ああ、判ってるよあなたはドン・オルシーニとの友情から、あたしたちに協力してくれるだけ別に、あたしたちに対してブルッてるわけじゃないそういうことだよね
ふんそういうことだな
高崎は、憎々しげにそう言った
いずれにせよ、今回のことはワシの方の失態だオンナとコドモだと思って、ナメて済まなかったのぉ
それはしょうがないよっだって、あたしたち可愛いんだもんっ
この姉ちゃんは、オメェの興行で何やるんだラウンド・ガールか
美しい寧を見て、高崎がマルゴさんに尋ねる
ああ、寧はあたしのマネージャーだよ
マネージャー
あなたがさっき言った通りだよあたしは、プロ格闘家としては少しばかり、売りになる特色が足りないよね特に、アメリカをベースにして興行を打つのなら
だから、あたしがマネージャーとして付いていくんだよっセコンドとして、リングサイドにも立つよんっ
寧とあたしのセットならそれなりにインパクトがあると思うんだけど
マルゴさんが闘う時に、いつもリングサイドに寧が居れば
2人は、コンビとしてチームワークも良いし
色々考えているってことか、オメェらも
当たり前でしょ本気なんだから全米進出女が男と闘って、大観衆の前で勝つんだよ
寧が、ニコッと微笑んだ
ふんそういう展開は、アメリカじゃあ受けねぇんじゃないのかあいつら、フェミニストのようでいて割と男尊女卑だぞ特に、格闘技なんかを好む層はな
あなた、アメリカ生まれのあたしに、それを言うわけ
マルゴさんの眼が輝く
そんなことは判ってるさだからやるんだよ
そうそうこれは、あたしたちの夢だからねっ
高崎は、2人の笑顔を何かを感じ取ったようだ
そういうことか金じゃねぇんだな夢なんだな目的は
金が欲しいのなら、このまま裏家業を続けているよ
そうだなオメェは、キョーコ・メッサーの弟子だったんだよな裏の人間が、どうしても表に出て行きたいっていうのはそれなりの理由があるってことかい
あたしたちだけじゃないさそこにいるイーディは詳しく説明するわけにはいかないけれど、ニューオリンズの裏の組織の出身だ今のままじゃどうしたって、生活に制限がかかる
イーディは、ニューオリンズの暗殺教団の出身だ
教団の新しい指導者が前の指導者の血縁であるイーディの存在を嫌って、ミス・コーデリアに売り飛ばした
だから、経歴を造り替えないといけない
それで、格闘技か
ああ、格闘技を介して世に知られてしまえばこの子が元いた組織も、この子のことは完全に諦めるしかなくなるそれと同時に他の裏組織からのスカウトの話も、一切来なくなるだろ
みんなが、よく知っている格闘家ならすぐに気付かれてしまうから、裏の仕事なんかできなくなる
それはオメェも一緒だろさっきの身のこなしワシだって、格闘家としてでなく、裏の仕事に使いたいと思うわ
高崎は、そう言った
でも、あたしもその子もこの先は、ヤバイ橋を渡るわけにはいかないんだよ家族がいるからね大切な弟と妹があたしたちが、裏の仕事を請け負うことで家族を危険に巻き込むようなことはしたくないんだ
アタシも同じネ
イーデイもそう言って、微笑む
だから表の世界へ出ないといけないこれは夢じゃないよあたしたちが、どうしてもやらないといけない最低限のことだから
オレたちのために
何故、オメェワシにそこまで腹を割る
さっきも言ったろうあたしは高崎さんとは、良い関係を築きたいんだよまずは、全米で名前を売るけれどいずれは、日本でも試合したいしね
よーく判ったいや、ホントに色々と済まなかった今までのことは、全部水に流してくれそして、その上でオメェに教えてもらいたいことがあるんだが
高崎は、ジッとマルゴさんの顔を見上げている
香月は、ワシらのオヤジを潰すつもりなのか
ヤクザ用語のオヤジ親分
高崎の場合は大鳥総裁
そんなことは、あたしには判らないよあたしは、香月家の傘下じゃない香月家と連携している黒森家の人間だからね香月のトップの意思を知る立場には無いよ
だが、オメェはワシに本気で、オメェの興行の日本での仕事を依頼している今日、この後香月がワシらのオヤジをブッ潰したら、ワシの未来もなくなるぞワシらが、そういう瀬戸際に立っているっていうことを承知で、オメェはワシに話をしに来たこれは、香月がわしらのオヤジを潰さないと考えているからだろ
高崎は、マルゴさんに詰め寄る
考えすぎだよ高崎さん
ククククッと、マルゴさんは笑い出す
香月さんていう人はあたしは何度かしか会ってないけれど、絶対にジェノサイドはしない人だから全員皆殺しとかにしたって、何の意味も無いでしょあの人は、由緒正しい家柄の生まれだけど本性は商人だよメンツよりも、利を取るというか、損なことはしない人だよそうだよね、良信くん
はいオレもそう思います
確かにあなたたは、判断を誤っていたそもそも、香月家にケンカを売って東京に関西から兵隊を送り込んだところから大失敗だよそして、香月セキュリティ・サービスの谷沢チーフの部隊に関西のあなたたちの本部を逆に襲撃されたこともね
関西ヤクザたちはジッちゃんの持つ力を見誤った
その上、今この期に及んで、この後の手打ちを香月家と5分5分でいや、できることならあなたたちが有利な形で終わらせたいと思っていたあんまりにも、虫が良すぎる考えだったよね
ああだから、オメェたちが殴り込んで来たんだと思ったんじゃい
高崎は、苦しそうに答える
何言ってるのこっちは、女の子数人に男の子1人だよこれが、殴り込みに来るような顔触れに見える
マルゴさんが、オレたちを見る
オレに、寧に、イーディに、木下さん
高校生組はみんな制服だし木下さんは、見た目が可愛過ぎる
でも、あんたたちは50人以上よっその上うちの親衛隊長まで、ブッ潰したじゃないのっ
黙っていた森沢マミが怒りの形相で、マルゴさんを睨む
あのさオバサン、まだ判んないの
寧が呆れた口調で、木下さんに振り返る
木下さんてさ香月セキュリティ・サービスに入社して、どれくらい
木下さんは、ふんふんと指を折って数えて
ええっとそろそろ4ヶ月ですねぇ
ニヒヒっ新入社員なんだよねっ
はい、そうですぅ
ところで木下さんて、会社の中じゃ強い方の人っ
木下さんは、うーんと小首を傾げて
いやいや、あたしなんで全然ですよぉうちの会社、メッチャクチャ強い人が、いっぱいいますからわたくしなんて、まだまだですぅぅ
まだまだだってさっ
寧が、笑って森沢マミに言った
本当に冗談抜きのマジでマルゴお姉ちゃんが、興行のことで高崎さんに話がしたいから案内係として、入社4ヶ月の新人の木下さんに付いて来てもらっただけなんだよここのフロアは、香月セキュリティ・サービスが管理しているから、同じ会社の人が一緒でないと入れないでしょそんでオバサンたちは、わたくしなんて、まだまだですぅぅって言う女の子にケンカを売って、兵隊さんを50人も失ったんだよっ
森沢マミは震え出す
考えてみなよ香月セキュリティ・サービスっていうのは、香月のおジィちゃんがお金に糸目をかけずに作った、個人的な戦闘集団私兵だよ新入社員だって、これだけ強いんだよあのおジィちゃんが本気でオバサンたちをブッ潰すつもりなら手打ちなんてわざわざやらないよ関西のヤクザを皆殺しにできるくらいの戦力は、持っているんだからさっ
しかも、香月家は政財界に太いパイプがあるからねどんな非合法手段の無茶をしても香月家にお咎めは無いよ
寧とマルゴさんが交互に、話していく
この2人の脅しのコンビネーションはいつ見ても完璧だ
て、ことはあれか香月はうちのオヤジを潰す気はねぇってことか
高崎が言う
えっ何でそういう結論になるのさ
寧が、眉を顰める
いや、だってそんだけの力があって、その気があんのなら、とっくに潰されてるんだろワシらはそれに香月は、ジェノサイドは好きじゃないってさっき、オメェが言ってたじゃないか
高崎は、マルゴさんを見る
ああ、香月さんはジェノサイド皆殺しはしない
だったらよぉ
頭だけ潰せば、胴体手足は生かしておいてくれるってことさ
自分の意志に従う別の頭を挿げ替えたら胴体手足は、香月さんのものになるだろ
それってオメェ
ジッちゃんは大鳥総裁だけは、確実に潰す
そうだよねぇ香月のおジィちゃんの狙いは、関西のヤクザ組織そのものなんだと思うよっだからさ皆殺しはしないよ組織がなくなっちゃうもん潰すのは頭と
頭にくっ付いている一部の人たちだけだろうね
寧とマルゴさんのコンビネーションが炸裂する
オメェらワシにオヤジを裏切れって言うんか
そう言う高崎に
あれれマルゴお姉ちゃんあたしたち、そんな話をしているっけ
いいや、そんな話をした覚えは無いよねあたしたちは、ただ香月家に連携する別組織の人間として、現在の情勢を解説してみただけだし
顔を見合わせる寧とマルゴさん
でもさ、マルゴお姉ちゃんこういうことって考えられない
ふむふむ、どういうことかな
今、この部屋の中のことはさ外の人たちには、知られていないんだよね
ああ、そうだよねふむふむ
それでそこに、マルゴお姉ちゃんと闘ったオサレバンさんとかも、ノックアウトされて引っ繰り返っているし
他にも、イーディに倒された人が何人も転がっているよねえ
だからさああたしたちが、この部屋から退室した後に高崎さんたちも、ううう、お腹が痛いとか言って、この後の手打ちを欠席しても誰も不思議には思わないよねぇ
ああ、なるほどそうかもねぇ外じゃ、50人以上倒れているんだしすでにリビング4は半分、意識不明に陥っているんだしここで、高崎さんたちも退場ってことになっても、誰も変だとは思わないかもねぇ
思わない思わないむしろ、あたしたちと一緒の部屋に居て高崎さんたちだけが無事な方が、大親分さんに疑念を持たれるんじゃないかなぁ
そうだねぇ何か取引でもしたんじゃないかって、思われても仕方ないよねぇ実際、あたしの興行のことで約束してくれたし
高崎さんあなたはさっき、マルゴお姉ちゃんが、今後のこと格闘技興行のことをあなたと約束したことで香月家は、自分たちを潰す気は無いんじゃないかって思ったんだよね
未来の興行について、自分に協力を約束させるということは今日、これから殺し合いや潰し合いが起こらないと、マルゴさんが確信していると考えた
だから高崎さんは
でも、それって大鳥総裁から見たら、どうなんだろうね
寧の言葉に高崎は、ハッとする
これから対決するあたしたちと高崎さんが、一緒に仕事をする約束をしたっていうのはさ大鳥さんからすれば、高崎さんが自分を裏切ろうとしているんじゃないかって、勘違いしちゃうかもしれないよねっ
お前ら、ワシをハメたのか
高崎は、大きな声を出すが
人聞きが悪いことを言わないでよあたしは、本当に高崎さんに仕事を頼んだんだからさドン・オルシーニだって、高崎さんのことは信頼しているからね
そうそう、あたしたちはハメたりはしないよこれは、そのことは別件であたしたちは、あなたを脅しているだけだよっ、高崎さぁんっ
寧の満面の笑み
くくくッあはははは、おほほほほほほっ
不意に森沢マミが高笑いをする
負けや負けやあたくしたちの負けですがな高崎サン
この子らの言う通りあたくしたちも、負傷退場ってことにしましょうあたくしは、オサレバンが蹴り倒されたのを見てショックで気絶したことにしますわ
そして森沢マミがギロッとオレを見る
何や、あたくしみたいな肝のブッ太いそうな女が、そんなことで気を失ったりするもんかって思ってるんか
いや、そんなこと思ってないです
オレが慌てて、そう言うと
ダメね、Darlingこれは、その女の手ネ
イーディがスーッとオレの前に立つ
オバチャン何なら、アタシが本当に気絶させてあげるヨドウスル
シュシュッと、シャドウボクシングをして見せるイーディ
アホかやめとくわちょっと、からかっただけや気にせんといて
森沢マミは、ハッと息を吐く
高崎さん負傷退場ってことなら、別に大鳥さんを裏切ったことにはならないで済むと思うよヤクザ業界的にも、問題ないんじゃないまあ、女にやられて失神したっていうのは、ちょっとカッコ悪いかもしれないけれどあなたは、そこで倒れているオサレバンさんみたいな武闘派じゃないし大鳥さんの親衛隊長がやられたんじゃ知能派のあなたが負傷されられても、みんな仕方ないって思ってくれるよ
マルゴさんがそう言う
判っただが、ここでワシが退場することで香月の方から、何かしらの保証してもらえるとかはあるのかい
この期に及んで、さらに自分の利を追求する
これがヤクザか
命が助かるだけで、充分なんじゃない
マルゴさんは、ケロッとした顔でそう言った
オヤジはアウトなのか
ギロッと高崎が、マルゴさんを睨む
ま多分ね十中八九は
高崎は、肩を落とす
判ったワシも、お前らに殴られたことにするそれで退場だオメェらもいいな
高崎は、壁際に残っていたヤクザたちにそう告げた
悪いけれど大鳥さんの警護に付くとトバッチリがあるかもしれないよ
マルゴさんの言葉に、逡巡していたヤクザたちは
仕方なさそうに、頭を垂れる
いやフリだけじゃなくて、マジで気絶させてもらおうか
高崎がそんなことを言い出す
その方がより確実に、身を守れるからのぉ嬢ちゃんスコーンと気を失うように、一発やってくれオメェらも、殴ってもらっとけ
大丈夫だこいつら達人だからのぉ後で後遺症の残るような殴り方はしねぇよマミも一発、食らっとけ
そうねその方がより安全ね
さすがヤクザだ自らの保身のためなら、殴られて気絶することも厭わないのか
後で、治療費とか請求しないでよ
マルゴさんが、そう言うと
判ってるよ今は、金より命が惜しい
お金なら格闘技の方で、たっぷり儲けさせてあげるからぬふふふんっ
じゃざっぱり、やってもらおうか
ようござんすよ
高崎と森沢マミが眼を瞑る
待って待って、マルゴそれなら、アタシが痛くないのをやるネ
イーディが、前に出る
えっと、驚いて眼を開ける高崎たちに、イーディは
大丈夫、大丈夫アタシの手を握るねhawooooo
イーディが、気を放出すると
あわわわわ
ぬぷぷぷぷ゛
高崎と森沢マミは、そのまま昏倒した
ハーイ、次はアンタたちねぇ
怯えるヤクザたちをイーディは、次々に失神させていった
すっごーい気ですかぁ
木下さんが、パチパチと拍手をする
そうね気でオトしたネ
イーディは、明るくそう答えた
さてと翔お姉さんに事前に言われて来た用件が、これで一件終わったよ
そう言えば昼の時から、ずっとマルゴさんは翔姉ちゃんやミナホ姉さんたちと作戦会議をしていたけれど
今日の手打ちってさどういうメンバーになっているか知ってるよね
マルゴさんが、オレに振り向いた
ええジッちゃんと関西ヤクザの2グループ大鳥総裁派と佐竹会長派それから見届け人のヤクザの大物たちですよね
そもそもは
鷹倉神社は、関西ヤクザと昔からの関係があり
大鳥総裁は前から、鷹倉神社に出入りしていた月子の本当の父親だし
だが、関西ヤクザの新興派閥である佐竹会長が、月子たちの父母を謀殺し鷹倉神社を乗っ取ったことが、事件の始まりで
大鳥総裁派と佐竹会長派の抗争が起きた
そして、鷹倉3姉妹は、ジッちゃんに助けを求め
香月家が、ヤクザたちの抗争に介入して力尽くで、両派を制圧した
今日の手打ちは香月さんとヤクザたちとの手打ちというのが名目だけど同時に、大鳥総裁と佐竹会長の手打ちの場でもあるんだよ
でヤクザ同士の手打ちだから、見届け人としてヤクザ界の重鎮たちにも来てもらっている香月さんは、ヤクザではないからヤクザの世界の抗争終結の話し合いには参加できない
でヨッちゃんヤクザの方の裁定は、ヤクザ界の重鎮の皆さんがすることになるわけだけどこの人たちって、そもそもどっち寄りだと思う
それは大鳥さん
いや、だって重鎮て、みんなきっとおジィさんだろそんな、ヤクザ界の顔役なんて人はそうなると新興勢力の佐竹会長よりも、大鳥総裁の方がずっと年上なんだしおジィさんたちとも、付き合いが長いだろ
そういうことだから、今の段階では佐竹さんたちの方がピリピリしているわけわざわざ、地下駐車場まで出向いて、あたしたちに仕掛けて来たのは佐竹さんの部下だったでしょ
このまま手打ちになると佐竹会長の方が分が悪いのか
だから、一か八かで強硬なこともする
こっち来てみて、判ったでしょ大鳥派のフロアは、割とノンキな感じでさ
こっちの人たちには余裕があった
だから、少しバランスを崩してやらないといけないのさ
それでエレベーターホールで、木下さんが50人も倒したんですか
大鳥総裁のガード要員を削った
え、わたくしは、そんなことは何も考えていなかったですけれど
木下さんは、否定する
それを言ったら佐竹会長のグループだって、地下駐車場でアタシに16人倒されてるネ
佐竹派にも、人的被害は出ている
そういうことじゃなくってヤクザは、メンツで生きているんだよ
大鳥さんはここぞという場には、必ず自分の4天王を連れて行く自分には、こんなに頼りになる子分がいるんだぞって誇示するのがステイタスなんだよ
だから、今日も4人を連れてきたんだよねっそれなのに4人全員が、手打ちを負傷を理由に欠席するっていうんだよ
ヤクザの大親分からしたら、こんなにみっともないことは無いんだよヤクザの世界の重鎮の皆さんにわざわざ来てもらった会なのに自分の一番の手下が、全員いないって言うんだからそれもこのホテルに着いてから、やられたなんて
ヴィクトリー・ガンダムの昔のプラモが再販されたらしいのですが
どうやら、もう売れてしまったらしい
ガンイージが欲しかった
733.14階
ごめーん、何か知らないけれどさ、部屋の中の人みぃーんな、気絶しちゃったよぉっ
ホテルの13階、大鳥総裁の4天王たちの部屋のドアを開けて寧が、外に居たヤクザたちに告げる
な、何じゃあ
た、高崎のアニキ
森沢の姐さんも
オサレのアニキが、泡噴いてブッ倒れとるぞぉぉ
親衛隊の連中も全員だとぉぉぉぉ
ドカドカ、部屋に入って来たヤクザたちが凄惨な部屋の中の様子を見て、喚き出す
お、オメェらアニキたちに何をしたぁぁ
さあ食中毒とかじゃないかなここに居た人全員が、突然倒れたんだし
食中毒だとぉぉぉぉ
お昼に食べたものとかの食い合わせなんじゃないのっうっしっし
寧もケラケラと笑う
そんなわけねぇだろぉぉぉ、テメらぁぁっ
1人のヤクザが激高したのを見てマルゴさんは
食中毒ってことにしておいた方がいいんじゃないの
それとも何かい関西雷神鳳会大鳥総裁の4人の大幹部リビング4が、あたしたちに残らずブッ倒されたとか君たちは言い張るわけ
確かさ今このホテルには、ヤクザ業界の重鎮の皆さんとかも来ているんじゃなかったっけっ
アンタたちと対抗している、サタケも居るのネ
もしホントに、高崎さんたちがあたしたちにヤられちゃったんだとしたらいいのそんなことが、業界の他の皆さんに知られちゃっても
とっても恥ずかしいネ
寧とイーディが、顔を見合わせてクスクス笑う
うな垂れて意気消沈するヤクザたち
ここでオレたちに復讐したとしても今更、遅い
女の子たちに、4大幹部を倒されたという事実は覆せない
外で倒れている50人のヤクザたちと同様に
あ、ロビーに連絡して下されば香月セキュリティ・サービスの救護チームが来ますので治療はここでもできますしご希望の病院に搬送もできます
香月セキュリティ・サービスの木下さんが、そう言った
ていうかさ君たちも、食中毒にかかっちゃった方が良いと思うよ
マルゴさんはニッと笑う
このまま大鳥さんに付いて手打ちの会場になんて行ったら、生きて関西には帰れないかもしれないからね
ふ、ふざけたことを言うんじゃねぇわ、ワシらは抗争しに来たのとちゃうぞっここのホテルには手打ちに来たんだっ
そ、そうだっ手打ちで殺されるなんてことがあるかぁぁっ
ヤクザの常識だぞぉぉぉぉっ
黒服ヤクザの何人かが、ビビリながらもマルゴさんに叫ぶ
そうだねヤクザの常識では、そうなんだろうねでも、あたしたちはヤクザじゃないし
香月のおジィちゃんもねっ
平然とケラケラ笑うマルゴさんと寧
ねここまで、ヤられているのにさまだ、自分たちの理屈が通ると思っているわけっ
悪いけれど、あたしたちヤクザよりも、常識知らずだからさ
シーンと静まり返るヤクザたち
もう一度、言っておくけれど君たちにも、警告はしたからね
次に会った時は殺すネ
マルゴさんとイーディが、強い殺気を発すと
わ、ワシはあの高崎のアニキの舎弟じゃけんアニキを病院に連れていくから
あワシは、森沢の姐御を
ワシもオサレのアニキの子分じゃからのぉぉ、大鳥の大親分には申し訳ないが、ここはやはりアニキを
ず、ずるいぞオメェら
オメェは、本部付きじゃねぇか
ああ、大鳥の大親分のお付きは、頼んだぞ
うううワシも、腹が痛くなってきた食中毒かもしれん
ワシも持病のシャクがぐぬぬぬっ
ああ、膝の古傷がこんな時にぃぃぃ
おい、待たんかぁぁ、お前らぁぁっ
すっかり全員逃げのモードになっている
じゃあアタシたちは、帰るネ
イーディがカラカラ笑う
そ、そうよ早く帰りましょうよ
工藤遙花が、オレにしがみついてくる
ということだから道を開けてくれるかな
マルゴさんの一言に、黒服ヤクザたちはササッと壁際に寄って、通り道を作る
そうそうあたしの名前は、マルゴ・スタークウェザー・クロモリ1年後は、世界的な有名人になっている予定だから
あたしは寧覚えておいてねっ
ヤクザたちに、明るく微笑む
はいはいはーい、通して下さーい
木下さんが、ヤクザたちに命じる
マルゴさんと寧を先頭にオレとイーディと工藤遙花が中央、シンガリが木下さんという並びで、黒服ヤクザたちを尻目にホテルの廊下を抜けて行く
再び、エレベーターホールに
ああ、さっき倒したヤクザたちがまだ気絶して引っ繰り返っている
香月セキュリティ・サービスのフロア担当警護員が、先にエレベーターを開けて待っててくれた
ありがとうございまーす
木下さんが、同僚に礼を言う
オレたちは、ドカドカとエレベーターに乗り込んだ
そんじゃあ、みなさーん、バイバーイ
寧が唖然としてるヤクザたちに、ニコニコ手を振っているうちに
スゥーッとエレベーターのドアが閉まる
これで大鳥さんの方は本当の直近の警護しか連れて来られなくなったよ
しかしついに顔を出しませんでしたね
オレは、それが不思議だった
4大幹部は、1人がヤられたらすぐに森沢マミが姿を見せた
オレたちの力を知るとすかさず対応を変えてきた
なのに、自分の子分たちが倒されても大鳥総裁は、オレたちの前に出て来ない
今なら部下の失敗で済むからね
リビング4は同格の幹部だから1人の失敗については、他の3人も責任を負わされるだから、すぐに反応したでも、大鳥さんは大親分だから今、なら自分の知らないところで、子分がヘマをした悪いのは全て子分で、大鳥さん自身じゃないって突っぱねられるけれどあたしたちの前に姿を見せたら、大鳥さんはこの件について、この場でケジメを付けなきゃならなくなるからね
ケジメって何ですか
そんなのアタシたち全員、皆殺しに決まっているネ
イーディの笑顔に工藤遙花が、震え上がる
そういうことここまでナメた真似をされたんだそうでもしないと、大鳥総裁の沽券に関わるでも、あたしたちの実力も見て判ってるわけでしょ、大鳥さんは
50人のヤクザをブッ倒しちゃう、木下さんのことや自分の親衛隊長のオサレバンもあっさり倒されてしまったことを大鳥総裁は知っている
今や、自分の子飼いの少人数の警護要員しか残っていないというのにここで、あたしたちを討ち取ろうとするのは無理があるよね他のフロアに、香月セキュリティ・サービスや佐竹会長の兵隊がわんさか居るのにさ
大鳥さんは、姿を見せなかったじゃなくって見せられなかったんだよっ
ところであの次はどちらの階へ向かいますかぁ
木下さんが、エレベーターの操作盤の前でオレたちに尋ねた
次は何階へ向かうか、まだ決めていないから
エレベーターは、ドアを閉じたままずっと停止している
やっぱり次は11階の佐竹さんの方ですかぁ
威力偵察に来たのだし
13階の大鳥総裁派の戦力は大幅に削いだのだから次は11階の佐竹会長の方だろうか
いやこのまま14階へ行くよ
14階
今日の手打ちの会場
さっきも言ったけれど佐竹さんの方は、新興勢力だから、大幹部とかいないしヤクザ界の重鎮の老人たちとは、そんなに近くないから11階の方は、ピリピリしていると思うんだよ
だから、今みたいな作戦で兵力を削ぐのは無理だよ下手に刺激したら、決死の覚悟で刃向かってくるだろうからさ
すでに追い詰められてる人は、それ以上追い詰めない方がいいネマゴがそう言ってたヨ
イーディが、うんうん頷いている
マゴって何だ
マゴじゃないわよっ孫子でしょっそれ
工藤遙花が、イーディに突っ込む
ソウソウソンシのヒョウホウなのネ
孫子は兵法《へいほう》よっ
ソウソウそれネ
イーディわざとやってるな
アレソウソウって、何だったケカ
曹操は三国志の英雄で、孫子に注釈を入れた人よっ
ソウソウソウソウなのネ
でも、何で14階なんです11階に偵察へ行かないのなら16階のジッちゃんのところへ行きましょうよ
ミナホ姉さんや鷹倉3姉妹もそこに居る
オレは、姉妹のことでジッちゃんに報告しないといけないことがあるし
ヨッちゃんほら、見てご覧
寧が、オレに腕時計を見せてくれた
今は午後2時50分
手打ちの時間て何時からだったか、覚えている
午後3時
そういうこともう10分前だからね直接、会場へ行って待ってた方がいいんだよ
マルゴさんが、オレにそう言う
そうそうどうせすぐに、香月のおジィちゃんたちも降りて来るんだしさっ
幾らニブいオレでもさすがに気付く
マルゴさん、これって
そこから先は、言わなくていいよ君の思っている通りだから
この威力偵察にオレが同行することになったのは
ジッちゃんの手打ちの前の点ミナホ姉さん、鷹倉姉妹との事前協議の場に
オレが居ると困るのか
ミナホ姉さんがそれとも、ジッちゃんが
オレを同席させない選択をしたのはどっちなんだ
両方だと、ドウシテ考えないノネ
ミナホも香月さんも大人の話し合いをしているからね
良信くん今回の件を通して、君は思い知るべきなんだいかに自分が無力で何の決定権も持っていないということを
ああ、オレはただの高校生だ
頭も悪いし、金も無い
人より劣った能力しかもっていないダメ人間だ
自分の無力に、きちんと絶望することそうしたら、はじめて、自分には何ができるかが判るから君の持っている本当の力に君自身が気付く
今回の件ミナホ姉さんは、ずっとオレに鷹倉姉妹の相手をさせていたけれど
大人同士の会話
ジッちゃんとの取引や翔姉ちゃんたちとの作戦会議には
オレは、徹底して参加させてもらっていない
いやもちろん
オレなんかが、参加する必要も意味も無いんだけれど
みんなは大人でオレは、ガキなんだから
でも、月子と夜見子とルナのことはジッちゃんに
鷹倉3姉妹を娼婦にしないということは何としても、ジッちゃんに承認してもらわないといけないから
君はミナホが、香月さんを説得できないと思っているわけ
いやミナホ姉さんの方が、オレよりもよっぽど上手く、ジッちゃんを説得できる
香月のおジィちゃんの方は、ミナホお姉ちゃんに任せておけばいいんだよっヨッちゃんは、ヨッちゃんにしかできないことをすればいいのっ
寧が、笑ってオレを抱き締めてくれる
寧のふくよかな胸が、オレの顔を優しく包む
でもオレにしかできないことなんて、何も思い付かないよ
ヤクザや香月セキュリティ・サービスの警護人たちが集うホテルの中で
オレにできることなんて
思い付かなきゃ、探すのきっとあるからだから、ヨッちゃんは、今、ここに居るんだよ
とりあえず14階へ行きますねぇ
木下さんが、エレベーターの昇降ボタンを押した
14階へ到着する
はーい、こっちでーす
14階は、香月セキュリティ・サービスの警護員だらけだった
ジッちゃんが臨席するんだからまあ、こうなるよな
オレたちは、木下さんに誘導されて本当は宴会場らしい、ただっ広い部屋へ連れて行かれた
ああ、準備できているみたいだね
マルゴさんが、部屋を一瞥してそう言う
本当に広い部屋だオレの高校の体育館がすっぽり入るぐらい広い
天井も高いし
どうして、こんな風に椅子を並べてあるんです
さあ、あたしも日本のヤクザの風習はよく知らないから
会場は中央に大きく四角い空間を取って
その3方向左右と手前に、それぞれ向き合って椅子が並べられていた
正面は、大きな緋色のカーテンが吊られている
これって、何か
空手や柔道の試合会場みたいね
工藤遙花の言う通りだ
あの緋色のカーテンの上に平成**度、柔道大会とかの額が吊られていれば、もう完璧にそうだ
真ん中の空間は柔道の試合場の4倍くらい広いけれど
うん左右と手前の3つに分けられた座席コーナーは、それぞれ、かなりの距離が取られている
これってやっぱりヤクザ同士が、途中でケンカしたりしないように話してあるんだろうか
あら、やっと来たわね
カーテン前に置かれたマイクスタンドのところに翔姉ちゃんは居た
木下ご苦労様あなたも自分の配置について
色々とありがとうございました
オレがお礼を言うと
いえいえ、わたくしも楽しかったですぅそれではまたぁ
ニコニコ笑いながら粉砕フレイルをジャラジャラ鳴らして、木下さんはオレたちから離れて行く
オレは周囲を見渡す
ジッちゃんやミナホ姉さん月子たちは、どこにいるんだろう
閣下のご登場は、一番最後よ
オレの様子を見て翔姉ちゃんが、微笑む
会場全体の安全が確認できる前に、香月さんに降りてきてもらうわけにはいかないよね
そういうことでも無いんだけれど
え翔姉ちゃん
式の進行上のまあ、色々とあるのよ
じゃあ、月子たちもジッちゃんたちと後から
ええ、予定はね
と香月セキュリティ・サービスの滝さんが、小走りでやって来る
関さん、西側、入場準備できてます
そう東は
そっちは、もう少しかかるみたいです
西に東
うちの連中は
すでにスタンバイ完了です
じゃあ、5分押しでスタートしましょう他は式次第通りね
滝さんが、また小走りで駆けていく
2グループのヤクザが、途中で鉢合わせしちゃうと大変でしょだから、建物内の端と端のエレベーターと階段を使って、このフロアに上がってもらっているの親分さんたちだけエレベーターで、子分さんは階段ねここのホテルの他のフロアは、通常営業中だからあたしたちだけで、エレベーターをずっと占拠するわけにもいかないし何十人かの子分たちを、エレベーターでピストン輸送なんかしたらホテルの他のお客に迷惑が掛かるもの
あららそういや、さっきオレたちはエレベーターを1基、しばらく占拠していた
悪いことをしたなあ
それで、この宴会場の左右ていうか、東西ね東と西に、大きめの控え室があるから一旦そこに、ヤクザさんたちを溜めておいて、順番に入場させるわ混乱のないように
なるほど色々と気を遣うから、大変なんだ
見届け人の皆様は、そっちの南側の控え室にみなさんもう、来ていただいているわ
今あたしたちが居る正面カーテン側が北よまあ、ここだけは方角でなく便宜上正面て呼んでいるけれどで、東側が大鳥総裁のグループ西側が、佐竹会長のグループね
で、南側がヤクザの重鎮の見届け人たちか
多分、この正面の大きなカーテンの向こうにも座席があってそこがジッちゃんたちの座る場所になるんだろうな
であたしたちは、とりあえずどこに居たらいいのかな
マルゴさんの問いに、翔姉ちゃんは
あなたたちは、このカーテンの端の方あそこの壁際に、椅子が置いてあるでしょとりあえず、あそこに居て
確かに壁際に幾つか、パイプ椅子がある
悪いんだけれどこの会場は、香月家と2グループのヤクザさんたちの手打ちをする場所でしょ黒森家は、本筋では関わっていないから
オレたちは、手打ちを眺めるオブザーバーにはなれても
直接の参加者では無い
御名穂さんと美智ちゃんも、そっちへ行くことになっているから
月子たちは
鷹倉神社の末裔である3姉妹は今日の手打ちのそもそもの原因だ
だからこの儀式には、直接関わることになる
大丈夫よあの姉妹には、麗華を付けてあるから心配しないで
香月セキュリティ・サービスのエースであるレイちゃんが、警護してくれているのなら問題はないだろうけれど
ヤクザたちも有名人のレイちゃんには、一目置いているだろうし
平気ネ何かあったら、アタシも美智も飛び出すカラ
イーディが、オレにそう言ってくれた
じゃあ、あっちの席に行ってようよ翔お姉ちゃんも式典の前で、色々と忙しいだろうからさっ
寧が、そう言って微笑む
そうなのよわたくし、閣下のご命令で今日は、MCも担当するのよ
エム・シー
マスター・オブ・セレモニー総合司会ってことよ
翔姉ちゃんが、ハァと溜息を吐いた
ということで、次話から鷹倉姉妹のエピソードの解決編に入ります
長かった
早く、日常編とか学園編に戻りたい
体調があんまりにも良くないので、医者へ行きました
レントゲンじゃ判らないので、MRI検査ということに
まあ、色々と身体にガタが出て来る時期なので、仕方ないです
予約制なので、来週以降ですけど
帰りに大きな町の店に寄りましたが
やはりガンイージは、もう無い
ガン・ブラスターはあったけれどこれじゃないんですよ
734.関係者入場っ
広い会場の正面の端本当に壁際の隅っこの、照明も当たっていないので暗くて目立たない場所に
オレたち用の座席が用意されていた
まあ、しょうがないよね取りあえず座っていようか
苦笑するマルゴさんと一緒に、オレたちは折りたたみのパイプ椅子に腰掛けた
マルゴさん、寧、オレ、工藤遙花、イーディ
ったく何であたしが、こんなところにいないといけないのよっ
工藤遙花は、ぶつぶつと文句を言っている
姉上、ご主人様にくっつきすぎです
気配を殺して、ヌーッと美智が現れる
えっな、何
その腕です
ああ、工藤遙花はさっきからずっと、オレの腕にしがみついている
え、あこれは
自分では、全然気付いていなかったらしい
しょうがないネ心の中では、怖くて震え上がっているんダカラ
誤魔化してもダメなのネアタシもミチも、気の色が読めるカラ
そして、カーテンの方を見て
ツキコたちみたいに、意識までは読めないケレド
そして、席を立ちオレの隣の椅子を、美智に譲る
ミチは、ここに座ったらいいネ
オレの隣に、ちょこんと美智は座った
ご主人様わたくしも
美智も、オレにきゅっとしがみついてくる
小さな胸をオレの腕にに擦り付けるようにして
何かオレ、工藤姉妹に捕まっちゃったみたいなんですけれど
あの、美智ところで、ミナホ姉さんは
ミナホ姉さんの姿が見えない
黒森様は、最初の騒ぎが収まるまでは、こちらには降りてらっしゃらないそうですわ
まだ上の階に居るのか
ていうか最初の騒ぎって、何だ
麗華お姉様やヨミヨミたちと一緒ですからご安心下さい
まあ、レイちゃんが居てくれるならそれでいいか
会場の照明がスーゥッと暗くなる
えー、大変長らくお待たせ致しましたそれでは、これより香月家・関西雷神鳳会・雲龍会山森組、3者によります手打ちの儀を開催致します
大カーテン前の翔姉ちゃんが、マイクで叫ぶ
まずは、西側より雲龍会山森組の皆様のご入場です
大宴会場の西側の扉が、大きく開かれる
外からわらわらと、ヤクザたちが入って来た
全部で50人ぐらいか
まあ、イーディが地下駐車場で、15人ぐらい倒しているし
昨日のうちに東京へ派遣されていたメンバーに、今日、ボスである佐竹会長に同行したメンバーを足してだからこんなものか
月子たちを追って来たヤクザは、かなりの数がすでに香月セキュリティ・サービスによって、半死半生にさせられてるし
大鳥総裁のグループは、男は全員、黒服スーツで統一していたけれど
今日の佐竹会長の周りを固めているメンバーは、みんなバラバラだなあ
正装じゃ無くて派手な色と柄のスーツとかが多い
何か夜の歓楽街にお酒でも飲みに行くような格好だ
うわサングラスにジャージのやつまでいる
しかし、何だあのジャージに描いてある絵は
ああ、まだアレを着ているヤクザがいるんだねメデューサ柄
メデューサ柄って
ああ、髪の毛が蛇の
確かに、メデューサの絵だなアレ
日本のヤクザは、本当に好きだよねメデューサ柄のトコのブランド
うんあっちの人も全身、上から下まで、そこのブランド
寧も、ヤクザたちのファッション・チェックを始める
香月さんや、ヤクザ界の重鎮の皆さんと会うから自分たちがビビッてないことを示すために、敢えて子分たちには正装させてないんだね
でも、それがかえって小物っぽいよねぇ
マルゴさんと寧が、そう分析する
あ、出て来たあれが佐竹会長さんだよあたしが見た資料通りなら
マルゴさんの視線の先を見ると
一人だけ仕立ての良いスーツを、ピチッと着ている男がいた
とても痩せていて背が低い
しかし、その目付きは鋭いし、肉体は筋肉が引き締まっていて精悍なイメージがある
ギラギラと周りを圧倒するオーラを発している
ボクシングのミニマム級とかの東洋太平洋チャンピオンみたいな感じだな
ヘビー級じゃ無いし、世界チャンピオンでもない
でも、凄い強そうみたいな
その佐竹会長の隣には何故か、スカジャンを着た巨漢のデブ男が付いて居る
室内なのに、派手な紫色のキャップを被っている眼にはサングラス
首には、大きな金属のネックレスをジャラジャラ下げているし両手の全ての指に、馬鹿でっかい金属の指輪をしている
アレが、佐竹さんの側近のDJ・キンゾウだよ
マルゴさんが、クスクス笑う
本名、菅井きん蔵、38歳DJというのは、ディスク・ジョッキーとデンジャラス・ジョーカーの2つの意味があるそうだよ
デンジャラス・ジョーカー・キンゾウって中学生かっ
とりあえず、佐竹さん一派は用意されていた西側の座席に座る
みんなアホみたいに、お行儀悪く
足を組んだり、背もたれに手をかけたり、前の椅子に足を乗せたり、1人で2つの椅子を独占したり余っている椅子に寝そべったり
それでいて並べられた座席の最前列には、誰も座らない
ああ、うちの高校の不良生徒と一緒だ
なるべく後ろの方の席で、偉そうにしていることを第一に考えている
あ、お母さん
工藤遙花が佐竹グループの中に、自分の母親を発見する
山岡もいる
いや、2人だけ並んで行儀良く座っているから、よく目立つ
お静かに、姉上
美智が、姉を制する
美智どういうことよ、これは
そんなの、香月セキュリティ・サービスに対する嫌がらせに決まっているだろ
あの2人は、香月セキュリティ・サービスの正社員でそれもかなり中枢部に居たんだからこちらは、香月セキュリティ・サービスの裏情報を色々知っているぞ公の場でバラされたくなかったらっていう脅しさ
だからこの会場に臨席するメンバーに、山岡と美智たちの母親の悦子が連れて来られている
続きまして、東側より関西雷神鳳会の皆様のご入場です
翔姉ちゃんの声と共に東側の大扉も、グワッシャッと開く
現れたのは30人ぐらいの黒服ヤクザたち
こっちは、きちんと綺麗に並んで行儀良く歩いて来る
結局大鳥さんの側近中の側近たちしか残らなかったってことかでも、逆にそのおかげで、全員統制が取れているよね
でもさあ本当は、4天王とその子分たちとかも連れてきて、大人数で力をアピールする計画だったわけでしょちょっと、この数だとショボさは隠せないんじゃないかな
マルゴさんと寧が、第一印象をそう語った
あああれが大鳥さんだろ
オレは一番奥に現れた、紋付き袴の老人を見て、確信する
月子の記憶の中にあったのと同じ人物だ
こちらも目付きが悪い
恰幅がいい髪は月子の記憶よりも、生え際が後退している白髪もある
月子の記憶は数年前のものだったからな
大鳥総裁のグループは、ススッと指定された座席に座った
こちらは、一番前の列からピシッと間を開けずに、行儀良く座っている
何じゃい、何じゃぁいっ天下の関西雷神鳳会が、たった30人でのご登場かいのぉぉぉ
早速、佐竹派の座席から野次が飛ぶ
自慢の4天王は、どうしたんじゃい
そりゃあ、アニキみんな、ワシらを恐れて逃げたしたんと違いますかぁ
そうさのそうさのぉ
アレ4天王は、何て名前でしたっけ
リビング4じゃい
プゲらっちょっ影も形もありませんがなっ
約50人と約30人で向き合っているんだから
人数的には、大した違いは無いと思うんだけれど
新興派閥の佐竹派としては関西ヤクザの主流派である大鳥総裁が、自分たちよりも少ない人数しか兵隊を連れて来られなかったことが、嬉しいらしい
そういえば、さっきリビング4の高崎一郎は麻雀しながら、携帯電話で誰かに電話していたよな
あれもさらなる助っ人の増員を要請していたんじゃ
つまり、大鳥総裁派のこの手打ちでの戦略は
なるべくたくさんの兵隊を連れて来て、数で場を制圧することだったんじゃないんだろうか
だからこそ翔姉ちゃんは、木下さんとマルゴさんを式典前に派遣して、大鳥派の兵隊を削りまくった
お静かに願います式典が進行できません
翔姉ちゃんが、佐竹派の座席に注意するが野次は止まらない
おうおう、姉ちゃん美人じゃのぉ
香月のトコなんか辞めてワシの店で働かんかのぉ
こいつの店より、ワシのとこの方がエエぞ
お前ンとこは、ピンサロやないかいっ
オメェんとここそ、ソープじゃろっ
ワシは、最近出張デリバリー嬢っちゅうのも始めたんじゃいっ
翔姉ちゃんをただの司会だと思っているんだ
惜しいのぉぉ、もうちょっと若かったらセーラー服を着せて、イメクラっちゅー手もあったんだけどのぉ
いや、ワシんとこは熟女にもセーラー着せとるでっどんなものにも、マニアがおるからのぉ
知らないぞ、お前たち
ヘイ・メーンッ静かにせんかいっオメエたちっ
騒がしい連中に佐竹会長の側近、DJ・キンゾウが叫ぶ
と会長が言うてまっせ
小声でそう付け加えた
見ると、佐竹会長がボソボソとキンゾウの耳に囁いている
ふむふむ判りやしたええーとなあオメェが騒がしくしてると、会場の皆さんにメーワクだろそろそろ黙らんかぁぁいと、会長が言うてまっせ
佐竹は、またボソボソとキンゾウに何かを囁く
ごっつ了解ですえー、美しいお嬢さぁぁんどうぞ、進行して下さいと、会長は言うてまっせ
とりあえず佐竹グループのヤクザは、私語と野次を止めた
えー、ご協力ありがとうございます
翔姉ちゃんはやりにくそうに、そう言った
それでは南側より、本日の見届け人の皆様のご入場となります
今度は南正面の大カーテンに向かって真っ正面か
やはり大扉が、バシャッと開く
現れたのは全て黒い和服紋付き袴を着た、5人の老人たちだった
それに、それぞれ黒服の護衛が10人ぐらいずつ付いている
皆様どうぞ、ご着席下さい
南側に並べられた座席に見届け人たちが、座った
5人の老人が並んで
椅子は人数分用意されているが護衛たちは、全員立ったままだ
面白いね人数的には、見届け人のグループが一番多いなんて
ま、抗争の当事者と業界全体の代表だから、この人数差で正しいんだろうけれど
見届け人はヤクザ界を代表して来ている
スーッと大鳥総裁派が、全員、立ち上がった
皆様、わざわざのお越し、誠にありがとうございます
約30人の集団が、全員で見届け人たちに礼を言った
佐竹派は何もしない
見届け人でなく、翔姉ちゃんの方を見て
おいおい、このメンツはねぇだろう
そうだ、そうだっどう見ても大鳥に近い連中ばかりじゃねぇかっ
テメェら、うちのオヤジをハメるつもりなんかぁぁ
こんな手打ち無効じゃぁいっ
そうだ、そうだ帰ろうぜっ
やってられっかよこんなのっ
口々に、喚き立て席を立とうとする
ギィィィィ、バタン
東、西、南と大きく開かれていた大扉が、一斉に閉じられた
な、何じゃい
ワシらを帰らせんつもりかいのぉぉぉっ
これ以上ナメた真似をしたらブチ殺すでぇぇぇぇっ
口では強そうなことを言っているが声が動揺している
ウェーイ、黙れ黙れ黙れ静まれ
DJ・キンゾウが、身内を静かにさせる
ヘイ・メーンまだ、慌てる時間じゃねぇと、会長は言うてまっせぇぇぇぇ
さらに佐竹会長がボソボソと、キンゾウの耳に囁く
スマンです今のヘイ・メーンのトコだけは、会長は言うておられませんでしたワシの創作でしたお詫びして、訂正させていただきやす
佐竹会長は、なおもキンゾウの耳に何かを囁いた
はいはい了解です
キンゾウが、翔姉ちゃんを見る
オイイッ、姉ちゃんこんな茶番は、さっさと終わらせちまおうとっとと、香月のジジィを連れて来やがれっと、会長が言うてまっせぇぇぇぇぇ
しかし、翔姉ちゃんは
残念だけれど閣下をお呼びする前に、片付けておかないといけないことがあるのよ
マイクの前でニッと、微笑む
前に出て来て下さるかしら山岡さんたち
佐竹派のヤクザたちの眼が山岡と悦子に集まる
困るのよ香月セキュリティ・サービスをクビになった人が在籍時に得た情報をお土産にして、ヤクザさんに雇われるなんていうのはあなたたちみたいな、みっとも無い人たちを、閣下にお見せするわけにはいかないのよ悪いけれど
あなたたちは、ここで処分するわ
ざわつく佐竹グループ
他の東と南の座席はみんな黙って、注視している
オイイイッヘイ・チィィックこいつらは、今はウチの人間だぞっウチの人間を、何の挨拶も無しに勝手に処分するつもりなのかぁぁあああーんっと、会長が怒ってらっしゃいまっせぇぇぇぇ
DJ・キンゾウが喚くが
ただお金で今だけ雇っているっていう関係なんでしょあなたたち、別に山岡さんたちと杯を交わしたわけでもないんでしょ
冷静に翔姉ちゃんは、言う
正式に杯を交わして親分子分の関係になったっていうのならともかくそうじゃあ、無いのよね
佐竹会長は、ギロッと翔姉ちゃんを睨み
キンゾウの耳に、ボソボソと呟く
ワシは懐に入ってきた猫は、大事に可愛がってやる性分だこの2人に手を出すっちゅーことは、ワシと雲龍会山森組を敵に廻すっちゅーことやどそれでもエエんかいのぉぉと、会長は言うてまっせ
翔姉ちゃんは、クスッと笑って
あらあら、お馬鹿さんなの、あなたはもうとっくに敵に廻しているわよ、わたくしたちは貴方たちをだから、今から手打ちをやるってことになっているんでしょ
そうだ香月セキュリティ・サービスと佐竹会長は、すでに対立している
わたくしたちが、こうやって式典を仕切っているからそんな風に勘違いしちゃったのかもしれないけれど山岡さんたちの問題だって今回の手打ちで解決しないといけない問題の1つでしょ山岡さんたちを通じて、わたくしたちの情報を知ろうとしたことは香月家に対する重大な敵対行為ですからね
相手の情報を盗み合うっていうのはどこでもやっていることだお互い様だろと、会長は言うてまっせ
ええ、水面下でのスパイ活動ならこちらも文句は言わないわでも、堂々と山岡さんたちを雇い入れるっていうは、どうなのかしら
きちんとした正規雇用だこいつらにも、職業選択の自由がある前の雇用先がガタガタ文句をつけてくるような話じゃねぇと思うがと、会長は言うてまっせ
ああ、判ったわじゃあ、正直に言うわよ
気にくわないのようちを首になった人間が、こんな風にチョロチョロされるのがだから2度と、こんなことができないように、皆様の前でブッ潰したいのよ
どっちがヤクザか判らないのぉ
南側の見届け人席の老人がそう呟いた
あーら、ヤクザはあなたたちでしょわたくしたちは、違うわ
ヤクザよりも、高尚な人間だと言うのかね
見届け人の老人が、不快そうに翔姉ちゃんを見る
いいえそういうことではありませんわ
翔姉ちゃんは東西南の全てのヤクザたちを見て
わたくしたちはあなたたちも、残酷なだけですわ
そして
山岡さんたちを引き出して
会場の壁際に居る香月セキュリティ・サービスの警護員たちに命じる
ふざけんなっ、この野郎
テメェらの勝手にはさせねぇぞ
佐竹の一派のヤクザが、口だけでは抵抗しようとするが
待って下さい皆さん
山岡が席を立つ
あのこれは、私たちの問題で私たちのせいで、佐竹会長や皆さんにご迷惑をかけるわけにはいきませんから
あ、あなた
山岡を見上げる悦子
お母さんがあの人をあなたって呼んだ
工藤遙花には、それがショックだったらしい
行こうそれしかない
山岡の言葉に
あなたって人はこんな時まで、良い格好をしようとするんだから
だって、しょうがないだろうこうまで追い詰められたら
だから、あたしが昨日のうちに、逃げだそうって言ったんじゃないですか
仕方ないだろう契約期間中なのに、夜逃げなんかしたらもう何処の組織へ行っても、雇ってもらえなくなるぞ
ご安心下さい今後、山岡さんたちを雇うなんて組織は、世界中のどこにもありませんから
翔姉ちゃんが告げる
正確にはあなたは、もう働けなくなりますから香月に泥をかけるようなことをしでかしてノウノウと生き続けられるわけがないですわ
いやわ、私は
ヘロヘロと腰が抜ける、山岡
皆さんによく見えるように、正面に引き出して
香月セキュリティ・サービスの警護人が、10人ほど山岡たちの連行に向かう
みんな体格の良い、見た目からして屈強の警護人タイプの男たちだ
味方が50人いても佐竹たちは、10人の警護人たちに抵抗しなかった
ああ、やっぱり
ギャーギャー喚いているのは、虚勢なんだな
そのまま山岡と悦子は、中央の開けた空間に引き出される
この2人への処罰は、あくまでも香月セキュリティ・サービスの内部のことですこの場をお借りして、皆様にお見せするのは大変心苦しいのですが式典の進行上、どうしても外せません
翔姉ちゃんはマイクに言う
そこで少しでも、会場内の皆様に楽しんでいただけるようこの処罰には、いささか趣向を用意致しました
趣向
しょ、処罰って何よ
オレの隣の席で工藤遙花が、呟く
お母さんどうなっちゃうのよっ
オレの腕をギュッと掴む
工藤遙花は振るえていた
この2人をわたくしたちのガチムチの警護人が、数人がかりでリンチにかけても、全然、面白くは無いですわよね
翔姉ちゃんは、話し続ける
はいそれではエキシビジョン・マッチを開催致しまーす
突然、ライトの光がオレたちを照らす
女子校生女子空手チャンピオン工藤遙花さん
体育会系女子の癖なのか遙花は、名前を呼ばれた瞬間、思わず返事をしてしまった
は、遙花ぁぁみ、美智もいるの
今までは会場の雰囲気と、オレたちの席が暗かったせいで
悦子は、娘たちの存在に気付いていなかったらしい
な、何であなたたちが、ここに
唖然としてる母
呆然としている長女
美智はいつもの無表情のままだった
はいご覧の通り彼女たちは、実の親娘です
それでは、工藤遙花さんお母さんと、お母さんを寝取った憎っくき間男を、あなたの怒りの正拳でブッ倒して下さい
誰でも、あたしの指定した人の相手をしてくれることになっていたよね
マルゴさんが遙花に言う
でもそれは
ヤクザたちに輪姦されるのとここで、お母さんと闘うのどっちにする
工藤遙花はブルブルと振るえている
では皆様彼らの健闘をお楽しみ下さい
翔姉ちゃんの明るい声が広大な会場内に響いている
佐竹のビジュアルは、ボクシングのカメ*・コウ*の15年後で
大鳥のビジュアルは、麻雀放*記の作者のアサダ・テ*ヤ先生の晩年頃で
菅井きん蔵と塩沢とき蔵と大和田ばく蔵どれにするか悩みました
フランシー酒井の時も、全然受けなかったしなあ
高崎さんも
テレビの旅番組が映る度に、父のボケ対策で
この場所には行ったことがある
と、質問するのですが
ロサンゼルスの空港が映っていた時には
ああ、昔、ここの空港のロビーに行ったら高崎一郎が居たなあ
いや、向こうもたまたま旅行に来ていたんだろけれど
ああ、昔は毎日テレビに出ていたんだよなあ高崎さん
735.美智の怒り
ヤクザたちの前で工藤遙花と母親を闘わせる
母娘の闘いを、見せ物にするのか
ヨッちゃん、同情しちゃダメだからねっ
寧が、明るい声でオレに言う
顔は笑っているがオレの手をギュッと握りしめている
工藤遙花は5月の時に、娼婦を小馬鹿にした
美智に負けたら、1度だけ身体を売るという賭に乗ったのも遙花
そして、香月セキュリティ・サービスへの推薦を狙って今日、黒森の屋敷に身体を売りに来たのも遙花本人だ
一方上司の山岡と不倫したあげく、2人揃って谷沢チーフに香月セキュリティ・サービスから叩き出され
自分の子供たちのところへ戻らず山岡と一緒に、ヤクザの元に身を寄せていたのが、遙花の母親だ
しかも香月セキュリティ・サービスの内部情報を手土産にして
自業自得な人は助けちゃいけないんだよっ
寧が、オレにそう囁く
どうしたの女子校生空手チャンピオンの工藤遙花さん早く、中央に出て来なさい
翔姉ちゃんのアナウンスが会場に響くが
遙花は、オレの横でブルブル震えている
あなた香月セキュリティ・サービスに就職したかったんじゃないのあなたのお母さんとそこのオジサンは香月セキュリティ・サービスにとっては、裏切り者よ公の場で処分しないといけない人たちなの
例え実の母親だろうが、指令が出たならば確実に処理するそんなこともできないようじゃ、うちへの入社なんて無理だからね
会場は急な展開にざわざわしだす
工藤遙花は、ぶるぶる振るえているだけだ
椅子から立つこともできない
あーら、しょうがない子ねぇじゃあ、お母さんたちの処理は、別の人に頼もうかしら麗華とかいっそ、大徳さんたちにでも、お願いしようかしら
マイクの前で、翔姉ちゃんがニヤニヤ笑っている
藤宮麗華に大徳って
大徳ってあの大徳だろ
おいおい、娘の眼の前で母親をブッ殺す気かよ
西側佐竹の配下のヤクザたちが、騒ぎ出す
ジッちゃんの専任警護人である大徳さんの強さは、あいつらにも広く知られているらしい
そこまで裏社会の連中に恐れられていないと、ジッちゃんの護衛なんて、できないのかもしれないけれど
一方、東側の大鳥総裁たちと、南側の見届け人席は誰も口を開かない
ジッと、場の空気を見ている
ちょっと関さん
山岡と共に会場の真ん中に引き出された遙花の母親悦子が、翔姉ちゃんを睨む
あら、どうしたの工藤さんいえ、今はもう離婚が成立しているから、工藤さんじゃないのよね
昨日の段階で、悦子は工藤父の持って来た離婚届に判を押している
あ、あのあたしが、娘と闘って勝ったらあたしとこの人を解放してくれるって、約束していただけませんか
40過ぎの元・女警護人がそう言った
この人と呼ばれた山岡はただ、怯えているだけだった
そんな取引にわたくしが乗ると思って
翔姉ちゃんは、低い声で悦子に答える
これは、あなたたちの処刑なのよ刑を受ける人が、条件を出すとか正気とは思えないわね
それを何とか
悦子は、山岡を抱き締める
あたしは、どうなってもいいですからせめて、この人だけでも助けてあげて下さい
え、悦子
山岡が、か細い声で呟いた
そう言われてもねえあ、ちょっと待って
マイク前の翔姉ちゃんが耳に填めていた、インカムを手で抑える
はい、閣下かしこまりました
ジッちゃんからの無線指示
どうせ、ジッちゃんのことだからこの会場の様子は、監視カメラで眺めているんだろうけれど
閣下のお許しが出たわあなたが、娘さんに勝てば山岡さんともども、この場から解放するそうよ
ジッちゃんの許可が出た
そしてヤクザさんたちは判らないけれどわたくしたちは、もう2度とあなたたちを追い掛けないただし、2度と香月セキュリティ・サービスの内部情報を外に漏らさないという誓約だけはしてもらうけれど
す、するわ2人で、生きてここから出られるのなら、あたしは何でもします
この母親は自分と愛人が助かるためなら、娘と闘うというのか
お母さん
母親の姿に、工藤遙花は呆然としている
な、何よ、何よ、何よ
遙花の中に母親への怒りが、急激に燃え広がっていく
お母さんは家族を捨ててそんな人と家を出て行ってヤクザなんかの仲間になってその上、あたしを
怯えていた震えから憎しみの震えに、変わる
き、来なさいっ遙花っ
悦子が、娘に叫んだ
行っといでどうせ、あの人2、3発殴らないと判らない人なんだからさ
マルゴさんの言葉に、工藤遙花はスッと立ち上がる
許さないわっお母さんなんて大っ嫌いっ
そのまま、ドカドカと母の居る会場中央へと向かう
悦子さんて、40過ぎぐらいだよね
それぐらいの年齢になると色々と迷うらしいよ
迷う
インドのお寺とかでさ修行僧として、一生、お寺で仕えている人たちがいるだろやっぱり、修行は辛いし俗世への未練があるから、お寺から逃げ出す人も多いんだそうだよ一番多いのは、出家したての10代の子たちだけど次に多いのは、40代なんだってさ
40代そんな年齢になってから、お寺から脱走する
40代ってのは人生をやり直せる最後のチャンスみたいに思えるらしいよその年齢になると、そう感じるんだってだから、それまで20年以上、お寺で修行していたようなお坊さんが、突然、いなくなったりするんだって
マルゴさんは、工藤遙花の背中を見ながらそう言う
そういう40代のお母さんの気持ちをあの子に理解しろっていうのは、無理なんだろうけれどねあのオバサンにとっては、山岡さんとのことが最後の恋に感じられているんだろ幻想だけど
うんオバサンは、恋している自分に酔っちゃっているけれどオジサンの方は、ただビクビクしているだけだもんねあれは恋している男の顔じゃないよ
マルゴさんの言葉に寧が答えた
大きく溜息を吐いて姉がいなくなったオレの隣の席に、美智が座る
みんな馬鹿ばっかりですわ
オレは、美智の身体を抱いてやる
はーい、遙花さんが到着しましたじゃあ闘ってもらおうかしら
遙花と母親が対峙する
あ、確認しておきますけれどいわゆる、普通の空手の試合の一本勝ちとか、そういうのは求めてませんからねどっちかが意識を失うまで徹底的に闘ってもらいますいいわねっ
遙花っ悪く思わないでねっ
悦子が構える
セェェェイッお願いしますっ
遙花は現役女子校生らしく、礼をしてから構えを取った
ツァァァァッハァァハァァァァッ
いきなり、悦子が娘に襲いかかる
ンンッツッハッ
母親の突きと蹴りを、軽やかに躱す遙花
うおうスゲェ
おお、やっぱ、いい動きをしているなぁ
さすが、女子校生チャンピオン
佐竹グループのヤクザたちが、歓声をあげる
つーか、ハイ・キックしろよハイ・キック
そうだよ、パンツ見せろよっ
女子校生っ今日のパンツは何色だぁぁ
そんな男たちの野次に
遙花の動きが、一瞬鈍る
その隙を突いて悦子が、蹴りを繰り出すが
遙花にサッと避けられ、逆に腰を蹴り飛ばされる
グゥゥッ
腰を押さえてしゃがみ込む、悦子
お母さんあなた、この4ヶ月、全然、稽古していないんでしょうっ
遙花は叫んだ
何なのよ、そのヘッビリ腰はあたしに、空手を教えてくれたのはお母さんでしょ前だったら、こんな蹴り食らわなかったはずよっ
悦子が、ギッと娘を睨む
あたしは生きるのに精一杯だっただけよ空手の稽古なんて、している余裕は無かったのよっ
嘘よどうせ、その男とイチャイチャしてたんでしょっ汚らわしいっ
遙花ぁぁあんた、親を批判するつもりなの
都合の良い時だけ、親を名乗るなぁぁっ
今度は、遙花の方から母親に仕掛ける
しゃがみこんでいた母親の顔面を狙った蹴り
だが、悦子もギリギリで身体を躱す
しばらくは、ドタバタとした攻防が続いた
おいおい、何やってんだぁ
空手は、一撃必殺だろっ腰が引けてんだよっ、腰がっ
ていうかパンツ見せろよ、女子校生
なかなか決まらない親子の空手の闘いにヤクザたちの野次が酷くなっていく
マズイね遙花さん、手加減しているから
やっぱり、自分の母親を倒すというのに、抵抗があるんだと思うよ
そう言われてみると
確かに、遙花の攻撃はことごとく踏み込みが浅いように思える
最初から、悦子に致命傷を与えられない位置からしか、蹴りも突きも繰り出していない
お母さんの方は必死なだけだけどね
やはり悦子の方は稽古不足だ
身体の動きが悪すぎる
あっという間に、ゼェゼェと荒い息になっているし
一方、遙花の方も汗まみれになっている
だが、現役選手だけあってスピードは、まったく衰えていない
ティヤァァァァ
再び遙花が、踏み込んでいく
悦子が、足をもつれさせた
つんのめって転びそうになる
ちょちょっと、お母さん
慌てて遙花が、母親の身体を抱き留めた
遙花、ごめんねっ
悦子の転倒はフェイクだった
遙花の下腹部に、ドカッとパンチを叩き込むっ
ウギャァァッ
激痛に苦しむ工藤遙花
このまま、悦子が急所を攻撃すれば遙花が負ける
だけど、悦子の方も疲労の限界に達していた
悦子は腹を押さえて苦しんでいる娘の背後に廻り込み、身体を押さえ込んだ
あなた早くっ
悦子が山岡に叫ぶ
早く、この子を攻撃してっ
山岡に遙花のトドメを刺させようっていうのか
お、お前それは
いいのよっ勝たなきゃ勝たなきゃ、あたしたちの未来は無いのよっ
悦子の顔は鬼のようだった
この子には、後で謝るから
そういう問題なのか
おいおい、汚ぇぞぉぉぉっ
それが母親のやることかぁぁ
ヤクザたちから、ブーイングが起きる
いいのよっ勝つのどんな手を使ってでも、勝てば閣下は、あたしたちを見逃して下さるわよっ勝たなきゃダメなのよ
全てのブーイングをかき消す勢いで悦子が喚いた
美智ちゃんエクスキューション
翔姉ちゃんの声が響く
ミチ行っとイデ
はい片付けて参ります
スゥッと、立ち上がる
Darlingの隣の席は取っといてアゲルネ
お願い致しますご主人様、行って参ります
美智は、オレにぺこっと頭を下げて会場中央へと向かう
さっきの威力偵察の時、美智はオレたちと一緒でなかった
ということはすでに、こういう展開になることを見越して
翔姉ちゃんたちから指示を受けていた
おいおい何だ
また、小っちゃい子が出て来たぞ
壁際の暗い空間から現れた、小柄な美智の姿にヤクザたちが気付く
わたくしの名は、工藤美智15歳、中学3年生ですっ
美智が、会場全体に叫ぶ
遙花を押さえつけている悦子が美智に振り向く
み、美智ぃぃぃあ、あんた、何をするつもりなのっ
あなたの勝利条件は娘に勝つことでしたね
そうだそして
わたくしは、あなたのもう1人の娘です
ブワッと、美智の身体が加速するッ
バカッ美智止めなさいっ
姉の遙花が、美智にそう叫んだ時には
美智の跳び蹴りが、母親の頭にキマっていた
ぴぎっ
遙花を抱えたまま悦子は、失神した
ジョワァァァァ
そのまま悦子は、失禁する
アレは工藤流じゃないネアタシの技ネ
イーディの暗殺教団の技
見た目は派手だけれど気を打ち込んで、失神させているネだから、そんなに身体へのダメージは無いヨ
その代わり、アレを食らうとああやって、オシッコを漏らしちゃうんだけれどネ
あ、あんたぁぁ美智ぃぃぃ、あんたって子はぁぁ
ようやく、姉の遙花が腹部を押さえたまま、ムックリと立ち上がる
自分のお母さんに、何てことをするのよぉぉぉぉっ
強い憎しみの感情を妹に叩き付けた
姉上こそっ
美智は、同じだけの感情を姉に叩き付ける
いつまで、母上を見せ物にしておくおつもりなんですかっ
妹の言葉に遙花は、愕然とした
あたしがお母さんを、見せ物に
美智は、ジッと姉を睨んでいる
そうねあなたとお母さんの力の差は、歴然としていた仕留められるなら、さっさと仕留めてあげるのが本当の優しさだったと思うわ
姉上も母上も武に生きる覚悟が、できていらっしゃらないです
口惜しそうに、美智はそう呟いた
遙花には判るだろうか
美智の心が伝わるだろうか
何だ、何だ結局、中学生に瞬殺かよっ
あのオバサンずっと偉そうにしてたけど、何だよメチャ弱じゃねぇか
いい歳したババァのお漏らししか誰得なんだよっ
あーあー、キッタネェなあ
ホント娘に負けるとか、みっともねぇなあ
ていうか、パンツ見せろよオメェら、サービス悪いぞ
佐竹のヤクザたちが、そんな野次を飛ばした瞬間
美智が風の様に走り出す
ブワッとジャンプする、美智
スカートが大きく、捲れ上がって
おおお、中学生のパンツゥゥゥかぁぁ
ヤクザたちは、美智のスカートの中を覗こうと身体を低くする
レッドビュート
美智のスカートの中から、赤いムチが迸るっ
グェェッ
ガバァァ
ゲボボッ
ムチの先端が次々と、ヤクザたちの額を打ち抜く
わたくしの母上を愚弄したのは、貴様かぁぁっ貴様と、貴様と貴様もだなぁぁっ
ビュウウウンッ
ビュンッ
ビュッッンッ
赤いムチが野次を飛ばしていた男を、適確に葬っていく
おいいっ、コラぁぁやめろぉぉぉぉ
佐竹会長の側近、DJ・キンゾウが叫ぶが美智は、攻撃を止めない
ムチの一撃で、確実に1人ずつ倒していく
ヤクザたちは、いいかげんな態勢で座席に座っていたから突然の攻撃に、逃げることもできなかった
お前で最後だぁぁっ
赤いムチが唸る
全部で20人近くが打ち倒された
こいつらみんな好き勝手に野次ってたからなあ
以上
美智は、そう言うとクルッと佐竹たちに背を向けて、スタスタと歩き出す
おおーぃっちょっと、待たんかぁぁいっ
DJ・キンゾウが美智を呼び止める
汚い物で見るように振り返る美智
テメェ、こら、小っちぇのっオメェ、ヤクザ相手にこんなマネして、ただで済むと思っているのかぁぁっ
スゴむ、キンゾウに美智は、冷たく
それあなたの意見それとも会長さんの
キンゾウが、佐竹を見ると
佐竹き、コクンと頷いた
会長の意見じゃあああっ会長が、そう言ってまっせじゃゃあいっ
美智は、手にした赤いムチをパチンと打ち鳴らす
では全滅するまで、やりますか
その小さな身体から発せられる気合いにヤクザたちは、沈黙する
あら佐竹さんの組は、中学生の女の子とも戦争するの
翔姉ちゃんがマイクで、クククと笑う
カッコ悪ーい
その一言に佐竹たちは、さらに意気消沈する
一応、言っておきますけれど美智ちゃんは、香月家の後継者、香月みすず様の専任警護人ですですから美智ちゃんの敵は、香月家の敵と見なします美智ちゃんに手を出すことは、香月家と真っ正面から闘うことだと思って下さいね
美智はまだ、ムチをペチペチ鳴らしながら佐竹たちを睨んでいる
まだ、やりますか
佐竹は
ボソボソと、キンゾウに耳打ちする
いや、もういいあっちへ行きやがれと会長が言うてまっせ
美智は、ペコリと頭を下げて再び、会場の中央へ
そこには、気絶した母を介抱している姉と
母を寝取った間男山岡が残っていた
あ、美智ちゃんその男の相手は、しなくていいわ
翔姉ちゃんが声を掛ける
山岡さんの処分はわたくしがするから
そして、マイクから離れて
会場中央へと歩いて来る
山岡さんも知っているでしょ今は、わたくしが香月セキュリティ・サービスの現場責任者だってこと
翔姉ちゃんは告げる
えあ、ああ
山岡は、すっかり頭の回転が止まってしまっているようだった
そういや、こいつは
シザーリオ・ヴァイオラの時も、想定外の出来事が起きると思考停止して、何もできなくなっていたっけ
判る前の警備部長だったあなたの職務を今は、わたくしがやっているわけだからねあなたは、このわたくしが直々に処分してあげるわ
いや関くん私は
しばらく見ないうちに、ずいぶんだらしのない身体つきになっちゃったのね遙花さんが言ってた通りあなたたち、この4ヶ月、トレーニングを怠っていたわね
いやあの済まん、話を聞いてくれないか
山岡は、そんなことを言い出す
いや君じゃなく、できれば閣下いや、閣下は無理だろうから谷沢チーフ谷沢チーフと話をさせてくれっ
今、言ったでしょ今は、わたくしが現場責任者だって
翔姉ちゃんは、ニヤリと微笑む
あなたの処分なんて、つまらない案件はわたくしのところで、全部処理しておかないといけないのよあーあ、メンドくさい
ズバァァァッ
速い
翔姉ちゃんの蹴りが山岡の股間に炸裂するっ
うげぇぇぇぇぇぇぇっ
痛みに崩れ落ちのたうち回る、山岡
あなたみたいな男は男を止めちゃいなさいよっ
ドゥカカッ
鋭い蹴りが何発も、山岡の股間に当たる
翔姉ちゃんは、元は大徳さんたちと一緒にジッちゃんの専任警護人だった人だ
特に、その攻撃のスピードはスバ抜けていた
やめろぉぉぉぉっ潰れる潰れるぅぅっ
あら潰しているのよっ
翔姉ちゃんは、容赦しない
のたうち回る山岡の股間を蹴り続けている
まマジかよ、あの女
さっきまで、ただの総合司会だと思っていた美しい女性が
恐ろしい処刑人であったことに、ヤクザたちは愕然となっていた
はーい、フィニッシュ
ギョエエエエエエッ
山岡は悶絶した
女にオチンチンを跡形も無く踏みつぶされたんじゃこの先、裏社会では生きていけないわよね
そして同じく、気絶している悦子を見る
中年同士の恋も、ジ・エンドめでたしめでたしよね
翔姉ちゃんは残酷そうに、微笑んだ
エクスキュージョンだと思っていたら
エクスキューションらしい
オーロラ・エクスキューションは、オーロラ処刑という意味か
いや、意味不明だけれど
車田先生は、りんぐにかけろの時も、必殺技の名前にスカイ・トリプル・ダンシングという翻訳不可能な名前を付けているし
そういえば、サーベルとセイバーは同じ言葉なのに
ビーム・サーベルを持つ、セイバー・ガンダムという不思議なことが起きたりもする
※2013/12/08 私の勘違いでしたセイバーガンダムのセイバーは守護者の意味だそうですスペルも違う
セイバーとサーベルが被っているのは、エルガイムの光剣とガンダムの光剣だそうです
セイバーが英語で、サーベルは何とオランダ語
736.高い城の男
この2人邪魔だから、外に出してくれるかしら
翔姉ちゃんの声に、香月セキュリティ・サービスの屈強な男性警護員が4人ほど現れる
そのまま2人ずつ、山岡と悦子の上半身と足を持ち上げてそのまま、西側の扉へと運んで行く
わざと佐竹たちのヤクザ・グループに見せつけるように
ひ、ひでぇぇぇ
ありゃ、マジで金玉が砕けてるぞ
つーか竿だって、跡形も無ぇんじゃないか
え、エゲツないことをしやがるぜあの女
でも、あいつ動きがタダモンじゃねーよ
みんな翔姉ちゃんの力と残酷さに、震え上がっている
お、お母さんっ
工藤遙花が、運ばれて行く悦子の後を追う
美智、あんたも来なさいよっ
妹に振り向いて、そう叫ぶが
わたくしは、参れません
何でよっお母さんが、大変なのよっあんたのせいじゃないっ
遙花は、憎しみの限りを美智にぶつける
わたくしにはお役目が、ございますので
実の母親よりもそいつらが大切だっていうのっ
姉上わたくしはもう、警護人なのです
もういいわよっあんたのことなんか、もう妹だなんて思わないからっ2度と、ウチにも入れないから、覚悟しなさいねっ
壁際から1人の香月セキュリティ・サービスの男性警護員が、走って来る
他の警護員と同じ黒服姿だが、身体が細いまだ若そうに見えた
遙花
その男は、いきなり工藤遙花をビンタした
いい加減にしろこれ以上、家の恥を晒すな
はたかれた頬を抑えて絶句する遙花
兄ということはこの人が、香月セキュリティ・サービスに勤めている美智と遙花の兄工藤真一か
工藤父を若くしたような長身でスポーツマン体型をしている
ただし髪は短髪で、とても真面目そうな顔付きをしていた
関さん誠に申し訳ないのですが
真一が、翔姉ちゃんに頭を下げる
いいわよ、工藤くんしばらく、現場から離れることを許可します工藤くんの持ち場のバック・アップは、杉森くんが入って
壁際から声がする
照明が落とされているから、よく見えないが
この会場の壁際には、香月セキュリティ・サービスの警護員が要所要所をとり囲んでいる
母はオレと妹で運びます
真一が、悦子を運んでいる2人の警護員にそう告げる
お二人も、元の配置にお戻り下さい遙花、お前、母さんの足を持ってくれ
まって、兄さん美智は
遙花は、まだそんなことを言っている
美智さんはお役目がある
美智さんて兄さん
あの人はもう、オレたちとは別の世界の人間なんだ
今のあの人はオレやお前の何十倍も強いあの人は、その力と技でみすず様の警護人を仰せつかっているんだぞ閣下に
悪いけど今の美智ちゃんは、トップ・エリートと同じ待遇ということになっているの香月セキュリティ・サービスの内部規定でね
翔姉ちゃんが、遙花に言った
みすずの警護を任されたということは香月セキュリティ・サービスの一般警護員よりも上の立場になる
そうしておかないと、公の警護の現場で普通の警護員たちの行動が、美智の邪魔になった場合、排除することが難しくなるから
そして、今は公の場だ
実の兄であろうとも美智のことは、トップ・エリートと人たちと同じで美智さんと敬語で話さなくてはいけない
でもあの子は妹なのよあたしのっ
憮然たる表情で、遙花は美智を睨み付ける
ご不満でしたらもっと強くなって下さい姉上
美智がいつもの無表情で姉に告げる
姉らしく、振る舞いたいのでしたら
ええ、判ったわよ強くなるわよあんたより死んでも強くなってやるぅぅ
いいから、遙花母さんを運ぶぞ
工藤兄妹がヨタヨタと、気絶して失禁した母親の身体を運んで行く
やがて、西側の扉の前に
扉が少しだけギィと開いて山岡ともども、外に運び出される
再び、扉が閉ざされる
美智が、キュッとオレにしがみつく
一、二、三、四、五、六、七、八、九
小さな声で、数を数えている
十もう平気です役目に戻ります
まったく、こいつは
今度は、オレが美智をギュッと抱き締める
オレもゆっくりと、数を数えた
十
最後に、万感の思いを込めて美智の小さな肉体を抱き締める
ありがとうございますもう、平気です
美智が、オレにニコッと微笑む
うん、この子は無表情よりも、やっぱり笑顔の方が可愛い
さてとお遊びは、そろそろ終わりにしていただけませんかのぉ
東側の座席で関西雷神鳳会・大鳥総裁が口を開いた
子分たち共々、今までジッと様子を見ていただけでずっと黙り込んでいたのに
あら、エキシビション・マッチは楽しんでいただけなかったかしら
マイクスタンドの位置に戻った翔姉ちゃんが大鳥総裁に言う
面白ぅおまへんでしたなぁ何もかもワシらには、関係の無いことでしたしのぉ
確かに、山岡や悦子のことは元の所属先の香月セキュリティ・サービスと、現雇用者の佐竹会長しか関係が無い
元気な中学生の嬢ちゃんとかアンタさんみたいなベッピンさんの大暴れとか、ワシの趣味では、無いんでのぉワシは女のプロレスは、よう判らんからのぉ
大鳥総裁は、美智や翔姉ちゃんの強さをプロレスに例える
それは残念ですわね
翔姉ちゃんは、笑顔を崩さない
何にしろ座興は、もうエエですわそろそろ、本題に入ってもらえませんかのぉワシも、見届けに来て下さった親分さんたちも、ヒマ人ではないですからのぉこんなことは、とっとと終わりにして関西へ帰りたいんですわ
大鳥総裁も自分のペースを崩さない
どっしりと構えて、余裕のあるように見せている
美智ちゃんが、佐竹派のヤクザの人数を削って自分たちの方が有利になったと感じたから、ああやって話し出したんだよ
マルゴさんがオレたちに囁く
そうか大鳥総裁グループ約30人と、佐竹会長派約50人だった力関係は
美智が、赤いムチで佐竹派のヤクザをシバキ倒したから
30対30の拮抗した数に変わっている
そして、見届け人のヤクザの重鎮たちは大鳥総裁に近い人たちばかりだ
一気に、この場の主導権を握れると判断したのか
ホント馬鹿だよねえどうして、香月セキュリティ・サービスが、翔お姉さんみたいな若い女性を前面に出しているのか判らないのかね
60代の大鳥総裁に40代の佐竹会長重鎮の皆さんは、みんな老齢
そういう大人の男の人たちに対して香月セキュリティ・サービスは、20代の翔姉ちゃんしか姿を見せていない
本来なら年齢的にも、重みのある谷沢チーフがこの場を取り仕切るべきなのに
何にせよ、姉ちゃんアンタさんじゃあ、話になりまへんわもうそろそろ、アンタさんところの一番高いところの人に、ご登場いただけませんかのぉ確か閣下そうお呼びしないと、ヘソを曲げられるんでっしゃろクックック
大鳥総裁は笑う
ええ、そうですわねいつまでも、わたくしがお相手では、ご不満ですわね
翔姉ちゃんも、不敵な笑みを浮かべる
それでは、皆様大変お待たせ致しました香月家当主香月重孝閣下のご登場です
翔姉ちゃんのアナウンスとともに
ゴゴゴゴゴゴゴ
大きな振動音が、部屋の中に鳴り響く
会場の北側正面を覆い隠していた大カーテンが
ズズズズズと下から上に、ゆっくりと開帳していく
オレはてっきり、この大カーテンの向こうに、ジッちゃんたちがスタンバイしているものだと思っていたけれど
多分、これは防弾カーテンとかになっていて
カーテンの向こうに、ジッちゃんが大徳さんたちに警護されてて
ミナホ姉さんや、月子、夜見子、ルナたちも一緒に居るんだと
でも、上へ上へと開いていく、カーテンの向こうは
壁だ
ただの白い壁
誰もいないというか人が入る、スペースが無い
ヨッちゃん、上だよ、上
寧が、オレに教えてくれた
上ってあああっ
ズズズズズ
大カーテンが、上がっていく先
この体育館みたいに、でっかい大宴会場の壁の上方が
ガラス張りになっている
いや、あそこに部屋が、ある
宴会場に居るオレたちをまるで上から、覗き込むように
VIP用の特別室だよ
ちなみに、あのガラスは防弾だしこの会場内で、毒ガスなんかを蒔いたとしても、あの部屋には届かない完全に防御されているんだよ
そして、そのガラス張りのVIP室の大きな窓に
スーツ姿のジッちゃんとお揃いの巫女衣装の鷹倉3姉妹が現れる
ああ、ジッちゃんの背後には大徳さんと張本さんの巨体が見える
谷沢チーフが、部下に椅子とテーブルを運ばせている
ジッちゃんは、どっしりと椅子に座った
こちらを見下ろしている
サイドテーブルには、冷やしたシャンパンも置かれていた
それから、ジッちゃんが鷹倉姉妹にも、椅子を勧める
谷沢チーフの部下が、月子たちの椅子も運んで来た
3人姉妹が並んで座る
ああ、彼女たちの後ろに男装のレイちゃんが、撲殺ステッキを持って立っている
うーん、シャンパンのボトルかあたしだったら、演出として香月のおジィちゃんに猫を抱かすね黒い猫それと、赤ワインのグラスと親指で大きな金貨を弾いてるとか
寧が、そんなことを言う
とにかく、オレも、会場に居るヤクザたちもみんな、高い位置のVIP室のジッちゃんを、呆然と見上げるしかなかった
谷沢チーフがジッちゃんに、恭しくマイクを差し出す
ジッちゃんは、マイクを受け取って
今日は、わざわざ済まんね関西から出向いてもらって
そして下階に居るヤクザたち全員に告げる
私が香月だ
一瞬、スピーカーから流れるジッちゃんの低い声に皆、威圧されるが
どういうことなんですかな
大鳥総裁がはるか上のジッちゃんを見上げて、言う
ワシは、手打ちと聞いて、わざわざ東京くんだりまで来たんですがね
ああ、そうだともこれは手打ちの会だ関くんの開会宣言を聞いていなかったのかね
ジッちゃんは、眠そうにそう答えた
東京じゃあ、どうなんだか知りませんがねワシらの世界では、手打ちっていうのは、膝と膝をつき合わせて同じ目線でやるもんちゅうことになっているんですがね
そうなのかね谷沢
ジッちゃんは、トボケて谷沢チーフに尋ねる
まあ、そんなことはどうでもいいだろう私は、君たちの風習には、全く興味が無いからね
はっきりとそう言う
アンタが、そこから降りて来ないんならワシは、帰らせてもらいますわっ
大鳥総裁が、席を立つと同時に30人の子分たちも、一斉に立つ
ヤクザもんかと思うて、ナメた真似をする相手と手打ちなんざ、できませんからのぉぉっ
ジッちゃんはガラス越しに、クククと笑う
何がおかしいっ
叫ぶ、大鳥総裁
よさんかい大鳥ぃぃぃぃ
南側見届け人に座っていた、老齢のヤクザが声を掛ける
紋付き袴の和服に真っ白な髪
年齢は、大鳥総裁よりも上だろう
止めてもムダですわ坂上の親分さん一寸の虫にも五分の魂この大鳥誠士郎は、男でござんす
大鳥は、キッとジッちゃんを見上げて
香月家だか何だか知りませんがのぉヤクザを怒らせたら、いけませんでぇぇのおおおっ
総裁の言う通りだぁぁ
ヤクザをナメるなぁぁ
ば、馬鹿にすんねいっ
東側のヤクザ・グループは、結束してジッちゃんを威圧しようとする
済まんね私は見ての通りの世間知らずだからね
ジッちゃんは、片手で側に居る警護員に指示してシャンパンを開けさせる
な、何やっているんだあいつ
ば、馬鹿してんのかっ
そして、グラスにシャンパンを注がせて美味そうに、飲む
ところで、教えて欲しいんだがヤクザというのは、どういう商売なのかね
ななな、何だとぉぉぉっ
ば、馬鹿にしやがってっ
ジッちゃんは、クンクンとシャンパンの匂いを嗅ぎながら
いや、本当に知らないのだよヤクザというものは、何を売るものなのかね誰か、私に教えてはくれないかね
大鳥が答える
ご存じないのなら教えて差し上げましょかぁぁっヤクザっちゃうものは男を売るもんでさぁぁっ
ほほう男を売る
ああ男としてのメンツを看板にして、商売しているんですわっアンタみたいな、エエとこのお大尽には、判らんことかもしれませんがのぉぉ
そうでぇいワシらは、男じゃあいっ
馬鹿にするんじゃねぇぞっ
そこの男は、そう言っているが坂上くん、君はどう思う
ジッちゃんはさっき大鳥を止めた、白髪の親分に改めて尋ねる
ハハッ香月閣下に申し上げまするっ
坂上親分は、恭しく頭を下げた
ヤクザというのはサービス業の1つであります
サービス業
ヤクザというものは自らのコネクションを活用して、世の皆々様のご依頼になった案件を円滑に処理するというのが、主たる仕事でありますっ
そうなのかね彼の説明よりも坂上くんの方が、具体的で判りやすいね
白髪の親分は、また深々と頭を下げる
他にも我々の業界の言葉では、シノギと申しますがおおよそ、金になることでしたら遵法違法を問わず、どんなことでも致しますしかし、基本的に善良なる世の一般市民の皆様には、ご迷惑を掛けてはならないというのがお題目になっております現実にはあまり、守られてはおりませんが
うーんそうらしいねぇ私も、一般的にはヤクザとは違法行為を働いて、一般市民を苦しめるアウトローの集団だと思っていたが
はい、確かにそういう側面もありますが我々は、我々でしか解決できない問題について独自のスタイルで解決するという必要悪として、これまでこの国の中で永らえることを許されて参りました
ほう、必要悪本当に、必要なのかね
ジッちゃんは、意地悪く答える
ええっと、それはあの戦後間もない頃に日本の警察が役に立たない、市民たちを全然守れなかった時代に不良外国人やアメリカ兵と闘っていたのが我々であり
それは、ヤクザの成り立ちについてだろう私が聞いているのは現代においても、まだヤクザというものは必要なのかということだよ
口籠もる坂上親分
21世紀の今ヤクザというものが、必要悪でなく、ただの悪であるのならこのまま、日本にはびこらせておくわけにはいかないだろう
いや、あのちょっと待って下さい閣下
白髪の老人は、慌て出す
君は最初にヤクザとは、人々の依頼に応えるサービス業だと答えたそのサービスを行うにあったって違法な行為暴力や脅迫などを行使することもあるのかね
しばしば、あります
ではその問題というのは、君たちがどうしても違法行為を働かなければ解決できないようなことばかりなのかね
それはあのケース・バイ・ケースというか
君たちが介入することで問題が、よりややこしくなることは
それもたまにはございます
そんなことでは、サービスの提供者としては失格だと思うね君の話を聞いている限りはヤクザを活用した方が、問題の解決がスムーズにならなくなるケースの方が多そうだ
いや、そんなことは閣下
どんな商売も顧客の満足が第一だろう信頼もそこから生まれるしかし、君たちの商売のやり方は顧客よりも、君たち自身の利の方に重きを置いているような印象を受けるね
判るかね坂上くん君たちは今、瀬戸際にいる
瀬戸際で、ございますか
そうとも君は、今、この場で明快にヤクザの必要性について、私に説明しなくてはいけない現代の日本でのヤクザが存在することで、どんなメリットがあるかをだ
ヤクザの必要性
そして、必ず私を納得させてくたまえそうしてくれないとヤクザが、ただの悪でしかないのなら、私は全力でこれを滅ぼさねばならない人間は、がん細胞とは共生できないからね
ジッちゃんの重々しい声が、会場に響く
あ、アンタさんはヤクザを根絶させられるとでも、思っているんですかの
呆然とした表情で大鳥総裁が、ジッちゃんに言う
馬鹿なことを言うなっ大鳥っ香月閣下だぞっ
慌てて、坂上親分が叫ぶ
そうだとも君は私が誰だか判っていないのかね馬鹿にしてもらっては困るよ
ジッちゃんが、クククッと苦笑してシャンパンを飲み干した
まあ君のような立場のヤクザでは、私のことを詳しく知らないのも仕方がないことなのかもしれないがね
すぐに男性警護員が、ジッちゃんのグラスにシャンパンを注ぎ足そうとする
いや、今はいいこれから、ちょっと込み入った話をするからねまた後にしよう
そして、再び坂上親分を見る
坂上くん今の問いの答えは、今日の会の終わりに聞こうそれまで、よく考えておいてくれたまえ
は、はぃぃぃ閣下ぁぁ
坂上親分が、大きな声で返事をする
さてと大鳥くんと佐竹くんだったね大変、お待たせして申し訳ないでは、そろそろ手打ちとやらを始めようか
広い会場はシンと、静まり返る
もっとも手打ちというのが、何をするものなのか私には、よく判っておらんのだがねフッフッフ
大鳥総裁は
わ、判りましたとにかく、アンタさんはヤクザではないヤクザの常識や、因習に囚われる必要は無いそういう、ことですわな
ビビリながらも何とか、自分のペースに流れを変えようとする
ですからのぉアンタさんが、そうやって高いところから見下ろしてらっしゃる件は、気にせんでおきますわどうぞ、お好きになさってて下さい
ジッちゃんは、笑顔で答える
で今回のことは、そもそもは佐竹の野郎が、ワシらの領分である鷹倉神社に手を出したことですわ
そうらしいね
あいつが、神社の神主と巫女を殺して乗っ取りましたそれが、そもそもの原因ですわ
大鳥が佐竹を指差す
ワシらばっか悪いように言うんじゃないわぁぁっ
佐竹会長の代わりに巨漢デブのDJ・キンゾウが叫ぶ
と、会長が言うてまっせ
しかし、事実やろ鷹倉神社はワシら関西のヤクザが、長年に渡り大切に守ってきた場所じゃ聖地じゃそれを、オメェらは土足で汚しやがって
大鳥総裁が佐竹を睨む
そんで、まあ神主と巫女の娘さんたちが、どういう手違いからかワシらでなく、香月さん、あんたに保護を願い出たんですわなこれもまた大きな間違いでしたで
間違い
今回の件は関西の関西ヤクザの中でも、ワシらの中だけでの揉め事ですわよそ様のお助けをお借りするようなことでは、ございませんわそんでまあ何やら、色々と行き違いがあって、アンタんとこの兵隊香月セキュリティ・サービスさんですかのこの人たちと、ワシのとこの兵隊が、カチ合ったりもしましたが何もかも、思い違い、勘違い、行き違い情報の交通整理ができなかっただけですわ
大鳥は、ジッちゃんが手強いと感じて作戦を変えてきた
それでまあワシの方に、ぎょうさん怪我人も出ましたみんな病院でウンウン唸っとりますわホント可愛そうですわワシとしては、できることならアイツらのために、アンタさんから治療費と慰謝料をいただくつもりで、東京までやって来ましたでも諦めますわ
ニッとジッちゃんに、微笑む
どうもワシらの方にも、いくばくか悪かったところもあったみたいですしの東京に、何の挨拶も無しにたくさんの兵隊を送り込んだわけですしのなるほど、ワシにも落ち度があったですから香月さん、アンタさんとのことは、こうして頭を下げます謝りますわワシらが悪うございましたこれでワシとアンタさんの間のことは、綺麗さっぱり水に流してはいただけませんでしょうかのぉ
ふんそうだね君が殊勝な態度に出るというのなら私に対する数々の非礼は、忘れてやってもいい
ありがとうございますわでも、香月さん
ニタニタした笑顔から大鳥総裁は、牙を剥く
そこにいる3人鷹倉家のお嬢さんたちは、こっちに返していただきますぜぇぇその子らはワシらの鷹倉神社を奉る関西ヤクザのものですからのぉぉぉ
ガラス越しに月子たちが怯えているのが、判る
その子らにはいずれ、神社の次の巫女を継いでもらわんとあきませんからのぉぉぉ
そうそうさき、アンタさんは盛んに遵法とか言うてましたのぉぉ言うておきますがそこに居る、鷹倉月子の父親はワシですがな
ニタァァと、いやらしく微笑む大鳥
両親が、こんなことで亡くなったわけですしのぉぉぉこの際ですから正式に認知して、ワシの娘として戸籍に入れますわ法律上、ワシの娘ですぅぅさっさと、父親のワシに、返していただきましょうかのぉぉぉぉ
明日は、父でなく、自分の病院です
首の骨がヘルニアらしいです
それで、首が痛くて、手にしびれが出ているという
年を取るのは、辛いなあ
昔は、本でも何でも何時買ったものなのか、全部覚えていましたが
最近は
え、何でこんなものがここにあるの
ということもしばしばあります
それがまた、面白いんですけれど
737.最後の登場人物
ほほう君は、自分がここに居る鷹倉月子くんの父親だと言うのかね
防弾ガラスで守られたVIP室からジッちゃんは、大鳥総裁を見下ろして言う
その通りですがなっ何でしたら、DNA鑑定したって構いませんでワシの方はのぉぉぉ
ニターリと微笑む大鳥にガラスの向こうで、月子が怯えているのが判る
夜見子とルナが、スッと姉を支えるようにして身を寄せる
DNA鑑定したら、何が判るのかね
ジッちゃんは、平然と尋ねる
ワシとその娘が親娘だっちゅーことが、科学的に証明されるんですわっ
呆れた様に、大鳥は言う
香月さんみたいな、お偉いお方がそんなこともご存じないんですかぃのぉええですかワシが、裁判所に訴えたらこのDNA鑑定が、完璧な証拠になりますわそうなりますと、月子たちはまだ未成年者ですからのぉぉアンタさんのしたことは、未成年誘拐っちゅうことになりますのぉ鷹倉神社の神主と巫女が死んだ今このワシが、月子たちの法律上の保護者として認められるはずですからのぉぉぉ
ジッちゃんを見上げてそんなことを言う
確か、大鳥くんだったねもし、私がここにいる姉妹たちを、君に引き渡すとしたら君は、この娘たちをどうするつもりかね
そんなことは、アンタさんにお話するようなことではございませんわワシら、ヤクザの世界のことですからのぉ
強気で、大鳥総裁は突っぱねる
おい、大鳥閣下に失礼だぞっ
見届け人席の紋付き袴に白髪の老人坂上親分が、大鳥を叱った
失礼も何もワシらの世界の問題に、勝手に首を突っ込んできたのがあそこにいらっしゃるお方でっしゃろカタギの人間にワシらの世界に土足で踏みにじるような真似をされて、坂上の親分さんは口惜しゅうないんですかのぉぉ
大鳥は、見届け人たちに対しても逆ギレして見せた
月子の実父だということを公表したことで場の流れが、自分に向いたと確信したらしい
そういうチンピラのレベルのゴネが、通じるお方じゃないんだぞ
坂上親分が、大鳥を睨む
おい大鳥、オメェさんここいおるワシらを、全員敵に廻すつもりか
坂上の隣に座っていた痩せぎすの老人も、そう言う
そういう話をしてるんじゃありませんわワシは1人のヤクザもんとして、香月さんだか何だか知りませんがのぉぉカタギの人間に、こんな風に見下されてエエようにされてることが我慢できませんわこれは、ワシらヤクザの矜持の問題とちがいますか
大鳥が、VIP室に居るジッちゃんを指差し
あんなお高いところからしかも、ガラスの向こうでワシらとは、同じ空気を吸うのもお嫌らしいですのぉっ周りには、ぎょーさん警備の人間を侍らせてあんな、金と地位だけで偉そうにしているカタギの人間に、ワシらが屈服してエエんですかいのぉワシらはヤクザなんでっせ
大鳥の演説が続く
論理立てて、上手に話しているけれどあの人は、結局、香月さんのプレッシャーに負けそうになっているだけなんだよ
覚えておいて感情を露わにしている人の言葉の論理を理解しようとするのはムダだよ口が巧い人になれば、なるほどその場で、とっさに論理を組み立てて、自分を正当化するそれになるほどとか感心を示すと一気に引きずり込まれて、酷い目に合うからね言葉の内容は、理解しようとしなくていい相手の感情だけを見てどうしてこの人は、こんなに感情的になっているんだっていうことだけに、注目するんだ
なるほど話していることの内容を見ると、大鳥にも一理あるように思える
しかし、引いて額から大粒の汗をダラダラ垂らしながら、大演説を必死で続けている大鳥の姿を見ると
ジッちゃんの仕掛けた場の重圧に、完全にハマッていることが判る
このままじゃヤバイということをひしひしと感じているからあんなに大きな声で、喚いている
大鳥の内面の空虚さが判る
おい大鳥
坂上親分が、大鳥総裁の演説を遮った
オメェいつから、閣下がカタギだと錯覚している
ギョッとする大鳥
いやだってあの人は、ヤクザじゃねぇでしょうカタギじゃないっていうんなら、どこの組の人間だっていうんですかいのぉ
カタギでなければ、全員ヤクザっていうこともないんだぞ
坂上親分が言った
閣下はワシら、ヤクザより、もっとずっと恐ろしいお方じゃ
な、何じゃと
驚く大鳥に、ジッちゃんが告げる
まだ、先ほどの質問の解答をもらっていないよ大鳥くん君は、鷹倉家の3姉妹を手にしたらそれで、その後、どうするつもりかね
大鳥は
わ、ワシはワシはヤクザですからのぉ痩せても枯れても、この大鳥は一匹のヤクザですわっヤクザとしての伝統と流儀を守りますわっややや、ヤクザなんですからのぉぉぉ
ヤクザだから、どうするというのかね
ジッちゃんのプレッシャーに大鳥は、思考停止する
最初から頭の中で考えていたプランをそのまま話し出す
そそそ、それはですのぉ今回の件は、ワシと佐竹の間の抗争っちゃうことになっておりますからのぉワシらの昔からの伝統に則って、鷹倉神社で仲裁の儀を開催することになりますのぉぉぉぉ
仲裁の儀とは何だね
それは、その鷹倉神社の巫女を抗争を起こした双方の親分が抱いて穴兄弟になったっちゅうことで、全部丸く収めるっちゅうですなぁ
大鳥は巫女の力のことは、わざと隠して話している
巫女とセックスすると心の全てを読まれるということを
しかし、鷹倉神社に今、巫女はいない彼女たちの母親は、殺されてしまったからな
ジッちゃんの言葉に月子たちが、ビクッと振るえる
だからこそそこに居る子らに巫女を継いでもらわんとならないんですわっ
この子たちに、巫女を継がせる
そ、そうですがなっ当たり前のことですわ鷹倉神社の血筋に生まれた娘は、巫女を引き継ぐのが運命ですからのぉっ
大鳥の声が、どんどん大きくなる
額の汗も
おそらく、心臓の動悸もバクバクしていることだろう
アンタさんだって、そのつもりと違いますかぁっだから月子たちに、巫女さんの服を着せてるんでっしゃろそうですわなっ
大鳥は、月子たちを指差す
おお、そうですわエエことを思い付きましたわ今回の手打ちはワシと佐竹とアンタさんの3人でするっちゅうことになっていましたなどうですか、香月さんアンタさんも、ワシらの仲裁の儀に参加してもらえませんでしょうかのぉ
ジッちゃんを仲裁の儀に誘い込む
丁度鷹倉の娘たちも、3人おますしのぉ何でしたら、3人ともワシらでマワしたってエエんですわ香月さんには、最初に好きな娘を選ばせてあげますわどの子も、ベッピン揃いですやろ
君は自分の娘を、輪姦させるというのかね
低い声でジッちゃんは言った
月子は、ワシの娘である前に鷹倉神社の巫女の血筋ですわっ自分の運命は、幼いときから、よーく判ってますし覚悟もできてるはずですわそうじゃのぉぉ月子っ夜見子も、ルナも大鳥のオッチャンのために、一肌脱いでくれや小ちゃい時から、可愛がってやってたからのぉワシは、お前らのことを
大鳥の眼は、真っ赤に充血してた
もはや、ほとんど発狂寸前だ
ワシはずっと、お前たちをいつか犯すことばかり考えてきたからのぉぉ
そうかねそれは困った
ジッちゃんは、穏やかな声で答えた
君を抹殺しなくてはいけない理由が、また1つ増えてしまったよ
ジッちゃんの言葉に広い会場の中のヤクザ全員が、震撼する
どうして人間の命というのは、1人に1つしかないのだろうね例えば、君のような人間はそうだな、私は3回は殺すべきだと思うそれぞれ別の考えられる限り酷い方法でねしかし、残念なことに私は君を1度しか殺すことができない
わ、ワシを殺す
大鳥は、冷や水を掛けられたような顔になっていた
あ、アンタさんは一体、何を言うてはるんですかのぉぉ
ジッちゃんはそんな大鳥を完全に無視して
さて坂上くん、荒井くん、植木くん、森繁くんそれと、萩本くんだったね
南側の見届け人席に座っていた老齢のヤクザの重鎮たちが、一斉にスッと起立する
私と君たちの和睦の最低条件だが
白髪の坂上親分が、恭しくジッちゃんに頭を下げ
はい大鳥と佐竹、この両名の命と彼らの組織の解体この2つは、確実に果たさせていただきます
大鳥と佐竹はすでに殺されることが決まっている
うむまず、それだけはやってもらわないと困るね君たちと和睦そうそう、君たちの業界の言葉では、手打ちというんだったね
ジッちゃんは、手打ちを大鳥と佐竹とはでなく、この老人たちとする
2人だけでは足らんな、今、この場に居る彼らの手下も、全員殺せ
ななな、何を言うとるんですかぁ馬鹿か、オメェは
大鳥が、絶叫する
君が、この場で鷹倉神社の仲裁の儀のことについて話さなければ彼らの命は、救われていたはずだよ
私は鷹倉神社の巫女の秘密は、このまま抹消されることを望む
坂上親分が、代表して頭を下げる
ななな、何でじゃぁっ鷹倉神社のことは、ワシらのヤクザの中のことじゃあっヤクザでない人間が口出しすることじゃあ無ぇわっ
鷹倉神社の巫女に不思議な力があるということを、私は知っているよ
ジッちゃんは告げる
ま、まさかぁぁて、テメェ、巫女の力を独り占めにするつもりなのかぁぁっ
大鳥は、ほとんど錯乱状態で叫ぶ
そんなつもりもないよ私にはね
ししししし、信じられるかぁぁいっ
私には、そんな力は必要ないしそんな不思議な力が存在しては、困るんだよ私たちの生きるこの世界に
だから、鷹倉神社の巫女の伝統は、本日ただ今をもって断ち切ることにする不思議な力を持った巫女など、存在してはならんしそんなものが居たという記憶さえ、全て消し去らないといけないのだ
ふふふふ、ふざけんなあっ、このぉぉぉ巫女の力は、ワシらのぉぉぉ
いい加減に諦めろっ大鳥ぃぃぃっ
ドスの効いた声で坂上親分が、大鳥を制した
あの力はワシらも、結局、どう使っていいのか判らないまま、もてあましていたんじゃねぇかあげくに仲裁の儀なんちゃう、下らない罰ゲームに使っただけで
いや、巫女の力をワシらが持っているっちゅうことがワシらにとって
お前はもう死ぬんじゃぁ後のことは、考えんでいいわ大人しく、死んどけ
くっ、坂上の親分いや、他の親分さんたちもアンタたちは、そうやってワシらのヤクザの伝統を、あんな野郎に売り払おってのかっヤクザもんの誇りは、どうしたんでぇぇ見下げた野郎どもだなぁぁっ
ついに大鳥はヤクザ界の重鎮たちにまで、逆ギレを始める
ヤクザの誇り伝統そんなもん、ハナっから、大したもんじゃねぇわ
坂上親分は、そう言って西側の佐竹会長に振り向く
おい、若えの佐竹って言ったのぉっ
佐竹はドギマギしている
オメェんとこは神農様かのぉそれとも、天照大神様かいのぉ
佐竹はしばらく考えてから、キンゾウにモゴモゴ耳打ちする
そそそ、そういうのはよく判らねえって、会長は言うてまっせぇぇぇ
キンゾウの声も、ビビッて振るえていた
明治以降のヤクザは、テキ屋と博徒の系譜に別れる関東大震災や敗戦後の混乱期に、闇市を支配したのは博徒やのうて、テキ屋の組織だったからのぉ江戸時代以来の博打打ち、賭場を開いてテラ銭を稼いでいた博徒が信仰していたのが天照大神元は露天商の自治組織だったテキ屋は、商売の神様の神農皇帝を信仰していただから、ヤクザの事務所の神棚に、どっちの神さんが祀られているかを見ればその出自が判る元が博徒の系譜なのか、テキ屋の系譜なのかがな
坂上は言う
さっき、閣下にお話した通りワシら、ヤクザは戦後の混乱期に大きな役割を果たした日本政府の自治体制が全然なっちゃあいない時期に不良外人や、米兵の横暴と闘ったのは、ワシらじゃそうして、ワシらは力を拡げたしかし、その後はどうじゃ博徒は、博打で日銭稼ぐテキ屋は、細々とした商売で金を稼ぐそういう連中が結束して組織を拡大するそしたら、博徒は確実な稼ぎを求めて、テキ屋の領分の商売に手を出し始めテキ屋の方も、大金に眼が眩み、博徒の領分である賭場の経営に手を出したお互いにお互いの領域を食い合うそれが、戦後ヤクザのそもそもの抗争の発端じゃ自分がそもそも、どっちの系譜に属しているかということは自分の親がどっちなのかということは、ヤクザにとって一番大切なことだった
坂上は、大きく溜息を吐く
ところが今の若ぇ連中は、そんなことさえ知らんらしい興味も無いらしい眼の前の金儲けに夢中なだけで自分の家業の過去や伝統のことなんざ、どうでもいいのさ
だっ、だからこそ鷹倉神社の仲裁の儀は、何としても守らないとならないんじゃいっ
大鳥は、眼を剥いて喚く
そんなもんだけ守って、どうなる
坂上は一喝した
先ほど閣下が、おっしゃってたろうワシらヤクザはなぁ今や、存在することを許されるかどうかを問われているような立場なんだ今の時代もしかしたら、もうヤクザは必要ないのかもしれねえ
そんなことねぇぞ、コラァ
声を発したのは佐竹
佐竹会長が立ち上がって自らの声で、叫んだ
どんな時代になろうとよぉっ社会から、ドロップ・アウトする小僧はいるんだぞっ、コラァワリィことをするのが大好きで、悪の世界でないと生きていけない人間は、いつだっているんだぞぉっ判るかか、おらあっそういうやつらを受け入れてんのが、ワシらヤクザだろうがぁっ
確かに、そういう人間は、どんな時代にも必ずいる全ての人間が、善良な市民というわけにはいかないしかし
現代社会において、そういう脱落者の引受先が本当にヤクザでいいのかね今の肥大化したヤクザ組織が、これからもドロップ・アウトした若者を受け入れていかれるのかね
そそれはよ
オレオレ詐欺いや、今は母さん、助けて詐欺と言うらしいがああいうものの実行犯みたいなものをやらせて君たちは、若者たちを使い捨てにしていないかね
わ、若ぇうちはみんな、そうやってシノギに関わっていくんだよっ
佐竹はそう言う
それでその若者たちに、未来はあるのかねいや、10代後半や20代なら、まだやり直すこともできる君たちのところの、30代、40代の構成員たちを10年後、20年後も食わせていくだけのプランが、君たちにあるのかね彼らの老後はどうなる
そ、そんなこと考えていたらよヤクザなんか、やっていられねぇだろ
君たちが、昔のような小規模の愚連隊だった時代ならその答えでも、良かったのだと思うよしかし、時代は変わった君たちの組織は肥大化している私の眼には、現代社会には、もはや今までのようなヤクザ組織は存在できないと思っている
そんなこと言ってよオレたちがいなければ、誰が企業のケツを持つっていうんだよっ
私は自前で全てまかなっているよ香月セキュリティ・サービスは、そのための組織だ
ハッとする佐竹
わたくしたちあなたたちより、怖いし強いわよその上、余計なみかじめ料とかは取らないしね警察や公安とも対等な立場で、付き合っているわ
だ、だから何だっていうんだよっ
判らないの今まで、あなたたちが企業から請け負ってきた業務犯罪組織からの防衛や、脅迫者への対抗、他の関係者との利害組織の摺り合わせなんかはみーんな、わたくしたちがやるって言ってるのよ
お、オメェらマジで、ヤクザを絶滅させる気かよっ
慌てる佐竹に、翔姉ちゃんは言う
あらわたくしたちの手伝いをして下さる人たちだけは、生かしておくつもりよ役立たずは、全て処分するわ結局ね今の状態は、不合理なのよあなたたちが、社会に果たしているサービスよりもあなたたちの取り分が多すぎるからわたくしたちは、需要と供給のバランスを修正したいのもちろん、ドロップ・アウトした子たちの支援もするわ裏の仕事さえできないような子には、表の仕事を斡旋してあげるしかないでしょ裏にしかいないあなたたちには、そういう子たちを表の企業に紹介することはできないでしょうけれど香月家は表の企業もたくさん経営していますし、取引のある企業となったら、それこそ星の数ほどありますからね
香月セキュリティ・サービスは日本のヤクザが今やっている仕事を、全て乗っ取るつもりなんだ
そ、そんなことで、できるはずがないだろっ
あらどうして、そう思うの
翔姉ちゃんはニコッと微笑む
いや、だってオレたちと、オメェたちは違うオレたち、ヤクザは
オレたちには覚悟がある撃っていいのは、撃たれる覚悟のある人間だけだだから、オレたちは
それは、すでに銃を手にしている人間だから言える言葉よね
その理屈は武器を持っていない、一般市民を巻き込んで迷惑を掛けるだけよそういうのが好きならどうぞ、銃を持っている人たちだけで無人島にでも行って殺し合いでも何でもしたらどうかしら
口籠もる佐竹
ところで、あなたどうして、鷹倉神社の乗っ取りを企てたの
翔姉ちゃんが佐竹に優しく尋ねる
えいや、それは
どうして神主さんと巫女さんを殺したの鷹倉神社は、あなたでなくそちらにいる大鳥さんたちが縄張りにしていたわまあ、神社そのものは関西のヤクザのみなさん全員のものということにはなっていたけれど実質的には、この20年近くは大鳥さんの支配下にあった
ううう
そのことは、あなたも知っていたはずよねなのにどうして、今になって鷹倉神社を奪い取ろうとしたのかしら理由を教えて下さる
にこやかに翔姉ちゃんは、言う
そうだそれは、ワシもオメェに聞きたいと思っていた
大鳥も、佐竹に言った
佐竹よぉオメェとは、決して仲が良かったわけじゃねぇが決定的に対立していってわけでもねぇそれなのに、何で鷹倉神社をワシから盗み取るような真似をしたんじゃぁ
うっううう
佐竹は、椅子にへたり込んでキンゾウに、囁く
ええっと会長は、よう判らん何でか、そうしてしもうたと言うてまっせ
自分でもよく判らないのに
鷹倉神社の乗っ取りを決行した
月子たちの両親を殺して
オレは、思わず呟いた
巫女の力には人を自分の意のままに従わせる能力もある
そうなの自分でも、全然よく判らないうちにやってしまったのねそして、今の今までどうしてそうなったのかに、疑問を持つことさえ無かった
閣下御簾をお閉め下さい
翔姉ちゃんの声に
VIP室のジッちゃんの前のガラスにだけ、シャッターが降りていく
月子たちの前のガラスは、そのままだ
困惑している3人姉妹の様子も見える
さすがに香月さんに、直接会わせるわけにはいかないからね
誰にですか
え、もうヨッちゃんにだって判っているでしょ
はーい、こちらどうぞっ
と、香月セキュリティ・サービスの木下さんがオレたちに、小型の液晶モニターを持って来てくれた
ここから先は直接見ちゃダメだよあたしたちも、監視カメラの映像をこのモニターで観るからねっ
巫女の力はある程度の距離を取って、カメラ越しの映像で見る限りは影響を受けませんから
それでは登場していただきましょう
翔姉ちゃんも後ろ向きになって、モニターを観ながら言う
本日、最後の登場人物鷹倉清美さんの入場です
病院に行って来ました
何か、首の骨の下の方の隙間が潰れているらしいです
ただ、理学療法で治るみたい
体操を色々と習ってきました
正確なことは、来週MRI検査をしないと判らないらしいですが
最近の倦怠感と疲労感と手のしびれは、みんなこれが原因らしいです
本人はただの40肩だと思ってましたが首かぁ
生きるって、大変だなあ
ヤクザ映画やヤクザ漫画が、最近減っているのは
ヤクザという存在にロマンを感じる人や関心を持つ人が減っているんだと思います
経済ヤクザなら普通の企業ものの作品の方が面白いわけですし
半沢とか
738.黒い女/ファム・ファタール (その1)
南側の扉が、グバァっと開いた
ヨッちゃん、振り向いちゃダメだよっ
オレは、手渡された小型モニターを見る
光の中に和服姿の1人の美しい中年女性が立っていた
その顔立ちは、鷹倉3姉妹によく似ていた
月子たちの叔母鷹倉清美であることは、間違いがないだろう
彼女は、会場の中へ入って来る
清美の周囲にいる警護員たちは、大きなヘルメットを付けていた
頭部と顔を、完全に塞がれている
あれで外部の映像を、機械的に取り込んでいるんだねお互いの会話は無線通信で清美さんの声は、聞こえないようにしているんだろう
気で、相手の心を掴もうとしても声が聞こえなければ、論理的に他人を操作することはできないからね
うん明確な、イメージを言葉で示していかないと、具体的に人は動かないもんね人は、イメージで行動するから
後ろの扉が、バシンと閉ざされた
ヘルメット姿の警護員に取り囲まれるようにして、鷹倉清美が会場の中央へ到着する
申し訳ないわね直接、顔を見ないでお話するなんてわたくしは、あなたの肉声も直接聞かないようにしているわ
モニター越しに、そう告げる翔姉ちゃんも頭にヘッドホンをしていた
それと、一応、言っておきますがあなたが、不審な行動を取った場合は、すぐに射殺できるようにスタンバイしていますすでに、遠隔操作式のマシンガンの照準が、あなたとあなたの周囲の人に向いていますもしかしたら、あなたの周りの警護員がその防御ヘルメットを被る前に、あなたに支配されているかもしれないですからマシンガンを起動させるスイッチは、別室で香月セキュリティ・サービスの谷沢チーフが握っていますあなたの力の届かない場所であなたとわたくしたちの様子を、複数のカメラから観察しながら
翔姉ちゃんも、ジッちゃんも鷹倉清美を信用はしていない
オレたちはこのままで、いいんですか
オレたちも、ヘッドホン越しに鷹倉清美の声を聞くべきなんじゃないか
良信くん香月さんとミナホは、君には清美さんの肉声を直に聞いて欲しいんだと思うよ
翔お姉さんやこの場の安全を保つための最低限の人たちは、どうしても完全ガードで固めざるを得ないけれどね
うんもしものことがあるからねっ
大丈夫もし、君やあたしたちが操られるようなことが起きたとしても、何とかなるように想定してあるからさ
でも、何でジッちゃんたちは、オレにあの人の肉声を聞かせたんです
オレにはそれが判らない
声はその人の真実が見えるからさ
真実
本当は香月さんたちだって、直に会って会話したいんだよそれが、人と人の礼儀だからねでも、清美さんの力を考えたら、そんなことはできないだから、香月さんたちの分まで、君があの人の真実の声を聞いてあげて欲しいんだ
ジッちゃんたちの分まで
ミナホがここに下りて来られなかったのもそれが理由だよ
ああ、ミナホ姉さんは、おそらく
谷沢チーフと一緒に、複数のモニターでの監視をしている
清美さんの行動に怪しいことが無いか
巫女の力に扇動されて、おかしな行動を取る人物がいないか
少しでも変化があったら、即時に対応できるように
この広い会場のあちこちにある監視カメラからの映像を、何台ものモニターで監視するんだ
谷沢チーフが1人でやるよりも、普段から娼館でのモニター監視業務に慣れているミナホ姉さんも加わった方が確実に監視できる
さて鷹倉清美さんだったね
部屋の中に、ジッちゃんの声だけが響く
お手数をお掛けして、大変申し訳ございません
鷹倉清美は深々と頭を下げる
うむよく来て下さった
VIP室のジッちゃんが居た辺りのガラスは、シャッターが下りているから姿は見えないはずだ
月子たちは、どんな表情で叔母を見下ろしているんだろう
ヨッちゃん、ダメだよ顔は上げないでモニターだけに集中して
寧が釘を刺す
一瞬でも、気を許せば心が捕らわれる可能性があります
美智もオレにそう言う
鷹倉清美さん今回の事件全ての発端は、君だということで間違いはないね
ジッちゃんの低い声に清美は
はい、間違いございません
静かに、答えた
佐竹会長の心を操作し姉夫婦を殺させ、鷹倉神社を乗っ取ったのはこのわたくしでございます
やはり、そうなんだ
馬鹿なことを言うんじゃねぇっオ、オレは自分の意志でやったんだっこのオレがオメェの命令なんて、聞くわけがねぇだろっ
慌てて、佐竹会長が喚く
はい佐竹会長様が、そう思い込むようにお心を操作致しました
清美はそう言った
操られたことさえ気付かせないか
それが鷹倉神社の巫女の真なる力か
鷹倉清美はジッと正面の一点を見つめたまま
はいそうでございますこれが、鷹倉神社に古代より伝わるツキの力でございます
やっぱり人を従わせる力が、ツキの力で
人の心を読む力が、ヨミの力なんだ
月子たちは、清美に2つの力を逆の名前で教えられていた
なぜだ
ふむしかし、私の部下たちの調査によると鷹倉神社に古くから伝わってきた巫女の力は、明治までにすっかり衰えてしまっていたという話だったが
そうだ神社にそもそも居た巫女が力を失ったから
明治期に、別の力を持つ渡り巫女を受け入れたはずだ
わたくしが再現致しました鷹倉神社に残っておりました古文書と渡り巫女に代々伝わる修行法を元に
鷹倉清美は言う
君が
正確にはわたくしの内縁の夫が夫は、大学時代に歴史学を学んでおりましたつまらぬことで道を踏み外しヤクザの一員となってしまいましたが
そう言えば清美さんには、子供がいるって聞いた気がする
夫は鷹倉神社の監視役の1人となり神社に入り浸るようになりましたそして、勝手に神社の蔵を開け古文書を読み漁ったのだそうです
それはいつのことかね
30年以上前でございますわたくしは夫とは、20歳近く離れていますから
清美さんは答えた
夫は個人的な興味から、わたくしに古文書にある修行法を一つ一つ試しましたそして、わたくしが母から教わりました渡り巫女の修行法と比較してわたくしが力に目覚めるように育成したのです
そして、清美さんは強力な力を手に入れた
では、なぜ君は鷹倉神社の巫女にならなかったのかねそれだけの力があるのなら亡くなった君の姉ではなく、君が正式な巫女に就任するべきだったのではないか
どうして、清美さんは巫女にならなかったのか
それは夫が、わたくしの力を独占したいと望んだからです
清美さんは言う
鷹倉神社の巫女となればわたくしの力は、関西のヤクザの皆様たち全員のものとなります夫は、それが嫌だったのだと思います
君の力を独占してヤクザの世界で、のし上がろうと考えたのかね
清美さんは、寂しげに微笑み
いいえ夫には、そういう野心はございませんでした
夫は自分が古文書から見つけ出し、研究を重ね、そして完成したわたくしという人形を独り占めにしたかっただけですわわたくしが大きな力があることが世に知られれば大親分さんたちに取り上げられるそれが、嫌だからわたくしには、徹底して力を隠すように強要致しましたですから、皆様にはわたくしは巫女としては力足らずだと、信じ込むように力を使えと
ツキの力でヤクザの親分たちは、清美さんには巫女を継ぐだけの能力は無いと信じ込ませた
夫は強い力を持つわたくしを秘匿することにたまらない快感を感じていたのだと思いますどんな大親分さんもいざとなったら、わたくしを使って、自分の意のままに操れると
だが、実際には何もしなかった
ジッちゃんの声が問う
はい夫は、極めて小心な男でしたからわたくしを囲い込んで隠すことだけで満足しわたくしの力を自分の仕事に利用することは、1度もございませんでした
1度でも、使ってしまったら
それで、清美さんの力の存在に誰かが気付いたら
清美さんを、自分より上の立場のヤクザに奪い取られるんじゃないかと考えて
何もしなかった
ああ1つだけこれは、夫の仕事とは関係ないことですがわたくしが18歳になった時、わたくしの身柄を、夫が預かるということになったのは力を使ったからです夫の立てた計画に従ってそれぞれの親分様たちに、夫がわたくしの管理人になることをご承認していただくように働きかけました
そうか清美さんの夫は、関西ヤクザの世界では管理人でしかないんだ
だから、内縁の夫というだけで正式な結婚は、できなかった
君は、そのことをどう考えていたね
ジッちゃんが尋ねる
特にどうともわたくしは、幼い時から夫の言う通りに生きておりました幼い頃のわたくしは、夫を心から信頼していたのですわたくしが物心付いた時には、夫はもう大人でしたし日頃から親しくしている男性は、他にはいませんでした夫はわたくしには、とても優しかったのでございます
清美さんは、そう答える
もちろん、自分が巫女の血筋に生まれたことは判っていましたですが、当時の若いわたくしは巫女は、姉が継ぐものだと思っていましたいえ正確には、姉が継いだ後にわたくしも継ぐことになるのだと思っておりました鷹倉神社の巫女は、代々短命ですから
仲裁の儀をやらされヤクザの親分たちに犯され、その記憶を読み取らされる巫女は、心を病むケースが多い
母が実際に巫女としての役目を果たしながら、衰えていく様子をこの眼で見て参りましたし姉とわたくしも、いずれはそうなるものと覚悟しておりました
清美さんはそう言う
しかし、君は巫女になっていないではないかね
ジッちゃんの問いは鋭い
今回巫女が殺され、君は鷹倉神社に入った君の言葉通りなら次の巫女は、君が継ぐはずなのではないかしかし
清美さんは、微動だにせずただ一点を見つめ続けている
君は今日その和服姿で、ここに来たそれは、自分は巫女ではないということを私に示すためではないのか
そうだオレたちは、ヤクザたちの注意を惹くために、わざわざ月子たち姉妹に巫女服を着せた
だったら、清美さんだって
清美さんが、鷹倉神社を乗っ取った張本人であるのなら
その正当性を示すためにこの場には、巫女の衣装で現れるべきではないのか
はいわたくしには巫女を継ぐ資格がございません
清美さんはそう答える
どうして、そう思うのかね
姉が最初の仲裁の儀を行った後月子さんが産まれましたその段階で、すでに姉には、心を病んでいる兆候がございました
月子が産まれた時にはもう
わたくしも母からも巫女になる修行を学びましたからいにしえの渡り巫女が持っていた心を読む力ヨミの力も使えます姉の心の状態は、手に取るように判りましたですが
清美さんは、小さく息を吐く
姉は神主様との間に、夜見子さんを出産致しました姉夫婦はこれもまた、周囲によって決められた結婚でしたが、とても愛し合っていましたですから、愛する人の娘を産んだことで心が安定したように見えたのです
夜見子は14歳
14年前のことか
そして、そんな姉の姿を見てうらやましくなりましたわたくしも、姉のように愛のある結婚と出産をしたいと、心から思いましたわたくしは、当時高校生になったばかりでしたから
しかし鷹倉姉妹は、もう1人居る
妊娠期間を足して、13年前に
2度目の仲裁の儀が行われた
鷹倉神社に再び、仲裁の儀を執り行うように連絡があったのは、その2年後ですわたくしは17歳になっていました
清美さんは、ブルッと身体を震わせる
本来ならその仲裁の儀は、わたくしが担当するべきだったのです姉の心が2度目の仲裁の儀に耐えられないことは、判ってました親分さんたちも2児の母である姉よりも、処女のわたくしを犯すことを望まれるでしょうし姉を巫女から引退させてわたくしが、次の巫女となるべきだったのです
なぜ、そうならなかったのかね
夫が嫌がりましたいえ、その時は、まだ夫ではありませんでしたがわたくしに、ツキの巫女の力について指導してくれた優しい男性というだけでございましたでも、夫がわたくしを大切に思いわたくしが、他の男性に抱かれることを望んでいないことは判りました心が読めました
彼は君を愛していたのかね
清美さんは
いいえ今、改めて思い返してみると夫の感情は、愛では無かったと思います
では何かね
わたくしに対する強い執着心と独占したいという欲望それだけですしかし、17歳のわたくしはそれを愛だと錯覚してしまいましたいえ錯覚したかったのです
愛だと思い込みたかった
それほどまでにわたくしが、姉から読み取った仲裁の儀の記憶は、恐ろしかったのですできることならあんなことを自分はしたくないと、そう感じましたわたくしは愚かで醜い心の女なのです
いやそうでもあるまい君の姉上や歴代の巫女たちは処女だからこそ、性体験がまったく無いからこそ、何がなんだか判らないままに輪姦されることに耐えられたのだろう自分の身に、その先、何が起きるか判らないからしかし、君はその強大な力で、姉上の体験した恐ろしい記憶を全て読み取ってしまった激しい恐怖に陥るのも、無理はないことだと思う
ですが、わたくしは17歳のわたくしは、そのまま、夫の口車に乗って夫とセックスしてしまいましたわたくしは、身近な男性で夫に頼り切って自分の全てを投げ出してしまったのです
夫に処女を捧げた後は夫の言うままに、行動致しました親分さんたちにわたくしには巫女を継ぐだけの能力が無いと思い込ませたのは、その時ですそして、姉に2度目の仲裁の儀を
そしてルナが産まれる
ルナさんが産まれた時にハッと我に返りました姉の心が崩壊寸前だということに気付いたからですでも、もうわたくしには、巫女を継ぐことは許されない
君の身柄が、夫に預けられた後だったからかね
ジッちゃんに問われ、清美さんは
はいその時のわたくしはいいえ、その時のわたくしも、夫の子を出産したばかりでした
子を産んだ
わたくしは18歳で娘を産み夫に預けられることになったのです
そうか子供ができたから鷹倉神社を離れて、夫と暮らすことを許された
いや、許されるように清美さんは、親分さんたちに力を使って働きかけたんだ
結局、若き日のわたくしは何も判っていなかったのです鷹倉神社の巫女のことも自分自身の持つ力についても
悲しそうに清美さんは言った
その後、2度ほど仲裁の儀が開かれるかもしれないという抗争事件がありましたその2回はわたくしが力を使って開催を阻止致しましたわたくしには、それだけの力があったのです今ではどの親分さんと、どういう順番でお話すればいいのかヤクザ世界の力関係のことも、よく判っておりますし
君こそが関西ヤクザ界を支配してということだね
いいえ、わたくしはただ、巻き込まれるのが嫌だっただけですわ
それとただただ楽しかったのです鷹倉神社を離れて夫と娘と、3人での生活が
はぁと、清美さんは大きく深呼吸をする
改めて聞く君は君の方は、夫を彼を愛していたのかね
ジッちゃんの問いに清美さんは、少し間を置いて
さてどうなのでございましょう幼い頃から、自分に優しくしてくれた男性に対する親しみとか敬意とかそういう感情が、果たして愛に変わるものなのでしょうかそもそも鷹倉神社という閉鎖された世界で成長したわたくしには、愛というものがよく判りません今となっては、さらによく判りません夫をわたくしの手で殺した、今となっては
清美さんが殺した
夫を
ここ数年心を病んでいた姉に代わって、わたくしが月子さんたちの修行を見て参りましたでも、わたくしは姉には、大きな借りがありますこのまま、あの子たちに巫女の宿命を継がせるわけには参りませんですから、わたくしはわざと、あの子たちの修行を遅らせました間違ったことも、たくさん教えましたあの子たちが力に目覚めないように
それでヨミの力とツキの力の名称が逆に教え込まれていたり
夜見子の従わせる力が、微弱過ぎて使い物にならなかったり
気の溜め込みの多いルナが力に目覚めなかったりしたのか
もちろん、わたくしは自分の娘にも、巫女を継がせたくはありませんでした
しかし、いずれ誰かが継ぐという話になるとは思わなかったのかね
それはいずれ、時期を見て、わたくしの力の全てを使って鷹倉神社の巫女の歴史を終わらせるつもりでいました
それが今回のことのキッカケかね
ジッちゃんが問う
結果的にはそういうことになりますわね決して、わたくし自身が、このタイミングを狙っていたわけではないのですが
清美さんは苦笑する
わたくしは心が読めますから、これまでは夫の行動には気を付けていました特に、ヨミの力で夫の心を定期的に読み取ることも、ツキの力で夫の心を操作するようなことも致しませんでしたわたくしは夫を信頼しておりましたので
何の話だね
この夏休みに娘が、クラブ活動の合宿で家を留守にしましたその同じ時期に夫も、なぜか泊まりがけの仕事へその時に、気付くべきだったんです
2人が帰宅した時にすぐに、気が付きました夫が、わたくしに隠れて娘に巫女の力の修行を教え始めたことをホント馬鹿なんですよ、あの人自分の開発した新しい修行法でわたくしには、娘の力が読み取れなくなると思っていたようですそんなことで隠せると考えていたんですよわたくしに
ククククと清美さんが笑い出す
わたくしの力の大きさを夫は、判っていなかったんですわたくしにはどんな些細な心の変化も、読み取れるということを
夫が、自分の娘にも巫女の力が使えるようにしようとした
わたくし使いました自分の夫と娘に巫女の力を忘れさせるためにそして情けなくなって、泣きました
それから鷹倉神社の姉のところへ行って姉の心の状態が本当に悪くなっていたんですですから夫と娘に、力を使ってしまった以上は姉にも姉の心も、わたくしの力で強引に曲げて修正してしまえばいいって、思って
だが、できなかったのかね
ジッちゃんの声に清美さんは
はいだって姉は姉と神主さんは強く、深く愛し合っていたんですもの2人の心を読んでわたくしには、判りました神主さんは心が壊れ行く姉と、一緒に死ぬ覚悟までしていました
月子たちの父と母
鷹倉神社の前の神主と巫女
わたくしは苦しくて、悲しくて、情けなくてだって、わたくしは姉を地獄に追い込んでまであの人と一緒になったはずなんですそれくらい、あたしたちはあの人は、あたしを愛していてわたくしもあの人を愛していたそのはずなんですだから、わたくしは姉に対して、あんなに酷いことだってできたんですそれなのにっ
髪を掻きむしる清美さん
あの人はあたしを愛してはいなかったあの人が愛していたのは、あたしの力だけでしかも、自分では何もしないであたしの力を、自分1人が世の中から隠してしまうことだけに満足してそういう情けない人で小心者であげくに娘にまで力を
狂った女の声が広い部屋に轟く
だから、わたくし姉たちの望む通りにしてあげたんですよっ姉の心が、完全に壊れてしまう前に2人きりで2人きりで死なせてあげることにしたんですっ
最近の父との会話
父えー、オレが最初に買った何だっけ、小さな白い
私パブリカ
父で、その後が青い
私カローラ、三角窓の
父で、その後は何だっけ
私セリカ10年乗って、最後に群馬へ旅行へ行った時に、腹を打ってマフラーを落としてきた
父そんなことあったっけ
私あった確実にあった
父そんで、その次が
私スカイライン
父ああ、あれは酷い車だった
私それだけは、覚えているのか
父うんその次は母さんの実家からもらった中古のマーク2か
私違うよその前に自分の退職金で、新車のマーク2を買ったろ
父そうだっけ
私そうだよそれに7年乗って、中古のはその後
父もう忘れたよ
私それから、最後はヴィッツだろ
父ああ、それは覚えている
ヴィッツは、父がボケてきて運転が怪しくなったので
軽く電信柱にこすった翌日に母に売り飛ばされてしまったのです
父しかし、よくお前覚えているなあ
私父が忘れすぎているんだよ最初のパブリカとかカローラなんて、私が生まれるだし
父じゃあ、何で知っているんだ
私父が前に私に話したんだよっ何度も
ちなみに、車はまだ興味があるから覚えている方なんです
昔、みんなで行った家族旅行のこととかは、丸っきり覚えていません
それと今年の前半にしたことも
私と兄の区別も段々、あやふやになってきています
739.黒い女/ファム・ファタール (その2)
それで君は、どうしたのだね
ジッちゃんの重い声が広大な部屋の中に響く
わたくしは姉夫婦を2人きりで死なせるために佐竹会長を利用しました
和服の美女鷹倉清美は、そう告白した
佐竹会長の心を操り姉夫婦を殺害し、鷹倉神社を乗っ取るという計画を
つまり全ては、君が組んだ計画通りだったというのだね
月子たちはこの告白を、どんな思いで聞いているだろう
自分の叔母が心中したがっていたとはいえ、自分の両親をヤクザに殺させた
鷹倉神社の巫女の力を使って
3人姉妹の様子が知りたい
しかし今のオレは、このモニターから顔を上げることが許されない
ちょっ、ちょっと待てやぁぁッッ
すると、佐竹が
そ、そんなん嘘だァァッオレはオレは、そんな女に操られたりはしてねぇぞぉぉぉぉッッ
大声で喚く
オレは、オレだぁぁっ何もかも、オレが決めたことを、オレがやってきたんだぁぁ今までだってオレは、そうやってのし上がってきたんだぁぁっ
あなた様の気付かないところより心を操らせていただきました申し訳ございません
清美さんはスッと、佐竹会長に頭を下げる
佐竹くんを操作すると同時に大鳥くんにも、君は力を使ったのかね
ジッちゃんは、さらに問い詰める
はいわたくしの夫はヤクザ世界の一員でございますし、長らく鷹倉神社の監視を担当しておりましたから、皆様とご面識がございましたその夫のツテを使い佐竹様にも大鳥様にも、わたくしは直接お目にかかっております
うぐぐぐっわ、ワシは覚えていないぞ昔はともかくここ数年は、お前とワシは会っていないはずだぞ清美ぃぃぃぃっ
大鳥総裁も戸惑っている
いえ、お会いしておりますほんの数日前に佐竹様が姉夫婦を殺す指令を出されたのと、同じ日ですお忘れになっているのは、わたくしが大鳥様の記憶を封印したからでございます
清美さんは、そう言った
香月様のお名前を、お教え下さったのも大鳥様で、ございますわ
清美さんは大鳥総裁から、ジッちゃんのことを聞いた
関西のヤクザが全て束になっても適わないような強大な勢力をお持ちなのは、日本では香月様だけだとですから、わたくし、香月様にお縋りすることにしたんです
自分が、大きな見落としをしていたことに気付いた
どうして、月子たちは乗っ取られた鷹倉神社から、無事に脱出できたんだ
そして、どうやってジッちゃんに助けを求めたんだ
鷹倉3姉妹がジッちゃんとコンタクトする方法なんて、知っているはずがない
つまり、それは
この度はわたくしの大変身勝手な申し出を受け入れていただき、本当にありがとうございました
鷹倉清美が、ジッちゃんに頭を下げる
それはいい私も関西のヤクザ世界のことは、いずれ再編成をしなくてはならないと思っていたそれで、君は
はい大鳥総裁様と佐竹会長様から香月様は恐ろしい方だから、決して刃向かってはいけないという記憶を消し去りました
事前の約束通り君が消した私についての記憶は、それだけだね
はい、香月様後はただ、お二人が鷹倉神社と月子さんたちを自分の物にしないと気が済まないと思い込ませました
大鳥総裁も佐竹会長もだから、香月家を恐れずに東京に兵隊を送り込んで来たのか
月子たちを追って、数十人もの部下たちを
私への恐怖心を忘れてしまったら君たちは、無遠慮に東京へ配下を送り込んで来るこちらの事情など、全て無視してそういう人間なんだよ、君たちは
ジッちゃんは大鳥と佐竹に言う
従って彼女に操られていたとしても、君たちの死刑判決は覆らん普段から思慮不足な行動ばかりしているのだろう諦めたまえ
しかし、ワシはっ
お、オレだって
2人とも、ジッちゃんの言葉に不服らしい
仕方ないね清美くん彼らに、私が何者であるか思い出させてあげたまえ
清美さんはまずは、大鳥総裁の方へ行く
大鳥様申し訳ございませんでした
スススと近づき大鳥の頬を、指でスッと撫でる
ああああああーっ
大鳥が絶叫する
な、何てこったぁぁっわわわわ、ワシは、何てことをしてしまったんじゃあああっ
へなへなとへたり込み、ブルブルと奮え出す
その間に、清美さんは佐竹会長の方へ
佐竹様も大変、失礼を致しました
佐竹の鼻の先をツンと付いた
うわわわわそ、そうだオメェ、この間のオンナかぁぁっ
佐竹もガタガタと震え出す
え、何でだオレ何で、こんな無茶な戦争を始めたんだオレには何一つ、勝てる要素なんか無いじゃねぇかぁぁ
これが全て清美さんの力
改めて、君に確認しておきたいのだが一昨日、京都で会った時、君はその力を私にも使ったのかね
ジッちゃんやミナホ姉さんたちが、京都に行った時に月子たちのことを託したのは、清美さんなんだ
いいえわたくしは香月様には、力を使っておりませんお心を操作するようなことは、何も
それを私たちは信じていいのかね君と会談し鷹倉神社の巫女の力というものを知って以来、私は私自身を側近に監視させているそして、普段の私からは理解できないような言動をした場合は、拘束するように申しつけてある
ミナホも、そうだよだから、ここ数日可能な限り、君たちとはコンタクトしないようにしていたんだそして、ミナホのことは京都に行っていない、あたしと克子さんと渚さんで監視していた
マルゴさんが、オレに教えてくれた
まったく自分が、他人に心を操作されているかもしれないというのは、心臓に悪いものだねこういう経験は、2度としたくないよ
いや、私はまだ君の答えを信じてはいないよ本当に、京都で私たちの心を操作していないと君は、実証することができるかね
それはわたくしには、香月様に力を使うことができない理由がございますから
どんな理由だね
わたくしは、この後死なせていただくことになっております
死ぬ
しかし、わたくしは姉夫婦から、月子さんたちを託されておりますわたくし自身にも、娘がおります子供たちのことは本当に申し訳ないのですが、香月様にお願いするしかないと思っています
だったら、そう私の心に命じればいいではないか
清美さんは頭を振る
いえ巫女の死んだ後まで人様に及ぼした力が持続するのかどうか、判りませんので夫の研究でもそれは、判りませんでした
巫女が死んだら
相手の心を操作している力が、消えてしまうかもしれない
もし、わたくしの死後に香月様が、わたくしに操作されていたことに気付かれたら香月様は、わたくしの娘たちに辛く当たられると思うのですそういう事態は、避けたいと思いますから
清美さんは、そう言う
うむそういうことなら、納得しようしかしだ今回の君のもたらした件で、確かに私は長年の懸念だった関西圏のヤクザ世界の再編について着手することができただが、君たちのために私が支払うことになった費用は莫大だよその上、君は君が死んだあとの娘たちの面倒まで、私に押し付けようとしているこれは、いささか不当ではないかな君は、私に対して何の対価も払わないで死ぬ気なのか
ジッちゃんの問いに清美さんは
わたくしが死ぬということが対価でございます
わたくしが死ねばこんな恐ろしい力を持った巫女は、この世からいなくなりますもう2度とわたくしのような存在が、世の中に迷惑を掛けることはございません
清美さんは静かに、そう言う
先ほど、申し上げましたように月子さん、夜見子さん、ルナさんには、正しい巫女の修行は教えていませんですから、彼女たちが鷹倉神社の巫女の力を宿すことは、絶対に有り得ませんわたくしは嘘ばかり、教えて参りましたから
清美さんは昨日からの、月子たちの成長を知らない
月子たちが、力に目覚め始めていることを
わたくしの娘も修行は止めさせましたから、巫女になることはございませんそして、鷹倉神社の古文書を解読し、巫女の修行についての知識を持っていた夫は、すでにこの世にはおりません
そうだこの人は
自分の夫を殺したと言っていた
夫の手書きの資料や、神社に残っておりました古文書はこの数日の間に、全て焼却致しました
清美さんが、月子たちと入れ替わりで鷹倉神社に入り込んだのは
神社に残されていた資料を、全て廃棄するためだったんだ
これで、わたくしが死ねばこの地上に、もはや鷹倉神社の巫女の力を知る者はいなくなりますこんな恐ろしい力は永遠に消し去るべきなのですですから、香月様
清美さんはジッちゃんに言う
このわたくしの命と引き替えにどうか、娘たちのことをお願い致します
生きていればそれだけでいいのかね
穏やかな声で尋ねる
例えば、私は君の娘を娼婦にするかもしれんぞ
命さえあれば生きているだけで、充分でございます
巫女になる運命よりは娼婦としての運命の方が、何十倍もマシでございます
そこまで耐えられないものなのかね鷹倉神社の巫女になるということは
はい巫女として生きることは地獄です
だが、君は巫女ではないだろう巫女であったのは、亡くなった君の姉上ではないのか
そ、それは姉の心を心を読んで知りました
子供たちには絶対に継がせてはならない巫女は、わたくしの代で終わりにしなくてはならないと
では君は、どうあっても死ぬのだな
はいわたくしには、もう死ぬことしか、残されていませんから
清美さんの眼は何かに取り憑かれているように見えた
そうか例のものを運んでやれ
ジッちゃんの命令に防御ヘルメットを被った、香月セキュリティ・サービスの警護員がワゴンを持って来る
ワゴンの上にはラベルの張っていないワインのボトルとグラスが1つ乗っていた
ソクラテス方式だ構わないね
はい、わたくしもこの方法で、夫を殺しましたから
警護員が、トクトクトクとグラスにワインを注ぐ
最後にまだ何か、言い残していることはあるかね
ジッちゃんの言葉に清美さんは
彼女は、VIP室の月子たちを見上げる
月子さん、夜見子さん、ルナさんごめんなさいね悪い叔母さんでお父様とお母様のこと許してちょうだい3人とも、巫女のことはもう忘れるのようちのコヨミと、仲良くしてあげてお願いそれからあの子に伝えて愛しているってママは、あなたのことを心から愛していたって
そして清美さんは、グラスを手に取る
これは毒盃
間違いなく
このままで
オレは人が死んでいくのを、ただ見ているだけなのか
こんなことでいいのか
良信くんこうなるしかないんだよ
寧と美智が左右から、オレを強く抱き締める
これはもう他にはどうすることのできない結末なんだよ
モニターの中で
清美さんが、スーッと毒のワインを持ち上げる
それでは皆さん失礼致しますわさようなら
一気にゴクリと飲み干していく
ウグググゥ
和服の美しい女性は呻きながら、床に倒れた
即効性だから苦しまずに逝けるよ
清美さんはすぐに静かになった
安らかになった
検死して
翔姉ちゃんのアナウンスに
香月セキュリティ・サービスの防御ヘルメットたちが、清美さんの遺体を確認する
脈拍無し心臓停止呼吸停止死んでいます
私も確認しました
間違いなく死んでいます
別々の検死員からそう報告される
ストレッチャー入れて
南側の扉が開きストレッチャーが押されて来る
警護員たちは、清美さんの身体をストレッチャーに乗せ
上から、白い布を掛けた
美智ちゃん、イーディ、どう
翔姉ちゃんが、美智たちに尋ねる
気は関知できません
完全に死んでいるネ
2人が、答える
翔姉ちゃんは、大きく溜息を吐いた
閣下全て終了です
ジッちゃんに、そう言う
みんなご苦労様モニターでの監視は、もうしなくていいわ彼女が不思議な力を発することはもう無いから
もういいよ、ヨッちゃん
寧の声に
オレは小型モニターから顔を上げて、正面の壁の上方を見る
VIP室のジッちゃんの前のガラスを遮っていたシャッターが開いていく
ジッちゃんもホッとした顔をしていた
月子たちは泣いている
姉妹3人身を寄せ合って
実に女性的過ぎる女性だったな
ジッちゃんは亡くなった清美さんのことを、そう評した
何もかも結論から、逆算して理由を見つけようとするそして、後付けで思い付いた理由が本当の原因であったと、必死に思い込もうとする
今回私たちは、常に彼女に自分の心を操作されているのではないかと疑い続けた実際大鳥くんや佐竹くんのように、心を操作された者もいるしかし
ジッちゃんの眼はストレッチャーの上の清美さんを見つめていた
彼女はついに自分もまた、心を操られているということに気付いていなかった
清美さんも
清美さんが誰に心を操られていたって言うんだ
だって人を従わせるヨミの巫女の力を持つ人は
清美さんの他には月子たちと
巫女の力は力の持ち主が、死んだ後でも効力を有する結果的に彼女が証明してしまったな
死んだ人の力
月子たちはまだ生きている
オレの眼には泣いている3人姉妹が、ハッキリと映っている
鷹倉清美は彼女が殺した姉の巫女に、心を操られていたのだよ
それは月子たちの母親
亡くなった巫女は心を病んでいた巫女として生きるということが、彼女の心を蝕んでいた彼女は夫とともに死ぬことを望んでいた一刻も早く
それは月子たちの母親の亡くなった前の巫女の思い
鷹倉清美はそういう姉の暗い心の波動を、受け取ってしまい姉と心が同化してしまったんだよそして、姉の代わりに姉の心の中で渦巻いていた、関西ヤクザ界に対する復讐を果たした
姉の巫女に心を乗っ取られていた
鷹倉清美は自分の方が、巫女となった姉よりも力が強いと思っていた自分の力は、古文書を解読した夫によって強化されていると信じていたからしかし
妹の方が、本当に姉よりも力があったと証明することはできない巫女は巫女だ姉が巫女を継いだということは彼女にもまた充分な力があったということなのではないか
それだけの力がなければそもそも、巫女を継いでいない
また、巫女として認められた後に伸びる力もあるはずだ
そもそも力とは、簡単に評価できないものだレーシングカーは、馬力やスピードなどとてつもない力を持っているだが、レースカーは1人しか乗れない数日間にわたって、故障無しに走り続けることも不可能だ一方市販の大型トラックは、スピードこそでないが、たくさんの物量を1度に運べる細かい整備をせずに、何日も稼働させ続けることのできる耐久力もある力の優劣は条件や環境によって変化する
鷹倉清美は、自分の方が強い力を持っていると、ずっと信じ込んでいたし姉の巫女が、心を病んで衰弱していたということもあったのだろうそういう思い込みがあったからこそ自分が、姉に心を操作されていることに気付かなかったのだよ
ジッちゃんの声が低く響く
姉の病んで、暗く悲観的になった歪んだ思いが、鷹倉清美を乗っ取ったんだ鷹倉神社の巫女であることの絶望感も夫と一緒に心中したいという思いも姉の暗い思いを、全て自分の思いだと錯覚してしまった
そうだ清美さんの最後の話は
完全に鷹倉神社の巫女になった人の言葉だった
清美さん自身は巫女ではなかったのに
おそらく、心を病んでいた姉は妹に、夫との心中を実現させてもらいたかっただけなんだろうあるいは自分を苦しめたヤクザへの復讐や後に残す娘たちのことを、誰かに頼みたかったのかもしれないそんな病んだ巫女の意思に従って鷹倉清美は、行動していたヤクザたちを操作し姉夫婦を殺させ鷹倉神社を巻き込んだ、抗争事件に発展させ娘たちの身柄を私に預けた全て、姉の意思だ
清美さんはただ、操作されただけ
ちょっと待ってくれよっ
だったら、どうして清美さんを死なせたんだよっあの人が、お姉さんの意思に操られていたからって死なせることはなかったじゃないかっ
会場がシーンとする
解除する方法がないのだよ
鷹倉清美の心を操作していた前の巫女は、すでに死んでいる誰が、巫女の力を解除できるんだ鷹倉清美と同等の強い力を持っている者など、どこにもいないんだぞ
しかも鷹倉清美は、狂い始めていた病んだ姉の死んだ姉の心に、自分の心を蝕まれて彼女は、自分自身の記憶すら書き換えている
鷹倉清美の娘コヨミは、すでに私たちが京都で保護している彼女の証言によると娘に巫女の修行をさせていたのは、夫でなく彼女自身だったそうだ
清美さんが自分で修行をさせていた
姉に心を乗っ取られた時に死んだ巫女は、自分の娘たちが巫女を継ぐことを恐れていたから娘を巫女にすることへの嫌悪感が、清美の中にも伝染したんだそれで、記憶をすり替えた自分でなく夫が、娘に修行を強要していたと
姉の思いに乗っ取られていく
それ以外にも私たちが手に入れた、かつての鷹倉清美の映像と今、そこで死んでいる女では、話し方、考え方、立ち振る舞い何もかもが違う本来の鷹倉清美と、死んだ姉の巫女の心が重なり合って完全に別の人格を作り上げていたそう、言うなれば清美が、信じている姉の言動を演じているような状態だしかし、この清美を突き動かしている姉の巫女は病んでいるこのままでは、どんどん悪くなるだけだろうそして、こんなにも世を呪い世界に絶望している女が、あんなにも強大な力を有していたらどうなる放っておけば、大変なことになるぞ
だから、わたくしたちは彼女の自殺衝動を後押しして、自死してもらうしかなかったのよ
わたくしたちだって、何時間も討議したわでも、これしか方法が無かったのよ鷹倉清美さんは、もう誰にも救うことはできなかったの
少し疲れたよ坂上くん大鳥くんと佐竹くんのことに関しては、君に任せるさっき言った通りだわたしはこの先、鷹倉神社の巫女の力を知っているヤクザがいることを認めない許さないそれはたった今死んだ女との約束でもある
スッと見届け人席の坂上親分が立ち上がる
はい、閣下大鳥と佐竹は我々が処分致しますヤクザの世界の仁義に反したと言うことで我々の手で
部下の連中に関しては口の軽そうな者は殺せ絶対に、この場であったこと鷹倉神社の巫女の秘密を漏らさないと確信できる者だけ、生かしてやれ
こう言えばみんな、必死で命乞いするだろう
香月家や香月セキュリティ・サービスが、ヤクザよりも恐ろしいということはみんな判っているはずだから
ヤクザ界の再編の件は後日、改めて話そうそれと、鷹倉神社のことだがこれからは、普通の神社として存続させる君たち、ヤクザ勢力の介入は、一切許さない香月家が、支配下に置くかまわないね
坂上親分は、約束してくれた
今の約束が反古にされた場合は香月家が相手になる今後、鷹倉神社の巫女や巫女の力について、調べようとする者もだ
良信、こっちへ上がって来てくれ鷹倉家の娘たちの相手をしてくれこればかりは、私には無理だ
ジッちゃんは、オレに声を掛けた
オレもガラスの向こうで泣いている月子たちが心配だった
坂上良信だ覚えておいてくれみすずと結婚させ、香月家の裏の仕事を任せることになっている
ジッちゃんが親分たちに、オレをそう紹介する
私と違って根性も据わっている危険を顧みず、どうしても君たちと同じ空気の中で、今回の事件を見届けるいうのだからな
そうかそれで、ずっとそこにおられたのか
何と気丈な
さすが閣下がお選びになられた若者ですな
ヤクザの親分さんたちは口々に、そう言った
鷹倉姉妹編、これで終わりかな多分
キツイ話が続いたので早く、展開を変えたいです
今日の父
私駅の向こうの、総合病院の手前の、車がそんなに通らない道でさ警察が検問してたよ
父そうか
私それがさ、一旦停止のラインを走って来た車が守るかどうかをさ警察官が4人、自動販売機の影に隠れて見ているんだよで、止まらずにラインを突っ切ったら、笛を吹きながら走って出て来て、違反キップを切ってた4人で販売機の影に、小さくなって隠れているのが変でさ
父ああそれで思い出したんだが
私え、何
父やっぱり、4人自動販売機に隠れていたぞ
私え、何が
父警察官が
私どこで
父検問してたんだよ、警察が
私だから、どこで
父駅の向こうの、総合病院の手前の車がそんなに通らない道で
私いや、だから今、その話をしていたんだよ
父誰が
私私が
父いや、オレがしてるんだろ一旦停止のラインで止まるか警察が4人で見張ってたんだよ
助けて、撫子神
740.余波
どうぞっ、こちらへっ
木下さんが、ニコニコ顔で迎えに来てくれた
今日のオレたちの案内役は、この人に決まっているらしい
事態の成り行きに呆然としているヤクザたちを残してオレたちは、北側の業務用の出口から部屋の外へ出る
オレ、マルゴさん、寧、美智、イーディ
そう言えば、工藤遙花はどうしているだろう
兄と一緒に、母親を運び出したままだ
通りまーすっ
2つほど、香月セキュリティ・サービスの警護員の居るドアを通った
どちらも、木下さんの指紋認証が無ければ開かなかった
そして、エレベーターの前に出る
このエレベーターも認証システムがありまーす
ピピッ
木下さんが、パネルに手の平を当てるとエレベーターのドアが、スッと開く
ジッちゃんたちの居るVIP室に到着した
部屋の向こうはガラス張りで眼下に、先程まで居た広い部屋が見下ろせるようになっている
先生っ
巫女服姿の鷹倉3姉妹がオレの姿を見つけると、泣きながら駆け寄ってくる
公様わたくし
わたくしぃ
ボクもっ
3人は事件の黒幕が叔母であったこと
その叔母を操作していたのは、死んだ母親の病んだ心だったこと
そして、叔母の自死にすっかり動揺している
もう大丈夫大丈夫だから
オレは、3人を抱き締める
そうだよヨッちゃんが来てくれたからねもう平気だよ
心配ないです
大丈夫なのネ
寧と美智とイーディも、背中から3人を優しく抱き締める
それで、鷹倉姉妹の心がフワッと緩んだようだった
3人とも、大粒の涙を零してワーワーと泣き出す
オレたちは、そんな彼女たちを抱き締めて背中を擦ってやった
昨日からの積み重ねがあなたたちへの信頼を構築しているようね
良信とは家へ帰った後に、幾らでも抱き締め合えるでしょ悪いんだけれど、香月様がお待ちかねなのしばらく、良信を貸してもらうわよ
姉妹にそう言う
ヨッちゃん、行っといで香月のおジィちゃんとしなくちゃいけない話も、あるでしょ
月子たちを娼婦にしないことオレが引き取ることを
ジッちゃんに、承認してもらわないといけない
月子ちゃんたちもちょっとだけ、我慢してヨッちゃんは、みんなのために香月のおジィちゃんと話に行くんだからさ
寧は、そう言いながらキュッと姉妹を強く抱く
わたくしたちが一緒にいますどうか、堪えて下さい
そうネ
月子は涙を拭って
はい大丈夫です公様たちのお顔を見たら、ホッと致しましたごめんなさい、わたくし姉妹の長女ですのに妹たちと、こちらでお待ちしています公様はどうぞ
一番上の姉として気丈に、そう言ってくれた
うん行って来るよ
香月様は、奥の部屋にいらっしゃるわついて来て
オレは、ミナホ姉さんに連れられて別室へと向かう
誰だ
黒森です弟を連れて参りました
入り給え
ここはVIP用の控え室だろうか
6畳ほどの部屋にジッちゃんが、谷沢チーフと一緒に居た
では、今、話した通りにそろそろ下へ行って、関くんと交代してやれ今回は彼女に随分、ハードワークを課してしまった
今後、関に香月セキュリティ・サービスを任せていくためには、必要な試練だったと思います彼女が、社内の全てのセクションをコントロールするのは初めてのことでしたし
合格点をやると私が言っていたと伝えてくれ
谷沢チーフは、一礼して退室していった
ジッちゃん随分、疲れているみたいだけれど
オレとジッちゃんとミナホ姉さんの3人きりになったからつい、そんなことを聞いてしまった
当たり前だこの年で、あんな役者みたいなことをするとは思っていなかった
あの女鷹倉清美は、香月家のことを大鳥に聞くまで、知らなかったと言っていたがな
ハフッと溜息を吐いた
おそらく死んだ巫女は、知っておったんだと思うよしかも、かなり歪んだ形でな
月子たちの母親は香月家のことを知っていた
私も経験がある私は、生まれてからずっと香月家の嫡男であり当主を継ぐと定められていたにもかかわらず実際に、当主になって始めて知らされたことは、意外と多い
そこまで、話してジッちゃんは、オレとミナホ姉さんに椅子を勧めていなかったことに気付く
手で、オレに椅子を示した
オレたちは、壁際の椅子を持って来て座る
鷹倉清美は巫女にはならなかったが、自分の方が姉よりも力が強いと過信していたしかし、姉の方は巫女となったがゆえに、巫女にならなければ知らされないことも知ったんだろう香月の名前もな香月家は元々は、京都の貴族の家ださらに遡れば、朝廷の神祇官の家系となる神社や神官、巫女についての調停は、香月家に委ねるべきだという古伝でもあったんだろう鷹倉神社は、古い神社だからな
だからこそ、私は死んだ巫女の心を病んだ女のイメージに合わせて、調停者を演じなければならなかったんだそうでなければそんな姉の妄執に取り憑かれた鷹倉清美を、大人しくさせることはできなかった彼女は、私には力を使っていないと証言したが実際には、多少は力を使われていると思うそうでなければ私が、鷹倉の姉妹たちをお前に預けるはずがないつまり鷹倉姉妹たちを最良の状態で保護しろという命令だなそれだけは私の心に操作したのだと思う