オレは指示する
はい大手広告代理店部長、少女暴行と児童ポルノ禁止法違反で逮捕オーストラリアにて
一発目からビンゴだ
それだ、詳細を開いて読んでみて
みすずの指が、ススッと動く
走っている車の中で、携帯の中の文章を読むのは大変そうだけど
5月1日、午前11時頃オーストラリアのアデレード近郊で、現地の女子中学生を暴行したとして、東京の大手広告代理店電王エージェンシーの部長、白坂創介(42)が、警察に現行犯で逮捕された白坂は大量の児童ポルノを所持しており、警察は現地で連続している少女暴行事件についても彼の犯行ではないかとして捜査を開始した
雪乃の顔が驚きに歪む
やっぱり、ネット・ニュースは早いわね
ミナホ姉さんがクククと笑う
嘘でしょう
みすずを見る、雪乃にマナは
嘘なはずないじゃん雪乃さんて、ホントにバカなのねっ
御覧になりますか
工藤ちゃんが二人に自分の携帯を差し出す
うわっ、ホントだっ
自分の眼で父の逮捕のニュースを確認する、姉妹たち
海外で、現地の中学生をレイプして、児童ポルノを山ほど持っていたなんてはたして、白坂創介さんは日本に帰って来られるのかしらね国辱って、こういう時に使う言葉だと思わない
楽しそうにミナホ姉さんが、言う
ミナホ姉さんが、十年以上計画してきた復讐がいよいよ最終段階に入る
興奮するのは、当然だ
こくじょく
マナには言葉の意味が判らないらしい
国の恥という意味です
工藤ちゃんがマナに教える
そっか雪乃さんのお父さんは、国の恥になっちゃうんだ
マナが姉を責める
何を言っているのよ、舞夏あなたのパパなのよっ
不安な気持ちを怒りに変換して妹に叩き付けようとする、雪乃
あたしはもう白坂の家とは関係ありませんっ雪乃さんは、大変だよね明日から
マナが意地の悪そうな口調で、雪乃に言う
実のお父さんが外国で、中学生をレイプして捕まって、婦女暴行と児童ポルノ法で逮捕されたんだよどんな顔をして、学校へ行くつもり
雪乃の顔が暗く曇る
中学生レイプ犯の娘だよこんなに恥ずかしいことってないよね雪乃さん恥ずかしくないの
妹の言葉に雪乃は、黙り込む
みすずさん、その次のニュースは何て書いてあるかしら
ミナホ姉さんが、運転席からみすずに尋ねた
次のニュースですか
そうよ白坂創介逮捕のニュースの次はどんな記事が出ている
みすずが画面を覗き込む
市会議員に不正献金発覚大規模な贈収賄事件か
ミナホ姉さんがニヤッと笑う
それよ読んでちょうだい
みすずが読み上げる
はい5月1日、午前10時、**市の市会議員遠藤栄三氏の資金管理団体の職員から、同氏が不正な献金を大規模に受け取っているという内部告発があり、報道関係者に対して記者会見が行われたまた、この職員に告発によると、遠藤議員は市の公共事業に深く関与し、市の総合スポーツセンターの建設において親族の経営する建設会社が主導的な地位を得られるように、政治的に画策したという
遠藤の
オレの叔父さん、市会議員のその叔父さんだよな
親族の経営する建設会社って遠藤の父親の会社だろ
吉田くん、あなた病院で手術とか受けたことある
ミナホ姉さんが不意に、そんなことを言った
いや無いけど
オレは至って健康だ
手術どころか、病院だって何年も世話になっていない
病院で手術を受けるとねたまについでにやっておきましたってことがあるのよ
ついで
そうよ肝臓の手術をしたついでに盲腸も切っておきましたとかねお医者さんて、たまにそういう変なサービスをするのよ
へえ、そうなんだ
その話が、今、何と関係があるっていうんだ
今回はねあたしが、そのついでをやってみたのよ
白坂創介の件のついでにね遠藤くんの家も破滅させておきましたっ
ミナホ姉さんは大声で笑った
怒らせるとこの人は、徹底的に相手を打ちのめす
遠藤という高校一年生に対する怒りが
叔父の市会議員と、父親の会社を
破滅に追い込もうとしている
連休は終わりなのに
機動歩兵があんまり可動しないので、秋葉原の海洋堂まで行って、ダブルジョイントを買って来ました
手足が伸びてミクロマンとも良い感じの大きさになりました
うーむこんなんで、連休は終わりか
楽しいことは何も無かった
マナが雪乃を豚と叫んだことぐらいだ
あれは私も驚きました
連休中にササッとやるつもりだったマボロシも、たっぷり残っているし
改稿がこんなに手間取るとは
さあ明日から、どうしよう
162.バッド・シティ
どこの新聞社も、トップニュースはみんな同じですね
みすずが携帯をネットに繋げたまま、調べてくれた
白坂家の新聞社は
同じですあ、ここだけ大手広告代理店部長、少女暴行と児童ポルノ禁止法違反で逮捕かとなってますねかとで疑問系になってます
何じゃそりゃあ
白坂逮捕のニュースは、大手の通信社から各報道機関に配信して貰うようにしたのだから、どこのマスコミでも、横並びでこのニュースがトップになるわけ白坂さんの新聞社だけ、ニュースを出さないわけにはいかないのよ疑問系にしたのは、せめてもの抵抗なんでしょうけれど
ミナホ姉さんが、そう説明してくれた
これから5時のテレビ・ニュースそして、9時や10時のニュース・ショーが勝負になるわもう一つ付け加えれば、明日のワイドショーまでね
ミナホ姉さんは先を見ている
白坂家は必死に火消しに走るでしょう何とか、事件を矮小化できないか他のニュースの陰に隠すことはできないかとかねつまらない、政治家のスキャンダルを突然暴露するぐらいのことはやると思うわ
だからこちらも、情報を小出しにして対抗しないといけない
高度な情報戦てわけか
すでにねオーストラリアでは、白坂本家に雇われた現地の弁護士が動き出している頃だと思うわ
今回の事件白坂創介にレイプされたことになっている被害者の中学生に、訴えを取り下げさせればいいのよ間違いでしたってことにしてねお金を積んで、示談にさせるわけそうしておいて、日本では冤罪だったって発表すれば、白坂家に傷は付かないでしょ
これだけ大きく報道されれば白坂創介本人の立場は危ういけれどねまあ、会社はクビになるでしょうねそれでも示談にさえ持ち込めれば、白坂家にまで延焼することは避けられるとそう考えると思うの
そこまで、判っているのなら
だからその裏交渉を、隠しカメラで撮影するように言ってあるわ白坂家に雇われた弁護士が、被害者の両親に多額の金を提示する瞬間を押さえるようにねその映像が5時のニュースか遅くても、9時のニュースに、報道されるようにしたいわ
そうすれば
白坂創介の事件の揉み消しを、白坂家が行おうとしたことが明白になり
世間の批判は、白坂創介個人から白坂家全体に移る
さすがミナホ姉さん
ねえこれ、何がどうなっているのよっ嘘でしょうみんなして、あたしをダマしているだけよねえそうなんでしょ
事態が呑み込めていない雪乃が喚き出す
残念ね嘘じゃないわ全部、本当よあなたのお父さんは、国際的な犯罪者になったの連続少女レイプ犯だけどね
オーストラリアのことは、向こうに居るあたしたちのエージェントに任せておけば大丈夫だと思うけれど
オーストラリアには、マルゴさんの師匠に当たる人が行っているんだっけ
名前は確か
恭子・ドスノメッキーさんだっけ
こちらは、今マルゴしか動ける状態に無いから早く、戻らないとねあたしと克子も、ネットの対応に加わらないと
ネットでの工作活動ができる二人が運転中なのは、マズイよな
早いところ、学校に戻ってマルゴさんのサポートに入らないと
どっちにしても白坂の家に行くのは、このタイミングしか無かったわ黒い森との関係を示す資料は、一通り持ち出せたし
でもどっか別の場所に隠しているとか
オレはあと思い付いた疑問を投げ掛けてみた
白坂みたいな人間が自宅に、全ての資料を隠しているものだろうか
それに二十年近く、黒い森に関わっていたにしては、持って来たディスクやメモリーの量が少ないような
白坂は、自分のレイプの様子を撮影するのが趣味だったんだし
それに昔の分は、ビデオテープとかじゃないのか
吉田くんの想像通りよ白坂だって、底抜けのバカじゃないから危ない資料を自宅には置いておかないわ奥さんだっているんだし年頃の娘さんが二人も居るそれに、あの家は普段はお手伝いさんが来ているんでしょ掃除している時に、間違ってディスクを持ち出されたりしたら大変ですものね
白坂は都内に別宅を持っているの奥さんにも内緒の家よマンションじゃなくて、一軒家を丸まる借りているわそこが、白坂の個人的なセックス部屋になっているわけ
セックス部屋
あの人は本業が、広告代理店の社員でしょ白坂創介本人は素人の何も知らない女の子をレイプするのが大好きだったけれど本業としては、タレントの卵とか若手アイドルとかを、色んな企業の人に抱かせたりしていたわけもちろん、白坂本人もね黒い森とは別腹でそういうこともやっていたから、都心にそういう場所を借りていたのよ
タレントを
枕営業の斡旋まで、やっていたんだ
そんなに売れなかったアイドルを黒い森で娼婦にしろって、連れてきたこともあったわあんまり品の良くない子だったから、あたしの方では断ったんだけど白坂の方のヘンタイ部門では、使ってたみたいね
じゃあ白坂が黒い森で撮影したヤバイ映像なんかは、みんなその家に
ええその家に保管してあるはずよ多分地下室とかにね
じゃあ何とかしないといけないですよね
いずれその隠れ家にも、捜査が入るだろう
そこで白坂創介と黒い森の関係が明らかになったら
面倒なことになる
当初の計画ではあたしたちが白坂の自宅を捜索しているこの時間に平行して、マルゴと寧がそっちの家に行く予定だったのよ寧が放火したいって言うから
寧さんには放火癖がある
でもシザーリオ・ヴァイオラが来たことで、寧が外に出られなくなったでしょマルゴも寧のガードをしないといけなくなったし
誰かがその家の処理に行かねばならない
オレが行きますよ
吉田くんが、そう言ってくれるのは助かるけれどあなた一人では無理よ
マ、マナも行きます
それはもっとダメマナさんじゃ、足手まといになるだけだわ
美智あなたが行きなさい
美智は、そういう破壊工作についても、お父様から指導を受けているのでしょう
みすずの言葉に、工藤ちゃんは
でもわたくしは、みすず様の護衛ですお側を離れるわけには参りません
みすずは工藤ちゃんに、ニコッと微笑む
みすずは、これから日舞のお稽古です今日は、明日の発表会のための総ざらいですから、夜遅くまで掛かります
みすずの稽古はまた、家元の稽古場のあるビルで行われる
今日の家元様の稽古場は、いつも以上に安全ですよ何しろ、各家の警護役が全員集まっていますからね
そうか家元の稽古場に来ているのは、みんな名家のお嬢様たちばかりだから
それぞれが、警護役を連れて来ている
これ以上、安全な場所は無い
しかしみすず様だけが、警護役がいないというのは
あらお稽古には、瑠璃子さんもいらっしゃるから美智のお姉さんの遙花さんもいらしゃるはずよ香月家は遙花さんが警護役という風に、みなさんは見て下さると思うわ元々みすずには、通常は警護役は付かないんだから
工藤ちゃんは、不満そうだった
工藤ちゃんもお姉さんの遙花さんに対しては、色々とあるのだろう
お姉さんは、工藤流を否定して空手家になってしまったわけだし
日本一の美人高校生空手家としてマスコミでも有名な人だし
そんなお姉さんに対抗して
みすずの警護役として稽古場の公の場に出ることを、楽しみにしていたのだろう
美智の警護役としての公式デビューは、明日の発表会当日の方がいいわよね
美智はみすずにとって、旦那様がどれほど大切な方か、もう判っているわよね
それは判っておりますが
工藤ちゃんはそれでも、納得いかないようだった
とにかくみすずさんを先に送るわ今、紺碧流のお稽古場に向かっています
ここからの数時間が、一番危険だ
みすずは、早く送り届けた方がいい
昨日よりも早いけれど早めに、稽古場に着いても平気なのか
オレがみすずに尋ねる
大丈夫ですわ明日の発表会に向けて、もう自主練習を始めている子もいると思いますし家元様のお稽古場には、自主練習のための部屋があるんです家元様の弟子にしていただいた者なら、いつでも使えるお部屋が
それならいいけれど
一人だけ早く着いて、寂しそうに他の人が来るのを待つんじゃ可哀想だ
みすずも、お稽古の開始の時間まで一人で練習します明日は、旦那様に始めてみすずの踊りを観ていただく大事な日ですから
みすずは笑った
旦那様だけではないてすね恵美さんやマナさん、妹や姉に観られるのですから、一生懸命頑張ります
そうだ明日は、みんなで行く
みすずの発表会の会場で
香月閣下や白坂家の人間との話し合いがある予定なのは
みすずは、知らない
もうすぐよ
ミナホ姉さんがそう言う
確かに昨日、みすずを送った時に見たのと同じ風景だ
もうすぐ家元の稽古場ビルに着く
付けられているわね
後ろを振り向くと
ベスパ
ベスパに跨がった黒いスーツの男が
赤いシャツに、黒いネクタイに
眼にはサングラスをしたやたらとがっしりした男
何で、ヘルメットを被ってないんだ
男はスーツと同じ色の、ソフト帽を被っている
工藤ちゃんが呟いた
するとあれが
工藤流古武術継承者
父の工藤優作です
工藤ちゃんのお父さん何で、ヘルメット被ってないの
取りあえず聞いてみる
お父様はヘルメットは、せっかく決めた髪型を潰してしまうからお嫌いなんだそうです
いやでも、帽子被っているじゃんか
帽子まで被るのがお父様のヘアー・スタイルですから
ヘアー・スタイル
帽子で照準を付けているので帽子が無いと、拳が敵に当たらないそうです
いやそれ、某アニメの某キャラの設定だろ
オレだって知っているぞ
でもヘルメットを被ってないと、警察の人に捕まっちゃうんじゃないの
マナが工藤ちゃんに尋ねた
それはお父様は、普段はあのベスパを積んだワンボックスカーで移動しているんですわたくしたちの前に、格好良く登場するためにその辺の路上に車を置いて、ベスパに乗って来たんだと思います
オレたちに見せるためだけに
はいお父様は、自分のスタイルに強いこだわりをお持ちな方ですから
スタイル
確かに、スタイルに拘っているのは判るけれど
あれ格好いいか
ハーレーとかなら判るけれど
スクーターだし
シャツ、真っ赤だし
みすずの携帯には、GPS機能が付いていますからそれで工藤さんは、あたしたちの車が特定できたんだと思います
そして先回りして
ベスパに乗り換えて後ろから登場
多分あの人も、香月様から何か指示を受けてきているんでしょうねもう着くから駐めるわよ
ミナホ姉さんはそう言って紺碧流の稽古場ビルの前に、車を停める
オレたちのすぐ後ろを走っていた、克子姉の車も停まる
黒スーツの男のベスパがオレたちの車に接近して来る
スッとベスパから降りオレたちの方へ
みすずが窓を開く
工藤様、いかがなさいました
何の問題も無いという表情でみすずが黒スーツの男に話し掛ける
近付いてきた黒スーツの男はでかい
百八十センチを優に超えているだろう
体つきも、全身ががっしりしている
手の指なんかも骨太で格闘家っぽい
格好だけが変だけど
いや、いや、いや、みすずお嬢さん香月さんに言われましてねえお嬢さんの周りに、変な奴らが近付いているから、ちょっと行って蹴散らして来るようにってねそういうご命令なんですわ
そしてオレたちをギロリと見る
濃い色のサングラスを掛けているから、眼はみえないんだけど
それでも、強い視線を向けられたことは判った
やあ、やあ、やあ犯罪組織のお嬢さんお坊ちゃんもいるねえこんにちわミッチィくんのパパです
ミッチィくん
お父様、今度人前でその呼び方をしたらブチ殺して差し上げると、申し上げた筈です
工藤ちゃんが、父親を睨み付ける
ほう、ほう、ほうミッチィくんがブチ殺すオレをほほううんなるほどどうやって
工藤優作氏は、娘を挑発する
ミッチィくん世間の皆様に、パパと仲良くしていることを知られたからって、それは別に恥ずかしいことでは無いんだミッチィくんとパパは、実にアチチな関係なわけだからね
何なんだ
アチチな関係って
どうやら直接、そのお口を塞がないといけないようですわね
工藤ちゃんが車の外に下りる
雪乃がハッとするがマナが、スタンガンを押しつけているので逃げられない
車のドアが、バタンと閉じる
あー、あー、あー、何だミッチィくん君は、みなさんの前でパパとゴニョゴニョしようっていうことなのかい
そうさせているのは、お父様でございますっ
工藤ちゃんがビクトリー・ハンマーを取り出して、ビュンビュン振り回し始める
おい、おい、おーいいいのかい、ミッチィくんパパには、工藤流必殺奥義ゴールドフィンガー2001があることを忘れてないだろうねぇ
ススッと、変な構えで娘に対峙する工藤優作氏
お父様こそわたくしのシャイニングフィンガー2012/春の恐ろしさ身をもってご存じの筈です
ゴールドフィンガー2001に、シャイニングフィンガー2012/春
どんな技なんだ
別に知りたくはないけれど
うーん、なるほどなるほどねミッチィくんは、そんなにパパとお外で遊びたいわけだなるほど、なるほどね
優作氏の手がスッとスーツの裾に消える
何か武器を取り出すつもりか
工藤ちゃんが父親に叫ぶ
お父様わたくしは今日、男性にセックスしたいと申し込まれましたっ
工藤父の動きが止まる
何じゃ、そりゃあっ
ビュイッ
鋼球が空を切るッ
パゴーンッ
工藤ちゃんのビクトリーハンマーの硬質ゴム製の偽の鋼球が
父親の頭に、めり込むようにヒットするッ
工藤父は、帽子を吹っ飛ばして後方に引っ繰り返った
こんな、わたくしにまぐわりたいとのお申し出をして下さいました
再びビュンビュンと鋼球を振り回す、工藤ちゃん
工藤父は、ふらつきながらも立ち上がる
お父様わたくし、その方とまぐあうべきでしょうかッ
再びシュートッ
鋼球が父の頭にベコーンッと命中するッ
吹っ飛ぶ工藤父
待てちょっと待て待ちなさいミッチィくん待てぇぇってのっ
工藤父が娘を無視して、こっちを見る
オレの可愛いミッチィくんに、そういう下品なことを言ったのは誰だぁぁっ先生、怒らないからしょーっじきに名乗り上げろ誰だぁぁ
もう怒っているじゃないか
えっとオレです
仕方ないから、手を挙げる
オレしか男はいないんだし
隠れていてもしょうがない
オレには実際に工藤ちゃんにそう言った責任がある
おーおーおー、お前かちょっと、来いいいから、来い
と工藤父がオレに言った瞬間
三撃目の鋼球が、工藤父の頭にヒットする
わたくしを相手にしている最中に眼を離すとはお父様、臆されたかっ
叫ぶ工藤ちゃん
ストーップミッチィくん、ストーップ戦闘は中止だパパは今、ミッチィくんのことで、とっても大事な話をしているんだからねっ
父の言葉に工藤ちゃんは、ハンマーの回転を止める
いいから、出て来い、この野郎っ
工藤父がオレに叫ぶ
お父様、こんな時にもイノキの物真似ですか
工藤ちゃんがポツリと呟いた
工藤様は、プロですし今、御覧になった通り、美智の攻撃を三回受けても平然となさっています
化け物だな
ですから旦那様も、本気で思いきり叩いて下さいねっ
本気で叩くって
こういう方に、旦那様の真価を理解していただくのは、それしかございませんから
みすずがオレの袖に、そっと触る
そこにはブン殴り棒が隠してあった
これで
工藤さんのお父さんを、ブッ叩けってこと
ほらあ何をしている早く、降りてこいっ
工藤父は、変な足の動きをしながらオレを呼んでいる
今度は、アリ・シャッフルですか
オレには意味が判らない
行って来る
みすずに声を背にオレは、車から降りた
初めまして吉田です
オレは工藤さんのお父さんに頭を下げた
おうんでどういうことなんだあお前が、うちの娘とアレしたいってのか
もう正直に行こう
はいオレは、工藤ちゃんとセックスしたいと思っています工藤ちゃんにも、はっきりそう申し込みましたっ
工藤父の顔色が変わる
あーあーあー、なるほどなるほどねんでミッチィくんミッチィくんは、この小僧のことをどう思っているのかな
まだ、よく判りません
判らないんーんーんー、そうだよねぇミッチィくんは、まだ中学生だ中学生にニャンニャンはまだ早いよねえニャンニャンは
ニャンニャン
ニャンニャンて何だ
いえわたくしは、すでに大人ですしいずれセックスするならば吉田様に身を任せても良いかと思っております
んんんーつミッチィくん何を言っているのか、パパにはよく判らないなぁ
はい吉田様には、すでにわたくしの女性器を鑑賞していただきましたし処女膜まで見ていただきました
工藤父の顔色がいよいよヤバくなる
うーん、おい小僧お前、ミッチィくんの処女膜まで見たぁぁ
はい見ました
そんなもんお前っオレだって、見たことがねぇんだぞっ
当たり前ですお父様にお見せするようなものではございませんっ
パパにはダメでこいつには見せるのかよっおいっ、ミッチィくんっ
工藤ちゃんは顔を赤らめて
ですからわたくしには、吉田様は特別なお方なのです
そして言った
わたくし吉田様には、放尿する姿もご披露いたしましたし
工藤父がキレる
お前ミッチィくんのおしっこまで見たのか見たのかあああっ
み、見ました
まさか飲んだりはしてないだろうなっ
それは、していません
あわよくば飲むつもりだったんだろう
そういう趣味は、ありません
じゃあ、どういう趣味があるってんだぁぁこの小僧がぁぁ
工藤父が、オレに襲いかかろうとする
四度、鋼球が工藤父の頭にめり込んだ
へげぇぇ
お父様わたくしに隙を見せ過ぎですわ
さあ大変だ
いきなり、遅刻寸前です
工藤父は、昭和テイストたっぷりでいきます
そう言えば私は松田優作が若い頃にバイトしていたという飲み屋に、一度だけ行ったことがあります
もう今は無いんですよね
上の階が、エロ漫画屋でした
それでは働いてきます
163.工藤家の闘い
ミッチィくん、いいから君は、ちょっと休んでなさい
フラフラしながら、工藤父が娘に言う
パパはちょっと、この小僧くんと大事なお話があるから
そしてオレに振り向く
で、えっと、何だお前の名は
工藤父は、再度、ニヒルでダンディな顔を作って、オレに話し掛ける
名前は、何だったっけって聞いているンだよッアー、ハン
うん本当にいるンだよって感じに喋ってる
最後のアー・アンは、英語風に
オレが、改めて名乗ると
工藤父は、突然、雷に打たれたみたいな深刻な顔をして
よ吉田だと
サングラスをサッと外す
力強い眼で、オレをカーッと睨む
額から、大粒の汗をタラーッと流している
お前、ま、まさか本当に吉田、なのか
物凄い、真剣な顔でオレを見る
はい、そうですけれど
工藤父はスーツの胸ポケットに手を入れ
オレは、もしかしたらお前の祖父さんに世話になったことがあるかもしれねぇちょっと、悪いんだがこいつを見てはくれねぇか
そう言って紫色の風呂敷に包まれた何かを取り出す
ちょっと、手間を掛けさせて悪いんだが
そのままススッとオレに近付いて来る、工藤父
手の風呂敷が、オレの前に差し出される
工藤父が、さらに一歩前に踏み出す
ふぁさっ
突然、工藤父の手から風呂敷がパッと開いて、オレの顔に向かって飛んでくる
オレの顔に浴びせかけられる風呂敷を無視して
ブン殴り棒を引き抜きながら一歩、前に出る
そのまま、何のためらいもなく
そこに居る工藤父の頭を力いっぱい、ブン殴ったッッ
ガコッ
真芯を捉えたインパクトの手応えッッ
いっ痛ぇぇぇぇぇぇッッ
顔に飛んで来た風呂敷を払いのけると
地面に頭を抱えた、工藤父が転がっている
すごいお父様の秘技ネバー・セイ・ネバー・アゲインを、ああも容易く打ち破った
工藤ちゃんが、呟く
知っているの、美智
みすずが、工藤ちゃんに尋ねる
いや、そりゃ知っているだろう
この人は工藤ちゃんの父親でこの世にただ二人きりの工藤流古武術の伝承者なんだから
はいみすず様秘技ネバー・セイ・ネバー・アゲインとは言葉巧みに、相手に近付き風呂敷の中の物を相手に見せるふりをして、一気に相手の顔面にその風呂敷を被せ相手の視界を奪ったところで、全力でタコ殴りするという工藤流の秘技です
秘技なんだ
わたくしの様な未熟者には、会得することのできない幻の技ですわたくしには、父のような多彩な演技力はございませんから
確かに工藤ちゃんは、演技力とか以前にもっと笑った方がいい
というか工藤父の演技だって、どうかと思うぞ
何か、異常に暑苦しい顔をしてたし
いやな、こっちの意図に途中で気付くってケースはよくあるんだよな実際
工藤父が、頭をさすりながらむっくりと起き上がる
でもなそういう時はな、顔に飛んで来た風呂敷を避けることに集中するもんなんだよな思わず、後ろに下がるんだわんでオレは、その隙を突くってまあ、そういう戦法なんだわな
ずりずりとまた、オレに近付いて来る、工藤父
なのに何で、お前はそこで一歩前に出られる
前に出ないと殴れないじゃないですか
うん間合いが届かないと思った
つーか何でお前、平然と人が殴れるんだよお前、自分の持っている、それ見てみろよちょっとした鈍器だよ鈍器びっくり鈍器だよ鈍器コングだよな見ろ、オジサン、頭にタンコブできちまったよお前、オレだったからコブで済んでるけどさ下手したら、こんなもん、死ぬよ死ぬ死ぬ、マジで死ぬうん、死ぬなお前、そういう想像力とかないわけ業務上過失致死とかじゃないんだぜ立派な殺人罪だぜお前の心は痛まないのかアンっ
何が言いたいんだろう
というわけで、ちょっとこれを見て貰いたいんだが
工藤父は再び、胸ポケットから風呂敷を取り出した
取りだしたから
オレは、思いっきりブン殴った
バゴッ
吹っ飛び転がる工藤父
すごいネバー・セイ・ネバー・アゲインの二段攻撃を完全に撥ね除けた
いや工藤ちゃん
これすごいか
むしろ平然ともう一回風呂敷を取り出してきた、君のお父さんの方がすげぇ
んーんーんーッオジサン、今、ちょっと頭がどうにかなっていますっ
それでも工藤父は、立ち上がる
二度も殴ったね親父にも殴られたことがないのに
いやそんなことをオレに言われても
ああんと吉田くんだったっけな君いったい、どうなっているわけ
工藤父が、オレに尋ねる
普通はさオレに、ああまで言われたら、次は全力で殴れないもんだぞ君に人間の心っちゅうもんがあるのならなお前は悪魔かそれとも、想像力ゼロ人間か自分のやっていることの意味が判ってないのかああっこんなにポンポン頭をブン殴ってたらなあ死ぬんだよ、死ぬんだお前は、オレを殺す気かああんっ
あの全力でブン殴っても、工藤さんは平気だと聞きましたので
なにぃぃぃ誰がそんなことを言ったんだ
みすずですけど
つーかこの人
工藤ちゃんのハンマーで4回も頭を強打されて
オレにブン殴り棒で2度も殴り倒されて
全然、平気じゃん
すっげぇなあ
みすずお嬢様がぁ
工藤父が、車の中のみすずを見る
はい確かに申し上げました工藤さんは、とてもタフな方だから全力で立ち向かうべきだと
みすずが車の窓を開けて、工藤父にそう言う
はあはあはあはいはいはいなるほど、なるほどねみすずお嬢様が、そうおっしゃったのなら仕方がないなぁんて、オレが言うと思ったか、コンチクショウがぁぁッッ
工藤父が、強い眼でオレを睨む
おいてめえああんと何だっけ
そうだ、吉田ぁぁッッオレは、お前にもの申すッッッ
なぜに古文
お前は、みすずお嬢様に全力でブン殴っても、工藤の叔父様は素敵だから平気(はあと)と言われたんだろう言われたんだなまあ、言われたとしてそれはそれとしてだが、しかーし、バーットだからって、本気でオレの頭をブン殴っていいわけが無いだろうそんなのちょっと考えれば、判ることじゃあーりませんかっそれとも何かお前、みすずお嬢さんが死ねつて言ったら死ぬのかああああっ
あのオレみすずが、死ねって言ったら死にますけど
何を言っているんだろうこの人
なんですとぉぉぉぉぉッッ
絶叫する工藤父
車の中で、顔を赤くするみすず
わ、わたくしもですっ
え工藤ちゃん
みすず様に死ねと言われればいつ、どこでも自害致しますっ
何を宣言なさっているのですか
そして熱い眼でオレを見る
仲間です
吉田様は心底から、わたくしの仲間でいらっしゃったんですね
オレはみすずに死ねって言われたら死ぬけれど
メグでも克子姉でも渚でも死ぬ
マナでも死ぬな
ミナホ姉さんの命令は、絶対だから死ぬ
マルゴさんでもマルゴさんが、オレにそんなことを言うのは何か考えがあるからだからためらわずに死ぬしかない
寧さんならうん、死ぬ喜んで死ぬ
雪乃だったら死なない
っていうか雪乃には、もう何度も死ねって言われてるし
それでも、オレ死んでないし
美智は本当に、みすずの言うことなら何でも聞くの
車の中から、みすずが言った
はいっ、みすず様
工藤ちゃんがみすずに叫ぶ
何か子犬が尻尾を振っているみたいだ
では美智に命令します
はい何でも、お申し付け下さいっ
旦那様に処女を捧げなさいそして、一生、旦那様以外の男性には抱かれないと誓いなさい
男性は、ですか
女性の方はみすずが、可愛がってあげます一生
みすず様ぁぁ
想像してご覧なさいみすずは、美智にあたしと旦那様の赤ちゃんの警護もしてもらいたいの
みすず様のお子様
そうよでも、できることなら警護役でなく乳母になって欲しいわ
乳母
工藤ちゃんが、自分の平らな胸を見る
でもみすず様わたくしには、みすず様のお子様を満足させられるほどの胸がございません
そんなの平気よ今から、旦那様に揉んで、吸っていただけばすぐに大きくなるわ
しかし乳母になるためには、わたくしも子供を孕みませんと乳が出ません
それだって旦那様が、美智を妊娠させて下さいますっ
みすずの赤ちゃんと、美智の赤ちゃんが美智のおっぱいで、兄弟のようにスクスクと成長するどう、素晴らしいとは思わない
素晴らしいですぅぅ
工藤ちゃんの顔がぽわーんとなっている
工藤ちゃん妄想の世界から帰って来るんだ
工藤ちゃん、今ならまだ間に合う
判りましたっわたくし吉田様にこの身を捧げますっいえっ、捧げさせていただきますっ
遅かった
ゆ、許さんっ許さんぞミッチィくんパパは絶対に、許しませんからねっキーッ
何だ最後のキーッっての
ミッチィくん子供の頃に言ってたでしょ大きくなったら、パパのお嫁さんになりたいってあの三歳の日の決意は、どこに行った初志貫徹だろうよそういうのは
わたくし、そんなことは申しておりません
言ったんだよミッチィくんは三歳で、パパとお風呂に入っている時に
言ってませんしお父様とは、お風呂に入ってません
入ってたろう小四まで
入ってません
入ってたってパパはもう、ミッチィくんのああーんな姿やこぉーんな姿も、全部見ているんだからねぇだって、パパだから
工藤父の頭に工藤ちゃんの放ったミサイル・パンチがめり込むッ
ぐっへぇぇぇ
後ろに吹っ飛んで、崩れ落ちる工藤父
忘れなさい忘れて下さい例え、十歳までお父様と一緒にお風呂に入っていた娘がいたとしても、それはわたくしであってわたくしではないのですっ夢です幻ですそんな娘は、最初から存在しなかったのです全て、お父様の妄想です信じて下さい、みすず様
みすずはニッコリと微笑んで
美智今度、一緒にお風呂に入りましょうね
旦那様も一緒だけれど、いいわよねっ
はい吉田様は、仲間でございますからっ
どうしたらいい
許しません、許しません、許しませんっパパの眼の黒いうちは、そんなことブヘッ
工藤ちゃんのビクトリー・ハンマーが命中する
ならばお父様の黒い眼を、わたくしの手で白くするまでですっ
ビュンビュンと鋼球を振り回す、工藤ちゃん
ミッチィくんせめて、青とかグレーとかじゃダメかパパ、変装用にカラーコンタクト作ったんだけど
工藤父もそんな軽口を言いながら、不思議な構えを取る
父娘が再び対峙した
あんたたち、いい加減にしなさいっ
二人を止める女性の声
見ると紺碧流の稽古場ビルから、白いスーツを着た長身の女性が現れた
マ、ママ上様
工藤ちゃんが、鎖の回転を止める
人前ではちゃんとお母様って呼びなさいって、いつも言っているでしょ何ですかママ上様ってホント、美智は父親の変なところばっかり真似して
この人が工藤ちゃんのお母さん
下で、おかしな劇団が路上パフォーマンスをやっているっていうからもしやと思って来てみたらやっぱり、あなたたちなのねっ
工藤母は、お怒り気味だった
廻りを見てみると
この辺は閑静な一等地で、そんなに人通りの多い場所ではないのに
いつのまにか、野次馬が二十人くらいは集まっている
紺碧流の稽古場ビルを見上げると
ああ、2階の窓とかから浴衣姿の女の子たちがこちらを見下ろしている
え、悦子何で、お前がここに
工藤父は、突然の妻の出現にすっかり驚いている
そんなの瑠璃子様とみすず様の警護に決まっているでしょう
その言葉に工藤父は
いやそれは、オレが香月様から指示を受けてだな
あんたは、引っかき回し役が専門なんだからまともに警護役なんてできるわけないでしょだから、あたしがフォローするようにご命令を受けたのよ
こんなに見た目が派手で、エキセントリックな人に護衛は無理だよな
人目に付くだけで、かえって敵を寄せ付けるだけだ
まったく香月様には、あたしと遙花の働きで、どうにか工藤家に警護のお仕事を下さっているんですからね足を引っ張るのは止めてちょうだい美智も工藤流古武術なんて、くだらない遊びに付き合ってないで遙花に、空手でも教わりなさいそんなの、実戦では何の役にも立たないんだから
お言葉ですがママ上様
母親に口答えしないのッ
母親が、工藤ちゃんを叱りつける
黙り込む工藤ちゃん
いやその悦子それがだなミッチィくんが、突然男を作ってその、男とニャンニャンするとか言い出してだなああんっ
工藤父そのニャンニャンて何なんですか
あらいいことじゃない美智もやっと、ノーマルな恋愛に目覚めてくれたのねレズは不毛よどんどん、男の子の方を向きなさい
工藤ちゃんお母さんにも、レズって知られているんだ
なんなら、お母さんと今度、コンサートへ行こうかお母さん、今ねディステイニーっていう男の子のロックバンドにハマッていてねそこのギターのシンちゃんて子が可愛いのよっ
それって、マナと
いや舞夏と同じ趣味じゃないですか
しかしミッチィくんは、まだ十五歳だぞ男とかニャンニャンとか、まだ早いっ早すぎるでござるよ、ニンニン
エキサイトする夫を妻はジトッとした眼で見る
あなた、あたしのことを最初に押し倒したときあたしは、何歳でした
えっと十五歳だったと思います
その時あなたは幾つだったの
記憶にございませんでござる
ブッ飛ばすわよ
工藤父は答えた
十三歳だったと思いますです、はい
え工藤さんのお父さんて
お母さんより、年下なの
中学生で性欲に押し流されて初エッチした男がよく言うわよね
そんなのそれはそれこれはこれだ
だってぼかぁ、本当に心の底から、ミッチィくんのことが心配なんだよっ
妻に食い下がる工藤父
女の子は、いずれ誰かにヴァージンを破られるものなのよそろそろ、大人になりなさいよ、あなたも
いや、そんなことは認めないっ他の男に破られるくらいなら、いっそ
その瞬間工藤母の回し蹴りが、華麗に工藤父の頭に炸裂した
ここれは、工藤流反転プロペラキックお前、いつの間に、工藤流を
ただの空手の回し蹴りよあたしの技に、勝手な名前を付けるの、いい加減にやめてちょうだいっ
妻が怒鳴る
だいたいあなたは、美智にばっかりべったりと構ってたまには、上のお姉さんともコミュニケーションしなさいよっ
だって遙花は
いじける工藤父
オレのこと生ゴミを見るような眼で見るしそれに、あいつは大きく成長し過ぎた
お前もだよ十五歳の時は、オレより小さくて可愛かったのに
それ以上言うと、本気で殺すわよ
オレはちっちゃい子が大好きなんだっ
このロリコンッッ
再び工藤母の蹴りが、工藤父を襲う
工藤父は、その足をパシッと片手で受けとめて
かかったぞ美智ッ
はいっ、お父様
工藤ちゃんが野次馬の中の一人に、何かを投げつける
怯む野次馬
だが、もう遅い
投げつけられたカプセルが、野次馬の頭に当たり砕ける
パァァァッと赤い粉塵が、辺りに飛び散る
ゲホッゲホッ
激しく咳き込む、野次馬
見たか、純正トウガラシの力秘技、ベルリンの赤い雨
確かに粉塵が眼に入ったのか、野次馬は激しく涙を流している
トウガラシの赤い粉が溶けて赤い涙がポロポロと
ベルリンだけ、意味不明だけど
おっとお前もだ
工藤父が、もう一人別の野次馬に眼を付けそいつに向かって、突進する
その男は逃げようとするが
もう、間に合わない
電光工藤キックッ
工藤父の跳び蹴りが、その男の背中に決まる
もんどり打って、倒れる男
&デビル・チョップッ
男の首に手刀を叩き込むッ
気絶して倒れる男
参りますっ
その間に工藤ちゃんも、トウガラシ粉をくらった男に突進する
激しく咳き込んで身体を丸める男の頭を掴んで
ワールドシェイキングッ
その顔面に膝蹴りを食らわせたッッ
その男も鼻血を吹きだして、倒れた
フッ、またつまらないものを蹴ってしまいましたわ
工藤ちゃんのセリフがキマる
な、何じゃこりゃあ
弓槻さんてのは、どの人だ
工藤父がオレたちの車に向かって言った
あたしですわ
ミナホ姉さんが車から降りて、そう返事する
香月様からの伝言だシザーリオ・ヴァイオラは四人の部下を連れて、一昨日セントレア空港に降り立った
四人の部下
しかもやっぱり、発見されにくいように地方空港から来たんだ
こいつらは、そのうちの二人さ偵察に来たんだろうが気を許して、オレたちに近付きすぎたのが敗因だったな
確かに美智が倒した相手は、帽子や上着で誤魔化しているけれど
よく見ると外人ぽい
工藤さんの方は、ホントに日本人に見えるけれど変装しているのか
オレはあんたたちに協力して、そのシザーリオとか言う、アメリカ人の犯罪者の駆除をするようにってね
それが香月閣下からの指令
工藤さんは護衛ではなくシザーリオ・ヴァイオラの撃退を命ぜられた
もしかして工藤ちゃんも
まとにかく、これで二人片付いた後は三人だ
そう言って微笑む、工藤父に工藤ちゃんが
お父様これ違います
わたくしが倒した相手は確かに、空港の監視カメラの映像の中にあった人物ですがお父様が倒した方は
まさか、変わり身の術か
ギッとした眼で叫ぶ父に工藤ちゃんは
単なる人違いだと思います
無関係の人をキックして、チョップして
気絶させたぁぁ
昨日、某プロレスラーのことを書いたので
前に一緒に働いていた人から聞いた話
その人は、有名な某プロレスラーの娘さんと幼稚園が一緒だったらしい
ある日、一人の男の子がその娘さんとケンカしてしまった
と翌日
幼稚園の玄関に、巨大なプロレスラーが現れ
おい****くんていうのは、どの子だね
他の子が、その男の子を指差すと
君がうちの娘とトラブルを起こした子かちょっと来たまえ
いいから、ちょっと来たまえ
そして、その男の子は一方的に彼が悪いと、小1時間ほどプロレスラーとマンツーマンで叱られ続けたらしい
幼稚園の子供たちには、恐ろしい光景だったそうだ
うん園児が二人っきりで、あの人に怒られるんだもんな
盆場家
164.みすずの決意
どどど、どうしようかミッチィくん
全然関係無い、一般人に跳び蹴りをくらわせたあげく、チョップで気絶させた工藤父が娘の顔を見る
パパ久しぶりに警察のご厄介になるかもしれないね差し入れは、チョコレートケーキがいいなあわはははは
えっとどうすりゃいいんだ、こりゃ
そいつは、オレの部下だだから、別に気にしなくていい
と稽古場のビルの方から、一人の体格の良い男が現れる
短髪にグレーのスーツにサングラスの壮年の男性
どこから見てもボティ・ガードとかそういう関係の仕事の人にしか見えない
山岡部長
工藤母が、振り向いて驚く
男は、サングラスを外してミナホ姉さんに言った
香月セキュリティ・サービス総合警備部部長、山岡鉄郎です
この人も香月の人
うちの警護課の者が、とんだ失礼を致しました
その言葉に、工藤父が反発する
警備部の人間がなんだってんだよオレたち、警護課は別にお前の部下では無いからな
ああ工藤父は警護課で
こっちの人は、警備部なんだ
あなたあたしも、遙花も警備部の所属ですけれど
と工藤母が言う
お父様、わたくしも今回が初任務ですが所属は、警備部ということになっております
工藤ちゃんまで
というよりセキュリティ・サービスの警護課って、あなたとあなたのアシスタントの子しかいないじゃないですか
工藤母の言葉が工藤父に突き刺さる
そりゃあオレたちは、特殊任務班なんだよっ遊撃部隊なんだよっ黒い秘密兵器なんだよぉっ超兵器R-1号なんだよっ
途中からまた意味が、判らなくなった
とにかくお前が倒したのは、変装させてターゲットに接近させたオレの部下だ今年入社したばかりの警備部の新人だ
ターゲットに接近
工藤お前、何でこいつをターゲットと誤認した
山岡部長は、工藤父に問い質す
それは標的は赤い帽子を被っているって途中でチェックしておいたから
なるほど、倒れている男は赤い野球帽を被っている
多分、ナイフかピストルを押しつけて黙らせておいてギリギリの瞬間に、帽子を被らせたんだろうそして、工藤がアクションを起こした瞬間に逃げた
自分の帽子を無理矢理
やはり忍法、変わり身の術かッ
お前が、最終確認をせずにこいつを攻撃したからこうなったんだよ
警備部長が、強い眼で工藤父を見る
そういうことなんだな
も、申し訳無いッすオレの手足のしたことは、オレの責任ッす
工藤父は、無責任にそう言った
とにかく気絶させたのが、身内の人間だったので、警察に捕まることはなくなったと安堵しているらしい
黒森さん
山岡部長は、ミナホ姉さんをにそう呼び掛けた
つまり黒い森のトップの人間に対して話し掛けている
香月家の警備の人間だ
香月閣下が目を掛けている黒森御名穂と黒い森のことは、当然よく知っているのだろう
香月様は、シザーリオ・ヴァイオラというアメリカ人犯罪者の訪日を非常に心配なさっています我々、警備分の人間は勝手ながら、独自に彼らに対する駆除をすでに始めています
お手数をお掛けして申し訳ありませんわあたしたちは、ミスター・ヴァイオラを撃退することさえできれば手段は問いません山岡様たちは、どうぞご自由に行動なさって下さい
はい我々は、我々のやり方でターゲットを捕捉し駆除しますしかし、情報共有は必要だと思いますが
判りましたこちらの資料は、後ほどお届け致します
ミナホ姉さんと山岡部長は、プロ同士らしいやり取りをした
山岡部長は、工藤母に振り向く
工藤主任瑠璃子様とみすず様の警護は、君に任せる君のグループは、24時間16人体制で体勢で警護に入ってくれ決して、他家の護衛担当者に迷惑を掛けないようにいいな
了解致しました部長
工藤母が、敬礼する
そして工藤君は黒森さんのところに出向だ
黒森さん香月様より、そちらには男手が足りないようなので、誰かしら補助要員を差し向けるようにと指示をいただいておりますこんな男ですが、何かの役には立つかもしれません別に死体で返却いただいても構いませんので、コキ使ってやって下さい
工藤父がオレたちに加わる
おい、ちょっと待てっオレは、お前の部下じゃねえぞっ
叫ぶ工藤父
だが香月様の部下だろう香月様のご指名だお前を出向させろとさ
ごご指名
工藤父の顔が変わる
ご指名とあれば仕方がないなあ
何故か嬉しそうな工藤父
まあ他に手の空いている人間がいないからなオレもファイルを見たが、シザーリオ・ヴァイオラってのは、最悪の部類に入る異常犯罪者だ香月セキュリティ・サービスとしても、すでに最高レベルの警戒態勢を取っているうちの担当している要人には、全て普段の倍の警護員を派遣しているんだ会社中探しても、暇なのはお前の警護課ぐらいだ
落ち込む工藤父
どうせ、オレは誰も担当者のいないボディ・ガードですよーんっ
そうだろうなこの人に担当されても
一緒に歩くのは嫌だっていう、クライアントは多いと思う
お嬢ちゃんは、どうする
山岡部長は工藤ちゃんに話し掛ける
お母さんやお姉さんと一緒に、みすず様の警護に廻るかそれとも、その愉快なお父さんと黒森さんの補助に行くか
工藤ちゃんが、みすずを見る
車の中のみすずはうんと、おおきく頷いた
わたくしはお父様と黒森様の方へ
喜ぶ、工藤父
ミッチィくんやっぱり、君はパパを選んでくれたんだねっ
いいえわたくしは、吉田様をお助けします
な、何でそんなやつをミッチィくぅんっ
仲間ですから
もう一度、工藤ちゃんがみすずを見る
みすずはニコッと工藤ちゃんに微笑んだ
工藤ちゃんはその笑みに顔を赤らめる
さあ、みすず様、参りましょう
工藤母が、みすずに言う
振り向くと克子姉の車から、メグが降りてきていた
ここは、みすずさんの場所だからエスコートしてあげて
さっきうちの学校のグラウンドでは、自分がみすずに優先してもらって、ずっとオレの横にいたことを、メグは気にしている
だからこそ今度は、みすずの番だと
オレは車のみすずの方へ向かう
車のドアを開こうとしてる工藤母に
すみませんオレがやります
オレがみすずのためにドアを開ける
みすずが笑って、オレに手を差し伸ばす
オレは、その小さな手を握って
みすずはオレの手を握ったまま、優雅に車から降りた
お姫様だ
建物の入り口まで、手を繋いでいて下さい
みすずが恥ずかしそうにオレに言う
判ったみすず
オレが、そう言うと
わたくしもお供します入り口まで
工藤ちゃんが、そう言った
頼みます、美智
手を繋いでビルの入り口までの五十メートルほど二人で歩く
オレたちのすぐ後ろに工藤ちゃん
少し離れて、工藤母が周囲を警戒しながらオレたちを追う
旦那様、建物の2階のロビーを見て下さい
みすずの言う方を見るとガラス張りのロビーに、二人の人影が見える
一人は長い黒髪の和服の少女みすずによく似た美少女だった
あの方が、瑠璃子さんです
みすずの年下の従妹
香月家の跡取り娘だと言う
あちらは
知っているよ
オレは、みすずの言葉を遮った
もう一人はスポーティなトレーナー姿の、おかっぱ頭の背の高い少女
テレビで何度か見たことがある
女子高校生、空手ナンバーワンの工藤遙花
工藤ちゃんのお姉さんだろう
美人空手家というだけあって確かに美しい
いやそれ以前に、体型が素晴らしい
何一つ無駄の無い鍛え上げられた健康的な肉体をしている
前にマルゴさんが言っていたんだけどさ
オレはみすずに言った
警護役は、見た目からして警護役っぽい人の方が良いってあの体格の良い警備部長さんや工藤ちゃんのお姉さんを見ていると、その意味がよく判るよ
確かに、見た目からして強そうな人が側に居たら
悪人が手を出してくる可能性は減るもんな
わたくしや父では、警護役には不向きですか
工藤ちゃんが、悲しそうに言った
うん正面切っての警護はねでも、相手の意表を突いて、隙を狙うのが工藤流なんだろ工藤流は、工藤流のやり方が活かせる方法を考えればいいじゃないか
オレは工藤ちゃんに尋ねた
オレも、黒い森では囮役だからオレや寧さんが敵の隙を作って、マルゴさんが殲滅するそれは黒い森で戦闘能力があるのがマルゴさん一人だから、そうするしかなくてやっている戦法なわけで戦力が足りなきゃ、知恵で補わなきゃならないのは仕方のないことなんだけど工藤流って、マルゴさんの戦い方に似ていると思うよ
どんなところがです
工藤ちゃんが尋ねる
マルゴさんは絶対に相手に、全力で闘っている自分の姿を見せないんだ相手に、自分の力を見きられるのを恐れているんだと思うこちらの力が判れば敵に容易に対策を立てられるからね工藤流もそうでしょ工藤さんのお父さんが、おちゃらけているように見せているのは実際の工藤流の力を相手に把握されないようになんだと思うな
工藤ちゃんは小さく頷く
その通りです実力を隠せ秘してこそ、花というのが、工藤流の考え方ですまさか、吉田様がお判り下さるとは
真剣な顔をして頷く工藤ちゃん
そんなことないわよ美智は、あの人にダマされているのよ
工藤母が、娘に言った
あの人子供の頃から、ずっとふざけているんだからいつも、あんなよそんな深いことなんか、考えているわけないじゃない
お父様はずっと工藤流なんです
母の否定の言葉に工藤ちゃんは、反発した
ママ上様
工藤ちゃんが改まって、母に言う
何よ美智
工藤ちゃんは、オレの顔を見て
わたくしはこの方と契りを結びたいと思います
工藤母がオレをジロッと見る
こんな子がいいの
はいこの方に、純潔を捧げたいと考えております
工藤母は言った
ちゃんと避妊するのよ
はい成人までは、子供を孕むようなことは決して
あたしは、この男の子に言っているの
はい気を付けます
工藤母に頭を下げる
美智セックスを覚えたからって、やたらと他の男としてはダメよセックスは、信頼できる人としかしてはダメいいわね
わたくしは吉田様としかするつもりはございません
それなら、いいけれど
えいいんだ
これ母親の承諾済みってこと
ご安心下さい悦子様何か問題が起こりましたら、全て、みすずが責任を負います
みすずが穏やかな笑顔で、工藤母に言った
美智は生涯、みすずの側近として働いてもらいたいと思っていますよろしいですね悦子様
工藤母は
そんなこんな出来の悪い娘に目を掛けていただいて本当に申し訳ございません、みすず様
その母の言葉に工藤ちゃんの顔が曇るのが判った
工藤ちゃんは、出来の悪い娘なんかじゃありませんっとっても、すごい子ですっ
思わずオレは、そう口に出してしまった
みすずもそう思いますわ今はただ、力の使い方がまだよく判っていないだけ後、三年もしたら、美智は大きく変わりますみすずは、お姉さんの遙花さんよりも才能のある子だと信じております
でもわたくしは、姉のように強くはございませんし美しくもございません
そんなことは無いよ本気で闘ったら、工藤ちゃんの方が強い
オレは二階のロビーを見上げる
遙花さんという娘さんはオレたちを見下ろしている
小馬鹿にして、笑っているように見えた
それに工藤ちゃんの方がずっと綺麗だ
オレと工藤ちゃんの眼が合う
そうよ三年後は、誰も美智の強さと美しさには対抗できなくなるわみすずが、美智を磨き上げるわ美智には、その素質があるもの
みすずも、工藤ちゃんに微笑み掛ける
ん気に入った
工藤母が言った
美智は、子供の頃からお父さん子でちょっと気が弱いところがあるのよあなたみたいな男の子が相手だと、ちょうどいいと思うわっみすず様、この子美智のダーリンにいただいていきますねっ
工藤母は、オレとみすずの関係を知らないから
みすずのエスコートをしているけれどそれは、オレの仕事なんだと思っているみたいだ
黒い森側が用意した、みすずのご機嫌取りとか
オレのことを黒い森の人間としか考えていないから
何よりみすずは、工藤母の前では一度もオレを旦那様とは呼んでいない
みすずはいつも先を読んで行動している
美智のことより悦子様は、ご自分のことをお考えになるべきだと思いますわ
みすずの言葉に工藤母の顔色が変わる
悦子様は山岡部長さんと、不倫の関係にございますよね
あのガタイの良い、部長さんと
みすず様、どうして
わたくしも知っておりますママ上様
知らないのはお父様だけだと思いますお父様は、ママ上様を心から信頼していらっしゃいますし愛していらっしゃいますから
愛ってあの人は
わたくしは軽蔑しておりますが
工藤ちゃんが母を見る
軽蔑していなければ自分の生母をママ上様などとは、呼びません
な、何という判りにくい抗議だ
く、屈折しすぎたよ工藤ちゃん
ごめん美智このことについては早急に決着を付けるから
ていうと
山岡部長離婚が決まったのだからあたしも離婚するわ
工藤父と別れるってこと
それで秋には、山岡さんと再婚するつもり遙花は、あたしに付いてきてくれるって言っているけれど美智は、あの人の方がいいのよね
その言葉にオレは、反発する
工藤ちゃんは、オレたちのところに貰いますっ
この子は仲間だ
オレたちのところって黒い森に引き込むってこと
オレの言葉を勘違いする工藤母
違いますわ、悦子様みすずの警護役として、二十四時間みすずと一緒に居ていただきます
でもこの子は黒い森で働いている子なのよね
みすずが口を開く
黒い森の現在の代表者はもうすぐ引退しますその後の黒い森はみすずが全て管理するつもりです
お前まさか
はいお祖父様を説得しますあたしが次の黒い森の指導者になるつもりです
ミナホ姉さんは、黒い森を完全に解体しようとしているけれど
香月閣下は、それに反対していた
娼館としての黒い森が機能している間は、香月さんたちのサポートが得られるけれど
廃業してしまえば力は借りられなくなる
むしろ政財界の大物たちの裏の顔を知り過ぎているということで警戒される
顧客リストの流出の懸念から今回、白坂創介の抹殺が認められた
再び、そんな情報漏洩が無いように今後は、今まで以上に監視されることになるだろう
簡単に廃業しますと言って許されるような存在じゃない
下手すれば黒い森の今のメンバー全員が香月閣下に消される可能性だってある
この危険を回避するためには
まだ、しばらくは黒い森の活動は続けた方が無難だ
しかしミナホ姉さんは、売春業に関わるのはもう嫌だろう
誰か他の人間が黒い森の運営者を引き受けるしかない
それも香月閣下たちの信頼を得られる人間を探すとなると
候補者は限られる
黒い森はみすずが管理・運営します
みすずはすでに決意しているらしい
もちろん、美智に客を取らせるようなことは致しません美智は、わたくしの護衛役を勤めさせますそれなら、問題はございませんよね
みすずが工藤母を見る
そういうことでしたらみすず様も、黒い森のお仕事だけに没頭なさるとわけではございませんでしょうしいえ美智の実力では、娼館の警護役ぐらいが相応しいのかもしれませんね
工藤母は、あくまでも工藤ちゃんと工藤流の力を認める気は無いようだった
母子の様子に気を取られているオレにみすずが囁く
あの二人をよく見ておいて下さいね
みすずは工藤母の言葉を無視して、2階ロビーの二人を見上げている
背の高い空手使いの美少女工藤遙花
その奥の黒髪の美少女香月瑠璃子
みすずによく似た少女は冷たい眼をしていた
無表情でジッとこちらを見ている
ふふっ、旦那様
みすずは工藤母に聞こえないように、小声でオレの耳に囁く
あの二人は倒しますそうすれば、香月家はみすずのものになります
香月閣下の孫娘に相応しい、野心を語った
旦那様に巡り会う前はみすずは、自分に自信の無い弱い娘でした
みすずの眼が、妖しく光る
今は違いますみすずは、旦那様を幸せにするためなら、何でもします全て手に入れます
オレたちはようやく、ビルの玄関に到着する
ここで結構です
みすずが、笑ってオレに言う
背中に瑠璃子さんたちの視線を感じて
見せびらかすようにオレと話す
今日もいっぱいありがとうございました
みすずはスッと自分の下腹部を押さえた
そこには
みすずの子宮の中にオレの新鮮な精液が詰まっている
明日の発表会を楽しみにしていて下さいみすず、一生懸命踊りますから
ああ頑張って
キスしたかったが
瑠璃子さんが見ている前でするわけにはいかない
ここには、お稽古に来ている他家のお嬢さんたちの眼もあるし
今日の分は明日、まとめて差し上げます
オレの心を見通してみすずが言った
三倍返しだぞ
みすずは、十倍でもいいです
そうしてオレたちの手が離れる
美智後のことをお願いね
その言葉には
オレの助けをするようにという指示が込められていた
かしこまりました、みすず様
工藤ちゃんが頭を下げる
では、悦子様参りましょう
みすずは工藤母と、ビルの中へ入って行く
マジで遅刻寸前です
何も書いている余裕がありませんっ
165.ヤァヤァヤァ
さてみすずを見送って、急いで元の場所まで戻る
いつの間にか、制服を着た警備員が二十人ぐらい動員されてビルの周りの野次馬たちを追い払っていた
この制服の人たちは香月セキュリティ・サービスの人間なんだろう
社章の付いた大きなワンボックスカーに、工藤ちゃんが倒したシザーリオ・ヴァイオラの手下と工藤父が間違って気絶させた社員が運ばれていく
オレは雪乃が気になって、ミナホ姉さんの車の後ろを見た
毛布で半裸の姿を隠している雪乃は何だか、ぐったりしている
マナどうしたんだ、雪乃は
オレが尋ねると、マナは小さく笑って
何か、騒ぎ出しそうだったんでマナが、気絶させておきましたっ
マナの手の中のスタンガンが、バチバチと火花を散らす
マナ相変わらず、雪乃には容赦が無いんだな
克子、こっちの車を運転してあたしが、そっちを運転します
ミナホ姉さんが克子姉を呼ぶ
恵美もこっちの車よマナさんと雪乃さんの監視をして
メグがマナと雪乃を挟むように、車の後部座席に座る
吉田くんと工藤さんは、あたしと一緒にあっちの車へ移るわよ工藤さんのお父様も、こちらへ来て下さい
いやオレはベスパがあるから
そういう工藤父をミナホ姉さんは、睨み付ける
ちょっとお話があるだけです
2台の車の乗員が替わる
1台目が運転手が克子姉で、マナ、恵美、雪乃
2台目が運転手がミナホ姉さんで、オレ、工藤ちゃん、工藤父
車の中に乗り込むと同時にミナホ姉さんが言った
工藤さん取りあえず、香月セキュリティ・サービスが把握している状況についてお話していただけないかしら
ミナホ姉さんは車のダッシュボードの何かのスイッチを入れながら、そう言った
多分集音マイクだ
この車での会話を、向こうの車の克子姉にそして、学校で寧さんを守っているマルゴさんにも聞かせようとしているのだろう
うんそれはだな
話し出そうとする工藤父を、ミナホ姉さんが遮る
あなたではないわ工藤さんに聞いています
オレも工藤ですけれどっていうか、オレが工藤の家長です
家長家庭内、すでに崩壊してますけれど
あなたには聞いていないと言っています
ミナホ姉さんがジロッと睨むと工藤父は小さくなる
ミッチィくん、皆さんにご説明して
はいお父様
工藤ちゃんが、説明を始める
香月セキュリティ・サービスの調査ではアメリカ人犯罪者シザーリオ・ヴァイオラとその仲間と思われる五人組が一昨日、中国経由で中部セントレア空港に降り立っています
うんそこまでは、さっき警備部長から聞いた
五人は全て、偽名のパスポートを使用していますそれぞれの偽名は、ポール・マキ・クロード、ジョン・オーノ・ノレン、ジョージ・ハリソン・フォード、スチューワート・サトクリフ、ピート・ベスト・キッドです
偽名か
このうち、ジョージ・ハリソン・フォードと名乗っていた人物が、シザーリオ・ヴァイオラの片腕と目されているロレンザッチョ・バンデーニに酷似していたため、この五人組がシザーリオ・ヴァイオラの一党であると判明しました
一人しか判っていない
シザーリオ・ヴァイオラと彼の仲間は、変装するのが趣味だからFBIでも、きちんとした彼らの写真は持っていないと思うわロレンザッチョは、ヴァイオラが外の組織と連絡する時の繋ぎ役だから一人だけ、顔が判明しているのよ
はい今回、空港で撮られた監視カメラの映像は、彼らの顔を知る貴重な資料となっています
いいえ、もしかしたらミスター・ヴァイオラは、その中にはいないかもしれないわ
セントレア空港の五人組に注意を集中させて一人だけ、別便で来日しているかもしれない
なぜ、そう思われるんです
工藤ちゃんの疑問にミナホ姉さんは、答える
偽名を聞けばわかるわミスター・ヴァイオラは、人を小馬鹿にするようなことが大好きな人だから
偽名
工藤ちゃんもう一回、言ってくれる
オレの要請に
はいポール・マキ・クロード、ジョン・オーノ・ノレン、ジョージ・ハリソン・フォード、スチューワート・サトクリフ、ピート・ベスト・キッド
オレには全然、判らない
そのうち、さっき工藤さんが倒した人はどの人
最後のピート・ベスト・キッドです
やっぱりね
あのオレに判るように説明してよ、ミナホ姉さん
うんオレにも判るように頼んまッす
オレと工藤父が、並んでミナホ姉さんにお願いする
ビートルズよ
ミスター・ヴァイオラは、自分たち偽名にビートルズのメンバーの名前を使ったのあたしたちに判るように馬鹿にしているわ
と、言われても
オレは、ビートルズとかそんなに詳しくない
そうかぁっ判ったポールにジョンにジョージあれ、スチュアートとピートってのは何だよ
工藤父判ってないじゃないか
ビートルズの初期メンバーハンブルグに演奏に行った時のメンバーよ
ミナホ姉さんが、答える
スチューとピート・ベストはビートルズとしてメジャー・デビューできなかったメンバーよ
そんな人がいるのか
スチューは、早くに亡くなっているのでも、よく五人目のビートルズと言われている人よピート・ベストの方は、他のメンバーと合わなくてクビになったのよ
工藤さんが倒したピートを偽名で名乗っていた男はヴァイオラの仲間の中でも、一番の小物ってことでしょうね
マンガで言う四天王の中では最弱我らの面汚しよってやつか
おそらくその男を尋問しても、大した情報は得られないと思うわ
残念だ
あの工藤さんがお父さんの方です取り逃がした相手って、どの偽名の人ですか
お父様が逃がしたのはポール・マキ・クロードです
工藤父がオレたちに言う
あんまり、逃がしたって言うなよ立場がなくなる
お父様の立場なんて初めからございません
グッミッチィくんに言われるのが、一番キツいよ
凹む父
おそらくポールとジョンが、ヴァイオラの実行部隊の二杯看板ロミオ・モンタギューとジュリアーノ・ジェンカだと思うわスチューは、ちょっと相当する人物が判らないけれどヴァイオラが、一緒に来日したとすればスチューがヴァイオラなんでしょうけれど確信は無いわ
ミナホ姉さんが、そう呟く
判ったぁぁ他の便で来日した外人で、リンゴの名前のやつを探せばいいんじゃねオレ、頭良くね
お父様もし、そういう人がいたとしても確実に、ヴァイオラ本人では無いと思います
えっ、何でだよっミッチィくんポール、ジョン、ジョージときたら、やっぱり最後はリンゴでしょう
そんな見え見えのことをシザーリオ・ヴァイオラが、わざわざ仕掛けてくると思われますか
娘の一言にグッと押し黙る、工藤父
罠だとしても、もう少し捻ったことをすると思いますそんなのにストレートにダマされるのは、お父様ぐらいです
パパは、素直で純真な男なんだよそこをママは気に入ってくれて、パパと結婚したんだからぁ
あなたの奥さんは、浮気しています
浮気って言うか離婚して再婚するつもりだから、もう本気なのかも
ミナホ姉さんこれから、どうします
予定では白坂創介の別宅に放火しに行くはずだったけれど
一度、戻りましょうミスター・ヴァイオラの実戦部隊が動き出しているのなら、恵美やマナさんを連れたままでは危ないわとにかく、あの子たちを安全な場所へ連れて行ってそれから、メンバーを再編して行動を再開しましょう
オレもそう思う
でも白坂の別宅をマスコミ何かか嗅ぎ付けて来る可能性は
オレはそれが心配だ
すでに、第一報は各マスコミに配信されている
おそらくさっきまで居た白坂の家には、すでに報道陣が集まり始めているだろう
となれば別宅だって
それはあたしも心配なんだけれど
ミナホ姉さんの表情は暗かった
多分マスコミ関係者なんかでも、白坂の別宅を知っている人は多いと思うの白坂は、そこに芸能人とかを呼んで乱痴気騒ぎをしていたわけだし
急がないとやっぱり、ヤバいか
だがこのままでは
ミスター・ヴァイオラの手勢の強襲を受けることになる
それでも子供たちの安全が最優先よとにかく、一旦戻りましょう
ミナホ姉さんは、そう決意した
判ったミナホ姉さんの判断が正しいと思う
ミナホ姉さんが、工藤父を見る
な、何だよ
あの山岡という警備部長さんは、信用できる人間ですか
ミナホ姉さんの問いに
信用できるんじゃねえのと工藤父
信用できませんと工藤ちゃん
ほぼ同時に答えた
何で信用できないんだ
お父様こそなぜ、信用できるんです
だってあいつは部長だよそれだけでも、頼れそうな感じがするじゃないか
それだけでは、全然信用できません
工藤ちゃんは、きっぱりと答えた
工藤さんの言葉を信じるわ山岡部長には、こちらのカードは見せない方がいいわね
はいその方が良いと思います
ミナホ姉さんはオレを見る
吉田くんは、どう思う
オレも工藤ちゃんの意見に賛成ですあの山岡って人は、きちんとして一見頼れそうだけどああいう人って、信用できない気がします
オレの勘がそう言っている
学校でもああいう感じのやつっているんですよ生徒会長とか運動部の部長とかでカリスマがあって、人の上に立つんだけどカリスマしか無いって人が
カリスマしか無い
工藤ちゃんが、オレを見る
見た目は真面目そうだし、言っていることもまともだし、能力もあるしカリスマ性もあるそれなのに実際に、役職について何か大きな問題が起きると責任持って対処しないで、一人だけ先に逃げて行くようなタイプだと思う
割と多いんだよな
そういうやつが、また
処理能力が無いわけじゃないんだ単純に自分が面倒な目に遭うのが嫌だってだけで、やらなくてはいけないことを他のやつに丸投げしたりするんだよそれでも、なまじカリスマ性があるから責任放棄しても他のやつから糾弾されずに済んで、また別の役職に就いたりするんだ
うん劉備玄徳みたいのが
ホントあなたの眼は確かみたいね
ミナホ姉さんは、オレに微笑む
その観察力と洞察力は磨き上げれば、強い武器になるわ
武器って
オレは、ただ思っていることを言っただけで
意外です
わたくし、吉田様はただポーッとして、みすず様のおっしゃることを何でもうんうん聞くだけの方かと思っていました
それじゃあオレバカみたいじゃないか
だって吉田様は今までずっと、みすず様のご要望に答えているではありませんか拒否なさったところを、わたくしは一度も見ておりません
そりゃあオレにできることなら大抵のことはするよでも、みすずの望むことなら何でもするわけじゃないしオレ、みすずを叱ったこともあるよ
吉田様がですか
うんみすずは、もうオレの家族だから
自分で言ってドキッとした
みすずは家族だ
家族だもの何か、頼まれたらよっぽどのことがない限り、言われた通りのことをするよでもみすずだけじゃないよメグだって、マナだってミナホ姉さんたちだって、オレの家族だからオレみすずと同じ様に、何か言われたら、その通りに行動するよ
そのことには迷いは無い
オレは黒い森のメンバーだけどミナホ姉さんを家長とした家族の一員だからオレは、そう思っている
ミナホ姉さんがオレを見る
そうねあたしは、吉田くんに住む場所と食事を提供しているけれど給料は払っていないわあたしの仕事を手伝ってくれたことに対して、お小遣いはあげているけれどあたしと彼の間に、労使契約は無いしあたしは別に、彼の雇用者でも上司でも無いから本当のことを言うと、恵美やマナさんと一緒に保護する対象だと思っているんだけれど、今は人手が足りないからついつい、吉田くんにも手助けして貰っているわ
うん今のオレは、ミナホ姉さんと何の契約もしていない
復讐の手伝いもミスター・ヴァイオラとの闘いも
オレが勝手にやっていることだ
吉田様にとっては、みすず様と黒い森の皆様が家族なのですね
工藤ちゃんがそう呟く
彼女もできることなら家族に迎えたい
さっきの母親との会話を聞いて
オレは、この子の心が傷ついていることを知った
この子には家族がいるけれどそれは、今、上手く機能していない
さてそろそろ移動しましょう工藤さんは車から降りて下さい
ミナホ姉さんは工藤父を見る
お父様の方の工藤さんにだけ、言っています
工藤父は
あ、判ったオレはベスパがあっからねベスパでキミたちを追い掛ければいいんでしょ
残念ながらあたしのアジトは、男子禁制なんです工藤さんは、入れませんから
ギョッとする工藤父
えこいつはどうなんだよこいつも男だろうタマ付いているんだろう
オレを指差す
はいタマもサオも付いています
吉田くんは、あたしたちの家族ですから聞いてなかったんですか、今までの話
ミナホ姉さんは、工藤父を冷笑する
お父様、降りて下さい
娘までが父に手厳しい
いいもん、いいもん、別にいいんだからっ勝手に追っ掛けちゃうもんねぇ
工藤父は携帯電話を取り出す
もしもぉしッノーマか、すぐにこっちへ来いタイタンボーイごとだ
するとすぐ近くに隠れていたのだろう
白いワンボックスカーが、こちらに近寄って来て止まった
運転席から若い男女の二人組が降りてくる
一人は眼鏡を掛けた、痩せている女性
もう一人は小太りの男性だ
おうこっちだ
工藤父は、車から降りそのワンボックスの方へ近寄って行く
ワンボックスの車体には大きく工藤探偵事務所の文字
め、目立ち過ぎだろこれ
あの二人がお父様のアシスタントです
アシスタント
はい野間さんと谷井さんですお父様には、あの二人しか部下はいません
そうだよな娘の工藤ちゃんも、部下ではないんだっけ
トニー、オレのベスパをタイタンボーイに乗せろ
工藤父が、小太りの男の部下に命令する
トニーではありません、谷井ですっ
叫ぶ小太り
そんなん、どっちでも同じだトニー谷井だろ
谷井賢太郎ですっトニーじゃないです
オレの部下になった日から、お前はトニーなんだよっ
工藤父が、部下に当たり散らす
それからノーマ
野間ですっ野間美也子ですっ
お前は、ノーマ・ジーンなんだよっそういう、コードネームなんだからっ
コードネームって
ではわたしたちも、工藤さんにコードネームを付けますっ
野間さんが、怒って叫ぶ
いいねえそういう自主性を待っていたんだよ、ボクチンは
嬉しそうに微笑む工藤父
そんな工藤父を指差して野間さんは、叫ぶ
荒鷲師団長
ビクッとする、工藤父
あなたは今日から荒鷲師団長ですっ
その声に工藤父は、
ノーマくんその荒鷲師団長はないんじゃないかな
そうだよ、野間さん僕は暗黒大将軍の方がいいって言ったんですけれどね
小太りのトニーさんが、そう言う
いやどっちも却下だ
がっくりしている工藤父
ちなみにその暗黒大将軍は、最終回の後のお正月スペシャルのやつか
当然ですっ
何の話なのかよく判らない
僕としては、パチンコ大名人も候補として推しているんですが
工藤父が、キレる
みんな悪の怪人じゃないかっ
え工藤さん、まさかヒーローの方になりたい人だったんですかっ
その言葉の一撃で工藤父は消沈する
いいから、早いところベスパをタイタンボーイに積み込めそんで、そこの車を追い掛けるからな
了解ですボス
ノーマさんとトニーくんが、工藤父に敬礼する
ところでどうして、このワンボックスカーの名前がタイタンボーイなんですか
ノーマさんが工藤父に尋ねる
そういうことは、気にしなくていいっ
工藤父は強く答えた
今日も、遅刻寸前
週の真ん中は厳しいです
いつもより短めで、済みません
九十年代中頃に有名な歴史小説の作家が、色んな霊能者と対談する1999年という対談集があったのですが
ある霊能者が、その作家の先生に
あなたの前世は、三国志に出てくる公孫瓚です
と、言っていました
ええっとその先生は喜んでいましたが
(その先生は、その時点で三国志をよく知らないご様子でした)
しかし三国志マンガでの扱いを見ている限り
喜んでいいのだろうか前世が、公孫瓚ての
特に蒼天航路や覇を見ると
166.パイル
オレたちの車は、猛スピードで町中を駆け抜ける
時間がないわとにかく恵美たちを学校へ送り届けて、あたしたちはそのまま白坂の別宅へ向かうわ
えミナホ姉さんも
ミナホ姉さんは、黒い森の頭脳だ
危険な場所へ赴くべきでは無いと思う
仕方ないわマルゴは、敵の迎撃のために寧の側を離れられないしネット上の工作活動は、克子がいれば何とかなるでしょうから
でもミナホ姉さんに、もしものことがあったら
運転席のミナホ姉さんの口元が微笑む
大丈夫よ計画は様々な状況を考えて、綿密に組んであるからあたしがいなくなっても、マルゴと克子なら完璧に遂行してくれるわ
オレたちには、ミナホ姉さんが必要なんだ
ミナホ姉さんの口元の笑みが消える
本当のことを言うとね白坂の別宅から、盗み出したい物があるのよ今のあたしたちにとって、大事な切り札になる物があるのそれは、あたしが行かないと判別できないでしょうから
そういう考えがあったんだ
判ったミナホ姉さんは、オレが守るから
では吉田様は、わたくしが守ります
みすず様よりのご命令ですから
彼女は自分のカバンの中を見ている
装備品を点検しているのだろう
またビックリドッキリな武器が入っているんだろうな
工藤さん質問したいことがあるんだけれど
はい何でございましょう
あなたのお父さんが所属している警護課って、香月セキュリティ・サービスの中では、どんな部署なの警備部には属していないって、言っていたけれど
工藤ちゃんは、答える
会社の組織図的には社長室に属しています実態は香月様直属の遊撃部隊というか、香月様のお遊び相手だと思われています
お遊び
お父様は香月様、直々の命令しか受けませんし命令の内容は、社内の他の者には一切知らされませんですから他の方から見れば、お父様はだらだら遊んでいるようにしか見えないのだと思います
まああの格好に、あの言動だものな
真面目にやっているとは、誰も思わないだろう
待遇的には、どうなの
課の予算は香月様から直接、いただいているそうですあの車も装備品も、香月セキュリティ・サービスの備品としては登録されていませんし、社の経理も通していません書類上は、お父様の会社の所有物ということになっています
工藤ちゃんは、後ろから追い掛けてくる工藤探偵事務所のバンを見て、そう言った
お父様の会社って
オレが尋ねる
あの通り工藤探偵事務所です香月セキュリティ・サービスとは、全く関係の無い別会社ということになっています表向きには、工藤探偵事務所が警護課と業務提携していて、お父様が派遣されているという形になっています
てことは
はいお父様は、香月セキュリティ・サービスの正社員ではありませんお給料は、香月様から毎年、年俸制でいただいています
年俸制
毎年、契約更改をするのが楽しいみたいです毎年の功績によって、額が上ったり下がったりしているそうです
はあプロ野球選手みたいなことをしているんだ
父の部下ということになっているノーマさんとトニーさんは、セキュリティ・サービスの正社員さんです正社員でないのは、父だけです
工藤ちゃんは、寂しそうな顔をする
実際お父様には、香月セキュリティ・サービスの正社員になる資格がありません
正社員になるには柔道か剣道、あるいは指定された流派の空手の免状がないと、入社試験すら受けられませんそれも、三段以上という決まりがあります
工藤流古武術じゃだめなの
はい柔道や剣道には明確な認定基準がありますから空手も、社の認めている流派の資格なら有効ですしかし工藤流は、お父様とわたくししかおりませんから
認定のしようがないんだ
ママ上様は、昔から空手をなさっていましたから正社員として香月セキュリティ・サービスに入社していますそれで、お兄様や姉様にも空手を勧められて
お父様も、柔道か空手を別に習われて三段の資格さえ獲得すれば、入社試験を受けられたのでしょうがオレは工藤流なんだと、他の武術を学ぶことを拒まれたのです
お母さんが正社員で、お父さんがそうじゃないってことがやっぱり、夫婦の間に溝を作るキッカケになったのかな
オレは、そんな風に想像した
いいえわたくしの幼い頃は、とても睦まじい仲の良い夫婦であったと思いますおかしな空気になってきたのは、ここ数年です
工藤ちゃんは後ろのバンを見ている
助手席に座った工藤父が、楽しそうに運転席のトニーさんを怒鳴っている
ママ上様が主任に昇格したのが大きいのだと思いますママ上様は、社内での評判も良いそうですし昇格して、お給料もボーナスも増えています香月セキュリティ・サービスは、福利厚生も手厚いですしお父様との間に、格差が付く一方です
そういうことなんだ
お父様の方は年俸は毎年上下するばかりで、増えてはいませんからそれなのに、お父様には工藤流としてのスタイルのこだわりがございますから洋服や装備に、お金が掛かる一方で
奥さんは毎年給料が上がり、出世もしてどんどん認められていく
なのに夫は香月閣下の直接の指示で秘密裏に動いているから、どんな活動をしているのかは誰も知らないはたから見れば、遊んでいるとしか思えないしかも、正社員じゃないから出世もしないし給料も増えない
奥さんが、浮気に走った理由は何となく理解できた
またお姉様とわたくしが、瑠璃子様とみすず様の警護役に選ばれたことも大きいのだと思います
そうだ警護役だから
工藤ちゃんも、みすずと同じ超お嬢様校に通っている
姉は、空手をやっていますからいずれは、セキュリティ・サービスの正社員として登用されることになると思いますそして、瑠璃子様が香月家の後継者となれば姉は、警備主任となるでしょう出世は確実ですですから
山岡部長が、ママ上様に近付いたのだと思います
成功間違い無しの娘の義父になって、自分もあやかろうって魂胆か
さあ判らないわよ
横からミナホ姉さんが、口を挟む
女性はね男性と違って、性欲のピークが三十代の半ば過ぎに来るの
性欲のピーク
だから性欲の減退と、肉体の老化がほぼ同時に訪れるわけアラフォーっていう時期にね
それが何か関係あるんですか
工藤ちゃんが、ミナホ姉さんをギッと睨み付ける
若いうちは工藤さんのお父様みたいな方って魅力的に見えると思うの見ていて面白いし、自由そうだしね
でも年齢が四十歳を過ぎて、自分や子供たちの将来を考えないといけなくなってくると幻滅しちゃったんじゃないかしら工藤さんのお父様は、亡くなるまで今のままでしょうし
はいお父様は死ぬまで工藤流を貫かれると思います
それが、お母様からすれば嫌なんでしょうねやっぱり、自分たちの生活を優先して、柔道でも空手でも習って正社員になって欲しかったんだと思うわ
しかし警護課は、香月様直属ですし現実の立場は、山岡部長よりも上です
実質的にどうかということよりも、目に見える地位の方が立場が強いのよ正社員の警備部長さんのが何だか正体不明の、探偵事務所から派遣されてきている非正規社員よりも、世間では優遇されるわけ
世の中って、よく判らない
年を取るとね若い頃とは、価値基準が変わるのは仕方ないわ保険や年金のことを考えても正社員と結婚する方が得だものね
オレは自分のことを考える
オレも年を取ったら、みすずやメグやマナに捨てられるんですかね
いやそんなに年を取らなくても
オレよりも優れた男はいっぱいるしオレみたいな人間が、見捨てられるのは当然だと思うし
ミナホ姉さんは、笑う
そうかもしれないわよでも、安心なさい全員、いなくなったりはしないから
最低でも一人は、あなたから離れないと思うわ吉田くんは、もう一生、一人ぼっちにはならないのよ
やがて車は、学校へ到着する
克子姉の車は、正面玄関から中へ
克子姉は、学校の役員だしメグは制服を着ているから、平然と校内の敷地に入っていく
雪乃はぐったりしたままでマナはシートの陰に隠れているだろう
現在の時間は午後三時三十六分
メグが心配そうに、オレたちの方を見ていた
後部座席からマナの手が伸びて、オレに向かって振られている
すぐに克子姉の車は、敷地の奥へ消えていく
もし、尾行されているとしたらマズくないですか真っ直ぐに正門から校内に入ったのは
オレがそう言うとミナホ姉さんは
もう覚悟しているわよ学校は、最終防御ラインにするわむしろ、今は秘密通路の位置を特定される方が怖いわよだから、正門から中に入ったのよ
校長室経由で、みんなの居る監視室へ
職員用駐車場へ通じる裏通路の存在は知られたくないものな
雪乃は毛布を被せたまま運ぶのかまた、段ボールに入れて台車で運ぶのか知らないけれど
さあ白坂の別宅へ向かうわよ
ミナホ姉さんが、大きくハンドルを切る
後ろから工藤探偵事務所の車も追い掛けて来る
午後四時二十六分
どうにか、白坂の別宅という家に辿り着く
それは高い塀に囲まれた、豪邸だった
ぶっちゃけ雪乃たちの暮らしていた本宅よりもでかい
さてどうしようかしら
運転席でミナホ姉さんが呟く
なるべく早く中に入って必要な物を奪い取って、確実に放火したいの
何が問題なんです
ミナホ姉さんは、塀の上に走る金属線を指差す
あれ多分、警備会社と繋がっていると思うのよ何か異常があれば、すぐに感知してやって来ると思うわ
あああの線に触れると、連絡が行くシステムなんだ
この分だと、玄関口はもっと大変ね監視カメラも直接、警備会社から見られるようになっていると思うし
そういう警備システムを突破して、中に入るのは
オレたちには、荷が重い
マルゴさんなら、何か良い方法を知っているんだろうけれど
工藤ちゃんが口を開いた
こんな時のための工藤流です
工藤ちゃんの指示で人通りの少ない塀の脇に、車を停める
塀の向こうは、すぐに屋敷だ
家の裏側になっているのだろう
こちら側は窓も少ない
工藤ちゃんが車を降り工藤探偵事務所のバンを停める
んんんーっどうしたぁっ、ミッチィくん
バンの窓を開けて、娘に声を掛ける工藤父
これから警備システムに触れないように、この屋敷に忍び込みますそして、目的の物を盗み出し、屋敷に火を放ちます
うんうん、なるほど
お父様何とかして下さい大至急です
何とかしてって
おっし、判ったおい、ノーマ
工藤父は、バンの後ろに振り返る
野間です
ノーマさんが、即座に答える
作戦505だ
えーっボス、またですかぁ
不平を言うノーマさん
ゴタゴタ言うなトニーはカメラと第七聖典の準備
谷井ですっ
うっせぃ、早くしろっ
ドタバタと準備が始まる
何をするつもりなんだこんな所で騒ぎを起こしたら、みんな集まってきちゃうぞ
とオレが、工藤ちゃんに言うと
集まって来ても構いませんむしろ、大っぴらにやった方がいいんです
大っぴらにやっていれば見掛けた人たちも、まさかわたくしたちが泥棒で放火魔だとは思いませんから
それはまた大胆なことを
はい、はい、はーいっ
ノーマさんがバンの横に大きく書かれた工藤探偵事務所の文字を外す
マルゴさんの白い車の様にマグネット式で貼ってあっただけらしい
代わりに貼ったのは
工藤プロダクション テレビ制作部
バンの後ろからカラーコーンとバリケード用の棒が運び出される
トニーさんがそれで、屋敷の壁の一部を覆った
これから工事でも始まる感じだ
そしたら
工藤父が、本当に工事用のでっかい鋼鉄の杭の付いた機械を持ち出して来る
あれ、何
オレが工藤ちゃんに尋ねると
コンクリート・ブレイカー第七聖典です
コンクリートブレイカー
実際に、家の解体工事などで使う工事用のコンクリート破砕機です
えそれを、あの人はどう使うつもりなの
工藤ちゃんは、オレの顔を見上げて答えた
そんなの見た通りに決まっているじゃないですか
見た通り
このままあの塀をブチ抜きます塀の中には、センサーはありませんから
塀に穴を開ける
人が通れる大きさの穴が開けば良いのでしょう
確かに、その通りだけど
それってうるさくないの
何か凄い音が出そうな感じなんですけれど
本来は工事用の破砕機ですから相当騒がしいと思います
工藤ちゃんは、ケロリと答えた
じゃあ周りの家の人とかが集まってきちゃうじゃないか
平気ですそのための作戦505ですから
任せましょ、吉田くん
ミナホ姉さんが、真顔で言った
香月閣下がずっと使っていらっしゃるプロよ信用するべきだわ
トニーさんが、大きな業務用のビデオカメラを車から運んでくる
ノーマさんは、***テレビという腕章を付けている
腰には何故かウェストバッグを巻いてあ、黒いガムテープを吊しているな
元から地味な顔立ちをしているから何となくADさんぽい
手に、交通誘導灯のバトンを持ってノーマさんは、カラーコーンの外側に立つ
トニーさんは、カメラを工藤父に向ける
ほんじゃば、いくぜいっ
工藤父は派手なスーツ姿のまま、コンクリート破砕機を始動させる
ブルンッ、スババババッ、バルンバルンバルンッ
コンクリート・ブレイカー第七聖典は、物凄い音を立てて鉄杭を上下させている
インパクトッ
その先端を工藤父は、屋敷の塀にブチ当てた
ガガガガガッッバオン、バオン、バオンッ
ドゥガガガガガッッ
コンクリートの壁が砕かれていく
ちょっと、何をやっているのよっ
近所のオバサンが、音の騒がしさに様子を見に来る
すみませーんテレビの撮影でえーす
ノーマさんが、やる気無さそうに答えた
テレビ何の番組よ
オバサンが、怪訝そうな顔で見るがノーマさんは、気にしない
トニーさんも平然と、壁を破壊している工藤父を撮影しているし
お笑いバラエティでーす
バラエティ
びっくり人間、大集合って言う、深夜番組でーす
知らないわねえ
BSでやってまーす
ってことは、あの機械で塀を壊している人がタレントさん
はーい、お笑いタレントでーす
あんまり、売れそうにない感じの人ねぇ
あたしも、そう思いまーす
他に誰か来ていないの売れている人は
このロケには来ていませーん
オバサンは何となく、納得した
これすぐに終わるわよね
はーい、塀に穴が開くシーンが撮れたら、すぐに撤収しまーす
ならいいわ早く終わらせてね
ご協力あっりがとうございまーす
オバサンは自分の家に帰って行く
その間に塀の壁には、丸く穴が開いていた
人が入るには、充分すぎる大きさだ
よし今のうちに、中へ入りましょう
オレがミナホ姉さんに、そう言うと
待て待て待てってばまだ、早い、急いてはことをし損じるでごわすぞ
工藤父が、何故か鹿児島弁でオレを止める
これってさ、最終的には、屋敷に火を付けちゃうんだよな
今度は、軽い口調で
はいその予定ですけれど
ボヤ半焼全焼どれになるんだ
工藤父が、ミナホ姉さんを見る
全焼よ
フフッと笑う工藤父
なら、壁に穴が開いていたって構わねえじゃねぇかっ
再びコンクリート・ブレイカーを始動させる
玄関のドアをこじ開けたり、警備会社の感知器の有無を調べながら窓を開けるより
工藤父はコンクリート・ブレイカーを抱えたまま、塀の中へ入り
今度は屋敷の壁に鉄杭を向ける
適当な場所に、穴を開ける方が早いんじゃいっ
ひ、広島弁
バガガガガガガッ
砕け散る壁の破片
ドババ、ヌガガガ、ガガガガガガッ
あっという間に屋敷の壁に穴が開いた
どうじゃ、見たかぁっ
大いばりな工藤父
外の道から塀の穴と、屋敷の壁の穴が
真っ直ぐに続いていて
メチャメチャに、シュールな状況になっている
助かりました吉田くん、行くわよ
ミナホ姉さんが、工藤父に礼を言う
わたくしも、お供します
工藤ちゃんも、塀の穴の縁をを乗り越える
オレも行くトニーとノーマは、ここで穴を見張っていろ
工藤父が、部下たちに言う
えー、この状況でですかぁ
うんかなり、とんでもない状態になっていると思うけれど
そこは作戦505適当に誤魔化せ
了解しました、ボース
トニーくん、缶コーヒーでも飲んでようか
谷井ですノーマさん
野間ですっ
そんな二人を置いてオレたちは、屋敷の中へ侵入した
あいつらは、二人一緒にしておかないとヤバイからな
工藤父が、呟く
もし、ここで敵の襲撃を受けたとしたら一人だけなら、速攻で倒される二人なら片方がやられた瞬間に、警報ぐらいは鳴らせるだろう
工藤父は襲撃される可能性を考えているんだ
ミッチィくんは、前方を警戒オレは、後ろを見ながら進む
了解ですお父様
冷たい緊張感がオレたちを包んでいく
今日もまた、遅刻寸前
今日さえしのげば週末だ
がんばろう
月姫は中古が安かった時に、二千円で買ってやりました
でも第七聖典て、本編に出てきましたっけ
今となっては、秋葉の洗濯板しか覚えていない
当時、ユージンから出ていた秋葉のフィギュアが、赤髪版しかなくてガッカリした記憶があります
167.バトル
工藤父が開けた大穴を潜って、屋敷の中に入ると
そこは風呂場だった
天窓から、外の光が差している
まだ夕暮れになる時間では無い
ん
オレはぐるりと周りを見回した
白坂が、自分の顧客の接待セックスに使っていた屋敷だ
風呂場は豪華で、広々としている
穴を開けた壁だけが一面のタイル貼りで、他の壁には全て大きな窓があった
それが、オレの心に引っ掛かった
偶然にしては、上手くいきすぎじゃないか
窓のある壁に、コンクリート破砕機で穴を開けたら窓枠が歪んで、ガラスが割れるんじゃないだろうか
あるいは、激しい振動で
窓ガラスに、防犯センサーが付いていたヤバイことになる
だから窓の無い壁に穴を開けた
いや、そもそも
工藤ちゃんは、屋敷の周囲のこのポイントをなぜ選んだんだ
たまたまとか、偶然とか
そんなはずがないと思う
工藤ちゃん
オレは、脱衣所の中をうかがっている彼女に声を掛けた
なんでございましょう
工藤ちゃんは、オレに振り返る
お父さんは、いつも車の中にコンクリート・ブレイカーを載せているのかい
この工事用の機械は最初から、こうやって屋敷に侵入する計画があって持って来たんじゃないのか
第七聖典のことですか
ぶっちゃけ、名前はどうでもいい
工藤父が、オレに振り向く
おうっ、いつも載っけてるよコンクリート・ブレイカーと、アスファルト・カッターと、ランマーはな
ランマー
オレはつい聞き返してしまう
アスファルトを敷いた時に地固めする機械だよこっちの都合で、道路にに大穴を掘るなんてことはよくあるだからって、そのまんまにして帰れないだろ開けた穴は、ちゃんと塞いでるんだよ
もっともらしいことを言っているけれど
アスファルトって、高熱の状態のやつを敷かないといけないんじゃないですか
オレだって、道路工事をしているのを見たことがある
ダンプから、モアッと熱気のある熱い状態のアスファルトを下ろしている様子を
簡易用の温めなくてもいいアスファルトもあるんだよ
工藤父は、そう言うが
何か怪しい
本当に、あのバンにそんな幾つもの工事用の機械を入れているわけがない
オレはマルゴさんのバンを知っているから、ワンボックスカーにどれくらいの荷物が入るのかは大体想像ができる
重い工事用機械なんて幾つも載せたら、他の物が積めなくなるし車の動きだって悪くなる
いつも持ち歩いているという工藤父の言葉は嘘だ
おい、お前何が言いてぇんだ言いたいことがあったら、とっとと言えよあんっ
工藤父は、脅すようにオレに言うが
もしかして、外で穴を開けた場所ってこの屋敷の監視カメラの死角になっている場所なんじゃないんですか
工藤父は、表情一つ変えなかった
当然です
父の代わりに、工藤ちゃんが答える
工藤ちゃんも、工藤父もオレたちがこの屋敷に来ることを知っていて
全て、事前に調査しているんだ
見た目ほど、トボけてはいないみたいだな
工藤父は、オレに言った
この屋敷が黒い森のターゲットになることは予想していたからなあらかじめ、屋敷の警戒システムは調査してあるし建物の中の間取りも判っている
ここに白坂の別宅があるということは裏の人間ならすぐに判る
白坂は、ここに芸能人なんかを連れ込んで、いかがわしいパーティなんかも開催していたわけだし
この屋敷の中にある黒い森の関係者の映像や資料を、オレたちが処分に来ることは判っていた
いや、違う
工藤父は、いつオレたちの前に現れた
オレたちが雪乃の家から、みすずの日舞の稽古場ビルに向かう途中だ
雪乃の家に居た時すでに、工藤父はオレたちを見張っていたんじゃないのか
となれば雪乃の家についてだって、事前に全て調査をしているはずだ
香月閣下の命令を受け
工藤父は、黒い森が狙いそうな場所をこどこどく調べ上げているんだろう
この人の、ボケた外観は全て、フェイクだ
もしかしてミスター・ヴァイオラの部下を一人逃がしたのもわざとですか
オレがそう訪ねるとミナホ姉さんが、オレに言う
吉田くんそういうもう判っていることは、質問するするべきではないわ
ミナホ姉さんは、とっくに気付いている
一人はわざと逃がして今頃は、工藤さんのお知り合いが追跡しているわよ
工藤さんは、香月セキュリティ・サービスの警備部の人たちに対しても牽制を仕掛けているの
そのために美智さんはわざわざ、一番下っ端の人を倒したのよあの男からは、どうせ大した情報は得られないでしょうしもしかしたら、ミスター・ヴァイオラがこちらに偽の情報を伝えるために罠として置き去りにしたのかもしれないわでも、警備部の山岡さんは、今頃必死になって、あの男を尋問しているでしょうね
その間は、時間が稼げる正直、あいつらにはお嬢様たちの警護だけに集中して貰いたいんだわ下手に、シザーリオ・なんちゃらとの闘いに首を突っ込まれると面倒だからな
工藤父は、笑ってそう言った
それにオレがデビル・チョップで気絶させた男とは因縁があってねあいつ、香月セキュリティ・サービスのビルの中でオレと擦れ違ったときに、笑いやがったんだわオレの格好を見てね新入社員のくせにだから、この辺でシメとこうと思ってな
この人の格好や言動は全て、目眩ましだ
工藤父は全てにおいて綿密に計画を立てて、行動している
工藤さんあなたは、香月様にあたしのサポートをするように言われていらっしゃったんですよね
ミナホ姉さんが妖しい眼で、工藤父に言う
おうそれは、その通りで間違いないオレにできることなら、何でも言ってくれ
工藤父の言葉に、ミナホ姉さんは
ではお言葉に甘えます工藤さんあたし、面倒なことは先に片付けてしまいたいんですけれど
奇遇だね、オレもそう思っていたとこだわ
おいっ、出て来いよッ
工藤父の叫びに脱衣所の方から、人影が現れる
黒いスーツの男が一人、二人、三人
ミッチィくん、敵は三人だ
はい三人以上ということですね
娘の返答に工藤父はニヤリと微笑む
判ってきたじゃないか、ミッチィくん
お父様のご教育の賜物ですわ
工藤父が前に出る
工藤ちゃんはオレとミナホ姉さんの前へ
シザーリオ・ヴァイオラの手下かい
いいえ白坂家の関係だと思います
白坂家だって、当主の守次さんくらいになりゃ裏の仕事をするのが専門の直属の部下がいるそうなんだろあんたたち
黒スーツの男たちは答えない
いいねえ寡黙な男ってのはオレは好きだよオレは、自分が喋りたがりだからな聞き上手な相手は、いつでもウェルカムだ
そう言って身構える、工藤父
ミッチィくんこいつらの標的は、黒森さんだガードは任せたぜ
工藤ちゃんが、電撃警棒を伸ばす
さすがに室内では、鋼球は使えないらしい
いきなり、黒スーツの三人が同時に工藤父を襲いかかった
三人の動きは、完全に連携が取れている
工藤父は、一人目のパンチ、二人目の蹴りをかわすが
三人目の拳が工藤父の顔面に入るッ
殴られたと思った瞬間工藤父は、物凄い速さで相手の攻撃をすり抜ける
逆に、工藤父の膝蹴りが殴りかかった男の腹に命中した
悪りぃな飛レン脚って言うんだあんたたちの技じゃ瞬歩って言うんだろ
そんな技は無い
膝を腹に打ち込まれた男が倒れる
工藤ちゃん、レーザー・ポインターの予備って持っているだろ
絶体に持っていると思った
この父娘は、徹底的に準備している
クリムゾン・フラッシャーですか
名前なんていいから貸して
工藤ちゃんから、レーザー・ポインターを借りる
工藤父と工藤ちゃんの位置で二人が次に何を予想しているか判る
ならばオレはオレのできるサポートをするまでだ
真空竜巻旋風脚
工藤父が、普通の後ろ廻し蹴りを放つ
ウワッ
その男の首に蹴りが決まった瞬間
オレたちが入って来た穴からさらに三人の男が飛び込んで来た
工藤ちゃんは、ずっとそっちの方を警戒していた
最初から、敵が二手に分かれて襲って来ることは判っていたんだ
キィエッッッ
黒い棍棒の様な物を振り回す最初の男に工藤ちゃんは電撃警棒を叩き込むッ
バァッジジジッ
火花と煙と嫌な匂いが立ちこめる
ミッチィくん、敵はボディアーマーを着込んでいるかもしれないからな素肌の剥き出しになっているところを狙いたまえよ首筋とか
黒スーツの男と闘いながら工藤父が娘にアドバイスする
やってます
判っているのなら、それでよろしい
その瞬間一番最後に穴から入って来た男が、ピストルを取り出す
動くなッ、貴様ら
こういう展開があると思ったから
レーザー・ポインターの赤い光線を、その男の眼に照射するッ
その男が怯んだ瞬間
工藤ちゃんが、男に何かを投げつけるッ
男の顔面でカプセルが砕けて赤い粉が、飛び散るッ
ぐぁぁッ
トウガラシの粉を眼に受けて、苦しむ男はピストルを落とす
片手で顔を押さえて、片膝を付いた
必殺ッ
工藤ちゃんが、その男に向かって風の様に走るッ
ニー・インパルス・キック
工藤ちゃんは、男の膝を踏み台にして
相手の顔面に膝をブチ込むッ
くはぁッ
倒れる男
って工藤ちゃん
それはニー・インパルス・キックじゃなくって
シャイニング・ウィザードって技だよ
てめえ、よくも
後から突入してきた最後の男が、工藤ちゃんに襲いかかるッ
その男に工藤ちゃんは
お前はデベソだあーっ
はあっ
男は、驚きの余り大きな口を開けた
その口に
工藤ちゃんの投げたカプセルが飛び込むッッ
ウイニング・ザ・レインボウ
ギョッと眼を剥く男のアゴを工藤ちゃんのアッパーカットが砕いた
ボムッ
男の口の中で何かが爆発する
見たか必殺、天火星稲妻炎上波ッ
口から黒い煙を噴いて男が倒れる
スコルピオン・クラッシュ
その間に工藤父が、最後の男を倒していた
これでもう大丈夫だ
工藤父は、オレたちに振り向く
どうして判るんです
オレは、一応尋ねてみる
こいつらは六人組のチームだ他にはいねぇ
そこまで、調べてあるんだ
もしかして、予備の人間がいるかもしれないじゃないですか
こいつらは、自分たちの仲間しか信用しねえそういうチームだ
でももしかして、白坂守次に応援要員を送られているかもしれませんし
オレたちにとっての工藤父のように
大丈夫だ昨夜の内に最終確認しているこいつらのチームは六人きりサポートも応援もいねぇ
本当に徹底しているんだ
だがオレたちが、この屋敷に到着した時点で他のチームに連絡している筈だこの屋敷の中に居られるのは、後十五分が限度だと思ってくれ
工藤父が、オレたちを見る
この屋敷の放火は、オレがやる派手にやっていいんだな
できるだけ派手にお願いします
了解だ十五分以内に、またこの場所に戻って来てくれそれまでに、あんたは目的を果たすいいな
少年とミッチィくんは、黒森さんと一緒に行け
屋敷の廊下を走るミナホ姉さん
オレと工藤ちゃんは追い掛ける
ミナホ姉さんは、迷うこと無くある部屋に到着した
ミナホ姉さん、この屋敷に来たことがあるの
オレがそう訪ねると
十五年くらい前にね何度も来ているわ
ミナホ姉さんも白坂に犯された娼婦の一人だった
少女娼婦として、この屋敷に連れて来られ
いかがわしいパーティに参加させられたこともあるのだろう
オレはミナホ姉さんに謝る
姉さんは
いいのよ吉田くん
その部屋は鍵が掛かっていた
お任せ下さいっ
工藤ちゃんがスカートの中から小さな道具を取り出す
これより、工藤流ピッキングを致します
それも、古武術なのか
古いタイプの鍵ですこれなら、すぐに開きます
工藤ちゃんが、道具の先を鍵穴に差し込む
秘技、工藤流サムターン廻しっ
鍵は開いた
工藤流古武術恐るべし
間違いないわ、ここよ
そこは白坂の専用室の様だった
暖炉のある西洋風の豪華な部屋
その壁には、ファイルや古いビデオテープ、ディスクなどがズラッと並んでいた
ここに白坂が犯してきた女たちの記録が全て収められているわ
何という数なんだ
ファイルやテープにはそれぞれ女性の名前が書かれていた
これだけの数の女性たちが白坂創介の被害を受けた
ビデオテープだけでも、二百や三百ではきかないだろう
凄い量だね
思わず呟く
そうね白坂創介は黒い森の運営者になる前から、少女レイプが趣味だったみたいだしここには、黒い森だけでなく白坂の個人的なレイプの映像もコレクションされているから
黒い森だけじゃないんだ
ミナホ姉さんこれ、全部焼却しちゃっていいんですかね
白坂にレイプされて誰にも言えないまま、苦しんでいる人も多いんでしょうこの映像が証拠があれば白坂の隠している全ての犯罪を告発することができるんじゃ
オレの言葉にミナホ姉さんは、寂しく首を振った
みんなそんなことは、望んでいないわ白坂の全ての悪事を裁判所で明らかにしたところであたしたちの心は晴れないもの
白坂に犯された女性の一人としてミナホ姉さんはあたしたちと言った
警察に捕まったり、裁判になったって
レイプされた人の心の傷は癒えない
むしろこんな証拠映像が残っていたら
せっかく癒えかけた古い傷口をまた開くことになりかねない
こんな映像はできる限り、焼いてしまった方がいいのよ完全に抹消させてしまうべきなの
ミナホ姉さんの眼は暗い
白坂創介には、公の場で破滅して貰うわ白坂が絶望して死んでいく姿を誰もが見える形で公開するのよそれでこの画像を撮られた女の人たちも、少しは心が晴れると思うのあたしには、そうしてあげることしかできないから
だからテレビやマスコミを使って
白坂創介は、公式に抹殺される
社会的な制裁を受ける
全世界の人間がニュースとしてそれを知ることになるだろう
それで被害者たちの心を少しでも、救うことができれば
暖炉に火を付けましょう
工藤ちゃんが言った
それでビデオ・テープや写真やディスクを片っ端から燃やしますただ普通に放火しただけでは、燃え残る可能性がありますから
うんすぐにやろう
工藤ちゃんがその辺の適当な紙に、ライターで火を付ける
そして暖炉の中へ
オレはまず燃えやすい写真ファイルから突っ込んでいく
わたくしもお手伝いします
火が強くなってきたところでビデオテープも
プラスチックの溶ける嫌な匂いがしたがそんなことは言ってられない
どんどん、ブチ込んでいく
その間に
ミナホ姉さんはディスク類を調べていた
うんここから、ここまでは運び出します
ミナホ姉さんが選別していく
それって何なの
白坂がこの屋敷で行ったパーティに参加した政財界やマスコミの人たちの映像よ白坂のことだから、絶対に隠し撮りしていると思ったの
そう黒い森の顧客リストの件で、あれだけ大変なことになったんだから判るわよねこれがあれば白坂の顧客は全て、社会的に抹殺することができるわ
白坂創介だけに復讐したいんじゃない
白坂を巡る全てのもの
白坂の様な人間を産み出した全てのものに
復讐したいんだ
それからこれも、持って行くわ
ミナホ姉さんは、さらに数枚のディスクを選別する
それは何なの
ミナホ姉さんはクスッと笑った
白坂創介が女性タレントとセックスしている映像よ
大丈夫タレントさん本人の許可は取ってあるから一人、三千万円ずつで納得してくれたわ
何人もいるのか
今はもう二十代や三十代でそんなに売れていない、お色気系のタレントさんたちよでもこの映像の時は、まだ十代高校生だった当時は、そこそこ売れているアイドルだった子もいるから名前を聞けば、みんなああ、あの子かと判ってくれると思うの
この映像をミナホ姉さんは
午後三時にネットのトップニュースになって五時のニュース番組で大々的に取り上げられたとしてもまだ弱いわオーストラリアで連続少女強姦事件を起こした広告代理店の部長というだけではね
ミナホ姉さんが、ニヤッと微笑む
人ってね、自分の知らない人の不幸については、そんなに関心を持たないものなのよ逆にただテレビで見掛けただけの相手でも、名前を知っていれば関心が沸く
ミナホ姉さんが、選んだディスク類をまとめていく
五時のニュースが終わるまでの時間に、この映像をネットにアップするわオーストラリアの少女強姦事件の容疑者の名前を聞いたことがある元アイドルとセックスしている映像が流出したらみんな食い付くとは思わない
しかも五年や十年前の映像とはいえ高校生アイドルの本番セックス映像よ広告代理店の社員で、大手新聞社のオーナー一族の男がそれらの力を背景に、高校生アイドルを犯していた
ネットは、大騒ぎになる
その上で、さらに噂を拡げるわいや、この男が犯したのは、この映像のアイドルたちだけでない白坂創介は、実は現在も、人気のあるアイドルをレイプしているらしい、あの子が怪しい、あのアイドルもレイプされているんじゃないか
白坂創介は
日本の庶民の男を全員、敵に回すことになる
あわわわ土曜日だと思ったら、くたびれて爆睡してしまいました
土日は、睡眠時間を取り戻すだけで精一杯です
昔、一緒に仕事をした人に、
キミは人から何かをして貰っても、ありがとうと言わない人だねそれはよくないよ
と、たしなめられたことがあります
その仕事が終わった時、
今回は色々とありがとうキミも人にありがとうと言うくせを身に付けた方がいいよ
と言って、その人は去って行きました
実際のところその人が私にありがとうと言ったのは、その時が最初で最後でした
色々と業務以外のこともしたんですけれど
なぜ人って自分のしていないことを人に要求できるのでしょうか
時々、がっくりくることがあります
168.ザッピング・ニュース
元の風呂場に戻る
工藤父は、すでに来ていた
倒した黒スーツの男たちに猿轡と手錠を掛け外に運び出している
おう、お前も手伝え
オレをジロッと睨む
どうすんですかこいつら
このまま、焼死させるわけにもいくめぇだろそれより、こいつらには放火の実行犯になって貰う
実行犯
白坂の家が、証拠隠滅のために白坂創介の別宅を放火した黒森さんは、そういうシナリオが欲しいんだろ
工藤父は、そう言ってミナホ姉さんを見る
その通りですわ
なだから、手伝え少年っ
ミナホ姉さんが、うんと頷いた
オレは工藤ちゃんと一緒に、残りの男を運び出すのを手伝う
男たちは大穴を開けた塀の外に並べた
周りは、カラーコーンで取り囲んである
でこいつを残して置けばいいのさ
工藤父は、大きめのカードを男たちの上に置いた
カードに書かれている文字
この者、放火犯人なり Z
Zって何です
日本一の男だ
知らなきゃいいんだ黙ってろ
どんなことでも、お父様のやることには意味があるんですわたくしたちが心配する必要はありません
説明されても、オレには判らないことっぽいし
黒森さんそっちは目的を果たしたのかい
人通りの無い道路に出て工藤父が、ミナホ姉さんに問う
お陰様で必要な物は、手に入れました
ミナホ姉さんは持って来たディスクの束を見る
後は全て燃やして下さい
工藤父は、ニヤッと微笑む
了解だ
そして外を守っていた、二人の部下に
トニーは、車に乗れノーマはここに残って、後始末だ
えあたしが、貧乏くじですか
文句を言うな第一発見者ってのは、女の方が心証がいいんだよっ
工藤父が、怒鳴る
了解です、ボス
ノーマさんが、不承不承命令を受諾する
工藤さん申し訳無いんですが
ミナホ姉さんが工藤父に冷たい眼で話し掛ける
あたしたちの車の運転をお願いできませんか
再びディスクに眼を落とす
あたしはやることがあります今は、一秒でも多く時間が欲しいんです
工藤父は、ニッと笑った
了解だトニー、お前はタイタンボーイで追っ掛けて来いいいなっ
オッケーです、ボス
オレたちは車に乗り込む
運転席に、工藤父
助手席に座ったミナホ姉さんは早速、ノートパソコンを開いている
ディスクに入っている映像データを学校の監視室にいる克子姉たちに送っているのだろう
時間はまもなく、五時になる
オレと工藤ちゃんも後ろの座席に飛び乗る
行くぜっ
工藤父は車を二十メートルほど、進ませた
工藤探偵事務所に文字の戻ったバンも追って来る
ノーマさんが塀の脇で、耳を塞いで小さくうずくまる
そんでは
工藤父が、ポケットからリモコンスイッチを取り出した
ポチッとな
ドゥバァァァンッッ
白坂の別邸の上階がその瞬間、爆発したッ
続いて、炎上
工藤父が、第二のスイッチを入れると
下の階がまるでガスコンロに火を付けたみたいに、ボッと火が付いていく
うん後はノーマに任せて、オレたちは逃げるぞッ
車が急発車するッ
なーに、簡単なことさ
車を運転しながら工藤父は言った
屋敷の火災報知器とガス感知器の電源を切ったんだそんで上の階の各部屋のガス栓を開いた
ガスが、部屋に充満する
今の建築は、エアコンで温度調節するからな基本的に、部屋は密閉気味に造られているその上あの屋敷は、使用目的上、防音になっている部屋も多かった十五分もガス栓を開けておけば相当部屋に溜まる
それでリモコンで発火装置を起動させたんですか
オレの言葉に工藤父は
DA BOMB
黒森さんが、派手な方がいいって言ってたろ
ガス大爆発は派手だ
ただ爆発だけだと爆風で、火種が消える恐れがあるからなだから、下の階は普通に炎上するように別の発火装置を仕込んだんだ
それで二段階に分けたんですか
EXACTLY
イグザクトリーって
その通りでございますだったっけ
早速克子が、マスコミに連絡したわ白坂家が、証拠隠滅のために白坂創介のセックス・パーティ会場に火を付けたって
ミナホ姉さんが、パソコンの画面を見ながらそう言う
メールのやり取りで、そういう連絡が来たんだろう
そろそろ、時間ね
ミナホ姉さんが車のダッシュボードから、携帯テレビを取り出す
電源を入れる
夕方五時のニュースがちょうど、始まった所だった
白坂家の新聞社と提携しているテレビ局は、トップニュースから外したみたいね
しかしそれ以外の局のニュース番組は
どこも、オーストラリアにて、連続少女レイプ事件の容疑者として日本人が逮捕されるというニュースを報道している
白坂創介という人間の詳細な、経歴を含めて
もちろん白坂創介が、大新聞社のオーナー一族の人間であるということも
ここからは、当番組のスクープ映像です
白坂家のテレビ局と一番反目している会社のニュース番組でアナウンサーが、カメラに向かってそう告げた
この白坂容疑者の関係者と見られる人間が被害者であるオーストラリア人少女の家族に対して、警察への被害届を取り下げるように不当な圧力を掛けていたことが判りました
隣の女性アナウンサーが、先を続ける
これはその被害者の家族が、交渉の模様を隠し撮りしていたものです
流される荒い画面の映像
オーストラリアの家庭の客間でその家の両親とスーツ姿の男たちが英語で話している
下に浮かぶ、翻訳のスーパーの文字
こちらの指示に従ってくれたら、さらに金を払おう
裁判沙汰になったら、恥をかくのはお嬢さんの方じゃないのか
こういうのは、どこかのテレビ局1社だけの独占スクープにしてあげた方がいいのよ
再び、ノートパソコンでの作業に戻りながらミナホ姉さんが、言った
他のテレビ局や報道機関が、悔しがって、自分たちもスクープを得ようと頑張ってくれるから何でも、平等にこちらから情報を流すと現場の記者たちのやる気を削ぐことになるからね
ミナホ姉さんは報道機関を完全にコントロールしようとしている
こういう時白坂本家は、どう動くと思う
ミナホ姉さんがチラリとオレを見る
えっと判りません
何か授業みたいだな
わざと、大物の政治家か有名な芸能人のスキャンダルなんかを暴露するのよそれで、白坂創介のニュースを消そうとする
ミナホ姉さんの手がテレビのチャンネルを、白坂家のテレビ局に変える
そこでは
椎名さん、本当のところはどうなんですか
二股を掛けていたことを、認めるんですか
画面に出ているスーパーは
俳優・椎名鷹介二股騒動本当に好きなのはどっち
七海さんと日向さん、どっちの方が本命なんですか
答えて下さい
この度は世間をお騒がせして、申し訳ありません
これが五時のニュースのトップにやることか
もっと後の、芸能コーナーでいいじゃないか
こんなネタしかないってことは向こうは、こちらの出す情報スピードに相当困っているようね
ミナホ姉さんは笑って、そう分析する
政治家の汚職とか大会社の収賄事件とかそういう大きな社会問題になるようなニュースでないと、白坂創介のニュースは吹き飛ばせないわ
何で、こんな誰も知らないようなレベルの俳優のスキャンダルなんて暴露しているんですか
オレの質問にミナホ姉さんは
報道機関というところはね自称正義の味方って人がたくさんいるのよ自分だけは、正しいって思っている人たちがね
そんな人たちが幾ら会社のトップ命令だからって、犯罪事件のニュース報道の揉み消しに協力的になると思う自分の会社のオーナー一族の人間が起こした犯罪を報道するなって命じられるのよむしろ、反発する人の方が多いでしょうね
上の人が望んでいる、大物政治家や有名芸能人のスキャンダルではなく
どうでもいい俳優のニュースを流している
それにね報道関係の人たちって、色々なしがらみに囲まれて生活しているのよこんな下らないことのために、大物政治家や有名芸能人とのパイプを投げ捨てたいと思うわけが無いわ一つ間違えたら、報道人としての生命を絶たれることになるもの
身内のスキャンダルのニュースを小さくするために普段懇意にしている政治家や芸能人のスキャンダルを暴いたら
信用は失うよな
何があっても、白坂家の面子を保とうとするのは白坂家の人間だけよ会社の人たちは、そこまで白坂家に忠実ではないわ白坂家なんて、所詮、戦後に成り上がった家だから
ミナホ姉さんは、楽しそうに笑う
そしてあたしたちも、どんどん次の手を打つしね
ミナホ姉さんがまた、チャンネルを変える
別の局では
早速、白坂の別宅の爆発炎上事件のニュースを報道していた
こちら、現場上空です物凄い勢いで、家が燃えています
ヘリコプターからの映像で
さっきまで居た屋敷が、黒々と煙を上げて燃え上がっているのが見えた
えー、今入りました情報によりますとこの家の持ち主は、先程お伝えしたオーストラリアでの少女レイプ事件の容疑者の広告代理店勤務の男性だと言うことです警察は、証拠隠滅を計った行動ではないかと、捜査を開始したようです
同じニュースの時間帯に白坂創介についてのニュースが重ねて報道される
あの屋敷で、白坂創介がセックス・パーティをしていたことは芸能関係の記者なら、みんな知っているわ今までは、白坂本家と白坂の勤めている広告代理店を恐れて誰も報道しなかったでも白坂が犯罪者として、報道されてしまえば
みんなの閉じていた口が、開かれる
白坂の悪行が多くの人によって、一気に語られることになる
ミナホ姉さんが、またチャンネルを変えた
そこではまだ、オーストラリアでの事件を報道していた
まったく、許せない犯罪ですよ日本人が、外国の少女を連続強姦していたなんて国の恥です日本人の敵だ
有名なコメンテイターが、また適当に白坂を怒る
この白坂創介という人物は、大手広告代理店の部長としてこれまでも、よくない評判があったということですが
そのことにつきましては、芸能デスクの丸林さんにお尋ねしたいと思います丸林さん
いやねえ私は、この人がいつかこんな事件を起こすんじゃないかと思っていましたよ
と申しますと
この白坂という人物はですねえ某新聞社のトップの方のご親戚なんですが前々から、芸能界で非常によくない噂があったんですよ
噂ですか
えっと先程の火災現場の映像出ますか
白坂という人は、この建物を使って若い芸能人や芸能人志望者の女性を集めて、いかがわしいパーティを行っているという情報を私は前々から知っておりました
すると白坂容疑者は、日本国内でも少女レイプ事件を起こしている可能性があると
大いに考えられますねオーストラリアでの旅行中に、ガマンがきかなくなるような男です日本でも同様の事件を起こしているんじゃないでしょうか
そしてその容疑者の所有している建物が、現在炎上しているわけですが
白坂容疑者のパーティには、暴力団関係者も多く参加していたと聞きますこのタイミングですと、証拠隠滅としか思えませんね
芸能記者は、真顔でそう言った
この芸能記者大っ嫌いだけど、ボーナスは払うわ三百万いえ、四百万出すわ
この記者とも事前に打ち合わせしているの
まさか今日の午後一時の段階で、各芸能記者にメールしたのよ新聞大手の白坂一族の人間がスキャンダルを起こしたら、徹底的に叩いて欲しい礼金は払いますって
でもそれって、こっちが誰だか判らないメールですよね
それでもこうやって、実際に白坂創介の逮捕がニュースになって、報道機関が大々的に取り上げたら勢いがどっちにあるか判るでしょああいう人たちは、場の雰囲気に乗るのよ
そして白坂のことについて、どんどん適当に悪人というレッテルを重ね貼りしてくれる
むしろ匿名のメールが先に来ていたことで、この事件の流れが偶然ではなく、誰かの計画の上にあるって感づいてくれているわだから、勢いに乗ってくれる
ミナホ姉さんは、オレの顔を見る
次は九時のニュースよ
これで終わりでは無いわ今夜は、十一時のニュースまで、白坂創介の悪行についての情報を小出しにしていくの日本中の人間が、白坂創介に注目して彼を心の底から憎むまでね
携帯テレビによるニュースは続く
一つのテレビ局のニュースで、芸能記者が白坂創介の別宅でのセックス・パーティについて語ってしまったことで
他の局でもそのニュースが解禁となる
色々な芸能記者が伝聞と憶測にまみれた、白坂創介の悪行を語る
白坂容疑者が担当するコマーシャルに出演した女優が、ロケ地のセブ島で彼に暴行されたと聞いたことがあります
芸能事務所から定期的に、アイドルの卵をパーティに提供させていたらしいね
どうも、大学時代にすでにレイプ事件を起こしているらしいが白坂一族の力で無理矢理揉み消したという噂が
各局入り乱れて白坂創介を救い様の無い悪人と報道していく
白坂家のテレビ局だけは
なぜか、東京のデパートの行列ができるスイーツ特集を流している
こちら、爆発炎上している白坂創介氏所有の建物前です
ついに中継車が、現場に到着したらしい
事件を目撃なさったという方に来ていただきました
そして画面に現れる
ノーマさん
えっと、わたしぃ道を歩いていたら突然、ドーンという爆発音がして、びっくりしちゃったんですよぉぉ
なぜか舌っ足らずな口調で、可愛い子ぶって喋るノーマさん
そしたらぁそこの家がボオボオと燃えだして、そこの穴から五、六人の黒い服を着た男の人たちが出て来ました
その人たちは、何か言ってましたか
はいこれで上手くいったとかぁ証拠隠滅は完璧だとか
それで、その人たちはどこへ
そしたらぁ突然、赤い服を着た人が現れてぇ待てーぃと叫んでぇ黒い人たちを全員、ブチ倒してしまいましたぁ
あ、赤い服の人ですか
はい全身赤いツナギみたいのを着た人でぇ、赤いヘルメットのおでこのところにZって字が貼ってありました
その赤い人が放火犯人グループを全員倒したんですか
はい、そしてぇこれで一件落着だヨヨヨイ、ヨヨイ、ヨヨヨイ、ヨイめでてぇなあって言ってぇ、馬に乗って、去って行きました
馬ですか
はい馬でしたぁ
馬に乗りながらギターを弾いて、去って行きましたぁ
何かおかしいですか、あたしの話
ええっと爆発のショックで、色々と混乱していらっしゃるようですこちらの現場から、黒い服の男が五、六人、警察に連行されたということは確認されていますおそらく、それらの人物たちが放火事件の犯人だと思われますが詳細は、まだ判明しておりません一旦、スタジオにお返しします
画像がスタジオに切り替わる
うーん、ノーマくん、イマイチだなもうちょっと、トボケた感じが欲しいよね赤い服の男が現れたじゃなくて赤青ピンクのタイツを着た三人組が、でっかいトマホークを持って現れたとかだね
工藤父がそう、論評する
どうして、いつもふざけているんですか
ふざけている誰が
工藤さんです
バックミラー越しに工藤父の眼が、オレを見る
ふざけている方がいいんだよその方が、上手くいく
工藤父はクッと笑って、そう言った
でも本当は、すごく真面目な人なんじゃないですか工藤流だって、実際は強そうだし
実際も何も初めから強いです工藤流古武術は
工藤ちゃんが横から、そう言う
それなら何で一々、悪ふざけみたいなことをするんですこれじゃあ、丸でわざと弱そうにしているみたいじゃないですか
少年オレたちは、アスリートじゃねぇんだよ
オレは強いぞ、工藤流は最強だぞって、宣伝して歩いて何か、いいことがあんのか
むしろあいつは弱そうだ、あいつは、いい加減で適当だって思われている方がいいンだよオレたみたいなの商売ではな
昔さ本当の大昔さオレがまだ少年ぐらいの年で、本当に工藤流で世の中に打って出ようと思った頃があったんだわ
工藤父が運転しながら、気軽に言う
たまたま出会ったオッサンがいてなオレが工藤流の技を見せたら、こいつすごい、君は将来、大物になるだなんて、褒めてくれてなどうだい、私の仕事を手伝ってくれないかとか言いやがるんだよ
工藤父はただ前方を見ている
そしたらだそれは、どうしようもなく下らねえ、ヤクザ同士の抗争絡みの仕事でオレの役割は、見捨てられるのが最初から決まっていた鉄砲玉だった気付いた時は、もう遅い何とか、ヤクザを十数人ブチのめして警察にパクられたもちろん、最初のオッサンは助けに来ねぇオレは、何の後ろ盾も無くヤクザにケンカを売った馬鹿小僧ってことにされていた
工藤ちゃんが真剣に父親の話を聞いている
この話を聞くのは初めてらしい
どうにか、警察から釈放されてまだ未成年だったから、悦子が身元引受人に来てくれたあいつは二つ年上で、もう二十歳を越えていたからなで悦子に言われたんだ
ママ上様は、何と
あいつは、オレに言ったよあんた、バッカじゃないのあんなオッサンを信用するなんてそうだ最初にオッサンに技を披露した時に、悦子のやつも居たんだよなあの人が信用できる人間じゃないことなんて、最初にあの人の顔を見たときから判っていたことじゃないってこりゃ、堪えたよねぇ
工藤父は溜息を吐く
そうなんだわ最初に見た時には、確かにうさんくさくて、信用できそうにもないオヤジだなあって、思ったんだよそう感じていた筈なのにこいつすごい、君は将来、大物になるの一言で眼が眩んじまった人に技を褒めて貰うなんて、生まれて初めてだからなその言葉だけで、嬉しくなってこの人はオレを認めてくれたんだから、絶対に良い人だって盲信してしまった馬鹿だよなマジで、ガキだったってことだ
工藤ちゃんはジッと、父の言葉を聞いている
それ以来オレは、悦子には頭が上がらないんだあいつは凄いよオレみたいにすぐに頭に血が昇らずいつも、冷静に物事を見ている
その奥さんが今、浮気をしている
この人を裏切っている
まその後も、色々あって馬鹿なことにいっぱい首を突っ込んで何度も、痛い目に遭ってその度に悦子に助けられて結局、香月さんと知り合って香月さんの世話になることになったのが二十六の時かな香月さんはスゲェよオレはあんなに悪い人間を知らないでも正直なんだ香月さんは、自分が悪人だということを隠さないこれって、本当にスゲェことなんだぜ
それがみすずのお祖父さん
世の中のホンモノのクソ野郎は性分が悪人のくせに自分は善人だと思い込んでいる善いことをしているつもりで平然と他人を陥れていく
判るような気がする
香月さんは違うあの人は、自分が悪人だってことに気付いているそして、そのことを決して隠そうとしないフェアな人なんだオレは、あのジィさんには敵わない本気でそう思うよ
工藤父はそう言う
だからオレなりにフェアな形で、あのジィさんとは付き合ってきたんだ
フェアな形
オレはオレがミスったら、その責任はオレ自身が負いたいと思うだから、オレは絶対に、香月のジィさんの部下にはならねぇだから、正社員には死んでもならないんだ
あの年俸を貰っているというのは
そいつは嘘だよ現実には、香月さんとは個別の事件ごとに契約している工藤探偵事務所と香月さんの一対一の契約だ
それが、この人のプライドなのか
それは判りましたけれどだからって、何で、いつもふざけているんですか
そりゃあ、お前仕方ねぇだろ香月のジィさんを含め香月セキュリティ・サービスの連中は、みんなオレの味方ってわけじゃねえんだいつでも、敵になるかもしれない連中だお前、敵に自分の手の内を見せるか
見せません
だろむしろ、オレのことを侮っていてくれた方が助かるんだよ色々とな
それは判るけれど
でもちょっと、やり過ぎなんじゃ
工藤父が、チラッとオレを見る
少年オレの所属していることになっている警護課って何人居ると思う
トニーさんとノーマさんといや、他にもいるんですね
稽古場ビルで逃がしたヴァイオラの手下を追跡している人間が居るはずだ
それに、今までの事前調査だってとても、三人だけでやったとはとても思えない
そうだ警護課には、もう一人、影の男がいる
工藤父がもったいぶるようにそう言う
一人以上でしょう
さっきの工藤ちゃんと、この人のやり取りを見ている
判ってきたじゃねえか、少年
嬉しそうに、工藤父は言った
オレは香月さんの裏の部隊と、表の香月セキュリティ・サービスを繋ぐ役割もしているんだよホンモノの裏のメンバーは、絶対に表の連中とは顔を合わさないオレだけが接点なんだだからセキュリティ・サービスの本社に出入りする
でもだからといって、表のセキュリティ・サービスの連中に、オレも身内の仲間だと思われるわけにはいかないんだオレは、あいつらにとってはイレギュラーの困ったちゃんでなけりゃいけないそうしないと、勘違いしてセキュリティ・サービスの中の人間関係の順列で、オレに命令してきたりするからな
それでわざと、いつもふざけた行動をしている
もちろんこんな真似をしている以上、やつらにナメられるのは仕方がないと思っているだがあんまりにも度を超えてナメやがった野郎のケツは必ず、蹴飛ばしてきているさっき、デビル・チョップで失神させてやった新人みたいにな
あれは制裁だったのか
でも、だからって奥さんや息子さんや上の娘さんにも家族の前でも、ずっとふざけたまんまの姿を見せているんですか
仕事が終わった後の家庭に戻った時でも
仕方ないだろこういうのは、二十四時間ずっと続けて、初めて意味があるんだ家族の前だけ、真面目な顔とかできるかそれに、あいつらは香月セキュリティ・サービスの正社員だしな
工藤父は、カハッと笑う
しょうがないよなあいつらに、オレみたいな生き方は勧められないしな
そして工藤ちゃんに言う
ミッチィくんだっていいんだぜこんなパパのことは見捨てて、あっちで安定した生活をした方が幸せになれるかもしれねえ
いいえわたくしは工藤流の人間ですから
ミッチィくん
わたくしはお父様の生き様を尊敬しております
娘の言葉に工藤父は
くぅぅ泣かせるねえミッチィくんはなあ、少年っ
何でオレ
だからミッチィくんのこと、頼んだぜ
お前ミッチィくんのバージン、狙っているんだろ
ミッチィくんもこいつで、いいんだな
なら仕方ないじゃねえか
さてこのまま夜中まで、高度な情報戦が続きます
工藤父とは、もうすぐ一度別れることになります
松田優作モドキでスタートして、次の回には馬鹿キャラにしていまい申し訳ありません
一応、最初からの狙いだったんですけれど
松田優作さんという人は、原田芳雄さんという役者さんに憧れていたそうです
この前原田さんが亡くなられたニュースを見たときに、思ったことがあります
松田優作さんがもし、長生きなさっていたなら
年を重ねられた彼はどんな芝居をしたのだろうかと
アクションや派手な芝居ができない年齢になった後他のジャンルに挑戦しただろうか
コメディや、コントなんかにも出たりはしなかっただろうか
そういう諸々のことを考えた時ギャグキャラとしての工藤ちゃんを設定してみました
松田優作さんはあの時代のハードボイルドが、一歩間違えればギャグすれすれだったことに気付いていたと思います
ということなので工藤父も、また変化していきます
賛否の分かれているキャラですが温かい目で見てやって下さい
(ごめんなさい、今日多分、更新遅れます0時には間に合いません)
169.父と娘
お父様なぜ、今、そんな話を
工藤ちゃんが父親に尋ねる
そりゃ、ミッチィくんが色を知る年齢になったからだ
父は運転しながら、そう答える
そろそろオレから離れるべき年頃だろ
真面目な横顔
工藤ちゃんが小さく呟く
わたくし昼間に、黒い森のマルゴ様という方から、戦い方についてダメ出しをいただきました
ああ昼飯を食べた後の
偽右翼との戦いか
わたくしはそれで自分の戦闘が、いかにお父様のサポートに支えられていたのかを思い知りました
あの時、マルゴさんは工藤ちゃんが、いかに戦闘空間全体を見ていないかを指摘した
そうか工藤ちゃんは、普段はお父さんと一緒に闘ってきたから
戦場全体を見通すのは、工藤父の担当で工藤ちゃんは、お父さんにサポートして貰いながら、自由に伸び伸びと闘っていたんだろう
知ってるよ見ていたからな
あの時にはすでにオレたちに張り付いていたんだ
わたくしは指摘を受けるまで、自分がいかにお父様に助けられて戦闘していたのかを理解していませんでした
うんでも、もう判ったんだろ
さっきの屋敷の風呂場での戦闘ミッチィくんの位置取りは、良かった敵の後続部隊の襲撃に備えながら、いつでもオレのサポートをすることができ、なおかつ黒森さんを守れる絶好の位置に付いていた合格点をやろう
父と娘はそんな話を続ける
だからミッチィくんは、そろそろオレから卒業しないといけない
そんな、お父様
オレの工藤流古武術はあくまでも、オレがオレの生き方に合わせてアレンジしたもんだミッチィくんは、ミッチィくんで自分の工藤流を考えてみるべきなんじゃねえのかな
父親はそう娘に告げる
わたくしの
ああオレとミッチィくんは、違う人間だ生まれた時期も違うし、育った環境も違う何よりオレは男でミッチィくんは女だ違う人間なんだから、考え方だって違う生き方だって違うはずだろう
工藤ちゃんは、真剣な顔で父の話を聞いていた
そんならミッチィくんにとっての工藤流古武術だって、オレとは違うものにならなきゃならねえだろ人間のやる行動は、どんなことでもその人間の内面の全てを表す見てみなオレは、こんな下らない馬鹿げた格好をしていて、ミッチィくんは名門女子校の制服を着ているオレの着こなしはダラしねぇが、ミッチィくんはピシッとしている髪の毛なんざ、綺麗に梳いてあってサラサラじゃねぇかオレとミッチィくんは、本質的なところで違うんだよ
父と娘は、違う
違う以上は、別れないといけない
今までは、子供だと思っていたからオレの真似をしてりゃあ良かったのかもしれないでもミッチィくんは、もう大人だ自分の道を探して行かなければ、ならない
わたくしの道ですか
そうだオレが、香月のジィさんを主人に選んだようにミッチィくんも、自分の主を決めたんだろ
工藤ちゃんはうつむいて答える
はいわたくしは、みすず様を生涯の主といたします
工藤父はクッと笑った
ならそのうちオレらは、敵同士になるかもしれねえな
香月閣下とみすずが対立するかもしれない
その可能性を二人は、すでに考えている
お父様わたくしのことをミッチィくんと呼ぶのは、もうお止しになって下さい
工藤ちゃんが父に言う
わたくしはお父様の愛弟子ではなくなるのですから
そんならお前もオレをお父様と呼ぶのは止めるんだな
父は寂しそうに微笑む
いいえお父様は、お父様ですどんなことがあってもお父様は、わたくしのお父様ですから
工藤ちゃんはそう答える
クククッお前は、本当に真面目だねえそういうところは、悦子に似たのかな
工藤父が妻の名前を口にする
お父様、ママ上様は
おっと、それから先は口にするんじゃねえぞ、美智
父は娘の言葉を遮る
ご存じなのですね
工藤父は答えない
少し間を置いて口を開く
パパから最後のアドバイスだ美智、お前は自分の家族を探せ
恋人ってのは楽しいだが、長続きはしない恋ってのは、絶対に終わるどんなキュートな感情も、いつかは古くなる、悪くなる、腐っていく
恋は終わる
だが家族は終わらないどれだけ時が経っても死んでも家族は家族だその代わり、逃れられねえ一度家族になってしまったら、その縁は永遠に追っ掛けてくる家族は、辞められねえんだ
家族は辞められない
悦子とは、小学校以来の仲だ一緒に、悪い遊びを散々やった悪友から、恋人になって、結婚したオレはあいつを家族だと思っていたがあいつにとってのオレは違ったらしいだから、あいつの中の恋が終わればオレはお払い箱だそれは仕方がねえことだ
恋と家族
だがそれでも、オレにとってはあいつは家族なんだあいつのことは、一生面倒を見るオレと別れた後でもな
工藤ちゃんが小さく呟いた
山岡の野郎には、キッチリ落とし前を付けさせるオレの工藤流は馬鹿にされるのは仕方ねぇだが、ナメられたら相手のケツを蹴り返すそれが、オレの生き方だからな
オレは口を開く
工藤ちゃん、オレの家族になってくれ
オレはみすずも、メグも、マナもミナホ姉さんや、克子姉や、渚や、寧さんやマルゴさんだってみんな、オレの家族にするって決めたんだ家族みたいに大切なんだあの人たちが
オレは真っ直ぐに、工藤ちゃんを見る
だから工藤ちゃんも、オレとみすずの家族になって欲しいみすずの家来じゃなくってオレたちの家族の一員に
そのお申し出しばらく考えさせて下さい
工藤父が、笑ってミナホ姉さんに言う
いいねえ、若いってのは何でも、直接的でそう思いませんかね黒森さん
ミナホ姉さんは、工藤父の言葉を無視して工藤ちゃんを見る
もうすぐあたしたちの家に着きますどうぞ、好きなだけあたしたち家族の姿を見てそして、工藤さんが気に入ってくれたのならあたしたちの家族に加わって誰もあなたに強制はしないわ
オレたちの家長としてミナホ姉さんは、工藤ちゃんにそう言った
はい拝見させていただきます
工藤ちゃんも、生真面目にそう返事をする
んそろそろだな
フロントガラスの向こうにオレたちの学校が見えてくる
工藤さんこの辺で結構ですありがとうございました
工藤父は車を停めた
後続の工藤探偵事務所のバンも停止する
さすがに、オレを自分の城に招き入れるようなことはしねえよな
フンと鼻で笑う工藤父
はいあたしの城には、男性は入れませんから
ミナホ姉さんが、そう答える
おいおい、この少年がいるじゃねぇか
その問いに、ミナホ姉さんは
吉田くんは、あたしたちの大切な家族ですから例外です
工藤父は苦笑する
まあ、いいけどよ美智のことを頼んますちょっと頭が固いがいい女にはなると思っている
はいお預かり致しますわ
工藤父が運転席のドアを開けて、外に出る
オレは、今晩は学校の敷地の外で警戒を続けるシザーリオ・ヴァイオラでも白坂家の兵隊でも、襲撃して来たやつらは勝手に迎撃するからな
お任せ致しますあたしは工藤さんを信頼していますから
ミナホ姉さんは笑って、工藤父にそう言った
おだてんなよオレはそういうのに弱いんだ
そう言って、ドアを閉める
そのまま振り返らずに、自分のバンへと向かう
車の中から父の背中を見て工藤ちゃんが、声を漏らす
今父は、娘を突き放した
娘は、これから先独り立ちしていかなければならない
自分の新しい家族を見つけるのだ
トニー、とっとと開けろ今夜は、この車の中で野営すっからな
えー、勘弁して下さいよボス
ノーマは、どうした
就業時間が過ぎたから、自宅に直帰したと思いますけれど
呼び戻せ今夜は、三人で朝まで警戒監視する
えー、マジっすかぁ
つべこべ、言わずにコンビニに寄って、牛乳とアンパン買ってこい
いやもっと美味いもん食いましょうよ、ボス
うるさい、うるさい、うるさーい張り込みには、牛乳とアンパンてのが決まりなんだよっ
そんな声を聞いている間に
ミナホ姉さんが、運転席に座る
工藤ちゃんが小さく頷く
オレたちの車が走り出す
工藤父の姿がどんどん小さくなっていく
お父様はわたくしに自分の工藤流を見つけろとおっしゃいましたが
寂しそうな、工藤ちゃん
わたくしには何をどうすれば良いのか、皆目見当が付きません子供の頃からずっと父の教えだけを信じて、今までやってきたのですから
それでも工藤ちゃんがお父さんのやり方を見てここは、直した方が良いのにって思ったことは無かったの
オレの言葉に、工藤ちゃんがハッとする
まずはさそういうところから変えてみたらどうかな
工藤ちゃんがうんと頷く
わたくしずっと、思っていたことがあるんです
工藤ちゃんの眼に、光が戻る
お父様は敵に技を仕掛けながら、その技の名前を叫びますがそれは常に舌を噛む危険をはらんでいますですから技の名は、相手に技を仕掛けた後に叫ぶべきではないかと
技の名前は絶対に叫ばないといけないのかい
う、うんいいんじゃないそういうことを違えることだって立派に工藤ちゃん独自の工藤流を造っていくことに繋がると思うよ
それでもこれが彼女の第一歩なんだと思う
だから肯定する
背中を押してあげないと
それでいつかは、彼女が技の名前を叫ばないようになってくれると
とても、助かる
吉田様、お願いがあります
工藤ちゃんが、ジッとオレを見る
な、何だい
わたくしのことをこれからミッチィと呼んで下さい
恥ずかしそうに彼女は、そう言った
ミッチィくんてこと
お父さんの代わりに
いいえ、ミッチィくんではありません吉田様には、ただのミッチィと呼んでいただきたいのです
大きな瞳がオレを見上げる
わたくしのことをミッチィくんと呼ぶのはお父様だけですから
やっぱり、寂しいんだな
お父さんと別れることになって
判ったよ、ミッチィその代わり、オレも頼みがある
何でございましょう、吉田様
身構えるミッチィ
その吉田様っていうのを止めてくれオレたちは仲間だろ様を付けて呼ばれるのは、身体がかゆくなるよ
オレの言葉にミッチィは、ニッコリと微笑んだ
判りました吉田
よ吉田
あのご要望通りに、様を外してみたのですがそういう意味では無かったのですか
オレも、ミッチィって呼ぶんだし
それで構わないよよろしく、ミッチィ
こちらこそ、よろしくお願いします吉田
年下とはいえ
こんなに小柄で可愛らしい子に、呼び捨てにされるってのは
うんまた、何か違う趣があるな
これはこれで、アリだと思う
何とか、無事に着いたわね
そしてようやくオレたちの車が、学校に到着する
さっきと同じ様に正面玄関から中へ入った
もちろん、ミナホ姉さんの顔は警備員さんも知っているから黙って、通してくれる
空が真っ赤な夕焼けになっていた
時刻は午後五時五十二分
六時もニュースを続けている局もあるし七時には国営放送のニュースがあるわまだまだ、攻撃を仕掛けないとね
ミナホ姉さんは校舎に一番近い、駐車スペースに車を停めた
オレたちは車を降りて校長室へ向かう
おっ、お帰りっ
校長室の下の監視室では寧さんが、オレたちを出迎えてくれた
寧さんはまだ、ミッチィのことを知らないんだっけ
寧さんこちらは、みすずの警護役で
知ってるよ、工藤美智さんでしょ
お昼の野球部のグラウンドでの乱闘観てたから
あ監視カメラで
この部屋から観てたんだ
でも、寧さんの言い方だと
ミッチィが野球の試合に出ていて、相手チームと乱闘したみたいだ
わたくしも、存じ上げております奈島寧様ですね
ミッチィも、お父さんからオレたち黒い森のメンバーの調査ファイルは、見せられているのだろう
そうだよ、寧さんだよっええっとミッちゃんでいいのかな
はいお好きにお呼び下さい
ヨッちゃんは何て、呼んでいるのかな
寧さんが、オレを見てクフフと笑う
えっとミッチィ
何だって、聞こえないよおっ
ミッチィ
オレが校長室に入るまでに、廊下でミッチィと会話していたのを隠しマイクで聞いていたな
ふーんミッチィねぇ
ジトッとした眼で、オレを見る寧さん
そ、それはわたくしが吉田にお願いしたことで
吉田呼び捨てなんだぁ
ヤブヘビだぁ
寧そんなことして遊んでいる暇があったら、どんどん書き込んで
ノートパソコンに向かっているマルゴさんが、寧さんを叱る
吉田くんもできれば手伝って欲しいんだけどな
え何を
見るとマルゴさんや克子姉だけでなく、メグまでがノートパソコンに向かっている
ヨシくん、色んなネット上の掲示板にね情報の書き込みをするのよ
書き込み
白坂創介という人間は、他にもアイドルをレイプしているらしいとかあのアイドルもレイプされているぞとか内容は何でもいいから、白坂の悪事をセンセーショナルに書き込むのそれで書き込んだ後に、必ず動画投稿サイトのアドレスを貼るのよ
動画投稿サイトのアドレス
克子姉が、その先を話す
世界中の動画投稿サイトにマルゴ様とあたしで、白坂創介のレイプ映像をアップしているのよそれなりに名前の知られた、ちょっと前のアイドルさんたちを犯している映像よそこへ、どんどんネットの人たちを誘導して
ああミナホ姉さんが、大金を払って流出させる許可を得たという
白坂のアイドル・レイプ動画を、どんどんネット上にアップしているんだ
みんな興味本位に観るだろう
そして白坂創介という人間を知る
レイプ魔として
こちらがアップしてしばらくすると、白坂家の関係者が動画を消しに掛かるからまた、別のサイトにアップするんだで、そのアドレスを広めるちょっとした、追いかけっこだよ
マルゴさんが笑いながらそう言う
でも効果は出ているわねネットの世界は、ちょっとしたお祭り状態よマルゴと克子以外にも、動画のアップをしてくれている人も出てきているわね
ミナホ姉さんは自分のノートパソコンを見ながら、そう言った
とにかく七時までは、地道にこの作業を続けましょう
と、ミナホ姉さんが言った途端
ああたし、アクセス禁止になっちゃいました
メグがマルゴさんに言う
じゃ、そっちのパソコンを使って回線も別のに繋ぎ換えるから
どうやら、ここには何種類もの回線が通っているらしい
あのオレ、コンピューターは詳しくないんで
ああ吉田くんは、普段は全然使ってないものね
ミナホ姉さんが、オレに微笑む
工藤さんは
マルゴさんが、ミッチィを見る
一通りは使えます
じゃあも、そっちのパソコンを使ってみて
ミッチィも、パソコン戦線に加わる
オレは何をしましょうか
克子姉が、オレを見上げる
それならあなたは、お夕飯の支度を手伝ってちょうだい
夕飯
お台所で、マナちゃんが一人でがんばっているから
そうかさすがに、ネットに自分の父親の悪口を書くのは
克子姉が気を遣って、この仕事からは外してくれたんだな
メグの方は、平然と書き込みを続けているけれど
あんっまた、アクセス禁止になっちゃったどうなっているのっ
興奮して、叫ぶメグ
うん、恵美ちゃんはもういいやありがとう吉田くんと、マナちゃんの方へ行ってくれる
マルゴさんがメグに言う
そんなに白坂の追い込みに協力したいんだメグは
マナちゃん一人に夕食の準備をさせるのは、可哀想だろ吉田くんと一緒に行ってあげて
マルゴさんは、優しくそう言ってくれた
はい判りましたヨシくん、行こう
あれ雪乃は
そう言えばあいつは、どうした
雪乃なら、あそこよ
メグが手で指差す
今朝、マナが繋がれていた場所に居た
やっぱり首輪をはめられて
鉄の鎖で繋がれている
ビリビリに破かれた制服を着たまま
おっぱいも股間もむき出しだ
そして呆然として、テレビの画面を眺めていた
監視室の複数のモニターが、現在放映している全てのテレビ局の映像を流していた
ニュースをやっている局の過半数が再び、白坂創介の続報を流している
白坂家のテレビ局だけは五百円で食べられる大盛りランチのお店特集を流していた
ミナホ姉さんが続報を流している局の音声のボリュームを上げる
本当に、この白坂創介という人間は、芸能界に寄生する極悪人だったんです例えばですね、私が聞いた話では
芸能コメンテイターが、興奮気味に熱く話している
白坂の芸能人とのセックス画像がどんどん流出し
そのことが、ネット上で話題になっている現在
芸能関係の記者は、ここぞとばかりに白坂の悪行を報告している
今はそういう祭りの時間なんだろう
いやあ、許せないっ本当に許せないですよこんなやつは
祭りと聞いて、熱血漢で売っているスポーツキャスターまでが、駆けつけてきた
すでに最初のニュース
オーストラリアでの連続少女レイプ容疑というニュースは、消し飛んでいる
現在の話題は白坂の家名と大手広告代理店の部長という立場を利用して、芸能人やアイドルを毒牙に掛けてきたレイプ魔・白坂創介ということに集中していた
あたしたちが書き込んでいない情報も流出しているわ白坂のセックス・パーティに参加した芸能人の名簿とかね
ミナホ姉さんが、ネットの世界の状況を教えてくれた
勢いは、こちらにある
白坂創介という人間は叩いてもいいという空気になった今
様々な人間が、ずっと黙っていた恨みをネットの世界で暴露し始めた
その中には白坂に犯された、元芸能人もいるだろう
その家族や友人
恋人を犯された人まで
面白いわね白坂創介の収賄や脱税についての情報を書き込んでいる人もいるわ
そうか個人的に白坂に恨みを持つ者までが
白坂の悪事について語り始めた
とんでもない勢いで
白坂創介という一人の人間が日本の敵になっていく
こんなの嘘よパパ
雪乃が絶望の声を漏らした
さて白坂家は、いつまで耐えられるかしらね
ミナホ姉さんが冷たく、笑う
そろそろ憎しみの炎が、白坂創介個人から白坂家そのものに燃え広がっていくわよ
さて、月曜日だ
工藤父がOUTして、みすず以外のフルメンバーになりました
しばらくは、情報戦が続きます
170.修羅場と日常
メグと台所へ行ってみると
マナが料理の本を睨んだまま固まっていた
マナは、さっき別れた時と同じ私服のままだった
オレが、声を掛けると
カレーを作ろうと思ってていうか、あたし、カレーしか作ったことないから
マナは、お嬢様で家には、ずっとお手伝いさんに来て貰っていたんだよな
普段は料理なんてしていないんだろう
カレーだけは、作れるんだよ前に学校でキャンプに行った時に作ったから
マナは、そう言うけれど
作ってないじゃん
でも、たくさんの量を一遍に作ったこと無いから
材料の分量が判らないんだ
学校で作った時は、班ごとに材料は用意してあったんだろうし
あたしが教えてあげるわ
メグがエプロンを付ける
判るのかメグ
メグは冷蔵庫の中を調べて
山峰家は、お母さんも働いているから小学校の時から、週に何回かはあたしがご飯の支度をしていたの
メグはてきぱきと必要な物を取り出していく
カレーライスとサラダでいいのよね
有能な姉の登場に、マナがニッと微笑む
ヨシくんは、お米を磨いでくれる
ああ何合炊く
メグは、炊飯器を指差した
その炊飯器で、目一杯炊けるだけ多分、足りなくなるからもう一回ぐらい、炊かないといけないんじゃないかな
この監視室に常駐していた黒い森のメンバーは、ほんの数日前まではミナホ姉さんと克子姉とマルゴさんと寧さんの四人だけだった
だから、炊飯器も家庭用の普通サイズの物しかない
しかし、今は四人にプラスして、オレとメグとマナとミッチィと雪乃合計九人も居る
うん二回は炊かないとな
どうせ、全員一緒には食べられないと思うからいいんじゃない順番に食べるんなら、先の人が食べている間に次のを炊けばいいんだもの
マルゴさんと克子姉を中心としたネット上での工作活動は続いている
夜の十一時台のニュースまでは、こんな状況のままだろう
確かに順番に抜けて食べるのなら問題は無い
一気に食料が無くなっちゃっても平気なのかな
今は、シザーリオ・ヴァイオラのこともある
しばらくは、このまま学校の中に隠れているんだろうし
冷蔵庫の中の食材は、なるべく残して置いた方がいいんじゃ
それは気にしなくていいって、克子さんが言ってた
食料品は、明日補充するって
えどうやって
あたしも、克子姉さんから聞いたわ学生食堂に食材を納入している業者に発注したそうよ届いたら、明日、あたしとヨシくんでこっちの部屋に運んでって
そうか明日は、平日だから
残りの連休分の食料品は、業者さんに持って来て貰うんだな
じゃあ、心配はいらないな
よし、作ろうか
オレたちは、メグの指示で手分けしながらカレーを作る
あそれは後から入れるの先に入れると煮崩れしちゃうから
うんメグお姉ちゃん
仲良く、料理をする腹違いの姉妹
何か、生まれてからずっと一緒に居る姉妹の様に、和気藹々としている
メグが笑って、オレに振り向く
そしたら、マナが
お兄ちゃんは、お料理しているあたしたちの姿にドキッとしちゃったんでしょ
小悪魔っぽく微笑む
いいんだよ、マナのお尻でもメグお姉ちゃんのお尻でも触って
マナが自分のミニスカートを捲り上げる
マナは、パンティを履いていない
剥きたての卵のような丸くつるりとした裸のお尻が見える
マナお料理中よお尻出したりしないのっ
メグが妹を叱る
オレは、背中からメグを抱き締める
もうヨシくんまで
恥ずかしがるメグ
料理している時のメグって、とってもセクシーだよ
メグの鍛えられてキュッと締まっているお尻を撫でる
うん、いい触り心地だ
マナが、オレにお尻を突き出し
お兄ちゃんマナのは
マナのお尻を触る
十四歳の裸尻の弾力はすごい
肌触りも違う
それ以上は、今は止めて火を使っているんだから
また後でね
キスするのもダメか
いいわして
メグの柔らかい唇にキスする
それだけで、メグはうっとりした顔になる
お兄ちゃん、マナにもして
マナのぷっくりとした可愛い唇その感触
えへへお兄ちゃん、大好き
その二人の笑顔を見て
オレは急に心配になる
さっき、ミッチィのお父さんに言われたんだけどさ
オレは思い出す
ミッチィって工藤さんのこと
マナが尋ねる
うんもう仲間になったんだから、これからはミッチィって呼んで欲しいんだって
そっかミッチィさん、ミッチィお姉ちゃんあたしは、何て呼ぼうかな
マナが、そんなことを呟いている
それでさここへ戻って来る途中の車の中で、ミッチィのお父さんに言われたんだどんな恋もいつか終わるだけと、家族は終わらないって
恋が終わるのなら
この二人も、いつかオレから離れて行くのだろうか
あら、あのお父さん、見た目と違ってそういうことを言う人なの
メグが、驚いている
でも、正しいよね恋は終わっちゃうけれど、家族はずっと家族だもん
マナが、微笑む
お兄ちゃん、あたしたち家族になれて本当に良かったね
マナね今、とっても変な感じなの舞夏さんの時の記憶がね確かに、あたしは白坂創介さんの娘で、雪乃さんと姉妹だったはずなんだけれどそういう記憶が全部、映画で観た自分じゃ無い人の記憶みたいなのきっと、お兄ちゃんがマナを家族にしてくれたからだよね
あたしの家族は、お兄ちゃんとメグお姉ちゃんとみすずお姉ちゃんとりあえず、今はね早く、黒い森の人たちが、あたしのことを許してくれたらいいなって思っているのそしたら、マナみんなとも家族になれるのに
マナは無邪気に微笑んだ
大丈夫よマナは、ちゃんとヨシくんのセックス奴隷になっているから奴隷だって家族だって、ヨシくんも言ってくれてたじゃない
うんそうだねメグお姉ちゃん