白坂家の娘雪乃の妹の白坂舞夏は、もう居ない

舞夏は、遠いところへ行ってしまった

今の彼女はオレの妹で、セックス奴隷

オレに求められている、オレの女になったということでマナは正気を保っている

オレはマナに対して、一生責任を取るつもりだ

こいつには、もうオレしか残っていないのだから

ふざけないでよっあんたは白坂舞夏でしょあたしの妹じゃないっ

雪乃はそんなマナの内面の変化を知らない

本当に、別人になってしまったんだ

今ここにいるのはマナ舞夏じゃない

ふーん、てことは自分が白坂雪乃だってこと、認めるんだね

良かったね、雪乃さんあなたがそんなに愉快で、お笑い芸人に向いているってことを世間の皆さんに知って貰えて

マナが笑う

マナにとって、雪乃は自分を見捨て、自分もまた捨て去った過去そのものなんだ

だから酷い対応をする

これもまたマナの中のコンプレックスが引き起こしている業なのか

許さない、絶対に許さないんだから

小声で雪乃は呟く

心の中は、マグマの様に怒りと憎しみで煮立っているだろう

しかし自分が白坂雪乃であることさえ人前で認めることができなくなった雪乃は

全マイナスの感情を、外部に放出することができなくなる

内に籠もるしかない

まずいな

このままでは、雪乃の心が壊れてしまう

おい雪乃

オレは、雪乃に声を掛ける

ビクッとする雪乃

お前は、白坂雪乃だその変な格好は、無理矢理オレにさせられたものだお前の意志に反して、オレに強要されたんだ

マナが、えという顔で、オレを見るが

いいから、お前は黙ってろ

オレは一言でマナを制する

そして、雪乃へ

馬鹿みたいな格好をさせられて、馬鹿みたいなことをさせられたのも、みんなオレに命じられたからだお前じゃないオレが強要しているんだ

雪乃の顔が変わる

オレの作った論理的な逃げ道に雪乃は、飛びついて来る

そうよ、みんなあんたのせいよっあたしがこんなに酷い目に遭っているのもみんなみんな、あんたのせいよっ

雪乃の内面の憎悪の矛先が、オレに向かう

溜まっていた感情が、一気に吐き出される

あんたのせいなんだからっあたしは、何も悪くないのにっあたしをこんな目に遭わせてっ

うんこれでいい

これで、雪乃のアイデンティティは崩壊しない

雪乃は白坂雪乃として、自分の人格を守ることができる

許さない一生、許さないわっあたし

雪乃が激しい憎悪の眼で、オレを見る

これが、正しい姿なんだ

オレと雪乃の

ああ許さなくていいよ

どうせ、これからもお前に、もっともっと酷いことをするんだから

黙っていたメグがオレを見る

ヨシくんもういいじゃない捨てちゃおうよ雪乃なんて

そうだよ、お兄ちゃん雪乃さんみたいな人、要らないよ

お前たちそしたら、雪乃は死ぬぞそれでもいいのか

オレの言葉に雪乃はハッとする

雪乃はプライドが高くて、自己中心的だが、馬鹿じゃない

オレに見捨てられたら家や親の後ろ盾のなくなった現在の雪乃は

死ぬしか無い

白坂本家からの依頼を受けた、シザーリオ・ヴァイオラに抹殺されるか

ミナホ姉さんに外国のスラム街の娼館に売り飛ばされるか

死んだっていいよそんな人

そんなこと言っちゃダメだ

オレは、マナの身体を抱く

マナもオレに縋り付く

マナの身体は、少し冷たい震えている

マナにはオレが、家族がいるじゃないか

でも、雪乃には誰もいないんだから

雪乃の顔が、恐怖に歪む

プリンス派を代表して香月昴が尋ねる

高圧的な他のメンバーではなく、ここは年少者が質問するべきだと思ったのだろう

その辺をアイコンタクトだけでやるのだからこの集団のチームワークは凄い

みすずは、冷ややかな態度で答えた

そろそろお教え下さいませんでしょうかどうして、この場に今、問題になっている白坂創介の娘が居るのか

香月昴は、気持ちの悪い作り笑いを浮かべている

その後ろで8人のプリンス派の連中が、偉そうにオレたちを見ていた

もちろん、司馬アキラと新興グループの6人も

興味深そうに、みすずの返事を待っている

そんなことは、あなたたちには教えません

みすずは、静かに言った

なぜです、僕たちにも知る権利があると思いますが

香月昴は、なおも食い下がるが

権利あなた、それ本気で言っているの

みすずは、突っぱねる

あここの言い方は、ミナホ姉さんだ

みすずは、ミナホ姉さんの口調を真似ている

だって僕たちは、あの

香月昴は、口籠もる

我々は、閣下の私塾のメンバーです将来の香月グループを支える人材です

香月操が、弟に代わってみすずに告げる

お祖父様が私塾をお作りになったのは、あなた方のお父様に頼まれたからです私塾のメンバーだからといって、将来香月グループの要職に就けると思ったら大間違いですよ

みすずはふふふと笑って、そう言う

ましてやあなたたちが香月グループに籍を置くということは、あたしたちの臣下になる覚悟をするということですよ臣下ならば、臣下としての義務を果たしなさい主を尊重すること無く、権利ばかり主張する臣下など、あたしは必要とは致しません

みすずは、そう言って瑠璃子を見る

みすずお姉様のおっしゃる通りですこれまでのあなた方の振る舞いには、呆れましたお祖父様も、きっとそう思っていらっしゃると思います私塾など解散して、お祖父様にはもっと有意義にお時間を使っていただくよう進言致します

ちょっと待って下さい瑠璃子様

香月操が、そう言った瞬間

臣下が主に命令するとは、何事かぁぁッッ

麗華の鋭い声が、プリンス派たちを突き刺す

貴様たちは臣下としての心構えが全くできておらぬっ恥を知れ、恥を

そうか麗華は、剣士としての修行を積んだ人だから

主とか臣下とかそういうことには、うるさいんだ

むむぅ麗華ちゃん、声大っきすぎ

そんな麗華の膝の上で、真緒ちゃんが耳を塞ぐ

あ、申し訳ございませんもう、大きな声は出しませんから

麗華は、真緒ちゃんに微笑む

うんっ、なら許してあげるっ

真緒ちゃんと麗華は、すっかり仲良しだな

あのみすず様、発言してもよろしいでしょうか

そう言ったのは司馬アキラだった

どうぞ、アキラさん

みすず様のお言葉はよく判るのですがしかし、現代の日本において主とか臣下という考え方は、少し時代錯誤では無いかと思います

司馬アキラは、堂々とそう言った

企業経営者と従業員は、対等な関係のパートナーであるべきです雇用関係と主従関係を混同なさるのは、大変危険なことだと思いますが

アキラさんは、お祖父様の私塾にどれくらいの間、通っていらっしゃいますか

2年ほど前より、兄と一緒に週2回夜の8時から11時まで香月ホールディングスの本社ビルで、閣下のご指導を受けていますそれ以外に、今日の様に社交的な場に連れてきていただいたり、実際の企業内の業務を見学させていただいたりしています

社交的な場というのは、紺碧流の家元の発表会のことだろう

それから彼らは、この後の白坂本家との交渉を見学するという名目で、今日この場に連れて来られている

アキラさんは、私塾を有意義なものだと考えていらっしゃいますかお祖父様の年寄りの我が儘に付き合っているだけだと思っているのではないですか

いえ、僕は毎回、とても良い勉強をさせていただいていると思っています閣下のお話は、一つ一つがとてもためになりますし、様々な現場を見せていただけることもとっても刺激的です

ではアキラさんは、お祖父様にお月謝を支払っていらっしゃるのですね

お月謝は、払っていらっしゃらないのですか

みすずはミナホ姉さんの様な冷たい笑みを浮かべる

は、はい特にはいえ、むしろ閣下には、毎回、何かしらご馳走になっています

司馬アキラは、しどろもどろになる

でも、それはあの閣下がいつも、僕たちに気遣って下さっているからでその

お祖父様が気遣って下さっているのなら饗応を受けることは当然だと思っておられるのですね

対等なパートナーなどと口に出す前に自分の立場を知りなさい誰が誰に、どんな話をしているのか、理解できないのなら口を閉ざしなさい一般論なら、誰でも言えます

みすずの言葉は、厳しい

お祖父様とあなたのお父様の関係が、ただの雇用関係ならお祖父様は、あなたを私塾に入れて教育させたりはしませんあなたがここに居るのは、あなたのお父様がお祖父様の臣下だからですそのことは、あなたのお父様も理解していますそうでなければ、司馬沖達さんの様な立派な方が、お祖父様の無償の私塾にあなたを来させたりはしません

うん無料ってのは、普通じゃないもんな

臣下つまり自分の身内だと思っているからこそ、ジッちゃんは無償奉仕で私塾をやっている

お祖父様は自分の臣下と、ただ雇用しているだけの人との区別は、はっきりと付けていらっしゃいます

きっぱりと、みすず言う

それもお祖父様がご自分の臣下だと思っていらっしゃるのは、あなた方のお父様だけですあなた方は臣下の子供たちであって、現実にはお祖父様の臣下でも何でもありませんお祖父様は、お客様という扱いで、あなた方と接しておられます

みすずの言葉に、私塾のメンバーたちは愕然とする

もし、アキラさんが対等なパートナーとしての雇用関係をお望みなら、お祖父様の私塾をお辞めになられるべきですアキラさんが大人になってご自分の力で、お祖父様がお認めになられるぐらいの能力を身に付けられていたならそして、アキラさんが香月グループで働くことを希望なさるのなら香月グループは、あなたを雇用するかもしれませんでも、今のあなたは、雇用する価値がある人材なのかどうかは、まだ全く判らないただの少年です

みすずの言葉に、司馬アキラは

判りました、では僕は今日限りで私塾を辞めます将来、香月グループに入れていただく気もありませんし

彼の言葉が、私塾の連中に波紋をつくる

本気かアキラくん

そう急いで結論を出すべきことでは無いだろう

新興グループの華岡侘介と孔守融が、声を掛ける

いいんです僕は自分でやってみたい仕事があるんです大企業の一員になるより僕は自分で起業して、自分の意志で会社を動かしていきたいんです

司馬アキラは、そう言った

そうですか頑張って下さいね

みすずは、冷ややかに言う

アキラさんのお作りになられる会社が香月グループに利益をもたらしそうなら、それこそ対等なパートナーとして契約を交わすこともあるでしょうしかし、香月グループにとって不利益な存在となられたら、徹底的に潰します構いませんね企業と企業との争いなのですから

みすずの強い態度に司馬アキラは、言葉を失う

アキラくんお節介を承知で、君に言うが

そう言ったのは香月家の分家ながら、香月操には付かずに新興グループの側にいる、香月健思だった

みすずさんに謝って私塾に残りなさい君の誰かの臣下になりたくない、一国一城の主になりたいという気持ちは素晴らしいと思うが、現在の君は閣下の臣下の子供でしかない君の不躾な行動で、君のお父様にまで迷惑を掛けることになる

司馬アキラは

父は僕の気持ちを判ってくれますそれに、父だっていつかは、香月グループから独立したいって考えています

いつかはだろう司馬沖達さんだって、今すぐには何もできないはずだ

香月健思は言った

企業の持ち主は誰だそれが株式会社なら株主だ香月グループの企業の株の半分以上は、香月本家が握っているつまり閣下のものだ君のお父さんがどれだけ有能でも香月グループから独立することはできない

それは投資家を探します香月グループと関係無い人で父や僕の事業に投資してくれる人がいれば

香月家閣下と敵対してまで、君や君のお父さんに投資してくれる人なんて日本にはいないよ

それなら外国の投資家を探します

アメリカやヨーロッパの投資家は、ハゲタカだよ判っているだろうねそれとも、新興国の地下資源成金でも探すかい無理だよ日本に確固とした地盤の無い日本人に彼らが金を貸してくれるはずがないだろう

香月健思は穏やかに言った

大きな夢を持つことは良いことだが夢を叶えるためには、現実に膝を屈しないとねだから、君の父上だってあんなに才能のある方なのに、他者の臣下であることに甘んじている

父だって、ずっと臣下のままではありませんっ

そうかもしれないいずれはしかし、今は閣下の臣下だよ忠実な

司馬アキラを香月健思はなだめる

閣下は器のとても大きい方だ司馬沖達氏が、野心を持つことを許して下さっているだから、沖達氏も臣下として、香月グループの中で力をつけ閣下とは円満な状態で、グループから独立することを狙っている閣下に敵対し、睨み合った状態で独立すれば香月グループだけでなく、香月グループの競合社からも攻撃を受けるそしたら独立したばかりで体力の無い会社は、一瞬で潰される君のお父さんが、独立して成功するには閣下や香月グループと友好的な関係を保ち続けないといけないんだよ

だから今は、香月家の臣下として屈しろと言うんですか

そんなアキラにみすずは

心の中から臣下になれとは望みません心の中で何を考えようと、その方の自由ですからしかし臣下であるにも関わらず、表面上だけでも臣下としての正しい態度ができないような人間は無能ですそんな人間は、必要ありませんから香月グループから叩き出します

みすずを、司馬アキラは睨む

さっきから、色々偉そうなことをおっしゃっていますけれどみすず様だって、閣下じゃない閣下のただの孫娘じゃないですかあなたにゴチャゴチャ言われる筋合いはありません

確かにそれはそうなのだが

判らないのあたしも、瑠璃子さんも今、お祖父様に試されているんですよ

お祖父様はあたしたちのこの部屋での討論を、別室で笑いながら聞いていらっしゃいますあなたたちは、臣下に相応しい人材なのかお祖父様に試されていますそして、あたしと瑠璃子さんも香月本家、香月家の当主の側に立つ人間として、相応しいのかどうかを試されているんです

みすずの言葉に、瑠璃子も頷く

その通りです香月の家、香月グループには、たくさんの人々が集っていますわたくしたちは、それらの方々の生活を守らねばなりません直属の臣下から雇用契約を結んだ方たちまた、香月グループの製品やサービスを買って下さる方々、全ての取引先わたくしたちは、その全ての人たちの期待に応えなければなりません

ですから身内である臣下に対してこそ、あたしたちは強い態度で接するべきなのだと思います臣下を甘やかすようでは家全体が綻びます

2人の少女が私塾のエリート青年たちを見下ろす

ですからあなたたちは、この場でご自分の立ち位置を定めなさい

あなたたちは、お祖父様ではなくあたしたちと世代を共にする方々です本当に、自分の将来を香月グループの中に懸けるおつもりがあるのならあたしたちの臣下となりなさい

瑠璃子も言う

そうですわねわたくしたちに臣下の礼を取る気の無い者は、今すぐこの場より、立ち去りなさいわたくしとお姉様が、香月家の後継者ですそのことが認められない方は、家より排除致します

私塾の連中は息を呑む

誰よりも早く香月健思が、跪く

私は、お二人を主と認めます

そして、自分の仲間新興グループに振り向く

君たちはどうする

顔を見合わす青年たち

私も恭順致します

次に跪いたのも新興グループの河藤晃司だった

香月の次のトップが、こんなにもご聡明で強い意志をお持ちであることを私は、嬉しく感じております

わ、私も

僕も

次々に新興グループのメンバーが、みすずと瑠璃子の臣下となる

司馬アキラを残して

ぼ、僕はなりませんっ

司馬アキラは言った

僕は誰の臣下にもならない僕は僕の道を行きます父も、僕の思いをきっと判ってくれると思います

アキラくん今は形だけでも、臣下の礼を取っておきたまえきっと後悔するぞ

香月健思の言葉に、アキラは

後悔したって構いませんっ嫌なものは嫌なんだっ

そうですかでは、お一人で頑張って下さいね

さようなら、アキラさん

瑠璃子も無表情で、そう言った

あなたたちは、どうなさるおつもりですか

みすずは香月操らプリンス派を見る

わ、我々はその

香月操は、言葉を濁す

香月操は分家の中で一番本家に近い血筋という、訳の判らない理屈でイバッている男だ

ここでみすずと瑠璃子に屈すると立場を失う

プリンス派という派閥自体が、存在意義をなくしてしまう

自分も香月家の尊い血筋なのだという思いがあるからプリンスなのだ

自分が臣下だと認めてしまえばプリンスでも何でもない

みすずと瑠璃子を怒らせて、香月家から追放となれば

それこそ、何も残らなくなる

どうします、操様

香月操を旗頭にして徒党を組んでいるメンバーたちが、操の意志を問う

わ私は

そこまでだ一気に片を付けるべきではないぞ、みすず、瑠璃子

スピーカーから、ジッちゃんの声が聞こえてくる

父の容態ですが、まだ意識は戻っていません

集中治療室で、面会時間も制限されたままです

しかし、前日までは機械で無理矢理呼吸をしていたのが

昨日は、自分の力で普通に息をしていました

ですから眠っている父の姿は、いつもの睡眠状態の様で

まだ予断を許さない状態ですが

今日も、何とか書けました

感想欄の方に、ヴァイオラの襲撃はどうなったんだという質問がありましたが

現在のヴァイオラは、白坂本家より、閣下との交渉に応じた白坂家の裏切り者を抹殺する仕事も受けています

なので、全ての関係者がホテルに到着するまでは動きません

そろそろ動き始めるとは思いますが

次話より、交渉編に入る予定です

269.ジッちゃんの採点

香月の様な旧家を核とした企業は、成り上がりの新興企業よりも遥かに強いなぜか判るかね

スピーカーから流れるジッちゃんの声が問う

長く続いている名家は、特別な存在だからだ名家同士の繋がりで、信用もある力もある百年以上に渡って、香月は日本という国家の進展に寄与してきた表でも裏でも日本政府はおろか、アメリカ政府でも、香月家を潰すことは、もはやできない香月家が担ってきた政治的、経済的な活動が公表されれば国の方が転覆してしまうからな決して、何者でも侵すことの出来ない家それが、香月家だ香月家と取引をしている企業だというだけで、財界では絶対的な信頼を得ることができるのだよ

それが名家

さて私は、そういう家、香月グループの舵取りを永年に渡って行ってきた香月家の活動は、幅が広い

みすずと瑠璃子も香月操らプリンス派も司馬アキラと香月健思たち新興グループたちもジッちゃんの声に、真剣に耳を傾けている

それには家を守るということと、家を発展させるということ大きく分けて、二つの流れがある

守ること発展させること

守るという意志がなければ、時代の流れの中で旧家としての伝統や誇りは失われる新興勢力に何もかも踏みにじられるしかし守り続けるだけでは、弱体化は否めない現状維持とは、家が時の流れに晒されて疲弊損耗していくということだ成長を止めた瞬間に、全ては死に向かう人も家も企業もだ

ジッちゃんの言葉には、重みがあった

だからこそ守らなければならないものを保有しながら、私たちは常に時代に合わせて、家を成長・変化させていかねばならないこれは、本来、相矛盾する事柄だしかし、両立させることはできるいや、両立させなければ家は滅ぶ

スピーカーの声が、ククッと笑った

では、どうするか簡単だよ私は、グループ内の企業を2つに分けている守り続けることに重きを置く会社と発展させることに主眼を置く企業にね

みすずが、ハッとして私塾の連中を見る

プリンス派と新興グループ

みすず、瑠璃子今のお前たちの眼から見れば、私の私塾の教え子たちは、いがみ合っているだけの愚か者に見えるのだろうがね十代の頃からの知り合いお互いの性質を知り尽くしている相手がいるというのは、良いことだよ今は二つのグループに分かれているがもうしばらくすれば混交する反目している者ほど、仲良くなったりするものだよ

ジッちゃんは長期的な視野で私塾を運営している

まずは香月操

ジッちゃんに名を呼ばれ香月操は、緊張しながら返事をした

お前は守ることの方に向いているな

わ、私がですか

ああ、こういっちゃ何だがお前は、金融や財務には向いておらんよ次々と新しく起こった状況に対して、俊敏に判断して対応するような感性は、お前には無い

しかしすでに今あるものを、守り、次の世代に伝えていくということには向いているようだな

ジッちゃんはそう言った

お前には、香月家のトップに立つ才覚は無いしかし、上位5人になれる可能性はあるそれが、お前の限界だ

ジッちゃんに、はっきりと言われて香月操は、ショックを受けている

いやお前は、お前のグループをよくまとめ上げているその力は認めているよおそらく20年、30年経っても、お前たちのグループの結束は変わらないそれは香月グループの重要な基盤となるだろう

確かにこいつら、チームワークだけはいいものな

しかし、お前らの結束は内向き過ぎる少しも、外部の人間を受け入れようとしていない今のままのお前たちには、守る側の仕事しか任せられんな

ジッちゃんの眼は、香月操から他のプリンス派に移っていく

香月仁、夏木惇お前たちは、なぜ操を旗頭にしたなぜ、自分が率先してリーダーになろうとはしない

操様の才覚に私たちは懸けたのです

口籠もるだけの香月仁に対して、夏木惇ははっきりと答えた

それは嘘だろうお前たちは、楽がしたかったのだろうリーダーになって重圧にさらされるよりは、ナンバー2、ナンバー3になった方が気が楽だからな

そんなことはございません操様は、私よりも血筋が優れていらっしゃいますので

血筋のことを云々するのなら、盲目的に瑠璃子を崇拝しろ瑠璃子は、香月の血筋の嫡流だぞ

ジッちゃんは厳しく、問い詰める

それは、その

そこそこに血筋の良い操が、率先してリーダーをやろうしているなら、奉ってしまった方が楽だお前たちの考えは、実際のところその程度のことだろう

いや、決してそんなことはありません本当に、私たちは操様が素晴らしい方だと信じております操様は、100年に1人の傑物です

食い下がる夏木惇

嘉田奉孝、虎田知徳、谷楽進、角田文和、大張遼 そして、香月昴お前たちも同じ考えか

ジッちゃんは、他のメンバーにも尋ねる

は、はい夏木の言う通りです

オレは、操様を信じてます

同じく

いや、ホント100年に1人の人材ですってマジにそう思います

はい確信しています

お兄様は素晴らしいです僕なんて、足下にも及びません

そうかどうも、私の教育が悪かったようだな

おい、お前たち操が100年に1人の人材なら、私はどうなんだ

プリンス派の連中は大口を開ける

私は何年に1人の人材なのかと聞いている

そ、それはその

せ、1000年に1人というか

いや、閣下のご業績を見れば、10000年に1人かと

もっとですよ他の人なんかとは比較になりませんっ

フンッと、ジッちゃんは嘆息する

軽い本当にお前たちは、軽いな

私なんぞ凡人にすぎんよ操もそうだ

し、しかし閣下

本物の天才を、お前たちは知らないのだよ

ジッちゃんは言った

10年に1人の逸材などこの世には、掃いて捨てるほどいる100年に一度の逸材だって、私は何人も出遭って来た本物の天才1000年に1人、10000年に1人の能力者というのも私は知っている

香月家という名家の当主として、何十年も生きてきたジッちゃんならばそういう人物たちとの交流もあったのだろう

本物を知れそして、もっと謙虚になれ自分がどこにでもいる平凡な人間道端の石っころでしかないと気付けば、世の中の見方も変わる

私は石っころですか

ああ、石っころだしかも、かなり使いどころに困る石だ丸くないし、ゴツゴツと尖っておるからなお前という石は

厳しい言葉ながら、ジッちゃんの声は笑っていた

それでも、この人は私塾の連中に愛情を持っているんだ

そんなに私は無能ですか

香月操は、ショックを受けている

操お前、アメリカのエックス社のジョン・ジェイコブズ社長を知っているか

金融経済の神様と呼ばれている方ですね

そうだ私は何度も会ったことがあるお前ジェイコブズ氏に金融投資で勝てるか

そんな相手は神様です私などが勝てるはずないではないですか

ジッちゃんは、フンと鼻を鳴らす

私は今、2勝8敗だよ大きく負け越しているが、傷は小さい彼には、日本の香月は手強い相手だと思わせなければ日本全体が彼に喰われる

プリンス派だけでなく、新興グループまでがジッちゃんの言葉を真剣に聞いている

いいかね香月家の経営に携わるということは、ジェイコブズ氏の様な獰猛な天才たちと同じフィールドで闘い続けるということなのだよしかもこの闘いは、フェアではないしばしば、やつらのルール、やつらの審判の元で勝負しないといけない時には、戦略的に負けてやることもある大事なことは、香月には並々ならぬ闘志があり、絶対にやつらに支配されるつもりはないことを示し続けることだ隙を見せれば、喉笛に嚙み付いてくる相手だと判れば、やつらも迂闊には攻撃してこない

自分よりも能力も財力もあり国家権力と結びついている連中に対して、ファイティング・ポーズを取り続けるんだジェイコブズ氏並みの知能の持ち主はたくさんいる投資家にも、企業経営者にも、政治家にもそして、詐欺師にもね自分よりも能力のある相手だからといって、闘いを避けて逃げ出すなどということは、私は決して許されないんだよ私の後ろには、香月グループがありその後ろには日本という国家そのものがあるのだからね

操も、他の者たちもお前たちには、そこそこの能力がある血筋がある縁故があるそれらは確かに、お前たちの力なのかもしれないしかしそれらは、お前たちがたまたまの幸運で与えられた力であってお前たちが自分で勝ち取った力では無いなのに自分たちよりも幸運でなかった人間を見下してどうする

そうだ、こいつらは下しか見ていない

自分たちより、力のある人間には最初から勝てないと思っている

戦う気が無いんだ

お前たちの上には、凄まじい能力の持ち主血筋も縁故も、お前たちとは比べ物にならないような傑物が何人もいるそして、そいつらは例え、恭順の意を示したからといって、ハゲタカどもはお前たちを見逃してはくれんぞ

ジッちゃんの言葉に、私塾の連中はブルッと身を震わせる

企業の中枢に立つということの恐ろしさを初めて自覚したのだろう

私が劣った能力でも、必死にジェイコブズ氏に食らいついていくようにお前たちが見下している相手も、死に物狂いでお前たちに牙を剥いてくるだろうこの世は単純な弱肉強食ではない命懸けの弱者が、強者であるはずの者たちを打ち負かすことなど、現実のビジネスの世界では日常茶飯事なのだよ

ジッちゃんは穏やかな声で言った

もっと謙虚になりたまえ自分より優れている者にも、劣っている者にも均等に細心の注意を払うんだ我々は凡人なのだそれを常に肝に銘じろ相手をナメてかかれば、酷いしっぺ返しを食らうぞ

ジッちゃんの視線が、さらに司馬アキラに移る

さて司馬アキラ

君の志の高さは買うが人生は有限だよ

例えば、私が新しい事業を始めようとすれば明日からでもスタートさせられる私には資金があるし必要な人材を集めることもできる有能な人間を他者からヘッド・ハンティングしたっていいんだ国の規制が厳しいと思えば、政府の誰に言えばよいのかも判っている私には、新しい法律を立案し、国会で決議させることだってできる

今の君がどんな企業プランを持っているのかは判らんが君が、それを実現させるのに何年掛かる君が底抜けに幸運だったとしても会社設立から15年は掛かるだろう不運だったら、30年経っても実現しないよいや成功目前で、誰かに足を引っ張られて何もかも失う可能性だってある

でも、僕は

司馬アキラは、それでも独立の意志を曲げない

君はどういう目的で、自分のプランを実現したいのだね

目的ですか

単純に個人的なロマンの追求、自分1人の力だけで企業家として成功してみたいというのなら、私は止めないよ勝手にやりたまえそういう人間の相手はしてられないからな

ジッちゃんは、言った

しかし君が君のプランに、社会的な意義を見出していて、何が何でもそれを実現させたいと思っているのなら利用できるものは全て利用すべきだと、私は考えるね

利用ですか

ああそれが本当に実現するべきものなら、どんな手段を使っても、可能な限り早く実現させるべきだとは考えないのか

まあいい君が社会に出るまでには、まだしばらくの猶予がある今は、私の私塾に残りなさいそして、私から利用できるものは無いのか、目をこらして探したまえついでに私を口説いてみるのだな君の提案が妥当なものだと感じたら、幾らでも利用されてやるから

司馬アキラは驚嘆している

他の連中もそうだ華岡侘介、孔守融、河藤晃司、香月健思、高木風太 、そして今はここにいないが司馬貴彦香月健思を除いて、お前たちは香月家の伝統を知らないお前たちには、守ることはできないだろう発展させることだけに興味がある人材だということは判っているだから、言っておく何かしらプランがあるのなら、学業が終わるまでに私に示せ良いプランだと思ったら、実現に向けて協力してやるまずはプランだプランを見れば、お前たちがどれだけ真剣なのか、世の中についてどう思っているのかが透けて見える甘えたプラン、舐めたプラン、いい加減なプランなら蹴飛ばすぞ自分自身の現在を評価される覚悟で、プランを持って来たまえいいな

新興グループのやつらが一斉に返事をした

司馬アキラだけは、まだ返答していなかったが

アキラくん僕たちは、まだまだ閣下には敵わないご指導していただこうよ学ぶべきことは、たくさんある

香月健思が、司馬アキラに言った

はい、そうですね健思さん閣下、失礼なことを申し上げて、すみませんもうしばらく、閣下の下で勉強させて下さい

司馬アキラもジッちゃんに恭順する

では最後に、みすず、瑠璃子

ジッちゃんは2人の孫娘に告げる

簡単に人を見捨ててはいけないぞ、2人とも人と人の縁というのは、大事にするべきだ今居る人材を切り捨てれば、もっと良い人材に巡り会うかもしれないしかしそんな人材に出遭わなかったらどうする前の人物よりも能力の乏しい、性根も良く無い人間しか採用できなかったなんてことは、よくあることなんだぞ

みすずが辛そうな顔をする

そんな顔をするな大事なのは、適材適所ということなのだ手元に居る人材について、いつも考えろどうしたら、その人材を上手く活用できるのかをね大抵の人材は、パズルのピースの様に上手くはめ込むことができるよ

判りました、お祖父様

わたくしも浅はかでした

みすずと瑠璃子が、祖父に謝罪する

気にするな今の内はどんどん失敗しなさい2人とも

ジッちゃんの声は、優しかった

私の私塾の生徒たち全員に告げる香月家の未来は、瑠璃子とみすずを中心にして進めてくれ香月の家は、血筋からは逃れられない瑠璃子が後継者であり、みすずがサポートするお前たちは、全力で2人を助けてやって欲しいこれは、私からの要請だよろしく頼む

閣下の言葉に香月操は

待って下さいそれでは、あの誰が瑠璃子さんのお相手になるのです

瑠璃子の夫になった男が、香月家の当主になれると香月操たちは、考えている

さあなとりあえず、お前たちには瑠璃子はやらんよ

お前たちの中の誰かが瑠璃子の夫になったら香月家は分裂する決して、上手くはいかんよ瑠璃子の夫は、瑠璃子自身に決めさせるそしてその人物には、香月家の運営には携わらせない

みすずの相手に対して、私はそういう決定をした本人もみすずも承諾しているならば、瑠璃子の方にも同じルールを適用しても構わないだろう瑠璃子の夫になっても、香月家の当主にはなれないと知れば財産目当ての求婚者もいなくなるだろうし

では香月家の当主には、誰がなるのです

香月操の問いにジッちゃんは

瑠璃子でも、みすずでもどちらでも構わないじゃないかこの子らには、当主になるだけの器量も風格もある私はそう判断しておるよ

しかしお二人とも女性です

香月家の長い歴史には女当主も何人かいるそれに、今は21世紀だ男じゃなければ当主になれないという時代でもないだろう

ジッちゃんははっきりとそう言った

ということだからな諸君、これからは二人を盛り立てて行って欲しい

顔を見合わす私塾の連中

いや、私は良い考えだと思います女性当主というのは、これからの時代には受け入れられると思います何より、現在の香月家内の跡目争いが消滅する素晴らしいことだと思いますよ

香月健思がそう言った

確かに、瑠璃子やみすずの夫の座を狙う不埒者がいなくなるのは助かる

そ、そうですか私は、結婚相手にはなれないのですか

瑠璃子の夫は自分だと思い込んでいた香月操は相当なショックを受けているようだ

はいあなたたちは臣下ですよろしいですね

みすずが、強い眼で私塾の連中に言った

はい瑠璃子様、みすず様の下で結束することをお誓い致します

香月健思が、代表してそう言った

君たちもいいね

新興グループは、みな頷く

確かにお嬢様たちがトップの方が、グループ内の結束は高まるでしょうね

司馬アキラも、納得したらしい

お前たちも構わないね

香月健思が親族である、香月仁や夏木惇、さらにプリンス派の一党に尋ねる

まあ確かに、操様が瑠璃子様と結婚するというのは、あんまり良い策では無かったようですね

嘉田があっさりと負けを認める

おい、嘉田貴様

香月操が、睨むが

こうなってしまっては仕方ありますまい閣下のご意志もはっきり致しました香月家に忠誠を誓う家系としては、命懸けで瑠璃子様、みすず様を擁立するしかありませぬ

大張遼が、そう言った

香月家の分家筋よりも旧来からの家臣である家系の人たちの方が、あっさりと受け入れる

ちょっと待てよ操兄ィが瑠璃子様と結婚しないんならオレがお相手になるって可能性もあるってことか

香月仁が、そんなことを言い出すが

それはありません

瑠璃子が、笑顔で答えた

えこれっぽっちも

微粒子レベルでも

ありません仁さんとは

がっくりとなる仁

僕とは、どうですか

作り笑顔で、香月昴が立候補するが

昴さんの方が、仁さんよりももっとありえません

瑠璃子は、ニコニコ顔で却下する

ちょっと少なめの分量で済みません

とりあえず家族編は終了です

交渉編まで行けなかった

では、病院によってから働いてきます

270.マスコミ業界

仁さんあなたは分家であったとしても、香月の姓を持つお方です

あなたのご評判はそのまま、香月の家名に関わりますくれぐれも、軽はずみなことはなさらないように

そのまま、みすずは他のプリンス派の連中を見る

他の方々も同様です臣下になられた以上は、皆様はあたしたちの身内です皆さんは、常に香月の家名を背負っているとお考え下さいあたしも瑠璃子さんも、もう、あなたたちを見捨てようとは思いませんしかしあなた方が、香月の家名に傷を付ける様なことがあれば、厳しい処分をしなくてはならないのだということはご理解下さい

厳しい処分て、何ですか

香月昴が、尋ねる

死んでいただきます

みすずではなく麗華が言った

えとなる私塾の連中

そのための香月セキュリティ・サービスですから

あ、あんたたちは、オレたちを守るために居るんじゃないのか

香月仁が、麗華に叫ぶ

わたくしたちは香月の家を守ることを最優先にしております香月家の血族、代々の家臣のお子様であろうと、お家のためにならないお方は消えていただきます

麗華は、ニコッと微笑む

そういうことですから仁さん、女性とは分別のあるご交際をなさって下さいね

操さん監督してあげて下さいよろしくお願い致しますよ

みすずは、主として香月操に命じた

操ももう、臣下であることを認めるしかない

判りました私のグループの人間が粗相をしないよう、私が監督致します

もちろん普通の恋愛ならば、ご自由になさって下さいしかし、遊びで女性を弄び、傷付けたり何かしらの不名誉なスキャンダルの火種になられるようなことをなさった場合は判っていらっしゃいますね

その時は、香月家からの追放ぐらいでは許さない

殺すと、みすずは言っている

みすず、ようやく判ったようだな当主は、血族と臣下を決して見捨ててはならない不心得者を家から追い出したところで世間からすれば、そいつは香月の家名を背負ったままだ血族ならば当然代々の家臣の子も、不行跡は主家である香月家の責任となるどうやっても矯正できない者は、自らの意志で抹殺してやるのも主の勤めだ泣いて馬謖を斬るの例え通り私も何人もの血族、臣下を処分してきた

諸君できることならば、みすずや瑠璃子には、そういう辛さは体験させたくない身を律して、家名を守って欲しい

かしこまりました、閣下

ご命令に従います

プリンス派でも、忠誠心の強い大張遼、谷楽進、虎田知徳が真っ先に返答した

家を守るためには、それぐらいの犠牲はやむえないのでしょうな

参謀役の嘉田奉孝も承諾する

判りました仁さんと角田の監視は、私が致しましょう

夏木惇が、そう言った

角田が、げっという顔をする

お前たちが、不良学生たちのパーティに入り浸っていることは知っているぞあれの主催者は、ヤクザと通じている知っているよな

でも、オレたちはただの客ですし

角田は、弁解しようとするが

パーティの資金の一部を、お前たちが提供しているのだろ

夏木惇は言った

それは本当なのか、仁、角田

香月操が二人を責める

いや、それはそのなあ、角田

主催になった方が女のウケがいいって言われて

色々と便宜も計ってもらってますし

しどろもどろになる二人

そうやって取り囲んでいくんだよああいう手合いはな

パーティを隠れ蓑にして、裏では違法薬物の売買や売春などの違法行為を行っていくつもりなのではありませんか

嘉田が、そう予測する

そんなそんな酷いやつらじゃないですよ

だって、もしそんなことになったらオレたちだって、捕まっちゃうわけですし

あ、馬鹿だこいつら

自分は幸運な身の上で、特別な人間だと思っているから

悪い奴らに利用されそうになっていることに気付かない

いずれにせよ、香月家の人間がそんないかがわしいパーティに参加ましてや主催など、決して認められることではない

香月操の発想は、徹底して保守だ

家名に傷をつけそうな行為は、何一つ見過ごせない

でもあの操さん

あのホント、マジでヤバイんすよ

あいつら普通じゃないんですから

何だ、香月仁も角田も相手の危険性は、認識しているんじゃないか

すでにハマッちゃっているんだな

いや、悪い奴らにハメられたというべきか

藤宮くん

ジッちゃんが、言った

はい、お任せ下さい

麗華が答えた

特別事業部の方へ、連絡しておきます

そういう部署があるんだ

お友達が数人、遠いところへ旅立たれることになると思いますがお二人の方から、連絡をなさってはいけませんよ

冷たい眼で、麗華は仁と角田を見た

特別事業部が動く前にターゲットに連絡を取った場合はお二人も内通者として、遠いところへ行っていただくことになりますから

麗華ちゃん、遠いところって

真緒ちゃんが、ニコニコして尋ねる

お花がいっぱい咲いていて、とっても温かい場所ですよ

うわぁ、天国みたいだねっ

ゾッとする仁と角田

そこまでして家を守っているのですね

司馬アキラが、呟いた

当たり前だ長く続いた名家となれば、分家筋も増える家臣も多いとなれば悪い連中と付き合ったり、自ら犯罪組織の構成員となる者も出る徹底した防衛システムを持ってなければ、食い物にされるよ

香月家は日本有数の名家なのだからね白坂家の様な成り上がりではない

そうだ白坂家は

家の中から、白坂創介の様な悪人が出ることを許してしまった

それどころか、白坂創介の悪行が世間にバレた後でも

当主・白坂守次は白坂創介を庇おうとして、テレビ会見を行った

それが上手く行かなければ、今度は犯罪組織に依頼して抹殺しようとしている

永年、名家をまとめあげてきたジッちゃんからすれば全然、防衛体制がなっていないとしか思えないのだろう

香月家は内部の汚点の抹殺ために、香月セキュリティ・サービスの中に専門部署を設けている

外部の裏組織に依頼すれば相手に脅される材料を、自ら与えることになるからだろう

綺麗事では、済まないのだよ家を守るということは君たちが企業を興すとしたら、やはり同じだ企業は家だ君たちは、従業員という家族を背負う

ジッちゃんは、今度は新興グループの連中に話す

君たちの事業が成功すればいや、成功しなくても、少しでも君たちの企業から金をせしめられると思えば悪党どもは近寄ってくるよ彼らは金の匂いに敏感だからね常に注意深く周囲を監視し、いつでも対抗手段を執れるようにしておかないと一気に喰われるぞ

シンとなる新興グループのメンバーたち

今までは企業経営の表側しか教えてこなかったがこれからは、裏も教えてやろう力には、力でしか対抗できない政治家や警察関係者と繋がっている犯罪組織も多いならば、こちらはやつら以上の影響力を政府に対して持っていなくてはならないフェアな闘いなんて無いのだよ私たちは、常にサバイバルしているのだからね

サバイバル

最近読んだ本である教育評論家が、子供たちに生存競争させるような教育はするべきでないと言っていたよ私は、その評論家に唾棄してやりたいね人間は、生き続ける限りサバイバルだよ生き残り、自分と自分の家族の幸福を守りたいのなら闘い続ける意志を失ってはならない気を許せばいつでも、討たれる子供たちにこそ、サバイバルのための技術を教えるべきなんだよ

もちろん人だけではない企業にも、家にもサバイバルしていくために必要なことがある

犯罪者と戦うためには、香月セキュリティ・サービスの様な戦闘部隊を自ら組織する

香月仁、角田文和心配するなお前たちの懸念は綺麗に消してやるお前たちは、私の可愛い教え子だからな

ジッちゃんの言葉に、二人は震え上がった

この先この二人が、迂闊な行動をすることは無いだろう

もしまた、悪い連中が近寄って来ても

香月操や夏木惇たちが、監視してくれる

よっぽど悪辣な連中なら香月セキュリティ・サービスが撃退する

こうして、香月の家は守られる

血族に迂闊なお調子者が現れても、深刻な事態になることはない

さて今夜は、君たちのために、一つのプログラムを用意した

すでに知っているだろうがこの後、このホテルで私たちは白坂家の人間と会う誰か白坂博光氏について詳しく知っている者はいるかね

ジッちゃんは、講義を始めた

オレたちにも普段の私塾の様子を見せてくれるつもりなんだろう

白坂家の方ですが主流派では無い方と聞いています

新興グループの孔守融が答えた

そうだ大阪のテレビ局の代表取締役だ

大阪

日本のマスコミ業界というのは、面白い歴史を持っていてね元々は、大阪で創業した会社が全国規模になって、東京に本社を置いたというケースが多い白坂家の場合は、もっと複雑だ白坂家が新聞社を創業したのは東京だが各地方の小さな新聞社を買い取って全国展開を果たした大阪の場合も、地元に古くからあった新聞社を買収している大阪だけで販売しているスポーツ新聞には、まだ買い取られた新聞社の名前が残っているよ

大阪って行ったことが無いから、よく判らないけれど

さらにテレビ事業は、まず先に大阪の企業と出資し合って大阪にテレビ局を作った白坂家の単独でテレビ事業に乗り出す余裕が無かったんだろうな東京に系列のテレビ局を作ったのは、大阪の局の六年後だこちらは100パーセント白坂家の新聞社の子会社だこれが何を意味するか、判るかね

ジッちゃんが、尋ねる

東京の新聞社やテレビ局と違って大阪のテレビ局は、白坂家の支配が弱いということですか

やはり新興グループの花岡侘介が答える

うんこっちのグループのやつらの方が、ビジネス感覚があるんだな

そういうことだ大阪のテレビ局は白坂家の株保有率は30パーセントにも満たない後は地元の企業が株を持っている従って、系列ではあるが白坂家に完全に支配されているわけではない特にニュース番組は、東京の局の配信を断って、大阪で独自で製作している白坂家の意向に沿った報道ができないようにな

なるほど、そういうこともあるんだ

白坂家の現当主・白坂守次氏は、その様な状況を嫌って、これまでに何度も大阪の局の完全子会社化を目指したしかし、ことごとく地元企業の反発を食らって、頓挫している大阪は、東京に情報発信の全てを握られることを嫌っているんだよ

白坂家の野球チームも大阪だけは、人気が無いからな

しかし大阪の局の代表である白坂博光氏は、白坂家の一員じゃないですか

司馬アキラが、尋ねる

白坂博光氏は、白坂家でも傍系だ親の代に大阪に移って、父親は大阪の新聞社に勤めていた博光氏自身は、テレビ局の創設以勤務している白坂の名前はあるが、大阪で叩き上げで出世した人なのだよ

その人が今夜、交渉に来る

現在の白坂家の新聞・テレビネットワークは東京本社と地方で、激しい対立が起きているもはや、新聞社の野球チームの人気で視聴者を増やすことができる時代では無いからな

そんなに深刻なのですか

嘉田が尋ねた

ああ時代の変化に対応できなかったツケを、彼らは地方へのゴリ押しで支払おうとしているからね

ゴリ押し

新聞社とテレビ局ただの報道機関が、余計なものを持ちすぎている系列の出版社やレコード会社、今では大手タレント事務所の株まで買っているこうなると、始末が負えない

系列のレコード会社に所属するアーティストを売るために自局の音楽番組で取り上げる系列の出版社を儲けさせるためにその会社から出ている小説を、ドラマ化する投資しているタレント事務所の株価を下げないために積極的に、その会社のタレントを起用する全ては、東京本社だけの勝手な都合だ

あげくに売れない映画まで作るこれは全ての系列企業のゴリ押しの塊だ出版社が押してくる原作に、タレント事務所の押す俳優が出演し、主題歌は系列のレコード会社で売る宣伝は、テレビ局、新聞社、ラジオ、出版社、ありとあらゆる系列会社の力を駆使して行うそして大量の映画のチケットを系列会社に買わせる儲けは出ているが実際には客は入っていないそのツケは全て、宣伝の片棒を担がされ、無理矢理チケットを買わされる地方の系列会社に廻って来る

ああそういうシステムなんだ

15年前なら、それでもまだどうにかなっていた当時の庶民は、テレビ・ラジオ・新聞・雑誌からしか情報を受け取れなかったからなそれらを煽れば客は入った適当な流行やブームを生むことができた主要なメディアを抑えて、批判記事を書かせないようにすることは簡単だったからな

そっかネットがまだ無かったんだ

香月昴が、呟く

そういうことだよ今は、面白くないものは面白くないと、すぐに伝わってしまうからねどれだけステルス的な宣伝をしたところで世論の大筋は変えられない日本の庶民の感性は鋭いよ何が本物で何が偽物なのか彼らは簡単に見抜く

ジッちゃんの説明に、みんな頷いている

結果としてこの10年の間に、マスコミは大衆への影響力を大きく削がれた今では、昔のようにマスコミが煽ったところで、大きなブームにはならない宣伝効果が少ないと判れば、スポンサーも減るそれなのにも関わらず、東京のマスコミ各社は昔が忘れられないのだちょっとテレビで火を付ければ、爆発的にヒットした時代がね

オレはまだ子供だから、昔のことはよく判らないけれど

現在のマスコミ各社は、広告代理店と組んで視聴者に物を売り込むだけの組織となっている情報発信ではなくただの商人だそれが、さらに庶民からテレビ・新聞を遠ざける結果になっている

うんオレも全然テレビ見ないけれど困らないもんな

歌手とかタレントとか、知らなくても生きていけるし

東京本社が、何ら有効的な対策を取ることができない現在地方の系列会社の方が酷いことになっている不況は地方の方が厳しいから、スポンサーも減っているし東京からは、様々なツケも負わされているなのに東京本社からのゴリ押しのコンテンツばかり放送せざるを得ない状況になっているその上、自社としての意見を持った報道は許されていない

それが東京と地方との対立

白坂博光氏の大阪のテレビ局は完全子会社でないがゆえに、白坂家の東京本社の意向に沿わずに独自の放送をすることができる関西の企業を個別にスポンサーにしているから、東京にも文句が言える各地方の系列会社としては、東京本社に対抗できる唯一の存在なのだ

その人がここへ来る

私の狙いは東京の白坂家が支配する報道ネットワークの解体だ今回のことを軸に、他の報道機関にも波及させるそして、日本のマスコミを再編成させたいのだ

マナがオレに寄って来る

マナはオレの手を取り

自分のお尻に当てる

パンツを穿いていない裸のお尻

触って

怖いの、あたし

マナも白坂家の娘だ

自分の生まれた一族が崩壊させられるという話に

マナは、怯えている

うん、マナ

オレは、マナの尻をキュッと摘んだ

あんっ痛いよっ

オレの耳に、マナは囁く

ごめんとっても良い感触だったから

今度は、優しく美尻を捏ねる

うん優しくしてあたし

マナの眼が、潤んでくる

お兄ちゃんの女だよね

ああ、お前はオレのマナだ心配するな

お尻を揉まれてマナは安心していく

マナはお兄ちゃんのセックス奴隷です一生、お仕えします

そんなこと言わなくても大事にするから

オレは、マナの腰を抱く

うんお兄ちゃんあたしのお兄ちゃん

私塾の連中は、ジッちゃんの話に夢中になって、オレとマナの様子に気付かない

そういう意味では割と真面目な連中なんだと思う

あ、ジッちゃんはダメそうなやつは5人ほど帰宅させたって言ってたよな

ってことは

香月仁や角田みたいなお調子者でも、見所があるとジッちゃんは思っているんだな

うん簡単に決めつけないで、理解しよう

相手の悪いところではなくいいところも

もう、何をしてんのよっ二人とも

寧さんが寄って来る

お兄ちゃんに、お尻をイジッて貰ってるの

赤い顔で、マナは答えた

そっ甘えているんだっ

でも、ほどほどにねみんな、マナちゃんのこと睨んでるよっ

周りを見回すと

メグが怖い顔で、こっちを見ている

みすずもちょっと冷ややかな表情だ

マナみんな見ているから、そろそろな

オレがそう言うとマナは

えー、いいじゃん見せつけちゃおうよ

小悪魔のように、微笑む

マナ、幸せだよ

父の意識が戻ったと母から連絡がありました

まだ喋れないようですしどれくらい、意識がはっきりしているのか判りません

これから病院へ寄ってそれから仕事へ行きます

271.コンプレックス(その1)

それで白坂博光氏だけが、交渉に来るのですか

香月操が、ジッちゃんに尋ねる

事態はそう単純では無い昨夜の白坂家当主・白坂守次の記者会見放送での失態で、地方の系列会社の連中は危機感を持った身内の犯罪者をトップが庇う様な放送をする報道機関を、誰が信用する東京のキー局や新聞の本社には、当然、視聴者からの抗議の電話やメールが殺到している

そうか、地方の人は地元のテレビ局やラジオ局新聞の支社に抗議するから

さらに、白坂家の新聞社、テレビ局は多数の関連企業・財団・研究機関を持っているそう言った、報道機関とは直接関係の無い部署にまで、今回のスキャンダルに対する波紋が広がり始めている

白坂創介は、白坂家の一族だけれど

本人は、広告代理店の社員であって、白坂家のグループ企業の人間では無い

そんなやつの起こした不祥事で、抗議電話の対応で業務がパンクしてしまったり、デモや不買運動を起こされたら関連会社としては、たまったもんじゃない

こうなってしまったからには普通の一般企業なら、白坂守次が引責辞任するしか無い何しろ、犯罪者を擁護し、犯罪事実を隠匿するような会見を自ら行ってしまったのだからねしかし白坂家はよくも悪くもこの25年、当主・白坂守次のワンマン経営でやって来たこんなつまらないことで引退させられるということを、白坂守次は受け入れることができないだろう

しかし白坂守次氏が辞任しなければ、白坂家の関連企業に対する抗議運動は収まらないでしょう

だから地方のテレビ局や新聞販売店を中心に、東京本社に対して唯一独立を保っている大阪の白坂博光氏が推されたのだ博光氏は傍系でも、白坂家の人間だ白坂守次氏を当主から引きずり下ろすためには、本家筋の誰と手を結ぶべきか判っている

部屋の壁にスクリーンがツーっと降りてくる

この部屋は、本来はホテルの結婚式場として作られている

このスクリーンも、披露宴で映像を映すためのものなんだろう

白い画面にまず、一人目の人物が映し出される

まず、これが大阪の白坂博光氏だ

うん60過ぎの恰幅の良い、ハゲで眼鏡のオッサンだ

口元が、ニヤッと笑っている

何となく、策士っぽさそうな雰囲気がある

映像が変わるやっぱり60過ぎの派手なオバサン

何か、やたらと口がでかい

次が、白坂信子氏だ東京の白坂本家のそうだな、ナンバー6ぐらいの順列にいる白坂ホールディングス・専務取締役白坂国際政治研究所・所長、白坂平和基金・総裁、財団法人日本とアジアの子供が輪になって踊る会・理事長まあ、白坂本家の中で白坂守次氏に対抗する反主流派グループのボスだ

さらに、別の映像

チリチリパーマの40過ぎの太った男が現れる

白坂富久志氏、信子の息子だ現在は、新聞本社の文化部部長これといって、めぼしい働きはしていないが、信子氏が連れて来るまあ、新聞社の内部事情を聞く相手としては、良い人選だろう

それから小柄なお爺さん

最後が山田ヒサシ氏新聞社の副社長の1人だ白坂守次氏側の人間だったが、白坂博光氏に説得され、白坂守次氏失脚計画に参画することとなった白坂守次氏を見限り始めた中間層を押さえてくれることになっている

なるほどすでに、白坂家内でクーデターの準備ができているんだ

今夜、私たちが交渉のテーブルを囲む相手は以上の4名だ彼らは、私たちに計画のサポートを求めている

ジッちゃんは、私塾の連中にそう説明しているが

実際は少し違う

彼らはミナホ姉さんと取引をしに来る

ミナホ姉さんが、白坂創介の悪事についての情報をリークし続ける限り

このスキャンダルの炎上は、終わらない

それどころか、ミナホ姉さんが、さらに大量の火種を持っている

彼らはその流出を恐れている

当主・白坂守次の方針は、真っ正面からの徹底抗戦だがそんなことをやっていたら、企業グループ全体で膨大な損害が出ることになる

地方と関連会社は、早急な消火を願っている

だからミナホ姉さんと手打ちをしなければならない

そのことをジッちゃんが私塾の連中に言わないのは

黒森御名穂と黒い森という裏組織について、彼らに教えるべきでは無いと思っているからだろう

彼らのサポートを引き受けることで香月家には、どんなメリットがあるのです

司馬アキラが尋ねた

香月家のメリットというより日本の国益の問題だな

ジッちゃんは、答えた

白坂創介による醜聞が明らかになってから白坂家の関連企業の株は、軒並み暴落している安くなった株を、外国人投資家が狙っているという情報がある

しかし外国人が直接、日本の報道機関の株式を買い漁るのは強い反発を受けることになると思いますが

嘉田が言った

そんなもの日本人が代表者になっている投資ファンドにでもやらせればいい間接的にでも、やつらは支配できれば良いのだからしかし日本国内の報道機関を、外国人に握られるのは良く無い彼らにとって都合の良い恣意的な報道をされるぞ

なるほど背後で動いているのが、アメリカ人投資家ならば、ただの金に群がるハゲタカですがそれ以外の国の人間だと、政治的な目的に利用されますね

香月健思が、解説してくれた

とりあえず私たちが救済してやる代わりに、白坂家の持つ株式を吐き出させる全てを奪うことはできないだろうが3割は、私たちで押さえるそうすれば、執行役員を送り込めるからな白坂守次氏が失脚すれば、次の新聞社・テレビ局のトップは、白坂家の人間ではなくなる白坂家の人間から白坂家の人間にバトン・タッチしたのでは世論は納得しないだろう新しい代表者と、私たちの送り込んだ役員で社内から、白坂家の影響を抹消させるよ

つまり白坂本家にはもう、経営には触れさせないと

香月操が、驚き顔で言った

ああ白坂の本家には、新聞社・テレビ局の大株主の1人という立場に甘んじて貰うもちろん白坂の一族でも、有能な人間には要職に就いて貰うが、トップには据えないそもそも、一つの家が巨大な報道企業グループを牛耳っているという状況が異常だったんだこの機に、それを正す

ジッちゃんはそう言う

ついでに関連企業も整理させる独立させられる会社は、全て独立させて新聞社とテレビ局は、報道機関としての業務だけを行わせる下らん商売は、もうさせんよ

ジッちゃんは、白坂家の企業グループを完全に解体してしまうつもりらしい

まあ、確かに新聞社やテレビ局が、レコード会社や芸能プロダクションまで運営しているのはおかしい

今午後の8時過ぎだ予定よりも、少し遅れているが白坂博光氏らは、そろそろ到着することになっている

劇場にやって来た白いヴァイオラと一緒に居た、ミス・コーデリアは、午後8時までは襲撃しないと約束してくれた

すでに、その時間を過ぎている

約束を守ってくれたということなのか

いや、敵はすでにオレたちの近くまで潜入していて

開戦の指令を待っているだけなのかもしれない

実態は、何も見えない

まあ、私が呼んだ連中も到着が遅れているからな

ジッちゃんは、交渉の場に私塾の連中の親たちを呼んでいる

そのうちの誰かが

裏切り者なのではないかと疑っている

香月セキュリティ・サービスに、敵が紛れ込んでいたことを考えると

シザーリオ・ヴァイオラ以外の敵が、身内にいることは想定できる

今しばらくは、そこで食事でもしていてくれ追ってまた連絡する

そして、ジッちゃんの音声は途切れた

スクリーンの映像は、ホテルの1階玄関に切り替わる

あ誰かが車で、ホテル内に入ってきた

あ、うちの親父だあれ

角田が、言った

高そうなスーツの男が、黒塗りの車から降りる

こうして1人ずつ、交渉のテーブルに着く人々がホテルに集まって来るのだろう

みんな、お腹は空いていない

オレはオレの女たちに声を掛けた

え、どうしたのヨッちゃん

寧さんが、驚いてオレに尋ねる

食べられる内にちゃんと食べておこうよ

さっきは食事の途中で、私塾の連中に乱入されたから

それにご飯を残すのは、もったいないよ

用意された食事は、まだかなり残っている

旦那様、そうですわね

今の内に、もう少しだけ食べておきましょう

うん実際にヴァイオラの襲撃が起これば、次の食事は何時になるのか判らない

ホテル内に孤立することも考えられる

そうだね食べる、あたし

あなたたちも、できる限り食べなさいいいですね

みすずが、私塾の連中に命じた

さて、部屋の中は、不思議なことになった

みすずの命令が効いているから私塾の連中は、オレたちには近付いてこない

そのかわり

プリンス派と新興グループで、交流している

一度、あなたとはお話してみたかったんです

司馬アキラが、プリンス派の参謀役の嘉田奉孝と会話している

その向こうでは、新興グループに居た香月健思が、虎田知徳や大張遼、谷楽進と言った香月家では無いプリンス派のメンバーと話している

華岡侘介、孔守融も、その輪に加わる

プリンス派の香月操をリーダーにした血の濃さによる順列が崩壊したため私塾の中のパワー・バランスが一気に変化しようとしているのだろう

プリンス派は、血族と親の世代の因縁に縛られていたし

新興グループも、後からの参入した人間の子供という負い目があった

それもまたコンプレックス

そういうコンプレックスが一気に解消されて一気に風通しがよくなっている

もっとも逆に孤立することにしたらしい者もいる

河藤晃司と高木風太の2人は、1人離れて全体の様子を眺めている

また、香月操、昴、仁の3人は血族だけで集まって、静かに食事をしている

オレたちの方も、少し変化がある

さっきまで暗い顔をしていた美子さんが今は、明るい顔で瑠璃子と食事している

瑠璃子の婚約者問題が片付いたことで、少しフッ切れたらしい

みすずと渚が場を取り持っている

麗華はあいかわらず、真緒ちゃんと遊んでいる

マナとメグは、2人で固まって食事していた

このコンビは、どうにか壊さないといけない

メグとマナのコンビは、あんまり良く無い気がする

雪乃は、1人でぐったりとしている

しかし、自分の正体を知る香月仁が居るからオレたちの側からは、離れられない

お前、ちゃんと食ってるか

オレが雪乃に尋ねると

もう、放っておいてよあたしのことなんて

オレは、サンドイッチと飲み物を持って行ってやった

とにかく食っとけよいざっていう時に力が出ないぞ

いいのよ、あたしもう死んだっていいんだから

雪乃は、暗い顔でそう言う

守次おじ様が失脚したらもう、あたしたちを助けてくれる人なんて、誰もいないわ

雪乃はあたしたちと言った

パパも見捨てられるママは市川の実家へ戻ればいいし舞夏は、まあ、あんたが助けてくれそうだけれど

雪乃には自分の家族がある

あんな酷い父親と責任放棄の母親も雪乃にとっては、家族なんだ

あたしはどうなるのかしら

とりあえず一年は、オレたちと一緒だよ

一年

雪乃は、怪訝な顔をする

お前は子供を産むんだから

ハッとして雪乃は、自分のお腹に触れる

あたしもう妊娠しているのかしら

今していなくても、必ず妊娠させるよそれがミナホ姉さんの意志だから

ミナホ姉さんは雪乃に、死んだ自分の妹の身代わりを産ませようとしている

赤ん坊が産まれなければミナホ姉さんの復讐は完成しない

ミナホ姉さんは、白坂創介によって二度と子供を宿すことのできない身体にされてしまったのだから

そうね、あんたたちが諦めるとは思えないものね

雪乃は、嫌悪感を露わにして呟いた

好きなだけ、あたしのことをレイプすればいいじゃない卑怯者

そんな雪乃にマナが近付く

お兄ちゃん、あたしが産もうか

おい、マナ

雪乃さんじゃなくてあたしが産んだって、黒森さんの復讐は果たされるでしょあたし、別にいいよどうせ、いつかはお兄ちゃんの赤ちゃんを産むつもりだし今すぐ、妊娠してもいいよマナ、どうせ学校へ戻れないし

マナは今通っている、名門女子中学には戻れないだろう

一年休学してマナが、赤ちゃん産むよそしたら、雪乃さんはもうお払い箱でいいよね

あ、あたしだっていいのよ

メグまで、寄って来る

あたしも白坂創介の娘なんだから

いいよ、メグお姉ちゃんマナが産むよメグお姉ちゃんは、学校があるんだし部活頑張って欲しいし

マナこそダメよ14歳で出産なんて、身体によくないわそれに、あなたスーパーモデルを目指すんでしょ妊娠したら身体のラインが変わるのよ知ってるでしょ

メグが、マナに言う

でも夢は夢だもん夢よりも、あたしはお兄ちゃんとの絆が欲しい

赤ちゃんができたらもう、絶対にお兄ちゃんとは離れなくていいんだって、信じられる気がするの

そっかマナは

不安なんだ

それにね雪乃さんが、お兄ちゃんの赤ちゃんを産むのは怖いの

雪乃さんにお兄ちゃんを取られるんじゃないかって

ヨシくんあたしもそう雪乃が怖い

この2人は

雪乃の実の妹と、腹違いの姉妹

ずっと、雪乃に対してコンプレックスを感じて生きてきた

その傷が2人の心に深く残っている

あたしはこんな男、大っ嫌いだから

雪乃が姉妹たちに言った

でも、この男どうも、あたしのこと好きみたいなのよね

意地の悪い笑みを浮かべて雪乃が囁く

知ってるわだから、怖いのよ

あーあ、あんたたちの落ち込んだ顔を見たらお腹が減ってきちゃった

雪乃は、オレの持って来たサンドイッチを食べる

そうねあんたを苦しませるためなら、この男の赤ちゃんでも産んであげようかしら

雪乃もまたメグに劣等感を抱いている

その悪感情が雪乃を暴走させる

あんたの泣く顔が見れるのならあたし、何でもするわ

雪乃お前、何も判ってないな

お前一度でも、オレとセックスしたいと思ったことはあるか

そんなのあるわけないじゃないあんたみたいな人、嫌いだものあたしはいつも、無理矢理あんたに犯されているのよ

プライドの高い雪乃はそう、答える

そうだお前はいつも、無理矢理犯されている今も、無理矢理、変な格好をさせられて無理矢理、連れ回されているお前の意志なんて、全然関係無く

そうよっあたしは被害者なのよっ

雪乃が怒りの眼で、オレに吠える

そういうことだ妊娠させられるのも、子供を産まさられるのも無理矢理だお前の意志なんか無視だ

泣かなきゃいけないのは、お前の方だお前の人生、オレがメチャクチャにしてやるからな

雪乃の眼にクッと涙が溜まる

な、何よ、何よ、何よ許さない、絶対に許さないからねあんたなんて

また、涙の粒が雪乃の頬を零れていく

ああ、許さなくていいよ許して貰おうとは思わないから

オレは、メグとマナを見る

お前たちは何があっても、雪乃を羨ましいと思うな

メグもマナもオレが幸せにするだから、お前たちは幸せになる

雪乃は、絶対に幸せにしないお前たちとは、違うんだ

雪乃とは判り合うことはできない

オレたちは、相容れない

オレを信じて、胸を張れいいな

暗い顔のままのメグ

お二人は、ご主人様を信用なさらないのですかでは、ご主人様の女であることを、ご辞退下さい

すっと美智が顔を出す

美智さんそれって

わたくしやみすず様はご主人様が、わたくしたちを幸せにして下さることを信じておりますしわたくしたちも、ご主人様を幸せにすると誓っております

美智が、はっきりと告げた

ご主人様にいつまでも甘えるばかりで、ご主人様を支えるおつもりがないのならお二人は、わたくしが排除します

おい、ちょっと美智

工藤流古武術で、メグやマナに襲いかかられては困るぞ

はいはいはーいっそこまでねぇっ

寧さんが、ニコニコ笑って登場する

メグちゃんもマナちゃんもそろそろ考え直してね君たち、昨夜からずっとヨッちゃんに甘えっぱなしなんだから

甘えてますかあたしたち

甘えるのは、いいんだよっ家族なんだからっでも、甘えるばかりになっちゃっててそれでいいの

よくないと思う

あたし、どうしたらいいんだろう

メグが呟く

いつのまにかみすずさんに追い越されてみすずさんは、ヨシくんのパートナーとしてどんどん魅力的になっていってるのにあたしは、お荷物のままであたしあたし

272.コンプレックス(その2)

ふーん仕方無いんじゃないの

落ち込むメグに寧さんは、カラッとした声で言った

メグちゃんは、ヨッちゃんの側にずっと居たいんでしょ

それは、そうですけれどでも

でも何さ

あたしヨシくんの役には、立っていないと思うから

ヨッちゃんに必要とされたいんだ

だって今のあたしには、ヨシくんが必要なんですだから、あたしもヨシくんに必要とされたいでもヨシくんには、みすずさんや寧さんや、あたしなんかよりも素敵で心の強いお姉さんたちが居てくれていてあたしは、足手まといなんじゃないかって思うんです

メグは暗い顔のままだ

さっきだってみすずさんは、わざわざあたしを慰めるようなことを言ってくれてみすずさんには、あんなに余裕があってあたしのことまで、気遣ってくれてあたし、負けてる全然、負けちゃっているんです

そうかしまった

さっき、みすずが落ち込んでいるメグを慰めてくれて

それでメグが泣いていたから

オレは、てっきりあれでメグの気持ちは収まったと思っていたけれど

逆なんだ

メグは心の中で、みすずに強いコンプレックスを感じていて

オレを取り合うライバルみたいに思っていて

そんなライバルであるみすずに優しくされたことが情けなくて泣いたんだ コンプレックスを強化してしまったんだ

負けているのが、嫌なの

寧さんがメグに尋ねる

嫌です

じゃあ、どうするつもり

判らないですあたしはみすずさんみたいな素敵な女性じゃないしみすずさんみたいに、人に優しくできないし勇気も、強さもない

メグは、ブルッと身体を震わせる

メグちゃん君は大きな勘違いをしているよ

みぃちゃんだってメグちゃんが思っているほど、余裕は無いよ

でもみすずさんは強いですあたしより

だったらヨッちゃんは、みぃちゃんにお任せして、メグちゃんは身を引く

ハッと顔を上げるメグ

そんなことはできません

クスッと微笑む、寧さん

だったら必死で食らいついていくしかないよねっ

食らいついていく

あたしもさっ昔は、思ってた愛している人に、必要とされたいってケイちゃんが生きていた頃あたしは、ずっとケイちゃんに縋って、助けて貰っていたから

寧さんが過去を振り返る

でもあたしには、ケイちゃんにしてあげられることなんて何もなくて姉としても、女としても何もできなかった本当にケイちゃんの足手まといでさ

寧さんの殺されてしまった双子の弟さん

寧さんを守るためにシザーリオ・ヴァイオラに犯され続け

最後は、ヴァイオラの妹と相打ちになった

でもさ最近、思うんだよね生きていてくれさえしたら、それだけで良かったって何かしてあげたいとか、必要とされたいとかってさ結局は、自分の欲求でしか無いじゃんそういう思いを全部フッ飛ばしてさあたしのこと、好きでいてくれなくてもいいから、憎んでいたり嫌っていたりしてくれてもいいから生きていて欲しかったなあたし

寧さんは寂しく笑う

ケイちゃんは、クリスチャンだったんだけど話したっけ

寧さんが、オレを見る

はいヴァイオラに監禁されていた時、夜に寧さんとお祈りしたって話を聞きました

寧さんはその時自分の肉体を弟に捧げようとした

だけど、クリスチャンである弟はセックスを拒んで

二人で神にお祈りをして夜を明かした

あたしはさ、どれだけお祈りしても助けてくれない神様を憎んでいたけれどケイちゃんは、神様はいつも、ボクたちに寄り添っていて下さるって言ってたうん寄り添うだけ助けてはくれないんだよ

メグとマナは、真剣に寧さんの話を聞いている

アメリカのキリスト教の教会にはねよく壁にGOD IS LOVE.って書いてあるんだよね日本語にすると神は愛なりってことなんだけれどその言葉が、最近よく頭に浮かぶんだ

神は愛

人間に寄り添っているだけで、助けてはくれない神様が愛なら愛っていうのは、寄り添うだけの行為なんじゃないかってさ相手に必要とされるとか、助けてあげるとかそういうのは、無くてもいいんじゃないかなってただ、側に居る存在している生きていてくれるだけで、充分なんだと思うんだよ

ケイさんは、もういない

寧さん、オレずっと寧さんの側にいますから

オレはケイさんの代わりに、寧さんの弟になると約束した

判ってるってあたしも、ヨッちゃんとずっと一緒だよっ

寧さんは、微笑んでくれる

メグお姉ちゃんは、考えすぎなんだよ気持ちは判るけれど

マナなんてさお兄ちゃんに迷惑掛けっぱなしだよマナこそ、お兄ちゃんのお荷物だよいつ、お兄ちゃんに嫌われて捨てられても文句が言えないもん

マナが、オレに身体を寄せる

頭をオレの胸に当てて

マナが生きていく場所は、もうお兄ちゃんの側しか無いのに

だから、お兄ちゃんの赤ちゃんを産んだらずっと側に居てもいいって、パスポートが貰えるような気がしたんだよ

こいつの心の傷も、根深いな

恵美お姉様も、マナ妹《イモウト》も気にしすぎです

ずっと黙って二人の話を聞いていた美智が口を開いた

恵美お姉様はともかくマナ妹ってのは何だ

ご主人様は、大きな木のようなお方ですわたくしたちは、ただご主人様の木陰に入って、休ませていただければそれだけ良いのです

あたしもそう思うヨッちゃんは、側に居るだけであたしたちを癒やしてくれるからそれだけでいいんだよ

いや、だってオレこそ、何もできていないじゃないですか

実際の話オレは、みんなの役に立っている自信は無い

何でヨッちゃんは、いつもあたしたちの話を真剣に聞いてくれるじゃん一生懸命、一緒に考えてくれるしあたしのこと、好きだって言ってくれたよねっ

あたしもヨッちゃんのこと、大好きだよっそれでヨッちゃんは、メグちゃんや、マナちゃんに、ミッちゃん克っつんや、渚さんや、みぃちゃん、ルリちゃん、麗華さん先生やマルちゃん、シゲお祖父ちゃんに、関さんと美子さんみんな好きでしょ

はい好きです

うんヨッちゃんて、心の中が何もかも顔に出るし嘘吐かない子だもんね本当に好きだと思った人に対しては優しいし嫌いな相手には、徹底的に壁を作るしね

そうだよヨッちゃん、あっちのエリート軍団、嫌いでしょ

それはまあ

嫌いというか苦手というか

あっちの人たちも、ヨッちゃんのことを基本的に拒絶しているけどさヨッちゃんも、ヨッちゃんで心をシャット・アウトしているよホント判りやすいよね

寧さんが、オレに微笑む

というわけだからさヨッちゃんが、あたしたちを拒絶していないのならあたしたちは、ヨッちゃんの側に居ていいんだよヨッちゃんという大樹の木陰で、あたしたちは、のうのうとしていいんだよそんで、もしいつか、ヨッちゃんがあたしたちのことを受け入れきれなくなったらそういうのは、ヨッちゃんの顔を見ていれば絶対に判るからそしたら、あたしたちはヨッちゃんから離れて行けばいいんだよ

メグとマナに寧さんは、言う

でもあたしはあたしは、ヨシくんの役に立ちたいんです

メグは、苦しそうに言った

そんならささっきも言ったよね死に物狂いで食らいついていくしかないだろうね一生懸けてさ

一生ですか

寧さんの言葉にメグは驚く

そうヨッちゃんが死ぬ時に君がいてくれて本当に良かった、ありがとうって言わせれば、メグちゃんの勝ちだよ長い長ーい期間、ずっとずっと食らいついていくんだよそれしか無いんじゃない

ニコッと微笑む寧さん

あたしはケイちゃんの時みたいな後悔は二度としたくないからだから、ヨッちゃんには、ケイちゃんにしてあげられなかったことは何でもしてあげるのヨッちゃんが、どんなことでも迷惑がらずに受け入れてくれることは、もう判っているしさ後は、長い人生を一緒に楽しく過ごしていくだけだよっ

何かしてあげたいなって思ったら、その時にしてあげればいいしヨッちゃんが、あたしにしてくれることは、何でも受け入れるし今できないことは、無理にしない急がないし、慌てない人生長いんだから

寧さんはオレに処女を捧げてくれると約束した

でもシザーリオ・ヴァイオラのことが、解決するまでは

寧さんの中で、ケイさんの供養が終わらないから

オレたちは、抱き合うことができない

そのことはオレも寧さんも判っている

だから、慌てない

ゆっくりと時期を待てばいい

本当に大きくて立派な樹だね、ヨッちゃんはしっかり根を張って、動じない愛しているよヨッちゃん

オレもです寧さん

オレは、メグとマナと美智を見る

みんな大好きだからなオレ

美智とマナが、微笑む

判っておりますご主人様

マナもお兄ちゃんが大好きだよっ

ヨシくんは雪乃のことも、愛しているの

延々とオレたちの会話を聞いていた雪乃が、こちらに振り向く

うんと、オレは雪乃のことは好きだけど雪乃はほら、オレのこと好きじゃないから

だからオレと雪乃との距離は、これ以上は縮まらないんだ何回セックスしても、雪乃がオレの子供を妊娠したって変わらないと思う

雪乃は入学式の時と同じだ

同じだけ遠いところにいる女だ

オレがあの頃毎日、雪乃を遠くから眺めているだけで良いと思っていたのは

オレたちの間の心の距離は、永遠に近付かないままなんだと気付いていたからなんだろう

あたしさあんたたちの話していること、全然判らない何で、そんな男に夢中になれるのよ何考えているのか、全然判らない気持ちの悪い男じゃない

雪乃みたいな子には、オレみたいな男は判らないんだろう

判らないというより理解したくないっていう、嫌悪感があるんだろうな

確かに、この男はエッチが巧いんでしょうけれどでも、それだけじゃない頭の中がスッカラカンの、いつもオチンチン勃たせている種馬みたいな男なのよ

それが雪乃のオレに対する評価か

判った、じゃあもう雪乃さんは、お兄ちゃんとエッチしなくていいね

慌てる雪乃

気持ち悪いって思うんなら、もういいでしょ雪乃さんには、もうあげないからねあでも、妊娠だけは確実にして貰わないと困るよね

それだったらさ、注射器か何かでヨッちゃんの精液を採ってさこの子の子宮に流し込めばいいんだよっ克っつんに言えば、お屋敷の中からそういう注射器を出してくれると思うよ

白坂創介の変態プレー用にそういう器具も、置いてあるはずだ

うん、寧さん、そうしよう

マナが、ニヤッと微笑む

じゃあ、雪乃さんに精液を流し込む係はマナがするねっ

マナのサディスティックな血が燃え上がる

ということだから、お兄ちゃんは今までの倍、マナの中に射精してねっマナ、お兄ちゃんが出してくれた精液を注射器に入れて、雪乃さんを受精させるから

美智さん、ちょっとこっちに来てくれないか

オレが返答に困っているとマルゴさんが、美智を呼んだ

麗華と渚と真緒ちゃんもマルゴさんの周りに居る

みんなでスクリーンに投影された、1階ロビーの映像を観ていた

はい、ただ今、参ります

美智が返事をする

オレたちも行ってみよう

オレは、マルゴさんたちの方へ行こうとする

ヨシくんあたし、頑張るね

小声で、メグがオレに囁いた

何をどうしたら良いのかまだ判らないけれどでも、頑張るからあたし

寧さんが話をしてくれたことで少しはメグは、心を立て直すことができたみたいだ

頑張らなくて良いから側にいろよ

オレもメグの耳に囁く

居てくれればそれだけで、充分だよ

1階のロビーには香月セキュリティ・サービスの警備員と、工藤父の連れて来たフリーの人間が居る

スクリーンに映っている映像は監視カメラからのものか

麗華お姉さんが、監視システムの使い方を教えてくれたんだよ

マルゴさんが壁の中に仕込まれていた装置を引き出して、画面を次々切り替えていく

麗華は、香月セキュリティ・サービスのトップ・エリートの警護人だ

香月家の持ち物であり、重要な会議で何度も使用しているこのホテルのことは、よく熟知しているらしい

しかし工藤さんは、本当に凄いね東京で仕事している、裏の人間はほとんど集めているんじゃないかな

あ、バンバルビー3のお姉さんたちの姿も見える

おっ、あの女、乳首丸出しじゃん

スクリーンに映ったルビーさんの乳首を観て、角田が叫んだ

私塾の連中も歓談を止めて、映像に注目する

マルゴさんは、さっさとカメラを切り替える

しかし本当に個性的な方ばかりですね

呆れた様に、渚が言った

工藤父が集めた連中は、確かにみんな派手だ

たいていは、がっしりとした体型で革ジャンとかを着ているんだけれど

変な格好の人も多い

肩にトゲ付きの大きなプロテクターをしている、モヒカン頭の人とか

編み笠を被った、虚無僧とかどういう人なんだろう

他にも、何故かジェット戦闘機のパイロットの格好をしている人とか(パイロット用のヘルメットに、酸素マスクもしている)F1のレーシングスーツの人(ちゃんとスポンサーのロゴの入った、フルフェイスのヘルメットを被っている)とか

ホテルのロビーなのに、ウェットスーツを着て、アクアラングを背負って、足ひれを着けている人にいたっては目的が理解できない

こうなると工藤父とか、お母さんなのに女子中学生にしか見えないネコさんが、普通の人に見えてくる

バンバルビー3の、三角ビキニのブラにホットパンツに日本刀とか

ピンクのナース服に、巨大な注射器を持っているお姉さんは、アニメかマンガのコスプレみたいに見えるけれど

ていうか、全身真っ赤な服に白いマフラーの9人組のグループとか何なんだ

赤とか黄色とか緑とか、カラフルな和服を着た集団とか

真っ白なスーツを着て、片手で大きなブランデー・グラスを廻している紳士とか

おいおい1階は、仮装大会かよ

香月仁が、呟いた

へえ、伊藤志朗に駒津政夫、三波信介と山田高男まで来ているじゃないか

みんな、裏社会では知られた人物なんだろうか

はい、父は顔が広いですから

美智が、胸を張って答える

こういう人たちをよく知っているというのはどうなんだろ

まあ、工藤父も相当変わった人だけど

美智さんあれって、火星ダグ・ラムと宇宙ギャオス

見ると銀色のスーツを着た二人組の男が、画面に映っている

一人は白人でもう一人は日本人らしい

二人とも濃い色のサングラスを填めている

はい、そうですあのお二人にも、父は何度かお仕事を依頼していますから

美智が答える

へえ、あたしはファイルで見ただけなんだけど相当、腕の立つコンビなんでしょ

何なんですその、火星とか宇宙とか

あの二人のコード・ネームですわ

白人の方が、ダグラス・ラムゼイ氏元は、アメリカの特殊部隊の出身で、当時のコードネームがマルスだったんですそれで、日本の裏社会に身を寄せてからは、名前を略して火星ダグ・ラムと呼ばれているんです

え、何でマルスのままでいいじゃない

うんオレもマナの言う通りだと思う

それがマルスというコードネームの方が、日本の裏社会には昔からいらっしゃっいますので

正確にはゲッター・マルスさんです

麗華の説明に、美智が補足をする

ああ、コードネームが被ったので後から来た方の名前を変えたんだ

宇宙ギャオスさんは

宇宙ギャオスさんは、本名が内藤宇宙太さんとおっしゃるんです

マナに美智が答える

宇宙太だから宇宙

ギャオスは

内藤だからです

美智は、自信満々にそう言うが意味が判らない

しかし、火星ダグ・ラム氏だけじゃないね外国人が結構多いな

工藤さん、思い切ったことをするよね

あの中の何人かはシザーリオ・ヴァイオラと通じているはずだよ

マルゴさんは、ニヤッっと微笑む

この間、みすずにメグを慰めさせたのは大失敗でしたね

ライバル関係というかメグがみすずに対してコンプレックスを抱いているのに、

そのみすずから慰められるというのは、恵美のコンプレックスを拡大させるだけでした

なので寧さんに来て貰って、やり直すことにしました

展開が遅くて申し訳ないのですが

緊迫した交渉や戦闘の場面の前に、決着を付けてしまわないといけないので

父が意識を取り戻したのですがまだ、口や鼻に人工呼吸器を付けたままなので

会話はできません

何か、マスク割れしたダースベイダーみたいになっています

手も、点滴をしていて動かせないので筆談もできず

何か唸りながら訴えてくることを理解しようと頑張るのですが

しかし、今日は帰り際に笑っていたので大分、安心しました

疲労が大分溜まってきていますので、しばらくは枚数が少ないと思います

申し訳ございません

273.第2の交渉・1

工藤さんは、どうやら日本で活動している裏社会の人間に、片っ端から声を掛けたようですね実際名のある人物は、ほとんど揃っています

スクリーンの映像に映った1階ロビーの風景

奇抜な格好をした裏社会のフリーの人々を見て、麗華は言った

彼らには相当な額の報奨金を提示したのでしょうまた、このホテルでの闘いは閣下が主催者ですここで活躍すれば、閣下に認めていただけるかもしれません香月セキュリティ・サービスに正規雇用される可能性もありますし工藤さんの様に、閣下直属のエージェントになれるかもしれません

そうかフリーの人間からしたら、今日の仕事は大きな意味があるんだ

まあ香月家とアメリカの名高い犯罪組織との全面対決だからね実力不足の連中は、ブルッてしまって来ないだろうし逆に、そこそこ名前の通っている裏の連中は、今夜の闘いに参加しないと面子を失う工藤さんは裏社会中に情報を流して、そういう大イベントにしてしまったんだよ

ええこの先も裏社会で自分の看板を守って生きていくためには、今夜は工藤さんの要請に従ってこのホテルにやって来るしかありませんね来なければ、笑いものになりますフリーの人間は、自分の看板に傷が付くことを何よりも恐れますから

麗華が、そう説明してくれた

ただしわたくしたちの味方になるおつもりでいらっしゃるのか敵になられるおつもりなのかどっち側にお付きになられるのかは、今の段階では判りませんが

うん裏社会でもフリーの人間は、へそ曲がりな人も多いからね特に、強い人にはそんな傾向がある香月さんの味方になるんじゃ、面白くないってヴァイオラの方に賭けて、あたしたちと敵対することを選んだ人もいるはずだよ香月セキュリティ・サービスみたいな、大きな組織をメチャメチャに蹂躙してやりたいってさ

マルゴさんは、ニコッと笑ってそう言う

どうせヴァイオラの方も、寝返る人に対しては、それなりのギャランティは提示しているんだろうしこれをキッカケにしてヴァイオラと組んで、ロサンゼルスに拠点を移そうかなんて、考えているのかもしれない根無し草な人間は、どこへでも流れて行くから

あの人たちの中に、ヴァイオラの手下が居るってことですね

手下じゃないよあくまでも今夜だけ、ヴァイオラに雇われた現地雇用者さほら、前にも不良外国人の集団が襲ってきたろ

工藤父が車中泊していたグラウンド脇の道に突然、外人の集団が襲いかかって来たんだっけ

ヴァイオラは、絶対的に日本の中では動かせる人数に限りがあるからね兵力を増強させようと思ったら、使えそうな人員を現地雇用するしか手が無いんだよ

ヴァイオラがアメリカから、子飼いの自分の手下を、本当は何人連れて来たのか判らないけれどまあ、こうなってみると、そこそこの人数の兵隊は連れて来ていると考えるべきなんだろうね

ヴァイオラが、少人数で日本に来たって話は、もう信用できない

愛知の空港にヴァイオラたちらしい集団が降り立ったという情報は、やっぱりフェイクだったんだ

本当のヴァイオラは別の場所から、日本に入国したはずだ

ミス・コーデリアと、もう一組の白いヴァイオラなんていうやつらも居たし

ある程度の数の犯罪者一団が、バラバラに潜入して来ていると考えるべきだ

それでも精々三十人前後が限界なんじゃないかなそれ以上は、絶体に無理だよ全国の空港の入国審査の状況は、全て香月さんがチェックさせているからね

だから兵力の水増しのために、あの中の何人かはヴァイオラに現地雇用されているんだよっ

裏の世界のフリーの人間はお金で雇われれば、何でもするからねっ特に、外国人はビジネスとなれば、ドライだから適当に稼いだら、自分の母国に逃げればいいとしか考えてないだろうしさ

なるほど外国人なら、香月家の力なんて気にしないか

いや、日本人だって裏の世界で生きている人なら、香月家と敵対するぐらいのことを平然とやってのけるだろう

今は、工藤父の要請に従って、みんなこのホテルのロビーに集合したということになっているが

戦闘になった途端に、敵に寝返ろうとしているやつらが存在してるってことか

そう言われて見ると画面の中に居る奇抜な格好の連中が、みんな敵に見えてくる

お二人は、父の集めた人間の何割が敵だと想定なさいますか

美智がこの道の先達である、マルゴさんと麗華に尋ねた

この場合は人数は関係無いんだよ

マルゴさんは、苦笑して答える

その通りですね相手の戦闘能力のレベルによりますから

麗華も、そう答える

力の弱い雑魚が何人集まってもA級の戦闘能力を持った一人には敵わない

そして困っちゃうことにへそ曲がりな性格の持ち主に限って、割と強かったりするんだよね

はぁそりゃあ、ヤバイな

見て御覧よロビーにいる連中も、そういう事情には気付いているからほら、みんなお互いの様子を牽制し合っているだろ

マルゴさんの指摘通りロビーの裏社会の面々は、それぞれのチームで固まって他のチームとは、少しずつ距離を取っている

たまに、会話を交わしたりはしているがお互いに疑心暗鬼になっているようだ

いつ襲われても、迎撃できる態勢をそれぞれがキープしている

緊張感があっていいけれどあたしは、あの中に居たくはないね心がキリキリして、耐えられないよ

でもあの

オレの中に、疑問が湧く

こういう状況になったってことは工藤さんは、もちろん判ってやっているんですよね

あの何事に対しても徹底的に準備するオッサンが

こういう事態になることを想定してしないはずがない

それは、そうだよもちろん

ホント工藤さんは思い切りがいいよね

わざわざ、こんなキリキリとした空間を作る理由がオレには、判らない

え、ヨッちゃん、判んないの

寧さんが、驚いた顔をする

あ、寧さんマナも判んないです

マナが、笑って告白する

すると、後ろから

舞夏、あんた馬鹿じゃないの敵も味方も一カ所に集めちゃった方が、管理しやすいからに決まっているじゃない

お前、聞いていたの

つーか、お前いつのまにかオレたちの輪の中に入り込んでいるし

みんな、お互いにギリギリして睨み合っているからさこういう緊張感でいっぱいの状態なら、本当は敵の人だって迂闊な行動は取れないでしょ

雪乃は、オレたちに向かってべらべらと喋り出す

それにみんな、一応香月さんの味方になるって約束で、ここまで来ているんだからさ実際に、何かしらのアクションが起きた時には、寝返るタイミングを逸してしまったら、最後まで味方のままで居てくれるかもしれないしさ

物凄いドヤ顔で、オレたちに解説する雪乃

最初っから香月さんの味方になるつもりで来た人は、心に全く迷いが無いでしょうけれどさ敵に寝返ることを考えている人は、この状況ならギリギリまで迷うと思うわよ日和ってやっぱり、香月さんの側のままでいるって思い直す人も、結構多いんじゃないかしらっ

雪乃の推測は鋭い

それは、認める

雪乃は馬鹿じゃない

これで変な格好に、変なメイクをしていなければ格好良くキマったのに

馬鹿じゃないのに

馬鹿みたいに見える

雪乃自身は、現在の自分の姿のことは、すっかり忘れて喋っているし

ご明察雪乃さんの言う通りだよ

マルゴさんが、笑って答えた

敵になる可能性のある人たちを、ホテルの内側に入れるのは、とっても危険なことだけどねでも、これで寝返る人間をギリギリまで減らすことができるホテルの内側は、香月セキュリティ・サービスが完全に固めているからこの状況で寝返るのは、相当な勇気が要ることだろうし

改めて、画面を見ると

ロビーの周りには、異様な集団の四倍ぐらいの制服組が配置されている

この人数差は寝返り予定者にはプレッシャーになるだろう

それに父には、ネコさんやバンバルビー3の皆さんなど、確実に味方だと判っている人たちがいますその方たちを適所に配置しておけば、とっさの寝返りには確実に対処できますし

美智が自信満々に、そう言った

まあ工藤さんなりに、苦渋の選択をした上での作戦なんだろうあの人たちを外に放置していたら、それこそ同時進行で複数箇所から攻め込まれるだろうしヴァイオラの本隊と連携されたら、困るしね

ロビーに閉じ込めている限り寝返り組は、抑え込むことができるか

あ、また誰か来たみたいだね

ホテルの入り口に、黒塗りの高級車が停まる

オレたちが話をしている間にも

交渉に来る白坂家の反主流派のメンバーと

香月家の重役で私塾の連中の父親たちが次々とホテルに来場する

到着した人たちは工藤父の集めた連中の前を通らないように、別ルートでそのまま上階へ通じるエレベーターに乗せられる

スクリーンの画像は、強制的に大きな会議室に切り替わった

白坂さんの方も、私たちの方も予定通りのメンバーが全員揃っていないが、これ以上は待ってられんそろそろ始めよう

テーブルにどっしりと座ったジッちゃんが重い口を開く

ジッちゃんの脇には、ミナホ姉さん

そして、警護役の関さんが立っている

背後の席には、ずらっと香月グループの重役たち

彼らを取り囲むように香月セキュリティ・サービスの谷沢チーフと、ジッちゃんの専任警護人の大徳さんと張本さんが立っている

本当に申し訳ございませんわっうちの富久志ちゃんたら、一体どうしちゃったのかしらっ

ジッちゃんたちと向き合った反対側のテーブルで、そんなことを言うオバサンは

白坂家の分家の、白坂信子だろう

その横に地方の白坂家の企業を代表する、白坂博光氏と

白坂家の新聞社の東京本社の副社長である、山田ヒサシ氏が並んでいる

遅刻しているのは、信子の息子の白坂富久志らしい

ふん我々の方も、二人ばかり足りておらんな

ジッちゃんは、背後の重役たちを見てそう言った

麗華お姉さん、来ていない重役は誰と誰

マルゴさんが、麗華に尋ねる

麗華は、香月セキュリティ・サービスのトップ・エリートだ

香月グループの重役の名前と顔は、完全に記憶している

司馬沖達氏と香月昇氏ですわ

香月昇ってどの人のお父さん

ジッちゃんの私塾には香月家の分家から、香月操と昴の兄弟、香月仁、香月健思の4人が来ている

つまり、父親である香月姓の重役は3人

香月健思さんのお父様です

麗華は答えた

香月家の当主であり、香月グループの総帥であるジッちゃんが緊急招集をかけたというのに来ないというのは

その二人には、裏切り者の可能性がある

みすずや瑠璃子は劇場からの移動の際に、香月セキュリティ・サービスに成りすませた敵に襲撃された

そいつらは数ヶ月前に香月セキュリティ・サービスに入社した人間が盗み出した警備員の服を着ていた

こんなことは外国の犯罪組織の人間であるシザーリオ・ヴァイオラには、仕組むことはできない

香月グループの中に確実に裏切り者がいるのだ

そしてそいつらは、シザーリオ・ヴァイオラと手を組んだのかも知れない

今夜、このホテルに現れないとすれば

それは、今からここが戦場になることを知っているからだろう

ヴァイオラの襲撃が成功すればジッちゃんの命も危うい

とばっちりで、重役たちも殺される可能性がある

だから自らの命を惜しんで、ホテルに来ることを拒んでいる

そういうことなんじゃないのか

司馬は、羽田からこちらに向かっています

重役の一人がジッちゃんに、答えた

ああ、彼は中国工場の視察に行っていたんだな

ジッちゃんが、その重役に振り向く

はい少し、飛行機の到着が遅れたようですが、先程国際線ターミナルから、連絡がありました車で、こちらに向かっているそうですまもなく到着するでしょう

うむ昇の方は、どうした

ジッちゃんの問いに、その重役は

連絡は取れません携帯が繋がりませんし秘書や専属運転手も、居場所を知らないそうです

怪しいすごい怪しいけれど

まあ、いいとにかく話を始めよう

ジッちゃんは正面を向く

まずは君たちの方の提案を聞きたい

提案、ですか

山田副社長が、怪訝な顔をする

そうだ最初に、はっきり言っておくが、私は今回の白坂家のスキャンダルは、自業自得だと思っている白坂家の新聞社やテレビ局が、これで潰れることになったとしても私は別に困らんよ

その言葉に、山田副社長は

何をおっしゃいます我が社は、創業75年の伝統ある新聞社です報道の自由を守り続けるために、これまでずっと闘い続けてきた歴史があります

君は、誰に物を言っているつもりだね

ジッちゃんは、冷たく言った

たかだか75年続いたぐらいで、歴史や伝統などと言い出すとは

苦笑するジッちゃん

香月という家の伝統を、君は知っているだろう私の先祖を遡れば、古事記、日本書紀の中に記述されておるよ

香月家は日本有数の歴史ある名家だ

確実に実在したと検証できる先祖は、平安時代から居る香月の家名を名乗ったのは、室町時代からだ歴史とか伝統とかを語るなら、せめて百年は続いてから言って貰いたいね

こんな嫌味が言えるのも日本では、ジッちゃんぐらいだろう

今年で、ぴったり創業75周年なのかね

はい4月に、記念式典をしたばかりです

ジッちゃんの剣幕に怯えながら、山田副社長は答えた

なら、ちょうどキリがいいじゃないか潰してしまっても

ジッちゃんは、ニヤリと微笑む

ビクッと震える山田副社長

あの香月様、発言をお許し下さい

白坂博光氏が手を挙げる

いいだろう発言を許可する

はありがとうございます

白坂博光氏は腰の低くそうな男性だった

あの初めてご尊顔を拝します大阪の白坂博光でございます

うむ、知っているよ君はなかなかの遣り手だと聞いている

白坂博光氏の額には、すでに大粒の汗が輝いていた

私はこの度、どうしても香月様にお願いしたいことがございまして大阪より、馳せ参じました

前置きはいい君の狙いは何だね

白坂博光氏は、大きく深呼吸してから言った

新聞社、テレビ・ラジオ局の東京本社のことは、私は何も判りませんそれは、こちらにいらっしゃる、白坂信子さんや山田副社長とご相談下さい

うむ君は、地方の関連会社を代表して、上京してきたと聞いているが

白坂博光氏は、まっすぐにジッちゃんを見つめる

地方にありますテレビ局とラジオ局、新聞の支社を代表して申し上げます香月様私どもの会社を全て、お買い上げになってはいただけませんか

白坂家の支配するマスコミ機関の地方の会社だけを買って欲しいって

短くて、済みません

274.第2の交渉・2

地方のテレビ局とラジオ局だけを私に買えと言うのかね

ジッちゃんは、大阪から来たテレビ局の社長白坂博光の発言に苦々しい表情で応える

博光くん、君は何ということを提案するんだね

白坂家の新聞社の東京本社副社長山田ヒサシ氏が、仰天して叫ぶ

そんなことをしたら私たちの新聞・テレビのネットワークは、崩壊してしまうぞ

それに対し大阪から来た、白坂博光氏は

構いません崩壊させましょう現在の、ネットワークは東京に集中し過ぎています東京からほとんどの情報が発信され、私たち地方に住む人間は、それをありがたく視聴させられているこんな状態は歪です正さねばならない

そんなことは無い、我々は地方の話題だって充分に報道している

山田副社長は、納得いかないらしい

私は充分だとはとても思えませんいや、問題なのは、地方の話題がそれなりに報道されているかどうかなのではありません必要以上に、テレビ・新聞に東京の話題ばかりが取り上げられ過ぎていることが大きな問題なのです

白坂博光氏は、頑として譲らない

例えば東京のテレビ局から発信される、夕方のニュース・ショー報道番組なのだから、ニュースだけ流していればいいのに、なぜか余計なコーナーがあるなぜ、地方に住む我々にまで、東京のデパート地下で評判の生産数限定の洋菓子だの、東京で人気のラーメン屋だの、東京にある500円で食えるランチの店の特集なんぞを見せ付けられるのですか東京に住んでいなければ、どれも必要の無い情報ばかりではありませんか

えそういう番組を、そのまま地方でも流しているんだ

確かに東京から遠く離れている地方の人には、そんな放送をされても困るよな

日常生活では、行かれないんだし

それは現在の東京での流行を、地方の人々にも知らせようということだよ

山田副社長は、そう言うが

それこそ大きなお世話ですあなた方は、情報の発信元は全て東京だと思っておられる地方には地方で、それぞれ独自のニュースがあります我々は、東京による情報支配に縛られること無く、もっとそれぞれの地方に合った報道を増やしたいのです

博光くんは判っておらんのだよ日本の政治・経済の中心は東京だ情報の発信が東京中心になるのは当然のことだろう

ええ、ですから国会中継と株式情報は東京から発信していただきますしかし、それ以外の情報コンテンツまで、全て東京で製作して全国に配信するのは間違っているもっと、地方局に権限をですね

そう言って君は、大阪で製作した番組を他の地方に売り付けたいだけなんじゃないのかね

大阪のテレビ局の代表と東京の新聞本社の副社長

二人の意見は、まったく噛み合わない

まあ、いい白坂博光氏が、私に地方の会社だけを買い取って欲しいというのは結局のところ、東京の本社さらに突き詰めれば、その代表である白坂守次氏の支配から脱したいと言うことなのだな

ジッちゃんが、そうまとめる

はい白坂守次氏による強権的な支配の下では、我々には自由な報道はできませんから

白坂博光氏は、ジッちゃんの眼を見て答える

しかしだ支配者が、白坂守次氏から私に変わったとして君たちは、本当に自由な報道ができると思っているのか私は、白坂守次氏以上に、私の思い通りの偏向した報道をするように君たちに迫るかもしれんぞ

ニヤッと、ジッちゃんは笑う

それは我々は、香月様を信用していますから

よく言う君が私の何を知っているというのかね

ジッちゃんは、白坂博光氏にプレッシャーを掛ける

いずれにせよ、君が何を考えてここへ来たのかはよく判った次に

ジッちゃんの眼が、白坂博光氏から白坂信子氏に移る

君の言葉を聞こう君は、私に何を要請しにここに来たのだね

白坂信子氏は

わたくしは白坂博光さんよりも、白坂本家に血筋の近い人間です

知っておるよ君は、白坂守次氏の兄上の娘さんなのだろう

はい父が若くして亡くなることがなければ、白坂家の当主に守次叔父が就くことはありませんでした白坂本家の正当な血脈は私にあります

なるほど、血筋の正当性を主張できるから白坂信子氏は、白坂の家の中で当主・白坂守次氏に対抗する勢力のボスでいられるんだ

昨夜の失態で守次叔父が、これ以上当主でいることは家のためにならないと、わたくしは判断致しました守次叔父には、引退していただきますそして、次の当主の座はわたくしの息子、白坂富久志に継がせたいのです

つまり、このオバサンは自分の息子を次の当主にしたいのか

やはり白坂の家は、白坂の正しい血筋の人間が治めなければ廻りませんわたくしの息子、富久志が当主となれば、白坂の家は正当な血筋に戻ります新聞社もテレビ局の皆さんたちも富久志を盛り立ててくれるはずです

それってこのオバサンの個人的な妄想なんじゃないだろうか

ですから、どうか香月様には、富久志の後ろ盾になっていただきたいのですもちろん、わたくしも富久志も香月様に対して絶対の服従を誓います白坂家の全てを、香月様の意のままに動かされて結構です

白坂信子は、下品な笑みを浮かべる

香月様にとっても、決して悪い取引では無いと思いますわ

このオバサンは、自分の息子が白坂家の当主にさえなれば、他のことはどうでもいいんだ

白坂家の新聞社やテレビ局の経営権もジッちゃんに渡してしまうつもりだ

白坂家の当主という名誉だけが欲しいんだ

君も、同じ意見かね

ジッちゃんは山田副社長を見る

と、とんでもございませんっ

山田副社長は、大きな声で答えた

わたくしはひとまず、白坂家の方には新聞社・テレビ局の経営陣から全員退いていただきたいと思っています

山田さん、それ、どういう意味ですっ

憤慨する白坂信子氏

あなた白坂家から受けた恩を忘れて、会社から白坂の人間を追放しようと言うの

山田副社長が答える

ひとまずと、申し上げました現在は、白坂創介氏の問題が明るみになり国民的な関心事になっていますそして、昨夜白坂守次主筆・会長が、まるで白坂創介氏を擁護するような記者会見をしてしまわれたこれでは、白坂家全体が身内の犯罪を隠蔽していると思われても仕方ありません

何を言うんです新聞社の一従業員風情のくせに、無礼ですよ、あなた

怒鳴る、白坂信子

わたくしは副社長です役員です従業員風情と言われる覚えはありませんっ

山田副社長も、白坂信子に食って掛かる

いずれにせよ白坂家の人間の起こした問題で、新聞社・テレビ局の信頼が損なわれているのです昨日から、どの関連会社も抗議の電話とファックスが殺到しているのですぞこうなってしまった以上は、白坂の家の方は全員、役員を退任していただかなければ世間が納得いたしませんっ

そう言って、あなたが新聞社とテレビ局を牛耳るつもりなんでしょ

わたくしには、そんな下心はございません新聞社・テレビ局の安泰を計るためには、そうするより手が無いと申し上げているのですっ

ふ、富久志は富久志はどうなるのですっ

富久志くんは、役員ではありません従業員の中に、白坂家の方が居るというだけなら、世間も許して下さるでしょう

そんなことを言ってあなた、いずれは富久志をイビリ出そうと考えているんでしょそうよそうなのねっ

お二人とも、いい加減にして下さい

白坂博光が、叱責する

香月様これが東京本社の内実です自分たちの権力争いのことばかり考えていて地方にいる我々のことなど、何も考えていないっ

そんなことはないぞわたくしは、全国を網羅した報道ネットワークは大切な財産だと考えている

山田さん我々は、東京本社の財産では無い我々は、何としても東京から独立する東京の顔色をうかがうのは、もうゴメンです

何だこりゃ

あいつらさ自分の立場ってものが判ってないんじゃね

映像スクリーンを見上げて、香月仁がそう言った

白坂博光氏は、地方の会社の独立のバックアップを白坂信子氏は、ご子息の富久志氏を当主に擁立するための支持を山田副社長は、新聞・ラジオの東京本社から白坂家の人間を一掃することを、それぞれ閣下にお願いに来たようですね

私塾の中の頭脳派の嘉田奉孝がそう、まとめる

結局のところ白坂守次氏を当主の座から失脚させるということだけは、三方の意見が合っているようですが

司馬アキラが、呆れ顔で呟く

しかしことごとく、自分のことしか考えていない方ばかりですね

さすが白坂家というか

白坂創介みたいな、エゴイストの犯罪者を排出しただけのことはある

君たちは誰一人として、交渉するに値する人間では無いな

ジッちゃんがそう言った

白坂博光くん君は、ずっと大阪にいたまえ君には、日本全国さらには世界全体を相手にしていくという気概は無いらしい

そんなことはありませんっ私はまず、何より地元のことを小さなことから、コツコツと積み上げていくべきだと思っているだけです

だから、地元に帰ってコツコツ積み上げていたまえ白坂家の新聞社やテレビ局地方の関連会社のことは、君とは関係無く処理しておくから

そんな地方に居る、我々はどうなるのです

そこまで言うのなら、大手の系列会社になぞ勤めないで、自分たちで資本金を集めて地方で独立した会社を興せばいいじゃないか

地方の不況は凄まじいのです大阪の私の局は、独立も可能ですが他の地方では、新たに新会社を興すことなんて無理です

東京との繋がりなければ、存続できないのなら東京本社に支配されるのは、仕方ないことだろう

そこは香月様のお力で何とか当座の資金だけでも、投資していただけませんか

金は出して欲しいが、口は出さないでくれというのは身勝手過ぎるんじゃないかね

地方の会社が東京に対して不満を抱いているということは、よく判ったしかし、私に援助を求めるのは筋違いだろう

次に、ジッちゃんは白坂信子を見る

それから私は誰が白坂家の当主になるかなんてことに興味が無いそんなことは、白坂家の中で勝手にやってくれ

そうおっしゃらないで富久志が当主になりましたら、香月様に尽くします絶対にご恩は忘れませんからっどうか、富久志をご支持下さい

白坂信子は、必死で訴える

私はね私に忠実だが愚かな人間より、不忠でも利口な人間を好むよ頭の良い人間は、何が自分にとって得かを常に理解して行動するからね私が利益を保証している限りは、彼らは絶対に私を裏切らないんだ逆に、愚かな人間は私に対して忠義を示すと言ってロクでもない行動を身勝手に行い、結果として、私にとんでもない損害をもたらすことが多々ある

富久志はわたくしの息子は、頭の良い人間です早稲田の政経を卒業していますから

本当に頭の良い人間なら、遅刻せずに今、この場に居るはずだよ人生には、絶対に外してはいけない重大なポイントがある

今、この場に来ていない以上私は白坂富久志という人間を信用することはできない

香月様もう少しだけ、お待ち下さい何かの手違いですきっと道が混んでいるんですわ

さらに言うと息子の将来に過度に干渉する母親というのも、どうかと思うがね

ジッちゃんの言葉は、冷たかった

ちなみに君の息子の富久志くんというのは、今年何歳なんだね

38歳ですわ

うんそりゃ、ダメだ

ダメダメだ

さて最後に、山田副社長君の提案は、妥当なものだと思う白坂守次氏が新聞社の代表を辞すのと同時に役員全体も改選するべきだ

は、はいよろしくお願い致します

山田副社長は、自分の提案が受け入れられたのだと喜びの表情を浮かべる

もちろん君にも辞めて貰うことになるよ

山田副社長の顔が、一瞬にして青ざめる

君だって白坂守次氏の下で永年、役員として働いて来たのだろ彼にも能力を認められていたはずだそうでなければ、副社長というポストには就けないはずだ

それは確かに、そうなのですが

ならば君だって、白坂守次氏と一緒に退職するべきだとは思わないかね

黙り込む山田副社長

交渉というものは、取引だ価値のあるものと、価値のあるものの交換だしかし君たちの提示した条件は、どれも私にとって価値のあるものでは無かった

ジッちゃんは冷たく話す

だからここから先は、私の好きにやらして貰おう克子くん

ジッちゃんは、克子姉を呼ぶ

画面の外から、克子姉が現れる

その姿は、ジッちゃんの雇っている美人秘書にしか見えない

この人たちに見えるように、資料を提示してくれ

機械の端末を操作する克子姉

どうやら、ジッちゃんたちの居る会議室にも、映像を映し出すスクリーンがあるらしい

そこに資料が投影される

もちろん、オレたちの見上げているスクリーンにも連動して資料が示される

これが君たちの新聞社の株式の状況だ51パーセントを白坂家が押さえている残りの49パーセントは、様々な企業と個人株主で保有し合っている

白坂家が51パーセントを保有していると言っても、本家の当主・白坂守次氏が持っているのは28パーセントだけだ他は一族の人間で分けて保有している

あたしも6パーセント保有しています

白坂信子が言った

そうだ、君が6パーセント分の株式を持っているように白坂家の血筋で、ありながら当主・守次氏に反発している株主が何人かいる私はそういう人物から、2パーセント分だけ株を手に入れた

2パーセント

つまり白坂家の現在の株保有率は、49パーセントだこれが、どういうことか判るかね

白坂家以外の株主の保有率が51パーセントになったってこと

株というものは、半数以上を押さえれば、その企業を自由に動かすことができるようになるさて、連休が明ければ私は、君たちの新聞社を買収するために、TOB株式公開買い付けを行うことを発表する昨日からの一件で、今は君たちの新聞社の株価は大きく暴落しているすでに安くなった株を買い占めさせているがTOBとなれば、市場価格よりも高い値で株を買い取るということだみな、こぞって私に持ち株を売ってくれることだろう

ジッちゃんの話を三人は、びくびくしながら聞いている

特に各企業が持っている分の株は、みんな喜んで私に売ってくれるはずだよ私は香月重孝だからね私には恩を売っておきたいだろうし睨まれたくはないだろう

し、しかし白坂本家が、株式市場から2パーセント分の株を買い足せば再び、白坂家の新聞社支配は動かしようがなくなるはずです

白坂博光氏が、額の汗をハンカチで拭いながらそう言う

買い足す誰が、どうやって

ジッちゃんは、クククと笑う

私はすでに、白坂本家のメイン・バンクに指示しているどこの銀行も白坂本家には金を貸さない株の保有は個人の資産だから会社の資産を流用することもできない手持ちの個人の資金だけで白坂守次氏は、どこまでやれると思うね

すでにそういう攻撃をジッちゃんは準備している

何、私が本気だということが判れば本家以外の白坂家の株主も、みんな私の方へ付くよ白坂守次氏に未来が無いことは判っているんだ倒れることが判っている人間と心中する気は無いだろう

確かにこの様子なら

白坂家の他の連中だって、すぐにジッちゃんに降伏するだろう

君たちの新聞社の経営権を私は手に入れる新聞社本体には、系列会社の株式が付いてくる結局のところ君たちの報道ネットワークの全てを私は確保することになるだろう

ジッちゃんは、ニコッと微笑む

君たち3人の協力は、必要としていない今日は、わざわざ来て貰って済まなかったねさあ、帰ってくれたまえ

白坂家の反主流派の三人は互いに顔を見合わせ

ま、待って下さい香月さん

275.第2の交渉・3

さすがは、閣下だすでに、ここまでの準備をなさっておられるとは

白坂家の反主流派3人を圧倒するジッちゃんの映像を見て香月操が言った

いや実際には、どうなのでしょう白坂本家が、閣下の意志の通じない例えば、外資系の金融機関と組んだ場合白坂家が、株の過半数を抑えることはまだ可能なのでは無いでしょうか

嘉田が、真剣な顔でそう答える

その辺は、まだ閣下に秘策があるのではないかな

夏木惇も会話に加わる

外資でも、アメリカやヨーロッパの金融機関なら閣下と近い関係にあります白坂家が金を借りるとしても、新興国の金融機関は利用しないでしょう

司馬アキラが、そう分析する

しかし閣下と白坂本家との争いに気付いて、どこかの投資ファンドが株を買い漁るということは無いのでしょうか10パーセント以下でも、株を保有されたらその方たちが、閣下と白坂本家の闘いを左右することになるのでは

香月健思が、懸念を述べる

そもそも株式市場に流れている株は、どれだけあるのでしょう白坂家内でも、本家と反目している人間の持ち株は

孔守融が、そう言うが

いや、白坂家内の反主流派でも、白坂家が新聞社に影響を及ぼせなくなるのは嫌なのではないでしょうか白坂家全体で、株を集め何としても過半数をキープする戦術に出ると僕は思いますね

香月昴が、そういう意見を述べる

だからといって今更、白坂守次に自分の持ち株を預けますか白坂守次が、当主として死に体だということは誰もが知っています白坂家が結束して、防衛するとしても新しいリーダーを決めてからということになるでしょう

そう言ったのは、華岡侘介だ

しかし、白坂守次の後継者争いは揉めるだろうそもそも、白坂守次氏自体は、引退の意志はあるまいやつらが家内でゴタゴタしている間に、全て閣下の思い通りになってしまうのではないか

大張遼は、そう言う

うむ閣下のなさることに、間違いがあろうはずないものな

谷楽進が、大きく頷く

大声で、議論を続ける私塾の連中

その会話を聞きながらマルゴさんが、オレに言った

君は、どう思う

あんなの全部、ブラフですよ

私塾の連中の眼が、オレに集まる

すでに2パーセントの株を押さえたっていうのも嘘だと思いますね

おい、お前、どういうことなんだぁそれは

虎田知徳が、大声でオレに尋ねる

だって株の買い占めなんて、金が掛かるじゃないですかこんなバカなことのために、あの人は無駄なお金は使いませんよ

オレの言葉に、雪乃が反応する

白坂の家から、新聞社を奪うことがバカなことだって言うの新聞社は、白坂家の要よあの新聞社は、できた時からずっとあたしたちのものなんだからっ

そういう話をしているんじゃないんだよ

今、相手をしているのは、あの3人で要は、あの3人がこっちの言うことを聞くようになってくれればいいんだろ

私塾の連中はオレの話にピンと来ないらしい

こいつらは奪うとか手に入れるとか、見栄えの良い結果を求めている

でもジッちゃんは違うと思う

あの人は、下らないことに金と労力を使うのは避けるだろう

白坂博光さんも、信子さんも、山田副社長も結局、当主の白坂守次を追い落としたいだけで、他のことは全然意見が合ってないですよね

博光氏は、自分たち地方の会社を白坂家の影響下から独立させたいだけだ東京の新聞社の本体については、どうでも良いと思っている

信子氏は、自分の息子を白坂家の当主にしたいだけ実際の経営権は、ジッちゃんに委ねてしまっても良いと思っている

山田副社長は、新聞社の経営から白坂家に出て行って欲しいと思っている地方の会社は、これまで通り東京から支配したいと考えている

少しも妥協できる関係は無い

それぞれが別の目的を持っていて意見が違うことは、判っているわけですだからみんな、香月さんにお願いしている対等な関係の交渉にならないんです3人が一致した目的で団結すれば、香月さんと対抗できる強い勢力になれるのかもしれないのに今のままでは、それぞれ地方の会社、白坂家の中の反主流派、東京本社の従業員という弱い勢力の代表でしかないんですから

ジッちゃんに支持して貰わないと自分たちの勢力を維持することすら、難しいだろう

香月さんは、相手のそういう弱さを感じ取ったからブラフで脅すだけでいいと判断したんだと思います

脅すだけって

角田には、判らないらしい

まあ、エリートでいつも威張っている連中には判らないか

このやり口は黒い森に近いもんな

判りませんかお祖父様は、相手に負けるかもしれないと思わせるだけで充分だと判断なさったんですよ

白坂家の新聞社の株保有率が過半数を割った51パーセントから49パーセントになったそう言うだけで、相手は心配になります実際にはまだ、白坂家がお祖父様に新聞社の経営権を奪われたわけではないのに奪われるかもしれないと思い込ませるだけで、あの3人は落ちます香月家には、財力も国家への影響力も充分にあることは判っているのですからしかしお祖父様は、実際には白坂家の新聞社に対して、株式公開買い付けなどなさりませんよ大金を支払ってまで、手に入れるような新聞社じゃありませんし先程、みなさんがご討議なさっていたように外資や投資ファンドが乗り込んできて、お金を毟り取られることは判っていますからね

しかし脅すだけでは、何も動きますまい

大張遼が、みすずに尋ねる

何故です白坂信子さんは、新聞社の6パーセントの株をお持ちなんですよ信子さんを屈服させれば、それだけで白坂家の保有率を過半数割れさせられますよね

そうだわざわざ大金を出して、実際に白坂家の内部の株保有者から2パーセントの株を手に入れる必要は無い

株式公開買い付けもそうですお祖父様が、TOBするらしいという噂を流すだけで充分です後は、あなたたちがおっしゃっていた通り内外の投資家たちが、白坂家の新聞社に襲いかかります現在の守次当主と反主流派に分かれた白坂家では、防衛しきれないでしょう白坂家が消耗し完全に体力がなくなったところで最後に、お祖父様が救済に乗り出すことになるのだと思いますそれが、お祖父様が一番楽にあの新聞社を手に入れる方法ですよ

救済ってどうするんです

香月昴がみすずに尋ねる

白坂家のメイン・バンクに手を廻してお祖父様の名前は出さずに、白坂家の方の株を買い取りますホワイトナイトの振りをした乗っ取りです買い取るというのも最初は、銀行から株を担保にしてお金を貸りるという形になるでしょうね投資ファンドとの防衛戦になった以上、それでも白坂家全体で過半数近い株を保有したままになっているでしょうしもう、その頃には、白坂家には株しか動かせる資産が残っていないでしょうから永らく懇意にしていた銀行が、貸し付けてくれるのなら白坂守次さんも特に疑ったりはしないでしょう

みすずの言葉を、私塾の連中は真剣に聞いている

そして株が担保になった段階で、白坂家の他の事業に別のトラブルを起こします何でもいいんです白坂家の返済を滞らせることができるのならその結果、担保となった新聞社の株は、銀行の物になりますそして、そのままお祖父様のものになります株式市場で買うよりも、遥かに安く大量の株を手に入れることができます

え、ちょっと待って下さいとなると新聞社の株を買い漁っていた投資家たちはどうなるんです

嘉田が、みすずに尋ねる

お祖父様は、過半数を抑えればそれ以上の株式は必要ではありません白坂家と競い合って、高い額で買い占められた投資家のみなさんは大変な損をなさるでしょうね

みすずは、笑った

しかし汚いやり方ですね銀行に仲介させるなんて、フェアではありません

理想主義の司馬アキラが、そう言った

そう思われるのなら、アキラさんはビジネスの世界に進まれるべきではありませんね

みすずは、きっぱりとそう言う

銀行を仲介させたらいけないなんてルールは、どこにもありませんよ

しかし、こんな不毛な殺し合いは

あのさ

香月さんがやっているのは殺し合いじゃないんだよこれは何としてでも生き残るための頭脳ゲームだけれど別に、相手を殺そうとしてやっていることじゃないんだ

どういうことです僕には理解できません

司馬アキラは、キッとした眼でオレを睨む

それはお祖父様が、この後、どう行動なさるかを見れば判りますわ

オレたちは、再び映像の中のジッちゃんたちに注目した

さていくら悩んだところで、君たちの方では結論が出まい私は忙しいんだ、さっさと帰ってくれないか

ジッちゃんに、お前たちに協力がなくとも、私は独力で白坂家の新聞社を乗っ取ることができると断言された3人は小さくなっていた

香月様あの、私は

白坂博光が口を開く

私は地方の会社の代表ですこのまま、帰るわけにはいきませんこのままでは白坂家のスキャンダルに巻き込まれて、全ての関連会社がダメージを負います

わ、わたくしもですわ

白坂信子も

わたくしが香月様にお会いしたことはもう、当主の守次氏には伝わっていると思いますこのままでは、わたくしと富久志は、白坂家から追放されてしまいます富久志は、新聞社も退職させられてしまうかもしれません

私もですこのまま帰社すれば、私の席は無くなるでしょう私も、香月様のお力を信じて新聞社の従業員たちを代表して、こちらへ参上したのですから

山田副社長も、ぐったりとしていた

全員ジッちゃんの助けがなければ、当主・白坂守次の勢力に潰される

どうか、お助け下さい

申し訳ございませんでした

3人は、ジッちゃんに頭を下げる

どうして、最初からそういう殊勝な態度が取れなかったのだね

ジッちゃんは、迷惑そうな顔でそう答えた

本当にそうだよなあいつら、何でもっと閣下にペコペコしなかったんだろ

香月仁が、そう言う

そんなの香月さんが、どうしても白坂家の新聞社を欲しがっていると思ってたからさ

そして自分たちの協力を、香月さんが強く望んでいると思い込んでいたからあんな強気の態度で来たんだ

はそういうことかバカな連中だ

角田が、にやけてそう言った

そうじゃないよ香月さんは、あの3人がそういう態度になるようにわざと仕向けたんだ

え、何でだよっ

角田はオレを睨む

角田さんあたしの旦那様に失礼な態度を取ることは許しませんよ

みすずが、角田を牽制する

旦那様角田さんに教えて差し上げて下さい

みすずが笑顔で、オレを促す

最初に少し無礼な態度を取ってしまったという気持ちがあるから今、あの3人は、あんなに神妙なんだよ

画面の中の3人は、みんな青い顔でジッちゃんに平伏している

今なら、あの人たち香月さんの提案は、何でも受け入れるだろうね

交渉を有利にするために、わざと相手がつけ上がるような隙を見せたということですか

司馬アキラが、驚いてオレに尋ねる

そんなの当たり前だろ

黒い森では、いつもそういう交渉術が使われている

さて映像画面に集中しよう

ジッちゃんは、3人に言った

もう一度君たちの気持ちを確認したいのだが

ジッちゃんは、ニヤリと笑う

白坂博光くん君はつまり、もっと地方の関連会社に独自の決裁権が増えればそれでいいのだろう東京本社からの支配が弱まればいい別に、企業グループからの完全独立までは狙っていないのだろ

は、はあええ、おっしゃる通りです報道各社のネットワークは、このまま維持されるべきだと思います東京本社からのゴリ押しさえ減れば

白坂博光は、答えた

次に白坂信子くん君は息子さんが、白坂家の次の当主になれればそれでいいんだな白坂家の新聞社やテレビ局の支配までは、望んでいないのだろう例えば、名誉職グループ全体の名誉会長とかに奉られるのでも構わんのだろう

は、はい富久志が当主になれるのでしたら正直、わたくしにも富久志にも、企業経営のことなどは判りませんし実権がなくとも、名誉だけいただけるのならわたくしどもは、それで構いません

白坂信子は、卑屈な笑みを浮かべてそう答えた

最後に、山田くん君は結局、新聞本社内から白坂守次氏の影響ひいては白坂家の役員がいなくなってくれればそれで良いんだな地方の会社の独立は、時代の趨勢だいつまでも東京が頭ごなしに地方を管理する時代でもあるまい諦めたまえ

山田副社長が、頭を下げる

では、そういうことにしよういずれにせよ、白坂守次氏は失脚させる次の白坂家の当主は、白坂富久志氏だが今後は、白坂家の当主が新聞社の代表に就くことはない名誉会長として実権は、放棄して貰う東京本社の運営は、白坂家を除いた現役員で行って貰う地方の関連会社には、自由な采配を許すただし、グループからの独立・離脱は許さないそれでいいな

克子くん、今言ったことを書類にまとめてくれ

画面には見えないが克子姉は、パソコンで文章を作っているらしい

では、この条件で君たちは、白坂守次氏失脚のために動いてくれもちろん、私も最大の努力を惜しまない君たちに協力しよう

フフフと笑う、ジッちゃん

なあに、君たちの新聞社はいずれ私のものになる先行投資だと思えば、大したことはない

みすずが司馬アキラに振り向く

いかがです、アキラさんお祖父様は、お三方の希望をお聞きになられてそれぞれが妥協できる所は妥協させて、一番良い形にまとめてしまわれましたこれが、香月重孝の調整です自分の意見を押し通すために、相手を殺すのではなく活かして共存する道を模索する

脅しも威圧も、そのための技術ということですか

結果的に全員が幸せになれれば、それでいいではありませんか

一時の個人的な感情を満足させるためだけに行動するのは、愚人のすることです人に好かれることは良いことですが相手に過度の期待を持たせるべきではありませんむしろ、人に恐れられていた方が、調整者としては有効な行動ができます

だから、ジッちゃんはわざと人を脅し、威圧する

そして、無理矢理自分の言うことをきかせるように見せて

実際は、相手にとって最良の解決策を提示している

本当は、ジッちゃんにとっては損なことも多いのだろう

しかし、人に憎まれ、嫌われることも厭わずにジッちゃんは調整する

古来調整は、高貴な人間の勤めです香月家は何百年にも渡って、日本の調整者として働いてきました私たちが持っている、財産も権力も全ては調整のためです世の中には、国や法では調整できない問題も多いのですから

それが香月家が、日本有数の名家として続いてきた理由なのか

書類です

あっという間に、克子姉は書類を作成しプリントアウトして持って来る

ありがとうでは、この覚え書きにサインをしてくれたまえ

ジッちゃんはまず、自分がサインをする

克子姉が、その紙を白坂博光に手渡し

順番に、サインしていく3人

その覚え書きは、私の方で管理する本来なら、君たちにも同じ書類にサインをして渡して、互いに持ち合うべきなんだろうがな状況が状況だ機密文書は、1枚限りにしておこう

ジッちゃんは3人の側に証拠書類が渡らないようにする

逆に3人の中の誰かが裏切ったら、ジッちゃんはこの書類を有効に活用するだろう

サインの終わった書類は、克子姉によって回収され

再び、ジッちゃんの元へ

ジッちゃんは、3人のサインを確認して

これで君たちは、後戻りできなくなったな

ニヤリと微笑むジッちゃん

私たちは運命共同体だこれからの行動は、全て私から指示するいいね

ジッちゃんの貫禄に3人は、うんうんと頷くだけだ

ところで君たち知っているかな

ジッちゃんが、次の切り札を切る

白坂守次氏は裏切り者である君たちに対し、すでに刺客を雇っている

し、しかく

白坂信子には意味が判らないらしい

殺し屋を雇ったんだよ白坂守次氏は

ハッとする3人

ジッちゃんは、後ろにずらっと控えている自分の臣下たちに振り向いた

お前たちにも、聞きたいのだが

ジッちゃんの眼がギラッと光る

シザーリオ・ヴァイオラという名前に心当たりのある者はいないかね

臣下たちは誰も反応しない

うむそうか知らないのなら良い

再び、白坂家の反主流派の3人に、ジッちゃんは顔を向ける

アメリカの犯罪組織の人間だ白坂守次は、こいつらを雇って君たちを亡き者にしようと企んでいるらしい

ま、まさかそんな

驚く、山田副社長

いや、そのまさかなのだよ

ジッちゃんは、笑う

このホテルはすでに、私の私設警護部隊によって厳戒態勢を取らせている君たちは、今夜、このホテルで私に会うことを誰かに喋ったかね

はい、秘書とそれから、同志である地方の会社の代表には、話してあります

白坂博光は答えた

私も家内とそれから、直属の部下には相談しました後、顧問弁護士にも

山田副社長も、そう言った

では君たちの行動は、すでに殺し屋たちに筒抜けになっていると考えるべきだね

ジッちゃんは、そう答えた

白坂信子くん君は、どうなのだね

白坂信子は

わ、わたくしも個人秘書と、母と、姉とそれから、うちのお手伝いさんとえっと、それから

喋りすぎだろおい

それから富久志ちゃんにも

ハッとする、白坂信子

そうだわ富久志ちゃん、どうしちゃったのかしら

今夜このホテルに来るはずだった、白坂富久志はまだ到着していない

ここに来る途中に、何らかのアクシデントに巻き込まれているのではありませんか

山田副社長が、白坂信子に言う

いえ、そんなことはうちはうちで、ちゃんと富久志ちゃんに警護を付けていますから何かあったら連絡があるはずです今、ちょっと電話してみますわね

携帯電話を取り出す信子

と、ジッちゃんの机の上のインターフォンがビーと鳴る

ジッちゃんは、スイッチを押し

私だ

インターフォンから、声が聞こえてくる

1階警備の山岡です白坂富久志氏の車が到着致しました

まあ、富久志ちゃん無事に着いたのね

克子くん

ジッちゃんの指示で克子姉が、スクリーンに1階正面玄関の映像を出す

黒塗りの大きな車に挟まれてオレンジ色のスポーツカーが停まっていた

前後の黒塗りの車には、警護員が乗っているんだろう

何だよ、TVRタスカンかよ

香月仁が呟いた

へえ、あの車そんな名前なのか

新聞記者が乗る車じゃねえよな

確かに芸能人とか、IT企業の社長とか、焼き肉チェーン店のオーナーに似合いそうな派手な車だった

これってやっぱり親に買って貰ったんだろうか

あ、間違いありません富久志ちゃんの車です

白坂信子が、オレンジの車を見てそう断言した

すぐにそちらにお連れ致します

インターフォンから、山岡部長の声が流れた

ホテルマンの衣装を着た、香月セキュリティ・サービスの警備員が3台の車に向かう

待て、山岡警備員を下がらせろ

ジッちゃんが、そう叫んだ瞬間

オレンジの車の窓が開き

中からマシンガンの銃身が飛び出すッッ

ズダダダダダダダダダッ

ホテルの入り口に向かって、オレンジの車の中からマシンガンが連射される

香月セキュリティ・サービスの警備員たちは、身を伏せる

待避だぁ、待避ッッ

山岡部長の怒号が響く

前後の黒塗りの車から完全武装の兵士が、わらわらと降りて来た

ビジネス小説は、書いてて辛いのでそろそろアクション物に

理屈で攻めないといけないので

アクションやエッチだと、流れで書けるんですけれど

ああ、そろそろエッチな場面も書きたいんですねえ

なのに、襲撃が始まってしまいました

さあ、どうしよう

それでは仕事へ行きます

276.開戦

黒マスクに黒い戦闘服の一団が、ピストルを片手に車から降りてくる

オレンジのスポーツカーの窓からは、ホテルに向かってマシンガンの銃撃が続く

大丈夫ですわこのホテルの1階は全て防弾ガラスを使用していますから

中継されている映像を見ながら麗華が、笑って言った

このホテルは、香月グループが各国の要人との会合に使うために建設したものですテロ対策は、設計時から徹底的に行われています

でも、入り口のドア開きっぱなしですよ

確かに、ホテルの内部に通じる2重のガラスの自動ドアが開いたままになっている

本来なら、襲撃を受けた段階で閉じられるはずのものだ

外にいる香月セキュリティ・サービスの警備の人を収容するためでしょうか

美智が、麗華に尋ねる

みすずがオレたちの輪に合流する

瑠璃子と美子さんも一緒だ

オレの周りに家族は集合する

いいえ、この場合は敵を内部に入れないのが鉄則ですからドアは自動で閉鎖されることになっています敵の襲撃時にホテルの外にいた警備員は、警備員詰め所の方へ待避する決まりですし

でもドア、開きっぱなしだよ

麗華の説明に、マナが呟く

香月セキュリティ・サービスの中に、裏切り者がいるということですね

みすずが、静かにそう言った

麗華は、肯定した

シュコココーンッ

シュコココーンッシュココココーンッ

と黒い戦闘服の男たちが、開いたままのドアに向かって何かを撃ち出す

白い煙を上げながら拳大の金属の塊が、ホテルのロビーに幾つも放出される

ガコココンッと床に転がると、ブワワワーッと一気に白い煙を吐いていく

ガス弾だ

待避一般警備員は、奥へ逃げ込めぇぇ

煙がロビー内に充満する前に、山岡部長が部下たちに退避指令を出す

制服組の警備員たちは、先を争ってホテルの奥へ逃げて行く

あれ、毒ガスとかじゃないですよね

違いますただの催涙弾ですよ煙の色と拡がり具合で判ります

トップ・エリートの警護人である麗華は、即座に分析する

有毒ガスなんて、こういう場所じゃ使えませんわ自分たちの行動にも影響が出ますから

なるほど、毒ガスなら自分たちもずっと、吸わないように気にしながら戦わないといけなくなる

ホテルみたいな建築物だと、空気が溜まる場所があるからいつまでも、残留したガスが残ることもあるだろうし

まあ、それ以前に毒ガス入りのガス弾なんて簡単に手に入らないですしねここ日本ですから

麗華は、言った

まあ、それを言ったら銃だって手に入れるのは難しいだろうけど

でも、確かに毒ガス入りのガス弾というのは、さらに入手困難な一品なんだろう

ただの催涙ガスでも、眼に入れば涙が止まらなくなりますし、肺に入れば呼吸も苦しくなります目眩ましの煙幕以上の効果はありますわ

1階ロビーは、もわもわと白い煙が充満していく

霧が掛かったように、真っ白になって見えなくなる

通常なら、すぐに換気システムが作動するはずなのですが

もちろん、香月セキュリティ・サービスは、こういう事態も想定している

ガス攻撃のテロを受けた時のために、換気するシステムがあるのだろう

しかし今は、入り口のドアが開いたままだったという現実がある

そっちのシステムも、ちゃんと機能するかどうか判らない

あ作動したようです

白い霧が薄くなっていく

天井と床と、両方に換気システムがあるんですガスには空気よりも軽いものと重いものがありますから

どっちにも対応できて、素早くガスを外に放出できる様になっているんだ

一気に煙がサーッと消えていく

白い煙の中からやつらが現れる

工藤父の呼んだフリーの警護人たち

その全員が、ガスマスクを付けてホテルのロビーに立っていた

ガスマスクはみんなバラバラのデザインのものだ

つまり、この人たちは全員自前でガスマスクを用意していたのか

さすがにバンバルビー3のお姉さんたちは、お揃いのマスクをしているけれど

何か、サファイアみたいなピンク色にキラキラ光っているんですけれど

あれ、スワロフスキーだよねおっしゃれー

何だよその、何とかスキーって

あれ、お兄ちゃん知らない携帯電話とかのデコレーションに使う、キラキラした素材だよっ

それでガスマスクをデコレーションしているんだ

何かガスマスクが光っていると、死の仮面みたいね

渚が呆れた風に、そう言った

ホテルの入り口にはマシンガンを抱えた男を中心に、ピストルで武装した黒い戦闘服の男たちが10人ぐらい入って行く

それに相対するように

工藤父の呼んだフリーの人たちが、50人くらい並んでいた

50人の集団がゆっくりと二つのグループに分かれていく

同じくらいの人数で分かれていくのではない

全体の3分の1ぐらいが元の集団から離れていく感じか

じりじりとお互いを牽制しながら

離れた連中は黒い戦闘服の男たちに合流する

敵に付いたのは、3分の1かまあ、想定内だね

それより麗華お姉様

美智が、麗華を見る

気付いていますわたくしも、マルゴちゃんも

ニッと笑う麗華

黒い服の敵車から降りて来た時は、全部で13人いました

麗華は敵の数を数えていた

今は9人しかいません

催涙弾の煙に紛れて侵入されたね

マルゴさんが呟く

まあ一筋縄ではいかない連中だってのは、判っていたんだけれど

その間に換気システムが全力運転する

煙は、完全に排気された

バンバルビー3のお姉さんが、毟り取るようにマスクを外す

ぷはっ、こんなん被っていたら、戦えないわよっ

それがルビーさんだと言うことは、マスクを付けている時から判っていた

3人のお姉さんたちの中で、一人だけ乳首丸出しだから

そうよねえ自分の美貌を隠して闘うのは、あたしの流儀に反するのよねえ

バービーさんも、マスクを外してそう言う

あら、おじ様はそっち側なんですかぁ残念ですぅぅ

番場さんも、マスクを外して敵側に付いた黒い背広の中年男に叫ぶ

ガチャガチャと、番場さんはすでに自分の打撃武器フレイルを構えていた

番場ちゃん、相変わらず良い動きをしているね

番場さんにおじ様と呼ばれた中年男はニッと微笑む

精一杯、掛かってきたまえ

はーい、よろしくお願いしまーすっ

相変わらず、番場さんはズレている

あの男もしかして

麗華が、美智を見る

はい異次元戦士ダダドムゥおじ様です

美智は、真顔で頷く

ダダドムゥおじ様死んだって聞いていたわ

おじ様は、異次元戦士ですから

オレが、美智の顔を見ると

ダダドムゥおじ様は、特殊な動きをすることで、対戦相手の距離感覚を混乱させるのですそこに居ると感じた場所にいないそれゆえ、異次元戦士の称号を得ているのです

いや美智

オレは別に、ダダドムゥおじ様には興味は無い

あんまり知り合いになりたい人ではないし

父からは、あいつはロリコンだから、絶対に近付くなと厳命されております

ロリコン

今日も、良い動きをしているねえと言いながら、女の子の身体を触ってくるそうですわたくしにも、近寄って来られたことがあります

まさか触られたのか、美智

わたくしは、工藤流古武術継承者ですから最終奥義を使って、拒絶致しました

最終奥義を使わないと逃げられないのか

何という異次元戦士

オレは、思わず息を吐く

ご安心下さいわたくしの身体に触れて良いのは、ご主人様とみすず様だけでございます他の男性には、絶対に触れさせませんからっ

美智が、ポッと赤くなる

えどうして

旦那様が、美智があの男性に触られたんじゃないかって嫉妬して下さったから美智は喜んでいるんですよ

みすずが、オレと美智を見てそう言った

嫉妬ってそういうつもりは無かったんだけれど

どうぞ、ご主人様

美智が、オレにお尻を突き出す

取りあえず、美智のお尻を揉む

あんいつでも、触って下さい美智は旦那様の玩具ですから

いや、このプリプリとしたお尻の感触は素晴らしいけれど

いいのか、こんなことしていて

敵に付いた方たちで、それなりに名前が通っていらっしゃるのはダダドムゥおじ様以外ですとタケシィズの方たち、それから電人Mさんと少女Mさんぐらいですあんっ

オレにお尻を揉まれながら、美智が言った

タケシィズ

はい下のお名前が、タケシの方たちで作られた5人チームです剛田タケシさん、日垣タケシさん、上杉タケシさん、村上タケシさん、大和タケシさんの5人です

画面を見ると確かに、同じ様な戦闘服を着た5人のオッサンが並んでいる

でも味方側に、タケシハンター・マチャヒコさんが居らっしゃいますから

た、タケシハンター

タケシィズの方たちと敵対していて、いつも闘っていらっしゃる方ですタケシ退治の専門家と自負されている方ですから、お任せできます

美智は、そう言った

この世にはびこるタケシども、今日こそ貴様らを葬り去ってやる

バービーさんの隣に立っている、この眼鏡の人がタケシハンターか

何か、見た目はそんなに強そうでも無いんだけれど

ふざけんなぁ、マチャヒコのくせにっ

男の嫉妬はみっともないのです私は毎日懸垂200回やっていますふふんかかって来な、小僧やってやるです哲学

戦闘状態なう

強いストレスを感じています曲解ですもっと私のことを勉強して下さい

アノクタラサンミャクサンボダイ!

何か、楽しそうだなオッサンたち

M✕Mコンビも、そっちに付くのね

バービーさんが、背が高くて鉄のお面をしているオッサンと、小柄なお姉さんのコンビに行った

はいあたしたち、Mですから

まとにかく、みんなまとめてブッ飛ばしてあげるわーんっ

ルビーさんがショットガンを抱えて、叫ぶ

さあ、野郎ども、ヤッチマイナッ

バービーさんの一言で戦闘が開始される

バービーさんの後ろにいた男が、背中に隠し持っていた1メートルぐらいの長さの物体を侵攻者サイドに力一杯投げ付ける

これってブーメラン

空中をぐるんぐるんと大回転しながら、飛んでいく大きなブーメラン

異次元戦士やタケシィズたちフリーの面々は、サッと逃げるが

黒い戦闘服の連中は、避けきれない

ブーメランは、真ん中に居たマシンガンの男に命中する

ぐわわわっ

重いブーメランの直撃を受け、男は吹っ飛ぶ

マシンガンにも、ダメージを与える

見たかっオレは、ブーメラン使い人呼んでブーメラン直人

そのオッサンは、格好付けて叫ぶが次の瞬間、異次元戦士に襲われる

リュミューンッシュパパパパッドド、ドドムゥ

異次元戦士は、口で気持ちの悪い擬音を喋りながら気持ちの悪い動きで、ブーメラン使いに迫る

すげぇ、気持ち悪い

人間とは思えない、不思議な動きでしゅるしゅると距離を詰める

君は、あんまり良い動きをしてはいないねぇ

そう言うと、異次元戦士はブーメラン使いの首に手刀を放った

パパラバァァッ

うがぁぁ

吹っ飛ぶ、ブーメラン使い

こうやって、映像で見ている限りは、避けられない攻撃ではないのですが

実際に対戦するとおじ様の攻撃は、全てクリティカル・ヒットしおじ様への攻撃は、一つも当たらないのだそうですまるで、異次元人と闘っているみたいに

さらに3人異次元戦士・ダダドムゥおじ様は、防衛側の人間を倒していく

きゅるりりーんっビッタンコォ

ぐわぁぁっ

その頃タケシハンターは、タケシィズと闘っていた

哲学哲学哲学なのです

タケシィズの一人の空手技を、タケシハンターは、華麗に避けていく

今、攻撃しているのは、日垣タケシさんコード・ネームはガッキー・ソルジャーです

美智が解説してくれる

そんな攻撃が当たるかぁぁ

タケシハンターは、持っていた大きなライフル銃の台尻で、日垣タケシをブッ飛ばす

タケシハンターは、銃剣道の達人なんです

銃剣道

銃の先に剣を付けて闘う武道ですしかし、タケシハンターは剣は付けませんライフル銃全体を武器として、相手に打撃を加えます

でも暴発とかしたら危なくないの銃で人を殴るなんて

殴ったショックで、機械部分が破損したらライフルとしては使い物にならなくなるだろうし

はいですから、あのライフルには弾は入ってません

なぬ

危ないですから機械部分を全て溶接した無可動銃なんです、あれ強度を高めるために銃身には金属棒を埋め込んでいます徹底して、人を殴るためのライフル銃なんです

わざわざ、ライフル銃を使う必要があるのか

舐めるな、小僧私は日本で一番、空手で敵を倒した警護人なのでありますぞ

ガッキー・ソルジャーが叫ぶ

そんなの自称だろソースを出して見ろっての

男の嫉妬は醜いのでありますっ

適当なことを言って誤魔化すなっお前は、いつも自分をでかく見せるためのホラばかり呟きやがって

タケシハンターの一撃が、ガッキー・ソルジャーの喉元に炸裂

哲学ぅぅんっ

ガッキー・ソルジャーは悶絶して、失神する

ふんよくぞ、日垣タケシを倒したな

しかし、そいつは我らの中では最弱

タケシィズの面汚しよ

お前ら、そのパターンは

いいから、とっとと掛かって来い

タケシハンターは、無可動ライフルを構える

あの後ろの黒い服の連中、全然闘ってませんよね

さっきから、交戦しているのはフリーの人間ばかりだ

ピストルだって持っているのに全然、撃ってない

みんな、銃を片手にうろうろしているだけだ

マシンガンの人も倒れたきりででも、マシンガンを拾おうとしないし

しょうがないさみんな、素人なんだから

素人

最初のマシンガンの乱射で判ったよあいつら、全然、銃に慣れていない

マルゴさんの言葉に、麗華と美智が頷く

知ってるきちんとした射撃訓練を受けていない人間は、銃を持たせてもなかなか引き金を引けないんだよどこに弾が飛ぶのか、自分でも判らないんだからね

怖くて、撃てない

絶対に弾が当たる距離まで近付いて、プレッシャーを掛けたらつい引き金を引いてしまうだろうけれどこれだけ距離を取っていたら、あっちからは撃ってこないよ

バンバルビー3のお姉さんたちも、全員、黒服の連中が銃に慣れていない素人だって判っているんだ

だから、相手が破れかぶれになって乱射しないように距離を取って、刺激しないようにしている

最初のブーメランで、マシンガンの持ち主を倒したことで充分な牽制になっているんだ

水曜です

それでは、病院によって仕事へ行きます

277.次の手

第一次世界大戦の頃の話だけどさ

アメリカからヨーロッパに戦争に行った兵士の中で、実際に敵に向かって銃を撃ったことのある人間は実は、何割もいないんだよほとんどの兵士は、弾の入った銃を抱えて、敵軍と対峙しても引き金を引かなかったんだ

銃を撃たない

そりゃあ、激戦区とか生き残るかどうかの瀬戸際なら、撃つよそうしないと殺されるって思えばでも、敵と対峙していてもお互いに、いつでも撤退できるような戦場なら、本気で撃ち合ったりはしなかったんだよこれはデーターとして、ちゃんと残っているんだ

マルゴさんの言葉に、麗華が言う

はい19世紀の銃を持った兵士が列になって、指揮官の号令と共に一斉射撃する時代なら、撃たざるを得ませんが兵士が戦場に散開して、身を隠しながら撃ち合う時代になると、敵に接触しても撃つか撃たないかは兵士個人個人の判断に委ねられますから

自分の撃った弾で、人が死ぬかも知れないって思うと普通の人は、なかなか引き金を引けないんだよきちんと想像力のある、真っ当な人間ならね

戦場で英雄になるようなやつ敵を見たら、ためらわずにすぐに銃撃できるような人間は、やっぱりどこかが壊れているということか

だから、今のアメリカ軍では戦場で動くものを見たら、反射的に射撃してしまうような訓練をしているんだよ考える前に、身体が勝手に引き金を引くように徹底してそうでないと、中東の制圧作戦なんかはできないからねだけどその結果、誤射も増えている敵ではない地元の民間人を撃ってしまったり味方の兵士を撃ってしまったりね

とにかく銃というのは、取り扱いが難しい武器なんです普通の人は、いきなり銃を手渡されても、まず人に向けては撃てないですよね

麗華が、言った

でも、ほらアメリカじゃ、よく無差別発砲事件とか起こるじゃないですか軍人さんとかじゃない、学生とかでも平気で人を撃っていますよ

ああいう事件を起こす人たちは若い人でも、だいたいが銃に慣れている人たちだし少し精神的にイッちゃっている人が、武器を持っていない人たちを一方的に虐殺するというイメージだけで行動してるわけでしょう警察が来るまでは相手も武器を持っていて、反撃されるってことを考えていないから、自分が圧倒的に強くなった気になってバンバン撃てるんだよ虐殺したいだけで、戦争したいわけじゃないから

マルゴさんが、答える

確かに無差別発砲犯が、軍隊や警察の施設を攻撃したって話は聞いたことが無い

たいていは平和な公園や学校の中で事件を起こす

マルゴさんは再び、スクリーンを見上げる

あの連中は、間違いなく銃に関しては素人だよヴァイオラが、あの人たちをどこから連れて来たのか判らないけれどいきなり、ピストルやマシンガンを持たされて戸惑っているのが動きで判る

確かに黒い戦闘服の連中は、銃を持ったまま、あたふたしているだけで闘いには参加していない

でも、マシンガンは平気で撃ってませんでした

車が停まったら、外に向かって撃てみたいな、単純な指令なら、ノリの良い人間は従うよあのメンバーの中で、一番勢いの良いやつにマシンガンを任せたんだと思うよでも人のいないところに向けて撃っていたよね

確かにホテルマンに扮して、やつらの車に接していた香月セキュリティ・サービスの警備員も、誰一人撃たれてはいない

その後、マシンガンの担当者はブーメランの直撃を受けて倒れたままだし

マシンガンは床に転がったまま、誰も拾おうとしない

あれ、どうして回収しようとしないのかしら

そんなのさ拾ったら、使わないといけないでしょみんな、嫌なんだよマシンガンで、人の群れに向かって乱射とか、ゾッとするじゃない

マルゴさんは、ニコッと微笑む

それにあのマシンガンは、もう弾切れだと思いますわ

麗華が言った

美智ちゃんあのマシンガン、何回、弾倉を交換していたのか数えた

麗華の問いに、美智は

2回です最後の弾倉に交換した後、斉射して撃ち尽くした後は弾倉を交換していません

すげぇ、ちゃんと見ているんだ

美智の返答に、マルゴさんも頷く

そうだったよねということは、もう交換する弾倉が無いってことなんじゃない予備があれば、とりあえず差し替えるからね弾切れで空っぽのマシンガンなんて、何の意味もないし

ということはさあの黒服の連中も、そんなに弾は持ってないんじゃないのっ

寧さんが、マルゴさんに尋ねる

あああたしもそう思うよ今、ピストルの中に入っている弾が全部で、予備は無いそれも、あいつらが撃って来ない理由の一つだと思う銃に手慣れたプロだったら、威嚇に何発か使うぐらいの余裕はあるけれどあいつらは、一発たりとも無駄弾にはできないって思っているんだよ

はい一定の距離を保って、こちらから不用意に近付いて刺激しなければずっとあのまま突っ立っているだけでしょうねあの人たちは

麗華も、そう分析する

バルンバルバルバルルルルーンッリュミョョョーン

一方敵味方に分かれた、フリーの警護人たちの闘いは続いている

変な奇声を発して異次元戦士・ダダドムゥおじ様が、バンバルビー3の番場さんに迫る

うわわーんっこっちに来ないで下さぁーい、おじ様ぁぁ

長い棒の先に、鋼球の付いた武器フレイルを振る、番場さん

はーい、おじ様はここですよーんっフリフララランッ

しゅるり、しゅるりと気持ちの悪い動きで、異次元戦士は番場さんの懐に飛び込もうとする

来ないでぇぇ

番場さんが、フレイルをメチャクチャに振り回すが異次元戦士には、擦りもしない

うわわわーんっ届くはずなのに、届かないようっ

アリリャーン、コリリャーン、タリラリラーンッッ

まずい、異次元戦士が、一気に踏み込もうとしている

番場ちゃん、どいてっ

バービーさんの命令に、番場さんがスッと後方に飛ぶ

今よ、ルビーちゃん

あいよ、姐さんっ

ルビーさんが、ショットガンを腰だめにして構える

暴動鎮圧用のゴム散弾を食らいなっ

ダムゥッ

黒いゴムの小さな弾が、異次元戦士を吹っ飛ばす

痛い痛いじゃあ、あーりませんかっこりゃまた、ビックリ驚いたっ

異次元戦士は、すぐに起き上がってそんなことを言う

こいつはね、面で攻撃すれば撃退できるんだよっ

ルビーさんが、ショットガンをポンプアクションさせて、2発目を撃つ

ダウウッ

こ、こいつはたまらんたまりましぇーんピー、ガリガリピー、ガリガリ一時、撤退致しまぁーすっようそろう

異次元戦士は、ホテルの入り口の方へ向かって後退する

ピストルを持った黒い戦闘服の男たちが、行く手を塞いでいたが

ちょっと通りますよーんっ

男たちが、驚いている間にススッと、隙間を通り抜けていく

また会おうそれまでは、ずっといい動きでいてくれたまえよーん

ビッとポーズを決めて異次元戦士は、逃げて行く

はーい、おじ様ぁお達者でぇ

番場さんは、手を振って見送っていた

次に会った時は、殺そうあたし、あいつ嫌いだわ

姐さんあたしも、同感です

バービーさんとルビーさんは、顔を見合わせて頷く

一方、その頃

タケシハンターは、二人目のタケシを倒していた

ちくしょう、上杉この大嘘つき野郎日本での賞金稼ぎは引退するが、英語のBounty hunterは続けるとか、意味が判らないんだよっドイツで、日本の賞金稼ぎの代表みたいな顔をして、嘘ばっかりついてきやがって

それは、****から***に政治的な圧力がですね私はただ

うるさい、黙れっ

タケシハンターはライフルの台尻で、上杉タケシにトドメを刺す

次は、どのタケシだぁぁ村上タケシこと、タケシ・ポムかぁそれとも、剛田タケシ、またの名をタケシ・ギガンティア・アン・ブートン・プチ・兄貴貴様かぁタケシ・オブ・ザ・レインボー、大和タケシ貴様が来るのかぁ

タケシハンターが、タケシィズを睨み付ける

私がお相手しよう

眼鏡にヒゲの大男が、一歩前に出る

私の現代アーティステックな秘技には、定評があるぞ

誰の定評だどうせまた、自己評価で自分を高く売り付けているだけなんだろ

まだ、村上タケシがお嫌いですか

二人の戦闘が始まる

あああーっテルヤクン、テルヤクン、テルヤクンテルヤクンテルヤクンッ

謎の呪文を唱えながら、突っ込んで来る村上タケシをタケシハンターは一撃で倒す

わけわかんねぇんだよ、お前はっ

曲解です強い悪意を感じますもっと、私の書いた本を読んで、私のことを勉強して下さい

お前のことなんざ、世間の人間は、どうでもいいんだよっ

む、無念

村上タケシの巨体が、床に崩れ落ちる

タケシハンターは、その顔を靴で踏みつけて

さあ、次はどっちだ

ほぼ同数で始まった戦闘だったが

突入してきた黒い戦闘服の連中は、実質戦闘に加わっていないので

防衛側が、圧倒的に有利になっている

ていうかこのフリーの警護人たちの常識外れな闘いを見ていると、素人の黒服たちが呆然としているだけなのもよく判る

何なんだろうこの人たち

あよく見ると、敵も味方も倒れた人は、ネコさんが部下を使って回収している奥の部屋に運んでいるな救護室か何か、あるんだろうか

さてタイミング的には、そろそろだよね

マルゴちゃんもそう思う

何が、そろそろなんです

オレが尋ねてみると

最初に素人の連中を突っ込ませて来てでも、その連中がマシンガンを乱射して、催涙弾を放ったから今、1階のフロアには香月セキュリティ・サービスの正規の警備員は一人もいないよね

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