ケース1・オレがみすずの婚約者でこのパフォーマンスは、オレを披露するための演出である
ケース2・みすずが閣下の意に反し婚約者以外の恋人を作って、既成事実として公表しようとしている
しかしケース1は無い
観客の中で、オレがみすずのその婚約者だとは思う人間はいないだろう
オレは見た目からして、閣下の目に適うような血筋の良い人間では無いし
頭も悪そうだしさっきから、場を乱す様な行為を連発している
この会場の中にいるほとんどの人々上流階級の人たちの独自のルールを、守らない人間だ
こんな危険で馬鹿な男に香月閣下ともあろう人が、大事な孫娘を托すはずがない
もし、この場にみすずの婚約者が居るとすれば閣下が自ら教育している、お気に入りエリート青年団の中にいるはずだ
実際真の婚約者司馬貴彦は、そこにいる
どどど、どうなっちゃっているんだよっ
2階席でスットンキョな声で叫ぶ声
眼鏡をかけた知的な印象の美男子が呆然としている
うんやっぱりエリートの人は、急なアクシデントには弱いんだな
みすずの婚約者に指名されて、さっきまでは20歳前後ですでに人生勝ち組だと思っていたんだろうし
申し訳ないけれど
みすずは、もうオレのものだ
絶対にあんたには渡さない
オレは、さらに力強くみすずを抱き締める
会場は、まだ静まり返ったままだ
香月閣下は無表情で、オレたちを見下ろしている
閣下がどう動くか判らないうちは誰も反応できない
ブーイングどころか、ざわめきもなくみんな息を殺して、閣下に注目している
ミナホ姉さんたちも動かなかった
今ここでオレが黒い森の関係者であることが知れるのはマズイ
メグやマナたちも黙り込んで、舞台を見つめていた
パチパチと拍手の音がする
観客席からでは無い
その音は舞台袖から、聞こえた
スッと舞台にさっき自分の出番を終えたばかりの瑠璃子さんが現れた
にっこりと微笑んで
オレとみすずに、拍手してくれる
続いて美子さんも
拍手の音が二人になった
それから観客席からも
寧さんだった
黒い森の人間であることを世間に知られていない寧さんが満面の笑みで、オレたちに拍手してくれる
その拍手にメグとマナと美智が加わる
雪乃だけは憮然とした表情で、こっちを見ていた
他の観客たちは戸惑っている
瑠璃子さんが意を決して、オレたちに向かって歩いて来てくれた
瑠璃子は、みすずお姉様の勇気に感動しております
みすずに、そう言ってくれた
みすずが、顔を上げる
お前の花瑠璃子さんにも、分けてあげていいか
オレはやりたいことをいや、やるべきことを全てやってしまおうと思った
みすずは、すぐにオレの意図に気付いた
にっこりと笑ってオレに薔薇の花束を差し出してくれる
その中から、オレは花を一輪、抜き取った
瑠璃子さんはい
オレは大観衆の前で、瑠璃子さんにも一輪の薔薇を捧げる
あのわたくしにですか
瑠璃子さんも、一生懸命にお稽古して今日の舞台で踊ったんでしょう
はっきりとオレは言った
小学生の子たちまで頑張って練習して出した成果に対して、お花を貰っているのに瑠璃子さんだけ誰からもお花を貰えないのは、おかしいと思います
オレの言葉にみすずが続く
みすずも一輪の花を抜き取って
あたしからも受け取って頂戴
オレとみすずからの2輪の花を大切そうに受け取ってくれた
わたくしこんな風にお花をいただくのは、生まれて初めてです
ニコッと微笑む、瑠璃子さん
ありがとうございますお姉様お兄様
瑠璃子さんが観客たちに聞こえる声で、オレのことをお兄様と呼んでくれた
香月閣下の二人の孫娘二人だけの香月家の後継者
閣下の長男の娘瑠璃子さん
閣下の次男の娘みすず
香月家には他に直系の子孫はいない
閣下によって、後継者争いをしているように見せ掛けられている娘二人が仲良く微笑み合う
みすずの恋人であるオレを瑠璃子さんが認めているということを、世間に示した
劇場内に動揺の波紋が拡がる
パチパチパチ
新たな拍手が起こる
閣下だった
閣下が、オレたちに向かって拍手する
その顔は無表情のままだ
おそらくオレとみすずの暴挙に腹を立てているのだろう
しかしここで拍手をして
自らの度量の深さを示さねばならないと、閣下は考えたのだろう
閣下の周囲のエリート青年たちも、拍手に加わる
さすがに司馬貴彦は、拍手に加わっていない
みんな苦虫を噛み潰したような顔をしている
彼らにとっては、オレはとんでもない無法者なんだろう
そんな男がみすずと瑠璃子さんに手を出している
本来なら、オレみたいな身分の人間には、絶対に許されない行為だ
しかしとにかく、この場を取り繕うため
閣下や香月家の面子を潰さないために嫌嫌ながら、拍手をしてみせる
その拍手に、会場の何割かの人間が続いた
香月家に対する追従として心の無い拍手が起こる
後の何割かは、呆然としたままで
残りの人たちは、今後の事態を考えて何も見ていない振りをしている
これが大人の上流階級の人たちの世界か
そんな中で寧さんやメグたちだけが、心からオレたちを応援する拍手を打ち鳴らし続けてくれた
お兄様は、本当に勇気のある方なのですね
瑠璃子さんが、2輪の薔薇を見ながら、そう言った
違うわ瑠璃子さん勇気だけではないのよ
これは愛よ
自分の花束を見てみすずは、そう言った
瑠璃子さんはという顔をしている
そろそろお戻り下さいこのままでは、舞台の進行に差し障ります
美子さんが、オレたちに言った
そうだまだ、愛美さんと家元先生の踊りが残っているんだっけ
オレは、慌てて舞台から降りようとした
がみすずが、オレの手を握ったまま、離さない
旦那様そっちはダメです
このまま客席に帰ったら、マズイか
メグたちまで、他の観客たちから注目されることになるし
ミナホ姉さんたちとも合流できなくなる
一緒に、舞台袖へ
みすずに手を引かれてオレは舞台袖へ
瑠璃子さんと美子さんも
オレたちが退場したことで、黒衣さんたちが慌てて次の踊りの準備をする
次の踊り手家元先生の孫娘である愛美さんは、すでにスタンバイしていた
ごめんなさい、愛美さん場の雰囲気を乱してしまって
みすずが、愛美さんに謝罪する
大丈夫です気になさらないで下さい
これから出番だと言うのに愛美さんは、和らいだ表情でオレたちに微笑んでくれた
それより感動しました好きな人が来て下さってその胸に自分から飛び込むことができるなんて羨ましいですみすずさん、お幸せになって下さいね
愛美さん
愛美も自分では結婚相手を決めることのできない身の上ですから
そうかこの人も
紺碧流のために自分の意志とは関係無く、結婚することを強いられているのか
それを自分の運命だって思い込んではいけませんわ
あたしもずっと、そうだと思っていました自分はお祖父様の敷いたレールの乗って望まれるまま、求められるままに生きるしかないってでも、そんなのは間違いでした
みすずの本気が愛美さんに伝わる
すぐ横で、二人の会話を聞いている瑠璃子さんにも
それではあたしが幸せになれません
みすずの幸せ
家が安泰でもあたしがあたしたちが、幸せにならなくては何の意味もありませんあたしたちはみんな、幸せになるために生まれてきたんですから
だから愛と勇気ですその二つだけあれば、どんなことになっても、幸せに生きて行かれます
愛美さんの身体が震えている
そうですね、みすずさん運命だから仕方無いなんて、勝手に決めつけてはいけないんですね
愛美さんが、ニコッと微笑む
幸せになるための愛と勇気愛美、教えていただきましたありがとうございます
スッキリとした表情の愛美さんに対して瑠璃子さんの顔は晴れない
愛美さんお願いします
黒衣さんが、愛美さんに声を掛ける
はい今、参りますっ
愛美さんが、みすずと瑠璃子さんに振り向く
行って参ります愛美、精一杯踊ります愛と勇気を持って
そして愛美さんは、舞台に向かう
舞台袖から観る愛美さんの踊り
それは何から何まで、すば抜けていた
踊り始めた瞬間から観客の心を掴む
30秒後には誰もが愛美さんの踊りに集中していた
もうオレとみすずのことなんて、誰も考えていない
いや考えられない
将来の家元候補の踊りは今までの日舞教室のお弟子さんたちの踊りとは、根本的にレベルが違う
さっきまでオレは踊りを見れば、その人の本性が見えてくると思っていた
日本舞踊の踊りには、全てストーリーがある
踊り手はそのストーリーの中の登場人物を演じている
自分ではない人間を演じて踊っているはずなのに
どうしてだが、現在の踊り手自身が透けて見えた
美子さんの踊りには現在の美子さんが
瑠璃子さんの踊りには現在の瑠璃子さんが
みすずの踊りには現在のみすずの肉体と心が
露わになって、見えてきた
演じれば演じるほど一枚、一枚、衣服を脱いでいくように
踊り手自身の心と身体が、裸になっていく
みすずの踊りに至ってはオレには、全裸のみすずが見えていた
だから表現するということは、身も心もヌードになることだとオレは思っていた
でも愛美さんの踊りを観ると
オレのその考えは、間違いだった
あたしたちの踊りは所詮、素人のお稽古事にすぎません
みすずがそっと呟いた
愛美さんは一流の日本舞踊家になられる人だから
舞台の上の愛美さんは
一度、完全にヌードになって
愛美さんの本性を、完全に露わにした上で
さらに、踊りで表現するべきストーリー上の人物を着込んでいた
人はみんな本性の上に見せ掛けの服を着ています
裸の自分の上に社会的にそうしなければいけないという見せ掛けの服や、みんなに良く思われたいからって心を隠すための服を着ますそうやって服を着込んで本当の裸の自分を隠しているのが、あたしたちの日常の姿です
何かを表現しようとする時その偽りの服が邪魔になりますついついずるをして、日常生活で着込んでいる服の上に、表現のために演じなくてはいけない人物の服を着ようとするでも、それでは着ぶくれするだけで自由な表現はできません
愛美さんの踊りを真剣に観ながら瑠璃子さんも、みすずの話を聞いている
ですから家元先生は、あたしたちに踊りに向き合う時には、まず心と身体を解き放ちなさい普段、着込んでいる偽りの衣服を全て脱いでしまいなさいとおっしゃられています
こうやって舞台袖から観ているとよく判る
愛美さんは、完全に劇場全体の空気を掴んでいる
愛美さんが発している気と全ての観客が、愛美さんに集中する気が等しく吊り合っている
舞台の場の重さと、観客席の場重さがイコールになる
一人の少女の踊りにこんなにたくさんの人たちの心が呑まれている
あたしたちは、まだ未熟ですから脱いでいくことだけで手一杯ですでも、愛美さんは本物の舞踊家だから全部脱ぎ捨てて、裸になった上でさらに演じる人物の服を着るんです
今、踊っている愛美さんは全然、愛美さんに見えなかった
さっき話していた人とは全く、別の人間としか思えない
いや現代の日本に生きている少女ではなくなっている
踊りのストーリーの中の大昔の時代に生きていた女性に成りきっている
初めて見るその人物はとても、魅力的だった
愛美さんではないその魅力的な女性が、舞台の上で舞い踊る
わたくしもあんな風に踊りたい
わたくしでない、わたくしになってみたい
瑠璃子さんもやはり
香月の家の娘として強いられる生活に苦しんでいるんだ
かつてのみすずの様に
瑠璃子さん次第ですわ
あたしは変われましたいいえ本質的には、何も変わっていませんあたしが脱ぎ捨てたのは、偽りの衣服の方であたしの旦那様は、裸になったみすずをそのまま受け入れて下さいましたから
みすずの言葉に瑠璃子さんが振り向く
あたし旦那様の前では、いつも裸ですとっても気持ちいいですもう、離れられません
みすずが、オレに寄り添う
そして旦那様もあたしの旦那様は、いつでも誰に対しても裸のままでいてくださる方なんですあたし、大好きなのっ
みすずが、オレの胸に頬ずりした
瑠璃子さんは、何も答えなかった
少し考え込んだ顔をして
それから、再び、愛美さんの踊りに眼を戻す
愛美さんの時空を越えた表現力の踊りは続いている
水の流れの様に
何一つ、滞ることなく愛美さんの踊りが終わる
愛美さんが最後の礼をした瞬間
場内は割れんばかりの拍手と歓声に包まれた
オレとみすずの事件は、完全に吹っ飛ばされた
愛美さんには小さな子供たちが、花束を持って来た
若い男性が来ないのはみすずや瑠璃子さんと同様に、愛美さんも男性との自由な交際が許されない立場だからだろう
花束を抱えて、愛美さんがもう一度客席に礼をする
再び大きな拍手が、劇場内に涌き起こった
歓声に押されるようにして愛美さんが、舞台袖に戻って来る
素晴らしかったわ愛美さん
みすずの言葉に、愛美さんは
愛と勇気ですみすずさんの言葉で、何かフッ切れました
そう言って、笑ってくれた
いつもより、伸び伸びと踊れていましたね良い踊りでしたが慢心してはいけませんよ
声に振り向くと紺碧流家元・紺碧撫子先生が、舞台衣装で立っていた
そうだ、今日の会の締めとして
この後、家元先生が踊る
はいお祖母様
愛美さんが、祖母に頭を下げる
撫子先生お騒がせする様なことを致しまして、申し訳ございません
みすずが家元先生に深く詫びる
あら何かありましたっけ
撫子先生は、とぼけてくれた
あたしもう、お教室には通えなくなるかもしれません
閣下の逆鱗に触れて、香月の家を追われることも覚悟している
オレは、みすずの手をそっと握った
いままでありがとうございました先生のご恩は、一生忘れません
みすずは閣下によって、オレと無理矢理引き離されるという可能性を全く考えていない
何があってもオレの側にいるつもりなんだって、はっきり判った
撫子先生は
みすずさん和服の着物って、人間の身体を包み込む様な構造になっているでしょ
家元の突然の言葉に戸惑う、みすず
踊っている時に、踊り手はついつい自分の肉体の状態に気を取られるけれどお客様から見えるのは、着物を着た踊り手の身体のラインなのよ
家元先生は、ニコッと微笑む
だから着物のラインをはっきりと見せるように工夫して踊ってみなさいそれから廻り込む時に、足の親指にもっと集中してそこに軸があると思って
撫子先生
やめる必要はありませんそうねもしもの時は、あなたのお月謝は出世払いでいいわよこれからも、いつも通りお稽古にいらっしゃいそれだけ踊れるんですもの、もったいないわ
撫子先生は、そう言ってくれた
みすずが、感激している
瑠璃子さんに美子さん愛美さんまで
あなたお名前は
家元先生がオレを見た
ここでは、そう答えるしかない
みすずさんを助けて上げて下さいね
はい、絶対に幸せにしますっ
その間に舞台上のセッティングが終わったらしい
では行ってくるわね
若い弟子たちの見守る中撫子先生が、舞台へと進んでいく
分量少なめで済みません
次話で日舞の会は終了です
香月閣下との対決編に入って行く予定です
劇場編ではできなかったエッチ・シーンもそろそろ増えていきます
長らく、お待たせしています
今日も遅刻寸前です
237.終演
撫子先生が口伝を下さった
みすずが眼に涙を溜めている
日本舞踊の世界には、教則本とか奥義書みたいなものは無いんです大切なことは、全て師から弟子へ直接、口伝えで教えていただきます
みすずが香月家を追われ家元先生の教室を辞めなくてはいけなくなるかもしれない現状で
それでも、撫子先生がみすずに口伝を下さったということは
良かったですわねお姉様撫子先生は、お姉様をご自分の弟子と認めて下さいました
瑠璃子さんが、そう言う
みすずはもう、政財界の子女のための日舞教室に通う生徒さんではない
撫子先生の正式にお弟子さんに認められたのだ
だから、月謝も出世払いで良いと言ってくれた
香月の家とは関係無くこれからも、みすずの指導をして下さると
みすずが、オレの胸の中で泣く
みすずが一生懸命、頑張ったからだよそれが、撫子先生に伝わったんだよ
オレの言葉に、みすずはうんうんと頷いた
正直ちょっと、羨ましいですねえ、美子
主人と3つ年上のお付きの少女が、笑い合う
二人ともみすずのために微笑んでくれている
ほらもう泣かないで撫子先生の踊りが始まるよ
潤んだ瞳を輝かせて、オレを見上げた
舞台の準備は整ったらしい
紺碧流家元・紺碧撫子先生の踊りが始まる
三味線の音が鳴り先生が、顔を上げた瞬間から
身体の中を、ゾクッという衝動が突き抜ける
いや、オレだけじゃない
満席の会場全体が撫子先生の一挙手一投足に、打ち震えた
な、何なんだ、これ
撫子先生は踊りの中で、若い乙女に変化する
どう見ても、10代の少女だ
愛も恋も知らない無邪気な少女
立ち振る舞いが動きがそして、心が
うら若き乙女、そのものになっている
少女はやがて恋を知る
羞じらう仕草
恋しい男性を見つめる瞳
そして、少女も愛する男性に見つめられている
そこから、一気に母になる
小さな子供のいる若い母親
その色気
艶やかさと子供への愛情
夫への愛情
女盛りの肉体と心を見事に踊っていく
そこから照明がスーッと絞り込まれる
その明かりの変化に合わせて老境の女に変わる
孫を愛おしく見つめている老女
孫と遊んでやりたいのだが老女の周りを走り回る孫の動きに、いつしか身体が追いついていかなくなる
腰に手を当てスッと立ち止まる老女
昔のことを回想する
まだ、幼く少女だった頃の自分を
老女が再び、少女に戻る
無邪気な明るい少女時代に帰って、踊る踊る
そして、クライマックス
三味線の音が途絶えた瞬間
少女は老女に戻る
老女のまま、観客に礼をして
撫子先生の踊りは、終わった
余りにも感動的な踊りの余韻に
場内はシンと静まり返っていた
アメリカからの賓客が、まず最初に立ち上がってスタンディング・オベーションする
その声に、他の観客たちもバッとする
盛大な拍手と歓声が劇場内を包み込む
たくさんの子供たちや大人の人も何人も
舞台下に花束を持って現れる
撫子先生はその全ての花束を、にっこり微笑んで受け取っていった
持てなくなった花束は、若いお弟子さんに預けて
撫子先生は、一人一人から直接、花を受け取る
みすずや瑠璃子さんの逆なんだ
撫子先生は、お花を持って来てくれたお客様に均等に接するために
全ての花を受け取る
ありがとう牧恵ちゃん
ありがとう、吉川さん久しぶりね
ありがとう、田野さんお元気でした
毎年、ありがとう川崎さん
必ず にこにこと笑顔で、何かしらの言葉を添える
これが流派の上に立つ者家元の義務なんだろう
花束の贈呈が一段落したところで黒衣が、家元先生にマイクを持って来る
みなさん最後まで御覧下さいまして、ありがとうございます
撫子先生が頭を下げるとまた大きな拍手が起こった
この会はわたくしのお教室の生徒さんたちの発表会です正直、わたくしの年齢になると、子供たちの若さと元気の良さには敵いません
撫子先生は、にっこりと微笑んでそう言った
普段の踊りでしたら、わたくしの様なお婆さんが無理をして若作りして踊っているだけでも、皆様、年寄りが一生懸命に頑張っているよく化けたなとお褒めいただいたりするのですがこの会は、本物の若い子たちが一生懸命頑張って、皆様に日頃の成果をお見せする場ですから、わたくしもいつもの若作りだけでは負けてしまいますですので、毎年、普段とは違った趣向の踊りをご披露させていただいています
それが楽しみで、毎年来ているんだぁ
2階席から、年輩の人の声がする
毎年毎年、ありがとうございます
家元先生の言葉に、観客たちはまた拍手する
一年間という期間は長いようで、あっという間です子供たちは、どんどん上達していきます今日、皆様の前で踊りを披露した子供たちも来年には、さらにお稽古を重ねて、一回りも二回りも大きく進歩した踊り手になってくれると思います
あれ、今日の出演者が全員舞台に上がって、ご挨拶とかしないの
普通、こういう会って、最後はそんな感じで締めるんじゃないのか
それはもう、帰っちゃっている子もいますから
最初の方に出た小学生の子とかは自分の出番が終わったら、そのままご家族が迎えにいらして、ご一家でお食事に行かれたりします
他の人の踊りは一切観ないで
ご自分のお孫さんにしか興味の無い方がいるんです
ああ上流階級のお金持ちだと
そういう人もいるわけだ
もちろん、ほとんどの子は最後まで残っていますしこの後、懇親会を兼ねたパーティもありますから
でも出演者全員が揃わないんじゃ、最後のご挨拶は無理だな
むしろ何で、あそこの家の子供は居ないんだとかそういうのが、バレちゃうし
あの家は礼儀知らずだとか噂になって、家同士のおかしな対立に発展することになるかもしれない
色々と大変なんだな家元先生は
では、また来年子供たちのさらなる成長を、どうかお楽しみになさっていて下さいませ本日は、ありがとうございました
撫子先生が、観客席に深くお辞儀をする
客席からは、万雷の拍手
舞台の緞帳がスーッと下りてくる
家元先生は、緞帳が完全に閉まりきるまでお辞儀したままだった
緞帳が閉まり、観客席の拍手が鎮まりかけたところで顔を起こす
笑顔で周りのスタッフに声を掛ける
お疲れ様でした皆さん
家元先生の廻りに今日の出演者の少女たちが集まって来る
まだ舞台衣装のままの子も着替え終わった子もいた
顔だけ白いメイクのままで着替えの途中なのかガウン姿の子も
お疲れ様でした先生
ありがとうございました先生
ちゃんとこういう子たちもいる
全員が自己中な親の子供というわけでは、決してない
はい、お疲れ様ここは、これからスタッフのお兄さんたちがお片付けをしますからね危ないですから、みなさんはお兄さんたちのお仕事の邪魔にならないように、楽屋の方へ行きましょうね
そう言って子供たちと一緒に楽屋へ向かう
途中で、オレたちに向かって、ニコッと微笑んでくれた
オレたちは、全員揃ってペコリと頭を下げる
本当に良い人だな
あたしたちの先生ですから
幕の下りた舞台の中では黒衣さんたちが、どんどん片付けを始めている
小道具を整理したり袖幕を外したり
背景のホリゾント幕を照らすライトから、カラー・フィルターを抜き取っていったり
ここに居ると邪魔になるな
オレたちも取りあえず人のいない、舞台袖の奥の方へ行く
今日は、お疲れ様でした瑠璃子さん美子さん
みすずが改めて、従妹とそのお付きに挨拶する
お疲れ様ですみすずお姉様
お疲れ様でございますみすず様
二人も、みすずに挨拶を返してくれた
今年の発表会は、素晴らしかったですお姉様と、とっても仲良しになれました
瑠璃子さんは、そう言ってくれた
お兄様もお花、ありがとうございます
オレにも、そう言って微笑んでくれる
瑠璃子さんの手にはオレとみすずからの2本の薔薇が握られている
美子このお花は、ドライフラワーにして大切に残しておきたいわ
それは良いお考えですね
そんなに喜んでくれて良かった
みすずオレ、そろそろ客席に戻るよ
みすずも瑠璃子さんも、まだ舞台衣装のままだし
顔も白くメイクしている
楽屋の片付けなんかもあるんだろうし
オレが居るのは邪魔だろう
観客席のみんなのことも心配だし
旦那様今は無理ですっ
みすずが、強い眼でオレにそう言う
そうですよっお兄様
瑠璃子さんまで
ていうか何が無理なの
今はまだお客様が残っていらっしゃいます今、観客席へ戻られたら、旦那様は皆様の注目を浴びることになりますよ
オレは瑠璃子さんの踊りの後に、スタンディング・オベーションのパフォーマンスを仕掛け
誰もが花を捧げてはいけないことになっていた香月家の娘であるみすずに、花束を手渡しその上、みすずに抱きつかれて、二人で舞台袖に消えた謎の男だ
みんなオレの正体を知りたがっているだろうし
いや、オレを半殺しにしたいやつだっているだろうな
特にみすずの婚約者とか
しばらくはあたしたちの楽屋に隠れていらしたら良いと思います
でも3人とも着替えとかがあるだろ
みすずはともかく瑠璃子さんと美子さんは、男の居る部屋で着替えるのは嫌だろう
あら、構いませんわ
黒森様は、お兄様ですものちょっと恥ずかしいですけれど、気には致しませんそうよね、美子
はい黒森様は、みすず様がお心を許したお相手ですから信頼しておりますわ
そういうことを信頼されても困る
まあ、ずっと眼を瞑っていろと言われたら、そうするけれど
それにわたくしたちは、これからシャワー室へ参りますし着替えも、そちらで行いましょうか
そうですわね、瑠璃子様
顔にお化粧していますし舞台のライトの光は、熱いですから着物の下は、汗でベットリなんです
すぐにシャワーを浴びてきますから旦那様は、楽屋でお待ち下さい
それはいいけれどでも、ミナホ姉さんたちに連絡したいな
楽屋から携帯でお電話したらいかがですロビーでしたら、電波が届いているはずですから
そうするか
はい客席にお戻りになる必要はございませんわ
背後から不意に、そんな声がした
背筋がゾクッとする
これは殺気だ
お二人を、閣下がお待ちになっていらっしゃいますから
振り向くとにたぁっと微笑む、美女が立っていた
香月閣下の三人の専属警護人の一人
確か関さん
さっき、突然閣下に話し掛けた男を一撃で倒した
みすずが関さんを睨んだ
今、申し上げた通りですわたくし閣下から指令をいただいて参りましたお二人を、お連れするようにともし、抵抗なさった場合は男の方の首をねじ切っても構わない死体にしてでも連れて来るようにと、命じられております
関さんがオレを見る
オレを殺してでも連れて来いって
それでどうなさいますか
関さんの美しい顔が、微笑む
どうするって何をですか
オレが尋ねると関さんは
あら、残念抵抗なさるんですね
関さんの身体がオレに近付く
殺される
そう思った瞬間
オレと関さんの間に小柄な人影が飛び込んで来る
そこまでです
あら気配を殺していたの、あなた
美智の登場に関さんは、口元をニッと歪める
違うわねあたしに気取られないで接近するなんて、普通の人には無理だものあなた、何だか面白そうな子ね
工藤流古武術の奥義は、敵の気を反らし、集中を外すことにある
すでに関さんは、工藤流を掴み始めている
美智、やめろ
それ以上、手の内を見せるなこの人には、全て見透かされるぞ
美智は関さんを睨んだまま
ですが全力で立ち向かわねば、この方は倒せませんっ
関さんの発する殺気に美智は、怯えている
倒さなくていいんだっ
美智が驚く
それが、この人の手だ自分から殺気を放って相手に攻撃させるそれで、正当防衛で相手を叩きのめすんだろうこちらから、攻撃したら負けだ
オレの言葉に関さんは、驚く
あらあなたみたいな男の子に見抜かれるなんて、わたくしも焼きが回ったみたいですね
関さんから殺気がスッと消える
美智も釣られて、構えを解いた
判りました閣下には、わたくしから報告しておきます
ニコッと微笑む関さん
件の少年はどうしても、抵抗を止めなかったと
瞬間殺気を消したまま、関さんの身体がオレに向かって飛ぶ
ドンッ
舞台全体が揺れた
な、何地震
舞台の中の方から、働いていたスタッフの驚きの声が聞こえる
見てみろよ、照明のライトが揺れてるぜ
でも、地震にしては短すぎるよな
外で、爆発でもあったのかな
いやそうではない
オレの眼の前に
ブッ太い特殊金属製のステッキが
ステッキの先は舞台袖の柱を抉って
穴を開けて突き刺さっている
やり過ぎですよ、藤宮さん
関さんが不機嫌な表情をして、同僚を見る
関さんによる、オレへの攻撃を止めるために
藤宮さんはステッキで思い切り殴りかかったらしい
関さんを
そして、関さんがギリギリで避けたために
ステッキの先が、劇場の柱を突き込んだらしい
もし、その鈍器がわたくしに当たったら、どうするつもりなんですっ
関さんは藤宮さんに、強く抗議する
あなたのお葬式には、100万本の薔薇を用意するよ
藤宮さんは、平然とそう言った
柱からステッキを引き抜き再び、正眼で構える
それよりやりすぎなのは、君の方だろ関さん
オレたちと関さんの間に入ってガードの体勢を作る、藤宮さん
わたくしたち警護人の仕事の本分は守ることだ君はいつから、暗殺者になったんだい
藤宮さんの言葉に関さんは
ちょっとしたサービスですわ閣下は、それをお望みなんですから
閣下はオレを殺すことを望んでいる
そうでなければわたくしのような女に、抵抗したら、首をねじ切っても良いなどとご命令はなさらないでしょう
藤宮さんはクッと鼻で笑う
抵抗したらってその子は、全然、抵抗なんてしていないじゃないか
それは見解の相違ですねわたくしには、とっても抵抗なさっているようにしか見えませんけれど
おい、ちょっと待て
抵抗していませんつーか、まったく、全然、少しも抵抗する気はありませんからっ
オレは、はっきりと断言する
と彼は言っているけれど
口では何とでも言えますわ
無理にオレに襲いかかって、オレが少しでも動揺したらそれを抵抗の意志があったと見なすつもりなんだろう
それでオレを殺す気だ
それより関係の無いあなたが、どうしてわたくしの邪魔を致しますの
あれ聞いていないのかいわたくしは今、みすず様と瑠璃子様の警護を担当しているんだけれどね
その少年は関係ないじゃありませんか
藤宮さんがみすずに言う
みすず様どういたしますか
守って下さいその方は、みすずの大事な旦那様ですお願いですから、守って下さい
関さんがこの子を殺すとねみすず様のお心が傷つくんだよお心まで守ることがわたくしの警護人としてのプライドだ
藤宮さんがスッとステッキの先を、関さんに向ける
相変わらず頭が固いのね腕はいいのに、もったいないこともう少し、柔軟な思考の持ち主なら、閣下の専属警護人に推薦されたでしょうに
わたくしには、わたくしの覚悟がある君みたいな俗物には、判らないだろうけどね
二人が距離を詰める
まずい、まずいぞ
オレを助けてくれるのは、ありがたいけれど
それで、藤宮さんと関さんが殺し合いをするのは、本末転倒だ
下手をすれば、ミナホ姉さんたちにも迷惑を掛けることになるだろうし
藤宮さん、下がって下さい
君どういうことだい
驚く藤宮さん
抵抗はしません約束します
オレはつかつかと、関さんの方へ行く
旦那様、危険です
みすずが叫ぶが
大丈夫だよ関さんだって、香月セキュリティ・サービスのトップにいる人だろ一流の警護人なんだから
オレは藤宮さんの前へ出た
抵抗しませんから試して下さい
1日ぐったり寝てしまいました
先週の熱波は、やっぱり身体にきていますね
眼が覚めたら、夕方5時でした
238.仲の悪い二人
本気で言っているの君
関さんが、不機嫌そうに言った
どんな人間でも、恐怖を感じた瞬間は身が竦みますそれを抵抗したと受けとめられたら、ご主人様の破滅です
オレを信じろ美智
オレは関さんを見る
オレは関さんを信じるから
ギョッとする関さん
わたくしを信じる
みすずや瑠璃子さんや藤宮さんの眼の前で無抵抗なオレを殺すほど、恥知らずな人ではないでしょう
オレはゆっくりと関さんに向かって歩いて行く
同じ歩幅同じスピードで
待て近寄らないで
関さんは、そう言うがオレは歩みを止めない
どうしてですあなたに投降しようとしているだけですオレは格闘技とかやっていないし危険な人間じゃないことは判っているはずですよね
1、2、1、2
頭の中でワンツーのリズムを反復する
もう、それしか考えない
考えない方がいい
来ないでそれ以上、近寄らないでっ
ですからオレは何も抵抗しませんってば
思い出せ
子供の頃のことを
バァちゃんが死んだばかりの頃
父親も母親もオレの相手をしてくれなかった
オレが存在していることが二人とも、不満そうで
いつも、家の中で気配を殺していた
どこにもいない
誰にも見えない
オレは空気なんだ
そう思って両親の視線から、身を隠していたあの頃
あの頃に戻るんだ
オレはここにいない
オレなんて人間は最初から、この世に存在しないんだ
ただ、1と2の数字だけをカウントしながら
オレは同じリズムを刻んで、関さんに向かって前進し続ける
いよいよ関さんの攻撃が届く距離に突入する
このっ
立ち止まらずに、近付くオレに関さんが、シュッと拳を突き出す
でも判っている
関さんの拳はオレには当たらない
オレはここにいないんだから
関さんの拳の発する風を頬に感じる
それでもオレは前進する
オレはついに、関さんの懐に飛び込んだ
関さんが恐怖を感じて、悲鳴を上げる
このままじゃあ、関さんとゴッツンコしちまうな
だけど、オレもこうなるとブレーキが利かない
オレはそのまま
関さんの身体を両腕でしっかりと抱き締めた
何で投降した方の立場の人間が、抱き締めないといけないのかは判らないが
こうでもしないと、前進していたエネルギーを止められない
モニュウ
背の高い関さんの豊かな胸にオレは顔を埋める
うん柔らかい
き、君
オレの腕の中で関さんの成熟した肉体が、緊張して固まる
な何をしているんですかっ
関さんに抵抗しないで投降してみたんですが
関さんは顔を真っ赤にして、震えていた
わわたくしを放しなさいっ
オレが関さんに抵抗する意志がないことは、判って下さいましたか
関さんは
わ、判りましたそれはもう判りましたから、放しなさいっ
関さんの言葉にオレは身体を離す
関さんは、ギロッとオレを睨んで
あなたわたくしの肉体を抱きましたね
関さんの右腕が、大蛇の頭の様にオレの首元に伸びるッ
関さんが掴んだのは、オレの喉笛でなく
太い金属製のステッキだった
そこまでにしておいた方が良いと思いますよ関さん
英国紳士の装いの麗人が先輩のエリート警護人に告げる
ここで彼を傷付けたら香月閣下直衛警護人、関羽《セキ・ショウ》の名前が泣きますよ
撲殺剣士・藤宮さんがニッと笑った
判りましたわ
関さんは手を下ろした
この場はわたくしの負けです
ふー、助かった
振り返ると、みすずたちもホッとしている様だった
でもどういうことですわたくしが攻撃の間合いに、するりと入り込まれるなんて
関さんは、今起きたことに納得できないようだった
それはこの子がさっき言っていた通りなんだと思いますよ
藤宮さんが、オレを見る
言っていた通り
はいこの子には、関さんに抵抗する意志は全くありませんでしたそして、無抵抗の人間を関さんが攻撃することは無いと信じていたのでしょう
関さんも、オレを見下ろす
なぜ、敵であるわたくしをそこまで信用できるのですか
そもそも関さんは、敵じゃないですし
何て説明したらいいんだろう
関さんはこの子を、みすず様をたぶらかしている不届きな不良少年ぐらいにしか考えていらっしゃらなかったのでしょう
藤宮さんが、オレの代わりに話してくれた
でも、どうやら違うようですね
みすず様も日頃から閣下のご教育を受けておられる才女ですただの不良少年に騙されるような愚かな方ではないということですよ
みすずが藤宮さんの言葉に、スッと前に出る
はい関さんお祖父様に対する忠義には感謝しますが、余り出過ぎたことをなさるようでしたら処分致しますよ
ミナホ姉さんの真似だ
オレには、判る
みすずも、黒い森で色々な人々に出会ったことで変化している
強くなっている
みすずの威厳にスッと膝立ちになって、その場に控える関さん
お祖父様はあなたをけしかけて、あたしや藤宮さんがどう反応をするかを御覧になりたかっただけですわわざとケンカになる様に仕組んで、面白がっておられるだけです本当に、この場であたしの旦那様の命を奪えと命令しているわけではありません
小さくなる関さん
もう充分でしょうアメリカから、凶悪な犯罪者が来日してきているというのに、身内同士が争い合うなんて馬鹿げています
お姉様今のお話は、本当なのですか
はいシザーリオ・ヴァイオラという犯罪者とその一党があたしたちの周囲に近付いています今日の厳戒態勢は、そのためです
まあ確かに、いつもの発表会と比べて、今年の警備は物々しいと思っておりましたが
美子さんも、驚いている
関さん、あなたの本来の仕事にお戻りなさい
みすずは、そう年上の警護人に命じた
わたくしはみすず様とその少年を、閣下の前にお連れするように命じられております
じゃあ、すぐに行きましょうそんなこと、すぐに終わらせて
ヴァイオラの襲撃に備えた方がいい
オレが、そう言おうとすると
お祖父様はすぐに劇場をご出発なされるのね
みすずが関さんに尋ねる
はい他の方とは別の出入り口からまもなく
そうか閣下ほどの重要人物となると
来場してきたのも開演時間ギリギリだったし
劇場から出るのも、特別ルートで急いで出るんだ
みすず様には帝都ホテルで合流なさる様にとのことです
関さんは、そう言った
そうだ今夜は、この後、帝都ホテルで白坂家との最後の交渉をしないといけない
そしてシザーリオ・ヴァイオラも襲来するだろう
あたしはまだこんな格好ですからね劇場を出るまでには、少し時間が掛かります
みすずは、まだ舞台衣装のままだ
メイクだってしている
判っております警護には、わたくしが付きます
関さんは、そう言うが
お待ち下さいみすず様の警護は、わたくしが付いております
藤宮さんが不満そうに言った
あなたは、瑠璃子様の護衛をなさればいいではありませんか
谷沢チーフからは、みすず様、瑠璃子様、お二人の警護をする様にと命じられています
では、命令を変更しますみすず様はわたくし瑠璃子様はあなたということにしましょう
申し訳ありませんが関さんは、わたくしの上司ではございません
あら藤宮さんは、先輩の命令がきけないとおっしゃるの
きけませんねぇ
藤宮さんが、鋼鉄ステッキを正眼で構える
関さんが、拳を構える
いいかげんになさいっ
瑠璃子さんが怒った
お二人ともお姉様のおっしゃったことを聞いていたのですか
普段は大人しくて、鷹揚な性格の瑠璃子さんの苦言に二人のエリート警護人は、構えを解いた
わたくしたちが、浅はかでございました
関さん、藤宮さん二人とも瑠璃子さんに頭を下げる
わたくしもみすずお姉様と一緒に、お祖父様にお会いしますですから、関さんも藤宮さんも、わたくしとお姉様、二人の護衛として供をなさい
御意
瑠璃子さんお祖父様とお会いする帝都ホテルは危険です外国の悪人が襲撃してくるという予測があるのですよ
お祖父様やみすずお姉様が居らっしゃる場所が、危険なはずがありませんわ
瑠璃子さんは、はっきりとそう言った
わたくしもお祖父様にお話があるんです
香月の家の中の悪い噂わたくしとみすずお姉様が敵対しているという嘘を、お祖父様のお力で振り払っていただきますわたくしは、お姉様を敬愛しておりますしお姉様もわたくしに優しくして下さっていますわたくしたち従姉妹は、仲良しなのですから
みすずが、感嘆する
香月の家の中で争い合うことなど無意味ですあってはならないことだと思います
瑠璃子さんは、そう言うが
香月の家の中に争いの火種を撒き散らしている張本人は閣下だ
さっき関さんと藤宮さんが闘いそうになったのだって、閣下がわざと対立しそうな命令をしたからだし
まったく困った人だ
判りましたとにかく、急いで楽屋へ戻って着替えましょう
みすずは、そう返事した
美智、お前はどうしてこっちに来たんだ
廊下を歩きながら美智に尋ねた
黒森様がご主人様をお守りするようにと
ミナホ姉さんがオレの身を案じて、美智を送ってくれたのか
そうかさっきの関さんみたいに
みすずの恋人として公の舞台に上がってしまったオレがいきなり、閣下の配下に暗殺される可能性を考えて
ホントミナホ姉さんには、頭が上がらない
お電話してみた方がいいですよ
旦那様ご心配でしょう
向こうには、護衛としてはマルゴさんがいるし
克子姉も目が利く
もちろん、ミナホ姉さんが状況を見誤ることは無いだろうし
メグやマナは、安心して任せておける
ミナホ姉さんは、雪乃のことは徹底して嫌っているからなあ
まさか、劇場に見捨てていくとは思わないけれど
それでも、心配だ
大丈夫ですよ
みすずが、オレの心を察してくれた
白坂家との最後の交渉が終わるまではマナさんも、雪乃さんも大事な切り札ですから
でも白坂守次は二人を見捨てたんだぞシザーリオ・ヴァイオラに、殺害要請までして
はい、ですから重要なカードになります
白坂家の当主が家の名誉を守るために、一族の未成年の娘まで殺そうと企んだそんな事実が公表されれば、白坂家はおしまいです
今はまだ白坂創介という個人の犯罪を、家の力で揉み消そうとしたというだけの話だ
大スキャンダルだが白坂本家の根幹に関わる問題ではない
しかし白坂家の当主が、外国の殺人組織と手を組んだということ
しかも、よりによって口封じとして一族の人間である雪乃やマナまで殺そうとしていることは
スキャンダルなんていうレベルを超える
家そのものの権威が崩壊する
ですからちゃんと雪乃さんも連れて行って下さるはずです
みすずの考察は正しいだろう
ご心配なら、あたしたちがシャワーを浴びている間に、お電話なさってみて下さい
うんその方がいいだろう
みすずたちの楽屋に戻る
今日の出演者たちみすず、瑠璃子さん、美子さんの3人は、すぐにシャワーに行く準備をする
シャワー室には、関さんが付いて来て下さい藤宮さんと美智は、楽屋に残って旦那様を警護して下さい
さっきの関さんの様にお祖父様に対して、気を利かせたおつもりで旦那様のお命を奪おうとする方がいらっしゃるといけませんから
みすずは、関さんに対する嫌味っぽく言ったが
確かに、その可能性はある
オレをみすずを騙している悪い男だと考えて暗殺しようとする人間が、他にもいるかもしれない
閣下に取り入るためなら、何でもする人間はたくさんいるだろう
それにここには、色んな名家の警護役が集まっている
警護役って言っても守るよりも、殺す方が得意な人だっているだろうし
暗殺者の人材には、ことかかないはずだ
あたしがこの方たちのお守りでも構いませんわよ
関さんが、妖しい眼でオレを見た
一度お約束した以上閣下の前にお連れするまでは、もうこの方に手は出しませんわ
妖艶な眼でにっこりと笑う
それにわたくし、この方には少し興味が湧いて参りましたの
そんな関さんに、みすずは
その方はあたしの大切な旦那様です無礼を働くと許しませんよ
無礼だなんてそんなことは致しませんわ
いややはり、みすず様のご命令通り、わたくしが楽屋に残ろう関さんは、お二人の警護をお願いします
藤宮さんが、関さんに言う
なあにあなた、わたくしに指図するつもりなの
どうして、この二人はとことん仲が悪いんだろう
相性の悪さを知ってて、閣下は関さんを派遣したな
そういうつもりは無いですよただ、他の家の警護役をこの部屋に近づけないためには、わたくしの悪名が役に立つと思いますので
藤宮さんの悪名
そうねあなたの方がお似合いかもね
はい関さんは、余所の家の方からのご評判だけはよろしいお方ですし
それどういう意味かしら
外面がとてもおよろしいと申し上げています
妖艶な美女と男装の麗人
二人の間の空気が、また緊迫する
さあ、シャワーに参りますよ関さん
瑠璃子さんが、強い声でそう言った
はい、参りましょうね関さん
美子さんは、穏やかに二人の間に入る
藤宮さん、覚えていなさいね
まあいずれ決着を付けないといけないのでしょうね
顔は笑っているが二人とも眼が怖い
では、旦那様行って来ますね
場の雰囲気を変えるためか
すぐ帰って来ますから待っていて下さいね
そう言って、オレにキスをした
ま、まあっ
驚く、関さん
ほほうっ
感嘆する、藤宮さん
み、みすずお姉様っ
瑠璃子さんと美子さんは、絶句している
いつものことです
美智が、落ち着いた声でそう言った
いつものこと
関さんが、美智に聞き返す
はい愛し合っておられるお二人ですから
瑠璃子さんは、耳まで真っ赤にしている
愛し合っている方たちが接吻するというのは、物語では読んだことがありましたが本当だったのですね美子
はいわたくしも初めて拝見いたしました
徹底して性的な知識を与えられてこなかった二人は呆然としている
旦那様ぁんっ
みすずが、オレに舌を差し出す
オレは、その舌を舐めしゃぶる
舌と舌を絡ませ合う
よ、美子、あれは何をなさっておられるの
さ、さあ判りません
みすずは、チュッとオレの口から唇を離して
また後でいっぱいご奉仕致しますね
うん楽しみにしているよ
みすずが、困惑している美智以外の女性陣に告げる
お待たせ致しましたさあ、行きましょう
みすずたちがシャワー室に向かうと
では、わたくしはドアの外で警護しております
藤宮さんが、そう言った
いや、そんないいですよ廊下に立って貰うなんて悪いですよここに居て下さい
廊下に立って姿を見せていないとわたくしがあなたを警護しているという示威効果はありません
確かに楽屋の中に居たら、藤宮さんが居るってことは外の人には判らない
それは、そうなんだけれど
黒森様は、どなたかにお電話なさるのではありませんか
あ、さっきのみすずとの話を聞いていたのか
わたくしには、盗み聞きをするような習慣はございませんので席を外しております
すみませんお気遣いいただいて
藤宮さんは、オレをジッと見て
本当に変わった方ですね黒森さんは
わたくしが拝見したところ裏の世界の人間らしいところが、まるでありません
裏の世界って
黒森というのが、どういうお家なのかわたくしは存じ上げております
そうだこの人は、香月セキュリティ・サービスのエリート警護人だ
黒い森のことを知らないはずがない
しかし黒森様には、あなたの様な年齢の男性はいらっしゃらないと記憶していますが
香月セキュリティ・サービスの黒い森のファイルには
オレの存在はまだ記入されていないようだ
まあ、いいでしょうあなたがどこの誰であろうとわたくしは、みすず様の命に従って、あなたをお守りするだけです
藤宮さんは、フフッと笑う
それに今日は、あなたのお陰で何度もスカッとする思いをさせていただきました
一つ目は瑠璃子様のために、立ち上がって拍手して下さったこと二つ目は、みすず様のためにお花を持って舞台に上がって下さったこと三つめは、瑠璃子様にもお花を捧げて下さったことそして、最後は
あの関さんを慌てさせたことあの方の間合いに素手で飛び込んで、抱き締めてしまわれるなんて正直、心の中で大笑いさせていただきましたわ
藤宮さんは、関さんと仲が悪いらしい
撫子先生が人間国宝の候補なんて話を書いていたら
歌舞伎の玉三郎さんが、本当に人間国宝に推薦されてしまいました
玉三郎さんはお芝居も素晴らしいですが、踊りの名手でもあります
昔、歌舞伎座で玉三郎さんの鷺娘を拝見しましたが
あの弁当を食べてお酒を飲みながらの、ほんわかとした歌舞伎座の客席が
ホントにシンとなって、みんな玉三郎さんに集中していました
本当に素晴らしいものを観せていただいたと思います
さて、香月セキュリティ・サービスのエリート・チームは仲が悪いながらも、お上品な雰囲気で行こうと思いますが
これに工藤父の配下の実戦部隊が加わりますこっちは、70年代東映映画というか、輝ける石川賢世界というかとにかく、下品チームでいきます
両チームで、ヴァイオラの一党と闘うことになります
ご期待下さい
239.楽屋の中で
では、わたくしは
そう言って藤宮さんは、席を外してくれた
楽屋の中はオレと美智だけになる
みすずがここに美智を残したということは
藤宮さんだって、いつ敵になるか判らないということなんだろう
例えば今、香月閣下の命令で谷沢チーフがやって来て
藤宮さんにオレを始末しろと命じたら
彼女の中では、閣下の命令はみすずの命令の上位にある
そうなればオレは殺される可能性が高い
だからこそ万が一に備えて、みすずは美智を置いていってくれたのだろう
みすずや瑠璃子さんたちは関さんが完璧にガードしてくれるはずだし
美智が心配そうに、オレを見る
ちょっと疲れた
ここ30分ばかり精神的にハードなことが続いている
美智、こっちに来い
ちょっと、抱き枕になってくれ
美智が、ハッとする
はいっかしこまれましたっ
美智が、ちょこちょこと進み出て小さな身体をオレに寄せる
オレは楽屋の椅子に座って、立ったままの美智の身体を抱き寄せた
そんなに緊張するな力を抜け
美智の肉体がふわっと柔らかくなる
オレは、平たい胸に頬ずりした
手を後ろに回して美智の小ぶりなお尻を揉む
はぁぁ怖かった
溜息ともに、そんな言葉が口から出る
そうですよね関様は、恐ろしい方ですから
美智がオレの頭を撫でてくれた
ご主人様はご立派でした
美智の胸の中で一分ほど心を落ちつかせた
こうやって心の切り替えをしていかないと
この先は保たない
わたくしの肉体は女性的な魅力に乏しいですからご主人様がお安らぎになれないのではご不満でしょう
オレはすぐに答えた
今、ここに居るのが美智じゃなかったらオレは発狂しているよ
美智は、いつも控え目だ必要が無ければ、黙って側に居てくれる優しい女の子だ
恥ずかしそうに美智は言った
想像してみろよもし、ここに二人きりになったのがマナだったらオレはあの子の不安を取り除くために、必死で喋り続けなくてはならなくなる
うんオレは、マナの保護者として全力で動き回らないといけない
心を休ませるヒマは無いな
メグだったらもう少し控え目にしていてくれるだろうけれどメグはメンタルが弱いからなさっきの関さんとの勝負みたいのに直面したら、失神しちまうかもしれない
メグには、もう少し神経のブッ太い女の子になって欲しい
雪乃ほどゴツイ神経の持ち主にならなくてもいいから
ましてやもしも、ここでオレが雪乃と二人きりになっちまったら
どうなりますでしょうか
美智が上からオレを見下ろす
オレは嫌だよこんなところで、あいつのヒステリーの相手をするのは
オレの微笑に美智の顔も緩む
わたくしはご主人様のお役に立っておりますか
うん美智が居てくれて心強い
美智は、そう言ってくれた
このお尻もいい
オレは、美智のお尻の感触を楽しむ
本当でございますか
ああ、鍛え上げられていて生ゴムみたいにプリプリしている今まで触った、誰のお尻よりも感触がいいよ
オレは美智のお尻を褒める
全て、ご主人様のものでございます
赤い顔をして美智が答えた
コンプレックスを持っている自分の肉体について褒められて興奮している
美智のM心に、火が付きそうになっている
まずいまずい
うん時間ができたら、たっぷり可愛がってやるからな
今は我慢しろと美智に告げる
はいお望みの時に、いつでも美智の操をを捧げます
息を荒くしながら美智は言った
みすずが見ている前でだろ
ああ可愛いな、美智
美智キスしてくれ
美智からオレにキスしてくれ
緊張した唇がオレに接近して来る
唇と唇が合わさる
うん、よくやった偉いぞ
恥ずかしそうな美智の頭を撫でてやる
美智は耳まで赤い
オレの膝の上に座れ
胸も揉んでやるミナホ姉さんに電話しながら
美智がオレの膝の上に座る
スカートを捲って生のお尻と膝をオレに押し当てろ
美智の柔らかい足とお尻を膝で感じる
オレはそのまま後ろから右手で美智を抱きかかえ
美智の胸を触る
何だつるぺただと思っていたけれど
皮膚の上に、むにっと薄く脂肪の層があるのが判る
これから、おっぱいが発達していく基礎はできているんだ
うんこれはきっと、揉めば揉むほど育っていくに違いない
オレはグリグリと美智の胸をまさぐる
あんまり乱暴にしないで下さい
少し強く触らないと、刺激にならないだろ
オレは、制服の上から美智の胸を揉みしだく
あっ、恥ずかしいです
楽屋の鏡の中にオレたちの姿が映っている
見ろよ鏡の中
あああっ恥ずかしいです
マゾッ子の美智が震えている
恥ずかしいのが好きなんだろ
はい好きです大好きなんですご主人様ぁぁ
ホント美智で良かった
オレの心は、すっかりリラックスできた
少し静かにしていろミナホ姉さんに電話するから
絶対に声を出すなよ我慢してろ
右手で美智の胸をまさぐりながら
左手で携帯を取り出す
電波のアンテナは2本立っている
まあ、何とか届くだろう
オレはミナホ姉さんにコールする
もしもし吉田くん
ミナホ姉さんは、すぐに出た
うんオレは何とか無事だよみすずや瑠璃子さんたちと一緒に居る美智とも合流できた
オレは、手短に報告する
状況はどうなの
香月閣下の命令でみすずと一緒に、帝都ホテルへ来いって護衛には、谷沢チーフの配下の関さんと藤宮さんが付いてくれることになった
香月セキュリティ・サービスのトップ・エリートが二人も
ミナホ姉さんは、驚く
閣下直衛警護人の関さんと、撲殺剣士の藤宮さんの組み合わせというのはやはり、破格なんだろう
それは瑠璃子さんたちも一緒に行くことになったから瑠璃子さんも、閣下に話があるんだって
そうなのまあ、トップ・エリートのお二人が警護して下さるのなら心配は無いと思うけれど
それでミナホ姉さんたちは、今どこに居るの
あたしたちは劇場の駐車場よこれから出発するところ香月様の隊列に加えていただけることになったわ
隊列
香月様は、十数台の車で列を作ってパトカーの先導で、ご出発なさるそうだから、あたしたちもそれに加えていただくことになったの
閣下と一緒に移動するのなら充分な警護体勢が敷かれているはずだ
まず、安全だろう
その代わり車を一台、劇場に残して行くことになったけれどね
車を
行きは車3台に分乗して来たけれどあなたと美智さんが、みすずさんたちと帝都ホテルに向かうのなら、2台で済むし香月セキュリティ・サービスの山岡部長からも、車列に加わるのなら車の数を減らせって言われたのよ
閣下の移動は山岡部長の管理下か
だから、ベンツにあたしが運転して、マルゴが助手席後ろに、寧とマナさんと恵美が乗っているわ
本来ならミナホ姉さんは、白坂守次の要請でヴァイオラのターゲットになっているのだから、後ろの席に座るべきだろう
しかし何かあった時に、警護役のマルゴさんが自由に動けた方がいい
だから、ミナホ姉さんが運転席で、マルゴさんが助手席なんだ
あ、そう言えば
あのミナホ姉さん
判っているわよ、雪乃さんでしょ
雪乃は、どうなったんだ
彼女は克子と一緒に、マセラッティの方に乗って貰ったわ大丈夫よあなたの見ていない時にどこかに捨てて来たりはしないから
はぁ克子姉と一緒か
まあメグやマナと一緒にしておくよりは、平穏だろう
克子には申し訳ないけれどあの子のヒステリーの相手をするのは、たまらないから
あららオレと同じことを言っている
雪乃は、克子姉が苦手だからその組み合わせで正解だと思うよ
とにかくこちらのことは心配しないで劇場の外に出れば、工藤さんのチームもフォローしてくれるでしょうし
工藤父の裏工作部隊も閣下の警護に動き出してくれる
まあ警備体制の堅固な本隊を、ヴァイオラが襲撃してくるとは考えられないか
ここは日本
ヴァイオラは、東京の土地勘は無いのだし
閣下の車列が走るのは、大通りだけだろう
どこからにせよ、攻撃してくるのは難しいはずだ
帝都ホテルで合流しましょういいわね
判ったミナホ姉さん
あマナさんたちが、あなたと話したがっているわ
電話の向こうの人物が変わる
お兄ちゃん大丈夫
ああ、こっちは平気だよみすずや瑠璃子さんたちと一緒だから、香月セキュリティ・サービスの最強の警護人が二人も付いてくれている
良かった先にホテルに行っているからね
すぐに追い掛けるよ
うんメグお姉ちゃんに変わるね
メグの声が聞こえる
そんな心配そうな声をするなよこっちは大丈夫だからすぐに追い掛けるよ
うん待ってるね
もしもし、ヨッちゃぁん
はい、オレは無事ですよ寧さん
えへへ良かった心配してたんだからっ
すぐにホテルへ合流します待ってて下さい
急いで追っ掛けてくるんだよっ判った
もしもし、吉田くん
はい、オレはここにいます
君を脅かすつもりは無いんだけれどもしかしたら、敵は、あたしたちの方より、君たちを狙うかもしれない
あたしたちが、白坂創介の身柄や、雪乃さん、マナさんを確保した様に敵も、みすずさんや瑠璃子さんを狙ってくるかもしれないよね
閣下に対する交渉カードとしては、二人の孫娘は申し分が無い
でも、大丈夫ですよこっちには関さんも藤宮さんもいるし美智もいてくれているから
マルゴさんを安心させるために、オレはそう言った
マルゴさんなら、香月セキュリティ・サービスのエリート警護人の実力は知っているだろう
関さんたちの能力は疑っていないけれどそれでも、3人で君とみすずさんたちを護衛するとなると最低2人は、直衛で君たちにべったり付いていないといけないから、自由に闘えるのは1人だけになっちゃうよね戦力的には、少し厳しいと思うよ
プロの護衛としてマルゴさんは、そう結論づけた
オレとみすずと瑠璃子さんと美子さん4人を守るのには、確かに2人は必要だ
残った一人しか、敵と戦えないとすると厳しいかもしれない
工藤さんに、こっちから連絡しておくよ誰かしら、人を廻してくれるように
工藤さんのところの人ですか
ああ、工藤さんのところには、戦闘にだけ特化した人が何人か居るからねそういう人を廻して貰うよ
ガードは、関さんたちで充分
今のオレたちにさらに必要な人材は純粋な戦闘要員ということか
あ、この話は関さんたちにはしないでねあの人たちは、エリートだから工藤さんのチームの人が助けにくることを嫌うと思うんだ
うん工藤父の裏工作チームは
関さんや藤宮さんのお上品さとは、相容れないと思う
とにかく、充分に気をつけてね
はい、マルゴさんミナホ姉さんたちをよろしくお願いします
こっちは、あたしに任せておいてじゃあね
そして、電話は切れた
克子姉の声も聞きたかったな
あいつは喚くか、文句を言うかしかしないんだろうけれど
美智が真っ赤な顔で、囁く
うん、どうした美智
わたくし濡れてしまいました
携帯を上着のポケットにしまって左手で、美智のスカートの中に手を伸ばす
美智のパンティは、びしょびしょになっていた
美智は興奮すると、濡れやすいんだな
楽屋の鏡越しに美智と会話する
オレの膝上の美智
今は大きく開脚して濡れた股間も、鏡の中にはっきりと映っている
わたくし淫乱なのかもしれません淫乱な美智は、お嫌いですか
潤んだ瞳で、鏡の中の美智が言う
好きだよオレの美智だもの可愛いよ、美智
オレは後ろから美智の耳の裏をペロッと舐めた
オレの膝の上で、美智が震える
パンティにまた、ジロロッと熱い汁が溢れていく
キスしよう、美智
オレに向かって、首を回す美智
鏡でよく見えるように体勢を少し直して、オレは美智の唇を吸った
舌と舌を絡ませる
美智は自分の痴態を鏡で見て、また興奮している
ご主人様、わたくし
もっと、ご主人様に物みたいに扱われたいんですご主人様の所有物になりたい
オレとみすずのだろ
はいお二人の玩具になりたい玩具みたいに弄ばれたいんです
情熱的に、オレの舌を求める美智
もう玩具だよ美智は、おれとみすずの玩具なんだ
ああん嬉しいです
でももうちょっとだけ、我慢しろよみすずが居る場所でちゃんとしてやるから
みすずのいない場所での悪戯はここら辺が限度だろう
そろそろ、みんなシャワーから戻って来るだろうし
もう一回、キスしようここでは、そこまでにしておこう
あのわたくし、いいんですよ
ご主人様のものを舐めたり飲んだりもできます
オレは、美智が愛おしくなって、そっと頬を撫でてやる
美智の15歳の肌はつるつるしている
そういうのも今はいい帝都ホテルに着くまでは、緊張していたいんだここで射精すると、気が緩む
美智が、そう言ってくれるのは嬉しいし本当は、美智にして貰いたいんだでも、状況が状況だから判ってくれ
そう言ってオレに頬ずりしてくれた
シャワー組が帰って来たのは、その数分後だった
オレと美智の痴態は見られていない
瑠璃子さん、美子さん、みすず、関さんが楽屋の中に入って来る
藤宮さんは、廊下の外で立ち番したままだ
旦那様、ただ今戻りました美智、旦那様のお世話はちゃんとしてくれた
みすずが、美智に言う
はいわたくしがお世話というよりご主人様にわたくしがお世話していただきました
まあそれはまた、美智を処罰しなくてはいけないポイントが増えてしまいましたね
はいご処罰下さいみすず様
今夜は覚悟なさいどんなお世話をしていただいたのか、全て白状させますからね
ああマゾッ気のあるこの二人は
こうして、後でのセックスの楽しみを増加させているのか
何となく、判ってきた
瑠璃子さんと美子さんは、シャワー室で着替えまで済ませてきた
今は普段、みすずが着ているのと同じ、お嬢様校の制服を着ている
うん和服から制服に着替えると
美子さんの巨乳さがよく判る
瑠璃子さんも15歳にしてはスタイルが良い
というかすっごい足が細くて長いな、この子
それはさておき
みすず何で、お前だけバスローブ姿なんだ
ごめんなさいすぐに着替えますから
みすずは、瑠璃子さんたちにそう言った
自分のカバンの中から着替えを取り出す
そこには、下着もあった
みすずまさか
バスローブの下は、裸か
旦那様お願い致します
みすずがそれが当然のことのように、自分の新しい下着を持ってオレの前に来る
オレにパンティとブラジャーを手渡す
瑠璃子さんと美子さんは驚いている
みすずは二人に、オレとの仲を見せつけたいのだろう
オレもいつものこととして、下着を受け取る
みすずが、バスローブの前を開く
白い裸身桜色の乳首
そして、無毛の恥部が露わになる
そのままみすずはローブを後ろに落とした
ほら、パンツから穿かせてやるから
みすずの足下に跪いて片足ずつ、パンティを穿かせてやる
それから、みすずの柔らかい足を滑らせるように引き上げて
キュッと締まったお尻を、薄い布地で包み込む
次はブラだ
ブラジャーをみすずのおっぱいに当ててお肉がちゃんとカップの中に収まるように
そして、背中のホックを填めてやる
全裸のみすずもセクシーだが下着だけというのも、なかなかいい
オレはチュッと唇にタッチする
みすずは、そんな軽いキスは嫌だとオレに抱きついて、長いキスを求めた
舌と舌を吸い合う
いつも黒森様は、みすず様のお着替えをお手伝いなさっているのですか
美子さんが呆然とした顔で尋ねる
二人で居る時は、必ずですね、旦那様っ
必ずってことは無いんだけれどみすずは、オレとの仲を自慢したいみたいだから
まあそうですね
女性の着替えを手伝うなんて、嫌ではないんですか
瑠璃子さんが、そんなことを尋ねてくる
いいえ、別にオレのみすずですから
瑠璃子さんは、釈然としていない
彼女のこれまでの世界観では、考えられないことらしい
瑠璃子さんだって、美子さんに着替えを手伝っていただいているでしょ
美子は女性ですしわたくしのお付きですから
あたしと旦那様だってとても親しい関係にありますあたしは旦那様に何一つ隠し事はありませんし旦那様は、あたしに嘘を吐かれたことは一度もありません
下着姿のみすずが瑠璃子さんに胸を張って告げる
裸になっても、恥ずかしくない間柄ということですか
むしろ、裸にならないと旦那様と愛し合えませんわ
裸でないと、愛し合えない
セックスの知識が無い瑠璃子さんにはみすずの言葉は、判らない
お戯れはそれ位になさって下さいお早く、お着替えを
関さんがみすずに言った
はい、済みません関さん旦那様着せて下さい
みすずが、カバンから制服を取り出す
ああ、判った
オレは、言われるままみすずに服を着せていく
瑠璃子さんの前で、オレに着替えさせられることにみすずは上機嫌になっている
関さん親しい男性に、着替えを手伝っていただくというのは、世間ではよくあることなのですか
瑠璃子さんが、関さんに尋ねる
上流階級の方々は皆様、それぞれ違う趣味をお持ちですから何が一般的なのかは、わたくしにはよく判りませんっ
うん関さんも、閣下の直衛になるまでは、色んな人の護衛に付いたんだろう
ま色んな人を見てきたんだろうな
だからみすずの行動を、止めることはできない
着替えているだけだし
でもみすず様が、本当に黒森様をご信頼なさっているということは判りましたわ
美子さんが、オレたちを見てそう言った
そうね黒森様も、とっても献身的でいらっしゃるし
瑠璃子さんも、そう言う
みすずの着替えを手伝うオレは、献身的に見えるらしい
月曜日ですもう
楽しい部屋と書いて楽屋と読みますが
あんまり楽しかった思い出は無いです
私は、裏方でしたから楽屋は入らないし
裏方の居る部屋は、スタッフルームと言うんですが
とある演出家の先生は、そこを自分の楽屋と言い張って
スタッフが肩身の狭い思いをしたことがあります
うーんわざわざ劇場へ来てから、立派な背広に着替える様な人でした
パンフレットに載せる写真を、有名な写真家に撮って貰ったり
演出家が前に出すぎる舞台はあんまり良くないですね
今日は、また暑くなりそうですね
240.出発前点検
いいえ、献身というのとは少し違いますわ
みすずが、瑠璃子さんに言った
今は旦那様が、あたしの着替えをお手伝い下さいましたけれど、あたしも旦那様には精一杯ご奉仕致します旦那様に尽くすことは、あたしの喜びですあたし自分は、この方を幸せにしてさしあげるために生まれてきたんだと思っていますから
みすずの答えに瑠璃子さんは、驚く
みすずお姉様にとってお兄様の存在は、そんなに大きいのですか
はい心から愛しています
みすずが、ニッコリとオレに微笑む
愛家族愛や、主従愛ならばわたくしも理解できますが男女の愛というのは、よく判りません
瑠璃子さんが知っているのは彼女が読んだ小説の一部に出てくる恋愛描写だけだ
それも、閣下が性的な表現のあるものは全て除外しているから
本当に、子供向けのおとぎ話レベルの恋愛物語しか知らないのだろう
あたし夜、寝る前と朝、目覚めた時に、必ず旦那様にお電話しています
まさかみすず
おしっこ許可の話をするのか
あれは瑠璃子さんに話すには、まだちょっと早いんじゃないか
そして旦那様の声を聞くだけで、あたし、安心できるんです嬉しくなります旦那様が、元気で居て下さるだけで嬉しいんです
こうやって、直にお会いするともっと嬉しくなります一緒に並んで歩くだけで、ドキドキします旦那様は、あたしがどんなお話をしても一生懸命聞いて下さいますあたしが何を望んでいるのか、何を求めているのかいつも、察して下さいますいつも本当に一生懸命であたしの心の壁を、飛び越えて来て下さるんです
みすずは、ニコニコと微笑んでいる
心の壁ですか
瑠璃子さんが真剣な眼で尋ねる
はいあたしも香月の家の娘として生を受けましたから人に対しては、心に壁を作って接して参りましたあたしの周囲の方々は大人の方も、学友の皆さんも、決して悪い方ではありませんがどうしても、あたしと接する時には、香月の家の力を感じてしまわれるようで
それはよく判ります
瑠璃子さんが、頷く
閣下の孫娘である二人は、同じ悩みを抱えて生きてきたのだろう
あたしは皆さんに祭り上げられるのも、疎まれるのも嫌でしたからとにかく、どなたにもニコニコと微笑んで、優しく穏やかに接することに務めてきましたそれでいて特に親しい関係の人間を作らないようにあたしと親しくし過ぎた方は、他の方に妬まれて、苦労なさいますから
はいわたくしも、お姉様と同じですなるべく機嫌良く、いつも笑っていてそれでいて、どなたとも親しくならないようにして参りました
しかし瑠璃子さんには、美子さんがいらっしゃいました
ええわたくし、美子の存在に、本当に助けられて参りました
瑠璃子さんは、3歳年上のお付きの少女にねぎらいの言葉を投げ掛けた
もったいないお言葉ですわたくしなぞ
いいえ美子が居てくれたからこそ、わたくしは今日まで元気にやってこれたのだと思います
見つめ合う主従
羨ましいですわあたしには、美子さんの様なお付きはいただけませんでしたから
みすずが二人を見る
正直高等部に進んだ頃から、あたしは息苦しくなってしまって心がすっかりくたびれていましたずっと一人ぼっちで誰にも気を許せない生活に
瑠璃子さんも美子さんも真剣な顔で、みすずの話を聞いている
同じ立場にいる二人だからみすずの話は、人事で無い
あ関さんと美智も、興味深そうに聞いている
そうしたらあたしの心の苦しみを判って下さったのでしょうねお祖父様がある方をご紹介して下さってあたし週に何時間かは、その方のところで心を解放することができました
渚のお店でのアルバイトと
渚とのレズプレイか
アルバイトといっても、渚はみすずには店の奥に居させて、接客させなかったらしいし
それでも、香月の家や名門お嬢様校の生活とは関係の無い仕事をするのは良い、気分転換になったろう
それはセラピーとか、そういうことをなさっている先生ですか
美子さんが、みすずに尋ねた
そうですねそんな様な感じですわ
まあ、花屋で綺麗な花に囲まれるのは、確かに心が和むだろう
その後のレズ・プレイはどうかと思うけれど
その方があたしに、旦那様を紹介して下さいました
旦那様はあたしが香月の家の人間だということを全く知らずに、あたしを受け入れて下さいましたいいえ、香月の血筋だと知った後でも、旦那様は何一つ変わらずに、あたしを愛して下さいます家の格とか血縁とかこの方は、一切、拘りが無いんですよ
それでは本当に、みすずお姉様だけを愛しておられるのですね
はい例え、あたしが香月の家を追放になったとしても、旦那様は変わらずあたしを愛し続けて下さいます
みすずがどうなろうとオレは、一生、みすずに対して責任を持ちます幸せにします
どうしてですの、みすず様それでは、閣下のご意志に反することになりますわその様なことをするなんて自殺行為ですわ
関さんが思わず、口を開いた
自殺行為なんかじゃありませんオレは何が何でも生き延びますオレには、幸せにしなくちゃいけない家族がたくさんいますから
そうだオレには
みすずもオレの家族ですもう、家族なんですだから、守ります絶対に幸せにします
君は馬鹿なの現実は、そんなに甘くはないですわ
関さんは、そう言うけれど
現実が厳しいのは、判っていますでも、もう家族になってしまったんですもう引き返せませんオレたちは、前に進むしか無いんです
はいみすずは旦那様の家族ですっ
みすずが、嬉しそうにオレを見る
美智お前も家族だからな
美智が、眼を潤ませる
はいご主人様みすず様
瑠璃子さんが
お姉様お姉様たちのおっしゃる家族ってどんな関係ですの
瑠璃子さんは香月の家、一族、血族は知っている
しかし家族は知らない
オレたちの言っている様な類いの家族は
どんなに大変な時でも、メンド臭がることなく、全力で助けてあげたい幸せにしたいそういう風に思い合う相手の関係です
それがオレにとっての家族の定義だ
はい、ですから旦那様はいつも、あたしや美智や他の家族の幸せを考えて下さってますあたしも旦那様や美智や、他の家族の幸せを考えていますお互いに依存し合っているのではありません協力して相手のことを慮っているだけですその関係が、幸せなんですあたし、旦那様の家族にしていただいたことを神様に感謝しています
香月家よりもその方の家族の方がよろしいのですか
美子さんが、びっくりした顔で尋ねる
はいただただ、幸せですから旦那様の家族であることは
みすずの言葉はオレには重い
頑張らなきゃオレ
みすずを、もっともっと幸せにしてやらないと
わたくしにはよく判りません
瑠璃子さんが、寂しそうに言った
あら瑠璃子さんだって、美子さんと二人きりで過ごされている時は快適でしょう
はい美子と二人でしたら、気が楽ですから
それと同じですただ違うのはあたしたちは主従関係ではなく、対等だということと家族はたくさんいるということだけです
何が、たくさんおられるのです
姉妹です
今のあたしには敬愛する姉と、可愛がってあげたい妹がたくさんいますみんな、旦那様を通してあたしの家族になって下さった方々ですあたしたち家族は、運命共同体です個人の幸せが、家族の幸せに繋がることを、全員が理解していますからいつも信頼し合って、協力し合っています
それが黒い森
オレたちの家族に、血縁関係はありません生まれも育ちも違う人間が自らの意志で、家族になったんです互いを受け入れ合っている家族なんです
オレの言葉に、関さんは
そういう秘密結社なんですか
みすずは、笑う
そんな大それた物ではありませんよ弱い人間たちがそれでも強い人間に屈することなく、運命と闘い続けようとしている人間たちが肩を寄せ合ったら、たまたま家族としてまとまったというだけのことです
はいみすずの言う通りだと思います
あたしにはよく判りません香月の血筋よりも大切な人間関係なんて
でも、瑠璃子さんだってあたしの旦那様が信頼できる方だということは、ご理解下さいますよね
それは判ります今までの黒森様の言動を見ていればきちんと御自分の考えを持っていらっしゃるしとても勇気のある方だということは
今はそれだけ判って下されば結構ですわ
みすずは、満足そうに言った
みすずの着替えが終わる
さあそろそろ、参りましょうか
瑠璃子さんと美子さんは、考え込んでいる
関さんも
オレや黒い森が、みすずに悪影響を与えているのではないかと疑っているのだろう
それがさらに瑠璃子さんに拡大するのではないかと
あなたが、そんなにご心配なさる必要はありませんよ
みすずが、関さんに微笑む
香月の家の中の問題は、きちんとお祖父様にご相談して解決致しますから瑠璃子さんも、あたしと旦那様のお付き合いについてはお許し下さいますよね
それはみすずお姉様と黒森様が、本当に愛し合われているということは、わたくしにもよく判りますからしかし
口籠もる、瑠璃子さん
香月の家のことは
ですからそれは、お祖父様と談判致しますそれなら、構いませんよね
お姉様本当に、香月の家を出られるおつもりですか
瑠璃子さんはみすずがオレと駆け落ちすると思っているらしい
閣下の意志に反して生きるということは、そういうことなのか
その覚悟はできていますあたしの人生は旦那様と共にありますから
そういうお覚悟がおありなのでしたら瑠璃子はもう、何ももうしませんみすずお姉様の信じていらっしゃる道を存分にお進み下さい
瑠璃子さんには自分の運命を自分で決めるという発想は無いだから、みすずの言葉に戸惑っている
関さんははっきりとした自分の意見を持っているのだろうが、強く自分から主張するということはしないだから、今は黙っている
二人とも閣下の命令に従うのが当然だと考えている人たちだから
みすずが閣下と直接談判すると言っている以上彼女たちには、どうすることもできない
お祖父様との話し合いの場には瑠璃子さんにも居ていただきたいの
はいその方がよろしいですわねわたくしも、ことの次第をよく知っておきたいですし
瑠璃子さんは、そう答えた
楽屋を出る
藤宮さんが、ステッキを持って立っていた
随分時間が掛かりましたね
申し訳ありません少し、瑠璃子さんとお話しをしていました
旦那様済みません
オレはみすずと瑠璃子さんの衣装や荷物を載せた台車を押している
構わないよこういうのは、男の仕事だ
美智や警護人の二人には、しっかり周囲の監視をしていて欲しいし
自分の女の荷物ぐらい、オレが運ぶのが当然だろう
わたくしの使う車楽屋口に廻してくれるように頼んでおいたのですけれど
楽屋側の出口で関さんが、香月セキュリティ・サービスの制服を着た警備員に尋ねた
はい表に停めてあります
警備員が、キーを差し出す
関さんは、鍵を受け取る
最新式の要人警護車ですね
外の車を見て、藤宮さんが感嘆する
車は、大型のリムジンだった
ええ、今月納車して貰ったばかりの車ですよわたくしの専用車として
胸を張る関さん
だからか関さん専用車だからなのか
その車のボディはピンク色に塗られていた
ピンク・キャデラックってことなのかしら
藤宮さんが、ニッと笑う
外装だけですわ中身は違います車体もエンジンも特別製ですから
関さんは、得意げに語る
新技術による防弾装甲に防弾ガラス衝撃にも強い様に設計してもらいましたのよ
藤宮さんが、革手袋をした手で車のボディをコンコンと叩く
中身の詰まった音
洒脱なアメリカ車の外観は完全なフェイクだ
これ装甲を乗せた分、車が相当重くなっているでしょう
藤宮さんが関さんに尋ねる
ええその分、エンジンもハイ・パワーなのに換装してありますわ燃費が少々悪いですけれどそれは、仕方ありませんわよねサスペンションなども、全て特注です
高出力のエンジンに変えたんなら、エンジンも重いんですね車体も重い、エンジンも重いやはり、使用なさる方が重い方だと、専用車も重くなるのですわね
藤宮さん言葉にカチンとなる、関さん
わたくしそんなに重くはございません
あらわたくし、そういう意味で言ったのではございません関さんは、閣下や谷沢チーフに重用されていらっしゃいますからそういう意味での重いです
でもわたくしの言葉に、そんな反応をなさるなんてもしかして、関さんは最近、体重ついて特に気になさっていらっしゃるのですか
気にしていませんっ気にするわけないですわっ
そうですよね関さんの様なトップ・エリート中のエリート警護人が、日々増加していく体重のことなど気にしていらっしゃるはずがございませんよね
この二人は、まったく
どっちも良い年齢の大人なのにこの仲の悪さは何なんだ
ところでこの最新式の装甲、試してみてもよろしいですか
藤宮さんが関さんに微笑む
試す
はい、新技術の効果に興味がありますわたくしの一撃にどれくらい耐えるか車体の頑健さを確かめたいと思います
藤宮さんが、重さ3キロの特殊金属のステッキを振り上げる
特に、ここのフェンダーの辺りの装甲の強さが知りたいですね
や、やめなさい
大丈夫ですよわたくしが全力で一撃を加えるだけです装甲が凹むだけですよ万が一、装甲に穴が開いたとしても、車の走行には支障の無い程度で止めておきます
藤宮さんが、フンッと気張る
ステッキを握った手に力が入る
ダ、ダメよっ藤宮麗華っ
関さんが慌てて、藤宮さんのフルネームを叫んだ
そう言えば、藤宮さんて麗華って名前だっけ
こんなに凛々しい男装の麗人で麗華宝塚の男役みたいだな
お遊びは、それくらいしておいて下さい、藤宮さん
あたしも瑠璃子さんも車体を凹ませた車に乗りたいとは思いません
瑠璃子さんも、みすずの後ろでうんうんと頷いている
御意では、装甲のテストは別の機会に致します
藤宮さんは、二人に颯爽と礼をする
もう
関さんは、プンプン怒りながら車のドアを開ける
さあみすず様、瑠璃子様、どうぞ
二人が車に乗り込もうとする
待って下さい
オレは乗り込む二人を止めた
どうしました
瑠璃子さんが驚いて、オレに振り返る
この車香月セキュリティ・サービスの人に回送して貰ったんですよね
誰だか知らないけれど駐車場から、ここまで運んで来たのは警備員の一人のはずだ
そうでございますが
関さんが、オレを見る
一応車のチェックをした方が良いと思います
香月セキュリティ・サービスの仕事が信用できないとおっしゃるのですか
オレの言葉に関さんは不快感を示す
そうじゃないですけれどオレが敵なら、警備員の中に紛れ込んで、この車に何か仕掛けます
発信器とか盗聴器とか
関さんと藤宮さんが顔を見合わせる
旦那様のお言葉に従いなさいすぐにチェックして
二人の警護人が、車内に飛び込む
シートや内装の中をくまなくチェックしていくと
ありましたわ
こちらにもです
次々に隠されていた機器が出てくる
藤宮さんがポケットから、携帯電話サイズの機械を取り出す
不審な電波が発信されていないか、チェックする機械です
オレたちに説明しながら、機械を持って車の周りを廻っていく
もう大丈夫です他には、発信機器は取り付けられていないようです
香月セキュリティ・サービスの中に、すでに敵が入り込んでいるとは
関さんが、苦々しい顔でそう言った
敵も本物のプロフェッショナルってことなんでしょうどうします、山岡部長に報告しますか
藤宮さんが、関さんに尋ねる
止しましょう誰が敵なのか判らなくて、制服組が全員、互いに疑心暗鬼になってしまいます
現場が混乱して、パニックになるだけですね
おそらくそれも敵の狙いなんでしょう
関さんが言った
今のままなら敵に入り込まれていても、制服組の中の命令系統は完全なままです潜入されたとはいえ班長・リーダークラスにまでは浸透していないはずです人数もせいぜい数人程度でしょうし
敵が紛れ込んでいるという情報だけが一人歩きをしたらそれだけで、制服組の機能はマヒする
実際には、一番下っ端のレベルに数人が入り込んだだけなのに過剰反応をすれば、組織全体がダメージを受ける
専用回線で谷沢チーフにだけ報告します潜入工作員の特定は、谷沢チーフにお願いしましょう
そうですね山岡部長では、現場を混乱させるだけでしょうから
関さんが、携帯で谷沢チーフに連絡する
その間に、オレは車に荷物を積み込み
みすずや瑠璃子さんも車内に乗り込む
助手席に藤宮さん
リムジンの2列目の席に、オレと美智
後部座席に、みすずと瑠璃子さん、美子さんと座る
リムジンの座席は、2列目の座席が後ろ向きになっていて、後部座席の人たちと向かい合って座れるようになっていた
なので、オレと美智は瑠璃子さんたちと膝を合わせて座っている
電話を終えた関さんが運転席のドアを開け
でどうして、あなたが助手席に座っているのかしら
藤宮さんに言う
この車は、関さんの専用車でございますから
こういう時の運転は香月セキュリティ・サービスでは、目下の人間がするルールになっていると思うんですけれど
えっと関さんも藤宮さんも、谷沢チーフの部下で香月セキュリティ・サービスのトップ・エリートだ
関さんは、閣下の直衛警護人に選ばれているけれど
どっちが上とか下とか、あるのか
ですから運転は、関さんにお任せします
藤宮さんは、平然とそう答えた
あなたわたくしよりも年下のはずよね
ですが香月セキュリティ・サービスへの入社は、わたくしの方が先ですわたくしは16歳で谷沢チーフ直々にスカウトしていただきましたから
わたくしはね大学を卒業した後に、ヨーロッパに留学していたんですのっ高度な専門教育を受けた実務家として入社したのですから入社年度は関係在りませんわっ
関さんも藤宮さんも譲らない
関さんが、どうしてもということでしたらわたくしが運転しても構いませんが、わたくしの運転は荒いですよ関さんの大事なお車に傷を付けてしまうことになるかもしれませんそれでも、よろしいですか
そんな藤宮さんの言葉に関さんは
もうっ判ったわよっわたくしが運転すればいいんでしょっ
ぶんぷん怒りながら運転席に乗り込んでくる
チームの中に仲の悪い二人がいるというのは昔からの伝統です
古くは、1950年代のキャプテン・フューチャーシリーズ
さらには、アメリカのSF小説の起源とされる、連続新聞小説のフランク・リード・ジュニアシリーズまで遡れるそうです
野田昌宏氏のSF英雄群像が新刊で買えない時代って悲しいですね
241.3人揃って
皆様シートベルトは、きちんとなさいましたね
関さんが、ルームミラーでオレたちを確認する
ちょっと走り出しが揺れますが気にしないで下さいね
エンジンが掛かる
トルルルンンッ
軽やかに廻るエンジンさすが、特注車だ
エンジン音が野太い
相当の高出力エンジンなんだろう
では参りますわっ
動き出した車はいきなり、ガクッと大きく揺れる
後ろ向きに座っている、オレと美智は前のめりになる
みすずたちは、逆にみすずたちはシートに強く押しつけられる
あ確かに、これは車が重いんだ
重い車を高出力のエンジンで無理矢理動かしているから挙動が荒い
そうでないと、こんなにドスンとはならない
わたくし車は穏やかな方が好きですわねロールスロイスでしたら、発進時の挙動でコップの水が零れることさえありません
藤宮さんが、嫌味を言う
申し訳ないですわねわたくし、車はアメリカのワイルドなテイストが気に入っておりますので
キャデラックなんて、車としての完成度はとても低いと思いますが昔も今も、アメリカ製の高級車なんて、趣味の悪さの代名詞じゃありませんか
藤宮さんの言葉に、関さんの闘争心が燃える
藤宮さんロールスロイスって、今は、どこの国の会社でございますか
ドイツのBMWの傘下ですね
ベントレーは
ドイツのフォルクスワーゲングループの傘下です
ロータスは
マレーシアの国営企業に買収されましたっ
オースチンは
中国企業に買収されましたっ
ジャガーとランドローバーは
今はもう、インドの会社の傘下ですっ
藤宮さんが、ギロッと関さんを睨む
関さんあなたは、国際経済にもご堪能ですから、もちろん全て知っていてお尋ねになっているんですよね
いーえそんなに、わたくしを買いかぶらないで下さいなわたくしにも、不得意な分野というものがございます世界の自動車業界のことなんて
嘘だ絶対に詳しいに決まっている
でも、まあそうですか藤宮さんのお話でよーく判りましたわかつては大勢力を誇った英国ブランドの自動車メーカーも今では、見る影もございませんのねもう、イギリス国内には、車のメーカーなんて一つも残ってはいないのではありませんか
ま、まだ、アストンマーチンが残っていますっ
強い眼で睨む藤宮さん
ああ、そんな会社がありましたよね確かアメリカのフォード自動車の傘下だったのを、テヴッド・リチャーズが中東の資本家にお金を出していただいて何とか買い戻したってでも、売れているんですか
くっ
それでも英国内に一社だけでも残って、良かったですわね藤宮さん
関さんの勝利の笑み
まあ国家の基幹産業である自動車産業を、それも長年に渡って名の知られた国家を代表するブランドをポイポイ他国に売り払ってしまう英国人の神経は、理解できませんね貧すれば鈍するということですか
耐える藤宮さん
その点ゼネラル・モータースはキャデラックもビュイックもコルベットもカマロも、現行で製造・販売していますしね自動車というものに対する、国民の愛情が違います
赤字続きで、政府に税金を投入して貰ってようやく維持している様な状況をアメリカ国民の愛情とおっしゃるのですか
自国の自動車産業を維持し続けるというのは、国家戦略においてはとても重要なことですわ
わたくし英国を愛するものとして、アメリカの自動車産業を悪く言うつもりはないのですが
藤宮さんの反撃が始まる
アメリカは、経済の調子が良いときはイギリスの名門ブランドを欲しがりますよねロータスも、ジャガーも、ランドローバーも、一時はアメリカの自動車会社が保有していました
そうですわねそういう時代もございましたわね
ですから経済の調子が悪くなった途端に、英国の自動車ブランドを新興国に叩き売ったのは、当時の持ち主のアメリカですわよねっ
憎悪の眼で、関さんを見る藤宮さん
仕方ありませんわ名前だけしか残っていないイギリスの自動車産業なんて、自動車産業の歴史の浅い新興国ぐらいしか買って下さいませんものっ
関さんは、ニヤッと笑う
まさか大切なアメリカの自動車ブランドを売るわけにはいきませんものそんなの国の魂を売り渡す様なものですからね
IBMのコンピューター部門は、中国に売り払ったくせに
コンピューター部門だけですわっIBMは健在ですっ
関さんと藤宮さんの睨み合いが続く
この人たち、イギリス人でもアメリカ人でも無いくせになぜここまで、対立する
そんな話をしているうちにオレたちの車は、劇場を廻り込んで正面玄関のゲートに到着する
もう、すっかり夜だ辺りは暗い
香月セキュリティ・サービスの制服警備員がやって来る
申請してありますわS3です
関さんが、窓を開けて警備員に告げる
了解です帝都ホテルまでは、2台お付けします
見ると劇場前の道に、香月セキュリティ・サービスのロゴの入った車が2台停車している
1台は普通サイズのセダンで1台は、大きめのライト・バンだ
関さんが了承すると警備員が、停車している車の運転手に手でサインを出した
2台の車のライトが点く
参りましょう
関さんが、車を発進させる
オレたちの車が、香月セキュリティ・サービスの2台の車に挟まれる形で車列を組む
先導車はセダンの方
ライト・バンは、後ろから付いてくる
こうやって3台でまとまって走れば帝都ホテルまでの道程での危険は減るだろう
心配そうな顔をしている瑠璃子さんたちに、みすずが微笑む
帝都ホテルまでは、そう遠くはありませんし
どれくらいの距離なの
申し訳無いがオレは、そんな高級ホテルなんて行ったことが無いから
どこにあるのかだって知らない
お台場ですわこの時間でしたら、15分くらいで着くと思います
ああ、東京湾の埋め立てエリアか
最近、たくさん高級ホテルができたっていうから、帝都ホテルもその一つなんだろう
運転席で関さんが呟く
どうしたんですか
さっきの車論争に負けて、ブスッとしていた藤宮さんが警護人の顔に戻る
先導車が、予定とは違うルートに入ったのよ
予定と違うルート
しかしオレたちの車は、前後を香月セキュリティ・サービスの車でぴったり固められている
すぐ後ろから、ライトバンが追い掛けて来ているから先導車に従って、オレたちの車も曲がらざるえない
何かルートを変更せざるえない事情が起きたのかしら
関さんが、首を捻る
それなら、わたくしたちにも連絡されるはずですが
藤宮さんも、不思議そうな顔をしている
何やら、胸騒ぎを感じる
変だなと思ったら、すぐに対応しろとマルゴさんは、オレに言っていた
うまくいっているという感覚は、間違っていることもあるが
おかしい、変だと思った感覚は絶対に、間違っていない
後は違和感の原因を探せ
関さん、藤宮さん
オレは、ハッとして口を開いた
どうなさいました
前の車も後ろの車も、何か人がたくさん乗っていませんか
前方の先導車は、後部座席にも3人乗っている
後ろのバンも、人がびっしり乗っている様に見える
警備する場所が、劇場から帝都ホテルに変わるから警備員の輸送も兼ねているんじゃないのかしら
関さんが、そう言うが
みすず様と瑠璃子様の移送の警護車輌で、そんなことはありえません
藤宮さんが答える
重要人物の警護車輌の乗員は、専門の訓練を受けている警備員しかなれません一般の警備員を同乗させることなど、ありえません
さっきり劇場で警備員の中に敵が入り込んでいることが判りましたよね
そいつらって香月閣下とオレたちが劇場を出発したら、もう劇場には用無しですよね
香月閣下とミナホ姉さんたちは、すでに車列を組んで帝都ホテルへ行った
オレたちは、遅れて帝都ホテルに向かっている
もう劇場内には敵がターゲットにしている人間は残っていない
前後の車わたくしたちが劇場を出る前から、路上で待機していましたよね
藤宮さんが関さんに言う
乗員が、入れ替わっている可能性がございますわね
関さんが呟く
オレたちの前後を抑え込んでいる2台の車は劇場内に潜入していた、敵が乗っている
関さん何人乗っていると思います
後ろのバンの後部座席が見えないですけれど軽く十人は越えてますわね
また、随分潜り込まれたものですね
これはかなり前から浸透された可能性があるわ
今回の突発的な、シザーリオ・ヴァイオラ来日とは関係無く
それ以前から香月セキュリティ・サービスに、多数の敵が潜り込んでいた
となると敵の狙いは、閣下の暗殺でしょうか
みすず様、瑠璃子様の拉致かもしれませんわ
となると今、起きているのは、敵の計画のメイン・イベントだ
いずれにせよこのまま敵の車に付いていくのは、得策では無いと思いますが
藤宮さんが言った
そうですわね行き着く先は敵の巣ですものね今のうちに自力で脱出するしかありませんわね
関さんも覚悟を決める
車は夜のオフィス街を走っている
幸い、通行人は一人もいない
ここなら、多少の騒ぎになっても一般の人たちには、迷惑はかからない
一か八か脱出を試みますみなさん、シートに捕まっていて下さい舌を噛みますから、口は閉じていて下さい
関さんが、車内の人物に告げる
まもなく3台の車は、交差点に入る
先導車は直進した
関さんは大きくハンドルを回して、左折しようとする
後ろからライトバンが急加速して、オレたちの車のお尻にガンッとバンパーをぶつけるっ
曲がっている時に、変な角度で車をぶつけられたから
オレたちの車は、押されてスライドするッ
ぐっ
オレは踏ん張って耐える
みすずや瑠璃子さんたちも、眼を瞑って必死で耐えていた
ドガッ
車は交差点の歩道に乗り上げて止まった
下手くそすぎますっこんなことなら、わたくしが運転するべきでしたっ
藤宮さんが、関さんに怒鳴る
あー、絶対にボディに傷が入ったわぁっ新車なのにぃぃぃ
関さんは、怒りを敵に向けて誤魔化す
その間に香月セキュリティ・サービスの2台の車が、オレたちの背後を塞ぐ
バックでは脱出できない
歩道を突っ切りましょうそれしかないですわ
と、藤宮さんが提案する間に
2台の車から警備員たちが降りてくる
そのうちの何人かは銃を持っていた
サッと敵の一団が、オレたちの車を取り囲む
もうっ関さんが、ボヤボヤしているからですっ
わたくしっ、ボヤボヤなんてしておりませんわっ
怒鳴り合う二人
もう、こうなったら仕方ありません
藤宮さん何とかしてきて下さいなっ
何とかって
わたくしですか
その粉砕ステッキで、敵を攪乱して来て下さいその隙に、わたくしたちは脱出致します
関さんは、平然とそう言った
わたくしは、どうなるんですか
それは、独力でどうにかして下さいわたくしたちは、ここから脱出するので精一杯ですから
藤宮さんが車から降りて、あの銃を持っている人もいる十人以上の敵と一人で闘って
車が抜け出せる状態になったら、藤宮さんを置き去りにして全速で脱出するってこと
わたくしインドアでの闘いの方が得意なのですが
うん藤宮さんの闘い方は、基本は剣道だから屋外での銃を持った敵との戦いは苦手だろう
今は、そんなことを言っている場合では無いでしょう
関さんが突っぱねる
でしたら、車の運転はわたくしが致しますから敵の攪乱は、関さんにお任せします
わわたくしが
閣下の直衛警護人に選出された関さんの実力存分に発揮して下さい
関さんが、ハンドルにしがみつく
これはわたくしの車ですからっ
だから何ですか
だから、あなたが行きなさいよっ
二人の女性警護人が、いがみ合っている間に
藤宮さんの側の窓がノックされた
銃を持った男が、藤宮さんに言う
開けろ
すでに、車は敵に包囲されていた
瑠璃子さんと美子さんは抱き合って、震えている
みすずは、まだ平然としていた
美智は、ジッと様子を見ている
ほら藤宮さん、お呼びよ
関さんが、ニッと笑ってそう言った
はぁ仕方ありませんね
藤宮さんが、ドアのロックを解除する
今、出ますわ
ガチャリとドアを開けた瞬間
藤宮さんのステッキが、銃を持った男の喉を突くっ
グエエエッ
吹っ飛ぶ、男
サッと車の外に転げ出る藤宮さん
車のドアを閉めた瞬間関さんが運転席から、再度、ドアをロックする
この車の装甲でしたら、敵の銃弾は貫通致しません車内に居る限りは、安全でございますっ
関さんが、叫んだ
タァァァァッ
その間に藤宮さんのステッキが、二人目を倒す
銃を持った男が、何とか藤宮さんを狙い撃とうとするが
藤宮さんは、巧みに敵の群れの中に飛び込んで狙いをつけさせない
そうなると、間合いの長い武器を持っている藤宮さんは強い
あっという間に、数人をのしてしまう
もう、あの子、敵を右に引きつけてくれたら左側から車が出せますのにっ
関さんは、藤宮さんを置いていく気満々のようだった
藤宮さんのステッキが、五人目の敵を屠った時
ダダダダダダダダッ
銃弾の雨が藤宮さんの足下に
藤宮さんは、身体を翻してオレたちの車の陰に飛び込む
カンカンカンカンッ
車のボディが弾丸を跳ね返す
さすが特注車
みすずも、瑠璃子さんたちもシートベルトを外して、身を伏せている
もちろん、オレと美智も
リムジンの床に身を寄せ合う
防弾ガラスと判っているけれど銃撃を受けるのは、やっぱり怖い
ああーんっわたくしの新車がぁぁ
関さんだけは、絶叫しているが
連続した銃声が止まる
顔を上げ防弾ガラス越しに、外を見ると
バンから降りて来た男が、自動小銃の弾倉を詰め替えている
あんな物まで持って来ていたのか
これでは、藤宮さんも迂闊には動けない
おらぁぁ諦めて、出て来いっオレたちは、お嬢様方に用があるんだぁぁ
自動小銃の男がオレたちに向かって叫ぶ
ああ、美子
る、瑠璃子様
瑠璃子さんたちは、すっかり怯えて抱き合ったまま、震えている
瑠璃子さんに、声を掛ける
怯えながら、瑠璃子さんがオレを見る
大丈夫ですきっと大丈夫ですから
オレは瑠璃子さんの手をしっかりと握る
はい大丈夫ですよ
その手の上にみすずが、手を重ねる
美智も、手を重ねてくれた
皆様
最後に、美子さんの手が重なる
4人で手を重ねて見つめ合う
絶対に平気です敵は、人質としてみすずと瑠璃子さんを必要としています無茶なことはしてこないでしょう
車ごと、オレたちを爆破するとかオレたちを撃ち殺すとかは、しないだろう
ただ敵に捕まった場合
オレや関さんたちは、その場で殺される可能性はあるけれど
みすずや瑠璃子さん、美子さんは傷付けられることは無いと思う
多分美智も
美智は、瑠璃子さんたちと同じ名門女子校の制服を着ているし
見た目は、小柄な可愛い女の子だ
瑠璃子さんたちの友人の名家のお嬢様にしか見えない
美智お前は、ギリギリまで正体を明かすなみすずや瑠璃子さんを守ることに集中しろ
オレがそう言うと美智は
判っておりますしかし、その前に助けが来るはずです
助けですか
瑠璃子さんは、怯えたままそう言う
はい、わたくしの父が援軍を送って来ているはずです
美智が強い眼で、瑠璃子さんを見る
どうか、わたくしの父を信じて下さいませ
遠くから、甲高いエンジンの音が複数聞こえてくる
何かが、こちらに近寄って来る
間違いない助けが来たんだ
何という、ベスト・タイミング
さすがは、工藤父だ
オレが、スッと顔を上げて防弾ガラスから外を覗くと
道の向こうから、こちらにやって来るのは
3台の3輪バイクだった
確かトライクって、いうんだっけ
3台のトライクに半裸の女性が、3人乗っている
トライクには、何故か旗が翻っていた
それぞれのトライクのハンドルの前にはバッファローの角が括り付けてあったり、、虎やパンダの頭を模していたりする
どきな、どきなどきなっ
キャッホー
闘いのお時間よーんっ
訳の判らないことを叫びながら、乱入してくるトライクの女たち
何だ、お前たちは
自動小銃の男が、そう叫ぶと
何だとは、何だっ
一番右の半裸の女が、そう叫ぶと
トライクのフロントの虎の口が開いて
火を吹いた
ブァァァァァァァァァァオゥゥゥゥッ
か、火炎放射器
う、生まれて初めて見た
夜の闇の中を噴き上がる火焔が、オレンジ色に染めていく
うわわわわっ
突然、放射された火焔に男は驚き、小銃を落としてしまう
いや敵も味方も、全員呆気に取られていた
ぎゃはははははっ
誰もが息を呑む状況に合って三人の女だけが、下品に大声で笑う
みんな20代半ばから、後半に見える
ロングブーツに、ホットパンツ
太もも丸出し
おへそも丸出し
右のリーダーらしい女性は、豊満なバストを黒い極小ビキニに隠している
真ん中の女性は、同じビキニを着けているが隠していない
ビキニの紐がしばっていないので乳首丸出し
一番左の女性はなぜか、剣道の胴を、裸身に直接着ていた
三人とも首に派手な色のマフラーを巻いて
背中に、紐で日本刀を差している
間違いない
工藤父の部下だこりゃ
よりによって、あの3人なんてお父様の馬鹿
美智が呟いた
我が名は、バービー
リーダー格の女が、叫んだ
我が名は、ルビー
真ん中の女も、叫ぶ
あたしは、番場よーんっ
剣道の胴の女が叫ぶ
何で、バービー、ルビーで最後が番場なんだ
いや、工藤父のところの人に突っ込んでも意味がない
三人揃ってバンバルビー3
ポーズを決める3人のお姉様たち
ほらもう、どうしようもない
暑いです死にそうです
ダンガイザー3て何でしたっけ
242.ファイトバンバルビー3
行くわよーっ
オオーッ
そしてバンバルビー3の戦闘が始まる
ルビーちゃん
あいよっ
ルビーと呼ばれた、おっぱい丸出しのお姉さんがトライクのシートからショットガンを取り出す
暴動鎮圧用のゴム弾だけど、こいつは痛いわよーんっ
何の躊躇もなく、敵に向かってブッ放す
バミュゥゥゥゥンッ
ドンガッシャ
バュゥゥゥゥンッ
銃を持っている敵を優先して、ショットガンを連射するルビーさん
余りの連射のスピードに、敵は対応できない
どはははっ
その間隙を突いて、リーダーのバービーさんと番場さんが敵の中へ飛び込む
番場さんは、長い金属棒の先に鉄の鎖と鋼球の付いた武器を持っている
バービーさんは、何と素手だ
日本のカルフォルニア・ドールズと呼ばれた、あたいの多彩な技受けてみなさーいっ
そう叫びながら、バービーさんは手近な敵に組み付く
両手で敵に掴み掛かりこれって、プロレスの技だよな
一方、番場さんは鋼球の付いた鉄棒をブンブン振り回している
あれは、フレイルという武器です
棒を振るった後、ワンテンポ遅れて鋼球が敵を攻撃しますその時間差で、攻撃を避けるのが大変難しい武器ですしかも鉄鎖に繋がれた鋼球は、遠心力で加速した状態で相手の身体の裏に廻って背面部を直撃しますから、与えるダメージはとても大きいですその代わり、熟練するのがとても難しい武器なのですが
番場さんは、その使い勝手が難しいフレイルを器用に扱っている
敵を一人一人確実に打ち倒していく
大声でこんなことを叫びながら
はじめまして、みなさまあたくし、番場でございまーすっ
また一人敵が、フレイルの鉄球でノック・アウトされる
もちろん番場というのはコード・ネームでございまぁぁすっあたくし、本名は木下涼子と申しますっ水瓶座の24歳でーすっ
何故か、自己紹介しながら番場/木下涼子さんは、フレイルで敵を蹴散らして行く
木の下の涼しい子両親が、こんなに素晴らしい名前を付けて下さったのにどーして、この麗しいあたくしが番場なんでございましょう
仕方無いだろっあんたが番場でないと、チーム名がバンバルビー3にならないんだよっ
そう叫ぶリーダーのバービーさんはまだ、最初に組み付いた敵と闘っていた
というかコブラ・ツイストを掛けていた
だあってぇぇぇ、お姉様たちはバービーにルビーでしょだったら、あたくしもバンビちゃんとかになるのが普通じゃないですかぁぁ
番場さんの怒りの鋼球が、敵の頭に炸裂するっ
あんたがバンビだとチーム名がバンビルビー3になっちまうじゃないかっ
ルビーさんが、そう言いながらショットガンで逃げ出そうとする敵を威圧していた
バンバルビーだってバンビルビーだって、大して変わりませんわよっ
うんオレもそう思う
というかわざわざコードネームとかチーム名とか、付ける必要があるのか
とにかくっあたしたちとチームを組んでいる間は、あんたは番場よっ番場蛮子よそう決まっているんですからねっ
バービーさんは、そう叫びながらまだ最初の敵と闘っている
闘っているというか一方的に、プロレス技を掛けている
もおおおっお姉様の意地悪っっ
ブンブンと振り回されるフレイルの鋼球
はいはい、意地悪でいいからっ
バービーさんは、ずっと同じ敵に3種目のプロレス技を掛けていた
今は、地面に倒した敵に馬乗りになってキャメル・クラッチをかましている
相手の喉を締め上げながら
今年の2月14日あんたは何をしていたぁぁ
く、苦しい
答えなさいよぉぉぉ
強く敵を締め上げるバービーさん
そ、そんなの覚えていない
バレンタインよっ覚えていないわけがないだろっ
オレは、ずっと独り身だぁぁ
そうかっなら、あんたにはもう用は無いっっ
グギッと敵を締め上げる、バービーさん
敵の男は失神する
次は、どいつ
ようやく最初の敵を倒して、立ち上がるバービーさん
いやルビーさんのゴム弾・ショットガンと
番場さんのフレイルの攻撃でもう、敵は残っていない
彼女たちが来る前に藤宮さんが4人くらい倒していたし
ギュルルルルンッ
敵のバンのエンジンが、うなりを上げる
車内に誰か残っていたのか
そのまま、ターンして逃げようとする
お任せっ
小銃から身を守るために、オレたちの車の陰に隠れていた藤宮さんが飛び出す
ハァァァァッッ
特殊金属の粉砕ステッキを正眼に構え斜め後ろから、敵の車に突撃していく
チェストォォォォッッ
ズコォォォッ
藤宮さんのステッキは運転席のドアを貫通して、中の運転手を討つッ
ぐぇぇぇぇっ
叫び声と共にバンは、止まった
藤宮さんは、ドアに開けた穴からズボッとステッキを引き抜く
ふぅ
ステッキを2、3回軽く振ってみる、藤宮さん
さすが特別製のステッキ今の衝撃でも、曲がったり、変形したりはしていないようだ
なかなかやるわね、あんた
バービーさんが、藤宮さんを見る
うんルックスも良いし、技も切れるどうあんた、あたしたちのチームに入らない
こんなところでスカウト活動を始めちゃったよ
そうだねコードネームはポン太ポン太にするわそして、あたしたちはバンバルビー3からバンバルビーDEポン4にクラス・アップするんだわ
バービーさん、そしたらその人に番場をやって貰いましょうよあたくしがポン太でいいですからぁ
番場さんが、ワクワクした顔でそう言う
そんなに番場が嫌なんだ
うるさい、黙れ、貧乳あんたは、死ぬまで番場なんだよこの番場蛮子いい加減に諦めなっ
バービーさんは、番場さんには酷い
貧乳じゃないもんっそりゃあ、バービーさんやルビーさんみたいな豊乳じゃありませんけれどぉあたしだって、Dカップはありますからっ
番場さんは、自分の胸を覆っている剣道の胴をコンコンと叩く
だいたい、バービーさんたちはマイクロ・ビキニであたくしだけ、素肌に剣道の胴ってどうかしてると思いますぅぅこれって、差別ですよおっ
いいんだよ、あんたの面白味の無い乳は、防具で隠しておいた方が世間のためなんだよどうせ、赤紫色で直径30センチの楕円形の乳輪なんだろっ
そんな変な乳輪じゃありませんっ
その点、ポン太はうん、乳は問題なさそうだねあんたには、あたしたちと同じマイクロ・ビキニが似合いそうだ
バービーさんは、藤宮さんの胸をエロ親父の眼でしげしげと見つめる
ここまで絶句していた藤宮さんは
申し訳ありませんがわたくしは、どなたともチームを組むつもりはございませんから
不快感を丸出しにして、そう告げた
ええーっ、何でぇぇ
驚く、バービーさん
そうよっ、これはビッグ・チャンスなのよっ
番場さんも、藤宮さんに翻意を促す
そりゃ、無理ですよリーダー
ずっとトライクの上で、ニヤニヤ笑いながら状況を見ていたルビーさんが
ショットガンを片付けながら、言った
え、何でよルビーちゃん
その女、藤宮麗華じゃないですか香月セキュリティ・サービスのトップ・エリートの一人の
あっれぇ、そうだったかしら
あっ、そう言えばそうかも
番場さんが、藤宮さんをジロジロと見る
うんバービーさんは、判っていてわざとやっていて
番場さんは天然なんだな
給料があたしらより高いらしいですよ
ルビーさんは、藤宮さんを見下ろして笑っている
そりゃ、仕方無いわよ工藤のダンナはシブチンだからね
バービーさんは、そう言う
でもさすがに倍も違うってことは無いでしょ会社が大きかろうが、警備員なんて碌な商売じゃないんだからさそれにあたしは、やっしぱり諦められないんだよねあたしさ、最終的にはバンバルビーを最強の女の子チームにするのが夢なのよそうね、48人くらい集めてさ
48人の女チーム何だ、そりゃ
わたくしは、そういう話には興味ございませんので
藤宮さんは、ハッキリと断る
そう言わないでさぁポン太ちゃあーんっ
バービーさんは、藤宮さんに擦り寄る
いい加減になさって下さいっ
車から、美智が降りてバービーさんに言う
あら、シブチンのところの貧乳娘じゃないあんた、居たの
バ、バービーさん
あんたも腕は良さそうだけどその貧乳じゃねえもうちょっと、おっぱいが育ってからいらっしゃいそしたら、うちのチームに入れてあげるから
もう、バービーさんっ美智ちゃんにそういうことを言うのは、可哀想じゃないですかっ美智ちゃんだって、好きで貧乳をやっているわけじゃないんですよっだいたい、美智ちゃんは、まだ子供なんですからっ
天然の番場さんが美智を見る
えっと美智ちゃん、今、小学何年生なんでしたっけ
美智はジロッと番場さんを睨む
中学3年になりました
中3だったらあたし、Dカップくらいあったわよ
バービーさんが、言う
あたしは、Fだったわーん
と、ルビーさん
ごめんなさい中3の時は、あたしも、もうCでした
番場さんが、小声で言う
でポン太ちゃんは
藤宮さんは答えない
確かに、わたくしは貧乳ですし、お父様はシブチンかもしれませんしかし、皆様もお父様の配下でいらっしゃるのなら、節度ある振る舞いをなさって下さい
美智が、静かに言う
節度節度って何ですか、バービーさんっ
ドロップと間違えて、おはじきを舐めることよんっ
それ節度やない節子や
バービーさんとルビーさんが、ギャハハと笑う
あたしたちはただのブッ壊し屋だしさ正直、お堅いことは苦手なんだよ男どもをブン殴るのが金になるってのが楽しいだけだしねメンドくさいことは、やりたくないんだよっ
オレは辺りの惨状を見る
敵は、全員失神していた
普通なら、何人かは捕らえて情報を聞き出したりするよな
そういう発想は無いんだ
とにかく暴れて全員、ブッ飛ばすことしか考えていない人たちなんだ
貧乳のお嬢さん見て思い出したわ工藤のダンナに報告しないと
バービーさんが、携帯を取り出す
もう、バービーさんこの間も報告しないで帰っちゃって、ビール飲んで大騒ぎしてたって、工藤さんに怒られたばかりじゃないですかぁ
あの時は、一人ターゲットを見落としていたんだよね
工藤さん、カンカンに怒ってましたよね
しょうがないよリーダーが、今日はもう仕事は終わりだって飲み屋に飛び込んじゃったんだからさ
番場さんとルビーさんが、何か恐ろしい話をしている
もしもーし、工藤のダンナぁこっちは終わったよーんっ敵は全員、ブッ飛ばしたから、回収よろぴくぅで、あたしら、これからどーすればいいの
電話しているバービーさんの口調は、軽い
えー、超過勤務ぅぅま、いいけどさ臨時手当3倍ねうんこの車と一緒に帝都ホテルに行けばいいのねっオッケーよーんっじゃあねーっ
この3人も、オレたちと帝都ホテルへ
工藤父は、この戦闘力のみの3人の力を必要している
電話を切るバービーさん
何かさこの車と一緒に、帝都ホテルへ来いってさ
バービーさんが、不機嫌な顔で言った
帝都ホテルって、一流ホテルですよねぇいいんですか、あたくしたちみたいのが乱入しても
その辺は、工藤のダンナに責任を取って貰えばいいさ
ルビーさんが、番場さんに言った
何かさ、ホテル全体が戦場になる大バトル大会だってさ
あ、何か楽しそうですね
敵を倒すためなら、ホテルの備品も壊し放題だって
うん面白そうだ
シザーリオ・ヴァイオラとか、白坂本家の刺客とかこの人たちには、関係無いらしい
とにかく思い切り闘って、お金になればそれでオッケーなんだな
もちろんポン太ちゃんも行くんでしょ
そう言われた、藤宮さんは
一応、お伝えしておきますが
三人をギロッと見つめて言う
香月セキュリティ・サービスでのわたくしの年俸は、3600万円です
仲間扱いされるのが嫌だってのは判るけれど
そこで、年収を言うんだ藤宮さん
バービーさーんっポン太ちゃんの年収、あたしの20倍ですよぉぉぉ
騒ぐな番場っあたしだって、10倍近く離されているっ
数倍どころか、10倍とはあたしたち、3人まとまっても敵わないみたいですね
ちっくしょう、ポン太ちゃんなんて嫌いだぁぁっ
バービーさんは、自分のトライクに向かう
お待ち下さい
何よっお金持ちが、あたしたちに何の用っ
稼ぎが10倍も違うと知った途端バービーさんは、藤宮さんに冷たくなる
工藤さんは、わたくしたちと一緒に帝都ホテルへ向かうようにご命令なさったのですね
そうよ並走して行くから、遅れないで付いていらっしゃい
藤宮さんは、バービーさんたちにスッと頭を下げるとオレたちの車に戻って来る
美智も帰って来た
二人が、車に乗り込む
あの方たちには、護衛の仕事は無理ですが一緒に居る限りは、襲撃者が現れれば勝手に撃退してくれるでしょう
藤宮さんはそう言った
確かにバービーさんたちには、護衛人に必要な配慮とか心配りというような心の感覚は欠けている
それが判っているから工藤父は一緒に帝都ホテルまで来いとだけ命令を下したのだろう
とりあえずお疲れ様
関さんが、藤宮さんに言った
次は関さんが行って下さい敵との戦いはともかく、ああいう方々との交流はわたくしには合いません
あら、奇遇ねわたくしも、ああいう人たちは苦手なの
関さんは苦笑する
ところで、藤宮さんあなた、ご存じ
わたくしは年俸4200万円よ
関さんが微笑む
やっぱり閣下の直衛警護人だと、お手当の付き方が違うのよ
藤宮さんが、グッという顔をする
警護人の世界の評価は金銭が全てでは、ございませんから
そうねじゃあ、あなたはあちらのチームへ移籍する
関さんが、クククと笑った
ねポン太ちゃん
その名前では呼ばないで下さい
そうそう、さっきあなたがステッキで穴を開けた車だけれど
関さん
盗まれたとはいえ、あの車は香月セキュリティ・サービスの資産ですからね車の修理は、あなたのお給料から弁償していただきますわよっ
どうぞ、ご勝手に
相変わらずこの二人は、仲が悪い
発車致しますわ
関さんが歩道に乗り上げた車を、車道に戻す
失神している男たちを残して再び、夜の道へ
オレたちのピンク色のキャデラックの横を
3台のトライクが走る
バンバルビー3のお姉さんたちは風にマフラーをなびかせて
エンジンの揺れに、お姉さんたちの豊乳がブルブル揺れている
ノーブラのルビーさんの生乳が、特に激しく
旦那様あんな方々の胸に見とれるのはやめて下さい見るのなら、みすずの胸にして下さいっ
みすずが怒っている
いや、ごめん別に胸に見とれていたわけじゃないんだけれどさ
どういう方々なんですあの人たち
瑠璃子さんが、心配そうに言った
闘うことそれも攻撃することばかりに、特化してしまった方々なのです
闘いの技術を研鑽し日々、敵を叩きのめすことばかり考え続けていたのでちょっと、頭が変になってしまっているのです
美智それは言い過ぎだろう
いや、ほぼ正解だけど
まあお可愛そうに
瑠璃子さんは、言った
ですが戦闘能力だけは、一級品な方々です帝都ホテルまでは、無事に辿り着けると思いますわ
ハンドルを握る関さんが、そう答えた
バンバルビー3の3人は、みすずや瑠璃子さんたちには一切興味が無いらしい
オレたちの車を覗き込んだりすることはなく真っ直ぐ前だけを向いて、トライクを疾走させていく
オレたちは、夜のレインボーブリッジを渡りお台場へと向かう
その後は、敵の襲撃も無くオレたちは無事に帝都ホテルに着いた
ここは1ブロックの敷地全てがホテルですし他の建物からは、離れていますお台場に入るルートは限られていますから敵の襲来もすぐに判ります
関さんが、そう説明してくれた
夜だからなのかホテルの周りは、人気が無かった
本日は宿泊客を、全て系列の別のホテルに移しましたホテルの従業員も、最低限の社員以外は、全て休ませています
うんヴァイオラとの闘いに、無関係な人たちを巻き込むわけにはいかない
オレたちの車と3台のトライクはホテルの正面玄関に滑り込む
普段なら、ドアマンやベルボーイが居る辺りには、香月セキュリティ・サービスの制服警備員が並んでいる
もっともオレたちは、それと同じ制服の男たちに襲われたばかりだが
あ、総合警備部の山岡部長も来ている
こちらでお降り下さい
関さんが車を停めた
みすずと瑠璃子さんが礼を言う
まず、助手席の藤宮さんが先に車から降り
瑠璃子さんの側の後部座席のドアを開ける
ふわりと優雅に降りる瑠璃子さん
続いて、美子さん
それからみすず
オレと美智は、その後に降りた
私の部のミスです申し訳ございません
山岡部長が、みすずと瑠璃子さんに詫びる
制服組に敵が紛れ込んでいたこと
2人を送迎する護衛車が、敵に乗っ取られていたこと
山岡部長の責任は重い
あたしも瑠璃子さんも無事ですわ
山岡さんのご処分は、追ってお祖父様がなさると思いますしかし、今は緊急事態です敵の本隊がまだ健在だという状況で辞表を出されたりはなさりませんよね
みすずが、山岡部長に釘を挿す
はい現場放棄は致しません
結構ですわご活躍を期待しております山岡さん
こういう時のみすずは本当に、香月家のお嬢様なんだと思う
気高く強い少女だ
おい、何なんだお前たちは
その横で早速、バンバルビー3のお姉さんたちが、制服警備員と揉めている
ここは一流ホテルなんだぞっそんな格好で入れるはずがないだろっ
あたしたちの格好の何が変だってのさっ
何なんだ、その刀はっ
そうだった3人とも、背中に日本刀を背負っている
あ、これ
ルビーさんが、背中の刀を取る
これは傘よ
傘ぁ
ほらっ
バサッと拡げる、ルビーさん
確かに、傘だ閉じたときに日本刀に模しているだけなのか
あたしのは、孫の手だよ
バービーさんが言った
孫の手
サウナに入った時に、垢すりに使うんだよっ竹べらだよっ竹べらっ
ええっとそんなマンガがあった様な気がする
ええーっバービーさんも、ルビーさんも本物じゃなかったんですかぁぁ
番場さんが、叫ぶ
番場ちゃんあんた、まさか
はい本物の刀ですぅぅ
番場さんが、刀を引き抜く
ギラッと輝く銀色の刀身
本物の真剣だ
周囲の警備員たちが、ワッと驚く
どうしましょうこれ
抜き身の日本刀を持ったまま、右往左往する番場さん
いいから、しまっときなっ
バービーさんが、言った
でもぉ
いいからっ黙ってりゃ、あんたが日本刀背負ってるなんて、誰にも判らないよ
いや今、みんなに注目されていますよ
そうですねぇ
番場さんが、刀を鞘にしまうカチン
みなさぁん、今のは見なかったことにして下さいねぇ
よりによって山岡部長の居る場で、番場さんは笑ってそう言った
あの人たちが来て下さらなければ、あたしたちは敵から脱出できませんでしたわ
みすずが、山岡部長に言った
何者なんです
お父様の配下です
美智が、答えた
工藤のあいつも変な人間を集めてきたんだな仕方無いおい、そいつらは通してやれ
山岡部長が、警備員に指示をする
しかし部長
警備員の一人が、反論する
これはまずいでしょう
その警備員の指す先にはルビーさんの剥き出しの乳首があった
ルビーちゃん、生乳首はダメだってさ
バービーさんが笑って言う
えー、何でよっあたしは開放的で気に入っているのに
とにかく乳首だけ、隠してあげなさい
はーい、姉さん
ルビーさんは、ポケットからニプレスを取り出して、乳首に張る
しかしそのニプレスがなぜかピンク色だから
まるで乳輪のように見える
何か、あたし陥没乳首の女みたいね
ルビーさんが自分の胸を見て、そう言った
そうだわ、これだったら
そう言ってニプレスの上に、何かを貼った
何なんです、それ
番場さんが、覗き込む
ん付け乳首よ
本物の乳首の上に、ニプレスを貼って
そのニプレスの上に、付け乳首って
外見的には、元のままじゃないか
これでいいでしょっ本物は隠しているんだからさっ
ルビーさんは、自信満々にそう言った
まあ、ギャグ回ということで
バンバルビー3は、最初はバラバンバかバラバンバラという名前にしようと思ったのですが
どっちも、すでに存在していました
次にビランビーというのを考えたのですがこれも、もうありました
バンブルビーもすでにあって
最終的にバンバルビー3になりました
ギャグ回は終わりで、次話からは閣下との対決となります
243.ホテルのロビーにて
とにかくホテルの中へ入る
明るく広いロビーは、通常通りの光景だった
フロントには、ホテルマンが立っているし周りのお店も普通に営業している
ホテルのロビーは、パブリック・スペースですし敵がどう侵攻してくるか判りませんので、普段通りの状態にしてあります
山岡部長が、みすずと瑠璃子さんに報告する
ホテルの従業員や、お店の店員さんは
全て、うちの警備員と入れ替えてありますこのホテルは、香月グループの主催する国際会議などでも、よく使いますから普段から、うちの警備員がホテルの従業員に混じって業務していますホテルのカウンター業務も、研修済みですしあちらのお店の品も、問題無く購入できますよ
このホテル自体が香月家のセキュリティ部門に属しているんだ
現在のこのホテルのロビーには、客がほとんどいない
ミナホ姉さんたちは、どこに居るんだろう
まあ外と繋がっているロビーに居るのは、危ないもんな
電話してみようか
あのロビーの端っこの方で、ソファを占拠している一団は
何か異様に派手な連中が、高級ホテルのロビーで弁当を食べているみたいなんだけれど
ん見たことのある黒いスーツに黒帽子の男がいるし
あ、こっちに来る
おう、お前らよく来てくれたなっ
それは工藤父
工藤父は弁当を食い終わったのか、爪楊枝を咥えたまま、バービーさんに声を掛けた
来てやったよっシブチンっ
バービーさんが、工藤父にそう返事する
おい、工藤何なんだ、こいつらは
早速、山岡部長が工藤父に突っかかるが
柳生美都子さんと、西園寺ひろみさんと、木下涼子さんだよ
工藤父は、平然とそう答える
やーねぇ、本名で呼ばないでよっ
あたくしは、本名の方が嬉しいですぅぅ
あたしはルビーでもひろみでも、どっちでもいいけどね
三者三様の反応をするバンバルビー3の面々
柳生美都子ってまさか、あの
驚く、山岡部長
そういう顔をするヤツがいるから、本名は嫌なんだよっ
不機嫌になる、バービーさん
だって死んだって聞いたぞ
柳生美都子なら死んだよ今、ここに居るのはコード・ネーム不死鳥のバービーだからねっ
そう言って、バービーさんは山岡部長の胸を突く
そういうことだわはっきり言って、この3人は1人でお前の10倍は強い3人合わさったら、100倍だ
工藤父は、真顔でそう言った
だが柳生美都子って言えば、壊し屋だろう
ここまできちまえば、純粋に戦闘力のある人間に来て貰った方が良いこのホテルに敵が襲撃して来るのは、判っているんだからよ
うむ
口籠もる、山岡部長
まあ、いいやとにかく、三人ともこっちへ来てくれ弁当用意してあるから
あロビーで弁当を食っている派手な集団は、みんな工藤父が集めた人たちなんだ
オレたちに気付いて、手を振ってくれるのはネコさんだ
オレと美智は、ペコリとお辞儀をする
ふうんネコさんに、ハッピーさんに、ラスカルさんに、ヘルシーさんカールさんに、マサルさんまで居るとはね
バービーさんが、弁当を食べている一団を見て、そう言う
姉さんあれ、ハンバーガーの哲とクレープのマミですよっ月見そばのコスイネンまでいるっ
大騒ぎする番場さん
お前たちも、早いところ弁当を喰ってくれ腹ぺこじゃ仕事にならねえだろ
まさかまた、ノリ弁なんじゃないでしょうね
バービーさんが、工藤父を睨む
安心しろよ今日は、焼き肉弁当も、ハンバーグ弁当もあるコールスロー・サラダ付きだペット・ボトルのお茶も一人2本ずつ持っていっていい
う、嘘っどうしちゃったのよシブチンの工藤ちゃんにしては、やけに気前がいいじゃない
バービーさんが、探る様に工藤父を見る
それだけ、大きなヤマなんだよ
ふうんどれくらいヤバイわけ
最上級だと思ってくれ支払いも、一人2本ずつだいつもより、一桁上の数字で
ヒューそいつは、また大盤振る舞いねさっきブッ倒してきた連中とは、比較にならない
ああこれから、化け物クラスのアメリカ人が攻めてくるんだわ
男のヴァイオラの方はやることにムラがあるし、連れてきている配下の連中も判っている
しかし、女のヴァイオラは
底が知れない
さっきの香月セキュリティ・サービスの警備員に化けていた連中だってどっちの指示で動いていたのか判らないし
ヴァイオラが2チームになったことで予測が立てられなくなっている
あたしの方からの条件は二つよ一つは、工藤ちゃんからの要請は聞くけれど、指揮下には入らないからあたしたちは、独自の判断で闘うリアルタイムでの情報は、送って貰いたいけれど
そいつは構わねえあんたたちが、オレに従うとは思っていねえよその代わり充分な援護はできないからな他のやつらと組ませるには、あんたらは自由人すぎる巻き添えで、ケガさせるわけにはいかないからな
判ってるわよむしろ近くに味方がいると、好き勝手ににブッ壊せないからねっこのホテルのブッ壊しは、どこまでやっていいの
上階に閣下がいらっしゃる閣下に危険が及ばない限りはどこまでもOKだ
ワンフロア、全部ブチ壊しちゃっても
全然オッケービルが倒壊しない限りはなただ、火災は勘弁してくれ
了解それと、もう一つの条件なんだけどね
マジでヤバくなったら番場ちゃんは、現場から撤退させるから工藤ちゃんの方で、面倒を見てあげてちょうだい
えー、そんなぁぁ、バービーさぁぁんっ
そんな番場さんに、ルビーさんが
いや、バービーの判断は正しいと思うねあんたはまだ、最凶レベルの敵と闘った経験が無いだろヤバイと思ったら、すぐに引くんだ足手まといを抱えたまんまじゃあ、あたしたちも命が危ういからね
その真剣な瞳に、番場さんは
わ、判りましたぁぁでも、あたくし、精一杯頑張りますからねぇぇ長ぁぁい眼で見て下さぁぁいっ
あんたは将来的にはうちのセンターをやって貰おうと、大事に育てている子なんだから無理はするんじやないよっ
さっきの戦闘では、番場さんばっかり闘っているみたいにみえたけれど
あれは、教育だったのか
そんじゃあ、まあお弁当タイムにするわよっ
おっー
ネコさんたちの方へ走っていく3人娘
しかしバンバルビー3は、本当に仲が良いな
それに比べて
敵に潜入されたのは、総合警備部の失態なんですからっわたくしの車の修理費用は、山岡部長に請求致しますからねっ
関さんが山岡部長を怒鳴っている
は、はい全て、私の責任として処理させていただきます
谷沢チーフの配下のトップ・エリート警護人である関さんに山岡部長は、ペコペコと頭を下げている
20代の美女に、いい年のオッサンがタジダジだ
だいたい敵に潜入されたのはいつの時点だったんです
関さんが、尋ねる
はい、調査致しましたところ昨年の秋に、中途入社させた社員3名がが潜入工作員だったようです
山岡部長は、そう報告した
その3人の手引きで15人の敵が、うちの警備員になりすましていたようです
その3人は、すで拘束してあります現在、別室で尋問中です
このホテルの警備体制は
一度でも、その3人と接触した可能性のある社員は、現場から外しましたその結果、予定の3分の2の人員で警備するしかなくなりましたが
身内の中から敵が出てくるよりはマシですわよっ
関さんが、皮肉をこめてそう言う
しかし昨年の秋からとなると、穴が大きいですわね
藤宮さんが、穏やかに言った
総合警備部のかなりの情報が流出していると考えるべきなんでしょうね
関さんも、真剣に考えている
今現在、動いているヴァイオラたちの行動が
寧さんについての情報を知った、ここ数日に突発的に起きたことでないとしたら
状況は、深刻だ
敵は、長期的な計画で今日の襲撃の準備をしてきている
これは、香月セキュリティ・サービスに対する挑戦いえ、敵の狙いは香月家そのものなのかもしれませんね
いずれにしても、閣下にご采配いただかないと
関さんと藤宮さんが山岡部長を見る
閣下は今、どちらに
ご案内します
何階のどの部屋に居るのかは口にはしない
お願いしますわみすず様、瑠璃子様、お待たせ致しました参りましょう
藤宮さんが、2人に声を掛ける
瑠璃子さんと美子さんはセットだから美子さんも付いて行く
オレと美智も後を追おうとすると
待って下さい何なんですか、この子らは
山岡部長の言葉に関さんが
この少年も連れて来るようにと閣下からご命令を受けております
みすずも、振り向き
美智はあたしの護衛です問題はありません
そ、そういうことでしたら
納得する山岡部長
美智が工藤父を見る
わたくし姉上を倒してしまいました
ああ悦子から聞いたよ悦子はカンカンに怒ってるオレとお前の顔は、しばらく見たくないってさ
気にするなどうせ、こうなると判っていたよ遙花は競技者としてはそこそこだが実戦には向いていない遙花を香月セキュリティ・サービスに引っ張り込もうとした、悦子が間違っていたんだお前のせいじゃない
逆にお前は、実戦しかできない娘だもんな悦子だって、それが判らないような女じゃないはずなんだがあいつは、最近、すっかり眼が曇っているから
ママ上様はわたくしのことが、お嫌いなんだと思います
姉上の様にわたくしは、ママ上様に従順ではございませんでしたから子供の頃から
仕方無いさ親子にだって、相性というものがある
寂しそうな美智
オレたちは左右から美智の手を握る
オレたちの顔を見上げる美智
お母様やお姉様のことは気にしないで
うんお前には、オレたちが付いているんだからな
ギュッとオレたちの手を強く握りかえしてくれた
お父様わたくしは今、人生の中で一番充実した時間を送っております生涯を懸けてお守りする主を得て美智は幸せです
そうかならいいお前はお前の道を突き進め
美智は、燃える眼で父に宣誓した
そのまま、工藤父だけをロビーに残して
オレたちは、山岡部長の後に付いてエレベーターへ
17階で一度降りて別のエレベーターへ
幾ら大型のエレベーターだからって
山岡部長+関さん+藤宮さん+みすず+瑠璃子さん+美子さん+オレ+美智だと、少し狭い
あ、みすずがオレに抱きついて来る
美智も、背中からオレにぺったりくっ付いてくるし
そうやって、8階まで降りてまた、違うエレベーターに乗り換え
最終的に、23階で降りた
閣下の居場所を特定されないためにここまでやるのか
エレベーターを降りると山岡部長が先を進む
追う、オレたち
ご主人様、フロアの様子をよくご観察なさっておいて下さい
美智が、オレに耳打ちした
うん
ワインレッドのカーペットの敷かれたホテルの廊下
階段はあっちで非常口はそっち
トイレがここで
フロア上の配置を、頭の中に叩き込んでいく
このお部屋です
2307号室の前で山岡部長は立ち止まった
コンコンと、ノックする
ガチャッとドアを開けて出て来たのは渚
まあ随分、遅かったわねえ心配してたのよ
そして真緒ちゃんが、ドアから顔を出す
えへへへっ待ってたよおっ
どうして、ここに居るの
渚が微笑む
そんなのあなたとみすずが心配だからに決まっているでしょ
渚はオレの女であり
みすずの初代飼い主だ
あたしも自分の車でここまで来ようかと思ったんだけれどそれじゃあ、中に入れて貰えないでしょだから、香月様のお車に乗せていただいたの
閣下の車に
渚は、どうして克子姉の車に同乗して来なかったんだ
克子姉の車なら渚と真緒ちゃんの二人は、問題無く乗れたはずなのに
あたしの車は劇場に置いて来たわ明日にでも、取りに行かないとね
キーをお預けいただきましたら、私の部下がこちらまで回送致しますが
山岡部長が、そう申し出る
そうしていただくと、とてもありがたいんですけれど香月様が、山岡さんのお仕事は信用できないっておっしゃっているのよ
渚の言葉に失態続きの山岡は凹む
その様子で判った
渚は山岡部長に、自分を閣下の愛人だと思わせようとしている
渚が黒い森の所属であったことは古い顧客しか知らない
みすずをわざと山岡部長の前で、呼び捨てにしていたし
自分が閣下やみすずと特別な関係であることを、山岡部長に示しているんだ
だからわざわざ閣下の車に乗せて貰った
総合警備部でなく、わたくしの部隊のサポート・メンバーにさせましょうか
関さんが、そう言ってくれた
まあ、助かるわお願いします
渚が車のキーを取り出す
劇場の駐車場の1階の右の奥に置いてあります赤のプジョーですから、すぐに判ります
お預かりしますお車は、こちらのホテルの地下駐車場へお回しします
いえここでは困るわここはもうすぐ戦場になるんでしょせっかく運んでもらって、壊されるんじゃ困りますからプラザホテルの駐車場の方に廻して下さいあたし、そこのお仕事をしていますから管理の方に花屋の片貝の車って言っていただければ判りますから
かしこまりましたわ
関さんは、渚の鍵を受け取る
山岡部長は、面目丸潰れだ
ねっ、ママ早くっ香月さんが、早くって言っているよっ
真緒ちゃんが、閣下の伝言を運んでくれる
ああ、そうねっごめんなさいみなさんお入りになって
その部屋は会議などのために貸し出している特別室の様だった
ベッドやバスルームは、付いていないらしい
二部屋続きで閣下は奥の部屋に居るようだ
えへへへっ早くっ早くっ
真緒ちゃんが、ニコニコしながらオレたちを急かす
渚が、奥の部屋のドアをノックする
閣下の声だ
皆様、ご到着なさいましたわっ
渚の声に、閣下は
渚がドアを開ける
ドアの向こうは
20畳ぐらいの大きさの部屋だった
本当に会議室っぽい
グレーのパンチカーペットの上に椅子が並んで居る
ドアの向こう側に、机が置かれていて
そこに閣下が座っていた
何かまるで、高校の面接試験会場みたいだった
閣下の後ろには谷沢チーフが控えていた
その横に、ちょこんと座っているのは
みすずの婚約者である司馬貴彦だ
司馬貴彦は、恐ろしい眼でオレを睨んでいる
ご苦労山岡くん
最初に閣下は山岡部長に声を掛けた
君は自分の仕事に戻り給えこれ以上、私を失望させることの無いように願いたいねえ
はっ申し訳ございません
深く頭を下げる山岡部長
人間というのは、間違いを犯す生き物ですだから、失敗することについて私はとやかく言うつもりはありませんただ似たような失敗を何度も犯す人間に関しては、私はその仕事の適性を疑います
はい二度と同様のミスは繰り返しません
閣下は、恐縮する山岡部長を無視して谷沢チーフを見る
谷沢、お前の方でフォローしてやりたまえ
谷沢チーフはスッと一礼する
今夜の来客には粗相の無いようにどんな相手でも、きちんと歓迎してあげるんだよ
はい準備は整っております工藤のやつも、良いメンバーを揃えてくれました
彼は今夜の様な時のために居る人材だ思い切り活躍してもらおう
あいつには、閣下からのお言葉としてそう伝えます
谷沢チーフは、永年仕えている執事のように恭しく主に答えた
では、現場へ向かいたまえ私の警護は、関くんと藤宮くんだけで良い
では閣下、失礼致します
スーッと、足音を立てずに退室していく谷沢チーフ
それから閣下は、汚いものを見るような眼で、山岡部長を見る
まだそこに居るのかね、山岡くん君も、君の仕事に戻り給え
あの、私は
早く下がりなさい君がそこ居たままでは彼女たちとの本題に入れないよ
閣下はみすずたちに視線を戻す
はっ失礼致しますっあの精一杯、職責を全う致しますどうか、ご期待下さい
山岡部長が、カチンコチンになりながら部屋を退出して行く
体育会系の人はいいねえあんまり、頭で深く物を考えないようだからちょっと意地悪く、脅してやるだけで命懸けで頑張ってくれるようになる
閣下は、そんな嫌味を言った
君たちみたいに、一々、言葉の裏の裏まで読もうとする相手だと会話をするだけでくたびれるよ
関さんと藤宮さんを見て閣下は、そう言った
まあ君たちの様な美女と、そういう知的な対話を楽しむことが、私のボケ防止策なんだがね座りなさい、君たち
閣下は椅子を勧めてくれる
関くんはそこ藤宮くんはそこ瑠璃子と美子くんは、そっちの席みすずとお前は、そこだ
オレだけお前かよ
まあ、いいけれど
あたしたちは、被告席ですかお祖父様
そう言えばこの椅子の並びは
お祖父様が座っていらっしゃる場所が裁判官の席だとしたらあたしたちの席は被告人の席関さんが検事で、藤宮さんが弁護士ですか瑠璃子さんと美子さんは、証人ということですか
不快そうにみすずは、言う
ちょっと違うな
閣下は答えた
瑠璃子と美子くんは傍聴人だよ二人は、この裁判には関係無いからね
やっぱり裁判のつもりなんだ
それから、二人の美女はあくまでもオブザーバーだ検事はここにいる貴彦くんにやって貰うそして
みすずお前たちには、弁護士はいない
毎日、汗だくで働いていますヤバイです
冷えたビールとか飲みたいですけれど
この作品が完結するまでは、禁酒と決めているので
ああ、もう半年以上飲んでいません
早く、完結させて別の作品も書きたいんですけどねえ
8月のお盆期間に、3日間ほど夏休みをいただいたので
マボロシの時みたいに、過去作を直してアップするかもしれません
しかし、この期間てコミケかぁ
多分、行かないと思いますけれど
いや、私の住居はビッグサイトとドア・トゥ・ドアで40分圏内なんですが
この週末のワンフェスも行かないなぁ
行きたくても、金と時間と体力が
今年の夏は、ガッカリです
244.無駄な努力
あたしも、被告人席へ行った方がいいですわね
渚が、閣下にニコッと微笑む
ああ、今回の件では君が一番の罪人だからね
閣下は薄ら笑いを浮かべて、答えた
さあ、真緒お兄ちゃんたちの方へ行きましょうね
渚が、3歳の娘に言う
はーいっねえ、ママ
ひこくにんて、なあに
悪いことをしたかどうか、調べられる人のことよ
えーっ、ママや真緒、悪いことをしたかどうか調べられるの
そうよっ
渚は、平然と微笑んでいる
まあ、いっか真緒たち、何も悪いことなんてしていないもんねっ
そうよだから、調べられても全然平気よねっ
そして二人が、オレの横へ来る
前方では、関さんと藤宮さん
背後では、瑠璃子さんと美子さんが
心配そうな顔で、オレたちを見ている
みんな閣下がオレたちをどう処分するのか恐れているのだ
この空間では、閣下が絶対の支配者であるとみんな信じている
大丈夫よ安心してね
そんな張り詰めた空気の中オレとみすずに、渚はそう言ってくれた
渚の微笑みがみすずに勇気をくれる
お祖父様、あたしはこの様な裁判に掛けられることには納得できません
裁判長席の祖父に言った
あたしは何も咎を受ける様なことはしておりませんわっ
閣下が切り返す
私の決めた婚約者が居るというのに他の男と情を交わすのは、罪では無いというのかね
はいもちろんですわ
みすずは、すぐにそう答えた
ぼ、僕のどこにご不満があるというのですかっみすず様っ
緊迫した空気にいたたまれなくなったのか婚約者の司馬貴彦が口を開く
そういうところです
4つも年下のあたしに様を付けたりなさるところ
ですがそれは
司馬貴彦は、言葉を続けようとするがハッとして、閣下の顔を見る
申し訳ございませんあの僕なんかが、閣下のお許しも無く、勝手に発言してしまいまして
みすずの4つ上ということは大学生か
閣下よりも背が高いし、体格も良いのに司馬貴彦は、閣下に怯えていた
そんな彼に閣下は
構わんよ先に、検事による被告人質問をやってしまおう心の中にあるわだかまりを、全てブチまけてしまいなさい
貴彦くんは、みすずの夫になるのだろう妻に頭が上がらないままでは香月グループの重鎮にはなれないよ
閣下は、司馬貴彦を煽る
口元は微笑んでいるが眼は真剣だ
は、はいっ頑張ります真剣に努力させていただきますっ
司馬貴彦は、閣下のカリスマの支配下にある
最初に申し上げておきます
みすずが、司馬貴彦に言う
あたしの勝手な都合で大変申し訳ありませんがお祖父様の決められた貴彦さんとの婚約は、破棄させていただきますごめんなさい
みすずが、スッと司馬貴彦に頭を下げる
オレもとりあえず、一緒に頭を下げる
幸いまだ内々の話でしたし貴彦さんがあたしの婚約者であることは、一般には公表されていません貴彦さんの経歴を傷付けるようなことにはならないと思います
みすずは、きっぱりと言った
それはそこに居る男のせいですか
司馬貴彦が口を開く
そうですあたしはこの人とお付き合いしています
まだ子供じゃないですか
年齢はあたしの一つ下です高校一年生です
あのどちらの家の方なんですかお父様は、香月グループのどちらの部署の
司馬貴彦はオレもどこかの名家の一員だって思っているらしい
それも香月グループの
この人はどちらの家の人でもありません
オレは庶民ですというか、普通の庶民よりも貧乏かもしれません
うん親父は失踪中だし
庶民どうして、そんな人が
司馬貴彦の言葉にみすずは、カチンときたらしい
あたしがどんな男性と恋をしようとあなたには関係のないことです
関係ありますっ僕はあなたの婚約者ですよっ
興奮する司馬貴彦
それも閣下に選んでいただいた正式な婚約者ですっ
その婚約は、たった今、破棄させていただきましたっ
香月の家に生まれた方は、香月グループの発展のために閣下の決められた婚約者と結婚するべきですっそれが、義務でしょう
あたしの人生を勝手に決めないで下さい
きっぱりと言うみすず
みすずの徹底した拒絶に司馬貴彦は、小刻みにプルプル震えながら
それでも何とか、自分のペースに持ち込もうとする
み、みすず様いやっ、みすずさんあの、みすずさんてお呼びしてもよろしいでしょうか
親しげな関係を築こうというのか
貴彦くんそこはビシッと、みすずと呼び捨てにするべきではないのかね
閣下が、苦虫を噛み潰したよう顔で言う
はっ、か、かしこまりました閣下
震えながら司馬貴彦は再び、みすずを見る
誠に申し訳ございませんが、閣下のご要望に付き今からは、お名前を呼び捨てにさせていただきますっみ、
司馬貴彦が、そこまで言った瞬間
お断りしますあたしは、あなたに呼び捨てにされたくはありませんっ
みすずは、きっぱりと拒絶した
いや、でも、その閣下のご要望が
あなたとあたしをどう呼ぶかなんていうことにまで、お祖父様が口を出されるのは間違っています
司馬貴彦は、閣下の権威を笠に着てみすずの上位に立とうとした
だから、みすずは閣下の権威そのものを否定する
ええっとその
みすずと閣下を交互に見る司馬貴彦
困ったあげくに
ぼ、僕は、これまでたくさんの努力をしてきましたっ
え何の話だ
関さんや藤宮さん部屋の中の傍聴者たちも、呆然としている
一年前閣下にあなたの婚約者に指名していただいてから、ずっと僕は努力を重ねてきたんですよっ
何が言いたいんだ、この人
一体、どんな努力をなされたって言うんです
みすずが興味なさげに尋ねた
そ、それは、もう何から何まで
司馬貴彦は、必死に話し続ける
あ、あなたの夫になるということは香月グループの中枢を担うということですから僕は、今まで以上に必死になって経営学の勉強を進めています大学は、首席で卒業します絶対に約束します努力します来年には、アメリカへ留学してMBAの資格を取りながら、各国の経済人とのコネクションを築きますそうしますそういう予定なんです
そんなことあたしには、全然関係の無いことですわ
みすずは、冷たく答えた
貴彦さんはお父様が、香月グループの重役でいらっしゃいますあたしとのお話が無かったとしてもご自分のご意志で香月グループに入社なさったはずですし、貴彦さんのお力ならば将来、経営部門のトップに立たれるでしょうあたしと結婚する意味なんて無いじゃないですか
司馬貴彦は
ええただの重役まででしたら、独力で行き着く自信はあります
しかし重役のその上グループのトップを目指すためには、あなたとの結婚がどうしても必要なんです
この男は
みすずに対して愛を感じていないのか
最初っから、これが政略結婚での婚約だということを認めてしまっている
香月家の一員になることで僕の人生の勝利は、120パーセント確実になります逆を言うともし、あなたと結婚できなかったとしたら、僕が人生に勝利する確率は半減すると思います
貴彦さんにとって、人生の勝利とはどんなことなんですか
そんなの決まっているじゃないですか
香月グループの企業の社長になることですか会長になることですか
閣下の様な素晴らしい経済人になることですっ
司馬貴彦が断言する
閣下みたいな日本の、いや世界経済をも動かすような力強い経済人になりたいんですよっ僕はっ
あなたがどんな夢を持とうとあなたの自由ですしかし、あなたのその夢ではあたしは幸せになれません
だから僕は、こんなに努力しているじゃないですかっ
司馬貴彦がドンと机を叩く
僕だって簡単にあなたに受け入れられるとは思っていませんどうせ、僕は
ギロッと一瞬、オレを睨む
僕みたいな男が、あなたみたいなお嬢様に好かれるはずがないんですからっだから、僕は努力するしか無いんですいいえ、僕は努力することしか自信がありませんから生まれてからずっと、僕は努力努力努力の努力漬けで生きてきたんですあなたに受け入れていただけるような男になるためにだって、真剣に努力しているんですよっ
努力って、どんな努力なんです
みすずが尋ねる
うんオレも知りたい
例えば僕この間の夜、あなたとフレンチ・レストランでディナーを楽しみましたよねっ
え二人きりで
そうですねあたしと両親と、あなたのご家族とでお食事しましたわね
みすずが訂正する
何だ家族揃っての会食か
その時あなたが、僕が温野菜のニンジンを残したのを残念そうな眼で御覧になったから
あたしそんな眼はしていません
いいえっ、していらっしゃいましたっしていらしたんですっもお、ものすごーく、可哀想な人を見るような眼で、僕のことを見たんですっ
それ被害妄想じゃないか
だから、僕今、ニンジンを食べられるようになるためのプログラムを、医師と心理療法士に依頼して立案させていますっ
これから、2年間の長期プログラムを経て僕は、ニンジンが食べられるようになりますっ絶対に、なってみせますっもう、あなたにあんな眼で見られることは二度とありませんっ無いですからね2年後には
多分、その時よりも酷い目で
みすずは今、司馬貴彦を見ているような気がするけど
そ、それから僕を、あなたのことを真剣に勉強していますっ
あたしを勉強
はいっ、僕は勉強するのは大好きですからっ
意味が判りません
つまり、僕はっあなたが、何がお好きなのか食べ物の嗜好や、音楽の好み、あなたに関する情報を何から何まで調べさせていますっ
司馬貴彦は、分厚いレポートを取り出した
机の上に、ドンと置く
ここにこうやっていつも持ち歩いて、時間のある時に見ていますっ一つ一つ、暗記していますっ例えば今日、暗記したページだとあなたは、南青山のラディゲ本店のチョコレートがお好みですねっ
司馬貴彦はニッと微笑んで、そう言った
はい確かに、そうですけれど
みすずが答えると
ほーら、やっぱりそうだそれは、このレポート32ページの上の段に乗っています僕の調査させた興信所は、優秀なんですっ僕は、あなたのこといっぱい調べさせましたしホントに何でも知っていますからねっ
勝利の笑みを浮かべる司馬貴彦
それで貴彦さん、ラディゲのチョコレート、食べてみたんですか
みすずの問いに司馬貴彦は
いいえっ甘い物を食べると、虫歯になるって母に言われていますからっ
素晴らしい、笑顔なんだけれど
あたしの好きなラディゲのチョコレートを食べたことが無いのにあたしの好きなものが何でも判るっておっしゃるんですか
司馬貴彦はレポートの束を指先で叩いて
だってあなたの好物は、ここにこうやってリストアップされているんですからこれを暗記することは、イコール、あなたの好みを熟知するということでしょうほら、僕、こんなにあなたのために努力しているんですっ
貴彦さんあたしが、メンデルスゾーンのピアノが好きなことはご存じですね
当然です確か、このレポートの24ページの右上の欄に、その情報が載っているはずです
ですがあたしは、絶対にあなたとピアノのコンサートに行きたいとは思いません
みすずの言葉に司馬貴彦は
問題ありません僕はコンサートに行っているような時間はありませんしそもそもピアノに興味がありませんから
どうなんだろそれ
そして司馬貴彦は、オレを見る
そこの君
そうだよ、君だ今の話を聞いて、判ったろう僕は、こんなに努力して、この人のことを理解しているんだよところで君は、何を知っているっていうんだこの人の僕は、知識では絶対に負けないからねそれだけの努力を重ねてきているんだからっ
そうだよく考えてみると
みすずのことを知らない
どんな物が、好きかなんて
ごめんみすず
オレは、みすずに謝った
オレみすずのこと、知らないままだよな
司馬貴彦が、フンッと鼻で笑う
ほら、どうだっ僕の方が、努力しているんだよっ
そうだオレ
みすずのために、何か努力したことなんてあるんだろうか
みすずオレ
オレの手をみすずの温かい手がギュッと握る
そしてニコッと笑った
旦那様はいつも、あたしのために一生懸命して下さっています
自信を持って下さいそれに
まだ、お互いのことを良く知らないなんて当たり前じゃないですか
あたしたち、まだ出会ったばかりですこれから、ゆっくり時間を掛けて、一つ一つ判っていけばいいんですよ
今度、ラデイゲのチョコレートを食べましょうピアノのコンサートにも一緒に行きましょう旦那様、メンデルスゾーンって作曲家知っていますか
名前だけは
音楽の時間に習った様な気がするけれど
どんな曲を作ったのかまでは、知らない
では、一緒に聴きに行きましょううふふ楽しみです
あたしの好きな物美味しい物、素敵な物、美しいと思う物を一つ一つ旦那様にご紹介します一緒に観ましょう、聴きましょう、食べましょう二人でね、旦那様
旦那様の好きな物も教えて下さい
オレはそういうの特に無いから
じゃあ、一緒に居る時に教えて下さいこの曲はいいねとかこの味は好きだとかそれで、旦那様のお好みが判ります
はは時間が掛かりそうだな
掛かっていいんですずっと、一緒なんですから
急ぐ必要は無いんだ
慌てて、みすずの好きな物のリストを暗記する必要も
時間を掛けて少しずつ、知っていけばいい
その方がきっと楽しい
オレもみすずも
楽しみなことでいっぱいですねっ旦那様
みすずがオレに抱きつく
ちょ、ちょっとみ、みすず様離れて君、みすず様から離れなさいっ
司馬貴彦が、慌ててそう言うがみすずはさらにオレにしがみつく
ていうかまた、呼び方がみすず様に戻っている
香月家の臣下という気持ちは、一生抜けなそうだ
ごめんなさい、貴彦さんあたし、あなたのことはどうしても受け入れらませんあたしは、この人と生きていきたいんですこの人を愛していますから