなさいでも、危ないと思ったら躊躇わないで撃つのよいいわね

重い金属の塊は関さんの体温で、すっかり暖まっていた

オレは銃のグリップを握りしめ

その間に黒い戦闘服の男たちの銃器の押収は完了した

ヴァイオラとバンディーニも銃を奪われている

さてそれじゃあ、初めて貰おうかしら殺し合い

楽しそうに、ミス・コーデリアは笑う

あんまり良い趣味とは思えんがね

あらとっとと出て来ない、クロモリ・ミナホが悪いのよ

ミス・コーデリアは天井付近の監視カメラを見上げる

早くいらっしゃい、クロモリのボスさん急がないと、あなたの大切な部下はみんな死んでしまうわよ

彼女はオレたちが家族だということを知らないのか

壁を背にして闘おう麗華お姉さんは、正面あたしは右、関さんは左をお願いします攻めてくる敵を、確実にカウンターで仕留めるよ美智ちゃんは、寧たち3人のガードをお願いそれから

本当に危なくなった時には美智の心月に頼るしかない

しかし最大パワーの心月は

味方の動きも止めてしまう

オレたちは劇場からの脱出の時に、それを経験している

接近戦は、そんなに得意じゃ無いけれど仕方無いわね

関さんは、隠していた伸縮式の警棒を取り出す

あいつらもボディ・アーマーぐらいは付けてるでしょうからねいちいち拳で殴っていたら、手が腫れあがっちゃうわ

そうだね急所を確実に打ち抜いていかないと

マルゴさんも両手に金属製の棍棒を持つ

野球部のグラウンド裏で闘った時に使っていたやつだ

上着の下に隠し持っていたらしい

わたくしのステッキには関係在りませんボディ・アーマーもヘルメットも、一撃で打ち砕きます

ギュギュッと撲殺ステッキを正眼に構える麗華

黒戦闘服の10人は、一斉にコンバット・ナイフを引き抜く

ちょっと大丈夫なんでしょうね

雪乃と寧さんが、オレにしがみつく

平気ですオレたちの家族を信じましょう

いよいよの時はオレがこのピストルで、二人を護らないといけない

一人の黒服の男が戦闘員たちに、指示を出している

ほとんど言葉は使わない

手で、お前はそっちへ行け、お前とお前は組めと指差すだけだ

なのに10人の男たちは、あっという間に戦闘態勢の陣形を組む

あれ、ジュリアーノ・ジェンカだよね

そうでしょうね幹部クラスで戦闘指揮のできる人間といったら、他にはいないでしょうから

関さんが、答える

双方とも用意はできたみたいねそれじゃあ、これで開戦《コンバット・オープン》のタイミングを決めましょうか

ミス・コーデリアは、ポケットからコインを取り出す

ニッケル硬貨小さくて、ちょっと見にくいよクオーターは無いの

マルゴさんが、おどけて言う

あんたたちの値打ちなら、5セントで充分でしょこれを投げて床に落ちた瞬間から、戦闘開始よ

ミス・コーデリアの手の中で、銀色の小さなコインが鈍く輝いている

今、オレたちに言ったのと同じ事を英語で黒戦闘服の男たちにも告げる

では、行くわよready

ミス・コーデリアの指が、銀のコインをチィィーンと弾く

コインは、キラキラと輝きながらくるくると回転して虚空に飛び

そして、落下し始める

コインが床に落ちる前に

シュッ

グゥエエエッ

ジュリアーノ・ジェンカと思われる黒戦闘服の男が、喉元を押さえて悶絶して

ドサッ

チィィィィィィン

男が倒れたのと、コインが着地したのはほぼ同時だった

関さんが投げナイフを打ち込んだ

わたくし、本当はこれが一番得意なんです

関さんが、次の投げナイフを取り出す

まさか卑怯とは、言わないですよね

香月セキュリティ・サービスは、日本人らしく融通の利かない、お行儀の良い表企業だって聞いていたけれどね

今更そんな流儀に捕らわれていては、命が幾つあっても足りないわ

関さんは、ギッと敵を睨み付ける

わたくしは、もう香月セキュリティ・サービスとは無縁の人間ですこうなった以上は、あなたたちも、わたくしたちも裏世界の住人犯罪組織同士の抗争ですここから先は、ルール無用よ

関さんも黒い森の一員になってくれたのか

HeyBoys

背後から、ロレンザッチョ・バンディーニが黒服たちに声を掛ける

ジュリアーノ・ジェンカが倒れた今、後方から戦闘員たちの指揮を執るつもりなんだろう

まさか、卑怯とは言わないヨな

次々に繰り出されるバンディーニの指示に従って、9人になった男たちが3人1組のフォーメーションを組む

戦意は消えていない

むしろバンディーニの外からのコーチングに、士気が高まっている

麗華お姉さん、突出しちゃダメだよっカウンターだけを狙って

いつもなら飛び出す麗華が、一歩退く

まいったねさすがにみんな、本物のプロだよもう奇襲は利かないと思う

寧さんが呟く

全員飛び道具を使われても平気なように、顔面と首を手でガードしているでしょボディ・アーマーを着込んでいるから、関さんのナイフで効果があるポイントなんて限られているしさっきはコインに集中して、相手の動きが止まっていたから正確に急所に

打ち込めたけれど、もう多分無理だよね

関さんのナイフは、牽制ぐらいにしか使えない

あれがもしアメリカ軍で採用されている最新式のアーマーなら、わたくしのムチでも一撃では砕けないかもしれません

そうか工藤父たちのフリー警護人が、ロシア人たちの掃討に時間を掛けていたのは

この防御力のせいだったのか

そう考えると、ダダドムゥおじ様やバンバルビー3のお姉さんたちの破壊力は凄まじい

元々さ、マルちゃんの一番得意な戦法は、奇襲から一気に刈り取るってパターンでしょやっぱり、女だからさ男に力押しで潰しに来られると弱いんだよる筋力でも体重でも、女の身体じゃ男の人には敵わないんだからさ

ガッチリと正面から組み合ったらプロの処刑人の男たちには、負けるというのか

人数もあっちの方が多いしね

敵は、3人でこちらの1人を潰していくつもりらしい

麗華、マルゴさん、関さんに3人ずつ、敵が接近していく

このまま一斉に襲いかかられたら

マルゴさんたちは、自分の眼の前の敵に対処するのが精一杯でお互いにフォローし合うことはできない

敵の3人チームは、高度に訓練されているらしい

完璧に連携の取れた動きをしている

Go

バンディーニが、大きな声で指示を発する

男たちは同時に飛び掛かって来る

佳境に入って参りました

何とか今月中には、ホテル編終わらせたいですねぇ

これが終わったら、エッチ・シーンのラッシュになると思います

欲求不満になっている女の子、多いですし

331.チーム・ワーク

麗華に3人

関さんに3人

マルゴさんに3人

3人1組のチームが3つ

一気に、オレたちを叩き潰すつもりか

ハァァ、お面んん胴ぉぉぉ

麗華は、一番最初に突進してきた男を撲殺ステッキでブッ飛ばす

ブッ叩かれた男は、そのまま後続の男たちのところまで弾き飛ばされる

重いステッキを軽々と振り回す麗華だけは男たちにも、パワー負けしていない

一撃を打ち込まれた男は平然と起き上がる

くっ闇雲に打ちかかるだけではダメなようですね確実に、急所を突くか全力でボディ・アーマーごと打ち砕くしかない

さすが、ロレンザッチョ・バンディーニの子飼いの処刑人たち

今までの敵とは、タフさが違うし

闘い慣れしている

打ち砕くって方の考えは捨ててっ大振りになるだけだよっそれに、そいつら3人で連携して攻撃してくるからっ

寧さんが、麗華に叫ぶ

はい確実に、急所だけに集中しますっ

いや現実問題として、3人組の連続攻撃をステッキで打ち払うだけで精一杯だ

思い切り振りかぶって、渾身の一撃なんてできるはずがない

サァァッサァサァァッッ

一方、マルゴさんは両手の棍棒を巧みに使って、自分を攻撃する3人チームと渡り合っている

こちらも眼の前の敵に対処することしかできない

ツァァァ、イヤッ、ハァァ

一番旗色が悪いのは、関さんだ

持ち前のスピードと正確な攻撃で、何とか凌いでいるが

パワー不足はオレの眼にも明らかだった

少しずつ黒服のやつらに押されている

クッ

特殊警棒で敵のコンバットナイフの攻撃を受けとめたがそのまま、押し飛ばされる

ぐらりと体勢を崩した瞬間別の男のナイフが、関さんを襲う

あ、危ないっ

オレが叫ぶと同時に

ビシュルルルンッ

美智の赤いムチが唸る

バシィィッ

ムチの先が、男の黒い戦闘服の胸元を切り裂くが

男にダメージは無い

破れた黒服の下から何か黒いモノが見える

あれがボディ・アーマーか

打撃や衝撃は、アーマーが受けとめてしまうタイプなんだよこうなったら、顔面か関節を狙うしかないね

寧さんは、そう言うが敵だってプロだ

弱点をそう易々と突かせてはくれない

そんなことを話している間も、黒戦闘員たちのの猛攻は続く

関さんが、足を滑らせた

うわわわっ

コンバット・ナイフの大きな刃先が、関さんを襲う

ガシッ

関さん腕の甲で、ナイフを受けとめている

あなたたちのボディ・アーマーほど、本格的ではないけれど

関さんは、敵のナイフを持つ手をむんずと掴むと合気道の投げで、相手を引っ繰り返す

わたくしたちだって簡易的なアーマーは付けて来ています

そうだ地下で、麗華がジャージに着替えた時に見せてもらったっけ

麗華は手足やお腹に、サポーターや補助的な防具を着けていた

関さんも、同じ物を付けている

このアーマーだって、ナイフの刃を通さないわよっそれにこの手袋だって、防刃グローブなんだからっ

関さんは、黒い手袋をギュッと握りしめる

でも気を付けてナイフを受けとめられたって、衝撃は消せないんだから

寧さんが、注意を喚起する

関さんは、叫んだ

でもアーマーのある場所なら受けとめられるって覚悟すれば、勝機はあります

今までは右手の警棒だけ受けていた敵のナイフを今度は、両腕を使って受ける

関さんの服の袖がズタズタになっていくがギリギリ敵の攻撃に対処できている

もおっこの服、お気に入りだったのにっ

生きて帰ったら、あたしが弁償してあげるよっ

マルゴさんも、腕の甲で敵のナイフを受けとめ始めている

やっぱり、補助アーマーを着込んで来ているんだ

美智ちゃんは、前に出ちゃダメだよ君は、あたしたちみたいな防具は着けていないんだから

そうだ美智は、制服の下に特殊なアーマーなんて着けていない

それは、裸にして抱いたオレが一番良く知っている

美智は、困惑している

舐めちゃダメだこいつら、思っていた以上にやる

ああ今までの敵とレベルが違う

ロレンザッチョ・バンディーニが、最後まで隠していた戦力だ

一瞬でも気を抜いたら確実に殺される

何か形勢逆転を狙える方法は無いのか

HEY John

後ろから、ロレンザッチョ・バンディーニが何か指示を出す

すると突然さっき、白い女のロザリンドに頭突きされて昏倒していたはずの戦闘員がサパッと起き上がる

死んだフリをしていた

10人目の黒服はそのまま、関さんに向かって突進する

3対1で容易に倒せないのなら

4対1で仕留めるつもりか

それも一番苦戦している関さんを狙って

こうなったら、心月で一瞬も敵の動きを封じ込めるしか

心月は、相手がわたくしの方に意識を向けなければ

戦闘中のプロの処刑人は、眼の前の相手に集中している

こちらに振り向かせることなんて、できるはずがない

ミッちゃんの切り札は、まだダメだよっ

寧さんが叫んだ

マルちゃんたちなら、一瞬の隙さえあれば何とかしてくれるから

雪乃ちゃん、ゴメンッッ

寧さんは、雪乃の着ているYシャツの裾をぺろんと捲り上げる

ぷりんとしたお尻と秘部が、世間に剥き出しにされた

きゃああああああああああッッッ

雪乃の絹を引き裂く様な悲鳴

3人とか、4人グループの戦闘員たちその全員では無いけれど

どのグループでも、1人2人は何だと思わず雪乃の方を見てしまう

やつらの連携に隙が生まれる

せぇぇいッさァァッッ

マルゴさんが、その隙を見逃すはずが無い

一瞬動きを止めた戦闘員の、膝関節に渾身の一撃を打ち込む

ギャアッ

ガクッと崩れる相手の頭を、力一杯蹴り上げるッッ

トイヤぁッ

その時にはもう別の敵が、ナイフで斬り付けてきているが

腕の甲の防具で刃先を弾き喉元に棍棒を叩き込むッッ

グヘェッッ

急所を突かれて、男は息を詰まらせバタバタと床に転がる

ちぇすとぉぉぉッッ

一方、麗華は動きの止まった敵に必殺の突きを打ち込むッッ

この猛撃ならばボディアーマーを砕いて、ステッキの石突きが敵の急所を確実に貫くッッ

ギィハァァァッ

フッ飛ばされた戦闘員は、後ろにいたもう1人を巻き込んで背後に引っ繰り返った

3人目が、麗華に襲いかかるが

ていやぁぁっ

麗華は、相手のヘルメットを撲殺ステッキで、思いっきり横殴りにするッ

敵のヘルメットが割れる

それでも相手の頭蓋骨にまでは届かないだろうが

斜めの角度からの強烈な一撃は、相手の首にグギッと深刻なダメージを与える

グゥハッ

泡を噴いて、男は倒れた

その頃、関さんを襲って来た4人組は

すぅえいっっ

雪乃の悲鳴に気を取られた1人を関さんが、腕を取って投げ飛ばすッ

くるっと空中で一回転した巨体は、受け身の取れない角度から地面に叩き付けられた

シュビュバババッ

同時に、美智のムチが関さんを狙った別の敵に炸裂する

赤いムチの先が男の黒マスクの鼻先を、ズバッと切り裂く

ウガガガガーッ

激しく出血する鼻を押さえて、男が地面に転げ回る

そうか、こいつらマスクの下、顔には防具は着けていないんだ

関さん顔面を狙って下さいませっ

了解ッッ

関さんは、倒れた男の顔面を靴の踵で蹴り抜くッッ

ギャアアアッ

悶絶する男

鼻の下って神経の集中しているポイントがあるからねそこを思いっきりヤられたら、どんな人だって失神するよ顔は鍛えられないからね

手を下ろしてっ早くっ

雪乃が、喚くっ

ああ寧さんの手は、まだ雪乃のシャツを捲ったままだ

雪乃は真っ赤になって、自分の手で股間と肛門を隠している

あ、ゴメンゴメン、メンゴっ

寧さんは、雪乃のお尻から手を離す

もおっバカ、バカ、信じられないっ

顔を真っ赤にして怒る、雪乃

みんなに見られちゃったじゃないっ

うん眼の前の敵だけでなく

ここには、谷沢チーフの配下が120人以上は居るから

でも、雪乃お前はすでに全校生徒にセックスシーンを公開しているんだし

あーんっめちゃくちゃ恥ずかしいわよっこんなのっ

マルゴさん VS 3人

麗華 VS 3人

関さん VS 4人だった敵は

マルゴさんが2人倒し

麗華が2人倒し

関さんと美智で、1人ずつ倒した

残りは4人

これで4対4だね

後ろから、ロレンザッチョ・バンディーニが何が叫んでいる

まだ闘える4人の戦闘員は集結して、1つのチームを組む

関さん麗華お姉さん美智ちゃん

マルゴさんは、1人1人に声を掛ける

同じ人数ならあたしたちの方が強いそうだよね

何も言わずに麗華が前に出る

関さんとマルゴさんが、側面へ

美智は、オレたちのガードの位置に立つ

当たり前の様にフォーメーションを組む

いつの間にか完璧なチームとなっている

こちらからは、攻めないあくまでもカウンターだよ

マルゴさんが、そう指示する

対峙する4人と4人

でも敵に攻め込ませるのも、手ではありませんか

関さんが警棒を右手から左手に持ち替えながら、言った

そうだねこのまま、この人たちとお見合いし続けるのも嫌だよね関さん、タイミングよろしく

スッと、関さんの手が動き出す

ひのふのみぃっ

瞬間、何も持っていなかったはずの関さんの右手から

投げナイフが、ビュワッと飛び出すッ

ナイフを避ける、敵の4人ッ

それが決戦の合図となった

秘剣・震電

麗華は、真っ正面の敵だけに集中して必殺の一撃を放つ

左右に飛んだ、敵にはマルゴさんと関さんが迎撃する

関さんは、右の敵に対峙するフリをして後方から時間差攻撃を仕掛けようとしている敵にナイフを投げるッ

右の敵は、隙のできた関さんに襲いかかるが

美智の赤いムチが迸るッ

一方、マルゴさんは的確に左の敵に照準を合わせていた

ガキィッ

音は1つだった

4人同時に、敵に攻撃を掛ける

この初撃はフェイントだ

グラッと体勢を崩した敵に

二の太刀・暗黒流れ星

麗華は、必殺の剣を打ち込むッッ

バゴギィッッ

ボディ・アーマーごと、敵を打ち破るッッ

グゥエエエエッッ

何かがグシャッと砕ける鈍い音がした

ハイゃぁぁッ

その頃マルゴさんは、左右の棍棒を同時に敵の首に叩き付けていたッッ

首元にも、防御パッドが入っているんだろうけれど

左右同時の猛撃打には、人間の肉体の方が耐えられないッッ

すぅリャアア

さらに、マルゴさんの回し蹴りが炸裂するッ

レッド・ビュートッッ

関さんと美智は、また標的を取り替えていた

関さんが投げナイフで牽制した敵の顔面に、美智の赤いムチが炸裂するッ

ウゴゴゴゲッッ

顔面から血を拭いて、苦しむ男

一方、初撃に美智のムチを食らった敵には、関さんの手が伸びる

すりゃあっ

関さんの合気道技

ブワッっと今まで見たよりも遥かに高い空間に、敵の肉体が跳ね飛ばされる

真空地獄車ァァッッ

宙でくるんと頭を下に回転したその敵の巨体に、グワッッと関さんが飛びつく

そのまま、自分の体重を乗せて

脳天杭打ち《パイル・ドライバー》

ギェェェッ

男は、そのまま昏倒した

これで終わりだッ

美智のムチを顔に食らって、痛みに喚いている男には

マルゴさんが鋭い蹴りで、トドメを刺した

シザーリオ・ヴァイオラのいや、ロレンザッチョ・バンディーニの最後の10人の部下たちは、完全に沈黙している

麗華、マルゴさん、関さん

みんな、肩で息をしている

麗華と関さんは、片膝を地面に付いて

一気にどわっと流れてくる汗を手で拭う

かなり体力が消耗している

ひゅぅぅ

谷沢チーフが、口笛を吹く

こいつは驚いたなまさか、圧勝しちまうなんて

ミス・コーデリアに、ニヤッと微笑む

ふがいないわね女子供に負けるなんてこれが、伝説のシザーリオ・ヴァイオラの処刑部隊どうやら、評議会の処分すべしという審判は正しかったようね

ミス・コーデリアは、不機嫌そうに言った

こうなるとあなたたちは、やっぱりあたしとあたしの可愛い子猫ちゃんで殺してあげないといけないのかしら

ミス・コーデリアの脇に、白い女のヴァイオラとロザリンドが並ぶ

3人とも残酷な笑みを浮かべている

今の闘いを見て心の中の悪鬼が目覚めたのか

このままでは、やられる

マルゴさんたちの肉体は、まだ回復していない

♫ Twinkle, twinkle, little star,

How I wonder what you are! ♫

美智が、歌い出す

これって童謡のきらきら星

♫ Up above the world so high,

Like a diamond in the sky. ♫

広大な19階のフロアに美智の可愛らしい歌が響いていく

15歳の黒髪の美少女の歌声

美智の声は瑞々しく、どこまでも透き通っている

フロアの中で、オレたちを取り囲んでいる人々

100人のマシンガンの情報部員たちも

20人のトップ・エリート警護人たちも

ついつい、美智の歌声に引き込まれてしまう

♫ Twinkle, twinkle, little star,

天使の様に、人々に対してニッコリと微笑む

美智ちゃんを見ちゃダメだよ眼を瞑って心を閉じるんだ

マルゴさんが、オレたちにそっと囁いた

そうかこれは

美智この場に居る全員に仕掛けるつもりなのか

いくら、美智の心月が凄いからって

120人を越す人数に、気を放てるのか

Like a diamond in the sky.

Twinkle, twinkle, little star,

来るぞ

きっと来る

オレは、ギュッと眼を瞑り心を閉じる

それでも心にゾワっと気の風が流れ込む

予定通りに詰めています

著作権の切れている(というか、そもそも無い)歌を探していたら、きらきら星になってしまいました

最初は、うさぎ追いしのふるさとが良かったんですけれど

他には、メリーさんの羊とかロンドン橋とか

でも、よく考えたらロンドン橋は小説版のガンダムで使っているので止めました

メリーさんは長いんですよ実は歌詞が

キリの良いところで終わらないので、キラキラ星の採用となりました

332.ATTENTION

グゥエエッ

やっぱり、自分の心の中に強い他者の気が入って来るというのは

全身の血が一瞬で沸騰して逆流する様な、生々しいショックがある

来ると判っていたオレが、こうなのだから

不意打ちで、心月を喰らったやつらは

ウウウッ

アアッ

ドワアッ

100人の情報部員たちはバラバラとマシンガンを落としていく

手に力が入らないのだろう

19階のコンクリート剥き出しの無装飾の床面にガチャガチャと銃器が転がって行く

香月セキュリティ・サービスのトップ・エリートたちや

谷沢チーフまでもが、ぐったりとしている

みんな、しばらくは全員戦闘不能だな

や、やったぞ美智

今ならここから脱出できる

とにかく、この場から逃げないと

ミス・コーデリアは、オレたち黒森の家の人間を皆殺しにするつもりなんだから

寧さん雪乃

ううっ大丈夫、何とか身体は動かせるよっヨッちゃん

あたしも、動けるわ二度目だもの

しかし肝心の美智は

あううううご主人様

ブルブルと震えて、オレにしがみつく

この広大な部屋全体に、全力で気を放ったんだ

心と身体の限界を越えてしまったのか

どうした、美智大丈夫か

オレは、ギュッと美智の小さな身体を抱く

怖いぃぃ怖いのぉぉぉ

美智は、幼子の様にオレの腕の中で震えている

ご主人様ご主人様ご主人様ぁぁっ

こ、これは

オレたちの前に、白い人影がスッと立つ

うふふふふふその子が気を放ち切って、スッカラカンになった瞬間に逆に、あたしの念を叩き込んでやったのさ

ミ、ミス・コーデリア

な、何で、無事なんだ

その技は、さっき体験したからね

だからってミス・コーデリアは、全然ダメージを受けていない

平然とオレたちを見下ろして、笑っている

さっきは、まさかそんな小さな子が気の技を使うなんて思わなかったから、真っ正面から食らっちまっただけさ

美智に心月があると知っていれば

気を操作する技なんて、世界中にあるんだよその対処法もねあたしは、オリエンタルな闘技は、キョーコから教わっているしね

気に対する、受け流しの技をミス・コーデリアはマスターしていたのか

オレの腕の中で、美智は震えている

全力で気を放って心が無防備になったところに、ミス・コーデリアの邪念を叩き込まれたんだ

肉体と精神が同時に混乱して、激しい拒絶反応を引き起こしている

大丈夫だぞオレが、ギュッと抱き締めてやるからっ

おれは、美智に声を掛ける

はぃぃい、抱いて、もっと力強くご主人様ぁぁ

美智は、すぐには回復しない

オレは、関さんと麗華を見るが

うぐぐっ

くぅぅ

2人とも心月の直撃を受けて、ダウンしているぅぅ

この人たちは、美智のフル・パワーの心月は初体験なんだっけ

心のガードをしないで、敵と同じ様に美智の気の大波を受け入れてしまったんだ

さてそろそろお仕置きの時間よ

ミス・コーデリアが、ニカッと微笑む

そうはさせないよ

マルゴ・スタークウェザーがゆっくりと立ち上がる

あなたの前には、まだあたしがいる

マルゴさんも心月のダメージを受けている

身体は、小刻みに震えている

両手の棍棒も床に落としてしまっている

それでも、マルゴさんは闘志を露わにして

ミス・コーデリアの前に、ファイティング・ポーズをとる

さすがねそうじゃないと、面白く無いわ

ミス・コーデリアの言葉に、マルゴさんは

このまま無様にやられたら、恭子さんに会わせる顔が無いからね

あなたの口からキョーコの名前は聞きたくないわ

ミス・コーデリアは、あからさまに不快な表情をする

二度と、そんなことは言えない身体にしてあげる

すわっ

ミス・コーデリアは、風に舞う羽のようにマルゴさんを襲う

さぁいっふっはぁぁ

マルゴさんは、ミス・コーデリアの攻撃を避けずに腕の防具で、受け流す

思い切りがいいのねっ

今できることを精一杯やっているだけだよ

現在のマルゴさんには、俊敏に敵の攻撃を躱すことはできない

だから、敢えてその場に踏ん張って

避けずに、受ける

すぅぅはぁぁすぅぅ

深い呼吸を繰り返しながらマルゴさんは、全身を活性化させようとしている

ふーん、カラテの廻し受けねそれもキョーコの教え

そうさ

なるほどあなたの素質は認めるわこのまま、成長したらかなりの闘士なれるかもしれない

ここで殺しちゃうのが、もったいないわよね

ミス・コーデリアの攻撃が、さらにスピードアップして繰り出さられるッ

はぁぁッッ

マルゴさんは、敵の素早い攻撃を集中して全て捌いていく

はんっいつまで保つのかしら

一発でも有効打を打ち込まれたら

マルゴさんのピンチだ

美智オレの眼を見ろ

オレは、美智に言う

えっと確か

美智と、呼吸を合わせるんだっけ

呼吸を重ねて鼓動も同じにする

美智の声は、弱々しい

それでも、綺麗な瞳でオレを見上げる

オレの心とお前の心を繋げるんだ

気を放つ技は、心月を会得したことで偶然できるようになった派生技で

本来の心月とは違う

オレの心の中にお前の心の中の澱みを流し込むんだ

オレは、お前のどんな苦しみも分かち合うぞ

一生、一緒に居るんだからなオレたちッ

美智の瞳から、ぽろりと涙の粒が零れる

真珠の様な美しい水滴

ご主人様好き、好き大好き

オレは美智に、そっとキスをする

美智の呼吸と鼓動が落ち着いてくる

そのリズムとビートにオレは、同調《シンクロ》する

来い、美智

はいっご主人様っ

どぉぷっとミス・コーデリアの黒い邪念が、オレの中に流れ込んでくる

胃の中が逆流する

頭が痛い

だが、拒絶せずに受けとめる

ご主人様、大丈夫ですか

美智の方は険しかった表情が、少し楽になっている

邪念の全てをオレに流し込めたわけでは無いだろうが

それでも、身体の震えは止まっている

気にするなオレは男だこれぐらい、耐えてみせる

愛していますっわたくしのご主人様っ

美智は、オレに頬ずりした

行け、美智マルゴさんが、ピンチなんだっ

身体に変調が背筋にソゾッとくる

ミス・コーデリアの邪念の波動が、オレの内臓をジワジワと蝕む

身体に力が入らない

行きますここで、お待ち下さいご主人様

今度は美智の方から、オレにキスしてくれた

オレの身体を静かに床に横たわらせて

少女戦士がスッと、立ち上がる

黒森工藤流工藤美智、参るッッ

そして戦線に復帰する

オレは、コンクリートの床に転がったまま美智の姿を見上げていた

あんた、平気なの

寧さんと雪乃がオレに寄り添ってくれる

はぁぁッッレッド・ビュートッッ

赤いムチがミス・コーデリアを襲う

サッと、マルゴさんから離れて距離を取る、ミス・コーデリア

へえお嬢ちゃんには、飛びきり濃い念を叩き込んであげたのに

マルゴさんは、ニコッと美智に微笑む

さあこれで2対1だよミス・コーデリア

マルゴさんと美智でコンビネーションを組む

馬鹿ねえ3対2でしょ

ミス・コーデリアは、くくっと笑った

あたしの遊びは、もういいわもう、フィニッシュと行きましょう

とミス・コーデリアの両脇に、白い影がススッと現れる

この2人も、健在だったのか

まずは、2人の部下が襲いかかる

美智に襲いかかった白いロザリンドの攻撃は、早過ぎる

予備動作の必要なムチでは対抗できない

美智は、ムチを捨て身軽になる

工藤流の教えに従って、白いロザリンドの攻めの気を反らし、流していく

しかし美智は、防具は付けていない

些細なミスが、即、敗北に繋がる

一方、マルゴさんはまだ身体が回復していないようだ

白いヴァイオラの攻撃は、全て両手・両脚のプロテクターで受けている

何とか対応できてはいるが削られているという印象は、いなめない

はい、ストップ

ミス・コーデリアが、2人の部下に指示を出す

ススッと後退する白い女たち

こうやって正面からぶつかり合うっていのも、何か違うわよね

ミス・コーデリアは、言った

あたしは、あなたたちを蹂躙したいのよ圧倒的な力で、嬲ってやりたいの屈辱と絶望で、あなたたちを満たしてあげたいのよ這いつくばって泣きながらあたしに許しを乞うあなたたちを、思い切り踏みにじりたいのこんな、闘いはあたしの意に反しているわ

何をするつもりなんだ

あたしね、あなたたちのことはかなり調べ上げたのよ残念ながら、クロモリ・ミナホのデーターは、アメリカからじゃ充分には得られなかったけれどマルゴ・スタークウェザーあなたのことは、よーく知っているのよ

ミス・コーデリアは、テーブルの上の谷沢チーフの端末機を取り上げる

スイッチを操作するとこのフロアの壁に、プロジェクターによる巨大な映像が浮かび上がる

あたしの持って来たメモリーと繋ぐわはい

壁一面に浮かび上がる一枚の写真

これって、マルちゃん

寧さんが呟いた

それは1人の少女の、写真

身長を測るラインの引かれたボードの前に立つ12歳ぐらいの少女

真正面からの写真と、真横からの写真

これって警察で撮られた写真じゃ

マルゴ・スタークウェザーインディアン居留地で生まれたが、生来の金髪碧眼で他のインディアンたちからは不当な差別を受けながら成長する12歳で、複数の男たちに輪姦され男たちの1人が持っていた銃で、自分を犯した相手全てを射殺する

絶望に満ちた少女の暗い顔

どう見ても正当防衛なのにも関わらず地元の警察は、インディアン居留地を馬鹿にしているから被害者であるマルゴ・スタークウェザーを第一級殺人罪容疑で逮捕10日後にキリスト教系の団体が保護するまで、殺人犯として扱われていた

マルゴさんはジッと耐えている

自らの過去を突き付けられても

そしてこれが、マルゴ・スタークウェザーの殺した男たち

壁一面に射殺された男の顔が映る

これも、警察の検視写真か

ジェームス・スプーキー・ライドン

また、別の男の死体写真

ロドリゴ・アル・パチーノ・メンデス

また

サミェエル・ビッグダディ・ペガマガボゥ

エミリオ・エル・サント・スタークウェザー

スタークウェザーって

壁に映った写真を見てマルゴさんは震える

エミリオ・スタークウェザーは、インディアンである自分の娘が金髪碧眼で生まれたことに、どうしても納得できなかったのよね実際、コミュニティの人間たちは、エミリオを白人に妻を寝取られた男だとして、馬鹿にし続けていただから、彼は自分の男としての威厳を取り戻すために、仲間と共謀してマルゴ・スタークウェザーをレイプした

マルゴさんはお父さんにレイプされた

警察の調書によると周りの男たちに命じられて、あなたのパパが最初にあなたにのしかかったみたいじゃないあなたの証言なんだろうけれど

マルゴさんは、ガクッと地面に崩れる

プルプルと身体を震わせて

もう、止めろっ止めてくれよっ

力一杯、叫んだ

こんなのマルゴさんが、可哀想だ

ミス・コーデリアは、ニタァと笑う

悪魔の様に

事実は事実よマルゴ・スタークウェザーは、12歳で父親たちに犯され彼女は銃で復讐を遂げた自分の父親を撃ち殺したのよ父親殺し

うわわわわわわわぁぁッッ

マルゴさんが頭を抱えて絶叫する

どうしちゃったの

雪乃が怯えて尋ねる

マルちゃんは、いつもは屈強な精神力で自分の心を制御しているけれど

ううん普段、力尽くで押さえつけている分だけ、心がパンクしちゃうとダメなんだよコントロールが利かなくなるんだよっ

オレも一度だけ見たことがある

マルゴさんの心が破裂して苦しんでいる姿を

ほーら、見なさいマルゴ・スタークウェザーあなたの殺したパパの顔をふはははははっ

ミス・コーデリアは、高笑いする

2人の白い女も一緒に笑った

ウウウウッ

マルゴさんが吐く

それほど辛いんだ

ううううっMAMAHelp Meあああああっ

髪の毛をグシャグシャに掻きむしりながら、地面にのたうち回る

マルゴさんの心がこのままでは危うい

あの時は

どうやって、マルゴさんを落ち着かせたんだっけ

寧さんが叫ぶ

そうだ、あの時はミナホ姉さんがマルゴさんをMARGUERITEと呼んで

それで、マルゴさんの心を繫ぎとめた

MARGUERITE

ううう、うがぁぁッッ

マルゴさんは、なおも苦しんでいる

あたしじゃダメだマルちゃんのママ役は

ミナホ姉さんじゃないとダメなのか

ミナホ姉さんは、今、どこに居るんだ

さあ、早く出て来なさいクロモリ・ミナホ

ミス・コーデリアが叫ぶ

みんな、まとめてブチ殺してあげるからうふふふふ

ちくしょうそれが狙いか

ミス・コーデリアは、ミナホ姉さんでないとマルゴさんの心を安定させられないことまで知っているんだ

それでミナホ姉さんを誘き出すために、こんな酷いことを

あなたの可愛い子猫ちゃんが苦しんでいるわよ早く来なさいっ

ダメだ、今来たら

美智しか闘える人間のいない状態では

間違いなく、全員屠られる

どうすりゃあいいんだっ

何やってんだいしっかりしなよ、マルゴ

まったく気配が無かったぞ

いつの間にかオレたちの背後に、誰か居る

コツ、コツ、コツ

その人物が倒れたままのオレの視界に入る

とても背の高い女性

いつも言っているだろう要は気の持ちようたいていのことは、気合いで何とかなるんだよッ

その女性は、黒いマントで身体を覆っていた

あこの人は、桁外れに強い

戦闘とかに関しては素人のオレでも判る

独特の雰囲気がある強者のオーラも

黒いマントで長身のその女性は

スウッと大きく息を吸い

ATTENTIONSOLDIER MARGUERITE

気合いの籠もった裂帛で、マルゴさんを怒鳴りつける

YESCOMMANDER

マルゴさんは、ビクッと跳ね上がり大きな声で返事する

身体の震えは止まっていた

うんうん、元気があっていいねぇ

女性は、屈託の無い笑顔でニコッとマルゴさんに微笑む

つまらない過去なんか蹴散らしちまいなさあしっかり足を踏ん張って、立つんだよ

女性の言葉にマルゴさんは起き上がろうと、身体に力を込める

あんたらできるさもう一人前なんだろう、マルゴ

マルゴさんは、スッと立ち女性を見る

Thank You COMMANDER

まだ表情は強ばっているが必死でその女性に微笑もうとしている

何言ってるんだいあんたちあたしの仲だろ

女性はニコッと微笑んでいる

この人は誰なんだ

そうクロモリ・ミナホじゃなくって、あなたが出て来たのね

ミス・コーデリアは、ギロッと彼女を見た

とても、残念そうな顔で

まあね大丈夫礼儀は、ちゃんと弁えているつもりだよッ

黒いマントを、バサッと投げ捨てる

彼女は真っ赤なタキシードを着ている

麗華よりも、男装がビシッと似合うその女性は

春の陽気に誘われて颯爽登場キョーコ・メッサー

こ、この人が恭子さん

本名、恭子・ドスノメッキー日系ブラジル人マルゴさんの師匠

世界的に有名な、裏社会の住人

その裏世界での通り名がキョーコ・メッサー

さあ、揚げていくよッッ

恭子さんの最初のコンセプトは、女波嵐万丈なので

赤いタキシードでないと、ダメですよね

味方のピンチに合わせて、遅れてやってくるところも仕様です

333.抱擁する女

キョーコ、久しぶりね

ミス・コーデリアが、恭子さんを見る

ホントだねあたしは、あなたは死んだって聞かされてたんだよ

恭子さんは、爽やかな笑顔でそう答える

死んだ方がマシだと思うような、地獄を見てきたわお陰様で

ミス・コーデリアの顔は暗い

でも、良かったじゃないか生きていたからこそこうやって、また会えたんだからさ

余りにも朗らかな恭子さんの様子にミス・コーデリアは、明らかに困惑している

頑張ったねぇ、マルゴ良くやったよ

恭子さんが、マルゴさんをギュッと抱き締める姿を見て

ミス・コーデリアの表情は、強ばる

改めて、恭子さんを敵と認識して、ギッと睨み付ける

よしよし偉いぞっ

ありがとう恭子さん

マルゴさんも、ガシッと恭子さんを抱き締める

寧も頑張った強くなったね

恭子さんは、マルゴさんから離れて寧さんもギュッと抱き締める

うん恭子さん

寧さんも、嬉しそうに抱き締め返す

お嬢さんは誰だか判らないけれどとにかく頑張ってたから、抱き締めてあげるっ

恭子さんは何でだか、雪乃のことも抱き締める

雪乃は当惑しているがこんな強そうな雰囲気の人に、ガバッと抱き締められたら逃げられるものではない

ええという顔をしながら、抱き締められている

お嬢ちゃんも、頑張ってたね偉いよ

次に恭子さんは、美智も抱き締める

美智は、黙って恭子さんに抱き締められる

つていうか

恭子さんて、とんでもなくハグ好き

もう、眼の前のミス・コーデリアとかを無視して順番にオレたちをハグしていく

そっちのお兄ちゃんも、頑張っていたけれどごめんねあたし、レズだから抱き締めてはあげないよっ

恭子さんは、ニコッと笑って床にブッ倒れているオレに言った

あんたの活躍は、マルゴから聞いて知っているよあたしとしては、色々と複雑な思いもあるんだけれど歓迎するよッ家族《ファミリー》の一員としてね

オレを認めてくれた

それから恭子さんは、ようやく心月のショックから抜け出して起き上がろうとしている関さんと麗華を見て

お姉さんたちも、頑張ったうんハグしてあげるハグハグ

関さんと麗華も、順番にハグする

な、何なんだこれ

体格の良い恭子さんが、長身の関さんをハグすると

まるで大型犬を抱擁している飼い主みたいに見える

どうやって、ここまで潜入して来たのホテル内の監視網には、何も引っ掛からなかったのに

いつまでも、こんな光景を見ていられないとミス・コーデリアが、恭子さんに尋ねる

ミス・コーデリアは、谷沢チーフから監視システムへのアクセスを許されていた

もちろん、地下の秘密の緊急避難室など一部のデーターは秘匿しているのだろうけれど

それでもホテルの1階フロアや侵入口などは、完璧にチェックしていたのだろう

もちろんあなたたちに見つからないように、こっそり忍び込んだのさッ

麗華を抱き締めたまま、ニィッと無邪気に微笑む恭子さん

おっお姉さん、良い筋肉をしているねっ抱き心地が最高だよっ

恭子さんは麗華の身体を撫でながら、そう言った

そんな撫で回さないで下さい

困惑している、麗華

まあまあ、減るもんじゃなしいいじゃないっ、いいじゃないっ

恭子さんは、さわさわっと麗華の肉付きを堪能している

こっそり忍び込んだって

ミス・コーデリアは、サッと白い女のヴァイオラを見る

彼女はそんなはずはないと言わんばかりに、首を横に振る

不可能よあたしたちは、ミスター・ヤザワに気付かれないように、ホテルの周囲に複数の監視員を置いてきたわ入り口は、全て見晴らせているの誰かがホテル内に侵入して来るようなら、即、連絡が来ることになっているしもし、あなたが監視員を倒しても判る様に、監視員全員に3分ごとにアラームの解除スイッチを押さなければならない警報装置を持たせてあったのに

そうか、そういう機械を持たせておけば不意に、恭子さんの攻撃を受けて失神してしまっても

3分後にアラーム解除スイッチが押されないことで、ミス・コーデリアたちに警報が発せられる

そういう機械をあらかじめ用意していたのはミス・コーデリアが、恭子さんの襲来をあらかじめ想定していたからか

ああ、そう言えば随分、ヤブ蚊が多かったね別に誰も、ブッ倒たりはしていないよあんたの手下は、みんな元気だろうと思うよそういうのは、体力の無駄遣いだからね

ミス・コーデリアは、ハッとして

まだテーブルに突っ伏して倒れたままの、谷沢チーフを見る

もしかしてあなた、ミスター・ヤザワとグルなの2人で、あたしを陥れようとしているの

恭子さんは、麗華のお尻をプニプニと揉みながらガハハハと笑う

冗談そりゃ、谷沢のオッチャンとは旧知の仲だけどさ毎年、クリスマスカードくらいは出すしねでも、こうやって会うのは一年ぶりくらいかな全然連絡を取り合っていないよ

では、どうやって

ミス・コーデリアは、キッと恭子さんを見る

簡単だよあんたたちが見張っていない方から来たんだっ

恭子さんは、ケロッとした顔で答える

海側からホテルの敷地に侵入してホテルの外壁を、素登りで屋上まで登って、屋上から通気ダクトを伝わってここまで来たそんだけのことだよっ

この高層ホテルを素手で屋上まで、壁面を登って来たぁぁ

そんなことをしていたら体力が保たないって、マルゴさんは言っていたけれど

いつも言っているでしょう他人がまさかそんなことはしないだろうって考えることを、敢えてやるんだよっ

この人何ていう体力だ

間違いなく、化け物だ

馬鹿な例え、屋上まで上れたとしても、このホテルのダクトに人間が通り抜けられるスペースなんてあるはずが

驚愕する、ミス・コーデリア

あたしが何のために、ヨガの秘法をマスターしたと思っているのっ

恭子さんは、ぐふふと笑う

まそれだけじゃないけれどね種明かしをすると、このホテルの設計には、あたしも関わっているからね屋上からダクトを伝わって各階に通じるルートを、1本だけ作ってあるんだよっもっともあたしじゃないと通れない箇所がいっぱいあるけれどねっ

立体迷路になっている通気ダクト完璧に把握している

いや、この人ならそれぐらいのことはできるだろう

ただ、予想外なことがあって中華レストランの上のダクトの中が油でベットベトだったんだよねそれで、着替えてシャワー浴びて来たから、遅くなっちゃったああ、ダクトのルートの途中に、あたし専用の控え室もあるのよ

そこで赤いタキシードに着替えてきたのか

これで薔薇の花束も持てば完璧だったのにね次の時には、用意して置くわっ

発想、実行能力、身体、体力、服装のセンスまで全てが規格外だ

何て、心も身体もでかい女なんだ

そうとしか言えない

とっころでさあ、コーデリア

恭子さんは、ぬふふふと微笑んで白い女のヴァイオラの方へ近寄って行く

この子たちはあなたの、今の子猫ちゃんたち

そうよあたしのLOVERSよ

ふーん、相変わらず良い趣味しているわね

そう言うと、恭子さんは白い女のヴァイオラまで、ガシッと抱き締める

そのスピードと威圧感に女のヴァイオラは、動けなかった

ビクッと固まったまま恭子さんに撫で回されている

どー、どー、どーそんなに緊張しなくていいからあら、こっちも鍛え上げられた良い筋肉ねうーんっ可愛いぞおっ

続いて、白いロザリンドも抱き締めに行く

こっちもなかなか良いわぁこれも良いなぁ可愛い可愛いぞおっ、お前コーデリア、あんたやっぱり見る眼があるわとっても良い子猫ちゃんたちじゃない

ミス・コーデリアは、ブスッとした表情で

褒めていただいてありがとうでもキョーコのLOVERSだって、なかなかの逸材じゃない

恭子さんは、ロザリンドを撫で回しながらへという顔をする

しらばくれても無駄よクロモリ・ミナホとマルゴ・スタークウェザー、それからナジマ・ヤスコのことよ

ミス・コーデリアはミナホ姉さんたちを恭子さんのレズ相手だと思っている

馬鹿なこと言わないでよあの子たちはさ

マルゴさんが開け放しにしていたままのドアから

疾風が飛び出して来る

恭子さんを目掛けて、斬り付ける

イーディあなた、今までどこに

驚くミス・コーデリア

うはははつこりゃまた元気の良い子が出てきたわねっ

恭子さんは、無言で打ち込まれるシスター・イーディのナイフを華麗なフットワークで躱す

シスター・イーディ、どうして

シスター・イーディは、オレたちと恭子さんの関係を知らない

白いヴァイオラたちをハグする姿を見て、敵だと認識したのか

ハグなら、美智たちにもしていたしな

血が燃えちゃったんだね

寧さんが、呟いた

恭子さんみたいな、もの凄く強そうな人が現れたからイーディの中の闘争心に火が付いちゃったんだと思う

そうだった、この子は

美智の心月を見てそれだけでミス・コーデリアたちを見限って、美智の友達になりに来た子だ

通常の理屈は通じない子だ

ミス・コーデリアやミッちゃんでは闘いたいとまでは感じなかったんだろうけれど恭子さんのオーラは底なしだから、闘わないといけないっていうスイッチが入っちゃったんだと思うよ

結局、シスター・イーディは独自の判断基準で生きている子だから

闘うこと、強くなることにしか興味の無い子だから

オレたちの切り札には、最初から成り得ない子だったんだ

ふっふーんっこれは、暗殺術の系統の技だねっなかなか良く鍛錬しているみたいだけれどまだまだだねっ

恭子さんは笑いながら、シスター・イーディの相手をしている

シスター・イーディの連続攻撃の息が切れてきた瞬間に、サスッと足払いをする

コロンと転げるシスター・イーディ

恭子さんは、英語で何か言った

もうおしまいなの、ヒヨッコちゃんって、言ってるよ

シスター・イーディは、ムッとした顔をすると

スタスタと美智の前に歩いてくる

それからもの凄い早口の英語で、美智に話し始めた

オレにはシンクロナイズって言う単語くらいしか、聞き取れない

うんとね2人で協力して、あいつをやっつけようみたいなことを言っているよ

シスター・イーディにとって、もう美智は無二の親友らしい

何か、イーディがお祖母さんと一緒に練習していた技があって絶対に、ミッちゃんならできるから、2人で闘おうって言ってるんだと思うちょっと早口で、南部訛りの英語だから、あたしにもよく判らないんだけれど

シスター・イーディに、美智は英語で静かに答える

寧さんが、通訳を続けてくれる

確かにイーディのお祖母さんの技と同じ様なものが、工藤流にもあるって言っているよでも

美智はスッと恭子さんを見る

いいからドーンと、掛かっておいでっ

ニッコリと微笑んで、美智に言った

どうせ、その子拳を交えてみなければ、判らない子でしょ遠慮無く、思いっきりどうぞっ

スッと、構える

あたしは強いぞおっ

美智は、シスター・イーディに何か言う

ギュッと自分の拳を握りしめて見せる

闘うのなら、素手でって言っているよ

ALL RIGHT

シスター・イーディは、両手のナイフを捨てる

美智は改めて、恭子さんにペコリと一礼して

それからシスター・イーディと向き合う

シスター・イーディと呼吸と鼓動を合わせて

工藤流奥義心月崩し双月

瞬間2人の小柄な少女が、跳ねるッッ

これは完全な同調

美智に心を委ね切った、シスター・イーディ

2人は丸で1つの生き物になったように

同調して恭子さんを襲う

あっはははーんっ面白いっ面白いねぇっあんたたち

上下左右から、美智とシスター・イーディが同時に攻撃する

素早く正確で完璧な連携技だ

でも2人とも、真面目過ぎるんだよねっ動きに遊びが無いから見透かされる

ぶわんっ

恭子さんの動きは2人よりも、さらに早い

ほらっとったどぉぉぉっ

恭子さんは、右腕で美智左腕でシスター・イーディを抱きかかえるっ

可っ愛いなあもおっ

シスター・イーディは、足をバタバタさせるが

恭子さんの力強い腕にガッシリ掴まれて、動けなくなっている

長身で大柄な恭子さんは、両腕に可愛いお人形さんを抱えたような姿に見えた

ねえ、コーデリアこのアメリカ人ぽい子も、あんたの子猫ちゃんなの

恭子さんが笑って、ミス・コーデリアに尋ねる

そうするつもりよ

キッと睨む、ミス・コーデリアに美智は、恭子さんに抱えられたまま口を開く

いいえシスター・イーディは、すでにわたくしの友人です

ミス・コーデリアは、憎しみの眼で美智を見る

さすが売春組織ね無垢な女の子を、もう墜としたってわけ

そういうことではありませんシスター・イーディは、あなたではなく、わたくしたちと成長する道を選んだだけです

2人の会話に、恭子さんが割り込む

ねえ、コーデリアこの子は、あたしに預けてよ多分この子は、あんたよりもあたしの下に居た方が伸びると思うわ

あたしから、この子を取り上げるつもり

もう、さっきから何をツンツンしているのよあんたとあたししの仲でしょそれっくらいいいじゃない

恭子さんは、相変わらずニコニコしている

そして、英語でシスター・イーディに何か言った

もっと強くなりたいかって尋ねているよ

喚くように返答する、シスター・イーディ

今のままでも、私は充分強いって虚勢を張っているよ

ガハハと笑って、恭子さんがまた話す

いいや、あんたはまだまだ弱いでも、見所はあるあたしの下で修行したら、今の100倍強くなるだって

シスター・イーディの顔が変わる

Really

当ったり前だっちゅーのっこの恭子さんを誰だと思ってるっこらっ

そしてまた、英語で話し掛ける

あんたの技は、暗殺術に特化し過ぎている相手を確実に殺すということの前に確実に生き残るということさらには、確実に自分の大切な人を護るということを、あんたは学ばないといけないだって

シスター・イーディが、寂しそうに何か言う

私にはもう、護るべき大切な人はいないって

シスター・イーディは、たった1人の肉親である祖母を亡くし

生まれ育った暗殺教団の新ボスに、売り飛ばされた

美智が何か言う

わたくしがいますよだって

恭子さんも

あんたも、うちの子になんなさいって

その優しい笑顔

あんたは、どうだか知らないけれどあたしは、もうあんたのことが大切だし、護ってあげたいって思っているよ

美智も、何か言った

わたくしもですわたくしたち、シスターじゃないですかって

恭子さんが、美智を開放しシスター・イーディだけを両腕で抱き締める

ほらっあんたも辛かったんだろよく頑張った偉いよっ

頬を擦り寄せてシスター・イーディを抱擁する

What’s your name

恭子さんは尋ねた

Edie.Edie Sexton

OK,EdieI Love You

澄み切った青空の様な、爽やかな笑顔だった

本当に、オレたちのお姉さんなんだ

Wao

シスター・イーディは恭子さんに抱き締められているうとに、泣き出した

この子は、本当はずっと寂しかったんだ

家族を失ってからずっと

だけど、本当の感情をさらけ出せる相手が身近にいなかったから

愛していると言ってくれる人は、もういなかったから

暗殺教団も、ミス・コーデリアの組織も心に隙を作ることのできない場所だったから

それで、シスター・イーディは、闘うことだけに没頭していた

祖母から受け継いだものが暗殺術しか無かったから

しかし、今

シスター・イーディは、恭子さんに心を開いた

拳を交えること闘うこと相手の力、存在を認めること

抱き締めてあげること愛していると言ってあげること

恭子さんは、常に全身を使って、真っ正面から相手に向き合う

あたしたちのシスターになろうっていう申し出は、ただの口約束だったけれど恭子さんはいつも体当たりで力強いからイーディは、これで本当にあたしたちの仲間になったね

そのまま、英語でシスター・イーディに何か言う

多分、ようこそ家族《ファミリー》へみたいな事なんだろう

変わらないのね、あなた

ミス・コーデリアが、恭子さんに言った

当たり前だろ人間の性格は、そんなにコロコロと変わったりはしないさ

恭子さんは、そう答える

それならどうして、あたしを裏切ったのよ

ジッと見つめるミス・コーデリアに

あたしは、あんたを裏切ったりはしないよ

嘘よだって

ミス・コーデリアの言葉を制して、恭子さんは言う

最初に言ったろあたしは、あんたは死んだって聞かされていたんだ

あんたはあたしが、あんたを裏切ったって聞かされたんだろ

そ、そうよっ

ミス・コーデリアは答える

誰にそう聞かされた

評議会のエルネスト・ホークよ

あたしもさエルネストが、アフリカの作戦であんたは死んだってあたしに言ったんだ

あいつあの頃、あたしたちが組んでいたのを表向きにはサポートしてくれていたけれど、内心では嫌がっていたんだろうねあたしたちは、あいつとは違って良心的な値段で仕事に応じるから

その男が恭子さんとミス・コーデリアのコンビを引き裂いた

そう言われれば思い当たることもあるわでも

ミス・コーデリアは、ギッと恭子さんを見る

だからって、どうして日本なんて地球の裏側に行ったのよその上、売春宿の警護員なんてあなたに相応しい仕事じゃ無いわっ

日本は、祖父母の故郷だからね先祖の墓参りをしに来たのさ死んだ祖父さんの遺言でねその時に、とある人から香月老人を紹介されてねしばらく、日本に腰を下ろすことにしたのさ

フッと笑う

あんたは、勘違いしているよあたしがやっているのは、売春宿のガードマンだけじゃないあたしは黒い森《ブラック・フォレスト》という組織の運営そのものに関わってきたんだ監査役としてね

どうしてあなたみたいな闘士が、そんな仕事を

あたしでないとできない仕事だったからさ野蛮で卑怯で恥知らずな男から、騙されて地獄に墜ちた可哀想な女の子たちを護るために

恭子さんは白坂創介が、黒い森の娼館を己の欲望のままにメチャクチャにしてしまった後ジッちゃんによって、送り込まれた

恭子さんが居ることで、白坂創介はもう暴力的な手段で娼婦たちを脅すことはできなくなった

それがミナホ姉さんの娼館の改革の後ろ盾になったのだろう

もちろん娼館の経営なんて、あたしには判らないことだらけなんだけどね

うんミナホ姉さんの才覚と、昔からの番頭だった森下さんの経営能力、恭子さんの圧倒的な戦闘力3つが合わさって、横暴な白坂創介の力を少しずつ削いでいったんだ

ゆっくりと、時間を掛けて

その集大成が今の白坂創介への復讐計画

ミス・コーデリアは、もう余裕のある態度は示さなかった

まるで、1人の恋する少女に戻ったように

恭子さんに、己の感情を叩き付ける

あなた娼館の仲に、自分のハーレムを作っていたんでしょ

恭子さんは苦笑する

クロモリ・ミナホも、マルゴ・スタークウェザーも、ナジマ・ヤスコもみんなみんな、あなたのLOVERSなんでしょ

コーデリアそれ、誰に聞いたの

その瞬間、コーデリアはハッとする

恭子さんは、スッとシスター・イーディを床に下ろした

ちょっと、預かっていて

美智が、恭子さんの代わりに泣いているシスター・イーディを抱き締める

御名穂も、マルゴも、寧もあたしの子猫ちゃんじゃないよ

嘘よそんなの

だってみんな若くて、綺麗で、可愛い子ばかりじゃない

残念だけれどこの子らはみんなレズじゃないんだ

恭子さんは、ゆっくりとミス・コーデリアに近付いていく

ちょっと来ないで

あの子たちは、みんなあたしの大切な家族《ファミリー》さ

恭子さんは、歩みを止めない

あんたを失ってあたしは、寂しかったそんな時、あの子らに出会ったんだ

あの子らも、みんな心に傷を負っていたみんな家族を亡くしていただから、思ったんだよ寂しいあたしたちが寄り添って新しい家族を作ろうって

それが新生黒い森《ブラック・フォレスト》の始まり

コーデリアあたしはね

恭子さんが大きく手を広げて、ミス・コーデリアの前へと進む

あんたほど、心の底から愛した女はいないよ

恭子さんは、格好は女ハラン・バンジョーですが

物の考え方は、限りなくフジオカ・ヒロシで

女の子に対する態度は、動物を見た時のムツゴロー先生です

で、強さはオーガと

334.謎解き (その1)

本当に良かったあんたが生きていてくれてありがとう

恭子さんが力強くミス・コーデリアを抱き締める

嘘よあたしのことなんて、とっくに忘れてしまっていたんでしょうあなたが、LOVERS無しでいられるはずがないもの

ミス・コーデリアは、恭子さんに言う

嘘なんか言わないよあんたが死んだと聞かされたからあたしは、誰とも寝ていない

爽やかに微笑む、恭子さん

ミス・コーデリアは、マルゴさんや寧さんに振り向き

あんな子たちを囲っていて

だから言ったでしょあの子たちは、あたしの家族《ファミリィ》で妹分《シスター》なのだいたい、あの子たちレズじゃないし

寧さんが、倒れているオレを抱き起こし

はーいあたし、レズじゃないですっこっちの方が良いですっ

あたしも、レズじゃないよ

まだ精神にダメージの残っているマルゴさんは、ハァハァと息をしながら答えた

そんなわけないでしょあなたが一番、レズっぽい顔をしているわよっマルゴ・スタークウェザー

ミス・コーデリアが、執拗にマルゴさんを苦しめたのは

恭子さんのレズ相手だと思っていたからか

マルゴは、男も女も関係無く性的なことはダメなんだよ昔のことがトラウマになっちゃっているから

だって売春宿の女が、そんなことでやっていけるはずがないわ

ミス・コーデリアは、恭子さんの言葉に納得できないでいる

いいやそういう性質の女の子だから、娼館の中で宦官としての役割を果たしていたんだよ男に興味のある子なら、他の子の商売敵になるし娼婦は、そういうことをとても気にするからねでも、マルゴは男に興味がないことは、みんな知っているから女のおかしな嫉妬には巻き込まれないそのうえ、レズッ子の誘いにも乗らないからね娼館の警護役は、誰にでも公平な立場でいないといけないから適役なんだよ

恭子さんは、答えた

あたしが黒い森の女の子に手を出さなかったのも、同じ理由幹部が特定の子猫ちゃんを作ると、娼館内のバランスを崩すからねただでさえ、男に騙されて墜とされてきた可哀想な子たちばかりなのにそういう女の子たち同士がつまらないことで憎しみ合うのは、悲しすぎるから

キョーコ

あたしやあんたには人並み外れた武力があったから良かったけれどもし、あたしが闘う力を持っていなかったらやっぱり、娼婦に堕ちていたと思うあたしが生まれ育った環境ではね子供の頃、あたしが育ったリオのスラム街は、娼婦のお姉さんで一杯だったしあの安っぽい香水の匂いを思い出すんだよいつもだから、あたしは黒い森の女の子たちの力になってあげたいと思ったんだあの子たちの心を地獄から救い出すのは無理かもしれなくてもせめて、力になってあげたいって

それが恭子さんの本心

クロモリ・ミナホは彼女は、あなたの何なの

ミス・コーデリアは、尋ねる

あんたも調査して知っているだろうけれど御名穂は、元娼婦なんだでも、男たちに身体をメチャクチャにされてもう2度とセックスできない身体になっている最初に会った時のあの子は、酷く痩せていて絶望の眼をしていたあの子の妹も娼婦に堕とされて死んだんだよ

ミナホ姉さんの妹奈生実さん

白坂創介たちに身体を玩ばれて玩具にされて、殺された

あたし御名穂を助けてあげたくてねあの子の心を救ってあげたくてそれで、あの子に娼婦たちの待遇改善の計画を作らせてそれから、あの子自身と亡くなった妹のための復讐計画を考えさせた何だっていいそれが、今を生きていくための起爆剤になってくれれば

ミナホ姉さんに、白坂創介への復讐を決意させたのは恭子さんだったのか

その瞬間オレには、様々なものが見えてきた

ミナホ姉さんだけじゃない

マルゴさんの普段の冷静さは自分の心の不安定さを、何としても制御しようという強い意志からなんだろう

12歳で輪姦され、父親を含む暴漢たちを射殺してしまったマルゴさんの心を救うには強い克己心を育てるしかない

彼女がそうできる様に指導したのは恭子さんだ

マルゴさんが、恭子さんのたった一言で混迷から正気に戻れたのは

恭子さんが、今までに何度も何度もマルゴさんの心を救って来たからだろう

時間と手間を掛けて

その積み重ねが心と心を繋ぐ強い絆になっているんだ

気弱で繊細すぎる奈島寧子《ナジマ・ヤスコ》の心を覆い被すように、明るくてあっけらかんとした奈島寧《ナトウ・ネイ》の人格を作っている

寧《ネイ》の明るい人格が寧子《ヤスコ》の心を救っている

この寧さんという人格は

恭子さん、そっくりじゃないか

いつも明るくて、おどけていて、ひょうきんで強くて、優しいお姉さん

多分奈島寧子《ナジマ・ヤスコ》は、恭子さんみたいな女性になりたかったんだ

弟さんを失って失意のどん底にいた寧子は

だから恭子さんをモデルに、自分の新しい人格を作った

恭子さんもいや、ミナホ姉さんやマルゴさんたちも、寧さんの人格造りに協力したんだろう

寧子のままでは心が砕けたまま、息絶えてしまうから

骨折のした場所にギブスをはめる様に寧という新人格で覆って、内側の心が癒えるのを待っているんだ

恭子さんという強力な姉がずっと側に居て、的確な指導を続けてくれたから今のマルゴさんと寧さんがいる

ミナホ姉さんも、恭子さんの影響下で強い女になれた

みんなの一番の姉黒い森の最も太い精神的な支柱なんだ、恭子さんは

そう判った瞬間オレは、ゾッとした

そんな大切な人が今まで、ずっと不在だった

白坂創介という名家の一族で、社会的な地位もある人間をオーストラリアで誘拐し、しかも、警察や白坂家の派遣した追っ手から逃げ続けるというのは

本当に危険で大変な仕事だったんだ

恭子さんでなければ、任せられないくらい

だから、ミナホ姉さんは日本での復讐は、恭子さん抜きでやらなくてはならなかった

オレたち本当に厳しい状態に居たんだ

ずっと

どう、コーデリアあんたと別れてからのあたしのこと、判ってくれた

恭子さんは、穏やかな眼でミス・コーデリアを見る

判ったわ信じる

小さな声で、ミス・コーデリアは答えた

評議会のエルネスト・ホークにお仕置きしてやんないとね

そうね3倍返しにしてやるわ

愛しているよコーデリアこれまでもこれからも

あたしだってキョーコ

LOVERSが数年ぶりのキスを交わす

それは、それとして

恭子さんは、ミス・コーデリアの身体をヒョイと持ち上げる

あたしの妹たちをイジメた分はきっちりとお仕置きするよっ

恭子さんは、ミス・コーデリアを担ぎ上げそのお尻をオレたちに向ける

お尻叩き、20発だっ

止めてぇぇキョーコお尻は止めてぇぇ

ほーら、一発目

恭子さんの尻叩きは強烈だった

大相撲の横綱の本気の張り手みたいなパワーだった

一発、引っぱたく度に、ミス・コーデリアはきゃあああんっと悲鳴を上げるが

恭子さんは、ニコニコと笑ったまま尻叩きを続ける

20発叩き終わった時は、ミス・コーデリアはもう腰が抜けて、ヘロヘロになっていた

はい、これでおしまいっマルゴ、寧、それから他の子たちもこれで勘弁してあげてくれる

恭子さんに任せるよ、全て

寧さんは、オレを見て

いいよね、ヨッちゃん

これで、ミス・コーデリアの脅威がなくなるのなら、何でもいい

寧さんにうんと頷く

ごめんねこの子のあたしに対する執着から、みんなに迷惑を掛けたみたいで

恭子さんは、自分が叩いたミス・コーデリアのお尻を優しく撫で撫でしながら、オレたちに言った

いいんです恭子さん、来てくれたから

そうそう恭子さんが来てくれるって、信じていたよっあたしたち

マルゴさんと寧さんは、そう言って微笑む

もうあんたたちは、もっとあたしから自立しなさいっていうか助けに来ちゃうあたしも過保護なんだけれど今回は仕方ないよねコーデリアが出張ってきちゃったんだからシザーリオ・ヴァイオラとロレンザッチョ・バンディーニだけなら、あんたたちに任せて、あたしは静観していたんだろうけど

本当に、面倒見が良い人なんだな

ねえ、あんたはどう思うコーデリア

恭子さんは、まだ担ぎ上げたままのミス・コーデリアに尋ねた

彼女は

キョーコ、もっと

もっと、お尻ペシペシしてぇぇ

ミス・コーデリアは、もうずっと前から恭子さんにメロメロな様だった

寧さんが、オレに声を掛けてくれる

はい、もう平気です

心月のショックも美智から引き受けた邪念も、大分、霧のように拡散してくれている

オレは、ゆっくりと身体を起こす

まだ違和感はあるけれどどうにかなりそうだ

美智平気か

はい、ありがとうございますご主人様わたくしは大丈夫ですシスター・イーディが、ちょっと落ち込んでいますが

褐色の肌に金髪碧眼の美少女は元気が無い

あの方の強さは別格なんだと、今、説得しているところです

うんシスター・イーディは、ずっと暗殺教団の中に居て

自分のお祖母さん以上に強い人には会ってきていないものな

ミス・コーデリアたちですら、シスター・イーディには強く感じなかったみたいだし

恭子さんが、シスター・イーディに何か言っている

あたしが稽古を付けてやるあたしを倒せるぐらい強くなりなって言っているよ

寧さんが、即、通訳してくれた

シスター・イーディの眼が爛々と輝く

早口で、ワーワーと騒ぐ

望むところだ早く強くなって、ブッ倒してやるですって

この子は

どうにか闘い以外のことにも、興味を持つようにしないといけないな

マルちゃん、どう

心配そうに、寧さんが尋ねた

前に精神がオーバーヒートしてしまった時は

ミナホ姉さんが一晩ずっと付き添って、ようやく普段のマルゴさんに戻ったのに

ふふっ大丈夫心も身体もグチャグチャになっているけれど何とか自分をキープしていられるから

まだ青い顔のままマルゴさんは、答えた

恭子さんに軍事作戦に送り込まれた時のことを思い出したよあれも、恭子さんからしたら、あたしのリハビリの一環だったんだね戦場じゃ、パニックを引き起こしたら生き残れないからあたし1人ならいいけれど周りの兵士に迷惑が掛かるしだから、絶対にパニックにならないって気を引き締めていたし実際、大丈夫だったあの時の経験が自信になって、その後で随分気持ちが楽になったもの

マルゴさんが、恭子さんの所属していたブラジルの犯罪組織の軍事部門に送り込まれて南米で他の犯罪組織と闘ったというのは、そういう経緯だったんだ

恭子さんがあたしに叫んだATTENTIONて掛け声軍隊の号令なんだよ

軍隊?

どんなに意識が朦朧としていても、あの掛け声で名前を呼ばれたら、ハッとするよあの数週間の作戦期間に、徹底的に仕込まれたからね身体が反応しちゃうんだ

それでマルゴさんは混迷から目覚めたのか

関さん麗華お姉さん、大丈夫ですか

マルゴさんが2人に声を掛ける

フルパワーの心月を無防備で受けちゃったからなあ2人とも

平気よもう

関さんが起き上がる

美智が、2人に謝罪する

いいんだよ美智妹《イモウト》は、一瞬のチャンスに賭けたんだろう

麗華も、身体の節々の調子を確かめながら起き上がる

むしろこんなことで麻痺してしまって、闘いに加われなかった自分を恥じるよ

口惜しそうに、そう言った

恭子さんは、ミス・コーデリアが満足するので尻叩きをしてあげると

ミス・コーデリアの身体をひょいと下ろして丸テーブルの方へ行く

白い女のヴァイオラとロザリンドは、すっかり困惑しているが

恭子さんの破天荒な強さは、肌で判っているのだろう

2人とも黙って静観している

恭子さんは机に突っ伏している、谷沢チーフのところまで行き

オッチャン、オッチャンいつまで死んだフリしているわけ

キムチでもいいはっ何だ、夢か

まるで今まで眠っていたかのようなフリをして、起き上がる

そういうのはいいからさ

恭子さんは、谷沢チーフをギロッと見つめる

お前が出て来たおかげで、こちらの予定が狂ったぞ

谷沢チーフも、恭子さんをジロリと見上げる

あらオッチャン的には、どういう予定だったわけ

そうだオレたちも、それを知りたい

谷沢チーフは、ミス・コーデリアと組んで何をしようとしていたんだ

組んだといっても全面的な提携では無かったみたいだし

あたしの身内が、相当な危険に陥っていたみたいだけれど

恭子さんは、谷沢チーフの前でギュッと拳を握りしめる

返答次第では、交戦するという意思表示だ

香月セキュリティ・サービスの100人のマシンガン部隊と、20人のトップ・エリートはようやく心月のショックが抜けたらしく、床に落としていた銃を拾い上げている

しかし彼らの長である谷沢チーフを人質にされたら、オレたちに攻撃はできない

それを見越して恭子さんは、谷沢チーフに近付いたんだ

ふんっミス・コーデリアが、本当に黒森のお嬢ちゃんたちを殺害しようとしたらオレは全力で阻止するつもりだったんだそのためのマシンガン部隊とトップ・エリートが20人だぞ

いや確かに、ヴァイオラの本隊やオレたちを潰すためには、この人数は大げさすぎる

トップ・エリートたちなんて、他で任務に就いていた人たちまで掻き集めているし

これは全てミス・コーデリア対策だった

だいたいお前らが優秀過ぎるんだよっオレはこんなに早く、お前らがここまで来るとは想定していなかったんだぞ

谷沢チーフは、オレたちに怒る

オレたちが出張って来なかったらお前らは、とっととミス・コーデリアとヴァイオラの本隊に殺されていたよ

ヴァイオラの本隊との闘いで、銃の使用を禁じたのは谷沢チーフだ

谷沢チーフの眼があったからミス・コーデリアは己の感情に任せて、一気にオレたちを殺さなかったんだし

余計なお世話さもし、オッチャンたちが来なくても、あたしが絶対にこの子らを助けていたからね

恭子さんが、笑ってそう言う

来るなら来るって連絡してくれオレだって、お前が来るって判っていたらこんな面倒なことはしねぇよ

不機嫌そうに、谷沢チーフは答える

こっちは時間稼ぎをしなくちゃならなかったんだからなッ

時間稼ぎだって

それってどういうことなんだ

そこから先は、私が説明しよう

この声はジッちゃん

ジッちゃんの声がスピーカーから響いている

君たちのおかげで急がされたが何とか間に合ったよ

と壁に映像が投射される

数分前に放送されたニュース映像だ

画面の文字白坂守次氏、緊急入院

ニュースキャスターが、カメラに向かって話す

マスコミ界のドンと呼ばれた、白坂守次氏、六十八歳が都内の大学病院に緊急搬送されたようです病名は、脳溢血とのことです守次氏に対しては、甥の広告代理店社員、白坂創介氏のスキャンダルについての先日の記者会見について、様々な論議が起きている最中でした

守次大叔父様

古来問題のある主人は、家来が座敷牢に押し込めて隠居させるのが習わしだ白坂家も、そういう判断をしたらしい

そういう風になるようにジッちゃんが、裏工作で仕向けたんだ

最後まで、白坂守次本人は納得しなかったらしいそれで彼らは、脳に障害をもたらす薬を使わざるを得なかったこれでもう、おそらく白坂守次氏は、生涯再起不能だろう自分の意志を言葉で正確に伝えることもできなくなった今後は、禁治産者扱いとなるだろう

禁治産者って

自分で自分の財産を管理できない人のことよまだ子供だとか、老齢過ぎて呆けているとか、精神的な病気を抱えているとか禁治産者という呼び名は、もう使っていなくて、今は成年後見というものに法制が変わっているけれどね

関さんが、教えてくれた

白坂本家内の守次氏を押し込めたグループから、私に親書が届いている私たちへの敵対行為を止めるそうだそれと白坂守次氏の出した殺害要請も取り消しだ

白坂守次氏は白坂家内の自分の反対派と、白坂創介とその家族について、ミス・コーデリアに殺害を要請していた

依頼人が、報酬を支払えない状況になった場合は契約は取り消しでいいのだろうね

ジッちゃんがミス・コーデリアに尋ねる

そうねまだこの段階では、判断できないけれど白坂守次氏の支払い能力を確認するまでは、白坂創介らの殺害計画は停止します

ミス・コーデリアは、そう断言した

彼らは違約金は払うと言っているよ

その方が助かりますあたしも評議会への報告がありますから

雪乃、メグ、マナの命の危険は無くなる

うむ賢明な判断に感謝するどうにかギリギリ間に合ったな

この状況を作るために

時間稼ぎが必要だったのか

何か、くたびれています

父は、リハビリを兼ねて兄と隣町の家電量販店まで行ったらしいのですが

あそこまで行けたもう平気だ

と、帰宅時には威張っていましたが

ううっ、人がいっぱいで疲れた

と、一時間後には寝込んでしまいました

駅まで十分歩いて、家電店はとに利の駅前だし

一時間も外を歩いていないのに

次は、新しくなった東京駅に行きたいと言っています

335.謎解き (その2)

もう一つの方もようやく、準備が出来たよ

ジッちゃんの声が、19階の何も無いフロアに響く

もう一つって

まだ何かあるのか

谷沢お前の部下たちは、下がらせろここからは身内の話だ

黒森家の諸君と、関くん、藤宮くんには居て貰おう

了解です情報部員は撤収だ13階のフロアで待機いいな

谷沢チーフの命で、100人のマシンガン部隊は入って来たドアから撤収し始める

安田と田淵と広岡が中心になって、ブッ倒れている敵の戦闘員を回収しろ死んだフリしているやつもいるだろうから、気を付けろよ

続いて20人のトップエリートが、マルゴさんたちに倒されたバンディーニの手下たちを回収する

グゥエッ

気絶していなかったやつには、ゴキッと一撃を加えて確実に眠らせる

さすがトップ・エリート、みんな屈強な肉体の持ち主だ黒戦闘員の服の首元をガシッと掴んで、フロアの外へ引きずっていく

関くんと藤宮くんは申し訳無いが、ヴァイオラとバンディーニの監視を頼むミス・コーデリア、あなたの部下にもお願いできますかな

構わないわ

ミス・コーデリアは、眼で2人の部下に指示を出す

麗華は、まだ谷沢チーフが信用できないのか、オレをチラッと見るが

とりあえずは、信用してみよう

こっちは、恭子さんもあたしも、美智ちゃんとシスター・イーディもいるちゃんと護りきるよヴァイオラとバンディーニの身柄をあたしたちも押さえていた方がいい

判りましたみなさんの警護は、お願いします

そっちこそ、気をつけてあいつらのことだから、まだ何か隠しているかもしれないし

行って来るわ

オレの言葉に、関さんと麗華はそう返事してヴァイオラたちの方へと向かう

ほほう、坊やはちゃんとあの子らに信頼されているんだねぇ

恭子さんが、オレを見て言った

マルゴの報告を観ている限りはどんなもんだろうと思っていたんだけどその調子で、克っちゃんも渚ちゃんも安定させたんだって

その2人どころかミナホまで、変化してきているよ落ち着いてきた

あたしも、ヨッちゃん大好きだよっ

寧さんがオレに寄り添って、そう言った

寧は、この子のことどれくらい信じてるわけ

120パーセントだよっヨッちゃんは、あたしたちに絶対嘘は付かないし優しいし、絶対に裏切らないものっ

そうなのかい

恭子さんは、ジロジロとオレを見る

彼は彼でちょっと壊れているんです

自分の命が安いタイプなんだ

そうではございません

恭子さんの言葉に、美智が言った

ご主人様は、わたくしたちのためには平気でご自分のお命を投げ出されるお方ですでも、絶対にご主人様を死なせは致しませんわたくしたちと、末永く幸せに暮らしていただきますわたくしがいえ、わたくしたちが、そう致します

わたくしたちは家族ですから

美智の言葉に恭子さんは、ふーむと考え込む

黒い森の子たちに、あたしがしてきたことは、結局は対処療法だからね根源的な癒やしにはならなかったんだけれどそんな風に、あんたたちが自発的に変わろうとしているのなら、その家族療法っていうのは当たりかもしれないねぇ

家族療法

オレたちは本気で家族になるつもりなんです

オレは、ちょっとカチンときて言った

判っているよ本気でないと意味が無いことだものこういうのはさ

恭子さんは、ニコッと微笑む

ああそうか

オレは、恭子さんにオレの本気度を

オレが信頼に足る人物だと、納得させないといけないんだ

黒い森の中核の人だもんな

ミナホ姉さんや、マルゴさんや、寧さんが、何度もオレを試したように

恭子さんの試しをオレは、受けないといけない

今、この場でオレを信じてくれっていうのは無理だと思いますけれど時間を掛けて、オレのことチェックして下さいお願いします

馬鹿じゃないみたいだね

恭子さんは、ふふんと笑う

普通は、これだけ女の子たちに囲まれてちやほやされたら思い上がって、勘違いした男になるんだけれどねあんたは違うみたいだ

ううんヨッちゃん、馬鹿だよ

うんあんまり頭を良くないよね

ていうかすっごい馬鹿よこいつ

って雪乃が、ここぞとばかりに発言する

ご主人様はちょっと頭が弱いところが可愛いんです

美智まで

ああ、判ったよマルゴの言うこの子が壊れているって言葉の意味が

頭の中がinnocent なんだね

へイノセント

褒めているわけじゃないよ英語でinnocent て言ったら、見下し語だからね

小馬鹿にされているということは、よく判った

だけど確かに、今の黒い森には、必要な子なのかもしれないねみんな、人生に絶望して自暴自棄な子ばかりだったから

恭子さんあたしね、ヨッちゃんのこと幸せにしてあげたいの克っつんも、渚さんも、先生もそう思っているんだよっ

うんあんたたちに護ってあげたい人ができたってのは、良いことだと思うよ幸せにしたいだから、家族かなるほどね

恭子さんは、納得しているみたいだけれど

マルゴは、どう思っているわけ

あたしは、克子さんや渚さんみたいに彼に恋愛感情は無いけれど弟みたいに思っていますよ彼、とても良い子ですし

恋愛感情ってのも、ちょっと違うんだろうけどね克っちゃんも渚ちゃんも、若いうちから娼婦に堕とされたからねえ男の子に優しくしたいっていう思いが、セックスにしか結びつかないんだろうけれど

そうか2人とも、ろくな恋愛経験も無いまま娼婦になったから

人と人との関係に、どうしてもセックスが介在してしまうんだ

だから、ヨッちゃんみたいな子が必要なのよ克っつんたちに愛されたからって、全然いい気にならないし逆に、求められたら絶対に拒まないでがんばっちゃうんだからヨッちゃんは

そう言う寧は、どうなのさ

寧さんの思考が停止する

恭子さん、待って下さい寧は、この後の状況次第です

この後の状況

シザーリオ・ヴァイオラが、どう処分されるかか

オレは少し離れた場所に居る、ヴァイオラたちを見る

関さんと麗華白い2人の女に囲まれて監視されている

そうか、寧さんが今ちょっとはしゃぎすぎているのは

ヴァイオラの処遇が、どうなるか判らないからだ

ヴァイオラが生きている限り寧さんの心に平穏は訪れない

寧さんが、オレに寄り添う

オレはその身体を、しっかりと抱く

香月のジィさんや谷沢のオッチャンが、どう片を付けるのか判らないよあたしたちは、しばらくは見ているしかないだろうね

この間にマシンガン部隊の撤収と、昏倒したヴァイラの部下の搬出が終わる

20人のトップ・エリートたちも退出する

フロアに残ったのは

オレたちと、谷沢チーフ、ミス・コーデリアたち3人、それから、シザーリオ・ヴァイオラとロレンザッチョ・バンディーニ

準備はできたようです取引は、ちゃんと顔を見てしたいですねミスター・コウヅキ

ミス・コーデリアは、叫んだ

その通りだな

フロアの壁の1つがゴゴゴゴと上昇する

中からエレベーターが現れ

ズシャァァと、開く

カッと明るいエレベーターの内側から、逆光で現れたのは

さて、では最後の取引をしよう

この取引は、身内以外の人間には見られるわけにはいかなかった工藤たち、外部の警護人たちを排除したのは、そのためだ

身内だけ

本来ならお前たちにも隠しておくつもりだったしかし、お前たちが危険を突破して、ここまで辿り着いた以上真実を明らかにするしかないだろう

そして、壁のスクリーンを見上げる

みすず、瑠璃子、美子、見えているか

スクリーンに、みすずと瑠璃子が映る

地下の監視室の映像だ

はい、お祖父様あたしも瑠璃子さんも、美子さんもここに居ます

画面の中のみすずが、答える

他には誰がいる

克子さんだけです渚様、恵美さん、マナさんは、お言いつけ通り、お隣の部屋に待機していただきました

うむ克子くんもうしわけないが、孫娘たちの様子を見てやってくれ

克子姉が答えた

これから何が始まるんだ

お前たちにもこれから始まることは、見せるつもりはなかったしかし、今日、お前たちの成長を見てもうお前たちは、どんなことにも耐えられる大人になったと確信した

みすずも、瑠璃子も、美子ももう孤独ではないお前たちには、何が起きてもしっかりと受けとめてくれる家族がいる

そして、ジッちゃんは、またオレを見る

お前頼むぞ

そんなの言われなくたってみすずも、瑠璃子も、美子さんも、オレがオレたちが護るよ

よろしく頼む

ジッちゃんは、正面を向く

さてでは、始めよう谷沢、待たせていた人たちに入って貰いなさい

待たせていたって

時間稼ぎが必要だったのは、白坂家への工作だけではなかったのか

全ての関係者を集めるのに、本当に時間が掛かったこのホテルを1つ丸ごと犠牲にするほどな

谷沢チーフが、マイクを取る

お連れしろ

ガチャと左右の壁のドアが、同時に開く

入って来たのは、知らないオッサンとジッちゃんの専任警護人、大徳さんと張本さんだ

右が、大徳さん+知らないオッサン

左が、張本さん+知らないオッサン

知らないオッサン2人は、スーツではなく普段着だった

まるで自宅でくつろいでいたところを、無理矢理拉致されたような

大徳、張本、ご苦労だった

ジッちゃんが、2人に言う

専任警護人の2人は劇場で見た時と雰囲気が違う

これって恭子さん並みに、強そうなオーラを感じるんですけれど

そうか、劇場の時は2人とも抑えていたんだ

本当に化け物みたいに強いんだろう

知らないオッサンたちは、すっかり怯えた表情だった

お父様も

画面の中で、みすずと瑠璃子が同時に驚く

この左右のオッサンは、2人の父親でジッちゃんの息子

僕の息子重秋と重冬だ

そうだオレは、専任警護人の2人は、ジッちゃんの息子たちを護りに行ったんだと思っていたけれど

実際は連れに行った

それから、もう1つ違うドアが開いた

また1人違うオッサンが、入って来る

ビシッと高級スーツを着た、知的な顔をしたオッサンだった

閣下これは、どういうことですか

知的なオッサンが、おかしな状況になっている19階のフロアを見て、そう言った

うむ色々と、こちらの都合で迷惑を掛けて済まない司馬くん

司馬くんて

このオッサンが、ジッちゃんの重役の中で傑出した才能があるという司馬沖達氏か

今から始めるのは、香月家の問題だが君には、オブザーバーとしてこの場に居て貰いたい

最初に言っておくが私は先程、谷沢とここに居る黒森御名穂くんの立ち会いの下、遺言状を書き換えた

ミナホ姉さんが、ジッちゃんと一緒に姿を消したのは

遺言状の書き換えに立ち会うため

そう言えば、谷沢チーフも同じくらいの時期に行方不明になっていた

まずみすずと瑠璃子は、私の養女とする従って、私の財産はこの2人の娘と実子である香月重冬の3人に相続されることになる

もう一人の息子香月重秋は

何で無視される

法定配分というものがあるから私がどう望もうと、財産は均等に三分割されるしかし、分配する財産の内訳については私に決定権がある従って、香月グループの主要な企業の株式は、全てみすずに相続させる瑠璃子と重冬の相続分は、現金と土地がほとんどとなるだろう

それは香月家の後継者を、みすずさんにお決めになったということですか

司馬沖達氏が、ジッちゃんに尋ねた

そういうことだ今後の憂いをなくすため私は、そう決めたのだよ

ジッちゃんは、はっきりと答えた

あの私は、どうなるのでしょうか

瑠璃子の父親香月重秋が、心配そうに尋ねる

さあ、どうなるんだろうね重秋のことは後にして重冬

はいお父上

みすずの父親が、慌てて返答する

実のところお前にも、本当は相続権を放棄して貰いたいのだできるだけ、みすずと瑠璃子に多くを残してやりたい私の遺産を相続しないとしても、みすずは優しい子だから、お前を見捨てるようなことはあるまいどうだね重冬

ジッちゃんは、末の息子に遺産の相続放棄を求める

もちろん遺産相続は、お前の権利だ無理には求めんよお前が欲しければ、受け取って構わん

香月重冬は

お父上私は香月の家に生まれましたが、国家の官僚となり、香月グループの発展には何も寄与して参りませんでしたそんな私が、香月家の財産をいただくのは、確かに良いことでは無いと思います

みすずの父親はこういう人なんだ

私は私で将来の蓄えも、自分できちっとしておりますお父上の遺産を当てにはしておりませんみすずが、才能のある子だということも判っておりますしもし、みすずが香月家当主への道を望むのなら、喜んで応援したいと思います何より

香月重冬は、ニコッと微笑んだ

お父上から、みすずに直接相続させた方が相続税が一回で済みます

お父様、ありがとうございます

画面の中で、みすずが泣いている

では、今日中に相続放棄の書面を書いてくれみすずと瑠璃子の養女の手続きも、明日中には完了させる

ジッちゃんの言葉に、瑠璃子は

待って下さいお父様はわたくしのお父様は、どうなるのでしょうか

私より先に死ぬ者が私の遺産を相続するはずがないだろう

先に死ぬって

ち、父上わたしはぁっ

香月重秋が喚くが大徳さんが制する

さてでは、取引と行こう

ジッちゃんは、ミス・コーデリアに振り向く

おいどういうことなんだ

ロレンザッチョ・バンディーニが、ミス・コーデリアに小声で言う

ミス・コーデリアは、クスクスと笑って

もう随分前のことだけどあなたたちのチームが、ロサンゼルスで香月重春という人物を殺害したの覚えていない

そ、そんなの覚えていねぇよオレたちが殺した人間なんて、山ほどいるんだ一々、覚えちゃいねぇ

日本人の家族よ父親は、あんたが殺して母親はレイプしてから殺した男の子は、ヴァイオラが犯してから殺したのよね遺体は、モハベ砂漠に投げ捨てた

バンディーニとヴァイオラの表情が変わる

こいつらがジッちゃんの長男一家を殺した、実行犯だったのか

てめえ、仲間を売る気かっ

ロレンザッチョ・バンディーニが、憤るがミス・コーデリアの二人の部下に抑え付けられる

あら、まだ自分の立場が判っていないみたいね評議会は、もうあなたたちの処分を決めたのよどうせ処分するのなら、少しでもお金が儲かる方がいいじゃない

お前、まさか

そうよあたしたちは、最初からミスター・コウヅキ氏と契約していたのここにあなたたちを連行するのが、あたしたちの仕事だった

それで偽の情報をオレたちに伝えていたんだなホテルの警備態勢はちょろいとか、19階に脱出経路があるとか

やっと判った

バンディーニの本隊が下の階でなく、真っ直ぐ19階に向かって来たのも

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