みすずは、翔姉ちゃんに振り向いて

水島さんは、このままお家にお返しするわけにはいかないわ今晩は、わたくしたちの家に泊まっていただきましょうお部屋を用意して

翔姉ちゃんは、みすずに頭を下げる

ああ、アノ子ミスズのお眼鏡にかなったみたいネ

オレが、イーディに尋ねると

ミスズはアノ子の年齢を知っているノネ多分、12歳なんだと思うヨ

今度、アニエスやルナやマナやヨミをミスズたちの学校に編入させるネソシタラすでに学校に在籍している子に友達がいた方がイイネ特に、アニエスには

アニエスは、学校に通うのは初めてだから

ソレとアノ子は、学校に警護役を連れて来ていい家柄の子なのネソシタラヨミは、あの子の警護役ということにしたらイイのネ

ああ、ルナはアニエスの警護役

ヨミはあの水島という女の子の警護役として、大手を振って学校へ入り込める

コウヅキ家が保護した子なんだから警護役もコウヅキが見繕うのは変じゃないカラネ

ソレトミスズの個人的な趣味もアルのネ

イーディは、小声でオレに言った

ミスズは自分の眼の前で、アノ子をDarlingに犯させたいノヨ

ソウイウことがシタくてミスズはウズウズしているんダカラ

あんな可憐な、可愛い子を

オレがみすずを見ると

高浜さんに関しては、あなた自身がなさったことですからちゃんとご自身でペナルティを受けていただきますわ

うな垂れる高浜物産のお嬢様

今日は、もうお帰りなさいあなたの顔を見るのも嫌だわ皆さんも、そう思ってらっしゃるはずよ

スパイの協力者なんて

わたくしたちを売り飛ばすおつもりだったの

誰かが誘拐でもされたら、どうするおつもりだったの

お嬢様たちの非難が集中する

申し訳ございませんが少しあちらで、聞き取り調査をさせていただきます

香月セキュリティ・サービスのメイド部隊の1人が、高浜物産のお嬢様に声を掛けた

あのスパイに、どんな内容のお話をどの程度なさったのかそれをお聞かせいただきませんと

そうね早く連れ出して下さいそのスパイと一緒に

高浜物産のお嬢様は、メイドさんに連行されて行く

気絶したままの天童乙女は、木下さんが片手で運んで行った

ああ、その後ろからトテトテ付いていく子は高浜さんの警護役か

あんまり強そうな子じゃないな典型的な友達警護役だったんだろう

だから、強そうな魅力のある天童乙女に関心を持って食い物にされたのかもしれない

あの感じだとミスズは今のお嬢様の方は、気に入らなかったみたいネまあ、そんなに可愛いコでもないシ

ああ、みすずは高浜物産のお嬢様の方は、オレに犯させたりする気はないんだ

でも、あっちのスパイのコはDarling次第ネ

天童乙女のことか

あのコ捨てるには惜しい人材デショ

確かに気が使えるんだもんな戦力としては惜しいかも

しかし、オレたちの味方になるだろうか

ソコソコ美人で、スタイルも良かったネ

イーディは、そう言ってニヤッと笑った

いやしかし

にゃにゃにゃにゃぁ、にゃーにゃぁっ

ハイハイハイハイハァァッッ

スパイ騒ぎで、すっかり忘れていた

後ろを振り向くと屋敷の石敷きの前庭で

アーデルハイトさんとキヌカさんが

まだ、13歳決戦を続けていた

うにゃあああっにゃおおおーんっ

ハイハイハイ、ハイヤァァ

鉄の爪の猫パンチと靴先ナイフの蹴りの闘い

2人とも、制服のスカートがビリビリに裂けて

パンティ丸出しで、汗だくで闘っている

その2人を、キヌカさんの姉の安城ミタマさんが腕を組んで仁王立ちになって見守っている

安心するがいい、キヌカ何があろうとこの姉だけは、こうしてキヌカを見守っているぞ

はいにゃぁぁ

クゥゥゥゥッ

13歳武闘少女たちの闘いは続いている

でも、天童乙女の騒ぎが落ち着いたばかりだから

もう、みんなバトルは、お腹いっぱいっていう顔をしているよな

みすずが、オレに声を掛ける

旦那様いかが致しましょうか

たくさんの名家のお嬢様たちの前でオレにわざわざ指示を聞いてくれた

この状況なら、さっき美智たちと打ち合わせした作戦が使える

美智あの2人の闘いを終わらせろ

オレが、まず美智に命じる

ハッご主人様

我が弟子ヨミご主人様のご命令を果たしなさい

美智が、ヨミに命じる

あの13歳コンビを、みすずの警護役である美智が自分で止めるより

弟子のヨミに命じてやらせる方が美智が格上に見える

ハッ、工藤流古武術、弓槻ヨミご命令を実行致します

ヨミが、ロリ巨乳をぷるんと揺らして美智に敬礼する

よし、行けっ

ハハッ

ヨミは巫女の力が発動する距離まで、小走りで近付いていく

な、何が始まるんですの

美智やヨミの仰々しい様子に、お嬢様も警護役の少女たちも興味を持ってくれた

うん、いいぞ

2人ともこっちを見なさいッ

美智が、パンッと大きく手を打ち鳴らす

瞬間反射的に、アーデルハイトさんとキヌカさんそして、姉のミタマさんまでがヨミを見る

フィッシュ

ヨミが3人の心を掴むッ

はいっ、闘いはもうおしまいっ

同時に、クタッと脱力する3人

くるっと廻ってワンっ

3人が同時に身体を回転させ空に向かって

可愛く吠えた

はーい、そのままお座りして大人しくしてましょうねっ

アーデルハイトさんもキヌカさんもミタマさんも

ヨミの言う通りに、ぺたっと地面に座った

えどういうことですの

催眠術ですの

驚いている会場の少女たち

いえ古武術でございます

美智が、真顔でそう言い切る

工藤流古武術の奥義を究めれば気の力を使って、あのようなことも可能になるのでございます

そうだオレたちの狙いは

お嬢様たちや他家の警護役に巫女の力を工藤流の気の一種だと誤認させることだ

特殊な血筋の人間にしかできない、異能の力でないと

そう例えば

美智は、全員の視線を自分に集めたまま武闘派お嬢様、栗宮流槍術師範の栗宮素子さんの前に進む

美智の申し出に、栗宮さんは

はい、皆様の前でわたくしと清々堂々の勝負をしていただきたいのです

無表情のまま言う

じゃんけんで

じゃんけん

怪訝な表情を美智に向ける栗宮さん

失礼致しましたじゃんけんというものについて、まずご説明致します

いいえ、わたくしもじゃんけんが何かぐらい知っております

ムッとする栗宮さん

会場の皆様はじゃんけんをご存じですか

美智は、みんなに尋ねる

あの、済みませんじゃんけんて何でございますか

いいるのか

さすがお嬢様中のお嬢様の集団だ

あわ、わたくしが説明して差し上げますので

慌てて、そのお嬢さんの警護役が説明を始めた

主が無知だと思われてはいけないと感じたらしい

でなぜ、わたくしがあなたとじゃんけんをしなくてはいけないのです

栗宮さんが、美智に尋ねる

わたくし勝ちますので10回じゃんけんをして、10回とも勝ちますいえ100回でも勝ちます

そんな馬鹿なことを

驚く、栗宮さん

では、お試し下さい

判ったわそこまで、おっしゃるのなら

2人が、向き合う

じゃん、けん、ぽんっ

美智が勝った

本当に、10回連続で

会場の少女たちも、驚嘆している

香月家とはそんなに親交の無いしかも、勝負事に厳しそうな栗宮さんが相手だから

お互いに示し合わせて、芝居をしているとも思えない

不愉快ですわこんなに負けるのは

栗宮さんが、そう言う

わたくし勝負に勝つことが、何よりも好きですのに

美智は、スッと頭を下げる

くるみあなたも、勝負してみなさい

栗宮さんは自分の警護役の御厨さんにそう命じた

はい、素子お嬢様

御厨さんと美智とのじゃんけん対決が始まるが

やっぱり、美智の全勝だった

ご自分でお試しになられたい方はいらっしゃいますか

わ、わたくしにやらせて下さいませ

あなたも挑戦してごらんなさい

お嬢様本人や、お嬢様に命じられた警護役がどんどん美智に挑戦する

しかし、じゃんけん勝負は全て、美智の勝利に終わった

それもあなたの流派の気の力の活用なの

はい栗宮様

人の気を感じることができればある程度の人の行動を読めるようになりますじゃんけんとは、所詮、グー、チョキ、パーの3種類からの選択でしかありませんその程度のことでしたら、相手が何を選ぶのかわたくしには判ります

それって武道を嗜む者にとっては、とても大きなことですわね相手の次の攻撃が、事前に読めるということですから

栗宮さんは、この能力が実戦に使えるものだということを認めた

相手の考えていることの細かいことまでは判らなくとも左右、どっちに動くのかこちらのどの部分を狙ってくるのかだけでも察することができれば

はい負けることはございません

美智は、栗宮さんの眼を見てそう答えた

ただし相手の動きを察すると同時に対処できるだけの素早さを身に付けなくてはなりませんが

あ、そうですわね相手がグーを出すって気が付いた瞬間に、急いでパーを出さないと後出しで負けになってしまいますものね

武道をやらないお嬢様にとっては、まだ発想がじゃんけんのままらしい

そして、この能力を身に付けると次には、こんなこともできるようになります

美智は御厨さんに

今度の勝負では、あなたは全てグーしか出せなくなります

では勝負

10回勝負全て、御厨さんはグーだけを出して、負けた

わ、わたくし別にグーばかり出そうと思ったわけではございませんのに

驚いている、御厨さん

先ほどの勝負でわたくしは、この方がグーを出される時の気がどんなものなのかを理解しましたですから、今度はこの方が、じゃんけんの勝負で何を出されるのかお決めになる瞬間にグーの時の気をわたくしが放射致しました

美智の気は強くて濃い

御厨さんは、美智の気に押されてグーを出し続けてしまったのか

動作を選択する一瞬を狙っての気の攻撃は相手の判断を迷わせることもできるのです

武闘お嬢様の栗宮さんがヨミを見る

なるほど、さっきあの子はこの技を使ったのね

はいわたくしがキョーコ・メッサーの動きを一瞬止めたのも、この技です次の動作に入る一瞬を狙って、強い気を放射するのですそれで、相手の肉体に止まるんだと誤作動させるのです

先ほど、あのスパイがあなたの行動を封じようとしたのも同じ気の技ですわね

栗宮さんは、尋ねる

ご慧眼の通りでございます

でも、あなたはあの人の気の攻撃を避けたわ

栗宮さんは、ニヤッと笑う

向こうの子たちの場合も動きを止めたことは、それで説明がつくけれどその後の、クルッと廻ってワンと鳴かせたのは、今の話だけでは無理だと思いますけれど

ここから先は工藤流古武術の奥義に関することですので

ジッと、栗宮さんの眼を見たままそう言う

判ったわその先はあなたに弟子入りして、自分で学ばせていただくわその代わり、あなたにもわたくしの流派をみっちり教えて差し上げますから

楽しみにしております

2人が、ニコッと微笑む

絶対に、工藤流古武術免許皆伝まで教えていただくわよっ

栗宮さんという武闘派お嬢様が、良いクッションになってくれた

これで、他家のお嬢様も警護役たちも

美智だけでなく、工藤流古武術そのものに一目置いてくれる

ヨミやルナも工藤流入門者の警護役ということになれば

巫女の力も、古武術の気の技なんだと思い込んでくれるだろう

アノお嬢様トンデモないこと言っているネ

オレの横でイーディが言った

この間アタシとミチで決めたのヨ

アタシたちに正式に入門するコは必ず、Darlingとセックスしなくちゃいけないルールにしたのネ

テイウカ、ショウガナイのネ気の使い方を覚えるのなら、Darlingとセックスするのが一番の良い修行ダカラ

イーディは、ニコッと微笑む

蟹江敬三さんが亡くなったそうですね

ご冥福をお祈りいたします

蟹江さんと言えば、ウルトラマンエースで牛になったり

ウルトラマンレオをバラバラにしたり

蟹江さんは当時、演出家の蜷川先生の劇団でアングラ演劇の主役をなさっていました

特撮番組と、アングラ演劇の関係ってあんまり書いている人がいないんですが

エースの復讐鬼ヤプールとかベロクロンの復讐とか

完全にアングラの影響を受けていると思います

シルバー仮面も、ジャイアントになる前の光子ロケットの設計図を見つける回とかはメチャクチャ、アングラチックなんですが

アングラ演劇の文化とその影響というのは本当に、日本の現代文化を語るときには無視されているように思います

不思議なことに、特撮なんかの実写の方には影響が見られるのに

アニメには、まったく痕跡が見られないんですよね

アニメの方が、規制が強かったのか

監督が上昇志向で、アングラ的なものを嫌ったのか

861.ハイ・ライフ / 真打ち登場

しかしとりあえず、これで一通りは問題解決か

潜入していた関西ヤクザのスパイは拘束できたし

お嬢様たちに、香月セキュリティ・サービスが中心になって警護役の交流をすることも何となく、認めてもらえそうな感じになっている

今後は、変な人間が警護役としてみすずたちの学校に潜入して来ることもないだろう

ヨミの巫女の力を工藤流古武術の気の技と信じてもらうこともできた

天童乙女の代わりに、あのミズシマ・ホールディングスの会長の孫娘の警護役としてヨミかルナを編入させることもできる

どっちか残った方は、アニエスの警護役ということにしてアニエスは、見た目からしてお嬢様だから、どっかのお嬢様ということに仕立てるしかない

あいつは他人に仕えるとか絶対に無理だからな

そういうところは、腹違いの姉の雪乃によく似ている

後は、マナと月子をどういう名目で転校させるかだけだけど

今日一日で大分進展があったから、少しだけホッとする

大丈夫ですわ、お姉様キヌカもミタマも無事ですから

あの子たちにばかり無理をさせて不甲斐ないですわ

オレの視界に、鞍馬姉妹が入って来る

相変わらず落ち込んだままの姉と、そんな姉を励ましている気丈な妹

ああ、この姉妹の問題がまだ残っていたか

はい、水島さんどうぞ、ここにお座りなさい

みすずが、連れて来られたミズシマ・ホールディングスの会長の孫娘に笑顔で、声を掛ける

前からあなたのこと、可愛い子だと思っていたのよお名前は

水島可憐です

12歳の可愛らしい少女は、緊張しながらそう答えた

そう可憐さんね

みすずは元々は、同性愛の嗜好がある

瑠璃子たちと一緒に、ジッちゃんが徹底的に男嫌いに育てたからで

多分、オレ以外の男は、一生、受け付けないと思う

しかも、同性愛の師である渚のペットをやっていた時期があるから

自分でも、可愛い女の子のペットを飼いたがっていることは判っていた

天童乙女は、自分と年齢の近い女の子にしか興味が無かったからこの水島可憐さんには手を付けていないみたいだけれど

ああヤクザの圧力でミズシマ・ホールディングスに無理矢理、警護役として入り込んだ身だから、無茶はしなかったんだな

天童乙女が、水島可憐さんに手を出したら祖父の水島会長だって、ヤクザたちへの協力を断るだろうから

とにかく、この可愛らしい少女が純真無垢のままであることは間違いない

旦那様とっても可愛らしい子だと思いません

あたしこんな娘が欲しいですわ

その言葉はオレは、ジッちゃん公認のみすずのパートナーなんだから周りの子たちには、ただのロノケにしか聞こえないだろう

みすずが、将来的にこんな可愛らしい娘を産みたいとオレに甘えているという

しかし、実際は

みすずは、この水島可憐さんという少女を飼ってもいいですかとオレに聞いているのだ

ペットショップで、可愛い子犬を見掛けた時のように

オレが返答に困っていると

お兄様、そう言えばわたくしもお兄様にご紹介したい子がいるんです

瑠璃子も、オレに微笑む

わたくしの後輩ですが自分の警護役を持っていない子ですので、今日はいらしていません後日、改めてご紹介致しますわ

前に何でも1つ、わたくしのお願いを聞いていただくとお約束致しましたわ

どうしても、その子ことでお兄様にご相談したいことがあるんです

オレに相談たって

瑠璃子の後輩っていうことは、警護役を持たない身とはいえその子もどっかの名家のお嬢様なんだろ

ただの高校生のオレが、名家のお嬢様の相談なんてできるわけがない

お兄様でないと解決できない問題なんですの

オレでないとできないことなんて

セックスぐらいしかない

あああの子のことね

旦那様、わたくしからもお願い致しますわ瑠璃子のお願いを聞いてあげて下さい

みすずが妻の立場からも許可する

オレが、瑠璃子の後輩を犯すということを

わたくしも可憐さんのことで、これから旦那様に色々とご相談しなくてはならないと思いますから

わたくしも、可憐さんのお世話を致しますわ

ええ、お願いします、瑠璃子

結局みすずも瑠璃子も、香月家本家の娘で

ジッちゃんの血を、一番濃く継いでいる

人を支配することに快感を覚える

オレに支配されることを悦ぶのも彼女たちの中の支配欲の裏返しだ

ジッちゃんが、みすずを渚に預けてレズ修行させたり

瑠璃子に一切、性的な知識を教えなかったのは正解なんだ

一歩間違えればこの2人は、メチャクチャな男狂いになっていたかもしれないのだから

それぐらい性欲が強い

肉食動物に、獲物を追うことを止めさせることはできない

2人と一緒に、オレは地獄へだって堕ちてやる

そういう覚悟で、この子らをオレは受け入れたんだ

ほんと、仲がおよろしいのですね

鳥居さんが、素直に驚いている

はいわたくしもお兄様のことが大好きですわ

瑠璃子は屈託のない笑顔で、そう答えた

ですから、香月本家は安泰ですお家騒動の心配は一切ございませんわ

みすずは、狩野さんにそう言って微笑む

そのようなことを心配してはいませんわ

狩野さんは、居心地が悪そうに答えた

しかし、この香月家に匹敵する家柄の少女は、みすずのテーブル以外に座る場所が無い

さて、パーティ会場の方は

天童乙女と高浜物産のお嬢様が退場したことで、落ち着きを取り戻している

ああ、まだ美智とじゃんけん大会をやっているな

ヨミも、じゃんけんの相手を引き受けている

美智は気で、ヨミは巫女の力でじゃんけん勝負に連勝し続けている

お嬢様も警護役も巻き込んでなかなか楽しい余興になっている

もうっ、こうなったらあなたも、この子に弟子入りなさい

というより、わたくしも教えていただきたいですわ

ああ、この感じだと香月セキュリティ・サービスの研修館を借りたお嬢様や警護役の合同練習会には、ますます人が集まるな

普段から交流するようになれば、みんな仲良くなる

武術や護身術の練習なんて、特にそうだろう

ああ、工藤遙花を食い止めないといけないな

あのお姉さんは、お嬢様たちに自己アピールできると思ったら、わたしが空手を教えますとか言って、無理矢理押し掛けてきそうだから

うーん、かえって目眩ましになって、いいんじゃないかと思うよ

オレの心を読んで、オレにくっ付いているルナが言った

うんあの警護役の人たちの中には遙花さんに教わるのが丁度良いレベルの人たちもいるし

たまたま、代々警護役として仕えている家に生まれた娘の中には

そんなに強くない子もいるんだよな

警護役といっても、お嬢様のご学友とか話し相手とかイジメ対策のための友達警護役も多いんだし

今は美智お姉様の技を面白がって見ているけれど実際に、習ってみろって言われたら付いていけない人も多いよ

ルナの言うとおりだ

みんながみんな武闘派お嬢様の栗宮さんや、安城姉妹やアーデルハイトさんみたいに武芸に優れているわけがないか

工藤遙花の空手教室レベルのこともやっておいた方がいいか

大丈夫だよ、兄さん遙花さんがいい気になって変なことをしでかしたら止める人はいっぱいいるし

妹の美智もレイちゃんもいるしな

何で誰もオレがルナを連れていることに、何も言わないんだろう

ルナはさっきの警護役の時のパンツスーツから、制服に着替えさせている

髪型なんかも変えて、変装させている

あら、その方はどなたなんですのとか

ご親戚ですかとか

聞かれるんじゃないかと思ったけれど

あの好奇心が強くて、何でもズケズケ話す鳥居さんですら突っ込んで来ない

それは兄さんのこともボクのことも認めていないからだよ

お嬢様はお嬢様同士か、自分の警護役としか話していないでしょ

兄さんは、みすずお姉様のパートナーだけれど名家の人ではないからだから、直接には話し掛けないし、そこに居ても見えていないってことにしているんだよ基本的に

だから、この全員女の子しかいないパーティに、オレが紛れていても誰も文句を言わないんだ

ていうか、みんなオレの方はなるべく見ないようにしているというか

ジッちゃんに認められていたって、今のオレは

黒森公は、名家の一員ではないんだから

さっきの鳥居さんの仲がおよろしいという発言だって

オレとみすず、あるいはオレと瑠璃子のことを言ってたのではなく

あくまでも、みすずと瑠璃子の関係を評していたんだ

本来なら、香月家の後継者争いをするはずのみすずの瑠璃子が仲が良いと

オレのことは無視なんだ

兄さんムカッとかしないの

オレの心を見て、ルナが尋ねる

ムカッと何で

だって無視されているんだよ

いや、そういうのがお嬢様たちの世界なんだろそういうもんなんだって判れば、別に何とも思わないよ

自分を産んだ母親に、存在していることを無視されて育った

あれに比べれば

ルナが、キュッとオレにしがみつく

ボクここに居るからね兄さん

オレに抱きつくルナの身体は柔らかく温かい

オレは、ルナの頭を撫でてやる

翔姉ちゃんがやって来る

歌晏様がご臨席下さるそうですわ

歌晏様が

カアン

まあ歌晏様もいらしていたの

狩野様までが、驚いている

はい、ずっとお屋敷の中で、皆様のご様子を観ていらっしゃいました

観ていたって

監視カメラか何かの映像をか

さっきのミナホ姉さんやキョーコさんたちみたいに

わたくしは、知っておりましたわ

鳥居さんが、ニヤッと笑う

今日、いらっしゃるって昨夜、お電話をいただきましたから

歌晏という人は、鳥居さんと近い関係の人なんだろうか

ご臨席下さるのでしたら失礼が無いように、お通しして

みすずが、翔姉ちゃんに言う

月子さん、ヨミさん、ルナさんを会場から遠ざけて下さいとおっしゃっています

歌晏という人は鷹倉3姉妹を知っている

巫女の力を持つ3人が居る場所には、近付きたくないということか

旦那様、お願い致しますわ

歌晏さんていう人は、そんなに大切なお客様なのか

1人だけ、パーティ会場に姿を見せずに別室に居て

会場に来るというだけで、わざわざ翔姉ちゃんがみすずに連絡してくるような

香月家と、狩野様のお家、そして歌晏様のお家が今のわたくしたちの学校での3大名家ですわ

狩野家と同じ様に香月家に匹敵する家柄

メモル・グループのオーナーですわ

メモルってメモル銀行とか、メモル自動車とか、メモル金属とか、メモル重工とか

企業グループとしては、香月グループより大きいかも

つまり

家柄も高ければ、財力もある

失礼はできないお方ですわ

オレは美智に向かって

美智ヨミを下がらせろ屋敷の中の控え室に

今は警護役としても、工藤流の師弟関係としても美智がヨミの上に立っているから

美智から命令させる

かしこまりました美智ご主人様の命に従いなさい

えー、もっと遊んでいただきたいですわぁ

ええ、今うちの警護役がこの子の命令で、パーしか出せなくなりましたの

ホント、パーになってしまったみたい

お嬢様たちから、そんな声が出る

みすずが、スッと立ち

皆様、今こちらに歌晏様が向かっていらっしゃるそうですわ

まあ、歌晏様が

歌晏様が香月様のお屋敷にいらっしゃるなんて

お嬢様たちの中に驚きと動揺が拡がる

皆様もお席に戻られて下さい

みすずの言葉に、みんなワラワラと席に戻って行く

メイド服姿の月子がルナを連れに来る

うん、兄さん大丈夫だよ

ヨミも、一度こちらへ戻って来る

マルゴさんも来た

あたしも撤退した方がいいみたいだから

まスポンサーになってくれそうな家の子が何人も見つかったからあたしは目的達成この3人は、あたしが連れて行くから安心して

頼みますマルゴさん

マルゴさんこっち側の入り口から、元の控え室に入って下さい

翔姉ちゃんの指示でやって来る歌晏さんとは顔を合わせないようにして、マルゴさんと鷹倉姉妹たちは退去した

オーケイ、いいわよ歌晏様の警護の方にも確認していただいたわよね

翔姉ちゃんが、携帯式の無線機にそう告げる

鷹倉の巫女姉妹を完全に撤収させたことを確認しないと、この中庭には入って来ないというのか

了解皆様歌晏様がご入場なさいます大きな拍手でお出迎え下さい

翔姉ちゃんが、会場中の少女たちに大きな声でそう言った

中庭の向こう香月家の屋敷の中から

ハロー、マイ・フレンズ

とっても背の高い、美しいお姉さんがニコッと微笑んで現れた

他のお嬢様たちと同じように、銀色のパーティドレスを身に付けている

いやただ

背中は大きく開いているし前も

横から覗き込んだら、全部丸見えだろっていうくらい大胆なドレスを着ている

アカデミー賞の会場のハリウッド女優みたいな

ただ、鼻が高くて眼がぱっちりとした派手顔の美人で体格もスラッとしていて、自信たっぷりに堂々としているから

とってもこの綺麗なお姉さんには、合ってはいるんだけれど

ようこそ、歌晏様

みすずと瑠璃子、そして他のテーブルに居る美子さんも立って歌晏さんを迎える

他の少女たちは、全員で拍手している

歌晏さんはニコニコしながらコツコツとハイヒールの音を立てて、真っ直ぐにみすずたちのテーブルにやって来る

その後ろから真っ黒のスーツで男装した、これまた背の高い少女が歌晏さんを追う

この人が警護役か

お姉様こちらにどうぞ

鳥居さんが立ち上がって、自分の席を譲った

香月家、狩野家、歌晏家が3大名家なら3人並んで座るしかない

同じテーブルに座るのは失礼だと、あの鳥居さんが気を利かせている

あなたたちも立ちなさいお姉様のお席よ

鳥居さんに言われて、鞍馬姉妹も慌てて席を立った

まあ、まり子相変わらず、気が利くわね

歌晏さんが、微笑む

はい大切なお姉様のためでしたらわたくし

鳥居さんが頬を赤らめる

このまり子はわたくしの株式の弟子なのよなかなか、見所のある子だから可愛がってあげることにしたの

歌晏さんは、会場中の少女たちにそう言う

血縁はありませんけれどまり子はわたくしの心の妹ですからまり子の敵は、わたくしの敵なんですわよろしくて、皆様

笑う歌晏さん

で、どうだったまり子今までのところはまさか、誰かまり子をイジメた人とかいなかったでしょうね

屋敷の中の控え室でこのパーティ会場の様子を観ていたくせに

歌晏さんは、楽しげにそう鳥居さんに聞く

いいえ、お姉様特に香月様にはとても親切にしていただいておりますわ

鳥居さんは、そう答える

あら、そうみすず様、瑠璃子様まり子が色々とお世話になったみたいで、申し訳ございませんわ

歌晏さんの言葉に、みすずは

本日は、おいで下さいましてありがとうございます

瑠璃子も、合わせる

狩野さんを始め、他の少女たちに対する態度とは、明らかに違う

ええお邪魔させていただきますわ本当はもう少し早く着いていたんですのよでも歌晏家のわたくしが、まさかキョーコ・メッサーや暴力団組織のスパイなどが居る会場に立ち会えるはずがないですから

スパイなどのなどは鷹倉家の巫女を指しているんだろう

わたくしの立場ではねえそうは思いませんか、みすず様

ニタッとみすずに微笑む

おっしゃる通りですわ申し訳ございません歌晏様

みすずは謝るしかない

この歌晏さんはオレたちの裏のことも、全部知っているんだ

キョーコさんとの関係も、関西ヤクザとの確執も

はーい、では座らせていただきますわみすず様も瑠璃子様も、お座りになってそれじゃあ、まるでわたくしがお二人を困らせているみたいではありませんか

みんな、着席する

ごきげんよう歌晏様

はい、ご機嫌よう狩野様お元気

お陰様で

香月家に続いて、狩野さんが歌晏さんと挨拶を交わす

あ、あの歌晏様

歌晏さんの来席で、立たされることになった鞍馬ありすさんがいきなり話し掛ける

お、お止しなさいありす

慌てて、姉の美里さんが止めようとするが

悪いけれど答えはノーですわ

歌晏さんは、ニヤッと笑ってそう答えた

あなたたち鞍馬家は元から香月様の家の系列ですわよね香月様があなたたちのお家を助けないとお決めになったのに縁もゆかりもない歌晏家が、助けて差し上げられるはずがないでしょ

あこれで判った

歌晏さんは、オレたちの様子をホントに最初の最初から観ている

ジッちゃんが鞍馬姉妹を拒絶したのは、懇親会パーティどころかレイちゃんのレクチャーの始まる前だし

そんな前から来ていながら今までずっと別室に居たのか

それに、あなたたちの家が潰れるのは当然よあなたたちのお父様がしたことを考えれば、香月様がお見捨てになられるのも当然ですわ

歌晏さんは、そう言う

鞍馬家は一体、何をしでかしたんだろう

娘を娼婦に堕とさなくてはいけないほどの負債って

ありすお止めなさいと言っているでしょ

鞍馬美里さんが、妹の口を塞ぐ

大変、失礼致しました

スッと頭を下げる

そうねホント、失礼

歌晏さんは、フンと鼻を鳴らす

関さん鞍馬さん姉妹を、奥の部屋にお通しして

翔姉ちゃんの指示で、メイド部隊の一人がやって来る

さあ、こちらでございます

鞍馬ありすさんはどうしていいのか判らない顔をしている

ありすわたくしたちが、このままそこにいると歌晏様のお気に障るようですわみすず様にもご迷惑をおかけすることになります

まだお帰りにはならないでねもう少し、お話をおうかがいしたいから

ただしお祖父様の決定は絶対ですからあたしたちでは、お二人の力にはなれないと思いますけれど

ありがとうございますお気持ちだけでも、嬉しゅうございます

美里さんは、みすずに深々と頭を下げる

そして会場の少女たちに

皆様、おそらく皆様のご尊顔を拝するのもこれが最後になると思いますわたくしも、ありすも今までわたくしたちに賜りましたご厚意、ご友情の数々、大変ありがとうございましたどうぞ、皆様末永くお元気でいらして下さい

美里さんはそう言って、頭を下げる

ありすさんも

み、皆様のことは忘れませんだからどうか、わたくしと美里お姉様のことも覚えていて下さい皆様ありがとうございました

ペコリと頭を下げる

参りましょうありす

鞍馬姉妹が、パーティ会場を後にしようとする

美里様

ありす様

慌てて、警護役の安城姉妹が主たちを追い掛けようとするが

付いて来てはいけません

ええ、さよならよあなたたちも

鞍馬姉妹は、眼に涙を溜めて警護役の姉妹に言った

ごめんなさい今の鞍馬の家ではあなたたちに退職金を払うこともできません

鞍馬美里さんが、みすずを見る

みすず様、この2人の新しい主は香月セキュリティ・サービスで探していただけませんか

そうね任せておいて

そんな美里様

わたくしたち姉妹は、生まれた時からお嬢様たちの下僕です

ミタマさんとキヌカさんが、そう叫ぶ

家が潰れればお嬢様もないわ

さようなら元気でね

鞍馬姉妹は、クッと気持ちを押し殺して屋敷の方へと向かう

震えている背中

でも、警護役の姉妹には振り向かない

ダメヨ

鞍馬姉妹を追おうとする警護役たちをイーディが止めた

ここでアナタたちが追い掛けたらあの人たちは、もっと辛くなるネ

歌晏さんですが

ほら出世魚っていうのが、あるじゃないですか

ハマチが成長して、大きくなったのがブリとか

で、ほら

ミンキー・モモが成長して、大きくなったのがハマーン・カーンじゃないですか

なので、歌晏さんはミンキー・モモとハマーン・カーンの中間ぐらいで

あ、北爪先生のマンガの若ハマーンは見なかったことにしています

というか、ミンキー・モモとキシリア・ザビの中の人が同じですから

ミンキー・モモがああいうキツイ人になる可能性もあるわけで

まあ17歳ぐらいかな

ということで、歌晏(カーン)さんになりました

香月家無双にすると面白くないので、最後の最後の隠し球で登場させました

これでパーティのパートが終わって

セックス大会の方になっていくと思います

862.ハイ・ライフ / 馬の骨

・アーデルハイト鹿取/13歳まり子の警護役ただし最近、雇用契約された娘ハーフなぜかハイジと呼ばれている

・歌晏桃子/17歳香月家、狩野家と並ぶ3大名家、歌晏家のお嬢様

・山田梅子/17歳桃子の警護役男装セバスティアヌスと呼ばれている

あの子たちの最後のお願いなんですからみすず様、あの子たちはあなたがちろゃんと引き取ってあげて下さいね

歌晏さんは、ククっと笑ってみすずにそう言う

わたくしは、鞍馬家の件に関しては一切口出しは致しませんからこれは、まあ香月様のご家中の中のトラブルだと思いますし

そう言っていただけると、とても助かりますわ

みすずが、歌晏さんに礼を言う

が頭は下げない

それが、この2人が対等の立場であることを示している

香月閣下が、鞍馬家のご処分を正式に公表するまでは歌晏の家は、進捗状況を見守らせていただきますわ

ああ鞍馬家が潰れる寸前であることが正式にバレてしまって

その上ジッちゃんにも、歌晏さんにも救済を拒絶された

それは、本来ならかなりの大きな経済ニュースになるはずだ

ここにいるのが普通のお嬢様たちなら、先を争って家に電話をかけて父や祖父にこのニュースを伝えるだろう

鞍馬家は親・香月家のグループに属していたのだから、取引のある会社の子もいるだろう

そういう家は、急いで取引を停止しないといけない

いや、関係を断ち切るだけならいいが

鞍馬家が潰れるのなら、その会社や資産を買い叩くとか、鞍馬家のやっていた事業を乗っ取るとか、取引先を奪うとか

大きなビジネスチャンスなる可能性があると、動き出す人たちもいるはずだ

一刻も早く、このニュースを家の人たちに伝えたいと思っているだろう

今、ここの場に居るお嬢様たちは、全員、みすずの学校の中でも自分の警護役を連れ歩くことが許されているほどの家柄と財力を誇る大きな名家の令嬢たちだ

だからパーティを中座して、家に携帯電話を掛けたり、メールを打つような失礼なことは絶対にしない

これは、香月みすずが主催しているパーティなんだから

パーティの開催時間に、情報が外部に漏れたとしたら誰が漏らしたのか、調査されるだろうしそういうはしたない行為をした子は、他のお嬢様たちから白い眼で見られる

この香月家本家の屋敷には、監視カメラだらけだということは、みんな判っているし

携帯電話なんかの発信も、突き止められてしまうことは判っているだろうし

その上、今歌晏さんが、鞍馬家のことは香月家に任せると発言した

これは、つまり

ありがとうございます歌晏様が、そうお立場をご表明下さいましたからには、これで鞍馬家に闇雲に手を伸ばしてくるような品のないお家は現れなくなると思いますわ

わたくしも、お祖父様がご裁可なさるまでは何人も手をお触れにならない方が良いとご忠告しておきます

これで、ジッちゃんが正式発表するまでは誰も鞍馬家に手出しができなくなった

ここにいるのは決して香月家に近い人ばかりではないけれど

香月家と歌晏家の両方から睨まれるような真似をする人間は名家にはいないだろう

そして、みすずはペットにしようと狙っている水島可憐さんにニコッと微笑む

ミズシマ・ホールディングスに関しても同じですわお祖父様のご処分があるまではねっ

小学校高学年の水島可憐さんは、涙目でそう答えた

よろしいかしら、歌晏様

いいんじゃないのかしら高浜物産はどうなさるおつもり

歌晏さんが、みすずに尋ねる

高浜さんのお家は、香月家とはそれほど縁はございませんわむしろ、歌晏様のお家に近いのではありません

みすずは、歌晏さんにボールを託す

そうねじゃあヤっちゃっていいですわよ皆さん

ただしお灸を据える程度にして下さいね高浜家も名家の1つですから、完全に殺してしまうのはよくありませんわ

歌晏さんは、みすずに微笑む

鞍馬家も水島家も同じですけれど

鞍馬家も水島家も、完全に名家としての命脈を断つところまでは追い込むなというひとか

それは、お祖父様がお決めになることですから

みすずは、そう言いながら水島可憐さんの可愛らしい頬を撫でる

でも、あなたは大丈夫よあたしが、ちゃんと守ってあげますからね

うふふと笑うみすずの眼には、淫欲の炎が見える

そうねみすず様は、なかなか趣味がおよろしいですわね

緊張している可憐さんを見て、歌晏さんが言った

とっても綺麗な子たっぷり、可愛がって差し上げてね

この口振りだと、歌晏さんもレズッ子なんだろうか

でも、わたくしにはあちらの方を選ばれる趣味は、良く判りませんわ

そう言って、歌晏さんがオレを見上げる

こんにちはわたくし、歌晏桃子と申します

ニタァと、オレに微笑む

こ、こんにちは黒森公です

オレも、挨拶した

ふーんあなたが、みすず様のお相手で香月閣下もお認めになっているっていう方なのよね

ジロジロと、オレを見る

はぁそうですけれど

ねみすず様あえてお尋ね致しますけれどこの方のどこが気に入られましたの

スバッと、歌晏さんは切り込んでくる

一緒に居ることが幸せだからですわ

旦那様のお側にいることが、あたしにとっては一番自然なことなんです

あら意外なお答えでしたわ

歌晏さんは言う

わたくしはもっとみすず様は、この方の男性的な魅力に取り憑かれてしまわれたのかと思っていましたから

オレがみすずをセックス中毒にして、セックスで引き止めているってひとか

だって、この方名家のお生まれではないわけでしょ

歌晏さんが、ニッと微笑む

わたくしも歌晏家の子女としていつかは、家のためにどちらかの名家に嫁ぐ覚悟はしておりますけれど

残念ながら、香月家には跡取り息子がおりませんからお婿さんに来ていただくしかないんですの

みすずは、そう切り返す

旦那様をお祖父様がお認めになれたということはそういうことですわ

ジッちゃんの次は、みすずの父親がいるけれど

ジッちゃんの孫は、みすず、瑠璃子、美子さんと女の子しかいない

だから、香月家は婿取りをしなくてはいけないというのは判るけれど

それは判りますけれどでも、この方に香月家という大きな名家を受け継ぐだけの才覚がお有りになるようには、わたくしには見えませんけれど

いや、オレだってそう思う

いうか、オレはパン屋になるんだけれど

香月家は、大きな家ですわわたくしたちの歌晏家と匹敵する家柄だけなら、狩野さんのお家ともね名家中の名家ですわ他の名家を率いる立場の家ですそんな大切な役割のあるお家の後継者というのは、香月家の中だけ決めて良いものではありませんわよわたくしは、そう思いますけれど

挑戦的に、みすずに微笑む

わたくしだって、いずれ結婚する時は他の名家の方たちにも納得していただくことのできる相手を選びますわ

この人が、今日、みすずの招きに応じて、香月家の邸宅に来たのは

でも、みすず様は、わたくしたちの知らない間に名家とは縁もゆかりもない、どこの馬の骨か判らない男性を選ばれたというではありませんかわたくし驚くやら、呆れるやら

みすずは、微笑みを崩さない

これは、名家のお嬢様同士の真剣勝負なのだ

とりあえず、一目、みすず様が選ばれたという方の顔を見てみようと思い今日は、こちらへ伺いましたのよ

やっぱりそういうことか

ああ、そうそう香月家が中心となって、わたくしたちの警護役をとりまとめるという件どうぞ、ご自由にお勧めください悪いプランでは無いと思いますわまあ、歌晏家の警護役は完璧ですから、わたくしは参加致しませんけれど他の家の皆さんは、どうぞ香月様にご協力して差し上げて下さいね

うふふと笑って、会場内の少女たちに言う

名家全体の警護のことまでお考えになるなんて、香月家はさすがでございますわねそういう面倒な件は、お任せ致しますわ歌晏家はもっと他にやらなくてはならないことがたくさんございますから

嫌味たっぷりに、そう言う

警護役たちの件についての話が終わってから、わざわざ登場したのは

歌晏家は、そういうことに興味が無いというアピールか

ありがとうございますでも、歌晏様もご参加になられた方がよろしいと思いますわ

みすずは笑顔で対抗する

あら、どうしてうちのセバスティアヌスならキョーコ・メッサーでも倒せますわよ

歌晏さんは、自分の警護役の背の高い男装の美少女を指差す

スッと、頭を下げる警護役

ね、美しいでしょ聖セバスチャンに良く似ていると思いませんだから、わたくしはこの子のことをセバスティアヌスと読んでいるのよ

名前の最後にアヌスが付くっていうのも、良い感じだと思いません

この歌晏さんという人の趣味もよく判らん

ね、セバスティアヌスあなたなら勝てるわよねみすず様の警護役にも、香月セキュリティ・サービスにもキョーコ・メッサーにも

主に尋ねられた警護役は

桃子お嬢様のご命令とあれば

低い声でそう言う

ムッとして、美智やイーディが彼女を睨む

翔姉ちゃんたちは、無視している

ここまで自信があるのなら、気の技の攻略ぐらいできる人なのかもしれない

それでもキョーコさんに勝てるとは思えないけれど

この山田梅子命に代えましても、勝利の栄冠をお嬢様に

ヤマダウメコ

山田梅子さんは、タカラヅカの男役のような華麗なポーズで歌晏さんにアピールしている

セバスティアヌス本当の名前を言うのは、およしなさい

こんなに筋肉隆々で強そうな人だけど山田梅子さんなんだ

ていうかホントに強いのかこの人

さてとそろそろ話を戻しますわ

勝手に煽るだけ煽って歌晏さんは、再びオレを見る

この方のあら、わたくしとしたことが、もうお名前を忘れてしまいましたわ

意地悪そうに、微笑む

まあどなたでも構いませんわ名家でない男性なんですから

オレのことを徹底的に軽んじる作戦らしい

本日の会の前にここにいらっしゃる皆様はご覧になっていたと思いますし、わたくしも別室で映像を拝見しておりましたけれど

歌晏桃子さんは、会場内のお嬢様たちに向かって言う

香月閣下が、この方とお話しなさっていましたでしょ

ジッちゃんは、わざわざお嬢様たちの前に姿を見せてオレと会話した

あのお話の内容を盗み聞きするつもりはなかったんですけれど、香月閣下のお話ですから、わたくしついつい聞いてしまいましたのごめんなさいね

オレとジッちゃんの話

でも、大変失望したというかびっくり致しましたわ

歌晏さんは仕掛けて来る

だって、香月閣下が、みすず様のお相手になられる方に、直接、ご指導なさっているんですよわたくしとしては、もっと高度な経営哲学や最新の経済論などをお話なさっているものだと思うではありませんか

ケイエイテツガク

でも、香月閣下が、この方になさっていたのはとても低レベルなお話ばかりで正直、笑っちゃいましたわ今頃、こんなレベルのお話を皆様の前でなさっていて、お恥ずかしくないのかしらって

あの話が低レベル

いや、香月閣下が本当は、もっと素晴らしいお話をなさることは知っておりますわわたくしは、閣下がなさっているという私塾の講義のビデオも拝見したことがございますしホント、それはもう最新の学説や、現代世界の金融システムの問題点を論じた素晴らしい講義でした

そりゃ、ジッちゃんは世界を相手に企業グループの舵取りをして来たんだから

そういう話もできるんだろう

私塾の連中っていうのは、次代の香月グループを支えることになる香月家の分家や重役の息子たちなんだし

ということは、あれなのかしら香月閣下が、あんな低レベルなお話をなさらなくてはいけなかったのはもしかして、あなたのレベルが低いからなのかしら

歌晏さんが、オレに尋ねる

歌晏様、それはあまりにも失礼ですわ

みすずが、歌晏さんに抗議しようとするが

いや、いいんだみすず

オレは、みすずを止める

ここで怒ったら負けだ

歌晏さんは、みんなの前でオレたちを怒らせたいんだから

そして、感情がいきり立ったオレたちを見てまた笑うつもりなんだ

確かに、ジッちゃんはオレのレベルに合わせてくれたんだと思います

まあ、天下の香月閣下が、わざわざあんなに低レベルなお話を

しかし、オレはあの話が、低レベルだとは思っていません

オレは、歌晏さんの言葉を遮る

ああ、そうねあなたのような庶民にとっては、どんなお話もハイ・レベルなのかもしれないわね

歌晏さんは、なおもオレを煽る

オレは今実際に、自分のビジネスを始めています

高校でパンを作って、学生食堂で売るのだって立派なビジネスだ

ジッちゃんは、今のオレのビジネスに必要なアドバイスをしてくれたんですオレはそれを低レベルだと思いません

歌晏さんは、ニッと笑う

あら、ビジネスならわたくしだってしているわよわたくしは株式もやるし、自分で起業した会社も3つあるわ

ああ、鳥居さんに株を教えたのは自分だって自慢していたものな

わたくしは17歳ですけれどあなた、お幾つ

16です

ほら、わたくしと1つしか違わないでも、1年前のわたくしだってもう会社の経営は始めていましたし、経営学の本やビジネスに関する本は何冊も読んでいましたわあなたのレベルなんて小学校で卒業していますわ

歌晏さんは、勝ち誇ったようにそう言う

ですからわたくしは、あなたがどんなビジネスをなさっているのか、よく判りませんけれどただビジネスをやっているということで、わたくしを論破するのは無理ですわよ少なくともわたくしと同じだけの経済についての知識をお持ちでないと

この人は、とにかくオレみたいな馬の骨が、香月家に入り込むことが不満なんだ

もちろん、いくら歌晏家だってジッちゃんの決定に口出しすることは、できない

家が違うんだから

だから、公の場でオレを馬鹿にすることで

名家のお嬢様たちにあんな人が、みすず様の相手で大丈夫と思わせて

オレを追放せざるを得ない雰囲気を作ろうとしているんだ

歌晏さんはまだ高校生ですよね

貴様様をお付けしろ頭が高いぞ

山田梅子さんが、オレに言う

構いませんわ、セバスティアヌス身分の低い人に、正しい礼儀作法を求めることは間違っていますわ

歌晏桃子さんは、そう答える

わたくしが、高校生なのだということもお判りにならないみたいですし高校生でなかったら、そもそもこのみすず様のパーティに呼んでいただけるはずがないですのに

今日はみすずたちの通う超・お嬢様校の生徒たちが来ている

小学部・中学部・高等部

みすずの学校には、大学部は無いしお嬢様たちは、大学生になってからは、プロの大人の男性を警護役にするから、今日の会には高校生までしか来ていない

高校生をやりながら会社を3つも経営しているんですか

オレの問いに歌晏さんは

それがどうかしたの経営者は、指示だけをすればいいんですから何も問題はないわよアイデアが浮かんだら指示をして、報告を受けて、決裁すればいいだけなんですから

えっとオレも、歌晏さんが何の会社をやっているか判らないですけれどあの、売ったり買ったり、段取りしたりするのは誰がやっているんですか

そんなの社員に決まっているじゃない

唖然とした表情で歌晏さんは言う

あなたそんなことも判らないの

えっと、歌晏さんが直接、仕入れ先の人にあったり、お客さんに会ったりすることは

あるわけないでしょああ、大手の取引先の社長さんとはお会いしたことがあるけれどそれと、メイン・バンクの人にもそれはお父様の会社の方に同行していただきましたけれど

え、ちょっと待って下さい歌晏さんはえっと、上から指示をしているだけなんですか

そうよだって経営者ですもの

なるほどってだって、わたくしの企業の1つはインターネット通販をやっていますけれど注文の受付とか、発送業務なんかまで、わたくしがする必要はないじゃありませんか

え、会社を始めてから1回も自分で注文を受けたり、自分で発送したことがないんですか

だから何で、わたくしがしなくてはいけないのよ

歌晏さんが、叫ぶ

そのために従業員を雇っているわけでしょ

だいたい、わたくしの会社の倉庫は地方にありますのよ地方の方が、土地代が安いですからだから、注文を受けた人が、倉庫にいる人に連絡して倉庫から発送しているのよわたくしには学校があるんですから地方の倉庫になんて、行ってられないわよっ

歌晏さんは、吐き捨てるようにそう言った

Darlingのペースネ

オレの後ろで、イーディが微笑む

つまり歌晏さんのビジネスは、上から指示するだけで成立しているんですね

意味が判りませんわ経営というのは、そういうものでしょ

いや、オレは自分で全部、一通りは経験していますから

一通り

はい材料の注文から始めて商品の製造も販売も工房の掃除や片付けも自分でやっていますよ

あ、あなた何のビジネスをやっているの

歌晏さんは、訳が判らないという顔をしている

オレはパン屋のビジネスをやっています

パン

はい自分で小麦粉やイーストを買って、パンを作って、焼いて売るのは最近、他の子に任せていますけれど、最初は自分で売っていました

何で、そんなことをするの趣味なの

歌晏さんが、尋ねる

いいえ、真面目なビジネスですオレは、将来的にはこのビジネスを発展させて生きていくつもりですから

だったらパン作りなんて、人に任せればいいじゃないの作るのもそうだけど、売るのだってあなたは、今はどんなパンが売れるのかだけ調査してこういうパンを作って、売れって指示するだけでいいでしょ

一気に歌晏さんは、まくし立てる

そんなのどう考えたって、あなたよりも上手にパンを作れる人がいっぱいいると思うわよ専門職は、雇えばいいのよビジネスの何から何まで自分でやるとか気が狂っているとしか思えないわよ

全ての工程を経験していることが後々になって役に立つのよ

突然の声に、歌晏さんが振り向く

その先に居たのは

名乗るつもりはございません香月様のご命令で参りましたわ

香月閣下の

驚く歌晏さん

はいあの人の庭先でピーチク騒いでいる小生意気な娘をこらしめてこいと勅命を受けましたわ

ニヤッとミナホ姉さんは、微笑む

歌晏さんの何倍も、意地悪そうな笑みを浮かべて

小さな世界の中だけのルールっていうか常識みたいなものがあります

その世界では通用するけれど、外ではダメというものが

そういうのに囚われているのって、実は物凄く馬鹿馬鹿しいことで

昔、某宗教団体の主催する高校生のイベントの舞台の仕事で困ったことに合いました

そのイベントは、参加者の半分くらいがその宗教の人だったんですが、そうでない高校生も来ていたわけです

で、何でだかよく判らないのですが本番が差し迫った頃に、そこの宗教の何かの委員の人が来て、お前たちはナメてるとかたるんでるみたいな話をして

イベントの当日のスケジュールを全面的に変えろと言い出したんだそうです

それで、新しい進行台本を明日までに書いてこいと、その宗教の人ではない高校生に命令したんだそうです

ところが、その高校生が翌日が学校全体で模試を受ける日かなんかで明日までなんて、無理ですと

なぜか私に相談してきました

それで、私が高校生の代わりに、その偉い人に談判しに行ったのですが

話にならないんですよ

オレは、**の教えを判っているお前は判っていないいつか、お前も判るだろうからそれまでは、黙ってオレの言うとおりにしろ

そんで周りの他の信者たちも、ウンウンうなずいている

どうにもならないんです

そのイベントに全然関係無い人が、今までのことを引っ繰り返して

そのイベントには、そこの宗教団体でない子も来ているわけで

何で明日までじゃないといけないのかとか

理屈で考えれば変なことが、その人たちの世界ではアリなんです

で、結局、そういう人たちとはお別れするしかないんですよね

理屈が通じないんだから

その高校生にもごめん、オレには無理だったと謝って本番は私は付いていないと思います

狭い世界だけれど、そこに仲間が居てその変なルールがそこには通用していて

その人たちは、それで良いと思っている

そういう怖い世界は実在します

そういうのからは、結局、逃げるしかないんですよね

私がどうして、あの高校生に明日までにやれって言ったんですかって聞いたら

あいつのためを思って、オレは心を鬼にして言ったんだいつかお前にも判る

って、言い返されましたから

判らないし、判ってはいけないんです

そんなイベントは結局遊びでしかないんですから

863.ハイ・ライフ / 働くということ

・アーデルハイト鹿取/13歳まり子の警護役ただし最近、解雇された娘ハーフなぜかハイジと呼ばれている

・栗宮素子/17歳武闘派お嬢様栗宮流槍術師範

・御厨くるみ/14歳素子の警護役なのだが、ふんわり髪の可愛い少女

・歌晏桃子/17歳香月家、狩野家と並ぶ3大名家、歌晏家のお嬢様

・山田梅子/17歳桃子の警護役男装セバスティアヌスと呼ばれている

・水島可憐/12歳ミズシマ・ホールディングスの会長の孫娘スパイを連れて来た罪により、みすずのペットに

・天童乙女/17歳可憐の警護役として潜り込んで来た関西ヤクザのスパイ

わたくしをこらしめるあなたが

苦笑する歌晏さん

はいそういうご命令を受けましたので

ミナホ姉さんは、冷たい微笑みを崩さない

今、横からお話を聞いておりましたが歌晏様は高校に通いながら、3つも会社を経営なさっていらっしゃるそうですわね

ええ、そうよどの会社も黒字を出していますし、確実に成長していますわ

歌晏さんは、胸を張ってそういう

まあそれはまた随分、おイタワしいことですわね

イタワしい

ミナホ姉さんの表現に、歌晏さんは引っ掛かる

わたくしは別に、イタワしくなどありませんわよ会社経営をしながらだって、学業の方も順調ですし生徒会の仕事だってしているわ部活はしていないけれど、代わりに株の売買を楽しんでいますしそれでもわたくしは、全然平気よこの通り、元気だわ

歌晏さんは、笑顔でそう言う

まあ、そんなにお忙しいのに本当によく3つもの会社を経営することがおできになりますわね

だからそれは、さっきも言ったでしょ経営者というのは、判断をすることだけが仕事なんですから、わたくしは毎日の業務報告のメールを読んでメールで指示するだけよ新しく思い付いたアイデアもメールで送るわ社の人間には、週に何回かだけ会えばいいんですし直接的な業務は、全てわたくしの優秀なスタッフたちがやってくれますもの

ミナホ姉さんは、クククと笑う

だから、申し上げたんですわおイタワしいと

歌晏様の下で働いていらっしゃる従業員の方たちは、本当にお可哀想ですわね

ど、どういう意味ですの

ムッとする、歌晏さん

言葉の通りですわ気分屋でワガママな女子校生の気が済むように、何もかも上手く成し遂げないといけないわけですからしかも歌晏家のお嬢様の顔を潰さないように、絶対に失敗はできないあなたのどんな馬鹿げた提案も、収益が上がるものに仕立て直さないといけないわけですから

ちょっと失礼じゃないのあなた

シーンとなるパーティ会場

歌晏家のお嬢様に真っ向からケンカを売るこの女性は誰なんだろうとみんな注目している

わたくしを誰だと思っていますのわたくしは企業の経営というモノを遊びでやっているわけではないのよわたくしは、父や祖父を毎日見て育って来ました企業の経営者の心構えというものは、あなたなんかの何倍も判っていますわ

銀行や重化学工業の会社をたくさん経営している歌晏家の娘として誇りがあるらしい

本当にそうなのでしょうか

数年前になりますけれどとある大きな企業の会長が、会社のお金を何十億円もマカオのカジノで使ってしまって大きな問題になりましたよね

ああ、そういう事件がありましたわね大きなメーカーの創業者一族の方でしたわよね

歌晏さんも、知っている事件なんだ

あれは本当に創業者一族で企業のオーナーの馬鹿息子が、会長に祭り上げられてそれでギャンブルに溺れてしまって、あんな失態をしたということですわ確か、株を売って会社に損害を返金しましたけれど、結局、特別背任で牢獄に入られてしまっているはずですわ

歌晏さんが、そう解説する

あたしがあの事件で注目したのはあの馬鹿息子が、何で何ヶ月もマカオのカジノに入り浸ったままギャンブルに興じられていたかということですわ

あれだけの大きな企業の社長としていえ、事件が発覚する数ヶ月前には企業グループ全体の会長に就任していますわ経営者としての仕事はどうしていらしたのでしょうね

それはそんなの、わたくしには判りませんわっ

歌晏さんが、反発する

おそらく、歌晏様と同じなんだと思いますわあの家の名誉に泥を塗った馬鹿な人も、メールで会社から報告だけを受け自分もメールで指示を出していたのでしょうね毎日、楽しくマカオでギャンブルに興じながらそして、そういうメールだけのやり取りを企業経営だと思い込まれていたんだと思いますわ

わたくしのしていることをあの方と同じだとおっしゃるの

歌晏さんは、ミナホ姉さんを睨む

同じとは申し上げませんが大差はございません現実に行わなければならない業務は優秀な部下の皆様が、必死で処理なさっていたんでしょうから

部下が何とかしていた

仕事というものの大半は些事ですわつまらないこと大したことのないことそんなに意味の無い、どうしてわざわざそんなことをするのか判らないようなことです

他の会社と取引をするのだって契約書を作って、ハンコをいただくまでに幾つもの手順がありますわなかなか、面倒なことばかりです担当の方との交渉が上手く行ったのに、その上司の方にもう一度会って説明しなくてはいけないとか担当役員の認可の印をいただくまで、何日も待たなくてはいけなくなるとか

そういうのは馬鹿げた因習よ日本のビジネス界の悪しき伝統でありわたくしたちの代で撤廃していかないといけないことだわ

と実際にその煩わしい業務を体験したことのない、お嬢様がおっしゃるのはいかがかと思いますわ

だってそういうのは下らないし、時間のムダだわビジネスというモノは、もっとスピーディに進めていくべきものよトップの決断が、すぐに末端に伝わるようでないと

歌晏さんは、断言する

今はメールで、トップから組織の末端の隅々まで直接指示を伝えることだってできるんですからトップの経営者の知らないところで、ゴタゴタと下らない時間を過ごしていることで、どれだけのビジネスチャンスを失っているのか、判らない人が多すぎるのよ

うんメールを使えば

経営者の指示を、社員全員に同時に届けることもできる

現場で働いている人に、経営者が直接連絡することも

そういう考え方をしてここ十年に伸びてきた企業の多くがブラック企業と呼ばれていることを、歌晏様はご存じですの

簡単なことですわ経営者の方は何でも好き勝手に、思い付いたことをメールで指示することができます

現場で働いている人たちからだって何か業務改善のために気が付いたことがあったら報告するようにって指示しているわよ実際に、毎月何件か改善アイデアが提出されて来るし

それは業務ですからねでも経営者の指示に、真っ向から逆らうような改善アイデアは送られて来ないはずですよというかその報告は、毎月どなたから来ています

わたくしの部下の一人が従業員から提出された改善アイデアをレポートにまとめて、送ってくれているわ

歌晏さんは、答える

つまり歌晏様のお目に触れない方が良いものは、その人が省いているということですわね

よーく、考えてみられた方がよろしいと思いますわよ

ニヤッと、ミナホ姉さんは微笑む

それと、歌晏様はインターネット通販の会社を経営されていらっしゃるそうですけれど正社員以外に、契約社員や派遣社員はどの程度の割合で使っていらっしゃいます

お客様の注文を受ける係や、商品の発送をするような係は今時、正社員を雇っておられるとは思えませんが

ミナホ姉さんの冷たい視線に、歌晏さんは

それは使っているはずよどれくらいかは知らないけれど人材派遣会社と契約しているということは知っているわそ、そんなの担当者にメールすれば、すぐに判ることよ

詳細は知らないというか、興味が無かったんだな

では、先ほどお話にあった業務改善アイデアですけれど契約社員や派遣社員として働いていらっしゃる人たちからのものをご覧になったことはございますか

絶句する歌晏さん

おそらく、発送作業の倉庫現場なんて働いている人の9割以上が、派遣社員の方のはずですわそういう実際に業務を行っている人たちからの意見を聞かないで、改善なんて本当にできるのでしょうか

そ、それはそういう人たちの意見は、ちゃんと現場に居る正社員が報告してきているはずよ

そういう報告を歌晏様は、ご覧になったことがあるのですか

口籠もる歌晏さん

この問題は経営者が、自分の会社のことは、上から下まで全部理解していると思い込んでいることに端を発しています本当は、そんなことないんですよ経営者が実際に雇用者たちが働いて、お金が発生している現場の実情を何も知らないなんていうことは、よくあることなんです

経営者が現場を知らない

例えばネット通販なら、お客様に商品が届くことで収益があるのですから、一番大切なのは物流倉庫であり、発送現場です注文を受けた商品が、間違うことなく確実にそして破損がない美しい状態でお客様に届けられるようにするのが一番大切なことですそれが業務の核であり他のことは全て付随品でしかありません

だったら物流倉庫や、そこで働く人たちのスキル・アップのためにリソースを使うのが正しいのではないかと、あたしは思いますけれど現実には、倉庫はとても汚く、そこで働く人たちの給与は低いままそして、実際にはお金を生じさせていない本社の建物ばかりが立派になるという、馬鹿げたことが起きています何故だか、お判りになられますか

歌晏さんは

経営者が実際に利益を生んでいる現場のことに、無頓着だからだっていうの

あたしは、そう思いますわ

歌晏さんは、考え込む

でも倉庫の中から、注文を受けた商品をピックアップして、箱に詰めて送り出すだけの仕事でしょそんなスキルなんて何も必要じゃない仕事だわ

しかし、それをする人間がいますどれだけ機械化しても、最後の最後は人間がやらなくてはいけない仕事がありますですから、人間を雇わないといけないんです

だけど人件費を抑えることは、どんなビジネスにとっても大切なことのはずよ

そのお言葉はちゃんと、雇用者たちが働いている現場の実態を知っている経営者でなくては言ってはいけないことですわ

そ、それはそうかもしれないですけれど

人件費は抑えるけれどお客様へのサービスは増やすこういうアイデアを思い付いたから、今日からすぐに実行しろお客様たちに強くアピールできる目新しいことをどんどん採り入れないと、会社が続かない経営者の言う通りに、どんどん働け残業代は請求するな文句を言うなら、辞めろ働きたいという人は、いくらでもいる何なら、外国から労働者を呼び寄せてもいいんだ

ああ確かに、ブラック企業の論理だな

わたくしはそんなに酷い経営はしていませんわ

それは歌晏様の会社の末端で働いている人たちに聞いてみないと判りませんわね

ミナホ姉さんは、はっきりとそう言った

というか1日ぐらい、そういう人たちと一緒に働いてみなければ、何も判らないと思いますわ

わ、わたくしが末端の方たちと一緒に

いや本当は1日でも何も判らないでしょうねでも、1日働いてみてその労働で幾らの賃金になるかが判れば、色々と判断できます1ヶ月で幾らになるのかその金額で生活できるのかどうか

でも、わたくしは歌晏家の娘ですわそんな方たちと一緒に働くなどということは

そんな方たちとおっしゃいましたね

ギロッと、ミナホ姉さんの眼が光る

歌晏様が経営なさっている、歌晏様の会社ですよそこで働いて下さっている方をそんな方たちと低く見られているのですか

歌晏さんは、困惑している

今の日本は資金さえあれば、どんなビジネスでも始められますわ例えば、あたしが今からホテルを始めようと思ったらホテル経営を専門とするコンサルタントに頼めばいいのですホテルの建設場所を探すことから始まって、どんなホテルを建てるのかあたしの要望に沿って、色々とプランを提示して下さいますし、専門の設計士に希望通りの設計図を作らせてくれますホテルができれば、従業員を集めてその教育や、実際にホテル業務を行うためのマニュアルの全てを伝授してくれます開業してから数年、経営が軌道に乗るまで現場を見て下さる支配人を雇うこともできます

何から何まで、お金を出せばやってくれる人たちがいる

だから、あたしはこういうホテルにしたい、あそこは変えて欲しい、ここは嫌いだから、違う感じにして欲しいとか、ただワガママと文句を言っていればいいのよ資金さえあればね

レストランとかもそう資金さえあれば、ああしたい、こうしたいだけで面倒なことは全部やってくれるコンサルタント会社があるわそれこそ、料理人とかまで揃えてくれる会社がねもっと大きく外食チェーン店とかでも同じよこういうコンセプトでっていうアイデアだけあれば、それを元に実際の業務を全部やってくれる人たちがいるわアルバイトの募集や宣伝まで、全部やってくれる人たちが

そういう連中がいるのか

ほら大きな会社が異業種参入をすることって最近多いでしょお店やレストランを始めるというケースが一番多いけれど、ノウハウの無い他の業界の仕事が何で始められるかというと、そういう専門のコンサルタント会社があるからなのよ

で歌晏様が今、なさっている会社の経営って、そういうコンサルタント会社を使っているのと同じなんじゃありませんか

わたくしの仕事が

歌晏さんは、息を呑む

だって歌晏様の部下の方は、みんな歌晏家の企業の中から、歌晏様の会社を上手に運営するために送り込まれて来た方々ですわ歌晏様が恥ずかしい思いをなさらないように本当に優秀な方たちに来ていただいているはずですよいずれは、本社に好待遇で戻れるということを約束されて

歌晏家のお嬢様の会社は潰せないし、業績も良くしておかないといけない

だから、それなりの人材を送り込む

まあ、実際に歌晏様の経営判断や、アイデアが、会社を良い方向に向かわせていることも多いとは思いますがおそらく、歌晏様がいらっしゃらなくても、歌晏様の会社は問題無く運営されていくと思いますわ

ミナホ姉さんが、クスッと笑う

女子校生が、学校の授業や生徒会活動の片手間にやれる企業経営なんてあるはずがないんですから

平日の昼間に、身体が自由にならない経営者なんて普通ではないんですよ一般企業は、9時から5時までしかやっていないことになっているんですから

社長が会わないと話が進まない取引先なんかには、行かれないんじゃしょうがないのか

社長が高校生だから、土日とか営業時間外の夜に会ってくれとか頼むのはやっぱり失礼だよな

幾ら歌晏家に権威があると言っても

歌晏様がなさっていることは会社経営でなく、経営ごっこですわ

はっきりとミナホ姉さんは言う

もちろん経営ごっこにだって、これから歌晏様が生きていくための良い経験にはなるでしょうわずかでも社会に触れる機会があるのですからでも、あくまでも現実の企業経営でなくごっこ遊びでしかないことを理解していないと、思わぬところで足を掬われますわ

ぬけぬけとよくも、まあ、そこまでおっしゃりますわね

お腹立ちでしたら、謝罪致しますわ

まったく悪びれる様子なく、ミナホ姉さんはそう言い切る

謝る必要はございません全てあなたのおっしゃる通りだと思いますわわたくしの認識が甘かったと思います

歌晏さんは、ハァと溜息を吐く

むしろわたくしの家の中に、あなたのようにハッキリ言って下さる人がいなかったことを悲しく思います

お、お姉様

鳥居さんが、歌晏さんの背中を擦る

ありがとうまり子

しかし、まだ歌晏さんの眼は強い意志の光を見せている

ギッとミナホ姉さんを睨んで

でも、まだわたくしは、あなたから黒森様のことを聞いておりませんわ

わたくしの問題はよく判りましたわ必ず、是正してご覧に入れますそれより黒森様が、ご自分のビジネスを何でも一人でなさっていたというお話それにはどのような意味があるのですか

ああ何でも部下にやらせて、自分はメールで指示する経営の歌晏さんと

何でも自分でやるオレを比較していたんだっけ

あなた自分ではどう思うのとりあえず、最初はどんなことでもあなたが自分でやってみるようにしてきたけれど

オレのパン屋

克子姉には手伝ってもらっていたけれど

最初は、オレ1人で

パンの売り子だって、オレとメグだけだったし

それから寧たちが手伝ってくれるようになって

克子姉も、自分で店に立つようになった

可奈センパイや愛も手伝ってくれている

安い方のパンは、アニエスやマナや瑠璃子たちが作ってくれているし

オレ1人だけじゃできないってことが、判った

オレは、ミナホ姉さんにそう答える

何をするにしたって1人じゃなくって、みんなに助けてもらわないと

オレは歌晏さんを見る

歌晏さんみたいにモノによっては、専門的な能力を持っている人に頼んだ方がいいものもあるんだろうなって、今は思っている

オレのパン屋はまた変わってしまっている

9月の始めに開業した時は吉田のパン屋とか1年なのに婚約しているやつらのパン屋とか言われていたのに

克子姉が店に出るようになってからは克子さんのパン屋に

今は克子さんと愛ちゃんのパン屋だ

愛が作ったパンだけを並べた愛ちゃんコーナーのパンが、毎日、大争奪戦になっている

1コ190円のパンが、愛のファンの生徒たちで闇取引されて3200円になったこともあったらしい

1年生で一番可愛い女の子の手作りのパンが、毎日、食べられるというのは

しかも、愛のスピードなので毎日、数が限定されているし

ただ愛のパンは、どんどん美味しくなっている

愛にはパン作りの才能があると思う

じっくり考えて、じっくり取り組む性格だから時間は掛かると思うけれど

前みたいにオレが、オレがって、とにかくオレが1人で頑張らなきゃっていうのは違うんだなって判った

そうオレのパン屋として認知されなくても、いいんだ

克子さんと愛ちゃんのパン屋でいい

大切なのは、ちゃんと美味しいパンをコンスタントに作って儲けを出していくことなんだから

あなたは今後今、やっていることをビジネスとして発展させていくのよね

オレはパン屋になるために修行しているんだから

そしたらいずれは人を雇っていかなくてはならなくなるわ業務を拡大するのならあなた1人の肉体と時間だけでは、到底追いつかなくなるものね

パンを作るのも、焼くのも、売るのも人を雇うしかなくなる

もし克子姉が、パン屋の2号店を出すと言い出したら同じだけの人員が2倍いる

いや、オレや克子姉の代わりに店長をしてくれる人材も必要か

それはそうだね

もっと、はっきり言うとあなたよりも上手くパンを作れる人が見つかったら、その仕事はその人に任せた方がいいのよ

それも判る

売り子の時と同じだ

オレが売り子をするより美人の克子姉や寧たちが店頭に立つ方が、よく売れる

むしろ、オレは店の方になるべく顔を出さないようにしている

パンだって、愛が数を作れるようになったら、オレのよりも売れるはずだ

もしかしたら、あなたはパンのビジネスはするけれど製造や販売には立ち合わなくなるかもしれないわもちろん、業務が拡大すれば他にも仕事はいっぱいあるから何もしなくていいっていうわけじゃないわよ

ああ各お店に、原材料を届けるとか

ある程度作れるようになったら、移動販売とかをしたっていいんだし

食堂やレストランに売り込んでそしたら、オレが配送すればいい

そうだねそうなることもありえると思うよ

どうしてもオレじゃなきゃいけないという仕事なんかないんだから

オレは、オレのできることは何でもやっていかないといけない

もし、そうなったとしたらあなたは、今まで覚えたパンの製造や販売についての経験は全てムダになると思う

ミナホ姉さんが問う

そうは、そうは思わないよ何もかも必要で大切な経験をしたと思っている少なくても、パン屋をやっていくんなら知ってて困らないことばかりだし

小麦粉のこと、イーストのことそれはどこに連絡したら、幾らで買えるかいつ届くかっていう知識パンができるまでの手順一個にかかる手間と原価それから時間どういうパンを売り出したら、どんな反応があるのか判ったことがたくさんあるから

メールとかじゃ判らないことって、あるんですよ

キョトンとした顔で、歌晏さんはオレを見る

いや、メールで意見を聞いたり歌晏さんのところは、現場の意見とかもメールでまとめて送って来てもらっているんでしょ実際のデータと一緒に

オレのパン屋だって、データはあります実際にどのパンが、どれくらい売れたのかとかどのパンは、あんまり売れなかったかとか

売り切れるにしても、どれが一番早かったかとか全て、克子姉が記録を取っている

お客さんにも聞いていますどのパンが好きかとかこの新しいパンは、どう思うとか

オレやメグの友達だけでなく、今は克子姉が明るい雰囲気でどんどん生徒たちに話し掛けるから

可奈センパイも人気者だから、みんながアンケートに協力してくれる

でも、そういう感想って、現実とちょっと違うんですあの、ほら人の思いって、言葉に変換するとちょっとズレちゃうから

ズレる

歌晏さんが、オレを見る

例えばこの新しいパンは好きだって、みんなが答えたパンが実際には、ちょっと売れ行きが良くなかったり良くないっていっても、売り切れるまでのスピードが他の人気のあるパンよりも、ちょっと遅いとかぐらいなんですけれど

うちのパン屋の売り場には、カメラが付いていてオレは、店の中からパンを選んで買うお客さんの手を見ることができますそれでお客さんが、どのパンを買うか迷ってる迷っていて一度は、その好きだってみんなが言っている新しいパンに触れるそう触れることは触れるんですでも、戻す人が多いそういうのを見て何か問題があるんだなって判って

人の思考のあれっって弾ける瞬間があるんですオレは工藤流古武術も習っているから、最近よく感じるんだけれどいや、まだ6級ですけれど眼の前で、人の思考が弾けるその人が何を感じたことが判るっていう瞬間があって

そういう感覚がすっごく大切なんだと思うんですそれはメールの文章とか、誰かがまとめたレポートでは判らないことだから本当にお客さんていうか眼の前に人がいないと現場にいないと感じられないことだから

だから、オレは現場って大切なんだと思います直接、お客様に人間に触れる機会がないと言葉や文章は思いを論理化した時に、ズレてしまうから

わ、わたくしもそう思いますわっ

突然立ち上がって、そう叫んだのは武闘派お嬢様の栗宮さんだった

わたくしも武芸を嗜みますから現実の人を前にすることが、大切なんだということはよく判りますっ

今のお話眼からウロコが落ちて、心が晴れやかになりましたわ

そういうことを言っているんじゃないんだけれど

わたくしの旦那様に、どうしてお祖父様がこのような修行をさせているのかこれでお判りになられましたね

みすずが、歌晏さんに言う

旦那様は今経営勘を養われているのです

か、勘

経営者が現場を知らないのに、思いつきで色んなことを指示して会社そのものを傾けるというのは

あの社長、それでも他の社に呼ばれるんだよなあ

何で、ああなるのか

これからは、どんどんああいうおかしいことが増えていくんだと思います

実績が悪かったのに、謎の力で次の仕事があるという

864.ハイ・ライフ / 私ってバカ

勘てどういうことですの

歌晏さんが、聞き返す

インスピレーションですわどんな経済理論や、ビジネス知識よりも大切な

何が自分の会社を発展させる上で良いことで、何が悪いことなのか危険なだけの取引ではなのか、それでも一か八か勝負しなくてはいけないことなのか最後は、経営者のインスピレーションに掛かっているわ

ミナホ姉さんが、歌晏さんに言う

そして、そういう勘はきちんと、人と人が向き合う商取引の現場に居なければ身に付かないものなのよ人の思考が弾ける瞬間を感じ取れるように、自分の感性を研ぎ澄ましていないとねどんなに経営勘の優れている人でも、現場を離れれば勘が鈍るわそれくらい、ビジネスの世界では大切なものよ

ああ、オレにはよく判るよ

オレは、今毎日、パンを作って売っているから、ダイレクトにお客様の反応が伝わって来るから

どんなパンがお客に様好まれて、どんなパンは受け入れられないのかそれから、このパンは今ダメでも、もう少し工夫すれば、きっと売れるはずだなんていう、細かい手応えも感じられるようになった

パン屋を始めた時にオレは、ちょっと思い違いをしていたんだ

思い違い

歌晏さんが、オウム返しに呟く

そう思い違いオレはオレだって、自分だってパンとか買って食べたりするわけじゃないですかだから、お客様がどんなパンを求めているのか、判っているつもりだったんです自分も、客だったわけだから

消費者目線を持っていると思っていたということかしら

いや、そういう面倒な言葉じゃなくってとにかく、オレは自分が判っていると思っていたんですホントは全然、判っていないくせに

オレは必死で、頭の中の思いを言葉に変換していく

実際に、店をやってみたらオレが考えていたようなことは、予想していたこととは、全然違っていたんです

オレだって1人の高校生であり、オレの高校の生徒だ

だから、うちの高校の生徒ならこういうパンを作ったら、みんな喜んで食べてくれるはずだというイメージがあったプランも立てた

オレが売れるはずと思って作ったパンは、そんなに売れなかったんですよ違ったんですオレの予想と現実は

現実

そうです現実にお客様が求めているパンですそして、それが判ったらすぐに現実に則した売れるパンを作らないといけないんです

オレの言葉に、歌晏さんは

そうかしらあなたは、あなたの好みを押し通してもいいんじゃないのあなたが美味しいと思うパンを売ればその内、購買者の方があなたの味を理解してくれるかもしれないんだし

それじゃあ遅いんですよ店が潰れますビジネスにならない

お客様というのは、育てたりするものじゃないんです今、この瞬間にオレと同じ時間を生きている現実のお客さんだけが、今、オレのパンを買ってくれる人なんですそういう人たちを相手にしないと、お金がもらえません

今、学校に居る生徒が今、食べたいと思っているパンを提供しなくてはいけない

そりゃ、パンだって通好みの特別な酵母を使ったパンとか、本当ならこっちの方が美味いはずなのにっていう手の込んだパンとか色々ありますけれどでも、まずオレがどんなパンを作って売りたいかではなく、お客が食べたいと思っているパンをちゃんと提供できるようにならないとダメなんです

それは、わたくしとは考えが異なっているわねわたくしはあくまでも、自分の理想のためにビジネスをしているのよ自分のこういうものを作りたい、こういうものを売りたいっていう気持ちが大切なのよわたくしはわたくしのセンスをわたくしが素晴らしいと思うモノを、世の中の人たちに広めたいのよわたくしの理想といってもいいわ突き詰めれば、わたくしが美しいと感じる生活を世界中の人たちに受け入れていただきたいそのために、ビジネスをやっているのよ

ご意見は、よく判りましたでも

この人のビジネスには自分しかいない

歌晏さんのビジネスでは家族が養えません

家族のみんなのためには毎日、少しずつでも日銭を稼がないといけないんですそうでないと、みんなのご飯代がありません洋服代も学校に通うんだって、お金が要るし小遣いだってあげないといけないでしょ

あなた何を言っているの

歌晏さんは、眼を丸くしている

やっぱり、そういうことは考えたことがないんだな

この人にとって、会社経営はゲームでしかないんだ

旦那様は会社で働いて下さる雇用者の皆さんたちのことを、おっしゃっているんですわ

理想は大切ですけれど雇用者たちには、生活があります家族がいます経営者は、働いて下さる人たちのことを忘れてはいけないのですわ

そんなこと判っているわよわたくしにだって

歌晏さんは、口籠もりながらそう言う

でしたら経営者の理想の前に、毎日、コンスタントに利益が出ることを優先するという旦那様のご意見もご理解いただけますわね

わ、判るわよ意見としてはもちろん

でも、最近は経営者の理想だけで突っ走って、迷走しまくっている企業が多いのよね

ミナホ姉さんが、フフンと笑う

こういうサービスが提供できればいいのに、そういうサービスをすれば、お客様に喜ばれて、収益も上がるはずだって理想だけで自分の思いつきを、雇用者に無理矢理やらせて、現場をグチャグチャにしていくのよそういうサービスをやるだけの下地が、あるかどうか確認しないままに命令して現場を破綻させるのよねそのサービスを行うのに充分な雇用者を確保しないまま現場をオペ-レーションしていくためのノウハウが無いのに強行するから無理は全て、末端の雇用者だけに押し付けて

実際にお客様と向き合っている現場のことを知らない経営者が居る

そういう人が、経営者の理想だけで突っ走ったらそりゃ、現場が崩壊する

ああ、だからブラック企業というものが出来上がるんだ

そういう馬鹿な経営者の中で、政治家に転身した人が何人かいるでしょあれも、同じよ勝手な理想を夢見て、上からの命令で世の中を自分の思い通りに変えてしまいたいだけなのよ本当の現実普通の人たちが何を望んでいるかということに、全然興味を持たないままに

ミナホ姉さんの言葉に、歌晏さんは息を呑む

あなたもそういう経営者にならないように、注意することね

ニヤッと微笑む、ミナホ姉さん

ご、ご忠告感謝するわ

歌晏さんは、ムスッとしてそう答える

とにかく判りましたわ香月閣下が、黒森様をとても丁寧にお育てになられているということは

ジッちゃんが、オレを育てている

そういうわけでもないのだよ

突然、スピーカーから声がした

ここまで興味深く君たちの話を聞かせてもらったそろそろ、私が自分の言葉で話さなければ歌晏家、狩野家のお嬢さんたちには失礼ではないかと思ってね

会場内の少女たちが緊張する

今までの様子を、全て香月家の当主に見られていたということを

ミナホくんをクッションとして派遣したのは君たちを試してみたかったからだ

ミナホ姉さんの来たことで試す

君たちがミナホくんの言葉をどんな態度で受けとめるのか、それが知りたかった

ギョッとして、ミナホ姉さんを見る歌晏さん

突然、私の指示で現れたという正体不明の女性の話をきちんと聞くのか話の内容を理解しようと努めるかあるいは、完全に無視をして耳を傾けることすら拒絶するのか

ジッちゃんの声が言う

私は、どんな身分の人間の言葉でもまずは、積極的に聞いてみようという態度を示すべきだと思うねもちろん、嘘吐きもいる君たちを騙そうとしている、悪辣な連中もいるしかし、名家に属している人間ならば常に紳士・淑女でなくてはいけない品の良い態度で礼節を保つことが肝心ではないのかね

歌晏さんが謝った

そうだ、歌晏さんはミナホ姉さんの話は聞いていたけれど態度は良くなかった

狩野さんの方が、きちんと品良く話を聞いていたと思う

君は、ミナホくんの話に価値は見出せなかったのかね今後の君の会社経営や、人生にとって、有益となる教訓は何も感じられなかったのかね

そ、そんなことはございませんわ色々とあのわたくしとは違う考えですけれどそういうモノの見方もあるのだなと、感じました

自分とは違う意見をもっと大事にしたまえ

それが、今の日本の大きな問題になっている自分とは違う考えを持つ存在に対しての不寛容さだ

自分とは違う考えを持つ人たち

今の日本人は考えの違う人を馬鹿にし過ぎている考えが違うというのは、意見が違うだけのことであって自分と同じ考えにならないからといって、その相手が劣っているように感じるのは間違ったことなのだよ

オレはAと思うけれど、あいつはBだと言うこんな簡単なことが判らないあいつは、バカなんだって、考える人たちは確かに増えていると思う

人間というのは立場によって、見えているものが違うさっきの君たちの話でいったら経営者と末端の雇用者では、まったく立場が違う苦労が違うやらなくてはならないこと、考えなくてはならないことが違う

雇用者全員に確実に給与を支払えるようにしなくてはいけいというプレッシャーは、かなりのモノだよ会社には株主というものもいる長く続いた会社なら、私の代で潰すわけにもいかない会社は退職者たちにも年金を払っているんだからねもし、会社が潰れたら雇用者や株主だけでなく、長年会社のために働いてくれた退職者の老後の生活さえ破壊してしまうもちろん、取引して下さっている企業にも迷惑は掛けられない私の会社のせいで、連鎖倒産などさせてしまったら生活が崩壊してしまう人が何倍も増える

そういうことをわたくしは、これまで一度も考えてはいませんでした

歌晏さんが言う

そりゃそうだろう君が遊びでやっている3社ぐらいなら、もし経営が行き詰まっても、君の一族が何とかしてくれるだろう

歌晏さんの一族はメモル・グループという大きな財閥を形成している

だが、世の中の一般の会社の経営者は、そうはいかないんだよ人を雇っている以上は、その人間とその家族の生活を守らなくてはならないんだもちろん、自分自身の家族もな個人経営の自分1人だけでやっている小さな商売なら、好き勝手にやるのもいいだろうだが、他の人間を巻き込んでいるのなら責任があるのだそのことを絶対に忘れてはならない

歌晏さんが、返事をする

ふん、そうやって私の話ならば、熱心に聞くようだね

まあいい話を戻そう

ジッちゃんは、少し間を置く

経営者には、経営者の責任があり苦悩がある管理職もそうだ役員には役員の部課長には、部課長の係長や主任だって、それぞれの立場でそれぞれの苦悩があるみんな、決して毎日、遊び呆けているわけではないからなそれぞれ働いていれば、良いことばかりじゃない辛いこともある腹立たしいことも理不尽に感じることもこの私だって、そういう思いを毎日している

香月家のトップであるジッちゃんだって、何から何まで自分の思い通りになっているわけではない

だが、今の日本人は立場の違い立場が違うから、見えるモノが違う悩む内容が違う考えが違うそういう人と自分の違いを洞察して、受け入れることができなくなっているように思う

上司は、自分の考えの判らない部下をバカだと思い込む何で、指示する通りにできないんだこんなこと、簡単にできることだろうと自分で、それをやらないのに部下が上手くできないことを、能力が劣っているからだと思い込む今の若い奴らは全然ダメだと

だが部下の方も何でこんなムダなことをさせるんだ自分なら、もっと上手くやるのにと、自分とは考えの違う上司をバカにするあの人たちは全然、判っていないと

ところがだそういう上司と部下が一緒になると、また別の人間をバカにし始める会社の上の人たちは判っていない、取引先の連中はロクでもないやつらばかりだ、隣の部署の連中は、頭の悪いやつらしかいない、今年の新入社員は、みんな使えないうちの会社の社長は、もうどうしようもないとね

上司と部下で、お互いに相手をバカだと思っているのに

二人っきりになると、一緒に他の人たちをバカにしだすのか

いつも、自分の考えが正しいと思っている正しい考えができるということは賢いということだだから自分とは考えの違う人間は、みんなバカだと思うのだろう

ジッちゃんの声が、静かに響く

そういう人間が増えている私は判っている私は正しいだから、私と違う意見の人間はみんなバカなんだと

おっしゃる通りだと思いますわ

歌晏さんが、呟く

わたくしはわたくしの会社でも、いつも部下の皆様がわたくしに色々と忠告して下さっているのに全てこの人たちは、判っていないわたくしの考えが正しいのにと取り合って来なかったように思います

今では君の会社の重役の中には君の言うことなら、何でもハイハイと受け入れてくれるイエスマンがいるだろう

ジッちゃんの問いに、歌晏さんは

いるはずだよこの歌晏家のお嬢様は、オレたちのことをバカにしている何を言っても、受け入れてくれないのならイエスマンに徹してしまった方が楽だ歌晏家から睨まれずに済むむしろ、このお嬢様に媚を売って、出世の糸口にしようと考えるのさもちろん、そういう人間は君のことも、会社のことも内心ではもう、どうでもいいと思っている

ゴマスリに徹して、自分がどうやって次に出世するかしか考えていないんだから

そして、そういうイエスマンが馬鹿な経営者を、さらに暴走させるさっき、君たちは会社の金をギャンブルに使ってしまった企業のトップの話をしていたが

ああ、マカオのカジノに泊まり込んで何十億円も使い果たしてしまった

あれだって、イエスマンの部下がいなければ絶対にあんなことはできない真っ当な企業なら、誰かが気付いてあんな真似はさせない何年間も、不正に金が引き出されていて、誰も気付かないはずがないんだしかも、会社の金を使い込んだ当事者には罪の意識があったはずなんだイエスマンが大丈夫です後で辻褄を合わせておきますなどと言わない限り、創業者一族のボンボンが1人でやれることではない

協力者がいなければ後押ししてくれる人がいなければ

グループ企業のお金を勝手に引き出して私用に使うなんてことが、できるはずがない

わたしはとんでもない失敗をしでかしてしまうところだったのかもしれません

自分の会社にイエスマンの心当たりがいるんだ

お互いにお互いをバカにする時代で自分以外が全員バカに見えるそれでも普通は、自分よりも上の立場の人間がいるから自分の考えが正しいのにという不満は抑え込まれる心の中でそう思っていても仲間内で文句を言い合ったりする以上のことはできないからなだが、大きな企業の経営者には不満を抑えてくれる人間がいないこともあるむしろ、イエスマンによって己のエゴを強化されてしまったら全世界の人間が自分よりも、遥かに劣っているように見えるんだろうお客様も、取引先も、従業員もみんなバカに見えるんだろうそういう、おかしな経営者が最近は増えているように思う

面白い例をあげよう戦後の内閣総理大臣に東京大学の卒業生は1人しかいない

ああ、あの方ですわね

すぐに、みすずは気付いたようだ

オレは判らないけれど

総理大臣なんてものは言っちゃ悪いが、3流大学出の方が良いのだ高学歴でない人間だからこそ色んな人間の話をよく聞く官僚の説明も、専門家の解説も色々な人の意見を聞いた上で、判断をする自分がそんなに頭の良い人間でないと判っているからだしかし学歴の高すぎる政治家に限って、お前の意見なんか聞かなくとも、私はよく判っていると、専門家でも担当官僚でもないくせに自分の適当な判断で政治を動かそうとして、国の方向を誤らせる

自分は頭が良いと思っているから人の意見を聞かないのか

官僚というのは、それぞれが担当している分野については知識も経験も豊富なんだだから、言いなりになることはないが彼らの能力や知識は、利用するべきなんだもし、その官僚や専門家が、自分と違う意見であっても、上手に活用することはできる多様な意見を聞くことは、絶対にムダではないんだ

耳が痛いお話ばかりですわ

歌晏さんが、そう答えた

私は自分が、決して出来の良い人間でないことを知っている頭も良くないし、商売のセンスも無い

こ、香月閣下

いや、それは事実なんだ私には今、そこにいる小僧に身に付けさせているような経営勘は無い私は香月家の跡取りとして生まれて、自分自身が客の前に立つようなビジネスをやってきていないからな

私には一般の顧客が、どんなモノを欲しがっているのかどんな製品を作ればいいのかそういうことは判らない自分が、一般市民とはかけ離れた生活をしてきているということは、よく判っている

地位も財力も家柄も格上の香月家の当主なんだから

私が一般の人たちの生活にまみれたのは、京都での4年間大学に通った時だけだよしかも、4年間かけて判ったことは自分は違う普通の人の感覚は持っていないということだけだ

スピーカーから、ジッちゃんのハッという吐息が聞こえる

だから、私は常に、自分よりも頭が良く、経営センスに富んでいる人間を雇うのだよ今なら、司馬くんだな

ジッちゃんに代わって、香月グループの経営のトップに立つことになった司馬さんのことか

彼は、私よりもずっと能力のある人間だそう判ったから彼を雇っているそして、彼の意見を尊重し彼もまた、私を尊重してくれるように願っている私にできることは、彼に香月グループを割って独立されないように気を配ることぐらいだなそのために、待遇や給与に関しては、常に彼の希望を満たすようにしているよ

司馬さんがジッちゃんに気を遣うようにジッちゃんも、司馬さんを気遣っている

他にもそういう重役が何人か居るみんな、私よりも頭が良くて能力がある人たちだそういう人たちに居てもらわなければ私では、香月グループを守ることができない

これが香月様の素晴らしいところなのよ

多くの経営者は自分よりも能力のありそうな人を入社させないから

自分より能力のある人を入れたらその人に会社を乗っ取られるかもしれないでしょ何かやりたい事業があっても、その人が反対してできないかもしれないじゃない

いや、だけどそんなつまんない理由で

そうよこんなつまんない理由で経営者の個人的な能力以上には、発展しない企業が山ほどあるのよ

私が、この小僧を気に入っている理由はだね

ジッちゃんが突然、そんなことを言い出す

お前自分が頭が良いと思っているか

そんなわけないだろオレは頭は悪いよそれも、かなり悪い

恥ずかしいが正直に答えた

こいつは、自分が頭が良くないことを知っている世の中には、自分よりも頭の良いに人間が幾らでもいるっていうことを

そりゃオレの周りの子は、みんなオレよりも頭が良いんだから

イーディみたいな天才児までいる

お前は、自分1人じゃどうしていいのか判らないようなことが起きた場合はどうする

そんなのみんなに相談するよ

お前1人で、どうするか決めるとか思わないのか

だって、みんなオレより頭が良いんだからみんなの意見を聞いてみた方が良いに決まってるって

しかし、周りの人間の意見が分かれた場合はどうするんだ

ああ、例えばみすずと寧で、意見が分かれたとしたら

よく考える

まずは少し時間をかけてよく考える他の人の意見も聞く意見が2つに分かれたのなら、それぞれの意見を説明してどっちが良いと思うか、聞いてみる

みんなに聞くのか

ああ幸い相談できる人は、いっぱいいるし

ミナホ姉さん、マルゴさん、克子姉、渚それから

それで最終的な答えを決めて、自分の責任で実行するよ

お前の責任でその意見を主張した人間には責任を取らせないのか

そんなの関係無いよ誰が出した意見だろうと最終的に決めたのは、オレなんだし責任は全部、オレが取らないといけない

フンなるほどでは、相談する時間が無い場合はどうする何か問題が起きた時にすぐに対応しないといけない時は

勘で決めるよ

そうするべきだと、感じた通りに行動する

それでいいのか勘が外れたらどうする

その時は、それまでさ例え、それで死ぬことになったとしてもしょうがないよね自分で決めたことだから

他の人に相談する時間が無かったということを悔やんだりはしないのか

そんなの悔やんでも仕方がないって本当に、即決しないといけない時っていうのはあるんだからさ

シンプルだな、お前は

ジッちゃんが、監視カメラの向こうで苦笑しているのが判った

この小僧は、こういうやつだ自分が誰よりもバカだと思っているから他人をバカにしない他人をバカにしないから、他人の意見をよく聞くその上で、自分で腹を括って判断することもできる決断力もある単純だがそれだけに壊れない、頑強な精神をしている

うへジッちゃんに褒められるのは、何か気持ちが悪い

ほら、変なことを言うから会場中の女の子たちが、みんなオレに注目している

だから、みすずのパートナーとして必要なのだ私の孫娘たちもなかなか小賢しい子ばかりだからな

みすずが、頭を下げる

こういう人を受け入れ、話を聞くことのできる男が居てくれると心強いのだそして、経営勘までも身に付けてくれたら言うことはない

お前は今のままバカでいい賢くならなくていい学歴もいらんそのままでいろそして、頼むずっと、みすずたちの側に居てやってくれ

最近、思いっきり嫌なことがあったので

落ち込んでて済みません

まあ、私に何が起ころうとも毎日ほぼ同じ分量をアップしないといけないのがルールなので

しかも、この内容は1ヶ月くらい前に構成を決めた時から同じだという

常に同じ勇気で、同じ歩幅で歩き続けろか

感想欄の方も、全然、眼を通していません

そろそろ何とかしないといけないと思っているのですが

今日、街で聞いたこと

小学校低学年くらいの男の子が、お母さんに

お母さん、ボク、魔法使いになることにした

うんが、がんばれ

高校生くらいの男の子2人の会話

デパートの端っこの子ども向けのカードゲーム機を見て

だからさ、今はああいうアイドルゲームが流行っているんだよ

あれってムシキングより面白いんですか

いや、だってアイドルゲームだぞ

だからムシキングより面白いんですか

865.ハイ・ライフ / ブランデー

オレはだって、家族を守るためには、みんなと上手くやっていくしかないじゃないか

今だって、オレたちはオレたちだけでは、できないことを誰かにやってもらっているんだし毎日、生活していく上では、そういうことがいっぱいあるんだから周りの人たちには、感謝しないといけないしナメた真似をしてはいけない下手に相手をバカにするようなことをしたら、何をやり返されるか判らないんだから

世の中には、オレの家族じゃない人たちの方が遥かに多いんだから

一々、敵対してはいられない

もちろん本当にブッ潰さなければならない敵は、完全に叩きのめすよ世の中には、話し合いとかで和解することができないようなホンモノの悪いヤツラがいるんだから

白坂創介とか

シザーリオ・ヴァイオラとか

でも、世の中にいるのはそんな敵ばかりじゃないだからっていって、オレたちの味方っていうわけでもないどっちでもない、たくさんの人たちがいるわけでさ

例えばオレの学校の生徒たち

みんながみんな、オレに好意的だというわけではない

だからって、何かにつけて嫌がらせをしてくるほど、オレのことを憎んでいるわけでもない

オレのことなんか別にどーでもいいと思っているニュートラルな立場の人たち

そういう普通の人たちにさとりあえず、不用意に嫌われたり、憎まれたりはしたくない別に、好かれる必要は無いけれど、憎まれるのは困るオレ1人なら、何をされても耐えられるし、はね除けられるけれどオレの家族に被害が及んだりするのは嫌だからさ

オレは1人きりで生きているわけじゃないんだから

他の人間たちとの共存を妥協するということかね

ジッちゃんが、オレに問う

妥協とか、そういう偉そうな言葉を使っちゃいけないんだと思うオレたちはオレの家族は、世の中の人たちからすれば異質な変な存在なんだろうからそんなオレたちが、この世界で生きていくことを許してもらうためには支払わなければいけないものがあるんだと思う少なくても、世の中の人たちには敬意を持っていないといけないよねあ、もちろんヤクザとか悪いヤツラには、そんな意識を持っちゃいけないけれど

この少年のこういう発想が今の香月家には必要なのだと、私は考えるのだ

ジッちゃんの声が、少女たちでいっぱいの中庭に響く

みすず今、お前たちが抱えている最大の問題は何だと思う

ジッちゃんの問いに、みすずは

成功体験が無いのに成功者の地位にいることですわ

そう即答した

あたしたちは、生まれながらにして名家の一員ですいつも護衛役に守られ贅沢な暮らしをすることが許されていますしかし、この豊かな生活はあたしたち自身の手で勝ち取ったものではありません

その通りだそれは君たちのような若い世代だけの問題ではない私自身、常にその問題に向き合っている

成功体験を勝ち取る

名家に生まれたというだけで、私たちは恵まれた生活をしている決して、私たち自身が能力が高いからでも、高貴だからでも無いのにだただ偶然に、家柄の良い家に生まれたというだけで幸福な人生を享受させてもらっている本当にこんなことで良いのかといつも、考えているよ

ジッちゃんの言葉にお嬢様たちは、ざわめく

これで、私がまだ香月の分家や、本家でも次男・三男として生まれたのならこんな恵まれ過ぎの生活を放り出すことも許されるだろうみすずお前の父親のように

みすずの父親は、ジッちゃんの三男で香月家を離れて、国のエリート官僚になった

いいえ、お父様は香月グループに属することなく、官僚への道を進みましたが香月の家柄や名は、利用していますわというより香月の家に生まれたことからは、逃げられないのですどうしたって

ああ、国家官僚になったってあの香月一族の本家の三男と、言われ続けるんだな

父は文部科学省の事務方ですがそれでも香月の一族だからこそ、協力して下さる方がたくさんいると話していました政財界だけでなく、京都などの古刹などと交渉する場合でも、香月さんならということで話が通ることが多いそうです

香月家は、大きな企業グループのトップというだけでなくとても古い歴史がある

由緒ある名家なら、色々と知り合いも多いコネも効く無理を聞いてもらえる

官僚になったって、そういう香月家の力を当てにされたり自分から活用していかざるを得ないことはたくさんあるんだろう

それもまた、名家に生まれた者にだけ与えられた幸運でありそして、呪いでもある

特に私のように長男として、当主を継ぐことが決まっていた者にはな長く続いた家系を私の代で潰すわけにはいかないそして、私の家には代々仕えてくれている家臣たちもいる香月の名の付いた多くの企業には、そこで働く多くの労働者たちがいる私は、自分のためだけでなく一族や臣下、企業グループの人々全てのために、香月の家を守り続けないといけないのだ

シンと静まり返る少女たち

それが家を受け継ぐ者の責任だ私はただ古い血を受け継いだのではない財産だけでもない先祖たちが代々に渡って積み重ねてきた名誉も香月の家や、企業に人生を懸けてくれた多くの人たちの思いをも受け継いでいる今年の入社試験の面接でも、先祖が香月家に仕えていましたという学生が居たよ

お祖父様は、その方に何てお答えになられましたの

みすずが問う

私は知っている君の6代前の先祖には、京都の香月家でよく仕えてもらったありがたいと思っていると答えたよ私が最終面接で会う学生たちの中にそういう経歴の人間がいれば、秘書科の人間が事前に調べておいてくれることになっている私と会話する時に、彼らは当然そういう話をするだろうから私はそれを知っていて、彼の先祖の忠孝に感謝するのだその結果彼もまた香月家に忠誠を誓ってくれるいや、もし入社試験に落とされたとしても香月家とその企業に悪い印象を持たないでいてくれる

ジッちゃんはそこまで、やっているんだ

いや、長い伝統を持つ名家の当主なら、しなくてはいけない配慮なんだな

自分の先祖のことを知っていてくれて、その忠孝を感謝されたらみんな、ジッちゃんのことを嫌いにはなれない

それで入社できなかったとしてもジッちゃんのせいではないと、思ってくれる

大きな企業の最終面接に残るような学生はね学歴も才能もあるに決まっているんだよしかしながら、どうしたって全員を採用するわけにはいかない数人だけを採り、後の学生たちには縁が無かったと告げなくてはいけないしかしだその学生たちは、いずれどこかに就職するそれは香月家の企業のライバル会社かもしれないし全然別の業種かもしれないそして入社して20年も経てば、みんなベテラン社員になるのだよそうなった時に昔、香月の会社を受けたがあそこの入社試験では恥をかかせられたなあなどと悪い印象が残っているより、入社試験には落ちたが、香月は毅然とした会社だったと良いイメージがある方が良いとは思わないかね

入社試験では学生と私たちでは、企業側の方が立場が強いのかもしれないしかし、入社試験の終わった後でもその関係が続くわけではない今は学生だって、いずれは偉くなるかもしれないいや、そもそも学生であっても、香月の企業の製品を買って下さるお客様なのかもしれないのだ入社試験で彼らが一生、香月に悪い思いを抱くようなことをしてはいけないのだよ学生にだって、家族がいる仲間も居る友人知人は、生きている限りどんどん増えるそういう人たちに、彼は告げるかもしれん昔、入社試験を受けて、香月家の当主に会ったことがあるその後に、どんな言葉が続くのか私は、それがとても恐ろしいのだよ

でも、お祖父様はいつも怖い顔をなさっていますわ

みすずが、ニコッと笑って凍り付いている空気をほぐそうとする

それはそうだ私は別に学生たちを甘やかそうというのではない媚を売るような真似も、親しげに笑うようことも一切しない彼らに好かれたいのではないからな私は香月家の当主は、謹厳で、真面目で、実直で何より、公平な人物だと思って欲しいだけだそれが一番大切なのだ

公平な人間

公平な人間でなくては信頼されることはない私は、そう信じているよ

人に好かれようとして、アレコレ立ち振る舞う人は好かれないし、信頼されないな

誰かに好かれるためには、ルール違反なことでも平気でやりそうだから

そういうのは関係無くいつでも、誰にでも、どんなことにでも

その人の同じ基準で、公平に対処できる人はとりあえずは信頼できる

人によって、場合によって、時によってブレる人は信じられないし、付き合いにくい

これは人間だけでなく、企業もそうだろう

香月閣下は、そこまで考えられて日々の言動を気を付けられているのですか

歌晏さんが尋ねる

当たり前だろう私は香月家の当主だぞ

ジッちゃんのククッという笑い声が、スピーカーから聞こえた

歌晏くん名家とは何かね

今度は、ジッちゃんが尋ねた

あのどういう意味でのお尋ねですか

名家はなぜ、名家になったのかということだよ

そ、それはあの家の初代の先祖が、大きな功績を遂げたからだと

全ての名家は一番最初のご先祖様が、何か大きなことをしたんだ

それで高い位をもらったり、財産を築いたり、一国一城の主になったり

そうだ全ての名家は最初の当主が成功したから存在するその最初の人物にだけ成功体験がある

しかし、その後を継いだ歴代の当主たちもそれぞれの時代で、家を守り続けたからこそ今のわたくしたちが存在するわけで

歌晏さんが、慌ててそう言うが

それでも、最初の人間が一番重要なのだよなぜなら彼だけが、庶民の出だからだ

うん名家を興した最初の当主は、一般人だよな

2代目からは、もうある程度大きくなった家を継いだわけだから

だから、家を創った人間の成功のストーリーだけは英雄的に語り継がれることが多い2代目以降の物語は、埋もれてしまうのが普通だ没落しかけた家を建て直したという中興の祖の物語は残っても初代の栄光には代わらない

それは、初代の物語だけが真の成功体験だからだただの庶民がのし上がって行くという

ああ草履取りから、天下を取ったみたいな

君たちの家でも、初代の先祖だけは特別に厚く祀っていたりするのではないか

それはおっしゃる通りでございますわ

歌晏さんが、答える

では今の私たちは何なのだろう初代の先祖が果たした英雄的な業績にただ安穏と寄り掛かっているだけなのではないかいや、もちろん大きくなった家を守り続けるということは大変なことだ先ほど話した通り、そんなことは香月家の現当主である、この私が一番良く知っているしかし守っているだけの私たちは、何か価値のある存在なのだろうか私たち自身には、何の業績も成功体験も無いのに

ジッちゃんの言葉が響いていく

君たちはもう、鞍馬家に何が起こったか知っているだろう

鞍馬家

鞍馬美里さんとありすさん姉妹の家

あの2人の可愛いお嬢様たちを娼婦に堕とすしかなくなった原因て、何なんだ

鞍馬家は先祖代々受け継いだ鞍馬閣を中心とした、結婚式場とホテルの経営を行っていた

あ、鞍馬閣グループなら聞いたことがあるすごい、豪華な旅館とか結婚式場をたくさん持っているホテル・グループだ

あそこが鞍馬さんの家がやっていたんだ

鞍馬閣は元々は、明治期に建てられた鞍馬家の邸宅と日本庭園だそれを昭和の初期に、高級料亭にし名家の結婚式の披露宴場として利用するようになった政財界の人間たちの会合も多く開かれた私の世代では、あそこで結婚披露宴を行った人間がたくさんいるあの建物と庭は、鞍馬家だけのものではない私たち名家の人間にとっても、大切な思い出がたくさんある場所だったのだ

ああ権力者たちの夜の裏の世界の社交場が、黒森家の黒森楼なら

鞍馬閣は、昼間の表の世界の社交場だったんだな

だが、今の鞍馬家の当主はまだ40代の若造だよ海外資本の何だか判らない投資グループに乗せられてあの鞍馬閣の昔の建物も風雅な日本庭園も、全て潰してしまった現代式の高層ホテルに建て替えると言って

え多分、鞍馬さんたちのお父さんだと思うけれど

全部、壊しちゃったんだ

私は止めたんだよ何度も鞍馬閣を残すように、彼に言ったそんなことをするべきではないと外国資本に乗せられているだけだその海外の投資グループの内情が怪しいことも、私たちには判っていたそんなヤツラの甘い話に乗っても、良いことがあるはずがない当座の資金が厳しいのなら、香月グループが融通するという話もした私の他にも、色々な名家の当主が鞍馬くんと話をした海外とは手を切れ新ホテルなんていう馬鹿な挑戦はやめろ鞍馬閣のような歴史的な建造物と、あの素晴らしい庭園は守るべきだと

ジッちゃんの声に、怒気が含まれていた

しかし、あの男は古いものをただ守っているだけでは、僕は何のために生まれて来たのか判りませんと私に言ったよ新しいホテルでここで勝負しなければ、僕の人生は始まりませんとそして、私たちの忠告を無視し私たち、老人とは今後、縁を切るとまで宣言されたよ突然、工事を始め、何もかも潰して更地にし、新しいホテルの建設を始めてしまった

ああ、やっちゃったんだ

ところがだ高層ホテルの建築が半分終わった段階で、彼に資金を提供していた海外資本が吹っ飛んだ金が入ってくるどころか、逆に彼の方が海外に送金させられていた額の方が多かったらしいいずれ返すから、取りあえず貸しておいてくれと、相手の言いなりなって

高層ホテル建築は途中で中止だだが、すでに何億も使ってしまっている海外に貸した金も返って来ないそして、何よりあの素晴らしい鞍馬閣の建物と庭園は、二度と元に戻らない高層ホテルを建てるために、地下深くまで掘り下げてしまったからな

全部、アウトか

かといって、建設途中のホテルを完成させるだけの資金のメドも立たない新しいホテルが開業できなければ、金は入ってこない鞍馬閣グループの他のホテルや旅館・結婚式場も経営資金が足りなくなって危なくなってくる彼は私や私の友人たちに泣きついてきたよお願いだから、金を貸して下さいと

一度はカッコの良いことを言ってジッちゃんたちと縁切りまでしたのに

だが、私も私の仲間も彼に金を融資することはできんよそこまでのことを彼はやったのだから

ジッちゃんだけじゃないものな

他にもたくさんの人の助言を無視して、失敗したんだから

ええとても情けないお話ですわ歌晏の家も鞍馬家の救済はしないと、お祖父様がお決めになりました

だからさっき、鞍馬姉妹に冷たくしたのか

3大名家のうち、狩野家は家柄だけで、財産は無い

香月家と歌晏家が、鞍馬家を助けないのなら他の家も助けようとするはずがない

ところで、歌晏くん鞍馬は、なぜ、こんなバカげたことをしでかしたと思う

それは外国の方に甘い言葉にダマされたからでは

だからなぜ、易々とダマされてしまったと思う

鞍馬の小倅は自分だけの成功体験が欲しかったのだよ

名家に生まれただ名家の過去の栄光に縋って生きるより、自分の手で何かしらの成功を収めたいと思ったんだろう鞍馬閣は鞍馬閣グループの象徴だったあの風雅で素晴らしい建物と庭園があったからグループの他の旅館やホテル・結婚式場も、風格のあるものだと思われてきたしかし、その鞍馬閣は全て、鞍馬家の先祖が残してくれたものだすでに完成されている美には、新しく何かを付け加えることはできない許されない今の鞍馬家の当主は過去から受け継いだものを、そのまま未来に残すのが嫌だったのだろうそれでは自分がこの世に生まれて、生きてきたという証が残せないそれならいっそ過去の鞍馬閣は何もかも壊してしまって、新しい高層ホテルを建てることで、自分の存在を残したかったのだと思う

それで古い鞍馬閣だけ潰して新しいホテルは建てられなかったんじゃ

何もかも最悪だ

これは自分がやったことそう感じられるもので、大きな成功を遂げて、世の中の人々に認められたかったのだよ

それが成功体験を欲しがるということ

ミナホ姉さんのお父さんと同じ

オレは、思わず呟いてしまった

そうだな黒森公一郎もそうだった

ミナホ姉さんのお父さんも自分の父親が一代で作り上げた黒森楼を

無理矢理、父親から奪って自分の色に染め上げようとした

でも、才能も能力無かったから白坂創介という悪人に乗っ取られてしまった

彼のケースの方が判りやすいな父親という、一代で財を築いた英雄が居る父には成功体験があるしかし、自分はそれが無い父親に対するコンプレックスから、無理でも自分の成功体験を勝ち得ようと無茶な行動を引き起こす

ミナホ姉さんは、黙り込んだまま何も言わない

よくある話だよ成功したはずの一族が没落していくケースでは、よくあることだ

名家に生まれたことで自分には成功体験が無いのに、成功者の地位に居ることが人の心を惑わせるのですね

ああ、そういうことだよみすずや歌晏くん、狩野くん名家に属する諸君らも、気を付けるべきことだ

おっしゃる通りでございますわ

歌晏さんが、そう言う

今までは鞍馬さんのお父様のことをなぜ、そんなバカなことをなさったのだろうと嘲笑しておりましたがわたくしや、わたくしの一族の中からも同じ様なことをする者があらわれるかもしれないのですわね

君が、高校生の身分なのに会社を3つも経営しているのだって、同じことが原因なのではないかな

君は、その会社をただの会社経営を学ぶための訓練だとは思っていないだろうその3つの会社を全て、成功させて大きく成長させなければならないと、自分に課しているのではないか

本当に幾つも会社を経営してみれば判るが全ての会社が成功するわけではない上手くいかないものもある時期が悪かった、人材が集まらなかった、予定通りに進められなかった上手く行くはずだと思って始めたものでも、なかなか思い通りにならないものだ

ジッちゃんの言葉に歌晏さんは、うつむく

年を取れば人生は勝ちばかりでないことを学ぶ一度も負けないで、生きていけるほど世の中は甘く無いしかし、どういうことだか年寄りよりも若い人間の方が勝ちを好む負けることを恐れる一度でも負けたら人生が、もう終わりみたいに思ってしまう生きることは、負け続けることだよ負け続けているから時々の勝ちが本当に喜ばしく思うのだ

鞍馬くんのようにはなるな君が君たちが、個人的に成功体験が欲しいからという理由で他の人間を巻き込むなわたしが恐れているのは君の周囲の人物が、君を勝ち続けさせて、勘違いさせてしまうことだ

わたくしを勝ち続けさせる

そうだとも歌晏家のお嬢様の事業だ負けるようなことがあったら、自分たちの経歴にも傷が付く彼らにとっては、そういう思いから色々と大人の世界の力を使って、君の知らないところで、君の会社の業績を上げることはできる君には君自身の予想や、アイデアや、経営方針が当たったのだと勘違いさせる形で

そうか君のようなお嬢様だと、そういう悪事はすぐに思い付かないか例えば歌晏家の他の会社と取引のある会社に裏金を渡して、君の経営する企業の商品を大量に発注させるとか

そ、そんなバカなことを

昔、私は何度かやられたことがあるよこれもまた、よくある話だ

悔しそうな顔をする、歌晏さん

ああ思い当たるケースがあったんだな

部下にそういうことをされるとだ君の会社が成功したとしても、それは君の成功体験にはならないただ、君が世の中が、単純で甘いモノだと勘違いするだけだそして、その誤った成功体験を元に部下を、取引先を、顧客を、消費者を世の中をバカにしてしまうようになる

歌晏さんは、グッと唇を噛む

ほら君は、今私が言ったことと、ほぼ同じことをさっきはそこに居るミナホくんに言われたのだよだが、ミナホくんに言われた時は、ただ反発しただけで香月家の当主に言われた時は、そうやって大人しく拝聴している

は、恥ずかしいですわ穴があったら、入りたい心境でございます

歌晏さんは、顔を真っ赤にして半泣きでそう言う

何、歌晏のやつから電話があったんだよ孫娘が生意気な年頃になって、色々と態度を注意するのだが祖父の言うことは真剣に聞こうとしない香月家の当主であるお前から意見してくれたら、孫娘もさすがに大人しく聞いてくれるんじゃないかと思う今日は、お前の邸宅に行くそうだからよろしく頼むとね

歌晏さんのお祖父さんからジッちゃんに

歌晏からは年代物のブランデーを一本せしめることになっているだから、君が気にすることはない

ジッちゃんは、冗談めいてそう言うが

その代わり歌晏のヤツに、内緒にしておいて欲しいことがある

歌晏さんは、半泣きの眼でそう尋ねた

わたしはねもう、ブランデーはやらないのだよ昔のヤツと飲んだ若い頃のイメージで、そう提案してくれたんだと思うが

ジッちゃんは瑠璃子の父親を殺すしかなかったことで、ブランデーを断っている

歌晏さんのお祖父さんは、そのことを知らなかったんだ

だから、歌晏からせしめるブランデーはみすずとそこに居る小僧にやろうと思っている歌晏には内緒にしておいてくれよ

パーティ編は、もう1話ぐらいで終わる予定です

安倍晴明のことが、とても気になっています

安倍家は古代氏族で、当時の大陸から入って来た新しい呪術である陰陽道とは全然関係無い家柄なのに

しかも師匠は、同じく古代氏族の賀茂家なのに

なぜか、安倍晴明以降ずっと、陰陽師のトップは安倍家

1000年間

明治維新まで、ずーっと安倍家がトップ

安倍晴明の前は、実力制で才能が有るひとが選ばれていたのに

清明以後は、安倍家(後の土御門家)でないと陰陽師のトップになれない

どういうルールなのか

ちなみに、陰陽師というのは、朝廷の役職名なので

今、陰陽師を名乗っている人は、ただの拝み屋さんです

検非違使とかが、今はいないのと同じです

866.ハイ・ライフ / JFK

再び、名家とは何かという話題に戻りたいと思う

君たちの通う学校は、日本一のお嬢様学校ということになっている君たちの学校が、そういう形でなったのには実は私や歌晏、それに今は亡き狩野くんのお祖父さんも関わっている

3大名家の当主が

終戦から、高度経済成長期において日本の社会は大きく変化した簡単に言えば、伝統的な名家や明治維新以降に生まれたブルジョア階級の資産家・権力者の一部が没落し新たな新興階級が興ってきた言っておくが、没落したのは一部だ多くの名家は、激動の時代の変化に耐え、今も存続している私たちも、命懸けで家を守ったからな

ジッちゃんの話は、名家に生まれたお嬢様たちにとってはとても興味深いだろう

彼女たち自身がお嬢様として存在していることこそが日本の名家が生き残ったという証拠なのだから

歌舞伎や他の伝統芸能の家が現在まで存続しているのと同じことだ歌舞伎も連合軍が日本を占領していた時代には、風前の灯火になっていたことがあるたまたまアメリカ軍の将校の中に歌舞伎好きの人間が居たことで、存続を認められたのだそれでも、封建的な物語は気にくわないだの敵討ちは、キリスト教的な倫理にそぐわないから公演するなとか馬鹿げた制約をかけられていた

占領軍は、日本の将棋にすら文句を付けたよ将棋の相手から奪った駒を使うことができるルールは、捕虜虐待の思想に繋がっている実に野蛮なゲームだと言って、禁止しようとしたこともある

将棋が野蛮て

そんな理由で禁止にされていたら、今のコンピューター・ゲームなんてどうなる

知っているかね日本を占領していたマッカーサーは科学、美術、宗教、文化などの発展の上からみて、アメリカやドイツが四十五歳の壮年に達しているとすれば、日本人はまだ12 歳の少年であると言ったんだよ日本は欧米に学ぶべきであり、欧米人は日本を指導する立場にあるとね

日本人は、欧米の人たちよりもずっと遅れていてまだ子供

それぐらい、日本を占領していた連中は愚かだったんだよいや、田舎者だったと言って良いだろう

ジッちゃんの声は、とても不機嫌そうだった

もっとも日本にとっては、それが幸いだったのだがね

戦前大恐慌から立ち直るために、アメリカではフランクリン・ルーズベルトがニューディール政策というものをやっていた君たちも、歴史の授業で習ったことがあるだろうケインズによる修正資本主義を採り入れた最初の政権だ経済を市場の自由に任せるのではなく、政府が積極的に介入し、資産の再分配を行っていくニューディール政策を担った人間たちは、みな若く理想主義に燃えていたしかし現実的には、ニューディール政策は、必ずしも成功とは言えなかったのだよそれまで作られてきた社会の構造を政治の力で変化させていくということは、本当に難しいのだ役人たちの思い描いたプラン通りに、世の中が従っていくはずがないにもかかわらず、アメリカという国家が、上手い具合に変革することができたのは戦争に参加したからだ

戦争

軍事物資が大量に必要になったヨーロッパは、戦火で工業力が低下している連合国の軍が使う物資は、全てアメリカが作っていたのだ戦時下であれば、国民も大抵のことはガマンしてくれるサマータイムが導入され、女性が仕事に出ることも当たり前になるアメリカは、第2次世界大戦に参加しながらハワイは攻撃されたが、アメリカ大陸の本土は、ほぼまったく戦地にならなかった工業生産力を保ったまま戦時下だからという理由で、国の中のシステムを作り替えることができた

戦争がアメリカを変えた

平時ならば、反対派も多い既得権益を持つ者に妨害されることもあるしかし、戦時下なら敵国に味方するつもりかと、そういうヤツラを潰すことができる政府の望む通りに、リストラクチャーが行える

結局フランクリン・ルーズベルトにとっては、戦争が起きたことで救われたもし、戦争が起きていなかったら、おそらく彼と彼のニューディール政策を行っていた者たちは政権の座から終われていただろうだが、それはたまたま起きたことだフランクリン・ルーズベルトが自ら望んで、日本との戦争に突入したという陰謀論を唱える者もいるが私は信用しないね1人の大統領の思惑だけで、世界の歴史は動かんよ全てはたまたの偶然、フランクリン・ルーズベルトの思惑通りになっただけだと考えるべきだろう

何で一々、フランクリン・ルーズベルトてフルネームで言うんだろう

兄さんそれはアメリカには、もう一人ルーズベルトという名前の大統領がいるからだよ

ルナが、オレの心を読んでそう囁いてくれた

セオドア・ルーズベルトってデディ・ベアを作るのが趣味だった人が

よく知っているなあ

戦後、日本にやって来て、占領政策を作ったアメリカ人たちはみな、そのニューディール政策の生き残りなのだよだから、とても理想的で脳みそが12歳の子供のままの、可哀相な日本人を教化するような政策を次々に行った私たちからすれば彼らの方が理想主義の子供にしか見えなかったし、世間知らずの田舎者にしか感じられなかったしかし日本人の中でも、彼らアメリカ人に同調する者たちが現れるアメリカ様の言う通り日本はアメリカ人に指導されなければ生きていけない子供で、アメリカのモノは何でも良いモノで、全て、日本は受け入れないといけないという連中がいや、そういう単純な考えに頭の芯まで毒された者は、今でも数多く生き残っているな

アメリカ文化に溺れ映画に出て来るような、華やかで物質的な生活生活に憧れるしかしそういうものによって伝えられていたのは、アメリカの中流以上の家庭生活だ今のように誰もがカメラを持っている時代ではない海外旅行できる人間も少ない本当の現実のアメリカの生活ではなく、映画として切り取られた美しい生活だ実際は当時も今も、アメリカにだって社会の矛盾はある歪みもある貧困階級だって存在するそういうものは伝わらず楽園のようなアメリカだけが、日本人の心を掴んだのだ

ネットとかも無いんだよな

映画は作り物だ現実とは違う

日本人に、アメリカ映画を観せろというのはマッカーサーの政策の中に実際にあったことなのだよ彼らは、映画の力を知っていたからねテレビ放送以前、全国の国民がなぜ大統領や政治家たちの顔を知っていたかと言えば映画の本編の前に上映される、ニュース映画によってだ

映画の前にニュース

フランクリン・ルーズベルト大統領は、下半身がマヒしてていたため日常生活には、車椅子を使っていたつまり身体障害者だったしかし、そのことを当時のアメリカの国民のほとんどが知らなかったのだ

え、大統領が車椅子なのにみんな知らない

彼は車椅子から立って、1歩だけなら歩けたんだよだから、ニュース映画で使われた彼の映像は、演壇に向かって1歩だけ歩くところからスタートする車椅子は見せないだから、国民の多くは彼は普通に歩けるものだと思っている

普通に歩けるように映像では印象づけている

アメリカは広い大統領選だって、アメリカ全土を回り切れるものではない大きな都市から別の都市に移動するのが精一杯だ彼の政策は新聞で読む演説はラジオで聞くしかし、実際に彼が動いている様子はニュース映画でしか観たことがないという国民が大半だったのだ

実際に戦時中に作られたヤンキー・ドゥートル・ダンディという映画で、劇中でフランクリン・ルーズベルトに扮したジェイムズ・ギャグニーが机の上でタップダンスを踊るシーンがあるよフランクリン・ルーズベルトが本当は歩けず、車椅子生活を送っていることを知っていたらそんなシーンは撮らないだろうその映画を観た観客だって笑えなくなるジョークとしても最低のレベルだ

大統領が足が悪い人でほとんど歩けないのにタップ・ダンスなんか踊る場面を作ったたら

真面目な人たちは、怒っちゃうだろうな

今だったら、ネットが炎上しちゃうだろう

フランクリン・ルーズベルトは、1歩だけなら歩けるのだ映像は、それを正直に映しているだけだ誰も嘘は付いていないしかし嘘は付いていないが、真実も伝えていない大統領は、足が悪かったのだからこういうアン・フェアな印象操作が使えることを知っている連中が日本に来ていたのだよ

そして、戦争に勝ったという理由だけでまるで、玩具を前にした子供の様に、日本という歴史と文化のある国を、自分たちの勝手な倫理観と思い込みだけでガチャガチャと作り替えようとしたのだただしニューディール政策の子である彼らは、理想主義過ぎであり、子供過ぎた大いなる悪意や、悪辣非道な行為は最小限で済んだと思っているいや、もしこの国を占領したのが善良なる子供の精神を持ったアメリカでなく、他の国だったら日本はメチャクチャに破壊され、二度と立ち直ることはできなかったと思う

名家も潰される寸前までいったいや、実際には犠牲になった家もある幸い、一番危険だった時期はそんなに長くは続かなかったのだよアメリカは日本をオモチャにする余裕がなくなったんだ共産国家との冷戦が始まったのでね

レイセン

占領軍の最初のプランでは日本の旧・支配階級は、全て潰すつもりだったのだよ彼らは民主主義の旗を掲げるアメリカとしては支配者階級の資産を、全て民衆に再分配するつもりだった長く続いている家の価値など、彼らには判らないからね

名家の価値は占領者には判らなかった

だが、冷戦が起きたそして、日本から旧・支配者階級を排除したら台頭してくるのは、共産主義者たちではないかとアメリカは恐れた民主主義を唱えた結果、日本が赤化してはたまらない日本から先太平洋はハワイまで島が無いのだからね日本が共産化するということは、東アジア全体を東側勢力に取られるということだだから、アメリカは慌てて、日本の旧・支配者階級との関係を強化したのだよ戦前から存在している日本の統治システムを再稼働させなければ、庶民階級から燃え上がってくる共産化への波を止められないと考えたのだろう

それで名家は残った

これが日本の戦後史に長く影を落とす問題となるつまり戦前から日本を支配してきた階級が、敗戦の責任を取らないまま元の座に復活してしまったのだそれを一般庶民は特に若い人たち、学生たちが腹立たしく思うあいつらを引き摺り下ろせということになるしかしあの時代、それまでの日本のシステムを完全に壊して、新しい何かに変えようとしたらメチャクチャなことになっていたろうと思う日本はあの占領下の最初の数年だけを耐えてただけで元の指導者層が、復活することを許されたから、今まで続いているのだと思ういや、それはもちろん私がその古い支配者階級に属している人間だからこそ、そう考えているだけで別の意見があることは承知している結果として、失われてしまったもの、壊されてしまったものおかしな形に変貌してしたまったモノもたくさんあることは判っているしかし日本という国が日本らしさというものを何とか残せたのはわたしたちが滅ぼされなかったからだと信じたいのだ

わたしたちが先祖代々受け継いできたのは血では無い、財産でも無い、名でも無い日本というもの日本人のそれがあるからこそ、私たちは日本人なのだと世界に誇れるモノその守護者としての意識なんだと思う

ジッちゃんの声をお嬢様たちは、真剣に聞いていた

名家の人間だから、偉いはずがない賢いはずもない尊いはずもない気品があるわけもない貴いはずもただ、金があるだけなら権力者と懇意なだけなら、そんな者は新興の成り上がりと何も違わないではないかね

金と権力だけでは無い

人間という生き物にはずっと変わらないままでいようという意識と、どんどん変わり続けようという意識相反した意識が同居しているそれは生命そのものが持つ矛盾だつまり親から子へ可能な限り、できることならば永久に遺伝子を受け継がせようとする意志と、その時々の環境に合わせてどんどん進化し変化していこうという意志矛盾した意識の両方が同居しているものなのだそうして、人間は生命は、代を重ねていく時代に合わせて変化していこうという意識に突き動かされている人間は多いならば、私たちは古いモノを可能な限り残していこうというもう1つの意識の代弁者として、存在しているのだと思う

それが名家の役割

私は孫娘たちに自分で着物を着られるようにさせている畳の生活での所作も、身に付けさせている君たちも、そうだろう君たちの学校は君たちが日本人としての立ち振る舞いができるように教育してくれているはずだ私と歌晏と狩野で、そういう学校になるように指示をしたのだから

ああ名家のお嬢様たちが、みんな日舞を習っていたのも

和服の生活を覚えるためなのか

君たちの学校は基本的に名家の子女しか、入れないようにしてある新興の経済人や政治家の娘、芸能人の娘なども全て断らせているその代わり、私たちは君たちの学校に毎年多額の寄付をしている

多くの名門校が経営のために、そういう人間の子女を受け入れてきただが、名家でない家に生まれた子たちは私たちとは違う彼らは、私たちと逆の意識の申し子だつまり現状をどんどん変化させていくというそういう意識が強い人々だから、今の時代に大きく成功したのだろう地位も金も得たのだろうだが、私たちはまだ幼い私たちの娘、いやもう孫たちの世代なのだな君たちには、そういう意識を持って欲しくは無かった大人になった後ならいいちゃんと自分というものを確立した後なら自分と違う考えの人間たちと出会っても動揺することはないだが、まだ幼い内には幼稚園児、小学生、中学生、高校生までは君たちには名家の子女としての意識を身に付けて欲しかった変えていくのではなく守っていく、伝えていく側の人間になって欲しいと思った

だから、みすずたちの学校は名家の人間だけの閉鎖された空間になっている

無論、それは私たち古い世代の親たちの勝手な願いだ君たちからしたら、好きにさせてくれ、自分は変わっていくものの方が好きだと思うかもしれないだが、これだけは判って欲しいまずは古いモノ、良きモノ、日本的な美しいモノを知ってくれ一般の人たちが、眼を向けることを忘れてしまったモノたちを私たちは、まず君たちにそういうものを観て欲しいと思う知って欲しいと思うそして、できれば愛して欲しいと思う君たちがそういうモノに触れる機会を作るために私たちは、金を惜しまんそれでも、変わっていくモノの方が良いというのなら私たちは止めはしない無理強いもしないだが、まず知って欲しいのだなぜ、日本的な美しいモノが連綿と受け継がれてきたのかそして、そういうモノの保護に私たち名家がどれだけ関わってきたかということを

今は国の博物館にあるが香月家の宝物で、1つ国宝に指定されているものがある300年前の私の先祖が闘いで焼けた京都から持って逃げた宝物の1つだと言うきっと、そのご先祖が運び出さなかったら、現存はしていないだろうそれから300年香月家がずっと守り続けて来たから宝だ私の家にもし何かの価値があるのならあの宝を伝え続けて来たことだけかもしれないそういう時を超える力を持っていたのがかつての名家だよ

モノだけでなく礼儀作法や、立ち振る舞い、言葉様々な文化を現代に受け継いでいるのが名家ですわ

わたくしも亡くなった祖父に厳しく指導していただきました

わたくしは、考えが浅かったようでございますね

歌晏さんがそう言う

香月様やわたくしの祖父たちの思いを、理解しようとせずに名家の心を忘れてしまっていたと思います

とっても、反省しているようだった

わたくしお祖父様にこれからの時代を生き抜いていくためには、今の歌晏家のやり方ではダメですとか、生意気なことばかり言っておりましたから

君に言われるようなことは、歌晏のやつだってとっくに判っていることだよ私たちはまだ十数年しか生きていない君たちと違って、本当に激動した時代を生きているからね時代に合わせて、何とか生き残ろうと必死でもがきながらそれぞれに名家としての誇りを失わないように努力してきた今は、まるで狩野の家だけが傾いてしまったように見えるがそうではない私と歌晏は、運が良かったというだけのことだその代わり残さなければならなかった大切なモノを、幾つか失わざるを得なかったようにも思う古い名家の気風は狩野家が一番残しているのではないだろうか

わ、わたくしには判りません

恥ずかしそうに、狩野さんが答える

狩野の家には先祖代々、警護役を担当する家臣の血も続いているしかし、香月家は、そういう家臣の血脈を失ってしまっただから、香月セキュリティ・サービスなどという無粋な組織を作ることになってしまったのだ

オレは狩野さんの後ろの、警護役のシエさんを見る

シエさんは、ジッちゃんにそう言われて少しだけ嬉しそうだった

自分だけでなく、先祖代々の家系を褒められたような気がするだけだろう

うちは残ったのは、警護役としての家系だけですわうちのセバスティアヌスは香月家の警護役の皆様ほど強くありませんもの

歌晏さんが、自分の警護役のセバスティアヌスこと山田梅子さんを見上げる

ああうちの警護役は強いみたいなことを言っていたけれど

実際は、美智やイーディの強さに驚いていたんだ

申し訳ございません桃子お嬢様

スッと頭を下げる梅子さん

いいわ、こうなったらあなたも、香月様のところで一緒にお稽古させていただきなさいうちだけは参加しないとか、もう言いませんわ歌晏家も名家として皆様と一緒に頑張らせていただきたいと思います

3大名家の歌晏家の警護役も、オレたちと一緒にトレーニングしてくれるなら

全ての名家の警護役が集まってくれることになるだろう

名家同士の牽制も、敵対もこれでなくなっていくはずだ

本当にわたくしは、生意気な娘でございました香月閣下とても、ためになるお話をありがとうございます家に戻りましたら、祖父にもそのように申し上げます

歌晏さんが、そう言うと

フフフ、閣下か

歌晏くん、私がなぜ閣下と呼ばれているのか知っているかね

そ、それはあのお若い時に、英国大使を勤めていらしたことがおありになってそれ以来、閣下とお呼びするようになったと伺っておりますわ

確か、オレもそう聞いているけれど

君の祖父は私のことを閣下と呼んでいるのかね

そ、それはあの、お祖父様はそうは呼んでらっしゃいませんわ

そうだろう歌晏のやつは知っているからね

ジッちゃんの低い笑い声が響く

私は、イギリス大使などやったことはないのだよ

イギリス大使でない

じゃあ、何で閣下なんだ

本当に、ちゃんと私の経歴を調べたことのある人間なら判るはずのことなんだそして、そういう人たちは、絶対に私のことを閣下とは呼ばない

昔、アメリカに一人のアイルランド移民の少年が居た家族と一緒にアイルランドから移民して来たということは、そいつの家系は貧しく故郷を移民しなければ、生きていけない状況だったのだろうだが、アメリカに移ってすぐに少年は父親を亡くすまだ少年なのに必死に働いて彼はボストンの造船所の前で酒場を始めるその仕事で成功する

ジッちゃんは語り出す

彼は飲み屋の親父から、少しずつ成功していくアイルランド移民の裕福な家から妻をもらい、他のアイルランド系の人々を助けて地元の顔役になる最後は確か州の議員ぐらいにまで昇り詰めたんだったと思うよ

それは誰の話なんだ

後に閣下と呼ばれたのはその男の息子だそこそこ裕福に成り上がった家に生まれた彼は、名門大学に進学したしかし、成り上がりの彼は上流階級の息子たちだけが所属できるクラブには入れてもらえなかった大学卒業後、彼は父親のコネを使って銀行を監督する役人になるそこで様々な銀行の内部情報を知った彼は、インサイダー取引を繰り返し莫大な冨を得る裏世界の人間たちと顔なじみになる禁酒法が施行されたら、マフィアと手を組んで酒の密輸で大儲けをするどこから見ても、成り上がり者のロクデナシだ愛人にした女優のために映画会社を買い、映画製作に失敗したら、その借金を愛人に背負わせようとした良識の欠片の無い

ジッちゃんの話が続く

彼もまた、父親の真似をして政界へ進出する裏でマフィアと組んでいる男が下院議員になるのだよさっき話していたフランクリン・ルーズベルトは、その男のことを嫌っていた品がなく、嘘吐きで、ゴロツキで、裏家業の人間だ嫌われて当然だしかし、彼は財力がある色々な人間とのコネクションがあるそして野心家だ彼は、フランクリン・ルーズベルトに、自分を政府の要職に就けるように要求するルーズベルトとしては、こんな気持ちの悪い人間を閣僚にするわけにはいかないだからできるだけ遠くへ送り込んでしまおうと思ったそうそのゴロツキを、イギリス大使に任命したのだよ

貧しい移民の息子の成り上がりの悪党が、大使になった

だが、その男はイギリスに行くと、威張っているばかりで役に立たなかったヒトラーを擁護し、イギリスはナチス・ドイツに譲歩するべきだと語ったロンドンがナチスに空襲を受けた時王家もチャーチルも、ロンドン市民を見捨てるわけにはいかないと現地に残ったのに、真っ先に逃げ出したアメリカに帰国したら、暴言を吐いてついにフランクリン・ルーズベルトにイギリス大使を解任されただが、彼はそれを不服に思い、死ぬまで周囲の人間に自分を大使として閣下と呼ばせ続けた

ああ、ジッちゃんのモノだと思われていたエピソードは

その男のモノなのか

彼の野心は消えなかった自分がダメなら自分の息子を政治家にした彼の望みは自分の家系から大統領を出すことだった

そしてその野心は実現したのだよ彼の息子が、誰なのか判るね

オレには、もちろん判らない

ジョン・F・ケネディ

歌晏さんが呟く

そうだ今はアメリカの名家となっているケネディ家だしかし、代を遡れば初代は、極貧の移民で酒場の親父だ2代目はゴロツキだ3代目が、たまたま大統領になっただけだ

こうして現代でも名家は生まれていく作られていく香月家だって、先祖を遡ればこの程度の人物だったかもしれない

どんな名家もスタートがある

成り上がるためには、色々なことがある

家系の中には、悪人だって現れるだろう

だが、創始者たちがどんな人間だったろうと誇りを作っていくのは、家を継ぐ人間たちだそれを忘れてはいけない

ジッちゃんの声が響く

私は名家の当主として、決して自惚れることがないように、自分のことを閣下と呼ばせているのだ私自身だって、矜持を失い香月家の力に任せて、好き勝手に生きようとしたらあのゴロツキと同じような人間になってしまうと戒めだよ

フフと、ジッちゃんが笑う

私を閣下と呼ぶのはまずは私の部下だ彼らにはそう呼べと命じてある閣下と呼ばれる度に、ドキリとする私は当主としての責務をちゃんと果たしているだろうかあの男のような、下衆な行為をしていないか

呼ばれる度に自分を顧みる

それ以外は私におべっかを使うモノあるいは、私についての下調べすらして来ないような不勉強な人間たちだそういう人間たちは、みんな心の中では私のことを馬鹿にしている調子の良いことを言って腹の中では、私を笑っているのだ

閣下なんて、特殊な敬称だもんな

はっきり言えば元・大使だったとしても、今はただの私人なのに、自分のことを閣下と呼ばせて喜ぶ人間は最低のバカモノだよそういう人間だと思われて、そう遇せられている時ほど心が戒められるときはないね

なぜ、こんな展開に

でも、1回まとめてみたかった内容なので

これで名家の話は全部終わったので、次話から伏線の回収です

つまりエロの方へ行きます

父の健康のために、長距離の散歩に付き合いました

歩けなくなると困るので、時々、長い距離を歩いてもらいます

でも、やっぱり誰かが付いていかないと、危ないので

たまに、自分がどこに居るのか判らなくなってしまうらしいです

隣の区の都立高校まで行ったのですが

はぁ都立高校の子って、スカートが短っ

驚きました

校舎も真新しく、女の子たちはみんな可愛くて

ああ、何で私は男子校へ行ったのだろう

男子校なんて、ムツクケキ男しかいませんでしたから当たり前ですけれど

そしたら、父が

オレも高校は男子校だったぞ

いや、そんな昭和20年代の話をされても(父は昭和9年生まれです)

さすがにもう、女子校生の生足には興味が無いみたいです

家に戻ってから

今日はどこに行ったのか、ほら、お母さんに説明してみて

と言うと

あれれ判らん忘れた

これだはぁ

867.ハイ・ライフ / うた

私の話は以上だああ、私が部下たちに自分のことを閣下と呼ばせている件については、もちろん秘密にして欲しい賢明な君たちなら、判っていることだが

ジッちゃんの声が、香月家本家の中庭に響いていく

パーティ会場に集まった名家のお嬢様たちはやその警護役は、みなシンと静まり返っていた

君たちの楽しいパーティに割り込んでしまって、申し訳なかった老人は、これで失礼するどうか最後まで、みすずのパーティを楽しんでくれ給え

そう言うとスピーカーからのジッちゃんの声は途切れた

余りにも一気に色々な話がされたので、会場の少女たちはみんな困惑している

皆様よろしいかしら

スッと歌晏さんが立ち上がる

香月みすず様、狩野桜子様もお立ち下さい

ニコッと、二人に囁く

わたくしたちのお祖父様が、友情を育み合い、その結果として現在のわたくしたちの学園があるのだとしたらわたくしたちも、これからは仲良くしていくべきだと思うのです

みすずたちの学校は、ジッちゃんたちによって名家のお嬢様しか入れないことになった

その代わり、毎年多額のお金を寄付して新興のお金持ちや、芸能人の子供たちの入学を断ってきた

全ては、名家が次の代に、名家を継ぐのに相応しい娘たちを育てるために

そうねあたしも仲良くしていただきたいと、心から思いますわ

みすずも立ち上がり、微笑む

家柄は良くても、現在は家運が良くない狩野さんは迷っている

何をなさっているの歌晏家と香月家そして、狩野家が3家揃わないと、わたくしたちの学校はまとまらないわ

歌晏さんが、優しく微笑む

狩野様、お立ち下さい

みすずも、狩野さんにそう言った

狩野さんも席を立つ

誰か、新しいグラスを

みすずの声に、香月セキュリティ・サービスのメイド部隊の人が慌てて3人分のグラスを持って来る

どうせなら、シャンパンがいいけれどま、まだわたくしたちは高校生ですし

ええ、ジュースで乾杯致しましょう

みすずが、メイドさんにジュースを注がせていく

まだ、お祖父様に観られているでしょうから

香月様のお家で粗相をしたら、香月様がうちのお祖父様にお話になられてしまいそうですものね

ウフフと笑い合うみすずと歌晏さん

いっそ、わたくしたち3人これを機に義姉妹になりませんこと

歌晏さんが、そんなことを言う

狩野さんだけが、一人緊張していた

うふふふ、わたくし知っているのよ狩野様

歌晏さんが笑う

いつも、気を張っていらっしゃてツンツンなさっている狩野様でも、本当はあなたがとってもお優しい方だと言うことを

驚く、狩野さん

でも、あのわたくしは、お二方よりも年下ですから

狩野桜子さんは、オレと同じ高校1年生

みすずと歌晏桃子さんは、高校2年生だ

そうよだから、あなたが妹一番上の姉は

歌晏様にお願い致しますわ

あたしには、歌晏様のお姉様は荷が重いですから

そうでは、あたしが勤めさせていただくわさあ、グラスを掲げて

早速、歌晏さんが長姉らしく指示を出す

狩野様もあなたは、わたくしたちの妹になった方が楽なはずよ

あなただけでなく、あなたのお家、それからお家に連なる方たちもその方が良いと思うわ

今のままなら狩野家には高い家格しか残っていない

それでも3大名家と呼ばれる以上は、他の2家と張り合っていくしかない

実際、今日のパーティの始まる前

狩野さんは、一人だけみんなと別のテーブルに寂しそうに座っていなければならなかった

狩野家の令嬢としては親・香月家のお嬢様たちのグループに混じることはできない

かといって、勢いの衰えた狩野家では、自分のグループを作ることもできない

決して香月家や歌晏家のように裕福ではないのにこのまま、ずっと他の2家と張り合っていかなければならなければ孤立するだけだ

だけど、この3家のお嬢様たちが義姉妹になってしまえば

親・香月家のグループの子たちも、おそらくあるであろう親・歌晏家のグループの子たちも、狩野さんと親しくしてくれるようになる

自分たちのグループのボスの義妹なのだから

義姉妹の一番下の妹なのは、年齢の順だからということで仕方ない

3大名家としての狩野家のメンツも保つことができる

それにねわたくしは、あなたのような可愛い方と義理の姉妹になりたいわホントにそう思っているのよ

歌晏さんが、狩野さんに言う

あたしも、狩野様と親しくなりたいわ

あなたはどうなのお嫌かしら

歌晏さんの言葉に、狩野さんは

判りましたお二人の義理の妹にしていただきますわ

みすずが、中庭に居る全てのお嬢様に告げる

どうぞ、皆様も一緒に乾杯していただけませんか

まあ、こんな場に立ち会えるなんて光栄ですわ

3つの由緒あるお家のお嬢様たちが義姉妹になられるなんて素敵ですわ

少女たちも自分のグラスを持つ

メイドさんたちが、グラスの無い人には新しいグラスを

空のグラスにはジュースをどんどん注いでいく

こんなことなかなか無いんだから、警護の方たちも一緒に乾杯してちょうだい

歌晏さんが、呼び掛ける

ほら、Darlingもネ

イーディが、オレにジュースの入ったグラスをくれた

向こうでは美智や、レイちゃん、翔姉ちゃんたちもグラスを持っている

あんたたちもホラ、お祝いなんだからグラスを持ちなさいネ

主の鞍馬姉妹に去られて気落ちしている安城ミタマ・キヌカ姉妹と

主から解雇されて途方に暮れているアーデルハイトさんにも、イーディはグラスを手渡す

その元の雇い主、鳥居まり子さん

狩野さんの背後では、警護役のシエさんもグラスを持った

歌晏さんが、全員に呼び掛ける

歌晏家、香月家、狩野家わたくしたち生まれた家は違えども、これからはずっと仲良し姉は妹を、妹は姉を敬愛し助け合っていくそんな義姉妹になることをわたくしは誓います

あたしも誓います

わ、わたくしも誓います

3人のお嬢様が、グラスを合わす

うんでは、乾杯っ

かんぱーい

みんなで、グイッとジュースを飲み合った

穏やかな空気が、会場内を支配していく

じゃあ、これからは二人はわたくしのことを桃子お姉様とお呼びなさいね

わたくしのことは、みすずみすずお姉様と名前で呼んで下さいませ

わたくしのことは桜子と呼び捨てにして下さい

狩野さんは、頬を赤らめてそう言った

うんみすず、桜子何か困ったことがあったら、いつでもこのわたくしに相談なさいっいいわねっ

華やかで、自信家で、姐御肌で

歌晏桃子さんは、お嬢様たちの表の世界には、とても力強い存在なんだと思う

みすずにしても、同世代の子たちに対しては少しシャイなところがあるから

歌晏さんの義姉妹になられたことは、みすずにとっても有益だと思う

あ、そうそうまり子はすでに、わたくしの妹分ですからみすずも桜子も、まり子とも仲良くしてあげてちょうだいねあ、桜子はまり子の遠縁だったわよね

歌晏さんが、鳥居さんを示してそう言う

よろしくお願いしますわ鳥居さん

よろしく、まり子さん

狩野さんは、鳥居さんには複雑な感情があるようだ

ええ、よろしくお願い致します

ニヤッと笑って、鳥居さんは会釈する

あの歌晏様

ずっと側に控えていた瑠璃子が、歌晏さんに話し掛ける

鳥居さんも姉妹に入れていただけるのでしたらわたくしも、みすずお姉様の姉妹でございますわ

正確には、瑠璃子はみすずの従姉妹だが

オレの女としては姉妹だ

まあ、歌晏さんとしては姉妹同然の従姉妹という風に、受け取ってくれたらしい

そうねじゃあ瑠璃子様も、わたくしたちの妹として可愛がって差し上げますわ

歌晏さんは、ニコやかにそう言う

はい、ありがとうございます以降は瑠璃子とお呼び下さい

瑠璃子も義姉妹に加わる

美子様は、どうなさるの

歌晏さんが、遠くの親・香月家グループのテーブルに居る美子さんに声を掛ける

わたくしには、畏れ多いですわ

美子さんは、笑顔でそう答えた

美子さんは5月までは、ジッちゃんの孫娘として認知されていなかったし

亡くなっているジッちゃんの長男の隠し子という微妙な存在だ

そうまあ、無理には勧めませんわそれに、美子様がお入りになられたら一番年長の美子様がわたくしたちのお姉様になってしまわれますものね

美子さんは、高校3年生だからそういうことになってしまう

桃子お姉様お兄様のことをお忘れですわ

瑠璃子が笑顔で、オレを示す

わたくしの最愛のお兄様でございますわ

あたしの旦那様ですっ

大きな声で、そう言う

その和気藹々とした様子に、場の雰囲気がさらに緩む

そうねしょうがないわね香月様がお認めになられているのなら

ニッと微笑んで、歌晏さんがオレに言った

あなたのことも、ついでに面倒見てあげますわっえっと黒森公さんでしたわね

じゃあ、公ちゃんですわね

公ちゃん

確かあなたは、わたくしやみすずよりも1つ年下でしょ

ああ、そういう調査情報は、知っているんだ

だから、私は公ちゃんと呼びます桜子は同い年なんだから好きにお呼びなさい

鳥居さんに見せたような戸惑いを、オレに対しても露わにする

狩野さんは、名家でない人間は苦手らしい

よーし、じゃあまり子あなた、皆様の前で何か歌でも歌いなさい

歌晏さんが、我が物顔で鳥居さんに命じた

え、あの桃子お姉様

まり子あなた、この辺で皆様に対して多少なりとも点数を稼ぐようなことをしておいた方がいいわよ

母親が名家出身だけど鳥居家は名家ではない

鳥居さんは、多分きっと将来的には名家に嫁に行くんだろうということで何となく名家のお嬢様に入れてもらっている存在だ

その鳥居さんが、3大名家の義姉妹グループに入ったことを面白く思わないお嬢様たちも居るだろう

この子はねとにかく面白いのよわたくしたちとは、発想が異なっているからほら、何かやりなさいまり子

鳥居さんは

仕方ありませんわハイジ、あなたも一緒に歌いますわよ

鳥居さんは、アーデルハイトさんに声を掛ける

あのわたくしは、まり子お嬢様に解雇されておりますが

この辺りで、点数稼ぎをしないと後が無いのはハイジも同じでしょ

鳥居さんに解雇されてキヌカさんとの死闘も、美智VS天童乙女のインパクトに消されてしまったアーデルハイトさんは、この先の行き場が無い

キヌカさんの方は、姉のミタマさんともども香月家が預かることになっているというのに

はぁ判りましたお嬢様

ハイジも、とっても歌が上手いのよ

て何を歌うんですまり子お嬢様

ハイジアレをやるわよ

あれですか

アーデルハイトさんは、苦々しい顔をする

ああ、アレねわたくし好きよ愉快なのがいいわさあ、やんなさい皆様に披露なさい

歌晏さんが、鳥居さんに言う

ほら、お姉様のご命令よいくわよっ、ハイジ

もうっ、判りましたっ

そして、16歳の準・お嬢様と

13歳の(自称)A級ライセンス警護役は

二人仲良く、歌い出した

はぁ、どっこい

ぁぁ、よいしょっ

これは何の歌なんだ

というか、これは歌なのか

歌晏さんだけが、楽しそうにゲラゲラ笑っている

♪ああ、そぃつの名はぁぁ♪

♪ポリィィィィスメェン♪

何か、小さな子供同士が遊んでいるみたいだけれど

クスッ

みすずが、笑い出す

面白いですわ

とっても愉快ですわね

美子さんも、鳥居さんたちの謎のパフォーマンスに笑っている

♪そんなこと言われて♪

♪チィパッパ♪

少しずつ、お嬢様たちの中にもクスクスと笑いが起きていく

あのカアン・モモコという子の道化としてならミンナもあの子たちの存在を許してくれるノネ

中世ヨーロッパの宮廷には、道化が居たのネ道化は、ただふざけて人を笑わせるだけではないのね王様に唯一、正面から厳しいことを言って許される役だったノネ

あのトリイ・マリコは物怖じしない子ネいつでも、ズケズケと思ったことを自由に言う性格ネカアン・モモコというお嬢様中のお嬢様は、自分の身近にそういう子が居た方が良いと思っているノヨ

ああ空気を読まない、鳥居さんだから

そうだよな、普通の子なら歌晏さんが妹分にしてやると言われても、周りの子からの妬みを恐れて断るだろう

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