ミス・コーデリアの嘘の情報のためか
あんたたちをここに連れて来る代わりに、クロモリの人間をここに集めるというのが最初の取引の内容だったんだけれどキョーコの本心が判ったなら、クロモリの方はもうどうでもいいわ白坂家からの殺害依頼も、違約金の方が倍額でふんだくれるしあたしの方は満足ね
張本
張本さんが、ジッちゃんの命でみすずの父親を置いて一度ドアの外へ出る
そして、重そうなアタッシュケースを2つ持って、戻って来る
そのまま、ミス・コーデリアの前へ行き
報酬は、金塊でということだったね
ジッちゃんの言葉に、張本さんが一つ目のケースを開ける
ギッシリと、輝く金の塊が入っていた
契約よりも、量が多いと思うけれど
ミス・コーデリアが、金塊を確認しながら言う
手間賃代わりのサービスだ気にしないでくれ
そういうことなら、貰っておくわ領収証は出せないけれど構わないわね
犯罪組織から証拠に残る様なものが貰えるとは思っていないよ
ではロレンザッチョ・バンディーニとシザーリオ・ヴァイオラ、それに彼らのチームの人員全てを、引き渡すわ
これが取引
ところで私の息子を殺した実行犯はこれで確保したが、殺人の依頼者が誰だったのか教えてはくれないか
ジッちゃんの言葉に、ミス・コーデリアは
残念だけれどあたしたちは、犯罪組織なのよ自分たちの身内は売っても、依頼者の情報は絶対に明かさないわ
では、今までのこととは別に私は君たちに、殺人を1つ依頼したい
ジッちゃんが眼で、張本さんに指示する
張本さんが、もう一つのアタッシュケースを開く
中には
やはり金塊が、ギッシリと詰まっている
どこのどいつだか判らないが犯罪組織に金を払って、私の息子一家を殺害させた輩がいるらしいのだよそれが何者なのか、私にはさっぱり判らない申し訳無いが、君たちの情報網を最大限に使って、その人物を探し出し殺して欲しい
背後で香月重秋が叫ぶ
お、お父上ぇぇぇーっ
大徳さんが、グワッと香月重秋を力尽くで抑え付ける
ミス・コーデリアは、ジッとジッちゃんの眼を見る
香月家の当主としてどうしても見過ごせんことだ私は
ジッちゃんは、眼を閉じる
一人の父親である前に巨大な組織の長なのだ
苦しませないで、逝かせてやってくれ
ミス・コーデリアはゆっくりと、香月重秋に向かう
お父上お父上父上ぇぇぇ待って下さい、私の話も聞いて下さい
コツコツと足音を鳴らして近付くミス・コーデリアに、香月重秋は怯える
重春が死んだら、香月家の跡取りは次男のお前だ普通はな私は、最初から判っていたよ
だから私は隠居せず、ずっと現役を続け後継者を明らかにしなかったみすずと瑠璃子も、お前の手が出せないように手元に置いたお前を香月グループの本流から外し主要な重役たちと関わらないようにした
父上、そうじゃない待って下さい
香月セキュリティ・サービスの様な組織を作ったのも、お前がまた犯罪組織と契約して殺人要請した時の対抗策にするためだ
私は、私はですね
今のお前にできることは、私の死を待つことだけだろうずっと、そう思っていたよだが、お前は
ジッちゃんが、真っ赤な眼で息子を見下ろす
裏で画策し続けることを止めなかった
香月重秋が、ハッと口を開ける
お前が恐れたのは私が、香月グループの経営を司馬くんに委ねることだ才能溢れる司馬くんが経営の要となってしまえば、私が死んでお前が香月家の当主となっても香月グループ全体を支配することはできない司馬くんが、才覚の無いお前の経営参画を許すはずないからな
司馬沖達氏が、息を呑んでジッちゃんを見る
だからお前は香月昇をたぶらかし、角田たちを使って、司馬くんの追い落としを企んだ
すると角田たちの携帯にあったミスターという人物は
ジッちゃんの次男、香月重秋だったのか
香月セキュリティ・サービスの制服警備員にスパイを送り込んだり今夜、空港で司馬くんを襲わせようとしたのもお前だな
司馬沖達氏が、このホテルに到着しなかったのも香月重秋の命令
司馬様は、私がお助け致しました
大徳さんが言う
ジッちゃんの専任警護人がずっと不在だったのは、司馬さんを助け身柄を隠し
その上で、ジッちゃんの二人の息子をこの場に連れて来るためだったんだ
お父上がお父上が、悪いんですよ
香月重秋が、喚く
私の方が兄上よりも、絶対に優秀だったんですっ先に生まれたからって、長男が家の全てを継承するなんて間違っていますよっ
追い詰められた彼は、もう止まらない
どうして兄弟なのに兄上に対して、家来みたいにペコペコ頭を下げないといけないんですっおかしいですよっだから、私は全てを引っ繰り返してやったんですよっ兄上さえ居なければ、私が香月家の継承者じゃないですかっそうじゃなきゃ、おかしいそういうルールでしょなのに
香月重秋は、憎しみの暗い眼で父親を見上げる
お父上は、わたしを無視し続けたっ馬鹿にしやがってちくしょうっ早く死ね、とっとと死ねって、毎日思っていますよっあんたなんてあんたなんてぇぇ
ミス・コーデリアが香月重秋の前に立つ
騒がしいよ、あんた
ミス・コーデリアの回し蹴りが香月重秋の頭に炸裂する
香月重秋の頭は、ありえない向きに曲がって
ぐらんと揺れた
昨日、仕事中から体調が悪く
重い身体を引きずって帰りました
この感じは、よく判ります
風邪ですね
そのまま、今日は一日寝込んでいました
眼が覚めたら、午後8時でしたので
それから、必死に今日の更新分を書きました
まだ具合が悪いので、もう寝ます
336.生と死と俗と欲
ズダァッ
香月重秋の身体は、ただの物体となって床に崩れ落ちる
お父様ぁぁっ
スクリーンの中絶叫する瑠璃子を、みすずと美子さんが抱き締めている
瑠璃子に、父の遺体を見せないように
済まない、瑠璃子恨むなら、この私を恨め全ては私の教育が間違っていたことに起因する
ジッちゃんが苦しそうに、画面の瑠璃子を見上げて言った
私は香月家の嫡男として生を受け、他の兄弟とは完全に区別されて育った生まれながら後継者はとても、孤独で寂しいものだっただから、私は自分の息子たちには、そういう思いをさせたくはないと思っていた
ジッちゃんは、泣かない
全ての感情を押し殺している
しかしその教育方針が、結果として重秋を歪めてしまった重秋に、望んではならない野心を抱かせてしまったあいつは弟が兄の家臣となるのが耐えられないと、言っていたが私の子供の頃と比べたら、あいつの体験したことなど何でも無い私の兄弟は、私と同じ部屋で食事を摂ることも、直接口をきくことすら許されてはいなかったのだから
ジッちゃんが香月家の嫡男とその他の子供の扱いの差をなくしたから
かえって、香月重秋は増長した
これは全て私の罪であり香月家本家の不祥事だだが、香月グループ全体の名誉を考えれば、この出来事は決して公にすることはできない
香月本家の次男がアメリカの殺人組織に依頼をして、当主の後継者である実兄を殺させたというのは確かに公表してはいけない話だと思う
ジッちゃんが、ミス・コーデリアに依頼して実の息子である香月重秋を処分させたということも
何より香月家は、長い歴史を持つ名家なのだ私たちはこの家を引き継ぎ、次の世代へ残して行くという義務がある私の代で、香月家を終わらせるわけにはいかないのだ
ジッちゃんは生まれてからずっと香月家に捕らわれている
それが当主として、生きるということ
だから私は全ての当事者を集め、事件を明らかにし、秘密裏に処理する方法をずっと模索していた香月セキュリティ・サービスも、このホテルも今日という日のために準備したものだ長かったこれでようやく、肩の荷が下りた
香月家の所有するホテルの中で、全てを終わらせたことも
工藤父やフリーの警護人たちに、最後の場面に立ち会わせなかったことも
香月セキュリティ・サービスの人員をこのフロアから撤収させたのも
何もかも、内々に処理したかったからか
本当なら、オレたちにも知らせるつもりは無かったんだ
みすずにも、瑠璃子たちにも後で、重秋の死だけを伝えるつもりだったんだろう
ジッちゃん、まさか死ぬつもりじゃないだろうな
オレは思わず叫んだ
ふふ実の息子を殺したんだ私も死ぬべきだろう
私はこの事件の全てを隠蔽しようとしている本来ならば、法的に、社会的に、絶対に許されぬ行為だそれを香月家の力で、断固としてねじ曲げるこの世の法と社会をないがしろにするのだならば、罪に対する罰は、法廷でも社会による制裁でもなく、自分自身で自分に下すしかあるまい死には死をもって償うしかないそれが古代以来の人間の定めた刑罰だろう
ジッちゃんは覚悟している
私の最後の心残りは美子、みすず、瑠璃子三人の孫娘たちのことだったしかし、みすずは立派に成長してくれたし谷沢と黒森くんに後を任せれば、問題はないだろうと思えたお前も居るしな重役たちと私塾の連中の捌きは見事だったぞ
ジッちゃん全て、観ていたんだ
これでもう、何の心配も無い
ジッちゃんは、司馬沖達氏に振り向く
司馬くん香月グループの経営は、君に託すさっき伝えた通り、私の持つ各企業の株式は全てみすずに譲る従って、香月家が株の過半数を堅持することに変わりは無いもちろん、君が新株を発行して、みすずの保有する株式の割合を下げることもできるしかしそれでも、みすずがグループ各社の筆頭株主であることには変わりないだろう
正直に言おう私は、香月グループの支配などどうでもいいのだ私は、香月家という名家を潰したくないただそれだけだだから、グループ全体の経営は、重役たちの中で一番力のある君に委ねたい君がトップとなった後、グループを私物化しようが、司馬グループと名前を変えようが自由だただ香月の家が破綻する様なことだけはしないと、約束してくれたまえ
ジッちゃんの言葉に、司馬沖達氏は
そのために私をこの場にお連れになったのですね
ああ、他の重役たちには真実は伝えないしかし君には、ありのままに起こったことの全てを知っていて貰いたかった
私が事のあらましを警察に通報するとはお考えにならないのですか
君はシビアな計算のできる男だ香月グループの値打ちの下がる様なことはしないよ
ではお言葉に従い、香月グループの最高経営責任者に私は就任致しますその代わり閣下、どうかこのまま顧問・相談役としてグループにお残り下さい
司馬沖達氏の申し出に、ジッちゃんは驚く
私はもう死ぬのだぞ
現在の香月グループは、閣下のカリスマ性によって1つにまとまっています今、閣下が亡くなられたら重役会は混乱するでしょうグループ内に亀裂が走ります香月家にとっては外様の私には、収拾できませんその結果、香月グループの株価が激しく下落することになると思います
真剣な眼で司馬沖達氏は、ジッちゃんに言う
経営面での失敗や、競合他社に負けて、株価が下落したのならまだ言い訳もできますしかし、グループ内のいざこざで株価を下げるというのは、あってはならないことです香月グループの各社は、株式会社です私たちは、株主の皆様から会社を預かっているのですから
グループのどの企業も、半数以上の株式は私がもっているのだぞ
それでも4割以上は、個別の株主がいるのですその皆様を裏切る様なことはできませんどうか、グループ内にお残り下さい今しばらくは、閣下が影響力を発揮していただかなければ私に経営権を委譲していただいても、グループ内は混乱するだけです
理路整然と司馬沖達氏はジッちゃんを説得する
私はシビアな計算をした上で、申し上げていますどうか今すぐお亡くなりになるのはお止め下さい
スクリーンからも声がする
あたしたちからもお願い致しますお祖父様
みすずが、ジッちゃんに言った
瑠璃子さんも耐えていますから
美子さんに抱き締められたままの瑠璃子が泣き顔で叫ぶ
どうかお願い致しますお父様に続き、お祖父様まで居なくなってしまったら瑠璃子は、悲しみで生きていけません
わたくしからもお願い致します
美子さんも祖父に嘆願する
ジッちゃんの心が揺れる
香月様、死をもって死に償うというは甘い考えでございます
どういうことかね黒森くん
生き続けるということの方が死んでしまうよりも、何倍も辛く大変だということを、わたくしたちは知っております
あたしも知っているわよ重ちゃん
スクリーンの中で克子姉が言った
お祖父様心残りがなくなったから死ぬというのは、余りに身勝手ですわ
みすずも、祖父に言う
今、お祖父様が亡くなられたらあたしたちは幸せにはなれません
お前たちは、私にこのまま生きろと言うのかこんな生き恥を晒した状態で次男が長男を殺し、その次男を私が殺したんだぞこんな破廉恥極まりない私に、生き続ける資格などあるはずがないじゃないか
ジッちゃんそれは違うよ
ジッちゃんが、オレに振り向く
生きることに、資格があるとか無いとかそんなのどうでもいいんだよっジッちゃんに死んで欲しくないって人がたくさん居るんだよっだから、ジッちゃんは生きていろ
オレはフロア全体をぐるっと見廻す
それぞれ理由とかはどうでもいいからこの中で、ジッちゃんに生きていて欲しいと思う人は手を挙げてくれっ
オレは、真っ先に手を挙げる
美智とマルゴさん寧さんもがオレに続く
美智の真似をして、シスター・イーディも
ミナホ姉さんは、もちろん手を挙げている
麗華関さんも手を挙げる
スクリーンの中では、みすずと瑠璃子と美子さん、克子姉が手を挙げた
あたしもお祖父ちゃんは死なない方がいいと思うよ
苦笑して恭子さんが手を挙げた
あたしも長い付き合いにして貰った方が儲かりそうだしね
恭子さんに合わせて、ミス・コーデリアも手を挙げる
それを見て、ミス・コーデリアの二人の部下も
司馬沖達氏も、当然手を挙げる
閣下の負けですよ
谷沢チーフも手を挙げる
大徳さんと張本さん二人の専属警護人も
フロアに居る人間で手を挙げなかったのは
シザーリオ・ヴァイオラとロレンザッチョ・バンディーニ
白坂雪乃だけだった
多数決で、生きる方に決定だよジッちゃん
グダグダ言ってないでいつもの不貞不貞しい不良老人の顔に戻りなよ
まだ全然、後片付けが終わっていないんだからさっ
まず最初に回線を重役たちと私塾の子供たちの居るフロアに繋ぐ
私だ敵は全て撃退したもう心配は無い
閣下ご無事でしたかっ
スクリーンの向こうで、香月操が叫んでいる
ああ私は無事だが、重秋が残念ながら敵の手に掛かり死亡した
重秋様が
上階のフロアは、騒然となる
それで裏切り者はやはり、香月昇様だったのでしょうか
それは、まだ判らない今、谷沢たちが調査しているところだ報告が上がり次第、諸君らにも伝達する
司馬は、どうなったんですこっちでは、司馬も昇さんと組んでいるんじゃないかという可能性について話していたんですが
司馬くんなら、ここに居る司馬くんは、羽田空港の国際線ターミナルを出たところで敵の襲撃を受けたらしいそれで、到着が遅れたということだ
あそうでしたか
身内から裏切り者を出してしまったということ重秋が死んだということで、私はいささか疲れたよこれを機に、私は経営の一線から身を退こうと思う
そんな閣下
いや身を退くと言っても、完全に隠居するつもりはないこれからも、香月グループ全体に眼を光らせるつもりだただグループの最高責任者として采配を振るうのには、もう私は高齢過ぎるよ私は代表権の無い、顧問か相談役に落ち着くと思うそれでも、私が香月グループ各社の株式の大半を有していることは忘れないでくれこれからもおかしな経営には口を出すし、無能な役員は罷免するそれだけの力は持ち続ける
院政を敷かれるということですか
そうではないそれでも、私は香月グループ少しずつ距離を取っていくつもりだいずれ、私がいなくなっても香月グループが立ち行くようにしなくてはならないこれまでの私は、君たちに対して過保護過ぎたこれからは、君たちが自立していく様、見守って行くつもりだよ
それで閣下の後任は最高経営責任者には、誰が就くのです
もちろん、司馬くんだよ決まっているじゃないか
私の決定に異論のある者は、香月グループを抜けてくれて構わんよ何しろ私は君たちに自立を促しているわけだからね
続いて白坂家のクーデター組の避難しているフロアに回線を繋ぐ
私だ襲撃犯は全て掃討したもう問題はない白坂富久志くんの身柄も確保した彼は無事だよすぐにそちらへ届ける
良かった富久志ちゃん
携帯電話の類は敵に奪われてしまって、どうしても連絡ができなかったそうだよ母上に早く会いたいと言っているそうだ
ありがとうございますありがとうございます
君たちも、最新のニュースは観たね私の工作が実を結び、白坂守次氏は側近たちの手によって強制的に引退させられた君たちに対する、守次氏の殺害要請も取り消しとなったもう何も心配は無い
ああ、良かった助かりましたわ
白坂家の次期当主の件だが私の方からは、富久志くんを強く推しておいたまあ、後は白坂家内部の問題だ君たちの方でしっかりやりたまえ
何から何まで、ありがとうございます
今、私の護衛を迎えに行かせる彼らに送らせるから、君たちはこのまま白坂本家に向かい給え鉄は熱いうちに叩くべきだ白坂家内部の問題については、今晩中に決着を付けなさい富久志くんとは1階玄関で合流できる様に手配しておこう
判りましたわっ
白坂信子しか喋っていないな
大阪のテレビ局の白坂博光氏と山田副社長はどうした
通信を切るとジッちゃんは、谷沢チーフに振り向く
白坂守次が、白坂家内の反対派に刺客を送っていた件今すぐ、マスコミにリークしろ
家庭内の問題を片付けるのにアメリカの殺し屋を雇うような家が日本有数の巨大な新聞社やテレビ・ネットワークを牛耳っているのは危険だというキャンペーンを張れ
ジッちゃんの顔がいつもの意地悪爺さんの顔に戻って行く
白坂家なんていう成り上がりの家系なんぞどうでもいい次の当主の地位は、あの女の息子に与えてやってもいいだろうしかし、これを機に白坂家からは、新聞社とテレビ局を奪い取る白坂家が、支配下のマスコミ各社の経営から手を引かなくてはならなくなる様に世論を動かせ
かしこまりました閣下
司馬くん大阪の白坂博光という人物には、見所がある大阪のテレビ局だけ、白坂家のグループから独立させられないかどうか画策してみてくれ資本関係から調べてみてくれ
そして後片付けが始まる
谷沢チーフが、信頼できる部下を数人呼んだ
そのうちの一人が、司馬沖達氏を連れて行く
司馬氏は重役たちのフロアへ
息子に会うことととにかく、一度、今後のことを重役たちと話し合うために
他の部下が香月重秋の遺体を片付ける
重秋は、自宅で死んだことにしてもらう
このまま、香月第一病院に搬送してくれ話は通してある
では、私が付き添います
ジッちゃんの三男みすずの父親の香月重冬が言った
こんなことになりましたが私の兄ですから
そして、地下と繋がっているスクリーンを見上げる
みすずも、瑠璃子ちゃんも心配しないで重秋兄さんは、私が連れて行くよ
叔父様、よろしくお願いします
大分落ち着いたのか瑠璃子は、そう返事をした
遅れてあたしたちも向かいますごめんなさいここからは、すぐには出られないんです
緊急避難室に通じるエレベーターは、オレが回路をブッ壊してしまったから
時間を掛けて内側から、脱出路を開いていくしかない
幾つもの閉鎖された扉を一つ一つ手作業で解除しないといけないから時間が掛かる
今、恵美さんやマナちゃんたちにも手伝って貰って、脱出の準備をしていますから
そう言うみすずに、ジッちゃんは
いや、谷沢にエレベーターの制御回路の方を交換させるその方が、結果的には早いお前たちは、そこで待機していなさい
はい、ユニットごとの交換なら、一時間もあればできるはずです
谷沢チーフが、関さんと麗華を見る
これは君たちでやってくれ君たちがブッ壊したんだからな
麗華は、恥ずかしそうに答えた
関さんこれ
オレは関さんにピストルを返そうと思った
ずっと預かったままというのも困る
もうしばらく持ってなさい
関さんは、少し怖い顔でオレに言った
もう何も問題はなくなったのに
わたくしまだ全然信用していないのよ
関さんは谷沢チーフの配下のトップエリートに監視されている、ヴァイオラとバンディーニを見る
それから恭子さんと歓談している、ミス・コーデリアたちを
あの人たちが眼の前からいなくなるまでは武器は持ってなさい
その通りですご主人様
見ると美智も赤いムチを持ったままだ
そうか野獣と同じ檻の中に居るようなもんだもんな
まだ全て解決したわけじゃないからね
マルゴさんが、寧さんを抱き締めている
どうしたんです寧さん
うんちょっとね変な感じなのあたしをずっと苦しめていた相手が、あそこで捕まっているのを見ているとね
シザーリオ・ヴァイオラは、寧の精神に深く傷を負わせているからね
こういう状況になったらあたし、どうしたら良いのか判らないんだっ
寧さんはぶるぶると震えていた
やっぱりあたしが殺してくるよ
きちんと寧が見ている前でシザーリオ・ヴァイオラは、死ぬべきなんだそうじゃないと寧の悪夢は永遠に消えない
オレは慌てて、ミナホ姉さんを探す
ミナホ姉さんはジッちゃんと話しているちょっとオレたちから離れているな
このままだとヴァイオラたちは、香月セキュリティ・サービスに連れて行かれて、どこかで処刑されるんだと思うよ寧の眼の前で殺すなら、チャンスは今しか無い
いやだから、マルゴさん、ちょっと待って
あんたたちみんな気が狂っているわよ
雪乃が、口を開いた
眼の前で人が死んだのに殺されたのにその上、まだ殺すって言うの
雪乃お前
あんたたちみんな、どうかしているのよっ
二日寝込んだので、大分良くなってきたのですが
熱がまだ下がりません
ちょっとフラフラしています
せっかくの土日が
337.銃声
人が殺されたのよちゃんと警察へ行くべきでしょ裁判を受けて、裁かれるべきよ何でもかんでも勝手に決めて、納得しておかしいと思わないの恥知らずよ、あんたたち
彼女には、ジッちゃんやオレたちの行動が納得できないらしい
ふうんお嬢ちゃんは、どうしてそう思うの
遠くから、恭子さんが面白そうに尋ねてきた
だって自分で自分のしたことを判断して、罪を裁くなんてやってはいけないことだわ公平な立場から判断して貰うために法律とか、警察とか、裁判所があるんでしょ
雪乃が答える
ちょっとちょっとあんた、ちゃんと脳みそ入っているの
呆れ顔で、恭子さんは言った
法律とか、警察とか、裁判所とかが公平なんて、そんなのファンタジーの世界だけじゃない
な、何を言っているのよ
愕然とする雪乃
恭子さん、この子は日本しか知らないから社会正義が幻想だっていうこと、判らないんですよ
ああリベラル勢力の言い分を、そのまま信じちゃっているわけね
法律も、警察も、裁判所も権力者の意志によって恣意的に利用される力の無い民衆は、いつも好き勝手に陵辱されるそれが世の中だよだからと言って、革命を起こせって言う無責任な連中もいるけれど本当に、革命なんかが起きてしまったら国家は根幹から壊れてしまって、無茶苦茶な状態になる革命を体験した国が、平穏な状態に戻るのには何十年も掛かるんだよ
あたしは別に、国とか法律とか、そんなことは言っていないわただ、あんたたちはみんな間違っているって言っているのよっ
なあに、国や法律や警察や裁判所は、間違いを起こさないっていうわけ
それは時には、間違うこともあるんでしょうけれど、でも誰にでも公平に、みんなのためを考えて、そういうものは作られているんでしょ
ふーん、あんたの言う公平ってのが、どういう基準ののものなのかあたしには全然判らないんだけれどもし、あんたの言う通りに世界中の法と警察と裁判所が機能しているとしたら、あたしはまだブラジルのリオで楽しく生活していると思うよ
何の話よ
あたしは知っているわ法律も警察も裁判所も、絶対に頼りにはならないって少なくても、あたしたちの味方じゃないってこといつも必ず敵っていうこともないんだけれど、でもあたしたちに優しい相手ではないわ子供の頃から、周りの人たちが何人も犠牲になっていく姿を見てきているから
だから自分と仲間の身は、自分で護らなければいけない敵が金と権力であたしたちを襲って来るのなら、あたしは金と暴力で対抗する目には目を力には力を金は奪えばいい表の公権力がやつらのものなら、あたしたちは闇の暴力で対抗するそうやって、あたしたちは生きてきたのよ
その恭子さんの重い言葉に、雪乃は
話を誤魔化さないで人が死んだのよそれを隠したまんまにしていいわけないじゃないちゃんと警察に名乗り出るのが、当たり前のことでしょ
いつもと同じパターンだ
理屈で問い詰められたら、自分の感情だけを爆発させる
残念だけれどここには、当たり前の人なんて1人もいないのよね
恭子さんの声が、空虚なフロアに響いた
まず、ここに居るのは、あたしと同じ国際的な犯罪組織の一員本物のアウトローたち
恭子さんの眼が、ミス・コーデリアたちを見る
ミス・コーデリアは妖しく微笑んでいる
それから国家組織と対抗できる力を持つ本物の権力者とその下僕たち
恭子さんは、ジッちゃんと谷沢チーフを見る
ジッちゃんは、恭子さんと雪乃の会話を面白がっているようだった
みんな、国の法律とかの支配の外に居る人間よ明確に自分の行使できる力を持っている人間法や国家の助けは必要としていないのよ
恭子さんは、ニッと微笑む
だからと言って、常に国家と対立しているわけではないわあたしたちは、共存できる限りは、国家とも権力者とも友好的な関係を保つわあたしたちは主義者でも革命家でもないから世の中を自分の思い通りにしたいなんて、大それた考えはないのよただ、愛している人たちと幸せに暮らしたいだけ
ジッちゃんが、恭子さんの言葉に続ける
残念ながら生まれ育った環境が、私たちに普通の国家市民の様に生きることを許してはくれなかったのだ私は、香月家という巨大な力を持つ家に生まれ日本国家は、これまで何度も香月家の持つ財力や支配力を奪おうと画策して来たよ私は、何度も彼らと闘い打ちのめしてきた香月の家は日本にあるが国家権力を振りかざす連中の力を、これ以上強化してやるのは良くないと思うからないや、国家と闘ってきたという言い方が悪いのだな国家などという物に明確な意志は無いのだから私が闘ってきたのは、いつも他人の財産や力を好き勝手に奪い取れると勘違いしている政治家と高級官僚だよ国家などという大きなものではないほんの数人の下劣な感性の持ち主が、国家権力を使って、私に戦争を仕掛けて来るだから、全力で叩き潰すそれだけのことだ
お嬢ちゃんの思い違いをしているポイントは、多分そこなんだろうね国とか法律とか司法制度とかが、NOBLEでQUITABLEで絶対的なものだと思っているんだろそうじゃないんだよ国も法律も司法も人間の使う道具、あるいは力でしかないからねそれを使う人間が腐敗していれば、正義が果たされるはずはないしかも、力を持った人間が腐敗するのは当たり前のことだからね
恭子さんは、雪乃に言った
あんたたちこそ何も判っていないのよ
雪乃は折れない
そうやってグチャグチャ小理屈をこねくり回しているけれどねあたしには、判っているわ
軽蔑の眼でフロアに居る全員を見る
あんたたちは全員、刑務所に入って縛り首になるべきなのよっそういう人間たちなのよっ何よっ極悪人が偉そうにさっ
恭子さんが、ニッコリと雪乃に微笑む
そうよやっと判ってくれた
だから、あんたこそ極悪人に正論を語るのが無駄だってことに、そろそろ気付きなさいね
雪乃は憤怒の表情でオレを見た
あんたはどうなのよっあんたも、この女たちと同じ考えなの
オレは、すぐ横の寧さんとマルゴさんを見る
美智とシスター・イーディを
麗華と関さん
それからスクリーンの中の、克子姉、みすず、瑠璃子、美子さん
オレは犯罪組織黒い森《ブラック・フォレスト》の一員だよこの人たちが、オレの家族なんだ
オレはもう覚悟ができている
この家族と共に生き死ぬ覚悟が
雪乃は、静かに言った
なら、あたしもう、こんなところには居られないわ
雪乃が、壁のドアに向かって歩いて行く
おい、どこへ行くつもりだよっ
帰るのよっこんなところもう一秒だって居たくないあんたたちと一緒には
帰るって、どこに
あたしの家に決まっているでしょ
お前の家なんて、マスコミだらけだぞ
昨日の白坂創介の大スキャンダルの発覚から、まだ二十四時間も経っていない
当主・白坂守次氏の緊急入院だって報道されたばかりだし
そんなのどうでもいいわよっあたしは帰りたいのっここから出たいのよ
雪乃はドアのノブに手を掛けるがドアは開かない
鍵の開いているドアは、どこよっ
待てよ雪乃そんな格好のまま、外に出るつもりかよっ
雪乃は全裸にオレのYシャツを1枚羽織っただけだ
足は裸足だし
何だっていいわよっ
だいたいここはお台場の外れだぞここから、どうやって帰るつもりだよっ
もうすっかり夜だし
雪乃は一銭も持って居ないし
うるさいわねっレインボーブリッジを歩いて帰ればいいんでしょっ
いやレインボーブリッジって、Yシャツ1枚で通れるのか
いいから、ここに居ろよせめて、着替えとか用意して貰うから靴だって要るだろ
いらないっ何もいらないっあんたたちにはもう、何もして欲しくない
ギギッと、憎しみの眼で雪乃はオレを見る
ダイッ嫌いよこっちに来ないで
もう二度と一生あたしに関わらないでっあんたの顔なんて、二度と見たくないわっ
雪乃がオレを拒絶する
オレはここ数日、ずっと雪乃を苦しめるだけの存在だった
この何回かのセックスで、心が通じ合ったような気になったけれど
そんなのは勘違いだ
白坂雪乃という女の子がオレを好きになるはずがない
初めから、判っていたことじゃないか
そんな言葉が口から漏れた
雪乃が不快な眼でオレを見る
いや何て言ったらいいのか判らないけれどとにかく、ごめん本当に、ごめん
すると、雪乃は
雪乃の心が爆発する
謝るくらいなら、最初からするなぁっ馬鹿ぁぁッッ
オレは白坂雪乃をレイプした
処女を無理矢理奪い何度も犯した
恋人との仲を裂き
雪乃から妹を奪い取り
学校中の生徒の前に痴態を晒させ
父親の失脚を手助けした
あげくに、危険な場所に連れ回し
今、雪乃にはもう何も残っていない
友人も、恋人も、家族も何一つ
ごめん、雪乃
雪乃は今オレとの絆も失おうとしている
いや、そんな絆は最初から無かったんだ
オレは強姦者で雪乃は被害者
それだけの関係でしか無かった最初から
謝るしかない
オレのその言葉に、雪乃は
冗談じゃないわよぉっ
雪乃の拳が、オレの顔をブッ叩いた
平手じゃ無い
ゲンコツで雪乃は、オレを殴った
女の子だから、体重の乗っていないペチッというパンチだったけれど
オレには、痛く響いた
ごめんで済むわけがないでしょうっ
フロアの壁に配置されたドアが、不意に開いた
ドアから現れたのは香月健思だった
みなさん、こちらにお出ででしたかぁ
場違いな、晴れ晴れとした笑顔で香月健思は、微笑む
いやぁ、やっと、ここのフロアまで降りて来られましたよ
ウワァァッッ
背後で、悲鳴が起きる
ハッと振り向くとロレンザッチョ・バンディーニが、監視していたトップ・エリートの1人を襲っていた
そんな身体検査はしたはずだろ
靴のヒールの中にナイフを隠していたようですっ
バンディーニは、トップ・エリートを突き飛ばし香月健思が開いたドアに向かって、突進する
逃がさないよっ
恭子さんやトップ・エリートたちが一斉にバンディーニを取り押さえようとする
誰もがロレンザッチョ・バンディーニに集中する
その隙をシザーリオ・ヴァイオラが見逃すはずが無い
ヴァイオラも、トップ・エリートの間をかい潜り逃亡を図る
しかも、脱出口に向かったバンディーニとは違う方法で、事態の打開を狙った
つまり人質を取ろうと試みる
ヴァイオラの視界の先に居たこのフロアの中で一番無防備な人物
それは雪乃だった
こっちへ来いっ
きゃああああっっ
ヴァイオラの血走った眼
雪乃の悲鳴
オレは、雪乃とヴァイオラの間に飛び込むッ
ヴァイオラの手が、雪乃を捕まえる前に
ビュシュツ
美智の赤いムチが、ヴァイオラの手を撥ね除けるッッ
トォイヤァァッ
マルゴさんの横からの跳び蹴りが、ヴァイオラに炸裂するッッ
グェェェッ
激しいキックに宙を舞い、ゴロッゴロッと床に転がるヴァイオラの肉体
ピクピクッと痙攣してガクッと力を失う
死んだの
さあならいいんだけどね
ゆっくりと近付いて
マルゴさんは、ヴァイオラのマスクを剥いだ
マスクの下の顔は、白目を剥いていた
何かのメイクをしていたらしい
付けヒゲが、曲がっていた
こんな顔だったっけシザーリオ・ヴァイオラ
記憶の中の顔はもっと恐ろしかったよ
それは寧が、頭の中でヴァイオラのことを思い出すうちにどんどん記憶に付け加えてしまっていたんだよ恐怖の記憶っていうのは、そういうものだから
ドアの方では、バンディーニがこちらは問題無く、取り押さえられていた
Hey、ミスター・バンディーニ今日のヴァイオラは、誰に変装していたんだい
シザーリオ・ヴァイオラには、仕事の時に映画のキャラクターに変装する趣味があったんだっけ
レット・バトラーさ
数人掛かりで押さえ込まれたバンディーニは、口惜しそうにマルゴさんに答えた
クラーク・ゲーブルってこと
そういうこった
ふんそこそこ、いい線行っているけれど、そっくりさんもどきって感じだね
マルゴさんがそう言うのだから、何となく面影があるくらいには似ているのだろう
オレとロサンゼルスで再会する前はそいつ、チャイニーズシアターの前で、レット・バトラーの仮装をして、観光客から小銭を巻き上げていたらしいぜもっとも、妹の仮装したワンダー・ウーマンの方が稼ぎが良かったらしいがな
若き日のヴァイオラとロザリンドは、そんなことをしていたんだ
それでそいつは頭にきて自分は仮装を止めて、観光客が妹と写真を撮っている間に、観光客の荷物を盗むことに専念するようになったんだそうだ
そして悪の道へ
白目を剥いたままのヴァイオラは、転がったまままったく動かない
死んだ殺したまた、殺したのねっあんたたち
雪乃が、憤怒の形相でオレたちを見る
こっちへ来ないでっ
泣き喚く雪乃
もう嫌よ、あたし、もう、うんざりよこんなの嫌ここから、あたしを出してよっ
壁際に逃げようとする雪乃
そこには床に倒れたヴァイオラの肉体があった
雪乃ちょっと待て
関さんから預かっていた、ピストルを向ける
な、何よあ、あんたあたしも殺す気なの
そうじゃないっ動くなって言ってるんだっ
あたしに命令しないでっ
雪乃の足が後ろに下がる
そっちはダメだ
寧さんと美智が、オレに声を掛ける
マルゴさんが、突進する
しかしオレは
それでは、間に合わないと気付く
いやぁぁ、殺さないでぇぇっっっ
何かがおかしいと思った
変だという実感があった
ドギュゥゥッ
オレは、銃を撃った
弾丸は、真っ直ぐに飛び
一瞬にして、床に倒れたヴァイオラの身体に穴が開きグワンッと身体が跳ね上がる
血が、ヴゥワッと噴き上がった
硝煙の匂いが鼻につく
きゃああああああああッッ
雪乃の絶叫が轟く
マルゴさんが、雪乃を抱き締めて保護する
いやぁぁ、いゃぁぁ、ぁぁ
半狂乱状態の雪乃
その雪乃を、マルゴさんがパンと平手打ちするッ
落ち着くんだッ
フロア中の視線が集中していた
撃たれたヴァイオラの遺体と
撃ったオレに
雪乃が、ハッと我に返る
恭子さんが、スッと来てくれた
ヴァイオラの遺体を調べる
あんた、よく気が付いたね
恭子さんが、ヴァイオラの握りしめた手の中から、小さなカプセルの様なものを取り上げた
神経ガスじゃないかなこのフロアに居る人間全員は無理だけれど近くに居るやつぐらいまでは余裕で殺せるタイプの死なばもろともってことなんだろ気の弱い男のやりそうなことさ
ヴァイオラは毒ガスのカプセルを持って居た
こいつは死んだフリをして、自分の周りに人が近寄って来たところで、このカプセルを使うつもりだったんだろうよ
恭子さんは、雪乃を見る
あんたの位置なら確実に死んでいた坊やに助けられたね
あんたが殺した
恐ろしい物を見る眼でオレを見る
あんたが殺したんだ
オレが殺した
オレが撃った
この手で
この銃で
オレ、オレ
あれどうしたんだろう
身体が、鉛のように重く感じる
力が入らない
気持ち悪い
胃液が逆流してくる
眼の前がクラクラする
オレもう、立っていられない
しまったこういう可能性に気付いておくべきだったんだ
マルゴさんの声が遠くで聞こえる
自分の命にこだわりがないのなら人の命を奪うことにだって、ためらいが無いっていうことじゃないかっ
えそれって
オレのことなのか
人殺し人殺し人殺し
雪乃の声が聞こえてくる
遠くで遥か遠くから響いてくる
うああぁぁ
そのまま気を失った
この展開は、かなり早い段階から考えていました
犯罪組織の一員となるということは、当然それなりの負い目を背負うということですから
ここだけはシリアスに描写しないといけないと考えていました
長かった五月二日の章が終わり
次話から五月三日に突入します
338.ワン・モア・キス
おはよっおはよっ
よしだくんよしだくん
よしだくんおはよっ
お、はよう
もう、朝なのか
身体が重い
胃がぐえってなっている
体調が悪すぎる
このまま眠っていたいのに
おきてくださいっよしだくん
そうだそれは、オレの名前
あさですよっおきてくださいっよしだくんっ
耳元でうるさいなあ
オレは重い瞼をこじ開けた
眼の前に居たのは
えへへへっやっと起きましたっ
天使の様な3歳の幼女の笑顔がオレの視界いっぱいに
おはよっよしだくんっ
あー、にどねはダメですよっメッですからねっ
いや、すっかり眼が覚めたよ
どうしたんだ、こりゃあ
ふかふかのベッドの上に居た
何か凄い豪華な部屋に居る
窓はカーテンが閉じられているから外の景色は見えないけれど
隙間から朝の光が射している
うんもう夜は明けたんだ
ママがねっ昨夜はお風呂に入らないまま、おネムしちゃったから、お風呂に入りなさいって
真緒ちゃんが、オレに言った
判ってるぅよしだくんっ
オレに風呂に入れって
よしだくんだけじゃないよぉっ真緒も一緒だよっ
ああ2人で
ね真緒ちゃん渚は
渚だけじゃない
他のみんなはどこだ
っていうかこの部屋は何なんだ
そんな疑問がオレの中に湧き上がった瞬間
ギィと部屋のドアが開いて渚本人が現れる
ああ眼が覚めた良かったわ
渚は、優しく微笑んでくれた
見ると、オレの寝ているベッドの脇に椅子が一つある
渚ずっとオレを看ていてくれたのか
ここは
まだホテルの中よ最上階に近いわシゲちゃんに、3つあるスイートルームを全部貸して貰ったのここはその一つよ
他のみんなは、別の部屋に居るということか
真緒お風呂にお湯を入れてきてちょうだい
えー、ママぁ
真緒ちゃんは、オレの側を離れたくないようだった
すぐに行くからお手伝い、できるわよね
オレは、真緒ちゃんを見る
頼むよ真緒ちゃん
真緒ちゃんは、ニカッと微笑んで
はぁーい
と言って、トコトコと浴室へ向かう
走らなくていいから転ぶと危ないでしょ
へっちゃらちゃらちゃらだもーんっ
騒がしい天使が退室する
部屋の中はオレと渚だけだ
渚はベッド脇の椅子に腰掛ける
あの後すぐに地下から出られたの
オレはあいまいになっている記憶を探る
あなたが倒れてから、2時間以上は掛かったわエレベーターの復旧が終わるまでそれでも、みんな気力と体力の限界だったから脱出通路を時間を掛けて開いて行くルートを使うのは無理だったわそっちだと、外からの支援は得られないしね
中から、一つ一つ手間の掛かるロックを外していくんじゃ
地下に残った人たちで、体力のありそうな子はメグしか居ないし
みんな無事
ええ大丈夫よみんな心配しないで
ニコッと渚が微笑んでくれる
うん心が少し軽くなる
瑠璃子は
みすずと美子さんが付き添って、先に帰ったわお父様のお通夜の支度があるから
そうだよね
警護には、関さんと美智ちゃんが付いているわイーディちゃんも一緒に行きたがったんだけれど恭子さんが押さえていてくれたから
シスター・イーディは、美智にすっかり懐いているから
でも香月家の葬儀の席に、あの子が居るのは心配すぎる
焼香に来た他家の警護役にケンカを売って歩くとか、平気でしそうだもんな
だいたい、日本のお葬式の雰囲気とか知らないだろうし
今、このホテルの下の方は警察が実況見分しているからでも、シゲちゃんが19階より上の階には、警察を入れないようにしてくれているのだから、ここに居る限りは平気よ外に出る時は、谷沢さんに連絡すれば香月セキュリティ・サービスの車で送って下さるって
警察って
ちょうど今、朝のワイドショーでやっているはずよ
渚が、テレビのリモコンを押す
画面にオレたちの居るホテルの全景が映った
ああ、水浸しでメチャクチャになった1階フロアが望遠レンズでアップにされている
ロシア・マフィアの殺人グループが120人お台場の高級ホテルを襲撃
そんな文字スーパーが出ている
ヘリコプターで取材している局もあるからカーテンは開けないでね
そうか、それで窓を閉め切っているんだ
渚がチャンネルを変えると、別の局では司会者とコメンテイターが話していた
しかし、白坂守次氏ともあろう人が、何だって自分の敵対勢力を潰すためにロシア・マフィアの力を借りようとしたんでしょうかねぇ
それだけ焦っていたんでしょう失脚の危機だったわけですから
しかしペンは剣より強しの新聞人が、テロリストを雇うというのは論外じゃあありませんか
まあ、白坂家内部のことはよく判りませんがね
渚はテレビを消す
シゲちゃん全部、白坂守次さんのせいってことにしちゃったのよ
実際、白坂家の反対勢力の方々は昨夜ここに居らしたわけだし
白坂守次からの殺人要請は、あくまでもミス・コーデリアがついでに営業して取って来た案件でホテル襲撃の一番の目的では無かったはずだけれど
白坂本家の人たちは、裏の事情は何も知らないからしかも、当主を強制引退させたばかりでしょシゲちゃんが、全部、お前たちのせいだって言い切って、こうやってマスコミにもシゲちゃんの言うままに報道させているからホテルの修繕費も、休業中の補償金もみんな白坂家に支払わせるつもりらしいわ
酷いな
ジッちゃんらしいけれど
今回ばかりは、白坂家のテレビ局も他の局と同じ論調でこのホテルのことを報道しているわ白坂家の新聞社・テレビ局支配もこれで終わりね白坂の名前が企業のトップになることを、もう世間が許さないでしょうから
そして、いずれはジッちゃんに近い人物が、新聞社とテレビ局を押さえる
まあ、本家はそれでも大株主の一人として細々とやっていくんだろう
しかし、今後、グループ企業に勤めている白坂の一族は出世できないだろうな
あははは
乾いた笑いが、溢れ出した
とにかく、これで当面の心配はなくなったんだね
メグやマナの命は狙われない
寧さんだってもう襲われない
シザーリオ・ヴァイオラは死んだのだから
オレが撃ち殺したのだから
あなたは本当によく頑張ってくれたわ
オレはみんなの役に立つようなことは何もしていないよ
そんなことないわあなたは、特別な訓練は受けていないただの高校生なのに、あたしたちはあなたが優しくて一生懸命な子だからって無理をさせてしまったわ倒れるまで限界まで、頑張ってくれて
限界、だったのかな
身体がダルい
内臓が、ムカムカする
全身が悲鳴を上げている
昨夜ずっと死地の中にいたんだもんな
生きるか死ぬかの瀬戸際で
昨夜は緊張していたから、判らなかったけれど
心にも身体にも、無理をさせていたのかな
そうだよなオレ普通の人間だもんないや、むしろ普通の人よりも劣る力しか持っていないもんな
実際に闘ったのは、マルゴさんや美智や関さんや麗華だ
オレは護られていただけで
危機を救ってくれたのは、恭子さんだし
あたふたしていただけで結局は、ジッちゃんの計画の邪魔をしていただけだった気がする
オレ何の役にも立たなかったな
劣等感と敗北感がオレを包み込む
そんなオレを渚が、ギュッと抱き締めた
温かくて柔らかい身体
あなたは本当に頑張っていたあたしは見ていたわあなたを誇りに思う
むしろダメだったのは、あなたに頼り切りだったあたしたちよあなたに限界を越えさせて重荷まで背負わせてしまった
オレは人を殺した
御名穂さんからの伝言を伝えるわ
渚が、ジッとオレの眼を見る
まず、あなたは自由だということあたしたちに対して、何も負い目に感じることは無いっていうことを判っていて
自由
そうよ御名穂さんの一つ目の提案はね
渚は、悲しそうに話し続ける
もし、あなたがあたしたちの家族を抜けたいと思うのならこれは仮の話よ御名穂さんは、あなたの新しい戸籍を用意するそうよまとまったお金もねあたしたちと離れた場所で新しい名前で、新しい生活を送ることができるわもし、あなたがあたしたちには二度と会いたくないというのならあたしたちは、外国へ移住してもいいわ一生、あなたの前に姿を見せないあたしたちは、あなたの人生と生活を一番にしたいと思うから
そんなことオレが望むはずないじゃないか
今は、あたしたちのことを考えないであなた自身の人生を優先して考えてあなたにはまだ、普通の高校生として人生をやり直すことができるってことを理解してもう、自分の人生はおしまいだなんて思って欲しくないのよっ
だからって、オレが家族を捨てられるわけないじゃないか
みんなのいない人生なんて
御名穂さんの二つ目の提案はねあなた、一緒に住む家族を選びなさいって
選ぶ
今のまんまだとあなた、全員を一人で背負って潰れてしまうわだからそれなら、あなたが一緒に居て生きやすい家族だけ限定して選んだ方がいいんじゃないかって
御名穂さんはしばらく、あたしの家であたしと真緒と三人で暮らすのが、あなたの精神安定には一番良いって言ってくれたけれど克子たちと暮らしてもいいのよ克子とメグちゃんと、マナちゃんと一緒に四人で暮らす家を借りて
家を借りる
どうしてお屋敷じゃダメなんだ
みすずさんのところでもいいのよシゲちゃんが、家を一つ用意してくれるそうだからあの子は気の利く優しい子だしシゲちゃんがバックアップしてくれる場所で、みすずさん、瑠璃子さん、美子さん、美智ちゃんたちと一緒に暮らすのも良いと思うわ
とにかくあなたが、いっぱいいっぱいにならない範囲の人数に絞るべきだって、御名穂さんは言うの常に全員の心配をしていたら、心労で倒れてしまうってもちろん、あなたの好きで住む場所を変えていってもいいのよ例えばあなた、今、瑠璃子さんのことが心配でしょ
だから、瑠璃子さんが落ち着くまでは一緒に居てあげて大丈夫だと思ったら、克子のところに行くとかそういうのでもいいのよ
そして、最後の提案だけれど御名穂さんは、あなたは犯罪組織としての黒い森には二度と近付かない方が良いと言うのだからお屋敷にはもう立ち入らないで、マルゴちゃん、恭子さん、そして御名穂さん本人とは二度と合わない方がいいんじゃないかって
そんなのって無いだろ
御名穂さんが、一番落ち込んでいるのよ今御名穂さんは、ずっとあなたの先生でいたかったからあなたを危険に追い込んだことを後悔しているの
ちくしょうどうすりゃあいいんだ
あの、寧さんは
オレは、渚に尋ねる
寧さんの名前が出て来きていないぞ
寧ちゃんの事は保留よ寧ちゃん、今、ショック状態だから
現実のヴァイオラは死んだけれど寧ちゃんの心の中にずっと浸食していたヴァイオラの恐怖はまだ消えていないから現実と心のバランスが、取れていないのよ
うん時間を掛けて、ゆっくりと安定させてあげるしかないわね何もかもが、急に変わってしまったから
オレが寧さんの前で、ヴァイオラを射殺してしまったから
あなた、しばらく寧ちゃんと二人で旅行に行くとかっていうのはどう一ヶ月ぐらい掛けてそういう選択肢もあるわよ
渚は、そう言った
とにかく御名穂さんの提案は、遠回しすぎて判りづらいけれど御名穂さん、あなたにもう仕方が無いとか自分が何とかしなくちゃいけないとか考えて欲しくないんだと思うわそんなの人生を諦めるのと同じことだもの
オレが人生を諦めないように
あたしだってあなたには、あなたのしたいことを選択して欲しいのあなたが選んだことなら、あたしたちはどんなことだって支持するわその結果、寂しい思いをしたって構わないあたしたちはあなたに幸せになって欲しいから
あなたがこの先どうするのか時間を掛けて構わないから、ゆっくりと考えなさい
真緒ちゃんが、ひょっこりとドアから顔を出す
いひひっお湯、いっぱいだよっ
お願い真緒と入ってあげて
渚がオレに微笑む
もう3歳だから溺れないようにだけ気を付ければ平気よ
そして言う
あの子お父さんとお風呂に入るのが、ずっと夢だったのよ
お風呂っお風呂っるるるーっ
真緒ちゃんは、脱衣所で楽しそうに衣服を脱ぎ散らかしていく
オレも脱ぎながら考える
渚の最後の言葉
渚は、オレが渚たちを見捨てると思っているのだろうか
だから、真緒ちゃんに最後の思い出を作ってあげるために
オレと入浴させようというのだろうか
うわっ、おちんちん
真緒ちゃんがオレの股間を覗き込む
いや、そういうところは見なくていいから
あの真緒ちゃんだって、裸を見られるのは恥ずかしいだろ
平気だよっよしだくんだもんっ
よしだくん、真緒のパパになってくれるんだもんねっ
嬉しそうに、真緒ちゃんは微笑む
そうだオレはこの子に約束した
確かに約束したんだ
はいはーい、お風呂に入る前には、ちゃんと身体を洗い流してからでないといけませーんっ
真緒ちゃんが、ニコニコしながらオレに言う
シャワー取って
お水出して
うわっちべたい
すぐにお湯になるよ
うんほかほかになってきましたはい、よしだくん、ここに座って下さぁい
真緒ちゃんが、オレを座らせる
シャワーを掛けますよぉぅ
いつも渚にして貰っていることをオレにしたいんだ
オレは黙って、真緒ちゃんのやりたいようにさせる
はーい、お尻もよく洗いましょうね
小さな手が、オレのお尻をむにむにした
ほら、真緒ちゃんはオレがシャワーしてあげるよ
オレは、真緒ちゃんの身体に温かいシャワーを掛けて
もういいですよっお尻も洗いましたっお風呂にザブンしましょうっ
どうすりゃいいんだ
よしだくんが、先に入るのっそれで、真緒のことを抱っこしてくれればいいのっ
オレは湯船の中で真緒ちゃんを抱きかかえる
小っちゃい手だね
改めて見ると真緒ちゃんの手は、本当に小さい
大人の手のミニチュアみたいだ
手だけじゃないのですっ真緒は、全部小っちゃいよっ
真緒ちゃんは、ぷんぷんする
あ、そういやそうだね
よしだくんは、大きいね
いや、大きくないよクラスでも真ん中ぐらいだし
真緒よりは、大きいよっ
それはまあその通りだ
ねぇ、そう言えば、どうして真緒ちゃんはオレのことよしだくんて呼んでいるの
それはねっ先生がそうしなさいって言うからっ
ミナホ姉さんが
あの子はもう一度、自分の原点に立ち返らせてあげないといけないのよっって言ってた
黒森の家に囚われないように
オレが心を一旦リセットできるように
ねえねえ、こういうのできる
真緒ちゃんが、お湯の中にタオルを沈めてアブクを作る
ぶくぶくぶくぶくっきゃはは
もっと大きなアブクを作ってあげるよ
オレはタオルに可能な限り空気を含ませてジュワワワッとアブクを出した
うはははっ、すごいすごいっ
ニコニコ笑う、真緒ちゃん
ねえねえ、よしだくん楽しいねっ
えアブクが
違うよっ吉田くんと、お風呂に入っているのが楽しいんだよっ
ママとのお風呂も楽しいけれどでも、ママ、疲れている時もあるから
そういう時は、どうするの
真緒がママのこと、マッサージしてあげたりするよっ
母娘2人で色々あるんだ
あっ、吉田くん耳の後ろも洗わないとダメですよっ
真緒ちゃんは、オレの身体の上を登ってさっきまで遊んでいたタオルで、オレの耳の後ろをグリグリ擦る
あのねよしだくん真緒ねお願いがあるのっ
そして、オレと真っ正面になって恥ずかしそうに言った
今度ね、真緒の幼稚園で運動会があるの他の子は、パパもママもお祖父ちゃんもお祖母ちゃん来るのに、真緒はママだけでしょだから
うん行くよオレも行くから
本当約束してくれるっ
ああ嘘はつかないよ約束する
オレはまた約束してしまった
うっひぃやったぁぁ
嬉しそうに真緒ちゃんは、笑った
んどうしたのよしだくん
何でもないよ
結局、オレは
オレは、これまでにたくさんの約束をしてきた
その約束からは逃げるわけにはいかない
約束は守るんだ
オレの中で、オレがそう言っている
お腹痛いの
真緒が、ギュッとしてあげるから
真緒ちゃんが小さな手で、オレを抱き締める
良い子だ
そんな真緒ちゃんをオレは抱き締める
この子は一生オレが護る
オレは、この子のパパになるって約束したんだから
オレ、真緒ちゃんの良いパパになるからなっ
甘えた事なんてもう言ってられない
死ぬ気で守るんだ
約束を果たすんだ
オレはミナホ姉さんの弟になる
克子姉の弟であり、男でもある
渚の男で真緒ちゃんのパパだ
寧さんの弟になる
みすずの男で飼い主だ
メグの恋人で夫になる
マナのお兄ちゃんで、主人になる
美智のご主人様だ
瑠璃子のお兄様でもある
麗華の主でもある
ジッちゃんの孫になると約束した
あの子たちを、幸せにすると
約束した以上は命懸けで頑張るしかないんだ
オレが何者だろうと
人を殺したことだって、関係無い
そんなことに落ち込んでいる時間は、オレにはもう許されないんだ
オレの家族の笑顔を護るためには
入るわよっ
渚も裸になって、浴室に入ってきた
ママ、ママ大変っ吉田くんが、泣いちゃったの
真緒ちゃんが、母親に報告する
そういう時はね、チューしてあげなさいそして、好き好きって言ってあげるのよ
好き好き
真緒はこの人のこと好き
大好きっ真緒のパパだもんっ
そう思ったら、言葉で教えてあげて、チューするの思っているだけだと、相手には伝わらないからねっ
真緒ちゃんがニコッと笑って、オレを見上げる
よしだくん、好き好きっチュッ
小さな唇が、オレの唇に触れる
オレも好きだよ真緒ちゃん
オレも、真緒ちゃんの頬にキスを返した
幼女には誰も勝てません歴史が証明しています
うう体調がまだ完全でないです
週初めなのに、金曜日ぐらいの疲労度
339.グッド・モーニング
真緒、もうちょっと詰めてママ入れないわ
うふふ、スイートルームのお風呂は広くていいわね3人で入れるんだもの
温かいお湯
柔らかな肉体
渚、オレ、真緒ちゃん
背中から渚に抱きかかえられるオレが、真緒ちゃんを真っ正面に抱いている
ちゃぷん、ちゃぷんと真緒ちゃんは、お湯を揺らして遊んでいる
やっぱり、身体がまだ緊張したまんまね
渚の長い指が、オレの背中に伸びる
緊張しているオレが
ええ、全身、ガチガチに強ばったまんまよ
そう言って、渚はオレの肩の辺りを揉んでくれた
ほら、大きく深呼吸して
ママ、真緒も深呼吸する
ええ真緒も一緒になさい
真緒ちゃんがニカッと微笑んで、オレを見上げる
はーい、では深呼吸しますよおっ吸ってぇぇーっ
すぅぅ
吐いてぇぇぇ
はぁぁ
もっと、ゆっくり長い息で吸ったり吐いたりしましょうねっ
真緒ちゃんは、先生の様にそう言った
幼稚園で習ってきたみたいなのよ気にしないで相手してあげてね
渚が、くくくと笑う
はい、吸ってぇぇぇぇーっ
すぅぅ
はい、吐いてぇぇぇぇ
はぁぁっ
そうよお湯の中に溶け込んでいくイメージよあたしにもっと体重を掛けてくれて構わないから
重くない
大丈夫だからもっと、寄り掛かってきて
耳元に、渚が囁く
後ろからオレの胸に手を廻して、キュッと抱き締める
怖くない怖くないからね
渚の豊満な胸が、オレの背中に当たる
乳首の感触も、はっきりと判る
あたしも真緒もここに居るわあなたを拒絶したりはしない受け入れている
はーい、深呼吸続けますよおっ
そうやって母娘に挟まれて、深呼吸していくうちに
オレの心と身体がゆっくりと解れてくる
大分、柔らかくなってきたわ
渚の指が、オレの腕や胸を撫でる
どれどれ、真緒も調べるぅぅ
真緒ちゃんの小さな手も、オレを胸をぺたぺた触る
真緒ちゃん、くすぐったいよ
オレは真緒ちゃんを抱き締めて、チュッとキスをした
真緒の身体と髪の毛、洗ってあげて
これからも、真緒とお風呂に入るんでしょ女の子の髪の毛の洗い方、覚えてね
オレは、真緒ちゃんのパパなんだ
渚が居ない時に、洗ってあげなきゃいけない場合もあるだろう
小さな女の子の世話覚えなきゃいけないことがたくさんあるはずだ
うんうんよしだくん、洗って
ああ真緒ちゃん
そして、オレは真緒ちゃんを洗う
女の子の髪も、慎重に
眼を閉じてて、眼にセッケンが入ると痛いよ
わーっ、よしだくん、いつものママと同じこと言ってる
真緒ちゃんがお返しに、オレの身体を洗ってくれた
髪の毛は力がないから、ぐしゃぐしゃしてるだけなので、途中から渚が代わってくれた
渚はオレの毛根まで揉みほぐすように、気持ち良く洗ってくれる
それから、オレと真緒ちゃんで渚の身体を洗った
真緒ちゃんが、きゃぴきゃぴと笑う
真緒、朝からそんなにはしゃぐと、くたびれちゃうわよっ
だって、楽しいんだもんっ
オレは、渚の背中のセッケンの泡をシャワーで流している
ママ真緒、何かすっごくすっごく楽しいのっ
それはね、幸せな気持ちって言うのよ
真緒しあわせ
真緒ちゃんは、ちょっと考え込んでオレを見る
うん真緒、幸せかもしんないよっよしだくんっ
続いて、渚の髪を洗う
女の人の髪って水に濡らすと、こんなにペタッとまとまるんだ
濡れた長い髪を、顔の真横に垂らして渚は両手で揉み込むように、シャンプーしていく
そうやって洗うんだ
そうよ真緒も、あなたも手伝って
シャンプーを流したら、次はトリートメント
オレも渚の髪をマッサージする
艶やかで不思議な触感がするな
ママの髪の毛、コンブみたいだよねっ
ほら、海でユラユラ揺れている方の
真緒何回も言うけれど、海の中で揺れている昆布と、お味噌汁に入っている昆布は同じものなのよ
違うよぉっお味噌汁のコンブは、海のコンブみたいに大きくないもんっ
真緒ちゃんは、屈強に言い張る
この間、幼稚園の遠足で海の水族館へ行ったのよどのお魚が一番面白かったって聞いたら、この子、昆布って言うの
それで昆布に思い入れがあるのか
っていうか、この独特の個性は喜ぶべきものなんだろうか
そんな心配そうな顔しないで変な事を言うのは、子供の特権なんだから一々気にしていたらダメよ
渚は、オレを見て笑う
そうそう、気にしていたらダメだよ吉田くんっ
ぬひひと、真緒ちゃんは笑った
お風呂から出る
着替え、そこにあるわ夜の内に、麗華お姉さんが用意してくれたの
下着とシャツの替えがあった
麗華が買って来てくれた
ホテルの1階は、水浸しだから近くのコンビニまで行って来てくれたらしいわ
後で礼を言わないと
ついでに食材も買ってきているはずよ克子が朝ご飯を作ってくれているはずだから
朝ご飯
克子たちが居る方のスイートルームには、キッチンが付いているのよ外国からのお客様だと、滞在中に自分で料理したがる人も居るから
今は、ホテル内の施設に問題がなくても係の人が居ないからね現場検証が終わるまで、休業だしあたしたちが泊まっていることは警察には内緒だからルーム・サービスとか頼めないのよ
オレの服はホテル内の劇場で脱いだものを誰かが回収してきてくれたらしい
克子姉がオレのサイズに直してくれた、ミナホ姉さんのお祖父さんの服
全部ちゃんと、ある
ホテルのランドリーも使えないから脱いだのは持ち帰ってから、お洗濯ね
渚は取りあえず、バスローブ姿だ
真緒ちゃんはバスタオルを巻いている
待っててね女はここからが時間が掛かるのよ
そう言って、渚は真緒ちゃんの髪にドライヤーを掛けていく
ちゃんと乾かさないとね
うん、風邪引いちゃうもんな
オレの言葉に、渚は笑って
それもあるけれど自然乾燥だと、ぼわんって爆発したみたいになっちゃうからこの子やあたしの髪質だと
オレはロン毛にしたことなんてないから、よく判らない
退屈だったら、テレビでも見ていて
ううんここで見ているよ
真緒ちゃんの髪を乾かす渚
次は渚の髪
真緒ちゃんもお手伝いする
オレは、それをずっと見ていた
全然退屈じゃ無い
面白い
うん、とっても
こんなのいつもしていることなのよ
いや、オレこういうの見るの初めてだから
オレは小さい頃、バァちゃんと風呂に入ったけれど
バァちゃんは、ドライヤーとか使ってなかったしな
オレの母親は
オレが絶対に立ち入り禁止の母親の部屋の中に、風呂とトイレと化粧部屋があるから
こういう場面は、見たことが無かったし
ね、後ろお願い
渚がバスローブを脱ぎ、フラジャーを付ける
豊かな胸をカップに収め、オレに背中を向けて
オレは背中のホックを留める
あたしや克子はいつもの癖で、替えの下着を持ち歩いているからいいけれどメグちゃんやマナちやんは、大丈夫かしら
いつもの癖
2人とも娼婦だったから
あたしはパンティ自分で履いてもいい
みすずさんやメグちゃんのパンティは、あなたが履かせているんでしょ
それはあのどっちかっていうと、2人の希望だからオレは別に、そんなにパンティにこだわりがあるわけじゃないよ
ああ、そうなの
それでも、渚は腰をくねらせて、オレの眼を楽しませるように下着を付けた
よしだくぅんっ服着せてっ
バスタオルを脱いだ裸の真緒ちゃんが、走って来る
真緒の服は、そこにあるわ真緒の下着は昨夜のうちに、洗って干して置いたの正解だったわね
うわ何て小さなパンツ
これなら確かに乾きが早いだろう
真緒ちゃん、片方ずつ足を上げて
素直に真緒ちゃんは、従ってくれる
本当に良い子だな
オレは真緒ちゃんのよそ行きのドレスを、何とか着せてあげる
違うよ、よしだくんボタン、一個っつズレてる
いいから、いいからちょっとずつ、覚えていってねきししっ
真緒ちゃんは、そう言って笑った
子供の世話って大変だな
でも、頑張んなきゃ
この間に、渚も昨日と同じスーツ姿に着替えている
軽くお化粧しちゃうみんなに会うだけだけどすっぴんのまんまだと、克子に笑われそうだし
そう言ってポーチからファンデーションを取り出した
ママ、真緒も真緒も
真緒ちゃんの顔にも、ちょこんとファンデーションを塗るフリをする
それから、眉をちょっと足して
唇もちょこっと色を足す
ほんのちょっとのお化粧で大人の女の顔ができあがる
朝ご飯食べたらあたしはお店に行かないといけないの今朝の仕入れはお花市場から直接配送にしてもらったけれど、開店前の準備はしないといけないし
そうだ今日はまだゴールデン・ウィークの最中だけれど
渚のお店は、休みじゃない
うちはお花関係のお客様も多いからお節句の菖蒲のお花とかも結構売れるのよ
オレもお店、手伝おうか
あたしよりも他の子の相手をしてあげてみんな、あなたのことを心配しているでしょうし落ち込んじゃっている子もいるだろうからだから、取っといてあげたのよ
そう言って、真緒ちゃんに見えないように、そっとオレの股間を触る
あたしはあなたの寝顔が見れて一緒にお風呂に入れただけで、充分よ今日も元気に働いてくるわっ
子作りは、今度またゆっくりね
渚とのセックスは本気の子作りだ
渚は、妊娠したがっている
あ、そうだ真緒は、みんなと一緒でもいい幼稚園、今日、お休みなのよ家の中に1人だけで閉じ込めておくのも可哀想だから
うんオレが面倒を見るよ
あなた1人でなくていいのよ克子やマルゴちゃんにも頼むから
渚はしゃがんで、真緒ちゃんと視線を合わす
真緒今日は一日、夕方までママと離れていられる
真緒ちゃんは
はーい、よしだくんと一緒に居るぅぅっ
ホテルの廊下を挟んだ、隣のスイートルームへ行く
ベルを鳴らすとメグとマナが出て来た
お早う、お兄ちゃんっ
お早う、ヨシくん
2人とも、お早うのキスをオレに求める
オレは順番にキスした
あ、あたしも、お早うのキスはまだだったわ
真緒は、いっぱいチュッチュしたもんっ
キスしちゃうとしたくなっちゃうから、我慢していたのよ
渚とも、濃厚なキスをする
メグとマナは、ホテルのレストランのウェイトレスの制服を着ていた
オレンジ色のエプロンドレスだ
あ、これずっとドレスのままでいるのも困るから麗華お姉さんに相談したら、ホテルの制服を借りてきてくれたの
メグが説明してくれた
ほら、この後、警察が実況見分している脇を抜けて、ホテルの外に出ることになるでしょドレスのまんまだと、目立ちすぎるからって
確かに、ホテルの従業員ぽくしていれば目立たない気はするけれど
でも、高1と中3のウェイトレス姿は
どうしたの変
マナが心配そうに、オレを見上げる
いや、可愛い可愛すぎて、目立ってしまう気がする
まあ、何とかなるわよ
渚が笑って、そう言った
良かったヨシくん
メグが、オレに寄り添う
心配していたんだから
マナもだよっ
マナが、背中からオレに抱きつく
オレも、2人を抱いてやる
ぬぬぬ
この感触は
マナ、お前、下着付けて無いだろ
恥ずかしそうにマナは微笑む
こいつオレに犯されるのを待っている
開けっぴろげに求めてこなくなっただけ、成長したんだろうけれど
ヨシくん、良い匂いお風呂入ったんだ
ああ、渚と真緒ちゃんと3人でね
教育的によくないことは何もしてないから安心して
渚が笑って答える
そういうのは、真緒がお年頃になってからガンガンする予定だから
とにかくみんなの顔が早く見たいよ
奥の部屋にみんないるわ
すっごいんだよスイートルームだからっ
メグとマナが、左右からオレを挟み込む
ほらぁ、昔の日本の小説にさ好きな女を諦めるには、どうしてもその女のウンコを見るしか無いって、おまるみたいのを盗み出す話があったろで、中を覗き込んで見ると女の方に気付かれていて、香りの良い木でできた作り物のウンコが入って居て、男がそのまま悶死するっていう
恭子さんの大きな声が聞こえてくる
つーか、朝から何て話をしているんだ
そんな小説、あるわけないじゃない
あるわよ芥川龍之介の好色よね
さらにこの声はミス・コーデリアか
え何で、ここに居るの
おっ、お早ううん、顔色はいいわね眼に生気が戻ってるよしっ
恭子さんは、オレの顔を見てそう言った
さて男が来たから、あたしは帰るわ
ミス・コーデリアは、椅子から立ち上がる
わ、女のヴァイオラたちまで居る
そんなに警戒しなくてもいいわあなたも恭子の家族なんでしょそれなら、男でも生かしておいてあげるわ
ミス・コーデリアは、苦笑してそう言った
あなたには、度胸のあるところも見せて貰ったしねこれからもよろしく
あたしのパートナーなんだからちょくちょく遊びに来ると思うから、頼むね
きょ、恭子さん
ミス・コーデリアが、ちょくちょく来るって
あなたも直接、話をするのは初めてねカタガイ・ナギサさん
ええ初めまして、ミス・コーデリア
そうか、昨夜は渚は地下に居たからミス・コーデリアとは会っていない
でも、オレたちに対する調査の段階で、渚のことは調べ上げているんだ
あなたは、マオちゃんね
ミス・コーデリアは、真緒ちゃんに話し掛けるが
真緒ちゃんも、この女性の危険性は何となく判るのだろう渚の後ろに隠れてしまう
あらあら、恥ずかしがり屋さんなのね可愛いわ
真緒の名前は、マルゴが付けたんだよ
恭子さんが、ミス・コーデリアに言う
へえ、マルゴ・スタークウェザーには、そういう思想があるの
思想
毛沢東語録とか、読みそうな感じには見えないんだけれど
コーデリアその毛《マオ》とは、違うよ
困り顔で、恭子さんは言った
もう行きなこれ以上、あんたがここに長居していると谷沢のオッサンが困るだろうし
判ったわ後でまた連絡するわ
うん待ってる今夜は多分無理妹の1人が塞ぎ込んだままだから
そうねでも、帰国前には会いたいわ
ちゃんと時間を作るよ寝かせないんだから
楽しみにしているわ
ミス・コーデリアは、出口に向かおうとする
じゃあね、皆さんメグちゃんもマナちゃんもまたね
さようなら、コーデリアさん
ご苦労様です
マナとメグが返事する
2人ともオレのいない間に、ミス・コーデリアと会話していたらしい
あなたも元気でね雪乃さん
あたしは二度と会いたくないわ
雪乃はそっぽを向いたままだ
ではみなさんごきげんよう
ミス・コーデリアは、部下を引き連れ退室していく
マナが、大きな溜息を吐く
ご苦労さん
恭子さんが、笑って言った
あの子が不機嫌にならないように、気を遣ってくれてたんだよねメグちゃんと2人で
う、うん怖かった
大丈夫だよ礼儀は弁えている子だからマナちゃんたちの気持ちは感じ取ってくれたと思うよ
特にそっちにずっと不機嫌を噴き出しているお子ちゃまが居たから
恭子さんの眼が、雪乃を見た
ていうかどうしてこいつ、ここに居るんだろう
いや、よく考えると
確かに、ここ以外居場所が無いんだろうけれど
それにしては、偉そうな態度で座っているな
勘違いしないでよねあたしは、こんな場所には居たくないのよ本当は
そこまで言って一瞬、雪乃は言葉を探す
でも、何て言うかあんたが眼を覚ました時に、あたしはここに居るべきなんじゃないかって思ったのよだから、ここに居るのそれだけよ
だから、無視することにする
お台所よ朝ご飯の準備をしているわ
みすずと瑠璃子と美子さんと美智は瑠璃子のお父さんの葬儀の準備で先に帰った
関さんも付いていったはずだ
麗華は香月セキュリティ・サービスの仕事があるんだろう
イーディを呼んであげないとねあの子、コーデリアが帰るまでは隠れているって、そっちの部屋に行ったんだよ
恭子さんが立ち上がり、シスター・イーディを探しに行こうとする
ミナホ姉さんとマルゴさんは
寧さんのところよ
さっき、恭子さんは
妹の1人が塞ぎ込んだままだと言っていた
こっちの奥の部屋に居るよあんたも様子を見に行ってあげて
恭子さんは、オレにそう言った
風邪、流行っていますねえ
私も体調がまだ完全でないですが
それでも働きに行くのです
皆様、ご自愛下さいませ
では、仕事にいきます
340.We shall overcome
マルゴもあんたのことを心配していたしね
恭子さんが、オレに言う
ああ、気絶とかしちゃったからなオレ
判りました、すぐ行きます
オレは寧さんたちの居るという部屋の方へ行こうとする
ちょっと待ちなさい
部屋のドアが開いてミナホ姉さんが現れる
あお早う、ミナホ姉さん
お早う顔を見せて
ミナホ姉さんは、オレの顔をジッと見る
問題は無いようね
問題
安定はしているよさすが渚ちゃんと言うべきか真緒ちゃんもかな
恭子さんは、ニカッと微笑む
幼女は万病に効くからね
否定はしない
真緒ちゃんにがんばってぇと言われたらフルマラソン走った後で、もう42.195キロ走れる気がする
あなた自分がどれだけ危険な状態に居たか、判っている
両手をオレの肩に置いて、ミナホ姉さんがオレに言った
危険
マルゴが恐れていたことよ
何を恐れるっていうんだ
オレは別に
マルゴはねあなたが、人を傷付けたり、殺したりすることに躊躇いの無い人間になってしまう危険性をずっと考えていたの
人間はね慣れればどんなことにもマヒしてしまうのよ人の死でさえもね
家族を護るためなら、暴力の使用も躊躇わないそれは仕方の無いことかもしれないけれど、暴力に馴れ過ぎてしまうとおかしなことになるわちょっとしたことでも、人に過剰な暴力を振るったり気軽に、人を殺すようになったり
あたしの業界には多いよ歯止めが無くなっちゃったやつはそういうやつは、一緒には仕事ができないからね何かしら理由を付けて、処分されるよね置いとくだけで、危なっかしいからさ
あんたが特に危なかったのはあれが特殊過ぎる状況だったからさ
特殊過ぎる状況
あんたが、シザーリオ・ヴァイオラをあのタイミングで撃ち殺さなかったらあのフロアに居た人間の半分近くは死んでいただから、あんたがあいつを殺したのは正しかったこれが状況1
そもそも、シザーリオ・ヴァイオラは寧の仇だし、誰が殺してもどこからも文句が出ないようなホンモノのクズ野郎だっただから、別にあんたが殺しても構わないはずだこれが状況2
そして、あの場は非常識なメチャクチャな空間だったその直前に香月のジィさんが殺人依頼をし、コーデリアが人を殺したにも関わらず、ジィさんもコーデリアも、日本の司法機関には裁かれないらしい裏社会のアウトローと、超法規的な大権力の持ち主が一緒に居て犯罪が見過ごされる空間だったそこで、人を救うための行動として、あんたもヴァイオラを殺したんだからあんただって裁かれることは無いはずだこれが状況3ね
改めて言われるとそういうことなんだな
普通の人間なら以上の理由から、自分のやった行為を正当化しようとする自分がヴァイオラを殺したことに間違いは無いってねでも頭は正当化の方に働くけれど、心の方はそうはいかない
人殺しは、人殺しだ他者の命を奪うということ赤い血を噴き出させるということに対し、どうしたって生理的な拒絶感はある普通の人間だったらね
普通の人間
確かに、ヴァイオラに弾丸を撃ち込んで赤い血を見た時
もう一度言うけれどあの場は、本当に特殊な状況だったあんたが人を殺したことに対して、精神的なショックを受けたのは、人間として当たり前なことだけどそのショックを状況が打ち消してしまう可能性があった
可能性
例えば誰かが、いち早くこれは仕方の無いことだから、あんたは悪くないって、あんたの殺人行為を擁護したりするヴァイオラなんだから、殺してもいい、このホテル内は治外法権だから、問題無いそんなことを言われているうちに、あんたもそうかもしれないと思ってくる心が救われると感じてでも、その結果自己正当化が、罪の意識を忘れさせ人を殺したという事実が、あんたの中で軽くなってしまう
家族を護るために人を殺したという記憶だけが、頭の中にメモリーされその時に感じた、嫌悪感や心のショックを忘れてしまうすると、どうなるか
恭子さんは、オレの反応を観察しながら話を続ける
次にまた何かしらのトラブルが起きた時に必要以上の暴力を振るい出すような人間になってしまう暴力で問題を解決する傾向に陥って、歯止めが利かなくなる
あなたの中で、人を傷付けることに対する恐怖心がなくなってしまうから
暴力的な人間になってしまう可能性がある
あなたにとって幸いだったのはあの場に、雪乃さんが居たことよ頭がカチカチな上に、周りの空気を読まずに自分の感情のまま喚き散らす女の子がね
何よ、それまるであたし、馬鹿みたいじゃない
雪乃はプンスカ起こる
自覚が無いんだから、ホンモノだね
恭子さんが呆れた様子で言った
ほんの少しでも他人に対して優しさを持っている人間ならあの場で、あなたにあんな酷いことは言えないわあの時の状況は、どうしょうもないぐらい危険で非日常的な世界だったんだからそこに日常世界の常識を持ち込んで、自分の心の感情のまま喚き散らす雪乃さんは、はっきり言ってキチガイよもう、どうにも救いようがないくらい自己中心的でどうしようもない小娘だけれど彼女が日常世界の常識をあなたにぶつけたことが、あなたにとって幸いだったわ
雪乃がムッとする
何かあたし、メチャクチャな言われようなんですけれど
恭子さんもミナホ姉さんも雪乃を無視する
結果的にあなたを日常世界に引き戻したから人は殺してはいけないし、人を暴力で傷付けることは恐ろしいことだという意識を最優先に持ってこれたから
だから、あんたはラインを踏み越えずに済んだ
ライン
非合法なアウトローな世界が当たり前になっちゃいけないんだよあたしみたいにね
恭子さんは、寂しそうに笑う
でも、オレは犯罪組織黒い森の人間ですもう、こちら側の人間です
犯罪組織に所属していることとラインのどちら側に居るかは別のことだよあんたは、普通の人たちと同じ側にまだいるよちゃんと、常識の世界の中にいる
常識常識って何よそれが大切なものなわけ
雪乃が、尋ねた
そういう質問をするってのはホント、あんたは、ごく普通の甘やかされて育った馬鹿お嬢さんそのものなんだねまあ、いいや教えてあげる
恭子さんは苦笑して言った
人間てのは、群生動物なんだよ社会という名の群れを作っていかないと生存できない生き物なんだなのに、一人一人個別に意志があるという困った生き物だ
この話は前にも聞いたことがあるな
群れとしての社会は常に最適な状態を模索して変化していく同時に、個としての人間も、常に最適な状況を目指していく普通は、これを幸福の追求って呼ぶけどねしかしながら社会にとっての最適化と、個としての最適化が正面衝突することが多々ある企業に例えると判りやすいと思うんだけれど群れとしての会社は、人件費を削減した方が身軽になれるのに個としての社員は少しでも給料が上がって欲しいと思っているとかね
社会と個は常に対立しているわけではないけれど最適化が相容れない箇所は常にあるでも、人間の場合個(個人)は群れ(社会)を構成しなければ、生存し続けられないし、群れ(社会)が個(個人)の集合体である以上、群れ(社会)が個(個人)を圧殺することも許されないそこには、妥協が必要なわけ
だから、群れ(社会)と個(個人)が共存を図るためにここは群れが我慢するここは個人が我慢する、という細かいルールを作っておくわけそれが常識よそれぞれの群れの中での群れと個の関係性の中で決められていくものなのだから、常識は常に一定では無い群れによって、変化するわ
でも、人を殺しちゃいけないとか、盗んじゃいけないとかそう言う常識は、世界共通じゃない
そりゃそうよそういうのは、人間の生物としての根源的な生存本能から来る常識だからその変の常識が守られなければ、群れの構成そのものが不可能になるでしょう
確かに人殺しと泥棒しが野放図に暮らしていたら、社会なんて形勢できない
さて、群生動物はどんな種類のものでも必ず、はぐれものを産み出すわ働きアリの何パーセントかは、全然働かないっていう話は知っているわよねあれは、社会環境の突然の変化などの対応のために用意されているのよ揺らぎの存在ね猿山からは、毎年必ず群れを追われたはぐれものが出るわライオンの群れのボスは、メスを独占して、若いオスを群れから追い出すどっちも、群れの外で強く成長したオスが年老いたボスを倒し、群れを引き継ぐ群れにおいてはぐれもの存在は、どうしても必要なものなのよ
はぐれもの
人間社会においてはあたしたち、アウトサイダーがそういう役割を果たしているわ社会常識から逸脱しているあたしたちだからこそ、社会の患部を直接切り取ることもできる
犯罪は犯罪よ犯罪者の自己正当化よそんなの
雪乃は、恭子さんに嚙み付く
ま、常識的な眼で見たらそうなんでしょうけれどね
恭子さんは、笑う
あたしが言いたいのはねいずれにせよ、常識世界の方が大きいし、ベースなんだってことアウトサイダーの世界は、一般常識の世界があるからこそ、必要なわけでアウトサイダーだけで、生存はできないってことねあ、この場合のアウトサイダーってのは、あたしたちアウトローや犯罪組織の人たちだけじゃないわ香月家みたいな権力者だって、一般常識の世界から逸脱している以上はアウトサイダーだからね
ミナホ姉さんが、優しい眼でオレを見る
あなたは一般常識の世界に居ていいのよううん居てちょうだいそして、もしあたしたちが道を踏み外したり、何が大切なのか判らなくなってしまったら、教えて欲しいの
あたしたちはとっくにラインを越してしまったから
そしてメグとマナを見る
あなたたちも、彼と一緒にそっちに居てあなたたちを見ていることであたしたちは、非常識の世界に溺れ死にせずに済んでいるんだから
ミナホ姉さん、オレはもう
オレはシザーリオ・ヴァイオラを殺してしまった
オレだってもう引き返せないよ
あなた、シザーリオ・ヴァイオラが憎くて殺したの
違うでしょみんなを助けようと思って結果的に、殺してしまったのよね
あれを事故だとは言わないしあなたにとって辛いことだったのは判るわでも、したくてしたことではないでしょ
ミナホ姉さんが、オレを抱いてくれた
あたしも、あなたと一緒に背負うわ一生
オレの中から感情が湧いてくる
あたしもいるわよ
渚が、後ろからオレを抱いてくれた
あたしもいるよヨシくん
メグとマナもオレに寄り添ってくれる
よしだくーんっ元気になーれっ
辛かったら泣いていいのよいっぱい泣きなさい
あなたの涙は全部、あたしたちが飲んであげるから
涙が噴き出した
堪えていた感情がオレの中で爆発する
うううっうううっううううっ
うなり声しか出て来ない
身体が、震える
もうまだ、こんな溜め込んでいたのね
渚が、ペロッとオレの涙を舌で掬う
あたしたちも
メグとマナが、オレの顔をペロペロ舐めた
声が出ない
ただ涙が零れ落ちる
安心なさいあたしたちは、もうあなたからは離れないわ絶対に
ミナホ姉さんが、そう言ってオレの涙を呑んでくれた
真緒もペロペロするぅぅ
渚が、真緒ちゃんを抱き上げる
真緒ちゃんの小さな舌が、オレの涙を舐める
しょっぱいねっ吉田くんっ
スッキリしたかい
恭子さんが、笑ってオレに言う
ようやく声が出た
Overcome したみたいだね
オーバーカム
日本語だと乗り越えたってことかな
恭子さんは微笑む
生きていればどうしたって色んなことを体験するからね辛いことも悲しいことも、心に傷のできるようなこともでも、ぶち当たってしまったことを、ちゃんと受けとめて、理解して、自分の経験にしていくちゃんと、乗り越えて《オーバー・カム》いかない限り、体験は体験のままで、いつまでも心の中に障害として残ってしまう自分の体験を経験に帰る過程を経ないと、どんな記憶も消化することはできないからね
オレはヴァイオラのことを乗り越えられたんだろうか
うんそうだねこの子の場合は心の中のマイナスは、こんな風に完全に消化させた方が良かったんだね寧に会う前に
恭子さんが、ミナホ姉さんを見る
あたしはちょっと粗雑なところがあるからね御名穂の細やかさには勝てないよ
恭子さんだって、充分繊細です
ただ、恭子さんはいつも、アウトサイダーとしての立場で物事を考えているから
囚われているよね発想がさこの子が心に爆弾抱えたまま、寧に会うのもショック療法で、両者に取って良いかもとか思ってたしこれって、戦場の考え方だね確かに
今は、ゆっくり時間を掛けても、確実な方法を選ぶべきです
うん御名穂の冷静さは正しい
恭子さんは、そう納得した
ヨシくんどんなことがあっても、あたしはヨシくんのことが好きよこの気持ちは、変わらないからね
マナだって
メグとマナは、オレにしがみつく
でも、オレはシザーリオ・ヴァイオラを
オレは人殺しなんだぞ
あたしヨシくんと一緒に引き金を引いたからだから、ヨシくんの辛さは、あたしのものなのよ
うんマナもお兄ちゃんの辛さは、一緒に受けとめるよ
御名穂さんに言われていたのヨシくんが、ちゃんと感情を吐き出すまでは、いつも通りの顔をして普通にしてなさいって
だから、今までメグお姉ちゃんと遠くから我慢していたんだよ
この子たちが最初に、あなたは、何も悪く無いって言ったら、あなたの心が混乱するでしょだから、この子たちから先にヴァイオラのことに触れないようにさせていたのよ
会って早々に、ヴァイオラを殺したことを二人に擁護されたら
オレは、心を閉ざしていたと思う
違うそうじゃない悪いのはオレなんだって
とっころでさ、何であんたは縋り付かないわけ
恭子さんが、雪乃に尋ねた
雪乃はツンとして
はあ何であたしが
あんただって、この子のことLOVEなんだろ
そんなわけないわよっ
切れる雪乃
本当はあたし雪乃がここに居るの、とっても嫌なのよ
でも、ヨシくんがこの部屋に来た時に、雪乃もここに居た方が嬉しいだろうなって思ったから我慢しているのよ
何言ってんのよっあたしは、自分の意志でここに居るのよっ
やっぱり、追い出そうよこんな人
相変わらず、マナは実の姉に酷い
まあ、そう言うなよもうすぐ、朝ご飯なんだろ
克子さんに言って、雪乃さんの分は要りませんて伝えてくる
おいおい、マナ
そんなことより二人とも、克子姉を手伝って来いよ
うんそうだね、ヨシくんヨシくんのことが心配で、あたしたちこっちの部屋に来させて貰ったんだった
そうだよね克子さんがいいから、いいからって言ってくれて
克子は信じているのよ渚に任せれば、大丈夫だ癒やしてくれるって
みすずさんもすっごく大人だったよね
みすずが
うんあたしの旦那様なら、絶対にご自分で立ち直って下さいますみすずには判っていますからって
今は、瑠璃子さんのことが心配だから美子さんと一緒に側についていてあげたいって言っていたわ
美智ちゃんも今、ここでみすず様たちの警護に付かないと、ご主人様に後でお叱りを受けますって言ってたわ
今、ご主人様がわたくしに何を望んでいるのかわたくしには、はっきりと判っていますからって
確かに美智が警護に付いてくれたから、みすずたちのことは安心できている
オレの気持ちを先回りして美智は動いてくれたのか
二人とも凄いよねあたしは、ただ右往左往してヨシくんが元気になるのを待っていただけなのに
メグとマナの顔が暗くなる
いいんだよ、あんたたちは急ぎの用の無い人間は、ボーとしていていいんだのんびり生きてっていいんだから日本人は、すぐに何かやんなきゃって、心が先走りし過ぎなんだよ
恭子さんは、そう言ってくれた
とにかく、二人は克子姉のお手伝いいいねオレは、寧さんのところに行くから
メグ・マナは、台所へ向かう
で寧さんの様子は、どうなんですか
オレの問いに、ミナホ姉さんは
それがね
何か深刻なことがあるのか
恭子さんが、代わりに答えてくれる
簡単に言うとヤスコに戻ってしまったんだ
奈島寧《ナトウ・ネイ》ではなく
奈島寧子《ナジマ・ヤスコ》に
お風呂が、吉田くんの個人の克服なら
今度は、家族と一緒の克服です
この作品では、段階を踏んでいくようにしています
1回で全部変わるとか治るとかはしません
毎日更新な分だけ、丁寧にやろうと思っています
昨日はハロウィンだったので
電車の中に、ゾンビメイクをしていた女の子が居たのですが
ほっぺたに腐肉のような拵えものを付けていたのですが
ワンピースの、ほっぺたにハンバーグを付けて歩いている軍人さんにしか見えませんでした
髪型のせいでしょうか
ブギーマンが来るぞ
風邪、なかなか完治しないですねえ
今は、お腹がゴロゴロしています
フェラーリエンジンみたいです
341. おとうと
シザーリオ・ヴァイオラの恐怖が監禁されていた時代のトラウマが、ずっと寧の心を抑圧していたからねヴァイオラが死んだってことで、心のバランスが取れなくなっているんだろう
奈島寧《ナトウ・ネイ》というのは、寧子《ヤスコ》が自分の心を壊さないために作った人格だってことは、あんたも知っているよね
はい、それは知っています
本当の寧さん寧子さんは、おとなしくて繊細すぎる少女だ
学校の校長室下の部屋に泊まった時に、本当の寧さんが自分の過去を喋るのをオレたちは見ている
日本に連れて帰って来た時に色々あったのよ
ミナホ姉さんが、悲しそうに言った
寧をうちの学校に入れたんだけれどその時は、もう名前はナトウ・ネイよ奈島寧子《ナジマ・ヤスコ》の名前は使えなかったら
何故です
ナジマ・ヤスコは、戸籍上は今でも、アメリカで行方不明のままなのよ日本には、ロサンゼルスで作った偽造パスポートで帰って来たから中国系カナダ人メイ・リンの名義のねナジマ・ヤスコのパスポートの再発行申請をしたら、ヴァイオラに居場所がバレてしまうでしょだからよ
でも学校は
うちの学校内の書類は、あたしが全部誤魔化したわだから学籍はあるけれど奈島寧という人間は、日本には存在しないことになっているのただメイ・リンというカナダ人が、たまたま日本に滞在しているだけで
もしかして寧さんが留年したのは
卒業させられないからというのも理由の一つよ学籍はあるけれど本来は入学させることのできない子だからカナダ人として留学させるにも寧にはカナダで暮らしてきたという過去は無いから写真の付いた書類を、あちこちに残すわけにはいかなかったのよ判るでしょう
寧さんの写真が、犯罪者たちの裏ネットワークに上がっただけで、すぐに日本に居るってヴァイオラに特定されたもんな
だから、カナダ人メイ・リンは短期滞在のビザで日本に居るのよ90日に一度、ビザを取るために国外へ出ないといけないのよ
まあ、カナダ大使館のある国ならどこでもいいんだけれどあたしの顔の利く大使館員がいるのがアメリカだったから、アメリカへ行くことが多かったね気を付けないと偽造パスポートだってバレるし向こうへ行く時は、プライベート・ジェットで行って税関職員以外は、顔を合わせないようしてさ金持ち用の完全に閉鎖された別荘みたいなところにずっと滞在させてたんだそこからは絶対に出ないようにしてねまあ、マルゴと車の運転の練習とかしていたみたいだけれどああ国際免許は、カナダの田舎町で取らせたよ
恭子さんが、そう説明してくれた
ヴァイオラが居るにも関わらず何度もアメリカに行っていたのも、それが理由か
それで寧さんは、学校を休むことが多かったんだ
それだけが理由じゃ無いのよ
寧をうちの学校に入れたのはあの子に、普通の高校生の生活をさせて、明るさを取り戻して欲しかったからなんだけれど寧も入学当初は合唱部に入ったりもしたんだけれど
何が起きたんです
オレが知っているのは剣道場が全焼したことと、その放火犯が寧さんだと言われていることだけだ
あの子は、その頃はまだ黒髪でね男が誰でも振り返るほどの美少女でしょどうしたって、学内で目立ってしまってでも、あの子の本質は内気な子だから
うん男子生徒たちにに猛アタックとかされたら、混乱しちゃうだろうな
その上、その頃は学校の中には、白坂創介の息の掛かった職員が多かったから色々と嫌がらせをされてね
白坂創介はうちの学校の女生徒から、娼婦候補者を探していた
克子姉と渚岩倉先輩が、そうやって娼婦に堕とされた
あいつロサンゼルスで寧をあたしたちに横取りされたのを恨んでいたんだよそれで、自分の子飼いに男子教師に、寧を襲わせた
それが寧さんが、一年生の時の事件の発端
まあ、当時はマルゴも生徒だったから何とか、寧を守ることができたんだけれど寧を襲った教師は、半身不随そいつが根城にしていた剣道場は、全焼っていう結果になったんだ
それで、とにかく寧とマルゴを、一般生徒から離しておかないといけなくなってねとばっちりで、寧の友達とかに白坂創介の災いが降り掛かるのも困るからあの男は、そういうことを平気でするから
白坂創介が、寧さんの友人を襲ったりされたら対応しようが無い
その子を人質に、寧さんやミナホ姉さんを脅迫してきたりしたら
それで、あの子は自分から校内に友人を作るのを避けるようになったのよ合唱部にも行かなくなって籍は、まだあるのよ正式な退部届けは出していないから
校内にマルゴさんしか友人がいないで
ずっと寂しかったんだ
学籍はあるけれど偽造の書類だから、卒業はできない
友達は作れない
ずっと校舎の屋上で一人で寂しく、歌っていたんだろうな
でも寧が拒絶していても、他の生徒の方から寧に寄って来るでしょ特に男の子たちがそれでマルゴとセットにして、普通の生徒が近付かない、危険過ぎる不良生徒のイメージを作らせることにしたのそれで、寧の髪を金髪に染め、ブルーのコンタクトをさせたのよ
寧みたいな美少女過ぎる子は、金髪で青い眼にすると、さらに特異さが際立つからね良い感じに、普通の子が近づけない雰囲気になったでしょ
恭子さんはそう言うが現実は、寧さんの孤立が深まっただけなんだ
寧が、今みたいな人格を作ったのは不良少女のイメージに合わせるためなんだろうけれど孤独に立ち向かうためには、本当の寧子の性格じゃあ耐え切れないって思ったからだろうね
みんなが思い込んでいる今の寧さん
金髪の不良少女、奈島寧の外見と人格はそうやって誕生したのか
それは違いますよ、恭子さん
寧さんは恭子さんみたいな、強い性格の女の人になりたいって憧れているんですだから、恭子さんの人格を真似して今の寧さんになったんです
恭子さんみたいな女の人ならどんな境遇でも、平気でいられるだろうと思って
寧が、あたしをまっさかぁ
恭子さんは笑う
いいえ、あたしも彼の言う通りだと思います寧は、恭子さんみたいになりたいんだと思います
ずっと話を聞いていた渚がそう答えた
だってあたしはガサツなだけの筋肉女だよ
いいえ、恭子さんの竹を割ったみたいにサッパリしてて、カラッとしているところオレは魅力的だと思いますよ
おいおい、あたしを持ち上げても、何も出ないからねだいたい、あたしはレズだし
オレだって、女の子の方が好きですそういうことじゃなくって恭子さんの自分の考えをしっかりと持って自信を持って生きている姿に、寧さんは憧れているんだと思います
寧は自分はどうしようも無く無力で、一人では何もできない子だと思っているから自分のことを
ミナホ姉さんは、悲しそうに言った
うん結局は、自分の殻に閉じ籠もったままなんだよね
恭子さんも、困ったなという顔をする
渚も黙り込んでいた
メグとマナは、真緒ちゃんと遊んであげながらオレたちの話を邪魔せずに聞いている
あのオレに考えがありますちょっと聞いて貰えますか
オレの考えを実現するためには
ミナホ姉さんと恭子さんの協力が要る
何だい話してごらん
オレは静かに話し始める
寧さんは、このスイートの中に幾つかあるベッドルームの一つに居た
これは、マルゴさんの声だ
ずっと、寧さんに付き添っているんだろう
オレです
ドアが開く
マルゴさんが、心配そうな顔でオレを見下ろす
オレは平気です
まあ入って
部屋の中に入る
ベッドの中に寧さんが居た
寧さんはオレを見るなり
あの大丈夫ですか
寧さんじゃない
これは寧子さん
あたしのせいでごめんなさい
ほろっと、涙を零す
いや、悪いのは寧じゃないあたしだよあたしが不注意だったんだ
君が銃を持ったらどんなことになるのか想像はしていたんだなのにあの状況の中で、つい関さんが君に銃を預けるのを見過ごしてしまった
そう言えば前にも、オレに銃を持つなつて言っていたよな
オレが銃を持てば、ためらわなく撃つっていうことにマルゴさんは前から気付いていたんだ
ええっとあの
オレは穏やかに笑う
何か問題なんですか
だって、君に人を殺すという十字架を背負わせてしまった
はい背負いましたこれで、やっとみんなと同じになりました
二人が、ハッとしてオレを見る
娼婦だった過去のある、ミナホ姉さんや克子姉や渚自分を襲った相手を殺したマルゴさん弟さんを助けられなかった寧さんやっと、オレ、同じところに立つことができました
オレはもう乗り越えてきている
そして体験してしまったことは、もう変えられませんこのまま前に進むだけです顔を上げて前を向いて
寧さんに届け
マルゴさん今日から、オレに格闘技を教えて下さい強くなるためじゃないですもしまた、オレが暴力を振るわないといけないような機会が起きた時オレは、家族を護るためなら、何でもしますその覚悟は変わりませんオレの振るった暴力で、相手に過剰な怪我をさせるわけにはいかないから、歯止めができるようになっておきたいんです
マルゴさんが、オレに持たせてくれたブン殴り棒は相手を殴っても、殺すほどの致命傷にはならない武器なんでしょそういう程度の破壊力しか無い武器を、マルゴさんは、わざわざオレに持たせてくれていたんですよね
ブン殴り棒はゴルフクラブを短く詰めて、切り落としたものだ
柄が長いままなら、遠心力が加わって殴った相手の頭蓋骨を砕くこともできるかもしれないけれど
あの短さで振り回しても、そこまでの破壊力は出ない
人を傷付けても殺すまでには至らないオレが暴走して、間違って相手に深刻な怪我をさせないようにああいう武器を選んでくれたんですよねマルゴさんは、オレの心の問題をずっと前から心配してくれていたんですねありがとうございます
今のオレは本当に、色んな事が判ってきている
マルゴさんや、ミナホ姉さんたちがオレにしてくれた気遣いの数々が
その考えを徹底的に、身体に仕込みませたいんですいや、できれば相手を傷付けなくても制止しさせられる技術を身に付けるのがベストなんでしょうね教えて下さいお願いします
前に進む
立ち止まったままでは、いられないから
オレには、護るべき家族がいる
進むしかないのなら、積極的に貪欲になるしかない
うん、判ったあたしも、あたし自身を鍛え直すよ徹底して、殺さないで済ませる技術を磨く
ええ、オレたちは犯罪組織ですけれど殺し屋じゃ無いんですから
家族を護ることができればそれでいい
いいんですか本当に
寧子さんが、気弱な声でそう言った
今更、何を言うんだよ寧さん
オレは、微笑む
寧子さんの中から寧さんを、引きずり出してやる
オレたち、一生一緒に居るんだよオレが寧さんを護るから
寧子さんがオレを、見ている
ところでさアメリカって、どんな所です
オレは、平然と話し始める
今すぐは無理みたいですけれど夏休みになったら、一緒に行きますからね寧さん
寧さんは、驚く
あ行きは一緒じゃないのかでも、向こうに着いて帰りは、一緒ですよ
何の話なんですか
オレはニコッと寧さんに微笑む
オレ恭子さんに頼んで、日本から密出国しますどうやるんだか、よく判らないんだけれど漁船で海に出て、海上で貨物船に乗るのかなそれで、どっかの島からボロッチィ飛行機で別の島まで行ってそこから、また船とかとにかく、ルートは恭子さんが組んでくれるそうです
どうして君が、隠れて出国いるんだい普通に、パスポートを持って空港から飛行機に乗ればいいじゃないか
マルゴさんも、意味が判らないという顔をしている
パスポートって言えば、寧さんはいつものカナダのパスポートで出国ですよねそれで、とにかくアメリカまで行って貰いますあ、マルゴさんも付いていってあげて下さいで、マイアミの日本領事館に恭子さんの親しい人がいるらしいんで、マイアミで待ち合わせです恭子さんとミナホ姉さんにも来て貰います
マイアミ
寧さんは、まだ判っていない
そこで奈島寧子のパスポートを再発行して貰うんですアメリカで行方不明になっていた少女が帰って来るんですもう、あなたのことを狙っている恐ろしい犯罪者はいないんですよ、寧さんマイアミでカナダの偽造パスポートは、燃やしてしまいましょう奈島寧子として帰国するんです
寧さんの眼に生気が蘇ってくる
アメリカから戻って来れば元の戸籍が使えます高校にだって、偽造書類じゃなくってちゃんと通えます卒業だってできます良いことずくめじゃないですか
寧さんは、正式な手続きを踏んで帰国するべきだ
そして、失われた人生を取り戻す
うん、それは賛成だねそうした方が良いよ、寧
マルゴさんも、オレの話に喜んでくれる
でも寧のことは判るけれど、何で君が密出国しなくちゃいけないんだい
それを聞かれるのを待っていた
オレのパスポートも、マイアミの日本領事館で作って貰うからです
寧さんオレは、絶対に約束を果たしますからね
約束
そうですオレ寧さんの本当の弟になるって約束したじゃないですか
前に進もう
より前に
自分から、積極的に
オレは、マイアミの日本領事館で奈島恵人《ナジマ・ケイト》になりますアメリカで行方不明になったままの姉弟は一緒に帰国するべきでしょ
ケイさんの戸籍を引き継ぐ
それが、オレの選んだ道だった
ケイちゃんに、なる
驚いている、寧さん
もちろん、亡くなったケイさんのことを抹消してしまうということではありませんケイさんは、ずっと寧さんの心の中に生きていればいい
そうだ、ケイさんの身代わりじゃない
オレは、オレのまま寧さんの弟になりたいんだ
帰国したら、すぐにミナホ姉さんが養子縁組の手続きをしてくれるそうですだから、オレは、黒森恵人になります亡くなったケイさんのためには奈島恵人の名前のお墓を建てようって、ミナホ姉さんが言ってくれています
寧さんは、ジッとオレを見ている
だから、オレはただケイさんの戸籍と名前を引き継ぐだけですいや、オレみたいな男が引き継ぐのは亡くなったケイさんにも、本当に申し訳ないけれどでも、オレ、決めたんですもう、絶対に寧さんから離れません本気で寧さんと一生一緒にいるためには、もうこれしかないって
戸籍上の弟になってしまえば絶対に離れられない
死んでも離れない
マルゴさんが、オレの眼を見て言った
でもいいのあなたの人生はそれでいいの
寧子さんが、オレに尋ねる
オレの今までの人生なんて、何でもないですから
でも、あなたはあたしのために、自分の過去を捨ててしまうつもりなの
過去なんてどうでもいいんです寧さん、あなたと一緒に生きていく未来の方が、よっぽど大事です
寧子さんの中に、寧さんが蘇る
オレは、今までずっと寧子さんではなく、寧さんとだけ関係してきたから
これからも、オレが寧さんと関わっていくのなら
寧子さんは、自分の中の寧さんの要素《ファクター》を目覚めさせるしかない
そうすることで
寧子さんと寧さんは、少しずつ融合していく
時間を掛けて、ゆっくり
それが、オレが寧さんの弟にならなくてはいけない本当の理由だ
寧子さんのままでは、脆すぎる
寧さんという人格は本人は演技だと、思い込んでいる
何とか、二つの人格を融合させて
どこででも生きていける、強い寧さんを産み出すしかない
今からは、恵人ですあ、でもケイちゃんは、亡くなったケイさんの呼び名ですもんね何か、新しい呼び名を考えて下さい
ああ、もうメンドくさいケイでいいです呼び捨てで
オレは、そう提案する
オレは、寧さんの弟です弟なんだから、寧さんはオレにどれだけ甘えてもいいんです何してもいいんです全部許されますし、許します
後、何を言えばいいんだ
とにかくオレは、姉ちゃんが大好きなんだよっ
寧さんの眼から、ぽろぽろと涙が零れる
まるで真珠の粒のように
好きあたしも好き
マルゴさんが、オレの背中をトンと押す
オレは寧さんの前に行く
ヒシッとオレたちは抱き締め合った
ずっとずっと出遭った時から、大好きだよ姉ちゃん
うんありがとうありがとうケイ
もう離さないからね
あたしだってあたしだって、離れないよ
オレたちは恋人にはなれない
寧さんに必要なのは家族で弟だから
だから、弟として、オレは姉ちゃんを愛する
ごめんね、あたし多分、本当にもう、ケイから離れられなくなるよ
いいんだよ、それで
オレが、それを望んだんだから
ずっと側に居るケイの子供を産んで、ケイと育てて一緒に年を取るそれでもいい
いいに決まっているじゃないか
ケイのお嫁さんに悪いよ
オレは、笑って寧さんを見る
オレの女にそんなことを気にする子はいないよみんな、喜んで受け入れてくれる
いいんだよね、あたし
オレが一緒だから自信を持ってよみんなのお姉さんになってよ姉ちゃん
寧さんは、オレに身を預けて
できるかなあたしに
できるってオレのお姉ちゃんだもの
うんあたしの心も身体もみんなケイに委ねるケイトなら何も怖くない
寧さんは、もう一度、ギュッとオレを抱き締めた
ねケイセックスしようか
寧さん編、続きます
このまま、すぐに初体験にはなりません
場所替えします
342.朝食の席で
お姉ちゃんとセックスしよう
双子の弟のケイさんと、シザーリオ・ヴァイオラに拉致監禁され
ホモで美少年好きのヴァイオラに、ケイさんが犯され続けることで生存を許されていた
寧さんだって、もの凄い美少女なのに人間としての価値を、ヴァイオラに徹底的に無視され
ヴァイオラが、ケイさんを責め苦しめるための道具として使われた
そのことが寧さんの心に、底知れないトラウマとなっている
寧さんが、ケイさんに自分の処女を捧げようとしたのは
監禁されていた寧さんには、他に差し出すものが無かったからだ
しかし、ケイさんは寧さんを身体を抱くことは無く
ヴァイオラの妹、ロザリンドと相打ちになって死んだ
寧さんの無力感はその時のままになっている
ケイとセックスしないとあたしの中の時間は、動き出さない気がするの
寧さんは、悲しそうに笑った
ケイは、あたしとするの嫌
そんなのもちろん嫌じゃないけど
けど
寧さんが、真剣な眼でオレを見る
ここじゃあ、嫌かも
そして、寧さんはぷっと噴き出す
何よそれケイ女の子みたいなこと言って
寧さんは、大きく笑う
でも、そうだね急ぐことはないもんねお屋敷に戻ってから、ゆっくりしようか
あの、姉ちゃん
オレ姉ちゃんを連れて行きたいところがあって
え、どこ
ケイは、そこであたしと初エッチしたいんだね
いいよあたしはどこでもケイのしたいところなら
でどこなのそこは
オレは小さな声で答えた
オレの家
オレ吉田の家へ戻るのは、これが最後にするからもう、二度とあの家には帰らないからだから、最後に姉ちゃんにオレの家を見せたい
オレの育った家
オレの寝床あのボロいソファ
ケイ
寧さんが、オレを見つていめる
オレ今日限りで過去を捨てるからこれからは、姉ちゃんとみんなとの未来のことだけを考えて生きていくから
だから、寧さんだけには見て欲しい
オレの過去オレが捨てて行く世界を
判ったケイ
寧さんの手がオレの顔を撫でた
お姉ちゃんが、一緒に行ってあげる
それまでジッとオレたちを観察していたマルゴさんが口を開く
そうと決まったら寧は、顔を洗ってきて軽くシャワーを浴びた方がいいかもね克子さんが朝ご飯の準備をしているし、みんな待っているから
ニコッと微笑むマルゴさん
家族みんな、寧が元気な顔で現れるのを待っているんだからね
そうだよ、姉ちゃん早く起きてほらっ
オレは、寧さんをベッドから引き起こす
判った、判ったから
笑いながら、寧さんが起き上がる
洗面所とシャワールームは、そっちのドア
マルゴさんが笑顔で示す
このスイートは、ベッドルームごとに浴室が付いているらしい
うん5分でパパッと浴びてくるねっ
寧さんは、小走りでドアの向こうに消える
君のおかげで何とか上手くいきそうだね
大変だと思うけれど寧のこと、頼むよ
はい、一生側に居ます
君のことを、寧にケイって呼び捨てにさせるのグッド・アイデアだと思うよ
寧って、すぐに知り合った子に仇名でちゃん付けするよね
あれって、相手と親しくなるためみたいに見えて実は、そうじゃないんだよ
親しさを示すためでは無い
自分から相手に近付いて、ちゃん付けして仲良くするように見せ掛けて実際は、そこから先には自分の方に踏み込まないでくれっていうサインなんだ寧は、誰かが自分の心に踏み込むことを、心の底から拒絶しているから
そう、あたしのこともマルちゃんて呼んでいるよねあたしに対しても、寧は心の中でファイア・ウォールを張っているよ
御名穂のことも、寧は先生って呼んでいるでしょ克子さんのことを克っつんて呼んでいるのは、あたしよりも親しく感じているからだと思う
克子さんは、ずっと娼婦で白坂創介に虐げられている存在だったからヴァイオラにずっと監禁されていた寧からすれば、自分に近い存在だったんだと思うよあたしや恭子さんみたいに自分で自分を護る力のある人間は自分とはタイプが違うと思っていたんじゃないかな
ずっと寧さんを見てきたマルゴさんがそんな寂しい分析をする
今、君が寧に自分のことを呼び捨てにさせることに成功したってことは寧にとって、君が一番の身内になったってことなんだと思う身内っていうか自分の心に直接繋がる存在だよねもう
オレは別にそういうつもりで言ったわけじゃないんですけれど
マルゴさんは、クスッと笑う
判っている判っているよ君は、ずっと寧には心をオープンにしているものね
オレは寧さんに幸せになって欲しいんですいえ幸せにしたいんですそうじゃないや幸せにするんですオレが
一生掛けてオレが
うん君ならきっとできるよううんきっと幸せにしてあげて
はぁこれでもう、あたしはお役御免かな寧はずっと弟を欲しがっていたんだし君なら、寧を悲しませるようなことは絶対にしないからね
寂しそうにマルゴさんは言った
マルゴさんは寧さんから離れようとしている
いいえマルゴさんだって、寧さんにはまだまだ必要ですよ
オレの口から、そんな言葉が滑り出した
マルゴさんは驚く
これからの寧さんの人生には、オレみたいな弟でないと解決できないこともあればマルゴさんみたいな姉にしか、相談できないことだってあるはずです
あたしみたいな姉
ええマルゴさんはオレたちみんなのお姉さんですから
オレははっきりと、そう言った
オレは、寧さんよりも年下で男ですからもちろん年下で男だからこそ、力になれることもあるんでしょうけれど年上で女でないと、判ってあげられないことも多いと思うんです
それぞれの持ち分があるはずだ
だから、頼りにしていますよマルゴお姉さん
マルゴさんは、きょとんとした顔をしてオレを見ている
それから、不意にククッと笑い出した
どんどん強くなるんだね君は
オレもう前に進むしかないですから
後ろを振り返ったり、立ち止まっている余裕は無い
家族のために、やらなくてはならないことが山ほどある
そうだねじゃあ、寧はあたしが連れて行くから君は、先にみんなに寧が元気になったことを伝えてあげてみんな、心配していると思うから
みんながさっき居た部屋に戻ると
あれ、誰もいない
お兄ちゃん、こっちこっち
隣の部屋のドアを開けて、マナが顔を出す
居間は、そっちらしい
隣の部屋に行く
見るとテーブルの上には、ベーコン・エッグやサラダが用意されていた
ミナホ姉さんも、克子姉も、メグも、マナも、渚も、真緒ちゃんも、恭子さんも、シスター・イーディーでさえオレたちが来るまで、食事しないで待ってくれている
ミナホ姉さんは恭子さんと話していた
克子姉がお茶を煎れてくれて、メグがオレに持って来てくれた
マナとシスター・イーディは、渚と一緒に真緒ちゃんと遊んでいた
雪乃だけが真剣な顔で、ジッとテレビを観ている
オレが入って行くと雪乃と真緒ちゃんとシスター・イーディを除いた全員が、オレに注目する
もう平気だよ寧さんも、すぐにこっちに来るから
みんなホッとした様だ
あなたも座りなさいお腹空いていたら、先に食べる
ううんオレも、寧さんが来るまで待つよ
オレがそう答えると
ほら、やっぱり我慢しきれずに食べ始めるのは、あんただけだよ
恭子さんが、テーブルの下に向かって声を掛けた
テーブルの下に工藤父が、あぐらをかいて座って居る
工藤父は、牛乳をたっぷりかけたシリアルを大きなスプーンで食べていた
ここに来たら朝食にありつけるって聞いたんでな
と、いうのは嘘だ香月のジィさんにお前らの護衛を頼まれたんでなで、ここへ来たら、食い物があったんで
あんまりお腹をキューキュー鳴らしていらっしゃるから先に食べていただいたの
克子姉が、笑って言った
悪ぃな昨夜から、全然食ってなかったから
工藤父は、蒸気機関車に石炭をくべる様に自分の口の中にシリアルをワッシワッシ投げ込んでいく
食材は、みんなホテルの厨房から分けて貰ったの良い物ばかりよ時間があったらパンも焼きたかったんだけれどさすがにオーブンを借りるわけにはいかなかったから、今朝はシリアルで我慢してね
うん勝手に厨房の機器を使うわけにはいかないもんな
このホテルの現状では、しばらくは休業だろうからコックさんたちは不在だろうし
ところでオレたちの護衛って
何で必要なんだ
ヴァイオラの脅威は無くなったし
白坂家も殺人要請を取り下げた
いや、別に大したことはねぇんだ今、下に警察の連中が来ているだろそいつらに接触しないで、ホテルの外に出るのにオレが必要だってことさ
そうか実況見分をやっているんだっけ
マスコミの連中もたくさん来ているしな
工藤父の言葉に合わせて、メグがテレビの音を大きくしてくれた
朝のワイドショーか
うんここのホテルだな
今朝は、快晴なんだお台場の海に沿って建てられた、高層ホテルの外観
外から望遠レンズで、メチャクチャになった1階ロビーを撮影している
画面に映し出されている文字スーパーは
白坂守次氏、大暴走身内を殺害するために、テロリストを雇う
ロシア・マフィアが、一流ホテルを襲撃
昨夜のジッちゃんの命令が、実行されている
ヴァイオラの戦闘部隊120名が、このホテルに侵攻して来たのは
白坂守次氏が、白坂家内の自分の反対派を殺害するためということで報道されているんだ
オレたちや、このホテルの持ち主香月家のことは、全て秘匿されたまま
マスコミ人としての白坂守次氏は、完全に終わりましたね言論の世界の人間が、身内の反対勢力に対してテロ行為をするなんてそれも、ロシア・マフィアですよ外国の犯罪組織ですよ言語道断というか絶対に許されない行為です
コメンテーターのオッサンが、適当なことを言っている
白坂守次氏は、緊急入院をして新聞社の会長職を辞任し、全ての役職から退いて、引退するという発表がありましたが
いや、当然でしょうというより、これを機に白坂家そのものがグループ企業の経営から離れるべきだと思いますあの一族が、マスコミ業界に巣くっているという状態そのものが、不健全ですよ実に嘆かわしい
世論は操作され白坂家は、自分の新聞社・テレビ局から追われることになるだろう
その放送を雪乃だけが、真剣に見ている
工藤さんの呼んだフリーの人たちは、どうしたんですか
確か、谷沢チーフにホテル内の防火扉を下ろされて、みんな孤立したんじゃなかったっけ
みんな、もうとっくに帰ったぜ
工藤父は、食いながら答える
みなさん大丈夫でしたか
そりゃ、大丈夫だよみんな、プロだからな
そうじゃなくって仕事の途中で、閉じ込められたわけでしょ
いよいよ、ヴァイオラの本隊を潰すという段階で
理由も無しに、谷沢チーフに閉じ込められんだし
ミス・コーデリアなんて、さっき笑い顔で帰って行ったし
工藤さんだって閉じ込められていたじゃないですか
工藤父は、オレの顔を睨んで
あ、そうかお前らは、オレの知らない裏のことを、色々知っているんだな
それ、オレに話すなよオレは知りたくないし知ったら、きっと頭にくることなんだろうしな
知らなくていいことは、一生知らないままでいるそれも、オレたちの仕事の内だからな
工藤父は、スプーンを置く
確かに突然閉じ込められて、解放された時には谷沢のオッサンから作戦終了の指示が出ていたオレたちには、何がなんだか判らないさ何の説明も無いからカチンとくることもあるでもなオレたちは、雇われている人間だ香月のジィさんなり、谷沢のオッサンなりが作戦終了って言ったら、それで終わりなんだ後は、約束の報酬を貰って家に帰って、クソして、寝るだけさ
バンバルビー3の皆さんとか、ダダドムゥおじ様とかもですか
あいつらは全員、喜んで帰って行ったよ最初に約束した報酬に加えて、特別ボーナスまで出ることになったからな
オレたちは別に、シザーリオ・ヴァイオラとその愉快な仲間とか、ロシア人のチンピラ連中が憎くて闘ったわけじゃないからな仕事として闘ったんだだから、雇い人が約束通りの報酬をくれた以上この事件についての詳細や、経過、結果至るまで、すべて興味は無ぇ雇い人が隠していることを、わざわざ調べる気にはならないよみんな大きな怪我も無く撤収できて、万々歳なんじゃねぇかな
それがプロの警護人
あ、ダダドムゥのやつだけは、救急車で運ばれたけれどな
あいつ帰り際に、番場ちゃんのお尻を触ろうとして、バービーのやつに制裁されたんだどういうわけだか、バービーにだけは、あいつの異次元闘法が通じねえんだよバービーの鳳凰幻魔拳から、鳳翼天翔のコンボでフッ飛ばされた
それで病院行きか
あいつも運が悪いというか馬鹿だよな、まったく
再び工藤父は、食事に戻る
というかこの人、シリアルしか食ってないよな
お前らをホテルの外に連れ出したら、オレも今日は仕事は無しだオフってことにして貰った遙花の病院に行ってやらないといけないからな
詳しいことは知らないけれど劇場で美智とやりあって、怪我したんだろ
美智は、姉の遙花さんを工藤流の技で倒した
一応、父親らしいこともしねぇといけないからなそれから、息子の真一とも話さないといけない悦子のことでな
美智の母親、工藤母は山岡部長と一緒に、香月セキュリティ・サービスをクビになった
真一は、香月セキュリティ・サービスの正社員だからな母親の不祥事を起こしたことで、会社に居づらくなると思うがあいつ自身で、今後どうするか決めさせるよ
山岡部長とのこともう、知れ渡っているんですか
会社ってのは、人間の集まりだからなそういう話は、すぐに伝わるましてや、あいつらのしでかしたことは、香月セキュリティ・サービスの社員にとって絶対に許されないことだからな
香月セキュリティ・サービスは、要人警護の会社だぜ社の人間は、昨夜このホテルに香月のジィさんだけじゃなく、香月グループの重役のほとんどが居たことを知っているんだ緊急事態のための警護要員が敵の侵攻中に、職場放棄と命令違反でクビになったんだぜ役立たずのクズっていう評価をされるのは、仕方ねぇじゃないか
役立たずの息子じゃ、真一の立場が無い遙花だって、これで香月セキュリティ・サービスへの正式採用はなくなるだろう悦子は自分のしたことが、家族にどういう影響を与えるのか、ついに理解してくれなかったよな
工藤父は、口惜しそうに言った
山岡と不倫しようが、別に構やしねえオレと離婚したかったら、ちゃんと言ってくれりゃあ何時でもハンコ押してやったよだが、何でよりによってこんな時にに命令違反と職場放棄なんだあいつら、いい年して馬鹿すぎるよまったく
工藤父は、言葉を荒げる
いや判っているオレがだらしなくて頼りがいの無い男だから、こんなことになったんだ悪いのはオレだってことは判っているしかししかしだな
工藤父は、悔やみきれないようだった
今あの人たちが、どこに居るのか判っているんですか
山岡とホテルの外に出たことは知っているそこから先は知らないし、調べる気も無い出て行った家族よりも、今はいる家族をフォローするのが先だあいつらの将来を、オレは一緒に考えてやらねぇといけない
美智のことだけ頼むぞあいつのことは、もうお前に任せたからな
はいオレに任せて下さいいえオレたちに
オレたち
美智はオレたちの家族の一員です
いつの間にか部屋の中の全員が、オレたちの話に注目していた
克子姉が、渚が、メグが、マナが
オレを見て、うんと頷いてくれる
美智さんはあたしたち全員が護ります
家族を代表して、ミナホ姉さんが工藤父に言った
そういうことだからあんたは、心配しなくても平気だよ
恭子さんが、ニヤッと微笑む
あの子は良い素質を持っているそこの子と二人で組ませたら、良い戦士になる
恭子さんにとって、美智はシスター・イーディとセットらしい
いやあなたみたいな女戦士になられても困るんですけれどオレとしては
工藤父が、ちょっとビビり気味に答えた
恭子さんの度を超えた戦闘力はこの人にとっても、脅威らしい
そりゃそうだあたしみたいになるのは、良く無いでもあんたみたいに、中途半端な能力で終わらせたくは無いねきっちりとあたしが教育してやるよ
嬉しそうに、恭子さんはニヒヒと笑う
大丈夫ですマルゴさんも付いてますし無茶なことはさせませんから
オレは間に入って、そうフォローした
真緒ちゃんと遊んでいたシスター・イーディが、突然、恭子さんに英語で何か言う
うんとねイーディちゃんは、真緒ちゃんのことがとっても気に入ったんだって
えマナ
お前、英語判るのか
当たり前じゃん学校で習っているんだから
いや、オレも中1から英語を習っているけど
今のイーディの言葉、全然聞き取れないぞ
マナのところとは、普通の学校とは違うのよ
マナの学校も、みすずたちの学校よりもステイタスは下がるが
かなり有名な名門女子中学校だった
英会話の授業は実践的で、レベルが違う
そんな間にも、シスター・イーディの話は続く
あのねイーディちゃんは、真緒ちゃんが渚さんの娘だって知ってねで、渚さんにとって、美智ちゃんは妹分だって聞いたらしいのねそれで、イーディちゃんにとって、美智ちゃんは同格の姉妹分でしょだから、総合すると自分は真緒ちゃんの叔母さん分になっちゃうのかって、聞いているよ
**分の多い会話だ
ねえ、マナちゃんあたしの言うことを通訳してくれる
渚が、マナに言う
マナが英語で、シスター・イーディに話し掛ける
自分が、渚の言うことを伝えると言っているらしい
イーディさん、真緒のこと好きになってくれてありがとうでもね誰が誰の姉妹分だとか、そういう人間関係を気にしないでいいわイーディさんが気に入ったのなら、直接、真緒のお姉ちゃんになってあげてくれないかしら
マナが通訳するとシスター・イーディの顔がもパッと明るくなる
判った、真緒ちゃんのお姉さんになるっって言っているよ
マナの言葉に、渚は真緒ちゃんを見る
真緒、このお姉ちゃんも真緒のお姉ちゃんになってくれるって
やったぁ今日は、お姉ちゃんがいっぱいできましたっきしししっ
嬉しそうに、微笑んだ
目覚めたら、夕方先週の土曜も、こんなだった
でも、寝たのでかなり体調は戻りました
今月の1日から、職場に新しい人がきました
新しいとは言っても四十過ぎの人です
で、初日からメモ帳とか持ってないし、何もメモしていないので
多分、すぐにいなくなるんだろうなあ
新しい仕事に就いて、メモを取らない人は信用できません
などと書いていますが
そんな私は、今月末で今の仕事を退職することになりました
まあ家庭の事情とか父が倒れたことで、色々と人生を考え直さないといけないことになりまして
母が店をやっているので、そっちを手伝うというか
母がもう店を続けられないので、店を閉めるのを手伝わないといけないというか
今年は、色んな事があるなあ
せめて、吉田くんたちには幸せになって欲しいと思っています
343.良い兆し
お早うみんな
寧さんが、マルゴさんと部屋に入って来る
さっぱりとした顔で
遅いよっみんな待っていたんだからねっ
マナの言葉に、寧さんは
ごめんなさいね、マナ
もう、寧さんは妹たちにちゃん付けはしない
寧お姉さんお茶です
メグが、すぐにお茶を持って来る
寧さんの変貌に、工藤父以外の全員が気付く
しかし、誰もそれを口にはしない
家族のことは、家族の中だけで判っていればいい
さあ、ご飯にしましょうか
ミナホ姉さんの号令で、朝ご飯が始まる
笑い声の絶えない、食卓だった
寧さん、マルゴさん、恭子さん、マナは英語でシスター・イーディと会話している
たまに恭子さんが、シスター・イーディをからかったりしているみたいだけれどマルゴさんたちが上手にフォローしているらしい
まあイーディも、恭子さんとの実力差はよく判っているので、ツンと怒ったりはするけれど反抗はしない
玉子は、焼けばまだあるからいっぱい食べてね
克子姉が、オレにそう言ってくれた
ヨシくん、飲み物のお代わり要る
メグが気を利かせてくれる
すっかり、家族の委員長になってくれている
ありがとうもう一杯、欲しいな
嬉しそうにメグはティーポッドを持って、オレのカップにお茶を注いでくれた
オレは、寧さんを見る
寧さんは、オレが黒森恵人になるということをまだ誰にも話していない
オレのことを、ケイとも呼ばない
今はまだ公表すべき時ではないと思っているらしい
お屋敷に戻って家族だけになった時に言うつもりなのか
それともオレとセックスするまでは、言わないつもりなのか
まあ何でもいい
時間なら、たっぷりあるんだから
部屋のベルが鳴る
誰か来た
あ、あたし見て来るねっ
マナが食卓を離れて、見に行く
そして、すぐに戻って来た
麗華お姉さんが、来たよっ
麗華は昨夜のままの黄色いジャージ姿のままだった
手には、撲殺ステッキを抱えている
恥ずかしそうに、顔を赤らめてマナの後ろから、部屋に入って来る
おはようございます、麗華お姉さん
寧さんの朝の挨拶を、年少組全員で復唱する
おはようございますっ麗華お姉さんっ
麗華は、うつむいて答えた
ちょっと待っていて下さい麗華お姉さんのベーコン・エッグすぐに焼いてきますね
麗華お姉さん、こちらに座って下さい今、お茶を煎れます
メグが、空いている席に麗華を誘う
いえあの、わたくしは
どうしたの、麗華お姉さんそんなに緊張して
マルゴさんが、麗華に尋ねた
そのわたくし
いいから座ってよ立ったままだと、話もできないよ
麗華は椅子に座る
恭子さんが、ニタッと笑って麗華を見る
いいからさ何でも話してごらん
麗華は、うつむいたまま
わたくし、自分が恥ずかしいんです
わたくし、ずっと井の中の蛙でした自分には力があると過信していました
そのことに自分で気付けたんだろなら、良かったじゃないか
恭子さんは、麗華に言う
まだ若いんだ自分が間違っていたと判ったら、何度だってやり直せる
麗華は、素直に礼を言った
でも、わたくしこのままでいいのかどうか判らなくて
何のことだい
わたくし昨夜は、みなさんの家族に入れていただきましたでも、わたくしの様な半端な未熟者がみなさんの仲間になって、本当にいいのか朝になって、自分の顔を鏡に映して見たら、本当に怖くなったんです
ふーんあたしには、よく判らないわねその辺の過程を知らないからあんた、何とかして
恭子さんは、オレの顔を見る
麗華はオレたちの家族になるのを、やっぱり取り消したいの
いえ、そういうことではないんですただ昨夜のわたくしは、身の程知らずの愚か者でしたから皆さんの家族になるということは、みすず様とも家族となることではありませんか香月家の本家の方と、そういう大それた関係になるなんてよく考えたら、自分には許されないんじゃないかと
ああ、朝になってみたらゾッとしたってことなのね
オレたちは、何も無理強いはしないよ全て、麗華が自分で決めてくれればいい
いいんでしょうかそんな身勝手なことで
麗華は、上目遣いでオレを見る
麗華の人生なんだし、オレには何も決定する権限は無い
ダメだよ麗華お姉さん一度、あたしたちの家族になるって約束した以上は、もう取り消せないからね
ほら、あなたも勝手なことは許さないって、怒らないとダメよ
そう言って、強い眼でオレを見る
もう家族なんだから
麗華お姉さんはね今、あたしたちと離れたらダメになっちゃうよだから、絶対に離さない、解放してあげない諦めて、みんなと一緒にご飯を食べて
寧さんの言葉に麗華は、困惑している
あんたって確か、警護人なんだよね
恭子さんが尋ねた
はい谷沢チーフの下で、トップ・エリートの1人ということになっています一応
恭子さんという超人級の能力者と出会って麗華は、本当に自信をなくしたらしい
得物は、そのステッキかいちょっと、構えてみな
恭子さんは、麗華に命じる
いえ、わたくしは
いいから、構えてみなって言っているんだよ
麗華恭子さんの言うとおりにしろ
オレも麗華に命じる
麗華は、席から立ち上がって
恭子さんに向かって、正眼の構えでステッキを向ける
もういいや判ったよ
それだけで、充分、判ったから
恭子さんは、ギロッと麗華を見上げる
あんた剣の修行しかしてこなかった人なんだね
ははいそうです
恥ずかしそうに、答えた
恭子さんは、食卓の上のベーコン・エッグの皿を示し
これ、克子ちゃんが作ってくれたんだけれどあんた、こういう料理作れる
麗華は、皿をジッ見て
卵焼きくらいは焼けますけれどこんなに綺麗に仕上げる自信はありません
うん他の料理やパンと同じく
克子姉のご飯は、そのままお店で出せるクオリティを持っている
見た目も、味も
克子ちゃんは、どうしてこんなに美味しそうなものが作れると思う
やっぱりお料理の才能ですか
恭子さんの問いに、麗華は答えた
そうじゃないよ食べる相手のことを考えているからだよどうせなら、見た目も綺麗で、美味しい物を食べて欲しいって願っているからだよ
恭子さんは、言った
そうだねあんたの剣技を、ラーメン屋に例えるとする
恭子さん、いきなりどうしたんです
ほら、ラーメン屋にもいるだろう自分の作るラーメンの味だけにこだわって、他のことには何も気付かなくなっちゃってるオッサンがさ
恭子さんは、真顔で話している
でもさどれだけ、その店が出すラーメンが美味くても丼に傷が入っていたら、お客は食いづらいだろ椅子がガタついていたり、テーブルが斜めっていたら店の中が小汚かったら、どうだいそんな店で、良い気分でラーメンが食えるかい美味しいラーメンを食った気になれるかい
なれないと思います
麗華は、答えた
そうさラーメン屋だからラーメンだけ拘っていればいいわけじゃないんだ椅子もテーブルも良い物の方がいい店の中だって清潔にしておくべきだラーメン以外にも、ちゃんとやらなきゃいけないことがあるんだよ
みんな、真剣に恭子さんの話を聞いている
オレは剣の道とラーメン屋の関係が、今ひとつ判らない
一流の店は料理の味だけじゃない器にも気を遣っているし、店の内装だって綺麗だそこまで気を配らないと、お客さんには本当に悦んでは貰えない良い評価は、得られないんだよいや、もちろん店の綺麗さとかにばっかり気を取られて、味が全然ダメな店は論外だよでも、味さえ良ければいいっていうのは、間違っているってことは判るよね
あんたは、そこそこ剣の腕はあるんだろうそれは構えただけで、判るでも、それだけだそこから先の拡がりがあんたには無い
恭子さんは、そう言い切った
あんたもあたしも闘う人間だ剣を向けるということは、そのまま戦闘に入ることもありえるっていうことは判っているね
判っていますですから、その覚悟でわたくしは恭子様に剣を向けました
全然判ってないよ
恭子さんは、麗華を叱責する
この部屋で、あんたとあたしが戦闘行為に突入したとしてあんたは、他の子たちのことは想定したかいマルゴはどう動くと思うそこの工藤のとっつぁんはイーディはメグちゃん、マナちゃんの安全は確保できるのかい真緒ちゃんが、間違って戦闘領域に飛び込んで来たらどうするつもりだい
そういうことは、何も考えていませんでした
そうだろうあんたは、あたしにだけ集中してあたしが次に取る行動に合わせて、反射的に対応すればいいって決め込んでいた自分で考えることを、投げ捨ててしまっていたんだよ
麗華は後悔している
あんた一人ならそれでいいさでも、そういう発想で、あんた警護人なんてやってられるのかい今のあんたには、誰も護ることなんかできないよ自分だけ生き残って、護るべき人間を殺しちまうのがオチだろうね
へなへなと麗華は、床にへたり込む
ずっと自分一人で闘ってきたから、そんなことになっちまうんだよっホント、腕は良くても流行らないラーメン屋だよっあんたはさ
ぶるぶると震えて麗華は、涙を流す
本当にわたくしダメな女ですこのままでは、わたくし生きている値打ちは無い
そうさっだから、今日からあんたは克子ちゃんに家事を習いなっ
あんたが護るべき家族と常に一緒に居て家族の中で、自分のできることを見極めていくんだね今のまんま一人で居たって、あんたみたいな女は成長できないよ
ご飯の支度に、掃除、洗濯みんなのために、何ができるかどうしたら、家族のみんなは悦んでくれるのか一つ一つ、克子ちゃんから教わるんだその経験が、きっとあんたを強くしてくれる
真っ直ぐに恭子さんは、麗華を見つめている
自分の幸せを、家族の幸せと重ね合わせるんだそうすれば、あんた自身も幸せになれる
泣きながら麗華は頷いた
もちろん、真緒ちゃんの育児も手伝うんだよそれから、あたしは毎晩必ず寝酒をやるからね忘れずに、酒とつまみを用意しておくれ
一見良い話のようだけど
恭子さんは、麗華に家事を押しつけようとしている
大丈夫です麗華お姉さん、あたしも一緒に克子姉さんに教わりますから
マナもマナも教わるから
いいのわたくし、みんなのお姉さんのままで
麗華は、涙目で二人を見る
あったり前じゃんねえ、お兄ちゃん
ああしょうがねえな
麗華みたいな面倒な人は、オレたちと一緒じゃないとダメだよだから、このまま家族で居ればいいんだよねえ
オレは、ボールを寧さんに渡す
そうそうもう、諦めてあたしたちのお姉さんで居て下さいっ
そうね歓迎するわ
寧さんの言葉に、ミナホ姉さんも笑ってくれた
ほら、真緒麗華お姉ちゃんにようこそって言ってあげなさい
ようこそっ麗華お姉ちゃん
真緒ちゃんの満面の笑み
麗華は、感激しながらまた泣いた
はい、玉子焼いてきたわあら、どうしたの
新しいベーコン・エッグのお皿を持って来た克子姉が、麗華の様子に驚いている
まあ、床にへたりこんで泣いているんだから
麗華お姉さん、そんなところで泣いていないでほらほら、席に戻って下さいね
メグが、麗華の背中を撫でる
はぃぃぃ
泣きじゃくりながら、麗華お姉さんは席に戻る
何か、よく判らねえんだけどよお前ら、毎回こんな大騒ぎをしながら仲間を増やしているのか
ええまあ
そうよ毎回毎回、馬鹿騒ぎをして仲間だ、家族だってやってんのよこの人たちホント、馬鹿みたい
雪乃が、横から口を出す
雪乃は、まだ一人だけ食卓に着かずにテレビを観ている
それでも腹は減っているのか、シリアルだけをムシャムシャ食べていた
オレのミッチィくんも、この手で引き込まれたのか
そういうことよねっ
引き込まれたなんて、言葉が悪いですよ
マルゴさんが、苦笑して言う
とにかくオレ一人だけじゃないですからここにいる家族全員で、美智のことは護ります絶対に、みんな美智を見捨てたりはしませんから
オレは、工藤父にそう約束した
へっならいいんだけどなまあいいオレも、お前らのことは信用するよ
と、答えると工藤父の携帯が鳴る
ん、オレだ判った、すぐ行く
工藤父は、携帯を切ると
あんたたちを乗せる車の支度ができたそうだオレは、ちょっと谷沢のオッサンと警察との対応のことで話があるから先に行くぜ外に出る準備ができたら、内線の993に電話してくれノーマくんが出るはずだから
判りました993ですね
ああ、そんじゃあ、また後でなっ
そう言うと工藤父は、そそくさと部屋から出て行った
あの人美智ちゃんのことが心配で、あたしたちの様子を見に来たんだね
オレたちが、本当に信頼できる人間かどうか
美智が居ない時を狙って、確認に来たんだ
いいお父さんですよね
うん美智お姉ちゃんが羨ましい
メグとマナの父親は
そう言えば恭子さんは、オーストラリアから
オレがそう言った瞬間マナがシッと唇に指を立てる
この部屋にはまだ敵がいるんだからその話は、ここでしちゃダメだよっ
敵って雪乃は、お前の実姉だぞ
ソースケなら、あたししか知らない場所に監禁してあるよ
雪乃がこっちに注目している
全身縛り上げて、猿轡して耳にはヘッドフォンで、大音量の音楽を聴かせているからまあ、一睡も出来ないでぐったりしている頃だと思うよ
何の音楽を聴かせているんです
んミラクル少女リミットちゃんと風船少女テンプルちゃんの歌をエンドレスでね
リミットちゃんとテンプルちゃん
何なんだそれは
家庭用品の名前だってことは、判るけれど
テンプルちゃんは、多分、てんぷら油を固めるやつだな
リミットちゃんは、クッキング・タイマーか
何で、そんなのに歌があるんだろう
コマーシャル・ソングか
まあ、この後、回収してくるよ
恭子さんは、ぐふふと笑った
早く、家に帰りたいなあ
お兄ちゃんの部屋で、一緒にお昼寝しようよねっ
マナにとって、家はもう白坂家では無い
黒森のお屋敷なんだ
あっ、そうそう麗華お姉ちゃん
マナが、笑顔で麗華に話し掛ける
あたしたちの家事にはお兄ちゃんの夜伽も入っているからね
大丈夫お兄ちゃんを、エッチなことで満足させてあげればいいんだからっ麗華お姉ちゃんがよく判らなかったら、マナと寧お姉ちゃんで教えてあげるからねっ
マナは、寧さんにニコッと微笑む
そうだよねっ寧さん
マナ寧さんは、処女なんだよまだ
よ、よろしくお願いします
麗華が、オレに言う
あの嫌なら、いいんですよ別に
いえ嫌じゃないですからわたくし
顔を真っ赤にして答える
こういう機会でないとわたくし、ずっと処女のままだと思いますし体験するのなら、主様にしていただきたいです
いいいんだ
あじゃあ、オレ頑張ります
あのわたくしの身体では、ご満足いただけないと思いますが
また自分を卑下する麗華に、マナは
もう、麗華お姉ちゃん1回で満足して貰えなかったら、何回でもすればいいのっ質より量だよ
ごめん、オレ、マナのこと処女喪失から、もの凄い回数犯しているもんな
マナなんて、お兄ちゃんのためなら10回連続だってエッチしちゃうんだからねっテクニックの足りない分は、回数で補うんだからっそうでないと、技術と経験の豊富な克子お姉ちゃんや渚お姉ちゃんに勝てないものっ
いや麗華
マナの体験は、特殊というか
済まん、マナ
そんなセックスを体験させて
本当よあたし、本当に一晩で10回以上犯されたことあるから処女だったのに
済まん雪乃
そんなこともあったな
えっとあたし、連続10回とかしていないよねヨシくん
メグしたいのか
いやあたしだけしないのは、良くないのかなって
寧お姉ちゃんは、お兄ちゃんに何回して貰ったの最高記録は
マナが、寧さんに尋ねる
そんなの、秘密だよっ
処女の寧さんは、ニコッと笑った
シスター・イーディが、ギロッと克子姉を見上げる
どうしたのああ、お代わりが欲しいのね
シスター・イーディは、日本語での会話を気にすることなくわっしわっしと食事を続けていた
すっかり、オレたちと一緒に居ることに慣れたらしい
イヌだったら、思いっきり尻尾を振っているな
そんな勢いで克子姉から、シリアルのお代わりを貰って悦んでいる
この子もあたしたちが世話しないと、ダメな子だよね
まあ戦闘訓練の方は、あたしとマルゴが面倒を見るよ麗華ちゃん、あんたもだよ
恭子さんが、麗華に言う
日常生活の方はあなたたちで面倒を見てあげて
イーディは、あなたや恵美と同い年だからうちの学校に編入させるわ
本当かよ
頼んだわよ学級委員長
オレとメグは二人とも、学級委員だったっけ
まぐまぐまぐ
暗殺結社生まれの、戦闘美少女
褐色の肌に金髪碧眼の小柄な少女は、満足げに食事を続けている
麗華の方も仕込みは終了です
次話でホテルを出て、吉田家へ向かいます
テンプルちゃんというアニメが昔あったんです
アメリカにシャーリー・テンプルという子役のスターがいまして
そこから、名前を取ったんだと思いますが
何でシャーリーちゃんじゃなく、テンプルちゃんにしたんでしょうねえ
直訳すると寺ちゃんですからね
ちなみに、ブラッド・テンプルやアシュラ・テンプルは出て来ません
それからリミットちゃんの方もかなり問題な、少女アニメです
相変わらず、父に記憶障害が出ています
今日が何日か判らなくなるなんてのは、普通で
昨日は、銀行のCD機が使えなくなりました
さっきもあれ、お前、いつ帰って来たんだとか言っていました
ほんの30分前に、一緒に夕食を食べていたんですけれど
何か、末期症状のガンスリンガー・ガールみたいになっています
344.猛虎魂
へえ、スーパー・モデル育成プロジェクトね面白そうじゃない
恭子さんが、マナの話を聞いてそう言った
食事も運動も全部、コントロールするんだろ筋肉は付けすぎても、身体の成長は阻害されるしねかといって、適度な運動で刺激することで成長ホルモンの分泌が促進されるしねスーパーモデルの体型になることだけを目標に、育成プログラムを組むっていうのは斬新なんじゃないかなあたしの知り合いの大学教授に、そういうこと詳しい人がいるから手伝って貰えばいいよ
恭子さんも計画に乗ってくれるらしい
あたし背が低いけれど、大きくなれるでしょうか
マナちゃんは今、幾つなんだい
14歳の中学2年生です
なら、まだ全然余裕だよあんたは、下地も良いし相当な美人ちゃんになるんじゃない
恭子さんに褒められて、マナは嬉しそうだ
食事のプログラムは、あたしが運動のプログラムは、マルゴさんが組みます
克子姉が、恭子さんに言った
精神面のバックアップは、あなたと寧と恵美でやってね心理的なチェックは、あたしがするけれど
スーパーモデルともなると、見た瞬間にグッとくるような、訴えかけてくるものが必要だけれどそれも、あんたなら平気なんじゃないかな14歳にしては、良い感じに捻れているし
良い感じに捻れている
何の問題も無く真っ直ぐに育った人間なんて、面白味が無いからね人ってのは、それぞれの人生で負荷を掛けられて、歪んだり曲がったりしていくもんだよちょっとぐらい陰りのある方がいいのさ
そういうことだからお兄ちゃん、いっぱいマナとエッチしてね毎日だよっ
え何でそうなる
お兄ちゃんが、マナのこと好きだって信じられるからマナは、どんなことだって頑張れるんだもんお腹が空いても平気だよ運動だって、言われた通りに頑張るお兄ちゃんが、毎日マナのこと抱いてくれたら
マナにとって、愛情の確認行為はセックスだけなんだ
そう仕向けてしまったのは、オレだ
だからオレは責任を取らないといけない
オレは、擦り寄ってきたマナの身体を抱いて頭を撫でてやる
オレはずっと側にいるから幾らでも応援するからな頑張れよマナ
うんっお兄ちゃん
勉強も頑張りなさい英語に加えて、フランス語とイタリア語もできた方がいいわねスーパーモデルになるのなら
はい頑張りますっ
そう言うマナを見て、雪乃は
バッカじゃないのあんたみたいな、お子ちゃまがスーパーモデルなんてなれるわけがないじゃない舞夏は、こいつらにダマされているのよっ
そういう雪乃さんは、この後、どうするつもり昨夜も言ったけれどね赤ちゃんを産むまではうちで飼ってあげるけれど、その後は知らないわよ女一人で、どうやって生きていくか考えておいた方がいいと思うわよ
白坂家はもう、雪乃を助けてくれることは無い
父親は、拉致されたまま母方の親戚筋も、雪乃たちのことは諦めている
あたしと舞夏は、あんたたちの世話にはならないわよ
マナさんはもう、あたしたちの家族よあたしたちが一生面倒を見るわ
そうだよっ雪乃さんは敵なんだからさ
舞夏、あんたいい加減にしなさいよっ
いい加減にするのは雪乃の方よ甘えないで
メグが、雪乃にビシッと言った
恵美あんた、あたしから舞夏を奪って、嬉しいんでしょうね
本当に何も判っていないのねマナは、あなたのものじゃないのよ
あたしのものよっあたしの妹なんだからっあたしの言うことをきくのが当然でしょ
これまで、雪乃は白坂家の中でお姫様だった
メグのことも、散々苛めてきた
しかし、今はもう
この子、面白いわね捕まっているのに、ここまで偉そうな子って初めて見たわ食欲も旺盛で、ムシャムシャ食べているし
恭子さんが、興味深そうに笑っている
お腹の子の分まで、食べないといけないものね
ミナホ姉さんが、笑って嫌味を言う
くぅっ
雪乃は、また泣く
怒って、喚いて、泣いてこの三拍子のトライアングルをエンドレス・ワルツしていく
治らないんだろうなこの性格は
と部屋の電話が鳴る
はいもしもし
近くに居た渚が電話に出た
あなたによみすずさんから
みすずか
時計を見るともう9時30分過ぎだ
いつもの朝の電話より、2時間以上遅い
ありがとう渚
オレは、渚から受話器を受け取る
もしもしどうした朝のおしっこか
みすず我慢していたんじゃないのか
膀胱は、破裂していないだろうな
お早うございます旦那様おしっこの方は、大丈夫ですこんな時まで、旦那様のお手は煩わせるようなことはしません
ちゃんと出したのか
はいあの勝手におしっこしちゃって、申し訳ありません
いや、みすずが健康ならオレはいいんだちょっと心配だったから
みすずも心配でした旦那様、お元気そうで安心しました
オレは平気だよそっちは、どう
お父さんを突然亡くした瑠璃子は
今日がお通夜で、明日が告別式ということになりました
ジッちゃんは、息子の葬式を急いで終わらせるつもりだ
世間の眼が、白坂家のスキャンダルに注目しているうちに
瑠璃子は、気丈に振る舞っていますあたしも美子さんも付いていますし関さんも美智も居ますから
ああ、後でそっちへ行くよ夜になるかもしれないけれどオレも、瑠璃子のお父さんのお葬式には出たいし
はい、お待ちしております旦那様、あの携帯電話の方は何度かお電話したんですけれど、繋がらなくて
携帯を鳴らしても、オレが出ないから
みすずはそれで、ホテルに直接、電話を掛けてきたんだ
ああえっと、オレの携帯はどこにあるんだろう多分、誰かが回収してくれていると思うんだけど、まだ受け取っていないんだ手に入ったら、連絡する
もしもの時のために、一応、あたしの携帯の番号をお伝えしておきますね
そうだな渚、何かメモ用紙とかない
メグが、ペンと紙を手渡してくれる
さすが気が利く
オレはみすずの電話番号と瑠璃子のお父さんのお葬式の場所をメモした
後でまた連絡するから
はい、お待ちしています
青山斎場って、どこにあるの
オレの問いに、克子姉が
もちろん青山よ日本で一番大きなお葬式の会場よ
さすが、香月家
瑠璃子さんのお父さんのお葬式、あたしも行きたいわ
あ、マナも行く
あたしたちは、行かれないわね名家の人たちが集まる場所だから
克子姉が、寂しそうに言った
黒い森を知っている人も来る可能性がある
香月重秋さんは、あたしたちのお客様では無かったのよ香月様は、息子さんたちをお屋敷には連れていらっしゃらなかったからでも、あたしたちがお葬式の場に顔を出したら、変に勘違いされる方もいらっしゃるでしょうから
ミナホ姉さんや、克子姉、渚は顔を出さない方がいい
マルゴ後で、子供たちを連れて行ってあげて
判った、ミナホ夕方以降でいいんだよね
ええお通夜だからあんまり早く行っても、迷惑でしょうし
あたしも行きます
あたしたちは、制服で行けばいいのよね
あ、あたしはどうしよう
マナが、困った顔をする
制服だと白坂舞夏だって、バレちゃうかもしれないし
うんマナと同じ学校の子も来るかもしれない
マナさんは、帰りに喪服を買いましょう
ほんじゃまそろそろ、懐かしの我が家に帰るとしますかっ
恭子さんが、豪快に言った
あたしは、ソースケの回収もあるしね
その言葉を雪乃がジッと聞いている
工藤父に言われた内線に電話するとノーマさんではなく、トニーさんがすぐに来てくれた
何です、これ
トニーさんは、人数分の黒マントと虎のマスクを持って来ていた
あ、申し訳ないんですけれど全員、これで変装して下さい警察の居るところを強行突破しないといけないんで
いや、誰だか判らないように変装するってのは理解できるけれど
何で、虎のマスク
うちのボスの趣味です
黒マントは
ホンモノは誰だって知りません
知らないです
何で、あたしだけ虎のマスクが黒いのよ
なぜか雪乃に手渡されたマスクだけ黒い虎だった
あ、ブラックタイガーの正体はローラーボール・マーク・ロコですミスター高橋によると、現在はスペインのカナリア諸島に住んでいるらしいです
トニーさんの話は、わけが判らない
とにかく、皆さんマスクを付けて、マントを羽織って下さい
とにかく言われた通りにする
わーお、みんなおんなじ顔っ
真緒ちゃんが、面白がっているがそんな真緒ちゃんも、虎のマスクを被っている
幼児用のマスクなんて、よくあったな
シスター・イーディは
マスクを付けて興奮したのか、シャドー・ボクシングを始めている
マルゴさんが、落ち着くようにイーディに英語で話し掛けている
えっと、警察のゾーンにはうちのボスが居ますんでみなさんは、絶対に口を開かないで下さいそれから、指紋とか残さないように髪の毛とかも注意して下さいあいつら、こっそりサンプルを採るのを狙っていますから
何なんだ、警察って
それじゃあ、ご案内しますんで付いて来て下さい
トニーさんは、三角の旗を持って先頭に立つ
その旗には虎の穴ご一行様と書かれていた
エレベーターホールまで、虎のマスクに黒マントの一団でゾロゾロと行く
トニーさんの旗に続いて恭子さん、ミナホ姉さん、マルゴさん、克子姉、渚、真緒ちゃん、寧さん、シスター・イーディ、オレ、マナ、メグ、麗華、そして雪乃
13人の虎マスクが続く
シュールだ
一人だけブラックタイガーだし
そんでは、エレベーター2機で下に降ります地下2階です地下の駐車場から出ますからあ、エレベーターは、こっちで制御してますんでノンストップで降ります途中の階で停まることはありません
トニーさんが、そう説明する
うん誰とも顔を合わせずに降りられるのは助かる
トニーさんが、エレベーター前のカメラに手を振ると
エレベーターが2機、同時に扉を開いた
ああ本部にノーマさんが居て、全てコントロールしているんだな
はい、乗って下さぁい
オレたちは、エレベーターに乗る
年長組と年少組に別れて
もっとも、真緒ちゃんとシスター・イーディは年長組の方だ
代わりに、寧さんと麗華がオレたちの方のエレベーターに乗った
麗華は、一応、オレたちの護衛のつもりなんだろう
エレベーターのボタンは、改めて押さなくても、もう地下2階のところが光っていた
何か、ドキドキするねっ
虎マスクの寧さんが、楽しそうに言った
いや、オレも虎マスクだけど
馬鹿みたいよこんなの、本当に馬鹿みたい
雪乃黒い虎のお前が、一番馬鹿みたいだぞ
地下2階に到着ドアが開く
工藤父が、待っていた
おっし、全員居るな行くぞ
先頭がトニーさんから工藤父に変更
15人の大集団になってゾロゾロとエレベーターホールを出る
地下2階の駐車場には、明らかに警察関係者と判る人たちが居た
おい、工藤何なんだ、その集団は
ちょっと高圧的な四十過ぎの灰色のスーツのオッサンが、工藤父に声を掛ける
見りゃわかるだろザ・タイガースだよ
大阪かデトロイトか
そのタイガースじゃねえ
工藤父は、ニヤッと笑う
こいつがジュリーで、こいつがサリー、こいつはトッポで、こいつがタロー、こいつはピー残りは全員、キシベ・シローだ
全員
ああ全員、キシベ・シローだ
刑事らしい男もハハっと笑う
でこいつらを引率しているお前は何なんだウチダ・ユウヤか
タイガースの引率だワタナベ・ミサに決まっているだろ
クックックと笑い合う二人
中年男2人の会話は、わけが判らない
そこを開けてくれやオレもタイガースも、今日はもうオフなんだ家へ帰って、クソして寝るからよ
工藤父が、刑事を睨む
いつの間にか近くに居た警察官たちが、オレたちの周りに集まって来ている
現場検証が終わるまでは、誰も外に出すなってのが上からの命令なんだがな
刑事が、工藤父に言った
オレは、そんな命令聞く必要は無いと思うがな
工藤父は、強気で言葉を返す
工藤お前、国家権力を舐めるなよ
お前こそ一般市民を舐めるなよ
香月家のイヌが、ずいぶんと偉そうな口をきくじゃねぇか
吠えるな、吠えるなお前こそ、給料安いんだろ下手に突っぱねると、大火傷するぜ
お前こそ香月家には手を出せなくても、お前ぐらいはいつでも潰せるんだからなオレたちは
工藤父と警察の睨み合いが続く
お楽しみのところ悪いんだけどさぁ
恭子さんが、するっと虎のマスクを脱ぐ
マランドロのキョーコ・メッサーだあんたも公安の人間なら、名前ぐらい聞いたことはあるだろ
刑事が、ハッとする
マランドロって南米の犯罪組織かあ、キョーコ・メッサーって、ファイルにあった
警察の一団が、ワッと集まって来る
待ちなあたしの国際指名手配は、今は全部取り消されているんだあんたたちには、あたしを捕まえることはできないよっ
そんなことは、後からどうにでもなる
公安の刑事の指示で警察官たちが恭子さんの周りを固める
別件逮捕とかするつもり
とりあえずは、職務質問だ全員、所持品を検査させて貰う誰か一人でも、カッターナイフでも持っていたら、署までご同行していただく